「時にバイト戦士よ」
「え? どうかしたの、岡部倫太郎」
ジョン・タイター。それがあたしの別名。
岡部倫太郎はそのジョン・タイターの大ファンらしく、毎晩色んなことを訊いてくる。
「いや、別に大したことではないのだが」
「なにさ改まって。余計に気になるじゃん」
ジョン・タイターとして岡部倫太郎と接する時は男の口調でメールをやり取りしているので、こうして会って話すと少しだけ照れる。
「では、単刀直入に言おう」
「うん。訊かせて」
じっとこちらを見つめるオカリンおじさんの真剣な眼差しにほっぺが熱くなる。だけどあたしは戦士だから、逃げずに立ち向かった。
「前々から思っていたが、声が可愛いな」
「ふえっ!? な、なにさいきなり!?」
「か、勘違いをするな! 他意はない!」
他意はないって余計に意識しちゃうじゃん。
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「それって、あたしの声が好きってこと?」
「うぐっ」
負けじと単刀直入に訊ねると彼は狼狽えて。
「好きとか、そういうことではなくてだな」
「じゃあ、どういう意味?」
「ただ俺は、お前の声がその……心地良い」
ふうん。へえー。なるほど。そうなんだー。
「えへへ」
「に、にやにやするな」
「だぁって、嬉しくなっちゃったんだもん」
岡部倫太郎ったら意外と口が上手いらしい。
「よーし! お礼にサービスしたげる!」
「サ、サービス、だと……?」
「うん! リクエストに応えてあげる!」
「リクエストとはどういう意味だ?」
「岡部倫太郎が言って欲しい台詞を言うよ」
すると岡部倫太郎はこほんと咳払いをして。
「ならば、お言葉に甘えて」
「遠慮はいらないよ!」
「おやぁ? どちらに行かれるので? と」
なにその台詞。何かのアニメの台詞かな?
「おやぁ~? どちらに行かれるので??」
「パーフェクト!!」
少し嫌味な口調が正解らしい。よかった。
「なんかお嬢様みたいな口調だね」
「お嬢様というよりお姫様口調だな」
「あたしには似合わないと思うけど」
「そんなことはない!」
肩を掴まれて迫られた。思わず目を逸らし。
「い、痛いよ……オカリンおじさん」
「あっ。す、すまない。って、おじさん?」
「あー……ごめん。気にしないで」
掴まれた肩が熱を持っていて恥ずかしい。
「ともかく! お姫様口調は悪くない!」
「本当にあたしに似合うと思ってる?」
「ああ! そもそもバイト戦士は戦士である前に女子なのだから、もっと女らしくしろ!」
戦士は戦士。女である前に戦士だ。だけど。
「そうだね……岡部倫太郎の前では頑張る」
「っ……!」
前向きに善処すると伝えると彼は赤面して。
「俺で良ければいつでも練習相手になるぞ」
「そう? じゃあ、早速。よろしいですか?」
「あ、ああ。その調子だ」
「左様ですか。お気に召しましたか?」
「本当に元ネタは知らないんだよな……?」
はて。確かに橋田至の円盤コレクションにノゲノラが含まれておりましたが、まさかあなた様がジブリール好きとは思いもしません。
「鳳凰院様はこういう女性がお好みで?」
「まあ……嫌いではない」
「そうですか。ではお付き合いしますか?」
「お、おお、お付き合い、だと……?」
「はい。女の子らしくしますので、是非」
「い、いい加減にしろ! 揶揄うな!!」
「あははは! 岡部倫太郎、顔真っ赤!」
それっぽく迫ると、良い雰囲気。楽しいな。
「てゆーかさ、岡部倫太郎」
「な、なんだ、バイト戦士よ」
「ちなみにこんなバージョンもあるけど?」
橋田至のコレクションから厳選した台詞だ。
「倫太郎、どういうつもり?」
「な、なにがだ……?」
「あたしを差し置いて椎名まゆりと乳繰り合うなんて!」
「ち、乳繰り合ってなんかないぞ!?」
「言い訳なんか訊きたくないわ!」
「ええ……」
岡部倫太郎が迷ったら攻めるのがモットー。
「キスしなさい」
「な、なにを馬鹿なことを……」
「謝罪を行動で示しなさいと言ってるの」
少し意地悪だろうか。ひとまず、この辺で。
「わかった。それがシュタインズゲートの選択というならば、俺は従うまでだ」
「へ? お、岡部倫太郎……?」
さっき掴まれた肩をまた掴まれて迫られる。
「何をしている。さっさと目を閉じろ」
「わ、わかったよ……3分だけだからね」
完全に素戻って目を閉じた。3分間のキス。
「くふっ……あはは! くすぐったいよ」
「すまん。髭を剃ってくれば良かったな」
「でも、よろぴー。許してあげましゅ」
「完成度が高すぎるだろ……」
初めてのほっぺにキスはチクチクしていた。
「今の元ネタはもちろん知ってるよね?」
「ああ。ダルが修羅場に目覚めたからな」
「じゃあ、気にならない?」
「む? 何がだ?」
「あたしが今穿いてるか、穿いてないか」
その可能性を提示すると、彼は鼻で笑って。
「お前はスパッツを穿いているだろう」
「じゃあ、スパッツの下は知ってる?」
「ス、スパッツの下、だとぅ……?」
まじまじガン見されると流石に恥ずかしい。
「岡部倫太郎、見過ぎだよ……」
「いや、よく見るとうっすら滲みが……」
「なっ!? キスくらいでそんな筈は……!」
まだもにゅもにゅしてないのに、どうして。
「無論、冗談だ」
「……あんたはあたしを怒らせた」
「ひっ……許して?」
「NO! NO! NO! NO! NO!」
「もしかして、オラオラですか……?」
「YES! YES! YES! YES! YES!」
ロードローラーじゃないことを喜びなさい。
「それがこの世界線の必然……いいだろう」
覚悟を決めた彼の瞳は私の為に輝いている。
「戦士の目だね。オカリンおじさん」
「当然だ。我こそは世界の支配構造を……」
「ザ・ワールド! 時よ止まれぇえええ!!」
踏み込んで襟首を掴み、そしてキスをした。
「むぐっ!?」
「ぷはっ……そして時は動き出す」
「俺だ……どうやらバイト戦士は完全にジョジョジョジョしい恋愛脳になってしまったらしい。なに? 責任を取れって? やれやれ」
この期に及んでスマホを片手にスカしたことを言ってのける岡部倫太郎にあたしは痺れて憧れる。だけど、まだレパートリーはある。
「ちぇりおー!」
「どあっ!? おのれ俺の決め台詞を……!」
「驚いたであろう! 策士ではなく奇策師」
通じていないスマホを叩き落として告げる。
「あたしは正真正銘の奇策士鈴羽だよ!」
「ほう? 貴様があの、尾張幕府家鳴将軍家直轄預奉所軍所総監督か」
「いかにも。奇策に敗れたそなたは私の虜」
「ふむ。だが、奇策士殿には弱点があるな」
「じゃ、弱点って、まさか……?」
「貴様の弱点。それは……鎖骨だぁ」
「やんっ」
鎖骨を親指でコリコリされて悶絶。やばい。
「どうだぁ? 参ったかぁ?」
「鎖骨弱い、鎖骨やばい……!」
「んん? 参りましたが聞こえないなぁ」
「やんやんっ!」
ジョンならぬジュンと滲みが広がってゆく。
「フハッ!」
失禁したあたしを見て愉悦をあげる。今だ。
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
「漏らしたら攻める! それがモットーだよ」
「フハハハハハ……むぐっ!?」
再びキスをした。舌も入れる。そして云う。
「おじさんが好きなのはあたしの声だけ?」
「そうだな……たしかに良い声だ。だがな」
照れ隠しに背を向けて白衣に手を突っ込み。
「今日、色んなお前を見て、認識を改めた」
今日のWonder taleが、新しい未来を紡ぐ。
「未来のお前がどうなるのか、見てみたい」
「うん……観測してね、オカリンおじさん」
「ただしその頃には……俺は紅莉栖に八つ裂きにされているかも知れないがな」
「大丈夫! 牧瀬紅莉栖には負けないよ!」
第三次世界大戦が起こらない未来で戦士ではないあたしを岡部倫太郎に観測して貰う。
それは奇跡よりも確実な約束で。
あたしの胸を熱くする。
【対立仮説のワンダーテイル】
FIN
俺修羅場関係おめでとうございます!
鈴羽の声優の田村ゆかりさんは本当に多彩なキャラクターを演じられていて、鈴羽、ジブリール、真涼、とがめとそれぞれ個性的なキャラクターで書いていて楽しかったです
また本作のテーマとなっているW:Wonder taleも田村ゆかりさんの曲で、歌声もまた素晴らしいですので是非聴いてみて下さい
最後までお読みくださりありがとうございました!
すみません
>>8レス目の冒頭は
俺修羅完結おめでとうございます!でした
久しぶりにもにゅもにゅが読めて幸せでした
真涼が可愛すぎてちょっと脳がアレなのでちょっとおそとはしってきます!
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