【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【7頁目】 (783)

このスレは安価で

乃木若葉の章
鷲尾須美の章
結城友奈の章
  楠芽吹の章
―勇者の章―

を遊ぶゲーム形式なスレです

目標

生き抜くこと。

安価

・コンマと選択肢を組み合わせた選択肢制
・選択肢に関しては、単発・連取(選択肢安価を2連続)は禁止
・投下開始から30分ほどは単発云々は気にせず進行
・判定に関しては、常に単発云々は気にしない
・イベント判定の場合は、当たったキャラからの交流
・交流キャラを選択した場合は、自分からの交流となります

日数
一ヶ月=2週間で進めていきます
【平日5日、休日2日の週7日】×2
期間は【2018/07/30~2019/08/14】※増減有

戦闘の計算
格闘ダメージ:格闘技量+技威力+コンマ-相手の防御力
射撃ダメージ:射撃技量+技威力+コンマ-相手の防御力
回避率:自分の回避-相手の命中。相手の命中率を回避が超えていれば回避率75%
命中率:自分の命中-相手の回避。相手の回避率を命中が超えていれば命中率100%
※ストーリーによってはHP0で死にます

wiki→【http://www46.atwiki.jp/anka_yuyuyu/】  不定期更新 ※前周はこちらに

前スレ

【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【1頁目】
【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【1頁目】 - SSまとめ速報
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【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【2頁目】
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【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【3頁目】
【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【3頁目】 - SSまとめ速報
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【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【4頁目】
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【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【5頁目】
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【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【6頁目】
【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【6頁目】 - SSまとめ速報
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陽乃「人として死ぬことが出来ないのよ」

歌野「それでも心は人のままでいられるわ」

歌野は問われて間も置かずに答えた。

まるで言われることがわかっていたかのような即答で、

当たり前でしょ? と笑みを見せる。

歌野「人の身体で死ぬか、人の心で死ぬか……私達は前者を取って後悔に苦しむくらいなら、この身を変えてでも後悔しない選択をしたいと思ったの」

それは明らかな自己犠牲だ。

分かっている

他人への奉仕にしてはいきすぎたやり方であることも。

しかし、そうでなければ手の届かない人がいる。

手に入れられないだろう理想がある。

だったら、本来、ただ食い潰されていたこの命を、この身体を

懸けてでも届かせようとすることに躊躇うことなどあるわけがない。

陽乃は自らを犠牲にし続ける痛みを知っていて

奪われる苦しみと悲しみを知っていて

成り代わることの意味を知っている。

だからこそ、陽乃がそれを他人に望まないと歌野は分かっている。

それでもなお踏み込んでいく人を見限ることはせず、

踏み留まらせようとすることも、歌野は分かっている。

けれど……そうしなければ得られないものを得るために

陽乃は自分をさらに傷つけていくことも、歌野は分かっている。

歌野「強くなければ久遠さんを救えない、でもそのためには久遠さんが望まないことをしないといけない」

歌野は、そう言って唇を噛んだ。

陽乃へと向けていた目線が下がり、躊躇いの色が滲む。

歌野の思いと、それを否とする陽乃の思い。

どちらも否定出来ないひなたは心配そうに歌野を見守る。

そして、短い沈黙を歌野が破る。

歌野「……久遠さんが、ちゃんと協力してくれるならせずに済むかもしれないけれど」


元々、歌野が宇迦之御魂大神様の力を借りるようになったのは、

その時は陽乃か歌野かしか選択肢がなかったにしても、

陽乃一人でほぼすべてを請け負おうとしていたからだ。

球子と杏が合流してからもそれは変わらなかったし、

四国に戻ってくることが出来ても、変わらなかった。

だから、より力が必要になってくる……というのも、歌野が譲れない理由となっている。

その態度を変えて、

少しは……

そう、プライベートまでもとは言わないから、

せめて、戦闘においては少しくらい協調性を持ってくれでもしたら、

もしかしたら、その一歩を踏みとどまっていることが出来るかもしれない。

若葉達は、単体の戦力としては陽乃に及ばないとしても、

団結していれば、陽乃にも勝る力を発揮することが出来るはずだし、

そこに歌野と陽乃が加われば、完成型だって比較的安全に対処することが出来ることだろう。


歌野「もちろん、久遠さんにとってそれが難しいことだって分かっているわ」

対人関係であれだけ嫌な思いをして、

それでもなお、周囲を信じその背中を預け、命を預け、

戦いに身を投じて欲しいだなんて、普通であれば言うべきことではない。

陽乃はそれが嫌だから誰もかれもを突っ撥ねているわけで。

その心を知らないならともかく

知っている歌野としては、口にするのもはばかられる。

けれど、それを変えて貰えれば。と、思いもする。

歌野も水都も、命を懸けるのは構わないが、

それで救いたい相手がそれを望んでいないし、避けられるなら避けるべきだとも考えていて、

その為には、たぶん、克服は必要不可欠だ。

歌野「……今すぐみんなと。とは言わないわ。難しいし、きっと、無理だろうから。だけど、乃木さんは良い人よ。伊予島さんも、土居さんも、高嶋さんだって」

歌野はそこで言葉を切ると、

小さく「郡さんは」と呟いて困った顔をする。

歌野「郡さんは少し手を付けがたいけれど……でも、郡さんだって勇者よ。だったら、きっといつかは分かり合えると思うし、私がその手伝いをするわ」

だから。と、歌野は続ける。

歌野「どうかしら。私も妥協する。久遠さんも妥協する。互いにそれでひとまず納めてみるのは」

それがだめなら、やっぱり命を懸けてでも。と、歌野は脅すように零した。


1、お断りよ
2、無理よ。私には出来ないわ
3、後ろから切り殺されるのは嫌よ。だから、そこには貴女がいなさい
4、それは誰の入れ知恵なのかしら
5、驚いた……貴女はそんな悪知恵が働かない人だと思っていたのに

↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

なんかさ
今までずっとほぼ毎日スレ覗いて感想書いてたんだけど細かいところで不満溜まってきてさ
安価スレなんて安価が全てだと思ってるし、愚痴なんて言いたくないから今もうスレ毎日開くのも辞めて少し前からROM専で週一でまとめて読むようにしてるんだけどさ

歌野「久遠さんを助けたいから神様と契約するね」

陽乃「神様と契約とか危ないから辞めて!」

歌野「久遠さんの助けになりたいだけだから今までとちがって協力してくれるなら契約しなくてと済むと思う、妥協して」

陽乃「お断りよ」

なにこれ?
もう割とマジで情緒わけわかんなくて……
陽乃斃死RTAでもやってんの?


こういう風に愚痴りたくなかったのに結局我慢できず好き勝手に吐き出してしまって>>1には申し訳ない
空気悪くしたくないし精神衛生上よくないので今度はもっと長い間離れて、またいつかまとめて読みに来ます
スレ汚しすいませんでした

では少しだけ


陽乃「お断りよ」

歌野の言い分は正しいと思うし、

最良を取るためには変化が必要だろう。

それで本当に命を懸けずに済むのかという点には頷くことは出来ないまでも、

それを先延ばしにして時間を得ることは出来るはずだ。

それでも陽乃は拒む。

陽乃「他の誰にも私の命を預ける気はないわ。いつ裏切るかも分からない他人に身を委ねるくらいなら、命を削ってでもどうにかするつもりよ」

明日死ぬかもしれないが、

今日は生き延びることが出来る。

それで良い、それで十分だ

誰かに頼らなければ生きていけないなんて、そんなものに執着する気はない。


歌野「そう……」

歌野は落ち着いた様子ではあったものの、もの悲し気な雰囲気を感じさせる。

ひなたや九尾、もしかしたら水都も。

いずれかであれば、

さっきの流れは図り事であって、望む答えを貰おうと画策していた可能性もあった。

しかし、歌野だ。

陽乃がそうであるように、

それ以上に内部を曝け出された状態である歌野は、それが出来ない。

そんな副作用がなかったとしても、その器用さを持ち合わせていないから、出来ないだろう。

この提案は歌野の本心で、願いだったはずだ。

歌野「残念だわ。良い妥協案だと思ったのに……」

歌野はそう言いつつも、陽乃が拒む可能性があることも重々承知の上だったようで、

口元をくいっとまげて笑みを浮かべる。

同じように曲がった眉が、その感情を晒していた。

歌野「私やみーちゃんのことを体の一部と思ってくれたって良いのに」

陽乃「馬鹿なこと言わないで」


不本意ながら心が通じ合ってしまっているし、

隠し事のできない深いつながりを考慮すれば、一心同体は偽りないだろう。

しかし、それはそれ、これはこれ。

意に反する要求をしてくる体の一部なんて、たまったものじゃない。

陽乃「寝首をかかれそうで夜も眠れなくなるわ」

歌野「そんなことしなかったじゃない。バスの中で。いつだって、久遠さんのことを見守っていたわ」

する気があればすることが出来た。

いつだって。

無意識にそうしたわけではないが、陽乃は致し方なく無防備だった。

その分、凶悪な守り人がいたものだから、

手を出す気が合っても取り殺されるだけだったろうけれど。

歌野はそうしなかったし、それどころか下手に力を手に入れていた。

歌野「久遠さんを傷つけるようなことは……」

歌野はそこで区切ってはっとする。

歌野「ちょっとだけ、しちゃうけど」

今も。と、含んでいそうな視線を向けてくる歌野から目を背けて、陽乃は口を開く。

陽乃「私が貴女を連れてきたのは背中を預けるためでなければ、心を通わせるためでもなく、単に戦力の1つとして使えると考えていたからよ」

歌野「それは頼ってると考えてもいいんじゃないかしら」

歌野はそう言って、鋭い視線を感じて肩をすくめるような素振りを見せる。

見せただけで、体はぴくんっと跳ねただけだった。

歌野「……良いでしょ? 思うだけなら。自由じゃない」

陽乃「口にさえしなければ捉え方は自由よ」


戦力的に見れば、陽乃から借り受けている力がなくても歌野はトップクラスの実力者だ。

底上げする神々の力があるから陽乃の方が上と言うだけで、

全く同一であれば、陽乃よりも歌野の方が上回っていると言えるほどに。

それだけ、3年間最前線で戦い続けてきた歌野の戦闘能力は極まっている。

それを戦力に加えて、自分の生存率を上げたいとしていた陽乃だが、

言い換えれば、歌野の力を当てにしていたと言えるし、それを頼りにしているとも言える。

もっとも、陽乃は断固として認めないが。

歌野「命懸けで連れてきてくれたから……それだけ頼れる戦力だって胸を張るつもりだったのに」

陽乃「実力は認めるわ。でもそれだけよ。私にとってはただの戦力の1つでしかないわ」

歌野「でも、久遠さんが命を懸けてくれたことに変わりはないわ」

陽乃の細まった視線を真っ向から受ける歌野はほほ笑む。

そこにどんな思惑があったって、

命懸けで諏訪に足を運び、人々を連れ出してくれたという結果は変わることがない。

陽乃はああだこうだと言うし、認めないし、拒むけれど。

だとして、その功績に何か違いがあるのか。

こちら側でどれだけの悪態をつかれていようが、

意思を勘繰らせるほど、ここにたどり着くまでの極限の状態で見せた姿は軽くなかった。

歌野「たとえそれで、本当に嫌われるとしても……私は出来る限りの手を尽くすわ。これは私の意思よ」

宇迦之御魂大神様との同調による、精神的な影響ゆえの思想ではないと、歌野は否定する。

歌野「だって、放っておけないもの」

√ 2018年 10月06日目 夕:病院

↓1コンマ判定 一桁

1 球子
3 友奈
7 杏
9 侵攻

※そのほか、水都


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はおやすみとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

では少しだけ

√ 2018年 10月06日目 夕:病院


意見の対立が起こっている陽乃と歌野だが、2人が使う病室はさほど空気が悪くなったりはしていなかった。

歌野の提案のことごとくを突っぱねた陽乃は、

普段は我関せずといった姿勢を貫いているため誰かがいようと基本的には黙々としている

そして、歌野は陽乃がどんな思いで拒むのかを知っていることもあり、

陽乃の姿勢に対して苛立ったりはしていないからだ。

むしろ「やっぱり」と理解を示してさえいる。

とはいえ、だ

どちらも一理あると思うひなたはどうにかならないものかと、頭を悩ませる。

陽乃が周囲を頼りたくないのは現状を考慮すれば無理もなく、

歌野が命を懸けてでも陽乃を助けたいと考えるのも、陽乃が成し遂げたことを思えば分からない話ではない。

ひなたはせめて妥協を……と逡巡し、病室の扉が叩かれた音にはっと顔を上げた。


陽乃一人であったときと同様に、

歌野が加わっても日中の施錠はされていない。

本来なら陽乃達の身分上、されていてもおかしくはないのだが、

わけあってそれが出来ないからだ。

そのため――

球子「……起きてるなら返事くらいしてくれよな~」

数分程度の間をおいて入ってきた球子は様子を伺ってぼやく。

歌野はまた休息に入っていたが、起きていた陽乃は目線を上げると、喉を擦る。

球子「調子が悪いのか?」

陽乃「居留守が使えると思って」

球子「……わざわざ会いに来たんだぞっ」

陽乃「頼んでないし」

球子「……病室変わってるし、聞けばお会いになることは出来ません。とか言われるし」

陽乃「色々あったのよ。話はどうせ聞いているんでしょう?」

陽乃がそう言うと、球子は「まあ……」と言葉を濁す。

球子にも、千景との一件はしっかりと伝わっているようだ。

もしかしたら、病室が変わっているという話を聞いてから詰め寄ったのかもしれないが、

いずれにしろ、あれを耳にして、一応は気遣っているらしい。

陽乃「心配なら要らないわ。帰って頂戴」

球子「なんだよ、冷たいな」

相変わらずの陽乃の態度

だからこそ、普段通りだと思ってか

言葉に反して安心したような表情を見せる球子は、眉を潜めて困り顔を作る。

球子「でもそうはいかないんだよな~……杏が心配だからって聞かないんだ」

陽乃「……」

一瞬、きょとんとした陽乃は視線を斜めに下げると、

はっとして息をつく。

陽乃「伊予島さんね。生きてたのね」

球子「勝手に殺すなっ生きてるに決まってるだろっ」

まだ万全とはいえないが、目は覚ましたし、少しは会話できるようにもなっていると球子は嬉しそうに語って「なのに殺されそうになったとかありえないだろ」と、球子は不服そうに零す。


1、私に言わないで頂戴
2、藤森さんとは会った?
3、高嶋さんとは会った?
4、貴女も私を殺そうとする可能性があるけど。
5、貴女、白鳥さんをどうにかする気はある?

↓2

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日もおやすみとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

遅くなりましたが、少しずつ


陽乃「貴女、白鳥さんをどうにかするつもりある?」

球子「はぁ?」

何が言いたいのか意味わからん。と、素っ頓狂な声を漏らした球子は、

振り返って、すやすやと寝息を立てている歌野を一瞥し、陽乃を見て顔を顰める。

球子「殺す気は……ないぞ?」

陽乃「どうしてそうなるのよ。そんなこと言ってないじゃない」

球子「いや……えー……」

陽乃は、どう聞いてもそういう流れだっただろと抗議の姿勢を見せる球子を無視すると、

心配そうな視線をぶつけてくるひなたを見て、息を吐く。

陽乃「あの子。死ぬ気なのよ」

球子「あー……」

陽乃「知ってると思うけど、白鳥さんの力は私と同じように多大な代償を伴う神々の力。だから、それをより活用するためにはその命でさえも糧としなければならない」

ただ体が傷つく、侵されるというものではなく、

命――つまりは、魂そのものを贄としなければならないと陽乃は言って。

陽乃「あの子はそれでも、その先に踏み込もうとしている。人間を辞めようとしているのよ」

黙って陽乃の話を聞いていた球子は、暫く間が空いたのを終わったと判断したらしく、

大きく息を吐いて「あのさ」と渋い顔で口を開いた。

球子「ぶっちゃけ、タマには難しい話はさっぱりだ。遠回しだとか、比喩? だとか、なんだ。まぁ良く分からないことされても困る。そういうのは杏にやってくれ」

杏にしか分からん。とまで言い切った球子だったが、

だから間違ってるなら間違ってるって言ってくれと、続ける。

球子「歌野は、陽乃を助けたいからってそんなことしようとしてるんだろ?」

陽乃「そう言っていたけど」

球子「歌野は、陽乃に死んでほしくないんだろ? 命を大切にして欲しいんだろ?」

陽乃「……ええ」

言い聞かせて、自覚させようとでもしているのか。

陽乃は怪訝な表情を浮かべて、けれど、球子がそんな心理的な技を持っているわけがないと、息を吐く。

陽乃「何が言いたいの」

球子「何って、間違ってないか確認したかっただけだぞ」

陽乃「なら間違ってないわ。それで? だから?」

球子は「急かすの止めろ」と不満げに唸る。

球子「歌野が本気ならきっとタマには止められない。歌野が命を懸けるのを止める気があるのかと言われれば、止めたいとは思うが、止められるのはタマじゃない」

球子はそれを自覚しているから、あえて陽乃に告げる。

これについては助けを求められても困るのだ。どうしたって、その信念は曲げられないだろうから。

止められるとしたら――

球子「陽乃は歌野がどうしたら命を懸けなくなるんだ? そんなにボロボロになったりしなくなるんだ? 一番命を削ってるのは、他でもない陽乃じゃないか……自分が歌野に求めてることを自分でやれよ」

それは陽乃だけだろうと、球子は訊ねた。


球子「タマには難しいことは分からないし考えられないし言えない。だから、タマに言えるのはそれだけだ」

でもそれで十分なはずだし、

それでもだめだったなら、球子には力になれることなんてないはずだ。と、

自嘲するでもなく真面目に言い切って。

球子「そもそもこういう超真面目なやつはタマじゃなくて杏の方が適任だぞ。あとは、ひなたとか」

千景は言わずもがなで、友奈は感情が大きく出そうだし、

若葉は真面目だが、真面目過ぎて逆にこういった話には向かない。

だから、杏かひなたなのだろう。

球子「で、どうなんだ? 陽乃はどうして欲しいんだ?」

陽乃「私と白鳥さんは違うわ」

球子「一緒だぞ。タマには同じにしか思えん」

杏達は違うと言うかもしれない。

だがそれはそれとして、球子にとっては似た者同士なのだと言う。

歌野をどうにかする気はあるのかという問いは、

球子にはするべきではなかったのだろうか。

球子自身、こういった話には不向きだと自覚しているようだったし、

相手を間違えたかもしれない。

下手に命懸けで居られても困るからとはいえ。

陽乃「……」

球子「そんな難しいこと聞いたか? それとも、言いたくないようなことなのか?」

純粋に、ただ不思議そうに聞いてくる球子から、目を伏せる。

陽乃が歌野に求めているのは、命懸けを止めること。

けれど球子が聞きたいのはそうではなくて、

陽乃が歌野に、そして周囲に求めていることだ。


1、特に何も求めてないわ
2、関わらないで欲しい
3、言うようなことじゃないだけよ
4、私は裏切られたくないのよ
5、死ななければそれでいいわ。利用できなくなるもの


↓2


陽乃「私は裏切られたくないのよ」

球子「なら平気だろ。どう考えても裏切らないし」

というか。と、球子は言って。

球子「裏切る相手のために命を懸けるような奴がいるわけないだろ」

ひなた「そうですよ。絶対にありえません」

球子「事情があるのかもしれないけどさ、命を懸けるとまで言ってるんならちょっとくらい信じてやればいいじゃん。そうしたら、ちょっとくらい突っ走るのを止めてくれって願いくらい聞いてくれるかもしれないし」

陽乃「人の気も知らないで」

球子「知るわけないだろ。陽乃が言わないんだから」

けれど、歌野は知っている。

陽乃の事情も知っているし、気持ちも知っているし、

命を懸けるつもりだと言った時の内面だって、歌野は分かっている。

球子達とは違って、歌野と陽乃の繋がりはとても深いからだ。

それでも歌野は命を懸けるつもりだと言っていた。

いや、だからこそ人の道を踏み外さなければならないと言っていた。

そうでなければ、陽乃に付いていける人は1人もいないだろうから。と。


でもそれは、陽乃が信じているかどうかは関係なく、

陽乃と歌野の力の繋がりによって、副作用的に起きた影響でしかない。

そこに信頼はなく、

陽乃が歌野を信じているということにはならない。

それでも、歌野は。

陽乃「……それで変わるとは思えないわ」

球子「何言ってんだ」

陽乃「仮に白鳥さんが裏切るような人ではないとして、私が信じてあげると言ったとしても、命を懸けないとは思えないわ。むしろ、命懸けだから信じて貰えるだなんてわけのわからない考えをし出すかもしれないじゃない」

球子「……何言ってんだ」

球子は同じ言葉を、ニュアンスだけ買えるように表情を歪めながら繰り返す。

陽乃「何よ。不満そうね」

球子「不満ていうか……アレだ。馬鹿だろ」

陽乃「貴女よりは賢いつもりなんだけど」

球子「賢いから信じてもないくせに信じたらこうなるって言いきれるのか?」

それで命かけられたくないのに懸けられてるんだから馬鹿なんだよ。と、

球子は臆せず、あからさまに馬鹿にして吐き捨てる。

球子「歌野がそうして欲しいって言ってるならしてやれよ。それもしてくれないくせに、自分の要求は通したいとか、タマでも言わないぞ」

陽乃「……馬鹿でも言わない。ね」

球子「おいっ」


陽乃は茶化すように言ったが、

球子が言っていることも別に間違っている話ではないとは思っていた。

相手の要求は聞き入れないが、自分の要求は押し通そうとする。

それでは対立するだけだし、相手だって押し通そうとしてくる。

どちらかが妥協する必要があって、

けれど、普通ならどちらだって可能な限り妥協したいわけがなくて。

球子「なんだって良いけど、歌野はたぶん引かないぞ」

陽乃「どうしてそう言い切れるのかしら」

球子「そりゃぁだって――」

球子は、まるでそれが当たり前で、

避けようのないものであるかのように、断言する。

球子「――じゃなきゃ死ぬだろ。陽乃が」

陽乃「そうとは限らないわ」

球子「まだ生きてるってだけで、死んでもおかしくなかった。だから無茶するんだよ。みんな」

球子はそう言って、常に持ち歩いているらしい、楯を持ち出す。

球子「何かを守るためにどうするかって考えれば、そりゃ、体を張るしかないからな。タマはそれをよーく分かってんだ」

√ 2018年 10月06日目 夜:病院

↓1コンマ判定 一桁

0 歌野
2 若葉
4 ひなた
6 友奈
8 水都

ぞろ目 特殊

√ 2018年 10月06日目 夜:病院


歌野が良く眠るのは、陽乃と同じ理由だ。

体だけでなく、魂そのものを消耗している為、

そうしていなければ回復することが難しくなるからだ。

それに歌野の場合、陽乃を治癒する力を使い続けており、

諏訪の結界を維持し続けている陽乃と同様に回復が遅い。

陽乃はこれでようやく、通常に近い回復力を得られた。というのが辛いところで、

だからだろう。

九尾はその"諏訪の維持"を好ましく思っていない。

歌野「……昼夜逆転するって、意外に辛いわ」

陽乃「夜も眠れるでしょう。心配いらないわ」

眠くなるのではなく、眠ってしまう。

それが今の陽乃達だ。

歌野「今までは農作業で早起きだったのよ。それが、気付いたらもうお昼手前だったり」

陽乃「それが嫌ならやめることね」

歌野「またそう言う意地悪を言うんだから」

歌野は呆れたように言うと、陽乃の隣に目を向ける。

歌野「私がいるから、上里さんは先に眠っちゃっても平気よ」


ひなた「……いえ、もうしばらくは」

陽乃と歌野を見ている為か上体を起こしているひなたは、うつらうつらと時折体が揺れている。

返答も、少しばかり時間がかかっているのは眠気のせいだろう。

陽乃「夜泣きする赤ちゃんに付き合っているならともかく、私達は中学生よ」

歌野「そうそう。心配せずに休んで平気よ。大丈夫」

意見が対立している2人だが、

殴り合いするような体の状態ではないし、

どちらも、互いの心持の理解はある。

であれば、千景と陽乃のような酷いことになったりはしない。

特に歌野がそれをしない上に、陽乃はやられなければやらない質だ。

ひなたが仲裁に入るべく待機している意味はない。

ひなた「本当に問題はありませんか?」

陽乃「その気遣いは不愉快よ」

ひなた「……すみません」

ひなたはそう言いながらも笑みを浮かべて横になって

数分もせずに、粛々とした寝息を立てる。

歌野「ほら、上里さんも久遠さんを信頼して眠ったわ」

陽乃「それは余計な一言よ。覚えておきなさい」



1、それで? 考えは変わった?
2、こうして寝ていれば、貴女もこの子も静かでいいのに
3、良いわよ。妥協してあげても
4、貴女、土居さんとは仲が良いの?
5、私には、貴女達の記憶だって弄る力があるのよ


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から

別端末ですが、少しだけ


陽乃「貴女、土居さんとは仲が良いの?」

歌野「土居さん? そう、ねぇ……」

歌野は逡巡するように呟いて、こくりと頷く。

歌野「仲良いわ。久遠さんと一緒に諏訪に来てくれたこともあるし、こっちに来てからも関わることが多かったから」

今は入院中のために、関わりがないように思えるが、

こうなるまでは命懸けの戦いに一緒に赴き、共闘していた。

陽乃と違って、信頼しあって。

歌野「だけど、それが何かあるの? もしかして」

陽乃「違うわよ。嫉妬なんてする理由がないわ」

歌野「そうかしら」

陽乃「そうよ。貴女が納得いくかどうかなんて関係ないわ。それが事実だから」

ベッドは離れていて、歌野の声はそんなに大きくない。

それでも十分に話が出来るのは、通じ合っているからだ。

先読みするように答える陽乃に、歌野は苦笑いを浮かべる。

陽乃「ただ、土居さんは貴女に肩入れしているようだったから気になったのよ」

歌野「肩入れって、志を同じくしているだけじゃないかしら。私も土居さんも守りたいものがある。だから、シンパシーを感じちゃって、不思議と同じ答えにたどり着くのよ」

陽乃「味方するように事前にお願いしておいたんじゃないの?」

歌野「えぇ……」

陽乃「疑り深くて良いじゃない。馬鹿みたいに信じるよりよほどいいわ」

歌野「もう……」

口にはしてなかったじゃないと内心に浮かべる歌野を一瞥して、陽乃はため息をつく。

心を読んで答えるなら、もういっそそれで会話してやろうとでも言っているかのようだ。

それでも確かに出来てしまうのが2人ではあるけれど。

陽乃は口を開く。

陽乃「副作用よ。諦めなさい」

歌野「恩恵って言わなきゃ」

陽乃「副作用」

歌野「腹に何か抱えているか分かるからいいことでしょ?」

陽乃「伊予島さんの受け売りだなんて、やっぱり信用ならないじゃない」

歌野「どうしてそうなるのよ、もう……意地っ張り」


呆れる歌野は、

けれどもやっぱり、志が同じだからと、繰り返す。

杏の受け売りはともかくとして、そこは間違っていないと思っているようだった。

歌野「私も守りたい。土居さんも守りたい。だから、肩入れしてくれる」

陽乃「……そう」

歌野「だから、土居さんのことを敵視したりしないで」

陽乃「別に敵視はしてないわよ。ただ、それが気に喰わなかっただけよ。貴女は本来なら、勇者達のリーダーに抜擢されていたはずだし、人心掌握にも長けているだろうから」

歌野「そうかしら」

陽乃「ええ」

歌野は間違いなく、人心掌握に優れている。

でなければ、3年間も、あの救いのない場所でみんなを取りまとめることなんて、不可能だからだ。

歌野だけしかいなかったとしても、

徐々に追い込まれていく中で、反発されることはあったはずだし、

四国と違って、大社のような大人の組織の助力もなかった諏訪では、初動の時点で乱れてばらばらになっていてもおかしくなかった。

だけど、そうはならなかった。

まとめ上げ、3年間も守り続けた。

それは実績として確かに存在し、疑いようのない実力である。

陽乃「でも、郡さんを制御できなかったから、やっぱり信頼は出来そうにないわね」

歌野「それはそうだけど、取り付く島もなかったわ」


千景は、自分の立場を奪いかねない歌野に対しても敵意が強かったため、

歌野が仲良くできるような状態ではなかった。

友奈が多少はフォローをしてくれていたけれど。

仲良くできているなんてものではなかったのだ。

歌野「私も仲良くしたかったけど……」

陽乃「でしょう? だから信用ならないの」

歌野「採点が厳しいわ。99点でも叱りそう」

陽乃「そうよ。嫌なら諦めたら?」

99点だとしても、100点ではないから失格。

それ以外は認めないと言う陽乃に、歌野はまた困って、息を吐く。

歌野「土居さんは、大丈夫かもしれないけど、伊予島さんや高嶋さんは命を懸けてしまうかもしれないわ」

友奈は、歌野以上にそういう方に傾倒しやすい性格だし、

杏は、もう。

陽乃「自分では通じないからって、他人を使うのね」

歌野「そんなつもりはないわ。ただ、そうでしょう?」


1、だったらそう出来るだけの実力を示せばいいのよ
2、知らないわ。勝手にしたらいいのよ
3、まぁ、そうね。で、だから?
4、貴女が加わったなら、一人くらい死んだって問題ないわ


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はおやすみとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ


陽乃「だったらそう出来るだけの実力を示せばいいのよ」

歌野「……命を懸けるのは?」

陽乃「それは、どういうつもりで聞いてるのよ」

歌野「強ければ良いのかなと思って」

冗談のようなことを聞いてくる歌野を睨むように見つめると、

歌野は「だと思った」と、苦笑する。

本気だったのか冗談だったのか。

どちらにしても、陽乃の答えが分かり切ってはいたのだろう。

歌野「ええ、分かってる……久遠さんが本当に求めているのは、そういうのじゃないって」

陽乃「だったら」

歌野「でも、出来ないことだってあるわ。ううん、出来ることがあるからこそ、それをせずにはいられないことだってある。そうしなくちゃ、守りたものも守れないのなら、なおさら」

陽乃「私は守って貰いたいなんて思ってないし、守ってもらうほど弱くない」

歌野「違うわ。強すぎるから、守るのよ。強すぎて、何でも出来ちゃうから……」

だから、何でも自分でやろうとしちゃうんだもの。と、

歌野は困ったように吐露して、息を吐く。

少しだけ、辛そうだ。

歌野「少しくらい、肩の荷を預けられる場所にいてあげたいなんて思うの」


その為には、今のままでは力不足なのだと歌野は言う。

あれもこれも、陽乃は役不足でありながら拾い上げて行こうとする。

後からついてくるみんなに任せちゃえばいいのに、

出来るからってあれもこれも……どんどん拾い上げて行く。

歌野「久遠さんはそれ、嫌いだと思うけど」

陽乃「分かっているなら止めたらいいのよ」

歌野「久遠さんが止まってくれないから」

それが悪いとは、歌野は言わなかった。

むしろ、それに追いつくことが出来ていない自分が悪いとさえ思っていたりもする。

陽乃にはそれが伝わってきていて、

けれど、だからと優しい言葉をかけたりはしなかった。

陽乃「貴女がとろくさいのよ」

歌野「ふふっ、厳しい……でもだから、命でも懸けなきゃとか思っちゃったり……なんて、言い訳だわ」


自分が最強だなんて、うぬぼれたことはなかった。

諏訪では、そう言って胸を張っていなければみんなを不安にさせてしまうから頑張っていたけれど、

ここに至ってまで、そんな無理をする必要はないだろうと歌野は思っている。

陽乃屋、若葉達は諏訪を3年間も守ってきた実績があるだなんて言っているけれど、

だとしても、歌野はある程度の実力があるだけだとしか思っていない。

今、陽乃に次ぐ戦力として考えて貰えているのは、

その陽乃の力を借り受けているからに過ぎないと、思っていた。

だから、歌野は嘲笑するように笑う。

どうせ、その心の内だって……隠せてはいないだろうからと。

歌野「私が弱いのは良く分かってる。だから、宇迦之御魂大神様の御力を借りたんだもの。それでも足りないから私は手っ取り早く強くなろうとしてるだけ。野菜の品種改良をするみたいに」

それは陽乃が嫌いなことだ。

陽乃は、本人に力があるかどうかなんて全く求めていない。

自分でどうにでもできてしまうから、相手に求めていることはただ一つ。

抗おうという気概があるかどうか。

武器を手に立ち向かえなくたっていい。

背中を向けて、全身全霊で逃げようと、生きようと。

そうするだけの力があるのなら、それで十分だと考えている。

もちろん、そんなことは言わないけれど。

歌野「……久遠さん。体が治ったら、勝負しましょ」


本気で殺し合うわけではなく、模擬戦をするという程度。

神様の力を使うのはなしで、純粋に力の勝負。

陽乃と歌野が使える同質の力のみでの模擬戦

それでも勝てる保証はない

だけれど、勝ちたいとは思っている。

勝たなくちゃいけないと思っている。

バーテックスにどれだけ対抗できるかなんて、証明にはならない。

完成型のバーテックスを圧倒できるかどうかなんて意味がない。

それは結局、神様の力を使ったものだからだ。

歌野「私が勝ったら、お願いを聞いて」

陽乃「貴女が負けたら?」

歌野「その時は……久遠さんのお願いを聞くわ。もう二度と、助けるな。なんてお願いだって聞いてもいい」

自分で言いつつ、とても嫌そうな顔をする歌野の心には、

そう言ってでも自分を追い詰めて、勝とうとする強い意思が感じられた。

歌野「だから、まずは体を治しましょ。ね?」

√ 2018年 10月07日目 朝:病院

↓1コンマ判定 一桁

0 友奈
2 侵攻
4 水都
6 若葉
8 大社

ぞろ目 特殊


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが、本日はお休みとさせていただきます。
明日は可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ

√ 2018年 10月07日目 朝:病院


歌野が一緒にいるため、1人でいたときよりも回復が早い。

そのおかげか、目を覚ました時の体の重みがなくなって、ほんの少し、快適に思える。

正面のベッドではまだ歌野が眠っていて、

同じベッドでは、ひなたが隣で寝息を立てている。

少しずつ治りつつある身体を確かめるように、目を瞑って神経を張り巡らせていく。

陽乃「……ん」

指先だけでなく腕にも力が入り、

まだ歩くには遠そうだけれど、足も少しは動かせそうだ。

歌野からの力の供給があるだけでここまで変わってくるのだから、

その繋がりさえ確保できればと言う前提はあるものの、

勇者を補助する巫女と言う存在は、

とても、重要なものになってくると、陽乃は目を開く。

死の危険は、歌野と同様にある。

だが、それでもと……水都もひなたも望んでいる。

そして、それを陽乃は良しとした。

ならどうして、歌野にそれを良しとしないのか。

陽乃はどちらも同じものなのではと、頭の中では、考える。


歌野は、陽乃が拒んでいたって本当に命を懸けるだろう。

それを望んでいないと知りつつも、絶対に必要だと確信しているからだ。

陽乃は歌野に人外になってもいいのかと尋ねたが、

歌野も承知の通り、陽乃自身がすでに人外に踏み込んでいる。

だからこそと、歌野は言っているわけで。

どちらも妥協しなくたって、平行線のまま停滞することはあり得ない。

ならばせめて、最低限度の現状維持を出来る方法を選ぶべきだろうか。

その意志がない限り、歌野はすでに戦いでは死なない体だ。

それを思えば、すでに歌野は一線を越えているとも言えるが。

陽乃はそう考えて、眉を潜める。

けれど――一緒にいたいからだなんて理由は駄目だ。

そんな言葉は嫌いだし、そんな思いも大嫌い。

陽乃は、利益を感じない感情論なんて、信じる気はなかった。

歌野は寝ているし、ひなたも寝ているし、

かといって自由に出歩ける身分でも体でもなく、

暇を持て余している陽乃は、ふっと息を吐いた。



1、ひなたを起こす
2、九尾の力を借りて移動する
3、九尾と交流
4、水都を呼ぶ
5、イベント判定


↓2

所用で更新できなくなっていましたが、問題がなければ明日の通常時間で再開いたします
ご心配おかけしました

遅くなりましたが少しだけ


当然と言うと歌野は本来なら……と、

無駄に張り合おうとするが、今はひなたの方が起きるのが早いため、

歌野が起きる前に、水都を呼ぶことを伝えておく。

ひなたは水都のことを覚えているが、水都はひなたのことを覚えていない。

水都が自分から情報が漏れてしまうことを気にして、

ひなたが陽乃のそばにいるという記憶を消しているからだ。

その為、ひなたが水都に会わないようにしたい可能性もあるし、

逆に、また会いたがる可能性もある。

ひなたは少し考えて、心配そうに陽乃を見る。

ひなた「そうしたら、また記憶を消すんですか?」

陽乃「今回は白鳥さんもいるから」

ひなた「消さない?」

陽乃「消せないが正しいわ。別に邪魔されるわけではないけれど」

力の行使を阻むことは不可能だが、

それをした場合に起こり得ることは、今の意見の対立以上に面倒だ。

陽乃「それに……白鳥さんのサポートをさせるために呼ぶんだから、貴女が関わらないのは不可能よ」


ひなた「白鳥さんには命を大切にすることを望むのに、私達には許可をしてくださるんですか?」

陽乃「勇者は戦力として困るけれど、巫女は別に大差がないから」

ひなた「……酷い言い方ですね」

陽乃「事実を言っているだけよ。それに、消耗品は消耗品だわ。それが高級かどうかって違いしかない」

粗悪品よりはマシでしょう。と、

陽乃は苦笑しながら言って、ひなたから目を逸らす。

陽乃「長持ちさせるには、その為の道具を使うべきだし、それもやっぱり消耗品だもの」

ひなた「久遠さんは私達を道具のように扱うことなんて――」

陽乃「役に立つか立たないか。それだけで評価されるのなら、それは道具と変わりのないことだわ」

ひなた「……」

ひなたは眉を潜めて、けれど、口を閉ざす。

陽乃が離れてからそうかからずに大社預かりとなったひなただが、

だとしても、世間の評価と言うものは多少なりと耳にしている。

そもそも、大衆の総本山とも言える大社内部でも、そう言った扱いが全くないとは言えないからだ。

陽乃「だから滑稽なのよ。郡千景も、白鳥歌野も」

ひなた達も同じように命を懸けようとしているが、

それは歌野とは似て非なるものだから、断固拒否することはしない。

陽乃「自分の命の使い道はもっと、有益であるべきなのよ」


ひなた「それは……」

それは、久遠さんの言えることですか。と、

ひなたはそこまで言わなかったが、

言われなくても、陽乃は言葉を察して薄く笑みを浮かべる。

陽乃「私は私にとって最も有益な使い方をしているのよ。貴女と同じで、あの子とは違う」

ひなた「白鳥さんも、同じだと思います」

ひなたは静かに言う。

声を張ることは出来るが、それでは歌野を起こしてしまうかもしれないし

感情的になるべきではないと自制しているからだろう。

ひなた「白鳥さんにとっては、最も有益な使い方なんだと思います。もちろん、命を懸けなくても済むのなら、それが一番かもしれませんが」

若葉達もそうだが、

精霊の力を行使していること自体が、命を削っているに等しいもので、

その上位に当たるだろう神々の力は、より大きく消耗する。

だからこそ。と、ひなたは思って。

ひなた「久遠さんは、久遠さんが思っている以上に価値があるんです。特に、白鳥さんにとっては」

陽乃「眼識がないのよ。もう少し、世界をする方が良いと、教えてあげなさい」

まるで聞いていない陽乃の返答に

ひなたは「また……」と、呆れたように息をついた。


では短いですがここまでとさせていただきます。
明日も可能であれば通常時間から

このまま水都交流

すみませんが本日は、お休みとさせていただきます
明日は可能であれば少し早い時間から

遅くなりましたが、少しだけ



水都「う……上里さん!」

ひなた「……はじめまして」

水都「や、やっぱりここに……」

思っていた通りだって言うように陽乃の方に目を向けてきた水都に、

陽乃は苦笑いを浮かべる。

記憶を消されているだけで、

本当なら知っているはずなのに、

初対面としての反応をするしかなかったひなたは少し、心苦しそうに顔を顰める。

ひなた「藤森さ――」

陽乃「上里さんがここにいることなんてどうだっていいでしょう」

水都「良いわけないじゃないですか……おかげで、大社は大パニックです」

陽乃「いい気味だわ」

水都「上里さんの消息不明は巫女のみんなにも伝わっちゃって……」

ひなた「何か、問題が?」

水都「いえ、大社のやり方に懐疑的だった人も少なくなかったので、上里さんが救われたって喜ぶ人の方が大多数です」

それで暴動が起きているとか、

そう言った問題も出ているわけではないと水都は言って。

水都「ちなみに、若葉様が助けに来たって説と、例のあの人がまた問題を起こしたって説が有力でした」

ひなた「ふふっ、確かに……また。ですね」


大社の管轄からの逃走と言えば、あの人。

つまりは、陽乃だ。

病院から奇術を用いて逃げ出したり、

四国自体から逃げおおせたあげく、諏訪から勇者達を連れ込んだり。

何かしらの問題の中心人物と言えば陽乃の為、

巫女達も優勢なのは陽乃の仕業だったそうだ。

水都「それでちょっとした賭けをしているみたいですよ」

ひなた「賭けですか……まったく」

陽乃「そんなことはどうでもいいのよ。大社は気づいているの?」

陽乃に確認に来たが、誤魔化して、下がらせた

ただ、違うとは思っていないだろうし疑いの目は向けられているままのはず。

そこから断定に切り替わられると、面倒だ。

だが、水都は首を横に振る。

水都「まだです。とはいえ……ほとんど陽乃さんにあたりをつけている感じですよ」

病院から抜け出した一件が、大きな証拠になっているのは間違いないだろう。

陽乃はそう考えて、壁にまで流れている水都の影を一瞥する。

陽乃「そう……まぁ、仕方がないわね」


1、本題だけど、死ぬ覚悟はできているのよね?
2、白鳥さんが人間やめたいらしいわ
3、諦めるつもりはある?
4、テスト、やってみましょうか


↓1

短いですがここまでとさせていただきます
その分、明日は可能であればお昼ごろから

遅くなりましたが、少しずつ


陽乃「本題だけど、死ぬ覚悟はできているのよね?」

包み隠すことをしていない率直な問い

けれど、ひなたも、それを問われた水都も驚くことなく、頷く。

その奥にいる歌野も、それを聞く意味なんてないとでも言いたげな表情を浮かべている。

陽乃「私は責任を取らないし、貴女達を守ってあげることもしない。それでも?」

水都「それでもです。命懸けの勇者を助けるなら、命懸けになるのは当然だから」

陽乃「当然だなんて、随分と大きく出たじゃない。貴女の命が勇者と同じくらいの価値があるとでも思ってるの?」

水都「思ってません」

水都は、悩むことなく断じる。

自分のことを貶されているようなものなのに、

水都は、なぜだか自信に満ちている。

水都「だから――」

陽乃「それは、とてもご立派なことね」

歌野「やっぱり、久遠さんはそういうのが嫌いなのね」

陽乃「はぁ?」

歌野「久遠さんってば、自分のことはすっごく軽く見ているのに、他の人のことは人一倍重く見てる」

歌野はまるで、水都と示し合わせていたみたいに、すらすらと言葉を並べる。

陽乃が命を軽んじる発言は好まないこと

それは勇者であれ巫女であれ同じであること。

巫女であれ、勇者であれ、ただの人であれ……等しく、見ているということ。

歌野「でもだから、私達は等しくあるべきなのよ。久遠さんが命を賭けるなら、それにつり合うだけ本気でいないといけないわ」

水都「死ぬのが怖くないと言えば嘘になっちゃいますけど、でも……いつ死んでもおかしくない戦いを目にして、そこで戦っている人達がいると知っていて、出来ることがあるって知っていて、それでも何にもしないなんて、私は絶対に嫌だから」


何度聞かれたって、やっぱり私は命を賭けると思います。と、

水都は言って、歌野を一瞥する。

歌野の意思はもう聞いているけれど、水都はそれを知らないからだろう。

陽乃に示すように、2人が頷く。

陽乃「……気に入らないわね」

呟いて、息を吐く。

巫女が命を賭けるのは必要不可欠だ。

勇者だって、そう。

どうしようもないことだってあるし、けれどもそれはやはり、最小限であるべきものだ。

陽乃「でも、そんなに死にたいなら死なせてあげる。勇者と違って、貴女達には代わりがいるもの」

水都「なら、安心です」

陽乃「……」

安堵したように零す水都を、やはり、陽乃は不機嫌に一瞥する。

絶対に死ぬとは限らない

もしかしたら助かる可能性がある。

けれども、決して可能性は高くはない。

陽乃「上里さんも、構わないんでしょう?」

ひなた「……はい」

歌野も、水都も、ひなたも皆、陽乃のことを信頼している。

あれだけのことを言っても、

そんなことは言わなくてもいいのではと、

不愉快に思って、毛嫌いして、信頼を損なったりもせずに。

九尾の力が働いていることを疑いたくなるほどにだ。

だが、九尾はそれをしていないだろう。

九尾にとっては、彼女達が陽乃を信じているかどうかなんて関係がないし、

ひなたを含めて、

陽乃を生かすための消耗品としか考えていないのだから。

陽乃が拒んでも、彼女達がそれを望んでいるのなら、躊躇なくその命を使い潰す。

どちらにしても使われる命だ。

だったら、使うしかないだろう。

陽乃「上里さんは……乃木さんがいないから、次だけど」

ひなた「呼ばないんですか?」

陽乃「白鳥さんほど、切羽詰まっているわけではないんだから良いのよ」

それに、何があるのか、どうなるのか。

それは一度、見ていてもらった方が良い。


1、藤森さん、死んでも恨まないで頂戴
2、藤森さん。貴女のこと、大嫌いよ
3、かなり苦しいわよ
4、何も言わない


↓2


陽乃「かなり苦しいわよ」

水都「覚悟はできてるので、お願いします」

大切な人が死んでしまうかもしれない恐怖も、

目の前で人の体が吹き飛ばされて、喰われて、傷ついて、

辛い思いも、苦しい思いも、散々してきた。

それに、神的な影響の経験も水都にはある。

水都「陽乃さんのそばには、もうかれこれ2ヶ月はいるんですから。経験は十分です」

ひなた「ふふっ、藤森さんの方が私よりもずっと、勇者のそばにいるだけの力があるようですね」

水都「そんなっ」

口癖のごとく謙遜を口走りかけた水都は、それをぐっと飲みこむと、頷いて笑う。

その目は、陽乃へと向けられていた。

水都「もちろん、陽乃さんのそばで経験を積みましたから」

ひなた「そうですか……そうですね。ほんとう、久遠さんのそばにいると嫌でも、経験を積まされますから」

陽乃「私は悪くないわ。ついてこようとする貴女達がいけないのよ」


歌野「言い訳?」

陽乃「うるさいわよ。病人は黙って寝てなさい」

歌野「私に関係があることなのに、黙って寝ているなんて出来るわけがないわ」

陽乃「知ってるわよそんなこと」

それに。と、陽乃は歌野を一瞥して体を起こす。

もちろん、普通なら動けない為、九尾の力を借りている状態だ。

簡素なスリッパを履いて、皴だらけの患者衣の裾を軽く伸ばす。

久しぶりの自力……かは微妙だけれど自分の足での感覚はやや微妙で、

ちょっとだけふらついてしまうと水都に支えられる。

水都「大丈夫ですか?」

陽乃「大丈夫……白鳥さんのところに行くわよ」

水都「あ、はい」

ほんの数歩程度の距離だが、

ふらついたことを心配してか、水都に支えられたまま歌野のベッドのところに向かう。

歌野「……何をしたらいいの?」

陽乃「状態を変えるのよ。私から藤森さんと白鳥さんってなっている繋がりを、私と藤森さんから白鳥さんにする」


陽乃「神託を授けた時と同じように、強い反動があるはずよ。備えておいて」

水都「……はい」

陽乃「上里さんも……たぶん、貴女は平気だろうけど一応」

ひなた「九尾さんとつながりがあるから、ですか?」

陽乃「ええ」

ひなたにまで影響が出ないはずだが、

万が一のことがないとも言い切れない。

陽乃のベッドの上で正座しているひなたは不安そうに頷きながら、ぐっと胸に手を当てる。

若葉のための覚悟であって、

それ以外のことで失う覚悟ではないはずだ。

陽乃はそれを一瞥して、ため息をつく。

陽乃「私は責任を取らないって、言ったはずよ」

ひなた「久遠さん……」

陽乃「自分の命には自分で責任を持ちなさい。それが出来ないのなら、今すぐここから出て行くことね」

ひなた「それは、無理な話では――」

陽乃「貴女にあるのは命であって、消息不明の責任ではないはずよ」

ここから逃げ出したら病院関係者に保護され、

そうして、大社に保護されることになるだろう。

けれど、それは捕縛ではなく保護なのだ。

ひなたが逃げ出せるような状況ではなかったし、逃げ出したと思われる状況でもない。

疑うまでもなく、外部の犯行によって連れ去られた現場だったのだから。

怪我はないかと、心は無事かと、

とても心配されるだけで済むはずだ。

ひなた「……いえ」

ひなたは、首を振る。

確かに恐ろしく、逃げ出すこともできるかもしれない。

けれど、出来るはずのないことが出来るかもしれないと

奇跡的にも目の前に差し出されたのだ……引く通りがない。

ひなた「どうせなら、2人で白鳥さんを補うのも間違いではないかと。白鳥さんの回復力は、それだけ重要な力なんですから」

水都「確かに……」

陽乃「出来もしないことは言わない方が良いわ。上里さんはただ余剰分がぶつかるだけで本来の形ではないんだから」

水都「それで……何をしたら」

陽乃「とりあえず、血を貰って良いかしら」

水都「はい――えっ!? 痛っ!」

言うが早く、水都の手を奪うようにとって、どこからともなく取り出した鋭利な刃で水都の指を切る。

陽乃「略式ではあるけれど、正式なものだから心配は要らないわ」

歌野「……私も?」

陽乃「痛いくらい平気でしょう。我慢しなさい」

歌野「大丈――っ、痛ったい!」

普通の刃物ではなく、神聖な力が宿った刃物だから、

水都はさほど痛くなくても歌野にとっては激痛なのだ。

歌野「バーテックスの攻撃より痛いわ!」

ぶつっ……と、指に刺さった傍から悲鳴を上げた歌野を無視して、血を貰う。


反動判定 ↓1コンマ

01~00

※低~高
※奇数で+ひなた
※ぞろ目特殊

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが、本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

では少しだけ


儀式はとても簡潔なものだ。

2人の血を混ぜて紅として唇に塗り、口づけをする。

本来のやり方では、紅を塗った巫女が、

神に供えられ、その神霊が宿っている神酒を頂くことでその御力をお借りし、

神託を授かったりとするわけだが、

今回は歌野が力を宿している為、そう言った特例的な措置が行われた。

……のだが。

ひなた「……っ」

陽乃「……やっぱり」

ふらつきながら額を抑えたひなたがそのままベッドに倒れ込む。

幸いにも、広めのベッドだったのが功を奏して、落下は免れたようだ。

ひなたにまで影響が出る可能性は限りなく低かったはずだけど……と、

陽乃は眉を顰める。

その一方で、水都はひなたを心配そうに見ているだけで大きな影響が出ているようには見えない。

陽乃「貴女は、平気そうね」

水都「はい……あっ」

歌野「みーちゃんっ」

ぽたぽたと、水都の鼻から血が滴る。


水都「ん……大丈夫だよ。うたのん。大丈夫」

歌野「そう? 眩暈がしたりしない?」

水都「うん。大丈夫」

頭痛はしていないし、めまいもしていない。

熱が出ているわけでもなく、気怠さも何もないという。

水都は、鼻血が出た程度で大きな影響はないようだ。

陽乃「貴女……」

水都「ほ、本当ですよ? 本当にこれくらいで……」

陽乃の視線を感じて、

嘘をついたと疑われているとでも思ったのか、

水都は取り繕ったように手をパタパタとする。

嘘をついていないことは分かっている。

神々の力は表面に現れていなくても陽乃にはよくよく感じ取ることが出来るもので、

それが、水都からも確かに感じられる。

歌野が持っているものと、同質の力が。

陽乃「別に疑っているわけではないわ。ただ、妙ね……貴女、融和性が高すぎる」

水都「悪いこと、なんですか?」

陽乃「反動が軽くなるという点では、何も問題はないと思うけど」


歌野と同等の資質があると言われても信じられるほどに、

水都は安定している。

力を与えている宇迦之御魂大神さまが非常に協力的だと言っても、

水都は安定しすぎているように感じられる。

歌野「悪いことじゃないならいいでしょ?」

陽乃「それはまぁ……藤森さんの変化が上里さん達にも起こり得るものなら起こしておきたいと思ったのよ」

歌野「そうね」

影響が最小限に抑えられるなら、やっておいて損はないことだと思う。

けれど、絶対に悪影響がないとは言い切れない。

原因を知っておきたいところだが……

陽乃「貴女の場合、色々重なってるから考えるのが面倒になるわ」

水都「褒められて……は、無いですよね」

陽乃「当たり前でしょう」

水都「……すみません」

陽乃「別に怒ってるわけでもないわ」

水都は、かなり強めの神託を陽乃から受けた影響があるため、

やはり、それが起因となっている可能性は高いと見える。

だが、確実なことは九尾に確認するべきだろうか。

短いですが、時間なのでここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はおやすみとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

しばらく隔日になるかもしれません

では少しだけ


陽乃「しばらくは安静にしてなさい。問題はないと思うけど何があるか分からないから」

水都「分かりました」

水都はそう言って、

きょろきょろと辺りを見渡して、肩を落とす。

陽乃「何?」

水都「あ、いえ……ただその、私も一緒の部屋になれないかなと思って」

陽乃「無理言わないで頂戴」

歌野「私の隣なら空いてるけど……」

陽乃「馬鹿言わないで頂戴。健康そのものの藤森さんをどうやってこっちに入れるつもりなのよ。上里さんとは話が違うのよ」

歌野「む……」

水都「ですよねっ」

残念ですけど。と言いつつも納得しているような表情で。

水都「あ、でも……記憶は、大丈夫です」

陽乃「!」

歌野「記憶?」

水都「何でもないよ。うたのん」

神々の力を受け止められるようになったことで、効き目がなくなったのかもしれない。

だとしたら、全部、思い出したはず。

陽乃「調子に乗らないで」

水都「……ごめんなさい」


水都は、自分では騙しきる自信がないからと、陽乃に記憶を消してくれるように求めた。

けれど今回は陽乃には記憶を消さなくても問題ないという。

求められても求められていなくても、

歌野がいる場で、それをする気はなかった陽乃ではあるが、

しかしあえて向こうからその必要はないと言われてしまうと、気に喰わない。

神々の力を受け止められるようになったからと言って、

水都自身の嘘が上手くなったわけではないのだから。

陽乃「上里さんがここにいることは最高機密よ。ひとたび知られれば、目も当てられないことになる」

歌野「間違いなく上里さんが回収されちゃうだろうし、久遠さんだって」

陽乃「みんな殺されるのよ」

水都「殺……っ」

歌野「あぁ……九尾さんね」

一歩後退りした水都とは対照的に、落ち着いた様子で歌野は顔を顰める。

九尾ならやるだろう。間違いなく。

上里ひなたは、陽乃の命に比べれば取るに足らないものと見られているものの、

その特例を除けば、最低でも歌野と同等の価値としてみているだろうから、

それに手を出すような存在は殺されかねない。


だからこそだ。

だからこそ、水都にはひなたについて黙秘して貰わなければならない。

バーテックスとの戦いにおいて死人が出るのは致し方ないことだが、

力のない人間が九尾に取り殺されるのはあってはならない。

陽乃「貴女が出来るかできないかじゃない。できなければならないのよ。貴女の言葉一つで、人が死ぬことになるのだから」

水都「っ」

それはあまりにも理不尽ではあるけれど、

しかし、事実だ。

携わるものの責務として、上里ひなたについてのことを他言してはならない。

陽乃「幸い、巫女としてのお役目には適してるようだから、貴女は九尾に殺されたりはしないけど」

完全に脅しだった。

自分が死ぬことよりも、

自分のせいで他人が死ぬことになるという方が、善人には辛いものだろう。

水都は不安そうな表情を見せはしたが、

覚悟を決めたようで、陽乃に向かって大きく頷く。

水都「大丈夫です。探りを入れるような様子はありますけど……私、結構甘く見られているみたいなので」

ひなたに比べて水都は腹芸が苦手と言うべきか、

簡単に言えば分かりやすい性格をしている為、疑いつくされることがないらしい。

自信をもって否定することさえできればと言うところか。

水都「だからこそ、陽乃さんのお母さんの居場所も聞けそうにはないんですけどね……あははっ」

そこは努力します。と、

水都は言ってから「そこも! 努力します」と言い直した。


√ 2018年 10月07日目 昼:病院

↓1コンマ判定 一桁

1 侵攻
3 若葉
5 ひなた
7 友奈
9 球子

ぞろ目 侵攻


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日もお休みとさせていただきます
明日はその分、お昼ごろを予定しています

遅くなりましたが、少しずつ

√ 2018年 10月07日目 昼:病院


本来のお見舞いなどであれば、暫くとどまっていても何にも問題はないけれど、

その病室には陽乃がいること

水都の大社内での立場がそれなりに重要なものであること

陽乃と歌野だけでなく、全ての勇者の担当ということもあって、

ずっと部屋に入れておくわけにもいかず、帰らせることになったのだが、

それから暫くして、歌野がおもむろに感嘆の声を漏らした。

歌野「みーちゃんの居場所が分かるわっ」

陽乃「それはそうでしょう。力の繋がりがあるんだもの。普通よりもずっと強く」

ひなた「便利……なんですね」

嬉しそうな声とは対照的に

今にでも死にそうな声色で、ひなたが呟く。

水都と歌野の儀式の際、

陽乃の持つ九尾の力とのつながりのせいか、当てられてしまったため、

あまり気分が良くなさそうだ。

陽乃「貴女、大丈夫?」

ひなた「……少し、吐きそうです」

陽乃「それは見ていれば分かるわ」



ひなたは巫女としての適性に優れていると評価されていた少女だが、

だからこそ、気分が悪くなっているのかもしれないと陽乃は感じる。

相反する力の流入は、微量であれ猛毒になる。

それが、相殺し合うようなものであればなおのこと。

とはいえ、暫く休んでいれば回復する程度だろうから、心配は要らないはずだ。

陽乃「貴女は休んでいなさい」

ひなた「……久遠さんの手、冷たいです」

額に触れる手の感触に、ひなたは満足げに呟いて目を瞑る。

歌野「久遠さんってば……やっぱり優しいわよね」

陽乃「そういうつもりはないわ」

歌野「そう……」

歌野はちょっぴり残念そうに言いつつ、

気付いたように顔を上げて、そう言えば。と切り出す。

歌野「みーちゃんの心が伝わってこないわ」

陽乃「当たり前でしょう。私達とは違うんだから」

陽乃「貴女と藤森さんにはしっかりと制限がかかってるから、余計なものが伝わることはないのよ」

その制限は外すことは出来ないが、壊すことは出来る。

それも、とても簡単に。

陽乃と歌野はそれを壊してしまったため、

無駄なものまで共有することになってしまっていると言うだけで、

残念ながら、恩恵などと呼べる代物ではない。

何しろ、最悪の場合死に至ることもあるのだから。

陽乃「私達は運よく無事なだけだし、こんなものは普通じゃないし望むものでもないわ」

歌野「望んでいるわけじゃないわ。ただ、そう……やっぱり、これは特別なものなのね」

考えていることが分かるのは、

気味の悪いことでもあるのだが、役に立つことも少なくはない。

特に、一瞬が命取りになってしまう戦場においては、

手間なく考えを伝えられるような繋がりと言うのは、あった方が良いのかもしれない。

だが、水都は巫女だ。

本来は戦場に共にいることなんてない。

だから、無くたって何も問題はないし、あるメリットもないはず。

歌野は小さく笑って。

歌野「私とみーちゃんは、フィーリングが最高にマッチしているから大丈夫。分からなくても、通っているわ」


心がね。と、付け加えた歌野に陽乃は素っ気ない反応を返す。

3年間も死地を共にした相方だ。

生半可な繋がりではないだろう。

もしかしたら、水都が歌野の力を肩代わりしても最小限の影響で済んだのは

そう言った面もあるのかもしれない。

だとしたら、ひなたと若葉

千景と美佳はまず間違いなく上手くいくことだろう。

では、他の3人はどうか。

ひなたでもある程度は分かるだろうけれど、

そこは、水都に調べて貰う方が良いだろうか。

歌野「ねぇ、久遠さん」

陽乃「力を試すのは止めておいた方が良いわ」

歌野「じゃぁ、私と本当に心を通わせてみない?」

陽乃「はぁ?」

歌野「そんなハダニの大群を見たような顔しないで」

陽乃がどんな顔かと顔を顰めると、歌野はしょんぼりと首を振る。

歌野「私とみーちゃんがもしも、その信頼関係によって負荷を軽くすることが出来ているのなら、私と久遠さんの繋がりも深まればより改善に向かうかもしれないって思ったのに」

陽乃「随分と、方便が上手くなったものね」

歌野「久遠さんが命懸けは嫌だっていうから、それを避ける方法を模索してるのよ。野菜だって、試行錯誤の積み重ねが現代の美味しさを生んだんだもの」


1、心はもう通じているじゃない
2、で? 具体的には?
3、九尾に聞いた方がマシよ
4、はいはい。気が向いたらね。で、貴女は平気なの?


↓2


陽乃「で? 具体的には?」

歌野「えっ!?」

陽乃「……なんでなんにも考えてないのよ」

素っ頓狂な声をあげた歌野を、陽乃は睨む。

歌野は今回も陽乃が断固拒否すると思って居たようで

なんにも考えが見えてこない。

陽乃「ただの冗談だったわけ?」

歌野「そ、そんなこと無いわ! ちょ、ちょちょっと待って!」

陽乃「……」

歌野の心はぐちゃぐちゃだ

それだけ上手く考えが纏められないってことだろうし、

陽乃が受けることが想定外だったのだろう。


歌野「そうね……まずはやっぱり……」

陽乃「嫌よ」

歌野「良いじゃない! このくらい」

心が分かるから、言われなくても分かる

だから言われる前に先手を打つが、

歌野は諦めてはいないようだった。

歌野「みーちゃん達だって呼んでるわけだし……」

陽乃「向こうが勝手にでしょう? 私は違うわ」

歌野「だからこそよ。いきなり物理的に距離積めるのは嫌だろうから、せめて名前で……って」

陽乃「名前で呼ぶことに意味を感じないわ」

歌野「ならむしろ、ね?」

陽乃「一人許可したら私も私もって来るじゃない」


水都も、杏も、球子だって

もしかしたら若葉とひなた……友奈もかもしれない。

それは確実に面倒だ。

第一距離を詰めるなんて……

歌野「やっぱり嫌?」

歌野は伺って、少し考えを巡らせる

さっきまでの乱れはなくて、落ち着いていた。

歌野「みんなの前では呼ばなくていいわ。何なら心のなかでもいいし……どうかしら?」


1、普通に呼ぶ
2、2人の時だけ
3、心の中で
4、それ以外でお願い

↓2


陽乃「なら心の中だけね」

それなら呼ばずに済むしと思ったものの、

もちろん、それは歌野に筒抜けでむっとした不満顔が向けられる。

陽乃「分かってるわよ……分かってるってば」

歌野「本当に?」

陽乃「失礼ね。騙すのはあんまり好きじゃないのよ」

九尾が散々騙したりなんだりしているが、

それはあくまで、陽乃の命が脅かされるような状況にある場合など、

そうしなければならない状況だからこそのもので、

不必要な時にまで、そんなことをするつもりはない。

実のところ、陽乃は基本的に下の名前で呼ぶことがない。

それは、こんなことになる前からもそうで、

特別こだわっていたわけではなく、巫女として幼少から人前に出ていたからこそ染みついたものである。

陽乃「……気味が悪いわね」

歌野「そう?」

陽乃「貴女だって、違和感があるでしょう。普段は久遠さんなんだから」

歌野「そこは……まぁ、ノリと勢いだわ! 陽乃さん!」

陽乃「声が大きいわよ」


歌野「どう? ね?」

勢いで何とかなるし、呼んでいれば慣れるはずだと歌野は言うが、

歌野自身、慣れているわけではなさそうでほんのり羞恥心が感じられる。

本音では、やはり「久遠さん」の方がまだ馴染むと思っているくらいだ。

ならやっぱりやめる? と言ったって歌野は拒むだろう。

それを考えただけで目を向けてくるし、首を振るくらいには。

だったら、と、陽乃は息を吐く。

陽乃「本当に面倒ね。う――」

歌野。と呼ぶか、歌野さんと呼ぶか

あるいは歌野ちゃんと呼ぶか。

3つ目はあり得ないが、1つ目2つ目もしっくりこない。

陽乃「面倒くさいわ」

歌野「誤魔化した……」

陽乃「うるさいわよ」

歌野「心の中でも呼ばなかったわっ」

陽乃「呼ぶ必要があるときで良いじゃない」

歌野「……照れなくていいのに」

陽乃「記憶を消し去るわよ」

それだけはやめてっ……と、願う歌野にそっぽを向く。

いつかなれる。

いつか、本当に……そうだろうか?


√ 2018年 10月07日目 夕:病院

↓1コンマ判定 一桁

0 ひなた
2 球子
4 杏
6 若葉
8 大社

ぞろ目 特殊

√ 2018年 10月07日目 夕:病院



杏は約1週間前の戦いで重傷を負い、暫く伏せっていたが、

昨日の時点で少しでも会話が出来るようには回復していると話だけは聞いていた。

それでもまだ動くのは難しいと思っていたのだが……

杏「久遠さん……無事で、何よりです」

一見、満身創痍にも思えるような状態で車椅子に乗って病室へと尋ねてきた。

満身創痍と言っても、包帯が見える部分が多いという程度で、

まだ出血が見られるだとか、歌野のように一部が変質しているということもないので、

そこまで、大騒ぎするほどでもない。

陽乃は、それでもわざわざ訪ねてきたことには不服と言った表情で迎える。

陽乃「何しに来たのよ。死にたいの?」

杏「いえ、その……院内で、かつ短時間なら外出も許される程度には回復したので」

歌野「回復したと言っても、まだ安静にしていた方が良いと思うわ」

陽乃「貴女が言えることではないでしょ」

杏「それに、久遠さんが千景さんにその……襲撃を受けたって聞いて」

球子だろう。

陽乃が千景に襲われたことや、歌野が命を懸けようとしていることも聞いているはずだ。


陽乃「土居さんに聞かなかったの? 見ての通り何の問題もないわ」

杏「それは聞きました。でも、直接会いたくて」

陽乃「まともに動かない身体に鞭を打ってでも?」

皮肉のつもりだったけれど、杏は笑みを浮かべる。

またそんなこと言っちゃうんだから陽乃さんはと、歌野までも知ったようなことを思っていて。

杏「それでもです。私、最後に見たのが、久遠さんが敵に向かっていく姿だったから……心配で」

陽乃「土居さんから――」

杏「戦いで傷ついていないか心配だったんです」

千景に殺されるとまでは考えていなかったものの、

バーテックスとの戦闘でどれだけ怪我をしたのか分からなかったし、

左手を斬りつけられたと聞いて、それで。

杏「……ごめんなさい」

陽乃「謝られても困るのだけど、それは何に対しての謝罪なの? 貴女なんかを助けた程度でこんなことになるような脆弱さだとでも馬鹿にしたいの?」

杏「そんなこと、あるわけないじゃないですか」

杏は首を振ることが辛いのか、その分だけ声を強めて否定する。

そんなわけがない。

陽乃は確かに、戦闘後に倒れることが多いけれど、

それは力の反動によるものであって、決して陽乃は脆弱だからではない。

が、その貴重な力を使わせてしまった。と言う思いもあると杏は吐露する。

杏「久遠さんは、何が何でも私達を守ってくれてしまうから、頑張らないといけなかったのに」


陽乃「それは勘違いも甚だしいわ」

杏「もう、いい加減無駄なんです。久遠さんが、絶対に他人を見捨てられないことはみんな分かっているんです」

千景はそれに納得していないし、

それに甘んじる気は毛頭ないように思えたが、

他のみんなは陽乃を最終手段だと考えているし、

それなのに、簡単に命を張ってくれる危ない存在だとも思っている。

杏「私は久遠さんの事情を全部は知らないから、あんまり勝手なことは言えませんけど……」

でも。と、

杏は固く瞼を閉じて、少しだけ、零れていく熱を手の甲で拭う。

杏「受け入れてください。自分の行いの見返りを」

何もかもが仇で返されるわけではないと

感謝をする人もいれば、それに返したい人だっているのだと。

杏「自分だけが傷つけばいいなんて、それは嫌です。それは駄目です。そう思わせたんです。久遠さんが」

陽乃「だから?」

杏「もう少し、身体を大切にしてください。長生きしてください。恩返しを、させてください」



1、してるわよ。してるから生きてるの
2、だったらもっと強くなりなさい
3、要らないわよ。そんなもの
4、それは私に頼むことではないわ。


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ


陽乃「だったらもっと強くなりなさい」

歌野「でも命は懸けるなって言うんでしょ?」

口を挟んできた歌野をひと睨みで黙らせて、陽乃は杏へと目を向ける。

杏達は、歌野と違ってそれほど重くなることはないはず。

だが、歌野であれば軽いものも杏達には重いものになる。

つまり、通常の力の使い方でさえ命懸けと言わざるを得ない。

陽乃「賭ける必要のないことに懸けるべきではないと思っているだけよ。懸けなければならないのなら、それは仕方がないことだわ」

歌野「く……陽乃さんってば、伊予島さんに甘くない?」

陽乃「貴女よりは、話が通じるからよ」

歌野「む……」

杏「強くなりたいです。なるつもりです……つもり、だったんですが」

陽乃「そう言えば、精霊についての進展はあったの?」

杏「さっぱりです。可能なら久遠さんにご一緒して戴きたかったんですが、そうもいきませんでしたし……」

杏までもがリタイアしてしまうという最悪の状況にまで陥ったこともあって、

訪れた大社の関係者に直訴をしては見たものの、検討するくらいしかできないという。

その手のことには陽乃が詳しいとは言ったが、

しかし、陽乃に頼る気は全くない様子だったと、杏は零す。


杏は残念そうではあるが、陽乃としては当然だろうと思う。

ひなたを誘拐した疑惑があるし、それ以前に前科が多すぎる。

なにより、千景から伝わった九尾の情報もあるし、

騙すことに特化しているというのが大社の印象だろうから、

人類の切り札である勇者の命運を左右することに関わらせたくはないだろう。

ただでさえ、戦場においては深く関わっているのだし、

これ以上はと言う思いもあるのかもしれない。

陽乃「むしろ私がいなくて正解だったでしょうね」

歌野「気になるのは、伊予島さん自身が陽乃さんからの刺客だって思われて話を聞いてくれていないんじゃないかってところね」

杏「そう、ですね。それは少し不安ではあります」

杏は悩ましそうに言いながら、眉を潜める。

検討する。

検討するが、それ止まり……というのはよくあることだ。


杏「ただ、大社はそれでも考えざるを得ないと思います」

勇者のシステムに関しての改修

ただの機械ではなく、

神樹様という、超常的な力が関わっているものの為、

一筋縄ではいかないはず。

だからこそ勇者であり、巫女であり、精霊を従えている陽乃に助力を願うべきだと、杏は思う。

それを拒み、

無理して改修を行えば、より状況が悪化してしまうことも考えられる。

歌野「精霊については陽乃さんが一手打ってくれているから大丈夫よ」

杏「えっ?」

歌野「みーちゃん達、巫女さんにお手伝いを――」

陽乃「白鳥さん、余計なこと言わないで頂戴」

歌野「陽乃さ……あ……」

陽乃に咎められ、それでもと考えを言おうとした歌野だったが、

陽乃が内に留めているものを感じ取って、目を伏せる。

巫女ならだれでもいい。

けれど、その人選では無駄に命を奪うだけでしかないからだ

陽乃「伊予島さん、貴女、親しい巫女はいるかしら?」

途中ですが時間なのでここまでとさせていただきます。
明日も可能であれば通常時間から

再開時に安価

すみませんが本日もお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ


杏は一瞬だけ驚いた顔をしたが、

すぐに、ほんの少しだけ寂しそうな笑顔を見せる。

杏「ひなたさんと水都さんを除けば、1人……ですね。美佳さんは親しいとは言えませんし」

陽乃程険悪な関係ではなかったものの、

杏もまた、美佳とは巫女と勇者の関係であってそれ以上でも以下にもなり得なかったようだ。

それゆえ、杏には一人だけ。としか言えない。

もちろん、陽乃を巫女としてカウントしていいのであれば、

もう一人増やすこともできるが。

杏「もう、暫く会うこともできていませんけど……大社に属している巫女の中に、安芸真鈴っていう子がいるんです。私と、タマっち先輩を導いてくれた子で……」

短い間ではあったけれど、

でも、あの極限状態とも言える生活の中で、とても、仲良くなれた。

杏「歌野さんと水都さん、若葉さんとひなたさん……ほどではないかもしれないですが」

陽乃「そう……」

水都に副作用はほとんど見られなかった。

それが、互いの信頼関係なのか、巫女としての素養か、陽乃との繋がりのおかげか

あるいはそのすべてなのか。

いずれにしても、その要素があった方が良いのは間違いない。


1、その子、呼べる?
2、どうにかして引っ張り出すか
3、その子を殺す覚悟はある?
4、その子から見た貴女はどうなのかしら

↓1

陽乃「その子、呼べる?」

杏「どう……でしょう?」

杏は悩ましそうに言ってから、久遠さんがどうとかではないですよ。と、取り繕う。

陽乃が怖くて、会いたがらない人もいる。

けれど、彼女は違うと。

普通の友人なら会いたいときには会える。

しかし、大社所属の巫女ともなれば、そうそう会えない。

少なくとも、こちら側からは難しい。

ただ、陽乃が関わっていることも影響しているのだろう。

杏「ひなたさんだったら、まだ可能性はあったと思いますが……」

歌野「みーちゃんじゃダメ?」

杏「大社が許可しないかと。少なくとも、正攻法では無理だと思います」

申請はまず通らない。

杏も、水都も陽乃と関わりすぎている。

何か裏があるのではないかと、思われてしまう。

歌野「そこまでではないと思うんだけど……」

杏「九尾さんの件が知られているのが大きいんです。あれもこれもまやかしではないかって、恐れられちゃって」


歌野「そう言えば」

そんなこともあったんだっけ。と、

顔を顰める歌野を一瞥し、陽乃はため息をつく。

足を引っ張っているというより、足枷になっている。

以前から自分に関わるなと突っぱねてきて、

それでも突っかかってきた末のものだから、トラバサミに引っかかったようなものの方が正しいか。

歌野「なら、みーちゃんにお願いするのが一番かしら」

陽乃「門限までに戻ればって……貴女」

歌野「やっぱり、駄目?」

陽乃「駄目というか」

陽乃は素っ気なく歌野に釘をさすが、

やっぱり? と困った顔をする歌野の一方で、杏は眉を潜める。

杏「あの……」

歌野「みーちゃんにどうにかして貰おうと思ったけど、陽乃さんはダメって」

水都に安芸真鈴を説得して貰い、施設から出てきて貰う。

大社にバレる前に戻れれば、セーフなんて、歌野は思ったようだが。

陽乃「藤森さんが巫女代表は使い勝手が良いから、無駄なリスクを背負わせるのは感心しないわ」

歌野「とは言ったって、安芸さんを連れてくるのは難しいわ」

では途中ですが、ここまでとさせていただきます
明日は可能であれば少し早い時間から

遅くなりましたが、少しだけ


陽乃「だからといって……」

陽乃は言葉を切ると、顔を顰める。

上里ひなたがそうであったように、藤森水都も大社に囚われることはあるだろうか。

仮に囚われても、上里ひなたのように連れ出すことは出来るだろうけれど、

それはそれで陽乃にもリスクが伴う。

それも、上里ひなた時以上に。

今度こそ、陽乃がやったと確信をもって近づいてくるだろう。

そうなったら面倒だ。

とはいえ、安芸真鈴を連れ出してもそれは同じはず。

陽乃「穏便に済ませられるのが、一番面倒がなくていいのだけど」

歌野「だからみーちゃんに任せてみようって言ってるのに」

陽乃「だとしても貴女のそれはあり得ないわ。その巫女に反発されたら終わりよ」

杏「安芸さんは大丈夫だと思います……むしろ乗ってくるかと」

陽乃「その根拠は?」

杏「3年前の久遠さんを知ってる1人です」


3年前の陽乃を知っているからといって、それが根拠になるとは思えない。

しかし、杏は自信があるようだ。

であれば、知っているのは陽乃が3年前に贄を逃れたことではなく、

奮闘していたことだろう。

杏「直接戦っているのを見たわけではないらしいですけど、聞いた印象が久遠さんそのものだったので間違いないかと」

陽乃「なるほど」

歌野「あちこち飛び回ってたものね。知られていても不思議じゃないわ」

陽乃「でもだからって味方とは限らないわ」

杏「大丈夫だと思いますけど……念のため水都さんに接触して貰うのはどうですか?」

まずは水都が接触し、協力して貰えるかどうかを確認する。

その後、協力して貰えそうならどうにかして連れてきて貰う。

リスクがあるのは相変わらずだが、協力的なら、やりやすさはある。

歌野「慎重に行くなら、そうね。私は良いと思うわ。みーちゃんは絶対協力してくれるし」

陽乃「……」

一番楽で、一番確実な方法は陽乃が連れ出すことだ。

とはいえ、

千景に対する美佳のような巫女である可能性もあるし、水都に確認して貰う方が良いだろうか。


1、分かったわそれでいきましょう
2、私が連れてくるわ
3、どうなっても知らないわ


↓2


陽乃「分かったわそれでいきましょう」

申請をしての正攻法は難しい。

でも、対象の巫女に協力して貰うという方面まで無理だとは限らない。

千景と美佳のこともあるが、

杏の相手なら、問題はないはずだ。

杏に危害は加えていないし、

危険な道筋に導いたことはあるが、それは杏の選んだことだ

九尾の力で惑わしているのでは。なんて難癖をつけられればそれまでだが、

そんなことを言われたら、もうどうにもならない。

それが可能なのは間違いないし、

違うという証明は不可能だ。

杏が否定したって、そう言わせていると思われたらそれまで――

歌野「大丈夫よ」

歌野は、相変わらずなんだから。と、

同情の視線を向けながら、小さく笑み浮かべる

歌野「人間、そこまで酷くはないわ」


陽乃が疑いたくなる気持ちは十分理解しているつもりだが、

かといって、徹頭徹尾疑い続けていれば心が疲弊する。

信じろというのは無理だし、

安心してとも言い難いが、けれど、

少しくらいは気を緩めてくれた方が良い。

その分くらいは、任せて欲しいと歌野は思う。

もちろん、それだって信じて共安心して共。と、なってしまうのだけれど。

歌野「ひとまずは、みーちゃんにお願いするところからね」

杏「それなら、私が帰りに伝えておきます。久遠さんと歌野さんは……ここから動けそうにないですから」

歌野「助かるわ」

陽乃「それは良いけれど、余計な人に知られないようにして頂戴」

杏「はい。気を付けます」

ここは病院だが、大社の息がかかった病院だ

いつ、どこで、誰が聞いていて大社に情報を伝えるか分からない。

特に、今回の件は話が漏れれば陽乃がやるしかなくなる。

それはそれで仕方がないが、

やらなくていいなら、やらないに越したことはないし、今後が面倒になるため避けたい。

陽乃「気を付けるだけで済めばいいけれど」

杏「手段は考えているので、大丈夫です」

杏は笑顔で、答えた。

√ 2018年 10月07日目 夜:病院

↓1コンマ判定 一桁

0 九尾
2 ひなた
4 歌野
9 水都

ぞろ目 特殊(悪)


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ

√ 2018年 10月07日目 夜:病院


水都と歌野の儀式の影響を受けて、

昼過ぎからずっと目を覚まさなかったひなた

儀式の当事者の場合、最悪死に至る可能性まであったものだが、

偶然にも伝わってしまったという程度のひなたは、まだ、命に別状はなかったようだ。

皆が寝静まろうかという頃に、ひなたは玉粒の汗を額に浮かべながら目を覚ました。

ひなた「……久遠、さん?」

陽乃「意外に早いお目覚めね」

早くても明日の朝になるかと思っていた陽乃は、意地悪く言いながら額に手を当てる。

比較的冷たい陽乃の手

熱を帯びた体には心地良いようで、ひなたは弱弱しく笑みを浮かべる。

ひなた「まだ……」

陽乃「まだ一日も経ってないわ」

ひなた「そう、ですか」

顔を顰め、ぎゅっと目を瞑って。

ひなた「失望しましたか?」

巫女としての素質が高いと言われながら、

たったこれだけのことで半日近く眠ることになってしまったため、

自分に失望したのではないか。なんて悩んでいるのだろうかと、陽乃は眉を潜める。

陽乃「私は誰にも期待したりしないわ」

ひなた「……久遠さんらしいです」

失望なんてしないと慰めるとか、

失望したと肯定するとかいろいろあるけれど、

陽乃の場合は捻くれているから、慰めるにしても言い方が辛辣だ。

辛辣だけれど、陽乃の言葉遣いを知っていれば、問題はない。

ひなたも分かっている為、困りつつも表情は穏やかだった。

ひなた「私……出来そうですか?」

陽乃「死ぬか死なないかでしかないわ。運が良ければ出来るし、悪ければ出来ない。それだけ」

ひなた「そうですけど……」

陽乃「もちろん、やりたくなければそれでいいのよ。命を大事にでも構わないわ」

ひなた「いえ……大丈夫です」

陽乃「何が大丈夫なんだか」


1、とりあえず寝ておきなさい
2、まぁ、私がやらせないけれど
3、で? 気分は?
4、ならいいわ。頑張りなさい

↓1


では短いですが本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日もお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ


陽乃「ならいいわ。頑張りなさい」

ひなた「……はい」

ひなたは薄く笑って咳込む。

まだ全快ではないようだ。

神樹様に見初められているひなたなら……とは思ったが、

流石に、神様そのものは負担が過ぎたのだろう。

それを受け止められている水都は何なのかと思うが、

宇迦之御魂大神様は協力的だし、

水都はその力の影響を一番受ける歌野との関係も良好で

なおかつ、すでに神々の領域に近い神託を受けた経験があったというのもあるから、比較対象とは不適切だろう。

ひなた「藤森さんは……無事に?」

陽乃「貴女と違ってね」

ひなた「……よかったです」

陽乃「まだ安心できるわけではないけど、大した影響はないと思うわ」

でも、だからって、ひなたまで同じとは限らない。

巫女としての適性が高い

だからこそ、余計に負荷を抱えてしまう可能性だって、あるわけで。

全てはやってみなければわからない。


ひなた「……明日、やりますか?」

陽乃「貴女の状態的に難しいでしょ。私は別に、人を殺したいわけじゃないの。特に、関係者はね」

ひなた「久遠さんは元々……」

人を殺したい人じゃない、と、ひなたは心の中だけで思う。

言ったって否定される。

何より、陽乃やひなたがどう思っていても、人々がそうじゃない。

全てを奪ったバーテックスへの憎悪は消えないし、

誰が扇動したのか

陽乃もバーテックスの一部だなんて、眉唾なうわさが流れ、信じられてしまっている。

今を生きている人々には、余裕がないのだ。

食料も、住居も、心にだって。

だからこそ、希望である勇者が必要で……やっぱり、

その敵だなんて思われている陽乃へと矛先は向かう。

ひなた「……なら、明日はお休みですか?」

陽乃「いつもお休みよ」

どちらにせよ、入院中だ。

退院できるのはまだ先だろうし、

正式に退院できるとなったら、また大社が出てくるだろう。

ひなた「いつまで、入院するつもりですか?」


陽乃は、退院しようと思えば出来る。

つまりは、逃げようと思えばいつだって逃げられるのだ。

今は、本来の体が非常に弱っている為、それが出来ないが、

もう少し回復したら、本来の退院予定日よりも数日早く逃げ出せるはず。

それに、そうしなければ大社に囚われる。

そう言う態度がいけないと言われればそうなのだが、

陽乃の場合、

そうしなければならない状況にある。

陽乃「さぁ? 身体が治るまででしょ」

ひなた「侵攻があればまた伸びるんですか?」

陽乃「他の勇者が役に立てば伸びないし、立たなければ伸びるわ」

いつものように、他の勇者を敵視しているような口ぶりで、

けれど、実際には、その勇者を護るように戦って自分が傷つく。

それを勇者が頼りないからだと、言っているだけだ。

どちらにせよ、前線へと出て行くのに。

陽乃「どうしてそんなこと聞くのよ」

ひなた「だって、私は久遠さんのそばを離れるわけにはいかないので」


ひなたは大社の施設から誘拐された身で

大社に見つかった場合、陽乃と同じように連れ戻される。

とはいえ、

陽乃程酷い目には合わないだろうから、最悪の場合保護されても問題はない。

だが、若葉の助力になることもできなくなる。

それを考えると、やはり、陽乃が保護しておく方が良い。

ある意味、自作自演のような状況だが。

陽乃「まぁ、そうね」

ひなた「出来たら、若葉ちゃんも一緒にいて欲しいところですけど」

陽乃「無理よ。立場が違うもの」

陽乃はお尋ね者で、若葉は人々に認められている勇者だ。

陽乃とのかかわりのせいで、ひなたと同様に厄介なことになっているけれど、

それでもまるで違う。

陽乃「一緒にいられる時期はもう、当の昔に終わったのよ」

陽乃が逃亡した時、人を殺めてしまった時

もう、一緒にいられることは出来なくなった。

陽乃「この病院以外ではね」


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であれば少し早い時間から

遅くなりましたが、少しだけ


ひなた「どうにか、仲直り出来ないものでしょうか」

陽乃「不可能よ」

ひなた「でも……」

陽乃「大社の姿勢を考えれば、取り付く島もないのは明白だわ」

大社は個人ではない。

人が集まって作り上げられた組織であり、

四国を取りまとめる役割を持った存在。

人々の反感買うわけにはいかず、その最たる要因となるのは間違いなく陽乃である。


それゆえ、陽乃を受け入れられない。

そうすべき理由があるとしても、

外聞としては、突っ撥ねる必要がある。

陽乃の提案を受け入れ、それを扱っていると世間に知られれば瞬く間に信用を失うことだろう。

陽乃「私は、人殺しだから」

ひなた「久遠さん……」

正当防衛だから。

それが、何だというのか。

人殺しは人殺しだ。

何より、久遠陽乃という人間への評価が、それを許さない。

陽乃「私は誰かを信じる気はないし、頼りたくもない。誰かと慣れ合う気なんて毛頭ない。その点で言えば、郡さんとは気が合うはずだけど、それ以外が全く正反対だし」

なにより、彼女には高嶋友奈という拠り所がいる。

だが、陽乃には――

陽乃「……」

歌野「zzz……」

陽乃「ともかく、不可能な話よ」


ひなた「久遠さんの力は紛れもなく人類の希望なのに」

陽乃「希望足り得る力は、同時に脅威でもあるものよ」

ひなた「……もう」

ひなたは自分を卑下してやまない陽乃の姿勢に目を細める。

疎まれていると自覚しつつも、それを改善する気が陽乃には全く感じられない。

とはいえ、陽乃から寄り添ったところで。というのはあるし、

仕方がないことだった。

それに、陽乃が言っているのは事実だ。

使い道を失えば、排斥されるべきなのはなんだってそうである。

危険がなかろうと、不要になれば捨てられる。

もしも危険があるなら、扱いに困って、腫れもの扱い

仕方がないことではあるものの、もう少し。と、思ってしまう。

ひなた「……久遠さん、身体を大切にしてくださいね」

陽乃「はぁ?」

ひなた「久遠さんがいるからこそ、起きている問題は確かにあります。でも、いるからこそ救われた命があることを、どうか忘れないでください」

陽乃が生きているから、その行いがあったから。

だからこそ、救われた命が多く、それはきっと、これからだって増えていく。

陽乃が救った歌野が、さらに多くの命を救うことになるかもしれない。

ひなた「久遠さんは、これからも多くを救う力があるんですから……大事に、して貰わないと」


1、そういうのは、他人を気にするだけの余裕を持ってから言いなさい
2、私は私しか大事にしてないわ
3、まずはあなたが自分を大事にしなさい
4、誰に言ってるのよ

↓2


陽乃「そういうのは、他人を気にするだけの余裕を持ってから言いなさい」

ひなた「……そうですね」

今は特に、反動を受けたこともあって余裕がさらにない。

死にかけというほどでは、無いけれど。

しかし、ひなたは笑みを浮かべる。

ひなた「でも、今は久遠さんの世話係ですから」

不可抗力というべきか、失態というべきか、

不運な事故というべきか。

ひなたを庇ったことで、陽乃の左手は今、ほとんど動かせなくなっていて、

包帯で覆われているが、

その中身はあまりにも酷い状態になっている。

だからひなたは陽乃の左手の代わり。

戦う力にはならないけれど、日常生活においては役に立つ

ひなた「体調管理にも物申します」

陽乃「それは病院側がやっているから、あなたのやることではないわ」

ひなた「……巫女として、気にするべきところ。ですよね?」

実際には若葉の巫女としての役割を与えられているものの、

九尾に認められているし、その力の一端を受けている為、陽乃の巫女とも言えなくもない。

ひなた「……お願い、しますね」

ひなたはそう言って、少しだけ陽乃へと寄り添った。


では短いですが本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが、本日もおやすみとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

では少しだけ


√ 2018年 10月08日目 朝:病院

↓1コンマ判定 一桁

0 友奈
2 侵攻
4 水都
6 若葉
8 ひなた

ぞろ目 特殊

規模判定

↓1コンマ

01~10 小規模
11~20 中規模(進化型+1)
21~30 大規模
31~40 小規模
41~50 中規模
51~60 大規模(完成型+1)
61~70 小規模
71~80 中規模(進化型+1)
81~90 小規模
91~00 大規模(進化型+1、完成型+1)


※ぞろ目の場合、完成型+1(中または大)
※1桁目偶数の場合、進化型+(1桁÷2)

14:中規模(進化型+1)+(進化型+4÷2)

√ 2018年 10月08日目 朝:病院


もうしばらくは休みをくれてもいいのではないかと思ってしまうものだが、

バーテックスにとっては勇者の体調など知ったことではない。

むしろ、体調が悪い方が好都合でさえあるだろう。

千景の精神面に不安があり、歌野と杏が戦線離脱中

陽乃も無理をすればどうにかといった状況で、それは訪れた。

ふと、テレビの音が消え、フリーズしたかのように動かなくなって静寂に包まれる。

だが、陽乃も歌野も意識はしっかりとあって――

ひなた「……バーテックス、ですか?」

意外にも、ひなたも身動きがとれるようだった。

陽乃「貴女、平気なのね」

歌野「陽乃さんと一緒にいるからかしら……違うわ。九尾さんの力って感じがする」

陽乃「でしょうね」

九尾の加護。

それが、ここまで身近にあることで、

四国を取り囲む神樹様による樹海化の影響を受けなくなっているのだろう。

ということはつまり、水都も今は自由の身になっている可能性が高い。

だからといって。というところではあるが。


歌野「今出られるのは、高嶋さん、土居さん、乃木さんだったっけ?」

陽乃「大社がそれを許可するなら、郡さんもね」

とはいえ、球子もだいぶ傷ついている。

友奈に関しては病み上がり。

千景は体の傷こそそこそこだが、精神面が重い。

友奈がいる分、中和されるかもしれないが。

歌野「陽乃さんは行くつもり?」

陽乃「貴女は?」

歌野「私は……」

陽乃「今の貴女なら、無理をすればどうにかなるはずよ」

水都の命を削ればという前提にはあるものの、

歌野もまた、戦えるようにはなるはず。

歌野は元々、そう言った力を宇迦之御魂大神様から与えられているからだ。


歌野「可能なら、とは思うわ」

歌野は生命力に溢れ、癒しと言える力を持っている勇者だ。

歌野がいるかいないかで、生存率が大幅に変わってくるほどに。

けれど、それは。

歌野「みーちゃんを酷使するのは、ちょっと……もちろん、本当に必要な時は仕方がないとは思うけれど」

自分が戦うために。というのは例外だ。

そうしなければ誰かが命を落とすというならいざ知らず、

そうではないなら、やるべきではないだろう。

特に、昨日の今日という状況ではハイリスクだから。

歌野「でも、陽乃さんは関係ない。自分を誤魔化して無理矢理に戦う。でしょう?」

ひなた「……行くんですか?」

確実に戦いに赴くのは、球子と若葉そして友奈。

友奈がいるということを支えに、千景を投入する可能性もあるため、4人いるかもしれない。

ある程度なら、これで十分なはずだが。


1、行く
2、行かない

↓1


諸事情で暫くできませんでしたが、少しだけ


陽乃「そう、ね……行くのは止めておくわ」

歌野「……何か企んでる?」

陽乃「どうしてそうなるのよ。3人や2人ならともかく、4人いるならどうにかなるでしょ。今回に関しては、九尾が出張ってこないのを見るに、一番厄介なものもいなさそうだし」

ひなた「なにより、千景さんが出るなら……」

千景は陽乃の有無でそのモチベーションや意識に大きく変化があるだろうし、

その動揺や狂気は、友奈達の負担にもなって返って足手まといになるのは間違いない。

もちろん、だとして、陽乃なら十分に突破可能ではあるが。

相当な鬱憤が溜まっているだろうから、その八つ当たりをバーテックスにして

普段以上の力量を発揮してくれる可能性もある。

それが仇となって集中力を欠いたり……

陽乃「最悪、わざと病院送りになる可能性もあるけど」

歌野「いくら何でもそこまではしないんじゃないかしら」

陽乃「人を殺すことを躊躇わない狂気が、自傷に及ばないとでも?」

ひなた「……」

無いとは言い切れない。と、2人が沈黙すると、

陽乃はため息をついて、歌野を一瞥する。

陽乃「たぶん、貴女を殺しに行くでしょうし。あの子」

歌野「……私?」

陽乃「貴女を殺さないと、私、死なないじゃない」

歌野「えぇ……」

陽乃「そうじゃなくても、貴女に名声を奪われかねないってなってるんだから。死んでもらった方が好都合でしょ」

歌野「それは、やっぱり疑い過ぎなんじゃない?」

陽乃「殺されかけたんだから、信じる気持ちなんて微塵もないに決まってるじゃない」


歌野は、それでも千景を信じたいと思っているようだが、

陽乃としては信じてあげられる部分がこれっぽっちもないし、

そうでなかったとしても、

今の状態の千景は警戒に警戒を重ねてもまだ足りないほどには危険な状態にあると思う。

陽乃を殺しに来たこともあるし、陽乃の手前にいたひなたでさえも手にかけようとしたし、

その結果、美佳がそうすべきではないと断じる実家への謹慎となった。

美佳のことも陽乃はもちろん信じていないものの、

千景に入れ込んでいる美佳が言うのなら――という点での特殊な信頼もあって、

そんな状況に置かれることになった千景が、

まっとうな精神状態で居られるとはとてもではないが、思えない。

そこから解放される樹海化状態の空間で暴挙に走る可能性は極めて高いと言えるだろう。

特に、その元凶である陽乃と、それを生きながらえさせる歌野に対しては。

ほぼ無関係で、力のないひなたさえ殺しかけたのだから、関係の強い2人は確実だ。

と、警戒しておくべきだと陽乃は思う。

陽乃「郡さんの両親が実際にどうなのかは知らないけれど、私がもし、知人の家に預けられるとなったら気が気じゃないでしょうね」

その知人は恐らく死地に追いやった人達の一組だろうし、

どんな扱いをされるかもわからず、寝首をかかれる可能性もあるし、

向こうだって、人を殺したと噂の陽乃を傍に置いておくなんて怖くて堪らないだろう。

歌野は、陽乃の過去を知っているからか、顔を顰めて、目を伏せる。

歌野「それは比較にするべきじゃないわ」


歌野「とにかく、陽乃さんが行かないなら私も待機しておくわ」

歌野がいないと陽乃の回復が遅れるし、

今の歌野の身体では無理をすれば本当に死にかけない。

それも普通に死ぬのではなく力の使い過ぎによる崩壊という形でだ。

考え過ぎだろうが、

もしかしたら樹海の一部にだってなり得る。そんな状態にある。

歌野「郡さんに殺されるかはともかく、ね。それに、こう言ってはあれだけど陽乃さんと私がいない状態でどこまで戦えるのかを知っておく必要があると思う」

ひなた「私個人としては、あまり好ましくない考えですけど……」

力の温存はスポーツや模擬戦程度であるなら状況によっては問題がないと思うけれど、

命に係わるこれにおいては、出し惜しみして欲しくないとひなたは思ってしまう。

けれど、そうせざるを得ない状況にあるのも事実で、

なにより、

非戦闘員でしかない自分にはそれを強要することなどできないと、ひなたは唇を噛む。

ひなた「若葉ちゃん達なら、きっと……」

陽乃「まぁ死にはしないでしょ。そんな軟ではないし。気になることはあるけど」


千景の精神面の不安定さが、

全員の足を引っ張ることになるのではないかという懸念がある

それを差し引いたとして

若葉、友奈、千景の近接戦闘タイプと中遠距離タイプの球子というバランスの悪さが気になる所だ。

友奈は千景のフォローから離れられないだろうから、

若葉と球子が組むことになるはず。

以前の若葉なら猪突猛進の傾向があって危険だったが、今は、球子のこともよく見てくれるだろう……けれど、
いかんせん、バランスが悪く囲まれやすい。

ある程度の怪我は覚悟しておいた方がよさそうだ。

歌野「……ところで、陽乃さんは戦いに行かないでここで大人しくしていてくれるの?」

陽乃「どういう質問よ。それ」

歌野「お母さんを探しに行くのかと思って」

陽乃「あぁ……」

今なら大社に知られることなく忍び込むことは可能だ。

そうして、ひなたを連れ出した時のように母親を見つけ出し、連れ出す。

言うは易しというもので、かなり難しい話だが。

ひなた「もしそうなら私を連れて行ってください。力になれるはずです」


1、1人で行く
2、ひなたを連れていく
3、行かないわ。そんな状態じゃないもの
4、それより……郡さんの実家を見てみたいわ

↓1


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から

すみませんが本日は、おやすみとさせていただきます
明日は可能であれば少し早い時間から

遅くなりましたが、少しだけ

陽乃「それより、郡さんの実家を見てみたいわ」

ひなた「お母様は気にならないのですか?」

陽乃「貴女のことがあったばかりなのに行動できるわけがないじゃない」

ひなた「……そう、ですね」

すみません。と、ひなたは頭を下げる。

現状でもほぼほぼ陽乃の仕業で確定しつつあるのだろうけれど、

まだ、断定はされていない。

それは陽乃とひなたの関係が特別良好と呼べるようなものではなかったこと、

ひなたよりも優先するべき人がいること、

ひなたのことを何よりも第一に考えていて、それをやらかしそうな人が他にいるからだ。

そんな中で、陽乃の母親まで似たような手口で奪われ、影も形も見当たらないとなれば、

その疑いの目は陽乃だけに向けられることになるだろう。

陽乃「それに、実家の件が事実なら私、その恨みで殺されることになるだろうから……嫌じゃない? 知りもしないことで殺されるの」

歌野「殺させないわ」

陽乃「殺されないわよ」

だとしても、そんな納得のいかない理由は遠慮したい。

ひなた「事実を確かめて、千景さんを助けるんですか?」

陽乃「まさか。いずれにしたって知ったことじゃないし、一蹴するのは変わらないわ」

でも、それはそれ。これはこれ。

調べておくことに越したことはない。


陽乃「私個人としては、両親が生きているならいいじゃないって言いたくはあるし」

とはいえ、その状況にもよる。

陽乃の両親――今はもう母親だけになってしまったが、

少なくとも、母親は味方だ。

周囲の全てが敵だったあの時だって、両親は味方でいてくれた。

けれどもし、

郡千景はその両親でさえ味方ではないのだとしたら。と、思わないこともない。

その兆候はすでに高嶋友奈や勇者という肩書への執着という形で表に出ていることは陽乃も知っている通りで、

だからこそ懸念される。

人々に被害が出始めている今、

郡千景の支えとして存在していた勇者という肩書は、周囲の目にどう映っているのか。

そのリーダーという役目を担っていた千景への手のひら返しはどれほどのものか。

陽乃「……」

歌野「……良いと思うわ」

歌野は、穏やかに頷く。

歌野「陽乃さんが知りたいなら、行くべきだと思う」

陽乃「その、悟った顔止めて頂戴」

歌野「だって」

何考えているか分かっちゃうんだもの。と、歌野は喉に負担がかからないように笑うと

ひなたへと目を向けて一緒に行ってあげて欲しいと言う。

ひなた「私も、ですか?」

歌野「上里さんは郡さんの実家とか知ってるんでしょ?」

ひなた「あ、はい……一応」

陽乃「あまりお荷物は連れていきたくないのだけど」


歌野「そう言ったって、陽乃さん知ってるの?」

陽乃「知らないけど、聞けばいいじゃない」

知ってる上里さんに。と陽乃が目を向けると、ひなたはさっと口を塞ぐ。

言わないから連れて行って欲しいという態度。

大社の施設に向かう場合もそうだが、

ひなたは陽乃の手伝いをしたいと思っているようで、そのチャンスがあるならと積極的だった。

ひなたを庇ったことで左手に酷い傷を負ったからだろうか。

そこで庇わなくてもひなたは死ななかったはずだと言っても、たぶん、態度は変わらない。

陽乃「一緒に来たって、特に何もないと思うけど」

ひなた「私も、自分の目で確かめておきたいんです」

郡千景の家庭環境

人伝手に話を聞いたところで、何が真実かなんてわからない。

だから、自分の目で確かめておきたいのだとひなたは言う。

歌野「ね?」

陽乃「貴女はただ私を見ている人を用意したいだけでしょ」



1、連れていく
2、連れていかない
3、ついでに歌野も

↓1


陽乃「貴女の真意がどうであれ、その目で見たいと言うのならいいわ。来なさい」

ひなた「ありがとうございます」

陽乃「別に感謝されることじゃないわよ」

車は動いていないし、徒歩でどうにかしなければならないという点で苦労はするだろうが。

ひなたは恐らく、

九尾の加護によって樹海化状態での自由を手に入れているのであって、

陽乃の助力があろうとなかろうと自分で郡千景の実家に向かうことが可能だろう。

陽乃からの許可なんて不要で、感謝する必要もないはずなのにひなたは不思議と嬉しそうだった。

歌野「……私はこんな状態だから留守番してるわ」

陽乃「それが賢明だけど……何? 分からず屋って」

歌野「ごめんなさい。つい」

陽乃に知られると思い出して、内と外を統一した歌野の困った顔をひと睨みした陽乃は、

それでも追及はせずに、九尾の力を借りてベッドから降りる。

陽乃「時間もないだろうからさっさと行くわよ。私から離れないで頂戴」

ひなた「離れると、何かあるんですか?」

九尾が離れることで加護の効果が切れる可能性もあれば、

何らかの事故でひなたが戦場の方に放り込まれることになる可能性もある。

後者の場合、陽乃が一緒にいればひなたのそばにいるだろうから、何があってもその命は守れるはずだ。

歌野「……私も巫女だったら、守って貰えたのかしら」

陽乃「貴女、疲れてるんじゃないの? 寝てなさい」

珍しく心配そうな表情を浮かべる陽乃だったが、

歌野はそんな顔しないでとちょっぴり残念そうに笑いながら「そうするわ」と、枕に頭を落とした。


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から

遅くなりましたが、少しだけ

安価は明日。


√ 2018年 10月08日目 朝:高知


陽乃「……ん。止まるわ」

唯一千景の実家を知っているひなたの案内でまっすぐ高知へと向かった陽乃は、

田園地帯が広がる中を進み、止まっているバスの中を改める。

陽乃「運転手と……乗客は学生5人のようね。特に問題なさそうだけど」

千景のいた痕跡もないため、

ここから出て行ったというわけではないようだ。

樹海化している為、存在そのものが痴漢されているはずの乗客達は何も起きていないのが正常だが、

万が一のこともあると考えていた陽乃は一息ついて、抱きかかえているひなたを見下ろす。

陽乃「……吐きそうなら休むけど?」

ひなた「だ、大丈夫です……先を急ぎましょう」

普段使える移動手段が軒並み封じられており、徒歩で移動するくらいいか出来ない。

もちろん、それでは間に合わないからと九尾の力を使っている陽乃がひなたを抱きかかえて全速力で移動してきたのだが……

いささか、一般人には耐えがたいものだったようで顔が青い

陽乃「そう? 吐いたら放り投げるわよ」

ひなた「肝に銘じておきます」

忠告しつつ、最初よりは勢いを落として道なりに進み、

一件の建物の前で足を止めた。


1階建てで、古めかしさを感じるところどころの傷みが良く目立つ建物

周辺には雑草が生い茂っており、

庭らしき場所もあまり手が入れられている様子がない。

陽乃「……人、住んでるの?」

ひなた「は、はい……その、はず、です」

下ろした傍からふらふらと数歩歩いてすぐに蹲って口元を抑えたひなたを横目に、

陽乃は表札を確認する。

【郡】

と、苗字が書かれているので、

同姓がこの村の中にいなければ、ここが実家で間違いないだろう。

そもそも、元巫女の代表として情報を多く持っていたひなたが知っている場所がここだ。

ココでないのなら、もう見つからない。

陽乃「……ふむ」

ひなた「何か、気になることが?」

陽乃「あぁ、人気が無いと言うか……陰惨な空気を感じるのよ。ここを実家とは思いたくない感じ」

ひなた「……言われてみれば」

陽乃「とにかく、中に入るわよ」

ひなた「鍵――」

鍵はあるのか。そう、ひなたが問うまでもなく、陽乃が取っ手に手を懸けた瞬間にガチャリと音がして、たやすく扉が開く。

ひなた「……九尾さんですか?」

陽乃「貴女はそこで待っていても良いのよ」

ひなた「いえ、私も行きます」


中に入ると、酷い生活臭が鼻を突く。

他人の生活感は好めないと言う人も少なくはないが、

これはその領域を逸している

纏められただけのゴミ袋、ほったらかしにされてカビの生えている靴

埃もところどころ溜まっていて、掃除の手も足りていないように見える。

ひなた「……これは」

陽乃「私の家よりは綺麗にしてるのね」

ひなた「久遠さんの家って」

色々と大変な目に遭って、

今は半分以上が喪失し、虫の巣窟となっている久遠家

そこに比べれば、確かにマシではあるのだが。

ひなたは比べられるものではないと眉を潜める。

人が住まずに朽ちていくのと、人がいながら朽ちるのとでは話が変わってくる。

郡家は後者だ。

それが、良くない状況であることを示唆しているのは明白だった。

陽乃「貴女はそこにいてもいいのよ」

ひなた「……いえ」

陽乃「そう……なら、靴はちゃんと脱ぎなさい」

言われ、足元を見たひなたは、

自分の右足があと少しで土足のまま床を踏みそうになっていると気付いて、慌てて靴を脱ぎ、

先に進んでいた陽乃の後を追った。


平屋ではあるものの、2階部分を1階に置いたような広さはなく、

敷地としてはやや手狭に感じられる程度で、玄関に続いている廊下からすぐに居間へとたどり着いた。

やせ細り、色素の抜けた髪、まるで年老いた女性のような風貌で臥せっているのが1人、
その奥の襖を開いて今まさに出てこようとしている男性が1人

男性の視線は一度は女性に向けられたものの、すぐに逸らされた揺らぎが感じられ、

顔は少しばかり顰められているように見える。

陽乃「……郡さんの家族構成って、貴女知ってるの?」

ひなた「……」

陽乃「答えて。上里ひなた」

老婆のような女性。

その傍らに膝をついているひなたに脅迫に近い声色で言うと、

ひなたはゆっくりと頭を下げた。

ひなた「郡千景さん。それとご両親のみです」

陽乃「そう」

ひなた「お母様については、天恐のステージ2と聞いていましたが……」

陽乃「どう見ても、そんな軽くは見えないわね」

祖母にも思える見た目でありながら、千景の母である女性。

それから苦々しく目を背ける父親。

そして、放られた庭やゴミ袋……廊下にも転がっていた空き缶

陽乃「確かに、こんな場所に戻されたって精神衛生上、好転するわけがないわ」

両親が生きているならいいじゃない。と、思う気持ちはまだ残るが、

自力では日常生活もままならない母親と、腐っているような父親とでは、

そう思えない気持ちも理解が出来る。


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ


ひなた「どうにかならないんでしょうか……」

ひなたはそう呟いて、居間の天井にある電球を嵌めるための枠を見つめる。

そうしてふと、おもむろに陽乃を呼ぶ。

ひなた「久遠さんの力なら天恐をどうにかできるのでは?」

陽乃「はぁ?」

ひなた「藤森さんに行った、忘却です」

陽乃「……」

陽乃は口を閉ざしたが、

陽乃が持つ力であれば間違いなくこの状況は改善できる。

母親であろう女性の天恐は、九尾の力で忘却させることが可能だし、

老いまではどうにもならないかもしれないが、

肉体的な衰え程度なら、今は歌野の力となっている宇迦之御魂大神様の力で回復させられるはず。

かといって、それをしてあげる義理はない。

陽乃と千景の関係は、そうしてあげるようなものではないからだ。

ひなた「久遠さん、してあげることは可能ですか?」


1、可能だけど、嫌よ
2、出来ないわ
3、可能だけど、それが?
4、してあげても良いけど、郡さんの態度次第ね
5、する理由がないわ


↓1


陽乃「してあげても良いけど、郡さんの態度次第ね」

ひなた「う……」

陽乃「今の状態でやってあげるわけがないじゃない。何のメリットもないし」

陽乃はそう吐き捨てるが、メリットはある。

陽乃が両親を救うことで千景からの印象が変わる……かもしれない。

が、もちろん可能性はものすごく低く、逆に悪化する可能性の方が高い。

天恐はステージが上がれば手の施しようがなくなる。

それは専門の病院に入院したとしてもだ。

それを改善できた? あの久遠陽乃が? 絶対に良からぬことをしたはずだ。と。

正直、ほぼデメリットが強い。

だからと言って、今の状態で千景が態度を改めるとは思えない。

家庭環境を改善できる可能性があると言っても、

千景がそれを信じないだろうし、それを頼ろうともしないだろう。

ひなた「助けることは、可能なんですよね?」

陽乃「出来るかできないかで言えば」

ひなた「っ……」

陽乃「言っておくけど、あなたが悩んだって無意味よ」


頭を抱えるひなたに陽乃はさらっと助言してため息をつく。

この家庭環境は改善するべきだ。

特に精神的に余裕がない千景のところだから、

少しでも改善させるには一つでも多くの変化が必要のはず。

そうでなくても、ひなたはこの状況を見過ごせないだろう。

だけれど、

もし仮に陽乃から歩み寄っても、千景はきっと態度を変えてはくれない。

そして、陽乃から歩み寄ることがなければ、千景はずっとこのままで、

むしろ悪くなっていく一方だろう。

だから、無意味。

正直に言ってしまうと、改善する余地がない。

もちろん、千景からのバッシング覚悟で両親をどうにかすることも一つの手ではあるが、

千景と陽乃の関係が良くなることはない。

だからひなたも頭を抱えてしまう。

こじれすぎているのだ。

ひなた「はぁ……」

電気をつけられない居間はカーテンも閉め切られていて、夜と勘違いしそうなほどに暗い。

まるで、郡家を表しているかのように。

ひなた「八方ふさがりです」

陽乃「だから無意味なのよ。この状況……変えたところでって感じだわ」

床に転がるゴミを一瞥し、父親の脇から今の奥の部屋を覗く。

廊下や居間よりももっと生活感溢れるその部屋は、

とてもではないが足を踏み入れたくないような酷いありさまだった。

↓1コンマ判定 一桁

0 00 樹海化解除
1~4 千景の部屋
5~9 周囲の反応


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

遅くなりましたが少しずつ


ひなた「そろそろ戻った方が良いのでは……?」

陽乃「まだ平気よ」

ひなた「ですが……」

巫女にとっては本来、ほんの一瞬のできごと。

瞬きする間に誰かが傷ついたり、

誰かの命が失われたりするのが、バーテックスの侵攻だ。

しかし、今は九尾の加護によってその一瞬を知覚している為、不安なのだろう。

ここで樹海化が解けたら父親に発見される。

千景の友人としてここにきていることにすれば多少は取り繕えるからどうにかなるとは思うが、

千景本人に知られると面倒だ。

特に、陽乃は。

ひなた「久遠さん?」

その陽乃は、父親の足元にしゃがんで奥の部屋に体の半分を潜り込ませて、

何をしているのかと様子を窺っていたひなたに向かってくしゃくしゃに丸められた紙を放った。

ひなた「これは……」

陽乃「随分とお優しい激励がたくさん来ているみたいよ」

ひなた「優しい激励ですか……これが」

陽乃に投げられた紙を広げたひなたは、

優しい激励とは思えない罵詈雑言に思わず手に力を込めてしまう。

千景や、その両親には辛い言葉だ。

それを平気で書きなぐり、あまつさえ差し出せてしまう人の悪意に心が痛み、

冗談でもそれを優しい激励と言えてしまう陽乃にも、傾く。

軟禁される以前から、陽乃の評判は最悪だった。

3年前から、相当――酷いことになっている。

それは現実的にも、ネット上でも変わらずに、陽乃へと向けられていた。

だから【クズ】と書かれていても【死ね】と書かれていても、

陽乃は特別、何も思わないのだろう。

ひなた「激励ではありませんよ。これは、罵倒というんです」

陽乃「そう? クズがクズと言って、生かされてることも知らないくせに死ねって言ってるなんて、馬鹿みたいじゃない?」

ひなた「どうしてそう、笑えるんですか……」

陽乃「こんなのにいちいち怒ってたらキリがないでしょ。貴女は相手してあげるの? 説明会とかしてあげるの?」

私だったら。と、

陽乃はにこやかに笑って他の紙を開いてひなたへと見せる。

陽乃「ツアーに引き摺り出して役立って貰うわね。役立たずって言えるほど、自分が有益だって思っている人もいるみたいだから」

実際、餌には使えそうだなんて陽乃は呟く。

ひなた「怖いこと言わないでください」


陽乃「逃げる餌に喰いついてくれれば、勇者が安全に対処できるのよ? 怪我が減るわ」

ひなた「本当にやらないでくださいね? 大変なことになってしまいますから」

陽乃「分かってるわよ」

千景はともかく、

若葉や友奈、杏も球子も、歌野だって

みんなそれを認めないだろうから、確実に悪手だ。

陽乃「それはそれとして、これを真に受けるような素直な子は辛いでしょうね」

ひなた「……千景さんの前で絶対に言わないでくださいね」

煽ってるのかとか、喧嘩売っているのか、言い合いになること間違いなしだとひなたは不安そうだが、

陽乃は素知らぬ顔で「はいはい」と手を振る。

陽乃「素直な可愛い子をこっから引っ張り出すか、周りをどうにかしないとそれこそ面倒なことになるわよ」

ひなた「そうですね……」

陽乃「大社に状況を知らせたところで、まともに改善されるかしら」

ひなた「周囲の嫌がらせ……を、止めることは大社にもリスクがあるので、おそらくは郡家そのものを引越しさせるという手段を取るかと」

陽乃「あくまでこの両親と一緒にいさせる気?」

ひなた「彼らは大人ですから。子は親と、親は子と。その方が良いと思うのでは?」

陽乃「ふむ……」

本来なら、そうだろう。

けれど、精神的に摩耗しているような両親と千景が一緒にいて意味はあるのだろうか。


1、もう少し散策を続ける
2、そろそろ戻る
3、他の家の様子を見に行く
4、まぁ、郡さんを高嶋さん達と一緒にいさせれば良いだけなんだけど


↓2


陽乃「ひとまず、他のところも見てみましょ」

ひなた「他……って、置いていかないでくださいっ」

考える暇も与えてくれずに先に行ってしまう陽乃を慌てて追いかける。

別室ではなく、

郡家を出て道なりに歩いている陽乃の少し後ろを、ひなたは歩く。

ひなた「久遠さんどちらに……」

陽乃「郡さんの状況はある程度分かったから、他を見てみたいのよ」

ひなた「なるほど……侵攻によって被害が出ているご家庭もあるかもしれませんね」

陽乃「だからってどうするわけでもないわよ」

ひなたは何か期待しているのかもしれないが、

その家に対して何らかの施しを与えるわけではない。

死者をよみがえらせる――ことも、もしかしたら不可能ではないかもしれないけれど、

出来たとして、代償は相応のものだから魂が持っていかれることもあり得るし、

今は対話を出来る状況でもない。

あくまで、様子を見るだけだ。

陽乃「諏訪とは違って随分と余裕があるはずなのにね」

ひなた「……そうなんですか?」

陽乃「あっちは、もう限界が近かったわ。限界が近いからこそ、団結するしかなかったのかもしれないけど」

あるいは、勇者である白鳥歌野と、巫女の藤森水都の人徳がなせる業か。


陽乃「……ふむ」

千景と違って二階建ての住居で、庭もしっかりと手入れされている家

千景と同じ平屋だが、それなりに広い敷地を持つ家

いくつかの住居に勝手にお邪魔して回った陽乃は、目を細める

ひなた「何か気になることでも?」

陽乃「随分と、平和だと思って」

ひなた「平和?」

陽乃「だって、平時と変わらない状態を維持していたでしょう」

廊下に空き缶が落ちていたり、ゴミ袋が溜まっていたりはせず、

玄関自体も綺麗に整えられていた。

室内や住民にしても、まるで侵攻なんて行われていないかのような状態だった。

もちろん、それが悪いとは言わない。

平穏を保つために、何か別のことに注力するのはおかしくないからだ。

けれど。

陽乃「侵攻が行われていて、その影響で誰かが傷ついていて、失われていて。それが恐ろしくて悲しいから郡さんの家にはあんなものがあったはずなのにね」

まるで、そんな恐怖も悲しみもないくらいに、周囲は平和に思える。

陽乃「結局は、自分には関係のないことだから荒んでいない。たった一つ鬱憤を放り投げればそれで気が晴れるのよ」

身内が亡くなったり、大切な何かが失われて

それが穏やかなものではなく、理不尽であったなら、平静でいられるものか。

生前のままを当たり前のように生きていけるものか。

陽乃「勝手に期待して、勝手に手のひら返して、みんな――」

ひなた「久遠さんっ」


それ以上は駄目ですと、ひなたに手を引っ張られて陽乃は言葉を止める。

言ったところでどうにもならない――とは思えない。

陽乃が何かするわけではないし、

神様はいるけれどそれを叶えはしないだろう。

しかし、間違いなく行動に移してしまう存在がいる。

ひなた「久遠さんは、千景さんの為にも怒るんですね」

陽乃「まさか」

嘲笑するように笑った陽乃は、ひなたを見つめる。

陽乃「あの子を刺激されると私達が困るじゃない。殺されかけたの忘れさせたかしら」

ひなた「忘れるわけありませんよ……たとえ、そうされていたとしても」

ひなたは殺されかけただけで、傷1つ負わなかった。

その代わりに陽乃が深手を負って、

ただでさえ忘れられない出来事が絶対に忘れてはならないものになったのだから。

ひなた「ですが、久遠さんも千景さんも通じるものがありますから……」

陽乃「だからってあんな子のために怒ってあげる義理はないわ」

ひなた「そうですか……」


歌野がいたら何か茶化しの1つでも入れられるのだろうか。なんて、

ひなたは掴んだままの手を握る。

当然のように握り返されたりはしないものの、

煩わしいと振り払われることもなく、

少しは距離も縮まったのかとひなたは陽乃の様子を窺って。

ひなた「久遠さん……その、差し出がましいことだとは思いますが、一つだけ」

陽乃「それを言ったってどうにもならないことだって、理解はしているのね?」

ひなた「……」

陽乃を見るひなたの一方で、陽乃はひなたのことを全く見ていない。

しかし、その動きを見ているかのようにふっと息を吐く。

ひなた「可能な限り、千景さんを気遣って頂けないでしょうか」

千景は現状、どうしようもない。

内も外も完全に取りつく島がない状態で、殺意さえある。

それと比べれば、

言葉はきついが内心では突っ撥ね切れていないのが垣間見えている陽乃の方がまだ、

話が通じるし、冷静に対処してくれる。はず……と、ひなたは申し出る。

ひなた「どちらも反発し合うか、片方だけでも歩み寄る姿勢を取れるかで全く違ってくると思うので……」


1、それで貴女が殺されるとしても私は責任取らないわよ
2、無理に決まってるでしょ
3、今でも十分気遣ってあげてるじゃない
4、で? それをして私に何か利益があるの?


↓1


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であればお昼ごろから

では少しずつ


陽乃「それで貴女が殺されるとしても私は責任取らないわよ」

ひなた「……お願いしなければ、責任取ってくれるんですか?」

陽乃「貴女は私のそばを離れられないから、手を抜かなくていいのならある程度の責任は持ってあげるわよ」

全部ではないにしても、

ひなたがここまで立場的に追い込まれているのは陽乃の存在が大きく影響している。

大社がもう少し考えてくれるなら。とは思うけれど、期待する気のない陽乃としては、目の前にあるものが全てだ。

大社の施設に置いておくと言う選択肢もあった中で、

陽乃は、ひなたを連れ出すことにしたのだから、その分の責任はある。

授かっている能力的には千景の方が下であっても、

千景だって勇者なのだから、手を抜くようなことをしても他人の身の安全を保障できるとは思えない。

ひなた「でしたら、お願いします」

ひなたは自分の胸元に手を当てながら一礼するように言う。

ひなた「千景さんをどうかよろしくお願いします」

陽乃「殺されるわよ」

ひなた「……はい」

陽乃のそれはただの脅迫には収まらない。

実際にひなたは殺されそうになったし、

陽乃がそこにいなければ、本当に殺されてしまっていた。

ただの巫女である自分が出しゃばった結果とはいえ、だ。

あの頃の千景は本気だった。

まるで容赦なく、確実に殺そうとして来ていた。

それがより悪化しているであろう今の千景は、些細なことでも見逃さないはず。

ひなたは陽乃の左手を見る。

九尾の力で補われているとはいえ、まだ包帯のまかれているその手は、

中指の辺りから縦に切り裂かれた痕がまだ痛々しく残っている。

ひなたを庇わなければ怪我をせずに対処できただろうし、

そもそも、ひなたが千景に向かわなければあんなことは起こらなかったかもしれない。

ひなた「もしもそれで命を落とすことになっても、それは私の選択の結果ですから」

陽乃「ふぅん……」

ひなた「不満。ですか?」

陽乃「だったら遺書でも書くか、事前に周囲に伝えておいて頂戴。全責任は自分にありますって」

ひなた「準備しておきます」

陽乃「……馬鹿じゃないの」

ひなた「え――きゃっ!?」

陽乃は一瞬だけ、ひなたを見つめて顔を顰めると、

捕まれていた手を引いてひなたを躓かせ、その勢いのまま抱きかかえる。

ひなた「久遠さん……?」

気に入らないのかと問いかける視線を陽乃は無視して、歩き出す。

ひなたが遺書を書こうが事前に言いふらしていようが、

陽乃がそうさせたのではないだろうか。などと疑われるのが関の山だ。

陽乃はそうできてしまいかねない力があり、それを大社も千景も知っている。

ひなたを大切に想う若葉は陽乃寄りだが、精霊の影響を受けてまで正常な考えで居られるだろうか。

陽乃「この村は居心地が悪いわ」

↓1コンマ判定 一桁

1,3,6,7,9 樹海化解除
4 九尾


九尾「主様」

千景の実家がある高知の村に広がる田園地帯

合間を縫って歩いていた陽乃のすぐそばに、大きな狐が姿を現した。

金色の毛並みと赤い瞳を持つ、陽乃の精霊、九尾

ずっと大人しくしていた九尾が姿を現したことに陽乃は少し警戒して目を細める

陽乃「……何かあった?」

九尾「主様、戦闘に介入する気はあるかや?」

陽乃「苦戦でもしてるの?」

ひなた「若葉ちゃんに何かあったんですか?」

九尾「乃木若葉に限らぬぞ」

九尾は陽乃ではなくひなたに目を向けながら口を開く。

九尾「郡千景の視野が狭い。死人は出ぬとは思うが、無意味な怪我人が出るやもしれぬ」

ひなた「友奈さんは……」

九尾「その高嶋友奈がまっさきに重傷を負うぞ」

死人は出ないとは思う。

九尾はそう言ったが、それはあくまで今は。というだけだろう。

重症を負えば死ぬ可能性が高くなる。

なにより、友奈は病み上がりで本調子に比べて衰えているだろうから、千景をカバーしきれるとは思えない。


陽乃「だから私に出て行けと? 死ぬわよ私」

九尾「ちょうどよいではないか。その娘を使えばよい」

ひなた「私に出来ることがあるなら――」

陽乃「貴女は黙ってて」

ひなた「っ」

ひなたの口を塞いで、九尾に目を向ける。

九尾の使えは道具としてだ。

人として協力し合うのではなく、使い捨ててしまえばいいと言う程度の認識。

それはお気に入り登録されているひなたと言え例外ではない。

陽乃「上里さんを無駄に使い潰すの? 郡さんのために?」

九尾「主様が日頃から望んでいることではないか。勇者を生かせば主様の労が減ると。であれば巫女を使うことに躊躇いは不要であろう」

陽乃「上里さんは乃木さんのために使う予定でしょ」

九尾「乃木若葉の負担を減らすより、主様が死なぬようにする方が有益であろう」

ひなた「むぅ……むぐっ……」

戦闘に手を貸さない場合、

最悪友奈が死ぬか重傷を負うことになるが、戦闘自体は終わるはず。

かといって戦闘に出て行ったら本当に死にかける。

歌野のおかげで多少は改善されたため、使いしすぎなければ死にはしないはずだが。


1、上里さんは使わないわ
2、高嶋さんが傷つく方が、あの子にはいい薬になりそうね
3、行くだけ行くわ。死なれたら困るもの
4、上里さんはどうするのよ。巻き込まれるわ


↓2


陽乃「高嶋さんが傷つく方が、あの子にはいい薬になりそうね」

九尾「ふむ……」

千景にとって、友奈はかけがえのない存在だ。

それが自分のせいで深手を負ったとなれば、千景も多少は大人しくなるかもしれない。

ひなた「っ……むっ!」

陽乃の腕の中でもがいたひなたは、塞げた口を解放させて、陽乃を見つめる

ひなた「それで友奈さんが死んでしまったら大変なことになってしまいます」

陽乃「だから?」

ひなた「……気遣って、あげてください」

陽乃「はぁ」

ひなた「久遠さんっ」

友奈が死ねば、千景の暴走はもう止められなくなるだろう。

自分の命だなんてなげうって、何か、とんでもないことをしでかす可能性もある。

友奈が多少の手傷を負う程度なら薬になるかもしれないと言うのは理解できる話だ。

自分の行動を改めることにだって繋がってくれればいい。

もちろん、そんな手段を取らずに済むのが一番ではあるけれど。

ひなた「千景さんは友奈さんを失ってはいけません……きっと、久遠さんだって」


すぐ近くで、くつくつと馬鹿にするような笑い声が聞こえる。

大方、きっぱりと断っておかないからだと思っているのだろう。

陽乃はひなたの死の責任を取らないと言い、

ひなたはそれでも構わないと言った。

それは受けると言ったと取られても仕方がない。

ひなたは陽乃の性格から見て、気遣ってくれると考えている。

たとえそれで、ひなた自身が死ぬことになったとしても。

陽乃「まぁ、死ぬ覚悟があるのなら」

ひなた「あります」

陽乃「あのね――」

ひなた「お願いします」

陽乃「……」

出来ることが些細なことでしかなかったから、

大きく貢献できるであろう巫女としての責務を二つ返事で受け入れた上里ひなた

自分の命さえも、利用できるなら利用しようとする。

なるほど、九尾が笑うわけだ。と、陽乃は目を細める。

九尾「それで?」

陽乃「行くしかないでしょう。高嶋さんが死んで困るのは事実だもの」


怪我なら友奈があとで慰めてくれるし、

そこから暴走してしまう可能性も格段に下がる。

けれど、友奈が死んでしまったら千景に手を差し伸べる者がいなくなる。

若葉では力不足。

球子と杏でも、無理だ。

歌野と陽乃はもはや論外である。

陽乃「上里さん、貴女を連れていくことは出来ないわ」

ひなた「はい。言われなくても」

九尾「連れて行かぬとこやつだけでは戻れぬぞ。後々主様が回収しなければならぬ」

陽乃「はぁ?」

九尾「当然であろう。妾の加護であれ万能ではない。主様が戦うのであれば、こやつの自由は保証できぬ。なにより、人目につく」

陽乃「……そう」

ひなたに徒歩で帰ってね。とは言えるが、

絶対に病院にはたどり着かないし、どこかで樹海化が解けてひなたが衆目に晒される。

大社に見つかればまた連れていかれることになるはずだ。

かといって、戦場に連れていくわけには。と、陽乃は拳を握る。

ひなた「もし、これで久遠さんとお別れすることになっても――本望です」

それが、戦場で死ぬことであろうと、大社に連れられることであろうと。

選択の結果であると。


1、ひなたを送ってからにする
2、隠れていてもらう ※後程回収
3、ひなたを連れていく
4、ひなたに任せる
5、帰らせる

↓2


陽乃「良いわ。送っていく」

ひなた「そんな悠長な――」

陽乃「私は貴女を信用してるわけじゃないの。一人で帰して面倒ごとに巻き込まれたり、ましてや大社に使って情報漏洩なんて言語道断」

今すぐに友奈が死ぬわけではないと九尾は見ているようだし、

どちらもリスクはあるが、

大社に監禁されたり、勇者に対し鬱憤が溜まっている人々に捕えられるよりは良い。

前者は施設を壊せば済むが、

後者は最悪命に関わる上に、若葉のメンタルまで傷が付く。

ひなた「久遠さ――っ」

陽乃「良いから黙ってなさい。舌を噛むわよ」

九尾の背中に飛び乗って、ひなたの頭を胸に押し付ける。

千景に加えて若葉は無理だ。

今の死に体で心神喪失した勇者2人は相手に出来ない。

陽乃「貴女が死ぬのはどうでも良い。でも、私の足を引くような死に様は晒さないで頂戴」

ひなた「久遠さん……」

身を屈め、今すぐにでも駆け出しそうな九尾の背中を撫でて。

陽乃「九尾、全力で」

そう、指示を出した。


√ 2018年 10月08日目 朝:病院


九尾は陽乃達が誘引している病院の出入り口前で止まる。

陽乃はひなたを抱えて背中から飛び降り、

病院の方へとひなたを歩かせる。

陽乃「病室までは自分で行けるでしょう」

ひなた「……白鳥さんは連れて行かないのですか?」

陽乃「私より死ぬ可能性が高いから」

歌野は、傷つけば傷つくほど回復する

つまり、それだけ力を消耗しやすい

にもかかわらず、

他人までも癒そうとするから、より多くの力を消費することになる。

今はそれをしていい身体ではない。

陽乃「私に協力したくてたまらない貴女に役目をあげる」

歩いていくひなたにため息をついて声をかけると、

ひなたはぴたりと足を止め、振り返る。

ひなた「白鳥さんを行かせないこと。ですね」

分かってます。と、ひなたは言う。

本当なら連れて行って欲しい。

いいや、連れていくべきだ。

そうしなければ、勇者達が死なずとも陽乃が死ぬかもしれない。

けれど、代わりに歌野が命を落とす。

それは、陽乃が絶対に望まない結果だ。


陽乃「分かっているならいいわ。さっさと戻りなさい」

ひなたが1人で帰れば、

歌野は間違いなく異変に気付くだろう。

こうしてここにいるだけでも、歌野は勘付くかもしれない。

それだけの繋がりがある。

可能な限り早くと九尾の背中に飛び乗った陽乃に、

ひなたは名残惜し気に目を向ける。

ひなた「どうか、ご無事で」

陽乃「私を誰だと思ってるのよ。貴女達」

ひなた「そうですね。とんでもない、命知らずです」

それも、自分の命を。

それは勇者とはとても呼びたくない代物だ。

だけれど、大社も世界もそんな勇者を求めている。

ひなた「戻ってきたら、私が全身全霊を持って看病いたします。私の耳かきは若葉ちゃんのお墨付きなんですよ」

陽乃「そう。じゃぁ、乃木さんにでもしてあげなさい」

ひなた「……」

言い捨てて九尾と共に駆けていく陽乃を見送って、ひなたは踵を返す。

急がなければ、歌野が飛び出していく可能性もあるからだ

状況判定

↓1コンマ

01~00 ※良~悪

※+20


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

状況判定:45

では少しだけ


全てが静止してしまっている世界から、

樹木へと変換された世界へと移り変わって――爆音が鼓膜を震わせた。

陽乃「あら……」

九尾が呼びつけてきた割には、

意外に、状況は悪くはないと見える。

全員がいるときに比べると押されているし時間がかかっているけれど、

暴走気味の郡千景、病み上がりの高嶋友奈

連戦続きの乃木若葉と土居球子

そう考えれば、十分に善戦していると言えるだろう。

陽乃「完成型……では、無いのね。1体いるけど10体くらいいたのかしら」

九尾「そんなわけがなかろう。元々は3体いたが乃木若葉と郡千景がそれぞれ討ち果たした」

陽乃「なら私来なくたって」

九尾「時間をかけてよいならば問題は――」

ふと、影が出てきたかと思えば急激に大きくなっていく。

鳥が飛んでいるわけではなく、

敵の攻撃でもないそれはあまり聞き覚えのない声を漏らしながら、落ちてくる。

九尾「跳ね返すかや?」

陽乃「やめなさいよ。絶対」

距離を見計らって、僅かに後ろに下がった陽乃はその落下物をしっかりと受け止めた


友奈「うっ……」

陽乃「落ちるなら私のいないところにしてくれない? 危ないから」

友奈「久遠……さん……?」

友奈の血だらけの手が陽乃の頬に触れる。

神樹様の力を借りている装束はところどころ破け、

白を基調としていた色合いは友奈の血で赤黒くなっており、

右手の手甲は砕け散ってしまっている。

陽乃「残念だけど、今のわたしには治癒能力はないわ」

友奈「……どうして」

陽乃「貴女達が体たらくだからよ。いつまで経っても戦いが終わらない。戦いが終わらなきゃお昼ご飯も食べられない。分かる? お腹が空いたの」

友奈「そんな、理由で……」

ボロボロになっていても、まだ勇者の力がある友奈は陽乃の胸を押して、

どうにか、足元の樹木に降り立つ。

友奈「グンちゃんは、私が、どうにかするから……」

陽乃「ふぅん……出来るの?」


友奈「久遠さんよりは、どうにかできます……」

友奈はお人よしだ

けれど、その友奈をもってしても、

今の陽乃と千景は希望的観測ですら語れない領域にあると考えているようだった。

その考えは正しい。

陽乃と千景が近づけば、バーテックスそっちのけだ

だとは言え、友奈も満身創痍だ

あの千景のそばにいては、死ぬかもしれない。

その前に千景が死ぬかもしれないけれど。

陽乃「……」

考えている間にも友奈は戻るために歩みを進めていく。

ふらつきながら、血を流しながら、倒れそうになりながら。

千景は初期型をやたらめったらに倒し続けている。

進化型までの距離はわずかに遠く、そこにも段々と集まってきている。

陽乃「バーテックスを、叩くべきか……」


1、バーテックスを叩く
2、千景のもとへ
3、若葉のもとへ
4、球子のもとへ


↓1


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日もおやすみとさせていただきます
明日はその分お昼頃からを予定しています

遅くなりましたが少しずつ


陽乃「……向こうより先にバーテックスを叩くわ。九尾」

九尾「よかろう。乗れ」

ひなたがいないからと、屈みもしない九尾の背中に飛び乗って、

陽乃は向かう方向を指示する。

友奈が飛んできた方向、向かった方向。

それと逆の方でも戦闘が行われていると思われる動きが見えるため、

友奈と千景、球子と若葉

それぞれで分かれて戦っているということだろう。

戦略的にそうなったのか、

それ以外の要因でそうなったのかは分からないけれど、後者であれば非常に脆い。

かといって千景の方の救援に行くわけにはいかないし、

若葉達の方に行けば時間を取られる。

何より――陽乃はバーテックスを引き付けやすい。

なら、行く先はその中心だ。

左右の敵戦力を惹きつけて負担を減らしつつ、進化型を叩く。


樹海を全速力で駆け抜けていく九尾の背中に跨りながら、

陽乃は、友奈の向かった方角へと目を向ける。

友奈は病み上がりとはいえそれなりの力を持っている勇者だ。

それがあそこまでボロボロになっているのを見ると、

千景が相当、無茶な戦いをしているということになる。

自分の体のことを一切考えずに猪突猛進

その援護で友奈までかなり無理しているはず。

陽乃「……少しは、痛い目見ると思ったけど」

九尾「感知できておらぬのであろう」

陽乃「だからって……」

九尾「視野が狭いと言っておろう。今のあ奴はただの獣じゃ」

完全に暴走状態なのだろう。

高嶋さんにさえ気づかないなんて――と、陽乃は呆れたようにため息をついて拳を握る。

今はバーテックスに集中する他ない。

最後に戦線に出てからどれだけの時間が経っただろう。

どれだけの間病床に伏せ、なにひとつ鍛練もできないままだっただろう。

左手だって、千景に切り開かれたままだ。

九尾の力で無理矢理に誤魔化しているが、

まだ抜糸さえできない状態で、簡単に傷が開くし、裂ける

九尾「主様、退くかや?」

陽乃「……ここまで来て?」

九尾「戦えぬのならば、いる意味がなかろうて」

陽乃「馬鹿言わないで」

全盛期に比べると、だいぶ衰えてきているのではないか――と、不安はある。

それでも、

九尾や、伊邪那美様の力でどうにかごり押ししていくしかない。

でなければ死ぬ。

陽乃が死ぬし、勇者が死ぬ。

たった6人しかいない勇者、陽乃を含んでも7人。

1人死ぬだけでも大きな痛手になる。

陽乃「口よりも足を動かすことに注力して頂戴」

九尾「くふっ……言いおる」



陽乃「九尾――突っ込んで!」

九尾「無論じゃ!」

陽乃が近づくにつれて、

無数の初期個体がその存在を察知したかのように方向転換し、陽乃の方へと群がり始める。

その中を、九尾はまっすぐに駆け抜けて置き去りにしていく。

相変わらず左右に向かう分と、進化体に群がる方とで数は多いが、

陽乃を襲撃してくる数も相当なもので、陽の1人では手が余る。

それを全部潰していたら時間が足りない。

陽乃「そのまま進化体に近づいて頂戴!」

九尾「よいのか?」

陽乃「時間がないの――ッ!」

初期個体は、群がり、食い合って進化型へと昇華する。

それは、完成型だってきっと変わらない。

初期個体から、進化型、そして、それ以上の数を持って完成型へと成る。

陽乃「じゃ――まッ!」

九尾の背にいる陽乃へと一直線に向かってきた個体を殴り飛ばして、進化型を見据える。

進化体から完成型になるのか、初期個体から完成型になるのか。

それは分からないけれど、群がっていくのを放置したら最低でも一段は上がってしまう。

それだけは、絶対に止めなければならない。


↓1コンマ判定 一桁

0 00 大失敗

1~5  撃退
6~9  失敗
ぞろ目 撃退


※陽乃→敵


九尾「往けッ!」

徐々に数が増え、

抜け道もなくなっていく中で九尾の尾が陽乃の体を巻き上げて、

力一杯に大空へと放り投げる。

陽乃「九尾ッ!」

九尾「妾では抜けられぬ!」

大柄な妖狐としての九尾は、その体で突撃すれば道を切り開くことは可能だが、

それも、壁のように増長したバーテックスの軍勢には通用しない。

せき止められ、足を止めさせられ、

取り囲まれるのが運の付きだ

だが、陽乃なら抜けられる。

九尾より圧倒的に小さく、小回りが利く。

陽乃「危ないじゃないッ!」

真下から迫ってきていた初期個体を足蹴にし、左方向から突進してきた個体を殴り飛ばす。

陽乃「ッ」

左手は、九尾の力でごまかしているだけのボロボロで、

たった一撃で――血が迸る。

痛みはないが、長引けば、本当に使い物にならなくなるかもしれない


陽乃「あぁもうッ!」

数が多く次から次へとバーテックスが降り注いでくる中、

陽乃は身近に迫ったものだけを殴り飛ばし、蹴飛ばして進化型へと迫っていく

進化型が全部の初期個体に指示を出しているという風にも見えないが、

あれを叩いてしまえば、あとは有象無象

比較的安全に処理しきることが出来るし、勇者も街も被害を最小限に抑えられる

だが、そこに近づくにはあまりにも数が多い。

陽乃「邪魔ッ!」

どれだけの数を葬り去っても次から次へと群がり、道を塞ぎ、視界を埋めてしまう。

邪魔をするなと初期個体を貫通するほどの勢いで殴り飛ばし――

陽乃「ッ!」

――次の瞬間、陽乃は左方へと一直線にはじけ飛ぶ。

高く伸びた樹木をへし折りかねないほどの勢いで衝突し、地面へと崩れ落ちる。

激痛に朦朧とする視界の中でゆらゆらと

長い、尾のような形状をしたものが揺れているのが見える。

陽乃「げほっ……っ……やってくれるじゃないの……ッ!」

あの一撃で、多くの初期個体も併せて消し飛んだはずだ。

仲間意識というものが存在していないのか、容赦なく振り抜けられたその言一撃は、

しかし、陽乃にとっては痛撃だった。


仲間であろう存在を巻き込もうが、

同一個体のいくらかが消し飛ぼうが、彼らにとっては何の意味もないことなのだろう。

ゆえに、動揺はしないし、反旗を翻すこともない。

与えられただろう目的の為だけに、ただただ邁進していくのみ。

だからこそ、

ダメージを受けた直後の陽乃を襲うまでに、余計な時間は一切かからなかった。

陽乃「っの……ッ!」

力の籠っていないただの拳では倒せない、

なのに、力を入れて殴り飛ばせば体がふらつく。

身体がふらつけば、隙を生んで――初期個体が食らいついてくる。

陽乃「っ……ぁっ……あぁぁぁぁぁッ!」

皮膚を食い破り、肉に食い込み、抉り取ろうとさえするその力を、

陽乃は九尾の力を纏った手で強引に引きはがす。

肉が裂け、血が辺りに飛び散って、滴り落ちる。

いつ、失血死してもおかしくないような状況で、陽乃はそこに立つ。

食い割かれた左腕は垂れ下がったまま、反応がない。

身体も限界が近いようで、足に震えが来てしまっているし、

視界の一部も、滲んだように曖昧なことになっている。

あぁ、死ぬ。

これは――殺される。と、陽乃は死を直感して

陽乃「ふっ……はっ……ははっ……あははははっ……」

そして、笑った。


陽乃「はぁ……」

どんなに頑張ったって、意味がない。

努力が報われるなんて、報われたことがある人だけの戯言で、

間違いなく報われない人もいる。

母は救えたが、それ以外の誰も救えなかった。

父親でさえ失った。

仲の良かった親戚も、みんな。

そんな中で、母親は大社に連れていかれ、友人が離れ、

人々には非難され、同じ勇者と呼ばれる者にさえ疎まれてきた。

今だってそれは変わらない。

何人か味方は出来たが、それだけで、世界は何も変わっていない。

陽乃の死は世界のためになってしまう。

彼らの念願が成就してしまうことになる。

それで、バーテックスが去ったとしたら、それは――

なんて、死者には知る由もない未来だろうけど。

陽乃「……死んであげるのは、癪ね……」


1、戦う
2、戦わない
3、逃げる

↓2


陽乃「良いわ。かかってきなさい……」

九尾の力で痛みを誤魔化すことが出来たとしても、

流れ出て行く血は止められない。

遅かれ早かれ、このままいけば確実に死が待っていることだろう。

けれど、だからって安く食われてやる気はない。

無抵抗で食い物にされる気はない。

陽乃「どいつもこいつも……私を殺したがって……ほんと……」

それで殺されたくないって抵抗したら、人殺し人殺しって。

前から言われていたことではあるけれど、事実となった今はもう、嬉しそうに叫ばれる。

陽乃「……目障りだわ」

九尾の力をもってしても、食い破られた左腕は動かせない。

だからと言って、降参は無しだ。

陽乃「最後まで、付き合ってくれるんでしょ?」

陽乃はそう言って、向かってきた個体を右手で殴り飛ばす。

間髪入れずに向かってきた左右の個体を、

地面を転がって躱した陽乃は、飛びのいた隙を狙ってきた別の個体を蹴り飛ばして、

真正面から迫ってくる個体の口のような器官のわずかに上を叩き伏せる。

陽乃「ッ――」

地面に降り立った瞬間、横からの猛突進を受けて、吹っ飛ばされる。

それでもまだ、陽乃はふらりと立ち上がって、拳を握る。

陽乃「まだ、生きてるわよ……私……ほら。こっちに来なさいよ」

↓1コンマ判定 一桁

0 00 大失敗

1~5  失敗
6~9  撃退
ぞろ目 特殊


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であればお昼ごろから

では少しずつ

いくら、バーテックスや勇者に対しての特効を持っているとはいえ、

陽乃だって生身の人間であることに変わりはない。

身体が傷つけば血が流れるし、

傷つけば傷つくほどにその動きは鈍っていく。

九尾の力でその痛みを誤魔化したとしても、動かせなくなってしまう。

陽乃「はっ……っ――ッ!」

万全であれば完成型にも劣らない力があるけれど、

満身創痍の状態から、さらに深手を負い、片腕が使えなくなって、

足元もおぼつかなくなってきたとなれば、

進化型どころか圧倒的な数を誇る個体の猛突さえさばききれなくなる。

陽乃「ぐ……」

叩けば消滅する程度の個体にでさえ遅れを取り、

背中に突撃されて倒れ伏した陽乃は震える右腕で体を支えながら、どうにか体を起こす。

陽乃「ふ……ふふっ……ごほっ……」

最初の戦いでさえ、ここまでではなかった。

諏訪へ向かう時も、諏訪から帰る時も……

陽乃「死ぬ……死ねるわ……これは……」

九尾の力ではなく、純粋に痛みが薄れていく感覚。

確実に死が近づいていると、はっきりとわかる。

陽乃「……ふふっ」


バーテックスの数は確実に減っている。

減っているのに、まだ、終わりが見えない。

視界が赤く揺らいで半分ほど欠け、平衡感覚ももはやない。

普通なら、ここは逃げるべき場面だ。

命が大事なら、自分のことだけを考えているなら

わき目もふらずに、一心不乱に駆けだすべきだ。

助けを求めて、叫んで、死に物狂いに。

若葉や球子、友奈、それに千景もいる。

直接助けには来られなくても、バーテックスをせん滅してくれるかもしれない。

陽乃「――っざっけないでよッ!」

気配を感じ、

見えない右側の死角から迫ってきていたバーテックスをわしづかみにして、地面へと叩き付ける。

陽乃「逃げる? 私が? 嫌よ……そんなこと絶対にありえない……誰かに頼るだなんて、絶対ッ!」

それは、あってはならないのだ。

逃げたから、すべて失った。母親以外の全てを。

力を使い果たしていた。体が弱り切っていた。

だから何だったんだ――それで逃げたからたった一つ、手に握った命だけしか残らなかったのに。

父親まで、自分と母の代わりに命を落としたのに。

陽乃「私の命は私にしか守らせない……誰にだって守らせてやる気はないわ……守らせるくらいなら、私は死んだってかまわないッ!」

↓1コンマ判定 一桁

1 若葉
5 球子
7 千景
9 友奈

ぞろ目 特殊

状況判定

↓1コンマ判定 一桁

0 00 悪

1~5  並
6~9  良
ぞろ目 特殊


陽乃「は……っ……」

どこかで誰かが戦っている音がする。

霞んだ目に見えるバーテックスは、数が減っている――ような気がする。

けれど、もう動けそうにない。

最後に残った力を振り絞って、どれだけのバーテックスを屠ったか。

弾き飛ばされ、身体を食い破られ、どれだけの血を流したか。

陽乃「ふ……ふふっ……」

ここで死ぬ。

でもそれで構わない。

生きているのが辛かった。

生き続けるのが苦しかった。

守られて、失って、生き残って、疎まれて――

だったら生き残らせるために失われたすべては無駄だったのか。

いいや。

陽乃「馬鹿な人達……」

そんな疎ましい化け物が、諏訪から勇者を連れ帰ってきた。


陽乃「――死ぬまで、救われてしまえっ」

その勇者を手放しで喜び、崇め、救いを願って、救われていく

あの時殺していれば、今の自分の命がなかった可能性なんてちっとも考えず、

馬鹿みたいに、惨めに、寄生虫のように生かされてしまえ。

陽乃はそう思いながら

向かってくるバーテックスを気にも留めず――笑って。

右手を地面に下ろす。

もう、拳は握れない。

陽乃「お母さん……ごめんなさい……」

3年前に別れてから、一度も会えていない。

いつも死にかけているだなんて話を聞いてしまっていないだろうか。

悪評ばかり聞いて心を病んでいないだろうか。

あの時、守らないべきだっただろうか。

父と一緒に、眠らせてあげるべきだったのだろうか。

そうしておけば、先に娘を失うだなんて思いはさせずに済んだのに。

陽乃「私ってば……ほんっと……人を不幸にしてばっかり……っ」

悔しいから、全部ぶっ飛ばしてやる。なんて、

伊邪那美様の御力を解放しようとしたところで、

目の前にまで差し迫っていた個体が真っ二つに叩ききられて消し飛び――

歌野「だったら生きてッ!」

ここにはいないはずの声が聞こえた。


陽乃「……しら……」

歌野「これ以上、不幸にしたくないなら死なないで」

身体が急激に癒えていくのを感じる。

ぽかぽかと温かい、陽だまりのような生命力。

それは間違いなく、歌野が授かっている宇迦之御魂大神様の御力だ。

来てしまったのだ。

来ることがないようにとひなたを送り届けたのに。

なのに、ひなたは止めることが出来ず、歌野は来てしまった。

陽乃「どうして、来たの……」

歌野「陽乃さんが行くなら行くって、言ったじゃない」

陽乃「来られる身体じゃなかったはずよ。無理をすれば藤森さんに負担が行くと――」

歌野「分かってる。でも来たかった。私が、ここに来たかった」

陽乃「っ……」

歌野は後ろで樹木にもたれかかっている陽乃を一瞥して、

歌野「ッ――たぁぁぁぁぁぁッ!」

手にした根を束ねた強固な鞭を力一杯に振るって周囲のバーテックスを葬り去る。

歌野「たとえこの身体が朽ちるとしても、私は陽乃さんを守りたい」

陽乃「私はそういうのが一番嫌い……守られたくない」

歌野「良く分かった――けど、安心して頂戴。私は勇者よ。そう簡単に、死んでなんてやらないんだからッ!」

通常の勇者ではなく、

宇迦之御魂大神様の御力を使った歌野の一振りは、地を鳴らし、空を割き、バーテックスを撃ち滅ぼす。

歌野「だから良いの。背中を見せても……そこには必ず、私がいるから」

↓1コンマ判定 一桁

1、6 重軽傷
2、7 軽傷
3、5 中軽傷
4、9 死者あり

※そのほか 被害なし
※被害度合いはコンマ依存(二桁目 最小01最大00)
※60以上で勇者被害判定

√ 2018年 10月08日目 昼:病院


陽乃の介入と歌野の参戦によって、

危機的状況は一気に好転してバーテックスを撃退することが出来た。

しかし、

元から病み上がりだった友奈は暴走する千景の補佐に入って重傷を負い、

知られずに介入した陽乃と歌野もまた症状が悪化することとなってしまった。

不幸はそれでは終わらず――

若葉「……そうか」

地鳴りによる民家の倒壊、

それによる住民には死傷者が出て、勇者達に対する風当たりは余計に強くなっていく。

歌野の巫女として反動を請け負うことを選んだ水都は原因不明の高熱を出して倒れ、

入院を余儀なくされている。

バーテックスは撃退出来たが、

それはただ、撃退出来ただけだった。


若葉「くそっ!」

球子「落ち着けよ」

若葉「これが落ち着いていられるものか!」

球子「熱くなったってどうにもならないだろ」

若葉「だが――」

球子「若葉!」

若葉「っ!」

球子「冷静になってくれ……頼む。な?」

中距離で戦っていた球子も精霊を使用したが、

一番近くで戦っていた若葉は何度も精霊を使用していた。

その影響もあるのだろうが、

千景の暴走、陽乃、友奈、歌野の重傷、

住民の被害と、それによる怒りの声

いくら若葉でも、限度というものがあるのかもしれない。

球子「若葉までどうにかなったら、タマはもう、どうしたらいいのかわからなくなる。不甲斐ないが、タマでは駄目なんだ」

若葉「球子……」

球子「負担をかけてるのは分かってるさ。でも、駄目なんだ。頼むよ」


杏がいない、友奈がいない、陽乃がいない、歌野がいない

千景なんて頼れるわけがない

だというのに若葉までとち狂ったら、もうお手上げである。

次は球子がリーダーにでもされるだろうか。

若葉「……まったく、変わったな。球子は」

球子「嫌でも変わるさ。若葉も付き合えば良かったんだよ……あいつと」

若葉「あいつ……?」

きょとんとした若葉の反応に、球子は分かってるくせに。と、悪態をつく。

危機意識がまるで足りていない。

勇者きっての死にたがり。

千景や友奈以上に命知らずで、なのに力だけはある勇者。

球子「今回だって、わざわざ出てきやがったんだ。杏よりも酷い状態でだ。ふざけてるだろ」

若葉「……だが、出てきてくれたから手が足りた。正直、あのままでは千景か友奈が間違いなく命を落としていた」

言いたくはないが、

友奈が死んでいたら千景の暴走はより酷いことになっていただろうから、

千景が――

球子「若葉」

若葉「ッ」

球子「そうしわくちゃな顔すんなよ。ひなたが見たら大泣きするぞ。私の若葉ちゃんが老けちゃったって」

若葉「ひなたを馬鹿にしてるのか?」

球子「じょ、冗談だからそんな怒るなってっ!」

睨まれ、慌てて取り繕った球子を一瞥して、

球子が残ってくれたことに、感謝しなければならないな。と、若葉は小さく笑った。


01~10 夕
12~21 夜
23~32 翌朝
34~43 翌昼
45~54 翌夕
56~65 翌夜
67~76 翌々日朝
78~87 翌々日昼
89~98 翌々日夕

↓1のコンマ

※ぞろ目 3日


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ

√ 2018年 10月08日目 夜:病院


聞き覚えのある電子音のようなものが、とても小さくどこかから聞こえてくる

目を開けているはずなのに、全然、まったく何も見えなくて自分の居場所さえうまく掴むことが出来ない。

けれど、また、結局自分は生きているということだけは、分かった。

陽乃「……ぅう゛」

意識がはっきりとしてくるのを待っていたとでも言うかのように、

ずきりと腕が痛み、半身の痺れと、喉の焼けるような感覚といった複数種類の苦痛が混ざり合ったものが襲い掛かってくる。

それに叫ぶほどの余力もなくてただの呻き声が零れると、

冷たいなにかが、額に触れた。

「わ……す……? く……」

何かを言っているというのは分かるけれど、

何を言っているのかまでは分からず、それに何の反応もできずにいると、

痛みだけしか感じなかった右手を、額に触れていた何かが握る。

握られて初めて、それが人の手だと分かって。

陽乃「ぁ……っ……」

見えない分、触って確かめようと思ったのに、

やっぱり、左手はびくともしなくて、断念する。

「……さ……ど……て……」

傍にいる誰かの声らしきものは、聴きとれない。


記憶にある最後の場面は、もう死んでもおかしくないような状況だった。

そこに歌野が介入してきて、それで、

それでどうなったのかまでを陽乃は見届けることは出来ずに気を失って今に至る。

だが、つながりが断ち切られていないのを考えると、

歌野があの場で息絶えるような結果にはならなかったのだろう。

それでも陽乃の身体が全く回復していないのは、

その余力がなかったか、

回復させたらまた勝手なことすると怒っているか、

別の場所に隔離されているせいでその恩恵を得られていないかのいずれかだ。

歌野の場合、人間を止めてでも回復させようとしてくるため、

余力の有無は関係ないはず。

とすれば、

怒っているか、互いに別々の場所にいるかだ。

陽乃「ぅ……う?」

だとしたら、今そこにいるのは九尾か、それとも――

そう考える頭に、上里ひなたじゃ。と、九尾の声が響いた。


上手く言葉を発せない上に、耳が聞こえない状況だからか、

九尾は力の繋がりを使って声を響かせてくる。

それに答え、状況を確認する。

勇者側に死者はいなかったものの、

歌野と陽乃、そして友奈が重傷であること。

住民に死傷者が出ており、風当たりが余計に強まっていること。

そして……

陽乃『……本当なの?』

九尾『下らぬ騙りはせぬ』

そして、千景が端末の返却を拒んで病院から抜け出してどこかに行ってしまったことを、聞かされた。

あの家の様子なら、実家に帰ったなんてことはきっとないだろう。

かといって、陽乃のように諏訪へ亡命すると言った行動も今は難しいはずだ。

九尾『伝えただけじゃ。思考を求めたつもりはないぞ』

陽乃『そう言ったって……』

九尾『今は療養しておく方が良い。愚か者め』


1、せめて、目を見えるようにして欲しいわ
2、せめて会話させて欲しいわ
3、せめて耳が聞こえるようにして欲しいわ
4、上里さんとは、話せないのかしら
5、貴女も、余計なことはしないで頂戴ね


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日もお休みとさせていただきます
明日は可能な限り通常時間から

遅くなりましたが少しだけ


九尾とは普通に話が出来る。

歌野とも勝手に伝わってしまう関係で、口に出さなくても会話のようなことは可能だ。

まだ試していないから分からないけれど、

宇迦之御魂大神様の影響を肩代わりする繋がりを持ったことで、

水都とも同じようなやり取りは可能になっている可能性がある。

では、ひなたはどうなのだろう。

水都に施した際に影響を受ける程度には繋がりがあって、

九尾の加護を受けている上里ひなた。

九尾『ふむ……』

陽乃『可能なら繋いで頂戴。どうせ、酷く心配しているんでしょう?』

九尾は陽乃を休ませたそうではあるが、

ひなたの状況は陽乃の言う通りのようで、あまりよろしくないらしい。

渋々と言った様子で、九尾とのつながりが分かれていくのを感じる。

ひなた『えっ……それはどういう……』

九尾から何かを言われたのか、ひなたの驚きが聞こえてくる。

ひなた『久遠さんとお話しできるって、そんな……』

今は会話できるような状態じゃないのに。と、

ひなたは心から心配そうに思う。

指の一本も動かなければ、耳もほとんど聞こえないし、目だって見えない。

だから会話なんて出来るはずがないと思っているようだ。

陽乃『私が九尾に頼んだのよ……貴女、うるさいから』


ひなた『うるさいいって……久遠さんがこんな――』

陽乃『自分の体の使い方なんて、私の勝手でしょう』

ひなた『だったら悲しむのは私の自由です。身を案じるのだって……』

陽乃『ふっ……貴女らしくもない屁理屈ね』

ひなた『笑い事ではありません。本当に、酷い状態だったんですよ?』

歌野の力も万全には程遠かったからだろう。

陽乃の体を完治にまで持っていくには力が足りず、

結果的に大部分のダメージが残った状態で戻ってくることになった。

となれば、病院は大騒ぎだろうし、

それを知ったひなたも、大変だっただろう。

ひなた『ほんの少し前まで手術していて……もしかしたらこのままって、言われていて』

陽乃『私がそう簡単に死ぬわけないじゃない』

ひなた『それでも危険だったって言っているんです』


回収班を待っている余裕もなく、

若葉と球子が陽乃達を連れて病院に直行し、緊急手術。

それでも難航してついさっき手術が終わったばかり。

そして今は集中治療室に入れられていて、なおも予断を許されないと言われる状態だった。

ひなた『白鳥さん以上に、ボロボロなんですよ……』

陽乃『まぁ、でしょうね』

ひなた『でしょうね。なんて、あんまりですっ』

軽すぎると言いたげなひなたに、陽乃は呆れたように笑う。

もっとも、身体自体は全く動けていないが。

バーテックスにやられたのもあるが、

陽乃はそもそも強力な力を使う分、反動が他の勇者以上に重い。

その為、かなり酷い状況に陥るのは経験済みだった。

言ってしまえば、慣れているのだ。

ひなた『そんなことに慣れないでください』

やっぱり、うるさいことになっていた。と、

陽乃はため息をつく。

これで普通に話せるようになるまで放置していたら、

その時に大騒ぎされていたに違いない。

陽乃『少しは感謝したらどうなのよ。おかげで貴女の大切な乃木さんが無事だったのよ?』

特別、感謝なんてされたいとは思っていない陽乃だったが、

お小言を貰い続けるくらいなら、

まだ感謝の言葉があった方がマシだと、嫌味のように言う。

けれど、ひなたは「ふざけないでください」と、切り返して。

ひなた『若葉ちゃんも、みんなも……久遠さんも。みんな大切です。若葉ちゃんだけじゃなく、久遠さんだって大切です……』

陽乃『博愛主義者は大変ね』

ひなた『……怒りますよ』

陽乃『もう怒ってるじゃない』

九尾の助力で繋がりを得ている為、

ひなたの感情はひなたの意思に関わらずダイレクトに流れてきている。

それもあって、ひなたが全て本心であることも、

陽乃の発言一つ一つに本気で怒って、

本気で悲しんで、本気で心配しているのだということも

全部、分かっていた。



1、まぁいいじゃない。生きているんだから
2、悪いとは、思ってるわよ
3、救いに犠牲はつきものなのよ
4、あなたと話すんじゃなかったわ

↓1


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

では少しずつ

陽乃『悪いとは、思ってるわよ』

本来なら戦闘に参加する予定ではなかった。

参加できるほどの余力はあったが、

歌野が無理にでもついて行くだなんて言っていたし、

陽乃自身、万全ではなかったからだ。

だから――

ひなた『久遠さんだけの責任ではありません……っ』

だから、ひなたは否定した。

陽乃は最初、友奈が大変なことになる。という話を聞いても、

いい薬になるんじゃない? という冷たい態度だった。

それを説得し、向かわせたのは自分だった。

陽乃は見捨てられない人間だと分かっていたし、

言葉がそうだったからと言って、内心も同じであるとは限らない。

陽乃はそんな天邪鬼な人間だったからだ

ひなた『私が、お願いしてしまったから……』

陽乃『はっ』

陽乃は、そんなひなたの悲嘆を一蹴するように笑う。

陽乃『自惚れも大概にしなさいよ。貴女が私を動かせるわけがないじゃない。貴女如きの言葉で、私が意思を変えるわけがないじゃない』


陽乃の言い方はとても冷たく突き放すようなものだが、

結局のところ、自己責任だから気にしないで。というものでしかない。

千景や一般の人々が聞けば絶対にそう取ることはあり得ないが、

ひなたや歌野達には表向きの冷徹さはまるで通用しなくなっている。

それでも使い続けるのだから、

むしろ、ほほえましいとさえ思えてくる――なんて感情が、ひなたから流れてくる。

陽乃『あのねぇ……』

ひなた『いえ。ですが、私がお願いしたのも事実です。それが一つの指標となる意見にはなったはずなので』

陽乃がどう思っていても、

止めることなく送り出したのは事実で、

そうして戻ってきた陽乃が危篤だったときの、後悔がひなたにはある。

ひなた『お約束した通り、全身全霊を持って久遠さんのお手伝いをさせてください』

それが罪滅ぼしになるとは限らない。

けれど、少しでも助けになりたいのだと、ひなたは言う。


陽乃『貴女、姿は晒しているの?』

ひなた『いえ、九尾さんにお力添え頂いています』

陽乃『そう……』

ひなたは大社から誘拐され、

周囲から身を隠している状況だ。

集中治療室にいる陽乃のことを世話するための看護師がいるだろうから、

下手なことをしたら、第三者の存在を気取られてしまう。

かといって、何もしないでと言っても聞きそうにはないし、

今の陽乃は拒むことのできない身体だ。

なら、せめて注意だけはしておこう。と、陽乃は考えて。

陽乃『なら、せいぜい悟られない程度にしなさい』

ひなた『はい。気を付けます……』

今は千景も逃亡中の為、大社の警戒はかなり厳しくなっている。

些細な違和感も報告義務があると想定すれば、

ひなたのことも露見しかねない。

陽乃『次から次へと……もう……ほんと、厄介なことばかり』

陽乃はそう、悪態をついた。

1日のまとめ

・ 土居球子 : 交流無(歌野、裏切られたくない)
・ 伊予島杏 : 交流無()
・ 白鳥歌野 : 交流有(何を?、どうして、人として死ねない、お断りよ、球子、実力)
・ 藤森水都 : 交流無()
・   九尾 : 交流無()

・ 乃木若葉 : 交流有(どういうつもり?、努力しなさい)
・ 高嶋友奈 : 交流無()
・ 花本美佳 : 交流無()
・  郡千景 : 交流無()
・上里ひなた : 交流有(何を?、どうして)

√ 2018/10/06 まとめ

 土居球子との絆 82→84(良好) ※特殊交流2
 伊予島杏との絆 96→96(良好) ※特殊交流4
 白鳥歌野との絆 99→99(好意) ※特殊交流4 ※通常最大値
 藤森水都との絆 99→99(好意) ※特殊交流8 ※通常最大値
   九尾との絆 84→84(良好)

 乃木若葉との絆 80→82(良好)
上里ひなたとの絆 78→79(良好)
 高嶋友奈との絆 64→64(普通)
 花本美佳との絆 37→37(普通)
  郡千景との絆 20→20(険悪)


1日のまとめ

・ 土居球子 : 交流無()
・ 伊予島杏 : 交流有(もっと強く、杏達の巫女)
・ 白鳥歌野 : 交流有(具体的には、名前)
・ 藤森水都 : 交流有(死ぬ覚悟、苦しい)
・   九尾 : 交流無()

・ 乃木若葉 : 交流無()
・ 高嶋友奈 : 交流無()
・ 花本美佳 : 交流無()
・  郡千景 : 交流無()
・上里ひなた : 交流有(頑張りなさい、余裕を持ってから)

√ 2018/10/08 まとめ

 土居球子との絆 84→84(良好) ※特殊交流2
 伊予島杏との絆 96→97(良好) ※特殊交流4
 白鳥歌野との絆 99→99(好意) ※特殊交流4 ※通常最大値
 藤森水都との絆 99→99(好意) ※特殊交流8 ※通常最大値
   九尾との絆 84→84(良好)

 乃木若葉との絆 82→82(良好)
上里ひなたとの絆 79→81(良好)
 高嶋友奈との絆 64→64(普通)
 花本美佳との絆 37→37(普通)
  郡千景との絆 20→20(険悪)



1日のまとめ

・ 土居球子 : 交流有(戦闘)
・ 伊予島杏 : 交流有(戦闘)
・ 白鳥歌野 : 交流有(戦わない、戦闘)
・ 藤森水都 : 交流有(戦闘)
・   九尾 : 交流有(戦闘)

・ 乃木若葉 : 交流有(戦闘)
・ 高嶋友奈 : 交流有(戦闘)
・ 花本美佳 : 交流無()
・  郡千景 : 交流無(戦闘)
・上里ひなた : 交流有(戦わない、郡家、戦闘、会話、悪いとは思ってる)

√ 2018/10/08 まとめ

 土居球子との絆 84→84(良好) ※特殊交流2
 伊予島杏との絆 97→97(良好) ※特殊交流4
 白鳥歌野との絆 99→99(好意) ※特殊交流4 ※通常最大値
 藤森水都との絆 99→99(好意) ※特殊交流8 ※通常最大値
   九尾との絆 84→84(良好)

 乃木若葉との絆 82→82(良好)
上里ひなたとの絆 81→84(良好)
 高嶋友奈との絆 64→64(普通)
 花本美佳との絆 37→37(普通)
  郡千景との絆 20→20(険悪)

√ 2018年 10月09日目 朝:病院

↓1コンマ判定 一桁

0 九尾
4 襲撃
6 ひなた
8 歌野

√ 2018年 10月09日目 朝:病院


目は開いているはずだが、やはり何も見えない。

九尾の力で痛みを誤魔化してはいるが、

指一本動かすことが出来ない状況なのは変わらない。

もちろん、それも強制的に動かすことは可能なのだが、

今の身体でそれをやってしまうと、さらに治りが遅くなってしまう。

とはいえ、非常に不便だ。

やっぱり、あんまり無理するべきではない。

陽乃『慣れたつもりでは、あるんだけど……』

ひなたは怒るが、

実際、陽乃はこういった経験が多すぎるため、

慣れるなというのも無理な話だった。

周囲にいるのは、九尾とひなた。

歌野と水都は離れた病室にいるようで、どちらもここに来ることは出来ないだろう。

退屈だ。


1、九尾と交流
2、ひなたと交流
3、休む
4、イベント判定

↓2


↓1のコンマ

01~10 水都
11~20 ひなた
21~30 九尾
31~40 歌野
41~50 大社
51~60 病院
61~70 ひなた
71~80 水都
81~90 歌野
91~00 大社


ひなた『久遠さん……起きています。よね?』

陽乃『……起こされたわ。何なの』

ひなた『大社の方々が、来られたみたいです』

陽乃『はぁ?』

呆れた声を漏らした陽乃に、ひなたは慌てて「ですが」と続ける。

大社は陽乃に会いに来たようだが、

病院側から、いくら大社の使いの方でも、

今の陽乃には合わせることが出来ないと首を横に振ったらしい。

目が見えない、耳が聞こえない、声が出せない

手も足も何も動かすことが出来ないうえ、ズタボロの身体である。

話が合ったって話ができないからだ。

陽乃『ならそれでいいじゃない。問題がある?』

ひなた『久遠さんの力で従わせているのではないかと。そう考えている人もいるようで』

陽乃『はぁ……』

ひなた『引き下がりはしたものの、まだ帰ったわけではないみたいなんです』


病院の関係者を陽乃の力で無理矢理従わせている可能性もあると考え、

強行突破してくる可能性もあるらしい。

そんなことをしてきたら九尾が皆殺しにしてしまいかねない為、

可能であれば止めて貰いたいものなのだが……。

ひなた『どうしますか?』

陽乃『どうって、どうにかできるの?』

ひなた『若葉ちゃん達にお願いする手がありますよ。大社の方々に接触して貰って、それで我慢して貰う。など』

陽乃には会えないが、若葉達には会える。

なんていうのは、たぶん意味がない。

ひなたもそう思っているようだが、

それでも何もないよりはいいと考えているのだろう。

陽乃『いったい私に何の用があるのよ……止めでも刺しに来たのかしら』

ひなた『冗談でもやめてください』

陽乃『じゃぁ、あざ笑いに来たのかもしれないわ』

ひなた『さすがにそこまで酷い人達ではないかと……』


1、放っておいていいわ
2、九尾、ちょっと調査をお願い
3、乃木さん達に任せるわ
4、別にいいわよ。呼んでも。


↓2


陽乃『別にいいわよ。呼んでも』

ひなた『あ、いえ……呼ぶことは出来ないかと』

ひなたはそう言ったが、陽乃は呼ぶことは出来ると否定する。

ひなたには難しいが、九尾なら確実に。

ひなた『呼んで、私と同じようにお話を?』

陽乃『まさか、現実を見せてあげるだけよ。向こうが信じるかどうかはともかくね』

陽乃の状態を、またまやかしだと言うかは向こうの自由だ。

もっとも、そう言った瞬間に九尾が首を絞めあげてしまう可能性もある。

陽乃のことを考えれば、皆殺しするべきではないことくらいは、

九尾も分かってくれている……と、信じたいが。

陽乃『出来るでしょ? 九尾』

九尾『うむ……よかろう。妾が呼んできてやろう』

九尾はそう言って、おそらくは看護師の姿で大社の使いに会いに行き、

特別措置として様子を見せるくらいは出来ると連れてくるのだろう。

少しずつ、気配が離れて行った。

↓1コンマ

01~50 悪
51~00 良

※ぞろ目特殊


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


九尾の気配が近づいてくると、

耳のほぼ聞こえない陽乃に代わって、ひなたが足音がたくさんします。と教えてくれる。

大社は許可が出ればついてくるだろうけれど、

病院側の関係者はどう騙してきたのだろう。と、

陽乃はちょっとだけ不安に思いながらも、ひなたからの声掛けを待つ。

今の陽乃には、何人来たのかも何を言われたのかも、

何一つわからないからだ。

ひなた『数は10人ほど……ですね』

集中治療室の中にまでは入ってくることはなく、

窓から中を覗くまでが限界だとしてくれているようだった。

ひなた『……当たり前です』

ひなたは、歌野と違ってまだ慣れていないうえ、

完全に九尾に頼っている為、思考も感情も陽乃に駄々洩れになっている。

そのせいか、ひなたの独り言が聞こえた。


ひなた『思っていたよりは……』

陽乃『なんなの?』

ひなた『あ……すみません』

陽乃に対して言ったのではなく、ただ考えただけだったのだろう。

問いかけられて、自分のそれが聞こえてしまったのだとひなたは考えて。

ひなた『思っていたよりは、すんなりと受け入れてくださっているみたいです』

陽乃『まさか』

ひなた『本当ですよ』

ひなたは静かな雰囲気でそう伝えてきたが、

けれど、その内側にはそれが当たり前なのだという、強い感情が感じられる。

今の久遠さんの状況を見て、それでも偽りだと言うなんて許されない。と、思っているらしい。

それだけ、今の陽乃から視覚的に感じられるものは悲惨ということなのだろう。

ひなた『さすがに話を聞くわけにもいかないって、引き下がってくれました』


目も耳もダメな今、

ひなたの言葉を信じるしかないのだが、

陽乃が素直に信じるわけもなく、

本当に? と、疑うと、ひなたは本当です。と、繰り返すように答える。

ひなた『身体布団に隠れている部分を除いても包帯の方が面積多いですし』

白鳥さんよりも多いかもしれません。と、ひなたは言って。

ひなた『それに、久遠さんの傷……治りが悪いみたいなんです』

縫合はしてあるが、傷口が閉じるような兆候が見られず、

出血してしまっている個所もあるため、包帯のいたるところが赤く染まっている。

これでも、少し前に変えたばかりなのだから、相当だ。

ひなた『今の状態を見て、話が聞けるはずだなんて、誰も思いませんよ』

陽乃『九尾の力だって疑われるかもしれないじゃない』

ひなた『仮にそうだとしても、近づきたくはないと思います』

耐性があるか、相応の覚悟がなければ直視できないほどの痛ましさ。
下手に疑って直接調べるだなんて貧乏くじは、誰も引きたがらないのだろう。

陽乃『そう……まぁ、別に良いけど』

ひなたに関してだったり、千景に関してだったり。

厄介ごとが遠ざかってくれるのなら、好都合だ。

√ 2018年 10月09日目 昼:病院

↓1コンマ判定 一桁

1 九尾
4 歌野
6 水都
9 ひなた

では本日はここまでとさせていただきま明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ

√ 2018年 10月09日目 昼:病院


陽乃とひなたは、九尾の力で繋がっている為、

近ければ近いほど、その存在を鮮明に知覚することが出来る。

特に、ひなたから陽乃へと伝わるものは際限がない。

考えも、感情も。

何もかもが筒抜けになっている。

だからというわけではないが……

陽乃『貴女、別にここにいなくたっていいのよ』

ひなた『お邪魔、ですか?』

陽乃『貴女は身の回りの世話をと思っているんでしょうけど、出来ることないじゃない』

せいぜいが話し相手で、

ひなたは陽乃の身体を直接弄ったりすることは出来ない。

やろうと思えば出来ることではあるのだが、

それをしてしまうと、視覚的に違和感が出るため、

第三者の存在を察知されて面倒なことになってしまうからだ。


事実ではあるものの、

役に立たない。と言われているようなものの為、

ひなたは残念そうな心の内を陽乃に流れ込ませていく。

ひなたがこの状況に慣れているのであれば、

そこに裏の意図があるのかもしれないと疑いたくもなるが、

不慣れに違いないひなたから惜しみなく漏れ出してくる感情は、本心そのものだ。

だからこそ、陽乃は少しだけ悩む。

ここにいたってどうしようもない。

手持ち無沙汰でさえあるだろう。

ならいっそのこと、若葉の方に行っていたって良いのではないかと、思う。


1、乃木さんのところに行かないの?
2、乃木さんの方に行ったら?
3、暇じゃないの?
4、そんなに残念がるようなことかしら


↓1


では短いですが、本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ


陽乃『乃木さんのところに行ったら?』

今のひなたには、陽乃に対して出来ることはほとんどないし、

ここにいるよりも若葉のところにいる方が、絶対に安全だ。

何より、

他の勇者に比べれば影響が少ないとはいえ、

若葉にも精霊の影響が出ている以上、

精神的に安定させられるひなたの存在は重要だろう。

陽乃『その方が、あなたと乃木さんのためになるはずよ』

ひなた『ですが、久遠さんの身辺は……』

陽乃『そもそも貴女には何も出来ないでしょって』

ひなた『ですが……』

陽乃『ここにいたって、どうしようもないのよ』

ひなたが気遣ってくれているのは分かる。

九尾がいるにはいるが、

それでも、話相手としては人の方が良い。


それに、九尾は必要最低限しか出てくることはなく、

会話に関しても必要最低限しか行わない。

陽乃が呼べば出てくるけれど、その程度だ。

ひなたのように、起きているときに声をかけ、

傍には自分がいるのだと……認識させようとしてくれるようなことはない。

陽乃『貴女、乃木さんは放っておいていいわけ?』

ひなた『よくはありませんが……どちらかというと、今見るべきは久遠さんの方です』

陽乃『出来ることがないのに?』

ひなた『久遠さんを一人にしないことは、出来ます』

人々に命を奪われかけて、生き延びれば蔑まれて、

抗えば人殺しだと言われ、功績はかき消され、

それでもなお、命を賭して戦い続ける陽乃を置いていくなんて。と、

ひなたは思っているらしい。

もちろん、若葉のことだって案じてはいる。

けれど、若葉は陽乃とは違ってそれなりの自由が与えられていて、

他の勇者との交流が容易にできるし、

その目で見て、その耳で聞いて、その手で触れることが出来る。

けれど、陽乃にはそれが出来ない。

それに――

陽乃『別に、あなたの責任ではないわ』

ひなた『ぁ……』

左手を怪我していたから。

だから、こんなにも大怪我をすることになってしまったのではないか。

ひなたはそう思い、責任に感じている。

陽乃『左手の怪我なんて、無関係よ』

ひなた『久遠さんのことは、信頼しています。けれど……』

けれど、その言葉を信じたくはないと、ひなたは思う。

陽乃はいつだって、突き放すことばかり。

責任に感じていると知れば、そうではないと突っ撥ねる。

そんな人だから。

――なんて、悩みでさえ、全てが陽乃には筒抜けで。

ひなた『久遠さんは、優しい嘘つきなので』


1、乃木さんに暴走されたら終わるのよ。分かるでしょ
2、ここにいられても邪魔だって言ってるの
3、何よ貴女。私の巫女にでもなったつもり?
4、勝手に理解した気にならないで頂戴


↓1


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

遅くなりましたが、少しずつ

陽乃『乃木さんに暴走されたら終わるのよ。分かるでしょ』

ひなた『若葉ちゃんが……』

若葉が暴走するわけがないと言いたいようだけれど、

それを絶対と言えるほどの自信を持てていない。

それだけ精霊を使う際の影響が大きく、

その反動の特異性を危惧しているということなのだろう。

ひなた『久遠さんは、精神的に汚染されない代わりに命を懸けることになっているんですよね?』

陽乃『その方が良かった? 乃木さんの精霊の性質からして、あの子焼け死ぬと思うけど』

ひなた『そうは、思いません……むしろ、久遠さんが少しでも精神汚染を受ける方が良かったです』

力を考えれば、陽乃の暴走こそ世界が終わる。

バーテックスに背を向けて、神樹様に一直線に向かわれて、

本気で勇者や神樹様を殺しに行ったら、

最悪神樹様が破壊され、良くても勇者に死傷者が出るだろうから。

けれど、精神汚染は巫女でもどうにか緩和させることが出来る。

傍にいて、癒してあげられる可能性があるからだ。

けれど、身体も魂も激しく損耗させる陽乃の状態は、

巫女であるひなたには大したことをしてあげられない。

だから――

陽乃『貴女は乃木さんの巫女であって、私の巫女ではないんだから、気にするのは乃木さんだけにしておきなさいよ』


ただ、傍に寄り添う巫女であれば、

複数人を兼任していたって何も問題はないはずだ。

けれど、水都がそうしたように、

ひなたもまた若葉の巫女としてその務めを果たすと言うのなら、

余計なことを考えている余裕はない。

陽乃『そんな心持で負荷を引き受けたりなんてしたら、貴女が死ぬことになるわよ』

ひなた『そう、ですね』

勇者が使う精霊の力

その負荷を引き受けるというのに、

雑念があれば意志が乱れ、負荷に飲み込まれて命を落とす。

残念ながら、そうなりかねないような危険な行為なのだ。

だからこそ、成功した時のメリットも十分にあるのだけれど。

陽乃『乃木さんと私、どっちを助けるべきか。貴女は間違ったりしないでしょ?』

ひなた『その問いは……あまりにも、あんまりです……』

目に見えなくても、触れることが出来なくても、

ひなたが今、どんな思いで、どんな表情で、どうなっているのかが手に取るようにわかる。

自分がどれだけ意地悪なことを言ったのかということも。

陽乃『私の意地の悪さを、貴女は知ってるでしょ』

ひなた『そうですね……久遠さんは、とても、とても意地が悪い人です』


√ 2018年 10月09日目 夕:病院

↓1コンマ判定 一桁

1 九尾
3 歌野
5 水都

√ 2018年 10月09日目 夕:病院


ひなたは陽乃に言われたとおりにこの場を離れ、若葉のもとへと向かった。

それもあって、元から耳も目も感覚も何も乏しい状態だったが、

ひなたが語りかけてくることがなく、余計に静寂に包まれる。

果てのない孤独感。

陽乃が求めていたことではあるけれど、

辟易するような騒がしさから唐突に訪れる静けさは、

しん……っと、心に染みる。

陽乃『まぁ、本当は……あの時に死ぬつもりだったから……』

歌野が来てしまったから生きているだけで、

今日、あの場で、死んでいたはずだった。

なのに性懲りもなく生き延びてしまって。

いや、生き延びさせられたとでも言うべきか。

だから、死んでいたはずの人間としては、

何も感じず、孤独感に包まれているのは特に何でもないと思う。

とはいえ――あまりにも手持ち無沙汰だ。



1、休んでおく
2、九尾を呼ぶ
3、イベント判定


↓2


けれど、この静寂は体を休めるのにちょうどいいと陽乃は思う。

手も足も動かない。

耳も聞こえなければ、口もきけない。

誰かが来ても察知すらできないけれど、

害を与えるような人物が来た場合には九尾が必ず対処してくれるだろうから、

その方法に若干の不安はあるものの……身の安全だけは保障されていると言える。

眠れるかと言われれば、

特に眠くもないけれど、

寝ること以外に何もできないのだから、

勝手に眠ることが出来るだろうし、それに、

何一つ感じることのできない今の状態は、ある意味で眠っているようなものだから。

陽乃『あとは、考えるのを止めるだけ……』

思考をしようとするから、眠れない。

それさえも止めてしまって、虚無になって、それで。

自分自身の全てを休眠状態に持って行こうと、

陽乃はただぼうっと……何もせず、何も考えず、

体を休めることに集中することにした。


宇迦之御魂大神様の力があれば、瞬く間に体を癒すこともできるかもしれないが、

自己治癒は、人間から乖離させていくことであると、

歌野を見ていれば嫌でも分かってしまう。

だから、歌野から流れてくる僅かな生命力と、

元からある勇者としての治癒力に身をゆだねて回復を待つしかない。

普通の人間に比べれば回復力があるものの、

普通の勇者よりも重い症状の為、

相殺されているというか、

やや、マイナス面に振り切ってしまっているところがある。

回復に努めてもこれは長引くことになるだろうから、

可能な限り余計なことはせずに大人しくしておいた方が良いかもしれない。

歌野は、水都の補助もあって

今までよりはだいぶ早く回復するだろうから、

少なくとも、それまでは。


√ 2018年 10月09日目 夜:病院

↓1コンマ判定 一桁

0 九尾
6 ひなた
8 水都

ぞろ目 特殊

少し中断します
再開は21時ころからを予定しています。

√ 2018年 10月09日目 夜:病院


今は……何時頃だろうか。

いつの間にか日を跨いでいるかもしれないし、

まだ数時間も経っていないかもしれない。

何一つ感覚が働いていないと、

ここまで無に至るものなのだと……陽乃は息を吐く。

心臓を動かして、呼吸をする。

頭を働かせて、考え事をする。

陽乃にはそれくらいしかできることがなくて、

どうしようかと……悩む。

ひなたは戻ってきていないようで、声が聞こえない。

九尾は呼べば出てきてくれるだろうけど……

どうせ、寂しくなるなら追い出さなければよかっただろうに。

とでも笑われるだろう。

無理にでも休むべきか……と、考えて。


1、休んでおく
2、九尾を呼ぶ
3、イベント判定


↓2


陽乃『九尾……いる?』

力は感じるので、すぐ近くにいるはずではあるのだが、

ひなたの方に行っている可能性もあるため、

確認のためにそう呼んでみると……段々と力が強く感じられるようになって。

九尾『上里ひなたを残しておけば済んだものを』

やっぱり、九尾にはそんなことを言われて、

鼻で笑われてしまう。

陽乃『別に、寂しかったわけじゃない』

九尾『ほう?』

陽乃『なによその、馬鹿にしたような感じは』

九尾『くふふっ、ようではなく……しておるぞ。白鳥歌野が居らぬのは、主様にとってこれ以上ないほどに幸運であろうな』

陽乃『……うるさい』

歌野は、若葉達を差し置いて陽乃のもとへと駆け付けてきた勇者だ。

死に瀕していた陽乃の本音を聞いた唯一の存在であり、

もしもこの場にいたら絶対に放っておかないだろうから。

九尾『愚かな娘よ。主様は』


九尾『愚かでないところが主様にあると?』

陽乃『貴女、その主様って言うの止めた方が良いんじゃない?』

本来なら敬っている相手に足して使うべきものなのに、

九尾の言葉は刺々しいばかりで、

敬っているどころか、皮肉にしか聞こえない。

けれど、九尾は喉を鳴らすように笑って。

九尾『何を言うか。我が主様こんなにもいと尊き御方であらせられるというのに』

陽乃『貴女ねぇ』

九尾『主様』

九尾は、ふと、声色を変えてくる。

茶化すような声から、

神妙な雰囲気を感じさせるものへと急転したことに陽乃は少し驚いたが、

九尾自身は何でもないことのように、続ける。

九尾『主様はそろそろ、改めてもよいのではないか?』

陽乃『何よ。どうしたの?』

九尾『妾は有象無象がどれほど死に絶えようとどうでもよいが、主様は別じゃ。主様だけは失うわけにはいかぬ』

だからこそ力を貸し与え、守り、支えている。

他の神々だって、陽乃だからこそ、陽乃の為だからこそ。という状態だ。

九尾『その為であれば、小娘どもを利用することは厭わぬし、必要であれば使い捨てる』

陽乃『そんなことを言われて、私が――』

私が頷くとでも思う? と、

陽乃が言うまでもなく、九尾は「分かっておる」と、遮る。

九尾とはもう、長い付き合いだし、

そうでなくても繋がりがあるからだろう。

九尾『じゃが、妾がそれをせずとも変わらぬ末路に向かう者共ばかりではないか』

陽乃が受け入れないから、

どうしても聞いてくれないから……そんなにも頑固なら。と、

無理にでも守るしかない、庇うしかない。

そうしなければ恩の1つも返すことが出来ないから。と。

九尾『妾はそれでも構わぬ。が、主様はそれでよいのかや?』


1、構わないわ
2、それは……
3、貴女らしくないんじゃない?


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日もお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ


陽乃『それは……』

九尾に言われるまでもなく、そんなことは明白だった。

歌野はずっとそんな行動ばかり、話ばかりだったし、

勇者ではない水都や、ひなたもそう。

正直、目に余ると言えば目に余っていて。

特に、歌野なんかは身体が人間のそれではなくなっていっても、

それが自分の意思によるものだからとして、平然としていた。

そしてそんな身体でも無理矢理に戦場へと赴く。

九尾『主様が構わぬならばそれでも良いが、そう言うわけでもないのじゃろう?』

陽乃『……だけど』

九尾『主様が何を思うておるのかは分かっておるが、そう、反する必要もなかろう』

陽乃がそんな考えを抱くようになる以前と、

それ以降とでは、関わり方も、関わろうとしてくる理由も、何も。大きく違う。

そして、一番危険な歌野は陽乃との深い繋がりを経て――すべてを知っている。

だからこそ、そこまで危険を冒すことも辞さないわけで。


陽乃『……貴女がそんなことを言ってくるなんて』

九尾『主様が小娘共など命を落としても構わぬと言うのならば良いが、そうではないのじゃろう?』

そうではないから、気遣わなければならない。

歌野達が命を落とすぎりぎりまでは、

別にいくらでもやってしまえばいいと九尾は思っているようだが、

実際命を落としてしまうのが陽乃のためにならないのであれば、

可能な限り避ける方へと導くつもりのようだ。

九尾『白鳥歌野は誰よりも厄介じゃぞ。主様の事情を知り、恩を抱き、その身のためと魂さえも差し出しておるからのう』

陽乃『……分かってる』

ひなたどころか、水都でさえ知らない領域

歌野はそこまで知り尽くしてしまっている為、より、躊躇いがない。

どうにかしなければならない。

歌野は戦力的にかなり重要で、

いるのといないのとでは大きく変わってくるだろう。

そして、

歌野の今のその自己犠牲を止められるのは、水都ではなく陽乃しかいない。

なにせ、水都も捧げることを厭わないからだ。

陽乃『まったく……』

恩を抱いているかどうかなんて、

陽乃は信頼を置く判断基準にする気はないけれど、

それでも、命を落とす一歩手前まで身も魂も削ることが出来るその姿は、

少しは。

そう、少しは……認めてもいいのかもしれないとは思う。

陽乃『どうかしてるわ』

九尾『主様が言えたことではなかろうに』

陽乃『うるさい』

九尾はくつくつと喉を鳴らすように笑う。

上里さんだったなら、一言言えば黙ってくれるのにと考えると、

九尾『追い出さなければよかったではないか』

と、また一言、挟んできた。

√ 2018年 10月10日目 朝:病院

↓1コンマ判定 一桁

0 襲撃
3 ひなた
7 水都
9 歌野


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

お休みをいただいてしまいましたが、少しだけ

√ 2018年 10月10日目 朝:病院

朝……なのだろうか。

目を覚ましても、視力が戻ってきてくれている様子は見られず、

ひなたも帰って来ていないようで、

時間を教えてくれる声もないため、分からない。

九尾『妾が教えてやってもよいぞ』

陽乃『九尾……』

九尾『すでに日が昇っておるぞ。時を跨ぎ……そうじゃな。昼も間近と言ったところか』

九尾の言葉が全部信用できるかと言えば、

信用しない方が良いこともあるのだけれど……

こんなことでは嘘もつかないだろうと、陽乃は素直に受け止める

陽乃『上里さんは?』

九尾『乃木若葉のもとにおるがあ。呼び戻してやってもよいぞ』


1、良いわ。そのままで
2、何をしているの?
3、白鳥さんは?
4、周りの動きは?
5、そう。ならいいわ……もう少し休む

↓2


陽乃『周りの動きは?』

九尾『ふむ……そうじゃのう』

まず、大社についてだけれど、

陽乃に関わるよりも、千景のことに注力しているらしい。

病院に入院していて、

容体から全く何にも出来そうにない陽乃を気に掛けるよりも、

行方をくらまして、

何をやらかすか分からない千景の方をどうにかしようという考えなのだろう。

そして、水都は一応目を覚ましていて、

出歩くことも出来ないわけではないようだったが、

流石に、ここにまでは来られないようで。

球子と杏に関しても、

陽乃や歌野に比べれば問題はなく、自力での生活は可能だが、

千景のこともあり、勇者が孤立することがないようにと、病院に留まっているのだそうだ。

陽乃『やっぱり、郡さんがネックなのね』

その矛先が勇者に向かっているから、より危険性があると、認識されている。

陽乃は色々批判されてきたが、

実際に被害があったのは、たった一度。

もちろん、理由があるとはいえ、それで誰かの命を奪ってしまったから、

周囲の人々からの非難はどうにもならないものの、

それでも、自分が何かされなければ、基本的にはなにもしてこない。

しかし、千景は違う。

実際にはひなただが、

陽乃のことを殺そうとしたあげく、

その後の戦闘を終えてから、謹慎を言い渡された自宅に戻っていないという行動力がある。

身動きが取れない、住民からの非難が大きいだけの危険人物と、

自由に行動ができ、頼みの綱の勇者を殺しかねない危険人物

どちらを警戒するべきかは、考えるまでもないだろう。

九尾『あの娘を見つけたら息の根を止めてもよいかや?』

陽乃『冗談でもやめて』


冗談で言っている可能性もあるけれど、

九尾の場合、冗談に乗っかって許可を出すと本当に殺しかねない。

陽乃もひなたも、

千景に殺されそうになったことがあるから、

九尾は見かけたら……と言ったけれど、

探し出して殺そうとする可能性もあって、冗談にならない。

九尾『白鳥歌野がいれば、補填は出来るじゃろう』

陽乃『人を物のように数えないで頂戴』

九尾『ふむ……』

九尾は興味がないといった様子で息を吐き、

そうして、そう言えば。と、思い出したかのように切り出す。

九尾『上里ひなたは乃木若葉の巫女として、責務を果たすつもりのようじゃ』

陽乃『……そう。まぁ、そうでしょうね』

元々、ひなたは若葉の巫女だ。

ひなたがそうしたいという話は聞いていたし、

それによる影響も話してある。

それでもなおと言っていたのだから、

ひなたがそうするというのなら、止める理由がない。

陽乃『それで? 上手く行きそうなの?』

九尾『あの2人なら何も問題なくこなせるじゃろう。水都のように、神を相手取るわけでもあるまい』

歌野は、陽乃から借り受けている力のもと、

宇迦之御魂大神様の力を使っている為、

水都が抱える負担は、ひなたの比ではなかったはずだから。

陽乃『ならそれでいいわ。何か問題でもある?』

九尾『……いや、問題はない』

陽乃『そう?』

九尾は少し、何か裏があるようなものを感じさせたが、

ならいいけど……と、陽乃は思う。

ひなたは元々素質があるし、2人の相性もいい。

だから、問題はないはずだ


大社は千景にご執心で、陽乃には関わっている余裕がない。

その千景は消息不明でまだにどこにいるのか掴めていない。

球子と杏は病院内におり、杏と病室を同じにしている。

若葉は球子と同様に被害が少なかったようだから自由の身で、そこにひなたもいる。

力を使った歌野は前回よりもやや酷い状態になっているが、

水都のおかげで最悪の事態には陥っていないし、

その反動の一部を引き受けていた水都も目を覚まし、命に別状はない。

陽乃『高嶋さんは?』

九尾『その小娘は、大社が引き取った』

陽乃『……また?』

若葉に対してひなたを引き取ったときのように、

千景に対して友奈を引き取って、牽制しようとでもいうのだろうか。

九尾『いいや、そういうわけでもなかろう。主様がみた時点で相当、疲弊しておったじゃろう?』

陽乃『そう、だったかしら』

戦いの記憶は、特に、後半から薄れていて、はっきりとしない。

ただ、言われてみれば……そうだった気もする。

九尾『それに加えて、精霊の影響が色濃く出ておるようじゃ。隔離するしかなかったとも言える』


1、貴女が擁護するなんて……
2、そう。大変そうね
3、郡さんが大変なことになりそうだけど
4、そこまで酷い状態なの?


↓2

陽乃『そこまで酷い状態なの?』

九尾『ふむ……深く関わっているわけではないからのう』

ひなたや水都、後は歌野だろうか。

この3人であれば、九尾でもよくよく知ることが出来るけれど、

そこから外れている友奈のことは、3人ほど知ることは難しい。

陽乃の自由がなく、放っておけない今の状況では、

九尾の自由もほとんどないと言える。

そんな状況で、九尾もさすがにそこまで知ることは出来ないらしい。

けれど。

九尾『体の方もじゃが、あの娘、主様のもとに落ちてきたときからすでに精神も疲弊していたと見える』

陽乃『そういわれれば……あの子らしくない口ぶりだったわね』

九尾『それも影響して、いささか荒んでいるようじゃ』

押し付けられたリーダーとしての責任

そうして、庇いきれなかった友人である郡千景の状況。

流石に、友奈も限界だったのだろう。

陽乃『つまり、高嶋さんまで郡さんのようになるかもしれないって?』


九尾『その可能性はある』

友奈の精神力であれば、大丈夫だろう……と、

考えていなかったと言えば嘘になる。

だからこそ、九尾の言葉は少し信用ならないと思ったけれど、

それだけ、精霊の影響が強いということでもある。

大社は、精霊の影響なんて陽乃よりも理解していないだろうし、

千景の一件を経て、

最悪の場合を想定して行動しているとしたら、大社は間違っていないかもしれない。

陽乃『なかなか、不味い状況ね』

九尾『主様さえまともであれば、高嶋友奈の様子を確かめることもできるが、今は難しかろう』

陽乃『まぁ……』

今の陽乃には、他人の何かに介入するだけの余力がない。

残念だが、友奈のことは友奈自身

あるいは、その周囲の人物にどうにかして貰うしかない。

でも、だからこそ。

大社に管理されているという状況が気がかりだった。

√ 2018年 10月10日目 昼:病院

↓1コンマ判定 一桁

1 ひなた
3 水都
5 歌野
8 侵攻

ぞろ目 特殊

√ 2018年 10月10日目 昼:病院


九尾の力は微弱に感じるものの、

それ以外の何も感じられないまま、時間が過ぎる。

上里さんはもう、巫女としての責務を果たしたのだろうか。

水都のように軽く済んだだろうか。

それとも、重く苦しい物になったのだろうか。

九尾『……気になるのかや?』

陽乃『貴女は私が気になるのね』

思考に割り込んでくる九尾の声に、

陽乃はやや突っ撥ねるような雰囲気で応えると、

九尾のとても楽しそうな笑い声が響いてくる。

九尾『くははっ……主様を蔑ろには出来ぬ』

陽乃『私じゃなくて、私のお母さんでもいいんじゃないの?』

九尾『あの女に主様ほどの才はない。何より、そもそも、勇者として力を使えるのは主様であってあの女ではない』

陽乃の代わりに母親を主としても、

勇者として戦うことは出来ないから、何の意味もない

陽乃『あの女って……』

九尾『妾はあの女が生まれるよりも前から知っておるからのう。小娘と呼んでやってもよいぞ』

陽乃『そうだろうけど……』

母親をあの女とか、

自分たちと同年代を呼ぶときのように小娘とされるのは、あんまり気持ちが良くない

もう少し、こう、考えて貰いたい。と、

ちょっぴり思ってしまう。

九尾『それはそうと、上里ひなたはまだ行っておらぬぞ。今日中には、行うやもしれぬが』

陽乃『そうなの?』

九尾『あの娘は悩んでいたようじゃが、今は乃木若葉を欠くわけにはいかぬからのう』

陽乃『悩んでたって、何を?』

今更、水都のことを聞いて反動が怖くなった……なんてわけではないだろう。

ひなたに関しては影響がある可能性もあるが、

若葉が倒れたりすることはないはずだから、侵攻があることを心配しなくたっていい。

なら何を悩むのか――と。

考える陽乃の頭に、九尾の声が響く。

九尾『乃木若葉を取るか、主様を取るか。あの娘はそれを悩んでおった』


1、はぁ? 何それ
2、あの子は乃木若葉の巫女でしょう
3、ふざけたことで悩んでくれているじゃない
4、私の肩代わりだなんて、あの子死ぬ気なの?


↓2


では少し早いですが本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお通常時間から

すみません
色々と復旧しているので明日から再開予定です。

書き込みテスト


陽乃『私の肩代わりだなんて、あの子死ぬ気なの?』

九尾『それも致し方ない。といったところじゃろうて』

陽乃は戦力としてかなり重宝される。

大社には良く思われていないし、住民にも良く思われていない。
千景には殺されそうになる始末で……散々な目に遭ってきているのに。
精霊以上の、神々の力を用いてバーテックスに立ち向かっていく。

その力は若葉達が精霊の力を使ってどうにかと言ったところの完成型ですら屠れるほどの力だ。
最終兵器と言っても過言ではない。

それだけの力を持ちながら重篤な状態である陽乃のと、
症状は出つつあるが軽度な若葉のどちらを支援すべきかと考えれば、
幼馴染という立場の忖度を除けば、陽乃に傾くのも無理はないだろう。

そもそも以前から散々、ひなたは陽乃の体調を気遣っていたし、
改善するようにと求めてきたにもかかわらず、
陽乃は自分のことなんて全く省みることをしようとしてこなかったのだから。

歌野のように強硬手段に打って出ようと模索する可能性は十分にある。

九尾『死んでもよいと。そう思うておると言うことじゃ』

陽乃『冗談きついわ』

それでどうなるか分かっているのかと、陽乃は眉を潜める。

ひなたは若葉にとってかけがえのない存在だ。

それを死に至らしめたとなれば、それこそ、陽乃の立場が悪くなる。

精霊の影響で過激になって千景のように殺意が芽生えたらどう責任を取るつもりなのだろうか。


九尾『ならば主様が改めればよいだけのことであろう』

陽乃『またそれ?』

呆れたように呟く陽乃に、九尾はくつくつと喉を鳴らして応える。
昨日の夜にも、九尾は改めるべきだと口添えしてきた。

陽乃のことは失うわけにはいかないからと。

お気に入りのひなたでさえ、
小娘と割り切って使い捨てることも厭わないような口ぶりだった九尾は、
もしかしたらひなたを唆し、陽乃の肩代わりをさせる気なのではないかとさえ思わせる。

陽乃『……余計なことはしないで頂戴』

万が一。
そう考えて釘を刺した陽乃だったが、
九尾はからかうように笑って『分かっておる』と答える。

本当に分かっているのかも怪しい声色。

九尾はいざとなれば本当に、人間の命なんて簡単に使い捨てにするだろう。
陽乃が望む望まないに関わらず、
いとも容易く、人の命を軽んじることだろう。

陽乃『改めるべきは貴女もだわ』

九尾『それは主様次第じゃな。妾とて、愛らしい娘は可能な限り保っておきたいからのう』

九尾の怪しげな笑い声が頭に響く。

陽乃が自分の命を軽んじることなく、
より最善な選択を選んでいくのであれば、九尾はもちろん、
ひなたも、若葉も、水都も、歌野だって……。

陽乃『はぁ……』

5人いるからいいじゃない。
そう言えた四国の勇者も、満身創痍な状況だ。

ここでの不協和音は、ただ、破滅を招くだけだろう。

若葉、友奈、球子、杏、千景
四国を守る五人の勇者に、諏訪の勇者である白鳥歌野が加われば、
バーテックスとの戦いにも多少はゆとりが出るだろうと高をくくっていた。

けれど、蓋を開けてみればバーテックスはさらなる進化を遂げていたし、
それに対抗すべく力を増した勇者達は身を削り、命を削り、
そして、やがては壊れていく。

その筆頭が郡千景だ。

最も、陽乃が見たあの過程状況を思えば、
症状が悪化してしまうのも無理はないのだけれど。

陽乃からしてみれば、両親が生きているだけいいだろうと言えなくもないが、
千景からしてみれば、陽乃の状況もまた、恵まれていると言えるのかもしれない。

九尾『主様にはまだ、味方もいるが郡千景にはおらぬからのう』

陽乃『味方って……』

そんなのいるだなんて思ってないと言いかけた陽乃だが、
どうにか飲み込んで『郡さんは』と、切り替える。

陽乃『あの子には高嶋さんがいるじゃない』

九尾『あやつは主様と似たようなものじゃろう。郡千景だからではなく、その手の届く場所にいるから。と言ったところか』

九尾はそう言うと、歌野や水都達と比較して、
そこまで千景へと一途な思いは持っていないだろうと否定する。

陽乃『……そう』

あの戦闘で、死にかけるほど尽くしていながら、
それでもかと逡巡した陽乃のそばで、九尾はくつくつと喉を鳴らす。

九尾『主様も同様じゃろう』

嫌味を感じるそれに、陽乃は『違うわ』と断じたものの、
残念ながら、心当たりは少しだけあった。

√ 2018年 10月10日目 夕:病院

↓1コンマ判定 一桁

2 ひなた
4 杏
6 大社
9 水都

ぞろ目 特殊


では短いですが本日はここまでとさせていただきます。
恐らく、ゆゆゆいが終わるまでには確実に終わりませんが、引き続きよろしくお願いいたします。

遅くなりましたが少しだけ

√ 2018年 10月10日目 夕:病院


そうっと……。

起こさないようにと気遣いながらも、
どうしてもと触れてきただろう手の感触が伝わってきて、陽乃は薄く目を開く。
かといって、開いたところで何かが見えるわけでもない。

歌野が傍にいない分、いてくれていた時に比べると回復が遅い。
それでも歌野が水都との繋がりを持っているおかげか、
陽乃へと回ってくる生命力は強く感じられる。

とはいえ、まだまだ本調子には時間がかかる。

陽乃「ん……」

ほんのりと力を感じる。
水都や歌野のそれとは絶対的に違っているけれど、
馴染みあるものがあるそれを持っているのはひなただろうと、陽乃は判断する。

九尾にしては微弱だと感じるなら、候補はそれ以外にないからだ。

陽乃『戻ってきたのね』

ひなた「す……せ……て……て……」

ひなたは何かを言っているようだが、
耳ではその全部を上手く聞き取り切れず、流れ込んでくる内側がそれを教えてくれる。

陽乃『別に、構わないわ』

元から眠りが浅く、邪魔をされたと憤るようなものでもなければ、
一日中寝ていれば身体が回復するわけでもないから、
起こしてしまって。と、謝られたって意味もない。


陽乃『それより……どうして戻ってきたのよ』

歌野に対する水都のように、
ひなたは若葉の反動を肩代わりするはずで。

ここにいるよりも若葉のそばにいるべきだと陽乃は思うが、
ひなたは『今は久遠さんの方が心配で』と呟く。

若葉の状態にもやや変化がみられるものの、
陽乃に比べれば、身体的ダメージは軽く、何より球子が傍にいたからか、
精神面も割と安定しているように見えたと、ひなたは話して聞かせる。

ひなた『若葉ちゃんも、悪い意味でなく変わっていっているみたいで……』

もちろん、だから何もしなくていいとは思わない。
精霊の力を使う代償は重く、それを引き受ける必要があるとひなたは思っている。
けれど、ひなたは踏み切れなかった。

若葉は若干の不安定さを球子と関わることで抑え込み落ち着かせている。
そのうえでひなたがそこに介入すれば瞬く間に安定させることが出来るだろうし、
このあと襲撃が起こってもどうにかなる可能性がある。

しかし、だ。

ひなた『若葉ちゃんはきっと、私を受け入れてくれないと思います』

陽乃『説得したらいいじゃない』

ひなた『出来るとは思えなくて』

ひなたはそう言いながら、困ったように笑う。


ひなたが戻り、普通に接するだけであれば何も問題は起こらない。
けれど、そのひなたが命を懸けたいと言えば、若葉は絶対に止めるだろう。
それ自体は別に、勝手にしたらいいと陽乃は思うし、
ひなただってそれだけで済むのなら、話し合って、どうにか受け入れて貰える道を模索するだろう。

けれど、
若葉の胸の内に溜まった穢れ次第ではひなたと若葉の間に亀裂が走ることになり得るし、
最悪の場合、強行できたとしてもひなたへの反動が重くなる。

歌野が肯定的で、2人の思いが一致していた水都とはわけが違ってくる。

若葉がひなたを大事に思っているように、ひなたもまた、若葉を大事に思っている。
その思いが、若葉を困らせ、苦しませ、
それでいてリターンよりもリスクが勝ることを躊躇わせているのだろう。

――それもあるのだろうけど。と、陽乃は目を細める。
細めただけで、何か見えるわけではないけれど。

ひなたはやはり、陽乃のことを重く見ている。

陽乃は自惚れないでと突っぱねたものの、
陽乃が戦いに赴いたのはひなたが願ったことだからで、
それが引き金となって歌野まで一時的に再度隔離することになったりと、
散々なことになっているのまた、自分のそれが原因だと思わずにはいられないのだろう。

だからこそ、
巫女の中で最高の適性だと言われている自分の力は、
自分と自分の幼馴染のために使ってしまうべきではないとも、考えている。


1、それをしたら、私と乃木さんで殺し合うことになるわよ
2、貴女なんて要らないわ
3、気持ちだけで十分よ。貴女には荷が重いわ。
4、自惚れないでって言ったはずよ


↓1

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

陽乃『気持ちだけで十分よ。貴女には荷が重いわ』

もし仮に、今のこの状況がひなたを原因としたものだったとしても、
ひなたに背負わせれば解決するというほど、軽くはないのだ。

いや、ひなたでさえ背負いきれないほど。と、言うべきだろうか。

今回に関しては攻撃を受けたことによる物理的なダメージも大きいけれど、
それを除いても、
そもそも、陽乃は歌野以上に危険な力を使っていることもあって、
その反動の一部を請け負うとなると、ひなたであっても死ぬ可能性の方が高い。

九尾はともかく、イザナミ様であればほぼ確実だと言える。

陽乃『貴女は貴女が出来ることをしたらいいのよ』

ひなた『久遠さん……』

どこか感嘆を感じる声色で名前を呼んだひなたは陽乃の手を少しだけ強く握る。

いつもならもっと厳しく突っ撥ねてくるのが陽乃だ。
それでももちろん、相手への心遣いは感じられるのだが、
陽乃にしては、直球な返しだったからだろう。

ひなた『私に出来ること、ですか……』

ひなたを庇って出来た左手の傷も癒えていないのに、
また、深手を負った身体は直視するには酷い状態で。

医者としての技術がなく、
歌野のように治癒を主とした力もないひなたは、完全な力不足に他ならない。


だからと言って、
陽乃がひなたを邪魔者扱いしているわけではないというのは、分かっている。
こんな場所にいるよりもやるべきことがあると。陽乃はただそう、思っているだけだ。

ひなた『私では、久遠さんの力にはなれませんか?』

陽乃『貴女でも無理よ』

可能性はある。けれど、十中八九十中八九ダメだろう。

ひなたが万が一陽乃を起因とした何かで命を落とした場合、
若葉はもちろん、巫女や大社の人々といったひなたを重宝している勢力からの風当たりが強くなるうえ、
郡千景が「殺しておけばよかったのよ」と、迫ってくる気がしてならない。

それはもはや足手纏いとも言える。

陽乃『乃木さんが万全な方が私の利益になるわ』

ひなた『若葉ちゃんは、頼りになりますか?』

陽乃『居ないよりは』

居なかったら頼るも何もないのでは。と、
ひなたは小さく笑いながら呟いて『若葉ちゃんが聞いたら喜びますよ』と、続ける。

ひなた『久遠さんのためにもって言えば……若葉ちゃんが許可してくれるかもしれません』

陽乃『どうだか』

ひなた『白鳥さん達ほどではなくても、若葉ちゃんも恩義があるって言っていますから』


陽乃『私は別に何もしていないわ』

ひなた『久遠さんがそうなら、誰も胸を張ることが出来なくなりますよ』

ただただ滅びを待つだけの運命だった諏訪から、
そこに住む住民を含めて迎えに行き、連れ帰ってきた陽乃。
歌野達が今度は自分達が命を懸けるべきだというのも無理はないと思えるほどの功績だ。

その功績を自分のものだなんて威張ったりすることはまるでないが、
同行していた球子や杏はそうだし、
諏訪とやり取りしていた若葉も、いつか助けに行きたいと思っていた友奈も、
外に出て、生存者を連れ帰ってきたこと自体を希望と見ている巫女達も。

みんな、陽乃に恩を感じている。

やっぱり、陽乃はそれを快く思わないのだろうけれど、
それでも、成し遂げてしまったことはどうしようもないのだ。

そして、だからこそ、ひなた自身も。
けれど、その献身は拒絶されてばかりで、それは今もそう。

ひなたはぐっっと意を決するように唇を固く結ぶ。

ひなた『本当に、私じゃ駄目ですか? 若葉ちゃんの代わりを務める方がお役に立てますか?』

若葉か陽乃か。
その反動を引き受けるのはどちらにするべきか。
ひなたはその最終決定を、陽乃に委ねようとしているようだった。


1、ええ、貴女ではだめよ。
2、それは貴女が決めることよ。
3、私の役に立つかどうかではないでしょう。
4、乃木さんにしておきなさい。

↓1

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます。
その分、明日は可能であれば少し早い時間から


陽乃『乃木さんにしておきなさい』

ひなた『……っ』

陽乃が迷わずにそう切り返すと、
ひなたは少しばかり残念そうに眼を開いて、伏せる。

ひなたも歌野や水都と似たようなものだ。と、陽乃は思う。

千景の目的は陽乃の殺害だったから、
ひなたはそのついでに殺されかけただけで、
むしろ「陽乃のせいで巻き込まれた」と憤っても問題はないのに
戦力で見て、受けた恩を顧みて、それでひなたは力になりたがっている。

もっとも、ひなたがそんな性格ではないだろうと思ってはいるが。

陽乃『貴女が見出したのが私ならともかく、乃木さんなのだから。適性は明らかにそっちに向いているし、最後まで付き添ってあげるべきよ』

もし、陽乃と共に覚醒した巫女であったなら、
神様の力を使う代償にも耐えうるだけの素質があった可能性はある。

しかし、実際には、ひなたは陽乃ではなく若葉の巫女だ。
こんな世界になるまでは、顔見知りですらなかったくらいに他人だった。
その希薄な関係には、あまりにも荷が勝ちすぎている。

陽乃『貴女はただ巻き込まれただけなんだから。無意味な罪悪感を抱く必要はないのよ』


陽乃の癖のような突き放す物言い。
けれど、以前に比べればだいぶ軽くなったようにも感じられる。
ひなたはあまり響かないようにと声を抑えて笑う。

ひなた『そう、ですね』

巻き込まれたと言えるかもしれない。
だからと言って、ひなたは巻き込まれたとは言わないし考えるつもりはなかった。
あの時の千景の様子は見るからにおかしく、
敵意や殺意といったものがはっきりとしていた。
それでも、説得できるかもしれないと勇んだのはひなただ。

ひなた『一理あります』

無意味な罪悪感を抱く必要はない。だがそれは陽乃だろうとひなたは思う。

ひなた『あまり、自分を責め過ぎないでください。久遠さん』

陽乃『私?』

ひなた『おそらく、世界一自責の念が強いかと』

ひなたは、あえてちょっぴり子供らしく指摘をして、
眉を潜めた陽乃を見つめる。

人を殺めることになってしまったのは悲劇だが、
それを除けば陽乃の罪になるようなことがないどころか、
むしろ、その唯一の罪は過剰ではあるものの、自分と周囲を護るためのものだった。

なのに、陽乃はそんな言い訳をせずに抱え込むばかりで。


ひなた『勇者の件でお力添えできないのは非常に口惜しいですが、それ以外で何かあれば、遠慮なくお話しください。可能な限り……』

ひなたはそこで口を閉ざすと「違いますね」と、首を振って。

ひなた『必ず、力になります』

陽乃はひなたのその献身に顔を顰める。

九尾は改めるべきだというし、
陽乃自身、多少は変えていくべきだと思っていないわけではない。

けれど、ひなた個人ではなく、
人間そのものに対する蓄積された不信感はそう簡単に払拭できるわけがなく、
ひなたの献身への感謝よりも、
どうせ、出来るわけがないのだろうとか、
そもそも、任せたくない、信じられないと考えてしまう。

陽乃『必ずって……』

嫌がらせでなく、拒絶したくなる。
出来もしないくせに。と、突き放したくなる。

陽乃『……はぁ』

ここで拒絶しても、
ひなたは仕方がないですねと言うかのように笑みを浮かべるだけかもしれない。
それが今までの陽乃だし、ひなたは慣れたものだろう。


1、結構よ
2、良いから乃木さんのところに戻りなさい
3、自分の言葉には責任を持つべきよ
4、何かがあれば。ね


↓1

落ちてしまいましたが、続きから

陽乃『何かがあれば。ね』

陽乃がそう答えると、ひなたは『何もない時なんてありましたっけ』なんて呟く。
運が悪いのか、陽乃はいつも災厄に見舞われている。
バーテックスも、大社も、四国に住まう人々も。

陽乃に対しての当たりは強く、心休まる場面が少なかったのは、ひなたも理解しているところだ。

そもそも、今だって十分に有事だと言えるだろうに、
それで何もないだなんて誰が認めるだろうか。

ひなたは唇をキュッと結ぶ。

陽乃といるからか、自嘲が癖になりそうだとひなたは思っているようで、
漏れかけたそれを飲み下して、喉を鳴らした。

ひなた『……若葉ちゃんの件が無事に済んだら、戻ってきます』

陽乃『余計なことは考えないようにしなさい』

ひなた『分かってます』

気持ちが通じ合うことが重要なら、
雑念が混じってしまえばリスクが大幅に増加することになる。
だからこその助言だろうと察したひなたは、感謝の意を込めて、陽乃の右手を摩る。

ひなた『若葉ちゃんは私の大切な幼馴染ですが、久遠さんは私の命の恩人です』

どちらも大切で、失いたくないと思っている。
そうしてそれは若葉も同じだろう。

3年前のあの日以前からの付き合いで、あの日も共にあり、死地を駆け抜けたひなたの幼馴染。
精霊を多用することによる副作用で少し荒れているみたいだけれど、
その心根までも曲がることはないと信じている。

ひなたは、久遠さんの幼馴染だったら。と、少しだけ考える。
そうだったなら、正式な巫女であれたのだろうかと。
傷つけ、傷つけられ続ける心を、守ってあげられるだけの何かがあっただろうか。と。

ひなた『行ってきます』

今はまだ、返答がないだろう言葉を残し、ひなたはもう一度、病室を出て行った。


√ 2018年 10月10日目 夜:病院

↓1コンマ判定 一桁

0 歌野
4 千景
6 球子
9 水都

ぞろ目 特殊

√ 2018年 10月10日目 夜:病院


夜も更け、寝静まった病院の一室の前で、水都は足を止め、
少しだけ迷いながら、扉をゆっくりと開ける。

特別に用意されたその病室はネームプレートがなく、
一見では空室に思えるが、中では一定のリズムで電子音が響いていた。

ベッドは2台あるが、それでも広すぎるほどの特別な病室
2台あるうちの1台は無人で、今は1人しか使っていない為、寂寥感が漂っている。

水都はその孤独な住人である陽乃のそばに忍び足で近づく。

追い込まれつつあった陸の孤島の諏訪へと訪れた勇者の1人。
四国内での決定によって派遣されたのではなく、
独断かつ、追い出されるような形で諏訪に来た陽乃は、初めて見た時から疲弊していた。

いいや、疲弊という言葉では軽いほどに消耗していた。

だが、次第にそれさえも序の口だったし、
今ではもう、適切な言葉が思い浮かばないほどにボロボロになっている。

通常の医療技術だけでは確実に亡くなっている。と医者に言わせるほどの状態で
勇者の回復力と歌野が譲り受けた宇迦之御魂大神の御力でどうにか繋ぎ止めている陽乃は、今は穏やかに眠っているように見える。

水都はその寝顔を覗き、ほっと安堵する。


諏訪にいたころと違って、
四国は神樹様の恩恵によって、人々は勇者の戦いを知覚することが出来ない。
それは巫女も例に漏れず、あとから戦いがあったことを知ることになる。

神託によって近々戦うことになるだろうという覚悟はできるものの、
それくらいしかできないのが本来の巫女の形だ。

水都「……っ」

何が、恩恵だ。と、水都は思う。

そんなことをしているから、
勇者達がどれほどまでに苦痛を味わっているのかを知らず、
自らの細やかな不幸で、勇者達を責め立てているんじゃないか。

人々は知るべきなのだ。
勇者の努力を、勇者の恐怖を、勇者の痛みを、勇者の苦痛を。

そうすれば、誰一人として文句は言えなくなるだろうし、
それでもなお言いたいことがあるのなら、刀の一つでも握らせてやればいい。

でもきっと、陽乃はそんなこと望まない。
それで手のひらを返されたとしても、陽乃は今までと何も変わらない。

だから、その願いは水都の自己満足にしかならない。

水都はそうっと、陽乃の手を取る。
歌野とのつながりを手繰り寄せていき、少しずつ、その力を陽乃へと伝えていく。

温かな生命力の力は、水都の身体を火照らせる。
水都の額に汗が浮かび、頭がずきずきと痛んで、吐き気がしてくる。

それでも水都は身を削るのを止めなかった。

真実を包み隠さないようにと神樹様に直談判するよりも、
その時間さえも惜しんで癒すために尽くす方が、水都にとっても、歌野にとっても。
そしてきっと陽乃にとっても良いと、思って。


↓1コンマ

01~00 ※低~高

※ぞろ目特殊

では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから。

遅くなりましたが少しずつ


水都が身に纏っている巫女装束の裾に赤い斑点が滲んでいき、
流石に耐えられないと水都は陽乃の手を離して、袖で鼻の辺りを軽く拭う。
鼻を啜ると血のにおいがして、拭った袖まで赤くなっている。

巫女でしかない水都には、ここが限界なのだろう。

水都「……少し、無理させちゃったかな」

陽乃を見れば、額に汗が浮かんでいて少しだけ寝苦しそうな呼吸をしていて、
水都はハンカチをポケットから引っ張り出すと、
自分のことはそっちのけで陽乃の汗を拭い、布団をずらして熱を逃がしていく。

水都「ごめんなさい。少しだけ……」

布団が捲れたことで、陽乃の患者衣が目に入る。
拘束するようなものではなく、普通の患者衣だが、汗が滲んでべったりとしていて、不快感を高めていそうだった。

気付かれたら気まずくなりそうだと思いつつも、
そのままにはしておけないと陽乃の患者衣の紐の部分を抓む。

陽乃「――なにしてるのよ」

水都「あっ……」

陽乃「何してるのって、聞いたんだけど……」

さっきまでは見えなかった橙色の瞳に見つめられて、
水都は一瞬、言葉を失って息を飲む。

水都「……暑苦しそうだったから」

陽乃「そう……」


陽乃は興味がなくなったかのように答え、頭を枕に落とす。
眠る前に水都はいなかった。
ということは、寝ているときに来たのだろう。

陽乃「……夜よ」

水都「だから来たんです。夜なら、行動しやすいかなと思って」

監視カメラはどうにもならないけれど、大社も病院も邪魔にならない。
理由は分からないが、
バーテックスの襲撃も行われない為、落ち着いて専念できる。

水都「それに、朝とかは他にやることがあるときもあるので」

陽乃「だったらこんなところに来ている場合じゃないでしょう。少しは体を休めておきなさい。貴女が万全じゃないと、白鳥さんが役に立たなくなるんだから」

水都は面を食らった顔をして「それは陽乃さんも同じですよ」と答える。

水都「うたのんも、私も、陽乃さんが万全でいてくれないと困るんです」

歌野は元々勇者で、陽乃の力を借りていなかったが、
諏訪から四国へ移る際に、諏訪の神々の力は陽乃へと引き継がれ、
今は陽乃を経由している。

陽乃の体調の良しあしに関わらず力を使えているということは直接的に関係はないのかもしれないが、
万が一、陽乃の体調が悪化して死に至った場合どうなるのかは分からない。


水都「特に、うたのんは……生命力を高める力を与っているから……」

自分を回復させることに注力するあまり、
陽乃のことをおろそかにしてしまっているのではないかと、歌野は気を急いてしまう。

そして、それが真実になってしまったりしたら、
それこそ、歌野は荒れるだろうから。

水都「私に出来ることは、出来る限りしておきたいと思って」

陽乃「それで……」

陽乃は、そうっと手を伸ばして水都の頬に触れる。
うっすらと付いていた血は乾いていて、陽乃の手には着かなかった。

陽乃「こんな無茶をしたのね」

水都「私に出来るのはこのくらいしかないから」

陽乃「それで死んでも、私はどうともならないわよ」

陽乃はそう言い切ったが、水都はまるで気にも留めていないと言った様子で笑みを浮かべた。

水都「絶対怒るじゃないですか」

陽乃「……怒りもしないわよ」

水都「じゃぁ、悲しんでくれますか?」

陽乃「そんなこともしないわ」

はっきりと否定されても、水都は笑みを崩さなかった。


水都「声の調子は良さそうですね。あと、手も……」

陽乃「……そうね」

上がりもしなかった手は上げられるし、触れることもできる。
出なかった声も出るようになって、視界も晴れやかだ。
眠ってから数時間も経っていないだろうから、水都のおかげだろう。

陽乃「貴女が血を流した意味くらいはあったということね」

水都「ならよかったです」

躊躇のない喜びに、陽乃は目を細める。
睨まれていると分かっているだろうに、水都は変わらず笑顔のままだ。

水都「本当は起こさないつもりだったんですけど……おやすみなさい」

水都はそう言って、椅子から立ち上がる。
本当に陽乃を癒すことしか目的としていなかったらしい。
陽乃は足を動かせるのを確認してから、上半身だけを起こす。

陽乃「貴女、普通に歩けるの?」

水都「え?」

何のことかと素っ頓狂な声を漏らした水都は、
陽乃が自分の鼻の辺りを指先でつんつんとしたのを見てはっとする。

水都のそこには、鼻血が出ていた痕跡がある。

水都「このくらい、何ともないですよ」


1、向こうのベッドが空いてるわ。使っていきなさい
2、もう二度と無茶はしなくていいわ
3、感謝は、してるわ
4、怒るわよ。たぶん、私は
5、ゆっくり休みなさい


↓1


陽乃「感謝は、してるわ」

水都「……なら、良かったです」

手足が動かせるし、声も出る。
ちゃんと目が見えるようにもなっている。
以前のように動けるかと言えばそうでもないが、ある程度自由が取り戻せただけでも十分だ。

水都「でも、まだあまり無茶はしないでください。また悪くなっちゃうから」

陽乃「したくてもできないわよ。こんな体じゃ」

それに、普段はそこまで無茶するつもりはないし、
無茶をするのは、無茶をする以外に道がないときだけだ。
その場合には、残念ながらどうにもならない。

陽乃「私だって、こうならなくて済むならそれが一番だと思ってるわ。だからこそ、貴女達には命を懸けさせているわけだし」

水都「私達が、自分で望んだことですよ」

陽乃以外の勇者たちの強化……と言うよりは、補佐。
力を惜しみなく使っても、影響が軽くなるだけだけれど、それでも勇者たちの生存率が高まる。
もっとも、合意の上でないと成功しないし、
運よく成功したとしても、勇者達がより慎重になってしまったら、意味がないが。


バーテックスの襲撃なんて、さっさと終わって欲しい。
以前のような平和な世界に戻れとは望まない。
全てがなかったことになれとも望まない。
だけれど、せめて、陽乃達が戦う必要のない世界になって欲しいと思う。

水都は少し考える素振りを見せて踵を返し、陽乃をじっと見つめる。

水都「一つだけ、気になってることがあるんです」

陽乃「何よ改まって。変なことなら聞かれても答える気はないわよ」

水都は「ただの相談です」と笑う。

水都「無駄かもしれませんが、神樹様の過保護を止めて頂くのはどうかと思っているんです。真実を人々に悟らせない……あの、樹海化と呼ばれている結界です」

あれがなければ、人々は真実を忘れることはないだろう。
だが、それの何が問題なのか。
それから守ってくれている勇者達を足蹴にするような人々なんて、一生涯苦しみ続けるべきではないか。

陽乃「……貴女、九尾にでも毒されてるんじゃないの?」

水都「そんなことは……ただ、嫌気がさした、かもしれません」

人間同士で争っているなんて意味が分からない。
勇者を糾弾しているなんて意味が分からない。
これなら、諏訪でずっと……暮らしている方がマシだったんじゃないかって、思ってしまう。

水都「どう、ですか? 直談判してみますか?」


1、する
2、しない
3、考えておく

↓2


陽乃「考えておくわ」

水都「……急かしたくはないですけど、でも、早めにお願いしますね」

求められたって、応えられるとは限らない。
でも、言わずに後悔するよりは、言っておいて駄目だったからと尽くした方が良い。
だから、場合によっては陽乃の了承を得る前に、水都は行動を起こすだろう。

陽乃「どうせ無駄よ」

水都「無駄でも、しておきたいじゃないですか」

陽乃「そんな無駄なことをしている余裕が貴女にあるの? ううん、貴女達にあるの? どうせ、そんな小細工は貴女だけの計画ではないんでしょう?」

水都「……どうして、そう思うんですか?」

陽乃「貴女の語るメリットが、貴女が言うにしてはどうにもいやらしかったからよ」

水都なら、陽乃や歌野達の戦いを知って貰いたいから。なんて、正直に語りはしても「真実を人々に悟らせない」とは言わないだろう。
それに「神樹様の過保護」とも言わないだろうか。

もちろん、九尾に毒されているなら話は別だが。

陽乃「まぁいいわ。考えておく。でもね……大社に目をつけられたら面倒だからほどほどにしておきなさい」

水都は「今更ですよ」と、笑った。

√ 2018年 10月11日目 朝:病院

↓1コンマ判定 一桁

1 ひなた
3 若葉
6 襲撃
9 杏

ぞろ目 特殊

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から。

まとめは明日。


1日のまとめ

・ 土居球子 : 交流無()
・ 伊予島杏 : 交流無()
・ 白鳥歌野 : 交流無()
・ 藤森水都 : 交流無()
・   九尾 : 交流有(改めること)

・ 乃木若葉 : 交流無()
・ 高嶋友奈 : 交流無()
・ 花本美佳 : 交流無()
・  郡千景 : 交流無()
・上里ひなた : 交流有(若葉のところへ、若葉の暴走)

√ 2018/10/09 まとめ

 土居球子との絆 84→84(良好) ※特殊交流2
 伊予島杏との絆 97→97(良好) ※特殊交流4
 白鳥歌野との絆 99→99(好意) ※特殊交流4 ※通常最大値
 藤森水都との絆 99→99(好意) ※特殊交流8 ※通常最大値
   九尾との絆 84→84(良好)

 乃木若葉との絆 82→82(良好)
上里ひなたとの絆 84→85(良好)
 高嶋友奈との絆 64→64(普通)
 花本美佳との絆 37→37(普通)
  郡千景との絆 20→20(険悪)



1日のまとめ

・ 土居球子 : 交流無()
・ 伊予島杏 : 交流無()
・ 白鳥歌野 : 交流無()
・ 藤森水都 : 交流有(癒しの力、感謝はしてる)
・   九尾 : 交流有(周りの動き、肩代わり)

・ 乃木若葉 : 交流無()
・ 高嶋友奈 : 交流無()
・ 花本美佳 : 交流無()
・  郡千景 : 交流無()
・上里ひなた : 交流有(荷が重い、若葉、何かがあれば)

√ 2018/10/10 まとめ

 土居球子との絆 84→84(良好) ※特殊交流2
 伊予島杏との絆 97→97(良好) ※特殊交流4
 白鳥歌野との絆 99→99(好意) ※特殊交流4 ※通常最大値
 藤森水都との絆 99→99(好意) ※特殊交流8 ※通常最大値
   九尾との絆 84→84(良好)

 乃木若葉との絆 82→82(良好)
上里ひなたとの絆 85→87(良好)
 高嶋友奈との絆 64→64(普通)
 花本美佳との絆 37→37(普通)
  郡千景との絆 20→20(険悪)

√ 2018年 10月11日目 朝:病院


勇者が精霊を使用する際の代償の一部を肩代わりする巫女にとっては命懸けの儀式。
恩人の陽乃の分を肩代わりするか、幼馴染の若葉の分を肩代わりするか。

悩んだひなたは、陽乃に委ねて……若葉を選んだ。

本来なら陽乃に判断をゆだねる必要なんてなかった。
しかし、誰に声をかけても協力的になってくれるだろう若葉と、
みなが忌避するだろう陽乃では、大きく差がある。

それでいて、陽乃は最も力がある。

だからこそ、味方になってあげられる巫女が味方になってあげるべきだとひなたは思って、声をかけた。

けれど結局、若葉にするべきだと断られてしまったが。

若葉との儀式は、驚くくらいに何も起きなかった。
水都もそうだったが、そもそもの関係が深く、その思いが重なっていれば、
影響はまったくないようだった。

そもそも、若葉がまだ、全然重荷に感じていないからかもしれないけれど。


陽乃「元気そうね、貴女」

若葉との儀式を終え、陽乃の病室を訪れたひなたは、
陽乃の「暇なの?」 とでも言いたげな口ぶりを柔らかい笑みで受け止める。

ひなた「はい……むしろ、健康になったようにさえ感じます。久遠さんも、昨日に比べて……」

陽乃「藤森さんが来たのよ。昨日」

ひなたは「そういうことですか……」と得心が言ったように呟き、陽乃の手に触れる。
千景に切り裂かれたはずの左手の傷がすっかり塞がっていて、
ひなたの手から逃れようとする力が十分に入っているのを感じる。

けれど、陽乃はひなたの手を振り払わずにひなたを一瞥する。

陽乃「乃木さん、置いてきて平気なの?」

ひなた「若葉ちゃんには久遠さんのところに行くって言ってありますから。でも、この様子なら、慌てる必要もなさそうですね」

満足いくほどかと言えば物足りないものではあるが、動く手足。
耳も聞こえるし、声も出せる。
内側はまだ完全ではないようだが、外面的にはほとんど完治したように見える状態だ。

陽乃「襲撃がなければ、という前提があるけど」

ひなた「そうですね」



1、郡さんは?
2、高嶋さんは?
3、藤森さんから話は聞いてる?
4、またこっちにいるつもり?


↓2

陽乃「高嶋さんは?」

ひなた「ゆうなさんは、現在大社の施設で預かられていますが……若葉ちゃんから聞いた話では、安静が必要だと」

外見に大きな影響が出ている歌野は特例中の特例と言えるが、
陽乃もまた、精神面に影響が出るというよりは身体を削るような形で、影響が出ている。
その一方で、友奈達は負傷も多いが、精神面に影響が出ているという。

陽乃「私達……というとあれかしら。私みたいなものなら楽なんだけど」

ひなた「久遠さんと同じだったら即死してます」

陽乃「そこまではいかないと思うわよ。私と同じ力を使うわけでもないんだから」

それに……と、陽乃は思う。
陽乃の力が特別なだけで、友奈達の力はそれよりは優しい力だ。
神樹様を経由してもいるから、ある程度は軽く済むはず。

少なくとも、寿命を削るようなことにはならないだろう。

陽乃「高嶋さんが再起不能だとすると……郡さんが面倒だわ。あの子、乃木さん達の手に余るでしょう」

ひなた「ご両親――」

陽乃「私はどうもする気はないわよ」

樹海化中に見た、千景が置かれている状況。
それを大きく変えるためにはまず、両親をどうにかするのが一番だろう。
けれど、それは、陽乃には関係のないことだ。


そもそも、両親を治してあげたところで、千景が平静さを取り戻せるとは思えない。
だから何だと、今更何なんだと。
千景が余計に荒れてしまう可能性もある。

陽乃「まったく、どこに逃げたんだか」

ひなた「現在の四国内には、空き家が多く点在していますから、そのいずれかを間借りしているかもしれないと、大社は考えているようです」

陽乃「普通に考えたらそうよね」

千景が行きそうな場所は皆目見当もつかないが、どこかに身を潜めておく必要がある。
大社がそれをしらみつぶしに探しているというなら見つかるのは時間の問題かもしれない。

けれど、今の千景を追い詰めるべきではないだろう。と、陽乃は目を細める。

陽乃「いっそのこと、襲撃が起きたら郡さんを叩き伏せるべきかしら」

ひなた「……危険です」

陽乃「私が? 郡さんが?」

ひなた「もちろん、久遠さんが」

迷うことのない答えに、陽乃は少し呆然として、それから少しだけからかうように笑う。

陽乃「私が郡さんに殺されるとでも?」

ひなた「今の千景さんは、久遠さんと違って手加減をしませんから」

陽乃「私もしないわよ。殺す気で来るならね」


殺意をもって近づいてくる相手にまで手加減をしてあげる義理はない。
だから、もしも本当に戦いになるのだとしたら、遠慮なく叩きのめすと陽乃は言うが、
ひなたはそれを、本気とは思えなかった。

陽乃はどうせ、不可抗力でない限り殺せないと。

陽乃「それよりも高嶋さんだわ。いつ頃復帰できるのよ」

ひなた「……それは」

ひなたの反応から暫く難しいと察して、陽乃はため息をつく。
歌野の力があればどうにかなるかもしれないが、
歌野は歌野で追い詰められている。

陽乃「そもそも本当に状況が悪いのかも分からないわよね。大社発表なんでしょ?」

ひなた「そうですけど」

それまで疑いますか? と言いたげなひなたの反応に、
陽乃は当然だと笑う。

陽乃「高嶋さんの居場所って、外に漏れてる?」

ひなた「そこまでは分かりませんが……」

まさか。なんてひなたは目を見開く。

ひなた「直接攻め込むと?」

陽乃「ないとは限らないじゃない」

ひなた「もし仮にそうなのだとしたら前代未聞――」

じゃない。のは、目の前にいる人物がすでに示しているし、
その被害者はひなただ。

陽乃「少なくとも私なら――そうするわ」

√ 2018年 10月11日目 昼:病院

↓1コンマ判定 一桁

1 ひなた(継続)
4 若葉
5 襲撃
7 球子

ぞろ目 特殊


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

√ 2018年 10月11日目 昼:病院


ひなたはあれから陽乃のところに留まり、様子を見守っていた。

水都のおかげで陽乃の体調は見違えるほどに良くなったものの、余談を許さないのが陽乃の力だ。
バーテックスとの戦闘さえなければ問題はないはずではあるけれど、何が起こる変わらない。

とはいえ……と、ひなたは考える。
せっかくある程度体の自由を取り戻したのに、いつまでもベッドの上で良いのだろうか。
少しくらいは外の風に当たるのもいいのではないだろうか。

ひなた「大社や病院の監視はつくかもしれませんが、気分転換に外出しませんか?」

陽乃「……監視されるって分かってて気分転換になると思う?」

ひなた「そこは、気にしないというのはどうでしょう」

おちゃらけたように笑うひなたを一瞥して、陽乃は鼻で笑う。

陽乃「ある程度なら九尾が補佐してくれるから、どこか行きたいなら行ってきたらいいじゃない」

ひなた「私は、陽乃さんと一緒に行きたいんです」

シンプルに。けれど……いや、だからこそだろうか。
ひなたは陽乃をまっすぐ見つめて答える。


1、良いわ。屋上に出られるかしら
2、乃木さんのところにでも行きましょ
3、白鳥さんのところに行きましょ
4、伊予島さんのところに行きましょ
5、気分じゃないわ。

↓1


陽乃「そうね……なら、伊予島さんのところに行きましょ」

ひなた「……杏さんのところですか? 何かご用事でも?」

陽乃「大した用事があるわけでもないけど、せっかく動けるのなら行っておきたいじゃない」

別に杏である必要はないし、確認するのなら儀式を終えたばかりの若葉の様子を見に行く方が良いかもしれない。
だが、何かと話をするなら杏の方がはかどりそうではある。
球子からのご使命でもあるし。

千景のことなら友奈が良いかもしれないが、
友奈は今、どこかの大社関連施設に軟禁あるいは監禁中で接触は難しい。

ひなた「……そうですね」

少し、乗り気ではないような声色で、ひなたは呟く。

陽乃「何? 貴女と伊予島さんって、仲が悪いの?」

ひなた「いえ、そういうわけでは……そう、見えますか?」

陽乃「ほとんど見たことがないから何とも」

ひなたと杏の関係なんて、陽乃はほぼ知らない。
杏の性格上、嫌うというのはあまりなさそうだし、それはひなたも同じようなもののように思える。
とはいえ、絶対にそうとも言い切れない。

陽乃「貴女とあの子が仲たがいしていようと私には関係がないことだわ。貴女が行かなくても、私は行くわ」

ひなた「ご一緒します。病室の場所、知っていますから」

ある程度体の自由を取り戻したと言っても、
松葉杖を使って自由に歩き回れるというほどではなく、仕方がなく車椅子に乗る。

九尾の力を借りて周囲の目をくらませながら、
ひなたの案内で病院を進み、杏のいる病室を目指した。

現在、暴走の心配のない杏と球子は同室、少し悪化しかけていた若葉と、完全に異変のおこっていた歌野は別室。
水都はさらに、また別の部屋を宛がわれているという話だ。

陽乃「私を伊予島さんのところに案内したら、乃木さんのところに言っていても大丈夫よ」

ひなた「大丈夫ですよ。仲違いしているわけではないので」

陽乃「場の空気を悪くされたくはないのよ」

今のところ、陽乃にことを荒立てるような思惑はない。
杏に対して厳しい物言いをするつもりもないし、単に、話があるからと言うだけだ。

ひなたがいた方が良いかもしれないけれど、
杏とあんまり……と言うのなら、無理に同席して貰う必要もなかった。

ひなた「……大丈夫です」

繰り返して答えるひなたの握る車椅子の持ち手が、小さな音を立てる。
陽乃は振り返ることもせずに「貴女が良いならいいけど」と、素っ気なく返した。

では短いですがここまでとさせていただきます。
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

落ちてしまったので、本日は可能であればお昼過ぎから再開予定になります。


以前は杏一人だったが、千景の犯行と逃走が起こったことで球子との相部屋になっており、
球子は基本的に、杏と一緒に行動するようにしている。

殺されかけたのは陽乃で、狙われているのも陽乃だけであるかもしれないともされているが、
陽乃が狙われたのなら、その味方とも言える球子と杏も狙われる可能性は十分にあった。

もっとも、陽乃はあまり、味方だと認めてはいないが。

陽乃「入るわよ」

扉前で一声かけてから病室に入る。
球子も杏も目を覚ましていて、球子は陽乃が自分から病室に来たことに驚いて素っ頓狂な声を漏らした。

球子「なっ……なんだ? 何か悪いことでも起こるのか……?」

陽乃「なんで?」

球子「なんで? はタマが聞いてることだろ」

呆れたように陽乃を見つめる球子は、陽乃が答える気がないとみてか、「はぁ……」とため息をつく。

球子「動いて大丈夫……いや、そもそも動けるのか? 車椅子」

陽乃「平気だからここにいるのよ」


実際には8割ほどひなたに頼って動いてるのだが、そのひなたが今は2人に見えていない。
だから一見、陽乃が自分で車椅子を動かしているように見えているのだろう。
陽乃が目を細めると、球子は「無理してなきゃいいんだ」と、視線を払うように手を振る。

思えば、ひなたがいることは2人には明かしていない。ような気がする。と、陽乃は目を伏せた。

明かしたような気もするけれど、それは歌野と水都……それと若葉くらいで、殆ど接触の機会がなかった杏と球子には隠したままだった。かもしれない。

ひなた「――陽乃さん」

陽乃「っ」

耳元でひなたの声が聞こえ、微かに漏れた吐息に擽られて、陽乃は思わず跳ねるようにして大げさな反応を見せてしまう。
陽乃が振り返ると、ひなたは「ごめんなさい」と言いつつ、正面を指さして「杏さんが」と誘導する。

杏「久遠さん?」

陽乃「え? あぁ……何?」

杏「この前話していた件について話にきたのかと……」

大丈夫かと心配そうな杏に目を向ける。
ひなたが見えていないから、不意に驚いて、振り向いて……と、2人から見た陽乃は挙動不審だったに違いない。



1、その前に紹介しておくわね。上里さん
2、そうね。その続き
3、大丈夫よ。気にしないで頂戴

↓1



正直に言うと、ひなたがここにいることはあんまり周囲に広めたくはないものだが、
現在この病院で生活している杏、球子、水都、歌野、若葉の中で、
すでに半数以上が知っていることだし、
球子はともかく、杏なら知っていても問題ないだろう。

それにそもそも考えてみれば、敵対している千景がひなたの存在を知ってしまっている為、杏や球子に黙っていたところで。と言うのもある。

陽乃がひなたに目を向けると、ひなたは意を酌んでか頷く。

陽乃「その話もあるけれど、その前に」

陽乃がそういうと、九尾の力が薄れて行ってひなたの姿があらわになっていく。
陽乃視点では何も変わらないが、2人は少しだけ驚いて。
杏が「やっぱり」と呟いた。

杏「そうですよね……そうなりますよね」

陽乃「何が?」

杏「いえ……タマっち先輩から聞いてた限りでは、まだまともに動けないはずだったから、無理しているのでは。とも、思ったんですが」

ひなたさんが一緒なら納得です。と杏は言うものの「無理していませんか?」と念をおしてくる。

陽乃「大丈夫よ。車椅子くらいなら、この子がいなくても動かせる程度にはね」


球子「ひなたが何かしたのか?」

ひなた「いえ、私にはなにも……藤森さんと白鳥さんです」

残念そうに言うひなたは、少し肩を落としたように見える。

ひなたを庇ったために負傷した左手の代わりを務めるとは言ったものの、大したことは出来なかったと思っているからだろう。
聞いた球子も少しばつが悪そうに目を細めて「まぁ陽乃だからな」と、息をつく。

陽乃「私だから何なのよ」

球子「普通じゃどうにもならないだろ。陽乃の場合」

陽乃「それは間違いないわ」

陽乃の症状は医者にでさえどうにもできないことがあるし、死んでもおかしくない状態にもなることがあるため、神々に愛されている少女だからと言って、何かが出来るかと言うと、そうでもないのが現実だ。

陽乃の後ろで、まるで傍仕えのように控えるひなたは「そうですが」と、あまり納得は言っていないような呟きを漏らす。

あんまり、良い空気ではないと察してか、杏が陽乃を呼ぶ。

杏「例の、真鈴さんにお願いする件ですが、藤森さんにお話しはしてあります」



陽乃「真鈴……?」

誰だったかと、少しだけ考える。
確か、少し前に話し合った杏達にとって仲の良い巫女の少女だ。と、陽乃は思い出して。

陽乃「そう。でもすぐには不可能でしょうね。それまでに襲撃がなければいいのだけど」

それに関してはバーテックスの気分……気分なんてものがバーテックスにあるのかは知らないが、それ次第になってしまう。
とはいえ、若葉と歌野は済ませてあるし、陽乃も多少は回復しているから完成型が現れなければ大した被害も出ずに済むはずだ。

球子「けど、本当にやるつもりなのか? 危険なんだろ?」

ひなた「私と藤森さんは済ませましたけど、大きな副作用などは出ていません」

ひなたは儀式については。と、後付けで加えると、実際に襲撃が起こり精霊を使った場合には相応のものはあるようです。と、水都のことを踏まえて、神妙な面持ちで答える。

ひなた「儀式については、巫女と勇者の繋がりが重要なのは確実と見ていいかと」

球子は悩まし気に唸るとやや不安の残る様子で顔を顰め、杏に目を向ける。

球子「ますずなら大丈夫だと思うか?」

杏「真鈴さんなら……とは思うけど、実際にどのくらい影響出ちゃうかは心配かな」


1、よく話し合うと良いわ
2、不安ならやめておく方が良いわ
3、ある程度なら白鳥さん達でどうにかできるわ
4、別に貴女達が死にたければそれでもいいのよ


↓1


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

遅くなりましたが、少しずつ


陽乃「ある程度なら、白鳥さん達でどうにかできるわ」

球子「そりゃそうだろうけど、それだけじゃ危ないからってこういう話になったんじゃないのか?」

陽乃「だからと言って無理強いさせる気はないってだけよ。そんなことしたところで犬死するだけだもの」

球子「そうは言ったって、危ないんだろ?」

陽乃「どっちも変わらないわ」

杏や球子、そして安芸真鈴という巫女が侵す危険も、歌野と水都が侵す危険もどちらも命にかかわることであり、ちょっとしたことで死に至るものだ。

であるならば、無理強いしてそのリスクを高めるよりも、それを覚悟のうえで合意し、踏み込んでいってくれる方が圧倒的にマシになる。

両者の感覚にも左右されることならば、なおのこと。

陽乃「生半可な覚悟で来られたって意味がないのよ」

杏「それは承知しています」

陽乃「貴女達はいいわ。どうせそもそも死ぬ覚悟があるんだから」

球子「そんなわけないだろ。出来るなら死にたくないに決まってる」

だけど。と、球子は続ける。

球子「いつかはそうかもしれないって、思わずにはいられない。だから、少しでも希望がある方に懸けたいって思う」


杏「私達は覚悟できています……タマっち先輩が言うように、出来る限り避けたいとは思っていても、現状、それが難しいことは分かっていますから」

以前は陽乃を含めても6人しかいなかった勇者が6人になった。
それも、本来なら失われていてもおかしくなかった諏訪の勇者が加わってくれたのだから、
士気は高まる……はずだった。

けれど、諏訪から勇者と生存者を連れ帰ってくるという功績に四国のリーダーとしての役目を与えられていた千景は嫉妬して歌野に厳しく接し、
それに加えて、完成型のバーテックスの出現による被害や、陽乃の件、家庭の事情など
不幸が重なって勇者達はボロボロになってしまったし、千景は反旗を翻してどこかへと行方をくらませてしまった。

安易な希望なんてものは抱くべきではないと、まさに、現実が知らしめていた。

杏「真鈴さんに関しては、水都さんに確認を取って貰ってからです。もし、真鈴さんが怖がったり、難しいと思っていたりするなら、諦めるしかないとも思っています」

杏はそう言いつつも、少しだけ不安そうな表情を見せる。
断られてしまう可能性が高く、今後に不安を覚えているのだろうか。
それとも、その真逆で、安芸真鈴が勇んで踏み込もうとしてくるだろう。と、思っているからだろうか。


杏が言うように、巫女の意思次第なのは事実だ。
陽乃達だけであれこれと語っていても、結局のところ巫女である安芸真鈴が受け入れてくれなければやるだけ無駄、語るだけ無駄な話でしかない。

陽乃「まぁ、そうね。その巫女次第だわ」

ひなた「……何か、気になることでも?」

陽乃「?」

後に控えていたひなたには表情も見えていないはずなのに、
なぜだか、気がかりなことがあると確信しているかのような声色で、ひなたは訊ねてくる。

振り向けばひなたがいて、その表情はいつもと何ら変わりがない。
陽乃は、もしかしたら九尾が化けているのかもしれないと今更ながら目を細めたが、
ひなたは困ったように「陽乃さん?」と呟くくらいだった。

陽乃「気になることと言うほどでもないのだけど」

安芸真鈴が承諾しなければ無駄になる話だ。
今する必要もないことだが、おそらく、安芸真鈴には2人分を補えるほどの地力はない。
杏か球子どちらかを支えるので精いっぱいだろうし、もしもその限界を超えたいというのなら、
それはやはり、ひなたや水都のように陽乃との関わり合いが必要になってくるだろう。

もちろん、それでも一般の巫女であろう安芸真鈴には耐えがたい苦痛を伴う可能性はあるのだが。


1、伊予島さんと土居さん。どっちが助けて貰うつもりなの?
2、何もないわ
3、貴女、本当に上里さんなの?
4、郡さんの件よ。アレ、どうするのか考えてる?


↓2

陽乃「伊予島さんと土居さん。どっちが助けて貰うつもりなの?」

陽乃がそう問いかけると、杏と球子は揃って互いの名前を口にする。
分かってはいたことだが、球子は杏を救いたいと考えているし、
杏は球子を救いたいと考えている。
そうして恐らくだが安芸真鈴が承諾した場合、彼女は2人を助けたいと思っているだろう。

けれど、それは不可能だろうからどちらかに決めなければならない。
しかし、2人は互いを救いたいと言う。

陽乃「言っておくけれど、不可能よ」

球子「そりゃわかってるさ……ひなたも無理なんだろ?」

ひなた「私の場合、陽乃さんと若葉ちゃんだったので」

得心がいったかのように声を漏らす球子を一瞥した杏は、小さく笑って「重いですから」と呟く。
症状が重いのは間違いないと陽乃は思って。

陽乃「私は別に頼んでないし、断ったわよ」

球子「まぁだろうな。水都もおんなじ……というか、歌野の場合若葉以上だもんなぁ」

ひなた「そうですね……」


陽乃「それで?」

球子「そう言われてもなぁ、あんず~」

杏「タマっち先輩の方が前に出て行くんだから、タマっち先輩の方が良いと思う」

球子「いやいや、タマは丈夫だからな。全然へっちゃらだぞ」

杏「ただ我慢強いだけのくせに……」

なにおう。と、憤慨する球子と、本当のことだって言い返す杏。
2人からかやの外に追いやられた陽乃は、それを疎まし気に見つめてため息をつく。

ひなた「互いを思うが故、ですよ」

陽乃「そんなことは分かってるわよ。それとこれとは別の話だわ」

互いをどれだけ思いやっていようが、それが結局は足かせになる。
今はそういう状況なのだ。

ひなた「……陽乃さんは、どちらにすべきか考えはあるんですか?」

陽乃「私は別にどっちだって構いわしないわ」


杏は遠距離タイプの戦闘スタイルで、球子も似たようなものではあるが、中距離の戦闘スタイルだ。
しかも球子に至ってはどんどんと前に出て行こうとする。

その為、杏が懸念するのも理解はできる。

――が、ひなたが聞きたいのはそうではないだろう。

陽乃はどっちもどっちな言い合いを繰り広げる2人から目を逸らすように目を瞑る。
どちらの方がより、優先されるべきか。
陽乃としては、何度も言うようにどっちだって構わない。
背中を預けて戦うわけではないし、どちらとも戦い方が違うからだ。

とはいえ。

見ていても仕方がない2人ではなく、ひなたの方に首を傾けると、ひなたは心配そうな表情を浮かべていた。
あのまま2人と安芸真鈴がすれ違っていたら上手くいくものもいかないだろう。
最悪の場合、死に至ることもあるため、ひなたは案じているのかもしれない。



1、伊予島さんね
2、土居さんだわ
3、貴女が仲裁に入ってあげたら?
4、2人の問題よ。私達が首を突っ込むことじゃないわ

↓2

陽乃「個人的に……で、良いならだけど」

陽乃はあんまり言いたくはないと思わせるような前置きをしながら、杏達の方に目を向ける。

陽乃「どちらかと言えば土居さんだわ」

ひなた「それは、守ってくれ――」

陽乃「違うわ」

聞かれるだろうと思っていた陽乃は、ひなたに言い終わらせることなく否定する。
球子の武器は確かに楯だが、別に、それに守られたいとも、守ってくれそうだとも思っていない。

思っていようといまいと、ある程度庇ってくれようとするだろうとは思うけれど、それは関係がない。

陽乃「伊予島さんと一緒よ。土居さんは躊躇なく力を使うわ。白鳥さんと同じくらいに」

それがどれだけ傷つくことか言って聞かせたとしても、
使わざるを得なかったのだと、球子は堂々と力を使おうとするだろう。

それをしなければ杏達を守れなかったかもしれない。ただその可能性だけで、躊躇をしない。


杏はそもそも球子が少しでも無事でいられるようにと思ってのことだろうけれど、
きっと、球子が精霊の力を安易に使えないように制限したいと考えているだろう。

自分の命だけならば躊躇しないが、それが安芸真鈴の命もかかわってくるとなったら、
球子は本当に必要な時にしか精霊を使えなくなるだろう。
もちろん、その一瞬の躊躇いが命取りになりかねないのがバーテックスとの戦いであるため、
正直に言ってしまえば、デメリットしかないとも言える。

けれど、それはあくまで、人の命を軽んじた場合だ。

陽乃「土居さんが死のうが、伊予島さんが死のうが、私にとっては……」

――どうだっていい。

そう言いかけた陽乃は、口を噤んで飲み込む。
一応は気遣ってあげるとしたのだから、多少は言葉を選んであげるべきだと思って。

陽乃「大して影響がないけれど、まぁ、土居さんはともかく、伊予島さんのご両親には恩もあるから」

そののちに色々とあったものだから、帳消しになったと吐き捨てても構わないとは思うものの、
それはそれ、これはこれだ。

陽乃「だから、伊予島さんの味方をしてあげるのよ」


球子はどうしても杏を優先させたいと言った様子だが、
杏だけでなく陽乃からも言われれば、さすがに大人しくなって――

球子「……なんだよ。狡いじゃないか!」

大人しくはならなかったが、何が何でも杏が庇護下に入るべきだと、強気で来ることはなかった。

球子ももう少し力の使い方を考えるべきだと
使うべきタイミングを見極められるようになるべきだと、
そう言われれば、そうかもしれない。なんて、球子は居住まいが悪そうに目を背ける。

陽乃「貴女の代わりがいるならともかく、いないのよ。分かるでしょ」

球子「それは陽乃だってそうだろ」

陽乃「私は代わり以前に私自身が存在していてはいけないのよ。だからと言って死ぬ気はことさらないけれど、でも、私が死んだところでこの世界に悪い意味で大きな影響はないじゃない」

住民たちは喜ぶだろうし、大社は肩の荷が下りたと安堵するかもしれない。
暴走している千景だって、やっと消えてくれたと正気に戻る可能性さえある。
むしろ、いいことづくめだとも言える。

陽乃「だけど、貴女は違――って、何よその顔」

球子「いや、何にもわかってないんだなと思って」

杏「タマっち先輩、若葉さん、歌野さん、水都さん、ひなたさん……私達に多大な悪影響があることは、理解していただきたいです」

今にも涙を流しそうな面持ちで言う杏に、ひなたは同意して。
そんなこと言われても困ると、陽乃はため息をつく。

陽乃「とにかく、よくよく考えておくことね」

そう言い残し、ひなたと共に病室を後にした。


√ 2018年 10月12日目 夕:病院

↓1コンマ判定 一桁

1 ひなた(継続)
3 若葉
5 水都
9 大社

ぞろ目 特殊


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から

遅くなりましたが、少しだけ

√ 2018年 10月12日目 夕:病院


ひなたはいったん、若葉の様子を見てくると言って陽乃のそばを離れた。
そのまま若葉のところにいるわけではなく、夜には戻ってくる予定らしい。

若葉のことが心配ならそのまま傍にいてくれても構わないと陽乃は言ったけれど、
ひなたは「それこそ陽乃さんの傍を離れられなくなりますね」と、笑みを浮かべただけだった。

ひなたと若葉の契りが済んだのなら、
その繋がりを通して、若葉の状態はある程度感じ取ることが出来るはずだ。

歌野と水都、陽乃と歌野……そこまでは深くないにしても、ある程度は。
だからこそ、ひなたは若葉の様子はそれなりで、また戻ってくるつもりなのだろう。と、陽乃はため息をつく。

動けるようになったと言っても、人並だ。
人並と言っても、幼い子供くらいのもので、元気よくと言うわけにはいかない。

――だとすれば、幼い子供と言うよりはご老人だろうか。

陽乃「はぁ」

陽乃はまだ夕方にも関わらず、疲れ切ったようにベッドに横になった。


考えるべきことが山済みだ。
千景のこと、歌野のこと、バーテックスのこと、母親のこと、大社のこと……諏訪のこと。

陽乃の回復力が普段に比べて衰え、疲労がたまりやすい要因の一つが諏訪の件だ。
諏訪から脱出する際に、自分たちは足手まといになるだろうからと、
自らその場に残ることを決めた人々がいた。

皆が名残惜しみ、けれど、致し方がなく捨てるしかなかったその多くの命を、陽乃は今もなお、守護している。
九尾はくだらないと言い、切り捨てるべきだとも言っていたが、
遠ければ遠いほど消耗の激しい力を惜しみなく使い、まだ、諏訪を存続させている。

陽乃「……」

そうして、一番の悩みの種はやはり、千景の件だろう。
彼女がどこかへと消えたおかげで、警戒を解くことが不可能になった。
正直、九尾に全部任せてしまえばどうとでもなるものの、
そうした場合、千景が本当に消息不明になる。
最悪の場合、彼女がいたことさえもこの世から消え去ることになりかねない。
あるいは、その存在を九尾が乗っ取るかもしれない。

とにかく、いい結果が得られないのは確実だった。



1、九尾を呼ぶ
2、少し休む
3、イベント判定

↓1


考えるべきことはたくさんある。
……沢山あるものの、今考えてもどうしようもないものばかりだ。

歌野と水都は聞きわけがないし、千景は消息不明、
バーテックスは向こうの出方次第で、母親に関しては大社の施設のどこか。
諏訪の件は現状、今のスタンスを変えるつもりはない。

そうして、陽乃は手持ち無沙汰だと無理矢理に切り替えて重い瞼を閉じる。
けれど休まるのは身体ばかりで、精神的にはさほど良くはならない。

心地よく眠ることが出来たのも、
良い夢が見られたと感じられたのも、
全ては世界が変わってしまう以前の話で、それ以降、陽乃は休まった覚えがなかった。

けれど、四六時中起きているというわけにもいかず、眠るしかなくて。

人の気配のない、病室。
けれど、どこかでは誰かの足音が響き、院内の放送らしきものが聞こえる。

それがもう少しだけ気を惹いて、寝かせずにいてくれるのかもしれないと思いながら、
陽乃は少しずつ、眠りに落ちていく。

↓1コンマ判定 一桁

0 ひなた
2 水都
5 大社
7 九尾

それ以外、なし。

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

では少しだけ


√ 2018年 10月12日目 夜:病院

↓1コンマ判定 一桁

2 水都
4 若葉
7 九尾
9 千景


ぞろ目 特殊

√ 2018年 10月12日目 夜:


以前、久遠陽乃も同じように行方をくらましたことがある。
その時はまだ勇者にも大社にも余裕があって、勇者全員が捜索に駆り出されるほどだった。

久遠陽乃は勇者として秀でているからだ。なんて話もあったし、
それに賛同する勇者もいないわけではなかったけれど、
実際には、ただ、あの女狐の力が未知数だったから勇者で対応せざるを得なかっただけだ。

勇者に与えられた端末の補助なしに勇者としての力を発揮することが出来るところか、
精霊を具現化することさえできてしまうほどの異質な力。
それもゲームにおいては、よくよく強キャラとして扱われる九尾の狐を。

最初から気に入らなかった。
自分には力があるからと、周りを見下しているような態度が不愉快だった。
高嶋さんが一生懸命に気に懸けようとしているのに、
放っておいてと突っ撥ねて、行く姿が、憎たらしかった。

私が勇者になって、誰もが私を敬い、崇め、見上げるようになって、
同じ勇者である高嶋さん達が同等だとしてくれている中で、たった一人、孤高だとでも言うかのような姿が、気に喰わなかった。

そのくせに、勇者としての評価を貶めるような汚点に塗れているというのが、余計に腹立たしくて。
人殺しと言われ、否定もせず、
そうして結局は人殺しとなって逃げだしたと聞いて、どれだけ喜ばしかっただろう。

――なのに。

野垂れ死ぬこともなく、
見捨てられるはずだった諏訪の人間を連れ帰ってくる偉業を達成し、
私が乃木若葉から引き継ぎ、務めを果たし守っていた勇者リーダーという地位を、
その諏訪の勇者である白鳥歌野に明け渡すべきではないかとさえ、大社に言わしめた。

――ずっと、気に入らなかった。


その苛立ちが抑えきれなくて、同じ病院にいた久遠陽乃を殺そうとし、
仕留めることが出来ないどころか返り討ちになった。
悔しいけれど、力は本物で抗いようがないほどに凶悪で。

そのせいで自宅謹慎を言い渡されることになった。
それでも勇者の力を効率よく発揮するための端末を没収されなかったのは僥倖だと思う。
いや、大社が間抜けだったと思う。

もちろん、たった数人の勇者が半壊している状態で権利をはく奪することが難しかったことは理解している。
それでも自宅謹慎だなんて――。

滑稽にも"現実を知らない夢物語"を期待してくれていた大社には、
乾いた笑いさえも出なかった。
疲れ果てた父親、生きているとも死んでいるとも言えない母親。
父親足り得なかった男と、母親足り得なかった女。
どちらもバーテックスの襲撃からは済んでのところで難を逃れたという。

――忌々しくて堪らない。

死んでくれていた方が良かった。
人知れず……いや、私の知らないどこかで、奴らに喰われてしまっていれば、
こんな気持ちになることもなかった。

世界が一転したあの日。
救う価値もない人間を救ったのは、久遠陽乃だった。
称賛を拒むのなら、どうして人助けをしてくれたのかと。

――どうしようもなく、憎かった。


だから、先日の戦闘を終えた後に家には戻らなかった。
戻りたくなかった。
あんな場所にいたって息が詰まるし気分が悪くなるから。

でも、だからってどうしたかったわけじゃない。

どうしたいもこうしたいもなく、
ただただ、彷徨って……そうして、また病院に行きついた。

まるで家であるかのように過ごした病院。
大社によって軟禁されているようなものではあったけれど、自由で、そして高嶋さんがいてくれた場所。

大社に見つかれば連れ戻され、
どこか、今度は家ではないどこかに軟禁、あるいは監禁されると分かっていても、
私の足は進んだ。

疲れ切った心も身体も、
高嶋さんなら……と、思わずにはいられなくて。

――なのに。

なのに、今まで高嶋さんがいた病室はもぬけの殻だった。
退院したわけではないのはすでに見てきた勇者の宿舎で分かっていたし、
集中治療室にいないことも、すでに確認して。
それでも、高嶋さんは見当たらなかった。

千景「……」

ひえびえとしていたものが、ふつふつと再燃していく。
もしかしたら、今度こそ、邪魔な存在を消してしまえるのではないかと。

では短いですがここまでとさせていただきます。
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

暫くできませんでしたが、少しだけ


夜の病院の静けさは、深い孤独を感じられる。
煩わしかった日々から解放され、
薄暗く、話声は聞こえず、自分一人の足音だけが遠くへと延びていく。

まるで、ゲームの中に入ったかのようだ。

どちらかと言えばあまり趣味ではないけれど、
ホラーゲームの探索パート……舞台は廃病院とでも言ったところだろうか。
なんて、千景は考えながらゆっくりと奥に向かう。

以前友奈がいた病室に友奈はいなかった。
もしかしたら友奈の病室が変わっているかもしれないと千景は思ったが、
記憶が正しければ、勇者の病室はそうそう変わらない。

というのも症状が悪化した場合を除き、機密性の高い情報である勇者の所在が移るというのは、それなりにリスクがあるからだ。
国民から慕われているが、特別嫌われている者もいる。
中には殺すべきだとさえ言われている勇者だっているのだから。

万が一のことを考慮して、かなりの情報統制が行われており、
それゆえに、勇者の移動範囲は大幅に制限されるし、
病院内だってすべての場所を自由に移動できるかと言うとそういうわけでもない。

だからこそ、ほぼほぼ集中治療室から出られない久遠陽乃の所在は掴みやすい。
必要機材等の条件から移送は容易くなく、そもそも逃走の可能性がある危険人物である以上、その管理は厳しくなる。

千景は病院の中を迷わず歩く。

そうして――。

コツッ……コツッ……コツッ……っと。
足音が聞こえてきて、千景はその影のような容姿を活用して闇に潜む。
足音の聞こえる方角から段々と灯りが伸びてくる。

近付いてきた足音の主は白い衣装を身に纏った人の形をした何か――いや、人間だった。


白い衣装は病院で良く良く見かける看護婦のもので、見えた灯りは懐中電灯のようだった。
時間も時間のため、巡回をしているだけだろうと、千景はほっと胸を撫でおろす。

ホラーゲームの廃病院とでも考えたからだろうか。
どうしてだか、その姿を見るまで背筋が凍る感覚を覚えてしまったからだ。
勇者として情けない。まるで、底知れない恐怖を味わってこびり付いたトラウマのような悪寒。

その足音は少しずつ、千景の方へ向かってくる。
千景は陽乃とその精霊である九尾と違い、人を化かす力を持ち得ていない。
光を当てられれば姿が露わになってしまう。

息を潜めれば回避できるかもしれない。
そう思って口に手を当てて呼吸を止めた千景のすぐ隣を歩いていく看護師は、千景に目もくれずに歩いていく。
見つからなくてよかったと思う反面、
巡回としてそんな節穴で良いのかと看護師の背中を見送ってから、また陽乃の病室を――。

「――あら」

頭の中に直接響くような声がすぐ真後ろから聞こえ、千景はとっさに飛びのいて壁に背中をぶつける。
その痛みに呻きながらも、どうにか声の主を見上げると、先ほどの看護婦が千景を見下ろしていた。

「消灯時間は過ぎていますよ? えぇと……」

看護婦は千景をまっすぐ見つめて、暗がりの中で思案するようなそぶりを見せて「郡さん」と呟く。

「郡千景さん。ですよね? 病室はこちらではありませんよ」

千景「そう、だったかしら。暗くて迷……」

千景は迷ってしまった。と、安易な嘘をつこうとして言葉を飲み込む。

何かがおかしい。
勇者がここにいることに驚いていない、入院していることを知っている。

それは何も問題ないけれど、であれば、
千景がここにいることを不思議に思わないわけがない。
自宅謹慎を言い渡され、なおかつ、そこから逃げ出したからだ。

それも、この病院に入院しているはずの久遠陽乃を殺そうとしたために。

なのに、看護婦はまるで動揺していない。
ここにいることをおかしいだなんてこれっぽっちも思っていない。
陽乃を殺そうとしたことは、もしかしたら情報規制され、知らないのかもしれない。

だとしても千景が入院していない以上、病室はここではないというはずがない。
言うなら、そう、面会時間は過ぎていますよ。だろう。

千景は、先ほども感じた不安を覚えて、少し離れたところに見える窓を確認しつつ看護婦を睨む。

「――郡さん?」

看護婦の声は、感情が感じられるのに酷く冷めているようにも感じる。
頭の中に響くと言うべきか、身の毛もよだつというか。

千景「……っ」

千景はぐっっと唇を噛んで、顔を顰めた。

判定

↓1コンマ

01~00 ※悪~良


陽乃「っ!?」

どこかで、何かが砕け散る音が響いたように聞こえて、陽乃は跳び起きる。
陽乃のいる病室からは遠くもなく近くもない、そんな感じの距離。

侵入者か、それとも、ただの事故か。侵入者であれば千景の可能性があると陽乃は力を感じ取ろうと目を閉じ、集中する。
繋がりの深い九尾や、歌野と水都、それにひなたのことは集中力が欠けていても感じられるが、
その他は、難しい。

それでも勇者として神樹様とのつながりがあるため、感じ取れないこともなく、
千景だったらどうにか対処法を考えなければならないと思ったからだ。
しかし、千景らしき気配はとても弱弱しく感じられる程度で、本当にそうなのか定かではなかった。

陽乃「……なんなのよ」

勇者の中の誰かが寝ぼけて花瓶でも割ったのだろうか。
だとしたら球子……というのはともかく、精神が若干不安定だったらしい若葉が暴れた可能性もある。
そういえば、ひなたが帰ってきていない。

陽乃「……でも、だとしたら九尾がもっと荒れてるだろうし」

九尾はひなたを守るだろう。
例え若葉であっても容赦なく力を使って捻じ伏せようとするはずだ。
若葉の力なら多少抵抗されるかもしれないが、それでも。

陽乃「……」


1、気のせい
2、九尾を呼ぶ
3、外に出てみる


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます明日は可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ。
恐らく安価まではいきません。

お化けが怖いからと、布団にくるまって見えない聞こえないとしても、
もし万が一千景だった場合、また殺しに来る可能性がある。
放っておくのが賢いとは思うが、
病室からそれなりの距離ともなるとさすがに気づかなかったふりは出来ない。

陽乃「っ……」

ベッド脇に置かれていた車椅子に手を伸ばし、
どうにかベッドから乗り移って、ゆっくりと動かす。

陽乃に与えられた車椅子は勇者だからなのかかなりしっかりしたもので、
一般の患者に貸し出されるようなものとはまるで違う。
少しの力で動かすことが出来るし、動く音もほとんどしない。

ここまでするなら電動のものにしてくれてもよかったのではと思いつつ、
病室と廊下を隔てる扉に耳を当てて外の音を確認する。

陽乃「……静かね」

陽乃にとっては大きな音だったが、
寝静まった人々の耳には些細な音だったのか、それとも、気のせいだと割り切ってまた眠ったのか。

九尾が何か細工をした可能性を考慮しつつ、陽乃は可能な限り静かにドアを開け、
左右の通路を確認してから、廊下へと出る。


確かこっちの方から音がしたはず……と。
定かではない感覚の残る頭を振って、千景らしき気配が感じられる方へと向かう。

千景が本当にいるなら危ないところだが、
千景がいるならいるで、何かが砕けた音がしたのは気がかりだ。

人ではなく物に怒りをぶつけた程度なら構わないが、
もしも勇者に出会ったり、大社の関係者に出会ったり
あるいは、ひなたに出くわしたりしていたら……大変なことになっているかもしれない。

陽乃「……まぁ、上里さんではなさそうだけど」

九尾の反応がそこまで荒れていない為、
ひなたに何かがあったわけではないと陽乃は思っているが。

絶対とは言い切れないから。なんて、
一応は身を案じて進むと、どこからともなく、
冷めた空気が勢いよく流れ込んできたのを肌に感じて、目を細める。

風が吹き込んでくる音がする。
どこかを走る車の音が、はっきりと聞こえる。
窓でも開いているのかとさらに進んでいった陽乃は、
通路の途中にある窓の一部が完全に割れて無くなっていることに気づいて、ゆっくりと近づく。

床に細かい破片が散らばっているのか、
車椅子のタイヤがじゃりじゃりと音をたてたものの、
大きな破片はなく、全て外側に散っていったのだろうと陽乃は割れた窓ガラスを見つめる。

陽乃「……入ってきた。わけじゃなさそうね」

刺々しく割れた窓ガラス
その縁側の辺りから壁、そうして床へと……点々と赤い色が続いていて、
窓から少し離れたところには少量の血だまりのようなものもある。

窓ガラスは外側に割れているけれど、病院の中には争った形跡。
侵入してきたのは大社の人間か、それとも千景か。
あるいは、危害を加えるつもりの一般人か。

少なくとも、悪意があって。
それに気づいた何かが、それを追い払ったのだろう。

――十中八九、九尾だ。

若葉らしくないし、球子や杏も違う。
歌野だって違うだろうし、巫女であるひなたや水都には無理だ。
かといって、大社の人間や病院関係者にも出来ることは限られる。

そう考えれば――いや。
この惨状を見れば、答えはその1つしかなかった。


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

すみませんが本日もお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ


血だまりと言っても少量のため、そこまで傷が深いわけではないだろう。
だが、怪我を負ったことに変わりはない。
本当に千景だという確証はないものの、ほんのりと千景らしい感じが残っているし、
相対したのは誰が何と言おうと確実に九尾だ。

陽乃「……何をやってるのよ」

ひなたに危害が加えられそうになったならともかく、そうでもなさそうな状況での流血沙汰は完全にアウトだ。
もしかしたら陽乃の部屋に向かっているのだと判断してのものだったのかもしれないが。

だとしても、これはやりすぎだと陽乃は思う。
ひなたが殺されかけ、庇った陽乃が左手を負傷したし、その仕返しとしての行為だとしても、千景は勇者だ。
それも、ただでさえ人手が足りない中での無敵とも言える力を使える貴重な勇者。

なにより、今の千景は刺激すればするほど危うくなる。
それが分からない九尾ではないだろうに。

割れた窓に近づき、破片で手を傷つけないようにと気を付けながら外を覗いてみる。
真っ暗で人影は見えず、当然ながら血の匂いが感じ取れるわけもなく、
諦めて身を引くと、足音が近づいてきたのを耳にして動こうとタイヤを掴む。

べちゃりと音がした手を見れば、タイヤの赤い線が手のひらにべったりと付いていて、
逃げてもタイヤの跡を追われて見つかるのは時間の問題だと陽乃は目を細めて――ため息をつく。

陽乃「はぁ……」

逃げたり隠れたりしたって、意味がない。
むしろ疑われるだけだろうとその場に留まっていると、当直らしき看護師が2人、駆け寄ってきた。


「これは……っ」

血を見て叫んだり腰を抜かしたりとしないのはさすが医療従事者と言うべきなのだろうか
それとも、バーテックスの襲撃による惨状を経験して、耐性がついたからなのか。

駆け寄ってきた2人は血を踏まないよう跳ねるような足取りで陽乃に近づく。

「お怪我は?」

陽乃「……別に」

「これは、その……久遠様が?」

陽乃「私が出来ると思う?」

車椅子でどうにかと言った状態の陽乃。

陽乃自身が怪我をしているならともなく、
そうではない誰かの血が流れている通路を見てよく聞けたものだと睨むような眼をした陽乃だったが、
突っかかるようなことを言わずに首を振る。

陽乃「私が来た時からこの状態だったわ。貴女達こそ何か見ていないの?」

「いえ、なにも……大きな音がして、急いで戻ってきたので」

陽乃「……大きな音。ね」

陽乃もはっきりと聞こえたため、間違いなく周囲に響き渡っただろう。
響き渡ったはずなのに、すぐ近く病室から人が確認に出てくるようなこともないのは、勇者のための隔離措置が取られているからだろう。

「とにかく、ここにいるのは危険ですから、病室にお連れします」

看護師の1人はそういうと、陽乃の乗る車椅子の持ち手を掴んで、
病室の方へと反転させる。



1、任せる
2、そんなことより、乃木さんの病室にお願い
3、白鳥さんのところにお願い
4、暫くここにいるわ

↓1

陽乃「そんなことより、乃木さんの病室にお願い」

「ですがそれは……」

陽乃「良いから。大事なことなのよ」

若葉のところにはひなたがいる。ひなたがいるなら、九尾もいるだろう。
ひなたが負傷しているなら歌野か水都のところに連れて行く方が良いし、もしもそうではないなら、
九尾に今回の件を問いたださなければならない。

悠長に部屋に戻っておやすみなさいとはしていられない。

陽乃「それとも、私を他の人のところにはいかせるなと?」

陽乃は冗談でも言うかのように訊ねたが、看護師の眉がぴくりと動いたのをみて……察する。
どうしてそのことを。なんて驚きを示す眉の動き。
ほんの少し見開き、すぐに取り繕って、けれど、その返答前の沈黙が答えだった。

陽乃「今は有事でしょ。勇者としてすべきことがあるのよ」

「だめですよ」

「あっ……」

躊躇う看護師の横から割り込んだもう一人の看護師は、陽乃の車椅子の持ち手を変わって、ぐっっと押して歩く。
陽乃が「ちょっと」と声をかけても、その看護師は「駄目です」と取り付く島もない。

陽乃「大事なことなんだって言っているでしょう」

「有事だからこそ、久遠様含め、勇者の方々の安全が最優先です。それこそ、一度襲撃をされている久遠様は特に警戒しなければなりません」

そもそも一人でここまで来ていること自体が問題だという看護師は、
最悪の場合、病室に鍵をかけなければならないようなことをしているんですよ。とまで言う。

「大人しく病室にお戻りください。出ないと、強制させていただくことになります」

陽乃「……もう、強制しているじゃない」

車椅子の主導権を奪い、病室への連行。
これが強制ではないのなら何だというのかと不満げに言う陽乃だが、どうにかするわけにもいかなかった。


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

遅い時間のため、安価は後日


「久遠様のご心配は無用ですよ。皆様ご無事であることは確認しております」

陽乃「無事、ねぇ」

「はい」

大丈夫ですよと繰り返す看護師に連れられて、陽乃は自身の病室へと戻り、
看護師がいなくなったのを見送ってから、ひと息つく。

流血沙汰があったし、勇者の誰かが傷ついたのではないか、
あるいは、勇者の誰かがそんなことをしたのか。

それを気にしていると考えてのことの可能性もあるが、
勇者のことを知っているとなると千景の暴挙も知っているだろうし、
すでに確認済みなのかもしれない。

いや、最優先で確認しているだろう。

ひなた「若葉ちゃんのところにも確認しに来られましたよ」

陽乃「まぁ、そうよね……私のところにも来たのかしら」

いつの間に戻ってきたのか、
陽乃の隣で座っているひなたからの一言に、静かに答える。

勇者のことを知っているから千景のことも知っている。
だからこそ、勇者の安否は最優先に確認するようにしていても不思議ではない。

命を狙われたと思われている自分のことも気にかけているのだろうか。と、
それとなく言うと、ひなたはあんまり喜ばしくないと言った様子で。

ひなた「いえ、おそらく監視……防犯カメラで見ていたんだと思います」

陽乃「まぁ、そうよね」

さっきと打って変わって、陽乃は嘲笑するように呟いて鼻で笑う。


九尾の力を使っていれば別だが、
使っていなければ、陽乃の姿は防犯カメラにはっきりと映ってしまう。
それで安否確認とアリバイ確認くらいはしていたはずだ。

とはいえ、看護師は「大きな音がした」と言っていたため、
陽乃を追ってきたわけでもなかった。
連絡用の端末をそれぞれ持っているようだったし、
それで他の看護師、あるいは医師と確認を取ったのだろうか。

陽乃「それで? 貴女はいつ戻ってきたのよ」

ひなた「少し前です。若葉ちゃんのところにお医者様が来て……巡回とは言っていましたけど、少し慌てているようにも見えて……」

だから、何かあったのだろうと急いで戻ってきたのだとひなたは言う。
危機が迫っているという確証はなかったけれど、
その焦り具合からして、少なくともいいことではないとみて、走ったらしい。

ひなた「若葉ちゃんが、いつもの巡回とは違うって言っていましたし……」

そう呟いたひなたは「千景さんですか?」と、心配そうに問う。

陽乃「さぁ? 誰と何があったのかまでは知らないわ」

見たのは少量の血痕。
浅くはないが、致命傷とまでは言っていなさそうな出血量
もちろん、急所に傷を受けていたとしたらその限りではないが。

争ったのは間違いない。


ひなたは、千景が来た可能性を考えている。
若葉と一緒にいたのだから、バーテックスの夜間襲撃ではないことは確信しているだろうし、
看護師に聞こえたなら、ひなたにもあの音が聞こえていたかもしれない。
それでも窓のところではなく陽乃のところへ来たのはなぜだろうか。

陽乃「……音、聞こえたんじゃないの?」

ひなた「何かが砕けるような音ですか?」

ガラス製の何かを勢いよく叩き割ったような大きな音。
若葉とひなたにも聞こえていたようで、
その後に巡回の医師が来て、ひなたは一目散に陽乃の病室に来たらしい。

ひなた「もしかしたら陽乃さんを狙って来たのかと思って……ここに来たのですけど」

肝心の陽乃はいないし車椅子もない。
争った形跡は見当たらないから自分の意思で出て行ったのだろうと、
後を追おうとしたところで、陽乃が看護師に連れて来られたというのが、ひなた側の経緯らしい。

ひなた「陽乃さんが無事で何よりです」

ほっと安堵したように胸を撫でおろすひなたは、
あんまり、無理に出歩かないでください。と、掛布団を少しだけ引き上げて、陽乃の動きを鈍らせる。

ひなた「……大丈夫そうなら、ゆっくり休んでください。心配なら、私が見ていますから」


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ


陽乃「……子供のように諭そうとするのね」

ひなた「そんなつもりはなかったのですが……」

別に怒りを覚えているわけではない。
ひなたはいつもそのような雰囲気を醸し出しているし、
若葉も特殊ではあるが、球子達と比べれば、一歩引いた視点を持っているようにも見える。

なにより、そんな些細なことで腹を立てるほど、余力がない。
いや、気力がないというのが正しいだろうか。

陽乃「別に構わないわよ。私も貴女も、乃木さん達だってまだ、子供なんだもの」

全員が同じ年齢ではないし、
多少の差はあるけれど、どうしたって、まだ中学生の子供でしかなかった。
そんな少女の集まりが勇者であり、陽乃達だった。

陽乃「もっとも、何を持ってして子供だって定義するかにもよるんだろうけど」

ひなた「……子供で良いじゃないですか」

陽乃「そういう扱いをして貰えるなら、ね」

陽乃が嘲笑を含んで答えると、ひなたは悲し気に目を細める。
年齢だけで言えば子供だが、
今までの経験も人々からの扱いも、抱いている覚悟も。
何もかもが子供のそれではなくて。

陽乃「……だから、貴女も休みなさい。貴女が見張りをしていたって何の役にも立たないんだから」

そう言いながらひなたの頭に触れて、ぐっっと隣に抱き寄せる。


1、貴女は子供であるべきだわ。守られる側の、子供でいるべきなのよ
2、もう休みましょう
3、私が見張っておいてあげるわ

↓1

ひなたはそうされるとは思っていなかったようで、
驚きに目を見開いて、困ったように笑みを浮かべる。

本来なら、巫女だからとその身を犠牲とした関わり方なんてするべきではなかった。
無垢であり、少女である方が良いとされるものではあるけれど。

だからと言っても。

追い込まれた末で、主観的にはそれ以外の道はなかったのかもしれない。
とはいえ、そうすることを選んだのはひなただったし、
それを選ぶほどにはひなたも子供としての枠組みから外れているということなのだろう。

けれど。

陽乃「貴女は子供であるべきだわ。守られる側の、子供でいるべきなのよ」

ひなた「……陽乃さんは」

陽乃「子供と言える時期はもう過ぎたのよ。私はね」

自虐で言うことはあっても、本気でそうだと思うことはきっと、もう二度とない。

陽乃が子供だと無邪気になれるほど、
陽乃の過去も、今も、未来も、何もかもが闇に包まれ過ぎている。

陽乃「だから、貴女が大人ぶっていることが腹立たしいわ。子供のくせに」

ひなた「そんなつもりはないって言っているじゃないですか……理不尽です」


腹立たしいと言いながらも、これと言って苛立っている様子のない陽乃に対して
ひなたはちょっぴりむくれたような様子で反論しつつ、頭に触れている陽乃の手に手を重ねる。

陽乃「……何?」

ひなた「いえ……」

良い子だと言われることはあるし、年齢の割には落ち着きがあって、
大人びていると評されることも多々あった。

ひなた自身がそう思っていても思っていなくても周りはひなたをそう見ていたし、
本意不本意いずれにせよ、それにあやかっていて、
ひなたはそれを苦とせずに受け止めて生きてきた。

だけど、陽乃はひなたをそう見ない。
陽乃は自分を子供ではないと自嘲するが、確かに、陽乃に比べれば子供だ。

大社の大人達の中にも、
年齢以外は足元に及ばない人がいるかもしれない。
陽乃はそう評価されるだけの苦痛を味わいながら、ここにいるのだから。

ひなた「今の世界は、子供らしい子供なんて求めていません。勇者やそれに係わる者には特に。聞き分けの良さを求めているんです」

陽乃「知ったことじゃないわよ。そんなこと。誰が何をどう求めていようが、貴女は貴女でいいのよ」

ひなた「……それなら、陽乃さんが求める私でいなくても良いんですか?」

陽乃「貴女がそうしたいなら止める気はないわよ。私」

そうしたいという意思があるのなら、それで構わない。
それが命を捨てるものでも、陽乃はその覚悟がるのなら勝手にしたらいいと言うだろう。
そのうえで、陽乃がやりたいことがそれを阻むという結果に至るかもしれないが。

ひなた「……いえ。子供で良いです。子供らしく、わがままでいさせてください」

ひなたは自分の身体を陽乃を覆う掛布団の中に忍ばせると、陽乃の手を離す気はないとでも言うかのように握る。

ひなた「今日は一緒に、いさせて貰いますね」

陽乃「今日も。でしょうに」

呆れたもの言いながら、やっぱり、陽乃は拒絶するでもなく。
ひなたは小さく笑い声を零すと「そうですね」と、呟いた。

では短いですがここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

暫くできませんでしたが、少しだけ

√ 2018年 10月13日目 朝:病院


数日間感じることのなかった、他人が介入してきている熱に浮かされるようにして陽乃は目を覚ました。

昨夜、千景か誰かが病院に侵入してきて、
そのまま排除されたであろう事件が起こったにしては、病院は静まり返っている。

とはいえ、常日頃の朝の喧騒と言うものはいつも通りで、
しかしながら、つい先日までまともに耳が聞こえていなかった陽乃としては新鮮で、騒々しく感じる。

陽乃「……呑気なものね」

すぐ隣でまだ寝息を立てているひなたの髪を優しく払ってあげながら、
陽乃は小さく、独り言ちる。

何があったのかと騒がしくなるべきだ。とは思わないが、
普段通りを心がけている病院側の対応も、
こうして、朝まで平然と眠っていられた自分自身も。

何もかもが、呑気なものだと……陽乃は不満げに顔を顰めた。

以前の陽乃だったなら、もう数時間は早く目を覚ましていただろうし、
大きな音がしたから。なんて事後に侵入を察知するなんてこともなかったはずだ。

現場から距離があったとはいえ、あんまりにも体たらくではないかと、陽乃は思う。

バーテックスの襲撃が起こってから3年、不幸な事故が起こってから、約2ヶ月
散々な目に遭ってばかりで、身体を酷使してばかりで、
いつ死んでもおかしくないような状況に何度も陥っては、無様に生き延びて……。

身体はもう、壊れ切きっているはずだ。

陽乃「……っ」

ある意味では、ゾンビのようなものではないかとさえ、感じられる。
身体の痛みや苦しみなんて、人間だと思っているからこその幻肢痛に似た現象で、
本当はもう、なんにもないのかもしれない。

あるいは、寿命でも切り取って補っているとか。

ひなた「ん……」

陽乃「……」

陽乃の側に、ほんの少しだけ踏み込んできたひなたと水都。
もちろん、陽乃ほど壊れることはないはずだが、
場合によっては、一瞬で命を落としかねない状況にあるのは変わらない。
本当なら知らなかったこと、知る必要がなかったこと。

その道を教えてしまった責任は――。

陽乃「……知ったことじゃない」

責任なんてとらない。
踏み込むかどうかはひなた達に託され、そうして、ひなた達は自分で選んだことだ。


今ここで血反吐を吐いて息絶えようと、
急激に血の気が失せて、呼吸が止まったとしても、
枯れ木のように痩せこけて、精気が失われていったとしても、陽乃には何にも関係がないことだ。

バーテックスの襲撃がなければ勇者の力は必要ないし、
その中でも、進化型や完成型といったタイプが出て来なければ、ひなたや水都がそうなるほどの力は使わずに済むだろうし、
そもそもの襲撃時、陽乃も勇者として参加しなければならない。

その際、巫女が命を落とすほどの力を使わなければならないほど苦戦したというなら、
勇者に数えられる人員の中で最も力のある陽乃がさほど役に立たなかったということになるのだが、
陽乃だって、自分の命を削って戦っている以上限界がある。

それでもきっと、被害が出た際に責められるのは勇者であり、
その責任を問われるのは、人殺しでもある陽乃だろう。

陽乃「……この子」

律儀に……と言うべきか、それとも、いやらしくと言うべきか、
ひなたは、陽乃が使う車椅子がある側に横になっているため、こっそりとどこかに出かけることは出来ない。

眠る前は別のところにいたはず。
ということは、あえてこちら側に来たのか、それとも偶然か。
とにもかくにも、起こさずにどこかに行くのはちょっと難しい。


1、九尾を呼ぶ
2、ひなたにちょっかいを出す。
3、大人しくしておく
4、イベント判定


↓1


では短いですが、本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ


ひなたがいない場合には、時々、ひなたの方に行っていることもあるが、
今はひなたも一緒にいるため、すぐ近くに九尾の気配を感じる。

陽乃「……九尾、いるんでしょ?」

呼べば応えてくれるだろうと陽乃が声をかけると、
九尾は予期していたとでも言うかのように、あっさりと姿を見せた。

九尾「何用じゃ」

陽乃「とぼけてるの? それとも、本当に知らないわけ?」

昨夜、千景が来たことは間違いない。

そして、忍び込んできた千景が陽乃を目指し、
その結果、九尾と出くわして流血沙汰にまで至ったのではないかと陽乃は思っているが、

実際にそうだったのか知っているのは九尾と千景だけだ。

陽乃「昨日の夜のことよ。郡さんが来たんでしょ? たぶん、私を殺すために」

九尾「……ほう」

九尾は赤い瞳を細めると、うっすらと笑みを浮かべる。

九尾「それが妾に関係あるのかや?」

陽乃「関係あるから聞いているのよ。貴女でしょ。郡さん追い出したの」


陽乃の病室までの途中の通路で千景を見つけたのか、
千景が運悪く出くわしてしまったのかはどちらでも構わないが、
看護師達や入院患者、若葉達お誰かであれば、血を流すまでには至ら愛はずだし、
若葉達とのいざこざでそうなったのだとしたらもっと騒ぎになるし、ひなたから聞かされるだろう。

なにより、昨夜陽乃が会った看護師達が無事を確認したとは言わない……はず。

いや、陽乃が一番厄介だと思っているなら、
あえて何もなかったと嘘をつく可能性は残念ながら、ある。

陽乃「違うの?」

嘲笑にも思える笑みを浮かべる九尾に再度確認を取る。
九尾は表情をあまり変えることなく、ひなたを一瞥した。

九尾「ふむ……あの娘を追い出したのは妾じゃ」

陽乃「怪我をさせたのは?」

九尾「いいや、妾ではない」

はっきりと九尾は首を振る。
看護師としての衣装に身を包んでいる九尾は、
普段は長いはずの金色の髪を軽く撫でて、陽乃へと目を向ける。

九尾「そもそも、あれはあの娘のものではないぞ。無論、妾のものでもないが」

陽乃「どういう――」

九尾「あの娘、もう救いようはなかろう」


質問に答えてくれないのかとにらみを利かせた陽乃は、
九尾が言いたいことを組んで、ため息をつく。

陽乃「もし仮に、無関係の人を傷つけたから救えないというなら、私はどうなるのよ」

九尾「救われないな」

九尾はただ冗談でそう言っただけだったのだろう。
くつくつと喉を鳴らして笑うと「主様とは状況が違った」と、添える。

九尾「あの娘、主様よりも高嶋友奈の方を目的としていたようじゃが、あの小娘は小娘で、今はどこぞの施設とやらに放り込まれておるじゃろう?」

陽乃「だからって一般の人に詰め寄ったってこと?」

いくら何でもそんなことはしないと思いたいが、
もしかしたら、看護師達に詰め寄って、どこに送られたのか問い詰めようとしたのかもしれない。
そう思う陽乃に対して、九尾は否定する。

九尾「当然、狙われたのは主様であって他の何者でもないが、巡回の時間ゆえ、通りがかった看護師がおってのう……」

疑心暗鬼に陥っていたとでも言うべきなのか、
それとも、思考が鈍り、直情的で、人の言葉が耳に入らなくなっていたのか。

陽乃「殺したの? それを貴女が隠したの?」

九尾「殺めるには至っておらぬ。せいぜいが軽傷で済んだことじゃ。人間の尺度では軽傷とは言えぬやもしれぬが、問題はあるまい」

陽乃「生きてるの?」

九尾「ふむ……気になるならば、連れて行ってやってもよいぞ」


1、いいわ。それより郡さんはどうなったの?
2、そうね……本当に無事か確かめておきたいわ
3、貴女が何かしたわけじゃないの?
4、貴女が消さないだなんて……。


↓1


気にならないといえばウソになるが、あの出血量なら死んではいないはずだ。

大騒ぎになっていない辺り、九尾が的確に手を打ったってことだろう。
出来れば血痕も隠して欲しかったところだが、
怪我をさせられた一般人をどうにかすることを優先したから甘かったのかもしれない。

陽乃「いいわ。それより郡さんはどうなったの?」

九尾「それなら主様も知っておるじゃろう? 窓から逃げ出してどこぞに帰って行ったぞ」

九尾は逃げるところを見送っただけで、そこから先は見ていないらしい。

陽乃「それはそう、だけど。看護師を怪我させた後よ」

九尾「ふむ……正気ではないように思えたが」

九尾はそれ以上語る必要がないと言った様子だ。
看護師を傷つけたことで、より余裕がなくなってしまったのだろうか。

陽乃「また、戻ってくると思う?」

九尾「さてのう……あの娘のことは妾には分からぬ」

あの家に戻るのだろうか? いや、戻る可能性は限りなく低いはずだ。
四国のどこかに隠れ潜んでいるのか、
友奈を探し求めて彷徨って、襲撃を繰り返すか。
とにかく、放置しておくのはあんまりよくないように思える。

陽乃「でも、殺さずにいてくれただけよかったって思っておくべきかしら」

九尾「主様は妾を何だと思っておる」

陽乃「貴女、殺そうとした前科があるでしょ。何言ってるのよ」

陽乃がそういうと、九尾は「そうじゃな」と、喉を鳴らして笑った


では短いですが本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが少しだけ


√ 2018年 10月13日目 昼:病院

↓1コンマ判定 一桁

2 水都
4 若葉
7 杏
9 大社

√ 2018年 10月13日目 昼:病院


ひなた「なるほど……だとすると、千景さんが心配になりますね」

千景の侵入と流血沙汰に関わっているものの、九尾が傷つけたわけではないらしいことを伝えると、
ひなたは、心配そうに答えて、もちろん、怪我をした看護師さんも……と付け加える。

九尾曰く、昨夜の段階で最早、手の施しようがないような状態だったらしい千景。
1人きりでは、余計に沈んでいく一方なのではないかとひなたは案じる。

ひなた「せめて、お話しすることが出来ればいいのですが……」

陽乃「殺されかけたでしょ。貴女」

ひなた「それはそう、ですが」

陽乃「次は殺されるわよ」

ひなたではなく、千景が。と、陽乃はため息交じりに脅しをかける。

ひなたがお気に入りの九尾は1度は見逃したとしても、
2度目は確実に消そうとすることだろう。

お気に入りのひなただけでなく、陽乃が左手を失いかける事態にまで陥った以上、次はないはずだ。

陽乃「今のあの子に話が通じるとは思えないわ。高嶋さんでもね」

ひなた「友奈さんは友奈さんで、現状、とても追い詰められてしまっているらしいですから……」


友奈は前回の戦闘でかなりのダメージを負っていたし、当然ながら、力も多く使っていただろう。
そして、それを理由に別の場所に移されている状態だ。

若葉は軽かったが、千景に近い状態になっている可能性も否定はできないし、
そうではなかったとしても、他の人に気を回す余裕があるのだろうか。

力を使う副作用のせいではあるが、
千景がそんな理由があるから……と、受け止められるとは到底思えないし、
友奈にまで拒絶された場合、千景はもう、本当に後戻りできないところまで行ってしまうかもしれない。

ひなた「陽乃さんならなんとかなりますか?」

陽乃「私というより、九尾ならどうとでもできるわよ」

千景の両親の状態を改善できるし、
千景の今の状態を完全に取り除いて、人格そのものを矯正することだって可能なはずだ。
けれど、それでどうにかしたとして、果たして……いいのだろうか。

陽乃「別の意味で壊れるわよ。たぶん……高嶋さんのような郡さん。どう思う?」

ひなた「……」

友奈のように、快活な笑顔と行動力の千景。
あの端麗な容姿でのそれは中々に破壊力があるとは思うものの、急にそうなったとしたら――。

陽乃「でしょう?」

困惑一色の表情を見せたひなたにそう言って、ため息をつく。


1、ひとまず乃木さんのところに行きましょ
2、ひとまず藤森さん達のところに行きましょ
3、ひとまず土居さん達のところに行きましょ
4、それで、貴女ずっとここにいるつもり?
5、イベント判定

↓1


陽乃「ひとまず、土居さん達のところに行きましょ」

ひなた「球子さん達ですか? 何かご用事でも?」

陽乃「乃木さんは貴女がいたし、白鳥さん達は繋がりがあるけれど、2人は何もないから」

陽乃がそういうと、ひなたは「あぁ」と得心が言ったように声を漏らした。

ひなた「心配なんですね」

陽乃「違うわよ。話を聞いておきたいの」

ひなた「ふふっ」

分かってますよ。とでも言うかのようなひなたの反応に、
陽乃は特に反論もせずに、ため息だけをつく。

別に心配はしていない――と、そう言ったところで、
ひなたはどうせまた、そうですね。としか言わないだろうから。

陽乃「興味がないなら私1人で行くわ」

ひなた「あっ、待ってくださいっ」

慌ててベッドから飛び起きたひなたは、
1人で車椅子に乗り込もうとしていた陽乃を制して車椅子を抑える。

ひなた「私がいるときは、私を頼ってください」

出来ることには限りがあるけれど、出来ることであれば、必ず手伝いますから。
そう笑みを浮かべるひなたに、陽乃は必要があったらね。と、呟いた。


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

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