比奈「……」

比奈「あー」

柚「ン？」

比奈「確かに、いい香り、するっスね」

柚「ぐわ。ちょっとそれ恥ずいでは。へへ、いい匂いだよね」

比奈「うん……柚っぽい」

柚「柚っぽいとは！」

比奈「“だめだめ。ラストノートのアタシは、アイドルじゃなくて、フツウのアタシ♪”」

柚「恥ずいのでは！」

比奈「柚が香水のCMをやるとは……お姉さんも感慨深いっスよ」

柚「からかってるね！」

比奈「ちょっとだけ」

柚「比奈サンにもつけてやろうか！」

比奈「変わった脅し文句スね。遠慮するっス」

柚「えーなんでー」

比奈「恥ずいんで」

柚「ずるい」

比奈「お姉さんなんで」

柚「せっかくたくさんもらったのにナー」

比奈「楓さんにあげるとか」

柚「楓サンはこだわりありそうでさー。仁奈チャンはちょっとまだ早いかと」

比奈「んー。まあたしかに」

柚「ま、いっかー。適当に事務所で配っちゃお。比奈サンもよかったらもらってね」

比奈「ありがと。気が向いたら、もらうっス」

柚「ムム。意外と頑固だ」

比奈「キャラじゃないっスから」

柚「そう？」

柚「そうだったとして」

柚「そうなのでいいと思うけど」

比奈「あー」

比奈「まあ、それはそっスね。ギャップ萌え的な」

柚「それそれ。アタシがこのお仕事させてもらえたのも、そういうことかと。自分で言うのもあれだけど」

比奈「いや、まあそうっスね」

比奈「……あとで比べてみる」

柚「ぜひぜひ♪」

柚「撮影の話なんだけど」

比奈「うん」

柚「何パターンか撮ったんだ。比奈サンが観てくれた？　のは、えっと、アイドルのオンとオフ的な」

比奈「そんな感じでしたね」

柚「あれ、けっこう面白かった」

比奈「そりゃよかった」

柚「うん。なんというか、あんまり、考えたことなかった。オンオフ」

比奈「……」

比奈「本気スか？」

柚「まじまじ。比奈サン的にはどう？」

比奈「どうて。このオンオフ魔人を捕まえてなにを言うっスか」

柚「オンオフ魔人」

柚「や。なんだか照れくさい限りなんですけども」

柚「フツーなんだよね。アタシ。いつも、まあまあ。楽しいでテンション一定というか？」

比奈「ああ」

柚「日常生活の延長線上がアイドルというか」

比奈「おろろろ」

柚「比奈サーン！」

比奈「失礼。つよめの陽の気にあてられたっス」

柚「それは大変でした……？」

比奈「たしかに、柚はそういう感じっスね。げほげほ」

柚「おーよしよし。比奈サンはちがったかー」

比奈「まあ……趣味を生かしてもらってるって意味では近いかもっスけど」

比奈「無理してるわけではないっスけどね。オン！　って。えいやっ、て感じスかね」

柚「えいやっ」

柚「可愛いね、それ」

比奈「そうっスか？」

柚「えいやっ」

柚「なるほど。入れてたか。スイッチ」

比奈「入れてまスね」

柚「へへ。なるほどー。面白いナー」

比奈「面白い。うん。興味深いっスよね。アタシと柚はけっこう、正反対というか」

柚「ね」

比奈「柚、疲れちゃったりしないスか」

柚「え？　疲れるよ？」

柚「レッスンのあとも今日みたいに撮影のあとも！　今日はたぶんきっとよく寝れるかな！」にぱっ

比奈「たぶんきっと」

比奈「あーっと、そういうんじゃなくて。あー。もうめんどくさい……お布団出たくない……。みたいな」

柚「お布団は朝にはよくはがれちゃってる！　って、あ、これ、へへ、恥ずかしいから内緒なんだけど」

比奈「いやあ、もう聞いちゃったっスねぇ」

柚「あぎゃーいじわるお姉さんだー」

柚「あ」

柚「あるカモ」

柚「今日とか。ちょっと思ったんだよねー。アイドル、オフったアタシかーって。それアタシか？　みたいな」

柚「そのときは、うーん、疲れちゃったとは違うけど。ちょっと、なんだか、ふっ、てなったカナー」

比奈「……」

柚「あらら。ど、どうしてなぜるのカナ？」

比奈「お姉さんなんで」

比奈「そっか。柚でもそういうこと考えることってあるんスね」

柚「うん」

比奈「ふふ。変なこと言うっス」

柚「おお。どうぞ」

比奈「ちょっと安心しました」

比奈「やっぱり柚はフツウの女の子だなーって」

柚「ン？　どういう意味？」

比奈「柚ファンの気持ちになるですよ」

柚「貴重な仁奈（比奈）チャンだ！」

比奈「もふもふ」

柚「擬音のみ！」

比奈「アタシはずるいお姉さんなので、はぐらかすんでスけど」

比奈「大事だと思うっスよ。大人になっていくのに、そういう機会って」

柚「そうなのかな」

比奈「きっとたぶん」

柚「きっとたぶんかー」

比奈「ということで、はい」

柚「？」

比奈「今日、柚が使った香水をもらっていこうかと」

柚「えっどして」

比奈「推しの香水なので。使って柚のエモ発言に浸ろうかと」

柚「それ、恥ずいからやだカナ！」