みなみけ〜みなごろし〜 (163)



        どこかズレた愛おしさが世界を満たすはずだった。



              この日常が続くはずだと信じた昨日、全てが一辺した明日。


                       変わりゆく夕刻の街並み、戻らない友人の亡骸。




 手にするはずが無かっただろう暴力が、

                愛する者達を肉塊に変えていく。







         『殺戮児童武侠偏/みなみけ〜みなごろし〜』





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マコト、内野、吉野がメイン?のバトルものです。

タイトルは皆殺しってなってますけど、流石にそんなことしません。

ゆっくり投下します。



— — — — — — — —


   
    汝、力が欲しいか?



力?俺はそんなもの・・・・・今の日常があるなら要らないや。



    今の日常・・・・・それが、既に崩れ去りかけているとしたら?



崩れるって、みんなとの毎日が?



    そうだ。見えないところで、水面下で平穏が削り取られているとしたら・・・・・どうする?



俺で、なんとか出来るなら・・・・・。



    出来る、なら?



力が、欲しいなぁ。




— — — — — — — —




マコト「って、夢見てさぁ。何なんだろなコレって感じで」


千秋「・・・・・」


内野「・・・・・」


吉野「・・・・・」



マコト「いや、何か反応しろよ。恥ずかしいだろ」


内野「ねぇ・・・吉野」ボソッ


吉野「そうだねユカちゃん、先手打たないとね。千秋ちゃんには悪いけど」ニコニコ


マコト「え?」



千秋「吉野!!マコトまで巻き込むのはやめろ!!!」


吉野「中立は、黙っていようよ。ね?」


千秋「っ・・・」



内野「そう、だね・・・私達だけじゃこれ以上は・・・」


吉野「幸いにも場所が小学校で良かった。今は敵がいないんだもんね」


マコト「え?いや、何の話してんのホントに」



千秋「頼む、もう・・・戦火を広げるのは!!」


マコト「ちょっと?千秋?」



吉野「でも驚いたなぁ」
















吉野「マコト君も、能力者だなんて」



マコト「・・・はっ?」

しまった、内田でした



内田「じゃあ、今日の放課後にでも」


吉野「それじゃ先をこされちゃうかもしれないよ?」


内田「あ、そっか」



マコト「あのさ、ハナシを勝手に進めるの待ってくんない?」


マコト「ってか中身がおかしいだろさっきから!なんで千秋を邪険にしてるのさ!?」


吉野「マコト君。昼休みにでも屋上でお話ししよう?」


マコト「いや、人の話を聞い」


吉野「ね?」ニゴォ・・・


マコト「・・・はい」



 
マコト(全く、なんなんだよ二人して)


マコト(いや、おかしなのは千秋も・・・か?)



千秋「おい、マコト」


マコト「なに?」


内田「・・・・・」


吉野「・・・・・」



千秋「この後で、吉野達がお前に話すことは全部本当のことだ」


マコト「?」


千秋「でも・・・マコトがどう行動するのかは、本当に、本当によく考えてから決めてほしい」


マコト「よくわかんないけど・・・わかった」


千秋「どっちだよ」



内田(良かった・・・本当に、千秋は中立でいてくれるんだ)





—昼休み・屋上—



内田「うわぁ〜なんか緊張するね吉野!」ドキドキ


吉野「そうかな?私は結構普通だよ」



マコト「で、話ってなんなの?」


吉野「ユカちゃん。説明してあげてもらえない?」


内田「私が!?やだよ!なんか恥ずかしいよ!」カァァッ


吉野「いつもはもっと恥ずかしいこと言ってるから気にしなくていいと思うよ」


内田「言いたくて言ってるわけじゃないってば!やめてよもう!」


マコト「一体どんな方向に話流れてるの。俺聞いててもいい話なのコレ?」



内田「・・・マコト君。笑わずに聞いてほしいの」


マコト「変な話じゃないなら・・・まぁ」


内田「マコト君はね」


マコト「うん」


内田「覚醒したと思うの」


マコト「うん?」


内田「わかりやすく言えば、能力者なの」


マコト「!!?」

この前言ってたやつか



吉野「マコト君はこんがらがっているみたいだよ?」


内田「ん〜・・・ちゃんと説明したのに?」


吉野「私達のを実際に見せたほうが早いんじゃないかな?」


内田「・・・吉野がやってよ」


吉野「仕方ないなぁ」スッ


   パキッ・・・バギキッ!!!


マコト「えっ!??」

驚くのは無理もないことだった。

吉野が構えた掌の中から、氷の剣が生まれたのだから。



吉野「冷たっ。やっぱり氷は素手触っちゃダメだね」


マコト「いやっ!なんだソレ!?」


吉野「見ての通り、氷の剣だよ?綺麗でしょ?」ニコニコ


内田「わぁ!また上手くなったんだね吉野!」



マコト「ちょっ・・・だからそれは・・・・」


内田「これが、“能力”だよ」


吉野「そう。私もユカちゃんも能力者なの」


吉野「マコト君、君もね」ニコニコ


マコト「え、えっ?ぇえ〜?」

>>13たぶんそれ


内田「少し落ち着いてみたら?」


マコト「落ち着けって、言われてもさぁ!?」


吉野「頭冷やす?」


マコト「冷静になります!」


マコト「・・・・・・・・・・・」



マコト「うん、なんとなくわかってきた。多分だけど」


吉野「それならいいと思うよ」


マコト「もしかして、俺が夢で見たものは能力と関係ある感じ?」


内田「それが覚醒の御告げだと思う。私の時もそんな感じだったもん」


マコト「まじっすか!」


吉野「まじじゃないかな」


マコト「俺どうなっちゃうの!?」


吉野「私もユカちゃんも御告の夢を見た次の日に能力が確定したから、マコト君は明日になればわかると思うよ?」


マコト「そんな適当な感じなのか?」


内田「そんな感じだね」



マコト「えぇ〜・・・・っていうか、内田も能力ってのが使えるんだよな?」


内田「・・・まぁ、ね」


マコト「なんで嫌そうなんだよ?」


吉野「能力を得ると同時になんだけど、“誓約”が負荷されちゃうから」


吉野「それでユカちゃんは嫌がっているんじゃないかな」


マコト「誓約って?」


吉野「んー、能力を使うかわりにやらなくちゃいけない決まり事みたいなものかな」


マコト「へー・・・吉野の誓約はなんなの?」


吉野「私はね」


吉野「一日のうち12時間を笑顔で過ごさないといけないの」


マコト「!!?」



マコト「えっ!?嘘だろ!?」



吉野「・・・・・」ニコニコ


マコト「・・・・・」


吉野「・・・・・」ニコニコ


マコト「・・・まじ?」



内田「マコトくん、もしかして吉野に嫌われていないとでも思ったの?」


マコト「やめろよ・・・やめてくれよそういうこと言うの・・・・」


吉野「まぁ、別に嫌いじゃないよ?好きでもないけど」


マコト「やめてくれよ!悲しくなるだろ!!」



マコト「って・・・それはもう置いておこう」


吉野「そうだね。話を進めなきゃだね」




マコト「とにかく、俺は明日になったら能力が目覚めるかもしれないと」


内田「うん」



マコト「そこは明日になれば判るだろうから置いとくとして、“敵”ってのはなんのことなんだ?」


マコト「それに、チアキに対して“中立”って言ってた理由もよくわかんないし」


吉野「・・・私達の最大の敵。それは」



     南  ハ ル カ  



マコト「・・・はい?」


内田「マコトくん。信じられないかもしれないけど・・・ハルカさんが私達の敵なの」


マコト「いや、ごめん、ちょっと意味がわかんない」


吉野「南家最大当主、南ハルカ・・・彼女こそが倒すべき敵」


吉野「そして、彼女を取り守ろうとする全ての人が、私達の敵なの」



マコト「あの優しいハルカさんが敵っておかしいじゃん!?どーいうことだよ!?」


内田「確かにハルカさんが悪いわけじゃないの」


マコト「そりゃどーいう・・・」


内田「ハルカさんの能力がかなり特殊で」


マコト「ハルカさんも能力者!?」



吉野「彼女の能力は“二重人格”」


マコト「人格?能力なのソレ?」


吉野「時折現れるもう一つの人格・・・それは」



     第 六 天 魔 王   織 田 信 長



マコト「!!?」


吉野「その人格こそが、夜な夜な殺戮を行なっているの」


マコト「え?えっ!?」


吉野「数日前・・・私のお母さんは、殺された」



マコト「なぁ、話が急すぎて・・・ちょっと」


吉野「信じられない?」


マコト「・・・・・」


   表情は笑みを浮かべたままだ。

   だけど、少しだけ悲痛が混じっているようにも見えた。


マコト「本当・・・なんだな」


吉野「うん」



マコト「吉野のお母さんが死ん・・・亡くなったなんて噂にでも聞かなかった」


マコト「警察沙汰にもなってないみたいだけど、それは?」


吉野「木っ端微塵に消し飛ばされちゃって・・・遺体すらないから」


吉野「警察じゃ行方不明扱いだよ」


マコト「・・・ごめん」



吉野「でもね、私だって最初の頃はハルカさんの味方だったんだ」


マコト「味方?」


吉野「そう。ユカちゃんも私も」


吉野「ハルカさんを止めるために、チアキちゃんやカナちゃん達に協力してたの」


内田「みんなでね、人格が表に出てきた時は暴れさせないように必死で止めてたんだよ」


内田「でも少し前から第六天魔王の力が強まり初めて・・・逆に、生かされる立場になってるの」


マコト「どーいう・・・?」



内田「特にチアキやカナちゃんは、ハルカさんの身近にいるでしょ?」


内田「だから人格が目醒めた時は、一番危ない位置にいる」


内田「それで・・・『お前たちを殺さないかわりに、南ハルカの人格であるときは警護しろ』って言われたらしいの」


マコト「警護って、なんでまた」


吉野「私みたいなのがいるからじゃないかな?」


吉野「きっと、無力なハルカさんである時を狙い、殺そうとする人間が現れるって余期していたんだと思う」


マコト「って!?殺すのはあんまりじゃ・・・!!」


吉野「殺されたのはね、私のお母さんだけじゃないんだよ?」


吉野「第六天魔王を食い止められず、既に何人もの一般人が殺された・・・目の前で」


マコト「そんな・・・」



吉野「だからね、私はハルカさんを殺そうと思うの」


マコト「・・・内田も、なのか?」


内田「私は吉野を一人にさせたくないし・・・」


内田「もう、あの人格は止まりそうにもないから・・・覚悟したよ」


マコト「その、誰も傷つかないような・・・別の方法は・・・」


マコト「そうだ!ハルカさんを病院に連れていくのはどうだ!?」


マコト「もしかしたら治ったり・・・」


吉野「よく考えてみようよ。マコトくん」


マコト「え?」



吉野「この能力のことが世間に知れたら・・・ハルカさんだけじゃない」


吉野「ユカちゃんも私も、カナちゃんもチアキちゃんだって一生隔離された生活になるかもしれない」


吉野「それだけならまだいいよ?脳ミソに電極刺されて解剖されちゃうかもしれないね」


マコト「・・・そう、だな」



吉野「正直言えばなんだけど、ハルカさんに立ち向かっているのは私達二人だけなんだ」


吉野「だからマコトくんが仲間になってくれればなぁって」


マコト「・・・・・」


内田「私も、その・・・期待してた」



マコト「・・・お、俺は」


内田「でもね!」


内田「簡単に決めるようなことじゃないし・・・少し考えていいと思う」


マコト「内田・・・」



吉野「出来れば、放課後明日までに決めたほうがいいよ」


内田「せかしちゃダメだよ、吉野」


吉野「実際、そうでしょ?」


吉野「この件のこと、チアキちゃんの口からアッチの勢力の耳に入れば、間違いなく勧誘が入っちゃう」


吉野「そうなれば、身の振り次第でマコト君だって殺されるかもしれないんだから」



マコト「・・・ありがとう、二人とも」


マコト「少し、考えるよ」





・ ・ ・ ・ ・ ・


マコト(ダメだ。授業に全然集中出来なかった)


マコト(当たり前か・・・脳がパンク寸前だもんな)



チアキ「おい、マコト」


マコト「えっ!?」ビクッ


チアキ「・・・何にもしないよ」


マコト「いや、ごめん」



チアキ「大方、放課後にまで考えてくれとでも言われたのだろう?」


マコト「なんでわかんの?」


チアキ「切羽詰まっているように見えたからな」


マコト「はは・・・わかるか。やっぱり」


チアキ「私はカナにもハルカ姉さまにも、お前のことは話すつもりなんてない」


チアキ「だから、放課後なんかじゃなくてゆっくり考えるといいさ・・・」


チアキ「出来れば、関わってほしくないんだ」


マコト「でも、あんな話聞いちゃったらなぁ・・・・あっ」



マコト「そういやさ、チアキも能力者なんだろ?どんな力なの?」


チアキ「私は“治癒”だよ」


マコト「すげぇ・・・」


チアキ「こんなものあったって・・・何も良いことはない」


チアキ「争ったみんなの怪我を治せるくらいさ」


マコト「いや、凄いじゃん!全然良いよ!」


チアキ「私はな、吉野の怪我を直すのも、カナの怪我を直すのも・・・イヤなんだ」


チアキ「争って血が流れるなんて、見たくない」


マコト「・・・・・」


チアキ「どうせなら、全てを救えるような力がほしかったよ。まったく」



マコト「そう、だな」


チアキ「ああ」


マコト「そういった能力だからじゃなくて、そういった考えだから中間なんだな」


チアキ「ああ」



チアキ「兎に角、マコトはゆっくり考えろ」


チアキ「馬鹿だから変な答えを出しそうだしな」


マコト「酷くない!?」


チアキ「そろそろ授業だし私は席に戻るよ。じゃあな馬鹿者」スタスタ



マコト(・・・少し、気が楽になったかも)


マコト(考えるの疲れたし、六限目は居眠りしよっと)


マコト「・・・・・」グー…スピー・・・


 
— — — — — — — —


   ・・・今より汝に、力を与えん


え?もう?結構疲れてんだけど。


   つべこべ言うな、時間が無いのだ。


時間が無いって、一体なんの・・・?


   マコト、お前の能力は“射手”。


しゃしゅ?なにそれ?


   そして、誓約だが


いや、答えてよ。使い方わからないじゃん。


   誓約は——————————・・・・・
   

— — — — — — — —




マコト「・・・・・」ムクッ


マコト「・・・まじか」




—放課後—


マコト「内田!内田!内田ぁ!!!」ダダダッ


内田「どうしたの慌てて?もしかして答え決まった!?」


マコト「いやっ!それはまだなんだけど・・・」


マコト「それよか、六限目に居眠りしてたら能力が決まったみたいで」


内田「やっぱりマコトくんもだったんだ!能力はなに!?」



マコト「えっと・・・しゃしゅ?」


内田「しゃしゅ?って、なんで疑問形なの?」


マコト「俺も『しゃしゅ』の意味がよくわかんなかったから。言葉で伝えられただけだし」


内田「多分だけど、射るの『射』に『手』って書いた『射手』じゃないかな?」


マコト「あっ、それがあったか」


内田「ていうかそれ以外に何があるの」


マコト「てっきり車の『車種』かと」


内田「どんな力なの」



マコト「いや、そこは一先ずどうでもいいんだ・・・能力はどうでもいい」


内田「じゃあどうしたの?」


マコト「・・・誓約が、さ」


内田「厳しい誓約だった?」


マコト「うん・・・とびっきり厳しい」


内田「私の誓約も大概だけど・・・どんなヤツ?」


マコト「能力を行使する際は・・・」


内田「際は?」



マコト「“マコちゃん”になる必要がある」



内田「ぷーっwww」バンバン


マコト「笑うなよ!死活問題だろコレ!!」


内田「あっははは!」ケラケラ


マコト「笑いごとじゃないって・・・本当にマズイだろこれ・・・!」


マコト「チアキと吉野になんて言えば・・・!」



内田「あー・・・確かにウプッうん。まずいね」


マコト「状況が状況だから内田が頼みの綱なんだよ!」


内田「うーん・・・どうしたらいいんだろうねぇ」


マコト「どうしたら・・・!」


内田「そうだ。いっそもう素直にバラしたほうがいいんじゃないかな?」


マコト「俺だって、同じことを考えたさ」



マコト「だけど、普通に考えてみろよ内田」


内田「うん?」


マコト「女装する男なんて変態だよな?」


内田「うん」


マコト「だろ!?素直にバラすのはマズイんじゃないか!?」


マコト「絶対変に思われること間違いなしだろ!?」


内田「寧ろ、普通に考えて変態さんだって判りながら女装するあたりが、更に変態さんだなぁって思うかな」


マコト「がぁああああ!!!」



マコト「ああぁああぁ————・・・ぁ・・・あ?」


内田「どうしたの?」


マコト「・・・逆だ」


マコト「逆でいけばいいんじゃないか!?」


内田「っていうと?」



マコト「『マコトは女装してました』じゃなくて」


マコト「『マコちゃんが男装してました』ってのはどうだ!?」


内田「・・・・・・」


内田「一周回って壊れちゃってるよ、マコトくん」


マコト「なんでさ?」


内田「だってそれやった場合、みんなから一生女として認知されるんだよ?」


マコト「あっ・・・」



マコト「やばい。もう、本当に俺やばいよ内田ぁ!!」


内田「キツイ誓約きちゃったねぇ」



マコト(つーかこれ・・・マジで、詰みじゃね?)


内田「少し話変えていい?」


マコト「・・・うん。多分詰んでるから」


内田「その・・・マコトくんは、結局どうするの?」


マコト「・・・・・」


マコト「あんまりわからないんだよなぁ。俺」


内田「?」



マコト「吉野が言ってたことは本当のことだってわかる。けど、実感が湧かなくて」


マコト「人が死んでるって言われても、戦ってるって言われても・・・現実味が全然ない」


内田「・・・・・」


マコト「だから!実際に起っていることを見てから考える!」



内田「まだ・・・仲間には、なってくれないんだね」


マコト「でも助けるよ」


内田「え?」


マコト「チアキも言ってたけどさ、みんなが怪我するのなんて見たくないんだよ」


マコト「内田や吉野が危なくなったら俺が助けに入る!当然だろ!?」


内田「うん、そっか!嬉しいよ!」



マコト「って言っても、誓約が・・・」


内田「んー、とりあえず場所変えない?いつもは駄菓子屋で吉野と作戦考えてるの」


内田「吉野は先に行ってるって言ってたから」


マコト「・・・到着するまでに考えないと、マズイな」


内田「どうにかなるよ。それに、助けてくれることは確定なんでしょ?」


マコト「おぅ!」


内田「この程度どうにか出来ないで私達を助けようなんて百年はやーい!」




・ ・ ・ ・ ・ ・



内田「もうすぐ駄菓子屋に着いちゃうよ?」スタスタ


マコト「・・・・・」スタスタ


マコト「よし!これだ!!」


マコト「っていうかもうコレしかない!!」


内田「どんな案?本当に大丈夫なの?」


マコト「多分これなら吉野も納得すると思う」



マコト「あ、それよか先にマコちゃんにならないと・・・服取りに行ってもいい?」


内田「あんまり吉野を待たせるのもなぁ。私のヘアピンだけじゃダメ?」


マコト「いや、髪型弄っただけじゃ流石にさぁ」


内田「アメピンもあるけど、どうかな?」


マコト「んー、一応試してみるけど・・・」シュッ,パチッ


マコト「どう?」


内田「あー・・・首から上はマコちゃんだけど、下が制服だからねぇ」


マコト「だよな・・・やっぱ服取りに行って」





吉野「あ、ユカちゃん」スッ





内田「ふぇ!?」


マコト「うひゃ!?」ビクッ



吉野「どうしたのかな?驚いてるみたいだけど?」ニコニコ


内田(駄菓子屋はもう少し先なのに・・・なんでこんなところで)




内田「いっ、いや・・・別に驚いたわけじゃ・・・」


内田「ていうか吉野、なんでこんなとこ歩いてるの・・・?」


吉野「ユカちゃんが遅かったから駄菓子屋で待つの飽きちゃって。散歩してたんだよ」


内田「そ、そうなんだ」



吉野「あれ?」


マコト「・・・・・」ビクビク


吉野「・・・・・」ニコニコ


マコト「え・・・えっと・・・」


吉野「うん?」


マコト「いい、天気ですね」


内田(あ、ダメだ。しかも口調がマコちゃんっぽいし)



吉野「そうだねぇ。今日は夕暮れが綺麗だね」


マコト「でっ、ですよねぇ・・・」ビクビク


吉野「・・・・・」ニコニコ


内田(頑張れ!マコト君!)


内田(どう頑張ればいいのか全然わかんないけど!)



吉野「なんか緊張してる?」ニコニコ


マコト「いえ、そんなことは!」ダラダラ


内田(変な汗でちゃってるし・・・見てるコッチが怖いよぉ・・・!)



マコト(も、もう・・・無理だ・・・!)


マコト「吉野!おっ、俺は!!」


吉野「ふふっ、やっぱり緊張しちゃってるんだ」





吉野「変なマコちゃんだね」





内田「!?」


マコト「!??」



吉野「どうしたの?」


マコト「あ・・・いや・・・」


マコ「マ、マコちゃんですよ?」


吉野「うん、マコちゃんだね」ニコニコ



内田「えっと・・・吉野?」


吉野「どうしたのユカちゃん?」


内田「何か違和感とか覚えないの?」


マコ「ちょっ!?」


吉野「んー?違和感?特にないなぁ」


内田「そ、そう・・・」


マコ(よっしゃ!どうにか回避した!!)



吉野「でも強いて言うなら」


吉野「なんでウチの男子制服来てるのかなぁって」


マコ「」ビクッ


内田(あ、終わった)



吉野「ね?なんでかな?」ニコニコ


マコ「えー・・・えーとですね・・・」


内田(絶対に確信犯でしょ・・・吉野)



マコ「その、さっき内田とマコトくんが歩いてるところに出くわしまして」ダラダラ


内田(どんな説明!?)


吉野「えっ?ユカちゃん、マコトくんと一緒に来てたの?」


内田「うっ、うん・・・来てた・・・かな」



吉野「じゃあマコトくんは何処にいるのかなぁ?」ニコニコ


マコ「・・・・・」


内田(すっごい死にたそうな目をしてる)



マコ「それで・・・」


マコ「出くわした時に、俺がマコトくんとぶつかったんです」


吉野「ぶつかったんだぁ」


マコ「お、思いっきりぶつかりました」


吉野「・・・・・」ニコニコ


マコ「えへっ」ペロッ


内田(壊れかけてるよ・・・マコトくん)



マコ「そして・・・ぶつかった時に」


吉野「時に?」


マコ「マコト君は、ぶつかった衝撃で」


吉野「衝撃で?」





マコ「 消 滅 し ま し た」





内田「!!?」







吉野「消滅?」


マコ「うん。消滅」


内田(もう・・・もう・・・無理だよ)



吉野「そっかぁ、それなら仕方ないね」ニコニコ


内田「!!?」


マコ「だよね!?仕方ないよね!?」


内田(納得した!?っていうか扱い酷っ!!)


内田(それより自分の存在消してどうするのこれ!?)



吉野「でも明日からマコトくんに会えないなんて残念だなぁ」


マコ「あ・・・」


吉野「消滅しちゃったんだよね?それなら会えないよね?」


マコ「えー・・・えっと」


吉野「でもわざとじゃないんでしょ?マコちゃん」


吉野「それならそんなに気にしなくていいと思うんだ」


マコ(俺の扱い酷っ!!)



マコ「いっ、いや!そうじゃないんだ!」


吉野「え?」


マコ「確かに、マコトくんは消滅した・・・だけど」


吉野「だけど?」


マコ「・・・・・」


内田(マコトくん頑張れ!もうどうしようもない気がするけど!)


マコ「マコトくんは・・・」




マコ「 宇 宙 の 概 念 に な っ た ん だ 」





内田「 \(^o^)/ 」



吉野「概念?」


マコ「そう。概念になったんだ」


吉野「私、よくわからないなぁ」ニコニコ


マコ「・・・・・」


内田(もうこの空気に耐えられないよ。いっそ私が消滅したいよ)



マコ「順を追って話すね」


吉野「うん」



マコ「まず、俺がマコトくんとぶつかった時にゲシュタルト融解が始まったんだ」


吉野「うんうん」


内田「!?」



マコ「その瞬間に凄まじい力が生まれ出て世界が逆に回転した。当然だけどシュレディンガーの法則が作用した」


吉野「あー、かもしれないね」


内田(えっ?えっ!?)



マコ「その段階で空間的バイオスが乱れてマコトくんは宇宙の概念になった」


マコ「要するに『概念』だからまた会えるはず。心配しなくても大丈夫だよ。吉野」


吉野「そっかぁ。また会えるんだ」


内田(なんで!?なんで話が成立してるの!?)



マコ「で、最後に六道界の法則が乱雑してマコトくんの能力が俺に移し渡されちゃったんだ」


吉野「え?マコトくんの能力がマコちゃんに?」


マコ「そう、俺は能力者になったんだ」


マコ「詳しい話は内田から聞いた!俺は吉野と内田の仲間になるよ!」


吉野「本当に!?すっごい嬉しいよ!」



内田(綺麗にまとまった!?てゆうか仲間入りしちゃったよ!?)

よし、練る



吉野「マコちゃんが仲間だなんて心強いな」


マコ「そんなことないって!」テレテレ


吉野「もう不安なんて何もないよぉ」


内田(吉野の頭が不安だよ)



内田「ねぇ、吉野?」


吉野「うん?」


内田「その・・・男子制服には突っ込まないの」


マコ「ちょっ!?」


吉野「・・・・・」


マコ「よ、吉野・・・?」



吉野「マコちゃんが男子制服着ていることなんて当然のことじゃないかな」


内田「!!?」



吉野「だって、二人がぶつかった時にシュレディンガーの猫ちゃんが世界を逆に回転させたわけでしょ?」


吉野「それで八卦界の法則が乱雑して世界が逆に回転した衝撃でマコちゃんの服は破れちゃったから、裸のままじゃ困るもんね」


吉野「それで仕方なく、マコちゃんは概念になったマコトくんの制服を着ているんだもん」


マコ「そうっ、そうだよ吉野!頭いいなぁ!」


内田(あれ?さっきの説明となんか食い違ってない?ってゆうか世界が2回も逆転してるんだけど)



吉野「それよりほら、駄菓子屋に行こうよ」


マコ「おうっ!行こーぜ!」





・ ・ ・ ・ ・ ・


吉野「・・・・・」モグモグ


内田「・・・・・」ゴクッ


マコ「・・・・・」ペロペロ



内田「ねぇ、仲間宣言しちゃってたけど」ボソッ


マコ「気にしないでくれ・・・内田」


マコ「少しばかりアイス食って頭を冷やしたいんだ。今は」


内田「うん。冷静になったほうがいいかもね」グビグビ



吉野「そろそろ作戦立てよっか?」ニコッ


マコ「あっ、そうだな!」



マコ「ていうか・・・具体的に、今までどーいった行動してたの?」


吉野「今までって言ってもね、私達が思い切って行動を始めたのはまだ5日目なの」


内田「その日以前までも、吉野はみんなと衝突しがちだったんだけどね」


マコ「・・・・・」


マコ(本当にハルカさんやカナ達と戦ってるなんて、信じ難いな)



吉野「・・・表立って戦うのは夜のみ。それも人目が付かない場所で、ってことをアッチとも取り決めをしているの」


吉野「当然なんだけど、人前で能力を使ったら私達の未来が危うくなっちゃうから」


マコ「・・・確かに」



吉野「それでアッチのスタンスなんだけど、過激派と穏健派に別れている節があるかな」


マコ「っていうと?」


内田「目立つ場所じゃ戦えないってことは、アッチも理解してるじゃない?」


内田「だから、カナちゃんやチアキは、ハルカさんを極力外に出さず屋内に居させる傾向があるの」


内田「いくら夜でもマンションでの戦闘は仕掛けてこないって踏んでるんだと思う」


マコ「あー、なるほど。カナ達が主に穏健ってことか」



マコ「で・・・過激派っていうのは?」


内田「ハルカさんと特に仲が良い高校生が主だよ。数が多いから・・・本気出されるとキツくて」


マコ(・・・なんか、想像以上にマジな戦いっぽいんだけど)



吉野「でも、過激派って言っても『殺す気』まではないみたいなんだよねぇ」ニコニコ


マコ「・・・・・」


吉野「南ハルカとの友情がてらに戦ってますって感じだし、互いに重傷負ってもチアキちゃんが治してくれると踏んでるんだろうね」


マコ「・・・少し、怖くなってきたよ」



マコ「内田は怖くないのか?」


内田「正直怖かったけど、一人で大勢を相手にする吉野を見ちゃったから」


吉野「・・・ごめんね」


内田「あっ、違うよ!私がやりたくてやってるんだから!」



内田「ていうか話逸れちゃうから本線に戻ろ!ねっ!?」


マコ「そ、そうだね!吉野すまん!!」





内田「それでなんだけど、基本的に戦う時は、私達から相手側に申し出るようにしてるの」


マコ「ん?なんでわざわざ?」


内田「チアキの意向でもあるし、深夜帯に出てきてくれないと戦いようがないからね」


マコ(チアキは、死傷者を出したくないんだろうな)



マコ「でも、ハルカさんは誘いにのるの?」


吉野「当然と言えば当然だけど出てこないねぇ。人格が目醒めない限りは一般人と同様だから」


マコ「そっか」



マコ「今後は・・・どう動くつもりなんだ?」


吉野「アッチは『本気』じゃないから・・・過激派からプチプチ潰すことが一番かなぁ」ニコッ


マコ「・・・・・」


心境が穏やかで居られない気持ちはわかる・・・・・わかるけど。

正直、平然と計画を立てる吉野は気持ち悪いくらいに怖かった。




内田「なにか、いい作戦があるの?」


吉野「それはまだ秘密。ユカちゃんにもね」


内田「えー!?なんでぇ!?」


吉野「そこは追追話すとして、マコちゃんの能力も計画の一因になるじゃない?」


内田「それはそうだけど・・・」



内田「そういえば、マコちゃんはまだ能力試してないよね?」


マコ「あ、まだだった」




吉野「今使える?」


マコ「多分出来ると思うけど、どんな風にやれば出来るのこれ?」


吉野「私の能力は“冷氣”だからそれっぽいイメージしたら出来たよ」


吉野「マコちゃんの能力は?」


マコ「ああ、俺は“射手”だけど・・・イメージねぇ?」


内田「出てこーい!って感じでイメージすればいいんだよ!」


マコ(出てこーい。出てこー・・・・・・・・い)ググッ・・・!!



   ガチャッ



吉野「・・・・・」


内田「・・・・・」


マコ「・・・・・」


念じた直後、俺の手の中に・・・・・・銃があった。




内田「えっ!?」ビクッ


吉野「!?・・・!!?」アタフタ


マコ「ちょっ!?え!?」




吉野「本物・・・?」


内田「ていうかソレ隠さないと!!堂々と持ってたら捕まるよ!?」


マコ「ほんっ、ほ・・・ぉ!?・・・あれ?」


マコ(・・・軽い?)


マコ「エアガン・・・かな?」チャキッ,パチッ


内田「えぇ?」


マコ「あ、やっぱり。マガジンの中BB弾だし」


吉野「・・・使えないね。マコちゃん」


マコ「酷いよ吉野っ!?」


内田「ま、まぁ・・・誓約が“ヘアピンを付けること”だから、そんなもんじゃないかなぁ」


吉野「あ、誓約軽目なんだね」


マコ(ナイス内田っ!)



内田「って、よく考えたら吉野だって最初はこんなものだったじゃん」


吉野「え?そうだっけ?」


マコ「最初?」


内田「うん。経験積んだり練習したらレベルが上がるんだよコレ」


マコ「まじすか!」


内田「吉野なんて最初は冷たい水出すくらいだったもん」


吉野「あれー、そうだったかなぁ」ニコニコ


吉野「でも今じゃ相当な威力だよ?」


内田「あれだけ無茶な戦いしてればね。一対一なら吉野は最強だもん」


マコ「そんなに強いんだ・・・」



マコ「そういや、内田の能力は?」


内田「私は“結界”だよ」


マコ「結界?それってどんな能力なの?」


吉野「ユカちゃんの能力は派手だし少し特殊だからねぇ。ここで見せるのはやめておいたほうがいいんじゃないかな?」


マコ「まぁ、そーいうことなら・・・因みに誓約は?」


内田「・・・・・」


マコ「内田?」


内田「決め台詞」


マコ「はい?」


内田「“決め台詞”を言わなきゃいけないのっ!!」カァァッ


マコ「なにそれ?」


吉野「セリフだよ。それっぽいヤツ」


吉野「一昨日なんて『ふたりはプリキュア!』なんて言ってたもんね」ニコニコ



内田「もう吉野っ!話進めてよぉ!」


吉野「んー、大体の話は終わったからね」


吉野「とりあえず、今夜10時に湾岸区のスタバで待ち合わせできる?」


マコ「今日?」


内田「えっ!?今夜もやるの!?」


吉野「作戦立てちゃったからねぇ」ニコニコ



内田「でも、マコちゃんはまだ不慣れだし能力が・・・」


マコ「そ、そうだよな」


吉野「まずは見学って感じでいいんじゃないかな?アッチもマコちゃんにいきなり攻撃はしないだろうし」



吉野「ただ・・・」


マコ「うん?」


吉野「今夜は何かあっても身を守れるようにしておいてね」


マコ「・・・あぁ。わかったよ」



吉野「じゃあ、また後で」スッ


・ ・ ・ ・ ・ ・



内田「なんか・・・ごめんね」


マコ「いや、なんで謝るの」


内田「正直気が引けるでしょ?今まで仲良くしてたみんなが相手だなんて」


マコ「・・・うん」



内田「私はね、ハルカさんを野放しにするのはマズイと思ってるの。沢山の死人が出続けるだろうから」


マコ「・・・・・」


内田「でも、そんなことより・・・吉野を一人にしたくないんだ」



内田「吉野はお母さんが殺されちゃって、少しおかしくなってるところがあると思うの」


マコ「わかってるなら・・・止めないの?」


内田「吉野には私じゃ想像も出来ないような悲しみや怒りが満ちてると思うから、今は好きにさせてあげたい」


内田「気が少しでも晴れればなぁって」


マコ「そっか」



内田「出来れば、ハルカさん以外に犠牲は出したくないけど」


マコ「俺もそう、思うよ・・・いや・・・」


マコ「まだ、誰も死なないでほしいと思ってるかな」


内田「それが普通だよ」


内田「あの状態のハルカさんを見ない限りは・・・ね」



内田「・・・兎に角、今日は吉野をサポートしてあげて。マコトくん」


マコ「うん。それは約束するよ」


—スタバ—


内田「あっ、吉野がいた」


マコ「おーい。来たよー」


吉野「心の準備は大丈夫?マコちゃん?」


マコ「まぁ・・・それなり程度には」


吉野「うん。それならいいの」


内田「それで吉野、作戦はどうなってるの?」


マコ「あ、俺もそれ訊こうと思ってたんだった」


吉野「それなんだけどねぇ」


吉野「マキさんだけ呼んじゃった」ニコニコ


内田「えっ!?」


マコ「ん?どゆこと?」



内田「チアキには話通ってないの!?」


吉野「うん、だってチアキちゃんが来たら治癒されちゃうじゃない?」


内田「いやっ!吉野だって怪我を治せないってことなんだよ!?」


マコ(・・・そういうことか)


吉野「それくらいは覚悟してるよ。元よりね」


内田「吉野・・・」



吉野「いつもはチアキちゃんが居るから事が進まないんだなぁと思ってさ」


吉野「でも、これで確実に消せるよ」


マコ「・・・マキさんだけに話したからって、他言しないとは限らないんじゃ?」


吉野「んー、そこは問題ないかな」


吉野「あの人は戦闘的なトコあるし、ハルカさんと一番の親友だからね」


吉野「十中八九一人で現れるよ」



マコ「マキさんは本気で吉野を潰そうと考えてるってこと?」


吉野「一人で現れた場合は、そうなるねぇ」ニコニコ



内田「それで秘密だったの?」


吉野「ごめんね」


吉野「でもユカちゃんは、身を案じてチアキ呼ぶとこだったでしょ?」


内田「多分・・・呼んだかも」


吉野「大丈夫だよ。前線は私だから、サポートのユカちゃんにまで危害は及ばないようにする」


吉野「もしとばっちりが飛んで来たらマコちゃんが盾になってあげてね」ニコッ


マコ「おぅ!」


マコ(・・・ってあれ?俺の扱いおかしくない?)



吉野「さて、臨海公園に呼び出してるからそろそろ行こっか」


—公園—



マキ「おっ。やっとか」


マキ「呼び出しといて遅れてくるたぁー、いい度胸してるねぇ」




吉野「怒らないでくださいよ。先輩」


マコ(マキさん、本当に来てた・・・)



マキ「あれ?マコちゃん?」


マコ「あ・・・あのっ!マキさんはっ!」



吉野「それより私と喋りましょうよぉ」


マキ「話し合ったって無駄でしょ」



マキ「私はハルカの人格を消し去る方法を見つけるまでは、ずっと守り抜く」


マキ「あんたは一般人を守るって大義を名分に、復讐をする」


マキ「これ以上の話は意味ないじゃない」



マコ(ハルカさんは、本当に・・・)



吉野「ははっ、酷い言われようだなぁ私」ニコニコ


吉野「でも、話し合いが不毛って点については同意しますよ」



マコ「・・・マキさんって、強いの?」


内田「うん。相当」



吉野「あ、そう言えば、マコちゃんにはこの人の能力について話してなかったね」


吉野「誓約がてらにユカちゃんお願い」



内田「能力は“剛力”。マトモに喰らえば即死クラスの腕力だよ」


マコ「そんな・・・!」






内田「人呼んで————“鬼腕”のマキ」






マキ「こりゃ言われたもんだねぇ」


マキ「けど目上にはさん付けするもんだよ?」


内田「っ・・・!」


マキ「ねぇ吉野、いや・・・」






マキ「“難攻不落”の吉野嬢」






吉野「マコちゃんへの自己紹介はこのへんにしときましょうか」


吉野「・・・さっきの続きですけど、お喋りする意味はあったんですよ?」


マキ「はぁ?」



吉野「貴女は今夜死ぬんですから・・・」


吉野「遺言くらい訊いておこうと思いまして」


   吉野は、陰鬱と邪悪が混じったような笑みを浮かべた。


マキ「は・・ははっ、そりゃ面白い冗談だことで・・・」


吉野「ふふっ、冗談に思えますかぁ?」


   怒りで零れたマキさんの微笑に対し、嘲るような返答を返す。


マキ「アンタは、チアキちゃんが来ないことでハルカの周囲を消す算段を立てたんだろーけど、さ」


マキ「そりゃ失策も失策だよ」



マキ「なぜなら・・・今夜死ぬのは」


マキ「アンタだからさ!吉野ッ!!」




マコ「ッ〜〜!!」


   耐え切れない程に、殺気が充満していた。

   この場から逃げ出したい・・・そう思わせる程の両者の殺意が、周囲へ溢れ出している。




吉野「じゃあ証明してくださいよぉ・・・センパイ」


   パチ・・チッ!チ゛!!  バチ゛チ゛ィッ!!


マキ「っ!!」


   急激に空間が冷え渡り、ダイヤモンドダストが音を立てるほどの速度で発生。吉野の能力“冷氣”が発動した証拠であった。

   一箇所に留まることを善しと出来ない状況であると知っていたマキは、即座に右往に駆ける。




内田「いくよ吉野っ!」


吉野「お願いっ!」



マキ(やっぱコンビネーションでくるか・・・!)



内田「हस्तक्षेप(干渉)」


   キィンッ!



マコ「!?」


   内田の掌が光り、結界と思しき形状の円陣が解き放たれた。

   それと同じくして、吉野の胸元から同形の円陣が浮かび上がる。



吉野「強化系を!」


内田「よしきたっ」


   その結ばれた界内に特殊な現象を付与する。これが結界なる能力。

   手間をかけ結界を描いてこそ発動する能力ではあるが、予めに仕込んでおけば発動時間は一瞬であった。



内田「बढ़ी होश(五感強化)!」


   キィインッ!!



マキ(遠隔で結界を使った!?)


   予め互いの体に仕込んでおいた干渉結界。これで結界による能力付与を遠隔で行うことが可能となっていた。

   続いて再び輝く内田の右肩の紋。それより発動した強化結界を吉野へ付与。

   新たに浮かび上がった円陣が躰を一つの結界とし、五つの感覚機能を上昇させる。



吉野「準備完了〜」


吉野「仕掛けないなら、こっちから行きますよ?」


マキ(ユカちゃんを先に潰しておくべきか・・・!)



   吉野の“冷氣”だが、これは近距離限定の能力。

   触れずとも数センチ離れた物体を凍てつかすことや、氷像を生み出すことを可能とする。

   だが・・・物体を凍てつかせる場合、熱を奪う時間が微々たるものながらロスタイムとなる。


 



吉野「えいっ」


   バキンッ!パキギィッ!!


マキ「っとぉ!?」


   数メートルは離れているにも関わらず、己の足元より歪な形状をした氷塊が瞬時に湧き出る。

   動きを止めなかったおかげで脚を取られずに済んだが、そうでなかった場合は確実に地と脚が一体化し動きを封じられていた。



吉野「どんどんいきますよぉ」


マキ「チィ!!」


   右往左往する舞台よりバキバキと氷が沸く。コンマ数秒前までいた箇所には氷塊。移動するだろうと予測した場所にも氷塊。

   こうなってはランダムに動き続けるしかなかったマキは、次第に怒りよりも焦りを募らせた。



吉野「ほらほらぁ!」


   バキンッ!バキギンッ!パギィッ!!


マキ(マズイ!マズイ!マズイ!!)


   離れた位置に氷塊を生み出すことは本来不可能だが、吉野は足元より冷氣を放ち周囲の地表を凍てつかせる。

   十分な零度に達した箇所であれば、更なる冷氣を遠隔的に這わせ、氷塊を生み出すことが可能であった。



吉野「一人で踊って楽しいですかぁ?」


吉野「なんでしたら近接戦闘で一緒に踊りましょうよ。セーンパイ」


マキ「こっの、ガキ・・・!」


   近接戦闘に持ち込めれば己に分があるのとマキは踏んでいる。

   だが先程、内田が掛けた結界術によってどんな能力が作用しているかはわからない。


   迂闊に飛び込めばどうなるか、と考える・・・・・が。
  


マキ(どのみちこのままじゃジリ貧じゃん!)

   
マキ「踊ってやるよ!!」


吉野「あはっ!!」
   








マキ「一撃で終わらせてやらァ!!」


吉野「貴女の、命をね」



   その時—————殺伐とした空間に、異質な声が響き渡った。



保坂「熱くなり過ぎだ!マキ!!」



吉野「!?」


マキ「っと!・・・保坂先輩!?」


保坂「お前が南ハルカを想う気持ちによって熱くなるのは構わない」


保坂「だが、それで己の命を危険に晒すようでは、彼女が悲し」


マキ「そんな気持ち悪いことはどうでもいいですよ!なんで此処に!?」




マコ「あ、あの人は?」


吉野「南勢力の一人。保坂さん」


吉野「・・・イイところだったのに、邪魔が入ったなぁ」


マコ「能力者なのか?」


内田「保坂さんの能力は“呪文”・・・強力とまではいかないけれど厄介だよ」





内田「人呼んで———— “ 気 持 ち 悪 い ” 保  坂 」





保坂「気持ち悪いだと?この俺がか?」


保坂「それとも南ハルカを想う気持ちが悪いとでも言いたいのか?」


マキ「いや、どっちも気持ちわるいんで」

  
 

所用が出来たのでここまでにしま



マキ「私は先輩に何も話してなかったはずですよ」


保坂「簡単なハナシだ。マキの様子がおかしかったから“アレ”に尾行させていただけだ」


マキ「・・・アレって、まさか」


マキ「いやそれより・・・このこと、皆には?」


保坂「つい今し方連絡した」


マキ「今?」


保坂「皆が到着するにはもう暫く時間が掛かるだろう。お前のやりたいようにやれ」


保坂「一対三とは卑怯にも程がある。そこの二人は俺にまかせろ!」


マキ「さっすが先輩!たまにはやってくれるじゃないですか!」



吉野「ユカちゃん。速攻でコッチを片付けるからそれまでお願い」


内田「心配しないで吉野!私は大丈夫だから!」


吉野「マコちゃん。ユカちゃんを守ってあげて」


マコ「おう!」

 



マキ「さぁって、みんなが来る前に片付けるかね!」


吉野「死ぬのはセンパイですけどね」




内田「マコちゃん!私の傍に来て!」


マコ「わかった!」


保坂「結界で俺の能力を防ぐつもりなんだろうが・・・如何せん遅かったな」


内田「!?」



保坂「スベテハアイノターメリック・ハラハラハラペーニョ」


保坂「ナカレチャヤダモン・シナモン・カルダモン」


保坂「出でよ!カレーの妖精!!」



妖精「ピギィーッ!」



マコ「うわぁああ!!なんだコレ!!?」


内田「嫌ぁぁあああ!!?」


   気持ちの悪い妖精だった。わかりやすく例えるなら、ぷっちょのキャラクターがA4サイズくらいになったもの。

   ただし、茶色くて臭くて、ウ〇コの妖精と表現するほうが的確だと思う。

   ソレらが三匹も足元から現れたのだ・・・・・。



内田「てゆうかコイツら!姿を消せたの!?」


保坂「南ハルカを想う気持ちによって、俺のレベルが少し上がったのだ」
 



保坂「因みにカレーの妖精達の脳りょ」


   ジャキンッ!!


内田「もうぶっ飛ばす!!」


マコ「おぉ!?」


   内田は腰から仕込み杖を取り出し、地面に結界を描き殴り始めた。


内田「マコちゃん!コイツらをあと少しだけ跳ねのけといて!」


マコ「やってみる!」


妖精「ピギッ!ピギィッ!!」



保坂「ムリカパプリカ・コリコリコリアンダー」


保坂「サクランシテサフラン・チョコットチョコレート・イマサラガラムマサラ」


マコ(今度は何を————)



保坂「नष्ट पाउडर(爆散)!!」


妖精「アディオス・オフタリサン」


   ズドォン゛ッ!!!!


マコ「ッ゛!!?」


内田「がぁ゛!!?」


   保坂が呪文を唱えた直後・・・・・カレーの妖精が、爆発した。



内田「っぐ・・・ぅ゛・・・!!」


マコ「っご!・・・ぁあ゛!!」



保坂「まぁ、爆発と言っても衝撃派程度だがな」


保坂「お前たちには十分な威力だろう」

 


マキ「おー派手にやってるみたいだねぇ」


吉野(マズイ・・・結界が切れた!!)



マキ「ユカちゃんの能力は消えちゃったかな?」


吉野「だったらどうしたって言うんです?」


マキ「別にぃ?私は私のやり方でいこうかな〜」


   少し離れた距離からそう言い、拾った鉄パイプをバットを振りかぶるような体勢で振りかぶる。

   狙いは公園に埋められた鉄製のポール。



マキ「っとォ!!」


   ドガァンッ!!!


吉野「・・・っ!」


マキ「やっぱ“逸らし”ちゃうかぁ」


   殴られたポールは地面のコンクリートからもげ、凄まじい勢いで吉野にかっ飛ぶ。

   吉野は寸でのところで氷の盾を斜めに形成して飛来物を逸らしていた。



マキ「どんどんいくよっ!!」


   バガンッ!ガンッ!バギンッ!!


吉野「チィ!」


   手当たりしだいに飛来する物体。その一撃一撃がマトモに喰らおうものなら即死するほどの威力。

   にも関わらず、飛来物に向かって斜めの氷盾を展開することにより、吉野は全てをいなした。

   飛来物は吉野の背後に位置するコンテナに突き刺さり、雷鳴のような轟音を鳴らし続ける。




吉野(ユカちゃん達を放置するわけにも・・・!)


吉野(一気に決める!)



吉野「踊りましょうよセンパイ!!」


マキ「こっちに来れるもんならねっ!!」


マキ「オラオラオラァッ!!」


   喰らえば一撃で肉体は粉々になるほどの威力。

   この尋常でない力こそが“鬼腕”と呼ばれるマキの所以。



吉野「しゃらくさいなぁ・・・!」


マキ「ははっ!!」


   だがそれらを全て払い退け、いなし、移動した痕には氷の残骸が立ち並ぶ。

   それはまるで、打ち砕くことの出来ない氷の要塞。“難攻不落”と呼ばれる吉野の所以であった。



マキ(もう懐にまで来るか!)


   ジャキンッ!


吉野「・・・!・・・」

   
   マコトに見せたと同じ氷の剣。だが今回は、人体を容易く貫けるほどにモース硬度を上げていた。

   素手で触れば凍傷を負ってしまうため、予め容易しておいた厚手の革手袋にてそれを掴んでいる。


マキ「ブチ折ってあげるよ!!」


   キィンッ!


マキ「ッ!?」


吉野「あはっ!」


   氷の剣で鬼腕の鉄パイプを受ければ折れてしまうことなど百も承知。

   マキ剣筋を見越し、即座に氷盾を斜に展開し受け流す。



吉野「死ねぇ゛!!」


   ブシュッ!!!


マキ「っう゛!!?」


   氷の剣先が目尻を浅く捉える。

   浅くであったからこそ出血するだけに済んだが、躱すタイミングが悪ければ目玉ごと抉られていただろう。
 



内田「っ・・・くぅ・・・!」



内田(さほどのダメージは・・・ない、かな?)


内田(もう一度、吉野に強化結界を————)


   ズドッ!!!


内田「うぶゥッ!??」


   保坂の蹴りが、内田の腹部に突き刺さり鈍い音を立てた。


保坂「何をしているんだ?」


内田「ッか!ん、ぁ゛・・・!!」
   

   能力とは関係ないただの蹴りにも関わらず、内田は腹部を抑えて身悶えする。口からは涎が滴り目からは涙が零れる。

   たかが小学生が鍛えている高校生の蹴りを喰らえばこうなることは当然であった。



マコ「内田っ!!お前やめろよっ!!」


保坂「卑怯な行いをしてまで、南ハルカを殺したいか。お前達は」


内田(も・・もういちっ、ど・・・強化を・・・!)


   ズドッ!ドゴッ!ゴスッ!!


内田「ぎゃっ!!があぁ!!」


保坂「答えろ!そうまでして殺したいか!?」


マコ「やめろ!!!」


   パンッ!


保坂「痛っ!・・・ん?」


保坂「なんだ?玩具かそれは」


マコ「ぅ・・・!」

 
   咄嗟に能力を発動したが、所詮はエアガン。

   保坂に効くはずもなかった。


保坂「初見だが、君も仇名すか」


   ドゴッ!!


マコ「ご!!?」


   サッカーボールを蹴り飛ばすように、マコトの頭部に保坂の蹴り的中する。

   マコトは数メートルも飛ばされ、衣服は擦れて削れていた。



マコ「が・・・ぁ・・・?」


マコ(しっ、視界が・・・覚束無い・・・)


   頭を蹴り飛ばされた衝撃で脳を思いっきり揺らされ、痛みよりも視界の揺れが先に走る。

   今や立つことすらままならないほどの威力であった。



保坂「俺は君たちを殺したくはない・・・」


保坂「だがマキを殺し、俺を殺し、南ハルカに辿り着くと言うのなら・・・容赦はせん」


内田「痛ッ!!い!!」


  保坂は内田の長い髪を掴み、無理矢理顔を上げさせる。

  能力者といえ、身体能力まで上がっているはずもない内田は、保坂の乱暴に抵抗する術を持ち合わせなかった。



保坂「本当に諦めると誓うなら、お前達をただで帰してやる」


保坂「しかし、次の返答次第では殺すことに————」


   ガシッ・・・!


保坂「・・・なんだ」


   己の裾に少しばかりの力が加わっていることに気付く。

   が、それは這いつくばった虫にも等しいマコトの手だと判り、さほど気にかけることはない。



マコ「うっ、内田をぉ・・・」


マコ「はな、っぜぇ・・・離せ、よ・・・!」


   息絶え絶えで、最早呂律が回っていない。

   それでも、内田への乱暴を止めようと、必死で保坂に喰らいついていた。
   

たばこ買いに行ってからまた描きます



マコ「はな・・・せ・・・屑っ、野郎が!!」


保坂「じゃあお前はなんだ?」


保坂「南ハルカを殺そうとするお前も!十分に屑だろう!!」



マコ「ハルカさんは・・・死んでほしくない・・・」


保坂「なんだと?じゃあその手はなんだ?何故しがみつく?」


マコ「内田から手を離せっつってんだ!!それだけだ!!!」


内田「マコ・・ト・・・くん」



保坂「離さなかったらどうする。お前に何が出来るんだ」


マコ「お前を、殺す・・・!」


保坂「・・・・・」


  吉野が持つソレとはまた違う。だが、明らかに殺意を持った者の目だった。



保坂「そんな能力でか?」


保坂「そんな武器一つで!お前に何が————」



   ズチュッ!!・・・・グリュ!



保坂「・・・ぁ?あ!?」


マコ「殺す!!つったんだ!!」


   ブシュウッ!!!


保坂「ぁ・・ぁがあ゛あぁあ゛あ゛ァ!!!!?」


   激痛が走る。その方向を見下ろすと、白いワイシャツに赤黒い血が滲んでいた。

   果物ナイフと見て取れるくらいの包丁が・・・腹部に突き込まれ、マコトの手によって抉り刺されれている。



マコ「武器が一つなんて、限らないだろ・・・!」


保坂「ぎィ゛ッ!!ぎゃぁあ゛あぁあ゛あ゛!!!!」


   事実、このナイフはマコトの能力じゃなかった。

   『自分の身は守れるように』と、吉野の助言に従い、待ち合わせ前に買った安物のナイフだ。


マキ「保坂先輩っ!!?」


吉野「余所見、ですか?」


   ズパンッ!!!


マキ「あ・・・?」


吉野「腕ぇ、無くなっちゃいましたね」


   互いに殺し屋でもなければ傭兵でもない。たかが能力が付与されただけの一般人にしか過ぎない。

   殺し合いの真下、余所見が命取りになるなんて素人でも分かりそうだが・・・・・身内の悲鳴に、振り返られずにはいられなかった。



マキ「ぎゃぁああっ!!?」

   
   氷剣の白刃によって斬り飛ばされた右腕。骨すらも絶たれた。

   だがその絶対零度によって瞬く間に両方の切断面が凍りつき、出血することはない。

   在るのは、能力に目醒めなければ今生味わうことがなかっただろう、想像を絶する激痛のみ。



マキ「ひっ!・・・ひぃいぎぃ゛い゛・・・!!」


吉野「警察沙汰は面倒なんで、魚の餌になってもらいましょうか」


吉野「チアキちゃんの治癒でも・・・回復不能なほどに、刻みますから」


マキ「やっ、め・・・・て」



吉野「腑ッ!!」


  左脇腹より右肩に、刃を反転させて頭部を横断、続けて左肩より右膝までと、絶え間ない斬撃を瞬時に繰り出す。


マキ「ッ!!が!!・・・ぁ゛・・・!」


吉野「死ィ羅ァ゛ッ!!」


   バスッ!ザンッ!!ズバンッ!!!   


吉野「破阿ッ゛!!!」


   絶え間ない連斬が終わった時、そこにマキはいない。

   細かく刻まれた人間だったものの断片だけが、凍りついたままゴトゴトと音を立てて転げ落ちた。
 



吉野「はぁ・・・っ!」


吉野(や・・・やった・・・!)


   少しばかり沸く慢心の創痍。

   それだけではなく、人を殺したという実感が胸の内を染める。



マコ「終わった・・・のか?」


吉野「終わった・・・うん、終わった・・・今回は」


   離れた場所から問いかけられた声に対し、想う気持ちを口にした。



吉野「終わったよ!二人ともっ————」


マコ「ん?」


   閉ざされた吉野の言葉に疑問を持った。何故、そこで区切られたのか・・・・・。



マコ「どうしたの?」






保坂「まだ・・・まだだ・・・!」





マコ「ッ!!?」


吉野「マコちゃん!!」


   マコトの背後に、血だらけで地に伏せていたはずの保坂が・・・今もう一度、立ち上がっていた。

   その手には、腹部に刺されたはずのナイフを握り締めて。



保坂「お前立ちを、行かせんッ!!」


保坂「ここで殺すッ!!」



マコ(やっ、ば・・・い)


保坂「死っ・・・死、ねェ・・・!」


   今にも振りかぶられそうなナイフ。

   鬼気迫る保坂の殺気に当てられ、マコトは立ちすくむことしか出来なかった。



吉野「逃げて!!早く!!」



保坂「遅ぃ゛!死ねェッ!!!」


マコ「っ〜〜!!」


   ガシィッ!!!


保坂「な・・・何っ!?」


マコ(これは、霧!?)


   目を凝らしてようやく気づけるほどの白い靄が保坂を包み、動きを封じ込めていた。



内田「कोहरा ताला बंधे(霧縛鎖)」


マコ「内田ぁっ!」


   己の口から漏れた吐血にて、地面に結界を描いていた。そこから霧が周囲へ流出。

   これは内田自身が初めて描く結界。たった今レベルが上がったことによって使用可能となった、新たな結界術である。



内田「吉野っ!」


吉野「おーけー!」


   右手を霧に翳し冷氣を通す。水分である霧ならばいとも容易く流せ、指向性も思うがまま。

   保坂の体内にまで冷氣が触れると、ビキビキと肉体を凍らせ始めた。



保坂「・・・あ゛・・・!!」


   更に、マイナス300度にまで達した肉体へ、比較的温かい冷氣を一気に流してやると・・・・バギィンッ!!!



内田・吉野『ミストブレイクッ!!』

   
   派手に音を立てて崩壊。保坂の肉体は粉々に砕け散る。

   それはまるで、紅色の花弁が舞うように・・・・・無数の花びらは・・・・・夜の海に消え去った。

 
   



—カラオケ屋—



吉野「シアワセをー掲げてー♪ドキドキたーの死んじゃーおー♪」


内田「経験値上昇中☆見ててねー♪」


マコ「ハイッ♪」



マコ「・・・って、何普通に歌ってんのさ」


吉野「とりあえず何処かで今後の作戦立てようって言ったのマコちゃんでしょ?」


マコ「だからってなんでカラオケ屋なの?」


内田「さっきは結構グロかったから気分戻そうかなぁって」


マコ「ああ、うん・・・それは同感だよ」


内田「でもさ!深夜にカラオケってイケナイことしてるみたいでドキドキするね!」


マコ(今更だろ・・・マジで)



マコ「でも俺、あんまりお金もってないよ?」


内田「あ、私もだった」


吉野「大丈夫だよ」


吉野「さっき証拠隠滅がてらに保坂さんとマキさんの財布もらっておいたから」ニコニコ

そんじゃまた明日描きますm(_ _)m


マコ「そこ・・・だよな」


吉野「うん?」


マコ「いや、俺・・・人殺しちゃったって・・・思うと」


吉野「・・・・・」ニコニコ



内田「マコちゃん!!」


マコ「あっ!違うんだ!吉野がどうとかじゃなくて・・・その・・・」


吉野「仕方ないよ。私は目的があってやったことだけど、マコちゃんは勢いだったんでしょ?」


吉野「実際は刺しただけだし、殺したのは私だけど・・・」


吉野「それでも思うことはあるだろうし悩むよね。やっぱり」


マコ「う・・・うん」



吉野「それより、ユカちゃん大丈夫なの?」


内田「さっきレベル上がった時に、軽い治癒結界使えるようになったから大丈夫だよ!」


吉野「本当?すごく助かるよ」



吉野「もしかしたらマコちゃんもレベル上がったんじゃない?」


マコ「どうだろ・・・」ジャキッ


マコ「あ」パチッ


内田「・・・もしかして、ソレ」


マコ「いや・・・ガスガンになっただけだった」


吉野「まぁ、成長してるんならいいんじゃないかな」




マコ「それより、ちょっとトイレに行ってくるよ」


内田「あっ、ジュースお願い!」


マコ「おっけー」ガチャッ



吉野「・・・ユカちゃん。ごめんね今日は」


内田「えっ?なんで謝るの?」


吉野「保坂さんに乱暴されてたみたいだし・・・痛かっただろうなって」


内田「うん・・・痛かったけど、マコちゃんが守ってくれたから大丈夫だったよ」


吉野「そっか。私からもマコちゃんにもお礼言わなくちゃだね」


内田「うん。マコちゃんも喜ぶよきっと」


吉野「それじゃあ私もトイレ行ってくるね」スッ


内田「すぐ戻ってきてねー」


吉野「わかったよ。ユカちゃん」ガチャッ



内田「・・・・・」


内田「・・・・・」



内田「あっ」

 
 





マコ(つーかミストブレイクってアレ、カオシックルーンだよな。大体合ってるけど)


マコ(いや、今はそれより・・・)


マコ(男子トイレに入るべきか、女子トイレに入るべきか)


マコ(本来なら男子トイレにすべきだが、この姿で男子はマズイような・・・かと言って女子トイレに入ったら逮捕モノな気がする)





吉野「あっ、マコちゃんだ」



マコ「」ビクゥッ


吉野「どうしたの?」


マコ「えっと・・・トイレに入ろうかなって・・・」


吉野「・・・・・」ニコニコ


マコ「入ろうかなって」


吉野「じゃあ行こうか」ガシッ


マコ(ちょっ!?)



マコ(あれ?中には誰も居ない・・・か?)


吉野「どうしたの?」


マコ「いや、その・・・」


吉野「・・・・・」ニコニコ


マコ(俺がトイレに入れば、間違いなく吉野もトイレに入る・・・)


マコ(音が聞こえるだけの状況だろうけど、それは流石にヤバイ気が)

 






吉野「トイレしないの?」


マコ「あぁ〜・・・うーん・・・・」


吉野「私ね、マコちゃんにお礼が言いたかったんだ」


マコ「えっ?」



吉野「私はユカちゃんの手を血に染めさせるようなことはしたくなかったの」


吉野「ユカちゃんにはサポートだけしてもらって、私が全部片付ける。そういう形式が望ましいと思ったから」


マコ(吉野・・・ちゃんと、考えてるんだ)



吉野「保坂さんが現れた時、もしかしたらユカちゃんが手を染めるかと思って・・・少し怖かった」


マコ「そうだったんだ」


吉野「でもね、マコちゃんが変わりにやってくれたから。お礼を言わなきゃなって」


マコ「うーん・・・素直に喜べないなぁ・・・」


吉野「ははっ、だよねぇ」


マコ「えっ?」



吉野「トイレに行くなんて、一人になりたいがための詭弁だったんでしょ?」


吉野「だからトイレの前で立ちすくんでいたんじゃない?」


マコ(ちょっと違うけど、間違いでもない・・・)



マコ「俺・・・俺は」


マコ「勢いで保坂って人を刺した・・・乱暴されてる内田を見たら、カッとなって」


吉野「うんうん」


マコ「でも、今になると・・・凄く怖くなってる・・・」


マコ「直接殺してないにしろ、刺したことが、一線を越えたような気がして」

 
 



吉野「私もねぇ、似たようなこと思ったんだ」


マコ「・・・吉野も?」


吉野「うん。マキさんを斬った時、殺した時・・・まず最初に、ようやく進んだ、これで南ハルカへ一歩近づいたって喜びが湧いた」


吉野「でもね、次には殺したんだぁって、“殺した”んだ・・・って」


吉野「胸の中に、何かが染まったような気がしたんだよ?」


マコ「・・・・・」


吉野「マコちゃんも、きっと同じような想いなんでしょ?」


マコ「うん・・・多分、同じかな」



吉野「私ね、ユカちゃんにはそんなことしてほしくなかったし、こんなことするのは私一人だけでいいと思ってたの」


吉野「・・・でもね、今は少し違うんだ」


マコ「え?」



吉野「殺してはいないにしろ、こうやって同じことをやってくれたマコちゃんがいる」


吉野「一緒だね」ニコニコ


   吉野は、心底から嬉しそうな・・・・・笑顔を浮かべていた。


マコ「一緒・・・って」


吉野「そうでしょ?共犯だね、私達」スッ


マコ「ちょ、ちょっと!?近いよ!!」


吉野「ふふっ、共犯って・・・いいねぇ」


マコ「よ・・・吉野?」



吉野「でも怖がらなくていいんだよ」


吉野「保坂さんはバラバラに砕け散ったし、マキさんは細かく刻んで今頃は魚の胃袋の中だから」


吉野「完全犯罪成立。私は捕まりっこないよ」ニコッ


マコ「吉野・・・」


   さっきよりも・・・・・怖くなった。

   なんで怖くなったのか、よくわからないけど。

 
 



内田「吉野!」ガチャッ


吉野「あ、ユカちゃん」


マコ「内田!」


内田「何やってるの二人とも!?」


マコ「何って———」


内田「トイレはそんなことする場所じゃないよ!」


マコ「いや、そんなってナニを」



内田「いいから離れてほらっ!」グイグイ


吉野「あーあ、イイところだったのになぁー」


マコ「何言ってんの吉野!?」


吉野「まぁいっか。部屋に戻って今後のことでも話そう?」


内田「そ、そうだね・・・」




・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

明日は休みだから徹夜でもう何人か死ぬまで描く!


吉野「とりあえず・・・今日は色々あったけどさ」


吉野「明日は普通に登校したほうがいいと思うんだ」


マコ「・・・高校生二人が行方不明になった翌日にサボリは怪しまれるってこと?」


吉野「うん。それもある」


吉野「けど、それ以上に私達三人は固まって動いたほうがいいと思うの」


内田「チアキ達は、相当に警戒してくるから・・・?」


吉野「そう」



吉野「日中や人目につく場所じゃ流石に襲ってこないだろうけど、夜になれば奇襲も有り得るかなって」


マコ「・・・・・」


   今頃になって、人殺しが如何にマズイことなのか、じわじわと実感が湧き始めた。

   普通の生活を当面送ることは出来ない・・・・・始まってしまった以上、終わるまでは。


吉野「・・・ごめんね、二人とも」


内田「気にしないでよ・・・吉野」


内田「こうなるんじゃないかなって、少しはわかってたもん」


吉野「ごめんね」


マコ「・・・吉野!」


マコ「こーいう時は“ごめん”じゃないだろ!」



マコ「“ありがとう”じゃないか?」



吉野「そっ・・・そう、かな?」


内田「うん!私は吉野にごめんって言ってもらっても嬉しくないんだから!」


吉野「そっか・・・ありがとね、ユカちゃん」


内田「えへへっ」



吉野「ありがとう。マコちゃん」


マコ「えっ?いや、俺は別に・・・」


吉野「男らしいね、マコちゃんは」ニコニコ


マコ「いっ、いや別に・・・そんなことないです・・・」



内田「よ、吉野!」


吉野「んっ?」


内田「えー・・・今後はどうするのかなって・・・」


吉野「そうだねぇ。恐らくは南ハルカのガードは固くなりそうなものだし・・・」


吉野「暫く様子見で」


マコ「えっ?そんなんでいいの?」



吉野「予想なんだけど、近い内にアッチから動きを見せると思うんだ」


内田「それってマズくない?」


吉野「さっきも話したけど、日中や一目のある場所じゃ襲って来ないだろうし、夜は三人で固まっておくか屋内で待機すれば大丈夫だよ」


吉野「ガードが堅い今突っ込むのは危険だと思うから、アッチが動いたらカウンターって感じかな」


内田「なるほど」


マコ(本当に・・・考えてるんだな、吉野)



吉野「じゃ、大体の話しも済んだし帰ろっか」


マコ「あぁ、そうだな」


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・




吉野「じゃあ、私の家ここだから」


内田「うん。また学校でー」


吉野「マコちゃん。ユカちゃんの見送りお願いするね」


マコ「おっけー。また後で」


吉野「おやすみー」スタスタ





マコ「・・・・・・」


マコ「なぁ、内田」


内田「・・・吉野のご両親のこと?」


マコ「・・・うん」


内田「お父さんは襲われてないから、二人で暮らしてるんだけど」


内田「少し気がおかしくなってるから、あんまり家に帰りたくないんだって」


マコ「そっか。キツイ、な」



内田「歩きながら話そうか」スッ


マコ「うん」


内田「その・・・お母さんが殺された時を私も見たんだけど・・・」


内田「本当に、消し飛ばされてたんだ」


マコ「消し飛ばされたって、一体・・・」


内田「音の無い魔法の爆弾を撃たれたっていうか・・・塵になってた」


マコ「どんな能力だよ・・・それ」


内田「私も・・・いや、皆だってハルカちゃんの能力については詳しくわかってないの」


内田「でも、アレはヤバイよ。本当に」


マコ「・・・・・」



マコ「思ったんだけどさ、なんで吉野のお母さんが被害に?」


内田「それは・・・」


内田(あれ?なんで・・・吉野のお母さんが?)


   ふと思い返すと、何故吉野のお母さんが狙われたのか全く検討がつかない。

   人格が目醒めたハルカちゃんは、その場に居た全員を振り切って一目散に吉野の自宅方面へ飛び出した。

   私と吉野が自宅に到着したと同時に、目の前でお母さんは消し飛ばされた・・・・・。




内田「わからない。アイツの目的が、全然わからない」


マコ「内田がわからないんじゃ、俺が考えても仕方ないか・・・」


内田「・・・うん」



内田「でも、殺された理由はわからないけど」


内田「吉野を元気付けてあげて・・・マコトくん」



マコ「出来るかな・・・俺が」


  正直、吉野を元気づける自身がない。

  トイレで言われた言葉。あの嬉しそうな表情。

  吉野の精神状況を深く考えれば・・・・・解らなくもないけど、このまま合わせる気になれなかった。



内田「カラオケ屋で仲良くやってたでしょ?」


マコ「仲良くってか、アレは・・・」


内田「そうだよ!そういえばあの時何やってたの!?」


マコ「何もないって!吉野がすごく近づいてきただけで!」


内田「うわぁ・・・女の子のせいにするんだ。マコトくん最低〜」


マコ「なんでさ!?」


内田「ってね、冗談だよ」クスクス


マコ「なんだよ、内田まで・・・」




マコ「あのさ、ちょっと本音漏らしてもいい?」


内田「いいけど?」


マコ「異常じゃないか?この状況・・・?」


内田「・・・・・」


マコ「人が死んだんだぜ?いくらアッチが俺達を殺す気だったとしても・・・・」


マコ「もう、生き返らないんだ」


内田「・・・私だってわかってるよ」


   目尻が少しばかり筋をなし、双眸を下に向けた時、音声には悲傷が混じっていた。



内田「事の大きさは、二人を死なせた後になってから・・・理解したよ」


マコ「内田は、吉野の前だから気丈にしてたのか」


内田「じゃないと、重荷になっちゃうもん・・・!」



内田「怖いんだよ」


内田「罪とか、捕まるとか、そういうことじゃなくて・・・!」


内田「ひっ、人を!殺したってことが!!」グスッ


マコ「内田。泣くなよ・・・」


内田「だって!誰かがやらなきゃいけないからって思ってたけど・・・」


内田「こんな風になるなんて思ってなかったもん!!」


マコ「っ・・・!」


マコ「俺だって、泣きたいよ・・・でも」


内田「うっ・・・ぅう・・・!」


   言葉にすると、真剣に向き合うと・・・・・涙が溢れて、躰が震えた。

   目線を上げると、マコトくんは表情を顰めているようだった。



マコ「でも、良かったよ」


内田「良かったって、何が」


マコ「内田が、ちゃんと現実と向き合っててくれたから」


内田「ん・・・?」


マコ「内田が言ってたように、吉野は少しおかしくなってると思うんだ」


マコ「いくら二人が敵だからって容赦が無さ過ぎる。人を殺してあれは、精神状態が普通じゃないよ」


マコ「内田は吉野を助けてあげたいんだろ?」


内田「・・・うん」



マコ「正直、内田までもが少しおかしい状態だったら・・・俺は、吉野を支える自身なんてこれっぽっちも無かった」


マコ「内田は道徳から外れちゃいない。俺もまだ、怖いことを怖いと思えている」


マコ「だから!俺たち二人がしっかりしてれば、ちゃんと吉野を支えてあげられると思うんだ!」


内田「うん・・・そうだね!」


内田「私達で吉野をちゃんと支えてあげよう!」


マコ「おう!」



マコ「あ、それと・・・吉野は、内田の手を血に染めさせたくないって言ってた」


マコ「一番危ないことはさせたくないってさ」


内田「吉野が・・・そんな風に」


マコ「実際、内田は誰にも危害は加えてないし」


内田「でも!やってることは同じだよ!」



マコ「多分なんだけど、内田に一線を超えさせないよう考えてるんだと思う」


マコ「罪だとかそんなんじゃなくて、内田だけは守りたいって心の底で思ってるんだ。吉野は」


内田「それって・・・」


マコ「吉野はきっと半分正常で、半分参ってる状態なんだ。だから俺たちが!」


内田「私達がちゃんと接してあげれば!」


内田「よしっ!今日から私は吉野にイケナイことと良いことをちゃんと伝えるよ!」


マコ「んまぁ・・・言い方にも機微ってものがあると思うけどさ」








アツコ「やっぱり、殺したんだ」








内田「アツコちゃん!?」


マコ「っ!?」


   内田の自宅前の屏に、背を掛けるようにして待ち構えた人物は・・・・・アツコさんだった。

   だが、それは俺の知っている人じゃない。双眸は光りと引換えたように虚無が澱んだ、全くの別人が佇む。




アツコ「殺したのね。マキを」


マコ(このタイミングで・・・!)


アツコ「誰が殺ったのか、答えてもらえるかな?」


マコ「・・・・・」


内田「殺し・・・って・・・」


   アツコの眼力に圧され、思わず目を反らしてしまう。

   人に指摘されると、自分のやったことの重大さが更に重く伸し掛る気がした

   殺したのは吉野かもしれないけど・・・・・私も同じことをやった



マコ「俺が、やりました」


内田「!?」


アツコ「・・・マコちゃんが?」


内田「私も!一緒にやった!」


マコ「おい・・・内田」



アツコ「私はね」


   チャキンッ・・・!


アツコ「真面目に聞いてるんだよ?」


内田(ここでやるつもり!?)


   明方の住宅街にも関わらず・・・・・能力を、抜き顕す。

   左手に瞬として漆塗りの鞘が握られ、右手ですらりと抜き放ったそれは、鍔の付いた日本刀。



マコ「動くな!!」


   ジャキッ!!


アツコ「それが君の能力、か」


マコ「動くなって、言ってるんだ・・・!」


   少し離れた位置から銃口を向けたにも関わらず、アツコは動揺する素振りすら見せない。

   それどころか、放たれるだろう弾道と交錯させるように、刀身を若干斜めに構えた。




アツコ「マコちゃん。君が本当にやったって言うのなら」


アツコ「ソレを降ろさないなら・・・」


   已然弾道に刀身を合わせたまま、ラインから外さないよう・・・・切先をマコトに正す。


アツコ「斬る」


マコ「っ・・・!」


   能力は剣術。具現化した刀を解き放てば、無意識に人斬りの術が己の躰を支配する。

   携えた刀は道具などではない。ソレは己の手先と同化するも然り、意と同じく動く掌の先端。


   人呼んで—————“一刀如意”のアツコ。



内田(こんなトコでやりたくないけど・・・迷ってる場合じゃない!)


内田「उद्देश्य बाधっ————」






速水「はーいはい。そこまで」






マコ(速水さん!?どこから現れた・・・?)


内田(不味い・・・また厄介な人が)



アツコ「速水、先輩」


速水「もう明方だよ?こんなところでやってどうするの?」


アツコ「すみません。つい・・・」
 




速水「ま・・・二人の様子を見る限りじゃあ・・・」


速水「殺ったのは吉野だね」


内田「・・・!・・・」



速水「マコちゃんの覚醒は恐らく昨日今日だし、その銃が本物かすら怪しい」


速水「ユカちゃんの能力は殺しに適してない。違うかなぁ?」


マコ(完璧に見破られてる・・・!)


速水「嘘を突き通したってよりは、吉野の盾になるつもりだったんだろーね」


速水「熱くなり過ぎだよ。アツコ」


アツコ「はい・・・」


速水「・・・マキを殺されたんだ。私だって気持ちは同じだよ」



速水「二人とも」


内田「・・・なんですか?」


速水「アタシ達はもう、吉野を殺すまでは止まれない・・・絶対に許さない」


マコ「・・・・・」


速水「今日の深夜23時。暮明峠の公園へ来るよう、吉野に伝えておいてくれるかな?」


速水「くれぐれも・・・チアキちゃんを呼ばないようにね」


内田「わかりました」



アツコ「一応言っておくけど・・・」


アツコ「あの子の盾になるつもりなら、命は無いものと思ってね」


マコ「・・・そのつもりです」

 

速水「じゃ、行こうか」


アツコ「えぇ」
 



—教室—


マコト「あ、おはよー」


内田「おはよぉ・・・マコトくん、寝れた?」


マコト「全っ然寝れなかった」


内田「だよねぇ。てゆうかあれから4時間しか経ってないし」


マコト「今日くらいさ、授業中寝てもいいよね」


内田「うん、私は寝るよ・・・もう無理」グタッ



吉野「おはよう、二人とも」


内田「おはよー・・・吉野、眠くないの?」


吉野「私は割と大丈夫かなー。ユカちゃん眠そうだねぇ」


吉野「マコトくんは寝不足じゃないの?」ニコニコ



マコト「あー、俺も・・・」



マコト「!?」


内田「マコトくん!!」


マコト「全然元気だよ!何言ってんだよ吉野!」


吉野「え?いやほら、マコトくんって概念になってるらしいからどーなのかなーって」


マコト「あ、あーそうか!」


マコト「オレ概念だけど前世から持ち合わせた忍耐力でどうにかなってるよ!余裕余裕!」


吉野「ははっ、そうなんだぁ」ニコニコ


マコト(ちょっと待て・・・『らしいけど』ってソレどっちの意味で)



マコト「あのさ、内田。どう思う?」ボソッ


内田「いっ、いやぁ・・・吉野だから気付いてないと思うけど・・・」コソッ


マコト「そっか・・・そう、そうだよな」



吉野「二人とも仲いいねぇ」ニコニコ



内田「吉野!そう言えば、昨夜の帰りなんだけど・・・」


吉野「何かあったの?」


内田「アツコちゃんと、速水ちゃんが現れて——————」



  ・

  ・ 

  ・



吉野「そっか・・・二人とも無事で、良かった」


内田「速水ちゃんも凄くおっかなかったけど・・・アツコちゃんは、かなり危ない感じがしたよ」


吉野「温厚なアツコさんが。珍しいなぁ」


内田「雰囲気が全然別人だったし、レベルが上がってるのかも」


内田「吉野が一対一で戦ったとしても・・・キツイかもしれないよ?」


吉野「んー、ちょっと考えようかな。場所は暮明峠だったね」



マコト「なっ、なぁ・・・興味本意だけど聞いていい?」


吉野「どうしたの?」


マコト「えっとほら、俺はマコちゃんに能力移っちゃったから戦えないけどさ」


マコト「アツコさんと速水さんの能力知りたいなー・・・なんて・・・」


吉野「まぁいいんじゃないかな?一応当事者みたいなものだしね」ニコニコ


マコト「うん・・・まぁ、当事者ですね」


 



内田「アツコさんの能力は“剣術”だよ。刀も呼び出すことが出来るみたい」


マコト「・・・なるほど」


内田「剣術って名の通り、技や動きが卓越してる相当な使い手だよ」


吉野「今までは峰打ちだったから、どこまでやれる人なのかよくわかんないんだよねぇ」


吉野「ま、いざとなったらユカちゃんにお願いするよ。治癒結界使えるようになったんだよね?」


内田「じわじわと回復する程度だし、チアキみたいには無理だよ?」


内田「・・・ていうか吉野。無茶だけはしないで」


マコト「俺も・・・無茶しないでほしいな」


吉野「ふふっ、わかったよ」ニコニコ



内田「で・・・速水ちゃんなんだけど、この人の能力がまた厄介なの」


マコト「どんな風に?」


内田「能力は“煙”」


マコト「煙?どんな能力なのそれ?」


内田「条件がかなり特殊なんだけど、煙草を一回吸う度に体を煙化出来るの」


マコト「なんだそれ!?」



内田「私達は見たことあるけど、一口吸う量によって煙化する時間が変わるね。長くても10秒程度みたいだよ」


内田「そして、煙だから一切の攻撃が通り抜けちゃう」


マコト「確かに、厄介だな」


内田「煙化してる間は拡散されちゃうから実質どこに居るのかわからない」


内田「だから再度姿を現した時にはテレポート状態なの」


マコト「でもさ、煙化してる間ってアッチも攻撃出来ないんだろ?」


吉野「うん。そうだよ」


吉野「多分だけど、攪乱役としてアツコさんをサポートするって感じじゃないかな」


また明日投下しますんでm(_ _)m



マコト「吉野、勝算ある?」


吉野「んー、多分何とかなると思う」


マコト「まじで大丈夫なの?」


吉野「大丈夫だよ。私、負けないから」ニコニコ



内田「そう言えばチアキ。今日来てないみたいだね」


吉野「警戒した証拠かな?」


マコト(俺は・・・チアキに何て言えば・・・)


内田「正直、顔合せ辛いなぁ・・・」


吉野「そうだねぇ」



吉野「まぁ、兎に角今は今夜に備えて休んでおこうよ」


内田「そうだね・・・・すごく眠いし」


吉野「うん。私も居眠りしちゃおっと」



マコト(全部が終わっても・・・チアキとは、もう・・・)




—深夜二十三時—



速水「おっ、来たか」



内田「・・・・・」


マコ「・・・・・」



アツコ「なんのつもりなの?」


内田「吉野はまだ来ません」


速水「はぁ?」


マコ「俺たちが相手って言ってるんです」



アツコ「・・・そう、それなら」


   チャキンッ・・・・・!


アツコ「五体満足で帰れないよ」


マコ「っ・・・!」


   本気で殺しに掛かって来る。

   威嚇ではなく射殺すような目付きと抜いた刀の切先を、アツコは二人に向けた。



マコ「内田!」


   ジャカカッ!!


内田「行くよ!!」


   仕込み杖と銃を、二人は同時に抜く。



アツコ(本当に二人だけ・・・?)





アツコ「吉野はその辺りから奇襲を・・・」


速水「かもね。それじゃ念には念を!」


   パンッ!


速水「っと!?」


マコ(外れたか・・・!)


   速水がライターを取り出した瞬間、マコのガスガンが放たれた。

   だが、マコの狙いは外れ、弾はライターに傍を通り過ぎるに終わる。



速水「ははっ、やっぱり玩具じゃん!」


速水「ライターを弾こうってのは悪くないけど・・・ヘタクソじゃあね」


アツコ「・・・呼びなさい」


マコ「・・・誰を」


アツコ「吉野に決まってるでしょ!!茶番なんて意味ないわ!!」


アツコ「あいつを殺して!マキの墓前に—————」


   カッ・・・カラッ・・・・・


内田「रक्षा उद्देश्य(対物防御)!」


   ジャリッ!シャッ!ジャジャッ——————キィンッ!


アツコ「!?」


速水(これは・・・防御結界?)



内田「गोद सीट(重ね掛け)!!」


   杖で地に手早く円陣を描き施した直後、二人を守るかのように光りの輪が浮かび出る。

   根本的な防御力が低い結界であるため、二重に結界を施した・・・・・その理由は。



内田「स्ट्रोक, सामने लाइन, सदमे, विस्फोटक लौ, हथौड़ा कांटा」


マコ(来る、来るっ!)


   カッ・・・カカッ・・・・・!


速水(ん・・・小石?どこから落ちて・・・)


アツコ「あくまで、私と殺ろうってことね」


アツコ「その程度で・・・!」


   一旦は抜いた刀を鞘に戻し、アツコは体勢を低く構え直す。

   渾身の一閃である居合斬りにて確実に切り裂くことを、意に現して。



アツコ「舐めるなァッ!!」



   ズドォオ゛ゥンッ!!!!



速水「ッ゛〜〜!!?」


アツコ「ッ————!!?」


   居合の一閃を見舞おうとした瞬間———————公園は、火の海に包まれた。


マコ「っう!!」


内田「く・・・!」




吉野「あははっ!舐めてなんかないのになぁ」


吉野「だから念には念を入れて爆撃してみたんですけどね〜」


   地の利を活かす作戦を立てた吉野。

   その内容は、公園の頭上に位置する崖の上から・・・・・・爆薬を投下するというものであった。



吉野「アツコせんぱぁーい、返事してくださいよぉ」


吉野「・・・死んじゃったかな?」


吉野「ま、いいや」



吉野「ユカちゃーん!大丈夫!?」


内田「だっ、大丈夫・・・だよ。結界を五重くらいにしといたから」


マコ「ふざけんな!死ぬかと思ったぞ!!」
 



吉野「ユカちゃんとマコちゃんを殺すようなことしないって」


吉野「ユカちゃんの重ね掛けは折り紙付きだからこその作戦だったんだよ?」


マコ「ああ・・・そうですか」


吉野「でも理科室の材料だけで爆弾って出来ちゃうんだねぇ」


マコ「確実に配分間違ったよね、吉野?」



内田「それより、あの二人は・・・?」


吉野「んー、流石に死んでると思うよ?」


マコ「・・・今の爆発で生きてるほうが不思議だろ」


マコ(ていうか・・・また殺した・・・)


   作戦を聞いた時から、結果として殺すことは理解していた。

   速水さんもアツコさんも、吉野を本気で殺しに掛かってきているから仕方ないと、理解したつもりだったけど・・・・・


マコ(また、殺した)


   頭では解っていても、心じゃ割り切れるはずがない。

   巻き上がる砂煙の中に、動いてくれる人影があればと・・・・・考えてしまう。



アツコ「・・ッぁ・・・ぐっ!!」


マコ「!!?」



速水「カッ!がはっ!!」


吉野(嘘・・・でしょ・・・?)


   次第に薄れる砂煙の中に・・・・・人影が、一つ、二つ・・・・・三つ、現れた。



 




チアキ「ここまで、やるのか・・・!」




マコ「チアキっ!?」


   三人目の人影は、どんな顔をして話しかければ良いのだろうと、思い悩んでいた友達・・・・・南千秋。

   チアキは、グチャグチャに崩れた二人の肉体を凄まじい勢いで再生していた。



アツコ「ぎぃ!?いぃい゛いああ゛あ゛っ!!!」


速水「ぉ゛・・あ゛!がっがぁあああ゛あ゛!!!」


   治癒能力とは即ち再生。

   即死寸前の昏睡状態から意識を取り戻せば、激痛が襲い来ることは当然である。



チアキ「ここまで無惨に!卑怯な真似をしてまで!躊躇いもなく殺すのか!!」


チアキ「吉野ッ!!」


吉野「酷い謂われようだなぁ・・・私」


   怒りだけじゃない。友が狂ったことに対しての悲しみを交え、目には涙を浮かべて激を飛ばす。

   それに対し吉野は笑みを浮かべたまま、心此処に在らずといった口調で冷徹に返した。



マコ「ちあき・・・」


チアキ「・・・マコちゃん」


マコ「おっ、俺!!俺は・・・!」


チアキ「嫌だ!!」


マコ「チアキ・・・?」



チアキ「なんで、なんで・・・っ!」


チアキ「マコちゃんは・・・そっちに、行ってしまったんだ」


マコ「・・・ぁ・・・っ」


 



チアキ「マコちゃん・・・」


チアキ「何で?」


   目にいっぱいの涙は頬を伝って、地面の土に吸い込まれ始めていた。

   問いに答えてあげたいのに・・・・・言葉が、詰まる。



マコ「なんでって、俺は・・・」


マコ(・・・あれ?俺、なんで吉野達の仲間に)


   事情を訊いて同情したから?殺人鬼と化したハルカさんを殺すのは理に適っていたから?



チアキ「ごめんよ、マコちゃん。答えにくかったろう?」


チアキ「でも、もう一つだけ、聞かせてくれ」


マコ(俺・・・は・・・)



チアキ「私が最初に、助けを求めたなら」


チアキ「私を助けてくれたか?マコちゃん」


マコ「・・・俺は!!」






吉野「マーコちゃんっ」


マコ「・・・吉野」



吉野「ちあきぃ、くだらない心理戦なんてやめてよぉ」


チアキ「吉野・・・!」


   心此処に在らずの笑みではない。

   奪われそうにことへの怒りを混じえた卑屈な笑みは、迸る程の殺気を放っていた。



吉野「あんまり割って入るようならさ・・・」


吉野「殺しちゃうから」

 
 



速水「っ・・ぐ・・ぅう・・・!」


アツコ「かっ!はっ・・・は、ぁ!」


アツコ「こっ、殺す・・・!」


   内臓器官まで修復を終え、剣を杖変わりに支えとし立ち上がった。

   一度はほぼ死んだ状態からの苦痛に耐え抜き、目には憤懣と涙を滲ませたまま。



吉野「ちぇ、やっぱ殺んなきゃいけないかぁ」



吉野「マコちゃん」


マコ「吉野・・・俺も・・・」


吉野「ううん、いいよ。チアキの前じゃ戦いにくいんでしょ?」


マコ「そっ、それは・・・!」


吉野「無理しなくて大丈夫。そんな状態で戦っても怪我するだけだから・・・でも・・・」




速水「っァ、ああ゛ッ!!」


速水「もぉー許さねえ゛ェ!!吉野ッ!!」



内田(殺らなきゃ・・・殺られるっ!)


内田「吉野!構えて!!」



吉野「でも・・・」


   いつもの笑顔とはまた違った笑みが垣間見える。

   その表情で伝わった。吉野はきっと・・・俺が、裏切らないと思っている。



吉野「いざって時は、助けてくれるよね?」

 



アツコ「チアキちゃん、煙草を」


チアキ「ちゃんと持ってきてる。使ってくれ」


速水「あっ・・・ありがとね」


   先程の爆破で煙草もライターも消し飛ばされた速水は無力も同然となる。

   だが、念の為と治癒を考慮していたアツコの算段によって、それは起算された。



速水「アツコが呼んでたの?」


アツコ「先輩まで死なせたくなかったから・・・一応」


速水「ははっ、杞憂に終わらなかったのが痛いねこりゃ・・・だが・・・」


速水「これで殺せるね」


速水「チアキちゃんは下がってな」


   ボッ!  ジッ!・・・チチッ・・・!



吉野(速水さんは大したことない。アツコさんだけ注意してれば大丈夫かな)


吉野「ユカちゃん!お願い!」


   肺に紫煙を溜め込む速水を視界に捉えつつも、正中に置くはアツコの剣。

   まともに殺りあえば勝ち目が無いと熟知しているほどの剣鬼・・・ならば

   

内田「बढ़ी होश(五感強化)!」


   キィィインッ!!


吉野「よしっ」


吉野「殺りましょうか。アツコ先輩」


   氷剣をひらひらと回し、挑発を促した。

   あの厄介な刀さえ封じてしまえば簡単に殺せる。五感を強化したこの状態ならいとも容易い。



もう少しがんばるよ・・・!



アツコ「そんな脆い剣で・・・笑わせ・・・」


   踏み込むよう前傾に体を崩す。

   かろやかに、猫のように伏せるかのようにふらりと・・・・・最早、そのまま地へ倒れるのではないかと思うくらいに。




アツコ「る!なッ゛!!」


   ゾンッ!!


吉野「!?」


アツコ「死ね」


   跳躍するかのような踏み込みは、凄まじい音を立て土を砂煙に変えていた。

   一瞬にして間合いを詰め込まれ、刀の間合いに・・・・・疾い。あまりにも疾過ぎる。


吉野(やっ・・・ば・・・!)


   ガギィンッ!!! ギッ・・・ギィ・・・!


アツコ「チィ!」


吉野「っつ・・・ゥ!」


   寸でのところで氷壁を生み出すことに成功。反射神経を強化していなければ確実に斬られていただろう。

   氷の厚みは三十センチ強であるにも関わらず、白刃は半分以上にまで進入していた。


   だが・・・・・これこそが、吉野の狙い。思惑に嵌れる




吉野「縛ッ!!」


アツコ「!!?」


   氷を操るイメージを拡大するかのように、空いた左手で印を結ぶ。

   刀身を掴んだ氷は凄まじい速さで侵食を開始した。急激な冷氣がアツコを襲う。


アツコ(くっ!一旦離れないと————)


   グッ・・・! ガチィッ!!


アツコ「なぁっ!?」


   手の自由が効かない・・・・いや、これは・・・・・!



内田「कोहरा ……ताला बंधे(霧、縛鎖)」


   薄い靄が今や上半身全てを包もうとしている。

   力で解こうにも、女性がどうこう出来るレベルではない。


アツコ(不味い!マズイマズイっ!!)
   

   思考が回るほどの時間があれば刀は瞬時に冷え、ビキビキと氷が鍔にまで伸びる。

   鍔より淵、柄巻より頭、そして仕手であるアツコの掌にまで氷が張り付き・・・・・。



吉野「逝(凍りつ)けぇっ!!!」



   ボヒュンッ!



吉野「え!?」



アツコ「っわぁ!!?」


速水「危っなかったね〜」



内田(速水さんの能力・・・レベルが上がってる!?)


   手を被っていたはずの氷塊は、すっぽりと腕の跡だけが空洞として残っている。


アツコ「た、助かりましたぁ・・・!」


   煙状から実態化した速水の腕がアツコの腰を触った瞬間、アツコ自身も煙化して宙を舞う。

   煙になった二人は、吉野の射程を離れて再度元の姿へ実態を成し着地していた。



吉野(仕留めたと思ったのになぁ・・・これは厄介だね)
 

ねる!明日はペース上げますm(_ _)m



速水(さて、どうしたもんかね・・・)


   先程の殺り取りを見る限り、近接戦闘はアツコが上。

   だが、吉野の能力は応用性が高く、小細工を弄されると五角かそれ以下。



アツコ「・・・次は、仕留めます」


速水「少し、冷静になったほうが———」


アツコ「・・・・・」


    シッ!ィンッ!


アツコ「ふぅ・・・っ」


   雑念を払うかのように、連続して刀を祓う。

   白刃の先端は風斬り音を鳴らし、己が仕手の心を充足させた。


アツコ「大丈夫・・・今なら・・・」


アツコ「斬れます」


   再度構えを直すと同じくして鍔が鳴る。

   怒りは激ったまま、だが邪気は祓い、型を成す姿とその刀は一刀如意。


   その剣鬼たる姿を捉え、吉野は殺気の漲りように気がつく。

      

吉野「へぇー、雰囲気変わるもんだなぁ」


吉野「けど、アツコ先輩・・・その程度で・・・」


   パチ・・チッ!チ゛!!  バチ゛チ゛ィッ!!
   

吉野「殺れるだなんて、笑わせるね・・・!」


   当てられた殺気を打ち消すかのように、冷氣が周囲の空間へと充満する。

   急激な冷気が辺りに立ち篭め、ダイヤモンドダストが乾いた音を鳴らした。



アツコ「じゃあ笑ってなよ。すぐに首を落としてあげるから」


アツコ「幸せなまま死ねるだなんて素敵でしょう?」



吉野「幸せに死ねるのはアナタですよ」


吉野「大好きなマキさんの後を追えるんだから、ね」



内田(速水ちゃんのサポートが入らなければ、吉野は必ず勝てる)


速水(ユカちゃんの五強結界さえ絶てば、アツコは必ず勝てる)



内田「吉野!速水ちゃんは私が止める!」


吉野「お願い!」



速水「アツコ!こっちは私がやる!」


アツコ「頼みます!」



   バギギィンッ!!!



アツコ「・・・っとぉ」


吉野(カンがいいなぁ)


   地を這わせた冷氣がアツコの足元で炸裂・・・!

   だがしかし、勢い良く反り立つ氷塊の魔の手から、地を蹴り飛ばし逃れ出る。



アツコ「遅いね。その程度なの?」


吉野(氷塊の発生速度じゃ捉え切れない・・・?)


吉野「なら!!」


アツコ「!?」


   まさか、吉野本人からコッチに飛び出して来るなんて・・・・・

   近接での冷氣が如何に強力であろうとも、撃たれる前に斬り飛ばすくらいは造作もない!



アツコ(馬鹿め・・・!)


   この状況化で奴が私に勝つ方法があるならば、私の刀を氷壁で包むこと。

   ならば必ずと言って言いほどの確率でぶ厚い氷壁を張るだろう・・・・・だが。


アツコ(今の刀の!今の私の冴えならば!氷ごと奴を斬り裂く!!)


アツコ(胴体をまっ二つにね!!)



吉野「フゥ————ッ・・・!」


アツコ(来い・・・来い!来いっ!)


   刀の間合いまで三メートル。

   この殺陣領域に入った瞬間・・・・・!



吉野「ッア゛!!」


   バギギィッ!!ビギッ!ギィイ゛ッ!!!


アツコ「なっ・・・!?」


   吉野は間合いに入る手前にて、地面へ向けて双打を撃ち放つと・・・・・それはまるで氷の要塞。

   アツコを囲むようにして四方の氷壁がバキバキと音を立て反り立つ。



吉野(捉えた!このまま閉じ込めて・・・!)


吉野「逝ぃいい゛いっ!けェ゛!!!」


   ヒュィンッ・・・・・! 


アツコ「脆い、よ」


吉野「えっ?」


   まさか・・・・・あの密封に近い空間で、氷壁を乱雑に斬り砕くなんて。



アツコ「ふッ!!」


   密封に近い氷壁空間にてしなやかな体捌きにて刀を振るったかと思えば、ガラスを破り割るかのように宙へ飛ぶ。

   その跳躍は吉野の頭上にまで辿り着いた・・・・・!



吉野「ぅ・・・あぁ゛あッ!!」


アツコ「死ィ゛ッ!!!」


   キィンッ・・・・・ブシッ!



吉野「ッか・・・ぁ゛!?」


   刃が迫る寸での所で氷塊を生み出すことには成功・・・・・だが、強力な硬度を持たせたそれですらも断ち斬られた。

   頬より鎖骨、更に肋骨から太腿までを切り裂かれ、刃には返り地が滑り付く。
   




吉野「いぃ゛!ぎィ゛っ!!」


   ブシッュ!・・・・・ボタッ・・・ビチャッ・・・!


吉野「ぅう゛う゛ぁ!アァア゛ッ゛!!!」


   斬られた・・・・・血・・・これが、血。


   在るのはパックリと割れ目の入った箇所から吹き出る痛みだけ。

   まるで、裂かれた裂傷は極細のバーナーで炙り続けられるかのような、断たれた骨は万力で潰されるかのような激痛。  



アツコ(少し・・・浅い?)


吉野「が・・ぁ゛!・・・ううっ!!」


   痛みにもがき苦しむ吉野の姿を余所に、斬り裂いた感触をまじまじと実感する。

   初めて人を斬った手先から心臓へと、未知の躍動が騒めく。

   その一方で、狙いよりも少し刃が浅く裂いた感覚が己の不手際を叱咤する。



吉野(あ・・危なかった!)

 
   発動が間に合った氷塊を斜めに展開した功労により、剣撃を僅かながら逸らせていた。

   あと僅かにでも硬度が足りていなければ、角度を誤っていれば・・・・・背骨まで刃は及んでいただろう。

   


吉野「ぐ・・・っゥ!?」


吉野(動け、ない・・・?)


   どうにか立ち上がろうとするも、痛みでまともに動けたものではなかった。

   これほどの激痛であれば当然のことかもしれないが、眼前の敵はその隙を逃してくれるような奴じゃない。



アツコ「ふっ、様は無いね。吉野」


アツコ「あの世でマキに・・・土下座してきなさい」



吉野(動・・・け!動け!!動けッ!!動けぇええっ!!)

 




マコ「吉野!!」


内田「吉野ぉ!!」



速水「はっ!よくやったアツコ!」


速水「トドメ刺しちゃいなっ!」


   煙化にて相手の死角に回り、実体化した瞬間には攻撃を繰り出す速水。

   地に足を付かない移動方法にて防御結界は無意味。分子単位の煙であることから霧縛鎖で捉えることは至難を極めていた。



内田「いい加減に退けっ!!」


   ボゥンッ!!


速水「っとぉ!残念!」


   己の五感を結界で強化しているが、それでも体術で速水を撃ち落とせない。

   実態化の際は死角である上空、背後、真下のランダムより襲いかかられ、防御を経て攻撃体勢に移る時にはフィードバックしている。



速水「残念だけど吉野は諦めなよ。そうすりゃユカちゃんは無事さ」


速水「吉野が死ねば、アンタの目的は無くなる・・・でしょ?」


内田「こっ、のォ゛・・・!」


   速水の温情などは罵倒にしか聞こえず、現実敵に吉野の死をイメージしてしまった。

   普段からは想像も出来ないような形相・・・・・それは最早、鬼を連想させる程に殺気で溢れかえっている。



内田「そんなわけない!!その時はお前らみんな殺してやる!!」


内田「吉野を殺ったら・・・全員・・・全員ッ!!皆殺しだ!!」





速水「んなことぁアタシを倒してから言うんだね!アンタの能力じゃ誰一人殺れやしないさ!」


内田「っ〜〜!!」



内田「マコちゃん!!吉野を早く助けて!!」


マコ「今すぐっ————」


   ・・・パシッ


チアキ「・・・・・・」


   死闘に割って入ろうと走り出した俺の手を、チアキは弱々しい力で握り止めた。



チアキ「お願いだ・・・いかないで・・・!」


マコ「チアキ!俺は吉野を!!」



チアキ「もう嫌なんだ!!もう見たくない!!」


マコ「・・・吉野が死ぬのは、見てもいいのか」


チアキ「吉野が、吉野だけが居なくなれば・・・」


チアキ「この火種は無くなる・・・!」


マコ「マコちゃんや内田に死んでほしくない!!そんなところ見たくないんだよバカ!!」





マコ「嘘、だな」




チアキ「う、嘘・・・?」


マコ「ハルカさんを止めない限りは死者が出続けるんだろ?それはどうすんだ?」


マコ「内田の声を聞いたか?あれが本気じゃないように思えるか?」


チアキ「・・・あ・・ぁっ」


   冷徹なマコの目・・・・・叱咤するかのような眼光がチアキを射貫く。

   自分の言っていることの愚かしさには気付いていた。我侭をそれらしい言葉と感情で塗りつぶしていたこと。

   今や、咎められたかのような心境の圧迫、怯えに近い感情が生まれている。
 

これみなみけである必要ある?



吉野(うご・・けぇっ・・・!)


アツコ「もっと苦しむ様を見ておきたいけど・・・速水先輩の言うとおり・・・」


アツコ「もう、殺しておこうかしら」


   頭からまっ二つに斬り裂くるつもりなのか、構えを上段に移す。

   その刀身には、気魂の一閃で必ずや斬ると言わんばかりの鋭い殺意が込められていた。


吉野「っ〜〜!!」


   冷氣にて裂傷をフローズン程度に凍らせ出血を抑える。だが、それで痛みが収まることはなかった。

   死を目前とした緊迫がアドレナリンを放出させる。強烈な痛みはじわりと落ち着くも、平常時と同様に動けるはずがない。




アツコ「死ィ゛ッ—————!!!」



   ジャキッ!!



マコ「動くなッ!!!」


吉野「マコ・・・ちゃん・・・・」


   右手の人差し指で引き金を、反動を制御するためにグリップを挟む左手。

   やや前傾に向いた上身、足首の角度、地に付けた位置。

   これが、己の体にベストと言える撃ち方を追求した最後のスタイル。



アツコ「・・・・・」


   銃口を向けられたことによって、刀の走りを思わず止めた。

   一度は射出されたチャチな弾を見たはずだが、それでも・・・・・動けなくなってしまう程の圧力がそれに或る。



速水「余計な足掻きはやめなよマコちゃん」


速水「そんな玩具でどうするって?」


マコ「アンタも動くな。動けばアツコさんは殺す」


速水「おいおい!くだらない冗談なんざー———」



マコ「誰も、動くな・・・!」



アツコ「・・・本物なんだね。その銃」


速水「なっ!嘘でしょ!?」


   ガスガンの時とは違う、鈍く冷えきった光沢。

   何よりもマコがサイトを合わすその眼光こそが、殺気こそが、これは人を殺す道具だと顕著にしていた。



内田(レベルが上がったの・・・!?)



マコ「誓え・・・俺たちに二度と関わらないと」


マコ「そして、これ以上何もせず立ち去るなら・・・俺は誰も殺さずに済む」


   殺し合いを目に焼き付けて、想いを確立した今だからこそ、己の手に顕れた拳銃・ベレッタM92F。

   9mmパラベラム弾がマガジンと薬室に総計十六発。


マコ「頼むから・・・殺させないで・・・!」


   総重量は1kgと少し程度だが・・・・・重い。

   構える理由でこれ程までに重いモノだとは、思ってもみなかった。




アツコ「銃を向ける理由は何?」


アツコ「刀を振る私も、銃を向けるマコちゃんも・・・何も変わりやしないでしょ」


マコ「・・・・・」


チアキ「・・・もう何も、言わなくていいよ。マコちゃん」


チアキ「私は嘘をついた」


チアキ「大事な人を守りたいから牙を向ける。それだけさ」


チアキ「ハルカ姉さまを守りたいから、それらしい言葉で引き込もうとしただけなんだ」


   いつになく澱んだ瞳孔で、目を合わせようともせずに言葉を吐き捨てる。



マコ「チアキ」


チアキ「だからもう、マコちゃんは思う通りに・・・するといい」
 



マコ「違う・・・そうじゃない。そうじゃないんだ」


マコ「俺は、助ける」


マコ「ハルカさんを殺すことで、みんなを“助ける”んだ」



チアキ「馬鹿を言え!ハルカ姉さまが死んで・・・“助ける”だと!?」


チアキ「ふざけるなっ!!」



マコ「少なくともハルカさんを殺せば、こんな争いは二度と起きない」


マコ「ハルカさんだけなら、最小限で済むだろ・・・!」


マコ「今みたいに無駄な血は流ない!何人も死なない!!違うか!!?」


チアキ「っ・・・!」



アツコ「・・・言うね。マコちゃん」


アツコ「それを食い止めようと立ち塞がる私たちは?被害者にカウントされないのかな?」


マコ「立ち塞がれても、出来る限りは躱して進むつもりだ」


マコ「だけど、対峙をま逃れない状況になれば・・・殺してでも進む」



マコ「殺される覚悟が在るとみなす・・・後悔よりも、死を選んだものと」


アツコ「今がその時ってことかしら・・・?」

 
   殺気は先程の位置から相違しながらも、已然として刃を吉野から背けようとはしない。



マコ「アンタがそのつもりなら・・・そうなんだろうよ!!」



>>130
ないない(笑)
みなみけにした理由は大人が死ぬよりも子供のほうがいいかなーって。

あと、あやめの練習台的な。



アツコ「ちッ・・・!」


   間違いなくあの拳銃は本物だ。威力だって人を殺せるのだろう。

   私が吉野を斬りに掛かれば・・・・・確実に撃たれる。



アツコ(引き金よりも疾く、刀を振るえば・・・問題ない)


   自分の生き死になんて元より興は無い。

   マキの仇さえ討てれば、吉野の首を落とせれば・・・・・銃弾が心臓を抉ろうとも・・・・・私はそれで構わない!



アツコ(・・・さよなら、速水千先輩)


   キンッ・・・!


マコ(殺る!!)


   鍔が鳴る音が、“撃て”と己の本能へ告げたと同時・・・・・引きしろの無い指に力が篭る。



速水「アツコッ!」


   ボゥンッ!!


アツコ「!!?」


   バァ゛ンッ!!!


内田「な・・・っ?あ!?」


マコ(いつの間に!?)


   舌打ちするアツコの様子で不味いと察知した速水は、焦りつつも暗に煙化しマコの死角であるアツコの背後に実体化。

   強烈な銃声が木霊するコンマ数秒前にて、アツコを煙化させ逃げ仰せることは叶った・・・・・だが、しかし。





速水「クソッ!」


   煙草を吸う量はほんの僅かでしかなかった。先程の位置より数メートル離れた場所で再度実体化してしまう。

   多量吸えば煙化で遠くまで移動出来たが、あの一瞬での吸量ではこれが限度だった。



速水「逃げっ————」



   バァ゛ンッ!!!



アツコ「ッが゛!!」


速水「・・・ぇ?」


アツコ「かっ・・・ぁ゛!?うぐぅ゛うぅう゛う゛!!!」


   実態化するまでマコの姿を視界に捉えたままだった。

   そして、実態化してより照準を合わせに掛かる速さが並みのものでないと、解った瞬間。


   先輩を死なせたくなかったから・・・・・立ち塞がるように、身を投げ出して、銃弾の的となった。



速水「アツ、コ・・・?」


アツコ「ぉ゛・・ごふっ!!ぶぇっ!!」


   ビチャ・・・ボタッ・・・・ベチャッ!


速水「アツコ!!アツコっ!!?」


   撃たれた場所は・・・・・肺かな・・・・・吐血が、こんなに出るなんて。


アツコ(あ・・・れ?)


アツコ(速水先輩なんて言ってるのか、よく聴こえない・・・よ)
   

速水「アツコっ!!なんで!なんでっ!!?」


アツコ(動き回ら、ないでっ・・・先輩・・・弾が、飛んでくる、から)


アツコ(守れ、ない・じゃない・・・です、か・ぁ)


   両手で握った刀を地に突き刺し、鍔を支えとし、決して崩れ落ちることはない。

   胸からは鮮血を流し、意識は朦朧としているにも関わらず。


アツコ(先輩は・・・死なない、で・・・・・・)

   
   血を吐き、立ち尽くしたまま・・・・・・アツコは、速水を守るようにして死んだ。
 


速水「チアキッ!!早く!!早く治して!!」


チアキ「っ・・・!」


   治癒に向かうと判っていても、三人はそれを止めようとしなかった。

   吉野でさえ、それを止める気にならないのは・・・・。



内田「吉野、治癒結界を・・・」


吉野「あ・・・う、うん」


内田「संक्रमण(転移)…हीलिंग(治癒)」


   ィィイインッ・・・・・!


吉野「ありがとうね、マコちゃん」


マコ「お礼を言われる気分じゃ・・・ないよ」


吉野「そっか・・・」


   吉野の傷は目に見えて修復されているとは言えない。内田の結界術は時間が掛かる。


   その一方で、チアキの治癒能力は驚異的な効力を見せる。



チアキ「・・・!・・・」


チアキ(・・・あ・・・れ?)


   怪我はみるみると修復されるも、何か違和感を感じた。


速水「あぁ・・・良かったぁ・・・!」


速水「アツコ!アツコっ!起きなっ!」


チアキ「・・・・・」


速水「おーい、アツコ?」


チアキ「速水ちゃん」


速水「おい・・・おいって!アツコっ!!」


チアキ「アツコちゃんは、もう・・・」


   傷は修復しても、息をしていない。

   もう此処に、魂は無かった。


速水「アツ・・・コ・・・・・」

原作かアニメ見たことある?

>>139ヤンマガは毎週読んでるよ!



速水「起きて・・・起きてよ。アツコ」


速水「ねぇ、怪我治ったじゃん・・・ほら」


チアキ「もう・・・やめてくれ・・・!」


   死んでいるのは誰の目にも明らかなことなのに、それでもアツコを揺さぶって起こそうとする。

   その光景があまりにも痛ましくて、目を反らしたまま速水を静止しようと声を掛ける。


速水「早く、早く帰ろうよ・・・アツコ・・・」


   だが、そんな声は聞こえるはずがなかった。



吉野「・・・・・」


マコ「吉野」


吉野「あっ・・・え?」


マコ「もう、帰ろう」


内田「私も・・・それがいいと思う」


  これ以上痛ましい光景を見たくないこともあったけど、吉野が速水に手を掛けるのではないかと思ったこともある。

  兎に角は、ここから離れることが先決だ。


吉野「・・・うん。そうしようか」


内田「吉野・・・立てる?」


吉野「まだ痛いから、キツイかも」


マコ「それならもう少し傷が塞がってからでも—————」



   チャキンッ・・・・・!



速水「誰が・・・帰すなんて言ったよ・・・?」


   地に突き刺されたままの刀を手に取った速水。

   首をねじり視線を背後に向け、マコと吉野を見据えていた。
 



吉野「へぇ〜、そんなに死にたいんだぁ。速水先輩」


吉野「お望みならお二人の後を追わせてあげますけど?」



速水「くっ!か・・・カカッ!」


速水「あっははっははは!!」


   挑発の口上を、奇声の混じった笑い声で打ち消す。



マコ「ちょっと待て・・・あの刀、なんで消えてないんだ?」


内田「まさか・・・!」


   刀自体はアツコの能力によって生み出されたモノ。

   しかしその実、刀はアツコが死に際に残した最後の力。能力の結晶体となって、速水の手の中に存在した。



速水「ゲェ゛ーハッハハハァ゛ア゛ア!!!」


   柄を握った手はガタガタと怒り振るえ、目からは赤い涙が頬を流れる。

   マコと吉野をギラギラと見据える眼光は、もはや人のソレではなかった。
      


速水「聞こえる!伝わるよ!!アツコ・・・!!」


速水「アイツらを殺せばいいんだろ!?仇を討ってほしいんだろう!!?」


   能力の結晶体であるだけであって、アツコの魂など微塵も残ってはいない刀に喋りかけている。

   速水はもう、正常な思考を保ててなどいない。



吉野「・・・・・・」


速水「いひっ゛!いーひひぃいっ!!」


速水「大丈夫だよアツコ。すぐにアンタの想いを叶えてあげるから!」


速水「この手で一緒に、あの餓鬼共を膾にしてやるからさぁ゛ッ!!」

 

   



吉野「じゃ・・・死んでください」


   バギギィッ!!


速水「!?」


   重傷でマトモに動けないとは言えど、能力は辛うじて使えるほどの状態。

   既に速水の周囲へと地より冷氣を這わせ、氷壁を四方から出現させ密封した・・・・・が




速水「先ずはお前から!!」


   シュパンッ!!   ピシッ!パキンッ!


吉野(なっ!?)


   鋭過ぎる程の剣光が走ったかと思えば、一瞬で正面の氷壁を斬り砕かれていた。

   この卓越した剣技・・・・・まさしく、アツコのそれと同じものである。     


速水「殺してやらァ゛!!!」


   バァ゛ンッ!!!


速水「・・・危ぇなぁ、オイ」



マコ「!!?」


   斬りに掛かった瞬間、マコは照準を即座に合せ引き金を引いた。

   だが・・・・・銃口が己の向いたと同時、速水はノーモーションから煙化して、弾道から離脱する。



内田(そんな!煙草を吸う素振りはなかったはずなのに!?)


速水「くっ!カカッ・・・!」


速水「レベルが上がったくらいで驚かなくてもいいだろ?」



速水「この憎しみが、アツコの無念が、私に・・・力をくれたのさ・・・!」


速水「お前達を殺すための!!力をなァ゛!!!」



吉野「ッ・・・!」


   煙化による攻撃の無効化、更に卓越した剣技。

   この二つが合わさったとなれば、凄まじい威力を発揮することが目に見えて・・・・・焦燥が纏わりついた。
 


マコ「内田!吉野を頼む!!」


   チャッ・・・・・!


速水「!!」


   銃口が向いた先は己の額。その照準を合わす動作の速さは正に射手。

   煙化で躱す他無いのは目に見えているが、煙に変わるまでの僅かなロスタイムが、それは実現不可であると悟らせた。



マコ(・・・仕留める)


   バギィ゛アンッ!!!


速水「フゥ—————ッ・・・!」



マコ「っ!!?」

  
   刃と銃弾がぶつかり合う音に銃声が混じり、甲高くけたたましい音響が木霊した。否、それだけではない。


速水「やれば、出来るモンだね」


   弾道を、弾頭を、人である以上は視認することなど不可能。だが、凶弾はまごうことなく其処に“在る”。
   
   目の色彩に映らずとも確かに在るのならば、打ち払えぬ道理はないと・・・・・速水は実現してみせた。




速水「腑ッ!!」


   ヒュ—————パァンッ!!!


吉野「なっ・・・!?」


   銃弾を払い落とした際の一閃は、当然ながら音速を悠に越えている。

   その感触を思い出すように、手に馴染ませるが如く、素振り空を斬ると・・・・・亜音速の剣は衝撃波を生んだ。


   
速水「善し、善し善し・・・これだ、この感覚」


速水「だが、お前らを殺すには、十分過ぎるかね?」

 


マコ「内田・・・俺にも強化ってヤツを」


マコ「それを終えたら、吉野を連れて逃げてくれ」


   ここまで人外ぶりを見せる相手となれば、卓越した銃技だけで勝てる要素はない。そう悟った。

   完全に視認された状態であれば煙化で躱される。隙を突いた銃撃でさえ剣で払う・・・・・となれば、微塵の隙さえ与えずに戦える方法が必要だ。



吉野「まっ、マコちゃん・・・・私まだ戦えるから」



マコ「内田、結界を」


内田「・・・わかった!」


   内田は見逃さなかった。先程の軽い衝撃破を浴びただけで吉野は、表情に苦悶を浮かべていたことを。

   マコトを一人で戦わせることを善しと出来るはずも無いが・・・・・彼が覚悟を決めたように、己も覚悟を決めて結界を施す。



内田「負けないで!!」

   
   ィイインッ・・・・・!


マコ「おうっ!!」


   マコの首筋に、指で結界をなぞり終える。それは白く光り輝いた五感強化結界。


マコ(すげぇ・・・感覚だ・・・!)


マコ(見える景色が違い過ぎる!!)


   視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚の全てがリミッターを外したが如く上昇。

   それは脳からのシグナル伝達までをも・・・・・これなら、互角以上に戦れるッ!



速水「悪いけどさっさと死んでもらうよ!」


速水「本命の吉野を。斬り刻む作業が・・・待ち構えてんだからさッ!!」


マコ(・・・殺るッ!!)



吉野「はなっ、離してユカちゃ・・・・・ツ゛ゥっ!!?」


内田「暴れないで!重傷なんだよ吉野!?」


内田「マコちゃんは大丈夫だから!早く逃げるよ!」
 


速水「いくぜッ!!」


   ボヒゥンッ!


マコ(あの能力・・・恐らく・・・いや、間違いない)


   速水は煙化し、霧散する。こうなれば何処を移動しているのかは全くをもって不明。

   それよりも・・・・・対象を凝視して気づいた。

   能力を発動する際、生身から煙に変わるまでコンマ数秒を要している。


マコ(何処から来る・・・!?)

   
   足元から頭に向けて霧散し移動を開始。となれば、そのコンマ数秒の間は頭は無防備となる。恐らくは実体化の際も同じだろう。

   その一瞬なら、銃弾を撃ち込むことは叶うはず・・・・・・が、何処から現れるか、死角を狙われては実現は困難を極める。



速水(————死ねッ!!)


   ヒュ!!パァ゛ンッ!!!


マコ「ッう゛!?」


速水「チィ!」


   上空より実体化した速水はマコの頭部に向けて一閃を掛けるも、縦に軸とした動きで身をいなされ、刃は空を斬って破音を鳴らす。

   公園の古ぼけた街灯より放たれる光源が、上空に現れた速水の影を生み、強化された視覚とシナプスによって危気に躱すことが叶う。



マコ(————殺った)


   チャッ!


速水(なっ・・・?)


   刃を躱されあらぬ体勢で空中より落下・・・・・否、二人の目には違った光景で映っている。

   スロー再生で世界が動く。落ちるのではなく、浮いている、止まっている・・・・・そう感じるほどの、緊縛の間。


   地に向く速水の頭を、瞬として銃口が捉えた。


速水(ぉお゛ッ!!)


   バァ゛ンッ!!!


マコ「!?」


速水(あっ!危ねぇ・・・!)


   頭部を凄まじい勢いで捻り、銃弾を“逸らした”。

   被弾こそしたものの、受け流すか如く銃弾のベクトルをずらし、直撃だけは回避。
   
   こめかみ辺りの皮膚が微量に爆ぜ、マコトの顔に返り血が飛散する。



速水「っ゛〜〜!!!」


   一瞬の緊縛が解けて痛みが走る。

   速水は猫のように身を翻し地で一転。刀を構え直すも、マコはそれを見逃すほど甘くはない。



速水「ぐ!くっ・・・ォオオ゛ッ!!」


   バギィ゛アンッ!! バギィ゛アンッ!! ギィン゛ッ!!!


マコ(今(ここで)!仕留めるッ!!)


   確実に殺ったと確信した一撃からの離脱。あれは人の範疇を越えた動き・・・・・そう知らしめるに十分であった。

   今、この機を逃せば、もう殺すことは叶わない。だからこそ、地を転げた速水に追撃の弾丸を次々と撃ち放つ。


速水(なんだ!?銃弾は何発入ってやがるんだ!?)


速水(無限ってことはないよな・・・?)


   襲い来る凶弾を刀で打ち払うも、秒間4発の衝撃を絶え間なく受けることは苦痛であった。

   再装填の気配を一向に見せないこと、既に十数発を受けきったことによって、敵の手の内について思慮を張り巡らせる。

   

マコ(この連射を捌くか・・・!)


   ギィ゛アンッ!! ギギィ゛ンッ!! バギィン゛ッ!!!


速水「なっ、な・・・れ・・・!」


速水「慣れて、きたよ・・・お前の銃撃にッ!!」







速水「くっ!くかっ・・・かかっ!」

   
   このまま捌き切れば仇を一人と、奇声混じりの微笑が零れる。

   一歩一歩と着実に、歩を進めながら凶弾を打ち払う。



マコ「ッ・・・!」


   見えざる弾速が生み出しているであろう、殺意の軌道を“読んで”弾く相手。もはや勝ち目など無いようにも思えた。

   しかし、起死回生の一手はある。マコの胸中にはその一手を己が撃てるのかと・・・・・不安と焦りが交錯している。



マコ(やらなきゃ、どのみち殺られる!)


   撃ち殺すために研ぎ澄ました精神は狭窄させたまま。対象だけを一点に見つめた視界を広げる。


マコ(広く・・・全体を、広く・・・見る・・・)


マコ(・・・景色ではない、もっと・・・もっと全部を)


   目に映る景色ではない。空間自体を把握し捉える。



速水(・・・なんだ?)


   殺陣の間合いまで十寸足らず。だが、そこで何かしらの違和感が沸く。

   その原因は、マコの構えが両手撃ちから片手に変化したことによるものであった。グリップを支えていた左手はゆるりと垂れ下がる。



マコ(出来る、俺なら・・・出来る)


速水(いや、構うべきじゃない!このまま殺して終わりだ!!)


   ジャキッ!!


速水「っ!?」


   バァ゛ンッ!!バァ゛ンッ!!バァ゛ンッ!!  バギィ゛アンッ!!


マコ(良し・・・!)


   右手で射撃していたベレッタと入れ替えるように、左手を速水に向けた。

   その手には新たな拳銃・グロック17が顕れ、既に銃弾を射出していた。



速水「くッ・・・!」


速水(コイツ、さっきのよか速い!?)


   襲い来る凶弾の間隔に肝を冷やす速水。フルオートでこそないものの連射速度がベレッタよりも速い。
   
   だが、殺意の流星群は刀に吸い寄せられたかのように次々と弾かれ、その都度に火花と鉄の鳴動が響く。
 



速水(チィ!この能力は厄介だ・・・・・が、しかし)


速水(間違い無い。最初の拳銃は“弾”を切らした!)


   仮にあの拳銃に弾が入っているのだとすれば、両手撃ちで殺す確立を上げてきただろう・・・・・まぁ、弾く自信はあるが。


速水(やはりあの能力にも限度がある・・・どういった条件かはわからないけど、インターバルが存在するね)


   となれば、今使っている左手の拳銃もいずれは弾を切らす。

   ならば・・・・・次に銃を構え直す瞬間。それが奴を斬る最大のチャンス。



速水(凌ぎきれ・・・あと少しだ!!)


   バギン゛!!ギギァ゛ンッ!!バギィ゛アンッ!!


速水(早く!早くッ!!)


マコ「・・・!・・・」


   ヒュッ!


速水(・・・え?)


   まさかの行動・・・・・マコは、今し方連射していたグロックを速水に向い放り投げた。


速水(ばっ、バカが!こいつぁマヌケだ!!)

 
   やぶれかぶれに拳銃ごと投げ捨てるなんざ・・・・・みっともない末路だことで。

   恐らくは弾を切らした。しかも放った拳銃は私に命中するどころか右斜め頭上を通り越そうとしている。

   大外れだよ馬鹿が!所詮は餓鬼のやることだ!!

 



速水「終わりだァ゛ッ!!」


   地を踏み込み瞬として間を詰める驀進。

   白刃一閃まで十分の一秒すら掛かりやしない・・・・・確実に、斬った。



マコ「・・・・・・」



   ア  ン  タ  ガ    オ  ワ  リ  ダ  ヨ



速水「!?」


   突如として速水の動作に不乱が走る。その原因は、マコが一度は引いたベレッタを構え直したことによるもの。

   いや、それよりも、マコの唇が戦慄を嘯いた。言の葉すら発していないが、確かに、殺意を洩らした。



マコ(研ぎ澄ませ・・・もっと・・・!)


   みたび生まれた殺陣空間による、緊縛の間。

   流れているはずの時間が超圧縮されているかのように、世界は減速する。



速水(弾は入ってる!?ブラフだったか!?)

  
   瞬として全身の孔が沸き立つ。それほどの窮地。

   だがそれは速水だけではなく、マコも同じであった。


速水(弾を撃ち落と・・・いや!このまま斬るべきッ!!)


   やる・・・殺ってやる!奴の指先よりも疾く、刀を迸らせる!!




速水「死ィ゛っ——————!!」



速水(・・・・・ぃ・・・なん、だ?)


   決めた心が揺らぐ・・・・・おかしい。明らかにおかしい。

   この状況、この感覚、まるで・・・・・死神の鎌が、私の首筋に準えられているかのようだ。 
 



マコ(フゥ———————ッ・・・!)


速水(コイツの銃口・・・・何処を向いて・・・?)


   銃口は私を向いていない。バレルから銃弾は私に飛んでこない。これは絶対だ。

   なぜなら・・・殺意の軌道が、まるで感じられやしないのだから。





   マコは今この瞬間、無の境地に立っていた。


   迫り来る刃も見えている。だが、そんなものは微塵ほども気にかけることはない。

   殺意も、恐怖も、捉えた空間全てが、もはや無に等しい。
   


   ベレッタが狙う先は・・・・・・・・速水の斜め頭上を通り越した、グロックの引き金。



マコ(・・・終わった)


  
   ババァン゛ッ!!!



速水「え・・・?」


   百分の一秒差で放たれた二つの銃声が、連続音を奏でていた。


速水「いッ゛!?」


速水「ぎっ!!ぎゃああ゛あ゛あっ!!!!」

 
   ベレッタより放たれた弾丸は、狙い通りに速水の死角に浮かぶグロックのトリガーに命中。

   当然ながらグロックより銃弾が放たれ、刀を上段に構えていたはずの速水の右手甲は無様に撃ち砕かれた。

   銃弾は刀の柄をも捉え、手を離れた刀は高々と宙を舞って・・・・。



速水「ぁ゛!・・・ぐ・・・」


   ズドッ!!


速水「あぎゃ゛ああ゛っ!!!」

   
   鋭過ぎる程に鋭利な切先が、運悪くも速水の左腕の皮膚を削ぐ。

   両手より流れる鮮血と、痛々し過ぎる悲鳴は・・・・・少し遅れてマコの五感に察知された。


   


最近ちょっと色々あるので、暫くはゆっくり投下しますm(_ _)m



マコ「・・・ぶはァっ!」


マコ「はぁ!・・・くはッ・・・!」


   苦痛に悶える叫喚が耳に入ると同時、ようやくして己が息を止めていたことに気付く。

   普遍的な日常ならば、今生を費やしても至れなかっただろう、臨界を越えた極地の精神力。

   銃は已然として構えたままだが、重圧の檻から開放され、荒々しく息をついた。



速水「ぎぃ・・・ぁ゛・・・!!」


マコ(かっ、勝った・・・速水さんに・・・!)


   化け物とさえ思えたほどの使い手。事実、人外の域にまで達していた鬼人の・・・・・膝をつかせた。

  


吉野(凄い・・・あれが、マコちゃんなの・・・?)


内田「吉野!マコちゃんが勝ったよ!」


   命と賭して修羅場をくぐり抜けた。体の芯から沸く未曾有の震え。

   思っても見なかった感情が、二人と勝鬨を分かち合いたいと叫ぶが・・・・・それよりも、先にやるべきことがある。




速水「ギィ゛アっ!!?」


速水「あぁ゛・・・が・・・!」
   

   念には念をと思慮し、左腕に突き刺さったままの刀を足で払い飛ばす。

   抜き飛ばされるだけでも相当な激痛なのだろう。速水は声を挙げて痛みに嗚咽を漏らし続けた。



マコ「誓ってください」


速水「ツぅ!・・・ち、誓い・・・!?」


マコ「俺たちの前にもう二度と現れないと・・・誓ってほしい」


速水「ッ・・・!」


   額に向けられた銃口ではなく、見下ろす双眸の冷えた眼光が・・・・・躊躇無く殺すと、通告している。



マコ「言いたいことは、わかってますよね?」


速水「こっ゛、の・・・!!」





速水「マキを・・・アツコを殺されて・・・私だけ生き延びろってか!?」


速水「私が生きてようが二人は生き返らないんだよ!!」


マコ「それが何だ!!?」


   速水さんの気持ちは理解出来る。だが、それでも声を張り上げた。

   

マコ「アンタが死んでも生き返りゃあしない!!違うか!?」


速水「っ!・・・クソが」


速水「わかってるさ!じゃあアタシは何が出来るってんだ!?」


速水「ち・・畜生・・・ぅ゛っ!」


速水「クソ・・・くそっ・・・!」


   泣いてるのか怒っているのか・・・・・もはや、それらが混じっているのかすら区別がつかないような啜り声。



速水「・・・殺れよ」


速水「さっさと殺れ」


   もう無理だ・・・・・一人で生き延びることも、コイツらを倒すことも、出来やしない。

   ごめんね。マキ、アツコ・・・・・仇は、取れなかった。



   



マコ「・・・!・・・」


速水「撃て!!撃ってみろ!!」


速水「二人を殺したように!!私を殺っ———————!」



   —————ズチュッ!!!



速水「かッ!?・・・・ぁ゛!!」


   何処からともなく飛来した刀の切先が、凄まじい勢いで速水の首筋を貫通した。

   肉を軽々と突き抉る音が夜闇に吸い込まれる。



マコ「な・・・!?」


   一瞬前まで叫んでいた速水の剣幕に圧され、全く気付けなかった。



吉野「ダメだよ、マコちゃん?」


マコ「よっ、吉野っ!?」


   裂傷は過不及無く治ったのか、血に塗れた顔を顰めながらも、こちらへ歩を進める。

   一方、頚動脈から声帯を串刺しにされた速水は、叫び声をあげることすらままならず、突き破られた双方の傷口から血液が滴っていた。




吉野「手早く殺らないと、次が来ちゃうし」


吉野「それに、こーいうのは私の・・・」



   バキャッ!!



速水「きゃ・・・ぱッ・・・・」



   ゴトッ・・・・ブシュゥウッ!!



マコ「っ〜〜!!」


   突き刺さった刀の柄を狙い、吉野は横向きに蹴りを放つ。

   当然の如く、鋭利な刃は時計回りに回転し皮膚、動脈、あらゆる筋を裂き脊椎ごと斬り砕き・・・・・速水の首は転げ落ちる。


   膝をついたままの胴体、その斬り裂かれた首の根元からは、岩清水のように流血が湧く。



吉野「・・・役目だから、さ」

 



チアキ「ぅっ・・・うえっ!げほっ!」


吉野「チアキ。そんなに怖がらなくても大丈夫だよ?」


吉野「速水さんの息が絶えるまで、何もしなければ・・・ね」


   悲惨な光景に嘔吐するチアキに対し、静止を掛ける吉野。

   しかしその言葉は、気力が干されただろう者に対して余りあるものだった。


   

マコ「・・・吉野ッ!!」


吉野「っ!」


   唐突に怒鳴られ、知らずに身を怯める吉野。

   恫喝されたかのように目を逸らす理由は・・・・・己でも、気付いていた。



吉野「別に、チアキを脅したわけじゃ・・・」


マコ「そうじゃない!やり過ぎだ!!」


吉野「・・・・・」


内田「マ、マコちゃん!」


   内田もマコと考えるところは同じ。

   だが、吉野が覗かせる表情を目に止め、狼狽するように言葉を挟んだ。



吉野「なんで・・・そんなこと言うの」


   マコが内田へ振り向こうとするより前に、吉野はか細く呟く。

   いつものへばり付いたような笑みは一切無い。それは虚無というに値するような感情。

   聞こえた音声は、言承でもなく、問うでもなく、ただ思うところを吐いたものであった。
 



マコ「勝敗は、決していたじゃないか・・・それに」


マコ「惨すぎる仕打ちだ」


吉野「・・・そう、かな」


   誰よりも悲しそうな顔をしている。

   激昂していたはずのマコでさえ、気に留めてしまうほどであった。



マコ「吉野・・・俺は・・・いや、俺たちは」


   こんな表情を見せるということは、心の隅に多少なり自覚はある。

   それならば、心変わりとまではいかなくとも、少し気を向けてもらうことは出来るのではないかと・・・・言葉にしたかった、が。



カナ「吉野ぉお゛ッ!!!」


吉野「!?」



   “ズドゥン゛ッ!!!”



マコ「ッう゛!!?」


内田「吉野!!マコちゃん!?」


   何が・・・・・起きた・・・?



吉野「がァっ!ぎゃっ!!」


マコ「ぐ、がっ!?」


   気持ちを言葉に伝えようとした間際、カナの怒声が響くと同じくして空が一瞬のみ橙に明るむ。

   吉野が氷壁を発動する素振りを見せた、直後・・・・・爆風が、二人を吹き飛ばしていた。



マコ「っ゛・・・ぁ・・・!」


   どれほど吹き飛ばされたかは計りようがないものの、傾斜となっている森を転げ落ちていることを、四肢を打ち付けながらして気付く。


吉野「くっ・・・!」
 






カナ「チアキ!!」


内田(あっ・・・!)



   “チャキンッ・・・!”
   


内田「っう!?」


チアキ「動くな・・・!」


   二人が吹き飛ばされてから僅かの間を惜しむことなく、カナはチアキに命を出す。

   チアキの挙動自体は人並み以下であったが、身近に転げていた刀を手にした途端、機敏な体捌きで白刃を内田の首筋へ沿わせていた。



内田(しまった!!)


チアキ「斬らせないでくれ・・・頼む」


   仕手となったその目が語り掛けていた。斬る方法を、知っていると。   



カナ「吉野ッ!!出てこい!!」


チアキ「待てカナ!お前が内田を拘束してろ!」


カナ「え・・・?」


内田「きゃっ!」


   投げるかのように乱暴に寄越された内田を、カナは腕を捻り上げて盾とした。

   チアキは自由となった掌を柄に戻し型を成す。



チアキ「マコちゃんの能力は“銃”だ。今の私なら銃弾を弾ける!」


カナ「弾くって・・・まさか、その剣」

 
   マコトが吉野側に居たのはやはり、敵となった証拠だった。



チアキ「アツコちゃんの能力が・・・宿っている」


カナ「クソっ・・・!」


   悲惨な死に様だっただろう。土にうつ伏せとなった二人の遺体が言わずとも伝える。

   まさか・・・・・こんなことに、なるなんて。



カナ「出てこい吉野ッ!!内田は人質だ!!」
 



マコ「ッ゛ア!!」


   衣服を貫通し四肢のそこいら刺さっているものが氷の破片であると、凍てついた激痛でようやく気付く。

   転げ落ちた際に刺さった木々よりも、鋭く割れた破片は深々と抉っている。



マコ「だいっ・・・丈夫、か・・・吉野」


吉野「きっ、キツイ・・・ね・・・!」

   
   爆風を軽減したのは吉野の氷壁であったが、完全に防ぎきるほどの質量が間に合わずして、己らに裂傷を与えていた。

   吉野もまた、マコと同じように傷を負っている。



マコ「能力を、解除してくれないか?」


吉野「血が出ちゃうよ、マコちゃん。大人しくしてたほうがいい」


マコ「氷が刺さったまま動くなんて無理だ・・・無いならまだ動けると思うから・・・」


   とは言ったものの、この激痛で動き回ること自体が困難にも思える。

   且つ、利き腕がまともに動かせたものではないとくれば・・・・・。



吉野「・・・私一人でやれるから、マコちゃんは此処に居て」   


   先程咎められたことを、一旦無かったことに出来るほど、軽く受け止めてなどいない。

   いずれにせよ深手を追わせてしまった以上、前線に出ようものなら餌食になることが目に見えている。

 

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