サンタ妹「お姉ちゃんをたすけてください!」【オリジナル微エロ】 (174)

◆注意事項
・エロを書こうとしてなぜかホラーになったようなSS
・オリジナル
・キャラの固有名あり
・濡れ場なし
・すごく短い

ではどうぞ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1364754674

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★あらすじ(前回からの〜ではないです)
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サンタの村では一定年齢に達した少女がサンタとして子供たちにプレゼントを配ることになっている。サンタは飛行能力と「子供の存在を感知する能力」を持つ。その村に三姉妹のサリー、アン、ティアが住んでいたが、長女のサリーは数年前のクリスマスイヴに行方不明になっている。アンはすでに一人前で、今年からサンタとして働く末っ子のティアの指導を任された。
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ママ「いいかい、ティア。お前は今年が初めてのプレゼント配りだ。お姉ちゃんの言う通りにするんだよ」

ティア「はーい!」

アン「まかせといて! いざというときのための家に帰る魔法も準備OK!」

ママ「吹雪の中で迷子になったらすぐに使うんだよ」

ティア「わかってるよ!」

アン「散々練習したもんね、さあティア、行くぞ!」

■ HTML化依頼スレッド Part7 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1362314188/)


ティア「さむーい! でも気持ちいいー!」

アン「夜の空を飛ぶのは初めて? 方向が分からなくなるから気をつけなさいよ」

ティア「サンタに生まれて良かった! 空を飛べるのはサンタだけだもんね!」

アン「目立ち過ぎちゃダメなのよ。私が子供のいる家を探すまでじっとしてなさいね」

ティア「はーい……」

アン「まずはあの青い屋根の家! 子供は1人だけ!」


ティア「すごーい、どうしてそんなことがわかるの?」

アン「ふふん、見習いのティアちゃんにはまだ分からないでしょうね」

ティア「わかんなーい」

アン「一人前のサンタはたとえ姿が見えなくても、そこに子供がいるって分かるのよ。
アンタも子供だし、隠れてもムダってことなの」

ティア「よくわかんないや」


アン「まあ今夜は期待してないわ。子供は私が見つけるから……このプレゼントを持って」

ティア「わぁ、大きいなぁ」

アン「いいね、そっとよ? そこの煙突から入って、家の人を起こさないようにして」

ティア「子供の枕元に置くんだよね、オーケーです!」

アン「アンタも子供……まあ初仕事だし、がんばりなさい」

ティア「いってきます……」

アン「いってらっしゃい……」

アン「……行ったわね。上手くいくといいけど」

アン「……はっくしょーいっ!!」


アン「寒いわね。吹雪いてるし。サンタの衣装って何でミニスカートなのかしら意味分かんない……」

アン「……遅いなあ」

アン「……」

アン「……」

アン「……!」

ティア「ただいま戻りましたーっ!!」

アン「しーっ! 家の人が起きちゃうでしょ。それで、上手く行ったの?」

ティア「当然! 私、お姉ちゃんよりも軽いし細いし若いし、楽勝だよ!」

アン「煙突の中に閉じ込めちゃおうかしらこの子……」


アン「あの赤い屋根の家! 1,2……5人も子供がいるわ!」

ティア「あれっ……ダメだよ、お姉ちゃん! あの家は……」

アン「え、どうしたの?」

ティア「私知ってるよ……あの家にプレゼントを届けたサンタさんは、絶対に帰ってこないんだって……」

アン「なにそれ? どこでそんな話を聞いたの? ママはそんなこと……」

ティア「村の人たちがみんな言ってたもん。みんな怯えてる……私、行きたくない」

アン「……あの家の中には子供しかいないわ。ティア、あなたはもうサンタでしょ。
   行きたくないなんて駄々をこねるのは止しなさい」

ティア「お姉ちゃんは分かってないんだよ! サリーお姉ちゃんは……」

アン「……いいわ、あの家は後回しにする。でも、後でちゃんと届けに行くからね」


村人「よう、サンタ三姉妹! あ、いや、すまん……」

アン「……三姉妹で合ってますよ。こんな夜中に何してるんですか?」

村人「こう吹雪いているとな、広場のクリスマスツリーが倒れやしないかと心配でね……」

ティア「ねえ、お姉ちゃんに教えてあげて! あの赤い家はホントに危ないんだって!」

アン「アンタ、まだそのことを……!」

村人「赤い家?……ああ、あの赤い屋根の家のことか。……やっぱ君も、子供を感じるのか?」

アン「……はい。5人います。間違いないですよ」

村人「そうか……サンタにプレゼントを配るなって言うのも酷な話だが、やめた方が良いぞ」

ティア「ほらね!」


アン「あの家に一体何が?」

村人「全部知ってるわけじゃないがね。普段は空き家。クリスマスが近くなると数人の男がやってきて住みつく。
男たちは家から出てこないし、子供が入ってくところは見たことないね」

アン「でも、食事とかは……?」

村人「でかい袋をいくつか持ちこむ所を見たよ。あの中に入ってたんじゃないかな?」

アン「ふーん……」

ティア「……お姉ちゃん?」


村人「……なぁ、その顔やめてくれよ」

アン「え?」

村人「その顔だ。サリーちゃんと同じなんだよ。あの子が消えた夜、俺はあの子に会ったんだ。
   ちょうど今みたいにあの家のことを聞いてきてな。俺の話を聞いて何か考え込んでるみたいだった」

ティア「……」

アン「私は消えないですよ。それにサリー姉さんは必ず帰ってきます」


アン「さて、もう逃げられないわよティア。残るはあの赤い屋根の家だけだからね」

ティア「……やだよ!!」

アン「ワガママ言わない!」

ティア「お姉ちゃんのために言ってるのに! お姉ちゃんのバカ! 分からずや!
    分かんないの!? サリーお姉ちゃんはあの家に行ったから死んじゃったんだよ!」

アン「……」


ティア「アンお姉ちゃんまで死んじゃったら、私ひとりぼっちになっちゃう……」

アン「ティア……」

ティア「そんなのやだよお……」

アン「……ティアを一人になんてしないわ。サリー姉さんだって帰ってくるよ」

ティア「だから……サリー姉さんは死んだんだって!」

アン「死んでないっ!!……死んでないよ」


ティア「アンお姉ちゃんのせいだ! サリーお姉ちゃんがあの家に行こうとしたとき、
    一緒にいたアンお姉ちゃんが止めなきゃいけなかったのに」

アン「……ティア、いい子だから、もうおうちに帰りなさい」

ティア「お姉ちゃんも帰るなら、帰るよ」

アン「お姉ちゃんはあの家に行きます」

ティア「ッダメ! 絶対ダメだよ、お姉ちゃん!!」


アン「ママに伝えなさい。アンお姉ちゃんは赤い屋根の家に一人で行ったって」

ティア「……お姉ちゃん? アンお姉ちゃん? どこなの!?」

アン「いよいよ吹雪いてきたわね。でも私にはお子様のティアちゃんの居場所が手に取るように分かるけど」

ティア「……バッカみたい! もうお子様でもなんでもいいよ! 帰ろうよ!!」

アン「一人で帰れないなんて言わないで。家まで帰る魔法は教えたでしょ。気を付けて帰るのよ——」

ティア「——お姉ちゃん? どこ? ウソ、やだ、そんなのやだ! いやああああああああああっ!!!」


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私は一晩中お姉ちゃんを探して吹雪の中をさまよいましたが、結局見つかりませんでした。
朝日が昇り吹雪が止んだとき、すでにあの赤い屋根の家はもぬけの空で、
もちろんお姉ちゃんは帰ってきませんでした。あの家の中で何が起こったのか、
当時の幼い私には想像もできませんでした。今なら分かるけど、考えたくもない……。
次の年もその次の年も私はあの家には近寄りませんでしたが、一人前のサンタになってからは、
あの家から6人分の子供の反応を感じられるようになりました。あの家に運び込まれた袋の数も6個です。

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アンお姉ちゃんが消えてから3年目のクリスマスイヴに、私は家から逃げました。
ママの挙動がおかしいことに気付き始めていたからです。あのとき逃げていなかったら、
今頃、私はあなたの前にいないでしょう。赤い家に近寄らない私に業を煮やして、
私を追い詰めるための罠を張っていることに気付かなかったなら。でも、逃げたまま終わるつもりはありません。
アンお姉ちゃんは一つだけ正しいことを言っていました。「サリー姉さんは死んでない」と。
生きているかは微妙でも、少なくとも死んではいないんです。アンお姉ちゃんも死んでないはずです。
まだ間に合う。私は助けたいの、私の二人のお姉ちゃんを……。

長くなりましたが、これで説明は終わりです。依頼内容は私のお姉ちゃんたちの救出ですね。
——協力して頂けますか? あ、もちろん、あなたが連中の関係者だったらもう私はおしまいなんですけど。

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いったん区切り。もう少し続きます

ふむ
続けたまへ

みてる


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昼・とある城下町
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ティア「あの、モリーの探偵事務所って、ここで合ってますか?」

男の子「ああ、そうさ。なに、君、お客さんなの? ずいぶん小さいね?」

ティア「ち、小さくないですよ。さっさと探偵さんのところに案内して」

男の子「あのねえ、そんなフードですっぽり顔隠してる怪しいヤツ、案内できるわけないだろ」

ティア「え……フードしてちゃ、ダメ?」

男の子「ダメダメ。顔見せな。人間じゃなかったら、困るからな」

ティア「……わかりましたよ、ほら、これでいい?」パサッ

男の子「っ!……お、おい君、まさか!! 顔隠せバカ!!」

ティア「もがっ! あなたが見せろって言ったんでしょう!」

男の子「誰か見てなかっただろうな……?」

ティア「あなたしか見ていないわよ」

男の子「警察署から逃げだして指名手配中のサンタクロース、ティアだと……?」

ティア「別に何もしてないのにねえ」

男の子「……ダメだぜ。君はダメ。うちの事務所の敷居は跨がせられない」

ティア「こんなにかわいい女の子が困ってるのに見捨てるの?」

男の子「見捨てる。かわいいとか関係ない」

ティア「否定はしないのね」

男の子「……真面目な話、この探偵事務所は姉さんがやっとのことで城下町に構えた事務所なんだよ」

ティア「……」

男の子「姉さんは引きこもりで月イチでしか働かない怠け者だけど、探偵としての腕だけは本物だ。
そんな姉さんを俺は尊敬してる。だからこの事務所は俺が守るんだ」

ティア「そういうことなら……」

男の子「君を見たことは誰にも言わないよ。でもここからは離れてくれ」

ティア「うん……」

ティア(くそ……聞き込みで一番評判の良い事務所だったのに)

ティア(家を出てから一年……この街に来てから二週間……昼間は人の群れにまぎれるから割と安全だけど……)

ティア(警察はいきなり襲いかかってくるし……いつの間にか指名手配されてるし……)

ティア(もうこの国にいるのも限界なのかな……)

ティア(……でも、国外に逃げれば、お姉ちゃんたちをさらった連中の情報も得られなくなる)

ティア(危険を冒しても、ここで情報を集めるしかない……!)

ティア(もう夕方か……夜は危ないし、これで今日は最後かな)

ティア「二番目に評判の良かったジョージの探偵事務所……」

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夕方・とある城下町・ジョージの探偵事務所
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ジョージ「おつらいですね……」

ティア「……」

ジョージ「しかし、賢明な方だ。焦って警察に駆け込まずに、こうして民間の探偵事務所を頼るとは」

ティア「ああ、警察にも行ったんですよ。あのときは本当に危なかったです」

ジョージ「すると……今は逃亡中の身ですか? まだお若いのに苦労されているようですね……」

ティア「……お姉ちゃんたちに比べたら、これくらい何でもありません」

ジョージ「そう、お姉さん方の救出の件でした……紅茶を飲まれますか?」

ティア「いえ、けっこうです」

ジョージ「そう……もちろん協力したいと思っていますよ。ただご存知の通り、警察も黙認している事件でして……」

ティア「無理ならいいんです。その場合は早めに言ってください。他にもアテはあるんですから」

ジョージ「まあ落ち着いて……つまり情報が不足しているということです。
     しかし、あなたの貴重な証言があれば、事情は変わるかもしれない」

ティア「……それはおおげさな言い方です」

ジョージ「いずれにしろ、もう日も落ちて危険です。今は戦時中だ。魔法族はみんな戦争に駆り出されてますよ。
     サンタクロースの少女といえども、政府が放っておくことはないでしょう?」

ティア「まぁ、確かにそっちの追っ手もついてるみたいですが。いつものことですよ」

ジョージ「今夜はここに泊まってください。……実は、ちょうど夕食が出来る所でして」

ティア(罠の可能性は低いかな……夜道を歩くのが危険なのは確かだし……おなかすいた……)

ティア「……じゃあ、お言葉に甘えて」

ティア「……ごちそう、さま、でした」

ジョージ「ずいぶん眠そうですね……? ベッドなら余っていますが」

ティア「いえ、そんにゃの、ダメですよぅ……」

ティア(いや、いくらなんでも眠すぎる……!!)

ジョージ「ベッドまでご案内しますよ。さあ、テーブルに突っ伏してないで……」

ティア「——っ触るな!!」ガンッ

ジョージ「痛っ! お、起こそうとしただけですよ!」

ティア「黙れ……」

ジョージ「ティアさん……?」

ティア「——っお姉ちゃんを返せよ卑怯者め!!」

ジョージ「だから一体なにを……って、もういいか。バレたみたいだし」

ティア(指名手配中のサンタのティアを知らない探偵がいてたまるか……なんで気付かなかった……)

ティア「睡眠薬でも入れたの……」

ジョージ「あー、なんだろ、こんなにあっさり行くとは思ってなかったなあー。拍子抜けだぜ」

ティア(くそ……立ってられない……いつもは警戒してたのに……)

ジョージ「紅茶は飲まねえくせに飯は食うんだもんな! 笑いこらえなきゃなんない身にもなれって! ハハハ!」

ティア「お前が……お姉ちゃんたちを、さらったんだ……そうでしょう……?」

ジョージ「そりゃあ違うな。魔法族の娘なんて俺たち下々の連中にまで回ってこねえ……。
     まぁ、話だけなら聞いてるぜ。人間の娘とは比べ物にならない極上品だってな!」

ティア「……安い挑発で時間を稼ごうったって、そうは行かないから」

ジョージ「そう、これだよ! 末娘のティアは慎重で疑り深い! かれこれ3年も逃げ続けてる! 
     今も窓を破って逃げ出そうとしてる!」

ティア(だからどうした……気付いたところで、こいつに止められやしないわ……)

ジョージ「言っとくが、別に俺はお前に興味ねえぞ。つうか胸ないしガキだし……」

ティア(変身しつつ窓まで三歩。その前にこいつをけん制しておきたいけど……)

ジョージ「……でも、この街の警察はどうも特殊な性癖の連中が多いみてえだな」

ティア「?」

ジョージ「さっき連絡したからもう下にいるだろう」

ティア(こいつ、何を……?)

ジョージ「窓を破るのはやめときな。ロリコンどもの張った網に飛び込むことになるぜ」

ティア「っ!?」

ジョージ「力を解放して強引に包囲網を破るか? 無理だろうな。
     警察署では一暴れしたようだが、あのときはもともと入口を背にしていたんだろ。
     いわば戦略的撤退をしただけだ。でも今は状況が違う。お前は包囲されているんだよ」

ティア(眠すぎる……ピンチなのに……何とか、しなくちゃいけないのに……)

ジョージ「まあ、そんなにビビることはねえよ。
     お前のお姉ちゃんたちだって、基本的には良い生活をしているはずさ。
     政府と警察に同時に追われてるお前よりも、よっぽどマシだと思うぜ?」

ティア(そんなはずは……だって、それじゃ、三年間も、私はいったい、何のために……)

ジョージ「もう階段を駆け上がってくる音が聞こえる……!」

ティア「そんなはずは」

ジョージ「俺はお前に興味ない! 金だよ、金! 俺はお手柄で懸賞金がっぽりだ! ヒャハー!」

ティア(うそだ。ありえない。そんなこと今まで一度も)

ジョージ「はいはい、今開けますよ!」ガチャ

ティア「!!」

ここまで。明日も投下予定

おつ


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夜・とある城下町・路地裏
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ティア(ん……なんか、揺れてる……)

ティア(すごく良く寝た気がするけど……ベッドの上じゃないし……)

ティア(誰かにおんぶされてる……)

ティア「お姉ちゃん……?」

男の子「ん、ようやく目が覚めたのか……姉さん、ティアが目を覚ましたよ」

姉さん「よかった」

ティア「姉さん……お姉ちゃん……?……ね、ねむ……」

姉さん「なんだ、まだ寝てるじゃないか」

男の子「いつまで寝惚けてるのさ。重いんだから早く下りてくれよ……」

ティア「重くないよ……お姉ちゃんには言われたくないよ……」

男の子「だーから、俺はお姉ちゃんじゃないって」

ティア「じゃあ、あなた、だれよ……って、あれ?」

男の子「普通にワンステップで目覚められないのかよ」


ティア「男だ……」

男の子「今、姉さんの事務所に向かって——」

ティア「キャ———————!!!」ガツン

男の子「痛っ! 的確にこめかみを強打するな!」

ティア「下ーろーせーへーんーたーいー!!」

男の子「静かにしてくれ! せっかく撒いたんだから!」

姉さん「早く下ろしてやれよ、変態め」

男の子「アンタが俺に運べって言ったんだろ!」

ティア「下ーろーせーへーんーたーいー!!」

男の子「分かったよ! いま下ろすから! 暴れるな!」

ティア「ふーっ、足を触ったでしょう変態め……って、あなたは昼の!」

男の子「モリーの探偵事務所の助手ですよー」

ティア「あなたも変態だったのね」

男の子「あのね……」

姉さん「弟が変態でごめんね、後で一発ぶん殴ってあげて」

ティア「そうします」

男の子「いや、もうさっき殴ったじゃん。あと変態連呼すんな」


ティア「……ところで、警察を撒いたって言いました?」

姉さん「うん。でも、まずは急いでくれる? また見つからないとも限らないし」

ティア「私はまだあなた方を信じたわけじゃないんですが……」

姉さん「私はモリー。引きこもりのモリーだ。覚えやすいだろ?」

ティア「自分で言うんですか……確かにとっても覚えやすいですけど……」

男の子「あー……俺はクロース。このダメ姉の弟だ。恥ずかしいことに」

ティア「私は指名手配中のサンタのティアですよ」

モリー「さあ、自己紹介も済んだし、先を急ごうか」

ティア「……いえ、まだ信じてませんよ?」

モリー「それがいいね。けど、君には他に行くアテはなさそうだよ」

ティア「? どういうことですか」

クロース「……特別警戒態勢が敷かれてる。この街のすべての宿に警官がいるし、すべての門は封鎖されている」

モリー「このまま夜道を歩いていれば、必ずパトロール隊に出くわすよ」

ティア「あなた方みたいな物好きに頼るしかないと……気に入らない展開です」

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深夜・とある城下町・モリーの探偵事務所
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ティア「——でも、どうやって私を助けたんですか? モリーさんは実は強力な魔女だった、とか?」

モリー「それだったらもう戦争に駆り出されてるでしょう」

クロース「紅茶、飲むかい?」

ティア「いえ、けっこうです……」

クロース「やっぱりまだ信じてないか」

ティア「ううん、本当に飲みたくないのよ……」

クロース「そう……ちなみに、俺はただの人間だ。姉さんは少し魔法を使うけど……」

ティア「じゃあ一体どうやって? 警官の大部隊が包囲していたんですよ?」

モリー「ちょっとした目くらましと、幻影を使っただけ」

ティア「幻影……私の幻影でも見せて追わせたんですか? その程度で警察部隊が……?」

モリー「もちろん平時ならその程度で警察をだませるわけないけど」

クロース「……今は戦時中だ。警察部隊なんて名ばかりさ。むしろ犯罪者集団だよ」

モリー「性欲まみれの飢えた野獣と言うべきね。一般人が襲われた事件も後を絶たないの」

クロース「姉さんが君の幻影を見せたら連中、鼻息荒くしてさ。
一人残らず走って行っちゃったよ。あれにはぞっとしたね」

ティア(……この二人、仲、いいんだ……うらやましいな)

モリー「弟がさっさと言ってくれれば、もっと早く助けに行けたんだよ」

クロース「仕方ないだろ、ティアを見たことは言わないって、約束してたんだから」

モリー「そこで断ったら次はジョージのところに行くって分かるでしょ。それでも私の弟なのかね?」

クロース「まあ、確かに考えが足りなかった……」

ティア(ジョージ……!)

ティア「あの探偵事務所! 聞き込みで評判は良かったのに、何であんなヤツがいたんだろう……」


ティア「ガキだとか胸無いとかあることないこと! 汚い! 下品! 最低!」

クロース「どっちもあることだろ」

ティア「変態!」キッ

モリー「ティアはおっぱいなんか無くてもかわいいよ……ってクロースが言ってたよ」

クロース「それはない」

ティア「気持ち悪いです」

モリー「……」

クロース「……あー、君、この街にはいつ来たの」

ティア「え? 二週間前だけど……」

クロース「ああそういう……実は、一カ月くらい前に城からお触れが出てさ」

ティア「はあ」

クロース「探偵事務所のことを誰かに聞かれたら、ジョージの事務所が一番だと言えって。
     君が来ることは読まれていたんだろう……あれ、でもそれじゃあ何で君は、昼間うちに来たんだ?」

ティア「ああ、それは、だって……」

クロース「だって……?」

ティア「みんなここが一番だって。ジョージの事務所が二番だって。そう言ってましたから」ニコ

モリー「……ふん、ありがたいね」

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早朝・とある城下町・モリーの探偵事務所
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クロース「おはよ……姉さん、なにしてんの、こんな朝っぱらから」

モリー「荷造りしてるのよ。昨夜、ティアちゃんの事情を聞いたでしょ」

クロース「聞いたけど。それと荷造りに何の関係が……って、まさか!」

モリー「……」

クロース「まさか、この事務所を引き払うつもりなのか……?」

ティア「——そんなのダメですよ」

クロース「ティア! お、起きてたのか……」

モリー「聞こえてたよね、ティアちゃん? 朝のうちに出発するから、支度しなさい」

クロース「マ、マジで言ってるのか? 支度って、そんな急な話……」

ティア「ダメです! きのう、クロース君から聞きました。この事務所はモリーさんの大切な……!」

モリー「困ってる子を助けられない事務所に価値はない」

クロース「この街の人たちはどうするんだ! 身捨てて行っちゃうのか?」

モリー「落ち着きなさい。徹夜明けの頭に響くでしょ……」

ティア「——これが落ち着いていられますか!」


モリー「あー……ティアちゃん?」

ティア「クロース君が正しかったんです! 私を見捨てればこの事務所は安泰なんです!
    まだ間に合いますから、私を追い出して! 力を使えば一人でこの街を出るくらい訳ないですし!」

モリー「えーとね、この街を出るだけじゃダメなのよ……」

ティア「え……?」

モリー「夜のうちにいろいろ調べてたんだけど……。
    仲間からの情報でね。すでにこの地域一帯であなたは指名手配されているらしいの」

ティア「!」

モリー「一年間も逃走を続け、お姉さんを助けようとしているあなたは、徐々に存在感を強めてしまった。
    国中で指名手配されるようになるのも、時間の問題だわ」

ティア「そんな……」

モリー「でも! 私たちなら、あなたを安全なところまで送り届けられるよ」

クロース「……門番に顔見知りがいてね、実は以前彼の依頼を姉さんが受けたんだけど……」

ティア「——いえ、ごめんなさい。間違えました」


モリー「間違えた?」

ティア「ええ……私は単純に、まだあなた方を信じられないだけなんです」

モリー「……」

ティア「お二人は仲が良いんですね」

クロース「……そうかなあ」

モリー「黙ってなさい。ティアちゃん、続けて」

ティア「はい……私とってもうらやましいと思いました……けど。そういうのを見ると、私は疑うんです。
    ぜんぶ演技なんじゃないかって。実際、何度もだまされてきましたし……」

クロース「……」

ティア「いまだに処女を守っているのは奇跡としか言いようがありません。
    組み伏せられ、服を剥がれるのは一瞬なんですよ」

モリー「!」

ティア「男の人を見たときに……あと何秒でそうなり得るのか数えていたりするくらい」

ティア「くせなんですよ、人を疑うのが……」

クロース「ティア……」

ティア「最低ですよね……たぶん、本当に助けてくれようとしてるんだと、頭では分かってるんですけど。
    怖いんですよ、信じるのが。裏切られるかもしれないから」

ティア「ここで助けられて、いつ裏切られるかとビクビクしながら過ごすくらいなら
    見捨てられたほうがマシだと思ってるんです。こんなに助け甲斐のない子はいないでしょう?」


モリー「……弟よ、何か言うことは?」

クロース「……ティア」

ティア「なんですか……?」

クロース「君を見捨てようとしたりして、すまなかった……」

ティア「……ふん、信じないよ……信じられないんだもん」

クロース「信じてくれ——なんて、軽々しく言えないけどさ」

ティア「言っても構わないよ。信じないけど」

クロース「……正直、きのう君の事情を聞いたとき、俺には全然実感できてなかったよ。
     軍と警察に同時に追われてるんだって、それ以上のことは想像できなくて……」

ティア「……」

クロース「俺は男だし……君が会話してくれることすら、俺は感謝すべきなんだろうな」

ティア「感謝しても構わないよ。信じないけど」

クロース「じゃあ、信じてもらえるように努力する」

ティア「……どうやって?」

クロース「……君を守ることで、とか」


ティア「……」ポカーン

クロース「……」

ティア「……」

クロース「……ダメか?」

ティア「……」

クロース「……」

ティア「……男の子はフケツだからキライです。守るとかキモイし」プイッ

クロース「あ、そう……」

モリー「くっくっく……」

クロース「——わ、笑うところじゃないだろ!」

モリー「ティアちゃんはかわいいなあ! 抱きしめてもいい?」ギュッ

ティア「もがっ、息ができないですよ……!」

モリー「弟は変態だから信用しない方が良い。私が守ってあげよう!」

クロース「なんか俺の扱いひどくないか!?」

モリー「そんなことないって!」

ティア「はは……」


ティア(私だって好きで疑ってるわけじゃない……本当は信じたいのに……)

ティア(一年間、知らない土地を旅して、誰にも心を開かないで……)

ティア(たぶん、もう私は参っちゃってたんだろうな……)

ティア(だから、昨日の夜、ちょっと信じてみたいと思ってしまった……)

ティア(この人たちは、警察から私を救ってくれた……でも、それは手柄を横取りするためかもしれない)

ティア(なんて発想……でもそう疑わずにはいられない)

ティア(……窓まで三歩。今ここを飛び出して、空を飛んで門を越えて……)

ティア(それから……どこへ行くんだろう?)

ティア(こわい……また捕まるかもしれない。今度は助けも来ないだろうし……)

ティア(でも、もし、この人たちが、本当にいい人だったら……)

ティア(甘いよね……でも、何だかもう疲れたよ……)


ティア「……分かりました。信じることにします」

クロース「……!」

モリー「よかった!」

今日はここまで。思ったよりちょっと長くなりそうです

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夜・隣の町・表通り
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ティア「ええっ! あの宿屋に泊まるって、本気で言ってるんですか?」

モリー「安心しなさい。あそこの店主とは知り合いだから、大丈夫よ」

ティア(……モリーさん、引きこもりって言う割に、知り合い多くない?)ヒソヒソ
クロース(知り合いっていうか、お得意様だろう。うちの常連さ)ヒソヒソ
ティア(それだけで大丈夫というのもどうかと)ヒソヒソ

モリー「なに二人だけでコソコソ話してるのよ」

ティア「いや別に何も!……あー、そういえば! 私この宿屋に泊まったことありますよ!」
ティア「この宿屋の一階にあるレストランが最高で——」

クロース「宿屋とかレストランとか……逃亡中によくそんな金があったな」

ティア「半年くらい前まで拠点にしてた街の、郵便局で働いてたのよ」
ティア「ほら、私飛べるし……もちろん、戦争が始まる前のことだけど」

クロース「へえ……それでその街では、パン屋にでも居候してたの?」

ティア「ううん、郵便局の建物の部屋を借りてたけど。なんで?」

モリー「——無駄口はそこまで。ティアちゃん、私の後ろで目立たないようにしてなさい」

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夜・隣の町・宿屋一階
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店主「……こりゃあ驚いた。引きこもりのモリーが俺の店に来やがった!」

モリー「私だって月に一回くらいは外出するわよ……あれからどう? 上手くやってるの?」

店主「問題無しだ。一時は閉店も考えたくらいだが……まあ、今は見ての通りさ」

モリー「よかった。それで……出来れば、窓際の奥のテーブルがいいんだけど」

店主「なんか訳ありなんだろ、了解さ……えーと、三人か? おっと、君は確かモリーの助手の」

クロース「クロースです。その節は姉がご迷惑をおかけしました」

モリー「ご迷惑? 何の事だか分からないけど」

クロース「店主さんが現場を見てくれって何度も言ってるのに、だるいとか行きたくないとか」

店主「まあまあ、結局、事件は解決してもらえたわけだし!」

クロース「すいません……」

店主「それでモリーの後ろにいる子は?……ん、最近会ったかな?」

クロース「……!」


モリー「ああ、クロースの友達だよ」

店主「……そうか。それじゃ、テーブルまで案内しよう」

客1「おいおい、女の子だぜ。こんなムサい酒場にちっさい女の子がいるぜ」
客2「フードで顔が見えないぞ。でもキレイな唇だな」
客3「いやいや、あんなにちっさくちゃ話にならん。特に胸とか」

モリー「ちょっと、あなたたちねえ……私を差し置いてチビッ子に……!」

ティア「……」ジー

クロース「……?」

客1「ひきこモリーはおっかねえしなあ……でも妹ちゃんがいたとは知らなかったぜ」
客2「お嬢ちゃん、こっちに座ろうぜ、何でもおごるからさあ」
客3「気を付けろよー、こいつらうっかり君に近づきすぎるかもしれんぞー」

ティア「……」ジー

クロース「……なに?」

ティア「ハァ……」
ティア「モリーさん……私、ここ、無理です」

モリー「そっかー……」


客3「ロリコンは無理だとよ。残念だったなー」
客2「だが恥じらうその姿もいい」
客1「俺はロリコンじゃない、君が好きなんだ」

モリー「お黙り」
モリー「……じゃあ、もう休んじゃおうか?——部屋空いてるよね?」

店主「ああ、空いてるが……でも、夕飯抜くのか?」

モリー「仕方ないでしょう……部屋を二つお願い」

客1「おいおい、行っちまうぜ。ちっさい女の子が行っちまうぜ」
客2「フードで顔が見えないぞ。でもキレイな髪の毛だな」
客3「しっかり食べないと大きくなれないぞー」

ティア「……」グイ

クロース「わっ、ちょっ、引っ張るなって!」

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夜・隣の町・宿屋の部屋
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ティア「——さっそく裏切ったわね! 何が『君を守る』よ!」

クロース「そ、そう言われても……」

ティア「……」ジト

クロース「あいつら別に、君の身体を触ったわけじゃないだろ?」

ティア「バカね!——そういう目で見られること自体、耐えられないの!」

クロース「過敏すぎ……いや、何でも無い。にらむなよ……」

モリー「……ごめんね、あいつら悪い連中じゃないんだけどさ……ティアちゃんの事情を知らないから……」

クロース「そうそう、酒も入ってたみたいだし、ちょっと調子乗っただけっていうか……」

ティア「……ふん」
ティア「男なんてみんな死に絶えちゃえばいいんだ」

クロース「……あー、ティアさん?」

ティア「……もう、寝たいです」


モリー「……だってさ。クロースは隣の部屋で寝なさいね」

ティア「そして永眠しちゃえ……」

クロース「……でも、すごーくお腹すいてるんですが」

ティア「飯かよ……」

クロース「なんか口調まで崩壊してない……?」

モリー「クロース、別に下で食べてきてもいいよ? でも、寝るときはちゃんと隣の部屋で寝ること」

クロース「りょーかい……姉さんはどうするの?」

モリー「ティアちゃんを一人には出来ないでしょ。一緒に寝るわ」

ティア「……」

クロース「……気持ちは分かるけど、姉さんを巻き込むのはどうかと思うよ」
クロース「それに……あれくらいのこと、今までいくらでもあったんだろ?」

ティア「……」

クロース「まったく……じゃあ、おやすみなさい」

モリー「うん、おやすみ——あ、さっきも言ったけど、明日は5時起きだから」

クロース「ああ、わかってるよ」バタン


モリー「……さて、ランプ消そうか」

ティア「……」

モリー「私は食生活とか完全に崩壊してるし、ご飯抜くこともよくあるから……」

ティア「……」

モリー「ティアちゃんがお腹すいてたら、一応パンとか持ってきてるけど、食べる?」

ティア「……」

モリー「……」

ティア「——ごめんなさい、モリーさん……わがまま言って……」

モリー「……仕方ないよ、嫌なモノは嫌でしょ?」

ティア「はい……」


モリー「——もう寝ちゃおう!」
モリー「寝巻きに着替えない方が良いかな? 何が起こるか分からないし」

ティア「ええ、私はいつもこのまま寝ちゃいますよ」
ティア「もう準備万端です……」

モリー「じゃあ、ランプ消しちゃうよ?」フー

ティア「二人だとちょっと狭いかな……ベッド」

モリー「ううん、これくらいでちょうどいいでしょ」

ティア「……何に、ちょうどいいんですか」

モリー「あー、あのさ」

ティア「はい」

モリー「……私は女の子だからティアちゃんの身体ぺたぺた触ってもいいよね?」

ティア「……ま、まあ、いいと思いますけど。モリーさんはいろいろ率直すぎますよ」

モリー「もう冬だし、密着してないと寒いし……この長くてふわふわの金髪がねえ……いいにおい……」

ティア「口に含まないようにして下さいね」

モリー「あの指名手配の写真、可愛かったよねー。長い髪が印象的でさ……」

ティア「はあ……」

モリー「やっぱり……うーん……切るのはもったいないかなあ……」

ティア(……?)

モリー「ねえ、ティアちゃん」


モリー「ショートカットにしてみる気はない?」

ティア「——えっ?」

今日はここまで。明日も投下予定

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夜・隣の町・宿屋の部屋
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ティア「……モリーさん、散髪もできるんですね」

モリー「あんまり期待しないでよ? えーと、肩より上まで行って良い?」

ティア「肩までは残して欲しいかなあ……」

モリー「それじゃあ、むしろセミロングっぽい感じ? ともかく肩の高さにするね」
モリー「ランプの明かりだけじゃ暗いか……ちょっと手助けしてと」

ティア(わ、火が大きく……魔法だ……)

モリー「じゃあ、まっすぐ前向いててねー」

ティア「あ、でも、切った髪の毛とかはどうするんですか?」

モリー「ああ、私が後で回収しておくよ。魔法で」
モリー「じゃあ切るからねー」

ティア「はい、お願いします」


ティア「……」

モリー「……」

ティア「モリーさん……」

モリー「なにか?」

ティア「今日、わざわざ宿屋に泊まったのはなぜですか?」

モリー「ああそれは……実は……私、ベッドが大好きで……」

ティア「ウソ……じゃないんでしょうけど、そうじゃないでしょう」

モリー「じゃあ、なんだと思うの?」

ティア「……クロース君抜きで私と話したかったからでしょう?」

モリー「……」

ティア「……そうでしょ?」

モリー「いやー……うん、弟よりもずっと鋭いね、ティアちゃんは」

ティア「じゃあ、そうなんですね?」

モリー「それもある、っていう感じかな……頭まっすぐしてくれる?」

ティア「はい……」

モリー「……」

ティア「……」


モリー「……いつから伸ばしてるのかな、この髪は」

ティア(あ、話そらしたな……)
ティア「さあ……アンお姉ちゃんがまだいた頃からだと……」

モリー「となると、4年以上前からか……」

ティア「ええ、でも、バッサリ行っちゃっていいですよ。変装にもなりますし」

モリー「うん、それにティアちゃんはショートでもかわいいと思うよー」

ティア(いまいち真意のつかめない人だ……)
ティア「……で、さっきの話ですけど」

モリー「うん……何から話そうか……」

モリー「じゃあ、弟のことで」

ティア「はい」


モリー「ティアちゃん、私は驚いてるんだよ? あなたがうちの弟と普通に話せてるから」

モリー「男性不信になっても仕方ない事情を抱えているのに、あんなに仲良く出来てさ……」

ティア「別に仲良くは……」

モリー「仲良いよ……いや……ちょっと仲良くしすぎかな」

ティア「仲良くしすぎ……?」

モリー「クロースは良い子だよ」
モリー「だから私も、あいつをティアちゃんの男性ファーストコンタクト役に起用したわけだし……」
モリー「あ、もちろん本人にはそんなこと言ってないけど」

モリー「ただ、私としては……ティアちゃんは、その、もっとゆっくり……やるもんだと思ってて……」

ティア「はあ」
ティア(なんの話してんだろ……)

モリー「もちろん、クロースはまんざらでもないんだろうけど……」
モリー「あいつ、人並みには変態だし、ティアちゃんはかわいいし……そう簡単に信じていいもんじゃなくて」

モリー「さっきも二人きりでヒソヒソ話なんかしててさ……」
モリー「そりゃ、信じるかどうか決めるのはティアちゃんなんだけど」
モリー「あんまりあっさり決めちゃうと、弟が調子に乗るだろうし……」

ティア(……ん?)


ティア「な、なんか誤解してませんか? 私、あいつのことなんて全然信用してなくてっ……」
ティア「モリーさんを信じてここまで付いてきただけでっ……それに、あいつ男だし、へ、変態だし……!」

モリー「……ふふ、その認識で合ってるよ」
モリー「でも、正直さっきまで、ちょっと忘れてなかった?」

ティア「……忘れては、なかったと思いますけど」
ティア(無意識のうちに気を許してたとこは……いやいや)

モリー「まあ、仕方ないけどね。一年間も……ずっと一人で、追われて、旅してきて……」
モリー「そこにつけこむようなやり方で信じてもらってる負い目はあるのよ。ごめんね」

ティア「いえ……私が、自分で信じるって決めたんです。たとえ裏切られても、恨んだりしませんよ」

モリー「信じてくれ……とは言わない。でも、弟は良い子だよ」
モリー「『君を守る』は正直、予想外だったけど……本気で言ってると思う」
モリー「女の子の気持ちに鈍感過ぎるのが、まあ、弱点ではあるけど」

モリー「……ティアちゃんが助けてって言ったら、きっと助けてくれるから」

ティア(ふん……)

ティア「信じるなって言ってるのか、信じろって言ってるのか、分かんないですよ?」

モリー「ああ、ごめん。もちろん信じて欲しいよ。……でも疑うのも忘れないで」

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夜・隣の町・宿屋の部屋
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ティア(寝たフリは得意だ……ママをだますために、毎晩やってたことだから……)

ティア(疑えって言った当人を疑うっていうのも、おかしいけど……)
ティア(女だからって、それで信じられるわけじゃないのは確かだ)
ティア(でも、もう……たぶん30分以上は寝たフリをしてるけど、動きは無い……)

ティア(やっぱりモリーさんはいい人なんだろうな……)

ティア(? 寝息が止まった)

モリー「……っ」

ティア(ベッドから出て行く……? トイレかな?)
ティア(いや、それはモリーさんも寝たフリをしてた理由にならない……)


モリー「……っ」

ティア(部屋を出てく……追うか? いや、モリーさんはまだ未成年だ。この場でサーチできる)
ティア(クロース君の反応は……隣の部屋から動かない……何か伝え忘れたことでもあったのかな?)

ティア(……いや、モリーさんは階下に下りて行ってる)
ティア(……通報するつもりか)

ティア(それなら城下町の事務所でやってるはずね……ただし)
ティア(あの夜、私が一睡もしてなかったことが、バレていた場合は別だ)
ティア(一日かけて私を信用させて、油断を突く……ありそうな話ではある)

ティア(階下のテーブルに座ってるのか……もう閉店してるはずだけど)
ティア(くそ、たぶん話相手は大人なんだろう……だから反応しないんだ)

ティア(自分で見て、聞いてこなくちゃ……!)
ティア(モリーさんが席を立てば、私には分かる。離脱も可能!)

ティア「っとと……なんか頭に違和感が……」
ティア「ショートって、頭が軽くて、変な感じ……だけど悪くない」

ティア「……よし、行こう」

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深夜・隣の町・宿屋一階
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店主「——引きこもりのモリーが柄にも無く遠出とはね」

モリー「良い機会だし、ほら、実家にも長いこと帰ってないしさ……」

ティア(話相手は……店主さん、か……。見たとこ、二人だけだけど……油断禁物ね……)

店主「今、ここは地獄だぜ」

店主「戦時下で城下町すら物資は不足してるし、警察とか称する強盗どもが略奪を繰り返してる」
店主「うちだってもうすっからかんだよ。戦場からは少し遠いが、物流は滞り、客も減った」

モリー「うーん、引きこもってると、そういうのあんまり実感しないんだけどね……」

店主「そうだな……分かりやすく言うと」
店主「平時なら、予約なしでうちの部屋に泊まるなんて、まず無理だ」


モリー「……ひもじいのはみんな同じさ」

店主「それだけじゃない。奴らは魔法族の若い女を血眼になって探して、片っ端から凌辱している」
店主「軍の連中も同じさ……軍の指揮を維持するためだとか、魔法族の血筋の者を増やし戦力を増強するとか」
店主「何でも適当なことをほざいて、捕虜の女も自国の女もまとめて奴隷扱いだ」

ティア(……)

店主「——この状況で、あんたは逃げちまうのかよ?」

モリー「お忘れのようだけど——」
モリー「私だって人間とは言え、女の子なんだよ?」

店主「女の子が聞いて呆れるぜ。かつては軍の中枢で暗躍してたくせに……」

モリー「いつの話をしてるのよ。別に中枢ってほどじゃないし……もう忘れたし」

ティア(モリーさんが、軍……ですって?)


店主「嫌なことは忘れちまったってか。今でもあんたを頼りにしてる人は多いだろうに」

モリー「若い頃にさんざん媚を売っておいた効果が、ようやく出てきただけよ」

店主「若い頃って、あんたまだ……19だろ?」

モリー「私がティアちゃんくらいだった頃の話よ」
モリー「軍に女なんかほとんどいなかったし、しかも私はまだうら若き乙女だったし」

モリー「……軍が性欲まみれなのは今に始まったことじゃないし」
モリー「当時から表向きはアイドル扱い、裏では欲情の対象」
モリー「上官がすごく良い人だったのが救いだったけど」

モリー「彼が守ってくれなかったら本当に凌辱されてたかもしれないなー」

ティア(……!)

店主「あー、ストップ、ストップだ!」
店主「俺も男だ、そんな話これ以上聞きたくないぜ……その、耳が痛い」


モリー「……あなたも良い人だよねえ。以前、ティアちゃんがお世話になったみたいじゃない」

店主「! そういや、あの子、大丈夫だったのか? 変なことされてないだろうな……?」

モリー「ああ、なんとかね……」

店主「そうか……」

モリー「あの子、ここに泊まったことがあるって、言ってたけど……?」

店主「二週間くらい前までな。それなりの期間、滞在してたぜ……一週間だったか」
店主「いつも朝早く外出して、帰るのは夕方……つまり客の少ない時間帯を狙ってたんだろう……」

ティア(……)

店主「いつもカウンターの一番端に座って、赤いフードをすっぽり被って、ずーっとうつむいてるばかりでさ」
店主「口を開くのは注文の時だけだったんだが、最後の日だけは、出発の前に挨拶しに来てくれた」

ティア(……)


店主「あの城下町に行くって言っててさ。……もちろん、俺は止めたんだ」
店主「このタイミングであの街に行くなんて、絶対やめた方が良い。女の子一人でなんて危険すぎるってな」
店主「だがまさか、俺は君がサンタのティアだと知っているんだ、とまでは言えないし……」
店主「……結局止められなかったよ」

ティア(バレてたの……!?)

モリー「あら、言えば良かったじゃない。そしたら保護してあげられたのに」

店主「言えるかよ。俺はそのとき初めてまともに会話したんだぞ? 保護なんて信じてもらえるわけない」

ティア(もちろん信じなかったでしょうね……)
ティア(それより、なんで正体がわかったのか言いなさいよ……!)


モリー「……懐柔と信用作りは、全部私に丸投げってわけね?」

店主「悪いが、苦手でな。俺には娘もいないし……もちろん、情報提供の方は全力でやるからさ」

モリー「さしあたりそんな所か……」

店主「モリー、あんたは今、何を考えてる? ティアちゃんをどうやって救うつもりだ?」

モリー「……もちろん、軍や警察から死守するのよ」

ティア(それだけ……?)


モリー「ティアちゃんはまだちゃんと分かっていないのよ」
モリー「あの子は多少世間擦れしたとはいえ、まだまだ天衣無縫の少女なの」
モリー「でも、彼女が奴らに捕まれば、どれだけあっけなく汚されるか」

モリー「現に、捕まって奴隷に身を落とした魔法族の少女がこの国には何千人もいるわ」
モリー「貴族たちは奴隷商人から彼女たちを買い集め、調教と称して彼女たちを特殊な器具で縛り」
モリー「昼も夜も、猿のように腰を振って、体液を流し込んで——」

ティア(……!)

店主「モリー! そんなことを聞いたわけじゃないぞ!」


モリー「ああ、ごめんなさい」
モリー「そう、つまり、ティアちゃんを絶対守らなきゃならないのよ」

ティア(アンお姉ちゃん……サリーお姉ちゃん……)

店主「それならそう言うだけでいいじゃないか、まったく……」
店主「……それで、具体的にはどうやって守る?」

モリー「うん……結局、最終的には、戦争が終わるのを待つしかない、ね」

店主「……」

モリー「不満?」

店主「いや、そうだな……魔法族の男が戦争で出払っちまったから、人間の男どもが調子に乗るわけで……」

モリー「うんうん……しっかしさ」

店主「なんだ」

モリー「魔法族の女の子ってのは、そんなにおいしいもんなのかなあ?」


店主「は?」

ティア(は?)

モリー「人間の女の子よりも10倍は気持ちいいとかって触れこみだけどさ」
モリー「男どものヤバすぎる眼を見てると、ちょっと興味湧くんだけど……その辺どうなの?」

店主「……知らん、俺に聞くな」

モリー「そう……たとえば、ティアちゃんに欲情しちゃったりしなかったの?」
モリー「あの子無茶苦茶かわいいし……胸はないけど……」

ティア(人のこと言えないでしょ……)

店主「不謹慎すぎるだろう……本人がいないと思って……」

モリー「私がしてるのに、あなたがしないっていうのもおかしいでしょ?」

ティア(あーっ……もういっか……これ……ただの雑談だ)
ティア(ベッドに戻ろ。ほんとに眠たくなってきたし……)

店主「衝撃の告白だな、モリー。女が女に欲情するとは……」

モリー「そんなにおかしなことでもないわよー」

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深夜・隣の町・宿屋の部屋
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ティア(店主さん……私のこと分かって、見守っててくれたんだ……)
ティア(もちろん、お姉ちゃんたちを助ける前に保護されるわけにはいかないけどね……)

ティア(それにしても、モリーさんが軍の関係者だったことがあるなんて……)
ティア(でも、モリーさんも、軍には嫌悪感を抱いているみたいだった……)
ティア(モリーさんは、私を、どこに連れて行ってくれるつもりなんだろ……)

ティア(……さてと、さっきと同じ姿勢で寝てなくちゃ)

ティア(一人だと……ベッドが広く感じちゃう……寒い……)
ティア(ずいぶん気温が下がったな……そういや、そろそろクリスマスが近いなあ)
ティア(去年のクリスマスイヴに家出して……ようやく一年っていうことね)

ティア(アンお姉ちゃん、サリーお姉ちゃん……絶対助けに行きますから……)

ティア(明日は5時起きなんだっけ……さっさと寝ちゃお……)

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深夜・隣の町・宿屋一階
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モリー「……で、どう?」

店主「……ああ、ティアちゃんは自分の部屋に戻ったよ」

モリー「プライバシー侵害ね、ここのセキュリティーは。見た目はボロ小屋なのに」

店主「別にカメラを付けてるわけじゃない。入室確認してるだけだぞ」

モリー「そういうことにしとくけど。……ちょっとティアちゃんに情報を与え過ぎたかしら」

店主「このくらいは教えておかないと、かえって信用してもらえないだろう?」

モリー「過度な秘密主義は不信感を強めるものね」

店主「さっきのアレは、余計だったと思うがね……」

モリー「あの子も苦労してるみたいだけど……やっぱりまだ若いのよねー」
モリー「案外、捕まったらどうなるのか、想像ついてないんじゃないかしら?」

店主「それでいいだろうが……直接教える勇気もないくせに……」

モリー「勇気なんて枯れたわよ。だから引きこもってるんじゃない」

店主「でも今は外に出てる」

モリー「不可抗力よ。ティアちゃんを守らなくちゃならないんだから」

店主「ふ……しかし、だいぶ時間を食ってしまったな……明日は早いんだろう? 急ごうか」

モリー「……ティアちゃんは本当に部屋に戻ったのよね?」

店主「ああ。ベッドから動かないし、もう寝てるんじゃないか?」

モリー「そんなことまで分かるの? それってもう盗撮と同レベルなんじゃ……」

店主「あまり長引くとさすがに怪しまれるぞ、早くしよう」

モリー「はいはい……じゃあ、本題に入りましょうか」

ここまで。明日も投下予定

おつー

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翌朝5時・隣の町・宿屋の部屋
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ティア「んぎぎ……!」

モリー「朝だよティアちゃん、起きてー」ギュー

ティア「ほきてまふよ……!」

モリー「あはは! ティアちゃんってば、赤ちゃんみたい!」

ティア「……」ジト

モリー「まあまあ、怒らない怒らない」


ティア「……最悪の目覚めです。なんでいきなりほっぺたつねるんですか」

モリー「幸せそうに寝てる子のほっぺたをつねらずにいられない性分で……」

ティア「……もういいです」ハア

モリー「なんだか、眠そうだね? ちゃんと眠れた?」

ティア「いえ、あんまり……モリーさんは?」

モリー「珍しく早く寝たからねー、バッチリ目覚めたよ」

ティア「……そうですか」
ティア(私より睡眠時間短いはずでしょ……なんでこんなに元気なのよ)

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翌朝・隣の街・宿屋一階
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店主「おはよう、モリー」

モリー「おはよう。悪いわね、こんなに朝早く……」

店主「なに、そちらの彼女が滞在中のときは、いつもこの時間だったさ」

ティア「……」

店主「やあ、君とどこかで会った気がしていたんだが……昨夜、思い出したよ」
店主「二週間くらい前まで、ここに泊まってくれていたな」

店主「最後の日には、俺の忠告を振り切って行っちまったが! まあ、無事で何よりだ」

ティア(白々しい……)
ティア「私の正体を知っていたから、でしょう? 忠告には感謝していますよ」


店主「君の正体?……はて、何のことかな」
店主「——注文は?」

モリー「このパンにバターでも塗ってちょうだい、あとミルクが飲みたいわ」

店主「あんたのパンかよ。おいおい、それじゃあ——」
クロース「——それじゃあ、店主さんが早起きした意味がないだろッ!!」

店主「!……そう、その通りだ」

ティア(なによ、騒々しい……)

モリー「クロース、寝坊。よって、罰として朝食抜きよ」

クロース「そんなのどうでもいいよ!」
クロース「——それよりティア! 俺、君に謝らなくちゃいけない!!」

ティア「……?」

モリー「謝るって、何を?」


クロース「昨夜は、ひどいことを言って、悪かった!!」

ティア「はあ……ひどいことを?」

クロース「いや、ひどいなんてもんじゃなかったけど!」

ティア「……いったい何のこと?」

クロース「な、何のことって……ほら、あれだよ」
クロース「俺が君に、酔っ払いに絡まれることくらい今までいくらでもあっただろ……って言った!」

ティア(……確かに言ってたわね)

クロース「俺、あのあと考えてさ……無神経だったなって……君の事情とか、知ってるのにさ……」
クロース「だから、もうあんなことは言わないよ……本当に、ごめん」

ティア(へえ……)
ティア「……まあ、座りなさいよ」

クロース「う、うん」


ティア「ほら、これでも食べて。おいしいよ?」グイ

クロース「……あ、ありがとう」

モリー「えっと、それ私のパンだけど……」

クロース「そ、そういやティア、いつの間に髪をショートに……」

ティア「——あなたが反省しているのは良く分かったわ」

クロース「あ、はい」

ティア「あなたの誠意に免じて、許してあげようと思うわ……ただし」

クロース「え? ただし?」


クロース「え? ただし?」

ティア「今後は、寝る時以外は常に近くに付き従って、私を護衛すること」
ティア「私に対し劣情を催した人間を発見し次第、排除すること」
ティア「私が危険なときは、自分の身体を盾にしても守ること」

ティア「——以上三つ。わかった?」

クロース「……」
クロース「え、でも……それじゃ、姉さんは……?」

ティア「状況次第よ……それで?」

クロース「わ、わかった。わかったよ!……それで許してくれるの?」

ティア「ええ、許してあげるわ。——昨夜のことなんて、言われるまで忘れてたけど」


クロース「なんだ、忘れてたのか。それならそうと早く……」
クロース「……え?」

モリー「……くっくっく」

店主「……存外、悪女だな」

クロース「や、やっぱりさ……俺の扱いひどくないか……?」

ティア(……ヘンなヤツね)

短いけど今日はここまで。たぶんそろそろ折り返し地点

乙!

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一週間後・夕方・湖のほとりの街
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ティア「すっご——い!!」

クロース「おいおい、あんまり馬車から身を乗り出すなよ」
クロース「……落ちたら、俺が身を挺して守らなきゃならないんだから」

ティア「あはは、それなら安心ね。思いっきり身を乗り出すわ」

クロース「バカ! ホントに落ちるぞ!」

ティア「私の下に飛び込む用意でもしてなさい!」

クロース「ね、姉さんも何とか言ってやってよ!」

モリー「こらー、危ないぞー」

ティア「はーい!」


ティア(なんだろ……以前の私はこんなノリじゃなかったのに)
ティア(というか、もうずっと昔……そうだ、これ、まだアンお姉ちゃんがいた頃の……)

クロース「……で?」

ティア「!」

クロース「何がスッゴ——イのさ?」

ティア「……ああ、ほら、前に街が見えるでしょう?」
ティア「相当大きな街よ。広場にはクリスマスツリーが立ってるわ!」

クロース「まだちょっと遠いけどな……いや、でもその割にはずいぶん大きく見えるな」

モリー「ここからじゃあ、見えないけどね……」
モリー「街の北方に大きな湖があって、魚がよく獲れるらしいよ……?」

モリー「まあ、今は、重税で、利益は全部持ってかれちゃうのかも、しれないけど……ふわぁ」

ティア「あくびなんて、らしくないですね、モリーさん。眠いんですか?」

モリー「……うん」

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夕方・湖のほとりの街・南の広場
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ティア「すっご——い!!」

クロース「それさっきも聞いたよ」

ティア「このクリスマスツリーを間近で見て、何とも思わないの!?」

クロース「ああ、まあ確かにすごいけど」

ティア「私の村にあったのと同じくらい……ううん、もっと大きいかも」

クロース「……君の村にも、こんな大きいのがあったの?」

ティア「え?——!」
ティア「せ、詮索するのはやめてよね!」

クロース「いや、そんなつもりじゃ……」

モリー「ほらほら、さっさと宿屋を探しに行こうよ」

ティア「ええ……」
ティア(モリーさんなら……今の情報だけでも……)


露天商「おい、お嬢ちゃん、獲れたての魚が揚がってるぜ!」

クロース「!」バッ

露天商「な、なんだよ……こええ兄ちゃんだな……」

ティア「ごめんなさい、せっかちな護衛なの」

露天商「ちげえねえ。声も掛けずに商売できるかってんだ」

クロース「……」

ティア「それにしても、ホントにたくさんありますね。重税に苦しんだりとかは……?」

露天商「ないない。この街を治めてる貴族連中のおかげでね」

クロース「……貴族のおかげだって? そんなまさか!」


露天商「あいつらは一味違うのさ!」

露天商「なんでも、クリスマスイヴに、盛大な催しをやりたいらしい」
露天商「だから、それまでこの街の連中には盛り上がって欲しいんだと」
露天商「ほら、あんたらの後ろにあるチラシ」

ティア「モリーさん、モリーさん。この人の話、面白いですよ!」

モリー「ふーん……」

ティア(あれ、興味無さそう?)

クロース「これかい? クリスマスイヴ・サンタクロースショー……?」

露天商「そう、それだよ。まあ、まさか本物のサンタが来るわけじゃあるまいがな」


ティア「あら、そうですか? 私は、サンタ、来ると思いますけど……」

露天商「嬢ちゃん、そりゃメルヘンすぎるぜ」
露天商「本物は、戦場か、さもなきゃ牢獄の中にいるもんさ」
露天商「街ん中をノコノコ歩いているサンタなんかいやしねえよ」

ティア「……ええ、まったくです」

モリー「二人とも」
モリー「もういいでしょ。早く行きましょう」

ティア「そうですね」

露天商「——え? おいおい!」
露天商「何も買ってかねえのかよ! そりゃねえぜ!」

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夕方・湖のほとりの街・宿屋
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ティア(——やっぱりもう一度ツリーを見に行きたいんだけど)ヒソヒソ
クロース(ええ? もう夜になるよ。また明日出直せばいいじゃん……)ヒソヒソ

モリー「部屋二つ貸して。隣同士の部屋ね」

店主「あいよ」
店主「——おい、ニーナ! なにボーッとしてやがる!」

ニーナ「は、はい!」

店主「こっちは掃除のバイトだけで泊めてやってんだぞ! 誠意を見せて働け!」
店主「さっきからずっと同じ所でホウキ振ってるじゃねえか!」

ニーナ「はい!」

店主「はいじゃねえだろ!」

モリー「まあまあ、それくらいにしてあげなさい」


店主「む……」
店主「ほら、部屋のカギだ。明日の朝返して。飯は適当に調達してくれ」

モリー「はいはい、ありがとね」

ティア(うわあ、あの店主さん怖いわね)ヒソヒソ
クロース(まあ仕方ないだろ。あの子相当ボーッとしてたし……)ヒソヒソ

ニーナ「——はいはい、どいてどいて!」バッ

ティア「きゃっ」 クロース「うわっ」

ニーナ「掃除、掃除っと……」

クロース「いきなり何すんのさ、強引だなあ……」

ニーナ「掃除のジャマなのよ、あっち行って!」
ニーナ「ペタペタしてないで! ジャマ! ジャマ!」


ティア「……」ジト

ニーナ「なによその目は!」

ティア「……」イライラ

クロース「あー!」
クロース「うん、俺たちが悪かった! ほら、行くぞ」

ティア「……ふん」

モリー「ほら、早く部屋に上がるよ」

ティア「……」ムカ
ティア「モリーさん、さっきからさっさと寝たいオーラ全開ですね」

モリー「分かっているなら早く上がってちょうだい」

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夜・湖のほとりの街・宿屋の部屋
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ティア「モリーさん、私たち、もう一度あのツリーを見に行って来ます」

クロース「だからダメだって!」
クロース「もう夜なんだぞ! 危険すぎるよ!」

モリー「ふむ……そうね」

クロース「ほら、姉さんもそうだって!」

モリー「——クロース。そんなつれないこと言わずに、行ってあげなよ」

ティア「!」

クロース「は? 姉さん何を……って」
クロース「! ホントに何言ってんの!? そういうのじゃないだろ!?」

ティア「そ、そうですよ! クロース君はただの護衛で——!」


モリー「分かってる。行ってきていいよ」

ティア「……」 クロース「……」

モリー「ただし目立たないこと。それから寄り道はしないこと」
モリー「いいわね」

ティア「分かってますよ」

クロース「えー、本当に行くの……?」

ティア「別に来なくていいわよ。私はツリーを見に行きたいだけなんだから」
ティア「護衛なら別に、大型犬でも何でも構わないんだから」

モリー「へえ、ティアちゃん、ワンちゃん飼ってたんだね」

ティア「……」
ティア(わざとらしい……)


モリー「うん、まあ、クロースだけじゃ頼りないから……」
モリー「私から、ティアちゃんにお守りを渡しておこう」

ティア「お守り……ですか?」

モリー「うん、ちょっと待ってね」
モリー「荷物の中にあるはずなんだけど……ああ、あったあった」

モリー「はい、これ。——ティアちゃんにあげる!」

ティア「指輪……すごく重たい宝石がはまってる……」
ティア「こんなキレイなもの、もらっちゃっていいんですか?」

モリー「いいのいいの。ティアちゃんに渡さなきゃ意味ないし」
モリー「あ、でも、使うまではしっかり隠しておいてね」


クロース「それを持ってるせいで危険が増えたら本末転倒だもんな……」

ティア「そう、だよね。……えと、じゃあ」 
ティア「……ありがとうございます。大切にします!」

モリー「うん、じゃ、私はもう寝るから」
モリー「邪魔にはならないよ。ゆっくり二人で楽しんできてね! きゃー」

クロース「そういうのいいから!」

モリー「でもティアちゃんのファーストキスはあげられないよ」
モリー「なぜならば……もう私がもらっちゃったから!」

クロース「寝ろよもう!」

ティア(私に渡さなきゃ意味ないって——いったいどういうことだろう?)

今日はここまで。明日も投下予定。キャラが増えます

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夜・湖のほとりの街・南の広場
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ティア(やっぱり……)
ティア(このツリーを見てると、故郷の村を思い出すなあ……)
ティア(ママさえいなければ……あの村に帰れるのに……)

ティア「……そういえば、クロース君」

クロース「なに?」

ティア「あなたの故郷はどこなの?」

クロース「……」
クロース「自分のは教えないのに、他人のは聞くんだ?」

ティア「私はあなたを信用していないもの」

クロース「おいおい、そりゃおかしいじゃないか」
クロース「君は信用できないヤツを自分の護衛にしてるのかい?」

ティア「……で、どこなの?」


クロース「あはは、初めてティアに口で勝った気がする」

ティア「……」ムカ

クロース「はいはい、いま答えますよ」
クロース「あ、でも、あまり言いふらさないで欲しい……」

ティア「?」

クロース「ま、今は周りも騒がしいし、大丈夫だよな……」

ティア「なに? もったいぶって」

クロース「……実は、俺、この国の出身じゃないんだよ」
クロース「今、ちょうど戦争中の敵国からやってきたんだ……」

ティア「……へえ。じゃあ、モリーさんも?」

クロース「姉さんは、俺よりも先にこっちに来たんだ」
クロース「ようやく探偵事務所が出来たから、手伝いが欲しいって言われて」
クロース「後から俺もこっちにやって来たってわけ」

ティア(……あれ?)


クロース「もちろん、俺が来たのは戦争が始まる前だよ」
クロース「バレたら良くないなあ。サンドバックにされかねないよ」

ティア「……ねえ、クロース君」
ティア「モリーさんが私くらいだった頃は、何をしてたのかな」

クロース「えと、ティアって、いくつ? 12くらい?」

ティア「は!?」
ティア「14よ! 失礼ね! そんなに子供じゃないわ!」

クロース「バカだな、本当に子供じゃないなら、若く見られたときは喜ぶもので……」

ティア「そんな話はどうでもいいの! それで、どうなの!」

クロース「……姉さんが14の頃、何をしてたかって? そうだなあ」
クロース「その頃にはもう、姉さんはこっちに来てたと思うよ?」

ティア「……何のために?」

クロース「え……? もちろん、探偵事務所を設立するためだよ。前に話したろ?」

ティア「……そう」
ティア「ああ、そうだったわね! すっかり忘れてた!」

クロース「……なんかあったの?」

ティア「なんでもないよ」


ティア(……間違いない)
ティア(モリーさんは、かつて自分が軍の関係者だったことを)
ティア(クロース君には一切教えていない……どうして……)

クロース「なあ、なんかさっきの子がこっちを睨んでるんだけど……」

ティア(そうか、モリーさんは軍の中枢にいたんだ)
ティア(軍をやめても、モリーさんは口をつぐんでいる……)
ティア(それほどの機密ってことなの……?)
ティア(いや、なんか、それは違うような……)

クロース「ティア、ティアってば」

ティア「!——な、なに?」

クロース「ツリーの反対側に、さっきの掃除の子が……」


ティア「ああ、ニーナとかいう……なんかこっちを睨んできてるけど」

クロース「ツリーを見に来たって感じじゃないなあ……」

ティア「きっとクロース君のせいね……」
ティア「あの子のこと、相当ボーッとしてたとか言ったから、根に持たれてるのよ」

クロース「あれは聞こえてなかっただろ……」
クロース「どっちにしろ、思いっきり彼女を睨みつけてた君にはかなわないさ」

ティア「だけど……あれで、私たちにバレてないつもりなのかな?」

クロース「うーん、だとしたら相当……いや、まあ二度はいいか」

キリ悪いけど眠いのでここまで。明日も投下予定

なかなか面白いかも
待ってます

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夜・湖のほとりの街・宿屋一階
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クロース「……なんだって?」

ティア「聞こえたでしょう。軍の中枢にいたことがあるのよ、モリーさんは」

クロース「でもそんな話、一度も聞いたこと無いぞ」
クロース「……ねえ、それ、夢じゃなかった?」

ティア「ニーナじゃあるまいし」
ティア「……たしかに聞いたのよ、あの宿屋でね」

クロース「ふーん……」

クロース「しかし、この宿屋のメシはダメだねえ……」
クロース「何と言うか、調理技術以前だよ……。てか、これ何の肉なの?」


ティア(イヤなら食べなきゃいいじゃない……)
ティア「……クロース君は、どう思うのよ」

クロース「うーん……カエルかな?」

ティア「……」イラ

クロース「いやいや、もしや……」

ティア「——肉はどうでもいいから!」

クロース「え、じゃあ何の話?」

ティア「ハァ……」
ティア「だからー……私の話を聞いて、クロース君は、どう思うのよ……?」

クロース「あーうん、そうだなあ」


クロース「……正直、全く信じられないよ」

ティア「じゃあ、私の聞き間違いだったってこと?」
ティア「それともモリーさんがウソをついていたとか?」

クロース「いや、分かんないけど……」
クロース「……でも、そもそも姉さんは魔法はほとんど使えないんだよ?」
クロース「軍の中枢に入れるような戦力にはなりえないじゃないか?」

ティア「……忘れたの?」
ティア「あなたのお姉さんは最高に優れた頭脳の持ち主なのよ」

クロース「それなら、もっと規則正しい生活とかして欲しいもんだけどねえ……」


ティア「私の考えでは……」
ティア「モリーさんは、なにか、軍の機密に関わる仕事をしていたのよ」

クロース「ぐ、軍の機密……?」

ティア「そう、機密よ」
ティア「だからこそ、軍をやめてからも、彼女は口をつぐんだままで……」

ティア(……いや、それはおかしい)

クロース「……ちょっと待てよ」
クロース「あの店主さんはその話を知ってたんだろ?」
クロース「軍の機密だって言うなら、誰に対してだって、口外しちゃいけないはずじゃ?」

ティア「……そう、そうなのよねえ」


クロース「うーん……まあ、君がその話を聞いたってことについては、信じるよ」
クロース「でもそうだとしたら、ずいぶん薄情だなあ、姉さん……」
クロース「弟で助手の俺にも話してないのに、店主さんには話すなんて……」

ティア「そうね。……考えてみたら、それも変だよね?」

クロース「うん……でもさ……」

ティア「——なに?」

クロース「姉さんが俺に話さないってのは……きっと、わけがあるんだ……」
クロース「ティア、君は姉さんを疑うかもしれない……けど……」

ティア「……お姉さんのこと、信じてるのね」

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夜・湖のほとりの街・宿屋の部屋
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ニーナ「……ねえ、神聖なる労働者に対する敬意とかはないの?」

少女1「おー、おー、お勤めご苦労!」

少女2「あ、ニーナさん、戻ったんですか」

少女3「お姉ちゃん、お帰りなさい! お疲れさま!」

ニーナ「はいはい、ただいまただいま」
ニーナ「ありがと、ニコラ。あんただけだよ、私をねぎらってくれるのは……」


少女1「掃除のバイトでしょー? 一日中ホウキ振ってるだけでしょー?」
少女1「いいよなー……前回あたしが当番だったときは、一日中、厨房だったよ」

ニーナ「ふん、そんなんだから、エマはダメなのよ」
ニーナ「宿泊代を稼ぐためにあくせく働いてるだけ……そんなの人間でも出来るじゃない」

エマ「ほほう。……それじゃ、我らがリーダー、ニーナ先生の今日の成果は?」

ニーナ「まあまあ、焦らない焦らない。これだから貧乏人は」

エマ「どの口が言うんだか」

ニーナ「おほん……あなたたち、もちろん『ティア』は知ってるわね?」


エマ「ああ、たった一人で逃げ延びてるっていう、サンタクロースの?」

ニーナ「そうよ。マリーは?」

マリー「3週間前に、城下町に単身乗り込んだっていう、サンタクロースの?」

ニーナ「その通り!」

ニコラ「へええ、その人、すごーい!」

ニーナ「……む」
ニーナ「大丈夫、私の方がもっとすごいから」

エマ「誰にとっての大丈夫なのか」

ニーナ「さて、そんな感じの『ティア』なんですが……」
ニーナ「ふふふ……聞いて驚きなさい!」

ニーナ「——今日! 今まさに! この宿屋に!」
ニーナ「あのサンタクロース! 『ティア』が来てるのよッ——!」


エマ「……」ポカーン

マリー「……」ポカーン

エマ「……うそーん」

ニーナ「ウソじゃないわ。あと、その口は間抜けだから閉じた方が良いわ。仮にもエルフでしょう」

ニコラ「その人が来てるの? じゃあ、今からみんなで会いに行こうよ!」

ニーナ「ううん、ダメよ」
ニーナ「実のところ『ティア』は、ひとりで来ているわけじゃないの」

マリー「……というか、無事だったこと自体が驚きです」
マリー「3週間前から彼女に関する情報は一切入らなくなったでしょう?」
マリー「だから、てっきり城下町で捕まってしまったものだと……」

ニーナ「うん、そうね……あながち間違ってないかもね……」


マリー「……え? どういうことですか」

エマ「おい! まさか『ティア』を捕まえたヤツも一緒だって言うんじゃ……!?」

ニーナ「そう、私もそれを恐れていたの!」
ニーナ「だって! そうでしょ!?」

ニーナ「『ティア』の近くに! ずっと張り付いてる怪しげな男が、いるんだものッ——!!」

——ドンッ!

ニコラ「きゃ!」 エマ「きゃ!」 マリー「きゃ!」

——さっきからうるさいぞ! 寝れないじゃないか!


ニーナ「すいません!」

——頼むよ、まったく……。

マリー「……あの、まさかとは思いますが、今の全部、聞かれてたり……?」

エマ「まさかとは思いますが、今の男が『ティア』に張り付いてたり……?」

ニーナ「あー……いやいや。さてさて……」

マリー「部屋を、変えましょうか……」

今日はここまで。明日も投下予定

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夜・湖のほとりの街・宿屋の部屋
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エマ「あーあ、怖かった。男って、どいつもこいつも乱暴なんだから」
エマ「怖かったよねえ、ニコラ。よしよしー」

マリー「私はちゃんと丁寧にお願いしましたよね……?」
マリー「それなのに、あの店主さんときたら……」
マリー「いきなり怒り出すなんて、おかしいじゃないですか……?」

エマ「まったくだよねえ。いっそのこと、宿屋を変えられたら良かったのになあ」

ニーナ「ぜいたく言わないでよ」
ニーナ「今夜この部屋を借りられたのは、誰のおかげだと思ってるの」

エマ「ニーナ先生のおかげでーす!」

ニーナ「分かってるなら、さっさと私の寝るスペース空けたら?」

エマ「やだよー……」
エマ「だって仕方ないでしょ、ベッドはひとつしかないんだから?」

マリー「エマ……。ニコラちゃんとバイト当番がベッドを使うっていう決まりでしょう」

エマ「それはバイト当番がちゃんと仕事した場合に限る」
エマ「今回は……まあ、そうね……ニーナは床で寝ればいいんじゃないの?」

ニーナ「へえ、面白いこと言うじゃない……」

エマ「あ、むしろ空中で寝れば? 出来るでしょサンタだし……ぶっ、想像したら受けるwwwwwwwwww」

ニーナ「……」

エマ「けどさ、一日中ホウキ振って、たまたま何か情報拾ってきただけでしょ?」
エマ「それだけで疲れたフリされてもねえwwwwwwwww」

ニーナ「……」

ニコラ「や、やめてよ……エマさぁん……」

ニーナ「エマ、あなたとは一度決着をつける必要があるみたいね……」

ニコラ「そんな、お姉ちゃんまで……」


エマ「へえ、やれんの?」
エマ「あんまり騒がしくすると、また怒られちゃうかもよ?」

ニーナ「……」

エマ「……ま、大丈夫かあ」
エマ「ニーナ先生がズバッと『すいません!』って叫べば、何とかなるもんね!」
エマ「ていうか、板に付きすぎでしょ! あの動き、ど、どこで習ったの?wwwwwwwww」

エマ「あはは……」 ニーナ「……っ!」スッ

エマ「!」

マリー「——ああ、それにしても」


マリー「あんな乱暴な人に、『ティア』は捕まってしまったんですね……」
マリー「私たちのような逃亡者にとって、彼女は希望の象徴だったのに……」

ニーナ「……」

エマ「……」

マリー「もちろん、大変な状況にいるのは私たちも同じですが……」
マリー「私たちには、何も出来ることはないんでしょうか……」

ニコラ「……マリーお姉ちゃん、どういうこと?」

マリー「ええ、ニコラちゃん、つまり……」

ニーナ「——つまり」
ニーナ「私たちが一肌脱ぐってことね!!『ティア』のために!!」

エマ「!」

マリー「! そうです」


ニーナ「なるほど、なるほどね」
ニーナ「こうしちゃいられないわ! 作戦を考えなくちゃ!」

エマ「……」
エマ「なに、どうすんの?」

ニーナ「決まってるじゃない!『ティア』を救出するのよ!」
ニーナ「——私たちの、この手でね!」

エマ「……」 マリー「……」

マリー「そ、そうですね! 私たちで彼女を救いましょう!」

エマ「ええ? マリーまでそういう感じなの?」


エマ「やだよ、あたし……それには参加できないよ……!」

ニーナ「……私がリーダーだから、不安なの?」

エマ「!」

エマ「その通りよ。——なんだ、分かってるんじゃない」
エマ「リーダーさえちゃんとしてれば、参加しない理由なんてないわ」

ニコラ「お、お姉ちゃんはちゃんとしてますよ……?」

マリー(おいで、ニコラちゃん)
マリー(ニコラちゃんはお姉ちゃん思いの良い子だね……)

ニコラ(マリーさん。なんでエマさんは、いじわるばっかり言うの……?)
マリー(それは……。そう、あの子もいろいろ大変なの。分かってあげてちょうだい)


ニーナ「ふん、ホントはビビってんじゃないの?」

エマ「あ?」
エマ「……あ、そうだ! これでいいんじゃない?」

ニーナ「?」

エマ「『ティア』を救出して、あたしたちの新しいリーダーにしようよ!」

マリー「!」 ニコラ「!」 ニーナ「はあ……?」

エマ「まさに名案じゃない?」

ニーナ「……あなた、なに、言ってるの?」

ニーナ「リーダーは、私よ!……変わらないし、新しくもならない!」
ニーナ「なんで今さら、そんな話をするの! リーダーは、私なのよ!」


エマ「ええ、そうですとも」
エマ「前回の襲撃で、あたしたちが仲間を失ったときも……」
エマ「もちろん、ニーナがリーダーだったよねえ……!!」

ニーナ「ふん、さっきから、いつも以上に面倒臭いなと思っていたら……」
ニーナ「なに? それを根に持っていたの? 私のせいだって言いたかったの?」

エマ「……」

ニーナ「責任をとって、辞任でもして欲しかったの?」
ニーナ「今、彼女たちの救出作戦を誰が主導してるのか、よもやお忘れじゃないでしょうね?」

エマ「救出作戦!——聞いてあきれるわ! 半人前サンタのくせに!」
エマ「あんたみたいな半人前サンタはねえ……!!」

エマ「サンタクロース・ショーでも、やってりゃいいのよ——ッ!!」

マリー「……ちょ、エマ、それは!」 ニーナ「な……!!」

ニーナ「なあ……!!」

ニーナ「 な ん で す っ て え —————— ッ ! ! ! 」


マリー「ニーナ! やめてください!」

ニーナ「どいてよマリー! そいつを警察に突き出してやる!」

エマ「やってみれば?」
エマ「もっとも連中は、エルフなんかよりも、サンタに興味津津だろうけどねえ」

ニーナ「下品な……最低な……エルフの出来そこないめ!!」

エマ「……」スッ

マリー「だめ、やめて、二人とも——!!」


——ああもう、いい加減にしなさいよ、あなたたち!!

今日はここまで。明日は投下できないかも


待ってるよ

まだか

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12月23日・早朝・湖のほとりの街・宿屋の部屋
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ティア(……モリーさん、まだ寝てる)

ティア(私もまだ寝てたい……)
ティア(結局、3時間くらいしか眠れなかったし……)

ティア(私と同じ、逃亡中の魔法族の女の子か……)
ティア(ゆうべ、何だかんだで隣の部屋に連れ込まれて……そこで見た)
ティア(サンタの姉妹、エルフ、そして魔女がひとつの部屋に……)

ティア(正直、うらやましいとは思う)
ティア(私には一緒にいてくれる仲間なんて、全然いなかったから……いや)

ティア(今は仲間がいる……モリーさん……それにクロース君)
ティア(それなのに、なんでまた私は疑って……)

ティア「モリーさん。私はあなたを信じていいんですよね……?」

モリー「……」

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12月23日・早朝・湖のほとりの街・宿屋一階
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モリー「……今日の予定なんだけどね」

ティア「はい」

モリー「本当は午前中に出発する予定だったんだけど……」
モリー「予定を変更したよ。しばらく、この街に留まることにしたから」

ティア「えっ」 クロース「どうして?」

モリー「うーん……ちょっと情報の整理がしたくてさ」
モリー「それにこの街は広くて人も多いし、安全だからよ」

クロース「安全、ねえ……」
クロース「まあ姉さんが言うなら。……しばらくってどれくらいなの?」

モリー「ほんの2,3日くらいよ」

クロース「……ははあ」
クロース「さては姉さん、クリスマスイヴのイベントが見たいんだね?」

モリー「……まあ、そんなところかな」

クロース「良かったじゃないか、ティア」
クロース「クリスマスイヴにあのツリーを見に行けるかもしれないよ?」

ティア「ええそうね……ところで……」
ティア「クロース君、昨夜はよく眠れた?」

クロース「! それが、隣の部屋の奴らがうるさくて……あ、いや!」
クロース「何言ってんのかはよく聞こえなかったんだけどさ!」

ティア「……そう」
ティア(ニーナのバカ……思いっきり聞かれてるじゃない……)

ティア「モリーさん。私、ちょっと外に出てきますね」

モリー「わかった。でも人ごみにまぎれて動くようにしてね」

ティア「もちろん。それに暗くなる前にちゃんと戻ります」

クロース「え、ちょっと待ってくれ。まだ食べ終わってないよ!」

ティア「ああ、急ぐ必要はないわ」
ティア「クロース君は、今日はついてこなくていいから」

クロース「……ええ?」

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12月23日・朝・湖のほとりの街・南の広場
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エマ「おーい! こっちこっちー!」

ティア(やめなさいって……目立つじゃない……)
ティア(もう全員来てるな……本当に一人で来ちゃったけど……)

マリー「おはようございます、ティアさん」

ティア「おはよう、マリーさん。エマ、ニコラちゃんも」

エマ「おはよー」

ニコラ「おはよう、ティアお姉ちゃん!」

ティア「へえ、きちんと挨拶出来てえらいねー」ナデナデ

ニコラ「えへへ」


エマ「一方ニーナは……」

ニーナ「ふん。……おはよう、ティア」

ティア「挨拶出来てえらいねー」

ニーナ「……なるほど。お前も私の敵というわけね」

マリー「もうケンカは勘弁してください。ゆうべで十分でしょう?」

ニーナ「いいえ。ゆうべはむしろ敵が増えたわよ」

マリー「とにかく……。早く出発しましょう……?」

ティア(……苦労してるなあ、この子)

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12月23日・朝・湖のほとりの街・南の喫茶店
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ニーナ「『モリー』は2,3日この街に留まると言ったのね?」

ティア「ええ。でも、モリーさんって呼びなさいってば」

ニーナ「まだそんなことを……!」
ニーナ「ゆうべ散々説明したでしょう。『モリー』は危険人物なのよ」

エマ「そうだよ。『モリー』はサンタの軍事利用を企んだ黒幕で……!」

マリー「ティアさんを時間をかけて騙そうとしているんですよ……」

ティア「……」
ティア(——だから! あなたたちに何が分かるのよ!)


ティア「……私は自分の目と耳で確かめて、モリーさんを信じることにしたの」
ティア「発信元もつかめない情報を信じ込んでいるあなたたちとは違うの」

ニーナ「その情報が、今まで私たちに安全な逃走経路や宿屋を教えてくれたのよ」
ニーナ「私たちのパーティがこれまで逃げ延びられたのは、ひとえに」
ニーナ「定期的に届くあの魔術メールのおかげなんだから。信頼性抜群だわ」

ティア「たしかに、モリーさんがかつて軍に所属していたってことは、本人の口から確認済みよ」
ティア「でも今は探偵事務所をやってるし、引きこもりなのよ? そんな悪人に見える?」

エマ「引きこもりって、どこが?」
エマ「考えてみなって。会った次の日に事務所を引き払うって、おかしいでしょ」
エマ「つまり、それは予定通りの行動だったんだ」

ティア「つまりの割に全然つまれてないわ。つまり、どういう意味なの?」

エマ「いい? サンタの——おっと」


ウェイトレス「お待たせしました」
ウェイトレス「ショートケーキと紅茶のセットをお持ちしました」

ニコラ「やったー!」

ティア「ニコラちゃんの言ってた通りね。すごくおいしそう」

ウェイトレス「ご注文は以上でお揃いでしょうか?」

マリー「はい」

ウェイトレス「ではごゆっくりお召し上がりくださいませ」

ニーナ「……ふう」
ニーナ「ちょっとエマ、今のは相当危なかったわよ」

エマ「ごめんごめん……」


エマ「まあ客も増えてきたし、ウェイトレスが来ない限りは盗み聞きもされないでしょ」

ティア「……こんな時期なのに、ずいぶんにぎわっているのね」
ティア「やっぱり、サンタクロース・ショーのせい?」

ニーナ「……そうね」

ティア「私は、まだ信じられないけど……」
ティア「でも、確かなの……? それも、魔術メールの情報なんでしょ?」

エマ「いや。その件はあたしたちの推測なんだけど……」
エマ「でも、たぶん間違いないと思う……から。絶対に、止めなきゃいけない……」
エマ「つまり、一週間前に私たちのパーティの……」

マリー「エマ。今その話はしないでください」

エマ「——!」
エマ「なによそれ。嫌なことは早く忘れたいとでも——!?」

マリー「ニコラちゃんには思い出させたくないです」

エマ「……!」


エマ「ふん……でも、ティアには教えなくちゃいけないでしょ」

ティア「ゆうべ、ニーナから聞いたよ」

エマ「そっか……」

ティア(ゆうべ聞いた話では……)
ティア(ニーナが指揮するこの逃亡者パーティは、一週間前に襲撃を受けて……)
ティア(3人のサンタクロースの女の子が警察に捕まったらしいけど……)

ティア「それで、捕まった3人をショーの前に救出しようっていうのが……」

ニーナ「救出作戦よ。私が指揮を執る予定だけど……」

エマ「異議あり。年齢、経験から言って、リーダーはティアが妥当だわ」

マリー「エマ、この話題になると日が暮れちゃいます……」


エマ「ニーナがさっさと折れてくれれば、すぐ終わるのに」

ニーナ「典型的なガキの発想ね……」

エマ「ふん。苺がすっぱくて食べられないくせに」

ニーナ「指についたクリームを舐めてるくせに」

マリー「はあ……」

ティア(たまには、マリーさんの代わりに私が動こう……)
ティア「私、昨日から聞きたかったことがあるんだけど……」

マリー「ああ、何ですか、ティアさん?」ホッ

ティア「どうして、私のことをみんな知ってたの?」
ティア「……やっぱり、非通知の魔術メールで?」

ニーナ「え……」


エマ「いや、それ以前に……『ティア』は有名だったし」
エマ「つまり……魔法族の女の子の数は多いでしょ?」
エマ「だから、たくさん捕まったけど、たくさん逃げてもいるわけで……つまり」

ティア「はあ」
ティア(つまれてない……)

マリー「逃亡者たちはたいてい数人で、多いときは数十人で群れるものなんです」
マリー「そうすれば役割分担も出来ますし、何より精神的に安定しますからね」

ニーナ「……だから、あなたみたいな単独行動の逃亡者は珍しいの」
ニーナ「それに、あなたはひたすら城下町に向かって南下して来てたから……」

マリー「みんな、ティアさんが城下町を襲撃して、私たちを自由にしてくれるんだと」
マリー「期待を……勝手な期待ですが……してたんだと思います……」
マリー「でも、城下町に入った後、ティアさんに関する情報は一切来なくなって……」

エマ「ごめんね」
エマ「あたしたち、ティアが死んだか、捕まったかだと思ってた」


ティア「……」
ティア(ふざけてる……なんだよ、それ……)
ティア(私ひとりだけ……取り残されて……)
ティア(何も知らずに……バカみたいじゃない……)

ティア「……期待を裏切って悪いけど」

ティア「私が城下町に入ったのは、単に警察の罠にはまっただけだし」
ティア「ひたすら南下してきたのは、故郷の村から出来るだけ離れたかっただけだし」
ティア「単独行動してきたのは、ひとりも、友達がいなかっただけで……」ガタッ

マリー「あ、ティアさん……」

ティア「……お手洗い行ってくる」

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12月23日・朝・湖のほとりの街・南の喫茶店・女子トイレ
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ティア(最悪だ……あやうく、涙を……)
ティア(アンお姉ちゃんが消えた夜に、もう泣かないって決めたのに)

ティア(目の充血は収まったかな……だいぶ水で冷やしたし……)

モリー「あれー、ティアちゃんじゃない?」

ティア「——!?」バッ

モリー「あ、やっぱり。こんなところで奇遇だねー」

ティア「あ、はい……。ホ、ホントだ。奇遇ですねー。あはは……」
ティア(なぜ、ここにいるの——!?)


モリー「そんなに目をゴシゴシ洗って、どうしたの? ゴミでも入った?」

ティア「そ、そうなんですよ。でも、もう取れましたから」
ティア「モリーさん、どうしたんです? あ、クロース君と一緒なんですか?」

モリー「ううん。クロースはいまごろティアちゃんを探してると思うよ」
モリー「私はヒマだったからさ、ひとりでブラブラ歩いてて、ここには、たまたまね」

ティア(ヒマですって? 情報の整理をしてるはずじゃなかったの)
ティア「あ、でもごめんなさい私……今はちょっと……」

モリー「ああ、大丈夫。他の子たちと一緒なんでしょ? 無理に付き合ってなんて言わないよ」
モリー「あの子たちとは、どういう関係なの? どこで知りあったの? 昨日の晩かな」

ティア(なに、この食い付き方……)


ティア「なんだ、見てたなら声をかけてくれても良かったのに」
ティア「奇遇だなんて、ウソっぱちじゃないですか……」

モリー「ううん、この店に入ったのはホントに偶然だったの」
モリー「でも、彼女たちが魔法族の女の子だとしたら……」
モリー「大歓迎だよ。私たちのパーティにはあと4人くらい、ね」

ティア(……)
ティア「残念ながら普通の女の子ですよ……それに」
ティア「もしそうじゃないとしても、みんなバレないようにするはずでしょ?」

モリー「あら、ティアちゃんは私のこと信じてくれてるじゃない」
モリー「ま、ティアちゃんはちょっと信じやす過ぎるとは思うけどねー」

ティア「……どういう意味ですか」

モリー「さあ? 私はもう行かなくちゃ。紅茶が冷めちゃう」
モリー「それじゃティアちゃん、帰りはあまり遅くならないようにね」

ティア「……はい」

ティア「……」
ティア(モリーさん。私はあなたを信じていいんですよね……?)

今日はここまで。先週は新生活でバタバタしてましたが、明日は投下予定

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12月23日・夕方・湖のほとりの街・宿屋の部屋
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モリー「ああ、ティアちゃん。おかえりなさい」

ティア「……あの、なんで荷物をまとめてるんです?」

モリー「ちょっと調べたいことが出来ちゃってねー」
モリー「出かけなくちゃいけないの。たぶん朝まで戻らないから—」

ティア「ええっ!? もう暗くなるし、外は寒いですよ!」
ティア「調べ物なら、室内でも魔法でネットにつなげば……!」

モリー「ダメなの。私は行かなくちゃいけないのよ。なんとしてもね」


モリー「てなわけで、さらばだティアちゃん。一緒に寝てあげれなくてごめんね」
モリー「私がいないからって、夜更かしはダメだよ。じゃあね!」

ティア「ちょ、待って! 待ってくださいってば」

モリー「ああ、そうそう」
モリー「ティアちゃん、私が昨日あげたお守り、ちゃんと身につけてくれてる?」

ティア「え?」
ティア「……ああ、はい。ちゃんと隠して持ってますけど」

モリー「それならいい。じゃあ、私急ぐから!」ダッ

ティア「……」
ティア「本当に行っちゃった……」

ティア「……ニーナたちのとこにでも行こうかな?」

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12月23日・夜・湖のほとりの街・路地
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露天商「あっ、テメェは!」

ティア「?」

露天商「昨日、俺の情報を聞いておきながら……!」
露天商「なんにも買わずに行きやがった小娘じゃねえか!」

ティア「ええっ? ひ、人違いじゃないですかぁ……?」
ティア(うわー、めんどくさ……)

露天商2「おい、そこの!」
露天商2「店をやる気がねえんなら、場所を明け渡してもらおうか!」

露天商「バッカ野郎! 今、接客中だ! 見て分かんねえのか!」

露天商2「テメェは昨日もここを使ってただろう!」
露天商2「場所が足りねえんだ! 譲り合いの精神が必要なんだよ!」

露天商「この場所をやれるかッ! 今夜はイヴ前夜の稼ぎ時なんだからなあ!」

露天商2「だからよこせって言ってんだよ!」

露天商「うるせえ!……つうかあの小娘、どこ行きやがったーッ!」


ティア(すごい熱気ね……みんなおかしくなってる)

ティア(狭い路地はぜんぶ露店だらけ……すし詰め状態……)
ティア(お祭り気分なのか……でも全然楽しくない、なにかイヤな感じ……)

男「おい、そこの赤いの!」
男「そこをどけ! 雪で生き埋めになっても知らんぞッ!」ザバーッ

ティア「えっ!? ああっ!?」ドサッ 

男「あーあ、言わんこっちゃない……」

ティア「ちょっと! 危ないでしょ! いきなり落としてこないで!」

男「落とさなきゃ、テントがつぶれちまうんだよッ!」
男「まったく、今年のクリスマスはとんだ大雪で……」ブツブツ

ティア「……全身、雪まみれだわ」
ティア(早いとこ、ニーナたちの宿屋に行こうっと……)


少女「や、やめてくださいっ……!」

ティア(……!)

警官1「おう、嬢ちゃん……もう暗いのに、こんな路地にいたら危ないぜえ」
警官2「この大雪だし、滑って転んだら大変だー……俺たちが補導してやろう」

少女「あの、わたしっ……人間ですからねっ!」
少女「あなたたちの欲しがってる人たちとは違います!」

警官1「そうか、そりゃ残念だ……」
警官1「まあ、でも人間の女だって、別に悪くはないよな」ニヤ

警官2「そうそう、自分に自信を持ちなって……」ニヤ

少女「——さよなら!」ダッ

警官1「あっ、待ちやがれ!!」

ティア(……早いとこ、ニーナたちの宿屋に行こうっと)


少女「や、やめてくださいっ……!」

ティア(……!)

警官1「おう、嬢ちゃん……もう暗いのに、こんな路地にいたら危ないぜえ」
警官2「この大雪だし、滑って転んだら大変だー……俺たちが補導してやろう」

少女「あの、わたしっ……人間ですからねっ!」
少女「あなたたちの欲しがってる人たちとは違います!」

警官1「そうか、そりゃ残念だ……」
警官1「まあ、でも人間の女だって、別に悪くはないよな」ニヤ

警官2「そうそう、自分に自信を持ちなって……」ニヤ

少女「——さよなら!」ダッ

警官1「あっ、待ちやがれ!!」

ティア(……早いとこ、ニーナたちの宿屋に行こうっと)

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12月23日・夜・湖のほとりの街・宿屋
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ティア(やっと着いた……今夜の街は何だか……怖いなあ)

ティア「……あれ?」

ティア(カウンターにも……テーブルにも……)
ティア「——誰もいない?」

ティア(いや、二階に反応が4つある。きっとニーナたちだ)
ティア(でも、一階に誰もいないのはどうして……?)

ティア「……お祭りだから?」

ティア(階段は……あったあった)

ティア(モリーさんのことを信じていいのか、私わからなくなってる……)
ティア(今夜、彼女が出て行っちゃったのは、好都合だったけど……)
ティア(タイミングが良すぎるような……全て彼女の思惑通りのような……)

ティア「とにかく、彼女たちに相談を——」

?「……っ!!」
?「……っ!!……っ!!」

ティア(……?)
ティア(部屋の中から、何か声が……また喧嘩してるのかな)
ティア(マリーさんに苦労ばかりかけて……本当に仕方のない人たちね)


ニーナ「——イヤなら出てけばいいでしょうッ!? もう知らない!!」

エマ「あーあ! そーですか! いいよ、出ていきますとも!」ガチャッ

ティア「——!?」 エマ「どいてッ!!」ドカッ

ティア「きゃっ!」
ティア「……エマ!? ちょっと! どこへ行くのよ!」

マリー「エマ! 戻ってください! エマッ!!」バッ

ティア「マリーさん!」

マリー「……ティアさん!? どうしてここに!?」

ティア「詳しい話はあと!」
ティア「エマを追わなくちゃ! 連れ戻すのよ!」

マリー「そ、そうですね……」
マリー「話は走りながら! 行きましょう、ティアさん!」

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12月23日・夜・湖のほとりの街・路地
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マリー「いつの間にこんなに積もってたんですね……っ!」

ティア「エマの足跡が残ってる! しばらくは追えるわっ!」
ティア「でも気を付けて! 警官隊がうろついてるから……」

マリー「だからこそ! エマを連れ戻さなくちゃいけないんでしょう!」

ティア「わかってる! さっさと行くわよ!」ダッ

マリー「言われなくたって!」ダッ

ティア(マリーさん、こんな風に熱くなるときもあるんだ……)
ティア(いつもはおとなしい人なのに……意外と熱い人? それとも……)

マリー「——エマは悪くなかったんですよ」
マリー「ニーナだって何も悪くない。誰も悪くないんです……」

ティア「……何があったの?」
ティア(ランプの光を反射した雪が、黄色く光ってる……意外と明るいかも……)

マリー「二人が決裂しました。それだけです……」


ティア「たしか、二人は私をリーダーにするとかしないとか……それで揉めてたんだっけ」
ティア(じゃあ、悪いのは実は私?……って、いやいや! なんで!)

ティア「……本当に苦労が絶えないね、あなたは」
ティア「あの二人ってば、他人の苦労も知らないで!」

マリー「……いえ、二人は悪くないんですよ」

マリー「エマは怖がってるだけ。ニーナはみんなを守りたいだけなんですよ」
マリー「それなのに、私たちの仲間が捕まってから、おかしくなっちゃって……」

ティア(サンタの子が3人……だっけ。その割に、お気楽そうだったけど……)

マリー「私たちは必死で……前と同じように振る舞おうとしました……けど」
マリー「心の底では、不安でおびえてました。空元気……だったんですよ」

マリー「気付いても、そうと認めたら、本当に崩れちゃうかもしれないから……」


ティア(ニーナのリーダー気取りも、何らかの覚悟の表れだった……?)

ティア「……それでも十分すごい。私には無理だよ。リーダーなんて」
ティア「ニーナみたいに出来ないよ。ずっとひとりだったんだもん、私」

ティア「ひとりでも怖いのに。他の人も守らなきゃいけないなんて……」
ティア「私には……絶対……。マリーさんは怖くない?」

マリー「私自身については。怖くないですよ。……それから、マリーでいいですから」
マリー「その代わり、私もティアさんのこと、ティアって呼んでもいいですか?」

ティア「……もちろんいいよ、マリー。それに、敬語じゃなくても」

マリー「ありがとう、ティア。でも敬語はくせなので直せません」ニコ

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12月23日・夜・湖のほとりの街・路地
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エマ「——はなせっ! 汚い手で触るなッ!」

警官1「おおーっと、女の子が夜道を歩いているから、補導してやろうというのに」

エマ「黙れ、イカ臭いんだよっ! 警察呼んでやるっ!」

警官2「ナイスジョーク! 我々が警察なのだよ。ゆえにお前を補導するのだッ!」

エマ「あたしは人間だって! あんたらの目当てとは違うってば!」
エマ(バレたら終わりだ……何とか人間のフリして……)

警官1「いーや。ごまかそうたってムダだ……俺には分かる」

エマ(……ハッタリだ。バレるわけない)
エマ(あたしの耳はすこし長いけど、よく見なければ分からないレベルだし)

警官2「む? 人間と魔法族の区別は見た目だけじゃ出来ないはずだが?」

エマ「そーだそーだ! だいたい、魔法族だったらひとりで出歩くわけないでしょ!」


警官2「それはたしかに……」 警官1「いーや違うね」

エマ「何が違うって言うの?——イタッ!!」

警官1「この耳だよ!! 人間の耳にしては少々長いな!!」
警官2「な……ま、まさか!!」

エマ(——くそったれ!!)

警官2「おい、マジかよ!! マジか!! ついに俺たち、釣ったのか!!」

エマ「はなせっ! ひっぱるなーッ!!」

警官1「俺の目をごまかせると思ったか?」
警官1「——お前、『エルフ』だなあッ!! ヒャハーッ!!」

エマ「ち、ちがう!! ちがうってば!! はなせって!!」
エマ(やだ、やだ、やだ! こんな奴らに……絶対やだ!!)

警官2「ハァー、品は無いが、この美しさ……なるほど、エルフだったかぁ」
警官1「さっそく一発抜かせてもらうか……へへ、魔法族は初めてだ」

エマ「だからっ! 人間だってば!!」
エマ(ど、どうしよ……どうしよ……)


警官2「俺だって初めてだよ!」

エマ(いくらなんでもこんな大雪の中でやるはずない……)
エマ(——建物の中に連れ込まれる前に逃げるッ!!)

警官1「イテッ!! この野郎ッ!!」ドゴッ

エマ「がはっ!」ドサッ

警官2「おい! 顔に傷つけんな! 萎えるだろうが!」

警官1「俺の手に噛みつきやがったんだよ!」

エマ「……っ」グッ

警官2「あ、なんか逃げようとしてるみたいだぜ」

警官1「ああ? 頭踏みつぶすぞ、コラァ!」グリグリ

エマ「——ああッ!!」

エマ(わ、割れちゃう……! こわい! こわい! こわいよ!)
エマ(ちくしょう! 女は、男に踏みつぶされるしかないっての!?)

警官2「おう、いい姿勢だ。ケツを突き出しやがって、下品な豚エルフめ」


警官2「じゃあ、俺から先に行かせてもらおうか! 我慢できねえ……」

警官1「なにい?……チッ、まあどうせ一晩中まわす女だ。かまわんさ」

エマ(こんなサルどもに、このあたしが……ッ!)
エマ(お母さんは、こんな屈辱を味わってたのか……こんな、屈辱を!!)

エマ「殺してやる……ッ!!」

警官1「なんだ? くぐもって聞こえねえぞ」

エマ「——殺してやるって言ったのよ!」
エマ「男なんか! この世から! 一人残らず消し去ってやる!」

警官2「いいね。だが、明日の朝になっても同じセリフが言えるかな」
警官2「それに、こんなに下品な身体で言われても、説得力に欠けるなあ」ペロペロ

エマ「ひぁっ……やめ……!」

警官2「へへ……もう抑えらんねえ……注ぎ込んでやる」


エマ「こ、殺してやる! 殺してやる! 殺してやる!」
エマ(いや……たすけて……マリー……ティア……ニーナ……!!)

警官1「大声出すな」
警官1「人を集めても、お前の相手する人数が増えるだけだぞ」

エマ「……う」

警官1「ま、恨むなら、そんな身体に生んだ親でも恨むんだな」

エマ(あたしが、勝手に飛び出してきたんだから……誰も、こない……)

エマ「うっ……ぐすっ……ううっ……」
エマ(ごめんなさい……たすけて……おねがい……!!)

警官2「おいおい泣いちまったぜ。かわいそうになあ」
警官2「水分を補充してやらなくちゃな。溢れた分を垂れ流すくらいに、たっぷりと!」

エマ「い、いやぁぁぁ!!」

マリー「——お前たち、そこまでです」

今日はここまで。最初に「濡れ場なし」とは書きましたが、このレベルの描写は今後もあります

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