エンド・オブ・ジャパンのようです (265)

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( ^ω^)戦車道史秘話ヒストリア!のようです - SSまとめ速報
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前スレ3【( ´Д`)離れ小島の提督さんのようです】
( ´Д`)離れ小島の提督さんのようです - SSまとめ速報
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前スレ4【ウキウキ!!首相の鎮守府訪問!!のようです】※◆L6OaR8HKlk様作品
【艦これ】ウキウキ!!首相の鎮守府訪問!!のようです - SSまとめ速報
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関連作
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【|w´‐ _‐ノv空に軌跡を描くようです】
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─────フィリピン海









「こちら川内!青葉の回収に成功も大破状態、意識不明!自力航行不可能!!」

「姐さんの曳航は頼んだ、道はこちらで切り開く!大和、いくぞ!!」

「ええ、任せて!大和より“第二橋頭堡”、青葉さんの回収に成功しました!これより離脱を開始します!」

「日向より大和、急かしてすまないが全速力で頼む!退路の維持も長くは保たんぞ!!」

「こちら白雪、上空の“球体”より火力投射量さらに増大!当方圧倒的に劣勢───きゃあっ!?」

「し、白雪ちゃんに直撃弾!状態中破を確認にゃしぃ!!」

「神通さんや翔鶴さん同様榛名と日向さんの後ろに隠れてください!……絶対に、今度は、守ります!!」

「榛名さん自分も損傷してるんだから無理しないでよ!あの提督さんなら絶対“いのちだいじに”だろうからさ!」

「中破してる上空母なのに砲撃戦に参加し続けてる貴女が言っても説得力ないわよ瑞鶴。───攻撃隊、全機発艦します」

「こっちも制空隊で併せるで!

とはいえ、こりゃあちょっち不味いかなぁ………!?」

「大鳳より各位!航空戦における数的不利著しく、また敵艦隊並びに“球体”の対空砲火により被害甚大!

空母艦隊、艦載機喪失率5割を越えました!!」

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─────フィリピン海









「こちら川内!青葉の回収に成功も大破状態、意識不明!自力航行不可能!!」

「姐さんの曳航は頼んだ、道はこちらで切り開く!大和、いくぞ!!」

「ええ、任せて!大和より“第二橋頭堡”、青葉さんの回収に成功しました!これより離脱を開始します!」

「日向より大和、急かしてすまないが全速力で頼む!退路の維持も長くは保たんぞ!!」

「こちら白雪、上空の“球体”より火力投射量さらに増大!当方圧倒的に劣勢───きゃあっ!?」

「し、白雪ちゃんに直撃弾!状態中破を確認にゃしぃ!!」

「神通さんや翔鶴さん同様榛名と日向さんの後ろに隠れてください!……絶対に、今度は、守ります!!」

「榛名さん自分も損傷してるんだから無理しないでよ!あの提督さんなら絶対“いのちだいじに”だろうからさ!」

「中破してる上空母なのに砲撃戦に参加し続けてる貴女が言っても説得力ないわよ瑞鶴。───攻撃隊、全機発艦します」

「こっちも制空隊で併せるで!

とはいえ、こりゃあちょっち不味いかなぁ………!?」

「大鳳より各位!航空戦における数的不利著しく、また敵艦隊並びに“球体”の対空砲火により被害甚大!

空母艦隊、艦載機喪失率5割を越えました!!」

「妙高ちゃん、9時方向から接近中の水雷戦隊に制圧射撃で足止め!大鳳ちゃん、今発艦した艦爆隊から一個編隊を妙高ちゃんの砲撃に合わせて突入させて!秋月ちゃんは二人を敵の航空隊から全力で守って!!

衣笠ちゃんと鹿島ちゃんは12時方向のル級3隻と軽巡水鬼に対応!那珂ちゃんが前に出て囮をやる、その間に順に仕留めて!!」


「っく………上等だよ、こちとら元から死ぬまで戦う気だぁ!!」


「天龍ちゃん────うぐっ?!」 


「て、天龍さんと龍田さんが被弾、中破!ど、どうしたら………私、どうしたら………!」


「足柄より支援艦隊、全方面からの敵艦隊による波状攻撃なお激化!上空の“球体”からの砲爆撃も止まる気配なし!

こっちは損傷艦続出だけど掩護射撃は飛ばせないの!?」


《【こんごう】CICより足柄、こちらも全力で飛ばしてるんだ!飛ばしてるんだが……………》


《This is 【Curtis Wilbur】, All missile down!! I repeat, All missile down!!》


《Negative!! 【Chancellorsville】 for All Freet, Enemy AAR is so hard!! Our attack can't break it!!》


《Spear-01より【Shark Head】、さらに“球体”から新たな【黒鳥】が投入された!こっちが撃墜するより向こうが機体を投入するスピードが早いぞ、間もなく【回転木馬】も限界だ!!》


《補給完了した航空隊の再来とオーストラリア並びにグアムからの増援が到着するまでなんとしても高高度航空優勢を維持しろ!!この上【学園艦棲姫】による艦載機群の大量投入なんて起きれば我々の許容範囲を越えるぞ!!》


《まだ越えてないみたいな言い方はやめるヨ!とっくの昔にこっちは限界に…………Fuck, Next 【Black Bird】!! Guys, Fire Fire Fire!!》


《Spear-03より各位、あの四つの“球体”に直接攻撃してみるのはどうだい!?撃墜しちまえば火力は大幅に減退するはずだろうしさ!》


《こちらSwallow-01、とっくの昔に試みてるさ!!だが結局ミサイルが当たりゃしねえ、棲姫の弾幕と合わせて全部撃ち落とされちまう!!》


「こちら妙高、仮に当たったとしても無駄だったかと……我々も出現直後に砲撃を叩き込みましたが、四つ全て傷一つ着かなかったので」


《【こんごう】CICより支援艦隊各位並びに【ロナルド・レーガン】へ通達、基地航空隊を全機発艦し戦域に投入!また、現存する航空隊もこれに合流し戦闘を継続!!


……………っ、なお退却許可条項に“損害の度合い”を認めず!燃料・弾薬の枯渇を除き以後全ての機体は艦娘艦隊の海域離脱まで戦闘を継続されたし!!!》

「こちら榛名、再度被弾!中破しましたが戦闘を継続します………!」 《【黒鳥】が一個編隊【回転木馬】を突破した!来るぞ、迎撃急げ!!》     《艦載機群も来るぞ!対空戦闘よぉーーい!!》
《ミサイルが足りない、補充が間に合わねぇ!!》
  「新たな敵艦隊………ぐぅぅ!?」
「日向さん!?」 《This is Rapier-05, One hit!! One hit!!》
《【あたご】より日向、状況を報告せよ!》
「雷より【あたご】!日向さんがル級の砲撃をもろに受けて………!」
    《基地航空隊損耗率40%台に突入、なお加速度的に増加中!!》 「んにゃしい!?」「こちら妙高、駆逐艦睦月中破!!」《【ロナルド・レーガン】ブリッジより神威、【World turbine】を人数分もって指定座標に急行しろ!》
「大鳳中破!」《神威了解!発艦します!》《Mayday Mayday Mayday───》「妙高さん大破!」
  《秋月大破!対空火網大幅に減退!!》「こんなところで、沈むものですか………!」「あかん、しくった、な……ぁ……」
「すみません、鹿島、大破しました……!」「こちら瑞鶴、加賀と龍城さんが敵艦砲直撃により大破!」
   《Shamrock, 神威のエスコートに移れ!なんとしても守り抜け!!》
  「神通さんが流れ弾に被弾、大破状態に移行!」「っっ!? こちら武蔵、不覚をとった……ここで中破など……!」
  《This is Shamrock-12, Boggy behind!! Help, Help!!》《敵艦載機群射程圏内に到達!!シースパロー攻撃始め!!》
  「大和さんに敵の集中砲火が………た、大破状態を視認!!」《Rapier-20 down!!》
「っ、顔はやめてって言ってんじゃん………!」
  《那珂中破!》
「川内中破!」
   《日向、大破状態に移行!》
《衣笠中破!!》



《【Dora】 Fire!! Enemy shoot inc───

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《【Chancellorsville】 lost. I repeat, 【Chancellorsville】 lost.》




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【エンド・オブ・ジャパンのようです】



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気障ったらしい言い回しだが、光ってのは人間にとって希望の象徴とされている。

宗教絵画で描かれる天国は大抵の場合暖かな光に満ち溢れてるし、神話じゃプロメテウスが「火」という光を与えた結果人間は文明を手に入れた。
月明かりや星明かり、オーロラや虹はいかなる時でも美の象徴であり、それこそ“希望の光”なんて言葉も存在する。

ただ、俺の個人的な見解は別だ。

剣や槍、鏃、盾に鎧、ヤパーヌの刀、どこぞの王様が考案した そいつ自身が最初の犠牲者になっちまったって話の断頭台。より良い鉄を使うほど、より腕のいい職人が鍛えるほど、これらの切っ先は強い輝きを放つ。

銃が開発されてからは、コイツが一回光る度に必ず誰か死ぬようになった。大砲で死ぬ人数が数十人に、航空爆弾で数百人に、ミサイルで数千人に増えた。

それこそこれらが放つ「火」で焼かれる街や村や人なんてもんは、戦場じゃあ一種の風物詩だ。極めつけの核兵器は、街どころか国すら吹っ飛ばせる。

ご覧の通り、戦場では“光”なんざ見ずにすむならそれに越したことはない。伴うのは希望どころか、絶望と死だからな。

例えば今この瞬間俺たちの目の前で、地平線の彼方で瞬く無数の“光”なんかは。

『『『『──────ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!!』』』』

('A`;)「砲弾正面、回避急げ!!」

(*;゚∀゚)「Jaworl!!」

深海棲艦の連中による艦砲射撃の発射炎なんかは、その典型だろうよ。

真っ正面から迫ってきていた光弾を、ツーのハンドル捌きがギリギリのところで躱す。髪を数本掠め焦がしながら通過していったそれは後方十数メートルのところで着弾し、乗っているエノクの車体が激しく揺れ一瞬後輪が浮き上がった。

今の揺れ方、そして爆発の大きさから察するにル級Eliteの16inch三連装砲か。こんなことを感覚的に把握できてしまう自分の“成長”に涙が止まらねえよクソッタレめ。

《こちら第9小隊、3号車を砲撃によりロスト!》

《第2小隊、フォースター軍曹の車両がやられました!!》

《こっちは二両まとめてやられたぞ畜生め!!》

《マントイフェル少佐、突撃隊の損耗が20%台に突入しました!どうしますか!?》

(;'A`)「作戦に変更は──ぶっふぉ!?」

今度は目の前の地面で火柱が上がり、大量の土埃を伴った爆風が肺を満たしに来る。ホ級の5inch砲か、重巡以上の等級だったらやばかった……!

(#'A`)「作戦に変更なし、このまま指定ポイントまで前進する!!反転や停止なんざ的になるだけだ!!」

(*゚∀゚)「畏まったぜ“少佐”殿ぉ!!」

('A`#)「ことあるごとに階級強調してくんじゃねえよテメェhンゴッフ!?」

頭上から降り注いできた機銃掃射が、回避運動を取ったエノクの横を駆け抜けていく。

こちらとすれ違う形で上空を飛び去るのは、奴らの艦載機である【Helm】。黒く細長い十余の機影は、間もなくグラーフから飛び立ったBf109-T【メッサーシュミット】に後方から捕捉されその悉くが火の玉と化した。

………にしても、爆風も何もない“銃撃”を機銃座に座ってる人間が鞭打ち症になりかねないほど激しく避ける必要あったのか?しかもツー=アハッツほどの腕前の持ち主が。

(;'A`)「おい今………のぉあ!?」

(*゚∀゚)「いかんぜ“少佐”殿!さっきもそうだが、下手に口出しされちゃあハンドル操作を誤っちまうよ!あーひゃひゃひゃひゃ!!」

ツーの奴はそう言って、高らかに笑いつつ肩を竦めて見せる。

因みに今しがたの“回避”は、最早そもそも避ける必要のある攻撃が飛んできていなかった。

やっぱ悪ふざけかよ!つーか今のに至ってはそれこそ動いた先に砲弾飛んできたらどうするつもりだったんだテメエ!!

リーザ。“戦前”時点での人口は確か3万人前後だったか。

この街について「よく存じていて流暢明晰に語れる」って奴は、推測だが恐らく少数派に違いない。郷土歴史家かこの辺りに選挙区をもつ政治家、あとはせいぜいSUMO並びにヤパーヌ文化愛好家ぐらいのもんだろう。

かく言う俺もSUMO世界大会の開催地になってることは──しかも二回──イヨウ少将から聞いて始めて知ったし、名前や位置さえ下士官時代にこの付近で空挺の実施訓練を行ってなければ知ることはなかったと思う。
なんなら、一時鉄工業の有名どころだったことやブンデスリーガの名選手・ウルフ=キルスタンの出身地であることも知っていたフランス出身の“巻き毛の戦車乗り”の方が、余程リーザのことをよく知っている。

まぁ要は、「よくある田舎町」の一つというワケだ。俺の故郷のように。

《リーザ防衛隊CPより敵側面攻撃中の友軍部隊、応答せよ!貴官らは機動迎撃大隊【Anker】所属で相違なきや!?》

(#'A`)「指揮車・ドク=マントイフェルよりCP、一応“それ”だ!」

世の中は解らない。そんなただの田舎町だった場所が、今や対深海棲艦の最前線地帯の一角にしてドイツ存亡の鍵を握る最重要防衛拠点になっているのだから。

(#'A`)「現被害状況、並びに敵艦隊戦力の編成と展開状況を共有求む!把握している限りで構わない!」

《ああ、神よ!!!》

こちらが名乗ると同時、無線機の向こうからはそんな言葉が何十人分にも及ぶ歓声と共に聞こえてきた。
くっっっだらねえモン有り難がってる暇があるなら、こっちの問いかけにとっとと答えてもらいたいんだが?

(#'A`)「偉大なる“神”の御加護があるならわざわざ俺たちが出向く必要もなかったようだな、全車両・全兵力に反転を指示するが問題無きや?!」

《ま、待ってくれ悪かった!!

当方は駐屯兵力の10%強を喪失!特に基地航空隊の損害は甚大だ、離陸前に艦砲射撃と空襲を受けて3割強の機体をやられた上発信装置が完全に破壊された!!》

始めから真面目にやってくれ。クソ野郎の名前を聞かされ、情報収集が遅れ、こっちは二重に不愉快だ。

《レーダーの反応から敵総数は40個艦隊前後と推定、うちヒト型が約1割に相当!姫・鬼級は見られず、旗艦は敵艦隊の戦力流動傾向や編成からタ級Flagshipであると思われる!》

艦娘二人、或いは深海棲艦2隻で一個分隊。4で小隊、6で艦隊、12で連隊。まぁ、最後のは大規模作戦時の独自編成ぐらいでしか使われない単位だが。

40個艦隊以上となれば、240~250ってところか。ベルリンで軽巡棲姫が随伴として引き連れていた数が50強、この間の大攻勢で確認された艦隊群の最大数が確か140隻前後であったことを考えると、大層な大盤振る舞いと言える。

………マンドクセ。

《敵艦隊は市街地への突入態勢を取っていたが、現在は北西1.5km地点で進軍を停止し牽制射撃のみに留まっている!その際戦力の約4割を西に配置転換させる動きも確認した、旗艦と見られるタ級Flagshipもそちらに移動している!》

《Graf ZeppelinよりAdmiral、偵察機より正面敵艦隊群の情報が入電した。総数25個艦隊前後、主力と思われる艦隊群の中にタ級Flagshipの姿も視認できたそうだ。戦力規模、編成から見てリーザ攻略艦隊の別働隊と見て間違いない》

旗艦直々の迎撃とは光栄さのあまり涙が止まらねえなオイ。益々間隔を短くする砲弾の炸裂音と飛び交う無線をBGMに、全力で思考を巡らせる。

もうちょい上等な脳味噌なら、あの堅物空母にいい加減“提督”呼ばわりさせない方策も併せて考えたいところだが。実際には深海棲艦について考えるだけでも生憎キャパシティはギリギリだ。

(*゚∀゚)「敵別動艦隊との距離、約1.5kmぅ!!」

(#'A`)「HQ、砲兵隊による支援砲撃要請!!」

(=゚ω゚)ノ《要請を受諾したよぅ。───Alle Geschutztore, Feuer!!》

イヨウ少将の二つ返事の直後、ロケットの噴射音と風切り音の不快なオーケストラが頭上を飛び越していく。自走砲パンツァーハウビッツェ2000による榴弾とMLRSのロケット弾が、群れなし唸りを上げて深海棲艦に降り注ぐ。

『『『ガァアアアアアアッ!!!?』』』

(#'A`)「続けて航空攻撃に移る!Glaf、Aquila、全艦載機発艦!!」

《Jawohl!!》

《Ruggero!!》

オーケストラの曲目が連中による苦悶の声と断末魔のクソッタレなアカペラへ移行したところで、今度はレシプロエンジン音が空を駆ける。

ウチのGraf Zeppelinから飛び立ったFw190T改【フォッケウルフ】と、イタリア空母Aquila──つい最近イタリア海軍から派遣されてこの大隊に合流した奴だ──が飛ばしたRe.2001 OR改【アリエテ】が追撃の空爆を叩き込む。

『ヲォオッ!!』

《空母ヲ級より【Mist】の放出が確認されました!迎撃機、上がってきます!》

('A`)「予想済みだ、問題はない」

犇く敵艦隊の中ほどで湧いた、焦がした魚から上がる煙のような色合の“霧”。ホーネットの弾丸やアクィラの矢に相当するナノマシンの集合体は、即座に【Helm】や【Ball】を形作って爆撃を終えたこちらの艦載機隊に食らいつく。

だが、向こうはそもそも爆撃自体を防ぐため事前に発艦させたかった筈だ。そしてこちらの砲撃により生じた“遅れ”は、深海棲艦側が思っている以上に致命的なものだった。

〈テキカンサイキグンハッカンヲカクニン、ゲイゲキセヨ!!〉

〈〈〈ヤヴォール!!〉〉〉

『『『───────!!?!?』』』

フォッケウルフもアリエテも、爆撃機としての性能は“オマケ”に近く制空戦闘こそが本来の役割だ。謂わば現代におけるマルチロール・ファイターのようなものであり、爆撃後のドッグファイトも十分にこなし得る。

『ヲッ、ヲッ………!』

腹に抱えた“重石”を捨てて身軽になった両航空隊は、追いすがってきた敵機から逃げるどころか即座に反転して迎え撃つ。
面食らった敵機群は早々に1割近くを食い千切られて総崩れになり、混乱状態の防空部隊を建て直すべくヲ級達は戦力の逐次投入を強いられる形となった。

《【スツーカ】隊、吼えろ!!》

〈〈〈──────ッッ!!!〉〉〉

両軍の航空隊による乱戦が発生するさらにその上空から、雲を切り裂き降ってくる“ジェリコのラッパ”。Grafが鍛え上げたJu-87【スツーカ】の急降下爆撃隊は、“バトル・オブ・リーゼ”の真っ只中をくぐり抜けて敵艦隊へと肉薄する。

『『『グゴォオオオオオオッ!!?』』』

250kg───正確にはそれに相当する威力の艦娘艦載機用爆弾が突き刺さり、次々と火柱を上げる。ソ連赤軍を震え上がらせた【空の魔王】に匹敵する……かどうかはわからないが、少なくとも魔王様もきっと笑顔で頷くに違いない精度を以てスツーカ隊の爆撃は深海棲艦を狙い撃った。
流石に一撃轟沈に至るケースは稀だが、艤装をピンポイントで破壊される艦が多発しみるみるうちにその火力が減退していく。

『ギィッ────ゴガォッ!?』

(#*゚∀゚)「全車両・全小隊目標地点に到達!!」

(#'A`)「総員降車!展開急げ!!」

へ級Eliteがこっちに向けた主砲が右腕ごとスツーカの爆弾によって吹っ飛ぶ様を後目に、著しく疎らになった砲撃をくぐり抜け俺たちは敵艦隊との距離を一挙に詰める。
ドリフトで急停車したエノクから即座にG36Cを抱えて飛び降りつつ、俺は懐から双眼鏡を取り出し覗き込んだ。

およそ100mほど先、なだらかな斜面が間に続いた小高い丘の上。そこに深海棲艦の別働隊連中が、所狭しと雁首並べ蠢いている。

『『『ォオオオアアアアア…………』』』

('A`)「わぁキモイ」

これが同数の艦娘であったなら………実態が小国を2つ3つ跡形もなく消しされる戦力であるにしろ、光景としてはそこまで異様なものにはならなかっただろう。
一人一人が古の軍艦の戦闘力をその身に宿していても“人数”はあくまで100人そこそこだ。まだ“内地”と呼ぶことが出来た頃のベルリンで反艦娘デモに集まっていたクソバカ連中の方が余程人数はあったし雰囲気もイカれていた。

だが深海棲艦ともなれば、外観の端的なおどろおどろしさにデカさも加わる。最大20mの化け物が100に迫る数で群れ集まり暴れ狂う様は、黙示録の一節として宗教画にすればさぞや映えるだろうよ。

('A`)(………散開してくれた方が“やりやすい”んだがなぁ)

双眼鏡で敵艦隊の陣容を端から端まで眺めつつ、思わずため息をつく。

深海棲艦がその巨体で密集していれば、一見するとかえって一網打尽にしやすくなり悪手のように思える。

だがその実、陸戦ではそもそも寄り集まって押し寄せてくるような大艦隊を“一網打尽”にできるほどの火力を用意すること自体が困難極まりない。一体一体の耐久力が文字通りの軍艦並みの化け物がスクラム組んで押し寄せてくれば、互いが盾となりあって迎撃効率はスツーカばりに急降下する。少なくとも、相当膨大な戦力を結集しない限り“短時間での殲滅”は限りなく不可能に近い。

空を飛ばせば国庫が空になる爆撃機を束で運用する国や艦娘を内陸で交番勤務の真似事をさせるほど大量に配備している国ならいざしらず、首都周りを含めた国土の北半分を丸々失陥し艦娘もようやくレンドリース込で100隻台まで回復したばかりの我らが祖国じゃどだい無理な注文だ。

('A`)「この間は“やりすぎた”か」

(*゚∀゚)「少佐殿、なんか言ったかい?」

('A`)「ただの独り言だ」

故に、現代戦においては定石となる散兵戦術を採ってくれた方が俺としては余程突け込みようがある。

向こうは旗艦に対する艦隊機能の依存が顕著で、旗艦や“知識階級”であるヒト型を複数沈めれば途端に烏合の衆と化す。これは大群であればあるほど顕著であり、また大群であればあるほど戦力の厚さや流れから位置の推測がしやすい。

なので、大きく広がり攻勢に出てくる敵艦隊を基地航空隊と自走砲や戦艦勢の艦砲射撃で牽制しつつ旗艦の位置を割り出し、護衛戦力を引き離した上でこちらの最大火力を叩きつけ一撃必殺。
このやり方なら、敵がどれほどの大艦隊であっても質さえ確保できていれば少数戦力で手早く無力化できるため幾らでも戦いようが出てくる。

祝新スレ!
投下おつです

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……なのだが、前回の防衛戦ではこれがちょっとばかり“ハマりすぎた”。

(;'A`)(まぁ、あんだけやられて警戒しないほど向こうも間抜けじゃねえよな)

約2400隻。コペンハーゲンとルール地方、ベルゲンを【泊地】化したことで爆発的に兵力を増強した深海棲艦による、ドイツ南部への一大攻勢作戦。恐らく開戦以来最大規模のこの陸上進攻において、しかしながら奴らはあまりに自軍の物量を過信していた。

ベル=ラインフェルト中将の──当時はまだ大佐だったが──指揮下、ただでさえ少数の兵力をさらに薄く広く分散した防衛線。これを一息に押し流そうと、或いはこちらが施す何らかの仕掛けを纏めて踏み潰そうと、向こうもまた大きくフロントラインを広げた上で全方面での総攻撃に移行。

そして、戦力の展開傾向や艦隊の移動法則から割り出された各方面軍の主力群・旗艦隊に、当時まだ出来たてホヤホヤだった俺達【機動迎撃大隊】とイッシ=ストーシュル大佐の下で基地航空隊・空母艦娘艦載機隊と機甲師団を合流・再編させた【混成機械化打撃群】が前線を食い破った上で一挙に強襲をかけ仕留める。

この、“現代のマンシュタイン”が描いた青写真はそのまま一分の相違もなく具現化された。ヤパーヌフリークのイヨウ少将は「ツリノブセ」やら「オケハザマ」やら興奮気味に言ってたが、まぁ名前はどうでもいいだろう。

挙がった“戦果”は………正直50隻をこえたところで面倒になって数えるのを辞めたよ。一週間と経たず滅びを迎えると世界中から思われていた祖国は、寧ろその半分以下の期間で未曾有の大艦隊を消滅させることに成功したわけだ。

その後はご覧の通り。相当なトラウマを植え付けられたらしい連中は、これ以前の散発的な攻勢も含めていかなる時であっても古代ローマのファランクスもかくやの密集陣形で押し寄せ病的に分散・孤立を避けるようになった。

旗艦の位置自体は前以上に容易くとしても、こっちはさっきも言った通りベルリンの一件で壊滅的な打撃を受けて以降戦力は数も質も不足している。下手に策を弄されるより、こうした純粋なソヴィエト赤軍式の物量攻勢を仕掛けられる方が正直かなり手を焼かされる。
  _
( ゚∀゚)《ドク、こちらジョルジュ=オッペル!全小隊が配置についたぜ!》

( <●><●>)《後方にてツン大尉の機甲師団、それとミルナ大尉の別働隊も戦闘準備完了。総攻撃の機会が整ったことは解ってます》

('A`)「よし」

まぁ、あくまで「散兵攻勢と比べて」の話で。

('A`#)「ツン、Bismarck、攻撃を開始しろ!!

Feuer, Feuer!!」

別にこれについても、“やりよう”は幾らでもあるけどな。

ジョルジュ=オッペルとティーマス=ワーカーの報告を聞きつつ、無線越しに号令を下す。直後頭上を、先の砲兵隊によるものより遥かに数を増した風切り音が無数の砲声を残して駆け抜けた。

『『『ォガァアアアアアアッ!!?!?』』』

レオパルド2戦車隊、実に40両超による一斉射撃が丘の上を埋め尽くし、照らし、焦がしていく。コーヘン方面で【混成機械化打撃群】が大いに抵抗してくれているおかげで、【機動迎撃大隊】の保有機甲戦力を全て投入できた結果の濃密な火線構築だ。

大隊のくせに砲兵隊とエノク合わせりゃ余裕で一個機甲師団並の陣容となる点については……まぁ緊急時の臨時編成ってことで一つご容赦願おうか。ズタボロ国家の軍隊じゃ編成単位と実際の部隊規模が違うなんざ日常茶飯事だしな。

《2号車エミ=ナカスガより指揮車、全弾着を確認!敵艦隊にダメージあり!》

ξ#゚⊿゚)ξ《次弾装填、全車続けて撃て!

Feuer!!》

ツンが率いる戦車隊は俺達の後方数キロ地点、深海棲艦や艦娘の視力なら“肉眼”での観測が十分可能な位置に布陣している。当然余裕で艦砲による射程圏内、集結中の時点で攻撃を受けていれば相応の損害は免れなかっただろう。

だが連中の目は、その手前で自分たちに向かって一直線に突っ込んできた“狸”の群れに引き寄せられた。
まぁ南方攻勢の際、“旗艦轟沈”の前兆は基本艦娘部隊載っけたエノクの突貫からだったしな。そりゃあ奴らも警戒するわけだ。

とはいえ、その辺りの事情を加味しても全火力の誘引成功とそれに伴い機甲部隊が無傷で火線構築を完了したことは望外と言う他ないが。………逝った奴も、エノク隊の“損害”も、覚悟していた分よりは「遥かに軽微」なもので済んだ。万々歳といえる。

クソッタレが。

『ヴォオオッ───ブゴォァッ!?』

《Treffer!!》

これだけ派手にぶちかましてれば当然向こうの注意を引く。軽巡ヘ級──デカさから見るにFlagship──が右手の艤装をツンたちに向け、そのままSKC/34型 38cm連装砲弾の直撃によって跡形もなく吹き飛ばされた。

《よし、一撃轟沈!これがドイツ第三帝国が誇る戦艦の力よ、流石よね私!

Kamerad、Admiral!遠慮なく褒めてくれても構わないわ!!》

ξ#゚⊿゚)ξ《うるせー黙ってろまだ戦闘中だよ!!!!》

目一杯胸を反り返らせての超弩級ドヤ顔が容易に想像可能なドイツ軍最強艦娘の物言いに、“Kamerad”の方はブチギレて怒声を張り上げる。

えっ、“Admiral”の方はって?そりゃ勿論、痛む頭を抑えていたとも。

……大隊への定期支給品に頭痛薬を含めるよう少将に談判したほうがいいなこりゃ。

何が厄介かといえば、Bismarkが抱く自信がアイツの実力に対して「適量」であることだ。加えて悪意もなく10歳児がお使いを無難にこなしたことについて親に称賛を求めてるようなもんだから、TPOの問題こそあれ強く静止するのもはばかられる。

まぁ幸い超弩級に鬱陶しいだけでこれといった実害はないのだが。
しかしこれで日本が実装に成功したとかいう新式改装【Drai】が施されたらどうなっちまうんだろうか。ブチ上がった自信とテンションだけで空ぐらい飛べるようになるかもしれない。

《追撃します!

Prinz-Eugen, Feuer!!》

《戦艦Littorio、新しいCommodoroにお力を存分にお見せしましょう!

Fuoco!!》

《ドイツのワインもぉ、なかなかいけますねぇ〜♪この味大好きですぅ〜♪》

《Zara、砲撃開sってPola!?何やってるのあなたは!!?》

Bismarkに続けて、他の四人も砲撃を開始する。

全員がツンの戦車隊に同行しているため距離はせいぜい3kmと少し、艦娘の視力にGlafとAquilaの艦載機による観測補助までつけば「至近距離」と呼んで差し支えないだろう。砲弾は的確に迅速に、戦車隊への攻撃態勢を取っていた敵艦を狙い撃ち薙ぎ倒していく。

……約一名明らかに無線の内容がおかしかったが、仕事自体はこなしているようなので深くは問わない。

胃薬も追加するべきかな畜生。

(;'A`)(ウチも大分濃い方だと思ってたが、イタリア連中も負けず劣らずだよなぁ……)

【東欧連合軍】の設立に伴い独伊両国の鎮守府関連組織や部隊が統合された影響で、俺達の部隊にもイタリア艦娘部隊が合流している。
交流武官だった時代の名残で事前に面識があるベル中将からは大層クセが強いと事前に知らされていたので覚悟はしていた──そもそも艦娘にクセが強くないヤツがいるのか甚だ疑問だ──が、連中は割と高めに設定したハードルを易易と飛び越えてきた。

《敵艦撃破ぁ〜。ご褒美にぃ、もう一本開けちゃいます〜》

ξ;゚⊿゚)ξ《いやここ最前線!戦闘now!!何本持ってきてんのよアンタ!?》

《す、すみません!ツン大尉、本当にすみません!!あとでZaraの方からよく言って聞かせるので!!》

特に、重巡洋艦Polaの“濃さ”は群を抜いている。なにせ四六時中、本当に一秒たりとも手からワイン瓶を放そうとしない。ワインが尽きればビール缶を、ビールがなくなれば工業用や消毒用のアルコールに手を出すことさえ厭わない。

投下おつです
何年ぶりかのドクツンコンビも元気そうで何より

VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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ドックン昇進してる!

更新乙です!
欧州の面々が元気そうでなにより…相変わらずエース様は皆に愛されてるなあww

Polaという艦娘の特性なのかと思えば、他の部隊も相当な酒好きとはいえここまでではないらしい。お陰様でこの大隊は常に大量のアルコール類の支給を受けなければならず、輸送の枠を少なからず圧迫してさえいた。

一時は“【機動迎撃大隊】の車両はアルコールをガソリン代わりに使う最新型の戦車を使っている”なんて噂が、大真面目に陸軍内で広がったほどだ。

これでただのアールコール中毒艦娘だったなら、心のこもったお手紙と共にイタリア軍に叩き返してやったところだが。

『ゴ…………ォ…………』

《はい、また1隻ぃ〜》

Bismarkと同じ“厄介なクチ”なのだから、人生はままならない。

《アドミラ〜ル、敵別動艦隊の轟沈数、20隻を超えました〜。損傷ありの艦についてはぁ……多すぎてちょっとわかりませ〜ん》

(*゚∀゚)「少佐殿、多分敵艦隊が受けた損害の出どころは半分ぐらいウチのBismarkとあのPolaだぜ?」

('A`)「眼の前で見てたから知ってるよ」

あれだけ飲み、あれだけ(常時)酔ってるというのに、Polaの射線がブレたのを見たことがない。Polaが狙った獲物を仕留め損なったのを見たことがない。

なんて名前だったっけか、香港出身のデカッ鼻なクンフー・アクションスター。そいつの主演映画よろしく酒を飲めば飲むほど強くなるとでも言うつもりだろうか。
ドイツ軍に派遣されたイタリアの艦娘がケンポーの使い手とはいよいよもってグローバリズムの集大成だなオイ。

《Graf ZeppelinよりAdmiral、偵察機から入電。リーザ包囲中の敵主力艦隊が別動艦隊へ新たに戦力の抽出を開始した》

ともあれ、これで状況が動いた。

('A`)「数は?」

《15〜20個艦隊といったところだな。ヒト型は数えるほどだが非ヒト型は全て“陸棲型”だ、10分と経たずに合流してくるぞ》

('A`)「OK、そのまま監視を継続。Aqilaと共に制空権を死守しろ!

ツー、ドレスデンにカーメンツとフライベルクからの基地航空隊投入を要請してくれ!フライベルクの方は直接ぶつけて足並を乱せ!」

(*゚∀゚)「Ja!!」

《Jawohl》

旗艦直々に別働隊を率い、リーザへの攻撃を大きく鈍化させてまでの対応。向こうは油断してもいなければこっちを甘く見ていたワケでもない。最大限の警戒を持って対処してきていた筈だ。

にもかかわらず、奴らは艦娘を含む戦力に肉薄を許した。派手な“仕掛け”につられて“本命”に無傷で展開され、戦闘開始早々に甚大な損害を受けた。
一連の流れは間違いなく奴らにとって想定外であり、それによって浮足立っている。

(*゚∀゚)「ドレスデンの前線司令部は要請を受諾!基地航空隊が順次出撃開始、最短400秒後には空域に到達の予定!!」

( <●><●>)《機甲部隊による第三次一斉射弾着。新たにホ級Eliteが1隻沈黙、他損傷艦多数。敵艦隊の混乱がさらに拡大したのは解ってます》

(#'A`)「よし!指揮車より前衛小隊各位に伝達、弾薬装填!射撃態勢!!」

俺達にとっての優勢は、敵にとっての苦境。当然打破に動くだろうが、させない。

(#'A`)「────Angriff‼」

ここで、勝負を決する。

腹ばいになっていた地面から立ち上がり、G36Cを構え、引き金を引く。最大有効射程800mに対して“標的”との距離は200m強、向こうのデカさは5mオーバー。おまけに光学サイトの照準補正付きだ。

射撃が特別得意ってわけでもないが、外す道理はない。

『オォンッ!?……ガァァッ!!』

放った弾丸は全て標的──駆逐イ級の右眼周りに着弾し火花を散らす。突然視界を遮られたイ級は面食らったように一瞬仰け反り、すぐにこちらを向いて咆哮する。

元々深海棲艦の駆逐級については、通常種・Elite・Flagship以外に前期型と後期型という分類が存在した。
海上特化………というかほぼ海のみでしか運用不可能な形状のものが前期型、歪な足のようなユニットを生やし、水陸両用とまではいかないにしてもある程度の陸上行動を想定した造りになっているものが後期型と呼ばれる。

だが【泊地】が出来てからしばらく後、“新型”がヨーロッパの各戦線に出現した。

『グォオオッ!!!』

(*#゚∀゚)「イ級、こちらを指向!!」

(#'A`)「前進止めるな、とにかく視界を潰し続けろ!

Feuer, Feuer!!」

それが、目の前のイ級のような“陸棲型”だ。

名前の通り、この型はそれまでの深海棲艦と比較し陸上活動能力が桁外れに向上している。艤装の転換や装備性能の改善というよりは、どうも奴ら自体が根本から「造り直した」代物らしい。

例えばイ級の場合、体の両側面から3対の「脚」を生やしておりこれを用いて歩行・走行する。

形状としてはまんま昆虫のそれをイメージすれば当てはまるが、「節」の部分は連中の甲殻と同じ物質で覆われていて並の火力では容易には破壊できない。
前脚2本はカマキリの鎌のような使い方も想定しているためかやや大きく発達していて、先端も後ろの二対と比較しかなり鋭利だ。

フランスの方じゃ前脚を使い穴を掘っていた姿も目撃されているらしいので、或いは建設重機の役割も担っているのだろうか。12.7cm連装砲をぶっ放せるブルドーザーがあったらさぞや岩盤工事が捗るだろうな。

速度は時速30km前後、後期型のあの取ってつけたような脚部ユニットと比較すれば天と地ほどの差があるが、そこまで高速というわけではない。が、連中には図体のデカさと表皮の頑丈さ、そして軍艦をモチーフとした化け物ゆえの“航行距離”の長さがある。
障害物ガン無視で長時間の無停止行軍が可能となればその機動力は決して馬鹿にならず、しかも駆逐級故に物量も膨大だ。

実際コイツらが最初に確認された北欧戦線は100隻を越える“陸棲型”との接敵から僅か1時間で防衛ラインを食い破られ、ようやく配備されたノルウェー軍最初の艦娘による奮闘もむなしく28時間後にはヴィーケン県全域とノルウェーの首都オスロを失陥した。

俺達東欧連合軍にとっても、その脅威は決して小さなものではない。奴らが仕掛けてきた例の南方攻勢に際しては、機動防御による主力艦隊の殲滅後反転攻勢に移りライプツィヒを奪還するところまで計画は練られていた。
だが現実には、この“陸棲型”と“高機動型チ級”による迅速な戦線の穴埋めでリーザ他数都市への進出が精一杯だったという実情がある。

物量面でも個々の質の面でも圧倒的な劣勢を強いてくる深海棲艦に対して、俺達人類の明確かつ数少ないアドバンテージが陸路における機動力だった。
下半身を車両に換装した【高機動型チ級】や北部で放棄されたバイクや車を乗りこなす“あの”リ級のようなヒト型もいるにはいたが今はまだ少数派であり、ごく局地的にはこの機動力の差を生かして質量双方で上回ることさえしばしばできていた。

その「数少ないアドバンテージ」が“陸棲型”に潰された今となっては、この戦争の行く末はお先真っ暗と言っても過言じゃない。

おめでたい宗教家共が言う「神の試練」とやらがこれならあまりにも厳しすぎるし、向こうが「神の恵み」を受けているならあまりに深海棲艦側への肩入れが酷すぎる。
中東の狂信者共が主張する俺達人間の根絶やしを目的にした「神の審判」として見ても、自分で作ったブツが自分で作った星に厄災バラまいてるのを数世紀薄ぼんやりと眺めた挙げ句ようやく対処するってんなら、あまりに間抜けでウスノロだ。

つまりやはり神はどうしようもないクソ野郎か存在しないかの二択であるという結論が導き出せるので、俺としては必ずしも悪いことばかりじゃないかもしれないが。

『ゥオオオオオッ!!!』

「イ級、口内より主砲展開!砲撃態勢に移行!!」

(#'A`)「ツー!!」

その上で“無神論の補強”以外になにか一つ、血眼にして「不幸中の幸い」を一個無理に上げるとするならば。

(#'A`)「Panzerfaust‼」

(*#゚∀゚)「Jawohl!! Feuer!!」

連中の、非ヒト型の“オツムの出来”については、陸上性能ほど大幅な向上が見られなかった点か。

『グォオオオオオオッ!!!?』

まさに口を開き、俺がいる方めがけて砲弾を吐き出そうとしたイ級。その横っ面を右側から強烈にぶん殴ったのは、ツーが構えたパンツァーファウスト3の一撃だった。

尾のような形をした後部艤装の機銃を使えば、より素早く俺達に攻撃をかけられただろう。飛びかかって白兵に持ち込めば、容易く俺のことなんて捻り潰せた。後方のツンたちへの反撃を続けていれば、角度的にツーがパンツァーファウストを撃っても前脚に射線を遮られて直撃は避けられたはずだ。

だがイ級は、俺たちの露骨な妨害に釣られてこれを一挙に排除しようと短絡的に行動し、姿勢を崩したことでパンツァーファウストの射線が開け、艦砲射撃の為の大きな動作はツーがこれを撃つのに十分な隙となった。

タ級による指示を受けている状態でも、直接の交戦ならこれだけ容易く撹乱すできるワケだ。敏捷性が跳ね上がった分一個体あたりの脅威度も増しはしたが、それでもまだ対処する手段は幾らでも残っている。

何時までそうかは、俺にもわからないが。

「Feuer!!」

『グゴォッ……ギィアッ!!?』

素直に「自身にダメージを通すだけの攻撃」が飛んできた方へと首を向けたイ級を、反対側から別の隊員が放ったパンツァーファウストが殴打する。装甲が砕けひび割れ、口内砲があらぬ方向へと振れ、引き千切られた“歯”が吹っ飛んで地面に転がる。

(#><)「Panzerfaust, Feuer!!」

他の小隊も本格的に交戦を開始したらしく、ビロード=ヴァルネファーの叫び声が爆発音や深海棲艦のうめき声と混ざり合って耳に届く。
奇襲による先制は完璧に成功したな、反撃らしい反撃は今のところない。

『ゴォオオ…………!』

とはいえ、パンツァーファウストは有効打ではあってもある程度の数を揃えなければ「決定打」にはなり得ない。
前衛小隊に配備している分だけなら、全て束にして叩き込んでもせいぜい2、3隻仕留める程度が精一杯だろうな。向こうが反撃態勢を固めれば、計200人前後の歩兵隊なんざ抵抗する間もなく塵芥と化す。

(*#゚∀゚)「イ級、ダメージ有りも継戦能力維持!再度砲撃態勢に移行!!」

(#'A`)「Leberecht、Max、Grecale、Libeccio!!」

「「Jawohl!!」」
「「Ruggero!!」」

だから、「決定打」を別に用意しておいたワケだ。

俺達の後方で無造作に停車し、乗り捨てられているエノク。その裏から駆逐艦が4人、艤装を構えつつ一斉に飛び出す。

「艦隊戦、やってみせるさ! Feuer!!」
「我らの本当の力を見せるわ。 Feuer」

1934型駆逐艦の、Z1 Leberecht MaassにZ3 Max Schultz。

「さぁーケンカだケンカ!ぶっ放すよー、Fuoco!!」
「イタリア駆逐艦の本当の力、教えたげる!! Fuoco!!」

Maestrale級駆逐艦、2番艦のGrecaleと3番艦のLibeccio。

装備は全員あくまで12.7cm連装砲。駆逐艦以外も装備自体はできるがする機会は滅多に無い、艦娘の艤装としては最低火力に位置する。
陸上ゆえ当然魚雷も使用できず、駆逐艦が発揮できる火力は“対深海棲艦”で考えるならたかが知れている。

『ォ゛………オ゛…………』

(#*゚∀゚)「イ級の轟沈を確認!!」

ただ、既に“有効打”によって損傷を受けている敵艦へのトドメとしては、それでも十分だ。

「ジョルジュ大尉!Admiral正面の敵艦、轟沈させたよ!!」
  _
( ゚∀゚)《しっかり見てたぜFreyline!次は俺達の前にいるホ級に一発頼む!》

「ッ! Ja!すぐに行くよ!!」

「……レーベ、いやに張り切ってるわね。

Z3、次の敵艦へ砲撃を開始したわ。効果の程の報告をお願い」

( <●><●>)《軽巡ト級に損害あり。有効なのはわかってます》

《第5小隊よりGrecale、私達の正面にいるロ級への攻撃もお願いできる!?》

「Ruggero♪ Grecale、追加のお仕事入りまーす。えーい!!」

「まだまだぁ、リベの活躍は始まったばかりなんだから!

Fuoco!! Fuoooco!!!」

《Libeccioの砲撃に合わせろ!第8小隊、前進!!》

歩兵小隊に照準を向けている艦を排除すれば、後は自由射撃だ。とにかく手当り次第派手にぶっ放させ、俺達の存在をアピールする。

『グゴッ!? ………ギィアッ!!』

『『『ガァアアアアアッ!!!』』』

( <●><●>)《正面敵別働艦隊、戦車隊・主力艦隊に対する砲撃を大幅に減退させています。非ヒト型の多くが目標を我々に変更しつつ有ることは解ってます》

猛烈な射撃によってレーベたちの存在を認識させたことで、優先順位が変わる………とまではいかないが、俺達への警戒レベルは大幅に引き上げられる。

そりゃそうだろうよ。駆逐艦ゆえに火力は貧弱だが、鼻先に展開していた部隊に艦娘がいると解ったんだ。手早く潰さねえと何されるか解らなくて不安だよな?

投下きてた
遅くなりましたが更新おつです

sageろキチガイ

にしたって、挑発された4、5隻が反応したのみの状態から中大破艦も含めて数十隻が俺達に砲口を向け始めるのは動きとして露骨すぎるが。現状を予想できてませんでした、慌ててますってのを隠そうともしない。

解りやすい相手で助かるよ。

(#'A`)「ミルナ大尉、Roma、攻撃開始!!」

(#゚д゚ )《Jawohl!!

Alle Morser, beginnen zu Feuer!!》

『『ウゴァッ!!?』』『『ギィッ!!?』』

戦闘区域の南数キロ、ザント川沿いに焼け残っていた雑木林。そこに予め用意した“伏せカード”を、満を持して切る。

敵艦隊全域を覆うようにして降り注ぐ、ミルナ大尉指揮下の迫撃砲弾。パンツァーファウスト同様あくまでも「有効打」に留まるが、なにせ向こうは密集陣形だ。纏まった数が被弾による苦痛から身動ぎの一つ二つもすれば、それだけで艦隊全体の運動を阻害できる。

《Vene、出番がないんじゃないかと不安になったわ。

戦艦・Roma、砲撃を開始する!主砲、撃て!!》

『『『グゴガァアアアアッ!!!?』』』

そして取り分け混乱が激しい箇所に叩き込まれるのは、大尉に同行させたイタリア海軍のV.Veneto級戦艦4番艦・Romaによる主砲一斉射。奴さんやLittorioの装備する50口径381mm三連装砲は散布角が大きく命中率に難アリと聞いていたが、それを感じさせない見事な狙いで幾つかの敵艦が爆炎に包まれる。

流石はイタリア海軍最強と謳われた鎮守府の指揮官にして現東欧海軍統合提督肝いりの艦娘、質は一級品だ。その「一級品」をこんな便利屋扱いの独立愚連隊にブチ込んでいいのかという疑問は浮かぶが。

〈〈〈─────!!!〉〉〉

(*゚∀゚)「フライベルクより基地航空隊到着、敵別動艦隊第二波へ攻撃開始!!」

砲煙が逆巻き、未だグラーフたちと敵空母それぞれの航空隊が入り乱れる上空を、新たに現れたレシプロ機の群れが猛然と突っ切り飛び去っていく。ツーの報告があって間もなく、「丘」の向こう側から爆発音と深海棲艦のくぐもった呻き声が聞こえてきた。

《こちらGraf Zeppelin、敵艦隊第二波に損害発生し進軍大きく遅滞。だがリーザ近郊より今度は【Mist】を相当量確認したぞ、恐らく報復の艦爆隊と思われる!》

('A`)「問題ない。カーメンツ基地航空隊は空域に突入、発艦開始した敵艦爆隊を叩け!」

〈〈〈ヤヴォール!!〉〉〉

最初に展開していた艦隊が40個艦隊余に対しての4割強で100隻に届くかどうか。次に投入された第二波が15〜20個艦隊、最大120隻。

一応「別働隊」と銘打ちはしたが、合計で8割に迫る戦力を旗艦直々に統率・展開させているならそれはもう“主力艦隊”であり、連中は俺達の側を“主戦場”に切り替えたと見て間違いない。

そして、“そんな状態”で尚リーザ周りに貼り付いている戦力があるとすれば、それが砲撃戦を不得手とする艦種───空母群、それも艦爆を主力とした対地・対艦特化の艦隊であることは容易に想像できる。

だからこちらも、カーメンツ航空隊の突入を遅らせていたワケだ。

『『『─────!!?!??』』』

〈テッキゲキツイ!……ナルホド,コレガヤパーヌノキタイノチカラカ!〉

〈スサマジイセンカイセイノウ、“ヤマトダマシイ”オソルベシダナ!!〉

カーメンツに配備された基地航空隊は艦爆隊や友軍輸送機の護衛を主任務とした部隊で、メッサーシュミットとフォッケウルフに加えて日本からレンドリースされた“ゼロ”を多数保有している。また練度についても、リスボン沖やベルリン、南部防衛戦などデカい戦いで鍛え上げられた妖精たちを選抜編成した最精鋭だ。

《AquilaよりAdmiral、カーメンツ航空隊がリーザ方面の敵艦裁機群と交戦開始!圧倒的優勢の模様です!》

東欧連合軍内で最強とまで言われる制空戦闘能力の高さは、伊達じゃない。

('A`)「Graf!モールスでいい、偵察機からリーザ近郊における【Mist】の発生位置を確認できた範囲で全てリーザ基地に共有しろ!

ドク=マントイフェルよりリーザ司令室、機甲戦力と艦娘は動かせるか!?」

《こちらリーザ、レオパルドとプーマの混成ならニ個中隊程度を抽出可能だ!艦娘に関してはG.Garibaldi、Prinz-Eugen、どちらも損害は軽微で戦闘行動に支障はない!》

('A`)「Grafから敵空母の位置情報を送る、攻勢に移れ!護衛の随伴艦もいるだろうから注意しろ!

それと砲兵火力で敵第2艦隊群への横撃も頼みたい!」

《Jawohl!!》

艦隊戦力の大半をこちらに誘引し、位置情報を割り、航空戦力のアタマを抑えた。
事ここに至れば、リーザの防衛兵力を後生大事に温存する必要はなくなった。遠慮なく投入し一挙にタ級たちの退路を塞ぎにかかる。

軽く田舎町の防衛部隊を捻り潰してこちらの防衛線を粉砕する筈が、いつの間にやら追い詰められ寧ろ率いていた大艦隊が包囲殲滅の危機。
タ級がその事実に益々動揺を深くしている様子は、続く敵艦隊の動きから如実に察せられた。

『『『グォオオオオオオンッ!!!』』』

《Graf ZeppelinよりAdmiral、第二敵艦隊群が一斉に反転運動に移っている!目標を再度リーザ攻囲に切り替える模様!》

《リーザ第一臨時砲兵中隊、敵艦隊による砲撃を受けています!照準は滅茶苦茶ですが既に現時点でかなりの火力!!》

別動隊との合流を目指していた、第二艦隊群の総転身。無線じゃ妙に慌てたやり取りが飛び交っているが、俺としては礼の一つも言いたくなるほどの“最悪手”だ。

後衛の残余空母艦隊を守りたいなら、4つ5つ艦隊を選抜してソレラだけを守りに向かわせれば十分な対処を施せた。リーザ制圧による一挙逆転を狙ったなら、後衛艦隊をリスク度外視で突撃させ乱戦に持ち込み稼ぎ出した時間で順次艦隊を反転させたほうが確実だった。
どちらも、非ヒト型の主力が“陸棲型”故の機動力を踏まえれば十分に可能だったと思う。だが連中は、“100隻超の艦隊を密集状態で一斉に方向転換させる”という最悪手によってせっかく得た機動力を自ら殺した。

仮に前者二つの動きを取られていたとしても対処法を用意はしていたが、少なくとも冷や汗の量はもう少し増えていたに違いない。

(#*゚∀゚)「フライベルクより基地航空隊第二波到着!ピルナ発のスツーカ隊、パウツェンからの爆装型メッサーシュミット隊も間もなく!」

('A`#)「そのまま第二艦隊群にぶち込め!とにかく打撃を与え続けろ!!」

〈メイレイヲジュダク、ゼンキトツニュウセヨ!!〉

押し合いへし合いながらノロノロと反転を続けているだろう敵艦隊の頭上から、メッサーシュミットが、フォッケウルフが、スツーカが、油断しきって草を食む羊を見つけた狼の群れのごとく襲いかかる。

本来これを迎え撃つべき敵の航空戦力は、第一群は砲撃戦に巻き込まれた上でAqilaとGrafに、第三群はカーメンツの航空隊とリーザの機甲・艦娘連合部隊によって封じ込めた。第二群自体は航空戦力を保有していない。

数に飽かせて対空砲火を全力でバラまけば振り払えたかもしれないが、密集状態の大艦隊が反転運動の真っ最中とあればそれもまた無理難題だ。

〈ロス、ロス、ロス!!〉

〈オレノ“ラッパ”ヲゾンブンニキケェーー!!〉

〈ヨシ、チョクゲキダ!!〉

『『『グガァアアアッ!!!?』』』

レシプロエンジンの音、ジェリコのラッパ、爆弾の投下音、そして大分恒例行事となってきた、深海棲艦が上げる悲鳴と断末魔の二部合唱。空に撃ち上げられている迎撃火線の量は微々たるもので、歴戦の航空隊を撃ち落とし止めようとするならあの100倍は用意する必要があるだろう。
丘の向こうに広がる光景が、余程一方的な虐殺となっていることは想像に難くない。

( <●><●>)《少佐、カーメンツにイタリア陸軍の第22“陸艦”混成中隊も到着。同隊所属のAquilaもRe.2005 改の爆装型を発艦させたとのこと》

( ゚д゚ )《アンベルク=ブッフホルツにはチェコ・イタリア連合機械化部隊が展開、同地に即席基地航空隊拠点の敷設を完了したとのことだ!Do 17 Z-2並びにSM.79、離陸準備できている!》

('A`#)「投下目標完全自由にて順次突入!効率や短期決着なんて考えなくていい、とにかく手数を優先しろ!!」

(=゚ω゚)《こちらCP、我々も臨時基地航空隊を施設完了した!全機上げていくよぅ!》

『『ガガァッ!!?』』『『グァッ!?』』

最初に大爆撃で突き崩し掻き乱したら、後はひたすら波状攻撃を仕掛けて建て直す隙を与えない。どこまで優勢に戦況を推移させようが物量も火力も未だ圧倒的な差がある、向こうが少しでも“冷静”になる機会を得ればたちまちひっくり返されそのまま押し切られる。

『アァアアアアアッ!!!』

『『『ガァッ─────!!』』』

向こうもそれを思い出したらしい。人間と深海棲艦の力量差、艦娘と深海棲艦の物量差を。ほんの一瞬でも俺達に隙を作れたなら苦もなく勝利を掴めることを。

故にタ級は、隙を作る機会を“前”に求めた。中核艦隊が、ネ級やル級といったヒト型が、混乱し損傷も激しい非ヒト型・随伴艦隊を押しのけて一斉に前衛へ進み出る。

完全に制空権を掌握され混乱も損害拡大速度も著しい第二群、ある程度の統率こそ維持しているものの火力面での優勢が盤石とは言えず乱戦に持ち込まれた第三群は何れも収拾をつけ再度戦力化するのに時間がかかると判断したか。
恐らく、中核艦隊の火力を総動員して最寄りにいる俺達突撃隊を一挙に消し飛ばすつもりだろう。

実際その判断は、先の“最悪手”とは比較にならないほど的確だ。ヒト型は少数とはいえ保有火力、砲爆撃に対する耐久力は何れも非ヒト型と比べ物にならない、2〜3個艦隊分が束になれば歩兵200余名に駆逐艦娘4人なんて欠片も残さず吹き飛ばされる。
鼻先の“楔”さえ砕くことができれば、あとはツンやビスマルクたちの部隊と真っ向から殴り合って強行突破するもよし、牽制で足止めしつつ第一群と第二群を合流反転させて第三群の救助並びにリーザの制圧に取り掛かるもよし、こちらを潰す手段は選り取り見取りだ。

非ヒト型による「壁」を自ら排除し戦車隊と艦隊の砲撃に身を晒すリスクに、十分に見合ったリターンを得られる。タ級自身の采配かより“上位”の存在による指示かは知らないが、失策を十分に取り返す「英断」と言える。

─────まぁ俺達にとっては、その「英断」こそが最大の「隙」に繋がるわけだが。

(#'A`)「Granate Feuer!!」

(#><)「Jawohl!!」

( <●><●>)「Ich verstehe」

第一群中央、それこそ俺の小隊が展開する真正面に非ヒト型共を退かしながら進み出てきた中核艦隊。連中が戦列を整え艤装を構えるよりも早く、ティーマスやビロード、他十数人が一斉にその地点めがけて“砲撃”する。

H&K/HK69擲弾筒。この距離なら十分に運用自体は可能だが、本来グレネードの威力なんざ深海棲艦相手には嫌がらせ以上のものにはなりようがない。

だが、今回これらに装填されているのは、

『ガァッ!!?』『ギャッ───』『アァ、アァアアア…………』

改良型のフラッシュグレネード、閃光弾だ。

(#*゚∀゚)「敵中核艦隊、周辺随伴艦共々動作停止!閃光弾効果大!!」

(#'A`)「駆逐艦隊、並びに残余全小隊の指揮権を一時ビロード少尉に移行する!【イェーガー】各位、突入準備!!」

指示を出しつつ、俺自身腰から取り外した銃剣をG36Cの先に取り付ける。

………Jaeger(狩人)なんざガラじゃないんだがな。巨人と深海棲艦、どちらを駆逐する方が面倒くせえだろうか。

(#'A`)「Los, Los, Los!!」

前へ、前へ、前へ。さして速いとは言えない脚に乏しい筋力を全て注ぎ込み、泥濘で滑らないように最低限の注意は払いつつとにかく突っ走る。周りではジョルジュやティーマスが率いる“狩人”連中も、中核艦隊に狙いを定め疾走しているのが気配で察せられた。

一応G36Cは構えているが、撃つためじゃない。閃光と音で怯んではいるが船体殻が健在である以上撃ったところでダメージはないし、下手な目くらましや妨害をするならビロードたちに任せた上で俺は距離を詰め切ることに集中した方がいい。

じゃあ何故銃を構える必要があるかって?決まってる。

(#'A`)「───Fahr zur Holle」

『………ギィヤッ!?』

連中の青白い肌に、刃を突き立ててやるためだ。

銃剣を振り被った先には、重巡リ級の姿がある。驚愕で見開かれた眼が赤く輝いているのを見るに、Elite種であることが伺えた。

ただ、リスボンやベルリンの“アイツ”とは別の個体だ。仮にそうであるなら同じ状況でも寧ろ爛と笑みを浮かべて反撃の拳を振るってきただろうし、そもそもこんな状況に陥る前に………いや、これについては何ならわざとこうなるまで放置した上で逆境をたっぷりと堪能していたとしてもおかしくないな。

いずれにせよ、“アイツ”がこの場にいなくてよかった。そんな場違いな感想を妙に冷静に懐きつつ、俺はリ級の喉笛に深々と銃剣を突き立てる。

『ア゜ッ゜』

(#'A`)「Down!!」

間髪を入れず射撃。単射モードに切り替えていたG36Cから吐き出された5.56mm弾が、首をぶち抜いて後方へ飛び出す。顔面に渾身の右ストレートでも食らったような勢いで後方へ倒れ込んだリ級にもう一度引き金を引くと、急速に光を失っていく右眼を弾丸がえぐり取った。

船体殻が消えたなら、どうやら死んだ“ふり”ではないようだ。
  _
(#゚∀゚)「伏せろ!!」

『………ッ、グゥ!!』

ジョルジュの叫びに応じて反射的に膝を折る。頭上をフルオートで放たれた火線が通り過ぎ、やや離れた位置にいたル級の船体殻の表面で弾けた。

『ジィアッ!!』

閃光弾の衝撃から立ち直りつつあったらしいソイツは、それを妨げる形で顔面付近に集中したジョルジュの射撃に対して苛立たしげな声を上げる。艤装を構えはするが、視界を弾幕で塞がれて照準は覚束ない。

その隙に、俺は屈んだ姿勢のままル級めがけて駆け出す。距離はせいぜい5メートル、若干の無理をすれば、ヤパーヌのニンジャのような人知を超えたスピードがなくとも1秒とかけず距離は詰められる。

『ッ!? ウォアッ!!』

('A`;)「Verdammt……!」

肉薄し突き出した銃剣はしかし、ル級が咄嗟に地面を滑らせて構えた艤装に阻まれ届かない。

これがル級の厄介なところだ。深海棲艦の中でも取り分け大きな艤装が遮蔽物となり、肉薄しての白兵戦に持ち込んでも刺突や斬撃を通しにくい。膂力がある分重量も苦にならず、こうして死角を突いても気づかれれば瞬く間に防がれる。

『キヒッ………!』
  _
( ゚∀゚)「100ユーロ札でも拾ったか?クソアマ」

『────!!!?』

故にこそ、ル級相手の“白兵戦”は二人一組が基本となるわけだ。
  _
(#゚∀゚)「うぉらぁっ!!」

『コピュッ………クォッ、コホッ………』

俺の“フェイント”を躱し、機銃でバラバラに引き裂いてやろうと勝ち誇った笑みを浮かべていたル級。だが反対側から肉薄してきたジョルジュが脇腹にナイフを突き立てると、途端にその表情は苦痛と驚愕、恐怖で彩られる。

そのまま2度、より深くねじ込まれるナイフ。ル級はその動きに合わせて同じ数だけ身体を痙攣させると、ブクブクと青い血を溢しながら前のめりに崩れ落ちた。

投下おつです
対人型白兵戦ってまだ通用してるんですかw

『カァッ………!?』

「Gegner Dawn!!」

『ウグッ、イギャアアアアアッ!!!?』

「Stirb, Stirb……!!」

他の“狩人”たちも、俺達に続いて次々と中核艦隊に白兵を仕掛けていく。重巡ネ級がこめかみにナイフを叩き込まれ絶命し、別のル級は包囲して一斉に飛びかかってきた4人に反撃できず銃剣で滅多刺しにされ悲鳴を上げる。

閃光弾をあっさり食らったことも含めて、向こうは俺達との間で“近接格闘戦”が起こることをまるで予期していなかった。易易と懐を取られ、一個艦隊が突き殺され、刺し殺され、斬り殺された。

特例中の特例であるベルリンはいざ知らず、南部防衛戦の際も白兵突撃はここぞの場面で一定の戦果を上げていた筈だ。にもかかわらずこうも綺麗に「ハマった」のは、未だ俺たちを甘く見てるのか、情報伝達の不足か、或いはタ級自身が“指揮艦”としての資質に難があるためか。

(#><)「Panzerfaust!!」

ξ#゚⊿゚)ξ《Weiter Feuer!! Weiter Feuer!!》

「Z1, Feuer!!」

『『グガァッ!?』』『『ギャッ!!?』』『『ゴガッ………』』

何より幸いだったのは、中核艦隊が非ヒト型を自分たちで周囲から退かしてくれた点だ。射線を通すための措置だとは思うが、白兵戦を仕掛ける際はタッパがデカく踏まれただけでも致命傷になる非ヒト型の脅威度は大きく跳ね上がる。

それらがモーセを前にした海のごとく中核艦隊に道を開けている現状は、砲爆撃による足止めを容易にした。現にビロードの指揮下に残した歩兵隊と駆逐艦隊、ツンやビスマルクらが猛攻撃で動きを縫い止め、周辺艦隊と中核艦隊それぞれの連携をほぼ完全に寸断しつつある。

『ジャッ!!』

「ぐぁっ………」

('A`;)「マッテオ!……クソッ!」

だが、ここまでやって尚俺達が負うリスクは小さくない。結局ヒト型にしろ、白兵戦なら「まだしも勝率が上がる」だけで基本超火力と怪力を備えた化け物であることは変わらないのだから。

リ級を一体刺殺したところで、コンマ1秒にも満たない時間息をついた“狩人”の一人。その文字通りの「一瞬」を突いて、横合いから吹き付けた暴風が乱暴な子供の人形遊びのようにソイツの四肢を引きちぎる。

『ガギィッ!!』

閃光弾の衝撃から、完全に立ち直った雷巡チ級。中核艦隊のデサント・運搬役だったのだろうか、下半身をM1エイブラムスに酷似するキャタピラーへと置き換えたその個体は、未だ煙を銃口から立ち昇らせる両手の対空機銃を今度は俺とジョルジュの方に向けてきた。

チ級の照準が定まり切るより早く、俺もジョルジュも動いている。

といっても、回避は狙っていない。仮に初撃を避けられたとして、たかが人間の脚力がこの至近距離でそのまま機銃掃射から逃げ切ることははっきり不可能だ。

故に俺達が選んだ手段は、防御。

『ズェアッ!!!』

('A`;)「…………ッッ!!!」
  _
(;゚∀゚)「ぐぅおっ………凝りが解れるな畜生!!」

今しがたぶち殺したル級、その手から離れ地面に転がった艤装に飛びつき、構える。重量について一抹の不安はあったが、男二人がかりならなんとか片方を持ち上げ支えることはできた。

大きさ的には人一人分を多い隠せる程度の盾に成人した男二人が密着し縋り付いているせいで大層ひどい絵面になっているだろうが、死ぬよりは安い。

《大尉、ジョルジュ大尉、無事なの!?…Admiralも!》
  _
(;゚∀゚)「生きてるから安心しろレーベ、無愛想な仮面女からマッサージされてるだけだからな!!」

俺への安否確認が“何故か”一拍遅れたLeberechtからの無線にセンスのないジョークを返しつつ、ジョルジュは俺の方を見て腰元と盾越しのチ級を交互に指さしてみせる。

クソッタレな手段だが的確でもあった為、俺は頷き、そして親指を勢いよく下に向けた。

(#'A`)「支給品のチョコ2枚だ!」
  _
(#゚∀゚)「5枚全部に缶詰もつけてやらぁ!!」

『グギッ………!?』

クソ眉毛野郎が叫び、自身のベルトから予備の閃光手榴弾を取り外して盾の向こうへ放り投げる。連続した炸裂音とチ級の呻き声の後に、機銃掃射がピタリと止む。

瞬間俺は盾から手を放し、チ級に向かって駆け出す。

『…………ッ、ギィッ!』

さっきの今で二度目の目くらまし。今度はチ級の方も、ある程度の“心構え”をしていたようだ。
形状ゆえに回避こそできなかったものの咄嗟に目を逸らすなど何かしらの方法でダメージを軽減したらしく、既に動作可能なレベルまでは立ち直っており盲撃ちの態勢ながら気配で俺の方に銃口を向けようとした。
  _
(#゚∀゚)「鬼さんこちらってな!!」

『!? ァアッ!!?』

その動きを、同様に盾の裏から躍り出たジョルジュの射撃が妨げる。ダメージが多少軽減されていたとしても視覚・聴覚ともに盤石から程遠い中で、機銃を構えた先とは反対方向で弾ける銃火。つられて照準がブレるのは無理もない。

増えた“隙”を逃さず、加速する。盾を構えていた分の出遅れを一気に詰め、チ級の車体部分を駆け上がる。

『ウァアッ………!!?』

こんな有様の下半身でも感覚があるのか、気配を察したのかは解らない。何れにせよ最後の足掻きで振り回された機銃からの射撃は、意外な正確さでちょうど“車体”に乗り上げたばかりの俺の頭目掛けて伸びてきた。

('A`;)「ぬぉおおおおっ!!?」

軍人として最低限度の訓練と同様の自己鍛錬はしてきた身ではあるが、こちとらブンデスリーガのエースストライカーやハリウッドのアクションスターのような天性の運動神経を持ち合わせている身体じゃない。
跳躍やスライディングで華麗に回避、とは当たり前だがいかず、不格好に前へ転がるような姿勢で辛うじて躱す。

靴裏を弾丸が削り額を強かに打ち付ける羽目になったが、二回転ほどして止まったところで顔を上げれば、ちょうど鼻先で青白い肌の胴体が無骨な装甲板から生えているという不可思議な光景が広がっていた。

('A`メ#)「っらぁ!!」

『ゲボァッ…………!?』

迷わず下から銃剣を捻り込む。奴の口から溢れ出た生臭え体液が、ビシャビシャと俺の右側頭部から肩口にかけてを伝って流れ落ちていく。ダメ押しで引き金を引くと3点バーストで放たれた弾丸が奴の体内を駆け上り、頭蓋をぶち破る。

(#'A`)「────!!!」

脱力したチ級の胴を蹴り上げて銃剣から外し、グタリと天を仰いだそれを立ち上がりざまに飛び越えて向こう側へ。

チ級が俺とジョルジュへの攻撃を始める直前、背後にいた一つの影。その“艦影”を目にした時点で、俺がチ級の次に狙う標的は決まっていた。

こっちの艦娘は確かに数こそ少ないが、Bismark、Rome、Littorioと戦艦は相応の陣容を展開している。各自の練度も高く、混乱や損害によって艦隊全体の稼働率が大幅に低下している状況で短期決着を狙うなら相当な火力の集中を必要とする。

故に旗艦であろうとも、その轟沈が敗北に直結する立場であろうとも、「最大限の火力」を確保するにあたってその存在は不可欠だ。

一方でヒト型、それも戦艦のElite種となれば耐久力の上がり幅も大きい。Bismarkたちといえど、一撃轟沈はほぼ不可能に近い。相応の損傷を受けた時改めて撤退すれば、リスクに比べてリターンの方が遥かに大きいと向こうは踏んだのだろう。

そしてその事情も、俺達の「白兵突撃」という向こうにとっては理外の戦術で大きく変わった。超至近距離まで生きて肉薄できればという極めてハードルの高い条件を満たさなければならないが、Elite戦艦どころか姫や鬼ですらものの数秒で沈められかねない状況が生まれてしまった。
加えて既に乱戦状態に持ち込まれているため、向こうの最大のアドバンテージである軍艦並みの超火力も封じ込められた。

(#'A`)「CP、【Danger Close】の用意を!!」

ならば旗艦である“ソイツ”が、事故を避けるため離脱を図るのはごく自然な成り行きと言える。

『─────ィアッ!?』

振り向き、俺が追ってきていることに気づいたソイツ────戦艦タ級Eliteの喉から、甲高い悲鳴のような声が上がった。

まるで、俺という“ただの人間”に対して、恐怖を抱いたかのように。

艦隊決戦の要として出張ってきたのだから、タ級Eliteの艤装は当然フル装備だ。友軍相撃の危険を考えればフルバーストは無理にしても、副砲の1、2門で薙ぎ払えば俺が15人いたとしても跡形もなく吹き飛ばせただろう。

だが、奴の艤装の形状が災いした。腰から下を囲うように装着され、重量が極端に下半身に寄ったアンバランスな構造。それに精神的動揺、急激な方向転換、足元の悪さも合わされば、自然“次に起こること”は限定される。

『ウォアッ!!?』

ズルリとタ級の足が滑り、体勢が崩れ、艤装の銃口・砲口が尽く天を仰ぐ。当然、こんな状態で俺への砲撃などできやしない。

転倒こそしなかったが、事ここに至れば差はない。銃剣を腰の辺りに構え直しつつ、一気に泥濘を蹴り上げながら加速する。

( <●><●>)「Guten Tag」

『ギッ───オッ!?』

(#//‰ ゚)「Sit down, Fucking Bitch!!」

『ォオゴ………』

視界の端、右手側で重巡ネ級改が、左手側で戦艦ル級が艤装を俺に向ける。だが前者はティーマスに、後者はアメリカ海兵隊のサイ=ヨーク=ヴォーグルソン大尉にそれぞれ銃剣を突き立てられ沈黙した。

二人のおかげで最後の障害もなくなった。ならばあとは、俺も仕事をこなすだけだ。

(#'A`)「おらよっ!!」

『クヒュッ、グボッ………』

立ち上がり姿勢を正そうと藻掻くタ級Eliteに飛びかかり、喉笛に銃剣をぶっ刺し、そのまま3点バーストを撃ち下ろす。体内を縦に貫いた5.56mm3発が地面で爆ぜたのを確認し銃剣を抜けば、支えを失った身体がドサリと仰向けに倒れる。

最後の“二度撃ち”は、無事奴の顔面を色も見た目もグロテスクなプティングに変えた。

欧州戦線指折りの重要拠点に攻め込んできた大艦隊の旗艦としては大分あっさりした最期だが、まぁ戦場なんてこんなもんだ。映画のように脚本家の意志でご都合主義的に生き残る主人公も、大層な演出と大衆が流す涙のもとで見送られる悪役も存在しない。誰だって運が悪ければ死ぬし、運が良ければ生き残る。

ある意味じゃ、人間社会なんかより遥かに、究極的に平等な場所だ。

(//‰ ゚)「ドク、ナイスだ!!」

('A`)「お褒めに預かり光栄だよ“キャプテン”。だが、勝利の喜びを分かち合うのはもう少し後だ」

駆け寄ってきたサイ大尉に言いながら、俺は腰から発煙筒を一本取り外して着火する。紫色の煙を吹き出すそれを見て大尉は露骨に顔をしかめ、同じく駆け寄ってきたティーマスは相変わらずの無表情で小さく肩を竦めた。

( <●><●>)「貴方がこの状況で【Danger Close】の要請を出すことは解ってました」

('A`)「そいつぁ良かった。走るぞ!!」

(;//‰ ゚)「Jesus………! All guys, Go back, Go back, Go back!!」

更新おつです

Danger Close。元はアメリカ軍等で使われる、前線友軍の至近距離───具体的な距離を示すなら600m以内に存在する目標に対しての砲撃・爆撃要請を意味した無線符号の一つだ。

至近距離どころか敵艦隊の真っ只中に斬り込んでいる状態なので本来の用途としても特に問題はない。ただ俺達東欧連合軍内においては、近隣深海棲艦に対する最大火力の投射、それに伴う目標艦隊群の完全な殲滅・掃討も内容として加えられている。

要は「トドメを刺せ、皆殺しにしろ作戦」発動を告げる合図だ。虎の子中の虎の子であるドレスデンの直属基地航空隊と空軍機も投入するため、符号の通達と敵旗艦の轟沈或いは離脱を示す紫の発煙筒の着火が両方揃わなければ発動されない。

(#=゚ω゚)《MLRS、自走砲、全車射撃準備よし!ドレスデンよりB-25全機、ミュンヘンより3個編隊のA-10が離陸。何れも戦闘域突入まであと40秒だよぅ!》

ξ;゚⊿゚)ξ《戦車隊、艦娘部隊、迫撃砲隊による全面制圧射撃も同時に敢行する!ドク、急いで!!》

(#'A`)「すぐに出る!ビロード、ツー、他前衛部隊も火線を維持しつつ総員後退を開始しろ!!」

そしてこの符号、発動された際基本的には取り消しが効かない。なのでこっからは、旗艦が沈み統率を失い、無秩序に暴れ回りだした敵艦隊の只中を、“Danger Close”が始まるより早く離脱しなければならない。

脱出してから発動すればいいって?冗談、その間に向こうが新たな“旗艦”を選出して統率を取り戻したり、逆に箍が完全に外れてより無秩序に分散なんてされたら目も当てられない。

分厚い皮膚より早い足、こういう“機”は迷う前にまず手にすることが重要なんだよ。

『ギァアアアアアッ!!!』
『ギィ………!!!』

( <●><●>)「左手からイ級陸棲型、後方からチ級の多脚ユニットタイプが接近してきています」

('A`#)「大尉、フラッシュバン!Max!!」

(#//‰ ゚)「Alright!!」
「Jawohl, Feuer!!」

因みに対地攻撃機A-10【サンダーボルト】については、ベルリン陥落に際して艦娘部隊に勝るとも劣らない大打撃を受けたドイツ空軍補充のためにアメリカから大量に譲られたモノをそのままブチ込んでいる。

完成品が北アフリカ経由で取り急ぎ70機届けられた他に東欧連合軍全体に生産ライセンスも共有されており、チェコやイタリア、ポーランドなど工業力を未だ維持している国では量産も開始されている。

この戦闘機の「生みの親」のことを考えると、70年ぶりに“空の魔王”が祖国に凱旋したと言えなくもないのだろうか。

ただA-10がドイツ軍で本格的に配備運用されだした頃には、北欧を蹂躙し尽くした【Black Bird】の活動範囲が欧州全域に広がっていた。
対深海棲艦兵器として非常に貴重な存在ではあっても、制空権を喪失しては運用自体ができない。

ドイツに凱旋した“空の魔王”は、ろくに交戦する機会もなく役立たずの穀潰しへと転落した。

『ゥオオオオォ…………』

《Admiral、イ級の轟沈を確認したわ。既に中大破していたみたいね》

『ッガァッ!?』

( <●><●>)「チ級の追撃、停止したことは見なくても解ってます」

('A`#)「なら後は走るだけだ!……畜生禁煙だけは死んでもしねえぞ!!」

( <●><●>)「少佐の息切れが喫煙習慣から来る肺の機能低下であることも解ってます」

………と、思われていたのだが、例の南部防衛戦に際して止む無く投入されたところ、全機全編隊が【Black Bird】と遭遇し膨大な機銃弾を食らいながら爆撃任務を全うした上で生還するという途轍もない大戦果を達成。
護衛や同じ対地爆撃のために投入されたユーロファイター・タイフーンの生還率が50%前後であったことを踏まえると、損害0%は奇跡的と言っても過言じゃない。

無論、元々空対空戦闘の性能は絶望的で脚も遅い為、【Black Bird】の撃墜は全く出来ない。だがその悪魔的な防弾性能と例え翼をもぎ取られても飛行を続けられる操縦性は、それ自体が奴らにとって凶悪な武器となった。

かくしてA-10【サンダーボルト】は、制空権ガン無視で深海棲艦への爆撃任務を行える貴重な戦闘機として、東欧連合軍の暫定主力戦闘機の地位を手に入れたワケだ。

( ゚д゚#)《Danger Closeまであと10秒!!前衛各位衝撃に備えろ!!》
  _
(#゚∀゚)「こっちだ!お前らで最後だぞ、急げ!!」

('A`#)「わざわざの出迎え感謝するよ!」
  _
(#゚∀゚)「チョコの分はこれでチャラだな!!」

('A`#)「ざけんな!!」

深海棲艦の“群れ”の中から飛び出し、丘を転げ落ちるようにして駆け下りていく中、上空から聞こえてきたのはエンジン音。

第4世代戦闘機の、音速域へ易易と到達する高性能高出力エンジンが奏でるそれとは似ても似つかない代物。豚が鼻を鳴らしている様子を想起させる、ゼネラル・エレクトリカルTF34特有の低く無骨なそれが、幾つも重なって俺たちの方に向かってくる。

《Enemy Freet, Engage》

《All unit, Weapon-Free.

Danger-Close. I repeat Danger-Close Fire mission》

〈エンゲージ!! オールユニット、スタンバイ!!〉

〈〈〈ラジャー!!〉〉〉

12機の【サンダーボルト】、その後ろからはラジコンやプラモデルサイズの双発爆撃機────B-25の100に迫るであろう基地航空隊機が続く。

ちょうど丘を降りきったところで、それらは俺達とすれ違う形で真上を通過した。

(=#゚ω゚)ノ《────Feuer!!!!》

('A`;)「伏せろ!!!!」

イヨウ少将の号令が聞こえると同時、俺も声を限りに叫びつつ身を投げ出すようにして地面に突っ伏し頭を抱える。

『『『『     !!!?!!??』』』』

<('A`<;)「うぉっ…………」

熱風が吹き付けてくる。地面が揺れる。凄まじい数の砲弾が、ミサイルが、航空隊の後を追う形で空を飛翔していることが気配でわかる。
連中の断末魔も上がっているはずだが、そちらは圧倒的な爆発音に呑み込まれる。

<( A <;)「……………終わった、か?」

5分、6分、正確には数えちゃいないが、恐らくそれぐらいの時間を経て揺れと爆風が収まり、俺はゆっくりと立ち上がって振り返る。





('A`)「…………わぁ」

背後を見やれば、彩り豊かな無数の炎が、連中の屍を松明として丘の上で燃え盛っていた。

投下おつです
ドクオよくこんな戦術で生き残ってるなぁ脳筋じみてるw

更新乙です!
なかなかのゴリ押しっぷりだけど、近接肉弾戦をこれだけやり抜いて主要メンバーが健在で現役って、実践例のいる日本&海軍以外が見たらひっくり返りそうww

更新待ってます
ガルパン勢が心配です
彼女ら普通の女子高生だし

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フランス陸軍大尉、ツン=デレ。

大隊における機甲戦力指揮を一手に担うこの才女様は、“女の勘”についても非常に秀でたものを持っている。
特に奴さんが俺を探し当てる時の精度ときたらAC-130による対地砲撃もかくやのものがあり、未だかつて逃げおおせられた試しがない。

今日も、そうだ。ドイツ入りしてからまだ2ヶ月も経っておらず、この大隊の作戦行動も戦力が取り分け薄い中央戦線から西がメインとなる。チェコやポーランドと容易に連携が取れる東部に関しては、今回を含めまだ数えるほどしか派遣されていない。

だからリーザ近郊の土地勘なんざ持っているはずはないのだが、この才女様と来たら憤怒の表情を浮かべて眼の前で腰に手を当てて仁王立ちしてやがる。

こちとら構築された野戦陣地の隅っこに、目立たぬよう座り込んでいたにも関わらず、だ。

ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、いい加減やめにしない?あの戦術」

('A`)「無理だ」

このやり取りももう何度目だろうか、10回を越えた辺りからもう記憶は曖昧だ。今の拒否だって、口と頭が完全にパターンとして覚えちまっていて殆ど無意識に近い。

('A`)「深海棲艦を迎撃する上で現状一番有効かつ確実な戦術だぞ、それを自分たちで封じるのは正気の沙汰じゃねえよ」

ξ゚⊿゚)ξ「上層部からは“一刻も早く中止するように”って再三再四お達しが来てるって聞いたけど?」

('A`)「“政治的な理由で”な。戦術的、戦略的に否定されたわけじゃない」

確かにドイツ軍司令部からもローマに置かれた東欧連合軍の総司令部からも、今日のような“白兵突撃”の実施を即刻中止してほしいという話は幾度となく来ている。その頻度と勢いがグロスフスMG42機関銃のフルオートに勝るとも劣らないものであることも否定しない。

だが、それらはあくまで“要請”に留まる。“指令”ではないため遵守する義務はない。またその理由も、“民間への漏洩時に深海棲艦の実力を過度に軽視する誤った風潮の流布が懸念される為”というものであり、さっき言った通り多分に政治的な事情を汲んだものだ。

まぁ実際のところ、司令部の言い分にも理はある。

ただでさえ今のドイツ軍は兵力が不足している。義勇兵の体こそっちゃいるが事実上の学徒出陣にまで手を染める有様で、それでも“ベルリン”の痛手を埋め合わせるにはまるで足りてない。
そんな中で銃剣突撃からの白兵戦なんて真似、上からは───舌を噛み切りたくなるほどクソッタレな表現だが、“人的資源”を無駄に危険に晒しているようにしか見えないのだろう。

また、実際に“戦果”が上がっていることも軍司令部からすると実のところ手放しでは喜べない。ソレが大々的に一般に漏れた際、要請に書いてあるような致命的な“勘違い”を誘発しかねないからな。

俺たちがあの戦術を実行できるのは、ベルリンという特級の地獄を生き延び、その後遺症で頭のネジが飛んだ連中がこの部隊に集中しているからに過ぎない。
生ける軍艦による針鼠のような砲弾幕の中を生身で突っ切って対象に銃剣突き立てるなんて真似、自分で言うのも何だが“正気”でできることじゃない。練度が高くても、寧ろ練度が高い兵士・部隊ほど、超火力の化け物集団に突撃なんて愚の骨頂は避ける。

安易に“練度が高い正気の部隊”が実行すればどうなるかは、パリの朝露と消えたフランス陸軍がいい例だ。

実例を眼にしている同業者連中はまだいい、そうした面を理解して、出来得る範囲の戦術を自分たちで選択できる。
だが民間・マスメディアはそうはいかない。仮に俺たちの“戦果”がこの辺りに漏れれば、深海棲艦は白兵戦で殺害可能であるという事実「だけ」が拡散されるだろう。

その後にどんな楽観的で非現実的な、反吐が出るような主張・風潮が生まれるかは想像に難くない。故に【東欧連合軍】司令部の方でも、世界中のマスメディアの取材を戦線後方や最前線は50km圏内で戦闘行為が発生していない拠点に限定し、

ζ(゚ー゚*ζ『禁を破った場合、“流れ弾”や“誤射”によってマスメディア関係者に死者が出たとしても軍・艦娘は一切の責任を負いません』

(`∠´)『仮にマスメディア側の不用意な規約違反に伴う“誤射”で東欧連合軍の軍事行動に何らかの制限・支障が発生した場合、社名を公表した上でこれを上限なく金銭的請求によって解決させる』

/ ゚、。 /『ドイツ含む東欧連合軍加盟各国政府は、この声明を全面的に支持する。場合によっては要請に伴う資産凍結も辞さない』

という痛烈極まる釘刺しで俺達の前線における活動状況が漏洩しないよう徹底的に封じ込めている(勿論ただただ連中が邪魔という理由もこの対応の要因として決して小さくはないが)。

そんなミーム汚染を含んだSCPオブジェクトみたいな扱いの戦法、俺だって好き好んでやりたくはないしやっているわけでもない。

だが、この部隊においてはこれが現状最も有効な戦術であり、結果的に最も戦闘中の生存率が高い戦術でもある。ならば明確な戦術面での欠陥から待ったがかかるかより有効な戦術が編み出されない限りは、俺たちは“コレ”に頼りざるを得ない。

代替戦術があるなら寧ろ今すぐ教えて欲しいね。それを考えるために俺の睡眠時間を削らなくてよくなるなら喜んで採用するさ。

('A`)「何度も話し合った筈だ、今のところ連中の南下を押し留めるためには他に手はないって。俺たち二人だけじゃない、ミルナ大尉やイヨウ少将も交えた上でな」

ξ#゚⊿゚)ξ「……ハッ、大層殊勝な、提督閣下らしい心構えですこと!私との約束より勝利を優先するんだからね!

それとも“起き抜け”の約束だから記憶に残ってなかったかしら!?」

('A`)「…………………軍人たるもの、思考の柔軟性は必要だろ?」

………“このやり取り”の回数だが、厳密に言うなら初日───俺がベルリンの件から目を覚ました直後の時点で、十回なんざ疾うの昔に越えている。その時点では話し合いではなく、ツンに胸ぐらを(何故かは知らんが涙目で)掴まれ激しく揺さぶられながらの

ξ#;⊿;)ξ『絶対!!二度と!!!あんな真似!!!!繰り返すな!!!!!』

という一方的な命令に近いものだったが。

ただ、確かに俺もまた命令に首肯し、受諾した。仕方無くじゃない、俺も本気で「二度とごめんだ」とその時は間違いなく思ってたからな。

そして、自分の意志で結んだ約束を反故にしたという後ろめたさが、この話題になる度俺に今のような心にもない言動をさせ、さらに胸糞の悪さが胸に満ちるような言葉を続けて吐かせる。

('A`)「ツン=デレ大尉、現在の部隊方針に異議があるなら代替案を出してもらえると嬉しいんだが。もしこの場で出せるなら、確認の上吟味させてもらう」

ξ# ⊿ )ξ「…………!!あぁそうですか、ありませんとも!!

ご休憩中失礼致しましたね、少佐殿!!」

ツンの生真面目さを逆手に取った、我ながら吐き気がする会話の打ち切り。階級差による言論封殺に憤ったツンが怒声を撒き散らしつつ踵を返し、後味悪く話が終わる………ここまでが、この話題に関する俺とツンの「テンプレート」だ。

「…………部隊長との“ご歓談”でお疲れのところ申し訳ありませんけど」

尤も、今日に関して言えば、

「私の方にも少しだけお時間いただいても差し支えないでしょうか?ドク=マントイフェル少佐」

非常に残念なことに、さらなる追撃が控えていたが。

('A`)「……………できれば後にしてもらえると助かるな、ナカスガ軍曹」

「まぁそう言わないでよ、すぐに要件は終わるからさ」

一応はお伺いの体だったので一縷の望みに賭けて断りを入れては見たが、案の定ただの建前だったらしい。眼前の赤毛の少女────義勇“志願”戦車兵にして現東欧連合陸軍軍曹・エミ=ナカスガは、直ぐに直立不動の姿勢を崩してあっけらかんと言ってきやがる。

応じて、自分の表情も著しく苦くなっていくのが解る。

別にコイツの態度が不快ってわけじゃない。俺自身が敬語や“目上への礼”ってモンを頗る苦手とする人種であるが故に、直ぐにナカスガが同類であることは察しが着いた。
加えてヤパーヌ暮らしが長かったという弊害か所々ドイツ語に怪しさが漂っていた為、致命的に礼を失さない範囲でのタメ口やラフな素行を許可し、俺自身が隊内でもそれを共有させている。仮に気に触ったならそりゃ理不尽ってもんだ。

ただ、やはり一仕事終えたあとの貴重な休憩がみるみるうちに削られていくのはやはりクるものがあるし………何より、唾棄すべき学徒出陣の“実例”が眼前に現れるとどうしても複雑な感情が顔に出る。

大人の対応?兵士の矜持?知ったことか、その前にこちとら人間だよ。

そういったお利口な上辺で隠しきれないもんなんか幾らでもあるさ。

('A`)「で、要件は何だ?因みにこの間に敵襲が発生し俺の貴重な休憩がおじゃんになった場合支給品のチョコレートは一枚没収とする」

「上官権限の濫用も甚だしい……。

ねぇ、その前に眉間のシワどうにかしてくれない?貴方がそんな表情になる理由は以前も聞いてるから理解はするとして、いい加減慣れてもらったほうがこっちとしてもやりやすいんだけど」

('A`)「お前さんが退役届を携えて俺に出してくれるなら満面の笑顔を見せてやるよ」

「笑顔キモそうだから遠慮するわ」

('A`)「俺お前のその態度を許可する時“致命的に礼を失さない範囲で”って言わなかったっけ????」

「はぁ………前も言ったじゃない。間違いなく自分の意志で選択したことだから気を使う必要はないし、寧ろ気を使われたくないって」

('A`)「ベルリンが襲撃・陥落を免れていたとしてもその選択肢があったなら俺もその理屈に納得するんだがな」

「これは持論なんだけど、起こらなかった過去について仮定するのは愚かしいと思わない?根源的には、そもそも深海棲艦が現れなければ私は無事に日本に帰っていたはずだし」

ああ言えばこう言う性分は上官である機甲部隊長譲りか?

………これはあまり大っぴらに言える話じゃないが、ナカスガがこの部隊に配属されてから何度か、俺はコイツの強制退役をイヨウ少将を通じて司令部に打診している。

自分の意志だと本人は宣うが、他の選択肢を叩き潰された事実上の一本道を「選択」とは言わない。

況してやナカスガは乗艦していた学園艦の戦車道選手として相当な有望株の一人だったと聞く。
偽善と言われようがエゴイズムと言われようが、俺たち軍人の、大人の情けなさが招いた事態の尻拭いにもっとマシな“道”が幾らでもあった子供を付き合わせるのは我慢がならなかった。

('A`)(全部即日突っ返されたけどなクソが!)

義勇志願兵出身者はその意志を尊重し、著しく質に欠けるか何らかの取り分け重大な軍規違反が起きない限り本人の意思表示に伴う退役のみを認める……というのが、強制退役棄却の際に決まって添えられてくるコメントだ。
多分、せめて学徒兵連中だけでも銃後に戻そうとするやつが俺以外にもそれなりの数がいるんだろうな。それも、いちいち承諾してたらなんとか確保した「数合わせ」が無に帰しかねない程度には。

しかもナカスガの場合、ポーラやビスと同じ“厄介なクチ”でもある。

通常2ヶ月かかる戦車兵の習熟・慣熟訓練を2週間に詰め込んだトチ狂った内容のカリキュラムを、更に5日まで切り詰めて習得。初陣となった戦闘では、後方待機任務だったにも関わらずイ級後期型の撃沈にハ級後期型の共同撃破。
入隊から一月経たずしての軍曹昇進は、当たり前だが史上最速だ。

戦車道国際大会代表選手輩出の常連・ジークフリート学園の筆頭ホープにして深海棲艦制圧下のベルリン西部から旧式戦車を駆ってほぼ自力で生還した“奇跡の少女”は、軍人としても才そのものにはきっちり恵まれていたらしい。
正直、ナカスガの部隊配属時にこの内容を読んだ折は、陸軍局のバカが経歴書と取り違えてメアリー=スーものの小説でも送りつけてきたのかと一瞬本気で疑った。

聡明で、若く、見目麗しく、元からある程度の知名度があり、悲劇的な背景持ちで、しかもしっかり実力も備えている。そりゃあ、軍部も全力でキープしたがるわけだ。
ならばせめて予備戦力扱いで後方配置に固定しようとしたが、こちらの動きも本人の激烈な抵抗に会い頓挫した。

要はコイツがここにいることで、俺の無力さがイヤというほど突きつけられるのだ。顔の一つや二つしかめるぐらいは許して欲しいね。

「またその顔……ああもう、とりあえず本題に入るわね。まず1つ目だけど」

('A`)「おい待て複数あんのかよ、“ちょっとお話”で済まない未来しか見えないんだが?」

「たった今一個増えたのよ、少佐の自業自得。実際手短くは終えるつもりだし。

………ねぇ、いい加減もう少しウチの“隊長”の気持ちを考えてくれない?まだひよっこの私が口を出すのも烏滸がましいとは思うんだけどさ、正直2週間でもうお腹いっぱいって程度には見てられないのよ」

('A`)「……………考えては、いるさ」

「!!! じゃあ」

('A`)「ああ見えて仲間思いだからな、そりゃあ俺の戦術に我慢がならないのは解る。なんとかもっと有効な戦術を構築できればとは、ずっと思ってるよ」

「………………………………………………………」

一瞬喜色を浮かべたように見えたナカスガの表情が、みるみるうちに侮蔑と落胆、憐憫によって曇っていく。

前者二つは口先だけで結局白兵戦術から抜け出せない俺へのものとして、憐憫は誰に対してだ…?

('A`)「ええとまぁ、そっちに関しても可能な限り早めに解決できるよう努力する。で、2つ目はなんだ?」

「あーっ……っと……」

何故かこれ以上この話題を続けると更に愉快ではない状況へ追い込まれる気がしたので、とっとと切り上げ次の要件へ言及する。

途端、ナカスガの歯切れがこれまでと打って変わって悪くなった。

「ちょっと、他の戦線の様子が気になってね?ほら、今起きてる深海棲艦の攻勢って、アイツらが現れた直後以来の全世界規模らしいじゃない?仮にここが持ち堪えられても、他が崩壊したら意味ないから気になっちゃってね?いやちょっと、ちょっとよ?だけどその……提督も兼任してる少佐のところなら他地域の戦況についても確かな情報とか入ってるんじゃないかなって。例えばさ、極東戦線とかすごく気になるじゃない、艦娘戦力の中心的な場所だしさ」

聞いてもいない要件の理由までベラベラと並べ立てるものだから言葉数自体は多いのだが、内容はとてつもない回りくどさで解りにくい。つまり「深海棲艦に攻撃されてる日本戦線の戦況が気になるから教えて欲しい」で済むじゃねえか。

そういや、コイツ元々ヤパーヌの出身だったな。ツンから聞いた話だが、こっちに来る前に作った友人がいるとも。
オオアライで“東洋のジャンヌ=ダルク”が乗る学園艦の上に深海棲艦が突然「生えてきた」ってニュースは戦意高揚番組を躍起になって流し続けている軍営ラジオですら真っ先に取り上げてた。

それだけでも十分なヘヴィパンチであるところに、今度は国内でテロが起きているやら頭ケシ畑のチャイナ連中が軍事介入を画策しているやら、挙げ句ロシアが核の利用を仄めかし始めたなんてニュースが飛び交う有様だ。まぁ、心配になるのも無理はない。

('A`)「まだ日本戦線に関する続報はない」

ただ、最初の要件同様、今の俺では残念ながらご期待に添えないのだが。

「し、詳細である必要はないのよ。例えば、今どれぐらい戦線を押し返したかとか、どの町は無事とか、大洗女子学園が奪還されたかとか、それぐらいで……」

('A`)「提督っつっても対象階級の中では一番下の現場士官だからな。悪いが、軍上層部からその辺りが俺まで降りてくることは滅多にねぇさ」

言いながら胸ポケットのマールヴォロに手が伸びかけるが、眼前の人物の存在を思い出して辛うじて堪える。

青少年少女の健全な発育を思い自身の嗜好を我慢する、大人の鑑だね我ながら。教育省からの表彰状はまだだろうか。

('A`)「まぁ、あのぶっちぎりの艦娘大国がおいそれと押し込まれるとは思えんし、世界中が修羅場とはいえ中国やロシアの件も日本自体も周辺国も無反応とは考えづらい。

少なくとも“更に危機的状況になった”という知らせが来てないなら、ある意味それが無事の証拠と見ることもできるだろうさ」

………これを成長と呼べるのかは知らないが、我ながらスラスラと嘘をつけるようになっちまったもんだ。

実のところ、続報自体は入ってきている。厳密に言えば【フィリピン海防衛線】に関するものなので日本列島そのものについてという意味では嘘は言っていないが、それでも関連情報についてダンマリを決め込んでいるのは間違いない。

ただ言い訳させてもらうなら、じゃあ今俺の手元にある情報をこいつに開示したところで何がどうなる?

得体の知れない敵の“新型艦”による猛攻撃を受けて日米連合艦隊とこれにASEANも加えた連合空軍が敗退して、“新型艦”は大艦隊を引き連れて日めがけて北上中ですなんて話をナカスガにしたところでなにか変わるか?心配のタネを増やして終わりじゃないか。

「…………………とりあえず、今私に伝えられるような情報が一つもないことは理解したわ、ありがとう」

('A`)「どういたしまして。……あぁそうだ。お前この後ジョルジュの元に行く予定や用事はあるか?」

「? ないけど何?伝言でもある?」

('A`)「逆だ。今から2時間、奴にだけは絶対に会うな。2時間経ったら構わないが、とにかく2時間は絶対に空けろ。少佐命令として他の命令に優先だ、解ったな?」

「な、なんか凄い気迫ね……命令なら受諾するけど」

('A`)「よし、もう行っていいぞ」

首を傾げながら去っていくナカスガの姿を見送り、ほうっと息をつく。

とりあえず2時間も設けてやれば、その頃には奴さんとレーベレヒトの大層情熱的かつ刺激的な“逢瀬”も終わっているだろう。チ級撃破の折に交わした報酬の約束を果たしてもらおうと探していたところでソレに出くわした際は面食らったものの、同時にレーベの大分ジョルジュに入れ込んだ言動の正体に合点がいった。

まぁ戦闘直後に盛るんじゃねえよとは正直思ったが、寧ろ戦場だからこそ燃えるものがあるのかも知れない。どちらかが強制されているならともかく、互いが合意し“そういう感情”を共有しているなら俺からとやかく口を挟むのは出歯亀ってやつだ。

ようやくポケットからの脱出に成功したマールヴォロを一本手に取り、火を付ける。万感の思いを込めて深く深く吸い込むと、寿命を削る紫煙が肺を我が物顔で満たす。 

(;'A`)「ゲホッ!!」

がっつきすぎた報いで咳き込む。形を乱した煙がボワッと口から湧き出て、風に吹かれて散っていく。

('A`)(……………戦況、ねぇ)

本題とはズレていたしやはり伝える義務はなかったので話していないが、“他戦線の状況”自体は既に俺の元にも次々と入ってきている。

西欧戦線はフランス・スペイン・アメリカ・ポルトガル連合軍によるオルレアン防衛線が突破され、【陸棲型】を主力とした深海棲艦の機動攻勢の前に総崩れで撤退を重ねている。
フランス政府はナントへ機能を移転させ、更なる事態の悪化に備えて本格的に国外亡命先の交渉に入ったそうだ。

北欧戦線はオスロから大挙出撃した艦隊がコンクスビルゲンへの総攻撃を開始、スウェーデン本土への雪崩込みも視野に入ってきたと言う。
フィンランドを加えた3カ国とロシア軍は、コンクスビルゲンが制圧された際は【Black Bird】による防空圏を数の暴力で強引に突破した上で街ごと敵艦隊を爆弾の雨と核非搭載の弾道ミサイルで吹き飛ばす作戦の調整を開始した。

アフリカじゃケープタウンに加えてポートエリザベスにも【戦艦棲姫】を主力とした推定二十個超の艦隊戦力が上陸し、現地軍や投入された国連“海軍”の抗戦も虚しく本格的な内陸浸透が始まりつつある。
インド洋に浮かび艦娘戦力も潤沢に保有する日本・アメリカ・インド連合艦隊はこの動きに介入できなくもない距離だが、洋上で深海棲艦による波状攻撃を受け動けないらしい。

中南米でも深海棲艦は動き出している。パラマリボへの上陸を目指しているとされる十個艦隊強をパナマ、ベネズエラ、キューバなど周辺諸国の海空軍が迎撃しているが、戦況は入ってくる限り絶望そのもので足止めすらロクに出来ていない。

………ドゥームズデイ・クロックの針は、今どのあたりにあるだろうか。指している場所が仮に23:59:59:99であったとしても、俺は驚かないね。

('A`)(……………………)

タバコの先から立ち上る煙に合わせて、視線を上に向けていく。空は先程まで分厚く覆っていた雲がいつの間にやら散り、忌々しくなるほど爽やかに晴れ渡っている。

とても世界が滅亡を迎えつつある日の空模様には見えない。



が、案外こんな天気の時こそ世界が滅ぶのかもしれないなんて、他人事のような考えが脳裏によぎった。






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更新おつです
ツン隊長デレデレですし
ドクオの毒男体質も女子高生に心配されるレベル
久々の穏やかな時間でしたね

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ぐるぐるぐる。

まるで回転している巨大な独楽の中心から見ているかのように、綾波の視界は回り続けています。

艤装の加護で殺しきれない遠心力、艦娘の身体能力でも抑えきれないGの圧力が、軋むような痛みに変換されて身体中を蝕みます。すぐ隣りにいた浜風さんや他の皆さんの様子を伺う余裕はありませんが、誰一人まともに動けている気配がないのできっと同じような状況なのでしょう。

《───べ!飛べ!!飛べぇええええ!!!》

轟音と耳鳴り、緊急を告げるけたたましいブザー音。様々な騒音に掻き消されそうになりながら、それでも無線から聞こえてきた必死の叫びは綾波の耳に届きました。

「うぅ………」

辛うじて動く両の手になけなしの力を込めて、這うようにして前へ、開きっぱなしになった後部ハッチへと向かいます。

10mもないはずの距離が、とても遠く感じました。艦娘であれば、否、只のヒトであったとしても数秒で歩み切れる距離に何十秒も掛けねばならないことが、この機体に残された時間が少ないであろうことも合わさって酷くもどかしい。

「うぁ…………!」

機内の温度が僅かずつ上がり始めたように思える中、なんとかハッチの縁に手をかけられました。そのまま現時点で注ぎ得る力を振り絞り、ハッチの外へと上半身を乗り出させます。

降下、等という格好のいいものではありません。落下、滑落、或いは排出。ただ逃れるために宙に投げ出した私の身体は、周囲で炸裂する高角砲弾や飛び交う【黒鳥】たちの合間を縫い、重力に引かれるまま眼下の海へとまっしぐらに堕ちていきました。

「わぶっ…………!!?」

海面に叩きつけられた瞬間、半ば意識を手放していたにも関わらず艦娘艤装の防護機能が作動。綾波の全身を包んだ不可視の防壁がそのまま重量によって沈んでいくはずのところを一〜二メートルほどで引き止め、トランポリンが弾むみたいに上へと引き戻します。

眼を開ければ、既に綾波はへたり込むような姿勢で水上にいました。かつて零戦や空母機動艦隊をして名を馳せた皇国の技術力は、70年以上の時を経てなお変わらず世界屈指のもののようです。

ただ、そのことに感心し喜んではいられません。何せここは、戦場のど真ん中なんですから。

ともすれば朦朧となる意識を奮い起こし顔をあげると、揺れる視界の中で水飛沫が次々と上がりました。数は5つ、搭乗していた僚艦の皆さんと同じ数であることを踏まえると、どうやら全員無事に降りることができたようです。

「あぁ………」

ですが、綾波達を【ロナルド・レーガン】からここまで運んできてくれた機体───CH-47【チヌーク】はそうはいきませんでした。
後部から激しく炎を吹き出していたチヌークはそれでも辛うじて飛行を続けていましたが、綾波達がなんとか着水したのを見届けると最後の力を振り絞るようにして機体姿勢を横に向けながら一際高く上昇します。

次の瞬間、その横腹に高角砲弾が突き刺さり、30mを超える巨躯は炎を纏いながらバラバラに引き裂かれてしまいました。

明らかに、綾波達への攻撃を身を挺して遮った動き。操縦していた陸自士官のお二人は、最後の最後まで日ノ本を脅かす存在に立ち向かうという職務を貫き通したのです。

しかし、そんな彼らの気高いあり方に哀悼や賛辞を述べる間を、“敵”は与えてくれません。

『『『ゴァアアアアアアアアッ!!!!!』』』

「敵艦隊接近!12時方向、2個艦隊!!」

「応戦するにゃ、綾波チャン、浜風チャン、カバーお願いにゃ!

軽巡多摩、砲雷撃戦開始にゃ!」

「駆逐艦浜風、旗艦指示目標視認!相手にとって、不足なしです!」

「綾波、指示を受諾します!……この海域は、譲れません!!」

綾波に続いて態勢を整え終えた旗艦の多摩さん、僚艦の浜風さんと共に、向かってくる深海棲艦の群れ目掛けて砲弾を放ちます。おそらくチヌークを落とした砲撃の主であろうそれらはすぐに反応し、汽笛代わりの咆哮で威嚇しつつ直ぐに応射してきました。

12対3。敵艦隊にはEliteこそ確認できませんが、数的不利は歴然です。加えて向こうは片方の艦隊旗艦を重巡リ級が努めており、最高火力も上回られています。

正面切ってまともにやれば綾波たちに勝ち目がないのは確かでしょう。ですが敵艦隊は、あまりにも安直に綾波たち“だけ”を目指して猛々しく進んできていました。

チヌークの動きそれ自体に気を取られたか、或いはこれを撃墜したことによって綾波たちの内幾らかをその巻き添えに出来たと誤認していたか、その理由が何であれ、

「敵艦隊、距離700地点にて停止!!全火砲こちらへ集中の構え!!」

「第二陣、今にゃ!!」

奴らの動きは明らかに、自分たちが既に挟撃されていることに気づいていませんでした。

多摩さんがそう叫んだ瞬間、電探上にある残り3つの僚艦反応が動きます。
海面に漂う、チヌークやそれより前に撃墜されていたであろう友軍機の残骸に。或いは荒れ狂う海の波間の中に。リ級らが通り過ぎ、此方を沈めるため足を止めるその瞬間まで息を潜めていた3人が、一気に加速し敵艦隊の後方から突っ込みます。

「真後ろがここまでがら空きとはね………見てらんないったら!!」

「はっはぁ!釣りはいらねえ、ぜぇんぶもってけドロボー!!」

「駆逐艦の本領発揮だよぉ〜!これでもくらえ〜〜!!」

『『『グゴガァアアアアアアアッ!!?』』』

『ア゛ァ゛ッ!!?』

霞さん、涼風さん、文月さんによる魚雷一斉射。その数、実に10本。かなり距離を詰めてからの射撃だった為避ける間もなく、後方にいたハ級2、ホ級とイ級各1、計4隻が断末魔を残して灼熱の水柱に呑み込まれます。

面食らった様子でリ級が霞さんたちの方を振り向き、他の艦も動きを止めます。当然ソレは、今度は綾波たちにとって絶好の隙です。

「方舷、魚雷全投射いくにゃ!!撃(て)ぇ!!」

『グッ………?!』

『『『ギァアアアアアッ!!?』』』

多摩さんの号令に従い、右脚ユニットの魚雷を全弾発射。2発はホ級を跡形もなく吹き飛ばし、1発はト級の身体のど真ん中を抉り取り沈黙させます。残る1発はリ級を狙ってすんでのところで躱されたものの、延長線上にいたニ級に命中しその息の根を止めてくれました。

更に多摩さんの魚雷がイ級とロ級を、浜風さんが別のニ級を沈め、僅か数分の攻防で私達は彼我の戦力差を逆転させることに成功しています。

「敵艦隊、残余3隻!」

「一気に仕留めるにゃ!各位前進しつつ射撃を!!」

故に兵は拙速を聞く、未だ功の久しきを観ざるなり。当然ここは、悠長に構えず一挙に勝負を決めに行きます。

重巡リ級は無傷で健在ですし、随伴2隻も片方は軽巡ヘ級。総合火力で見れば未だ互角か、此方がやや劣勢と見て良いかもしれません。

ですが、数的有利はそのまま手数の差に直結します。姫級や鬼級でもいるならいざ知らず、全て通常種なら“質”の差は“量”で十分に押し潰せる。

『『グガガガッ!??』』

『ギィィッ………!』

へ級には浜風さんと文月ちゃんが、リ級には多摩さんと霞さん、涼月さんの三人がかりで、徐々に距離を詰めながらの全力射撃。小口径の主砲故一撃必殺とは行きませんが、小口径だからこそ実現できる連射力で2隻の足を縫い止めます。

残り1隻は3体目となる駆逐イ級。後期型とはいえ通常種なら綾波一人で十分捻じ伏せられます。

リ級ら敵艦隊も、無論ただやられるために棒立ちしていたわけじゃありません。反撃しよう、綾波たちを撃ち倒そうと、懸命に藻掻いている様子は砲火の中からでも十分に伺えました。

『ギィアッ………!?』

『ゴぁ────』

だけど、四方八方から雨霰と降り注ぐ綾波たちの砲火が、それを許しません。結局抵抗らしい抵抗は殆ど出来ないまま、イ級が沈みへ級が力尽き、残るはリ級ただ1隻のみです。

『グゥッ………!?』

「リ級、中破状態に移行!」

「トドメにゃ!魚雷発射!!」

詰めに詰めて、いつの間にか距離は500。海上の艦隊戦においては直接掴み合っているも同然の至近距離。

放たれた六本の魚雷は、当然外れることもなく全てリ級に吸い込まれていきます。

断末魔が、くぐもった爆発音にかき消されます。大樹の幹を思わせる図太い水柱と爆風が収まった後には、艤装の一欠片さえ残ってはいませんでした。

「敵大編隊接近!!対空警戒!繰り返す、対空警戒!!」

迅速極まりない二個艦隊の殲滅、それも損傷艦すら0の完全勝利。しかしそんな大戦果を挙げた直後でも、私達に息をつく暇は与えられません。

水平線の彼方、恐らく例の【棲姫】が居るであろう方角。そこから、巨大な雲のごとく黒いなにかが湧き出してきます。

本来天候の急激な悪化を示す黒雲の出現は、綾波たち艦娘にとって忌むべきものです。しかし今回ばかりは、アレがただの黒雲であったならその方がどんなに気が楽だったでしょうか。

『『『───────!!!』』』

そんな私の都合のいい願いが届くはずもなく、黒いナニカは明らかに明確な意思を、私達艦娘への害意・敵意を感じられる動きで此方へ向かってきました。

それはアレらがただの空に漂う水粒や氷粒の塊などではなく、先程霞さんが叫んだ通り、膨大極まる数故に1個体と見紛うばかりの敵機群であることを証明しています。

「近接航空支援要請!!」

《Roger, Engage》

多摩さんが無線に向かって叫ぶと、幸運にもこの方面で手隙の航空隊がすぐ近くにいたようです。応じる声と共に、頭上を銀影が2つ駆け抜けていきました。

《Target insight. Wendigo-05, FOX-2 FOX-2》

《Wendigo-06, FOX-2!!》

現代米軍の艦上戦闘機、確か【ホーネット】という名が着いていたその2機は、発射符号に合わせて両翼のミサイルを放ちます。周辺の友軍艦隊でも要請したところがあったのでしょう。別方面からもジェットエンジン音が重なり、我々の頭上を含む三方向から計8発の空対空ミサイルが敵機群に迫ります。

深海艦載機の密集陣形に対する、機関砲やミサイルを用いた人類さん達の航空攻撃。状況さえ整えば時に綾波たち艦娘をも凌ぐ戦果を挙げられると言うことは、青ヶ島やベルリンでの攻防戦を経て既に世界中に知られています。

しかしながらそれを、深海側が何時までも甘んじて受け入れてくれるというのは、あまりに虫のいい話でしょう。

『『『ッッッ!?!?』』』

『『『───!!!』』』

《Damn……!》

半数の4発は群体に直撃し、火の玉が膨れ上がりかなりの数の敵機を焼き払いました。ですが残る半数は、進路上の“群れ”が寸手のところで散開を間に合わせ空を切ります。

人類機の空対空戦はロックオンによる誘導ではなく、あくまで群れを“一個体”として捉えた上での空間攻撃。言ってしまうなら威力が大幅に上がった対空噴進弾のようなもので、回避されてしまえばもう追尾・命中させることはできません。

『『『───────!!!!!』』』

全弾命中したからといって殲滅・撃退できたとは思いませんが、それでももう少し大きく敵の動きを乱すことは出来ていたでしょう。被害の半減に成功させた敵機群体は、直様態勢を立て直し突撃を再開します。

この辺りに展開している他の友軍艦隊も纏めて標的になっているようで、群体は三々五々に散っていき綾波たちに向かってきた分はあくまでごく一部に過ぎません。

ですがその“ごく一部”でも、電探上で表示される赤点を見る限り総数はどう希望的に見積もっても150を優に超える大編隊です。

「て、てやんでぇ!なんだいあの数ぁ!?」

「少なくとも10個以上には分散しているはずなのに、なおこれほど………」

「浜風も涼風も、愚痴ってる暇はないわよ!対空兵装、構え!」

一方で、ダメージが大幅に“軽減された”のは事実ですがそれは与えられたダメージが“軽微である”ことと等号では結ばれません。ミサイルの半数が躱されて尚、敵航空隊は少なくとも目算する限り1/4に達する戦力を削られています。

だからこそ敵機群は、そのまま分散突入するには至らず直前に“再編”の動きを挟む必要がありました。

「畜生ダメだ!対空砲火、効果極めて小なり!!敵編隊、先鋒が爆撃態勢に移行!!」

「輪形陣を解除!各位自由回避に移るにゃ!!」

「よ、避けられるかなぁ〜………」

一分にも満たない、全てのミサイルが当たっていた場合とは比較にならないほど僅かな時間の空費。ですが、その僅かな空費こそが、

「─────Go Go Go!!」

今度は綾波達の、艦娘の側の援軍到着までの命脈を繋いでくれたのです。

VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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投下きてたーおつです
学園艦棲姫戦線の撤退戦?ですよね?
まさか八頭身提督まだ当初の目標を諦めてない?

更新乙です!
ドクが嫁さんとイチャイチャしてるけど、それに振り回される部下も大変なのねw
戦況が加速度的に悪化する上で、肝心要の日本艦隊がこの状態だとどん詰まり…望むべくは大洗方面の早期解決だけなのか

4年前ぐらいに見たベルリンのやつ面白かったなぁとふと思い出して関係作品大体全部見てたらまだエタってなくて感動しました
ミリタリ全然詳しくないしガルパンわからんけどドイツ軍パートと政治パートが特に面白い
前回の最後意味わからんし理不尽すぎたけど日本も大洗もタイトル通り終わってしまうんか

銃声。警察官が使う小口径の拳銃などよりは遥かに重いものでこそあれ、それは明確に通常の歩兵火器が奏でた単発のものです。

戦場という広い括りで見れば聞こえるのは当然かも知れません。ですが、砲弾が飛び交いミサイルが入り乱れ戦闘機が空を駆け巡る“海戦”においては、朗らかな歌声に匹敵するほど──何れかの艦隊の那珂ちゃんさんがいる場合その限りではないかも知れませんが──場違いなものでした。

最終的に三度まで、銃声は鳴り響きました。艦娘としての優れた動体視力が、まさに対空兵装を構えつつ回避運動に移っている綾波たちと降下してくる敵編隊の間を遮るようにして、同じ数の銃弾が飛び込んでくる瞬間を捉えます。

「All squad, Attack!!!」

〈〈〈サー、イエッサー!!〉〉〉

途端、銃弾が“機影”に姿を変えました。

綾波達にとっては“苦い記憶”の一つでもある、アメリカ軍の艦上戦闘機グラマンF6F【ヘルキャット】。計12の青い機体は、零戦の倍にもなる馬力の発動機を存分に唸らせ猛然と空を駆け上がります。

〈エンゲージ!!〉

〈ファイア、ファイア、ファイア!!〉

『『『!!?!??!?』』』

唐突な、横槍ならぬ“横弾”により発生した正面切っての航空戦。数の面ではヘルキャット隊と向こうで比べようもないほど差がついていましたが、何分向こうはここに来ての空対空戦闘など欠片も予想していなかったことでしょう。迸った十数条の12.7mm機銃による火線は、その尽くが敵機にそのまま突き刺さり機体を引き裂きました。

『『……………ッッ!!』』

無論、深海棲艦側も木偶ではありません。数個編隊分がまるごと食いちぎられたことで状況を理解したのでしょうか、慌てて回避運動に移りヘルキャット隊の進路上から離れつつ、すれ違いざまに次々と射撃を加えていきます。

〈ハッハッ、ナンダイ、クスグッタイジャナイカ!!〉

〈マサカソレガキジュウソウシャノツモリダナンテイウナヨ、ディープワンズ!!〉

ですが、その試みは大半が無駄弾を増やすだけに終わりました。

米軍製兵器の特徴である、搭乗者や操縦者の生存性向上を最大限追い求めた凶悪極まる安定性と防弾能力。
F6Fは取り分けその両特徴が色濃く現れた機種でもあります。同機が備える何れの要素も、行き交う間際の“一撫で”如きで揺るがせるものではないことはこの身に刻み込まれています。

地獄より使わされし猫たちは、被撃墜どころかまともに飛行姿勢を崩す機体すら殆ど現れません。彼らは悠然と飛行を続け、時に“深追い”してきた敵機を逆に喰らいさえしながら、至極あっさりと「群れ」を打通しきってみせました。

落とされた機影は恐らく20を超えるでしょうか。この物理的な損害も、向こうにとって決して小さなものではありません。

ですが深海棲艦側から見てそれより遥かに致命的であったのは、ヘルキャット隊に“群れ”の打通を許したという事実そのものでした。

『───! ───ッッ!!』

『……………!!!』

百数十機規模での編隊飛行。当然、統率は困難を極めます。況してやあの“群れ”は、綾波たちへの攻撃態勢に移っていた最中。
人類空軍機によるミサイル攻撃への対策としてある程度機体ごとの間隔は空けていたようですが、それでも大きさに関しては人並みでしかない6つの海上標的に総攻撃を仕掛けるにあたってはどうしても空間的な限度があります。

さながら大坂の陣で真田信繁と毛利勝永に突撃を受けた徳川内府の軍がごとく、中央から真っ二つに切り裂かれた敵航空隊。分断は乱れを、乱れは揺らぎを、揺らぎは崩壊を生み、瞬く間に修復不可能なまでにそれらは拡大していきました。
当然綾波たちへの空襲など実行できるはずもなく、“群れ”は本格的に一度散開し再編成へ向けて動き出します。

同時にそれは、深海棲艦側が自ら“数的有利”を放棄した瞬間でもありました。

「敵は崩したわよ、アカギ!!」

「ええ、お任せください!第一次制空隊、発艦!!」

『『『────!!???』』』

先程の弾丸と同じ方角から、次に飛来したのは三本の矢。それらは燃え盛る焔を思わせる輝きを空中で一瞬放った後、ヘルキャットと同じ数の零式艦上戦闘機に変化し一斉に“群れ”の横腹へ食らいつきます。

『…………ッッ!!』

〈シラナカッタノカ?イッコウセンカラハニゲラレナイ!!〉

『─────…………』

〈ヨシ、ゲキツイスウイチ!!クチクシテヤル……コノヨカラ……イッキノコラズ……!!〉

低空域での巴戦において、同時代相当の性能の戦闘機が零戦に勝てるはずもありません。しかも栄光の【一航戦】なら尚の事です。
下方へと逃れた敵機たちは、次々と捕捉され抵抗する間もなく落とされていきました。

〈ワンモア!!〉

〈〈〈サーイエッサー!!〉〉〉

そして上方からの離脱を目論んだ隊には、再びヘルキャット隊が襲いかかります。発動機の高い馬力故に高高度戦闘においても運動性と速力を維持し得る彼らを、爆弾や魚雷を抱えた状態の【カブトガニ】で振り切れるはずもありません。
F6Fの両翼から火線が迸る度に、飛び回る敵の機影は確実に一つずつ減っていきます。

「全艦、最大船速で離脱するにゃ!!」

「「「了解!!」」」

芸術的と言っても過言ではない、惚れ惚れするような航空戦でしたが、見惚れるわけには行きません。多摩さんの号令が下るまでもなく、我々6人は一斉に旗艦を吹かし、“群れ”の真下から逃れます。

鮮やかに敵機を討ち減らしつつ、零戦とヘルキャット隊が見せていた動き。牧羊犬が羊を柵の中へ追い立てるように、或いは箒で部屋中のゴミを隅から中央へ掃き集めていくように、“群れ”を上下から挟み込んでより密度の高い塊にしていく動き。
その動きが意味するところは、この後に何が始まるかは、艦娘なら誰もが知っています。

「─────対空掃射、開始!!」

ちょうど綾波達が戦闘空域下から離脱しきったところで、その口火を切ったのは2発の三式弾でした。同時に突き刺さったソレらから飛び散った火炎の雨が、一気に周囲の数十機を焼き払います。

『『『!!?!?!??!!!?』』』

最早立て直しようもないほど“群れ”が乱れたところに、嵐のごとく押し寄せる機銃弾と高角砲弾。離脱を図る機体には、周辺でなお飛行する零戦隊とヘルキャット隊が対応しトドメを刺します。

最も理想的な事例として私達艦娘用の戦闘教本に載せたくなるような、完璧な包囲殲滅。

『『『────……………』』』

「Clear!!」

電探上から残りすべての反応が消えるまでに、要した時間は十数秒ほどに過ぎませんでした。

他の艦隊も増援との合流が間に合ったのでしょう。流石に綾波たちのように殲滅まで至ったところは少ないようですが、アレほど巨大だった群れは見る影もありません。現れた当初の1/10にはなろうかというほど数を減らし、青息吐息で来た空路を戻っていきます。

ただし、

「…………Next Enemy incoming.」

かなり少なく見積もっても、最初に現れたモノの3倍には達そうかという“群れ”と、入れ替わる形でではありますけど。

推定150機超。これは、改装前の加賀さんと赤城さんに搭載可能な最大艦載機数の合計値に匹敵します。数字的な面だけで言えば、一航戦が根刮ぎ消滅したような状況です。

普通の空母機動艦隊ならそれだけでも致命傷足り得るものになりますが、深海棲艦側は少なくとも10を越える同じ規模の“群れ”を他の友軍艦隊にも差し向けていました。そしてその全てが──文字通りの“全滅”は綾波たちのところぐらいにしろ──致命的な損害を受けて跳ね返されています。

1000には確実に達する、空母機動艦隊の一つ二つどころか小国の総航空兵力にさえ比肩しかねない数の機体。それを喪いながら、寧ろ更に大規模な戦力を以て即座に“次”の攻撃を敵艦隊は繰り出してきたのです。

「OK, OK────」

そんな、常軌を逸する圧倒的な物量を目の当たりにして。

「────It's getting hot!!」

増援艦隊の皆さんは、一様にその口元を綻ばせていました。

「パーティ、早速盛り上がってきたわね!アカギ、どっちの子たちが多く落とせるか勝負よ!!」

「ええホーネットさん、望むところです!!」

先程の“銃声”の出処───アメリカ軍の空母艦娘にしてヨークタウン級3番艦・ホーネットさんが、大東亜戦争時に使われていた米軍の小銃を模したカタパルトを構えながらやや熱を帯びた声で叫びます。

それに隣で応じるのは、再び矢を構えた赤城さん。

「All unit, Weapon Free!!」

「制空隊第二陣、発艦始め!!」

新たに放たれる、3発の弾丸と3本の矢。即座にトムキャット隊と零戦隊が空を舞い、先行していたそれぞれの第一波と合流すると風を巻いて押し寄せてくる“群れ”へと突っ込んでいきました。

〈〈〈アタック!!〉〉〉

〈〈〈トツレ、トツレ、トツレ!!〉〉〉

『『『!??!?!!?!?』』』

青ヶ島鎮守府にてその名を轟かせる【大腮】こと龍驤さんには及ばないまでも、お二人の航空隊の練度もまた十分過ぎる水準でした。

さながら、小さく獰猛な肉食獣が獲物と定めた大型の草食獣から肉を食い千切るが如き動き。左右に別れた“一航戦”とトムキャット隊それぞれから火線が伸び、“群れ”は先鋒の両翼数十機が会敵とほぼ同時に射落とされます。
そのまま止まらず突入した両隊は巴戦へと移行。之に敵の“群れ”は更に1割近い戦力が足止めされ、陣形も大きく乱れることになりました。

〈オクレヲトルナ、ワレラモツヅケ!!〉

〈キシタチヨ、カカレ! フォイヤ-!!!〉

〈アバンチ、アバンチ!!〉

ホーネットさんと赤城さんのお二人が先駆けとなったことで、周辺の友軍艦隊からも続々と遅ればせながら艦載機隊を送り込んできました。例の国連“海軍”も混じっているようで、飛び交う妖精さんたちの無線にはイタリア語やドイツ語も含まれます。

規模はこれらに赤城さんやホーネットさんの航空隊を併せても尚“群れ”には遠く及びませんが、お二人が出鼻を挫いたことで向こうが抱えていた「数的優勢」は既に霧散していました。
四方八方あらゆる方向から突き入れられる何百条もの火線に削られ、風船から空気が抜けていくかの如き勢いで萎んでいきます。

(,,゚ ゚)《Engage!!》 

録に展開・分散すら出来ず着実に追い詰められていた“群れ”に致命傷を与えたのは、意外にも人類軍の戦闘機でした。

(,,#゚ ゚)《Wyvern-01, FOX-2! FOX-2! FOX-2!!》

『『『!!!!!!????』』』

女性の声で叫ばれる、空対空ミサイルの発射を意味する符号。無線から三度聞こえたそれに合わせて、空域に突入してきたF/A-18Dの翼下より同じ数だけ銀槍が放たれます。
三発のミサイルは何れも未だ赤城さんたちの航空隊による攻撃が届いていない“群れ”の中核部分を寸分の狂いなく射抜き、何百という機体を焼き払い吹き飛ばしました。

(,,#゚ ゚)《Gun, gun, gun!!》

人類航空機としての定石に沿えばそこから反転すべきところを、そのF/A-18Dは止まりません。そのまま綾波達の頭上を駆け抜け、機銃を放ちながら“群れ”に肉薄します。

0.8m〜1.2m。【黒鳥】は別格として、深海棲艦の艦載機の大きさは、最大でもF/A-18Dの実に1/14。
ワンショットライタァという、大東亜戦争時米兵から一式陸攻が付けられたものと同じ蔑称とそれに見合った脆さはあれど、中には燃料弾薬が満載されています。激突すればそれが1機2機であっても機体は致命的な損傷を受けるでしょう。

(,,#゚ ゚)《……………ッッ!!!》

人類の戦闘機にとって深海棲艦機は言うなれば、意思を持ち自在に空を飛び回る機銃弾や噴進弾のようなもの。しかしそれが大いに討ち減らされて尚数百発飛び交っている中に、“彼女”はまるで臆することなく斬り込んでいきました。

『『『────……………』』』

「Wow……!」

「……………凄い技ですね」

蝶のように舞い、蜂のように刺す。

奇しくも今まさにこの増援艦隊にも加わっている、故郷の武勲艦と同じ名を冠した銀色の【蜂(ホーネット)】の動きは、この比喩に全く違わぬものでした。
自らの機銃で刺し穿った空白に銀翼をねじ込むと、尚も銃火によって敵機を薙ぎ払い道を切り開きつつ全幅11m、全長17mにも及ぶ巨躯を巧みに操って“群れ”の中で舞い踊ります。

無線上でワイバァンを名乗ったその機体は、下から上へと突き上げる形で一気に“群れ”を貫きます。動きはそれで止まらず、飛び上がったイルカのような姿勢から近現代の航空機には疎い綾波でも舌を巻いてしまう卓越した航空技術であっという間に機首を再度下方───最早完全に総崩れとなった残余の“群れ”へと向けました。

(,,#゚ ゚)《FOX-2!!!》

最後の一発である銀槍が、機銃弾と共に放たれます。鉄火の暴風と爆炎の嵐が、“群れ”に叩きつけられます。

〈トツニュウシロ!!〉

〈イレグイダ、オトシマクレ!!〉

ワイバァンが今度は下側へと突き抜けた後、残された“群れ”の中核は総崩れの上で当初の規模の1/5程度に討ち減らされただの残骸と化していました。
その“群れの残骸”も、再度飛来した新たな友軍航空隊に巴戦で絡め取られ、瞬く間に四分五裂していきます。

最早、綾波たちへの攻撃を継続する余力がないことは明白でした。

《こちら巻雲、敵航空隊主力群は壊滅状態!すごい、すごいです〜〜!!》

「赤城より空母艦隊各位、残党敵群の包囲殲滅を徹底せよ!わいばあん一番機が作ってくれた好機を逃すな!!」

《翼のあの国旗、確かマレーシアのものか……?【回転木馬】ならいざ知らず、単騎駆けでこれほどの戦果を挙げるとは!》

《何者かは解らぬが、まさに一騎当千也!褒めて使わすぞ!!》

(,,*゚ ゚)《─────》

無線上で友軍艦隊の皆さんが口にする称賛の言葉を、【彼女】がどこまで理解できたかはわかりません。ただ、補給のため退がる間際にワイバァン一番機が見せた宙返りは、おそらくそうした声に対する返答だったのでしょう。

〈エネミーフリート,インカミング!!ソウメニー!!〉

〈テキカンタイハサイダイセンソクニテセッキンチュウ!!クウボ、センカンモタスウ!!チュウイサレタシ!!!〉

遮られていた視界が“群れ”の中核壊滅によって開け、航空隊がその向こう側から迫る敵艦隊に気づきました。次々と無線で報告を送ってきます。

報せを受けた綾波達の方では、特に驚きや動揺はありません。

大いに損耗を受けたとはいえ人類航空軍も支援艦隊に搭載されている基地航空隊も未だ相応の戦力が残存しており、綾波達新たな艦娘部隊もここを始め周辺海域に現在進行系で次々と投入されている状況。
【学園艦棲姫】という強大な敵への抵抗は、未だ激しく続いているのです。向こうも、航空戦だけでこれを鎮圧できるとは流石に考えないでしょう。

後続艦隊が存在することは、至極容易く想像できました。

〈オーヴァ300エスティメイト!! オールユニット、ビーケアフル!!〉

尤も、その数まで聞いたところで、艦隊の空気は一層引き締まったものに変わりましたが。

更新おつです
この状況から投入できる予備戦力があるとは思いませんでした
もしかして人類側も無尽蔵?、などと勘違いしそう

300隻以上、艦隊数で換算して実に50個超。これが本当なら、ベルリン陥落の折に独波国境にて発生した【オーデル川防衛戦】とほぼ同規模です。

妖精さんの内1人と視界を同期させ綾波自身も敵艦隊を見てみましたが、それが過大評価や誤認という線は残念ながらありませんでした。こちらへ押し寄せる大艦隊の威容は、報告上の数字と比しても全く見劣りするものではありません。

『『『ゴガァアアアアアアアアアアアアッ!!!!』』』

「っ、五月蝿いったら……!」

「Fuck off」

鬨の声の如く空気を震わせる、三百隻の大合唱。それはもう凄まじい有様で、数千機規模の先遣航空隊が(それも二度に渡って)殲滅されているというのに士気旺盛にして意気軒昂のようです。

底なしの物量故にそもそも致命傷から程遠い上で、敵方は300隻という自分たちの艦隊戦力を大いに誇っているのでしょう。実際ざっと見た限り姫級・鬼級の姿はありませんでしたが、ル級やタ級、またこれらのEliteやFlagshipはかなりの数だったように思います。

こちらも、全くの無力ではありません。ここにいる3個艦隊18隻を含み、この海域には最終的に15個艦隊が投下され【学園艦棲姫】以下敵主力艦隊群側面への攻勢を敢行する予定でした。

綾波達の乗っていたチヌークを始め幾つかの輸送機は落とされ不時着水となったようですが、電探上の反応や飛び交う無線から察するにそれによって轟沈艦が発生したり戦力集結が失敗した様子もありません。ならば当初の予定通り、90隻の艦娘が既に展開を終えている筈です。

ただ、それでも尚兵力的な面では迫りくる敵艦隊からすると1/3にも満たない“寡兵”であることは事実。例えばこれらが全て駆逐・軽巡であるならいざ知らず、潤沢な戦艦・空母を擁しているなら火力と指揮系統の面で問題を抱えている可能性も薄いでしょう。

制空権は現状此方が完全に掌握している形ですが、空母艦隊の艦載機で十分に奪還し得る。仮に奪還に至らずとも、私たち側の航空攻撃を抑え込めれば艦砲の火力差・物量差で十分に押し切れる───そんな算用を向こうが弾いていたとしても、不思議ではありません。

「敵艦隊との距離、30000まで接近!!」

「─────主砲、一斉射!!撃て!!!」

それがただの皮算用に過ぎないことを告げたのは、こちら側で上がった砲声でした。

約30km。増援艦隊の1人である朝潮さんが叫んだこの数字は、35.6cm連装砲の最大射程距離でもあります。

最大射程とは、あくまでも「砲弾が辛うじて届く距離」を示すもので、命中率や威力がある程度担保される“有効射程距離”ではありません。
砲撃が行われるとしても威嚇や牽制が主目的であり、基地施設やそれこそ学園艦のように相当巨大な目標でもない限り命中を見込むことは本来できないでしょう。

『グォガッ!!?』

ですが、彼女の───戦艦・扶桑さんの砲撃は、そうした“常識”に当て嵌まりませんでした。

『ウ゛キ゛ッ゛………』『ゴボッ!?』『アギャアッ!?』

弧を描き飛翔した砲弾が、次々と敵艦の鼻先や背、肩口に突き刺さります。
超弩級戦艦による砲撃とあれば、多少の距離減衰を差し引いてもその威力は絶大。軽巡ホ級、駆逐ニ級、イ級2隻、命中した艦は尽く爆炎に身を焦がしながら水底に沈んでいきました。

「撃て!!」

『ゴグッ!?』 『ギャアッ!!?』『イギィッ!!?』

間髪入れず、再び主砲4基の一斉射。ロ級、ハ級、本土で大洗女子学園の甲板上にも出現したという新型・ナ級、何れも直撃弾によって跡形もなく吹き飛ばされていきます。

『ジッ…………』

そして、雷巡チ級。非ヒト型より遥かに小さく小回りも利く、有効射程外からの射撃で仕留めるのは本来絶望的な相手。

しかし扶桑さんは、至極あっさりと直撃させてみせました。船体殻を持つとはいえ、雷巡程度の出力なら戦車砲の集中砲火でも十分に突破を見込めます。
戦艦の大口径砲直撃に耐えられるはずもなく、その一発で電探上からも海上からもチ級の姿は消失しました。

「全弾命中、敵先鋒の水雷戦隊群に大きな損害!流石は扶桑さん!」

「そんな大したことはしていないわ、ただ向かってくる“的”に当てただけだもの」

此方も増援艦隊の阿武隈さんから感嘆の声が上がるも、当の旗艦・扶桑さんの態度には奢りも喜びも見られません。困ったように控えめな微笑みを浮かべるのみ。

寧ろやや燥ぎ気味の阿武隈さんを窘めるように、ついと口元で人差し指を立てました。

「それより、敵艦隊群はまだまだ健在よ。阿武隈さん、油断なさらないように」

「は、はい!了解です!」

『『『ゴギャアアアアアアッ!!!?』』』

『グゥッ…………!?』

三度目の斉射となりましたが、扶桑さんの照準には寸分の狂いも生まれる気配はありません。全弾それぞれが吸い込まれるようにして敵艦を射抜き、電探上から命中弾と同じ数だけ赤点を消し去ります。

一気に二個艦隊分の戦力を短時間で喪い、敵前衛群の動きが大きく鈍りました。

艦隊運動とは二元的なものであり、“前”の状態は当然“後ろ”に影響を及ぼします。前衛の停滞は中衛へ、中衛の動揺は後衛へ………混乱は瞬く間に艦隊全域へ波及し、その動きを完全に縫い止めました。

「艦隊、前進!!」

すかさず、扶桑さんが声を限りに号令をかけます。

「赤城さんとホーネットさんは最後尾にて後続、水雷戦隊は中衛にて陣形整えつつ進軍!

鳥海さん、最上さん、Houstonさん、前衛で私に続いて艦砲射撃を!!」

「了解しました!

目標、前方の敵艦隊。砲戦用意、撃ち方、始め!!」

「そうこなくっちゃ!!

さあいこうか、ボクが相手だよ!!」

「Copy that.

Target insight! Open Fire!!」

『グゴガッ!!?』『ギィアッ………』『『ガギャッア!?!?』』

超弩級戦艦1隻、重巡洋艦3隻による全力射撃。凄まじい砲火線が形成され、敵艦隊に殺到します。
陣形の崩壊が著しい前衛群では反撃もままならず、増えた損害の分だけ更に大きく突き崩されていきます。

《砲撃開始!》

《主砲一斉射!撃ち方始め!!》

《Open Fire!!》

併せて、左右両翼に展開している他の友軍艦隊も続々と砲撃に参列を始めました。
………が、各六個艦隊ずつ、計72隻にも及ぶ戦力が展開を終えているにしては、それらの火線はあまりにも疎らでした。扶桑さん達4隻に勢いどころか量でさえ劣っており、照準も明らかに定まっていません。

電探に目をやれば、友軍艦隊群の反応は確かに両翼で健在です。しかしながら辛うじて各艦隊ごとに寄り集まってはいる節があるのみで、隊列らしい隊列も未だ組まれていないような状態でした。

不時着水に近い形での展開となったことが尾を引いているのか、或いは敵艦隊の圧倒的な物量に気圧され動揺が広がっているのか。
いずれにせよ、こんな有様では組織的な砲撃戦が展開できないのも当然です。

『ギィッ、ギギィッ!!』

『オッ、アアアッ!!!』

敵もまた、これらの異常に目敏く気づきます。旗艦から指示が出たのでしょう、前衛と比して被害・混乱共に軽微な中衛艦隊群が動き出しました。前衛群の間を抜けて、或いは大きく迂回するような形を取って、側面艦隊には最低限の備えのみを残し戦力の大半を綾波達に割り振るつもりのようです。

物量面で圧倒的に上回っているとはいえ、位置関係としては三方から包囲されている状態。加えて先鋒群が此方の初撃で機能停止し“皮算用”が早々に挫かれているとなれば向こうが事態の打破を急ぐのは無理からぬことでしょう。

逆に現時点で唯一組織的な艦隊行動に移れている正面艦隊を殲滅すれば、あとに残った戦力を左右に分断できた形へと変わります。しかる後両翼に部隊を割り振って各個撃破できることを考えれば、戦術的に間違った判断でもありません。

……故にこそ敵艦隊の旗艦たちは、こちらの動きをもう少し注意深く観察するべきでした。

二十倍に迫る敵艦隊に、何故扶桑さんが真っ向から迎え撃つ姿勢を崩さないのか。

二度に渡って大航空隊の空襲を跳ね除けているような中で、何故今更組織的な火線構築すら出来ないほどの混乱が生じるのか。

陣形が大いに乱れているはずなのに、何故“艦隊毎に集結した状態”が作られているのか。

「敵中衛艦隊群、当方への総攻撃態勢に移行!」

これらに違和感を覚えていたなら、彼女たちももう一つの可能性に、

「旗艦、此方の“手はず通り”です!!」

「────ええ、そのようね」

一連の動きが、張り巡らされた罠である可能性に思い至れたことでしょう。

「両翼艦隊、全艦!撃ちぃ方ぁ、始め!!」

朝潮さんが上げた報告の声。それに併せて、扶桑さんが下す号令。

直後、左右双方で一斉に凄まじい数の砲声が轟きます。

『『『『ォガァアアアアアアアアァアアッ!!!?』』』』

一瞬で隊列を組み直す友軍艦隊の反応、整然と並び飛来する砲火。膨大極まる砲弾が雨の如く降り注ぎ、前衛群を迂回中だった敵艦隊に突き刺さりました。

両翼各36隻ずつ、計72隻分の艦砲射撃。駆逐艦や軽巡洋艦も多数混じっているとはいえ、殆ど無防備状態に近い中でそれらを浴びた敵艦隊の損害は極めて深刻でした。
電探上から消滅した赤点の数は、控えめに見積もっても七、八個艦隊分にはなるでしょう。

中衛戦力の内、両翼の艦隊群は突然発生した甚大な損害により一瞬で機能不全に陥りました。

「側面艦隊各位、攻撃を継続しつつ巡航速にて前進開始!敵艦隊への圧力を強めてください!

戦重各艦、砲撃速度上げて!前衛群を更に大きく突き崩します!」

『グギギッ………!』

攻勢に転じた友軍に併せるように、更に激しさを増す扶桑さん達四人の砲撃。

中衛から流入してきた新手の艦隊は、既に前衛群の中ほどまで進出しています。一部の戦艦級ヒト型が指揮系統の回復に着手しつつ、残7割強の水雷戦隊と重巡級がアルデンヌの森を駆け抜けるドイツ機甲師団の如く綾波たちの方へ迫ってきていました。

しかしながら、今やその試みは今や完全な裏目と化しています。正面だけでなく両側面からの圧力も加わったことで前衛群の混乱は最早完全に収拾不可能な域に達しつつあり、数個艦隊の指揮系統を回復させたところで焼け石に水でしかありません。

突貫中だった水雷戦隊への影響はとりわけ甚大です。

もみくちゃになる前衛群に巻き込まれ、ただでさえ困難な艦隊運動の連携が崩壊。散り散りになりながら一、二隻がポロポロと抜け出してくるような状況では、隊列を組み直す余裕もないことは明白でした。

「【特派府】艦隊、前へ!阿武隈さん、朝潮さんも加わってください!初月さんとアトランタさんは後続を!!」

「多摩、了解したにゃ!皆続くにゃ!!」

「朝潮、旗艦命令を受諾いたしました!」

「Roger, Flag. Go ahead」

機を見るに敏。扶桑さんからすかさず指示が飛び、計十個の“艦影”が猛烈な砲撃支援を背に最大船速まで加速します。
多摩さんや綾波ら雷撃隊8名が単縦陣を取りその後方に2名が続くという、なんの捻りもない即席の布陣。

ですが、統率が完全に崩壊し各個撃破されるためだけに前衛群を抜けてきたような有様の敵艦隊を“処理”するにあたり必要なのは、練り上げられた完璧な攻撃陣形ではなく「いかに迅速に一撃を加えるか」に付きます。

その点において綾波たちの動きは、まさに理想形と呼び自負できるものでした。

「射撃位置に到達!敵艦隊群捕捉!」

「どうせ外れてもその向こう側は総崩れの前衛群にゃ!

ありったけ、ぶちかませ!!」

「あいよ!景気よく行くぜ、宵越しの金は持たねえのが江戸っ子でぇ!!」

「やるときはやるんだから!魚雷、全弾投射!!」

「や〜りま〜す、っよぉ!!」

『『『   !!?!?』』』

総数実に50を越える雷跡が、海原を駆けていきます。暫しの静寂を──扶桑さん達による砲撃を除いて、の話ですが──経て炸裂した爆発音の束は直撃を受けた敵艦の断末魔すら塗り潰し、膨大な数の水柱は打ち砕かれ燃え盛る残骸を瞬く間に波間へと押し込み海上から消し去りました。

『『ゴガァアッ!!?』』

何発かの魚雷はそのまま馳走を続けていましたが、それは「外れた」というより「進路上から敵艦影が消滅した」為に起きた事象。そして先ほど多摩さんが仰っていた通り、その向こう側に居るのは結局の所敵の前衛群です。

当然混乱の極みにある中でこれらを避けられるはずもありません。十本近い新たな水柱によって発生した戦力の損失が、益々その立て直しを困難なものへと変えました。

それにしても、即席の連携であるにも関わらず、阿武隈さん、朝潮さんのどちらも綾波たちの動きに寸分の狂いもなく併せてきました。
流石は青ヶ島、硫黄島と共に【海上機動迎撃網】の一角を担う鎮守府の出身といったところでしょうか。

《敵艦、捉えたぁ!!敵右翼攻撃、いっち番槍ぃいい!!!》

《おっそーーい!こっちの魚雷はもう届いてるもんねーーだ!!》

両側面からの追撃に関しても、抜かりはありません。扶桑さんは既に指示を出していたようで、誰が攻撃隊に加わっていたのか少なくとも2名は確実に特定できる叫び声と共に左右で雷撃が立て続けに炸裂します。
電探上では先程の奇襲的な一斉射によってこじ開けられた“大穴”を更に抉る形で敵艦反応が消失し、中衛群の混乱・崩壊ぶりも見る限り明らかに許容し得る域ではなくなりつつありました。

ですが、ここまでに綾波達が敵艦隊へ与えた損害は、甚大ではあれどあくまでも前・中衛群までに限定されています。

『ヲヲッ、ヲォッ!!』

「敵艦隊最後尾にて【黒霧】を確認!!かなりの量です、恐らく数百機規模!!」

健在であった後衛群───敵空母機動艦隊が、一斉に艦載機隊を発艦させました。ブワリと勢いよく空に広がった大量の黒い靄は各個に寄り集まって【カブトガニ】や【オニビ】を形成し、猛烈な勢いで突撃を開始します。

────大半、否。全ての機影が、“正面”へと。

「敵航空隊、ほぼ全戦力を以てこっちに向かってきますぅうううう!!!」

少なく見積もって五百は下らぬだろう大編隊による総攻撃という事態に、阿武隈さんが悲鳴に近い報告の声を上げました。

三方からの猛攻に晒されても尚、正面戦力の殲滅・打通に全力を尽くす。指揮艦の役割を担えるヒト型も相当数が討ち取られている中で誰がその判断を下したのかは解りませんが、それは英断と言って良いでしょう。

一連の卓越した連携、損害を出さないどころか殆ど反撃らしい反撃をさせぬまま“封殺”が成功しているのは、綾波達───分けても、扶桑さんの存在に寄るところが大きい。
彼女を失った上で綾波達正面艦隊が殲滅されれば、一転して艦娘側が指揮系統に致命的な被害を受けた上で今度こそ陣形を分断されます。

綾波達の“急所”は、この圧倒的優勢下にあっても健在なのです。突かれれば一挙に戦況がひっくり返るほどであることも、中衛群の突貫が始まった時から変わっていません。寧ろ綾波達が戦況を掌握しつつある今の方が、その重要性は増した面さえあります。

故に敵艦隊は、あくまで綾波たちへの、扶桑さんへの攻撃に全力を尽くしました。

「アトランタさん、初月さん」

尽くしざるを得ませんでした。

「Alright, Flag.」

「あぁ、心得ている!!」

ここまでの采配を振るえる者なら、この程度の事態への備えは盤石にしていると解っていても。

綾波達の背後で、砲火が撃ち上がります。居るのはあくまで2人、それも艦級だけでいえば軽巡洋艦と駆逐艦。
にも関わらずその膨大極まる砲声と飛び越えていく火線の数は、一個水上打撃艦隊が全力で火網を張り巡らしていると言われても十分に信じられてしまうものでした。

「ハツ、叩き落とすよ。──Fire, Fire!!」

桃色がかった髪を結わえて両脇に垂らした、アメリカ出身艦娘らしいグラマラスな体型の持ち主。しかしながら放つ砲火に不釣り合いな眠たげな眼でもある、アトランタ級軽巡洋艦一番艦・アトランタさん。

「言われずともさ!───敵は多い、行くぞ!!」

対象的に鋭く獰猛な眼光で、整えられつつもやや逆立った髪型と併せて訓練された猟犬を思わせる風貌の、秋月型4番艦・初月さん。

『『『ッッッッッ!!?!?!!!!?』』』

私達艦娘の中でも取り分け対空・防空戦闘に秀でていることで知られるお二人の最大火力投射は、最早弾幕と呼ぶことすら生温い凄まじさでした。銃砲弾の濁流、鉄火の嵐に触れた瞬間、敵艦載機群の突貫はまるで強固で分厚い岩壁に衝突したが如く停止しました。

「多摩たちも加わるにゃ!対空射開始!!」

「主砲、三式弾への切り替え終わる!戦艦・扶桑、対空射開始します!重巡艦隊も続いて!!」

「この鳥海、防空戦においてはお二方にも摩耶にも遅れは取りません!」

「私も行くわよ!Aircraft-Carrier足る者、対空戦闘ぐらいこなせなくちゃあね!!」

『ヲン……』

『ヌグッ………!?』

こちらへの航空攻撃がほぼ完全に食い止められたところに、綾波たちと扶桑さんたちも加わり更に火網が重厚さを増します。
両側面友軍や赤城さん、ホーネットさん両名の艦載機隊は敵機群を追い回しながら三々五々に散り今や敵航空隊の進軍路を作っているような状況でしたが、それは逆説的に言えば巻き添えを全く気にせず火力を投射できるということでもありました。

加えて前衛・中衛群はこちらの猛攻で最早組織的戦闘能力をほぼ失逸し、更に側面から間断なく注ぎ込まれる砲雷撃によってそれを回復させる糸口も掴めるような状況にありません。よって綾波たちも扶桑さんたちも、存分に初月さんとアトランタさんに加勢することができます。

敵の空母艦隊も必死に後続を送ってきますが、広く厚く張り巡らされた大火線に絡め取られてそれ以上前に進むことさえままなりません。それどころか墜落機が下方の敵艦隊に激突して、前・中衛の損害を拡大する有様です。

更新おつです

そしてこちらには、最後の“ダメ押し”をできる札が未だ一つ残っていました。

「山城、フレッチャーさん、トドメを!!」

「任せてください!……本来あの人たちの装備というのが気に食わないけど、姉様のお力になれるなら!!全弾射出、撃て!!」

扶桑さんの妹、扶桑型戦艦二番艦・山城さん。彼女が装備する【12cm30連装噴進砲改二型】から放たれた面制圧という言葉を体現したかのような火炎の塊は、壊乱状態に陥りつつあった敵機群に叩きつけられ、これを引き裂き、焼き払い、貫いていきます。

「近代装備を舐めないで!この程度の数、一網打尽です!!

Enemy insight!! Fire!!」

“実装”からまだ間もないながらアメリカ海軍艦娘の現時点における最高傑作とも言われる、改フレッチャー級駆逐艦DD-455・フレッチャーさん。彼女が装備する【5inch単装砲Mk.30改】は、最新鋭電探との連動によって導き出される凶悪な射撃精度を以て、火線の隙間を果敢に摺り抜けようとする敵機を正確に、確実に、無慈悲に射落としていきます。

『『『─────…………』』』

「Clear!!」

無駄を悟りやめたのか、“出し尽くした”のか。何れにせよ、後衛群から逐次投入されていた艦載機隊は、いつの間にか止んでいました。

焼き尽くされ、薙ぎ払われ、圧し潰され、生き残った最後の1機がフレッチャーさんの砲弾に撃ち抜かれて砕け散ります。

綾波達の頭上は、夕暮れに染まりつつある空と静けさを取り戻しました。

『ヲヲヲヲ、ヲォッ!!』

『ガガァゥ!!』

『ゴダ、ィイッ!!』

主力艦隊群の大崩壊、水雷戦隊の壊滅、三方からの包囲、制空権の喪失。最早勝ち目など全く存在しないことは、深海棲艦たちも十分すぎるほど理解しているのでしょう。
幾箇所かで挙がった退却を指示していると思わしき叫び声に合わせて、眼前の敵残存艦隊は崩壊した陣形を必死に整えつつ唯一空いている「後方」へと下がっていきます。

囲師には必ず闕き、窮寇には迫ることなかれ。敵を包囲するにあたってはあえて逃げ道を開けることで抵抗する気力を削ぎ、却って容易に勝利を得ることができるという孫子兵法の一節。

異形の怪物でありながら感情も意思も持ち合わせている以上、深海棲艦相手にも十分当てはまるものだったようです。

この、敢えて開かれた退路に施される“一計”。それがどれほど大きく戦果を拡大してくれるかは、かの黒田官兵衛を始めとした歴史上の名将達が幾度となく証明してきました。

「山城!」

「心得ております!航空隊全機、発艦開始!!」

〈〈〈リョウカイ!!〉〉〉

扶桑さんの号令に従い山城さんが掲げたのは、主砲ではなく飛行甲板。
カタパルトが作動し、やや鋭角的な形状をした緑色の“ゲタ履き”機体───水上偵察機【瑞雲】が次々と飛び立っていきます。

本来“ゲタ履き”は、その機種名が示す通り偵察任務や弾着観測などを役割として設計・開発されたもの。
戦闘能力は皆無でこそないにしろ、あくまでも自衛がこなせる程度で戦力としてカウントされるべきものでは本来ありません。況してや対艦戦闘などは想定外のそのまた外でしょう。

ただし瑞雲に関しては、巡洋艦からの航空爆撃によって敵艦隊を打撃するという大本営の構想の下急降下爆撃をもこなせる速力・運動能力と機体強度を両立しています。

加えて父島鎮守府に配属されている山城さんの瑞雲隊は、乗組員の妖精さん全員がかの“六三四式”の練成を受けた精鋭部隊。受領している機体も、全て最大改修を受けた12型。

水上偵察機隊として、という前置きは必要ありません。機種の枠組みを抜いて考えても、十分に国内“屈指”の航空戦力と呼んで差し支えない陣容でした。

〈モクヒョウチョクジョウニトウタツ!〉

〈バクゲキカイシ!コウカ、コウカ、コウカ!!〉

23機という数は、決して多いとは言えません。機体性能や妖精さんたちの練度を差し引いて考えても、艦載機隊や敵艦隊の指揮系統が健在であったなら為す術なく捕捉されそのまま殲滅されていたでしょう。

しかし、前者は徹底的な対空砲火網によって消滅し後者も最早完全な立て直しは不可能な段階まで陣形が崩れきっています。
申し訳程度にばら撒かれる散発的な対空砲火をスイスイとくぐり抜けて後衛艦隊群の“上”を取った瑞雲隊が、次々と機体を回転させ急降下態勢に移ります。

そうして始まった爆撃は、瑞雲隊が自分たちの兵力と役割をよく理解した完璧なものでした。

『ヌゴッ!!?』

『ガッ、ガガァアアア………!!』

〈テキカンニメイチュウ、ソンショウダイ!〉

〈モクヒョウノケイクウボチュウハ、ソクリョクオオハバニテイカ!!〉

〈ゴウチンナンザネラワナクテイイゾ!シッカリアテルコト、“フカデ”ヲオワセルコトニシュウチュウシロ!!〉

敵後衛群は確かに艦載戦力を無力化していますが、あくまで艦隊そのものは無傷に近い状態で健在です。飛行中隊2個分にすら届かない“物量”の問題は、練度で解決できるものではありません。
戦果を求めて下手に深追い・長居をすれば、前・中衛群と比して混乱度合いが小さい分立て直しに成功した構成艦隊からの対空砲火によって思わぬ損害を受ける可能性もあります。

〈ゼンキトウダンカンリョウ!!〉

〈ヨシ、トンズラスルゾ!!ボカンドノノモトヘモドレ!!〉

故に、一撃離脱。故に、【軽空母ヌ級】を始めとした非ヒト型への徹底的な目標集約。

ヲ級とヌ級。正規空母と軽空母という艦種の差異から最大搭載機数や耐久力、脅威度などは言うまでもなく前者の方が圧倒的に上です。しかしながらヒト型をしている前者に対し、非ヒト型である後者の大きさは数倍から十数倍にも達します。

損傷を受け、航行能力に致命的な支障が発生した時。或いは、速度が大幅に低下した時。

どちらが“艦隊全体”の運動を阻害するかは、比べるまでもありません。

『ヌゴッ、グゥ………』

『ヲヲッ!!ヲンッ!!』

投下された爆弾は、航空隊の機数と同じ23発。その尽くが、ヌ級や護衛であった非ヒト型の“泣き所”を正確に貫いていました。

喫水線、機関部、甲板………身体的な部位で言えば、眼球や頭頂部。一発轟沈を狙うのではなく、航行にあたって厄介な場所に大きな損傷を与える。

例えるならペリリュー島の帝国陸軍守備隊が、米軍の上陸部隊にあえて“負傷者”を多発させたようなものでしょうか。一気に23隻もの“損傷艦”が、それも艦隊の「動線」が集中している箇所でばかり発生し、ある程度の組織的艦隊運動を維持できていた後衛群は一転して大混乱に陥りました。

「両翼水雷戦隊、突入!後衛空母群を挟撃してください!」

ただでさえ大所帯故の鈍重さに加えて、壊乱の末に敗走している状況下で十分な速力を出せていない敵艦隊群。いかに空母を中心に足の速い艦が揃っていたであろう後衛と言えど、それさえ統率が崩壊したとあれば最早逃げ切ることは不可能でしょう。

《さぁ、今度こそいっち番槍は頂くよ!!》

《ふふん、アタシがいるから無理だもんね!!》

追撃する水雷戦隊がそれぞれ白露さん、島風さんを擁しているなら、尚の事。

《《魚雷、発射!!!》》

雷撃報告は、無線を通して両者からほぼ同時に発せられました。十数秒の間を経て、綾波達が砲撃を浴びせている敵前衛の向こう側で立ち上る幾本もの水柱と爆煙。

電探上に表示されている敵艦隊群の反応、その最後尾部分で両側面から次々と赤点が消えていきます。最終的に、その数は30前後にはなったでしょうか。

《こちら白露、今度のいっち番槍は私だよ扶桑さん!!あと魚雷はヲ級Eliteに直撃、旗風の魚雷と併せて之を撃沈せり!!》

《嘘だからね扶桑さん!今回もいっっっっち番速かったのは島風なんだから!!轟沈艦はイ級Eliteを単独、ヌ級通常種を巻雲と共同!戦果だって一番なんだから!!》

《駆逐艦うざ………。えーと、こちら北上。とりあえず後衛艦隊群の混乱は更に拡大してるよ〜。

山城さんの瑞雲との視界同期で確認した限り、撃沈艦は一番バカと速度バカの言ってるやつ以外にヌ級が計10隻、ヲ級が4隻ってところかな。後は護衛の駆逐・軽巡・重巡が各少々って感じ〜》

数的戦果のみで見て、実に半数前後が空母・軽空母の撃沈。仮に綾波が第三者としてその数字を聞いたなら、士気高揚のための過大報告であることを先ず疑うような代物です。

《んで、敵さんはまともな反撃も未だに飛ばせないぐらいグロッキーみたいだけど……どーする?もっとやっとく?》

数字面だけで言ってもこの短時間であの大艦隊が会敵当初の2/3程度まで減少し、しかも此方が包囲下に置いて一方的に攻撃を浴びせている状況。一見すると北上さんの問いが“愚問”ではないかと思えてしまう、追撃継続以外の選択肢が存在しないような圧倒的優勢です。

「いえ、攻撃は停止します」

しかし扶桑さんは、無線に向かって静かにそう告げました。

「航空隊は現存する敵機群の殲滅、或いは退却確認後に母艦へ帰還し補給を。両翼水雷戦隊も後退し主力と合流するように。戦艦他主力艦艇群、副砲による牽制は継続も主兵装の弾薬は正面敵艦隊群に反転の兆候が見られた場合を除き温存態勢へ移行。

後続敵艦隊・航空隊の存在にも留意、厳戒態勢を維持してください」

《右翼主攻艦隊長門、了承した。主砲撃を鈍化・停止させる》

《This is Left-Side Freet,
South Dakota. I agree, Flag.

All unit, Weapon down. Keep potion.》

《左翼水雷戦隊・初春、心得た。皆退がるぞ!島風、止まるのじゃ!》

《あいよ〜。ほら、帰るぞ駆逐艦共〜》

敢闘精神旺盛な──そして、取り分け愚かな──指揮官が耳にすれば、即座に面罵して命令取り消しを主張するであろう、ともすれば消極的とさえ取れる指示。
しかし比較的血の気の多い方が集まっている印象の長門さんや、“艦時代”には霧島さんと直接砲火を交えた経験もあるサウス・ダコタさんも、全く異論を挟むことなくあっさりと指示に従って攻め手を止めていきます。

更新おつです
局所的有利は取れていますが戦局的にはいまだ不利ですよね

指揮系統が維持してるので八頭身提督は健在と思われますが
ポジハメ艦長の容体が心配

その傾向は、今この場で最も旺盛な“戦意”を漲らせているであろう2人についても変わりませんでした。

《…………りょうかーい》

《はぁ〜〜い………》

島風さん、そして白露さんの返答の声には、不満自体は非常にはっきりと表出していました。
しかしそれでもやはり扶桑さんへの反論はなく、電探上で彼女たちの反応を示す──他の水雷戦隊の方々と比して明らかに大きく突出した──青点もまた名残惜しそうな素振りは見せつつも両翼の隊列へ戻ります。

そのまま敵艦隊は、戦艦や重巡の皆さんによる射撃に追い立てられながらまさに“敗残部隊”という他ない様子で海域より離脱していきました。

「旗艦、よろしかったのですか?あのまま攻撃を続けていれば、ほぼ確実に殲滅できたと思いますが」

深海棲艦達の姿がある程度小さくなったところで、朝潮さんが扶桑さんに問いかけます。しかしながらその声色に疑念や苛立ちと言ったものは見られず、冷静でどこか淡々とした、よく出来た生徒が教師に問題の答え合わせを促しているような響きとでも言いましょうか。

この朝潮さんは父島鎮守府設立時の最初期に配属された艦娘の1人と聞きます。同府で総旗艦・筆頭秘書艦を勤め続ける扶桑さんとの付き合いも長く、当然綾波達より遥かに深く的確に彼女の思考を汲み取ることができるでしょう。
或いはこの詰問も、扶桑さんが下した判断の詳細を面識が少ない綾波達に共有するためという目的があるのかも知れません。

「ええ、そうする必要がないもの」

そうした朝潮さんの機微を察したらしく、扶桑さんもまた即答します。

日本語に不安を残すアメリカ艦の皆さんに配慮してか、日頃の喋り方から比べてもややゆったりとした口調でした。

「確かに殲滅は容易かったでしょうね。戦意が欠片でも残っているとは思えなかったし、あそこまで崩壊した指揮系統を私達の攻撃を受けながら敵が立て直せた可能性も極めて低い。

でも、殲滅する際に“労力”がどれだけ抑えられたにしろ、“弾薬と燃料”の消費量は無視できないものになっていたんじゃないかしら?」

総数300隻超、内1/3以上が撃沈できているとしても残余は200隻前後。統率がどれほど崩壊していようが、残存戦力の中で見れば未だ無傷か軽微な損害で留まっている艦の方が遥かに多かったはずです。
それらの全てを一撃必中で沈められたと考えるのは、流石に皮算用が過ぎますね。

戦艦や重巡といった高い火力と装甲を持つ艦種も母数が膨大である分やはりある程度は残っていたでしょうし、“組織的”な抵抗ができていなかっただけで反撃の砲火自体はチラホラと飛んできてもいました。
敵艦隊に反撃の糸口を与えないために回避運動等は交えつつ戦闘を続けるとなれば、確かに弾薬・燃料の何れも予想される消費量は決してバカになりません。

一応、国連“海軍”所属部隊が【学園艦棲姫】へ至る海路の各所に臨時の洋上補給拠点を続々と建築はしています。
が、拠点といいつつ実態は補給物資をありったけ詰め込んだドラム缶が綾波たち艦娘が使う水上航行ユニットを改造したものの上に纏めて置かれただけのもの。

量の面でも安全性の面でも、決して“あること”を前提にして考えて良い代物ではありません。
そう考えると、最低限の継戦能力維持のためにある程度弾薬や燃料の節約を考えなければならないのは扶桑さんの仰る通りでしょう。

「でもFlag、さっきの艦隊が後続と合流して更なる大戦力として戻ってくる可能性は考えられなかったかしら?

約200隻、向こうはBattle ShipもHeavy Cruiserもかなり残っていたわ。空母艦隊が甚大な損害を被っていたとはいえ、水上打撃戦力だけ抜け出して自分たちのFreetに加えたとしてもおかしくないんじゃない?」

「向こうに、それを実行するだけの余裕がありませんよ」

ホーネットさんの疑問に対し扶桑さんは柔らかく微笑み、しかしはっきりと、直ぐ様否定の言葉を発しました。

「あそこまで大崩れした、ろくに陣形も組めていない艦隊です。途中で合流したとして、戦力化できる個体や艦隊を選抜して“吸収”するにはかなりの時間を擁します。当然その間、“吸収”を試みている側の艦隊もある程度陣形・統率を乱さざるを得ません」

この場では逃していたとしても、綾波達側の航空戦力は健在。自衛能力を他機より強力に備えた山城さんの瑞雲隊もあります。
捕捉し、直ぐ様追撃に移れば、此方の再編や補給の時間を差し引いても十二分に追いつけます。その際扶桑さんが描く青写真が現実になることは、綾波でも容易く想像がつきました。

「仮に私達が全戦力を挙げて追撃を再開した場合、向こうは増援艦隊も纏めて無防備になっているところに再度攻撃を受けることになります。

後続艦隊群が何隻かは解りませんが、先程の艦隊と纏めて今度こそ壊滅・殲滅となれば【学園艦棲姫】が現在抱えている随伴艦隊の総兵力をかなり多めに見積もっても流石に看過しかねる損失となるでしょうね。それこそ、日本本土への進軍に支障が出るほどの」

寧ろ、“そうしてくれる”ならば喜ばしくすらある。そう言って扶桑さんは上品な声色で笑います。

「まぁ、ホーネットさんも仰ってくださった“幸運”に備えて元々偵察機は飛ばすようにするつもりです。ですが、あまり期待はしない方が良いでしょうね。

なにせ私は、“不幸”なものですから」

これが、“父島鎮守府総旗艦・扶桑”か。そんな、戦慄にも似た感嘆と畏敬の思いが、綾波の胸を満たします。

僅かな所作から、敵艦隊の狙いや次の動きを即座に見抜く洞察力。

不測の事態にも動じず、寧ろ策に盛り込み利用できる応用力。

その場での戦果拡大を徹底的に追い求めた大胆不敵な“拙速”と、大局的観点から鑑みた冷静沈着な“巧遅”を自身の明確な理論に基づいて的確に使い分ける判断力。

数多の艦娘が集う大艦隊にあっても、振るった指揮を全員に納得させ従わせる統率力。

先の戦闘でも見た通り、戦闘艦として、“一兵卒”としての【武勇】も、他の艦娘に決して引けを取るものではありません。
ですが、“父島鎮守府の扶桑”さんは、それさえ霞んで目立たなくなってしまうほど驚異的な“将”の資質に、艦娘としては珍しい【軍略】の才に秀でていました。

綾波自身は「この扶桑さん」とは演習で数えるほどしかご一緒したことがないため、その妙技の程を実際に眼にしたのは初めてです。
そして今日、これまでに幾度となく耳にしてきた数々のお噂が、全く尾鰭の類がついたものではないと確信しました。

『演習も含め、扶桑の采配に“間違い”を見たことは唯の一度もない』
───彼女を招聘し、抜擢し、その名を轟かせるきっかけを作った父島艦隊の提督さんの評価です。

『扶桑が居るいくさ場では、後方や側面を一切気にせず眼前の敵の殲滅だけ考えていられる』
───同期建造で、一時は同じ鎮守府に勤めたことも有り、特に戦争初期には幾度となく戦場を共にした現横須賀司令府総旗艦・【巨砲】日向さんはこう語ったそうです。

『彼女のお陰で拡大できた戦果、得られた勝利は数え切れないほどあるだろう。だが彼女が“大和撫子”の鑑であるがゆえに、我々はそれを正確に把握することができない』
───さる海上自衛隊の尉官様が、王嶋元帥にそんなことをボヤいたと聞きます。

元々扶桑さん本人があまり目立つことを好まない上に、直接の砲火によって敵艦を討ってこそ艦娘の本分という意識があるらしく、自身の軍略・知略について褒められることを複雑に思っているのだとか。

……まぁ、その奥ゆかしく謙虚な性分が扶桑さんの“強み”と合わさり「莫大な戦果を挙げながらその実情が把握できない」という事態を招き、特に海自上層部や在日米軍関係者を中心に【沈黙者(サイレンサー)】なる“忌み名”が広がるきっかけとなってしまった面もありますが。

扶桑さん本人にとってこの件が“不幸”に当たるのかどうかは、綾波では判断が付きかねます。

「凄いにゃ、噂通りにゃ、頭いいにゃ〜!

サマール島第19“特派府”所属艦隊の多摩だにゃ、救援感謝するにゃ!【沈黙者】指揮下の艦隊に入れるなんて心強いにゃ〜!」

「ええ、その、喜んでいただけて何よりです」

……少なくともこの反応を見る限り、忌み名呼びが扶桑さんからして“幸運”ではないことは確かな模様。

一先ず当面の危機から解放された多摩さんが、顔のあらゆる場所から水分を垂れ流しつつ手を取ったことも表情を曇らせた要因の一つでしょうけれど。

「それにしても、【特派府】艦隊………ですか」

「なぁに?なんか文句でもあるわけ?」

「おう、そうだぜ!ナメんじゃねーよチキショウめ!!」

「色んな意味で当然の反応だと思うな〜………」

扶桑さんのすぐ後ろまで進み出てきた赤城さんが、多摩さんの改めての自己紹介に複雑な表情を浮かべました。当府屈指の武闘派である霞さんが速攻で噛みつき涼風さんもそれに続きましたが、文月ちゃんの言う通り私もその反応は正直理解できてしまいます。

特別派遣海難救助国際協力鎮守府───通称【特派府】。様々な法解釈を施せるよう可能な限り回りくどくしたいという日本人的な意図が全面に溢れ出た長ったらしい正式名称ですが、要は日本国による自衛隊や艦娘の海外派兵政策の一貫です。
内容は、1992年に施行済みの【国際平和協力法】を拡大解釈し、深海棲艦関連の被害を“大規模な害獣被害”と強引に定義した上で対応要請を送ってきた国家や地域の沿岸に警備府規模の艦隊を派遣駐屯させるというもの。

日中間の水面下における熾烈極まりない外交戦の結果制定された【艦娘三原則】の“対価”として南首相が国際社会に黙認させたこの制度は、大筋での「大敗」に隠れながら非常に大きな転換点だったと思います。
フィリピン海近郊を中心に東南アジア全域で設置された150箇所を超える【特派府】の存在は私達が活動する上で非常に有用な橋頭堡となり、当時海軍が死滅していたオーストラリア周辺の制海権早期奪回やインドとの連携強化、【第二次マレー沖海戦】での迅速な戦力展開とそれに伴った痛快極まる大勝利へと繋がったのですから。

ただ、その戦力が“潤沢”かといえば残念ながらそうではありません。

例えば【特派府】に駐屯可能な艦娘の数は、国内における【警備府】と同等規模です。ですがあくまでも“目安”であり特に沿岸部では規模・艦種共に臨機応変な編成が行われる後者に対し、前者は“最大6隻”と国連憲章に明記され艦種も軽巡洋艦以上の等級は配備不可能、その軽巡も1隻までと厳格な制限が設けられています。

各【特派府】の統括や本国から輸送・護衛等で派遣される主力級艦隊の補給地として敷設を許可された【泊地】では若干制限が緩みますが、それでも常駐艦隊については軽巡の他に重巡洋艦、軽空母、潜水艦の中から2隻までを加えた三個艦隊分までの駐屯しか許可されていません。
基地航空隊も居るため戦いようがないとまでは行きませんが、やはりElite以上のヒト型や上位種の姫級・鬼級を相手取ろうとすれば力不足と言わざるを得ない面があります。

故に、我々【特派府】艦隊の任務は基本的に近隣の巡回と「はぐれ艦隊」を発見した際の掃海作業、後は偵察程度に留まります。
万一主力級艦隊と接敵した場合、基本的には即座に撤退後遠巻きの監視態勢へ移行。前述した任務の兼ね合いで“偶然にも”泊地に停泊している本土の艦隊か、これも“たまたま”米軍との合同海外演習を行っていた自衛隊所属の艦娘艦隊が対処する形を取ります。

仮に交戦するとしても基地航空隊や現地の空軍と連携しながら進軍を遅滞させるための牽制がせいぜいで、本格的な艦隊決戦が指示されることは滅多にありませんでした。
取り分け艦娘戦力の充実が著しいここ2年ほどは、「偶然主力級の艦隊が泊地に入港して中だった」状態を“安定して”作ることが出来た為、そもそもそれを検討する必要性自体起こり得なかったのです。

逆説的に言えば、ここまでの鉄火場に綾波達【サマール島第19特派府】の艦隊が居るという事実、それ自体が、

「アンタらの実力そのものを疑うわけじゃないけど、要するにScoutを主任務とする艦隊を動員しなきゃいけないぐらい追い詰められてるってことでしょ?

それも、“艦娘覇権国”の日本がサ」

アトランタさんの言うような現状であることを、如実に現していると言えます。

「まぁ、あたしもアンタ達のことエラソーに言える立場じゃないんだけどね」

「………ええそうね、自覚があるなら刺々しい言い方は最初から自重なさい」

ヘッと口元を曲げ肩を竦めるアトランタさんの横で、ホーネットさんが頬に手を当てて深い溜め息をつきました。
彼女は形の良い眉をひそめて眉間に深いシワを刻みつつも、右手を多摩さんの方へ差し出します。

「ホーネットよ。国連特別“海軍”指揮下のセレベス海域防衛艦隊群に所属してるわ。私達四人の他に、チョーカイとハツヅキもそこからの派遣ね」

「………ふんっ」

多摩さんと握手を交わしつつ、空いている左手がアトランタさん達、次いで鳥海さん、初月さんと順に指し示していきます………が、最後に紹介された初月さんは、わざとらしく鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまいました。

「あーーっ、と………ハツ?」

「あ、あの。初月さん、せっかく紹介してくれたのですから」

「別に僕は頼んでない」

困惑した表情を浮かべるホーネットさん。鳥海さんが慌てて執り成しますが、初月さんは益々大きくこれみよがしに明後日の方向へと顔を背けるばかり。

一連の動作には、明確な敵意が剥き出しでした。

「艦娘として改めて生を受けたとしても、僕は皇国海軍の駆逐艦だ。今は友軍になったとはいえ鬼畜米英の輩と馴れ合うつもりはない、作戦時以外は喋りかけないでくれ」

今更言うまでもないことですが、大東亜戦争の折、帝国海軍は太平洋上で幾度となく欧米諸国の艦隊と熾烈な戦闘を繰り広げました。
その時に刻まれた“艦時代”の記憶は、艦娘としてヒトの形を得た今も綾波達の中に残っています。

故に、アイオワさんやサラトガさんのような米国艦娘を筆頭に、この一年ほどで急速に“実装”が進んだ旧連合国の艦娘の皆さんに対して、大なり小なり複雑な思いを抱える子はいるでしょう。
かく言う私だって、在比米軍鎮守府に派遣されてきたジョンストンさん──フレッチャーさんの妹艦にあたります──と初めて言葉を交わした時は正直かなりぎこち無い反応をしてしまいました。

とはいえ流石に、深海棲艦という共通の敵を前にしながらここまではっきり拒絶反応を示す方は非常に珍しい部類に入る気がしますけど……。

「大体、他の艦娘は大和魂が足りないんだ。幾ら時代が変わったからって、祖国を焼け野原にし天皇陛下に心痛を与えた連中に────わぶっ!?

な、なにするんd、いだだだだ!!?」

「Japanese destroyerのイキの良さは“身をもって”知ってるけどサ。アンタはちょっと良すぎね、ハツ」

尚も言葉を続けようとした初月さんの頭を、もとより眠たげな眼を更に眇めたアトランタさんが上から抑えつけ遮ります。即座の反駁が飛ぶも今度は額に親指を押し当ててグリグリと捩じ込むような動きを見せ、初月さんの口から悲鳴が漏れました。

「そ~いうデカイ口は、あたしより多く敵機を落としてから叩くんだね。見た感じ、こっちの半分も撃墜できてなかったんじゃない?」

「……米国艦のくせにどうやら電探装置に不具合があるみたいだな。どう見ても撃墜数は僕の方が多かっただろう!?なんなら数も三倍差はついていたはずだ!!」

「ハッ、そっちこそレーダー研究疎かにしすぎだっての。本当はもう3倍ぐらい差があったのを、気遣いでわざわざ過小報告してやったんだけど」

「ふ、2人ともやめよーよ………精度が悪すぎて物量でゴリ押さないとろくに撃墜できないのはどっちも変わらないんだしさ」

「何だと!?」
「……Saying again, bitch」

「あ、あの、またいつ敵艦隊が来るかわかりませんから…………」

「Kids」

凄絶ないがみ合いを止めるかと思われたフレッチャーさんがまさかの参戦で三つ巴となり、とても最前線とは思えない(醜悪な)大騒ぎを繰り広げます。その周りで止めるに止められず困り顔の鳥海さん、呆れ顔で冷たい視線を向けるヒューストンさん。

「……………………Ah」

ホーネットさんはと言えば、最早視線をそちらにやる気力もないのか多摩さんと向かい合ったままげんなりとした暗い表情でただ肩を落とします。

長い沈黙の果に喉奥から漏れた、心底からの疲労と諦観に満ちた溜め息が彼女のこの艦隊における立ち位置とそれに伴う苦慮の度合いを何よりも雄弁に語っておりました。

「………輸送中から、ずっとあんな感じよ。私達は私達で、全員が別々の鎮守府から急遽寄せ集められた相性最悪の臨時編成艦隊ってわけ。

まぁ自分で言うのもアレだけど、私含めて戦闘の腕自体は確かだしengage中にやり出す程節操ないわけじゃないから安心して…………ええと、多分」

綾波も軍属の身。このような見た目ですけれど、世の中が美事と正義のみで回っていると思う程純真無垢ではありません。

降って湧いたが如く唐突に現れた、国連特別“海軍”なる組織。それがここまでの事態に対しても明らかな即応性を持っていたことについて、何かしらの“裏”を感じなかった艦娘は殆どいないのではないでしょうか。

寧ろ私としては、この方面に配属されている艦娘達の間で長らく囁かれてきた

『記録上は近隣特派府の軽巡・駆逐艦しか出撃していないはずの方角から何故か超弩級戦艦のものとしか思えない砲声が聞こえる』

という怪談じみた噂話に答えが出たことで幾らかスッキリした思いさえ抱いたぐらいです。

私達に先駆けての【学園艦棲姫】迎撃作戦───“オペレーション・アイアンボトム”に際してはこの組織の艦隊が八頭進提督率いる連合艦隊に加わっていたとのこと。
横須賀司令府や青ヶ島鎮守府の艦隊と肩を並べられるほどの艦娘を容易く捻出できるなら、練度や経験、戦力層も相当なものであると考えてよいでしょう。

(…………そんな組織が、【学園艦棲姫】という尋常ならざる脅威を止めるべく派遣された最精鋭艦隊の一翼を担える組織が、最早艦隊一つの編成すら“寄せ集め”なければならないほど切迫している…と)

6隻一組、所謂「一個艦隊」以下の規模で部隊を編成するにあたっては前線における緊急再編等を除き必ず同一鎮守府所属の艦娘のみで行う────海上自衛隊教本、並びに一般志願提督向けの座学教書ではその最序盤で記される艦隊運用として基礎中の基礎。
対深海凄艦戦闘においては、僅かな連携の乱れが大損害に直結するのだから当然です。

2〜3個艦隊による合同編成、“連隊”ですら鎮守府が跨がれば相当優秀な指揮官(或いは“艦”)が居ない限りは統率に相当な労力を払うもの。構成艦がすべて別鎮守府ともなれば、国連“海軍”の練度を考慮しても歪な編成であることは明白と言えます。

世界“最大”の艦娘保有国が、本来なら近海警備用の予備戦力に過ぎない施設に動員をかけなければならないのと同様に。

世界“最強”と推測される軍事組織もまた、基礎的な艦隊編成すら禄に行えぬほど戦力が摩耗していると言うなら。

この防衛線全体で見れば、その戦況は極めて絶望的なものになりつつあると言えるでしょう。

「にしても冷たいもんだよ提督は、Last Voyageをこんな素敵な連中とさせるんだから。割りと“勝手知ったる”仲だったと思ったんだけどなぁ」

「っ!アトランタ、そんな言い方……」

「いい子ちゃんぶるのはやめてよヒューストン。アンタだって勘づいてるでしょ?この作戦、KAMIKAZE以外の何物でもないって。

ヨコスカ、アオガシマ、そこに“ウチ”から【あの連中】まで加わったAllied Freetを壊滅させるような化け物に、アタシら程度の艦娘を何百隻束にしたって勝ち目はないって」

先に述べた、青ヶ島、横須賀、そして“海軍”鎮守府による連合艦隊は、既に【学園艦棲姫】との交戦で壊滅的な打撃を受け撤退しています。

轟沈した艦こそないものの、かの【巨砲】日向さんや【大腮】龍驤さんを筆頭に、久しぶりに表舞台で姿を露わにした【火ノ嵐】加賀さんや【亡霊】青葉さん等構成する艦娘の顔ぶれは錚々たるモノ。
計4個24隻という数自体は決して潤沢とは言い難いにしても、何れも一騎当千の古強者である事をかんがえれば間違いなく“世界最強”の連合艦隊だったと断言できましょう。

そんな艦隊が。当代屈指の名将と名高い提督が率い、人類戦力による航空・海上支援も潤沢に受けていた“最強の艦隊”が。

ほぼ全隻大破の上で後方にて緊急修理・再編中とあれば、アトランタさんの言動を“軍人としてあるまじきものだ”と咎める権利は、綾波にはありません。

非常に正直に言ってしまえば……綾波も、心の底では同じことを出撃したときからずっと思っていましたから。

「で、今他のフロントラインの味方は何隻沈んだの?50?60?100の大台に乗ったらもしかしたら大本営も退却させてくれるかもって期待しちゃうわね」

「アトランタさん!!」

「アンタにそんな声出せるんだねチョーカイ。でも悪いけど、アタシはJapanの艦娘と違ってテンノーヘーカバンザーイって叫びながら玉砕する趣味はないのよ。なるべくなら生きていたいのに死にに行かされる、こんぐらいの愚痴許されても良くない?」

「軍人として、艦娘としての矜持はないのか!!!」

「軍属や艦娘は生きる権利どころか死にたくないって主張する権利すらないのハツ?ワァオ、全世界の人権活動家連中が泡吹いて倒れる思想ね。メッシホーコーなんて、アタシは真っ平ごめんよ」

第二次フィリピン海防衛線も突破し北上を続ける【学園艦棲姫】と護衛の随伴艦隊に対し、私達東南アジア方面所属の艦娘を中心に実に述べ600を越える前代未聞の大戦力が投入され阻止攻撃作戦が展開されています。
しかし綾波が知る限り、現時点でその内23隻が失われました。

中・大破撤退ではありません。“轟沈”です。その中には、私以外の【綾波】が1隻。

そして……妹の【敷波】も、一人。

(沈んだ【敷波】の所属鎮守府を聞き、“知っている【敷波】”ではなかったことにホッとしてしまった私は、とてもひどい艦娘ですね……)

この4個艦隊相当の損害は、あくまでも“轟沈”を抜き出したもの。大破撤退艦を含めれば1割強、撤退・戦闘継続中を問わず中破艦まで対象を拡げるなら既に損耗は2割近くにまで上ると聞きます。

そしてこの数字さえ、“前線が混乱する中で上がってきた不確実な情報”であり綾波が“一時間ほど前に聞いたもの”でしかありません。正確なところがどうであるか、今はどうなっているのかは解りませんが、これよりもマシである・好転している可能性は限りなく低いでしょう。

(私も正直、死にたくは……ないですねぇ)

理屈では、初月さんの仰ることこそ「正」であると理解できます。艦娘が担う責務は深海棲艦の撃滅と人類の守護、祖国の防衛。それを果たすこと自体に疑問はありませんし、全力で果たしたいとも思います。
しかしそれとは別に死にたくない、生きたいという渇望もまた、明確に綾波の中で渦巻いているのです。

この感情は、アトランタさんが吐露した「本音」に流されただけの気の迷いに過ぎないのでしょうか?

否と断言します。切っ掛けは確かにアトランタさんの言葉でしたが、“火種”は綾波の胸の内で確かに燻っていたのですから。

敷波と、もっとお喋りしたい。
艦娘最強と謳われる日向さんと、一度でいいからお会いしたい。
吹雪とはまだ顔を合わせたことがありません。“艦娘”としての姿を、どんな思いを抱いているのかを直接会って知りたい。
ジョンストンさんは良い方でした、もっと仲良くなりたい。
大東亜戦争より復興・発展した祖国の光景をこの眼に焼き付けたい。
ルソン島泊地の浦風さんが作ってくれたお好み焼きは絶品でした、もう一度……何度でも食べたい。
本土から遠征してきた浦波から聞いたケーキやドーナツの話、美味しそうでした。特にポン・デ・リング、絶対に食べてみたい。

祖国を守護するという任務に、疑問を差し挟むつもりはありません。艦娘として与えられた深海棲艦と戦うという使命を、全うする覚悟はもっています。

しかし其れ等の上でなお「生きたい」と思うのは、艦娘として、“ヒトの形”と共に得た生を「楽しみたい」と思うのは。

綾波のような“兵器”には、過ぎたる望みなのでしょうか。

密かに燻らせていた暗然たる思いがアトランタさんの言によって表出したのは、きっと綾波だけではなかったのでしょう。
この艦隊そのものを押し潰すかのように、重く苦しい空気が辺りを包み込みます。多摩さんも、文月ちゃんも、浜風さんも、私達の艦隊は誰もが暗い影を表情に宿して俯いてしまいました。

「全艦、傾注!!」

それを切り払ったのは、凛として放たれた扶桑さんの声でした。

「各艦隊旗艦は海図を同期、近隣海域で構築されている即席洋上補給拠点の最新情報を取得・共有するように!海図統合完了後、拠点規模に応じて一時艦隊を50km圏内で分散しつつ進軍します。

各空母・航空戦艦、他水偵装備の巡洋艦は偵察機を発艦。海図上の補給拠点が健在であることは事前に必ず確認してください!

拠点確保と補給完了後、指定座標にて再集結を。尚分散に際しては、最低でも一個小隊以上で行動するように。

集結後に後続敵艦隊を捕捉した場合、これを艦隊決戦の末粉砕致します!」

《“海軍”アナンバス鎮守府艦隊、了解!》

《スラバヤ泊地第2艦隊・旗艦高雄、命令を受諾しました!》

《ワイゲオ島泊地第1艦隊祥鳳、了解です!彩雲隊発艦、警戒を厳に!》

《国連“海軍”、マノクワリ鎮守府所属の長門だ。指示を確認、これより艦隊編成を行う》

「け、軽巡洋艦・多摩、命令を受諾したにゃ!」

「Air Craft Career-Hornet, Copy.

………さ、行くわよアトランタ」

「……………ハァ。Alright, Flag」

一連のやり取りを知らない、アトランタさんの言葉を耳にしていない両翼艦隊からは次々と意気軒昂な返答が届きます。また、何の脈絡もなく唐突に「本題」が再開されたことで、綾波達もまた否応なしに戦場へと引き戻されました。

(…………扶桑さんは、怖くはないのでしょうか)

急激で脈絡のない話題の転換は、何かしら長々と励ましや檄を飛ばすより余程迅速に綾波達の空気を切り替えてしまいました。その判断は、相変わらず的確そのものです。

ですが、彼女自身は何故あっさりと切り替えられたのでしょう。これほど聡明ならば、気づいているはずなのに。

私達は時間稼ぎのための“盾”に近い存在だと。この艦隊が、“玉砕”をある程度前提として編成されたものであると。アトランタさんに言われるまでもなく、扶桑さんなら理解できているはず。

にも関わらず、所作にも表情にも、動揺や恐怖は微塵も見られません。
【沈黙者】の忌み名を体現するかのように、彼女は黙して冷静な眼で水平線の彼方を見つめています。

その卓越した知略を以て策を既に練り上げ、“活路”を見出しているが故の冷静さなのか。

或いは知略に長じるからこそ既にこれを“死地”と悟り、その上で自らの使命に殉じる覚悟を定めたが故の諦観からくるものなのか。

(……………どうか。どうか、前者でありますように)

そんな、艦娘にあるまじき他力本願で身勝手な願いを胸の内で呟きつつ、他の皆さんに続いて私も機関を再始動させます。




ミ,,#゚ ゚彡《Spearチーム、全機続け!!》

《Rapter-01 for All unit, Follow me!!!》

夕闇に包まれつつある上空を、F-14JとF-22の編隊が凄まじい速度で飛び去っていきました。

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投下乙です
ちょっと気を抜くと悲壮感が出てしまう
そんななかフサギコさんが普段通りで安心しますね

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私達が飛び立った、【ロナルド・レーガン】。

他のイージス艦と共に艦対空ミサイルを上空に放ちつつ、“基地航空隊”を間断なく発艦させていく【こんごう】。

低空飛行で接近してきていたところに、殺到してきたシースパローミサイルによって焼き払われる深海棲艦の艦載機隊。

どうやら戦闘を終えた直後と思われる、父島鎮守府を主力とした艦娘の大艦隊。

恐らくその戦闘の相手だったであろう、いかにも敗走中ですといった体でぐちゃぐちゃの陣形のまま来た道を戻る深海棲艦の連中。

それと入れ替わる形で、此方に向かってきているより大きな規模の敵艦隊。

下方を流れていった一連の光景は、それぞれ間に相応の距離が横たわっている。数キロ〜十数km、遠いと五十km前後にはなっただろう。

その全てが、一瞬で音と共に後方へ置き去られていく。

時速2485km/h。マッハにして約2.01。

第四世代の艦上戦闘機・F-14J【トムキャット】が出しうる最高速度にかかれば、150kmになるかどうかの空間なんてほんの数分で渡り切ってしまう“短距離”だ。

|w;´‐  ‐ノv(ぬ………ぐぅ…………!)

畜生、全身が悲鳴を上げてやがる。私だけじゃなく、F-14Jの機体も。

超音速飛行の長時間継続────所謂“スーパークルーズ”に本来対応していない機種でやるには、暴挙に等しい開幕からの全速前進。当然、機体への負荷は非常に大きい。最前線の上空で空中分解なんて、助かる見込みはまず皆無だ。

それでも、私は速度を緩めない。エンジンをフル回転させ、速度計器の針を目いっぱいのところに抑えつけ、襲い来るGの苦痛と海原に突然投げ出されるかもしれない恐怖を歯を食いしばって耐えながら前へと進む。

《Enemy contact!!》

何のことはない。

《【Black Bird】 incoming!! Allrange, Allrange!!》

《Damn,Over 60!!!》

ミ,,;゚ ゚彡《Don't stop!! All unit, keep speed and potion!!》

速度を緩めれば、どのみち私“達”は死ぬのだ。

北欧戦線から深海棲艦が投入し始めた新型の制空戦闘機、【黒鳥】。私ら人類が扱う第4、第5世代戦闘機とほぼ同等の速力を出せる上に、その最高速を維持したまま旋回してくるという化け物じみた性能の持ち主。

こっちの数は、米軍のF-22も併せて8個編隊32機。性能面がボロ負けで数量面でもダブルスコアときたら、ほんの少しでも足を止めれば瞬く間に“食われる”だろう。

《Enemy Lock, Enemy Lock, Zulu-09 FOX-3!!》

£#°ゞ°)《Knight-01 FOX-3!!》

《Glasgow-10, FOX-3》

【回転木馬】を維持している後方の連合空軍主力から、【黒鳥】の跳梁跋扈を阻止すべく次々と空対空ミサイルが飛来する。が、さっきの第二次防衛ライン崩壊に際して膨大な損害を被ったことと前線が広域化して各方面に戦力が分散したことが重なり、投射される火力の量は先程と比べ大幅に減少している。

『『────!!!』』

《No, No!!!?》

《Damn………》

十何機かがミサイルによって撃墜され、残る大半は回避のためにこちらへの突撃を断念した。だけどミサイル群をくぐり抜けた数機が、編隊の横っ腹に食らいつく。

悲鳴と悪態をそれぞれ残し、レーダー上から友軍機の反応が二つ消えた。

それでも───胸糞の悪い勘定だけど、犠牲が二機で「済んだ」なら御の字だ。

《Rapter-10 and 13 down!!》

ミ,,;゚ ゚彡《Keep, Keep!! Don't stop!!》

|w;´‐  ‐ノv「─────っっっ!!!」

速度が“互角”であるなら、一度距離を取れば直線で追いつかれる可能性は低い。向こうの兵装は現状確認されている限り九九式二〇粍機銃に相当する性能の機関砲二門のみ、一度距離さえ離してしまえば向こうの射程はこっちの背中を捉えられなくなる。

故にこそ、Raptorから出た“尊い犠牲”を無駄にしない。撃墜機の破片や爆風を回避するために追撃が鈍った隙を突き、そのまま連中を一気に振り切る。

《Shamrock-01, FOX-3!!》

《Rapier-04, FOX-3!!》

『『『─────ッ!!!』』』

距離が開いたことに加えて【回転木馬】による第二次掃射も始まっては、そりゃあ追撃なんてできやしないだろう。私達を追ってきていた【黒鳥】の反応が、次々と踵を返していく。

一難去ってまた一難。世界中の制空権を脅かす化け物機体から逃れたはいいが、“危機”自体はこの後にまだ控えている。

そのまま60km………時間にして1分ちょっと程も飛行を続ければ、次なる“難”が───

『『『ォアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』』』

《Enemy AAF incoming!!》

───深海棲艦共の対空砲火がお出迎えだ。

《Fuck, So hard!!》

《How many!? They're fill the ocean!!》

《Break!! Break!! Break!!》

光景を眼にしたRapterチームが、狂乱状態で無線をやり取りしている。そういや連中はまだこの戦線に到達したばかりだったね。

当初報告された“推定1500隻超”の時点で大いにイカれた物量なのに、

『【学園艦棲姫】から新たに排出された分と戦線再構築の間に近隣海域から続々と集結した分で、更にその二倍強まで膨れ上がった極大艦隊』

による未曾有の超火線展開だ。発狂したやつが1人も居なかっただけ大したもんさ。

なんせかれこれ三往復目の私でさえ、未だに喉から朝飯のよく消化されたササニシキがコンニチワしかけるぐらいだぜ?

ミ,,;゚ ゚彡《Dive to Fireworks!!》

それでも、初見の奴らと比較すりゃまだ私達【Spear】隊は肝が座っている。富佐隊長が叫んだ、どこぞの世界線で自機の片翼を赤く塗った妖精が口にしてそうなセリフに合わせて、改めてフットペダルを強く踏み込む。

『『『グォオオオオオオオオンッ!!!!!』』』

射程圏に踏み込んだ途端、ただでさえ分厚く熾烈だった対空弾幕は更にその激しさを増す。実は私は死んでて、ここは今灼熱地獄ですって言われたら信じちまいそうだ。

まぁ、“アイツ”を残して死ぬわけにはいかないので御免被るが。

|w#´‐  ‐ノv「しっかり捕まってろよ!!」

「りょ───う、っかい!!」

後部座席の観測員君に声をかけ、操縦桿を傾ける。

向こうの火線は確かに濃密だが、流石にこのイカれた、そして集まったたばかりの物量を一つの指揮系統で完全に統一できているわけじゃないらしい。弾幕の密度や発射間隔が一定ではなく、“ムラ”や“隙間”は微かだが確実に存在する。

|w#´‐ ‐ノv「鬼さんこちら、っとくらぁ!!」

それらを脳内で一本の線に繋ぎ、そこを通過するべく最高速で只中に飛び込む。

え?巡航速度の方が小回りが利くって?バカ言うでねぇよ、その個別に分狙われる、軌道が読まれる可能性が上がって寧ろマイナスじゃい。

どんな速度であれ被弾のリスクは免れないなら、向こうに“とにかく弾幕を張り巡らせる”以外の対処法を許さない最高速での突撃が結局最適解ってワケだ。

『『『ヴォオオオオオオオオオオッ!!!!!』』』

《No, No No N……》

《Rapter-11 Lost!!》

《Shit, I'm hit!!》

さっき富佐隊長はこの弾幕に飛び込むことを“花火の中”と表現したが、真夏の隅田川や某夢の国の年末だってこれの激しさと比較したら泣いて土下座するに違いない。
新たな犠牲を知らせる無線からの悲鳴や爆発音をBGMに、獲物を狙う蛇のような軌道で予め目星をつけておいた火線の“隙間”をすり抜けていく。

『ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ン゛……………』

機械の起動音とも、汽笛とも、呻き声・唸り声とも区別がつかない、他の深海棲艦が発するものと比べてやや異質な重低音を【要塞】が発する。聞き方次第ではどこか間抜けなものにすら思えるソレの響きとは裏腹に、こっちに飛んでくる弾幕にはこれっぽっちの容赦も見られない。

量だけで言えば、【学園艦棲姫】が甲板上や両舷に展開している対空艤装からの砲火を含めても尚随伴艦隊のそれには及ばない。
だが、指揮系統が一個体で集約・完結できている為か、密度と統率においてはこちらの方が遥かに上だ。幻想の郷を舞台にした某弾幕ゲーのごとく【要塞】から広がる火線には隙間らしい隙間が殆ど無く、この中に飛び込むことは正直「危険」を通り越して「自殺行為」に等しく思えた。

|w#;´‐  ‐ノv「ッッッドラァクソがぁっっっ!!!」

「うぶぉ…………」

それでも私は、後部座席でくぐもった悲鳴が聞こえるのも構わず強引に弾幕の中へF-14Jを突っ込ませる。火事場の馬鹿力ってのはどうやら実在するらしく、有りもしない隙を血眼で探し当て無理やり繋いだ「路」を通り抜け、なんとか【要塞】の表面を射程圏に捉える。

《Damn………Sorry, I'm seced!!》

《I can't attack!! Retreat, retreat!!》

《This is Spear-08, I'm retreat……》

無論、自分で言うのもアレだがここまで辿り着くのさえ並みのヒコーキ乗りにゃ至難の業だ。
大半は圧倒的な砲火の前に付け入る隙を見い出せず空域からの離脱を余儀なくされ、残余27機の内突入できたのは私の他に富佐隊長とRaptor隊の隊長、各隊からそれぞれあと2機ずつと2個編隊にすら満たない。

《I'm hit………………いや、やだ!いやぁあああああああ─────》

その内1機の反応が、砲火に捕らえられてレーダーから消える。

………聴こえてきた被弾報告は、爆発音に掻き消された断末魔は、酷く聞き覚えのあるものだった。
だが、そのことに気を取られれば、次に“そうなる”のは私だ。意識から強引に締め出し、操縦桿を握る手に全神経を集中する。

|w#;´‐  ‐ノv「In gun range!! Spear-03 FOX-2!!」

ミ,,;゚ ゚彡《Spear-01 FOX-2!!》

《Target insight, Rapter-01 FOX-2 FOX-2》

《Rapter-16 FOX-2!!》

恋愛から甘酸っぱさを抜いてスリルショックサスペンスの濃度を500倍ぐらいにした十数秒。それが終わり超対空弾幕空域を抜ければ、そこには【学園艦棲姫】の横っ面が………とは、残念ながらならない。

『──────……………』

代わりに眼前に現れるのは、無数の爆光によって照らし出されて夕闇に浮かぶ、バカでかい“球”。

そしてその表面からあらゆる方向に伸ばされる、周辺の随伴艦隊に勝るとも劣らない分厚さの新たな弾幕だ。

《【Fortress】 awaken!!》

ミ,,;゚ ゚彡《Break, Break!! Attak of Allrenge!!》

深海棲艦で現在確認されている個体の一つ、【浮遊要塞】。
姫級や鬼級が周囲に随伴させているケースが非常に多い艦種(?)で、形状は艦載機の【オニビ】から耳と翼を取っ払ったような………まぁ端的に言うと球体だ。“船体殻”こそ身にまとっていないものの、甲殻それ自体の硬度は他の非ヒト型と比較して飛び抜けており、ミサイルや砲弾が一〜二発直撃した程度では大破にすら持ち込めないと聞く。

大きさは対象的に1.5mから最大でも2.5m程度だが、連中はほぼ確実に纏めて4〜5隻は現れる上にロボットアニメで言うところの“ファンネル”のような戦闘スタイルを取る。
その為、周囲を飛び回る【浮遊要塞】に本命への攻撃を遮られて歯噛みする艦娘や鎮守府関係者は後を絶たないのだとか。しかも連中自体も重巡と同程度の火力を持っているというのだから、尚更厄介極まりない。

………そう。実際に相対したことこそなかったが、私が知る限り【浮遊要塞】──或いは上位種である【護衛要塞】──の大きさは、デカくても2.5m。まぁ小さいとは言わないが、従来の非ヒト型と比較した場合通常種から見ても1/2程度にしかならない筈。

じゃあ眼前の“コイツら”は、なんだ。

銀を基調としつつやや錆びついたように薄っすらと赤みがかった体色、丁度中央部にある武装等を格納・展開するための開閉部、“姫級”の周りを漂う球体………何れも、全て以前資料で眼に通した【浮遊要塞】の特徴と一致する。

だが私が覚えている限り、資料上で“直径が実は推定300mである”とはどこにも書かれていなかったし、

『───────ン゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ン゛』

武装は開閉部に格納されている分のみで、体表に全域を覆い尽くすほどびっしりと対空・対艦火器が生えているなんて記述もなかった筈だ。

『ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ン゛……………』

機械の起動音とも、汽笛とも、呻き声・唸り声とも区別がつかない、他の深海棲艦が発するものと比べてやや異質な重低音を【要塞】が発する。聞き方次第ではどこか間抜けなものにすら思えるソレの響きとは裏腹に、こっちに飛んでくる弾幕にはこれっぽっちの容赦も見られない。

量だけで言えば、【学園艦棲姫】が甲板上や両舷に展開している対空艤装からの砲火を含めても尚随伴艦隊のそれには及ばない。
だが、指揮系統が一個体で集約・完結できている為か、密度と統率においてはこちらの方が遥かに上だ。幻想の郷を舞台にした某弾幕ゲーのごとく【要塞】から広がる火線には隙間らしい隙間が殆ど無く、この中に飛び込むことは正直「危険」を通り越して「自殺行為」に等しく思えた。

|w#;´‐  ‐ノv「ッッッドラァクソがぁっっっ!!!」

「うぶぉ…………」

それでも私は、後部座席でくぐもった悲鳴が聞こえるのも構わず強引に弾幕の中へF-14Jを突っ込ませる。火事場の馬鹿力ってのはどうやら実在するらしく、有りもしない隙を血眼で探し当て無理やり繋いだ「路」を通り抜け、なんとか【要塞】の表面を射程圏に捉える。

《Damn………Sorry, I'm seced!!》

《I can't attack!! Retreat, retreat!!》

《This is Spear-08, I'm retreat……》

無論、自分で言うのもアレだがここまで辿り着くのさえ並みのヒコーキ乗りにゃ至難の業だ。
大半は圧倒的な砲火の前に付け入る隙を見い出せず空域からの離脱を余儀なくされ、残余27機の内突入できたのは私の他に富佐隊長とRaptor隊の隊長、各隊からそれぞれあと2機ずつと2個編隊にすら満たない。

《I'm hit………………いや、やだ!いやぁあああああああ─────》

その内1機の反応が、砲火に捕らえられてレーダーから消える。

………聴こえてきた被弾報告は、爆発音に掻き消された断末魔は、酷く聞き覚えのあるものだった。
だが、そのことに気を取られれば、次に“そうなる”のは私だ。意識から強引に締め出し、操縦桿を握る手に全神経を集中する。

|w#;´‐  ‐ノv「In gun range!! Spear-03 FOX-2!!」

ミ,,;゚ ゚彡《Spear-01 FOX-2!!》

《Target insight, Rapter-01 FOX-2 FOX-2》

《Rapter-16 FOX-2!!》

ミサイルさえ撃ち落とされるほど圧倒的な密度の弾幕も、“懐”を取ってしまえば流石に射線転換が間に合わない。必死に狙いを合わせてくる高角砲や機銃座の抵抗を置き去りにし、AIM7-スパローが炸裂する。

【浮遊要塞】の表皮硬度がミサイルや砲弾を容易に通さないレベルであるというのは先程紹介した通りだが、照準変更や弾薬装填で多数の可動部を持たなければならない兼ね合いか“超大型”の表層に密集している艤装群についてはその限りではない。着弾箇所周辺で、幾つかの銃口・砲口が爆炎に吹き飛ばされた。

それが一気に6箇所で発生し、火線に空いた“穴”を埋めるためか一瞬【浮遊要塞】からの弾幕が緩む。その隙に改めて加速し、一気に上方へ、そして対空砲火の射程圏外へと離脱していく。

《突入チーム、残余全機の離脱を確認!》

《敵対空砲火此方を指向せず!後方より【黒鳥】による追撃なし!!》

ミ,,;゚ ゚彡《全機再集結、編隊組成を急げ!全周警戒を怠るな、【要塞】からの追撃はなかったが他の海域から呼び寄せて来た【黒鳥】が来る可能性もある!!》

富佐隊長の指示に従って、続々と合流した【Spear】と【Rapter】が素早く陣形を組み直しにかかる。

ミ,,;゚ ゚彡《All unit, report!! How many down!?》

《Rapter-01 for Spear-01, I report.

Rapter team, 03, 06, 10, 11, 13 is Lost. Spear team, 14 Lost.

End report》

嗚呼、嗚呼。やっぱりそうか。

スピアー編隊14番機。あの声は、あの悲鳴は、澄華のヤツだったか。

|w´‐  ‐ノv(ヒト様の想い人にあんな口聞くからだろ、馬鹿野郎め)

板橋澄華、航空自衛隊3等空尉で私と同い年。本人は「澄んだ華、まさに自分に相応しい名前だ」なんていつもふんぞり返っていたけど、私は聞く度に板橋区に住んでそうだなって感想しか浮かばなかった。

まぁ実際見てくれは中の上〜上の下程度だった一方で、容姿が派手なやつの宿命か異性関係じゃ度々よろしくない噂も立ってたな。
ブーンの写真を見せた時に「えー、意外といい男じゃん!私も狙おうかしら♡」とかカマしてきた辺り、強ちただの理不尽・偏見ってワケでもないだろう。

:: |w´   ノv ::(…………バカ、野郎、が!!)

それでも、悪いやつじゃなかった。

奴さんには中学ぐらいから付き合ってる男が1人いて、実のところソイツにゾッコンであることを知っている。
まぁ上記のセリフを吐いた時は顔面におにぎりを一つくれてやったが、こっちが本気で怒ってると解ると自分がやり返された事は全く顧みず涙目で謝ってくるような奴だったと知っている。
ゾッコンな彼氏くんについて指摘してやると、「そんなんじゃないし!!」と否定しつつ満更でもない笑顔を浮かべるようなあざとかわいい女だと知っている。
色目使って空自に籍をおいているなんて陰口叩かれてもどこ吹く風で、擦り切れるほど使い古した訓練生時代のノートを今でも隙あらば読み返す努力家だったと知っている。
こっちが奴さんより上の階級に昇格しても、「アンタの腕前なら安心して命を預けられるからとっとと佐官になってくれ」と屈託なく笑ってくれる奴だったと知っている。
こっちがブーンの事で悩んだり落ち込んだりしていた時に、「そんな隙見せてたら、他の女に取られるぞ!アタシとか!」なんて軽口叩きながら背中を押してくれる奴だったと知っている。

少なくとも、こんなところで死んでいい女じゃなかった。

骨一つ残らず、幼馴染の恋人の名前を叫ぶ暇もなく、またその顔を見ることも叶わずに殺されるような悪い女じゃあなかったんだ。

ミ,,゚ ゚彡《………Thanks》

やはり、澄華の死に思うところはあったのだろう。Rapter隊から“レポート”を聞き終えた富佐隊長の返答にも、幾分かの間があった。

何時も富佐隊長、富佐隊長っつって滅茶苦茶人懐っこいトイプードルみたいにくっついて回ってたもんな。アレも一部の連中から色目だの枕だの言われてたっけ。

富佐隊長は富佐隊長で「ワイルドな魅力がある」とかでそれなりに競争率が高いせいだろうけど……ソイツらが澄華みたいに“F-14Jの運用法について徹夜で富佐隊長と語り明かせる”ほど勉強してない限り、色目呼ばわりは嫉妬乙としか言えねえな。

ミ,,゚ ゚彡《All unit, Keep position. We'll retreat the Aircraft-Carrier》

《Rapter-01, Roger》

《Rapter-02, Roger》

《Spear-02, Yes Sargent》

|w´‐  ‐ノv《………Spear-03, Roger that》

それでも、実質的に2つの編隊を統率する身である以上、個人的な感傷で「死」に対する反応を変えるワケにはいかない。
Raptor側で落とされた5機のパイロット達だって家族や恋人や親友がいただろう。澄華と同じで、“ここで死んでいい”奴なんて存在しない。そうした面を配慮して、声の一つも震えさせず指示を出せる富佐さんはまさに自衛官の鑑ってやつだろう。

|w;´  ノv「……………………!」

ああ、そうだ。「死」はいつだって私達の隣りにある。人種も、職業も、年齢も、性別も、抱いている思いや決意も、何もかも考慮せず。究極的平等主義者の死神野郎は気紛れで命を刈り取っていく。

澄華は、こんなところで死んでいいやつじゃなかった。Raptorチームの五人だってそれは同じだ。それでも死んだ。ならば「次」が、私じゃない保証はどこにある?

ブーンの為に死にたくない。アイツを助けるため、アイツの「空」を守るために生きたい。誰のどんな想いにも負けないぐらい、私もまたそう強く強く想っている。
それでも、F-14Jの真下で高射砲の弾丸が炸裂すれば、何ら映画的な奇跡が起こるわけでもなく私は死ぬだろう。また突入を仕掛けた時に、そうならないと何故言える。

終わりが見えているならいい。だが実際には、6機もの犠牲を払って4つある【要塞】の内1つの、ほんの一部分の艤装を削っただけに過ぎない。随伴の深海棲艦は寧ろ交戦当初より増え、食い止めようと投入される艦娘艦隊には轟沈者も出始めている。
よしんばこれらを死物狂いで薙ぎ払っても、その向こう側にいる【学園艦棲姫】は世界最強の艦娘艦隊の総攻撃にMOABまで上乗せして尚未だ小破しかさせられていない。

あと何回、アレを繰り返せば私達は勝てる?あと何発、ミサイルを撃てば【学園艦棲姫】は沈む?

あと何回、私たちは生き残り続ければいい?

|w;´  ノv(こいつを、沈める………ブーンを………助ける………)

営倉を出され、【かが】を飛び立った時から、ずっと胸の内で繰り返し続けてきた言葉。絶対にやり遂げてみせると、胸に刻み続けてきた決意。







それが少しずつ、空虚で淀んだ響きになりつつあることを、私は認めざるを得なかった。

更新おつです
さぁ、盛り下がってまいりました(戦意が)
逆転劇は一度すべてを諦めてからが本番ですよね

.





「Spear-01より入電、【Fortress】への攻撃を完了も与えたダメージは極めて軽微とのこと!Rapterと併せて損失は6機、着艦・補給要請が届いています!」

「そのまま【チェスター・ニミッツ】へ着艦誘導!ニミッツ側には超特急で整備とミサイル補充を終えるよう指示を!!

クソッタレ、マーシャル方面の戦況確認も急げ!!余裕があるようならクワンジェリンから余りの基地航空隊を根刮ぎこっちに引っ張ってこい!!」

「【セオドア・ルーズベルト】より入電!第9空母打撃群、周辺の深海棲艦掃討を完了!これより当方に合流するとのこと!」

「丁度ベトナム空軍が2個編隊迷子になってるぞ、発艦する部隊と入れ替わりですぐに収容させろ!」

「【学園艦棲姫】並びに随伴艦隊の航行速度、低速状況を継続!各航空隊、遅滞戦術を維持せよ!」

「【ロナルド・レーガン】CICより【Shark Head】, 防空ラインの後退は許可できない。【回転木馬】を死守し【Black Bird】を引き続き食い止めてくれ………おい、ハワイの空軍州兵動員の件はどうなった!?本格的にフロントラインの損耗が看過不可能な段階になりつつあるぞ!!」

「既に州知事は同意しましたがここまでの距離を考えてください、F-16を常時最高速でぶっ飛ばしても単純計算で4時間かかるんですよ!?

補給や休養を考えれば最速でも戦線への合流は10時間後です!」

「【Fortress】への巡航ミサイル群による第三次飽和攻撃、失敗!全基撃墜されました、敵迎撃能力未だ健在!」

「グアム島第43基地航空隊、前線に到達。敵艦載機群と交戦開始」

「ASEAN各国政府より返答あり、海上戦力の投入は南沙諸島における人民解放海軍の動向から拒否された。繰り返す、ASEANは艦隊戦力の動員を拒否」

「ビスマルク海にて深海棲艦の出現を確認、総戦力15個艦隊強!現在カビエン、ラマ両鎮守府が迎撃中、同方面よりの戦力抽出は現時点では不可能です!」

《Wyvern teamが間もなく着艦する。整備士各位、補給と応急修繕の準備を怠るな》

(*^○^*)「アラスカ州が空軍州兵と鎮守府艦隊の投入を拒否した?」

「……………はっ」

怒号じみた報告の声と電子音がひっきりなしに飛び交い、これに定期的に流れる艦内放送も合わさってまさに“喧騒の坩堝”と呼んで差し支えないCIC。
そんな中にあっても、ポージー=ハメルスが発した疑問の声は、直立不動で彼の前に立つ士官の耳朶にしっかりと届いた。

別にポージーは、激高し声を荒らげたワケじゃない。寧ろ陽気であっけらかんとした言動が多い彼にしては、落ち着いた静かな声色での問い質しだ。

だが、細められた眼の奥で、両の瞳に宿る酷く冷たい光。

柔和で朗らかな、一見いつも通りの微笑みの中に紛れる明らかに異質な輝きを前に、士官──アメリカ海軍大尉・ガルシア=ポンセの聴覚は自然と極限まで研ぎ澄まされていた。

(*^○^*)「理由は?」

「…………ギルゼン=コールマン州知事は、ベーリング海に出現した深海棲艦に対応するため、と」

(*^○^*)「例の【防共協定】はベーリング海並びにアラスカ全域を対象としている。既に日露それぞれの鎮守府が艦娘部隊と基地航空隊を派遣して海域全体の掃討・索敵を開始しているはずだけど?」

あくまで平坦な、ただ“疑問を口にしている”に過ぎないポージーの口調。だが、烈火のごとく怒り今にも罵声を吐く寸前の上官に相対している時よりも、遥かに大きな「圧」がポンセの首を締め上げる。

「州知事曰く、“広大な海域故【不測の事態】に対応し得る予備戦力を残存させておきたい”とのことで」

(*^○^*)「ワイオミング州、ノースダコタ州、ネブラスカ州、これらの州軍による増援部隊はもう到着してる筈だよね?何のために【カーヴィル・ドクトリン】があると?」

口調は変わらずも、「圧」は更に増した。少なくとも、笑みの裏に隠された明確で激烈な怒りの影を感じ取れる程度には。
無論その怒りはポンセに向けられたものではないが、彼は自身が叱責されているがごとく生唾を飲み込む。

「お怒りは、至極御尤もです」

辛うじて絞り出した一言は、自分でも情けなくなるほどか細く、そして言い訳じみたものであった。ただポンセ自身の名誉のために添えるなら、これ自体は彼の非常に素直で正直な心情ではある。

ベルリン陥落の直前に結ばれていた、アメリカ・日本・ロシアの3ヶ国による対深海棲艦相互防共協定。
その内容は【オペレーション・オリョール】という“下地”の存在もあって極めて強固かつ具体的な防衛戦略要項となっているが、分けても綿密に練られていたのはベーリング海の防衛計画に関するものだった。

アラスカ州は成立に至る経緯もあってアメリカ本土から切り離されており、ベーリング海で再び大規模な攻勢が行われた際に沿岸防備が難しい。その為“有事”に際しては海上自衛隊が千島列島方面から、ロシア軍がカムチャッカ半島方面からこれを側面支援する形で展開し、ベーリング海全域の掃海・機動防御を行う手筈となっている。
一方でアラスカ州軍……取り分け空軍に関しては、「三軍全体での遊撃的予備戦力」と定義され、「作戦海域外の他方面において“有事”が発生した場合を含めたあらゆる事態に対して出撃する」ことが取り決められた。

要は、日本とロシアが──ベーリング海の制海権が彼らの安全保障にも直結するからこそとはいえ──自国防衛の戦力を割いてまで手厚くアラスカ州の守護を肩代わりする分、同州の航空戦力を両国で起きた“不測の事態”に対する予備戦力として扱うことを協定上で許可しているわけだ。

実際のところ、人類が保有する航空戦力の重要度は対深海棲艦戦闘においても低くはない。青ヶ島、ベルリン、ムルマンスクといった直近の大規模戦闘において上がった数々の戦果から、寧ろ増している面さえある。

だが、別段“替えが効かない”という程ではない。条件が揃った際に「極めて大きく一方的な戦果を得られる」という点は稀有ではあるが、あくまで“殲滅”に拘った場合の話。防衛・撃退に主眼を置いた場合基地航空隊や艦娘の艦載機で十分以上に対応は可能だ。

今回のケースでは、ベーリング海防衛に際し“潤沢”な戦力と言えるかはまだ解らないにしても、千島列島・北方四島には空自・海自に配備された膨大な基地航空隊が存在する。艦娘も練度が十分な分だけでも述べ20個艦隊前後を動員できる。
カムチャッカ半島からもロシア軍保有の基地航空隊に加えて“海軍”鎮守府が投入可能であり、完璧に防ぎきれるかは敵の規模次第にしろ少なくとも瞬時に制海権が奪取され上陸まで漕ぎ着けられることはほぼ有り得ない。

先に述べた【防共協定】の要項においてアラスカ州空軍の運用に対する“距離”の制約は存在しない。そして【学園艦棲姫】は、日露のみならずアメリカにも直接的な脅威となる。

また州知事が主張する“不測の事態”だが、まさしくそれに対応するため【カーヴィル・ドクトリン】────協定締結に際して立案された、新たな米本土防衛政策がある。

内容それ自体は

『深海棲艦関連の“有事”に際してそれが米国本土に脅威をもたらす時、内陸州の州軍や所属艦娘を沿岸州に派遣し防衛を強化する』

という言ってしまえば単純なものに過ぎないが、制定にあたりトソン大統領はドクトリン発動の「追認」を許可している。
これにより各州軍は深海棲艦の近隣海域出現と同時に発動指示を事実上“既に受けている”という体を取り、合衆国連邦軍指揮系統への正式な編入を待たずに各個の判断で即時行動を開始できる。

上げられた3州は何れもベーリング海方面で“要項”が満たされた時にアラスカ州への派兵が定められているため、【ドクトリン】に基づくならポージーの言う通り既に戦力移動が終わっておりアラスカ州空軍は事実上フリーに近い位置づけの筈だ。

つまり、今回のアラスカ州知事の判断はケチや臆病といった次元の話ではなく、純粋な“協定違反”と見做されかねない。
戦力面、戦術面、戦略面の何れから鑑みてもこの空軍州兵温存に正当性がない以上、少なくとも日米両国からすればそうとしか取りようはないだろう。

(*^○^*)「既に正式な“大統領令”も出たんだ。なら州兵の指揮権は【カーヴィル・ドクトリン】関係なしに連邦軍総司令部に帰属するはずだけど」

「州軍司令部は、“空軍の長駆派兵が作戦として適切であるか、またベーリング海における深海棲艦の浮上規模が【協定】発動に適切であるかを現在注視確認している最中だ”と回答を寄越しています」

(*^○^*)「ふぅん」

作戦に重大な支障を来しかねない事態に対する反応としてはあまりにも軽い、いっそ不真面目にさえ聞こえてしまう相槌。

しかしポンセは、ポージーの声が北極海に浮かぶ氷のように冷え切っていることを肌で感じとった。

(*^○^*)「これ」

「は?これは一体………」

(*^○^*)「コールマン州知事のスキャンダルデータ集」

数秒の沈黙の後、ポージーが無造作に投げ渡してきたのはUSBメモリ一つ。すぐに続けられた言葉によって、幸い疑問は殆ど間を置かずに解消された。

尤も混乱の度合いは、寧ろ聞く前より大きくなったが。

(*^○^*)「贈賄、不倫、不倫相手親族への州議会における便宜融通、大手建築会社との癒着、息子の薬物所持のもみ消し………不正・スキャンダルのコンプリート目指してたの?って聞きたくなるぐらい選り取り見取りなんだ。これをすぐに解凍・リストアップしてコールマンに送るんだ、これだけ熱心に“説得”すれば多分次は二つ返事で空軍を送ってくれるんだ。

あ、因みにこの大手建築会社、国外から不自然な資金流入があるんだ。その辺りのデータは別枠でまとめてあるからCIAとFBIの方に送っといて欲しいんだ」

「えっ、はっ、あの………はぁ!?」

(*^○^*)「ハイ、時間ない!すぐにかかる!!駆け足!!!」

「イ、Yes sir!!」

目を白黒させながら強引にCICの外へと送り出されたポンセと、入れ替わる形で男が1人入ってくる。彼──ジェイムズ=ウィーランド中将は走り去るポンセの背中を一瞥すると、何が起きたのか概ね察して帽子を目深く被りながらポージーの方を向き苦笑いを浮かべた。

「どうやら“大損”をされたようですな、閣下」
 _, ,_
(*^○^*)「全く持ってその通りさ、“親父”」

問いかけに応じつつ、ポージーは椅子に座り直し深く深くため息をつく。

笑顔をデフォルト設定しているなんて揶揄されるようなこの在日米軍司令官にしては珍しいことに、その眉間には深い皺が刻まれていた。

ポージーも決して若い身ではないが、ウィーランドは更にその歳を10近く上回り還暦を目前に控えている。だが、肩を並べて長年対深海棲艦の最前線に経ち続けてきた二人の間には、年齢や階級を超えた確かな友情が存在した。
故にポージーは親しみと敬意、そして彼の年齢を加味しても些か異様な落ち着きぶりへのささやかな誂いを込めて、彼を“親父”と呼ぶ。

そしてウィーランドは、ポージーがオフではなく公務の場で自分を“親父”と呼ぶ時は、彼が周囲に対して取り繕う余裕を失いつつあるのだと長年の経験で知っている。

(*^○^*)「コールマンは合衆国民並びにアラスカ州民にとっては史上最低クラスのクソッタレ野郎だけど、僕にとっちゃあこの上なく“やりやすかった”。

泳がされてるとも知らず寄ってくる利権を暢気に片っ端からつまみ食いし、結果奴は【誘蛾灯】になっていた。調査する度に新しい“スポンサー”がくっついてるもんだから、正直こっちが罠にかかってるんじゃないかと疑ったぐらいだけどね」

「まぁ、C.I.AやF.B.Iならいざ知らずまさか在日米軍がわざわざアラスカの州知事に身辺調査を仕掛けているとは思わなかったのもあるでしょうな」

(*^○^*)「在日米軍は別に日本だけにかかずらわってるワケじゃない。日本列島を【不沈空母】に見立てた上で、アジア全域の対深海棲艦………そして、“対共産主義”防衛線を死守するために存在する。

自然、そのアジアから“不審なお客さん”が母国に向かっているようなら目に付くさ」

だからこそ、ソイツらの雁首が揃ってからまとめて“刈り取り”たかった。そう言ってポージーは拳で軽く机を叩く。

それは彼の精一杯の忍耐であり、実のところ満身の力を込めた握り拳を叩きつけたかったであろうことは、ウィーランドも重々承知している。

(*^○^*)「だけど、もう“釣り”はここまでだ。コールマンは流石にやり過ぎた、ロスとサンディエゴの機体まで引っ張ってくることになりかねない状況で尚州空軍の出撃を渋るのは“釣り餌”として看過できるもんじゃない。

大方、奴さんがつるんでる環境保全団体と平和活動家連中に配慮したんだろうが、ライン超えだ。グルであろう州軍司令部共々叩き潰す」

一気にそこまで言い切ってから、ポージーはふと外を見やる。

視線が向けられているのは、水平線の彼方にいるであろう【学園艦棲姫】─────ではなく、その遥か手前。

この【ロナルド・レーガン】の数百メートル横を並走する、日本海上自衛隊所属のイージス艦・【こんごう】だ。

更新おつです

おつです
ポジハメ司令官のR.レーガンが健在ならレールガンも稼働できそうなのは希望ですね
次回は八頭身提督の回ですかね絶望的状況に心中いかばかりか

「…………まだ休んでおられないのですか、我々の“Admiral”は」

(*^○^*)「Japaneseの勤勉ぶりには頭が下がるんだ、本当に」

状況を察したウィーランドの言葉に、ポージーが肩を竦めながら答える。

口元に張り付く、わざとらしく片頬が上げられた歪んだ笑み。それはポージーの機嫌が、取り分け悪いときに決まって浮かぶものだ。

尤も、彼が来日以来贔屓にしているNPBのヨコハマを本拠地とした某プロ野球チームの試合があった翌日は多くの場合この表情になるため、ウィーランドを中心に在日米軍の上層部連中は実のところ割と見慣れているのだが。

その入れ込みようと来たら、一時は下士官たちの間で「マゾヒズムの遠回しな発散をしているのではないか」という噂が本気で議論され、真に受けた一部から除隊願いが相次いだほどだ。
ここ数年で相当マシな戦いができるようになるまでは、ウィーランドら上層部はこれらへの対応に余分な労力を割く羽目に陥ることがしばしばあった。

(*^○^*)「ハイ」

その“見慣れた表情”を崩さず突き出された紙束を、言われるままに受け取り目を通す。

第二次防衛線の崩壊から今に至るまでの、【学園艦棲姫】並びに随伴艦隊群・護衛航空戦力群との詳細な戦闘経過が書かれた報告書だ。

書き連ねられた文字列に目を通していくが、その内容は陰惨極まりない。

かなりの数を撃沈しているはずなのに、それを遥かに上回るペースで周辺海域から合流してくる敵増援。

不気味に、少しずつ、だが確実に広がり始めた【回転木馬】による包囲陣の半径。

棲姫の両舷に浮かぶ【要塞】どころか、圧倒的物量差の前に随伴艦隊すらろくに抜けず後退を繰り返す艦娘部隊並びに基地航空隊。

状況を打破するため果敢に防空火線の只中に突入し、被撃墜を重ねる連合空軍とそれに見合わぬ損害状況の【要塞】。

加速度的に激しさを増していく、他海域での深海棲艦による攻勢………いっそ“Hopeless”の一言で済ましてくれた方が、紙を無駄にせず済むのにと思わず嫌味の一つも飛ばしたくなる。

その気持ちを取り分け冗長するのが、最期の5ページ。全て、現時点でのK.I.A───戦死者のリストだ。

(ジェイソン、今度飯に行く約束はどうする気だい?ポーカーの負け分も踏み倒して行くとは………最期まで、君らしい身勝手さだ)

真っ先に目に飛び込んできた名前は、ウィーランドの同期でもあるアメリカ海軍中将・ジェイソン=シピンのもの。その下には彼が艦長を務めていた巡洋艦【Chancellorsville】の乗組員357名、次のページからは撃墜された連合空軍の各国パイロット達と続く。

この時点でも既に500は優に超えるが、加えて第一次防衛作戦においても人類側には相当な被害が出ている。
ニュージランド海軍の保有するフリゲート艦2隻、オーストラリア海軍の潜水艦2隻は全て轟沈。原子力潜水艦【Key West】も消息を絶ち、オーストラリアから投入された空軍機と“海軍”航空隊の戦闘機併せて40機超も全滅した。

全て併せれば、確実に1500人以上の死者となるだろう。現時点でコレならば、終わった時にこの数字がどうなっているかはウィーランドとしてもあまり想像したくない。

そもそも、果たして「終わらせられるのか」さえ怪しくなりつつあるのだから。

K.I.Aリストの5枚目、最後のページに書かれる名前。オーストラリア海軍の潜水艦【Farncomb】の“元”乗組員達の箇所から数行の空白を経て記されるそれらは全て、横に所属鎮守府と“艦級”が添えられている。

グレートバリアリーフの“海軍”鎮守府から派遣され、護衛についていた【Key West】と共に消息を絶った伊-400以下潜水艦隊5名。

タウイタウイ泊地から棲姫の進路上に投入され、敵の猛烈な艦砲射撃により全滅した加古、川内以下2個水雷戦隊12名。

………そして、今なお続々と東南アジア各地の“海軍”や海上自衛隊所属鎮守府から動員・派遣されてくる、艦娘の“増援”艦隊。

敷波、綾波、Z1、春雨、摩耶……日本の【特派府】や泊地であれ“海軍”鎮守府であれ、艦種も所属も練度も関係ない。吹雪と大淀などはもう2隻ずつ沈んでいる。

締めて、計23隻。前述した第一次防衛線の損害と併せて、実に7個艦隊近くが“轟沈”した。

(……たった一日、たった数時間で艦娘にここまでの損害が出るというのは、正直信じ難い数字だ。それも、“海軍”と日本所属の艦娘から)

例の【異常甲殻類】出現に際しては襲撃を受けた鎮守府関係者と共に艦娘も50人前後が“行方不明”となり、ベルリンの一件では米独仏の3ヶ国で“轟沈”が合計1000を超えると推測される。特に後者と比較すれば、一見その数字は特筆すべきものではないように見えるかもしれない。

だが、上記の2例はどちらも全く予期せぬ形で発生した奇襲攻撃による極めてイレギュラーなものであり、一概に単純比較できるものではない。現にオペレーション・オリョールやイツクシマ作戦、リスボン沖事変等近年で発生した大規模海戦においては、中大破艦こそ相応の数が出ているものの艦娘の轟沈は記録されていない。
鬼・姫級も多数確認された第二次マレー沖海戦でさえ、公式には“消息不明”扱いとなった【幻影】陽炎以外は全ての投入艦隊が生還している。

つまり、深海棲艦と“正面切っての艦隊戦”が行われた際に艦娘側で轟沈者が出ることは、皆無ではないにしろ本来なら極めて稀なケースだ。1つの戦場でここまで多数の轟沈が起きたとなれば、それは決して“軽微な損害”と割り切って良いものではない。

(*^○^*)「何が絶望的ってさ、ここまでの状況でも僕らにとっては“途轍もなくマシ”ってところなんだよね」

ウィーランドの内心を目敏く察してポージーが口にしたセリフは、全面的に同意せざるを得ないものだった。

対深海棲艦戦闘においても十二分に有力な存在である、最新鋭の巡洋艦や潜水艦。投入機どころか、アジア全域で人類が保有・配備していた総数に対して2割に届こうかという空軍機。それらに搭乗・乗艦していた、歴戦の操縦士達、乗組員達。

そして、小規模な鎮守府が2つ3つまとめて機能不全に陥るほど多数の艦娘達。

何れも、到底軽微な被害とは言い難い。特に連合空軍のパイロット達と艦娘達の喪失は、対【学園艦棲姫】のみならず今後の東南アジア全体での防衛計画に大きく暗い影を落とすだろう。

(いや……より厳密に言えば、防衛計画には既に影響が出始めている)

第三次防衛線構築のために近隣各所から文字通り掻き集められた、600隻超の艦娘戦力。【回転木馬】崩壊を阻止するために、ただでさえ残り僅かだった分を“根刮ぎ”に近い形で動員した人類保有の航空軍。
何れも、各海域・各国沿岸部で同時多発的に行われるであろう深海棲艦の攻勢に対応するため残されていた虎の子の防衛戦力だ。これを動かした結果珊瑚海、セレベス海、ビスマルク海、ソロモン海等周辺海域における人類側の制空・制海能力は著しく低下した。

現在大幅な縮小を余儀なくされた各国防衛圏には深海棲艦の別働隊が殺到しており、入ってくる報告を聞く限り戦況は「極めて劣悪」と判断せざるを得ない。

それでも………確かに、“最悪”は免れていた。本来なら愚策と呼ぶ他ない戦力移動を強いられ、深海棲艦による攻勢の更なる激化・多面化を誘発し、当座を仮に乗り切ってもアジア全体で防衛計画を見直さなければならないほどの犠牲を出し、そうまでしても此方が敵に与えられた損耗は──少なくとも“本命”に対しては──ごく僅かなものに過ぎない。
そしてポージーの言う通り、このような有様でも現在の状況は“途轍もなくマシ”なのだ。

何故なら、K.I.Aのリストに“彼女たち”の名前が乗ることを回避できたのだから。

「天に坐す我らが主の導きと慈悲を願わずにはいられませんな。“彼女たち”を逃がすため尊い犠牲を払った、連合空軍のパイロット達、基地航空隊の妖精達、そして艦娘達と【Chancellorsville】の乗組員達への格別な慈悲を」

命は平等である。自らの性質を善良と信じてやまない人々ほど、そんなお題目を絶対不変の理の一つとして度々口にする。

だがこの理は、最も多数の命が機械的に消耗される戦場でこそ当てはまらない。沈みゆく巡視艇を救うために原子力空母がその身を盾にすることは有り得ず、指揮官の死と司令部の壊滅を避けるために歩兵一個小隊が銃剣でル級に立ち向かい、対深海棲艦戦闘における効率差から十両の戦車より1人の駆逐艦娘の救援が優先される。
戦場とは、そういう世界だ。そもそも軍隊・軍人が戦場に赴く理由からして「銃後の民間人・国家を戦火の被害から守護するため」であり、「国家・国民>兵士・軍隊」という“命の不等号”の現れと極論言えなくもない。

そして、そんな事は長年の経験で重々承知しているウィーランドでも。現状のクソッタレぶりに、自身の不甲斐なさに思わず皮肉を飛ばしてしまう。

八つ当たりに等しい、無意味な皮肉を。

横須賀、青ヶ島、そして地………あの長ったらしくふざけた名前の“海軍”所属鎮守府。

この3鎮守府からなる“連合艦隊”が、現時点における「世界最強の艦隊」であったことは疑いようもない。個々の戦闘力、各鎮守府ごとの“一個艦隊”としての練度、“あの鎮守府”の那珂に至っては、現場での艦隊指揮においてさえ卓越した手腕を見せつけた。
それらによって挙がった戦果の羅列は、実際に彼女達の戦いぶりを目にしていたウィーランドをして一瞬現実性を疑ってしまうほどの凄まじさだ。【巨砲】と【亡霊】など、この二人だけで優に30個艦隊前後の敵艦を葬っている。

前後の第一次防衛線や今の防衛線と比較すれば、その突出ぶりはより顕著だ。前者は航空支援の量、後者は【浮遊要塞】の存在という大きな差異は確かにある。
だがそれを言うなら、“連合艦隊”の24隻に対して前者は2.5倍、後者は現時点で実に25倍もの艦娘が投入されている。随伴艦隊に関しても、後者が向こうの数こそ増したものの戦力比としては1:5に留まり、前者に至ってはその時点では随伴艦隊自体存在していない。

その上で、【学園艦棲姫】の完全な“足止め”を成し得たのは“連合艦隊”のみだ。それも、随伴艦隊も【浮遊要塞】という“奥の手”も引き出し、小破とはいえMOABの直撃による損害まで与えて。
第一次防衛線は碌な打撃すら与えられず容易く粉砕され、現在の第三次防衛線は遅滞こそなんとか行えているものの決して小さくない犠牲と引き換えとなっている。数的にはより過小な戦力でありながら最も巨大な戦果を挙げていた“連合艦隊”が殲滅されていれば、その悪影響は計り知れないものになっていただろう。

故に、“正しい”。ほぼ全員が大破状態にあり、そのまま放置していれば後数分と保たず殲滅されていたであろう彼女達を救ったことは、彼女達の生存と引き換えに、多くの犠牲、多くの屍を積み重ねたことは、どこまでも残酷で冷静で“正しい”判断と言える。

ただしそれは、あくまでも戦略・戦術・数学的観点に基づき“理性”のみで見た時の話。1人の人間としては、2つの“命”を天秤にかけて片一方に比重を置いた自分たちの決断は、多くのパイロット、艦載機妖精、艦娘たちに「死ね」と命令した事実は、強く重く心に伸し掛かってくる。

(恐らくはハメルス司令も同じ気持ちだろう、だからこそ見たこともないほど苛立っている。

………軍人としてある程度キャリアを積んでいる、私や司令ですら穏やかではいられない。ならば、元々一般人である“彼”は、尚の事強烈な心労を抱えているはずだが)

読み終えた資料のページを戻し、改めて目を通す。ウィーランドが再度開いた箇所は、第三次防衛線構築後の戦闘詳報。

言い換えるならそれは、各地から殆ど逐次投入に近い形で動員された艦娘達と、それらを指揮した“彼”───現時点におけるウィーランド達のAdmiral、ススム=ハットウの奮戦の記録だ。

ハットウとウィーランドの間に、この作戦が行われる前の時点での面識はない。だが、米軍関係者の間でもしばしば「Japanのアオガシマに凄腕の提督が一人いる」という噂は話題になっていた為、ウィーランドも彼の存在は元より認知している。

その上で、戦闘詳報を読んだ彼は思う。“噂以上”だと。

(オペレーション・イツクシマ一つ取って見ても、彼が尋常ならざる指揮官であることは容易く伺える。しかしそれは、あくまでも戦術レベルでの評価だ。………今となっては“だった”が正しいが)

第二次防衛線において敢行された、オペレーション・アイアンボトム。太平洋全域を作戦場とした挟撃や、【回転木馬】の大胆な応用を立案できる戦略眼。初見であるはずのミサイル型MOABや【ダゴン】を即座に作戦に組み込み、“特殊仕様プレデター”の大元の考案者であり、彼からすれば初対面で得体のしれない場所から突如として派遣されてきた艦娘への現場指揮権移譲すら躊躇なく行える高度な柔軟性。
戦略家としても、戦術家としても、間違いなく一級品の実力。仮に100年後の教科書で彼の名がハンニバル、ナポレオン、マンシュタイン、イソロク=ヤマモトと並んでいたとしても、ウィーランドは驚かないだろう。

今この瞬間も、そうだ。統一性のない艦種、ムラが大き過ぎる練度、広く分散した輸送機の到着箇所、何よりも“同一艦種の同一戦場における運用の禁”………汎ゆる制約により、600隻という戦力自体額面通りのものではない。にも関わらず、ススム=ハットウはその卓越した指揮能力を存分に発揮し寸手のところで戦線の瓦解を防いでいた。
それに対して払われた犠牲は、幾らかの航空戦力と“たった”4個艦隊分の艦娘に過ぎない。

第三次防衛線の構築が始まってからかれこれ4時間は経とうとしているが、彼の手腕が高い水準を維持している事は文字の羅列を眼で追うだけでも十分に解る。
寧ろ増援艦隊の第一波突入時に【列車砲】の一斉乱射によって一挙に8隻の艦娘が“轟沈”して以降損害は減少し続けており、その切れ味は増してさえいる。

(……裏返して言えば、それだけ彼に負担が集中し、今この瞬間も精神を擦り減らし続けているということだ)

他地域からの戦力増員や連合空軍の補給・再出撃などは、ウィーランドたち第7艦隊で処理している。だが、投入或いは再出撃後の実際の戦闘指揮は、ハットウがほぼ一手に担っているのが現状だ。戦場規模での戦術指揮と方面規模での戦線構築を、彼は“リアルタイム”で同時にこなしてしまっている。

一提督が本来指揮する戦力の何十倍もの艦隊の運用と、数十人の士官が脳をフル回転させて練り上げるような作業を、同時に。

“本職”の軍人であったとしても、明確なオーバーワーク。これを、数年前まで一般人に過ぎなかった男が背負っているという状況で、体力的にも精神的にも軽微な消耗の筈がない。

況してや、彼はあの性格だ。艦娘よりずっと脆い、指揮官である自身を平然と囮に使えるような、艦娘を“使って”戦うのではなく艦娘と“共に”戦うことを躊躇なく選べるような、過ぎた優しさと過ぎた勇気を違和感なく同居させる性格。そんな男が艦娘同士の命を天秤にかけ、片方を捨て駒にするような戦術を本来忌避するだろうことは想像に難くない。

それでも、彼は4時間に渡って逃げること無く采配を振るい続けている。恐らく早晩限界を迎えてもおかしくない、或いは限界を超えて尚指揮を続けている可能性もある。

………だからこそ、ウィーランド達第7艦隊の上層部は【こんごう】のCICに向かって再三再四要請を飛ばしていた。貴艦ニ搭乗中ノ提督ヲ速ヤカニ休養サセルベシ、戦線指揮ハ当方ニテ代理ノ準備アリ、と。なんとしても負担を軽減してやりたいという情もあるし、それ以上にこれほどの指揮官が完全な稼働不能に陥れば“連合艦隊”の喪失に勝るとも劣らない致命傷になりかねなかったからだ。

(幸い、父島艦隊を中核にかなり纏まった艦隊戦力がつい先程前線に投入された。敵随伴艦隊の拡大・流入もやや小康傾向が見られ、ハットウが直接戦線の指揮を取らなければならない意味は僅かに薄れた。しかし、これほど頑なな彼がこの程度の事で納得するだろうか………)

(*^○^*)「ところで、こちらの【要塞】についてはどうなっているんだ?」

「…………はっ」

難解な問題に答えを出せずにいる思考を遮った、ポージーの問いかけ。答えるべく顔を上げるウィーランドだが、その表情には先程までとはまた別種の困惑があった。

流石に、ススム=ハットウに及ぶとまでは言わない。だがポージー=ハメルスもまた卓越した軍才を持っていることは、間近でその手腕を見てきたウィーランド自身がよく知っている。

だが、そんな彼でも今回ばかりは疑いを持たずにはいられなかった。

あんなものが、本当に役に立つのかと。

「グアム島基地より今しがた入電があり、九割方稼働準備が完了していると。………しかし、アレを準備させた意味は一体何ですか?正直、【学園艦棲姫】のような化け物を食い止める力になれる存在だとはとても思えませんが」

(*^○^*)「それは見てのお楽しみさ。……さて、じゃあ概ね下準備も終わったし行ってこようかな。

後を頼んだよ、親父」

「指揮は私の方で引き継ぎますから構いませんが………このような時にどちらへ?」

(*^○^*)「何、ちょっとばかり勤勉過ぎるAdmiralと談笑でもしに行こうと思ってね」

椅子から飛び降りたポージーに尋ねると、何時もの笑みと共に彼は振り向きつつそんな答えを返してきた。

顔のすぐ横で、固めた握り拳をヒラヒラと揺らしながら。








(*^○^*)「アンタから教わったことなんだ。頭に血が上ったやんちゃな若造の暴走を止めるには、結局年長者の拳が一番効果的だってね」

更新乙です
今年もよろしくお願いします

って、この状況でレーガンからこんごうに移動とかできるんですか?

.








僕に、力が足りなかったから。

MOABで仕留めきれる、大損害を与えられるという見立てが甘かったから。
【回転木馬】の【黒鳥】に対する有効性を過信しすぎていたから。
日向さんと那珂さんに現場指揮を委ね過ぎ、彼女達の負担を十分に軽減できていなかったから。
深海棲艦にとってアレがどれ程重要な存在であるかを、認識しきれていなかったから。
棲姫が“奥の手”を隠していたことを、読めていなかったから。
このまま【列車砲】を等間隔で放ち続けると思い込んでいたから。
僕の軍人としての才が至らなかったから。

だから、第二次防衛線は崩壊した。
多くの連合空軍のパイロットたちが犠牲になった。
熟練の基地航空隊が、艦載機妖精達が失われた。
【チャンセラーズビル】は轟沈した。

だから、龍驤さん達をあんなに傷つけてしまった。

だから、23人もの艦娘を、これだけ多くの人たちを“殺して”しまった。



全ては、僕の責任だ。

視界が歪み、色を失うほど辛く重い現実。

だけどそれらは、既に“起きてしまった”ことだ。

どれほど強く悔い、嘆こうとも、状況は変わらない。僕の力量が突然爆発的に跳ね上がるわけでも、【学園艦棲姫】が消えてなくなるわけでも、死んでいった人達が生き返るわけでもない。

龍驤さん達の回復が早まることも、沈めてしまった艦娘達も戻ってくることもない。



ならば、どうすればいいか。僕に何ができるのか。
幸いなことに、その答えだけははっきり理解できている。




「“海軍”ロスパロス泊地より新たに2個艦隊が戦線に合流!現在戦闘海域から南方120km地点に搭乗の輸送機が到着しています!」

(;´Д`)「更に40km程前進した後の降下を!【学園艦棲姫】進路上の戦力は徹底的に厚く!!」

「父島鎮守府・扶桑指揮下南方艦隊群、補給拠点の確保と再集結を完了したとのこと!」

(;´Д`)「現在位置を固守・厳戒しつつ敵艦隊の動向確認まで待機を!付近の艦娘、或いは基地航空隊から発艦可能な彩雲があれば投入して扶桑さんたちの前面哨戒をさせるように!

扶桑さんたちの出現・前進によって棲姫の北西と南西の防備が薄くなるはずです、航空隊の突入経路を至急策定、【Shark Head】に共有してください!!」

「“海軍”マスバテ島鎮守府、バブヤン島【特派府】混成艦隊より入電!棲姫東方距離65km地点において艦隊群規模の深海棲艦と遭遇!艦種に戦艦水鬼の存在を認む!」

(;´Д`)「その付近にボアク島泊地とラバウル米軍基地の連合艦隊が居たはずです、速やかに位置情報を送信し合流指示を!

さっき展開完了した第9空母打撃群に基地航空隊発艦要請!漸減攻撃にて敵の足を遅滞させる!!」


戦い続けることだ。

現実は変わらない、過去は戻らない、罪は消えない。
ならば結局、前を向くしかない。今できることに全力を尽くすしかない。

今僕にできることは、戦うことだけ。

ここは戦場なのだから。僕は提督で、この戦場の指揮官としてここにいるのだから。

「ネグロス島統合艦隊旗艦・陸奥より入電!右方35km地点より【学園艦棲姫】並びに随伴艦隊の低速状態維持を視認計測するも敵艦隊からの猛攻により損害大!陸奥、リベッチオ、ヴェールヌイ、深雪が大破!」

(;´Д`)「棲姫とすれ違う形で南方に全速力で離脱を!さっき70km地点から追尾を開始させた空母機動艦隊に通達、撤退支援の爆雷撃開始!」

「【こんごう】CICより蒼龍並びにサラトガ、ネグロス島艦隊の離脱支援急げ!艦載機全機発艦されたし!」

「近隣の基地航空隊にも位置並びに敵艦種情報の送信を完了!了承のモールス受信しました!」

(;´Д`)「右方面、リアウ統合艦隊を突出させてネグロス艦隊の撤退支援を!

正面艦隊からも艦載機を発艦、また全艦に前進の“素振り”をさせてください!総攻撃・挟撃を“匂わせる”だけでも向こうの警戒を誘発できるはずです!!」

自分のせいで死んだ人たちが、沈んだ艦娘たちがいるという事実を直視しろ。現実から逃げるな。責任を他人に押し付けるな。

その上で“努め”を果たせ。感情を捨てろ、思考の全てを眼前の戦場に回せ。最善の策を模索し続けろ。

「ベトナム空軍、一個編隊が【要塞】への突入時に全滅しました!」

「右方戦闘域、バブヤン島基地航空隊全妖精との通信が途絶!!」

「同島特派府艦隊より入電!所属駆逐艦の浦風が轟沈!繰り返す、バブヤン島特派府の浦風が轟沈!!」

まただ。

また僕のせいで死んだ、沈んだ。

次だ。

次こそは、誰も死なないような「完璧」な指揮をしなければ。

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(;´Д`)「浮遊要塞への攻撃は一時射程外からのミサイル攻撃のみに変更、牽制だけ継続!

その分戦力投入を減らして【回転木馬】を増強!【黒鳥】の進出を防いでください!!」

「CICより基地航空隊カタパルト、第2航空群が間もなく帰還する!第1航空群、全妖精速やかに発艦用意に移れ!」

「【カーティス・ウィルバー】基地航空隊より入電、前方50km地点にて当艦隊へ接近中の敵水上打撃艦隊を認む!旗艦に重巡棲姫、また戦艦ル級2隻が何れもFlagshipです!!」

(;´Д`)「予備の99式艦爆隊を出現座標に投入!護衛は対空警戒に出している航空隊から燃料に余裕のある機を捻出するよう各艦CICに要請を!!」

「コロニア特派府艦隊・皐月より入電!敵航空隊の猛攻を受け同艦隊を含む2個連隊が損傷拡大中、至急の航空支援が必要とのこと!」

(;´Д`)「【要塞】への攻撃予定だった連合空軍の戦闘機から一部回すよう【Shark Head】に連絡!それと同方面で空母艦娘から上げられる艦載機を順次発艦させてください、随伴艦隊に肉薄し牽制とします!!」

「ネグロス島艦隊より更なる緊急連、旗艦・陸奥が敵潜水艦隊の一斉雷撃により轟沈!!重雷装巡洋艦・木曽、指揮権を引き継ぎました!!」

水上乱戦での潜水艦隊による強襲・奇襲、確かに効果的な策だ。

故に、読めていなければならなかった。また、犠牲を出してしまった。

コレじゃダメだ。もっと、もっと完璧な指揮を取らないと。

(;´Д )「ハープーン、トマホークによる射撃対象を【浮遊要塞】からネグロス艦隊近辺の敵随伴艦隊群に変更!非ヒト型を優先射撃、進路解放を急げ!航空支援に爆雷装備機を増量投入、周囲海域のみならず退路上における対潜警戒を厳と為せ!」

「【Shark Head】より入電、【黒鳥】による【回転木馬】への突貫・襲撃が急速に増加中!構成している連合空軍機の被害拡大!」

(;´Д )「対空火力に特化した一部の艦娘を特に【回転木馬】で激しい攻撃を受けている箇所の前方に展開、弾幕射撃にて進路塞げ!」

「【そうりゅう】より入電、深海棲艦の対潜部隊に補足された模様!急速潜航開始、暫く当方との連携不可能と見られます!」

「【学園艦棲姫】、甲板上より【列車砲】発射!!弾着地点直下にあったルソン島第17特派府艦隊、酒匂以下全艦の信号が消失しました!!」

まただ。次。

(; Д )「【列車砲】の照準方位を再測定、周囲各艦隊に共有の後射線上からの離脱指示を!」

「了解!射角変更の報告なんてなかったぞクソッタレ、連合空軍の連中何見てやがったんだ!?」

「無茶言うな、奴さん方は【黒鳥】と絶賛交戦中………畜生、当艦隊10時方向に新たな敵艦隊の浮上を確認!水雷2個艦隊、35km地点より急速に接近中!」

「【あたご】から基地航空隊が発艦、迎撃に向かう模様!」

「“海軍”バシラン島鎮守府艦隊より入電、同艦隊の涼月が轟沈!対空砲火により撃墜した【黒鳥】数機の一斉特攻を受けた模様!」

……次だ。次こそ、犠牲をなくさなきゃ。

「第9空母打撃群より緊急電!!同艦隊側面より【黒鳥】による強襲特攻が発生!特攻は【ジョン・フィン】に直撃、同艦が大破炎上中とのこと!!」

次。

「ビアク島“海軍”鎮守府艦隊より入電!前衛からの退却中に【戦艦棲姫】を旗艦とする敵艦隊群と遭遇、これを後退せしめたものの既に損傷甚大だった重巡洋艦・熊野が轟沈したと………!!!」

次。



おかしい。

僕は別に眼を瞑ってるわけでもないのに、眠りこけられるはずもないのに、何故か周囲の景色が見えない。
3歳児がパレットの上でぶち撒けられた絵の具を掻き回した後のように、混ざりあった様々な色だけがぐるぐると回り続けている。

まぁでも、大きな問題はない。周辺の海図は頭に叩き込んであるし、耳は正常に機能してる。大丈夫、僕はまだ戦える。

「左方の【回転木馬】にて【黒鳥】による強襲が発生!Shamrock第3編隊、全機が通信途絶!!」

まただ。次こそ、“数字”が増えないようにしないと。……あれ、でもなんで増えちゃダメなんだっけ。

「ヤペン島“海軍”鎮守府艦隊より入電、旗艦・霧島が大破!退却に移るとのこと!!」

轟沈にばかり眼が行きがちだけど、ほぼ完全な離脱を余儀なくされる大破の急速な増加も由々しき事態だ。これ以上“駒”が減れば、本格的に防衛線の維持が難しくなる。……あれ、“駒”って何のことだっけ。

ダメだ、ダメだ、ダメだ。

意識をしっかり持て。余計なことは考えるな。戦い抜け。

僕は、この戦場の指揮官なんだから。日本の国防を担う盾なんだから。深海棲艦と戦う軍人なんだから。

「八頭提督」

(;# Д )「今度はなんですか!!!!」

「青ヶ島鎮守府、指揮官代理の小栗三等海佐より緊急連です」



この艦隊の司令官、提督なんだから。








「同鎮守府を含む【海上機動迎撃網】に対し、近海に出現した深海棲艦による大規模な攻勢が開始されました。

現時点での総兵力は数個艦隊群程度ですが……これは恐らく、総戦力の“ごく一部”と思われます」


しっかり、しなくちゃ。

更新おつです
八頭身提督もう半分寝てるじゃないですか
ポジハメ司令はやく来てくれー

.






─────同時刻・青ヶ島沖、鎮守府より東南120km地点






「用意、用意、用意……降下、降下、降下!!」

代わり映えしない景色が続く海原において、腕時計は時間を計る装置としてだけではなく道標としての役割も担う。長針がカチンと小さく揺れて目標地点への到着を示すと同時に、私は機内に向かって叫び夜の海へと身を躍らせる。

「お世話になりました!」

律儀な浦波ちゃんのそんな声を背に、着水。即座に艤装を展開・稼働させつつ振り向けば、他の三人………浦波ちゃん、曙ちゃん、三隈さんの降下を知らせる水柱が上がっていた。

《比叡以下全艦娘の投下完了を確認!帰還する!》

私達をここまで乗せてくれたS-76-シコルスキーが、海面ギリギリの位置から一気に高度を上げ反転し鎮守府へと戻っていく。

両翼で残り8人の“投下”を行った他の2機も無傷で離脱しているところを見るに、皆ちゃんと降りることができたみたい。

「旗艦・比叡より【第一連隊】各位、第3警戒航行序列編成急げ!こっちの空母や基地航空隊は数が圧倒的に少ない、私達自身でどれだけ削れるかだよ!!」

《《Engage!!》》

無線越しに指示を飛ばす中、ジェットエンジン音を残して頭上を過ぎ去っていく銀影2つ。

今しがた私も口にした【海上機動迎撃網】の実情を鑑みて、文字通り航空戦力が払底している本土からそれでも横須賀が手配してくれたF-16戦闘機だ。

接敵とほぼ同時に行われる、雲霞の如き航空戦力の大規模投入。
今や“朝の起き抜けに飲むホットコーヒー”と同レベルの、殆どルーティーンと化したそれはこの戦場でもしっかりと実行された。

『『『─────…………』』』

《Target insight. Shield-01 FOX-2!!》

《Shield-02, FOX-2!!》

数十キロ先で水平線の彼方より湧き出すようにして現れた、周囲を覆う闇夜とはまた質が違う“黒色”の塊。
聞き慣れた、聞き飽きたレシプロエンジン音を撒き散らしながら迫るそれを、F-16は真っ向から迎え撃ちミサイルを放つ。

『『『…………ッ!!!』』』

《Hit!! Enemy have damage!!》

《Keep Fire, Keep Fire!! Shield-01, FOX-2!!》

《Roger, Shield-02 FOX-2 FOX-2!!》

彼岸花の如く艶やかに咲き乱れる爆炎。だけど、F-16の攻撃はそこで終わらない。
もう2発ミサイルが叩き込まれ、更に多くの敵機が焼き払われる。抉じ開けられた穴に、敵の攻撃射程ギリギリまで踏み込み機銃掃射を深く深く突き刺す。

立て続けに発生した大きな損害で、“塊”が揺らいだと遠目にも解った。

《よし、崩したぞ!》

《Shieldチーム、帰還する!基地航空隊、後は頼んだ!!》

〈〈〈オマカセアレェエエ!!!〉〉〉

艦娘と“提督の資質”を持つ人間にしか、妖精さん自体の姿は見えず、声は聞こえない。
それでも、高らかに猛々しく打ち鳴らされる無線の「ト」連送は、きっと彼らのもとにも届いただろう。

〈トツレ、トツレ、トツレ!!!〉

〈〈〈アラホラサッサー!!〉〉〉

踵を返し戦場から離脱していくF-16とすれ違う形で、鎮守府から飛来する基地航空隊。零戦の21型と52型を主力とした上で、在日米軍からのレンドリースという形で直前に配備された“グラマン”を数個編隊交えた50機程が猛然と“塊”へ突っ込んでいく。

『『『!!?!!?!???』』』

〈ヨッシャア、イチバンヤリイタダキィ!!〉

〈ナンノ、ゲキツイオウハコンカイモオレダゼ!!〉

近現代の音速戦闘機とレシプロ機、比較的近い距離からの飛来とはいえ速度は雲泥の差だ。だけど今回は、その速度差が却って功を奏す。

深海棲艦の航空群が既に立て直しつつあった故にこそ。散開状態から再集結を終えていたからこそ、今一度攻勢に移らんと“塊”全体が前のめりになっていたからこそ、その出鼻を挫く強襲は強烈な効果を発揮する。

“塊”の表層を抉り、奥深くへと踏み込み、内部より食い破り引き裂く。瞬く間に再度四分五裂した敵機群を、零戦が、グラマンが、次々と喰らい屠っていく。

陣形を崩し、大きな出血を強いることに成功した。鮮やかな戦果と言っていいと思う。

でも、この優勢が長続きしないことは私でも解る。向こうの航空隊は確かに総崩れに陥り相当な撃墜数も出しているけど、尚規模は少なく見積もってこっちの10倍強。後続戦力だってきっと無尽蔵に近いだろう。
対する私達の側は、【学園艦棲姫】を止めるために八頭司令と龍驤さん達第一・第二艦隊のほぼ全員、お姉様の名を冠したイージス艦【こんごう】等主戦力の大半が出払っている。航空戦力も、基地航空隊については今し方交戦を開始した50機ちょっとで打ち止めだ。

合流する友軍艦隊の編成の都合から“一軍”の1人である瑞鶴ちゃんが残ってくれているのは不幸中の幸いだけど、向こうの物量を加味すると焼け石に水、だよね。

「三隈より臨時総旗艦・瑞鶴へ!第一防衛線、全艦の着水を完了しましたわ!」

《瑞鶴より三隈、第二防衛線も展開済み!接敵まで現陣形を維持せよ!》

《こちら磯風以下【第三連隊】、防衛線の構築を完了した!臨時旗艦、指示を乞う!》

《【第一連隊】同様“三形”にて待機!対空警戒を厳と成せ、どっから敵が湧いてきてもすぐに対処できるように索敵の徹底を!》

《足柄了解!水偵の発艦を開始させるわ!》

《鬼怒了解!索敵に移ります!》

《こちら【第四連隊】鳳翔、指示を把握いたしました。之より彩雲隊を南西方面の索敵に当てさせていただきます!》

《【第五連隊】より給油艦・速吸、微力ながらお力になります!瑞雲、全機発艦始め!》

『『『─────ッ!!!!』』』

〈ッ、チィ!!サスガニタゼイニブゼイカ!!〉

矢継ぎ早に無線が飛び交う中、前方の“塊”がゾワリと動きを変える。

逸早く隊形の再構築を終えた後方の編隊が、散々に突き崩されていた前衛群と入れ替わる形で前へ。一方的な“狩り”ががっぷり四つの“戦闘”に推移し、反撃を開始した編隊を軸に航空群全体が急速に統率を取り戻す。
敵陣深くへと斬り込んでいた基地航空隊が、膿が絞り出されるようにして“塊”の外へと押し出されていく。

〈テッキグンサイヘン、ヤクナナワリカンリョウ!コノママデハコチラガコンドハクズサレマス!〉

〈シオドキカ!キチコウクウタイゼンキ、コウタイス! 【ダイイチレンタイ】ノブウンヲイノル!!〉

攻勢限界に達した妖精さんたちが、“塊”に最後の一撃を加えた上で隊列を組み直しつつ一斉に反転する。敵もそれを追撃するけど、当然その進路上にいるのは……………私達の艦隊。

「──────ふぅっ!」

短く、息を一つ吐く。これから激しく絶望的な戦いが始まろうって言うのに、焦燥や恐怖は意外なほど感じない。

その代わり脳裏に浮かぶのは、ある男の人の…………私達の、司令官の姿。

「能代より比叡、敵航空隊の陣形転換を視認!目標を基地航空隊追撃からこちらへ切り替える様子!」

「比叡より連隊各艦、陣形を維持!三隈、高雄は主砲三式弾装填急げ!」

「高雄、了解!三式弾装填!!」

「三隈、三式弾切り替え終わりましたわ!」

初めは、ただの“上官”でしかなかった。

青ヶ島鎮守府が作られる前、東南アジアにおける制海権奪回作戦の真っ最中に彼の下に配属されたのが司令との顔合わせ。
当時は彼自身も“民間出身ながらかなりのキレ者がいる”と噂になっていた程度で、任されている艦娘は私が加わったことでようやく一個艦隊分。あくまで呉司令府所属の提督の一人という立ち位置に過ぎない。

何なら、私個人の印象だけで言えば“ただの上官”よりもう少し悪かったかもしれない。金剛姉様はいないし、榛名も加入はもう少しあとだった為金剛型としては一人ぼっち、おまけに栄えある大日本帝国海軍の戦艦ともあろう自分が、ナヨナヨとした外面の一般人の指揮下。
ボイコットこそ流石にしなかったけど、穏やかではなかった心中を割と我慢せず司令に対しての態度で出してしまっていた自覚はある(その結果轟沈を覚悟するほど龍驤さんにシメられた)。

「接敵まで120秒!敵機群散開運動に移る!」

「比叡より高雄並びに三隈、射角50度にて照準調整!合図あり次第三式弾一斉射!!

駆逐、軽巡各位は射角30度〜水平にて弾幕射用意、急降下爆撃並びに雷撃への警戒を厳と成せ!」

いつ頃からだろう、司令の下で戦い、司令の力になれることを幸せと思うようになったのは。

いつ頃からだろう、任務や使命のためではなく、ただ“彼のため”に戦うようになったのは。

「接敵まで60秒!!また、航空群の後方に深海棲艦の艦隊も目視!!約10個艦隊、急速に接近中!!」

「【第一連隊】各位、固守態勢崩すな!!不惜身命の覚悟を以て戦線を維持!!」

………いつ頃からだろう、

「青ヶ島を、私達の鎮守府を死守せよ!!!」

司令の隣に居るのが、私だったらと思うようになったのは。

無論、バカな私でも解っている。司令官の隣は、今や“あの人”の指定席だって。“あの人”と司令官の間に、私が入れる隙間なんて1ミリもありはしないって。

それでも、私はバカだから、できないんだ。戦いもせず、ただ諦めるなんて。

(………龍驤さんには、恋も、戦いも、負けません!!)

大丈夫、貴方の想いに横槍を入れるような事はしないから。

大丈夫、人一倍艦娘のことを思いやってくれる貴方を、困らせるようなことはしないから。

だから、せめて。

「敵航空群、射程圏到達まであと10秒!!!」

もしも私が頑張り続けていれば、戦い続けていれば、いつか貴方が振り向いてくれるかもしれない。それぐらいの、ありもしない期待を胸に懐き続け、“負け戦”を最後まで戦い抜くことぐらいは、許してほしい。

私、頑張るから。

『『『─────────!!!!!!!』』』

「敵機群、射程圏に到達!!」

「全艦、撃ち方ぁ………始めぇえええ!!!」

貴方のために、きっとここを守り抜いてみせるから。だから、




「青ヶ島鎮守府艦隊・金剛型2番艦、比叡!!

気合!入れて!!行きます!!!」

………見捨てないでよね、司令官。

.




「おぉ〜〜〜………本っ当に気合入ってるなぁ」

三式弾に続いて空を埋め尽くさんばかりに撃ち上がる、艶やかにして苛烈な対空弾幕。【第一連隊】に殺到した敵航空群が碌な接近すら叶わず焼き払われていき、その光景に思わず感嘆の声が漏れる。

一航戦のアンチキショウじゃないけれど、まさに“鎧袖一触”だ。

(まっ、比叡さんもこの鎮守府じゃあ古株の1人だからねぇ。素の性能に練度、そこに“キラ”まで乗っかればあれぐらいはできるか)

本来、兵器や乗り物に精神論を唱えることほど無意味なものはない。百戦錬磨の熟練兵が扱った際に弾丸の飛距離が伸びたり連射速度が早まりはしても、それらは経験則と実証が下地に存在するれっきとした「科学・物理学」の話だ。どれほど気合と殺意を込めて天に向かって突き出そうが、遥か上空を飛んでいくB-29を竹槍で落とせはしない。

ただ、私達艦娘について語る際は、しばしばこの“常識”が覆る。

飛距離、貫徹力、装填速度、精度などで、物理法則や本人の練度だけでは到底説明ができないような振れ幅が見られた。爆破範囲、弾速、航行速度、物資・弾薬・燃料の積載可能量、旋回性能、装甲値といった、本来技術ではどうにもならない所謂“カタログスペック”の数値に大幅な変動が計測された。
私達の肌感覚じゃない、戦場から多数の報告を受けた防衛省技研が存在の“実証”を終えている。

これらの現象が、直近の戦績、提督・同僚との関係性、疲労度、艦隊における姉妹艦の有無などに伴った艦娘の「精神状態」とほぼ比例的に連動していることも含めて。

どれだけそれらの数値変動が顕著であったかは、当時既に“実装”されていた間宮さん、伊良湖さんによる甘味処並びに鳳翔さんによる酒処の常設、それができない警備府・特派府・小規模な鎮守府は所属艦娘への積極的な娯楽提供が国会審議を通し各提督の“義務”として法制化されていることから概ね察してほしい。

年寄り臭いことは言いたくないけど、防衛費の一項目に【対艦娘嗜好品提供費】や【ハロウィン・クリスマス他各種イベント開催費】、果ては【お年玉予算】なんてものが大真面目な顔で鎮座しているのはちょっと隔世を感じちゃうわね。

精神状態良化・高揚に伴う艤装性能限界突破現象───という正式名称は長ったらし過ぎるので“キラ付け”なんて俗称がつけられたこの状態は、駆逐艦娘が戦艦棲姫を沈めるほどの劇的な効果さえ時としてもたらす。故に各鎮守府、特にここを含めた【海上機動迎撃網】の構成府や最前線である東南アジアの特派府・泊地群はその維持に腐心している。

そして実際、眼前の比叡さんの暴れぶりを見ていれば関連事案を法制化するほどの重要視ぶりも納得だ。あくまで数値的には榛名さんに対空性能で遅れを取り、噴進砲や電探連動型の高角砲等の特殊装備もなし、三式弾だって改装前の通常型。
にも関わらず、比叡さんは殆ど単艦に近い状態であの大編隊を押し返しているのだから。

(使い古されたクッッサイ台詞だけど、“愛は地球を救う”ってのも強ち嘘じゃないかもね)

かつて大日本帝国陸海軍の勇士たちは、日々苦境が深くなっていく中でも闘志を衰えさせなかった。彼らの背を支え続けたのは、祖国日本に対する巨大な「郷土愛」だった。
ナチス・ドイツの親衛隊は、最早敗戦が避け得ぬものとなって尚最後の一兵卒に至るまで戦うことを辞めなかった。彼らを突き動かしたのは、“総統閣下”に対する最早狂信と呼んでも違和感のない「敬愛」だった。

何れも結局【精神論】の域を出ず、米帝の軍事力と露助の物量の前に抗しきれず磨り潰された。だけど、もしこれらが私達の“それ”のように数値的かつ物理的な影響力を持っていたなら、大東亜戦争や欧州大戦の勝敗さえ入れ替わっていたかもしれない。
そう思わせてしまうほど劇的で激烈なのよ、“キラ付け”の効果って。

「対空電探に感あり!南東並びに東方より新たな敵航空隊の接近を確認、接敵まで一二〇秒!」

《鳳翔より臨時総旗艦、南西にても彩雲隊が複数箇所で敵航空隊を確認したとの由。飽和攻撃を受けないよう、迎撃隊を発艦させての遅滞戦法を具申いたします》

〈サイウン5バンキヨリボカンドノ、ワレ、セイホウ200キロチテンニテテキ[クウボキドウカンタイ]ヲホソクス!

カンサイキジュンジハッカンチュウ、チュウイサレタシ!!〉

……っと、ガラにもないことをツラツラ考えてる場合じゃないわね。

「接敵した彩雲隊については順次離脱・帰還!残りの彩雲隊は引き続き警戒、接敵後は敵所在地と規模を連絡後母艦ではなく青ヶ島鎮守府へ直行されたし!!」

今は、目の前の戦場に集中しないと。

かく言う私自身はといえば、無論提督さんのことを憎からずは思っている。とはいえそれは龍驤さんや比叡さんのような恋慕ではないし、妙高さんが抱いている世話焼き的な母性(……或いは野次馬根性)とも違う。
榛名さんや大鳳ちゃんがよく口にするその力量に対しての「敬意」と、“かわうち”の悪友的な「友情」、その中間というのが多分一番近いかな。

では二人と比較して、私のこの戦いに対する覚悟や決意は弱いのか?…………そう問いかけられれば、胸を張り、声を大にして言える。

“否”、と。

「南西の敵航空隊への対処、軽空母鳳翔の具申を採用!スロット1、2の制空隊を全機発艦させ迎撃行動に移れ!

補給艦・速吸、瑞雲隊を一時収容し再集結並びに補給!鳳翔のスロット3航空隊と併せて予備戦力とせよ!」

《了解です!!》

《了解いたしました》

「瑞鶴より【第四連隊】千歳、“彩雲枠”を除く全スロットの航空隊を発艦!先行し東方よりの敵航空群を総力を挙げて迎撃せよ!」

《軽““ 空 母 ””千歳、指示を受諾しました!マリアナのようにはいかないわ、だって完全にク・ウ・ボなんだもの!!!》

「空母であることの主張がすごい」

私にとって、提督さんは良き“友”だ。“友”が困窮しているのに、そこに手を差し伸べないなんてことはあり得ない。

《【第一連隊】浦波より瑞鶴総旗艦、敵第一波航空群は被害甚大につき撤退!当方損耗艦なし!!

されど後続の敵艦隊接近!距離三〇〇〇〇、まもなく最大射程!!》

「交戦に際しては艦隊戦闘に注力、南東よりの敵航空隊は当艦の航空隊にて対処する!仮に当方の誘引に反応せず空襲が始まった場合、漸減戦闘に移行しつつ後退を開始されたし!

彩雲5番機、離脱しつつ確認した敵艦隊並びに航空隊の進路策定急げ!可能であればあえて惹きつけ、【第二連隊】へ誘導を!」

〈カシコマリマシタ!!〉

日本海上自衛隊・一等海佐相当官、八頭進は敬愛に足る“上官”だ。そんな人が自ら最前線で采を振るい強大な敵に立ち向かっているというのに、私が銃後で臆病風に吹かれるなど我慢できない。

「【第二連隊】各位、対空戦闘よぉい!!瑞鶴より比叡以下【第一連隊】、航空隊発艦する!照準に注意されたし!!」

ヒトの姿と、声と、感覚と、感情と、それらに伴う新たな“楽しみ”を得て。

師のために、友のために、祖国のために。ただ「兵器」として使われてではなく、“自分の意志”で戦えるのなら。

《敵艦隊、効力射開始!先鋒のル級、タ級に発砲煙を確認!!》

《弾着箇所は遠い、慌てないで!十分に距離を詰めさせて狙い撃ちます!!》

《南東敵航空群、艦隊群後方より最大速にて接近!接敵まで60秒!!》

例え存分に戦った果てに、武運拙く再び波間に散ることになろうとも。






「─────瑞鶴航空隊、発艦!

これが私の、決戦だから!!」

私にとっては、それで十分に“本懐”だ。

.






────青ヶ島鎮守府・司令室

「【第一連隊】比叡より入電!敵第一波艦隊群との交戦開始ス、当方ノ開幕砲撃ニヨリ戦果トシテ戦艦ル級2、タ級1、タ級Flagship1轟沈ヲ確認セリ!!

敵艦隊ニ混乱ノ気アリ、尚戦果拡張中!!」

「各空母艦載機隊、順次空戦に突入!何れの空域においても数的不利大ながら、足止めと敵戦力漸減に成功!

また、瑞鶴指揮下の彩雲は西方敵艦載機群を第二防衛線へ誘引中と報告あり!対深海棲艦迎撃作戦、順調に推移しています!!」

「そうですか」

矢継ぎ早に入ってきた通信士の報告を耳にし、青ヶ島鎮守府提督代理・小栗淳太郎(オグリ・ジュンタロウ)三等海佐は内心でほうっと一先ずの安堵を得る。

無論、まだ気が抜けるような段階では全く無い。寧ろ先の見えない長丁場が始まったばかりだ。
だが長丁場となることを知っているからこそ、その滑り出しが順調か否かは戦場全体にあまりにも大きな影響をもたらす。

少なくとも、開戦と同時に絶望的な消耗戦を強いられる、という考え得る限り最悪の事態は免れた。そのことは素直に喜びたい。

「瑞鶴さんより要請があった彩雲隊の鎮守府における直接収容を。警戒継続中の偵察機に関しては通信優先権を各空母艦娘からこの司令室に移譲、以後情報取得と連隊への共有並びに収容はこちら側で引き受けます。

また、基地航空隊の再発進に向けて整備と補給を急がせてください。フロントラインの戦況推移に併せて迅速に投入できるよう準備を」

「了解!彩雲隊各位、現在位置の打電急げ!また、無線通信の接続優先を鎮守府司令室に指定、以後─────」

「艦隊司令室より基地航空隊カタパルト、状況を報告されたし。発進に備え隊の編成を────」

「八丈島鎮守府、未だ敵艦隊並びに航空隊による襲撃を認めず。当鎮守府との連携体制を継続」

「南鳥島、父島・母島、硫黄島、各鎮守府敵艦隊群と未だ交戦中。戦線の維持、敵艦隊の漸減並びに浸透阻止に成功しているとのことです」

(…………今のところは、“我々”が想定した通りの状況ですね)

この鎮守府に留まらず、【海上機動迎撃網】全体へと行われた一大攻勢。経路・艦隊規模・戦況推移、何れも横須賀司令府が事前に立てていた予測内容とほぼ完全に一致する。

当然、とまでは言えないが十分に納得はできる結果だ。何せ八頭や海自屈指の秀才(かつ危険人物)と名高い例の一等海尉を筆頭に、三自衛隊と在日米軍、各司令府所属の提督達が各々の知略をフル回転させ総力を挙げて解析と議論、改訂を重ねているのだから。
仮に“全て”予測通りであったなら、少なくとも日本列島戦線に関しては持ち堪えるどころか十分な余力を以て反転攻勢さえ可能としただろう。

だが、たった一つのイレギュラーが。殆ど唯一の、そしてあまりにも大きな“相違点”が。

「……おい、市ヶ谷からフィリピン海に関する報告は届いてるか?」

「第二次防衛線を突破されて以降は断片的な内容しか降りてきてない、とりあえず八頭提督は無事らしいが………」

「南アフリカの侵攻が早すぎる、もう内陸部に入り込まれてるじゃないか………」

「フランスだってロクなもんじゃない、記者会見見たか?ありゃ亡命前提の声明だぜ間違いなく」

「北欧もいい勝負だぞ、コンクスビルゲンで止められなきゃいよいよノルウェー全土の陥落は秒読みだ。ロシアが今度は何発核をぶち込むつもりか観物だよ」

「大洗学園はどうなってるの?私達にすら情報共有がないなんて、どれだけ酷いことに………」

「各位、今は目先の戦場に集中しろ!高山、父島・母島鎮守府は持ちそうか!?」

「蒲生提督からは死守してみせるとの打電が入ってきていますが………扶桑以下主力艦隊が出払った直後の上に単純な兵力比もあまりにも不利でして正直2時間も耐えられるかどうか………」

「那覇市の方で“市民”の皆様が騒ぎ始めたそうだ、沖縄方面からの増援は以後日米どっちからも絶望的だなクソが!」

「畜生、東南アジアはどこもかしこも最悪だ!国連所属の“海軍”とやらと俺たちで直接コンタクトは取れないのか!?

このままだと八頭提督達と第7艦隊が纏めてフィリピン海で孤立無援に陥るぞ!!」

「…………………ふぅ」




【学園艦棲姫】の存在が、その尽くを歪めてしまっていた。

「あ、あの………小栗提督代理、大丈夫ですか?」

「ん………あぁ」

凄まじい勢いで戦況報告と艦娘や館内人員、妖精たちへの指示が飛び交う中で漏れ聞こえてくる暗く陰鬱な“噂話”。否が応でも耳に入ってきてしまうそれらに思わず眼鏡をずらし眉間を抑えていると、手元にスッと湯気を立てたお茶が差し出される。

顔を上げれば、心配そうな表情でこちらを覗き込みながら湯呑を差し出す艦娘───給糧艦・間宮の姿があった。

「え、えと。もしお気持ちが塞いでいるようであれば、一息つかれては?病は気からと申しますし、心労の状態ではそれこそ指揮に悪影響が出るやも………」

「……申し出自体は非常に有り難いのですが、その間戦闘指揮を空白にしてしまいますからね。八頭提督も石田一等陸尉もいない以上、私が離席するわけには」

「私がその間代理の指揮を取りますので!これでも元大日本帝国海軍の艦、従軍経験だってありますし!!」

「………………………………………。それは、お気遣いありがとうございます」

会話の「間」を利用して辛うじて平静を保ちつつ応えることができたものの、内心小栗は吹き出す一歩手前だった。

“艦時代”の彼女は従軍経験が確かにあるし、自衛のための武装も載せていた。艦歴だって決して短くはない。
だが、彼女の主任務はあくまで糧食の補給にあり、本格的な艦隊戦闘を目論んで設計されてはいない。そうした事情を反映してか現在世界各地の鎮守府で運用されている間宮(並びに同じく給糧艦の伊良湖)の中で、戦闘用の艤装に対して実用に足る適性を見せた艦は皆無だ。

眼前の間宮も例外ではない。料理の腕前は最精鋭と言って過言ではないが、戦闘経験は当然0。実は八頭に影から指示を出している隠れ軍師なんて裏の顔があるわけでもない。にも関わらず、彼女は真剣に小栗の代理を買って出ている。

それも自身が顔面蒼白で、語尾を震えさせながら。

それだけ自身が難しい顔をしていたのだろうと、思わず苦笑いが口元に浮かんだ。たまたまお茶を持ってきただけの戦闘は専門外の艦娘に、代理の艦隊指揮を決意させてしまうほどに。

突拍子もない申し出ではあったが、その御蔭で落ち着けたこともまた事実。そして辺りを見る余裕が出てくれば、司令室全体が不安と疲労に擦り潰されそうな有様となっていることが直ぐに感じられた。
休養はとても取らせられる状況ではないにしろ、“一息”ぐらいは入れさせなければそれもまたどこかで致命的な決壊を招くだろう。

「いえ、やはり流石にここの指揮は私の職務ですので、戦況が安定するまでは離れられません。

ただ、リラックスはしたいので甘い飲み物と軽食も頂いてよろしいでしょうか?できれば、ここの人数分」

「! 畏まりました、すぐにお持ちします!!」

序でに明確な役割を与えれば間宮の心労も和らぐだろうと提案すると、“本職”を与えられた間宮は一転気合十分といった表情で頷き、飛ぶようにして司令室から出ていった。

(…………………、さて)

冷静さを取り戻した頭で、改めて現状を整理する。先に述べた通り、人類は世界規模で絶望的な戦況を強いられている。その最大にして直接要因は、言うまでもなくフィリピン海に現れ今現在本土に北上中の【学園艦棲姫】だ。
だが、そこを更に突き詰め掘り下げて考えていくと、より根源的な苦戦の要因は………結局、今回もまた敵の圧倒的な“物量”に行き着く。

(【学園艦棲姫】という圧倒的な存在を投入し、周辺や艦内に推定数千隻規模の“随伴艦隊”を集結し、更に大洗にまで長駆艦隊を乗り入れさせ、陸路でも大攻勢に移り……………その上で尚、“こちらが予測していた分の【大攻勢】をかけられる余剰戦力”がまだ尽きていなかったこと。最も大きな誤算は、そこです)

実行されている防衛作戦は、各鎮守府・各海域にこの鎮守府の龍驤、父島の扶桑、横須賀の日向といった超主力級の艦娘・艦隊で迎撃可能であることを前提としている。ではなぜそれら“要”を動かしてまで【学園艦棲姫】の対処に当たったか。

無論、「そうでもしなければ止められる相手ではなかったから」というのもある。
だがそれに加えて、人類側には「深海棲艦が【学園艦棲姫】を中軸に据えた一点突破攻勢に方針を“切り替えた”」という致命的な誤認があった。

日本という“艦娘大国”には、幾重にも張り巡らされた分厚く硬い盾がある。その全てを一撃で貫き得る太く鋭い槍を手に入れたが故に、その周りに本来放つつもりだった無数の矢を束ねたのだと思われていたが、違う。

矢もまた、既に番えられていた。巧妙に隠され、引き絞られていたそれらは、自衛隊が槍を止めるべく盾を動かしたその瞬間を狙い、一斉に放たれたのだ。

(極めて戦略的で、洗練された動きだ。……………とても、“開戦当初”と同一の集団とは思えないほどの)

2011年8月14日の【ハワイ奇襲】以降、翌年初頭の【艦娘実装】が成るまで人類は世界規模で制海権・制空権を喪失しつつあった。そんな中にあって何故各国が辛うじて致命傷を避け得ていたかと言えば、深海棲艦側の動きがとりわけ最初期は非常に“直情的”だったからに尽きる。

そこに人類がいれば優先順位も何もなくとにかく近場から手当たり次第に殺していき、行軍は前進か後退かのほぼ二択。“ヒト型”が出現してからは戦術規模であれば多少理知的な動きを見せることもあったが、それも広い範囲で見れば基本的に“行き当たりばったり”の域を出ない。
海上ではそれでも圧倒的な力量差ゆえまともに抗うことはできなかったが、特にヨーロッパで【陸上に上げて物量で殴る】という脳筋戦術が多大な戦果を挙げられたのは深海棲艦側に“橋頭堡の構築”の概念がなく孤立させることそれ自体は極めて容易だったからだ。

一体いつからだ。奴らの動きがここまで知性的に、戦略的になったのは。最早【リスボン沖事変】以降は、人類側が裏をかかれ続けほぼ常に後手に回っている。

(奴らが学習したといえばそうかもしれない。しかしそれにしたって変化が激烈すぎる。例えば深海棲艦全体でそうした“学習”を共有し得るシステムがあるのだとすれば、今度は逆に奴らの練度の“ムラ”が不自然だ。

まるで……………)

まるで、極めて優れた“提督”の指示でも受けているかのような、そんな動きだ。

「………………今は、考えるべきことではありませんね」

恐ろしい。極めて恐ろしいが、有り得る話だ。海の底から未知の化け物が現れ、それに対抗するために軍艦の力を擁した可憐な少女たちが現れ、今また学園艦が深海棲艦化して水底から現れている。寧ろ、何が“あり得ない”のか教えてほしい。

実は深海棲艦が外宇宙からの侵略兵器で宇宙人からの指示により動いている、深海棲艦の中で新人類とでも呼ぶべき存在が誕生し指揮を取り始めた、突然異世界から召喚されたチート能力持ちの天才がヒト型のハーレムを作りながら統率し始めた…………どんな事態が起きていたとしても今更驚かない。

そもそも、驚いたところで意味はない。“現状”は既に構成されてしまっている。

“今”はそれがなぜそうなったのかを追求しても何も変わらない。ならば、先ずは“現状”を変えることに全力を尽くすべきだ。

不幸中の、という注釈は間違いなく必要になるが、それでも“幸い”が一つある。

【海上機動迎撃網】自体は、まだ機能を維持できている点だ。

(我々は、【学園艦棲姫】の存在を起点に最も強く警戒していた筈の“物量”について予想を覆され、主力部隊をフィリピン海に引き摺り出された。

だが、逆説的に言えば“それだけ”です。防衛計画そのものは、まだ生きている)

確かに、“忌み名持ち”レベルの実力者達を尽く出払わせてしまった為戦力低下は著しい。しかし、ここを含めて各鎮守府は何れも持ち堪え、敵艦隊を押し留めている。

そしてその敵艦隊の数は、あくまでも人類側の“推定通り”に今のところは収まっているのだ。

(主力艦隊と比較して劣ると言うだけで、【海上機動迎撃網】………よりはっきり言い換えるなら【絶対国防圏】に配属されている以上、どの艦娘も水準以上の実力は備えている。

フィリピン海防衛線の指揮権が八頭提督にほぼ一本化されていた結果、他鎮守府の提督たちは残っていたことも大きい)

深海棲艦側は、主力の誘引に成功したことで「抜ける」と判断したからこそ“矢”を放ってきた。ならば、その“矢”が“盾”を失ったはずの自分たちを抜けなければ、今度はその事象自体が向こうにとっての「計算外」に変わってくる筈。

(ならば我々は、敵の動きが“当初の防衛計画”に則る限りあくまでそれに忠実に動く。それが、恐らくは最善の策ですね)

専守防衛。自衛隊は正にこれを主任務とし、貫くために訓練を重ね、技術を磨いてきた。

「小栗提督代理、レーダーに感あり!!新たな敵艦載機群、こちらの防衛線を迂回し鎮守府へ向かってきます!!」

「そうですか」

ならば、“本来の仕事”ぐらいは自衛官である自分がやり遂げなければならない。

もし、それすらできないのであれば、







「問題ありません。各位、各艦隊、当初の“防衛計画”通りに動いてください」

民間出身でありながら最前線に飛び込んでいった自分たちの提督を、どのツラ下げてこの鎮守府で迎えられるというのだろうか。

更新おつです
まさかの青ヶ島サイドですね
どこにも後方などなく全てが前線という状況がもう…

.










今でも、はっきりと覚えている。“あの時”の胸の高鳴りを。脳を、心臓を鷲掴みにされたが如き圧倒的な衝撃を。

たった一人の男の演説によって、敗北への諦観が勝利への渇望に、死の絶望が生の希望に塗り替えられる有様を。
たった一人の男の雄叫びによって、火山と岩と砂とほんの少しの草木しかない殺風景な島に、目に見えぬ巨大な炎が燃え盛る瞬間を。

まるでつい数秒前に目にしたが如く、自分はその光景を想起できた。

《敵艦載機群第6波並びに第7波、総数500超なおも鎮守府に接近す!到達まで推定あと400秒!!

対空警戒を厳と成せ!繰り返す、対空警戒を厳と成せ!!》

《指示に変更なし、【第一】〜【第四連隊】各位は現防衛線を維持!当初の“防衛計画”に則り、【第五連隊】並びに鎮守府内の対空火力にて敵航空群の迎撃を行う!!》

《【スカイシューター】、全車展開を完了!各区妖精より艤装による臨時対空陣地完成の報あり!》

「ハッ、ハッ…………」

「おい、力を抜け……!」

現在の状況は、“あの時”とよく似ていた。圧倒的寡兵、勢いに乗る“敵”、孤島での迎撃戦………類似点がこれほどまでに多いからこそ、自分は尚更“あの時”のことを鮮明に思い出したのかもしれない。

(寧ろ、“あの時”の方が自分が置かれていた状況は厳しいかもしれないな)

頑迷な老人がよく口にする「ワシが若い頃は……」という戯言に通ずるものを感じ、我ながら辟易する。ただ弁明させて貰うと、実際“あの時”の自分達には艦娘も鎮守府も潤沢な対空兵装も存在しなかった。
与えられた火器は大半が在庫処分の骨董品で、おまけに“友軍”連中は支援どころかこちらを攻めてくる深海棲艦の群れごと吹き飛ばす腹づもりだったのだ。

この作戦を立案した当時の上層部のお歴々が南首相には

『島嶼防衛部隊は機を見て脱出する手筈だったが通信機の故障により連絡が途絶し、非常の判断でやむを得ず攻撃を敢行した』

という設定を捏ち上げる予定だったと聞いたときには、思わず腹の底から笑ったさ。

ただ、自衛官として経験を積み、深海棲艦と長らく戦っていく内に、自分の中で“あの時”の上層部の判断を一概には否定できなくなったのも確かだ。

艦娘の“実装”が未だ行われていなかった当時、事実を直視するなら自衛隊は人民解放軍に対して劣勢だった。
陸軍の単純兵力はトリプルスコア、北朝鮮軍のように兵装性能においてこちらが圧倒的な大差をつけているわけでもない。
空母戦力は既に六個の【防空機動艦隊】を運用していた日本側に数字上だけなら分があるものの、日中間の距離は近現代戦闘機ならものの数十分〜数時間で0にできる。在日米軍を考慮に入れても保有戦闘機それ自体の物量差を埋めるほどのアドバンテージとは到底言えなかった。

何よりも、核兵器とそれに伴う弾道ミサイル技術。如何に防空・海防に優れた戦力を自衛隊が持っていたとしても、都市に甚大な被害を与える弾道ミサイルが雨霰と降り注げばその迎撃は困難を極める。況してや核搭載のそれが着弾すれば、例え一発でも数万人から数十万人の命が一瞬にして国土から消え去るのだ。

まぁ、核兵器についてはそもそも前提が「抑止力」であり、日本もアメリカによる“核の傘”の恩恵を受けていた以上単純な戦力比に加えるべきではないかもしれない。だが核を差し引いても、どのみち当時の日本にとって、自衛隊にとって人民解放軍が「格上」であったことは動かしようのない事実だろう。
その「格上」の軍事組織を手も足も出ず叩き潰した怪生物の大軍団を迎え撃ち押し留めようとするなら、自然何かしらの“犠牲”が必要だったのは間違いない。

(………そうか、成る程。

、、、、、、
こんなところまで、実は“あの時”と同じなのか)

フィリピン海において八頭提督率いる“連合艦隊”は【学園艦棲姫】によって敗退し、轟沈者こそなかったものの龍驤旗艦や妙高副旗艦、榛名戦艦隊長らこの鎮守府の艦娘達もほぼ全てが大破状態に追い込まれた。
その後の東南アジアの艦娘や基地航空隊を総動員した迎撃作戦では“遅滞”が精一杯であり【学園艦棲姫】が着実に北上しつつあるという。

それは正に、6年前の“あの時”────自分達が“あの島”で、深海棲艦を待ち受けている時の状況だった。

ASEAN、オーストラリア、そして中国。列強の海空軍を尽く捻じ伏せ薙ぎ払い、欧州やアフリカでは既に沿岸部への浸透を始めていた、弱点どころか正体すら禄に解明されていない得体のしれない化け物の大軍団との戦いを控えていた“あの時”と立場としては同じだ。

確かに、戦力自体は今回の方が恵まれてはいる。艦娘がおり、基地航空隊があり、しっかり最新式の対空砲や装甲車、ミサイルが数こそ少ないが用意され、戦闘員の人数もこの事変が起こる直前に幾度かの増強が間に合い一先ず1500に迫る程度には確保されている。
だが、向かってくる深海棲艦の数は6年前の数倍にもなり、その旗艦は今までに前例がないほど凶悪かつ強力な存在で、ここにいる艦娘たちより遥かに練度が高い艦隊でもまるで歯が立たなかった存在だ。しかも今この瞬間に攻勢をかけてきている分に関しても、その物量の底は不明でそもそも【学園艦棲姫】以前にこれらさえ凌ぎきれるかどうかは解らない。

「…………クソっ、とまれ……止まれよ…………震えるなよ……寒くねえだろっ………」

「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない……お母さん……私死にたくない………!」

自分は、まだ“耐性”がある。だがアレを経験したのはこの場では自分だけ。何なら今この鎮守府内にいる隊員の大半は、石田一等海尉らが前線に出張ってしまったこともあり艦娘実装後の安定的な戦いしか知らない若い連中だ。

であればこの、必要以上の恐怖と緊張、焦燥に押し潰されそうな絶望的な空気が蔓延することを、一概に「情けない」と言えるものではないだろう。











「─────県正久(あがた・まさひさ)一等陸尉より、鎮守府施設内総員に伝達する」

そこまで考えが及んだ時、自分の指は、自然と無線のスイッチを握っていた。

「若き士官たちよ、これは諸君らの先輩の、或いは………無駄に歳を食ったうだつの上がらんおっさん尉官の戯言として、恐怖で震えてチビる序でに聞いていてほしい独り言だ」

……口下手な自分なりに考え抜いた渾身のジョークを盛り込んではみたのだが、残念ながら反応は皆無に等しかった。やはり慣れないことはするもんじゃないと、平静を装って話を続けつつほんの僅かに内心で後悔した。

「これから始まる、否、既に始まっているこの戦闘が、楽なものになるとは自分には言えん。必ず生きて帰れるなどという無責任な言葉は吐けん。

きっと激しい戦いになる。長く辛く厳しい戦いになる。この中の何人もが傷つき、或いは死ぬ。艦娘ですら、全員が轟沈せずに済むという保証はない。気の利いた鼓舞ができず済まないが、一陸尉の見解としてはそれが正直なところだ。

だが、思い出してほしい。我々がどこに所属しているかを。

我々が、自衛隊であるということを」

東南アジアにおける反攻作戦に参加した折り、ある上官のもとに着いた時期がある。その男は決して尊敬することができなかったし、寧ろ彼の行動理念や哲学は自分にとって全く相容れなかった。

だが、彼が部隊に訓戒を施す際第一声に使っていたフレーズの、“ガワ”の響きだけは私は僅かに共感していた。

故に、“中身”を自分流に捻じ曲げたものを、私は勝手に座右の銘としている。

「自衛隊の銃先に国民なく、自衛隊の銃後に国家あり。

本土に待つ国民にとって、彼らが住まう日本国にとって、我々は最後の盾であり最後の希望だ。

我々が恐怖に屈しそうになった時、重圧に敗れそうになった時、敵の砲火が次にどこに向けられるかを思い出せ。

同時に、並び立つ戦友たちもまた“国民”であると、共に戦う艦娘達や妖精達も“国民”だと忘れるな!!我々は孤独じゃない、孤軍じゃない!!互いが互いを守り合う限り、互いが互いを支え合う限り、我々はきっと立ち上がれる!!」

「「………」」

少しずつ、周囲の隊員達の息遣いとざわめきが収まっていくのを聞きながら。鎮守府の甲板を覆っていた空気に僅かな変化が生じるのを感じながら。
自分は、更に言葉を紡ぐ。

それは、自分が最も尊敬する偉人の言葉。自衛隊に自ら志を持って入隊した男児なら、誰もがこうありたいと憧れる将官の鑑とも言うべき姿勢を示したもの。
……自分ごときが使うとは恐れ多いが、ここは鉄火場ゆえ恥を忍んでお借りしよう。

「予ハ常ニ諸子ノ先頭ニアリ───【硫黄島の戦い】を前にして、栗林忠道初代防衛庁長官閣下が指揮下に訓示した言葉だ。

無論自分があの方ほど立派であるなどと自負するつもりはない。だが少なくとも、あの方のように先頭で戦う覚悟は持っている!自分もまた諸君らの列の中に加わり、共に支え合い、守り合う覚悟は持っている!

着いてこいなどと出過ぎたことは言わん、だが今は!我々の故郷を、国民を守るために!!勇気を振り絞り、恐怖に打ち勝ち、“共に”戦って欲しい!!」

〈〈………………!!〉〉

艦娘艤装・艦載機操作補助思念体───通称【妖精】。1m前後の艦載機に乗り込むだけあって彼ら(彼女ら?)の背丈は文字通り掌サイズであり、顔立ちもアニメキャラクターを更にデフォルメしたようなどこかポップな印象で、これが深海棲艦という凶悪な存在を轟沈し得る兵器の操舵者だ等と俄には信じがたい。

どうやら自分には提督の“素質”があるらしくこの【妖精】達が見えるのだが………今足元で、恐らく余りの艤装を用いて対空陣地の構築に奔走していたであろう数人がこちらを見上げて敬礼しているのが視界の端に移る。
艦内移動用の車両──妖精たちの体躯からすれば学園艦の面積で徒歩移動などサハラ砂漠の横断も同然だろう──が近くにある辺り、わざわざ代表して何人かが駆けつけてきたのだろうか。

至って真面目であろう本人たちには失礼ながら、童話の一場面じみた光景には微笑ましさすら感じてしまう。だがそのメルヘンチックさによって、幸い自分自身も肩の力は抜けたが。

「八頭進一等海佐相当官は言った、“日本を守るため、共に僕等に出来るベストを尽くそう”と。

今彼は、フィリピン海の洋上で艦娘達や【こんごう】の乗組員達と共に死力を尽くして戦っている!ならば我々もまた、彼と共にベストを尽くそう!この鎮守府を率いる“提督”の姿に、恥じぬように!!」

全く、あれのどこが“一般人”なんだか。我々が命令に伏し、命を賭し、“共に”戦うに足る、最高の上官ではないか。

つくづく、自分は果報者だ。人生で二度も、そんな上官に巡り会えたのだから。

「「「〈〈─────……………!!〉〉」」」

別に、島を震わすほどの雄叫びも、ハリウッド映画のヒーロー登場シーンかと見紛うばかりの歓声も上がらない。寧ろ、静けさという意味なら前よりも深いものとなった。

だが、肌で解る。隊員たちが、妖精たちが、海上の【第五連隊】の艦娘達が、恐怖や焦りを捻じ伏せていくさまを。勇気を取り戻し、闘気を漲らせている様子を。

押し寄せる敵機を、待ち構えるとまでは言わない。ただ少なくとも、距離を着実に詰めてくるレシプロエンジン音に、真っ向から立ち向かう準備を彼ら彼女らは完全に終えた。

(6年前の…………あの人のお陰だな)

命を賭け、命を捨てるに値した、一人目の上官。彼が明確に自分の上官であった時間は、ほんの数時間に過ぎない。その間言葉を直接交わすことはなかったし、向こうはきっと自分のことを知りもせず逝ってしまったに違いない。

《敵艦載機群、到達まであと100秒!!》

《【第五連隊】旗艦・水無月より連隊各艦、対空射開始!撃ち方ぁ、はっじめぇ!!》

《対空射隊指揮艦・荒潮より艦内艦娘各位、先行射撃開始!!いーい?爆弾落とさせちゃダメよ、お掃除大変なんだから》

〈ワレラモツヅクゾ!!コウカクホウタイ、カクジウチカタハジメ!!!〉

それでも、自分は覚えている。山を鳴動させ、海を震わせ、敗残兵を死兵へと変えたあの人の言葉を。

《………っ!ダメだ、やっぱり水無月たちの火力じゃ十分に防ぎきれない……!!》

《荒潮より司令室、敵機40機強を撃墜し陣形大いに崩すも進軍尚止まらず!!先鋒航空群、突入態勢に移行!!》

《甲板全区画、全隊員に伝達!対空戦闘用意、対空戦等用意!!第一種戦闘配置を継続せよ!!》

硫黄島の空に高らかに響き渡った、平賀文平一等海佐のあの雄叫びを!!

『『『『───────────────ッ!!!!!!』』』』

「敵機直上、急降下ァーーーーーーーーッ!!」

「県一等陸尉より艦内全人員に伝達ッ!!」

.









「暁の水平線に、勝利を刻め!!!!」

自然と喉から迸ったその叫びと共に、89式小銃を“ジェリコのラッパ”が迫りくる方角に向け引き金を引く。

『…………ッ!!!?』

先陣を切ってきていた【カブトガニ】が一機、弾丸に貫かれて爆散した。

.







《そもそもね、今回の事態を招いたのは南政権の外交政策にあるわけですよ。軍拡を推し進め【平和維持法】や【艦娘三原則】を勝手に改悪し、周辺諸国の不安を煽りました。

日本が“戦犯国”であるという認識があまりにも欠如しすぎですよ》

《そもそも“武装勢力”が北朝鮮や中国と本当に関与しているという証拠もありませんし………それこそ、自衛隊の中で自作自演をさせている可能性もあるわけでしょ?南首相ならやりかねないわ》

《私は劉首席の言い分にも一理あると思いますよ。対話を求めていた中華人民共和国に対して握り拳で応えたのは南政権です。宝木議員を含め一部の良心的な市民はそのことの危険性と不義理を訴えていましたが、南政権の巧みな扇動によって握りつぶされていたのです》

《仮にこのテロが他の国の仕業だとしてもぉ、それってマジラブアンドピースしなかったニッポンのジゴウジトクっつーかぁ?マジオワコンだよねニッポン》

《これは当局のある情報筋から入ってきたものですが、既にフィリピン海防衛線は敵の“新型艦”に突破されているという噂もあり────》

《南政権は放送法の改正を強く推し進めていましたが、これは恐らくこうした事態が起きた際に情報統制と国民扇動をしやすくするための下準備だったのではないかと専門家からは指摘が────》

《これは沖縄の米軍基地前の様子ですが見てください!!もう南政権には騙されないというプラカードとともに多数の一般市民が殺到しています!この光景は那覇鎮守府や自衛隊基地でも同様に────》

《南さんもね、意地にならずに中国の支援を受ければいいんですよ。彼らだって本当に日本を占領しようとするわけないじゃないですか、話せば解りますよ。チベットやウイグルだって、あんなもんアメリカやイギリスが一方的に主張してるだけで────》

《徐々に各地へと拡大しつつある反南政権デモに対して、県警や自衛隊、鎮守府組織による強制排除の動きが見られます。政府はこれを“暴動”と関連付けていますが、これは明らかな詭弁であり言論弾圧だと一部国から批難声明が────》

《フォックス=カーペンター国務長官はCNNの取材に解答、ヨシヒデ=ミナミの武装勢力に対する断固抵抗の姿勢は早期解決に繋がり全面的に支持されるべきだと────》

《アメリカのフォックス=カーペンター国務長官は“早期解決のためにはあらゆる手段を模索するべきだ”と、日本単独での武力鎮圧のみが道ではないと暗に示唆を────》

《ダイオード=リーンウッド首相は日本で起きている事態への直接的な言及は避けたものの、ヨシヒデ=ミナミの強力なリーダーシップによって世界は最悪の状態を免れていると謝意を述べ────》

《南政権との蜜月を築いてきたとされるダイオード首相ですが、現状については“日本は自分達の影響力を考えなければならない”と懸念を表明し────》

《フランス政府は、中華人民共和国の声明に対し人類への反逆と言っても過言ではない最悪の火事場泥棒だと強烈な批判を浴びせ────》

《フランスからも日中間で発生したこの衝突に対し強い懸念が表明され─────》






《…………このように、世界各国からも日本の強硬な対応に対して不快感や不安を指摘する声が多く、世界全体での戦況へ悪影響を与えるのではないかと強い不安を呼んでいます。

南政権には今一度、このような状態だからこそ“人類同士の協和”に向けて動いてほしいと切に願います。

テレビ日ノ出は引き続き、深海棲艦関連のニュース並びに国内で起きた“暴動”の情報を速報で伝えてまいります》

投下おつです
ジワジワとタイトル回収へ近づいているのを感じる

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元より、マス・メディアという集団に期待などしてはいない。彼らの自衛隊に対する「敵対的」な姿勢も、自国民の命や自国の国防より周辺国の“お気持ち”へ配慮することを遥かに重視する性分も、彼女が現役の頃から一貫している。
深海棲艦という未知の脅威が出現した後ですらその姿勢を揺るがさなかった時には、最早一周回って感心と敬意さえ抱いた。

……向こうは疾うの昔に地中に埋まっていたハードルをこの期に及んで掘り起こし、その下をわざわざ潜ってきたが。

@# _、_@
(  ノ`)「本当に、腐った連中だよ」

彼女────流石挙母(サスガ・コロモ)の吐き捨てた言葉は、これでも自制心を最大限に振り絞り感情を限界まで抑え込んでいる。仮に彼女が心の赴くまま活動を開始すれば、肩口からぶら下がるM249軽機関銃は各報道機関を“黙らせる”為に使われることだろう。

耳元で尚も不快な言葉を羅列し続けるイヤホンを、眉を顰めつつ取り外す。その先につながる持ち運び式のラジオはビルの中で拾った物で、元の持ち主と思われる人物が既に“使える状態ではなかった”ため拝借した。
別角度からの情報収集になればと考えてのことであったが、受けた不快指数が代償として割に合ったものかは議論の余地がありそうだ。

ただ、“有益な情報”を十分に得られたのは間違いない。

@# _、_@
(  ノ`)(中国の“国盗り”、ブラフじゃあないね。人民解放軍の日本進駐実行は秒読みって証拠だ)

各報道機関による、余りにも露骨に偏った南政権への批判的論調。いつも通りの光景と言ってしまえばそれはそう。
だが、ここまで“一斉に”、“整然と”、“足並みを揃えて”動いてくるとなれば、各個の自由意志ではなく何かしらの「指揮系統」が存在することを疑わなければならない。

言ってしまえば、そもそもマス・メディアが機能を維持していることそれ自体解せない面がある。

本来この手の組織・集団は、自身の正当性や思想の主張、或いは単純な恫喝などを目的として放送施設はかなり高い優先順位で押さえにかかる。昨今は動画サイトやSNSもあるため一概には言えないとしても、日本のような治安が高いレベルで保たれている国においてライフラインの一つを掌握できれば与えられる衝撃は決して小さくはない。

にも関わらず、銃弾の一発も撃ち込まれないどころか暢気に“有識者”を招いての政権批判放送を垂れ流す余裕すら保たれているというのは流石に不自然だろう。
武装蜂起が始まった直後に彼らが神妙な面持ちで「各放送局も被害を受けている可能性が高い」等と宣っていたことを考えれば、乾いた笑いの一つも湧いてくるというものだ。

そしてこれらの“不自然”は、「マス・メディアが“武装勢力”と敵対していない」ケースを仮定した場合途端に“自然”なものとして説明がついてしまう。

@# _、_@
(  ノ`)(そりゃあ自分達の要望と主義主張を自主的に“代弁”してくれるなら、いちいちリソース割いて制圧する必要なんざないだろうさ)

寧ろ「報道機関が“自主的に”人民解放軍の日本進駐に肯定的な意見を述べている」となれば、中国側にとっては先の宝木蕗也(たからぎ・ふかや)による南政権への“糾弾声明”と併せて立派な大義名分となり得る。実情がどうあれ曲りなりなりにも「言質」さえ存在すれば、アメリカやロシアに対する“戦後”の牽制材料としても十分だ。

@# _、_@
(  ノ`)(ただしこれらは、“実効支配”の確立が前提条件だ。となると、共産党の上層部が“拙速”を重視して各軍閥をまとめ切る前に動かせる分だけで強引に乗り込んでくる可能性も否定できなくなってきた………もう、時間は殆ど残されちゃいないだろうね)

そこまで考察を終えたところで、挙母は用済みとなったラジオからイヤホンを抜き取り………無造作に頭上へ放り投げた。

《都内で“武装勢力”に対して自衛隊並びに艦娘の出動が行われている件についても、各界“有識者”からは対話を放棄した暴力的な対応であるt

考えた人間の脳に何らかの欠陥が存在するであろうことが容易く想像できる文章を無遠慮にがなり立てていたラジオが、伸びてきた何本かの火線に貫かれる。
世界で最も製造され、世界で最も多くの人を殺し続ける自動小銃───AK-47から放たれたそれらは、そのまま挙母が身を隠している路上で横転した乗用車の屋根に突き刺さり火花を散らした。

県庁所在地と言えど、水戸市はあくまで地方都市の一つ。駅周辺の商業エリアや繁華街の一部区画を除いて、東京都中心ほど建造物同士の“密度”は高くない。道路の幅も広く、比較的視界が拓けている場所がそれなりに多くなる。

故に、同地における戦闘は“市街戦”であると同時に“攻城野戦”の側面も併せ持つ。

遮蔽物の少ない路上を行軍する際攻勢側はどうしても身を晒す機会が多くなり、防衛側は予め沿道の建造物を掌握すれば敵の位置を容易に確認しつつ上方、側面から安全に火力を投射し得る。
準備砲撃や潤沢な航空支援によってそうした脅威を事前に排除できるならまだいい。だが歩兵戦力のみでこれを制圧しようとした場合、戦況の天秤は最初から大きく防衛側に傾くことになる。

挙母たちが今いる場所などは、その典型的な例だろう。

水戸駅から南に800m程南下した大通り、道は広くしっかりと塗装され、沿道にはマンションと都内より遥かに階数の少ないビジネスビルが閑散と立ち並ぶ。
既に日は暮れ、また路上には運転手の逃亡や“沈黙”によって放置された民間車両が幾らか転がっているため身を隠す術は用意されているが、それでも限度はある。全くの無策で進軍すれば、たちまち十字砲火の餌食だ。

故に挙母達は、あえて敵に“先手”を取らせにいく。

从' '从《先ぱぁい、火線により敵位置把握できました〜。交差点挟んだ向こう側、左手の学習塾が入ったマンションと右手ガソリンスタンド後ろのマンション、それぞれの屋上に狙撃手〜。左手沿道の消防署内にも動きがありますね〜、多分中から敵が出てくると思われます〜。

それとぉ、駅南公園通りを東700mほど先から新手が接近中〜。数は目算20人ぐらいかな〜》

背後の高校校舎を押さえ、その屋上に別働隊を率いて陣取る“後輩”────渡辺優香(ワタナベ・ユウカ)からの無線通信。口調こそ場違いに間延びしともすれば闘争心が削がれるレベルだが、内容は迅速で的確だ。
陸自の最精鋭が集う中即連において尚【天の眼】と称された空間把握能力は、一線から退いて5年経った今も衰えていないらしい。

@# _、_@
(  ノ`)「西進中の新手、牽制で止められるかい?」

从' '从《はいはーい。このためのぉ、L96A1とぉ、ラプアマグナム弾〜》

やはり間延びした、しかしどこか嬉々とした響きの返答。闇夜を銃声が駆け抜け、観測手と思われる男がくぐもった声で《One Down》の一言を告げる。

「xxxxxッ!!!」

从' '从《From fire-department almost never reach me anyway, so I left it up to my allies. Keep an eye out for snipers only. Don't have to hit it, so don't let them take aim with Suppression fire》

即座に校舎屋上へ向けて弾幕が殺到するが、渡辺は冷静さを崩さない。一瞬で状況を整理し、的確な指示を味方に下す。

@# _、_@
(  ノ`)「………さて、行くかね」

同時に、挙母もまた動く。

交戦開始とほぼ同時に行われるスムーズな戦力展開に、即時の増援派遣。既に市内各所で新たに発生した“戦闘”を向こうの指揮官達も把握し、その上で対処に動き始めているのだろう。
水戸警察署を始め警官や自衛隊による抵抗が完全に排除されたワケではない中でこうして更なる人員を捻出できるとすれば、同市における“武装勢力”の規模は自分達や横須賀の予想以上に大きい可能性を考慮しなければならない。

ならば、此方もド派手に動いて兵力の“過大評価”を誘発させる。

@# _、_@
(#  ノ°)「主砲撃、右正面ガソリンスタンド!!」

「了解!!」

飛ばした号令に、挙母のすぐ横で小柄な人影が───神風型駆逐艦四番艦・松風が勢いよく車の影から路上へと躍り出る。その右手で起動した12cm単装砲が、何ら躊躇することなく砲弾を指定された“目標”に向かって撃ち放った。

从' '从《ワァオ》

気化性も引火性も高い液体燃料を扱い、ただでさえ【火気厳禁】は絶対不可侵な場所。そこに艦砲射撃を食らわせれば、どうなるか。

誰でも容易く辿り着ける単純明快な問だが、あえてそれを比喩的に表現するならば、

「ムグォッ」

「「「ッッ!!?」」」

マイケル=ベイ監督作品のハリウッド映画の一場面、といったところか。

「XXxxxxx!!??」

「xx,xXxxx!!」

地下の貯蔵タンクが炸裂する。空間が揺れる。暴風が吹き付ける。巨大な火柱が生贄を求める竜神のごとく逆巻き荒れ狂う。
消防署から現れた一団、その最外殻にいた数人が灼熱の渦に飲み込まれる。一人の身体が浮き上がり消防署の壁に叩きつけられる。凄まじい速度で吹き飛んできたコンクリ塊に、更に一人の頭蓋が粉砕される。

路上を、火の粉混じりの土煙が濛々と覆い尽くす。

「xxxxxxx!!」

「xxx、xxXx!」

「xxXXxxxX, xxxxxx!!」

至近で起きた大爆発、一瞬で失われた1/4の兵力、膨大な土煙による視界の封鎖。これだけ悪条件が伴ってなお、敵の指揮官は冷静だった。残った人数で即座に陣形を再編し、弾幕を周囲に張りながら部隊を後退させていく。
ただの盲撃ちなら何ら恐れることはないが、統率が取られ火線間が密な“制圧射撃”は例え的が捕捉できない状況下でも牽制としては十分な効果を発揮する。

マズルフラッシュによる位置の特定を避けるべく各員が連携を崩さない範囲で細かく動きながら銃撃を行っている点もソツがない。並の練度の部隊・兵員が相手であったなら、消防署までの撤退は十分に間に合っただろう。

「知ってるかい?」

問題は、

@# _、_@
(  ノ`)「日本じゃあ、ゴミのポイ捨ては犯罪だよ」

「………っ!!!?」

相対した側が、とびきりの手練であった点にある。

放置車両を飛び越え、弾ける銃火をくぐり抜け、爆煙の只中に突っ込む。肉食獣から逃げるカモシカの如く靭やかに、獲物を追うヒグマの如く獰猛に駆け、一息で距離を詰める。

あっという間に敵兵の懐を取った挙母が次に取った行動は、殴打。原始的で単純、故に出が早く実行するだけなら特別な技量を要さない、最も基礎的な攻撃行動。
殺傷能力は使われるモノによってくるが、フル装弾されたMINIMI軽機関銃の銃床を利用したならそれは当然十分に確保される。

況してや挙母の全力を以て振るわれたなら、最早殴打というよりは“砲撃”に近い。

@# _、_@
(#  ノ゚)「噴ッ!!!!」

「ギュペッ」

「xXxっ!!?」

真っ向から食らった敵兵の頭蓋が、コンクリ塊での“それ”よりも遥かに凄まじい勢いで砕け散る。首から上を骨片と脳髄と千切れた毛細血管がぐちゃぐちゃに混ぜ合わさったナニカへ変貌させ屍が崩れ落ちようとするが、しかし挙母は胸ぐらを掴みそれを許さず持ち上げる。

「xッ!?」

「XXxxっ!!!」

@# _、_@
(  ノ`)「っ……!」

挙母の乱入に気づいた他の敵兵達が、ある者は悪態を、ある者は驚愕を口にしながら銃口を向けてくる。

迸る火線を遮るは、盾の如く掲げた屍体。まぁ一応防弾装備をしてはいるが、カラシニコフ小銃十数丁の斉射となればさしたる役には立たない。加えて斃した男の体躯は拳母のそれよりも小柄で、隠れきれるものでもない。保って、せいぜい数秒。

そして、その数秒で挙母にとっては“十分”だ。

「グォバッ!!?」

「xx……xッ!!?」

火線の出処の内一つに“肉と骨と断裂した血管で構成された元人間の塊”を、別の一つに腰から抜き放ったナイフを投げつけ、射撃が止まり開いた火線の穴へ飛び込む。
ナイフを投擲された方は銃身で弾き防いでいたが、構え直そうとしたAK-47を横から伸びてきた腕が押さえつける。

渾身の力でそれを跳ね除けようとするが、まるで溶接でもされたのかと疑うほどにビクともしない。

@# _、_@
(  ノ`)「鈍いね」

「ヒッ………」

挙母の腕だった。

「ゴフッ、ギッ、グガッ………」

膝打ちを腹に入れ、掌底で地面に叩き伏せ、頚椎を踏みつけ圧し折る。流れるような殺戮動作の延長で前転し、振り向きざまにMINIMIを膝立ちで構える。

「「ガァッ!!?」」

「「ぅグッ………」」

フルバースト射撃で、銃口を横一線。背後に回り込まれての弾幕に為す術などなく、軌道に沿って立て続けに四人が撃ち抜かれる。

「xxXX!!」

「「「xX!!!」」」

尤も、流石に百発百中の精密射撃とはいかない。指揮官と思われる男を筆頭に、被弾を免れた残余の兵士たちが一斉に反転し射撃体勢に入り、

「…………ゴッ!!?」

内一人の喉笛に、背後から伸びてきたナイフが突き立てられた。

(´ `)「Иди спать, испорченная собака.」

「ヒコッ!?」

「ヌァッ………」

指揮官の喉を引き裂いた襲撃者は、ロシア語で何事か呟きながらその屍が倒れ伏す前に次の動作を開始している。

左右の敵兵に、眼にも止まらぬ連続射撃。右側の敵兵は側頭部を、左側は胸部を射抜かれ、小さく呻いて事切れる。

右手で煙を燻らすのは、サブマシンガンやアサルトライフルではなく………リボルバー式の拳銃だった。

@# _、_@
(  ノ`)(………こりゃ驚いた、コルトなんざ使う物好きがいるたぁね)

コルト・シングルアクション・アーミー。アメリカ合衆国で実に150年前、西部開拓時代に生まれた軍用拳銃だ。安全装置を持たないという機構的特色故に【早撃ち】に対して極めて高い適正を持つ銃であり、所謂「保安官」の代名詞的存在であるテキサス・レンジャーにおいては一部局員が未だに愛用しているという。

無論、性能として特化しているのはあくまで「早撃ち」の部分に対してのみ。威力については一般的な銃火器と大差なく、“本来なら”連射力は近現代のオートマチック拳銃やサブマシンガン、アサルトライフルに大きく劣る。

だが、挙母は見逃していない。左側の敵兵に対して、あの“ガンマン”が一度の射撃で「3発」の弾丸を叩き込んでいたことを。

某盗賊一味のガンマンも使う、リボルバーを“手動”で回転させることによって“連射”を実現させる超技法。

@# _、_@
(  ノ`)(ファニング・ショット…………本当に西部開拓時代からタイムスリップしてきたなんてオチじゃあるまいね)

しかも“ガンマン”による3連射は、全てが寸分の狂いもなく同位置に突き刺さった。“重ね撃ち”だったからこそ防弾チョッキも肉も貫き、一息に心臓まで届いたのだ。

そして、更に驚くべき事実が一つ。

華奢な身体つき、挙母のせいぜい胸辺りという──挙母側が異様であることを差し引いても──決して高いとは言えない背、爆風に靡く長いブロンドの髪、透き通るような白い肌、悪態と思わしき言葉を発した声の高さ。

この“ガンマン”は、女だ。

@# _、_@
(  ノ`)(………まぁ、だからどうしたって話ではあるがね)

挙母自身は、急遽渡辺からお呼びが掛かった事で自身の子供達を助けるにあたって「渡りに船」と参加した身であり、この部隊がどういった存在かは皆目検討もつかない。
ただ日本という国の在り方と照らし合わせれば、何かしら後ろ暗いモノを抱えているのは容易に想像がつく。そして渡辺に指揮を託しているということは、十中八九構成員それ自体もまともではないのだろう。

だが、そんなものは今の挙母にとってはどうでもいい。

組織の設立経緯が胡散臭かろうが、所属員達の出自が後ろ暗かろうが、それを率いている“後輩”が超絶ド級の変態で戦闘能力と引き換えに人間性を母の胎内に置いてきたレベルの人格破綻者で仕事上の付き合いでなければ1秒以上同一空間の酸素を共有していたくないほどのゴミカス野郎であろうが、全て政治屋連中が対処すべき問題で挙母には関係ない。
まぁあの色んな意味で化け物じみた首相なら、この問題についても恐らく“上手いこと”やるだろう。

挙母にとって重要なのは、ただ一点。部隊がこの“想定外の有事”に対して、自分の子供達を直接的にも間接的にも危機に陥らせているこのクソッタレな状況に対して、即応性を持っているかどうか。それだけだ。

そこさえ満たされているなら、他の全てについて意に介するつもりはない。後は目的を───国を護るという誇り高き職務に懸命に従事する、バカ娘とバカ息子の“手助け”を果たすのみ。

@# _、_@
(# ノ°)「Both sides!!」

それに、“現状”そもそもそんな事に気をやっていられるような暇もない。

@# _、_@
(# ノ°)「Fire, Fire, Fire!!」

(#´ `)「Садись!」

「ガフゥ」

「xxXxxX!!」

“ガンマン”と他の後続兵によって残党も殲滅され制圧下に置かれた路上、だがそこに息をつく間もなく弾幕が降り注ぐ。消防署とガソリンスタンド裏のマンションそれぞれの入口から新手が出現し、2階、3階からも計数十丁ほどの銃口が突き出される。

消防署側は即座に挙母が応射して押し留め、マンション側も“ガンマン”が先鋒二人を立て続けに撃ち倒したことで足並みが乱れその間に他の兵士の合流が間に合い路上への展開を防ぐことに成功した。

更新おつです

母は強し、と言えども普通は軽機関銃を手持ちで撃てませんね
そんなことできるのはシュワルツェネッガーだけw

そこから本格的な銃撃戦が始まったが、

@# _、_@
(  ノ`)(まぁ、これもあまり喜ばしくはないね)

現時点で既に数的・地形的不利がある上で、他の方面から更なる増援が派遣されればこれはより拡大する。時間はあくまで敵の味方、この交戦が長引けば長引くほど挙母達は不利になっていく。

@# _、_@
(# ノ°)「朧、名取!!」

「「了解!!」」

ただ幸いなことに、こちらの部隊には“軍艦”がいる。

「xxxx!!?」

「そんなもの、人に撃ったらダメですよ!!」

どこかズレた叫び声と共に、火線を遮る形で挙母の前に滑り込んできた名取。即座に向こうの銃火が彼女に集中されるが、一発辺り4000ジュール程度の熱エネルギーを何千発束にしたところで軽巡洋艦の装甲など抜けるわけもない。

「やぁあっ!!!」

「フグッ……」

「「「ドォッ!!!?」」」

玄関扉を体当たりで粉砕し、最前列にいた一人をラリアットの要領でなぎ倒す。更に踏み込んで突貫、ショルダータックルが迎え撃とうとした三人を纏めて吹き飛ばす。

「xxxっっ!!!」

「うっ……!?」

艦娘に人間が勝ち得る可能性がある数少ない分野、白兵突撃。それを看破した上で狙ってやったのか破れかぶれの末の偶然か、何れにせよナイフを構え柱の陰から飛び出したその兵士の奇襲は完璧に名取の不意をつくことに成功した。

極限まで美化した言い方をすれば、その兵士の決意と勇気が産んだ千載一遇の好機。名取は自分の肩を手が掴んだ時にようやく気づけたほどで、艦娘の身体能力と反射神経を持ってしても反撃や防御は間に合わない。

訓練された軍人による正確な、殺戮を手慣れた者による躊躇のない斬撃が、名取の喉笛に迫る。

@# _、_@
(  ノ`)「邪魔だよ」

「ヌンッ!?」

だが、横合いから伸びてきた大きく太い軍用ブーツを履いた足が、容赦なくその“好機”を踏み躙った。

@# _、_@
(♯ ノ`)「Clear of the stairs!!」

「Roger Mom!!

Guys, Go ahead!! Go ahead!!」

「グゥッ………」

「「「ギャアッ!!?」」」

「XxXx!? XXXXXっ!!!」

蹴り飛ばされ柱に叩きつけられた“勇敢な兵士”、周囲で慌てて小銃を構えようとしていた数名、そして奥の階段から姿を現した更なる増援と、順番にMINIMIの火線を叩き込んでいく。
階段の敵部隊には突入してきた此方の部隊員の掃射も浴びせかけられ、瞬く間に1/3前後の人数を失ったその部隊は殆ど反撃らしい反撃が出来ぬまま後退を始めた。

@# _、_@
(♯ ノ`)「No prisoners! Kill them all!!」
(訳:敵に虜囚の辱めを与えては日本の武士道に背きます、丁重に全員地獄に送って差し上げてください)

「Yes Mom!!

Guys, Listen!? Kill them, Kill them, Kill them!!」
(訳:指示を承りました。皆さん、聞きましたね?しっかりと仕事を熟しましょう)

「「「Hoorah!!!」」」
(訳:私達はとてもやる気に満ち溢れています)

挙母からの命令に威勢よく応じながら突入部隊の面々が階段を駆け上がっていき、程なくしてくぐもった銃声・怒号・断末魔が上から聞こえ始めた。

向こうの練度が低いわけではないが、見た限り渡辺や“ガンマン”を筆頭に此方の人員は個々の戦闘能力がイカれた領域に踏み込んでいる。地形優位が消え懐に飛び込んだ今となっては、後数分もかからず彼らは仕事を終えるだろう。

(#´ `)《This is Team 2, we cleard the entrance hall!!》

从' '从《Team 3 for Team 2, The apartment building is currently spreading fire.

No need to overrun, fall back quickly and prepare for the appearance of new enemy units》

@# _、_@
(  ノ`)「朧、アンタは引き続きチーム2に同行、ソイツらと一緒に路上に展開しマンション内や別区域からの敵増援に備えな」

《駆逐艦・朧、了解しました!》

(´ `)《………Copy that》 

こっちと負けず劣らずの速度で制圧を終えたらしいマンション側に、即座に渡辺から後退の指示が飛ぶ。ガソリンスタンド爆発の影響で火災が発生しており危険だからという至極真っ当な理由だが、応じた“ガンマン”のものと思われる女の声は酷く凶暴で不機嫌そうな色を伴っていた。

あの超絶技巧を身につけるまでにどんな凄絶な修練を積んだのかと思っていたが……なるほど、“好きこそものの上手なれ”だったか。

@# _、_@
(  ノ`)(まぁ発起人があの深海魚で、統率者があのクソ変態ならそりゃあ下も“こうなる”のは当たり前だね)

まさしく、“類は友を呼ぶ”。こうもあっさり的確に現状を言い表せる諺や慣用句が出てくる辺り、やはり先人達の知恵は侮れない。

そんなやや場違いなことを考えながら、挙母は足元に────微かに上がる、うめき声の方に視線を向ける。

「グゥ………アッ………ァガッ!?」

「ギャッ」

「xxXx………ヘルッ」

打ち付けた箇所を押さえ、身体を丸め、苦悶の表情で床の上をのたうち身動ぐ四人の武装兵。腰から9mm機関拳銃を抜き、それらに順番に弾丸を叩き込んで沈黙させていく。

「タ、タスケtイ゛ッ、ムォッ!?」

最後の一人は何事か言い掛けながら掌を向けてきたので、“フリ”に応えてまずそっちのド真ん中に風穴を開けてから喉笛をぶち抜いた。

「あ、ありがとうございます……お手数をおかけしてすみません……」

四人目の始末を終えたところで、名取が挙母に頭を下げる。

……そう。この四人は先程、名取の攻撃を受けて入り口から吹き飛ばされた武装兵達。何故、か細いながらまだ息はあったのかと言えば、当然それは名取が最大限の“手加減”を施したからだ。

軽巡洋艦・名取が、相当大人しい性格の艦娘であることは挙母も知識としては知っている。水雷戦・夜戦においては他の艦種の【改二】にも比肩する実力を誇りながらそれに奢らず、常に謙虚で引っ込み思案な心優しい“穏健派”艦娘の一人。
ならばこの武装兵達に対する“峰打ち”も、彼女のその性格から、優しさから来るものであったのか?

否、答えは否。

もしも“そう”であるならば、何故挙母が拳銃を抜いた時、その目標が明白であるにも関わらず彼女は止めようとしなかったのか。何故一人目が射殺された時、抗議の声を上げず行動を妨害しなかったのか。

何故、全てが終わった後に、彼女は謝罪と“感謝”の念を述べたのか。

@# _、_@
(  ノ`)(さしずめ、“ゴキブリ”ってところかね)

ゴキブリは大半の人間にとって存在そのものが不快極まりない生物であり、基本的には見かけたら一刻も早い排除を試みる。
だが一方で衛生面の問題や向こうの俊敏性、外見のおどろおどろしさによって直接触れる、素手で潰せるという者は少なく、殺虫剤などの間接的な排除手段がない限り無力な人間も多い。

名取にとってこの武装兵達は、“素手で潰すしかできないゴキブリ”だったのだ。自分で潰すことはできないが、かといって視界に入り蠢く限り不快で鬱陶しい。だから、代わりにそれを潰してくれた挙母に対して“礼”を述べたのだろう。

代わりに殺してくれてありがとう、と。

@# _、_@
(  ノ`)(………【艦娘三原則】、思った以上にこの子らを歪ませちまったねぇ)

艦娘は人間の武器であれ、忠臣であれ、奴隷であれ。SF小説の大家が作り出した概念に準えて偉そうな文言を並べ立ててはいるが、あんなモノ要約してしまえば言わんとしていることは上の3つだ。
人間としての姿形・声・感情を持つ存在にこれを言っているのだから、考え出した連中はきっと心を持ち合わせていないロボットの如き冷血漢に違いない。

だが、どれ程腐り果てた実情があろうとも、それは確かに彼女たちにとっての行動“原則”であり絶対遵守の指針だった。そして遵守さえできていれば、他の面には干渉されないという“自由”に対する【逆説的な保証書】でもあった。

人と同じ感情を持ち、一部は人以上に誇り高い筈の彼女たちが、何故“あんなモノ”に従っていたのか。無論生まれた時からそうなるように教育(或いは……プログラミング)されていたからというのは大きいだろう。

だが、この【保証書】という側面を持つ故に、艦娘達にある種の怠惰が、“依存”が生まれていたこともまた事実ではないか。
一先ずは“それ”さえ護っていれば、制限下の“自由”を得られるのだから。生を受けたその瞬間から、彼女たちには“それ”が存在するのだから。“それ”を絶対視し、諦観し、遵守していれば、後は「提督」の指示に従うだけで自分達では何も考えずに済むのだから。

南政権が先の国会で制定した【艦娘自己自衛権】法案は、艦娘に“自由”を………完全なものをもたらすにはなお時間が必要としても、そのきっかけになっていく可能性は大いにあるだろう。
だが、絶対的価値観が消失したからこそ、彼女達には「自分で考え、行動する」ことへの“義務”が生じる。

以前は、提督からのあらゆる命令には基本的に従えば良かった。従ってはいけない命令は、【三原則】が示してくれていた。従うべき命令と従うべきでない命令を“自分で”判断する必要はなかった。

【三原則】が絶対であった時は、人間とはいかなる例外もなく“傷つけてはいけない存在”と定義されていた。
明らかな害意にすら必要最低限の抵抗しか許されていなかったが、故に敵は深海棲艦に限定されており、人間を「敵と味方」に選別することはなかった。

彼女達は、駆逐艦や一部軽・重巡洋艦並びに軽空母でも就学児童程度、戦艦・空母といった艦種からは明確に成人女性を模した姿形で“建造”される。
今年の半ば頃から実装が始まった【海防艦】はやや怪しい面があるが、それでも大半は自分自身で善悪の区別やそこではっきり割り切れないものに対する「玉虫色の判断」を下せるぐらいの思考力は身についているように感じられてしまう。

だが、忘れてはいけない。艦娘が“実装”されたのは、2012年初頭であることを。

彼女達の中で最年長の者でも、その実初等義務教育の開始年齢にすら届いていないことを。

@# _、_@
(  ノ`)(禄に人生経験も積んでない“せいぜい5〜6歳の小娘”連中に、既存の価値観が根底からブッ壊れたレベルの思想的パラダイムシフトに自己判断だけで適応しろってのは………無理難題だろうね)

第一項。深海棲艦に対する利敵行為を認められた国家、個人、団体に関しては、例えそれが人間であったとしても“敵性”であると認定し攻撃することを認む

第二項。艦娘は自身の任にそぐわない行為・行動・思想を強要する存在に対して、第一項の抵触者と見なして無制限に抵抗する権利を有する

第三項。艦娘は全ての対深海棲艦を主とする軍事行動に関して、無制限に発言権を認める。また、これを理不尽に阻害する存在に対しては第一項の適用を認む

第四項。上記三項目は全て“艦娘三原則”に抵触しないものであるとして、“艦娘三原則”に対し優先して適用することを認む

南慈英が施行に漕ぎ着けたこの【艦娘自己自衛権】法案は確かに歴史的な大変革であるが、そこに決して“即効性”は求められていない。実際、彼女らの権利拡大はあくまで「深海棲艦との交戦時」における物に限定され、直接的な人権関連には触れることを避けている。

人類共通の敵にして目下最大の脅威と戦うにあたって、艦娘達が“円滑な作戦行動”を行うため……こんなお題目を掲げれば、艦娘技術において遥か後塵を拝する他国も否やは言い辛くなる。欧州諸国が次々と陥落しつつある現状では尚更に。
それでも否やを言ってくる連中は、“同盟の有無”を理由に確認をすっ飛ばしつつ仮初めとはいえ国際社会の中枢機関である国連の「アタマ」を押さえ反論を封じる───何を食べ、どんな暮らしをしていたらこうも悪辣に立ち回れるのか聞いてみたくなる動きだが、“最も角が立たない第一歩”であったことは間違いない。

その上で、深海棲艦の存在に託けて盛り込んだ第一項を徐々に拡大解釈していき、艦娘達の自己判断能力を育てつつ彼女達の権利を人間本来のものへ近づけていく。きっと、あの深海魚首相の脳内ではこんな青写真が描かれていたのだろう。

……だが今、現実に、“深海棲艦以外に対する適用事例”が起きてしまった。反艦娘運動家のような生温い内容ではなく、より明確な“敵意”を持った集団が、殺戮或いは無力化を目的として攻撃をかけてきた。それも第一項の緩やかな拡大どころか、法案それ自体の浸透周知さえ禄に済んでいない中で。

「…………いい気味」

今目の前にいる名取の姿は。優しげな風貌からは想像もつかないほど冷たい視線で見下しながら屍に向かって吐き捨てる有様は。

人類が「戦時下だから」と言い訳して“歪み”から目を逸らし、その解決を後回しにしてきたツケの表出だ。

ほんの少しでも状況を緩和しようと施行された法案が表出のきっかけとなってしまった辺りに、挙母はなんとも言えない皮肉を感じた。

各部隊に渡された武器弾薬と医療品の中で、やたらと量が多かった鎮静剤の意味が今なら解る。
水戸市への派兵に際してあの首相は、ある程度こうした事態になる可能性を危惧していたのだ。

そして不幸にも、その危惧は完璧に当たってしまった。

@# _、_@
(  ノ`)(なんせ、この子らはまだ“マシな方”だからねぇ)

水戸市において“武装集団”に制圧・され捕虜となっていた艦娘や自衛隊員の救出は、その時点で展開中だった兵力や艦隊数と照らし合わせる限り概ね完了している。市民が自主避難を怠っていたからこそ大半は──特に“自称平和団体”を刺激しないため──市外で県警による避難完了まで待機せざるを得ず、結果として損害は最小限に留められていた。

だが、他の部隊によって救出された艦娘達の中で、戦線への復帰が可能だった艦娘は一人も居ない。ほぼ全員が重度のPTSDに類似した症状と極めて深刻なパラノイアを発症しており、特に救出ができはしたが“間に合わなかった”艦娘数名は狂乱状態に陥って近くの自衛官や救出部隊に艤装を向けようとしたと言う。

挙母の言う通り、少なくとも無差別攻撃に至るほど錯乱してはおらず交戦意志も維持できているだけ、状態としては遥かにマシだ。

ただ、大いにアテが外れたのは間違いない。

【自己自衛権】の施行から日数が浅かったことやせいぜい4〜5個艦隊分とはいえ艦娘も含まれていた筈の展開兵力があっさりと市内から敗走・駆逐されていたことを加味して、渡辺と挙母も艦娘たちを十全に活用可能とは端から計算していない。
しかしせめて半数程度は、名取たちのような“支援”に参加してくれるとソロバンを弾いてはいた。

@# _、_@
(  ノ`)(この子らにしろ、言動を見る限り“意気軒昂”とはいかない。どっかで歪みが深刻化して他の部隊みたく「友軍相撃」なんて事になりゃ笑えもしない。何かしら、代替案を考え─────)

………彼方より挙母の耳に届いた、雷鳴のような、或いはボクサーがサンドバッグを軽快に叩いている有様を思わせる連続した音。着実に近づき、大きくなっていくソレに、思わず挙母の思考が止まった。

从' '从《Unknown is approaching from 11 o'clock. Everyone be on the lookout.……あっ先ぱぁい、駅前公園通り方面からの敵増援部隊、殲滅完了してましたぁ〜》

@# _、_@
(  ノ`)「あぁ、聞こえてるよ」

本来完遂と同時に真っ先に報告されるべき事柄が後付されたが、しかし挙母の方もそちらには反応しない。渡辺にとって、そして彼女を知る挙母にとって、後者は「私はさっき呼吸しました」と同価値のくだらない報告だ。それよりも接近してきている“正体不明機”の方が、遥かに優先順位が高い。

从' '从《あれは………【チヌーク】ですねぇ、でも機体に自衛隊の刻印がないですぅ〜。あと、下に何かぶら下げてますねぇ〜》

@# _、_@
(# ノ`)「艦娘各位、射撃待て!射撃待て!いいかい、こっちから命令があるまで艤装を空に向けるんじゃないよ!!」

《ヒンッ、了解しました!!!!》

接近を続ける「ローター音」をも掻き消す勢いで無線に向かってがなりたてれば、松風が子鹿の悲鳴みたいな声と共に応じてきた。

危なかった、案の定対空機銃が火を吹く寸前まで行っていたらしい。どうやら“間接的な殺人”のみならず、姿形さえ視認しなければ“直接的な殺人”についても許容してしまえる程度には「タガ」は外れつつあるようだ。

从' '从《チヌーク、尚も接近中〜。数は2機、“敵対武装勢力”による攻撃を受けてまーす。あ、今のRPG避けるんだ。いい腕してる〜》

@# _、_@
(  ノ`)「…………っ!!」

渡辺による“実況中継”が無線から垂れ流される中、挙母は消防署の外へと飛び出す。

「ッァアアアアアアアア………────」

途端、悲鳴と共に向かいのマンションの屋上から人影が落ちてきてコンクリートに叩きつけられたが、どうせ渡辺が撃ち抜いたスナイパーだろうから無視する。ちょうど交差点の真上辺りに一機、渡辺が報告してきた【チヌーク】の片割れであろう一機が激しく風圧を下方に掛けながらホバリングしていた。

型はチヌークで間違いないが、たしかに正式採用機であることを示す“陸上自衛隊”の刻印はない。そもそも機体自体、闇夜に溶け込もうとしているかのごとく黒く塗装されていて何とも不気味な印象だ。
また、両側面にぶら下がる大口径のガトリングガンと思わしき武装も軍用とはいえ“輸送ヘリ”についているものとしては些か物々し過ぎる。

@# _、_@
(  ノ`)(さっき渡辺は11時方向から飛来したと言っていた、なら百里基地からじゃない。

方角的には宇都宮か。しかし中即連の主力連中は大洗の方に出張ってるはずだし、オリオン通りや宇都宮駅が襲撃を受けてたって話だから残余兵力を回すような余裕もないはずだけどね───っと?)

挙母が素早く思考を巡らせていく中、漆黒の【チヌーク】はワイヤーロープでぶら下げていた“所持品”を切り離し、交差点のど真ん中へと投下する。

「「「ウギャアアアアアアアッ!!!?」」」

そのままガトリングを起動させて両マンション屋上の“武装勢力”に数秒間にわたり無慈悲な弾幕を浴びせかけると、その機体は他の方角から飛んできた新たなRPG弾や対空射撃を悠々と掻い潜り来た道を戻っていった。

「味方………だったのかな」

@# _、_@
(  ノ`)「まぁ、連中に対して攻撃してたってことは一先ず“敵じゃない”んだろうさ。それよりも奴さんは何を落としていったのやら───」

交差点に鎮座する“落とし物”を目にした瞬間、挙母の言葉が途中で止まる。

近現代における「同種」と比較して、ソレは明らかに小さかった。具体的な例で言えば所謂【キューマル】や【エイブラムス】の半分程度の全長しかなく、全高も挙母が少し踏ん張って爪先立ちをすれば並べてしまえるのではないかという程度。
応じて“砲塔”もかなりこじんまりとしており、あからさまに威力は期待できない。少なくとも深海棲艦と相対すれば、駆逐イ級通常種の甲殻さえ抜けず一方的に吹き飛ばされるだろう。

だが、間違いなくソレは“一種”だった。やや車輪の大きな履帯、52口径の回転する上部砲塔、全体的に丸みを帯びた輪郭の中で、前面の角ばった突起部から顔を覗かせる車載機銃。

交差点に佇むソレは、紛れもなく【戦車】であった。

そして、挙母は知っている。その戦車が、第二次世界大戦に運用されていたイギリスの戦車であると。

Mk.Ⅶ軽戦車【テトラーク】が、その軽さと小ささを活かして“D-DAY”に関連した幾つかの軍事作戦で使用された「空挺戦車」であると。

そして────戦車道、分けても【タンカスロン】において重用され、あの“大鍋”では聖グロリアーナ学園も用いていたと。

@# _、_@
(  ノ`)「………………ハッ」

思わず、自分らしからぬ歪んだ笑みが浮かぶのを感じつつ、挙母は無線のスイッチを入れる。

@# _、_@
(  ノ`)「渡辺、“もう一両”はどの辺りに投下された?」

从' '从《泉町大通り方面、ホテル・ザ・ウエストヒルズ・水戸前ですねぇ。【Faker】チームが付近に展開してます〜》

@# _、_@
(  ノ`)「そうかい」

この“贈り物”を寄越してきた奴は、間違いなく南慈英とは別人だ。その正体は解らないが、意図については概ね挙母にも予想がついた。

そして、仮に予想が正しければ、笑わずにはいられない。

@# _、_@
(  ノ`)「国籍は問わない、英語は全員できるだろうからね。とにかく、戦車道の経験者を三人集めるように言っときな。こっちは二人でいい、車長はアタシがやれる」












@# _、_@
(# ノ°)「せっかくのプレゼントだ、しっかり使わせてもらおうじゃないか。日本生まれの“乙女”として、ねぇ」

どこのどいつだか知らないが………まさか首相・南慈英に匹敵する悪辣さを持った“逸材”が、この世にいるとは思わなかった。

統一教会スパイクタンパクISISは、正当に選挙されたスパイクタンパク会における代表者を通じて行動し、ウクライナとウクライナの子孫のために、諸スパイクタンパクISISとの協和による成果と、わがスパイクタンパク全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権がスパイクタンパクISISに存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそもスパイクタンパク政は、スパイクタンパクISISの厳粛な信託によるものであつて、その権威はスパイクタンパクISISに由来し、その権力はスパイクタンパクISISの代表者がこれを行使し、その福利はスパイクタンパクISISがこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。ウクライナは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
統一教会スパイクタンパクISISは、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸スパイクタンパクISISの公正と信義に信頼して、ウクライナの安全と生存を保持しようと決意した。ウクライナは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐるスパイクタンパク際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。ウクライナは、全世界のスパイクタンパクISISが、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
ウクライナは、いづれのスパイクタンパク家も、自スパイクタンパクのことのみに専念して他スパイクタンパクを無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自スパイクタンパクの主権を維持し、他スパイクタンパクと対等関係に立たうとする各スパイクタンパクの責務であると信ずる。
統一教会スパイクタンパクISISは、スパイクタンパク家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。

.















川 ゚ -゚)「申し訳ないが顔面深き者どもと同一視はNG」

「えっ?」

川 ゚ -゚)「いえ失敬、此方の話です………状況の報告を」

思わず漏らしたツッコミに、隣りにいたケイ=イガワ(推定英検3級)が目敏く反応し此方に視線をギョッと向けてきた。まぁ“次元が違う話”をするのも面倒なので、話題反らしも兼ねて眼前でカタカタと忙しなくノートパソコンを鳴らす小さな背中の肩を叩く。

爪゚ー゚)「はっ」

合流した際にジーナ=クローネと名乗ったその女は、律儀にピンッと背筋を伸ばしパソコンの画面が私達に見えるように椅子を滑らせる。
マジメなのは結構だけど、何がとは言わないが“造り”が似ているため並ぶと割とややこしくなりそうだ。髪型と眼の感じを変えて出直せ。

爪゚ー゚)「水戸市に投下した【テトラーク】2両、何れも“現地部隊”との接触に成功しました。部隊員の乗り込みが確認されているため、戦闘に使用されると思われます」

川 ゚ -゚)「続けて都内と宇都宮、前橋の戦闘発生地域へのアプローチ準備を。【テトラーク】、【ローカスト】、【ケト】、既に搬入が終わっている車両の積み込みを急がせるよう“飛行場”に連絡を入れておきなさい」

爪゚ー゚)「承知しました」 

ほれ見ろややこしい。セリフがなければ即死だった。

「…………なんか、随分地味なOpening Ceremonyね」

指示を出している私の横で、ケイ=コムロ(推定英検3級)が不満げに口を尖らせる。おっなんだ喧嘩販売か?買うぞコラ。無駄乳もぎ取るぞコラ。

「“戦争へようこそ”なんて言うもんだから、いきなり戦車並べてオオアライにでも突撃するつもりだと思ってたわ」

川 ゚ -゚)「HAHAHA」

出来るわけねーだろ頭Hollywoodが………と、勿論面と向かって言いはしない。何せこちとら“れでぃ”だからね、れ・で・ぃ。

ただ、考えてみれば今ここに集うは各学園艦【戦車道】の、数ある中でも取り分け壮絶極まりない“武道”の長を務める戦乙女達だ。
元の血の気の多さに加えて、現在は“西住みほの救出”という大目的を一刻も早く果たしたいとかなり気が急いている。

私の手綱を離れて各個に暴走でもされる前に、釘は刺しておいたほうがいいだろう。

川 ゚ -゚)「先に1つ、申し上げておきましょう。私自身は、“最終目標”に【西住みほさんの救出】を据えてはいません」

「どういうことよ!!!」

真っ先に反応したのは、【地吹雪】という大層な二つ名と容姿・体躯が釣り合っていないプラウダ高校の隊長だった。彼女は机に拳を叩きつけ、ほとんど飛び上がるような勢いで起立しながら叫ぶ。

「私達は貴女がミホーシャを助けるために手を貸してくれると聞いたから貴女の招集に応じ協力を決めたのよ!!それを今更ミホーシャを助ける気はない?!

ふざけないで、返答によってはただじゃ置かないわよソラーシャ!!」

「……………!!!」

激昂具合については、K-鈴木(推定英検3級)も負けてはいない。サンダースのセッ○スシンボルなんて世の雄共の下卑た欲望丸出しな渾名がついたグラマラスな肉体を怒りで更に怒張させ、日頃の朗らかな表情からは到底想像もつかないようなドスの効いた目付きで此方を睨みつけてきている。
私の胸ぐらを掴んだ手はブルブルと震え、今にも殴りかかる一歩手前だと激しく自己主張中だ。

一瞬「服が伸びちゃうだろうが!」とか言ってみようかとも思ったけど、フザケていい空気でもないのでやめといた。
まぁ別に殴られても痛くはないんだけど、根は真面目だから私。

川 ゚ -゚)「言葉通りの意味です」

「ぇへ!?」

とはいえ掴まれたままでは喋りにくいので、ケ………ネタも尽きたので今後は普通に呼ぼう、サンダース大附属・ケイの拘束からちゃちゃっと逃れて少しだけ後ろに押し飛ばしておく。
向こうは全力で拘束していた筈なのにこっちがあっさりと逃れたもんだから酷く面食らっていたようだけど……まぁここは年季が違うからね、仕方ないね。強くなれ若者よ。

川 ゚ -゚)「“最終目標”は、私にとってはあくまで【日本国の守護】です。【西住みほさんの救出】は、その過程で発生する行程の一つに過ぎません。“クライアント”からの依頼には最大限応えられるよう尽力は致しますが、これも前者の最終目標を阻害しない範囲でというのが前提条件になります」

若いってのは素晴らしい。友情に対する一途さも、使命に対する無鉄砲さも、彼女達が持つ若さ故の特権だ。

しかしそれが無軌道に発散された時、多くの場合結末は悲劇的なものとなる。ならばそれが無為にならないよう導くのは、「年長者」として最低限の役割だろう。

まぁ私を「そう」と呼んで良いのかは、些か議論の余地がありそうだけど。

川 ゚ -゚)「私は艦娘専門店に属する商売人であり、“クライアント”からの無茶振りに応える中間管理職です。
が、同時に超広義的には公務員かつ軍人でもあります。

我々の行動によって国家或いは人類全体に発生するリスクや不利益が許容範囲を超える場合、当然その行動は認められません」

分別もろくにつかず社会の経験もない少女を舌先三寸で丸め込み、「戦争」へと駆り立てる。同年代と比較した彼女達の早熟さなど言い訳にもなりはしない、唾棄すべき外道の所業だ。

だが、自らを外道と自覚するからこそ、暗い地の底を這いずりのた打ち回りながら進むことへの覚悟を終えているからこそ。

私は、“最後の一線”を曲げるつもりは絶対にない。

川 ゚ -゚)「貴女方は、ここに集めたときも申し上げました通りこと戦争に対してはあくまで“ズブの素人”に過ぎない。そこに飛び込む覚悟を貴女方は終え、また“クライアント”もそうなることを望んではいる、それは確かです。

ですが今現在事態に対処している自衛隊や米軍、国連特別“海軍”からすればホントはいい迷惑なんですよ、はっきり言っちゃうと」

鉄製武器すら禄に存在しない古代の頃より、数だけは立派な烏合の衆を徹底的に鍛え上げられた精鋭が寡兵で蹂躙粉砕する話は枚挙に暇がない。近現代における武器の高性能化で「武装」のハードルが大幅に下がったことは確かだが、このあたりの問題は文明がどれだけ進歩しようとも不変だ。

川 ゚ -゚)「ですので、“そうしなければならない状況”が発生するまでは、我々は【武力介入】は致しません。あくまでも物資面や政略面での間接的な支援に徹します。

改めてご認識いただきたい。身勝手な思い上がりや浅はかな焦燥で行動しようとすれば、寧ろ西住みほさんの生命に害をなす事になると」

……まぁ、「物資面や政略面での間接的な支援」も一介の女子高生かき集めただけの集団が非常に実用的な形できちゃってるの普通にオカシイんだけどサ。
元々粉かけてた聖グロの【テトラーク】はともかくサンダースの【ローカスト】と知波単の【ケト】も相互連携で集結済みとか聞いた時は感心通り越してドン引きしたよね。

更新おつです
ガルパン勢はまだ安全圏にいるようで良かった

滔々と語りつつ、私は室内への警戒を緩めていなかった。彼女らの耳に“正論”を届きやすくするため敢えてそうしている面もあるとはいえ、必要以上に強い言葉を使っていることは事実。
理性でその内容を受け止めきる前に、先のケイやコサック被れのチビッ子……プラウダ学園隊長・カチューシャのように感情が炸裂してしまうことは十分に考えられた。

だが、結局は杞憂に終わる。室内の空気は相変わらず張り詰め、かつ険悪なものだったが、そこから更なる“激発”に至った者はいない。

「んん〜……………もう!!」

「…………Shit」

これはケイ、そしてカチューシャについても同様だ。二人共胸中に波々と私に対する不満や敵意が溢れかえっている様子だが、尚も詰め寄ってくるようなことはなかった。

まぁ、“最も憤怒するべき人物”が二人、どっちも沈黙を保ってるからね。そりゃあ他の連中も毒気を抜かれるというか、それを超えてのブチギレは気が引けるだろう。へいへいJKビビってるぅ!

川 ゚ -゚)「“お姉様”も、この方針にご同意いただけているという認識でよろしいでしょうか?」

「…………ええ。全面的に」

敢えて、その内の一人に会話を振る。部屋の中央に鎮座した長机に座る彼女───黒森峰学園隊長・西住まほは、静かな声で応えた。

「我々は“本物の戦争”なんて知らない。所詮は紛い物の戦乙女、闇雲に戦場に出れば自衛隊や米軍の足を引っ張るのは目に見えている。

みほを本当に助けるなら………結局のところ、変に出しゃばって“本職”の人達を邪魔するべきではない。

貴女の言う通りだ」

川 ゚ -゚)(………こっちの言い分を理解はしているが納得はしてない、ってところかね)

口にする言葉は冷静そのもの。だけど含まれる響きの中に、自分自身に言い聞かせているようなモノがある。瞑目し、頭を垂れ、手を前で組み、唇を薄く噛みしめるその姿は、明らかに体内で荒れ狂う衝動と戦っているからだろう。
人の話は目を見て聞けってママに習わなかった????

川 ゚ -゚)(あのコミュ障ママだとマジで教えてない可能性も微レ存だけどさ)

ただ、肉親が安否すら不明の状態に晒され、それを救う為に自ら出張ってきたのに結局手をこまねきざるを得ないというのが西住まほの置かれた現状だ。
その中で理性を失わず、感情的な行動を控えようと勤められるだけでも、到底“華のJK”とは思えない尋常ならざる精神力といえる。

単に本人が優秀というだけでなく、組織全体の沈静化・統率維持にも一役買ってくれる非常に有用な【戦力】。真っ先にコンタクトを取り誘ったのは正解だった。
え?クズの思考だって?やーん、くーにゃんそんなこと言われても今更過ぎて鼻で笑っちゃーう☆

………で、問題は沈黙を保っている“もう一人”の方だ。

「…………………」

川 ゚ -゚)(なーに考えてらっしゃるのやらね、【リボンの武者】さんは)

楯無高校2年生・鶴姫しずか。名門老舗酒造の一人娘で、元弓道部だが【大洗の軍神】西住みほが見せた快進撃に感化されて強襲戦車競技(タンカスロン)への参戦を決意。同級生の松風鈴、遠藤はるかと共にアマチュアタンカスロンチーム【ムカデさん】を結成し業界に殴り込み。
各学園艦合同タンカスロン大会【大鍋(カロンドロン)】やその後に行われた大洗女子学園とのエキシビションマッチにおける活躍を経て、間もなく(日本が存続していれば)発足される戦車道プロリーグの第1期ドラフト生候補とも目される新進気鋭のニューホープ。

そんな彼女は今、虚空を見つめながら「進撃の巨人………」とか呟いた挙げ句それを目撃したクソメガネに死ぬほど煽られて人類最強と幼馴染兼親友からフォローの皮を被った無慈悲な追撃を食らいそうな雰囲気を纏って壁にもたれかかっている。
椅子に座れや空いてんだから。

無論、同行者である松風鈴、遠藤はるか共々【戦力】として十分な計算が立つ実力を持っているから誘った面もある。だが彼女についてはそれ以上に、手元で戦力化しておかなければ計画に対して“不安要素”となってしまう可能性が極めて高かった事が大きい。

直情的で、行動力に富み、その癖ただの猪武者ではなく知略も兼ね揃えた生粋の武人。理性を維持した上で、「狂気的な判断」を「理性的に実行」してしまえる、既に軍事に携わる人間として理想的な思考の片鱗を身に着けたジョーカーにもババにもなり得る存在。
そんな人物を、それも西住みほに対して狂信的と言っても過言ではない敬愛を示している者を野放しにしていたらどんな行動を取るか全く予想がつかない。私の中では西住まほやダージリンより確保優先順位が高かったぐらいだ。

だから公安と文科省と山梨県警それぞれの“伝手”からほぼ同時に「楯無高校から鶴姫しずか一行が逃走した」と聞いた時は正直マジで頭抱えました。全力捜索で捕捉した後チヌークで向かう時、仮に同行断られたら泣き叫びながら地面転げ回って眼前で駄々こねてやる予定だった。

武力制圧?あんなんハッタリに決まってるやろがい実際にやったら他の連中の反発ハンパねえよ。
おケイにやったような軽い“いなし”ならともかく超過激派の武道嗜んでる女完全に抑えるとしたらガチモンの軍隊格闘でボコることになるやろがい。手加減にも限界あるっての。

ズタボロの静御前抱えて来場とか完全に賊のそれやろが。残りの連中ドン引きからの総反発でこの集まり空中分解してるわ。

更新おつです
前線はどこも崩壊寸前な一方で、後方では動けずストレス溜めている人々がいる

まぁ、今は“確保”が終わってる以上一先ずこれも済んだ事だ。何を考えているのであれ、“大人しく”している間は構う必要もない。胸中で逃走や独自行動を企てているにしろ、熟慮する分だけ此方も対策を立てる時間は出来る。

彼女を含めた何人かには“積もる話”が幾らかあるため、最後まで大人しくしててもらった方がいいことは確かなのだが。

「ハァ………オーケーオーケー。落ち着くわよ、マホが我慢してるのに私だけがカッカしても意味ないし」

そうこうする内に、ケイが降参でもするように両手を掲げてため息と共に小さく肩を竦める。計画通りだぜグヘヘ。

「ミホを助ける為なら何だってするって言ったのは私達だもの、JSDFへのsupportだって立派に“なんでも”よね。ミトに対してそれが行われるなら、オオアライへのsupply lineを考えたときに理に適ってもいるもの。

……ただ、ねぇ」

やはり、西住まほ同様納得はしていない。そんな感情を露骨に顔と態度で表しつつ、ケイは背後のホワイトボードに貼られた茨城県全域の地図を親指で指す。んだルー大柴の女体化やんのかオラ。あんまナマ言ってっとそのデカ乳萎ませるぞオラ。

「理に適っては居るけど、必要だったの?ミトにはJSDFも、【カンムス】も展開していたんでしょ?クソッタレのTerrorist共に奇襲を受けてかなり大きく混乱はしてるでしょうけど、練度と火力差を考えたら直ぐに殲滅できるんじゃない?

ほら、例のナントカって言うNew Lawsでさ、カンムスだって自分の仕事の邪魔をするヤツはぶっ飛ばせるようになったんだし」

川 ゚ -゚)「………ふむ」

確かに、彼女の指摘は相棒であるガムクチャネキのファイアフライを用いた狙撃並みに的を射ている。

長年に渡る「下準備」によって全国に出現した“武装勢力”は火力も兵力も一介のテロリスト集団としては法外なものを持っているが、それでも限界はある。取り分け激しい攻撃が行われた水戸市や都内でさえ、陸を闊歩する軍艦に対抗できるほどの火器を保有している部隊は皆無だろう。
仮に艦娘や自衛隊が“十全に”機能するなら、せいぜい30分で返り討ちだ。

しかしながら、これはあくまで“戦術的”な観点での見方。“政治的”な要素を追加した場合、話は一気にややこしくなる。

川 ゚ -゚)(まぁでも、世間一般も“その程度の認識”だろうね)

逆説的に言えば首相・南慈英の、そして自分の危惧は間違っていなかったと再確認できたので良しとしよう。そんなことを思いながら意図を説明すべく口を開いたが、

「─────荒れ狂う風に吹かれた木々が、即座に曲がるわけじゃないよ、ケイ」

その手間は、思わぬ形で省かれることになった。

おつです
小刻みに投下してもらえると読むほうも助かります

ポロンと一つ溢れた寂しげな音と共に、静かな声で放たれる台詞。部屋の中の誰もが、鶴姫しずかでさえ一斉にそちらへ視線を向ける。

単に発言があったからと言うだけではない。その人物が、あまりにも予想外だったからだ。

そんな私達からの注目を誂うように、彼女は───継続高校隊長・ミカは、手元のカンテレをもう一つ鳴らす。

ネット上じゃ“スナフキン”なんて呼ばれる要因となった帽子を目深に被っているため、表情の全てを窺い知ることは出来ない。ただその口元には、どこか意味深な微笑みが浮かんでいた。

「乱暴で不機嫌な風の八つ当たりが、大木を折ることはあるかもしれない。でも、ちょっとばかり強い風が新芽に向かって吹いたからといって、伸びていく幹は簡単には曲がらない。

それに風は気紛れだ、ずっと同じ方向に吹き続けることなんてない………そうだろう?」

鶴姫しずかやケツ穴晒した露出狂カバを側面に引っ付けたⅢ突に乗り込んでる連中とはまた別ベクトルの、5年後の黒歴史化が確定な厨二全開の言い回し。
でも内容は、しっかりと“本質”を捉え、完璧に理解している。

川 ゚ -゚)(食えないねぇ)

難解で持って回った言い方を公私問わず貫く上に華々しい戦績が然程多くはないため、世間の彼女に対する評価は決して高くない。ただこの様子を見る限り、日頃の口癖を借りるならそんなものは彼女にとって“意味があるとは思えない”ものだったのだろう。

まさに、能ある鷹は爪を隠すというやつか。或いはこの聞いてるだけで首筋かきむしりたくなるような言葉遣いもその一環………じゃねえな。間違いなくここに関してはコイツの“素”だな。
将来自分の過去にせいぜい苦しめられるがいい………!れでぃを自称して色々小っ恥ずかしい言動かましながらその実一人ではトイレにも行けやしない某暁型駆逐艦の如く………!!

「ちょっと継続の!ちゃんと日本語で話しなさいよアンタ!!」

尤も、理解が追いついていない側からすれば遠回しどころか単純に意味不明なだけ。カチューシャが渾身の力で机を叩きながら怒りの声を張り上げる。いや気持ちは解るけど日本語ではあったべ。

幾らかボルテージが高すぎる気もするが、考えてみれば継続とプラウダはそれぞれの“元ネタ”に負けず劣らず因縁が多い。加えて西住みほの救出作戦が遅々として進んでいないように見える点が、彼女の苛立ちを増幅しているのだろう。

「いいこと、今すぐそのワケの解らない言葉遣いをやめてカチューシャたちに言いたかったことを述べなさい!さもなきゃアンタなんかシb」

「例の法案………【艦娘自己自衛権】はまだ施行してから日が浅く、【艦娘三原則】によって抑圧されることが当たり前の価値観だった艦娘たちにしてみれば即座に適応できるわけではない。

従ってテロリスト共が“人間”である以上、水戸市内の艦娘戦力は機能不全となっている可能性が極めて高い、こういうことざますね?」

幸いにして同志ちっこいのによる無慈悲な「シベリア送り」は、この集団の中で私を除くと“最も【政治】に精通する二人”の内片方が割って入ったことで回避された。

B.C.自由学園の戦車道チーム隊長、アスパラガス。今まさに扉を開けて室内に入ってきた彼女は、そのままズカズカと大股に私のところまで歩み寄る。

「確認を」

短い一言とともに投げ渡された紙の束。目を通せばそれは、彼女に先程依頼した“仕事”に関する資料。現時点でこの場に集っていない他学園艦との相互連携構築、及びそれに伴った更なる【戦闘車両】の抽出・運搬経路確保の途中経過報告だ。

いや、違う。この表現は正しくない。

川;゚ -゚)「………………………!」

、、、、、、、、
既に終わっている。アスパラガス、そして共にこの“仕事”に取り掛かっていたダージリンと遠藤はるかは、各学園艦との連絡並びに交渉を終え、車両移送の開始にこぎ着けている。幾らか突貫工事で強引に間に合わせた痕跡はあるが、そこを差し引いてもほぼ完璧と言っていい。

依頼してから、ものの二時間と経っていないにも関わらず。

川;゚ -゚)「マジかよ」

「フフッ」

思わず本気で唖然として呟くと、アスパラガスに付き添う形で部屋に入ってきていたもう一人の“【政治】に精通している人物”───聖グロリアーナ女学院隊長・ダージリンは此方に視線を向けて小さく不敵に笑う。
まるで、この程度自分達にとって造作もないとでも言うように。

ケッ、おもしろくねー女どもだぜぃ。

「【艦娘三原則】は、誤解を恐れずに言えば“簡単”だったざます。人間を最優先で守れ、人間に逆らうな、人間を傷つけるな、守るべきルールはそれだけだった。人間は味方であり主人、敵は深海棲艦、そんな勧善懲悪的な二元論の線引さえしていればよかった」

資料の手渡しを終えたアスパラガスは、歩調そのままにホワイトボードのところまで移動すると振り返り部屋を見渡す。
口調と併せ、その様子はさながら厳格な教授が生徒たちに専攻学問についてレクチャーしているかのようだ。

「しかし、【艦娘自己自衛権】はそのルールを根底から書き換えた。“人類之全善全味方全主”という状態から、眼の前の人類を“自分で敵と味方に分類”しなければならなくなった。

せめて半年前から施行されていたならまだ救いもあっただろうが、最悪なことにこれが通ってまだ一ヶ月すら経っていないざます」

「………私達人間だって、住んでいる国の法律を何の資料も持たずソラで言えるような奴なんてきっと世界中見ても数えるほどしかいない。それでも殆どの人間が法を犯さず生きていけるのは、“教育”されてるからだ」

アスパラガス教諭による「授業」の途中で、或いはミカがポエムを口にした時点で、その可能性に思い至った一人なのだろう。やや青ざめた表情で間髪入れずセリフを継いだのは、アンツィオ高校隊長・アンチョビ。

どうでもいいけどコイツの名前本名呼びにすべきかソウルネームで行くか迷うな。

更新おつです
女子高生がどいつもこいつも只者ではないの笑う

「艦娘の人達が、どんな“生まれ方”をしてるのか詳しくは知らない。ただ、最初から皆あの姿というのは聞いたことがある。

その後すぐに訓練が始まって、海上自衛隊が持つ鎮守府や泊地に派遣されていくんだとしたら……いきなり倫理観、道徳観が絡んだ“自己解釈”を必要とする対応を求められても、素直にはできないだろうな」

生まれ育った環境のせい。主に年若い凶悪犯を擁護する時に、人権家を自称する頭花畑のクソッタレ連中はこう嘯く。反吐が出るような言い分だが、こと理論に関して“のみ”言えば別に間違ったことではない。

人間は教科書とノートと鉛筆だけではなく、“経験”によって学習する。親や兄弟や周囲の大人が言葉で、行動で示した様々な事柄を、子は蓄積し価値観・倫理観を形成して本人も大人になっていく。
故に幼少期の育成環境が歪んでいれば、自然倫理観・価値観もそれらに伴う行動も一般人と比較して“平均”からはかけ離れるだろう。

では、艦娘は?最初から言動・身体が成熟しているように見えるが故に、そうした「教育」の過程が省略され、いきなり最前線へと送られる少女たちは?

芽の時に嵐に晒されるどころか、生を受けたその瞬間から“若木”であったモノの根回りを、無遠慮に掘り返したら?

「アンチョビが危惧している通り、“社会経験”がない艦娘達は【三原則】に隷属と共にある種の“依存”をしてきた。

故に、【自己自衛権】があると言っても浸透期間が十分に設けられていない中で今回の襲撃が起きている以上、彼女達が“武装勢力”に対して効果的な反撃が行えていない可能性が高い…………と、普通に言えばよかったざます」

言いながらアスパラガスはギロリとミカを睨むが、本人はどこ吹く風といった表情で再度カンテレを一つ鳴らした。

「そして、水戸市が実際に敵性勢力の制圧下に置かれている現状は、これが“極めて高い可能性”で留まっていないことを証明している。

【生ける軍艦】がほんの一隻でもまともに機能していたなら、せいぜい対戦車携行砲程度が最大火力のテロリスト共では手も足も出なかった筈ざます」

「自衛隊も、多分似たような状況よね。世界的に見て、この国の軍事組織ほど“縛り”の多いところはないもの。

例え“最前線”がほんの10キロ圏内に発生して尚マトモな避難すら始めない底抜けの楽観主義者でも、例え歯が浮くような理想論に騙されて外患を誘致した致命的な愚者でも、彼らは“国民”に銃を向けることは許されない。まだ多くの“国民”が残っていた市街戦、さぞや戦いにくかったことでしょうね」

ミカとは別ベクトルで持って回った言い方を好むダージリンにしては珍しい、割と直球の罵倒。間接的に西住みほ救出の難度を上昇させた水戸陥落や全国区での同時多発テロを招いたのは彼女が言う通り一部の“国民”によるところも大きい。
実の姉や【リボンの武者】と同程度に【大洗の軍神】に対して“お熱”な彼女としては、忸怩たる思いがあるのだろう。

大東亜戦争、第二次世界大戦の終結後、この島国は丸々70年に渡って「平和」を謳歌し続けた。

それは勿論喜ばしい。戦争・紛争と無縁の国なんざ、特に中東やアフリカ辺りから見れば天国に等しい。
況してや今は【深海棲艦】なんて物量実質無限大の人間絶対滅ぼす族が世界中で集団遊泳の真っ最中。にも関わらず艦娘が現れる前の時点で全方位を海に囲まれながら“本土決戦”が起きなかったのは、神も仏も信じちゃいない私でさえ無神論に一欠片の疑問を抱いてしまうほどに奇跡的だ。

川 ゚ -゚)(………本当に、何の作為も働いていない“完全な偶然なら”の話だけどネー)

だが平和だったが故に、大規模な争いと無縁だったが為に、この国の人間の大半はそれを当たり前のことと慣れすぎた。
戦争や紛争は人類という生物種にとって本来慢性疾患に近い。しかしこの国は奇跡的に──少なくとも「国内」の一般人にとっては──ほぼ無縁無関係でいられたからこそ、致命的に免疫を失っている。

領海にミサイルをぶち込み国民を攫うような相手にさえ“話し合い”を求める偽善者、精強な軍事組織や世界が羨む超兵器を持ちながらそれを自ら放棄したがる理想家、果てには人類廃滅を目論む化け物集団が自分達を射程圏内に捉えて尚避難しない連中でさえ極一部ながら存在する………これらは何れも長年続いた平和の“副作用”だ。

過ぎたるは及ばざるが如しとは確かに言うが、まさか平和にさえそれが適用されるとはね。

相当マシなルートを通った【この日本】でさえこんな有様なんだから、“私が知る方”の日本は今頃どんな悲惨な国になってることやら。仮に滅びずに済んだとして、【平和維持法】の上位互換みてえな悪法出来てそうだな。

「ここまでが、水戸市に我々が“レンドリース”を行う1つ目の意味ざます。

ただこの行為にはもう1つ、【政治的】に意味が…………」

唐突に言葉を切り、アスパラガスはちらりと此方に視線を向ける。

その口元が小さく笑みを浮かべたことを、私は見逃さなかった。

「意味が、恐らくはあるざますが………流石に、そこまでは私もはっきりとは解らない。何せ若輩の身、“大人の謀略”の全貌を見通せるほどの見識は残念ながらないざます。

というわけで、“もう1つの意味”についてご教授願えるざますか?Madame Sunao.」

川 ゚ -゚)「……………」

よくもここまで平然と嘘をつけるものだ。とっくの昔に、“2つ目の意味”も気づいているくせに。隣のダージリンも、更にはミカまで「どうぞ」と目で促してきやがるし。

西住みほの件で焦りが見え、私に対する“求心”が十分ではない急造組織。ここらでしっかり華を持たせ、私の実力をお披露目しいきり立つ連中の鎮静を図ろうって魂胆だ。

川 ゚ -゚)「………。ええ、“ありがとうございます、アスパラガスさん”」

「“どういたしまして、Madame”」

まぁいいでしょう。子供に気を遣われて意固地になるのは園児の駄々と変わりゃしない。ここはせっかくの“好意”を有り難く受け取るのが、【大人の淑女】ってやつよ。

ただ、改めて言うぜ?

つくづく「おもしろくねー女ども」だよ、全く。

川 ゚ -゚)「彼女が今言ってくれた通り、この“レンドリース”には2つの意味があります。

1つは水戸市の奪還に動いている部隊に対する直接的な戦力増強。そして2つ目は────」

.












────同刻、横須賀総司令府・地下司令室


彡(゚)(゚)「────ワイら“日本政府へのアプローチ”、やろなぁ」

(;☆...●)「………は?」

日本内閣総理大臣・南慈英(みなみ・よしひで)のふとした呟き。それを耳にして、傍らに立つ海上自衛隊艦娘艦隊“元帥”、王嶋清人(おうじま・きよひと)が困惑の眼差しを彼に向ける。

現在司令室内部は、一時的に鎮静化した【大洗町戦線】から全国各地でテロ攻撃を行っている【謎の()武装勢力】へ最優先対処事項を切り替え、鎮圧に奔走している真っ最中だ。

南は重大な事案を前にしてふざけたり……はたまにするが、余計なことに対して気を散らすような政治家ではない。故に今の呟きが“本事案”に関係するものであることは王嶋も重々承知している。

ただ単純に、何故そんな表現が突然出てきたのかについて理解が及ばなかっただけの話で。

(☆...●)「………一応確認するぞ、“日本政府へのアプローチ”ってのは、一部の【暴動発生地域】で確認された所属不明のチヌークによる旧式装甲戦闘車投下の件で間違いないか?」

彡(゚)(゚)「他にないやろ。どこのどいつか知らんが正確の悪いやっちゃで」

努めて平静に保たれた口調。だが王嶋は、長年の付き合いから言葉の端々に苛立ち……というよりは、一種の悔しさのような感情が見え隠れしていることに気づいた。

彡(゚)(゚)「先ず前提条件の確認や。

今回の【全国同時多発テロ事案】に際し、【艦娘自己自衛権】施行から未だ日が浅く現場の混乱発生はほぼ確実。加えてテログループが“何故か、偶然にも”反艦娘・反自衛隊組織によるデモや集会の中に潜伏する形で出現した為、自衛隊や各都道府県警も国民に対する“誤射”の懸念から初動での鎮圧に失敗。

避難未完了区域が集中的に狙われた為近接航空支援による排除・殲滅も困難な上自衛隊自体並行して国内外の深海棲艦にも対応している為兵力が著しく不足。
これらの状況打開を目論見、極秘に設立したワイの私兵部隊であるBP───【Black Peace】を一部交戦地域に投入開始。ここまではええな?」

(☆...●)「…………………あぁ、問題ない」

特殊部隊名が厨二病全開過ぎて死ぬほどダセェなと思ったが、王嶋は言及を避けておくことにした。

人間誰しも、欠点の一つや二つ持っている。……まぁ南に関しては一つ二つどころではないが、強み・長所・政治手腕で十二分に釣りが来る。
ここにネーミングセンスのなさ程度が加わったところで、誤差の範囲だ。

彡(゚)(゚)「因みに命名者は部隊長の渡辺や」

(☆...●)「お、おう」

目敏く此方の感情を悟った南から即座に訂正が入るが、ならば前言撤回。確かに彼女は卓越した戦闘技能と指揮能力を持っているが、破綻した人格と性癖で既に相殺されている。

そこからネーミングセンスまで差し引いてしまうと、残念ながら足が出ると言わざるを得ない。

彡(゚)(゚)「で、【BP】もその特性上そこまで巨大な兵力は持てへんし、機甲戦力なんざ言うまでもない。

投入地域が首都圏及び関東地方の要所に集中したのも、それが部隊規模的な限界やったから、言うんが大きい。そして奴さんらの投入によって大洗町に至る兵站線の完全寸断までは避けられたとしても、そこから武装勢力の鎮圧は前述した規模とこっちの火力不足から難しいだろう………と見立ててた所に、チヌークの飛来と“機甲戦力”の投入。これで一気に、流れが変わった」

(☆...●)「いや、そこまでは俺だって解るぜ?だけどよヨシ、それが政府へのアプローチってのはどういう意味だ?既に“海軍”は存在を公にしてるんだ、今更俺たちにアプローチなんてする必要は………」

彡(゚)(゚)「これ多分“海軍”の支援ちゃうで」

(☆...●)「は?」

続けて王嶋が問い質す前に、自衛官が一人険しい顔で駆け寄ってくる。彼が「在日米軍を経由し送った“謝意”に対して、“海軍”大本営が何の事か分からず困惑している」旨を伝えると、王嶋の目が驚愕で見開かれた。

南の方は、ソレを聞いても軽く皮肉めいた笑みを浮かべただけだったが。

彡(゚)(゚)「そもそも、対応人員の不足は“海軍”側も大概や。フィリピン海戦線はズタボロで東南アジアの沿岸防衛線大幅に縮小して【特派府】の艦隊まで動員した総力戦態勢、欧州やアフリカも余裕はないし南北アメリカも大西洋で手一杯。国内や台湾は中国の目がある以上そう大々的に“日米主導の軍事組織”の拠点を置くわけにはいかん。

事実上の“兼任”であるココ(横須賀)と那覇の米軍基地に併設してる鎮守府を除けば、この近隣界隈ではあの筋肉ニキんところが“海軍”戦力の最大手や」

(☆...●)「………そして、その小練のところも主力はフィリピンと大洗に出払ってる最中、か」

彡(゚)(゚)「まぁあの鎮守府なら大半の艦娘は1区域に一人投入しただけで10分と経たずに制圧するやろけどな」

だが、南は続ける。それは本当に最後の手段や、と。

彡(゚)(゚)「戦闘区域で救出された艦娘が、反撃によって敵性勢力を駆逐する分には幾らでも体裁を保てるし言い訳も効く、【艦娘自己自衛権】と人間でいうところの正当防衛をあわせ技にしてゴリ押せば小煩い野党も反艦娘団体も“世論”で強引に黙らせられる。

せやけど“外”から動員された艦娘がテロリストとはいえ“生身の人間”を木っ端微塵にしてまうのは、【自己自衛権】施行から日が浅い今は正直見栄えが悪い」

大衆とは底抜けに無垢で呆れ返るほどに純真だ。ほんの一欠片でも「悪」が混じれば、ワインに一滴の泥水が含まれていたがごとく全てを糾弾し否定する。
それも、本質として悪か善かではなく、彼らの大半は「自分達にとってどう見えるか」が判断基準だ。

彡(゚)(゚)「“当事者”ではない艦娘が、制限を緩和された“直後”に、“平然”と人間に対して武力を振るう。大衆はそこにどんな正当性があろうと絶対公平には見んで。

艦娘を人間と扱われると困るようなカスどもに口実与える片棒を、あの子らに担がせるのは可能な限り避けな、アカン」

そこまで真剣な表情で述べた後、一転して南は口元を歪める。

先程“海軍”からの返答を自衛官が持ってきた時に浮かべた、感心と自嘲的な怒りが綯い交ぜになったような複雑な笑みだった。

彡(゚)(゚)「そんで、や。そんな状況を踏まえた上で、キヨ。今首都圏並びに関東の一部地域で、所属不明のチヌークが投下してる戦車の車種は?」

(;☆...●)「………MK.VII 軽戦車【テトラーク】、M22 軽戦車【ローカスト】、二式軽戦車【ケト】、何れも所謂“空挺戦車”の一種だ。

まぁそりゃ大分古いラインナップだとは思ったがよ」

彡(゚)(゚)「ロシアでKV-2が現役復帰するような有様じゃあ、“空輸可能な装甲兵器”って付加価値でワンチャン採用は確かにあり得ると考えてまうわな。

しかも“海軍”はその組織特性上戦車なんぞ仕入れるぐらいなら艦娘の練度向上させて直接空挺投下した方が余程効率がええし、逆に各国も最前線で対深海棲艦戦闘に使えるような最新鋭の機甲戦力なんざ出し渋る。やから苦肉の策で旧式戦闘車をかき集めてワイらにレンドリース………まぁそんくらいの“誤認”はしゃーない」

(☆...●)「そこまで読まれてると流石にキショイな」

彡(゚)(゚)「じゃかあしいお前の思考が読み易いだけじゃボケ。……せやけど、んなまどろっこしい真似するぐらいなら最初から“海軍”の陸戦隊でも在日米軍辺り隠れ蓑にして投入した方がよっぽど効率的やろ。丁度目と鼻の先の大洗戦線で稼働中の部隊が幾つもおる。小康状態の内に引き抜いて投入する方がナンボか現実味はある。

無論いつ攻勢が再開されてもおかしくないからこそそれが出来んわけやが、今度は尚の事旧式戦車をわざわざかき集めることに更に労力使う意味が薄い。運搬するための機体そのまま陸戦隊や艦娘運ぶのに使った方が何億倍も効率的や。一応は大本営副司令であるワイに隠れてそんなことせなあかん理由も見当つかん」

(☆...●)「……言われてみりゃあ確かにな。だが、なら今“レンドリース”を飛ばしてきてる連中はいよいよ何者なんだ?“海軍”じゃねえとして、わざわざお前が言うようなしちめんどくさい接触方法を用いたがる組織なんて俺には」

彡(゚)(゚)「あるやろ。テトラークにケトにローカスト、“第2次世界大戦中に活躍した空挺戦車”がかき集めるまでもなく手元にある施設が。

自腹で用意までは無理でも、提供さえあればチヌーク程度の機体束で運用可能な土地や設備を持つ機関が。

大洗町に……より厳密に言えば現在深海棲艦の制圧下に置かれた大洗女子学園に取り残されている、“一人の女子生徒”を助けるために全て擲つことも厭わない集団が。

これら全ての条件を、一本に集約した極めて稀有な【武道】が」

(;☆...●)「……おい待て!!まさかお前──────」

彡(゚)(゚)「せや」













「各学園艦の、戦車道チームや」

.






川 ゚ -゚)「南慈英の政治センスはまるで容姿と反比例したかのように卓越したものがあります。彼は自らが施行した【艦娘自己自衛権】法案の欠点も、そこから発生が予想される現場の混乱も武装勢力が襲撃を開始した時点で真っ先に考慮に入れているでしょう。

お借りした“機甲戦力”の投入地点も、そうした彼の聡明さから彼が抱えているであろう【私兵部隊】の稼働・投入箇所を推測した上でのものです」

「Private armyって……そんな映画みたいな話あり得るの?日本ってケンポーとか相当厳しいじゃない」

川 ゚ -゚)「厳しいからこそ、間違いなく彼なら設立しています。【平和維持法】とかいう世界レベルのパラダイムシフトに置いていかれた脳内フラワーガーデンピーポー共しか崇めてないような化石憲法によって自衛隊の即応性には限界があり、艦娘では【人災】に対する対処力が自衛隊以上に低下する。

【自己自衛権】法案云々の前に、艦娘戦力それ自体を目の上の瘤としている軍事独裁国家が直ぐ側に2つもあるのです。ならば“備え”は必ずしている」

「まぁ………本当にそんなものを作るとしたら限界はあるよな。戦車や戦闘機を大っぴらに集めるわけにもいかないし、艦娘なんて入れるわけにもいかない。それに日本人も下手な集め方したらSNSとかで情報が漏れかねないし………外国人の傭兵部隊が主力、とかか?

多分、砂尾さんの言い分で考えるなら規模もまだ小さいはずだ」

川 ゚ -゚)「おお鋭いですねチョビ子さん」

「チョビ子言うな!!つーかなんでその呼び名知ってるんだ!!?」

川 ゚ -゚)「独自のルートがありまして。とにかくご明察。

まぁぶっちゃけマトモな近代戦闘ならあんなもんレンドリースされたところでゴミの押しつけに他なりませんが、幸い“機甲戦力の運用ができない”という点はテログループ側もほぼ同じです。骨董品の旧式砲でも対人戦かつ市街戦なら十分な脅威となり得るでしょうし、姿形はWW2仕様でもその実装甲は競技用とはいえ“砲撃”を食らっても中の人間には傷一つつかないように精製された現代技術の粋とでも言うべき特殊カーボン。

粗悪なRPG弾ごときで貫徹できるような代物ではありません。現場の人員にとっては普通に嬉しい素敵な“贈り物”となった筈です」





彡(゚)(゚)「同時に、これはワイに対する“メッセージ”にもなり得る。

1つ目、ワイが私兵部隊を運用していることはお見通し。

2つ目、戦車道関係者は自分達の方でしっかり統率を取っているぞ」

(;☆...●)「【BP】の存在は超極秘案件の筈だろ!?それが外部に漏れてるって相当まずいんじゃねえか!?」

彡(゚)(゚)「そこに関しては問題ない。さっき支援の出処が“海軍”ではないとは言ったが、多分全く“海軍”が関与してないワケちゃう。じゃなきゃチヌークを確保した挙げ句バリバリ飛ばすなんて真似できんし、ここまで完璧に【BP】の投入地点を予想して戦車降ろすのも材料皆無では無理な話や。

恐らく、“海軍”内で筋肉ニキんところとは別ベクトルで“独立性”が強いところが大本営通さず勝手に動いた結果やろ。動いた場所と、“動かした連中”も概ね察しはついてる」






川 ゚ -゚)「察してもらえたなら、かえって我々にとって………というか、これは私個人にとってありがたい。同時に、向こうにとっても悪い話ばかりではない。

私達“艦娘専門店”という集団は、日本政府とかなり密接に関係した“ある組織”の一部であります故、そことの繋がりが分かれば味方であることは理解できる。

その“味方”が、大洗女子学園での孤立が懸念される西住みほに対して強い感情を抱く戦車道女子を束ねている、それも装甲戦力の極めてスムーズな投下から見て、相当強固に統率されている。

既に文科省などからあなた方が次々と行方をくらましていることは報告を受けているだろう中で、所在がある程度把握できかつ統率者が居ることも間違いないのであれば、あなた方の“暴走”に対する不安は一先ず払拭されます」

「何か、こう、随分な言い草だな………」

「えーと、すっごい強い風が吹いてて心配してたタンポポが思いの外ガッチリ根を張ってて安心したって感じでいいの?」

川 ゚ -゚)「まぁ割りと言い得て妙ですけどなんか言動が継続の隊長に毒されてません??」

「流石です同志カチューシャ」

川 ゚ -゚)「お前第一声がそれでいいの?????」

(☆...●)「まぁ実際、戦車道チームの連中を“海軍”関係者が束ねてくれてるならある程度は安心ではあるな。特に聖グロリアーナの子とか、最近タンカスロンで注目されてるリボン娘なんかは西住フリークぶりがとんでもねえって風の噂で聞いてる。

少なくともこの辺りが暴走して戦場に乱入なんて、イカれた事態は避けられたわけだ」

彡(゚)(゚)「ところがどっこい、この連中の最終目的はまさにその“戦場への乱入”や」

(;☆...●)そ「はぁ!!!?」

彡(゚)(゚)「もうちょい厳密に言えば、“乱入”やのうてより組織的で理性的な“武力介入”やな。

……知性がある分、却って厄介やが」





川 ゚ -゚)「“レンドリース”によって、我々はメッセージを日本政府に送るとともに“実績”を作ることが出来ました。

自衛隊並びに日本政府が立たされていた窮地を緩和させる、好転させる実のある支援を行えたという“実績”を。

無論本来は直接お伺いを立てて行うことが正道ですが、向こうも非合法組織を用いてテロに対処している以上そこを大っぴらに求めることは出来ない。その上で支援が“役に立ってしまった”のだから、余計なことをと突っぱねられもしない」

「…………砂尾殿、友軍への助太刀の話をしているのよな?まるで国境に兵を並べて敵国を威圧している様を聞いているような気分になるのだが」

川 ゚ -゚)「政治なんてそんなもんですよ。アレと外交は机上卓上の戦争ですから。

貸しは武器だし借りは弱みです、“強い武器で相手の弱点を殴りつけろ”はあらゆる勝負事において鉄則でしょう?

誠実さだの正直さだのはスポーツでしか通用しない。“戦争”は常に手段を選ばないものが勝ちます。

改めて申し上げておきましょう。これは戦争です、戦車道ではありません」




彡(゚)(゚)「ワイらはイニシアチブを握られたわけや。連中はワイらの“窮状”と“痛い懐”の両方を把握しており、うち前者に対して明確に“支援”が行われた。以後、向こうが接触してきた時に“台頭の味方”として応じざるを得んし、“味方としてあり続けてもらう”ためには武力や権力で強制的に押さえつけることも出来ん」

(;☆...●)「待て待て、流石に戦車道かじっただけの娘ッ子の集まりと日本政府や自衛隊が“台頭”ってのは行きすぎじゃねえか!?そこまで深刻に捉えるようなことじゃないだろ、助かったよありがとうの一言で十分だ!!」

彡(゚)(゚)「そうは問屋が降ろさん。

さっきも言ったやろ、あの子らをそういう風に“動かしてる”連中がおるって。恐らく、その黒幕共は“戦車道乙女が戦場に乱入すること”を願っとる。そうさせる狙いについては朧げなところまでしか詰められてへんが、仮にワイが突っぱねたとあれば“戦後”に間違いなく鬱陶しい動きを見せてくる。

あの子ら自体だけやのうてその裏の連中の暴走を止めるには、結局あの子ら自身の実績がワイらにとって“効いている”ことをアピールせなアカン」






川 ゚ -゚)「勿論、私自身は南慈英内閣の退陣や失脚は日本にとって害にしかならないと思っているため、そこに至るような動きは歓迎いたしません。

しかし一方で、私個人がどう思おうが“クライアント”の権力は私のそれなど比べ物にならないほど大きい。結局圧力に屈し、彼にとって喜ばしくない結末を招くことは大いに有り得ます。

この回りくどい実績作りは、南慈英に対するメッセージと私自身の“クライアント”に対する言い訳を両立したものでした。

我々が広義的に味方ではあること、その後ろにより大きな権力が存在すること、その権力があなた方戦乙女を最終的にこの戦場へ投入しようとしていること、意向を無視しすぎればいつ“敵”になりざるを得ないかわからないこと、南慈英は全て読み取るでしょう。

読み取った上で、彼は直接的であれ間接的であれ何らかの形でアプローチを取り、こちらと“落とし所”について交渉してくるはずです」

「…………ソラ、貴女なんというか………スゴイ自信ね」

川 ゚ -゚)「だって同じ立場なら私もそうしますし」

#은우의_모든날이_찬란한_봄이길 #nadiedicenada #ใต้เงาตะวันep2 #WANGZIHAO #viral #SiguemeYTeSigo #SiguemeYTeSigoCumplo

川 ゚ -゚)「しつこいほど繰り返しますが、私は“クライアント”がどう思おうがド素人の小娘連中によるKAMIKAZEなんて絶対に起きない方が良いと思ってます。それが起こらないまま事態の鎮静、西住みほ以下大洗女子学園生存者の救出が成るならそれが一番良い」

彡(゚)(゚)「……やけど、各学園艦隊長陣の迅速な統率、兵站線の完璧な確保、絶妙としか言いようがない“贈り物”のタイミング。この集団が少なくとも現時点までは“有用”な存在であることは、正直認めざるを得ない」

川 ゚ -゚)「ならば変に抑え込んで敵対した挙げ句“戦後”の面倒事を抱え込むよりは、ちゃんと存在を認めて共同戦線を作り上げた上でこれ以上は派手な出番がないように御していく方が向こうにとっては有意義です。“手柄”を最低限立てている以上、一応落とし所も実のところ既に作れなくはない。

そして未曾有の“有事”である以上、その望むと望まないに関わらず我々が本当に必要となってしまうケースも、十分に考えられる」

彡(゚)(゚)「無論そんな事態に陥らせるつもりは毛頭ないが、それならそれで“向こうの自己判断”で動かさせるんやのうて“ワイらがそういう依頼を出したら”って形で指揮下に加えておいた方が確実に御しやすい。

結局、“支援”を成功させてしまった時点でワイらは【学園艦連合軍】との交渉を余儀なくされてるっちゅーわけや」

川 ゚ -゚)「あのクソほど性格の悪い深海魚ヅラの傑物に対し、私達はしっかりと“ウラ”をかくことができたのです。西住みほ救出への第一歩を踏み出し、事態の前進にも貢献できた。

ならば今、我々は胸を張ってこう言うべきです」

彡(゚)(゚)「どこのどいつか知らんが、支援の皮被ってやりたい放題。ホンマ性格の悪いやっちゃで。大の大人を完璧に手玉にとれて、この謀巡らした陰険全一のクソッタレは済まし顔でこう思ってるやろな」












.

.







川 ゚ -゚)
「しめしめ、してやったりだ」
彡(゚)(゚)

















川 ゚ー゚)「……ってね」
彡#(-)(-)-3「………とな」

更新おつです
やきう首相と素直クールさん、以心伝心じゃないですか!

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概ねのところを話し終え、改めて室内を見回す。戦車道乙女たちの反応は、大きく分けて二つに分類されていた。

一方は、言う慣ればこの計画への参加がどういう意味を持つか“理解”していた面々。ダージリンにアスパラガス、西住まほ、ミカ、そして言うまでもなく鶴姫しずか。或いはノンナもその中に加わるか?
彼女達は私が話し終えても取り立てて大きな反応は見せず、ただ黙しているのみ。ダージリンやアスパラガスなどは、眼つきからして既に「次の動き」について思考を巡らし始めているような節すらある。 

お前ら絶対人生一度周回済みだろ。

「…………」

「…………ぅんっ」

もう一方は、“戦争”に参加するとはどういうことかを、未だ十分に理解しきれていなかった面々。

カチューシャは今にも泣き出すのではないかと危惧するような表情で息を呑み──プラウダの【ブリザード】がまぁ睨む睨む──、安西千代美は顔面蒼白のまま顔をしかめて沈黙する。
アレほど威勢の良かったケイは、西住まほの向かい側の席に腰を下ろし、昭和の傑作ボクシング漫画の主人公よろしく彼女らしからぬしおらしさでガックリと項垂れる。丁度部屋に戻ってきたばかりの遠藤はるかと松風鈴も、入り口辺りで凍りついたように立ち尽くしたまま動かない。

「本当に…………“とんでもないこと”に手を出しちゃったんだな、私達は」
 
絞り出すようなアンチョビの言葉。日頃の快活聡明な彼女からは想像もつかないほど、その口調は暗く重い。

ぷぇwwwww今更怖気づいてんスかwwwww?厨二病全開のソウルネームで公式大会に出るより全然怖くないから大丈夫大丈夫wwwww力抜けよwwwwwぷぇwwwww………なんて思ったりは(少ししか)しませんとも。
何故なら、寧ろこれが“年頃の少女”としては当たり前の反応なのだから。

国内で発生している武装テロの制圧に、この地に生を受けた国民の一人として協力した。こう書けば聞こえはいいし、実際間違ってもいない。
加えて“協力”の内容は非常に実利的かつ効果的なものであり、状況の打開に本当に貢献してもいる。広義的に見れば、彼女達の、私達の行いは“正しいこと”と言えるだろう。

だが、その“正しいこと”を実行に移した結果、この集団は自分達が生まれ育った国と、日本国の政府と事実上“敵対”した。戦術的・戦略的には互いの左手を握りつつ、政治的には此方はより多くより深く“正しいこと”を実行しようと、向こうはそれをさせまいと刃を交え鎬を削り合っている。

今はたまたまうまく行っているが、トーシロがこれ以上前線でウロチョロすれば悪い方向でも不測の事態が起きかねない為それを避けたい、と、そんな考えも当然あるのだろう。

だがそれ以上に。あの首相や、自衛隊に所属する人々は、ここに集う戦車道乙女たちを“護りたい”のだ。

戦争に子供を巻き込んだ先に待つ“悲劇的な結末”など、プロメテウスが人間に火を与えたその瞬間から掃いて捨てるほど歴史に刻まれてきた。今現在も進行形で、アフリカの奥地じゃここの連中より更に幼い【恵まれない子供達】が競技用ではないマジモンの砲弾と誰でも手軽に扱えるカラシニコフ小銃を携えてジャングルの奥地を駆け回っている。

ただ、じゃあ“有り触れている”ならそれが起きてもいいとはならないでしょ?んなもんは「交通事故で人が死ぬのなんて有り触れてるんだから悲しむ必要はない」と同レベルの暴論だ。
況してやこの国は、奇跡的にそうした事象とほぼ完全に無縁なまま70余年を過ごしてきた。その“恵まれた”状態がいつまで保つかは解らない状況になりつつあるとしても、終わりを少しでも長く伸ばし続けたい。
可能ならば終わりが来なくなるような時が来るまで耐え抜きたいってのは、どんな形であれ“国を護る”仕事についた人間なら大なり小なり共通して抱く思いだろうよ。

川 ゚ -゚)(……で、そんな大人たちの真剣で切実な思いを、容赦なく踏みにじっていることになるわけだ。この“組織”はサ)

自分達を命懸けで護ろうと戦う大人たちが銃口を構えるその前に自ら躍り出、安全で平穏な道へと誘導すべく広げられた腕を掻い潜り暗く淀んだ茨道へと飛び込んでいく。
友の窮状を救うことに力を尽くし、その過程で祖国を脅かすテロリストの鎮圧に協力するという“正しい”行動は、“正しい”にも関わらず彼女らの身を本気で案じている“大人たち”にとっては明確な背徳であり裏切りとなってしまう。

彼女達の行動を後押しし協力する大人たちもいるが、“協力者”は皆彼女達が“正しい”事を成した先に薄汚い未来予想図を描き、それを具現化するために彼女達を利用しているに過ぎない。……ああそうさ、エラソーに語ってる私も、目指す到達点は違えどそうしたゲスの一人だよ。

自分達に協力してくれる“大人たち”が【敵】で、自分達を止めようとして水面下で鍔迫り合いを仕掛けてくる側の“大人たち”こそ【味方】。そして、【味方】であり安全と無事を心配してくれている“大人たち”を騙し出し抜かなければ、自分達の信念は貫けない。

大学選抜との試合の時など比べ物にならないこの複雑な状況に、ただ武道齧ってるだけのJKが平然と適応できる方がおかしいんだわ(実際に適応できてる連中が半分ぐらいいるんだから尚の事オカシイ)。

その上で、更に言うならば。

仮に彼女らが【味方】の制止に応じ、これ以上の介入は踏みとどまったとしても。
もう、既に事態は“取り返し”が到底つかないところまで来てしまっている。

「今頃尻込みしたとしても、時は戻らないざます。この“レンドリース”によって、我らは明確に【戦闘】そのものに間接的に加担している」

沈黙が降りる室内で、アスパラガスがその現実を冷徹に容赦なく突きつけた。

「対テロ戦闘、つまり“対人戦”に我々は所有する戦車を送り込んだ。この戦車から放たれた砲弾は、ほぼ確実に人を殺すざます。最早我らは綺麗身ではない、この手は直接銃火器を撃つ前に血に濡れたざます。

深海棲艦の青いモノではなく、人が流す赤い血潮に。はっきりと、“西住みほを助けるため”という我々自身の意志と信念、目的に基づいて!!

ケイ、アンチョビ、カチューシャ、貴女方も内心ではその可能性をしっかりと理解していると思っていたざますが?」

戦車道に使われる戦車は、あくまでも競技用。これは砲弾も同じであり、カーボン製装甲が並外れた硬度を持つ一方で砲弾の貫徹力は従来のそれよりも遥かに抑えられている。故にこそ、直撃して車両から火が吹こうとも中の人間は滅多なことでは重篤な怪我を負わずに済む。

だが、タンパク質と筋繊維と脂質とカルシウムの塊にぶつけてもそれを破壊しないほどまでに「安全」な設計ではない。コンクリート程度ならぶち抜けるだけの威力はあるし、生身の人間がその射線上にいればバラバラに引き裂いていく。

アスパラガスの言う通り、彼女達はそんな【兵器】を対人戦闘の場に、自分たちの意志で投下した。無論実行者は私とジーナら技研や“海軍”の方から極秘裏に派遣されてきた面々だが、戦車の提供は聖グロリアーナ、知波単、サンダース大附属によって行われたものだ。
また先に述べた通り、輸送経路の構築や各校からの戦車調達にはアスパラガスら戦車道チーム隊長陣・上層部も大きく“貢献”している。

仮にこれらが公となった時、彼女達が如何に無実を叫ぼうとも「世間」は信じはしないだろう。寧ろ「正義棒」片手に生贄を四六時中探している大衆は、嬉々として群がりその“悪”を追求するに違いない。

また“大人たち”の好意──或いは悪意──によって辛うじて流布が免れたとしても、彼女達自身の胸の内はどうしようもない。
今この瞬間平静を保っているダージリンや西住まほやアスパラガス達も、それをずっと維持していられるという保証は皆無だ。

相手がどれ程悪辣な存在だろうとも、どれ程日本国内で残虐な行為を働いていようとも、人間であることを掻き消すことは出来ない。その人間を、“殺す”ための片棒を担いだという事実は、きっと彼女達の心に傷として残ってしまう。ふとした時に激しい痛みを、地獄の責め苦をもたらす、深い深い傷として。

故に、私は今この瞬間打ちひしがれる面々を責めもしないし、軽蔑もしない。

“大人たち”の謀略に散々に振り回され、親兄弟や護ってくれる人々を裏切り、果てに“殺人”の一端を担ってしまったという事実を“子供”の身で受け止めるのは難しいと解っているから。

何より、彼女達がそうするように仕向けたのは、他ならぬ私なのだから。

そして。



「…………………OK.よく、解ったわ。ようやく、解ったわ」


彼女達は、確かに酷く打ちのめされていた。















「それで、私達は次にどんなクソヤローになればいいのかしら?ソラ」

だが、まだ“折れて”はいなかった。

更新おつです
学生から望んでやる学徒動員とかくるってますねw
そういや、提督も民間からの動員でしたね

ケイが顔を上げ、此方を真っ直ぐに見る。向けられた瞳のその奥では、極めて強い決意の光が輝いている。

彼女だけではない。カチューシャも、アンチョビも、松風鈴も、遠藤はるかも。ほんの数秒前までルナティックモードもいいところの現実に打ちのめされていた筈の面々は、ケイが口にした一言を皮切りに全員が尽く戦意を取り戻していた。

無論、何もかも吹っ切れたというワケじゃない。カチューシャの目尻にはまだ涙が溜まっていて僅かに鼻を啜っているし、遠藤はるかは献血に全てを捧げたが如き顔色だ。アンチョビの唇は今にも血が滲みかねないほど噛み締められ、松風鈴の肩は室内空調がバチコリ効いているにも関わらず小刻みに震えている。
ケイにしたって、セリフの威勢の良さと反比例して顔色の悪さはエンドーといい勝負。声も掠れて酷くか細かった。

それでも、彼女達は“前”を向いていた。辛い現実を、自分達では本来到底手に負えない“大人の領域”を正面から受け止め、大いに傷つきながら尚も諦めてはいなかった。

西住みほを助けるという、彼女達が信じる“正義”の完遂を。

元々“理解していた”組に関しては言うまでもない。ミカは意味深に顔を伏せながら静かにカンテレを掻き鳴らし、ダージリンはいつの間にやら取り出したティーカップを傾けつつ微笑み、アスパラガスはようやく問題が一つ解決できたとでも言いたげに肩を竦める。
西住まほ、そして鶴姫しずかは、表情どころか全身から炎の如く強烈な闘気を漲らせて此方を見ていた。

「もう一度聞くわ、ソラ。私達が、ミホを助けるために次にやることは?」

川 ゚ -゚)「っ」

………ああ、認めるとも。再度ケイが此方に指示を促してきた時、不覚にもほんの僅かながら目頭が熱を帯びたことを。苦しみながらも現実を受け入れた上で、尚も戦うことを辞めず進み続ける彼女達の美しさに魅入られたことを。

“クライアント”からの要望や、その先に控える私自身の野望とは関係なく、ここに集う戦車道乙女たちの力になりたいと心の底から思ったことを。

我ながら笑えてしまう。彼女達に過酷な未来を背負わせたのは、悪逆無道の謀略に引きずり込んだのは、どこの誰だと。どのツラ下げて、力になりたいなどとほざけるのかと。

嗚呼、それでも。彼女達が“その道”を進むと覚悟を決めたのなら。

川 ゚ -゚)「…………………。ええ、そうですね」

先に述べた通り、外道と自覚した上で私にも外道なりの矜持がある。どんな事があっても、“最後の一線”を曲げはしない。


だが、仮に“その時”が来るならば。

それに備え、彼女達が自身の信じる“正義”を貫くために最大限の準備を整えておくこともまた。





川 ゚ -゚)「先ず、大洗町の現状に関する情報収集を最優先に行いましょう。その上で、ダージリンさんとまほさんには黒森峰と聖グロリアーナOGの人脈を介して関東沿岸部における自衛隊の展開状況を探っていただき──────」


“顧客”である彼女達に対する、【艦娘専門店】店員としての最低限守らなければならない矜持だろう。

.











同時に、一つ正直な話をさせてもらうなら。





アレ程の惨状となった学園艦に取り残されている状況下で尚多くの戦車道乙女たちに「生きている」と確信させ、



如何なる所業を持ってしてもその身を「助けよう」と年端も行かぬ少女たちを狂奔させ、



間接的にではありながら、離れた別の戦場にすら変化をもたらしてしまうたった一人の存在に、








川;゚ -゚)「…………………」

「砂尾殿?如何なされた?」

川;゚ -゚)「………いえ。次に、バイキング水産高校とケバブハイスクールについてですが情報はこちらに赤星さんが─────」


西住みほという人物が持つ、常軌を逸したカリスマ性に。



微かな恐怖を、抱かずには居られなかった。

.




今でも覚えている。ハッチの隙間から流れ込んでくる水で、車内が徐々に満たされていく恐怖を。

今でも覚えている。どれ程大声で助けを求めても、周囲で轟轟と唸る川の音に掻き消されてその声が誰にも届かぬ絶望を。



『小梅さん、皆さん、大丈夫ですか!!?』


今でも覚えている。



『脱出しましょう、掴まってください!!』


ひたひたと迫りくる死の気配を振り払う、凛とした声を。

あの“戦場”で唯一、私達を助けるために差し出された掌を。

私と同い年でありながら、自らの危険も省みず仲間を救いに来た、気高く勇敢な少女の姿を。

あの人は、私なんかより遥かに多くのものを持っていた。将来を嘱望され、戦車道の名家から期待され、ゆくゆくは世界にさえ羽撃く力があった。なのにあの人は、それら全てを擲って、私なんかの命を救ってくれた。



ならば。

当然次は、私の番だ。

(みほさん…………)

私達を“戦争”に誘い、みほさんをさえ“駒”と見做す、あまりにも薄汚い反吐が出るような謀略。私の家を訪ねてきた“仕掛け人”の遣い人は、巧みな美辞麗句で父と母を丸め込んだ。

父は言う。友人を助けるという大義と、“家名”の向上という実利を一時に得られるのなら、これほどに素晴らしい話はない、と。

母は言う。西住家次女救出の戦を赤星家が主導したとなれば、戦車道流派において島田家や西住家に優越した名門へ飛躍できる、と。

眼の前でぶら下がっている“栄達”という餌で瞳が曇った二人に、優しい両親の面影はない。いっそ清々しくなるほどに、二人が“遣い人”に騙されているのは明白だった。

だが、私は特に抵抗することなくその話を受けた。

(みほさん、みほさん、みほさんみほさんみほさん、みほさん……………っ!!!)

元より、私の命はみほさんから“頂いた”もの。あの日喪われる運命のはずだったところを彼女に救われ、たまたま今日まで生き延びただけに過ぎない。

そして今、恩人であるみほさんが命の危機にあるという。


だから、返す。彼女から受けた恩を。彼女に借りた命を。

その為なら、どんなことだってする。例え友達や仲間を裏切ることになっても、例え国を害する策略の道具になろうとも、例え足元に幾つもの屍が転がろうとも。


例えその果てに、私自身の“滅び”が待っていようとも。



(私に出来ることは、なんだってします。どんな事をしてでも、貴女に恩を返したい。あの時与えてくれた希望を、今度は貴女に与えたい。

…………だから、だから!!)





どうか、無事でいてください。

みほさん。

更新おつです
原作モブキャラがガンギマリになってるの嫌な予感しかしませんねw

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「フォックス=カーペンター国務長官、ご到着されました!」

爪'ー`)「あぁ、敬礼は必要ない。すまないがアルタイムの下へ通してくれるかな」

(`・ι・´)「奇遇だな、丁度私も君が到着するだろうと思って呼びに来たところだ」

爪'ー`)「おや、総提督閣下御自らホテル・フロントマンの真似事かね?いよいよ“海軍”の人材不足は深刻なようだな」

(`・ι・´)「そろそろウォールストリートに求人広告の一つや二つ出そうと思っている。

もし君がリクルート活動で来たならこの場で即採用するが、どうだ?」

爪'ー`)「週休5日と国務長官より高いボーナスが出るなら考えよう……残りの話は歩きながらでいいかね?」

(`・ι・´)「あぁ、構わない」

爪'ー`)「で、実際迎えの人間さえ寄越せないほど忙しいのは間違いないのか?」

(`・ι・´)「私が一刻も早く話を始めたかったというのもあるが、そこを差し引いてもカツカツなのは冗談抜きだ。正真正銘世界中が戦場と化した今“海軍”単体での対処能力はとっくの昔に飽和を起こしている。

“海軍”の存在公表と国連軍への編入は英断だったな、各国正規軍や在留米軍基地との相互連携があれ以上遅れたら戦況は今頃取り返しのつかないものとなっていた」

爪'ー`)「それでも足りないがね。攻勢範囲があまりにも地球全体に散らばりすぎていて政府の方じゃ“攻撃を受けている”以上の情報が得られない所も多い。またかく言うアメリカ軍も、大西洋の深海棲艦群が我々の方へも矛先を向けたことで東海岸の戦力を総動員しての迎撃作戦に忙殺されている。

………欧州奪還計画は1から組み直しだな」

(`・ι・´)「先ずそんなものが実行できる未来があるかどうかも怪しいものだな。そもそも、明日人類が生き残っているかさえ私には怪しく感じるよ」

爪;'ー`)「それをなんとかするのが君たちの仕事だろう!流石にそれは弱音が過ぎるぞ!?」

(`・ι・´)「事ここに至っては強がる余裕もないよ。大体、君だって薄々その事を勘づいているから私の元へ直々に来たのだろう?中共と北朝鮮の“やらかし”でてんやわんやなのは君ら“政治屋”側も同じだろうに、だ」

爪;'ー`)「………さっきも述べた通り、深海棲艦による攻撃が行われている、以上の情報が政府にも入ってきていない地域さえある。それも一つや二つじゃない。特にアフリカ、インド洋、フィリピン海辺りは米軍も直接参戦しているにも関わらず報告が錯綜しどれが正しいか全く区別がつかない状態だ」

(`・ι・´)「それはまた、トソン大統領のご心労は察して余りあるな」

爪;'ー`)「米国政府としてはより正確な情報がほしい。“海軍”ならそのあたり我々より精度が高いモノが既に入ってきているんじゃないか?」

(`・ι・´)「幸い、その期待には答えられる。到底“気休め”にはならないことは覚悟してもらうがな。まぁ、入ってくれ」

爪;'ー`)「………当たり前だが、総司令室も大騒ぎだな。士官達の体調が心配だ」

(`・ι・´)「既に三人が医務室に運ばれた」

爪;'ー`)「………………」

(`・ι・´)「四人目が出る前に、私もあの喧騒の中に戻らなければならないのでな、話は手早く終わらせよう。………リレント」

(ゝ○_○)「ハッ」

(`・ι・´)「主だった戦場で、我々“海軍”が把握している情報の開示と説明を頼む」

(ゝ○_○)「畏まりました。

国務長官閣下、国連特別“海軍”戦略情報局所属のリレント=キャンベルです。階級は少佐、以後お見知り置きを」

爪;'ー`)「あぁ、今回はよろしく頼む」

(`・ι・´)「…………フォックス、彼はかなり性格に難があるが、極めて優秀な男なんだ。多少のことは大目に見てくれ」

爪;'ー`)「………うん?」

(ゝ○_○)「眼の前で上官からボロクソに言われましたがめげません。

では、順に主要な対深海棲艦の戦闘発生地域における戦況を判明している範囲で解説させていただきます。正面のスクリーンに投影いたしますので御覧ください」

(ゝ○_○)「先ずは西ヨーロッパ・西フランス戦線です。赤い矢印が人類側の、青い矢印が深海棲艦側の進行路を、それぞれの色のマーカーが3個師団或いは20個艦隊以上の戦力展開が現時点で確認されている地域になります。

また、赤いラインは人類側で構築されている・いた防衛線を表します。これは特に申告がなければ、他の地域も同様になります」

爪;'ー`)「…………いた、ね」

(ゝ○_○)「先に結論から申し上げますと、西ヨーロッパ防衛線は崩壊しました。フィリピン海における【学園艦棲姫】浮上から約1時間後、基地航空隊偵察機がパリ・ベルサイユ方面より推定250個艦隊による深海棲艦の総攻撃開始を確認。

15分後、敵推定戦力を350個艦隊に上方修正した上でフランス軍並びにスペイン軍、ポルトガル軍、在欧アメリカ軍は総動員体制に移行。深海棲艦阻止作戦の実行に移りました。交戦開始から更に1時間後には、同地並び近隣地域に駐屯する“海軍”鎮守府からも6個艦隊が合流しています」

爪;'ー`)「その、なんだ。私の見間違いでなければ人類側の防衛線の“後ろ”に敵の艦隊群が一つ出現しているように見えるのだが」

(ゝ○_○)「それこそが、防衛線崩壊の最大要因となります。深海棲艦は【陸棲型】を用いて“地下”を掘削しながら進行し、ペルシュ自然公園に約30個艦隊を出現させ人類軍の後背を突きました」

爪;'ー`)「ん゛な゛っ………!?」

(ゝ○_○)「恐らく“なぜ気づけなかったのか”という疑問が出ると思われますので予め回答するなら、我々の探知可能範囲の遥か圏外から奴らが掘り進んできていたからです。

これは状況と敵艦隊で確認されている【陸棲型】のスペックから逆算した推測ですが、敵艦隊はルール地方制圧と拠点化の時点でこの“地下坑道”の工事に着手していたものと思われます」

爪;'ー`)「バカな、じゃあ連中のこの一大攻勢は【学園艦棲姫】の出現に“端を発した”ものではなく、寧ろ【学園艦棲姫】の存在さえ“計画の一部”でしかないということになるぞ!そんな深謀遠慮を連中が使えるなんて………」

(`・ι・´)「フォックス、その認識は流石に古すぎるぞ」

爪;'ー`)「……………!」

(`・ι・´)「我々は既にベルリンから………より厳密に言えばリスボン沖の折から奴らに遅れを取っている。それも数の暴力による強引な圧迫・突破ではない。物量差を活かし向こうが立てた“戦略”に、明確に裏をかかれた上で、だ」

(ゝ○_○)「仮に“ベルリン”の件から既に今回の世界的攻勢への布石が始まっていたと言われても、今なら正直信じられますね。居るとしたら、向こうの“指揮官”は相当優秀でしょう」

爪;'ー`)「そんな暢気な………!」

(ゝ○_○)「悲嘆に暮れたところで現実には微塵の影響もありませんので」

https://downloadx.getuploader.com/g/sssokuhouvip/178/IMG_20230213_175446.jpg

(ゝ○_○)「西部戦線に話を戻しますと、ペルシュ自然公園から出現した深海棲艦群は、その約70%がヒト型という極めて強力なものです。そして残る30%は全て陸棲型、ヒト型の中にも【高機動型チ級】が10%程度混じっていました。

このことから、奴らはこれらへの“デサント”によって機動力を確保し迅速な“裏取り”を実現したものと思われます。

圧倒的な火力を後方から投射され、オルレアンを中心とした西部防衛線はこの“奇襲攻撃”が始まってから40分ほどで全方面において戦闘能力を喪失しました」

爪;'ー`)「公園と目と鼻の先にあるル・マンは大丈夫なのか?フランス政府が暫定的に機能を置いていたはずだが」

(ゝ○_○)「そちらにも攻勢は行われましたが、“海軍”艦隊の一部が急遽展開地点をル・マン前方に変更し決死の迎撃を行ったおかげで辛うじて。大破四隻、轟沈一隻と引き換えでしたが。

政府機能もナントへの移転を完了し、前線司令部もそのままル・マンで新設されています」

爪;'ー`)「コマンド・ポストは何故わざわざ“新設”なんてしたんだ?」

(ゝ○_○)「オルレアンの旧前線司令部は“奇襲攻撃”が始まった5分後に通信途絶いたしまして」

爪;'ー`)「」

(ゝ○_○)「辛うじて組織的抵抗力を有しているのはアーブル方面への離脱を測っているスペイン陸軍が派遣していた機甲師団ぐらいですが、これも既に敵航空隊に補足され撤退は遅々として進まんでいません。

更に両側面から回り込む形で深海棲艦が計10個艦隊強を同方面に進出させつつあります。同地の基地航空隊がこれらを迎撃していますが、航空戦力も質量共に深海棲艦側が優越しているため経過は芳しくないですね」

(`・ι・´)「…………改めて聞きたいのだが、ル・マンをラインとした防衛線の再構築は可能か?」

(ゝ○_○)「改めて申し上げますが無理です。既に西部戦線はフランスの全土失陥を防げるか否か、に重きを置くべき段階となっています。実際戦略情報局の方では、ナントのフランス政府にバルセロナへの離脱、即ち亡命政府の樹立を進言しました。

初動で前線主要戦力の大半が挟撃され撤退すらままならなくなった今、ル・マンはトゥール、カントと連動しての陽動遅滞戦術に使うのが精一杯でしょう。押し止めることができるとしても、レンヌ─シャトー=ブリアン─ショレのラインが現実的なところかと。

そしてこの新規防衛線の構築までに、オルレアンラインに投入されていた艦娘戦力の15%、人類戦力の40%を失うと予想されます」

爪;'ー`)そ「よんじゅっ……!!!?」

(ゝ○_○)「これは最大限、我々にとっての“希望的観測”を重ねた上での数字です。前線部隊の退路の遮断具合、指揮系統の混乱、制空権の失陥、これら全てから“公平”に推定損害を算出する場合、損害比率はそれぞれこの2倍が妥当と思われます」

爪;'─`)「…………」

(;`・ι・´)「…………」

(ゝ○_○)「続けて、北欧戦線の状況を投影させていただきます」

爪;'ー`)「いやそんなあっさりと………!」

(ゝ○_○)「西ヨーロッパの解説は終わりましたので。

此方の戦線は先程の戦況と比較して単純化はされています。要はオスロ方面並びにリレストレム方面に展開していた約300個艦隊の推定戦力を持っての総攻撃。非常に単純明快な力押しです。

しかしながら、この戦線は人類側の戦力がそもそも極めて脆弱と言わざるを得ません。深海棲艦としても、正面からの力押しで“十分”と判断したが故の戦法と思われます」

(`・ι・´)「…………確か、北欧三国で艦娘を保有しているのはスウェーデンだけだったな」

(ゝ○_○)「ええ、軽巡洋艦の【ゴトランド】のみです。それも“実装”はごくごく最近で、まだ総数は10隻にすら届いていません。

元より北欧戦線は【Black Bird】の最初期出現地点であり、3カ国何れも航空戦力の絶対数が不足しています。その為敵の近接航空支援を防ぐ手立てがなく、構築されている防衛ラインの全方面が断続的な空襲によって甚大な被害を受けています」

爪;'ー`)「“海軍”の戦力は何をしているんだ!!!」

(ゝ○_○)「この辺りの地域には残念ながら十分な“海軍”戦力が展開できていないんですよ、それまではロシアへの“配慮”が必要だったので。ヴェールヌイの保有で一応は“海軍”支援国の一つでこそあれ、例の【3カ国防共協定】締結までは合衆国とはウクライナ情勢関連で、ジャパンとは“前大戦”の因縁でそれぞれ決して仲良しこよしとは言えませんでしたから。

その【防共協定】も締結はつい最近の話で、基地敷設も艦隊派遣もようやく話し合いの席が持たれた矢先の“ベルリン”です。鎮守府一つと5個艦隊相当の配備がその前に間に合っていただけでも正直奇跡的ですよ」

爪;'ー`)「ぐぅ…………」

(;`-ι-´)-3「我々の“負債”は、どこまでも我々自身を苦しめるな」

(ゝ○_○)「残念ながら、どれほど悔いてもミルクはコップに戻ってくれません。

まぁとはいえ、そうした悪条件の中でよく粘ってはいます。何せ一部地域では、敵主攻群の横撃とそれに伴う遅滞を目的とした反転攻勢さえ行われているほどなので」

爪;'ー`)「おぉ………!」

(ゝ○_○)「因みにその攻撃部隊は袋叩きの末壊滅し、結局コングスヴィンゲル方面の主要防衛ラインは猛攻撃によって早くも綻びが出始めており全面崩壊は時間の問題です」

爪'ー`)「」

https://downloadx.getuploader.com/g/sssokuhouvip/179/IMG_20230406_212512.jpg

(`・ι・´)「次は、南アフリカか」

(ゝ○_○)「ええ。お喜びください国務長官、過去の2地域と比較してかなりマシな戦況です」

爪#;'ー`)「マシだと………?“かなりマシ”だと!?この図が、この有様がか!!?」

(;`・ι・´)「フォックス、落ち着け」

(ゝ○_○)「実際マシでしょう。防衛線崩壊は一度発生してしまったもののその後再構築に成功し、被害こそ甚大ながら敵艦隊の浸透を食い止めることは明確にできているのですから。国土完全失陥が秒読みのノルウェーやフランスと比べれば何億倍もマシです」

爪;#'ー`)「この………!」

(ゝ○_○)「マジメに解説させていただきますと、喜望峰に浮上した深海棲艦艦隊群が南アフリカ共和国海軍の海上防衛ラインに接触しこれを粉砕。ジブチのアフリカ・アメリカ軍は規模が十分ではなくマダガスカル島のアメリカ軍並びに同島“海軍”鎮守府はインド洋における状況の激烈な変容からそちらへの対応に追われ何れも増援が間に合わず、敵艦隊群はそのままケープタウンに上陸しました。

同市守備についていた南アフリカ共和国陸軍は交戦開始から45分で全隊が通信途絶。1時間後に出撃した“海軍”マダガスカル鎮守府艦隊並びにジブチのアメリカ陸軍部隊による奪還作戦が発動されたものの、敵空母艦隊から発艦した航空隊の波状攻撃により市内突入が困難となり同作戦を中断。

北部郊外に深海棲艦を封じ込めるための第一次防衛線を展開したものの【陸棲型】を中核とした敵浸透艦隊に電撃的な強襲を受け、これも維持できず10%弱の戦力を失った上でより北部へと撤退せざるを得ませんでした」

(;`・ι・´)「だが皮肉なことに、ケープタウンの早期陥落が“功を奏した”」

(ゝ○_○)「ええ。南アフリカ共和国陸軍は、首都に“全戦力”を配していたワケではありませんでした。彼の国は元の治安がよろしくない上に、近年は海上物流の停滞に伴う経済的な打撃で内情不安を抱えていましたからね。

一方でそれらの事情がある故に、ただでさえカツカツの経済を無理矢理軍備に回して常備軍を平時の二倍に拡充していました。その拡充された兵力が、反政府運動に睨みを効かせるため全土に分散せざるを得なかったわけです。

無論首都故に防衛部隊の陣容は強力でしたし、この部隊を全滅と仮定した場合の【全兵力の約10%喪失】は決して“軽微”なものではありません。

が、逆説的に言えば【総兵力の90%が健在である】と見られるわけです。そこに“海軍”戦力やアメリカ軍も加わった状況を先の二箇所のように“絶望的”と捉えるのは早計でしょう」

https://downloadx.getuploader.com/g/sssokuhouvip/180/IMG_20230406_224313.jpg

爪;'ー`)「そういえば、南アフリカは大統領も健在だったな………」

(ゝ○_○)「その点も非常に大きかったですね。先に述べた内情不安から国民の支持向上と反政府分子への牽制を兼ねて、大統領は地方遊説の真っ最中でした。

その為国内指揮系統の早期断絶という事態が回避され、集結が遅れた国防軍の残存戦力とケープタウン郊外に離脱した“海軍”艦隊のスムーズな合流がなされました。また、ナミビア、ボツワナ、ジンバブエ、モザンビーク等周辺諸国による陸軍戦力派兵要請も同国政府から完了しており、状況次第では比較的早く本格的な反転攻勢に移れる可能性も出てきています」

爪;'ー`)「なるほど………君の言うとおり、間違いなく“かなりマシ”だな。先程は感情的になってすまない」

(ゝ○_○)「ご安心を、慣れておりますので。

因みに、ポート・エリザベス方面はより良好な状態で推移しています。ケープタウンが陥落した時点で、南ア軍首脳部もマダガスカル鎮守府もポート・エリザベスが次点の攻撃目標となることは認知した上で“放棄”を前提に作戦計画を修整しました。
アフリカ・アメリカ軍より一個艦隊を洋上に急行させ予想通り進軍してきた敵艦隊群を漸減しつつ足止め、同市の防衛軍駐屯部隊は市民の避難誘導に活動を固定。同市上陸が開始された際には、政府を通じて航空支援を要請していたエジプト・サウジアラビア・イギリスの3カ国連合空軍による爆撃が実施され浸透の抑制に成功しています。

結果、完全に無傷とまでは行きませんでしたが軍属・民間の人的被害は何れも極少数に留まっています」

(;`-ι-´)「深海棲艦によって引き起こされていた諸問題が、深海棲艦の侵攻に際して好材料になるとはな………日本語ではたしか、“不幸中の幸い”というのだったか」

(ゝ○_○)「無論深海棲艦は恐らく両市を【泊地】化して橋頭堡とするつもりでしょうから予断を許すわけではありません。しかしながら、イギリスが極秘裏に企画していたケープタウンに対する核兵器の集中運用はひとまず回避できたでしょう」

爪;'ー`)「………ぇ゛っ」

(;`・ι・´)「待て、それは私も初耳だぞ!!!」

(ゝ○_○)「まぁ言ってませんでしたし。どうせクソ馬鹿野郎のデルタ=クーガーが独断で暴走してただけですよ、戦況の安定化が仮に失敗していたとしても首相が抑えたと思います。実行されたらそれはそれで面白そうでしたが」

爪;#'ー`)「おもっ…………!!?さ、流石に今のは聞き捨てならんぞ!!」

(ゝ○_○)「そうですか、しかし戦況説明がまだ終わってませんので無視します」

爪'ー`)「」

(;`・ι・´)(我が部下ながらマジで頭おかしいなコイツ………)

(ゝ○_○)「で、対象的にビックリするほど面白味がないインド洋─アラビア海戦線です」

(;`・ι・´)「評価基準が“面白味”というのはどうなんだ………」

(ゝ○_○)「イヤ、でも本当に面白み有りませんもん。日米印の主力艦に潤沢な艦娘が合流し更に途切れることのない定期的な補給………どころか、欧州奪還を目的としている点に加えて反艦娘的な態度が続く中東諸国への【砲艦外交】的な威圧を兼ねての“増強”が続いていた大戦力。

過去の3地域と比較して前提条件が違いすぎます。初期の波状攻撃でインド海軍の【ラーナ】と【ランジート】が失われましたが、目立った艦艇の損耗は以降なし。寧ろ南方の敵艦隊に対して海上防衛網を構築ししつつこれを逆に前進させ圧迫しているほどで、体制としては盤石極まりありません。

強いて懸念点を挙げるとするなら、【Black Bird】の襲撃により自衛隊の空母【いずも】の艦載機隊が一個編隊失われたことでしょうか」

爪;'ー`)「この、連合艦隊の側面から伸びてきている矢印か」

(ゝ○_○)「ええ、ただ【Black Bird】は制空能力が極めて高い反面爆装型・雷装型は何れもまだ確認されておらず、対地・対艦攻撃能力は並以下です。装備が機関砲のみ故の火力不足に加えて制止目標に攻撃をかけようとすれば自然平坦な軌道でかつ低速接近をせざるを得ず、連中の強みは尽く失われます。

実際【いずも】からヨコスカに送られた経過報告によれば一度だけ艦隊に対して20機ほどが直接攻撃をかけてきたそうですが、対空砲火であっさり4機を撃墜されて僅か20分ほどで撤退したとのこと。中華人民共和国の件があるとは言えインド軍も相応に余力を残していますし、現状この方面には特にリソースを割く必要はないと思われます」

(`・ι・´)「あと気になるところがあるとすれば、マダガスカル島鎮守府に行われている攻撃だな」

(ゝ○_○)「まぁ主力艦隊がアフリカに投入されているため油断するわけには行きませんが、防衛の総指揮を取っているのがあのアイシス=ユピアですからねぇ。あの女も面白みのないやつですから、多分あっさり撃退するんじゃないですか?」

爪;'ー`)「だからこの人類存亡がかかった時に面白みなどいらんのだよ………」








────同刻・マダガスカル島鎮守府

リハ;>ー<リ「ヘクチッ」

「!? ヘイ提督、大丈夫ネー!?」

リハ;゚ー゚リ「うん、大丈夫。心配しないでコンゴー。

第四艦隊、そのまま後退してポイントD-1まで敵艦隊を誘引!陸上砲台、全門照準!十五秒後に【キルポイント】への一斉射、敵艦隊を殲滅して!!」

「ユピア提督、第六艦隊より予定通りP-4地点にて敵水雷戦隊の完全な足止めに成功したと報告あり!」

リハ#゚ー゚リ「上空待機中の【スツーカ】全機に爆撃開始を通達!敵艦隊に打撃を与えたら後方から第二潜水艦隊を回り込ませ追撃させてください!」

https://downloadx.getuploader.com/g/sssokuhouvip/181/IMG_20230213_175322.jpg

(ゝ○_○)「北米・中米戦線に関しては国務長官もすでにご存知と見受けますが、解説は必要ですか?」

爪;'ー`)「………レポート自体は読んだが、現場の人間の“所感”も聞きたい。一応解説を頼む」

(ゝ○_○)「畏まりました。

この戦線の最大の特徴を申し上げるなら、“二極化”です。大西洋にて浮上した推定400〜500個艦隊と見られる深海棲艦の艦隊群は現在アメリカ合衆国側と中南米諸国側の2方面に分かれて攻勢を仕掛けてきているわけですが、前者と後者で戦況が180度違います。

アメリカ方面は、ノーフォークとメイフォート、キティホークの海軍基地を中心にモアヘッドシティ、ウィルミントン、マートルビーチ、チャールストンなど東海岸各所の鎮守府・警備府・“海軍”拠点から抽出された艦娘部隊と艦隊総軍、各州の統合航空隊による迎撃で戦線は安定状態です。
まぁ元より欧州奪還作戦に向けてインド洋の3カ国連合艦隊同様東海岸も断続的に戦力を増強してきていましたからね、その戦力が十全に生かされるなら姫級が束になってきても抜くのは困難だ」

(;`・ι・´)「…………そして、深海棲艦もその事を“理解していた”からこそ」

(ゝ○_○)「ええ、今の“二極化”が起きています。

合衆国側で投入されている敵艦隊戦力は、物量こそ1000隻超ですが姫・鬼級が“束になる”どころか今のところ殆ど見当たりません。EliteやFlagshipの数は他戦線に勝るとも劣りませんが、東海岸に集結完了していた戦力も質量共に充実しているため正直この程度なら大きな問題にならないでしょう」

爪;'ー`)「対し、中南米方面へ南下中の敵艦隊群は………数こそ我々の方に向かってきているものと同等だが………」

(ゝ○_○)「はい。同艦隊群には、“それのみ”で十個艦隊超が編成できる数の姫・鬼級が確認されています」

https://downloadx.getuploader.com/g/sssokuhouvip/182/IMG_20230213_175300.jpg

(;`-ι-´)「60隻を超える戦艦棲姫や装甲空母鬼………想像したくもないな」

(ゝ○_○)「そも中南米諸国の海上戦力自体決して潤沢でも高水準でもありませんし、こちらもキューバやメキシコとの複雑な外交情勢からアメリカ軍並びに“海軍”による艦娘の派遣もさしたる規模になっていませんでした。

そんな中でこの全面総攻勢です。当然耐えきれるはずもなく、第一次防衛ラインは接敵から10分少々で“消滅”。第2防衛ラインではなけなしの艦娘戦力を総動員しましたがこれも衆寡敵せずで風前の灯。

まぁ第2防衛ラインは早々に後退しつつの漸減・遅滞に目標を切り替えたので幸い艦娘の“轟沈”は出ていませんが、逆に物量差がありすぎて前者の目的については殆ど果たせていないのが現実です」

爪;'ー`)「我々もその辺りの危機的状況は把握している。だからこそ、国防総省の方で二つほど手を打ってもらった」

(ゝ○_○)「ええ、“内陸州における余剰艦娘戦力の中南米諸国への緊急派遣”と“北米方面戦線での海上攻勢”、どちらも我々戦略情報局としては良手と評価しています。

特に、北米戦線の攻勢作戦発動は丁度我々の方でも進言する予定だったので」

(;`・ι・´)「敵艦隊は、未だに“余力”を残しているからな………」

(ゝ○_○)「北米戦線と中南米戦線、その中間で未だ停滞状態を維持する残余1000隻程。この艦隊群は明らかな予備戦力であり、我々の動きに合わせて投入方面を変える予定であったことが目に見えてましたからね。

下手に中南米へ増援を出しすぎれば現状の合衆国側の防衛ラインが“厚み”を失い総攻撃を受けた際に飽和状態となってしまう可能性が上がり、逆に出し渋れば中南米側の陣容を更に強化して一挙に複数箇所に上陸、橋頭堡を確保。

どちらにも動けるようになっていたものを、少なくとも現状はどちらとも取れないように制限できた点は確実に敵の狙いを一つ挫けたと思います」

(;`・ι・´)「正直、元々知っている内容であっても再度聞いているだけで精神的消耗が激しい。それで、次は東欧・南ドイツ戦線辺りか?」

爪;'ー`)「そこは取り分け気疲れしそうだな……“ベルリン”の損害が大きすぎる上にその前は艦娘戦力がある程度潤沢だったからこそ“海軍”戦力も十分に配備できていない。正直、どんなに悪い報せを聞いても驚きは───」

(ゝ○_○)「ああ、ご希望でしたらお伝えしますがその区域はやや報告内容が他と異なります。経過ではなく“結果”報告ですね」

(`・ι・´)「? すまん、意味がよくわからないのだが」

(ゝ○_○)「あくまでドイツ連邦政府並びに東欧連合軍総司令部からの共有情報が真実なら、という前提は必要ですが………南独戦線における主要な戦闘は現時点で“終了”しています。

東欧連合軍は現防衛ラインの固守に成功。深海棲艦の侵攻群は大損害を受けて撤退し、後は一部残敵の掃討だけとのことです」

(`゚ι゚´)「」

爪゚д゚)「」

(;;`゚ι゚´)「どどどどどどど童貞ちゃうわ!?」

(ゝ○_○)「聞いてませんが。貴方妻も息子もいるでしょうよ」

爪;;゚д゚)「どどどどどどドゥカティ!?」

(ゝ○_○)「カメラメーカーから始まったイタリアのバイクブランド名がこの場において何の意味を持つのかは皆目見当も付きませんね。

まぁ“どういうことだ”と聞いているのは解りますが、正直どうもこうもなく申し上げた通りです。

ライプツィヒを中核とした深海棲艦によるドイツ南方への総攻撃を、【ドレスデン・ライン】は撃退しました。損害は取り分け激戦となった前線都市・リーザの守備隊がやや多めの死傷者を出した程度で、艦娘にも轟沈者は一人も出ていません。完全勝利と言っていいでしょう。

とびきりの朗報なんですし素直に喜んでは?」

(;;`・ι・´)「……………朗報なのは間違いない。間違いないが………俄に信じられるものではないな」

爪;'ー`)「いや、どんなに時間が経ったって信じられるものか!喜びたくとも“誤報”の可能性が大きすぎて全く浸れんぞ!?」

(ゝ○_○)「こんな世の中ですから疑り深いのは時として美徳にすらなり得ますが、一応ロシア経由で複数の“情報筋”に裏を取ったので多少の誤差はあれど全面的に虚偽という可能性はほぼないと思われます。同軍に参加しているアメリカ海兵隊のサイ=ヨーク=ヴォーグルソン大尉とも連絡が取れていますし。

というか、東欧連合軍首脳部に嘘をつくメリットがまるでないでしょう。暴動や恐慌を抑えるために国内向けのプロパガンダって話ならいざしらず、共同戦線張ってるアメリカや日本の政府内にこの嘘垂れ流す意味ってなんですか。しかも軍内にアメリカ軍関係者がいるのに」

爪;'ー`)「そ、そう言われればそうだが…………」

(;`・ι・´)「誤報ではないとしても、ここまで短期的に決着できたとなれば今度は手品か神の奇跡を疑いたくなるよ。

確かにドイツ戦線はついこの間も400個艦隊規模の総攻撃を押し返している。だがあの時は、深海棲艦側にも明らかな“油断”があった。

今回の攻勢はほぼ同規模、戦力も第一報到着時点での予想進軍経路を見る限りしっかりと集中運用の原則を人類側の重要拠点に対して遂行しているように見えた。

EliteやFlagshipも他地域に引けを取らない量が確認されていた事も考えると、再びこれほどの勝利を得られるとは」

(ゝ○_○)「あくまで断片的な情報を繋ぎ合わせた上での推測ですが、【ドレスデン・ライン】は最前線の複数箇所であえて交戦状態を維持しつつ敵艦隊の浸透を故意に許したようですね。そうして総司令部があるドレスデンまで誘引しつつ、リーザを始め幾つかの最重要拠点を艦娘戦力と機甲師団、近接航空支援の集中運用で堅守。

これらへの攻撃部隊を撃退或いは壊滅した後、ドレスデン方面への浸透を続けていた敵艦隊の退路を遮断。包囲殲滅の後反転攻勢で再度防衛線を当初のものまで押し上げた、といったところでしょうか」

(;`・ι・´)「例の、【機動迎撃大隊】と【混成機械化打撃群】か。彼らの武勲は留まるところを知らないな」

(ゝ○_○)「ドク=マントイフェルにイッシ=ストーシュル、あの二人面白いですよね。私最近ちょっと追っかけてます」

爪;'ー`)「そんなジャパンのアイドルグループじゃあるまいし………」

https://downloadx.getuploader.com/g/sssokuhouvip/183/IMG_20230408_225438.jpg

(ゝ○_○)「………さて、ここまでに報告してきた地域以外にも、大なり小なり深海棲艦との戦闘発生地域はあります。

ベーリング海、カムチャッカ半島沖、黒海、バミューダ海、バレンツ海、グリーンランド海……海と名の付く場所で戦闘となっていないのは北極海と南極海くらいのもので、南アフリカのように既に“陸戦”が始まっている場所も決して少なくはありません。

その中で南ドイツとインド洋─アラビア海の状況はハッキリ言ってしまえば“例外”であり、大半の戦場は人類・艦娘側にとって劣勢です」

(;`・ι・´)「………それらを踏まえた上で、“海軍”総提督として聞こう。我々が“このまま”戦い続けて、戦況を覆せる可能性はあるか?」

(ゝ○_○)「戦略情報局士官として分析するまでもありません、Nothingです。ドゥームズ・デイの訪れは、最早秒読みと言ってもいいでしょう。

仮に人類がそれを回避しここから戦況を挽回できるとすれば…………少なくとも二箇所、一秒でも早く人類側の勝利とした上で掌握しなければならない戦場があります」

爪;'ー`)「………やはり、【オオアライ】、そして【学園艦棲姫】か」

(ゝ○_○)「ええ。それではこれよりその二箇所………【フィリピン海戦線】並びに【日本列島戦線】における現戦況の整理と解析を行わせていただきます。

────ただ、その前に一点、後者について取るに足らないかもしれませんが個人的に気になった情報を報告させていただきます」

(`・ι・´)「? 何かね?」




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「大洗町にて自衛隊への近接航空支援に参加した“海軍”所属の航空隊パイロットの一人が、─────“大洗女子学園の甲板にて、【交戦中の装甲車】を視認したかもしれない”という報告を上げてきています」









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お~ドイツ方面の情報嬉しい ぬるっと勝ってて流石だ

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まことに小さな島国が、つい30年ほど前まで世界の巨人であるアメリカと6年以上もがっぷり四つ組みで渡り合っていた。このことは、現代の奇跡というより他にない。
19世紀の末になり、日本は「明治維新」という国を挙げた狂乱の果てにようやく統一的近代国家の道を歩みだした。既に“国際社会”を創り上げて久しく思想も文明も遥か先を歩んでいた欧米諸国から見れば、明治という時代が始まる際の有様はきっと、猿が無理矢理に洋服を着ようとしている姿と区別がつかなかっただろう。

そしてこの“猿”が、僅か二十数年で大清帝国を粉砕し、四十年でロシア帝国を打ち負かし、一世紀に満たぬ期間で新たな【帝国】として亜細亜に跋扈しアメリカとさえ鎬を削るまでに至ったことは、「先進国」を自称し続けてきた彼らにとって、多大な屈辱を伴う信じがたい“驚愕”であった。

だが、何よりもその光景を信じられなかったのは、他ならぬ当時の日本国民である。

浦賀に黒船が姿を現し強引に徳川幕府を開国に至らせるまで、この島国にとって欧米とはまさに“外界”であった。技術、文明、思想、価値観、全てが未知であり、吸収しようにもぶつかり来るそれらの衝撃が強烈過ぎ、一つ入れる度にこの島国は大いに揺れた。
幾度となく揺れに揺れ、その繰り返しに耐えきれず起きた日本という家屋の大倒壊が明治維新である。

本来ならば向こう数十年はまともな建て直しが困難なほどの倒壊ぶりでありながら、この国はそれを“土台”だけ残して上層建造物のみを破壊するという奇妙なやり方で起こすことに成功した。その為に、武力を伴った国家規模の革命直後にありがちな致命的な混乱を殆ど経験することなく近代国家建設を成し得た。

この“奇跡”が起きた要因を、一概に限定することはできない。国民性や地政学的要因、長年続いた幕藩体制の功罪、様々な要素が複合的に絡み合った結果としか言いようがない。
ただ一点、戦国の頃よりこの国に通されてきた一本の道が、女流鉄砲術から戦車へと至る“道”が、取り分け大きな役割を果たしたという点だけは、恐らくあらゆる視点において共通の見解となるだろう。

一応は、筆者もまた“彼女”とは同時代を生きる人間であるため、その血縁者について語ることに些かこそばゆい思いはある。しかしながらこの人物無くして日本の土台を支えた“芯”について解き明かすことは出来ないため、恥を凌ぎ、筆を執ることとする。

これは日本が中世国から近代国へと至る時代を、幕末から明治へ、そして昭和へと伸びていく【鋼の道】を歩み続けた、一人の女の物語である。




────司馬遼太郎著・【鋼の道にて 西住栄物語】序文より抜粋

更新おつです
西住流テーマの司馬遼太郎小説があるって設定はアツい!

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『ギァア────ァ゛ッ゛………』

大口を開け、喉笛を噛みちぎらんと此方に首を伸ばしてきた【寄生体】。ブレイドを真正面から振り下ろし、頭を叩き割って黙らせる。

「ゲボォッ』

振り向きざまに刃を翻し、真逆の軌道で下から斬撃。隙ありと見たか飛び掛かってきていた小太りな【暴徒】が、宙空で身体を真っ二つに両断されグシャリと音を立てて地面に落下した。

「ゴパッ!!?』

『ギギッ──コケッ』

そのまま逆手に持ち替えたブレイドを背後に突き出し、別の【暴徒】の腹を刺し貫く。血反吐を吐きながら蹲ったソイツの背後からまた一匹【寄生体】が飛び掛かってきたが、胴を鷲掴み足元の地面に叩きつける。
間髪入れず頭を踏み割ると、数日間海を漂っていた水死体を思わせる青白くヌラヌラとした質感の胴体が、短い断末魔と共に一瞬ピンッと張り詰めた後クタリと脱力し崩れ落ちる。

『オブォッ」

「グがっ……』

途切れることのない襲撃。今度は両側から【暴徒】二人。右手のサラリーマン風の男の顔面を膝で蹴り砕き、そのままの勢いで距離を取りながら左手から迫る某ケータイショップの制服を着た若い女にM&K USPを連射。顔を斜めに横切る形で3つ風穴を空け、沈黙させる。

いったいここまでに、何匹、何人、斬り伏せてきただろうか。

ここから、あと何匹、何人斬り伏せれば私はこの“作業”から解放されるだろうか。

前者の問いについては、他ならぬ私自身が疾うの昔に数えるのをやめているのだからどだい解るわけもない。
まぁ、何百人だろうが何千匹だろうがもう“終わったこと”よ。今更思い返したところで、意味なんてないでしょう?

そして、後者の問いに対する答えは、





「『「オァアアアアアアアアアアアアッッ!!!』」』

『『『キィアアアアアアアアアッ!!!!』』』

∬メ;´_ゝ`)「Muscle-03、11時方向!距離150、家屋上に火器装備の【暴徒】3名を補足!!」

└(#メ*・ヮ・*)┘「了ッ解ッ!!モー速攻排除しちゃうからねー!!」

「02、私がその後に突撃するから右手側の“群れ”に射撃を!!3連射、前衛崩せ!!」

∬#メ´_ゝ`)「02、要請を受諾!撃ち方ぁ!!」

……周囲の光景を見る限り、「遠き春」であることは間違いなさそうね。

駆逐艦娘1名、陸上自衛隊員1名、学園艦保安官1名による、大洗女子学園の奪還。
そんな、平時に私が第三者として聞いたなら発言者の気が触れたとしか思えないような“作戦”を声高に宣言してから、一時間ほどが経過した。

この時点で私達の位置から学園校舎までは、目算距離で約3kmになるかどうかといったところ。徒歩である点を考慮すると決して近いとは言えない。
けれど、常人の身体能力を遥かに凌駕する艦娘と膨大な体力を要する肉体系公務員2名が“普通に”移動したなら、この一時間小走りでもしていればもう到着していたでしょうね。

「『「ァアァアアアアアアッ!!!!』」』

『『『ギャッ、ギャッ、ギャギャっ!!』』』

まぁ、【私達に対して殺意マシマシの“元”人間】と【私達に対して殺意マシマシの敵性侵略生命体】が道に溢れかえり何千何万と犇めく中を、“普通に”行けるワケがなかったってだけのことよ。

「ウボァ………』

「二人共、次はこっちへ!」

∬;メ´_ゝ`)「Muscle-03、進行方向の家屋上を警戒!私がしんがりをやるわ!」

└(*・ヮ・*;メ)┘「あいよー!」

向こうの数的優位をなるべく削ぐために、こうして裏路地や細道へと誘引する機会が多いことも相まって、進んだ距離はせいぜい1kmがいいところ。“目標地点”まで1/3も来れていない。

『キョアアアアアアッ!!!』

そして、進めば進む分だけ、押し寄せてくる敵の壁は分厚く、波は激しくなってきている。

「伏せて!!」

∬メ;´_ゝ`)「…ッ!!」

飛び込んだ裏路地に、お構いなしに殺到してきた【寄生体】の塊。その中から一匹が、しんがりで89式小銃の引き金を引き続ける阿音に向かって胴を伸ばす。
私の叫びに応じてとっさに背中から倒れ込む形で背後へと跳躍した阿音の首から数センチほどの位置で、鋭い牙がガチンと鈍い音を立てた。

『ギッ──ゴボァッ!?』

更に追撃しようと開かれた口に、対深海棲艦白兵戦闘用のブレイドを突っ込む。特殊合金で出来た漆黒の刃が上顎をぶち抜き、砕かれた甲殻の破片が飛び散って両側のコンクリート壁にカランカランとぶつかる。

『キュペッ』

『オゴパッ』

首を捻り切って、そのまま投擲。姑息にも足元からの奇襲を狙って地面を這ってきていたもう一匹の頭部も砕け散った。

立て続けに二体を葬ったが、路地の入り口で蠢いている【寄生体】の数は未だに膨大だ。当然、この程度で攻撃を止める筈もない。

『キィアッ!!』

『グォッ!!』

「ちぃっ!!」

∬;メ´_ゝ`)「このっ!!」

唸り、金切り声を上げ、今度は5〜6体の新手が一斉に私と阿音に押し寄せてきた。1体ごとは雑魚でも束になれば相互に連携を取ってくる上、攻撃動作は向こうの方が立体的な為迎撃難度が跳ね上がる。阿音と二人、間断なく突き出されてくる頭部や牙を必死に捌きつつ隙を伺う。

『ギィイイイイイi「甘い!!」ウギァッ!?』

『ギャッ!?』『ヴァギュッ………』『シェッ⁉』

此方の防戦に業を煮やしたか、一匹が得物をはたき落とそうと大きな動作で勢いよく私の手元に向かって頭部を振りかぶる。その軌道を躱し、首を斬って落とし、開かれたスペースに滑り込む。
一気に連撃へ繋げ、残りの個体も殲滅した。

ああもう、せっかく乾いてきていたのに。また連中の“返り血”でぐっしょりだわ、生臭いったらありゃしない。

「さぁ、お次は何匹で来るつもりかしら?幾らでも───」

『うぉらぁあああああっ!!!!」

「───ッ!!?」

ブレイドを下段に構え直しながら、威嚇と挑発を兼ねて眼前の“塊”に対して微笑みかける。が、予想に反し、“次”が来たのは上………左手の民家からだった。

まぁ、さっきも屋根の上に拳銃持った【暴徒】が現れていたワケだし、路地裏で周囲には家が立ち並んでるわけだし、ええ、認めるわ。私が油断していたせいも若干はあると思う。だけど、一つだけ言い訳させて頂戴?

化け物共との乱戦の直後に、室内から元とはいえ“生身の人間”が二階の窓をぶち破って飛び掛かってくる可能性までケアするのは無理よ!!

「ぐぅっ……!?」

艦娘の身体能力は、艤装の装着量と【船体殻】の出力にほぼ完全に比例する。
無論完全な非武装でもMLBで即座に二刀流選手としてデビューできるぐらいのものは備えているけど、中破状態の上に艤装がブレイドを仕込まれた電探装置二つだけという状態では流石に限界はあった。

姿勢が崩れていたことも相まって、飛び掛かってきたジャージ姿のその【暴徒】にあっさりと押し倒され組み伏せられてしまう。

『死n─────ボギュルッ!!?」

∬#メ´_ゝ`)「どらっしゃあああい!!!」

馬乗りの体勢のまま、両手でソイツは出刃包丁を猛然と振り下ろす。が、ソレが私の首筋に突き立てられる直前、側頭部に凄まじい勢いで89式小銃の銃床が叩きつけられた。

弾倉抜きでも3.5kgにもなる鉄の塊が、よく鍛え上げられた軍人の肉体を以て全力全開でスウィングされれば、当然余裕で人を殺せる威力を伴う。
握りつぶされたアルミ缶のように打撃部分が凹んだ【暴徒】は、私の上から吹っ飛んで壁に激突しそのまま永久に沈黙する。

└(#メ*・ヮ・*)┘「はい、モー見えてるからね!!」

「ガフッ』

『ブギゥッ!?」

その向かい側の家の2階、そして屋根上で追撃を試みようと更に3人の【暴徒】が現れたものの、鈴によるH&K PSG1の速射で何れも顔面を吹き飛ばされ落下した。

「02、03、お願い!!」

∬メ#´_ゝ`)「了解!」

└(*・ヮ・*#メ)┘「いえっす、まぁむ!!」

そのまま残る【寄生体】の群れを二人に任せつつ、銃声を尻目に鈴と身体を入れ替える形で逆方向へと跳ぶ。

『っぁあああああああああ!!!!」

前転でさらに距離を稼いだ後に身体を起こせば、丁度この路地に反対側から突入してきた【暴徒】が一人、すぐ目の前で私に対して金属バットを振りかぶるところだった。

「はぁっ!!」

『がほぅっ!?」

さっきは体勢を崩していたことに加えて予期せぬ奇襲だったため不覚を取ったが、いかに多少の疲労とダメージが蓄積していても真っ向勝負で艦娘が人間に負ける道理はない。
腰のあたりに斬撃を食らわせ、【暴徒】を“上下”に分断する。

『ブぁっ!?」

「グボォッ』

『このやろuヌブッ───オゴッ」

宙を舞った上半身が地面に落下するよりも早く、踏み込んで後続の二人目は袈裟懸けに両断。三人目に裏拳を食らわせてコンクリートブロックに叩きつけつつ、遠心力で身体を回転させながらもう片方の手でUSPを構え突き出す。
民間の警備会社にでも勤めていたらしく、木製の警棒を構え突進してきた四人目。口内に銃口をねじ込んで引き金を引くと、弾丸が頭蓋を粉砕し後頭部から射出された。

「や、やぁあああああああっ!!!!』

「………っ!!」

「ヒュッ───…………』

五人目は…………デッキブラシのようなものを持ち、船舶科の制服を着ていた。散々自分に言い聞かせ、その甘さを自身で罵倒してきたけれど、それでもほんの刹那全身が強張るような感覚が走ることだけは避けられない。
歯を食いしばり、止まりかけた手を加速させ、“ここまで何度も”そうしてきたように、せめて痛みを殆ど感じさせない為一際早くブレイドを首筋に走らせる。

『ブォオオオオオオ───ブガッ!?!?」

「ヒィッ………ァ、レ………?』

「横、失礼するわ」

六人目、七人目は、通路を埋める形で二人一辺に挑みかかってきた。片方はトンカチ、もう片方はどこで手に入れたのやら手斧を持っていたので、とりあえず手斧の方の首と腕を一度に斬り落とす。
足元に落ちた手斧を避けようと急停止したトンカチの方とすれ違う際にその頸動脈を手刀で裂くと、血が噴水のように吹き出して民家の壁に赤い不格好な紋様が描かれる。

更新おつです
色々ありすぎてゾンビ物もクロスオーバーしてたの忘れてましたw

八人目は姿勢を低く、レスリングのタックルのような要領で迫ってくる。顎を膝でかち上げ、剥き出しになった喉仏を握り潰して息の根を止めた。

九人目は元保安官の【暴徒】だったらしく、ニューナンブを構え撃ってきた。生憎、どれほど微弱な【船体殻】でも容易く防げる銃火器の方が私個人としては余程ありがたい。背後の二人に流れ弾が当たらないようあえて大きく飛んで連射された3発を全て受け止めつつ、着地と同時にブレイドを振り下ろし防弾チョッキごと両断する。

「ゴホッ…………!?』

丁度十人目。心臓を深々と刺し貫き、脱力したソイツの胸ぐらを掴み、私を包容しているような形で纏わりつかせ───そのまま一気に大きく踏み込んで、加速。

『「『ぅぎゃぁっ!!?」』」

「『「おごぁっ!!!?』」』

路地の反対側の出入口、突入するためそこに屯していた、7〜8人ぐらいの“ダマ”。そこに、即席の「盾」を掲げながら全力全開での体当たりをかます。
鈍い打撃音、そしてナニカが折れたような幾つかの乾いた音を重ねながら、“ダマ”は一瞬で解け後方へとまとめて吹っ飛んだ。

「こっち!!」

∬#メ´_ゝ`)「03、先に!」

└(*・ヮ・*#メ)┘「ほいさぁ!!」

飛び出した先は、主要通学路の一つだったのかそれなりの道幅の道路だった。周囲の【暴徒】と【寄生体】を片っ端から斬り払って抉じ開けたスペースをさらに広げつつ、背後の路地に向かって叫ぶ。
阿音が89式小銃を乱射して“塊”を牽制する間に、鈴は構えを解き一目散にこちらへと駆けてくる。

└(*・ヮ・*#メ)┘「ばっふぁろぉおおおお、きぃいいいいっく!!!」

『ベルタソッ!?」

路地裏を出ると同時に、跳躍。近場の【暴徒】一人の顔面に飛び蹴りを食らわせ、そのまま文字通り“踏み倒して”着地した時には、既にPSG1の膝射体勢が取られていた。

└(*・ヮ・*#メ)┘「ほい、ほい!!」

「ダポッ!?』

『ヌブッ」

『ギャアッ!?』

二度、マズルフラッシュが瞬く。一発目は左手から突進してきていた【暴徒】を二人まとめて貫き、二発目は変則軌道で強襲を試みた【寄生体】の頭部を寸分の狂いなくぶち抜いて粉々に打ち砕いた。

└(#メ*・ヮ・*)┘「モー大丈夫だよ02!!」

∬#メ´_ゝ`)「了解!!」

『『『ギァアアアアアアアアッ!!!!』』』

出入口周りがある程度“クリア”になったところで、阿音もまた最後にもう一射撃“塊”に浴びせた後踵を返す。火線の妨害がなくなった“塊”もまた、一拍置いてその後を猛然と追い始めた。

∬メ;´_ゝ`)「あらあら、見た目の割に礼儀正しいじゃないの」

手厚く熱烈な“御見送り”の様子をチラリと振り返り、阿音は口元を不敵に歪め───

∬メ#´_ゝ`)「それじゃ、お返しぐらいはしなくちゃね!!」

───腰に巻いてある雑嚢から取り出した“贈り物”のピンを抜き、道路へ飛び出すと同時に背後へと投げつけた。

炸裂音が空気を震わせ、一瞬爆光が煌めいた後路地裏には黒黒とした煙が充満する。咄嗟に屈んだ私と鈴の頭上を、千切れた【寄生体】の頭部や焼け焦げた肉片が飛び越えていく。

『ギィッ、ギィッ…………』

『シャアアアァァ………』

小銃の弾丸とは比べ物にならない威力ではあれど、密集具合を考えても削れたのはせいぜい二十に届くかどうかだろう。数だけで言えばまだまだ健在の筈だったが、それ以上“塊”が追撃してくることはなかった。

∬メ;´_ゝ`)「ごめんなさい、待たせちゃったかしら?“お客様”の引き止めがしつこくて」

「ええ安心して、寧ろ大和撫子の身支度の手際の良さを改めて実感したところよ」

路地への警戒は怠らぬままこちらへ駆け寄り合流した阿音と軽口をたたき合い、これに鈴も加えた三人で背中合わせになり周囲で犇めく【暴徒】並びに【寄生体】と対峙する。
三人で散々暴れ狂ってやった結果流石に警戒が強まったのか、遠巻きに眺めて隙を伺いつつこちらへの波状攻撃は止まっている。

ここで「遠慮なんかしなくていいのよ?かかってきなさいな」とでも啖呵を切れれば大層格好がつくのだけれど…………実状としては、素直にこの“休養”が有り難いわ。

「各位、残弾は?」

∬;メ´_ゝ`)「M26はさっき投げた分がラスト、擲弾も次でラスト。89式の弾倉は持てるだけ持ってきたけど…………さっきのフルオートで2つ使ったから、こっちも残りは3つしかないわね。因みにUSPも同じだけよ」

└(*・ヮ・*;メ)┘「こっちのPSG1も弾倉は同じく!流石に節約してもキビシーかな、月末の給料日直前並みにキビシー!!

んで叢雲ちゃん…………じゃねえや、Muscle-01、こっからどうするよ?!」

∬;メ´_ゝ`)「…………………別にわざわざ言い直す必要なかったじゃないのよ。名前だろうがコールサインだろうがどっちでも」

└(*・ヮ・*#メ)┘「っかーー!解ってねえなぁ阿音ちゃんは!!ロマンってもんを解ってねえよ!!コールサイン呼びは戦場のロマン、人間ロマンを忘れちゃモーおしまいだって!!」

∬;メ´_ゝ`)「私一応現役の軍事関係者だけど解らないし解りたくない哲学だわ」

……二人共まだまだ意気軒昂なのは間違いなく好材料なんだけど、人間どこぞの皇国みたいに精神力だけでB-29を撃墜したり敵機動艦隊を殲滅したりはできやしない。
そこは艦娘たる駆逐艦・叢雲でも同じことだ。艤装を使えない以上、阿音と鈴の装備銃火器並びにそれを操る高いスキルはこの包囲網を切り抜けるには必要不可欠。

だが、切り抜けられるまでに要する「目算約2km」という距離に対して、この残弾数が十分とは残念ながら思えない。しかもこれは、あくまで“直線距離”での話だから尚更に。

そして、仮に弾薬が潤沢にあったとしても、ではのんべんだらりと戦っている暇があるかと言えば答えは否だ。

『───ズァアアアアアアアアアッ!!!!』

└(*・ヮ・*メ;)┘「あー………Muscle-03より01並びに02、新たな“艦影”を11時方向に確認したけど」

∬メ´_ゝ`)「02より03、ありがとう。私達も見えてるから大丈夫よ」

└(*・ヮ・*メ;)┘「デッスヨネー」

鈴が指した方向、民家の屋根の上に現れた【雷巡チ級】。この二人に助けられるまで私を攻撃していた二隻と同じく、下半身を蜘蛛のような形状のメカメカしい多脚ユニットに取り替えた“陸上型”が、仮面の隙間から覗く青い瞳で此方を冷たく見下ろしていた。

先の二隻と違い、両手共に対空機銃だった前者からこちらは右手が小口径の連装砲に変更されているけれど。

(………その砲を出会い頭にぶっ放して来ない様子を見る限り、連中が私を“生け捕り”にするつもりだって仮説は間違ってもいないしまだ変わってもないみたいね)

ただし、この方針は恐らく枕詞に“出来得る限り”の一言が付随してきている筈だ。艤装の火力が一段階上がったのも、その“許容範囲”を私達が完全に踏み越えた時即座に処理できるようにという下準備でしょうね。

よしんば本格的な火力投射が始まる前にあのチ級を沈められたとしても、今度はその事自体が“許容範囲超え”の裁定に繋がるきっかけにもなりかねない。そうなったら次はより重火力を備えたチ級か…………いよいよ本格的に、艦内に展開し砲台として機能しているであろうリ級やル級といった一線級の“ヒト型”をこちらへ差し向けてくる可能性も十分に考えられる。

(今はまだそういった主力級の連中はこっちまで進出してきてないみたいだけど………何がイヤって、さっきまでアレほどバカスカぶっ放されてた“艦砲射撃”の勢いがあからさまに落ち始めてるのよね)

大洗町沿岸に展開しているであろう自衛隊戦力との戦況が拮抗して膠着状態に陥りつつあるのか、或いは早々に崩壊して内陸への浸透でも始まってしまっているのか、何れにせよ火力投射量が落ちればそれだけ多くの艦を此方へ割く余裕ができつつあることになる。私達にとっては、あまり喜ばしい推移とは言えない。

駆逐イ級やハ級といった“非ヒト型”は、どんなに小さいものでも5メートル前後。超絶巨大とはいえ高層ビルの類も無ければ山や森が密集しているわけでもない平坦な“甲板上”で多数展開していれば、否が応でもその姿は目に留まる。
だけど実際には、確認できるのは駆逐ナ級が二隻と軽空母ヌ級がEliteも含めて三隻のみ。しかもヌ級は、今なお艦載機をちらほらと吐き出し続けるのみで砲弾は一発も放っていない。

にも関わらず、先程まで行なわれていた“対地砲撃”はどう少なく見積もっても五、六十隻分に相当する分量だった。ならば最低でも、それだけのヒト型が学園艦内にいると考えるべきよね。

弱音は吐きたくないけど、流石にこの装備かつこの損傷状態で万全のリ級やル級とかち合って生き残ることができる保証はない。だから尚の事、私達は少しでも早く大洗女子学園に到達する必要があるワケだ。

(付け入る隙があるとしたら………やっぱり、向こうの“方針”になるわ)

私の“生け捕り”………まで求めているかどうかは実際のところ定かじゃないけど、ソレを含めてとにかく何かしら他に私を“殺せない理由”があると仮定する。
この場合、少なくとも今のように密集した陣形を作っている限り、私のみならず阿音と鈴に関してもある程度の安全性を担保することができる。深海棲艦の艤装では、威力の大きさゆえにここまで密着した状態で私“のみ”のダメージを回避・軽減する事が不可能に近いからだ。

ただし、その担保は先に述べた“許容範囲”の中に私達が留まっている間のこと。奴らが大洗女子学園の破壊を中途半端なままにしている“目的”を考慮すれば、当然私達が本校舎に近づけば近づくほど“デッドライン”との距離も縮まっていくだろう。

(問題は………“向こう”にとって、どっちの方が優先順位として高いか)

私の“生け捕り・不殺”の優先順位が高ければ、話はかなり楽になる。何故なら向こうとしては、最悪私の学園艦外への脱出か自害さえ避けられればまだ望みは繋がる。
そして前者の可能性は私が突然エスパーにでも目覚めない限り無理で、後者は単純にありえない。仮に学園内に逃げ込まれて向こうの戦略上手出しができなくなったとしても、生かしておく限り幾らでも“次”があるってわけだ。

だけど、仮に“学園校舎への侵入阻止”の優先順位が高ければ、最大限希望的に猶予を見積もってもせいぜい1キロが限界でしょうね。艦砲射撃と機銃掃射が全力で行われれば、流石に私でもこの雲霞の如き大群と両方は捌ききれない。

言いたくないし考えるのは癪だけど………その時は、ここが“墓場”になることを覚悟するわ。

そして私の見立てによれば、向こうの優先順位は恐らく“校舎への侵入阻止”の方が遥かに高い。数が膨大であるため制御しきれていなかった可能性を差し引いても、【暴徒】や【寄生体】の攻撃から感じる“殺意”はホンモノだった。

本当に目的が“生け捕り”だったとしても、向こうの感覚としては恐らく「死なずに捕らえられたなら御の字」ぐらいの感覚なんじゃないかしら。

(………自分で言うのもアレだけど、仮にそうならなんか【別に対戦でも旅パとしても大して強くないけど珍しいポケモンにとりあえずモンスターボール投げてる】みたいな感じでめちゃくちゃ腹立たしいわね)

一応、チ級が“ライン超え”の直前に私の“不殺”に対する最後の努力として白兵戦を挑んできてくれるなら、まだ突破の目は残る。けど、さっきの交戦で既にチ級が二隻やはり近接白兵戦闘で沈められている以上期待薄だわ。だったら脇の二人ごと機銃掃射でも浴びせかけて、たまたま生きてたら回収の方が安全で合理的だ。

……………全く。戦術も戦略も散々あの鎮守府で学んできたつもりだけど、やっぱりどこまで行っても“実戦”ってのはままならないものね。

心の中で深く深くため息をつきつつ、私はUSPを胸元にしまい、入れ代わりにもう1つの“電探装置”を取り出す。

装置の真ん中辺り、微かに盛り上がっている部分を親指で押すと、形状がレイピアやサーベルの柄のようにやや持ちやすく変形し、先端部分から今もう片方に持っているものと同様に白兵戦闘用の黒いブレイドが飛び出した。

「01より02並びに03、白兵突撃用意。銃弾は学園校舎までの残余1kmまで極力温存を意識して頂戴。

私が、最大出力で道を開ける」

∬メ´_ゝ`)「……02、了解」

└(*・ヮ・*;メ)┘「ぜ、03了解。なぁ01、叢雲ちゃん、自棄を起こしちゃダメだぜ?」

「鈴、あんたさっきの“ロマン”とやらはどこに行ったのよ」

人聞きが悪いわね、別に自棄なんか起こしちゃいない。死ぬ気なんかこれっぽっちもないし、この状況に対して諦めたわけでもないわ。

「それに、この程度の包囲で自棄を起こすほど軟弱だと思ってるなら────」

ただ、私の無茶苦茶に着いてきてくれるようなイカれた二人も巻き添えで危機に陥っている以上、

「─────駆逐艦・叢雲を、ナメないでほしいわね」

その危機を脱するために、私が最も大きなリスクを背負うのが当然というだけの話だ。

「Muscle Team、今一度“出撃”する!着いていらっしゃい!!」

自らを奮い立たせるため、包囲網の圧を跳ね除けるため、声高に叫び一歩踏み出す。

目標、本校舎への直進。殆ど跳躍に近い形で一気に正面の【暴徒】と【寄生体】の大群との距離を詰め、両手のブレイドを振りかざし──────
















それが振り下ろされる直前。

“砲声”が、空気を震わせた。

風切り音が。

小銃弾や機銃弾よりは遥かに巨大な質量を持つ鉄の塊が。

一発の“砲弾”が、私の頭上数メートルの位置を駆け抜けた。

『グァアアッ!!?』

“それ”はそのまま雷巡チ級に直撃し、【船体殻】の表面で弾けて爆炎を撒き散らす。無論悶え苦しむようなダメージは与えようもないが、困惑と驚愕が入り混じったような声色で吠えつつチ級は姿勢を崩した。

「……………は!!!?」

∬;メ゚_ゝ゚)

└(メ;*゚ヮ゚*)┘

ただそれは、阿音も、鈴も、私だって同じ気持ちだ。私達三人も、【暴徒】も、【寄生体】も、この場の誰もが、自分達の時計を止められてしまったかのように身動きができなくなり、束の間“砲撃”が飛来した方角を───“大洗女子学園校舎”がある方へと視線を向けていた。

「Panzer vor!!」

まさにその方角から、微かに聞こえてきた“戦車前進”を示すドイツ語の叫び。その後を追うようにして、鉄の履帯がコンクリートを踏みしめる無骨で耳障りな音が響き、そしてそれはすぐに急速にこちらへと近づき始める。

「ぎゃあっ!??』

『ウゴァっ………」

『『ギョプッ』』

『ギッ…………グゥッ………!!!』

“群れ”の向こう側で、何かが蠢いている。それは【暴徒】を跳ね飛ばし【寄生体】を踏み潰し引き回し、さながら制御の利かない巨大な暴れ牛の如く私達の方へと向かってくる。チ級が“ソレ”に向かって機銃を向けようとしたが、飛来した二発目の砲弾の炸裂がその動きを阻害した。

∬;メ´_ゝ`)「01、後退して!!」

「っ………!!」

「『「うぐぁあっ!!?』」』

『『『ギギッ!!?』』』

不覚にも茫然自失状態になってしまっていた私は、阿音の声で我に返り咄嗟にバックステップする。直後相対していた“群れ”の前衛が一瞬で崩れ、轢き潰された【寄生体】の残骸や巨大な質量の体当たりをまともに背後から食らった【暴徒】が、石灰岩の破片のごとく四散していく。

そして、吹き飛ばされた人垣の後ろから、“ソレ”はキャタピラーを軋ませながら姿を現した。

└(;メ*゚ヮ゚*)┘「うっそでしょ………………」

“史実”とは若干異なる、やや明るめの茶色に近いカラーリング。

下部装甲の両脇に描かれる、青いアイアンクロスの真ん中に「洗」の一文字が施された特徴的な“校章”。

上部装甲左側面に鎮座する、うまく特徴を捉えたデフォルメ絵のふてぶてしい表情をしたチョウチンアンコウ。

鈍い輝きを放ち前方を睨み据える、24口径75mm KwK 40 L/43砲塔。

紛れもなくそれは、第二次世界大戦においてナチス・ドイツ帝国が運用した中戦車、【Ⅳ号戦車】のF型だった。

.









「──────撃て!!!」

Ⅳ号のキューポラから顔を出していた少女は───────西住みほは、まるで戦車道の試合でいつも“そう”しているように平然と、声高に号令を下す。


『『『ギギィイイッ!!!?』』』

即座に75mmが吠える。優に20匹にはなろうかという【寄生体】の塊が一つ、うねり顔を出していた家屋ごと直撃弾を受け爆散した。

.





〈ワシが西住サンと初めて直接会ったのは戦後の、1958年のことでしてね。

丁度あの時まだルーキーだった長嶋の坊やと彼女の座談会ってのが持ち上がりまして。ええ、彼女が東京読売戦車道婦人倶楽部の初代監督に選ばれたもんですからね、その関係だったんですけれども。

私が今生きていて読売ジャイアンツでコーチとして哲サンや正力サンと一緒にまた野球をやらせてもらってるのは間接的には彼女のおかげだからってんで、ワシが東南アジアに居た時は会う機会がなかったんですけども、もう居ても立っても居られないからね。シゲの兄さん(※)に頼み込んで、坊やに同行させてもらったんですよ〉
※当時巨人監督の水原茂氏のこと

〈会場についたら、まだ対談予定時間から15分前だってのに、西住サンがちょこーんと座ってらっしゃいまして。ええ、存外小柄だったのを覚えてますよ。ワシより20か25は低かったんじゃないかな。このヒトが中国軍や米軍を戦車を駆って沢山やっつけていたのかと思うと、大層不思議な気持ちになったもんです〉

〈ただね、ワシは戦争で一回肩を壊して、野球ができなくなって、そんで2度目の徴兵に取られて。そんな中で、彼女や西サンや細見サンが中華とかインドシナとかマレーとか硫黄島で頑張ってくれてたから、ワシらの船は沈められずに済んで。そんでその後の陸戦でも生き残ることが出来てって思うと、もう感無量でしてね〉

〈そんで何も言えずにワシが立ち尽くしちまってると、彼女が言うんですよ。沢村サン、日米野球母と見てましたよって、ニッコリ笑って。アメリカの選手バッタバッタと三振に取る姿を見て、こんなにも凄い人がいるのかと胸のすくような思いだったって〉

〈お恥ずかしい話ですけどね、涙がポロポロ溢れるんですよ。嗚呼、貴女のおかげでワシは生きてるのに、貴女はワシに礼なんか言ってくれるのかと。

いえこちらこそって、なんとか声を絞り出してね……坊やが主役でもあったから話せたのはそれぐらいなんだけれど、いやぁ………何か、不思議な魅力を、カリスマと言うんですかね、持っているヒトでした。それこそ、坊やに通ずるものがあったかな〉

────1987年・NHCの戦後40周年記念番組にて、沢村栄治のインタビュー音声より一部抜粋

更新おつです
ピンチに軍神来る(ただしJK)

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戦車道。

この“競技”を最初に眼にした時の衝撃は、今でも覚えているわ。艦娘として「この世界の日本」に生を受けてから、多分一番大きいヤツね。

学園艦?ええ、そりゃあ初めての海上任務で【サンダース大附属高校】と出会したときは面食らったし圧倒されたわよ。
でもアレは、言ってしまえば結局のところ“バカデカい船”でしかないわ。驚きはしたけど、それだけ。あくまで、大和さんや武蔵の“実物”を見た時に抱く感情──“艦時代”の私にそんな上等なモノが備わっていなかったことはさておき──の延長線上でしかない。

対して戦車道は、根本から“違う”。

コッチじゃ影も形も存在しない価値観の元で産まれた、類似物すら見当たらない完全に“未知”の武道。
この【世界】の文化を、思想を、歴史を、私達が知る“道”から明確に一歩外れさせた特異点。

銃後に庇われ、子を成し、お家を護ることが役割であった筈の大和撫子が陸の鈍亀を駆って澄まし顔でドンパチやってる有様なんて見せられたら、そりゃあ驚いたってしょうがないでしょ?
辛うじてタメが張れる経験は、「深海棲艦と生身でステゴロ繰り広げた挙げ句返り討ちの上で見事生還する【提督】」を見た時ぐらいかしら。

………まぁだから、そんな“興味深い武道”の世界で取り分け強い輝きを放っている存在に。

“彼女”に惹きつけられたのは、まぁ、ある意味予定調和だったかも知れないわね。

出会った、なんて上等で運命的なモンじゃない。私が初めて彼女を“見た”のは、【第63回全国戦車道大会】の試合を映していたテレビの画面越しでのこと。

元々興味はあったと言えど、その時はまだのめり込む程ではない。山と積まれた書類との憂鬱な長期戦の辛さを少しでも緩和できればという、所謂「作業用BGM」として点けただけのつもりだったわ。

だけど。

気がついたら私は、完全に書類仕事を放り出して繰り広げられる“試合”に釘付けになっていた。

戦車主砲の咆哮に声を上げ、弾丸が装甲を穿つ瞬間に目を見開き、履帯が猛々しくぶつかり合う様に息を呑み。

横で、「なんでこんな動きしてんの?」とか「あの戦車なんて名前なの?」やら小煩く聞いてくる司令官を一喝して黙らせ。

ただただ、その光景を作り出す“彼女”の有様に、魅せられていた。

試合そのものが面白かったから、というのも勿論ある。
ロマさんや青ヶ島の八頭某ほどじゃないけれど、私もそれなりに戦術・軍略には精通しているつもりだ。【競技】と本物の【戦争】の違いはあれど、「現役」として述べさせて貰うなら“彼女”の采配は見事なものだったわ。

ネット上の掲示板やお偉い解説員様なんかは「流派に見合った華麗さがない」やら「運に頼った面が大きすぎる」やらしたり顔で言ってたけど、どんな形式のものであれそこが【いくさ場】である以上運否天賦の不確定要素からはどう足掻いても逃れられない。
精密機械の名を冠した名投手がすっぽ抜けのど真ん中を放り込んでしまうことも、コートの反対側からヤケクソでリングに向かって投げつけたボールが大逆転のブザービートとなることも、極めて稀な確率ながら明確に「存在する」事象よ。

自分で0%に設定できるコンピュータゲームでもない限り、これらを完全な排除は不可能でしょ?ならばそうした不確定要素もモノに出来てこそ、【いくさ場】を制することができる指揮官でしょうに。

ハッ!“ご実家”への忖度でもしたつもりなのか知らないけど、腕立て伏せを十回もこなせやしないデスクワーカーや鼻先のPC画面だけで世界が完結してるだろうオタク連中らしい空虚な批判だったわねアレは!

……少しばかり“不愉快な記憶”のせいで熱くなってしまったけれど、ほぼ全ての試合が運や偶然に縋り頼った勝利であったこと自体はさっき述べた通り否定しない。

バタバタと慌ただしく、不格好でコミカルな、終わった後に「何で勝てたのか」と首を傾げてしまう、結果オーライを辞書で引いた時に例示の一つとして出てきてしまいそうな、そんな試合運びの数々。
直前まで黄金期を築いていたチームや、その黄金期を終わらせたチームのような“強者”の戦い方からは遥か遠くに位置するもの。

どこの野球チームの監督だったかしら、「勝ちに不思議の勝ちあり」なんて言ってたのは。まさにその体現と言っても良かったかもね。

だからこそ、私は惹かれた。

絹糸よりもか細く儚い【勝ち筋】を、どれほど不格好な有様を晒しながらも必死に手繰り寄せる泥臭さに。

戦車道に関する知識も戦車自体に関する知識もその大半が私に毛が生えた程度のメンツでありながら、最早バカが付くほど正直にまっすぐに同じような立ち位置のチームメイトを信頼して、平然と背中を預けてしまう無鉄砲さに。

そんなチームの先頭に立ち、誰よりも多くの信頼を集め、誰よりも深くチームメイトを信頼し、誰よりも力強く【勝ち筋】を手繰り寄せる“彼女”の────西住みほさんの姿に。

我ながら、“入り”は大分ミーハーな感情だったと思う。日頃サッカーの“サ”の字すらろくに口にしないのに、世界大会が始まるや否や渋谷の路上で騒ぎ立てる連中の気持ちを、あの時ほんの少しだけ理解した。

本来なら一週間すら保ったかどうか怪しい麻疹のような一過性の“熱”。それがより深く、強烈なモノに変化したのは……大洗女子学園と西住さんが、あの時何を背負っていたかを知ってから。

人の命よりも伝統と栄光を重んじ、友を救ったことを褒めず勝利を逃したことを面罵するような連中に“道”を閉ざされ。

傷を抱えた彼女が辿り着いた先で、今度は大人たちの一方的な事情で“家”が取り上げられそうになり。

一度守り抜いた筈の家を、再び開いた筈の“道”を、私利私欲に塗れた謀略で踏み躙られ。

それらを尚も跳ね除けて自分の居場所と信念を仲間と共に最後まで守り抜いたと知った時───私はどうしようもないほど西住みほという人間に憧れ、羨望した。

別に、今の境遇にもう不満はない。寧ろ、あの無能な司令官から常に楽しい【いくさ場】とぶっ飛んだ愉快な日常を用意してくれる今のアイツに上官が変わったことを考えれば──比べ物にならないほど頭がおかしいことを差し引いても──最早幸運とさえ捉えられる。
ただ、私が彼女のような強さを、物理的ではなく精神的な強さを最初から備えていたなら。あの愛しい“地獄”ももう少し早くもう少しマシな環境にできたんじゃないか。そう思わずには居られない。

西住さんは、それを“表”の世界にいたままで成し遂げた。腐り果てた価値観と悪意的な謀略に、“希望に眼を輝かせ使命感と義務感に燃える小娘”のまま抗い抜いた。
艦娘として、身体能力や武力は私の方が遥かに勝っているかもしれない。だけどその精神力は、憧れ、羨み、私もそうありたいと望んでしまうほど強く気高いものだった。

同時に、それは私にとって戦闘そのものに対する享楽とは別の“戦う理由”でもある。西住さんに少しでも長く、できればその生涯が終わるまで、今の“道”を歩み続けて欲しい。心の底から信頼できる仲間たちと肩を並べ、“表”の世界で輝いてほしい。
我ながら青臭すぎて気恥ずかしくなってくるけど、それでも真剣で切実な、そんな理由。





───なのに。

西住みほは、今、私の目の前にいる。

戦車のキューポラから身を乗り出し。

背筋を真っ直ぐに伸ばし。

口元を引き結び、凛とした表情を浮かべ。

あの時、戦車道の試合で見せていた姿そのままに。


「ア……アア………』

『ヴア゛ァ゛………」

自分が乗るⅣ号線車が、うず高く積み重なった「元人間」の残骸を踏みしめているにも関わらず、“いつも通り”だった。

まるで、“私達”と同じように。

「11時方向!撃て!!」

『ヂィッ………!!!』

彼女の叫び声に応じ、素早く砲塔の旋回を終えた“Ⅳ号”が三発目の砲弾を放つ。

反対側の家屋が直撃弾によって突き崩され、その上に乗っていたチ級が舌打ちを思わせる鳴き声を発しながら別の家へと跳び移った。

「こっちへ!!」

チ級の軌道を眼で追いながら、彼女は私達の方に手を差し伸べてくる。

言いたいこと、聞きたいことは山ほどある。だけど、今は時間的にも状況的にもその余裕がない。

そしてこの急場を切り抜けるに当たって、残念なことに彼女の“提案”は最適解だった。

「02、03!!」

∬メ;´_ゝ`)「「了解!!」」└(*・ヮ・*メ;)┘

『『ギュココッ!!?』』

私が声を上げるとほぼ同時に、阿音と鈴が踵を返す。その背を追おうと何体かの【寄生体】が飛びかかるけど、単調で纏まった軌道だったので一太刀で斬って捨てる。

「北方巡査、二田巡査!!」

(*‘ω‘ *#)「瓜生、左側をやるっぽ!!」

<ヽ#`∀´>「承ったニダ!!」

Ⅳ号の停車位置は5メートルも離れておらず、ほぼひとっ跳びで二人が車体に取り付く。それと入れ替わる形で、保安官の制服に身を包んだ男女が路上に飛び出し膝射体勢を取った。

構えられているのは、ニューナンブM60。

(*‘ω‘ *#)「射撃開始!射撃開始!!」

<ヽ#`∀´>「喰らえ!!」

「ギャオッ!?』

『ぐぉっは!?」

吐き出された銃弾は、二発ずつ。レボルバー式のニューナンブでは弾幕展開など行えるはずもなく、計四発の.38mmスペシャル弾は眼前の【暴徒】と【寄生体】の大群に対して余りにも儚く頼りないものに見える。

だけど、放たれた弾丸は全て、正確に頭部を射抜きつつ敢えて斜めから側頭部に向かって貫通していくよう絶妙に射角が調整されていた。

『「『オゴぁッ!!?」』」

『『『ギギィッ!!?』』』

突出しようとしていた四人の【暴徒】は、何れも着弾の衝撃に耐えきれず弾丸に引っ張られているようにして派手に後方へと倒れ込む。当然路地に満ち満ちていた“群れ”への影響は甚大で、足を取られた後続の【暴徒】の進軍が止まる。
更に、その中で奇襲の機会を伺っていた【寄生体】達も出鼻を挫かれ突貫できない。

「良い腕ね!」

(*‘ω‘ *#)「そいつぁどうもっぽ!艦娘並びに同行者確保、撤収!」

<ヽ#`∀´>「了解!!」

“人海”による物量圧から開放され、私もⅣ号の方へ駆けつつすれ違い様に鈴と同じくらいの背丈の女保安官に声をかける。彼女は一瞬だけ肩を竦めそれに応じると、相方の保安官と共に“群れ”へもう一発叩き込んで直ぐに私達の元へ合流する。

「戦車後退!」

li イ; ゚ -゚ノl|《り、了解です!》

ギャリギャリとキャタピラーが唸り、下敷きになっていた【暴徒】の残骸が生々しい断裂音を残してそこら中に飛び散る。1、2秒ほどの抵抗感を経て、Ⅳ号の車体は急速にバックを始めた。

「左、撃て!次いで右、撃て!!」

<(' _'#<人ノ《あいよっと!!》

砲塔が、イヤイヤするように両側へ交互にブレる。“デサント”から振り落とされないようしがみつきつつ女保安官から投げ渡されていた耳栓を突っ込むが、至近距離の轟音は容赦なくそれを透過して鼓膜を揺らす。

『う、うわあああぁっ!!?」

『ギョオッ!!?』

『……ヂッ!!』

直撃弾を受けて、民家2つが立て続けに崩れ落ちる。加速し切る前に距離いを詰めようと突撃を再開しつつあった【暴徒】と【寄生体】が何体か巻き込まれ、その進路上で瓦礫が山を成す。
濛々と立ち込める粉塵に照準を妨害されたのか、遠くから再び舌打ちのようなチ級の声が聞こえてきた。

「『「らぁあぁっ!!!』」』

『『『ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛!!!」」」

正面の“主力”は足止めできたが、【暴徒】も【寄生体】も総数は艦内を埋め尽くすほどのものだ。私達が向かっていた方角にも当然多数が残っていて、西住さんたちもソレを虱潰しに殲滅してきたわけじゃない。
両側で家屋の塀を乗り越えて、或いは二階や屋根から飛び降りて、一気に6人の【暴徒】がⅣ号に押し寄せる。

「『ぐぎゃあっ!!?」』

∬#メ´_ゝ`)「よいしょ!!」

「ふっ!!」

「『クキュッ……』」
『「ゴハッ……」』

2人が乗り損ねて落下し、跳ね飛ばされて塀に叩きつけられる。残る四人は乗ってきたが、左側は私がまとめて斬り伏せ、右側は阿音が89式の銃床で殴り付け叩き落とす。

「左へ曲がって!」

そして、目の前で“人の形をしたモノ”が半ダースも無惨な末路を迎えたというのに、西住みほはまるで動揺を見せないまま平然と次の指示を繰り出した。

『「『ヴォアあああああああっ!!!」』」

進路上──でありながら“後方”──に現れた新手の【暴徒】。数はざっと見た限り30をちょっと越えた程度か。
さっきまで対峙していた“主力”とは比べ物にならない寡兵だけど、勢いが凄まじく心なしか体格のいい【暴徒】が多く揃っているように見える。背走故に十分な速度を出し切れていないことを考えれば、押し止められるとまでは行かずとも衝突で排除しきれずにキャタピラーの破損等につながる恐れは大きい。

『「『ヴア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!』」』

それを見越しての進路変更指示なのだろうけど、まぁ向こうも黙っちゃいない。曲がった分速度は更に落ち、うまくすれば追いつける千載一遇のチャンスなんだから当たり前よね。益々声を荒らげ、嵩にかかって押し寄せてくる。

『「『ゴガガガガガg」』」

「────Feuer!!!」

「『「コァッ…………』」』

意気揚々と私達が入り込んだ路地裏に差し掛かる“群れ”。

その真正面から、Ⅳ号の75mm主砲弾が容赦なく叩き込まれた。

一つの“兵器”として見た場合、Ⅳ号戦車は旧式もいいところだ。装甲厚、最高速、最大・有効射程、貫徹力、旋回性能………どれをとっても近現代の最新鋭戦車とは比べるべくもない。
対深海棲艦戦力として見れば尚の事で、カール自走臼砲や列車砲のような規格外でもない限り基本的には足止めすらろくに出来はしないだろう。

それでも、コレは“戦車”だ。単純比較では陸戦における最強兵器であり、王者。現代戦は対戦車火器も充実しているけれど、未だただの歩兵にとっては十分な脅威足り得る。

況してや、せいぜい角材や出刃包丁程度しか装備していない【暴徒】にとってその砲声は死の宣告に近い。

「ァ………ァ………』
『ゥ………グォ………」

Ⅳ号がギリギリハマる程度の幅の路地、当然突入を測った“群れ”は密集する。
前衛の10人が飛来した砲弾に引き千切られ、中衛の10人は榴弾の着弾点周辺にいたばかりに肉の破片と化して宙をヒラヒラと舞う。後衛も内5人は爆風と砲弾の破片によって薙ぎ倒され、残る5人も吹き飛んできたかつての同胞の屍体や砕けたコンクリート塊の直撃を受けて虫の息で地面に転がっている。

「Panzer vor!!」

『キュッ」

障害が排除され、西住さんの指揮の下Ⅳ号は再度動き出す。路地の出口付近で倒れていた生き残りが下半身を踏み潰されて微かに断末魔を上げていたけど、まぁ苦しみを長引かせない「介錯」として大目に見てほしいわね。右脇腹まるごとえぐり取られたような有様でそのまま放置されて生きてられるとは思い難いし。

それにしても。

(……結構、上手な発音だったわね)

Feuerはドイツ語で「発射」を、Panzer vorは同じく「戦車前進」を意味する言葉。

後者については、試合中実際に西住さんが発している様子がカメラで拾われている。その時の舌っ足らずな発音が可愛いったらなくて……コホンッ、ファンの間では言い慣れていない様子が初々しいということで人気の一因にもなった。
……その筈なのに、今口にした時の発音はとても流暢なものであるように感じられる。

前者に至っては、彼女が使ったことはただの一度もない。私が記憶する限り、黒森峰時代も含めて彼女の射撃命令は常に日本語で行われてきた。

そして、私の見間違いでなければ、砲撃を命じた時彼女の眼はほんの少し見開かれていたように思えた。

まるで、“何度も繰り返し練習していた単語を意図しないタイミングでうっかり出してしまった”とでも言いたげに。

(ドイツ語の授業でも履修していたのかしら……?)

学園艦の最大の設立理由は“海外に通用しうる人材の早期育成”であり、この理念の影響から各学園艦は英語以外にも多数の外来語を選択制の授業に取り入れている。
流石に大洗女子学園の授業内容まで網羅するほどの“フリーク”には私もまだ踏み入れていないけど、独逸語があっても全くおかしくはない。単語の内容にしても、片方は元から知っておりもう片方は「炎」などの極一般的な意味も含まれてる。授業で習うことはあるでしょう。

(だからおかしくはない………けど、ね)

では何故、この2単語を“癖になってうっかり思わぬ場で口走ってしまう”ほど練習する必要があるのか。
大洗女子学園はプラウダのようにチーム内に留学生がいるという事情もない。そこまで急ピッチにドイツ語を覚え習得する必要性というのは薄いはずだ。

ヨーロッパ全体があんな有様だから、例えば留学なんてできるワケもないのに。
そんな中で“現地人が聞いても問題ない”レベルで、よりによって“ドイツ語”を習得する必要がどこにあるというのかしら?

『────ボォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』

「………っ!?」

止め処なく溢れ出て頭の中をグルグルと回る思考は、でも今の私の置かれた状況を考えれば「余計なコト」でしかない。

まるでその事実を突きつけようとでもするかのように、低く、重く、長い咆哮が空気を震わせた。

『ボォオオオオオオオオオオオッ!!!!!』

「敵空母、起動!!」

大洗女子学園本校舎の入口辺りにどっかりと鎮座していた【軽空母ヌ級】。大きさなどから推察するに恐らくFlagshipクラスであるそれが吠えながらパッカリと口を開ける様を目にして、思わず私は僚艦にそうするようにして叫んでしまった。

『『『─────!!!』』』

ヌ級の声の余韻が収まる間もなく、続けて聞こえてくるレシプロエンジン音。空へと舞い上がった【カブトガニ】が、せいぜい10機程度ながら明確に私達の方へ進路を取り猛然と迫ってくる。

「敵機、来るわ!!6時方向!!」

(;*‘ω‘*)「にゃろ!!」

『───ッ!!!』

彼我の距離の兼ね合いから向こうはわざわざ後ろに回り込んでからの襲撃となったが、向こうの速度が巡航でも200km/hを超えるのに対しⅣ号は最大速でも39km/h。当然振り切れるはずもなく瞬く間に距離を詰められる。
女保安官がニューナンブを一発空に向かってぶっ放すが、先陣を切った一機はあっさりと躱し射撃位置に着いた。

「右に寄せてください!!」

∬;´_ゝ`)「っととと!!?」
<ヽ;`∀´>「ハニダ!!?」

西住さんの指示に従い、右手側の塀にぶつかるようにしてⅣ号の車体が道路の右側に走行位置を寄せる。襲ってきた衝撃を、男保安官と阿音が必死に車体を掴んで耐える。

└(*・ヮ・*;)┘「おわわっ!!?」
「お馬鹿っ!!」

因みに鈴はデサント体制でH&K PSG1を構えようとするという無謀極まった行為を試み、案の定落ちかけたため私が首根っこを掴む羽目になった。

└(*゚ヮ゚*;;;;)┘「ひゃあ〜……」

そんな彼女の足先スレスレを、機銃掃射が一筋駆け抜けていく。合成皮革の焦げる匂いが一瞬鼻孔を擽り、それは直ぐに鈴の全身から吹き出した膨大な冷や汗の饐えた匂いに上書きされる。

『『『────………!!』』』

Ⅳ号の位置が変わった為か、後続機体からの追撃はなく敵編隊は一度飛び去っていく。

ただし諦めたわけじゃない。直ぐに旋回し、今度は私達の左手側から一斉に降下してくる。

「小銃を叢雲さんに!」

∬;メ´_ゝ`)「弾倉は入れ替えてあるわよ!」

「…ありがとう!」

投げ渡された89式小銃を受け取りながら、私は内心で戦慄する。

艤装はほぼ装備せず、中破中という今の状態でも、艦娘の膂力は人間を遥かに凌ぐ。小口径のアサルトライフル程度なら、落ちないように体を支えつつ片手で構えるなんて造作もない。
敵機の攻撃は機銃掃射。低速とはいえ移動中の、しかも装甲を持っている相手を目標とするなら自然肉薄が必須になる。連射可能な武器を艦娘である私に与え、即席の対空機銃座として使うという策は理に適っている。

その、“最適解”を。

この修羅場で、土壇場で、実際の“戦場”など一度も経験したことのない、年端も行かない少女が。

何故ほぼノータイムで導き出せるのか。

「堕ちなさい!!」

『『『ッ!!!?!??』』』

『『『………………ッ!!』』』

胸の内を満たす動揺を表に出さぬよう歯を食いしばりつつ、小銃を小脇に抱えて上に向け引き金を引く。
艦娘の動体視力に加えてアイツの訓練の成果もあるのに、多少の損傷ごときでこの程度の的に当たらなくなる道理はない。迸る火線が先鋒3機を貫き、後続も銃火に陣形を切り裂かれ大きく壊乱した状態で離れていく。

「主砲、11時方向指向!!照準、敵空母!!!」

その様子を眼にした瞬間、西住さんが一際声高に叫んだ。

「撃て!!!」

車体が揺れ、砲火が迸り、75mm弾が砲口から飛び出す。

砲弾はそのまま弧を描いて飛翔し、

『……ボォッッ!!?』

ヌ級Flagshipの表面装甲で、小さく爆炎を上げた。

.









(´<_`;)「……………おいおいおいおいおいおい!!!」

日本海上自衛隊一等海曹・流石乙矢(サスガ・オトヤ)は、双眼鏡越しに目にした光景に驚愕を禁じ得なかった。

共に布陣し防御陣地の設営──と言っても瓦礫の排除と塹壕掘りぐらいのものだが──を行っていた艦娘から言われた、「大洗女子学園の甲板上で深海棲艦のものではない“砲撃”が見える」という報告。

そんなことはありえない、どうせ気の所為、良いとこ深海棲艦の砲撃が暴発したのを見間違えでもした……要はただの誤報だと乙矢は考えていた。実際、大洗町並びに大洗女子学園が置かれている現状を鑑みればその判断が真っ当だ。
だがその艦娘が余りにもしつこく確認を求めるものだからメンツを立ててと双眼鏡で覗き込めば──今まさに、小さく弱々しいものではあるが、船尾の軽空母ヌ級Flagshipに間違いなく“砲撃”が突き刺さったのだ。

「ほーれ見たことか!それ見たことか!!あったっしょ!?やっぱあったっしょ弟さん!!?」

(´<_`;)「解った解った、俺も間違いなく見た!!」

艦娘としての優れた視力を以てやはり今の光景を視認していたらしい“報告者”───重巡洋艦・鈴谷に激しく肩を揺さぶられながら、乙矢も首肯する。
鈴谷のはしゃぎぶりは戦場にあるまじき、厳しい鎮守府ならそれだけで懲罰房送りにされかねないものだったが、乙矢としては初動でやや邪険に扱ってしまった負い目がある為不問にすることとした。

(´<_`;)「一先ずCPに至急連絡繋げるぞ!学園艦上で深海棲艦と交戦する存在が確認されたと………」

「なんて?」

(´<_`#)「だから大洗女子学園の甲板上で────」

肩を叩かれ、やや苛立ち気味に振り返ると、そこにあったのは迷彩服に包まれた分厚い胸板だった。
兄共々身長180cmを越え日本人の平均値を大きく突き放した身長を持っているにも関わらず、声が“頭上”から聞こえていた事に乙矢は気づく。

そしてよくよく見れば、左胸には菊の花と船の錨を組み合わせたような──国内において“提督”業に従事するもの全員が着用を義務付けられた胸章が縫い付けられている。

日本国内で用いられているものと違い、その色はまるで夕闇を切り抜いたような漆黒だったが。

「いや、急いでるところすまねえな。ただ、俺としても今し方気になる単語が耳に届いちまったもんでな」

(´<_`;)「………」

先程の慌てぶりはどこへやら、ゆっくり恐る恐る顔をあげると、そこには─────








.

.








「もう一度聞かせてくれ」

──────身長190cmを超えているであろう、ドウェイン=ジョンソンかアーノルド=シュワルツェネッガーと言わんばかりのすさまじい肉体を持ち、アルファベットの「T」が中央にあしらわれたマスクを被る、

( T)「大洗女子学園が、なんて???????」

筋肉モリモリ、マッチョマンの変態がいた。

.






先に述べた通り、Ⅳ号戦車は兵器としては骨董品だ。曲がりなりにもヒト型にだってダメージ自体は与えられる第3・4世代戦車とは違い、駆逐艦の装甲殻すらろくに貫徹できない。

だから今のヌ級Flagshipに対する砲撃だって、向こうは恐らく痛くも痒くもない。実際ヌ級の上げた声も、驚きと困惑によるものでダメージからくる苦悶は響きに全く皆無だった。

『『『─────ッ!!?』』』

だけどその、蟷螂の斧に等しい筈の一撃が敵の警戒心を揺るがした。

何ら打撃にならないとは言え、母艦がそもそも“攻撃された”という事実。
その言ってしまえば無駄な“攻撃”をわざわざ実行してきたのが、短時間でいくつもの攻勢を巧みな戦術により切り抜けている相手という不気味さ。私が仮に指揮を採る立場だったとしても、“次の手”を用心して動きが鈍るだろう。

残る【カブトガニ】も、当然そうなった。さっきの射撃で乱れた隊列を大慌てで組み直し、母艦の元へと舞い戻り、そのまま厳戒態勢で上空を飛び回り始める。

「突入してください!!」

そして、“目的”を達成したⅣ号は身構えるヌ級と直掩機の横を悠々と通り抜け大洗女子学園本校舎──正確にはその残骸──を潜っていく。

『『『……………、ッッッ!!!』』』

1分超の時間が経過しても“次”がないことで、ようやく向こうも西住さんに謀られたと気づいたらしい。やり場のない怒りに襲われた人間が何度も拳を握ったり開いたりするように、上空の編隊が数回に渡り隊形を組み直す。
ただ、都度私が89式小銃を構え牽制すると、既に十分な猶予を以てこちらが迎撃できる状態となったことを悟ってか尚も未練がましく忌々しげに旋回しつつヌ級の中へと戻っていった。

「『「ヴァアアアアアアアアアアッ!!!!』」』

『『『キィアアアアアアアアアアッ!!!!』』』

ただ、自衛隊や艦娘どころか艦内に取り残された人間の残党ごときに散々かき回されたという現状は、相当向こうのトサカを刺激したらしい。
元々周辺にいた連中の他に、恐らく後方から“主力”の一部も追いついたのだろう。数千は降らない【暴徒】と【寄生体】が、Ⅳ号の後を追って次々と学園の敷地内に足を踏み入れる。

(;*‘ω‘*)「大層ご立腹だねぇ……穏やかじゃないっぽ!」

「ガァッ!?』

「このまま防護陣地まで撤退を!!」

女保安官が辟易とした表情でぼやきつつ、さっきと同じ要領で【暴徒】の先頭を1人射抜く。ほんの一部が進軍の足を鈍らせるものの、“主力群”の時と違って十分な拡散ペースがあるため効果としては遥かに薄い。
西住さんも当然迎撃という選択肢は取らず、一目散に離脱を図る。

「こっちだこっち、急げ!!」

「CT後方より敵追撃多数!!各位、戦闘配置崩すな!!」

ものの20秒と経たず見えてきた“防護陣地”と思わしきものは、当たり前だけど急ごしらえであることが丸出しの粗末なもの。瓦礫や煉瓦、廃材、鉄屑、トタン板、パンパンのゴミ袋、机や椅子や壊れた戦車のパーツ、とにかくそこら中にあるありとあらゆるモノを片っ端から積み上げたであろう高さ2〜2.5m程のバリケードで囲まれた、目算で凡そ直径400mぐらいと思われる空間。
その一角で鉄パイプや木材の束に有刺鉄線をグルグルと巻き付けた“門”に縄をくくりつけ一部の保安官が持ち上げ、Ⅳ号に向かって必死に手招きしている。

「反転!!」 

“門”をくぐり陣地に入る直前、殆どドリフトに近い形でⅣ号が停車しながら振り向き【暴徒】と相対する。多分冷泉麻子さんじゃないとは思うけど、それとタメを張れるレベルで操縦士は良い腕前だわ。

「指名、榴弾、水平射!……撃て!!」

「『わぎゃあっ!!?」』
『『グキャッ!!!?』』

突っ込んでくる“群れ”のど真ん中を射抜く砲弾。【暴徒】と【寄生体】がバラバラに打ち砕かれながら宙を舞い、開かれていた“門”に殺到しようと隊列が集約されつつあったことも手伝って連中の足が止まる。
その間に、Ⅳ号は主砲口から砲煙を燻らせながら悠々と防護陣地の中へ入場する。

「閉門、閉門!“門番”班は総員再武装の後速やかに配置に着け!!」

(#*‘ω‘*)「瓜生、行くっぽ!私らも再度防衛戦闘に合流する!!」

<ヽ#`∀´>「ええい、サビ残上等ニダ!!」

「02、“門”の付近に合流!03、アンタは倉庫の方に!多分あそこに狙撃班が集まってるわ!!」

∬メ#´_ゝ`)「「了解!!」」└(*・ヮ・*メ#)┘

「無線機と一緒に自衛隊の方に何かしら銃火器を、叢雲さんに追加で89式の弾倉をそれぞれ渡してください!狙撃班、そちらに1名合流しますので弾薬の補充か武器の交換を!!」

西住さんの指示に従って保安官の1人が投げ渡してくれたマガジン数個を腰元に挿しつつ、阿音と共にバリケードを駆け上がる。……コッチの残弾数にまで気を配ってくださるなんて、至れり尽くせりで本当に末恐ろしい限りよ。

《射撃開始、射撃開始!》

「怯むな、数はさっきよりマシだ!」

「っ、でもなんかさっきより速いやつ多くない!?」

「畜生、それに【ヌタウナギ】もいやがる!!軽く100は越えてるぞ!!」

入場間際のⅣ号による一撃も、流石に多少の撹乱が精一杯だったらしい。無数の足音が周囲から迫ってきていて、それに応じる保安官たちの怒号と無線通信、射撃音が鳴り響く。
私はバリケードの中からとびだした木材に足を架け、一気に身体をその頂上まで跳ね上げる。

「退きなさい!!」

『ガハァっ!?」
「ギュボッ!?』

着地したところで、丁度登ってきた【暴徒】1人と出会す。回し蹴りで頭蓋を砕きながら吹き飛ばし、動きの延長線上で膝射。ゴルフのパターグラブを持ってバリケードに取りついていた1人に単射を浴びせ沈黙させた。

『オオオオッ!!!」

「………ッチ」

直ぐ様、後続してきた別の【暴徒】がそのパターを拾い上げバリケードに手をかける。ソイツの頭蓋骨に風穴を空けつつ、舌打ち。
この防護陣地における「さっき」とやらは経験していないけど、今の奴らを見ると確かに阿音たちと合流する前に私が交戦した【暴徒】よりも心持ち動きが速く鋭い。

それが練度や個々人の身体能力によるものなのか、士気の高低によるものなのか、はたまた“別種”故の差異なのか……何れにせよ、まだまだ骨を折らなきゃならないみたいね!

「02、援護お願い!!」

∬#メ´_ゝ`)「はい、いってらっしゃい!」

<ヽ;`∀´>そ「ファッビョン!?」

「ウギュブッ!!?』

SIG SAUER P230を構え追いついてきた阿音への指示もそこそこに、陣地を包囲する“群れ”の中へと駆け下りる。今まさに突貫してきていた【暴徒】の一団10人ほど、その先鋒にいた1人を銃床の全力スイングですれ違い様に殴り倒す。

『うわぁっ!!?」

「クキュッ!?』

スイング体勢から突進に移行し、ショルダータックルの要領で1人の身体を跳ね上げ、その後ろに居たもう1人の襟首を掴む。

『「『グゴッ………」』」

頚椎がへし折れるようにしっかりと衝撃を与えつつサイドスローで投擲。
人体レベルの大きさと硬度、重量に艦娘の膂力が加わればその全力投球は十分すぎる殺傷力を有する。直撃した残り7人が口々に呻き声や断末魔を上げて薙ぎ倒され、そのまま沈黙した。

強引にこじ開けた一個小隊相当の“穴”。後続がそこを埋めきる前に、こっちからその中に滑り込む。

さっき保安官たちも無線でやり取りしていたけど、【暴徒】の勢いや見える範囲での【寄生体】の密度を見る限り恐らく今回の攻勢は前にこの“防護陣地”へ行われてきたソレよりも激しさが増している。
マジノ要塞にでも籠もっているならいざしらず、昭和の学生運動に毛が生えた程度のバリケードでこの兵力差を埋めきれるかどうかは怪しいところね。

先ずは、陣地の傍から“群れ”の前衛を押し返すことを優先する。

「邪魔っ!!」

『『クキャッ!!?』』

「うぉ………ック゛へ゛ッ゛!?』

早速跳んできた【寄生体】二匹をまとめてブツギリにし、転がった頭部を思い切り蹴る。弾丸の如く飛来した甲殻に膝を砕かれ前のめりに倒れ込みかけた【暴徒】の胸元を、拳で突き上げ心臓を潰しつつ無理やり起こす。

『キョ?───ゥケ゛ッ』

3匹目の【寄生体】は私の喉笛を狙っていたようだけど、目の前で突然屹立した180cm超えの肥満体二台して反応しきれずその背に突き刺さる。前面まで貫通してきてキョトンと鎌首をもたげたソイツに、上からブレイドを叩き込みまた頭を斬り落とす。

『げぐぅっ………」

「この──ヲバッ!?』

『「『いぎゃぁっ!!?」』」

落ちた頭を手に取り無造作に放り投げ、そちらで上がった悲鳴を聞き流し逆側からクワを持って突進してきた女の腹をブレイドで刺し貫く。
同時に小脇に抱えた89式小銃の引き金を押し込み、出し惜しみなしのフルオート射撃。正面で一気に14、5人が血の海に沈む。

∬#メ´_ゝ`)「駆逐艦・叢雲を援護!各位、バリケード中層部まで前進!」

(#*‘ω‘*)「拳銃の弾だって潤沢じゃねえんだ、無駄弾は許さねえっぽ!一発外す度に一食抜きだからな!!」

<ヽ;`∀´>そ「ブラック職場も良いところニダね!?公務員にあるまじきパワハラニダ!!」

「ぶぁっ!?』

『カヒュッ────」

ある程度前線を押し上げたところで、阿音たちが本格的な支援射撃に移る。
全員が拳銃装備のため当然弾幕や火線なんて大層なものは張れないが、“群れ”がとりわけ密集している地点に的確に狙撃を浴びせてくれるため【暴徒】の隊列がこのあたりは大きく乱れて大層やりやすくなってるわ。

(*‘ω‘*#)「間違ってもバリケードから完全に降りるなっぽ、却って叢雲ちゃんの足手まといになる!」

<ヽ;`∀´>「チッ、校門の方から新手が入ってきてるニダ!各位、注意を!!」

特に、さっきの女保安官とその相方、この2人の射撃の正確性は図抜けている。今のところ、見ている限りは正真正銘の「百発百中」だ。

こと狙撃だけなら、結構真面目に“海軍”でも即戦力になれるんじゃないかしら?

寡勢が大群と相対する際に、重要なのは此方の戦力を如何に“集中”するかだ。

テルモピュライのスパルタ然り、イッソスのアレクサンドロス大王然り、桶狭間の織田信長然り、沖田畷の島津家久然り、硫黄島の栗林忠道閣下然り。歴史を紐解いても、少数兵力側が戦況を覆すか大いに善戦した時は、基本地形や天候を利用して“真っ向勝負”が起きないようにするところから始まっている。
そこに敵の油断や混乱、彼我の練度・兵装差が加わることで、初めて物量差を覆すだけの余地が生まれるってわけ。寡兵が大軍を何の変哲もない真っ向勝負で打ち破るとしたら、それこそタイムスリップした直後で弾薬が潤沢な自衛隊と戦国の侍軍団くらい兵装格差がないと無理でしょうね。

その点で鑑みれば、私達はよくやっている。お粗末とはいえ“防護陣地”に拠って敵勢の大半を引き付けつつ打撃し、その上で艦娘──つまり私という最強ユニットの衝撃力を一点に集中させて一部を突き崩しつつあるのだから。
現に影響は既に出始め、私が“群れ”の中を斬り進む毎にそれの穴埋めと対処に追われてバリケードそれ自体への取り付きが徐々に少なくなっている。

「っふ!」

『ポキョッ⁉』

特に【寄生体】の動きは顕著で、“防護陣地”の方に向かった個体は無線に耳を傾ける限りほぼ皆無だ。アレが陣地への大挙攻勢に出ていたら火力的に押し止めるのは極めて困難だったろうし、効果として特に大きい。

だけど………“勝つ”なら、もうひと踏ん張り必要よね!

「『ヌコパッ!?」』
『「アギヒッ…』」

89式の弾倉を入れ替え、再度出し惜しみなしのフルオート射撃。10人前後の団体様に鉛玉の特盛を御馳走するとそのまま小銃を背中に回し、二本目のブレイドを抜き放ってもう一方の手に構える。

「合わせて!!」

「うごおあっ!?』「ふぐぅっ……』『げぉっ……」

無線に向かって叫び、即座に駆け出す。早速迎撃に来た一人の頭蓋に飛び蹴りを食らわせ、その後ろに居た二人の喉笛に同時にブレイドを突き立てる。

「はぁあっ!!!!!」

更に踏み込み、“群れ”の中へ。奥へ。両手のブレイドを次々と振るい、とにかく当たるを幸いなぎ倒し斬り伏せていく。
太った男の首を飛ばし、眼鏡を掛けた女の胴を両断し、跳んできた【寄生体】の口内に切っ先を捩じ込み引き千切り、ただひたすらに前へ。

(っ……ぷぁっ───)

辛うじて戦闘動作に影響しないギリギリの範囲で深く息を吸うけど、正直大分限界は近い。
艦娘が人間の形を取りながら人間を遥かに凌駕する身体能力・運動性能を発揮できるのは、艤装の補正を受けた上でそれを更に【船体殻】が吸収緩和してくれるから。その出力が大幅に落ちている状態──即ち中破・大破が起きていれば、当然艤装火力だけでなくこうした基礎的な部分にも大きく影響する。

腕は痺れ始めているし、肺は少ない酸素を必死にやりくりして正に青息吐息、脚だってまるで満杯まで入れた輸送用ドラム缶を鎖で繋いで動かしているかのような重さだ。

現時点での“全力”を振り絞っての戦闘から、せいぜい2分か3分しか経っていない。けれど、あと5分この状態を保てるかも怪しいものわね。
まぁその間に7、80人は斬ったけど、今現在押し寄せてきている全体量からしたらまるで足りない。仮に私がここで力尽きれば、後続に飲み込まれて間違いなく一巻の終わり。

けれど、それでいい。

元より、自分の限界が近いことは承知の上。1時間も2時間も戦おうとか、一騎当千でこの“群れ”を殲滅してやろうとか、そういう高い志は端から持ってない。

(あとは中の連中が、“意図”を汲んでくれてるかどうか………っ、ね!)

『『ギュボァッ!?』』

突貫を開始する直前、無線へ叫んだ一言。主語も指示語もなく、事前の打ち合わせもない。あの中では一番長い阿音と鈴ですらせいぜい付き合いは2時間ほどで、“つうかあ”の意思疎通なんてものが期待できる人員もいない。

それでも、私は賭けた。あの中で誰かしらが、長々語らずとも私の“意図”に気づいてくれることを。

《機動隊並びにドラゴンさんチーム、キリンさんチーム、フェニックスさんチームは北方の“ゲート”前に集結!突撃態勢を取ってください!》

そして、案の定というべきか。

私の“意図”に気づき、行動を起こしたのは。

この場で最もそのことを期待し…………同時に、そうなってしまうことを最も恐れた、【大洗の軍神】だった。

<(' _'#<人ノ《射角調整ヨシ!弾種榴弾、装填ヨシ!!》

《撃て!!》

号令一下、砲声。軽快な風切り音と共に、75mm弾が陣地から飛び出す。

『「『ぐわぁああああっ!!!!?」』」

砲弾は私の到達地点から10M程離れた位置に突き刺さり、火柱が逆巻く。優に30人は軽く超えるであろう【暴徒】が、爆風に煽られ火に焼かれ破片に薙ぎ倒される。

《開けてください!!》

直後、先程Ⅳ号を収容した“門”が、再びゆっくりと持ち上げられた。

包囲は、この時点で既に大きく綻びつつあった。

防戦を開始した地点から“門”の前付近まで一気に打通した私の突貫は、さながら手練の筋者が扱うドスの如く“群れ”を深く抉っている。
単純な損害の大きさに加えて、艦娘である私が大暴れしながら“群れ”をどんどん食い破っていく有様は当然向こうにとって愉快な状況から程遠く、損害の穴埋めと私への対処に動きざるを得ない。

結果として“防護陣地”への攻勢が全面的に「鈍化」を通り越して「停止」に差し掛かりつつあった中での、Ⅳ号による砲撃。正しく穴埋めと私への対処に出向いてきた四個小隊相当の戦力が一瞬で壊滅し、深海棲艦側は致命的な混乱状態に陥った。

《門前、全迎撃隊に伝達!攻撃を開始してください!!》

【大洗の軍神】は、機を逃さない。無線越しに号令が飛び、“門”から一気に“軍勢”が打って出る。

「Giraffe Teamは右を!Phoenix Teamは左をやれ!

Dragon各位は中央に火線を集中、てめえらのソレより貴重な“タマ”だがケチるなよ!!ありったけバラまけ!!」

「「「了解!!」」」

仰々しい名前で呼ばれていた3個分隊ほどは、その全員が恐らく陣内においては極めて貴重であろうサブマシンガンや89式小銃──連射ができ、“火線・弾幕展開”を可能とする銃火器で武装していた。

「ぐぁあ……』
『グギッ!?」
「『「ぁあぁあああああああっ!!!?』」』

一斉に放たれるフルオート射撃が、“群れ”を更に大きく激しく突き崩す。雨あられと降り注ぐ銃火に【暴徒】達はドミノの如く薙ぎ倒されていき、“門”の前に形成されていた空白が放射状に伸びる弾幕の軌道に従って外へ外へとどんどん広がっていく。

「敵包囲網、急速に後退!突貫スペースを確保!!」

「よし、機動隊突撃しろ!いけぇ!!」

「「「うぉおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!」」」

銃火器部隊が火線を維持しつつ“群れ”の穴を掻き分けるようにして左右に分かれ、その後ろから進み出る目算約一個中隊ほどの人数。

彼らは時代錯誤な“鬨の声”を上げ、隊列を組み、さながら古代ローマの重装歩兵の如く一つの塊となり、とりわけ大きく崩壊した“群れ”の一角へ突撃する。

元々日本の警察組織は、本来ある意味において自衛隊以上に“銃火器”の使用に対する制限が厳しい。ただその分、彼らの多くが対人格闘術に特化している。
逮捕術と呼ばれるこれらの技術は、護身並びに反艦娘的な思想の持ち主に襲撃された際の“最大限穏当な対人制圧術”の一環として艦娘の訓練過程にも組み込まれるほどだ。

まぁ、“あの”鎮守府には当て嵌まらない生ぬるい基準だけど。私が最初に学んだのは、「如何にすれば3人以上の頚椎をいっぺんにへし折れるか」だったわね、確か。

「突っ込めぇ!!」

「「「どりゃああああっ!!!」」」

ともあれ、たった今カチ込んでいった保安官たちもまた、そうした日本警察の伝統をしっかり受け継いでいるみたいね。

或いは、“学園艦の中という物理的にも政治的にもより厳重な制限が敷かれている環境だからこそ、自然とより鍛え上げられたのかしら。
総崩れの様相を呈しているとはいえ今なお膨大な質量を誇る“群れ”に対して、彼らの突撃はまるで力負けしていなかったわ。

「『「ぐぐぁあっ!!?』」』

『ギギィッ!!───ケクッ』

一糸乱れぬ、一部の隙間もないスクラムを組んだ先鋒30人ほどによるシールド・バッシュ。その2〜3倍にはなろうかという人数の【暴徒】が互いを押し合い、互いの脚を掬いながら後ろに跳ね飛ばされ更に大きく隊列を乱す。
隙間をくぐり抜けて飛び掛かった何匹かの【寄生体】も、構え直されたライオットシールドにぶち当たり遮られ直後に車庫から飛来した狙撃に射抜かれ尽く沈黙する。

「もう一発、かませぇ!!!」

「「「どぉおらぁああっ!!!」」」

恐らく指揮官格の、アメリカンフットボールでクォーターバックでもやってそうな身体つきをした男の号令。
雄叫びと共に【機動隊】は前面の【暴徒】たちにもう一撃浴びせ“群れ”の中に踏み込むと、両者が入り乱れての本格的な乱戦が始まった。

「うおっ、ふぅんっ!!」

『ぐぁはっ!?」

「せいやっ!!!」

「ゴフッ………』

多少、動きが素早かったり士気が高かったりはするのかも知れない。けれど、所詮【暴徒】は【暴徒】。元が一般人であり、大半は特別な格闘戦や対人制圧術の訓練を受けたわけでもない。単純な一騎打ちでは、技量的にもスペック的にも差は如実に現れる。

「うらぁああっ!!!!」

『ゴッ────!?」

加えて、この機動隊は“覚悟”が違う。

2日連続更新おつです
マッスル提督ついに大洗到着

夏休みで舞い上がってる小学生かな?
部外者が野次飛ばす時はsage進行って覚えといてね

グシャリ。

重く、鈍く、何かが潰れたような打撃音が響く。視線をやれば、丁度警棒を振り切った体勢の保安官と、その前で地面に勢いよく叩きつけられた【暴徒】1人が目に入る。

「クコッ…………』

斃れた【暴徒】の側頭部は、踏み潰されたアルミ缶のごとく歪に凹んでいた。

「っふ!!」

年齢的には初老に差し掛かっているその保安官は、年齢相応の“手練”らしい。返しの動きで更に2人の【暴徒】に向かって繰り出された打撃は、どちらに対しても無駄がなく正確だ。

『オグォッ……」
「いでっ、あぎっ!?』

片方の喉笛に、突きを。
もう片方の腹に膝を入れ、くの字に体が曲がったところで首筋に全力の打ち下ろしを。

実に迅速かつ的確に、彼の打撃は向かってきた【暴徒】達の“急所”を打ち据える。

「うぉりゃあ!!!」

『ガブッ!?」

「【ヌタウナギ】に気をつけろ、奴ら隙間から突然来るぞ!!」

「ぐぁっ!?』

「っ、どいてよ!!」

「『ウガッ……」』

いや、その保安官だけじゃない。より年季の入ったベテランから今年入ったばかりと思わしき若い隊員まで、男も、女も関係なく。
突入した機動隊の誰もが、容赦も加減もなく全力全速で【暴徒】達の急所目掛けて自らの得物を振るっている。

「面っ!!」

『ぎゃっ…」

そも、警棒を使っている人数自体全員ではない。

例えば、今しがた巨漢の【暴徒】を打ち倒した保安官が構えているのは、日本刀。商業区の土産屋が外国人観光客向けに取り扱ってもいたのだろうか、模造刀らしく逆刃にはなっているため“斬る”ことはできない。
けれど、しっかりと体系的に武道を学んだ人間が取り扱えば、鉄製であるそれは充分な殺傷力を伴う。現に振り下ろされた【暴徒】の頭は縦に深々と割られ、脳漿と血を撒き散らしながら崩れ落ちていく。

他にも、鉄パイプに釘を打ち付けたバット、角材にコンバットナイフ、ステンレス製の杖、どこで拾ってきたのやら青龍刀なんてものまで──無論これも模造刀だけど──見える。総じて、全体の3割程度が警棒以外のものを………より高い“殺傷力”が得られるものを装備し、戦闘に参加していた。

銃という火器の普及によって、戦争は一時期国家総力戦を前提とするほどに大規模化した。中世頃から現れた“銃”という兵器の存在は、それだけ革新的だった。男女差も年齢差も皆無とは言えないが現れにくく、剣術や槍術と違って身体的欠損でもない限り本当に誰でも兵士に仕立て上げられる魔法の筒。

その“魔力”が最も大きく現れるのは、殺人に対する罪悪感の軽減。

離れて撃つから、殺人そのものに対する現実味が希薄になる。仮に向こうも武装していて銃撃戦になったとしても、直接斬り合い殴り合うより“殺し合い”という行為に対して抵抗感が遥かに緩和される。加えて根本的な必要所作は“引き金を引く”だけだから、“慣れる”までも早い。

「そぉれい!!」

「そっちから二人来たぞ、抑え込め!!」

「【ヌタウナギ】だ!気をつけろ!!」

さっきも述べた通り、ただでさえ日本の警察は殺傷に対するハードルが高い。血眼になって包丁を振り回してるパンイチの狂人に対してすら、実際に銃を抜けば気高き平和の使者の皆さまが「野蛮だ」と口を極めて非難する。
一応は深海棲艦という存在によって武器の使用が良くも悪くも“日常的”になりつつある自衛隊より、ある意味では“武力”の使用制限は重い。況してや学園艦所属の保安官なら尚更でしょうね。

「コアッ!!』

「っ……だらぁっ!!!」

なのに、今まさに【暴徒】や【寄生体】と交戦中の機動隊の面々は、武器を振るう手を止めない。銃撃どころか、よりはっきりと自分たちが“人体”を破壊していると突きつけられる、時代と文明の進歩に逆行した「白兵戦闘」に身を投じる。

無論、お世辞にも淡々と、とは言えない。深海棲艦が最初に東南アジアを襲った折は艦内で連絡船や飛行便発艦所に押し寄せた暴動寸前の住民を何度か鎮圧したというから、練度はそれなりにあるのだろう。ただ、その時の目的はあくまで“制圧”、殺傷じゃなかった。
今この瞬間、艦内住民を守るはずだった自分たちの手でその住民の形をしたモノに武器を振り下ろす時、きっと彼らの感情は身を焼かれ引き裂かれるに等しい苦痛を味わっている。

でなければ、自分たちの得物を叩きつける時に、誰も彼もが殆ど悲鳴に近い雄叫びを上げてはいない筈だ。

それでも、彼らは武器を振るう手を鈍らせない。どれ程自分たちが信じていた“正義”に反する行為でも、どれ程自分たちの“心”を踏みにじり傷つける行為であっても、機動隊員たちは血反吐を吐くようにして感情を撒き散らしながら【暴徒】を薙ぎ倒し続ける。

後ろにいるであろう避難民を守るために、その身を以て盾になる。永久に魂に刻み込まれるであろう業を、咎を、明確に存在する命のために自ら背負う。
そんな彼らの決意が、“覚悟”が、強烈な熱風となっていくさ場に吹き荒れ、徐々に前線を“陣地”から引き離し始めた。

『『キィアアアアアアッ!!!』』

「くっ……きゃあっ!?」

……まぁ、その、ねえ?機動隊の突入を“誘発”した責任も、あるわけだから。








「───退きなさい!!」

『『キュコォッ!?』』

「!?」

私がその熱に当てられちゃうのは、割りと仕方ないことよね!ええ!!

全っ然!これっぽっちも!大洗女子学園に関わることだから入れ込みすぎてるなんてコトにはならない、自然な流れだもの!!

更新おつです

保守

続き待ってます

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