【コンマ】ウマ娘とトレーナーがラーメンを食べに行くだけのスレ (192)

はじめに

ウマ娘とトレーナーがラーメンを食べに行くスレです。全て地の文で進行します。
実在の店にウマ娘とトレーナーが行き食レポします。店ごとに食べるウマ娘は変わります。
ウマ娘の口調などはうろ覚えなので、その点ご容赦下さい。

なお、レギュラーの専属ウマ娘を最初に設定します。
下1~5でコンマが最も大きいものとします。よろしくお願いいたします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1639910329

ではサクラバクシンオーとします。

続いてトレーナーを設定します。
下1~3でコンマの最も大きいものを採用します。

上げ忘れました。

メッチャ鍛えてて生身でウマ娘と渡り合える系
チートデイ(どか食いしていい日)はラーメン一択のラーメン狂でもある

では>>9で決定します。

初回まで少々お待ちください。




トレセン学園の朝は早い。



ウマ娘にとって、トレーニングは早朝に行うものだ。朝露が落ちる前から彼女たちはダートを、ウッドチップを、そして坂路を駆ける。
午前6時ともなれば、薄闇の中に彼女たちの靴音……もとい、蹄鉄の音が響き渡る。
そして大抵のウマ娘は、静かに、そして精一杯走るものだ。そう、大抵の場合は。


バクシンバクシン……


バクシンバクシンバクシンバクシン………


坂の下から、その声は段々と近く、大きくなる。そして。


「バックシーン!!」


得意気な、満面の笑顔とともに、彼女は私の前を通り過ぎていった。タイムは……52秒2。良い。


「どうでしたか!トレーナーさんっ!!」

ピコピコと尻尾を揺らしながら、彼女は小走りで駆け寄ってきた。

「素晴らしいぞ。恐らくは今日1のタイムだ」

「ワッハッハ!!そうでしょう、そうでしょう!!なぜなら、私は学級委員長ですからっ!!」

彼女……サクラバクシンオーは両手を腰に当て、胸をそらして笑う。いつも通り、元気で結構。

「うむ。君の毎日の鍛練の成果だ。もっとも、無理は禁物だぞ。オーバートレーニングほど、良くないものはない。
坂路練習の後は丁寧なストレッチとクールダウンだ。水分補給をした上で、食堂に来たまえ。朝食を用意してある」

「はいっ!!トレーナーさんの朝ごはん、楽しみですっ!!」

バクシンオーはそう言うと、またハッハッハと元気に笑い始めた。

手元のメモに視線を落とす。……次のレースまで、あと3週間か。
彼女は元気そうだが、少々無理をさせている自覚はある。体重も、ベストより少し落ちている。



これは……そろそろだな。



*


彼女が食事に出ている間は、私のトレーニングの時間だ。


「1、2、3……」


レッグプレス、ベンチプレス、スクワットマシーン……決められた負荷で、決められた回数を忠実にこなす。
そして、決められた時間を休み、決められた分量の水分とプロテインを採る。
これが私の、日々のルーティーンだ。


彼女にレースがあるように、私にもコンテストがある。これは、そのために筋肉を育てる重要なプロセスだ。
1日たりとも休んではならない。盆栽が日々の手入れを必要とするように、筋肉もまた日々丁寧に手入れをしなければならない。
それは、日々走ることを求められている、ウマ娘と同じだ。私の生業は、彼女たちのそれと、とても、とても良く似ている。


だから、私はトレーナーになったのだ。



私は天王寺定光。



世界で最もストイックで、最も苦しく、最も美しいスポーツ……ボディービルディングに生涯を捧げた男だ。




ピピピピ…………


タイマーの音が鳴った。そろそろ、バクシンオーが戻ってくる頃だろう。
私はシャワーを手早く済ませ、汗を流し落とす。そして制汗剤を吹き掛け、軽く香水を付ける。
バクシンオーは大雑把な性格だが、それでも年頃の娘だ。漢の汗の臭いで、不快にさせてはいけない。


「バックシーン!!トレーナーさんっ、ただいま戻りました!!」

「うむ。食事は全部食べられたかな」

「花丸、ですっ!!」

満足そうに笑う彼女を見てホッとする。万事トラブルなし、良いことだ。

「そうか、なら良かった。時に、今晩は予定があるかな?」

「予定、ですか?」

「そうだ。君の体重は、少々落ちている。私も、そろそろ動かねばなら……」

「ハワワワワ!!デートのお誘いですか!?いかにトレーナーさんでも、不純異性交遊はいかがなものかと……」

顔を真っ赤にしながら慌てるバクシンオーに、私は苦笑した。

「話は最後まで聞きたまえ。君も私とはそれなりに長い付き合いだろう。月に1度の、あれだよ」

「アレ、ですか?」

バクシンオーの頭上に、?が幾つも浮かんでいるのが見えるようだ。

「そうだ。『チートデイ』だよ」

「ちーとでい?」

私は軽く溜め息をついた。彼女は走ることにおいては非常に優秀で、文句のない優等生なのだが、残念なことに物覚えはあまり良くはない。

「そうだ。いい加減覚えてほしいものだが……。
トレーニングをしていると、身体がそれに慣れてしまう。そして的確な栄養素を採っていても、身体がそれを当然のものと感じてしまうようになる。
だから、定期的に好きなものを、思い切り食べて、身体を『自分は不健康だ』と騙すのだよ。そうすることで、トレーニングの効果は高まるのだ。
その、何でも食べていい日こそ『チートデイ』だ。私と君の場合、それは月1回だな」

「はわー。良く分かりませんが、とてもいい日なのですね!!でも、普段からトレーナーさんは考えて美味しい食事を準備してますよね?」

「健康にいいだけで不味い食事ほど害悪はないからな。ストレスを感じさせないよう、そこは考えて作っている。
だが、どんなに美味くしようとしても、栄養素に配慮している以上限界はある。美味いものは健康に悪い。それは悲しいが真実だ。
故に、チートデイでは極力健康に悪いものを食う必要がある。炭水化物、塩分、脂分……多量のそれを摂取できる、最も効率が良く、かつ美味く、しかも安価な食事……それを食べに行こう」

「ハイッ!!で、何を食べるのですか?」

私はニヤリと笑う。……そう、誰より私自身、この日を待ち望んでいたのだ。



「決まっているだろう、ラーメンだよ」



以上、プロローグ終わりです。
ゲストキャラを1人決定します。下1~3で、最もコンマが大きいものとします。

決定後、ラーメンのジャンルを決めて本日は終了です。

*

「運転手さん、ここで結構」

タクシーを歌舞伎座の前で停めてもらう。暮れの銀座の夜は、忘年会に向かうサラリーマンで賑わっていた。
私たちは灯りで彩られた表通りから離れ、静かな小道を歩く。

「銀座、来るのははじめてです!ラーメン屋さんもあるのですね!」

目をキラキラさせながら、バクシンオーがスキップするように私の後ろをついてくる。三田村嬢とライスシャワーはというと、まだ少し戸惑い気味だ。

「ミシュラン一ツ星って……割烹、ですか?」

「いやいや、値段は少し高めのラーメン屋ですよ。ミシュランはラーメンも美食として評価しておりましてな。東京では確か、一ツ星ラーメン店は3店あるそうです」

三田村嬢の後ろに、ピタッとライスシャワーがくっついている。彼女も銀座は初めてなのだろうか、どこか所在なさげだ。

「ライス、ラーメン好きだよ。どんなラーメン、なの?」

「そうだな……ジャンルを言うのは難しいな。塩でも醤油でも、豚骨でも味噌でもない。つけ麺でもない。『食えば分かる』としか、言いようがないな。
ただ、洋食党の君には、きっと気に入ってもらえるはずだ。……と、見えてきたぞ」

行列はざっと20人弱、といったところだろうか。夜ならば多少は並びが少ないと思っていたが、それでもかなりの人数だ。

「ややっ?どこにお店があるのですか?」

「そこの角だよ。まあ、見た目は小料理屋にしか見えないだろうな。
三田村トレーナーとライス君には少々悪いが、しばし待とう。待つことに伴うストレスも、チートデイには有効なのだ」

バクシンオーの頭にまた?が浮かんでいる。

「はて?どういうことですか??」

「チートデイとは、苦痛からの解放のためにある。それによって身体を騙すのだよ。
簡単に言えば、我慢して精一杯やったトレーニングの後の水は美味いだろう?それと同じだよ」

「むむ……分かったような、分からないような……でもとにかく美味しいラーメンなのは分かりました!!」

行列はゆっくりと進む。ある程度進むと、店内の券売機で食券を買うよう促された。


店内は薄明かりで照らされ、サラ・ブライトマンの曲が流れている。
ここをラーメン屋だと知らず入った人は、ここが高級小料理屋だとしか思わないだろう。

「天王寺トレーナー、何を頼めば……って、メニューは中華そばだけですか?」

「そうです。それだけです。トッピングで味玉を入れるか、チャーシューを増量するかだけですな」

「あ……じゃあ特製で」

「ライスも……」

せっかくのお祝いだ、私たちも特製中華そばを注文することにした。
食券を店員に渡してさらに外で待つこと10分弱。ようやく、私たちはカウンター席についた。

「いらっしゃいませ……天王寺さん!?久し振りですね」

頭の禿げ上がった初老の男が、カウンター越しに呼び掛ける。

「半年振りですね。今日は私の教え子たちも一緒ですが、宜しいですか?」

「ああそれはもう。しかしウマ娘さんたちだと、少々量が少ないかもしれませんね……大盛りができればよかったのですが、今は休止中で」

「構いませんよ。チートデイで重要なのは量より質。その観点からは、こちら以上の店はそうはない」

「いえいえ……それは恐縮です。ともあれ、精一杯作らせて頂きます」

一礼して、店主が寸胴に向かった。三田村嬢が、驚いたように私を見る。

「お知り合いなんですか?」

「いやまあ、古い付き合いですよ。彼は昔、某大ホテルチェーンを取りまとめていた総料理長でしてな。引退後にラーメン職人に転じ、開いたのがここというわけです」

奥から芳しいスープの香りが漂ってくる。胃が、そして筋肉が、待ちきれんとばかりに蠢くのが分かった。


そして、程なくして、4つの丼が私たちの前に供された。


「お待たせしました、特製中華そばです」



丼には黄金色のスープ。その中を細ストレート麺が、行儀よく漂っている。
さらにその上にはチャーシュー。チャーシューに乗せられた茶色の粒々からは、えもしれぬ刺激的な香りが広がっている。

「やや、美味しそうですね!しかしこれは……何ラーメンなのですか?」

ライスシャワーが、蓮華でスープを掬い、一口飲む。その刹那、ハッしたように目を見開いた。

「これ……コンソメ!?でも、何か違う……複雑で、でもとても深い……」

三田村嬢も、「美味しい!」と言ったまま少し固まった。

「……なんでしょう、これ。天王寺トレーナーの言う通り、塩でも醤油でもない。もちろん味噌でも豚骨でもない……」

店主が微笑みながら彼女に語りかけた。

「うち、『かえし』を使ってないんですよ」

「『かえし』?」

私は頷く。

「ラーメンの味、ひいてはジャンルを決定づけるタレのことですな。塩タレなら塩ラーメン、醤油ベースなら醤油ラーメンになる。それをここでは使っていない」

「えっ、何でですか?」

「それはこのスープにある。極めて複雑かつ深い旨味。このスープの力を生かすには、かえしはむしろ邪魔。……そういうことですな?」

店主が微笑み、私に同意した。

「そこまで理解して頂けると光栄です」

私は寸胴の方を見た。表面は香味野菜で覆われている。

「彼が昔、某大ホテルチェーンの総料理長だったのは説明しましたな。そして彼の専門はフレンチ。スープを取るのにも、その技法は使われている。
ライス君の言った通り、コンソメに近い味わいなのはそこから来ているわけですな。
味の決め手は、スープの出汁を取るのに使われているプロシュート」

「ぷろしゅーと?」

「高級生ハムのことだよ、バクシンオー君。スープをハムで取るのは、高級中華ではよくあることだ。
ただ、そこで使われる金華ハムはあまりに高い。ラーメンで金華ハムを使っているのは、『家元』がスペシャルでやるくらいしか聞いたことがない。
そこでここ『八五』は、プロシュートを使った。それがフレンチに通じる独特のスープを作り上げたわけだよ」

「むむむ……よく分かりませんがとにかくすごいのですね!麺が伸びてしまいますから早く食べましょう!」

「ははは、つい熱が入ってしまったな。バクシンオー君の言う通りだ、頂くとしようか」

私は箸を取り、勢いよく麺を啜る。パツパツとした細麺にスープが絡む。


上品、かつ個性的。どこにもありそうで、しかしどこにもない。
ただ、旨味のみが、喉を通り抜けていく。旨味は筋肉の隅々まで広がり、「飢え」を満たしていく。


……うむ、満足。


「バックシーン!!!」


バクシンオーが大声で叫ぶと同時に、私のワイシャツのボタンが全て弾け飛んだ。


夜に再開します。


北海道ラーメンと一口に言っても、種類は多種多様だ。

有名なのが味噌ベースの札幌ラーメン。ラードでスープに蓋をする技法を採る店が多く、北海道ラーメンといえばまず味噌が思い浮かぶ。
しかし、醤油ベースの旭川ラーメンはそれとは全く異なる。濃厚で塩分強めのダブルスープが特徴で、札幌に住む人はむしろこちらを好む、らしい。
函館の塩ラーメンも有名だ。清湯のあっさりした味が特徴で、昆布を使ったスープが多い。
この他にも、鰹節の風味が強い釧路ラーメン、利尻昆布の旨味を前面に出した稚内ラーメンなど、広大な北海道に相応しく味もまた多種多様だ。

ファインモーションがこのうちのどれを望んでいるかで、連れていくべき店は大きく変わってしまう。
もう少し細かく訊きたいが、日本に来てまだ半年の彼女にそこまでの知識があるのかどうか。
事前に日本語を猛特訓したというだけあり言葉は驚くほど流暢だが、正直確信は持てない。


「……そもそも、なぜ北海道ラーメンなんだ?」


んー、と人差し指を口に当て、ファインモーションが考える素振りをした。

「日本に来て、デビューが札幌だったの。そこで浦安トレーナーに連れていってもらった、路地裏の店にあるラーメンが美味しくて!
世の中には、こんなに美味しいものがあるんだって知ったんだ。
それで、色々ラーメンを食べ歩くようになったの。最近は自分でも作ろうと思ってるけど、まだまだかな」

「路地裏、か……」

おそらくはラーメン横丁だろう。あそこは観光客向けの店が多く、味はピンキリだ。当たりの店の方が少ない。
王族である彼女の舌を満足させる店となると……


私はニィと笑った。東京にその流れを汲む店がある。恐らくは、あそこだ。


「分かった。君にピッタリの店が六本木にある」

「六本木?あ、明日近くまで行く用事があるよ!ミッドタウンで、◯◯国の大臣とお会いするの。夜は予定ないから、ついでに行ってみようかな。
天王寺トレーナー、案内してくださる?」

明日か、チートデイには丁度いいだろう。バクシンオーも連れて、行くとしようか。

「無論、構わないよ」




第2R 六本木「天鳳」




*

「ややっ!ここが六本木ですか!!」

バクシンオーがキョロキョロと辺りを見渡す。待ち合わせはミッドタウンの1階。時間より少し早めに着いてしまったようだ。
ファインモーションは、リッツ・カールトンにいるらしい。私にはあまり縁の無さそうなホテルではある。

エントランスから、2人の女性の姿が見えた。1人は正装のファインモーション。もう一人は背の高い、黒いスーツに身を包んでいる。……ウマ娘か?

「お待たせしました!」

「おおっ!ファインモーションさんっ!こんばんはっ!!」

スーツのウマ娘は、険しい目で私を見つめている。何か、気に障ることでもしただろうか?

「お疲れ様。彼女は?」

「あっ、彼女はSPのハリィ。外出する時は、いつも一緒なのよ」

「…………」

まだ私を睨んでいる。これはやりにくい。

「私はトレセン学園のトレーナー、天王寺定光です。よろしく」

握手しようと手を差し出したが、「フン」ととりつく島もない。

ファインモーションが「むう」と頬を膨らませた。

「いい加減にしてよ、ハリィ。男の人が苦手なのは分かるけれど」

「……お言葉ですが殿下。男の勧める店、それもラーメン店などロクなものではございません。行って後悔してからでは、遅いかと」

「天王寺トレーナーはいい人よ?ボディビルの世界では、世界的にも有名な方なのに」

「そんなことなど、私は知りません。とにかく、この男が何か妙な真似をしたら、腕の1本や2本、へし折ってご覧にいれます」

はあ、とファインモーションが溜め息をつく。

「ごめんなさいね。彼女、男性が苦手なの。とても有能なSPだし、ウマ娘としても大きなレースを幾つも勝っていたのだけど……」

「過去の話です。何より、殿下の姉上には、一度も勝てず仕舞いだった」

「でも最後まで諦めず食らいついた。だからお姉さまはハリィが大のお気に入りなんだけど……。
あ、ごめんなさい!ラーメンだったね。ここから近いのかな?」

私は頷く。

「ここから3分も掛からないよ。じゃあ、行こうか」

ハリィの険しい視線を背中に受け、私は歩き出した。すぐに、店の目印になるドラム缶が見えてくる。

「……ドラム缶ラーメン?」

「実際にドラム缶では作ってないから、安心してくれ。では、入ろう」

少し休憩。

ハリィには一応元ネタがあります。
元ネタの馬はファインモーションより年下ですが。


店の前には数人ほどの列ができていた。振り向くとハリィが険しい顔をしている。

「あれで作っているのでなければ、何のためにあの缶はあるのだ」

「昔の名残だよ。遥か昔、数十年前にこの店のルーツができた時には、実際にドラム缶を寸胴代わりにしていたらしいな。
元々、この店は旭川にあった。そして初代の親父の息子たちが、札幌と六本木に店を出したってわけだ」

パン、とファインモーションが手を叩いた。

「だからお店の名前が同じなんだね!ドラム缶を見て、思い出したよ」

「そういうことだ。ただ、味は少し違うらしいが」

横のバクシンオーがソワソワと落ち着かない様子で店内を見ている。

「トレーナーさん!私、お腹が空きました!お勧めは何ですか?」

「えっと、醤油も味噌もあるねー。確か、札幌で食べた時は味噌だったかな」

そう言うファインモーションに、私は微笑みながら首を横に振る。

「六本木の天鳳では、ほとんどの客が『135』を注文するな」

「……135?」

「うむ、135というのは……っと、席が空いたようだ」

テーブル席に通されると、周囲の目線が一斉にこちらに向いた。見目麗しいウマ娘3人に、屈強なスキンヘッドの大男とくれば嫌でも目立つ。
そこにハリィが鋭い眼光で客を睨むと、視線が逸れて行くのが分かった。なるほど、令嬢の護衛には確かに向いた人物らしい。

向こうから東南アジア系と思われる店員がやってきた。

「ゴ注文は」

「135大盛り、それにライスを。君たちは?」

「トレーナーさんと同じのにします!」

「私もそうするよー」

ハリィは暫し黙った後、「殿下と同じもので」と不機嫌そうに言った。

「それで、135って何なの?」

「メニューにも書いてあるが、醤油ラーメンの『麺硬め』『油多め』『しょっぱめ』を指す。
これよりさらに味が濃く、油っぽく、しょっぱい『めんばり』もあるが、こちらの方が万人向けだ」

ハリィが私を不満そうに見ている。

「そんな健康に悪そうなものを、よく殿下に食わせようとしているな」

「これは『チートデイ』だ。健康に悪い、大いに結構。ただ旨ければいい。
ファインモーション君も、うちのバクシンオーも私も、日々激しいトレーニングを行っている。旨いものを好きなだけ食うことが、何よりのストレス解消になるのだよ。
そして、旨いものは健康には必ずしも良くはない」

私は静かにハリィに微笑んだ。

「そして、トレーニングを熱心に行っているのは、君もじゃないかね?その鍛え上げられた肉体を見れば分かる。
君にとっても、この店はチートデイにはもってこいだと思うが」

「……不味かったら承知せんぞ」

そう言う彼女の前に、丼が置かれた。

「135とライスデス」


スープはやや少なく、麺が一部顔を覗かせている。そしてメンマとネギに、硬めのチャーシュー。
スープの色は茶色に濁っており、透明度はほとんどない。

「これ、味噌じゃないの?」

「れっきとした醤油ラーメンだ。さあ、頂こ「バックシーン!!!」」

着丼と共に、バクシンオーが凄まじい勢いでラーメンを食べ始めている。

「美味しいですトレーナーさん!!しょっぱくて、美味しくて、箸が止まりません!!」

「……改めて、頂こうか」

リフトアップされたのは、西山製麺の縮れ麺。これに油を纏った濃厚なスープがガッツリと絡んでいる。
それを勢いよく啜ると、動物系の旨味と塩分の暴力が、味蕾に突き刺さる!


……これだ。これを身体は待っていたのだ。


パシーンッッ!!!


ワイシャツからボタンが弾け飛んだ。そう、チートデイはこうでなくてはならぬ。


「美味しいっ!!しょっぱいんだけど、それが不快な塩気じゃなく……まろやかですらある。
スープが少ないのは、これだけで充分だからね!?量が多かったら、きっとしつこくなってしまう」

ファインモーションも熱心に丼にかじりついた。ハリィはというと、まだ訝しげに丼を見ている。

「どうした?食べないのか」

「……なぜライスも頼んだ」

「食えば分かる。スープを飲んだ後、ライスを食べてみてくれ。抵抗がないなら、スープをライスにかけるのもお勧めだ」

渋々ラーメンを啜ると、ハリィの目の色が変わった。

「…………!?」

そして、スープを蓮華で飲んだ後、ライスを口にした瞬間。終始不機嫌そうな仏頂面だった彼女の表情が変わった。

「……So, delicious!!!何だこれはっ!?ライスが、甘いぞ!!?」

私はニヤリと笑う。

「135にはライスが必要なのだよ。過剰な塩分は、ライスの甘みを際立たせる。
そしてそれがさらに箸を進ませる。よく考えられた一杯だ」

「……う、うむ。確かに、旨い……」

ハリィもラーメンに夢中になったようだ。135の中毒性に勝るラーメンは、都内でもそうはあるまい。


……同じ北海道ラーメンを祖とする、あの店以外は……


*

「大・満・足、ですっ!!」

店から出ると、ハッハッハと腰に手を当ててバクシンオーが笑う。ファインモーションも上機嫌な様子で、ハンカチで口を拭った。

「本当に美味しかったよー。札幌のお店もいいけど、ここも美味しかったね。
六本木は大使館とかあるからよく来るけど、行きつけになるかも」

ハリィが私に頭を下げた。

「ミスター天王寺……無礼をお許し下さい。確かに、美味でした。殿下を充分に満足せしめるとは……」

「いや、私は単に旨いラーメンを紹介したまでだよ。そんな大層なことはしていない」

「だが、この埋め合わせは何かしらの形でしなければなりません。何をすべきでしょうか……」

ファインモーションが「むう」と頬を膨らませる。

「もう、ハリィは大袈裟なんだよー。天王寺トレーナーも気にしてないみたいだし、いいじゃない」

「ですがっ!!私の気が収まりません。ここは一つ……」

※コンマ下が60以上で追加の店舗紹介


ファインモーションが溜め息をつく。

「もう、ハリィったら……じゃあ、今度機会があったら、私のお勧めのお店に天王寺トレーナーとバクちゃんを連れていってあげるね。ハリィはそれでいい?」

「はっ、分かりました」

ハリィが恐縮したように頭を下げる。


さて、どんな店を彼女は紹介してくれるのだろう。その時が今から楽しみになってきた。


第二話 完


以上です。新年早々天鳳に行こうとしたら臨時休業でした……。

追加の店舗紹介としたのは、その際に代わりに行ったお店です。こちらもかなりのインパクトがあるお店だったので、いつか登場させたいですね。

さて、次回のお題です。まず、ゲストのウマ娘を決めます(今回はファインモーション以外で)。
安価下1~5で、最もコンマの大きいものとします。

カレンチャン

メジロマックイーン

>>73
00をどうするか考えていませんでした。
安価下が奇数なら>>76、偶数なら>>73とした上でもう一人追加します。

メジロマックイーンとします。甘味が美味しいラーメン屋ですかね……

続いてジャンルを決めます。同じく安価下1~5で最も大きいものとします。
固有店名でも構いませんが、行ったことのない店の場合リサーチにお時間を頂くことになります。

チョコレートらーめん

煮干系

>>80

>>80
さすがに思い付かないので除外します……すみません。

有効票は
>>81
>>82(煮干扱い)
です。

鶏そば系に決定します。
鶏そばならここしかない、という店からがあるのですが、サイドメニューにスイーツがあったかどうか……
もう一つの候補はスイーツはあるのですが、鶏そばがあるかは未確認です。行ってから考えます。

少し文章が変になっていました。

場合によっては、ラーメン紹介+スイーツ店紹介にするかもです。

更新します。

とりあえず軽い設定ですが……

天王寺(34)
190cm 108kg
スキンヘッドの糸目。大体表情は微笑で固定。
見た目は強面だが温厚で理知的。トレセン学園では栄養学を担当する教師でもある。
日本屈指のボディービルダーである一方、スポーツ理化学では博士号も持つ。東大ボディービルディング部の出身で顧問。
トレーニングは速筋系に特化しており、パワートレーニングでは彼の右に出る者はいない。半面、ステイヤー育成は不得手。
これまで担当したウマ娘は全てスプリンターに偏っている。独身、彼女なし。

こんな感じです。随時オリキャラのプロフィールは更新します。

*

「確かここの辺りのはずだ」

菊名駅近くのコインパーキングにアウディを停め、西口方面に向かう。
すぐに若い女性たちの行列が見えた。……あそこか?

「すごい行列、ですね……ラーメン屋、じゃないですよね、これ」

「う、うむ……」

確かに「ラトリエ・ドゥ・アンティーク」とフランス語で書かれている。ここで間違いないようだ。
店の前には、ラーメン屋よろしく行列の順番待ちの方法が書かれた立て看板があった。行列は、ざっと10人ほどか。

「スイーツに並ぶのは、なかなか珍しいですわね……ああ、コロナ感染対策で入場を絞ってますのね。そういうことですの」

「むむう……早く入りたいですが、我慢です!あ、パンフレットがありますよ!」

バクシンオーが小さなパンフレットを持ってきた。「ショコラ アソート」とある。ああ、そういうシーズンでもあるのか。

「『2015年アジア大会優勝作品』、だそうですわ!!まるで宝石箱のよう……これ、買いますわ!」

「え、誰かにあげるのかい?」

戸惑い気味に言うアリーム君に、マックイーンは上機嫌で返す。

「もちろん、わたくしが自分で食べる分ですわ。トレーナーさんにも分けて差し上げますわよ?」

「だよねえ……」

アリーム君が肩を落とす。どうやら、マックイーンの頭にはスイーツしかないらしい。
これは先行き苦労しそうだ。思わず苦笑いが漏れた。

「トレーナーさんは、何を買うんですか?」

2人をよそに、バクシンオーがいつもの調子で聞いてくる。

「ん?私は好きなものを買うとするよ。多分、チョコレート系だな。脳へのエネルギー源として、チョコレートはかなり優秀だからな」

「なるほど!そこまで考えているのですね!では、私もチョコレートにします!手作りチョコレートの参考のために!」

「ん?バレンタインにチョコレートを作るのか?」

「はい!トレーナーさんに、日々の感謝を込めて、です!」

手作りチョコレートとはやや意外だった。こういうイベントには縁遠い子だと思っていたが……まあ、楽しみにしておこう。

*


この私の認識が大甘だったのが分かるのは、これから1ヶ月ほど先のことだ。



*

「つい買いすぎてしまいましたわ」

満足そうなマックイーンとは対照的に、アリーム君はややげんなりした表情だ。

「いや、幾つ買ったんだ?ケーキ10個に焼き菓子2箱、ショコラアソート2箱……まさか、君一人で食べるんじゃ」

「まさか、それはないですわ。トレーナーさんにも、お一つあげますわよ?」

「……残りは?」

「もちろん!わたくしが賞味期限内に全て責任を持って食べますわ!」

ドヤ顔のマックイーンに、アリーム君は「また体重制限プログラムが……」と呟いた。むしろよくそれであれだけマックイーンを仕上げられると感心するのだが。

私はというと、バクシンオーと2人で食べるだけのケーキとショコラを購入した。
特に「アンティーク」という名のチョコレートケーキは、時計を模したなかなか手の込んだ意匠だ。食べるのが少々勿体無く感じる。

「さて……ケーキはひとまず車内に置こう。電車で大口駅まで向かおうか」

「車では向かわないのですか?」

「車で行ってもいいんだが、またコインパーキングに停めないといかんからな。それに何より、菊名駅周辺は細い一方通行ばかりで動きにくいのだよ」

バクシンオーに告げ、JRの改札に向かう。そして、横浜線で3分。
大口駅を降り、1分ほど歩くと割烹の看板が見えた。

「ここを左に行くとすぐだ」

「え、こんな細い路地に……あ」

小さな立て看板と、行列が見えた。こちらはざっと……25人ぐらいか。

「すごい行列ですわね……どのくらい待ちますの?」

「1時間弱、だな。これでもすぐ近所にセカンド・ブランドの店が最近できたから、短くなった方だ」

「セカンド・ブランド?」

「そっちは塩がメイン、らしいな。私もまだ足を運べてない。
まあ、それはまた別の機会だな。ひとまず、並ぶとしよう」

行列には若い女性やカップルの姿もちらほら見られる。マックイーンが「意外ですわね」と口にした。

「ん?どういうことだ」

「ラーメン屋って、男の方のものというイメージがありましたから。少し店内も見えましたけど、お洒落な感じでしたわ」

「店主はまだ若いからな。元美容師と聞いている。接客も素晴らしいぞ。
最近は、こういうラーメン屋がかなり増えているのだよ。銀座『八五』のようにミシュランに選ばれる店もあるほどだ」

「そうでしたの。なるほど……」

フムフムと何やら感心している様子だ。こういう辺りは、さすがメジロ家御令嬢なのだろう。

*

待つこと1時間弱。ようやく店内に通された。

「この『鶏の中華そば』を注文すればいいんですか?」

食券機の前で、アリーム君が訊く。

「それでももちろん構わない。が、私が注文するのはそれではないよ」

「え」

「こちらだ」

私は食券機の下部、「鶏つけそば」を指差した。

「つけそば、ですか」

「ああ。こちらの方が、より強烈に鶏の風味を感じられるからね。それと『和え玉』も頼むつもりだ」

「和え玉、とは?」

「ここは大盛りがないからね。その代わりというわけだ。まあ、頼んでみてのお楽しみ、だな」

結局、4人全員が特製鶏つけそばと和え玉シングルを注文することになった。

「色々素材について書いてありますのね。スープは『信玄どり』と『錦爽どり』の鶏ガラに手羽先、胸ひき肉、野菜、昆布……随分凝ってますわ」

「スープはラーメンの命、だからな。……っと、来たぞ」

店員がまず麺を持ってきた。丼の中には昆布水。そしてその中に麺が泳ぐ。穂先メンマが丼の周囲を取り囲み、麺の上にはとろろ昆布。独特のビジュアルだ。

「……これが、つけそば?」

「いや、麺だけだ。ただ……」

「バックシーン!!!」

説明する前に、バクシンオーが麺だけ食べ始めてしまっていた。

「ちょっと、バクシンオーさん?」

「これがつけそばというものですか!!少し硬い、パキパキとした麺にこの……スープ?がよく絡みます!おいしいです!!」

「天王寺トレーナー、あれでよろしいのですか?」

困惑するマックイーンに、私は軽く頷く。

「まあ、間違いじゃない。バクシンオー、つけ汁の分も残すように」

「分かりました!」

もう麺が半分なくなっているが、それはもうしょうがない。私は箸を持ち、麺をリフトアップする。

「まず麺だけを味わうのが、ここの流儀だ。では……」

啜ると、麺と共にやや粘度のある昆布水が口の中に入った。この噛み応えのある麺の存在感。そして、それに負けぬ昆布水の旨味。これだけで既に、完成された麺料理と言える。

「美味しい……しかし、鶏の風味は」

「それはこれからだよ」

続いて店員がつけ汁を持ってきた。「左右どちらに置きましょうか?」と訊いて来たので、左と告げる。こういう対応は、他店ではあまり見ない。

「これに、麺をつけますの?スープに浸かった麺を、別のスープにつけたら、味がぼやけませんこと?」

「それがここの素晴らしいところだよ、マックイーン君」

彼女は恐る恐る麺をつけ汁につけ、啜る。すぐにその表情が一変した。


「これは……なんという……!!」



アリーム君の顔も、驚きで固まっている。

「これはっ!?紛れもなく、『鶏そのもの』……」

「バクシンバクシーン!!」という奇声も、私の隣から聞こえてきた。私も頂くとしようか。


ズズッ…………


バシーンッ!!!


シャツのボタンが弾けると共に、凄まじいまでの旨味が口の中に拡がった!


昆布水でコーティングされた麺が、鶏油多めのつけ汁でさらにコーティングされる。そしてそこから産み出される、二重の旨味……
いや、これは単なる「1+1」ではない。
まさに、互いが互いを高め合う「マリアージュ」というべきものだ。

箸が一気に進む。止まらない。
鶏の深い旨味と昆布水の優しい旨味が絡むと、これほどまでに暴力的で複雑な味になるのか?

私はつけ汁の中のワンタンを箸で持ち上げた。噛むと、生姜が強めの餡がいい味変となる。
そして、再び昆布水だけで麺を頂く。さっぱりした味が、舌をリセットする。
そして再びつけ汁へ……一体何種類の味を、この一品は与えてくれるのだろうか。


つけ麺、鶏そば数あれど、ここまで複雑玄妙にしてインパクトのある一杯を、私は知らない。


「す、凄いとしか……ラーメンとは、こんなに美味しいものなのですね……。
チャーシューも、確かに鶏だけですね。……むっ!?」

アリーム君がチャーシューを噛むと、また動きが止まった。

「どうしましたの、トレーナーさん」

「君も、チャーシューを食べてくれ。これも……驚くぞ」

「チャーシューって、豚だけじゃないですのね。鶏だとどう……柔らかいですわっ!それにこの風味は……」

私はマックイーンに頷く。

「そう、バジルで下味がついている。そして、モモ肉は……うむ、実に香ばしい」

胸肉のチャーシューは低温調理がなされており、実に柔らかい。
そして、もう一種のモモ肉は皮付きでローストされており、胡椒が利いたパンチのある味だ。
具材の味の変化も、極めて緻密な計算で成り立っている。これほどまでに多様な味がありながら、しかし一体感があるのは驚くべきことだ。


「本当に、美味しいとしか……そういえば、つけ麺はスープ割をするのでしたわね」

「スープ割はここにはないのだよ、マックイーン君。しばし、昆布水を出汁に入れて楽しんでくれ」

「ああ、そういうことですのね。……『しばし』?」

「そう、しばしだ。この後に、もう一品が来るぞ」

昆布水による出汁割は、鶏の旨味を一段と引き立てる。これもまた上質なものだ。
無論、ここで終えてもいい。だが、この店に来たからには、食べねばならぬもう一つの皿がある。


「お待たせしました、『和え玉』になります」


3人の顔が呆気に取られている。無理もない。
その小皿にあったのは、イタリアンのカルボナーラに近いものだったからだ。レモンの切ったものが添えられている。

「……え?これを、どうしろと」

「そのまま食してくれ。レモンを軽く絞るといいぞ」

麺を啜ったアリーム君が、目を見開いた。

「これは、ポルチーニ?それに、これも鶏の旨味が……」

「そう、ポルチーニカルボナーラをラーメンの麺でやってみた、ということだな。
やや重たい味だが、締めにはピッタリだろう」

「え、ええ。……これほどまでに、ラーメンは奥が深いのですね……ファインモーション殿下が、すっかりはまってしまわれたのがよく分かります」

「ハハハ、彼女にも教えてやってくれ。きっと気に入るだろう」

ふと横を見ると、「バックシーン!!ごちそうさまです!!」と、笑顔で手を合わせるバクシンオーが見えた。
細かい御託を考えながら食べるのも悪くないが、ああやって心を無にして一心不乱に食べる方が、チートデイとしては正しいのかもしれない。ふと、そう思った。

それでは、夜に前半更新します。



「バクシンバクシンバクシーン!!!」


叫び声と共にバクシンオーがゴール板前を圧倒的大差を付けて駆け抜けた。……素晴らしい。

満足して頷く私の背中を、誰かが軽くつついた。

「さすがだねえ、天王寺君」

「塩田トレーナー」

振り向くと、眼鏡を掛けたその細身の男がニヤリと笑った。

「素晴らしい直線の末脚だったねえ。坂対策は万全だった、ということかな」

「まあ、そうですな。このコースはスピード以上にパワーが求められるので」

目の前には、中京競馬場を模した模擬コースがある。バクシンオーは2ヶ月後の高松宮記念の模擬レースに出ていたのだった。
とはいっても、これはただの模擬レースではない。


「チャンピオンズミーティング」……通称「チャンミ」。
トレーナーの査定にも関わる、重要なレースだ。


毎月1度、トレセン学園ではコースを変えた模擬レース大会が開かれる。
先月は「有馬記念」、先々月は「天皇賞秋」。実際のG1をイメージしたコースを、ウマ娘たちは走る。
賞金こそ出ないが、そこにかける彼女たちの意気込みは本番と全く変わらない。むしろ、本番以上に気合いを入れる娘もいるほどだ。

バクシンオーもその一人。「スプリント戦なら負けられません!」と並々ならぬ意気込みだった。
阪神1600の「ヴァルゴ杯」では思うような結果が出せなかった悔しさもあったのだろう。
大腿筋を中心に徹底的に鍛え上げ、直線の坂でさらに突き放す。この狙いは見事に当たった。

フフ、と塩田トレーナーが軽く笑った。

「それにしても5バ身差はそうそうお目にかかれないねえ。噂の『チートデイ』の成果かな?」

「……誰が噂を?」

「ウマ娘たちの間ではかなり知られてるよ?ファインモーションとメジロマックイーン、2人のVIPのお墨付きとあれば、信憑性は嫌でも増す。
そこにもってきて今日のバクシンオーの圧勝だ。君のやり方を学びたいというトレーナーは多くなるだろうよ」

「貴方もですか?」

「バレたか」

ペロッと塩田トレーナーが舌を出す。冗談のつもりだったが、本当だとは。

塩田トレーナーは、沖野君や柰瀬君と並ぶ、トップトレーナーの一人だ。
私と違い、ステイヤーの育成を得意とする。メジロ家のウマ娘が多く師事しており、アリーム君も彼に学んでいたはずだ。


「私に学ぶことがあると?」

「幾らでもあるよ。筋肉の付け方だけじゃない。ウマ娘のモチベーションをいかに高めるか。その方法論として、『チートデイ』は実に有力だ。
僕も色々ご機嫌を取ろうとはしているのだけどねえ。なかなか思うようにはいかない。
オペラオーのように聞き分けのいい娘ばかりじゃないからねえ」

はあ、と彼が溜め息をついた。いつも余裕綽々の彼にしては珍しい。

思えば彼の担当ウマ娘は、ゴールドシップやナカヤマフェスタなど一癖ある娘が多い。
今海外留学中のウマ娘2人は、さらに酷い。すぐにサボったり、レースいきなりキレて止まろうとしたり……
それもこれも、塩田トレーナーが有能だから任されているというわけだが。

「誰かでお悩みですか」

「まあ、ね。後で彼女を連れて、君のトレーナー室に行っていいかな?」

「構いませんが。誰なんです」

「メジロパーマーだよ」

意外な名前が出てきた。彼女の交友関係はゴールドシチーやダイタクヘリオスなど派手だが、彼女たちと違い授業態度は真面目な方だ。
成績は決して良くはないが、あまり塩田トレーナーの手を煩わせるタイプでもない。

「何かあったんですか?」

「ま、それは会えばすぐ分かるよ。じゃあ、また」

*

「失礼するよ」

「失礼……します……」

彼らが部屋に入ってくるなり、私はすぐにパーマーの異変に気付いた。
目には光がなく、明らかに意気消沈している。メンタルに異常を抱えているのは、誰の目から見てもすぐに分かった。

「どうしたんです?」

「平たく言えば、スランプだね。僕の責任でもある」

向かい合ったパーマーは、目線を私に合わせようともしない。
確かに彼女の競争成績にはムラがある。惨敗も決して少なくはない。
ただ、彼女の様子は、それだけではないように見えた。

「それだけじゃないでしょう?」

「……『バーンアウト』」

「……そういうことですか」

私は、パーマーの身に何が起こったか察した。

「ああ。この娘は、実は誰より真面目だ。マイペースに見えて、実は周囲に合わせる努力を怠らない。
負け続けていた時も、どうにかしようと必死にもがいていた。だからこそ、宝塚を勝った。
ただ、負けが込んでた時に僕に隠れて練習をしてたみたいでね……非公認の『フリースタイルレース』にも、こっそり出ていたらしいんだ」

「そして、張り詰めていた糸が、切れかかっている、と」

「……恥ずかしい話だけどね。友人たちに合わせようと、必死になっていたのもあったかもしれない。
僕が気付いて、ガス抜きをさせてあげなきゃいけなかった。ただ、何分どういう方法がいいのか……」

塩田トレーナーが、息をついた。

「パーマーはゴルシのように勝手に暴れて発散するタイプでも、フェスタのようにギャンブルでストレス解消をするタイプでもない。
考えた挙げ句、君の『チートデイ』が思い浮かんだ、というわけだ」

「食事なら、いいところは幾らでも……」

「パーマーは、高級レストランは嫌いなんだよ。庶民的な味の方がいいらしい。
庶民の味と言えばラーメンだ。元気の出る、スタミナラーメンとか知らないものだろうかな」


頭にパッと思い浮かんだのは二郎だ。だが、あれは人を選ぶ。特に女性の場合は。

「パーマー、何か好みは」

「……逃げたくなるようなのがいい」

「それはどういう」

彼女はうつむいて、言葉を返さない。これはなかなかに重症だな。

「バックシーン!」

大声と共に、バクシンオーが入ってきた。

「トレーナーさん!!見ましたか私の走り!!まさに学級委員長にふさわしい走りだったでしょう!!」

「あ、ああ。……来客中なのだが」

「や、ややっ!!これは失礼しました!!パーマーさんではありませんか!!こんにちは!!」

「…………」

パーマーはまた返事をしない。バクシンオーのこのテンションは、彼女にあまり良くないかもしれない。

「どうしたのですか!?」

「…………」

「バクシンオー、そっとしておいてやってはくれないかね」

「むむっ、そうですか、分かりました!!辛いものでも食べて、元気出してください!!」


…………ん?


「バクシンオー、今何と言った?」

「はいっ!!元気出してくださいと言いました!!」

「その前だ。辛いもの、と言ったかな」

「はいっ!!母は私が子供のころ、かけっこで負けた日にはいつもカレーライスを作ってくれましたので!!」

……カレー……そうでなくても辛いもの……しかも比較的食べやすい……


ここにするか。


「塩田トレーナー、明日の予定は」

「いや、ないが」

「一つ、元気を出してもらえそうな店を知ってます。そこに行くとしましょうか」




第4R 神田「鬼金棒」



続きは夜か明日です。

カプリコーン杯、予想されていましたがバクシンオー強いですね。
エル固有とマミクリ固有と登山家さえあれば、高確率で直線ぶっちぎってくれます。

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