【ポケモンSV】アオイ「自分だけの宝物を、今度こそ」 (16)


────「自分だけの宝物」なんて、どこにもなかった。



グレープアカデミー 食堂


ペパー「なあ、最近のアオイちょっと変じゃないか?」

ネモ「そうかな? いつも通り強いアオイのままだったけど」

ボタン「はいはいネモいネモい。でも今回ばかりはペパーに同意」

ペパー「だよな!? 暗くなったっつーか……」

ネモ「どうしよう、私のせいかも! この間アオイに勝ったのが嬉しくて連戦しまくったんだよね!」

ペパー「そんなことで凹むような女じゃねえよ、アオイは」

ボタン「だね。どうする、調べてみる?」

ペパー「調べるってまさかハッキングするのか!?」

ボタン「せんから。ウチらって友達なんでしょ? だったら直接聞けば良いじゃん」

ネモ「ペパー聞いた!? ボタンが私たち友達だって!」

ペパー「…………そうだよな。アオイと俺達って友達、だよな」

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アオイの部屋


アオイ「え? 何もないけど」

ネモ「絶対ウソ! この間勝ちまくったことは謝るからさ!」

アオイ「あぁ、アレね。うん、構築が良くなかったから負けて当然だよ」

ネモ「負けて、当然…………なにそれ」

アオイ「そのままの意味だけど」

ネモ「そんなのアオイらしくない! 私の知ってるアオイは、どんなピンチでも絶対に諦めない……ううん、ピンチになればなるほど燃えるタイプ!」

アオイ「そんな頃もあったっけ。でもポケモンバトルは根性で勝てるものじゃないよ」

ネモ「今すぐ戦ろう、アオイがアオイに戻るまでバトル!!!」

ボタン「ネモのわるいとこ出てるし。でもウチの知ってるアオイじゃないのは、うん、ネモの言う通り」

アオイ「ネモの知ってるわたし? ボタンの知ってるわたし? 知ってる? ニンゲンもポケモンと同じように進化するんだよ」

ボタン「アオイは進化したって?」

アオイ「うん。わたしは三人に導かれてただけの、あの頃のわたしじゃないんだ」

ペパー「俺たちに導かれてただけとか言うなよ」

アオイ「なにペパー、きみも二人と同じ意見なの?」

ペパー「俺が大好きなアオイはなぁ! お前が言うような、自分の意志を持たない人形みたいなやつじゃないんだよ!」

アオイ「ねえ聞いた!? ペパー、わたしのこと大好きなんだって! お年頃だ~」

ネモ「何が面白いの? 私もアオイのこと、大好きだよ。大好きなライバルだよ」

アオイ「はいはいライバルね。ありがとうございます。ボタンはオトナだもんね、こういう青春ごっこは卒業したよね?」

ボタン「青春ごっこは卒業? ウチが? 残念でした、青春ごっこプロ舐めんなし」

アオイ「…………あぁ、そんな感じなんだ。あっ、そろそろ行かなきゃ。今から用事あるから、またね」

ペパー「……行きやがった」

ネモ「なにアレ! あんなのアオイじゃない! もしかしてゾロアークのイタズラ!?」

ボタン「ゾロアークの方がよっぽど賢いと思うけど」


南1番エリア レホール先生のテント


レホール「本当に良かったのかい?」

アオイ「何が?」

レホール「お友達、置いてきちゃったんだろう」

アオイ「大丈夫ですよ。ペパーは研究、ネモはオモダカさんの特訓、ボタンはポケモンリーグ技術部のお手伝いがありますし」

レホール「なるほど。つまりこう言いたいんだね。かつて肩を並べた友が、それぞれの道に向かって進み始めた。それも「自分だけの宝物」を見つけて」

アオイ「……」

レホール「なのにアオイはというと……何も無い! 何も手にすることはなかった! パルデア地方を救った功績は学校側に握りつぶされ表に出る事は無く……」

アオイ「…………」

レホール「輝かしい最速チャンピオンロード制覇の実績、それがあってもオモダカが最後に選んだのはネモだった!」

アオイ「…………っ!」

レホール「秘伝のスパイス? ヌシポケモン? もちろんペパーの研究資料として持って行かれたさ!」

アオイ「……」

レホール「スター団の改心、それは実行役のアオイよりもスター団ボスの身分を明かしたボタンへの称賛にシフトした!」

アオイ「…………おもしろい話」

レホール「まったくだ! これほど面白い話はそう無いよ!」

アオイ「準備は出来てる。南東部の杭もあと少しですよ」

レホール「うむ、その意気や良し。いやはや、いち歴史教師としてアオイの研究意欲については喜ばしいことこの上ないね」

アオイ「研究なんてどうでも良いです。ただわたしは────」

レホール「────「自分だけの宝物」が欲しい」

アオイ「っ! …………はい」

レホール「しかしそれが古代の災いをもたらすポケモンの封印を解くことだなんてね。御母堂がそれを知ったらどう思うだろう」

アオイ「喜んでくれますよ、きっと」

レホール「そうかい、それはとんだ────すてきなママだこと」


同時刻
グレープアカデミー


タイム「アオイさん? そうねぇ、見てないけれど……」

サワロ「ウム……力になれなくてすまない」

ジニア「そうですねぇ、たしかに気になっていましたけどぉ、どうしたんでしょうねぇ」

ハッサク「友のために奔走する若人たち……ウォオオオオオオオオオオオオオオン!!!」

ミモザ「そういえば最近見ないわね、キハダは何か知ってる?」

キハダ「見てないな。バトル学の授業にも出てないし……教えることもう無いけど」

クラベル「そういうことならこちらでも調査してみましょう。なに、変装は得意なもので!」



ペパー「ダメだ、オトナ頼りにならなすぎだろ!」

ネモ「バトルしてたら釣られて寄ってくるかも……!」

ボタン「ケンタロスじゃあるまいし」

ペパー「学校には居なさそうだし、やっぱ外なのか?」

ボタン「それ、手掛かりナシって意味だし……はぁ……」

ネモ「ジム巡りしてるかもよ!?」

ペパー「他に話聞いてないのって……」

ボタン「たしか……」

パモ「パモぉ……」

ネモ「パモだ! 可愛いなぁ、私のパーモットが幼かった頃を思い出す!」

ペパー・ボタン「セイジ先生だ!」

パモ「パモぉ!」


南1番エリア 朽木の祠前


アオイ「これが最後の杭……」

レホール「ああ。そして幸いにも、かつてお札の悪しき力によって災いをもたらしたとされるポケモンが封印されし祠が目の前に」

アオイ「本当に杭を抜いたら、災いのポケモンが解放されるんですよね?」

レホール「もちろん! ……とは断言できない。何せ歴史とは嘘吐きだからね」

アオイ「それを歴史教師が言うんですか」

レホール「ノンノンノン。嘘とはすなわちロマン! 数多の嘘に隠されたたったひとつの真実、それを掘り明かすことこそが歴史を学ぶ楽しさなのさ!」

アオイ「まあ何でもいいですけど。じゃあ、抜きますね」


 黒く光る杭を引き抜くと、それは元から無かったかのように霧散した。

 その直後、祠を塞いでいた鎖が震え始めた。

 まるで寝起きを邪魔された赤子のような荒い振動────否、胎動のようで。

 祠の壁がぼろぼろと崩れ落ちてゆくのだった。


謎のポケモン「カキシルス」

レホール「うっひょおおおおおおおおおおおおおお!!! 出た出た出た出たホントに出たあああああああああああああ!!!」

アオイ「これが、災いのポケモン……」

レホール「草葉と蔦に塗れたおどろおどろしいカラダ……良いねえ良いねえ災い呼びそうな見た目だぁ!!!」

スマホロトム「ロトロトー!」

アオイ「えっ、ポケモン図鑑が反応した……?」


 No.1001 チオンジェン

 分類:さいやくポケモン
 タイプ:あく・くさ
 高さ:1.5m
 重さ:74.2kg
 特性:わざわいのおふだ

 草木のエネルギーを吸い上げる。
 周囲の森はたちどころに枯れ果て、田畑は不作となる。


チオンジェン「カキシルス……」

レホール「さあバトルアンドゲットだよアオイ! さあさあほらほらチャンピオンランクの腕の見せ所ではないかね!? んん!?」

アオイ「(災いのポケモンはあくまで歴史上の逸話のはず……なのにその存在が既に証明されているどころか、ポケモン図鑑にまで情報があるなんて)」

チオンジェン「カキィ……シルスッ!!!」

レホール「うぉっと間一髪! なるほどね、その蔦を自在に操り戦うわけだ!」

アオイ「(そんな、これじゃゲットしたって「自分だけの宝物」にならない!)」

レホール「ちょっとちょっと、いつまでスマホロトムとにらめっこしてるんだい!? こちとらバトルは門外漢でね、出来れば手持ちの子を繰り出すことすら控えておきたいくらいなんだよ!?」

アオイ「(ダメだ、考えてても仕方無い。とにかくチオンジェンと戦って、絶対にゲットするんだ!)」

アオイ「いけっ! ウェーニバル!」

ウェーニバル「ウェニバァー!」

レホール「いけいけアオイ! いけいけウェーニバル! 見たところ奴はくさタイプ、対してウェーニバルはみずタイプ! ちょっと待ってタイプ相性をご存じない!?」

アオイ「ウェーニバル、ブレイブバード!」

ウェーニバル「ニィィィ……バァアアアアアアアアア!」

レホール「なるほどひこうタイプの攻撃か! それならくさにこうかはばつぐんだ!」

チオンジェン「カッ……キィ、シルス」

レホール「効いてなくないかい!?」

アオイ「(どうして!? チオンジェンはくさ・あくタイプ、ひこうタイプの攻撃はこうかばつぐんのはずなのに!)」

レホール「ハッ! 思い出した! アレは災厄を呼ぶ木札の力で、人々の生命力を吸い取り衰弱させるんだ!」

アオイ「ってことはまさか、物理攻撃は効かない!?」

レホール「その可能性も否定しきれない! っとと、眩暈が……あれ、身体が…………」バタンッ!

アオイ「レホール先生!?」

レホール「おっかしいなぁ……体力にはそこそこ自信が、あったんだけどなぁ…………」

アオイ「(衰弱……? っ! この種、まさかチオンジェンのやどりぎのたね!?)」

チオンジェン「カキシルス、カキシルス!」

アオイ「そんな、ウェーニバルの攻撃で与えたダメージがまるで嘘のように元気になってる!」

ウェーニバル「ウェニ、バァ……ッ!」

アオイ「やどりぎのたねがウェーニバルにも!」



 どうしよう。

 どうしよう。

 どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。

 勝てない。

 わたしじゃチオンジェンに勝てない。

 ウェーニバルはずっと一緒に戦ってきた一番の相棒。

 どんなにアンバランスなパーティーになっても、ウェーニバルだけはずっと一緒だった。

 ネモにはあんなこと言ったけど、ほんとは、心の奥では……ウェーニバルがきっと何とかしてくれる、そう思ってた!

 わたしが負けたらどうなるの?

 多分、イキリンコタクシーがポケモンセンターに連れて行ってくれる。

 でもそれじゃレホール先生が危ない。

 相手はただのポケモンじゃない、大昔に多くのニンゲンを死に追いやった災いをもたらすポケモン。


 ああ、結局だめなんだ。

 わたしはひとりじゃ何もできない、何も掴み取れない。

「自分だけの宝物」、ネモやペパー、ボタンに奪われたんじゃない。

 わたしは元から、何も手に入れてなかったんだ。


チオンジェン「カキシルス」


 ポケモンの鳴き声がこんなに怖く聞こえたのは、二度目だ。

 初めては大穴に行った時、もう一匹のミライドンがわたしのミライドンに威嚇した時。

 あの時、わたしはすぐに逃げ出したくなった。

 だけど踏み止まれたのは、隣にネモが居たから、ペパーが居たから、ボタンが居たから。

 でも今は────。


アオイ「────ひとりぼっち、かぁ」


少し前
グレープアカデミー


セイジ「ここにいたのネ! パモさん元気いっぱいでいいことネー!」

ボタン「噂をすれば何とやら」

ペパー「丁度良かった! 実は俺たち、セイジ先生を探してたんだ!」

パモ「パモぉ~?」

ネモ「ネモぉ~?」

セイジ「言語学の授業、ムズカシイムズカシイね! なんでも教えるヨ!」

ペパー「訊きたいのは授業のことじゃないんだよ!」

ボタン「どうせペパーはどの授業も理解してないし」

ペパー「家庭科は得意だっつーの!」

セイジ「Hmm……言語学も頑張ってほしいネ~」

ペパー「最近アオイの様子がおかしくてさ。アオイがどこに行ったか知ってたら教えてくれ!」

セイジ「アオイ? アオイ、アオイ……Oh! そういえばちょっと前に、レホール先生と一緒にテーブルシティを出て行くのを見たヨ!」

ペパー「本当か!? やっぱ外だ、行くぞお前ら!」

ボタン「いや待ちなって。広大なパルデア地方から小さなグレープアカデミーが候補から外れただけだし、ヒントも無く探すのは無謀すぎ」

ペパー「だけど悠長なこと言ってらんねーだろ!?」

ボタン「セイジ先生、他に何か知らない? レホール先生が何か言ってたとか」

セイジ「そうネー……Oh! そういえばWalkで行こうって言ってたヨ!」

ペパー「Walk……新種のポケモンか?」

ネモ「歩いて行こうってことかな!」

セイジ「Yes! ネモはとってもカシコイカシコイねー!」

パモ「パモパモっ!」

ペパー「歩いて行こう、か……ってことは割と近所かもしれないな!」

ボタン「だね。少なくともナッペ山とかオージャの湖とかではなさそう」

ペパー「助かったぜセイジ先生!」

ボタン「ウチ、レンタルモノトカゲ手配しとく」

ネモ「パモもありがとう!」

パモ「パモぉ~!」




セイジ「レホール先生の付き添い……まさか、ネ」


現在
南1番エリア 朽木の祠前


アオイ「────ひとりぼっち、かぁ」

チオンジェン「カ キ シ ル ス」

アオイ「…………っ」


 刹那、草原に不死鳥が駆け抜けた。


ネモ「ラウドボーン、フレアソングッ!!!」

ラウドボーン「ラァアアアアアアアアアウ♪ ボォオオオオオオオオオオン!!!」

アオイ「ネ、モ……?」

チオンジェン「カッキィィィ……!?」

ネモ「やっぱり! アツいバトルの匂いがしたからアオイが居ると思ったんだ!」

アオイ「なんで、なんで……?」

ネモ「なんでだと思う?」

アオイ「わたし、ネモに……いやなこと言った…………」

ネモ「そうだっけ? 今はバトルがしたくて覚えてないっ!」

チオンジェン「カキィ…………シ ル ス」

アオイ「あくのはどうだ!」

ラウドボーン「ドッ、ボォ…………ッ!」

アオイ「チオンジェンはくさ・あくタイプ! ラウドボーンの弱点を突いてくる!」

ネモ「へぇ……面白いじゃん! だったらッ!」

???「ウチも居るし」

アオイ「ボタン!」

ボタン「ニンフィア、ムーンフォース!」

ニンフィア「フィアァアアアアアアアアアアア!!!」

アオイ「(ほのおとフェアリー、しかも弱体化されない特殊攻撃! これなら大ダメージを与えられる!)」

チオンジェン「カッキキ、カキキシル……」

ネモ「あと一息! 行くよボタン!」

ボタン「指図されるの好きくないけど、そうは言ってられないよね」

ネモ「ラウドボーン!」

ボタン「ニンフィア!」

ネモ「最大火力でフレアソング!!!」 ボタン「きらめきマックスでムーンフォース!!!」

ラウドボーン「ラァアアアアアアアアアウ♪ ボォオオオオオオオオオオン!!!」

ニンフィア「フィアァアアアアアアアアアアア!!!」

アオイ「やったの!?」



チオンジェン「カ キ シ ル スゥゥゥゥ…………」

アオイ「なに、頭に響く……いやな声……」

ラウドボーン「ラッ、ラウゥ……?」

ニンフィア「ニン…………」

ネモ「ラウドボーンの炎が弱まってる!?」

ボタン「ウチのニンフィアも……なんで……?」

アオイ「まさかバークアウト……? 特殊攻撃の威力を弱めるわざまで使えるなんて!」

ネモ「だったらパーモットのかくとうタイプで!」

ボタン「ウチもブースターで!」

アオイ「だめ! 木札の力で物理攻撃は効かない!」

ボタン「そんなんチートすぎ……」

ネモ「滾る、滾るけどさぁ……っ!」

チオンジェン「カキ? カキシル? カキシルスゥ!」

アオイ「やどりぎのたねだ! 体力を吸い取られちゃう!」

ラウドボーン「ラァ……っ!」

ニンフィア「ニ、ニンフゥ……」

アオイ「(物理もだめ、特殊もだめ、長引けばやどりぎのたねで体力を奪われちゃう……これじゃいくらネモたちの協力があったって……)」

ペパー「悪い待たせた! レホール先生はポケモンセンターに送り届けたぜ!」

アオイ「ペパー! おねがい、ネモとボタンだけでも連れて今すぐ逃げて!」

ペパー「逃げる? 聞いたコトない言葉だぜ! 炎の料理人ペパー参上、最強チームこれにて集結だろーが!」

アオイ「チオンジェンには勝てないの! 命だって危ないから!」

ペパー「はっ! 命の危機のひとつやふたつ、アオイと駆けたスパイス集めと大穴での戦いで経験済みだっつーの! 暴れて来い、マフィティフッ!!!」

マフィティフ「マフマフッ!!!」

アオイ「(どうしよう、チオンジェンに生命力を吸われちゃったら……またマフィティフが前みたいに弱っちゃう!)」

ペパー「チャンピオン2人にスター団ボス様が勝てなかった相手だ。これで俺が倒せば、学校最強は俺ってことで良いよなァ!!!」

マフィティフ「マフォォオオオオウ!!!」


ペパー「マフィティフ、くらいつく!」

マフィティフ「マッフ!!!」

チオンジェン「カキシィ……?」

ペパー「タフなやつ……だけどまだまだ! マフィティフ、思いっきりくらいつく!」

マフィティフ「マァアアアアアアティフッ!!!」

ネモ「だめだめ! あくタイプにあくタイプはこうかはいまひとつ! タイプ相性はしっかり勉強しなさい!」

ペパー「うるせえ生徒会長! 俺とマフィティフのコンビなら、タイプ相性なんて関係ないんだよッ!!!」

チオンジェン「カ キ シ ル ス !」

ボタン「だめじゃん……これじゃダメージよりやどりぎのたねの回復の方が上回ってるし……」

アオイ「もう良いってペパー! このままじゃ……このままじゃマフィティフがまたっ!」

ペパー「うるさい! 俺は確かにベンキョーは苦手だけど! それでもマフィティフと一緒に特訓した日々は裏切らねえ! それはアオイッ!!!」

アオイ「……っ」

ペパー「お前に、勝ちたいからだ!」

アオイ「……なに、言ってんの」

ペパー「スパイス集めの時はアオイに頼ってばかりだった……大穴に行った時だってそうだ! 最後の最後に何もできず、ただアオイとミライドンを応援することしかできなかった! 学校最強大会で今度こそって思ったけど、それでもアオイは強かった!」

アオイ「そんなの、あたりまえじゃんか……」

ペパー「俺はずっとアオイが羨ましかった。いや違うな、ネモもボタンも、みんなのことが羨ましかったんだ。いきなり現れてパルデアを救ったアオイ、そんなアオイと堂々とライバルだって胸を張ってカッコイイネモ、いつも即席で仲間を集めてた俺と違って自分の好きを貫き通すボタン……ダサいだろ俺。だけどよッ!!!」

マフィティフ「マフ、マァフッ!!!」

ペパー「研究なら、俺が一番、得意なんだぜッ!!!」

チオンジェン「カッ、カキッ? カキキシルッ!!?」

アオイ「チオンジェンの身体が、固まってる……?」

ネモ「何あの白いの!? 白い粉!?」

ボタン「ここにきてまさかの塩なんっ!?」

ペパー「気付かなかったかよ、蔦のバケモン! お前がマフィティフに夢中になってる間、俺のキョジオーンがしおづけにしてたってことをよ!」

チオンジェン「カキシシル、カキィ……!」

アオイ「しおづけは少しずつダメージを与え続けるわざ! これでやどりぎのたねでの回復は無駄になる!」

ペパー「タイプ相性が分からない? それくらい、調味料の組み合わせと比べりゃ簡単ちゃんだろッ!!!」

スコヴィラン「スコォ……ッ!」

パルシェン「パルシェエエエエエンッ!!!」

ペパー「見てろよアオイ、これが俺の……いや、俺たちのポケモンバトルだぜッッッ!!!」


チオンジェン「カキィ……ッ! カキッ! シルッ! スゥ!!!」

アオイ「そこらじゅうにやどりぎのたねを巻き散らしてる!?」

ネモ「ペパーのポケモン全員から体力を吸い取る気だっ!」

ボタン「これじゃしおづけじゃ足りないし! ぐんぐん元気になっちゃうし!」

ペパー「種だって料理に使うこともあるんだぜ! ヨクバリス、ごはんの時間だぜ!」

アオイ「やどりぎのたねを、食べてる……」

ボタン「そんなんありなん……?」

ネモ「ペパー面白い! そいつ倒したら次! 私と戦ろうよッ!!!」

ペパー「今だスコヴィラン、パルシェン! オーバーヒートにつららばり!」

スコヴィラン「ヴィィィィィラァアアアアアアアアアアアン!!!」

パルシェン「パルッ、パルッ、パルッパルッシェエエエエン!!!」

アオイ「効いてる! 弱ってるよ!」

ペパー「仕上げといこうぜ、マフィティフ!」

マフィティフ「マフマァフ!!!」

アオイ「だから物理攻撃は効かないんだってば!」

ペパー「そんな特性、変えちまおうぜ! リククラゲ、なやみのタネ!」

リククラゲ「クラゲェン……」ファサァ

チオンジェン「カキシルセナイ……」

ペパー「マフィティフ、スペシャリテだぜ! くらいつくッ!!!」

マフィティフ「マァアアアアアアアアアアティフッッッ!!!」

チオンジェン「カァアアアアアアアアアアアア!!!」



ペパー「へへっ、俺とマフィティフたちのチームは最強だぜ!」

アオイ「すごい……ほんとにあの伝説の災いポケモンを、倒しちゃった…………」

ネモ「よし戦ろう今すぐ戦ろう休憩なんて要らないよねっ!?」

ボタン「相変わらずネモはネモすぎ……待って危ないッ!」

マフィティフ「マッ、マフッ、マァフ…………」

チオンジェン「カァキィシィルゥスゥゥゥ……ゲプッ」

アオイ「ギガドレイン……ッ!? まだ倒れてなかったなんて!」

ペパー「マフィティフッ!!!」

チオンジェン「カ キ シ ル ス !」

ボタン「なんかさっきより元気になってるし……っ!」

アオイ「ギガドレインは与えたダメージを吸収して回復するわざ……チオンジェンが復活しちゃった!」

ペパー「マフィティフ、立てるか?」

マフィティフ「マ、マフゥ……」

アオイ「無理だよペパー……マフィティフは限界だよ!」

ペパー「限界なんかじゃねえ、そうだろマフィティフ」

マフィティフ「マフ…………マフッ!」

ネモ「マフィティフが立った!」

ボタン「だけどさすがにもう無理ゲーすぎ……」

アオイ「他の子たちもさっきまでの戦いで消耗しすぎてる……マフィティフだけじゃ、勝てないよ」

ペパー「マフィティフ、あと一回だ。あと一回だけ、アイツにくらいつくガッツを見せてくれ」

マフィティフ「…………(コクリ)」

ペパー「ありがとうマフィティフ。帰ったら、さいっこうに美味しいサンドイッチ食わせてやるからな」

チオンジェン「カキシシィ? カキシシカキシルスゥ?」

ペパー「マフィティフ、今度こそ最後の────くらいつくッ!」

マフィティフ「マフ、マフ、マフゥ…………」

アオイ「いけマフィティフ!」

ネモ「やっちゃえマフィティフ!」

ボタン「がんばれマフィティフ!」

ペパー「いっけぇええええええええええええええええ!!!!!」

マフィティフ「マァアアアアアアアアアアアティフゥゥゥ!!!」


チオンジェン「カッ、カキ……シル…………………」バタンッ

マフィティフ「マ、マフゥ……」バタンッ

アオイ「…………」

ネモ「…………」

ボタン「…………」

ペパー「……………………勝った」

マフィティフ「マァフ」

ペパー「俺たちの勝ちだぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

ネモ「ねえねえねえねえ何で何で何で!? 何で最後の攻撃あんなに強かったの!?」

ボタン「くらいつくはあくタイプ、多分アイツもあくタイプだからこうかはいまひとつ……しかも回復までしてたはずだし!」

アオイ「もしかして、ほうふく?」

ペパー「さすがアオイだな。ほうふくは相手から受けたダメージを糧に反撃するわざなんだ。ちょっと怖いわざだから、今まで使わなかったんだけどな」

アオイ「でも、いくら反撃するわざだからって元気になったチオンジェンを一発で倒しちゃうなんて……」

ペパー「きっと、マフィティフはみんなが受けた痛みもまとめて返してくれたんだ」

アオイ「みんなが受けた痛み……」

ペパー「アオイやウェーニバル、ラウドボーンにニンフィア、それに俺の仲間たち。そのみんなが受けた痛みをまとめてお返ししてやったってこと!」

アオイ「そっか……ありがとう、マフィティフ」

マフィティフ「マフフゥ」

ペパー「ははっ、甘えんぼちゃんめ。よく頑張ったなマフィティフ、今はゆっくり休んでくれ」

アオイ「あ、あの……」

ネモ「どうしたのアオイ?」

アオイ「わたし、みんなに、言わなくちゃならないことが」

ボタン「それ、後で良くない? ウチ、疲れすぎて早くブイブイ摂取しないと死ぬ」

ペパー「こらボタン、せっかくアオイが反抗期終わろうって時に邪魔すんなって」

アオイ「はっ、反抗期とかじゃ…………ううん、そうかも。わたし、こどもだったね、ごめんなさい」

ボタン「アオイが子供だったらそれより胸小さいウチは何、カヌチャン?」

ペパー「だから茶化すなって」

アオイ「それと、ありがとう」

ネモ「気にしないでよ、ライバル!」

アオイ「わたし、まだネモのライバルでいていいの?」

ネモ「もちろん! 私のライバルはこれまでもこれからも、アオイだけだから!」

ペパー「コホンっ! 俺とマフィティフも強くなったと思うんだけどなー!」

ネモ「ペパーは挑戦者で」

ペパー「何だよそれー! ペパーのほうふく、ネモはたおれた!!!」

ネモ「たおれませーん!」

ボタン「なんか、みんな子供みたいじゃん」

ネモ「子供じゃないもん!」

ペパー「そうだそうだ! そのうちサワロ先生みたいなガタイになるんだ俺は!」

アオイ「……ふふっ、あははっ!」

ネモ「あっ、アオイが笑った!」

ペパー「やっぱアオイは笑ってた方がしっくり来るな!」

ボタン「不本意ながらペパーに同意」


???「アオハルしてるとこ悪いんだけどさっ!」


 コンッ、コロッ、コロッ、コロッ…………カチャッ☆


アオイ「チオンジェンが!」

ネモ「えっ? って、わぁああ! レホール先生!?」

ペパー「ポケモンセンター連れてっただろうが!」

ボタン「そいつ捕まえてどうするつもりなん?」

レホール「どうするつもりか? ふむ、それは愚問だよ。私は歴史教師、歴史を紐解くのが仕事で趣味で生きがいさ。目の前に貴重な研究資料があれば当然回収するに決まっている。元々そういう約束だもんね、アオイ」

アオイ「そうですけど……でもチオンジェンは危険です。研究は諦めるべきです!」

レホール「またまたそんな思ってもいないこと言って……」

アオイ「んなっ……わ、わたしは本心からそう思ってます!」

レホール「嘘だね」

アオイ「う、うそなんて……」

レホール「私はアオイの気持ちが手に取るように分かる。何故かって? …………同じだからさ、アオイと私はね」

アオイ「レホール先生とわたしが、同じ……?」

レホール「アオイは今度こそ「自分だけの宝物」を見つけるべく、歴史上災いをもたらしたとされる伝説のポケモンを解放した」

ペパー「アオイお前、とんでもねーな!?」

ボタン「スター団の過去の非行が可愛く思えるし……」

ネモ「伝説のポケモン、だからあんなに強かったんだ!」

レホール「しかしまたしても、ネモとペパー、ボタンに邪魔をされてしまった。嗚呼、可哀想なアオイ! また何も手に入れられなかったのだから!」

アオイ「…………ッ!」

ぺパー「そんなことない! アオイと俺たちはかけがえのない友達だ! 共に過ごした時間こそが宝物なんだ!」

レホール「それが言えるのはね、ペパー。キミが「手に入れた者」だからだよ」

ペパー「そんなこと……っ!」

レホール「まあ良い、無事災いのポケモン・チオンジェンは手に入ったのだからね。今回のところはこの辺でとんぼがえりするとしよう」

ペパー「待てよレホール先生、逃げるのかよ!」

レホール「そうだ、言い忘れていたことがある。アオイ、災いのポケモンはチオンジェンだけではない。あと3体、同等の力を持ったポケモンがこのパルデア地方に封印されている。もし興味があれば……私の元へ来たまえ」

アオイ「…………」

ペパー「待てよレホール先生!」

レホール?「…………キヒヒッ!」タタタッ

ボタン「んなっ、ゾロアークに変化したぁ!?」

ネモ「すごい、とっても賢いゾロアークなんだね!」

ペパー「褒めてる場合かよ! ……アオイ、大丈夫か?」

アオイ「…………えっ? なにが?」

ペパー「その、疑うわけじゃないけどさ……まさかまたレホール先生の手伝いなんて、したりしないよな?」

アオイ「ははっ、まさか」

ペパー「だ、だよな……なら良いんだ」

ボタン「待ってほんとに疲れた、帰りはイキリンコタクシー呼ばない? もう歩けないしモノトカゲライドも無理だし…………はぁ……」

ネモ「帰ったらバトルバトルー! まずはアオイとでしょ、それからペパーとも戦って……ボタンのニンフィアも久々に見たらバトルしたくなったなー!」

ペパー「マフィティフが元気になったらだからな!」

ボタン「ウチはニンフィアよりもウチが元気になるまでは無理なん……」

ネモ「よーし急いで学校に帰るぞー!」


後日
グレープアカデミー 某空き教室


レホール「待ってたよ、アオイ」

アオイ「…………」

レホール「そう、それで良い。キミは私と同じなんだ。だから共に探そう。「自分だけの宝物」を」

アオイ「はい、レホール先生」

レホール「大丈夫、きっと見つかるさ。何せここはパルデア地方。キミだけの冒険が、キミだけの宝物が待っているんだから」

アオイ「「わたしだけの宝物」が、待ってるんだ……」




────正しくは「私だけの宝物」なのだけれど、ね。




第一章「枯れ果てた友情」完

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