ID:BPEhXLeei代行
澄子「はぁ・・・今日も部活、頑張りますかね」
依藤澄子は麻雀部室に向かって歩いていた。その足取りは重い。なぜなら
澄子「分からないものはどうしようもないでしょう。あそこまで言わなくても
いいじゃないですか」
数学の教師にこっぴどく叱られていたからだ。
澄子「・・・まぁ、愚痴を溢しても仕方ありません。部活に集中しましょう」
ドアの前に立ち、二回ノック。
澄子「失礼します」
友香「ロンでー!」
美幸「ぶー!」
元気のいい後輩と、それに驚きお茶を吹き出す先輩。この光景にはもう慣れた。
梢「大丈夫?」
美幸「だいじょぶ・・・ケホッ」
噎せたようだ。どうやら美幸先輩はまだ慣れていないらしい。
莉子「ティッシュどうぞー」
美幸「ありがと」
いつものメンバーは揃っているようだ。声のトーンを上げて発言する。
澄子「あのー遅れてすみません。ちょっと叱られてて・・・」
莉子「・・・?」
莉子が不思議な顔でこっちを見ている。何か変なものでも顔についているのかな?
梢「・・・入部希望者の方ですか?」
・・・え?
澄子「え、何言ってるんですか。依藤ですよ。依藤澄子」
友香「・・・?」
ちょっと待って。ちょっと待って。何かのイタズラでしょう?
どうしてそんな顔で私を見るの?
澄子「二年で、団体戦では次鋒を務めた依藤ですよっ!」
美幸「何言ってるかわかんないんだけどもー」
澄子「いい加減にしてください!」
皆が私を変人を見る目で凝視する。やめて。やめて。私は・・・
澄子「だから私は・・・依藤ですってば!」
梢「?」
梢「・・・あのう」
澄子「なんですか、部長」
梢「すみません。私は貴女のことを知りません」
・・・え?
美幸「私も知らないのよもー」
そんな。
莉子「すみません、私も」
ちょっと。
澄子「み、皆悪ふざけが過ぎますよ。友香ちゃんは意地悪しないよね?」
友香「・・・誰?」
キテタ━(゚∀゚)━!
嘘、嘘、嘘。みんなふざけてるに決まってる。もう、誰が考えたのこんな・・・
梢「失礼ですが・・・」
あぁ、部長が話しかけてきた。一旦考えるのはやめ。
澄子「な、なんですか部長」
梢「貴女は私たちの事を知っているんですか?」
澄子「・・・それは、チームメイトですから当然知っています」
梢「チーム、とは団体戦のチームという事ですか?」
澄子「そうです」
梢「やはりおかしいですね。私たち劔谷高校は大会に出場していませんよ?」
劔谷高校が大会に出場していない・・・?
依藤「な、何をいっているんですか。私たちあんなに頑張ったじゃないですか」
依藤「皆夜遅くまで練習して、他のチームを徹底的に研究して」
依藤「つらかったけど、それ以上に楽しくて。皆で頑張ろうって!」
依藤「そして全国で優勝しようって!皆で言ってたじゃないですか!」
それを・・・
依藤「それを、忘れちゃったんですか・・・?」
梢「ごめんなさい。やっぱり貴女の話は分かりません」
澄子「っ!」
・・・本気で言っている。この目は嘘じゃない。何がどうなってるの?
澄子「みんな、おかしくなっちゃったの・・・?」
梢「・・・ここにいる四人は全員、貴女を知らないと言っています」
梢「対する貴女は私たち四人を知っていると言っている」
梢「客観的に見ても、おかしいのは貴女なのではないでしょうか」
訳が分からない。思考が纏まらない。おかしいのは私?どういうこと?
梢「申し訳ありませんが、お引き取り願えますか。部の迷惑となりますので」
え?そんな。私も部員だよ?どうして分かってくれないの。
澄子「わ・・・・・な・・・」
声が出ない。どうして?視界がぼやける。なんだろう。
梢「それでは」
え?部長、どうして扉を開けるんですか。ちょっと、押さないでくださいよ。
梢「もう来ないで下さいね」
待って、話をさせて下さい部長。閉めないで。お願いだから話を・・・
バタン
澄子「ぅ・・・ひっぐ、えぐ・・・」
自室の布団の上で依藤澄子は泣いていた。
泣き始めたのは部室を追い出される直前であるから、かれこれ三時間になる。
澄子「えぐ・・・ぐすっ・・・」
澄子「わ、私って・・・ぐすっ」
澄子「いじめ、られてるの、かな・・・ぐすっ」
澄子「私って、うざい、のかな・・・ひっぐ」
澄子「うぅ・・・もう、わけわかん、ないよ、ぐすっ」
居間から母の声が聞こえる。今日はまだ夕食を摂っていない。
澄子「・・・ご飯、いいや」
澄子「お風呂入って、落ち着こ。ぐすっ」
澄子「・・・ふぅ。少しはマシになったかな」
どうやらリラックスは出来たようだ。
夕食を断る際に母から心配されたが、大丈夫だと言い聞かせた。
澄子「気分転換に勉強・・・はする気分じゃない」
数学の教師に叱られ、澄子の中の反抗心が勉強を拒んでいた。
澄子「ネットサーフィンでもしようかな」
澄子「あ、この店リニューアルしたんだ。今度行こうかな」
澄子「へぇー芸能人の○○さんがウチの最寄り駅にねぇ。学校無い日に来て欲しかったな」
それなりにネットサーフィンを楽しみ、時間が過ぎていく。針は十一時を指していた。
澄子「ん?この記事・・・」
『部活のみんなが私を覚えてない。誰か助けて!』
澄子「・・・」
カチッ
澄子「!これって・・・」
『なんだか変なんです。部活のみんなが私を覚えていなくて』
『最初は悪ふざけだと思ったんですが、どうもそんな雰囲気じゃないんです』
『本当に、変な人を見るような目で見てきて』
『それに私がみんなと経験したことを、みんなは覚えていないんです』
『もう何がなんだか分かりません。誰か助けて!』
澄子「私と同じ・・・!」
澄子「更新日時は・・・今日の十時半。まだ間に合うかな」
澄子『記事を読ませて頂きました。
信じられないかも知れませんが、私も同じ経験をしました』
澄子『状況はほぼ同じだと思います。よければ情報を共有しませんか?』
澄子「・・・っと」
コメント欄に書き込み、返信を待つ。返事は直ぐに帰ってきた。
澄子「来た!」
『それは本当ですか?まさか、私と同じことがあったなんて・・・』
『情報の共有には大いに賛成です。
しかしここで話すのもアレなので、メールで話しませんか?』
澄子「えーと、このアドレスでいいのかな」
澄子『コメント欄の者です。このアドレスで大丈夫ですか?』
澄子「送信!」
ピロリン
澄子「早っ」
どうやら相手はメールの達人のようだ。
『大丈夫です。早速ですが、何から話しましょうか』
澄子『とりあえず、どういった流れでああいう状況になったんですか?』
澄子『私の場合は、部室に入ると既に皆私を覚えていない様子でした』
澄子「送信」
ピロリン
『私の場合はみんなと麻雀をしてる最中に突然、誰ですか?と聞かれて』
『あ、私麻雀部なんですよ』
『そこからは記事にある通りです』
澄子「へぇーこの人麻雀部の人だったんだ」
澄子「・・・これってもしかして」
何かに気付き、キーボードを出来るだけ早く叩く。
澄子『実は、私も麻雀部員です。もしかしたら麻雀が何か関係しているのかも』
『麻雀部の方ですか。そうなると確かに麻雀が関係しているのかも知れませんね』
『もしかすると地域的な関係もあるかも知れません。
私は長野に住んでいるのですが、あなたは?』
澄子『私は兵庫です。住んでいる場所は関係ないみたいです』
『兵庫ですか。どうやらその通りですね。他に何か共通点は無いのでしょうか・・・』
澄子「共通点、か」
澄子「しらみつぶし作戦でいこう」
澄子『私は17歳です。あなたは?』
『16です。性別はどちらですか?』
澄子『女性です。ご趣味は?』
『ネット麻雀です。あと私も女性です』
澄子『私は茶道を少し。麻雀の大会には出ましたか?』
『はい。個人戦と団体戦の両方に』
澄子『私は団体戦の次鋒に。あなたは?』
『副将です』
澄子『まとめると、麻雀部の女性かつ大会(団体戦)に出場している事が共通点』
『そのようですね。この中のどれかが、一連の現象の原因と見て間違いないでしょう』
『正直なところ私はこんなオカルトじみたことは信じられない人間なのですが』
『それ以外に説明できる言葉がありません』
澄子『そうですね。なんとかして原因を突き止めましょう』
『はい。一緒に頑張りましょう。キリが良いのでそろそろ私は失礼させてもらいます』
澄子『はい。おやすみなさい』
澄子「・・・ふぅ」
時計の針はもう一時を指していた。
布団に入り、学校のことを思い出す。
澄子「明日・・・もう今日か。学校に行くのが怖かったけど」
澄子「メールの人もおんなじ気持ちですよね。私も頑張らなきゃ」
澄子「というか、メールの人じゃ言いづらいから明日なんて呼べばいいか聞こう」
目覚ましを六時にセットし、寝る体制をとる。
澄子「・・・おやすみなさい」
ジリリリリリリ
澄子「ん、んん・・・」
澄子「もう朝・・・?」
五時間の睡眠は女子高生にとってはかなり短い。目を擦りながら自室を出る。
澄子「おはよーおかあさん」
「・・・貴女、誰?」
澄子「・・・・・・・・・え?」
澄子「え、ちょ、何言ってるのおかあさん」
依藤澄子は困惑する。眠気は吹き飛んでいる。
「どこから入ったのよこの泥棒!」
包丁を手に持ち、敵意を向ける自分の母親。
澄子「なに、が・・・起きてるの?」
「警察に電話するわよ!そこを動かないで!」
澄子「っ!」
「ちょっと!待ちなさい!」
急いで自室に戻り、カギを閉める。もう何がなんだか分からない。
澄子「はぁ、はぁ」
澄子「逃げなきゃ。が、学校に・・・」
急いで制服に着替える。扉の外から母親の話し声が聞こえてくる。
どうやら本当に警察を呼んだようだ。
澄子「そうだ、メールの人のアドレス、携帯に・・・」
もうこの部屋には戻れない。それが分かってしまったので、最低限の身支度を整える。
澄子「よし、行こう」
窓を開け、学校へと向かう。時間は六時十五分。いつもより一時間早く通学路を走る。
澄子「はぁ、はぁ」
走りながら依藤澄子は考える。一体何が起きているのか。
澄子「(昨日私がお風呂から上がった時には、まだ『おかあさん』だった)」
澄子「(でも目が覚めてから居間に向かうともう『おかあさん』ではなかった)」
考えていると校門が見えてきた。速度を落とし、呼吸を整える。
澄子「(まさかおかあさんもおかしくなっちゃった?そんなことって・・・)」
「ん、おはよう。朝練かね?頑張りたまえ」
澄子「っ!」
昨日叱られた数学の教師に声をかけられた。この人は私を覚えている?
澄子「あの、せんせ」
「はて、そういえば君の顔は見覚えが無いんだが・・・すまないね、年を取るとコレだ」
「それで、何か用かね?」
澄子「・・・いえ、何でもありません」
この人も、私を覚えていない。
澄子「部室、行こう」
この時間ならまだ誰もいないですよね。カギの隠し場所はここだったかな。
澄子「あった。失礼します、って誰も居ないですけど」
澄子「ふぅ・・・やっぱりここは落ち着きますね」
お茶でも造ろうかな。って、あれ?
澄子「コレって・・・私たち五人の記念写真?」
澄子「たしかこれは全国行きが決まって、その記念に皆で撮った写真」
澄子「この写真が飾ってあるということは、皆私の事を知ってるはずです」
澄子「やっぱり皆の悪ふざけ?・・・じゃあメールの人は?」
澄子「・・・ここまで同じ悪ふざけが同じ日に起きるなんて、ありえるのでしょうか」
澄子「そして何より皆の目が本気でした。本当に分からないって顔してました」
澄子「やっぱり、何かが起きているとしか思えませんね」
澄子「そういえば、メールの人は大丈夫でしょうか」
澄子『昨日のコメント欄の者です。訳有って携帯からの送信になります』
澄子『こちらは母が私の事を覚えていない様子で、大変でした。
そちらは大丈夫ですか?』
澄子「送信っ。校則違反なんて、久しぶりですよ、もう」
むい~ん
澄子「相変わらず早い」
『父が私の事を覚えていませんでした。今学校の部室で横になっています』
澄子「やっぱり、日に日に周りから私たちに関する記憶が消えている」
澄子「そういえば」
澄子『部室に過去の貴女の存在を証明する物はありますか?集合写真のような物です』
『ありました。これは一体どういう事なんでしょうか』
澄子『私も分からないですけど、家に自分の部屋があったり』
澄子『集合写真に姿が写っていたりしていることから、変化が起きているのは』
澄子『私たちではなく、周りということになりますね』
ちょいタンマ・・・
このSSまとめへのコメント
数少ない澄子ssが…
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