【シャニマス】摩美々「事務所対抗サッカー大会?」 (88)

事務所対抗サッカー大会。少し前までは運動会だったらしいけれど、どこぞの事務所が他の事務所に勝ちを譲れと八百長を持ちかけていたことが発覚し、サッカー大会に変更されたらしい。
「まー、どうでもいいですけどー」
「そんなこと言って!さっきも大活躍だったじゃねぇか!」
そうやってMFの摩美々の肩を叩くのはFWの樹里。今大会のアシスト女王と得点女王だ。

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「私動くの嫌いですしー」
「そうだね、摩美々の動きはまさしくファンタジスタだよ」
最小限の動き、ワンタッチでゴールへの道を切り開く。摩美々がパスを出し、咲耶のポストプレイから樹里が決める。これが283プロの黄金パターンになっていた。
「…私以外にもいるでしょー」
ワントップの咲耶、右サイドの樹里に並ぶもう一人のFWは左サイドの霧子。まさしくシャドーストライカーと言える活躍で、チーム内2位の得点率。ダブルボランチは大崎姉妹。甜花のスタミナの無さを息の合ったコンビネーションでカバーしている。センターバックは高さの千雪と頭脳の三峰。オフサイドトラップ成功率はこの二人によって支えられている。両サイドバックを務めるのは果穂とあさひ。無尽蔵のスタミナでピッチを駆けずり回り、攻守に活躍する。

「さあ!決勝に向けて今から筋トレよ!」
「いや、夏葉ちゃん!疲れ残したらダメだから!」
GKの夏葉にツッコミを入れるマネージャーの智代子。夏葉は年長者らしく試合中は抜群のコーチングを見せるのだが…
「ったく、浮かれてんじゃねぇよ」
「でもでも!決勝なんて凄いです!!!」
「…まぁそうかもな」
283プロは順調に勝ち上がり、決勝戦にまで駒を進めた。
「…」
「どうしたの?まみみん?」
「んーん…何もないといいけどー」
何か得体の知れない不安がその時摩美々の胸の中を駆け巡る。その不安は残念なことに実現してしまう…

「樹里!樹里!大丈夫なの!?」
「樹里ちゃん!樹里ちゃん!」
「いや、騒がしいな!ちょっと階段でこけただけだっての!」
樹里の怪我が発覚したのは決勝戦の始まる20分前だった。
「これくらい大丈…っつ…」
「そんな…無理だよ!樹里ちゃん!」
「…」
無理を押して出ようとする樹里。エースストライカーとしての自覚が彼女をそうさせるのだろうか。しかし、樹里の足は赤く腫れ上がりとても試合なんてできる状態ではない。

「そもそもアイドル活動に支障が出るわよ。次の試合は休みなさい」
「でも…」
「…」
そんな樹里の様子を摩美々はじっと見ていた。何かがおかしい。樹里は熱い性格ではあれど現実が見えないほどバカじゃない。ここで引かなければ今後の仕事に差し支えるのは明確だ。

「…わかった、夏葉の言う通りにするよ」
「ええ、大丈夫、樹里の分まで頑張ってくるから、ねえ、果穂?」
「はい!!!絶っ対!樹里ちゃんに優勝カップを持っていきます!!!」
「ははは、楽しみにしてるよ」
そう答えた樹里の目はしかし笑ってはいなかった。

「…なあ、摩美々」
「んー?なんですかー?」
みんなが出て行った後、なんとなくロッカールームに残っていた摩美々に樹里が声をかける。何となく、樹里の言動が引っかかり、部屋を出るのが遅くなった摩美々に樹里は秘密を告げる。
「…すまん、やられた」
「…やっぱりねー」

樹里の口から出た『やられた』という言葉。そもそもどこぞの愛すべきリーダーならばともかくとして、彼女ほどの運動神経の持ち主が何もない階段で転ぶなんて考えにくい。
「顔は見たのー?」
「いや、見えなかった…でも逃げる時のユニフォームは…決勝で当たるこだまプロだった」
「…でしょうねー」
決勝戦を控えたタイミングでこんなことをしてくるだなんて相手は決まっているようなものだ。

しかし、こちらも顔は見ていない。事務所の力を使えば知らぬ存ぜぬを通せるということだろう。
「そもそも、あの事務所前もおんなじようなことしたんじゃなかったけー?」
「あぁ、あくまで噂だけどな…」
以前この大会が運動会だった時もこだまプロはプロデューサーが裏で八百長を図っていたという噂がある。

「そういうところは出られないようにしないと意味ないじゃーん」
「まあ、噂は噂だからな…」
決定的な証拠は残さなかったあたり、相当なやり手だったのか、相手がよっぽど優しかったかのどちらかだろう。
「やっぱりアタシ試合に…ってぇ!?」
「無理じゃなーい?」
悪戯っぽく樹里の足をつつく摩美々は、けれど無理をしがちな樹里への戒めを込めて忠告をする。

「どうせ、他の子の心配してるんでしょー?」
「…果穂がやられるくらいならアタシがいく」
放クラのこの熱さが摩美々は苦手だった。けれど、この甘さは嫌いじゃない。どことなくアンティーカを思い出すから。
「まーまー、任せてよー」
「お前なぁ…大丈夫なのかよ…?」
「うーん、大丈ー夫ー」
だから摩美々は絶対に
「私、結構怒ってるんでー」
負けないと心に誓った。

「ね、ねえ、摩美々ちゃん…?」
「んー?どうしたのー?」
「…大丈夫かな?」
「大丈夫ってー?」
「その…恋鐘ちゃん」
「だだだだだだだだだだだ大丈夫ばばい!」
「こがたん、噛みまくりじゃん!?」
樹里に代わって試合に出ることになったのは恋鐘。これまでの試合では交代で出ていたこともあるのだが、スタメンになるのは初めてであり、緊張が伝わってくる。

「大丈夫ー、恋鐘はうちのリーダーだからー、ね?リーダー?」
「うぐっ!?も、もちろんばい!大船にのったつもりでおりんひゃい!」
「いやいや、めっちゃ緊張してるじゃん!?まみみんもワザとそんなプレッシャーかけるようなこと言わないの!」
「恋鐘、君を信じているよ」
「ひゃい!?」
「さくやんも!逆効果だからそれ!」
わざと揶揄っている摩美々と大真面目な咲耶。けれどそこにあるのは確かな信頼なのだ。

「ねーねー、果穂ちゃん」
「はい!あさひさん!何でしょうか!!」
「ちょっと面白いこと考えたんだけど…」
少し離れたところではあさひが果穂に話しかけている。
「えぇ!?そ、そんなことやったら…」
「絶対こっちの方が面白いよ!」
「でも…」
「怒られたら私に言われたって言えばいいからさ!ね!」
「う、うーん…」
側から見れば何か良からぬことを企んでいるようなあさひと、それに難色を示す果穂。けれど、あさひの口車にどんどんのせられていく。

「ね!やろうよ!こういう作戦ってヒーローっぽいでしょ?」
「はっ!た、確かに…先週ジャスティスブラックとホワイトが同じようなことを…」
こうして果穂はあさひの悪巧みに巻き込まれる。実は仲の良い二人だが、果穂があさひに流されるのはこれが初めてのことだった。いつもならばこの辺りで冬優子が止めにくるからだ。今回に限って止めに来なかったのは何故なのだろうか。

「「「よろしくお願いします」」」
選手が整列し、いよいよ決勝戦の試合が始まる。
「悔いのない試合をしましょう!」
「ふん…」
夏葉が差し出した手は対戦相手のアイドルには受け取られずに空を切る。
「よろしくお願いするわ!」
「…しつこ」
なおも握手を求める夏葉を鬱陶しそうに返す。予想外なのだ。同じユニットの仲間がやられたのだからもっとしおらしくしていればいいのに。

「ここにいるよりお見舞いに行った方がいいんじゃないの?」
「あら?どうしてあなたが樹里が怪我をしたことを知っているのかしら?」
「あっ…」
ニコニコと笑みを絶やさない夏葉の目にはしっかりとした敵意と闘志が燃えている。
「樹里が何もない階段から落ちるはずがないもの」

「くっ…なんだよ、うちらがやったていいたいのか?」
「いいえ、そんなことはどうでもいいの。だってもう決まってるもの」
相手に背を向け、グローブをはめ、自陣のペナルティエリアに向かいながら夏葉はこう続ける。
「この大会の得点女王は樹里よ。だって私が一点も入れないもの」
「…」
背筋が凍えるような視線を相手に送る。
「一つ教えておいてあげるわ。赤く猛る炎より、静かな青い炎の方が熱いのよ」
静かに静かに、夏葉は怒っていた。

「よろしくばい!」
「よろしくお願いしまーす?」
恋鐘があいさつしたのは、相手チームで一番売れているアイドルだった。
「あの~恋鐘さん、大丈夫ですかぁ?」
「え?何が…」
「だってぇ、西城さん準決勝まで凄かったじゃないですかぁ、代わりができるのかなーって」
「うぐ…」
人畜無害のふりをして言葉で恋鐘を追い詰める。

「う、うちは…はぐっ」
「あー、大丈夫ですかー?」
緊張で脚が震える。こけた姿を嘲笑うかのような笑みを浮かべる相手が怖くて仕方がない。
「ほら、立てるかい恋鐘」
「しっかりしてよー」
「あ、ありがとう」
咲耶と摩美々が恋鐘を引き起こす。まだ脚は静かに震えていた。
「恋鐘さん、大丈夫ですかぁ?心配ですー」
「本当に心配なら助けてあげればいいのにー」
「まあまあ、落ち着こうよ」
そう言いながらも咲耶は「怒る気持ちもわかるけどね」、と小さく耳元で囁いた。

「ふひひひ、よろしくお願いします」
「…あぁ、よろしく」
咲耶にマッチアップしたのはオカルト系で売り出されているアイドルだった。
「はぁ、はぁ…」
「大丈夫かい?息が切れているようだけれど…」
まだ試合前にも関わらず呼吸が乱れている。しかし、咲耶の心配は悪い意味で覆ることになる。
「大丈夫です?はぁ?咲耶様ぁ?」
「そ、そうかい、それは良かったよ」
業界にもファンが多い咲耶。元々この手のファンが多いタイプだったけれど、ここまで心酔しているタイプは今まで事務所で遠ざけてきた。咲耶が実際に出会ってしまうのは中々ないことだった。

「ピィィィイ」
試合開始のホイッスルが鳴り響く。
「さてと…」
摩美々はボールを持ってあたりを見回す。
「言っとくけど、パスコースはないわよ」
「…そうみたいですねー」
曲がりなりにも決勝まで進んできたチームだけあって、パスコースは限定されている。しかし…
「まあ、関係ないんだよねー」
「!?」
「ありがとう摩美々、君からのメッセージ、受け取るよ」
真っ直ぐにフワリと浮いたパスを前にあげる。それだけで背の高い咲耶には充分なのだ。

「…やめて」
「え?」
「あ?」
パスは通ったはずだった。しかし、気づかないほど自然に咲耶はボールを奪われた。
「やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて…」
「か、彼女は…一体…」
うわごとのように呟きながら虚な目を向ける。さっきとは違うヤバさがピッチを包み込む。
「あの娘は昔からあんたんところの白瀬のファンなの」
代わりとばかりに摩美々をマークしているアイドルが説明をする。

「だから許せないんだって、アンティーカになってからの…可愛くなっちゃった白瀬咲耶が」
「ふーん…」
「許せない…許せない…許せない…私は咲耶様を取り戻す」
「だから、ずーっと私のこと睨んでるんだー」
「特にアンタのことは許せないみたいよ、アンタ、特に白瀬と仲いいもんね」
「…別にー」
狂気を孕んだ目を隠そうともしない、あの手の輩は厄介だと摩美々の本能が告げている。
「あの娘は白瀬咲耶のことなら何でも知ってる。どこでボールを取りたいか、どこに欲しいか、全部わかってる」
だから簡単に取れるということなのだろう。
「もうそのホットライン使えないから」

「い、いけん、はよ取り返さんと…」
奪われたボールを取り返そうと恋鐘が詰める。
「は?近寄らないで?」
「ぶべ!?」
まだ緊張が解けていないのだろうか、簡単なフェイントに引っかかってこけさせられる。
「ふっ…ダッサ…」
「283って他にアイドルいないの?」
「流石にアレよりマシなのいるでしょ」
「うぅ…」
悪意しかない嘲笑が恋鐘を襲う。もちろんこれも相手の作戦だ。咲耶を分断し、恋鐘の心を折る。そうすることで点を取るFWを機能させないことが目的なのだ。

「流石にアレよりマシなのいるでしょ」
「うぅ…」
悪意しかない嘲笑が恋鐘を襲う。もちろんこれも相手の作戦だ。咲耶を分断し、恋鐘の心を折る。そうすることで点を取るFWを機能させないことが目的なのだ。
「私はアンタも嫌いなの」
「ふぇ?」
パスを出し終わったにも関わらず、わざわざ恋鐘の元に戻ってきて悪態を続ける。
「あんたみたいなぬるいリーダーが、咲耶様の足を引っ張ってるってわかってる?」
「あっ…あっ…あぁぁ…」
トドメだった。ガラガラと恋鐘の中で何かが崩れていく。

(恋鐘…)
何か言われているのはわかっている。それが良くないことであることも、けれど摩美々には聞こえない。
「行かせないわよ」
「…しつこい人は嫌われますよー」
ボールを取りに行こうにも、恋鐘に声をかけようにもこの女のマークが邪魔で思うように動けない。

「経験者ですかー?」
「…それがどうかした?」
別に経験者を採用することは珍しいことではない。たまたま283プロにはいなかっただけだ。しかし…
「いや、あなたみたいな人見たことないなーってー」
「…昨日デビューしたの」
つまりこの大会のためだけに、いや、この娘もデビューするための条件としてこんなことをしているというわけだ。

「とにかく、私はあなたに何もさせないから」
摩美々にセンスがあると言えど経験者には及ばない。一瞬の駆け引きやセオリーの引き出しが違う。
「ま、私以外で勝てばいいだけですしー」
「そんなこと言ってて大丈夫なの?」
「んー?」
「あんまりうちを舐めない方がいいと思いますけどー?」
バチバチとボールを持たない戦いが始まっていた。

「あぅ…ボール…取らないと…」
ボールは中央からやや左寄りに展開されている。ダブルボランチである甜花の守備範囲だ。
「え、えい…」
「邪魔」
「あう!?」
「甜花ちゃん!?」
フィジカルの弱い甜花だが、それよりも相手のフィジカルが強すぎる。明らかにこのミスマッチを狙った作戦だ。

「う、うぅ…」
「甜花ちゃん!甜花ちゃん!大丈夫?」
「引きこもりはゲームだけしてればいいんだよ」
心配して駆け寄る甘奈を尻目に更に言葉で甜花を貶める。
「ほら、走れ!」
そのままボールはDFにパスされて左サイドを駆け上がる。
(よし、守備に来い、壊してやる)
甜花と同じように、次はサイドバックの果穂を壊す。そうすることで守備を壊滅させるのが狙いだ。

「よしっ…って…え?」
「なんすか?どうかしたんすか?」
しかし、そこにいたのは果穂ではなく、あさひだった。
「ど、どうしてあんたが…こっちに…」
「そっちこそどうしたんすか?まるで『果穂ちゃんじゃないとマズい』って顔してるっすよ?」
「ぐっ…」
「冬優子ちゃんの言う通りだったっす」
何故あさひと果穂の位置が入れ替わっているのか、話は摩美々と樹里が話をしていたのと同じ時間にまで遡る。

「…やられたわね」
「やられたって…何が?」
「あの西城樹里が階段から落ちるなんて不自然でしょ?誰かに落とされたのよ」
「えぇ!?そんな悪いことする!?」
「まあ、みんながみんなあんたみたいなやつじゃないって話よ」
驚く愛依にさも当然というように語る冬優子。

「流石冬優子ちゃんっすね!悪役みたいっす!」
「はっ倒すわよあんた!!」
あさひとしては褒めているつもりだが伝わらないのはいつものことだ。
「そんなの許せないっしょ!ここはウチらで…」
「…私たちが出ていってどうなるのよ」
「そ、それは…」
「そもそも私たちは今回選手登録してないじゃない」

「じゃあどうすんの!?黙ってこのままやられるしかない系?」
「そんなの嫌っす!」
「落ち着きなさいよ」
熱くなる二人を鎮めるように、冬優子は続ける。
「向こうがその気なら、こっちも仕掛けてやればいいのよ」
「へ?何を?」
「あさひ、アンタが暴れてくるのよ」
「わたしっすか?」

「何するんすか?スカイラブハリケーンとかするんすか?」
「何言ってんのよ、あんた小柄なんだから空中戦じゃ分が悪すぎるでしょ」
「そういう問題!?」
愛依のツッコミを聞きながら、冬優子は更に続ける。

「ポジションを入れ替えればいいのよ、小宮果穂の位置にあさひが入ればいいの」
「でもそれじゃああさひちゃんが削られるんじゃ…」
「はあ?そんじょそこらのアイドル風情がこいつに触れられると思う?」
「あー、なるほど…」
「つまりボール持ったまま全部かわせばいいだけっすよね?簡単っす!」
「いや、あさひちゃん凄くない?」

「でも逆側にいる人が果穂ちゃん削ったらどうするんすか?」
「だから、相手はそこにあさひがいると思ってるのよ。そんなポジション最初から捨ててるわよ」
あさひよりもあさひのことを正しく理解している冬優子だからこそ、わかる相手の考え。常にあさひに負けないように立ち向かい続けていたからこそわかる思考だ。

「いい、あさひ、西城樹里は怪我をさせられた。有栖川夏葉はゴール前から動けない。あんたしかいないのよ」
「…っす」
「あんたが小宮果穂を守るのよ」
だからあさひは負けられない。
ただ一人の後輩を守るため、尊敬する先輩の期待に応えるために、今、天才が立ち上がる。

『でも果穂ちゃんって小学生っしょ?流石に小学生には…』
『そうね、私もこの策が考えすぎだと思いたいわよ』

「けど、冬優子ちゃんの言う通りになっちゃったっすね」
やっぱり冬優子ちゃんはすごい。自分には見えないものが見えている。

「はっ、冬優子ちゃん冬優子ちゃんって、あんなぶりっ子の何がいいの?」
「は?」
相手は作戦を変えてきた。身体を壊せないのなら恋鐘や甜花のように心を壊せばいいと言わんばかりに。
「あんたも思ってるんじゃないの?自分よりも下手なやつがリーダーって鬱陶しいって、そのくせ裏では怒られるんでしょ?見たことあるわよ」
「…」

「愛依とかいうのも何考えてるかよくわかんないし、もう一人でやる方がいいんじゃ…」
「黙るっす」
「ひっ!?」
背筋が凍りつく。寒い寒い寒い寒い、鳥肌が止まらない。何だこれは、何が起こっている。
「あんたに冬優子ちゃんや愛依ちゃんの何がわかるんすか?」
弱点だと思っていたところは逆鱗だった。『天才』芹沢あさひの絶対に侵してはいけない部分。大切で大切で、何に変えても失いたくない部分。本人も自覚していないくらい大切でたまらない部分。

「そんなに言うなら、あんたは冬優子ちゃんよりできるんすよね?」
「ひっ…あっ…あっ…」
足が震える。小さな身体からは想像もできないくらいの威圧感。その姿は『天才』なんて綺麗なものじゃない。
「ば、化け物…」
「いつまでそのボール持って立ってられるか、楽しみっすね」

「はい、取れたっす」
「くっ…こんなに簡単に…」
「はい、パスっす」
「は?」
せっかく奪ったボールをなんと相手に返してしまうあさひ。
「面白くないからもう一回あげるっす」
「なっ!?ば、バカにして…」
「ほい、取れたっす」
「えっ?」
「もう一回っす」
ボールを奪っては相手に渡す。そんな異常としかいいようのない光景が繰り返されていた。

「ほら、もう一回っす」
「はい、もう一回」
「もっともっと」
「あ、今度はちょっと粘ったっすね、2秒長くなったっす」
「やる気あるんすか?ほら、もう一回」
「いやぁぁぁぁぁぁあ!?」
加減の無い才能そのものが彼女の心を押しつぶす。

「…冬優子ちゃんはこんなことでへこたれないのに…つまんないっす」
「あっ…あっ…あっ…」
まるで『お前が馬鹿にした冬優子に何一つ勝てていない』と言われているようだった。
「覚えておいた方がいいっすよ、こういうの向いてる人と向いてない人がいるんすよ」
きっともう彼女は立ち直れない。アイドルとして再起不能にされてしまった。それはひとえに喧嘩を売る相手を間違えたから。
「もう飽きたんでパスしますけど…」
ついでとばかりに、あさひは続ける。
「もう一人、間違えて喧嘩売ってるっすからね?」
「え?」

「甜花ちゃん、大丈夫…?」
甘奈は倒された甜花に駆け寄る。あれだけ飛ばされてしまったのだ。痛くてたまらないだろう。もしかしたら泣いているかもしれない。
「…った…」
「え?」
「なーちゃん…あいつ…今…煽った…」
その目は人見知りな甜花にしては珍しい、けれどゲーマーである甜花はよくしている甘奈にとって見慣れた目だった。

パスはそのまま甘奈に渡る。マークをするのは甜花を潰したあの娘だ。
「は!双子で同じように吹っ飛ばして…」
「なーちゃん、二歩右」
「うん!」
「な!?」
たった二歩、位置を変えただけの最小限の動きでかわされる。

「甜花ちゃん!」
「うん」
ボールは甘奈から甜花に渡る。
「くそっ!もう一回…」
「にへへ、三歩遅い」
「え?」
ちょうど三歩分、間に合わずに甜花のパスを許す。
「くそっ!」
「なーちゃん、左左右」
「うん!」
「なぁ!?」
急激に曲がる甘奈についていけず、その場に崩れ落ちる。

「どこかに行こうとしたら…反対には行けない…ゲームと一緒…」
「くそっ!舐めんなぁ!」
「もう遅い」
「ナイスー」
ボールはもう一度摩美々に渡る。
「摩美々!」
「…」
咲耶の呼ぶ声が聞こえる。けれど咲耶にはさっきのマークが未だに張り付いている。

「どうするの?もう一度勝負してみる?」
「…恋鐘!」
「うぇえ!?」
まだ試合も中盤。ここで無理に勝負しなくてもいい。それならさっきのミスを取り返して自信をつけさせる意味でも恋鐘で勝負する。摩美々は一瞬の隙をついてノーマークになった恋鐘にパスを出す。
「う、うわぁぁあ!!」
「あちゃー、こがたん…ナイス宇宙開発…」
しかし、恋鐘の蹴ったボールはゴールの少し上を凄い速さで飛んでいった。

「っ…」
まださっきのトラウマから回復していなかった。それを見極められなかった自分のミスだと摩美々は自分を責めていた。
「なんであそこにパスを出したかわかる?」
「はー?空いてたから…」
「ううん、『空けてた』のあの子は何の脅威でもないから、ノーマークにしても絶対に決まらない」
わざわざ恋鐘に聞こえるように言うその口を縫い付けてやろうかと言わんばかりの目で摩美々は睨む。けれどこれが相手の作戦なのだ。摩美々をいらつかせ、恋鐘をプレッシャーで潰し、咲耶を孤立させる。ならば自分が冷静さを失ってはならない。
「摩美々…すまない…私が…もっと動けたら…」
「摩美々…ごめん…ごめんね…」
例え、二人の親友を傷つけられたとしても。

「ほら、今度はこっちの攻撃だよ!」
怒らせてしまったあさひと甜花のいないサイドを駆け上がる。
「行きます!!!」
「そうはいかないわよ!」
果穂のチェックが追いつく前に大きくセンタリングを出す。
「みんな!ラインを上げて…」
「遅い」
「しまった!?」
あまりにも早すぎるセンタリングに三峰のタイミングをズラされる。オフサイドトラップは突破されてしまえば待っているのはキーパーとの一対一。つまり圧倒的に不利な状況だ。

「よし、決まっ…」
「ねえ、知ってる?私、逆境の方が強いのよ」
「なっ!?」
シュートを蹴る直前、果敢に滑り込んできた夏葉にボールを取られる。少しでも遅ければ足が顔面に振り抜かれていた。そんなタイミングで。
「あんた…怖くないのかよ?」
「怖い?ええ、怖いわよ、樹里との約束を果たせなかったらと思うとね」
夏葉にとって痛いのは身体ではなく心。その高潔な精神がなによりも彼女を奮い立たせている。
「ピィィィィィイ」
前半終了の笛が鳴る。
試合は未だ動かず0対0だった。

「ごめん!みんな!オフサイド取れなかった!」
ロッカールームに三峰の謝罪がこだまする。
「私もごめんなさい。もっと早く動いていれば…」
「ううん、千雪姉さんは悪くないって!」
「そう、なら結華も悪くないわね」
「そうっす!最後に勝ったらいいんすから!」
「そうです!!!チームプレイです!!!」
「…」
夏葉や果穂が励ますように声をかける。それを見ている摩美々には三峰のパフォーマンスの意味がわかっている。

「恋鐘ー、聞いてるー?」
「ふぇ!?も、もちろんばい!」
『誰も悪くない』『最後に勝ったらいい』『チームプレイ』きっと直接言っても届かないと思ったから、自分のミスを引き合いにして聞かせているのだ。
「最初は冗談っぽく言ってたけどさー、信じてるのは本当だからねー」
「え?うん…」
きっとその真意は伝わらない。自分がどれほど恋鐘を信じているかなんて、きっと一生正しく伝わらないのだろう。そもそも摩美々は伝えようとは思っていない。けれど、いつも救われる。悪戯をすれば怒ってくれる彼女に、良いことをすれば褒めてくれる彼女に。だから自分は恋鐘を信じている。いつだって全力な彼女はきっと最後に笑うのだ。

「ねぇ、こがたん」
「結華…」
もうすぐ後半に入るというタイミング、ピッチに出てポジションに向かう前に三峰は恋鐘に声をかける。
「まみみんのこと、信じてあげてね」
「…うん、でもうちが信じれんのはうち自身ばい」
「ははは、だからそこなんだって」
「?」
まるで何か勘違いをしていると言わんばかりに三峰は恋鐘を笑う。

「まみみんが信じてるのはね、こがたんだよ」
「え?うち?」
「いつだって全力で、いつだって前向きのこがたんにみんな助けられてますから」
軽く言っているのはもちろん三峰の気遣いだ。その声は少し震えている。

「多少の失敗なんてみんなわかってるよ。だけどね、失敗しない私たちよりも凄いところに行けるから…みんなを連れて行ってくれるから、こがたんはアンティーカのリーダーなんだよ」
「結華…」
「そつなくこなすのなんて、それこそまみみんとかさくやんに任せておけばいいからさ…こがたんはいつも通り、三峰たちに見たことないようなものを見せてよ!」
「…わかったばい」
自分にできることを全力でする。いつだって自分はそうしてきたはずだ。できないことを嘆くより、できることを伸ばすんだ。
「摩美々ー!」
「んー?」
「次は絶対決めるけん!」
「…うん、信じてる」

後半は攻守が入れ替わる。まずは相手のボールを奪わなければならない。
「なーちゃん、もうちょっと右」
「うん!」
「千雪さん、あと二歩前」
「ええ、わかったわ」
「くっ…」
しかし、甜花の指示で動く283プロを前にボールを動かせない。少しでも動かそうものなら細かく指示を出してフォーメーションを修正してくる。
「にへへへ、動けないよね…」
「ちっ…」
攻めているはずなのに神経をすり減らさられる。

「芹沢さん!」
「はいっす!」
「はっ!そんな簡単に取れられ…」
「はい!!!」
「な!?」
正面からくるあさひは囮、後ろからきた果穂にボールを取られる。

「にへへ、上手くいった」
「ありがとうっす!」
「でも良かったの?自分で取らなくて」
千雪はついあさひに聞いてしまった。彼女の性格的になんでも自分でやりたいのではないかと思ったからだ。
「うーん、そうなんっすけど…一番悔しいのはきっと果穂ちゃんっすから」

「うぉぉぉお!!」
「くっ…この…」
「渡しません!!!」
果穂は賢い。きっと今回のことだって、何人かが気づいたように、樹里がただ怪我をしたわけじゃないということくらい何となくわかっているはずだ。
「あんた…いつも逆でやってたじゃない…早く…渡しなさいよ…」
「渡しません!!!絶対!!!絶対渡しません!!!」
けれど周りは果穂にだけは隠す。人を恨んでほしくないから、傷ついてほしくないから。その優しさを向けられることが、少しだけ悔しいこともあるだろうと、あさひにはわかっていた。

「くっ…この…」
「摩美々さん!!!お願いします!!!」
「うん、任されたー」
そしてボールはファンタジスタに渡された。

「えーっと…」
「あら、簡単には出させないわよ」
相変わらず摩美々には経験者の彼女がマークに付いている。出せるのは咲耶のところか恋鐘のところに絞られている。
「ほら、また王子様に放り入れてみたら?」
「うーん、じゃあお言葉に甘えてー」
「まあ、向こうにはあの娘がいるけどね」
「はぁ?はぁ?咲耶様ぁ?」
「くっ…ずいぶんと熱烈だね…」
咲耶は相変わらずマークに手こずらされている。簡単にパスを出せそうにない。

「…」
「あれ?イライラしてる?」
「何のことですかー?してませんけどー?」
そうは言うものの、摩美々の声には確かにイラつきの色が入っていた。
「結局あんたもあの娘と一緒か、あの王子様が好きでたまんなくて、ベタベタしてるだけなんでしょ?」
「…」
「いいよ、隠さなくても。あの娘もそうだしね。結局仲間とか関係なくてあの王子様の見た目が好きなだけでしょ?」
「…そうですねー、咲耶のことは好きですよー」
そう言って、摩美々はなんと中に切り込んでいく。

「…」
「あれ?イライラしてる?」
「何のことですかー?してませんけどー?」
そうは言うものの、摩美々の声には確かにイラつきの色が入っていた。
「結局あんたもあの娘と一緒か、あの王子様が好きでたまんなくて、ベタベタしてるだけなんでしょ?」
「…」
「いいよ、隠さなくても。あの娘もそうだしね。結局仲間とか関係なくてあの王子様の見た目が好きなだけでしょ?」
「…そうですねー、咲耶のことは好きですよー」
そう言って、摩美々はなんと中に切り込んでいく。

「な!?私と勝負するつもり!?」
「ううん、まさかー」
その一瞬を摩美々は見逃さなかった。まさかの行動で咲耶のマークが止まったその一瞬を。
「な!?まさか、これを狙って!?」
「…イライラしてたのは認めますけどー」
美しい弧を描くパスを放ちながら摩美々はこう続ける。
「それは咲耶を一人にさせてた自分に対してなんでー」
寂しがりやの咲耶を一人にさせてしまった。そんな自分の不甲斐なさに怒りが込み上げてくる。
「ふふふ、もう来てくれないかと思っていたよ」
「私が咲耶を一人にするわけないでしょー」
それは甘い甘いラブレターのようなパスだった。

「ふひひひ、させませんよぉ、咲耶様ぁ?」
シュートコースを消すように立ち塞がる彼女に、咲耶は申し訳なさそうに謝る。
「ごめんね、君はここで『シュートを撃つ白瀬咲耶』でいてほしかったんだよね」
「え?」
咲耶は空中で身体を反転させ、ボールを落とす。彼女は咲耶のことを何でも知っていた。けれど最後には『自分にとって都合のいい姿』を求めた。現実を歪めて、誰よりもかっこいい王子様としての姿を見ていたのだ。

「決めるのは私じゃなくていいんだ」
「そんな…一体誰に…」
そう、彼女は忘れていた。FWはもう一人いたことを。それも無理はない。彼女は意図的にその存在を『消していた』。この一瞬のために。
「あ、あれは…」
「そんな…」
彼女の名前は…
幽谷霧子!

「ふふ、ボールさん、行ってらっしゃい」
静かにボールを蹴り出す霧子。相手のキーパーの動きを見てから蹴る霧子のシュート百発百中の精度を誇る。
「させ…るかぁぁぁぁあ!!!」
しかし、ここに来て相手も意地を見せる。咲耶が直接シュートを撃たなかったことで摩美々のマークについていた彼女がフォローに間に合った。
「あ、そんな…」
ボールは済んでのところで弾かれて、僅かながらにゴールを逸れる。

「よし…って…嘘だろ…なんで…」
誰もが防ぎ切ったと思ったその瞬間に諦めていなかった人物が一人だけいた。
「なんであんたがそこにいる!?月岡恋鐘!!!」
「うぉぉぉお!!!」
ノーマークだった彼女がなりふり構わず突っ込んでくる。普通だったら間に合わないと諦めるほどの距離、しかし恋鐘は諦めない。
「うぁぁぁぁあ!!」
「間に合うわけない!早く!外に出して!!」

「あっ…」
あと一歩のところで恋鐘はこけてしまう。今日はずっとこんな感じだと、変に冷静に恋鐘は考える。
(でも…)
摩美々が繋いだ、咲耶が落として、霧子が決めようとしたボールが今目の前にある。
(これ決めれんかったら…)
「顔向けできんばい!!!」
もう足でも頭でもない。身体全身で転がってボールと一緒にゴールに入る。それはサッカーというにはあまりにも乱暴で、アイドルと言うにはあまりにも泥に塗れたゴールだった。

ゴールと同時に試合終了の笛が鳴り響く。それと同時に愛すべきリーダーの元にアンティーカは集まった。
「来てくれると信じてたよ」
「…恥ずかしいからやめてくれるー?」
「ふふふ、照れた姿も可愛いね」
「だからー…」
「摩美々ー!霧子ー!咲耶ー!ありがとーう!」
「ちょっと空気読んでくれるー?」
「ふふふ、恋鐘ちゃんの方こそ、凄いよ…私、感動しちゃった」
「まみみん、きりりんが抱きついてるのはいいの?」
「霧子は別枠なんでー」
「露骨な差!?」

抱き合うアンティーカを尻目に、夏葉は果穂に駆け寄る。
「果穂!!!」
「夏葉さん!!!あたし…あたし…」
「頑張ったわね…ええ、貴女は誰よりも頑張ったわ」
何も教えてもらえない。それを果穂が不満に思っているのはわかっていた。けれど巻き込むことはできなかった。それが樹里の意思だから。きっと自分が同じ立場でもそうする。そんな私たちの我儘にこの子は文句の一つも言わずについてきてくれた。
「ありがとう…ありがとう果穂…」
なんて素直で優しい子なのだろう。だからお願い。私の胸に隠れるように泣かないで。貴女は誰よりも強くて誰よりも大人だったのよ。

「お疲れ様」
「あさひちゃーん!凄かったじゃーん!さすが!!」
「冬優子ちゃん…愛依ちゃん…」
あさひが冬優子と愛依に会ったのはロッカールームから出た後だった。
「あんたにしては頑張ったじゃない」
「そんなこと言って、冬優子ちゃん、めっちゃ大声で応援してたからね」
「愛~依~?」
「うわぁ!?ごめんってばぁ!」
いつもと変わらない、どこよりも落ち着く場所。自分を受け入れてくれる場所。ここがあるから、この二人がいるから自分は『化け物』ではなく『人間』でいられる。

「…あさひ?」
「あさひちゃん?」
「え?」
「どしたの?だんまりして珍しくない?」
「…もしかして、何か言われたの?」
あぁ、これだ。この二人はいつだって自分を『天才』ではなく『歳下』で『中学生』で『守るべき存在』として扱ってくれる。だから自分はこの二人が大好きなんだ。

「…何にもないっす」
「それってなんかあった時の言い方っしょ!?」
「あんたね、そういうのは我慢しなくていいの」
「我慢はしてないっすよ」
言われた分は自分でやり返した。ただ一つだけ、今日はそんな気分になったから…
「あの…」
「ん?」
「どうしたのよ?」
「…笑わないっすか?」

「…笑わない」
「…うん、うちも笑わない」
その言葉を信じて意を決してあさひは言う。
「その…今日は…手を繋いで帰りたいっす」
「はぁ?」
「え?あさひちゃん、マジ!?」
「ダメ…っすか?」
「…誰がダメって言ったのよ」
「冬優子ちゃん!いいんすか!?」
「むしろそんなの普段からでも余裕っしょ?」
「愛依ちゃん!大好きっす!」
当たり前のように受け入れてくれる。自分がどんな無茶をしても追いついて追い越して、間違えていたら正してくれる。そんな二人が大好きだ。

「…笑わない」
「…うん、うちも笑わない」
その言葉を信じて意を決してあさひは言う。
「その…今日は…手を繋いで帰りたいっす」
「はぁ?」
「え?あさひちゃん、マジ!?」
「ダメ…っすか?」
「…誰がダメって言ったのよ」
「冬優子ちゃん!いいんすか!?」
「むしろそんなの普段からでも余裕っしょ?」
「愛依ちゃん!大好きっす!」
当たり前のように受け入れてくれる。自分がどんな無茶をしても追いついて追い越して、間違えていたら正してくれる。そんな二人が大好きだ。

「ほら、帰るわよ」
「はいっす!」
いつかは別々の道を行くのかもしれない。あさひ自身色々なことにチャレンジしてみたい。いつかストレイライトは形を変えてしまうのだろう。
「あっ!こら、あさひ!ぶら下がるのやめなさいよ!」
「まあまあ、冬優子ちゃん、あさひちゃん疲れてるから」
「そうっす!疲れたっす!」
「こいつ…」
けれど今は、もう少しこのままで。

「甜花ちゃん!今日凄かったよ!」
「うんうん、もうびっくりしちゃった」
「にへへ、甜花、頑張った」
アルストロメリアの三人だけの帰り道。影は二つ。試合で体力も頭脳も使った甜花は疲れ果てて甘奈におぶられているからだ。
「びっくりしちゃった!甜花ちゃんの言う通りにしたら簡単に抜けたから…」
「本当、凄いわ甜花ちゃん」
おぶられた甜花は照れくさそうに答える。

「うーん、それちょっと違う」
「え?」
「何が違うの?」
「だって、甜花の指示短いから…」
「え?そうかな?」
「最後なんて方向しか言ってない」
「あー、たしかにそうかも」
「でもわかってくれたのは…なーちゃんだったから」
「甜花ちゃん…」
「千雪さんも…絶対上手くいくって信じてた…」
「ふふ、ありがとう」

「樹里ちゃーん!トロフィーと得点女王の盾持ってきましたー!!!」
「約束は果たしたわよ!!!」
「ちょっ!?ここ病院だから!!」

「お、重い…」
「まみみん!?ちょ、離れてあげて!こがたん!さくやん!きりりん!」
「霧子は…いい…」
「徹底してる!?」

「ふんふふーん♪」
「えらくご機嫌ね…」
「今日は甘えん坊モードだねー」

こうして波乱のサッカー大会は幕を閉じた。

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