これは愛すべき呪い (26)
「私、漫画家になるのが夢なんです」
君にそう言われた時に俺の人生は動き始めたし、呪いにかかったとも思うんだ。
あの日から俺は書くことをやめられなくなって、君のことは二度と忘れられない人になって、だから今日になっても俺は書き続けている。
この話が君に届けばいいし、届かなければいい。
そんなことを考えながら、俺は書くよ。
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いつにもましてオタロードの人混みが多く感じるのは気のせいじゃなさそうだ。
普段はメイド服を身にまとっているコンカフェの女の子たちが、今日は巫女衣装に装いを変えている。十日戎というお祭りらしいと知ったのは、ネットで検索してのことだった。田舎出身で大学から大阪に出てきた俺には、これまで縁がない世界の話で知らなかった。
子どもの頃にはまっていたゲームの実況動画を見たせいで久しぶりにやってみたくなり、レトロゲームを扱っているお店に行ったは良いものの、こんなに人が多いとは予想外だった。
早々に買い物を済ませて帰宅し、ゲームを始めよう。
そう思っていたはずなのに、声をかけられてしまったのが運の尽きだった。或いは安っぽい運命だった。
「よかったらお休みして行きませんか?」
黒髪ボブで他の子たちと同じく巫女衣装の女の子だった。少しつり目の猫っぽい雰囲気がまあ、そりゃ端的に表すならタイプでしかなかった。
「リフレなんですけど。リフレって分かります?」
メイドカフェではないのか、と思って知らないと伝えると解説をしてくれた。曰く、コスプレをした女の子が半個室でマッサージをしてくれるらしく、料金的には一度飲み会に行くくらいの金額だった。
ゲームを買って少し寂しくなった懐と、可愛い女の子に施術してもらうマッサージという異世界体験を天秤に比べたら後者が勝ってしまうのは悲しい現実だ。
「えっと、じゃあ、はい」
「ありがとうございます! それじゃ、こちらへどうぞ」
そう言って彼女の後ろにあった扉を開けてくれると、店内へ案内された。
玄関には数席の椅子と、それに座っているお客さんらしき人。合わせてレジカウンターのところに立つ小柄な巫女さんは店員さんなのだろう。
「ご主人様のお帰りです」
まさか自分が人生でご主人様と呼ばれる日が来るとは思っていなくて照れ笑いを浮かべてしまった。彼女の声に合わせて、レジにに立っていた人も「お帰りなさいませ」と声をかけてくれた。初対面の人にお帰りと言われるのも、初めての体験だ。
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