一方通行「……モナド、か」 (138)




ーーー遥か昔





SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1377141686



この世界がまだ、どこまで行っても果てない海と


どこまで行っても尽きない空だけだった頃




ーーー二柱の巨大な神が生まれた






ーーー巨神と機神



神々は、互いの存亡をかけて戦い、そしてーー











ーーー骸となった





それから、幾万の昼と夜を経た今、


僕らの世界ーー


巨神の骸の上に広がる大地、巨神界はーー







機神兵によってーーー蹂躙されていた。


巨神の腹部を貫く機神の剣。長い年月を経て渓谷化したその場所は、大剣の渓谷と呼ばれていた。

「退け!退けー!総員、撤退しろ!」

武装した男が叫ぶ。
今、大剣の渓谷では、ホムスと呼ばれる巨神界に住む人族と、機神兵による大戦が繰り広げられていた。
そして情勢はーー圧倒的に、ホムスが劣勢であった。

二足歩行のものや、四足歩行のもの、さらには飛行するものなど、様々な型の機神兵が、ホムスの軍勢をなぎ倒す。
対象的に、ホムスの軍の攻撃は、機神兵には殆ど通用しない。
夥しい数の機神兵のうち、一体を倒すのに、ホムスの軍人5人程度の攻撃が必要だった。

「78型対人機神兵の数は測定ふの…ぐああっ!」

ホムスたちは皆巨神界に向けて撤退を始めていた。
その後方から機神兵が押し寄せている。




ーーー瞬間、赤い剣を持ったホムスの男が、迫り来る機神兵を斬り裂いた。



その男は、右手に特殊な形状の剣を持っていた。
剣の中心あたりに円形の穴が空いていて、剣の先端部分からは白い光の刃が出ている。
そして、他の部分は柄まで含めて全て赤い。

「右翼の乱れに乗じて進軍たぁ、機械のバケモノにしちゃ知恵が回るじゃねぇか」

「けどなーーー」

言って、赤い剣を持った男ーーダンバンは、剣を一層強く輝かせて
機神兵の群れへと突っ込んだ。

それから少しして、ダンバンは巨大な機神兵の残骸の影に座り込み、機神兵の砲撃をやり過ごしていた。
すると、何人かのホムスが後方からやってきたーー

「ダンバン!全軍に撤退命令だ。」

「戦線をコロニー6まで後退。そこに、最終防衛線を張るぞ!」

金色の髪と髭を生やしたやや老けている男ーーディクソンが神妙な面立ちでダンバンに告げる。

ダンバン「なるほど、そいつは賢明だ。このままじゃ俺たち皆あの世行きだからな」

「ちげえねえ!そいじゃとっとと退いちまおうぜ!」

両腕に大きな鉤爪を装備した兵士ーームムカが声を荒げた。が、

ダンバン「なぁんて言うとでも思ったか?」

ムムカ「なにぃ!?」




ダンバン「退かなきゃ死ぬが、退けば未来は掴めない」

ダンバン「なら掴もうぜ未来」


ダンバン「なぁに、俺たちにはこのモナドがある。掴めるさ、絶対にな!」

ダンバンは座ったまま赤い剣ーーモナドを掲げた。

そして腰を上げ、機神兵の前に出ようとしてーーディクソンに肩を掴まれた。

ディクソン「このイノシシが!これ以上は貴様の身体がモナドに付いていけん!」

動きを見ていればわかる、と加えるディクソンに対して

ダンバン「その年でもう老眼か?ディクソン」

ダンバン「俺は平気だよ、まだこいつは握れてる」

ディクソンは一瞬黙ったが、やがて呆れたように鼻を鳴らした。

ディクソン「イノシシには言葉が通じないーーか」

銃と刀が一体化した武器、軍刀の調子を確かめながらディクソンは続けた。

ディクソン「よかろう。俺も付き合うぜ!」

ディクソン「貴様の死に顔、拝んでやろう」

ダンバン「あんたに拝まれるのだけは勘弁願いたいね」

それに、とダンバンは一度言葉を切って

ダンバン「死ぬつもりはない。
守らなきゃならない妹がいるしな」

ダンバン「ディクソン、お前だってお前のことを親代わりにしてる奴らがいるだろ?」

ムムカ「おいおいおい!撤退命令が出たって言ってたろ!俺はご免だぜ!」

今まで黙っていたが、もう我慢できない、といった風に、ムムカが叫んだ。
そんなムムカに、ダンバンは顔をズイッと近づけ

ダンバン「だめだめ、お前も来るんだよ!そいつだって頼りにしてるんだ」

ムムカの鉤爪に目を遣りながらふざけた風に言う。

防衛隊員「敵の第二陣が、侵攻を開始しました!」

機神兵側の第二陣が迫る今、このままやり過ごすのもそろそろ限界だろう。
やがて、ディクソンが立ち上がった。

ディクソン「さぁてダンバンよ、奴らに見せてやろうぜ」

ディクソン「俺達ホムスの生き意地ってやつをよ!」

ダンバン「承知!」

ダンバン、ディクソンは機神兵の前に躍り出て、先陣を切る。

ムムカも、暫く悩んでいたが、やがて苦々しい顔を浮かべながらダンバン達に続いた。

ダンバン「おおおおおおおおおっ!!」

ダンバンの叫びと共に、モナドから発せられた青い光がダンバン達を包む。するとーー

ディクソン「はあっ!」

ディクソンの軍刀から撃ち出された銃弾が、機神兵を貫いた。
ホムスの兵士の攻撃をものともしない、鋼鉄の機神兵を。
同様に、ムムカも鉤爪で機神兵を引き裂いていく。

ダンバン「でやああああああっ!!」

だが、ダンバンの破壊する機神兵の数は、ディクソンやムムカのそれより遥かに多かった。
卓越した剣技でモナドを自在に扱い、機神兵を斬り裂く。
『ホムスの英雄』と称えられるダンバンを前に、第二陣の機神兵は、次々と機能を停止していったーーー

ディクソン(……ちっ、これじゃキリがねぇ)

第二陣が侵攻を開始してから数時間後、数は半分以下に減ったものの、まだ相当な数の機神兵が残っていた。
まだまだかかりそうだ、とディクソンは心中で嘆いた、その時

ダンバン「うう…ぐううああぁ…!」

ーー機神兵の残骸の山に立つダンバンが、身体から紫電を迸らせ呻いているのが見えた。
そして、残骸の山にまだ機能している機神兵。

ディクソン「ちっ!」

そこまで確認し、ディクソンは機神兵を軍刀で撃ち抜いた。

ディクソン「ダンバン!大丈夫か!?」

ダンバン「見りゃわかるだろ?」

ダンバン「まだまだいけるぜ…!」

掠れた声でそう答えたダンバンだが、どう見ても限界が近い。
それでもモナドを握る手に力をこめようとした時。



ーー巨神界に向けて走っていくムムカが視界に入った。

ダンバン「ムムカ!?どこへ行く!そっちはーー」

ムムカは一旦立ち止まり、ダンバン達の方
を向くと、声高に言い放った。

ムムカ「悪ぃなぁ!機神兵共の狙いはてめぇのソレーーモナドだ!」

ムムカ「せいぜい気張って奴らを引き付けてくれよ!」

ムムカ「じゃあなぁ あばよぉ!」

そのまま、ムムカは振り返ることなく走り去っていった。

ダンバン「おい!ムム…ぐっ!?」

突然起きた後方からの爆風が、言葉を遮り、ダンバンとディクソンを吹き飛ばした。

ダンバン「くっ…」

身体を起こし、爆風の来た方向に振り返ると

ディクソン「おいおい…悪い冗談だろ」



ーーそこには一体の巨大な機神兵と、それを補佐するかのように配置された、機神兵の群れが居た。

ディクソン「本隊のお出ましか」

ディクソン「なんだかなぁ。俺達の悪運もここまでってか?」

半ば諦めたようにディクソンがぼやく。しかし、

ディクソン「…ダンバン?」

ダンバンは既に立ち上がり、真っ直ぐに機神兵を見据えていた。

ダンバン「ディクソン!俺達の残りの兵を頼む!」

ディクソン「ダンバン…まさか貴様!?」

ダンバンの持つモナドの輝きが増していく。
そして、

ダンバン「機神兵共ーー」

ダンバン「ホムスを、巨神界の人間をーー」

ダンバン「喰われるのを待つだけの餌だと思うなよ!」

ーー咆哮し、単身、機神兵の群れへと飛び込んでいった。



ーー 一年後 ーー



巨神の脹脛の部分にある小さな草原。
穏やかな風が草木を揺らし、空からは日差しが照りつける。

「七十一式機神兵!」

その草原には、幾つかの機神兵の残骸と、短い金色の髪を生やした、ホムスの少年がいた。

「こいつの光学系、対空砲の照準に使えたはず!」

金髪の少年は、喜びの声をあげ、機神兵の残骸を漁り始めた。

「…ダメか。完全に壊れてる」

落胆した様子の少年だったが、他に使える部分がないか、と思いしばらく残骸を弄くっていた。
しかし、その甲斐もなく残骸はほぼ完全に破損しており、再利用出来そうな素材は見当たらない。

「これじゃあ使い物にならないなぁ」

少年は一度立ち上がり、大きく伸びをすると、そのまま仰向けに倒れこんだ。
心地よい風が頬を撫でる。このまま眠ってしまおうか、と考えた所で、視界の隅をトンボが飛んだ。
何気なくそのトンボを目で追っていた少年だったが、突然ガバッと起き上がった。

「六十九式だ!」

少し離れた所に、さっきとは違う機神兵の残骸を見つけた。
腰をあげ、残骸に走り寄ってまた弄り始めた。

「こいつの装甲、確か楯にちょうど良かったよな」

装甲部分なら再利用出来そうだ、と考えた少年は、何とか装甲を残骸から剥がそうと試みた。
両手で装甲を掴み、後ろに向かって力を加えるとーー突然残骸が動き出した。

「うわっ!」

少年は驚いて尻餅をついた。
まさかまだ機神兵の機能が完全に停止していなかったのか。
一瞬そう考えた少年だが

「コイツ…!機神兵じゃない!《コロニー・クライブ》!?」

その正体はクライブと呼ばれる種族だった。どうやら眠っていたらしく、自分の睡眠を妨害を した少年に対して明らかな敵意を向けている。

「機神兵の装甲を殻にしていたのか!?」

クライブは身近にあるものを殻にする習性を持つ、巨大な蟹の様な生物だ。
このクライブは機神兵の装甲を殻にしていたらしい。

少年はクライブを迎え討とうと慌てて自分の武器に手を伸ばした。が、




ーーー突然、一発の銃弾がコロニー・クライブを貫いた。

「ったくよォ、研究棟にいねェからここに来てみれば…」

「コロニー・クライブなンざ珍くもねェだろォが」

クライブを撃ち抜いたホムスの少年は、肩に白い軍刀を担いでいた。

白い軍刀を持つ少年は、どこまでも白かった。
髪も肌も、透き通る様な白。
しかし、その目だけが真っ赤に燃えていた。

「シュルク、オマエはもう少し注意力を養いやがれ」

白い少年は呆れた様に金髪の少年ーーシュルクに向けて言う。

シュルク「ゴメンゴメン、助かったよ」

シュルクは白い少年ーー

シュルク「一方通行」

一方通行「……」

ーー 一方通行に向き直った。

初めまして。穏やかじゃないですね。

このSSは、「ゼノブレイド」と「とある魔術の禁書目録」のクロスSSです。

ただし、ゼノブレイドを基底としていて、禁書のキャラは一方通行以外登場予定がありません。

更新はスローペースです。何か質問があれば、答えられる範囲で答えさせて頂きます。
また、改善した方が良いと思う点があれば、自由に言ってください。
文才のない糞みたいな>>1なので参考にします。



では、これから少しずつ更新をしていくので、見守ってくれると嬉しいです。

ラインはちゃんと出るよ!
ただちょっと書くとき邪魔だっただけだよ!

想定よりも少し遅れてしまいました。投下します。

シュルク「そういえば研究棟に行ったって言ってたけど、僕に用事?」

シュルクはコロニー・クライブの殻と格闘しながら尋ねた。

一方通行「あァ、デジレーンが時計を壊したらしくてな。修理を頼まれたンだが……」

シュルク「また壊したの?相変わらずだね、デジレーンは」

一方通行「あの親父がいたのに機械オンチだからな」

デジレーンは、コロニー9に住む女性であり、鍛冶屋の父を持っていた。
にもかかわらず筋金入りの機械オンチであり、なにかを壊すたびに一方通行やシュルクに修理を依頼していた。


一方通行「で、修理に使うブルーチェーンが必要なンだ。オマエ、確か持ってたよな?」

シュルク「持ってるけど……ここじゃなくて、研究棟に置いてあるんだ」

一方通行「つまりまた研究棟にとんぼ返りかよ……めンどくせェな」

シュルク「ごめんね、一方通行」

一方通行「いや、別に構わねェよ」

          バギン!

シュルク「っとと、やっと外れた」

コロニー・クライブの殻が外れた音だ。外れた殻ーー機神兵の装甲は、やや大きめのもので、二つに割れている。
この大きさなら、いい楯が作れそうだ。

シュルク「じゃあ、部品の代わりにコレ運ぶの手伝ってよ、一方通行」

一方通行「あァ……じゃあ、帰るとするか」

シュルク「うん、そろそろ戻ろう」


シュルク「コロニー9に」

【コロニー9 商業区入口】


巨神の脹脛に位置するホムスの集落ーーそれがコロニー9だ。
大きく分けて商業区、軍事区、居住区に区別されるコロニーは、ホムスたちの喧騒で賑わっている。
この場所は、機神界から遠く離れた場所であるため、大規模な機神兵の襲撃には遭わないできた。
加えて、1年前の大剣の渓谷の戦いから、機神兵は出没しなくなっていた。
コロニーを取り囲むように巨大な対空砲が3基設置されている。
時折起きる、地震のような現象ーー巨神の身震いによって、巨神界上層からの落下物を排除する役割を持つ。
一方通行達の目指す研究棟は、軍事区だ。


シュルク「いらないパーツを売りたいから、ちょっと寄り道していい?」

一方通行「ちょうど俺もそォ思ってたところだ。……ン?」

商業区の奥の方から慌てた様子で走ってくる男が二人の目に入った。
筋肉質で大柄な男は、短く刈り上げた赤い髪を揺らしてこちらに走ってくる。

シュルク「ライン!?」

ラインーーそう呼ばれたのは防衛隊隊員であり、シュルクや一方通行の親友、そして現在全力疾走中の男だ。

ライン「シュルク、一方通行!」

相当焦っている様子だったが、一方通行とシュルクを確認したラインは、足を止めた。

一方通行「そンなに慌ててどうした?」

ライン「これから防衛隊の演習をコロニーの外でやるんだが、遅刻しちまいそうなんだよ!」

シュルク「これからって?」

ライン「5分後だ!もし遅れたのがチョッカクヒゲにばれたらヤバい!」

すまん、もう行く!それだけ言い残してラインは走り去っていった。

一方通行「チョッカクヒゲ…防衛隊長のジジイか」

シュルク「あの人、すごく怖いからね。でも……」

一方通行「5分じゃ無理だろォな、間違いなく」

シュルク「……うん、だよね」


【コロニー9 軍事区入口】


軍事区は防衛隊の拠点である。機神兵の脅威に晒されているコロニー9の住民にとって、防衛隊は最後の命綱だ。
隊員たちは、機神兵や近隣に生息するモンスターに対抗するため、日夜訓練に励んでいる。
一方通行たちの目指す研究棟も、正確には兵器開発のための研究棟である。

「民家に自走砲を激突!?貴様!何年防衛隊員をやっているぅぅぅ!!」

「も、申し訳ありません!」

防衛隊員に向けて怒号を浴びせる男。
彼の顔からは特徴的な形の髭が伸びていた。
それは顔から真横に伸び、途中から真上に向かって垂直に折れ曲がっていた。

シュルク「うわ、防衛隊長だ……」

彼がコロニー9の防衛隊隊長、通称チョッカクヒゲ。
一応彼にもヴァンダムという名前があるが、その名が呼ばれることは滅多にない。

一方通行「相変わらずうるせェな、あのオッサン」

シュルク「ちょっと一方通行!もし聞こえたら僕たちまで怒鳴られるよ!」

ヴァンダム「予備のエーテルシリンダーが切れて自走砲が回収できんだと!?ふざけるなぁぁぁ!!」

ヴァンダム「罰として腕立て1億回!貴様の上腕二頭筋を破壊するぅぅぅ!!」

少し前に行われたコロニー6との合同演習。
その時のコロニー9が過去最低の成績を修めて以来、防衛隊長ーーヴァンダムの怒鳴る回数がおよそ五割増しになっていた。
……最も、その前からかなりの頻度で怒鳴ってはいたが。

シュルク「あれじゃ戦う前に兵がへばっちゃうよ」

一歩通行「アレはもうどうしようもねェよ。…おォ、また殴ったな」

ヴァンダムが防衛隊員を殴りつける様子を見て、シュルクは目を背けた。
そして、防衛隊員に心の中で同情しつつ、一方通行たちは研究棟へ入っていった。

【コロニー9 軍事区兵器開発研究棟】


研究棟施設の階段を降りた突き当り。
そこにある小さな部屋が、主にシュルクと一方通行が使用している研究室だ。
研究室には様々な機械や部品が置かれており、部屋の隅には簡素な作業用の机が置かれていた。
加えて、部屋の奥にはいくつかのタンク型の機械が半円状に設置されている。
各タンク型の機械からは、太いパイプが部屋の中央の台座に繋がれていて、


ーーーその台座には、モナドが安置されている。

「よぉてめえら、元気だったか?」

研究室に来た一方通行達は、見覚えのある人物に迎えられた。

シュルク「ディクソンさん!」

一方通行「なンだ、帰ってやがったのかジジイ」

ディクソン「ついさっきな」

ディクソンーー大剣の渓谷の戦いでダンバンと共に前線を生き延びた男が、作業机に腰かけていた。
彼はコロニー9の外に様々な人脈を築いており、普段はコロニー9の外から情報や機材を収集している。
そのため、コロニー9に居るのは稀である。

ディクソン「にしても、いつまで経っても言葉遣いってもんを覚えねえな、一方通行」

一方通行「ハッ、オマエに対して敬意を表す理由が見当たらねェよ、ジジイ」

憎まれ口を叩く一方通行だが、その顔はどこか嬉しそうだった。
シュルクも、二人のやり取りを見て思わず苦笑した。

ディクソン「そんなことより」

ディクソン「モナドの研究の方は随分進んでいるようだな」

ディクソン「ここをお前たちに任せて正解だったぜ」

言いながら、ディクソンは作業机から立ち上がり中央の台座に近づいた。

シュルク「そんな……ディクソンさんが残してくれた、研究資料があったからこそです」

シュルクは、少し照れくさそうに頭を掻いた。

ディクソン「発動させることはできるんだな?」

シュルク「ええ、とりあえず発動までは誰にでも」

シュルク「ただ、そのあとの制御が……」

ディクソン「“ヤツ”以外には、まだ無理か」

シュルク「はい、ダンバンさん以外の人でも、コイツを扱うことができるようになれば……」

シュルク「僕達ホムスにとって、これ以上ない戦力になるんですけどね」

ディクソン「ここに書いてある拡張機能というのは?」

一方通行「どォも、コイツはただ機神兵を斬るだけの代物じゃねェらしい」

ディクソン「ほぉ、そいつは興味深いな」

一方通行「コイツの中央部分に穴があるンだが、発動させるとそこに模様が出る」

一方通行「穴の淵には何層かのガラス状のプレートがあり、今はその最上層に模様が浮かンでる」

一方通行「で、それぞれの層が同様の構造になってることが分かった」

一方通行「こンだけ説明してやればそのおつむの足りねェ頭でもわかンだろ」

ディクソン「なるほど、他の層にも模様が出る可能性がある、と」

一方通行「あァ、つまり……」

シュルク「コイツには、更なる力が秘められている可能性がある……!」

シュルク「この力さえ解明できれば……」


一方通行「それに、ただ制御できるってだけじゃ足りねェ」

一方通行「モナドの使用者にかかる負担まで無くす必要がある」

一方通行「そして、それができなかったからこそ……」



一方通行「ーーーダンバンは、右腕の自由を失った」


ーーーー

『お兄ちゃん!お兄ちゃん!』

短歌で運ばれていくダンバンの周りには、シュルクと一方通行、ダンバンの妹のフィオルンが駆け寄っていた。
怪我人搬送の指示が飛び交い、多くの怪我人が運ばれていく。
しかし、ダンバンの傷は、他の怪我人の比ではなかった。
全身傷だらけで、生きているのが不思議なくらいに、その体は弱っていた。
中でも、モナドを振るっていた右手は、ピクリとも動かない。

『そんな顔をするな、ちゃんと生きてるよーーー』

フィオルンやシュルクを安心させようとしたダンバンだったが、掠れた蚊の鳴くような声しか出ず、それがシュルク達をますます不安にさせた。

『シュルクーーー』

ダンバンがゆっくりと顔をシュルクの方へ向けた。
ダンバンの声は耳元で聞いてようやく聞き取れる程度だった。
顔を寄せたシュルクに、ダンバンは何かつぶやくと、そのまま意識を手放した。

ーーーーー


一年前、大剣の渓谷の戦いは、勝ちさえしたが、失ったものは余りに大きすぎた。
モナドを酷使したせいで、ホムスの英雄ダンバンは戦線を離脱ーーモナドを扱えるものはいなくなった。

『俺としたことが、モナドの力に振り回されちまったーーー』

『それでもな、護ったぜ。俺達の未来ーーー』

『後のことは、お前たちにーーー』

ダンバンの護った未来。
それを護るためには、機神兵に対抗しうる戦力、モナドが不可欠だ。
だから、一日でも早く、モナドの秘密を解き明かそうとしてーーー1年が過ぎた。
それでも未だ、モナドの秘密はわからない。
このまま研究を続けて、果たして間に合うのだろうか。
一度考え出すと負の思考は止まらない。


ディクソン「さて、俺は仕入れたブツを防衛隊に納入せんといかんのでな」

重い空気を破るように、ディクソンが声をあげた。
しかしなお、シュルクの表情は暗いままだ。
ディクソンは呆れたように大きなため息を一つついた。

ディクソン「シュルクよ。研究棟に籠っているかガラクタ置場でガラクタ漁りか、お前の一日はどうせそんなことなんだろう?」

ディクソン「だからそんな辛気臭い顔になる。たまには気分転換によその空気でも吸ってこい」

ディクソン「じゃあな!」

シュルクたちに背を向け、手を振りながらディクソンは研究棟を後にした。
研究棟に残ったのはシュルクと一方通行。
シュルクはしばらく立ち尽くしていたが…

一方通行「オラ、なにボケっとしてやがる。とっとと行きやがれ」

シュルク「……うん、そうするよ。一方通行も来る?」

一方通行「悪ィが俺は時計を修理してデジレーンに届けなきゃならねェ」

シュルク「あ、そっか。じゃあ、行ってくるよ……ありがとう」

【コロニー9 商業区 ダンバン邸】


ダンバン「…………」

商業区の入り口近くにある二階建ての住宅、そこがダンバンとその妹のフィオルンの家だ。
コロニーに危機が訪れたとき、すぐに対応できるようにこの場所を選んだ。
今、ダンバンは二階の自室にあるベッドに腰掛けている。
ダンバンは、しばらく自分の右手を見つめていた。
何とか動かそうと試みるが、腕は自分の意思に従わない。

「起きてる?お兄ちゃん」

不意に一階から声がした。フィオルンの声だ。
食事を乗せたトレーをもって、フィオルンが階段を上がってきた。
肩まで伸ばした金色の髪を揺らしながらこちらにやってくる。

ダンバン「ああ。食事か?」

ダンバン「わざわざ持ってきてくれなくても、呼んでくれれば下りていったぞ」

フィオルン「無茶言わないの」

サイドテーブルにトレーを置くと、フィオルンはベッドの近くの床に座った。

フィオルン「食べさせてあげようか?」

笑いながら、ダンバンをからかうように言った。
それを聞いて、ダンバンは苦笑した。

ダンバン「病人扱いするな、もう1年前とは違うんだ」

フィオルン「確かにね」

フィオルン「あのときは、死んじゃうかと思ったもん」

ダンバン「ああ、今ならまた、モナドだって扱える」

フィオルン「やめてよ!」

フィオルンが顔色を変えて立ち上がる。
その顔は、不安と悲しみに満ちている。

フィオルン「もう機神兵は出なくなったのに、なんでそんなこと!」

ダンバン「気構えを言っただけさ、すまん」

フィオルン「ううんーーそれより、冷める前に食べちゃって」

フィオルンは一瞬顔を曇らせたが、すぐに笑顔を浮かべて、ダンバンに言った。

フィオルン「今日のは自信作なんだから」

ダンバン「だったら、いつまでもここにいる必要ないぞ」

フィオルン「え?」

ダンバン「はやくシュルクにも持っていってやれよ」

ダンバン「温かいうちに食べてもらいたいんじゃないのか?」

フィオルン「だ、大丈夫よ!」

フィオルンはダンバンから顔を背けてベッドにもたれかかった。
目は落ち着きなく動き、頬はわずかに紅潮している。

フィオルン「シュルク、味オンチなんだもん…」

フィオルン「冷めててもおいしいって言ってくれるに違いないし……」

ダンバン「なら、今日こそは本気で言ってもらいたいもんだな」

フィオルン「ーーーうん」

ダンバン「俺ならもういいから、早く行ってこい」

フィオルン「うんーーーありがと、お兄ちゃん」

礼を言って、フィオルンは下りていった。
残されたダンバンは、スープを飲もうと右手にスプーンを持とうとしてーースプーンを落とした。

ダンバン「ぐぅっ…!」

右腕はピクピクと痙攣して、痛みが断続的に駆け抜ける。


ダンバン(あれで終わったわけじゃない…!俺はまだ、モナドを握らなけりゃならん……!)


【コロニー9 商業区 ダンバン邸前】


あのあと、時計を修理してデジレーンに渡した一方通行は、一旦自宅に戻ることに決めた。
ここ数日モナドの研究で徹夜続きだったので、少し仮眠をとることにしたのだ。

フィオルン「あれ、一方通行?」

一方通行「あァ?……フィオルンか」

ダンバン邸の前を通りかかったところで、フィオルンと鉢合わせた。
フィオルンの腰には小さな弁当箱と思しきものがぶらさげられている。

一方通行「またシュルクか?相変わらずお熱いことですねェ」

フィオルン「だからそんなんじゃないってば!」

一方通行「まァどォでもいいが、シュルクなら研究棟にはいねェぞ」

フィオルン「え?」

一方通行「ジジイに外の空気吸ってこいって追い出されたからなァ。またいつものところじゃねェか?」

フィオルン「ジジイ…って、ディクソンさん?帰ってきてたんだ」

フィオルン「わかったわ。ありがとう、一方通行」

一方通行「おォ…ついでにシュルクに伝言頼んでもいいか?」

フィオルン「うん、なに?」

一方通行「一旦家に戻る。一時間くらいしたらまた研究棟に顔出すって伝えといてくれ」

フィオルン「うん、わかった」

一方通行「そンだけだ、じゃあな」

【コロニー9 見晴らしの丘公園】

コロニー9からでてすぐの高所、そこには小さな公園がある。
公園といっても、あるのはベンチだけではあるが。
その代わり、公園からはコロニーを見渡すことができて、そこからの眺めはシュルクのお気に入りだ。
気分転換をするとき、シュルクは決まってこの場所に来ていた。
ここのベンチで景色を見ながら考え事にふけるのだ。
それは今日も例外ではない。

フィオルン「シュルク!」

ベンチに座っていたシュルクの視界に、フィオルンが映った。
自然と笑みがこぼれる。

シュルク「ーーーフィオルン」

シュルク「美味しいよ、これ!すっごく美味しい!」

フィオルン「ホントに?毎日それ言ってるじゃない」

シュルク「そうかな?いつも美味しいけど、今日はすっごく美味しいよ」

フィオルン「ホントに?良かったぁ…」

フィオルン「今日のは特製スパイスを使ったんだもん、もしこれでいつも通りだったら…」

フィオルン「本当に味オンチ確定しちゃうとこだったんだから」

シュルク「え?」

フィオルン「なんでもない!」


フィオルン「ーーー気持ちいいね、風」

シュルク「ーーーうん」

シュルク「忘れていたなあ、この感じ」

シュルク「ここのところずっと忙しかったしね」

フィオルン「シュルク、いっつも一方通行と研究してるんだもん、忙しいのはそのせいよ」

シュルク「ーーーかもしれない」




シュルク「まあ、一方通行とは兄弟みたいなものだからね」


【コロニー9 居住区 一方通行邸】


一方通行の自室にあるのは質素なベッドと机、それと研究用の資料だけだ。
居住区のはずれに建っているこの小さな家に、一方通行は一人で住んでいる。
ーーー 一方通行には両親がいない。
それ自体は特別珍しいことではない。ダンバンとフィオルン、ほかにもデジレーンの親も機神兵に殺されている。
シュルクだって、理由は異なるが両親はいなかった。
しかし、それでも皆、両親と過ごした思い出を持っている。


ーーー 一方通行は、捨て子だった。


コロニー9に捨てられていた一方通行をディクソンが発見、保護。
その後ディクソンのもとで育てられ、途中からはそこにシュルクも加わり、兄弟のように一緒に育った。
自分が捨て子だとディクソンに聞かされた時は多少驚いたが、それだけだった。
今ではシュルクやライン、フィオルンがいる。両親がいないことを苦痛に思うことは、一方通行にはなかった。

一方通行「……モナド、か」

ベッドに横たわった一方通行は、ふとつぶやいた。
機神兵の強固な装甲。それを容易く引き裂く、かつて巨神が振るっていたと伝えられる神剣。
ダンバンは、その力を使って大剣の渓谷の戦いを勝利に導きーーー右腕の自由を失った。
アレの秘密を解き明かせれば、再び機神兵にも対抗できる。
しかし、最近はその研究も行き詰っていた。
ここ数日の徹夜でも、モナドの制御に関することは何一つわからなかった。

一方通行「……寝るか」

ちいさくつぶやいて、一方通行は目を閉じた。
ほどなくして強烈な睡魔に襲われ、一方通行の意識は夢の世界に引きずり込まれた。

短いですが、今回の投下は以上です。
皆大好きラインさんが登場しましたね。相変わらず不憫な感じですが。

一応このssは、『ゼノブレイド』を知らない人、『とある魔術の禁書目録』を知らない人、又はどちらも知らない人でも読めるようにするつもりです。
なので、ここがよくわからない、ということがあれば教えてください。

スマホからでID変わってるかもしれませんがお答えします

一方通行はあくまでゼノブレイドの世界の住人です。
今の一方通行はベクトル操作出来ません。
攻撃手段は軍刀(ディクソンが使ってる武器)のみです。

今後の展開は細部はまだですが大まかな道筋はたててあります。
結構時間はかかるでしょうが完結させます。

禁書の一方通行<<<<<このSSの一方通行≦シュルク<<<ライン

くらいの身体能力です
ある程度は鍛えている設定なので禁書ほどモヤシじゃないです
ついでにロリコンでもないです

お久しぶりです。も少し早く投下しようと思っていたのですが、少し遅くなりました。
あと、今回は用語説明を一つ入れておきます。

「エーテル」……世界を構成する根源元素。巨神の地であり、巨神界の生物の生命力の源。
        様々なものに利用されている。ぶっちゃけるとファンタジーな原子だと思ってくれればいいです。



あと、ゼノブレイドの世界において漢字は存在しません。
そもそも文字文化が異なります。
知らなくても差し支えありませんが、参考程度に。


では、投下していきます。

【コロニー9 居住区 一方通行邸】


一方通行「……!」

一方通行の眠りを覚ましたのはけたたましい警報音だった。
目覚めた瞬間身体を強張らせた一方通行だが、すぐに警戒を緩めた。

一方通行(……落下物警報か)

警報音の正体は落下物警報。
巨神界上層からの落下物に対する警報だ。
まもなくして、対空砲の発射音が耳に響いた。

一方通行(まァ、いい目覚ましにはなったな)

仮眠も十分とったし、頭は冴えている。
一方通行は手早く支度を済ませ、軍刀を担ぐと家を出た。
向かう先は研究棟。恐らくシュルクも戻る頃だろう。

【コロニー9 研究棟入口】


シュルク「それで、良く眠れたの?」

一方通行「あァ、いい目覚ましが鳴ったしな」

フィオルン「目覚まし…って落下物警報のこと?」

一方通行は居住区を出てすぐにシュルクとフィオルンに合流した。
シュルクとフィオルンのいた公園は落下物迎撃対象外区域だったが、二人とも無事だったようだ。
そして研究室の前に差し掛かったあたりで、研究室内に人がいることに気づいた。

フィオルン「ねえ、あれラインじゃない?」

研究室内にはこちらに背を向けたラインの姿があった。
何をしているのか、こちらからはよく見えない。

一方通行「……オイ、待て。アイツ……!」

研究室に近づき、ラインが何をしているか勘付いた一方通行は声色を変えた。
――― ラインの手には、モナドが握られていた。

シュルク「ライン!!なにやってるんだ!」

ライン「シ、シュルク!?いや、これは…その」

突然現れたシュルクに対してラインは目に見えて狼狽えた。
そして、その拍子に。

ライン「うおっ!?」


―――― モナドが解放され、青い光の刃が現出した。


解放されたモナドを、ラインが出鱈目に振るう。
……いや、違う。ラインがモナドに振り回されているのだ。
モナドはそれ自身が意思を持つかのように独りでに動き、研究室の機材を次々と破壊していく。

一方通行「ライン!モナドを離せ!」

一方通行が叫ぶが、モナドはラインの手から離れない。

シュルク「うわっ!」

モナドが向けられ、シュルクは慌てて飛びのいた。
ラインも必死にモナドを手放そうとするが、モナドは尚暴走を続けている。
やがて。

フィオルン「ひっ…!」

ラインの手の中のモナドが。
機神兵の装甲をも容易く引き裂く伝説の神剣が。



──── フィオルンの身体を一閃した。


フィオルンがモナドの斬撃を受けたのと、ラインがモナドを手放したのはほとんど同時だった。
ラインの手から離れたモナドは未だにカタカタと小さく振動している。
……そして、フィオルンは。

フィオルン「あ、あれ…?切れて、ない?」

確かにモナドが当たったはずだ。しかし実際には、身体どころか服にも傷一つついていない。

ライン「なんともないのか、フィオルン?」

フィオルン「う、うん。大丈夫」

研究室は暴走したモナドによって至るところが斬り裂かれ、いくつかの機材が完全に破損している。
フィオルンも落ち着きを取り戻していたが、それでも声は震えていた。
一瞬、研究室が静寂に包まれたが、やがて溜息と共に、落胆した声が発せられた。


シュルク「……あーあ、壊れちゃった」


フィオルン「壊れちゃった……って、私の身体は心配してくれないの!?」

シュルク「別に、どこも斬れてないだろ。モナドは人を斬れないんだからさ」

シュルクの反応を見て憤ったフィオルンだったが、シュルクは冷めていた。
モナドによって破壊された機材を弄り、ほとんど修理の余地がないことに気づいて落胆しているだけだ。

シュルク「そんなことより」

シュルク「ひどいよ、ライン!」

ライン「す、すまん…。頼みごとががあったんだけど…いなかったしさ、お前」

シュルク「僕だって外の空気を吸いたくなることもある」

シュルク「…………身体、まだ痺れてる? モナドをしまいこんである理由、よくわかったろ?」

ライン「ああ、骨身にしみたよ。ちょっと触ってみたかっただけなんだ……悪い」

一方通行「今回は痺れただけで済ンだが、オマエの身体が完全に麻痺する可能性だってあった。」

一方通行「少しは自覚しとけ、この筋肉バカが」

ライン「すまん……本当に」

ライン「……にしても」

ラインは、未だに小刻みに動いているモナドに目をやった。

ライン「モナドは人を斬れないって…」

一方通行「……その円の中に浮かンでる模様。……いや、文字か」

一方通行「ソイツは恐らく、今のモナドの能力を表してる」

青い光の刃は既に消えていたが、床に転がっているモナドの円形の穴には、まだ青い文字が浮かんでいた。
浮かぶ文字は―――『機』。

ライン「文字? これが?」

シュルク「多分ね」

シュルクは床に落ちているモナドを、発動させてしまわないように慎重に手に取った。

シュルク「この文字を増やす方法を見つければ、きっと───」

フィオルン「理屈はわかったわ……でもね!」

フィオルン「私より機械の心配ばっかりしてるってどういうこと!?」

フィオルンが怒鳴り、腕を組んでシュルクに詰め寄る。
フィオルンの顔は誰が見てもわかる程怒っており、シュルクをにらみつけていた。

シュルク「どういうって……いま説明した通り―――」

フィオルン「そういう問題じゃないでしょ!!」

シュルク「ご、ごめん!」

シュルクはどういうことかわからない、といった顔をしていたが、フィオルンのあまりの迫力に思わず後ずさった。
そして、シュルクの手の中にあるモナドが壁に当たり、カツン―――と音を鳴らした。


―――その衝撃が、モナドを再び解放させる。


シュルクの身体を、紫電が駆け巡り、弾かれた様に態勢が前のめりになった。

シュルク「ぅ、うううぅ…!」

―――そのままシュルクの視界が真っ白になり、







   『本当、モナドがねえと弱ぇよなあ、テメエらは』



                     『皇家を継ぐ吾が命じる―――』


『いまこそ枷を、解き放とう――――!』


                                 『これが……俺に、できること…だろ?』



                  『モナドは意思の力―――』



  『貴様は危険だ……よって、排除する!』





              『やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』



――!
――――ルク!

ライン「シュルク!」


シュルク「はぁ、はぁ……ライン……」

一方通行「……またか」

シュルク「うん…」

自分が知らない人物と共に行動している場面や、見たこともない風景。
シュルクがモナドを発動させたとき、シュルクの脳裏には様々な情景が駆け巡った。
最後に聞こえた叫び声は、自分のそれによく似ていた気がする。

シュルク「ラインはモナドを握った時、何か見えなかった?」

ライン「何かって、俺と同じように青い光の刃が出たじゃないか」

シュルク「いや、そうじゃなくって…」

シュルク「まるで時間が止まったような感じがして…それで…」

ライン「時間が止まった?」

シュルク「あれが見えたのは僕だけなのか―――」

一方通行「だろォな」

一方通行「ラインに見えねェってだけならラインが例外ってことで済むが、前に聞いた限りダンバンにも見えてねェ」

一方通行「シュルク、オマエが例外なンだろ」

フィオルン「ねぇシュルク、ホントに大丈夫なの?どこか痛んだりしない?」

シュルク「そんなに心配しなくても平気だよ」

シュルク「本当は、何度もこういうことが起きてるんだ。ずっとモナドを研究してきたわけだしね」

フィオルン「何度も……って、本当に大丈夫なの!?」

シュルク「心配いらないよ」

シュルク「で、何か頼みがあるんじゃなかった?ライン」

ライン「ああ、そうだった!」

ライン「あのチョッカクヒゲに懲罰任務くらっちゃってさ。付き合ってくんない?」

一方通行「遅刻がばれたのかァ?ンで、何発殴られた?」

ライン「殴られたのは確定かよ!……いやまあ、殴られたんだけどさ」

ライン「それで、懲罰任務でいかなきゃならないんだ」

ライン「《マグ・メルドの遺跡》」

シュルク「ってことは、任務ってエーテルシリンダーの回収か」

ライン「そうそれ!確か、自走砲に使うって言ってたな」

フィオルン「自走砲って、居住区に突っ込んじゃったあの大きな機械のこと?」

一方通行「あァ。確かあの自走砲は、『ドーラ』って名前だ」

フィオルン「なんでそこまで知ってるのよ……」

ライン「で、シュルクと一方通行、あの辺の地理に詳しかったろ?」

シュルク「なるほどね」

シュルク「わかった。一緒に行こうか」

シュルク「一方通行もいいよね?」

一方通行「まァ、別にいいけどよォ」

フィオルン「あっきれた……《マグ・メルドの遺跡》って《テフラ洞窟》を抜けた先でしょ?」

フィオルン「モンスターだっているのに…シュルクが怪我したらどうするのよ」

フィオルン「シュルクはラインと違って繊細なんだから」

シュルク「大丈夫。自分の身くらい自分で守れるよ」

フィオルン「でも……」

ライン「分かった。なら俺がシュルクには傷一つ負わせないって約束する。それならいいだろ?」

フィオルン「ラインの約束なんて当てにならないわよ」

シュルク「……行っちゃったね」

ライン「信用ねえな、俺」

一方通行「別に今始まったことでもねェだろ」

シュルク「信用してないのは口だけだよ、きっと」

コロニー9近辺の野道】


シュルク「じゃあ、行こうか」

ライン「おう!えっと、まずはテフラ洞窟へ行かなきゃな」

シュルク「うん。日が暮れるまでには帰れるようにしたいね」

ライン「……あと、あのままでいいのか?フィオルンのこと」

シュルク「……え?」

一方通行「………」

ライン「ほら、モナドが暴走してうやむやになっちまったけど、相当怒ってたろ、フィオルン」

シュルク「う、うん……」

ライン「あとでもう一回ちゃんと謝ったほうがいいと思うぜ」

シュルク「そ、そうだね…」

一方通行「わからねェか?」

シュルク「え?」

一方通行「フィオルンがあンなに怒った理由、まだわからねェか?」

シュルク「……」

一方通行「俺やオマエにとって、モナドは人を斬れねェ剣であり、機神兵に対抗する為の、ホムスの希望そのものだ」

一方通行「だが、フィオルンにとってはそうじゃねェ」

一方通行「アイツにとってあの剣は、どンなものでも斬ることができる剣で、ダンバンを今の状態にした元凶だ」

一方通行「ホムスにとっての希望であることも理解しているだろォが、それ以上にモナドはフィオルンにとって畏怖や憎しみの対象なンだよ」

一方通行「フィオルンがそンなモナドに斬られかけた後に、オマエはフィオルンを全く気にかけなかった」

一方通行「俺でもラインでもねェ。シュルク、オマエがだ」

一方通行「だからフィオルンはオマエに対して怒ったンだよ」

一方通行「わかったら俺やラインがいる時じゃなくてもいいから謝っとけ」

シュルク「………うん、わかった」

シュルク「確かに僕は、フィオルンのことを何も考えてなかった」

シュルク「近いうちに、きちんと謝るよ」

シュルク「ありがとう、一方通行。それとラインも」


ライン「うっし!じゃあしめっぽいのはやめにして、とっととエーテルシリンダーを回収しに行こうぜ!」

シュルク「うん、そうだね!」

ライン「……それにしても」

一方通行「あン?」

ライン「一方通行もたまにはいいこと言うんだな。いつもは口が悪いだけなのに」

一方通行「そォか、そンなに俺の作る武器がいらねェか。せっかく楯にちょうどいい素材が手に入ったンだが残念だなァ」

ライン「わー!冗談!冗談だって!!」

シュルク「あはははははっ!」

【テフラ洞窟入口】


コロニー9を出てから数十分後、一方通行達はテフラ洞窟の入口に到着した。
入口には防衛隊の警備員が数名。それに加えて……

フィオルン「忘れものよ。運搬ケース、必要でしょ?」

フィオルンがいた。手にはエーテルシリンダーを運ぶための運搬ケースが4つ。
腰のホルスターには、フィオルン愛用の戦闘用のナイフが入っている。

ライン「おう。助かった……って、え?」

ラインがケースを受け取ろうとしたが、フィオルンはケースを持った手をグイッと後ろに下げた。

フィオルン「私も行くことにしたから。家で待ってるよりも、横にいたほうが安心だもん」

フィオルン「さ、行こ!」

フィオルンは三人の返事を待たずにずんずんと洞窟に入っていた。
その様子を見ていたシュルクとラインは困ったように顔を見合わせたが、観念してフィオルンの言うことを聞くことにした。

ライン「やっぱ信用ねぇな、俺」

一方通行「だからそォだって言ったろ」


【テフラ洞窟】

テフラ洞窟はコロニー9からやや離れた場所に位置し、巨神の脛に当たる部分に存在する洞窟だ。
洞窟内にはいくつかの湖や、湖面に届きそうなほどの大きさの鍾乳石がある。
広大な広さを誇る場所であるため、今なおその全貌は把握されておらず、今でも調査隊が調査を続けている場所でもある。

シュルク「まずは洞窟の奥に行こう。《マグ・メルドの遺跡》はそこにある」

フィオルン「うん。……それにしても、少し気味が悪い場所ね。虫が多くて」

一方通行「他にも普段はグロッグだのヴァンプだの、モンスターが多いンだが……」

ライン「全然モンスターなんていないぞ?なにかあったのか?」

一方通行「さァな。ま、居ないほうが都合がいい。急ぐぞ」

シュルク「モンスターはいないけど、やっぱり虫は多いね」

ライン「本当嫌になるぜ。俺蜘蛛が苦手なんだよ」

フィオルン「そうだったの?ちょっと意外だわ」

シュルク「そうだね。ラインは虫とか全然怖くないタイプだと思ってたよ」

ライン「シュルク、よくそんなことが言えるなお前……」

シュルク「え?」

ライン「俺が蜘蛛が苦手なのは、昔お前が俺の靴に蜘蛛を入れたからだ!」

シュルク「え!?そんなことしたっけ?」

ライン「覚えてねえのかよ!俺は何もしてないのに、靴を履いたらいきなり蜘蛛がいて本当にビビったんだぞ!」

シュルク「ご、ごめん」


一方通行「何もしてない、ねェ……」

ライン「なんだよ?」

一方通行「確かシュルクが蜘蛛入れたのは、ラインがシュルクの机に毛虫を入れた仕返しだったはずだが?」

ライン「そ、そうだったっけ?」

フィオルン「全く、どうして男の子ってそういう風に虫でイタズラするのかしら」

シュルク「そういえば昔、ダンバンさんがフィオルンの服のポケットに虫を入れたことがあったね」

ライン「フィオルンにすごく怒られたって凹んでたぞ」

フィオルン「当然よ!」

四人で雑談をしながら、モンスターのいない洞窟を進んでいく。
すると、ある地点を境に、明らかに人工で作られた施設であり、高度な技術で作られたものであると伺える。
……《マグ・メルドの遺跡》だ。


【マグ・メルドの遺跡】


フィオルン「ここが、《マグ・メルドの遺跡》?」

一方通行「来るのは初めてだっけか」

シュルク「防衛隊は訓練に使ったり、僕や一方通行は調べものしに来たりするけど、普通はこんなところに用はないからね」

フィオルン「この遺跡は、機神兵が作ったものなの?」

シュルク「多分違うと思う。人が入る通路があるし。……これは乗り物だったんじゃないかな」

ライン「防衛隊のホバー輸送艇みたいなもんか」

フィオルン「乗り物?こんなに大きいのに……」

一方通行「あァ。どう考えても今のホムスの技術じゃねェ」

ライン「どんな奴が作ったのか……俺には見当がつかないね」

シュルク「さ、行こうか。エーテルシリンダーがあるのはこの先だよ」

その後、しばらく進んだ後、洞窟の外に出た。
コロニー9をすっかり見渡せる高所であり、近くには遺跡の人工物と思われる建物がある。
扉などはなく、出入口は開けていて、壁一面にエーテルシリンダーが並べられている。

【マグ・メルドの遺跡 エーテルシリンダー格納庫】


ライン「ここだここだ!ちゃっちゃと回収してくるから、少し待っててくれ!」

フィオルン「壁一面にエーテルシリンダー……」

フィオルン「ねぇ、ここって相当古い場所よね?ここのエーテルシリンダー、まだ使えるの?

シュルク「うん。この場所には、何か力を失わせずに保持する機能があるんだと思う」

一方通行「ついでにそこかしこに開かない扉もある。まだ俺達には解明できてない機能もあるだろォな」

シュルク「うん。悔しいけど僕にはまだその秘密がわからない…」

シュルク「でもいつか必ず解き明かしてみせる。既に作られている物ならそれには手が届くはずだ」

ライン「回収、終わったぜ!付き合わせちまって悪いな」

シュルク「別にいいよ。四人で出かけるのも久しぶりだったしね」

ライン「最近任務とか研究とかで皆忙しかったしなぁ」

一方通行「これだって任務だろォが。懲罰任務」

ライン「まあそうなんだけどさ」

フィオルン「でも確かに、久しぶりに四人で平和に過ごした気がする……」



フィオルン「これから先も、ずっと今日みたいな日が続けばいいのに―――」





――――だが


ライン「……ん?何か聞こえないか?」


――――フィオルンの願いは神には届かない。


シュルク「……本当だ。これは、防衛隊のホバー輸送艇……?」


フィオルン「こんな時間帯に?」


――――現実は容赦なく目の前に立ち塞がる。


一方通行「……! コロニーに戻るぞ!! 今すぐだ!!」


――――『日常』は終わりを告げる。


ライン「おい、まさか……」


――――上空から無数に投下される「ソレ」は




シュルク「―――機神兵!!」



以上で、本日の投下は終了です。
モナドは人を斬れないなら、せめてフィオルンの服くらい切り裂いてほしかったです。

何か質問や要望があればどうぞ。

最近投下できずにすみません…
まだもう少しかかりそうですが今月中にはもう一度投下しようと思ってます。
心優しい方は気長に見下してやって下さい。

ま、まだ9月ですよね(小声)
一時間ほど遅れてしまい申し訳ありません。
では、投下します。

コロニー9は、オレンジ色の光に照らされていた。しかし夕刻にはまだ幾らか早い。
機神兵の侵攻によって、コロニーには火の海が広がっている。
大音量の警報音の中、逃げ惑う住人たちを、機神兵が無慈悲に喰い殺す。

―――蹂躙。
そうとしか言えない現実が、一方通行達の前に広がっていた。


【コロニー9 ダンバン邸前】



ライン「なんだよ、これ……!」

シュルク「あいつら 人を喰ってる!?」

フィオルン「機神兵は一年前にお兄ちゃんが全滅させたはずなのに……」

一方通行「……おいフィオルン。ダンバンがいるか確認してこい」

フィオルン「わ、わかった!」

一方通行「……どォやらお出ましのようだな」

シュルク「機神兵!」

ダンバンの家に入っていくフィオルンを見届けた三人の前に現れたのは六三式と呼ばれる機神兵。
最も多く量産されている型の中型機神兵の一種だった。
二足歩行型で、両腕の先は三つに分かれ、その部分でで獲物を刺し貫くタイプだ。

ライン「来るなら来い!ぶっ壊してやるぜ!!」


ライン「うおおおおおおおおおっ!!」

ラインの扱う武器はシールド兼突貫用の、攻防一体のものだ。
攻めるときは巨大な槍のように武器を扱い、守るときは武器を変形させて巨大な楯にする。

ライン「喰らえっ!」

巨大な槍状の武器を機神兵に向けて突き立てる。
しかし、ラインの一撃が機神兵を貫くことはできず、それどころが動きを止めることも敵わない。

シュルク「くそっ!」

シュルクも同様に、自分の身の丈ほどの剣を振るうが、機神兵にダメージはない。

ライン「うおっ!?」

やがて、ラインは攻撃を正面から弾き返され、バランスを崩した。
すかさず六三式機神兵は、腕を高々と振りかざす。

シュルク「ライン!!」

シュルクが叫びながら六三式に向かって走り出すが、間に合わないことは明白だった。
六三式の腕が振り下ろされる。

ライン「……ッ!」

しかし、その腕はラインを貫かない。
ラインが疑問に思うと、なぜか六三式の腕が小刻みに震えて、うまく機能していないことが視認できた。

一方通行「関節だ!関節部分を狙え!」

言うと同時に、一方通行が六三式の四肢の関節部分に銃弾を撃ち込んでいく。
やがて、四肢の機能が停止し、六三式は崩れ落ちた。

ライン「ぶっ壊れた……のか?」

一方通行「一時的に機能停止しただけだ。すぐに動きだす」

シュルク「でも、今はこれ以上のことはできないよ」

一方通行「あァ。だからフィオルンが来たらここを離れるぞ」

一方通行たちが話していると、フィオルンが慌てた様子でダンバンの家から出てきた。

フィオルン「お兄ちゃんいないの!家の中のどこにも!」

シュルク「なんだって!?」

ライン「まさか機神兵に……!」

一方通行「落ち着きやがれ。見たとこ家に争った跡はねェ」

一方通行「ならダンバンがいねェのは自分の意思だ。探したほうがいい状況に違いはねェが、最悪の事態ってわけじゃねェ」

一方通行「とにかく今はここから離れるぞ。ここは危険だ」

フィオルン「離れるってどこに……?」

シュルク「……軍事区の研究棟だ!あそこなら!」

ライン「そうか!あそこにはモナドがある!モナドなら機神兵をぶった斬れるぜ!」

シュルク「うん、行こう!」

一方通行(……少し妙だな)

機神兵の目につかないように研究棟に移動してる間、一方通行は違和感を覚えた。

一方通行(機神兵が多すぎる。投下される数の幾らかは対空砲で破壊されるはずだ)

コロニー9に設置されている3基の対空砲。
それらは機神兵に対しても有効な攻撃手段の一つであり、今回のように空から機神兵が投下される場合はその性能を最大限に発揮するはずだ。
しかし、現状では機神兵が全く数を減らさずに地上に到達しているとしか思えない数の機神兵がコロニーを埋め尽くしている。

一方通行(一体どォいう……ッ!?)

曲がり角を曲がると同時に、対空砲が見えた。
……が、対空砲は機神兵を撃ち落とすこともせず、沈黙している。

一方通行(対空砲が機能してねェ!?それもシステムのハッキングじゃなく、物理的に破壊されてやがる!)

シュルクたちは気が付いていないようだが、破壊された対空砲には、どれも全体をなにかで引き裂いたような損傷が見受けられた。
そんなことができる機神兵など聞いたことがない。

一方通行(今シュルクたちに話しても、余計に混乱させるだけだろォな。そもそも立ち止まって話す時間なンざねェ)

今はとにかく研究棟のモナドが必要だ。
対空砲を破壊した機神兵が存在するなら、モナド以外に対抗手段はない。
一方通行は速度をあげ、研究棟へ急いだ。

【軍事区 研究棟入口前】

フィオルン「そんな……」

研究棟の前にたどり着いた一方通行たちだったが、研究棟の入り口は瓦礫で塞がれていた。
そして、瓦礫の下には夥しい量の鮮血がまき散らされていた。

ライン「防衛隊長……皆……」

ライン「機神兵…!絶対に許さねぇ!!」

フィオルン「でも、これじゃあ地下のモナドは……」

シュルク「まだだ……まだなにか手があるはず…」

シュルク「…………………………そうだ!居住区の自走砲!」

目を閉じてしばらく考え込んでいたシュルクが、ハッと声をあげた。

シュルク「あれならさっき取ってきたエーテルシリンダーを注入すれば動かせるはずだ!」

ライン「自走砲ってことは……」

フィオルン「居住区ね!」

一方通行「…………」

ライン「よし、行くぜ!」

軍事区を出てすぐの広場。
そこを突っ切れば居住区はすぐそこだ。
……移動を妨げるものがなければ、の話だが。

一方通行「……ッ!」

シュルク「機神兵!」

広場に入ってすぐに、上空から機神兵が投下された。
その数はざっと見渡しただけでも十を超えている。

フィオルン「シュルク!後ろにも!」

ライン「……囲まれた!」

数十もの機神兵に囲まれた一方通行たち。
戦闘が避けられないことは明白だった。

一方通行「……フィオルン。機神兵の列に穴をあけるからオマエは先に行け」

フィオルン「えっ!?」

一方通行「俺たちで時間を稼ぐ。二人ともいいな?」

ライン「当たり前だろ!」

シュルク「もちろん!」


フィオルン「嫌よ!私も一緒に戦うわ!」

シュルク「行くんだ!!」

フィオルン「でも……!」

ライン「この街は……一年前の戦いでダンバンたちに護ってもらったようなもんだ」

ライン「なら今度は俺たちが護る番だぜ!」

一方通行「安心しろ。俺たちもすぐに後を追う。必ずだ」

フィオルン「……ッ!」

ライン「こんな奴らチャチャっと片づける。そんで誰にもケガはさせねえ」

ライン「約束だ」

フィオルン「―――うん。信じる」

一方通行「……行け!」

フィオルンを広場から脱出させた後、広場に残るのは機神兵の群れと、シュルク・ライン・一方通行。
三人は互いに背中合わせになり、各々の武器を構える。

ライン「今度は信用されたな。俺」

シュルク「みたいだね」

一方通行「妙な死亡フラグ建ててンじゃねェよ」

ライン「ははっ、悪い悪い」

シュルク「ライン、一方通行!行くよ!」


「「「おおおおおおおおおおおっ!!」」」

叫び、三人は機神兵へと突撃する。
……それが無謀だということがわかっていながら。

―――三人が戦闘を始めて数分後。
どちらが優勢かなどわかりきっている。
一方通行たちは徐々に広場の中央に追い詰められる。
絶望的な戦況だった。
三人は機神兵の関節を麻痺させる攻撃を続けたが、機能停止を起こすのは少しの間だけだ。
他の機神兵を相手している間に、前に麻痺させた機神兵が再び動き出す。
負のサイクルのなかに、一方通行たちはいた。

シュルク「はぁ、はぁ、はぁ!」

一方通行「本格的に……苦しくなってきやがったな、クソが……!」

ライン「お前ら、こういうことに慣れてないもんな。下がってていいぞ。あとは俺が片づける」

一方通行「ぬかせ筋肉バカが、説得力皆無だボケ」

ライン「……だよな」

シュルク「危ない!上だ!」

シュルクが叫ぶと同時に、三人の頭上から巨大な瓦礫が落下してくる。
三方向に散らばるようにその場から飛びのき、瓦礫を回避する。

ライン「…っつぅ……!」

一方通行「ライン!!後ろだ!!」

体制を崩したラインに向かって六三式機神兵が腕を振り下ろす。
なんとかその一撃を受け止めたラインだが、その場から身動きが取れない。

シュルク「ライン!」

シュルクと一方通行が駆け寄り、機神兵をどかそうと試みるが、機神兵はびくともしない。
後ろから機神兵の群れが迫っている。

ライン「お前ら、逃げろ……」

シュルク「できないよ!」

ライン「一方通行!」

一方通行「できねェって言ってンだろォが!」

一方通行とシュルクが懸命に攻撃を続けるが、依然として機神兵にダメージはない。
そして、一方通行たちの後ろから迫りくる機神兵の群れ。
もう幾ばくもなく一方通行たちは機神兵の群れの攻撃範囲に入る。
そして、「その時」が訪れた瞬間―――

「でやああああああああああああああああああああああああああっ!!」

―――咆哮と共に青い光が機神兵の群れを一閃した。

ライン「まさか……」

爆炎のなか、見覚えのある男が、赤い剣を持って直立している。
……モナドを携えたその男は。

ダンバン「……待たせたな!!」

シュルク「ダンバンさん!」

『英雄』ダンバン。卓越した剣技を持つホムスの英雄が、機神兵の群れを薙ぎ倒した。

ライン「すげえ!モナドだ!」

一方通行「家に居なかったのはモナドの為か」

言いながら一方通行は心の中で安堵していた。
対空砲を引き裂いた機神兵。ソイツを相手にするのに、自走砲では歯が立たないと踏んでいたからだ。

ダンバン「三人とも、気を緩めるな!まだ機神兵は残っているぞ!」

モナドの円形部分に文字が浮かぶ。
浮かぶ文字は……『機』。

ダンバン「はぁっ!」

ダンバンを中心に、紫色のエーテル波動が放出され、4人を包み込んだ。

一方通行「コイツは……!」

ライン「すげぇ!力が……溢れてくる!」

シュルク「今なら……やれそうだ!」

初めてモナドの力をその身に受けた一方通行たちは、その力に驚愕していた。

ライン「うおおおおおおおっ!」

数時間前、六三式機神兵に弾かれた時と同じ動ぎで、ラインが機神兵の群れに突っ込む。
そして、槍を機神兵の身体に勢いよく突き立てると。

ライン「……いけるぜ、シュルク!一方通行!」

槍は機神兵の装甲を、正面から容易に貫いた。
一方通行とシュルクも後に続く。

ダンバン「このあたりの機神兵を全滅させるぞ!」

シュルク「はい!ダンバンさん!」

ダンバンの到着から数分後、広場には機神兵の残骸の山が築かれていた。

一方通行「粗方片付いたな」

ダンバン「うむ。三人ともよく持ちこたえてくれた」

ダンバン「フィオルンはどうした?」

ライン「居住区の自走砲を取りに向かってる!追いかけようぜ!」

一方通行「さっきの瓦礫が道を塞いでやがる。面倒だが外からまわるぞ」

シュルク「よし、急ごう!」

ダンバン「行くぞ!」

【コロニー9近辺の野道】

四人はコロニーの外周を大きく迂回するルートで居住区を目指した。
先程までと違い、機神兵から隠れず、モナドの力で機神兵を打ち倒す。
絶望的な状況に、一筋の希望が見えてきた。
……だが。

ダンバン「……ぐううぅぅぅぅあああああっ!?」

突然身体に紫電が迸り、ダンバンが倒れこむ。
同時に、モナドがダンバンの手から離れ前方に放り出された。

シュルク「ダンバンさん!?」

ライン「無茶だ!これ以上モナドを使うのは!」

ダンバン「無茶だろうと、やらねばならん時はある―――!」

震える手を前に伸ばし、モナドを手に取ろうとするダンバンだが、その手は届かず、吐血によって地面を赤く染めるばかりだ。
そして、前方には機神兵の群れ。

一方通行(どォする……!?考えろ!この状況を打開する策を……!)

一方通行がその頭脳をフル回転させ、打開策を練る、が。

一方通行(……クソッ!)

有効な手段が見つからない。
ここまでなのか。自分は、ホムスは、ただ喰われるだけの存在なのか。

シュルク「……やっぱり無茶です。ダンバンさん」

一方通行「シュルク……?」

突然声をあげたシュルクに、一方通行は向き直る。
シュルクは強いまなざしで、目の前を見ている。
その視線の先にあるのは―――

シュルク「だから……」

一方通行「オイ、何を…ッ!」


シュルク「僕がやります!!」

駆け出し、視線の先にあったモノ。
―――モナドを手に取り、発動させた。

シュルク「ぐぅうううぅう………!」

シュルク「ああああああああああああああああああああっ!」

モナドの力の大きさに苦悶の表情を浮かべたまま、シュルクは機神兵の群れへと向かう。
そのシュルクに対して、小型の機神兵が、エーテルレーザーの充填を開始する。

ダンバン「待て!シュルク!!お前には無理だ!」

ライン「シュルク!」


やがて充填が完了したエーテルレーザーが、シュルクに向けて撃ち出される。
見てからの回避は不可能な速度。そんなエーテルレーザーを……

ダンバン「なにっ!?」

シュルクはレーザーが撃ち出されるのと同時に、回避行動を行っていた。
まるで、予め軌道が分かっていたかのように。

シュルク「てやあああああああああ!」

そのまま小型の機神兵を断ち切り、群れの中へ入っていく。

一方通行「シュルク!後ろだ!」

シュルクの死角……後方から腕を振り下ろす機神兵の攻撃を、シュルクは振り向きもせず、横に最小限の距離飛びのき、反撃を加える。
―――シュルクは、モナドを使いこなしていた。

ダンバン「……なんということだ。まさか、シュルクが……!」

一方通行「ライン!ダンバン!援護に回るぞ!」

ダンバンはシュルクの剣を拝借し、シュルクへ駆け寄る。

ダンバン「シュルク!身体はなんともないのか!?」

シュルク「はい。でも……さっきから変なんです」

シュルク「先のことが…少し先の未来が、目の前に視えるような……」

一方通行「未来が視える、だと?」

シュルク「……うん」

ダンバン「以前ディクソンの言っていたモナドの隠された力。もしかしたらそれが……!」

ダンバン「今は何も考えるな!モナドの見せたものを信じて戦え!」

シュルク「はい!」

機神兵の群れを退けてすぐに、一方通行たちは居住区に向けて走っていた。
シュルクはモナドを操れる。
それが四人に絶対的な自信を与えていた。
このままいけば勝てる―――!

【コロニー9 居住区】

ダンバン「フィオルン!」

シュルク「フィオルン!どこにいるんだ!!」

四人は居住区に着いてすぐにフィオルンを探し始めた。

ライン「いったいどこに……ッ!?」


       ズン!!

四人の目の前に降り立つ一体の機神兵。
全長15メートルに届きそうなほどの巨大な漆黒の機体。
両腕はかぎ爪状の形をしており、背には巨大な砲台を備えている大型機神兵。
だが、最も異質なのは……

ダンバン「この機神兵……顔があるのか!?」

―――頭頂部に付けられた奇妙な顔であった。

一方通行(あのかぎ爪……)

一方通行「コイツは今までの機神兵とは違ェ!油断すンじゃねェぞ!」

黒い顔つきの機神兵の両腕。
その形状から、目の前のコイツが対空砲を破壊した機神兵だと結論付けた。

ライン「こんなやつ見かけだけだぜ!」

シュルク「そうさ!モナドの力があれば!」

一方通行「シュルク!」

シュルク「はああああああああああああああああああああっ!!」

シュルクは黒い顔つきに向けて突進する。
機神兵を容易く斬り裂くモナドを振りかざして。

シュルク「喰らえ!」

そして、モナドを黒い顔つきに向けて思い切り叩きつける。
カキン。と甲高い音が響いた。

シュルク「……………え?」

一瞬何が起きたのか把握できなかった。
……モナドが、弾かれた?

一方通行「どォなってやがる!」

ダンバン「馬鹿な…!機神兵の装甲なら、いとも容易く断てたモナドが!?」

シュルク「……ッ!」

こんなのは何かの間違いだ。
そう願うシュルクをあざ笑うかのように、黒い顔つきはモナドを何度も弾いた。

シュルク「モナドが……効かない!?」

ダンバン「シュルク!下がれ!」

ダンバンはシュルクを抱えて後ろに飛び込んだ。
一瞬前にシュルクがいた場所を、巨大なかぎ爪が通った。

ダンバン「……ここは俺が引き受ける!」

ライン「無茶だ!あんただってもう…!」

ダンバンが一歩踏み出すことも叶わず、横にいたラインもろとも黒い顔つきに吹き飛ばされた。

一方通行「ライン!ダンバ…ッ!?」

一方通行とシュルクがダンバンたちに目をやった瞬間、同様に吹き飛ばされる。
全身を灼けるような激痛が走る。
もう指一本だってうごかしたくない。
そう思ってしまうような痛みが、全身を駆け巡る。
すると。

ドォン!!という爆音とともに黒い顔つきが前によろめいた。
黒い顔つきの後方からなにかが発射された。

フィオルン「皆!今のうちに逃げて!」

一方通行「フィオルン!?」

フィオルンが黒い顔つきに全速力で自走砲を駆動させる。
同時に自走砲の副砲を撃ち続けるが、黒い顔つきは応えていない。

シュルク「フィオルン!来るな!!」

シュルク「逃げろ!!逃げるんだフィオルン!!!」

一方通行(シュルクの様子が…ッ!そうか、今のシュルクには未来が視える!)

一方通行(つまりこのままいけばフィオルンは……!)

一方通行(あの黒いデカブツの気を逸らさねェと……!)

軍刀に手をかけ、引き金を引こうとするが、腕が言うことを聞かない。
あまりのダメージに、肉体が拒絶反応を起こしているのか。

一方通行「クソッ!動け!動きやがれ!!」

フィオルンが黒い顔つきの目前に到達し、零距離から主砲を撃ち出す。
その衝撃でフィオルンは自走砲ごと転倒した。

フィオルン「やったの……?」

黒煙が立ち上がる。
その中から…

黒い顔つき「―――――」

頭頂部の塗装が少し剥げただけの、黒い顔つきが進行する。

シュルク「やめろ!やめてくれ!!」

黒い顔つきは止まらない。

シュルク「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


       パンッ!


乾いた音が響いた。
それはフィオルンが貫かれた音ではなく。

一方通行「オラ……こっちを向きやがれ…デカブツがァ…!」

一方通行の放った弾丸が黒い顔つきに命中し、フィオルンの目前で動きを止めた。
そのまま一方通行の方向に向き直る。

一方通行「シュルク…今のうちにフィオルンを逃がせ!」

シュルク「ああ!」

一方通行は黒い顔つきから目を逸らさない。
その時一方通行には、黒い顔つきが一瞬嗤ったように見えた。



―――そして、黒い顔つきはこちらを向きながら、自走砲を貫いた。

一方通行「………はァ?」

顔つきは自走砲を後ろに放り投げた。
その爪には真っ赤な血が滴っている。
……あれは、誰の血だ?

シュルク「貴っ様あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

ダンバン「フィオルン!!!フィオルン!!!!!」

ライン「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

横で誰かが叫んで走り出した。
だがすぐに吹き飛ばされ、戻ってきた。
どうやら全員気を失ったようだ。

……そうか、アレはフィオルンの血か。
そして、シュルクたちも倒されてしまったのか。


一方通行「…………」






一方通行「殺す……!」



一方通行「殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロス殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロス殺す殺す殺す
     殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロス殺す殺す殺す殺す
     殺す殺す殺す殺す殺すコロス殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロス殺す殺す殺す
     殺すコロス殺す殺す殺す殺す殺すコロス殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
     殺す殺す殺す殺す殺すコロス殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロス殺す殺す殺す
     殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロス殺すコロス殺す殺す殺す殺す
     殺す殺す殺す殺す殺すコロス殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロス殺す殺す殺す殺す
     殺すコロス殺す殺す殺す殺す殺すコロス殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
     殺す殺す殺す殺す殺すコロス殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロス殺す殺す殺す殺す
     殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロス殺すコロス殺す殺す殺す殺す
     殺す殺す殺す殺す殺すコロス殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロス殺す殺す殺す
     殺すコロス殺す殺す殺す殺す殺すコロス殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!」



力が要る。
コイツを殺すための力が。
フィオルンを殺したこの機神兵を、ネジ一本残さず消し炭にする力が。
……なンだ、あるじゃねェか。目の前に。




一方通行「ぎぃははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!!!!!!」






―――そこが、一方通行の意識が保たれていた最後の瞬間だった。
目を覚ますとフィオルンの姿は見当たらない。黒い顔つきの姿も、その残骸も見当たらない。
あるのは完全に崩壊し、瓦礫の山となった居住区の一角だけだった。



【コロニー9 見晴らしの丘公園】

一方通行「…………」

機神兵はどうやら撤退したようだ。
コロニー9が完全に侵攻されるのは食い止めた。
だが、そんなことはどうでもよかった。

一方通行「………」

フィオルンが殺されてから、自分の記憶がはっきりしない。
覚えているのは自分がどうしようもなく憤怒していたことだけだ。

ライン「よう」

シュルク「一方通行」

一方通行「…オマエらか」

一方通行「それで、オマエらはこれからどうするつもりだ?」

シュルク「僕たちは……」

一方通行「先に言っとくが、俺はあのデカブツを追う」

シュルク「……え?」

一方通行「止めても行くぞ。俺はアイツをぶち壊さねえともォどうしたらいいかわかンねェよ」

ライン「ぷっ…ははははっ!」

一方通行「…何がおかしい?」

ライン「悪い悪い。俺とシュルクと同じこと言うもんだからさ」

一方通行「なンだと?」

シュルク「僕たちも一緒に行くよ。一方通行」

一方通行「ついてくるのは構わねえが、オマエはこういう考えには反対すると思ってたンだが」

シュルク「確かにそういう気持ちもあるけど、今はそれとは逆の気持ちのほうが、ずっと大きいみたいなんだ」

一方通行「……そォか、なら何も言わねェよ」



ライン「―――いつ出発する?」

シュルク「もちろん、今」

一方通行「当然だろォが」

ライン「だよな……じゃあ、行くか」


三人はコロニー9を後にする。
フィオルンの仇を討つことを心に決めて。
ホムスの未来を掴むためにも。
絶対に負けられない長い旅路が、ここから始まる―――

今日はここまでです。


主人公が旅に出るまでに1か月以上かかっていた。なにを言っているのか(ry

いや本当に申し訳ない。ごめんなさい踏んでください。

次回投下は未定ですが極力早めに投下したいです。

ご質問などがあれば申し付けてください。


キズナトークやって欲しいなぁ

>>134
キズナトークですか…
本家とは異なる形になるかもしれませんが、検討してみます。


他のレスして下さった方も、ありがとうございます!

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