インデックス「ふて寝もいい加減にするんだよ!」フィアンマ「んー」 (194)




・右方目録スレです

・キャラ崩壊、設定改変及び捏造注意

・ゆっくり更新

・ほのぼの

・書き方不安定(地の文、会話文)





※注意※
エログロ描写が入るかもしれません。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1378301491



命というのは、存外脆いものだ。
多くの死体で作られたベッドに沈み込みながら、フィアンマはそう思った。

未曾有の大事故。
脱線による列車の横転。

あちらこちらから苦しげなうめき声が聞こえるが、それが消えるのも時間の問題だろう。
自分の幸運が呼び寄せた事故なのかどうか、いまいち判別がつかない。

「……、」

動こうとして、思わず舌打ちした。
左足に力が入らない上に、鈍い痛みが走る。
これは折れてしまっただろうか、と思いながら、どうにか右足を軸に立ち上がる。
右側に体重をかけ、ふらふらとしながら壁に手をつき、歩き始める。

「……す、けて」

非力そうな華奢な手が、地べたを這う。
掠れ掠れ、か細く若い女の声が耳に届いた。
フィアンマは少しだけ立ち止まり、死体の下から出た腕を見つめる。
細い腕、小さな手、血色は酷く悪い。どこか怪我をしているのかもしれない。

「………」

助ける義理や必要はどこにもない。
自分の治療を考えるのなら、今すぐここを立ち去るべきだ。
じきに警察等の団体が救助に来るにしても、まだまだ時間がかかる。
仮に今ここで助けたとして、痛みを長引かせるだけで、迎える結末は同じかもしれない。
それを思えば、手を掴むことは怖かった。

 


立ち尽くす彼の背後の死体の山が、蠢いた。
もぞもぞと動いた後、山の中から一人の少女が這い出てくる。

「けほけほ、」

酷い事故だったにも関わらず、彼女は怪我をしていなかった。
その身にまとう衣服は純白で、高級なティーカップの様な。
教会における必要最低限の機能を抽出した、『服の形をした教会』。
すなわち、『歩く教会』であることを、フィアンマは一目で看破した。
個人で製作したとは思えない出来の霊装だ。首にかけている十字架はローマ正教式らしい。
当然の事ながら、その衣服型の霊装に破れや汚れというものもない。
彼女自身の雰囲気から考えて、恐らく魔術師ではなく魔術に関する特別職だろう。

「あ、よかった、生きてる人が居たんだね!」

彼女はフィアンマの姿を見るなり、安堵した様に微笑んだ。
だが、その碧眼は潤んでいた。泣きそうな顔をしていた。
多くの死体に囲まれた状況で、まだまだ成人には程遠い少女が立っているだけでも本来おかしいのだ。
失神してしまわないよう、泣き出してしまわないよう、彼女は一生懸命に我慢する。
そんな彼女の視線はやがて、フィアンマの足元で蠢く女性らしい手に気がついた。

「引っ張り出すのが難しいんだね。手助けするんだよ」
「俺様は、」
「あなたはそっちを持って欲しいかも」

せえの、と声をかけられ、仕方なしにフィアンマは死体を持ち上げて退ける。
やがて這い出してきた女性は吐き気を堪えながら数度咳き込む。

「あ、ありがとう、ございま、す…」
「怪我、」

白い少女は女性の凄惨な傷口のあるふくらはぎに心を痛めたのだろう。
愛らしい顔立ちの眉尻を下げ、慌てて懐からハンカチを取り出す。

 


素材は麻辺りだろうか。
涼しげな白色のハンカチーフだった。

「んしょ、」

手では無理だと早々に判断したらしい。
彼女はハンカチーフを丁寧に二つに裂き、少しこよると、女性の傷口の止血に用いた。
ぐっぐ、と強めに縛れば、当然、出血は止まる。

「す、すみません…」
「ううん、良いんだよ」

人類皆兄弟って言うもの、などと彼女は口にする。
十字教信者であることは恐らく間違い無い。
首に架けている十字架を考慮するならば、ローマ正教信者で間違い無いだろう。

ローマ正教の中の最高峰、その奥底へ潜む最暗部『神の右席』の実質的リーダーである右方のフィアンマ。

とはいえ、彼だってローマ正教徒全員の名前と顔を記憶している訳ではない。
いつ入信したのかは知らないが、珍しく異教徒に攻撃的でない教徒だな、とぼんやり思う。

 


やがて救助はやって来た。
ほとんどが死者だったが、数名程生存者は居た。
重傷軽傷問わず生きてさえいれば病院へは運ばれる。
抵抗する理由は特になかったので、フィアンマもとある病院で手当を受けた。
治療といっても、数箇所あった切り傷の消毒と骨折した左脚の固定だけだ。

「……それで、お前は何故俺様の会計終了を待ち構えているんだ?」
「治療と救助活動に必死ですっかり忘れていたんだけれど、あなたのことを思い出したからかも」
「俺様はお前の様な女と出会った記憶はないが」
「こっちも会ったことはないかも。資料であなたを知っているだけ。
 公共の場所だから名前は指摘しないけど、あなたも魔術師だよね?」
「ああ、そうだな」

面倒そうに返事をするフィアンマに対し。

彼女は―――その身に一○万三○○○冊もの魔道書・邪本悪書を収納する魔道書図書館は言った。

「私は―――ローマ正教聖ピエトロ大聖堂所属"地下第二書庫"『禁書目録』」

名乗って、白い聖女は十字架の位置を正す。
病院の照明を受け、キラリと光った。
フードからは銀色の前髪が覗いている。

「これからよろしくお願いするんだよ!」




にへら、と柔らかな笑みを浮かべ。
彼女はそっと、握手の為に手を差し出した。

 


何の警戒もなく。
資料が正しいという確証もなく。
そもそも自分の本性がどんなのものかも知らず。
無邪気に手を差し出してくる少女は、若干不愉快といえばそうだった。
自分が管理者ということになるのかもしれないが、仲良くする必要などない。
人類皆兄弟、人類皆平等などというが、それが嘘八百であることなど知っている。
知識だけでなく、今まで生きてきた中の経験というかたちで。

「……」

だから。

右方のフィアンマが返した反応は、一つだけだった。

 


とりあえずここまで。
>>1にある通り書き方不安定ですので酉で判断してください。
(今回は本気出さないのでほのぼの)(フィア火野はその内支部にでもあげます)

乙。よう、元気か?

右方目録といやフィアンマ甘党スレ

あいからわずインデックスはダメ男というか不真面目の男相手だと真面目に家事しようかと思うタイプ
てか、上条さんが甘すぎるだけなんだけどね……
上条さんって、絶対ペットとか甘やかしすぎて太らせるタイプ


今回も頑張ります。
ついでに注意書きですが、このSS、少しだけ右方前方要素があります。後死ネタ。
(何やら次巻フィアンマさんが出ると聞いてわくわくしております)

>>15
今回は普通の人間のフィアンマさんですよ!

>>16
まあ記憶喪失になって初めて見た女の子ですから…家族ですしね。甘やかしてしまうのも仕方ないというか














投下。



フィアンマ「……」スヤァ

インデックス「!!?」

フィアンマ「……」

インデックス「えっ、ええええ??」

フィアンマ「……」スヤー

インデックス「初対面の相手が握手を求めてるのに寝るってどういうことなの?!
                     うぐぐぐおきてーおきるんだよーっ」ユサユサ

フィアンマ「寝ているから何も聞こえない」

インデックス「聞こえてる!!!」

看護師「申し訳ありませんがもう少しお静かに願います」

インデックス「あう、ご、ごめんなさい……」


インデックス「あなたのせいで盛大に怒られたかも」

フィアンマ「人のせいにするのは感心せんな」コツ

インデックス「むうう…あっ」キュルル

フィアンマ「……」カツ

インデックス「……えっと」

フィアンマ「……用件は手短に言え」

インデックス「お、おなかいっぱいごはんを食べさせてくれると嬉しいな♪」

フィアンマ「却下だ」

インデックス「ふぇ!?」


自己紹介と下らないやりとりをしながら、インデックスとフィアンマは聖ピエトロ大聖堂へとやって来た。
どうにか買ってもらったバゲットを口いっぱいに頬張る少女を見るでもなく、彼は書類をまとめる。

「今戻った。遅くなったな」
「事故に巻き込まれたと聞き及びましたが…これは痛々しいですねー」
「少し休憩するつもりだ。この女を頼む」
「お会いするのは二度目ですねー」

戸惑うインデックスを部下兼同僚である左方のテッラに任せ。
フィアンマは本棚に囲まれた自室へ引きこもってしまう。
どうしてあんなにもつっけんどんな態度なのか、と思いつつ。
インデックスはひとまずバゲットをかじるのをやめ、テッラを見上げて笑んだ。

「初めて会ったのは礼拝の時だったかも」
「そうですねー。熱心に祈りを捧げる貴女の姿は美しかったですよ」
「褒められると照れるんだよ。でも、主に対して真摯に祈りを捧げるのは信徒の義務であり、権利でもあるからね」

はにかむインデックス。
穏やかに微笑む返すテッラ。

「…そういえば、その手にあるものは?」
「フィアンマが買ってくれたんだよ」

大聖堂まで入ってしまえば、彼の名を呼んでも問題はない。
インデックスはそう言うと、どことなく誇らしげにバゲットを見せた。
テッラは目を瞬くと、聖職者らしい微笑はそのままに、こう誘った。

「これから"儀式(しょくじ)"をしますので、ご一緒にいかがですか。
 あなたの分はまともな食材を調達しますから」
「? うん、お願いするんだよ」

あなたの分は、という部分に引っ掛かりを覚えるも、インデックスは気にしないことにする。


不味そうに食事をする男と美味しそうに食事をする少女の様子には気がつきつつも、目を向けず。
フィアンマは独り、部屋の椅子に腰掛け、骨折した左足を見つめた。
その気になれば一定の手順を踏んで治癒も出来るのだが、術式を執行するまでが面倒臭い。

「……」

"昔"はもっと、精力的な人間だったように思う。
世界を救うという目的を掲げ、それでいて。
大切なものが出来た。それを守りたいと思った。
もう一つ、更に大切なものが手に入るはずだった。

だがそれら全ては、たった一日で喪われた。

今でも夢に見る。
迎えるはずだった未来。

全部自分が悪いのだ。

わかっているから、もう誰も助けたくない。
手を差し伸べて、あんな結果になる位なら。







「……また考え込んでいるのであるか」


気がつけば、男がドア付近に立っていた。
その大男は、フィアンマと同じ『神の右席』が一人―――後方のアックア。
『聖母崇拝』に『聖人』、希少な属性を自在に操りこなす魔術師にして、傭兵。
彼の見守る様な視線が煩わしく感じられ、フィアンマは無気力に返す。

「そういう訳でもないさ」

そろそろ割り切らないといけないからな、などと言いつつも。
彼の瞳の奥底、激情が押さえ込まれていることを、アックアは知っている。

「……くれぐれもあの少女に八つ当たりはしないことだ」
「言われずともしないが。そこまで幼稚ではない」

素っ気なく言い、彼は背もたれに身を預ける。

「……ところで、あの魔道書図書館はどうする。会議中半分程寝ていたせいでわからんのだが」
「それについて貴様はもう少し反省するべきである。…暫く貴様が面倒を看ることで結果が出たはずであるが」
「そうか。……ん? ……そうか」

適当に返事をした後に考え直して、しかし諦めたらしい。
魂が半分抜けている様な男だな、とアックアは思うも。
しかし重要な仕事があればきちんと頭を働かせるし、魔術の腕では叶うはずもない男に無闇に楯突くはずもなかった。
もっとも、アックアも魔術師なので、根本的に考えが違えば離反するのだが。


フィアンマ「…空腹だ」

アックア「そうか」

フィアンマ「あの女とテッラの会食場所へ行きたいが、足が痛くて動けない」

アックア「棒読みであるな」

フィアンマ「あー折れた足が痛いなー」

アックア「…その棒読みを……肩を貸すのである」

フィアンマ「……あの女も不幸なヤツだ」

アックア「本人は満足そうであるが」

フィアンマ「果たしてどうかな。…その自己犠牲の喜びがいつまで続くか」


食卓にフィアンマがやって来た。
儀式の意味合いを持つ食事を終えたテッラにアックアが何やら話があるらしく、二人揃ってその場を去る。
取り残されたインデックスとフィアンマは、食事をすることにした。
インデックスに関しては食事を継続する、ということなのだが。

「お腹空いたの?」
「少しだがね」
「これ美味しいんだよ」

はい、とシチューを取り分けるインデックス。
まだぬるく熱を残す甘い匂いのミルクシチューは、その匂いだけでも少し空腹を癒す。
それにしてもとてつもない量を食べるものだ、とフィアンマはぼんやり思い。
ゆっくりとシチューにパンを浸し、少しずつ食べることにした。

「みんないい人かも」

最暗部である『神の右席』に在籍する人間に、良い人。
その評価は間違っていると思うも、フィアンマはふと気がつく。
少なくとも、アックアとテッラは善良寄りの人間であると。
つまるところ、罪深い悪人であるのは自分位なものなのだ。

「……」
「…お、おいしくないのかな?」

口に合わないのなら別の食べ物もある、とインデックスは一生懸命を気を遣っている。
対して、フィアンマは礼の言葉を口にするでもなく。

「……俺様に媚びへつらう必要はない。懐く必要もない。
 誰かと仲良くしたいのなら、テッラにでも甘えるんだな」
「でも、現在時点、私の管理者はあなたなんだよ」
「此処の最高責任者だからな。別に志願や申請をした訳ではない」
「………」

言外にお前は要らないと言われているようで、インデックスは少し悲しくなる。
確かにローマ正教の陰のトップに自分の知識はたまに引く辞書程度しか必要ではないのかもしれない。
でも、どうせ出会ったのなら、その人と仲良くしたいと思うのは悪いことではないはずだ。

「………せっかく出会えたんだよ。ご縁は大事にしたいかも」
「良い迷惑だ」

取り付く島もない、とインデックスはむくれ半分にシチュー浸しの甘いパンを頬張るのだった。


今回はここまで。
(ほのぼのだって言ってるのにストーリー入れたくなるの悪い癖です)


大丈夫、いつものシリアスマシマシよりはほのぼのとしてると思います
フィアンマ甘党スレで鬱フラグを踏んだ時の緊張感と比べたら…



ちょっと前シルビアがフィアンマのメイドで右方聖人が浮かんだ
しかしシルビアがメイドになる時期によってはオッレルスさんが可哀想な目に……
「ブレーキがない車状態」か「喧嘩した実質嫁が別の男に取られた状態」になるし……

フィアンマSS書こうと思ったけど、ここのSS読んだら書くのが申し訳なくなって止めた。


フィアンマスレ建てようかな、と思う人は是非お願いします。あなたが文字を綴るだけで救われる>>1が居るのです。>>37さんとか。
(割と真面目に。結構必死)


>>34
あれは…嫌な…過程だったね…。

>>36
ちょっと興味があります

>>36
是非書いていただけると助かります。
(つまりフィアンマさんが二人と結婚すれば良いのでは…?)


聖ピエトロ大聖堂の奥は、生活が出来る様に整えられている。
大浴場的な側面が大きいものの、湯浴みも出来る。
加えて言えば、ベッドさえ置いてしまえば眠ることも可能だ。
多くの術式が仕掛けられているため、襲撃される恐れはほぼゼロ。
移動してきた第二地下書庫たる禁書目録が生活するには相応しい場所だった。

なのだが。

「……風紀的にまずいような気がするんだよ」
「何がだ」
「同じ屋根の下で眠ることかも」
「部屋は別だろう」
「う…」
「そもそも俺様はお前の様な子供に興味はない」
「こ、子供!? 今子供っていった!?」
「それ以外に何がある。…静かにしろ」

そもそもこの世界の空自体が主のご加護ある天の屋根だ、などと言い。

フィアンマは本当に面倒そうに自室に引っ込んでしまう。
インデックスはむくれながら、自室へ戻ることにした。
別に話そうと思って会ったのではなく、偶然入浴後出会っただけなのだ。
勿論、一緒に入浴した訳ではないのだが。


インデックス「感じ悪いなんてレベルじゃないかも」プンプン

インデックス(……何かしちゃった記憶は…ないし…)

インデックス(…でも、もしかして私がそう思っているだけなのかも……?)

テッラ「おや」

インデックス「あ、テッラ。まだお仕事なのかな?」

テッラ「まあ、そうなりますかねー。書類を片付けていまして」

インデックス「まだ眠くないからお手伝いするんだよ」

テッラ「いえいえ、お気遣いには及びませんよ。もうすぐ終わりますから」

インデックス「…そっか」シュン

テッラ「……元気がないようですが」

インデックス「う、ううん! 大丈夫かも」


テッラ「右方のフィアンマに何か言われましたか?」

インデックス「……、別に、何か言われた訳じゃないんだよ」

テッラ「……」

インデックス「…でも、どうしてここまで拒絶されるのか、わからないかも」

テッラ「……事情を知らなければ、理解出来ないでしょうねー」

インデックス「? 事情?」

テッラ「まだ話すには早いですから、その内追々に。…とはいえ、あまり話しすぎると殺されてしまいそうですがねー」

インデックス「そ、そんなことさせないんだよ!」

テッラ「頼もしいですねー」

インデックス「『歩く教会』を着た私なら盾になれるもん」

テッラ(そもそもそんなものが右方のフィアンマに通用する訳もないのですが。まあ微笑ましいですからよしとしましょう)

インデックス「……事情があるなら、私個人が嫌いな訳じゃないのかな?」

テッラ「ええ。修道女にはあの様な態度ですから」


インデックス「嫌われてる訳じゃないなら、良かったかも」

テッラ「? そうですかねー。あなたは今現在、不愉快な思いをしているではありませんか?」

インデックス「それは否定出来ないけど、嫌われているならともかく、事情のせいなら改善点があるんだよ」

インデックス(完全に嫌われてたら仲直りなんて出来ないもん)

テッラ「……」ナデナデ

インデックス「わ、わぷっ、テッラも子供扱いするのかな?!」ムム

テッラ「素晴らしいお考えだと感服しただけですよ」

インデックス「……」

テッラ「……と、まもなく日付が変わってしまいますね。早めの就寝をお勧めしますよー」コツコツ

インデックス「うん。おやすみなさい」タッタッ


写真立てを、指先で撫でる。
そこに写っているのは、自分と女性の姿だ。
数年前なので、少し年若い容姿だが。

「………、」

写真を嫌がる彼女に、一枚だけ、と言ったものだった。
デジタルカメラだけは嫌だと言い張った彼女の為に古い方法で撮影したような記憶がある。
過去の事情も相まって、とかく、科学を嫌う女だった。
科学サイドへ復讐するために、何もかもを捨てて『神の右席』へやって来た程に。

「……」

自分は彼女に救われ。
恐らく彼女は自分に救われてくれた。

彼女がいてくれれば、それだけで良かった。
この世界の平和と幸福の潤沢を心から望むことが出来た。
彼女が好きだった。確かに、愛していたのだ。
彼女もまた、自分を愛していた。子供を望む程に。

幸福になれるはずだった。

自分のせいだ。
結局はそこに原点回帰し、より一層の辛さを生み出す羽目になる。
もうこんな不毛な振り返りはやめてしまいたいのに。

「………今でも、空席のままだ。適応者も居ないんだ」

ぽつぽつと呟き。
フィアンマは写真立てを元の場所へ戻し、ベッドに座る。




自分は世界中の人を幸福にしたくて、魔術師になったはずなのに。


インデックス「おはようございますなんだよ」

フィアンマ「……ああ」

インデックス「……」ムゥ

フィアンマ「………」

インデックス「…眠いの?」

フィアンマ「…お前には関係のないことだろう」

インデックス「む」

フィアンマ「知ったところで得もあるまい」

インデックス「人間関係は損得だけじゃ決まらないんだよ?」

フィアンマ「………それはお前の理論だろう」

インデックス「むむむ…」

フィアンマ「………」


インデックス「あんまり食べないんだね」

フィアンマ「お前はよく食べるな」

インデックス「う。…わ、私の場合は図書館維持のために必要な」

フィアンマ「……」スヤァ

インデックス「面倒臭くなると寝たフリするのやめてほしいんだよ!」

フィアンマ「女の話は長い上にオチがないからな」

インデックス「性差別は感心しないかも」

フィアンマ「肋骨一本で出来ている安上がりの生き物だろう」

インデックス「………」

フィアンマ「……本気では思っていないが。というよりも、人間に産まれればその中で上下は存在しない」

インデックス「…なら良いんだよ」

フィアンマ「………、…」

インデックス「? 私の顔に何かついてるのかな?」

フィアンマ「………。…出かけてくる」


今回はここまで。

大人インデックスのイメージ画像
ttp://lohas.nicoseiga.jp/thumb/870090i



小ネタで大人インデックスとフィアンマさんの掛け合い見れませんかね……

乙。死ネタはヴェントさんだったか。昔の撮影方式ってーと、まさか1時間くらいじーーっとしてなきゃいけないやつ……?



アレだ、誰も立てないのは多分、カラオケで「えぇ?!何この人めっっちゃうまっ!」って人の直後に全く同じ曲で歌う時の「え゙え゙え゙え゙!?今ァ?!アレの後にこの俺のへったくそな歌を披露すんの?!何このセルフ公開処刑ェェェェ!」みたいな感じになるからじゃ



何?誰もフィアンマスレを立てられない?
それは無理矢理>>1と同レベルのハイクオリティSSを立てようとするからだよ
逆に考えるンだ、『フィアンマさんのスレを立てることで>>1がフィアンマ成分を補給できればいいさ』と考えるんだ

…時間があればで構いませんので、また安価スレもやって下さい


本当真面目にフィアンマスレほしいです。少なすぎる

>>56
(結婚しよ? フィアンマさんと)
後々大人になったインちゃんとおしゃべりはすると思います。

>>57
恐らく…撮影辛そうな。
その理屈はおかしいそんなに>>1の作品素晴らしくない(震え声)

>>58
いつか時間ができたら…ですね








投下。


キツめに言い返すと、フィアンマの目元が少し和らいだ様な錯覚を覚える。
そんな彼の表情の些細な動きすら、インデックスの絶対記憶能力は忘れず記憶出来る。
もう出かけていってしまった彼の表情の動きを無言で思いかえしつつ。
くぁ、と漏れた欠伸。とっさに口元を手で押さえながら、インデックスは考える。

(気が強い女の子がタイプ、とかなのかな?)

それならば納得がいく。
テッラのまだ話してはくれない"事情"というものも関係しているのかもしれない。
出かけるのについていけばよかったな、とインデックスはうっすらと思う。

「……気難しいんだよ」
「誰の話であるか」
「わっ、アックア! 気づかなかったかも」
「先程戻ったばかりであるからな」

差し出された紙袋を、ひとまずインデックスは受け取る。
その中身は甘そうなキャラメルと、見たことのない絵本だった。
子供向けではあるものの、挿絵は少なめだ。
児童向け小説というものだ。厳密には絵本とは言えない。

「ファンタジーものだね。嬉しいんだよ! ありがとう、アックア」
「時には魔道書以外を目にすることも、思わぬ知識に繋がるものである」

そう応え、アックアは仕事が残っているらしく、去っていく。
バッドエンドの内容だ、とネタバレを残して。
去りゆく彼にもう一度お礼を言い、インデックスは場所を移して早速本を読むことにした。


ロミオとジュリエットを焼きなおした様な話だ。
小説を読み進めながら、インデックスはそんな感想を抱く。

『約束してください』
『何を?』
『必ずこの地へ戻り、私と改めて婚礼の儀をあげることを』
『ええ、約束しましょう』

約束をする姫と勇者。
姫は既に身ごもっており、愛する勇者を待ち続けるということだ。
結界の仕掛けられた搭上にて、勇者を待ち続ける彼女に届いた一報。

「……、」

それは誤報だったが、勇者の死を告げるものだった。
嘆き悲しんだ姫は報告の手紙を抱えたまま、結界を破り、搭の上から身を投げる。
無事に敵を倒し、戻って来た彼は姫の死を聞かされる。
既に葬儀も上げられており、自分の死という誤報が原因だと聞かされ、どうしようもない。
酷く絶望した勇者は墓の前で呆然と彼女の名を呼び続け、やがて廃人の様に無意味な生を享受した。

「……ひどい話なんだよ」

前半は勇者が如何に素晴らしい才能があるか、多くの人を救ったか。
そして、その恋人である姫がどんなに愛らしい人物が描かれていた。
それに感情移入したところで、このエンド。
バッドエンドが過ぎる、とインデックスは恋をしたことなどない身ながらも切なくなる。


小雨が降ってきた。
その内大雨になりそうだな、とフィアンマはうっすら思い。
別に濡れても良いかと考え、花屋へ入った。
並ぶ花の種類は多いが、その中でも花束だけを眺める。

「何かお探しで…あっ、あなたは」
「ん?」

店員に声をかけられ、視線を向ける。
そこに立っている女性は、列車で事故に遭い、怪我をした女だった。
インデックスから貸してもらったハンカチで止血をしてもらっていたように思う。

「…ああ、あの時の女か」
「あの時はありがとうございました。お陰で助かりました」

笑顔で軽く頭を下げられて深く感謝され。
フィアンマは口を閉じ、視線を花束へ戻す。
インデックスに言うのならともかく、自分に感謝の言葉をかけるのは間違っている。
そもそも、自分は彼女を一度見捨てようとしたのだから。

「お花買いに来ていただいた方に何ですけど、あの子にこれを返していただけませんか?」

差し出されたのは、紙箱に入ったおしゃれなハンカチだった。
インデックスが裂いて使ったあれとは違う物だが、同じ様な白いハンカチだ。

「出来れば同じものを買って返してあげたかったんですけど、見つからなくて。
 病院で一緒に会話しているのを見かけたので、ご友人かと思ったんですけど…もしかしてもう今は」
「いや、知り合いだ。渡しておこう」
「よかった」

柔らかな笑みを浮かべる女性からハンカチを受け取り。
それを懐にしまうと、フィアンマは花束を眺め続ける。


「もしかして、あの子にですか? それとも、恋人さんに?」

女性店員は柔らかな声音で話を続ける。
ここで会話を打ち切るのも不自然なので、フィアンマは言葉を返す。

「……ああ。恋人に、だよ」

女性店員はもしかしたらインデックスがフィアンマの恋人と思ったかもしれない。
だとしても訂正する必要性は感じられないし何より面倒だ、と彼は思う。
彼女はフィアンマの返答ににこにこと綺麗な笑顔を浮かべる。
女性というのは基本的に恋のお話が大好きな生き物だ。

「でしたら、作ることも出来ますし…あ、薔薇を沢山入荷したんです」

本数で意味が変わることをご存知ですか、と聞かれる。
フィアンマは頷いて、提示された大量の赤いバラを眺めた。

「11本程、いただこうか」
「ありがとうございます。少しお待ちくださいね」

女性は一度作業場に引っ込み、いそいそと花束を作り出す。
やがて出来上がったそれに代金を払い、受け取り、フィアンマは歩き出した。
向かう場所がある。近頃行けていなかったところだ。


11本の薔薇の花束は、『最愛』を意味する。

赤い髪を、服を、白い肌を雨に濡らし。
途中で傘などの雨具を購入することもなく。
フィアンマはたった一人、そこそこに広い墓園へとやって来た。
多くの墓がある中、たった一つを迷うことなく選び、歩いて辿り着く。

「……遅くなったな」

まるで、待ち合わせをしていた恋人へかけるように。
優しい声でそう言葉をかけると、彼はしゃがんだ。
それから、墓石の前へそっと、手渡すかの様に花束を捧ぐ。

幽霊なんてものは存在しない。

この世に未練があって、未練故に出てくるのなら。
或いは世界への悪意故に、幽霊というものが出来るなら。

彼女は、自分の所へ来てくれるはずなのだから。

「……魔道書図書館を預かる事になったのだが、見目が女の子供だ。やりにくい」

あの少女しか適任者が居なかったのだろうから仕方がない、と付け加え。

「仲良くなりたいと言われたのだが、どうしても打ち解けられる気がしない。
 ……まあ、それで支障は無いだろう。それに、テッラがフォローをするさ」

届かないと、わかっている。
頭の中では理解しているのに、言葉は紡がれていった。


仕事ではないので、ゆっくりゆったり本を読んでいた訳だが。
ふと雨が降ってきた事に気がつき、インデックスは窓を見た後、ハッとする。

「傘、」

あそこまで冷たくされても、インデックスはフィアンマが心配だった。
同じ列車事故に遭ったからか、彼が虚ろだからか、彼女の性格かはわからない。
けれど、彼女は彼が雨に濡れて風邪を引いたら嫌だなあ、と思った。
間に合うかはわからないけれど、どこかで雨宿りをしているのなら、困っているかもしれない。
その身に背負う魔法名『献身的な子羊は強者の知識を守る(dedicatus545)』に献身の二文字を持つ彼女は外へ出る。
一本は傘をさし、もう一本の傘を手に、彼を探して走り出した。



雨が酷くなってきた。
それに、思った以上に彼が見つからない。
途中出会ったテッラによれば、遠くへは行っていないということを聞いた。

「うーん…」

段々疲れてきた。
華奢な少女の身に、長時間の外出は少々無理があったのだ。
インデックスは休憩しつつ、ふと視界に彼を見た様な気がした。

「あそこって、」

墓場だった。
インデックスは足を踏み入れたことなどないし、死んだ知り合いはそもそも居ない。
だが、そこに彼が居た様な気がして、そっと柵に近づいてみる。


墓の前。
赤い青年が、雨に濡れて立っていた。
否、神様に懺悔でもする様に、膝をついて墓石に向かっていた。

『―――――』

遠目でも、何かを言っているのがよくわかった。
その表情はとても優しげで、それでいて、泣きそうに見えた。
それは雨に濡れていたが故、インデックスの目の錯覚かもしれない。

『―――――』

彼の前には色鮮やかな真紅の薔薇―――その花束。
恐らく彼が持ってきたものなのだろう。

『―――――――』

墓石に向かって何かを発言している彼は、懺悔をしているように見えた。
あの墓が、もしかすると『事情』というやつなのかもしれない。
フィアンマの態度や発言には不快感を覚えていたインデックスだったが。

「……、」

胸が痛かった。
それは、大怪我をして泣いている子供を見た時の様な、同情による痛みだった。
インデックスという心優しい少女は、誰にでも同情する。
それは上から目線のお恵みや哀れみでなく、人の心を癒す情の深さだ。

声をかけたい、と思う。
声をかけてはいけない、とも思う。

遠目に見える顔見知りの青年を見つめたまま、インデックスはその場に立ち尽くしていた。


今回はここまで。
インちゃんの読んでた小説の内容はお分かりでしょうが婉曲表現。


>>1の書くフィアンマさんは大抵優秀で人格者だけど、その才能と同時に悲劇も背負っているよな


(流石の>>1もそこまでの婉曲表現できな、)


>>79
悲劇を背負っているからこその人格者なのかもしれないです。
勿論、原作で言われている通り『今まで何一つ手に入れたことのない、発想すらあり得なかった男』である彼も好きですよ。














投下。


涙は出てこなかった。
彼女が死んで初めての墓参り以降、涙を流したことは、或いは無いかもしれない。
そんなことを思いながら、フィアンマは墓園を出た。
体中、服の布面積を少しも余さず雨が濡らしているが、不快感よりも喪失感の方が強かった。
自分で選んだことだが、こうして墓参りに来るといつもこんな心理状況になる。

「……ん」

墓園から出て、少し歩いたところで。
不意に頭上から降り注ぐ水滴が防がれた。

「……、」

振り返る。
そこにはインデックスが居た。
苦しげな表情を見、視線を下へ。
彼女は精一杯背伸びをし、腕を伸ばし、フィアンマのために傘をさしていた。

「う、うう、早く掴んで欲しいんだよ」

彼女の身長は約148㎝。
対して、フィアンマの身長は約177cm。

その身長差、実に29cm。
本当に精一杯腕を伸ばしている彼女の姿はとても辛そうだった。


フィアンマはこれまでに、何度か雨に降られたことがある。
大体は空模様を軽んじて傘不携帯による不幸だが。

『傘位買いなさいよ。金が無いワケでもあるまいし』

"彼女"と交際を始めてまもなくの頃。
同じ様に大雨に降られ、それでも構うまいと歩いていた時。
彼女は今日のインデックスと同じ様に、後ろから傘をさしてくれた。
勝気な笑みで、やや傲慢に、傘をさしにきてやったと言っていた。
ついでにいえば、腕が辛いから早く受け取れとも。

「………、…」

フィアンマは無言で、インデックスの手から傘をひったくる。
乱暴な取り方に一瞬しょんぼりとするも、少女は笑みを浮かべてみせた。
申し訳なさそうな、薄い笑顔だった。

「本を読んでいたから雨が降りだした瞬間は見逃してたんだよ。
 遅くなっちゃってごめんね」
「……誰も傘を持ってこいなどとは連絡していないが」
「私が勝手にやろうと思ったんだよ」

もっと早く来られれば濡れないで済んだね、と謝られる。
どうしてそんなことで謝るのか、フィアンマには理解出来ない。


「一緒に帰ろう?」
「……、…お前に渡せと預かったものがある」

頷くでもなく歩き出すフィアンマに、インデックスは慌ててついていく。
隣りを歩く小さな足音を聞きつつ、彼はそう告げた。
きょとんとしながらも、インデックスは相槌を打つ。

「戻ったらおやつがあるんだよ」

一緒に食べようね、と少女はフレンドリーに誘う。
素っ気なく断り、フィアンマは彼女にペースを合せるでもなく歩いた。



やがて、大聖堂へ到着する。
自分の体と服を乾かし、フィアンマはハンカチの入った箱をインデックスに渡した。
花屋の女性店員のメッセージを伝えると共に、淡々と事情を説明しながら。

「気にしなくても良かったのに、優しい人なんだね」

今度直接お話に行こう、などと呟いて、インデックスはハンカチを大切そうに受け取る。


間食の内容はビスケットだった。
本来、修道女や修道士は嗜好品の摂取を禁じられているものの。

自分は見習いだからなどと言い訳をするインデックス。
聖職者を飛び越えた存在だから、と言ってみるフィアンマ。

この二者に限っては、そんな決まりごとなど意味をなさなかった。
そもそも、この二人を力技で止められる人間などそうそう居ない訳だが。

「オレンジもチョコチップも美味しいんだよ! 幸せかも」
「………」
「…な、何?」
「ロクに噛んでいる様子も見当たらないというのによく味が分かるものだな、と」
「ちゃんと味わってるもん!!」

言い返し、インデックスはさくさくさくさくとハイスピードでビスケットをかじっていく。
汚れたテーブルを気怠そうに掃除し、フィアンマもバタークッキーを口に含む。

(……あ、珍しく会話が続いたんだよ。イヤミだったけど)

ふとそんなことに気がつき、インデックスは笑みを浮かべてビスケットを頬張る。
何やら幸福そうな少女に、そこまで美味なビスケットでもないのに、とフィアンマは思った。


フィアンマの骨折が完治した頃、冬がやって来た。
今年のイタリアは早々に雪が降り始め、酷く寒い。
そうはいっても、十代前半の少女は本日も元気だった。

「一緒に雪遊びしたいんだよ!」

アックアは仕事中で、遠征に赴いている。
フィアンマは誘ってみたが、当然の如く断られ。

そんな訳で、インデックスはテッラを雪遊びに誘ってみた。

「構いませんよ」

穏やかにそう笑って、彼は付き合ってくれる。
お礼を言いつつ、インデックスは彼と共に雪だるまを作った。
左方のテッラは基本的に敬虔なローマ正教徒には甘々だった。

「フィアンマとは、少し打ち解けたようですねー」
「そうなのかな。自信がないんだよ」

相変わらずイヤミや皮肉を言われることは多く。
嘲笑されたことはあれど、微笑まれたことなどない。
これで仲良くなったと言えるのか、と彼女は首を傾げた。
対して、テッラはのんびりと笑みを浮かべたままに頷く。

「無視をしていない時点で、友好的だとは思いますよ」
「そうなの?」
「ええ。………さて」

インデックスとフィアンマが出会ってから、早半年。
そろそろ話しても良い頃合だろう、と左方のテッラは思う。
インデックスはここまで疎まれて尚、彼を理解したいと思っているようだから。

それに。

左方のテッラも、インデックスには期待している。
自分やアックアが心を尽くしても決して元に戻ることのなかったフィアンマに。
この少女が、本当の笑顔や希望を取り戻す事が出来ることを。

「お話しましょうか。良い時期ですしねー」
「"事情"のお話?」
「はい。ちょうど二人きりですしねー」

たとえ、これで自分が彼の逆鱗に触れ、殺されたとしても。
自分を救ったあの青年がこの少女と触れ合って立ち直ってくれるなら、それで良い。


男がまだ、左方のテッラと呼ばれる前。
彼は聖書の端から端までを読み返しては、不安を克服しようと研究を続けた。

神の国。

全知全能の唯一神が世界の終わりに創造するという、幸福の世界。
死者は死後世界が終末を迎えるまで待ち、最後の審判を受ける。

信心深く、良き者は神の国へ。
神を軽蔑した重罪人は地獄へ。
悔い改め、しかし過去に罪を犯した者は煉獄へ。

左方のテッラは、自らが神の国へ至ると確信していた。
それと同時、外よりも内に敵が多いと言われるローマ正教の現状に悩んでいた。

このローマ正教内の問題が、もしも神の国へ持ち込まれてしまったら。
それは幸福な世界とは程遠い世界で、神様は失望してしまうだろう。
敬虔だからこそ、真面目だからこそ抱いた不安だった。
どんなに研究しても、魔術が出来上がるばかりで、答えは見えない。
『神の右席』という場所に身を置いても、答えは見えてこなかった。

『ですから、私は知りたいのですよ。神の期待に応えるにはどうすれば良いのか。
 争いは持ち込まれてしまうのか。そうならば、皆をどの様に導き直せば良いのか、ただそれだけを』

懺悔でもする様に。
『神の右席』を率いる、世界二○億の頂点たる彼に答えを求めた。
"まだ"熱意に溢れていた彼は、答えを出してくれた。

『神は人に期待はしない。自分の子供が期待と違っていても、失望はしない。
 全知全能の我らが父が、争い一つ解決出来ないと思うのか? たかが俺様にも出来ることを』

救いの右手を差し出し、優しく微笑んだ。

『――――それでもまだ不安なら、俺様が世界を救ってやる』

全人類全てを幸福にしたくて、自分は魔術師になったのだと彼は言った。
異教徒は家畜にも劣る生物にしか見えない自分には、到底見習えない懐の広さだった。
老若男女、人種も国家も所属も問わず、全人類を救うと彼は口にした。
一見して荒唐無稽な夢に見えてもおかしくない。それでも、自分は彼の強さを信じた。


「彼には、恋人が居ました。結婚の一歩手前にまで至った、最愛の女性でした」

彼は信じている。
あの青年は、心が酷く傷つき、今尚立ち上がれないだけで。
本質は今でも変わらない、全人類を平等に見た、救いと慈愛の精神に満ちていることを。
絶対記憶能力者であるインデックスには、何度も言わずともきちんと伝わる。

インデックスは黙って、テッラの話を聞いた。


今回はここまで。


ヴェントさんマジ不憫。
右方前方スレは過去に書きましたので辛い方はそちらをどうぞ。













投下。


幼い頃より。
右方のフィアンマと呼ばれるずっとずっと前から。
とある少年は、他者より承認欲求が酷く強かった。
親から褒められても、親戚から愛されても、その欲はとどまることを知らなかった。
その少年は根本的なところで、自分を愛することが出来なかったからだ。

何故か。

その身に宿る才能が、あまりにも凶暴過ぎたからだった。

街を歩けば事故に遭い、クッションとなって人が死ぬ。
自分にぶつかった子供は、ぶつけた箇所を何らかの原因で喪う。

何をしても、しなくても。
彼の幸運の代償として、多くの人々の命や体が犠牲となった。
無論、その幸運は他人ばかりでなく、彼自身の周囲にも及ぶ。

彼を不気味がり始めた母親が死んだ。
母親が死んで意気消沈した父親は事故死した。
彼を死神だと揶揄した手のひら返しの親戚は、とある日に不審死した。

彼の体には、『世界を救える程の力』が秘められていた。
不完全に『神の子』に似た特徴を持つ『聖人』とは比べ物にならぬ程、彼は『神の子』の特徴を持っていた。
スティグマと呼ばれるものがなかったのは、厳密には『聖人』ではないからであり。
故に、彼は自分の周囲で起きる不幸に説明をつけたかった。


少年はやがて年数を経て、教会世界へ足を踏み入れた。
聖職者は皆同胞に優しく、彼が思うままに少年をよく評価した。
承認欲求が満たされ、目立った不幸もなく、彼は穏やかな日々を堪能する。

十代半ばの時、所属していた修道院が不運な事故に巻き込まれるまでは。

散らばる死体と肉塊の中、彼は無傷だった。
幸運だったから。その一言に尽きる。
頭を撫でてくれた司祭も、どうでもいいことすら褒めてくれた司教も、皆死んだ。
そんな現状が怖くて、恐ろしくて、臆病な少年は聖書を読みふけった。
端から端までを読み込み、自分の才能をどうにか別の方法で出力出来ないか模索した。

そうして辿りついたのが、教会世界の頂点の裏側―――すなわち、『神の右席』。

暗部の世界では、人が死ぬのが常。
故に、並大抵のことでは人は死ぬことがなかった。
その状況に、フィアンマは酷く安堵していた。誰も傷つけないで済む。

もう誰も、誰一人、殺してしまわないで済む。


承認欲求が完全に満たされ、特別求めることはなくなり。
修道院で最初に自分で決めた目的通り、世界を救うことを考えた。
全人類の幸福と、戦争の無い幸せ過ぎる程の安穏の世界。
自分が免罪符になっても、恨まれても、良いと思った。
これまでたくさんの人を殺してきてしまったのだから、憎まれても構わない。

でも。

それを、世界最後の悪意にしたい。
多くの悪意を向けられ、やがては悪意に対する解釈すら歪んだ彼はそう思った。
全ての人々が、お互いを、自分を愛する様に愛せるようになればいい。

夢に向かい、努力をしていた日々の、その最中。

イレギュラーが入ってきた。
『神の火(ウリエル)』を司る右席、即ち新代の前方のヴェントが入ってきた。
彼女は不幸な事故により弟を亡くし、それと同時に己の幸せを見失った。
事故の原因であるジェットコースターを作った科学サイドへ復讐するために生きている、と彼女は言った。
彼女が『神の右席』に招かれるにあたって身につけたのは、『天罰術式』。
自分自身を、科学を、世界を憎んだ彼女は、世界中から悪意を向けられて戦う道を選んだ。
フィアンマは、そんな彼女を哀れに思った。上から目線でなく、安易な同情でもなく。

同じ様に運命の残酷さに翻弄された人間として。

『今、この場で事情を聞いただけのアンタには理解出来ない』
『出来るとも』

弟を殺したのだ、と彼女は吐き捨てた。
多くの人を殺した自分は穢れた存在だ、とも言った。

その全てを否定して、フィアンマは彼女の罵倒を甘んじて受けた。
彼女が悪意と憎悪と卑屈さを吐き出して、終いには泣いてしまうまで、きちんと聞いた。


どんな人にだって、自分という例外を除いて救いは必要だ、とフィアンマは思う。
弟を喪い、自分の幸福を追究出来なくなってしまった彼女にだって、絶対に。

『……本気で世界中救えると思ってんの?』

秋のとある日。
刺々しく問われ、フィアンマは動じずに頷いた。

『お前の弟の様な犠牲者の二度と出ない世界にするよ』

たとえ、それが神様に対する冒涜だとしても。

『……バカじゃないの』
『何がだ』
『他人の為に自分の身を切ったって何にも、』
『少なくとも、俺様の手が届く範囲の人々は笑ってくれそうだが』
『その方法じゃ、成功したとしてもアンタは世界中から憎まれる』
『そうかもしれんな』

認めた上で、彼はそれでも恐れない。
自分が傷ついて済むのなら、いくらでも耐えられる。

『それが、世界で最後の悪意になるならば、それで良い』

悪意が自分だけに向けられたなら、ヴェントに向けられることもなくなる。
そもそも、魔術師が力を振るう必要性もなくなるのだから。

『……アンタが救われない。ついでに言えば報われない。酷い目に遭う』
『何だ、心配してくれるのか?』
『……別にそういうワケじゃないケド?』


誰かが笑ってくれるなら、皆が幸福だと保証された世界なら、死んでもいい。
世界中から恐れられても、それで構わない。憎めばいい。

自暴自棄ではない自己犠牲。
彼だって、復讐に生きた方が、流された方が楽だろう。
壊す方が、救うよりも余程たやすいはずなのに。

力があるのなら、救わない方が不自然だ。
自分にその手段があるのに、何もしないのはおかしい。
そんなヤツは人間ではない。ただの動力の切れたオモチャだ。

そんなことを言って、自分の不幸を顧みない。
そんな彼のことを、ヴェントは徐々に好ましく思っていった。
自分が決して目指すことはない険しすぎる道を進む彼のことが、世界中の誰よりも。

告白をしたのは、意外にもフィアンマの方からだった。
自分が計画を履行するまで、一緒に居てほしい、という控えめな内容だった。
常の傲岸不遜はどこへいったのだろうと笑い混じりに、ヴェントは承諾した。
彼女だって、いつかは彼に告白するのかもしれない、と思っていたから。


二年程が経過した。
毎日があっという間に過ぎていき、何気ない出来事に救われた気がした。
お互いにとって、お互いは初めて出来た、生きている、大切な存在だった。
笑い合うだけで、話しているだけで、喪失感が埋まっていく気がした。
だから、自然と男女の関係を結んだのも、おかしなことではなかった。


『子供が出来たって言ったら、どうする?』
『…どうするも何も、結婚するのが普通じゃないか?』
『そ。じゃあ言うケド、』

幼い頃から、特別守るものを持たなかったフィアンマにとって。
本物の家族からは拒絶され、死なれてしまった彼にとって。
自分が愛した女性と、そのお腹の子は、何にも代え難い存在だった。

とはいっても。

彼女はやはり魔術師であり。
彼に夢を託しながらも、戦うという仕事はやめなかった。

『それで、本当に行くワケ?』
『わざわざ出向かねばならん用もあるからな』

フィアンマは話術に長けていたが故に、諸外国へ出向くことが多かった。
必ず戻る、なるべく早めに、と告げて、彼は彼女に背を向ける。

『……フィアンマ』
『ん?』

背中に抱きつかれ、振り向けない。
彼女は、彼に抱きついたままに言葉を紡いだ。

『……戻ってきたら、プロポーズの答え、返すから』


出かける前の晩に、プロポーズをした。
指輪を渡したところで、返事を待って欲しいと言われた。
何年でも待つつもりだったフィアンマだったが。

『そうか』

ここで断らないこと自体が、承諾の意味合いを持っていた。
だから彼は、何を思うでもなく、特別な別れの挨拶もせずに出かけた。
別に、戻ってくればいくらでも話など出来ると、そう思ったから。



戻ってこられたのは、実に三ヶ月もの期間を経てからだった。
気がつけば色々とやることが重なっており、なかなか戻れなかったのだ。
大聖堂に入って最初に出迎えたのは、後方のアックアだった。
ヴェントはどうしたのかと問いかけるフィアンマに返されたのは、単純な結果。

フィアンマの死亡を聞かされた彼女が自暴自棄な戦闘の末に死んだということだった。


情報とは、直接伝えない限り歪曲しやすい。
そこに悪意が加わらずとも、歪んでしまうことは多々ある。
何がどうしてそうなってしまったのかはわからない。
ただ、原因や理由が判明したところで、ヴェントが死んだという事実は変わらない。

遺された手紙は、たった二枚のメモだった。

一通目は、戦闘に出ること。体調が芳しくないこと。
二通目は、子供が流れたこと。加えて、誤報が届いたから、後追いをする旨。

子供も、恋人も。
その両方を喪ったと思った彼女の絶望は、如何程に深いものだっただろうか。
弟を喪った時点で、あれ程までに苛烈な悪意を抱き、復讐をしようと心に決めたのだ。

人間は、持たない者よりも喪った者の方が深く傷ついている。

恐らく、決定打は自分の死という情報だった。
雑務を部下に任せず、彼女にだけは直接連絡をしていれば、また違ったのかもしれない。
信頼が仇になった形だった。彼女は、自分が思っていた以上にか弱い女だった。

自分が殺したことと、同じだった。

自分が彼女に手を差し伸べなければ。
そもそも恋仲になることもなく、子を宿すこともなく、こうして絶望を味わうこともなかった。

『……墓はあるのか』
『既に葬儀は済ませてある。墓の場所なら…、……地図に記した。これを見て行くが良い』

世界は、あまりにも残酷過ぎた。
たった一つ守りたいものさえ、奪い去って嘲笑う。
彼女が死ぬことはなかった。誤報通り、自分が死ねば良かったのだ。


『――――、』

彼女の本名を呼びながら。
フィアンマは暫し、墓の前で立ち尽くした。
彼は呆然と墓石に刻まれた彼女の名を見つめ。

それから。

膝をつき、墓の土を手で掘った。
爪の中が土まみれになっても、顔が泥水で汚れても。
一心不乱に土を堀り、彼女の死体を掘り出そうとする彼を止めたのは、テッラだった。
心配が募り、見に来たところにこの奇行だった。

『ッ、やめてください!! 死者を穢しては、』
『離せ、』

この土の下にいるんだ、と青年は駄々をこねる様に叫んだ。
不完全な自分では不可能だとわかっているくせに、蘇らせてみせると言った。
それは、世界を救うというのとは違う、まったくの妄言、大言、根拠なき希望。
彼の不完全な救世主としての才能では、本当の死者を蘇生することは出来ない。

彼女は死んでなど居ない。
自分が蘇らせる。
子供だって、生き返らせてみせる。
そうしたら、結婚すると約束したんだ。
彼女だって、承諾してくれるはずだった。

こんなのはおかしい、現実じゃない、世界が狂っている。

彼はそれだけ言って、手を止めた。
座り込んだまま、未だ棺桶すら見えぬ僅かに掘られた穴を見つめた。

その日から、フィアンマは世界を救うことをやめ、誰にも手を差し伸べなくなった。


「………これが、事情の全貌です」
「…………」

インデックスに、恋人は居ない。正確には、友人も。
勿論、妊娠したこともないので、子供というものもよくわからない。
だから、彼の痛みなどわからない。『彼女』の苦しみも、絶望も。

完全には理解出来なくても。
想像して、考えて、泣くことは出来る。

彼女は適当な石の上に座り、大きな瞳を潤ませて俯いた。
あまりにも救いがなくて、辛い話だった。
当事者でない自分がここまで悲しいのだから、当人はもっと苦しかっただろう。
そもそも、墓の土を掘るという常軌を逸した行為をした程に、彼は追い詰められたのだから。

「我々は、…といってもアックアと私は、ですがねー。
 彼にどうにか正気を取り戻してもらおうと、多くの努力をしました。
 どうにか正気は取り戻しこそすれ、過去の彼は戻ってはきません」

そして、自分達にはフィアンマの心は絶対に癒せない。

「……彼を救ってあげてください」

死者は戻らない。
たとえ愛していたにせよ、死者に縛られたまま、ずっと無気力に生きる様はあまりにも哀れ。
彼がかつて語った様に、動力の切れたオモチャ以外のなにものでもない。

「うん」

インデックスは流れる涙を袖で拭い、こくりと頷いた。

「自信は無いけど、頑張ってみるんだよ」

そういう事情なら、邪険に扱われるのも納得出来る。
納得したのなら、もう傷つく必要もない。

「まずは、フィアンマと普通に話せるようになるまで頑張らないとね」

友達になりたいな、とインデックスは呟いた。
慈愛に満ちたこの少女は、彼の笑顔が見たいと、そう願った。決意した。


首を吊ればロープが切れる。
海に沈めば助け出される。
全弾を装填した拳銃を頭にあてがえば、暴発して怪我をするだけ。

自分の幸運は、忌々しくもこれまで何度となく自ら死ぬことを中断させてきた。

「……」

ぱ、と手を離した。
林檎は激しいスピードで落下していき、やがてコンクリートに激突する。
音は遠くて聞こえないが、完全に潰れていることだけは理解出来た。

「………ふ」

昔のことを思い出していた。
今でもまだ、墓の土を掘った感触が、手指に残っている。
幸運なことに、ビルの下に人は居ない。
誰かを巻き込んで死ぬことはなさそうだな、とフィアンマは思った。

「……ん、」

転落防止用の柵を乗り越え、端に立つ。
あの林檎と同じ様になる時が来た。
自殺は大罪だが、死ねばひとまず思考を放棄することは出来る。
これ以上、こんな世界に生きていて一体何になるだろう。

「さて、」

転落防止柵から、片手を離す。
右手で掴んだまま、ゆっくりと、指を離していく。
こんな夜更けに、誰かが来ることなどないだろう。

「………すまなかった」

強欲にも、救いたいと手を伸ばした。
それが彼女の死を招いたのだから、謝罪しよう。

右手の指が、徐々に外れていく。

小指。
薬指。
中指。


そして。


今回はここまで。
途中名前とか抜けちゃったけど>>1です。
(ほのぼのとは何だったのか…ネタが足りない)

一通目は、戦闘に出ること。体調が芳しくないこと。
二通目は、子供が流れたこと。加えて、誤報が届いたから、後追いをする旨。

誤報っちゃ誤報だけど訃報ちゃうん


>>125
アッ  そっちで合ってます、すみませ…
フィアンマさんの脳内→誤報 実際の文章→訃報 ですね


ヒロインデックスちゃん書いてたら彼女が聖女過ぎた。
新刊読みました。泣きました。主にフィアンマさん的な意味で













投下。


右方のフィアンマが持つ幸運は、いつだって望まないものを呼んでくる。
たとえばそれは事故であったり、病であったり、色々と。
今回に関しては、それは華奢な白い少女の見目をしてやってきた。

「フィアンマ!!」

少女の声が響いた。
と、同時、離れかけていた右手、その手首が両手で掴まれる。
小さく柔らかい、女の子らしい手が、彼の体重を懸命に支える。
安全圏へ引き戻そうと引っ張るが、インデックス本人にさしたる腕力はない。

「………離せ。お前まで死にたいのか?」
「自殺願望なんて無いんだよ。でも、フィアンマが死ぬのは絶対に嫌」

言い切って、彼女は彼の目を見つめる。
フィアンマはただ無感動に、インデックスを見つめ返した。

「俺様が死ねば、もう嫌味や皮肉の憂き目には遭わんだろうに」
「皮肉だって嫌味だって、別に良いんだよ。そんなの、フィアンマが死んで良い理由になんてならな」
「ならば」

青年は、首を傾げる。
曖昧な笑みには、生気のなさが窺えた。

「一体どんな内容なら、死んで良い理由になるんだ?」


死んでも良い理由など一つもない。
天寿を全うして死ぬか、病に殺される以外の死に方など、あってはならない。

こんな綺麗事や真理など、彼はいくらでも知っているだろう。
どんなに心を尽くして叫んでも、だからどうしたと笑うかもしれない。
喪った悲しみを分かち合うことが出来ないのなら、生きることに執着させねばなるまい。

たとえば、怒らせるだとか。

「…死んで良い理由なんて、存在しないんだよ。生きるべき理由はあっても。
 フィアンマには、まだ生きなきゃならない理由があるはずなんだよ」
「………」
「たとえば、彼女の―――ヴェントのお墓には、フィアンマ以外に誰がッ、」

行くの、と言葉は最後まで紡げなかった。
インデックスの細い指が、握り締められたからだ。
折れてしまいそうなほど、もしかすると折れてしまったかもしれない、激痛。
如何に細身といえど、フィアンマは男性だ。インデックスは少女。
肉体的な力の差は歴然としていたし、まして気が立った人間の力は強い。

「………誰から聞いた」
「い、っ、」
「……答えろ」

ゾッとする様な無表情だった。
彼という存在を中心として、尋常ならざる威圧感が放たれている。
重苦しいそれに息を止めそうになりながら、インデックスは首を横に振った。


「言わない」
「……」
「絶対に」
「………」

ぐ、と指が更に痛んだ。
離さなければ指を折る、という無言のアピールだ。
マフィアなどが用いる常套手段の脅迫。
彼女が手を離せばそのまま彼は落ちて死ぬので、どちらに転んでも得があるのだろう。
故に、だからこそ、インデックスは話した相手について話しもしなければ、手を離すこともなかった。

「言ったら、フィアンマはその人に酷いことをするんだよね?」
「……」
「っっ、…今より、もっといたいことを、するんだよ、ね?」
「……、」
「だったら、言えない、よ」
「……指の一本でも折れば離すか?」

元より、魔術師とは自分勝手な生き物だ。
自分の目的の為に手段を問わないが故に魔術を学んだのだから。
生粋の魔術師であるフィアンマの押し付けてくる暴力は痛々しかった。

或いは。

これで手を離しても、インデックスが責められない様にしているのかもしれない。

『彼は自らの本質を免罪符だと言い張って聞きません。今も昔も』

一度関わった以上、自殺を止めないというのは非人間的行為と言われる。
結果として自殺者が死ぬと、止められなかった人間が責められ易いのが、悪意に満ちた世の中だ。

「墓など、所詮は生きる者が拠り所にする道しるべに過ぎん。言うなれば諦めの為の、死の証明だ。
 俺様が行かずとも、他の誰かが行けば良い。仮に行かずとも、誰も困らない」

そして、とフィアンマは言葉を続ける。

「―――俺様が居なくても、この世界は悪意に満ちたまま続いていく」

彼女を殺した世界のまま、ずっと。
こんな世界は、救う価値すら感じられない。
ならば、自分が生きている必要などないのだ。
何も救わぬ救世主なら、生者には必要ない。


「俺様が居ても居なくても、特に誰かが困ることはない」
「そんなこと、」
「仮に居ても、時間が経てば忘れる。想わなくなる。悲しまなくなる。
 人間などそんなものだ。人生でたった一人愛した者の死でなければ、やがては乗り越える」

そんな非情な生き物だ、と彼は吐き捨てた。
それは、彼が見てきた悪意の一つなのかもしれない。

でも、忘れるのは、悲しみが薄れるのは、悪いことじゃない。

その特異な能力故に"忘れる"ことが出来ないからこそ、インデックスは強く思う。
人は忘れることで悲しみを乗り越え、受け入れることが出来るのだと。

「悲しいことを悲しいまま抱えるのは、辛いことだよ。だから人は忘れるの」
「俺様は忘れることが出来ない。……だからもう疲れたんだ」
「それは、……まだ、時間が足りないだけ。それに、フィアンマが死んだら困る人はいるんだよ」
「何十年か経てば替えが見つかるさ」

どうにかして自分を引きとめようとする、白い少女。
どれだけ暴力をふるっても、このか細い腕は自分を掴もうと足掻くのだろう。
ならば、もう会話をするまでもない。話すだけ時間の無駄だ。

フィアンマは足元を蹴り、インデックスの手を無理矢理に振り払った。


浮遊感は、眠る前の一瞬の感覚に似ていた。
思ったよりも恐怖がないのは、自分が望んだことだからだろうか。
今宵は綺麗な満月だと思う。少し違うが、彼女の髪色を思い出す。

この世界はどこまでも救いがなく、作為と悪意に満たされていて。

それでも、彼女と出会えたことや、愛し合ったことは誇るべきなのかもしれない。
死ぬとわかっているからこそだろう、自分を責める気持ちは存外に浮かび上がってこなかった。
終わりを目の前に、過去を振り返っても仕方がないからかもしれない。

「――――な、に?」

誰かを救おうと足掻き、最後には自らの破滅を望んだ青年。
救世主の才能を持っていようが何だろうが、彼もまた、救われるべき存在だった。
そして、迷える羊飼いを救えるのは、同じく神を信ずる羊飼いだけ。

話し合いで彼を止められなかったインデックスの行動は単純だった。

彼女は彼と同じ様にビルから飛び降り、彼に追いついた。
呆気にとられるフィアンマに向かって、インデックスは舌を噛まない様慎重に告げた。

「私は、フィアンマを死なせたくない。もっと沢山、話したいことがあるんだもん」

それにね。
あなたは、私が初めて出会った、たった一人の『管理者(なかよくなりたいひと)』なんだよ。

彼女の言葉が、彼の耳に届くと同時。







二人の体は――――特に下敷き側へ回ったインデックスの身体は、激しくコンクリートに叩きつけられた。


今回はここまで。
次はスレタイ回収します。


人は飛び降り自殺中に死んでいるという説がある。
それは本能的な恐怖故に意識を喪失すること、或いは魂が抜けるとも。
覚悟を決めていようと、インデックスは至って通常の感性に近い少女だった。
魔術の知識はありこそすれ、魔力を練れぬ体である彼女には術式を使えない。
故に彼女は教皇級の防御力を誇る霊装『歩く教会』を着用している。
本来は、どんな高さから落下しようが死ぬ訳はない。
のだが、やはり死に対しての恐怖は少なからずあったので。

気がつけば、インデックスは意識を失っていた。
次に目が覚めて彼女が目にしたのは、真っ白な天井だった。
ローマ正教の息が強くかかった病院だった。

「………?」

首を傾げ。
それから、インデックスははっとして起き上がった。
あの後はどうなったのだ。
自分が下敷きになったのなら、フィアンマは助かったはずだが。
もしまかり間違って彼が下になっていたら助からなかっただろう。
何にせよ、彼の安否が気に掛かり、インデックスはおろおろとしながら立ち上がろうとする。

「何処へ行く」
「フィアンマを捜しに行かないと、というよりもどうなったのかわからないも、ん…??」

声に覚えがある。
インデックスがそちらを見やると、そこには彼が座っていた。
絶対記憶能力を持つ彼女が、見間違える訳もない。

他の誰でもなく、彼こそが右方のフィアンマだ。


「……そんなところで何してるの?」
「お前の見舞いだが」
「お見舞い?」
「落下の衝撃で気絶していたからな。露出していた頭部から出血していた」
「……ええと?」
「出血に留まったのは俺様の事後治療と防護もあるが」

インデックスは、ひとまず状況を整理する。
そして見た感じ、フィアンマは怪我をしていなさそうだ。
良かった、無事だった。生きている。普通に。

安堵すると同時。

インデックスは、すぅ、と息を吸い込み。

「フィアンマ、目を閉じてほしいんだよ」
「必要性がないな」
「いいから、早く」
「……」

面倒臭そうに、フィアンマは目を閉じる。
インデックスは息を吐き出すと共に、彼の頬を平手で打った。


バチィン、と小気味良い音がした。
フィアンマは痛がるでもなく、ゆっくりと目を開ける。
インデックスは彼を打った手がじんじんと痛むのを感じながら、涙を目に浮かべていた。

「フィアンマのばか! 本当に死んじゃったかと思って心配したんだよ!」
「俺様の死を回避するためにお前も飛び降りたんだろう?」
「うまくいかない恐れだって高かったかも」

ぐしぐしと、手の甲で目元を拭う。
彼女の頭に巻かれている包帯を眺め、フィアンマは視線を床へ落とした。

「……別に止めろとは言っていなかったはずだが」
「ちゃんと理由を言ったよね、私は。聞いてたと思うんだけど」
「俺様と仲良くなったところで、メリットは特に無い」

痺れる頬の感触は、懐かしかった。
昔、どうでも良い喧嘩でヴェントに打たれたことを思い出す。
あの時はどうにか許してもらおうとひたすら謝ったような。

「………別に、利害を考えて仲良くなりたい訳じゃないんだよ」
「あそこまで不快な思いをさせられて仲良くなりたい、か。お前は狂っているよ」

理解出来ない、とフィアンマは素直に言った。
インデックスは押し黙り、ひとまずベッドに戻る。


「……フィアンマが死んだら、私は嫌だよ。絶対に忘れられない」
「…………」

絶対記憶能力。
雨の一滴一滴すら忘れぬ、その特殊な才能。
故に、インデックスは出会った人は忘れない。

「嫌味を言われても、罵倒されても、…フィアンマはそれだけじゃなかったよ。
 自分自身では気づかないんだろうけど」
「……何の話だ」
「適当に財布を持たせれば良いのに、そうはしなかった。
 私の希望したパンを買ってくれた。意地悪をしなかったかも」

単に信用されていないというおそれは考えられないのか。

頭が足りない訳でもないだろうに、とフィアンマは思い。
何も言わずに、口を噤んだ。

彼女と二人の時間が好ましい訳では――――

「……。…うん、この話はおしまい。何度でも止めるから、もう自殺しちゃダメだよ。
 おなかへったかも。ぎぶみーらんち!!」

騒ぎ立てるインデックスは、怪我人には見えない。
フィアンマは静かに目を閉じて。

「……って! 面倒な時のふて寝もいい加減にするんだよ!」
「んー」


インデックス「病院食はあんまりおいしくないね」もぐもぐ

フィアンマ「味付け、もとい塩分や糖分まで数値通りに計算された食事だからだろう」

インデックス「……フィアンマは何食べてるの?」

フィアンマ「ゼリーだが」

インデックス「何味?」

フィアンマ「ミント味」

インデックス「おいしい?」

フィアンマ「さほど美味ではないな」

インデックス「いらなくなったりしない?」

フィアンマ「しない」

インデックス「………ほ、ほら、こっちのオレンジあげるから交換、」

フィアンマ「すると思うのか?」

インデックス「じゃあ仕方ないからこっちのブロッコリーもあげるかも!」

フィアンマ「お前が好かんだけだろう」

インデックス「うぐう……」


インデックス「……」

フィアンマ「…何だ」

インデックス「……フィアンマは男性なんだからもっと食べた方が良いかも。このパンとか」

フィアンマ「必要ないな」

インデックス「遠まわしに餓死しようとしてるなら許さないからね!」

フィアンマ「そういう訳ではない」

インデックス「……今は何食べてるの? それ」

フィアンマ「葡萄ゼリーだが」

インデックス「……うう」

フィアンマ「………」


彼女は多く食べる方だ。
魔道書図書館を維持するため、と彼女本人は言い張っている。
実際、頭を使えば腹は減るし、当然カロリーも消費する。

「どこ行くの?」
「……買い足しに行くだけだ」

見舞い客用の椅子から立ち上がり、フィアンマは病室を出る。
売店に行き、購入してきたのは林檎味のゼリー飲料だった。
先程フィアンマが食べていたミント味及び葡萄味と同じメーカーのものだ。
甘味は少なくすっきりとした味わいで、低カロリーなのが人気らしい。

「ゼリー三つも食べるならサンドイッチ買った方が経済的だと思うんだよ」

言いながら、インデックスは最後の一口、ブロッコリーを食べ終わる。
まだまだ物足りない、といった様子だが、仕方がない。
彼女の体調や身体状態を考えた適正な食事なのだから。

「……これはお前が食べて良い」
「え?」

きょとんとしながら、インデックスはゼリー飲料を受け取る。
まだひんやりとしているそれに、彼女は彼がわざわざそれを買ってきてくれたことを知った。

「……ありがとう、フィアンマ」

礼を言い、インデックスはいそいそと開封し、すぐさま口にする。
彼は何か言葉を返すでもなく、再びパイプ椅子に腰掛ける。
二人の関係は、ほんの少しだけ、良い方向へと向かっていた。


今回はここまで。
(オレフィアスレを立てたい)


(上条さんってスレ立てして次の日にパソコン壊れそう)
(立てたいのは山々なんですが需要少ないかもしれないと思うと怖くて後公式での二人がもう既にアレでアレです)

書きたいところ書き尽くしたのでこのスレさらっと終わるかもしれないです。












投下。


やがて、仕事が出来たらしい。
連絡を受け、"片付けてくる"と言い残して、フィアンマは部屋を出て行った。
インデックスは一人ベッドに腰掛けたまま、窓を見つめる。
極力ドアの方を見ないのは、点滴の袋を見て、針が刺さっている腕が痛く感じてくるからだ。
あまりにも空腹だと訴えたところ、体力回復を兼ねて刺されたのである。
病院なんてだいきらい、とぽつり呟き、彼女は横たわる。

「……えへへ」

彼が生きていて良かった。
加えて、ゼリーを買ってきてくれたので、少し仲良くなれたかもしれない。
命を賭けただけの価値はあったようだ、と自らを振り返り、インデックスははにかむ。

「おやすみなさい」

誰に言うでもなく眠る宣言をして、目を閉じる。
静かに緩やかに、彼女の疲れた身体は眠りに堕ちていった。


体調が悪い。悪阻とは別種の吐き気がする。
こんな姿を見たら、彼は何というだろうか。
少なくとも、血相を変えて心配するだろう。

『……ク、ソ』

悪態をつき、頼りない震えを見せる手でペンを持つ。
メモに内容を綴る。近頃は何でもこうして書くようになった。

『は、ぁ』

体調が酷く悪い。
これから出向する。
もしかすると、帰ってこられないかもしれない。

毎日のメモの積み重ねがそっくりそのまま遺書になるのは嫌だ。
かといってまともな遺書を遺す様なことは考えたくもない。

『……行くか』

修道服を改めて着直す。
霊装の調子を整え、外へ出た。

どうしようもない不安がのしかかっているが、頼る相手は居ない。


戦闘に問題はなかった。
はずなのに、帰ってきてみれば、不調は増すばかり。
異常に痛む下腹部を摩り、嫌々ながらも医者にかかった。
本当は科学になど頼りたくはないが、彼と接して少しは考えも和らいだ。

『残念ながら……』

けれど、やはり病院は嫌な場所だ。
いつだって嫌なことしか知らせてこない。
妊娠が確定した時の報せだけは良かったものの。
今回の診断結果で、それは吹き飛んだ。

産まれてくるはずだった命は、肉塊としてこの世界にたたき出された。

酷く身体がだるくて、何も考えられない。
ただただ願うのは、フィアンマが早く戻って来ることだけだ。

『……ん…』

届けられたのは、一通の書類だった。
そこに綴られていた内容は、あまりにもあっさりとしていて。


『何、ソレ』

視界がぼやけていく。
忌々しい書類を握り締め、遠くへ放る。

『そんなワケ、ない』

内容は。
結婚して欲しいと言ってくれた。
今は亡きお腹の子の父親であった、恋人である青年の死を告げるものだった。

『………何がカミサマだ。何が救いだ。
 救おうとしたヤツに対してこんな仕打ちを出来る世界に何の価値がある!』

ふざけやがって、と絶叫する。
誰も居ないのか、或いは彼女を恐れているのか、誰も来ない。
実際、ここに誰かが来たら八つ当たりで肉塊に変えていたかもしれない。

『それでも―――少なくとも、俺様の周囲の人間は笑ってくれそうだが』

皆が幸せなら、どんな死に方をしてもいい。
憎みも恨みも全て引き受けて、それを人類最後の悪意にしたい。

そう言って、彼は笑っていた。
きっと最期の瞬間まで、そう思っていたのではないだろうか。


彼が居ない世界で、生きている必要性は感じられない。

メモを遺し、ヴェントは一人、殲滅すべき魔術結社の隠れ家に居た。
特殊な研究をしているらしい彼らは、悪意というものを感じないらしい。
即ち彼女の扱う『天罰術式』に勝てる人材なのだが、むしろ、だからこそ。

『……自殺よりかは、まあ会える確率高いでしょうし』

前に進んだとして、もう二度と立ち上がれる気はしない。
今後、彼以上に自分を愛したり、救ってくれる人間など居ないだろう。
彼を殺した世界に、ほとほと愛想がつきた。弟を奪うだけでは物足りなかったというのか。

『こんなクソッタレの世界でも、アイツが救いたいって言うだけの価値はあると思ってた。
 それ位の救いようはあるって。世界のどこかには、幸福も落ちているんだって、少しだけ。
 ……もういい。アイツはもう居ない。私に笑いかけない。子供だって、産まれてこられなかった』

ボロボロに傷つけられ、それでも彼女は大槌を振るった。
暴力的な音がして、ぐちゃりと肉塊が無残に転がる。
ヴェント自身の体からも、大量の血液が滴っていた。
痛みが麻痺するほどの憎悪と痛みが、彼女の体を突き動かす。

『私から何もかも奪ったクソッタレの最低最悪な世界なんて、滅びればいい!!!』

泣き叫ぶ程にか弱くはない。ありったけの憎悪を殺意に変換しきれず吐き出して、彼女は魔力を練った。
ふらふらと軸を持たない体は生命力を練り続け、戦い続け、そして。


インデックス「…なんだか夢見が悪いかも…」ぐしぐし

インデックス「喉が渇いたんだよ…あ」ちゃりーん」

インデックス「フィアンマが置いていってくれたのかな?」きょと




フィアンマ「……」

テッラ「おや、戻られましたか」

フィアンマ「…ヤツに吹き込んだのはお前か」

テッラ「何の話でしょうかねー?」

フィアンマ「…余計なことを」

テッラ「……あなたの心が和らぐ様にとしか、私は考えていませんよ」

フィアンマ「……ふん」


今回はここまで。


とりあえずヤンデレンマ・新世界・寝取り っていうことは決まりました。深夜にでも立てるかもしれないです。
オティヌスちゃんの衣装…よかった…。
という訳でお付き合いありがとうございました。たまにはこういうさくっとした作品も良いものです。






















投下。


インデックス「無事退院出来て安心したんだよ」

フィアンマ「元気そうだな」

インデックス「だって好きなもの食べられるもん」もぐもぐ

フィアンマ「……」

インデックス「フィアンマも食べる?」

フィアンマ「…ん」もぐ

インデックス「!!!」

インデックス(私の手から食べた!!!!)


フィアンマ「…何だ。初めてペットが懐いたらしき行動をとった瞬間を目撃したような顔をして」

インデックス「実際その通りだからだよ」

フィアンマ「俺様を愛玩動物扱いとは良い度胸だ」

インデックス「そういう意味じゃなくて」

フィアンマ「……」ぐでー

インデックス(ふて寝はしなくなったかも?)

インデックス「今日はお散歩に行きたいな」

フィアンマ「そうか」

インデックス「一緒に行こ?」

フィアンマ「…数時間程度なら構わんが」

インデックス「やったー!」にこにこ


フィアンマ「……」

インデックス「良い天気だね」

フィアンマ「ああ。…寒くないのか」

インデックス「うん、大丈夫かも。へくしゅっ」

フィアンマ「………」

インデックス「あ、いや違うんだよ、今のはたまたまというか」あせあせ

フィアンマ「……」まきまき

インデックス「んぐぐ首が…? フィアンマが寒くなっちゃうよ?」

フィアンマ「この程度で風邪は引かん」

インデックス「……」もこもこ


インデックス「何か温かいものが食べたいかも」

フィアンマ「雪に砂糖をかけて食べることなら許可するが」

インデックス「全然あったかくないよね? 私の話聞いてなかったよね?」

フィアンマ「舌が麻痺すれば大した問題でもないだろう」

インデックス「体温下がって大変なことになるんだよ!」

フィアンマ「俺様と一緒に飛び降りた時点で死んだと思えば今更どうということもあるまい」

インデックス「あるんだよ、絶対」

フィアンマ「コーヒーで良いなら買ってやる」

インデックス「缶コーヒー?」

フィアンマ「不服か」

インデックス「苦いから苦手かも」

フィアンマ「つまり氷だな」

インデックス「それはだめ!!」


インデックスとフィアンマはやがて、一つの墓園へと足を運んだ。
途中花屋にも寄り、すっかり顔見知りになった店員から花束を買って。
絶対記憶能力のあるインデックスは、道の途中で到達点へ気がついた。
気がついたが、何も言わずについていき、隣りを歩き、今に至る。

「……ここが、」
「……彼女のお墓、だよね?」
「………」

花束を静かに供え。
フィアンマは無言のままに頷くと、墓石を見つめた。
その表情は、心なしか穏やかに思える。
少なくとも、泣き出してしまいそうな、辛そうな表情には見えなかった。

「……また自殺に走ると、お前が煩いだろうしな。
 ……加えて、気がついたこともある」

自分が死んで絶望したが故に、彼女は死を選ばざるを得なかった。
なら、自殺をするというのは死した彼女を尚傷つける行為だ。
死者の想いを汲める様な人間だとは自己評価していないが、想像程度は出来る。

「……もう一度未来を見てみようと思う」

それは、自己宣誓なのか、インデックスへの言葉なのか、ヴェントへの決意表明なのか。
そのどれにしても、彼がもう一度だけ世界救済に目を向けた事実を指し示していた。

「…帰るか」
「うん」

インデックスは、フィアンマに笑みを浮かべてみせる。
フィアンマは彼女を見下ろし、それから、僅かに微笑んで見せた。

彼の救いが、後に多くの悲劇を引き寄せるとしても。





今はただ、幸福な時を過ごすことを、彼らは、選んだ。


終わり(原作の世界救済を参照、エンドはご想像にお任せします)。
>>1の次回作にご期待ください。

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