【オリジナル】乙女合体ガチユリダー (208)

このSSは…
・あるイラストを見てティンときた結果生まれた何か。
・基本ギャグ…にするつもり
・世界観だけはシビア
・オリジナルSS
・途中で詰まる可能性大
・誤字は標準装備
・百合ハーレム

などの要素が含まれます。
一つでも苦手だと感じる方は回れ右してください

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1380257006

2038年 9月某日

 海城都市、島京。
 東京の機能が壊滅状態に陥り今や寂れた廃墟と化した今、日本の首都として機能するその街はまさしく完全な未来都市として人々に安寧とした平和を約束していた。
 しかし、いくら街がより機能的に、より美しく未来を演出しようとそこに住む人間の本質は変わらないのだろう。
 卸したての機能的な制服、そして茶髪をポニーテールにしている少女…琴主・交はつい先日東京から島京へと引っ越してきたばかりである、この物語の主人公。
 彼女は今、一言でいえば怪しい勧誘を受けていた。

黒い女「ねぇねぇねぇ、君可愛いじゃな~いね?ちょこっとお姉さんと良いお話をしないかしらねぇ?」

 真夏も過ぎてまだ残暑、だというのに黒いコートに黒い服と全身黒尽くめの怪しい女が後ろからやけに馴れ馴れしく話しかけてきたのである。

琴主(………変な人だ!!よし無視だな…)

 今や田舎と化した東京の生まれ、しかし一般常識はさすがにある。

黒い女「いい働き口があるのだけれど、君はお金とかに困ってないかしらねぇ?」スタスタスタスタ

琴主(それ絶対怪しいバイトでしょ!?)カツカツカツカツ

黒い女「今ならサービスボーナスもつくわよん?それにちょっと体を張るだけで今まで見えなかった世界が見えるようになったり…」スタスタスタスタスタ

琴主(しつこいなぁ…!!)タッタッタッタ

 こんな怪しい人の言葉を聞いたらダメだ、交はそう思って黒い女の話を無視してさらに早歩きで通学路を急いだ。
 やがて目指していた学園の門を潜ると、流石に黒い女はついてこなくなった。

黒い女「あらぁ……じゃあ待ってるからねぇ~?」

 しぶしぶ去っていく黒い女を見た交はため息をつくと校舎に振り返って歩いて行った。



 天銅医大付属女学院 高等部1年A組

先生「…というわけで、先日東京から引っ越してきた」

琴主「琴主・交です!!よろしくお願いします!!」

先生「保健委員に連絡は行っていると思うが、琴主さんもまた特殊な治療行為の貴重な被験者として本校に転校してきたそうだ。なのであんまり無茶をさせないように、以上!!」

 先生が紹介を終えると、交は先生が指示した人のいない席に座った。
 すると隣の席に座る少女が席を寄せて話しかけてきた。

正純「保健委員の正純・まつりです。これからよろしくお願いしますね?」

琴主「あ、あぁありがとうね。これから宜しく」

 生まれて初めて見たような金髪の美少女に笑顔で話しかけられた。
 田舎で育った交には同年代の女の子と話す機会があまりなかったため、少しだけどもりながらもまつりと握手を交わした。
 すると異変、琴主の視界に突如としてパッパッと電子生徒手帳のウィンドウが広がり、《フレンドリスト登録しますか?》という表記が現れたのだ。

琴主「あっ、わわっ!?」ガタッ

正純「あぁ、ごめんなさい。琴主さんは初めてだった?」

琴主「えっと、ごめん視界に出るのはあんまり…あれ?」ピピッ

 交はフレンドリスト登録を終えると明けた視界に違和感を感じた。
 いつも『こういう現象』が起きるときは大抵手の端末に何らかの電子製品をとった時なのだが今はただ握手を交わしただけで互いの手にそれは握られていなかったのだ。

正純「ふふ、同じ人に会うのも初めてでしたか?」

琴主「あっ…じゃあ君もなんだ…?」

 交の問いに、まつりは手元に『交にだけ見える』立体ウィンドウを出した。
 そこには、交には見慣れたものが表示されていた。

[全身義体医療受診証明 正純.まつり]

 2033年4月1日、「ジオイド」と呼ばれる正体不明の毒霧が大地から散布され地球上の半分の命が奪われた。
 世界各地で発生したジオイドの被害を受けたものの多くは子供たちだった、そのため一部の人々は子供にある特別な処理を施して正体不明の毒霧から守ろうと試みたのである。
 それが全身義体、琴主・交と正純・まつりもまた、そのような経緯にしてサイボーグ化した子供たちだった。

 そんな二人が打ち解けるのにそう時間はかからなかった。
 交はコミュニケーションに何らかの問題を抱えるような人物でもないし、正純もまたお嬢様ということを除けばごく普通の少女だった。
 それはクラスのほかの女子たちも同様である。

正純「東京ってどんな所でしたの?」

琴主「パッと見個々とほとんど同じかなぁ。まぁある程度ビルを崩して除染して、田んぼとかになってるけど…5年であれくらい何もなくなるんだからあとちょっとしたら本当にまったいらになっちゃうんじゃないかなぁ」

女生徒A「じゃあ本当に田舎になっちゃってるんだねぇ東京」

琴主「でもまぁ流石に元首都だからね、買い物とかには困らないよ?」

女生徒B「じゃあさぁこのブレスレットとか持ってるー?」

琴主「うんうん…うぉっ」ビクッ

正純「……ふふっ」

 ほかの女生徒と会話したり触れ合う度にまた先ほどと同じことになるのではないかと身構える交を見てまつりは笑みをこぼす。
 そんな微笑ましい日常を挟んで時間はあっという間に過ぎ、授業を一通り終えた交は荷物をまとめて帰路につこうとしていた。
 そんな交より一足先に荷物をまとめて、まつりは交に呼びかける。

正純「琴主さん、よろしかったら一緒に帰りませんか?」

琴主「うん!…あ、でも……」

正純「? どうかしましたか?」

琴主「通学路で変な人に目をつけられちゃってさぁ」

正純「まぁ…それなら好都合ですわ!私内緒の近道を知っていますから♪」

琴主「そうなんだ、じゃあ一緒についてって良い?」

正純「勿論です♪」パァァ

琴主「うぉぉ、眩しい!正純が眩しいよ!?」



下駄箱付近

黒い女(正門前)「……?」キョロキョロ

琴主「うげ、やっぱり正門前に居るよ」

正純「…?ズームの性能がよろしいんですね?」ミエナイ…

琴主「人が殆どいない東京にずっと住んでたからね、ちょっとした慣れの差かな?」コソコソ

正純「それじゃあ見つからないように、こっちへ…」コソコソ



校舎裏の路地

琴主「フェンスに穴、こんな都会の学校でも普通にあるんだねぇこういう抜け道」ガサッ

正純「えへへ~♪ちょっと悪いことしてる気がしてちょっと楽しいんです♪」ガサッ ガッ

正純「あ、あら?」グイグイ

琴主「ちょ、どうしたの?」

正純「ま、まさか太った!?」ガァン

琴主「まさか!?って服が引っ掛かってるだけだよ」ピン

正純「あっ、急にとったら…きゃぁっ!?」ドタッ

琴主「あ、とわぁっ!?」バタン

 仰向けに倒れた交と、背が低く丁度交の胸にかぶさるように倒れたまつり。
 なまじ同じような成長を感じさせないシャープな体系だからこそ、体制的にまずいことを連想したのはお嬢様ながらもそういうことにやや興味の深いまつりのほうだった。

正純「あ、あのごめんなさっ…!?」アワアワワ

琴主「……」ギュ

 しかしその次に予想外の行動に出たの交だった。
 交はそのまままつりの体を抱き寄せると、頭を優しくなでる。

正純「あ、あのあの…琴主さん!?」アワワワワワ

琴主「…!!あ、ああ!!ごめん正純!!」ババッ

正純「こ、こちらこそ!!」ババッ

 気が付いたのか双方真っ赤に顔を染めて、なぜか細い路地で面と向かって正座する二人。
 傍から見ればシュールだが、それよりも二人は心臓の代わりになっているモーターの激しい動悸が早く収まるのを待っていた。

正純「あ、あの…さっきのって」

琴主「ごめん……」

 まつりの問いを途中で切って、交は立ち上がる。
 その表情は見えないが、とっさのこととはいえ今のことは交自身こたえている事が伺えた。
 突然のことで何らかの癖が出たのか、深く聞くのはさすがに失礼だとまつりは判断した。

正純「…そう、ですね。それじゃあ駅までの最短ルートを…」

 そして気を取り直してまつりが歩みだそうとした、その時だった。


 ズズウウウゥゥゥゥ……ン


 轟音、地響き、鳴り響くそれに二人のみが強張る。

琴主「な、何!?」

正純「え、駅のほうです!?」



正門前

 突然それは出現した。
 直径30m程に達する深紅の巨大な卵が、何の前触れもなく街を踏みつぶしたのである。
 そして卵の側面が割れると節足となってその巨体を持ち上げた。

女生徒C「な…何あれ」

女生徒D「うそ、怪獣!!?映画か何かじゃないのあれ!?」

 パニックに陥る街の中で、校門に背もたれてため息をつく黒い女。

黒い女「あーあやっちゃったよ、来る前に準備は済ませておきたかったんだけどねぇ…」ピポパ

 黒い女はもう何世代も前になった古い型の携帯電話を手に取ると、どこかへと電話を掛ける。

黒い女「もう攻撃態勢になっちゃってるわねぇ…『ウラノース壱型』、前線に出しちゃって。正純ちゃんに連絡取っといてねー♪」






~~~~~~~
今回はここまで。
思ったよりギャグに入りにくいですね、ギャグ担当の黒い女さんを突き放しすぎたか

路地

琴主「なんだよ…あれ」

正純「まさかあれって、綾乃さんが言ってた…」

prrrr

正純「あ、ごめんなさい……もしもしまつりです」pi

『まつりちゃーん、今日は何の日ね?』

正純「……あっ、すいませんテストランの日でしたっけ!?」ペコペコ

琴主「れすとらん…?」

『あれ、あらあら?もしかして琴主交ちゃんもそこにいるかしらね?』

正純「え?いらっしゃいますけど…」

 まつりがそう答えた瞬間だった、ブツッ!!というノイズが交の聴覚を直接襲った。

琴主「いっ……!!」

 義体の聴覚を使った直接通話に慣れていない交は耳を押さえるが、それでも構わず通話の声が交の耳に届けられる。

黒い女『はろーう、交ちゃん今朝振りねぇ♪』

琴主「け、今朝の変質者!?」

黒い女『変質者!?』

正純「あ~、綾乃さんの事だったんですねぇ。確かに怪しい格好してらっしゃいますから」

 綾乃と呼ばれた変質者、もとい黒い女はコホンと咳払いを聴かせる。

『自己紹介がまだだったわねぇ、可能性軸運用開発局、P.A.U.R.(パウル)の司令官をやっています、綾乃・清泉というものよん』

琴主「は、はぁ」

 急いでいるのか早口で…それでもふざけた口調を崩さずに自己紹介する綾乃に、相変わらず怪しいと思いながらも頷く交。

綾乃『とりあえず、頭下げといてね?』

 ゴオッ!! と、大質量の何かが風を切る音と共に、衝撃波が二人を襲った。

正純「きゃっ」フワ…

琴主「あぶない!?」ギュッ

正純「Σきゅっ!!?」///

 危うく飛ばされそうになったまつりを抱き寄せて伏せた交は、振り返ると信じがたいものを目撃する。
 それは白と黒、大小一対の戦闘機のようなものだった。
 そして小さく白い機体が形を変えると、黒く大きい機体も同時に形を大きく変えて合体したのである。

『合体!!ウラノース壱型(仮) is here!!』

 合体して怪獣とほぼ同じ大きさになったそれは、珍妙な名乗りを上げて降り立った。




~~~~~~~~~
今日はここまで。
なかなか乗るとこまでいけないもどかしさ

 常軌を逸した事態に、交は目を丸くして固まっている。
 交に抱き枕よろしく抱えて伏せられたまつり同様固まっている、しかし巨大ロボットの足音を聞くと即座に振り返った。

琴主「きょ、きょ、巨大ロボット!?」

正純「そんな…!!今誰が動かしてるんですか!?」

綾乃『臨時でエリンちゃんの炉を借りて動かしてるけど…』

 綾乃がそう言いかけたその時だった。
 卵型の怪獣のボディが横一線に裂けた、そして中から無数の触手が生えて巨大ロボットを殴り飛ばしたのである。

『Ouch!?にゃろうやりやがったデスね!?』

綾乃『たぶん持たないわね』

 微妙に訛のある声を上げながら、巨大ロボットも怪獣に殴りかかる。
 しかし拳は確かに当たる軌道だったに関わらずスカッと怪獣をすり抜けていった。

『ガッテム!!やっぱり出力不足ネ!!』

 そういって一歩後じさる巨大ロボットの脚に触手がからまる。
 そしてすさまじい力で巨大ロボットを引張り、大回転を加えて放り投げた。

『ワァァァ!?き、緊急分離!!やっぱワタシだとダメヨー!!』

 弱音を吐きつつ、空中で分離して元の戦闘機に変形した巨大ロボットは猛スピードで交たちのいる後者めがけて飛んできた。

 そして交達の上で黒い機体が制止すると、細い足を延ばしてまたぐように降りたった。

『Ms.まつり、このままだと島京の生き物が全滅デス!!行けマスか!?』

正純「は、はい!!」

 黒い機体からの声に緊張した表情のまつりが答えると、機体の腹部から細い光線が伸びてまつりにかぶさる交にあたる。

『そこの茶髪の子、ちょっとどいてくだサーイ!!』

 黒い機体の声に混乱しながらも、交はまつりに問う。

琴主「な、なんなんだよこれ!!正純、いったい何が起きてるの!?」

 混乱する交にまつりは優しく微笑むと、その頬を撫でながら答えた。

正純「ごめんなさい、このままだとあの怪物にみんなが殺されてしまうかもしれないんです…今度は、私が琴主さんを助けますから」

 まつりはそう言うと交と一緒に起き上がり、胸に光線を受ける。
 すると一瞬にしてまつりの姿が消えて、変わりに白衣の女性が現れその場に倒れ込んだ。

まつり『コード、リリーキャット…行きます!!』

 黒い機体からまつりの声がすると同時に、機体の色が先端から青く変化していった。

綾乃『あの怪獣の目的は、全生命の殲滅よ』

琴主「…!?」

綾乃『五年前に全生命の命を奪った対生命ウィルス、ジオイドの集合体があの怪獣…対抗できるのはあのロボットだけ、といったら信じるかしらね?』

琴主「そんな…だからって、何で正純なのさ!?あの子が…何の関わりがあって…」

 綾乃と交の会話に関わらず、白と青の機体は怪獣に向かって機銃を放つ。
 白い機体のそれは当たらないが、青い機体のそれは命中して怪獣に初めて外傷を負わせていた。

綾乃『あの子の全身義体をデザインしたのがそもそも、うちの前身になるジオイド対策組織だったから。そう、貴女のもね?』

琴主「!!!!」

綾乃『あのロボットは、同じ仕様の全身義体を持つ若い子にしか扱えないのよ。なかなか我が儘なシステムでね…今は遠隔操作で二機とも動かしてるけど』

怪獣『Jjjjjjjjjjyyyyyy!!!!』ヒュバァ

正純『!! きゃぁぁ!!』

 怪獣が放った触手が青い機体を絡め捕る。
 青い機体は逆噴射で逃げようともがくが、出力が足りないのか一向に振り解けない。

琴主「正純いぃぃぃ!!!!」

綾乃『お願い、もう一つの機体に乗って貴女も戦って!!今まつりちゃんを助けられるのは貴女しかいないの!!』

琴主「……っ、やるよ!!」

綾乃『…!! ありがとうね…今から誘導パルスを送信するから、動かないでね』

 綾乃がそう言うと、白い機体から光線が延びて一直線に交の胸に突き刺さった。

琴主「あっ……!!」

[Start up]
[Launched.Lily Operation System[..........OK.]]
[User name...Maziru.Kotonushi.][Using language...Japanese][S.N.W.適性有]

[機動準備完了]
[Lily Blade]

琴主「リリー…ブレード」

 交がそう呟くと、白い機体は先端から綺麗な赤に染まっていく。
 そして交の姿が路地から消えた。




~~~~~~~~~~
今回はここまで。

リリーキャット:コクピット

正純「くう…う…ううう!!」ギギギ…ギギギギ

 まつりは操舵管を握り締めて力の限り引いている。
 まつりの首につながれた義体のコネクターから触手に締め付けられる痛みや不快感が襲い来る。

正純「痛い…っ!!はなして、下さい!!」チュイン

 まつりが目を凝らすと、照準が自動的に定まり触手に機銃が向いてちぎり取ろうと動き始めた。
 しかし……

バララララララララ!!!!

正純「!!!?」

 当たらない、触手がまるで蜃気楼だったかのように機銃の弾丸をすり抜けながらさらに強く機体を縛る。

正純「あああ!!!まさか、これが軸の移動…!?」

 まつりは綾乃から、訓練時これがどう言うものかを聞いていた。

 地球が持つ攻撃の意志。
 可能性を操る五次元生命。
 可能性軸の移動による通常兵器の無効化。

 訓練ではいまいち理解できなかった、今相対する敵の本当の恐ろしさを実感したまつりはただその恐ろしさに竦み上がった。
 しかし、まつりの脳裏にひとつの人影が浮かぶ。
 ジオイド被害で死んだ父の姿。
 最期の時まで義体の性能強化にすべてを捧げ…まつりを、皆を気遣って死んでいった父の姿。

『まつり…いつかお前もその力で誰かを守っておやり』

正純「……この子は抗う為の力がある……お願い、リリーキャット!!」

P.A.U.R. 指令室

オペレーター「リリーキャット出力依然として変わらず!!」

オペレーター「敵内部に新機関出現!!…これは」

オペレーター「敵ジオイド、リリーキャットを喰う気です!!」

綾乃「ちぃっ…神の力に神だけで対抗できるとは思っていなかったけど……何が欲しいんだあの我が儘コアは!!」

オペレーター「!! リリーブレード起動完了!!まっすぐにジオイド触手につっこんでいきます!!」

綾乃「来た…!!」


市街地上空

琴主『わああああぁぁああ!!!!』キィィィン

 ザキュッ!!!!と、怪獣の触手を刃のような赤い翼が斬った。

琴主『正純ぃぃぃ!!』

 触手から解放され、地面に激突する前にホバリングしたリリーキャット、正純はリリーブレードからの琴主の声を聞いて目を見開いた。

正純『こ、琴主さん!?そんな、何でリリーブレードに!?』

琴主『えっと…頭痛いけど、なんとか頭にこれの動かしかたダウンロードして…それで』

正純『そんなこと言ってるんじゃありません!!ばかっ!!』

 ドクン……

琴主『ばかって……!!』

正純『なんでこんなところに来たんですか!!』

琴主『そんなの…正純がほっとけないからだよ!!』

 ドクン…ドクン…

琴主『私の、死んだ妹にそっくりなんだ……背が低いとこも、どじな癖にどんどん先にいっちゃうとこも…っ』

正純『琴主…さん』

琴主『だから、あれがもしジオイドと同じものだとしたら…私は今度こそ妹を守る!!』

琴主『今は、私にあなたのお姉さんでいさせてよ!!』

正純『琴主…さんが、お姉……様?』

 ドクン!!!!

[AMD Ver0.32 Full drive complete]
[合体準備完了]

正純『……!!』

琴主『わわっ!?今度は…なにこれ!!

正純『お姉様!!』

琴主『え!?いや直接そう呼べっていう意味じゃ…』

正純『合体します!!』

 交が言い切るのを待たずに、まつりは合体コンソールに触れた。
 その瞬間、二人の体を衝撃が襲った。

今回はここまで

後でまたキャラクターのスペックを明かす時に出そうと思っていたのですが
きゃらの読みは
琴主・交(ことぬし・まじる)と
正純・まつり(まさずみ・まつり)
で合っています。

ちなみに名前の元は『主人公』と『正妻→正祭』です。

???

琴主「ま、正純!?」フワフワ

正純「お姉さま?」フワフワ

琴主「これ、一体どうなってるの?コックピットは?」

正純「……」チチチチーチチチ…

正純「……大丈夫です、初めての合体で一時的に意識を共有した上でタイムラグが発生してるんだと思います」

琴主「合体……」

正純「このリリーキャットとリリーブレードには、一つの神様が宿っているんです。でも、生まれたてのこの神様は何を司る神様なのかすらわからなかった……」

琴主「かみさま……?」

正純「お姉さま、私のことは好きですか?」

琴主「え、えぇっ!?それは……その……」ゴニョゴニョ

正純「好きじゃないんですか?」ウルッ

琴主「い、いやいや!!好きだよ!?……そりゃあ、うん、多分……」カァァ

正純「私もです……だから」

正純「まつりと、呼んでください」


 二人の言葉とともに、視界が明ける。
 空高く飛び上がった赤と青の機体が絡まりあい、深く繋がっていく。
 先のモノクロのロボットとは違う形に、より確かな人の形を持って完成していく。
 そして完成したそれは、地響きとともに地面に降り立った。



P.A.U.R.指令室

綾乃「は、は、は…」ヨロッ ドサッ

オペレーター「司令…?」

綾乃「成る程なぁ…足りなかったのは奉納演舞、おまけに趣味の偏った神様で……まぁ行幸か」ブツブツ

綾乃「いーっひっひっひ!!まぁ良いわね、サーバーフル稼働!!全力で合体後のサポートするわよん!!」

オペレーターs「「了解!!」」

綾乃「となると前の名前はもはや無粋ね…生まれたての神には新しい名前がふさわしい…開発者権限!!名称コード変更!!」


「乙女合体!!ガチユリダー!!!!」


オペs(((…………いや、その名前はどうなの!?)))

コクピット

琴主「今、なんだか凄く変な名前が聞こえた気がするんだけど……って、正純!?」

 気が付けば交は先ほどよりも広く丸いドーム状のコクピット中央の座席に座っていた。
 交は視界に居ないまつりを探すが、すぐ後ろから抱きつくように操舵を握るまつりが交に言う。

正純「まつり、です!」

琴主「あはは……」

 相変わらず何が起こっているのかはわからない、しかし何故か嫌な感じはしなかった。
 交は眼前の怪獣を見据えると、操舵を握りしめて操縦方法をダウンロードする。

琴主「それじゃあ、話はこいつを倒してからゆっくり聞くからね!!!!」グン

 合体の余波で吹き飛ばされていたのか、怪獣はビルを背に仰向けに転がっていた。
 しかしガチユリダーのこぶしを握る音を合図としたかのように一瞬不定形のゲル状になると、元のうつ伏せに戻り触手を伸ばす。
 まつりは先の状況を思い出して身構える。

正純「!! 相手は『可能性』を移動してきます、防御するのは…」

琴主「『どっち』に逃げようが…外れる気はしないよ!!」

 交の言葉を証明するように、ガチユリダーは触手を掴んで怪獣を逆に引き寄せた。
 そしてカウンターのパンチをその先端に食らわせると、怪獣はゆで卵のように砕けながら大きく後退する。
 怪獣は起き上がると蜃気楼のようにぶれて元の形に再生しようとするが…

[S.N.W.Eye site:Coneccion]

 まつりの視界が交の視界と連動するようにその姿をはっきりととらえると、怪獣は再び崩れて倒れ伏した。 

正純「これって……変えようとした可能性を、元に戻した!?」

綾乃『可能性を移動する神の御業、それって結構昔から観測されていた現象なのよん…それを確かに確認し、自分のいる可能性に相手の可能性を引き寄せる才能…というよりも、『どんなに5軸の向こうに逃げても見つける才能』…S.N.W.適正、それがリリーブレードの操縦者に必要なスキルねぇ♪』

 綾乃の通信と同時に、ガチユリダーのバックパックが開き巨大な剣銃が姿を現す。
 それを掴み、ガチユリダーのアイカメラ越しの視線が怪獣を貫く。

怪獣『GGGWWGWG!!?』ギギ、ギギギギギ

正純「封印装備解凍完了…リリーランチャー、詩実体装填…!!」キィィィィン

 怪獣は思ったように動かない体を必死で起こそうとする。
 しかしその間にもリリーキャットの駆動路からエネルギーが剣銃に装填されていき、両端に銃口を持つ剣の切っ先が強く光り始めた。

琴主「っりゃあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」ブォン!!

怪獣『GGGGGGGGGGGGGGGGGGGG!!!!』

 琴主の操縦に従ったガチユリダーは、剣銃を怪獣めがけて投擲した。
 剣銃は砕けた怪獣の先端部に突き刺さり、怪獣は悲鳴を上げる。
 そして怪獣に突き刺さった剣に全力で駆け寄ったガチユリダーは、拳と共に銃剣の発射コマンドを叩き込んだ。

正純「ドライブ解放!!」

琴主「リリー、インパクトオオォォォォォ!!!!」ゴガアアァァァァ

怪獣『!!!! KNWKSYWHKYSRTKR<KN■SYNTKRGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGG!!!!』カッ

 怪獣は断末魔の叫びと共に、内部から溢れるエネルギーに飲み込まれ空の彼方へと飛んでいき、欠片も残すことなく消滅した。


琴主「はぁっ……はぁっ……はぁぁ、倒したぁ…?」ズルッ

 怪獣の消滅を確認すると、交は安心したように力を抜いて操縦席から落ちそうになる。
 その手を、まつりの手が掴んだ。

琴主「……ありがと、まつり」ニッ

正純「やっと、さっきのお返しができましたね…おね」ニコ

琴主「はいはい待った、お姉さまなし!!こっぱずかしい!!まじるでいいよ…まつり」

正純「…!! はいっ」コクッ

 ガシュン!! ヒュゥゥゥン

 と、二人のやり取りと共にエネルギーが尽きたのか開けた視界が暗転する。

琴主「……って、結局なんなんだよぉこのロボットぉ」

正純「恋のキューピット…でしょうか」ボソ

琴主「え?」

正純「い、いえいえ!」アハハ





外 駅前
 自衛隊の行進と共にゆっくりとトレーラーから姿を現す綾乃は、膝をついて俯き力尽きたガチユリダーを見上げる。

綾乃「……また、巻き込んでしまうのね」

 その先の戦いを見越してか、彼女たちのこの先を憂いてか…その表情は重い。
 しかし元のおどけた表情に戻ると、飄々とそのコクピットへと向かう梯子に向かって歩みだす。

綾乃「まっ、それだけ可愛い子の面倒見れるからいっかしらねぇ~♪いっひっひ♪」





第一話『それは正しく祭りのような出会い』 完


《次回予告》
怪獣を倒した交とまつり、まつりから告げられたその身体の秘密に交は驚愕する。
しかし、謎の組織P.A.U.R.の司令官綾乃から告げられた5年前の真実はそれをはるかに超えた衝撃を交に与える。
全生命に牙を剥いた地球、戦うことを仕組まれたかのような少女たち。
そして三人目のパイロットが交の前に現れる。

次回『そして愛しきはじめの言葉』

今回はここまで。
必殺技は書いてるときは最高にスカッとして
後からジワジワ来るものです。

琴主・交(ことぬし・まじる)
http://m2.upup.be/6ZLdSLGdfu

本編の主人公。
五年前のジオイド災害で妹と共に生死の境をさまよい、全身義体化で生き延びた過去を持つ。
それからは田舎と化した東京で過ごした五年間たくましく成長した。
特に視力は尋常ならざる進化を見せている。
得意科目は体育で典型的なアスリートタイプ。
特にアーチェリーが得意でよく野生化したアナコンダを仕留めていたそうだ。


正純・まつり(まさずみ・まつり)
http://l2.upup.be/g3ivNOkTrl

義体開発メーカー正純重工の社長令嬢。
社長である父がジオイド災害に倒れ、後に予め合併が決まっていた総合トップ企業蜘糸商会の創始者に預けられている。
ジオイド災害の当時からジオイドの正体を父に教えられ、P.A.U.R.のリリータイプ義体研究に協力した。

おしとやかながらも好奇心が強く、そういう事にも興味津々である。

第2話『そして愛しきはじめの言葉』

 琴主・交はサイボーグである。
 しかし、先日謎の怪獣と巨大ロボットにのって激闘を繰り広げるという体験をしたにも関わらず、今日も何気ない顔で登校できるのは別にそれが理由ではない。
 実際、一緒に戦った正純・まつりは疲れがたたって※義肢筋肉痛をおこし療養中である。
(※そのまんま発達した近年の義肢における筋肉痛。筋繊維の成長によるものではなく、自己進化ナノマシンによる内部機構のメンテナンスなどが装着者の披露によって間に合わなくなった際に起こる。)

 では何故交はそうならないのか?それは彼女が普段から過酷な東京の環境で育ってきたからに他ならない。

「ねえねえ、昨日の怪獣騒ぎ見た?」

「ていうか駅行ったんだよね?大丈夫?」

琴主「あーうん、そうだよねー…あはは…」ダラダラ

 …しかし、流石にこの話題には辟易していた。
 見ていたも大丈夫もなにも、当事者である。


琴主(実際、あの後は何も教えて貰えなかったなぁ…)ムゥ

綾乃『ごっめーんなさーいね♪ちょっと騒ぎが大きくなりすぎて事後処理でいっぱいいっぱいなのよねぇ、だから詳しい話はまた今度…ね♪』回想

琴主(…もう、なんなんだよぉ……)くてっ カサッ

琴主「……ん?」ムクッ

 一度机に突っ伏した交は、違和感を覚えて起きあがる。
 すると机の上にはいつの間にか手紙が置かれており、『校舎裏にて待つ』とご丁寧に書かれていた。

琴主(こ…これは…ラブレター!?)

琴主「なわけないよねぇ」クシャ ぼて



放課後 校舎裏

琴主「いつ来るかって書いてなかったからこの時間になっちゃったけど……もしかして待たせちゃったかな?」タッタッタ

 交が駆け足で向かうと、そこには中学部くらいの背丈ながら高等部の制服に身を包み、長い黒髪をツインテールにした小さい少女が仁王立ちしていた。

「……ッ、…ッ」

 目尻に大粒の涙を貯めながら。

琴主「…」キュンと

今日はここまで。
今回より新ヒロイン登場の巻でござい

 生き物に対して可愛いと純粋に感じたのはいつ振りだろう。
 確かに、まつりも可愛いし確かに愛しい。
 しかしそれは例えるなら果物などのような酸味ありきの甘さでありそれも美味しいには違いない。
 しかし今目の前にいる小動物のような少女はまさしくクリームやチョコレート等の菓子類のような可愛さなのだ。

琴主「……あ、大丈夫?手紙くれたのって……」

 交が我に返り、少女に話しかけたときには彼女は既にそこに居なかった。
 いや、交の胸元に掴みかかっていた。
 小動物が、牙をむいた。

琴主「…て、わあ!?」ドシャア

 交は体重をかけられて一瞬でねじ伏せられた。
 後ろ手に引かれた腕が悲鳴を上げる。

琴主「いた、いたたたた!!?」ギリギリリ

 強い痛みにもがく交は、偶然にも少女の胸に指先をふれた。

[メールが届きました][フレンドリストに登録しますか?][全身義体医療診断書]ヴヴヴン!!

「……!?にゃっ?!」

 突然現れた立体ウィンドウに驚いたのか、少女は交の腕を放してウィンドウをよけようと何もない空間をかき分けている。

琴主「わわっ、また!?……って、君も」

 昨日の事件で流石に慣れたのか、交はウィンドウを順に消してもがく少女に気づく、そしてもがく理由にも。
 この少女もまた、同じ全身義体なのだ。

「……っ、だからどうした…!!」

 少女はようやくウィンドウを消したのか、懐に手を忍ばせて交に構える。

琴主「いや、何で押さえ込まれたのかとか色々訊きたいんだけど…」

 琴主が訪ねると、少女の目尻に再び涙がたまる。

「貴様が…貴様なんかが…っ」ウルッ

琴主「わわっ、ちょっとまって待って!!」

 交の制止も聞かず、少女は懐からダイヤ型の手裏剣…いわゆる苦無を取り出し交の足元に放つ。

「正純お嬢様は渡さない!!」キュッ

琴主「ひあ!?」ガクン

 少女は苦無と袖につながれた極細のワイヤーを巧みに操って交の足を払う。
 しかしワイヤートラップの扱いは野生化した動物に対処していた交にも心得があった。
 交は転ぶ前とっさに苦無を拾い返し、少女の後ろに投げ返した。

「なっ…!?」グン

 少女にワイヤーが絡まり、苦無が少女の周りを一回転する。
 交は起き上がるともがく少女に向かって歩いていき、そのおでこにチョップを食らわせる。

琴主「こら!そんなの振り回したら危ないだろ!」べちこ

「あくっ……うぅっ、くそう…」

 ボロボロと泣き始めた少女に、交は困り果ててその頭をなでる。
 そして落ち着いて考え、交は少女がまつりの名を呼んだことを思い出した。

琴主「ねぇ、君まつりの知り合いなの?」

「……君じゃない、愛糸・はじめ…正純家の専属ガードマンだ……」グスッ



~~~~~~~~~~
今回はここまで。
くのいち娘の愛糸・はじめ(まなと・はじめ)。
ちなみに交は特に小動物が大好きだったりします。

 島京セントラルビジネスセンター
 そこは島京中の先端企業が集まる直径40㎞に及ぶ超巨大高層ビル群であり、複数のビルが円環状に立ち並ぶそのさまはまさしく現代の要塞と呼ぶに相応しい。
 全12層あるビル環の外側から数えて第10層にその企業は聳え立っていた。
 『蜘糸商会』、およそ『人助け』に関するあらゆる分野を率先して進める総合企業であり現在の義体シェアのトップを飾るのもその子会社である正純重工となっている。

琴主「ここが、まつりの家かぁ……」ウィーン

愛糸「……」ウィーン

「ようこそ、琴主まつり様」

 二人は移動用コンベアを降りて、商会のメインホールに入るとスラッとした長身黒スーツの女性が二人を迎えた。
 女性ははじめに向くとにっこりと笑顔を浮かべる。

愛糸「…」ビクッ

「現在本社にいる会長に代わり島京支社を預かっている会長秘書の八尾と申します。弟子が粗相を致してしまったようで、代わって謝罪いたします。」ペコリ

 女性、八尾が頭を下げる。
 すると初めがあわてて交に頭を下げ始めた。

愛糸「そんな、師匠が頭を下げる必要はありません!私の独断です、申し訳ありませんでした!!」ペコ

琴主「い、いやいや良いよ!!そんな謝罪なんて…」

 交がそう言うと、八尾は安心したようにクスクスと笑い始める。

八尾「しかし安心しました。まつりさんのパートナーとなられた方が、思ったよりもできたお嬢様でよかった」

 パートナー、という響きに交は気恥ずかしくなるが…おそらくあのロボットのことをこの女性も知っているのだろう。
 おそらく、交を襲撃してきたはじめもだ。
 なので、交は包み隠すことなく八尾に尋ねた。

琴主「それで、まつりの様子は……」

八尾「まつりさんでしたらもうすっかり良くなっていますよ。一刻も早く交さんと会いたいといった様子で」

 八尾の言葉に、交とはじめはホッと一息をもらした。

八尾「それじゃあ、案内しましょう。はじめ、罰というわけではありませんが貴女は訓練室で素振り100回です、少し心を落ち着けなさい」

愛糸「あうっ…はい、わかりました…」ショボン

 落ち込むはじめを見ていてもたってもいられなくなった交は八尾に言う。

琴主「あ、あの……はじめちゃんも一緒につれて行って貰って良いでしょうか?」

愛糸「!!」

八尾「……本当に、良い人ですね。良いですよ」ニコッ

 延々と続くエスカレーターを上りながら、八尾は語る。

八尾「私も会長も、あの災害で多くの子供たちを救ったのは他ならぬ正純社長……つまりはまつりさんのお父上だったと考えています」

 八尾の始めた話に、交は神妙な顔つきになる。
 交の身をジオイドから救った全身義体もまた正純重工製だからである。

八尾「全身義体化の技術はジオイド災害の鎮静化した今でこそ人権的な問題で施術が難しくなり、今や義体市場は一部義体を除き必要なくなったといっても過言ではありません……もうこれ以上、全身義体治療を受ける人間は年間5人にも及ばないと予想されています」

八尾「だからこそ、これからの戦いに駆り出される人数は大きく限られます…それも子供たちだけに」

琴主「戦いって…あの怪獣?」

 交の問いに、八尾はうなづいた。

八尾「あの怪獣に対抗できる唯一の手段…ウラノースシリーズは綾乃の発掘した未知の技術の結晶です。機械に『神』を宿らせる、昔…大戦の裏で兵器として開発が進められていた技術。しかしその当時それが完成することはありませんでした」

琴主「どうして?」

八尾「相手は機械だった、機械と心を通わせその人格…いや『神格』を覚醒させるひとがいなかったんです。そりゃあ、人と機械に発生した神では根本的にフォーマットが違いますからね。誰の言葉もわからず、何も見えない、聞こえない、人格の芽生えは知覚によるインスポートがあって初めて発生するものといいますが、それもなくいつまでもその神格は目覚めなかった。そこで…綾乃に目をつけられたのが全身義体の技術でした」

琴主「……機械と人の違い…」

八尾「そう……ジオイドの襲来を予期していた綾乃は、義体開発に携わっていた正純社長にそれを打ち明けてリリータイプという義体規格を提案しました」

 八尾の話を聞いた交は、義体のメインコンソールを開き義体のバージョン情報を確認した。

[Lily Type ver1.3]

八尾「結果として……医療手段として広まった全身義体のなかでリリータイプの初期ロットを持つのは今のところこの島京で三人…あなたと、まつりさんと、はじめです……あとは生身かより日常生活向けに改良された後期生産タイプです」

愛糸「本当は最初の戦闘も、私とお嬢様で出るはずだったんだ…S.N.W.適性が私にはなかったけれど、動かすことはできるはずだったから」

琴主「あぁ、それで……」

 愛糸は自ら正純の専属ガードマンだと名乗っていた、特にまつりを大切に思っていたに違いない。
 だからこそすぐ近くに座りたかったのだろう、それを横からかっられって言った交に怒りを覚えてもおかしくはない。

琴主「ごめんね、はじめちゃん」

愛糸「……」プイッ

まつりの部屋
 その部屋は、意外すぎるほどにこじんまりとしていた。
 すぐ横に八尾や会長の私室もあるらしいということからも、意外なことにそこまで豪勢な暮らしをしているとは言い難い。
 むしろここが超高層ビルの最上階であるということを除けばごく普通の一般家庭であるといえる。
 交の姿を確認するや否や、ベッドから起きたまつりは真っ先に交に抱き着いた。

正純「まじるさんんん!!」ギュゥ

琴主「ふぁっ!?」ぎゅむ

愛糸「…!!」

八尾「あはは……これは相当でしたねぇ」

琴主「あ…あぅあぅ」///

 まつりは交に抱き着いて一通りすりすりすると、一息ついてベッドの上に正座する。

正純「正純まつり、筋肉痛から見事に完治いたしました♪…あ」ズキィ ばたむ

琴主「治ってない治ってない!!無茶しないで!?」

愛糸「お、お嬢様……」オロオロ

正純「えへへ…すいません」

八尾「それでは、お茶を用意いたしましょう」スッ

 台所へ去っていく八尾を見送ってから、まつりは交の手を握る。

正純「まつりさんこそ、ごめんなさい…巻き込んでしまって」

琴主「いや良いんだよ、どっちにしろ私たちにしかできなかったことなんだから」

綾乃『そうねぇ、正しくその通り』

琴主「!!」

 突然耳に聞こえてきた声に、交達は驚愕した。

正純「綾乃さん!!」

綾乃『回線にて失礼するわねぇ♪』

愛糸「出たな悪質おばさん」

正純「はじめちゃん、めっ」

琴主「綾乃さんだっけ……さっきの話にも聞いたけど、あんたも何者なんだ?あのロボットを作ったとか、怪獣もジオイドも予め予見していたとか聞いてたけど」

 交はいまだに、この綾乃という人物を信用しきれてはいなかった。
 言動や恰好の怪しさもさることながら、わざわざ子供たちを戦いに巻き込むように仕向けたのは他ならないこの女だからだ。

綾乃『だから、今からその話をするのよん♪』

 綾乃がそう言った瞬間、突如として膨大な量のデータが添付されたファイルが強制的に開いて3人の視覚を覆った。

 暗い星空だけの空間、その中に浮かぶ青い惑星…地球。
 三人はその地球を囲ってその空間に座っていた。

琴主「これは…!!」

正純「偽装空間、昔に流行ったVRSNSの応用ですね?」

綾乃「そのとーりねぇ♪ここなら怪しまれずに秘密の会話ができるって事よん♪」

 そう言いつつ地球の上に降り立った。
 黒いコートに黒い服、そして黒い長髪のストレート。
 綾乃・清泉…八尾から話を聞く限り交とまつり、そしてはじめが怪獣との戦いに巻き込まれた状況を作り出した張本人である。

綾乃「あなた達の敵を生み出しているもの……それはすなわち、これよ」トン

 足元の地球を足で踏み鳴らした綾乃、それを見て交は目を丸くした。

琴主「……え?」

綾乃「ガイア理論って知ってるかしらねぇ?地球は生き物で、常に地球上のあらゆる事柄を記録している知識の番人だっていう説ね」

琴主「い、いやいやいやちょっと待って!?どうして!?」

綾乃「そりゃあ、大地からジオイドは噴き出してきたのよ?テロでもなんでもない、ならそうとるのが普通じゃないね?」

 突然大きくなった話に、交は頭を押さえる。

琴主「仮に、あの怪物もジオイドも地球が生んだものだとして…なんで地球がそんなものを生み出すのさ?」

綾乃「それを知るのに役立ったのが、私の研究する『詩実体論』ねぇ♪」ピッ

 綾乃がリモコンを操作すると、地球から赤い霧が噴出してその一部がズームアップされる。
 ズームされたその粒子は、まるで蟲のように核やその他の機関を兼ね備えた機械的な姿をしていた。
 しかし交がそれより気になったのは、詩実体論という聞きなれない言葉である。

正純「量子力学の一種です、『もしたられば』っていう可能性によって姿を変える粒子が少なからずこの世界に存在するって説です」

綾乃「そう、ある時は情報、ある時は物質、ある時はエネルギー、ある時は幽霊、ある時は奇跡といったように、可能性詩実体はあらゆる形で可能性の数だけ潜んでいるわ。ジオイド、あるいはあの怪物の体もそれで出来てる」

綾乃「詩実体を人工的に作り出す研究を、発掘したウラノースシリーズのエンジンから進めていた私の研究機関は偶然地球からも同質のエネルギーを感知したのよ。そして詩実体に決められたプログラムを逆算した結果、ジオイドが地球上にばらまかれる未来…所謂ガイアの悪意ってものを知ったわけね?」

琴主「ガイアの……悪意…!!」

 交は無意識に拳を握る。
 この場にいる全員が、ジオイドによって何らかのものを失っている。
 交は妹を、まつりは父を、はじめもおそらくはそうだろう…そうでなければ一人この年齢でガードマンなどやっていないだろう。
 しかし、それをもたらしたのが何か意思のある者の悪意だと知れば、憎しみがわくのも当然だろう。

綾乃「ガイアは多重人格のようなもので、複数の人格が同時に地球を運営しているの。そしてそのうちいくつかの人格が人類の存在が地球に何らかの破滅をもたらすと考えた…どこかのばかが核戦争でも起こすのか、それとも誰かがこの世界を終わらせようとたくらむのか…そこまでは至れなかったけど……」

綾乃「でも、奴らは直接攻撃に出始めた。ジオイドにその現身を宿らせることで喘鳴を滅ぼそうとする意志は実体化し、この世界に直接攻撃を始めた。それを撃退すれば、ガイアの中から敵意に至った人格のみを倒すことができる、少なくとも……敵意たちに示すことができる、人類は破滅に対抗する方法があるとね」

綾乃「そう!!乙女合体ガチユリダーが!!」ビシッ

・・・・・・・・・

正純「ガチ……ユリ……?」

琴主「いや」

愛糸「いやいやいやいや」

琴愛「「何なのその名前はああぁぁぁ!!!!」」

今回はここまで。
まぁ、そうなりますよね?


誤字が多かったので少し遅れて修正

綾乃「ガイアは多重人格のようなもので、複数の人格が同時に地球を運営しているの。そしてそのうちいくつかの人格が生命の存在が地球に何らかの破滅をもたらすと考えた…どこかのばかが核戦争でも起こすのか、それとも誰かがこの世界を終わらせようとたくらむのか…そこまでは至れなかったけど……」

綾乃「でも、奴らは直接攻撃に出始めた。ジオイドにその現身を宿らせることで生命を滅ぼそうとする意志は実体化し、この世界に直接攻撃を始めた。それを撃退すれば、ガイアの中から敵意に至った人格のみを倒すことができる、少なくとも……敵意たちに示すことができる、人類には破滅に対抗する方法があるとね」

綾乃「……え?」

琴主「え?じゃないよ!!本当にまじめな話だよね!?」

綾乃「真面目も真面目ね?あなた達を見てほかならぬ開発者の私が思いついたんだからねぇ?」

琴主「やっぱり思い付きじゃないかぁ!!」シリアスカエセ!!

 ポケットに入ったままのくないを投げつけようとする交に、昨日の投擲スキルを見せられている綾乃は焦った様子で制止する。

綾乃「まぁまぁまぁまぁ聞きなさいね…昨日の戦いで新しく判明したことがあるのよねぇ!!」

琴主「……え?」

綾乃「聞いたとおり、ガチユリダーの心臓部にして魂…ウラノスエンジンは神として幼すぎて、どんな力を発する神なのか誰にもわからなかったのね?しかし、昨日の出会いがすべてを変えたのよ…これを見てみて?」

 綾乃がパラララと開いたウィンドウが、各々の手元に届いた。
 その内容を見て、交は再び真っ赤に赤面した。

正純『まじるさんまじるさん♪』スリスリ

琴主『あうあうあう…』

 それはついさっき、まつりに抱きつかれてスリスリされたシーンだった。
 しかも器用に編集してリピート再生されている。

琴主「な、ななななな……っ」

正純「まぁ……」

綾乃「ガチユリダーのウラノスエンジン記憶野から抽出された動画ファイルね、今まで駆動音以外の雑音が無音だったウラノスエンジンからは考えられないことだわ。しかも初合体時のデータなんか時間の許す限り再生された痕跡があったわね?」
正純『お姉さま、私のことは好きですか?』

琴主『好きだよ!?……そりゃあ、うん、多分……』カァァ

琴主「 」ボン!!

愛糸「…」プルプル
綾乃「いっひっひ、おもしろい反応するわねぇ…あら」グン
 綾乃は気付く、足に絡まったワイヤーが引っ張ってきている感触に。

綾乃「あ、ちょ…ぎゃん!?」ドタッ ズルズルズル

 綾乃は交とはじめの二人に両足を引っ張られて地球儀の下まで引きずりおろされた。

綾乃「あだだ…仮想空間内でも痛みはあるのよん?」

琴主「どういう事なの!?」

愛糸「私たちも聞かされていないぞ…!?」綾乃「あーあのねぇ、落ち着いてー?」

 二人に詰め寄られて、綾乃が降参するように手を挙げていると…

正純「あの…もしかして」


正純「私とまじるさんが仲良くしてるのが、ガチユリダーさんのお気に入り…って事ですか?」


琴主「」

愛糸「」

綾乃「…そう、そのとおりなんだよねぇ♪実際あれから君たちの視覚データにアクセスして、イチャイチャしてるところを見る度にとんでもない数値を叩き出してるのよ」

綾乃「つまり!!ガチユリダーは正真正銘乙女の愛と合体を守る神!!あなた達がイチャイチャすればするほど、ガチユリダーは強くなるのよ!!!!」

琴主「そ、そんな馬鹿なああ!?」ガァァァン

綾乃「いっひっひ、それが果たして琴主ちゃんとまつりちゃんだけなのか…きっちりデータを取らないとねぇ♪」イッヒッヒッヒッヒ

愛糸「貴様!!」ダッ
琴主「ま、待って!!」ガタッ



八尾「お茶をお持ちしましたよー♪」ガラッ

 気がつくと、仮想空間は消えて元の部屋に戻っていた。

琴主「…あれ?」

愛糸「あのおばさん…!!」

正純「……」ホワー
八尾「あの…どうかしました?」

今日はここまで。
百合は世界を救う。


要するにガイアが人類にさっさと滅べと囁いているのか
そんな中、百合オタな神は人類側についた、と

キャラ名間違ってるとこがちょっと気になった
交とすべき所がまつりになってる>>29

 八尾の入れた極上のお茶と茶菓子に一通り舌鼓をうった後……琴主が恥を忍んでガチユリダーの話をすると、八尾はしばし唖然とした後に口元に手を当てて笑い出した。

八尾「そんな事が……ふふ、綾乃らしい」

琴主「八尾さんは綾乃と知り合いなんですか?」

 交の問いに、八尾は懐かしそうに見上げる。

八尾「ええ、よく知っています。まぁ子供の頃からの腐れ縁と言いますか、よく会長共々迷惑をかけられたものです。同時に面倒も見られましたが…」

琴主「  は、はぁ」

 そこで、わずかな違和感を覚える。
 確かに綾乃は年上だろうが、見たところそこまで年齢を重ねているようには見えなかったのだ。
 見たところ20、30代の八尾…そんな彼女と子供の頃からの仲であの外見なのだからかなり胡散臭さが増す。
 先からはじめが『おばさん』と呼んでいたのも頷ける話である。

八尾「それで、交さんはどうしますか?」

琴主「え?」

正純「…!!」

愛糸「……」

八尾「この戦いは全生命の命運をかけていると同時に、貴女自身の命もかけた危険なものになる可能性もあります。まぁ、P.A.U.R.スタッフも我々も最小限そんな事態にはしないようこちらで尽力はするつもりですが……しかし、貴女は巻き込まれただけで本来はただ全身義体というだけの一般人として暮らす権利があります。もしも戦いに加わるのをやめたくなったら、それでいいとも思いますよ?それは綾乃も重々理解しているでしょうしね」

琴主「いや、私はもう十分首を突っ込んじゃったし…」チラっ

正純「まじるさん…?」

愛糸「……」ムッ

琴主「…放っておけないから」頬ポリポリ

愛糸「………」ムムム

八尾「でしょうね…ほら、はじめも拗ねない……!!」

 先ほどから殆ど何も言わず頬を膨らましたりと表情だけころころ変えているはじめの心境を読んで諭すと、突然立ち上がって障子を開けた。

八尾「成程、随分と空気を読む敵ですね」

 八尾の視線の先では、空を包むように赤い霧が集まって島京の上空に集まり始めていた。

琴主「あれは…!!」

愛糸「あれが、ジオイド…!!」

 八尾はポケットからペンライトのような器具を取り出して琴主の胸に向ける。

八尾「では、はじめもついて行ってあげてくださいね。まつりさんは今日はお休みと伝えておいてください」カチッ

琴主「え…あの、何を」パシュン

愛糸「師匠!?ちょっと待って」パシュン

 ペンライトから発された見覚えのある光線が交の胸にあたると、交は一日ぶりに空白のような一瞬を感じた。

P.A.U.R.本部
 気が付くと、交とはじめは薄暗い機械的な一室の地面に座り込んでいた。
 此処がどこかと考えるまでもなかったのは、吹き抜け構造のその空間の下に二つの戦闘機が見えたからだ。

琴主「リリーキャット…やっぱり、此処って」

愛糸「そう、P.A.U.R.の本部……」

 カッ!と、杖を突く音が聞こえる。
 振り向くと、先ほどまで話していた綾乃が良い笑顔で二人を迎えに来ていた。

綾乃「いらっしゃ~いねぇ♪さっそくだけれど、お着替えの時間ねぇ♪」

琴主「…え?」


更衣室

琴主「そりゃあ、乗るとは決めちゃったけど……いきなりこんなのに着替える?」ウワァ

 ウラノスエンジンとの適合率を上げるための装備と聞かされた衣装を渡されたものの、その安間瑛なデザインに交はため息をつきながら脱ぎ始める。

愛糸「……何で、そう簡単に決められる?」スッスッ

琴主「え?」

 もう訓練で慣れているのか…黙々と指定の衣装に着替えているはじめは、はじめて交にまともに声をかけた。

愛糸「私は拾ってくれた師匠と燕糸会長に恩義がある…正純お嬢様にもだ。いくらお嬢様と仲良くなったといっても、そこまでする必要なんて本当はない…それとも、お前は本当に」

 初めがそう言いかけたところで、琴主は手のひらをはじめの口に当てて制止した。
 いうことは分かっている、『お嬢様が好きなのか』と聞きたいのだろう。

琴主「好きかどうかなんて、わかんないよ。ずっと気になることばっかりで時間なかったしね……あのメカがそうとるんだったそうかもしんないけど、やっぱり私自身にはちょっとわかんないや」

愛糸「…!! じゃあ何故!!」

 はにかみながら言う交、しかしはじめにはその言葉が余計に信用できなかった。

琴主「だって、心配なんだもの」

愛糸「……心配、だと?」

琴主「まつりもそうだけど、愛糸ちゃんもそうだよ…そんなに小さいのに、まつりのことをいつも心配してる。周りが見えなくなるくらい、そんなのまつりが一緒でも背負いきれるもんじゃないよ」

 交の言葉に、はじめは返す言葉を失った。
 実際、交を襲撃した時もまつりをとられた怒りで周りが見えなかった結果返り討ちにあってしまった。
 どんなに修業を積んでも…自分はその程度で、心配される側ではないのかという不安がはじめの脳裏をかけた。

愛糸「……っ、余計な御世話だ」

 体の小ささに勝つために、まつりを守るために八尾の厳しい教育を受けた。操縦訓練も頑張った。
 その自信だけはなくすわけにはいかない、そう心に打ち込みながらはじめはスーツのファスナーを上げた。

司令室

オペレーター「敵ジオイド、尚も凝固を継続中!!前回とは比較にならない密度です!!」

オペレーター「近隣住民の緊急避難、完了しました!!」

綾乃「ハイハイ、生き物でなけりゃ無機物なら詩実体でいくらでも再生できるからねぇ♪今回は思いっきり暴れさせちゃいましょねぇ♪」

琴主「あ、あのぉ…」オズオズ

愛糸「……」ムッスー

綾乃「お?おぉお♪二人ともよく似合ってるじゃな~いね♪」

 交とはじめはそれぞれ赤と紫の薄く全身を包むスーツを身に纏ってやってきた。
 所謂パイロット用のスーツなのだろうが、着慣れない体のラインを強調するようなスーツで人前に出るのが恥ずかしいのだろう。

綾乃「状況が状況だからぶっつけ本番になるけど…ちょうど良いわねぇ♪琴主ちゃんとはじめちゃんの組み合わせではたしてエンジンに反応が出るか…見せてもらいましょう♪リリーキャットははじめちゃん、リリーブレードは琴主ちゃんでねぇ♪」

愛糸「了解」スタスタ

綾乃「……怒らせちゃった?」

琴主「う……そうかもしれない」

 何かを察した綾乃が交に尋ねる。
 案の定、交も気づいているのか落ち込んでいる。
 綾乃は手に持った携帯からウラノスエンジンのエネルギーバイタルを見てため息をついた。

綾乃(やっぱりちょっと調子が悪そうねぇ……さぁ、この子たちの仲をどう取り持ってくれるのかしらねぇ?ガチユリダー(かみさま)?)

 そう心の中で呟きながら、二人の乗るリリーキャットとリリーブレードを見る。
 答えるように、リリーキャットの機体色が紫に変わっていった。


 ガシュゥン… バヂヂッ

 一旦電源が落ちたように、真っ暗になった滑走路に誘導灯が徐々についていく。
 そしてカタパルトのレールが僅かに放電した。

愛糸『愛糸・はじめ…リリーキャット、出る!!』ヴン

琴主『ええ!?もう!?…琴主・交とリリーブレード、行くぞ!!』ヴン

 そして、滑走路の先のシェルターが開いた瞬間にカタパルトがすさまじい勢いで二人の機体を射出した。

 バシュウゥゥゥゥゥゥ……ン

琴主『うわぁぁおっ!!?…っとと…』グン

愛糸『先に行く…!!』

 初めてのカタパルトを用いた離陸で驚いた交は、すぐに崩れたバランスを取り戻す。
 するとはじめと紫のリリーキャットはそれを一瞥すると、バーナーを点火してリリーブレードを置いて行った。

琴主『ちょっと!?待ってよぉ!!』

 それを追って、交もたどたどしい動きでバーナーを点火した。

公園上空

 広い芝生に囲まれた公園の上空に、それは居た。
 まるで赤い水晶でできた鳥の彫刻のような怪獣の胸の奥には、真紅の球体がプルプルとゲル状になって浮かんでいる。

愛糸『あれか…!!』ギュン

 愛糸はその姿を確認すると同時に、機体の腹部コンテナを開き長距離からレールガンを放つ。

鳥ジオイド『QUYYYYYYYYYYYiiiiiii……』ドゴン!! ユラァ

 レールガンが命中、爆発した部位の爆炎に包まれながら怪獣は緩慢な動きでリリーキャットを向く。

愛糸『…!! 手ごたえがない!?』

 即座に異常と気付き、アクロバティックな飛行で距離を取ろうとするリリーキャットの進行方向を何かが阻害した。

愛糸『!!』 キン キキン キキキン

 それは砕けた…否、彫刻の怪獣から分離した赤い水晶の集団だった。
 それらは太陽の光を内部で極度に屈折させて溜め込むと、リリーキャットにめがけて溜まった光を浴びせた。

 ヅ ド ン !!!!

愛糸『ああああっ!! …くぅっ、レーザー…?いや、太陽光を使った工学兵器かっ…』ババババババ

 爆発の衝撃で機体を回転しながらも、正確に水晶に照準を合わせて機銃を放つ。
 しかし推奨は推進力を無視した三次元的な動きでその照準から正確によける。

 今度は飛び散った赤い水晶のすべてが空中で静止し、増幅した太陽光を機関銃のようにリリーキャットに浴びせた。

愛糸『くあぁ!! あぐっ、あああ!!!!』ヅドドドド





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今回はここまで。
慢心、ダメ絶対。

>>37 ありがとうございます、BR版にて直します

ヅドドドドドド

愛糸「あ!!ぐうっ、あああ!!」

 炸裂音の度に刺すような熱い痛みに悲鳴が漏れる。
 しかし、それは突然に止んだ。

ヅドドドドドド

愛糸「ああっ……はぁ、はぁ…止まっ…てない…?」

愛糸「……なっ!?」

 覆い被さった影を見上げたはじめは驚愕した。
 遅れてきたリリーブレードが、リリーキャットの傷ついた装甲に覆い被さって代わりに攻撃を受けていたのである。

琴主『くあ、あああっ!!あああ!!』ヅドドドドドド

愛糸「そんな…!!バカ、すぐそこをどけ!!」

 確かに、リリーブレードは多少の近接戦に備えてリリーキャットよりも強い装甲が使われている。
 しかし、それで機体からのフィードバックがないわけではない。

琴主『だい……じょう、ぶっ!!それより、はじめちゃんはこいつらを…!!』ヅドドドドドド ギン

 交が水晶達を睨むと、水晶は光線の発射を止めて静止した。

綾乃『上手い…!!S.N.W.固定能力を応用して、ジオイドの動きを一瞬封じた…!?』

琴主『前に、睨んだら動きにくそうにしてたから…』ゼェゼェ

オペレーター『しかし、すぐ別の軸へ移動を開始します!!』

愛糸「これがS.N.W.適性の力……」ギリッ バババババ

 はじめは機銃を掃射して舞い飛ぶ水晶を一掃した。

琴主『はじめちゃん!!』

愛糸「気安く名前で呼ばないで!!」

琴主『あごめん、つい』

愛糸「でも…あ、ありがとう……」


 ドクン!!!!

[AMD Ver0.32 Full drive complete]
[合体準備完了]


綾乃『ツンデレ娘のありがとうアザッス!!!!』ガタッ

オペレーター『おい誰か司令官取り押さえろ!!』

琴主『愛糸ちゃん!!』

愛糸「…ああ!!」

琴主・愛糸「「合っ体っつ!!!!」」ギン


???

琴主(あ…まただ……)フワフワ

琴主(あれ?何か見えて……)

 交の視線が視線を向けると、そこは真っ白な施設の一室だった。
 ベッドから起き上がり、何も見ていない瞳でただ空を映すだけの瞳。
 それは、紛れもなく愛糸・はじめだった。

琴主(これは…ひょっとして、愛糸ちゃんの……過去?)


『あの子の記憶は、恐らく戻ることはないでしょう…何か思い出すことに強い拒絶反応を示しています…』

『そうか…難儀やなぁ…』

 聞こえてきたのは、医者らしき白衣の男性と、どこか方言の訛りで喋る振り袖の女性。
 女性ははじめの頬を撫でる。

『真っ白になってもうた穴は、きっと一人やと埋められへんよな…よし、この子うちで預かりますえ!!』

『え…ええ!?しかしそんな、会長自ら預からなくても…』

『いやいやぁ、子供達は丁度孫の世話で忙しいやろしなぁ…ちょうどええんよ。それに…』



~~~~~~~~~
今日はここまで

愛糸・はじめ
http://n2.upup.be/lRwxXcX9vI

正純まつりのボディーガードにして本来のパートナー。
精神的な問題で義体の自動成長プロセスが停止しているため幼い外見のままとなっている。
五年前のジオイド災害で救助隊による義体化手術を受ける前の記憶と痕跡を失い
喪失感に打ちひしがれていたところを蜘糸商会の燕糸会長に拾われた。
そこで同じ養子で全身義体のまつりと打ち解けて彼女を守る決意を固める。
燕糸会長の妹である八尾に弟子入りしてあらゆる(忍術もとい)護身術を学び、ガチユリダーのパイロットとして訓練を重ねてきた。


BSCスーツ
http://m2.upup.be/ud6g6qtBY3

ウラノスエンジンとの同調を効率的に行わせ、さらにパイロットの命をより安全にするために綾乃が用意したパイロットスーツ。
柔軟性の高い特殊生体繊維でコーティングされているため、あらゆる衝撃を吸収する事ができる。
また胸元のTP受信機を出しているのもその為…と言ってはいるが
露出している肩は無防備だし、ガチユリダーとパイロットを繋ぐタキオンパルスはあらゆる障害物をほぼノータイムで透過するため実はあける意味がない。
実質綾乃の趣味の逸品である。

???

 一方で、愛糸もまた同じような空間を漂っていた。

愛糸(これが、ウラノースシステムの合体……? あれは…)フワフワ

琴主『放っておいてよ!!』ガシャン

『……こらこら、こんな御時勢に食い物を粗末にするやつがあるかね』

 そこはさびれた東京のマンションの一室、しかし今ほど後輩は進んでおらずジオイド災害の当時であることがうかがえる

愛糸(あれは……琴主交…?これは、過去の記録なのか?)

 琴主・交は荒れていた。
 ジオイド災害で多くのものを失った、友達も、街も、そして実の妹さえも。
 両親が義体の治療費を稼ぐために出稼ぎをはじめ、たった一人東京に残された交は売れない喫茶店を経営する親戚の中年男性が生活の面倒を見ていた。
 しかし、交はあらゆるものに怒っていた。
 東京を見捨てた人たちにも、何もかも知っているようなこの男にも、そして妹一人守れないで無様に生き残った自分自身にも。
 その事が、何故かはじめの心にも伝わった。

琴主『食べないでも、大丈夫だもん……私、機械なんだよ?』

『馬鹿抜かすな、人間平気でも飯は食うもんだ』

琴主『おじさんだって、怒ってるんでしょ…?』

『ん?』

琴主『舞を置いて、勝手に生き残ったこと……』

『……もう、35年になるかね』

琴主『?』

『なぁ交、人生っていうのは必ず悔いが残るもんだ。むしろ、悔いの連続といってもいいんじゃないかね…寧ろそれは人の数だけ悔いってのがあるってことなんだ。もしこうだったらとか、もしああだったらとか、そう思えば思うほど可能性っていうのはそこにあるし、そこに手が届かない事を知ると余計に惨めになるもんさ』

琴主『うん……すごく、惨めだよ…なんで、私なんだよ』グスッ

『もし舞が生き残ってたとしても、舞もお前も生き残っていたとしても、きっと同じことになっていたさ』

琴主『?』グスン

『人は何かを得る代わりに、何かを失うものだ。割に合わないことも偶にはあるだろうよ…でも、だからこそ歴史ってのは進んでいく。繰り返そうが巻き戻ろうが違う未来を思い描こうが、俺たちにできることはいつも一つじゃないかね』

琴主『舞のことを、忘れない事…?』

『そう、忘れないで……悔いを無駄にしないことだよ』

琴主『…!!』

『お前のせいで舞が死んだんじゃない、舞がお前に贈り物をくれたんじゃないかね…その贈り物を、無駄にするなよ』

公園

琴主「っだあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 ズズウウゥゥゥ…ン と、地響きを鳴らしてガチユリダーは地面へと降り立った。
 赤と紫の機体で構成される、また以前とは異なる形状をしていた。
 以前は重心を下に、重い鎧で構成されたようなどっしりとしたものだったのが、今度は両腕に装甲が偏った攻撃的なデザインとなっている。
 そして、背景に鬼百合をあしらった黒いウィンドウがいくつも開いていく。

[Frame Change]
[GachiYuriDar=>Orgas Styre]
[Skill Driver Ignition]

 いくつものウィンドゥがガチユリダーのドーム型ディスプレイを埋め尽くし、一瞬で消えて眼前に
[作業終了]
[戦闘許可]
 と二つの表示が表れて、ガチユリダーは起き上がった。

琴主「これは……!?」

綾乃『ガチユリダーの内部も詩実体を使って設計されてるからねぇ♪操縦者のスキルに合わせて形状を変えるのよん、名付けてオーガススタイルねぇ♪』

愛糸「ふぅっ…行くぞ!!」グン

 後ろのはじめが短い腕に合わせて自動的に寄ってきた操舵を握ると、腕の装甲が開き巨大な苦無を装備したナックルが現れて装着された。
 すると怪獣が水晶の羽をはためかせて雄たけびを上げた。

鳥ジオイド『QQQQQQQAAAAAAAAAAAAAAAAaaaa!!!!』

 そして羽ばたくと、その巨体からは想像もつかないような速さで突進してきた。

琴主「わわ、回避!!!!」

 交が操舵を引っ張ると、ガチユリダーの足元にタイヤが装着されて急旋回した。

琴主「な、早い!?こんのぉぉぉぉお!!!!」

 想像以上の旋回性能をどうにか乗りこなし、怪獣の突進を回避してターンしたガチユリダーはナックルを振りかぶった。

[Skill Conecction]

琴主「てやっ!!」ブン ゴォン

鳥ジオイド「QQQQQQQQQQ!!!?」

 ガチユリダーの投げた苦無が怪獣の水晶体を砕くことなく突き刺さる。
 すると飛翔する怪獣は苦無に繋がったワイヤーに動きを止められ、地面へと叩きつけられた。
 しかし、大したダメージを受けていない怪獣は自分から砕けて組変わり熊のような形態へと変化する。
 立ち上がった怪獣はそのままガチユリダーに爪を振り下ろした。
 
愛糸「教わったのが、苦無だけだと思うなああぁぁぁ!!!!」ガッ ゴシャアァァ

 はじめの叫びとともに、装甲に包まれた両腕が怪獣の爪を受け止める。
 そして瞬時に怪獣の腕を掴むと、装甲の突出した肘をその胴体に叩き込んだ。
 砕けた胴体から覗くゲル状のコアが外気にさらされて波打っている。

琴主「愛糸ちゃん!!」

愛糸「琴主交…過去のない私には、無駄にしたくない過去なんてないと思っていた……」

琴主「な、愛糸ちゃんも私の過去見えて…」カァ

愛糸「違うんだな……修行も、負けたことも、すべて悔いにしちゃいけない過去だ!!!!」グン

琴主「…!!そうだよ、だから……!!!!」

愛糸・琴主「「今を守るために、戦おう!!」」

 リリーキャットからガチユリダーの両手にエネルギーが充填されていく。
 炎のような熱を持った両手は怪獣の水晶の体を溶かし、コアを握りしめた。

琴主「ゴブリンリリー、ブロウ!!!!」シュオオォォォオオオ

熊ジオイド『QQQOOOOOOOOOOOOOOOOO……AAAAAAAAAAaaaaaaaaaaa!!!!』ジュウゥゥゥゥ… ゴバアアァァァァァン!!

 コアがすさまじい勢いで蒸発すると、水晶の怪獣は力を失った後爆発四散した。

愛糸「これが、ガチユリダーか…ふざけた名前だけど、良いな」フフ

琴主「あ、ようやく笑った?やっぱり笑顔のほうがかわいいね、愛糸ちゃん」

愛糸「…!!や、見るな!!!!」ググイ

 交は、初めてはじめの笑顔を見た。
 それに気が付いたはじめは思わず笑みをこぼしていたことに気づき、顔を隠して交を押し出そうとする。

琴主「危ない危ない!?…ふぅ」

 席から落ちそうになって慌てた交は、座りなおすと一息ついた。
 それを見ていたはじめは、怪訝な顔をしていたがまたほほえみを浮かべる。

愛糸「でも、お前のことがわからない訳でもなくなった…パートナーとしては、いい結果…かな」プイ

琴主「 !!」バッ

 はじめの言葉に交は顔を上げて、パートナーとして認められた喜びに打ち震える。

琴主「……そうだよ!!これからよろしくね、愛糸ちゃん!!」ギュウゥゥゥゥ

愛糸「に、にゃあっ!?抱きつくな!!だいたい、何でちゃん付けなんださっきから!!!!」

琴主「…え?だってちっちゃいし、年下…じゃないの?制服だって、高等部に来るために着たんだよね?」

 交の言葉に、はじめの眉間から青筋が覗く。

愛糸「私はお嬢様と同い年だ、つまりはお前とも同い年……ちっちゃくて悪いかあああ!!!!」ガアア

琴主「うわ!!落ちる、落ちるから!!!!ごめんよぉ!!!?」

 はじめは禁句を言われたからか、目じりに涙をためつつ交に襲い掛かった。



P.A.U.R.司令室

綾乃「う~ん、いまいち仲良くなりきれてないみたいだけど、出力は上場…そうよねぇツンデレってデレるまでもおいしいものねぇ♪」pi

 携帯から、二人のやり取りでウラノスエンジンの生んだエネルギーを眺めつつ満足そうに綾乃は言う。

綾乃「そうよ、少女たちの姦しい群像からでもいい…どんどん世界を見て、そして世界を知りなさい……やがて、あなたが完全な魂を手に入れたとき…はじめちゃんも私も、すべてを取り戻すのだから」



ビルの屋上

 少女は紅い長髪をたなびかせて、公園に立つガチユリダーを見る。
 その肩には、浮遊する真紅の球体が遊んでいる。

「ハジ、アレはこの世界の敵になりえると思う?」

『半々ってところだな、使い方を誤れば和御霊にも荒御霊にもなりえる』

 紅い球体の言葉に、少女は目を細めて呟いた。

「少し、調べてみる必要があるわね」


第二話『そして愛しきはじめの言葉』 完


《次回予告》

 そして始まった、琴主交の島京での日常。
 まつりが笑い、はじめが怒る。
 女子三人寄らば姦しく、そしてもう一人の転校生が姿を現す。
 そして同時に、ジオイドもまた新たな姿でガチユリダーの前に現れる。


次回『その姦しい日常の中で』

今回はここまで。
はじめが思ったより掴みにくいキャラになってしまいましたが、作者としては萌えキャラのつもりで書いていますのであしからず。

第3話『その姦しい日常の中で』

通学路
 変質者も怪獣もいない平和なひととき、琴主・交は通学路に特徴的な金髪のツインテールを見つける。

琴主「まつりー!」ブンブン

正純「あっ、まじるさぁん♪」タッタッタ

 セントラルビジネスセンターと住宅街の交差点で、正純・まつりは交を見つけると見る見るうちに満面の笑みを作り駆け出した。

愛糸「おはよう、まじる」にゅっ

 そして、まつりが抱きつく直前に割って入った愛糸・はじめ。

正純「あうっ、はじめちゃんひどいですぅ…」

愛糸「お嬢様の足元に小石が落ちていましたからどかしたまでです」ヒョイ

正純「あ、そうだったんだぁ…ありがとう、はじめちゃん♪」撫で撫で

愛糸「えへへ…」ゴロゴロ

琴主「なんか…ガードマンっていうより飼い主とペットだよね」

愛糸「なんだとっ」ガルル

正純「はじめちゃん、めっ」

愛糸「はい…」シュン

琴主「あはは…二人とも元気になったねぇ」

愛糸「ふん!!それはもう、昨日はお嬢様とお風呂に入ったのだ。当然だ!!」ツヤッ

正純「はじめちゃんも疲れがとれたみたいですねぇ♪」

(※お風呂は汚れの洗浄の他、精神的衛生を保ちナノマシンを活性化させるため義肢筋肉痛にも効果があるという)

正純「というか、まじるさんが不思議です。二日連続で戦ったのに、あまり疲れてるように見えませんよ?」

琴主「え?私は鍛えてるからねぇ、だいたい寝れば治るよ?」

愛糸「どこまで過酷になってるんだ東京」

今日はここまで。
前回は世界背景に重きを置いていたので、今回は日常生活メインでやっていきます。

BSCスーツはじめちゃん
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貧乳はステータスだ希少価値だとかは先人の名言と思っているらしい。

ガチユリダー操縦席
http://m2.upup.be/Vt0Yw8nevV
戦いながらイチャイチャできる親切設計。

琴主「そりゃああちこちコンクリートが砕けてアスレチック化してたり、捨てられた動物とかが野生化したり突然変異起こしたりとかはしてるけど…」

愛糸「どうりであんなに身のこなしが良かったわけだ…しかし、そうなると体育の時間が楽しみだな」

まつり「あ、そういえば今日S組との合同授業でしだっけ」

 天銅医大付属はS、ABC、EF、と成績ごとにクラス分けされている。
 何を隠そう愛糸はじめは最上位クラスのS組生徒なのである、尤も5年で忍術じみた技を会得するなど努力家で物覚えの良い彼女ならばそうおかしい話でもないが。

琴主「同じクラスじゃなかったんだ…」セガヒククテミエナカッタダケカト…

愛糸「これくらい取れなければお嬢様の護衛は勤まらない」ナンダソノメハ

琴主「そういえば、島京じゃ義体でも体育の参加ありなんだっけ?」フト

正純「そうですよ?同じ世代じゃ義体もそう珍しくありませんし、医大から義体のデータ作成のためにモニターされてますから万一のことがあっても即対応できますから」

 まつりの返事に、交はだんだんといい笑顔になっていく。
 東京では数少ない生徒でかろうじて運営していた学校で、通常の授業なら受けることができていたものの、義体であることを理由に誰も同じ体育の時間というものを共有したことがないのである。 本来活発な交にとってそれは苦痛でしかなかったのだ。

琴主「……本当に楽しみだ」

HR

先生「えー今日は…今日もか、転校生を紹介する」

琴主「え?」

正純「まぁ、珍しいですね?こんな急に、それにまじるさんに続く転校生だなんて」

 突然の知らせに教室中がどよめいていると、扉を開いてまず目に入ったのは赤い色。
 そして他校の制服に身を包みながらも隠せない、その見事なプロポーション。

琴主「おお」

正純「わぁ…」

 赤く癖のある髪を自由に伸ばしたその少女は些か奇抜な印象を持たせるが、それ以上にその少女は美人だった。
『根本・さいか』と、電子黒板に名前を書くと、クラスの全員に振り返った。

「ねもと・さいかです…このクラスを支配しにきました、よろしくお願いします」

 笑顔で言った、その言葉にクラスが凍りついた。

先生「はい、では根本さんは…んん?」
 先生も一瞬遅れてその挨拶のおかしさに気付いて、さいかを見る。

根本「…何かおかしいですか?」

先生「え、ええいや…ええと……」

 その仮面のような笑顔で振り向かれ、驚いた先生はタブレット端末を覗く。
 タブレットに一瞬のノイズが走るが、気付かず先生はそこに書かれた情報に目を通すと、安心して胸をなで下ろした。先生「あー、根本さんは長い間海外に住んでいて日本語が危うい時があるそうだ。偶に間違えて変なこと言うかもしれんが誤解せず仲良くするように、以上!」

 パチパチパチパチ
正純「は、はぁ…びっくりしました」

琴主「だよねぇ」

 まつりと話しながら、交は一瞬だけさいかを見た

根本(ハジ……設定を勝手に変えないで)キッ

(変なこと言うからだ、焦らせるな)

根本「…!!…よろしく」ニコッ

琴主「!! よ、よろしく」ビクッ

 一瞬だけ、険しい顔をしたさいかに驚いた交は、おとなしくさいかの威圧感ある笑顔に頷いた。

体育 


女生徒A「琴主さんパス!!」

琴主「あいよっ!!」パシッ

女生徒B「琴主さんにパス回った!!」

バッ

 選択科目のバスケットボールの試合、女生徒の投げたボールを受け取ると交は舞うように相手チームの妨害を潜り抜けてコートを駆ける。
 交の義体が特別であるというわけではない、二つのクラスが混じれば流石に何人か同じ義体の生徒がいるし、いずれも交の義体より新しいものである。
 しかし交は自己進化するその義体をフルに活かす環境で育ってきた、それが周囲とここまでの差を生んだのである。
琴主「へいかまーん♪」シターンターン

女生徒C「最初に無茶するなって言われてなかったあの人?」
女生徒B「今更じゃない?」

愛糸「…!!」ダッ

琴主「おっ…と!?」ヒュ

愛糸(受け止められない…!?本当に、馬鹿げた体力……しかし!!)パン

琴主「しまっ」

愛糸「パス!!」

S女生徒「はい!!」

 はじめから正確なパスを受けたSクラスの女生徒はすぐ後ろのゴールを向いた。

S女生徒「シュート!!」

琴主「っは!!」キャッチ

S女生徒「えぇえ!?」

愛糸「甘い!!」ダダッ

琴主「そっちこそ!!」キュ キュキュッ
 ドリブルに向かう交と、妨害に回るはじめ。
 しかし交は先を読んでカットを避けて、はじめも先を読み反対に回り込む。
 今時プロでもやらないキセキな技の応酬に、他生徒は呆然とこう考えていた。
女生徒ABCS「「「もうあの二人だけで良いよね?」」」

 一方、彼女らほど体力のないまつりはバドミントンのコートで練習に励んでいた。
 ……と見せかけて、バスケの試合を見ていた。

正純「うへへ~、まじるさん…素敵です♪」

女生徒D「ま、正純さん?視線がオヤジ化してるよ?」

正純「はっ、すいません」ペコペコ

女生徒D「いや良いけど…E知らない?今日学食の賭勝負するつもりだったんだけど」

正純「え?今日来てましたよね?ちょっと見てきます」タタッ

女生徒D「あ、ちょっと」

根本「…ちょっと練習につきあって貰えます?」スタスタ

女生徒D「あ、うん」
体育館下駄箱


 まつりは女生徒Eも全身義体であることを知っていた。
 最近義体の節々に異常があるから今日の授業が終わったら病院で看てもらうといっていたことも知っていた。
 だからこそ心配になったのだ。

「はぁ……はぁ…」

正純「…?Eさん?……!?」

 聞き覚えのある声が下駄箱の無効に聞こえたまつりは、玄関の橋を看ると驚愕に目を見開いた。

女生徒E「はぁ……はぁ…」グッタリ

正純「い…Eさん!?どうしたんですか!?」ガタッ

女生徒E「やぁ……らめぇ…」

 女生徒Eは弱々しく舌足らずな呻き声を上げることしかできなかった。
 体操服も所々はだけており、息も荒い。
 開発者の娘として義体の構造に詳しいまつりは、手を合わせて女生徒Eの義体をチェックする。
 するとどこにも異常はない、むしろ女生徒Eは心身ともに健康だった。

正純「ど…どう言うことでしょう……?」

女生徒E「とろけひゃう……」クタッ

今日はここまで。
次回、悪乗り開始

昼休み 教室

琴主「……義体の子が次々倒れてる?」

正純「そうなんですよ、義体の方々だけが気付けば息切れして倒れてて、チェックすると何故か前より健康になっているということが今日になって全校で数10件もありまして…」カチャッ チーチキチキ

 交と話しながら、まつりは保険委員用の電脳医療キットに首のコネクターを接続している。
 交は、先生が「貴重な被験者」と言うものだからそう多くないのかと思っていたが、以外に天銅医大付属の全身義体生徒は多い。
 この学園が最先端の医大の付属校であるから義体の生徒が集まると言うこともあるが、それ程ジオイド災害で多くの人々が子供の命を危惧したということなのだろう。
 そう思っていたら、交はまつりのやっていることに気付いた。

琴主「何してるの?」

正純「倒れた方々にハッキングの形跡があったと報告がありましたから、新しい多層防壁を組んでるんですよ。出来上がったら保健室サーバーから配布するつもりです」チチチキチキチキ

琴主「…あの、まつりさん?電脳の防壁ってそんな簡単に組めるものなの?」

正純「これでも保険委員で正純重工の娘ですから♪プログラミングと、ついでにハッカーのも国家資格持ってますよ?」ニコッ

琴主「はぇー…そんな若さでプロなんだねぇ、凄いねまつりは」

正純「…!」パァ

 交の言葉に顔を赤くしたまつりは、医療キットから外したコードを交に向けて席を寄せる。

正純「えへへ…ささまじるさん、予防接種ということでこちらへ~♪」カチッ ズイズイ

琴主「え、いやいや良いよ!?配らなきゃなんでしょ?」アセッ

正純「もう送信済みです、でも…まじるさんは保健室サーバーのアドレスまだ使い慣れてないでしょう?」ジリジリ

琴主「あぅ……」

 交はガチユリダーの操作こそ必死にダウンロードできたものの、元々電子機器に強い方ではない。
 寧ろいきなり通信表示がでることを嫌うため忌避している傾向がある。
 市販の電脳のウィルス対策ソフトウェア更新も、予防注射のように嫌がっているのだ。

正純「大丈夫です、痛くしませんか…らっ!!」ギュッ

琴主「ひゃあっ!?」カチャッ

正純「ほら、ダウンロードしますからねぇ♪」うへへ チキチキ

琴主「だ、だからって直結する必要は…ふひゃっ!?くすぐった!!」ビクッ

 交にとって、他人の義体と直結するのは当然ながら初めての経験である。
 電脳を通して信号化したデータとはいえ元は他人の生体信号であるそれは、ダイレクトに受け入れて自身の電脳を通ると否応なく背筋がこそばゆくなる感覚に襲われるのである。

 しかし、気付くとそれより気になる事実に直面する。

女生徒A「ねぇあれ…」

女生徒B「仲いいよねあの二人」

女生徒C「くそう羨ましい」

 一部の女生徒の視線が集まっている。
 それもそうだ、まつりは同性でも目を奪われるほどの美少女である。
 

琴主「あっ…あのぉ、まつり?…これ、凄く恥ずかしいんですけど……」ピクッ 

正純「余計なこと気にしなーい、あと30%ですから♪」チキチチチチ

 どこぞの黒尽くめみたいなことを言いながらまつりはどさくさに紛れて交の手を握っていた。

琴主「うー…」ピクピク


昼休み 階段屋上前

 人気のない最上階、埃が舞い日の光にチラチラと反射して光っている。
 そんな中、屋上のドアに背中を押しつけられた女生徒は悲鳴を上げるに上げられない状態にあった。

女生徒「ん、ん~っ…んんん、くぅ」ちゅくちゅく

 唇をふさぐのはまた別の唇、突然の蛮行に焦り、息ができない焦燥感に焦り、女生徒は正常な判断もできずにただ唇を重ねる相手の背中を握ることしかできない。

女生徒「~~~~っ、はっ…ぁ」ドシャッ

 やがて、女生徒は急に全身の力を抜いてその場に倒れ込んだ。

「はぁ…また違う。まったく、意外にはずれの方が多いわね」

「少数精鋭ならば特殊な訓練を積んでいる可能性があるな。今までのようには行かないかもしれん、こいつの記憶を消し終えたら次は別の手段を講じるか」

 ため息をつき、姿の見えない相手と語る襲撃者が、倒れた女生徒の頭に手をあてがおうとしたその時だった。

 ギン!!

 と、襲撃者の手をかすって壁にくないが突き刺さった。

愛糸「人気のない場所を選べば、襲撃の場は限られる…見つけたぞ、連続ハッキング犯」

 天井から降り立ったはじめは、襲撃者の顔を見る。

根本「……成る程、特殊な訓練ね」ペロッ

 腕に伝う赤い血を舐めると、根本さいかははじめを見下した。

今回はここまで。
舞台を女子校にして正解だった…

愛糸「はっ!!」バッ シュバ

根本「おっと、っと」ヒョイヒョイ

 初めの投げた苦無を、さいかはいとも簡単によけていく、そこではじめがまず感じたのは違和感だった。
 ハッキングスキルで経歴を隠したのか、それとも何かの器具を用いているのか。
 さいかの動きの自然さ、時々見える首元の痕跡確認…どうみても、さいかは生身の人間だった。
 だからといって油断は絶対にしない、多少の頑丈さを除けば義体と人体の出力にさしたる違いはない。
 その上はじめは生身でとんでもない事ができる人物を複数知っている。
 だからはじめはさいかが『どうやって』ハッキングを行うのかという疑問に深く足を踏み入れることをやめた。

愛糸「何故、全身義体の生徒を襲撃する!!」ギャリッ

根本「!!」

 はじめはさいかにあえて避けさせた苦無に繋いだワイヤーを引っ張り、さいかにとって戦いにくい結界を構築する。
 そしてさいかが一瞬ひるんだその隙に、隠し持った警棒をその喉元に突き付けた。

愛糸「さぁ、答えろ」チャキッ

根本「……」ニィ

 しかし、はじめは最初の選択から間違っていた。
 『どうやって』生身でハッキングを行ったのか、それをもっと深く考えるべきだった。

 バツン

愛糸「なっ…!!」ガクン

 引っ張っていたワイヤーを何かが断ち切った。
 編みこんだ単分子繊維のワイヤーは切れ味がない代わりに攻守ともに使えるほどの強度を誇る、そのワイヤーを信頼していたはじめは引っ張っていた力に引っ張られてバランスを崩す。

根本「惜しかったけれど、答えましょうか…?」ビュッ

愛糸「がっ…は!?」ギュルッ

 そして、ワイヤーを断ち切った何かが初めの体を縛る。
 動けない初めの両頬を撫でながら、さいかは顔を近づける。

根本「私はあの『神』に興味があるの…正確にはあの神に触れ、世界を教え、力を与えた審神者の存在……それがこの世界の味方になるか、あの女のように最悪の敵となるか…さぁ、見せてもらいましょうか?」スッ

 はじめは先に女生徒がされていた行為を思い出し、屈辱にきつく目を瞑った。

愛糸「お嬢…さま……っ!!」

 その瞬間、周囲の空気が変わった。

「さいか!!」

根本「!!!?」バッ

 何者かの声に、さいかは窓を向く。
 空が再び赤く染まっていた。

愛糸「ジオイド…!!」ギリッ

根本「……ふぅん、あいつ等もあなたたちをもっとよく知りたいということか」スッ

 バチッ

愛糸「がっ…!!?」ドシャ

根本「お嬢様とやらか、それに近い人物…これで一気に絞り込めたわ。さぁ出てらっしゃい、人に作られた神様とその審神者……ハジ、私の代わりにその子の記憶を洗っておいて」

「了解」

 さいかが言うと、ジオイドと同じように赤い霧が集まって球体を形作る。
 そしてはじめの首元に触手を差し込んだ。

根本「せっかく収束したんだから、楽しめばいいのに」

「お前ほど悪趣味じゃない」

教室

正純「ほらほら、もうすぐダウンロード終わりますよ~♪」チキチキチキ

琴主「あうぅ…」モウスキニシテ…

 もうすぐ昼休みも終わるという頃には、二人はなお一層妖しい状況となっていた。
 直結のこそばゆさ、まつりの脳をとろかすようなささやきと、意外な押しの強さに負けて交は気絶した生徒とは違う意味でぐったりとしたまま防壁のダウンロードを受け入れていた。
 そして、視線の下に映るダウンロード表示が100%に至ったその時だった。

ウウゥゥゥゥゥゥゥウウウウ!!
ウウゥゥゥゥゥゥゥウウウウ!!

綾乃『ジオイド警報~ねぇ♪』ビーッ ビーッ

正純「えっ!?」ビクッ

琴主「うわ!?」ビクッ ビン!!

 ガツン!! ちゅっ

 突然の警報と、緊張感のない綾乃のアナウンスを急に聞いた二人は吃驚して離れようとするがコードに邪魔されて引き戻される。
 そして二人して見事におでこをぶつけ合ってしまった。
 さりげなく唇同士が触れ合ったが、それよりも頭の激痛で二人は頭を押さえて身悶えた。

女生徒A「なに、警報!?」

女生徒B「昨日の怪獣じゃない!?」

女生徒C「に、逃げないと!!」

綾乃『こっちは準備完了してるわよん、昨日渡したTPジャンパーは持ってる?』

琴主「あだだだ…っ、持ってるよ!!いきなり出てきてびっくりさせないでよ……まつり!!」

正純「………」ぼー

琴主「…まつり?」

正純「…ほあっ!!は、はい!!」ビクッ

 二人は筆箱からペンライトのような器具を取り出すと己の胸に向ける。
 TPジャンパー…タキオンパルスを用いて自分自身を転送信号と化して特定の場所に瞬間移動させる装置である。
 ペンライトから出る光線を胸の受信機に当てることで、混乱する教室の中二人は一瞬にしてその場から姿を消した。 


P.A.U.R. 本部

琴主「うぇっ、やっぱりこれ慣れないなぁ…便利だけど」バシュン

正純「そうでしょうか?」バシュン

綾乃「はいはいお二人とも~♪洗濯は済ませてあるわよん♪」バサッ

 綾乃が二人に投げ渡す、赤と青のBCSスーツ。
 同じデザインとはいえ琴主はため息をついた。

琴主「……も一つ慣れないのがあった…」ハァ

正純「……?はじめちゃんはまだ来ていないんですか?」キョロキョロ

綾乃「…?そういえばそうねぇ…」

 話を聞いていたオペレーターは、即座に義体固有の信号からはじめの現在位置を検索する。

オペレーター「愛糸・はじめの信号は…!?天銅医大付属の最上階にて静止したままです!!」

琴主「…!! それって……」

正純「まさか、はじめちゃんも気絶しているんじゃ…」

綾乃「……こりゃあゆっくりしてる暇はないわね?」ショボン

正純「早く着替えて、迎えに行きましょう!!」タッ

琴主「えぇっ!?ま、まってよまつり!!」タッ

綾乃「…もう、そういう所大好きねぇ♪」ンフフ~

琴主『琴主・交とリリーブレード…行くぞ!!』

正純『正純・まつりとリリーキャット、出撃します!!』

 二人の声とともに、赤と青の機体が踊るように旋回しながら射出された。

綾乃『さすが初合体の二人、息は揃ってるわねぇ♪』

正純『えへへ……』テレテレ

琴主『……!! まつり!!』

 交の声と同時に、リリーキャットに大きな影が覆いかぶさった。
 それは巨大な赤い腕、それがリリーキャットを叩き潰そうとするかのように降り下ろされる。

正純『…!? きゃあぁ!!!!』ギュオ ガガガガガガ

 とっさに避けたものの、腕はリリーキャットの翼をかすって住宅街に手形の穴をあけた。

琴主『まつりいぃぃ!!!!』

正純『だっ……大丈夫です、かすっただけ……でも、一体…!!』

 まつりは揺れた脳を覚醒させようと首を振って、襲いかかってきた腕の根元を見る。
 すると、そこには……まるで阿修羅のような顔をした巨大な人型がリリーキャットを睨み付けて屈みこんでいた。

綾乃『馬鹿な………人型!?』

正純『……っ』ギュオオォォォォ

 リリーキャットは急旋回して人型の怪獣の視線から逃れようとする。
 しかし、怪獣は再び腕を伸ばしリリーキャットの翼をつかんだ。

正純『きゃあっ!! くっ…』ガクン ガガガガガガ

琴主『まつりを離せえええええ!!!!』

 リリーブレードがいつかのように、刃のようなその身を使って怪獣の腕を切断しようとする。
 しかし、次の瞬間怪獣の腕がブレた。

琴主『!!!!』スカッ

 残像のように残った怪獣の腕を貫いて、リリーブレードは旋回する。

綾乃『軸の移動!?そんな、S.N.W.適正者の機体なのに!?』

琴主『目で追うのがやっとだった…!! 今度こそ!!』ギュオン!!

正純『ダメです、まつりさん!!』ギギギギ

 旋回して再び怪獣の腕を狙ったリリーブレードを、怪獣のもう片方の腕が弾き飛ばした。

琴主『うあああああ!!!!』ガゴン

正純『まつりさあぁぁぁん!!!!』


P.A.U.R. 指令室

オペレーター「このままでは、パイロット双方危険です!!」

綾乃「ちっ…!!人型になれるならなんでもっと早く来なかった…?まさか、今までの連中が先兵だった!?」

オペレーター「司令官!!」

綾乃「……リリーキャットから各種武装を緊急パージ!!」

住宅街上空

 バシン!! と、リリーキャットの巨体を構成する武装の一部が爆発するように分離して怪獣の手をこじ開けた。

正純『!! 武装が…!!』

綾乃『まつりちゃん!!琴主ちゃんを回収して帰還して!!』

 綾乃の指示に、怪獣の腕から逃げながらまつりは目を見開いた。
 今ここで逃げることは、住宅街の人々の命を危険にさらすことでもあるのだ。
 地下のシェルターに避難しているとはいえ、生命の殲滅を目的とするジオイドに見つかれば待っているのは地獄のような光景である。

正純『そんな…町のみんなはどうするんですか!!』

綾乃『今回の相手は格が違う、今までの敵と違ってちゃんと思考している敵よ!!』

綾乃『計算が甘かった…今まで来ていたのはガイアの人格の中で最も表層に位置する下位の人格だったと考えられるわ、それを二体つぶされて今度はそれよりも上位の人格が表に出てきた…それがあれよ!!今までジオイドをどこか自然現象と同じようなものとみなしていたけど、あれは最早そんなものじゃないわ!!』

正純『でも…!!』

琴主『そう言う訳には、いかないだろお!!!!』グン

 綾乃とまつりの通信に割り込んで、交が怪獣の胸に飛び込んだ。
 今度は外すことなく、怪獣を住宅街から海のほうへ押し戻している。

人型ジオイド『!!!! SNWAAAAAAAAAAAAAA!!!!』グググググ

琴主『はじめちゃんも、町の人たちも危険にさらせるか!!!!』ゼェゼェ

正純『はじめさん!!』パァ



根本「ふぅん、あの赤い飛行機の中か」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今回はここまで

http://mup.vip2ch.com/dl?f=42340
※日常パートがどこかへ吹き飛んだため暫くバスケで奮戦するアスリート系女子をお楽しみください

全身義体
まつりの父、正純・巌(いわい)が考案した全く新しい義肢規格。
人体の基本構造を機械によって再現し、足りない部分を自己進化型ナノマシンによる自動メンテナンス機能によって補うことで人体部分と完全融合し、人体にあわせて成長することまで可能となった。
綾乃はナノマシンに詩実体を用いることで義体の開発に協力することを条件に、ウラノスエンジンとの接続を可能とするリリータイプ義体の開発を始めた。
リリータイプは義体の最初期モデルとして世界中100人もの女子の全身義体化に用いられ、後に男性用義体を含めた改良型が出回った。
自己進化機能によって人体のスペックに合わせて成長するため、多少丈夫なことを除き人体とそう変わることなく生活を送ることができる。
また両手には通信端末、首筋に優先端末が備え付けられており、島京では義体向けに様々なサービスが試験的に導入されている。
また、リリータイプ義体には胸元にTP受信機を含め両手と同じ各種端末機能を持った部位がある。

琴主『まつり!!』

正純『はい!!』

[AMD Ver0.32 Full drive complete]
[合体準備完了(済)]

琴主正純『『合っ体っ!!!!』』ギン

 赤と青の機体が絡まり合い、再び機械の巨人に変形する。
 まつりの青いリリーキャットと、交の赤いリリーブレードの合体した姿…その名も……

GYD(正純)『乙女合体!!ガチユリダー!!!!』ガシイィィィン


コクピット

琴主「わざわざボリューム全開で名乗らないでぇぇえ!!」///キャァァァ

 恥ずかしさのあまり両手で顔を覆い隠す交に合わせて、ガチユリダーまで両手で顔を覆う。
 しかし、指の隙間から(一瞬顔をしかめて首を傾げていたが)憤怒の表情で拳を振りかぶる怪獣の姿を見ると、ガチユリダーはその拳を受け止めた。

琴主「話の途中で、割って入るなぁ!!」ガゴン

人型『!!!?!? GMN...』

琴主「…っとにかく、早く済ませて」ゴコン

正純「はじめちゃんを助けに行きましょう!!」ガシッ

 交の操作で、ガチユリダーは器用に足元の武装を蹴り上げて手に取った。
 そしてそれを組み合わせて、剣銃リリーランチャーを組み上げた。
 武装をパージしたためガチユリダーは今この剣銃をおいて鎧を脱いだかのような身軽な状態となっている。
 たとえ受け止めることはできても、まともに怪獣の巨大な拳を食らえばひとたまりもないだろう。
 思考する怪獣と、ガチユリダー、二つの巨体は互いをにらみ合ったまま間を見極めあうように静止していた。
 そして、先に動いたのは怪獣だった…突如として震えだし、その目から赤い光が噴出してくる。

人型『………GGGAAAAAAAAAAA!!!!』ビシュウ

 怪獣の両目から出る光線を寸前で回避する、そしてガチユリダーは剣銃を構え怪獣に駆け寄った。

綾乃『……?今、思考を放棄した…!?』

琴主「隙ありいいいいぃぃぃぃぃいいい!!!!」

 しかし、その時怪獣の背中からもう一組の両手が突き出てガチユリダーの両脇に掴みかかろうとする。

綾乃『危ない!!』

琴主「…と」

正純「……見せかけて!!」

 まつりの操作で、ガチユリダーは屈んで怪獣の足元めがけてスライディングを放つ。
 もともとガチユリダーよりもいささか巨大な怪獣は、バランスを崩して倒れこむ。
 そして起き上がったガチユリダーは、遅れて起き上がった怪獣の頭に剣銃を突きつけた。
 しかし怪獣の頭部が激しくぶれ始める。

[S.N.W.site:Connection]

琴主「今度は!!」

正純「もう逃がさない!!」

 ガヂン!! と、ぶれた頭部が強制的に戻される。
 交の視界とまつりの視界がリンクすることで、まつり自身も交と同じ能力を一時的に発揮するのである。
 二人分の強力な可能性の固定を受けて、怪獣はその場に固まってしまう。

琴主(こいつがガイアの意思に近い奴なら…!!)

正純(なおさら、負けられない!!)

 ウラノスエンジンから得られた力が剣銃に充填されていく

琴主正純「「これが、私たちの力だああぁぁぁぁ!!!!」」ズドオオオオオオォォォォォ

 剣銃から放たれた光が、怪獣の全身を焼き尽くした。 

天銅医大付属

 爪先立ちで器用に建物を避けながら、ガチユリダーはグラウンドまでたどり着くと屈んで最上階を覗き見る。
 ちらちらと埃が舞う中、はじめは倒れて気を失っていた。
 胸部が開き、交がガチユリダーの腕を伝って最上階の窓を開ける。

琴主「あれ?開いてら……はじめちゃん!!」

愛糸「あ……ぅ……」

 交がはじめを抱き起こすと、はじめは力なくそれに反応を示す。
 とにかく無事であったことに、交は安堵のため息をついた。

琴主「……よかった」ホォッ

愛糸「……く…な、い」ぐぐぐ

琴主「…!!はじめちゃん!?無理したら……」

 交が言い切る前に、はじめは薄く目を開けて交の背後から迫る人影を睨み消え入りそうな声で交に言った。

愛糸「にげ…ろ!!」

正純『まじるさん!!』


琴主「……え?」ヒュバッ

根本「……ふぅん?」ニヤッ


 交の体を引っ張り上げる、赤い二本の触手。
 そして、赤い紙の隙間からその触手を伸ばし操るさいかは交の体を抱き寄せて有無を言わせずに唇を重ねた。




第3話『その姦しい日常の中で』 完

《次回予告》
人型ジオイド、根本さいか。
強いS.N.W適正の力を持つ交を襲い、彼女はP.A.U.R.本部にまで侵入する。
しかし彼女には、彼女にしかない目的があった。
そして、直接やってきた敵を前にして大人げない大人たちが立ち上がる。

次回『あれは災禍の根本から』

今回はここまで
(;´・Д・)つ    三[日常]


 島京国際空港。
 島京は元々、こういった広い敷地を持つ空港を建設するために開発が進められた人工島だったという。
 それがジオイド災害の避難地として今の大都市建設計画へと変更されいまの形になったという。

「ほんま、世の中何が起こるか解ったもんやないなぁ…」

 飛行機から降り立った、白い和服の女性は島京の街を一望して呟いた。
 そして懐から最新型の携帯を取り出すと、何処かへと電話をかける。

「あー八尾ちゃん、私やよ?今島空…にゃっははは、いやぁ最近怪獣騒ぎとかあったみたいやさかい心配でなぁ…毎日来とるの!?やー頑張っとるなぁ…あ、今まつりさん何処におるか知らへん?…ぱうるの本部?ありがとなぁ♪」

 電話を切ると、女性は鼻歌を歌いつつ鞄を回して空港を歩き始めた。




第4話『あれは災禍の根本から』




 時を少し遡る。

琴主「」

愛糸「」

正純『』

 三人はただ固まってそれを見ていた。 転校生、根本さいかが突然琴主交の唇を奪ったのである。

根本「ん……」ちゅく

琴主「……っ、んん!?」

 全く未知の感触に、ビクッと交の指先が跳ねる。
 さいかは交の手を握って抱き寄せる、そして舌を巧みに使い交の口内を蹂躙する。

琴主「んんっ!?ん~っ、んんん!!!!」ビクビクッ

 未知の感覚と同時に、交は頭の中をかき乱される不快感を感じて激しく痙攣する。
 さいかの髪に紛れた触手が交の首に繋がれて、電脳から何かを探られているのである。

琴主「~~~~~~~ッ!!!!っ、んん……」クタッ

 全身に強い刺激を受けた交は、耐えきれずに意識を手放した。

愛糸「…お嬢……様!」

正純『…!!』ハッ

正純『まじるさん!』グア

根本「!!」バッ

 ガシャアアァァン!!

 まつりの操るガチユリダーの手が壁と窓を粉砕してさいかに襲いかかる。
 さいかはとっさに交を離して飛び退くと階段を駆け下りて逃げていった。

正純『まじるさん!まじるさん!』ガガガガッ

綾乃『まつりちゃん落ち着いて!!それ以上校舎を壊すと二人も危険よ!!』

正純『…っ』ピタッ

 まつりが手を止めると、はじめがなんとかワイヤーの結界を張って瓦礫から交の身を守っていた。
綾乃『とりあえず、二人と一緒に撤収…彼女のことは後で聞くわね?』

正純『……っ、わかりました』ギリッ

 まつりも綾乃の冷静な判断に頷きながら操舵を強く握る。
 正純まつりもそこまで感情的な人間ではない、おしとやかで人当たりのいい明るい性格からのどかな人柄と見られがちだが、その実どちらかというと現実主義で冷静な人物である。
 そのまつりが此処まで感情的になるのを見たのは、綾乃にとって初めての事だった。

綾乃(ウラノスエンジンによる精神浸食…という訳ではないか、ガチユリダーの性質は状況として彼女の好意的な感情に少なからず影響している…か。これが何かの障害にならなきゃいいんだけど…ね)

P.A.U.R.医療室

 交はベッドに寝かされて、首元を医療キットに繋がれていた。
 それを椅子に座りながら見守るのは綾乃とはじめとまつりの三人だった。

綾乃「まさか直接パイロットを狙われるなんてねぇ……」

愛糸「ああ、あの触手…間違いなくあれはジオイドだった」

綾乃「でも直接生徒たちを殺す気で襲うことはなかったと…ね?」

愛糸「幸い、お嬢様の組んだ多層防壁のおかげで本格的な侵入は避けられて良か……」

正純「良くないです」ワナワナ

愛糸「……」

正純「だって……まじるさんの唇を奪われたんですよ!?はじめちゃんだったらまだしもあんなポッと出の女の人なんかに!!」わぁっ

愛糸「落ち着いてくださいお嬢様本音がダダ漏れです!!私ならまだしもってなんですか!?」ガタッ

綾乃「しっかし前のジオイドといい、妙なことが起きてるわねぇ……」

愛糸「妙なこと?」

綾乃「まずでっかい方…思考するジオイドだと思っていたのだけれど、奴は突然しびれを切らすように思考を放棄したわねぇ。まるで他の表層ジオイドと変わらないようにただ人を襲うだけの存在へと自らを貶めた、その変化は本来ありえないことよね?地球意志っていうのはそうポンポン性質を変えるものじゃないの、そんなせっかちだったら60億年も知識の番人なんかやってないでしょうしねぇ…」

愛糸「つまり……何か急激に変化せざるを得ない事情があった…?」

綾乃「まずジオイドの発生からして予兆はあっても急激だったことは事実よ…私は何か、思い違いをしていたのかもしれないわねぇ……」ふむ

 綾乃は考え込む、この惑星の滅びを予知してジオイドを生み出した地球…
 そのジオイドのとった矛盾だらけの行動、人型ジオイドの出現…

ヴィー!!ヴィー!!ヴィー!!ヴィー!!

 それらの情報がつながりあう前に、本部内に警報が鳴りだした。
 綾乃はため息をついて携帯からオペレーターにつなげる。

綾乃「どうしたの?」PI

オペレーター『本部サーバーが何者かの襲撃を受けています!!未知の言語によるハッキングで…このままではサーバーが乗っ取られます!!』

 オペレーターの切羽詰まった声を聴きながら、綾乃は顎に手を当てて考えた。
 そして……

綾乃「そう、すぐ行くわね。はじめちゃん、まつりちゃん、行きましょうかねぇ?」ガタッ

愛糸「えっ?」

正純「そんな、交さんは!?」

綾乃「本部のサーバーが持っていかれたら守るもんも守れなくなっちゃうわねぇ?それに、まつりちゃんのスキルがちょっと必要かもしれないわ…」

正純「…!!……はいっ!!」ガタッ

愛糸「お嬢様!?あー、うー…ちょっと待って!!」ガタタッ

 綾乃についていくまつりと、眠ったままの交を交互に見て困り果てたはじめは、とりあえず立ち上がって二人について行った。

 そしてドアを閉めて交を残し無人となった医務室……しかし、すぐに静寂を破って換気扇のダクトが外された。

根本「よいしょっと…ふぅん?思ったより結構なザル警備ね…」

 ダクトから姿を現したさいかは、早速といわんばかりに交の首に触手を差し込むと電脳の内部にアクセスして視覚データを書き換える。

根本「……ふむ、こんなもんでいいかしら?」フフン

琴主「う…ん?まつ…り?」

根本「ふぁ!? ちょ、待って!?」

 すると交が突然目を覚まし、さいかは慌ててその場から隠れようとした。
 眠そうに眼をこすると、交は目を細めてさいかの隠れた先を注視した。

琴主「………?」ジィ~

正純?「こほん、えふん…え~、大丈夫ですか?まじるさん?」

 交の目には、その先に隠れていた人影がまつりにしか見えなかった。
 視覚に侵入してデータを変更したことで、今の交にはさいかがまつりに見えているのである。

琴主「……んん、変な感じ…何があったの……」

正純?「ちょ、ちょっとまって…下さい。えーと…」

 交は寝ぼけているのか、目をこすりながらゆっくりと起き上がる。
 そしてさいかは交の肩に手を置いて人差し指を立てた。

正純?「そ…そうだ!!さっきの戦いのあとに、急に気絶してしまって……だから、急いで医務室に運んだんですよ」

琴主「んん……そうだったんだ…」ウトウト

正純?「まじるさん、ちょっと外に出ませんか?」

琴主「え?」

正純?「皆さんには、私から連絡しておきますから」

琴主「……んん、わかった」


~~~~~~~~~~~~~~~~
今回はここまで

乙。追いついた
ツンデレロリに続いて、
待望の巨乳キャラは等身大ジオイドで主人公のファーストキスを奪うとは……
しかし、人の姿をしたジオイドもいるということは、綾乃はもしかして

各話のサブタイトルの付け方が割と好きだな

あと、キャラ名ミス

>>63
>正純『ダメです、まつりさん!!』ギギギギ

漢字の変換ミスは脳内変換するからまあ良いけど、
流石にキャラ名ミスは萎えるので気をつけて欲しい

P.A.U.R.司令室
 司令室は、P.A.U.R.中の職員でごった返していた。
 未知の言語に浸食されていく画面があちこちのモニターに開いては消えていく。
 そのメインコンソールでオペレーターに加わりまつりもその対応に追われていた。

オペレーターA「第三、第七経路封鎖!!」

オペレーターB「アカシャ年代記から逆算結果出ました、経路数…3325!?」

正純「おそらくデコイです、発熱量と通信の少ない順から断線して下さい!!」

オペレーターC「自己増殖ウィルスらしきデータを確認しました!!」

正純「言語は違っても防壁は有効です、逆に此方も叩き込んで下さい!!」

愛糸「…」カチャカチャ

綾乃(ザルでわるかったわねぇ…軍隊じゃないんだから、こちとら元はただの研究機関だってのねぇ)

 ハッキングで混乱する司令室の中、綾乃は携帯から交とさいかをモニターしていた。
 さいかの行動におけるジオイドとしての特異さに興味を持った綾乃は交をエサにさいかの目的、事情、ジオイドに関わる疑問のヒントを探るつもりなのである。
 そのため、あからさまな時間稼ぎのためのハッキングをエサにまつりとはじめを司令室に呼び込み
、基地内の隊員にこっそりさいかをあえて逃がすよう指示していたのだ。
 そして、保険をもう一つ。

綾乃(さぁて、怖い大人が来る前に…どれだけ情報を引き出せるかしら…ね?)



公園

 一番近い路から地上に出ると、いつか水晶の怪獣と戦った公園の地下シェルターに出ていた。

琴主「普通に出るの初めてだけど、パウルってこんなとこに有るんだね?」

正純?「そ、そうですねぇ…」ギクシャク

 さいかはギクシャクとぎこちない動きで交を先導する、その姿に先程や学園で見せたような自信は感じられない。

琴主「……正純、ちょっとその辺散歩しない?」

正純?「…!!そ、そうですわね!!願ったりかなったりです!!」

 二人は広い芝生に
包まれた公園を歩く。
 完全に目を覚ましている交は、意を決してさいかに言った。

琴主「もう良いよ、無理しなくて。まつりの真似も疲れるでしょ?」

正純?「ぐっ…」

 交の言葉に、さいかは固まった。
 交は視線の端にさっきから出ている[×]の字に触れた。
 すると交の視界からまつりの姿が消えて、さいかの姿になった。

琴主「気絶の犯人は根本だったんだね…多分ハッキングは今の私には効かないよ?まつりの防壁、結構凄いね?」

根本「うぐぐ…っ、ふ、ふぅん、バレてたのならなんで」

琴主「だって悪い奴じゃないでしょ?」

根本「 な」

琴主「悪い奴やジオイドなら、気絶した人を一々健康にする筈ないもん」

根本「そ、それは偶々よ。好みの娘だったから生かしておいただけよ!!」かぁっ

琴主「好みって…悪いジオイドならそんな判断しないと思うんだけど」汗

根本「……でも、私はあなたの敵よ?」

琴主「後悔しないコツ、『疑わしきは話を聞け』…ってね。何でこんなことしてんの?」

根本「~~~っ」

根本(なんなのよぉこの審神者はぁ…ハジぃぃ陽動は良いから早く帰って来てよぉ)

 さいかは頭を抱え込んだ。
 まるで予想だにしないバレかたと交の判断で訳が分からなくなる。
 実のところ、根本さいかは相棒の力あってこそ強気でいられるのだった。

 一方、P.A.U.R.のサーバールームでは柱の陰に潜み、赤い球体が触手をサーバーに繋いでいた。

ハジ「それなりに優秀だな、流石にヒトの作ったプログラムはヒトの方が得手か……しかし、演算力なら私の方が……」

 ハジは、地球の表層意識を集めて作られたガイアの人格である。
 そのため、近年の発展を促す電子情報の知識を多く記録している。
 しかしその為か、ハッカーとしての誇りやプライドも人格に織り込んでいるのだ。
 だからこそ、彼?は迫る闇に気付かなかった。

ハジ「……しかし、さいかは無事だろうか…?誤って捕まっていなければいいんだが……!?」バチッ

 突然、デコイに張った偽装経路から大量のデータがハジに流れ込んだ。
 その言語はハジやさいかの用いるものと同じ、本来ガイアが記憶を残すために用いる言語だった。

ハジ『サーバーから情報が逆流する…!?馬鹿な、人間の演算能力がここまで高いわけが…』

『意志を持つ何者をも、襲い来る滅びから逃れることはできない』

ハジ『これは………連中の!?……ヒトのサーバーを経由して、因子を直接…いかん、感染するTUUAGGYUGGGYAGYAGYYGAY!?』ジジジ…ジジジジジジ

『せめてその手で、穢れた歴史を握りつぶせ』

ハジ『Sいか……SMなYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYGAGAYGYAGAGAAAAAAAAAAAGGGGGGGGGGGGGGGGG!!!!』

『白く塗った清涼な世界で、救われる歴史を紡ぎなおそう』

 ノイズ混じりのその言葉と同時に、ハジの体はジオイドの霧となって大気に溶けていった。




P.A.U.R.司令室

オペレーターA「…!?ハッキングが、止まった!?」

正純「!! 今のうちにメインプログラムを修復してください!!」

オペレーターs「「了解!!」」カタカタカタ

正純「……ふぅっ」

 安心して司令室のメインコンソールに座ったまつりは、ふと綾乃のほうを見る。
 綾乃は一心に携帯の画面を見て、その会話内容をイヤホンで聞いていた。

綾乃「……」フムフム

正純「……何を見てるんですか?…あぁっ!?」ガバッ

 その画面を覗いたまつりは、すぐに携帯を没収してイヤホンを外す。

琴主『しかし暑いねー』

根本『ふぅん、じゃああのベンチで話しましょうか』

綾乃「うわ!?人の携帯覗くのはマナー違反よん!?」

正純「……」

綾乃「あの…ま。まつりちゃん?」タラ

正純「説明していただけますか?」ニコッ

綾乃「 はい」シュン

公園

根本「…気がつけば、私はジオイド災害の中でヒトの体を持って収束してたの」

琴主「……」

根本「ガイアの人格は数え切れないほどに複数ある、その中で私という人格は所謂中枢のみの人格を複合して収束した…」

琴主「多重人格?」

根本「というより複合人格ね、ガイアの人格は記憶を貯めるだけのニューロンみたいな物だから」

琴主「ジオイドから助かるために義体化した私達と、ジオイドに人格を詰めて生身の肉体を得た根本…ちょうど真逆って訳だ」

琴主「…じゃあ、教えてよ。なんでジオイドはこの世界から生き物を駆逐しようとしてるの?この先、生き物はこの地球に何をすることになるのさ」

根本「……わからないのよ」

琴主「…え?」

根本「わからないの、気がつけばガイアの人格の大半が口を揃えて言い出したのよ。『この歴史を滅ぼせ、歴史を作り出す生命を滅ぼせ』って……」

琴主「……なっ、何それ!!」

根本「私のもとになった人格たちは、まるでウィルスのように広まっていくその意思から逃げるために体を作って、端っこの表層意識を集めたハジって相棒と一緒にこの世界に収束した……そして、彼らがおかしくなった原因を探して回ったの」



根本「……ねぇ審神者さん」

琴主「さにわ…って何?」

根本「知らないのか…この世界って、神様から見ればどう映ると思う?」

琴主「神様って…ガチユリダー?」

根本「いや、ガイアや既存の神…総じて、可能性の力を操り、移動できる存在をそう呼ぶとしてよ」

琴主「?」

根本「…今この瞬間の世界を一つの点、一次元に例えるとする。高さの軸を四次元の『時間』…、可能性は縦横軸になるの。世界点は積み重なって、時間の軸に積み重なる積み木のようなものになるわ」

琴主「は、はぁ…」

根本「この積み木を重ねるのは、人間…それも、強い審神者の力を持つ人間の『目』なの。詳しい仕組みは省くけど…シュレディンガーの猫実験を常に重ねてると言えば解る人はわかるかしら」

 案の定、交にはさいかの言っている意味を朧気にしか理解することができなかった。
 しかし、思い当たるものがある。

綾乃『どんなに5軸の向こうに逃げても見つける才能…』回想

琴主「S.N.W.適性…?」

根本「そう、それは生命の持つ根源的な力。時にそれは有り得た力を引き出し、可能性に偏在する神をこの世界に引きずり出す事も、使い方によってはこの歴史をバラバラに壊すこともできる」

琴主「そんな…そんなこと!!」


根本「現に、29年前…一人だけ歴史を壊そうとした人間がいたのよ…失敗に終わったけど」

 さいかの言葉に、交は思わず足を止めた。

琴主「……え?」

根本「あなたの今の状況は、『あの女』に限りなく近い。だから私達は、ジオイドと呼ばれる人格達がおかしくなったのも、そいつのせいと思ったから、あのロボットに近しい審神者を探して……」

琴主「ちょちょちょちょっと待って!!今さらっとスケールのでかいこと言ったよ!?…それって、その人って……誰?」

根本「それは…名前までしららないんだけど、あの組織の…」


「そこまでです」

P.A.U.R.

綾乃「げっ」

正純「…?どうしたんですか?」

 まつりが振り向くと、綾乃は瞬く間に携帯を奪い取って電源を切ろうとする。
 しかしまつりはその手を抑えてそれを止めようとする。

綾乃「い、いいいいやいやちょっと映像切ろうかしらん!?」アハハハ

正純「な、なんですか一体!?」

 まつりと綾乃が言い争っていると、聞き覚えのある声が突如携帯から聞こえてきた。

『そこまでです…』

正純「あれ、この声って…」

綾乃「うわ!!良いんだか悪いんだかわからないタイミングで!!」バッ

 携帯の画面に映っていたのは、サングラスを外しスーツのネクタイを締めなおす八尾の姿だった。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今回はここまで

>>75
申し訳ないです
可能な限り気を付けます、マジで(土下座

公園

 気がつけば、公園に人影は見あたらなくなっていた。
 放課後の時間も過ぎて薄暗くなった公園の中、街頭に照らされた八尾は背に手を回すと、何処からか長刀を抜いて振り下ろす。

八尾「…貴女ですか、生徒達を襲撃したジオイドというのは」ギン

根本「…っ!?」ギシッ

 八尾の一睨みで、さいかの触手は音を出して固まった。

琴主「や…八尾さん?」

八尾「手出し無用、私の可愛い教え子に手を出しましたね…?」

琴主(はじめちゃんの事…だよね?……やばい、どう見ても)

根本「ふ、ふぅん?だからどうしたの?」

琴主「根本、あれ…あのはじめちゃんの保護者で…」

 スパン

 ゴトッ と、半分で裂けたベンチが一瞬遅れてバランスを崩し音を立てた。
 サァッと二人の顔から血の気が引いた。

八尾「参ります」スラッ

琴主「にっ…逃げろぉぉ!!!!」ダダッ

根本「ひゃあぁ!!?」ダダッ

八尾「待ちなさい!!」


P.A.U.R.司令室

愛糸「怒ってる…師匠すごく怒ってる…!!」ガクガク

綾乃「あー、はじめちゃんも襲われたって言っといたのが効き過ぎたわねぇ」

正純「え?はじめちゃんもキスされたんですか?」

愛糸「」ブルブルブルブル

綾乃「……てへっ♪」

正純「は、早く連絡しないと…って八尾さん携帯持ち歩かない人ですよ!?」

愛糸「…南無」

綾乃(よくそれでCEO勤まるわねぇ…あだから会社に住んでるのかしらねぇ)

綾乃「しかし打つ手ないわねぇ、誰か連絡役居ればいいんだけど…あ」

公園 キャンプ場ログハウス

琴主「ぜぇ…ぜぇ…」

根本「はぁ…はぁ…」

琴主「なんとか、まいた?」

根本「というか、何であんたまで逃げてるのよ」

琴主「……なんというか、怖かったから?」

根本「…はぁ」

琴主「根本ってやっぱりジオイドっぽくないね」

根本「はぁ?同然でしょ私はあいつ等とは違うのよ」

琴主「いや、そうじゃないんだよ。なんというか…人間らしいっていうかね」

根本「……」

琴主「…根本?」

根本「うるさい、嬉しくないわよそれ」

琴主「ああ…そうかな」

根本「…人間なんかになったせいで、この五年間…ずっと私は余計な症状に悩まされ続けたわ」

琴主「余計な…症状?」

根本「あなたも、ジオイドのせいで妹を亡くしてるでしょう?」

琴主「…」

根本「私の体も、ジオイドで出来てるのよ?」

琴主「……」

根本「人間として生きていく上で、私は嫌でも人間という物を見せつけられてきた…人間だけじゃない、ジオイドに生命を蝕まれた色々な生き物を目にしたわ」

琴主「罪悪感…?」

根本「おかしいわよね!!私はガイアよ、生命の有無も関係なしに、ずっとずっと地球を運営してきた知識の番人よ!!この災禍の根元よ!!」

根本「……なのに…怖かった……泣いている人が恐かった、怒ってる人が恐かった、憎んでる人が恐かった…そんな中で生きる私も、こんなことを始めたガイアも恐かった…ハジが居なかったら、私が『私』と知るものが居なかったら…どうにかなってた……」カタカタ

琴主「根本……」

ぎゅっ

根本「……っ」

琴主「さいかは悪くない…」

根本「でも…ガイアは……」

琴主「此処にいるのは根本さいか、ジオイドだろうがガイアだろうが、災禍の根本なんかじゃない」

根本「…っ」グスッ

八尾「話は大凡分かりました」

琴主「!!!!」

 ジギン と、ログハウスのドアを細切れにして八尾は現れた。
 しかし、ログハウスに足を踏み入れると長刀を背に仕舞いさいかを見下ろす。

八尾「あなたがジオイドでないのなら、私には貴女を叱りこそすれ斬る理由はない」

根本「…」

八尾「しかし、あなた自身はどうなんですか?」

琴主「八尾さん!!」

八尾「人とジオイドの狭間の存在、何時ジオイドになるとも知れない輩を子供達の前に置いておく事などしません」

八尾「貴女は人間か、否か」

根本「……っ、私…は……」


(Sい……Kぁ………)


根本「……っ!?ハジ?!」

ヴウウウゥゥゥゥゥ!!
ヴウウウゥゥゥゥゥ!!

八尾「!!」

琴主「まさか、ジオイド!?」


~~~~~~~~~~
今日は此処まで

 それは、分子模型のように棒で繋がれた巨大な赤い球体がいくつも集まったかのような怪獣だった。
 球体の一つ一つが光り瞬くと同時に、島京の街から火の手が上がった。
 逃げまどう人々はシェルターに駆け込むが、シェルターさえも電子制御の部分が開け閉めを不定期に変えて侵入を拒んだ。


P.A.U.R.司令室

オペレーターA「敵ジオイド、市街のあらゆるコンピューターにアクセスし情報から詩実体を形成、爆破しています!!」

綾乃「ちっ、間に合わないか……はじめちゃんはリリーキャット、まつりちゃんはリリーブレードで出撃!!まつりちゃんはガチユリダーの演算補助でハッキングを可能な限り押さえて、その間に誘導をすます!!」

愛糸「了解」

正純「でも、まじるさんは……」

綾乃「今は市民の誘導が最優先!!誰も死なせるわけには行かないのよ!!」バッ

正純「…っ、わかりました!」タッ


ログハウス

琴主「やっぱり、ジオイド…」

 ギュォォォオオオォォォン

琴主「青いリリーブレード!?それに紫のリリーキャット…まつりに、はじめちゃん!?」

八尾「行きなさい琴主さん」チャキ

琴主「で…でも…!?」

 交が振り返ると、さいかは俯き髪から二本の触手を刃のように尖らせていた。

根本「…そこを退きなさい、人間」

八尾「…それは、否という事ですか?」

根本「ハジが感染した…」

琴主「……!!」

根本「放って置けば、おまえ達はハジを殺す。それだけは、許さない……私は、ジオイドよ!!」シュルルルル

八尾「無駄です、私にも琴主さん程でなくともS.N.W.適正があります。あなたの触手は…」

根本「だ、か、ら、どうした!!!!」ダッ

八尾「!!!!」ギン

根本「ア゛ア゛アアア!!!!」ヴン

 八尾の視線による拘束を、さいかは力付くで振り切って触手を振る。

根本「どけえええ!!!!」

八尾「…残念です」シャキン

 振り上げられた太刀が、さいかに目掛けて無慈悲に振るわれた。

根本「―――ッ!!!!」キュッ

琴主「さいかぁぁ!!!!」


ズン

 その音に、交は目を閉じた。
 そして、恐る恐る目を開けていく…すると、そこには予想外の光景があった。


 白い和服、長く白い髪の少女が、八尾の長刀とさいかの触手を素手で受け止め二人の動きを止めていたのだ。


「…何してんねん、八尾ちゃん?」

八尾「あっ…姉様!?」

 その少女に、交は見覚えがあった。
 いつかはじめの過去に現れた人物…

琴主「蜘糸商会の…会長?」

 会長は、さいかの触手を離すと一歩引いて道を譲る。

会長「大切な人助けに行きたいんやろ?行ったらええ、止めはせえへんよ」

根本「…!!」

 言われるがままに出て行くさいかを見送り、会長は交に振り向いた。

会長「はじめまして琴主交さん、私は燕糸・容呼(ようこ)…まつりさんの保護者やっとりますえ、よろしゅうなぁ」ニコ

琴主「あ、ああどうも…って、さいかを追わないと!!」

八尾「そうですよ、あのままだとあの子…」キィィィィイイイイン…

ゴシャアアァァァ!!!!

琴主「…っ!!何の音!?」

容呼「まぁまぁ、すぐ追うことになるんやから」

琴主「…?」キィィィィイイイイン

ゴシャアアァァァ!!!!!

 …と、ログハウスの一部を砕きながら青いリリーブレードが墜落した。
 砕けた壁の向こうには、同じように墜落したリリーキャット。
 触手ではじめを優しく下ろし、そのコクピットに乗り込もうとするさいかの姿が目の良い交には見ることができた。

琴主「さいかっ…!!」ダッ

八尾「…!!待ちなさい!!」

 交は制止も聞かずログハウスから飛び出した。
 しかし、リリーキャットはピンク色に染まり市街地へ向けて飛んでいってしまった。

容呼「…行ってどうするんですえ?結局、ジオイドとは戦わなくちゃなりませんえ?」

琴主「…!! 判らないけど…でも、さいかもあのジオイドも、他のジオイドみたいなことしたくないに決まってる、戦いたくないに決まってる!!なら、止めないと!!」

容呼「……なら、信じてくとええ…その機体を、そしてさいかさんを…」

琴主「…?」タッ


容呼「…ほな、私達は準備するとしましょおか♪」

八尾「何のです?」

容呼「歓迎会や♪」

八尾「………はぁ」

リリーブレード コクピット

 交は手動でリリーブレードのコクピットを開ける。
 BSCスーツに身を包んだまつりは、電子戦用のコンソールを開いたまま気絶していた。

琴主「まつり!!」ガコン

正純「けほっ…はぁ……まじる、さん?」

琴主「大丈夫!? すぐ下ろすから…」

正純「まじるさん…あの子を助けに行くんですね…」

琴主「…!! ごめん、今できるのは…私しかいないと思うから……」

正純「…まじるさんの、天然ジゴロ」ムゥ

琴主「な、なんだよぅ」

正純「…そう言うところ、好きです」

琴主「…っ」かぁ

正純「…っ」ぎゅっ

琴主「!?」ちゅっ

正純「…っ、……っ」ちゅ、ちゅっ

琴主「…!!……!?!!?」むがもも

琴主「ぷはっ!!ま、まつり!?いきなり何を…」

正純「まじるさんの始めては、私なんですからねっ!!」

琴主「……んん?」

 そして交は思い出す、昼休みにジオイドが襲撃してきたときの事故を。

琴主「あ、ああああれはノーカ…」アワワ

正純「ノーカンじゃないです!!初ちゅーは私の!!あの人は、二番目です!!」

琴主「うう、そういうのじゃないからぁ…」///

正純「わかってます、でも…ね?」うるっ

琴主「…はいはい」どうどう

正純「じゃあ、任せます…人々はもう誘導しましたから…好きなだけ」

琴主「……うんっ!!」


~~~~~~~~~~~~
今回はここまで。
迷った結果会長も年齢と外見が一致しない子になりました



事故キスイベントとしては、敵襲撃という状況で仕方なかったとはいえ
照れ要素がなかったのが悔やまれるな
今回、時間差で照れ要素きたけど

早速さいかが搭乗するとは、なかなかの伏線高速回収
そういうのは好きだ

ところで、第3のリリーシリーズ戦闘機はまだですか
従来よりも強い敵に苦戦していたその時――って感じで
3機合体ありますよね? 某念心合体みたいに

>>52
よく見たら、ガチユリダー操縦席の密着率高いなww

P.A.U.R.司令室

オペレーターA「リリーキャット、敵ジオイドとエンゲージ!!…しかし……」

綾乃「乗ってるのはあのジオイド娘ねぇ……」

オペレーターB「緊急シャットダウンをかけないで良いんですか?あの子が敵に回ったら……」

綾乃(敵…か。一体敵は何処にいるのかしらねぇ……)



根本『現に、29年前…一人だけ歴史を壊そうとした人間がいたのよ…失敗に終わったけど』回想

根本『あなたの今の状況は、『あの女』に限りなく近い。だから私達は、ジオイドと呼ばれる人格達がおかしくなったのも、そいつのせいと思ったから、あのロボットに近しい審神者を探して……』回想



綾乃(………まさか、これさえも『お前』が遺した物だというの…?)

 綾乃は自らの右肩を掴むと、モニターに視線を戻し立ち上がる。

綾乃「……状況は続行、交ちゃんの交渉能力に今は賭けましょう!」

オペレーターB「!?」

オペレーターA「しかし……」

綾乃「ウラノスシステムがあの子を認め続けているのには何か理由がある筈よ、それに今シャットダウンすれば再起動までにジオイドの侵攻が再開する可能性が高い…それに」



公園

容呼「……もしも全ての事が繋がっていたのだとしたら、止められるのは『子供たち』しかいない……せやろ?綾乃……」

市街地上空 リリーキャットコクピット

根本「…っ、ハジぃぃ!!」

 触手をコネクタに挿してリリーキャットを動かすさいかは、眼前にそびえ立つ怪獣に叫ぶ。
 怪獣は棒を軸に回して不定形に変形しながらそこに浮かんでいた。
 そして、怪獣はその触碗を伸ばし先端の球体から水晶の怪獣と同じ光弾を放った。

分子ジオイド『SYKAAAAAAAAA!!!!』バシュシュシュシュ

根本「きゃああぁ!!!!」ギュウン

 リリーキャットを旋回させて怪獣の光弾を避けるが、なれない上に知らない戦闘機の操縦のためかバランスを崩しビルに激突しそうになる。

琴主『さいかぁ!!』ガシュン

 交の乗るリリーブレードが一部変形し、ガチユリダーの腕を作ってリリーキャットを捕まえた。

根本「…っ、離して!!!!」ババババ

琴主『いたっ…!!こら!!』

 リリーキャットはリリーブレードに機銃を放つと、離れてミサイルをリリーブレードに向けた。

根本「おまえ達に、ハジは殺させない!!」ガシュン

琴主『さいか、違うんだよ!!』

 しかし、リリーキャットは背後に庇った怪獣の触碗にはたき落とされた。

根本「うわあぁぁあ!!」ガガガガ

分子ジオイド『T歴史を…SK終わらせようT…』

根本「……っ」

(助けて……)

 確かにそう聞こえた、ハジの声。
 さいかは逆噴射で持ちこたえるとリリーブレード目掛けてミサイルを放った。

琴主『止めるんださいか!!』ギュォォォオオオン

 リリーブレードはミサイルと怪獣の光弾をよけて飛び回り、光弾にミサイルをぶつけて爆破する。

琴主『まだ間に合う、一緒に友達を元に戻す方法を考えないと二人とも……うあ!!』ガガン

 光弾を被弾したリリーブレードに、さいかはレールガンを向ける。
 チャージの間、交の顔を思い浮かべてさいかは涙を流す。

根本「貴女は本当に良い子なのね…でも、もう止まれないのよ…私も、この世界も!!!!」バヂヂッ ズドン!!!!

 放たれたレールガンを、怪獣の触碗が多い被さるように防いだ。

根本「!!!?」

琴主『これは…』

分子ジオイド『GGGAAAAAAA!!!!』

根本「ハジ!!!!あんた…なんで……」

分子ジオイド『SYKN …TMWNY…nnnN何も何も何も何も…』

 何かを言おうとする怪獣の唸りもノイズに消えて、先と同じ譫言のような言葉に塗り替えられる。

分子ジオイド『D何もないRK無垢な世界でWTSWあるべき歴史をTMTKR紡ぎ直そう』

琴主『……っ、誰がそんな事望んでるんだ!!』

 知らない『何か』の声に、交は怒りを露わにする。
 しかし、さいかはノイズに隠れた怪獣の言葉を聞いた。

根本「誰か…止めてくれって……」

琴主『…!!』

根本「私だけじゃ、無理だよ……もう、無理…」

琴主『だから……』

[AMD Ver0.32 Full drive complete]
[合体準備完了(済)]

琴主『一緒に助けようって、言ってるんだ!!』ギン


???

琴主「…!!」フワフワ

根本「……何で、何で信じられるの…」フワフワ

 交は真っ白な空間に膝を抱えて漂うさいかに、泳ぐようにしてよりそうとその手を握る。
 
琴主「理由か何かで説明しないと信じちゃいけないのか!!」

根本「!!」

琴主「素直に頼めばいいんだ、負い目も何も感じないで……きっと、さいかは慣れてないだけなんだ…信じられることに、信じることに…あのジオイドたちだってそうだ!!」

 さいかの手をを強く握った交は、そのままさいかを抱きしめる。

琴主「たまには、信じてよ……私たちの事を」

根本「……いいの?」

琴主「良くない訳がない!!」

 交の言葉に応じるように、白い空間の中央で回る赤い三点が輝き始める。
 それがガチユリダーの応えのように視界を開けさせていく……

 赤と桃色の期待が絡まりあっていく、組みあがった巨人の背中に装甲が集まっていき一対の翼と赤く輝く二本の尻尾のような触手が生えて風もないのにたなびいている。

琴主「ガチユリダー、あんたも神様っていうのなら…信じてるから!!」

[Frame Change]
[GachiYuriDar=>=>Rubellum Style]

[S.N.W.over effect:Across5 Connecter Ignition]

琴主「一緒に奇跡を起こして見せろおおおお!!!!」

[Revolution]

[詩実体:ヘーメラー因子取得]

 新しい姿を構築したガチユリダーは装甲の隙間から山吹色の光を放ちながら怪獣と相対した。

オペレーターA『ガチユリダー、フレームチェンジ……これは、本来のプログラムには存在しないプログラムです!?』

オペレーターB『そんな……このシステムは、ウラノスエンジンとの整合性から搭載することを断念したはずのものです!!』

綾乃『種族は違えど…か、彼女の…ジオイドの力、ウラノスエンジン、S.N.W.適性…三つの要因が本来有り得なかった可能性さえも呼び起こした。これぞガチユリダールベリムスタイルねぇ!!』

今回はここまで。

>>87
恥じらいシーンっていざ入れようとすると難しいんですよねぇ、精進しなければ…
ちなみに第三のリリーシリーズはだいぶ後……本題終了後の大長編から出す予定だったのですが
要望とあらばもうちょっと登場を早めようと思います。
…まぁそれでもだいぶ後になると思いますので気を長くしてお待ちください。

>>コクピット
エヴァみたいなタンデム式とか縦に二つとか考えてたんですけど、本編書いてる途中で思い付きで一つの椅子に二人乗りとしましたw
ちなみに合体前は紅蓮みたいな前のめりスタイルです。

市街地上空 

オペレーターA『…!!ガチユリダーのウラノスエンジンから、新しい波動計数を持ったエネルギーを感知!!』

琴主「これって…ちょっといつもと違う……?」

根本「…!?この光、何でだろう…凄く気持ちが落ち着く…」

綾乃『……!! アレロパシーね!!』

琴主「あれろ…何?」

綾乃『一か所に集まって生える植物はお互い化学物質のやりとりで交信しあう…ガイアの人格同士も詩実体を用いた『因子』でこれに近い方法でつながっていたとしたら…』


根本『わからないの、気がつけばガイアの人格の大半が口を揃えて言い出したのよ。『この歴史を滅ぼせ、歴史を作り出す生命を滅ぼせ』って……』回想


琴主「ジオイドを生み出したのもその『因子』……その逆の因子をぶつければ、怪獣化したジオイドをガイアの人格に還せる…!」

根本「ハジを…元に戻せる…!?」

分子ジオイド『GGGGGGGGGGGGGGAAAAAAAAAAAA!!!!』チチッチチチチ・・・チチチチチ

 怪獣の球体が再び瞬きだした、今度は一つずつではなく怪獣を構成するいくつもの球体が同時に瞬いて光弾を一か所に放つ。
 一か所で合体した光弾は極太のレーザーとなって赤とピンクのガチユリダーに襲いかかった。

琴主「!!」

根本「このっ……」ガキュン

 さいかの操作に従って、ガチユリダーは触手の一本をレーザーに向けると、それを折って身を守るように高速で振り回し光のバリヤーを展開した。
 レーザーは触手のバリヤーに弾かれて天高く上っていった。
 ガチユリダーは後ろに手を伸ばすと、二本の触手の根本を掴みとって鞭のように構える。

根本「これ以上、私の親友に…好き勝手はゆるさない!!!!」ブォン、ブォン、ブォブォブォブォ…

 触手の鞭を舞うように回転しながら、怪獣に接敵したガチユリダーは怪獣の棒をめがけて正確に鞭を振るう。
 鞭に打たれた棒は砕けてジオイドの霧へと分解し、霧は山吹色に輝きながら消滅していった。
 ただの破壊とは明らかに違うその感触に、交は確信した。

琴主「もう好きにはさせない……誰が広めたかはわからないけど、私たちが今のガイアを止める!!」

 ガチユリダーが両手を合わせると、触手が絡まりあって山吹色に発光して光の剣となる。
 振るわれた蝕腕を切り裂き、ガチユリダーは翼を限界にまで広げた。
 翼に山吹色の光が集まっていき、輝いていく。

琴主「リリールベリム…オーバーレエエエェェェェェェェイ!!!!」

 翼から放たれた山吹色の光は極光となり、白い蕾のように変色する。
 両手を握って、さいかは祈る。

根本「お願い……返して、私の親友をっ!!」

[因子解放]

琴主「咲き…誇れええええええええ!!!!」

 ボン!!!!
 と、極光の蕾が咲いて巨大な赤い姫百合の花のようになると、衝撃だけを残し姫百合と怪獣の姿は綺麗に消え去った。
 小さい、赤い球体だけを残して。

市街地 ガチユリダー足元

根本「ハジっ!!はじぃ…返事をしてよ…ハジぃ!!!!」

 赤い球体を抱き上げて、さいかは必死に語りかける。
 しかし、赤い球体は下から徐々に山吹色の光となって消えて行っていた。

根本「ハジ…嫌だ、ハジがいなかったら…私、一人で……」グスッ

ハジ「一人じゃ……ない……」グググ

根本「…!!ハジ…」

琴主「ハジさん……」

ハジ「ヒトよ……審神者よ……さいかを、頼めるか……」

琴主「……っ」

ハジ「なに……正常なガイアの人格として還るだけだ、消えるわけじゃない……」

根本「でも…私は、人間に近くなりすぎた…いつ、ガイアに還れるか……」

ハジ「だからこそ頼む……私は、さいかが一人にならないために、共に収束した…」

根本「そんな…ハジ……」

琴主「約束します、さいかを一人になんてしません」

ハジ「良かった……さいかが、君のような審神者に出会えて……」サラサラサラ

 ハジの一部が、赤いジオイドの霧に変わりさいかの胸に吸い込まれていく。
 それは形を変えて、赤く形もほんの少し違うが、リリータイプ義体と同じタキオンパルス受信機の姿に変わる。
 残った赤い球体は、山吹色の光にすべて飲み込まれ風に吹かれるように消えて行った。

根本「……っ、っぁあ…ぁぁぁあ…ああぁぁぁぁぁあ!!」

 さいかは胸元を抑えて、俯き慟哭に身を震わせた。
 交は、少し迷って意を決した表情になるとさいかの顔を持ち上げて唇を重ねた。

根本「……!!」

琴主「……ぷはっ、後でまつりに謝らないとな…」///

根本「あなた……」

琴主「さいか、私はあなたを絶対ひとりにはしないから…だから、戦おう! こんなことになった元凶と…そうでなきゃ、いつかまた会ったときハジさんに顔向けできないよ!」

琴主「また学校にいた時みたいに自信を持って、胸を張って!」

根本「………っ、そうね…こんなの、私らしくないわ」くしぐし

 強がりを言って目をこするさいかを見て、交は笑みを浮かべる。
 そのうしろから、まつりが走ってきてタックルをかけるように抱きついた。

正純「まじるさぁ~ん…!!」たったったった ぎゅう

琴主「うわっ!?」

正純「大丈夫でしたか!?何かされてませんよね!?」

根本「……っ」しゅん

琴主「だ、大丈夫だよ!!さいかは味方!!仲間だから…問題ないから!!」

正純「味方なのは全然問題ないんです!!何かされてないからこそ問題なんです!!」ちゅぅぅぅぅ

根本「は…?」ぽかん

琴主「ふぁっ!?んむぐ、ん~っ…!?んんん!!」ジタバタ

根本「………ぷっ、あっはっはっは!」

琴主「ぷはっ…さいか?」

正純「いっときますけど、まじるさんの一番は私なんですからねっ!」

根本「あらあら…でも、まじるの舌は私が一番もらいよ?」

琴主「にゃ、なななっ」///

正純「むぅぅっ、こうなったら人に言えないようなことまではじめて貰って…」

琴主「ま、ままままつり!!待て、それはいろいろと問題が…ていうかここ街中だから!!」ズドッ

 交の眼前を苦無が横切り壁に刺さる。

愛糸「お、ま、え、はあぁぁぁぁぁ」ごごごごご

琴主「はじめちゃん!?まってこれはまつりが暴走してて…」

愛糸「問答無用!!排除するのみ!!」

 ズドーン ワーッ キャー♪ アッハッハ

 誰もいない夜の市街地に、4人の少女たちの笑い声がこだました。


P.A.U.R.司令室

容呼「やっ、皆ごくろうさんやねぇ?」

 白い和服の少女…容呼が姿を現すと、司令室に集まったスタッフ全員が容呼に向けて敬礼した。
 綾乃もまた、砕けた敬礼を容呼に向ける。

オペレーターA「会長!!」ババッ

P.A.U.R.スタッフ一同「「「お帰りなさいませ!!!!」」」ババッ

綾乃「おかえりねぇ~容呼ちゃん♪」

容呼「ええよぉ、ここは綾乃の研究施設なんやから…うちはただのパトロンやで?」

綾乃「それもそうねぇ…それで、どう思う?神様としてあの審神者は……」

容呼「元・神様や。でもまぁ…良い子やね、人を信じることに理由を求めないまっすぐな子やな」

綾乃「……『あいつ』も、あんな審神者になりたかったのかしらね…」

 綾乃が右肩を抑えながら、懐かしそうに、辛そうにモニターに映る交の笑顔を見つめている。
 容呼もそんな綾乃を見て、懐かしむように目を閉じた。

容呼「人を信じられなくて、自分だけで歴史を変えようとした愚か者はもうこの世には居らへんよ…綾乃。たとえジオイドがあんたを全生命中最大の『世界の敵』と認識してやってくるとしてもな…」

綾乃「あなた達が消した……まだ、そう思ってるのね?」

容呼「お互い考えすぎなんやよな、お互い償いに大変な大人なんや……ほんま、子供が羨ましいわ」


綾乃「……そうね、願わくば…あの子たちの未来を私達の遺恨で汚すことがないことを、祈るわね」

第3話『あれは災禍の根本から』 完

《次回予告》
正純まつり15歳、全身義体の高校一年生。
謎の組織P.A.U.R.における秘密兵器のパイロット。
蜘糸商会の会長、燕糸容呼の義理の娘。
そして、琴主交に恋をする乙女でもある。
しかし、さいかというライバルとの出会いがまつりに一つの変化を生み出すことになるとは
この時誰も思いはしなかっただろう……

次回『どこに向けるかこの想い!』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今回はここまで
次回、お風呂外伝入りまーす

燕糸・容呼(えんし・ようこ)
http://n2.upup.be/E3ISFriLwJ

蜘糸商会の会長でありP.A.U.R.の個人的なパトロンでもある白い和服の少女。
京訛りの似非関西弁で喋り、言動も外見相応で悪戯盛りの子供のように見えるが
実は自称38歳の大人である。
放浪癖のあるセクハラ魔だが経営センスとカリスマ性は高い。
綾乃とは並々ならぬ縁があり、奇妙な信頼関係を持っている。

番外編『ここで一息のまほろばを』


 さいかを仲間に迎えた次の日、その日は休日で交も流石に一日二回もの敵の襲撃を乗り越え溜まったた疲れを癒そうと
枕を高くして安穏とした朝を迎えていた。

琴主「ん~…むにゃむにゃ……えへへ、ジュリアさん、そんなに食べられないよぉ…」

 むにゅっ

「んっ…」

 何か大きくて柔らかい物を掴み、交は大きく口を開けた。

「…」ドキドキ

 ガリ゛ッ

「いっ…!!!?!?に゛ぁあああ!?」ガバァァ

琴主「ふぇ?」がりもぐ

「痛い痛い痛い!!!!やめてよしてごめんなさい二度としないからあああ!!!」

琴主「ん~おじさんこの肉堅いよ~」ガリコガリコ

 大福か野生化した豚かと勘違いされて思い切り噛まれたそれは、情けない悲鳴を上げながら現在も全力で噛んでいる交を振り回しながら暴れている。

琴主「んあ…?」ポロッ ずべっ

 ようやく口を離して振り落とされた交は、うっすら目を開けてその姿を確認した。

根本「えぐっ…ぐすっ」

 そこには、素っ裸でひざを折り胸を押さえて泣きじゃくる巨乳の美女が居た。


琴主「……んん?!」

琴主「ご……ごめんなさい!!」ドゲザァァァ

根本「こ……こちらこそ、驚かそうとしたわけだし」ムスゥ

琴主「驚かすって…ていうかさいかも何でこんなとこに居るのさ。鍵は?」ソウイヤマッパ…

根本「そんなん、これで」

 さいかは小指と一緒に触手を立てた。

琴主「犯罪だよ!!ていうかそんなジェスチャー聞いたことないよ!!便利だねその触手!?」

根本「だってずっと一緒にいるって言ったじゃない?」むぎゅ

琴主「うぐっ」

根本「なんなら、お詫びにこの前の続きをしても良いのよ?」ペロッ

琴主「この前って…」///

 赤くなって身を引こうとする交にすり寄って、さいかは交の顎に手を添える。

根本「気持ちよかったでしょ…?」んー

 迫る唇から、ピンクの舌が見え隠れする度に交の心臓が高鳴る。

琴主「いやあのっ…凄く……って何を言わせ…て待って!?それは色々まず…んんっ」

 どたん

 ピンポーン

 と、ちょうど二人が倒れ込んだところで呼び鈴が鳴った。

琴主「だあっ!!誰か来たから!!服着て!!」ガバァ

根本「えーっ?もう…」ゴロン


 ガチャ


正純「まぁじるさんっ♪」ニコッ

琴主「ま、まつり!?住所教えたっけ!?」

正純「そんなのフレンドリストみれば一回で解りますよ?まじるさん、追加機能使うの苦手だからってちょっと不慣れも良いところですよ?」

琴主「ううっ、開発者の娘に言われちゃ申し訳ないです…」

根本「で?何のようなのよ、お嬢様?」寄っかかり

琴主「むぎゅっ」

正純「あっ…貴女はジオイドさんの…」

根本「さいかよ」

正純「まつりです」
根本正純「「あどうも…」」ペコペコ

琴主(なんだろうこの状況…)

琴主「…パジャマパーティー?!」

根本「私も含めて?」

正純「はいっ♪」

根本「信用ならないわね、私まで昨日の今日でそんな内側に入れ込んで…何がねらいなの?」


回想 燕糸家食卓

綾乃「じゃあ明日義体とリリーシリーズのシンクロテストを行うから連絡お願いねぇ?」むぐむぐ

正純「なんて送りましょうか」

容呼「丁度ええからみんなで何かイベント催したらええんちゃう?」オカワリ

八尾「そんなパジャマパーティーじゃないんですから…」ハイ

容呼「わーい♪」もぐもぐ

綾乃「…!それ良いね!!」ゲッツ

八尾「はぁ?」

綾乃「ガチユリダーは乙女の絡みに反応するわ、パジャマパーティーといったら乙女の絡みMAXなイベントじゃない♪」

容呼「おお、そりゃ名案やなぁ♪」

八尾「いや、それどうなんでs」

正純「じゃあ皆でお泊まりですか!?」

容呼「大浴場も用意しましょうかいなあ、そういやあのジオイド娘もなかなかええ身体しとったなぁぐへへ」

綾乃「いやいや交ちゃんもなかなかナイスでしょう…いや久々にはじめちゃんいじりましょうかねぇ♪」

愛糸「」ビクッ

正純(まじるさんとお風呂…まじるさんとせなかの流しあい…)

綾乃容呼正純「「「イエーイッ♪」」」ハイタッチ

回想終わり

正純「という事がありまして…」

琴主「ちょっと待って色々と大丈夫なのP.A.U.R.のトップ」

今回はここまで
優秀な大人とだめな大人は紙一重

ショッピングモール ファッションブランド 海栗黒

正純「ぱーじゃまー♪」

根元「わざわざパジャマパーティーのためにパジャマ買いに来る?」

正純「何を言いますか!!パジャマパーティーといったらパジャマがユニフォームです、正装なのですよ!!」

根元「パジャマパーティーってパジャマでできる気軽なパーティーって思ってたんだけど?」

琴主「まぁまぁ、良いじゃん?私たちもちょうど良いから選んじゃってもさ」

 因みに交はジャージか肌着で寝る派であり、さいかは裸で寝る派である。
 ちらり、とまつりの視線がさいかに流れる。正純(さいかさんの格好、大人らしいなぁ…私もせめてパジャマくらいは大人っぽくしたほうが…)

 さいかもまた、まつりをちらりと見ていた。

根本(ふぅん、この子この前まじるにキスしてたわよね…ということはこの子がまじるは好みなのかしら…一緒にいるんだから好みくらいは合わせた方がいいか…?)

 目が合った。

正純「…」ニコッ

根本「…?」タジ

 なんとなく威圧感を感じたさいかは後じさる。
 そしてふと目に入ったのは少し可愛い印象のワンピースタイプの寝間着だった。

根元「あら、これ良いかしら」

琴主「あ、良いんじゃない?可愛いよ」

根本「…」ぼっ

根本「べ、別に可愛さで決めた訳じゃないけど…そうね!!そう言うならこれにしましょうか!!」///ガサッ

琴主「?」

 交が首を傾げていると、更衣室からまつりの声。

正純「まじるさぁ~ん♪」

琴主「まつり?どこ行って…」

正純「ど…どうでしょうか?」///

 交は絶句した、まつりの格好が余りにも刺激的すぎたからだ。
 何度も言うようだがまつりもまた可愛い部門でははじめをタメをはれる魅力の持ち主なのだ。
 そのまつりが着ているのが、薄紫のネグリジェ。
 布のほとんどが極薄繊維による羽衣のように編まれており、当然透けている。 そして肝心な部分はちゃんと同色の布で隠され、それがネグリジェ全体に絶妙なコントラストを醸し出しているのだが…やはりその面積は、はっきり言って少ない。
 セクシーさ極まる格好と、子供らしい無邪気な魅力。
 そのアンバランスさがかえって完成したような形に収まっていた。

琴主「」/// シャッ

正純「あうっ!?」

 見てすぐに交は更衣室のカーテンを閉じた。
 周りに見えるから、目に毒だから、それ以上に…ヤバいと感じたのだった。

正純「何するんですかぁ、まじるさん~っ」もがもが

琴主「ばっ…場所を選んでまつり!!いいい色々見えちゃってるから!!」

 交が抑えるカーテンの隙間から顔を出して、まつりは悪戯っぽい目で交を見上げた。

正純「それじゃあ、場所があってれば似合ってますか?」

琴主「うっ……そりゃあ、似合ってるけど…」///

正純「…♪じゃあこれにしますね♪」るん♪

 鼻歌を歌いながら普段着に着替えて出てきたまつりをさいかが見下ろす。

根本「…ふぅん、そう来るの…やるわね」

正純「参考にさせて頂きました、お互いに♪」

琴主「あ、あのお…二人とも?どうしたの?」

正純「…まじるさん、中々決められないんですか?」ガッ

根本「私と!一緒に選びましょうかパジャマ!!」ガッ

琴主「ちょ、ちょっと!?」あわあわ

正純「まじるさんもこっちのでお揃いしませんか?」ぐい

琴主「え?!いやそんな色っぽいの私似合わないって…」///

根本「そうよまじるは可愛いんだからこっちので良いわよね」ぐいぐい

琴主「あうっ、いやそっちもあんまり似合わないって言うか…」汗

根本さいか「「じゃあまじる(さん)に似合うので良い」です!!!!」ぐいい

琴主「」チーン

蜘糸商会ビル

正純「ただいまお連れしました~♪」

 パァン パァン パパパパパパァン
 と、吹き抜けの商会ビル中からクラッカーの音が鳴り響く。 そしてビルの吹き抜けに垂れ下がるのは…

『琴主 交様
 根元さいか様 ようこそP.A.U.R.へ!!歓迎します!!』

根元「きゃっ…って、何これ!!」

琴主「うわあ…」

 クラッカーに驚いて一瞬縮こまったさいかは、そのあと垂れ下がってきた巨大垂れ幕に書いてあった言葉を読んで憤慨する。

容呼「いらっしゃ~い♪皆さん歓迎いたしますえ~♪」

琴主「あ…会長さん?」

容呼「ややわぁ容呼でええですえ♪はいお二人とも、P.A.U.R.関係各所へのアクセス権と業務提携各社とのフリーパス」

 容呼はエスカレーターから飛び降りると、二人に黒い硬質なカードを渡す。
 何らかのIDカードなのかまた交の視界に色々な表示が映り、交はあわててそれを消した。

根元「一体どういうこと!?」
容呼「んん?琴主さんは言わずもがなやけど、さいかさんやってガチユリダーに乗って敵と戦うことを決めたんやろ?」

根元「うっ……そりゃあ、その事については話しに行こうと思ってたけど…」

容呼「ほな、私たちはもう仲間や♪これからよろしゅうお願いしますえ、さいかさん♪」ニコー

 その笑顔に押し黙らされるさいかを見て、交はこの少女が紛れもなくまつりの保護者だということを思い知らされるのだった。



燕糸家

容呼「さぁさお上がりくださいなぁ♪」
琴主「おじゃましまーす」

正純「只今帰りました~♪」

八尾「お帰りなさい、二人もようこそいらっしゃいませ」

正純「あれ、はじめちゃんは?」
 ビクッ と、襖の向こうに見えたのははじめの黒い髪。
愛糸「…」コソコソ
容呼「なーにやっとるん?」

愛糸「ひゃ、あ…あの、ちょっと制服に着替えてきます……」

容呼「なーに言っとるんや、今日は普段着の付き合いや…でっ♪」ガラスパァン

愛糸「や、やめ!!」
 容呼が勢いよく開けた襖の向こうに見えたのは、白と黒のエプロンドレス、そして白いフリルのカチューシャ。
 それはどこからどう見ても、見事なメイド服で…

愛糸「……ひっ、み、見るな!!見るな馬鹿ぁ!!」あわあわ

琴主「 」ヅドッ

 交はその姿から放たれた弓矢に心臓を撃ち抜かれた…気がした。

今回はここまで
以下ガチユリダーパイロット達の普段着をどうぞ。

琴主交
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アグレッシブながらも肘や膝の間接部を目立たせないような格好をしてます。
東京や過疎地ではやはり全身義体は珍しく、差別はありませんが何かと哀れまれたり気を使われたりするので
義体なこと以外は健康そのものな交はこんな格好でいることが多いとか。


正純まつり
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人形のような可愛さを持つまつりは普段着も人形のようで
実はまつりを溺愛していた父親のセンスを今だ貫いている。
愛糸はじめ
http://l2.upup.be/VanU4KdQZg
猫耳はこの前気絶してまつりや皆に心配かけた罰ゲーム。

根本さいか
http://l2.upup.be/9SQyGmFTxo
できるようで実はぽんこつなさいか。
ガチの百合なので可愛い子には気に入られようとできるお姉さんを演じたいのだとか。

 燕糸家 廊下

愛糸「うっ…ぐすっ、うぇぇん……」

琴主「大丈夫…?」なでり

 両手で顔を押さえて泣きじゃくっている猫耳メイドの頭をさりげなくなでる。
 この猫耳、ご丁寧に蜘糸商会製でリアルに動く義体の追加パーツらしくぴくぴくと動いている拘りようだ…会長の。
 交の手はその猫耳メイドの手で払われた。

愛糸「うるしゃい!!撫でるな!!馬鹿!!馬鹿!!」グスグス

琴主根元((何この可愛い生き物抱きしめたい…))ウズウズ

容呼「さぁって、P.A.U.R.は表向きただの量子研究機関や。今まで詩実体の観測以外の方法で来るかもわからへん敵に備えてきた組織や。そんな組織に国が協力してくれるわけもあらへんし、なんとか商会の財力で施設は確保できたけどぎりぎり地下が精一杯やねんよ」

琴主「……?」

容呼「つまりや、はっきり言って場所不足やねん」

 ガラッと容呼が襖を開けた先には、広大な敷地を持った空港らしき土地が広がっていた。

琴主「………は?」

正純「容呼さん、いつの間におうちの改築を……って、容呼さん?」キョロキョロ

琴主「あれ…そういえばさいかもいない!?」

愛糸「この格好のまま外に…外に…」真っ白

綾乃「いらっしゃいねぇ♪P.A.U.R.の特設練習場かっこバーチャルリアリティかっことじへ♪」

愛糸「練習場って…」
綾乃「ちなみにさいかちゃんは生身だからねぇ、今は専用のダイブ機器を用意してるからもうちょっと待ってれば来るわよん♪」

正純「でも私達は基本的な操縦方法ならもうダウンロードしてますよ?」

愛糸「それに訓練なら本部にシミュレーターが…」

綾乃「しゃーらーっぷ!!まつりちゃんから聞かなかったかしらん?これはガチユリダーシステムとリリータイプ義体のシンクロ率を改めて知るためのテストでもあるのね?それに…」

琴主「?」

綾乃「今後明確に現れるであろう『敵』への対策を練習がてらに構想しようって話しねぇ?」

正純「敵って……」

愛糸「ジオイドを作り出す元凶…あのジオイド女」
正純琴主「「さいか」さん」

愛糸「……さいかの言うガイアに広まりだした『声』の事か」ムゥ

綾乃「そういうことねぇ♪」

リリーキャット コクピット

綾乃『仮想空間内でも、機体はウラノスエンジンと繋がってるからね?安心してがんがん動かしちゃってね~♪』

正純「は~い♪」ガシュン

愛糸『了解』

 二人の応答とともに、三機の戦闘機が飛び立った。
 赤いリリーブレードと、青と紫のリリーキャットは空にひとたび飛び上がると複雑な起動を描いて自由に空を駆け回っている。

綾乃『おー流石は場慣れしてるわねぇ…さて、次は誰と誰が合体するかねぇ♪』
正純「誰と」
愛糸『だれが…』

琴主『あっ…』

 次の瞬間、二体のリリーキャットの軌道が途端にぶれ始めた。
 そして互いの羽をぶつけて大きくよろめいた。

綾乃『あら、数値下がった?』

正純「あうぅっ!はじめちゃんじゃましないでください!!」
愛糸『まじるは何度もお嬢様とは合体の経験が有るはずです!!ついこっちに乗ってしまいましたが、私がリリーブレードに乗って合体する練習もするべきです!!』
正純「はじめちゃんS.N.W.適性ないじゃないですか!!」

愛糸『万が一…ですっ!!』

綾乃『それもそうねぇ?』ピポパ

 綾野が携帯を操作すると、紫のリリーキャットがリリーブレードにすげ変わった。
正純「そんなぁ~…」ショボン

琴主『でも、私もちょっと見てみたいかも。違う組み合わせだとどうなるのか』
正純「まじるさんまでぇ~…」

愛糸『行くぞ、合体!!』ギン

正純「ふぁ~い…」ギン

 青と紫の機体が絡まり合い、今まで見たこともない形態の巨人となっていく。 しかし…

[Frame chance]
[Martango style]

[System Dounlord...Error]

正純「えっ…?」

愛糸「エラー…!?わぷ!?」ズドォン

 そのままバランスを崩したガチユリダーは着地に失敗して頭から地面に叩きつけられた。

今回はここまで
できないことはない例。

綾乃『ガチユリダーマルタゴンスタイル…まつりちゃんの射撃官制能力とはじめちゃんのフットワークを活かした性能のスナイパータイプねぇ』

愛糸「うぐぐ…大丈夫ですか、お嬢様?」

正純「うう、お鼻打ったぁ…」ナミダメ

琴主『ちょっと二人とも、大丈夫!?』キィィィィン

愛糸「着地が思ったより難しい…まじる、いつもよく出来るな…?」

琴主『うーんいつも気合いと根性で動かしてるからかなぁ』


仮想空間空港

綾乃「琴主ちゃんって偶に間違って女の子に生まれたような台詞言うわよねぇ?」

 そう呟きながら携帯に映る数値を見る。
 あまり延びない数値に、エラーの表示を見て目を細める。

綾乃(はじめちゃんとまつりちゃんの付き合いは長いからそれなりに良い数値が出るはずと思ってたんだけど…何かの気持ちが阻害してるのかしら…?)

根本「来たわよ…」テコテコ

綾乃「あらぁいらっしゃいねぇさいかちゃん♪」

根本「…」じぃ

綾乃「あら、どうかしたかしらね?」にこ

根本「…なんでもないわ」

綾乃「…そう?」いっひっひ

 不満そうだが無理やり納得したようなその態度に何かを察した綾乃は、携帯を操作してピンクのリリーキャットを召還する。

根本「ふぅん…まぁ、付き合ってあげるわ。魔女」ニヤッ

 魔女…さいかが綾乃をそう呼ぶと、綾乃は目を薄くしてさいかを見た。
 相変わらずの笑顔だが、それはそれまでの自然なものではなく貼り付けたような笑顔だった。

綾乃「……あんまり琴主ちゃん達の前では…」

 さいかはリリーキャットのコクピットに乗って触手をつなげながら、綾乃の言葉をきって話す。

根本「わかってるわよ、さっき白い子に釘を刺されたばっかりだから。余計なことは言わないわ、私だって今のガイアはどうにかしたいし」

綾乃「……そうして頂くと有難いわねぇ♪」

 その言葉に心底安心したような笑みを綾乃が向ける、さいかはばつが悪そうにコクピットを閉じた。

空港上空 リリーブレード赤 コクピット

根本『ま~じる~♪』キイイィィィィン

琴主「さいか、準備できた?」

さいか『当然、マニュアルには一通り目を通したわ…あっちはまつりちゃんとメイドちゃん?』

琴主「うん、あっちは初めての合体で苦労してるみたいだね?」

根本『ふぅん、じゃあ見せ付けちゃいましょうか…』ニヤ

琴主「?」

根本『じゃあいくわよ、合体!!』ギン

琴主「え!?が、合体っ!!」ギン


 赤とピンクの期待が絡まりあい、羽を纏った巨人の姿となる。

GYD(根本)『ガチユリダー…ルベリムスタイル!!!!』ガシイィィィン

根本琴主「「着…地っ!!!!」」ズゥゥゥゥン

 赤桃のガチユリダー…ルベリムスタイルは、未だ倒れている青紫のマルタゴンスタイルの前に華麗に着地して見せた。

正純『!! まじるさんと、さいかさん……』

根本「ふふーん、どう?この見事な着地」ドヤァ

琴主「大丈夫?」

 交の操作でルベリムがマルタゴンに手を伸ばす。
 マルタゴンはルベリムの手をとってなんとか起き上がった。

愛糸『すまない…そういえば、合体してから実質的な操作はほとんどまじるに任せてたな』

 ガチユリダーのパイロットは、リリーブレードのメインパイロットが大まかな機体全体の操縦と、S.N.W.適性による敵の5軸移動対策、リリーキャットのサブパイロットが細かい動きの修正とエネルギー運用を任せられている。
 今マルタゴンの機体をメインパイロットとして操作しているのははじめである。
 訓練でいくら練習していたとはいえ、実戦で何度も怪獣に勝利してきた交との感覚の差をはじめはこのとき痛感していた。

愛糸『今度こそ…っ』

 ルベリムの手を離し、マルタゴンは一機で地に足を着いて立ち上がった。

正純『はじめちゃん、大丈夫?』

愛糸『大丈夫です…っ、お嬢様』

琴主(はじめちゃんははじめちゃんで、まつりを守りたいんだもんね…)

綾乃『それではお二方、準備はいいかしらん?』

琴主「準備?」

綾乃『そりゃあ、実戦訓練よん♪』ピ

 綾乃がそういった瞬間、仮想空間の穴にいつか見た紅色の卵が無数に現れた

琴主「 な」

根本「ちょっと…!!」

正純『まぁ』

愛糸『 』

綾乃『レプリカの大きさは半分にして置いたから、耐久戦頑張ってねぇ♪』

 綾乃の言葉とともに、無数の怪獣のレプリカは足を生やして二体のガチユリダーの周りに降り立つと襲い掛かってきた。

パイロット一同「『きゃああぁぁぁぁぁ!!!!』」


~~~~~~~~~~~~
今回はここまで
はじめちゃんも大概漢女です

さいか
http://l2.upup.be/Vn4Dz7jtph
http://l2.upup.be/oVejQRiXX2
4、5話より表情集
思いつきでぽんこつ設定つけたら誰よりも人間くさくなった人外ちゃん。
その内ギャグキャラ補正がつくかもしれません。

まつり
http://n2.upup.be/RcYdc7Ee0E
1話より表情集。
さいかとは逆に話を追うごとに人形らしさが露見していく予定のまつり。
うまく対比を書いていきたいです。

 それからのテストの結果は、以下の通り。
 マルタゴンはシステムエラーの連続に遭い装備を展開することができず、なんとか標準装備のライフルで三次元上に実体化した敵の応戦が可能なレベルにとどまり苦戦を強いられた。
 その穴をカバーするようにルベリムが奮戦するが、どうしても一体では同じサイズの巨体は庇いきれず捨て身のガードで耐久力の底をつきあえなくダウン。
 しかし、それでも耐久時間は8時間に及び、撃墜数に至ってはマルタゴンが257体、ルベリムが3775体であったことは流石と言わざるを得ない。
 ちなみにテストが終わって仮想空間から目覚めると、パイロット達は息も絶え絶えにばてて燕糸家の客間に倒れていて、綾乃もやりすぎだと八尾にしばかれていたのを容呼が愉快そうに眺めていたのは別の話である。


蜘糸商会 大浴場更衣室

愛糸「うぅっ…ひ、酷い目にあった…」うぷ

正純「はじめちゃん大丈夫?」サスサス

容呼「まぁまぁ、これで大分いいデータが取れたさかいええやないか♪綾乃も早速ガチユリダーの改修に活かす言うとったし♪」カタン

琴主「だからって倒れるまでやるなら先に行っといて下さいよぉ……」スルスル

根本「ホント…うぅ心は疲れてるのに体は普通って思ったよりきついわ」

容呼「ちっちっちぃ、言うとったら覚悟してくるやないか。ウラノスエンジンを動かすんはいつだって生身の声と祈りなんよ」シュルッ

琴主(うわ、容呼さん肌白っ…ホントに何歳なんだろう…)

容呼「もうおばさんもええとこやけど、そうは見えへんかな?」シュルン ニョホホ

 素肌にタオルを巻いて容呼はポーズをとって見せる。

琴主「ご、ごめんなさい!!って声に出てた?あれ?」

根本「ふぅん、まじるはロリがお好みかしら?」

琴主「Σそ、そんなことないよ!!というか容呼さんだって胸あるじゃないですk…」ハッ

 交が振り返ると、はじめは怪訝な顔をしてまつりの背後に隠れており、まつりに至っては笑顔を保ったまま涙目で交を見ていた。

愛糸「……」ヒキッ

正純「まじるさん……わ、私だってロリたいけ…い……」///プルプル

琴主「まつり無理しないで!!はじめちゃんもそんなに引かないでぇ!!」うわぁん

 そうこうしている交の後ろで、さいかは自分のたわわな胸を見てため息をついた。



 カポーン と、ほぼセオリーな音が湯気に響く大浴場。
 各々手ぬぐいと洗面器を抱えて、パイロットたちはわぁと目を輝かせた。

琴主「ふわぁ~……ヒビ一つない銭湯なんて初めて見た…」キラキラ

容呼「いつもは社員寮の人達用なんやけどな、今日は毎日頑張っとる君らへの貸切や。ゆっくり疲れを癒すと良いですえ♪」

琴主根本「「うひゃっほーい♪」」

正純「二人とも、お風呂に飛び込んじゃだめですよ~」ニコニコ

愛糸「浴場くらいで大人げない…」ペタペタ

容呼「おやおやぁ、そういうはじめちゃんは大人らしうなったんですかいなぁ?」

愛糸「余計なお世話です」///

 ざばーん と、お湯が流れる音とともに暖かさに包まれて、交は全身の血管とナノマシンが暖かくなるのを感じて身震いした。
 さいかもまた、生身ながらもお湯の暖かさに日々の疲れが癒されてため息をつく。

琴主「くはぁ…っ、これは効くぅ……」ゾクゾク

根本「はぁー…」ホカホカ

 風呂場で和んでいる二人を、同じように湯船に浸かるまつりは無表情でまじまじと眺めていた。

正純「ほぁー……」ジィ

根本「何よ?」

正純「浮くんですねぇ」

愛糸「浮くんだなぁ」

琴主「浮く?」

根本「…って何見てんのよ!!」/// ばしゃっ

 そんな会話を聞いて、容呼の目が怪しく光る。

容呼「 」キュピン  もにゅっ

根本「ひゃぁっ!?」ビクッ

容呼「やー初めて見たときから見事なもんやと思うとったけど、これは中々…」モミモミ

根本「や、やめ…あんたどこ触って…ひう!」ビクビク

 暴れるさいかをテクニカルに黙らせて、容呼はまつり達に妖しい笑顔を向ける。

容呼「まつりさん、はじめさん、ええ事教えてあげますえ~」

正純「?」

容呼「揉めば、大きくなりますえ?」キラン

根本「んっ…いや、それ揉まれればとかそういう意味じゃ…ちょっと!?」

愛糸「大きくなる…大きくなる……?」フシューフシュルルル

根本「あ、あの…メイドちゃん?」アセ

愛糸「大きくなるうぅぅぅ!!!!」ガバァ

根本「きゃああぁぁぁ!?」ドッパーン

琴主「ちょ、ちょっと二人とも!!お風呂で暴れちゃいけないってば…にゃっ!?」もむん

 突然胸を襲った感覚に変な悲鳴を上げて交がふりかえると、赤くなったまつりが後ろから抱きついて交の胸をわし掴んでいた。

正純「まじるさんも、結構大きいですよねぇ…」///

琴主「い、いや…でも体型自体はまつりとそんなに変わらないし…」

正純「まじるさぁん?」/// フゥ

琴主「ひゃ、ひゃい!?」///

 とろけたような声でまつりは言う。

正純「私の胸、揉んでくれますかぁ?」///

琴主「……!?」///   もみっ

琴主「ひゃ…!!!」

正純「揉んでくれないならぁ、私のほうから揉みますよ?」もみもみ

琴主「や、やめ…うひゃひゃくすぐったい!!うぅぅ、わかったよぉわかったからやめて…」///

正純「…!!はいっ♪」パァァ

琴主「後でねっ!!」ハダカジャサスガニヤバイ ナニカガ

正純「えぇ~?」モミモミ

琴主「ふひゃひゃひゃ!?や~め~てぇ~!?」

今回はここまで。
背丈 八尾<綾乃<さいか<交<容呼<まつり<はじめ
胸 綾乃<さいか<八尾<交<容呼<まつり<はじめ

根本「ぬがー普通に風呂はいりなさい!!」///シュバババ

 さいかの華麗な触手捌きによってはじめと容呼の魔手は阻まれ引きはがされた。

愛糸「うーっ」ブラーン

容呼「にゃっははは、久しぶりに見事な巨乳さん見て良くないハッスルしてもうたなぁ」ツヤツヤ

容呼「というかさいかさん攻められるんは弱いんやなぁ、ガラスの剣?」

根本「いい加減セクハラで訴えるわよ?」

容呼「にゃっはっは」

 悪戯っぽく笑って誤魔化す容呼に、さいかはため息をつく。
 ドタバタの間に湯船に落ちた手拭いを頭に戻しながら、さいかはこの少女の別の一面を思い出した。


回想 燕糸家

容呼「よいしょ……っと」

 眠る全身義体の少女達を軽々しく客間のいすに運び、容呼は一息ついた。

根元「……ふぅん、成程…仮想空間で訓練か…」

容呼「今さいかさんの為のダイブ装置も用意しとりますえ」

根元「ふぅん…でも、それ以外の理由もあるわね?」
容呼「おっと、バレてはりました?」

根元「ここまで用意周到にしておいて、私の用意だけ済んでないなんてことありえないし…」

容呼「堪忍なぁ、さいかさんならともかく…あの子達に私たちのしがらみをあんまり知ってほしくあら変から……話しややこしくなるやろ?」

根元「もう一人の組織のトップ…あやの、だっけ?彼女の正体について……私も一番聞きたかったのはそこだから」

容呼「お察しのとおり、やよ。彼女こそ、29年前この歴史を破壊しようとした張本人。神の域を冒涜し、この世すべてという犠牲を払って願いをかなえようとした魔女や」

 魔女……強力な審神者の能力を使ってこの歴史を破壊しようとした『世界の敵』。
 しかし、さいかはその人となりを知らない、事件が余りにも別次元へと向けて大きすぎて正確な情報がガイアの何処にも残っていないのだ。
 『多くのものの知らない場所で、ひっそりと起きて終わった事件』、『ガイアも生命も記憶しない、記憶できない事件』として、顔を知っているだけだ。
 見た限りあのおちゃらけた女がその本人とは信じがたかった。
 ひょっとしたらただ似ているだけ、あるいは関係しているだけの別人ではないかと思っていた。
 しかし、容呼ははっきりと、断固として言い放った。

根元「あの事件は、ガイアでも認識しきれないほど歴史の特異点が交差しすぎていた…ただの人間が、そこまで知っているはずがない」

容呼「そりゃそうや、私達が彼女を止めたんやから」

根元「……人類側の神、か」

容呼「さいかさんらガイアがこの世界の情報を知識として収束する地球の意識が生んだ神だとすれば…私は全生命の持つ集合無意識に積み重ねられた知識と意識が生んだ神の一人…まぁ、私は審神者にこの世界に引っ張り出されて概念的に人間として固定されとるさかい、今のさいかさんと一緒やね」

容呼「でも私だけやない、八尾ちゃんと…それともっとたくさんの人の協力と犠牲を払って、私は彼女を止めた…私自身あの人とは事が起こる前からの知り合いでな、」

根元「ふぅん、それで囮になっているのね。一度世界を破壊しようとした最重要危険人物、いくら全生命の駆逐を目的にしたジオイド達でもあくまで立場はこの世界の守護者、最大の敵を優先して狙うというわけ…いったい、何の心変わりがあってあの女はそんなことを…」

容呼「今の綾乃もな、その記憶が無いんよ」

根元「!!!!」

容呼「綾乃にはあの事件にかかわる多くの記憶が欠落しとる、それが罪に対する罰なんかはわからへんけど…それで私達が教えて自分が何をしたかという事実だけを知っとる、残酷なことやけどな…」

根元「罪滅ぼし・・・?」

容呼「綾乃はきっと諦めたんやと思う…あの事件を起こしたんもな、元々はある人を助けるためやったんや。でも、救えへんことがわかった…せやから未来を守ることにした、そういうことや」

容呼「でも罪滅ぼしかっちゅう否定はできへんな。詩実体の研究も、ガチユリダーの研究を進めとるんも、あの頃自分がどんな罪を犯したのかガチユリダーの力を使って正確に知るために始めたことや言うてたし…」

根元「そんな風に割り切れるものなの?」

容呼「わからへん…でも、綾乃がもし前のようなことを始めたら…」

容呼「その時こそ私は、この手で綾乃を殺しますえ」

根元「……!!」

容呼「それが…昔の綾乃を殺して、いまの綾乃に結果的には償いを課した私の責任や」


回想終わり 燕糸家
根本「…まったく……」



~~~~~~~~~
今日はここまで
大人達の事情、詳しい話はまた後に



>>119
不等号の向きが逆なんじゃ?

>>123
……!?
すいません今世紀最大のミスです……orz

背丈 八尾>綾乃>さいか>交>容呼>まつり>はじめ
胸 綾乃>さいか>八尾>交>容呼>まつり>はじめ

琴主「? どうしたのさいか?」

根本「何でもない…」

八尾「まつりさん…そのパジャマは一体…」アセ
(八尾は黒い着流し)

愛糸「お嬢様……」///
(同じく半袖着流し)

正純「えへへ~♪まじるさんとさいかさんに誉めてもらいました♪」///

八尾(後でOHANASIが必要のようですね…)

琴主根本「「ゾクッ…」」汗

 八尾の用意した豪勢な食事に大喜びでかぶりついた後、一同は浴衣からパジャマに着替えて大広間に布団を並べていた。

綾乃「はいちゅうもーく!!」

 そんな中、研究所から帰ってきて黒い長袖のネグリジェに着替えた綾乃が手を挙げた。

綾乃「パジャマパーティーの前にうれしいお知らせが一つ…ウラノスエンジンの進化が確認されました!!」

正純「…はい?」

容呼「おお、ほんまか!!」

琴主「進化って?」

綾乃「実はウラノスエンジンは生まれたてでまだまだ未発達な部分が多くてね、使えるエネルギー総量に限界があるんでリリーシリーズ戦闘機に分割して搭載されてたのよん」

琴主「ああ、だから合体ロボットだったんだ…」

綾乃「それが今日のテストでウラノスエンジンが自己進化して、扱えるエネルギー総量が増えてることが解ったのよん♪」

根本「それってつまり…どゆこと?」

綾乃「つまり…もう一体パワーアップ用のリリーシリーズ機体を作れるって事ねぇ♪」

パイロット一同「「「「三人合体!?」」」」

綾乃「いんや、最新機は二人乗りにするよう、あらかじめ決めてた制作プランに変更を加えてるとこね…つまり4人合体よん♪」

琴主「4人って…」汗

綾乃「これから戦いは激化すると思うわ、敵がどう言うものかこっちが近づいた以上、敵ももっと必死な攻撃を加えてくるはずだから…今日ジオイドが来なかったのも正直嵐の前の静けさかもしれないわ…」

琴主「…」

綾乃「だから、その時にはあなた達の全力で立ち向かってほしいのね。未来を切り開くのは、いつだって子供の力だから…」

容呼「私ら大人は…」

八尾「その手伝いが仕事です」

正純「八尾さん…容呼さん…」

根本「…ふぅん、私も子供…」ムス

綾乃「まあまあねぇ♪…あそうそう、一つ思いついたことがあるのよん♪」

琴主「思いついたこと?」

綾乃「敵の名前よ、ジオイドに理性を取り戻したガチユリダーの新しい詩実体、それをガチユリダーは『ヘーメラー因子』と表記していたわね」

正純「ヘーメラー…」

綾乃「天の神ウラノースが放つ太陽の光ね…だから、ジオイドを凶暴化させる因子…それをこれから『ニュクス因子』と誇称するわね」

根本「ニュクス因子……」ギリッ

綾乃「ニュクス因子を何が生んだのかは知らない…でもニュクス因子には私達生命も、ガイアも、負けるわけにはいかないわよね」

琴主「当然!」

愛糸「ああ」

正純「まったくです!」

さいか「ええ、そうね」

綾乃「さあ、未来を守りましょうかね!!」バッ

 綾野がおもむろに出したその手に、パイロット達は一様に頷いてその手を乗せた。

パイロット一同「「えい、えい、おー!!」」


綾乃「……っさー!!楽しい時間はこれからよん♪」

容呼「王様ゲームやる人よっといでー♪」

正純「わーい♪」ドドドド

琴主「あんたら結局それで〆るの!?」


 子供も大人もはしゃぎ回る…楽しい夜はこれから始まる。




???

 真っ黒な空間、赤い三点が舞う空間に男は浮かんで瞑想していた。

「そうか…楽しい居場所が出来たんだな」

 男は優しい口調で、誰かに笑いかける。
 しかし、その直後にその口元は酷く苦いものとなった。

「……可哀想に」

 ぶわっ…!! と、風に吹かれるようにして視界が真っ黒な空間から晴れる。
 男は分厚いコートで身を包み、町を見下ろしていた。
 コートの下は黒いタンクトップ。
 男は風の強いビルの屋上に立っていた。
 やがて男は踵を返し、背後に鎮座する巨大な黒い影に向かって歩く。

「帰ろうアダマス、僕達の居場所へ…」

 黒い影…漆黒のリリーシリーズに似た戦闘機のコクピットが光る。

「いつか、迎えにいくからな…八重架」

 すると影と男の姿は大きくぶれて、一瞬にしてその場から消え去った。



第五話「ここで一時のまほろばを」 完

次回予告

正純まつり、その笑顔と身体は作り物。
まつりはついに、その本性を知られてしまう。
一番知られたくなかった琴主交に…
そして、ジオイドはまつりに最悪の攻撃を仕掛ける。

次回「あの瞳は空虚か」

前半終了したのでメカの解説

ウラノスエンジン

大昔の大戦の最中に製造された人工神性機関。
人工知能と内燃機関を兼ねたオーパーツであり、これを搭載することで神となった機械は無限の力を可能性軸から引き出すことが可能となる。
しかし目も鼻も口もない機械に宿った神性に対して当時は交信の手段が確立されず計画は中断され、永い眠りについていたところを綾乃が発掘した。

そして初運用のその日、まつりと交の関係を『生まれて初めて』知覚した為に少女同士の恋愛感情……所謂百合をエネルギー源とするようになっちゃった。
実はリリータイプ義体のパイロット達(TP受信機を得たさいかも)とはTP受信機を通じて繋がっており、彼女達の各種感覚を通してこの世界を知覚している。
ついでに常にパイロット達のイチャイチャを監視して自家発電している。(そのままの意味で)

要するに俺らエンジン。


リリーシリーズ
ウラノスエンジンを分割搭載したガチユリダーの構成機体。
実は単体でも手足に変形できる。
(マクロスのヴァルキリーの手足だけ出した状態みたいな)
・リリーブレード
合体後にガチユリダーの上半身メインユニットとなる戦闘機。
比較的身軽で頑丈、翼が刃物のように鋭利なことが特徴。
可能性詩実体による薄いシールドを張ることが可能で、これにより戦闘機でありながら翼で斬りつけて接近戦をするという離れ技が可能となった。
あとは機銃と鋭敏なセンサーが主な武装。
このリリーブレードにS.N.W.適性を持つパイロットが乗ることで、ガチユリダーは可能性軸へと移動できるジオイドをこの世界に固定して完全破壊することが出来る。

・リリーキャット
ガチユリダーの武装と下半身を担当する。
厚い装甲で覆われておりこれが組み合わさることでガチユリダのバリエーション豊かな武装が構成される。
また内部にも追加武装を収納した可能性軸倉庫が広がっている。(要するに五次元ポケット)
機銃の他、ミサイルやレールガンといった装備も豊富。

乙女合体ガチユリダー
ウラノスエンジンの活性によって合体する分のエネルギーが満ち足りたリリーシリーズ同士が合体することで完成する巨大ロボット。
嘗ては『対ジオイド特殊条件戦闘用神性機関ウラノース壱型』と呼ばれていたが、百合に目覚めたウラノスエンジンへの祝福のつもりで綾乃が勝手に名前を変えた。
また第四話以降、それまでウラノスエンジンのそれまで無色だった詩実体に『ヘーメラー因子』が追加され
『ニュクス因子』によって凶暴化したジオイドを鎮めガイアにかえす機能を全フレームが取得した

・ノーマルフレーム
交とまつりの組み合わせで合体した姿。
ガチユリダーの最も基本的な形態でありその為各種ステータスも他のフレームと比べて平均的な性能。
しかし五次元ポケットに収納された封印装備であるリリーランチャーはウラノスエンジンと共に発掘されたオーパーツを綾乃の手で改造したものであり、完成合金(モノアトムソリッド)の大剣に圧縮した詩実体を発射する銃口を取り付けた銃剣ならぬ剣銃である。
各フレームの特殊装備の中ではトップクラスの攻撃翌力を持つノーマルフレーム戦用装備である。

・オーガススタイル
交とはじめの合体した姿。
ガチユリダーの装甲が両腕に集まった異形のスタイルであり、その姿は赤紫の鬼を連想させる。
装甲でリーチとパワーを強化した両腕と、ホイールで増した機動力、そして五次元ポケットから無限に現れるワイヤーくないが武器。
特殊装備として詩実体を熱エネルギーに変換して両手に収束するゴブリンリリーブロウが必殺の威力を誇る。

・ルベリムスタイル
交とさいかの合体した姿であり、ガチユリダーには本来存在しない形態。
構想自体はあった物の、ジオイドに一部近づく危険なコンセプトから開発中しとなったはずだったが
さいか(ガイア)と交(審神者)とガチユリダー(神)が祈ることで『別の可能性のP.A.U.R.スタッフが実用化したスタイル』をこの可能性に呼び出す奇跡を起こした。
主な武装はガイア詩実体の振動による反重力エンジンでジオイドと同じ理屈みを用いて浮翌遊する背中のGGユニットと、怪獣と同様ジオイドウィルスの収束で生えた二本のテンタクルウィップ。
また特殊装備としてGGユニットを最大展開する事によって照射する重力子励起光放射装置リリールベリムオーバーレイがある。

今日はここまで
次回予告から大幅に変更してしまいましたorz
次回からはいよいよ後半戦、パイロット達にはよりキツい試練が待ちかまえてます。
鬱展開が書きたいのに何故か書けない作者をどうかと応援してください。
これからも後半戦なにとぞよろしくお付き合い下さい。

第6話「あの瞳は空虚か」

 そこは、本がまるで歴史の積み重ねのように立ち並んだ場所でした。
 私は、本を探して歩くのです。
 だって、図書館なんですから……

「それは逆じゃないかい?」

 高い高い本棚にかけられたら梯子を降りてきたお兄さんが言いました。

正純「だって、図書館に来たからには本を読まないと」

「ナニを探しているのかも解らないのにかい?」

正純「なら、私の好きなジャンルから探します♪」

 男の人は呆れたように言いました。

「受け身だねえ……」

正純「うけみ…?何のことですか?」

「君は全く考えていないじゃないか、ここがどこで、どうやってここに来て、どこへ帰るのか…」

正純「だって、これ夢ですから」




 ・・・沈黙がいたいです。

 やっぱり夢の中の人にここは夢であると言わない方がいいのでしょうか?
 夢の中の人にとっては、ここは現実なのかもしれません。
 なら、もしかして現実だと思っていたここが、一夜で終わる夢だと言われてしまったら…!! ハッ

正純「す、すいません!!此処は夢ではないですよねー」アハハ

「あはは、おもしろい子だねえ…解ってたんだ、此処が夢だって」

正純「えぅ……はい…」

「なら尚のこと…僕には君が受け身の人間にしか見えない」

正純「…あの、その受け身ってどういう」

「君は何でも受け入れる。こうなったから仕方ない、此処にいるんだから仕方ない、自分にしかできないんだから仕方ない…」

正純「まあ…そう、なんでしょうか?」

 考えてみたこともありませんでした……

「まるでボクシングの相手になっている人形じゃないか……そんなだから」



「君は人形になり果てたんじゃないかね?」



正純「……っ」

 まつりはベッドの上で目を覚ました。
 布団は汗でびしょ濡れだった。

正純「…」サラッ

 まつりは、湿気った自らの金髪を撫でた。

正純「シャワー、浴びないと……」




~~~~~~~~
今度こそ今日はここまで。
時間遭ったのでアバン程度に

 パジャマパーティから三日が過ぎた。
 相変わらずジオイドは毎日のように怪獣化して現れ、その度に蜘糸商会が人々を避難させてガチユリダーが怪獣を倒す。
 そんなことを繰り返し、琴主交らパイロット達はこの日常に慣れ始めていた。

紙人形ジオイド『SPAAAAAAAAAAAAAAAAA』シュバババ

 紙でできた人形のような薄っぺらい怪獣が、その鋭利な腕でリリーキャットに襲い掛かる。

琴主「まつり!!」ズバァァァ

 交の操るリリーブレードが怪獣の腕を縦一閃に切り裂いた。

琴主「まつり、どうしたのさ!!」

正純『…あっ、す、すいません!!』ガション

 リリーキャットは機銃を掃射して怪獣の腕に風穴を開けていく。

紙人形ジオイド『SPAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』ギュルン

 怪獣は機銃によって空いた穴を再生させて、縦二本に裂かれた腕をリリーキャットの両翼に縛り付けた。

正純『きゃぁっ!!』ガクン

琴主「まつり!!」

 その時、リリーキャットにP.A.U.R.司令室からの通信が入る。
 そのモニターに映ったのは愛糸はじめ。

愛糸『お嬢様!!お疲れなら私が変わります、パイロットの交代を!!』

正純『くっ…いいです、私でも!!』

綾乃『ンなわけないでしょう!!強制交代よん』

 綾乃の通信とともに、リリーキャットの胸部からP.A.U.R.司令室へと光線が照射される。
 光線はあらゆる物体を突き抜けて、正確にはじめの胸の受信機へと突き立った。
 次の瞬間、空間が逆転する感覚とともにはじめとまつりの体は入れ替わった。
 リリーキャットが紫色に染まっていく。

愛糸『こんな…ものっ!!!!』ガシュン ヴオン

 リリーキャットが変形して両腕を出し、追加装備のヒートナイフで怪獣の腕を切り裂いた。

琴主「はじめちゃん!!」

愛糸『ああ!!』

[AMD Ver0.32 Full drive complete]
[合体準備完了(済)]

琴主愛糸「「合っ体っ!!!!」」ギン


GYD(愛糸)『ガチユリダー…オーガススタイル!!』ガシィィィン


 オーガススタイルに合体したガチユリダーは、ワイヤーくないを無数に放って怪獣にワイヤーを巻きつけていく。

紙人形ジオイド『SPAUUUUUUUUUU!!!!?』グシャグシャ

 怪獣は紙のようにワイヤーに押しつぶされていき、ガチユリダーはそれを引っ張り込んでその巨大な両腕で怪獣をさらにグシャグシャにまとめていく。
 そして紙玉と化した怪獣を両手で包むと、ガチユリダーはその両腕にヘーメラー因子の詩実体を充填していく。

愛糸「ゴブリンリリーブロウ!!」ジュウウゥゥゥゥ

紙人形ジオイド『SPAAAAAAAAAAaaaaa!!!!!!』

琴主「咲き…誇れえええ!!!!」

 ボフン!!!!

 ヘーメラー因子を込めた詩実体の熱に焼かれていった怪獣は、やがてガチユリダーの指の隙間から漏れ出る程の爆発を起こした。
 それはまるで鬼百合のような爆炎を残した後、黄金色の粒子となって大気に溶けて行った。

P.A.U.R.司令室

正純「……」シューン

綾乃「んー変ねぇ、正純ちゃんのバイタルパターンとウラノスエンジンとの同期率が今日はちょっとおかしいわよん?」

正純「すいません……ちょっと、変な夢を見てしまって…」

根本「夢? まつりらしくないわよ、夢なんかで一々…」

綾乃「いやぁ、ウラノスエンジンはあなたたちパイロットと密に繋がっているからねぇ。ちょっとしたきっかけで調子悪くなるのもしょうがない事なのよね」

正純「……」シューン

根本「……はぁ」

綾乃「良いこと思いついた、まつりちゃんちょっと交ちゃんとデー」

愛糸「おい誰か司令官黙らせろ」

オペレーター「はっ!!」ビシッ

綾乃「ちょ、何パイロットの指示のほう優先してるの!?優先順位おかしいわよね!?…ちょっと、アー…」ズルズル

琴主「はぁ……まつり?」

正純「ちょっと、落ち着いてきます…」トボトボ

 司令室を後にするまつりを追おうとする交を、はじめは腕で制して止めた。

愛糸「お嬢様は偶にああなるんだ…ちょうどこの時期だからな……」

琴主「時期?」

愛糸「……くやしいが、きっとお前に一番知られたくないことだと思うから…」ぷい

琴主「………?」



P.A.U.R.更衣室

 正純は、手のひらにホロウィンドゥを開く。
 それは過去に撮影した一枚の画像ファイルだった。

正純「……お父様…私は……」

 その画像には…優しい笑みを浮かべる妙齢の男性と、同じ色の黒髪だが今と変わらぬ笑顔を浮かべている幼いまつりの姿が映されていた。



~~~~~~~~~~~
今回はここまで
ギャグとシリアスの両立は難しい

回想:5年前 天銅医大付属 中等部

 それははじめが燕糸家に迎えられてすぐのことだった。
 はじめは特に深刻な高濃度のジオイド被害の中記憶を犠牲にして唯一生き残った珍しいケースだった。
 研究者はもちろんのこと、医者やジオイドからの救済を目的とした活動団体、そしてマスコミがその奇跡的な生還の秘密を求めてはじめにつめより、記憶のないはじめに落胆して帰っていく日々…それが連日時も場所も選ばずに。
 そのためはじめは学校でもひどく浮いた存在となるのは当然だったのかもしれない。

女生徒G「ねぇ見て、あれだよ例の…」

女生徒H「あぁ、ズルして生き残ったチビッ子でしょ?」

女生徒I「どうせ自分だけ助かるために秘密を隠してるんでしょ?」

女生徒J「アニメやマンガじゃあるまいし、記憶喪失なんてそんな都合よくあるわけないじゃない」

愛糸「……」キッ

G~J「……」ビクッ

女生徒I「な、なによ!実際そうなんでしょ!?」

女生徒J「私たちだってあの霧の被害で知り合いみんな死んでるのよ!!」

女生徒J「その上こんな身体にされて、生き残るんだって代償を払ってるのに!!」

愛糸「義体は私だって同じだ…知らないものは知らない」

女生徒J「見え透いた嘘をつくな!!」ドン

愛糸「……っ」ドタッ


女生徒A「ねぇ、あれちょっと」

女生徒B「こんな時に…ちょっと止めさせてくる」ガタ

ガタっ スッスッ

女生徒B「ってちょっと」

女生徒A「正純さん?」

 立ち上がろうとした女生徒Bよりもはやく立ち上がって、倒れたはじめを庇うように立ったのはまつりだった。

女生徒J「…何?」

正純「義体に不満があるなら、責める相手が違います」

女生徒J「……っ」

女生徒G「そうだよ……あんたの家だって、そいつを囲ってさ!!住むとこ与えてやってるのを良いことに秘密を聞き出したんでしょ!!」

正純「なら尚のこと、はじめちゃんを責める理由はないでしょう!!」

GJ「……っ」ビクッ

愛糸「……」

正純「秘密っていうのがなんなのか、私は知りません。お父様は最期のその時までジオイド被害から人々を救う唯一の手段として義体システムを開発しました。容呼さんも八尾さんも記憶をなくしたはじめちゃんの為に、なくした記憶の代わりになるようにっていって家族になろうとしてるんです」

女生徒G「…そっ…それは……」

女生徒J「あんただって……あんただって!!」


女生徒J「その金髪も肌も!!親父の趣味で改造されたんじゃないか!!」

シン・・・・・・

正純「……」

女生徒J「あっ…な、何よ……何か言ってみなさ」


正純「それが何か問題なんですか?」ニコ


女生徒J「……は?」

正純「行きましょうはじめちゃん」

愛糸「え、う、うん…」

女生徒A「ちょ、ちょっと正純さん大丈夫?」

女生徒B「あんなこと言われて…」

正純「だって、本当のことですから…」フラ ガタッ

愛糸「!! まつり…」

正純「大丈夫です…ちょっと、立ちくらみがしただけですから…」


回想:その日の放課後

愛糸「ねぇ…まつり」

正純「んー?なんですか?」ニコニコ

愛糸「その……助けてくれて、ありがとう…ございます」

正純「当然です、家族なんですから♪」

愛糸「……あの、Jが言ってたのって…」

正純「……やっぱり、人間割り切れないことってあるんですね…ちょっと、嫌だったんです正直言ってさっきのは」

 立ちくらみがしたとき、まつりの脳裏にフラッシュバックしたのは、手術台の複数のライトと父の影…最終調整槽に満たされた薄緑色のナノマシンジェルに浮かぶ金色の髪…父の声だった。

愛糸「……まつりのお父さんって…」

正純「ちょっと、私の義体って他の人とも違うんです。ワンオフっていうか、まだ義体運用法で外見を変えちゃいけないって法律が定まる前にできた義体ですから………」

 まつりは語った、自らと父の異常性を… 
 正純まつりは、義体開発者である父自らの手で流通するそれ以前から全身義体化の手術を受けていた。
 父は子煩悩な人間で、何かにつけてもすべてまつりの事を優先していた。
 それはまつりが生まれてすぐに母が亡くなったことにも起因しているのかもしれない、しかし残された今時には珍しいアナログ写真の劣化した色彩からでも、母が見事な金髪と白い肌を持った外国人だったということは分かっていた。
 そう、まるで今の自分のように…その笑顔さえも、母は今のまつりにそっくりだった。
 否、今のまつりが母親とそっくりになるようにされたのか……

『素晴らしい…綺麗になったね、まつり』

『君は新しい時代に生きる者として選ばれたんだよ、まつり』

『これからどんどん、選ばれた子供たちは増えていくだろう』

『まつり…いつかお前もその力で誰かを守っておやり』

 しかし、それからだろうか…父の愛がどんどん偏執的な方向へと歪んでいったのは……その正確な切っ掛けにはまつりにもわからない。
 結局、まつりは父が死んでから容呼や綾乃と出会うその時まで父が歪んでいることにすら気づかなかったのだ。
 それに気づいたのは、初めて出会った二人の後悔の表情からだった…


 一通り話し終えたまつりの表情を見て、はじめは愕然としていた。
 そんなことを話しながら、祭りの表情は全く変わることなく……いつもの笑顔だったからだ。

正純「おかしいですよね…やっぱり、人形みたいな笑顔してると思います私」

愛糸「……」

正純「でも、嬉しくもあるんですよ?この身体になったおかげで、はじめちゃんや容呼さんや八尾さん、綾乃さんとも出会ったんですから。それに、私とはじめちゃんの義体だけがウラノースを操って、いつか来る怪獣からみんなを助けることができるんですから」

正純「だから、それでいいんです」ニコッ

愛糸「……」

 はじめは拳を握った、それまでの何もかも失ったことに甘えていた自分自身が恥ずかしいと思ったからだ。
 同じように多くのものを失って、それでなお笑い続ける目の前の少女に対して恥じた。
 きっとこの少女は、自分がもっと大きな、大切なものを失うことになろうとも、自分や誰かのために笑って戦うはずだと…そんな危機感が脳裏をよぎった。
 そして、はじめは決意した。

愛糸「まつり……いや、お嬢様」

正純「え、いやお嬢様だなんて…はじめちゃん?」照れ照れ

愛糸(私は、今はまだ弱いけど…身体だってちっちゃいままだけど……あなたを守れるようになりたい)

愛糸(みんなを守るあなたを、私が守るんだ…!!)グッ

正純「はじめちゃん…?」

愛糸「…なんでもありません」/// ぷいっ

正純「ふふ、変なはじめちゃん♪」撫で撫で

愛糸「~♪」



~~~~~~~~~~~~~~
今回はここまで
一応鬼百合スタイルは初期段階から入れようかなと思っていまして…
今調べてみたら英名タイガーリリーだったと知り絶望した。
どっかの小説で鬼百合をゴブリンリリーとか英訳してたの真に受けて
「さすがにゴブリンじゃあれだからオーガスにすりゃいいんじゃね?ゴブリンリリーは必殺技につけやう」と思ってたら…orz

ちなみにはじめちゃん自身はこのスタイル一応気に入っているという設定です。
元々強くなりたいという志向持ちだし女の子としての先入観もないので。

回想終わり 天銅医大付属

 紙人形の怪獣襲来の次の日……

愛糸「……で?何をやってる」

根本「何、メイドちゃん?」

 眉間にしわを寄せた表情が似合わないのはともかくとして、はじめはそんな怪訝な表情でA組の状況を見ていた。
 さいかに寄り添うのは全身義体が殆どを占める少女達。
 というより、主立っていつかさいかに襲撃されて連続気絶事件の被害者たちだった。

女生徒E「あ、はじめちゃん久しぶりぃ、S組行っちゃって以来だねぇ…はふぅ」ヨリソイ

女生徒F「あぁっ、今日もお姉さまはお美しい…」スリスリハァハァ

根本「何って言われても、ハーレム?」

愛糸「いやいやいやいや…何で教室の一部がハーレム化してるかを聞きたいんだけど」

 姦しいというレベルではない、ちょっとした軍団になりつつあるそのハーレムには端にいつかはじめを苛めていた女子も何人か取り込まれている。
 ジオイド被害が沈静化しつつある今となってはすっかり毒もぬけて恍惚とした表情でさいかに寄り添うその姿がある意味哀れで痛たましくも思える。

根本「いやぁー襲撃した時の記憶はハジに消してもらってたはずなんだけどキスした記憶だけは残ってたみたい?しかし美少女揃いよねこの学校」

愛糸「黙れ変態」

 おまけにさいか自身、表向きはミステリアスな魅力を持った非の打ちどころのない美女であることもこのハーレムを形成している一因である。
 一皮剥けばヘタレなのもまた良いとの評判も本人の与り知らぬところでささやかれている。

愛糸「……はぁ、それを訊きに来たって訳でもないのに……お嬢様何処に行ったか知ってるか?」

根本「ああ、まつりならさっき出て行ったわよ?昨日から相変わらず沈んでて、保健室いったとこよ」

愛糸「そうか…すまん」タタッ

根本「ああそうメイドちゃん」

愛糸「何だ?」メイドイウナ

根本「何を隠してるのかはわからないけど、早々隠し通せるもんじゃないと思うわよ?まじるも、気にしてたし」

 さいかの言葉に、はじめの足が止まった。

愛糸「……でも、まじるには言えないと思うんだ……」

 そう言い残してはじめは教室を去る。
 さいかは片頬をついてため息をついた。

根本「あんたはまつりの事が好きなんでしょうに…いや、だからか?」

キーンコーンカーンコーン
 と予鈴が鳴り始めるのと同時に、交は教室に滑り込んだ。

琴主「間に合ったぁ!」ダダダズザーッ

根本「タイミング良すぎ!!」ビシィ

琴主「えぇっ!?な、なんだよう?」

根本「まつりは?」

琴主「やっぱり気分が悪いんだって…っあーなんなんだよお」ノビー

根本「メイドちゃんが言うには、まじるだからこそ知られたくない事なんだってさ」

琴主「私だからって…そんなに信用ないかな」

根本「馬鹿、好きだからに決まってるでしょ?」

琴主「………え?」

根本「ちょっとまじる?念のため聞くけど、あんたまつりがどれだけあんたのこと好きになってるか解ってる?」

琴主「え、そりゃあ…ちょっとスキンシップが過激なだけで…」

根本「……はぁ、この女たらし」

琴主「わ、私だって女だよ!!」

根本「知るか!!あんたの思考はモテ期の男子のそれとあんま変わらないのよ!!」

琴主「」ガンッ

先生「あのー……そろそろ授業初めていいか?」オソルオソル

根本「構いません…さ、席に戻りなさい」

ハーレム「「はーい」」ワラワラ

琴主(うぅっ……そんなハーレム築いてるさいかに言われたくない…)



~~~~~~~~~~~~~~~
今回はここまで
百合はこういうすれ違いありきだと思うのですが長々続けてもグダグダになるだけという

素で間違えたこれ、回想シーン飛び級してるよこれ
回想シーンは小等部五年A組でのことです

保健室

正純「……はぁ」ゴロン

 まつりは保健室のベットに寝転がりながらため息をついた。
 転がるたびに揺れる金髪が目に入るのが、今は不快でならない。

正純「いつもはこんなに気になることはないのに…うう」

 まつりは不意に襲いくる吐き気に口元を抑えて布団にくるまった。
 いつもその事を思い出しては、激しい自己嫌悪と動悸に襲われる。
 そのことを気づくまで当たり前のように受け入れていた事実がさらに不安と自己嫌悪を増長させて正純まつりという自己を揺らがせる。
 それで尚冷静に自分のことを分析できるのはまつりだからこそとしか言いようがない。
 そうでもなければとうにおかしくなっているかもしれない。

正純「……本当に、機械みたいじゃない…私」

愛糸「お嬢様?」

正純「……っ」バッ

 突然聞こえたはじめの声、まつりはあわてて布団から顔を覗かせた。
 そしてすぐに真っ赤になって布団に顔を隠した。

愛糸「機械って…全身義体なんですから今さらでしょう…?」

正純「聞こえちゃってました…?うわぁぁ…」///ゴソゴソ

 つぶやいた言葉の客観的な痛さに、まつりは団子のように布団にくるまって悶え始めた。
 初めはため息交じりに微笑むと、そんなまつりの布団に腰かけた。

愛糸「やっぱり、まだ気になさっていたんですね…もうすぐ墓参りの日ですし」

正純「…自分で自分が情けないです、気づかなかったことも…今更、今もずっと悩んでることも」

愛糸「わかってます…まぁ、過去のない私に本当にわかるかはわかりませんけど」

正純「そんなこと…」

愛糸「…内緒にしていたことがあるんです」

正純「?」

愛糸「初めて戦闘の最中に合体した時、私はウラノスシステムを通してまじるの過去を見ました」

正純「……!」

愛糸「やっぱり…過去がある人間は、大きな変化があるとその前の自分と、今の自分の差を感じて苦しむものみたいです」

正純「まじるさんも…?」

愛糸「……彼の伯父が言っていました」


『人は何かを得る代わりに、何かを失うものだ。割に合わないことも偶にはあるだろうよ…でも、だからこそ歴史ってのは進んでいく。繰り返そうが巻き戻ろうが違う未来を思い描こうが、俺たちにできることはいつも一つじゃないかね』

琴主『舞のことを、忘れない事…?』

『そう、忘れないで……悔いを無駄にしないことだよ』


愛糸「過去を無駄にしないこと…悔いも苦しみもひっくるめて、未来を掴むこと…その大切さをあいつはよくわかっています」

愛糸「お嬢様も、きっとあいつのそういうところに惹かれたんじゃないでしょうか?」

正純「悔いを…無駄にしないこと……」


琴主『そんなの…正純がほっとけないからだよ!!』

琴主『私の、死んだ妹にそっくりなんだ……背が低いとこも、どじな癖にどんどん先にいっちゃうとこも…っ』

琴主『だから、あれがもしジオイドと同じものだとしたら…私は今度こそ妹を守る!!』

琴主『今は、私にあなたのお姉さんでいさせてよ!!』


正純「…そっか、私は…まじるさんのそんな生き方に、憧れてるんだ…」

 はじめは気づかない、自分が無意識に強く拳を握っていることに。

愛糸「……っ、お嬢様…まじるに隠し事なんて、する必要はないと思います。あいつは馬鹿ですから、そんなこと気にする脳なんか持ち合わせていません」ぷい

正純「ちょっとその言い方はひどいと思いますけど…」ニャハハ

正純「そう…ですよね」

愛糸「むしろ、そんなお嬢様を見ているほうが、みんな心配ですよ…私も」

正純「…?」

愛糸「そ、そんなことより!!折角授業をサボタージュしてまでお見舞いに来たんですから…なにかお世話をさせて下さい」///

正純「ふえ?良いですよぉ殆ど心労なんですからぁ」

愛糸「心労甞めてはいけません!私だってそのせいで背伸びないんですから!」

正純「いやに説得力!!」

愛糸「だからお世話させてください!!」///涙目

正純「にゃ、にゃぁ~」///


 二人がそんな風にじゃれあっているその時だった、ふと保健室のドアが開いた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今回はここまで
油断するとすぐキャラがイケメン化するから困る

琴主「あ、やっぱりはじめちゃんも来たんだ」ガラッ

根本「ふぅん、揃いも揃って…人のことは言えないけどさ」

 保健室に顔を出したのは、交とさいかだった。

正純「まじるさん!」パァ

愛糸「……っ」ドクン

琴主「まつり元気になったんだね…良かったぁずっとあのままだったらどうしようかと思ったよ…」

正純「えへへ…申し訳ないです。もう、大丈夫ですから」チラッ

愛糸「…っ」ドクン

 はじめの作り物の心臓が、痛いほどに高鳴った。
 何故、そう考える暇もなく心臓が警鐘を鳴らし、はじめは動けなくなる。

愛糸(やめて……)ドクン

正純「私は…」

愛糸(やめてよ……)ドクン ドクン

正純「まじるさんに、言わなきゃいけないことがあるんです……」

愛糸(そいつの知らない、私達の秘密……)ドクン ドクン

愛糸(あれ、何考えてるんだ…)

琴主「ん?なぁに?」

愛糸(あんなことお嬢様に言っといて…私)

愛糸(二人の秘密を、まじるに知られたくないって思ってる…こんなこと、前にも……)ドクンドクンドクンドクン

愛糸(……最低じゃないか)

正純「私は……」


愛糸「止めてまつりぃぃぃ!!!!」 ドクン!!

 ずおおおおおおおおお!!!!


はじめの叫びと共に、地震が天銅医大付属を襲った。

琴主「うわ!?」

正純「これは…!!」

ヴヴヴウウウウゥゥゥ!!

ヴヴヴウウウウゥゥゥ!!

 鳴り響く警報に、警戒は確信に変わった。

琴主「ジオイド…!!」

正純「…っ」カチッ

愛糸「お嬢様!!」

バシュン

琴主「くそっ…私も!!」カチッ バシュン
根本「今のは…いや、真上に出てる!?気にしてる暇はないか!!」カチッ バシュン
 3人がTPジャンパーでP.A.U.R.司令室へ転送し、一人取り残されたはじめは震えながら自分の両手を見つめていた。

愛糸「なんで…私は、今…っ、お嬢様!!」カチッ バシュン

 我に返ったはじめも転送した。
 学園の上空には、十字を丸くした花模様が冠のように円を描いて並んだような怪獣が何も言わずに浮遊していた。

花冠ジオイド『…………』ゴゥン ゴゥン ゴゥン ゴゥン

P.A.U.R.司令室

オペレーターA「敵ジオイド、天銅医大付属女学園上空を停滞中!!」

オペレーターB「何もしてくる様子が見られません」

綾乃「不気味ねぇ…」

容呼「ほんまにな…」

正純「お待たせしました!!すぐリリーキャットで出ます!!」

容呼「ちょお待ち!!」

正純「!?」

綾乃「敵の罠の可能性があるわね…」

正純「でも…まだ学園にはみんなが居るんですよ!?」

 まつりがそう言った瞬間だった。

花冠ジオイド『MMMMMMMMMMMMMMM!!!!!!』ゴゴゴゴゴゴ

女生徒『キャー!!』
女生徒『誰かー!!』

 怪獣の遠吠えか、激しい振動に鳴動するように地震が起きて学園を激しく揺さぶった。
 幸い最新の防振設備が整った島京の学園だから揺さぶりに留まっているが、このまま強い揺れが続けばわからない。

容呼「なっ…!?」

綾乃「ちょっと観測班んんん!?」

オペレーターB「わ、わかりません!!いきなり予備動作なしで行動を!!」

正純「……!!」

 逃げ惑う女生徒達の映像の中、まつりは校庭の隅で転んだままうずくまっている女生徒Jを見つけた。

女生徒J『誰か…誰か……』カタカタ

正純「…出ます!!」タタッ

容呼「まつりさん!!」

正純「はい!!」ピタッ

容呼「思い詰めてるんはわかっとります…でも、無茶だけはせえへんようにな!!」

正純「……はいっ」タタッ

琴主「リリーブレードも出ます!!」

根本「私は補欠で」

愛糸「……私も」

綾乃「よし……出動!!」


~~~~~~~~~
今回はここまで
彼やない、彼女や……orz
それもこれもブレード乗りがイケメンなのが悪いんや

リリーキャット コクピット

琴主『まつりぃ、さっき言い掛けてたのって』

正純「えへへ…お恥ずかしい話ですから、後で話しますね」

 そう、どんな相手でも交とガチユリダーなら倒せると…まつりにはそんな確信があった。
 一つは、それがあの怪獣を倒せる唯一の手段だから。
 確信以前に、これで勝てなければ意味がないからという意地に近い楽観論。
 もう一つは、まつり自身が交に抱いている想いの力。
 ガチユリダーは操縦者の愛情を力に変える、そのことに関してまつりは誰にも負けない自信があった。
 その二つは、確かに正しかった。

[AMD Ver0.32 Full drive complete]
[合体準備完了(済)]
正純「学園の皆に危害が及ぶ前に…一気に決めます!!」ギン

琴主『うん!!』ギン

ガシイイイイィィィン

GYD(正純)「乙女合体!!ガチユリダァァァ!!」ズズゥゥゥン


 怪獣の前、ほぼ無人と化した校庭に降り立ったガチユリダーは、早速とばかりにバックパックの五次元倉庫からリリーランチャーを抜いて怪獣に斬りかかった。
 しかし……

花冠ジオイド『……』スカッ

琴主「あ、あれっ?」

正純「まさか、幻?」

 ガチユリダーの斬撃を幻のように透過した怪獣は、花冠を構成する花の中央にずるりと巨大な目を開きガチユリダーを睨んだ。

正純「…っ!!」ゾクン

綾乃『やっぱり罠か……!!琴主ちゃんそいつは生命の最低限持つS.N.W.視力でぎりぎり見える異相に居る、はやく固定を!!』

琴主「わ、わかった!!」ギ

花冠ジオイド『MMMMMMMMM…』ギギギ…ガチン

琴主「…っ!?」ン

 怪獣が花一つ分回転すると、まるで初めからそこに居たかのように隣のビルの屋上に浮かんでいた。
 交は何もない位置を注視しただけだった。

琴主「避けられた!?」

綾乃『そうか…5軸の遠距離を旋回することで、『何処にいるか』の可能性を移動したのね!?素粒子の瞬間移動と同じ原理よ!!マズいわ…いくらまじるちゃんでも、三次元的にランダムワープする相手は集中出来ない…!!』

花冠ジオイド『MMMMMMMMMMMMMMM』ガガガガガガガガガチン

 綾乃の言葉を肯定するように、怪獣は激しく回転し、花一つ分回転したダイアル音と共にあちこちに瞬間移動した。

琴主「くっ…飛び回ったってランチャーが当たれば!!」ガチン

正純「…っは、はい!!詩実体充填します!!」

花冠ジオイド『』ガチン

 リリーランチャーを広範囲設定にして構えたそのとき。
 怪獣はガチユリダーの鼻先に出現し、至近距離からその目でガチユリダーの目を覗き込んだ。

琴主「しまっ…」

正純「ひっ…!!」

正純(何故?何故あの目が恐いの!?)

花冠ジオイド『MMMMMMMMまぁぁぁぁ』ジュルルルル

正純「…!!」ゾクン

 怪獣の壊れたビデオ音声のような鳴き声が、僅かに人間味を帯びた。
 その聞き覚えがある声にまつりが戦慄した瞬間、怪獣は花の裏から触手を伸ばしてガチユリダーの四肢に絡みついた。

琴主「うっ…まつり!!リリーランチャーはもういいから、逃げるためにブーストを…まつり?」

正純「まさか…まさかあのジオイドは……」カタカタカタカタ

 振り返ってまつりを見た交は、驚愕に目を見開いた。
 いつものほんのりと赤みを帯びた肌は血の気を失って青ざめており、カタカタと異常なほどに震えている。

琴主「まつり!?どうしたのまつり!!!!」

正純「い…いや、無理…あれは、あれは!!」

『まつり……ようやく、再び逢えたね』

正純「ひっ…!!いやあああああああ!!!!」

 まつりの叫びとともに、怪獣の目から閃光が走りガチユリダーの腹を貫いた。

琴主「がっは…!!!!」

正純「ぐぅっ…!!!!」

 フィードバックで腹を貫かれた痛みを共有し、その衝撃で二人の意識が揺らぐ。
 するとガチユリダーは力が抜けたかのように分解しリリーキャットとリリーブレードへと分離した。
 そして触手がリリーキャットに絡みつき、その機体をコクピットだけ露出して触手で埋めていく。

正純「ぅぁ…は、あ……」ずるずるずる

琴主『……ごほっ、ごほっ!!…ま、まつり…』ハァハァ

 薄く目を開いたまつりは、目の前の光景を見て再び目を見開いた。

正純「あ、あぁ……そんな、まさか……」

 赤い霧、ジオイドの霧……それが集まって、等身大の人のような姿を形作っていく。
 それは黒い髪とひげを蓄えた、白衣を羽織った妙齢の男だった。

オペレーターA『正純まつりのバイタルパルス、急激に上昇!!』

オペレーターB『ひどく動揺しています!!』

綾乃『そりゃそうでしょうよ……だって、あれは…』ギリッ

正純「お父……様!?」

巌『久しぶりだね、まつり』

正純「いや……いやっ…」

正純「来ないでぇぇぇ!!!!」ガシュン

 バババババババババババ!!!! と、リリーキャットの機銃が火を噴いて眼前に浮遊する人物を容赦なく粉砕した。
 しかし、それはジオイドの霧のように霧散すると再び収束して、リリーキャットのコクピット内へ入り込んでくる。

正純「あぁ…ぁぁあ……そんな、お父様……」

巌『悪い子だ……』

 そして再び人の形に収束した男は、その腕をまるで幻のように突き抜けてまつりの腹に埋め込んだ。

正純「……っ!!かはっ!!あ゛、あああ!!!!」ビクン ビクン

オペレーターA『正純まつりのバイタルパルスが危険域に突入!!』

綾乃『タキオンパルス送信!!早く転送して!!』

オペレーターB『駄目です、信号を受け付けません!!』

綾乃『くそっ!!亡霊気取りかあの変体親父は!!!!』

正純「ああっ…あ、あぁぁ…」

巌『だいぶ改造を施したようだが、根底のシステムは変わっていない…流石は私の娘だ』ズブズブ

正純「やめ…てっ、やめてくださ…お父様…」ググ…グググ

巌『!!』ズブッ

正純「アグッ!?」

 巌はまるで悪鬼のような醜い表情となってまつりに埋め込んだ腕を暴れさせた。

巌『まつり、いつから私を拒むようになった…?いつから私への恩を忘れたぁぁぁ?』ぐりゅりゅ

正純「ひぐ、う、うううあああ!!!!」ガクガク





琴主『まつりいいぃぃぃ!!!!』




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今回はここまで。
いかがわしい意図はありません(

P.A.U.R.司令室

オペレーターA「これはいったい…ジオイドが、正純社長を蘇らせたとでも…」

 オペレーターの言葉を遮るように、容呼は言う。

容呼「死んだ人間が蘇るなんてありえへん」

綾乃「………」

オペレーターB「じゃああれは…」

綾乃「おそらく、記憶ね…ガイアの記憶から一個人の情報だけを抜き取って手ごまとしてる…でも、それだけじゃ無理がある」

根本「人間が余計な記憶を忘れるように、ガイアもたった一人だけの肉親の記憶を正確に引き出せるなんてことはまずありえないわ」

綾乃「つまり……まつりちゃんは、どこかで明確な敵意を持った『敵』と出会っている?」

愛糸「…変な夢を見たといってた…」

綾乃「夢か…!!何らかの方法で茉莉ちゃんの夢に接続し…まつりちゃんの過去にそこからトラウマの種を探り…その限定条件をもとにガイアの記憶からあれを再構成したと考えれば…」

容呼「いずれにせよ、このままやとまつりさんが取り込まれてまう……八尾!!」

八尾「ここに…」

 容呼が呼ぶと、八尾がトランクを抱え司令室に姿を現した。
 歩を進めようとする容呼を綾乃が制止した。

綾乃「待って」

容呼「待てへん、これはまつりさんとうちの身内の問題でもあるんや」

綾乃「それなら正純社長に詩実体を提供した私の責任でもあるわね?」

容呼「……っ、いつだってあんたはそうやって自分を悪役にしようとしはりますな」

綾乃「………それに、まだがんばってるわよ。まじるちゃんは」


リリーブレード コクピット

 交の乗ったリリーブレードが突撃する。
 今リリーキャットを取り込もうとしているあの触手は今間違いなく実体。
 静止している今ならS.N.W.で停止できる。
 ……しかし

花冠ジオイド『MMMMMMMMMM!!!!』

 邪魔するな、とでも言わんばかりに怪獣の目がすべての花で一斉に開き、リリーブレードに向かって一斉に閃光を放った。
 よけられない弾道ではない、しかし閃光はリリーキャットを下りのように包みつつリリーブレードの接近を拒んだ。

琴主「くそっ…誰だか知らないけど、まつりを返せ!!」ギュオオォォォォ

 ダメでもともと、閃光に貫かれることを覚悟で怪獣の本体を注視しながら特攻をかける。

花冠ジオイド『MMMMMMMMMMMMWWWWWWWWWWWWW!!!!』ザキュッ

琴主「くぅ、う!!」ズドン ゴバ

 互いに相打つようにダメージを負う、しかしシールドに守られたリリーブレードのダメージはそう多くない。
 確かなダメージを負ったのは怪獣のほうだった。

花冠ジオイド『WWWWWWWあああああ!!!!』バラッ

琴主「!!!!」ギュオン ガシッ

 悶えるように揺らいだ怪獣の触手からリリーキャットが零れ落ちた。
 交はすかさずリリーブレードのアームでその機体を掴んで近くのビルの屋上に不時着した。

琴主「まつり…大丈夫?」

正純「ううっ…ぅ……まじる、さん…」ガクガク

琴主「これ以上は無理っぽい…でも、まつりは…」

 そこまで言ったところで、ついに交の精神に限界が訪れた。
 限界を超えた痛みと疲労に、交は意識を手放した。

 動かなくなった二機に、怪獣の触手が迫った。

P.A.U.R.司令室

容呼「もうあかんな…早く遠隔操作で回収して、すぐにパイロットを交代せな…もしもの時は私が」

綾乃「……仕方ないわね」

愛糸「……」

 容呼と綾乃の会話を横目に聞きながら、はじめは俯いた。

愛糸(私はなんてことをしてしまったんだろう…私がとめなかったら、お嬢様はあの後でもまじるに秘密を明かしていた…私がとめたから、お嬢様は言わなかったんだ)

愛糸(あるいはまじるに言ってたなら、まじるの答えを聞いていたなら…お嬢様はそのトラウマすら克服できていたかもしれないのに!!)ギリィィ

根本「…メイドちゃん」

愛糸「…ぐすっ…メイド言うな」

 いつの間にか、はじめの頬には涙が滴っていた。
 思考の坩堝からさいかに呼び戻されて、はじめはようやく自分がまた泣いていたことに気が付いた。

根本「泣くくらいなら溜め込んじゃ駄目よ」

愛糸「…!!」

根本「あんたたちがまじるにどんな秘密を抱えてるのか知らないし、そのせいで困ってるならなおのことあんたには思ってることを伝える義務があるんじゃないの?」

愛糸「お前に…何が、わかる」

根本「わかるか!!」

愛糸「!!」

根本「言わなかったらわかるもんもわからないのよ…そうやって人に頼りきりじゃない!!」

愛糸「私が、頼ってるだと…!?」

根本「わかってくれるだろうって思ってるでしょうが!!その秘密のことも、あんたがまつりをどう思ってるかってことも!!それでもわかってくれないことはわかってくれない、だからわけわかんなくなっちゃうんでしょうが!!!!」

根本「私はね、一人になるのが怖いわ…誰にも分かってもらえず自分だけでガイアの悪意を目の当たりにしていたらきっと耐えられなかった…でも、あんたは逆…話すことは誰かに頼ることだって思い込んで、結局みんなに甘えてるのよ!!」

愛糸「う……」

根本「伝えなさいよ!!自分のその軟なプライドと、戦いなさいよ!!」

愛糸「……」コクッ

愛糸「綾乃!!会長!!」

容呼「なんや?」

愛糸「私とまじるを交代してください!!それが一番早く済みます!!」

容呼「なんやと!?」

八尾「はじめ…あなたは何を言っているのかわかっているんですか?それは、まつりさんをそのまま戦わせるということですよ?」

愛糸「それでも、伝えなきゃいけないことがあるんです」

綾乃「それに、期待も少なからずダメージを負っているから…今TPジャンパーで交代して接続状態になったら、今まじるちゃんが感じている痛みをあなたが負うことになるのよ?」

愛糸「覚悟の上です!!」

綾乃「………なら、まぁ良いんじゃないかしらねぇ?」

八尾「………良いでしょう、詳しい話はまたあとで聞きます。内容によっては追加の素振りですよ?」

愛糸「う…か、覚悟の上です」汗

容呼「…えーと、まつりさんの保護者としてはそういきなり決められると心配なんやけど?」

綾乃「まぁ良いじゃない …こんな所で貴女が神に戻って、この軸に留まれなくなっても困るでしょう?」

容呼「ううう、そ、そうなれへんのはありがたいんやけど……」

愛糸「? ご安心ください…身命に代えても、お嬢様は守ります」

八尾「勝手に代えないでください」

愛糸「…はい、ともに帰ってきます!!」

綾乃「…わかったわ、至急パルス送信!!まじるちゃんを回収してはじめちゃんを送って!!」

オペレーターs「「了解!!」」

 画面内のリリーブレード胸部から閃光が走る。
 その閃光がはじめの胸に突き立つと、はじめの体を激しい痛みが襲った。

愛糸「ぐあ、あああ!!!!」バシュン

 その場から消えたはじめのいた場所を、容呼は不安そうな面持ちで眺めていた。

容呼「はじめさん……」

八尾「私は、弟子の養育は厳しくしたつもりです…だからか、少々自信のない子に育ってしまったのかもしれません…でも、今の目を見ればわかります」

八尾「あの子が戻ってくるときは、きっと八重架のようにすっきりとした笑みで帰ってくると」

???

 転送が行われるわずかな瞬間、それが何十倍も何億倍も引き伸ばされたような感覚の中、はじめは身を襲う苦痛にひたすら耐えていた。

愛糸「ぐうぅぅ…っ、こんなの……」

 そして、見えた。
 向こうからやってくる、交の体が。

愛糸「まじる!!」

琴主「……あれ…はじめ、ちゃん?」

愛糸「ごめん…ごめんまじる…」

琴主「え?い、いったい何?ここどこ?」

愛糸「私は…お嬢様の秘密を知っていたんだ。知っていて、お前にその飛おみつを知られることを拒んでしまった…!!」

琴主「え…それって……」

愛糸「お嬢様との秘密を、お前に知られたくなかったんだ!!お嬢様は、言おうとしたのに!!」

琴主「………そっか」撫で

愛糸「ふぇ…?」

琴主「やっぱりはじめちゃんも、本当にまつりのことが好きなんだね」

愛糸「………っっっ!!」//////ボッ

琴主「私も好きだよ、まつりのことが…きっと、本当に」

愛糸「…やっぱり」シュン

琴主「はじめちゃんのことも好きだし、さいかのことも好きだ」

愛糸「……は?」

琴主「ライクじゃなくてラブで!!」

愛糸「な、お前それ…!!」///

琴主「だから…遠慮しないで」

愛糸「!!」

琴主「はじめちゃんの思い……まつりに伝えなよ。ガードマンだとか、守る守られるとかで隠さないで…はじめちゃんならできるよ。秘密はそのあと聞くから」

愛糸「……ああ、負けないから!!」

琴主「じゃあ行って来い!!」

 光の先に駆けていく交を見送って、はじめは向かう先の光に一直線に走っていく。
 そして、光がはじけるとそこはリリーブレードのコクピットだった。
 二人の機体には、怪獣の触手が幾重にもからみついていた。
 痛みは不思議と感じない…目の前のコンソールには、動力を失って暗くなったコクピットに膝を抱えて座り、震えているまつりの姿があった。

愛糸「……お嬢様…」ドクン

 その動悸が、先とは全く違うこの暖かい動悸が、ウラノスエンジンに力を与える。

[System Check]
[悪性因子確認=>除染開始]

愛糸「お嬢様……いや、まつり…さま」

正純「……はじめ、ちゃん?」ピクッ

愛糸「ごめんなさい…私がとめたから、まじるに言わなかったんですね。ご自分の問題なのに…」

正純「…はじめちゃんにも、言われたくない理由があったんですよね……」

正純「こんな私の事で、はじめちゃんにも迷惑をかけちゃうなんて…」

愛糸「違う…違うんですまつりさま!!」

正純「え…?」

愛糸「私は…羨ましかったんです、初めてまじるに会ったその時から」

正純「それって…どういう……」

愛糸「だから……!!!!」ドクン ドクン

愛糸「私も…まつりさまの事が……大好きなんです!!!!」ドクン!!

[AMD Ver0.32 over drive]
[System all clean]
[合体準備完了]

 その瞬間、怪獣の触手を払うかのようにリリーキャットとリリーブレードは強い光を放った。
 そして天高く飛び上がると、青紫の光でその場を包み怪獣の動きを封じた。



~~~~~~~~~~~~~~~~
今回はここまで
思ったより場面同士が長くなってしまった。
次回、ようやく活躍のあのスタイル

???

 まつりは、懐かしい空気を感じていた。
 そこは今住んでいる燕糸の家ではなく、島京の一角にあった小さな研究施設…そこは

正純「……ここは、お父様の…私たちの、おうち…?」

 今となっては蜘糸商会に吸収合併される形で、その施設はセントラルビジネスセンターの一部と化してまつりの家の面影は無くなってしまっているはずだった。
 しかし、今まつりが目の前に見ているのは紛れもなく過去のまつりの家…

正純「まさか…私自身の、過去…?」

 ほんの少し前であれば、思い出すことさえ不快だったその景色…
 しかし、いざ目の前にするとまつり自身にすら意外なほどそんな感覚は訪れなかった。

巌『まつり…体の調子はどうだい?』

正純『ふぇ?』

 目の前には、リハビリ用のおもちゃで遊ぶ幼い自分と…あの悪鬼のような顔ではない、写真より少しやつれながらも優しい笑みを浮かべた巌が居た。
 巌は揺り椅子のような、それでも決して揺れないどっしりとしたデザインの機械に腰かけていた。
 それは全身義体医療が確立される前に開発されていた当時の対感染症用の防護装置だった。
 しかし今のまつりになら分かる…このシステムでもジオイドは完全に防げない、それどころか本土でジオイドに感染してしまった巌はこの時も体内をジオイドに蝕まれているのだ。
 それは他でもない巌本人が分かっていた事だった。

正純『うん、大丈夫だよ?』

巌『まつり…綺麗になったね』撫で

正純『えへへ…』

正純「…お父様……」

 確かに、歪んでいたかもしれない…しかし、思っていたよりも巌の笑顔は優しかった。
 過去の自分から感じる、父の手の暖かさは変わらなかった。

巌『まつり…今のまつりの体にはね、お母さんの遺伝情報が少し多く使われているんだよ』

正純『おかあさん…?』

巌『私はお母さんを愛しきることができなかった…きっと、まつりのことも愛しきることはできないだろう…』

巌『全身義体は革新的な抗ジオイドシステムだ…これからどんどん、選ばれた子供たちは増えていくだろう。だが、私やお母さんという個人が一生のうちに残せる物は、あまりにも少ないんだ…だから、せめて少しでも多くの物を私は残したかったんだ』ぎゅっ

正純『おとーさん?』キョトン

巌『君は新しい時代に生きる者として選ばれたんだよ、まつり…お前だけが、私たちの生きた証だ……』

正純「……」

 歪んでいても、それは紛れもなくまつり本人に向けられた愛だった。
 愛していた、残したかったからこそ、多くのものを詰め込みたかった。
 欲張りかもしれない、間違っているかもしれない…それを与えることも、受け入れることも。
 しかし、その末に未来である今ここに正純まつりが居る。
 父が残した機械の体、母が残した金の髪…そして愛。

巌『まつり…いつかお前もその力で誰かを守っておやり。そして、いつかお前を守ってくれる者が現れた時はその人を愛しておやり』

正純「……っ、お父様は…勝手です、我儘です…っ」プルプル

 まつりの頬を大粒の涙が流れた。
 今や薄れて、いつの間にか変質してしまっていた記憶を前にして。

正純「……でもっ、受け入れます…」ギュッ

 震える声で、まつりはもう此処には居ない父に告げる。

正純「受け入れて、託し続けます…っ!!」

 まつりがそういうと、過去の記憶は真っ白な空間に塗りつぶされ…また別の空間が姿を現した。

???

 はじめは、その日まつりを探していた。
 S組のホームルームが少し長引いて、放課後にA組の前に行くとまつりは転校生を連れてもう帰ったのだという。

愛糸『お嬢様ー?おかしいな、今日はウラノスシステムのテストランの日だって楽しみにしてたのに…忘れてるのか?』タッタッタ

愛糸『あ…そうか、またあの秘密の近道に行ってるのか…』シュタッ

 まつりの安全を確保するために、はじめはある程度まつりの行動範囲を把握していた。
 当然まつりがいつも使っている秘密の近道も知っていた。
 それに通常の帰宅路の途中で気付いたはじめは、遠回りでそこへ向かった。

愛糸『お嬢様ー……お嬢さ…ま……』


 遠目に見えたのは、知らない誰かを押し倒しているまつりの姿。
 そして、それを抱き返している知らない誰か…


愛糸『……っ!!?』 ドクン

 慌てて近くの壁に隠れる…そして、急に高鳴った心臓に胸を抑え込んではじめは膝をついた。

愛糸『(な…何だこれは…何だこれは!!)』ドクン ドクン

 まるで全身から熱を奪うような動悸、それが鳴る度にはじめの思考は緩んでいく。

愛糸『(嫌だ…嫌だ……なんで、なんで私じゃない!?)』ドクン ドクン ドクン

愛糸『(いつも一緒にいるのは私なのに…誰?嫌だ、こんなの……)』ドクン ドクン ドクン

 緩んだ思考が、何かに塗りつぶされていく。

愛糸?『(嫌なんだったら……そろそろ良いよね?)』

愛糸『(なに……が……)』


愛糸?『(終わっても)』


愛糸『うあぁ…ぁぁ…ああああああ!!!!』ガクン

 両手で顔を抑え、くぐもった悲鳴を上げる。
 するとはじめの胸から黒い光が溢れ出た。

『ようやく目覚めたんだね…八重架』

 聞き覚えのある、男の声。

『さぁ、今度こそ生命の歴史を終わらせよう』


 黒い光は天高く舞い上がり、それを核とするように赤い霧が充満していった。
 それは巨大な紅い卵のような形状をとると、都市部の駅前に音を立てて降り立った。

ズズウウウゥゥゥゥ……ン


 轟音と地響きを感じながら、はじめは意識を手放した。

???

 はじめは、その日まつりを探していた。
 S組のホームルームが少し長引いて、放課後にA組の前に行くとまつりは転校生を連れてもう帰ったのだという。

愛糸『お嬢様ー?おかしいな、今日はウラノスシステムのテストランの日だって楽しみにしてたのに…忘れてるのか?』タッタッタ

愛糸『あ…そうか、またあの秘密の近道に行ってるのか…』シュタッ

 まつりの安全を確保するために、はじめはある程度まつりの行動範囲を把握していた。
 当然まつりがいつも使っている秘密の近道も知っていた。
 それに通常の帰宅路の途中で気付いたはじめは、遠回りでそこへ向かった。

愛糸『お嬢様ー……お嬢さ…ま……』


 遠目に見えたのは、知らない誰かを押し倒しているまつりの姿。
 そして、それを抱き返している知らない誰か…


愛糸『……っ!!?』 ドクン

 慌てて近くの壁に隠れる…そして、急に高鳴った心臓に胸を抑え込んではじめは膝をついた。

愛糸『(な…何だこれは…何だこれは!!)』ドクン ドクン

 まるで全身から熱を奪うような動悸、それが鳴る度にはじめの思考は緩んでいく。

愛糸『(嫌だ…嫌だ……なんで、なんで私じゃない!?)』ドクン ドクン ドクン

愛糸『(いつも一緒にいるのは私なのに…誰?嫌だ、こんなの……)』ドクン ドクン ドクン

 緩んだ思考が、何かに塗りつぶされていく。

愛糸?『(嫌なんだったら……そろそろ良いよね?)』

愛糸『(なに……が……)』


愛糸?『(終わっても)』


愛糸『うあぁ…ぁぁ…ああああああ!!!!』ガクン

 両手で顔を抑え、くぐもった悲鳴を上げる。
 するとはじめの胸から黒い光が溢れ出た。

『ようやく目覚めたんだね…八重架』

 聞き覚えのある、男の声。

『さぁ、今度こそ生命の歴史を終わらせよう』


 黒い光は天高く舞い上がり、それを核とするように赤い霧が充満していった。
 それは巨大な紅い卵のような形状をとると、都市部の駅前に音を立てて降り立った。

ズズウウウゥゥゥゥ……ン


 轟音と地響きを感じながら、はじめは意識を手放した。

???

 白く塗りつぶされた空間で、はじめとまつりは抱き合っていた。

愛糸「私は…いつもあなたに甘えてきました…」

愛糸「私はあなたを守るんだって…それだけでいいって好きって気持ちに蓋をして…言ってもどうせ笑って済まされるかもしれないと怖がって本当の気持ちも言えなかった、いつか分かってくれると思っていた……そして、まじるに嫉妬した」

 想いを伝え、それでも自分の醜い嫉妬を目の当たりにしたはじめはまつりの胸で泣いていた。

愛糸「……っ、ぐすっ……ごめ、なさい…ごめんなさい、まつり…さま」

正純「……良いんです、良いんですよ…はじめちゃん。気付かなかった私が悪かったんです…」撫で

愛糸「でも…理由は私にもわからないけれど…私の嫉妬が、ジオイドの怪獣を呼び出した…私の嫉妬が、始めてしまった…!!」

愛糸「あまつさえ…ずっと幸せそうなまつり様に…まじるに!!私はずっとずっと嫉妬していた!!今回のジオイドだって…それさえなければ現れなかった筈なのに…」

 今のはじめには本能的にわかっていた、あの花冠の怪獣は自分が呼び出したのだと…
 はじめと、はじめの中にいる何かと、男の声…その三人の働きで、怪獣は島京にやってくる。
 しかし、火ぶたを切ったのは紛れもなくはじめなのだ。

正純「はじめちゃん…」ぎゅ

愛糸「…っ」

正純「ありがとう」

愛糸「えっ…」

正純「はじめちゃんが私に過去と向き合う機会をくれた…はじめちゃんが止めてくれなかったら、わたしは間違えたまま、父の悪意だけをまじるさんに伝えるところでした」

正純「はじめちゃんが伝えてくれなかったら、私はずっとはじめちゃんの想いに気付けなかった」

正純「想いは、届きますよ…届いた想いを、私はちゃんと受け止めます」

 まつりははじめを抱き上げると、その唇にキスをした。

愛糸「…っ」///

正純「だから泣かないで、はじめちゃん。私もはじめちゃんが好きだから、泣いてほしくないです」

正純「さまなんてつけないで、また昔みたいに呼んでください」

愛糸「……まつり」

 ついさっき…嫉妬の勢いで、はじめは自然とまつりをそう呼んでいた。
 ずっとそう呼びたいと、交と同じ場所に立ちたいという願望の結果だった。
 今…透き通った気持ちでまつりの名を呼んだはじめは、頭の中で何かのピースがかちりとはまった気がした。
 その瞬間、白い空間が晴れてコクピットに戻っていた。

 機体は青と紫の巨人に変わり、装甲は右肩に集まってライフルを背負うような形状に固定されている。

[System all Clear]
[New clearance is acquired]
[Martagon System Launched[.............OK]]
[Evolution]
[The across5 fire-control system is acquired]

 コクピットの視界をホロウィンドウが埋め尽くして一瞬にして晴れる。

[Rlease coll me]

愛糸「……っ」グシグシ

正純「……」スゥ

GYD(愛&正)『ガチユリダー…マータゴンスタイル!!!!』ガキイィィィィン


~~~~~~~
今回はここまで
はじめちゃんの謎は未だ明かさず

市街地 GYDコクピット

 相対する怪獣の形状は若干の変化を見せていた。
 花冠の形状はそのままに、その触手が花冠の中心に集まってまるで編み物のように人の上半身を形作り、そしてその首から先は白く悪鬼のような巌の顔をしていた。

正純「…っ」

愛糸「まつり…」

正純「大丈夫です、もう…大丈夫!!」ガシュン

 まつりのコールで、ガチユリダーの両手首が開き巨人サイズの拳銃がガチユリダーの手のひらまでせりあがる。
 それをつかみ、手首が収納されたその時怪獣は咆哮を上げた。

花冠ジオイド『mAAAAAAATUUUUUUUUUUUUUUUURIIIIIIIIII!!!!!』ギュバァ

 花冠に開いた目から閃光が奔る。
 閃光は複雑な弾幕を描いてガチユリダーの逃げ場を奪う。
 ガチユリダーの足に装着されたローラーが回り、大きく後ろに後退した。

花冠ジオイド『父から逃げるなああああああまつりいいいいいいいい!!!!』バシュシュシュシュン

愛糸「もう…」

正純「逃げない!!!!」ギュオン

 怪獣の閃光が天高く上がると、それは物理法則を無視して重力に従う雨のように降り注いだ。
 ガチユリダーはその旋回性能で閃光の雨を華麗によけまわる。
 しかし、校庭に閃光が落ちる…そこにはまだ逃げきれていない生徒たちがいた。

正純「……!!」

愛糸「お任せください!!!!」チュイン

 閃光の雨を避けながら、ガチユリダーは両手に持った拳銃を閃光めがけて発砲した。
 放たれた詩実体の弾丸は、正確に閃光を捉えて撃ち落とした。
 あらゆる形質に変化する詩実体であるからこそ、光を打ち殺したのだ。

花冠ジオイド『MMMMMMMMMMMMMMMMMAAAAAAAAAAA!!!!』グア

正純「…!!!!」ガシィン

 怪獣の触手が成した上半身が、ガチユリダーにつかみかかった。
 もはや異形と化した巌の顔が、醜くゆがんでいきながら呪詛のように言葉を吐き続ける。

巌『美しい身体だ……そうだ、私がこれを作ったんだ』

巌『まつり…まつり……まつりこそが、その身体こそが私の生きた、証だ…』

巌『まつりまつりまTTTまつRRRRRRRRR』ガガ…ガガガガ…

正純「ごめんなさい……それは、私の歪んだ記憶から生み出された幻でしかないんです」

 まつりが両手に開いたホロウィンドウのキーボードを操作する。
 すると瞬く間にプログラムが完成していき…

[Cleaning program:Transmission]
[Does it perform?]
[Y/N]

正純「私は……あなたを超えなきゃならない!!」カチャカチャカチャ ッターン

花冠ジオイド『MMM…BBMMMBMMBBBBBBBMBBBBBBBBBBBB!!!!?!?』バヂッ バヂバヂバヂバヂ

 その瞬間、怪獣の全身が大きくぶれた。
 もっともぶれた部分は巌の顔、それは悪意の塊のようなそれから優しい笑みをたたえた顔になり…それさえも消えて触手は分解していった。

巌『まTTTまTMTRRRRRRMRTMRMTRMTRMTMRTRMMRTMTRMRTMTRT』ッギギギギ

 それでもなお人の形を保ちながら、ノイズだらけの声でまつりを惑わそうとするジオイドに…はじめの操るガチユリダーの拳が強く握られた。
 そして怪獣めがけて拳を振りかぶり、叩き付けた。

愛糸「それ以上、まつりの過去を汚すなあああああ!!!!」ズガァン

巌『まp』ッパァン

愛糸「ふんっ…」ガシュン

正純「はじめちゃん…結構過激ですよね」タハハ ガシャコン

 ガチユリダーの腕に衝撃で壊れた拳銃をしまいながら、まつりは冷や汗を垂らした。
 そして、怪獣の本体である花冠が血走った目を見開いた。

花冠ジオイド『BBBBBBBBBBMMMMMMMMMMMMMMMM!!!!』ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガチン

 怪獣は再び高速回転して、遠く、また遠くへと瞬間移動して逃げていく。

綾乃『五軸の向こうに逃げて、また遠くから地震を起こす気よ!!』

琴主『まつり、はじめちゃん!!』

正純「心配しないでください、まじるさん」にこっ

愛糸「ああ、お前に頼らないでも……」ニッ

 二人の笑顔とともに、ガチユリダーの方に背負われた草稿が分離して右腕に重なった。
 そして左腕でそれを支え、背中から伸びたアクチュエーターが座るような姿勢になったガチユリダーをその場へ固定する。
 それは、ライフルを持って構える猟師のような姿勢だった。

正純愛糸「「狙い撃てる!!!!」」

[Across5 revolution course inverse]
[Specific completion]
[Axis-of-coordinates spinner starting]

 ライフル部の装甲が開き、排熱と駆動を始める。
 回転するタービンと銃身に、詩実体の光が集まっていき……

[Aim set]

愛糸「リリーマータゴン」
正純「ライフリングショット…!!!!」

[Fire]

 ズドオオォォォォン と、放たれた光の弾丸は、高速回転を始めると突然その場から消失した。

オペレーターA『!? ガチユリダーの攻撃、ロスト!!』

オペレーターB『…!!よく見て!!』

ボッ ボッ ボボボボボボボボボボボボボ…
 と、光の弾丸はでたらめな場所に瞬間移動してはいたるところに衝撃波を生んでいる。

オペレーターB『別の場所に転移して…これは、ジオイドと同じ動き!?』

綾乃『五軸を旋回する相手を…五軸を回転する弾丸で狙い撃つ気ね!?』

 ランダムワープする弾丸は、同じく先をランダムワープする怪獣に恐るべき速さで『近づいて』いく。

愛糸正純「「いっけええええええ!!!!」」ボボボボボボボボボボボ

花冠ジオイド『MMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMM!!!!????』ガガガガガガガガガガガガガガガg

 そして…
 ガボゥン!!!! ……とくぐもった爆発音とともに、あちこちにバラバラに砕けた花冠の残骸が同時に現れた。

愛糸「ふんっ……咲き誇れ」

 ボゥン!!!!

 はじめがそう言った瞬間、破片はすべて青と紫のマルタゴンリリーのような爆炎を放ち、金色の粒子となって大気に溶けて行った。

P.A.U.R. 医務室

琴主「なんだ、そんな事ずっと隠してのか」

 案の定、交の感想はそんなものだった。
 決して無関心なわけではない、まつりは本当にそのことで悩んでいたんだろう。
 しかし、交はそんなことで今更まつりに対して態度を変えるような人間ではなかった。
 それだけで済んだことだった。

 医務室のベッドに寝転ぶ琴主の返答に、まつりは紅い頬を膨らませた。

正純「もう、これでも伝えるのにすっごく悩んだことなんですからね?」ぷくぅ

琴主「あはは、ごめんまつり」

根本「まったく、人騒がせよ…」

愛糸「結局隠す原因になったのは私だ…すまない」

 はじめの言葉に、交とまつりは目を見合わせて……

琴主正純「「……フフッ、あっはっはっは」」

 笑った。

愛糸「な、なんだ!!人が謝ってるのに」

正純「だって…ふふ、ねぇ」

琴主「遠慮しないでって言ったでしょ?」クスクス

愛糸「でも…でもっ」オロオロ

 困るはじめを、ベッドから身を乗り出した交とまつりは一緒になって抱きしめた。

正純「大丈夫」

琴主「はじめちゃんのそういう所も、私たちは好きなんだ…そうでしょ?」

正純「はいっ♪」

愛糸「…」ぽかん

根本「ね?信じるのってのはこういうことじゃない?」ぎゅ

 さいかも加わって、みんなではじめを抱きしめている。
 はじめは、少し迷った後に口を開いた。

愛糸「…まじる、まつり……」

琴主「ん?」

正純「なんですか?」

愛糸「……」

 呼びかけたはじめに、素直な目を向ける二人。
 はじめは目を閉じて考える。

愛糸(あぁ、そうか…受け入れられないはずがなかったんだ。きっと、二人とも私の過去がどういうものであったとしても、こうして笑って受け入れるに違いない)

愛糸(二人は、優しいんだ…とっても)

 目を開き、はじめは笑顔になって言った。

愛糸「大好き」

蜘糸商会 社長室

容呼「八重架……確かにそいつはそう呼んだんやな?」

八尾「…はい、はじめの話では……」

 はじめの報告を聞いた八尾は、この場に二人を除いた誰もいないことを確認してから容呼にそのことを話した。
 はじめの心に語りかけた、女と男の声…。
 その中に入っていた、男のはじめを呼ぶその名に容呼も八尾も驚きを隠せずにいた。
 八尾は、先に言った言葉を後悔するように、震える口を開けて言った。

八尾「まさかはじめが…はじめの正体が本当に、彼女だったなんでことは…」

容呼「黙り」

八尾「……」

 容呼の言葉に、八尾は押し黙った。
 それは、容呼の言葉に威厳があったからでも、八尾が洋子の部下だからでもない。
 単に、言い過ぎたことを自覚しただけだ。

容呼「はぁ…ごめん、ちょお落ち着きたい」

八尾「はい…」スッ

 容呼がそういうと、八尾は影の中に消えて行った。

容呼「……八重架…」

容呼「綾乃…ほんまにあんたは、死者が蘇らへんと結論付けたんか…?」

 容呼は写真立てを眺め、呟いた。
 色あせたアナログの写真には、大きな神社を背景に5歳ほどの頃の八尾と、今とそう変わらない外見の綾乃と容呼…
 ……そして、はじめと瓜二つの外見をした巫女装束の少女が中央に映っていた。


???

「………目覚めのときは、もうすぐだ」

 男が、黒い空間に手を翻してそう言った。

「死者は蘇り、魔女の成そうとした物語は今度こそ現実のものとなる…」

 ドクン ドクン と、大地から熱を啜るかのような鼓動が聞こえる。
 黒い空間に、さらに塗りたくったような黒い巨人のシルエットが現れる。

「滅びに向かうこの世界を漂白し、正しい歴史を紡ぎなおす」

 巨人は男の言葉にこたえるように、紅い二つのカメラアイを輝かせた。

「さぁクロノス……会いに行こう…八重架に!!」

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!』

 男の言葉に答えるように、クロノスと呼ばれた黒い巨人は金属を擦り合せるような咆哮を上げた。


第6話「あの瞳は空虚か」 完






次回予告

愛糸はじめ…ニュクス因子を放出するその体質を危惧された彼女を連れて
燕糸容呼は彼女を蜘糸商会の本社、奈良の燕糸神社へと連れて行く。
しかし、勝手についてきたパイロット達。
ガチユリダーのない今、彼女たちに忍び寄る男の影。

愛糸はじめの正体…その真実が明かされるとき、溢れ出てくるのは希望か絶望か…


次回「そして来るは罪の残滓」


魔女は、己の犯したもう一つの罪を知る

おまけ1『その日、雑談』

P.A.U.R.ブリーフィングルーム

琴主「P.A.U.R.って此処だけなの?」

綾乃「え?」

琴主「いや、ジオイド怪獣って全生命の殲滅を狙ってるんだよね?島京以外に来たらやばいんじゃないかなって」

綾乃「ああ、成る程ねぇ♪」

綾乃「実はP.A.U.R.の観測室は世界各国に存在するのよ。各国支部から得た詩実体の正確な観測結果を蜘糸商会のマスターサーバー『アカシャ年代記』に送ることである程度の未来予知も可能な訳ねぇ♪…まぁ、詩実体論の世界だと過去はともかく未来はまだないわけだから、予測の正解率は天気予報と同じくらいだけどねぇ」

琴主「へー」ヨクワカラナイ

綾乃「アメリカ支部にはジオイド怪獣が出たときの為に量産型ウラノスエンジンを積んだロボットを配備してるのよん♪」

琴主「アメリカに?」

綾乃「その名も英傑合体…」

琴主(やっぱり合体ロボットなんだ)

綾乃「ガチゲイガー!!」

琴主「Σうちのよりヒドい!?」

綾乃「……なーんてさすがに冗談よん♪各国支部があるのはホントだけと、ウラノスエンジン自体此処のしかないし、ガチユリダーの趣向はまじるちゃん達の影響だしねぇ♪」

琴主「そ、そっかぁ…」ホッ

琴主「私たちのせい…かぁ」ズゥゥン

綾乃「いっひっひ♪」

おまけ2『その父、親バカにつき』

五年前 正純家

巌「まつり、ちょっとこっちを向いておくれ」

正純「…? なんですかーお父様♪」にへへ

巌「……」ウンウン

巌(やべぇ超絶かわいいわしかし実の娘なわけでいやしかし金髪にしたらマジで妻にそっくりというかロリな頃の妻というか)

翌日 正純重工ラボ

巌(いやしかし金髪にしたのは妻の生きた証をより多く残したかったからであって決して娘にハァハァするタメじゃあない!!考え直せ正純巌…)

綾乃「正純社長?ナノマシンの詩実プログラムについて相談が…」

巌(いやしかしマジでまつり可愛いよまつり、黒髪だった頃には既に妻そっくりの顔立ちで天然さんだからなぁ…正直言うと体調悪いのも構わずに抱き締めたい撫でたいペロペロしたい)ボー

綾乃「…ふんっ」げしっ

巌「ぽぉう!?」ガタッ

巌「あぁすまない、まつりの可愛さについてげふん…今後の義体コンセプト考えていてね」

綾乃(まつりちゃんが変なことされてないか心配だわ……)
おまけ3『その娘、実は無自覚』

正純「というわけで、これが昔の写真です」ピピッ

琴主「わ凄い、綺麗な黒髪だ」

正純「今の金髪も気に入ってるんですよ♪」

琴主「どっちでもあんまり変わらないくらい可愛いけどね、まつりは」

正純「にゃ…やだまじるさんったら」///
琴主「……」

琴主(私にはわかる……)

琴主(この父の目、同類だ!!)シスコーン


おまけ4『その夢枕に立つ』

夢 図書館

 ベンチに申しわけなさそうに、正純巌は座っていた。

琴主「えっと…まつりのお父さん?」

巌「ガイア詩実体に残った、その記憶だよ…いやはや、申し訳ないことをしてしまった」

琴主「い、いやいやそんな事ないですよ!!あれは敵にいいように使われてただけなんですから!!」

巌「…まつりにも良い友達ができたものだ」

琴主「八尾さんにも言われました…でも、そんな事ないです」

巌「ほう?」

琴主「あなたもはじめちゃんも、大事なまつりの大切な人です。大切な人に、そういう顔はしてほしくないです」

巌「…ちょっと待ちたまえ、大事な?」

琴主「あ」ビクッ

巌「成る程、やたらと仲がいいと思っていたが…君はまつりとそういう仲なのか」ゆらぁ

巌「うちの可愛いまつりは渡さん!!」ガァァァ

琴主「ちょ、やっぱりそういう人だったぁぁぁ!!」

翌朝

正純「あ、まっじるさぁ~ん♪……あれ?寝不足ですか?」

琴主「なんとか勝ち取ったけどね…」ゲソ

正純「?」



おまけ5『その受け継がれる意志』

巌「ぜぇ…ぜぇ……」

琴主「はぁ…はぁ…」

巌「やるな…娘と同じくらいの子とは思えないくらいだ」

琴主「確かに私は…まつりが好きです」

巌「…」

琴主「死期を悟ったあなたが、娘の未来を信じて奥さんの髪を託したのは…少し、わかる気がします」

琴主「私も、残せるものなら妹の生きた証くらい残してあげたかった……」

巌「いや、私はエゴを娘に押しつけただけだ…」

琴主「私も、私のエゴからまつりを助けたくなったんです」

琴主「まつりは可愛いし…優しい女の子です。だからみんなのエゴを一身に受け入れてしまいます」

琴主「その優しさが好きだと気づいたとき、もっとまつりが好きになりました…私は、友達に怒られるまでそれに気づかなかった愚か者です」

巌「……そうだな、やはり我々は同類かもしれない」

琴主「だからこそ、私にまつりを任せてほしい」

琴主「私はあなたの分まで、まつりを愛します。それで…まつりにいつか本当に好きな人ができたら、喜んで見送ってあげます。」

琴主「あなたの分まで、まつりを愛し抜きます」

巌「……」ふっ

 巌はふっと笑みを浮かべると、ベンチの上に置かれた本に吸い込まれて消えていった。

琴主「…聴いてるか!!まつりの夢に出てきた奴!!」

「……」

琴主「次にまつりに変なことしてみろ…その時は絶対に許さないからな!!」

「…」スッ

 男の気配が消えると、浮かび上がるように交は目を覚ました。

琴主「…絶対に、勝つぞ…!!」

 小さく誓いの言葉を呟いた交は、起きあがろうとして柔らかいものに手を突いた。

 寝ていた交のすぐ横には、哀れ寝ぼけて暴れた交に巻き込まれ無惨な姿になったさいかが倒れていた。

おまけ『そのさらにおまけ』

 そこはアメリカの第二海城都市ネオロサンゼルス…平和だった大都会を、突然の爆発が襲った。

 ズドオオオォォォォン

一般市民A「Noooo!!!!」

一般市民B「いったい何が…!?」

一般市民C「怪獣よ!!怪獣が現れたんだわ!!」

卵ジオイド『GAAAAAA』

紙人形ジオイド『SPAAAAAAA』

 都市を破壊して回る見覚えのある怪獣達。
 しかし、その怪獣達の周囲を旋回して鋭利なデザインの戦闘機が姿を現した。

RC「ローゼスブレード!!こちらローゼスキャット!!ジオイドの収束を確認、至急応援を頼む!!」ギュオオォォォオン

RB『こちらローゼスブレード、了解!!こっちがつくまで耐えてくれよ!!』

RC「まったく無茶を言うぜ!!」

 ローゼスキャットと呼ばれた戦闘機のパイロットは、二体の怪獣を相手に奮闘する。
 しかし、紙人形の怪獣を討ち果たしたところで力尽き、卵の怪獣の触手に捕まってしまう。

RC「ぐああ!!チクショウ、此処までか……」グググ

RB『こんな所で諦めるのか?最近だらしねぇな』ダダダダダダ

 怪獣の触手を正確に撃ち貫いて、もう一体の鋭利な戦闘機が到着した。

RC「RB!!チクショウいい男すぎるぜ!!」

RB『仕方ないね、さぁやろうか兄弟!!』

RC「ああ、来い!!」ギン

 ローゼスブレードがローゼスキャットの後ろに回る。
 そしてローゼスキャットの後部バーニアが開き、ドッキングの体制をとった。

RB『英傑…』

RC「合体!!!!」

ガシャアッ―――――――――!!!!

琴主「う、うわああぁぁぁぁ!!」ガバァァ ごっ

根本「ぐっ」ごっ

 交は寝込みにキスをしようとしていたさいかの額を砕きながら飛び起きる。
 ここは島京、ネオロサンゼルスではない。

琴主「はぁっ…はぁっ…ゆ、夢?」

琴主「よかったぁぁぁ」ヘナヘナ

根本「よ…く、ない」ガクッ



P.A.U.R.司令室

綾乃「英傑合体ガチゲイガーかぁ…我ながらいいアイデアかも、ガチユリダーのデータもそろったし…」ピポパ

綾乃「…あローズ教授?ちょっと回したい企画があるんだけど……」


おまけ 完



~~~~~~~~
今日はここまで。
……これはひどい(
ガチゲイガーは続きを希望されないことを祈っています(

乙、それ以上はやめるんだホモスレになってしまう

寒くなってきたので奈良にむけて私服変更

まじる
http://m2.upup.be/9OmNZnxu1m
さいかに怒られ、それまで気づかないようにしていた皆の気持ちにようやく自覚を持ち
はじめにみんな好きだとついにカミングアウトしたロリコンもとい主人公。
これからのハジケぶりに請うご期待。

まつり
http://n2.upup.be/l0gMBtZkOz
描く度に童顔になるヒロイン。
もっと異様に人形らしくして悩ませても良かったけど、あんましクヨクヨし過ぎるとガチユリダーじゃない気がするのでスピード解決しました。


はじめちゃん
http://m2.upup.be/1bd8bBiBQA
まつりの代わりにクヨクヨしちゃった子。
この後最大の試練があるのに…マジ頑張れ。

さいか
http://n2.upup.be/qKkVQhmdhG
寝起きの被害に定評のあるさいか。
ギャグ補正の回復力がつきつつあります。

 私は、そこにあった。
 まるで虹色の粒が作り出した虹の雲が漂い、大樹のように無数に枝分かれした同色の塔が無数に連立する空間。

 塔の中をのぞくと、そこには『世界』と『生命』があった。
 『生命』は願いと観測によって可能性の力を無意識に使い、『世界』はそれを記憶して塔を形造った。 私たちは本能的に理解する、この空間はそうやってできた『無意識』の領域であることを。

 その空間には私のほかにも、複数の存在があった。
 竜や妖精や鬼や悪魔といった形は人類の想像力の数だけ存在し、同数の生き方を取捨選択していた。
 彼らは塔を見守り、あるいはどこかの塔に入り込んではその中の生命に力を貸す者もいた。

 わたしも、そうやって一つの塔を(この空間における『上位の時間』において)長い間見守っていた。
 しかしある日ある時だった、誰かと目が合った気がした。
 ありえない、私たちの空間は塔の中にいる存在には本来知覚できないものであるはずだ。

 しかし……もう一度そこを見た私は、確かにその少女と目が合った。
 そして、引きずり込まれた。

「うわ、わわわああぁぁぁぁぁぁ…!?」ドテン ゴロゴロゴロ

 引きずり出された板の間を転がって、壁に背中を打ち付けて止まる。
 まっさかさまになった視界に移ったのは、トントンとこちらに向かって駆け寄ってくる緋袴と黒いブーツ。

「な、何なんこの子!?大丈夫、怪我してへん!?」

「あなた…!!まさか本気で成功しちゃったの!?」

 ごろんと転がって上下をまともにすると、私は白い髪を書き上げてこの二人に尋ねた。

「…おぬしら何をした?此処は何処じゃ…」

「あ、怒ってるわね?…まぁ、上位次元からいきなり引きずりおろされたらねぇ」汗 イヒヒ

「なんじゃと…ここは、あの塔の中か?……妾が入ったのは初めてじゃ…」ボソ

 改めて両手を見る、幼い女子の両手…どうやら自分は人間のそれに近い生命としてこの次元に固定されたらしい。
 神棚の鏡を見ると、そこには白い髪に紫の瞳をした自分が映し出されていた。

「あの…あなたは、燕小角売神でしょうか…?」

「名前など妾にはない、勝手に呼べ…おぬしらは?」

綾乃「私は明・綾乃。この子にあなたを引き出す方法のヒントを与えちゃった魔法使いねぇ♪」イヒヒ

 綾乃……今とは違う名前を名乗った女性に続き、彼女が肩をたたいたのは巫女装束に身を包んだ黒髪の少女だった。


八重架「私は…こほん、燕糸・八重架いいます。よろしゅうな、かみさま♪」ニコッ




 32年前 2006年。

 まだ、科学の中にその学問が含まれていなかった頃…『可能性の力』が引き起こす現象は魔法や超能力…あるいは神の奇跡といったオカルトと認識されていた。

 人の世に隠れて研鑽した魔法の理論を後に詩実体論という科学体系として完成させる魔女…綾乃。
 綾乃と出会い、その強い審神者の力を開花させた少女…八重架。
 そして八重架に神として呼び出され、人間としてこの世界に居続ける…容呼。

 彼女たちの奇妙な関係は、それから一年後…八重架が殺されるそのときまで続くことになる。



第7話『そして来るは罪の残滓(前篇)』

2038年 蜘糸商会屋上エアポート

 降り立って昇降口を開けるヘリコプターを見て、風に揺れる白髪を抑えながら容呼は初めに振り返った。

容呼「ほんまにええんやなー?はじめさん?」

 容呼の問いかけに、はじめはこくりと頷いた。
 制服でも、いつものメイド服でもない、外行きのパーカーを身に纏って。

愛糸「はい…下手に言って、皆に心配をかけさせたくないので…」

容呼「……そうか、ほな行こうか」

 はじめの応えに、容呼は薄く笑みを浮かべると初めの手を引いてヘリへと乗り込んだ。
 そしてヘリは、両側面のドアを閉じてけたたましいプロペラの音とともに飛び上がった。

愛糸「……」ハァ

 窓から遠ざかっていく島京の街を見下ろして、はじめはため息をついた。

愛糸「まつりさま…まじる…ごめん」

琴主「へぇ~、それじゃあ」

正純「今ここで面と向かって謝ってもらいましょうか?」ニコニコ

愛糸「ぶっ!!?」ガタッ

根本「ふぅん、私だけ入ってないのぉ?」

 突然後ろの席から聞こえた聞きなれた声と、涙目のさいかの声に驚いてはじめは席を立って振り返った。
 今つぶやいた言葉を思い出して顔を真っ赤にしたはじめは、ヘリの揺れにバランスを崩して席に後ろ向きにしがみついた。

愛糸「な、ななな何で!?」

根本「まつりの仕業よ」

琴主「この前からはじめちゃん、思い詰めてた顔してたしね…まつりが綾乃からこっそり情報聞き出して、こっそりついてきて」

正純「こっそり反対側の昇降口から入っちゃいました♪」

 そんな三人に、しばらく呆然としていた容呼もたまらず噴出した。

容呼「…にゃぁっはっはっは!いやぁこっそり入られたんなら仕方あらへんなぁ」

愛糸「んな…お、お前たち何処へ行くのか解ってるのか!?」

正純「あら、じゃあはじめちゃんはどこへ行くつもりだったんでしょう?」

琴主「私たちに謝りまでしてね?」

愛糸「うぐっ…」///

容呼「……奈良や」

琴主「奈良?」

正純「奈良ってことは…容呼さんの…」

容呼「そ、奈良の蜘糸商会本社…うちの実家、旧燕糸神社や♪」

 バタタタタタタ…と、ヘリは一路本土へと向けて飛んで行った。

今回はここまで
現代はまだ割とオカルトな分野が多いような気がするんですよ。


>>169
マジでそうならないように書くのが大変でした…というか何故書いたと自分で思うネタでした(

正純「私の過去の話をまじるさんにしようとしたとき…」

琴主「それと、最初の日のあれの時…」///

愛糸「私は確かにあの時、ニュクス因子を放出していた…」

愛糸「嫉妬の思いと同時に、私の奥底に言いようのない黒い何かが這い上がってきて…胸からあふれ出してきたんだ」

根本「ふぅん…今思えば、私がメイドちゃんを襲ったときにジオイドが出たのも…そして微妙に知性を持っていたのも頷けるわ。あれはメイドちゃんを守ろうとして出てきた、そして急いで出現したもんだからニュクス因子の浸食も薄かったってところかしら」

琴主「…」
愛糸「私は、少なくとも敵と同じ力を持って何らかの関わりを持っている…そういう事になるな」

愛糸「それだけじゃない…ひょっとしたら記憶を失う前の私はその敵の見方で、ジオイドを世界中にばらまいたのも…もしかしたら!!」

正純「……はじめちゃん」ぎゅっ

愛糸「……っ」プルプル

容呼「そこは微妙なところなんや…もしはじめさんの言う通りやったら尚のこと」

琴主「容呼さん」

容呼「安心しぃ、はじめちゃんが何者か分かったにせよ今更それで責めるようなことはせえへんよ…少なくとも私は、な」

正純「私もです」

琴主「私も!」

根本「少なくとも私には言う資格ないしね」

愛糸「みんな……」
容呼(そうは言うても、真実が真実なら…『その他大勢』に向けての対応は考えなならんのやけども…まぁ、みんなその事覚悟の上やろうな)

正純「それで、本社にいってどうするんでしょうか?医療的な設備なら島京のほうが…」

容呼「いやぁ、はじめさんに見せたいもんがあってなぁ?」

愛糸「? そう、なんですか?私の過去を知るためにって言っていましたけど…」

容呼「そそ、ちょお心当たりがあってなぁ?」

容呼「見られたら恥ずかしいもんやさかい、はじめさん以外には見られたくないんよー」照れ照れ

 容呼が頬を赤らめて外見相応に恥ずかしげな態度を見せたその時、まつりとさいかに電流が走った。


正純(Σあ、あのセクハラ魔神容呼さんが!!?)ピシャアン

根本(Σ衆目の場でも胸揉んでくる、見た目に反して常に攻めの体制の容呼が…見られて恥ずかしいもの!!?)ピシャアン

正純根本((み……見たいっ!!))んごごごごご

容呼「こらこらー思考ダダ漏れですえー?……せやなぁ、つれてくる予定はあらへんかったんやけど、場合によっては知らなきゃならへんことなんかもしれへんけど…」

琴主「?」

容呼「……いや、それを話すにしても綾乃にも相談せなならんからな。悪いけど、琴主さんたちはまた今度にして、今日は奈良観光楽しんどってくださいな♪」

琴主「え~」

正純「そんなぁ」

根本「ぶ~ぶ~」

容呼「ホンマにかんにんよぉ」汗

P.A.U.R.司令室

綾乃「やーみんなもうそろそろ奈良ついてるかしらねぇ?お土産そろそろ要求しとく?」

オペレーターA「高校生にたからないで下さいよ」

オペレーターB「P.A.U.R.が表にでれない原因て八割型この人のせいだよねー」

オペレーターC「ねー」

綾乃「そこ!せめて聞こえないとこで陰口たたいてね!!」

綾乃「……はぁ」ギシッ

綾乃(燕糸…か……)



29年前 2009年


 私は日々をただ鬱屈したまま過ごしていた。
 『それまでの私』は、ただ家族が不仲であるだけの悩みを抱えた学生でしかなかった。
 しかし、いつだったか……男のヒトと出会って…

『君には、現実を壊す覚悟があるかね?』

 目が覚めたのは、燕糸神社の一室だった。

綾乃「ここは……」
 右肩に感じる鈍痛に目を覚まして起き上がると、その部屋には三人居た。
 一人は、綺麗な長い白髪の女の子。
 もう一人は、どこか女の子に似てる…黒い髪でサングラスをかけた和服の幼女。
 そしてもう一人は…短い茶髪の、私と同じ高校生くらいの……
 あれ? 私、同じくらいの男を見下ろしてる?

容呼「綾乃…?綾乃っ綾乃ぉ!!!!」ぎゅっ

綾乃「いっつ!!いたたた!!何するの!?」ジタバタ

 感極まったのか、白い少女が私に抱きついた。
 その衝撃で気がついた、私はどうやら何かの事故に巻き込まれたらしい。
 右肩だけじゃない、体中の骨がきしんで悲鳴を上げた。

容呼「あ、ああ…堪忍な、綾乃…」

綾乃「ぜぇ…ぜぇ…というか、あなた達…誰?」

「「「……!?」」」
 私がそういった瞬間、その場にいる三人の表情が険しくなった。

容呼「あ…あはは、綾乃、なにいうとるんや……」

 白い少女が、震える声で言いながら私に手を伸ばす。
 怖い…怖い…何で、彼らは私を知っている?

八尾「あねさま…」
容呼「……まさか…」

男「……綾乃、今は西暦何年かね?」
綾乃「な、何よいきなり名前で…」


綾乃「2004年でしょ?」


容呼「…っ」

男「……やっぱり、な…」

八尾「……とぼけてはいないな?」

 呆然とする白い少女に代わって、黒い少女が訪ねる。

綾乃「とぼけるって…何いって」

容呼「八尾、もうええ」

八尾「しかし……」

容呼「綾乃…いや、『明・綾乃さん』。今からちょお突拍子もない事を話しますえ」

今日はここまで
今回は綾乃&容呼の白黒コンビがやや前面に出る話になります

2038年 奈良

 いつの時代も変わらない、時代の変化を感じさせない景色。
 奈良に着いたあと、容呼ははじめを連れて本社へ行き、後で迎えに行くからといって交達は奈良の山中を観光していた。

琴主「やっぱり自然って良いねぇ」イキイキ

正純「まじるさんがかつてないくらいイキイキしています…!」おお

根本「ふぅん、ホントに野生児ねぇまじるってば」

琴主「Σ」///ハッ

琴主「でも、やっぱり良いよね…ジオイドで殆どの土地が廃虚や砂漠になっちゃった今でも、こういう場所はまだ残ってるんだ…」

根本「そうね…まるで大事なものを選りすぐって居るみたい」

正純「大事なもの?」

根本「……敵にもあるのかしら、そういうのが」

琴主「あっ、野いちごあるよ!!…あ!あの鴨とったら旨そう!!」うひょー

根本「ええい落ち着きなさい野生児!!ていうか捕るな!!」ベシ

正純(はしゃいでるまじるさん可愛い…♪)フフフ

琴主「鴨……」ウズウズ

根本「猫かあんたは…まったくもう」

琴主「あっ」

根本「こらこら、また何か見つけたの?とって食うなんてしないでよ?」

琴主「行き倒れ」

 交が指さした先で、黒いコートの人影が木にぶら下がっていた。
 頭は白く、さいかにはそれがヒトの頭蓋骨に見えた。

根本「にゃああああああああぁぁぁぁぁ!!!!??」

旧燕糸神社

 山道に不釣り合いな長い長いエスカレーターを昇ると、そこには山を切り取ったかのような広い平地が広がっていた。
 舗装されたその平地には、いかにも神社らしい古めかしい塀と倉に囲まれて、同時に島京もかくやというような近代的なビルや施設が並び立っている奇妙な敷地が広がっていた。

愛糸「ここが、燕糸神社……」

容呼「神社とはもう名ばかりやけどな…」にはは

愛糸「……それで、心当たりというのは…」

容呼「…はじめさん、はじめさんって魔法とかは信じますかいな?」

愛糸「…はい?」

 容呼の突拍子もない質問に、はじめはつい気の抜けた返事を返してしまう。
 しかし、振り返った容呼の目からはいつもののらりくらりとして誤魔化す様子は感じられなかった。

愛糸「…ん、こほん。…正直に言いますと、信じていません。非科学的ですし、そんな便利なもの……あってほしくないです」

容呼「せやよなぁ」ケラケラ

 困ったように頭をかく容呼は、静かに語り出した。

容呼「詩実体論…可能性詩実体力学論は、ほんの少し前までは『魔法』や『神頼み』と言われた技術なんや」

愛糸「……!?」

容呼「ガチユリダーのウラノスエンジンも、構想はちょお昔の科学者や軍人やったけど…その元となるウラノスコア……荒御霊ドライヴVer0.3もまた更に大昔の遺跡から発掘されたオーパーツの模造品や、今の技術でさえ完全再現にいたらへんくらいのな」

愛糸「AMD…」

容呼「この世界には昔から、そんな人知を…いいや、神知すら超えた技術がある。それを科学が生まれる以前から、人類の一部が独自に発展させてきた理論と法則……それが魔法、詩実体論の正体…というより、魔法を科学に当てはめたんが詩実体論と言うたほうが正確やな」

愛糸「じゃあ…詩実体論を研究していた綾乃は魔法使いですか?…便宜上は」

容呼「ああ…魔法使いやったんや」

愛糸「魔法使い…だった?」


 はじめは気がつくといつの間にか靴を脱いでいた。
 話している間に、いつの間にか神社の中に上がっていたらしい。
 延々と続く襖と板の間だけの廊下を歩きながら、容呼は話を続けた。

容呼「綾乃はな、恋人がおったんや…」

 魔法云々の話よりも訝しげな表情をした。

容呼「いやホンマによ!?嘘みたいやけど嘘やないから!!」汗

愛糸「は、はぁ…」ジトォ

容呼「…むしろそれがすべての始まりやった…魔法使いやった頃の彼女には、達成したい願いがあったんや」

愛糸「綾乃の、願いですか?」


容呼「それはな…死んだ恋人の完全な蘇生や」

山中

「いやぁ済まないねえ、つれとはぐれた上に道に迷ってしまってね。途方に暮れていたら丁度君たちを見つけたもんだから、なんとか合流しようと後を付けたら木に引っかかってあのざまなんだがね」あっはっは

琴主「そりゃあ危ないですよ、下手したらあのまま動けなかったかもしれないんだから」

根本「~~~」ガクガクブルブル

正純「よしよし、怖くないですよー♪」

 男は引っかかっていた木から救出され、受け取った水筒の水を一口飲むとわざわざ聞くまでもなく自分の経緯を話していた。
 今まだ正純の陰に隠れて怯えているさいかが男の頭を頭蓋骨と勘違いしたのは、男の髪が白かったからだ。
 ただ白いだけの髪なら、容呼で見慣れているのだからそうそう間違えないのだが…
 (そもそも若い白髪自体そうそう見るものではないのはおいといて)
 男の髪の白さは何かと表現するならば病的で、容呼のように自然に綺麗な白ではなく色素が抜けたような不健康な白なのだ。

琴主「顔色悪いけど、大丈夫?」

「僕は大丈夫だよ、しかし連れが中々の寂しがり屋でね。良かったら一緒に探してくれないかねごっふぇ」吐血

琴主「病院を何より先に探すべきじゃない!!!?」フキフキ

「あっはっは心配しなくても大丈夫、これ血じゃなくてついさっき食べたハヤシライスが木につるされてた間に昇ってきて…」うぷ

琴主「探さなくて良いからじっとしてしゃべらないで!!何で山でハヤシライス!?」アワワワ

「カレーは嫌いでねぇ」

根本「はぁ…どうするのそいつ?」

琴主「うーん、ほっとけないしなぁ…」

正純「…?どこかでお会いしませんでした?」

「…いや、気のせいじゃないかね?」きょとん

正純「…そう、ですよね?」

正純(夢で見た男の人とは、似てるけど雰囲気がまるで違うですし…気のせいですよね?)

琴主「えっと、あなた…んー呼びにくい、私は琴主交っていうんだけど、名前は?」


アベル「アベル・ベータ……アベルで良いね、交ちゃん」

今回はここまで
魔法とは言ってますが、結局は技術。
科学とは証明されているか、数式化されているかといった違いです。

根本「……っ」ビクッ

正純「根本さん?」

根本「い、いや何でもないわ……ふぅん、変な名前ね」

琴主「こらっ、さいか」

アベル「ははは、自分でもそう思ってるけどね」ムクッ

正純「あ、まだ安静にしていないと…」

アベル「いいよ、本当に大丈夫だからね。回復が早くてね」

アベル「またちょっと連れを探しに行くよ」

琴主「手伝いましょうか?」

琴主(というかこの人ほっとくと絶対また山で遭難する気がする)

根本「………」

琴主「さいか?」

根本(……今、ベータって名乗るときに変な感じがしたような気がしたんだけど…気のせい?)

燕糸神社

 延々と続く障子と板の間を歩きながら、はじめは囁くように返した。

愛糸「死んだ恋人を…甦らせる?」ズキン

 その言葉に、はじめはわずかな鈍い痛みを頭に感じて目を細めた。
 その一瞬の反応を、容呼は見逃さなかった。
 やっぱり、と溜息をついた。

容呼(…もうちょっと、早ぉこの話をするべきやったのかもしれへんな…)

容呼「詩実体を用いた逆算で導き出した『死の間際』の精神、人格…そして完全にコピーした肉体を使って死んだ人間を再生させる計画…そんな禁忌に手を出しとった綾乃に協力しとったのが当時の燕糸家やった」

愛糸「!…っ、ぐぅ」ズギン

 痛む頭を抑えて、はじめは足を止めた。
 容呼は振り返って尋ねる。

容呼「……そろそろ辞めときますかいな?」

 はじめは容呼の顔を見る。後悔と、何よりはじめの身を心配しているとわかるような、そんな弱気な顔をしていた。
 はじめはこの痛みに覚えがあった…記憶を失ったばかりのころ、必死に過去を思い出そうとしたときに脳に走る鈍痛と同じ感覚。
 まるで拒むように……否、自分の脳は、明らかに思い出すことを拒絶していた。

愛糸「…いや、まだ…続けて……」

愛糸「ここでやめたら、前に進めない…何もっ、思い出せない!!」ググッ

 はじめは、地に足をつけて立ち上がった。
 まだ頭は痛むが、以前ほどではなかった…過去を拒む心より、今は思い出したいという気持ちがなにより大事だったからだ。
 今なお過去におびえる情けない自分のためではなく、自分のニュクス因子のせいで迷惑を蒙った(本人たちは決して蒙ったと言わないであろう)3人の為に。
 容呼は安心したように溜息をついて再び歩き話し始めた。

容呼「…当時の燕糸家もまた、世間に隠れた古い魔法使いの家系やった。しかし古い形式に縛られとった彼らは一族として衰退の一途を辿っとってな、そのまま古い魔法にしがみついたまま世間の陰に埋もれるか、それとも魔法を捨てて世俗に安寧を求めるか、そういう内部の争いがしょっちゅうな有様やったそうや」

愛糸「容呼さんは…?」

容呼「そん頃は…まぁ、私もまだおらへんかったさかいなぁ」

愛糸「?」

容呼「まぁそんな燕糸家やったからこそや、綾乃の死んだ恋人…彼は綾乃の師でもあったし、同時に類稀なほどに関係者の間では高名な魔法使いの一族の末裔やったんや」

愛糸「それでコピーを作ってその人を甦らせて、その成果をもって衰退する一族を再興させようとした…?」

容呼「その通り…まぁ、結果は失敗やったけどな」

愛糸「失敗…!?」

容呼「2年近くも休まず研究を続けて出来上がったんは結局『死の間際から分岐した別人』やった…それに、肉体と精神は作り物、それに完成するまでの時間の誤差も、再生した本人と現実世界の間に摩擦を生んでいった。そして、最終的に綾乃は、見るに見かねて再生したコピーをすべて……破棄したんや」

愛糸「……っ」

容呼「そうして心身ともに疲弊しきった綾乃に手を差し伸べたんが『彼女』やった」

愛糸「!!」ズギン

容呼「燕糸の直系として、古い形式に縛られたまま過ごしてきた彼女には…新しい魔法を作ろうと頑張っていた綾乃が眩しかったんやろうな。彼女は綾乃を親友と呼んでひどく懐いとった…」

愛糸「彼女……?」

 青ざめた顔で、それでも知りたいという意思をこめた眼で、はじめは容呼を見上げていた。
 容呼は目を閉じて考える。

容呼(最初はただ似てるだけやと思うとった…いや、思いたかった。確信したくあらへんかったんや)

容呼(知ればそれはきっかけになるんやと心のどこかで思うとった…けど、この子は知りたかったんやな、ずっと……)

容呼(まったく、今更ながら神失格やな…)

 そうして目を開けて、一際大きな襖を前にして容呼は口を開いた。



容呼「ああ、その子が……その子こそが、『燕糸・八重架』やよ」



 すぱぁん と音を立てて、容呼は襖を開けた。

今回はここまで
今思えば容呼の正体や綾乃の過去についてはここで話したほうが良かったかもしれない…

 そこは神棚を正面に配し、開けた道場のような場所だった。
 いや、ここは鍛錬場だと、はじめは自然に思い返した。

愛糸「……あれ、何で…私は、此処を知ってる……?」ズキン ズキン

容呼「…八重架は此処に居た」

愛糸「!!」

容呼「此処に住んで、此処で皆で語らった…やがて燕糸家の護衛を務める分家から八尾が貰われてきて……あの頃は楽しかった」

愛糸「……」

 容呼の言葉に、はじめは目を閉じて思い出す。
 痛みの中に、かすかに聞こえる笑い声…容呼と、綾乃と、幼い八尾との…はじめが知るはずもない光景が、そこにはあった…そして、それは急な痛みとともににブラックアウトした。

愛糸「……ッ!!!!」ズグン

 そして、容呼はなにより残酷な真実を告げた。


容呼「そして、八重架は……ここで死んだんや」


愛糸「死ん……だ……?」

 はじめは、全身から力が抜けていくのを感じた……
 ようやく思い出しかけた思い出が、矛盾に黒く塗りつぶされていく。
 はじめは、自分が八重架なのではないかと思い始めていた…なのに、八重架はもうこの世にはいないのだ。

容呼「初めは偶然やった…八重架は、綾乃が気まぐれで教えた理論を実践しようと試みた」

愛糸「ちょっと待って、死んだってどういう事だ!?」

容呼「神の召喚…時空を渡り可能性を見通す高次元生命体をこの世界に固定化する魔法や。八重架はそれでこの家が新しい道を見つけることができると信じとったんや……果たして、その魔法は成功した」

容呼「八重架は類稀なS.N.W.適性の持ち主やった…審神者の力は魔法だった頃の魔法の要、起こしたい現象を観測する眼や………彼女の眼によってこの世界に人間として固定され、神は召喚されたんや」

愛糸「なら、何で…!!」

容呼「争いが起きたんや」

愛糸「…!!」

容呼「神の存在という確かな力を前にして、魔法派と世俗派に分かれた燕糸の柵はより強いものになってもうたんや…そして、お互いに八重架さんを取り合って、つまらんことですぐいざこざを起こすまでになってもうた……そして、神の召喚から半年くらいか……魔法派の一人が、どっちかにつくことを嫌がった八重架に腹を立てて……」


回想

『八重架、こっちにつくんだ!!お前の力があれば、この家どころか、世界さえ相手にできるんだぞ!!』

八重架『いたっ…痛い!!離してえや!!私は、そんなこと望んどったんとちゃう!!』

綾乃『ちょっと、何するの!!離しなさい…』

『五月蠅い、役立たずの魔女が!!』ガッ

綾乃『うぐっ』ドサッ

八重架『何すんねん!!嫌や…あんたにはついてけへん!!』ドン

『……ッ!!貴様、この餓鬼!!人が下手に出てれば……!!!!』

 タッタッタッタ…すぱぁん!!

容呼『……何をしておるのじゃ!!……八重架危ない!!!!』




 ゴッ!!


回想 雨の降りしきる墓所

綾乃『       』ザアアアァァァァァァァ

八尾『ぐすっ……ひっく、ぅぇ…姉さまぁ…姉さまあぁぁぁ…!!』ザアァァァァァ

容呼『…綾乃、傘くらいさせ。風邪をひいてしまうぞ…ほれ、予備の傘…』ザァァァァァァァァ

綾乃『   そうね ごめんなさいね』

 ファンファンファンファン

『くそっ、離せ…離せええええ!!!!』

容呼『っ』

八尾『ぐすっ…?』

綾乃『 』            ギロ

警察『こら、暴れるな!!』

警察『これだから宗教関連は……』

『これは世俗派の陰謀だ!!くそお、八重架さえ、味方に付いていれば!!魔法のさらなる発展が、くそお!!!!』

八尾『あいつが…あいつが!!』ガバ

容呼『よすのzy』


綾乃『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!』バキッ

『ぐぶっ』

警察『う、うわっ!!』

 ズシャッ ドシャア…

綾乃『お前が!!!!お前さえ、いなければ!!!!』ゴッ ドカバキッ ゴスっ グチャア

警察『ご、ご親族の方ですか!?止めてください!!』オロオロ

『ぐっ、がはっ…は、ははは!!何を言ってるんだ!?』

綾乃『』ビタッ

『お前が!!そもそも八重架の元に現れなければ、こんな事にはならなかっただろうが!!!!』



『八重架を殺したのは私だけじゃあない、そこの神と、お前も同罪だ!!この魔女め!!!!』

綾乃『   私が   八重架を    殺した     ?』ぐらあ

『……』ヘラヘラ

綾乃『 』ゴスっ ガッガッガッガッガッガッ

容呼『もう止めい綾乃!!そんなに殴ったら死ぬぞ!!お主まで罪をかぶる気か!!?』がばっ

綾乃『罪ならもうとっくにかぶってるわよ…この男の言うとおり、私が八重架を殺した…なら、同じ罪をかぶっても…!!!!』

容呼『お前まで妾のそばから消えるつもりか!!』

綾乃『……ッ』

容呼『勝手に妾をこの世界に呼び出して、勝手に妾の家族になって…そして、勝手に消える気か…』ぐすっ えぐ

綾乃『…………』バッ

容呼『っ 綾乃?』バシッ

綾乃『……消させるものか』

容呼『あ、綾乃!!』

綾乃『消させてたまるか…消させない!!!!』スック

容呼『あやのぉ……』ガクッ

綾乃『……この歴史が、命を犠牲にして積みあがっていくのなら…そんな歴史いらない』タッタッ

警察『お、おい君!!』

綾乃『こんな歴史…ぶち壊して、全てを取り戻してやる!!!!』ブワッ

警察『うわっ!!……き、消えた?』

容呼『あやの……綾乃おおおおおおおおお!!!!』

 ザアアァァァァァァァァァ

八尾『ようこ、さま……』カサヒロイ

容呼『……ああ、有難うな…』

八尾『!! その、口調…』

容呼『今日からは、私が八尾のお姉ちゃんや……八重架の分も…』

八尾『……ッ、はい……』

容呼『(………綾乃は、この歴史を潰す気じゃ…でも、まだ此処には八重架の残したものがある…妾も、この子も…)』


容呼『(やらせない…絶対に、貴女を止める…綾乃!!)』

 ザアアアアァァァァァァァァァァァ


 回想終

 現在 燕糸家鍛錬場

容呼「私は暴走した綾乃を、あらゆる犠牲をいとわずに止めた……綾乃は魔法にかかわった全ての記憶を失い、私は神としての力を出しすぎたらこの世界に留まれへんようになった………」

愛糸「……呼び出された神は、容呼さんだったんだな」

容呼「情けない話や…可能性を見通し、およそこの3次元で全能を可にする神様が…たった一つの命さえ救えへんのや」

愛糸「それじゃあ…私は、やっぱり…」

容呼「『今の綾乃』の知らない『過去の綾乃』の残した、八重架のコピー………その可能性が高いんや」

愛糸「…そうか…成程な……」


 ・・・・・・・・・・・・・・・容呼は真面目な顔をしていた目を閉じて、徐々に気まずい笑みを浮かべて冷や汗をかいていく。


容呼「ん……んん~~~~~??」ダラダラ

愛糸「Σな、なに!?」

容呼「いやいやいや、もうちょお頭痛いーとか、そうだったのかーとか、リアクションあらへん!?思い出すと頭痛いいうから、もしものために救護班とか誤魔化し用のドッキリパネルとか用意しとったんやで!?」オロオロ

愛糸「何で誤魔化す!?」

愛糸「いや……納得がいったような、いかないような…気持ちの整理がついていないだけだ。私が昔は容呼さんみたいな似非関西弁でしゃべっていたなんて…」

容呼「Σショックなのそっち!?」

愛糸「でも、本当の事なんだな…確信が持てる、確かに私は『八重架だったことがある』と、そう思い出すことができます…」

容呼「……うん」

愛糸「有難うございます」ペコッ

容呼「!!!!」

愛糸「八重架と同じ顔をした私を見て、思い出していたんじゃないか…本当は、伝えたくてしょうがなかった…確認したくてしょうがなかった…違いますか?」

容呼「………っ」

愛糸「ありがとう…ごめんなさい…」ぎゅ

容呼「謝ることはあらへんよ…私はあなたの親や、貴女は愛糸はじめちゃんや…それでええ」ぎゅっ

容呼「それでも……もうちょおこのままでいさせてぇな……」すん

愛糸「私からも、お願いします……」ぐすっ


 ふすまを挟んだ隣の部屋では、器具を構えた医療班が安堵のため息をついた。
 そして、その医療機器にそなえつけられていたマイクの向こう側でも……

P.A.U.R.司令室

綾乃「………ふぅ…確認が無事とれたようね…」

 医療機器にハッキングした綾乃は、携帯からその音声を聞いて安堵のため息をついていた。

綾乃「……ねえ、昔の私よ…あんたが絶望した未来は、こんな優しいものだったのかしら…ね?」


ビー!!ビー!!ビー!!ビー!!


綾乃「!!」ガバッ

オペレーターA「島京圏外にジオイドの収束反応確認!!!!」

綾乃「そんな!?始ちゃんの様子は!?」

オペレーターB「バイタルパルス正常…寧ろ安定しきっています!!ニュクス因子の反応見られません!!!!」

綾乃「じゃあ何故……!!」

綾乃「燕糸神社周辺域に探索範囲を広げなさい!!!!」

オペレーターA「……!!見つかりました、これです!!」

 モニターに映る画面が燕糸神社から離れていき、敷地を包む山を上から覗き見る形になる。
 そして、参道から大きく外れた場所にそれはあった。

オペレーターA「拡大画像出します!!」

 ニュクス因子の発信源を拡大し、モザイク状になった画像が鮮明化していく。

オペレーターA「なっ……!!!!」

オペレーターB「これは…嘘!!?」

綾乃「何なの…あれ……!?」


綾乃「黒い、リリーブレード!?」

~~~~~~~~~~~~~~~~
今日はここまで。
いきなり魔法とか入れて混乱を誘うかもしれませんが、実は当初からそういった要素はあったことにするつもりでした。
綾乃というキャラクター自体BD版の同作者作品を見た通り、別作品にも似たような人物が出てきて微妙につながっていたりします。
別作品とは天地無用と魔法少女クラブくらいの世界線の違いが存在しますけどね。
今回が終わったらちゃんとした時系列表とか補足とか入れたほうが良いでしょうかね?

山中

 交達はアベルを連れて、彼の連れを散策していた。

綾乃『まじるちゃん!!まつりちゃん!!』ヴン

琴主「うわ、綾乃?!」

正純「は、はい!?」

 交とまつりの聴覚に突然通信が入り、さいかの携帯がピリリリリリと鳴る。

根本「はい…綾乃?」


アベル「…綾乃?」ピクッ


綾乃『奈良にジオイドが収束しつつあるわ!!こんな事あろうかとちょうど遅れて飛ばしてた遠隔操作の試作機体でブレードとキャットを運んでるから、ジャンプの準備して!!』

琴主「島京以外にジオイドが!?そんな、早くしないと…」

アベル「……」にぃぃぃ

根本「!!!!」ビュルル バシン

アベル「あたた、あいたたた!?」ギリギリギリ

琴主「ちょっとさいか!?なに触手でアベル縛ってるの!?」

根本「待って、こいつ怪しい!!」

琴主「!!?」

根本「さっきからコイツ…出してるのよ、ハジから感じたあの感覚……ニュクス因子!!」

正純「!!!!」

アベル「へぇ…君はガイアの化身かね?あまりに人間くさいからわからなかったがね?」

根本「うるさい!あんた、何者!?」ギシッ

綾乃『なに?そこに誰か居るの?』

アベル「……」

アベル『君たちに、現実を壊す覚悟があるのかね?』


綾乃『   な、ぁ……』ガシャアン


オペレーターA『なっ!?司令官!!!!』

琴主「綾乃!?どうしたのさ綾乃!!!!」

綾乃『がぁぁ…っは、ぁぁ…』ガタガタ

 通信の向こうからは、息もできないほどに動揺した綾乃の声と、オペレーターのあわてた足音が聞こえてくる。

根本「綾乃に何をした!!!!」ギリリ

アベル「…僕はアベル、β……無明・阿部瑠になりたくて、なれなかった者」

琴主「無明?」ピクッ

アベル「僕はアベル……この世界の生命諸共歴史を漂白する、生命の敵さ」キイイイイイィィィィィン

 アベルの言葉とともに、黒い影が上空に飛来した。

琴主「なっ…!?リリーブレード…!?」

正純「いや、形状がちょっと違います!!」

アベル「遅かったじゃないか…見つからないからってやけ起こしたのかい?アダマス」

 アベルが見上げアダマスと呼んだ黒いリリーブレードは、確かに交たちの乗るそれとは違う形をしていた。
 大まかなシルエットはそう違わない、しかしところどころ流線的で生き物のような印象を持たせるパーツが組み込まれている。
 そしてアダマスは機銃をアベルとさいかの間に向けた。

琴主「……!!!!さいか危ない!!」がばっ

根本「きゃっ…!?」ドシャッ

 ドガガガガガガガガガガガ!!!! と、機銃は正確にアベルを縛るさいかの触手を断ち切ると、さいかがいた場所にも向けて大量の銃弾を放った。

根本「あ、ありがと…」ゾッ

琴主「……っ、アベル…おまえ!!」

アベル「悪いね、『連れ』は少々加減が聞かない性格でね」

琴主「あんなのとはぐれたの!?」

根本「そっち!?」

 アダマスが低空飛行でアベルの上に近づくと、変形して腕をだしてコクピットを開いた。
 コクピットは無人だった。

アベル「探してもらって悪いけど、僕はそろそろ妹を迎えに行かなきゃならないんだ」

琴主「妹?」

根本「ニュクス因子を出す男…まさか、妹って…!!」

正純「はじめちゃん!?」

琴主「待て!!はじめちゃんをどうする気だ!!?」

 気づいて問いかける交たちに、アベルは薄く笑いながらアダマスの腕に飛び乗って身軽な動きでコクピットに乗った。

アベル「黙ってて悪かったけど、君たちがガイアの使者を倒しているのは知っていたんだよね…君たちは、彼の相手でもしていたらどうかね?」

琴主「……!!」

 気づくと、奈良の町に向かってゆっくりと飛行する全長80mもの巨大なナスカの地上絵のような物体が上空を通り過ぎた。

絵ジオイド『PMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMM…』ゴウンゴウン

琴主「ジオイド…!!」

根本「ちょっと、何あのデカさ!!」

アベル「それじゃあね」ガシュン ギュオオオオオオン

 アベルはその隙に燕糸神社へとめがけて飛んでいった。

琴主「くそっ、どうしたら……!!」ギュオオォォォォン

 その時、轟音を立てて巨大な銀色の三角飛行機が両翼にリリーキャットとリリーブレードを下げて飛んできた。

綾乃『ぐっ…リリーリバティー…到着!!』ぜぇひぃ

琴主「綾乃!?大丈夫なの!?」

 いまだ荒い息遣いが聞こえるが、綾乃はどうにか過呼吸から立ち直って通信に戻っていた。

綾乃『まじるちゃんとさいかちゃんはルベリムスタイルであのジオイドを殲滅して!!リバティーには新兵器も積んであるからすぐに終わる!!』

根本「!!…仕方ないか」

琴主「く…わかった!!」

正純「私はすぐに本社へ向かいます!!追いつかないかもしれませんけど、はじめちゃんに手出しさせたくない…!!」タタッ

琴主「まつり!! 頑張って…!!」

正純「…!! はいっ!!」コクッ

 リリーリバティーの両翼に下がったリリー戦闘機から、タキオンパルスが放たれて交とさいかの胸に刺さる。

琴主「…行くぞ!!」バシュン

根本「ちゃっちゃと、終わらせる!!」バシュン


リリーブレード コクピット

綾乃『奈良だと流石に詩実体で町を補強することはできないから…空で、戦わせることになるわねぇ』ぜぇぜぇ

琴主「大丈夫? 無理しないでよ?」

綾乃『あら心配されちゃった~ねぇ♪』

琴主「……はぁ」シンパイシテソンシタキガ

綾乃(………しかしあの男を、『私』は知らない…まさか……)

根本『行くわよ!! リリーキャット、出るわ!!』ガシュン

琴主「応っ!! リリーブレード、行くよ!!」ガシュン

 リリーリバティーの両翼が開き、二機を吊るしていたクレーンがカタパルトに固定され放電する。

[Coll:Lily Liberty]
[Rail catapult ignition]
[Ready...Go][Good luck]

 そしてリリーキャットとリリーブレードは怪獣めがけて高速で発射された。

絵ジオイド「PPPPPPPPPPPPPPPPPPPMMMMMMMM!!!!」グニュルン

 二機を確認したのか、怪獣のナスカの地上絵のような体が大きく揺れた。
 絵を構成する赤い線が流動し、蛇のようにうねる。

琴主「!! こいつ…絵じゃない!?」

 そして赤い蛇は赤い輪を構成すると、輪の中央に赤く光るエネルギーを集めだした。

根本「撃たせるかぁ!!」

琴主「ああ、合体!!!!」ギン

[AMD Ver0.32 Full drive complete]
[合体準備完了(済)]

GYD(根本)「ガチユリダー…ルベリムスタイル!!!!」ガシイイィィィィン

絵ジオイド「PPPPPPPPPPPPPPPPPPPP!!!!」ギュオオオォォォォォ…バシュン

 赤い光の塊が通常ありえない質量をもって合体したガチユリダーに襲い掛かる。
 ガチユリダーは翼を広げて空中に停滞すると、迫りくる赤い光に相対した。

根本「こんなもの、ルベリムには効かないのよ!! …重力操作!!」

 ルベリムスタイルはガイア詩実体に干渉して重力を操作する異形のスタイルである。
 重力、即ち質量を操るルベリムスタイルの翼は、その波動で迫りくる光の塊を受け止めると、そのまま体をひねってまるで砲丸投げのように空中を一回転した。

琴主「くらえええぇぇぇぇええええ!!!!」ぶおおぉぉぉぉぉおおおおん

 捕まった力場に引っ張られるがまま、光の塊は振り回されて怪獣のもとへと投げ返された。

絵ジオイド『PMMMMMMM!!!!?』ズガアアアァァァァ

 質量爆弾である光の塊は怪獣にぶつかると爆発し、干渉したヘーメラー因子によって怪獣の大部分を分解、大気に還した。



容呼「無明安部瑠…前の綾乃が、蘇らせようとした男!!!!」

燕糸神社 境内

 境内から身を乗り出して、はじめと容呼は空を見上げた。

愛糸「あれは…ジオイド!?」

容呼「ガチユリダーも戦っとるな…でも、何で奈良に」

 キイイィィィィィィン と、轟音と共にアダマスがその境内のすぐ近くに飛来した。

容呼「うわっぷ!?な、なんや!?黒いリリーブレイド…ガチユリダーやないのか!?」

 それを、はじめが視界に入れたその瞬間だった。

    ズ グ ン

愛糸「いっ…!!!うああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!?」ガクン

 脳の奥に楔を打ち込まれたかのような痛みが襲い、はじめは頭を押さえて蹲った。

容呼「は、はじめさん!!大丈夫かいな!?はじめさん!!!!」

愛糸「あれは…あの機体は…!!!!」ガクガクガク


アベル「哀れだね…妹よ」


 開いたコクピットから境内へ降り立って、はじめに手を伸ばしながら手を伸ばすアベル。
 しかしその間に立って、容呼は懐から機械仕掛けの鉤爪を取り出して右手に装着した。

容呼「待ちいや!!あんた…何者や!!はじめちゃんをどうするつもりや!!」

アベル「……はぁ、君に用はないよ…燕小角売神」

 その名で呼ばれたことに、容呼は全身の毛が逆立つのが感じられた。
 その名を知っているものは、今の燕糸家でもごく少数…ほんの一握り、その知識を継承したものだけである。

容呼「あんた…!!魔法使いか!!!!」

 それに応えるように、アベルは懐から取っ手を取り出すと、それはカキンカキンと展開していき金属の杖となった。

容呼「……っ!!」ダダッ

 容呼はアベルに駆け寄り、鉤爪の隙間から青い光を放ってアベルに叩き付けた。

アベル「悪いが否定させてもらうね」ギン

容呼「……っ!!?」ガチン

 しかし、それまで炎のように揺らめいていた青い光も、容呼の体も、アベルの体に触れた瞬間に氷のように固まった。
 アベルは何でもなかったかのように容呼をよけてはじめに向かって歩いていく。
 そして数秒の時間差で容呼は再び動き出して境内の床に青い光を叩き付けた。

容呼「なっ……この魔法は!!!」ゴバアアア

 青い光が着弾した床が、その場から大爆発を引き起こして容呼を巻き込み崩れ落ちた。
 アベルは、己を見上げて瞳に光を映すことなく呆然とするはじめの頬を撫でた。
 崩れたがれきから這い上がりながら、アベルをにらみつける。

容呼「くっ…綾乃と、同じ魔法…あったことをなかったことにする4次元への干渉……そうか、やっぱりあんたは!!!!」

アベル「そうだよ八重架…僕は君のお兄さんなんだ。君と同じ、作り直された無明・安部瑠だよ」



容呼「無明安部瑠…前の綾乃が、蘇らせようとした男!!!!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今回はここまで
>>194 ミスった…容呼さん台詞フライングしてます!!

P.A.U.R.司令室

綾乃「はじめちゃんには……まだ繋がらないの?」

 ズキズキと痛む右肩を抑えながら、未だ先の過呼吸から回復しきっていない綾乃はオペレーターを急かす。
 敵の目的はあからさまな搖動だ、そうでなければ黒幕自らが今更姿を現すわけがない。
 今交たちと別行動を取り、黒幕の招待に最も近いはじめの身が危ないことはわかり切ったことだった。
 しかし、監視のためにハッキングして作動させておいたはじめの身の回りの電子機器は突如すべて機能を停止した。
 外部からあらゆる手段をもってしても動かない異常事態、綾乃は直感的にそれが『科学の外』の技術によるものだと悟っていた。

綾乃(黒幕はやっぱり魔法使い……私の知らない記憶の関係者……)

オペレーターB「!! 愛糸はじめの意識レベル上昇、今ならつなげられます!!」

オペレーターA「接続完了…視界トレース映像来ます!!」

 メインモニターに、はじめの視界が映った。
 砕けた境内をこちらに歩み寄ってくる、不健康な白髪に黒いコートの男…その男の姿を見たその時、綾乃の右肩がかつてない痛みに襲われた。

綾乃「ぐっ…ううぅぅぅぅぅっ!!?」ガッ

オペレーターA「し、司令!?」

綾乃「ぅぅ…あれは…知ってる?……あの男は!!!!」

綾乃「……何で、何でよ馬鹿野郎!!!!」ギリィ ブチブチ

 強く握りしめたコートの右肩はやぶれ、綾乃は怒りのままに両拳をコンソールにたたきつけた。
 やぶれた個所から、綾乃の右肩が露出する…その肩は深く抉れたような古傷があり、興奮と動悸によって傷口がかすかに開いたのか血が出ている。

綾乃「『複製』は無駄だってわかってたはずだ、悪戯に彼らを苦しめるだけだと諦めたはずだ……なのに、なんであれを残した!!!!『明・綾乃』おおおおおおおお!!!!」

 綾乃の叫びにこたえるように、オペレーターたちの観測していたはじめのデータに急速な変化が生じた。

オペレーターA「愛糸はじめのバイタルパルスが急速に乱れて行っています!!」

オペレーターA「な…これは!!バイタルパルスが反転しました!!」

オペレーターB「反転!?そんな、ありえない!!」

オペレーターA「しかし本当に反転したんです!!まるで乱れている波長にまぎれて別の誰かと入れ替わったかのように…」

綾乃「別の誰かと……入れ替わった!?」

綾乃「……!!!!今すぐそのバイタルパルスをアカシャ年代記に保管された固有パルスバンクに照合して!!」

オペレーターA「なっ…でも……」

綾乃「いいから早く!!!!」

オペレーターA「り、りょうかい!!」ピピピピピp…ピコン

綾乃(ありえない…ありえない……たとえ八重架から作り出したコピーだったにしても、はじめは『愛糸はじめ』として生きてきた長い時間がある)

綾乃(だからたとえ記憶があったにしても、取り戻したにしても、彼女の固有バイタルパルスははじめちゃんのものの筈…そうでないなら…)

オペレーターA「で、出ました!!一名照合!! ……な、これは……誰、この名前って…!!」

綾乃「言いなさい、誰だったの!!」


オペレーターA「えんし……燕糸・八重架……」

燕糸神社 境内

愛糸?「私は………魔女の残した『罪の残滓』」

愛糸?「私は……八重架になりたくて、なり損ねたもの」

アベル「そして、この世界の歴史を魔女とともに憎むもの……」

 二人の言葉に呼応するように、アダマスのカメラアイが輝いて大地を揺らし雄たけびを上げる。

容呼「………っ、詩実体が…あの機体に共鳴しとるんか…!?これは…まさかここで、神を降ろす気か!!!!」

アベル「彼の機械神がそうであるように、アダマスもまだ片割れ…でも、八重架の瞳なら…ありえた世界からもう半神を呼び出すことは簡単にできる」

容呼「八重架に近く作り出された人格を…はじめちゃんに封印して、使う時だけ解凍する…」ギリィィ

容呼「あんた…はじめちゃんだけやない、八重架もそうやって弄ぶつもりかああ!!……!!」ガタッ ガクン

 怒りのままに境内に上った容呼は、急に糸の切れた人形のようにその場に倒れこんだ。

アベル「この世界にまだ留まりたいのなら、それ以上の無茶はしないほうがいいね?さっきの攻撃であなたは大分この世界からぶれたはずだ」

容呼「くっそ…誰か……あいつを止めて……」

アベル「無駄だよ。ここにいる人間たちの可能性は、もう皆僕が否定した。」

パパパパパパパパパン!!

 と、神社のすべての戸が開く。
 中にいた人間…医療班やドッキリの看板を持った人々から、蜘糸商会の社員たちまで…その敷地にいる全員が時間を止められて固まっていた。
 空気がきしむ音がする…はじめは何もうつさない瞳で空を見上げると、両手を広げてゆっくりと口を動かした。

愛糸?「ウ…エ…ヌス……」ギギ…ギ…ギ……ギゴゴゴゴゴゴゴゴ

容呼「あかん…やめてはじめちゃん!!!!」

愛糸?「はじめ…?違う…私は、八重架や……」 ギ ィ ン

 はじめがそういった瞬間、その瞳が銀色に輝いて空中に虹色の穴が開いた。
 そしてそこから溢れ出した虹色の粒子…視覚化した可能性詩実体が一つの形に凝縮していく。
 それは、アダマスと同じく黒く生物的なシルエットになったリリーキャットに変化した。

愛糸「……ぅぅっ」ドサッ

容呼「はじめさん!!」

アベル「揃った…これでようやくこの世界を漂白できる」

容呼「黒いリリーブレードにリリーキャット…あんた、そんなもの揃えて何をする気なんや!!」

アベル「五年前の続きさ…今度はウィルス攻撃なんてちゃちな手は使わないよ」

アベル「アダマスとウェヌス…再び出会えた、これなら八重架の力を増幅して、あの綾乃よりも簡単に歴史を破壊出来るだろうね」

容呼「…!!歴史を壊して、生命のない歴史を再構成する気か!!」

アベル「…さぁ行こう八重架、君の目覚めをずっと待っていたんだ。5年は少し長かったよ」フッ

 倒れたはじめを抱え、アダマスに歩み寄ろうと踵を返したアベルは目の前に迫る『護身用』と書かれたバドミントンのラケットに気づいた。

正純「やぁぁぁあああ!!」ブォン

アベル「あぶなっ!!?」ヒョイ

正純「おっとっとっと…」ヨタヨタ

 フルスイングでラケットを振り下ろし、よろけたまつりはなんとか体勢を立て直してアベルに向き直った。

アベル「あぶないなぁ、素に戻っちゃったじゃないかね?」

容呼「まつりさん!!あいつは…あいつは……」

 今まで自分たちのしがらみに巻き込まないように黙っていた事…それを明かすことに躊躇う容呼。 しかし、まつりは構わないでラケットをアベルに向けた。

正純「詳しいことはわかりません…でも、貴方が勝手な理由ではじめちゃんを苦しめてるのはわかります!!」

アベル「苦しめているかね…すべては僕らが救われるためにやっているのに」

容呼「!?」

 容呼は絶句した。
 この世界から生命を消し去ろうとしてきた、黒幕たるアベルの口からでた言葉に。
 それが全て、自分とはじめの為だと躊躇いなくいえることに。
 しかし…まつりはラケットを握る手に力を込めて、かつてない怒りに震えていた。

正純「救われるため…? きゃっ!」

 アダマスとウェヌスの噴射で、まつりは大きく後退させられる。

アベル「僕たちはね、この世界にいることを拒絶された人間のなり損ないなのさ…初めはそれでもいいと思っていた、どんなに苦しくても僕たちはそれを受け入れたよ…なにせここに存在する以上は、僕たちはどうしても生きたかったからね」

 語るアベルの身をウェヌスの腕が包んで持ち上げていく。

アベル「でもね、こいつに出会ったその時わかったんだ……この世界に碌な未来はない、やってくるのは恐怖と絶望だけだとね」

正純「……!!」

アベル「なら僕たちは書き換えなければならない…僕らの苦しみが報われず、それが破滅を生むのなら…それよりましな終焉を迎えて新しい歴史を紡ぐべきだとね!!」

 アダマスもまたはじめの身を持ち上げる…そして、まるで巨大な生き物が餌を口に放り込むようにコクピットにはじめを放り込んだ。
 そしてアベルもウェヌスのコクピットに乗り込んだ。

正純「はじめちゃあああぁぁぁぁぁぁん!!!!」

アダマス コクピット

 アダマスのコクピットに乗せられたはじめは、虚ろな銀色の目をしたままうわごとのように繰り返しつぶやいていた。

愛糸?「はじめやない…私は八重…っく、がああああ!!!!」

 やがて頭を押さえて苦しみだすと、その眼は元の緑色に戻ってあたりを見回し始める。

愛糸「……っはぁっ、はぁ……何だ、どういうことなんだこれは…頭が…ッ」

愛糸(…何をやったんだ私は…容呼さんは無事なのか?ここは…まさかあの黒いリリーブレードの中か!!)

アベル『やれやれ…どうやら人格の交代はまだ安定していないようだね?まぁここまでくればあとは力づくでなんとかなるか』

 通信を入れてきたアベルに身をすくませながらも、はじめは負けじとその顔を睨みつけた。

愛糸「お前は……私をどうする気だ!?」

アベル『なに…僕らが見てきたものと同じものを見せるだけだよ…帰った後に、ゆっくりとね』ギゴゴギゴ

 ゾクッ と、はじめの背筋に悪寒が走った。
 そう言ったアベルの目が、異常なまでに歪んで濁っていたからだ。
 そして、アベルの四肢にはおぞましいまでの量の何かが巻き付いている…コードのような職種のような何かが、まるで侵食するようにその身を包んでいるのだ。
 そしてはじめは気づいた、それはアダマスのコクピットの足元からも這いあがり自分を包み込もうとしていることに。

愛糸「やっ…何だこれは…!!やめろっ、この!!」ズバズバッ

 足元を固定されながら、はじめは必死に侵食してくるコードを手持ちのくないで切り払う。
 しかしコードは無数に這い上がってきてついにはコクピットを半分埋める量に達し、はじめの手足も完全に固定した。
 そして首元のコネクターに一本のコードが突き刺さった。

愛糸「あくっ!!…やめ、~~~~~~~~っ!!!!」バチッ

[Start up]
[Launched.Krono.S Operation System[..........OK.]]
[User authentication[Hazime.Manato.][Using language...Japanese]


愛糸「なっ…うあああああああ!!!!」バチバチバチバチ

[An unknown program is downloaded]
[Duplication of the program was found[4D Past Seeing]]
[Download is continued]
[S.N.W. Covert cruise view expansion ]
[World reconstruction engine Launched]


[Let's start World Destruction]

アベル『ああ初めよう…この世界の破壊を!!』ギン

 ドクン!!!!

[AMD Ver1.09 Ignition complete]
[覚醒準備完了]

 天高く飛び上がり、空中で絡まりあって黒い巨人が姿を現した。
 その姿はガチユリダーに似てはいるが、曲線で構成されたフォルムはまさしく生き物のそれでありそれがその機体の邪悪さを物語っている。

クロノス『■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!』ガシイイィィィィン

 アダマスとウェヌスが合体したその姿…邪悪な機械の神クロノスは金属をこすり合わせるような方向を挙げながら降り立った。
 そしてその眼前には、ジオイドを倒し終えて戻ってきたガチユリダーが降り立った。

GYD(根本)『何こいつ…!』

GYD(琴主)『黒い…』

正純「ガチユリダー……!?」

 過去の因縁が交錯する奈良の地で、クロノスとウラノスの名を関する二体の巨神が奇しくも相対した。

今回はここまで
クロノスの名前をもうちょっと長くしようかと悩みましたが結局そのままに落ち着きました。

ガチユリダーコクピット


 まず最初に身を震わせたのは、クロノスの節々から溢れ出る闇を目にしたさいかだった。

根本「何こいつ…纏ってるニュクス因子の桁が違う…!!」ゾワッ

琴主「こいつが、あのアベルなの?」

 ロボットを介してとはいえ、先に話したときとは明らかに纏う雰囲気の質が違う。
 少し虚弱で変わり者なだけだった青年が、どうしてこんな邪悪な気配を発せるだろうか。
 その疑問を払うように、まつりから通信が入った。
 映像には弱りきった容呼も映っている。

正純『まじるさん!!早くあの中からはじめちゃんを助け出して下さい!!』

琴主「はじめちゃんを!?どういうことなの!!」

容呼『早くせぇへんと、はじめが消えてまう!!!!』

琴主「消え……る…?」

 容呼は迷うように俯くと、意を決したように顔を上げて静かに話し出した。

容呼『彼女は…昔亡くなった『燕糸・八重架』いう人のコピーやったんや。しかし、何らかの理由で記憶をなくしてその上から新たに愛糸はじめという人格ができた…それが今のはじめちゃんや』

正純『…!!』

琴主「はじめちゃんが…死んだ人のクローン?」

容呼『あいつは…あのアベルいう奴ははじめさんの肉体に封じ込められていた八重架を覚醒させて、彼女の強力なS.N.W.能力で世界を壊す気なんや』

根本「…!!魔女がやろうとした歴史改変を…ガチユリダーの力でやったら!!」

容呼『はじめちゃんの肉体の本来の持ち主は八重架や…いまのままやと、はじめさんの意識が八重架に食われてまう!!』

 パチ、パチ、パチ 拍手とともに、もう一つ通信端末が開いた。
 そこには、機械の触手に浸食されたアベルが映っていた。

アベル『その通り、まさしくその通りだね』

琴主「アベル…っ!!」

アベル『まさか愛糸はじめがここまで自らの肉体への執着を見せるとは思わなかったがね…ウェヌスを呼び出した時点で食らいつくしたはずだと思ったんだけど…これはいったん持ち帰って記憶を返してあげないことには何ともならんね』ヤレヤレ

琴主「…あんたは…それでいいの?」

アベル『? どういう事かね?』

琴主「あんたははじめちゃんの事、『妹』って呼んでたよね…やえかって子の事だったのかもしれないけれど、でも…その妹を苦しめるようなまねをして…あんたはそれで良いのかってきいてるんだ」

アベル『……成る程、確かに今のはじめという人格も確かに肉体的には地続きの僕の妹だね…でもね』

琴主「……」

アベル『全てを思い出せばきっと彼女は僕に賛同するだろう…いずれ僕諸共消えて、物質として永遠の安寧を得るんだ。過程には何の意味もないね?』

琴主「………そうか、わかったよ」ギュウゥゥゥ

 交は強く操舵を握り、一気に振りかぶった。

琴主「あんたは……ただの馬鹿野郎だ!!!!」グァ

 ゴガアアアアアァァァァァン!!!!

 

ガチユリダーはクロノスの顔面をフルスイングで殴りつけた。
 ヘーメラー因子の噴射と質量操作でブーストした本気の一撃だった。
 衝撃は大気と大地を大きく揺らし、衝撃波が空間を歪めた。


 しかし果たして…クロノスはガチユリダーの拳を手で受け止めて、尚無傷だった。

琴主「さいかぁ!!」

根本「言われなくても!!」ビュバァ

 ガチユリダーの羽根から、ルベリムスタイルのもう一つの武器テンタクルウィップが生える。
 そしてそれはクロノスの手を払い、もう一撃の拳がクロノスの顔を打ち据えた。

アベル『ぐはっ…!!』ガシュン

 クロノスはバックパックから封印装備を開封した。
 それは巨大でありながら使い古したような傷だらけの銃だった。
 シルエットこそライフルのようだが、その銃身は両刃の鉈のようであり…それが剣銃であることに一瞬のラグをおいて気づかせた。

琴主「リリーランチャー…!?」

アベル『その、オリジナルさ!!』キュ ドン

 クロノスのリリーランチャーがルベリムスタイルの羽根を打ち抜いた。
 さいかの触手があまりの痛みにビンと強張った。

根本「っ、つぁ!!」

琴主「さいか、大丈夫!?」

根本「なんとか…!?」ゾゾゾゾゾゾ

琴主「さいか!?」

 その瞬間、さいかの体が跳ね上がった。
 振り返った交は目を見開いた、さいかの触手が先端から黒い粒子になって溶けていっている。

根本「やめ…やめて!!うるさい、話しかけてくるな!!」ガクガク

琴主「さいか!しっかり…一体何が!!」

綾乃『まずい…!!有り得ない濃度のニュクス因子がさいかちゃんを浸食してるんだわ!!このままだと彼女まで怪獣化する!!』

正純『私と交代して下さい!!』

琴主「まつり!!」

容呼『さいかさんは私が何とかしますえ!!』

 容呼の言葉を信じて、交はパイロットの交代スイッチを押した。
 ガチユリダーの胸からまつりの胸へとタキオンパルスの光線が走り、二人の体が入れ替わった。
 そして傷ついた羽根が細かいパーツへと分解してガチユリダーの周囲を旋回すると、青く染まり全身を鎧のように覆った。

GYD(正純)「ガチユリダー…ノーマルスタイル!!」ガシィィィィン




境内

 境内に現れて倒れ伏したさいかに、容呼が駆け寄る。
 そして容呼を中心に優しい光のドームが広がってさいかの触手から黒く浸食された部位を除去していく…

容呼「此処が私の聖域で助かったわ…違う場所なら私もさいかさんも助からへんかったな…」ぽわあぁぁ


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今回はここまで
GYD同士の戦いって思った以上に書いてて楽しい

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