不二咲「出来たよ苗木君。葉隠君の頭上に人工衛星を落とすアプリが」 (218)

不二咲「出来たよ苗木君。葉隠君の頭上に人工衛星を落とすアプリが」
不二咲「出来たよ苗木君。葉隠君の頭上に人工衛星を落とすアプリが」 - SSまとめ速報
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再開

狛枝「あちゃー。これは参ったな。セレスさんの合計が21ならボクはブラックジャックを決めるしか勝つ方法はないのか」

苗木「あ、あれ? 何か嫌な予感が……」

狛枝「流石超高校級のギャンブラーだね。いきなり強い手を出す勝負強さはかなりのもの……でもね、ボクは超高校級の幸運なんだよ」

狛枝「ボクのホウルカードはAだよ」

セレス「!」

狛枝「アハハハハハハハハハハハハハハハハハ! KとAでブラックジャックになってこの勝負ボクの勝ちだ!」

苗木「そんなセレスさんが負けた……」

セレス「く……」

狛枝「それじゃ約束通り苗木君の命綱に切れ目を入れるよ」ザク

苗木「ひっ」

舞園「苗木君!!」

苗木「あわわわわ……ど、どうしよう」

セレス「落ち着いてください。次にわたくしが勝てばいいだけのこと。それに暴れると勝負が着く前に縄が千切れますわよ」

苗木「わ、わかった。セレスさんを信じるよ」

セレス(まさか、彼の超高校級の幸運の能力がこれほどまでとは……今度はわたくしがディーラー……カードを配るのはわたくしの役割ですからイカサマを仕込むのは容易ですわ)

セレス(わたくしの手はハートのエースとダイヤのクイーンでブラックジャックにしました……相手がブラックジャックでさえなければ勝利は確実ですわ)

セレス「わたくしのアップカードはハートのエースですわ」

狛枝「ボクはスタンドするよ……スペードの8とダイヤのクイーンだよ」

セレス「!」

セレス(あ、ありえませんわ……わたくしが予め付けておいた目印通りにカードを配ったのなら、相手のカードにダイヤのクイーンがあるはずが……)

セレス(そ、それでは、わたくしのホールドカードは一体……)

セレス「わたくしのホールドカードは……ハートの6」

狛枝「17と18でボクの勝ちだね」

セレス(い、一体どうして……ハッ。ハートの6にわたくしが付けた箇所と同じところに爪痕が)

狛枝「どうやらボクのトラップは効いたみたいだね」

セレス「!!」

狛枝「ボクはねえ、セレスさんが爪でカードの側面に傷をつけてマーキングすることを予想してたんだよ」

セレス「そ、そんな……」

狛枝「まさか、自分がカードに触れない状態で傷を付けるやつがいるとは流石のセレスさんも思わなかったみたいだね」

狛枝「ボクは自分が目印に使うために、カードに印をつけたんじゃない! セレスさんのイカサマを妨害するために印を付けたんだよ」

狛枝「同じ位置に印がついたカードならセレスさんも自分が付けた傷と勘違いしてくれると思ってね。実際、ここまでうまくいくとは思わなかったよ」

セレス「あ、ありえませんわ! な、何でわたくしが付けた箇所と全く同じ箇所に傷を付けることが。わたくしがカードをマーキングしている時、あなたの視線は全くわたくしの手元に向いてなかったはず」

狛枝「やだなぁ。ボクを過大評価しすぎだよ。セレスさんレベルのギャンブラーのイカサマの瞬間をボクみたなゴミクズが見極められることができるわけないじゃないか(笑)」

セレス「ぐ……それなら、どうして……」

狛枝「忘れたのかい? ボクは超高校級の幸運だよ? たまたまセレスさんと傷を付けた箇所が被っていただけなんだよ。セレスさんがマーキングを付ける作戦をするのも、どの位置に目印を付けたのかとかそんなことは一切確証がなかったんだよ」

セレス「な……運任せ!! そ、そんなことがあってたまりますか!!」

狛枝「信じられなくてもこれが事実だよ」

セレス(ここまで規格外の運を持っている相手なんて初めてですわ……)

狛枝「もしかしてセレスさんってさあ、まだ負けてもいいやって思っているんじゃない?」

セレス「そんなことはありませんわ」

狛枝「ボクのギャンブルスタイルを見極めるためにわざと負けてから勝ちを狙う……そう考えないとセレスさんが2連敗するなんてありえないよ」

セレス(確かに……負けても余裕があるため、少し甘い戦略で戦っていたのは事実ですわ)

狛枝「ボク……そういうの好きじゃないな」

セレス「えっ」

狛枝「ボクみたいな最低で劣悪で幸運以外何の取り柄もない相手に手間取るなんてセレスさんらしくないよ! そんなの全然希望じゃない!」

狛枝「どうやったらセレスさんの希望がもっと輝けるかな……? そうだ……!」

狛枝「絶望を乗り越えるんだ! 仲間の死という絶望を乗り越えた先にセレスさんが本当の希望を手にすることが出来るんだ!」

セレス「仲間の死? ま、まさか!」

狛枝「さようなら、苗木クン」ザシュ

苗木「え……うわあああああああああ」ガク

舞園「きゃあああああああああああ!!! な、苗木君!!」

セレス「な、何してんだクソガキがあああ!! 少しずつ切る約束だっただろうがあああああ!!」

狛枝「少しずつってのは結局ボクの裁量次第なんだよね。だって、少しずつって言葉に明確な基準なんてないでしょ?」

苗木「あ……が……」

狛枝「さあ、苗木クンは間もなく死ぬ! その時にキミはどんな絶望を迎え、どうやって乗り越えていくか! ボクに見せてくれないか!」

苗木(ボクはこのまま死ぬのか……嫌だ! 死にたくない! 絶対に諦めたりなんかしない!)バタバタ

狛枝「あーあ。暴れちゃって。無駄なのに」

ブチ

狛枝「は?」


苗木の首吊り用の縄がぶつっと切れた。そのまま苗木は地面へ向かって落下する。


セレス(なんという幸運。縄が切れて生き残るなんて……)

狛枝(縄が切れた!? そんなバカな! これじゃあ苗木クンが生き残って……)


地面に落下したと同時に、腐って痛んでいた床が破損し、そのまま1Fへと更なる落下を続ける


セレス「な!」

狛枝「アハハハハハ。何だ……助かったとみせかけて、1Fへ落下か。これは死んだかもね。苗木クンは身動きが取れない状態だからまともに受け身なんか取れない。命は助かったとしても、障害が残る可能性もある。彼はもう再起不能だ!」

舞園「そ、そんな苗木君……いやあああああああああ!!!」

セレス「落ち着きなさい! 苗木君はきっと大丈夫ですわ。彼の幸運を信じましょう」

狛枝「お、希望と怒りに満ちたいい目だね……やっと本気を出してくれるのかな?」

・???

苗木「げほげほ……あー死ぬかと思った……」

アルターエゴ『苗木君大丈夫?』

苗木「な、なんとか……どうやら緩衝材の上に落ちたから助かったっぽい」

アルターエゴ『良かったぁ』

苗木「首吊りの縄が切れて助かったと思ったのに、床下が抜けて死んだと思って、更に下は緩衝材でやっぱり助かる……これじゃ幸運と不運のピタゴラスイッチだよ」

アルターエゴ『マップ情報を照らし合わせて現在地を確認するね……2F休憩室の真下は1Fの梱包室だね』

苗木「それにしてもどうしよう……首吊りから解放されたのはいいけど、体は拘束されたままだよ。このままじゃまともに身動きが取れない」

アルターエゴ『助けが来るのを待つしかないみたいだねぇ』

苗木「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないのになあ」

十神「随分と騒々しい登場の仕方だな」

苗木「十神クン!?」

十神「フン」

苗木「あ、あのー。縄を解いてくれると嬉しいんだけど」

十神「チッ世話のやける奴だ」スルスル


霧切「」ガチャ

苗木「あ、痛いよ十神クン……」

十神「我慢しろ。俺だって、こんなことするの初めてなんだ。縛り方に詳しいわけではないからな」

霧切「まあ……///」

霧切「…………邪魔したわ。そ、その……二人のマニアックな関係は見なかったことにするわ」

十神「おい! 貴様何を勘違いしてるんだ! これは俺が縛ったんじゃない!」

苗木「ち、違うよ霧切さん! 十神クンは縄を解こうとしてくれただけなんだよ!」

霧切「冗談は置いといて……凄い物音がしたから来たけど、何があったのかしら?」

苗木「あの天井見てよ。あそこからボクが落下しちゃったんだ」

霧切「え? 怪我はないの?」

苗木「平気だよ……強いて言うなら首に絞められた跡が残っちゃったくらいかな?」

十神「その程度の痣ならしばらくすれば消える」

霧切「そう。それなら良かったわ……」

苗木「そうだ! こうしちゃいられない! 早く上の休憩室に戻らないと!」タッタ

ドテ

苗木「わ!」


苗木は段ボールに躓いた。


??? 「イデ」

霧切「!!」

苗木「い、痛っ! な、何だ? 何でこんなところに段ボールがあるの?」

十神「おい! 貴様は誰だ!」

???「…………これだけ沢山ある段ボールの中からピンポイントで僕を見つけるなんて……凄い運の持ち主がいたものですね……幸運か不運かは別として」

苗木「ひっ……な、何この人……!」

カムクラ「カムクライズル……超高校級の希望とでも言っておきましょう」

霧切「あ、貴方が学園が探しているカムクライズルなの?」

霧切(最初にこの部屋に来た時も、さっきまでも、人の気配が何一つしなかったのに……)

カムクラ「気配くらい消せますよ。諜報員の能力くらいありますからね」

霧切「えっ何で私の心の中を……」

カムクラ「エスパーの読心術くらい持ってますよ……というのは冗談です」

苗木(そのネタ流行ってるのかな?)

霧切「苗木君! 十神君! ここは引きましょう」

十神「何故だ! こいつも不二咲を攫った連中の仲間かもしれないんだぞ!」

カムクラ「いいえ。僕は不二咲なんて人は知りません……ただ」

カムクラ「試してみたい才能があるので、貴方達には死んで頂きます」ジャキーン

苗木「ハサミ!?」

カムクラ「マイハサミではなく、その辺で拾ったやつですがいいでしょう……」シュタ

苗木「速ッ!」

カムクラ「まずはキミから……」

苗木(まずい。葉隠クンからパクった煙玉を投げて身を隠そう)シュ

カムクラ(煙玉!? 視界を塞いで僕から逃げるつもりですか)

・戦刃 ジェノ 廃工場入口

ジェノ「チッ……見張りが大勢いちゃ入れねえな」

戦刃「どうしよう……」

ジェノ「なあ、こんな時にする話でもないんだけどさ……アタシったらまこちんの好みの女子のタイプ聞き出しちゃったのよねん」

戦刃「!!!」

ジェノ「確か……強い女の子にとっても萌えるとか言ってた気がするんですけどー! 特に無双シリーズみたいに雑兵共をなぎ倒すくらい豪快な女の子みたら一発で惚れるとか濡れ濡れとか何とか」

戦刃「腐川さん! ありがとう!」シュタ

「何者だ貴様は……アッー!」「ば、化物だ! ギャー!!」

ジェノ「残念バカとハサミは使いようってね。さっきの話はウ・ソ。でも仮に本当のことだったとしても、まこちんが見てないところで無双しても意味ねーことに気づかないとかゲラゲラゲラ」

ジェノ「アタシはこの隙に工場に侵入しちゃいまーす! 待っててねー白夜様ー!」

・苗木 十神 霧切 1F 梱包室

カムクラ「煙で僕を撒けると思ったら大間違いですよ……視界が塞がれても、超高校級の軽音部の耳くらい持ってますから……少しでも物音が聞こえれば相手の位置は把握できます」

ザッ

カムクラ「そこだ」シュバ

カムクラ「手応えありました……さようなら」

カムクラ「時期に煙も晴れます。そうしたら磔にして、チミドロフィーバーの文字でも残しましょうか」

苗木「そこか!」ブン

カムクラ「なに!」サッ

十神「やったか!?」

苗木「惜しい! 避けられたよ……後少しだったのに」

カムクラ(一体何が起きて……確かに手ごたえはあったはずなのに)


煙が晴れて辺りの状況が確認できるようになった。


カムクラ「…………なるほど。緩衝材を盾にして僕のハサミの攻撃を防いだんですか」

カムクラ「惜しかったですね。その手が使えるのは一度きり、次は引っ掛かりませんよ」

十神「苗木! お前の模擬刀を貸せ! 凡人で素人のお前よりある程度剣術の心得がある俺が使った方がマシだ!」

苗木「十神クンって剣術使えたんだ……」

十神「当たり前だ! 俺は十神家の御曹司にして、あらゆる能力が秀でている超高校級の完璧なのだからな!」ドヤァ

カムクラ「クク……」

十神「何がおかしい」

カムクラ「失礼……僕はあらゆる才能を持っている超高校級の希望。君の完璧と僕の希望……どちらが優れているか勝負しませんか?」

十神「何が希望だ! バカバカしい」

霧切「十神君気を付けて。彼が言ってることは本当よ。希望ヶ峰学園が研究した才能のデータが全部蓄積されているのがカムクライズル。歴代の希望ヶ峰学園の天才達全員を相手にするのと同じようなものよ」

十神「そうでなくては面白くない!」

カムクラ「少しは楽しませて下さいよ……ツマラナイと思った時点で貴方を殺しますから」

十神「ほざくな! 苗木! 霧切! ここは俺に任せてお前達は先に進め!」

苗木「でも……」

十神「お前達がいても足手まといになるだけだ!」

霧切「いきましょう苗木君」

苗木「十神クンを置いていけないよ……」

霧切「恐らく、私達三人掛かりでも彼には勝てない……」ヒソヒソ

苗木「そ、そんな! じゃあ何で……」ヒソヒソ

霧切「三人共全滅するよりは、十神君が敵を引きつけている間に私達が不二咲さんを救出した方がいい」

苗木「十神クンを見捨てるの?」

霧切「そうじゃないわ……不二咲さんを救出した後で、十神君がまだ生きていたら彼を回収してここから脱出するのが全員生還唯一の方法だってことよ」

苗木「そうなんだ……霧切さんは冷静に状況を見てたんだね」

霧切「私達の目的は不二咲さんを救出して全員生きて脱出すること。それだけは忘れないで」

霧切(苗木君には全員生還のためだなんて言ったけど、恐らく十神君が持ちこたえている確率は1%でもあればいい方……ゴメンナサイ苗木君……お人好しの貴方を騙すなんて私は嫌な女よね……)

霧切(許して貰おうなんて思ってないわ……私はただ全滅の危険を回避し、よりベターな策を考えることだけしか出来ない)

・セレス 舞園 2F 休憩室

狛枝「さて、次は舞園さんを賭けて勝負しよっか?」ニッコリ

セレス「ええ。わかりましたわ」

舞園「セレスさん……」ウルウル

セレス「怯えずとも大丈夫ですよ。攻略法は既に考え付いてますので」ニコ

狛枝「お? わざわざボクに聞こえるように言うってことは、心理誘導かハッタリかな? 超高校級のギャンブラー特有の駆け引きってやつかな?」

セレス「さあ、どうでしょうか」

セレス(次は相手がディーラーの番……勝機があるとしたらここしかありませんわ。相手の幸運を利用しなければ恐らく勝てません。なんとか相手の隙を付かなければ……)

舞園「!」ピキーン

狛枝「おっと……そういえば、このトランプは側面に傷が入ってるからもう使えないね。新しいトランプと交換するよ」

セレス「ええ……念のため、交換した方のトランプを確認させてもらってもいいですか?」

狛枝「どうぞ。気が済むまで確認してよ」

狛枝「ボクがディーラーだね……アップカードは10だよ」

セレス「スタンドしますわ。わたくしは9と9。合計18ですから」

狛枝「じゃあ、いくよ……」

舞園「あ、あの!!」

狛枝「ん? 何? 勝負の途中だから邪魔しないで欲しいな……」

舞園「そ、そろそろ時間なんです……」

狛枝「何の?」

舞園「あ、あの…………お、お花を摘みに行く……」モジモジ

狛枝「あっ…(察し)」

セレス「あら、それはいけませんね」

狛枝「なるほど……つまり、催してきたってことだね? 小さい方かな? 大きい方かな?」

セレス(デリカリーのカケラもねぇ!!)

舞園「そ、そんなのどうでもいいじゃないですか!」プルプル

狛枝「超高校級のアイドルが人前で失禁するなんて絶望的だよね……でも、舞園さんならそんな絶望も乗り越えてくれるはずだ! なんたってキミは希望の象徴だからね!」

狛枝「さあ! いいよ! 見せてごらん! キミが絶望して、より強い希望になるための試練をさあ! 早く早く!!」ワクワク

セレス(どっひゃー! こいつ救いようのねぇド変態だべ)

舞園(セレスさん……出身地の方言が心の声で漏れてますよ……ってか、だべって葉隠k……)

セレス「それ以上言うんじゃねえええ!!」

狛枝「!!」ビク

セレス「あ、あら? わたくしったら何を……」

セレス(何か脳内に直接とても不愉快なことを言われた気がします)

舞園(エスパーですから)

狛枝「ああ……そうだね。流石にデリカシーがなさすぎた。ゴメンゴメン」

狛枝「でもお花を摘みに行くのはもうちょっと我慢して貰ってもいいかな? まだ勝負の途中なんだよ」

舞園「あ、はい」

舞園(セレスさん……アシストはしましたよ)

狛枝「ホウルカードは6だ。あれ? なんかツイてないな……17未満だからヒットだね」ピッ

セレス(計画はうまくいきました……後は、相手が自滅するのを待つだけ……」

狛枝「ク……フフ……ハハ……アハハハハハハハ!! やっぱりボクはツイてたんだ!!」

セレス「…………な……そ、そんなことって……」

[5]

狛枝「……引いちゃった」

舞園「う、嘘……」ガタガタ

狛枝「合計は21。またボクの勝ちだよ」

セレス(作戦失敗ですわね……相手の幸運を利用して、相手の初手がブラックジャックに近い手だと予想。舞園さんが相手の気を引きつけている間にホウルカードを6に入れ替え、本来のホウルカードを次に配られるカードとすり替える……)

セレス(ホウルカードは幸運のお陰で大きい数字を引いているはず……)

セレス(Aがくればソフトハンドでも17となって、わたくしの勝ち。それ以外の大きい手ならバストしてわたくしの勝ちという筋書きだったのですが……)

セレス(なんで、今回に限って5なんて中途半端な数引いてんだビチグソがああああああ!!!)

狛枝「それじゃ舞園さんの命綱を切らせてもらうよ」

舞園「ひ、ひい」ガクブル

狛枝「そんなに震えていると漏らしちゃうよ?」ザク

狛枝「さあ、次はセレスさんがディーラーの番だよ」

セレス(こいつの幸運はどこかおかしい……苗木君の幸運とは雲泥の差ですわ……そういえば、苗木君と言えば以前幸運についてこんなことをおっしゃってましたわね)


・回想

セレス「苗木君。貴方は全然幸運に見えないのですが、この前だって雨の中派手に転んでましたよね」

苗木「あーアレ見られちゃったのか。恥ずかしいな。でもね、アレも一見ツイてないように見えて実はツイてたんだ。なんと、転んだお陰で100円見つけたんだ」

セレス「…………クリーニング代の方が高く付きそうですわね」

苗木「ボクの服装はセレスさんみたいに高級品じゃないから、クリーニングに出すほど手入れしなくてもいいんだよ」

苗木「とにかく、自分が不利な状況や不運が続いている状況だと幸運が発動しやすいって傾向があるらしいんだ」

セレス「そうなんですか?」

苗木「うん。歴代の超高校級の幸運は皆そうみたいなんだ。不運の代償が大きければ大きいほどその分幸運も大きくなるらしい」

苗木「さっきのボクのケースで考えると、雨で転んだ時高い服を着ていれば、もっと大きい金額のお金を拾えたみたいなことかな?」

セレス「ふーん……幸運も大変なんですね」

セレス(自分が不利な状況……? あ!!)

セレス(今回のルールが、一度でも負けたら人質を解放するって言ったのは、自分を不利な状況に追い込んで、幸運の質を底上げするため)

セレス(自分に有利なルールを提示されて断る人間は基本的にいませんわ。ましてや仲間の命がかかっている状況では例えプライドが許さなくても受け入れるのが普通)

セレス(わたくし相手にハンデという舐めたことをしたのは、そのためだったんですわね……いえ、むしろ逆ですわ。相手にとってはハンデでも何でもない。本気の姿勢ってやつですわ)

セレス(だとすると本当の攻略法はただ一つ……!)

セレス「ゲームを再開する前に一つだけよろしいですか?」

狛枝「何? ボクに出来ることなら何でもするよ!」

セレス「ん? 今何でもするとおっしゃいましたね?」

セレス「わたくしに提案があります……次にわたくしが負けたら舞園さんの命綱を全部切ってください!」

舞園「!!!!」

狛枝「な、何言ってるんだよ! 仲間の命を賭けてるんだよ? どうしてそんなことを言うのさ!」

舞園「そうですよセレスさん! 折角、相手が少しずつでいいって言ってくれてるんですから! 相手の好意を無駄にするのは最低ですよ!!」

セレス「提案はそれだけではありませんわ。わたくしが一度でも勝てば人質を解放するというルールですが……別に一度勝ったくらいでは、解放しなくても構いませんわ」

舞園「酷い! 私を見捨てるつもりなんですね! 鬼! 悪魔! 多恵子!」

セレス「黙れクソビッチ。豚の餌にすんぞ」

狛枝「そ、そういうのやめてよ! 途中でルール変更だなんてさ、こんなのおかしいよ! 正気の沙汰じゃないって!」

セレス「あら? 貴方はさっき何でもするって」

狛枝「ぐ……」

狛枝「ほ、ほら、舞園さんは今催しているからさ? 早く終わってあげないと可哀想じゃん?」

セレス「わたくしが負ければ早く終わりますわよ」

舞園「やっぱり私を殺すつもりなんですね! そんなにメインヒロインの私が邪魔なんですか! メインヒロインの座が欲しいんですか! どうなんですか!」

狛枝「ぎぎ……」

セレス「それに乗り越えた絶望という試練が大きければ大きいほど希望は輝くとおっしゃいましたよね? 貴方はその希望が見たいとも……だったらこの申し出を断るのは不自然ではありませんこと?」

狛枝「ぐぎぎ……」

セレス「わたくしが一度でも負ければ舞園さんは即死! わたくしが三回連続で勝てば舞園さんは解放! このルールに変更を要求します!」

舞園「そんなルール認められるわけないじゃないですか! 外道です! 正に外道です!」

狛枝「何で急にそんな提案するんだよ! 納得できる理由を教えてよ」

セレス「はぁ……余り言いたくなかったのですが、仕方ありませんね。わたくしは苗木君に付き纏うこの女が邪魔で邪魔でしょうがないのですよ」

舞園「えっ」

セレス「実はわたくしは苗木君のことが好きなのに、このアイドルが苗木君を誘惑しているのですよ。だから、早く消えて欲しいのです」

狛枝「はぁ……そういうことなら、要求を呑まざるを得ないようだね……他人の恋路を邪魔するほどボクも野暮ではないよ」

舞園「えー」

セレス「では始めましょうか?」ニコ

セレス「わたくしのアップカードはAですわ」

狛枝「…………ヒット」

セレス「はい」シュッ

狛枝「あばばばばばばば」

[4][8][10]

セレス「合計は22。あらあらバストしてしまいましたね」

舞園「セレスさんが勝った!? ……ああ。さっきの提案がなければ、これで解放されてたのにぃ……」

狛枝「こ、こんなことって……」

セレス「さっきから幸運が続いてましたからね。その代償の不運が今になって来たのではありませんか?」

狛枝「まだまだ……勝負はこれからだよ……」

狛枝「アップカードは8だよ」

セレス「わたくしの手は……あらあら」

[J][A]

狛枝「ブ、ブラックジャック!?」

セレス「ふふっあなたのホールドカードをオープンするまでもありませんわね」

セレス「さて……これでお互い負けられない状況になりましたわね……ここからが本当の正念場です」

セレス「どっちが有利。どっちが不利。そんなことは一切関係ない。五分五分の勝負です!」

狛枝「五分五分ね……悪いけど、この勝負もう決着はついてるんだ」

セレス「はい?」

狛枝「サレンダー(降参)だよ。セレスさんの勝ちだ」

セレス「一応敗者の言い分を聞いておきますか……何故勝負を降りたんですか?」

狛枝「言っただろ? ボクはキミ達のファンだって……キミ達のことは研究済みさ……セレスさんは相手のギャンブルの時の癖を見抜く力があるはずだ。当然、負け癖もね……」

狛枝「ディーラー側とプレイヤー側の両方で負け癖を見られちゃったら、ボクに勝ち目はないよ……そう、ギャンブラーの才能なんてないこのボクにはね」

狛枝「それにボクはキミに三回勝ってしまった。幸運の代償が来たってことは、三回連続負けるくらいのことはあってもおかしくないからね」

セレス「それで勝負を降りたと……まあ、納得できますが……一つだけ引っ掛かることはありますわ」

狛枝「何?」

セレス「あっさり勝負を諦める貴方に希望を語る資格はありませんわ」

狛枝「!」

セレス「貴方と同じ幸運を持つ苗木君とわたくしは何度か勝負したことがあります。彼は例え負け癖を見抜かれても決して諦めませんでしたよ。勝負を投げ出したら負け癖を克服することも出来ませんからね」

セレス「貴方が希望になれない理由は才能がないからではありません。諦めたからです」

狛枝「絶望的に重い言葉だね……ボクは一体どこで道を間違えたんだろう……」

セレス「わたくしの知ったことではありませんわ……ただ……」

セレス「もし、今後苗木君と会う機会があったらちゃんと土下座して謝っとけよビチグソがああああ!!」

狛枝「そうだね……彼には酷いことをしちゃったからね……」

狛枝「超高校級のギャンブラーであるセレスさんと戦えたのは光栄だよ。希望の力でボクを打ち負かしてくれるなんて最高すぎる! こんな凄い相手だったなんて……益々キミのファンになっちゃうよ」

セレス「貴方みたいな変態に好かれたくはありませんが」

狛枝「あ、でもアイドルが催す姿は見たくなかったので、舞園さんのファンはやめます」

舞園「」

セレス「こんな人に好かれてもどうしようもありませんわ。逆に良かったじゃないですか」

舞園「わかってはいるんですけど、あの声で言われると何故か分かりませんが凄い傷つくんですよ!」

狛枝「セレスさんが勝ったんだ。このナイフを上げるよ。後は舞園さんを助けるなり、気が変わって恋仇の舞園さんを刺すなり、ナイフでボクを刺すなり、絶望相手の護身用に持ち歩くなり、好きにしてよ」カラン

セレス「わたくしは血腥いことは嫌いなので、ナイフで人を刺すことはしませんが……当初の目的通り舞園さんを助けさせて頂きますわ」

狛枝「そう……ボクはもう用済みだね。さっさと退散するよ。もしまた勝負することがあったら、今度はイカサマとか幸運の悪用とか人質もナシの純粋な遊びでやりたいね」



舞園「オロシテ...オロシテ...」モルスァ

セレス「はいはい。まずは首吊り用の縄を切って……次に拘束用の縄を切りますわ」ブチ

ドン

舞園「あで」

セレス「あら? 大丈夫ですか?」

舞園「縄切ったら落ちるに決まってるじゃないですか! 何で支えてくれないんですか!」

セレス「わたくしにそんな力はありませんわ」

舞園「むー。そんなことより、セレスさんに言いたいことが一つあります!!」

セレス「何でしょう?」

舞園「苗木君のことが好きだって本当ですか? どうなんですか!」

セレス「さあ、どうでしょうかね? ただの交渉を有利に進めるための嘘か、それとも本心か……あなたのご想像にお任せしますわ」

舞園「私は苗木君のかの助手ですから! 認めませんよそんなの!」

セレス「かの助手なんて言葉はありませんわ。勝手に願望を混ぜないで下さい」

舞園「疲れました。セレスさんがイカサマしようとしてるから、隙を作るために催す振りをしたりしないといけなかったし」

セレス「流石はアイドル。演技力も超高校級ですわ。あの時は負けはしましたけど、あの一敗で相手の異常な幸運とその対策に気づくことができましたから、一応助かったといえば助かりましたね」

舞園「それより、早く苗木君を探しましょう。彼の安否が心配です」

セレス「そうでしたわね。では参りましょう」

・???

九頭龍「狛枝のやつ負けてやんの! ざまあみやがれってんだ!」

澪田「何で凪斗ちゃんに負けて欲しかったんすか?」

九頭龍「あん? そりゃお前、アイツがさ……」

狛枝『ちょっとアイドル誘拐したから事後処理は九頭龍組に頼んだよ。拒否すれば、騒ぎは大きくなってキミ達も巻き込んじゃうかも。それじゃ』

九頭龍「ふざけんなよ!! こっちには全然協力しねーくせによ!! どんだけ自分勝手なんだよ」ガンガン

澪田「冬彦ちゃんも苦労してるっすね」

・桑田 2F 燃料保管庫

桑田「いざ敵陣で一人になってみると案外こええな……誰にも頼ることが出来ねー」

桑田「んで、ここが燃料保管庫か。油くせーなオイ」

終里「オラアアア!!」ドン

桑田「!?」

終里「オーガはどこだああああああああ!!!」

桑田「な、なんだよこいつ!! さっき大神が倒したばっかなのに!」

終里「あ? テメーは確か侵入者の中にいたな。っつーことは敵だな! よっしゃバトるぞ! オーガの前にまずはお前を倒す!」

桑田「あーあ。やるしかねーのか……大神とまともにやりあったこいつをオレが倒せるのか?」

終里「いくぞオラ!!」スッ

桑田「確かにテメーははえーけどな! オレは動体視力だったら誰にも負けない自信があるぜ! オレが投げる剛速球より断然遅いぜ!」

桑田(よし、このまま近づいてくればバットで打ち返せる……)

終里「あ? オレをオメーのタマと一緒にすんじゃねえ!」フンフンフン

桑田「なんだこの不規則ながら滑らかな動きは! どう動くのか全く読めねえ!」

終里「フン!」ブン

桑田「うおっ」キン

桑田(なんつー威力の蹴りだ。バットを盾にして運よく防げたけど、バットを通じて衝撃が伝わってくる……お陰で手が痺れちまったぜ。まずい……距離を詰められるとオレの投球も活きねえ! なんとかして距離を保たねえと)

終里「ぐ……」

桑田(怯んだ? そうか! こいつ大神との戦いで受けた傷を完全に治しきっていないんだ! オレのバットは金属製だから、生身で蹴りを入れればアイツもダメージはある! 今の内に距離を保つぜ)スタコラサッサ

終里「待て! 逃げるんじゃねえ!」

桑田(あいつの動きはかなり厄介だ! どうにかして封じねえと……な!)カキン


桑田は金属バットで燃料タンクを破壊した。破壊された箇所から液体燃料が噴出する。


終里「な、何だ! うお! 床が……滑るじゃねえか!」

桑田「へへ! 軽い身のこなしの動きさえ、封じればお前なんか全然怖くねーぞ!」

終里「舐めんじゃねえ!」サーサーサー

桑田「嘘だろオイ! 滑る床をスケートの要領で進んできやがった! なんつー運動神経だ!」

終里「かえってこっちの方がスピードは出るぜ!」

桑田「…………なんてな! そう来ると思ったぜ! 滑るって移動するってことは急な方向転換や複雑な動きが出来ねえってことだ! それなら軌道を読むことは容易いぜ!」

終里(バットだと……! 避けねえとやられる……)

タッ

桑田「行くぜ!!」ブウォン

終里「何処狙ってやがる! オレは上だ!」

桑田「オレのスウィングの瞬間を見極めてジャンプするとか、なんつー反射神経だ……だが、上空に逃げたのが運の尽きだぜ!」

終里「なに?」

桑田「4番バッターの打球を食らいやがれ!」カキン

終里「オ、オイ! 上空だから避けられねえ……ブフォ」メリメリ

終里「」ドサ

桑田「はぁはぁ……やったか……今度こそ復活してこねーよな?」

桑田「ま、こいつも相当つえーみたいだし、絶望側にもこれ以上強いやつなんていないだろうな! ハハハ! これはもう楽勝だぜ!」

弐大「終里ー! また一人で突っ走りおって……ん? ……終里がやられているじゃと!?」

桑田「あ? なんだこのオッサン?」

弐大「そうか……貴様がやったのか……なら、マネージャーのワシが仇を取らなければな」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

桑田「アポ……?」

・苗木 霧切 1F 梱包室前

苗木「二人きりになっちゃったね。これからどうする? 霧切さんはどこか行きたいところはある?」

霧切「えぇ……そうね。でも苗木君……今はそんなことを考えてる場合じゃないわ。そういうことは無事に帰還してから……」

苗木「そういえば、石丸クン達はどうしたの?」

霧切「は?」

苗木「いや、だって霧切さんは石丸クン達と一緒に行動してたんでしょ? 一度合流してお互いの情報を整理した方が動きやすくなると思うんだ」

霧切「石丸クン達なら2Fに行く前に1Fに調査し忘れたところがないか確認してるわ」ツン

苗木「ねえ、霧切さん? 何か怒ってない?」

霧切「別に」

苗木「変な霧切さん」

ジェノ「お? 痴話喧嘩っすか?」

苗木「ジェノサイダー翔!? どうしてここに?」

ジェノ「おいおい恋する乙女にんな野暮なこと聞くなっつーの! 白夜様を追っかけてきたに決まってんだろ?」

霧切「十神君ならこの梱包室の中にいるわ」

ジェノ「マジすか?」

苗木「ちょ……霧切さん!?」

霧切「ジェノサイダー翔ならカムクライズル相手でも大丈夫でしょ? 多分」

苗木「多分って……」

ジェノ「白夜様ー! 待ってねー」ガチャ

苗木「行っちゃった……」

「きゃー白夜様ー!」「おい! 何故来た!」「そんなツレないこと言わないで~ダーリン」「今はそれどころではない! 邪魔をするな!」「ツマラナイ……カップルなんて爆死すればいい」「お、おい! 変な誤解するな!」

苗木「…………行こっか。これで十神クンの生存率も上がったと思うし」

霧切「ええ。私達は私達に出来ることをしましょう」

田中「行け……我が配下よ」

ヘビ「シャー!」

苗木「ヘビ!? 霧切さん危ない!!!」

霧切「え」

ヘビ「ガブ」

霧切「ぐ……」

苗木「この!」ブン


苗木はヘビを窓の外に放り投げた。


苗木「大丈夫? 霧切さん!!」

霧切「足を噛まれたわ……」

苗木「傷を見せて!」ズル

霧切「や……靴下脱がさないで……」

苗木「そんなこと言ってる場合じゃないよ!」

霧切「苗木君はヘビを掴んで大丈夫だったの……?」

苗木「平気だよ。中学の時、飼育委員だったからヘビの持ち方知ってたし」

田中「なんと! 貴様も契約者だったか!」

苗木「え? キミ誰?」

田中「我が名は田な…」

大和田「オイ! どうした何の騒ぎだ!」

石丸「な、な……苗木くん! 君ってやつは霧切くんになんて破廉恥なことをしてるんだ!」

苗木「……あ、こ、これは違うんだ! ヘビに噛まれた傷を見てたんだ!」

田中「ククク。そのヘビは毒性を持っている! この解毒剤を飲ませないとその女の命は助からんぞ!」

大和田「ヘビに噛まれた傷を見てただぁ? 何だそれ? 虫刺されフェチの一種か何かか?」

苗木「それは違うよ! もう、大変なんだからそういう冗談はやめてよ」

田中「…………俺様が欲しいのは沈黙と無関心だけだ……沈黙と無関心だけだ……」

大神「オイ! そこの貴様! 今なんと言った!」

田中「フハハハハ!! アストラル結界に身を包んでいる俺をよく発見できたな!! メスゴリラにしては上等な知能を持っているではないか!」

苗木「なんか嬉しそうだね」

田中「そんなことはない! 別に無視されて傷ついたとかでは断じてない! 制圧せし氷の覇王である俺様がその程度のことでダメージを受けるはずがなかろう!」

大和田「解毒剤を飲ませねえと死ぬっつったな? オイ、殺されたくなかったらとっとと渡せ。今の内なら半殺しで許してやる」

田中「断る。何故、俺が貴様の言うことを聞かねばならん」

大和田「お?? 言ったな? 言っちゃったな? 上等だコラ! テメーは地獄送り決定だ!」

田中「地獄か? それなら貴様らに見せてやる! 俺様の固有結界を解いた先にある本当の地獄をな! 付いて来い!」

大和田「お? 場所変えようってか? ケッ死に場所くらいは選ばせてやるよ」

苗木「ねえ、付いていくのやめようよ。これ絶対罠だよ。今の内に攻撃を……」

大和田「るせえ! 苗木! 相手の移動中に攻撃するなんざ男の決闘に水を差すことを言うのはやめろ!」

石丸「そうだぞ苗木くん! 正々堂々戦ってこそ意味があるというものだ!」

苗木「男の決闘じゃなければいいんだね? 大神さん」チラ

大神「すまぬ苗木。我も大和田達と同意見だ」

苗木(何故、正論を言ってるボクが責められなければならないのか……この流れ既視感ありすぎだよ。絶対また敵の罠にかかるパターンだよ)

霧切「ゴメンナサイ苗木君……私はあなたの意見に賛成だけど……体が動かないの」

苗木「神経毒も盛られたみたいだね……でも、大丈夫だよ。ボク達が必ずアイツから解毒剤を奪ってくるから」


・田中キングダム 1F 苗木 石丸 大和田 大神

田中「よく来たな異界の住人共……まずは小手調べに地獄の門番との対決をしてもらおう!」

大和田「地獄の門番だぁ?」

田中「さあ行け!」

子犬「ガルルルルル」

大和田「な……な……」

石丸「ん? どうした兄弟?」

子犬「ガブ」

大和田「いてええええええ!!!」

苗木「大和田クン!」

大神「大和田! 反撃するんだ!」

大和田「出来ねえ……」

大神「なぬ?」

大和田「オレにこの子を攻撃しろって言うのかよ!!」

苗木「あ……そういえば大和田クンは犬が好きだったね」

石丸「そんなこと言ってる場合ではないぞ! このままでは噛み殺されてしまうぞ!」

大和田「おーよしよし。いい子でちゅねー」ナデナデ

子犬「ガブガブ」

苗木「ちょ! 大和田クン血が出てる!」

石丸「何がいい子だ! いい子が人を噛むわけないだろ!」

大和田「るせえ! この子は怯えてるだけなんだ! だから人を噛むのは仕方ないんだ!」

田中「フハハハハハ!! 我が配下に手も足も出ないようだな!」

苗木「可愛い子犬で油断させて、一方的に攻撃するなんて汚いぞ!」

田中「何とでもいうがいい! たかが愛玩動物と侮ったのが貴様等の敗因だ!」

苗木「敗因だって? それは違うよ! ボク達はまだ負けていない!」

田中「ほう! 貴様に地獄の門番が倒せるとでも?」

大和田「おう苗木ィ! もしこの子に手を出したらテメーをぶっ殺すからな?」

苗木「大丈夫……傷一つ付けずに倒せるから」スッ

子犬「……くぅーん」スリスリ

石丸「懐いた!?」

大神「どういうことだ!」

苗木「ボクは中学の時、飼育委員をやっていた」

大和田「マジかよ! 飼育委員すげえな! オレもやればよかった」

田中「なるほど。貴様はあの伝説の元超中学級の飼育委員だったのか! 確か俗世に迷い込んだ聖衣を纏いし白鳥を配下に治めたという偉業を成し遂げたはず」

苗木「鶴を捕まえたのは事実だけど、そんな称号貰ってないから」

田中「だが、俺様の前では無力に等しい! なぜなら俺様は超高校級の飼育委員だからだ!」

石丸「なんだと……普通の飼育委員だった苗木くんすら上回る超高校級だと……」

大和田「か、勝てるわけねえ……こんな化物に」

大神「なんと恐ろしい相手だ」

苗木「確かに、この人はヘビも自在に操っていた。飼育している動物次第ではかなりの強敵だよ」

田中「今度は更に強力なしもべを召喚してやろう!」

ドーベルマン「グルルルルル」

苗木(アカン)

大和田「おお! 今度はドーベルマンか! かっけええ!!」

苗木「近づくのはやめなよ大和田クン。ドーベルマンは筋肉質だし俊敏さも群を抜いているんだ。犬のサラブレットって呼ばれてるくらいだから、さっきの子犬とは次元が違うよ」

大和田「でもよ。さっきの苗木がやった技みたいに手懐ければ済むんじゃねーのか?」

苗木「ドーベルマンは基本的に飼い主に対しては従順だけど、それ以外の人間に対しては強い警戒心を持っていて凶暴なんだ。縄張りに入ろうものならすぐにでも襲い掛かってくるよ」

大和田「マジかよこえー」

苗木「それだけ番犬として育てるには右に出るものはいない程の優秀さなんだよ」

石丸「なあ苗木くん……気づいたことがあるんだが」

苗木「何?」

石丸「もしかして縄張りってこの部屋全体ではないのか?」

苗木「…………」

ドーベルマン「グウォン!!」

苗木「わ、わああああ! みんな逃げるんだああああ!!」

田中「フフフ……ハハハ!! ハーッハッハ!! 逃げ惑え! 決して逃げられはせんがな!」

苗木「あ、あれ? 開かない!」ガチャガチャ

大神「オートロックがかかっているのか!?」

苗木「やっぱり罠だったじゃないか!」

ドーベルマン「ウォオオオン!!」

苗木「ひ、ひい!」

大神「三人は逃げろ! 我が足止めする!」

苗木「大神さん無茶だよ!」

大神「確かに……我は対人格闘と対熊格闘には精通している……が、犬相手にどう戦えばいいのかはわからん。されど、やるしかない!」

大神「なんだと……!」

苗木「ドーベルマンの体高はおおよそ60cm後半から70cm前半……! 身長192cmの大神さんの股下なら楽にくぐることが可能なんだ! 四足歩行のドーベルマンを相手にするにしては大神さんはデカすぎる」

ドーベルマン「グルウ」

苗木「ひっ」

大神「危ない苗木!!」ガバ

ドーベルマン「ガブ」

大神「ぐ……なんて強靭な顎。我の腕の筋肉ですら貫通するだと!」

田中「俺様が育てた魔犬だ! そのくらい出来て当然だ」

苗木「あ……ごめん大神さん……ボクを庇って……」

大神「気にするな苗木! この犬を止められなかった我にも責任はある」

石丸「大神くん! 噛まれていない方の腕で攻撃するんだ!」

大神「わかった!」

ドーベルマンは大神の股下を抜けていった。


大神「なんだと……!」

苗木「ドーベルマンの体高はおおよそ60cm後半から70cm前半……! 身長192cmの大神さんの股下なら楽にくぐることが可能なんだ! 四足歩行のドーベルマンを相手にするにしては大神さんはデカすぎる」

ドーベルマン「グルウ」

苗木「ひっ」

大神「危ない苗木!!」ガバ

ドーベルマン「ガブ」

大神「ぐ……なんて強靭な顎。我の腕の筋肉ですら貫通するだと!」

田中「俺様が育てた魔犬だ! そのくらい出来て当然だ」

苗木「あ……ごめん大神さん……ボクを庇って……」

大神「気にするな苗木! この犬を止められなかった我にも責任はある」

石丸「大神くん! 噛まれていない方の腕で攻撃するんだ!」

大神「わかった!」

田中「させぬ! 行け!」

ドーベルマンB「ガブ」

苗木「二匹目!?」

大神「ぐおおおお!!」

田中「いつから一匹だけしかいないと錯覚していた?」

大和田「おい! 大神大丈夫か!」

石丸「よせ兄弟! 君はどうせあの犬も攻撃できないだろ! 加勢するだけ無駄だ!」

大和田「けどよ。このまま黙って見てるしかねーのかよ!」

大神「離せ!」ブンブン

ドーベルマン「ガブガブガブガブガブ」

石丸「大神くん! 僕も加勢するぞ! 離れろ! 離れろ! 離れろビーム!」

ドーベルマン「ガブガブガブガブガブ」

石丸「く……やはり風紀委員の力では動物を更生させることは出来ないのか! やはり飼育委員でないと……!」

田中「無駄だ! 優れた警察犬は一度犯人を噛んだら絶対に離さないという! 俺のドーベルマンは警察犬として訓練された犬よりも数段も能力が上だ!」

大和田「お、おい! 苗木! 無敵の飼育委員パワーでなんとかなんねーのかよ!」

苗木「無理だよ! 超高校級の飼育委員に訓練されたドーベルマンはどうしようもないよ」

田中「オイ! 苗木とか言ったな!」

苗木「何? 田なんとかさん」

田中「田なんとかとは何だ! 無礼者!」

苗木「だって、名乗る途中で妨害されちゃったから本名知らないんだよ」

田中「まあいい。貴様もマスターなら自ら契約した魔獣を召喚してみせろ!」

苗木「そ、そんな……魔獣なんて連れてきてないよ」

大神「ぐわああ」ブシャア

ドーベルマン「グルルル」

石丸「大神くんの血管を食い破ったのか!?」

田中「フッ勝負あったな。その出血量は放っておけば死に至る」

苗木(何か手はないのか……そうか! アレがあった!)

苗木「食らえ! 葉隠クンの置き土産だ!」ヒョイ

パチバチパチ

田中「うお! 貴様! 俺に向かって爆竹を投げるとはいい度胸だな!」

ドーベルマン「!!」

大和田「ドーベルマンが大神の腕から離れた!?」

苗木「犬の聴力は人間より数段も優れている。いきなり爆竹がなればビックリするのは当然だよ……ましてや飼い主のいる方向から鳴ったんじゃ心配になるからね」

田中「犬の耳は17個の筋肉で自在に動かすことができる。そのため、音源の方向を人間より正確に認識することが可能……そこを突かれたか!」

大和田「何言ってるのかサッパリわかんねー」

田中「お、おのれ……! ええい! 怯むな! 敵に突撃だ!」

苗木(このままだと全滅してしまう。なんとかしないと……この凶暴な犬をなんとかする方法は……いや、逆になんとか出来そうな人が助けに来てくれれば……でも、そんな人いたっけ?)

???『昔ホームレスやってたの……野犬の相手大変だったな……』

苗木(これだ! ……でも、この人は今この場にいないはず……やはり状況は絶望しかないのか)

大神「ここから先は通さん!」

ドーベルマン「グルルルル」

田中「まだ戦うというのか! 折角、噛みつき地獄から解放されたのに……貴様死ぬぞ!」

大神「我は死なん! 我にはこの状況を打開する頭脳はないが、苗木と石丸は違う! 我と違って頭がいい」

大和田「」

大神「我の役割は反撃のアイディアを思いつくまで後ろの連中を守ってやることだ!」

苗木(そうだ……諦めちゃダメだ! もしかしたら、偶然近くを通りかかっているかも知れない!)

苗木「助けて!! 戦刃さん!!」

ドンドンドンドン

田中「な、何だ! 何者かが外側から俺の結界を破ろうといているのか! だが無駄だ! この結界は俺様の生体認証でしか開閉することは出来ん!」

石丸「一体誰が叩いているのだ! 敵か? 味方か?」

苗木「誰が叩いているのか心当たりがある! アルターエゴ! オートロックシステムをハッキング出来る?」

アルターエゴ『任せて…………よし、開錠が終わったよ』カチャ

戦刃「とりゃ!!」ガシャーン

田中「バカな! 俺様の自動制御結界(オートロックドア)を破っただと!」

ドーベルマン「キャインキャイン」

大神「ドーベルマンが戦刃の気配を察知して逃げ出した……」

田中「なんという魔獣……こいつまさかフェンリルの化身か!」

苗木「やっぱり戦刃さんだ! 良かった来てくれたんだ!」

戦刃「苗木君……やっと会えたぁ……苗木君の声が聞こえてもしかしたらって思ったら、本当にいて良かった」

田中「なるほど……そのメス犬こそが苗木が契約している魔獣というわけか。その紋章は契約の証か」

戦刃「メス犬? 紋章?」

苗木「きっとフェンリルのタトゥーのこと言ってるんだと思うよ」

戦刃「苗木君のメス犬……」キュン

苗木「ちょっと誤解を招くようなこと言わないでよ!」

大和田「苗木ってそういう趣味があったのかよ」

石丸「ん? どういうことだ? 戦刃くんは人間ではないか? 犬ではないぞ」

戦刃「それで、苗木君達に何があったの? 説明して」

苗木「うん。霧切さんがあの人が飼っている毒蛇に咬まれたんだ……その解毒剤を手にするためにあの人と戦っている」

戦刃「そうなんだ」

苗木「大和田クンは子犬に咬まれ、大神さんはドーベルマンに咬まれて……ボクと石丸クンは今のところ無傷だよ」

戦刃「本当? 苗木君はどこも怪我しなかったんだ。つまり、私はあの包帯巻いている人を倒せばいいんだね?」

苗木「うん。でも、殺したらダメだよ。解毒剤を貰わないといけないし」

戦刃「了解……後は私に任せて。皆は危険だから下がってて」

石丸「ここは戦刃くんに任せて僕達は先を急ごう」

大和田「ああ。オレ達じゃ足手まといにしかならねえからな」

大神「すまぬ戦刃。後は頼む」

戦刃「苗木君も行っていいよ……」

苗木「ボクも戦刃さんと一緒に残るよ」

戦刃(え……も、もしかして……私と一緒にいたいから残りたいの? どうしよう……まさか苗木君は私のことを……)

苗木(戦刃さんは霧切さんの居場所を知らない。田なんとかさんから解毒剤を奪って霧切さんに渡せるのはボクしかいない)

田中「互いの使役する魔獣同士の対決か! 面白いぞ! さあ! メス犬よ! 自身の牙を剥きだしにしろ!」

戦刃「?」

苗木「きっと、武器を出すのを待っててくれてるんだよ」

戦刃「そうなんだ……これで十分」

田中「裁縫セット? 貴様! ふざけてるのか! その程度のか細い牙で俺を倒せると思っているのか!」

戦刃「人体の急所を的確に覚えている超高校級の保健委員なら針一本で敵を殺せると言われてる……ここにその超高校級の保健委員が作った人体の急所を記した紙が……」

ヤギ「メェ~」モシャモシャ

苗木「急所が書いてある紙食べられちゃったね」

戦刃「盾子ちゃんにプレゼントされたものなのに……一回使ってみたかったのに」シュン

田中「ヤギに紙を与えてはいけない。消化に悪いからな! よい子は真似してはいけない! 後で田中キングダムのスタッフが責任持って紙を吐かすから安心してくれ!」

苗木「誰もキミのヤギの心配なんてしてないよ」

田中「秘孔の刻印書がなければ、ただの裁縫セットよ! 行け! 獄卒警備隊(ドーベルマン)よ! 下賎な者達を自身の牙の贄にするのだ!」

ドーベルマン「バウ!」

苗木「戦刃さん気を付けて! ドーベルマンは完全に戦刃さんに対する恐怖を克服してる! さっきみたいに威圧感だけで退けるのはもう通用しないよ!」

戦刃「威圧したつもりなかったのに……私ってそんな怖かったんだ」ガーン

苗木(そりゃ、野犬を退けた経験がある人のオーラ見れば犬なら怖がると思う)

ドーベルマン「グォオオン」

苗木「戦刃さん危ない!」

戦刃「私が裁縫セットを武器に選んだ理由は針で急所を刺すためじゃない……」

苗木(そうだね……犬に対して人体の急所図は無意味だもんね)

戦刃「私が本当に使いたかったのはこっち……」

苗木「アレは……糸?」

戦刃「はあっ!」


戦刃はドーベルマンの口元を糸で硬く結んだ。


田中「なんだと!!」

ドーベルマン「」

戦刃「これで噛みつき攻撃は封じた……」

苗木「そうか! 動物の顎は閉じる時の力は物凄く強いけど、開く時の力は弱い! 顎を開かないように押さえつければ、口を開くことは出来なくなるんだ!」

田中「地獄に堕ちた罪人は蜘蛛の糸に救いを見出す……否! 救いの糸は破滅(カタストロフィ)の道へと通ずる!」

田中「噛みつきを封じたくらいでいい気になるなよ、メス犬! 攻撃方法はまだある!」

苗木「噛みつきがダメなら……突進か飛びかかって爪で襲う攻撃方法を取るつもりだ!」

田中「挟み撃ちだ!」

戦刃(二匹のドーベルマンが左右に広がった……二方向から攻める作戦みたい……噛みつきを封じた今なら対応出来る!)

戦刃(左右に広がっても攻撃の瞬間は、私に一斉に襲い掛かるから間隔は狭くなる。攻撃をかわして、その一瞬を付けば一撃で二匹とも仕留めることができる!)

戦刃(今だ……バックステッポで回避)

苗木「戦刃さん! 後ろ!」

戦刃「え?」

ドーベルマンC「バウ」ドン

戦刃(三匹目!?)

田中「いつからドーベルマンが二匹しかいないと錯覚していた?」

戦刃(しまった……後方のドーベルマンに突進されて前へと押し出されて……)

戦刃「っぐは……」

苗木「戦刃さん!」

戦刃「大丈夫……タックルを食らっただけ」

田中「行け! メス犬が怯んだ隙に更に攻撃を仕掛けるんだ!」

戦刃「凄い……こんなに統率が取れた動きが出来るなんて、やっぱり野犬とは違う……」

田中「そうだろうそうだろう! 俺様が育てた魔獣だからな!」

戦刃「でも……私には勝てない」タッ

田中「上空へ飛んだ! こっちも飛翔して奴を墜落させろ! 気随な咎人を二度と這い上がれぬようジュデッカへと叩き落とすのだ!」

戦刃「複数を相手にする時に怖いのは攻撃が飛んでくる方向がバラけること……私が先に上空へ飛べば、飛び道具を持たない犬だと、攻撃の方向は下方からの一点しかない……」

田中「しまった……罠か!」

戦刃「てや!」バシーン


戦刃の蹴りが三匹のドーベルマンに炸裂する。


ドーベルマン「キャイン」

ドーベルマン「キャイン」

苗木「三匹のドーベルマンを同時に倒した……流石戦刃さん……普段は残念だけど、戦闘になると強いな」

田中「く……」タッタ

戦刃「動かないで」ジャキーン


戦刃は田中の首筋にナイフを突き立てる。


戦刃「不用意に前に出てくるなんて……」

田中「俺を殺すつもりか?」

戦刃「もう助けてくれる動物はいないよね? 今の内に降参して解毒剤を渡せば命までは取らない」

田中「メス犬が……制圧せし氷の覇王であるこの俺様が敵に向かって己の心臓を差し出すと思うのか?」

田中「無様に生き恥を晒して生き延びるくらいなら、貴様の心臓に食らいついて朽ち果てるわ!!!」

戦刃「わかった……そんなに死にたいんだ。解毒剤はあなたの死体を調べて手に入れるから別にいいよ」

田中「貴様は既に我が術中に嵌っている! 邪悪なる意思よ……、古の刻に交わした契約に従い……、今こそ汝が力で我を救え……。駆け抜けろッ! “滅星者たる銀狐”サンDよ! 魔鼠裂空慟哭術!」

苗木「まさか! その技は飼育委員の間で密かに噂をされている幻の術! 実在していたのか!」

戦刃「!!」ガク

苗木「戦刃さん!? どうしたの!」

戦刃「っ……こ、来ないで苗木君っ……」

田中「フハハハハハハ!! 流石の貴様も我が力には敵わないな!」

戦刃「ひゃぅ……」モゾモゾ

苗木「ん? 戦刃さんの服の中から何かモゾモゾしたものが……そうか! 魔鼠裂空慟哭術はハムスターがスイッチを押す術! 戦刃さんは何らかのスイッチを押されて力が出せなくなってるんだ!」

田中「フッ……気づいたか。いいだろう! 出て来い! 我が配下! 破壊神暗黒四天王よ!」

ジャンP「デュ?」

チャンP「チュー」

マガG「チャー」

サンD「ピカチュー」

苗木「おい、ReBurstは関係ないだろ! そろそろ許してやれよ!」

戦刃「こ、この鼠達が私の服の中で……」

田中「追撃だ破壊神暗黒四天王!」

戦刃「はぅー」

苗木「気を付けて戦刃さん! ハムスターはせまい穴倉に入りたがる生き物なんだ!」

戦刃「ひゃん……そ、そこは……」

苗木(ん? 狭い穴倉? ……狭い穴……あっ……)

苗木(アカン)

戦刃「えっぐ……苗木君……助けてぇ……」

苗木「卑怯だぞ! 女子にセクハラして勝つなんて屑の鑑だよ!」

田中「セクハラではない! 魔鼠裂空慟哭術だ!」

苗木「なんて最低な人なんだ……」

田中「勝つために手段を択ばないのが俺の流儀だ!」

苗木「…………ボクが戦うしかないのか」

田中「貴様が相手か? やめとけ。所詮中学レベルの飼育委員では、超高校級の飼育委員である俺様には勝てない」

苗木「それでも退くわけにはいかないんだ!」ダッ

田中「愚かな……力量の差がわからんのか!」ベキ

苗木「ぐ……」

田中「どうした! 倒れるにはまだ早いぞ! 邪眼の力を舐めるなよ! インフィニティ・アンリミテッド・フレイム(物理)!」ドコォ

苗木「ぐわあああああああ」

戦刃「苗木君っ……」

田中「どうした? もう終わりか?」

苗木「まだまだ……ここで諦めたりしないぞ!」

田中「悲しいな……仲間を見捨てれば自分だけは助かるというのに」

苗木(流石超高校級の飼育委員……猛獣を相手にすることもあるだけに自身の戦闘能力も高い……ボクでは到底勝ち目がない。どうすればいいんだ)

苗木(そうか! 勝ち目がないなら勝つ必要は別にないんだ!)

田中「ククク……あくまでも逃げぬというのか……ならば仕方あるまい」スチャ

苗木「ナイフ!?」

田中「俺様の使役するヒュドラから死の祝福(毒)を得たナイフだ! これで貴様の命を絶つ! 未来永劫、決して輪廻すら廻らせん!」

苗木「戦刃さん目を瞑ってて」

戦刃「ふぇ!? あ、あの……こんな時にそんな……でも、苗木君が言うなら……んっ……」

田中「フフフ……ハハハ……フハハハハハハ!! 俺様の覇道の贄となるのだ! そして絶望の闇に包まれるがいい!」

苗木「ボクは絶望なんかしない! 例え絶望の闇が襲ってきたって希望の光でかき消してやる!」ポイ

バルス!

田中「うおおおおお目がああああ目がああああああ目がああああああああああ」

苗木「閃光弾だ! 今の内に懐に潜り込んで……解毒剤をゲット!!」ズバ

田中「き、貴様あああああ!!」

苗木「…………」

ひまわりの種

苗木「間違えた。これどう見ても解毒剤じゃない」

田中「ハハハハハ!! どうやら運に見放されたようだな! 解毒剤は反対のポケットだ!」

苗木「それは違うよ! ボクは運に見放されてない! これでボクの……いや、ボクたちの勝利だ!」パラパラ

田中「おい! 貴様! 何をしてる! ばら撒くんじゃあない!」

苗木「おーい! 餌の時間だよー!」

破壊神暗黒四天王「デュ!?」ガタ

田中「なん……だと!」

苗木「所詮動物! 餌の誘惑には勝てない!」

破壊神暗黒四天王「へけ」モシャモシャ

戦刃「あ……いつの間にかハムスターがいなくなってる」

田中「メ、メス犬の封印が解かれてしまった」

戦刃「今までのお返しをするよ……」スッ

田中「何! 消えただと……」

戦刃「後ろ……」ドゴォ

田中「ぐおおお!!」

田中(バカな……百獣の王すらも従えるこの俺様ですら反応できないだと……! 怒りで潜在能力を引き出しているのか)

戦刃「今のは霧切さんの分……そしてこれが大和田君の分!」ペチ

田中「あいた!」

苗木(大和田クンの分軽っ! そりゃ、咬まれたのは子犬だから霧切さんや大神さんに比べてマシだろうけど)

戦刃「これは大神さんの分!」ベシィ

田中「ぐはっ……き、貴様! いつまでもいい気になるなよ! はぁ!」ズバ

戦刃「そんな遅いナイフじゃ当たらない……いくら、毒が塗ってあっても当たらなければ意味がない」スッ

戦刃「そして、これが私の分!」メメタァ

田中「がは……」

戦刃「そして、これが苗木君の分!!」グシャ

田中「」

苗木(何で軽傷で済んだボクが一番強そうな一撃なんだろう)

戦刃「借りはきっちり返したよ」

田中「」ピクピク

苗木「これが解毒剤かな?」

戦刃「多分……」

苗木「早く霧切さんのところに持っていかないと」

戦刃「そうだね……毒が完全に回ったら手遅れになっちゃう」

田中「待て……」ズルズル

戦刃「まだ戦う気なの? 死にたいの?」

田中「何故……止めを刺さない……」

戦刃「それは苗木君に聞いて……私は殺すつもりだったけど、苗木君が嫌がっていたから……」

苗木「こんなことした人間に言うのも変な話かもしれないけど……キミは多分いい人なんだと思うよ」

田中「俺がいい人だと? …………そう見えるのなら、見当違いもいいとこだな。貴様の目にウジャトの眼を移植することをオススメする」

苗木「ドーベルマンが戦刃さんに倒された時、キミは前に出る必要がないのに、出ようとしたよね?」

田中「!」

苗木「ドーベルマンのことが心配だったんじゃない? 動物を単なる道具として兵器としてしか見てない人じゃないってことはわかったよ」

田中「ただの気まぐれだ…………他意はない」

苗木「それだけじゃないよ。このハムスター達を見れば、キミが本当はいい人だってことがわかる……飼い主が瀕死の重体なのをこんなに心配そうに見ているじゃないか」

破壊神暗黒四天王「デュ?」ウルウル

田中「ぐ……」

苗木「ハムスターは警戒心が強くて、人に中々懐かないから飼うのが難しい生き物。それなのに、こんな風に懐かれるのはキミが優しい証拠だよ!」

田中「道具として利用するために偽りの情けをかけてやっただけのことだ。俺様は勝利のためなら、どんな手でも使うからな」

苗木「それは違うよ! それならどうして禍々しき四つ目(エビルス・フォース・アイズ)で戦刃さんの滅びの抜け穴を見つけなかったの? キミほどの実力者なら、その技を破壊神暗黒四天王に仕込めたはずだ!」

田中「ぐ……」

苗木「正直、戦刃さんの滅びの抜け穴を攻められたら、ボク達に勝ち目はなかった。キミは何だかんだ言いつつも越えちゃいけない一線を考えてくれてたんだ!」

田中「流石は元飼育委員……お見通しってわけか。完敗だ」

苗木「聞かせてくれないか? 何でキミみたいな人が絶望なんかに染まったんだ」

戦刃「えっ」

苗木「ん? どうしたの戦刃さん」

苗木「ん? どうしたの戦刃さん」

戦刃「この人絶望なの?」

苗木「そうだけど何か?」

戦刃「あー……」サー

苗木「戦刃さん? 顔色悪いけど大丈夫?」

戦刃(やっちゃった……この人盾子ちゃんの味方だったの? どうしよう。盾子ちゃんに怒られる)ガクブル

田中「俺は現実を知ってしまったのだ……恐ろしい絶望的な現実をな。これを知れば貴様らも絶望の淵へと落とされるであろう……それでも聞きたいか?」

苗木「うん……現実から目を背けてばかりじゃ前に進めない! 希望は前に進むんだ!」

田中「よかろう……驚愕な事実を教えてやろう! とあるギャルに教えられたことだ……俺様は本当は制圧せし氷の覇王でも邪気腕使いでもない! ただの人間だったんだ!!」

苗木「知ってた」

田中「なんだと……!」

苗木「あれ? もしかしてキミが絶望した理由って、ただ単に自分が普通の人間だって気づいたからなの?」

田中「それ以外に理由なんてない!」

苗木(くだらねえええええええええええええええ)

苗木「それじゃあ、ボク達はもう行くから……これ以上邪魔しないでよね」

田中「フッ邪魔したくともこの体では既に戦闘不能だ……なんとか意識を保つので精一杯だ」

戦刃「えっと……その……ごめんなさい」ガタガタガタガタ




田中「まさか俺様が普通の人間に負けるとは……」

ジャンP「普通の人間も捨てたもんじゃないだろ? マスター」

田中「そうだな……魔術が使えなくても俺にはお前達がいたな」

マガG「マスターはマスターだよ。特別な力がなくても、覇王じゃなくても大好きだよ」

田中「あ、ありがとう……俺もお前たちが大好きだ!」

チャンP「フッ照れるなんてマスターらしくないぜ」

田中「照れてない! 普通の人間からゼロからのスタートというのも悪くないな……よーし、ちょっくら世界を救ってくるか!」

サンD「バリバリダー」

田中「ReBurstは関係ないだろ!」

・十神 ジェノ 1F 梱包室

ジェノ「あんだこいつ? ハサミなんか持ってアタシのパクリっすか?」

カムクラ「超高校級の殺人鬼ジェノサイダー翔ですか」

ジェノ「アタシが本当のハサミの使い方教えてやるよ!」ジャキーン

カムクラ「ハサミの使い方くらい知ってますよ。超高校級のわくわくさんの才能も持ってますからね」

十神「なんだと! 貴様のようにわくわくさんがいるか! 子供達が絶望するぞ!」

カムクラ「だから僕は希望ヶ峰学園が作り出した希望の象徴だと言ってるじゃないですか。歪んだ希望ですがね」

十神「黙れ! わくわくさんを愚弄するな!」

カムクラ「その程度の模擬刀なんて……」ジャキジャキ

カムクラ「この画用紙で作ったチャンバラで防げますよ!」カキン

十神「なんだと……この工作の技術は……こいつ本当にわくわくさんの才能を持っているのか」

カムクラ「ゴロリ。今日は死体を作るよ。ついでに疑われないためのアリバイも工作しようか」

カムクラ「わーい。僕殺人大好きなんだー(裏声)」

十神「ふざけやがって!」

ジェノ「紙で出来た剣ならアタシのハサミで一撃よー!」ジョキーン

カムクラ「あーせっかく作ったのにー! ひどいよワクワクさーん(裏声)」

十神「よくやったジェノサイダー! 食らえ!」ブン

カムクラ「遅いです」サッ

十神「かわした!?」

カムクラ「野球選手の動体視力くらい持ってます。蝿が止まりそうな太刀筋では僕には勝てませんよ」

カムクラ「わくわくさーん、今度は何作るの? (裏声)」

カムクラ「今度は手裏剣飛ばして遊ぼっか!」

十神「ええい! 一々鬱陶しい! モノマネ芸人でも目指してるのか貴様は!」

カムクラ「詐欺師の変装能力も持ってます。声マネくらい楽勝ですよ」

ジェノ「すげー! 戦闘に何の関係があるのかわからねえけどスゲー!」

カムクラ「梱包室に大量にある段ボールを再利用して作った手裏剣だよ。材質が段ボールだからって舐めちゃいけないよ? それ」シュ

十神「!!」ピッ

十神(速い……全く手裏剣の軌道が見えなかった。野球選手の才能もあると言っていたな……桑田はアホだが、野球の才能は本物だ。桑田並の投擲能力を持っているのだとしたら厄介だな)

カムクラ「かすっただけで血が出るくらい鋭く研いでるからねー。ゴロリ! 今日はこれで、忍者ごっこしよっか?」

カムクラ「わーい! 侵入者共を根絶やしにするんだね? 面白そー(裏声)」

カムクラ「でもね、侵入者が弱いとすぐに殺しちゃってつまらなくなっちゃうんだよ? …………アア、ツマラナイ」

十神「急に素に戻るな!」

カムクラ「忍者の才能は……あったっけ? まあいいでしょう……他の才能で十分カバーできます」

カムクラ「オートフォーカス!」カシャ

カムクラ(写真家の被写体を的確に捉える技術を応用して、確実に命中させられるポイントを確定……そこだ!)シュシュ

十神「甘い!」キン

カムクラ「今の攻撃を弾きますか……」

ジェノ「白夜様カッケー!!」

十神「貴様の才能は確かに優れている。それは認めてやろう」フッ

十神「そんな優れた才能を持つ貴様が投擲を外すとは考えられん。俺が一歩も動かなければ、俺に確実に命中させる軌道を取るだろう」

十神「つまり、攻撃の軌道はある程度予測できるということ。タイミングさえ計れば、撃ち落とすのはそう難しいことではない!」

ジェノ「おお! 流石白夜様! 相手の才能を逆手に取るなんてお利口さんねー」

カムクラ「簡単な理屈ですが、実行するとは流石ですね。形状が球でないとはいえ、超高校級の野球選手の投擲を撃ち落とすなんて、完璧を自負するだけのことはあります」

カムクラ「これは防げますか?」シュシュ

十神(バカの一つ覚えにまた手裏剣か? ……さっきより、速度は落ちているようだ! 俺にも見える!)

カムクラ「油断しない方がいいですよ。その手裏剣は曲がりますから。ついでに追加です」シュシュ

十神(カーブだと!? それに追加の手裏剣が……く……)

グサ グサ

十神「がはっ……」

ジェノ「あーん白夜様がやられたー」

カムクラ「軌道くらいコントロールできますよ。野球選手の才能がありますからね」

十神「こいつ強い……強すぎる」

カムクラ「どうやらここまでのようですね……あなたはやはりツマラナイ……完璧と言っても超高校級一歩手前くらいまでしか能力を引き出せてない器用貧乏のようですね。死んでください」

十神「や、やめろ! く、くるなああ!!」

ジェノ「うっひょー! 白夜様が受けに回るなんてえええイズルンが鬼畜責めとか超萌えるんですけどー!」

カムクラ「はい? ってかイズルンって誰ですか?」

ジェノ「テメーのことに決まってんだろ? 一々確認すんじゃねえよ! テンション上がってきたあああ!! 殺っちゃうよ? 萌えてきたから殺っちゃうよ?」

カムクラ「やめた方がいいです。あなたは殺人鬼として素晴らしい才能を持ってますが、元の肉体が貧弱すぎます。同じ才能を持つ僕には肉体スペックの差で勝てません」

ジェノ「あ? んなの知るかボケ! 萌える男子がいたら殺すのがアタシの流儀だよ!」ジャラ

カムクラ「萌える? 僕には到底理解できない感情です……死んでください」シュシュ

ジェノ「んな手裏剣効くかっつーの! 飛び道具ならアタシだって使えるのよ~ん」シュピッ

カムクラ「ハサミを投げて僕の手裏剣を相殺しましたか……しかし、あなたのハサミには数に限りがあります。僕の手裏剣は段ボールからいくらでも作れます。勝負するまでもありませんよ」

ジェノ「うだうだ言ってないで大人しくアタシに殺されなさい」タッ

カムクラ(速いっ……! バカな! この肉体スペックでここまでの瞬発力は出ないはず……)

ジェノ「まずは右手から磔しまーす!」

カムクラ「うお…」スッ

ジェノ「チッ避けられたか……反応速度パネェなおい」

カムクラ「何故だ! 何故だ! 単なる殺人鬼の才能だけではそんなに肉体を強化できないはずです!」

ジェノ「知るかっつーの。萌える男子を見れば胸がときめいていつも以上のパワーが出るのよん」

カムクラ(なるほど……殺人鬼の能力の本質はそこにありましたか。おかしいと思いました。ただ単にハサミの扱いに長けているだけなら、わくわくさんで十分ですからね)

カムクラ(僕には三次元に対する萌えという感情が理解出来ない。同人作家の才能はあってもアレは二次元限定ですからね)

カムクラ「まさか僕に使いこなせない才能があったなんて驚きです……少しは楽しめますかね」

ジェノ「あ? 何言ってんだこいつ?」

カムクラ「全ての才能を備えている僕に唯一勝てる可能性があるのはあなただけということですか。萌えの力がどれほどのものか見させてもらいましょう!」

ジェノ「なんかよくわかんないけど~アタシによる殺人ショーをご所望ってやつ? だったらお望み通り殺してやんよこら!」ブス

カムクラ「あ……そこは」

パァン


不意にカムクラの服から胡椒が飛び出て、空中へと舞った。


カムクラ「胡椒入りの袋を切ってしまいましたね」

十神「な、何故そんなものを持ち歩いている!」

カムクラ「料理人でもある僕が胡椒くらい持ち歩くのは当然でしょう」

ジェノ「ハ、ハ、ハクション!!」

十神「な!」

腐川「あ、あれ? ここはどこ? あたしは確か教室にいたはずじゃ……」

十神「終わった……」

・大神 石丸 大和田 2F コントロール室前

左右田「へへ。待ってたぜ」

大和田「あ? てめえ誰だ? 絶望の一味か? 敵か? 敵だな?」

石丸「ここを通してくれないか? 僕達は君と戦いたいわけじゃない! 不二咲くんを返してくれればそれで済む話だ!」

左右田「そいつはできねえな……お前らに壊されたオレの可愛い掃除ロボの仇もとらねえといけねえからな!」

大神「なるほど……貴様があの掃除ロボを操っていたのか……貴様が朝日奈を……!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオ

左右田「ぎゃああああああああ。な、なんだこのバケモノはああああ! 殺気だけでブルっちまった」

大和田「あーあ知らねえぞ大神怒らせちまったな」

左右田「うっせ! うっせ! こっちには秘密兵器があんだ!」ポチ

ガシャンガシャンガシャン

石丸「なんだこの音は?」

左右田「地上最強の格闘家の戦闘データを基に作った最強兵器……名付けてメカケンイチロウの登場だ!」

メカケンイチロウ「プシュー」

大神「!!!!」

石丸「ケ、ケンイチロウと言えば、大神くんより強いという彼のことか?」

左右田「へへ……生憎本物のケンイチロウは病気になっちまったから、絶望側に引き入れることは出来なかったけどよー。ケンイチロウの動きを89.3514%再現した究極の戦闘マシーンだ」

大神「貴様……! ケンイチロウまで玩具にするというのか!」

左右田「玩具とは心外だな。さっきの掃除ロボとは比べものにならねーくらい強いオレの最高傑作だっつーのに」

大神「大和田! 石丸! お主らは先へと進め! こいつは我が倒す!」

石丸「無茶だ大神くん! あいつの話が本当だとすると、メカケンイチロウは君より強いってことじゃないか! 一人で戦っては勝ち目がないぞ!」

左右田「おいおい。まるで三人で戦えば勝てるみたいな口ぶりだな? ケケケ、大神三人分ならともかく、中途半端な戦力が加わったところでオレのメカケンイチロウには勝てねえよ」

大和田「あ? オレと兄弟を舐めてんのか?」

左右田「そういうつもりじゃねーよ。掃除ロボの時に採取した戦闘データを見れば、二人共超高校級なだけあってか戦闘能力はかなり高いと判明している。けど、そういう次元の話じゃねーんだこれは」

石丸「所詮僕達は超高校級レベルでしかない……地上最強の座をかけるレベルには到達できないというわけか」

左右田「物わかりがいいじゃねーか! 高校生なのに地上最強一歩手前まで来てる大神がおかしいだけだから、そんなに落ち込むなよ」

大神「案ずるな。我は負けん! ケンイチロウと戦ったのは希望ヶ峰に入学する前……我も決して鍛錬を怠らなかった! ケンイチロウに負けた時の我とは違う!」

大和田「チッ。しゃあねーな。大神がそこまで言うならここは任せたぜ」

石丸「大神くん! 無理だけはしないでくれ。プロテインを飲んである程度回復したとはいえ、君は前の戦いで負傷しているはずだからな」

大神「ああ。我はこんな機械になんぞ負けん!」

メカケンイチロウ「プシュー」

大神「破ァ!!」ドゴォ

メカケンイチロウ「フン!」ガキン

大神「く……我の拳が通用しないだと」

左右田「おっと言い忘れてたぜ。再現しているのはケンイチロウの動きだけだ。ボディは鋼鉄だし、パワーも人間とは比べものにならねーぞ! なんつったって機械だからな! 人間と同じ感覚で戦えば負けるぞ」

メカケンイチロウ「ピーガー」ブフォン

大神「ぐおへぇ!!」メキ

大神(なんという強い一撃……! 並の人間が食らえば即死レベルだ……それにケンイチロウの放つ拳と全く同じ形だ。避けるのも至難の業……!)

大神「オラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」シュババ

メカケンイチロウ「ムダムダムダムダムダムダムダムダムダァ!!」シュババ

大神(く……拳同士で相殺しても、生身の人間の我の方がダメージが大きい……! 機械の体とはここまで厄介なものなのか!? このままだと押し負け……)

メカケンチロウ「ムダァ!」バシィ

大神「ぐおおおお」メリメリ

大神「ぜーはー……なんという強さ……! まるで本物のケンイチロウを相手にしているかのようだ」

左右田「お前に勝ち目はねーぞ。監視カメラで見てたけどよ、田中のドーベルマンに咬まれたんだろ? そんな負傷した腕でオレの作ったメカに勝てるわけがねーだろ」

大神「それでも……貴様だけは倒さねばならん!」

左右田「チッ……仲間なんか庇った結果がその負傷だろ! その負傷さえなければラッシュに競り勝てたかもしんねーのに! それでもまだ仲間のために戦うっつーのかよ!」

大神「そうだ! それに仲間のためだけでない! 我が紛い物のケンイチロウに負けたら、病が治った時に再戦の誓いをしたケンイチロウに申し訳が立たぬ!」

左右田「なんかそういうの絶望的にムカつくんだよ! 行け! メカケンイチロウ! あいつを殺せ!」

メカケンイチロウ「ピピー」

大神「とりゃっ!」ゲシィ

メカケンイチロウ「」ガクン

左右田「無駄だ! その程度の攻撃でメカケンイチロウはダメージを受けない! 機械は痛みを感じないんだぜ! 一撃で大破する攻撃じゃねーと意味がねえ! 人間だと怯む攻撃も機械は怯まねー!」

大神「我は諦めぬ! うおおおおおお!!」

・舞園 セレス 2F 休憩室前

セレス「さて、これからどうしましょう。わたくしは出来ればこんなところ早く脱出したいのですが」

舞園「ダメですよ! 脱出するにしても苗木君と合流してからです!」

セレス「桑田君は放置ですか」

舞園「とりあえず、脱出するにしても、苗木君と合流するにしても1Fに降りないと始まりません! 階段はこっちみたいですよ!」

セレス「何でわかるんですか? この建物の構造を知ってるのですか?」

舞園「エスパーですから」

セレス「何でもそのセリフで済ませようとすんじゃねええ!! ビチグソがああああ!!」

舞園「そんなことはおいといて、行きますよ! 早く来ないとおいてきますよ!」タッタ

セレス「全く……不用意ですこと……ん?」

セレス(ん?あんなところにティアラが落ちてますね。あ、あのティアラは……! ざっと見た感じ時価数億は下りません!! 今なら誰も見てませね)キョロキョロ

セレス「うふふ。こんなところに置き忘れるのが悪いんですよ」ガバ

ガタ

セレス「!!」


舞園「あれ? セレスさん? セレスさーん! もう、勝手にいなくなるなんて自分勝手な人ですね」

・苗木 戦刃 霧切 1F 梱包室前

苗木「霧切さん! 解毒剤を手に入れてきたよ」

霧切「あ、ありがとう……」

苗木「ほら、この白くて粘々してドロっとしてる解毒剤を飲んで」グイ

霧切「んあっ……ゴクゴク……おえ……げほげほ」

苗木「あ、大丈夫霧切さん!?」

霧切「ま、まずい……げほ……何この苦くて生臭い解毒剤は……」

苗木「どう? 効いてる?」

霧切「ええ……最悪な味だけど体調は回復したみたいよ」

苗木「良かった」

戦刃「あ、あの苗木君……私、これ以上苗木君と一緒に行動できない」

苗木「え? どうして……」

戦刃「そ、その……苗木君はまたあの人と同じ絶望と戦うんだよね?」

苗木「そうだけど……それがどうかしたの?」

戦刃「ご、ごめんなさい! とにかくダメなんだもん!! 絶望とは戦えないんだもん!!」ガチャ

苗木「あ! 戦刃さん! その部屋は……」


「また乱入者ですか……」「え? あ、あれ? ま、間違えました……」「待て戦刃! 行かないでくれ! 今の俺にはお前の力が必要なんだあああ」


霧切「何で戦刃さんがいるのか。どうして彼女が絶望と戦うのを嫌がったのかは知らないけど、戦刃さんも参戦すればカムクライズルを倒せる確率は上がるわ。結果オーライね」

苗木「十神クンの必死な叫び声は聞かなかったことにしてあげよう」

霧切「それよりこれからどうするかが問題よ」

苗木「なんかバタバタしちゃったけど、舞園さんとセレスさんの安否が気になるよ。2Fに行こう!」

霧切「そうね……1Fに不二咲さんはいないみたいだし」

山田「おーい! 苗木誠殿! 霧切響子殿!」

苗木「山田クン!!」

山田「いやー。いきなりリタイアするハメになって申し訳ない。でももう大丈夫ですぞ! 完全に目が覚めました!」

苗木「良かった。山田クンも一緒に行こうよ!」

山田「もちろんですぞ! 僕達は不二咲千尋殿を助けるためにここに来たんですからな! そう、これが仲間! 友情パワー! コーホー!」

霧切「怪我はもういいの?」

山田「もちろんです!」

霧切「一応攻撃された箇所を見せてくれるかしら?」

山田「ハイ」

苗木「うわあ……凄い痣だね」

山田「それだけあの女子が強かったということですな。拙者の脂肪がなければ死亡してた。なんつて」

霧切「…………」

苗木「どうしたの霧切さん?」

霧切「いえ、今のギャグが寒いと思っただけよ」

山田「ひどー!」

苗木「アハハ容赦ないね……それじゃ2Fに行こうか」

・石丸 大和田 2F 階段前

辺古山「ほう……ここまで来れるやつがいたとはな……」

大和田「なんつー殺気だ……この女ヤベーぞ」

辺古山「悪いがここから先には行かせるわけにはいかない」

大和田「あ? んでだよ」

石丸「この階段を超えた先に不二咲くんがいるんだな?」

辺古山「その通り。大人しく人工衛星を墜落するプログラムを渡すなら不二咲は返してやろう……貴様らにも危害は加えるつもりはない」

大和田「んなもんオレは知らねえよ! いいから不二咲を返しやがれ!」

辺古山「……本当に知らないみたいだな。こいつは嘘がつけるような男には思えん。だとすると、知ってるのは別の奴か?」

石丸「頼む! 不二咲くんを返してくれないか!」

辺古山「返す気がないのはそちらも十分知ってることだろ?」

石丸「ならば力づくで返してもらうしかなさそうだな……行くぞ! 兄弟!」

大和田「おう! オレと兄弟の連携プレイなら楽勝だぜ!」

辺古山「ふぅ……やはりそう来るだろうと思った……なら、私も行くぞ?」スチャ

石丸(この構え……相当の手練れのようだな……)

石丸「えいや!」ブン

辺古山「見切った!」カキン

石丸「く……」

辺古山「今の太刀筋悪くないぞ。日頃の鍛錬がなければ出せない一撃だ!」

大和田「コノヤロウガアアアアアアアア!!」

辺古山(来るか?)スチャ

大和田「兄弟! 後は任せた!」スタコラサッサ

辺古山「は?」

石丸「おう! 任されたぞ!」

辺古山「く……なんてやつだ! 行かせん!」

石丸「君の相手はこの僕だ!」ブン

辺古山「なにっ!」スッ

石丸「どうした? かかってこい!」

辺古山(く……こいつは片手間で戦える程生易しい相手ではない。あのリーゼントを追ってる余裕はないか……すみませんぼっちゃん。侵入を許してしまいました)

辺古山「貴様……あのリーゼントが貴様を見捨てて先に行くとどうしてわかった?」

石丸「兄弟は僕を見捨てたのではない! 僕に託してくれたんだ!」

辺古山「そんなことはどうでもいい! 何故わかったと聞いてる! 貴様らは相談している素振りを見せなかったではないか!」

石丸「兄弟は女子を攻撃するなんてことは出来ない! だから、必然的に君と僕が一騎打ちをするしかない! それだけのことだ!」

辺古山「余程、お互いを見知った関係でないと出来ない連携プレイか……なるほど。逆に一騎打ちの状況になって助かったのはこちらということか……二人掛かりの連携でこられたら私は敗北したかもしれないな」

石丸「兄弟が不二咲くんを連れてくるまでの間に君を倒す!」カチャ

辺古山「私を倒すだと? ククク……私も舐められたものだな……いいだろう! 貴様を切り捨ててやる! リーゼントを追うのはその後だ!」

・桑田 2F 燃料保管庫

弐大「ふむ……なるほど……貴様見た感じ野球選手の才能があるな」

桑田「は?」

弐大「ちょっくらトレーニングしてやろうかのう」

桑田「うっざ。そういうの間に合ってるんで」

弐大「墳ッ!」シュ

ズドン

桑田「あ、あ……」

弐大「なんじゃ? よく聞こえんかったのう」

桑田(か、壁をたった一発のパンチで粉々に粉砕しやがった……純粋なパワーなら大神クラスじゃねえか……)ガクガク

弐大「決まりじゃな! ワシと一緒に命がけの地獄のトレーニングをしよう」

桑田「え? い、命がけって……」

弐大「選手であるお主とマネージャーであるワシ……どちらかが死ぬまで続ける絶望トレーニングじゃあああ!!」

桑田「お、おい……嘘だろ?」

弐大「ワシは嘘はつかん!」

桑田「か、勘弁してくれよ!」

弐大「ワッハッハ! 心配はいらんぞ! 今までこのトレーニングをした選手達はトレーニング後は見違える程に強くなったからの!」

弐大「物言わぬ屍となるがな……」

桑田「う、うわあああああああああああああ!!!嫌だ嫌だ嫌だあああああ!!た、助けてくれええええ!!」スタッタ

弐大「逃がさん!」ベキィ

桑田「あ……」

弐大「ほれ、ドアノブじゃ。これでもうこの部屋からは出られん」ポイ

ドアノブだった物「解せぬ」カラコロ

桑田「あ、ありえねええええ!! どうやったらこんな形に変形すんだよおおお!」

弐大「応ッ!次はお主がこうなる番じゃ」

桑田「」ゾク

桑田「た゛す゛け゛て゛く゛れ゛え゛え゛え゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛ ゛こ゛こ゛か゛ら゛た゛し゛て゛え゛え゛え゛え゛え゛ ゛い゛や゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ ゛う゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛ ゛ふ゛さ゛け゛ん゛な゛よ゛お゛お゛お゛お゛」

弐大「落ち着け。ワシを殺せばお主は助かる……殺せれば……なぁ?」

桑田「や゛め゛ろ゛お゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛お゛ぉ゛お゛お゛ ゛ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ ゛こ゛っ゛ち゛に゛く゛ん゛し゛ゃ゛ね゛え゛え゛ぇ゛え゛え゛え゛え゛ぇ゛え゛え゛え゛ ゛ア゛ホ゛ア゛ホ゛ア゛ホ゛ア゛ホ゛ア゛ホ゛ア゛ホ゛」

弐大「安心せい……お主は一流のアスリートになれる逸材だ。お主程の才能を持った奴にはあったことがない。きちんとトレーニングすれば、歴史に名を残すことも可能じゃ」

弐大「そんな才能を持った選手が無残にも散り逝く姿! なんと絶望的で美しいことか! この一瞬のために! 文字通り選手生命を散らすその一瞬! それだけのためにトレーニングし続ける! 正に諸行無常の絶望と呼ぶに相応しい! お主もそう思うじゃろう?」

桑田「思わねーっつーの! っつーかオレ練習とかトレーニングとか嫌いなんだよ! だからさ? 頼むよ! 見逃してくれよ!」

弐大「無ッ!それほどの才がありながら、トレーニングが嫌いじゃと? たわけが! ワシがその根性を叩きなしてくれる! そこになおれい!」

桑田「アポ……?」

弐大「アタタタタタタタタタタタタタタタ!!!!」デュクシデュクシ

桑田「アポアポアポアポアポアポアポアポアポアポォ……」

弐大「墳ッ! どうじゃ! ワシのアレは!」

桑田「がはっ……げほげほ……な、何しやがる……」

弐大「貴様のツボを刺激した。超高校級の指圧師でもあるワシの能力を使って、貴様の潜在能力を引き出した」

桑田「あ? 潜在能力だ?」

弐大「試しにワシに向かって投球してみい?」

桑田「なんかよくわかんねーけど……オリャ」シュルルウ

弐大「墳ッ!」ガシィ

桑田「ア、アレ……体が軽い! いつもよりはえー球が投げられたぞ!」

弐大「返すぞ」ブフォン

桑田(ゲ! なんつー球投げやがる! 選手よりこいつが試合に出た方が勝てるんじゃねか!? とにかく避けねーと)

弐大「喝ッ! 避けるな! 受け止めてみろ!」

桑田「お、おう!」バシィ

桑田「あれあれあれ? 何でこんな剛速球を受け止められたんだ?」

弐大「言っただろ? 潜在能力を引き出したと……まあ、一時的なものじゃ、時間が経てば元に戻るが」

桑田「確かにそんなこと言ったけどここまでとは……」

弐大「これで貴様はワシと対等に戦えるようになったというわけじゃ! もう泣き言は許さんぞ!」

桑田「やっぱりそうなるのかよおおおおお!!」

弐大「安心せい! アレを刺激しただけでここまで強くなったのは貴様が初めてじゃ……もしかしたら、ワシに勝てるかものぉ」

桑田「いやいや無理だっつーの! 相手との実力差がわからねーほどオレもアホじゃねえ!」

弐大「まだ自分の真の実力に気づいてないのか……仕方あるまい! 実戦で分からせるしかないな」

桑田「うおおお!!!アホアホアホアホアホアホアホアホアホアホ!!」シュババ

弐大「クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソじゃああああ!!」シュババ

桑田「ハァハァ……な、すげえ!ラッシュの撃ちあいに対抗できる! 今なら大神にも勝てそうな気がする……気がするだけ」

弐大「ホラ、もっとワシに攻撃せんかい! アレの効能が切れる前にワシを倒さなければお主の敗北は決定するぞ」

桑田「そうだな……パワーアップしている今しかテメーを倒す機会はねーもんな! 行くぜ!」

弐大「応ッ!」

弐大(勝てるかもという僅かな希望にすがり、そして負けて絶望するんじゃ! それこそが最も美しい絶望となろう!)

・苗木 霧切 山田 舞園 2F 休憩室前

舞園「あ! 苗木君! 無事だったんですね!」

苗木「舞園さん? ここにいるってことは勝ったんだね?」

舞園「はい! ……でも、セレスさんがどこかに行ってしまいました」

霧切「どういうこと?」

舞園「わかりません。少し目を離した隙にテレポートしたみたいなんです。彼女はエスパーなんでしょうか?」

山田「ふむふむ。セレス殿は攫われた可能性が高いですな」

霧切「…………」

苗木「攫われたって? まさか絶望の連中に?」

山田「そうとしか考えられませんぞ」

苗木「ちょっと待って……アルターエゴ! マップを表示してくれる?」

アルターエゴ『任せて』

苗木「ここが現在位置の休憩室前だね……階段から一番近い場所にあるけど、階段との間には十字路があるよ」

霧切「この十字路から他の部屋に進むみたいね」

舞園「あれ? おかしいです! 階段から上ってこの休憩室を過ぎると行き止まりじゃないですか!」

苗木「ん? なんでおかしいの?」

舞園「私は階段の方向に進んでました。セレスさんが消えたのはその間です……ということは、行き止まりしかない場所でセレスさんはどこに消えたんでしょうか?」

霧切「休憩室の中に戻ったということは?」

舞園「探したけど、中に誰もいませんよ」

山田「やっぱりテレポートしか考えられませんな……いや、もしかしたら休憩室の中に別の場所に繋がる入口が?」

苗木「あ! そうかわかったぞ! 穴だ! ボクが落ちた穴なら梱包室に通じてる! まさかセレスさんはそこに落ちたんじゃ……大変だ! すぐに助けにいかないと!」

霧切「待って、あの中にはカムクライズルがいる。私達が入ったところで、戦刃さん達の足手まといにしかならないわ」

山田「とりあえず、その穴を覗いてみたら? あ、穴を覗くって別にいやらしい意味じゃなですぞ!」

舞園「あ、危ないですよ! あの辺りの床は腐ってるんですよ! 私が苗木君の安否をすぐに確認できなかったのも、穴の周りの床が腐っていて近づけなかったからですし」

山田「ちょこっと覗くだけなら大丈夫大丈夫! ヘーキヘーキ!」

霧切「ねえ、山田君? 私達を穴に落としたい事情でもあるのかしら? それとも休憩室に何か罠でも張ってる?」

山田「ちょ、やめろし! 霧切響子殿! そういう冗談はやめてください! まるで僕が……」

霧切「敵みたい? いえ、本当はあなた敵なんでしょ?」

苗木「!!」

山田「な、な、何を言ってるんですか霧切響子殿! 僕はクラスメイトじゃないですか! クラスメイトを疑うなんてそんなハイスピード推理アクションみたいな展開いりませんぞ!」

苗木「何か山田クンが敵だと思う根拠でもあるの?」

霧切「山田君……どうして、あなたはセレスさんのことをセレス殿と呼んだのかしら?」

山田「ほえ?」

霧切「あなたは他人のフルネームに殿を付けて呼ぶ癖があったはずよ」

山田「いやいや、セレスティア・ルーデンベルク殿では長いですし、セレス殿本人がセレスと呼べとウルサイじゃないですか!」

苗木「山田クン……」

舞園「あなた一体何者なんですか?」

山田「ほえ? え? 何この空気?」

霧切「苗木君……わかったようなら言ってあげて、この間抜けな変装の名人の決定的なミスを!」

苗木「山田クン……セレスさんの本名はセレスティア・ルーデンベルクじゃないんだ」

山田「な、なんですとー!!」

苗木「セレスさんの本名は安広 多恵子! クラスの皆が知ってることだ! キミが知らないわけないんだ!」

山田「あべし」

苗木「そりゃ、本名が割れる前はキミもセレス殿って呼んでたから違和感はなかったけど……よく考えたら、キミはセレスさんの本名を知ってからは、安広多恵子殿と呼んでたよね!」

山田「ぐぎぎ」

苗木「山田クン……いや、正体不明の誰かさん! いい加減本性を現したらどうなんだ!」

山田?「あーあ……体型的に一番違和感なく変装が出来たのに、こんなつまらないミスで正体がバレるなんて絶望的だね」ベリ

十神?「やっぱりこの姿が一番落ち着くかな? 長いことこの姿だったからね」

霧切「うぷ……」プルプル

苗木「と、十神クン……?」プルプル

舞園「ダ、ダメですよ……ぷ……わ、笑うなんて失礼ですよ」プルプル

苗木「こ、これ……笑うなっていう方が……」プルプル

十神?「どうした? そんなにこの肉が羨ましいのか?」プルプル

霧切「――――!!」ガタガタ

苗木(ダメだよ霧切さん! こらえてこらえて!)

霧切(だって、一人だけプルプルの効果音の意味が違うなんて反則すぎるでしょ!)

舞園(なんでよりによって十神君をあんな体型に……笑うなって言う方が無茶ですよ!)

詐欺師「俺は超高校級の詐欺師。本当の名前も本当の姿は自分でもわからない。今は十神白夜として生きている」

苗木「え? 本当の姿を知らないってどういうことなの?」

詐欺師「本当の姿とは何か……それは、物心ついた時でないと知ることが出来ない。俺は物心ついたころから誰かの変装をしていた……いや、しなければ生きてはいけなかった」

詐欺師「それ故に、俺は本当の名前も本当の姿も知らない。貴様等は自分の本当の姿を知っていることに感謝をするんだな。一見、当たり前のようだが、その当たり前がない人間から見れば羨ましいことだ」

苗木「そうなんだ……本当の姿を知らないってちょっとボクには想像つかないよ」

霧切「苗木君。敵に同情してはダメよ」

詐欺師「俺にはセレスの考えていることが理解できない。安広多恵子という本当の名があるのに、何故捨てるんだ……何で自分の名を捨てるような奴がいるんだ!」

苗木(確かに……ボクには全く想像つかないけど、本当の自分がわからないってことは辛いと思う。この人はこの人なりにずっと絶望を抱えて生きてきたんだな)

飯休憩

舞園「待って下さい!」

詐欺師「何だ?」

舞園「本当の名前がないなら自分で付ければいいんですよ」

詐欺師「何だと? どういうことだ! 説明しろ」

舞園「えっとですね。名前がないってことは逆に自分で名前を付けるチャンスだと思うんですよ。世の中の人は大抵、親からつけて貰った名前で一生を過ごし、自分で自分の名前を付けるなんてそんなにある機会ではありません」

詐欺師「確かにな」

舞園「もう少し前向きに考えてみましょう。最初は誰だって自分の名前がありません。親に名前を付けてもらって初めて名前を得ることができます。あなたも見つければいいんですよ。自分に名前を付けてくれる人を」

詐欺師「考えたこともなかったな……舞園……貴様が俺に名前を付けてくれるとでも言うのか?」

舞園「えーと……名は体を表すと言いますし……金髪豚野郎ってのはどうですか?」

苗木(舞園さんそれ名前ちゃう! ただの悪口や!)

詐欺師「なるほどな。いい名だ……考えておく。ありがとう舞園。キミのお陰で少しだけ希望を持つことが出来たかも知れない」

苗木「あれ? なんか印象が柔らかくなってない? 全然十神クンとは違うね」

霧切「十神君と比べて柔らかくなってるのは印象だけじゃないわ。脂肪もそうよ。やわらか十神君よ」

苗木「ちょ…霧切さん……本当にや、やめ……」プルプル

詐欺師「キミ達の邪魔をしてやろうかと思ったけど、やっぱり辞めるよ。安広さんの居場所を知りたいんだろ? 教えてあげるよ」ニコ

苗木「どうやら、敵じゃなくなったみたいだね」

舞園「本質的にいい人なんだと思いますよ」

詐欺師「休憩室の先を越えた先に行き止まりがあるよね? そこの壁を軽く三回叩くんだ。そうすると隠し扉が出てくるよ」

苗木「セレスさんはその隠し扉の先にいるってことだね?」

詐欺師「そうだよ。早く助けてあげた方がいいよ」

霧切「待って。嘘は言ってないわよね?」

詐欺師「僕が付くのは優しい嘘だけだ」

舞園「この人は嘘は言ってませんよ。私の勘ですけど」

苗木「舞園さんの勘なら当たるから大丈夫だと思う」

苗木「ここの壁を三回叩けばいいのかな?」

霧切「苗木君。試しにあなたがやってみて」

苗木「わかった」

舞園「私も苗木君と一緒にやります」

霧切「いえ、舞園さんまでやる必要はないわ。私と離れたところで見てましょう」

舞園「嫌ですよ! 私は苗木君の助手なんですよ? 苗木君の傍にいないと」

苗木「大丈夫だよ舞園さん。壁を叩くだけだからさ」コンコンコン


壁が回転し、何者かが素早く苗木を掴み隙間へと連れ込んだ。


苗木「!!!!」

舞園「苗木君!」

ガラ

壁は逆回転をし、完全にしまってしまった。

舞園「苗木君を返して下さい!」ガンガンガンガンガン

シーン

舞園「嘘……返事がない……」

霧切「やはり罠だったようね」

舞園「は……?」

霧切「相手は超高校級の詐欺師。私達を騙したの。舞園さんのエスパー並の勘ですら欺くとは流石ね」

舞園「罠だって気づいていたんですか?」

霧切「確証はなかったわ。ただ、あまりにも変わり身が激しすぎて怪しまない方がどうかしてるわ」

舞園「苗木君を見捨てたんですか!!」

霧切「そうよ。男子なんだから平気でしょ」

舞園「!!!!」

霧切「ただ、本当にセレスさんがいるところに案内してくれるかも知れない……そう思って、苗木君で実験を……」

    _, ,_  パーン
 ( ‘д‘)舞園
  ⊂彡☆))Д´) 霧切

霧切「っ……」

舞園「見損ないました霧切さん」

霧切「私が止めなかったらあなたまで道連れだったのよ!」

舞園「…………私はもうあなたとは一緒に行動できません。さようなら」

霧切「そう……なら、勝手にするといいわ」

霧切(私の予想では、苗木君が敵が探している人工衛星のプログラムを持っている。うまく交渉すれば殺されることはないはずよ……苗木君頑張って)

・苗木 2F 隠し部屋

苗木「んー!!」

小泉「しっ……静かにして」

ソニア「どうやら新しいお客様が来たようですわね」

苗木(新しい客……?ハッ)

セレス「」

苗木「セレスさん!」ガバ

小泉「きゃっ……もう暴れないでよ」

苗木「ご、ごめんなさい」

ソニア「寝ている淑女を起こすものではありませんよ。彼女は大量に睡眠ガスを吸っています。しばらくは目覚めないでしょう」

セレス:リタイア

苗木「キミ達は一体……」

小泉「知ってるんでしょ? 超高校級の絶望」

苗木「やっぱりそうなんだ……」

小泉「アタシは小泉 真昼。こっちは、ソニア・ネヴァーマインドちゃん。アンタの名前は?」

苗木「ボクの名前は苗木 誠だ」

小泉「そ。頼りなさそうな苗木君ね」

苗木「見た目だけで判断しないでよ!」

澪田「ウッキャー! 誰っすか、その可愛いと評判になりそう系男子は?」

苗木(また変な人が来た……)

小泉「ほら、例の千尋ちゃんの同級生の子だよ。名前は苗木 誠だって」

澪田「よろしくっす誠ちゃん! 唯吹は澪田 唯吹って言うんすよー。澪田 唯吹の澪に 澪田 唯吹の(ry」

苗木「よ、よろしく」

小泉「ところで……アタシ達の仲間になる気はない?」

苗木「は?」

澪田「あぶあぶあぶあぶ 真昼ちゃん! いきなり逆ナンとは大胆っすね」

小泉「ちょ……そ、そんなんじゃないって」

ソニア「なるほど。小泉さんは苗木さん狙いでしたかー。アイツは可愛い年下の男の娘ってやつですね」

小泉「何それ?」

苗木「ボクは絶望の仲間になる気なんてないよ!」

小泉「まあ、そう言わずに話だけでも聞いて? ね? 監視カメラでずっと見てたけど、アンタは今のアタシ達にとって必要な人材なんだって」

小泉「敵の罠に気づきながらも仲間も守るために自分は逃げない。仲間を助けるために自分が変わりに人質になる……これって自分を絶望的状況に追い込む超高校級の絶望の習性に似てるんだよ」

苗木「お前達と一緒にするな!」

小泉「まあまあ。超高校級の絶望はなりたくてなれるわけじゃない。それなりの素質も必要なんだよ。アンタのその仲間想いでお人好しなところは裏を返せば絶望の素質があるんだよ」

アルターエゴ『苗木君! ダメだよこんな人の言うことを聞いちゃ! 苗木君は絶望の素質なんか持ってない! 苗木君が持っているのは希望の素質だけだよ!』

苗木「アルターエゴ?」

小泉「なるほど……アンタが人工衛星のプログラムを持ってるんだ」

苗木「!?」

小泉「実はさ、セレスちゃんが捕まってる写真を撮って有力な情報を教えないとこいつを殺すって脅しをかけたら、千尋ちゃんはあっさりヒントを教えてくれたんだ」

小泉「不二咲千尋のアルターエゴを持ってる人物に人工衛星のプログラムを渡したと」

ソニア「それなら合点がいきますわ。どうして、不二咲さんが苗木さんの携帯にアルターエゴのプログラムを入れたのか……不二咲さんは希望更生プログラムなんて下衆なものを作ってましたからね」

ソニア「希望の素質と絶望の素質を見極める研究も密かに行っていたのでしょう……そして、苗木さんが一歩間違えれば希望にも絶望にも染まる可能性がある逸材であると見抜いた」

ソニア「苗木さんが絶望に染まらないように監視役として、アルターエゴを携帯に入れた……人工衛星のプログラムを開発したのは、苗木さんの自制心を育てるため。そう考えれば全ての辻褄は合いますわ」

澪田「唯吹だったら、そんな面白そうなプログラム渡されたら、すぐに実行しちゃうっすけどね」

アルターエゴ『…………まさか、そこまで調べられてたなんて』

苗木「アルターエゴ? 今の話は……」

アルターエゴ『ごめん……大体合ってるよ。今まで隠しててごめんなさい』

苗木「いいんだよ……ずっとボクを見守っててくれたんだね? ありがとう…… このプログラムは絶対にアイツらに渡さないよ!」

小泉「別にいいよ。渡してくれなくても」

苗木「!?」

小泉「アンタがアタシ達の仲間になってくれれば済む話だからね」

苗木「何なんだよ! なんと言われようとボクはお前達の仲間になんてならない!」

小泉「そ、でもこの写真を見ても同じことが言えるかな?」ピラ

苗木「これは……舞園さんが見知らぬオッサンとホテルに入っていく写真!?」

小泉「清純な優等生ぶっているさやかちゃんも裏では何をしているのかわかったもんじゃないよ」

苗木「何でだよ! 今は舞園さんは関係ないだろ!」

小泉「関係なくないよ。だって、苗木は仲間のために動いてきたわけでしょ? 一緒に希望を目指している仲間のためにさ」

ソニア「その仲間が影で汚いことしてるなんて絶望的ですよね?」

苗木「黙れ! ボクは舞園さんを信じる! これは何かの間違いだ!」

澪田「ま、確かに間違いは起こしちゃってるっすけどね。 って今の上手くないっすか? どうっすか?」

小泉「まだあるよ。今度は響子ちゃん」ピラ

苗木「!!」

苗木(なんだよこれ……霧切さんが鬼気迫る表情でお婆さんを歩道橋から突き落としている?)

小泉「これがあの女の本性だよ。きっと、自分で事件を起こして適当な人を無理矢理犯人にする冤罪作って解決する自作自演で名を上げたんじゃないかな?」

苗木「う、嘘だよね? 何かの間違いだよね?」

小泉「アタシの写真は全部真実。合成なんかじゃない。そこから何をくみ取るかはアンタ次第」

苗木「き、霧切さんがそんな酷いことを……いやダメだ! 仲間を信じないと……! でも、この写真は……」

ソニア「悩んでいる苗木さんのために後押ししてあげますわ。霧切さんは詐欺師さんの言ったことを罠だと思っていた。それを踏まえた上で苗木さんを実験台にした」

苗木「!」

ソニア「もしもの時は完全に見捨てられてたでしょう。現に今だって助けに来てませんよね?」

苗木「あ、あれ? 本当だ……ボクがここに来てから随分経つのに二人共助けに来てくれない」

小泉「そういうもんなんだって、所詮希望同士で繋がってる仲間なんてもんは。自分が助かりたいという希望で簡単に仲間を見捨てたり、蹴落としたりする。それが希望の真実だよ」

アルターエゴ『違うよ! 苗木君! 絶望なんかの口車に乗っちゃだめだよ!』

苗木「ゴメン……少し考えさせてくれないか?」

アルターエゴ『苗木君……』

・十神 腐川 戦刃 1F 梱包室

カムクラ「また新手ですか……一見地味そうな外見からあふれ出る殺気。只者ではありませんね」

戦刃「あ、あなたは超高校級の絶望?」

カムクラ「僕は超高校級の希望ですよ」

戦刃「良かった。それなら戦える!」

腐川「なんなのよなんなのよおおお! ど、どうしてあたしがこんなところに……」

十神「静かにしろ! 戦刃が奴の気を引きつけている間に反撃の策を考えねばならん」

腐川「ぐ……申し訳ありません白夜様」

戦刃「…………」

カムクラ(この構えは近接格闘術。主に軍隊で採用されているものですね。ということは彼女は軍人ですか)

戦刃「はぁ!」シュ

カムクラ「中々いい動きですが、目で追えないことはないです」パシ

戦刃「いい目を持ってる……」

カムクラ「動体視力も超高校級ですからね」

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