怪異探偵ソリィバレッタ「赤いドレスは血の先触れ」 (193)

暴走怪異 豚鼻の狂巨人
鋼鉄怪竜 メタドラグ

登場

ザーコザーコ!




一応FGOの二次創作です
要素薄いし少ないし違うけど
これが私のできる精一杯でした

パンツだけ履いて寝そべりながら書きました
皆さんはしっかりとネクタイを締めて肩肘張って画面から離れてご覧ください

すいませんテストだけさせてください
死ね殺す

あ、本編は完結しません
二次創作がしたかっただけなので
よろしくお願いします

深夜。駅前ロータリー。

田舎町とはいえ昼間はそれなりの賑わいが見られるこの場所も今は閑散としている。
道ゆく人と入れ替わるようにして仄かに漂う怪異の気配。
怪異といっても時折ゆらめくような霊気がふわりとするばかりで、それ以上は何があるわけでもない…というのがこの辺りの夜の日常だ。

ただ、今日ばかりは少し勝手が違った。

ズシン!…ズシン!…

豚鼻の狂巨人「ォ…オオォ…」

豚鼻の狂巨人「ブォォオオ───ッ!!!」

ズシン!…ズシン!…ズシン!…
ズン!…

豚鼻の狂巨人(………………………)

ガシィン!ガゴォン!バガァ…
グァラグァラグァラグヮラ…

豚鼻の狂巨人「ガバァアアアア────」

見よ。膝を曲げたガニマタ姿勢で駅を頭ひとつ抜かす巨体ッ!
たいして振りかぶりもしない掌底1発で駅の一角を崩すその剛力ッ!
凡そ知能の感じられない振る舞いもその巨体とパワーが組み合わされば何と恐ろしいッ!
この巨人が人々の住む住宅街へと足を踏み出せば惨劇が起こるであろうこと!想像に難くないッ!

豚鼻の狂巨人(……………………)

ズシン!…ズシン!…ズシ…ズシン

この巨人の歩みを止めるスーパーヒーローはいないッ!
哀れこのまま町は知性なき巨人によって蹂躙されてしまうのかッ!

「──やっほー☆」

豚鼻の狂巨人(…………………)ピタリ

いいや、いたッ!
スーパーヒーローなくとも巨人の足を止めるその声!気配!その姿ッ!

「いい夜だねぇ。ずいぶん楽しそうじゃんか」

「私もまぜろよ」

何たる運命の悪戯ッ!場と状況に似つかわしくない、転がるような娘の声と艶やかなドレス姿ッ!
番組が違う!これではキング・コングが始まってしまうぞッ!

「つーかそのノリ何?うるせえんだけど」

豚鼻の狂巨人「」ビシッビシッ…ブルブルブル…

豚鼻の狂巨人「ゴォォアァアアア─────ッ」

歓喜!獲物を見つけた狂喜の咆哮!
聞くもの全てにショックを与える霊的雄叫びッ!

豚鼻の狂巨人「ブォォアアアッ──ギャアァアアア───スッ」

美女よッ!早く逃げるんだ!
B級パニックホラーの冒頭に登場する美女はその話の主役怪物(主にサメ)のご飯になる法則が適用されてしまうッ!

「うるっさ!二重にうるさっ!」

「いくら私が可愛いからってはしゃぐんじゃねえよブタ!それに──」

ズドドッ!ズドッ!ズドドッ!ズドッ!

豚鼻の狂巨人「」バオッ!

突進ッ!跳躍!巨体に見合わぬ身のこなしッ!
己の武器をシンプルに活かしたストロング・プレス!
まともな人間が受ければ20人ほどは一息にネギトロ!哀れペチャンコに爆発四散!グロスプラッタ!

豚鼻の狂巨人「バギャァァアア───ッ」

「…………」スッ

ドズゥゥウウウン!!!!!

地鳴り!轟音!近所迷惑!
飛び散るであろう血肉も含めて、その巨体を知らぬご近所からは明朝クレーム電話が殺到すること間違いなし。

「逃げるぅ?ざけたこと言ってんじゃねえよ」

豚鼻の狂巨人「バ!…!? ????」

しかし巨人の肩に優雅に座る、ドレス姿の怪物!
美女は見かけによらなかった!エロい目の細め方をして微笑む姿にB級映画の餌役特有の死相はどこにもないッ!

「この私がこんなザコに殺されるわけ──おい私が飛び散る、つったかテメェ」

豚鼻の狂巨人「バオッ!」

グシヤァッ

狂気!自分の肩を自分で殴るッ!
しかし本来のターゲットはひらりと飛び降りて既に着地をしているのだッ!

カカッ

「なに私に飛び散ってほしいワケ?付き合い考えよっかなホント」

響くヒールの靴音!
これでは──ちょっと待って。待って。やめて。違う、違うの!
ごめんなさいやめて捨てないで!お願いやめて!
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!

「いやナレーションは放棄すんなよ!ほら大丈夫、大丈夫捨てないから──」

豚鼻の狂巨人「ゴアッ!」ゴッ

「」クルッ

バオウッ!タッ タン

ベギィイイ!

豚鼻の狂巨人「ギャアアアア────ッス!!!」

「やったやった!私の膝でアイツの手首を砕いてやったわ!」

「──おい分かりにくくなるだろ。メソメソしてないで解説しろって。ジョーダン通じねーやつ」

浮気しない?しない?大丈夫?大丈夫だよね?

「時々お前が私をどう思ってるか考えると悲しくなるよ…」

「お前の見境ない疑心は可愛い可愛い私を傷つけてもいるんだぜ?」タッ

豚鼻の狂巨人「ギャバ…」

カッカッカッカッカッ

タンッ

「わかってんの?」ベギィイイイイッ

豚鼻の狂巨人「───────ッ」

うん……ごめん。ごめんね…

「キャハハハ…脆っ。骨、ポッキーでできてんのかよ。お菓子の国の住人ならもっとメルヘンなキャラクターでいろよな?」

豚鼻の狂巨人「~~~~~~~~~ッ」ズズゥン…

「見える?わかる?今のは脛に背中から思いっきりぶつかってやったの──おい解説しろって。大丈夫だから」カツン、カツン、カツン

でもちゃんと答えてないよね?

「しねえって!お前ほんと私のこと何だと思ってんだ!?」

…………膝をついた巨人に再び駆け寄り、今度はより高く跳躍。
痛みに悶えうなだれる巨人のうなじに座るように両足を揃えて腰かけた。

「露骨にテンション下げるなよ。やるんならちゃんと──」クルッ、カッカッ

タンッ

「」カシィイン

片手で尖った耳を抱え、もう片手で後ろ髪らしき体毛を掴む。
そのままだらりと上半身を後ろに倒してぶら下がる。
もちろん揃えた足は巨人の首にかけたまま。

「」ガシィガシッ

ダラン…

豚鼻の狂巨人「」ピシ…ミシ…ミキ…ミリ…

ベギベギバギバギバリバギベギバギィイィイッ

豚鼻の狂巨人「かパァ────────」

体重をかけられ豚鼻の狂巨人の首は捻り折られた。
大抵の人間はそうであるがこの狂巨人も同じように首を折られたら絶命するのだろうか?

豚鼻の狂巨人「」ズズズズズ…ズゴゴゴゴ…

立てた膝を倒しながらゆっくりと傾く狂巨人。
その濁った瞳に、もはや先ほどまでの生気はない(怪異が生気とはだが)。

「」グイッ

ドォシイイイイイイイイッ

「」ゴロンゴロゴロンゴロッ

狂巨人がアスファルトに崩れると同時に落下し転がるドレスの女!
激闘を制し力尽きたのかッ?着地をサボっただけかもしれない。

「…………」シーン

横たわったままピクリとも動かないッ!やはり力を使い果たしたかそれとも打ち所が悪かったのか?
ねえ大丈夫?気紛れに休んでるだけだよね?
その行動に特に意味はないんだよね?

(不安になるなよ)

起き上がらないので彼女はやはり死んでしまったようだ。
スーパーヒーローならずとも彼女の勇敢なる戦いを貶める者は誰もいないだろう(誰もこの戦いを見てないからね)。彼女の勇気と無謀と蛮勇、その溢れんばかりの善意と博愛精神に合掌。

(……)

「」ズァバッ

(勢いよく身を起こす音)。これはどうしたことだろうか。二度と動かぬはずの彼女の肢体がまるで生きているかのようにすらりと立ち上がる。
この映画のジャンルはゾンビものじゃないぞ。彼女はまたしても出演する番組を間違えた。

(………………)

「よし、決まったぜ☆」

彼女はつまらなそうに死体を眺め──かわいい。何度目になるか分からないが惚れ直しそうだ。
くっ…踏みとどまれ私、これ以上恋をしたら頭がどうにかなってしまう♡っ

「決まったか?決まってないな。テメェのせいだぞ頭パープリン」

「浮かれポンチの地の文のせいでジャンルがコメディになっちまった…もう誰もこの話を真面目には読まねえ」カツン

スカートの裾を翻し、彼女は歩き出す。
どこから来たのか?どこへ向かうのか?闇の心を知るものは彼女の他に誰もいない。
住所とか連絡先を聞きたい気分になる。どうせ意味ないのに。

「次からはもうちょっと真面目にやれよ?こういうこと続けるなら誰も見なくなるんだからな」

「つーかそれいつまで続けるワケ?気持ち悪いんだけど」

浮気しないって10回言って

「浮気しません浮気しません浮気しません浮気しません浮気しません浮気しません浮気しません浮気しません浮気しません浮気しません…」カツン、カツン、カツン

浮気じゃないやつもやめてね?

「心配性だな。ちゃんとお前も私のこと愛しろよ?」

うん

「私だけ見て、私だけ大切にして」

うん…うん。

「私だけを特別に、私だけに夢中になってろよ?」

うん…うん!好き!好き!

「よろしい。ちゃんと私のブタやってろ?」

はーい好き

ガーベラ・バレッタは怪異専門の私立探偵だ。
探偵といっても小説みたいな名推理を披露するわけじゃない。普段の主な業務は怪異相手に暴力的な振る舞いをするか、失くし物を探したりするぐらいのショボいものだ。
もちろん人間ならざる怪異を相手取るのだ。死を間近に感じたことも一度や二度できかない(別に怪異に限った話でもないと思うが)。
しかし、それでも町中で背筋が凍るような体験をすることは滅多にない。

子供「どうお?ヤッベェだろ?」

バレッタ「あぁ…」

駅前ロータリー。
破壊された駅から少し離れて巨大な肉塊がブルーシート越しに頭を覗かせている。
全貌は見えなくとも明らかに死んでいるように思える。小山のように大きい。生前はさぞ立派で見事な体格をしていたのだろう。

子供「そいでさ、朝っぱらからケーサツも調べてたんだけど、結局引き上げちゃってさ」

バレッタ(…………)

彼らだってプロだ。警察が調べて何も分からなかったのならここから眺めてみても都合よく新発見、とはいかないだろう。

バレッタ「事件性はないんでしょ…?」

誰に聞かせるでもなくぼそりと呟く。
怪異の死体が残る、というのは稀だ。通常怪異は目に見えぬ霊体となって活動しており、実体化できるのは怪異の持つ力(霊的エネルギー)を消費している時だけなのだ。
力尽きた時点で怪異実体は霧消し、失った力が回復するまで再び実体を持つことはない(怪異が死ぬことはないともいわれる)。
近頃ぽつりぽつりと現れるようになった死体が残るほどの力を持った怪異。その死因の多くは─推測に過ぎないが─強すぎる力に耐えられなくなったがゆえの自壊だそうだ。
怪異にとってもこれは異常事態なのだ。研究職であってもまともに答えを出せないのにごく一般的な私立探偵だけが真実を見抜いてる─なんてことはない。

バレッタ(そりゃあ私だって格好よく決めたいところですけども)

バレッタ(子供の手前、大人が不安に怯える姿を見せるのはよくないってのもそうですし)

しかしはっきり言ってかなり怖い。これまでの常識が通用しない何かが起きている。
何か起きているのにそれらしい対処もできず、ただ時が過ぎるのを待つだけ。
無邪気にはしゃぐ子供の頭に手を置いても、自分の手が震えていることに気づくと、己の情けなさを分からされるばかり。

バレッタ(無力ですね、どうにも…)

結局子供には適当なことを言って何とかその場は凌いだ。

ガウス「いいのかなバレちゃん。正直に言わなくて?私には分かりません怖いです無理無理カタツムリのお手上げでーす…ってね」

バレッタ「うるさいですガウス、うるさい。バレちゃん言うな」

呆れるほど能天気で薄っぺらく、気の抜けたような疲れたような大人の声。フェルディナンド・ガウス。怪異だ。
女性にしては背の高いバレッタを上回る高身長にガッシリとした体格。一見、人間とそう変わらない見た目をしているが、肩口や背中からのふわりとした霊気が彼の正体を物語っている。怪異のなかでも上位の悪魔種、ガルグイユ属の一体である。
今は霊体化しているが、ガウスと契約した身であるバレッタには朧気ながらその姿と声を認識できる。

バレッタ「あなたからは何か分かりませんか?」

ガウス「分かるわけないでしょ医者じゃあるまいし…。人間同士なら死体を見て無条件で何もかも分かったりするのかな?」

ダメダメコンビだ。てんで頼りにならない。

ガウス「そいつはどうもね。じゃあ、そんな頼りにならないダメコンビはダメらしく、分からないことはオトナのヒトに任せて、僕らは大人しく今の仕事に集中しましょ」

バレッタ「い、言われなくともそのつもりです。ちょうどこの近くに件の工事現場があります。向かいますよ」

工事現場は燦々たるありさまだった。ネジ、鉄骨、鉄板、ブルドーザーやショベルカーの部品に至るまでありとあらゆる金属が失われている。
違う、食い散らかされている。
かろうじて残った何かの欠片からは歯形のようなものが見てとれる。

ガウス「酷いなこれは…金属嫌いの妖精とかの仕業かな」

バレッタ「ここにも鏡がありますね…」

砕け散った鏡の欠片を眺めながらバレッタは言う。欠片は大きいのから小さいのまであって特に大きな破片を見ると、元は相当巨大な一枚の鏡であったことが分かる。

バレッタ「砕いて証拠隠滅のつもりでしょうか。どうです鏡人族の気配は?」

ガウス「んー…におうね。種類まではわかんないけど、彼らのにおいは独特だからね」

ガウス「人間の鼻で感じとれるものでもないけど…少しは気にした方がいいな。石鹸使う文化とかないのかな?」

ガウスの軽口を無視してバレッタは鏡の欠片をつまむ。
パッと見ただけではわからないが、よく見ると鏡人族が使用した鏡特有の僅かな変色が見える。
紫の変色は一枚鏡と丸鏡、変わり種だと三面鏡人であることが多い。

バレッタ「近くにメイン“通路”があるはずです。これまでの被害現場と照らし合わせれば…さんかく自然公園辺りでしょうか」

バレッタ「歯形については…分かりませんね。ドラグの仲間に似ていますがこのサイズのドラグとは…」

ガウス「ペットの餌に困った貧乏鏡人とか?ダメだね責任持てないのに生き物なんか飼っちゃ…」

バレッタ「ただのドラグでもありませんね。鉄を食べるドラグは知りません。新種かも…」カツ…カツ…カツ…

ガウス「んー…考え事に入っちゃったか…ありゃしばらく何も耳に入らないぞ」

目星をつけたさんかく自然公園に向かって歩き出すバレッタ。その後を追うガウス。

ガウス(どうせ聞こえないなら言わなくてもいいかな…?問題になったらその時考えればいいだけだしね)ザッ、ザッ、ザッ…

…物陰から視線が向けられていることに女は気づかなかった。傍にくっついてる怪異は気づいたようだけど、あの様子では多分忘れるな。
というわけでさんかく自然公園ですってよ、ご主人様♡

「ん。別に知ってたけどね。鏡の場所も、もう調べたし」

さすがです♡遠目から歯形を見て面白そうだと思ったら即居場所を特定♡
感服し♡惚れ直して♡♡しま♡♡♡ヤッベ♡♡♡興奮するッ♡♡♡♡♡

「ドラグねえ。竜相手はそんなに面白いとも思えないけど…ま、この際贅沢は言ってらんないか」

ねえ♡♡♡暑くない♡♡♡服♡♡♡脱ぎたくならない♡♡♡二人っきり♡♡♡になれる場所♡♡♡いきましょ♡♡♡♡♡

さんかく自然公園。
この公園は森が多く…森が多くて…森が多い公園で、森フェチにはたまらない絶好の森スポットである。
管理人の方針から鬱蒼としすぎた森は薄暗くどんよりとしていて、子供にもカップルにも子持ちの若夫婦にもジョギングする人や健康マニアの老人にもあまり人気がない。
人目につきにくい、という点でよからぬ犯罪の場や変態カップルの盛り場として密かな人気スポットとはなっているが、平日の昼間からそうなっているほど大人気というわけでもない。
この時間帯は特に異常ということもない、きわめて普通のごくありふれた人里近くの森…でしかないのだが。

バレッタ「ビンゴですね」

巨大な丸い一枚鏡。
分厚い台座に乗った分厚いそれは一見して鏡とは信じられない不思議な威圧感がある。
森の奥まった、木々が円状にぽっかりとスペースをあけた、ちょっとした広場。
鏡面を覗き込めば夕方とはいえまだ明るい空が見えてもいいのに、鏡の向こうにはぼやっとした月とまばらな星空─夜空が見える。
この不思議性こそが怪異の本質であるのだ。

バレッタ(…………)チャポ…

手で触れてみると、水のように沈む。
まだ機能している。最近使用したばかりのようだ。

ガウス「思ったより早く見つかったね。後はこのまま待ち伏せして──」

バレッタ「ヘンだと思いませんか?」

ガウス「…何が?」

バレッタ「鏡ですよ。やけに大きい。しかも台座まで用意した立派なつくりです」

バレッタ「ただの通路にこれほど手間をかけては消耗も激しいはず。それでもこうしなくてはならない理由があった──」

ガウス「んー…凝り性だったんじゃない?拘りの一品なんだよきっと」

バレッタ「…………」

バレッタは服の上から懐の怪異ショッカー※に触れた。

バレッタ「…侵入を試みます。戦闘になるかもしれません。お前も準備しておくように」

ガウス「うへぇ…かったるいねぇ…(了解。おじさんに任せな)」


対怪異実体用携帯霊的衝撃発生装置。通称怪異ショッカー。
怪異特有の霊気に反応して接触部位から霊的なショックを浸透させる。出力にもよるが強力なものだと一般的な家屋サイズまでの怪異ならば制圧可能。
怪異以外には発動しないことと怪異以外を対象とした武器として使うには不向きな形状から所持するだけならば罪には問われない。しかし訓練を積んでいない者が怪異に対して攻撃するのは逆に危険なので購入には免許が必要。
昨今一部のメーカー品が解析されたことによる違法なリミッターカットが問題視されている。

ブイ────…ン

ショッカーのリング状パーツに起動状態を表す赤色が鈍く灯る。
周囲を見回すが、夜の森に契約悪魔以外の気配はない。
野鳥や虫の気配すらしない。鏡のなかの世界に動物は普通いない。
それどころか植物すらも建築物やらと同じように再現された作り物の偽物にすぎない。
ファンタジーやメルヘン、と言ってしまうにはこの世界はあまりにも暗くうすら寒い。

ガウス「冷えるね、どうも…。バレちゃんは大丈夫?おじさんの肌で暖めたげよっか?」

バレッタ「近くにはいないようです。しばらく森を散策──」

バレッタ「───」

ガウス「?」

突如、バレッタが息をのむ。
人影を見つけたのだ。
夜の森でもはっきりと見えるドレス姿。
真後ろからなので顔は見えず鏡人間かはわからない。
しかし通常生き物の存在しない鏡の世界。迷い込んだにしては妙に迷いのない足取り。何より探偵としてのカンが叫んでいた。
この女は何か知っているぞ。

ガウス「尾行かい?仕事中のナンパは感心しないね」

ガウスの軽口を無視して、バレッタは暗い森を進んでゆく。
良くも悪くも、事件は長引きそうになかった。

どれくらい歩いただろうか。気がつけば開けた岩場にやって来ていた。
茂みに身を隠していると不意に転がるような娘の声が耳に届く。

「つーかさ、いつまでコソコソついてきてんだよ。もしかして尾行のつもりなワケ?だとしたらダッサ!バレバレだってぇの」

月明かりに照らされた、こちらに向けた顔は少々色が白すぎるが、あどけない少女の顔だった。
鏡人間のようなつるりとした鏡面顔は名残すら見られない。鏡人の血が入ってるとしても¼以下だろう(もっともそこまで血が薄いと人間のような実体を持ちやすく、怪異としての力は殆ど失っていることが多い)。

ともあれ尾行はバレていたようだ。バレッタは素直に姿を見せることにする。

「で、何の用?ナンパならお断りだぜ。ほら!」

そう言って嬉しそうに左手をひらひらと振る。薬指にはきらりとゴールドのリング。
バレッタにはその意味はわからなかったが、女は敵意を見せているわけではないと判断し、少し距離を詰める。

バレッタ「すみません、尾けたわけでは…。ここが…どこか分かりますか?道に迷ったんですが…」

武器を隠し、迷い込んだ一般人を装う。
この女が犯人かそれに繋がる人物だとしたら素性を明かせば逃げられるかもしれない。
女は突然ぎゅっとした笑顔になり、わざとらしいほど弾んだ声で答える。

「そう、そうね。あなたは道に迷っただけだし、私はただお花でも摘みにここへ来たのかしら。テメェの後ろにいるそこのクソもただうっかり偶然迷い込んだだけの野良怪異なんでしょう」

「なんてな。うっかり鏡面なんか通るヤツがあるか?冗談よせよ。知らないフリして契約した怪異なんか引き連れて、しかもソイツは隠れんぼ真っ最中ときたもんだ!」

きゃらきゃらとおかしそうに笑う女とは逆に心臓を素手で掴まれたような気分。霊体化したガウスを認識している。
普段ちゃらんぽらんでもガウスは悪魔だ。怪異のなかでも上位種である悪魔の霊体を見破れる目はそうない。

ガウス「まいったね…手を抜いたつもりはなかったんだけど。おじさんももう年なのかな?」

ガウスの軽口にも心なしかいつもの余裕を感じられない。
その反応を見て気をよくしたのか女は笑顔で続ける。

「よく見たら面白そうなオモチャ持ってるじゃんか。その隠してるやつ出してみろよ」

隠し持っているショッカーも見破られた。それは別にどうでもいいのだが、このまま女に従うべきか。
まごついていると、女はニヤリと

「ビビるこたないだろ。私とお前の仲じゃんか、なあガーベラ・ソリィバレッタ?」

背後でガウスがたじろぐ声が聞こえた気がした。
ソリィバレッタ。バレッタをその名で呼ぶのは大抵、敵か味方だ。
今、目の前で悪意の笑顔を作るこの女は味方だろうか?
にやにやと意地悪く笑う女の前で、隠し持ったショッカーを強く握る。
やってみよう。もう意表は突けないだろうが不意を打つくらいはできる。

バレッタ「──御免!」ザッ

「…ん」ス…

ガシィイイン!

防御に突き出された腕に押し当てられるショッカーのリング。
そのままショッカーの引き金を引く。

カチッ

シィー…ン

バレッタ「え…」

何も起こらない。ショッカーのリングは相変わらずぼんやりとした鈍い赤色をしているだけだ。
怪異の霊気に反応していない。
呆気にとられていると、

ズ…ッ

バレッタ「う」

ゆったりとした優しい裏拳。赤子の肌に触れるような気遣いで当てられたそれはしかしバレッタにそれ以上の思考を許さなかった。

バレッタ「あ…く…」ヨロロ…

ガッ ズシアッ

バレッタ「がッ…は…!あっ…か…は…っ」

「あ?頑丈ね。正直ちょっと力加減、間違えたんだけどな…。丈夫なカラダに感謝しろよ?」

ガウス「ガーベラ!」

ガウスが心配して駆け寄る。心配のあまり軽薄そうな雰囲気の消えた顔が増えたり減ったりしながら揺れている。

ガウス「だとしたらかなりマズイね。ごめんね、おじさんちょっと気を抜いた。落ち着いて、ゆっくり息を…」

「マジダッサ。それ故障してんじゃない?道具の手入れぐらいちゃんとしとけっつーの…」

二人の悪魔の声を耳にしながら、バレッタは意識を手放した。

すみませんミスりました
>>14の後です


バレッタ「は?」

ガウス「おっと…口が滑った。何でもないよ…うっかり本音が出ただけ」

バレッタ「…頼みますよ」

結論から言うと別に故障はしてなかった。
覚醒してすぐに傍にいたガウスに使ったところ、ちゃんと作動したのだ。
怪異を味方につけるとこういう時便利だ。このために契約したわけではないのだけど。

「からかった私も悪いけど、私は『鉄クズ盗難事件』とは無関係よ」

ショッカーを触ったりいじったり覗き込んだりスイッチを何度も押したりしながらドレス女は言う。

「ドラグの歯形があっただろ?あれ私のオモチャにしたくてさ。居場所を特定してここに来たの」

行動の是非や手段は問わないことにした。いきなり襲いかかった負い目があるし、仕事の邪魔にならないなら特に興味もないからだ。

ガウス「だったら何でおびき寄せるようなマネしたのかな?どうせなら直接ドラグのとこへ連れてってくれてもいいのに」

ガウスの言葉に女はムッとする。
この怒り顔が私を狂わせる。

「年中狂ってるだろ、余計なこと言うな…別にそうしてやってもよかったんだけど…森じゃ狭いから」

女はつまらなそうに肩をすくめる。それだけの仕草が妙に色っぽい。そう思うのは私だけでいい。

「場所を移すにしたって飼い主が邪魔だしな。手伝いが欲しかったから、ついでに利用することにしたってワケ」

「作戦立てるにしても相談が要るだろ?聞かれちゃマズいからわざわざこんなとこまで連れて来てんの」ハイこれ

返却されたショッカーを受け取りながらバレッタは言う。

バレッタ「作戦とは?手伝いとは具体的に何をすればいいのです?」

女は待ってましたとばかりにニヤリと笑う。
笑顔はどこまでも楽しそうに、邪悪で。
ワガママ、キマグレ、ザンコク、サイアク…私の恋した悪の華の姿が、そこにあった。

夜の森をひた走る。袋に入ったクズ鉄が耳障りな音を立てる。
棘のような月明かりが三面鏡人の鏡面顔にきらりと反射した。

メタドラグ「」グルルルルル…

三面鏡人「き、今日の分を持ってきました…」

ドシャン!ガチャンガチャ…

メタドラグ「」ブルルルル~…

ガブン!ガヂャ…ガヂャン!ジャラ…

ガザッ! 

三面鏡人「」ギグゥ!

茂みから姿を現すバレッタ。ショッカーを胸の前に構えている。

バレッタ「動かないで。ショッカーは既に起動しています。その袋の中身は盗品ですね?大人しくしていれば──」

三面鏡人「あっ…?なっ…あっ…」

メタドラグ(……)グルルル~…

メタドラグ「何用だ、人間よ」

バレッタ「……!」

驚愕するバレッタ。後ろのガウスも僅かに眉をひそめる。

バレッタ「ドラグが口を──」

メタドラグ「きくとも。怪異も日々、進歩しているということだ」

メタドラグ「それで、何用と聞いている」

バレッタ「ここ近辺で鉄の盗難及び器物損壊の被害が出ています。抵抗するようならあなた方を拘束の後、警察に引き渡し─」

メタドラグ「うん?はっは、アッハッハッハ…」

鋼鉄のドラグは金属質な太い笑い声を響かせる。

メタドラグ「これは奇異。そして不遜、不敬、愚かなり。見るがいい人間よ」

ブァサッ

金属の骨にカーボンの皮膜。巨大な翼を広げたドラグの胸部前面には装甲プリズムジェムが怪しげに煌めいている。

メタドラグ「そして感じるがいい。平伏し崇め奉れ。貴様のま見えるはドラグの中のドラグ。王の中の王。この世を支配すべき、選ばれし王者なるぞ」

メタドラグ「支配者たる余の礎となれるのだ。喜んで貢ぐが弱者の務めというもの」

バレッタ「そんな勝手な理屈!」

メタドラグ「いったな!」

プリズムジェムが一層力強くきらめく。誇り高きドラグのジェムズ・ヴィジョンアイが怒りに燃える。
風がざわめき、木々が揺らされ、夜が怯える。

メタドラグ「ただの人間、何するものぞ。恐れ多くも貴様の相立つは選ばれしドラグの王!それをたった一人で…」

ガウス「ビンゴだね。今だ、嬢ちゃん!コイツはオレたちに気づいてない!」サッ

ガザザッ

愚かな人間の背後の茂みが唐突に揺れ、気を取られたドラグは針の穴に糸を通すような一瞬の隙を突かれた。卑怯にも突如空中から首に掴まるように現れた、奇っ怪な不届き者に不覚にも接近を許したのだ。

メタドラグ「ヌォオオオオオオ──!」

「いっただき──ぃ!ほら暴れんじゃねェよザコ!大人しく私のオモチャに…なれ!」

ブゥン!ブゥン、ブウウン!

メタドラグ「不敬!不敬ィ、不敬ィイイ───ッ!」バザザッ!バザッズァバッ

ヴァッザアッ

気高きドラグは安い挑発には決して反応せず、見苦しく首を振り回したりせず、極めて冷静に誇り高く、恐ろしいほど静かに夜空へ飛び立った。

三面鏡人「あ…あ…」

バレッタ「動かないで!あなたは─」

三面鏡人「た、助けてください脅されてたンですゥ!」ガバァアッ

バレッタ「はっ?」

三面鏡人「三日前に出くわした、えらそーなヘンなアイツに脅されて仕方なく言いなりになってたんですゥウ。あんた刑事さんですか?どっちでもいいので助けてくだァさぁい」ガシィガシッガシ

バレッタ「わ、わかった。わかったから離して…」

三面鏡人「へ、へへへ、へへへへへ!」ギラッ!

バレッタ「!…っ」

ギャバァアアアッ

バレッタ「……!」ハラッ

三面鏡人「へへへ、へへへへ!外しちまったァうひひひひひひひっ」バヂッ!バヂチ…バチバチ!

バレッタ「怪異ショッカー…!」

三面鏡人「もちろん威力はド違法!しかも人間にも効く『新商品』ウゥ!ぎひっケヒヒヒヒヒヒ…」

三面鏡人「当然リミッターはカットしてある。ブヒヒヒヒヒヒヒヒ…」バヂッ!バヂン

バレッタ「くっ…」

三面鏡人「いやね、ショッカーなんてクソだァ…と思ってたさ。けど自分で使ってみたら!なかなかどうして便利なモンだね」バヂバヂバヂ…

三面鏡人「特に人間相手はよ!いいンだよね油断するからなぁあああどーせ怪異専用だからってよォオオオ」バヂバヂババヂハギバヂ

三面鏡人「げっひゃっひゃひゃひゃひゃあげゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃバァッブゥウウウウ!」バヂィイイイ!

バレッタ「…………」ゴオオッ!

バレッタ「お願いっ…ガウス」

ガウス「お呼びとあらば、仰せの通りに」ズワッ

グッ バッバッ グッ

三面鏡人「」バオンッ!

ガウス「『タイム=ロック・カプセル』ッ!」ピシィイイ───

三面鏡人「何ィ!?」ガキッバギィイイン!

バヂィイイイイ──…ン

三面鏡人「フルパワァー・ショッカーがまるで効かぁなァいィイイ…何だ?てめーわぁあああああ」バギギバチバヂ

ガウス「へへ…『タイム・ロックカプセル』。特殊な構えをとることにより発動する冷凍時間法で!」シュー…シュー

ガシッ!ガシィ!

三面鏡人(!……)

ガウス「あらゆるダメージから身を守れちまうんだな、これが!ははは…」ガシィガシッピシィ!バリッピキッピシ

三面鏡人「て、てめェ──!そのきたねェ手を今すぐ離しやがれェエエエ!」ギシッ!ギシィギッバヂバヂ

ガウス(まっ!発動したら自分も動けなくなるんだがね──だからフェルディナンドさんには仲間が必要…ってワケだ)

ガウス『』ピキィイ────ン

三面鏡人「あべェばアアああアァ!アァァあぎゃァアアァァア!」バヂ!バリバリバリ!バギッバギャァアアアガララララ!

ガウス『』シィイ──ン

三面鏡人「はあッはあ──ッハアハア──」

ブイ──…ン

三面鏡人「はっ!」

バレッタ「──心配しないでください」

バレッタ「出力は100パーセントじゃありませんので……!」

三面鏡人「まッ!待て、待って!実はオレには病気の妹が───」

──パシッ

三面鏡人「ぱオッ…」ビグンッ…

三面鏡人「ぐうの音も出ない」ガグゥ─ッ

ピシ…ピシ

ガウス「…ふう。とんでもないヤツだったね」パラ…パラ…

バレッタ「ええ、本当に。拘束して通報しないと…縄を探してくるので、ガウスはいつも通り押さえていてください」

ガウス「オーライ。いい加減持ち歩いた方がいいって、おじさん思うんだけどね…」ガシッ

ピキィイイ──ン

バレッタ(…………)

バレッタ(あれ?縄…いらないんじゃないかしら)

ガギィイイン!バギッ!ガギッ!バギン!
ガギィイイ──ン!

幾度も重なる金属音。飛び散る火花。ぶつかり合う柔らかな細腕と鉄の爪。
奇妙なオブジェが点在する公園の広場。転がるように落下してから、そこが決戦のバトル・フィールドとなった。

バギィイイン!

「キャッハハハ!いいねぇ、そうこなくっちゃ」

メタドラグ「ぬぅうぇあああああ!だぁぁまぁぁれぇえええええ!」ゾバッ!

何度目かの鋼鉄と肌の衝突。
しびれを切らしたドラグが距離をとって力をためる。

「こちら解説席、クズをお呼びしておりまーす。おいクズ」

はい任せてください、いきますよ!このドラグはね、突然変異で鋼鉄の体を持ち、鉄分を多量に摂取することで霊的質量を増幅させ巨大化した個体のようですねー。

メタドラグ「」バサッ、バサッ

霊力を用いて通常飛べない重すぎる体を強引に持ち上げるほどのパワーを実現しているようです。まさにドラグを越えたドラグ、メタドラグといったところですねー。

「何それ、ダッサ!センスなーい」

うっ!…ふぅ、ありがとうございます。メタドラグは強力なパワーと硬い体、それからドラグにしては高い知能が武器ですねー。恐るべき相手です。

「ときめいてんじゃねえよ。似たような内容を繰り返すって要するによくわかんないってことよね。ありがと」

「解説助かったぜ。お役立ち度は丁度お前の人生と同じぐらいだな?」

ありがとうございます。それでは前方、前足を振り上げたメタドラグが接近しておりまーす。

「…ん」ザ─

メタドラグ「」ギャオ──っ

「いいねぇ…!」

メタドラグ「キィエアァアアッ!」ギャバッ

「」サッ

バギギィイイン!

「」…ギッ

メタドラグ「ぬぅ…ぅ、うぐぉ…っ」ビシ…バキ!

激突!振り下ろされた爪を両手で添えるようにして抱え、一瞬のうちに突き上げられた膝はメタル・クローを蹴り砕いたッ!

メタドラグ「ちえいっ!」バヂッ!

「おっと…」カッカッ

バザバザッ ギイィィイイイイイ…

メタドラグ「いい気になるな!いい気になるなぁ!いい気になるなぁよぉおおお!」ザバザバザバ

メタドラグ「わが怒り!わが嵐!気高き煌めきは大地を穿つ!いざ受けよ炎の流星ッ!」チカッチカッ…チカ

旋回飛行をしながら胸部装甲プリズムジェムが強く瞬く。本気の怪異に見られる霊的生命のみなぎりだ。

「こっちが恥ずかしくなるようなセリフばんばん喋ってんな…」

ストレスたまってるんですかね?

メタドラグ「キィイエェヤァアアアアアアッ!!!」ギュアッ!

カッ、カッ!

バゾォオオ──ン

「ワオ!」

メタドラグ「ぬぅうッ!かわしたかッ!」

ドドギュゥウ─────…ン

…そういえば昔、没にしたネタにこんな攻撃してくる巨大ロボット系の敵キャラを出そうとしてたんだよね。
格闘戦でかなわないと手足を畳んで空中を高速で飛び回って突進するやつ。

「マジかよ、そのものじゃん。せっかくだから攻略法教えてよ。当然、考えてたんでしょ?」

覚醒回の予定だったからその辺テキトーなんだよなぁ…
えっとねぇ…突進の勢いをー利用してぇー…殴っ…た…?

「疑問形かよ頼りにならねえなぁ。まあいいや、一旦それでいこっと」

「あの何とかジェム、どう見ても弱点だしな?舐めプ上等ストレートパンチでブチ抜いてやるよ」

ギィイ…イ…イ…ン

メタドラグ「」ギラッ

シュパァ…ン

ソニックブームッ!ほんの僅かな旋回加速でッ!
音を破り尚きらめきを放つプリズムの、その威圧感たるや迫る剣山壁の如しッ!

メタドラグ「」ドオ───ーッ

「もらっ──」

プリズムが突き出される拳と激突し、

バギ

ブァッギィッギャァアアッ

ぎゃあっ!?──

宙を舞う。空中を舞う。ふわりと浮く、気持ち悪い感覚。意図せず足が地面から離れる不安感。
…いつかに見えた、思い出す度、吐き気の込み上げる憎悪の記憶。

ドォッザアッ!ゴロンゴロンゴロ

「は…ぁ…っ」

ボディ的なダメージというよりも、メンタル的ダメージ。
己の腕力が通じず、また予想外の勢いで弾き飛ばされたショック。諸々が起き上がりを遅れさせる。

「あっ…くそ、油断したな…」ググッ…

いつもの声は聞こえない。かわりに上空から金属質な練れた太い声が降り注ぐ。

メタドラグ「恥じるな。育て上げ鍛え上げた胸部装甲プリズムジェム。その煌めきは何人たりとも損なえず、またあらゆる一切の破壊エネルギーをも通さぬよう磨き上げた」バサッバサッ

プリズムが得意気に鈍く瞬く。何とかは何とかに似るとはよく使われる言い回しだが、身体機能も持ち主にまた似るようだ。

メタドラグ「そしてそれは貴様の本当の力を考慮しても、ヒビひとつの陰りも見せぬということよ」バサッ、バサッ

「─何だと?」

メタドラグ「気づかんと思ったか?何の遊びかは知らんが、実力を隠して余に勝てると思わんことだ。おお、おお、妖しき炎のプリズムジェムよ!」バサッ、バサッ!

再びプリズムがきらめく。今度はより強く、より激しく。周囲が歪むほどに、より熱く。
羽ばたきは音を失い、今度は長く、更に長い、旋回を開始する。

ギィイイイイイ…ン

(…………)グァバッ!

メタドラグ「──」ギャン!ギャン!ギャワァアアアアア…

「はァ─?教えてやるよ、おいクソトカゲ」

ボワ…

魔力を練り上げ、右手に集める。右肘から指先までが、ぼんやりとした赤色に灯る。

「いいかよく聞けよ。必殺技ってのはな……」…キュ

右腕を胸に当て、拳を作るよりも軽く握る。腕を空間から動かさずに魔力の加速を完了する。
ほんの、ささやかな迎撃準備。

メタドラグ「」ギィイイイ───ン

「─必殺技は、最後までとっとくモンなんだよ!」ギュッ

メタドラグ「」ゴオアッ

バギャァアアッ!─ガコンッ


破砕音。砕け散る音。繰り出した右腕は─

ビシッ…バキン!ピキ…

メタドラグ「…バカな!」

─その殆どが飲み込まれるほどに、メタドラグの胸部ジェムに深々と突き刺さっていた。

ピシッ…

ズッ…ギ、アッ…

メタドラグ「ガッ…!ご…!?」

メタドラグの体が一瞬、硬直する。砕けた胸部前面プリズムジェム装甲。その奥の霊核を魔力の弾丸が貫いたのだ。

(………)ズァシュ!

クルッ

右腕を引き抜き、その場から離れる。カウントダウンの声は跳ねるように、弾むように。

「サン!ニイ!イチ─」カツン、カツン、カツン

メタドラグ(………!)バチッ…バチバチ…バチ!

「─ゼロ!爆発」

チュドォォオオオオオンンンンン!

爆発。爆炎と轟音が夜空を裂き、鋼鉄のドラグは跡形もなく消え失せた。
怪異の実体喪失である。これが怪異の実質的死なのだ。

(…………)

振り向いて見つめても、その場には舐めるような炎が残るだけ。
ある種のショーのような派手さと騒々しさ、終わってしまった寂しさと静けさ。歪みきった形とはいえ生命が失われた、この瞬間は──

クルッ

「サイコ~ッ!マジ気持ちいい!この瞬間が一番気持ちいいもんね!」

拘束した三面鏡人を警察に引き渡し、鏡面の機能喪失も確認して、公園から出る頃にはすっかり夜も更けていた。
夕飯は何食べようかと考えながら、とぼとぼと歩き始める。
進化する怪異。違法ショッカーの新商品。気にならないといえば嘘になる。
しかしガーベラ・バレッタは私立探偵。仕事といえば怪異に暴力的な振る舞いをすることと、失くし物を探すぐらいのケチなもの。
漫画や映画に登場するようなスーパーヒーローではないのだから──
自分は自分の領分だけを。それが■■■■■べき■■■■■■■。
■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■。

バレッタ「………?」

バレッタは足を止める。
何だ?今、何か…私は、何かを…
思い出す?違う、忘れている。

私は何かを忘れている。
忘れていたことさえ忘れていた。

ガウス「…どうかした?」

バレッタ「」ビクッ

ガウス「足、止まってる。帰らないのかな?」

バレッタ「フェルディナンド…」

ガウス「…はい。あなたのフェルディナンドさんですよ」

バレッタ「………」

フェルディナンド・ガウス。私と契約した悪魔。上位の怪異。冷凍時間の化身。
幼い頃に怪異事件に巻き込まれた私を……助けてくれた、物好きな怪異。

ガウス「何か…?」

バレッタ「な、何でもない」

なんだか無性に泣きたくなって、情けない気持ちを振り切りたくて、再び歩き出す。
ポケットに手を入れ、ゆったりとガウスが後を追う。

ガウス「それにしても今回はマジヤバだったね…あんなドラグは初めて見た」

バレッタ「ええ、そうね…」

言いかけてハッと思い出す。そういえばあのドレスの娘はどうしただろうか。
ドラグの爆発痕は確認できたのだから勝てたのだろうか。鏡の世界からは脱出したのだろうか。
取り残されてやしないだろうか。
青ざめていると、

ガウス「大丈夫じゃないかな…あの嬢ちゃんのことだ、うまく抜け出して何食わぬ顔でまたぞろどこかの誰かをイジめてると思うよ」

バレッタ「…そういえばあなた、何か怒ってません?あの娘のことで」

ガウス「さあ、どうでしょう…」

ガウス「…また会えるよ。きっと」

バレッタ「…別に会いたいわけではありませんけどね」

そう、別に会いたいわけではない。
一般的良識の観念から心配になっただけだし、自分が逸った結果とはいえ殴られて気絶させられた相手と何事もない時に会うのは何となく気まずい。ただ…
ただ、無事を確認できたらその時は…

──その時は、お茶の一杯ぐらいは出そう。

ささやかな約束を溶け込ませ、夜はさらに更けていった。

小高い丘に取りつけられた休憩スペース。町の夜景を見渡せて、ベンチもあるこの場所は……

デートにもいいんじゃないかな!?僕はいいと思う!
どうでしょう?■■■■■様。私はちゃんとしていますか?

「ん、ああー…そうね」

「どうだった、はこっちのセリフなんだけど…」

ん、何でしょう。

(…………)

「…楽しかった?」

………………
■■■■■様。■■■■■・■■様。私の主君。私の■■■■■。
私の女王陛下。私の愛しき悪の華。■■騎士■■■■■様。
私のためにありがとう。
あなたの■■■■めは、恐悦至極にございます。

「…感想を訊いてんだよ。変わらねえなテメェも」

「今回はどう?なかなか硬かったし、あなたも楽しめたんじゃない?」

そこそこ。

「そこそこかよ!欲張りだな私の■■■■は」

だって最後の方よく覚えてないし。血も見れなかったし。それに…

これからも、もっともっと楽しませてくれるんでしょ?
簡単に満足しちゃったらツマラナイじゃない?

「──」

えっ、だよね?■■■■■様?そう約束してくれたよね?

「…ん、わかったわかった。約束したものね」

「くそ、変な■■■■の召喚に応えちゃったな…」

ええ、その節はどうもありがとう!
それでどうする?今日はもう帰る?

「そうね、しばらく空けちゃったし…。いい加減、帰ろっと」

「今回のはそこそこ大物だったしね。■■■■様褒めてくれるかしら!」

…………

「…こういうタイミングで黙ってる時のテメェがどういう感情抱いてるか、最近わかってきたのよね。顔があったらぶん殴ってやるのに」

ははは、何をおっしゃいますやら。ははは。
あ、でも殴られるのはイイな。顔がないのが今になって惜しい。

「惜しむ理由それかよ!たいがい終わってんなテメェも!」

かつんかつんと響く靴音。ヒール靴の音が夜の闇に溶けていく。
どこから来たのか?どこへ向かうのか?

「いつかゼッテー泣かすからな。涙腺なくてもゼッテー泣かす」

ええー…それはやだなー…

靴音は一人分、夜に触れる声も一人分。

─闇の心を知るものは、彼女の他に誰もいない。

ようテメェら!私だぁ。
キャッハハハ!なーんて!騙された?ねえ騙された?
何まだ私のコト知らないヤツがこの中にいるワケぇ?
滑稽すぎて気に入っちまうぜ!…どう?似てるかしら。
さて次回だけどバレちゃんマンの仕事は失くし物探しのようね。ペットの捜索とかナルトとめだかボックスの序盤で見たことあるわ。
まだ始まったばかりで序盤も序盤の、この物語に相応しい日常回…ってトコかしら。
あーあ、タイクツそうな話ね。私はもっとこう、血と暴力と殺戮の舞台が見たいのにな…
あ?結局、私が誰かって?知らなきゃ知らないで別に…いいんだよ、細かいことは。
次回、怪異探偵ソリィバレッタ
「ルナチック・マッドメイク」
ワガママ、キマグレ、ザンコク、サイアク♡

レス数見ると短いなぁ
区切りのために新しくスレ立てします

HTML化依頼してきます
ありがとうございました

早漏なので、やっぱ残り全部投下します
スレもったいないしね


「ルナチック・マッドメイク」

狂気誘発怪異 ルナーク
マグマ怪進化 マグオーン

登場

アグォ…ォオオオオ────ン!




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「赤いドレスは血の先触れ」
>>1

溶岩地帯。
灼熱のマグマが散らばり噴き上がり、黒煙が渦を巻き、地面が焼け焦げヒビ割れる空間。
過酷な環境に漂う霊気は攻撃性も強く、燃えるような霊気が充満するこの場所は霊的にも危険なエリアといえる。
しかし、そのようなデンジャー・ゾーンでも怪異実体同士が争いを繰り広げることは稀であった。

スグレンラ「グワッ!」ブゥン!

バチィイン!

グランドランゴロ「ピョッ!」ピャオッ!

ドズゥウッ!

スグレンラ「ガァ…ッ」

ジュルジュル、ジュルジュル…

グランドランゴロ「シュアッ」ヒャポッ

ノシ…ノシ…

スグレンラ「」ズズゥ…ン!

恐るべきグランドランゴロ!驚異のブラッドレイン・ロングタン!
特にこれといった能力を持たないスグレンラあっけなく臨終ッ!

ドドォオ…!ドドォオ…!

グランドランゴロ「」ノシノシ…ノシノシ…

ゴボボ!ゴゴボッ

ゴーラシネカス「ガァッ!」ザバァアアアアン!

キュドッ

グランドランゴロ「ヒョォーッ!」ボガァアアン!

ズズゥ…ン!

ゴーラシネカス「ガァアッ!バギャアアッ」

ゴーラシネカスのヘルズゴー・ビーム!標準的な怪進化体なら一撃絶命の威力を誇るッ!
グランドランゴロも漏れなく絶命!だがしかし、

ピャォオオオ────ッ

ガギィッ!ブチブチッバギィッ!

ゴーラシネカス「」ブシューッ!グラリ

ボシャアン!バシャアアン!

ドンボンガ「ブヨォオ────ッ」シュリィイイイ…

油断はできないッ!これが自然界の掟なのかッ!
突然飛来したドンボンガのバイティング・メガスジョーにより首を噛み千切られたゴーラシネカス!一時の勝利もむなしく残メシとなった!

ガァッシィイイ!

ドンボンガ「ブヨォオオ──オッ!?」ジタバタ

ギガスマイト「バロォオオーッ」

ボ ゴ ァッ

ドンボンガ「ブヨォオオオ…」ジュ バラッ

シュバァアアアア…ッ

食物連鎖はまだ続いたッ!ギガスマイトの
バイトスクリュー熱線!囚われのプリンセスならぬ捕らえられたドンボンガ逃れられず素粒子レベルで分解ッ!

ギガスマイト「バロォッ!ブァロォオオオ…」

フワフワ…フワフワ…

もはや付近には何もいないっ!漂う霊気ばかりが彼の勝利を言祝いでおりますッ!
勝者ッ!チャンピオンはギガスマイトッ!今週の暴れ血祭りはこれでお終いッ!
それでは皆さん!さよーならーっ!

ギガスマイト「………」

グルゥッ

ギガスマイト「バォッ!」ジュバッ!

バギョォオオオ…ッ

ギガスマイト「ばハァ───」

ズズゥー…ン

あーっと!号外っ!速報!ここで臨時ニュースです!
今週の暴れ血祭り優勝者のギガスマイト選手!まさかの熱戦自害──ッ!
ウサギは寂しいと何とやらと言いますが、我われには計り知れない勝利者の孤独な憂鬱が彼を襲ったとでもいうのでしょうか──っ!?

ギガスマイト「」

テトテト…テトテト…

ルナーク「クスクス…クスクス…」

あら可愛いね~。どこから来たの?
お耳のサイズの割には体ちっちゃいね~。

ルナーク「クスクス!クススス…」

テトテト…テトテト…

さぁ今週も始まりました怪異探偵ソリィバレッタ。
今回は趣向を変えて溶岩地帯からスタートしてみましたが、皆様いかがだったでしょうか?
さて今週はバレッタさまのご友人からの依頼の様子。ぽわぽわとした穏やかな雰囲気のご友人の来訪にバレちゃんマンも思わずお顔を綻ばせます。
ともすれば荒事の起こらない平和な日常回やもしれません。皆様どうか安心して縁側でティーでもブレイクする心持ちでいてください。
決して惨劇は起こりません。ええ、このレッドライ生涯ウソだけはついたことがありませんとも。

それでは楽しんでいきましょうっ!今週の血と暴力と殺戮の舞台ッ!
チャンピオンンゥーッ暴れ血祭りィイーっ!
レディイーッ、ゴーッ!

怪異探偵ガーベラ・バレッタの朝は遅い。
昼頃まで起きてこないなんてザラにある。

「おーそーい…この私を待たせるなんて、いい度胸してんじゃねえかバレちゃんマン」

ガウス「待たされたくないならアポをおとりください、お客様。…何も言わずに勝手に遊びに来るのが悪いと思うよ、おじさん」

「うるせーな秘書かテメーは。アポとるとか死ぬほどキライなんだよ金輪際私にそのクソみてえな提案するな、クソが」

バレッタ探偵事務所。応対室のソファーに寝転び、開いたファッション誌を顔に被りながら、ドレスを着た女が早口に呻く。
このドレス姿の娘さんとは先日、怪異事件の解決に協力してもらった縁がある。一応。

あの日からそう時間もかからずに偶然の再会を果たし、今やこうして探偵事務所に遊びに来る仲になった…と言いたいところだが。
実際は再会を果たしたのも、この場所だ。「面白そうだからしばらく張り付いてみるわ。バレちゃんマン」会うなりそう言い放ち、猛烈に抗議する─主に呼び名について─バレッタをよそに、ここに入り浸るようになった…というのがことの真相だ。

「別にいいだろオトモダチができたって思えば。ま、私は友情とかトモダチとか、だいっキライだけど」

ガウス「キライの多い娘だね…友達だって言うならいい加減、名前ぐらい名乗ってくれてもいいんじゃない?」

ガウス「ほら、呼び名がないのも不便だしさ」

「こーとーわーるー。テメーらが口にしていいような安っぽい名前は持ってねえ。王女殿下とでも呼んでろザコ」

ガウス「殿下ねえ…」

彼女は再会してからというもの、こういうふうに自分は王女あるいは女王の後継者と、そう主張してくることがたまにある。
最初はナイショにしておきたかったからな。ファースト・インパクトはオドロキが肝心、でしょ?
初めは冗談だと思ったが、どうも彼女は本気で言っているようだ。
もちろん私は最初から本気だ。次ジョーダンって思いやがったらマジぶっ殺す。
確かに身なりは立派だ。毛先が巻くように整えられた長い赤髪に、綺麗で豪華な赤いドレス。工夫を凝らした繊細な装飾のヒール靴。王冠のような髪飾りもあって、見た目だけなら本当にどこかの国の王女や女王にも見える。真実はどうだか知らないが。
真実見た目だけじゃねえっての。ケンカ売ってんのかテメー。

しかしこうしてだらしなくソファーに身を投げ出した姿を見ていると、やんごとなき身分の者だなんて話は到底信じられない。態度も口も悪すぎるしね。
そんなようなことを考えてると、彼女はソファーから身を起こし、

「だからうるせえっての。ケンカなら買うぞコラ」

ガウス「おじさんケンカは苦手だから遠慮したいな…キミほんとに怪異じゃないんだよね?」

「テメーなら霊気見ればわかんだろ。いちいちくだらねえ質問してくんなザコ」

…いや、ちょっと悪すぎるな。バレッタと会話している時は、口も態度もここまで酷いものじゃなかった。これはもしかすると…

ガウス「…おじさんのことキライ?」

「今頃かよ。けど一つ訂正な、オトコがキライなんだよ。オンナもそうだけど、オトコはもっと信用できない。これは性分みたいなもんだ」

「オマエが特別どうこうってワケじゃねえから。妙な気起こすなよ。もっとも──」

「大切にしてるハズの女にウソや隠し事をする、テメェみてえなロクデナシは特にだいっキライだけどな?」

ガウス「……!」

「フッ、わかりやすい反応してんじゃねえよ。心当たりがありますって言ってるようなもんだぜ!」

「なあフェルディナンド?答えろよ。ソリィちゃんがそんなに大切か?」

うーんナイス悪逆!陛下は今日もとっても可愛い!悪魔的魅力!魅力的悪魔!好き。

ガウス「…キサマ」

「ワオ!いいね、いいね、いいね、いいね!」

「何アナタ!叩いてもつついても、のらりくらりとかわしやがるクソつまらない野郎だと思ったら!」

「あの女が絡めばそんな目もできるんだ!やっぱりテメーみてえなイケメンはこーやって遊ぶに限るな?」

ガウス「何を…どこまで知って…」

「どこまで?全部だよ。調べたのさ、何もかもだ!私は興味を持ったら、すぐ調べるからな!」

「ネタバレ上等、早バレ歓迎。予習復習をきっちりこなし、本の続きが気になって後ろから読む女だからな私ってば!」

「しばらくテメェらをオモチャにするって決めたんだ。壊さずじっくり遊ぶためにも、オモチャの取扱説明書はしっかり読まないとな?」

ガウス「……!」

きゃらきゃらと笑う魔女を前にしてガウスは気が遠くなる。
この女はなぜそこまで知っている?調べたって、どうやってだ?
どうやってソリィのことを───

「スト~ップ。喋りすぎだぜ。情報を引き出すための匂わせはしても、答え合わせは今日じゃないっての」

「つーか興味もねえしな。私はテメェをイジメて、イイ顔が見れて、それで満足だし」

ガウス「…バレッタには」

「プッ。何ケイカイしてんだよ!心配しなくてもバレちゃんにも誰にも喋らねェよ」

「名探偵の推理中に、横から犯人の名前を口に出すヤボはしねえよ。それに…」

「お楽しみは、なるべく後にとっておかなきゃ。だろ?フェルディナンド」

ガウス「………」

決まったぁ───っ!悪逆!残忍!冷酷!最悪ぅ!
ルックス最高!性格サイコ~ッ!悪魔!吸血妖精!悪の華~ッ!
あ~もう好き!好き!好き!しゅきぃ~!たまらん~!
ハッ。そんなに褒めんなよ。聞き飽きてるぜ。
飽きないで~!もっといっぱい私に褒められて~!浮気しないって10回言って~!
浮気しませんー♡かける10~☆
なんか軽いー!

頬に手を当て意地悪く笑う魔女の顔が滲んでぼやける。熱を持った頭がガンガンと騒がしい。こめかみが軋む。吐き気がする。手の甲と指が突っ張って痛む。
倒れそうな怒りと恐怖の中、ガウスは奥歯を噛み締め、

ガチャ…

バレッタ「ん、ん~…おはようございま~…す。…誰か、バレちゃんって言いました?」

心臓が口から飛び出そうになった。怪異は内臓を持たないのだが。

ガウス「や、やあ…おそようバレちゃん」

バレッタ「おーはーよーうー…ございますー。さっきからしきりに…ガウス?ガウスですか?」フラ…フラ…

バレッタ「バレちゃん言うなって…言っへんれょおぉ…」フラフラッ

ガウス「おっと…寝惚けてるのか。昨夜はかなり遅かったもんね…」ガシッ

「大事な大事なバレちゃんに秘密、聞かれなくって良かったなぁ。なあ?」ニヤニヤ

ガウス「」ギロッ

「お~怖。熱々カップルにうっかり巻き込まれてケガする前に、早めに退散しておくとするか」

粒が散らばるように魔女の姿が消えていく。霊気の類いは感じないというのに不気味な女だ。

バレッタ「んんー……あれっ?今、殿下来てました?」

ガウス「遊べる様子じゃないから、もう帰ったみたいだね…カオ洗ってきなよ。酷い寝癖だ」

バレッタ「はぁーい…」のそのそ…

バレッタの悲痛な悲鳴が響き渡ったのは、顔を洗って寝癖を直し、自室に戻っていってすぐのことだった。

ガッチャン!

バレッタ「はぁっ…はぁー…はぁ!ヤバイ。やばい、やばい、やばい…」ぐるぐる目

ガウス「…どうしたの。バレちゃん」

バレッタ「ガウス!…私は急な用事ができました。しばらく事務所をあけるので、そのつもりで!」ドタバタバタ…

…カシャ

ガウス「慌ただしいなぁ。スマホ落としたよ…どれ」

スマホは起動状態で、メールを開いている。
内容を確認したガウスは納得して、

ガウス「約束の時間は…丁度だね。諦めた方がいいんじゃない?」

バレッタ「まだです!希望を捨ててはなりません。大抵の偉業は出来るわけがないと言われながらも…」

ズワッ

バレッタ「キャァアアアアアアア!?」

部屋の隅に展開された円形の転送アード。淡い色をしたそれは緩やかにくるくると回り、中心部から起動状態のショッカー※のリングに触れた人間の手が突き出ている。
イヤ…イヤぁ…!と静かに慟哭するバレッタの願いむなしく手とショッカーの持ち主が転送アードから抜け出てくる。
現れた女はバレッタを確認すると、のほほんとした笑みをさらに弾ませて、

ロニュー「バレちゃ~ん。こんロニュ~!私だよ~。待ちきれなくて早めに来ちゃった~!」エヘヘ~!

バレッタ「ロニュ~!やめて来ないで!帰って!バレちゃん言うなぁ~!」


対怪異実体用携帯霊的衝撃発生装置。通称怪異ショッカー。
怪異特有の霊気に反応して接触部位から霊的なショックを浸透させる。出力にもよるが強力なものだと一般的な家屋サイズまでの怪異ならば制圧可能。
怪異以外には発動しないことと怪異以外を対象とした武器として使うには不向きな形状から所持するだけならば罪には問われない。しかし訓練を積んでいない者が怪異に対して攻撃するのは逆に危険なので購入には免許が必要。
昨今一部のメーカー品が解析されたことによる違法なリミッターカットが問題視されている。
これわざわざ全部読んでるキミはえらい。

バレッタ「あの…これ、粗茶です。ご一緒にぶぶ漬けもいかがでしょうか?」そっ…

ロニュー「うむうむ~。苦しゅうな~い」

直接的にも遠回しにも帰ってくれの言葉は通じず、お茶をすするロニューを見ながらバレッタはため息をつく。

アァーロロニュー・レプラコーンは怪異研究家の一般マッドサイエンティストだ。いつかの怪異事件に巻き込んできて、それを解決してからというもの、何かトラブルがあれば探偵事務所に持ち込んでくるようになった。

報酬はかなり弾んでくれるが、本人の人格も人格なので正直あまり関わりたくない。

ロニュー「で、ブブヅケ?だっけー。おいしそうだけど、今はやめとくよ~」

ロニュー「これでも焦ってるからね~。けっこう緊急事態なんだよ~」

バレッタ「…とてもそうは見えませんが、仕事の話なら一応聞きましょう。今度は何をやらかしたのです?」

ロニュー「エヘヘ~。今日はねぇ、失くし物!うちのモ…ペットが逃げ出しちゃって~」

バレッタ「今さら何を一般ピーポーぶってんですか…モルモットはどこで見失ったんです?最後に見た場所は?」

ロニュー「ペット。最後に見たって言うかー…今いるであろう場所っていうかー…えっとね、あのね、あのぉー…」もじもじ…

バレッタ「……?」

ロニューが赤面しながらしきりに自分の指を揉む。
イヤな予感がする。はっきり要領を得ない時のロニューは、特にとびきり激しいトラブルを持ち込んできているのだ。

ロニュー「モッ…あの子、今…溶岩地帯にいるんだー…」

バレッタ「はっ?……。…はぁ」

ロニュー「お願い!とっても暑くて、蒸し暑くって、視界最悪、灼熱と噴煙の霊気渦巻く、危険な溶岩地帯で私と一緒にデートしてっ?」パンッ

バレッタ「…………はぁあああああ…」

あまり驚きはない。怒りすら沸いてこない。
手を合わせ、頭を下げ、必死に拝んでくる友人マッドサイエンティストを虚ろな目で眺めながらバレッタはこれからの人類の行く末について考えることにした。
結論は出なかったが有意義な時間にはなった。

───研究室。

ルナーク「ルナ、ルナ…」ジタバタ…

ロニュー「こらこら、暴れないのー…」

ルナーク「ルナ!」ベシッ、スタッスタタタ…

ロニュー「痛っ!あっ、こら!」

ルナーク「ルナ!」カチッ!ブインッ

ロニュー「そ、それに触っちゃダメー!」

ルナーク「ルナ!」ズワッパシュン!

ロニュー「あぁ───!?」

ホワンホワンホワ~ン…

バレッタ「で、プリズン・ブレイクに用いられたのが溶岩地帯用の転送ショッカーだったと」

バレッタ「ワンタッチで動くショッカーの改造品なんかその辺に転がしておくからです。研究者なら整理整頓片付け、きっちりしておきなさい」

ロニュー「はぁ~い…って、誰の研究室がアルカトラズのシャトーディフやねん。さすがに言い過ぎやろー」

バレッタ「そこまでは言ってませんが…」

転送アードはロニューが独自に開発した、怪法術の一種だ。
霊気によって怪異の定める法を世界に通し、既存の物理法則に縛られない特殊な現象を引き起こす怪法術。ロニューの専門は怪法術の研究である。

転送ショッカーとは怪異ショッカーの霊気を帯びる性質だけを利用して、ショッカーの霊的攻撃性を取り除き、転送アード法を上書きしたものだ。
用途の性質上、人間にも通じるようにしてあるので違法スレスレというか、ぶっちゃけかなり黒よりの黒だ。

見た目よりヤバい代物なんだから管理ぐらいちゃんとしておけ───とは何度言った言葉か、もうわからない。

ブイ────…ン

『ハブルブネシュカ─溶岩─』と書かれた赤いラベルの貼られた転送ショッカーが起動状態の音を立てる。
赤く灯ったリングに触れると現れるアード、このアードを通り抜けると転送完了となるのだ。

ロニュー「あ、忘れてた。はい、これ」スッ

バレッタ「?何です、これは…ネックレス?」

ロニュー「うん。私が作った対ルナークネックレス」

バレッタ「…ルナーク………」

ルナークといえば狂気誘発法術ルナークス怪霊気を用いることで有名だ。
ルナークの発する特殊な霊気に触れると、怪異であろうと周囲の誰かを殺したくなり、死にたくなる。
人里まで降りてくることは滅多にないが、迷い込んだ一つの町を潰した事例もあり、その道のプロならあまり触りたがらない。
なんてもんモルモットにしてんだ、このアマ。

ロニュー「エヘヘ~。危険でしょ?だからそのネックレス、しっかり着けて外さないでね」

よく見ればロニューも同じものを首に着けている。

バレッタ「…そういえば、ガウスは着けなくても大丈夫ですか?」こそっ

ガウス「契約の繋がりがあるから大丈夫…と言いたいところだけど」

ガウス「おじさんは自分で防御できるよ…事前に知らされてるなら大丈夫」

霊体化したままガウスが答える。ガウスはバレッタにとっての切り札なので、なるべく秘密にしておきたいのだ。

バレッタ「そっか。それなら大丈夫ですね…じゃあ行きましょうかモルモット探しの旅へ」カチリ

ロニュー「ペ・ェ・ッ・ト・ー!」ズワッ

溶岩地帯は酷い有り様だった。
怪異実体の亡骸が多数転がっている。激しい損傷からして明らかに戦闘行為の結果だ。

バレッタ「…ルナークでしょうか」

ガウス「多分ね…ルナークス怪霊気の残り香がある。ネックレスも反応してるみたいだ」

ビイ────…ッ

恐ろしさに身震いする。死後残る怪異実体が多数あるだけでも倒れそうになるのに、今探しているペットはそれらを皆殺しにできるのだ。

ルナーク「ルナ!?」ビクッ

ロニュー「あっ…」

ロニュー「あ───っ!見つけたぁ──っ!」

ルナーク「ルナ!」ササササッ

ロニュー「待てコラ!」ザッ

待てぇ───…

バレッタ「…彼女は恐れを知らないんでしょうか」

ガウス「…まあ、あれぐらいじゃないと研究者なんて務まらないんじゃない?特に怪異なんか相手にするには、さ」

ルナーク「ルナ!クス!」スタタタッスタタタタッ

ロニュー「待てコラーっ!あっ、そっちは──」

ルナーク「ルナ!」ツルッ!バシャァアン!ボワッ!

ロニュー「危な…うわ────っ!」

バレッタ「あっ…死にましたか。そんなにロニューがイヤでしたか…気持ちはわかりますけど」

ロニュー「私のモルモットがぁ───っ!」

やっぱモルモットじゃねぇか。

ロニュー「うっ、うぅう…」ズシャ

バレッタ「…ロニュー?」

ロニュー「うっう…ひっく、うぅ~っ…」

バレッタ「ロニュー…」

思わぬ投身自殺にロニューの目にも涙。彼女にも人間の心が残っていたのだろうか。

ロニュー「あれ高かったのにぃいいいいい…」

バレッタ「まあ…そうですよね。あなたはそういう女です…」

ゴゴボ!ゴボボゴ…

バレッタ「ほら、いつまで泣いてんですか…自分で歩きなさい。男の子でしょ」

ロニュー「うぇええ~…女の子だもーん…ひっく、ひっく…」

ゴボボボ!ゴボボボボッ!

ギラン!

ドワッバァアアアアアアアアン!!!

背後。哀れなルナークの亡骸が眠る場所から、

バレッタ「なっ…」

ロニュー「えっえっえっ?何何何!?」

マグオーン「マグォッ…ォ、オオ、ォオオオオオオオオオンンンンン!!!!!」

ブゥン!ブン ブン!ズバシッ

燃え盛る炎の耳にルナークの面影のある、しかし遥かに巨大な、マグマの怪異が現れた。

マグオーン「」ギラン!

バレッタ「なっ…なっなっなっ…」

ロニュー「うそうそうそうそうそ!?でかすぎっ…」

マグオーン「ガギャギャァアッ!」バ ルウッ

ロニュー「ふ、ふわぁああああっ!?」

バレッタ「ガウスッ!」

ガウス「うん…」ズワッ

ロニュー「ふぇえええっ!?誰!」

グッバッバッグッ

ガウス「『タイム=ロック・カプセル』」ピシィイイイ────

バガシャアッ バジュゥウウウ────!!!

ガウスの怪法タイム・ロック・カプセル。冷凍時間法による時間凍結霊気であらゆる攻撃から身を守る。

ガウス『(マグマなんかじゃ、破れないよ─)』ピシィパキパキ、

パキィイイイ────…ン

マグオーン「バジュ…!?」

バレッタ「逃げますよ!」パシッ

ロニュー「えっ…でも、あのヒトは…」

バレッタ「怪異だって、わかるでしょ!おバカ!いいから逃げる!」

タッタッタッタッタ…

マグオーン「」ギラッ

マグオーン「マグォ!…ォオ───ンッ」バ ワッ

ガウス『(…何っ!)』

マグマの怪異が口から熱線を吐く。その狙いは目の前の自分…ではなく。

ガウス(くっ…間に合えっ!)バッ

ガウス『』ジュバァアッ!バジュゥウウウッ!!!

ロニュー「キャァアアアアアッ!?」

バレッタ「私たちの方を、狙ってきた…?あなた、今まで彼にどんな扱いしてきたんです?」

ガウス『(ぐっ…)』ドシャァアッ

マグオーン「」ズン、ズン…

ガウス『(まいったね、これは…)』

あの怪異はどう見ても家屋サイズってレベルじゃない。バレッタの怪異ショッカーには頼れない。

マグオーン「マ…アグ、アグォオ───…ン」ズン!ズゥン…

ガウス「おじさん、ほんとにケンカは苦手なんだけどな…」

マグオーン「」グ バ ァオッ

ガウス「」サッ

カカカカカカカッ、カッカッ!

「ヒュルルルルルルルルルルルル」

カツ、カッ!

「ヒャオ!」

バ ァ オッ!

跳躍っ!そして空中飛び膝っ!
ガウス氏を襲うマグオーンの、文字通りの魔の手に激突ゥ────っ!
いや飛び膝蹴りは普通宙に浮くものだけども。

ブァギィイイイ────ッ

ガウス「うっ!?」

マグオーン「ガギ、ギャァアアアッ!?」バチィイン、ズン!ズン…

カシィン、カシャァア──────…ッ

「」シュリィン!

決まった!滑るように踊るように弧を描いて綺麗に着地。
確実に靴をダメにする着地。しかし陛下は、そんなやわなヒールは許さないッ!
好きなものに妥協は許されないッ!そこに濡れるゥ!憧れる!

「ふ~ん。こいつが今回のオモチャってワケぇ?自由にいじって壊すんでしょ?」

もちろん!もちろんもちろん!もろちんです、陛下ぁ~っ!

「だよなぁ!…いま何かヘンなこと言わなかった?」

何も喋ってません。黙秘権を行使します。

「…まあいいや。おいザコイケメン。私の助けは必要か?」

ガウス「いらないよ。特にオマエなんかの助けは…って言いたいところだけど」

ガウス「正直、かなり助かった…情けなくて、泣けてくるけどね」

「プッ。ほんとに情けねぇな!女逃がすのに他の女の手、借りるとか!」

「ま、私は優しいからな?そんなに情けねぇザコ野郎も─」カツ!

バギャンッ!

マグオーン「ガ!ギャオッ」グワ バッ

「」クルリッ

バギャァオオオオッ!!!

空中で身を捻り、背中からマグパンチと激突ゥ!
自分より体格が遥かに勝る相手には、身体丸ごとでェ!ぶつかるゥ!俗に体パンチというやつですねー!
特に背中は殴れる一面としては非常に広いので、皆さんも怪進化体と戦うときは是非お試しくださ~い!
ちょっとだけタッパで負けてるだけだったり、同格相手にするなら低い位置から突き上げる肩もオススメですよ。
裏拳、腕、肩と肘をコンパクトに立て続けにぶつけるのが隙も少なくて私のジャスティスですねー。

マグオーン「ガアッ」ズゥン!

カッ、カッ!クルリッ

マグオーン「ギャワッ!」バオッ

ボワォ!ギャッ、ギャッ!

「」バギャァアアアアアッ!!!!!

マグオーンの黄金の左に合わせた、魔力をまとった右ストレート!ジャンプ漫画の主人公みたいでお手軽に必殺技感だせるけど隙だらけだし、外すとめっちゃ恥ずかしいからあんま好きじゃないのよねーアタイ。

マグオーン「ギ、バギッ」ドズン、ズン!ズン…

「」サッ!ギュ─────…ン

ガァ──ーン!

マグオーン「ォオオァ─────ッ!?」

チュドォオオオオン!!!

相手を指さし、魔力の弾丸ッ!その威力は1ターンのスタン状態を受けた相手に付与するぐらい。
弱体無効持ちに撃たないよう気をつけてネ!
私はいつもアトラスだからよくわからんがね。

「──ついでに逃がしてやるよ。優しいだろ?私」

ガウス「ありがたいけど…そこまで甘える気はないな。バレッタたちが逃げ切るまで戦ってくれる保証もないしね」

「ハッ…好きにしろ」

マグオーン「ガギッ!ワギィッ」ブゥン!ブンブゥン!ブウウウン!

マグオーン「バギギャアッ…ォオン、オオ、ォオオオオンンン!!!!!」

決まったァ────っ!陛下っ!素敵っ!好きっ!
抱いてっ♡私の体を好きにしてっ♡滅茶苦茶にしてぇ───っ♡
任せなぁ!尻の穴までガバガバにしてやるよ!
ふわぁあ~っ♡♡♡きゃぁあああ~っ♡♡♡♡♡

ドドォ…!ドドォ…!

タッタッ…

バレッタ「ハッ…ハッ…」

ロニュー「はぁはぁっ…はぁ──っはぁはぁ…はあはあ、はあはあ…」

バレッタ「…くっ」チラッ

ずいぶん遠くまで来た。あのマグマの怪異の姿はおろか、声まで聞こえない。

バレッタ「…帰りましょう。ロニュー…ああなってはモルモットも何もないでしょう」

ロニュー「はあはあ…はぁ…!はぁ…」

ロニュー「………」ハァ…ハァ…

ロニュー「だ…ダメ…なの…」

バレッタ「ロニュー!あなた…」

ロニュー「違う!…違うの。あのね、対ルナークネックレス…作動してる…」

ビイ────…

ロニュー「ルナークス怪霊気!…まだ生きてるのぉ!」

バレッタ「……!」

恐怖で血の気が引き、呼吸が一瞬止まり青ざめる。
脳裏によぎったのは、あちらこちらに散らばる怪異実体の死骸。あれがルナークのサイズで作り上げられた景色だというのであれば。
あれがもし人間の町に現れれば、ああも膨れ上がったマグマ怪異のサイズであれば、一体どれほどの。

ロニュー「ルナークをこのままにしてはおけない…でもだからって、どうすればいいのぉ…!」

バレッタ(…………)

バレッタは考える。
マグマの体。マグマは溶岩。溶けた岩。溶けて、どろりとした体。固まってないから動ける…

バレッタ「冷やす…冷やしてみるのは、どうでしょう。マグマの体なら冷やして固めれば動けなくなるはず…海に沈めるんです」

ロニュー「えっ…」

バレッタ「転送アードですよ。転送ショッカーでルナークを海に飛ばすんです!」

ロニュー「で、でも…あんなおっきなサイズが通るアードは…」

ロニュー「待てよ…?変換せずに、アードの代理をショッカーの霊的衝撃に…ショック霊気をそのままアードに…」

ロニュー「足りないパワーは…リミッターカットで補えば…」

ロニュー「…うん!バレちゃん、怪異ショッカー貸して!壊してもいいかな?つーか壊す」

バレッタ「!…弁償してくださいね。市販品とはいえショッカーは高いんですから!」スッ

ロニュー「うん!ありがとバレちゃん!」

バレッタ「礼には及びません。それと…バレちゃんは、やめてください」

ロニュー「バレちゃんマン!」

バレッタ「それもやめてください!はやってるんですかソレ!?」

マグオーン「ギャワッ!」バオッ

ズズゥウウ───…ン!!!

「…くっ!」ギリッ…

凶悪!マグマチック・ビッグボディでのストンピング・ヘルズスタンプ!
ブリリアントクロスガードでとっさに防御した陛下、身動きがとれなァ────い!

「勝手にダセェ名前、付けんなっての…!」ボワ…

ギャッ!

バギヤァアアアアアアアッ!!!

マグオーン「アンギャア!?」

陛下!腕を引き抜き渾身の魔力アッパーカット!
マグオーンこれにはたまらずたたらを踏むゥ──!

マグオーン「ガッ…」ズン、ズズゥウン…

マグオーン「……」チラッ

ガウス「…ン」

ガパッ

マグオーン「ギャワッ」ドギャッドギャ!ドギャーッドギャッ!

芸達者!口から吐き出すマグマ球火炎弾!
灼熱溶岩弾の雨はガウスの方へと───!

ズバラァア─────ッ!

ガウス「──フッ!」

タッタン!タァッタッ!タンダァ───ン!

ドギャアッ!ボガッドガドガッボガ!グワシャアア────

意外や意外!ガウス選手ッ体格に似合わぬ軽やかな身のこなしで溶岩弾を避けまくるっ!
しかしっ!だがしかしっ!

ギャバァ───────ー

それは油断か限界かッ!?一つ避け損ねているぞォ──ッ!
迫る隕石溶岩弾!

グ ワ ッ

ガウス「」グッババッグッ

グワシィヤァアアアアア…ッ!!!

ガウス「タイムロックカプセル…!」バラ…

よし、このやり方だ。避けられる攻撃は自力でかわして、当たりそうならばタイムロックガード。
これで消耗は最小限に抑えられる。

マグオーン「バオッ…!」

「ほら、よそ見してんじゃねェよブタ!」ガァ──ーンガァ──ン

マグオーン「」クルッ!ズシン、ズシン…

スカァスカ!

「あァ!?」

ズシィン!ズシィ!ズシッズシッズシア!

マグオーン「マグォオオ────アッ!」キュドッ

ガウス「くっ!…こっちへ来たか」

倒しやすく見えた方から片付けるつもりかな…ナメられたものだね。

マグオーン「ギャバ!」グワバァッ

ガウス「『タイム・ロックカプセル』」ピキィイー

バギャギィイイイン!ジュワォ…ッ

バジュゥウウウウウウ…ッ

ガウス『(掴まれたか…けど)』ピキィイイイ───…

マグオーン「ガァッ」ググググ!グ…

バジュゥウウ…!ジュワドロッ

ガウス『(………何ィ!?)』ピキピキドロドロ

バジュウ!ドロ!ドロジュワ!ジュワドロッ

パキパキパキ…!

バキィイイイイ────…ン!

ガウス「…なっ」

マグオーン「ガアッ!」グッググ!

ガウス「ぐわァ!」ボジュゥウウウウウ…!

タイムロックガードが破られた…!?コイツ…何て熱量をしているんだ…
こんなものマグマの温度のそれじゃないぞ…!

ガウス(だ、だめだ…意識が…)バァアジュゥ────…!


カッ、カッ!

「私を無視してお楽しみとか、いい度胸してんなテメェ!」サッ!ギュ────…ン

モンハンとかでも戦ってる私を無視して長距離突進でどっか行かれると泣きたくなりますよね。

ガァ───────ーン!

マグオーン「グギャガァアアアッ!」バギィイイン!

ガウス「ガはっ!」ズシャァアアアッ

ズゥン、ズンズン…

ガウス「がはっ!あ…あ、アア…!」ゼェ…ゼェ…

カツン!

「よぉー生きてるかよ?ザコイケメン」カツン、カツン…

ガウス「はは…まいったね。おじさん、役立たずになっちゃった…」シュー…シュー

「見ればわかる…別にいいんじゃない?元々いてもいなくても変わんなかったんだしぃ☆」

「ザコ野郎のケガ人はみっともなく泣きながら、女のトコに逃げ帰ればぁ?ほら逃げろ逃げろ♡シッポ巻いて情けなく、負け犬みたいにキャンキャン吠えて逃げろ♡」

ガウス「ここはオレに任せて先へ行け!…かい?」ゼェ…ゼェ…

「キャハッ!…別にアレを倒してしまっても構わないんでしょ?」

ガウス「フッ…今はその口ぶりも頼もしいよ」グッ

ガバッ

ガウス「…任せていいんだな?」

「しつけぇよブタ。ザコ野郎はザコ野郎らしく泣いて感謝しながら、黙って潔く逃げ去って死ね」

ガウス「…フッ」ザッ!

タッタッタッタ…

マグオーン「ァアッ…マグォ!ォオオ───オオン!」ブン!ブンブンワギャァアアアアッ

「来いよ!ブタぁ!」

マグオーン「バオッ」メギャン

マグオーン「」バギョァワ─────ッ

マグオーンのキバ付きクチバシ!猛攻ラッシュ!
陛下これを飛び跳ね避けるっ!

ギャン!ギャンギャンッ!ギャワッ

ピョンピョンピョン、ピョォオ~~ン

「オイいいのか?そんなカンタンに──」フワオッ

ガシィイイイイッ

「急所(クビ)なんか、差し出してぇ!」ガシィガシッ

マグオーン「ガッ…!?」メシッ

陛下、上品に両足を揃えて、マグオーンの首に腰かけたッ!
そのままマグマの耳を抱え、上半身を後ろに倒して体重をかけるッ!

「」グオンッ

マグオーン「グオッ…」メシ…メキッ

溶岩が軋み、悲鳴をあげるッ!巨人の首を折った技だァ─────ッ!

メギバギバギバギブギブギィイイイイッ

マグオーン「───」ドロッ…ドロッ…

「はい、いっちょあがり───」

マグオーン「………ッ」ブルブルブル…

「──あっ?」

マグオーン「ォオオッ!」グリャ!ッン

「きゃあッ!?」バヂィイッ

きゃあ。

「ウソだろテメェ!何で死なねえ!?」カッ、カッカカッ!

マグオーン「オォン!ォオン!ォオオオン!」ブン!ブンブンブン!ブン

ドロドロ!ドロッドロ…

「あ、あぁ~…ナルホドね。マグマだもんな。首の骨とか、あるわけないか…」

「ヤバいな…私の攻撃力じゃコイツを殺せねえ」

きゃあ。ねえ今きゃあって。

「クソが。ドロドロ液体野郎なんか、もう二度と相手にしねぇ」

ねえねえ、いま陛下きゃあって。ねえ。

マグオーン「マグォッ!マグオ!オォ…ォオオオオオオン!!!」

ビリビリビリッ!ビリバヂバヂ…ッ

「…ハッ。上等じゃねえの!時間稼ぎのシャッター防壁。無意味で不毛な殴り合い!」

カッ、カッ!カツ

胸に手を当て、片手を広げ、目を閉じ足を交差させる。
回るように。眠るように。躍りの相手を誘うように。

「ふざけ倒し、踊り狂い、戀焦がれる。道化は私の本分よ」

「沈み砕け散り溶け込んで、膨れ上がって壊れた自由の願いと夢の最果て。私と死ぬまで戦りましょう?」

マグオーン「ォオオ!オオォン!オオオオオォ───ン!!!」グ ワ ォアッ

ガウス「ハァ!ハァ…ハァ…!」

膝に手を当て、息をつく。戦闘の音はもう遥か遠い。そして、まだ聞こえているのだから多分あの女も死んではいない。

バレッタ「ガウス!」

遠く頭上から声がする。見上げるとバレッタが崖上で怪異ショッカーを掲げている。

バレッタ「ショッカーを寄越します!起動して、あのマグマ怪異にブチ当ててください!」

ロニュー「ショックを受けるかわりに海にブッ飛ぶようにしたから、起動したらリングには触らないでねぇ~!」

ガウス「何っ…」

────ォオオオン

ガウス「…!?」

霊的雄叫び。近づいてくる。
バカな、早すぎる。戦闘の音が聞こえてからそう時間は経ってないぞ。
それにヤツがここに来るなら、あの女はどうしたのだ?
悪魔のような女とはいえ自分たちを守って死んだのでは、さすがに寝覚めが悪い。

マグオーン「ギャワ────ッ」バ ウ オ ッ

マグオーン「ガァアッ!ガァアアアッ」ズボァアア────アアッ!!!

バルォ…バロロロロ…!

ガウス「炎の翼…?あんなマネまでできるのか…!」

マグオーン「」ズ ドォアアアア…ッ

グラ!グラッグラグラ…

ロニュー「ふうぇえええっ!?」グラグラッ

バレッタ「キャア!?」ポロッ

ガウス「くっ…!」ヨロロッ…

グラォ!…ゴゴゴゴゴ…!

マグオーン「ギャワァ───アアッ!」グッパオン

…カシャン

ガウス「怪異ショッカー…確か、これを使って─」スッ

カチッ…ブインッ

バヂン!バギッガラララララ…

ガウス「うっ!?…リミッターカットか」

そのぐらいは必要か。あのマグマ怪異は明らかに家屋サイズでは収まらない。

バヂイン、バヂヂ…!

ガウス(……)スッ

マグオーン「マグォ、マグォ…」ズシィン、ズシィン…

ガウス「くら───」

マグオーン「ギャワァッ!」ドギャッドギャ!

ボガァッ!ボゴォ!グラグラグラッ!

ガウス「うおっ!?」スポッ

ワォオオオオン…!

ガウス「しまった!コントロールが…!」

マグオーン「バギャァアアアア────」ガはァ

暴投。
溶岩弾の炸裂。振動に足を取られ、射線は僅かにマグマ怪異から逸れて、起動状態のショッカーが宙に舞う。

バヂ、ババヂヂ…!

マグマ怪異の肩を飛び越し、空しく霊気の炸裂音を響かせるショッカーの先には。
まるで、空中に突然現れたような───

「キャッハ…やっぱり私の勝ち」

底意地の悪い笑みを浮かべた、悪魔のような、あの女。

「──おらっ!」バァシィイイイイン

空中で叩き落とされたショッカーは軌道を変え、マグマの怪異へと吸い込まれるように向かい、そして──

マグオーン「──」ピヤォオオオオ───…ッ

…パシュンッ

グレムール・デッドエリア。
グレムール島、リングレー島、リーングレム諸島に囲まれるような形のこの海域は、昔から原因不明の沈没事故や墜落事故により、多くの船や飛行機を飲み込んできたことから『悪戯妖精の遊び場』と地元では呼ばれ恐れられている。

ズワッ

マグオーン「」ザボァアアッ!!!

バジュ─────…ッ

マグオーン(…………)ゴボゴボ…ゴボゴボ…

マグオーン「ガバ!ガボァッ!ギャバ…オ、オォオン」ザバッ!ザバザバ…ガバァアッガバ

バジュゥウウウ!!! ボォジュゥウウウウ…

マグオーン「バジュウ!ガバッ…オ、オオン!オオォン、オォオオン!」ズバズバッズバ!ズバッ

マグオーン「ォオオオォオオオオ───ッンンンンン!!!!!」

バギィイイイ─────…ン…!!!

岩『』ゴ ボ アッ…

マグオーンは岩になった。
意思も自我も霊気をも失い、怨念のみが突き動かしたマグマの体も動かなくなり、恐ろしき狂気誘発ルナークの脅威は完全に消え去った。
だが忘れてはならない。
彼もまた、一人の無責任な人間の、身勝手な欲望に振り回された、哀れな犠牲者であった事を…

ゴボボボ… ゴボボボボ…

怪異ルナーク
永眠。

バレッタ「──た、助かっ…た…?」

ガバッ!

バレッタ「うわっ」

ロニュー「うぇ~ん!ほんと助かったよぉ~!ありがとぉおお…」グシグシグショグショ

バレッタ「ああ、もうわかっ…わかったから。わかったから離れなさ…い…」グイグイ

ロニュー「うぇえぇええ…ありがとぉおお…ありがとありがとありがと…」ギュー…

バレッタ「離れなさいってば…力強いなコイツ。これに懲りたらショッカーの管理はちゃんとしなさいな…」グイー…

バレッタ「ああもう鼻水が…」

ぎゃあ、ぎゃあ…

ガウス(………)

ガウス「──あ、そうそう。今回はキミも…」クルッ

ガウス「助…かっ…」キョロ…

あの女は忽然と姿を消していた。
悪魔のような女かと思えば、突然現れヒトを助け、礼も聞かずに風のように跡形もなく消えるとは。

ガウス「おかしなヤツだね。ほんと…」

騒ぎ立てる探偵とマッドサイエンティストの攻防を見上げながら、ガウスは腕を組んで静かに呟いた。

───研究室。

ズワッ

ロニュー「ただいま~!あ~!やっと帰ってきた~!」

ロニュー「もう脱走騒ぎはこりごりだよ~!…ん?モルモットの数が合わな…」

バヂッ…ババヂヂ…

ロニュー「…はっ!」サー…ッ

ブイ────…ン…

青ざめるロニューの視線の先。
研究室の床には起動状態の転送ショッカーが複数、転がっていた。

ロニュー「バレちゃん、ごっめ─────ん!今度は世界旅行に付き合って!」パンッ

バレッタ「………!」

バレッタ探偵事務所。再び拝んで祈るロニュー。血の気の引いた顔でわなわなと震えるバレッタ。霊体化したまま静かに頭を抱えるガウス。

バレッタ「あ・ん・た!って!人は────!!!!!」

バレッタの叫びが探偵事務所の屋根を貫いた。

ロニュー「皆も戸締まりに気をつけて、遊び終わったオモチャはちゃんと片付けようね!」

バレッタ「バレちゃん言うなー!」

皆さ~ん、こんロニュ~!私だよ~!
私ねー、今ねー、研究友達にオススメされた、あるゲームにハマってるんだぁ~!
勇者が王様に命じられて、悪いやつを倒しに出かける王道冒険ものなんだけど~!
何と冒険の途中である隠しアイテムを集めてー!終盤の選択肢でラスボスにトドメを刺さないを選ぶとね~!
何と王様の真意と真の裏ボスを倒すルートがぁ…
あ~っ!ネタバレしちゃった!ごめんなさ~い!
あっ!うっかりしてた!次回はね、ロボットものだよ!えっ?違う?
とにかく楽しみにしててね~!おつロニュ~!
次回、怪異探偵ソリィバレッタ
「夢を叶えてドリームラン」
ところでキミ、怪異研究に興味ない?大切に扱うからウチ来ない?

「夢を叶えてドリームラン」

ドリームフラッシュホーン ギャンドーズ
電脳機デストロイヤー バサカロン:キルソーン(バーサステッドバーサーク)

登場

バギャガァアアアッ!ピロロロロ…



どんどんいきましょう

「赤いドレスは血の先触れ」
>>1から
「ルナチック・マッドメイク」
>>41から

ピロピロピロリッ、ピロピロピロリッ
ピロピロピロリッ、ピロロロロロロ…

バサカロン「(電子音)」カコカコカコ…

ガシャン、ズバシッ…
ガシャン!ズバシッ

バンゲート「止まれ、きさ─ぐわっ!」ズバッ

ソルージャA 「待っ─ぎゃあ!」ドズン!

ソルージャB「ひっ…!」メキメキメキ…メシッ

ロイヤルガ「うお~っ!」チュドォオオン

ガシャン!ズバシッガシャン…

バサカロン「………」カコカコカコ…

堅物な防御扉「」ズォオオオン

バサカロンの右腕武装はデッドエンド・アビスクラッシャー。
7000万シャワもの馬力を誇るクローハンドは球体状のマガラグナ隕鉄を容易く掴み、粉砕する。
人間の武器に対する防御扉など紙も同然。

ガシィッメリメリメリ…バキッ

堅物な防御扉「ギャァアアアア~!」メリメリメリ…

ズドォオオンン!

バサカロン「」ガシャン!

ヒョォオオオオ…

キングロー「」ヌワッ

キングロー「おぉ~…この王の間に、何用じゃ?来訪者よ…いや、」

キングロー「勇 者 あ あ あ あ よ!!!」

バサカロン「……」プシー…

キングロー「よもや、よもやだ。勇者たる貴公がこのような暴挙、気でも違ったというか」

キングロー「であれば致し方なし。秩序の王、キングローの剣をもって狂いし勇者殿に許しと暇を与えよう」

バサカロン「……」(電子音)

キングロー「…フッ、怒りと驚きで声も出ぬか。返事ぐらいせぬか勇─」クルッ

キングロー「えっ誰?」

バサカロン「」ズワッ

バシュ─…ン

キングロー「誰?」

バサカロン「」ゴオ──ッ

キングロー「いや誰?」ガギィイイイン!

フレーメア・バーニアによる長距離跳躍。エンシェントチェイルブレードの振り下ろしをキングローの大剣が受け止める。
レフトハンド・パワー・グロステップに取り付けられたエンシェラスタ鋼の巨大なブレードは一振りでダイナマイト1万発分の威力を誇る。
いかにゲーム中トップクラスのステータスを持つキングローといえども自分の身を守るのが精一杯だった。

バサカロン「」(電子音)グググググググ…

キングロー「いや誰?こいつ怖っ。力強っ」メリメリメリ…

バサカロン「」カコカコカコ…

キングロー「なんで何も喋らないの?」

キングロー「もしかしてワシの政敵クライムオー討伐に騙して出発させた勇者ああああか?だとしたら人間やめすぎじゃろ」グ…グ… 

バサカロン「」ガシィッシュバッ

キングロー「おっ…」

王の油断。力の拮抗、一瞬の隙をついて破砕クローが剣の切っ先を掴む。
ブレードを除けたバサカロンの胸部に妖しき紫の粒が集まる。

バサカロン「」ギュ─…ン

シュパァ……ッ

キングロー「──かっ」ゴボッ

胸部三連主砲ギガロンボレー。
胸部中央のインビジブル・ディメンジョンコアから、粒子化した劣化ギガントプロトンを秒間7万2000発、撃ち出す。その威力はボレー級の隕石18発分に匹敵する。
ごくありふれた中世ファンタジーを舞台とするこのゲームのキャラクターでは当然、防げるハズもない。

キングロー「お、王のレガリア…キング・ロゥ・ズォードごとワシの体に風穴をあけるとは…ブハッ!」ゴバッ

キングロー(いやていうかコイツ誰?出る作品間違えてるよ絶対)

キングロー「」ベシャァアアア

バサカロン「………」キョロ

ヴィイイ─…ン

バサカロンは周囲を超高性能センサー、グラッピング・ネイルブラアシッドを用いて部屋中を探索する。どうやらもうこの世界には何のイベントも起こらないようだ。

ヴィイイイ─…ヴ─…ン

バサカロン「……」(電子音)

バサカロンは爆裂レイザーの発射準備を始める。通常発射までにゼロコンマ1秒もかからないが、世界丸ごと焼き払う規模のものには17秒ほどのラグがある。

バサカロン「」ピィ──ッ

チュドドドドォオオン!

右胸部装甲の隙間から放つ電脳爆裂レイザー。
発射口から360度あらゆる方向へ折れ曲がるレーザービームは無差別な大量破壊に適している。

バサカロン「」ピィ──ッ

ズドドドドォン!

バサカロン「」ピィ─ッピィイッピイ──ッ

ズドォ─オン!ボゴォオン!
バグォオオオン!ボゴォアア──…ッ

バサカロン「………」カコカコカコ…

闇に燃え盛る炎、虚しく乾くスクロール点滅の音。
電子媒体に記録するのは何度目かわからない景色といえど、機械の悪魔に喜びも怒りも嘆きもない。
当たり前に壊し、ただ当然に燃やす。
昔からの行いに、疑問も抵抗もない。
破壊と殺戮だけが彼の本質であり、彼にそれ以外は何もなかった。

─パルォオオオ…

バサカロン「……?」

ふと眩しさを感じ、見上げる。
幾度も星の数ほど世界を破壊してきたが、こんなことは初めてだ。
眩しさの先には、どこにでもあるような、ありふれた平和な風景が、ただぽっかりと浮かんでいた。

バサカロン「………」ズイ

シャボン玉のように浮かぶ町並み。バサカロンは景色に向かって何となくクローハンドを伸ばす。
すると、

ギュワッ

バサカロン「……!」

バサカロンの質量1700万トンの機体が浮き上がった。
違う、引っ張られている。風呂やプールの栓を抜くとお湯や水が抜けるように、シャボン玉の町へと向かってバサカロンの機体が吸い込まれる。

バサカロン「……」ゴォ──ッ

バスケットボールほどに小さく見えた景色は近付くにつれ現実的な実感を帯び、飛び込むように侵入を果たすと、そこは一つの世界だった。

バサカロン(………)

町並みを見下ろしふわりと降り立つバサカロン。
静かで平和で穏やかな、このぼんやりと眩しい景色のなかで、彼は──

バサカロン「」ピィ──ッ

ズドドドドォン!

バサカロン「」ピィ──イッピイ─ッピィイイ───

ズドォン!ボゴォオン!バゴォオン!
ボゴォアア──…

とりあえず破壊を開始した。
見つけたので壊す。壊せるから燃やす。
完成した当初からの行いに、躊躇も選択もない。
破壊と殺戮こそが彼の本質であり、それ以外はやはり何もなかった。

ガウス「う─ん」

バレッタ「うぐ…ぐぅ…うぐ…ぐ!」

ガウス「……心配だ」

バレッタ探偵事務所。ここのところ依頼はないので、ゆっくり休めると喜んでいたバレッタだが、どうも連日連夜うなされている。
目を覚ませば何事もなくけろっとしているので、まあ大丈夫だろうと思い今まで見過ごしてきたのだが…

バレッタ「ぐ!うぅ…あ、ああぁ…」

ガウス「…今日はちょっと尋常じゃないね」ギシッ

ベッドに膝を乗せ、契約者の汗まみれの額に自分の額を合わせる。契約の縁を辿り、夢の世界に意識のチャンネルを合わせる。
一般的な怪異には難しいことだが、悪魔であるガウスには造作もないことだ。
己の霊的質量を分解し、バレッタの意識に書き込んでいく。脳がバターみたいにするりと溶けて他人の頭の中に滑るような感覚。
ほんの数瞬後、ガウスはバレッタの寝室から忽然と姿を消していた。

助けて!助けて!助けて…

ソリィバレッタ「ハア…ハア…ハア…」

助けて!お願い…誰か助けて…

ソリィバレッタ「ハア!ハア…ハア…うぅーっ!」

いい子になります。ワガママ言いません。
ちゃんと、みんなの言うこと聞きます。

もう、みんなを困らせたりしないから。
お願いだから、だれか助けてよ!

ソリィバレッタ「助けて、助けて…!」

ソリィバレッタ「誰か、たすけて──」

パシッ

バレッタ「あ…」

ガウス「─やぁ、バレちゃん」

バレッタ「フェルディナンド…」

ガウス「うなされていたから様子見に来ちゃった。どんな夢見てたの?」

バレッタ「お、覚えてません」

ガウス「…おじさんとのエッチな夢かい?」

バレッタ「そっ、そんなワケないでしょ!馬鹿ガウス!」

ガウス「そう?そいつは残念だね。おじさんは毎晩バレちゃんとの情事を夢に見てるのに」

バレッタ「馬鹿怪異!変態!セクハラ悪魔!」

ガウス「フフフ…それでこそバレちゃんだ」

バレッタ「…馬鹿ガウス。バレちゃん言うな」

ガウス「それで、ここはどこなのかな。随分と暗いとこだけど」

バレッタ「さあ…子供の頃にうっかり閉じ込められた納屋とかですかね」キョロ

ガウス「…ずいぶん広いね?」

バレッタ「夢の中ですから。子供視点の思い出の再現なら、そういうこともあるでしょう」

ガウス「ふうん…いつ出られるのかな。夢なら気合いで覚めない?こう、えいやって」

バレッタ「難しいですね…まあでも考えようによっては夢が叶うチャンスじゃないですか、ガウス?」

ガウス「あ、いいの?それじゃあ遠慮なく─」

バレッタ「ちょっと待って冗談…冗談ですってば!やっ、どこ触って…」

ガウス「─ん」

─ホワァアアアア…

バレッタ「はなれ、て…カオ…ちかい…っ」

ガウス「今、何か聞こえなかった?」

バレッタ「えっ?いえ、私には何も…」

ホワァアアアア──…ッ

バレッタ「きゃあ!?」ガバッ

ビリビリビリビリ…

バレッタ「い、いきなり何するんです!?」

ガウス「霊的雄叫びだね…疵になるといけないから、しばらく耳を塞がせてもらうよ」

バレッタ「えっ…」

ホワァアアア──…ッ

ァアアア──…

ガウス「遠ざかっていくね…もう大丈夫かな」パッ

バレッタ「ど…どういうことです?夢の中なのに怪異が現れるんですか?」

ガウス「ほら、現にキミの目の前に一匹」

バレッタ「ガウスは特別ですっ。私と契約パスを通しているんですから…そうじゃなくて」

ガウス「何の縁もゆかりもない怪異が現れるかって?もちろん現れるよ」

ガウス「精神的なことが強く作用するのが怪異だからね…剥き出しの精神活動である夢なんか、接触するだけなら現実より遥かに頻度も高くなるさ」

バレッタ「そんな…」

ガウス「まあ普通は遭遇まではしないし、たまたま近付いても、せいぜい霊気の痕跡とぶつかるぐらいなんだけど…」

ガウス「さっきの雄叫びは近かったな…あれじゃ夢のすぐ外側だったぞ」

バレッタ「外側?夢に内と外があるんですか?」

ガウス「ああ─……っ!?」ガバッ

バレッタ「きゃ─」

ホォオワァアアアアア────ッ!!!!!

バガァアッ!バガッガラガラ!
ピシャァン!ドガラドガラ…ドバァアッ!

霊気ショック。
目に見えるほどはっきりとした霊的ショックが、壁や床や天井を突き破り、奔る。
暗闇に穴があき、穴の向こうにいくつものシャボン玉が浮かんでいるのが見える。
夢を破られた。ガウスはバレッタを抱き締めたまま大声で呼びかける。

ガウス「ガーベラ!大丈夫かガーベラ!返事を─」

バレッタ「あ、ああ、あああ…!」ポロポロ…ポロ…

ガウス「く…!」

バレッタ「ああう…うあ…わぁああぁあ!」

ガウス「落ち着け、落ち着くんだ!オレだ!フェルディナンドだ!」

バレッタ「ゆるして…ゆるして…!」

ガウス「大丈夫だ、ここにキミを責める者はいない!オレが傍についてる!」ギュッ…

バレッタ「ごめんなさい!ごめんなさい…!」

ガウス「ずっとだ、ずっと傍にいる!キミを一人には─」

ホォワァアアアア──!!!

ドォッゴァアアアア!!!!!

ガウス「!?」

ギャンドーズ『フワァ…ァフワ…』ヒュー…ヒュー…

ガウス「ギャンドーズ…!」

ガウス「精神世界を渡る夢の神がなんてザマだ…!何があったというのだ、ギャンドーズ!」

ギャンドーズ『フ…ワァアア──』

ズゴゴゴゴ…!

ガウス「ギャン─」

ゴォッシャァアアアア!!!!!

夢の外。
いくつものシャボン玉─夢が漂う、ふわふわとした眩しさの充満する世界。
そこはいくつもの世界の層が重なっており、迷い込めば二人として同じ位相に辿り着くこと叶わず、見る者によってそれぞれ別の世界が見える。
そして、それ故にあらゆる夢に繋がるとされる。
ドリームランである。

ギャンドーズ『』ゴォオアアア──

ガウス『(…………)』ピシィイイイイ──

ピィイイイイイ…

ギャンドーズ『!?』

遠くからの耳障りな高音。物凄いスピードで何かが迫ってくる。

シュパァアン…ッ

宙を裂きながら進む、一条の紫。
危機を察知したギャンドーズはきりもみ宙返り。タイムロック状態にあるガウスたちを振り落としてしまう。
直後にギャンドーズを襲う、幾筋ものレーザービーム。

ギャンドーズ『ホォワァアアアア──ッ』

ズドォン!ズドォズドッドォ─ン!

ガウス『』ヒュゥウウウ…

草のにおいを感じながら、バレッタは目を覚ました。
いつの間に寝ていたのだろうか。夢の中で眠るというのも妙な話だが。
ガウスがぐったりとしながらも、しっかりとしがみついている。彼が守ってくれたのだろうか。

バレッタ「ガウス、ガウス。起きてくださいガウス…」

ガウス「ん、うぅ…ん。…やぁ、おはようバレちゃん」

バレッタ「バレちゃん言うな。ここは…どこなんです?ガウスは何か知ってますか?」

ガウス「ん。知らないな…こんな場所はさっぱりだ」

バレッタ「そうですか…弱りましたね。まだ夢の中なのかな…」

ガウス(……)

ガウス(ドリームラン…まさかまた、この町に帰ってくることになるとはね…)

ガウス「あんまり離れないようにね…未知の場所は危険も多い。霊的に繋がっている今はどっちかが死んだら共倒れなんだからさ」

バレッタ「わ、わかってますっ。ここは原っぱのようですが向こうにビルが見えます。町があるならそちらへ行ってみるのもいいかもしれません」

ガウス「うーん…そうだね。じゃあ、とりあえず行ってみようか。反対する理由もないしね」

ガウス(別に行ったって誰もいないと思うけどね…)

「は?何でここにいるワケ?アンタたちどうやってここに来たのよ」

ガウス「…こっちの台詞だよ。何してるのかな?こんな場所で」

「何って…ここは私の遊び場の一つだけど」

町に着いて数分後。よく見知った顔の女がアパレルショップの自動ドアから出てきたところに出くわした。
ドリームランの町を遊び場にしてるらしい。相変わらずデタラメな女だ。

「気に入ってるのよここ。ちょっと眩しいけど静かだし…うるさい人間共もいないし…」

「あんまり暴れたくならない時はこの辺で、靴とか見てるのよ」

バレッタ「そんな時があるんですか?」

「あるに決まってんだろ。テメェ私を何だと思ってんだ?」

バレッタ「殺戮戦闘マシーン」

「そう思われてんのかよ。ショック─」

「─いやそうでもないわ。そう言われて悪い気はしないし」

バレッタ「ところで、あの─」チラッ

「…何?さっきからヒトのカラダをちらちらと…私、相手がいるからね?」

バレッタ「いえ、そうではなく…今日はまた、凄い格好ですね?殿下」

「あ?あ─…プライベートだからな。オフの時ぐらい─ほら私のことなんかいいだろ、そっちの話を聞かせろよ」

バレッタは女に興味深そうにあれこれと質問する。
数少ない友人の見せた隙だ。慣れぬ土地の不安も手伝って浮き足だっているのだろう。
きゃあきゃあと言葉を交わす二人を追いながら、ガウスはギャンドーズについて思考を巡らせることにした。

「ギャンドーズ?何だそりゃ。私もここで遊ぶようになって長いけど見たことも聞いたこともない」

話ついでに立ち寄ったコンビニ。手を後ろで組みながら女は顔をしかめる。
さすがにギャンドーズのことは知らなかったみたいだ。ドリームランは広い。たまの遊び場にしてるだけなら遭遇してなくても不思議はない。

バレッタ「知ってるんですか?」

ガウス「ウワサぐらいはね…ひょっとしたらここがギャンドーズのナワバリ、ドリームランってトコなのかも…」

「ギャンドーズ…ギャ、ン…ああホントにいるんだ…全長7から無限大メートル、霊的質量1100万トン…」

「知ってたのなら教えろよな。使えねえドレイだぜ」

だ、だって遊ぶ分にはいらない情報で─ごめんなさい捨てないで!
あっでもその冷たいジト目はいいッ!軽くイクッ!

「軽くかよ。どうせならみっともなく本イキしろよな…で、その夢の守り神サマがどうしたっての?」

ガウス「明らかに戦闘体勢に入ってる…キミがイタズラしたわけじゃないんなら、ひょっとすると─」

─ホォオオオオ──ッ!!!

「うるせえよ。本イキしろとは言ったけど。普段そんな声出してなかったろオマエ」

…?私まだイッてませんよ。

「ハァ?テメェ以外誰が─」

グワシャァアアア─…ン!!!!!

バレッタ「キャッ!」

ガウス「…!」

コンビニのすぐ外に、ギャンドーズの巨体が降ってきた。
あともうちょっとだったのにイベント進めるのやめてくれません?

「うるせえオナ猿。帰ってからにしろクソチンパン」

えー…陛下が言い出したことなのにぃ…

はいはい解説しますよ。すればいいんでしょすれば。
えーそれでは続けて甲高い音の伴う爆裂レイザーも降ってきまーす。折れ曲がって窓ガラスを貫通、向かってくるのでご注意くださーい。

「ヘソ曲げてんじゃねえよ感情を出すなナレーターが。おい防御しろザコイケメン。契約者を守れ」

グイッ

バレッタ「きゃっ!?何を─」

ガウス「タイムロックカプセル!」ピキィイイイ

ピキュンキュンキュン!ピキュンキュン!

ギョワァ────アン
バスッバス!ババス!バスッ!

ガウス『』バドッバド!バドーッ!バド

バレッタ「…!」

「キャッハハハハハ!かゆいかゆい!」バギィバヂヂ!バヂッバヂン!

続きまして武装ロボが降りてきまーす。ガラスをブチ破ってのご来店はご遠慮願いまーす。

バロォ────ッ!

バサカロン「」ブワッシャァアア!!

ガシィン!ズン

バサカロン「バハァ──」プシー…

ピロロロロピロッ、ピロピロピロロッ
ピロロロロピロッ、ピロロロロロロ…

バレッタ「…?え…!?」

ガウス『(何だ…!?)』

「」カッ、カッ!

バサカロン「」シュリィン

ガシィイイイイン!

開幕不意討ち飛びかかりキック!いつもより凶悪なヒールで威力抜群!
あーっとしかしバサカロン選手、左手のブレードでこれを受け止めたーっ!

バサカロン「ピロロロロロ…」カコカコ

「ヒュゥ!やるじゃん。……!?」

バサカロン「」キュピキュピキュピン!

「っ!ブリリアントクロスガード!」サッ

ドゴォボゴッ!ズドドッドォン!

バサカロン選手の反撃っ!肩部五連装フレッシュミサイラー!
豊かなお胸がほぼ無防備状態の私の女王陛下っ!たまらず全弾フルヒット──ッ!
ところでカオに命中した分は顔射ですかねコレ?
許せねえんだけどマジ。

「全部ガードしてるっつーの!目ン玉も頭も腐ってんのアンタ!?」ギュ─…ン

ガァ─ーンガァン!ガァンガオッ!ガオッ!ガオン

バサカロン「」バヂィン!ヂュギィイ─ッバヂ!ギィン

連撃連射っ!魔力の弾丸!バサカロン選手ノーガード直立不動でこれを受けるッ!
金属製のメタルボディゆえの余裕か!はたまた爆裂レイザーの意趣返しか──っ!?

バサカロン「」ボワァ──…ッ

チカチカッ…チカチカッ…

「はっ?おいこれ─」

チュドチュドチュドッボォオオオン!!!

装甲の隙間から噴霧される電脳爆裂パウダー!非常に避けにくい、パウダー状の爆弾ですねー!

煙と爆風で視界が遮られるため外に出た陛下が密かに心配している、向こうの二人はまだ密着し合って堅くなってるのでご安心をー!

「んんっ、んん!けむ──オイコラ誰が心配してるって?」

ギラン!

「テキトー言ってんじゃねえこのタ─」

バサカロン「」ズワッ

ガシィイアアアアッ

「いっだ!」

デッドエンド・アビスクラッシャー!
その握力、7000万シャワもの馬力ッ!恐るべきクローハンドに掴まれたが最後!大抵の人間の頭部は潰れたトマトならぬ、砕けたスイカと化すッ!

「どう違うんだよソレ!痛たたたた、音だけで痛え!」ギリギリギリギリッ

バサカロン「ガバァ──…」カコカコ

ギャンドーズ『ホォワァアアア──ッ!!!』

ズギャァアアッ!ガララララ!!!

バサカロン「ピロロロロ…(電子音)」ガキィガギッ、メキッ

バッキャァアアア───ッ

「いたっ」ドシャッ

乱入っ!復活したギャンドーズの一角ホーンからの霊撃ショック!
バサカロンこれにはたまらず吹っ飛ぶ──っ!
さっそく地獄の万力クローから解放された私の女王陛下にインタビューしてみましょう。
いかがですか?今の気分は。

「サイアク!お尻打ったんだけど!」

なるほど可愛いですねー。

爆裂したコンビニ。棚が倒れ、品物が散らばり、まだ煙が少し残る。
ガウスはタイムロックガードの無理がたたり、その場で膝からくずおれる。

ガウス「が、は…っ!」ズシャ

バレッタ「ガウス!」

ガウス「まいったね…おじさん、これ以上役には立てないみたいだ」シュー…シュー…

バレッタ「ガウス!実体が…」

ガウス「まだ大丈夫。けど─」

窓枠の向こうに目をやると、あのロボットのような怪異(?)が暴れているのが見える。
紫が弾け、のけぞる女。ギャンドーズのホーンを受けて後ずさるロボ怪異。
戦況は芳しくないようだ。今すぐ負ける、ということはないが決め手に欠ける。

ガウス(……)

ガウスは考える。どうするのが最善か。
今この場で自分はどう判断すべきなのか?

ガウス(迷ってる…場合じゃないか)

ガウス「バレッタ」

バレッタ「は、はい」

ガウス「あの化け物を倒すには霊的ショック…怪異ショッカーだ。それしかない」

バレッタ「で、でも…!ここは夢の中で、私はショッカーを持ってません。第一、霊的ショックは─」

ガウス「聞くんだ、バレッタ。今オレたちは霊的に繋がっている。キミも殆ど怪異のオレと同じになっているんだ」

ガウス「怪異には霊気を用いた攻撃手段…霊気ショックがある。それでショッカーの攻撃力を再現する」

バレッタ「でも、霊気ショックはギャンドーズがさっきから何度も…」

ガウス「…ギャンドーズのショックは荒削りだ。見た目は派手だが威力が逃げている」

ガウス「再現とはいえ市販品のショッカーの方が威力は何倍も上なのさ」

バレッタ「わ、私は…霊気なんか操れません…あなたと繋がってる今でさえ、感じ取れもしないのに…」

ガウス「いいや、キミならできる。…感じないのは霊気が当たり前の環境に身を置いていたからだ」

ガウス「キミは霊気に慣れ過ぎてるんだよ…ショッカーを使う時の感覚を思い出して」

ガウス「大丈夫。オレが教える…さあ、手を出して。指の先に全身の力が集まるイメージで…」

バレッタ「は、はい…」

ガウス(……)

ガウス(…すまない、ソリィ)

ガウス(──キミのようにはいかないな…)

バサカロン「ギャワッ!」ギュイ─…ン

シュパァン!シュパァンシュパァン!

ギガロンボレー!三連射!
魔力をまとったナックルで迎撃する陛下!

「」ボワ─ン…

「オラ!オラ!」バギィン!バヂィン!

ゴォアッ!

「オーラァ!」ボワォ

バシャァアアン!

バサカロン「」ズワッ

バシィイイイイイン!

「くっ」ギシッ

バーニアで飛び込んでからのブレード一閃!
そして陛下の真剣白羽取り!私そろそろ解説に疲れてきました!

バサカロン「ピロロロロ…」ギョ──…ン

「やっば…!」

ギャンドーズ『ホォ───ッ』バオンッ

バサカロン「」ギャオッ

ガシィイ──イン

ギャンドーズ『ホ…』ギリッ

さあギャンドーズの振り下ろしたホーンもメタルクロー白羽取り!このまま腕を捻られたら首の骨が折れてしまうか─っ!?
いや首あんのかなコイツ。その前に自慢のホーンが折られるかも。

バサカロン「(電子音)」ギュィイ──…

「くっ!そ…」

ギャンドーズ『…!』ギリ…ギリメキッ

カッカッ、カッカッ!

バレッタ「ちぇいやぁ───っ!」

バシィイイイッ!

バサカロン「」ギシッ

「バレッタ!?」

おおっ!思いがけない乱入者ッ!
儚げな薄幸の美女は雰囲気だけかぁっ!?バレちゃんマンの参戦だぁ──っ!
だが気をつけろっ、

バサカロン「」ボフワァ──…ッ

爆裂パウダーが、もう既にっ!

バレッタ「くっ!」バッ

チュドチュドチュドドドォオオン!

バレッタ「あうっ!」ズザァアアアッ

「この!」バギィン!シャガッ

バサカロン「ピロロロ…(電子音)」ズン、ズゥン

バレッタ「あ…すみません。大丈…」

「何やって…!戦えないザコは大人しくすっ込んでろよ!」

バレッタ「だ、大丈夫です。霊的防御はガウスがやってくれてます」

バレッタ「私は攻撃に専念するだけで…これで少しは戦えます」

「何言って──」

「…!ふ、ふうん。そっか。そうしたんだ…ふう──ん…」

(あのイケメン…見かけによらず結構悪魔らしいトコあるじゃねーの)

(バレッタは気づいて…ないなこれは。騙して丸め込んだか…)

(バカだぜ二人とも。見捨てて逃げたってよかったでしょうに…というのは私の価値観か…)

バレッタ「聞いてください。作戦があるんです」

「…何ですって?」

バレッタ「でかいやつを一発当てます。殿下は時間稼ぎと拘束、よろしく頼みます」

ギャンドーズ『ホワァアアア──ッ』

バサカロン「────」

ギャンッギャリンッガギ!バギィン!
ガリッ!シュバゴ!(メタルクローの掴む音)

バサカロン「」ワギィイイイ───ッ

ギャンドーズ『ホォ──ッ』メシメシ…メキッ

ピシィッ(ホーンにヒビが入る音)

ギャンドーズ『…!ホォオ…』

バサカロン「ピロォオオオオ──ッ(勝利の雄叫び音)」ピロロロロ…

ズギャォ──…ン

バサカロン「」ピシュンッ

ドワァアアン

不意討ちの魔力の弾丸!しかしこれは爆裂レイザーによって阻まれるっ!
しかしっ!だがしかしィ!

ボワォ──…ッ

爆発の煙に紛れてェ!魔力パンチを、

ゾバッ

「くらぇええ──っ!」

バサカロン「」ピシュンッピシュンピシュンッ

ドォン!ドォオン!グワォン!

ガシィイッ

バサカロン「ピロロロ…」

「…っ。クソロボがよ」

…レイザー連射によって勢いは殺され、魔力は霧散し肝心の装甲を傷つけることはできなかった。
今回ちょっとヤバくね?確かにロボは強豪になりやすいけども。

「ハッ…舐めんじゃねえ。魔力パンチは通らなくても…」ギュ─…ン

バサカロン「…?」ピロロロ…

「接射なら少しは効くだろうがよ…!」ギュイ─…ン

ドワァァアアアン!!!

バサカロン「ギ…バギ…ッ」バヂッ!バヂバヂ…

魔力の弾丸ッ!ゼロ距離!
バサカロンたまらずスタン状態!これで1ターンの行動不能にっ!

「」カッ!

グワシィイイイッ!

掴みかかるようにバサカロンを拘束。レイザーの噴出口を片手で塞ぐ。熱を持った発射口が冷え始める。

バサカロン「ピロォオオオ──ッ」カコカコカコン

バファッ!チカチカッ…

「くっ…!」ギリ…ギシッ

チュドドドボガァアアアン!!!

「けっむ!こんっ、クソロボ!」ギシ、ギシィ…

至近距離の爆裂パウダー!陛下にとっては目眩ましと怯みにしかならないこれは今はあまり役に立つものじゃないぞ!

「暴れ…っん、じゃねェ!」ギリギリギシィッ

バサカロン「ピロロロ…(電子音)」ガバガバガバッガバ

キュピィイ──…

「クッ…!お構いなしかよ!?」

バサカロン「ガハァ──」ギャワン

バレッタ「いいえ、させません!」

バレッタ「」バオッ

バサカロン「」バギィイ──ッ

「」サッ

バガラァアアアア……ッ!

霊気ショック───!?
これはどうしたことだ?バレッタ嬢がバサカロンに掌を押し当てたかと思えば、ギャンドーズ以上の規模とその威力!
もちろん怪異ショッカーは使っていないッ!
今までその体のどこにそんな武器を隠し持っていたのか──ッ!
まあ女性の体には隠し場所が複数あるしね。上の隙間とか下の隙間とか。
ちなみに陛下の隙間は専用の責任を持って私が塞いでいる。

バサカロン「プシィ──イイ…」ガグン

ボワ─ォオ!ボワッ

「後でゲンコツなテメェ」サッ

ドギャァッ!ガギィイイ──ン!

連撃っ!フルチャージした魔力をまとったワンツーパンチ!
砕け散る胸部インビジブル・ディメンジョンコア!これにはバサカロンの内部メカも露出しスパーク!
ああッ!羨ましい私も殴って欲しい!頭を守るガードの上から殴られたいっ!お腹とか蹴られたいッ!

バララッ!バラッバラバラッ

ドズゥン!ズン!…

バサカロン「ガハ…」バヂチバヂ!バヂン!…

ギュゥウウウ───…ン

ギャンドーズ『ホォワァアアアア──ッ!!!』ギャオッ!!!

バサカロン「」ドズゥウッ!ズブッメギバチ!

ギャォオオ──…ンゥウンッ

ギャンドーズの突進ホーン!貫かれたバサカロンッ、1700万トンが宙に浮くゥ──!
針串刺し死出のフリーフォール空の旅だぁっ!これは勝負あったかぁ───っ!?

バサカロン「」バギギギ…バチッ!カッ

チュドォオオオオオン!!!!!

ギャンドーズ『フワァアア──ッ!!!』ブワォ

決まったぁ───っ!必殺ギャンドーズの貫通ニードル・フィロソフィー«アポカーリプス»によってバサカロン選手しめやかに爆発四散ン!
試合、終了ォ────っ!(ゴングの音)。

バサァッ!バサッ!

ギャンドーズ『フワァッ!フワァアアアア──…』バロォオオオ…

バレッタ「……ふぅっ」

「はぁ──っ!何だったのよアイツ!?マジ硬すぎ!ロボ相手とか、もう一生やりたくねえ──っ!」

のどがいたいです。

「そりゃあ気のせいだろ。喉なんて持ってないじゃんかオマエ」

僕の場合、気のせいはマズくない?

「…それにしても今日は疲れたわ。帰ったら死んだみたいに爆睡コースね」

えっ帰った後に滅茶苦茶イクの楽しみにしてたのに

「あ─…そういえばしたっけ、そんな話」

「ま、私が言い出したことだしね。見ててやるから、みっともなくイキ狂えよ?」

えー見てるだけ?一緒にイキましょうよ

「疲れてるって言ってんだろ。ちょっと遊びに行く感覚で誘うんじゃねえよ」

???????

「何でわかんねえんだよ。…わからないといえばバレちゃんマンは自分の帰り道わかるわけ?」

バレッタ「そのアダ名で呼ばないでください…連れてってくれないんですか?殿下よくここで遊んでるんですよね?」

「そうだけど…私の移動手段、私専用だしなぁ…車や馬みたいに乗せてってはやれねえよ」

バレッタ「そういうものですか…困ったな…ガウスは─」

バレッタ「あれっ?ガウス?」キョロキョロ

フワァアア──…

ギャンドーズ『フワ──…』フヨォオオオ

バレッタ「ギャンドーズ…ま、まだ何か?」

「乗れって言ってるんじゃないの?色々あったし、帰り道ぐらい都合するとか」

バレッタ「えっ…いいんですか?よかったぁ…ありがとうございます!」

バレッタ「あっ…でもガウスは…」

「大丈夫じゃない?アンタら霊的な繋がりを得てるでしょ」

「アイツは怪異なんだから。アンタだけ先に帰っても、ドリームランからでも引っ張られて勝手についていくわよ」

バレッタ「そういうものですか…じゃあ、よろしくお願いしますね。ギャンドーズ」

ギャンドーズ『ホロロロロ…』ニヤ~…

ブワォオ───オアアア…

ギャンドーズの背中に掴まって、ドリームランの空を飛ぶ。
町は泡のように溶け、いくつもの世界が線となって見える。いくつものシャボンが前から後ろへと。

ギャンドーズ『』フワァアアアアア

バレッタ(……)

バレッタ(これ、全部誰かの夢なんでしょうか…ドリームランから繋がる…)

バレッタ(一つ一つが誰かの景色に繋がっていて…いいこと悪いこと…誰かの願いと想いがあって…そしてその中間に私がいる…)

バレッタ(何だか不思議な気分です…)

ギャンドーズ『』ショワァアアア…

─ギャッ

バレッタ「えっ…」

意識はしていなかった。

意識したところで高速のシャボンの一つを人間の目ではっきりとわかるほど追えるわけもない。だというのに、くっきりと見えた、その景色。
見えてしまった、その景色は、

バレッタ「ガウス…!?」

血だまりの中に倒れている女。どことなくバレッタに似ていて、微笑んだまま死んでいる女。
ガウスが、その血だまりの死体を冷たく見下ろしていた。

ギャアァア───ーアア

バレッタ(な、何だったんでしょう。今のは…?)

気になっても、今すぐ答えが出ることはない。起きてガウスに確かめるにしても、ドリームランは夢の世界。目を覚ませば全て忘れる泡沫世界、うたかたの空夢。
今は疑問さえ忘却の彼方。それでもバレッタが真実を知る時は、もうすぐそこまで迫っている。

よろ、よろ…

ドザァッ!ドガシャアッ

ガウス「うぐ…はあ、はあ、はあ…っ」

ガウス「ぐっ…アグ…はあはあはあっ…ハア…はあ」グイッ…ドサァ

探偵事務所。応対室のソファーにガウスは身を投げ出す。
今回は色々と無理をした。実体も透けて薄らいでいる。
まだ空は暗いままだ。このまま明るくなるまで休んでいれば、元通りに活動できるぐらいにはなる。
だが、もはや自分に残された時間はもう長くはないだろう。
怪異ゆえに、それはイヤでもわかるものだ。

ガウス「はあはあ…ハアッ…はあ…」

ガウス(……)

薄れる意識でぼんやりと考える。彼女のために何ができただろうか。自分は最善の行動をとれたのだろうか。
本当は、もっと他に何かあったんじゃないのだろうか。

ガウス(……)

もしもの仮定は堂々巡り、何があるわけもないと知りながらガウスは考える。
今でも時々、夢に見る。あの血だまりに倒れる、彼女の姿。

ガウスの静かな絶望と後悔を飲み込み、夜は更けていった。

書いた分では本編はこれで終わりです
残りは私の中の決着とおまけです


怪異探偵ソリィバレッタ外伝
「呪い、情熱、戀の華=ノンネーム怪物(モンストレ)」

妄執戀歌 ■■■■■■■

登場


刮げ!燃えろ!呪え!




怪異探偵ソリィバレッタのセルフアンチヘイト二次創作(三次創作?)です

「赤いドレスは血の先触れ」
>>1から
「ルナチック・マッドメイク」
>>41から
「夢を叶えてドリームラン」
>>93から

遠い。
遠い遠い遠い。
手を伸ばして触れそうなほど近づいても、髪を撫でることすら叶わないぐらい遥かに。
違う。
違う違う違う違う。
重ねる度にわかるほどに、目を背けたくてもはっきりと。

都合のいい偽物で誤魔化すな。気持ち悪い。
期待した姿を物真似るな。吐き気がする。
私の恋した悪の華。
彼女は、あの方は、私の陛下はどこへいった?
猿真似と虚像を結びつけ。醜い一人芝居を繰り返し。思いの外すぐに無理がたたり、気がつけば──
彼女が痛がるからと目を逸らした、その実私の惹かれた姿をとって。

虚ろに描いた夢の形。捨てられなかった絵空事。利己と冒涜の皮算用。
空しく紡ぎあげたのは、妄執戀の呪い歌。

バレッタ「大丈夫ですか?」

バレッタの言葉にびくっ、とする。いつの間にかうたた寝していたようだ。
バレッタ探偵事務所。依頼もなく、暇な時間に─遊びに来る時は、いつもそのタイミングを見計らっている─二人っきりでお茶をしていたのだ。

バレッタ「近頃ぼーっとしてますね。具合でも悪いのですか?」ズイ

「ヘ、ヘーキよ。カオ近づけるな。つーか、私が病気するワケないって知ってんだろ」

そう。バレッタの言う通り、私はここ最近どうもぼんやりしている。短い間とはいえ記憶がなくなるのもしょっちゅうだ。
しばらくカラダもぐったりと重く、熱っぽい。そのくせ芯から力の抜けるような嫌な寒気もする。
これを人間でいう具合が悪いというのなら、なるほど私は具合が悪いのかもしれない。

バレッタ「それを具合が悪いというんです。あまり無理しないように。人間でないとしても、あなたは怪異でもないのですから」

「う、うるさいっての。テメェ私の母じゃねえだろ…」

悪態をついても迫力がない。思考もふわふわと、まとまらなくなってきた。
いよいよ本格的に休んだ方がいい気がする。

休まなくても済むように、こうなったのに。

「でもそうね、今日はもう帰ることにするわ。邪魔、したわね…」

バレッタ「ええ。お休みなさい」

「べ、別にアナタの忠告に従った…ワケじゃないんだから…ねっ」

バレッタ「はいはい…」

たくさんの粒がほどけるように、嬢ちゃんは姿を消した。
何度も見てるけど変わった移動方法だよね…霊体化とも違うようだし。

バレッタ「気づきましたか?」

…何が?

バレッタ「彼女、怪異になりかけてます」

デジマ?全然わからなかったなぁ…
寄る年波には勝てないね。

バレッタ「特有の霊的揺らぎを感知しました。あのままでは時間の問題でしょう。もしかしたら、今夜にでも…」

あらら…とはいえ怪異になったからって、すぐ危険なヤツになるわけでもないでしょ。

バレッタ「それはそうですが…」

すっかり冷めた紅茶に口をつける。テーブル向かいには空になったティーカップ。
思い返せば前までの彼女なら食べ物飲み物に手をつけることはなかった。何かを飲食している姿はついぞ見かけず、用意された物は決して口に運ばれることがなかったのだ。

バレッタ「…長く、付き合いすぎたのかもしれませんね」

バレッタ「ここにも居ませんか…ありがとう、ギャンドーズ」

うっかりしていたのは彼女の帰る場所を確認してなかったことだ。これでは彼女を助けに向かうことなどできない。
お喋りなようで、いまいちプライベートの見えない彼女が遊び場の一つと漏らしたドリームランの町にも居ないとなればお手上げだ。
今になって思い知らされる。私は彼女を知らなすぎた。

ギャンドーズ『フワァアア───』

ギャンドーズの咆哮と共に夢の町の穴が閉じられる。いくつもの夢は透明な分厚い膜に阻まれて、誰の手も届かない向こう側へと溺れてゆく。

…これだけ探して見つからないんなら、どこかに特殊な空間作って引き込もってるのかもね。
怪異でもないのにやりたい放題すぎるでしょって話だけど。

ドリームランはあらゆる夢に繋がることのできる世界だ。夢は現実と表裏一体。現実から夢へと渡れるように、その逆にも通じるのだからドリームランから見つからないのなら現実にも居ないということだ。
どこにも属さない、どこでもない場所。それが彼女の帰る場所なのだろうか。

バレッタ「なるべくならやりたくなかったんですが…やむを得ませんか。全く世話の焼ける娘です」

探偵事務所。鍵をかけて『本日休業』の看板を出したまま、応対室のソファーに腰をおろす。
窓からは明かりの灯った向かいのビルが見え、こちら側の暗がりを僅かながら淡くする。

バレッタ(同調動作、始め……霊気探知…開始…)

彼女の痕跡。かすかな霊気を辿る。
以前の彼女なら感知できるものは何もなかったが、今や怪異のなりかけであるために、微量ながら特有の霊気を足跡のように残してくれるのだ。

バレッタ(…とらえた!)

掴んだ霊気を取り込み、解析。自分の霊気を分解、割り出した霊気パターンをなぞるように再構築。
一時的に同質の形を得て、自分を他の誰かであるように誤認させる擬態怪法術。いわば不正アクセスである。

この方法はできれば避けたかった。加減を間違って構築箇所を誤れば自我喪失の危険を伴うからだ。他人のアイデンティティを奪う倫理の問題も─これはあまり気にしていないが一応─ある。
何より他者を知り、同調し、同一化するのだ。妙な感化を受けないことの方が少ない。

視界が歪む。認識が変わる。音が。匂いが。感覚が。
床の感触を失い、汗や唾液を失い、呼吸を失い、温度や痛みを失い、鼓動と脈拍を失い、骨や内臓の、肉体の実感を失い──

そこは紫色の部屋だった。紫色の壁紙、紫色の家具。紫色のカーテンに紫色のベッド、紫色の床。
いくつものガラスケースらしき円柱には何も入っていない。飾り棚の類いも空っぽだ。
ここが彼女の部屋だろうか。しかし…

霊気が見えないね…少なくとも最近はここに来てないみたいだ。

部屋の外へ出てみると、幅広の階段がゆったりとカーブを描きながら伸び、いくつもの本棚と長机と椅子、巨大なピアノのある広間を見下ろすことができる。
ここにも点在するように円柱のガラスケースが見られるが、やはりどれも空っぽで中身はない。
壁のかわりにある一枚窓からは荒れ放題の庭と、柵の向こう側には入道雲の浮かぶ空が見える。
階段を降りて、並んだ本棚を通り抜けると広い食堂に通じており、あまり使われてそうにない清潔なキッチンも見える。
浴室にはお湯の張ったバスタブがあり、水面には薔薇が浮かんでいる。奇妙なことに湯気は立っているのにやはり霊気の痕跡はない。
この他に部屋はなく、家のなかには気配もしないので玄関から外へ出てみることにした。

格子状の門は片方が外され、ずらして立てかけてあるので簡単に外へ出ることができる。
少し歩いてバレッタは足を止めた。

バレッタ「…ここまでですか」

足下は断崖になっており、見れば屋敷を囲んで円を描くように綺麗に地面が切り取られている。
その下には荒れた海が波立ち、海という割に生命の気配は感じることができない。
ぐるっと一周してみてもいいが、恐らく無駄だろうとバレッタは思った。

この歪で、虚ろで、誰もいない家こそが彼女の城なのだ。

でも結局いなかったね。ここ以外の帰る場所があるのかな?

今のバレッタは限りなく彼女に近い。
彼女にできることなら一度二度くらいは真似することができるだろう。
最後に見た彼女の姿を思い出しながら、この状態のできることを検索。
ここではない、どこかへ。粒のように…散って…

痛い。
痛い痛い痛い。
痛い。

苦しい。
苦しい苦しい苦しい。
苦しい。

どうして?
もう痛くないはずなのに。苦しくならないはずなのに。
■■■■■様が痛くなっちゃダメなのに。苦しませていいハズないのに。
どうしてしまったの?
私はどうなってしまったの?

私──私は、誰なの?

バレッタ「──うぶっ」

気持ち悪い。吐き気が込み上げる。嫌悪感。嫌悪。嫌悪。嫌悪。
彼女を近くに感じる。彼女が恋しい。知らない誰かへの感情が湧き上がる。外見だけなら彼女そのものの、バレッタの知らない誰か。
そして──嫌悪。誰か以外に向ける嫌悪。どこか知らない世界への無関心と憎悪。疑心。恐怖。嫌悪。
どこまで逃げても逃れられないような嫌悪は、きっと自分もが標的で。
自分が嫌悪の対象で。自分だけが嫌悪の根源で。

胸を掻きむしり、腹に刃を突き立て開き、肋骨を割り、内臓を何もかも掻き出してしまいたい。
顔に杭を打ち込んで頭を砕き、脳を滅茶苦茶に飛び散らしてしまいたい。

膝をつき、もう内臓もないのに胃の中身をぶち撒けたくて、何も考えられなくなり、わけもなく涙が溢れてくる。

バレッタ「はぁっ…はぁっ……は…ぁ」

こういう時は聞き慣れた声も心配する素振りを見せるのだが、今は…気配すらしない。
余裕がない。同調に苦しみ、自我喪失しないよう気を張るのが精一杯だ。

バレッタ(フェルディナンド…)

ダメだ。しっかりしろ。意識を保て。
一人でもちゃんとやるって、彼と約束しただろう。

バレッタ「ぐっ……あ…」

同調を一時的にシャットアウト。現界維持に必要な最低限だけを固定する。
少し気が楽になって辺りを見渡すと、はっきりとした町の景色が見られた。

バレッタ「ここは…」キョロ

どこだろう。ドリームランではないようだ。独特のぼやっとした眩しさがない。
というか、普通にバレッタの住む町と変わらないように見える。
アスファルトがあって、ビルがあって、申し訳程度の街路樹もある。
幅広い道路を挟むように、洋服店のショーウインドウが立ち並ぶ。

しばらく散策をしてみると、やはりというかこの町も普通ではなかった。
まず誰もいない。それはドリームランも同じだが、ふわふわとした文字通り夢心地に訪れるドリームランと比べると、ここは無駄に現実的な実感があるのが逆に空しい。
次に何もない。いや物はある。ただ動かない。
正確にはこちらからの働きかけが意味をなさない。電車は何はなくとも勝手に遠くを走ってるし、自動車は動くものなら勝手に道路をのんびり走っている。
だが駐車されてる車は絶対に動かない。外から押しても動かない。中から運転しようにもドアが開かない。
窓を叩き割ろうとしたが、何をしてもヒビ一つ入らない。破壊不能オブジェクトにこの手で直に触れることがあるとは思わなかった。人生何があるかわからないものだ。

店やらの売り物についてはカゴに入れたりして、一瞬でも目を離すとカゴのなかから消えて、元あった場所に戻っている…なんて具合だ。
試しに商品から目を離さずに店から出て(勿論レジにも誰もいなかった。透明Gメンが出てきやしないかヒヤヒヤもしたけれど)開封したりしてみたが、少しでも視界から外れると、やはり消失するようだ。

飲食店では誰もいないのに食事の注文はできた。いつの間にか出された食事は食べることもできるが、飲み込んでから急に食べた気がしなくなる。
もちろん完食してもお腹にたまった実感はなく、食器やらも消え失せるので夢でも見ていた気分になる。

あと気になることといえば…他の店と比べてファッション系、特に靴の店が多い…ような気がする。

この何もない町が彼女の居場所。
霊的痕跡も感じるので家よりは気安い場所なのかもしれない。
だだっ広いが、痕跡があるだけ希望はある。もうしばらく彼女を探すことにした。

大型ショッピングモールの立体駐車場。
彼女の霊的においが強く感じられ、町を見渡すこともできそうだったので、目指して来てみた。
本人が居たわけではなかったが、そう簡単に見つかるとも思わなかった。
壁の間際まで近づき、隙間から外を眺める。
こうして遠くから見下ろす分には何の変哲もない、ごくありふれた穏やかな町にしか見えない。

ここは彼女の作り出した空間だろうか。もしそうなら普段血と暴力に飢える彼女がこの景色を欲しがったのは何故だろう。
本音は裏腹だった?或いは平和を塗り潰したかった?
静かな風を感じて、暗闇の彼女の心を思索して、

唐突に、それは現れた。

花とリボンのあしらわれた帽子。灰を連想するような色のドレス。腰の後ろから伸びる硬質の触手。踵から伸びる爪のような長いヒール。
零れ落ちるような隈に縁取られた虚ろな目は、不気味なことに探している彼女の面影を感じる。

何よりそれから漂う特有の霊気。

バレッタ「あな、たは──」

それが、ぴくりと反応した。猿轡を挟んだ牙がちらと覗く。

「──だれ…」

彼女の声だ。随分と弱々しいが間違いない。

バレッタ「─私です、バレッタです!あなたを…」

「…だれ…の…」

ズァバッ!

─ズドォン!

バレッタ「──え?」

轟音と共に壁が吹き飛ぶ。背後から強く風が吹き込む。
変わり果てた彼女の腰から伸びた触手が、バレッタを挟むような形で背後の壁を破壊したのだ。

「こ、こは…わたし、のまち…わたしだけ、の…いばしょ…」

ギャッ

バレッタ「」ガァシィイイッ

肉薄。見たこともない速度で迫る彼女にバレッタは反応できず、首を締め上げられ宙吊りになる。

バレッタ「がは…ッ!」ブラン…

「だれの…ゆるし、をえて…だれが、かってに…はいっていいっていったの…」

ギリ…ギリ…ギリ…

片手で締め上げてるのにバレッタの両手では力比べにもなってない。
たまらず両手の指先に霊力を集める。彼女が既に怪異なら微弱な霊的ショックでも通じるハズ。

…バヂッ

「……っ」

ブンッ

落下。ダメージは避けられないだろうがとりあえず絞首刑からは逃れられた。

ドシヤァアッ

バレッタ「くゥ!うぐ…」

「」カシャンッ

バレッタ「!」バッ

悶えていると、彼女も空中に身を投げ出すのが見えた。ご丁寧にも尖ったヒールは揃えてこちらに向けられている。
今度は針串刺しの刑ってワケだ。神様、私何かしましたか?

「」ドギャァアアアッ

バレッタ「」ゴロンゴロゴロゴロ

「……チッ」

バレッタ「落ち着いてください…私はただ─」ガバッ

「ゆるさない…ゆるさないゆるさないゆるさない。わたさ…ない…!」

ギャオッ!

バレッタ「くっ…」ス…

再びの肉薄。カウンターに霊気ショックを合わせようとするが─

「……」ギィイイイン

バレッタ「ここっ─」ガオッ

ギャッ!ギャッ!

バレッタ「……!」

彼女の運動性能を見誤っていた。これ程の高速スピードでこの方向転換。
まずい、背後をとられた。

バレッタ「─っ」

「」ギュ─…ン

ズドォン!

バレッタ「ああ…っ」

肩への衝撃。魔力の弾丸だ。
後ろから噴き上げる煙と焦げのにおい。思考が痺れて動けなくなる。

ギャァアア───アア

ヒールが地面を滑る音。彼女は正面に回り込んだようだ。
突き出された手が首を掴もうと狙ってきても、どうすることもできない。

ガシィイイアッ

絞首刑の再開だ。

「ちょうどいいわ…悲鳴をあげて…ないてみせて…そしたらきっと、陛下によろこんで…もらえるから…」

ハンパなショックでは駄目だ。少しの距離をあけても、またすぐに捕まる。
首を締め上げる手にしがみつき、身体中の霊気を練り上げ、加速を──

ギュバッ ギュワォッ

─パシャァァアアン

バレッタ「─なっ」

加速を終え、霊気ショックを発動する瞬間。硬質の触手が彼女を挟むように覆い、逆位相の霊気ショックを放ってきた。
ぶつかり合ったショックは互いを打ち消し霧散する。
反転した霊気パターンをぶつけて相殺させる、対ショックウェーブ防御だ。
怪異になりたてなのに、こんなことまでできるなんて。

「きひ、きひひひひひひ!思い出した思い出した!そう、そうよね。こうするの!」

「攻撃を受けたら、いつもこうやって身を守っていたものね!どう?どうかしら?私ちゃんとやれてるでしょ?」

終わった。彼女に霊気パターンを覚えられてしまった。防御手段を確立してしまえばもう彼女にショックは通用しないだろう。
対怪異特効の攻撃力を封じられた以上、ここから彼女を抑える手段はもうない。

「さあ、悲鳴を…あげてよ…じゃないとまた私、飽きられ…捨てられちゃう…」ギリ…ギリ…

「なきごえ…の…かちもないなら…だったら…もう、いらない…用済み…」ギリ…

締め上げられ薄れる意識の底、最後に残ったのは削ぎ落とされるような絶望。無意識に引きずり出されたのは湿ってお腹を重くするような罪悪感。

助けられなくて、ごめんなさい。ちゃんとしてなくて、ごめんなさい。
一人でやれなくて、ごめんなさい。私なんかのために、ごめんなさい。

あなたが…守ってくれたのに──

「しねよ」ボワ…

バレッタ(………)

「」グワッ

懐かしいなぁ。
底の底に沈んだ名残。契約の残り香。置き土産の霊気。
積み重なった彼との思い出が、塵と変わり果てても尚。

バレッタ「同調、怪異“再現”──」

バッギャアァッ!

「──な、にっ…!」

バレッタ「擬態怪法。『タイム・フェイク=ディープロック』…!」ピシィイイ───

バレッタ「…構えの必要が無い分、威力に欠けるのが難点ですが」ゴフッ

バレッタ「ですが…これであなたを捕まえる手段は…用意できた、みたいだ」ガシッ

「な…はな、せ…!」

バレッタ「離しません。なるほどこれは…動けない。早めに捕まえた方が良いようです」ピシィピシッガシィガシ

「はなし、て…」

肌が強張る。関節が軋む。肉が、骨が固定される。
動けなくなる前に、少しでも手を伸ばす。母が愛する我が子を抱き締めるように。犯した過ちを許すように。

ピシィピシピシ、パキパキパキ…

バレッタ『』パキィイイ───…ン

嘘つき。嘘つき。嘘ばっかり。
恋は口だけ。愛は語るだけ。大切にするなんて嘘っぱち。
戦わせた。死なせた。守れなかった。また死なせた。
楽しませられない。喜ばせられない。何もできないから、また飽きられた。
あなたと一緒にいられて、嬉しいのはいつも私だけ。

嘘つき!嘘つき!嘘ばっかり!
言うだけ言って、騙り騙して、いつも傍にいることもできず!
好きならもっと役に立て!彼女の喜ぶことをしろ!
気に入ってもらえない!愛してもらえない!何もできないお前のせいで!
嬉しいのはいつもお前だけ!いつもいつも、いつだって嬉しいのはお前だけ!役に立たない、お前の愛は薄っぺら!

なぜ生まれてきた?なぜ生きている?彼女が死んで、何もできないお前なんかがなぜ生きている?
愛するあなたの居ない、こんなところで私は何をしているんだ?

好きなら、もっと。もっと、役に立たなきゃいけないのに。

勝手に決めつけ、勝手に追い込まれ、悩んでるフリをしながら捨てられると思い込み。目を逸らして、耳を塞いで、私なんかを褒めてくれた、あなたを忘れたみたいに。

はじめからあなたはどこにもいってなかった。
私だけが逃げて、迷って、余計な回り道ばかりして。

ごめんなさいと、ありがとう。
何もできなくて、ごめんなさい。一緒にいてくれて、ありがとう。
ただそれだけを伝えることが、怖くて私は逃げ出した。

空虚で意味のない、何もない町は私の象徴。空洞と欺瞞と、ほんの少しばかりの愛の名残。
形ばかりを繕って、ごっこ遊びだけを楽しんで、過ぎた後には何も残らない、一時だけのオモチャは私の鏡。

永遠が欲しい。幸せが欲しい。あなただけに愛されたい。
馬鹿にしてほしい。なじってほしい。吹き出して、面白がられて。
贅沢言えば、私に興味を持ってもらいたいな。

私には過ぎた話かしら。私が人間に生まれたから?私に何の力もないから?普通にまっとうに常識的に考えれば、永遠は否定されるべきだから?生者と死者だから?マスターとサーヴァントだから?
でも生前のあなたは私に見向きもしなかったもんね。生きてる頃からあなたを知ってるのに、悔しいな。

それとも、やっぱりあなたは私を見てなんかいないのかしら。
見られてると思いたいだけで、今も見向きもしてないのかしら。
理解はできるけど納得したくないな。

諦めたくない。一緒に居たい。醜い妄執戀が私の正体。
町を作った。怪物を愛した。一人で遊ぶしかなかったから、怪物(わたし)はさんざん楽しんだ。
最初の願いから遠ざかっても。

さあ私は一体、誰でしょう。

「私、もういくわ。確かめたいことがあるし…ここへはもう二度と来ないから」

何もない町。いつの間にかバレッタは見慣れた姿の彼女と一緒に、閉店したアパレルショップの並ぶ通りを歩いていた。
彼女は後ろ手に組んで前を歩いている。左手の薬指にはバレッタには意味のわからなかった、ゴールドのリング。

バレッタ「あの…ここはあなたの町では?」

「うん。だから、もう二度と来ない」

背を向けたまま彼女が言う。長い赤髪が歩く度に揺れる。ヒールの靴音が静かに響く。

「勝手な話だけど…でもきっと私より、この町を愛してくれる誰かがいるかもだし。私より寂しくなることは多分ないわよ」

バレッタ「…本当に勝手ですね。自分は愛されてるかもって少しは考えたことないんですか?あなたを必要としている誰かがいるかもとは考えないんですか?」

前を歩く彼女が足を止める。バレッタは自分で言ったことに困惑する。彼女は何の話をしているんだ?私は何を言ってるんだ?
理解できないまま溢れる感情だけが口を動かして止まらない。
歩を進め、

バレッタ「自分の考えだけ…自分の気持ちだけですか、あなたは」

「…うん。ごめんね」

バレッタ「…謝らないでください。最低です、あなたは」

「うん。多分、あなたが思ってる以上に」

彼女が再び歩き出す。柔らかで穏やかな風が吹く。不思議なことに、さっきよりも距離が縮まってない。

「ねえ、バレッタ。ソリィバレッタ。私のワガママに付き合わされた、付き合ってくれたガーベラ・ソリィバレッタ」

バレッタ「名前を、呼ばないで…あなたなんかキライです」

「…うん。色々とごめん。それと、ありがとね」

バレッタ「喋らないで…お願い。黙って…」

「私、楽しかったわ。あなたたちにはどうだったか知らないけど、あなたたちとの遊び、私は楽しかった」

バレッタ「やめて……黙れ…」

足が止まる。シャットアウトしたはずの同調。いつの間にか再開している。彼女が何を言おうとしてるのかイヤでもわかる。
わかってしまう。

「…バレッタ」

バレッタ「うるさい…うるさいうるさい、うるさい!どうして?どうして私の前からいなくなるの!?どうして私だけ置き去りにするの!?」

バレッタ「あなたもフェルディナンドも、自分だけわかったように納得して、正しいことしてるみたいに勝手なことを言わないで!」

バレッタ「返して…返してよ!フェルディナンドを返してよ!私を捨てないでよ!」

バレッタ「私を…一人ぼっちにしないでよ…!」

何を言っている。やめろ。フェルディナンドは関係無い。
一人でやっていくと約束したんだ。心配いらないって言ったんだ。彼を悲しませるな。
思考が揺れる。振れる。意識がはっきりと定まらなくなり、たまらずうつむいていると、

「ソリィバレッタ」

顔を上げる。振り向いた彼女の静かな微笑みが見える。見たくないのに目を逸らせない。

柔らかな風が吹いている。穏やかで頬を撫でるような、拭うような優しい風が。

「…ありがとう」

バレッタ「あ─」

やめて。聞きたくない。目を背けたい。見たくない。なのに。
塵が吹き飛ぶように、彼女の輪郭が形を失う。形が。影が。姿が。色が。ぼやけて薄れて霧散する。
消える彼女を前にして、

バレッタ「…二度と、そのツラ見せないでくださいね」

「─」

自分がどんな顔をしているかわからない。わかる顔といえば、ハトが豆鉄砲を食ったような顔。次にその顔はぎゅっと笑う。
口の端に牙が覗く、とびきりの笑顔。

風が、やんだ。
彼女の笑顔も、もう見えない。

さようなら、思い込みの激しい臆病なヒト。
さようなら、恋に狂い焦がれたワガママなヒト。

さようなら。
願わくば、どうか忘れないで。
虚しく無意味な、この空洞は、かつてあなたの居場所でした。

探偵事務所に帰ってくると、外はすっかり明るくなっていた。
何となく窓に近づき空を見上げ、ぼんやりとビルの隙間から見える雲を眺める。壁越しの雲は、手の届かないほど遥かに遠く、一所に留まらず離れていく。
しばらくそうしていると、慌てた足音が聞こえてきた。遅れて響くチャイム音。
誰がいようといなくなろうと、バレッタが探偵を続ける限り、そして怪異が現れる限り、事務所の扉は叩かれる。
これまでも、そしてこれからも。

サングラスマスクの男「先生!魔犬だ、魔犬だ!魔犬が出たんだァ!どうか助けてくれぇ~!先生!」

バレッタ「落ち着いてください…探偵は逃げませんよ。まずは話を聞きますから…お茶でも飲みながら、ゆっくりと」

ガーベラ・バレッタは探偵だ。主な業務は怪異相手に暴力的な振る舞いと、失くし物を探すだけのケチなもの。

怪異探偵ソリィバレッタ番外編
「これからの舞台も血と暴力と殺戮を」

アルバトロ怪進化 アルバトス
電脳機インベーダー バサカロンII世:プライムフォトン(ユーフォステッドフオーリナ)

登場

プォーッポロロロ…ポロッポロッ



「赤いドレスは血の先触れ」
>>1から
「ルナチック・マッドメイク」
>>41から
「夢を叶えてドリームラン」
>>93から
外伝
>>138から

怪異探偵ソリィバレッタのセルフ二次創作です
おまけのの血と暴力と殺戮ですお納めください

ゲムズォローグラン・シルフィーリィ。虚ろに浮かぶ空想島。
愚かな人間の気紛れの戯れによって、ここに怪物が誕生しようとしていた。

グ・グ──…

メキメキィ、バギバギバギ!バガァア!

アルバトス「ギャァアア────ッス」ガバァアア

アルバトス「アォオオオ───…ン!!!」

無駄にアスファルトをブチ破って登場したのはアホウドリの怪進化体、アルバトスである。
布団にくるまって5秒ぐらいで考えた名前だった。

アルバトス「」バサァッバサッ…

アルバトスの頭部には分厚い皮膜の羽がある。閉じた状態でもそれなりのサイズをしているが、肝心の体のサイズには合ってない。
それでも飛行は可能なのだから怪進化って凄い。

アルバトス「カロロロ…」

ともあれ今は飛び立つ気はないようだ。まあまだ地上に出てきたばっかりだしね。

ポロロロロロ…

アルバトス「ガッ?」

バサカロンII世「」ポロロロロ…

ズゥン…

バサカロンII世「ポォーッロロロロロ…ポォーロロポロッポロッ(電子音声)」ガッシン

いくつも重なった紫のリングから現れたのはバサカロンII世。バサカロンシリーズのユーフォステッドフオーリナ、そのプロトタイプだ。
プロトタイプゆえにバーサストロー・フォトンフィールドの色は赤色ではない。

アルバトス「グルルル…」

バサカロンII世「ポォーッロロロ…ポロッポロッ」ガッシン

アルバトス「ガァッ!」ドズゥン!ドズゥン

バサカロンII世「ポロッ」ガッシン、ガッシン

ガッシィイアアアッ!

アルバトス「グォオルルル…」ググ…グ…

バサカロンII世「ポォーオロロロ…ポロッポロッ」ギシン、ガシン

組み付きあった両者のパワーは拮抗している。
動物系ゆえに力の強いアルバトスと互角ならまあ及第点かな。

バサカロンII世「ポロッポロッ」バッ

バシィイッ

アルバトス「ガァッ」

グ・ググ…メリ…メリ…

アルバトス「ギャァアアア…ゴアッ」ビグン

バサカロンII世「ポロッポロッ。プォポロロロロ…ポロッポロッ」

バッドエンドアビスクロー。
五指マニピュレーターは単純なパワーよりも生卵を潰さず掴める繊細なコントロール性能を重視している。
その気になればパルグラント鉄ぐらいなら容易く握り潰せるけど握力攻撃を仕掛けるためのものじゃない。
プログラムの修正が必要。

アルバトス「ギャワッ」バッ

バサカロンII世「ポロッポロッ」キュピン!

シャキン!シャキンシャキン!

チュドドドドォン!

アルバトス「パワッ!」ヨロロッ

電脳爆裂レイザー…問題なし。バーサークのものと比べても威力は遜色ない。

アルバトス「バワッ」ギャバッ

シャゴォオオオ…

バサカロンII世「プォロオ───ロロポロッ」カチン

ジャゴゴゴゴッ!ジャゴッ

シャキン!シュラッ

バヂィイン!ワシャアッ

アルバトス「ギャアッ…」ズゥン、ズンズン

バサカロンII世「ポロロロロ…ポロッポロッ」

シッポ対決を制したのはハーギストテールブレード。
背面装甲ジャバラバックメタルガードから伸びる、アタックラッシュアッパーテールに取りつけられた細身のブレードは厚さ25メートルのマガラグナ隕鉄を両断することが可能。
収納式にしたせいで電脳爆裂パウダーの噴出孔が少なくなってしまったが、戦闘行動が主目的ではないので妥協。

格闘性能も見たいな。接近戦を仕掛けようか。

バサカロンII世「ポロッポロッ」ガシッガシィガシャ

アルバトス「ガガアッ!」ガシィイーッ

アルバトス「…!?」

ビィイ───…ム

バサカロンII世「プォポロロロ…ポロッポロッ」

アルバトス「ギャワッ…」ブシッ…

膝部三装トリケロビームニードル。アルバトスの岩の皮膚をブチ破るのだから貫通力は確かなようだ。

バサカロンII世「ポロッポロッ」バシィ!バギィッ

アルバトス「ギャ…ガガァッ!」ズン、ズン…

アルバトス「ガバッ!」ギャバンッ

バギィイイ──ン!

バサカロンII世「プオッ…ポロッポロッ」ヨロロ…

アルバトス「ガバ!ギャバァアッ」バギィ!ガシィイッ

バサカロンII世「プォーポロロロ…ポロッポロッ」カギン、ヨロロッ

アルバトス「ブガハァ──っ」

近接格闘においてはアルバトスに分があるようだ。胸部装甲ジャバラブレストメタルガードの耐久力は改良が必要。
爆裂パウダーで距離をとれ。

バサカロンII世「(電子音声)」バサァ───…

チカチカチカッ!チュドォオオオン

アルバトス「ゴァアッ」バフアッ

バサカロンII世「プォーロロロロロ…」ガッシン、ガシン

バサカロンII世「プォーロロポロッポロッ」シャキン!

フォ──ンフォ───ンフォ───…ン

アルバトス「ガッ…!?ゴァア…」ポロロロ…

今作の目玉、キャトルキャッチリング。
いくつも重なった紫のリングに捕まると脳を揺らされ思考を乱され何も考えられなくなり、抵抗できずに次元転送を受けることになる。

アルバトス「ガァ───…」アヘッ…

バサカロンII世「ポロッポロッ」

ワサッ!バササッ!

バサカロンII世「ポォオオロロロ…」

アルバトスの羽が開く。抵抗はできないはずだが。

ワワワ───…ン!ワワワ────…ン

バサカロンII世「」バギン!バヂンバギッ

バサカロンII世「ポロッポロッ」ヨロ…

アルバトス「」パキィイイ───ン

アルバトス「ガァッ!ギャォオッアォオオ──ン!!!」ブン!ブン

破壊怪音波アルバトロソニック。アルバトスの頭部の皮膜翼から放つ、超破壊音波ソニックブームだ。
どうもバサカロンII世は耐久力に難がある。今後の課題だな。

リングから解放されたアルバトスのキバ付きクチバシがバサカロンII世を襲う。

ズド!ズドォッズドッドン!

アルバトス「アォオ────オン!!!」ガバァアア

ガギィッ!バギッガギ、ガギィッズギャィイ──ン

バサカロンII世「ポロッポロッ …」

バサカロンII世「」ズズゥ…ン

アルバトス「アォオ────オン!!!アォオ────オン!!!!!」ギャアッギャアッ

画面の中でデータ上のアルバトスが勝利の雄叫びをあげる。
彼の転送までは果たせなかったが、バサカロンに組み込んだ次元転送装置の実験は一応成功したので、まあよしとしよう。

以前、解き放ったバサカロンが反応消失したことがあった。
次元転送装置を組み込んであったので、どこに飛んでも不思議はないのだが、陸海空はおろか宇宙からも信号が届かず完全に消失したというのが気になる。

次元転送装置。キャッチーなネーミングでスポンサーにアピールするため付けた名前だがもしやと思い立ち、馬鹿馬鹿しさを感じながらもデータの闘技場を作り、アルバトスのデータを入力して対戦相手を用意し、転送先をその舞台へと設定した。

結果はご覧の通りだ。
見事にバサカロンII世はデータ内の空間に降り立ち、戦闘を繰り広げ、データに過ぎないアルバトスに損傷を与えたばかりか、敗北すらしてみせた。
これはとんでもない事実だ。非常に興味深い。
これまでの常識を覆されるような感覚。怖気が立つと同時に奇妙な興奮すら覚える。

研究資金のためクライアントに依頼されて渋々始めたロクでもないプロジェクトだったが、こうなってくると楽しくて仕方がない。
イヤイヤながら悪魔に協力するうちに、いつの間にか私も悪魔の一員となってしまったのだろうか。

ともあれ次元転送装置はデータ上の仮想空間にすら移動を可能にした。もうどこに現れても不思議はない。
もしかしたら次のバサカロンはキミの住んでる町に現れるかもしれないよ。
その時を楽しみに待っててね。フッフフフフ…

脱稿!即ち解放の時!
これでやっとマスター業に専念出来る

ホラーものになったかな
私の好きな女の子が嬉しがるやつになれたのなら私も嬉しいのですが

証拠用

念のために

このSSまとめへのコメント

1 :  MilitaryGirl   2022年04月19日 (火) 22:26:55   ID: S:xJbJTJ

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2 :  MilitaryGirl   2022年04月19日 (火) 23:42:46   ID: S:d_sYwu

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