真紅「ジュン、貴方なんて言ったの?」桜田ジュン「僕、ツインテールになります!」 (8)

「ふんふんふん♪」

鼻歌混じりに何かを制作しているジュン。
ちらと横目で伺うと、腕輪のようだった。
ここ一週間ほど、それを作り続けている。

「よし、出来たぞ!」
「ジュン」
「ん? なんだ、真紅。まだ起きてたのか」

とっくにドールが眠りにつく時刻は過ぎているけれど私は眠らずに物作りに熱中しているジュンを見つめていた。否、見惚れていた。

「何かを作っている時の貴方は素敵よ」
「な、なんだよ……いきなり褒めるな」

様々なマスターのそばで、多くの人間を見てきた私にとって、彼らの想像力が具現化する瞬間というのは、何度見ても飽きなかった。

詩。文章。曲。工作。無から有を生み出す。
それは人間の特権であり、だからこそ、私たちローゼンメイデンはここに存在している。

中でも"マエストロ"の域まで達したアーティストの作品は人智を超えた結果を生み出す。

「何を作っていたの?」
「テイルギアだ」
「テイル、ギア?」

なにかしら。尻尾を生やす装置なのかしら。

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「それは何をする機械なの?」
「これで僕はツインテールになるんだ」
「は?」

はて、ジュンは何を言っているのだろう。ツインテールと聞こえた。私は思わず自分のツインテールに手を伸ばして、一応確認する。

「ジュン、貴方なんて言ったの?」
「僕、ツインテールになります!」

ああ、ジュン。なんてこと。病気だろうか。

「大丈夫よ。現代は医療が発達しているようだから、きっと良いお薬がある筈だわ」
「待て待て。ひとを勝手に病人にするな」

だってどう見ても気が触れている。狂人だ。

「真紅、僕の話を訊いてくれ」
「ええ訊くわ。だからその後に病院に……」
「病院は必要ない。僕は正気だ」

精神的に病んでる人間は決まってそう言う。

「真紅なぜお前はアリスになれたと思う?」
「それは姉妹たちが居たからよ」

私がアリスになれたのは、状況と立場が私に妹たちを救う決断をさせた結果に過ぎない。
素質や素養ではなく、ローゼンメイデンの姉妹全員がアリスという至高に到達したのだ。

「姉妹たちのおかげで私はアリスになれた」
「違う。お前がツインテールだからだ」
「ジュン……?」

やっぱりおかしい。目つきと言動がやばい。

「ローゼンは最初からアリスを作ろうとしてお前を作った。様々なバリエーションのドールを制作して、至高の少女を模索していた彼は第五ドール時点で結論に行き着いたのさ」
「結論……?」
「ああ。やっぱりツインテールだ、ってな」

それはいくらなんでも、お父様に失礼では。

「でも、私にも妹が居るのだわ」
「きっとローゼンは認めたくなかったんだろうな、自分がツインテール大好きだって。結局ツインテールには勝てないという現実を」
「髪型ってそんなに重要なのかしら……?」

思わず口をついた疑問。ジュンは激怒した。

「当たり前だろ!! いいか、お前らはウィッグじゃないんだぞ!? そもそも製作者が同じドールはどうしても顔つきが似てくる! どうやって個性を出す!? 髪型しかないだろ!」
「ジュ、ジュン、ちょっと落ちつくのだわ」
「悪い……つい作り手としての矜持が出た」

正直、気持ち悪いけれど、私は云わないわ。

「それで、何故貴方がツインテールに?」
「社会復帰するためだ」

社会復帰ではなく、余計に遠ざかっている。

「でも、貴方は男の子で女の子ではないわ」
「ちっち。まずはこれを観ろ、真紅」

腹が立つ仕草で舌を鳴らしつつ指を振ったジュンはその指でスマホを操作。動画を再生。

「これは……?」
「俺、ツインテールになります。というアニメだ。主人公は男でツインテ美少女になる」
「ジュン……ついに、現実と虚構の区別が」

スマホの画面に映し出されたのは男の主人公が可愛いツインテール美少女に変身して怪人と戦うアニメのOP。鼻歌の曲だった。痛い。

「現実? 虚構? なぜ区別する必要がある? 僕はマエストロだ。真紅、ローザミスティカを失ったお前を甦らせたのはどこの誰だ?」
「それに関しては感謝しているけれど……」
「僕に不可能はない」

なんだって実現する。それを彼は証明した。

「見てろ、真紅」

眩い光がジュンを包み込む。そして現れた。

「どうだ。これが新しい僕だ」
「まさか、そんな……なんてこと」

ジュンは本当にツインテの美少女になった。

「どうだ、すごいだろう?」
「ええ、本当にすごい。すごいけれど……」

得意げな美少女ジュンに。私はおずおずと。

「その格好に、何の意味があるの……?」
「可愛ければチヤホヤされて人気者だろ?」
「でも、それは貴方の望むこと?」

見た目を変えて、チヤホヤされて、それで。

「その髪型になれば、貴方の望みは叶う?」
「僕の、望み……」
「このアニメのように、世界を救えるの?」
「違う……僕はそんなこと望んでいない」
「ジュン。そもそも貴方はそこまでツインテールが好きなの? 私のマスターとしてこうして傍に置いてくれるのは私の髪型目当て?」
「違う! 僕は、真紅、髪型なんか……!!」

ようやく、ジュンと目が合った。安心した。

「私はどんな髪型でもジュンのことが好き」
「真紅……僕も、僕だって、髪が解けて片ツインテになったお前も、愛しく思うよ……」

それはそれで、余計に拗らせているけれど。

「大丈夫よ。ジュンはもとのままで大丈夫」
「でも、僕は自信がないんだ……だから、革命を起こそうと思って……」

自信をどうつけるか。人の評価ではなくて。

「貴方自身が自分を信じればいいだけよ」
「僕、自身が……?」
「そう。さっき自分で言っていたでしょう? 貴方はマエストロ。私を直してくれた凄い人」

善悪はともかくテイルギアすら具現化した。

「ツインテールじゃなくても私のヒーロー」
「真紅……僕が間違っていた」
「違う。間違ってなんかない。貴方がやっていることが善でも悪でも成し遂げたことに意味があるの。そこだけは誇りに思いなさい」

ジュンの涙が頬を伝う。美しい涙だった。

「美少女が涙を流すのは見ていて苦しいわ」
「ああ…………ごめん。今、変身を解くから」

再び光に包まれてジュンは元の姿に戻った。

「ジュン、抱っこして」
「僕を抱っこしてくれないのか?」
「だって私は貴方のお人形だもの」

私はドール。ドールなりに矜持があるのだ。

「ところでジュン」
「なんだ、真紅」

膝に乗って向かい合わせに抱き合いながら。

「お膝の上で抱っこされるのは好きなのだけど、なんだか妙にお尻が冷たいのだわ」
「女の子は頻尿って本当だったんだな」
「ジュン!?」
「フハッ!」

ああなんてこと。だけどそんな貴方を私は。

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
「今度は変身する前にトイレに行きなさい」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

愉悦。哄笑。それがたとえ邪悪な嗤いだとしても涙よりはずっといい。だから私は赦す。

「ふぅ……なあ、真紅。訊いてもいいか?」

Tell me why?

「なぁに、ジュン?」
「僕の人形は幸せか?」
「ええ。もちろん私は幸せな貴方の人形」
「なら、もっと幸せにするように頑張る」
「……相変わらずドールの扱いが上手ね」

新しい胸のローザミスティカが、熱かった。


【僕、ツインテールになります。】


FIN

以前からご紹介していました『恋は双子で割り切れない』の新刊が発売されて、それを読みながら『俺、ツインテールになります。』のOPを聴いていたところ、この作品が生まれました。ギミーレボリューション最高です。
興味のある方には是非、おすすめです。

あと、きらきーは個人的にツインテールではないと位置付けているので、悪しからず。

最後までお読みくださりありがとうございました!

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