【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【6頁目】 (1000)

このスレは安価で

乃木若葉の章
鷲尾須美の章
結城友奈の章
  楠芽吹の章
―勇者の章―

を遊ぶゲーム形式なスレです

目標

生き抜くこと。

安価

・コンマと選択肢を組み合わせた選択肢制
・選択肢に関しては、単発・連取(選択肢安価を2連続)は禁止
・投下開始から30分ほどは単発云々は気にせず進行
・判定に関しては、常に単発云々は気にしない
・イベント判定の場合は、当たったキャラからの交流
・交流キャラを選択した場合は、自分からの交流となります

日数
一ヶ月=2週間で進めていきます
【平日5日、休日2日の週7日】×2
期間は【2018/07/30~2019/08/14】※増減有

戦闘の計算
格闘ダメージ:格闘技量+技威力+コンマ-相手の防御力
射撃ダメージ:射撃技量+技威力+コンマ-相手の防御力
回避率:自分の回避-相手の命中。相手の命中率を回避が超えていれば回避率75%
命中率:自分の命中-相手の回避。相手の回避率を命中が超えていれば命中率100%
※ストーリーによってはHP0で死にます

wiki→【http://www46.atwiki.jp/anka_yuyuyu/】  不定期更新 ※前周はこちらに

前スレ

【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【1頁目】
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【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【2頁目】
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【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【3頁目】
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【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【4頁目】
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【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【5頁目】
【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【5頁目】 - SSまとめ速報
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陽乃「ねぇ、他の勇者の様子を見てきて頂戴」

九尾「妾を顎で使う気かや?」

陽乃「そんなつもりないわ。心では土下座でお願いしてるのよ。生憎、体が動かないから見せられないけど」

九尾「ふっ、たわけたことを抜かしおる」

陽乃の口先だけの言葉など、九尾は信じない。

顎で使うというほど酷いものではないが、

かといって、懇願しているほどのものでもない。

九尾「しかし主様、お主結局他人を気にせずには居られぬのじゃな」

陽乃「反乱でも企てられたら困るから……今の私は点滴に毒入れただけで殺せる病弱な女だし」

九尾「ふむ……」

九尾は陽乃の額にかかる前髪を払ってやると、

にやりと笑って顔を近づける。

陽乃「ちょ、ちょっと――」

何をするつもり。と、問いかけようとした声が消える。

陽乃の声は九尾の助力がなければかすれ声しか出せない。

そのうえ、体がまるで動かないからなされるがままで、どうしようもなくて。

ぎゅっと目を瞑った陽乃の唇には何の感触もなく、額に柔らかい感触が触れただけだった。

九尾「くふふっ、案ずるな。その程度では主様の命には関わらぬ」


九尾に喉を触られ、

掠れるだけだった声が戻ってきたのを感じて、陽乃は九尾を睨む。

陽乃「……次やったら、怒るわよ」

九尾「主様の怒りなど、妾には軽いものじゃ」

九尾はいつものようにくつくつと喉を鳴らしながら笑って、

陽乃のそばから離れて、また椅子に座る。

九尾の気分次第だとは思うが、

また謎の行動をされてはたまらないと陽乃は九尾を睨む。

九尾「よかろう。郡千景の動向も気にはなるからのう」

陽乃「郡さんが?」

千景は陽乃に対して強い敵意を抱いているし、

確かに危険な存在ではあるかもしれないが……

けれど、陽乃は顔を顰める

陽乃「一応上手くやれているんでしょう? 変なことするとは思えないんだけど」

九尾「白鳥歌野という諏訪からの帰還を果たした勇者を、人間は担ぎ上げるじゃろう。大社も民衆も。根幹が変わらぬ以上は繰り返す」

大社は歌野が3年間も諏訪を守り抜いた英雄とするだろう。

それも、たった一人で。

人々の関心は現リーダーである千景から歌野へと移り、

歌野をリーダーとすべきだと言う声が上がる可能性だってある。

九尾「……まぁ、都合は良いが」

陽乃「都合が良いって、どういうこと」

九尾「あの小娘の敵意が主様から逸れる可能性もある。ということじゃ」


九尾はそんなことを言い残して、

病室から出て行ったのか、姿を消してしまう。

九尾が消え、1人になった病室で陽乃はため息をつく。

九尾は思わせぶりなことを言うし、

そもそも嘘も言うだろうし、本当のことも言う。

いちいち真に受けていたら、心が持たない。

だけど。

九尾が言う、千景の憎悪が向かう先。

今は陽乃が一身に引き受けている状態だけれど、

それが変わることがあるのだとしたら、それは。

陽乃「……白鳥さん。ね」

わざわざ、担ぎ上げる。と言って歌野の名前を出したのだ。

それ以外にない。

歌野に何かがあったら九尾は庇うだろうか。

きっと庇わない。

だから。

いや、だからと言って。

陽乃「私に出来ることなんて、何にもないわ」

陽乃は持て余した暇を忘れるように、目を瞑った。


√ 2018年 9月14日目 夕:病院

↓1コンマ判定 一桁

12~21 千景
34~43 水都
78~87 大社
89~98 襲撃

↓1のコンマ

※それ以外は通常
※ぞろ目で特殊

√ 2018年 9月14日目 夕:病院


夕方にも、やはり誰も姿を見せることはなかった。

面会謝絶として扱われている為、

普通には面会しに来ることは出来ないから、仕方がないが。

九尾は勇者たちのもとへと送ってしまったし、

歌野が来るのは夜だ。

ただ言葉を発せるだけの人形同然である陽乃には、

この空虚な時間は辛い。

ここに来るまで、たくさんの人々に囲まれていたのも影響しているのかもしれないけれど、

陽乃は少し不快に感じる。

陽乃「……暫く襲撃もなさそうだし」

あっても出られないが、

あったら出てしまいたいくらいに退屈だった。

だが、集まっていた軍勢をせん滅したために、暫くは安泰……のはずだ。

どうするか。

出来ることがほとんどない。



1、ゆっくり休む
2、点けっぱなしのテレビを見る
3、白鳥歌野の居場所
4、これからについて
5、イベント判定


↓2


↓1のコンマ

01~10 大社
11~20 九尾
21~30 ひなた
31~40 歌野
41~50 千景、友奈
51~60 水都
61~70 若葉
71~80 杏
81~90 球子
91~00 美佳


手持ち無沙汰なこともあって、

特に何もせずぼうっとしていると、誰かが近づいてくるのが聞こえてきて、陽乃は目を細めた。

九尾が帰ってきた可能性がある。

九尾は部屋の中に突然姿を現すこともできるが、

あえて外側から人間のように歩いてくることだってできるし、やる。

だが、九尾らしき力を感じなくて、

本来の人間だろうと考えていると、扉が叩かれた。

そうして聞こえてくる数時間前にも聞いた声。

美佳「……元気そうですね」

陽乃「どこが」

入って来たのは、花本美佳

朝にも訪れたその巫女は、

陽乃の様子を見て安堵したように胸を撫で下ろす。

美佳「丸亀城の近くで久遠様が目撃されたと聞いて、確認のためにここに来たんです」

陽乃「……病院の人に任せればいいのに」

美佳「万が一のこともありますから。郡様から……久遠様の精霊は器用だと伺っていましたし」


美佳「予めお伝えしておきますが、向こうにいると思われる久遠様も捜索しています」

陽乃の体の状態から、動くことは不可能なはず。

だけれど、

そんな常識なんて、3年前に起きた超常によって破壊された。

神々の力を用いてしまえば、

陽乃の動かない体なんて動けるようにできてしまうのではないかと、美佳は考えているようだ。

視線を感じ、陽乃が目を向けると、

美佳は目を細める。

陽乃「何?」

美佳「貴女が本当の久遠様とも限りません」

陽乃「だとしたら、貴女は死んでいるわ」

美佳「そうですか」

陽乃「信じていないって表情ね」

美佳「もしもそうなら、朝の時点で殺されていると思っているだけです。そもそも、そのつもりならそんなことは言いませんから」


陽乃「私がいなければ、九尾は何でもするわ。いても、度を越えていると思えばなんだってする」

美佳「つまり、久遠様が人を殺したのではなく、その精霊が殺したということですか?」

陽乃「それは私よ。間違いなくこの手で殺した」

それが望んでのことか、望まない結果だったのか

それは関係がない。

陽乃「でも九尾は嬲るのよ。相手が男性だろうと女性だろうと、大人も子供も関係なく」

実際にそれを目にしたわけではないが、

看護師を平然と締め上げていたのだから、気に入らない人なんて簡単に殺すだろう。

九尾の普段の口ぶりが冗談ではないのなら、絶対に。

美佳「だから、言動に気をつけろと……私の機嫌を損ねないで欲しい。ということですか?」

陽乃「何よそれ。酷い話だわ。曲解どころではないわよ」

美佳「そう言っているようなものじゃないですか。殺されたくなければって……ただの脅迫です」

美佳は眉を潜めて、陽乃を見つめる。

美佳「もしかして、殺したいですか? 私のことも」


美佳の堂々とした物言いは素晴らしいと思うけれど、

陽乃は面倒くさそうに顔を顰める。

姿勢は素晴らしいが、陽乃の望むものではない。

歌野達も相当面倒な性格をしていたが、

美佳もまた、陽乃にとっては面倒な相手だ。

陽乃「どうしてそう、私に人を殺させたがるのよ……そんなに実証が欲しいの?」

美佳「別にそういうわけではありません。ただ、そうしたければどうぞって思っただけです」

陽乃「本気で言ってるの?」

美佳「はい」

美佳はなぜだかとても強い意思を持った瞳をしながら頷く。

陽乃になら殺されたって構わないなんて狂った愛情を抱いている。なんてわけではないだろう。

その心根は、陽乃には分からない。

歌野でも分からないはず。

美佳「本音を言えば死にたくはありませんよ。当然です。でも、私の死が何かの役に立つのだとしたら、捨てる覚悟はできています」

陽乃「……なるほど」

本当に、花本美佳はその覚悟があるようだ。



1、何のために?
2、ただの馬鹿ね
3、貴女、誰の巫女だったんだっけ
4、私に殺されたって何の役にも立たないわよ
5、気に入らないわ


↓2


陽乃「何のために?」

美佳「何かの為ですよ」

言ったじゃないですか。と、美佳は繰り返す。

美佳自身は断言できる何かがあるからこそ覚悟が出来ているはずだが、

その何かがそれを必要としている自信がないのかもしれない。

陽乃「その何かが何なのかを聞いているのだけど」

美佳「それを答えて、意味がありますか? もしかして、私の理由を奪うつもりなんですか?」

陽乃「はぁ?」

美佳「久遠様は精霊と繋がって、私の尽くす理由を知って……そして、殺すつもりなんですよね?」

陽乃「そんなことして私にどんな意味があるって言うのよ」

余計に恨まれるし、

面倒なことになるだけではないかと、陽乃は美佳を訝し気に見つめる。

陽乃は確かに、今は失うものなんてほとんどないけれど、

そんな無駄なことはしたくない。

何より、出来る状態ではない。

陽乃「私をどう見てるのかなんて別に興味はないけど、でも、わけのわからないことを押し付けてこないで頂戴」

美佳「押し付けているつもりはありません」

陽乃「私が何か事を起こすことを期待しているじゃない。違う? 今だって、貴女を殺すことを期待してる。それが大義名分にでもなるって感じ」

美佳「……」

陽乃「でも生憎と私、人に期待されるのって……大っ嫌いなの」


美佳「っ」

驚きに目を見開いた美佳は跳ねるように動く

パイプ椅子がガタンっと音を立てて倒れる。

怯えた表情を浮かべている美佳を、陽乃はただじっと見つめて。

陽乃「本気で死んでも良いと思っていないなら、死んでもいいとか言わない方が良いわ」

美佳「私は本気で言ってます!」

陽乃「なら、そんな逃げ腰にならないべきよ」

死んでもいいと言うのは口先だけではないのだとしても、

本心では、生を諦めきれていないのだろう。

陽乃「無意味だわ」

美佳「そんなことありません! 私が……私が頑張れば、絶対……郡様のお役に……」

美佳は握った拳を震わせながら、

強く歯噛みしているような険しい表情を浮かべる。

朝を含めて、一番感情が表れていた。

郡様とは、他にいなければ郡千景のことだろう。

彼女に認めて貰うことを、人生の目標にでもしているのか

それとも、彼女の役に立つことを目標にしているのか。

いずれにしても――


1、馬鹿じゃないの
2、その下らない理想に私を巻き込まないで頂戴
3、他人の評価がそんなに大事なの?
4、もっと違う努力しなさいよ


↓2


陽乃「もっと違う努力しなさいよ」

美佳「違う努力だって、ちゃんとしています……」

美佳はそう言うと、

千景のプレイしているゲーム等を調べたり、

実際にプレイしたりして話が合うようにと務めたり、

何かが起きても問題がないようにと、最大限のバックアップが出来るようにと、実家のことなどを調べたりもして、

常に備えていることも、話した。

けれど、そのうえで美佳は必要であればとこぼす。

美佳「郡様は久遠様の存在を煩わしく思っています……その存在が勇者という存在を地に落としてしまうと、それが災いになると」

陽乃「だけど、腐っても勇者である私に手を出せないから、大義名分を与えてあげたいってこと?」

美佳は陽乃を一瞥すると、それには答えずに「郡様は」と呟く

美佳「……戦闘から帰還されると少しだけ情緒不安定になっていることがあるんです。いつも、久遠様のせいだって怒ったように繰り返していました」

それを解消するには、

やっぱり、陽乃をどうにかするべきだと美佳は考えているようだった。

あまりにも短絡的ではあるが、最も確実だからだろう。

美佳「戻ってきてほしくなかった。ずっと諏訪に閉じこもっていて欲しかった。郡様が努力して積み上げてきたものを、久遠様と白鳥様は簡単に壊してしまう……」

陽乃「何言って――」

美佳「明日……大社から正式発表があります。たった1人で諏訪を守り抜いた英雄を人類の希望として表舞台に立たせるんです」

美佳は嘲笑するように吐き捨て、視線はどこかへと流れる。

美佳「連れてきた立役者は久遠様ですよね?」

陽乃「この無様な姿を見て、どうしてそう言えるのよ」

美佳「無様……? 立派じゃないですか。他人のために体を張って、命を懸けて、死に瀕するほどの重傷を負いながらも抗った結果なんですから」

最終的に病院に担ぎ込まれたのは陽乃だけだったが、

それほどの重傷を負うほどに勇者として尽くしたのなら、それはとてつもない功績である。

美佳「四国に入った諏訪の住民から、嫌なくらいに久遠様と白鳥様の武勇伝を聞かされました。あろうことか、喜々として動画まで見せられました」

陽乃「……なにそれ」

美佳「久遠様は立派な勇者なのだと広めるつもりだなんて言っていましたよ。もっとも、データは秘匿すべきだとして、大社が回収したらしいですけど」

陽乃「賢明な判断だわ」

絶対に厄介なことになっていたと、

少しだけ安堵してしまう陽乃を、美佳は睨む。

美佳「でも、それは良いんです。私が辛かったのは、あまりにも誇らしげに語る伊予島様達と、それを称賛する高嶋様達のせいで……郡様が瞬く間に陰に追いやられていたことです」

陽乃「知らないわよそんなこと、とばっちりじゃ――」

美佳は、そうっと指を伸ばして、陽乃ののど元を押す。

美佳の弱い力でも、無抵抗の陽乃を窒息させるくらいは出来る。

美佳「そうです。知ったことではないんですよ。みんな……大社も、高嶋様達も、郡様のことなんて知ったことじゃない。役に立つかどうかしか考えていない」

陽乃「ッ――」

美佳「だったらせめて、私だけは……郡様の巫女である私くらいは、その御心を汲み取るべきだと思いませんか? 仕える神々のいた由緒正しき神社の生まれである久遠様なら、分かるはずです」

では途中ですがここまでとさせていただきます
明日、明後日はお休みをいただくかもしれません。

では少しだけ


陽乃「っ……ぅ゛っ……」

苦しくても、辛くても、

指先一つ動かすことが出来ない陽乃には抵抗なんて出来るわけがなく

ただただ、されるがままで。

陽乃「ぅ……あ゛……」

美佳「このまま……」

このまま、さらに指に力を込めていけば殺せる。

勇者と言われていようと、

化け物と言われていようと、

例え、人殺しであろうと。

簡単に殺せてしまうのだと美佳はその手に感じて、ぐっと下唇を噛む。

ほんの少しだけ力は緩んだものの、

まだ、無抵抗な相手を絞め殺すには十分な力がこもっている。

陽乃「ぅ……っ……っ……」

美佳「っ……」

けれど、あともう少し。

そんな寸前のところで、美佳は手を離した。


陽乃「っごほっ……げほっ……っぁ……ごほっ……」

美佳「あっ……」

動けない陽乃は、

当然、介抱されても寝返りを打つこともできない為、

咳込んでそのまま喉を詰まらせてしまうこともある。

美佳はそれに気づいて、

慌てて陽乃の体を横向きにし、背中を摩る。

自分で首を絞めるようなことをしておいてあれだが、

本当に殺せてしまうとなったところで、怖気づいてしまったのだろう。

美佳「……すみません」

陽乃「けほっ……っ、ごほっ……」

美佳「本当に、何にも抵抗されないとは思ってなくて……」

陽乃「っ……ごほっ」

美佳「ごめんなさい……」


千景は陽乃がいなくなることを望んでいるし、

美佳も可能ならいなくなって欲しいと思っているけれど、

美佳は、殺してまで消してしまおうとは思いきれていないのかもしれない。

あくまで覚悟が出来ているのは、自分の命を捨てる覚悟

奪うのは、簡単なことではないのだ。

陽乃「っ……けほっ……っは……はぁ……」

美佳「……ここまでされても、精霊は久遠様を助けたりはしないんですね」

陽乃が何もしなくても、

精霊が手を出せば美佳のひとまずの望みは達成できる

美佳「告発して頂いても構いません。でも、私は、郡様の味方であり続けます。その意志を変える気はありません」

陽乃「……ばっか……じゃないの……」

陽乃はどうしようもない状況に瞳に涙を浮かべながらも、美佳を睨む。

そんなとばっちりで殺されでもしたら、たまったものではない。

美佳はそんな陽乃を見つめると、

呼吸が整いつつあるのを見て、離れる。

美佳「ただ、久遠様の様子を確認するつもりだったのに……どうして、こんなことまでしてしまったんでしょうね」

陽乃「知らない、わよ……そんなこと」

陽乃が吐き捨てるように言うと、美佳は顔を顰め、

そして、ふっと笑みを浮かべる。

美佳「久遠様のせいですよ。久遠様の存在が……人を狂わせるんですよ」


√ 2018年 9月14日目 夜:病院

↓1コンマ判定 一桁

12~21 九尾
34~43 杏
78~87 水都
89~98 若葉

↓1のコンマ

※そのほか通常(歌野)


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日もお休みとさせていただきます
その分、明日は可能な限りお昼ごろから



そういえば早いものでもう年末だけど前作の夏凜と園子の初夜回って以前言ってた今年中に間に合いそう?

遅くなりましたが、少しずつ

√ 2018年 9月14日目 夜:病院


本来は陽乃しかいないはずの夜の病室には、

陽乃だけでなく、歌野の姿もある。

昨日言っていた通りに面会謝絶の規制を乗り越えてきたのだ。

陽乃「……早くない?」

歌野「そう、かしら……早かった?」

陽乃「……」

陽乃がじっと見つめると、歌野はさっと目を伏せてしまう。

面会時間は過ぎているものの、

まだ看護師の見回りも終えておらず、

消灯時間を過ぎていない。

なのに歌野がここにいてしまうと、発覚するリスクがある。

陽乃は一瞬、九尾ではないかと疑いもしたが、

流れる力がそうではないと物語っていて。

陽乃「何? まさか、向こうの空気が合わなかった?」

歌野「そういうわけじゃないわ」


歌野「もしもそうだったとして、みーちゃんを置いてくると思う?」

陽乃「私なら置いていくけど」

歌野「久遠さんはでしょ?」

歌野は勢いでそう反論したものの、

乗り出すようにしていた姿勢を正して、陽乃を見る。

歌野「久遠さんだって、決して放置できない性格の癖に。最低でも、声をかけるに決まってるわ」

一緒に逃げない? とか、

きっと、自分一人で勝手にいなくなったりはしないだろうと歌野は考えているらしい。

陽乃「買いかぶりが過ぎるわ」

歌野「そんなことないわ。今まで……長いようで短いけれど深い付き合いをしてきた私のイメージだもの」

歌野は、笑いもしない陽乃の代わりを務めるように、笑みを浮かべる

陽乃はそんな歌野を見つめて。

陽乃「それで? どうしてこんなに早く来たのよ」

こっちに来てしまうにはまだ早い時間だ。

なのにここにいるのにはそれなりの理由があるだろうと

陽乃は考えていた。


歌野「理由は色々あるんだけど……久遠さん、九尾さんのことこっちに送ったでしょ」

陽乃「気付いたの? それとも接触してきた?」

歌野「接触してきたわ。しかも、久遠さんの姿で」

陽乃「……あぁ」

美佳が言いに来ていたが、

九尾はどうしてか陽乃の姿で向こうに行ったらしい。

そのせいで色々と面倒なことになったわけだが、

頼んだのは陽乃なので、文句はあまり言えない。

歌野「問題はその後よ。どうせ病院行くんだから、寄こせって……私になっちゃうんだもの」

陽乃「なら、向こうでは今貴女の代わりに九尾が活動してるってことよね? 大丈夫なの? それ」

歌野「変なことはしないって言っていたし、みーちゃんもいてくれるから大丈夫だとは思うけど……」

ちょっと心配かも。と、

歌野は本音を零して、困ったように顔を顰める。

歌野「けど、ちょうど良かったわ。早く久遠さんに会いたかったし」

陽乃「……なんで?」

歌野「そんな顔しないで、嫌なことはしないから」

歌野はそう言うと、

一度落ち着かせるように深呼吸をして。

歌野「むしろ、久遠さんに何かあったのかなって……少し気になってたの」


確信を持てているわけではなかった。

けれど、何か嫌な感覚があったのだと歌野は言う。

歌野「普通にしていただけなのに、なんて言ったら良いかしら。こう、胸がキュッとする感じがして」

陽乃「検査したら?」

歌野「そうじゃないの。まるで、首を絞められているような感覚だったわ」

陽乃「……」

歌野は、だから何かあったのではないかと不審に思ったらしく、

九尾が接触してきたことを幸いと考えて、

そのまま病院に来たらしい。

歌野「久遠さんから流れてくる力も少しだけ弱まったような感じだって……だから、なにかあったのかと」

陽乃「そう……離れているのにそんなこともあるのね」

歌野「そう。それよ。だから余計に気になっちゃって」

何かあったの? と、歌野は陽乃に問う。



1、何もないわ
2、ちょっとね
3、別に何でもないわ。殺されそうになっただけ
4、花本さんに殺されかけただけよ。大したことないわ


↓2


陽乃「花本さんに殺されかけただけよ。大したことないわ」

歌野「こっ――」

がたんっと椅子を倒しながら立ち上がった歌野は、

陽乃のさらりと答えた言葉に驚きを隠せないようで、

それでも、叫び声をあげては周囲に気づかれるのではと口を押えて、首を振る。

暫くそのままだったが、

歌野はどうにか落ち着いたようで、息を飲んで口を塞いでいた手を離す。

歌野「は、花本さんって、あの……新しい巫女よね? さっぱりしてると言うか、大人しい感じの子だったのに」

陽乃「なら私が嘘ついてるってだけでしょ」

歌野「疑ってるわけじゃないわ。驚いてるの」

陽乃の言葉を信じれば、

大人しく思えた巫女が陽乃を殺そうとしたのが事実となる。

そんなことをしそうには思えなかったのに、

どうしてそうなったのか。

歌野「何があったの?」

陽乃「あの子、郡さん側の子なのよ。それで察して頂戴」

歌野「察するなんて、いくら敵対……険悪な関係でも殺そうとするなんてありえないわっ」


陽乃「なら私が嘘を――」

歌野「違うっ! そうじゃなくて……」

歌野はとても辛そうな表情で否定し、首を振る。

歌野は陽乃と違って……と言っても、

陽乃も諦めきれているわけではないが

ともかく、歌野は人々のことを信じている。

陽乃の過去を見て、知ってしまっていても、

それは偶然が重なったゆえの悲劇であると。

しかし。

身動きの取れない陽乃を殺そうとしたのなら、それはもう。

歌野「……久遠さんのことを、認めてくれる人はいないの?」

陽乃「少なくとも、花本さんは認めてないわ」

歌野「っ」

大社に所属する巫女であり、今は勇者に最も近い状態にある花本美佳

彼女は功績を知っている。

そのうえで殺そうとするなら、それは……

歌野「私……大社に抗議するわ」


陽乃「は?」

歌野「我慢しようと思っていたけど……やっぱり駄目よ」

歌野はそう言って、陽乃のことを一瞥する。

その表情はとても悲し気で、辛そうで、苦しそうで、

陽乃に痛く同情しているのが丸わかりだった。

その同情心は、ただ話を聞いただけではなく

力の繋がりによる影響で、

似たような体験を夢見てしまったことも影響しているのだろう。

歌野「事情を知っている人まで、功績を知っている人まで、久遠さんを殺そうとするなら……私、我慢ならないわ」

陽乃「落ち着きなさいよ」

歌野「落ち着いてなんていられないわ! あまりにも酷いじゃない!」

諏訪に助けに来た勇者の1人で、その筆頭

道中の警護で命を張って、ボロボロにまでなって。

なのに、勇者でさえ面会謝絶として隔離されている中、

殺されそうにまでなって。

歌野「……抗議がダメなら、ここから久遠さんを連れ出すことも厭わない。それもダメなら、私、ずっとここにいるわ」



1、落ち着きなさい
2、抗議するって、何するのよ
3、連れ出す? どこに?
4、何が貴女をそこまでさせるのよ


↓2


陽乃「落ち着きなさい」

歌野「むしろどうして久遠さんは落ち着いて――」

陽乃「落ち着きなさいと言っているはずよ。白鳥さん」

歌野「っ……どうして……」

どうしてそんなに落ち着いていられるのか。

迫害を受けて、

人を殺してしまうような悲劇に見舞われて、

命懸けで何かを成し遂げたって感謝はされずにその功績を奪われて、監禁されて、

その間に殺されかけて。

なのに、落ち着いている方がおかしいと歌野は珍しく苛立ちを溢れさせながら、

それでも、大きくため息をついて椅子に座り直す。

歌野「……落ち着くことなんて、出来ないわ」

陽乃「貴女、私の経験を知っているなら " たかがこの程度 " って言えるはずよ」

歌野「それは過去のことだわ! これからのことにまで、そうやって諦めていていいはずがない」


陽乃「諦めてると言うか、そうなるものだっていう推測?」

歌野「ただの屁理屈じゃない」

陽乃「そうとも言うわね」

歌野「……久遠さん、本気で今のままで良いと思ってるの?」

陽乃「急落を経験した私が、砂の山を築きたいとでも?」

歌野「私達がそうはさせない」

陽乃「……ふっ」

歌野「久遠さんっ」

笑い事じゃないと歌野は言うが、

それでも陽乃は嘲笑するように笑う。

信じられる相手なんていないような状況で、

その言葉をどう信じろと言うのか。

陽乃「諏訪から四国に移ったばかりで興奮が抜けていないのよ。冷静になった方が良いわ」

歌野「っ」

歌野は歯噛みして、首を振る。

だけど、どうせ屁理屈を言われると思ってか、口を開く様子はなかった。


↓1コンマ判定 一桁

0、7
またはぞろ目 特殊


他は終了

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であればお昼ごろから


>>41
すみませんが少し難しいかもしれません
何とかしようとは思っています


1日のまとめ(諏訪組)

・ 土居球子 : 交流無()
・ 伊予島杏 : 交流無()
・ 白鳥歌野 : 交流有(美佳に殺されかけた、落ち着きなさい)
・ 藤森水都 : 交流無()
・   九尾 : 交流有(勇者の様子見)

・ 乃木若葉 : 交流無()
・ 高嶋友奈 : 交流無()
・ 花本美佳 : 交流有(真実、陽乃の情報、何のために、違う努力)
・  郡千景 : 交流無()
・上里ひなた : 交流無()

√ 2018/09/14 まとめ

 土居球子との絆 78→78(良好) ※特殊交流2
 伊予島杏との絆 93→93(良好) ※特殊交流4
 白鳥歌野との絆 90→91(良好) ※特殊交流4
 藤森水都との絆 95→95(良好) ※特殊交流8
   九尾との絆 79→80(良好)

 乃木若葉との絆 72→72(良好)
上里ひなたとの絆 66→66(普通)
 高嶋友奈との絆 62→62(普通)
 花本美佳との絆 35→37(普通)
  郡千景との絆 21→21(険悪)


√ 2018年 9月15日目 朝:病院 ※特殊

↓1コンマ判定 一桁

0 友奈
3 水都
9 美佳
7 襲撃

√ 2018年 9月15日目 朝:病院 ※特殊


歌野「おはよう、久遠さん」

陽乃「貴女、まだいたの?」

歌野「……ええ。出来るなら、このまま行きたくないとも思ってる」

今日、歌野には諏訪から四国へと住民を連れ帰ってきた勇者として、

会見を行うと言う役目があった。

大社からの要求の為、

歌野としては、それを忠実にこなしてあげる義理はない。

本来ならあったかもしれないが、

陽乃が隔離され、あまつさえ殺されようとした以上、

そんなことをしてあげる気はなくなってしまったのだろう。

歌野「ある意味、私と乃木さんは同じ状況に置かれることになるのかもしれない。ううん、置かれているのかもしれない」

陽乃「なに、急に」

歌野「大切なものを、大社によって奪われている状態ってこと」

陽乃「もしかして、藤森さんも大社預かりになるの?」

陽乃がそう言うと、

歌野はちょっぴり驚いた表情を浮かべて、眉を潜める

歌野「この状況でそれを言う?」

陽乃「違うの?」


歌野「みーちゃんは平気よ。諏訪から来たばかりのみーちゃんを私と引き離す乃のは、無理があるって分かっているみたいから」

陽乃「そう。藤森さんじゃなくても、諏訪から持ち込んだお荷物があるものね。ままならないでしょ」

歌野「……お荷物、ね」

歌野は静かに呟いて、

陽乃の動くことのない体を見ると、横に向けてあげる。と声をかけてから、

陽乃の体に寝返りを打たせて、床ずれを起こさないようにと気遣う。

歌野「いっそ、このまま九尾さんに任せちゃおうかしら」

陽乃「はぁ?」

歌野「九尾さんが会見で何を言うか、気にならない?」

陽乃「貴女の立場がなくなる未来しか見えないけど」

歌野「……でも、私が行ったとしても。私は私の言葉を話してしまいそうな気がする」

歌野は、自分の胸に手を宛がって、

仕方がないわ。と、諦めたような声で笑う。

歌野「会見では、ある程度決められた台本のようなものが渡されるって、乃木さんが言っていたわ。でもきっと、それは私には受け入れられない内容だと思う」


諏訪を3年間守り続けたというのはその通りだが、

今の流れからして、

諏訪から四国への大移動の功績もまた、

殆どすべてが歌野の功績として語ることになるだろう。

大社が望むように、語って

大社が望むように、騙って

大社が望むように、人々を先導していく。

歌野「ここは確かに平和かもしれない。守られているかもしれない。だけど代わりに、自由がない」

陽乃「自由でしょ。私達以外は」

歌野「諏訪は自由だった」

陽乃「なら帰る?」

歌野「久遠さんも連れ出していいのなら」

歌野は、まるで本気であるかのように言って、

ふと、笑う。

歌野「なんて、ね。そろそろ行かなきゃ」


1、今の貴女が行くべきではないわ
2、余計なことは言わないようにしなさい
3、いずれは行かなければならないのよ
4、九尾に余計なことしないように言っておいて


↓2


陽乃「余計なことは言わないようにしなさい」

歌野「……我慢するわ」

陽乃「貴女が余計なことを言うと、また私の立場が悪くなる。そう言えばいいかしら」

歌野「えっ」

陽乃「貴女が私を庇うようなことを言えば、お前が誑かしたのではないかって、詰め寄られるってこと」

陽乃には特殊な九尾の力もあって、

かなり、何でもありだと思われている。

歌野が変なことを口走れば、

その原因が陽乃にあるとされる可能性は高い

歌野「これ以上、悪くなる立場があって良いわけがない」

陽乃「そうね。そう願いたいところだわ。だから気を付けて頂戴」

歌野「そう言われちゃうと、困るわ。何にも言えなくなっちゃう」

陽乃「それでいいのよ。貴女が言えなくても、貴女が言うべき言葉は用意されているんだから」

歌野「……そう、だけど」

歌野は、悲し気な表情を浮かべると、

陽乃の頬から口元へと流れる髪を払って。

歌野「体を仰向けにしてあげる」

それ以上は言わず、

歌野は陽乃の体を戻して、病室を出て行った。


√ 2018年 9月15日目 昼:病院 ※特殊

↓1コンマ判定 一桁

1 水都
4 若葉
8 襲撃


ぞろ目特殊


襲撃痕規模判定

↓1コンマ

01~00 ※低~高

※50以上で進化型含む
※75以上で完成型含む
※ぞろ目で最大

√ 2018年 9月15日目 昼:病院 ※特殊


歌野が病室を出た後、

朝の見回りに来た看護師がつけて行ったテレビで耳にタコができるほど言われ続けていた勇者たちの会見

お昼過ぎに行われるはずのそれは、

しかし、まもなく会見が始まると言うテロップから先へと進むことはなかった。

陽乃「……」

テレビから流れる音声が止まり、

キャスターの口が半開きのまま動かず、

左上に表示されている時間が増えることもない。

バーテックスの襲来

諏訪で感じたものとは違いがあるが、それだろうと陽乃は察して目を開く。

だが、動かない体ではどうにもならない。

陽乃「九尾」

九尾「ならぬ」

陽乃「まだ何も言ってないでしょ。貴女を呼んだだけじゃない」


陽乃「いつ戻ったの? あんまり感じなかったわ」

九尾「主様がここにいるなら、妾がここに来るのは刹那もかからぬ」

陽乃「そう……そうね。で?」

九尾「襲撃じゃ。小娘どもは出て行ったぞ」

しかし。と、

九尾はのんびりと陽乃のそばに腰を下ろす。

女性看護師の姿をしている九尾は、

介護の1つとでもするように、陽乃の額に触れる。

九尾「主様は出さぬ」

陽乃「死ぬから?」

九尾「うむ。諏訪を生かすつもりならば回復するまで戦うべきではない」

陽乃「……そう」

陽乃は九尾を一瞥して、小さく息を吐く。

陽乃「それで、勇者の誰かが死ぬとしても?」

九尾「妾が生かすのは主様だけじゃ」

陽乃「……あの子たちが負けるような規模だった?」

九尾「そこまでは知らぬ」


そもそも戦闘はどこでどのように行われているのか。

結界の外で行っている可能性もあるが、

陽乃が一瞬感じた不可思議な感覚は、

きっと、それ以外の何かが行われたことによるものだろう。

陽乃「……今なら、病院抜け出せそうね」

九尾「してどうする。愚か者め」

九尾は、無意味なことを言うなら口を奪うぞ。と、

また一時的に陽乃がしゃべることが出来ないようにしてしまう。

とはいえ、

本当なら、それが今の陽乃の状態だ。

九尾「口を利くこともできぬ小娘が、余計なことをするものではない」

陽乃「……」

九尾「勇者が死のうと、主様が死なぬならばそれでよい」

九尾はそう言うが、

しかし、陽乃が言葉を話せるようにすると、諦念のようなものを感じる表情を見せて。

九尾「死にたければ連れて行ってやろう」


1、行かない
2、行く

↓2


陽乃「行くわ」

九尾「本気か?」

陽乃「連れて行ってくれるんでしょう?」

陽乃の伺う表情に、

九尾は呆れた表情で笑って、陽乃へと力を流し込んでいく。

九尾から感じられる力は全身をめぐっていき、

やがて、まるで動く気配の無かった指や、腕、足が動くようになる。

陽乃「っ……なんだか、ぞわぞわする」

九尾「主様の体がそれだけ弱っているということじゃ」

動くだけでも相当な無理が必要で、

戦うだなんてとんでもないと言った状態にある陽乃の体。

それを無理矢理に動かせるようにしているのだから、

陽乃の体の内側は今にも引きちぎれかねないことだろう。

陽乃「っ……ぅ……ごほっ……」

体を起こすと、

喉の奥からこみあげてきた吐き気に負けて、吐血する。

九尾の力で痛みを誤魔化しても、

体の症状までは、隠しきれない。

九尾「……良いのか?」

陽乃「ええ。良いから、連れて行って」


陽乃は、イザナミ様ではなく九尾の力を身に纏う。

九尾の力よりもイザナミ様の方が強いが、

今の状態では、逸れこそ本当に死にかねないからだ。

陽乃「……で、どこから行けるのかしら」

九尾「ふむ……」

九尾は少し考える素振りを見せ、

病室の中で、人間の姿から妖狐へと姿を変える。

九つの尾の1つが陽乃の体を包み込み、

そうして、何か不思議な感覚に襲われたかと思えば、

陽乃の視界にはまるで見たことのない景色が広がっていた。

虹色のような、木の根が伸び放題になっている世界。

眩いその世界の中心とでもいうのか、

根が伸びる先にあるのは、枯れ木のような何か。

陽乃はそれが神樹様だと悟って――

陽乃「!」

どこかで爆発のような騒音が響いて、陽乃はその音がしただろう方角へと目を向ける。


陽乃「……あそこね」

不思議な輝きのある、闇のような空を白い粒が埋め尽くすほど無数に蠢いているのが見える。

ぽつりぽつりと、

その粒よりも遥かに大きく、凶悪な姿をしているものが点在していて。

陽乃は軽く握り拳を作る。

完成型はいないようだが、進化型が数体いるようで、

さっきの爆発はその個体の1つからのようだった。

陽乃「苦戦……しているのかしら」

九尾「戦うつもりかや?」

陽乃「必要なら、そうしないといけないでしょ」

陽乃「……っ」

陽乃は口元を袖で拭う。

幸い、黒が主体となっている装束のおかげで

血がついてもそこまで目立たない。

とはいえ、みんなと合流したら、きっと、色々言われることになるだろう


01~10 善戦
12~21 苦戦
23~32 普通
34~43 勝利
45~54 普通
56~65 苦戦
67~76 飛び火
78~87 善戦
89~98 普通

↓1のコンマ


少し早いですが、本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃からだいぶ離れた距離で行われている戦いは、

あまり、良くない状況のように見える。

勇者達も決して後れを取っているわけではないが、

バーテックスの数があまりにも多かった。

しかも、その猛攻を潜り抜けてどうにか進化型を討っても、

無数にいるバーテックスが再び集結して、進化型のバーテックスが生み出されている。

完成型にする余裕を与えられていないだけ、

十分頑張っているとさえいえるかもしれない状況だ。

陽乃「はぁ……持ってどのくらい?」

九尾「死ぬ気ならば、数分」

陽乃「死にたくなかったら?」

九尾「戦うのならば、数十秒程度じゃろう」

九尾の力で、初期型のバーテックスの軍勢をせん滅してすぐに倒れたのと同じ状況。

陽乃「あの時から、まるで回復していないのね」

九尾「当たり前じゃ。本来ならば、立つこともままならぬくせに」


陽乃は少し考えて、目を細める。

このままでも、勇者たちはどうにかできるかもしれない。

けれど、場合によっては被害が出るだろう。

だが、果たしてここで手を出していいのだろうか。

杏達は感謝するかもしれないが、

千景は、どう思うか。

陽乃「……気にする必要なんて」

九尾「気になるならばやめておけ」

陽乃「気にしたってどうにもならないわよ。あれは」

嫌いになることはあっても、

好きになってくれることはない。


1、様子見
2、助太刀に向かう
3、歌野に力を分ける


↓2


陽乃「このままじゃらちが明かないから、行くわ」

九尾「主様は本当、お人よしじゃな」

陽乃「そんなじゃないわ。私の為よ」

こんなところで勇者に欠けられては困る

これから会見もあると言うのに、

勇者が傷だらけだったり、

負傷で中止ともなれば、また、世論がれるかもしれないし、

その矛先が戻ってきた陽乃に向かうかもしれないからだ。

陽乃「降りかかる火の粉を払う。ただそれだけよ」

陽乃はそう言って、

今もなお爆発音と雄たけびの聞こえてくる戦地へと向かう。

入り乱れる木の根のような足場を全速力で駆けていくと、

力強く踏み込むたびに、

体のどこにも痛みを感じていないのに、こみあげてくる吐き気を感じ、口元から血が飛び散っていく。

勇者たちの最後方

杏達のいる場所にたどり着いた時点で、

陽乃はもう、見た目だ気でも満身創痍と言った状態になっていた。


杏「く、久遠さん!?」

球子「おまっ……な、なにやってんだ!?」

後方支援として、

後から援護に回っていた杏と球子が陽乃の登場に気づき、

迎撃の合間に声を荒げる。

球子「しかも、それ……」

陽乃「これは持病の癪のせいよ」

杏「何言ってるんですか、そんな……そんな顔して」

全力で走ってきたにもかかわらず、

顔は青ざめて悪く、口元や袖は何度も拭った血で汚れてしまっていて、

どうみても、危険な状態だった。

陽乃「何でもないから、気にしないで」

杏「でもっ」

陽乃「貴女達に何かがあったら、また私が悪く言われるんだって、いい加減自覚を持って貰わないと困るわ」

球子「もうすぐ何とかなるから下がってろ! そんな状態で戦ったら死ぬぞっ!」

目の前で大変なことになるのを見てきた杏と球子は、

気が気でないと言った様子だが、

陽乃は、首を横に振って、息を吐く。

陽乃「死なないわ。そこまで馬鹿じゃないもの」

では途中ですがここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

では少しだけ


とはいうものの、陽乃はいつ死んでもおかしくないほどに疲弊していた。

九尾のおかげで痛みこそないが

血反吐を吐きそうな息苦しさは、ほんのりと喉元で燻っている。

陽乃「はぁ……で、状況は?」

球子「見たまんまだっ!」

陽乃「……」

長々と説明している場合はないと怒鳴るように返された陽乃は、

戦闘の続く前線を睨む。

歌野と若葉、友奈と千景

それぞれが守るエリアを決め、そのエリア内に入ってきた敵を片っ端から倒していっているようだが、

バーテックスは歌野達を倒すことよりも、

その先に進むことに注力しているのか、

次から次へと手に余る分だけこちら側に流れ込んできている

それを、球子と杏が加わることでどうにか防いでいる。といった状況で、

さらに、進化型のバーテックスが歌野達の隙をつくように強力な一撃を加えているため、

かなり……余裕がない。

杏「物量作戦だけならまだどうにかなるかもしれないけど……」

陽乃「良かったじゃない。もう一手あって」


バーテックスの狙いは、神樹様か、陽乃か。

見えない視線が自分へと向かっているような不気味さを感じて、陽乃は身震いする。

陽乃「嫌な感じ」

杏「久遠さんは無理しないでくださいっ、私達で何とかしますから!」

陽乃「……そんなこと言ったって」

余裕がないと分かり切っているのに、

ここで手を出さない陽乃ではない。

そもそも、止めろと言われて止めるような性格ではないつもりだし、

ここにきておきながら、ただ黙って傷ついていくのを見ていくほど、

陽乃は我慢強くもない

陽乃「このままじゃどうにもならないでしょ」

杏「それはっ」

陽乃「一手、一手だけ叩き込むわ。あとはどうにかしなさい」

陽乃はそう言って深く息を吸い込み、長く息を吐く

時間も余力もない

だけれど、だからこそ、準備は念入りに。

――助けるべきは


1、歌野
2、若葉
3、友奈
4、千景


↓2


※コンマ42以上で戦闘終了


歌野は、大丈夫だろう。

陽乃との距離が近づいたことで、

余分に必要だったように感じられた分が削げ落ちることなくダイレクトに歌野の方へと伝わり、

この異様な世界に陽乃が足を突っ込む以前よりは

まともに力を使えるようになっているはず。

そして、千景は助けたくない。

いや、千景が助けられたくないだろうし、

嫌な話、完全犯罪が可能なこの世界で、

背中から切り付けてきそうな相手のところに向かうほど、陽乃は命を捨てていない。

そして、友奈はその千景が一番強く肩入れしている相手だ。

陽乃が友奈の方に向かったと知れば、

殺すために向かったとでも思って、何かしてこないとも限らない。

となれば、やはり。

陽乃「ッ――」

陽乃は力強く足場になっている木の根を踏みしめて、駆け出す。


靴底が木の根の皮を抉るように削りとっていくのを感じながら、

陽乃は全速力で駆け抜け、

木と木とを飛び移っては、一瞬の脱力感に転びそうになって、

踏ん張るたびに、口の中に血が滲む不快感を覚えてしまう。

陽乃「っぁ……ぅ゛」

口元から、血が溢れる。

目が霞んで、若葉に近づいた分だけ遠ざかったようにさえ感じ、

それでも、陽乃は踏みとどまって、駆ける

陽乃「……あとで、大変、ね……」

また長引くだろう

歌野は怒るだろうし、

大社がなんて言おうとあの病室に泊まり込んだり、

陽乃を引き取って、勝手なことが出来ないようにとしようとするかもしれない。

なんて、陽乃は考えながら若葉のもとにたどり着く

陽乃「乃木さっ――ごふっ……」

若葉「っ!?」

陽乃「けほっ……」

若葉「何しに来たんだッ!」

若葉は思ってもいなかった来訪者の血にまみれた姿に驚愕の表情を見せながら、

バーテックスの軍勢を凌ぎ、どうにか陽乃の方に戻って、刀を構える。

若葉「今は守ってやれる余裕がないんだ! 今すぐ戻ってくれッ!」


陽乃「守る……? 誰が、誰を……」

陽乃は滴る血を拭うのを止めて、震える膝を手で抑え込む。

視界が半分ほど赤い。

口の中は血の味に満ちていて、呼吸するだけでも喉が痛むように感じる。

九尾の力で隠していても、

極限にまで来てしまうと、隠しきれないのかもしれない。

けれど、ここまで来たのだ。

陽乃「そもそも……貴女達が、遅いから……っ」

若葉「無理に話すな……なんだ。なんでそんなっ」

一見、襲撃を受けてどうにか切り抜けてきたと言った様子の陽乃を案じながら、

近付いてくるバーテックスを切り伏せる若葉の困惑をよそに、

歯を食いしばって、力を込めていく。

陽乃「一手だけ、手を貸してあげる」

陽乃はそう言って

ため込んだ力を足元へと叩き付けて、辺り一帯へと拡散させる。

身を蝕み、神を穢し、死に至らしめる災厄の力。

通常個体の白い体がだんだんと黒く穢れて行ったかと思えば、炭のように砕けて消えていく。

その余波は若葉にも多少害を及ぼしているのか、苦しそうな表情を浮かべていたが、

陽乃はそんなものを見ている余裕もなく、その場で膝をついてしまう。

若葉「っ……久遠さ――」

陽乃「良いからッ! げほっ……っ……良いから……貴女は貴女のなすべきことをしなさい……」

助けようとする若葉に怒鳴って、陽乃は倒しきれなかったバーテックスを倒すように促す。

辺り一帯にいたバーテックスのほとんどは消え、残ったバーテックスもダメージが蓄積していて、チャンスは今しかない。

若葉「っ……絶対にそこから動かないでくれ!」

そう言い残して、速攻を仕掛けるべく残存戦力へと突っ込んでいく若葉の背中を、陽乃はほとんど見えない視界にとらえ、

そして、ふらりと、倒れる。

陽乃「……死にそう……」

陽乃はそこで、気を失ってしまった。

では途中ですがここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

では少しだけ


若葉「くそっ……!」

若葉は陽乃を置いていくことに不安を覚えつつも、

力一杯に刀を握りしめ、歯を食いしばる。

バーテックスをどうにかしなければ陽乃どころか世界が終わってしまう。

だから、置いていくしかない。

若葉「邪魔だ……邪魔だっ……邪魔をするなぁッ!」

上や左、右

どこからでも襲い掛かろうとしてくる初期個体のバーテックス

若葉の怒りの籠った一閃が左右のバーテックスを切り裂いたものの、

残る上方からの襲撃は取りこぼしてしまう。

だが――

若葉「邪魔だと言っているッ!」

若葉の体は食い破られることなく、それどころか向かってきていたバーテックスを足蹴にし、

地へと踏み落として砕く。

若葉が持ちうる力の一旦、

神樹様から引き出した精霊、その名は源義経

若葉「お前達に割いてやる時間など、一刻もないと知れッ!」

若葉はわずかでも早く陽乃を救うべく、

持てる力を全力で引き出し、バーテックスを切り伏せて行った。


若葉は進化個体を含む数百を超えるバーテックスの軍勢を精霊の力を使ってものの数分で壊滅させると、

精霊の力をそのままに全速力で陽乃のもとへと駆け付ける。

若葉「……っ」

しかし、その数分で陽乃は酷いことになっていた。

辺り一面血の海というほどではないが、

陽乃の体からあふれ出ていただろう血溜まりが陽乃を中心に広がっており、

陽乃はピクリとも動かない。

若葉は慌てて近寄って、軽く体をゆすり声をかけたが、陽乃は反応しない。

呼吸さえ――

若葉「まずい……まずいっ……駄目だッそれだけは駄目だッ!」

陽乃は死んでしまったのか。

即時入院が必要なほど消耗していたにもかかわらず、

無理矢理に力を使ったのだから仕方がないのかもしれない。

けれど、だから容認できるというほど若葉は死を認められる心ではなかった。

若葉「死なないでくれ……っ!」

若葉は陽乃の体を抱き上げると、

負担をかけないように気を付けながら、急いで歌野の方へと向かう。

歌野なら傷を癒せると聞いていたし、

陽乃の状態はもう、戦闘後の医療班を待っていられる程の猶予を感じられなかったからだ


若葉がたどり着く頃にはもう、

歌野はすでにバーテックスを倒しきっていたが、

大怪我でも負ったのか、変異しきっていない建物の上で膝をついていた。

若葉「白鳥さん! 」

歌野「ぁ……乃木さ――」

若葉「頼むっ! 久遠さんを助けてくれ!」

歌野に声をかけ、降り立った若葉

その姿を認めた歌野は自分の頬に血が飛び散ったのを感じて目を見開く。

その目の前に、若葉が下ろしたからだ。

血まみれで、もう、息絶えてしまったかのように静かになった陽乃を。

若葉「バーテックスにやられたわけではないんだが、気付いたら――」

歌野「宇迦之御魂大神様!」

歌野は若葉の言葉を聞かず、

宇迦之御魂大神様を呼び起こして力を纏い、陽乃へと力を流し込む。

歌野「久遠さん……お願い。駄目よ……駄目……」

戻ってきて。と、

歌野は、自分の中にある生命力が付きかけるほどに力を使い、

また、それを無理矢理に回復させる。


若葉「……これは」

歌野の周囲に草花が芽吹き、

すぐさま枯れて消え、もう一度芽吹いては枯れていく。

歌野の力を表すようなその光景は美しくも儚く、

その輝かしさとは裏腹に、陽乃の体はまるで治る気配がない。

九尾も姿を見せず、本当に救えるかもわからないままだ。

だが、それでも歌野は力を使い続ける。

歌野「お願い、治って……治って……治ってッ!」

歌野が力を借りてる宇迦之御魂大神様は、

食物の神ではあるものの、

それが持つ強い生命力ゆえ、回復特化の力を持っている

それでも治せないのはそれだけ陽乃の消耗が激しいか

治せないような状態にあるかだ

歌野「貴女は死んではいけないのよ……」

歌野は願い、祈り、その命を捧げる。

失った傍から戻る無限の命を使ったその力は

枯れるばかりだった草花を咲き誇らせるほどに溢れかえって。

――大輪の花が咲く。


√ 2018年 9月15日目 夕:病院 ※特殊

↓1コンマ判定 一桁

1 友奈
4 若葉
6 歌野
9 千景


では短いですがここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから少しずつ

アニメは終わりましたが、もうしばらく続きます。

では少しずつ

√ 2018年 9月15日目 夕:病院 ※特殊


水中を漂いながら目を開いているかのような、

ゆらゆらと揺れ、歪んでしまっている世界が陽乃の目に映る。

その視界はだんだんとクリアになっていき、

やがて正常に近いくらいに見えるようにはなったが、

そこでようやく、視界の約半分……左側の一部が見えないことに気づく。

陽乃「ぅ……」

九尾の力も切れているのか、声が出ない。

不思議と体中にあるはずの痛みは感じないけれど、

同時にまるで動かせる気配はなく、

それどころか、嫌に静かだった。

まるで、全てが失われて陽乃一人となってしまったかのような静寂

陽乃は唯一正常と言えるだろう右目だけを彷徨わせるが、

見える限りには誰もいなかった。


陽乃「っ……」

何もできない、何もわからない。

視界も半分がつぶれているような状態。

だが、生き残ったことだけは分かる。

若葉乃方に向かって、失神したから、

助けてくれたのは若葉だろうか。

常人の治療ではどうにもならないだろうから、

若葉が歌野のもとに連れて行ったか、

歌野が若葉のもとに向かったか

いずれにしても、歌野が関わっているのは間違いない。

陽乃「……ぃぁ……ぉ……」

名前が呼べない。

呼べてもどうにもならないが。

歌野が傍にいるのかもわからない今、

出来るのは休むことくらいだろう。


01~10 友奈
12~21 若葉
23~32 千景
34~43 大社
45~54 球子
56~65 九尾
67~76 水都
78~87 杏
89~98 美佳

↓1のコンマ


生きてはいる。

本当にただその程度のように感じられる陽乃のそばに、

1人分の影が出来る。

左側にいるため、その姿を知ることは出来なかったが、


感じられる気配が九尾だと語っている。

陽乃「ぅ……ぃ?」

九尾「愚かなことをしたものじゃな。主様」

陽乃「ぁ、ぇ……」

九尾「よい。何も言わずとも」

左方から身を乗り出すようにして姿を見せた、いつもの女性の姿をしている九尾は、

微かに動く程度の陽乃の唇に指を押し付けて、完全に動かないようにしてしまう。

動いたところで言葉にもならないのだから、

動かすだけ無駄だろう

九尾「戦闘は主様の介入で滞りなく終了した。死人は出なかったが、負傷者はさすがに避けられなかったようじゃ」

九尾はそう言うと、陽乃を一目見て、ため息をつく

九尾「一番重傷なのは主様じゃな。白鳥歌野が限界まで力を使っても治しきれてはおらぬ」

陽乃「っ……」

九尾「案ずるな。白鳥歌野は生きておる」


力を使い果たしたものの、

宇迦之御魂大神の御力によって、生きながらえている

それでも神々の御力に頼り切った代償は重く、

歌野は暫く動けないらしい。

九尾「会うことはできぬぞ」

陽乃「……」

九尾「主様は自己回復に務めた方が良かろう」

歌野の力を貰うのが最適だったが、

その歌野も今は、自分のことで精一杯なため、

陽乃に回す余裕がない。

九尾「無茶をしたな」

陽乃「っ……」

陽乃が無茶をしなければそんなことにはならなかった。

だが、

無茶をしなければ勇者の誰かが犠牲になっていた可能性がある。

とはいえ、

どちらにせよ負傷者は出てしまった。


歌野は重症

若葉は骨折や火傷など乃症状がみられるが、

歌野よりは軽い。

友奈と千景も同様で、

しかし、両者ともに精霊を行使した弊害もあって、

その反動による身体的ダメージによって、入院を余儀なくされている。

今動くことが出来るのは杏と球子の2人だけ。

九尾はそう説明して、陽乃には療養を進める。

陽乃はそれに反論も何もできず、

呻くくらいで、言葉を返すことは出来なかったが、

九尾は気にせず「そうしておればよい」と、嫌味を含めた笑みを浮かべて。

九尾「良いか主様。しばし休息を取れ」

陽乃「っ……ぁ……」

それ以外にない。

陽乃はそう答えたつもりだったが、

やっぱり、言葉にはならなかった。


√ 2018年 9月15日目 夜:病院 ※特殊

↓1コンマ判定 一桁

0 友奈
3 球子
5 杏
8 美佳

ぞろ目特殊

少し中断いたします
再開は21時ころを予定しています

√ 2018年 9月15日目 夜:病院 ※特殊


陽乃が目を覚ましたことで検査が行われ、

自らの力による反動で脊椎を損傷してしまっており、

それに加えて、脳へのダメージも酷く、

言語機能にも影響が出ているのだと説明された。

治る見込みはないと言われ、

何をしたらここまで酷いことになるのかと、

大社専属の医者も怪訝な反応を見せるほどの状態。

だが、もう一人理解に苦しむような状態の患者を診たらしく、

今日という日の不幸さに絶望していたようだった。

陽乃「……」

陽乃の体は医者が言うように絶望的ではあるが、

とはいえ、超常的な回復力を持つ陽乃の体は本当に少しずつ治っている。

歌野がおらず、

諏訪に力を裂いている影響で治りが遅いのだ


そろそろ諏訪に力を送るのを諦めるべきだろうか。

向こうにいる人々だって

すぐにでも死ぬことを覚悟していただろうに、

なぜだか、死なずに生き延びられていると思っている程度だろう。

いや、

もしかしたら神の御加護や、外へと向かった勇者たちのおかげだと思って

信仰深くなっているかもしれない。

陽乃は神様ではないが、

諏訪神様から代行を委ねられてしまっている影響で

その存在は神格に足を踏み込んでいる。

その為、

その存在を崇め祈ってくれる存在というのは

存外、無視できないものとも言える。

しかし、

諏訪での信仰は、ここまで届かない。

九尾に言わせれば、無駄だ。


今日は歌野が来られないし、

友奈たちも入院が必要とのことなので、来るとしても九尾くらいのはず。

陽乃は欠けた視界の中に何かを探すように視線を彷徨わせ、

ゆっくりと閉じ、そうして、静かに息を吐く

医者曰く一見、酷いありさまだったにもかかわらず、

神経系の損傷以外は何も問題がなかった陽乃

歌野の頑張りによるものだと九尾は言っていたが、

その代償は決して軽くはなかったそうだ。

なのに、どんな状況になっているのか

九尾は決して語ろうとはしなかった。

気になる。

が、今の陽乃にはその気配のありかさえ探り切ることが出来ない。

歌野がそれだけ弱っているのかもしれないし、

陽乃がそれだけ弱っているのかもしれない。

答えは九尾が与えてくれるはずだが、

今は……休むべきだろうか。


1、休む
2、九尾を呼ぶ


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが少しだけ


1日のまとめ(諏訪組)

・ 土居球子 : 交流有(参戦)
・ 伊予島杏 : 交流有(参戦)
・ 白鳥歌野 : 交流有(余計なこと、参戦)
・ 藤森水都 : 交流有(参戦)
・   九尾 : 交流有(参戦)

・ 乃木若葉 : 交流有(参戦)
・ 高嶋友奈 : 交流有(参戦)
・ 花本美佳 : 交流無()
・  郡千景 : 交流有(参戦)
・上里ひなた : 交流無()

√ 2018/09/15 まとめ

 土居球子との絆 78→78(良好) ※特殊交流2
 伊予島杏との絆 93→93(良好) ※特殊交流4
 白鳥歌野との絆 91→92(良好) ※特殊交流4
 藤森水都との絆 95→95(良好) ※特殊交流8
   九尾との絆 80→80(良好)

 乃木若葉との絆 72→72(良好)
上里ひなたとの絆 66→66(普通)
 高嶋友奈との絆 62→62(普通)
 花本美佳との絆 37→37(普通)
  郡千景との絆 21→21(険悪)


01~10 襲撃有
12~21 襲撃無
23~32 襲撃有
34~43 襲撃無
45~54 襲撃有
56~65 襲撃無
67~76 襲撃有
78~87 襲撃無
89~98 襲撃有

↓1のコンマ

※有の場合、被害判定


↓1コンマ

01~00 ※低~高

※50以上 住民被害有
※65以上 勇者軽傷
※80以上 勇者重傷/重症

√ 2018年 10月01日目 朝:病院


陽乃が完全な寝たきり状態となってしまってから約半月

バーテックスの襲撃は休まることなく続いている。

陽乃は元々戦える状態ではなかったが、

本来は諏訪を守った英雄として表舞台に立つはずだった歌野もまた、

9月の襲撃以降、完全に音沙汰なくなってしまって、

襲撃を凌ぐのは千景をリーダーに、

若葉、友奈、杏、球子の5人で対処していた。

しかし、

度重なる戦闘により勇者たちは疲弊しきっており、

最初に千景が精霊の力によって入院を余儀なくされ、

続いて友奈が限界を迎えて、倒れた。

後衛としてどうにか頑張っていた球子も後衛から中衛に位置する立場となり、

精霊の力を使わざるを得ない状態になってしまっている。

それは杏も同様で、

精霊の力を行使する場面が何度も訪れたこともあり、杏もまた検査的な入院を必要としている。

唯一、

若葉だけが、その被害を僅かに免れていると言った状況だった。


陽乃「……大丈夫、そうなの?」

「お答えできかねます」

即答する看護婦は、

陽乃の体の手入れをてきぱきと済ませていく。

その手つきはとても慣れたもので、

素早いながら丁寧で、抜かりがない。

プロというのももちろんだが、

各勇者には専任で数名ずつ担当者が割り振られており、

すっかり慣れたというのも理由の一つだろう。

そして、

担当で割り振ることで、機密事項として情報を完全にシャットアウトし、

各勇者にそれぞれの情報が伝わりにくくなっている……というのは副産物

本来は陽乃のみを遮断するためのものが、

たまたま作用しているだけだ。


とはいえ、

残念ながら陽乃には諜報に長けている精霊がいるため、

全て筒抜けになっている。

しかし、それでも九尾は歌野のことだけは陽乃に話そうとはしなかった。

だから陽乃は何度も看護婦に聞いているのだが、

やはり「お答えできかねます」の一点張り。

陽乃がようやく話せるようになったのに、

話し相手は九尾くらいしかまともに取り合ってはくれない。

水都は会いたがっているようだが、会えないし、

美佳は入院したらしい千景の方にばかりで、

一応、他の勇者の様子も見てはいるようだが、



千景7割、他3割で陽乃は0で、看護婦に委ねているのが現状である。

陽乃「……少しくらい話してくれたって良いと思うのだけど」

「話せることがありません」

陽乃「名前とか、出身地とか、誕生日とか」

「そのようなことを話しても――」

陽乃「なら本音でもぶちまけたら? こんな人の世話なんて本当はしたくないって」

陽乃はわざと挑発するように言って、

驚いた表情を見せた看護婦に、「冗談よ」と笑った。


1、白鳥さんの状況が知りたいの
2、街の噂
3、九尾を呼ぶ
4、イベント判定

↓2


01~10 大社
12~21 ひなた
23~32 九尾
34~43 若葉
45~54 テレビ
56~65 千景
67~76 歌野
78~87 水都
89~98 杏

↓1のコンマ


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間からを予定していますが、
場合によってはお休みをいただくかもしれません


遅くなりましたが、少しだけ

まだ体が不自由な陽乃には操作らしい操作は出来ない為、

看護婦が来た時に付けたり消したりチャンネルを変えたりする程度で、

基本的には変わらず点けたままのテレビ

流れているニュースでは先日の襲撃による被害が報道されており、

死者こそいなかったものの、

少ない被害が出てしまったのが見て取れる。

諏訪と違い、

四国では神樹様が展開する特殊な結界の中で戦うことになる。

未完成なのか、建造物はまばらに残っているが生物はおらず、

神樹から延びているような木の根が広がる世界

そこでの戦闘による被害は、結界が解かれた後に現実世界へと波及していく。

その被害というのが、

四国に起こる自然災害などであり、それによっては、死傷者が出ることにもなってしまう。

陽乃「……」

侵攻による被害だ。と、ニュースでは言われることはないものの、

人々の多くは勇者の戦いによるものだと理解している。と、九尾から聞いている陽乃は、

被害者が数十人にも及んでいるという数字を見て、目を細め――

千景「呑気にテレビを見ているなんて、羨ましい限りだわ」

ノックもなく、その声と姿が病室に入り込んできた。


陽乃「別に呑気に見ているわけじゃないわよ」

千景「私にはそうとしか見えないけど」


千景は目を細めて陽乃を見ると、


無駄に音声が流れているだけのテレビのリモコンを手に取って消してしまう。

見てないならいいでしょ。と、

そう言いたげな千景を陽乃は一瞥して。

陽乃「何なのよ」

千景「自覚がないのね」

陽乃「自覚? なんの話?」

千景「貴女が帰ってくるまでは順調だった。多少の問題はあっても、対処しきれないほどのことはなかった」

なのに、、

陽乃が帰ってきてからは完全に崩れてきている。

増していく襲撃頻度

その規模も膨らんでいき、

精霊の力を借りるのが常となりつつある。

皆、もう余裕がない。


千景は強い怒りをにじませた表情で陽乃を睨み、ゆっくりと近づく。

ひたりひたりと、

わざとらしく焦らすような足取り。

そうして、陽乃の目の前にまで来る

千景「……まだ、体は動かせないようね」

陽乃「動かせないわけではないわよ」

千景「だったら、勇者としての役割くらい果たしたらどうなの?」

陽乃「私は別に勇者ではないもの」


千景「そうね」

陽乃は本気でそう思っているが、

千景も本気で陽乃のことを勇者だなどとは思っておらず、

馬鹿にしたような笑みを浮かべると、

千景「貴女は疫病神だわ」

そう言って。

千景「……世論は大きく傾いたわ。それも悪い方に。貴女のせいで勇者の評判はガタ落ちよ」

陽乃「そんなこと言われても」

千景「私のせいじゃないとでも言いたげな口ぶりね」


↓1コンマ判定 一桁



01~21 なら回避

※それ以外でイベント    


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

日本人はカス民族。世界で尊敬される日本人は大嘘。

日本人は正体がバレないのを良い事にネット上で好き放題書く卑怯な民族。
日本人の職場はパワハラやセクハラ大好き。 学校はイジメが大好き。
日本人は同じ日本人には厳しく白人には甘い情け無い民族。
日本人は中国人や朝鮮人に対する差別を正当化する。差別を正義だと思ってる。
日本人は絶対的な正義で弱者や個人を叩く。日本人は集団イジメも正当化する。 (暴力団や半グレは強者で怖いのでスルー)
日本人は人を応援するニュースより徹底的に個人を叩くニュースのが伸びる いじめっ子民族。

日本のテレビは差別を煽る。視聴者もそれですぐ差別を始める単純馬鹿民族。
日本の芸能人は人の悪口で笑いを取る。視聴者もそれでゲラゲラ笑う民族性。
日本のユーチューバーは差別を煽る。個人を馬鹿にする。そしてそれが人気の出る民族性。
日本人は「私はこんなに苦労したんだからお前も苦労しろ!」と自分の苦労を押し付ける民族。

日本人ネット右翼は韓国中国と戦争したがるが戦場に行くのは自衛隊の方々なので気楽に言えるだけの卑怯者。
日本人馬鹿右翼の中年老人は徴兵制度を望むが戦場に行くのは若者で自分らは何もしないで済むので気楽に言えるだけの卑怯者。
日本人の多くは精神科医でも無いただの素人なのに知ったかぶり知識で精神障害の人を甘えだと批判する(根性論) 日本人の多くは自称専門家の知ったかぶり馬鹿。
日本人は犯罪者の死刑拷問大好き。でもネットに書くだけで実行は他人任せ前提。 拷問を実行する人の事を何も考えていない。 日本人は己の手は汚さない。
というかグロ画像ひとつ見ただけで震える癖に拷問だの妄想するのは滑稽でしか無い。
日本人は鯨やイルカを殺戮して何が悪いと開き直るが猫や犬には虐待する事すら許さない動物差別主義的民族。

日本人は「外国も同じだ」と言い訳するが文化依存症候群の日本人限定の対人恐怖症が有るので日本人だけカスな民族性なのは明らか。
世界中で日本語表記のHikikomori(引きこもり)Karoshi(過労死)Taijin kyofushoは日本人による陰湿な日本社会ならでは。
世界で日本人だけ異様に海外の反応が大好き。日本人より上と見る外国人(特に白人)の顔色を伺い媚びへつらう気持ち悪い民族。
世界幸福度ランキング先進国の中で日本だけダントツ最下位。他の欧米諸国は上位。
もう一度言う「外国も一緒」は通用しない。日本人だけがカス。カス民族なのは日本人だけ。

陰湿な同級生、陰湿な身内、陰湿な同僚、陰湿な政治家、陰湿なネットユーザー、扇動するテレビ出演者、他者を見下すのが生き甲斐の国民達。

冷静に考えてみてほしい。こんなカス揃いの国に愛国心を持つ価値などあるだろうか。 今まで会った日本人達は皆、心の優しい人達だっただろうか。 学校や職場の日本人は陰湿な人が多かったんじゃないだろうか。
日本の芸能人や政治家も皆、性格が良いと思えるだろうか。人間の本性であるネットの日本人達の書き込みを見て素晴らしい民族だと思えるだろうか。こんな陰湿な国が落ちぶれようと滅びようと何の問題があるのだろうか?

遅くなりましたが、少しだけ


千景「っ……」

千景は歯ぎしりするほどに歯噛みしながら、

一度は持ち上げた手を震わせ、彷徨わせながらぐっと握りこんで下ろす。

千景「貴女を殺して解決するなら、殺してやりたい」

陽乃「……ある意味で安心する発言ね」

千景「馬鹿にしているでしょう」

陽乃「まさか」

陽乃は軽く言いつつも、



務めて真面目な表情を見せる。

千景はそう言った部分の機微には疎い為、

陽乃が真面目かどうかなんて、分からない。

陽乃「私と貴女って、冗談を言い合うようなものではなかったと思っているのだけど」

千景「一理あるわ」

陽乃「でしょ? だったら馬鹿になんてしていないって思って貰えると助かるわ」

正直な話、

巫女ならともかく、勇者に明確な殺意を持ってぶつかってこられたら死にかねない。

その死が陽乃に訪れるか、

向かってきた勇者に訪れるかは運次第だが。


千景「……貴女は最低のクズだけど」

千景はそう前置きする。

陽乃への敵意と殺意を隠しきれていない千景の視線はとても刺々しいが、

陽乃は全く気にしていないように目を向ける。

けれどその目こそが気に入らないと、千景は言いたげで。

千景「でも、その実力だけは確かだわ」

陽乃「そう思っていないような顔をしてる」

千景「思っているわ。思いたくないだけで」

千景は苦虫を噛み潰したように吐き捨てて

千景「だからこそ殺してやりたい。貴女は、私にはできないことをやってのけてしまう。そう出来る力がある。それが、憎たらしくて堪らない」

陽乃「使うだけでこんなことになる力を? 正気?」

千景「それは持つものだからこそ言えることよ」

陽乃「隣の芝生は青く見えるという言葉もある」

千景「だとしても、心は変わらない」


1、あげられるならあげてもいいのだけど
2、この力を持てたとして、貴方はどうするの?
3、この力は勇者になり得ないわ
4、そうね。立場が入れ替わろうとも、貴方は私を憎むことになるでしょうね


↓2


陽乃「この力を持てたとして、貴女はどうするの?」

千景「私は、勇者として戦うわ」

陽乃「その志を持てる自信があるの?」

陽乃の力は、

陽乃の血筋があってこそのものであり、

それはつまり、

陽乃と同様にすべてを奪われることから始まるということだ

そんな過去があって、本当に人々を守る勇者になろうだなどと思うのか。

千景はそれを知っているのか。

贄とされたことは……知っているだろう。

陽乃はそう思って。

陽乃「もしもそうなら貴女はすでにこの世にいないでしょうね。それほどの志なら、生贄だって快く引き受けるはずだもの」

千景「……意地の悪いことを言うのね」

陽乃「私は事実を言っているだけよ」

千景「逃げた癖に」

陽乃「当たり前でしょ。私は勇者じゃないもの」


千景「……生贄ね。どうかしら。私は引き受けていたかもしれない」

千景はそう言って、唇を固く引き締める。

やや俯きがちだけれど、

ベッドに伏せっている陽乃にはその顔がはっきりと見えている。

だから、分かってしまう。

その言葉には芯がない。

貴女を殺したいという言葉の方が、まだ芯があった。

陽乃「自信がないなら止めておきなさい。口は災いのもとだって言うでしょう」

千景「貴女が言えたことかしら」

千景はそう言って、端末を見せる。

なろうと思えば勇者になれる。

人など容易く殺せると。

陽乃「その通り。だけど、生きる災厄である私には関係のない話だわ」

千景「……」

陽乃は何も言わない千景を一瞥して。

陽乃「貴女は生贄になるでしょうね。私とは違うから」

千景「……馬鹿にしているの?」

陽乃「冗談を言い合うような仲ではないでしょう」

千景「貴女――」

陽乃「私はいつも本心で語るわ。貴女は違うの? 私にだけ、特別なのかしら」

スイス(先進国)
人口: 863.7万 (2020年)
オーストリア(先進国)
人口: 891.7万 (2020年)
オランダ(先進国)
人口: 1744万 (2020年)
カナダ(先進国)
人口: 3801万 (2020年)
イギリス(先進国)
人口: 6722万 (2020年)

--------1億の壁--------
メキシコ
人口: 1.289億 (2020年)
日本
人口: 1.258億 (2020年)
ロシア
人口: 1.441億 (2020年)
エジプト
人口: 1.023億 (2020年)


国力が落ちるのを人口のせいにしてんじゃねーよ雑魚日本人
お前らが劣等民族なだけだ(笑)


陽乃の茶化すような返しに、

千景はやはり、不満げな表情を浮かべて。

むしろ、

気色悪いと言った空気を感じさせる。

千景「貴女に対して猫を被る必要なんてある?」

陽乃「それは貴女が決めることだわ」

陽乃は答え、そうして、ゆっくりと目を瞑る。

傍に命を狙ってきそうな存在がいるにもかかわらず、

油断している様子に千景は苛立ちを見せたが、

しかし、

千景は陽乃に全くの隙がないとみて、舌打ちしながら踵を返す

陽乃「待って」

千景「……何?」

陽乃「テレビつけて」

千景「自分で点けなさい」

陽乃「意地悪なんだから」

千景「優しくする理由がないもの」

千景は嫌味を込めてではあったが、笑って。

やはり、テレビをつけることなく病室を出て行った。


√ 2018年 10月01日目 朝:病院

↓1コンマ判定 一桁

0 美佳
2 九尾
4 襲撃
5 水都
8 大社

ぞろ目特殊

襲撃痕規模判定

↓1コンマ

01~00 ※低~高

※50以上で進化型含む
※75以上で完成型含む
※ぞろ目で特殊


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから


最悪死にます


↓1コンマ

01~25 若葉 千景


26~50 若葉 千景 杏
61~80 若葉 千景 杏 球子
81~00 若葉 千景 杏 球子 友奈

ぞろ目特殊


千景「……何、あれ」

杏「完成型……バーテックスの最終形態です!」

千景「最終形態?」

球子「完成型を見たことないってなら幸せ者だな……」

球子はまだ傷が治りきっておらず、

引き摺るような形になってしまっている右足を軽く叩いて、吐き捨てる。

球子「こっちは嫌になるくらい見てきたってのに……」

若葉「どういうことだ」

球子「あれは見たことない」

杏「完成型の中でも新型……攻撃が予測できない敵ってことです」

水の球が化け物になったかのような見た目をしている巨大なバーテックス。

それに加えて、複数のなりそこないに、初期個体。

対して

勇者は千景、若葉、杏、球子の4人

そのうえ、全員が手負いの状態だ。

唯一万全と言えるのは若葉くらいで、

他の3人は前回の戦闘における精霊使用による反動ダメージさえ癒えていない。


千景「水。ね」

若葉「……推測可能か?」

千景「伊予島さんの攻撃はあれには水に阻まれて効果がないはず。かといって、近接戦であの水球に飲み込まれたら溺死させられる」

千景は歯ぎしりして、

千景の勇者としての力を宿している武器、大葉刈の持ち手を強く握りしめる。

千景「あれは1人で相手できるような敵じゃない」

そう言って

千景「最低でも貴女と私でのツーマンセル。片方が閉じ込められたらそれを援護する手立てがないと犬死するだけだわ」

若葉「だが、そう出来るほどの戦力差では……」


精霊の力を使ってなお、

その戦力差は圧倒的に開いたままだし、

その反動から立ち直る前に圧殺されかねないような状況だった。

杏「1人が完成型の気を引き、他が周囲を迅速に殲滅する。そのうえで完成型の討伐に当たるのはどうでしょう」

千景「それだと犠牲が出るわ。勇者ではなく街の人に」

杏「かもしれません。でも、まっとうに行けば勇者が死にます」

そのうえで、完成型を落とせる策がありますか? と、杏は問う。

千景「その囮だって死ぬ可能性がある。最適とは言えない」

杏「なら、囮は私がやります」

千景「駄目よ。あの形状からして、遠距離にも対応可能と見た方が良い。どんくさい貴女を囮にするわけにはいかない」

球子「何でもいいけど、長く話し合ってる暇はないぞっ!」


千景「……ちっ」

球子「舌打ち!?」

千景「まずは伊予島さんが精霊の力で先手を打って」

杏「はいっ」

千景「土居さんは収束後の伊予島さんのカバーを念頭に置いたうえで、乃木さんの支援。少しは頭を使って」

球子「何だとっ!」

若葉「承知した……だが、完成型は」

千景「囮くらいなら問題ないわ。7人いればどうにかなる」

千景はそう言って。

千景「囮どころか倒すことだって」

杏「……そうですか」

千景「何?」

杏「いえ」

圧倒的な戦力差

初期個体に進化型

そして完成型までいるという絶望感

だが、杏は思わず笑ってしまう。

どことなく、言い回しが陽乃に似ているからだ。

千景「やって」

杏「雪女郎ッ!」

杏は千景の合図で、精霊の力を呼び起こした。


陽乃「……不味いわね」

九尾「ふむ……」

千景たちが戦闘を開始する頃

陽乃は時間の止まってしまっている世界で、九尾に目を向ける。

陽乃「また襲撃だわ。誰が出られた?」

九尾「高嶋友奈と白鳥歌野以外じゃな」

陽乃「……」

九尾「ならぬぞ」

陽乃が何も言わなくても、

その視線で悟ったのか、九尾は即座に首を振る。

今の陽乃は戦えるような状態ではない。

というのは、先月と変わらないのだが、

今回は歌野も出られない。

陽乃が応急処置を要する体になっても、

助けがない。

つまり、陽乃が死ぬ可能性がある。

それは、許容できない。


1、良いから、連れて行って
2、白鳥さんのところに連れて行って
3、ならイザナミ様に頼むわ


↓2


陽乃「良いから、連れて行って」

九尾「主様」

陽乃「良いから……」

九尾「生きるのじゃろう?」

陽乃「当たり前でしょ」

陽乃ははっきりと答える。

戦いに行けば死ぬ可能性は高い。

だけど、呑気にここで結果を待って、

万が一にでも勇者が敗北すれば、それこそ、死が近づく。

陽乃「生きるために抗うの。徹頭徹尾、初志貫徹」

九尾「じゃがのう」

陽乃「それに賛同したんでしょう? だったら力を貸しなさいよ。九尾!」

九尾「……ふむ」

九尾は気乗りしないと言った反応だったけれど、

しかし、

了承したと頷いて、力を貸してくれる。

陽乃「勇者が万全なら一理あるけど、そうじゃないなら」

自分が出ないわけにはいかないと、

陽乃は九尾に消して貰った痛みを飲み込むように、歯を食いしばった


陽乃「……完成型」

今まで、四国に完成型が襲来することはなかったが、


ついに、完成型が姿を見せたらしい。

水の球を操る完成型のバーテックスは、

遠方から援護射撃する杏の攻撃の悉くを阻む。

それは、完成型を狙って居ようがいまいが関係なく、

水泡を破裂させて降らされる雨は、

杏の矢を叩き落し、球子の勢いを弱め、

若葉の熱を奪い、千景の体を重くする。

そして、ひとたび手や足が止まればあっという間に初期個体が突っ込んでくる。

陽乃「……手が足りていないわ」

九尾「また精霊を使っておるぞ。あ奴ら死ぬやもしれぬな」

陽乃「ええ」

精霊の多用は身を亡ぼす

陽乃の副作用とは大きく異なるが、

そう言う結果が実際に表れており、

誰よりも頑張ってしまう友奈はその影響で参戦できないほどだ。

陽乃「行くわよ」

九尾「勝手に死ぬがよい」

陽乃「ええ。勝手に死ぬわ」


千景は完成型の相手、

若葉はそれ以外の進化型や初期個体を相手しており、

杏は後方支援、

球子はやはり、中間地点で臨機応変に防衛を担当している

だが、手が足りておらず、

どうしても杏にまで被害が及んでいる。

進化型の攻撃が届くこともあれば、

初期個体に突っ込まれることあって……ボロボロだ

だがやはり、

一番危険なのは間違いなく千景だろうか。

七人御先の力で翻弄し、どうにか耐えているけれど、

それにも限界はある。

陽乃「っ」

向かうべきは――


1、千景
2、若葉
3、杏
4、球子

↓2


杏「っ……はっ……!」

球子「杏ッ!」

杏「!」

球子の怒鳴り声に、

杏は呼吸を整える暇もなく辺りを見渡して、

向かい来るバーテックスを撃ち落とす。

だが、処理しきれなかった一体が杏の背後から力強く衝突する。

杏「っ!」

弾丸のように固く、貫くようなものではないが、

弾丸のように速く、そして、ボールのように弾力のある衝撃は、



杏の体を弾き飛ばして、すぐそばにあった木の根へと叩き付け――

杏「っあ゛!」

杏を跳ね飛ばしたバーテックスはそのまま仕留める勢いで杏へと突っ込む。

杏「っぁ……」

衝撃で動くことのできない杏は、

額から流れる血で見えにくい視界に見えるバーテックスに死を感じて、目を瞑る。

だが、そのバーテックスは、彼らがそうしていたように、

空から降って落ちた一撃によって、消滅する。

陽乃「最期まで足掻きなさいッ! 伊予島杏!」

また開くことのできた杏の目に映ったのは、

本来ならここに来ることが出来ないはずの、勇者の姿だった。


陽乃「そんな体たらくで私の信頼を得られると思ってるの?」

杏「……久遠さん」

陽乃「みっともない」

杏「っ、ごほっ……けほっ、けほっ……」

壁のように立っている木の根に埋まっているような状態だった杏は、

陽乃に引っ張り出されて、血を吐き、荒々しく息をする。

片方の肺がつぶれたのか、

まともに呼吸が出来ず、息苦しそうに顔を顰める。

だがそれでも、陽乃は優しい言葉をかけたりはしない

陽乃「息をしなさい、目を開きなさい、震えながらでもその武器を握りしめて、あいつらに向け続けなさい。生きたいのならね」

杏「はっ……っ……ひゅっ……ぅ」

陽乃「戦えるの? 戦えないの?」

杏「たっ……たか……います……」

陽乃「なら一歩でも歩きなさい。自分の足で」

陽乃は杏を支えるのを止め、

そして、ふらついて倒れる杏をそのままに、先へと歩く。


杏が倒れようが、倒れまいが、

バーテックスの侵攻が止まったりはしないのだ。

むしろ、杏の支援が止まったことでバーテックスは次から次へと溢れ始めている。

手負いを助けている余裕なんてない。

杏「っ……久遠、さ……」



陽乃「早くしなさい。貴女が手を止めたらみんな死ぬわよ」

杏「ぅ……あ……」

ふらふらと、

どうにか立ち上がる杏を横目に、

陽乃は神を屠る力を纏った拳で近づいてきたバーテックスを殴り飛ばす。

杏「けほっ……はっ……ぅ」

陽乃「……」

杏はあと少しで倒れ、意識を失うかもしれない。

そうなれば、戦いが終わった後に残るのは喰い残しだろう。


1、ここで戦う
2、球子を呼ぶ
3、若葉を呼ぶ
4、千景を呼ぶ

↓2


杏は暫く戦力外だ。

歌野がいればすぐにでも戦線復帰が叶っただろうけれど、

そうできないのが現実。

球子が一番近いが、他人を気にかけている余裕があるようには見えない。

陽乃「私、遠距離は専門外なんだけど」

九尾「ならば退けばよかろう」

陽乃「退いたってどうにもならないでしょ!」

陽乃は叫ぶように言って、力強く地面を踏みしめる。



陽乃には、遠距離から味方を支援する術がない。

言い換えれば、

陽乃は杏の代役を詰めるには力不足

しかし、だとしてもできることはある。

陽乃の凶悪な力は、バーテックスの気を惹くには十分すぎるほど強烈だった。

魅力的な匂いなのか、

消し炭にしたくなるほどの悪臭なのか

それはバーテックスにしかわからないが。

陽乃「こっちに来なさいよ、バーテックスッ!」

陽乃は力を籠め、溢れさせ、

そうして、誘蛾灯のように自分の存在を見せつけ、惹き付ける。

背後には杏がいるが、そんな死にぞこないなど、目に映ることはないだろうから、心配は要らない


↓1コンマ判定 一桁



01~10 千景重傷
21~30 若葉重傷
41~50 球子中傷
61~70 千景中傷
81~90 若葉中傷

ぞろ目特殊

では少し早いですが、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から

すみませんが本日もお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

遅くなりましたが少しだけ


陽乃「頑張ってるじゃない」

初期個体や進化体相手に後れを取っているなら考え物だが、

今回は完成型が軍勢の中にいる。

陽乃の力を借り、

死ぬことのない体で強引な戦法を取る歌野と、

神々を屠ることのできる力を持っている陽乃ならともかく



そうではない千景達がそんな軍勢相手に被害を出すことなく抗えているのは、


かなりの戦果だと言える。

その最たる理由は、やはり、千景の精霊だ。

七人御先と呼ばれる精霊の力は、

千景をほとんど不死の状態にする。

7人に増えて見える千景の1人を殺しても、2人を殺しても、

またすぐに7人に戻るそれは、

見方によっては歌野の力の上位互換ともとれる。

実際には、一概に言えるものではないが。

それでも、千景たちが奮闘していることに違いはない。


陽乃「……大丈夫?」

杏「っ……ぅ……」

元々近づいて戦う若葉達

近付かれても多少は防ぐことも可能な球子

しかし、杏だけは近接戦における自衛手段がないに等しく、

近付かれれば深手を負うことになってしまう。

その杏は重傷だが、生きてはいる。

生きてさえいればどうにかなるし、

そこに陽乃がいるなら、殺されることだけはないだろう。

陽乃「ほら、見て」

杏「……」

無数にも思える小さな輝き

それらすべてが情緒のかけらもないバーテックスという存在で、

隙間から見える進化型や、月のように巨大な完成型が恐怖心をあおる。

そんな光景を横目に、

陽乃は杏へと苦笑いを向けて。

陽乃「あんな大群がまっすぐ私めがけてきてるのよ」

貴女が頑張ってくれないから。なんて。

陽乃はわざとらしく言って、我先にと向かってきた初期個体を力一杯に殴り飛ばす。

陽乃「人気者って、辛いわね」

多くの人々も

多くの異形の軍勢も

みんながみんな、陽乃を殺そうとしている

それを人気者とは思いたくもない話だが、

茶化すように呟いた陽乃に、杏は何も言う余裕はなくて。

陽乃は気にすることなく、次の一体を地面へと叩き伏せて、消滅させる。

一つ、一つ

一手出すたびに、陽乃は速さを増して、

段々と数が増え、接近してくる間隔が短くなっていくバーテックスを、

いとも容易く、屠っていく。

陽乃「っ……」

陽乃の口元からは血が零れ、顔色は悪くなる。

けれど、杏には止められない。

球子も若葉も千景も、そのことには気づかない。

陽乃は気づかないふりをして……握る拳に力を込めて。

陽乃「っ!」

力一杯に、振るう

↓1コンマ判定 

60以上で勇者に被害(死亡除く)
90以上で致命傷


ぞろ目特殊


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

次の判定で戦闘終了予定

では少しだけ


陽乃が戦線に加わり、


バーテックスの軍勢の気を惹いたことで、

若葉たちに群がっていたバーテックスの6割近くがその場を離れた。

それによって、

若葉が進化型に手を出させなかった理由が取り払われ、

奥に控えていた進化型を若葉が切り捨てに突撃する。


それを援護するのが、球子だ。

数体のバーテックスが若葉の壁を突破して抜けていくものの、

球子が狙われることはなく、その狙いは背後に
控える陽乃へと一目散で。

球子は安心して……というとあれだが、

心配することなく、若葉を背後から狙うバーテックスを薙ぎ払うことが出来る。

だが、千景もそろそろ限界が近いだろう。

精霊の力も必要ではあるが、

通常でもどうにかなる若葉と違って、

一手間違えば死ぬことにもなる千景は、

常に精霊の力を使っている必要がある。

体に激痛が走ろうが、

眩暈がしようが、気を失いそうになろうが、

踏ん張って耐えて、無理矢理にでも力を振り絞らなければならない。

それでも、訪れる精霊を使用した状態での活動限界は、刻一刻と近づいてきているからだ


陽乃「……やってられないわね」

バーテックスの数は少しずつ減少していっているが、

それでも、

数えるのも億劫になるほどの数から、ちょっとずつと言った状態。

全体的に考えれば、まるで減っていないのが現実だ。

千景たちはもちろん、陽乃にだって限界はある。


陽乃の力を大きく使えば、

数百数千くらいのバーテックスなら葬り去ることもできるかもしれないけれど、

その場合、陽乃が力尽きる。

最悪死ぬだろうし、

そうでなくても、また、暫くどうにもならなくなってしまう。

何より、陽乃しか倒しきれない完成型までいるのだ。

ただ数が多いと言うだけで、力を使い果たすわけにはいかない。

陽乃「……」

歌野がいれば

友奈がいれば

杏が動けるなら……と。

言うだけ無駄なことを、陽乃は思ってしまう。

それほど、手が足りない


杏「久遠……さ……っ……」

戦えると言ってから、

十数分近くたってからようやく、杏が声を出す。

どうにか絞り出したというような、

本当に弱り切った杏の声に陽乃は振り返りざまにバーテックスを蹴り飛ばす。

進化型や完成型ならともかく、

初期個体であれば、片手間と言った様子だった。

陽乃「駄目そうね」

杏「久遠さん……っ」

陽乃「無理しなくていいわ」

別に期待はしていないし、頼りにもしていない。

千景が死のうが、若葉が死のうが

球子が死のうが、杏が死のうが、

自分が生きていれば、それで何も問題ないのだから。

陽乃「……」

杏は陽乃を見つめ、そして、

完成型と千景のいる方角に目を向ける。

そっちに向かえとでも言いたいのだろう。

陽乃「……へぇ」

擦り切れた装束から見える傷跡

流れ出る血が指先から滴り、握られていたボウガンのような武器までもが赤く染まっている。

そんな状態でありながら、杏は、自分よりもこの状況を改善することを望んでいるのだ。


1、千景のところへ
2、若葉のところへ
3、球子のところへ
4、断る

↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であれば少し早い時間から

では少しだけ


陽乃「貴女がここで死んだら、私がまた文句を言われるのよ。分かってる?」

杏「……っ」

しゃべり切る余力もないのに、

バーテックスと戦うことなんて出来るわけがない。

しかし、杏の顔は前を見ている。

苦痛に歪んでいても、

その瞳は光を失ってはいない。

陽乃はそれをじっと見つめて、顔を顰める。

杏「……行って、くだ、さい」

武器を握る腕は垂れ下がっていて、

どうにか動かそうとしているのは分かるが、

しかし、ほんの少し持ち上がったところでまた落ちていく。

戦えるほどの回復はしていないだろう。

だがそれでもという意思はあるようだ。

陽乃「まぁ、どっちにしてもよ――ね!」

杏「!」

握りしめた拳で、初期個体を殴り飛ばして陽乃は地面を強く踏みしめる。

陽乃「死なないでよ? 私が責められるんだから」


あくまで自分の心配

そんな言葉を言い残しながら去っていく陽乃の背中を見つめて、杏は困ったように笑う。

呼吸一つでも激痛が走り、

途絶えてしまっている体の感覚と

体の中からじわりじわりと広がっていく死の感覚

普段は綺麗なウェーブがかった髪は

土埃と杏自身の血で汚れ、固まってしまって見る影もない。

そして、こみあげてきた吐き気をそのまま外に出すと、足元には血が迸る。

杏「……久遠、さん」

陽乃は口ではああだこうだと散々だが

その実、誰のことだって見捨てることは出来ない性格だ。

だから、自分のそばにいて、守ってくれていたことくらいは杏も分かっている。

その守護がなければすでに息絶えていたことも、

それを差し出すことが自分の死に直結しかねないことも

よくよく分かっている。

だとしても、この戦いを終結させるためには、必要なことだった。

杏「綺麗です……」

無数の星が瞬くような空を裂いていく、禍々しい力の流れ。

それは闇より黒く、深く、恐ろしいものだったけれど、

杏はそれに安心感を覚えて、そして、膝から崩れ落ちていく。


千景「っ……厄介ね」

鉄砲水みたいに放水してくる攻撃

窒息させるのには十分な水の球をいくつも撃ち込んでくる攻撃

全身を包み込んで身動きを取れなくするような攻撃

どれもこれも、回避しようと思えば可能だが、

一番厄介なのは、

千景の攻撃がどうにか届いたとしても、

一瞬で治ってしまって全く効果が感じられないことだった。

千景「ぐっ……」

しかし、千景には精霊の力の限界がある。

大社によってしめされるようになっているタイムリミットはもう寸前に来ていて、

バーテックスの攻撃による被害は全くなくても、

精霊の力による反動は大きく千景の体に現れており、

もう、満身創痍に近いほどボロボロだった。

千景「ぐっ……っ、あァッ!」

大鎌を横薙ぎに振り抜いて、飛んできた水の球を切り裂いて破裂させ、

隙をついて放たれた鉄砲水を大鎌を素早く回すことでかき消す。

ゲームでの戦闘方法

リアルのに通じるとは思っていないが、千景の出し得る戦法はすべてがそこにある。

だが――

千景「ぅあ゛」

やはり、訪れた限界は千景に大きな代償を払わせ、

それによって生まれた隙を、バーテックスは見逃さなかった。


千まだ残っていた初期個体のバーテックス

愚直に真正面から突っ込んでくる一体

左右から突撃してくる一体

緻密に狙ったのか、

それともただの偶然か

ひと薙ぎでどうにかできない絶妙なタイミングでの襲撃

千景は全身のありとあらゆる穴から血を噴き出させ、

ふらつく体を大鎌でどうにか支えながら、どう対処するかを模索し――

千景「ぁ……がはっ……」

次の瞬間には、千景の体は猛烈な勢いのある水に撃ち抜かれ、弾き飛ばされていた。

完成型は、

目の前からまっすぐ突っ込んできていた初期個体ごと、千景を狙い撃ったのだ。

千景「っ゛!?」

その千景を、さらに初期個体が突進して跳ね飛ばす。

空中で踏ん張ることもできなかった千景は、

しかし、それを幸いにと大鎌でガードしたが、

衝突された衝撃に体は悲鳴を上げ、

まともに動かせない体は地面へと力強く叩きつけられて跳ねあがり、

千景「ぅあ゛……ごぽっ……」

その体を、完成型の大きな水の球が飲み込む。


息を溜めておく暇すら与えないバーテックスの猛攻

力強く反抗してきたからこその、余念のないそれに千景は囚われて……苦し紛れに大鎌をふるうが、

水の中ではその勢いは飲まれ、

酸素の足りない体は力がなく、千景は死を覚悟する。

その目には、はるか遠くからまっすぐ向かってくる禍々しい何かが見えたからだ。

その突撃に貫かれれば、身構えることのできない千景には致命傷となる。

それによって体の骨という骨が砕け散り、

内側がめちゃくちゃに押しつぶされることだろう。

千景「ぅ……ごぽ……ぉ゛あ゛……」

だが、その痛みを感じるよりも先に窒素する。

何も成し遂げられず、認めて貰うこともできず、

結局、奪われるだけ奪われて……無残に殺されて。

これだけ頑張ったって、結果的には役立たずと言われるのだろうと。

無念だけが募る死。

千景はその瞳に浮かぶ涙すら、奪われて――

陽乃「せぇぇぇぇあぁぁぁぁぁッ!」

まっすぐ突っ込んできた禍々しい何か……陽乃は、

水の球に囚われていた千景の体を連れ去って抜け出し、その首根っこをひっつかむ。

千景「げほっ……ごほっ……ごほっ……」

陽乃「顔を洗ったならシャキッとしなさい。二度寝は厳禁よ」

千景「ぁ……なた……」



1、じっとしてなさい
2、さっさと立ちなさい。手柄を貰うわよ
3、そんな体たらくで何が勇者よ。馬鹿じゃないの
4、貴女達がさっさと仕事しないから出張ってきてあげたのよ。感謝しなさい
5、伊予島さんに感謝しなさい。貴女なんて、個人的には死んで貰った方が良いんだから


↓2


陽乃「さっさと立ちなさい。手柄を貰うわよ」

千景「っ……ざ……け」

陽乃「別にふざけてないわよ。そうなるってだけじゃない」

実際には、陽乃の手柄に等絶対にならない。

世間の好感はすべてが勇者に傾き、陽乃に対しては非難が集中する。

陽乃の参戦を悟った勇者は一部を除いて功績を認めるだろうけれど、

世間も大社も、陽乃のことは認めない。

そもそも、正式に勇者として数えてくれていないのだから当然だ。

今回の戦いは、いささか長引いた。

場合によっては住民にも被害が出ていることだろう。

であれば、批判されるとしか考えられない。

そう考えれば。

陽乃「まぁ、確かにふざけているように思えるかもしれないわね」

千景「……あ、なたの、手なんて」

陽乃「借りないって?」

千景「必要ない、わ」

ふらふらと。

全く持って説得力の足りない姿をさらしながらも、千景はどうにか立ち上がって。

支えとしていた大鎌を横に振り払い、

水の滴る長い黒髪をなびかせ、瞳には強い怒りを滲ませる。

千景「貴女なんて、必要ない」


陽乃「なら、貴女にあの完成型が倒せるの?」

千景「っ……」

陽乃「倒せないからそんな状態なんでしょ」

千景「うるさい!」

後からのこのことやってきて、

言いたい放題。

確かにピンチだったし、

さっきのは命を救われたのと同義だったが、

陽乃に救われるくらいなら死んだ方がマシだった。と、千景は吐き捨てる。

だが、陽乃はそれに大して反応せずにため息をついて。

陽乃「それを言って、貴女はなんて返して欲しいの? 私に悔しがって欲しいの?」

千景「はぁ?」

陽乃「貴女がどう思うかなんて知ったことじゃないわよ。私は後で私が責められないよう最大限努力しているだけだもの」

何をしようと責められるのは分かっている。

だが、

その中でも少しでもマシなことになるように

命を狙われずに済む方法を模索し、選んでいるだけのことだ。

千景がそれによる行動に対してどう思ったかなんて、知ったことではない。

陽乃「死にたければどうぞご自由に。私は止めないわ。けど、私の迷惑になるようなことだけは止めて貰えるかしら」


千景「……貴女、本当に気に入らないわ」

陽乃「仕方がないじゃない。貴女と私は正反対なんだから」

周囲からの評価なんてものを気にせず、

集まってくることを強く拒んでいる陽乃の一方で、

常に評価を気にしている千景。

周囲に認めらることを望み、

その為に身を粉にしている千景のことを、

陽乃は無駄だと思っているし、愚かだとも思っている。

その為に自分のことを狙おうとしてもいるから、なおさら。

陽乃「なんでもいいけど、邪魔だけはしないで頂戴ね」

陽乃はそう言って完成型の方に向かおうとしたが、

それよりも先に行ってやると、力強く地面を蹴った千景は陽乃を睨んで

千景「貴女こそ邪魔をしないで!」

陽乃「そんなつもりは毛頭ないわよ」

手柄なんて要らないし、

邪魔をするつもりだってそんな気持ちは全く持ち合わせてなどいない。

陽乃が望んでいるのは、平穏だ

さっさと戦いを終わらせ、また、ゆっくりとする時間。

命の危険がない、時間。

陽乃「私はただ、さっさと終わらせたいだけよ」


01~10 若葉軽傷
12~21 球子中傷
23~32 若葉重傷
34~43 球子軽傷
45~54 若葉中傷
56~65 球子重傷
67~76 杏
78~87 千景
89~98 陽乃

↓1のコンマ

※ぞろ目 被害なし
※奇数で住民被害判定追加

↓1コンマ判定 一桁

1、6 重軽傷
2、7 軽傷
3、5 中軽傷
4、9 死者あり

※そのほか 被害なし
※被害度合いはコンマ依存


では、ここまでとさせていただきます。
明日もできれば少し早い時間から。


明けましておめでとうございます。
またしばらく休みが増えるかもしれませんが、可能な限り進めていきます。
陽乃の章はもう少し続きますので、よろしくお願いします。


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

遅くなりましたが、少しだけ


√ 2018年 10月01日目 昼:病院


陽乃「……なるほど」

看護師が点けてくれたテレビで流れる臨時ニュース

今回の襲撃によってもたらせられた被害は、決して少ないものではなかったらしい。

重軽症者多数

そして……死者数名

完成型を相手取った上で、

勇者側も万全ではなかったのだから、

正直、この程度の被害で済んで良かったと言えるレベルではある。

だが、言うかどうかは本人次第だ。

ああしていれば、こうしていれば。

そういった後悔は尽きない。

それが出来るかどうかに限ることではなく。

何より、この被害によって勇者達に向けられる目は、どうなるか。

若葉は耐えられるだろう。

杏も、球子も、きっと。

だが、千景はどうか。


陽乃「私、また殺されるかも」

「……はい?」

ぎょっとして振り返った看護師に、陽乃は笑みを浮かべる。

入院している中で殺されるなんて問題どころの話ではない。

入院中に死亡する事例はいくつかある。

だが、殺されるだなんて現実味の感じられないことは信じられないと言った様子だった。

陽乃が特別な入院患者で、

接触できる人物もごく限られている存在であることもあるのだろう。

陽乃「冗談よ。気にしないで」

「は、はぁ……」

幸いにも若葉はほぼ怪我がなかったが

千景は精霊の反動によって、酷いダメージを負っている。

杏は精霊による影響とバーテックスによる攻撃によって意識不明だ。

球子も、二人に比べれば軽度だが、

精霊使用による影響は少なからず出ている。

そして歌野は面会謝絶の重症

友奈もまだ、前回までの戦闘による影響が回復しきっていない。

状況は、はっきり言って最悪だ


バーテックスの襲撃が来た場合も問題だし、

住民からの声が上がることで、

勇者が出て行かなければならなくなった場合も、良くない。

リーダである千景が出られないとなると、

それ以外の誰かが出ることになる。

陽乃は当然対象外になるが、

残っている若葉を使った場合も、最悪な結果になる可能性がある。

今の千景は、まだ、陽乃を殺すほどではないが、

今回の戦闘による影響で、代役を務めた若葉に手を出さないとは限らない。

懸念を考えすぎてもいいことはないが、

無警戒ではいられない。

陽乃「……」

歌野が回復してくれれば。

そうすれば、少しは場を制御できるようになるけれど

望みは薄い

少なくとも、九尾は歌野が暫くの間どうにもならないと考えているし、

もしそれが嘘ではないなら、相当長引く。

あてにはできない。

そもそも、陽乃だって正常ではないのだから。


1、九尾を呼ぶ
2、テレビを見る
3、他の勇者の様子
4、イベント判定

↓2


看護師がいなくなったのを確認してから、

陽乃は九尾へと声をかける。

自由に動くことのできない陽乃の手足として動くことのできる九尾

従ってくれるかは運次第だが。

沢山の情報を、九尾は持っている。

話を聞かない理由はなかった。

九尾「限界じゃな」

陽乃「……限界?」

私の命が? と茶化す陽乃を九尾は一瞥して、

それもそうじゃが。と、否定は一切しなかった。

九尾「勇者の小娘共じゃ。潰れるぞ」

陽乃「どうしても消耗品になっちゃうものね。仕方がないわ」

九尾「精霊を使わぬならば、もう少し長持ちするがそうもいかぬであろう?」

陽乃「無理でしょうね」

完成型どころか進化型も、

初期個体からかけ離れた力を持っている為、

通常の力で倒しきるのは難しい。

人数がいれば進化型はどうにかなるにしても、

今はそもそも人数がいない。

陽乃「……手の打ちようはあるの?」


九尾「ふむ……ほかの勇者を見つけるべきじゃな」

陽乃「できもしないこと言わないで」

九尾「ならば、まともに精霊を扱えるようにするしかないな」

陽乃「またそんな、無茶なこと言って」

陽乃は九尾をひと睨みして、ため息をつく。

口で言うのは簡単だが、

新しい勇者を見つけるのと同じ程度には、無謀な話だったからだ。

まともに精霊を扱えるようにする方法は、2つ

一つは精霊を支配する

もう一つは、精霊と協力関係を持つ

現在の千景たちは、表面上は後者での運用を行っているが、

実際には、神樹様を通しての強制的なものになる。

その反発が勇者の体を一番蝕んでいる。

もちろん、普通に友好的な共有関係を結んでいても

人間の体にそんな超常的な存在を降ろすゆえの反動はあるけれど。

現状よりはだいぶマシになる。

陽乃がいい例だ……と言いたいが、

陽乃に関しては、宿しているものが凶悪過ぎて参考にならない。

ともかく、九尾がベストだと言っているのは協力関係を結ぶこと

だがそれは、精霊側に認めて貰わなければならないということで、

そして、普通の人間には成し得ないことだった。


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から

では少しずつ


陽乃「現実的に考えて出来ると思ってる?」

九尾「ふむ……難しかろうな」

陽乃「難しいどころか無理だわ」

勇者達の意志に賛同してくれるか、

勇者達が精霊の在り方に同調するか

精霊の在り方は勇者達には分からないだろうから、

前者である必要がある。

だが、果たしてそれを満たしている組み合わせがどれほどあるか。

陽乃「白鳥さんとは話が違うのよ」

九尾「あ奴は特別じゃな。そもそもが主様の精霊であるというのも後押ししておる」

歌野に協力しているのは、宇迦之御魂大神様。

食物の神とされ、それゆえに生命を司るとも言われているかの神は、

久遠家が祀っていた神のひと柱でもある。

その為、その末裔である陽乃を案じ、

その命が尽きかけているときに、

それを救いたいと力を求めていた歌野に同調して完璧に近い神降ろしを成立させているだけだ。

歌野は特例中の特例だと断言できる。

九尾「じゃが、そうする他あるまい。主様が考えている通り、今のままではただの消耗品じゃ」

陽乃「そんなこと言ったって」

本来、神降ろしや神託といった神事を行うのは巫女の役目とされている。

巫女しかできないわけではないが、

巫女としての素養がなければならない。

素養はいくつも言われていることがあるけれど、

久遠家に伝わる巫女の素養というものは心身の健康と純真さを持つ少女と言われていて、

男性は基本的に巫女とは呼ばず、神職になる。

勇者がそれに適すかどうかで言えば、適さない。

適していれば巫女に選ばれているというのもそうだが、

勇者には各々、巫女ではなく勇者として選定される何かがあるからだ。

そしてそれは、巫女の適性から外れる要素だろう。

そんな勇者達が巫女が行うべき儀式を行うことは出来ない。

実行は可能だが、成立しない。

九尾だって、それが分からないわけがない。

陽乃「無理よ」

九尾「方法はある」


あまり好ましくない方法ではあるが。と、

九尾は前置きする。

九尾が自分から言うのは少し、不気味だが。

陽乃は息を飲んで九尾を見つめる。

静まり返った病室に聞こえてくる中継先のアナウンサーの声

緊張感のあるその声は、被害を繰り返し語っていて。

九尾「勇者にはその専属の巫女がいるじゃろう」

陽乃「……まさか」

九尾は陽乃の意味深長な呟きに、頷く。

九尾「その娘を使えばよい。代わりに宿らせ、経由させる。主様と白鳥歌野のような関係じゃな」

陽乃「無理よ」

九尾「不可能ではあるまい」

陽乃「出来る出来ないの話じゃないのよ。やれば巫女が死ぬわ」

巫女としての器にも左右されるが、

精霊次第ではすぐに死んでしまう可能性がある。

九尾「主様が懇意にしている藤森水都はやる必要がない、上里ひなたならば耐えられる。問題はなかろう」


1、論外よ
2、他に方法はないの?
3、貴女、花本さんを殺したいだけでしょ
4、そう……


↓2


陽乃「貴女、花本さんを殺したいだけでしょ」

九尾「くふふっ、まさか」

喉を鳴らすような笑い方。

からかっているときによくする笑い方だが、

九尾の表情はそれなりに真剣さを保っているせいで、内面を読み切れない。

陽乃に迷いを感じたのか、九尾は眉を潜めて。

九尾「本心じゃ。殺せればよいと思うてないとは言わぬが、主様の利になるからこその提案じゃ」

陽乃「一石二鳥ってことね……悪趣味だわ」

九尾「じゃが、主様を殺そうとした娘じゃ。慈悲は要らぬ」

むしろ、ただ殺めるのではなく、

有意義な死を与えてやるだけ温情ではないか。と、

九尾は本気で考えているのだろう。

ゆるぎない信念を感じる瞳を、陽乃に向けていた。

陽乃「貴女って、やっぱり恐ろしい存在ね」

九尾「妾を誰だと思うておるか。知らぬわけではあるまい?」

陽乃「で、どこまで本気なの?」

九尾「先ほど語ったことはみな本気じゃぞ?」

陽乃「そう。不味いわね」

陽乃はそれをすると言わなければ大丈夫だろうか?

正直、保証はない。

九尾には歌野を唆した前科がある。

歌野と宇迦之御魂大神様が同調したから問題が大きくならなかっただけで、

もし相容れられていなければ、大変なことになっていたはず。

その危険性がありながらも、

陽乃に一番近かった歌野ですら、陽乃の利のために利用したのが九尾だ。

杏や球子達を利用しないわけがない。

特に、郡千景の利を願う花本美佳は、

九尾の殺意も相まって、狙い目だと言えるから。

陽乃「貴女の憶測で構わないから、仮にその手を打った場合の死亡率はどの程度になるか教えて頂戴」

九尾「上里ひなたについては、妾の加護もあって死にはせぬじゃろう。が、花本美佳とそれに類する巫女は持って数回じゃな」

場合によっては、1度や2度で死ぬ。

九尾は杏達がどのような精霊の力を借りているのかまで熟知していない為、

そこは推測にもならない。

だが、花本美佳の素質を基準として考えた場合、その程度で力尽きると言うのが、九尾の答えだった。

陽乃「最悪じゃない」

九尾「替えはある」

陽乃「貴方からしてみれば、そうでしょうね」

九尾「大社とやらにとっても同様じゃろうて。必要な人柱。惜しみはせぬであろう」


九尾の言葉は、否定できない。

人類守護の為必要な犠牲として、

何人もの巫女を人柱として捧げるかもしれない。

そして、それを必要なこととして躊躇しないかもしれない。

他に替えが利かないという制約はあるものの、

勇者がその立場にある。

替えが利かない勇者で差し出せるなら、

替えが利く巫女なら、もっと簡単に出せてしまう組織ではないとは言えない。

陽乃「どうしようもないわね」

九尾「いかにも。主様とて無理は出来まい」

陽乃「……そうね」

今回は、どうにかなった。

それは依然と違って大きく力を使わなかったこともあるが、

意外に千景が奮闘していたからというのもある。

もっとも、陽乃への対抗心を燃やした結果であり、

その反動によって、文字通り殆ど燃え尽きた状態に陥ってしまったが。

陽乃「頭には入れておくわ」

九尾「猶予はないぞ」

陽乃「……分かってる」


√ 2018年 10月01日目 夕:病院

↓1コンマ判定 一桁

1 美佳
3 大社
5 若葉
7 友奈
9 水都

ぞろ目特殊


√ 2018年 10月01日目 夕:病院


戦闘による被害も、数時間経って収束しつつある。

重軽症者数も、死者数も。

おおよその計上から、

もう少しはっきりとした数字に切り替わって、ニュースが流れる。

陽乃のもとを訪れる看護師ニュースをチェックしていたようで、

酷い災害だった。と、テレビを一瞥して呟いていた。

陽乃が聞いたところ、

その被害者はこことは別の病院に運ばれているのだそうだ。、

勇者達が被害を出したわけではないものの、

その原因が勇者にあると考えている人は少なくない。

勇者達は当然、隔離されているけれど……何かが起こらないとも限らない。

その為の配慮らしい。

陽乃「……はぁ」

一部を除けば、

殆どがニュースばかりのテレビ。

看護師にチャンネルを変えて貰っても変わらなかったので、退屈さも臨界に達しそうなところで、それは訪れた。

歌野「……元気、そうね」

陽乃「貴女……」

歌野「襲撃があったって言うから、無理言って連れてきて貰っちゃった」

にこりと笑う歌野は、

しかし、その顔の半分以上が包帯で覆われていて見えない。

テレビが見られるように上半身が起こされた状態の陽乃の目に見える歌野の体は、

患者衣に包まれており、見える範囲は顔と同じように包帯が占めている。

連れてきて貰ったという言葉通り、自分の足で立って歩いているのではなく、

車椅子で連れてきて貰っており、後ろには看護師の女性が控えていて。

その表情は、あまり明るくない。

歌野「必要だったら、力を使おうと思ったのだけど……」

陽乃「不要よ」

歌野「久遠さんってば、そう言って無理してるんだもの」

陽乃「私より深刻そうなのが、そこの鏡に映ると思うけど」

歌野「知ってる。けど、これはどうしようもないから」

歌野は、努めて明るい声で言う。

包帯の下はどうなっているのか。

見える範囲は綺麗だが、

ここに来るために取り換えているとしたら、判断できない。


1、具合はどうなの?
2、包帯の下、見せて貰える?
3、無理してこなくていいわ
4、状況はどこまで?

↓2


陽乃「包帯の下、見せて貰える?」

歌野「……」

歌野はちらりと看護師を見上げる。

自分の手ではどうにもならないようで、看護師が同意してくれなければいけないらしい。

見せるべきではないと看護師は言うけれど、

歌野は「大丈夫だから」と、笑みを浮かべる。

歌野「久遠さんには、見せても見せなくても関係ないから」

陽乃「よくわかってるじゃない」

歌野「だって、どっちにしろって思ってるでしょ?」

見せなければ見せなかったで、

見せられる状態ではないのだと判断し、

それが陽乃の傷を癒すためだったのだと知っている以上、その心は良くない。

何より、そうして隠ぺいしたところで、

隠そうとした理由が燻る歌野の心は筒抜けだから、意味がない。

歌野「……でも、久遠さんは自分を責める必要はないわ」

陽乃「それは私が決めることよ」

歌野「ううん。私のことだから私が決めることだわ」

歌野はそう言って、もう一度看護師に頷く。

看護師はそれでも心配そうな表情を見せたが、

歌野の要求に従って、顔の包帯を外していく。

そして見えた姿に、陽乃は思わず唇を噛んだ。

陽乃「……っ」

歌野の顔の半分は泥のように濁った色をしていて瞼が開いておらず、

ところどころ、種が芽吹いたような緑色が見える。

それは、まったく正常な姿ではなかった。

歌野「これでも収まったのよ。最初は、木が生える勢いだったの」

あまりにも強い生命の力が、歌野自身にも芽吹かせたのだろう。

では途中ですがここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から

では少しだけ


歌野「これが全身に広がってるの。今は感覚がなくて、動かせない」

まるで自分の体の一部ではないような状態で

そこに意識を向けても

何なら傷をつけようとしてみても、

その痛みですら感じない状態なのだと歌野は笑って言う。

歌野「でも、久遠さんが気に病むことじゃないわ」

陽乃「気に病むって、そう言う話じゃ」

歌野「そういう話よ。時間はかかるけれど……少しずつ治ってはいるから」

いずれは元通りになるから大丈夫

歌野はそう言うけれど、それがいつになるのか分からない。

今の体の状態から、完治するという保証もない。

体が壊れていく恐怖はどれほどのものだったろうか。

歌野「……久遠さん」

陽乃「!」

歌野「触れられないのがもどかしいわ」

考えに耽っていた陽乃のほとんど目前にまで迫っていた歌野は、

包帯に包まれている腕を一瞥して、困った表情を浮かべていた。


陽乃「なるほど、私がなんでもないって言うのが不評なわけね」

歌野「ふふっ、今更?」

陽乃「さすがにそこまで痛々しいのを見せられるとね」

歌野「久遠さんは私の比じゃないでしょ」

陽乃「生憎、私の場合は鏡も見る余裕がないから」

歌野「より一層深刻ってことじゃない」

もう。久遠さんってば。と、

歌野は楽しげに笑っているが、

すでに包帯を戻された顔の半分が崩れてしまっていると分かっているからか、

笑い飛ばすような気にはなれない。

陽乃「貴女、随分と余裕ね」

歌野「久遠さんと一緒よ」

歌野は、やっぱり笑って。

歌野「自分がするべきことをした結果だから、悔いはないの」

死ぬ可能性は十分に自覚していたし、

死んでもいいと、少しは思っていた。

その結果として、言葉通りの植物人間になりかけた程度

結果としては上々だったと言える。と、歌野は思っているようだ


陽乃「その傷跡が治らないとしても?」

歌野「ん~……正直、こんな状態から回復しないと言うのは怖いわ」

農業に熱中している歌野だが、

今の体ではそれすらも何も手が付けられない状態にあるし、

仮に体が満足に動かせるようになったとしても、

崩れた体がそのままなのだとしたら、それは。

女として、どれほど苦しむことになるものか。

陽乃もまだ若く、

それを語るには憶測が威張ってくるものだが、

しかしながら、容姿を憂うのは過去も変わらずで、

だとするなら、きっと、違わずと言ったところだろうと陽乃は眉を潜める

自身の身を気にしていると察してか、歌野も少し表情を暗くして。

歌野「でもいいわ。久遠さんが助かったなら、それで」

陽乃「どうだか」

素っ気なく返した陽乃を一瞥して、歌野は口を開く。

歌野「……私達、いつもと立場が逆ね」

陽乃「そうね」

歌野「普段はあれこれ文句を言うのに、自分がその立場になると途端に言われたくないし考えて欲しくないって思っちゃう」

ズルいわね。互いに。と、歌野は言う。

陽乃「暗に、自己責任だから受け入れろと言ってるわけね」

歌野「そんなこと言ってないけど……そう聞こえちゃうかしら」


1、二度とやらないで頂戴
2、責任は取るわ。被害の原因は私なのだし
3、そう聞こえる。貴女も今後そう思って貰えると助かるわ
4、私と貴女が動けなくなったら致命的だって、忘れたの?


↓2

では短いですがここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ

陽乃「責任は取るわ。被害の原因は私なのだし」

歌野「それなら、久遠さんはもう無理をしないようにして欲しいわ」

陽乃「そう言われても」

状況がそれを許さない。

今朝までは若葉と千景、球子と杏と4人の勇者がいたが、

今はもう、暫くは若葉と球子くらいしかまともに戦える状態ではない。

狩りに千景たちが万全でも、

完成型には押し切られてしまうだろう。

多勢に無勢とは言うが、その質に差がありすぎれば

結局、多勢が押しつぶされることになる。

が、そもそもが質も量も劣るのが勇者サイドだ。

使える手は使うしかないと陽乃は言う。

だが、歌野は首を振る。

歌野「勇者は人々の切り札。でも、久遠さんはその勇者の中での切り札なの。簡単に切って良いものじゃないわ」

陽乃「それで誰かが死ぬとしても?」

歌野「そうならないようにするために、私達がいる」

陽乃「その貴女達が力不足だと言ってるのよ。話を聞いてないの?」


陽乃は、今日も戦闘があったことを伝えると、

歌野は申し訳なさそうな表情で、頷く。

戦いがあったことは知っているが、

それはあくまで結果からの推察であって、

襲撃があったことについては、まるで気づけなかったと言う

歌野「……それを言われると、頑張りますとは言えないわ」

以前なら言うことが出来た。

でもそれは、諏訪の勇者として自分一人しかいなかったからだ。

自分がやるしかない。

出来ないとは言えないし、無理だと喘ぐこともできない。

そんな状態が無理矢理に引き出させていた活力。

今はそんな強がりなんて無用の長物

その言葉の責任を取ることになったら、命を懸けても許されない事態が起こるからだ。

歌野「でも、その力不足を理由に久遠さんが命を懸けてしまったら、私達は取り返しのつかないものを失うことになる」

呼吸を挟みながら、しっかりとした声色で語る歌野

その目は罪悪感から、陽乃に向いてはいない。

歌野「久遠さんはあくまで最終手段であるべきよ。周りのみんなが大怪我をするとしても、久遠さんは耐えてくれなくちゃいけない」

陽乃「小は切り捨ててでも大を取るべきだって?」

歌野「わ――」

陽乃「貴女も、大社に染まったのかしら」


陽乃はあえて、

歌野が答えるよりも先に意地悪なことを呟く。

歌野が大社に染まっていないのは分かる。

水都も同様に。

けれど、陽乃自身のことを高く位置付けるあまり、

大社の思想に似たものへと写ろって言っていると感じたからだ。

歌野は一瞬、違うと否定しかけたが口を閉ざして陽乃を見る。

うっすらとした笑みが、その心を表していて。

歌野「最近は、久遠さんのことばかり最優先に考えている気がするわ」

元々、目を離せば死にかけているような人だから、

そうなるのも無理はなかったかもしれない。

だが、歌野はそれだけではないと確信しているようだ。

歌野「宇迦之御魂大神様の御心が、影響しているみたい」

陽乃「神降ろしの影響……」

歌野「もちろん、それが全てじゃないわ。久遠さんのことは元から好きよ」

歌野はそう言って、

はっとして。

歌野「あ……っと、大事に思ってるって、言った方が良かったわね」

少し照れくさそうに言った。


1、力を使うのは控えた方が良いわ
2、他には?
3、そう。思われないように努めていたはずなのだけど
4、馬鹿ね


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ

陽乃「力を使うのは控えた方が良いわ」

歌野「なら、まずは久遠さんが力を使うのを控えてくれないと」

陽乃「……困るわね」

歌野「ほんとに」

四国の勇者たちが悪いわけではなく、

ただ、バーテックスが容赦ないだけだ。

圧倒的な物量による、度重なる襲撃

勇者達が疲弊してきたところでの完成型の投入

褒めたい話ではないものの、やり方としては完璧に近いものだったと

陽乃も歌野も思っている。

そんなことが今後も続くなら、

四国勇者の強化は必須だし、陽乃や歌野の参戦も必然となってくるだろう。

力を使うのを控えるべきだ。と言うのは簡単だが、

実際にそれを利用せずにいられるとは思えない。

歌野「私の力が一番必要になるのは久遠さんの治療なの。その時が一番力が満ちて感じる」

陽乃「力を貸し与えている宇迦之御魂大神様との同調率の関係でしょうね」

歌野「ええ……ただ、だからって使い過ぎたらこうなっちゃうなんて、思ってなかった」

陽乃を救うためという目的もあったため、この結果に悔いはないと歌野は改めて断言する。

死ぬことも覚悟していたし、それよりはまだ、優しい代償だったとも言いつつ

しかし、陽乃が死にかけるようなことがなければ控えると歌野は言う。


陽乃「そうした方が良いわ」

歌野「……」

陽乃「なによその顔。不満そうね」

陽乃がそう言うと、歌野はちょっとだけむっとするように顔を顰めたが、

包帯に隠れている部分に引っ張られてか、ややぎこちない。

陽乃「……分かってるわよ。冗談よ」

歌野が大きく力を使わずにいるためには、

まず、陽乃が力を使い過ぎないと言う前提が必要となっている。

陽乃が死にかけているのに力を使いません。

そんなことをしようものなら、歌野は宇迦之御魂大神様に祟られてしまいかねない。

宇迦之御魂大神様はなにもなく祟るような悪神ではないものの、

契約の反故とも言えるその行為を容認して貰えるはずがないからだ。

陽乃「私も、使わなくていいなら使わないわ。というか、そうしたいと思っているし」

毎度毎度力を使って、寝込んで、死にかけて、体が不自由なままで。

そんな生活は苦痛でしかない。

自分が望んで力を使っているにしてもだ。

毎日退屈だし、

不自由な状態だからって、絞め殺しに来る人もいるし、散々である。

脱したいと思うのは当然だろう。


陽乃「そのためにも、四国の勇者には頑張って貰わないと……」

陽乃はそう言いながら、歌野を見る。

歌野に力を使うのを控えるように言ったのは、

もちろん、その体が壊れかけているのもあるけれど、

宇迦之御魂大神様との同調による、精神汚染と言うべきか、

良からぬことが起きているように感じたからだ。

陽乃のことを好きだと言ったその心に嘘は感じられなかった。

けれど、全てが本当に歌野自身のものなのかどうかは確証がない。

というのも、

長年、久遠家と共にあった宇迦之御魂大神様の御心が影響している可能性があるからである。

陽乃は自分を見返してくる歌野の視線に気づいて、さっと目を逸らす。

陽乃「貴女……自分が自分じゃないように感じたことはある?」

歌野「ん~……今のところは特に」

陽乃「そう」

陽乃自身、神降ろしなんて行為をするようになったのは、

バーテックスによる襲撃が起きてからで、

以前の巫女たちが神降ろしによってどれほどの影響を受けていたのかという知識には乏しい。

だが、

神様の影響で精神が崩壊してしまうとか、

自意識が混濁してがらりと人が変わってしまうとか

色々な弊害があったらしいと言う噂レベルのことは耳にしたことがある。

今はそうでもなく、

宇迦之御魂大神様の久遠家への親しみを、

純粋に引き継いでしまっているだけだからまだいい。

いや、良いとは言えない。と、陽乃は眉を潜める。

歌野もそうなるかもしれないし、

今でも歌野は少々、強い好意を抱き過ぎているように思えるからだ。

結局、その思いが歌野の自己犠牲に繋がっているだろうから……

歌野「そうまでまじまじと見られると困るわ」

陽乃「……」

やはり、控えて貰うべきだろう。と、陽乃は首を振った。


√ 2018年 10月01日目 夜:病院

↓1コンマ判定 一桁

0 九尾
2 大社
4 若葉
6 球子
8 千景

ぞろ目特殊


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ

√ 2018年 10月01日目 夜:病院


消灯時間も近づき、寝静まろうかという頃

扉の向こう側、通路を歩き近づいてくる気配を感じて陽乃は目を覚ました。

神々の御力に体を侵されていく中で、

段々と人間離れしていっているからだろうか。

足音が聞こえているわけでもないのに、

何かが近づいてきているというのははっきりとわかる。

それが、また、人の道を踏み外しかねない気配だと……より強く。

陽乃「……夜伽を頼んだ覚えはないわ」

千景「……」

音もたてずに病室に入り込んできたのは、千景だった。

長い黒髪は夜の暗闇に溶け込んでいて不気味で、

薄水色の患者衣が不思議と発光しているようにも見える。

前髪が瞳に影を落としていて、見えない。

陽乃「時間を考えて頂戴」

千景「……」

陽乃「……郡さん?」

今朝よりもずっと、妙な雰囲気を感じさせる千景は、

陽乃の茶化しにも答えず、ひたりひたりと近づく。

サンダルすら、履いていないようだった。


千景からは荒々しく、刺々しい殺気にもなりかねない憎悪のようなものが感じられる。

九尾の助力がない今、

陽乃は体を動かすことが出来ない為、

千景が殺しに来たら、陽乃はなすすべなく殺されるだろう。

だがその前に、

九尾が千景を殺すだろう。

陽乃がダメだと言っても、確実に九尾は殺す。

巫女でしかなく、非力な美佳とはわけが違うのだ。

陽乃「ねぇ、ちょっと」

千景「……人が、死んだわ」

陽乃「聞いたわ」

千景「1人2人じゃない……何人も、死んだ」

陽乃「ええ」

低く沈んだ千景の声

あまりにも冷たいその声色は聞く者を凍り付かせてしまいそうだが、

生憎と、陽乃はそんな人間ではない。

陽乃「で? それが私のせいだとでも言いたいの?」

残念ながら、と

冗談を言うようなことは言えないが、

陽乃は自分に関係ない罪を擦り付けられることには慣れているし、

人殺しの汚名だってすでに練り込まれた人生だ。

なにより、本当に人を殺めた今

その糾弾はもはや、事実のものとなった。

陽乃「別に構わないわよ」

千景「……平気なのね、貴女は」

陽乃「それは何に対して言ってるの?」

人々に糾弾されるのが平気かと言う意味なのか

人々を死なせても平気かと言う意味なのか

陽乃は、目を細めて。

陽乃「最優先は私の命よ。他はどうでもいい」

千景「……」

陽乃「そう睨んだって、答えが変わることはないわ」

陽乃は勇者ではない。

みんながそう言った。

だから、陽乃は人類の希望などではないし、

だから、人類など守ってあげる義理はなく、

だから、勇者などと言う、ボランティア活動の評判なんて気にしないし、

だから、どれだけの命が失われようと、関係はない。



1、貴女には他人を護る理由があるの?
2、評判が悪くなったならご愁傷様。また頑張ってね
3、そんなことで私を殺そうとしないで頂戴
4、こっちになんて来てないで反省会でも開いたら?

↓2


陽乃「貴女には他人を護る理由があるの?」

千景「……あるわ」

陽乃「そう。立派ね。でも私にはないわ」

なぜあるのか。

そんなことに興味はない。

千景もないのなら話は合うが、

千景にはあると言うのなら、それまでだ

話が合うはずもなく、話をするのは無駄になる。

陽乃「理由があるなら、被害者が出たことには心が痛むだろうし、評判だって心に来るものがあるかもしれないけどね」

だけど、陽乃にはそれがない。

被害者が出ようが関係はないし、

評判が悪くなろうとも関係がない。

それがなくても、陽乃どころか久遠家の評判は地の底に落ちているのだから。

千景「あるのよ。私には、護る理由が……」

陽乃の目前にまで迫ってきた千景は、

陽乃を見下ろし、明確な殺意を持ってベッドに手を置く。

陽乃「……止めておきなさい。怪我では済まないわよ」

千景「怪我? 私が? 貴女に何が出来ると言うの」


ベッドに上がり、

陽乃の動かない手を足で踏み抑え、

腰の辺りにお尻を落として、体を抑え

馬乗りになった千景は、ゆっくりと陽乃の首に触れる。

陽乃「……どうしてこう、首を絞めるのが好きなのよ」

千景「何を言ってるのか分からないけど……すぐに殺すのは、貴女に優し過ぎるでしょう?」

千景はそう言いながら、ゆっくりと手に力を込めていく。

勇者の力を使っていない、少女の力

だがそれでも、今の陽乃は絞め殺せる。

千景はその確かな感触を感じて、笑みを浮かべた。

千景「貴女さえ死ねば、バーテックスはいなくなるかもしれない。
   貴女さえ死ねば、バーテックスは四国に手を出さないかもしれない。
   もし、そうじゃなかったとしても……貴女は責任を取って死ぬべきなのよ……」

陽乃達が戻ってくるまでは、あれほどの戦力を投入してくることはなく、

であれば、陽乃達が連れてきてしまった可能性があると千景は考えているようだった。

多くの人が傷ついた。

死人だって出してしまった。

その責任を取って、苦しんで死ぬべきだと、千景は考えて。

陽乃「っ……」

千景「苦しいでしょう? 痛いでしょう? 当然の報いだわ」

↓1 コンマ判定

01~50 状況:最悪
51~00 状況:悪

※ぞろ目特殊


では本日はここまでとさせていただきます。
明日は可能であれば少し早い時間から

では少しずつ


陽乃「っぐ……ぅ……」

駄目だ。

陽乃には抵抗が出来ない。

それはつまり、

千景に殺されてしまう――わけではなく。

千景「!」

窓が開いているわけでもない病室にうっすらと風が吹き、

カーテンが揺れ、影が揺らぎ

そして、千景の体が真横に吹っ飛んでいく

千景「がっ……」

壁に背中を強打した千景は苦し気に呻いて、床に倒れ込む。

陽乃「げほっ……けほっ……っぁ……」

そこには誰もおらず、陽乃がベッドの上で咳込んでいるだけなのに、妙な感覚を覚えて。

千景「あ゛っ……」

首が絞めあげられる。

もがいても、引っ掻いても、空を切るだけで。

しかし、確かにそこにある何かによって、千景の首はきつく絞められていく


陽乃「っ……」

首を絞められる前に助けてくれればいいものの、

自分の行いを悔いて苦しめ。という考えなのだろう。

千景の殺意を容認しながらも、

それはほんの一瞬で、それを持って千景を祟る九尾は、

ゆらゆらと揺らぎながら、その姿を現す。

いつもの女性ではなく、

大きな妖狐の姿をしている九尾

光がが妬いて見える金色の毛並みを逆立てているのか、刺々しく

赤い瞳は千景を睨んでいて。

千景の目の前どころか陽乃の真横にいながら、

千景の首を絞めあげ、宙吊りにまで持って行こうとしている。

千景「ぅ、ぁ……あ゛っ……」

バタバタと、宙に浮いた千景の足が騒ぐ

具現化した九尾の尾をその小さな手で掴んでいるようだが、

九尾は全く気にしていない様子だった。

九尾「当然の報い、なのじゃろう?」

千景の言葉を繰り返すように言い、彼女は牙を剥いて笑う。


陽乃「っ……」

九尾は完全に殺す気だ。

弄んではいるが、

千景がそうしようとしたから、長く苦しむようにしているだけで

本来なら時間をかけずに瞬く間に縊り殺していたに違いない。

陽乃が抵抗できなければなかったのは、九尾が出てきてしまうからだ。

陽乃なら、人として抵抗するが、

九尾は人外として圧倒的にたたき伏せてしまう。

九尾「白鳥歌野を連れてきたならば、一人くらい減っても変わらぬじゃろう」

陽乃「……貴女」

あんなに勧めてきたのは

歌野を取れ込み、

かねてから反抗的だった千景と入れ替えるつもりだったのではないかと、

陽乃は思わず邪推してしまう。

が、そんなことを考えている余裕はない。

このままでは千景が殺される。


1、止める
2、止めない


↓2

陽乃「駄目よ」

九尾「生かしておく理由がなかろう」

陽乃「ただでさえ戦力がないのよ。彼女も貴重だわ」

九尾「ふむ……」

千景「ぁっ……ぅ……ぐっ……」

話している間も、九尾は容赦なく千景を締め上げる。

限りなく弱く、しかしながら千景が抜けることが出来ない程度の力

ほんの少しは呼吸が出来るけれど、

苦しく、だんだんと酸素が足りなくなっていく。

暴れる余力すら失ったのか、

千景の足は垂れ下がって……

陽乃「九尾、時間稼ぎは止めて頂戴」

九尾「くくっ、そんなつもりはないが」

陽乃「だったら」

九尾「よかろう」

千景「っ――ぁ゛っ!?」

千景の体が左右に揺れた瞬間、

勢いよく左側へと放り投げられ、

また壁へと激突した千景はそのまま床に落ちていく。

陽乃「九尾!」

九尾「案ずるな、殺してはおらぬ」

陽乃「……なんてことするのよ」

九尾「殺さなければよかろう」

陽乃「怪我をさせて欲しくないのよ。分かるでしょ」

戦力が足りないって言ったのに、

気絶するほど大怪我させられたら困る。

次の戦いに参加できなくなったらどう責任を取ると言うのか。

陽乃「体を動かせるようにして」

九尾「何故、情をかける」

陽乃「情なんてないわよ。ただ、必要なだけ」

九尾「抜かしおる」

九尾は吐き捨てるように言ったが、

体の感覚が戻ってきたのを感じるあたり、

素直に従ってくれるようだ。

動けるようになった陽乃は、ベッドから降りて動かない千景の体を揺らす。

陽乃「……ちょっと。こんなところで寝ないで頂戴」

唇を切ってしまったのと、

頭を打ち付けたのか、たんこぶのような膨らみが感じられ、

触ってしまったからだろう。

千景が呻く。

陽乃「あわよくば殺そうとしたでしょ……まったく」

九尾「さてのう」


陽乃「……呼吸は、大丈夫そう」

九尾「死んではおらぬ」

陽乃「死ぬかもしれないじゃない」

勇者はどうだかわからないけれど、

人間だったら死んでもおかしくない。

実際、九尾はそれが目的でやったのだろうし。

陽乃「……目を覚まさないんだけど」

九尾「仕方があるまい」

首を絞めあげられたあげく、

背中や頭を強打したのだから。と、

九尾は関与していないかのように言う、

陽乃は顔を顰めつつも、千景に目を向ける。

勇者の回復力ならじきに目は覚めるはず。

問題は、千景をどうするかだ。

人が来たら厄介だ



1、このまま休ませる
2、九尾に頼む
3、病室に持っていく
4、人を呼ぶ


↓2


陽乃「郡さんを病室に持っていくから、誤魔化しておいて」

九尾「誰も来なかろう」

陽乃「騒がしくしちゃったでしょ」

千景を壁に叩き付けたのは2回

どちらも凄い音だったし、

消灯間近……いや、もう過ぎている時間帯だ。

静まり返った病院内には、よく響いたことだろう。

しかし、九尾は首を横に振って。

九尾「妾が、何もせぬわけがなかろうて」

陽乃「そう。ならいいけど」

千景が死んでいたら、

千景はいつどこで死んだかもわからず抹消されていたかもしれない。

糾弾される勇者と言う存在に辟易して逃げたのだと。

そう言われていたかもしれない。

陽乃「ねぇ、住民を扇動して勇者を貶める。なんてことはしてないのよね?」

九尾「主様は妾を分かってきてるようじゃな」

くつくつと喉を鳴らし、九尾は嬉しそうな顔をする。

そういう計略は、九尾の好むところのようだ。

九尾「じゃが、してはおらぬ。何も。人間は愚かしいのう」

あざ笑うかのような九尾のやや高めの笑い声を聞きながら、

陽乃は千景を優しく抱き上げて、病室を出る。

九尾は付いて来ないが、力を感じるので何か仕掛けてくれてはいるようだ。


樹海化した世界では何度も出歩いていたが、

現実の世界を歩くのは久しぶりの陽乃は、なんとなく空気を新鮮に感じて小さく笑ってしまう。

腕の中には気絶した千景がいるとか、

誰かに見つかったrあ確実に騒動になるとか、

色々と抱えていることがあるからだ。

それさえなければ……と、陽乃は少し残念に思う。

陽乃「……なんで一緒にいるのが貴女なのかしらね」

特別、こうして連れていきたい相手がいるわけではないものの、

敵対関係にある千景は違うだろう。

せめて、労わってあげるべき働きをした歌野が妥当だ。

陽乃の無理を無理で補って、今は体が自由に動かせない様子だったし。

陽乃「大人しければ、ただの綺麗な子なのに」

眠っているのではなく、気絶しているだけだが、

千景は黙っていれば……いや、陽乃が関わりさえしなければ、

大人しく、それでいてとてもきれいな少女だ。

艶のある黒髪が、特に。


結局、そう結局のところ

四国の人々も、千景も、

陽乃が関わりさえしなければ、そこまで大きな過ちは起こしてはいないのだ。

いつか起こすかもしれないが、

だとしても、

こんなにも頻度が高くなったりはしないはず。

バーテックスだって、

陽乃のような化け物にも化け物と思わせるような力を持っている敵がいなければ、

完成にも見える、あの大型バーテックスという存在は作り出したりしなかったかもしれない。

全ては憶測。

けれど、陽乃や久遠家を起因とする問題が多すぎる。

かといって、自分さえいなければなどと考えて出て行く殊勝さはもう捨ててしまった。

……どうするべきかちゃんと考えないと。

陽乃はそう考えながら、病院の通路を歩く。

聞き耳を立て、見回りなどがいないことを確認しながら慎重に。

千景の暴走ははっきり言って異常だ。

憎悪の感情があったし、

手柄を奪うような入り方をしたし、

犠牲者が出て勇者が糾弾されているにしても

あまりにも行動力がありすぎる。

あの巫女―花本美佳―の見出した勇者らしいと言えば、らしいけれど。

美佳だって、陽乃が憎くても殺しきれないと言った様子はあった。

しかし、千景はそれがまるでなく、

殺せると確信した時の表情は、気でも狂ったかのように恍惚としていた。

今朝も何か様子がおかしく感じられたのを思い出して、陽乃は顔を顰める。

歌野の場合は神様だが、協力的でも精神に多大な影響を受けている節があるし

やはり、千景達はそれ以上に良くない影響を強く受けてしまっているのではないだろうか。

千景が扱っているのは、七人御先という精霊

精霊として扱うには、いささか質の悪い妖だろう。

それが完全な協力関係でなく服従であるなら、その精神汚染は危険かもしれない。

陽乃「……私が憎たらしい人間だったことに感謝しなさいよ」

勇者を糾弾する人々へと矛先が向いていたら、きっとより物騒なことになっていたはず。

だから感謝しろと陽乃は言って、千景の体を揺する。

そうして、九尾の力の影響か誰かに見られることもなく、

陽乃は無事に千景を病室へと連れていくことが出来た。


1日のまとめ(諏訪組)

・ 土居球子 : 交流有(参戦)
・ 伊予島杏 : 交流有(参戦、救援、千景のところへ)
・ 白鳥歌野 : 交流有(具合、責任はとる、控えて)
・ 藤森水都 : 交流無()
・   九尾 : 交流有(殺したいだけ、殺さない)

・ 乃木若葉 : 交流有(参戦)
・ 高嶋友奈 : 交流無()
・ 花本美佳 : 交流無()
・  郡千景 : 交流有(特殊①、力があるなら、参戦、手柄を貰う、犠牲者、護る理由、特殊②、病室)
・上里ひなた : 交流無()

√ 2018/10/01 まとめ

 土居球子との絆 78→80(良好) ※特殊交流2
 伊予島杏との絆 93→96(良好) ※特殊交流4
 白鳥歌野との絆 92→95(良好) ※特殊交流4
 藤森水都との絆 95→95(良好) ※特殊交流8
   九尾との絆 80→82(良好)

 乃木若葉との絆 72→74(良好)
上里ひなたとの絆 66→66(普通)
 高嶋友奈との絆 62→62(普通)
 花本美佳との絆 37→37(普通)
  郡千景との絆 21→22(険悪)


√ 2018年 10月02日目 朝:病院

↓1コンマ判定 一桁

0 水都
2 美佳
4 千景
6 大社
8 歌野
9 襲撃

ぞろ目特殊

√ 2018年 10月02日目 朝:病院


朝目が覚めたら千景がいるなんてことはなく、

何事もなかったかのように明るい光が目に入る。

千景を病室に戻しまっすぐ戻ってきた陽乃だったが、

九尾は千景を打ちのめした痕跡を跡形もなく隠蔽していた。

壁などに傷や血痕があったはずなのに。

やはり、恐ろしい存在だ。

体を起こしたいと、

すぐそばのリモコンに目を向け、手を伸ばしてはたと気づく。

陽乃「……ん」

震えてしまうものの、手を上げられる程度には動かせるようになったらしい。

リモコンを手に取るまではいかず、上体を起こせるようベッドを動かすボタンを押す。

陽乃「ようやくね」

まだまだ全快には程遠いが、少しずつ回復することは出来ているようで

それが実感できると、少し、安堵できる。

この調子で襲撃がないまま数日たてば、

体も治るかもしれない

そうしたら……いいや、それでも退院は許可されない気がする。

陽乃はある意味、隔離するためにここに置かれているようなものだし、

何かと理由をつけて先延ばしにされるだろう。

あるいは、

ここから大社の……それもないと思いたい。

神樹様を害せる存在である陽乃を神樹様のそばに置くほどの愚策は練らないはず。

陽乃「……くだらないことばかり考えそう」

吐き捨てて、頭の中から考えを放り出していく。

それもこれも退屈なせい。

テレビはどうせ大したものは流れないし、

本は手元にない

遊べるようなものもない。

呼べるのは九尾くらい。

……歌野なら、呼べば来られるかもしれないが、さすがに憚られる。


1、九尾を呼ぶ
2、テレビを見る。
3、ナースコール
4、イベント判定

↓2


01~10 千景
12~21 水都
23~32 美佳
34~43 大社
45~54 歌野
56~65 球子
67~76 若葉
78~87 九尾
89~98 友奈

↓1のコンマ

※ぞろ目特殊


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から

水都交流

遅くなりましたが、少しだけ


どうする考えていると、

病室の扉が叩かれて、声が飛んでくる。

入ってもいいかどうか

起きているかどうかを確認するその声は聞き覚えがある。

そもそも、ひしひしと感じる力が誰が来たのかを教えてくれていて。

陽乃は気にせず返事を返した。

水都「おはようございます。陽乃さん」

陽乃「おはよう。久しぶりに見たわ」

水都「あ、はい……」

すみません。と頭を下げた水都は、

色々と忙しくて、と言って。

水都「うたのんが陽乃さんに会いに行ったって言ってましたけど」

陽乃「ええ、来たわ。会ったの?」

水都「昨日の夕方にようやく……暫くは面会謝絶だったので」

陽乃「面会謝絶だったのね。てっきり麺かいくらいは出来るものだと思ってたわ」

水都「事実は分からないですけど、させられないくらい酷い状態だったって話です」


水都や千景達勇者は普通に会えているとばかり思っていたが、

どうやらそうですらなかったらしい。

陽乃だけ排除されていたわけではないのだと安心……するわけもなく。

陽乃は小さく息をつく

陽乃「白鳥さんの状況、聞いたの?」

水都「そう、ですね」

水都はほんの少し顔を険しくする。

その表情だけで、あの惨状を見聞きしたことは明らかだろう。

陽乃「……だから、責めにでも来たの?」

水都「えっ?」

陽乃「貴女、白鳥さんの巫女でしょう。そうでなくても、とても仲の良い関係だし」

水都「花本さんのように陽乃さんを傷つけに来たなんて思われるのは心外です」

陽乃「分からないじゃない」

水都「信じて欲しいって、言ってるんです」


それこそ怒りますよと水都は言って、不満あり気に近くの椅子に腰かける。

そこでようやく、

陽乃が自分の膝上に手を置いていることに気づいたらしい。

普段は看護師に上体を起こして貰い、

動かすことのできない手は布団の中にある

その違いに違和感を覚えたようで。

水都「手、大丈夫ですか? 冷えちゃったり……」

陽乃「大丈夫よ」

水都「でも」

陽乃「ようやく、動くようになってきたから」

水都「あっ……」

震えているが、

自力で布団の中に戻したり、

何かを握ろうとしたりと言った動きは可能だ。

ものを持とうとしたことはないが、

布団を引っ張ることも難しかったので、何かを持つのは止めておいた方が良いだろう。


水都「よかった……」

本当によかった。

心からの言葉だと思わせるような大げさな反応は瞳にまで現れ、

よく見れば水分過多で潤んで見える

歌野の時も同じような反応だったのか

それとも、その時はもっと凄かったのか。

歌野と水都の間柄だ

きっと喜んだだろうし、

けれど同時に、無理したことを怒ったかもしれない。

水都「あと数日、侵攻がなければいいんですけど」

陽乃「完成型を叩いたから、もしかしたらというものはあるけど、期待は出来ないわ」

完成型の出現は危険だが、

そうでなくても、

今の戦力にはやや辛いものがある。

進化型もいないただ初期個体が無数に群がってきているだけでも押し切られる可能性があるほどだ



1、それで、ここに来た理由は?
2、白鳥さんの体は見た?
3、上里さんには会えた?
4、花本さんとは仲良くやれてるの?
5、他の勇者は?

↓2


陽乃「ほかの勇者の様子はどうなの?」

水都「あ、そうですね。すみません」

ちゃんと治りそうなのが嬉しくてと笑う水都は、

誤魔化すように眉を潜めて、陽乃から目を逸らす。

千景達と違って、陽乃はほとんど軟禁状態。

鍵が締まっていないのは陽乃が自力でどうにもできないからで、

しかし、看護師に要求しても連れ出して貰うのは難しいのが現状だ。

もしも自由に動けたら

もしかしたらあの頃のように、拘束具でガチガチに固められていたかもしれない。

水都「えっと……」

まず若葉だが、精霊使用による外傷は見られるものの大きな傷害等もなく問題なし。

次に球子だが、球子も若葉とほとんど差はないらしい。

そして、杏だが……

水都「伊予島さんに関しては、精霊使用の反動と攻撃によるダメージが酷く集中治療室に運ばれています」

陽乃「意識は?」

水都「っ……」

杏の意識は戻っていないのだと、水都は答える。

状態としては、

打撲や裂傷のほか、精霊の力のものと思われる凍傷

左腕や右足の骨折、胸腔内破裂、肋骨骨折による胃の損傷など

かなり深刻な状況に陥っているらしい。

陽乃「……不味いわね」

歌野もまずかったが、杏はそれ以上だ。

勇者としての回復力があるとして、助かるかどうか。

元々、後方支援要因として防御面で不安があったのが仇となったのだろう。


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ


骨折がすぐに治るわけではないし、

手術で塞いだ内臓の傷も、ちょっとしたことで開いたりする可能性がある。

大前提として侵攻があっても戦線に復帰することは出来ない

それどころか、ベッドの上から降りることも許されないはず。

水都「すぐに手術が行われたので、一命は取り留められたそうですが予断は許さない状況だって話です」

陽乃「白鳥さんというか、宇迦之御魂大神様の力を使わないとダメかしら……」

水都「でもうたのんは……」

陽乃「言われなくても分かってるわ。あくまで必要かどうかってだけよ」

力を使わせる気はないと陽乃は言う。

歌野に余裕があるなら使わせることも考えるが、

歌野も今は治療に専念させたいところだ。

でないと、

次会うときには立派な大木になっているかもしれない。

陽乃「……とはいえ。って、感じだわ」

水都「宇迦之御魂大神様しか、回復させる力はないんですか?」

陽乃「さぁ? あるにはあるかもしれないけど、それ以上の力はないと思うわ」

生命力の強い神様を超える力を持つ精霊。

いるかもしれないが、陽乃の身近にはいない。


何かあれば良いとは陽乃も思う。

千景に対してもそうだが、

陽乃は別に死んで構わないとは考えない。

その相手がどれだけ煩わしい相手でもだ。

軽傷程度なら気にも留めないけれど、

瀕死と言うことであれば話は別。

策も考えるものだが、今回ばかりは聊か手の施しようがない。

いや、

歌野が扱っている宇迦之御魂大神様の力はもとはと言えば陽乃の力だ

歌野が使えて陽乃が使えない道理はなく、

求めれば陽乃でもあの回復力が使える気はする。

もっとも、歌野がそうであるように

力を使う反動があるため、

陽乃にはやや、致命的な行為になりかねないのだが。


九尾なら何か策を持っているかもしれない。

けれど、ろくでもないことを言いそうな気はするし、

自分たちで考えるべきだろうか。

しかし……歌野は超常的な要素が原因だが、

杏に関してはバーテックスの攻撃をもろに受けてしまったことが原因のダメージと言うこともあり、

人の手が及ぶ治療以上のことを考えるのは簡単ではなかった。

陽乃が黙り込むと、

神妙な面持ちで口を閉ざしていた水都が、小さく口を開く。

何かを言おうとしたその唇はまたきゅっと締められて。

息を飲む音が聞こえた。

水都「うたのんの代わりに、私が使うことは出来ないんですか?」

陽乃「……何言ってるの?」

水都「勇者には及ばなくても、巫女として力を使うことは出来ないのかなって……」

神託を受けるがごとく

神様の御力を微かでもお借りして、癒すことは出来ないのか。と、

水都は思ったようだ。


1、無理よ
2、可能かどうかで言うなら可能だけど
3、使えたとしても、それでどうにかなるとは思えないわ
4、貴女よりは私が使う方がマシよ
5、方法は九尾に聞く方が良いわ

↓2

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

すみませんが本日もお休みとさせていただきます
明日は可能であれば少し早い時間から

遅くなりましたが、少しだけ


陽乃「可能かどうかで言えば可能だけど」

陽乃はそう言いつつも、渋い顔をする。

確かにその通りではあるのだが、

九尾が言っていたことが確かなら、

水都はあっという間に寿命をすり減らして死ぬことになるだろう。

水都自身が望んでいることとはいえ、

陽乃はその選択肢を推奨することは出来ない。

陽乃「神託を受けるのとはわけが違うのよ」

私との神託を覚えているでしょう? と言った陽乃は、

あれよりも遥かに苦しくて辛い経験になると言う。

神降ろしは、神託の比ではない負担を強いられる。

イザナミ様や九尾じゃないし、

比較的協力的な宇迦之御魂大神様だとしても、それに変わりはないらしい。

陽乃「試しにやってみるなんて出来ないし、それで死ぬこともあるわ」

水都「でも、出来る可能性があるならって……思います」


陽乃と出会う以前、

諏訪にいたころからもずっと感じていた力不足感

その頃も巫女として陽乃に付いていたけれど、出来ることはとんどなかった。

今も大差あるわけではないものの、

歌野とは別に、

より力の強い陽乃とのつながりが出来ていることもあって、

万能感なんてものではないが、

少しは自分も力になれるのではないかと思うし、

それがなくても、何かせずにはいられなかった。

歌野だけの時も

陽乃達がいる今も。

皆がどんどん傷ついていく中で、

それをただ見ているだけ、

ただ待っているだけと言うのは、辛かった。

水都「私は巫女です。勇者じゃありません。だけど、巫女だからこそ出来ることをしたいです」

陽乃「死にたいの?」

水都「死なせたくないんです」


陽乃「……」

どうしてこうも、水都はまっすぐ面と向かってそんなことが言えるのか。

歌野や杏、球子は勇者だ。

だからこそ自負もあるだろう。

しかし、水都は違う。

ただの巫女だ。

ひなたよりも素質はなく、

一般人よりはなにがしかの力があるだけの少女。

けれども

水都は力強い。

まるで勇者のように。

その結果、死ぬと言っている陽乃の言葉を嘘や冗談だと切り捨てているならいざ知らず、

むしろ、信じてさえいる。

それでいてこれなのだ。

全くどうしてこう……と、陽乃は眉を潜める。

現実味がないなら、無謀も分かる。

しかし、水都はちゃんとわかっているはずだ

1、良いわ少しだけやってみましょうか
2、白鳥さんを見ても同じことが言えるのね
3、死なれたら面倒なのよ
4、九尾に聞いてみましょ


↓1


遅くなりましたが本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から

では少しだけ


陽乃「良いわ。少しだけやってみましょうか」

水都「やらせてくれるんですか?」

陽乃「白鳥さんの二の舞はごめんだし」

陽乃が拒んでも、

九尾が何か関わっていく可能性がある。

実際、陽乃が意識不明なのをいいことに、

歌野へと働きかけて、その結果が今のあの状態。

歌野自身にやる気があったと言うのは確かかもしれないが、

それを言えば水都も同じだ。

特に、九尾は本人にはその気があったからと、

危なくなっても泊めたりせずに静観する性格だから、

どちらにせよやるのなら、目の届く範囲でと思う。

陽乃「貴女、こっちに来てから巫女として何かしてる?」

水都「えっと……一応、神樹様について教えて貰ったりはしてましたけど……」

陽乃「水垢離とかは?」

水都「出来てないです……」

心配事が多すぎて他のことをしている余裕がないと言うのもあるのだが、

諏訪ほどの自由度がないというのもそうだし、

もう一人の巫女がそれを積極的に行わないと言うのもある。

水都はやらなくていいのかと尋ねたが、

神樹様のところでならばともかく

丸亀城に来てまでそれをする必要はないと言われたらしい。

陽乃「花本さんって、巫女に関しては貴女以上に興味がないのかしら?」

水都「そういうわけではないと思います」

ただ、優先順位があるだけだ。

巫女としての責務より、千景に対して尽くす方が優先されているようだと、水都は言う。

水都「花本さんの郡さんへの入れ込み具合は……うたのんの農業に対するそれに近い感じさえします」

陽乃「その喩えはどうなの……」

陽乃が呟くと、

水都はそれくらい大切に思ってるってことですと取り繕って。

水都「けど、それが何か関係あるんですか?」

陽乃「むしろ神様を降ろすうえで不浄なままでいて良いわけがないと思うのだけど」

水都「そ、そう。ですよね」

水都にはまず、体のお清めをやってもらう必要がある。

諏訪にいたころは毎日のようにやっていたというか、

陽乃に付き合う形で行っていたから、1人でも出来るだろう。

陽乃「それと、私の外出許可をもぎ取って頂戴」

水都「出来なかったら?」

陽乃「貴女が諦めるか、私がまた脱走者として扱われるかね」

水都「善処します……」

陽乃「外出と言っても、白鳥さんの病室だからあの子を連れてこられるならそれでもいいわ」

水都「それれなのに外出許可が必要なんですか?」

陽乃「そうよ」

病室から出るのも、陽乃は自由にできない。

体がまだ正常に動かせないし、

それでなくても要注意人物として認識されているから、

ご自由にどうぞとはならないのである。

病院側が温情をかけてくれても、

大社側がそれを容認できないと言うだろう。

陽乃「準備が出来たら、少しだけ手を貸してあげるわ」

ただ。と、陽乃は目を伏せる。

陽乃「なるべく早めにね。何があるか分からないから」


√ 2018年 10月02日目 昼:病院

↓1コンマ判定 一桁

0 大社
2 襲撃
4 千景
6 美佳
8 友奈
9 球子

ぞろ目特殊

襲撃模判定

↓1コンマ

01~00 ※低~高

※50以上で進化型含む
※75以上で完成型含む
※ぞろ目で特殊

√ 2018年 10月02日目 昼:病院


野暮と言うか、思っていた通りと言うか。

またしても世界が静寂に包まれ、不可解な感覚が満ちていく。

完成型を倒してもバーテックスの侵攻は治まったりはしないようだ。

陽乃「……はぁ」

九尾の力を借りれば自由に動くことのできる陽乃は、

一応は外に出て、戦場へと足を運ぶ。

前回までで友奈、千景、杏、歌野

4人の勇者が戦線を退くことになってしまっており、

残っているのは球子と若葉の二人だけだからだ。

ここまで来ると、最悪の場合死人が出る。

だが、今回の侵攻には完成型がいなければ進化型の姿もないらしい。

数はやはり多く、多勢に無勢と言った状況ではあるものの、

今までを考えれば、規模は少ない。

完成型を撃破したおかげで、バーテックス側の戦力不足なのか、

ただの様子見や、回復する暇を与えないための襲撃なのか。

陽乃「この程度なら、乃木さん一人でもどうにかできそうだけど」


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であればお昼ごろから

遅くなりましたが、少しだけ


球子もいるなら、大丈夫だろうと陽乃は遠くを眺める。

すでに若葉と球子が戦っているようで、

空の浮かぶ厚く広い雲のような白さに、点が跳びあがって雲を切り裂いているのが見える。

精霊の力を使っているのが聊か心配になるが、

若葉はなぜだか精霊による反動が非常に軽い

勇者としての適性の問題か、

見出した巫女がひなたであることが関係しているのか。

理由は定かではないものの、恵まれている。

だからこそ、任せても平気だろうと陽乃は考えた。

そもそも、陽乃の出番なんてものは滅多にあってはならないものだ。

陽乃はいつでも出て行こうとするが、

若葉や球子達の認識はそれで、不必要に戦線に加わることを好んでいない。

陽乃なら完成型を含んだバーテックスの軍勢でさえ相手に出来るし、

倒すことだってできる。

それだけの戦力を、初期個体に使ってしまうわけにはいかないからだ。

が、球子たちの本音としては、

力を使うことが死に繋がる陽乃に無理をさせたくないだけだろう。

陽乃「この規模で出て行ったら怒鳴られそうね」

怒鳴られるとかどうでもいいと陽乃は思うが、

後々ああだこうだと言われるのは、嫌だった。

バーテックスの侵攻が起こっている間

と言うより、神樹様が結界を展開している時間、

勇者以外の人々は特殊な状態に置かれている。

樹海化した世界には存在していないし、

その世界の外か内か、

人々は身動き一つとれない状態になっており、陽乃は自由に行動できる。

あまりにも特殊なため、

勇者であっても向こうの世界に留まっていることは本来できないのかもしれない。

出来るなら千景や友奈達も無理してこっち側に来たりするからだ。

特に、歌野は這ってでも行動しそうではある。

友奈も同じかもしれない。

ならどうして陽乃は自由なのかという疑問が残るが、

陽乃はそもそもが特殊な存在なため、世界の理が適用されない可能性はある。

戦闘に加わらないなら、どうするか。

本当に他の勇者まで身動きできないのか確かめる?

それとも、今のうちに陽乃を捕えるための理由である母親を探し出して連れ出すか。

あるいは。

陽乃「上里さんを連れ出して、乃木さんに恩でも売っておくか」

連れ出さずとも、状況を見ておくのも悪くはない。

問題は、そこにたどり着けるかどうかだ。


1、戦線に加わる
2、勇者の様子を見る
3、大社本部に行く

↓2


結界を抜け出して元の世界へと戻ってきた陽乃は、

軽く腕を回して、息を吐く。

どうにか動かせるようになってきた体だが、まだ、震えてしまう。

九尾の力を借りている今は、何の問題もないものの、

その状態からまた、あの不自由な状態になると考えると、

少しは億劫になると言うものだ。

陽乃はこうしている場合じゃないと、病院の屋上から飛び降りて、近くの屋根に飛び移り、

もう一度跳んで、別の家の屋根に飛び移る。

風になびいていただろう木々が揺らいだままで、

空を飛ぶ鳥は羽を広げたまま

車道を走る車は左折の途中で、世界はまるで作り物のように見える。

陽乃「……空気があるのが不思議だわ」

生物のみならず、吹く風もまた止まっているのなら、

呼吸もままならないのではと思うが、そうではないらしい。

その不思議な感覚を飲み込みながら勇者の脚力で大社へと向かう。

大社の関連施設はいくつかあるが、

本部とも言える箇所は一ヶ所しかない。

そこには最も多くの巫女がいて、神官がいて、奥には神樹様がいる。

陽乃「ここね」

人里離れた。と言うほどでもない場所にある大社の施設

その入り口で立ちどまった陽乃は、自動ドアのセンサ―を見上げて。

陽乃「……まぁ、手動よね」

ドアを砕かないよう気を付けながら、開いた。


本館と別館がある大社の施設

入ったばかりの通路に受付があるわけではなく、

人通りも少ないのか、見える範囲には巫女も神官もいない。

いたとして、陽乃のように動けるとは思えないし、

動けたら動けたで、

陽乃は侵入者として大騒ぎになるだろう。

案内板のようなものも見当たらないので、

適当に散策するしかなさそうだ。

陽乃「……お母さんと上里さんが同じ場所にいたらいいんだけど」

陽乃は考えながら呟く。

どちらも罪人と言うわけではないものの、

陽乃を扱ううえでの切り札である陽乃の母親と、

若葉を扱ううえでの切り札になるひなたを同じく扱う可能性はある。

そうであれば、ひなたの気配を探ってそこに向かえば良いだけだ。

とはいえ、賓客として扱われそうなひなたと、

そうではない母親とでは、扱いに差が出る方が正しいとも言えるだろうから……。



1、ひなたを探す
2、母親を探す
3、神樹様のもとへ

↓2


陽乃は少し考えて、辺りを見回してから九尾に声をかける。

姿は見えなくても、勇者として力を貸してくれている九尾は、

常に陽乃のそばにいるため、呼べば出てきてくれるし、

九尾なら、ひなたの居場所も確実に探ってくれる。

寵愛を授けたひなたの居場所は、陽乃には分からないが、九尾には分かる。

諏訪では難しかったが、四国なら。

それも、大社にまで来たのなら確実だろう。

陽乃が声をかけてから暫くして、

どこからともなく金色の髪をなびかせながら、女性が姿を見せた。

場所が場所なだけに、巫女装束に身を包んでいるその女性は、

どことなく、若草の匂いが感じられる。

九尾「主様もなかなか、愉快なことをするのう」

陽乃「出来ることを出来るうちにって思っただけよ。状況を確認しておくのも大事だわ」

母親の安否もそうだし、ひなたの安否も。

万が一、ひなたが死んでいたりしたら九尾が察知するだろうから、

久遠陽乃と言う罪人を幇助したとして、

拷問されたりとか……なんて、小説の読み過ぎな展開はないはず。

とはいえ、

穏やかな扱いを受けているとも限らない。

陽乃「上里さんを見つけたいの。手を貸して頂戴」

ひなたを見つけたいと聞いて、九尾はさほど表情を変えたりはしなかったが、

ただ一言、着いて来いとだけ言って陽乃の前を歩きだした。

ひなたは、九尾と関わるうえで正解を選んだため、

人間の中でもお気に入りの部類に入っている。

ひなたのことであれば、変な嘘も仕掛けもしてくることはないはず。

陽乃「人に会わないわね」

九尾「会う必要もなかろう」

陽乃「それはそうだけど、人が少ないと何かやってそうでしょ」

九尾「巫女は授業とやらをしておると聞いたが」

陽乃「……何それ私知らない」

九尾「日中に通常の学問を学び、夕刻には巫女としての教養を身に付けると聞いたぞ」

誰からよ。と、

陽乃はぼそりと呟いたが、九尾は聞こえないとばかりに迷わず先に進んでいく。

そして、立ち入り禁止の言葉が書かれている封鎖路を気にせず乗り越える。

踏みしめると軋むような古めかしい床板

階段は幅が狭く、やや急な造りとなっていて、

一歩間違えれば顔面を強打して下に滑り落ちそうだと、陽乃は顔を顰める。

神官はあの仮面をつけてここを通るのだろうか。

そんなことを考えていると、九尾が鼻を鳴らして。

九尾「ふむ……この先じゃな」

陽乃「随分と、隠しているのね」

本館ではなく別館側の建物で、

その中でも、さらに奥の方の部屋。

その扉の前で立ち止まった九尾は、扉に鍵がかかっているのを確かめる。

九尾「開かぬな」

陽乃「……そうね」

中にひなたがいないなら、九尾はここには来なかっただろう。

だが、ひなたがいるのだとしたら。

外から取り付けられている鍵は何なのか。

陽乃「乃木さんに見つかったら大変なことになりそうだけど」

九尾「見つかることはなかろう。こんな僻地。あの小娘が来るとは思えぬ。いや、来られるとは思えぬ」

陽乃なら、もし世界の全てが静止していなかったとしても

九尾の力で潜入は可能だっただろう。

だが、若葉にはその力がないし、何より目立つ。

大社に来るにも監視の目があって、

その行動の全てを見張られ、自由に歩くこともままならないはず。

そんな状態で立ち入り禁止の先にあるこの部屋に来ることはまず不可能で、

ひなたがその部屋から出ていたとして、

ひなたのいる場所には近付かないように注意を払われる。

そこまでする必要はあるのかと思うけれど、

ひなたと若葉が合流し、

そこから反旗を翻さないとも限らないと言う不安があるのかもしれない。

特に、陽乃に手を貸して逃げ出されでもしたらと、恐れているのだろう。

だったら、若葉を押さえつけるようなことはしない方が良かったのに。と陽乃は考えたが

九尾「主様に手を貸した以上、大社にとってあの娘は警戒すべき存在じゃからな」

九尾はそう言って、鼻を鳴らす。

九尾「放し飼いできるほど凡庸でもなかろうて。首輪でもつけておかねばなるまい」

陽乃「人様に首輪だなんて。まったく」

陽乃は首を摩って、ひなたがいるであろう部屋の扉に触れる。

さて、どうするか。


1、壊して入る
2、鍵を探す
3、別の入り口を探す
4、母親を探す

↓2


陽乃「少し力を入れれば壊せそうね」

陽乃が言うと、

九尾はやっぱり小馬鹿にした笑い声を上げて、陽乃を見下ろす。

狐でも普段の女性でも身長差的に仕方がないことではあるが、

ただ見下ろしているだけとは思えないのは九尾の性格ゆえだろう。

陽乃「何? 異論があるの?」

九尾「主様がするならばするで構わぬぞ。この世界においては消すべき目撃者もおらぬしのう」

幸いにも。

そういう九尾の血生臭さを錯覚させる赤い瞳と向き合って

陽乃は「思わせ振りなこと言って」と一蹴し、

力強く扉を引いた


扉に本来取り付けられている鍵は、

分厚い四角形だろうが、6Pチーズのような三角形だろうが、

接地面の部分に嵌め込んだ鉄製の箱に差し込んだ状態でとどめることで開かなくするのは変わらない。

特に室内鍵は玄関と比べて非常に弱い物だ

武術の型を用いて力を集中させ、

そこに勇者としての力まで折り込めば――

陽乃「んっ……」

バギッ! とドアの枠が酷い音を立てて、扉が開く。

元に戻らなそうな破損を受けた枠組みが力なく崩れていくのを横目に、

陽乃は明らかに異質な力が加わっただろう、取っ手の捲り上がりかけた扉を壁に立てかける。

九尾「野蛮な娘じゃのう……もしや男の子か?」

陽乃「貴女ほどじゃないでしょ」


部屋はさほど広くはないが、

学習机が置かれ、ベッドが置かれ、

格子がついているわけでもない窓だってある。

鍵も内鍵で開けられるため、外に出ようと思えば出られる。

普通の人間がそれをしたら、間違いなく死ぬ高さではあるが。

ひなたはそのベッドの上に座っていた。

巫女装束に身を包み、

祈るように頭を垂れている。

陽乃「こんな場所に軟禁されててもお祈りだなんて、信仰深いわね。この子」

九尾「ふむ……」

陽乃「でも、そこまで辛そうではないわね。私の時よりいい生活してる」

陽乃はそう言って、

ひなたが何の反応もしないことをいいことに、髪に触れて匂いを嗅ぐ。

陽乃の時は、鼻が利かなくなるような状態にまで陥りかけたり、

崩れかけの神社で、虫と一緒に一晩を過ごしたり。

散々な目にあっていたから、部屋の中で拘束もされていないと言うのは、

最早軟禁とも言い難い。

陽乃「お風呂にも入れてそうだし……別に気にする必要もなさそうじゃない」

九尾「そうじゃな。扉を破壊する野蛮な娘とは違うからのう」

陽乃「……」


1、出て行く
2、ひなたを連れていく
3、留まる
4、悪戯でもしていく

↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

ひなた誘拐

端末が違いますが、少しずつ

原理はよく分からないけれど、今の世界は完全に動きがない。

陽乃がひなたの髪に触れたときも、動いたりはせず

かといって銅像のように固さを感じたわけでもなかった。

時間の停止というか、状態の固定というか

とにかく、常識が適用出来ない空間であり、

下手をしたらひなたの身体が砕け散り、

空間が解かれた際に惨劇となるのではないかとも、陽乃はちょっとだけ考える。

以前はそんなSFなこと……と嘲笑も出来たが、

勇者やバーテックス、九尾達や今の空間を考えると一蹴は出来ない。

九尾「して、野蛮なる我が姫君は何故この場に来られたのかや?」

ただ顔を見に来たわけではあるまい。

そう問いかけてくる九尾を一瞥し、陽乃はひなたの身体を弱い力でベッドに押し倒す。

姿勢が変わらないまま、ベッドに仰向けになるという妙な光景に触れることなく

逡巡して、俗に言うお姫様抱っこでひなたを抱え上げる。

陽乃「悪者がする事って言ったら一つしかないじゃない」

陽乃は悪戯っぽく笑って。

陽乃「姫様を拐うのよ」

ひなたを抱えたまま、足早に大社を後にする。

襲撃の規模から考えてそろそろ空間が解かれるだろうと考えたからだ。

可能なら母親もと……思わないわけがなかったが

ひなたを連れている今、それ以上のリスクは侵せない。

陽乃「……これ、すぐにバレるわよね」

九尾「派手に壊したからのう。様子を見るのが数日間隔ならば時間もあろうが、そうではあるまい」

陽乃「見た目は取り繕ったんだけどね」

ひなたのいた部屋の扉

枠組みから破損し、取っ手の金具も捲れ上がっているような状態だったものを、

力業で金具を戻し、ひび割れて欠けた枠組みを嵌め込み、扉を立て掛けた。

けれど、開けようとすれば即発覚するだろうし、

だれかがノックでもしたら、扉が倒れることだろう。

九尾「ふむ……」

九尾はため息のような吐息を溢し、

大社の施設へと振り返る。

陽乃「九――」

九尾「そろそろ結界が解かれそうじゃ」

陽乃「それは……不味いわね」

空間が元に戻る前にと

陽乃は勇者の力で全力で踏み込み、そして、その場から飛び去っていく


それから暫くして……といっても時間は経っていないけれど

感覚で言えば30分ほどして、空間が元に戻った。

こっそりと病室に連れ帰ったひなたは樹海化が解けたのと同時に顔を上げて、

すぐに自分が本来居るべき場所ではないと気づいたのだろう

慌てた様子で辺りを見渡し、陽乃と目があった。

ひなた「久遠……さん?」

陽乃「久しぶりね。監禁されたにしては随分と健康的で何よりだわ」

ひなた「え、あの……」

流石のひなたも混乱していて、ちゃんとした返事が返ってこない。

ひなたが軟禁されていた部屋とはまるで違う景色、匂い、感触の病室

陽乃が自分の部屋に来ているわけではないとは察したのかもしれないけれど

根本的な解決には至らなかったようだ

ひなた「これは一体……どういう状況なのでしょうか」


陽乃「見たら分からない?」

ひなた「病院にいることは、分かっていますが……」

ここで意識を取り戻す以前と変わらない格好のひなた

神託によって意識を失い、

病院に運び込まれたなら、少なくとも格好は違うはずだ

しかしかといってお見舞いに来た記憶はなく、

その申請が許可された覚えもない。

もし仮にそれがあったとしても、目の前にいるのは乃木若葉であって久遠陽乃ではない。

ひなたは少し考え、眉を潜める。

ひなた「久遠さんが私をあの場所から連れ出したのは察しがつきます」

でも、その方法が分からない。

ひなた「それについ先ほど侵攻があったことは承知しています。しかし……その間は樹海化によって干渉できないはずでは……?」


1、意味分からないんだけど……普通に干渉出来たじゃない
2、貴女は私に誘拐されたのよ
3、乃木さんを助けたいって思わない?
4、あんまり嬉しくなさそうね
5、状況が芳しくないのよ

↓2

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃「乃木さんを助けたいって思わない?」

ひなた「若葉ちゃん……ですか?」

なぜここにいるのかと言う疑問の解消もできないままに問われたひなたは、

その困惑を持ち越すことなく、隅に追いやるように一息ついて居住まいを正す。

ひなた「若葉ちゃんに何かあったんですか? ついさっきも、侵攻がありましたが……」

まさか。と、

不安げに呟いたひなたに、陽乃は少し考える。

ついさっきの戦いは何も問題ないと思って抜けてきたが、

その戦いを見守っていたわけじゃない。

とはいえ、

結界が破壊され、神樹様が力尽きないのを見る限り、

球子か若葉が駆けてこない辺り、

そもそも、大社直属のこの病院が変わりなく平穏なのを感じる限りでは、大丈夫だったはず。

陽乃「直近でどうのこうのじゃなくて、乃木さんもそうだし他の子のこともよ」

ひなた「……なるほど、何かよくなさそうな話だと言うことだけは分かりました」

ひなたは、自分が軟禁されてからあんまり情報が入ってくることはなかったのだと、

困ったように言う。

入浴のための外出や、食事などは問題なく与えて貰えていたのだが、

外部との接触はそれらを行うための接触を除いてほとんどなかったのだそうだ。

その為、ひなたは若葉たち勇者が精霊を使い続けることによる反動について、ほとんど耳にしていなかった。

美佳は確実に知っているはずだし、

美佳は特別、大社に対して非協力的なわけでもないから、

大社には情報を上げているだろう。

だとすれば、意図して伝えなかったということだろうか。

陽乃「まぁ、勇者に関わらない貴女に伝えても仕方がないことよね」

ひなた「事実ではあるんですけど……」

もう少し言い方をと言いたそうなひなたを一瞥して、陽乃は厭味ったらしく笑みを浮かべる。

私がそんな配慮するわけないじゃない。と。

陽乃「ともかく、貴女の想像通り良くない話よ」

精霊の多用によって、

勇者達は心身ともに傷ついていること、

とりわけ、千景に関しては何かとても良くないことが起こっていること

若葉は比較的安定しているが、長く持つわけではなさそうだとも、陽乃は話して聞かせる。

陽乃「このままじゃ擦り切れて死ぬわよ。あの子達」


陽乃の話を黙って聞いていたひなたは、

追い込むような陽乃の締めの言葉に微かに体を震わせる。

よく見れば唇を固く結んでいるようで、内心、とても苦悩しているのが分かった。

ひなたは暫く黙り込んでいたが、

瞬きと同時に「久遠さん」と小さく声をかけて。

ひなた「それを私ならどうにかできるんですか?」

陽乃「保証はできないし……命にかかわることよ」

九尾曰く、

ひなたなら大丈夫と言う話だったけれど、いずれにしても死ぬ可能性のある行為だ。

陽乃はあえて、難しいことのように言うと、

それでもやる気があるのかどうか聞きたいの。と、問いかける。

ひなたはそれに応えず、笑みを浮かべた。

ひなた「久遠さんはいつも回りくどいことばかりされますね」

陽乃「何の話?」

ひなた「私がそれを拒まないと分かっているから、わざわざ大社から連れ出したのでは? ただ何をしたらいいのか。それだけを教えてくださればいいのに」

思わぬ言葉に顔を顰めた陽乃を、ひなたはやはり、笑顔で見つめて。

ひなた「若葉ちゃんも、みんなも助けたい。でもそのためには巫女の協力が必要。けれど、命の危険がある。と言うことですよね?」

陽乃「そんなこと言ってないわ。あとで何か方法があったのではないかなんて突っかかられても面倒だし」

何より、他の戦力がないと負担が増えるから。

そう言った陽乃の言葉をまるで信じていないような「そうですね」という言葉がひなたから返ってきた。

ひなた「ひとまず、その方法を詳しく聞かせてください。実行するかはそのあとに改めて考えましょう」


√ 2018年 10月02日目 夕:病院

↓1コンマ判定 一桁

0 千景
2 若葉
4 大社
6 友奈
8 水都
9 球子

ぞろ目特殊

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ


√ 2018年 10月02日目 夕:病院

ひなた「難しい話ですね……」

勇者とは別に依り代を用意することで、

勇者自身への精霊召喚による反動を軽減できるのではないかという想定には一理あるとしたひなただったが、

その反応はあまり良くなかった。

本来有り得ない顕現している精霊である九尾の話を戯れ言だと流したわけではない。

神託を受けるといった現在の巫女の性質上、その依り代となれる可能性については納得出来る

それによって直接的な害が及ばないことも理解できる。

とはいえ、すべての巫女がそれを可能としているとは思えない。

陽乃も引っ掛かった部分

簡単に言ってしまえば濾過器のような役割を巫女が担うというだけではあるけれど

勇者にさえ症状が出てしまうほどの反動を勇者に劣る巫女という立場でどれだけ補えるのか。

補うこともままならず死んでしまうのではないか。

そういった不安を口にする。

陽乃「悪いけど、私は命の保証はしないわ」

このような世界になる前の時代、それよりも古くの巫女は神事を担うものとして選出され、従事していた。

けれど時の流れにより縮小、消失、委譲されていき、

役割の大半が失われたことで巫女は特殊な条件を抜きにその肩書きだけを与えられるのみで、

殆どの地域で誰にでも担えるというものになっていった。

それが今では少しばかり回帰し、

神託を受ける者といった特殊な素質を持っている子供達を巫女としている。

以前に比べれば、素質がない子が巫女を担っていることはないだろうし、多少は携わることも可能だろう。

しかしながら、神降ろしは簡略化された神託とは負荷が違ってくるだろうというのが陽乃達の考えで、

九尾もまた真面目にすぐに死ぬというようなことを言っていたこともあり、

やりましょう。とは安易に頷けない。


ひなた「このお話は花本さんにも?」

陽乃「まさか」

してるわけないじゃない。と陽乃は嘲笑混じりに答える。

ひなたは聞いていないかもしれないが、

殺そうとしてきたのと、殺されそうになった2人だ

そんな相談事をする間柄ではない。

陽乃「でも、似たような話は藤森さんにはしてるわ。すごい乗り気だった」

ひなた「藤森さん……というと、諏訪の巫女ですよね?」

会ったこともないが、

諏訪から来た巫女と勇者の話は小耳に挟んでいますとひなたは言って静かに陽乃を見つめる

ひなた「……話したいことが多すぎて、なにから手をつけたらいいのか」

陽乃「優先するべきは、さっきのことをどうするかでしょ」

ひなた「間違いありませんね……十分な検討は必要かと思いますが、一考の余地はあるかと」

ひなたはそう言いつつ、それもそうですがと続けて。

ひなた「この後私はどうしたら……」


大社に戻されるのか、

どこか別の場所に移されるのか、

このままこの場所で匿われるのか。

逃走はたまた誘拐

その事態に陥っていることはすぐに知られることになるだろう。

ひなたもそれは分かっているようで、

だとしてどうするのかを気にしているようだ。

確かに巫女として勇者に尽くすか否かも大事なことではあるのだが、

大社に戻ればそれを考えることしかできない。

今回の一件によって、より監視の目が厳しくなるかもしれないし

次はもう、さすがに陽乃でも連れ出せないと思っているのだろう。

その心配は無用だけれど。

かといってひなたが一番傍に痛いだろう若葉のもとには返せない

普段は丸亀城の近くにある寮で生活しているし、

他の勇者もいるこの病院で入院してようがいまいが、若葉には監視の目がある。

それは陽乃も変わらないのだけれど、

身体的に自由に動ける若葉は、抜け出したひなたの逃走先として真っ先に疑われかねない。

ひなた「このまま帰ってなんて言われても……私、困ります」

陽乃なら言いたいことは言ったからと、そうしかねないように思えるが、ひなたは本気でそう思っているわけではない様子だった。

とはいえ。

ひなたをどうするべきか。


1、大社に返す
2、若葉に差し出す
3、九尾に委ねる
4、一緒に過ごす

↓2

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

別端末ですが少しだけ

陽乃「そうね……」

ひなたはどうしたいのかと聞けば、

きっと「若葉ちゃんに会いたい気持ちはある」と、消極的に答えるだろう

可能ならという思いはあれど、それが叶わないと知っているからだ。

とはいえ、じゃぁ一緒にいる?とも陽乃は言いたくない。

身勝手に連れ出しておいてあれだけれど

陽乃は誰かと一緒にいるのは好みではないし、

それがこの広くはあるが、1つのベッドしかない空間なら尚更だった。

だから……と、陽乃は口を開く

陽乃「九尾はどう? 好きなんでしょ? 上里さん」


九尾「――ふむ」

陽乃が声をかけてから間を置くこともなく、どこからともなく九尾が姿を見せる。

陽乃のとなりではなく、

ベッドに腰掛けるひなたのすぐ後ろからひなたを抱くような姿勢で現れ、

女性の姿である九尾の腕の重みが前触れなくのし掛かったひなたは一瞬だけ身体を強ばらせ、

微かにため息をこぼす。

九尾「なんじゃお主、妾がおるのは不満かや?」

ひなた「急で驚いてしまっただけです」

格上ゆえの畏れはあるのだとひなたは言う

九尾「ならば、主様はどうじゃ」


ひなた「……久遠さんですか?」

九尾「うむ」

ひなた「……」

恐れているのか、いないのか

好ましいのか、そうではないのか

普通なら、その対象を目の前にして言えるのは好意的な返しだ

あるいは、なに言ってるのかとはぐらかすのがほとんどだろう。

否定的な言葉を使うのは一握り

そして思い悩むのも多くはないと思う。

しかしひなたは考えて、困ってしまったと分かりやすく眉間に皺が寄っていく。

陽乃の場合、好意的な返しは不評だからといって

好ましくないと返すのもどうかと悩んでいるようだった。


陽乃「なにも別に真剣に考えなくてもいいじゃない」

好ましいと言われれば、

そういうの止めて頂戴と答えるだけだし、

好ましくないと言われれば、

それは僥倖だと言いながら、嘘つき。と、呆れたように言う程度で終わる話

真面目に考えるのも

わざわざそれに時間を使うのも、無駄でしかないと陽乃は思ったが、

ひなたはそうではないらしい。

ひなた「……好きではありますよ」

陽乃「悩んだくせに、随分と簡素なお言葉だこと」

嘲るように言う陽乃を見て、ひなたは苦笑する

ひなた「久遠さんはきっと、私の本心が知りたいと思って」

でも、それをどこまで語るべきかが定まらなかった。


好きではある

それは同時に嫌いな部分もあるという告白に他ならない。

その理由を率直に述べるのはおそらく、間違っている。

けれども本心を隠したって陽乃には見抜かれてしまうし、

それはそれで陽乃は不服に思うだろうか。

いや、思わないはずだ。

本音を隠し、偽っているのを悟っても

当人がそうしたいならと追求せずに、ただ興味を失う……捨ててしまうのが陽乃だからだ。

陽乃の興味はその瞬間のみで

教えてくれるなら聞くし、そうでないならどうでも良いと切り捨てる。

けれど――何一つ身に染みていないわけでもない。

ひなた「久遠さんの生き方は、好ましくありません」

無関心を装いながら、気に掛けて

罵倒しつつも、見放せず

あれこれ理由をつけながら、結局は人のためで。

その行動の結果が自らを死に至らしめると分かっていても手を引こうともせず、

差し出された手は払い除ける……そんな生き方

ひなた「久遠さんはもう少し、自分を大切にするべきです」


1、貴女の言えたことかしら
2、それは私の自由よ
3、そんな言葉で懐柔されるような人間じゃないわ
4、なら反面教師にでもすることね
5、してるわよ


↓2

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では別端末ですが、少しだけ


陽乃「なら反面教師にでもすることね」

ひなた「久遠さんならそう言うと思いました」

陽乃「ならはじめから言う必要なんて無かったじゃない。ダメもとでも言ってみれば変わるとでも思った?」

ひなた「そこまでは……」

ひなたは苦笑いのような笑みを浮かべると

僅かに間を置いて視線を下げる

ひなた「ただ、諏訪で何か変化はあったのではと」

陽乃「無いわよ別に」

実際には色々あった。

多くの人に出会ったし、

陽乃の噂話の一切を知らないからか

命を賭けて諏訪へと来たからか

白鳥歌野の働きの賜物か

陽乃に対してもとても好意的だった。

けれどそれで心境の変化があったかと言えば、無い。

そもそも陽乃は口ではあれだこれだと言いながらも、結局は見捨てられない人間である。

奪われることを経験し、

それが果てに何を生み、どうなっていくのかを知っているからだ。

だから変わらない。

陽乃「ここにいても、諏訪にいても、日本のどこにいても私の意志は変わらないわ」

バーテックスが侵攻してくる以前の陽乃は、

幼少の頃から神社の手伝いをしていたこともあって数歩分大人びていたけれど

明るく優しく素直でもあったし、

気遣いが先に出るような性格だった。

しかしバーテックスが降り注ぎ、

目の前で奪われ、救えず、

そしてバーテックスだけでなく人々までもが陽乃から大切なものを奪い去っていき、

陽乃は歪んだ。

深く根付いた心のあり方が残ったまま。

ひなたは知られない程度に歯噛みする。

その歪さは、ただ自罰的であるよりも救いがない。

医者ではないひなたでさえも、どうにかすべきだと考えてしまうほどに。


だが、ひなたはそれ以上は踏み込めなかった

ひなた「……肝に銘じておきます」

陽乃の生き方は反面教師にはならない。

変わらずいけば迎えるのは確実に破滅であるとしても、

その状況そのものが類をみない悲劇に愛され過ぎているからだ。

そうならないように。と言われてもなれるはずがなく

そうなれ。と言われてもなれるはずもない特殊な人生

それに踏み込むには、まだ自分とはかけ離れすぎているとひなたは思う。

今の自分が踏み込むのは蛮勇にも満たず

空虚でしかない慰めなんて意味をなさないだろうから


ぎこちない雰囲気の2人

蚊帳の外になりかけの九尾は「ふむ……」と小さく呟く

九尾「面倒じゃ。ここに置いておく方が良かろう」

陽乃「……上里さんをここに? 冗談でしょ」

九尾「流石に元に戻すのは骨が折れる。訪れた人間を欺く方が易い」

陽乃「そう……」

九尾の腕に囚われているひなたは、

ちらりと陽乃の様子を伺う。



1、嫌よ
2、余計な面倒事は避けられそうね
3、適当な場所に置き去りにするだけで良いじゃない

↓2

では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であれば少し早い時間から

では少しずつ

陽乃「まぁ、余計な面倒ごとは避けられそうよね」

ひなたとの会話内容は忘れられても困るし、

夢だと思って片隅に放られても困ることの為、

九尾の力で夢だとでも思わせてどこかに捨ててくるなんて荒業は行動そのものが無駄になる。

かといって匿うリスクの高いひなたをどこかに預けられるほど、

陽乃には人脈がない―と、本人は思っている―ため、

やはり、ここに置いておくのが一番簡単な話ではある。

それなら九尾の力を使うのも最小限に済ませられるという利点も……ただ、陽乃のプライバシーが著しく侵害されることにはなるけれど。

それは、自業自得というものだ。

陽乃はひなたを見つめて。

陽乃「でも上里さんが嫌でしょ」

ひなた「いえ……私は別に」

陽乃「乃木さんならともかく私はストレスがたまるんじゃない?」

ひなた「そんなことありませんよ。むしろ……ありがたいです」

陽乃「……」

目を細めると、ひなたはにこりと笑みを浮かべる。

睨んだはずだが、まったく動じていない。

お断りでしょう? と、暗に込めた意思もひなたには全く通じなかった。

これが水都や歌野なら意を酌んで頷いてくれたはず……。

――それは、どうだろうか。

陽乃「ちょっと気になるけれど……良いわ。仕方がない」

ひなたの言う「ありがたい」が気にはなったが、

お節介特有の、"距離を縮める切っ掛け"とでも思ったのだろうと陽乃は特に聞かなかった。


√ 2018年 10月02日目 夜:病院

↓1コンマ判定 一桁

1 友奈
3 大社
5 球子
7 若葉
9 水都

ぞろ目 特殊


√ 2018年 10月02日目 夜:病院


まだ寝静まるには早いが十分に外も暗くなりつつある頃、

すでに面会時間もとうに過ぎているはずなのに、

陽乃の病室には陽乃以外の人影が複数入り込み、部屋の中まで暗くさせていた。

呼ばれたわけでもないその人々は、

皆が皆、病院には似つかわしくない神官の装束に身を包んでいる。

陽乃「お役所仕事はもう受付時間外ではなかったかしら」

陽乃はベッドに横になったまま、神官たちに目を向けることさえなく吐き捨てた。

その目は点けっぱなしのテレビへと向けられている。

テレビも大して面白みのある内容は放送していないが、

こんな時間にぞろぞろと訪問してきた無礼な大人たちの相手をするよりはマシだと言った様子で。

神官の1人が、陽乃の態度の悪さにぼやくのが聞こえたが、陽乃は聞こえないふりをする。

「上里ひなた様が大社から姿を消しました」

陽乃「……へぇ。あの子がね」

陽乃はまるで自分には関係がないと言う口ぶりで答えると、

テレビからすぐ隣で口を塞いでいる少女に目を向けた。

大社から来た神官たちの目には見えていない―ようになっている―その少女こそが、上里ひなただ。

陽乃「そんなことしなくたって、気付かれはしないわよ」

ひなた「でも」

陽乃「誰も見てないでしょ」

陽乃は神官に聞こえるかどうかの小さな声でひなたと話し、ため息をつく

陽乃「で? それと私が何か関係があるの? 私のところに来るとでも思ってる?」

陽乃とひなたの関係は、

自他ともに、そこまでいいものだとは思われていない。

他に比べれば格段にマシではあるものの、

大社から逃げた厄介な存在を匿ってくれるほどの関係じゃないのは周知の事実だ。

しかしながら、と、大社は考えているようだった。

ひなたの逃亡には、尋常ではない力の持ち主が関わっているのは、

扉の破損状態から見て、明らかだった。

ひなたを連れ出す可能性があるのは、ひなたの幼馴染であり、

ひなたが見出した勇者である、乃木若葉が一番高い。

そしてもう一人。

諏訪へと逃亡することを見逃した乃木若葉に借りがある人物。

それが陽乃である。

その為、大社は陽乃がひなたを連れ出したのではないかと考えたらしい。

以前、完全に拘束されていたはずの状態から

見事なまでに逃げ出して見せたほどの力があれば、

人知れず誘拐することも匿うことも容易なのではないかと。

陽乃「立派な推理ね。で? こんな体の私にどうしたらそんなことが出来るのか教えてくれる?」

腕は多少あげられるが、酷く震える。

足はほとんど動かないし、

ベッドから起き上がることだってまだまだできたものじゃない。

そんな体でどうやって誘拐するのか。

しかし、神官は勇者の力を使えば行動できることは確認している。と、答える。

先月帰ってきてからも、

陽乃は何度か勇者として戦いに参加していたことがある。

その際の陽乃を実際に目にしたわ気ではないが、

彼らは報告を受けて、知っているのだ。

下手な嘘を……と1人が呟くが、

それも陽乃は聞かなかったことにして。

陽乃「そもそも私には乃木さんに借りを作った覚えがないわ。見逃されなくたって自力で逃げられたし」

貴方達がご存知の通りにね。

嫌味と皮肉を念入りに練り込んだ声で言う。

陽乃「大体、誘拐したのが私だったとしてどこに連れていくって言うのよ。私に手を貸す人間がいる世界じゃないでしょうに」

実際に生の声を聞いたりしているわけではない神官たちでさえ、

陽乃がバーテックスに匹敵するほど悪名高いのは知っている。

バーテックス侵攻の原因は陽乃だとか、

あの悲劇の裏で気に入らない人間を何人も葬り去ったとか、

眉唾な話もかなりの数あるものの、

その酷さだけは変わらない。

陽乃「貴方達だって、好き好んで私に関わりたくはないでしょ」

だから、陽乃に聞きに来るのは最後の最後にしたはずだ。

勇者並みの力で破壊された扉に気づき、

ひなたが誘拐されたことを知ってから今まで、時間は少なからずあっただろう。

その時間を使って、大社は陽乃以外を対象として確認し

それでもひなたの姿を捕えることが出来なかったから、

それを可能としていると思われる自分のもとを訪れたのではないかと、陽乃は苦笑する。

「笑い事ではありません。上里様は神樹様に深く愛されている巫女です。彼女に手を出せば、神罰が下るでしょう」

陽乃は目を見開いて声を出して笑い、

それでも無理があったのか、咳込んで、口元から血が零れる。

陽乃「面白過ぎて血が出てきちゃった……ふふっ、そんな顔青ざめないで頂戴。大人でしょ」


1、私は知らないわよ。乃木さんが何かしたのよ
2、そもそも、あの子はどこにいたのよ。それを知ってた人がやったんじゃないの?
3、案外、乃木さんを利用したい誰かがしたのかもしれないわよ
4、言っておくけど、私なら上里さんのこと殺してるわよ。力のある巫女は美味しいから


↓2


陽乃「そもそも、あの子はどこにいたのよ。それを知ってた人がやったんじゃないの?」

ひなたが勇者達に最も近しいお目付け役の立場を離れ、

他の巫女同様に、大社の施設で生活することになったのは

諏訪にいたころの通信で聞いてはいたと明かしたうえで、

陽乃は、だけど。と目を細める。

陽乃「あの子が大社のどこにいたのかまでは私、知らないわよ」

知る術もなかったと付け加えて、一息入れる。

「ですが、久遠様は人心の掌握に長けていると聞きます」

陽乃「そんなに私の血が見たいの?」

吐血するわよと陽乃は顔を顰めて。

陽乃「人心の掌握に長けている人間に対する世論調査をしたらいかがかしら」

声色は変わらないが、突き放すように陽乃は言う。

実際に現地に赴く必要もない。

今の世の中なら、インターネットで名前を検索すれば出てくるくらいに陽乃は有名人になっている。

もちろん、いい意味ではなく。


陽乃「仮に、私が人心の掌握に長けているとしても接触できる人間は限られてるでしょ」

勇者達と、陽乃を治療する医者たち。

諏訪から帰った陽乃が接触できたのはその程度しかいない。

勇者の力を使って動けると言っても、限りがある

その限られた人員のほとんどはこの病院から出られないし、

出られる人は、大社に易々と近づくことは出来ない。

陽乃「巫女のいる大社の施設は推測できる。けど、そのどこにいるのかまでは分からない」

もしかして、一般人でも接触できるような場所にでもいたの? と、陽乃は言って

陽乃「だったらお母さんに会いたいわ」

隣にいるひなたは困った顔をしていて、

神官たちは少しだけざわつく

陽乃「言わなければ分からなかった? 上里ひなたを連れ出すことが出来るなら、私はまずそっちを連れ出すに決まってるでしょ」

目を細め、睨み、恨み言のように吐き捨てる。

大社が連れていき、

それ以降、顔を合わせることもできていない母親

ひなたよりも、ずっと大事に思うその人が連れ出されていないのに、

ひなただけがいなくなった。

その犯人を陽乃とするのは、無理があった。

陽乃「わかったら帰って頂戴。やってもいないことで責められるのは慣れているけど……だからって苛立たないわけじゃないんだから」


陽乃に帰れと言われても、

神官たちは念のためと陽乃の身辺を確認し、

ひなたがいないことを確認してから、一礼して去って行った。

陽乃を疑ったことを詫びたのは、その一言だけだ。

それも、代表して1人だけと言った形式的な形で。

それ以外の神官は完全に疑いが晴れたと言った様子ではなかったし、

陽乃の態度そのものが気に入らないと言った雰囲気も感じられた。

力があると言うだけで、

十代の子供が大人に対して礼儀も捨てて応対するとは何事か。とでも思ったのだろうか。

別にそれで陽乃の機嫌が損なわれるわけではないものの、

すぐ隣にいたひなたは大丈夫なのかと、心配しているようだった。

ひなた「久遠さん……あの……」

陽乃「いつものことよ。慣れてるから気にしないで頂戴」

ひなた「かもしれませんが……」

慣れているから平気。だから良いとは思えない。

陽乃はまるで気にも留めていないようではあるけれど、それでも。

ひなたは少し悩んで、話題を変える。

ひなた「……それにしても、まったく気づきませんでしたね」

陽乃「九尾の力だもの。当たり前でしょ」

姿そのものを誤魔化すことも、そこにいないようにみせかけることも九尾の力ならできる。

昔から、狐はそういった人を化かす力を持っていると言う話がいくつもあったが、

その中でも、九尾の狐は協力に描かれている。

それが誇張されているとしても、ただ神職についているだけの大人を化かすことくらいは容易だろう。



1、言っておくけど、勝手に出歩いたりしないで頂戴ね
2、変に気遣わなくていいから。寝なさい
3、巫女は1人もいなかったわね
4、大社に戻りたい?

↓2


陽乃「大社に戻りたい?」

ひなた「さっきの今でどうしてそう思うんですか?」

陽乃「私よりは大切にしてくれると思うけど」

ひなた「……それは、私だからではありませんよ」

上里ひなただからではなく、巫女だからだ。

その中でも、より高い巫女としての適性を持っているから。

だから仕方がなく敬い、丁重に扱おうとしてくれているに過ぎない。

その価値がなければ、目もくれないだろう。

けれど。

ひなた「久遠さんはたとえ私が巫女ではなかったとしても。戦いのすぐそばで縮こまって泣いているだけの女の子だったとしても、守ろうとしてくれます」

陽乃にとって、その人が役に立つかどうかなんて関係がない。

どちらにせよ、その手が届くのなら手を伸ばすし、

その手を向こうから取ろうとしているなら、取ってくれる。

今は酷く荒んでいるけれど、

その本質は大きく変わっていない。

ひなたがそういう性格だと察せる程に。

ひなた「大社に戻りたいと言ったら、久遠さんは戻してくれますよね」

陽乃「さぁ? 面倒なことは避けたいし」

陽乃の天邪鬼めいた返答に、ひなたは思わず笑みを浮かべてしまう。

ひなたに背を向けるようにして横になっていてくれなかったら、

今すぐ病室を追い出されていたかもしれないと考え、首を振る。

久遠さんなら、それっぽいことを言うだけで結局追い出したりはしないだろう。と。

ひなた「でも、どうにかして戻す方法を考えてくれそうな気がします」

陽乃「貴女の理想の私は随分と、優しいのね。夢を見るのは良いことだわ」

叶いもしない夢であってもね。なんて、陽乃は吐き捨てる。

ひなた「そうですね」

叶わない夢でも、抱くのは大切だ。

なにしろ、初めから叶うことが約束された夢なんてほとんどない。

夢は叶わないかもしれない理想を見るもので、

その理想に近づくために、努力を積み重ねて叶えるものだ。

ひなた「でも、私は大社に戻りたいとは思っていません」

気になることは多いし、心配事もある。

それを加味しても、やはり、戻りたいとは思わない。

ひなた「大社にはいつでも戻れますが、久遠さんの隣にいられるのは今だけですから」

陽乃「私が一番嫌いなことを言ってくれるのね。貴女も」

ひなた「それだけ、久遠さんが人心掌握に長けているということでは?」

陽乃「それ以上、面白い冗談は言わないで頂戴」

全く笑っていない表情での言葉に、ひなたは「気を付けます」と答えた

では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

遅くなりましたが、少しだけ


不躾な夜の訪問客も去り、一気に静まり返った病室。

どこかに九尾もいるが、気配は2人分しかない。

ひなた「なんだか不思議な感じです」

陽乃「でしょうね」

ここしばらく、ひなたはずっと一人きりだった。

大社の施設から出られなくなる前からも、基本は寮の自室で一人。

誰かと一緒の時があったとしても、

それは若葉だったり、巫女の友人だったり、

一定以上は仲の良い間柄だと言える、言ってくれる人と一緒だった。

だが、ここにいるのは陽乃だ

桜、あるいは桃

そう例えられることの多い、鮮やかな髪色をしている少女

特段、仲が良いわけでもないその少女と、今は2人きり。

ひなた「諏訪は、どうでしたか?」

陽乃「そんな話を聞いてどうするのよ」

ひなた「どうするわけでは……」

ひなたは「ただ」と、小さく言って。

ひなた「長く一人だったので、お話がしたいんです」


1、付き合わない
2、付き合う


↓2


陽乃「私とは正反対の性格ね。不愉快だわ」

ひなた「……すみません」

反りの合わない人間とは、一緒にいるだけでも苦痛だろう。

それに合わせる気のない性格であれば、なおのこと。

口を噤んで黙っていろと暗に言われたような気がして、ひなたは枕へと頭を戻す。

陽乃「気が休まらない場所だったわ」

ひなた「ん……」

陽乃「私に対する反応は180度違っていたし、目の敵にするのは土居さんくらいだったけど」

ひなた「でも、責められるよりは居心地が良かったのでは?」

陽乃「良いと思う? 関わるのが嫌いな私が」

ひなた「罵倒されるよりはいいと思います」

陽乃「いいえ。どっちもどっちだわ」

罵倒されるような世界だろうと

そうされず、ちやほやされる世界だろうと

陽乃にとっては、居心地の悪い世界だ。

むしろ……責めてくれる方が、陽乃にはありがたいとも言える。

悪意を見せてくれている方が、信じられるからだ。


陽乃「人間、何を考えているのか分からないものよ。その点、悪意だけは嘘をつかないし、裏切らない」

ひなた「そんな悲しいことを言わないでください」

善意だって、嘘をつくわけではありませんよ。と、

ひなたは言う。

陽乃はひなたに背中を向けていて、その表情は見えない。

ひなた「力だって、心だって、全ては持つ人次第です」

陽乃「その人間自体が信じるに値しないと言っているのよ」

ひなた「若葉ちゃんもですか?」

自分ではなく、若葉の名前を出すひなた

彼女らしいと陽乃は目を瞑って。

陽乃「貴女にとって、乃木若葉とは信頼を裏切ることはない人物なのね」

ひなた「もちろんです。若葉ちゃんは絶対に裏切らない……いいえ。裏切ることは出来ません」

何かが起き、

その信頼を裏切ることを強要されようとも、乃木若葉は命を賭してそれを断ち切るだろう。

そういう人間だから。

なんて、ほんの少しの諦念を帯びているような肯定だった。

ひなた「真面目で、義理堅くて、言ってしまえば堅物な性格で……正義感の強い人ですから」

だから、陽乃のことも放っておくことは出来ない。

拒まれても、突き放されても、

その体が傷つき続ける限り、その手を引いてくれることはない。

ひなた「久遠さんの天敵のような人です」

陽乃「間違いないわ。貴女がちゃんと手綱を握って貰えると助かるんだけど」

ひなた「ふふっ、手綱なんてそんな」

陽乃「貴女なら出来るでしょ」

ひなた「出来るかもしれませんが、したいとは思いませんし」

若葉をむやみやたらと縛り付けたって。その良さを殺してしまうだけ。

その心が、その力が

悪い方向へと傾いてしまっていないのなら、

そのままにしておいていた方が、双方にとって良いことだろう。

ひなた「若葉ちゃんは久遠さんでも、信じられる子だと思います。信じたことを後悔させないと思います」

陽乃「……なるほど」

乃木若葉は根っからの勇者である。

であれば、かつて陽乃がそうされてしまったように、

唐突に手のひらを返し、非情な悪意を持って取り殺しに来たりはしないはずだ。

陽乃「でも、それを言う貴女は信じるに値するのかしら。貴女がそうでないのなら、貴女の評価が与えられる彼女もまた、信じるに値しないとは思わない?」


ひなた「私は……」

陽乃「こういう時、自分のことを勧めない人は大まかに2種類いる。一人は、そんな面倒ごとはごめん被りたいと他人に押し付けたい人。そしてもう一人は、それに値する人間であるという自信を持てていない人」

陽乃はまだ力のあまり入らない腕でどうにか寝返りを打って、

ひなたへと目を向ける。

陽乃の使うベッドは、1人ならやや広めだが、

子供2人だと少し物足りない大きさのため、仰向けになると異様に距離が近くなる。

だからか、ひなたの瞳に何が映っているのかまではっきりと見える気がした。

陽乃「貴女は後者でしょう」

ひなた「……どうしてそう思うんですか?」

陽乃「私が後者の人間だからよ。同じだろうなってことくらい、察しが付く」

ひなた「久遠さんはそんなこと」

陽乃「周りの評価がどうであれ、私は自分を勇者だとは思わない。誰かを救えるような人だとも思っていない。土居さんも伊予島さんも白鳥さんも藤森さんも。みんなはそんなことがないと言うけれど」

その言葉を信じていない。

そうなのかもしれないと思い直す気もない。

陽乃「それに、貴女はあまりにも穏やか過ぎる。大人が好きな、出来た子供のように」

ひなた「……」

陽乃「相手が求める自分を続けるのは楽だけど、その相手がいなくなった時に迷子になるわ」

ひなた「難しいことを言うんですね」

陽乃「こうなる前から巫女だったもの。無意味に難しいことくらい、いくらでも言えるわよ」


ひなた「久遠さんは、行動指針を他人に置いておくことどう思いますか?」

陽乃「そういうのは国語の先生にでも聞きなさい」

ひなた「私は久遠さんの考えが知りたいんです」

陽乃「それを指針にするために?」

ひなた「思考するための1つの要素として知っておきたいだけです」

言い方を変えただけで同じことではないか。

陽乃はそう思って目を細めたが、

ひなたは柔らかい笑みを浮かべて、陽乃をまっすぐ見つめている。

けれど、ひなたのその笑顔は陰がある。

心からの笑顔ではない。

信頼を裏切られ、人には表裏があると知り、

再びその目にあうことを恐れている陽乃は、

自負する気はないものの、人間観察は出来る方だとは思っている。

だから、ひなたの問いは彼女にとってそれなりに大事なことなのだろうと思う。

行動指針を他人に置いておくことをどう思うか。

そう問われて出てくる答えはいくつもある。

他人の為の行動は、一般的には思いやりがあるとか優しいだとか言われる。

それも答えの一つだ。

あるいは、自己喪失的だとも言える。

何かの小説に出てきた言葉だが、アイデンティティークライシスと言われるもので、

自分を見失い、その結果として他人に委ねてしまうこともあるのだとか。

あるいは。

他人に委ねるばかり、他人から見た時上里ひなたという人物が掴めなくなることで、

気味の悪さを感じることもあるだろう。


1、優しい子ね
2、気味が悪いわ
3、自己喪失的な子かしら
4、可哀想な子ね


↓2


陽乃「優しい子だって思うわ」

ひなた「優しい、ですか?」

陽乃「他人のために自分を犠牲に出来る優しい子。私にはできないことだわ」

ひなた「それは冗談で言ってますか?」

他人のために自分を犠牲にしているのは、陽乃が一番だ。

全力で命を懸けている。

それで死ぬのだとしても、関係なく。

陽乃「何よ。怒ってるの?」

ひなた「せめて自覚くらいはしてください。自分を犠牲にしていると」

ひなたの眉が少し吊り上がっているのを見て、

陽乃はその分、目を開いてひなたのことを観察する。

ひなた「それさえもせずに身を削るのは、心も削ってしまいます」

陽乃「……ほら、優しい子だわ」

ひなた「久遠さん」

陽乃「そうやって他人のことを考え、思いやり、声をかける。立派なことよ。素直で、純粋で、私には二度と出来ないことだもの」

ひなたは目を見開いて、閉じる。

そうして、開かれた瞳には少しだけ潤いが感じられた

陽乃が出来ないのは人を思いやることではなく、純粋な心でいることだ。

ひなた自身、それが出来ているとも思ってはいないけれど、

そこは陽乃も言うように、他人の評価と言うものだろう。

陽乃「だけど、それはとても弱いことよ。気を付けないと折れてしまう」

ひなた「久遠さん……?」

陽乃「言ったでしょう? 反面教師にしなさいと」


他人のために尽くすことは、決して悪いことではない。

むしろ、褒められることではあると思う。

けれども、それは自分本位であることに比べてとても弱いものだ。

何せ、その尽くした相手が見返りをくれるとは限らない。

何かがあったとき簡単に切り捨てるだろうし、

貴女ならやってくれるでしょう? と勝手な責任を押し付けてくることもある。

他人からは、下に見られる。

そして、他人に委ねる分その心の芯も弱く脆く折れやすい。

陽乃「手のひらを返された時、仕方がないと受け入れるようなままで居たらいけないわ」

ひなた「私は、そうだと?」

陽乃「貴女はそうでしょう。私のように力がない分、出来ることがないのだから」

陽乃と同じような切り捨てられる側に立たされた時、

ひなたにはそれに大して抗うだけの力がない。

押し付けられたそれから逃げ出せるほどの力を持っていない。

だから、なし崩し的にそれを全うするしかなくなってしまう。

陽乃「まぁ、九尾が貴女に憑いているから大丈夫かもしれないけど」

ひなた「……もしかして、心配してくれているんですか?」

陽乃「私が、貴女を? 冗談でしょ」

陽乃はそう言って顔を顰める。

陽乃「貴女に何かがあって九尾や乃木さんが面倒なことになるのが嫌なのよ。それさえなければ貴女なんてどうにでもなってくれていいわ」


言葉をそのまま受け取れば、

陽乃は強く拒絶しているし、突き放そうとしているように感じられる。

そうだよね。と、

委縮してしまうような子は少なくないはずだ。。

だけど、それはやはり建前なのだろうとひなたは思う。

陽乃は理由がなくても、気遣ってくれる。

しかし、そうするだけの理由があって、

そうしなければ気遣うことなんてないと言っておかなければ、

それを好意として、距離を近づけようとしてくるだろうから。

ひなたは陽乃の冷たそうな言葉にも、笑みを浮かべる。

ひなた「そうですよね。若葉ちゃんの幼馴染で、九尾さんに気に入られることが出来てよかったです」

陽乃「それに感謝しておくことね。それくらいしか貴女に価値はないんだから」

ひなた「……巫女としての力だってありますよ?」

だから私達を守る分だけ、私を利用してください。と、ひなたは言う。

ひなた「等価交換です。等価かは微妙なところですけど……久遠さんはその方が良いですよね?」

陽乃「信頼できない相手の力なんて、怖いだけよ」

ひなた「それなら、信じてください。私じゃなく、私に憑いた九尾さんのことを。久遠さんを裏切るようなことがあればそれを実行する前に、九尾さんが私を始末してくれるはずです」

そう言ったひなたを一瞥して、陽乃は目を閉じる。

陽乃「そこで、自分を信じてと押せなきゃだめよ」

ひなた「押すのは、久遠さん嫌がると思って」

陽乃「……そうね。正解よ」

けれど間違いでもあると、陽乃は言わなかった。

1日のまとめ

・ 土居球子 : 交流有(襲撃)
・ 伊予島杏 : 交流無()
・ 白鳥歌野 : 交流無()
・ 藤森水都 : 交流無(他の勇者、可能だけど、少しだけ)
・   九尾 : 交流有(大社、上里ひなた、九尾に委ねる)

・ 乃木若葉 : 交流有(襲撃)
・ 高嶋友奈 : 交流無()
・ 花本美佳 : 交流無()
・  郡千景 : 交流無()
・上里ひなた : 交流有(誘拐、若葉を救う、一緒、付き合う、優しい子)

√ 2018/10/02 まとめ

 土居球子との絆 80→82(良好) ※特殊交流2
 伊予島杏との絆 96→96(良好) ※特殊交流4
 白鳥歌野との絆 95→95(良好) ※特殊交流4
 藤森水都との絆 95→97(良好) ※特殊交流8
   九尾との絆 82→82(良好)

 乃木若葉との絆 74→76(良好)
上里ひなたとの絆 66→70(良好)
 高嶋友奈との絆 62→62(普通)
 花本美佳との絆 37→37(普通)
  郡千景との絆 22→22(険悪)

√ 2018年 10月03日目 朝:病院

↓1コンマ判定 一桁

0 水都
2 友奈
4 若葉
6 千景
8 美佳

ぞろ目 侵攻


√ 2018年 10月03日目 朝:病院


今までは一人だった病室に、ひなたが加わった。

陽乃の方が朝は早いけれど、

そこからほとんど間を置かずにひなたも起きる。

巫女としての責務か、単純にひなたの慣れか

朝から「おはよございます」と、ひなたは元気そうだ。

陽乃はと言えば、同居人ができたことに不満ありげだったが、

そこは自業自得で、文句を言ったりはしない。

もちろん、挨拶も返さないが。

ひなた「テレビ見ますか?」

陽乃「貴女が見たいなら」

ひなたは少し考えてリモコンを手に取り、電源をいれた。

ひなた「朝食はごはんとパンどちらが良いですか?」

陽乃の「何言ってるのよ」

ひなた「……そういう生活みたいに感じませんか?」

陽乃「まったく」

ひなた「残念です」

テレビはニュース番組を映していて、今はちょうど天気予報らしい。

女性キャスターが本日の天候を読み上げている。

降水確率は、65%

ひなた「今日は雨が降りそうですね」

陽乃「関係ないでしょ」

ひなた「室内でも天気は気になりませんか?」

陽乃「ならないわ」


人が一人増えただけだが、

それでも陽乃にとってはやや煩わしく思うなか、

不穏な気配が近づいて来ているのを感じた陽乃は、

手持ち無沙汰にベッドへと戻ってきたひなたの手を引いて、隣に引き倒す。

ひなた「久遠さ……」

陽乃「次から次へと――」

その気配はノックもせずに、病室へと入ってきた。

千景「……朝が早いのね」

陽乃「もう7時過ぎてるわよ」

ひなた「千景さん……」

千景のただならぬ雰囲気をひなたも感じたようで

恐る恐る呟くが、千景の視界に見えるのは陽乃だけのようだった。


千景の表情は暗い。

陽乃を殺そうとしたときよりはやや落ち着いているようにも見えるが、

足取りは不安定で、辺りを見渡す姿は動揺しているようにも思える。

少なくとも、

ひなたが消えたことを聞いて、陽乃を疑って来たわけでは無いだろう。

あの時のリベンジの可能性も考えて、陽乃は警戒する。

千景は勇者だ。

その力を最初から振るって来られたら病室が荒れ果てる。

陽乃は無傷でいられるかもしれないが、

巫女である以外普通の少女であるひなたは被害を免れ得ない。

とすれば……今度こそ、九尾は容赦しない。


1、何しに来たの?
2、迷ったの?
3、朝食持ってきてくれた?
4、上里さんならいないわよ

↓2

では本日はここまでとさせて頂きます
明日も可能であれば通常時間から

別端末ですが少しだけ

陽乃「何しに来たの?」

千景はすぐには答えず、

きょろきょろと一頻り周りを見たあと、陽乃へと向き直って。

千景「……どうしてここにいるの……」

陽乃「はぁ?」

千景「……貴女は……」

陽乃「何言ってるの?」

千景「……」

何って……と、

千景は額に手をあてがって、首を振る。

記憶の混濁でも起きているのか、

あまり調子も良くないようだ。

千景「……変なことを聞いても良いかしら」

陽乃「今更でしょ」

千景「そう……ね」

ひなた「千景さん……大丈夫でしょうか?」

陽乃「知らないわよ」

見るからに危うげで、大丈夫そうには見えない。

千景「……貴女、生きてる?」

陽乃「本当に変なこと聞くのね……冗談かと思ったのに」

千景「……殺した気がするのよ……貴女を……」


千景「なのに……貴女は生きている……」

手には感触があって、

確かに殺したという実感があるのに、

けれどもそれは紛い物で、実際には陽乃は生きている。

九尾の力が影響しているのは間違いないだろう。

ひなた「これが精霊の影響なんですか? こんな、重苦しくさせるのが……」

ひなたは恐る恐ると息をのみ、

そして、陽乃の前に出ていくように身体を起こす。

千景の目はひなたを突き抜けて、陽乃に向いている。

陽乃「何してるの」

ひなた「ダメです……こんなことは」

陽乃「上里さん」

ひなた「巫女なら精霊の影響を和らげることが出きるんですよね? だったら、今すぐやるべきです」


千景の様子がおかしいのは明白だ。

ただ精神的に滅入っているというレベルではなく、

何か、大事の引き金になりかねないような危険な雰囲気

ひなたはそれを止めたいのだろうか

それとも、

陽乃が巻き込まれるのを防ぎたいのだろうか

けれど、いくらひなたでも無理だ。

陽乃「貴女には無理よ」

ひなたと千景では、思想が違いすぎる

ひなたを認めるような精霊は、千景の負担になるし

千景を認めるような精霊は、ひなたの負担になる。

それではなんの意味もないと陽乃は言う。

千景「……無理……?」

ひなた「っ」

陽乃「貴女には言ってないわ」

千景「やっぱり……貴女は……私の……」

千景の手には、今は、人を殺めることの出来る武器がある。

勇者の力を使っていないのは、まだ理性が残っているからかもしれない。

ひなた「久遠さん……私が分かるようにしてくださいっ」

陽乃以外の誰かがいれば踏み留まれるかもしれないとひなたは願う。


1、九尾の力を解く
2、良いわ。思う存分戦いましょ。郡千景さん
3、私は貴女の何かしら
4、駄目よ。死ぬだけだわ
5、少しは落ち着いたら

↓2

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

別端末ですが少しだけ

陽乃は少し考え、

その間も要求してくるひなたを一瞥して、九尾に隠すのを止めるように言う。

友奈ならともかく、ひなたが出てきたところで止められるとは思えないし

行方不明の件は千景にも伝わっているだろうから、厄介なことになりそうなものではあるけれど。

出来ることをしようとするその姿勢自体は、陽乃は嫌いではない。

なにより見えていてもいなくてもひなたは巻き込まれる。

だったら、姿が見えたことで躊躇するのを願うのも悪くはないことだ。

千景「……?」

ひなた「……千景さん」

ひなたは千景の視線が変わったのを感じたのか、

より前へと、陽乃を庇うように出ていく

ひなた「冷静になってください千景さん」

千景「……上里……さん?」

ひなた「それは越えてはいけない一線です」

千景が手にしているのは、千景が普段勇者として戦うときに使用している大鎌。

神樹の力が宿っていないため、

ただの大鎌でしかないものの、それでも十分な殺傷能力がある代物だ

ひなたはその動きに注意しつつ、千景へ視線を送る

ひなた「それで傷つくのは久遠さんだけではありません。千景さん自身の心にも取り返しのつかない傷をつけてしまいます」

千景「……」

目を細めた睨むような目付きで千景は警戒していて

僅かでも近付こうものなら、ひなたでさえも切り払いそうな雰囲気を醸し出している。

若葉がいれば間違いなく止めに入っていただろう。

ひなた「千景さん……ここでは、力を振るう必要はないんです」

お願いします。と、ひなたは願う


千景は一度、自分の手元へと目を向けると

ひなたを見て、陽乃を見て、大鎌の刃から伸びる持ち手を強く握りしめる。

前髪が垂れ下がっているせいで影のかかっている千景の瞳にはひなたの姿があっても、光があるようには感じられない。

ひなたが少しだけ動く。

刺激しないように身体を擦るようにしてずれていき、

ベッドの縁の方にひなたの爪先が出る。

ひなた「千景さん」

ひなたは努めて穏やかだった。

九尾に認められているとはいえ、

巫女であることを除けば、一般人となにも変わらないひなたにとって

今の千景は避けるべき脅威であるはずなのに。

ひなた「……大丈夫ですよ」

ひなたは千景に対して、笑みを見せた

01~35 悪

それ以外 回避
ゾロ目 特殊

↓1

けれど――

陽乃「!」

千景の手ではなく腕に力が入っていくのを感じて、

陽乃は咄嗟に右手でひなたの左肩を引っ付かんで力任せに引っ張る。

ひなた「っ」

不意を突いた力とひなた自身の軽さによって反対側から転げ落ちかけたひなたはどうにか立ち直って

ひなた「久遠さん何を……っ……」

そして、言葉を失ってしまう。

ひなたを引き戻した勢いのまま、ひなたよりも前へと出ていったのだろう

陽乃の左手には千景の振り下ろした大鎌の刃が重なっていて、

躊躇無く切り払いに来ている上、片手では白刃取りなど出来るわけがなく

手の大きさでいえば決して浅くはない傷を負った陽乃の左手からは赤い血が流れ、

真っ白なシーツを染め上げていく

陽乃「……少しは躊躇ったらどうなの? 私だって、痛いものは痛いんだけど……」

千景「……貴女がズル賢く上里さんを使うから……」

千景はそう言って、ひなたを睨む

千景「どうせ精霊の力を使った偽物でしょう……?」


ひなた「偽物だなんて、私は……」

陽乃「何を言ったって無駄よ」

千景は陽乃の力も、九尾の力も知っている。

その能力が非常識で、常人には見破れないほど凶悪な幻惑の効果があることも把握している。

だからだろう。

ここにいるはずの無い上里ひなたは、千景からしてみたら疑いの余地無く紛い物なのだ。

ひなた「っ……久遠さん……」

こうしている間にも、陽乃の血は流れ続けている。

九尾の力で痛覚を誤魔化し、

状況的にあり得ないような力で大鎌の刃を掴んでいるお陰で、

どうにか指を切り落とされたりせずに済んでいるが……相応に深刻な状態だった。


1、九尾に任せる
2、勇者の力で叩き伏せる
3、冷静に考えたらどうなの
4、何が貴女をそこまでさせるのよ
5、上里さんは邪魔だからどっか行って頂戴

↓2

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

別端末ですが少しだけ


仲裁に入り、力を振るわれ、

そのせいで傷付いてしまったと罪悪感があるのか、

涙をためてしまっているひなたを一瞥し、溜め息をつく

陽乃「……別に、期待したわけでは無いけど……」

陽乃の痛覚を遮断する無理矢理に身体を動かせるようにする九尾の力

それを全身へと巡らせていき、

勇者としての状態に近付けながら、陽乃は千景の大鎌を掴む左手に力を籠める

手のひらに食い込んでいる刃は骨にまで達しているようで、

コツコツとした不気味な感覚があり、握れば握るほどに食い込んでくるからか気を抜けば手放してしまいそうだ。

大鎌が動かされようとしているのを感じ、陽乃は千景を見る。

陽乃「無駄よ。勇者でもないのに」

千景「くっ……」

陽乃「無駄だって言ってるでしょ……変に動かされると気持ち悪いのよ」

勇者として全開で力を使っていなくても、

それに類する状態である陽乃に刃を手放させるのは今の千景には不可能だ


無駄だと言っても、大鎌を取り戻そうとする千景の力はじわじわと左手に伝わって来る。

肉を抉り、

骨を削る生々しい音が血の滑りによって余計にグロテスクなものとなりながら、

病室に染み込んでいき

後ろにいるひなたが小さく悲鳴を上げた。

千景「貴女さえいなくなれば、それで――」

陽乃「お断りよ!」

千景の言葉を遮り、

千切れかけの左手で大鎌の刃を引き、千景を引き寄せ、

そうして、

その勢いを利用して千景の喉元を突く

千景「ぅぐっ」

力を籠めていなくても喉への打撃は痛みもあれば苦しくもあり、

呻き声を漏らした千景が仰け反って――

陽乃「少しは冷静になりなさい!」

陽乃は間髪いれず、

自分の手のひらが引き切られていくのもそのままにもう一度千景を引き寄せ、

喉を庇う動作を見せた千景の腹部を蹴飛ばす


ひなたと違って勇者であっても勇者の力を使っている一打によるダメージは小さくない。

防御の上からなら多少は軽くなるが、

不意を突いた腹部への攻撃には反応しきれなかった千景はもろに受け、

一瞬とはいえ、内蔵にまで達した鈍痛によって千景は大鎌を手放さざるを得なかった。

奪われ、切り殺される可能性はあった。

陽乃ならやりかねないという疑心があった。

けれど、痛みによる強制には逆らえない。

反動でよろめいて後退りした千景を追うように陽乃がベッドから飛び起き、

今度こそ、勇者の力で抑え込む


千景「っぅ……ぐ……放し……」

陽乃「……放すわけにはいかないわ」

千景「っ!」

陽乃「無理よ」

陽乃に抑え込まれた千景はどうにか陽乃を押し退けようとするが、

やはり、勇者の力の前には無力で。

千景「っ……」

腰を押さえる膝

腕を押さえる右手

そして、頭を押さえる左手からは今も血が流れ

千景の黒髪にべったりと張り付き、

頬にまで流れていく

千景「……」

陽乃「水で顔を洗うよりも、目が覚めるでしょ?」

千景「貴女は……」


1、敵?
2、死ぬべき?
3、このくらいなんともないわ
4、私よりもまずは貴女よ
5、人殺しよ
6、何も言わない

↓2

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

別端末ですが少しだけ

陽乃「私よりもまずは貴女よ」

千景は今、精神的に限界に来ているのだろうと陽乃は思う。

いくら陽乃を嫌い、憎み、疎ましく思っているとしても

2度も殺しに来た挙げ句、無関係なひなたまで躊躇無く殺そうとするのはあり得ない。

確かにいないはずのひなたがいるのは怪しいし、

それを実現できる力が陽乃にはあるけれど、

だからといって確証もなしに殺すのはいくらなんでも異常が過ぎる。

陽乃「貴女が私やそこにいる上里さんを警戒するのは当然だし、理解もするわ。もちろん、勝手に全幅の信頼を置いてくる人よりも正しいとも思ってる」

けれど。

陽乃は僅かに間を置いて、まだ少し抗おうとしている千景を見下ろす。

陽乃「むやみやたらと手を出すのは感心しないわね」


千景「人を……殺した……貴女が……っ」

陽乃「……死ぬ覚悟で向かってきたから振り払っただけよ。仲裁に入った人を殺した覚えはないわ」

だってそんなのただの暴力でしかないじゃない。と陽乃は続ける。

それに意味があるのか。

そんなことをしてどんな利益が出るのか。

千景が言う通り、陽乃は本当に人を殺めてしまった経験がある。

正当防衛だったかもしれないし、

過剰防衛だったかもしれないしけれど、その結果人一人の命が失われたことに違いはない。

けれどそれは、望んでいた結末ではなかった。

あの時、あの瞬間は必要なことだったのかもしれないが、

だからといって、誇る気も忘れ去る気にもなれないような酷いものだった。

しかし、千景は陽乃と違って殺意がある

それも明確で、本気の殺意だ

陽乃が死ぬのは望み通りだろうし、それを悔やむことは恐らくきっと無い。

だからと、陽乃は苦笑する。

陽乃「私を殺す利点があると思っているのだろうし、それが世論だもの。仕方がないわ」

ひなた「っ……」

ひなたは違うと言いたかったが、

ベッドの惨状を前に、口を閉ざしてしまう。

陽乃自身は殺意を持って向かってこられるのも、

殺されかけるのも、血塗れの惨状も

全部慣れたことだけれど……ひなたは違うからだ。

陽乃はそんなひなたが息をのむのを聞いて、顔をしかめる。


1、貴女も人殺しになりたいの?
2、貴女は勇者であることが誇りなんでしょう?
3、だけど、私には勝てないわ
4、殺そうとしたんだもの。殺されたって文句は言えないわよね

↓2

短いですが本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

別端末ですが少しだけ


けれども、本気でそう思っているのなら……。

陽乃は逡巡し、千景を押さえる力をさらに強めていく。

黙り込んでいた千景が呻き声を漏らしてどうにか力を反らせないかと模索しているのを感じながら、

その無謀な抵抗感を哀れむように息を吐いた。

陽乃「殺そうとしたんだもの。殺されたって文句は言えないわよね」

声色は優しく、屈伏させようとしている千景よりはひなたに問いかけているようにも思えるが、

陽乃の瞳は抑え込んでいる千景に向けられている。

千景「ぐ……ぁっ……」

千景はその圧迫感に呼吸さえ遮られ苦痛に喘ぐ。

陽乃は同年代女子の平均から見れば背が高い方に分類されるだろう。

それに比例して、体重も重めだ。

長期入院によって全盛期から多少落ちたと言っても

勇者として自称する気は微粒子ほどの意思もないけれど、

それに類する立場であり、

なおかつ生き抜くためには力が必要不可欠であることが明白になったことで鍛練の日々を送っていた陽乃の体重は平均に比べればやや上回る。

その上で超常的な力を併用されれば、寝技のプロフェッショナルか同等かそれ以上の力がなければ押し潰されてしまう。


陽乃「このままいけば、いくら勇者でも肺が潰れるわ。それより先に肋骨が折れて心臓に刺さるかもしれないけど」

陽乃は千景の背中周りではなく、

腰に重心を置いてついでのように力で頭をねじ伏せている。

そのため肺などへの加圧は控えめではあるのだが、

押さえる力が強く、千景自身の無理も祟って余計な負荷がかかっているせいで身体が壊れそうになっている。

陽乃「もしかしたら腰が砕けるかも」

陽乃はあえて千景の耳元に口を近付けて。

陽乃「でも、そうなる覚悟で挑んで来たのよね? だって、私は人殺しなんだもの」

無事で帰れるわけがないのだと強調して囁き、

嘲笑に似た笑い声を千景の頭に響かせると、びくりと千景の身体が震える。

表情は来たときと同じように暗く、

困惑の代わりに苦痛と怒りに満ちていた。

千景「ぅぐ……ぅあ……」

千景はどうにかと抗い続けているが、抵抗はむなしく陽乃の身体を動かすことさえも出来ていない。

押さえつけられ満足に呼吸が出来ず、

圧迫感が内蔵にまで到達している不快感と痛み、苦しみに怒りつつも呻くのがやっとで。

そして、ひなたが声を上げた。

ひなた「ダメですっ!」

千景「っ……」

陽乃「貴女だって殺す権利はあるのよ?」

ひなた「権利の所持と行使は話が違います。千景さんを殺すというならナースコールを押します……っ」

正直に言えば、ひなたはナースコールを今すぐ押したかった。

ベッドの上は血に染まっているし、陽乃の左手は斜めに裂けかけている。

けれど千景が行ったということ

そして逆転し陽乃が殺そうとしているといった諸問題がひなたに留まらせていた。

だが、事態が停滞どころか悪化するなら話は別だ。

ひなた「久遠さんも……千景さんも……落ち着いてください」

陽乃「殺意を持って向かって来る相手に情けをかけろって言うの?」

ひなた「必要以上に恨みを買っても仕方がありません」

なにより……と、ひなたは辛そうに顔を歪ませて

ひなた「早く治療しないと……」


陽乃に蹴られたりした千景はまだ軽傷程度で済んでいるが、

ひなたを庇うようにした陽乃は重傷だ。

身体の一部……左手だけとはいえ傷は大きく、

出血もかなりのものだった。

動けているのが不思議なほどに。

もちろん、それを可能としているのは九尾の力で

それによって痛覚を遮断し、動けるようになっているだけだ。

しかし、千景はかなり気が立っている。

元から不安定だったのもあるけれど、

一番は力で押さえ込んでしまったからだろう。

自由にするのは危険だ。

陽乃「……良いわ。呼んでも」

人が増えれば千景もこれ以上はないだろうと

陽乃が答えると、ひなたは一瞬躊躇って……ナースコールを押した。

√ 2018年 10月03日目 昼:病院

↓1コンマ判定 一桁

0 大社
2 若葉
4 友奈
6 球子
8 歌野

ぞろ目 侵攻

では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であれば少し早い時間から

では少しだけ

√ 2018年 10月03日目 昼:病院


何事かと駆けてきた看護師達によって引き離された千景と陽乃

千景は元の病室に戻されたが、

陽乃はベッドの惨状と、また同じことが起こる可能性を考えて別の病室に移動することとなった。

ひなたは九尾の力によって隠されていたため、

看護師に発覚することはなく、

逃げることも可能だったはずなのに、ずっと陽乃から離れることはなかった。

陽乃の治療と病室の移動が終わって看護師がいなくなるのを確認してから、

ひなたは陽乃に声をかける。

ひなた「私のせいです……ごめんなさい」

陽乃「何よ急に」

ひなた「久遠さんが左手を斬られることになったのは、私が千景さんを説得しようとしたからです。その私を庇ったせいで……」

陽乃は目を細め、ひなたを見つめる。

千景ほどではないけれど、ひなたの表情にも影がかかってしまっている。

説得が微塵も効果がなかった郡千景

殺されかけたうえ、陽乃が負傷することとなり、

千景は千景で厳重な監視下に置かれることになるのは確実と言った様子で

バーテックスに侵攻されていない間も、状況が悪くなっていく一方だと知ったからだろう。

肉どころか骨まで斬られかけていた陽乃の左手は正中神経を真っ二つに引き裂かれ、

それ以外の神経系にも傷を負い、手首の部分にある靭帯にも裂傷が出来ていた。

普通なら、縫っても無駄なほどの重傷

いや、勇者であっても完治は不可能だと言われるほどのもので、

医師は切断も視野に入れていたが、陽乃がそれを拒絶した。

最悪の場合、二度と動かすことは出来ない。

九尾の力で無理矢理動かせるが、日常生活では何の役にも立たないだろう。

ひなたは、その怪我の責任を重く受け止めているようだ。

何かがあって下敷きになったり、

衝撃が加わったりして縫った部分が破けてしまわないようにと、保護されている陽乃の左手を罪悪感強く見つめている。

ひなた「左手は本当に治るんですか?」

陽乃「普通には絶対に治らないでしょうね。さすがに……治ったとしても、まともに動かせるようにはならないはずよ」

ひなた「っ……すみません」

苦々しそうに歯噛みするひなたを陽乃は睨む。

陽乃「聞いておいてそんな顔しないでくれるかしら」

ひなた「ですが、私のせいです……久遠さんだけなら、こんなことにはならなかった」

庇う必要がなければ、あんな怪我をすることはなかったはずだ。

そのうえで、圧倒し、千景を打ち倒していただろうし、

どうせ結局、殺すと脅すだけで本当に殺したりもしなかっただろう。と、ひなたは考えているようだ。



1、で? 責任は取ってくれるの?
2、その私だったからこんなことになったんでしょ
3、治せるから気にしないで
4、まだ話を聞く気があると思った私の誤算でもあるわ


↓2


陽乃「まだ話を聞く気があると思った私の誤算でもあるわ」

ひなた「それは、私もです……まさか、まったく聞いてくれないとは思いませんでした」

陽乃「それだけ私を憎んでたってことでもあるし、九尾の力を知っていたのも要因ではある」

ひなたがその場にいるはずのない人物だったことも理由の一つ

けれど。と陽乃は呟く

陽乃「乃木さん相手ならともかく、あの子を止めるならどう考えたって高嶋さんが適任だったでしょうに」

ひなた「いえ。それはそれで逆に怪しいと思われたと思います」

効果的だからこそ、

それを使うのではないかと言う疑念はよくあることだ。

ひなた「ですが、私は非戦闘員です。サポートする立場にあった巫女だっただけです」

友奈ほど千景に好感触ではない人選だけれど、

それでも、千景が躊躇う可能性はあった。

しかし、現実は一刀両断

陽乃が庇わなければ、ひなたは死んでいただろう。


あの行動に躊躇いはなく、ひなたを偽物だと断じていた。

本物だった場合のことを考えもしていないと分かる迅速さ

ひなたでこうなのだから、

友奈が出ていたら激高してさえしてたかもしれない。

話が通じるかもしれないと言う期待などするべきではなかった。

そう出来るほどの余裕がないと考えるべきだった。

陽乃「さすがに、精霊の力を使い過ぎたのね」

頻度の多さで疲弊していく勇者達、

時折行われる、過剰戦力とも思えるほどの戦力での侵攻

それによって勇者が戦闘不能に追い込まれていき、

やがて、今までは問題なく対処出来ていた戦力にも精霊を必要とするようにまでなっていった。

そうして連続使用による負荷が限界にまで達し、

元からあった陽乃への負の感情が増長し、溢れだして躊躇いが消えたのだろう。

ひなた「一度、千景さんから勇者としての力を……いえ、それは逆に……」

陽乃「でしょうね」

勇者の力が原因なら、勇者の力を使えなくしてしまうのが手っ取り早いけれど、

勇者であることを誇りにし、

それに対して強い思い入れのある千景から奪おうものなら、

余計に悪化するのは目に見えている。

大社も、さすがにそんな失態は犯さないだろうと陽乃は目を細めたが、

ひなたは悩まし気に首を振る。

ひなた「それは分かりかねます」

陽乃「どうして? 大社はそこまで馬鹿なの?」

ひなた「大社は、勇者の内面の問題までは解決してくれない可能性が高いからです。
    元から、他人にどうにかできる問題ではないと言われればそれまでですが……」

その表面上の解決をしようとするだけにとどまり、

結果的に事態を悪化させてしまうことになりかねない。

陽乃「そう……まぁ、私に対する世論対策の前例もあるし、一理あるわ」

ひなた「だからこそ、久遠さんが言っていた方法で影響を抑えることが重要になってきます」

陽乃「貴女には無理だって言ってるでしょ」

ひなた「では、誰なら適任だと?」

陽乃「そうね……」


1、花本美佳
2、藤森水都
3、いない
4、私がどうにかするわ


↓2

では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

では少しだけ


普通に考えれば郡千景を見出したとされる花本美佳が適任である。

彼女は一応、巫女ではあるし、

千景と思想も似通っているから、一方を認めて貰えれば、

もう一方も認められたようなものだから、気分的に楽だ。

しかし……

陽乃「花本さんが推奨されるとは思うのだけど」

ひなた「ですが、精霊を受け止めるほどの資質があるのでしょうか?」

陽乃「それは貴女だって変わらない話よ。貴女も藤森さんも絶対に平気だなんて保証はないわ。逆に、花本さんが平気で貴女達が死ぬ可能性だってないわけじゃない」

最も、その逆の話なんて万に一つも起こらないだろう。

ひなたは資質がある。

水都に至っては歌野が力を借りている精霊である神、宇迦之御魂大神様は陽乃を愛し、

そのつながりの一部である水都を拒絶するわけがないからだ。

けれど、花本美佳はどうだろうかと、陽乃は思考を巡らせる。

彼女の思想は千景に近しいものがある。

その心に抱えている陽乃への憤りも質量に差はあれど似たようなもので、通じやすい。

だが、巫女としての資質は足りる気がしない。

千景に出ている影響の重さからして、良心的な精霊ではない為、神様ではないにもかかわらず、

それと同等かそれ以上の負担を要するはずだ。

陽乃「すぐに限界が来て死ぬでしょうね」

ひなた「っ……ということは、千景さんを救う手立てはないということですか?」

陽乃「巫女を使い捨てにすればどうにかなるんじゃない? どれだけ必要かは知らないけど」

ひなた「そんな言い方しないでください」

陽乃「事実を言っただけよ。あの様子だと使い捨てとしか言いようがないし」


現職の巫女であるひなたにはいささか厳しい物言いにはなるけれど、

現実的に考えて、使い捨てなのは間違いない。

いくら千景が陽乃に対して強い負の感情を持っているとは言っても、

殺害を躊躇しなくなるレベルと言うのは尋常じゃない負荷がかかっている。

それを言うと、ならそれがない状態で殺しに来た花本美佳は何だったのか。となるが、

それは千景がその方面に偏っていたのを見て助力したいとなっただけだろう。

陽乃「命を落とさずに済んでも心が壊れると思うわ。天恐なんて比じゃないくらいに」

ひなた「何とかならないんでしょうか……たと言えば、1人で対応するのではなく数人で一度に行うことで軽減したりとか」

陽乃「神降ろしの儀式自体は、単独ではなく複数人で行うのが普通のことよ。だとしても、複数人の体にひと柱なんて降ろし方は前例がない」

陽乃はそう言って、貴女は言わないと思うけどと前置きする。

陽乃「前例がないならできるかもしれない……だなんてくだらないことはね」

ひなた「人の命が懸かっていることですから、むやみに口には致しません……ですが、考えるべきことではあると思います」

陽乃「そう」

ひなた「花本さんには、お声がけを?」

陽乃「私がしてるとでも? いいえ、出来るとでも思ってる?」

ひなた「……です、よね」

流石に申し訳ないと思ってか、ひなたはしゅんとして顔を伏せる。

皆が皆そう言うわけではない。

というか、

巫女の間では、陽乃に友人を救われた、家族を救われた、自分自身を救って貰った。

そういった子もいないわけではないのだが、

陽乃と関わることは避けたい側の巫女もいるし、美佳は完全にそちら側である。

火のないところに煙は立たない。

であれば、元から災厄には触れないべきである。と。

そうでなくても千景から忌避されているのだから、陽乃が普通に話すのも難しいはず。と、

ひなたは困った表情を浮かべて。

ひなた「……かといって、私が伝えたところで……」

情報の出どころは誰かと言う話になるし、そもそもなぜここにいるのかと言う話になるだろう。


陽乃「あの子の性格なら、郡さんの助けになることなら喜んでやってくれると思うけど」

ひなた「信じて貰えたらの話です。でも、死んでしまう可能性の方が高いのなら伝えない方が良いかと思います」

陽乃「死ぬかどうかなんて本人の意思次第であって他人の私達がどうこう言うことではないし、考えてあげることでもないし、ましてや心を痛めててあげる価値のある話でもないわ」

ひなた「またそんなっ」

陽乃「本人が死にたいなら死なせてあげるべきだわ」

もの言いたげなひなたに対して、陽乃は冷たく言い放つ。

陽乃は常から生きていたいと思っている。

その為に命を懸けると言うやや矛盾な行いに明け暮れているわけだが

皆がそんな陽乃の行動を咎めている。

命は大事にするべきだ。と。

けれど、大事だからこそ命を懸けなければならない場面だってあるはずで、

陽乃はその場面が人よりも異常なほどに多いだけだ。

ひなた「人に冷たい理由は分かっていますが……」

陽乃「分かっているなら言う必要はないわ」

ひなた「いいえ」

ひなたは物悲し気に首を振ると、陽乃の痛々しい姿を見て、唇を固く結ぶ。

ひなた「本当に必要な時に見捨てることが出来ないなら、何の意味もありません」


陽乃が他者に対し厳しかったり、冷たかったりする理由をひなたは知っている。

そうなってしまうのも仕方がないと思える理由だったし、

他人を信じたくない、

他人に期待されたくない、

そうやって周りから距離を置きたくなるのも仕方がない過去だったと思う。

それどころか、今だって。

けれど、と。ひなたは思う。

ひなた「久遠さんは私を守ってくれました。治るとはいえ、左手に重傷を負ってまでです」

陽乃「貴女が死んだら面倒だからよ。別に貴女の為じゃ――」

ひなた「千景さんに責任を負わせられたはずです。面倒なことをすべて千景さんのせいにすることだって、九尾さんの力なら簡単ですよね?」

ひなたを殺したのは千景で間違いないが、

そのひなたを連れ出したのは千景の仕業であるとすることだって九尾の力があれば出来る。

陽乃の言う面倒なことは、

いとも容易く逃れられるものだとひなたは指摘して。

ひなた「久遠さんは、いつだって建前を作って人助けをして……そういうのは、止めた方が良いと思います」

陽乃「何を……」

ひなた「でないと、誰も幸せになんてなれません」

陽乃は色々と冷たいが、結局は命を賭して守ってくれてしまう人である。

だから、人の心は惹かれていくし、身を案じてしまうのに

そうして傷ついていく姿を案じることを、陽乃は強く拒もうとする。

けれど、気にしないなんて無理な話だ。

理由があったから自分のせいではないだなんて割り切ることなんて出来るわけがない。

ひなた「どうしても嫌われたいなら、もう二度と誰も救ったりしないでください」

誰も近づけたくないのに、命がけで守って、また冷たく突き放して

そんなの、痛々しいだけだ。


1、貴女に言われることではないわ
2、別に助けてる気はないわよ
3、何よ急に、何なの?
4、うるさいわね。どうだっていいじゃない


↓2


陽乃「何よ急に、何なの?」

巫女を消耗品とするかどうかの話をして、

死にたがり乃ことなんて考えてあげる必要はないと言って……それで?

どうして、ひなたは怒っているのか。

どうして、涙を流してしまいそうな顔をしているのか。

どうして、陽乃の生き方に口出しをしてくるのか。

陽乃「意味が分からないんだけど」

ひなた「死ぬかどうかは本人の意思次第……そうかもしれません。ですが、その死に心を痛めるかどうかは私達次第ではありませんか」

陽乃「だから? それが何なのよ……」

ひなた「久遠さんの死は、誰も心を痛めないような無価値なものではないんです。誰も考えなくていいほど、軽いお話でもありません」

分かりませんか? と、

ひなたは自分の胸元に手を宛がって、

やや、祈るような面持ちで陽乃を見つめる。

ひなた「久遠さんは、孤独になるには優し過ぎるんです。あれだけの過去があっても、どうしても人を助けてしまうほどに、優し過ぎたんです」

陽乃「はぁ? 私が?」

ひなた「そうです……そして、だからいつも、誰かの代わりに苦しんでいる」

今回だって、左手を失ってもおかしくないほどの傷を負った。

痛みは九尾の力と鎮痛剤でごまかしていると言うが、薬だけでは到底抑えられないほどの痛みがあるはずだ。

ひなた「それなのに、いつもいつも冷たく突き放しているから……それを目の当たりにした人くらいしか、考え直してもくれないんです」

ひなたは困ったように言って。

ひなた「仲良くなって欲しいとは言いません。でも、問答無用で突き放すのはもうやめにしませんか?」

そうすれば、少しは印象も変わってくれるかもしれない。

評判が良くなって、話を聞いてくれるようにだってなっていくかもしれない。

陽乃は重要な存在だ。

勇者として戦えるだけでも貴重だと言うのに、

九尾がいるおかげでその価値は計り知れないものにまでなっている。

彼女は妖狐であり、惑わすこともあるけれど、齎してくれる情報は決して一蹴出来るようなものではない。

その言葉全てが真実ではなくても、

精査し、検証し、扱うことが出来れば人々はバーテックスに抗っていくことが出来るかもしれないのに。

人々は陽乃を恐れ、憎み、その言葉の一切を信じることはないのだろう。

それは確かに、信じない人々の勝手だが、

結果的に、陽乃の手から少なくない命を取りこぼさせることになる。

ひなた「久遠さんに辛い思いはして欲しくないんです。苦しんで欲しくないんです。悲しんで欲しくないんです……幸せになって貰いたいんです」

危険を承知で死地へと踏み出したかと思えば、

救うことは出来ないと思われていた人々だけでなく、勇者まで連れ帰ってきた陽乃

その存在は、現存する勇者の誰よりも代え難いとひなたは思う。

若葉の幼馴染で、巫女と言うひいき目があってなおも。

ひなた「久遠さんの為です」

陽乃「そんなこと言われたって、困るんだけど」


陽乃「私は、期待されるのは嫌なのよ。裏切られるのだってもうこりごり。なのに、突き放さないで欲しいって? 無理に決まってるじゃない」

突き放し、恐ろしい存在であるからこそ、今はまだ少数で済んでいる。

今でもすべてを防げているわけではないけれど、

この態度を変えてしまったら、それこそ一転していくことになるだろう。

それも、

現状の悪評がありながらも、身を挺してくれる愚か者という評価で。

陽乃はそう考えて、失笑する。

そんなもの、今だって変わらないと。

ひなたの言うとおりだ。

あれこれ言いつつ、結局拾える命を拾ってきた。

今だって、諏訪に捨て置いてきたはずの命をどうにかかき集め続けている。

いつかきっと、そこにまた拾いに行くことが出来るだなんて思っている。

陽乃「……」

ひなた「久遠さん……?」

陽乃はひなたを見つめて、顔を背ける。

陽乃「諦めるのは私ではなく貴女だわ」

自分の弱さを告白できるほど、

ひなたとの関係は、まだ深くはない。

いいや、深かったとしても……と、陽乃は眉を潜めて、笑う。

陽乃「これが私の選んだ生き方だもの」


√ 2018年 10月03日目 夕:病院

↓1コンマ判定 一桁

1 友奈
3 大社
5 球子
7 若葉
9 水都

ぞろ目 特殊

√ 2018年 10月03日目 夕:病院


千景が陽乃を殺そうとしたという事件は病院の中でも一区画での出来事だった。

ナースコールによって人が呼ばれたとはいえ、

陽乃に関われる人員は限定されているため、人の口に戸は立てられないのだとしても、

広まっていくことはないはずだった。

しかし、

その限定された人員は、かねてより病院に勤めていた人々である。

仕事上、他の同僚と縁を切ることは出来かねるため、

少なからず病院内での出来事は共有されることになる。

するとどうなるか――

若葉「ひとまず、生きていてくれて一安心だ」

陽乃「……貴女、どうやってここに来たのよ」

若葉「ん……まぁ、アレだ。念のために護衛が必要になった。と言ったら案内して貰えた」

陽乃「嘘つきは泥棒の始まりだって知らないの?」

若葉「はははっ」

――漏れた情報を聞きつけた勇者が病室を訪れ、笑うのだ。

若葉「それはどんな嘘をついたのかにもよるだろう。もっとも、一つ嘘をつけば、良心のタガが外れて、そうなる可能性もあるのかもしれないな」

若葉は笑いつつも、陽乃の身を案じているようで、

すぐそばに椅子を立てると、座って。

若葉「左手……治りそうなのか?」

触るのを躊躇い、心配そうに問いかけてくる。

ひなた「若葉ちゃん……」

その傍で、ひなたは押し殺した声を漏らした。


陽乃「まぁ、特別な力を使えばどうにかってところかしら」

千景に対しては問題があるけれど、

若葉には別にひなたを隠しておく必要はないだろうと、陽乃はひなたを横目に見る。

千景の一件でやや心に傷を負っているのか、

普通に見えるようにして欲しいと口では言っていないが、表情は物語っていた。

若葉「……そうか。そんな、重傷だったのか」

陽乃「曲がりなりにも勇者の武器よ。化け物とはいえ――」

若葉「自分を化け物だなんて言うな」

若葉は陽乃の言葉を遮り、

自分自身を卑下する物言いに対しての怒りを感じる表情を見せて。

若葉「ところで、大社からひなたがいなくなったらしい」

陽乃「聞いたわ」

若葉「……ふっ」

陽乃「何?」

若葉「とぼけたって無駄だ。そんなこと出来る人間も、する人間も……私は久遠さんしか知らない」

陽乃「なら、貴女の知らない誰かが居たんじゃないかしら」

陽乃がもう一度とぼけると若葉は目を見開いて、すぐに笑みを浮かべたものの、

段々と目を細め、ため息をつく。

若葉「もし仮にそうなら、大ごとだな」

陽乃「そうでなくても大ごとだと思うけど。大社の施設から重要人物が連れ出されたんだから」

若葉「まぁ……そうだな」

若葉は不思議と困り顔で言うと、頬を人差し指でポリポリと掻いて目を背ける。

いや、背けたのではない。

その目は、陽乃の傍らに控えているひなたへと向いていた。

若葉「実をいうと、この部屋にひなたがいるのは分かっているんだ」

陽乃「……何言ってるの?」

九尾の力は解けていない。

ひなたの姿は見えていないし、

声だって聞こえていないはずなのに、若葉は確信した様子だった。

若葉「こんな世界だからか、私も随分と過敏になってしまったもので……なんとなく、感じるものがあるんだ。例えば、そうだな」

若葉は小さく笑い、陽乃を見てから辺りを見回し、

そうして、ひなたへとまた視線を戻す。

若葉「久遠さん以外の視線を感じる。とか」

陽乃「九尾でしょ」

若葉「そうだろうか……だとしたら、私はまだまだ、ひなたについて無知なようだ」


1、とぼける
2、九尾を呼ぶ
3、ひなたを見せる
4、で? もし私が連れ出していたとしてどうするの?
5、上里さんには、死んでもらつもりだと言ったらどうする?


↓2


陽乃は諦めて、ひなたを解放するように九尾へと指示を飛ばす。

ひなたが偽物だなんて若葉は言わないだろうし、

ましてや即刻打ち首なんて起こり得ないだろうから。

なにより……

若葉がそうだったように、ひなたも会いたがっていた。

それを強引に阻む理由はないけれど、

恩を売るチャンスではあるはず。なんて。陽乃は苦笑する

ひなた「若葉ちゃ――」

若葉「ひなた!」

先に声を出したのはひなただった。

しかし、俊敏さを遥かに上回る若葉は見事に最後まで呼ばせず、

二度と手放すものかと表すようにひなたを抱き締めた。

若葉「良かった……元気そうで……すまない……私ではなくて」

ひなた「何を言っているんですか」

陽乃が戻ってから囚われたのなら陽乃が救出することに大きな問題はないが、

ひなたが囚われてから助け出されるまで、決して短くない時間が流れている。

それを悔やむ若葉の心を、ひなたは受け止めているかのようで。

ひなた「若葉ちゃんにも出来ることと出来ないことがあって、若葉ちゃんはその出来る範囲で私を取り戻そうとしていたのでしょう?」

若葉「だが、力及ばずならばその意味などっ」

ひなた「でも、私はここにいます。若葉ちゃんの声を聞き、勇者らしからぬ姿を覆い、その耳に語りかけています」

ひなたは慈愛に満ちた面持ちで、若葉を抱き締める。

ひなた「せっかく会えたのに……自戒に務める若葉ちゃんなんて、嫌いになっちゃいますよ?」

では途中ですがここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


若葉「……すまない」

ひなた「もう……」

目の前で抱擁し、再会を喜びあう2人

若葉は千景達と違って精霊の影響が少なく、ひなたを取り戻せなくても精神的崩壊は免れていたはずだ。

だが、無いよりはある方がいい。

恩着せがましく言うのは陽乃の趣味ではないけれど、

それを補って余りあるほどに若葉は義理堅い性格だから、この救出は決して無駄ではなかっただろう。

母を残し、選びとった選択はきっと――

若葉「久遠さん」

陽乃「っ」

意識がゆらゆらと漂っていたせいか、陽乃は呼ばれただけでびくりとしてしまう。

若葉「大丈夫か? 騒がしくしてしまってすまない」

陽乃「別に……」


ひなた「もしかして、まだ血が足りていないんじゃ……」

陽乃「そういうわけじゃ……ない、けど」

多量失血とはならなかったが、

出血の多かった陽乃は、輸血も併せて受けていた。

そのおかげで大事には至っていないものの

貧血に似た症状が出ているのではないかとひなたは心配しているようだ。

若葉「私に貸し付けるだけ貸し付けていなくなるのは止めてくれ」

陽乃「死ぬ気はないって言ってるでしょ」

若葉「心だけでは、どうにもならないことだってあるだろう」

よくよく、本人の生きる意志次第だなどと語られることがあるけれど、

それではどうにもならないことだって多々ある

むしろ、それが現実だ。

陽乃は人一倍無理をしてしまうから、それが訪れる可能性だって人一倍高い。と、若葉は思って。

若葉「……救われて、ばっかりだ」

陽乃「救ったつもりはないわ」

若葉「だとしてもだ。分かるだろう? いいや、十分に知らされたんじゃないか? 私が久遠さんのことを見逃したと……重罪を犯したと」


陽乃「別にそこまで言われたりはしてないけど」

それに近しい扱いを受けていたのは承知している。

暫定的だったとはいえ、

リーダーを担っていた若葉はその役職を外されたし、

理由は別につけられていたが、それに合わせた形で抑制のためにひなたが大社預かりになったり、

若葉にとっては、辛いことが多かったのだと。

陽乃「それが?」

若葉「だが、久遠さんは諏訪から生存者を連れ帰ってきた。白鳥さんと藤森さんまで……」

だから。と、若葉は続ける。

若葉「後悔せずに済んだ」

生きたいと言い続ける死にたがりを死地に送ってしまったこと。

球子達がいるとはいえ、陽乃にはむしろ、誰も一緒ではない方がういいのではないかと不安ですらあった。

しかし、陽乃は帰ってきた。

ボロボロではあったけれど、諏訪の勇者達を引き連れて。

それに加えて、ひなたまで取り返してきてくれたのだ。

若葉「私に出来ることは少ないが、可能な限り力にならせて欲しい」

陽乃「私は――」

若葉「分かっているさ。他人は信じられないし頼りたくないんだろう? そこは、私の努力でどうにかするさ」

若葉は拒絶する前に先手を打って、それなら構わないだろう? と、笑う。

若葉「確かに出来ないこともある。だが、何事に対しても研鑽を積むくらいは出来るはずだ。どうやら、試験官は結果が出るまで長生きしてくれるようだからな」


1、お断りよ
2、勝手にしなさい
3、そんなことより、その子は持って帰るの?
4、具体的にはどういうことをしてくれるのかしら
5、貴女より、上里さんの方が使えるんだけど

↓2


陽乃「勝手にしなさい」

若葉「……良いのか?」

陽乃「駄目って言ったって聞かないじゃない」

歌野も水都も杏も球子も

どうせひなたも若葉も

拒んだところで言うことを聞いてくれるわけではないのだから

それであれば、我関せずとそっぽを向いておく方が楽だ

向こうは向こうでなんだかんだモチベーションが上がるようだし、

突っぱねてああだこうだと口論に発展するよりマシだろう。

陽乃は呆気にとられたような若葉をひと睨みする。

陽乃「邪魔さえしなければ良いわ。役立ってくれるならなお良い」


九尾の力を使えばどうということはないけれど

今の陽乃は無理をすればするほどダメージが積み重なっていく一方で、一向に良くなることが出来ない状態だ。

縫合されたばかりの左手は、自然には絶対に治らない。

その手でバーテックスと戦えば、今度こそ切除が必要になる可能性すらある。

なら、利用出来るものは利用しようと――

若葉「最近知ったんだが」

ひなた「何をですか?」

若葉「久遠さんのような厳しい建前を持ちつつ、優しい本音を携えた人のことを――」

陽乃「違うから」

若葉「だが、杏と藤森さんが……」

陽乃「違うって言ってるでしょ」

勘違いしないで頂戴。と陽乃は若葉を睨む


やや罰が悪そうに

しかし、微笑みを隠しきれていなかった若葉はおもむろに表情を引き締める。

ひなたの行方不明に陽乃が関わっていることは確信していたものの、

まさか灯台もと暗しで、こんなにも早くひなたと再会出来ること自体は若葉にとって想定外だったようで

若葉は「本題だが」と前置きし

若葉「郡さんが、自宅謹慎になることが決まったらしい」

そう切り出した。

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ

ひなた「……どういうことですか?」

若葉「私ではなく、友奈にだが勇者のリーダーの打診があったそうだ」

友奈は精霊の影響などで復帰に時間がかかっていたけれど、

そそろそろ戻ることが出来るほどには回復しているらしい。

ただ、友奈以外にも勇者はいる。

重傷の杏や歌野、問題を起こした若葉と千景を除いても……

陽乃「……いや、それはないわね」

若葉「どうした?」

陽乃「気にせず続けて」

陽乃は促して、目を反らす。

その4人を除いてしまったら、残るのは球子と友奈の2人

球子は陽乃100%ではないが杏第一で、その杏は陽乃側の勇者である。

となれば向き不向きを度外視してでも友奈が選ばれることになったはずだ。

……そのはずだ。

若葉は直接的にそれを大社から聞かされたわけではなく、

これもまた看護士達から聞いたのだそうだ。

勇者達の巫女として知られている美佳が大社の人と言い争いになって、

その原因が千景の扱いについてだった。

若葉「花本さんはどうしても郡さんを自宅に帰したくなかったようだが、暴走した身だ。家族と共に療養していた方が良いとの判断を下したと言っていたらしい」

陽乃「建前でしょ。私を隔離しきれないから、動かせる方を動かしておきたいのよ」

また問題が起こっても面倒だし、

襲われた陽乃か千景のどちらかを隔離するべきなのだが、

陽乃の健康状態は常に最悪で悪化することもあるため病院から離れられない

となれば、その役割は千景に向かう。

かといって監禁や軟禁では、体面が悪い

だから家族のもとに……となったのだろうと陽乃は顔をしかめる

陽乃「勇者の力は?」

若葉「状況が状況だ。一度の過ちで没収とまではいかないそうだ」

陽乃「そう……」

若葉「不安か?」

陽乃「私が? なんで」

若葉「いや、違ったらすまないがそう見えたんだ」


若葉「病室は変わったが病院が変わったわけではないし、郡さんも勇者の力を持ったままだ。もう一度襲われる可能性がないとも限らないだろう?」

陽乃「勇者の力を持ち出してきても返り討ちに出来るわよ」

若葉「だが、可能な限り使わない。と、見えるが……」

若葉は陽乃の左手を見ると、眉を潜める。

宣言通りに返り討ちに出来ることは、若葉も疑っていない。

だが、それなら陽乃は大怪我することなんてなかったはずだ

例えひなたが傍にいたのだとしても、それを避けて千景を打ち倒せたはず。

けれども、そうしなかったから左手を失いかねない重傷を負うことになった。

若葉「……」

若葉は少し黙り込んで、眉間にしわを寄せ、

口を開きかけて、飲み込み、膝上の手で固く握り拳を作る。

気にあることはある。が、それを訊ねても正直には語って貰えないだろうと、若葉は顔を上げた。

若葉「久遠さんさえ良ければ……許可が出るとは限らないが、1人ではなく、誰かと同室になるのはどうだろうか」


1、嫌よ
2、それ。私の拒否権がない話だわ
3、少なくとも貴女は嫌よ
4、もう上里さんがいるわ


↓2

では本日はここまでとさせていただきます。
明日は可能であれば少し速い時間から

では少しだけ


陽乃「別に不安なんてないのだけど……」

誰かと同室という点については、すでにひなたがいる。

ひなたは戦力に数えられないただの一般人ではあるけれど、

それを除いても九尾がいるから、戦力としては十分以上である。

とはいえ……と、陽乃はため息をつく。

九尾は戦力として数えるにはあまりにも過剰だ。

陽乃「少なくとも貴女は嫌よ」

若葉「ぐっ……な、なぜだ……」

陽乃「下心が透けて見えるから」

若葉「しっ、下心だとっ」

そんなものないぞ! なんて、ややオーバーに主張する若葉

それを宥めるようにしてひなたは笑う

ひなた「変な意味ではないと思いますよ」

若葉「変な意味かどうかではなく……」

陽乃「所かまわず上里さんと抱き合ってそうだし」

若葉「な゛っ……ゃ、あ、あれはっ」

さっきのは再会を祝したもので、特別な意味なんて何もないと言い訳を並べる若葉を横目に、

陽乃はひなたを見る。

ちょっぴり照れた様子だが、若葉ほど露骨な反応を示してはいない。

……が。

正直なところ、陽乃は別に特別だろうとそうでなかろうとどうでもよかった。

陽乃「貴女を拒む理由としては2つあるわ」

若葉「……私とひなたは、久遠さん達が言うような間柄では――」

目を背け、どこかいじらしい表情を浮かべる若葉は、

見る人が見れば、そのギャップに見惚れるのかもしれないが、陽乃には効かない。

それどころか陽乃は不機嫌そうに顔を顰めて「知らないわよそんなこと」と吐き捨てる。

陽乃「1つは、上里さんが行方不明であり、容疑者の1人として私が警戒されていること」

連れ出せるなら母親を連れ出している。と言ったことで考えを変えた人もいたが、

疑いを完全に晴らせたとは思えない。

陽乃の隣にいるとはさすがに思っていないだろうけれど、

以前行った病院からの逃亡や、千景達に見せたことで知られた九尾の力という証拠が容疑を晴らす壁になっているはずだ。

陽乃「それに加えて、貴女も疑われているでしょ。なのに、上里さんよりも私を案じて部屋を変えるなんて違和感があるわ。普通なら、貴女は今すぐにでも退院させて欲しいと願うでしょうに」

若葉「……否定はできないが」

陽乃「今だって、私がやったと確信していたから落ち着いていたし、私のところに来る余裕があったんでしょう? はっきり言って迷惑よ」

若葉「うぐっ」

ひなた「若葉ちゃん……」

若葉「す、すまない……完全に図星だ……」

がくりと項垂れる若葉を一瞥し、陽乃は「それが1つ目」としめて。

陽乃「2つ目は貴女もまた、郡さんに嫌われる側の人間だからよ。貴女がいたところで、一挙両得じゃないの」

若葉「うむぅ……」

ひなた「……残念ながらそう、ですね」

ひなたは意気消沈してしまった若葉の肩を優しく撫でながら、

真剣に考えて、切り込む。

ひなた「ですが、だとしたらどうされるおつもりですか?」

治療が必要な状態の勇者は、千景、友奈、杏そして歌野だが

その理屈で若葉がダメなら歌野もダメだろう。

球子は入院するには、まだ健康だ。

かといって、容体から考えて杏は動かせない。

となれば、残る選択肢は友奈になってしまうわけだが。

しかし、若葉と通ずるデメリットはあるものの、

宇迦之御魂大神様の御力を考えると、歌野はまだ、傍に置いておく理由がある。

若葉「何も今すぐ決める話でもないと思うが」

ひなた「それはそうですけど……早いに越したことはありませんよ」

少なくとも当日中に承諾と移動はされないだろうから、事前に決めておくのは大事だ。


1、考えておくわ
2、白鳥さんにしておくわ
3、高嶋さんにしておくわ
4、土居さんが怪我をするのを待つしかなさそうね

↓2


陽乃「土居さんが怪我をするのを待つしかなさそうね」

若葉「なんてことを言うんだ……」

ひなた「つまり、誰とも一緒は嫌ってことですよね」

陽乃「……はぁ?」

何言ってるの? と暗に込めて目を細めた陽乃の視線を受け止めながら、

ひなたは「だって」と、笑みを浮かべた。

ひなた「久遠さんはそんな怪我をするのを黙って見ていることなんて出来ませんよね?」

陽乃「する必要がないだけよ」

ひなた「……そうですか?」

信じていない顔

する必要がないのではなく、出来ないだけではと思っている口ぶり

不機嫌な表情を陽乃が浮かべても、ひなたは少しばかり呆れた顔をするだけで。

ひなた「本当は、さっきの若葉ちゃんに対しての態度と同じですよね」

陽乃「何の話?」

ひなた「そうしようとしてくるなら仕方がない。勝手にしたらって」

陽乃「知ったようなことを言われても困るのだけど」

ひなた「ですが、私の知っている久遠さんの普段の態度からしてみれば……そうかと」

思うのですが。なんて。

窺うように言うひなたの視線から、陽乃は顔を背ける。

陽乃「知ったようなことを言わないで頂戴」

背け、繰り返し、素っ気なさげな態度を見せる陽乃を見つめる若葉は得心がいったようにはっとして。

若葉「……やはり、つんでれ。と言うやつでは」

陽乃「ぶっ飛ばされたいの?」


若葉「そ、それは遠慮しておこう……というより、そんなことのために無理に体を動かさないでくれ」

左手は縫合したばっかりだし、

右手や体は、まだそこまで満足に動かせる状態ではない。

若葉「だが、そうか……私のことが嫌いと言うわけではないんだな」

陽乃「そう思いたければ思っててもいいわよ。別に。後で辛い思いするだろうけど」

若葉「なん、だと……」

ひなた「若葉ちゃんってば……」

すぐにそうやって表に出しちゃうから……と、

ひなたが宥めるのを見て、陽乃は若葉を委ねて目を瞑る。

陽乃「なんでもいいけど、長居はしないで頂戴」

若葉「寝るのか?」

陽乃「あんまり余裕がないのよ。分かるでしょ……」

若葉「ああ、そうか。そうだな、すまない」

ひなた「若葉ちゃん。若葉ちゃんは分かりやすいんですから、無理はしないでくださいね」

若葉「……精進するさ」

行方不明の上里ひなたの居場所

若葉の行動次第ですべてが暴かれかねない為、

忠告するひなたに、若葉は笑みを浮かべて、また、優しく抱きしめる。

若葉「久遠さんのそばを離れないようにしてくれ。何があるか、分からないからな」

若葉はそう言い残し、微睡んでいく陽乃を一目見て病室を後にした。

√ 2018年 10月03日目 夜:病院

↓1コンマ判定 一桁

0 友奈
4 大社
8 九尾

√ 2018年 10月03日目 夜:病院


陽乃「貴方達は……何、何なの……私を苛立たせたいの?」

夜、もうすぐ寝静まろうかという頃に有無を言わせずに訪れた訪問客

陽乃は不機嫌さを一切隠すことなく前面に押し出していて、問いかける。

答えを求めていない。

そのまま踵を返して帰ってくれることを望んでいるといった目つき

けれど、大社から派遣されてきた神官と巫女は帰ろうとはしなかった。

夜分に申し訳ありません。と、神官達が頭を下げる。

「郡様に関して自宅療養と致しましたため、今後、同様の事件は起こらないかと思います」

陽乃「……わざわざそんなこと言うためにここに来たわけ? こんな時間に?」

疲労の残っている身としては、眠っていたい時間帯にも関わらず訪れた彼らの目的が、

たったそれだけだったならどうしてやろうかと苛立たしさをにじませる陽乃のそばにいるひなたは、

その肩に身を寄せ「落ち着いてください」と囁く

陽乃が暴れることはないと心配している様子はないものの、

時間も時間だからか、ひなたも不服な様だった。

「いえ、もう一つ重要な件がございます」

そう言った神官は、傍にいた巫女へと目を向け、

その背中をやや押すようにして、前へと踏み出させる。

「念のため、傍に人を置いておくべきかと思い、傍仕えをご用意いたしました」

陽乃「……は?」

今回、千景の襲撃によって左手を汚してしまった陽乃は、

元からまともに体を動かせなかったが、より不自由な状態に陥ってしまった。

その為に、

日常生活の手伝いをする人がいた方が良いのではないかとのことで、

大社は巫女を連れてきたらしい。

巫女は高校生くらいの女の子で、陽乃のことを見ても怯えている様子はなさそうだ。

陽乃「頼んだ覚えはないのだけど」

良い具合に理由が出来たため、監視をつけようと言ったところだろうか。

怪訝な表情を浮かべている陽乃を不安そうに見つめる数人の神官

その代表のような居住まいの神官も、恐る恐ると言った雰囲気で陽乃を見る。

「万が一が起こっても人の目があれば防げる可能性もあり、また、日常生活を送るのも困難であられる久遠様の手足としてこの者をお使いいただければと……」

郡千景の襲撃

それを防げなかった責任もあるので。と付け加えて、神官はどうにか巫女を置いていこうとしている。


1、不要よ
2、そんなことより郡さんは大丈夫なわけ?
3、どうせなら上里さん連れてきなさいよ
4、要らないわよ。藤森さんで良いわ
5、化け物である私に喰われる覚悟はあるのかしら

↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

別端末ですが少しだけ

陽乃「不要よ」

「しかし――」

陽乃「勇者に並び立つ私がこんな傷を負う場面にただの一般人がいたところで邪魔になるだけよ」

それそのものを防げる可能性を神官は提示していたが、

もしもそうならひなたが殺されかけたりはしなかっただろう。

日常生活の補助についてもそうだ。

一晩中他人がいるという状況そのものが気にいらない

だが、どうしてもというのなら、知りもしない人より知ってるひなたの方がいい

そのひなたは行方不明という扱いのため、

彼女がいるから問題はないという言い訳は使えなかった。

陽乃「ナースコールを使えば助けは貰えるから、専門の知識もない人に任せる気はないわ」

陽乃のもっともらしい返しに、神官達はざわつく

その様子を尻目に陽乃はひなたのことを確認する。

神官が連れてきた巫女は、ひなたとどの程度親しいのか。

表情から推察できるのではと陽乃は思ったからだ。

しかし、ひなたの表情はこれといって変化はなく、

特別親しい間柄にはないように思える。

であれば、美佳のように否定的ではないにせよ、この場においておくのは不都合がある。

何かがあってひなたが晒された場合に、彼女が陽乃達にとって邪魔にならないよう動くとは限らないからだ。

陽乃「分かったら連れ帰って頂戴」

突っぱねる姿勢を変えることのない陽乃に神官達は攻めあぐねているようで

どうすべきかと囁きあっているのが聞こえてくる。

巫女は努めた笑顔を見せているが、陽乃は別に笑顔を見せれば懐柔できるわけではない。

陽乃「時間も時間なのだからさっさと撤収して貰いたいのだけど」

それとも。と、陽乃は呆れたように言って

陽乃「私の寝顔でも見たいっていうの?」

馬鹿にしているのかと憤る人もいれば、

そういうわけではと戸惑う人もいて、

様々な反応が重なる騒々しさに陽乃は理不尽に不機嫌な表情を浮かべる。

ざわつかせたのは陽乃の発言だが、そもそもこんな時間に来ること自体が妙だ。

昨日はまだ、ひなたの件があったために情状酌量の余地もあるにはあったけれど、今日は違う。

眠りにつく頃というやや判断が鈍る時間帯を狙ってなのか。

残念ながら、陽乃はただただ不機嫌になっただけだが。

陽乃「帰るのか、追い出されるのか。今すぐ決めて頂戴」

陽乃がそういったとたんに、風が吹き込んだかのようにカーテンが揺れる。

誰かが触れたのかと恐れる神官達は互いに顔を見合わせながら首を振って――

もう一度カーテンが揺れると、怯えた様子でご一考頂きたいと言い残して去っていった。


陽乃「……時間を考えて欲しいわ」

ひなた「本当ですね……」

悪態をついて枕に頭を落とした陽乃の側にいるひなたは逆に体を起こすと、

布団をかけ直して、また横になる。

ひなた「さっきのカーテンは偶然ですか?」

陽乃「そんなわけないでしょ」

窓が開いてる訳でもないのに。

苛立たしそうに呟く陽乃をひなたは心配そうに見つめて

ひなた「……明日からは私が鍵を閉めます」

陽乃はそれに答えなかったが、

大社が訪れるよりは良いだろうと、ひなたはベッドから降りて鍵を閉める。

休むうえで、心の平穏は重要だ。

なのに……と、ひなたは首を振った。


√ 2018年 10月04日目 朝:病院

↓1コンマ判定 一桁

1 友奈
3 歌野
5 球子
7 美佳
9 水都

ぞろ目 侵攻

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが今回はお休みとさせていただきます
可能であれば明日は少し早い時間から

遅くなりましたが少しだけ

√ 2018年 10月04日目 朝:病院


昨夜、大社によって安眠妨害されてしまったからか、

陽乃は朝からあまり元気がなく、

疲れているような様子の陽乃を心配してひなたは声をかける。

ひなた「もう少しお休みになられてもいいと思いますよ」

陽乃「……そう言われたって」

ひなた「いえ、休まれた方がいいかと」

陽乃にはやるべきことはないし、あったとして出来る体ではない。

強いて上げるなら、休む事が陽乃のするべき事だろう。

陽乃「ずっと寝てるのも疲れるのよ」

ひなた「本でも――」

陽乃「無いわ」

ひなた「テレビつけますか?」

陽乃「ろくなのやってないし」

退屈そうに言う陽乃を見て、なんとかしたいとひなたは思うものの、難しそうに目を伏せる。

陽乃は誰かの補助あってようやく外出できるといった状態だ。

ひなたの存在が明るみに出るわけにはいかないため、

ひなたが連れ出すことも出来ない。

かといって陽乃は看護士の助力を得てまで出たがらないだろうし、

そもそも……それが許されているのだろうか。

やっぱり、自由に行動出来る誰かと一緒の方が暇潰しにもなるのではと力不足を感じたところで、

扉が叩かれた。

入室許可を求める声は聞き馴染みのないものだが、それが呼んだ「白鳥」という名前は覚えしかない。

陽乃「良いわ。入れてあげて」

ひなたの窺う表情に陽乃は答え、ベッドを起こした。


歌野は相変わらず車椅子で世話係を担当している看護師に連れられていたが、

入るや否や「少し、2人きりにさせてください」と要求した。

当然、それは難しいと言う看護師だったけれど、

歌野は何も問題がないと言って再度要求し、

扉の前で待機していてくれてもいいからと言うと、看護師は渋々と言った様子で少しだけと病室を出て行ったため、

今は、陽乃と歌野しかいない。

……と言うのは歌野に見える限りで、ひなたもいるけれど。

歌野「久遠さんってば、無理をしたわね」

陽乃「このことを言いに来たの? 貴女まで耳が早いわね」

歌野「私の場合は、誰かに聞く必要はないわ。久遠さんが怪我をしたらすぐにわかる」

陽乃「……そう」

困った顔をする歌野は、まだ包帯が殆どを占有している。

手足もまったく動かせないようだ。

陽乃「で? そんな体でわざわざ私のところに来たのはどうして?」

歌野「目的を言ったら、怒るわ」

陽乃「ええ。まぁ……そもそもお断りよ」

陽乃が怪我を負った。

それもバーテックスとの戦い以外で、歌野に伝わるような大怪我を。

だから、力を使って治療にあたろうという魂胆だった。


陽乃「貴女はまず、自分のことを考えるべきよ」

歌野「そう言われても。こう、久遠さんのことは直接響いて来ちゃうから」

歌野の方がより鮮明に心情がばれてしまう状態だが、

陽乃からも歌野に対して伝わってしまうことがある。

それはただ言葉にするよりも深く沁み込んでくるためか、

聞かなかったことにするような無視をするのは難しいのだ。

陽乃「……厄介なものね」

歌野「でも、ありがたいとも思っているわ。ほら、久遠さんってば誰かを頼ろうだなんて考えないから」

にこやかな表情を見せる歌野に陽乃はあまりいい顔をしなかったが、

歌野を初めて見るひなたは、

諏訪を守り続けてきた英雄足り得る勇者の姿に羨望の眼差しを向けるよりも、

その姿を心配しているようだった。

ひなた「みなさん……本当に……」

陽乃「……体はよくなってるの?」

歌野「少しずつ良くなっているわ。見る?」

陽乃「結構よ。そもそも、誰がその包帯を取って戻すのよ。追い出した看護師を呼ぶの?」

歌野「看護師さんがいなくても、手を貸してくれる人はいるでしょ?」

陽乃「九尾を顎で使うつもり?」

歌野「ふふっ、まさか」

そんな恐れ多いことする気はないわ。と、

歌野は本当に恐れているのかと疑うような表情で。

歌野「看護師さんに出て貰ったのは、私が上里さんに会ってみたかったからよ。こんな姿で申し訳ないけど」

陽乃「貴女……」

歌野「私と久遠さんには、隠し事なんてできっこないわ」


1、素直にひなたを出す
2、やっぱり、その力は手放した方が良いわ


↓2

陽乃「……分かったわ」

陽乃が頷くとどこかで見ている九尾がその力の一端を解放して、

すぐ隣にいたひなたの姿を曝け出させる。

ひなたがいると確信していたからか、

歌野は驚いた様子もなく穏やかに笑みを浮かべた。

歌野「話をしたことはあるけれど……初めまして上里ひなたさん。白鳥歌野です。よろしくね」

ひなた「よろしくお願いします。白鳥さん」

歌野は努めて礼儀正しく、

会釈さえもままならないのが申し訳ないといった様子だったが、

ひなたは歌野の痛ましい姿に、心を痛めているようだった。

ひなた「白鳥さんは久遠さんと仲が良いんですね」

陽乃「よくないわ」

歌野「ええ、とっても」

陽乃「……」

歌野「私と久遠さんはスペシャルな関係だから」

陽乃「余計なことは言わなくていいから」

歌野「でも、知っておいて貰った方が良いんじゃないかしら」

陽乃「不要よ」


ひなたは若葉の巫女であり、

今は勇者のそば付きの役目を担っているわけでもない。

その立場の巫女に教えたところで何かがあるわけでもないし、

教えておいた方が良い話でもないと陽乃は言い切るが、歌野は違うようだ。

歌野「私と久遠さんにどんな繋がりがあるのか。それがどういう役割を担っているのか。
   久遠さんが……ううん、上里さん達にやらせようとしていることにとっては重要なことだと思うわ」

ひなた「……というと?」

陽乃「関係ないことよ。多少似ていると言うだけで全く同じことじゃない」

歌野「久遠さんから見たデメリット……それが起こる可能性もあると思って」

陽乃「そこまで深くはならないはずよ」

なったとしたら、間違いなく死ぬ。

歌野と陽乃と言うより、陽乃と水都の関係の方が近い。

力の供給を行う通り道が広がりきったら、確実に死ぬ辺りが。

ひなた「あの、一体、どういう……」

歌野「私と久遠さんは通じ合ってるの」

陽乃「ただ筒抜けなだけよ。力を供給するうえでその力と一緒に色々と」

歌野「だから、上里さんのこともしようとしていることも私は分かってるの」

むっとした態度で言う陽乃の姿を見て、歌野は楽しそうに笑って。

歌野「っ……ごほっ……げほっ……」

ひなた「白鳥さん!」

歌野「だ、大丈夫……ごめんなさい……心配いらないわ」

少し話しすぎただけと言った歌野は、

暫く呼吸を整えるだけに集中し、心配しないでと繰り返す。

歌野「良くなってきてはいるのよ。本当に」

陽乃「よくあることよ」

歌野「……ふふっ」

辛そうに笑い、

久遠さんは慣れっこよね。と、歌野は呟く。

そんなことになれられてもとひなただけが心配そうで。

陽乃「……もう分かったでしょ。今の貴女では無理よ」

歌野「けど」

ひなた「話が、見えないんですが……」

2人で通じ合っているから、言葉は多く必要ない。

そのせいか、省略されている部分を把握しきれないと困惑しているひなたに、

歌野は笑みを浮かべて。

歌野「久遠さんのそばにいようと思って……久遠さんは私が傍にいた方が回復が早いの」

陽乃「今の貴女が傍にいたら、貴女の治りが悪くなるでしょう」

歌野「久遠さんが治ってから、少し力を借りればお釣りがくると思うわ」


1、駄目よ。
2、確かに、そうかもしれないけど
3、一理あるわ


↓2

では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

では少しずつ


陽乃「一理あるわ」

歌野「……でしょ?」

陽乃の肯定が得られたからか、

歌野は安堵したように零し、息を飲んで苦し気に目を瞑る。

一時的に危機に陥ったせいか体温が上がり、

額には汗が浮かんでいて、ひなたが傍で介抱しているような状況だった。

陽乃「それで貴女は平気なの? 今にも死にそうな顔しているけど」

歌野「ええ。久遠さんにリソースを割くから、治りが遅くなっちゃうくらいで、下手に力を使わなければ悪化することもないって」

陽乃「その力の浪費が私の回復なんじゃないのって聞いてるのよ」

歌野「……ううん、そんなことはないわ」

歌野は薄く目を開く。

まだ片方の顔は包帯で覆われているせいで見えないが、

見えている歌野の瞳は、普段の歌野よりも微かに色鮮やかに見える。

陽乃「貴女……もしかして、宇迦之御魂大神様と」

歌野「体を治すには、本来持ち得る自然治癒力ではどうにもならない……だから、常に、私は宇迦之御魂大神様と繋がっている必要がある」

当たり前の話だ。

活性化され過ぎた生命力が肉体そのものを土壌として成長しようとしているのが今の白鳥歌野だ。

それを抑え、元に戻していくには過剰な生命力を抑え込み、導く力が必要不可欠で、

人間の医療技術などでは到底手の出しようがない領域にある。

だから、歌野は休むことなく宇迦之御魂大神様とのつながりを持ち続けているわけだ。

とりわけ、魂の存続に直結する生命力への影響は、精神への影響よりも深く、根強いものとなる。

その結果――

歌野「……神様の声が、聞こえるの」

繋がりの深さが増せば、それはより近付くことになる。


ひなた「神託を受けているということですか?」

陽乃「もっと直接的なものよ。九尾ほど明確なものではないにしても、対話を可能としているんだと思うわ」

ひなた「それって……」

危険な状態なのか。

ひなたは口に仕掛けたその言葉を飲み込んで、歌野と陽乃に注視する。

歌野は落ち着いているように見えるが、それが影響を受けすぎている結果の可能性もある。

陽乃はその状況をあまりよく思っていない。

だったら、良くないことなのではと考えたひなたは、視線を感じて目を向けると、歌野が笑みを浮かべていた。

歌野「心配は要らないわ……ただ私がご神体として、見初められたにすぎないから」

陽乃「馬鹿言わないで。そう歪められただけでしょ。貴女は本来そんな人じゃないんだから」

歌野「いいえ、勇者だったから……多少は、ね」

陽乃「……」

確かに、勇者の適性は神々から与えられる力を扱えるものである。

その素質は全くの0だったわけではないとは思うが、

ご神体には遠く及ばなかったはず。

やはり、陽乃との繋がりが最も大きな影響を与えたのだろう。

陽乃「貴女、人間じゃなくなるわよ」

歌野「ふふっ、今更?」

陽乃「……馬鹿なことを」

歌野の体はもはや人間のそれではなくなっている。

ご神木のようなものに昇華されかけていたわけだから、それはそうなのだが、

最早、人間の形をしただけの何かになりかねない。

分かりやすく言えば、九尾に似た何かだ。

陽乃「そうならない為にも……いえ、でも……」

歌野「大丈夫、全部、承知の上よ」

悩む陽乃を一目見て、歌野は、浮かべられるだけの笑みを浮かべる。

歌野「宇迦之御魂大神様は私に力を貸してくれてる。存分に振るえって……託してくれている」

陽乃「貴女を利用しているだけよ。私を護るために」

歌野「私が、そうしたいから大丈夫」

元々、その為に力を貸して欲しいと願ったのだから。と、

歌野は全く意志の変わらない瞳で答える。

宇迦之御魂大神様は、陽乃の血族……久遠家が代々奉ってきた神のひと柱だ。

しかしその久遠家の人々は陽乃とその母を残して皆殺しとなった。

長く奉られようとも、恩恵も何も与えられるどころか、みすみす奪わせてしまったことが

かの神も、心残りなのかもしれない。

歌野「利害の一致、何も問題はないわ」


そう言った歌野はやっぱり、また咳込んでしまうが、

すぐに落ち着いて、心配しないでと繰り返す。

陽乃「だけど、貴女……その心は」

歌野「私が久遠さんを助けたいって思ったのは、宇迦之御魂大神様は関係ないわ」

その前からずっとそうだったじゃない。と、歌野は困ったように言う。

諏訪にたどり着いた時点で死にかけていたくせに、

それからも何度も無理を繰り返して、

諏訪の重荷を肩代わりまでして……

歌野「久遠さんがいけないのよ」

常に孤高で、他者に対して冷酷であったならそうはならない。

陽乃はそんな素振りを見せながら結局何一つ放っておくことは出来ず、

冷酷さなんてハリボテでしかなく、突っ撥ねるくせに周囲のために命を懸けている。

そのくせ、自分のことは放っておいてくれと言わんばかりの態度で。

歌野「放っておけるわけ、ないじゃない」

陽乃「同情なんて――」

歌野は「違うわ」と、陽乃を遮る。

歌野「心も体もすり減らすだけで終わるはずだった私達を、救ってくれたから。だから……今度は、私達が久遠さんを助けたいの」

陽乃「そのためなら死ぬことも厭わないって?」

歌野「死ぬ気は、無いわ。久遠さんが、生きている内はね」

絶対に1人にはしないから。と。歌野は笑みを見せた。


1、今は自分の体を治すことを考えなさい
2、治ったら覚えてなさい
3、諏訪になんて、行くべきじゃなかったわ

↓2


陽乃「今は自分の体を治すことを考えなさい」

歌野「……ええ。そのためにも、久遠さんのそばにいるわ」

陽乃「それは約束できないわ病院と大社が許可を出さなければいけないだろうし」

歌野が言っていたことは確かに一理ある。

陽乃を治すことに注力し、

その後に歌野が何の心配もなく体を治せるようにする。

陽乃も歌野も互いに傷ついていて、

どちらも並行して治すより、どちらか一方を治して……という方が

陽乃達の重症具合から見ても正しい。

病院側は許可するかもしれないが、それを大社が許すだろうか。

ひなた「私の想像でしかありませんが、大社側は許可をするしかないかと思います」

騒動を起こした千景から勇者の力をはく奪できないほど、

今の戦力は乏しく、バーテックスの攻撃は激しさを増してきている。

友奈が戦線復帰できるという話だが、結局は病み上がり。

若葉も球子も千景も連戦によって疲弊し、次の戦いで離脱しかねない。

猫は猫でも、野良猫ほど気性が荒い陽乃の手でも借りたくなるだろう。

歌野「なら、今すぐにでも進言しないと」

陽乃「私が治ったら困るでしょうに」

ひなた「そうも言っていられないかと……久遠さんの力は戦局を一転させるだけの力がありますから」

歌野「久遠さんはいい加減、自分の価値を認めるべきだわ」

陽乃「はいはい」

何度も言われたことに、素っ気ない態度を取る陽乃に対して、

ひなたと歌野は困ったものだという様子で顔を見合わせる。

陽乃の価値は誰が見ても計り知れないものだが、

それを認められるほど、取りこぼしたものの数は少なくなかった。

その経験もあって、陽乃は文字通り必死に護ろうとしているわけで。

歌野「……本気で言ってるのに」

陽乃「はいはい。分かったから」

ひなた「絶対に分かっていない返事ですね……」

歌野「久遠さん。元気になったら、どこかお出かけしましょ」

陽乃「嫌よ」

歌野「私、まだ観光もできてないのに」

陽乃「そんなの、喜んでやりそうな高嶋さん達に頼んで頂戴」

陽乃がそう言うと、

歌野はそれも悪くないけど、と言って。

歌野「私は久遠さんと一緒に行きたいの」

陽乃「諦めて頂戴。分かるでしょ」

歌野「……でも」

陽乃が四国でどのような印象を持たれているのか

知らないわけではないはずの歌野は、それでもと言った様子だったけれど、

陽乃はかたくなに拒んで、首を振った。

陽乃「たとえ貴女が世界の希望でも、私の評判はそれを地に堕とせるだけの力があるのよ」


√ 2018年 10月04日目 昼:病院

↓1コンマ判定 一桁

1 友奈
5 大社
7 水都
9 侵攻


√ 2018年 10月04日目 昼:病院


時間だからと入って来た歌野の世話係を担っている看護師に要望を告げたが、

同室になるかどうかは分からない。

ひなたは拒否できないはずだと考えているみたいだけれど、

陽乃は自分がどれだけ向こうに嫌われているかを加味して、

望み通り行くとは限らないと思っていた。

歌野でなければならない理由はある。

けれど、それを素直に聞いてくれるような組織だろうか。

ひなた「……眠れませんか?」

陽乃「1日中寝るなんて、意識的には出来ないことだわ」

ひなた「仰向けになりますか?」

陽乃「横を向いてからまだ1時間も経ってないし」

陽乃は退屈そうだけれど、やはり、どうにもできない。

テレビはさっきまでつけていたが、

つまらないし耳障りだからと消してしまった。

ひなたは少し考えて。

ひなた「眠れないのでしたら、何かお話でもしますか?」


1、断る
2、話って、何を?
3、そんな暇はないわ


↓2

陽乃「話って、何を?」

ひなた「そうですね……例えば、体が治ったらしたいこと。とか」

陽乃「私の話でしょ。それ」

ひなた「私の場合は、病院から出られるようになったらですね」

あるいは、大社から自由になることが出来たらでしょうか。と

ひなたは考えて、にこりと笑った。

あんまり乗り気ではないと感じたからだろうか。

陽乃は目を細めて。

陽乃「私はただ、自分のやるべきことをやるだけよ」

ひなた「バーテックスと戦うこと。ですか?」

陽乃「今の私にとっては、それ以外にするべきこともしたいこともないもの」

家族を結界の外に連れ出し、放った人々

そして、それらすべてを食い荒らしたバーテックス

どちらの方が悪いだなんて言葉はない。

どちらも悪で、どちらも滅んでしまえばいい存在だ。

陽乃「そもそも、体が治ったところで私には自由なんて与えられないわ」

ひなた「その時はなりふり構わず逃げてください」

陽乃「逃げるって、どこへ?」

ひなた「久遠さんが行きたいところへ。です」


陽乃「何を言って……」

陽乃は言いかけて、ひなたの真剣な表情に気づいて口を閉じる。

ひなたは本気で言っているのだ。

大社に囚われてしまうくらいなら、どこかへと逃げ出して欲しいと。

陽乃はひなたと違って、捕えておけるような存在ではなく、

例え拘束具を使われようと逃げ出せてしまうような力がある。

けれども、大社は陽乃を手中に収めておきたいはずだ。

いいや、久遠陽乃と言う災厄を扱える組織であるのだと誇示したがるだろう。

バーテックスは超常の異形であり、討ち果たすべき存在ではあるけれど、

神樹様と勇者たちのおかげで対抗することが出来ている。

今でこそ、多少は不満も噴出しているけれどどうにかなってはいる状態だった。

しかし、陽乃は違う。

贄とすべきだとか、人を殺めるような危険人物であるだとか

バーテックスを呼び起こした張本人という噂さえもあるくらいだ。

それでいて、神樹様も勇者達もものともせず結界の中に入り込んできているものだから、

民衆の目下の不安はバーテックスよりも陽乃が占めているだろうし

そんな危険な存在を野放しにしていては、大社という組織そのものを揺らがしかねない。

ひなた「……嫌な言葉ではありますが、大社は久遠さんをコントロールしたいと考えているはずです」

バーテックスと戦わせることを前提として、

大社に従順で、人々を護り、勇者という肩書きに違いない存在へと押し固めたいと考えているのではとひなたは考えていた。

ひなた「ただでさえ窮屈な思いをされているのに……そのうえ、責務を押し付けられるなんて」

陽乃「今更だわ。そんなの」

民衆は償いを求めている。

そして、尽くすことを求めているし、それを当然のものだとも思っている。

陽乃「私だけじゃない。乃木さん達だってそう。選ばれたから。力があるから。それが出来るから。やってくれるよね? って、押し付けられてる」

望んでやっている人もいるだろう。

郡千景がそうだし、高嶋友奈だってどちらかといえばそちら側。

乃木若葉もきっと。

けれど、白鳥歌野はどうだったか。伊予島杏は、土居球子は

その巫女としての役目を与えられた上里ひなたは、藤森水都は。

今更になってその役割を与えられて良かったと思っている人もいないわけではないけれど、好き好んで役目を受けたわけではなかった。

陽乃「私はやりたいようにやるだけよ。その結果救われてしまう命があるなら仕方がない。次死んでくれればそれでいいわ」


ひなた「久遠さん……」

陽乃「そんな目で見られても困るわ。本心だもの」

ひなた「……」

また心にもないことを……と、

ひなたは困ったように陽乃を見つめたが、陽乃は動じない。

陽乃は冷酷なことを言うだけ言って、

目の前の命を取りこぼすことを極度に嫌がる。

それを分かっているから、ひなたは心配そうに首を振る。

ひなた「……もしあれなら、ここの外に出て貰っても構いません。諏訪のような場所が他にもあるかもしれませんし……」

陽乃「そこでなら、私が穏やかに暮らしていけるとでも?」

ひなた「忌み嫌われているこの場所よりは――」

陽乃「だったら、諏訪を出る必要はなかったわ」

ひなた「それは、若葉ちゃん達が戦うようになったから出てきてくれただけですよね」

陽乃「まさか」

嘲笑染みた声で言う陽のだったけれど、ひなたは瞳を強くする。

ひなた「久遠さんがそういう人だって、私は知ってますから……だから」

ひなたは、陽乃の右手に触れる。

左手は傷つき過ぎて、護りすぎて、触れてはいけない状態だから。

ひなた「……ありがとうございます」

陽乃「私は別に……」

ひなた「若葉ちゃん達を守ってくれて、白鳥さん達を連れてきてくれて、私を守ってくれて……」

どうしましょう。と、

ひなたはまるで困っていないような表情で困ったふりをする。

ひなた「感謝してもしきれません」


ひなた「このままだと、久遠さんが望まないような恩返しに走ってしまうかもしれません」

陽乃「……なんなのよ」

明らかに、茶番だった。

ひなたが口にした感謝は、確かに陽乃がしてきたことだが、

その都度感謝の言葉は貰っている。

何一つ受け取ってこなかったし、全て突き返してきたのだけれど。

ひなたはそれが溜まりに溜まったとでも言いたげだ。

ひなた「そこで、どうでしょうか。何か叶えたいことはありませんか?」

陽乃「……さっきの質問はそれが理由なのね」

どこかに行きたいとでも言えば、

ひなたは……きっと、若葉達も巻き込んでそれを叶えようとしただろう。

ひなた「もちろん、関わらないで欲しい。は、なしでお願いします」

陽乃「第一志望を潰すのは止めて頂戴」

ひなた「……そんな寂しいこと、言われたくありません」

ひなたは切に願って、陽乃を見つめる。


1、何にもないわ
2、私の前では口を閉じてて頂戴
3、なら、貴女自身が私の捧げものになる?
4、余計なことをしなければ、それでいいわ
5、最優秀の巫女として、大社をどうにかして頂戴


↓2


陽乃「余計なことをしなければ、それでいいわ」

もちろん……というと酷い話だが、

陽乃はひな他を拒絶するつもりでそう言った。

杏達にも同じように繰り返してきて、

その言葉が全く意味をなしていないことは承知の上で。

しかしやはり、

それを突き付けられた少女は少しばかり驚いた表情をするものの、

結局は受け入れてしまうのだ。

仕方がないのではなく、それでも構わないと。

陽乃「誰もかれも、どうしてそれで納得できるんだか」

ひなた「……だって、私達にはお願いすることは出来ても、従わせることは出来ませんから」

ひなたの言う、寂しいこと。

二度と関わらないで欲しいという要求は、ひなたは言わないでと願う権利しかなく

陽乃はそれを突っ撥ねて求める権利がある。

そして、陽乃にはそれを従わせるだけの力がある。

しかし、そうはならなかった。

ひなた「だから、それでも嬉しいんです。少なくとも……久遠さんのそばにいても良いってことですから」

陽乃「……余計なことをしなければ。と、言ったはずよ」

ひなた「はいっ。もちろんです」


余計なことはしない、過ぎたことはしない

それは、ひなたが得意とするところだ。

一線を越えることなく、弁えて、俯瞰する。

間違いなく、出来る。

けれど……

陽乃「何、不満?」

ひなた「えっ……いえ……」

陽乃「そう」

陽乃は素っ気なく、興味がないかのように呟いて目を閉じる。

そのまま眠ってしまうかのような、

静けさが広がりかけたところに、陽乃が口を開く。

陽乃「私は貴女のそれを優しさと言ったけど、優しさは別に、必ずしも持っていなければいけないものではないわ」

ひなた「久遠さん?」

陽乃「貴女が必要だと思うなら。ね」

陽乃は、その優しさは不要だと思っている。

捨てられるなら捨ててしまった方が良いと。

他人に尽くす人生など、他人に左右され続ける人生など

自分の人生だと、胸を張れるようなものだとは思えない。

かつて、偉大な発明家が言った。

誰かのために生きてこそ、人生には価値がある。と。

もしもそれで胸を張れるのなら、それこそが勇者だと言えるだろう。

陽乃「私は捨てたけど」

ひなた「……そうなんですね」

陽乃は捨てたという優しさを、本当は捨てきれていない。

それこそ、心残りのように。

けれど、それをつついたところで何にもならないと分かってしまう。

陽乃の拒んだ余計なこと。

それに含まれるのではないかと考えて、口を閉ざす。

これは優しさと言えるのだろうか。

必要以上に踏み込まず、一歩引いて考えていることを。

陽乃は別に踏み込んでも構わないというようなことを言っていたけれど。

ひなたはぐっと堪えて、何も言わなかった。

陽乃はその葛藤を見ていたが、

陽乃もまた、何も言わずに目を閉じていた。

陽乃はいつだって踏み込める。

けれど、その必要を感じなければ、陽乃はそこで立ち止まったままだ。


√ 2018年 10月04日目 夕:病院

↓1コンマ判定 一桁

0 若葉
2 水都
4 大赦
6 友奈
8 歌野

ぞろ目 特殊

√ 2018年 10月04日目 夕:病院


段々と日が傾き、また世界が闇に閉ざされようとしつつある頃に、陽乃の病室には来客があった。

誰なのかと声が入るまでもなく、

陽乃は入れてもいいわ。と、ひなたを促し、鍵を開けさせた。

水都「……あれ」

陽乃「どうかした?」

水都「陽乃さん……もう歩けるんですか?」

陽乃「まさか」

ならどうして……と、水都は困惑したように呟く。

鍵が開いた音がしたのに、扉の前には誰もおらず、

病室の中に見えるのは、ベッドで横になっている陽乃1人。

では誰が鍵を開けたのか。

陽乃「どうしたのよ」

水都「あ、いえ」

水都は、九尾ではないかと思ったのだろう。

その存在を確かめるように辺りを見回してから、首を振った。

水都「色々あったそうで」

陽乃「貴女も聞いたのね」

水都「はい……その、立場上聞かざるを得なくなりました」

陽乃「……嫌な言い方ね」

水都「成り行きではあるんですけど……ここにいる勇者様方のそば付きの役目を任されてしまったんです」


陽乃「まぁ……そうなるでしょうね」

水都「郡さんが自宅謹慎になって花本さんが激しく抗議したため、問題を起こすことを警戒したのではないかって乃木さんは言ってましたけど」

私も同意見です。と、水都は顔を顰める。

千景に心酔しているかのような美佳は、千景が自宅謹慎となった原因が陽乃であると考え、

排除する方向に行動してもおかしくないと思われているらしい。

実際、公にはされていないだけで、美佳にはその前科がある。

けれど。

陽乃「私なんかに構うより、郡さんをどうにかすると思うけど」

水都「どうしてですか?」

陽乃「だって、私を殺せても何も解決しないじゃない」

水都「……それは、確かに」

千景の実家が千景にとって毒にしかならないなら、

美佳はそこから解放することを考えるはず。

原因が陽乃であっても、その排除より据えるべきことだと考えるだろう。

陽乃「とはいえ、貴女が選ばれたのは私の為だと思うわよ。貴女なら傷つけられないとか、誤解しているみたい」

水都「そうですね。陽乃さんは故意に誰かを傷つけることなんてありえないのに」

満面の笑みで、水都はそう言った。



1、それで? どうするのよこれから
2、ひなたに会わせておく
3、他の勇者の状況
4、大社について
5、貴女も誤解しているようね

↓2

では、本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃「それで? どうするのよこれから」

水都「想定外ではありますけど、代表になれたので立場を最大限に活かしてみようかと思います」

水都はこちらに来てから、環境に慣れていないというのを理由に歌野の側にいることが出来ていたし、ある程度の自由が許されていた。

けれど、

勇者に関する情報、大社に関する情報、神樹様に関する情報など

制限を設けられていることも少なくはなかった。

今回、消去法めいた流れではあるが巫女の代表格として勇者の側付きに任命されたことで少しは解禁されるだろうと水都は思っている。

水都「陽乃さんの力や神樹様の力について調べられたらなと……」

あと……と、水都はついでのように言い、

本命としてはと陽乃を見つめる

水都「陽乃さんの案を巫女として控えているみんなに話してみようかと」


陽乃「みんな死ぬわよ」

ひなたや、せめて水都くらいの素質があるなら多少はどうにかなるかもしれないけれど

それよりも弱い力では確実に呑み込まれるだろう。

命を尽くすだけで何にもならずに終わることもあるかもしれない。

水都「うん……だから、ちゃんと話してそれでもついてきてくれる人にって思ってる」

陽乃「どれだけいるんだか」

ひなた「いえ、おそらく……」

陽乃のぼやきにひなたが反応すると、

それに続けるようにして水都が口を開く

水都「何も出来ないのは、辛いですから」

実際には出来ることがないわけではない。

巫女として選ばれた以上は、神樹様の神託を受けるという重要な役割を担っているからだ。

けれど……

水都は少し言葉に迷って。

水都「……勇者の戦いについて、諏訪から四国に戻るまでの映像が出回ってて……」

陽乃「大社が回収したってやつでしょ?」

水都「巫女の間でこっそり隠し持たれてるみたいです」

花本さんが回収しきれないとぼやいていた。と、

水都は小さく呟く。

陽乃「は?」

諏訪から四国に戻る期間の戦いの記録

死んでもおかしくないほどの傷を負いながら、

それでも、人々を守り続けていた陽乃達の姿は、大社によって秘匿されたはずだ。

それは、

陽乃が関わっているというのもあるが、

その内容があまりにも凄惨なものだったからだ。

自らを蝕む力を使う陽乃はとても見ていられるものではなかったし、

何より、そこに群がるバーテックスという脅威は、いまだ薄れることのない絶望を再燃させてしまう。

だから、回収されたはずなのに。

水都「みんながみんな、私と同じ気持ちだとは思いません。けど、たぶん、そんな人もいると思います」

もしもそうだったなら、着いてきてくれるはずだと、水都は困ったように笑う。

水都「力がないのに、頑張ってしまうのは……いやかもしれないけど」


力がない人が、命を懸けても

それは何も成すことが出来ずに失われてしまう可能性がある。

可能性はあるが、高くはなくて、確実性もない。

希望を持たなければならないもの。

陽乃さんは期待するなんて嫌いだろうから。なんて水都は思って。

水都「でも、みんなで協力が出来れば何かが変わるかもしれませんし」

ひなた「弱いからこそ、手を取り合っていくんです」

ひなたは水都には聞こえていないと分かっていても、

あえて、言葉にする。

陽乃「私がダメと言ったって、やるんでしょう?」

水都「希望も何もなくて、絶対に意味がなく終わっちゃうなら……さすがに」

どちらにしても確信の持てない話だから、

水都よりも知識のある陽乃や九尾がそれは無意味だというのなら、

他の人に協力してとは言えない。

水都「でも、それはそれとしても……大社の在り方を変えられないか、みんなで考えてみようかなとも思ってます」


1、せいぜい頑張りなさい
2、無駄よ
3、気味が悪いくらいにやる気じゃない
4、貴女が? 出来るの?
5、巫女よりも勇者システムを作った大社に話したら?


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃「せいぜい頑張りなさい」

水都「!」

陽乃「……何よ。無駄だから止めなさいとでも言うと思ってたの?」

水都「あ、えっと、少し」

躊躇いながらではあったものの、素直に頷いて答える水都を一瞥して陽乃は目を細めた。

陽乃「私は別に死にたい人を生かすつもりはないし、生きたい人を殺すつもりは無いもの」

死ぬ可能性があるのだと知らせたうえで

それでも死ぬ道を選ぶのなら、陽乃はそれに介入する気はないし、

生き残れる可能性に賭けて何かをしようというのなら、

陽乃は、やってみたら良い。と答えるだろう。

陽乃「貴女が必要だと思って、それに賛同する人が居るのなら自由にやれば良いし、私の邪魔にならないことなら構わないわ」


水都「はいっ。陽乃さんの力になるよう頑張ります」

ひなた「ですが、簡単なことではないと思います。やはり、私達巫女は子供で、本当に仕切っているのは大人ですから」

陽乃「まぁ……」

そう言われれば、確かにそう。なのだろうか。

巫女は子供達で構成されているけれど、

今まで見た神官は陽乃から見て大人の年代の人しか見られなかった

陽乃は彼らが大社内での要職についているのかどうかは知らないが、

巫女として大社と接してきたひなたが言うのならそうなのだろう。

陽乃「子供と大人のどちらが大社に求められている役割を担っているのかにもよるんだろうけど」

神樹様の意思を受け取り、伝えることか

混沌としてしまった今の世界を治めてくれることか。

前者であれば巫女がその役割を担っているものの

後者まで担うことは出来ない……とまでは言わないけれど、難しい。

神託を受ける巫女としての役目だって、それ自体は可能だけれど、

伝えるのが子供の口では、信じて貰えないこともあるかもしれない。

水都「陽乃さん?」

ひなたの言葉に考え、言葉を口にしていた陽乃を不思議に思ったのか、

水都は小首をかしげる。

陽乃「……何でもないわ」

水都「そう、ですか?」

水都には見えていないから、独り言にしか見えなかっただろうけれど、

実際にはすぐ隣にひなたがいる。

そのひなたは困った顔で「藤森さんには見せても平気なのでは?」と呟く。

水都は歌野と同じように陽乃の味方だ。

美佳には知られたら大変なことになるけれど、

水都なら、大丈夫なはずだ。

水都「確かに、大人を味方につけたいです」

陽乃「考えがあるの?」

水都「そこまでは」

水都は残念そうに首を振る。

水都はまだここに来てから日が浅く、誰がいるのかも分かっていない。

だからか、ひなたが口を開く

ひなた「久遠さんのお母様は……どうでしょう?」




1、何を言ってるのよ
2、貴女、知ってるの?
3、そう言う話は貴女が見えていないと意味がないでしょう

↓2

では遅くなりましたが本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば少し早い時間から

昨日は出来ませんでしたが、少しだけ


陽乃「貴女、知ってるの?」

ひなた「知ってはいますが……」

言い淀んだひなたは「知ってはいますが、お会いすることは出来ていなくて」と、首を振る。

大社に加わっていると言われている陽乃の母

久遠家が関わっていた神社では陽乃と同じく巫女としての役割を担っていたたため、

同じ巫女としてかかわる機会があっても良いものではないかとひなたも思っていたけれど、

陽乃の母親は、巫女ではなく神官として所属しているのだとか。

ひなた「神官の中にも、一応は味方してくれる人もいないわけではないのですが……その方もお会いすることは出来なかったと」

陽乃「……つまり、あなたがいた施設にはいなかったってこと?」

ひなた「そう、ですね」

ひなたは軽く頷いて、目を伏せる。

――神官の名簿にも名前はなかったぞ。上里、本当に所属してるのか?

神官として所属しており、

囚われているひなたと接することが出来たその人は、困惑したようにそう言っていた。

陽乃の力を聞いているからか、化かされているんじゃないか。とも、疑っていたけれど。

水都「あの……陽乃、さん?」

陽乃「……何?」

水都「えっと、その……誰か、いるんですか? 九尾さんとか」

陽乃「あぁ……」

母親のことを言うものだから、

ついつい普通に話してしまったが、

その相手であるひなたは水都の目には映っていない。

独り言と言うには長く、そして、相手がいる言葉だったように思う。

水都は歌野と同じ側……つまりは陽乃の味方だ。

ひなたがここにいることを知っても、

それを大社側に知らせたりはしないだろう。

何より、水都が巫女として傍についている歌野が同室になるかもしれない以上、

水都に隠したままというのは難しいはず。

陽乃「まぁ、そうね。九尾ではないけど……」

陽乃はそう言って、ひなたを一瞥する。

その視線を追うように水都が目を向けると、

誰もいなかったはずの陽乃の傍らに人の姿が突然現れた。

水都「あ……えっと」

ひなた「改めて、上里ひなたです。お話だけはしたことありますが、顔合わせは初めてですね」

水都「あ、は、はい。藤森水都……です」

にこりと笑うひなたとは対照的に、

やや困惑していて、影っているようにも見える水都の表情

あまり好んではいなかったのかと陽乃が目を細めると、水都が口を開いた。

水都「い、一緒に寝てるんですか?」


ひなた「えっ、あぁ……はい」

水都「私とうたのんとは全然……そういうの……」

陽乃「仕方がないじゃない。上里さんは行き場所がないんだから」

九尾の力があるから隠せているだけで

それがなければあっという間に捕捉されて、見つかるだろう。

それに、大社の施設から連れ出したのは陽乃だから、

その保護をする責任がある。

陽乃「大体、そんなことどうだっていいじゃない」

水都「よくないです……というか、とっても大事なことです」

陽乃「どうしてよ」

水都「だって、すんなり許すって言うことは、つまり、その……上里さんには心を開いているってことで」

陽乃「何を言ってるのよ貴女は」

ひなた「えぇっと……久遠さんは、他に場所があれば頼み込んでも断っていたと思いますよ」

少なくとも、私には心を動かすことは出来なかったと思います。と、

ひなたは困った様子で笑って。

ひなた「久遠さんはただ、責任感が強いんです。だから、きっと、藤森さん達のことも大切にしてくれると思いますよ」

水都「……」

陽乃「そんな顔で私を見ないで頂戴」

本当ですか? とでも聞きたそうな水都の視線からは、逃げられない。


歌野は勇者だが水都は戦う力のない巫女で

その二人だけでなく、諏訪から連れてきた人々がいる。

そして、諏訪に置いてきてしまった人々も。

何も言っていないけれど、その置いてきてしまった人のことすら、陽乃はまだ守っている。

自分の体を治すことすら、そっちのけで。

それを責任感ではないというのなら、何だというのか。

ひなたに言ったように、優しさだろうか。

水都「でも、それはそれとして羨ましいです」

ひなた「ふふっ、久遠さんも大切に思われていますね」

陽乃「そういうのじゃないでしょ」

水都「大切ですよ。だから、あんまり無理はして欲しくないんですけど」

バーテックスとの戦いも、それ以外のことも。

ひなたを連れ出したことだって、

バーテックスと戦うのに比べれば他愛もないことかもしれないけれど、無茶だ。

水都「それで、さっきは何の話を?」



1、貴女には関係ないわ
2、母のことよ

↓2

では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから


天乃のおまけについては完成させる予定ではありますが、諸事情でもう暫く時間がかかると思います。
すみませんが、もうしばらくお待ちください。

では少しだけ


陽乃「母のことよ」

水都「陽乃さんのお母さん……? それが、大社の施設にはいないって」

なら、どこに?

と、ひなたに対して問いかけた水都だったが、ひなたは首を横に振る。

陽乃の実家も神社も焼き討ちに遭って使い物にならない。

そこに隠れ潜んでいた人もいなかったわけではないけれど、

普通は、無理だ。

水都「上里さんで調べきれなかったなら、私でも調べることは難しい……かな」

陽乃「初顔で勇者の側近務めるような人、受け入れられるかしらね」

ひなた「みんなは、そんな意地悪な子達じゃないですよ」

仲良くしてくれるはずだとひなたは思っているようで、

陽乃の警戒心から来ていそうな言葉に困った顔をする。

ひなた「藤森さんが諏訪から来られたことは周知されているでしょうし、興味津々で近づいてくるかと」

諏訪の勇者である白鳥歌野のこともそうだが、

それらを連れ出したとされている久遠陽乃という人物について、聞きたがるだろう。

ここでは悪評の限りに囁かれている彼女が、

向こうでは一体、どうだったのか。

ひなた「仲良くしてあげてください」

水都「私がして貰う側だと思います」

けど頑張りますと、水都は言った。


水都「陽乃さんのお母さんの居場所については、たぶん、力になれないとは思うけど、頑張って調べてみますね」

陽乃「目を付けられるから止めておきなさい。面倒よ」

水都「諏訪から来た時点で、目はつけられてますよ。陽乃さんは命の恩人ですし、大社ではなく陽乃さんに尽くす理由があるので」

ひなた「そうなんですね……大社からは何か言われたりしていますか?」

水都は、勇者のそば付きを担当するにあたって、

いくつかの説明があったことをひなたに話した。

バーテックスとの戦いを経て、勇者達は心身に何らかの影響が出ている為、

その様子を詳細に報告するように。と。

それには、

若葉、友奈、千景、球子、杏、歌野

そして、久遠陽乃についても報告の義務が課されている。

ひなた「それは、随分と穏やかではないですね。私の時にも様子を確認して来たりはしてましたが」

水都「勇者様の様子がおかしいのは事実なので、それを大義名分とされたのかと……」

本心は別に心配してのことではないと思いますよ。と、水都は吐き捨て、

陽乃へと目を向ける。

特に、陽乃さんに関しては心配ではなく、恐怖ゆえの監視だろうと水都は考えていた。

水都「陽乃さん、巫女のそば付きを断ったんですね」

陽乃「ええ」

水都「だから……」

水都はそう言って、決心したように息を飲む。

水都「私から、ここでの上里さんの記憶を消すことは出来ますか?」


陽乃「はぁ?」

水都「私、嘘つくのは苦手なので」

手紙などでの報告義務ならばどうとでも躱すことが出来るけれど、

これについては、対面の報告になるため、

図星をつかれればどうにもならないのだと水都は言う。

水都「私、意外と顔に出ちゃうので」

陽乃「……意外?」

水都「そこに疑問を持たないでくださいっ」

むっとした水都は、けれど、すぐに表情を正す。

水都「これは冗談じゃなく、まじめなお願いです。私のせいで上里さんが露見するのは望むことではありません」

ひなた「でも、その為に記憶を消すなんて」

水都「出来るならそうした方が良いってだけです。九尾さんの力なら、それに似たことが出来るはずなので」

陽乃「後遺症が出るかもしれないわよ」

水都「迷惑をかけて後悔するよりは」

陽乃「なるほど……」

水都「陽乃さんだって、上里さんのことがばれるのを恐れていたから私にも見せようとしなかったんですよね」

だったら。と、水都は頷く


1、良いわ。やってあげる
2、なら、貴女はその程度だってことね
3、それは私に信頼するなってことかしら

↓2


陽乃「それは、私に信頼するなってことかしら」

水都「違っ」

陽乃「何が違うのよ。役に立たないから切り捨ててくれって言ってるんでしょ」

それはあまりにも極論だし、曲解でしかない。

陽乃もそれが分かっているはずだが、訂正するようなそぶりはなかった。

ただ、水都の思考の全てを読むかのように目を細めて。

陽乃「守るべきことも守れないような力しかないから」

水都「っ……」

ひなた「久遠さん……あのっ」

陽乃「貴女は黙ってて頂戴」

言い方を変えるべきだと。

どうせそんなことを言おうとしているのだろうと陽乃は容赦なく、ひなたを口止めする。

陽乃「私は上里さんを攫ったし、ここに隠した。それは確かに大社に知られると面倒くさいし……」

陽乃はそこで言葉を区切る。

きっと、押しかけてきてあれやこれやと陽乃に対して行うだろうし、口にするだろう。

そうなったら、

この病室から生きて帰ることが出来る人間は、いなくなる。

陽乃「色々問題があるから、漏洩されるのは困るわ」

水都「だからこそ、私の記憶を――」

陽乃「そうね」


水都の話を聞かずに、陽乃は肯定する。

だからこそ、リスクである水都の記憶を封じるべきだ。

本人が自分にその危険性があると自覚し、

そうするべきだと言っているなら、

なおさら、処置することは正しい選択だとも言えるだろうから。

しかし――

陽乃「気に入らない」

水都「え……」

陽乃「気に入らないと、言ったのよ。貴女が」

陽乃は心底不服とでも言うかのように吐き捨て、

水都を睨んで、ため息をつく。

陽乃「私は期待をするのもされるのも嫌いだし、誰かを信じることだって頼ることだってお断りだわ」

体が体で、

その信憑性は乏しいだろうが、

依然として、それを拒みたいと思っている。

陽乃「私は常にそう言っているし、拒んできた。貴女だってそれは承知のはず」

水都「分かって、ますけど……」

陽乃「分かってる? 貴女が? ならどうして、貴女はいつだって私から離れようとはしなかったのかしら」

四国に来てからは自由が失われ、そうすることも少なかったが、

諏訪でも、諏訪から逃げ出した道中でも。

水都は陽乃を放ってはおかなかった。


陽乃「分かっているのなら、貴女は早々に私の目の前から消えてくれていたはずだわ」

命の恩人だから

ボロボロだから

守ってくれてしまう人だから

様々な理由をつけては、目を離そうとはしなかったし、

距離を詰めようとして来ていた。

信じてくれと、頼ってくれと。

そう言い続けてきた。

だからと言って、陽乃はそれに絆された覚えはないし、

傾いたわけでもない。けれど。

陽乃「良いわ。貴女がそうして欲しいというなら、そうしましょ」

水都「陽乃さ――」

陽乃「良いと言ったわ。もういいの」

陽乃は水都を遮って、九尾に声をかける。

陽乃「望み通りにしてあげて頂戴」

水都「……私」

陽乃「今の私には、長話をするほどの体力がないのよ。見てわかるでしょう」

もう用はないと

そう言わんばかりに会話を中断し、陽乃は枕へと頭を落とす。

九尾の力が働いてか、水都は眠たげに頭を振ってそのまま陽乃のベッドに倒れ伏すようにして、意識を失った。


ひなた「……久遠さん」

陽乃「この子が望んだことよ。私は叶えてあげただけ」

ひなた「ですが」

陽乃「長話する体力はないと、言ったはずよ」

顔を覗き込むひなたをひと睨みし、陽乃は目を瞑る。

ひなた「久遠さんは、それでいいんですか?」

陽乃「……」

ひなた「……」

陽乃は何も答えなかった。

本当に疲れているのかいないのか

嘘っぽい寝息を細やかに吐きながら、目を瞑って横になっている。

ひなたはすべての事情を知っているわけではないから、

それが誤りだと断言はできない。

けれども、水都が望んだことだとしても

陽乃自身が望んだことではないことだけは、なんとなく察せる。

ひなた「……不器用なんですから」

ひなたは悲し気に独り言ちて、首を振る。

――信じさせて欲しかったなら、そう言えば良いだけなのに。

ひなたはその核心をついてしまう一言を、飲み込んだ。

√ 2018年 10月04日目 夜:病院

↓1コンマ判定 一桁

0 友奈
2 若葉
6 大社
8 球子

ぞろ目 歌野

√ 2018年 10月04日目 夜:病院


即日、歌野との同室になるわけがない。

少なくとも今日はまだ、ひなたと2人きりになるだろう。

ひなたとは話すべきことはすでに話し終えているから、

夜になって病院自体が静まり返ると、陽乃の病室も音が消える。

症状が悪化しかねない陽乃を案じて配置されている、医療機器の電子音でさえ、うるさいくらいに響くほどだ。

それがなくても、丸一日寝ているしかない陽乃は体力を有り余らせているせいで、

目が冴えてしまっている。

ひなた「……眠れませんか?」

それに気づいているのだろう。

ひなたは陽乃に声をかける。

目を閉じているし、寝息を立てているし。

一見では眠っているように見えるけれど、そうではないはずだと。

ひなた「私よりも、藤森さんの方が良かったのでは?」



1、何を言っているのかわからないわ
2、うるさいわ。眠れないでしょう
3、貴女もあの子も。どっちもお断りよ
4、何も言わない

↓2


陽乃「何言ってるのかわからないわ」

ひなた「久遠さんが側にいて欲しいのは私ではなく、藤森さんだったのでは? と」

陽乃「理解に苦しむわね」

疲れさせたいの? と皮肉めいたことを言う陽乃だったけれど

ひなたは仕方がないとでも言うかのように呆れた様子だった。

本当に分かっていないのか

分かっていてあえてそうなのか

陽乃の場合はどちらでも有り得るとひなたは考えて。

ひなた「もしもの話です」

ひなたは童話のプロローグの一節を語るかのような

穏やかな声色で前置きする。

ひなた「もし、私と藤森さんの立場が逆だったらどうでしたか?」

陽乃「どうだと言われても」

困ったような声色の陽乃は、ゆっくりと目を開く。

横目にひなたを見ると、

ひなたはその視線のままでは辛いとみてか、

陽乃に寝返りを打たせて、自分の方に体を向けさせる。

陽乃「……何してるのよ」

ひなた「ずっと仰向けではだめなので」

にこりと笑うひなたを睨むと、陽乃はため息をつく

陽乃「変わらないわ。貴女と藤森さんが逆だったとしても」

ひなた「……そうでしょうか。そうは、思えません」

陽乃「貴女の勘違いよ」

ひなた「私だったら、久遠さんは合理的に考えて記憶を消すことを即決していたと思います」

自分から言い出せば。という条件付きではあるだろうけれど、

あんな話にはならなかったはずだ。

ひなた「藤森さんだから、あんなことを言ったのでは」

陽乃「違うと言っているでしょう」

ひなた「……違うなら、そんなに怒らないでください」

ひなたは、悲しそうに言う。

顔を見合わせているから、それはとても分かりやすい。


陽乃「貴女は――」

ひなた「久遠さんは……」

今までのように一歩引いているだけでは何にも伝わってはくれない。

だから、踏み込まなければいけない。

言ってもいいのだろうか。と、普通は躊躇う言葉を言わなければならない。

ひなたはその歪みきった場所に踏み込む理由はあるのかと逡巡し、

そして、ぐっと、唇を噛む。

ひなた「私には怒っても構いません。でも、久遠さん自身には怒らないでください」

陽乃「何を言っているのか分からないわ」

ひなた「……」

とぼける。

分かっているのか、分かっていないのか。

それとも、それ以上は言うなという牽制か。

ひなた「藤森さんを信じたいと思った自分に、怒らないでください」

陽乃は救ってくれる人だ。

これまでもこれからも。

だからこそ、ひなたは知ったことではないと踏み込む。


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

遅くなりましたが少しだけ


人の過去は、聞くことも見ることも出来るが、

同じように経験することは出来ない。

過去には過去があって

そこに至った人の心情まで抱くことは出来ないからだ。

だから、ひなたにはその言葉が正しいと断言は出来なかった。

陽乃の過去は生易しいものではなかったし、

それは緩やかに消失することなく現在にまで延焼し、燻っている。

火種を隠し持っているかもしれない人そのものを拒む心は同情の余地さえないほどに傷ついているはずで

そこに塩を塗り込むような言葉だったからだ。

けれど、その傷だらけの心に自ら爪を立てているのを見て、黙ってはいられない。

ひなた「久遠さんは、ただ、藤森さんを信じたかったんですよね? 私の事を隠し通してくれると」

陽乃「そんなことないわ」

ひなた「ならどうして、信頼するなということなのか。なんて訊ねたんですか?」

あの言葉は、信頼しようとしていなければ言うことのない言葉だった。

水都が繰り返し信じて欲しいと要求していたから

皮肉な言い方をしたのだろうか

違うはず。と、ひなたは瞬きする。

陽乃はもっと率直だ。

本当に興味がなければ、その気がなければ

もっとも簡潔な言葉を吐き捨てる。

ひなた「……藤森さんを信じたかったからではありませんか?」

陽乃「しつこいわよ」

ひなた「記憶を弄らなくたって平気なんだって言って欲しかったのではないですか?」

ひなたは引かずに詰める。

執拗に距離を詰めてしまえば嫌われてしまうことだってあることはひなたも覚悟の上だ。

嫌われたって良い。

ここから追い出されることになって、

また、大社に軟禁されることになっても構わない。

ひなたは、そう思っていた。

嫌われたとしても、軟禁されたとしても、死ぬわけではないから。

そこに、命の危険があるわけではないから。

勇者が失うかもしれないものよりも、それらは遥かに軽い。

だから、陽乃自身が認めていなかろうと、

ひなたからしてみれば勇者として遜色ない陽乃が少しでも報われるように

そのきっかけを作ることが出来たら。と、ひなたは視線を逸らさない。

ひなた「……でも、全てを完璧にこなせる人は、少ないと思います。私だって、若葉ちゃんだって、白鳥さんや友奈さん達だって」

みんな、何かしら得意なことがあって、

そして、不得手なことがあって、

誰からか向けられる期待や信頼と言ったものに100%応えられることなんてめったにあることではないとひなたは言う。

得意なことであれば可能性があるが、不得手ならそれはないに等しいと。

水都は嘘をつくのは苦手だと言っていたし、

大社を騙し秘密を守ることについては、自信がなさそうだった。

本人がそう言っていたとはいえ、過小評価だったかもしれないけれど、

見栄を張ることなく欠点として進言したのは

それだけ、陽乃に迷惑をかけたくなかったからだと……やっぱり、水都が言っていた。

陽乃にとって信じることはとても難しいことで、

前提の段階で、全幅の信頼を置けることを条件としてしまいたいのも、

ひなたの知る限りの陽乃の過去だけでも、理解は出来る。

だとしても……。

ひなた「無理なことを出来ると言い張って失敗するのと、無理なことを無理と言って、助けを求める人なら、どちらが信用できますか?」

陽乃「それはズルい質問だわ」

ひなた「でも、久遠さんはそれを藤森さんに求めたんです」

無理とは言わないでしょう? とでも言うかのような声をかけた。

水都はそれでも、最終的に裏切るようなことになってしまうことを不安に思って首を振ったけれど。

ひなた「……藤森さんは本当に久遠さんに信頼されたいと思っていると思います。そして、その為に尽くそうとしていて、前提として久遠さんを信じています」

だから、記憶をいじるなんて危険なことも平然と求められたし、

嘘偽りなく自分では隠し通す自信がないと打ち明けた。

ひなた「秘密を守れるという意味で信頼したかったのかもしれませんが、力になるためにと自らを差し出した意思も、評価しては貰えませんか?」



1、何言ってるのかわからないわ
2、知らないわよ
3、どうして貴女があの子を庇うのよ
4、何も言わない

↓1

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ


陽乃「どうして貴女があの子を庇うのよ」

ひなたは、陽乃から問われるとは思っていなかったのか、

僅かに驚いたように目を開いて

そうして、穏やかに笑みを浮かべた。

ひなた「藤森さんを庇っているというより、久遠さんにお願いしているんです」

陽乃からしてみれば、水都は失敗してしまったように思えるかもしれないが、

ひなたにとっては、水都は精一杯頑張っていて、

間違ってはいないし、庇われる必要もない。

庇われるべきは、どちらかともいわず、陽乃だろうとさえ思う。

だから、お願い。

自分に怒らないで欲しいというお願い。

意思も評価に加えて欲しいというお願い。

ひなた「……あわよくば、若葉ちゃん達のことも頼って貰えたらな。と」

陽乃「貴女ではなく?」

ひなた「私は、非戦闘員ですから」

ひなたはそう言って、小さく笑う。

眉間にしわを寄せた、喜びの感じられない笑みだ。


3年間が長いか短いかは個人の主観にもよるだろうけれど、

それだけの時間を共にした若葉達よりも、

遥かに短い時間しか一緒にいなかったはずの歌野の方が、心の距離は近くに思える。

しかし、その歌野が未だ戦線復帰も難しい中、

陽乃は都度戦いに参加しているらしいし、

今後の方針として陽乃を先に癒すというなら、他の勇者の中にも信頼できる人は一人くらいは欲しい。

命懸けの戦いにおいて、背中を預けることのできる仲間の有無は重要だからだ。

ひなた「個人的には、私も頼って頂けたらな。と……思わないわけでもありませんけど」

ひなたはそう呟くと、目を逸らしてしまう。

陽乃には余計に毛嫌いされるだろうけれど、ひなたは少しだけ、期待したりもしていた。

なし崩し的にではあったし、

ひなたにとっての大義名分、そして陽乃にとっては責任があったにせよ、

同じベッドで、隣り合って、

3年間で一度もなかった2人で過ごす時間が出来たためだ。

けれど、分かっていたとはいえそこにあるのは責任感で

繋がりは希薄で、関係はよくもなく悪くもなく。

果てには、若葉と歌野同様に、ひなたよりも水都の方が良好なように見えた。

ひなた「やっぱり、命が懸かっている場とそれ以外では差が開くものですし」

陽乃「……ふぅん」

陽乃はそこまで興味がないと言った様子で

ひなたはそんなことを言われても困ってしまいますよね。と笑う。

陽乃「いまさら何を言ってるのよ」

今日だけで

午後の半日だけで

どれだけ困ることをひなたは言って来たのか。

自覚がないなら質が悪いし、あるならあるで、質が悪い。

――だけれど。

陽乃は目を閉じて浅く息を吐く

陽乃「貴女に言われなくたって、分かってるのよ。全部」

分かっているから、何だというのか。

分かっていればそれでいい?

分かっていればその通りの行動が出来る?

そんなわけがない。

陽乃「でもだからって、割り切ることが出来ないこともあるのよ」

陽乃は分かってだなんて言わないし、同意して貰いたいとも思っていないと続けて。

陽乃「私は私なりの言葉を選んでいるだけ。それをどう解釈するかは、貴女達に任せるわ」

√ 2018年 10月05日目 朝:病院

↓1コンマ判定 一桁

1 友奈
3 歌野
5 侵攻
9 球子

ぞろ目 歌野


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日ももしかしたら難しいかもしれませんが、可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ

√ 2018年 10月05日目 朝:病院


目を覚ますと、ひなたがいる。

まだ2日だけれど、

巫女としての慣れからか、いつも陽乃が起きるときには起きていて、

そして、陽乃の方を見ている。

陽乃「……何?」

ひなた「いえ、何でも」

陽乃が目を覚ますと、ひなたは少しうれしそうで、残念そうな表情をする。

寝顔を見られることに関しては興味がないが、

気持ちがいいものでもない。

かといって、自分の力では寝返りも打てない今、それを拒めるわけもなかった。

陽乃「なんでもいいけど――」

陽乃は言いかけて、口を閉ざす。

ひなたの疑問符がまとわりついた声を無視し、耳を澄ませると、

いつもの看護師とは違う足音が聞こえて、目を細める。

陽乃「誰か来るわ」

ひなた「えっ」

ひなたがばっと顔を上げた瞬間に、扉が叩かれて。

友奈「久遠さん、起きてますか?」

久しく聞いていない、声が聞こえた。


陽乃は自力で行動できない為、病室の扉は基本的に施錠されていない。

それを知っているからか、

陽乃の返事が返るよりも先に友奈は扉を開ける。

夜の間は、不躾にも訪問してくる人達もいるため、ひなたが施錠してくれているけれど、

どうやら、すでに開けておいたらしい。

友奈「久遠さ~ん……」

そろりそろりと。

友奈は静かに扉を閉めて、ベッドまでの細く短い通路を歩き、

通路の影から陽乃の様子を確認して声をかけてきた。

まだ眠っていると思ってかの、小さな声。

陽乃と目があうと、ちょっぴり、びくりとする。

友奈「起きてたんですね」

陽乃「寝ていた方が良かった?」

友奈「いえっ、そんな……起きていてくれてよかったです」

友奈はニコッと笑って、陽乃のそばに近づいていく。

侵攻が始まるまでは健康的な姿をよく見ていたが、

四国から戻ってきてからの陽乃はいつも死にかけで、余裕がなかった。

眠っている姿も、決して悪くはないけれど、

どちらかなら起きている方が良いと友奈は思ったのか、

もう一度、起きてて良かったです。と口にする。

友奈「えっと、話は聞きました?」

陽乃「貴女が来る理由だろうことくらいは」

友奈「そう、ですか」

聞いておいてしゅんとした友奈は、

雑念を払うように首を横に振って、意気込む。

友奈「私が抜けちゃったせいだから……」

陽乃「だから、何? あの子は何も悪くはないとでも?」

友奈「っ」

千景が暴走し陽乃を傷つけ、謹慎にまでなってしまったこと。

自分がリーダーに任命されたこと。

そのどちらかかと考えた陽乃の予想は、当たっていたようだ。

友奈「ぐんちゃんは、本当は優しくて、久遠さんを傷つけたりなんて」

陽乃「私が知ってるあの子は、それが出来る子なのだけど」



1、見たいものしか見ていないのね
2、貴女によく見せたいのよ
3、そんな話なら帰って頂戴
4、それで? だから何なのよ

↓1

では短いですがここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから

では少しずつ


陽乃「それで? だから何なのよ」

ひなた「久遠さん」

素っ気なく切り返した陽乃のそばでひなたがまた、声を漏らす。

あの郡千景でさえ、友奈には心を開いている。

千景は友人として接し、敵意のない笑みをも浮かべたりするけれど、

だとしても、陽乃は変わらない。

友奈が他者にとって陽の光のような明るさを持つ女の子であったとしても、

影そのものは、光から逃げていくからだ。

陽乃「あの子は本当は優しくて誰かを傷つけることなんて出来ない子。だったとして。それで?」

友奈「私が脱落しちゃって、うたのんが、タマちゃんが、アンちゃんが、若葉ちゃんが、久遠さんが……みんながどんどん傷ついていって」

そうして、余裕がなくなっていき、勇者だけでなく街にまで被害が出るようになって

戦力だけではなく、心の余裕までなくなって行ってしまった。

リーダーという大役と、それとともに課せられた重圧

簡単に抱えきれるものではなく、心は簡単に押しつぶされてしまいかねないものだったことだろう。

友奈「だから、私が頑張る……私が頑張って、みんなを助けて、みんなを楽にして、グンちゃんが落ち着けるようにさえできれば、きっと、仲良く……」

陽乃「そうして、また貴方が倒れるの?」

隣から、それを久遠さんが言いますか? と言われた気がしたが、

陽乃は聞こえなかったことにして、友奈を見つめる。

友奈「た、倒れないように頑張るっ」

陽乃「私、直情的な言葉ほど信用ならないものはないと思っているわ」

友奈「じゃ、じゃぁ、信じて貰えるようにも頑張るっ」

陽乃「そもそも、平穏な時期も私とあの子が良好な雰囲気だったことなんて一度もないけど」

友奈「な、なれるように頑張るからっ」


友奈は、若葉、千景に続いて3人目の勇者たちのリーダーを委ねられた。

不祥事によるリーダー交代は何とも言えない醜聞ではあるけれど、

死んでしまうこともある勇者達の中で、

誰一人として欠かさずに、ただの不祥事での交代なら、まだましな方だろうと言いたいが、

その原因がどちらも陽乃というのは、大社からしてみれば頭痛の種に他ならないだろう。

友奈はその分、重荷を感じているのだろうか。

自分がどうにかしてまとめなければならないと、強い責任感を感じているのだろうか。

表情には、ほんの少しの焦りが見える。

陽乃「貴女がいくら頑張ったところで、貴女ではない他人の強い感情まではどうにもならないわ」

友奈「そんなことっ、ないっ」

後ろめたさを感じる友奈の瞳

何かがある、それを拒みたがる何かが、友奈には。

けれど、陽乃は自分自身にも "だから?" と、首を振る。

それは自分には関係のないことだと。

陽乃「あの子は私を殺そうとしたのよ。理由があれど、その事実には変わりがないし、
   貴女が言うとおりに彼女の心根が優しいものだったとしても、それを歪めてしまうほどの憎悪を変える力が貴女にはあると?」

普段の友奈だったなら、

あるいは、陽乃ではない誰かに問われたのだったなら、

友奈ははっきりと即答することが出来ていたかもしれない。

けれど、友奈は陽乃に対して強く言い返すことは出来なかった。

言いたいことがあるのに、それをせき止める何かがやっぱり、友奈にはあるのだろう。

ぐっと、歯噛みしているのが、陽乃にも、ひなたにも見える。

ひなたは、口をはさむべきかと迷い、目を伏せる。

陽乃に友奈の過去を晒しても、意味はない。

それに同乗はしないだろうし、慰めの言葉もなく、

終始徹底して厳しい物言いで、相手を思いやることに変わりがない。

いいや、むしろ、それが激しくなってしまうかもしれない。

今だって、そう、結局は。

――無理はしない方が良い。と、言いたいだけなのだろうから。

友奈「変わる……のは、その人次第、だと、思う。けど、けどね……」

友奈にしては自信のない、たどたどしい口調

陽乃の様子を見ながら、

自分の気持ちを確かめながら

下の上で言葉を転がしているかのような、頼りない声。

友奈「けどだよっ……他人にだって、せめて、変わる手伝いをすることくらいは出来るんじゃないかって思う」


段々と強く、意思の籠っていった友奈の声

それに比例するかのように、友奈の顔は前向きに、瞳は力強くなった。

友奈「例えば……ヒナちゃんとか」

ひなた「へっ」

私ですか? と、驚いた表情を浮かべるひなたを横目に、

陽乃は「上里さんが何なのよ」と顔を顰める。

友奈「聞いてない? 大社の施設の扉を爆破して逃げたんだって」

陽乃「へぇ……」

感心したと言った様子で呟いた陽乃は、

流し目にひなたを一瞥すると、ふっと息を吐いて。

陽乃「それは初耳だわ。大胆ね」

ひなた「そんな恐ろしいことしていませんよ!?」

友奈「それに、あの規律に厳しそうな若葉ちゃんは久遠さんを見逃したし、アンちゃんは危険を顧みずに久遠さんについていった」

友奈はそう言いながら、嬉しそうに笑って。

友奈「少なくとも、それが出来る人が私の目の前にいてくれるから」

陽乃「……」

友奈「私は、それが出来るんだって思ってる」



1、私が出来るから、貴女が出来るとは限らないわ
2、それは周りがそうだからよ。私ではないわ
3、何馬鹿なことを言ってるのよ
4、だったらやってみたらいいじゃない。私になんて言わずに、あの子を助けに行けばいい

↓2

陽乃「だったらやってみたらいいじゃない。私になんて言わずに、あの子を助けに行けばいい」

友奈「それは」

陽乃「出来るんでしょう? やるんでしょう? その為の努力を惜しまないのでしょう?」

例え、郡千景の居場所が分からなくても、

彼女のいる実家が分からなくても、

彼女の闇がどれほど深くても、

出来ると思うのなら、やってみればいい。

陽乃「貴女がやると言うなら、私は止めないわ。私の邪魔にならないなら、私にはどうでもいいことだから」

応援はしないし、

立ち止まりそうな時に背中を押してあげる気もないけれど、

やれる、やりたい、やるべきだ。

そう思っているのなら、したらいいのではないかと、通り過ぎる横顔に悪態をつくくらいはする。

友奈「でも、久遠さんのことも……」

陽乃「それは、止めて貰いたいものだわ」

他の誰かになら関知しないが、自分になら話は別。

陽乃「貴女が私にまで執着したら、今度こそ殺されてしまうもの」

友奈「そんなっ、ことは……」

ひなた「……ないと言い切れないのが、辛いところですね」

友奈の言い出せない苦悶の表情に、ひなたは呟く。


陽乃「貴女だけは、あの子の味方でいるべきよ。何かが起こるとしても、何かがあったとしても。貴女のその"優しさ"が"過失"ではないのなら」

友奈「……」

陽乃「貴女が言うように、私には目障りなものが多いわ」

ひなた「何もそのような言い方をしなくても……」

ちょっぴり残念そうなひなたのぼやき。

そうっと気を惹こうとしているひなたの手の動きを、陽乃は目で制して息を吐く。

陽乃「その煩わしさを、これ以上増やして欲しくはないのよ」

友奈「煩わしい、ですか?」

陽乃「あしらうのも面倒だし、そっぽを向いたって後ろ髪を引いてくるから」

陽乃がそう言うと、ひなたがほんのりと表情を明るくしたのが見えて、

陽乃は「物理的にね」と、付け加える。

陽乃「その鬱陶しさを、あの子に向けてあげなさいよ。私は結構よ」

友奈「えっと……」

友奈は、陽乃へと向けていた視線を彷徨わせると、

意を決したように瞼をキュッと締めて、ため息を1つ。

そして、陽乃を見る。

友奈「そう、だよね。そうだよね……うん」

友奈は、陽乃の厳しい言葉にでさえ、感謝するような穏やかな表情で。

友奈「ありがとう。私、グンちゃんのために頑張ってみる」


友奈は、折れない。

陽乃の言葉には棘ばかりだけれど、ほとんど悪意がない

それを避けて逃げるならそれでもいいし、

それに対して真っ向から向かってくるだけの覚悟があるのなら、

陽乃はそれ以上に害するような何かをしようとはしないからだ。

友奈は、少し考えて。

友奈「ねぇ、久遠さん」

陽乃「嫌よ」

友奈「えぇっ!?」

まだ何も言ってないのに~と、

騒がしく、まるではしゃいでるかのような反応を見せる友奈

話だけでも聞いて欲しいな。なんて

陽乃には無意味な窺う素振りを見せた友奈は、答えを聞かずに口を開く。

友奈「もしよかったら、副リーダー……頼まれてくれないかなっ」

陽乃「はぁ?」

友奈「だって、久遠さんは簡単には肯定してくれないから、厳しいことを言ってくれるから。だから……きっと、私達はもっと真剣に考えるべきことを考えられると思う」

これでいいのか。

本当に間違いはないか、抜けていることはないのか。

大丈夫。と言ってくれる人はいるし、やってみようと言ってくれる人もいる。

けれど、その心を不安にさせてくれる人はいない。

不安は良いことではないかもしれないが、不安があるからこそ慎重になって、

その慎重さがゆえに、命拾いすることも少なくないはずで。

友奈「それに、久遠さんは信頼できる。何があってもみんなを守ってくれるって……信じられるから」

誰かが欠けることになっても、例えば、リーダーが失われても。

陽乃はきっと、冷静さを失わずに、即決で行動をしてくれるだろう。

友奈はそう言って、手を差し伸べる。

友奈「……そんな人が傍にいてくれたら、とっても心強いと思う」


1、そう言うのは、前リーダーにでも頼みなさい
2、お断りよ。煩わしいのは嫌いなの
3、馬鹿じゃないの
4、良いわ。考えてあげる


↓2


陽乃「そういうのは、前リーダーにでも頼みなさい」

友奈「グンちゃんは……私のことを信じてくれるから」

陽乃「なら乃木さんでもいいじゃない」

とにかく、私は嫌よ。と。

断った陽乃は「私には向いていない役割だから」と、口を挟ませることなく拒否する。

陽乃「私は厄介ごとが嫌いよ。そして、頼られるのが一番嫌い。吐き気がするわ」

友奈「そう、ですか」

ひなた「久遠さん……友奈さんは」

陽乃「貴女だって頼る必要があるかもしれない。だけど、少なくともその相手は私じゃない」

陽乃の断固として受け入れようとしない姿勢は、

友奈からしてみれば、味方に付けられれば、これ以上ないくらいに頼もしいものだった。

とはいえ、そう簡単に味方に出来るわけがなく、

だからこそ、その胸を借りたいと思いもしたわけで。

友奈は残念そうに笑う。

友奈「残念……でも、私は久遠さんのことも、そう思ってるから」

変えたいって。

変えられるようになりたいって。

そんな、みんなを纏めることのできるリーダーになりたいって。

友奈「頑張るから、見てて!」

友奈は力一杯に、そう叫んだ。


√ 2018年 10月05日目 昼:病院

↓1コンマ判定 一桁

0 若葉
2 大社
4 ひなた
6 九尾
8 球子

ぞろ目 歌野

※夕方に歌野固定

√ 2018年 10月05日目 昼:病院


散々拒絶されてもめげることなく元気なまま帰って行った友奈を見送り、

気力を奪われたとでも言うかのように静まり返る病室

最初こそ、ひなたから陽乃に声をかけようと努めてはいたが、

朝起きてからの、感情高まる長話は疲れるのか、

陽乃は眠ってしまって。

ひなた「……寝ているときは、とても穏やかなのに」

ひなたは陽乃の寝顔を見つめながら、呟く。

写真の一枚でも……と思い、手元に端末がないことを悔やんで上がった手をベッドの上に戻す。

肌身離さずもっていた端末は、大社に回収されたっきりで、

データの一切を消去されてしまった可能性もある。

念のためにと、データ自体は多くバックアップを残しておいたが、

それらの回収はされてしまったのかどうか。

ひなたは自分の部屋が大社に踏み入られた可能性を考えて、首を振った。

若葉が懇意にしている親友という立場からして、囚われの身にまでなった以上、

何らかの情報があるのではないか、部屋はすでに検められただろうし、

もしそれを免れていても、今回の行方不明によって、間違いなくその一線は踏み込まれたはずだ。

ひなた「……若葉ちゃん達との、思い出は……」

心にはある。

記憶にもある。

けれども、いつ失われるとも分からない勇者達との日常を切り取った形を、彼らは無慈悲にも処分するだろう。

そう思うと、少しだけ、泣いてしまいそうになる。


だからと言って大社から連れ出した陽乃を、憎もうとは思わない。

花本美佳や、安芸真鈴のように通常の巫女達に中に加わって巫女としての務めを果たすのならいざ知らず、

ただ、勇者である乃木若葉を抑え込むために囚われていただけなのだから。

戦いの日々で体が傷ついていくだけでなく、

守り切れなかった後悔を責め立てるかのような、不満の声。

千景に殺されかけたひなたは、しかし、

千景がそういった行動を起こしてしまうのも無理はないと、理解が出来る。

勇者は命懸けだ。

3年前の逃亡劇で散々味わった苦しみの経験がひなたにはあるが、

それとは比にならないほど激しさを増したのだと知らしめられる諏訪からの脱出記録を見て、

それが安易に言葉に出来ないほど現実味を帯びているのだと、ひなたは痛感した。

それでも抗う勇者達にとって、

その努力を責め立てる声は闇へと落とし、心を蝕む毒でしかないと思う。

あのまま囚われ続けていたら、若葉の心まで摩耗し、壊れてしまっていたかもしれない。

ひなた「……久遠さんは、どうですか?」

陽乃は基本的に心を打ち明けない。

それっぽいものを感じさせることはあるが、それには触れさせないし、踏み込ませようとしない。

だから、どれだけ心が傷ついているのか分からない。

ひなた「白鳥さんになら、お話しできますか?」

守っても、助けても、報われない。

浴びせられるのは、憎しみと怒りと呪いのような言葉。

辛くはないのだろうか。

苦しくはないのだろうか。

泣きたくなったりはしないのだろうか。

そんなことはないと言われたら、強いと憧れるよりもずっと悲しくなってしまうだろう。


そんな常に追い立てられる立場にいながら、殺しに来た千景のことさえも見捨てられない。

許せないとは思わないのか、

殺してやりたいとは思わないのか、

憎んだり、恨んだり、怒ったりしないのか。

千景の大切に思う人が自ら飛び込んできたのだから、

仕返しとして奪ってやろう。とは考えなかったのか。

ひなた「……」

好意的に見れば、陽乃は千景の心が完全に砕けてしまわないために友奈を送った。

面倒だから、煩わしいから。陽乃はそう言っていたが、どうせ建前だ。

好意的な解釈がきっと、正しい。

ひなたは、そう思う。そう思いたいと陽乃を見つめる。

誰にも手を差し伸べられることはなく、石を投げられた経験のある陽乃だから。

そこに誰かがいてくれるだけで、救われるものがあると分かっている。

ひなた「その誰かは、藤森さんか、白鳥さんか……」

陽乃にとって、それは誰になるのだろうかと。

ひなたは考え、ほほ笑み、小さく息をつく。

ひなた「私にも、チャンスはありますか?」

同衾を許可してくれた間柄

もしかしたらはあるのかと、ひなたは聞こえないだろうと。囁いてみた。

↓1 コンマ判定

1,4,8 起きる

ぞろ目 特殊

では少し休憩とさせていただきます
再開は21時頃を予定しています

ひなたは聞こえないだろうと囁いては見たものの、

実際には、陽乃は起きていた。

それも、ひなたが独り言を囁くよりも前から。

前髪をさらりと払う指先の感触

ひしひしと感じる視線

そして、話すには近い距離から聞こえる声

死にかけているときならともかく、

少しずつ治りつつある陽乃が目を覚ますには十分すぎる刺激だった。

ひなた「……なんて」

目を瞑っているから、ひなたの表情は見えない

けれど、声色がほんのりと赤らんでいるような、感じがする。

ここに連れ込んだ時から、

ひなたはずっと陽乃の力になりたいと思っていたし、

それを伝えてきていたから、陽乃はそれを知らないわけではない。

だからと言って、

その気持ちがまだあるのかどうか確かめるかのような呟きは、

ほんの少し、恥ずかしかったのだろう。


今起きたら、ひなたはどんな顔をするだろう。

驚くか、笑うか、何事もなかったような顔をするか。

それとも、聞こえていたのかと確認するか。

寝返りが自分で打てるのなら背中を向けられるのに。

それが出来ないから、呼吸にも少し、気を使う。

ひなた「若葉ちゃんも不器用ですけど……久遠さんは、もっと……」

ひなたの声は、優しく、穏やか。

それはいつもそうだけれど、

陽乃が寝ているからか、

独り言はもう少し、静かな吐息のようで。

研ぎ澄まされた感覚が、ひなたの心音まで聞かせようとしてくる。

ひなた「……精霊をその身に宿す、巫女の役目」

死ぬ可能性が非常に高く、

ハイリスク、ハイリターンと言った禁忌とも思える行為だけど、

勇者達の力になれるならと、喜んで引き受けようとしているひなたは、久遠さんは。と、呟く。

ひなた「久遠さんにそれを行える巫女はいないのでは?」

ひなたは、独り言と言うにはおかしな声色で疑問を問う。

起きていると分かっているのかと陽乃は思ったが、

そうではないらしく、ひなたは水都や美佳たちの名前を出していく。

巫女は多くはないが、少なくもない。

だが間違いなく、捨ててしまうわけにはいかない年頃で、数しかいない。

陽乃の力になれるような素質を持った巫女は、その中にはいないだろう。

無理矢理捻出して、ひなたか水都くらいだ。

それでも、若葉達の手伝いをするより死ぬ可能性が高い。

それだけ強力な力を持っているということでもあるが。

ひなた「どうにかして、力になることは出来ないのでしょうか……」

ひなたは、また呟く。

まるで、誰かと話しているように。

ひなた「えっ!」

びくっと、ひなたの体が跳ねる。

独り言が止み、ひなたの呼吸が聞こえる。

気持ちを落ち着けようとしているかのような、深い呼吸。

けれど、可能な限り、早い。


1、目を覚ます
2、まだ寝ておく


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


※絆値良好以上

遅くなりましたが少しだけ

陽乃は起きるべきかと迷ったが、

タイミング的に聞こえていたのかと詰め寄られたり、

いつから起きていたのかと問われたりと質問責めに遭う気がして、

陽乃は騒がしさに阻まれた不快感を露にするように、小さく呻いてからまた寝息を立てる。

独り言にしては違和感のあるひなたの様子

であれば、誰か相手がいるはずだけれど

病室にいるのは陽乃とひなただけで、相手の声は聞こえない。

なら相手は一人しかいないだろう。

九尾はまた余計なことを……と陽乃が呆れていると、

ひなたに動きがあった。

陽乃の身体のすぐ近くにひなたの手が置かれ、沈む

ゆっくりと沈んでいく慎重さは陽乃を起こさないためだろう。

大きめのベッドとはいえ、ベッドはベッド

2人で横になっているとその距離はとても近いが、今はそれよりもずっと近くで、

目と鼻の先に感じる。

ひなた「……久遠さん」

ひなたは確かめるように名前を呼ぶ。

起こすつもりはなく、

起きているかを確認するだけのようで、身体を揺すったりはしない


ひなた「……できますよ」

ひなたは、陽乃の耳元ほどの距離で呟くと、

少しだけ距離を取る。

ひなたが離れた分、ベッドの沈みが浅くなって、

それに引っ張られかけていた陽乃の体が元に戻って……また、ひなたの体重がベッドへと預けられると、

陽乃の体は、ひなたの体に触れた。

ひなたの声は聞こえないけれど、呼吸が聞こえる。

風は感じないけれど、ほんのりと温かい息がかかる。

そして、さらりとしたひなたの髪が降りてきて――

ひなた「ん……」

陽乃の頬に、生暖かく柔らかい何かが触れた。

潤いを持った二房の感触

それが唇だと、離れた瞬間まで聞こえなくなっていた呼吸音が知らせる。

ひなた「これで……どう、ですか?」

ひなたの声は、ちょっぴり恥ずかし気で

口元を隠しているのか、くぐもっているようにも聞こえる。

ひなた「く、唇同士は……その、やはり、同意を得るべきです……必要なことだとしても」

やはり、九尾が何か余計なことを言っているようだ。

では短いですがここまでとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

別端末ですが、少しだけ


九尾が一体何をどう言ってひなたを唆しているのかはわからないけれど、

必要なこと……とひなたが思っているということは

精霊関連、あるいは陽乃の身体の問題についてだろう。

その対処法として口付けが必要だとでも言ったのかもしれない。

九尾が言うなら事実かもしれないと思うのは分かるけれど、

疑うべきでは? と、陽乃は思う。

ひなた「……ですけど」

この件については九尾の知識が頼りなのは間違いなく、

その言葉が怪しいからと言って調査する術はない。

贄の家系と言われた久遠家

その神社になら資料が納められていた可能性はあったが、すでに失われてしまっているためだ。

だからといって、口付けとはあまりにもではないだろうか。


接吻で風邪が移るなどという話もあるけれど、

陽乃の身体に起こる症状の原因とは話が違う。

口付けしたところで移る細菌はいないし、蔓延するようなものでもないし、

もしかしたら、

九尾は、ひなたが陽乃のためにどこまで自分を犠牲に出来るのかを探ろうとしているだけで

ほとんどからかうのが目的なのかもしれない。

ひなた「久遠さんが、起きてしまいますし……」

ひなたはそう言うと、少しだけ動く

上体を起こしたのだろう

ベッドにかかる重みが変わって、陽乃の身体が揺れる。

ひなた「……やはり、相談するべきだと思います」

ひなたの言葉に納得したのか九尾が唆すことはなくなったようで

ひなたは安堵したように息をついた

√ 2018年 10月05日目 夕:病院

↓1コンマ判定 一桁

1 大社
3 水都
5 ゆうな

※それ以外、歌野のみ

√ 2018年 10月05日目 夕:病院


夕方になって病室を訪れた看護師達数名は、

病室が変更になりました。と、簡潔に理由を説明してそそくさと移動準備をし、

陽乃を別の病室へと運び込む。

看護師達の後ろからひなたがついてきていたものの、

誰一人としてその姿に気づくことはなく、

病室がかわってもひなたは一緒だ。

変わったのは病室にはベッドが2台あること

そして、そのうちの1台を使っている患者が加わったことだろう。

歌野「……待ってたわ」


陽乃の病室でも広さは充分だったが、

歌野と一緒にするにあたって必要な機材―歌野のため―が多く、

2人とも少し特殊なベッドを使う必要があることもあり、

新しい部屋に移動しなければならなかったらしい。

2人の同室自体は珍しくスムーズに認められたようで、

そう言った理由さえなければすぐに同室になっていた可能性もあると歌野は言う。

歌野「自宅療養が出来ない分メンタルケアになればって思ったんだと思うって」

陽乃「メンタルケアね……」

別に要らないけど。と陽乃が言うと

ひなたも歌野も、何か言いたげな表情を浮かべた。

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが、本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば少し早い時間から

では少しだけ


歌野「久遠さんがそうでも、周りの人がそう思ってくれるわけではないし……」

ひなた「そもそも、体面的にもケア要員を準備するのは基本ですよ」

うんうん。と、歌野はひなたの言葉に頷く。

友奈達と違って、

歌野はすでにひなたの存在を知っている為、隠す必要がない。

その安心もあるからか、ひなたの雰囲気は前の病室にいた時よりも柔らかだ。

陽乃「そうは言ったって、私が必要ないって言っているわけだし」

ひなた「久遠さんがどう思うかは関係がないかと。あくまで "大社の体裁" ですから」

陽乃「私の場合、放逐してしまう方が良いと思うんだけど」

ひなた「諏訪から連れ帰った人達にテロでも起こさせる気ですか?」

陽乃「さすがにそこまでしないでしょ。助かった命を無駄にする人間なんて、3年前に絶滅したでしょうし」

言い切る陽乃をひなたは困ったように見つめて、

歌野と視線を合わせて、呆れたため息をつく。

だったら、目の前にいるのはその無念で存在する亡霊だとでもいうのか。と。

歌野「絶滅してないわ。だって、勇者がいるんだもの」

陽乃だと言っても否定する。

だから、それをひっくるめた勇者という言葉を使って歌野は笑う。

歌野「私達は奇跡的に助かって、生きている。でも、バーテックスとの戦いに命を懸けてるんだから」


陽乃「蛮勇ね」

歌野「かもしれない」

陽乃の皮肉を歌野は笑って肯定する。

少なくとも、自分はそうだったと言う自覚がある。

助けが来ると言われても、信じる人のいなかった3年前の諏訪

唯一抗える勇者である自分、その巫女である水都

来ないかもしれないなんて不安を覆い隠し、みんなに上を向かせるために胸を張っていたから、

ただひたすらに、がむしゃらだった。

歌野「でも、それ以上の人がいたわ。蛮勇なんて言葉じゃ足りないくらいに凄くて、酷くて、怖くて、目が離せなくなるくらいだったの」

陽乃「そう。私には関係ないことだわ」

ひなた「……本気で言ってます?」

どう聞いても、考えても

明らかに陽乃ことだとひなたは眉を潜めたが、

陽乃は我関せずと言った様子で。

陽乃「私は自分のために諏訪に行っただけよ。目的は諏訪の勇者だし、住民はただのオマケ」

四国には5人の勇者がいたが、

皆に実戦経験があるわけではなかったし、

その戦ううえで最も重要な実戦経験を3年間積んできた諏訪の勇者は、見殺しにするには惜しい人材だった。

四国に連れてくることが出来れば、生存率が高くなる。

その為に、迎えに行っただけだ。

歌野「つまり……私が目的?」

陽乃「最初からそう言ってるじゃない。貴女がいなかったら、諏訪になんて興味なかったわよ」

ひなた「そもそも、諏訪がここまで残っていること自体、不可能だったかと」

諏訪の3年間は、歌野の努力があってこそだ。

それがなければ諏訪は3年前に食い潰されていただろうから、興味を持つも何も無かっただろう。


歌野「私は3年間守ったけど、でも、少しずつ押しつぶされていってて限界だった。そこに駆けつけてくれたのが、久遠さん達なの」

陽乃「だから――」

歌野「だから、諏訪のみんなは久遠さんのために行動してくれると思うわ」

だからなんなの。と、

言いかけた陽乃を遮って答えた歌野

冗談を言っているようには思えなくて陽乃は顔を顰めたが、

ひなたは同意すると言わんばかりに頷く。

歌野「それに、私が扇動しちゃうわ」

陽乃「何言ってるのよ」

歌野「だって……一蓮托生でしょ? 私達」

陽乃「そこまでの関係ではないわ」

どちらかと言えば、一心同体というべきだろう。

陽乃の心も、歌野の心も

互いに伝えられてしまうから。

歌野「照れなくたっていいのに~」

陽乃「私のどこが照れてるように見えるのかしら」

歌野「その髪が赤っぽいところ?」

陽乃「これは地毛よ」


全てがそうではないけれど、

どこか、陽乃は若葉に似ているとひなたは思う。

無理しすぎてしまうところとか、頑ななところとか

そう言う部分が、特に。

だからこそ、多少は気の緩みも出てきそうな歌野との同室は、大切なことだったはずだ。

そんな2人が勇者の中でも重症であること

それゆえにいつ失われてもおかしくないこと

そうなった場合のことを考えて、話しておくべきだと息を飲む。

ひなた「一つお話があります」

2人にこそ、重要な話。

考える時間が必要だろうし、すぐに行動には移せないはず。

だから、可能な限り早めに相談しておくべきだと。

ひなた「巫女の手を借りれば精霊の影響を抑えられるとして……その、どの程度なら許容できますか?」

歌野「……うん?」

それは、どういう? と不思議そうな歌野の一方でひなたは頬を赤らめる。

真剣な話だが、恥ずかしさはぬぐえないようだった。


1、それはキスの話?
2、何言ってるの?
3、私には巫女がいないから、関係ないわ
4、使えるなら使う。使えないなら使わない。それだけよ


↓2


陽乃「使えるなら使う。使えないなら使わない。それだけよ」

歌野「巫女さんが。じゃなくて、その方法が、でしょ?」

陽乃の厳しい一言を補足して歌野は笑みを浮かべる。

巫女を使う使わないは酷い話になってくるが、

その方法が……という言い方なら、まるで印象が変わってくる。

人によっては、

巫女をそんな導具みたいに。と、怒りかねない物言いには、

流石に、歌野も黙ってはいられないようだ。

ひなたは「分かってます」と微笑んで。

ひなた「症状の重さからして、死亡するリスクがあることは分かると思います」

歌野「まぁ……そうよね。特に久遠さんのなんて」

陽乃「私は無理よ。可能性の話じゃない」

歌野「けど、一番どうにかしなくちゃいけないのはその久遠さんだわ」

陽乃「無理なものは無理よ、根性でどうにかします。なんて程度の話ではないもの」

ひなた「もちろん、それを担うにあたって巫女は覚悟していることは前提です」

そうは言ったって。と、歌野は渋い顔を見せたが、

ひなたは少しばかり口を閉ざすと、目を伏せて続ける。

ひなた「その可能性はともかくとして……」

そこで区切って、ひと呼吸。

ひなた「そのために、口づけが必要だと言われたら……受け入れられますか?」

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から

では少しだけ


歌野「口づけ……?」

陽乃「真剣な顔でボケるの止めて貰っていいかしら」

ひなた「ほ、本気ですっ」

本気で聞いているんですよっ。と。

殺しきれない照れくささに赤くなりながら声を上げるひなた

それが必要だとひなたが聞き、

それに類する行為を行ってきた際に起きていた陽乃こそ、とぼけているのだが。

唯一事情を知らない歌野だけは、困惑した様子で唇をキュッと結ぶ。

歌野「口づけって、キス?」

ひなた「……はい」

まだ赤みがかった頬のまま、

一息ついて呼吸を整えたひなたは首肯する。

ひなた「九尾さん曰く、依り代としての契約と同様の行為が必要らしく……最も簡潔な方法がそれだそうで」

陽乃「ということは、他にも方法があるってことでしょ? 隠す理由があるの?」

ひなた「隠していると言いますか……血を流すことになるので」

出来る限り避けたいと思いまして。と、ひなたは目を伏せる。

神事を行うにあたって、何かしらの捧げものだったり代償行為というものは必要不可欠である。

それが危険なものであればあるほど、

要求されるものもまた、重いものになっていく。

ひなたが避けたがっているものは、

恐らく、供物として肉体の一部を用いるものということだろう。

それを捧げ物として精霊とされている存在に認めて貰うと言う方法。

きっと、一番深く依り代として認めて貰えるのはそうすることだろうけれど、

最終的にすべてを持っていかれることになったりとか、

都度、肉体の一部を要求されるようなことにもなりかねない。

ひなたが避けたいのは、それが理由だろう。

陽乃「ん~……そう、なっちゃうかしら」

歌野「そんなレベルのことをキスをするだけで済ませられるの?」

ひなた「直接精霊との繋がりを持つのではなく、対象の勇者との繋がりを持って負担を肩代わりするだけならそれでも構わないそうです」

要するに、そういった肉体的接触が可能なほど心身共に隔たりがないことが必要なようで、

それを互いに認識するうえで、口づけと言った行為をするべきらしい。と、ひなたは話す。

歌野「なるほど……私には難しい話だわ」

ひなた「出来ませんか?」

歌野「キス……は、ともかく、そういう摩訶不思議な話がってこと。農業で例えて貰っていいかしら?」

ひなた「それは私が難しい話です……すみません」


冗談だから本気にしないで。と、

小さく笑った歌野は、苦し気に顔を顰めて咳込む。

まだまだ、完治には程遠いからか、

長く話すことは難しいようだ。

陽乃「その心理的距離感が必要だから相手は限られてくるのよね」

その心理的な距離感を無視できる供物を用いた方法もあるため、

必ずしも。というわけではないが。

若葉は言わずもがな、ひなた

歌野も同じように、水都

千景は美佳になるだろう。

杏達は……どうだろうか。

ひなた「友奈さん達については、心当たりがあります……が」

ひなたはそこで区切って、陽乃を見る。

ひなた「やはり、問題は久遠さんです」

歌野「確かに――」

歌野が同意しようとしたのも待たず、

ひなたは、決心したようにぐっと息を飲んで。

ひなた「そこで、どうでしょう……私と、してみませんか?」

ひなたはそう言った。



1、嫌よ
2、だから、無理だって言ってるじゃない
3、貴女はそれでいいの?


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが少しだけ

陽乃「貴女はそれでいいの?」

ひなた「覚悟は出来ています」

陽乃「それは乃木さんを諦めることも……と解釈して問題ないかしら」

ひなた「両立は難しいと?」

陽乃「難しいのではなくは無理なのよ。私は乃木さん達とはワケが違うんだもの」

陽乃の分を請け負ったうえで、若葉の分を

なんて、器用なことは誰にも出来はしないだろう。

いくらひなたの素質が他の巫女に比べて高いと言っても、

陽乃の抱える負荷が他に比べて重ければ意味がない。

陽乃「乃木さんの分は他の誰かでどうにかなるかもしれないけれど、貴女ほど盤石ではないでしょうし、巫女は命を落とし乃木さんは余計に傷付くことだってあり得るのよ」

冗談や脅しなんかではなく、事実としてその可能性が高い。

若葉が普段から使っている精霊の反動は精神面というよりは外面に影響が出やすい。

治りが一般人でしかない巫女の大怪我は、場合によっては致命傷だ。


歌野「久遠さんはまたそうやって、自分よりも他の人をって態度とっちゃうんだから」

陽乃「私は事実を言ってるだけよ。他意はないわ」

そっぽを向く陽乃を見つめて、「仕方がない」と、歌野は笑みを浮かべる。

確かに事実を述べているだけかもしれないけれど、

いつも語っているように自分の命を最優先にしたいなら、

ひなたが覚悟しているということを利用して好きに使ってしまえばいいのだ

例えそれでひなたが壊れても、当人の覚悟のうえであると事前に若葉に伝わっていれば、

余計な諍いは起こらないはずだからだ。

歌野「久遠さんは、言い訳上手だわ」

陽乃「今関係ないでしょう」

歌野「……そうね」

ひなた「久遠さんが言っていることは……分かっているつもりです」

陽乃「じゃぁ、その覚悟も出来てるって捉えて良いのかしら」

会話というよりも、尋問に近い空気感

陽乃はそのつもりがないのだろうけれど

優しさの感じられない声色がそれを助長している。

陽乃「私は、言った通り使えるなら使うし使えないなら使わないつもりよ」

消耗品は必要かもしれないが、

品質に問題があると分かっていて命に関わることに使うのは可能な限り避けたいものではあるが、

無ければ死ぬ、有れば多少は延命出来るというなら使うのも吝かでない

陽乃「だから、貴女次第になってくるわね」

ひなた「……」


1、別に期待していないから、取り下げても構わないわ
2、どの程度負荷がかかるか試してみる?
3、ただの巫女が無理する必要はないわ
4、貴女の大切なものを優先しなさい


↓1

では短いですがここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から

遅くなりましたが、少しだけ


陽乃「ただの巫女が無理する必要はないわ」

ひなた「っ……」

いくらひなたと言えど、

陽乃の症状は重く、耐えられるものではないし、

仮に耐えられたとしても、ひなたが対応するべき若葉のことを担当する余力が残るわけがない。

もしもそれが出来るのだとして、数日も経たずに命を落とすことになるだろう。

ひなた「私がただの巫女だと言うのなら……一体、誰が特別な巫女なのですか」

陽乃「言うまでもなく、私よ」

ひなた「そんな人、他になんて――」

陽乃「いないでしょうね」

いるなら、新たな勇者として見出されているはずだ。

諏訪のように現存している場所があり、

そこで勇者として戦っている人が、もしかしたらそうかもしれないが、望みは薄い。

意地悪なことを。と、不満げなひなたにも、陽乃は動じなかった。

陽乃「だから無理だって言ってるのよ」

ひなた「私だって、巫女の中では……」


ひなたは巫女の中では、適性は高い方である。

それも、大社の神官達が特別視するほどに。

だけれど、陽乃はだとしてもただの巫女と変わらないと言う。

ひなたはその素質に自負があったわけではないし、

主観的に分かりやすい要素ではない為、どうとも言えないけれど。

周囲が認めてくれているその力を、

自分には無駄だと突っ撥ねられるのは、あまり、心地よくないと言った様子で。

ひなた「……」

けれど、力不足なのは間違いなかった。

ひなたは陽乃の惨状を直接目にする機会はなかったために、

それがどれほど酷いものなのかは、出回った動画を見た程度でしかない。

それでも歌野の症状や、

陽乃が全く身動きできないような状態が "治りつつある" と言われている辺り、

想像以上なのは分かる。

布団の一部が、ひなたの手に向かってぐっと皴が寄っていくのを、

陽乃は視界の端に捉えつつ、目を瞑る。

歌野「上里さんにも、出来ることはあるわ。今は、そっちに集中しましょ」

ひなた「……分かって、ます」

ひなたの気持ちも理解できると、歌野は声をかける。

だが、勇者である歌野とひなたでは、手札が違っていた。


√ 2018年 10月05日目 夜:病院

↓1コンマ判定 一桁

0 歌野
2 ひなた
4 若葉
6 水都
8 九尾

ぞろ目 特殊


√ 2018年 10月05日目 夜:病院


陽乃の正面側にもう一台ベッドがあり、そこでは歌野が眠っていて

いつもと違って陽乃に背中を向ける形になっているものの、

ひなたは陽乃と同じベッドで横になっている。

そんな中、ゆっくりと目を開いた陽乃は、軽く瞬きして、

夜目になれた視界に見える人ならざるものへと目を向けた。

陽乃「……余計なことし過ぎよ」

九尾「主様には必要なことじゃろう」

陽乃「だとしてもよ」

九尾「ふむ……」

即死間違いなしな代償の重い方法のみではなく、

当人さえ良ければどうにかなる勇者と巫女の繋がりを利用した方法も伝えたのは感謝すべきところではあるが、

とはいえ、

陽乃に関してはどうにもならないことくらいは、言うべきだった。

陽乃「私にするよう、唆したでしょう」

九尾「うむ」

陽乃「それが余計だって言ってるの」

若葉となら問題はないだろうけれど、陽乃にそれをやるのは問題しかない。

口付け自体は特別、どうとも思わないが、

ひなたが死ぬのは避けたい。

九尾「試してみればよかろうに。上里ひなたでも予備にはなろうて」

陽乃「乃木さんは……なんて、貴女には言うだけ無駄よね」

九尾にとって、ひなたは多少なりと目をかける存在だが、

若葉はそこに組み込まれていない。

陽乃と若葉どちらかと言われたら、迷わず陽乃を取るのが九尾だ。


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日は、お休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

では少しだけ


九尾「やはり主様は生に執着しているわけではないのじゃろう?」

陽乃「そんなわけないじゃない」

九尾「そんなわけがなかろう」

陽乃「……何をもってそう言うのよ」

九尾「生きたくば利用するべきじゃ。その娘に行った忠告などせずのう」

九尾の深紅の瞳が細まって、陽乃の隣にいるひなたへと向けられる。

ひなたを気に入ってはいるが、

それはあくまで人間の中では好みであるというだけでしかない

自らの主としている陽乃のためなら易々と切り捨ててしまう。

陽乃「……でしょうね」

陽乃はその考え方は好きではないが、正しいのかもしれないとは思っていた。


人間なんてたくさんいる生き物という程度で、

人間が日々口にしている動植物の消耗と変わらないといった、九尾の認識

最低限度の守るべき秩序というものはあるのかもしれないが、

確かに、生きていくうえで他の命の摂取は免れ得ない。

空想の産物としか思えない仙人のように、霞で生きていける人間なんて、いないからだ。

それは、化け物と揶揄される陽乃でも同じことで。

陽乃「確かに、上里さんなら少しは耐えられるかもしれないわ」

巫女としての素質が一番高いひなたなら、もしかしたら。

けれど。

陽乃「私の力より、乃木さん達の方が長持ちするし、その方が将来的には有用だと思うわ」

九尾「ふむ……その通りではあるが」

陽乃「でしょう? 私だってすぐに死ぬわけではないし」

九尾「じゃが、主様は忙しないからのう。伏せっていようが力を引っ張りだして赴くじゃろう」

陽乃「それは乃木さん達が頼りないせいよ。人も減っていたし、仕方がない状況だったの」

陽乃はそう言って、誤魔化すように息をつく

陽乃「上里さん達が力を貸せば、それも改善されるはずだから……私はベッドで横になっているだけで良くなるわ」

九尾「ふっ」

普通にではなく、鼻で笑って。

九尾「退屈じゃと、飛び出していくじゃろうな」

何かがあれば適当な言い訳を見つけては、飛び出して

いや、身を挺して。

そうしてまたボロボロになっていくのに、礼を突っ撥ねて自分の為だと嘘をつく

九尾「主様は、その理想が諦められぬなら命を諦めるべきじゃ」

陽乃「極端すぎるのよ。もう少し、何か良い感じの中間はないの?」

九尾「そのような事柄だと、思うておるわけではあるまい」

そんな甘い話があるものではない。

ただ人との交渉であるならいざ知らず、

陽乃に至っては、恐れ多くも神のひと柱に力を借りるのだから。

代償は軽く済むはずがないし、

その為の犠牲を認められないなら、命を諦めるべきである。

九尾「ふむ……」

九尾はいつもながら若い女性の姿をしているが、

どこか年老いた雰囲気を感じさせる表情を浮かべると、口元に手を当てる。

九尾「死なねばよいだけであれば、方法もあるとはいえるが……」



1、いやな言い方をするのね
2、お断りよ
3、聞くだけ聞くわ
4、どうせ、白鳥さんのようなものでしょう?


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなりましたが、少しだけ

陽乃「お断りよ」

九尾「聞くまでもないと?」

陽乃「白鳥さんの一件があって、それでも頼ると思っているなら心外だわ」

死ななければ良いだけなら、死なないように

あるいは、死んでも死んでいないような状態に昇華してしまえばいいではないか。と、

九尾だったら淡々と言いかねないし、しれっとそうしてしまうかもしれない。

陽乃「ああいうのは、見たくないわ」

自然とそうなっていくのも、

陽乃のせいでそうなっていくのもどちらも気に入らないし、不愉快だ。

九尾「ふむ……ならば、やはり有象無象など切り捨ててしまうべきであろうな」

陽乃「私は別に、全人類を護るつもりなんてないわよ」

九尾「下らぬ戯言は不要じゃ。諏訪の人間も未だ捨てられぬ主様に可能とは思わん」

陽乃「……あれは、別に」

諏訪は今も残っている。

バーテックスの侵攻は、

最早そこに戦力を割くだけ無駄な諏訪の方には向かうことなく、

そのほとんどが四国に対し行われているためだ。


陽乃「万が一ここがダメになっても、安全地帯はあった方が良いじゃない」

九尾「向こうに力を割いて消耗するより、こちらの防衛に徹する方が良いと思うが」

陽乃「ここが全てを尽くして守るほどの場所ならそうかもしれないわ」

でも違う。

確かに、護らなければならない人はいるけれど、

それは諏訪ほどの領域でも広すぎるくらいの規模でしかない。

陽乃「何かがあったとき、さっさと捨てて身を隠せる場所はあった方が良いのよ」

病院から逃げた時にそう思った。と、陽乃はそれっぽい理由を付け加える。

けれど、

それを信じない九尾は茶化すように笑って。

九尾「白鳥歌野の言う通りではないか……いや、そのままというわけでもないかのう」

言い訳上手。

ではないけれど、言い訳ばかり。

あれやこれやとどこからともなく理由を引っ張り出してくる

九尾「まぁよい。主様がそれを望むならば……成すが良かろう」


陽乃が常に口にしている、生きていたいという望み

それはきっと、叶わないことだろう。

多くの人を犠牲にしたからと言って、

陽乃が長生きできるという保証はない

多少は延命もできるだろうが、それでも限度がある。

それはひなたを使おうが、水都を使おうが同じことで、

それ考えれば、陽乃の言う自分よりも乃木若葉達に尽力した方が有用だと言うのは、正しい。

とはいえ、

それらが長生きするよりも、陽乃の1日の方が優先事項であると思う九尾に言わせれば、

無駄である。

九尾「しかし……使えるものは使う。と、主様は言うておったはずじゃがのう……」

陽乃「それはそれ。これはこれよ。あんまり避けないことしないで頂戴」

特に、勝手に唆されるのは困る。

陽乃にそう囁くならいいが、

周囲にそれをされてしまうと、制御が効かなくて大変なことになってしまう。

九尾「ふむ……上里ひなたは主様の好みではなかったか」

陽乃「命が懸かってるのよ。茶化さないで」

陽乃がそう言うと、九尾はくつくつと喉を鳴らして笑った。


√ 2018年 10月06日目 朝:病院

↓1コンマ判定 一桁

0 歌野
2 若葉
4 侵攻
6 水都
8 ひなた

ぞろ目 特殊


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日は、お休みとさせていただきます
明日は可能であれば通常時間から

では少しだけ

1日のまとめ

・ 土居球子 : 交流無()
・ 伊予島杏 : 交流無()
・ 白鳥歌野 : 交流無()
・ 藤森水都 : 交流無()
・   九尾 : 交流無()

・ 乃木若葉 : 交流有(ひなた、勝手にして、貴女は嫌、怪我を待つ)
・ 高嶋友奈 : 交流無()
・ 花本美佳 : 交流無()
・  郡千景 : 交流無(何しに来たの?、ひなた発見、悪、叩き伏せる、私よりも、殺す覚悟)
・上里ひなた : 交流有(千景と再会、千景の殺意、誤算、美佳、説得)

√ 2018/10/03 まとめ

 土居球子との絆 82→82(良好) ※特殊交流2
 伊予島杏との絆 96→96(良好) ※特殊交流4
 白鳥歌野との絆 95→95(良好) ※特殊交流4
 藤森水都との絆 97→97(良好) ※特殊交流8
   九尾との絆 82→82(良好)

 乃木若葉との絆 76→80(良好)
上里ひなたとの絆 70→73(良好)
 高嶋友奈との絆 62→62(普通)
 花本美佳との絆 37→37(普通)
  郡千景との絆 22→20(険悪)


1日のまとめ

・ 土居球子 : 交流無()
・ 伊予島杏 : 交流無()
・ 白鳥歌野 : 交流有(ひなた、一理ある、今はじぶんを)
・ 藤森水都 : 交流有(これから、せいぜい頑張りなさい、陽乃の母、信頼)
・   九尾 : 交流無()

・ 乃木若葉 : 交流無()
・ 高嶋友奈 : 交流無()
・ 花本美佳 : 交流無()
・  郡千景 : 交流無()
・上里ひなた : 交流有(お話、余計なこと、陽乃の母、何を、庇う理由)

√ 2018/10/04 まとめ

 土居球子との絆 82→82(良好) ※特殊交流2
 伊予島杏との絆 96→96(良好) ※特殊交流4
 白鳥歌野との絆 95→98(良好) ※特殊交流4
 藤森水都との絆 97→99(良好) ※特殊交流8
   九尾との絆 82→82(良好)

 乃木若葉との絆 80→80(良好)
上里ひなたとの絆 73→76(良好)
 高嶋友奈との絆 62→62(普通)
 花本美佳との絆 37→37(普通)
  郡千景との絆 20→20(険悪)


1日のまとめ

・ 土居球子 : 交流無()
・ 伊予島杏 : 交流無()
・ 白鳥歌野 : 交流有(使えるなら使う)
・ 藤森水都 : 交流無()
・   九尾 : 交流無(お断り)

・ 乃木若葉 : 交流無()
・ 高嶋友奈 : 交流有(それで?、だったらやって見なさい、前リーダー)
・ 花本美佳 : 交流無()
・  郡千景 : 交流無()
・上里ひなた : 交流有(密談、口付け、貴女はそれでいいの?、ただの巫女)

√ 2018/10/05 まとめ

 土居球子との絆 82→82(良好) ※特殊交流2
 伊予島杏との絆 96→96(良好) ※特殊交流4
 白鳥歌野との絆 98→99(良好) ※特殊交流4
 藤森水都との絆 99→99(良好) ※特殊交流8
   九尾との絆 82→84(良好)

 乃木若葉との絆 80→80(良好)
上里ひなたとの絆 76→78(良好)
 高嶋友奈との絆 62→64(普通)
 花本美佳との絆 37→37(普通)
  郡千景との絆 20→20(険悪)


√ 2018年 10月06日目 朝:病院


若葉「白鳥さんと同室か」

ひなた「白鳥さんのそばにいた方が、治りが早いらしいです……」

無理をするというほどではないものの

歌野自身の回復力が低下することになるためか、ひなたはやや心配そうに言う。

若葉「白鳥さんは回復力に特化した力を持っているからな。私達には役立てないことだ」

若葉はふむ。と息を吐いて

若葉「だが久遠さんの退院が早まってしまうのは心配だな。大社が放っておくとは思えない」

ひなた「そう、ですね……」

現在の勇者のそば付きを任命されているのは水都で、陽乃達の味方と言える人物だ

とはいえ、諏訪から四国に来たばかりの水都には、

酷い話、巫女や神官達からの信頼に欠けているだろう。

諏訪を単独で守り続けて来た白鳥歌野の巫女であり、

四国までの道のりを経たことに対するリスペクトはもちろん、あるだろうけれど。

それだけでしかない。

きっと、こちら側への干渉の防波堤になるのは難しいはずだ。


千景は隔離されているが、

それでも、保護を大義名分として陽乃を大社の施設に軟禁しようとする可能性もある。

陽乃を隔離してしまえば、

千景がまた凶行に走ることはないはずだ。なんて考えている可能性もないとは言えない。

連日の襲撃

そして、少しずつ出てくる被害者

それらによって、リーダーを担っていた千景のみならず勇者自体の評判は悪くなっていたが、

それがあってなお、陽乃よりはマシだった。

若葉「出来る限り、自由にしてあげたいとは思っているんだが」

ひなた「友奈さんも考えてくれるとは思います」

陽乃は友奈を突き放すような態度を取っていた。

けれど、素直であり、勇者気質でもある彼女はめげてはいなかったものの、

それがどこまで通用するか。

陽乃「……貴女達、他人の病室で、他人が寝ている傍で、そんな風に話をするのが趣味なの?」

ひなた「あ……おはようございます」

若葉「済まない。声は抑えていたつもりなんだが……」

そんなに大きかっただろうか。と、

自分の口を手で覆い隠す若葉は、もう一人の住人に目を向ける。

歌野はすやすやと眠っているようで、

ほっと胸を真で降ろす。

そんな若葉を一瞥し、ひなたに目を向ける。

陽乃「かってに連れ込んでくれちゃって」

ひなた「すみません。若葉ちゃんがどうしてもお話したいと」

陽乃「上里さんと話したいなら好きにしたらいいじゃない。私は特に邪魔したりはしないつもりだし」

若葉「そうではなくてだな」

本気で言ってるのか。と若葉

そして、それに静かに頷くひなた。

2人は顔を見合わせて、揃って眉を潜める。

若葉「久遠さんに聞いておきたいことがある」

陽乃「……何?」

覚悟を決めたと言った様子の若葉は、深呼吸をして。

若葉「もしもまたどこかに身を潜めるのなら、ひなたも連れて行っては貰えないだろうか」

ひなた「若葉ちゃん……?」


1、どういうつもり?
2、嫌よ
3、見つかったら私が面倒だし、そのつもりよ

↓1

では本日は、ここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はおやすみとさせて頂きます
明日は可能であればお昼頃から

別端末のためsage状態なのと酉が消えていました
ID一緒なので問題はないと思いますが一応

遅くなりましたが、少しだけ

陽乃「どういうつもり?」

若葉「どうもこうも……ひなたは見つかればまた、大社に連れていかれるだろう。大社は外部の協力者がいると断定しているみたいだが、それでもひなたが以前と同様の処遇を受けるとは思えない」

何より、一番疑われているのは陽乃だし、

陽乃が身を潜めた途端にひなたの存在があらわになってしまえば、

さらに陽乃の立場が悪くなってしまうはずだ。

元々、最低ラインだとしてもそれは良くない。

若葉「不甲斐ない話だが、久遠さんのそばが世界で一番安全な場所だ」

陽乃「買いかぶりが過ぎるわ」

若葉「ふっ……それは過小評価が過ぎるな。諏訪遠征に、四国への亡命の成功。大型バーテックスを単独撃破可能な力。世論を含めても、その安全性が揺らぐことはない」

若葉は、陽乃を褒め称えつつも、表情は少し浮かない。

陽乃のその評価は疑いようもなく、若葉自身も認めるものだけれど、

しかし、自分自身がそれには値しないことが悔しいのだろう。

周囲の助力を得れば大型バーテックスはどうにかなるが、諏訪遠征や亡命はどうにもならなかった。

何より、諏訪の危うさを肌に感じていながら、それに手を出せずにいたこともある。

若葉「謙遜は美徳だと言うが、それが得難い立場からすると恨めしくなってしまうぞ」

陽乃「それは向こうで寝ている人に言ってあげなさいよ。私は座席で寝ていただけだもの」

若葉「貢献あってのことだろうに……久遠さんが動いたからこそ彼女達が今も生きていられているんだ。胸を張ってくれ」


若葉「とにかく、ひなたのことを任せたい」

ひなた「……炊事洗濯なら、お力になれると思いますよ?」

陽乃「そんなことを推されても」

若葉「状況的に久遠さんにしか任せられないし、それ以外の適任はいないんだ。久遠さん自身が自分を認めていなくても」

ひなたを完ぺきに隠し通せるのは、それを実現できる九尾の力を扱える陽乃だけ。

バーテックスと戦う力があるのは勇者全員に言えるのだとしても、

そう言った特異な力に関して言えば、陽乃だけが唯一持っているものだ。

陽乃「……はぁ」

陽乃はため息をつくと、目を伏せる。

多少、厄介なことになることは想像していたが、

逃亡にまで連れていけ。と言われるのは考えていなかった。

むしろ、それに付き合わせるな。とか言われるとは思っていたが。

若葉の申し出は正しい。

ひなたを完ぺきに隠蔽できるのは陽乃だけだし、

大社がひなたを捕捉すれば、間違いなく捕まるはず。

荒々しく連れ出した責任は取るべきだ。


陽乃が自己をとても過小評価しているのは、

自身にはまるで力がないと思っているからではなく、

それを認めることで、周囲から期待されたりすることを避けたいと思っているからだ。

若葉はそれを謙遜だと言うが、まるで違う。

だから、ひなたを守れるのは自分しかいないことだって自覚している。

連れ出したなら最後まで責任を取るべきだと言うことも分かっている。

けれども、そうしてくれと頼まれると、陽乃は脊髄反射的に拒否してしまうし、

そこに受ける理由があると、願いを聞いただとかなんだとか、

期待されることになるのが陽乃にとっては苦痛でしかなかった。

陽乃「貴女はそれでいいわけ?」

若葉「……言っただろう。情けない話だと」

陽乃「そう」

若葉の、切なげな笑みを含んだ答え。

適うなら自分でひなたを守りたいし、傍に置いておきたいが、その力がない。

任せっきりにするしかないのは若葉にとって喜べる話ではないらしい。


1、責任は取るわ
2、だったら努力したら? 上里さんが大事ならね
3、守る気はないわよ。何かがあったら捨てていく


↓2


陽乃「だったら努力したら? 上里さんが大事ならね」

若葉「それは言われなくても、だが――」

陽乃「出来ない理由を一緒に並べないで」

陽乃は、若葉の反論を突っ撥ねて目を細める。

情けない話であると自嘲し、努力はするつもりだとしている若葉。

若葉にとってひなたは大切な存在だろうし、

他人任せにしておけるようなものでもないはずだから、その心情は本物だろう。

そして生真面目だから、

自分には手を出せない領域が確かにあるのだと認めて、

頼るしかない部分は、頼ろうと考えている。

それは正しいし、

頼れることを頼るのは簡単なようでも難しく、けれどもすべきことである。

しかし、陽乃は頼られたくはない。

陽乃「出来ないことがあるなら、それを避けられるように努力しなさいよ。しなくてもいいことを避けるように、出来ないことをしなくて済むようにするべきでしょ」

若葉「手厳しいな」

陽乃「それをサボったツケを払わされたくないからよ。私が役割を押し付けられることが嫌いなことくらい、貴女は知ってると思っていたけど」


若葉「そう、だな……」

陽乃は酷い責任を負わされたことがあるし、

出来もしないことを強制された経験がある。

そこから来る拒絶は、安易に否定できるものではなく、なおも無理強いすることは出来ない。

けれど、若葉もひなたも

そこでまだ眠りについている歌野も。

陽乃が、お願いされなくても手を貸してくれてしまうのはよくわかっている。

若葉「とはいえ、今すぐには実現できないことなんだ」

いずれは、避けられるようになりたいと思っている。

自分の力で守れるようにもなりたいと。

けれど、今すぐにそれは出来ない。

若葉は勇者だが、子供だ。

その力を盾にすることも武器にすることも難しい。

若葉「その時が来たらで良い。来ないことが望ましいが、もしも万が一久遠さんが逃げ出さなければならないような事態に陥った場合、ひなたを連れていくことを検討して欲しい」

陽乃「こないことなんて、無理な話だわ」

若葉「そうならないように、務めてくれるんだろう?」


陽乃が瞬間的に口を閉ざしたのを見て、若葉は意地悪っぽく笑みを浮かべる。

普段は一歩大人びたような落ち着きを見せている若葉だが、

今は、年相応な子供っぽい表情で。

ひなたはちょっぴり惜しそうな顔をしつつ、ほほ笑む。

今のは完全に、若葉の皮肉だった。

若葉「今は友奈がリーダーを務めてくれているし多少は楽になるかもしれないが、どちらも簡単ではない。有事の際は互いに協力しよう。利害の一致だ」

陽乃「私は別に、上里さんがどうなろうと関係がないのだけど」

若葉「そうか……」

頷きつつ、どうせそんなことはないだろうと若葉は思う。

ひなたが害されることになるのを陽乃は好ましく思わないだろうし、若葉も当然受け入れがたい。

そして、陽乃が逃げなければならない状況は、陽乃にとっても若葉にとっても良くないことだ。

だから間違いなく一致しているはずなのだが、陽乃はあくまでそうではないと言いたいらしい。と、

若葉はひなたに目を向けて。

若葉「ともかく、今しばらくはすまないがひなたをよろしく頼む。いや、久遠さんを頼む。ひなた」

ひなた「ええ。もちろんです」

陽乃「貴女――」

ひなた「久遠さんの左手の責任は、取らせてください」

千景の暴走からひなたを庇った怪我は酷いもので、だから、言われなくても身辺の手伝いは惜しまないつもりだった。

√ 2018年 10月06日目 昼:病院

↓1コンマ判定 一桁

0 歌野
2 侵攻
4 友奈
6 球子
8 杏


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ

√ 2018年 10月06日目 昼:病院


若葉は可能な限りひなたと一緒に居たい様子だったが、そういうわけにもいかず昼前には自分の病室へと戻っていった。

重症に該当する陽乃や歌野

そして重傷であった杏が今しばらく入院が必要な一方で

若葉や球子、友奈はそろそろ退院となるだろう。

気軽ではないにしても、会いやすかった入院中と異なり、

丸亀城に戻ってからはやや難しくなってしまうはずだから名残惜しいのかもしれない。

陽乃「乃木さんが心配ならついて行ったら?」

ひなた「……いえ」

ひなたは首を振ると、陽乃を見つめる。

物憂げな表情からは陽乃があまり好ましく思えない気遣いが伺える。

ひなた「久遠さんは放っておくと……消えてしまいそうですし」

陽乃「儚いって、言いたいのかしら」


ひなたは困ったように笑みを浮かべる。

儚いとは、確かにそう、陽乃に適した言葉だ。

病弱とは少し異なるが、

健康であることの方が珍しく思える近頃の状況からして、

陽乃はいつ命を落としてもおかしくはないから。

けれど、ひなたはそれを認めたくはなかった。

ひなた「私が心配性なだけです」

陽乃「私の嫌いなタイプだわ」

ひなた「いつも、命がけですから」

それは陽乃に限らず、

勇者として戦線に赴いているみんなに当てはまる。

巫女であるひなたには、それを目の当たりにすることは出来ない。

九尾の影響で、多少知覚は出来るようだが、その程度。

気付けば、数瞬前まで会話していたはずの友人が死んでいるかもしれないのだ。

きっと、気が休まることなんて、ほとんどないのだろう。


みんな、命懸け

けれども陽乃はそれ以上に命を尽くしてしまいそうで。

歌野「大丈夫よ」

若葉が帰ってから、少しして目を覚ました歌野が口を挟む。

まだ大声を出すには程遠い体調ということもあって、

その声はあまり大きくはなかったけれど、しっかりとしていた。

歌野「私が何としてでも繋ぎ止めてみせるわ」

陽乃「無理をしたら貴女が死ぬわよ」

歌野「死なないわ」

ううん。と、歌野はうっすらと笑みを浮かべる。

包帯で隠れている半分がぎこちないせいか、やや引き攣って見えるのが少し痛々しい。

歌野「死ねないわ……だって、そうなったら久遠さんまで死んでしまうもの」

陽乃「私が死んでも貴女は死ぬけど」

歌野「つまり、一蓮托生ね」

諏訪でただ一人の勇者であった頃のように、

常にポジティブで居なければならない。と言った強迫観念に近いものはもうない。

けれど、陽乃は後ろ向きではないが、前を向いているとは言えないような言動ばかりで。

だから、歌野は努めて明るい声で言う。

歌野「色々な意味で」

心がつながっているし、片方が死ねば、もう一方も死ぬ可能性が高まるため、

ある意味では魂もつながっていると言えるのではないか。と、歌野は思う。


1、歌野に近づく
2、ひとまず、藤森さんを呼びましょうか
3、馬鹿なこと言わないで
4、まぁそうね


↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

すみませんが本日はおやすみとさせて頂きます
明日も可能であれば通常時間から

では少しだけ


陽乃「ひとまず藤森さんを呼びましょうか」

ひなた「藤森さんを……ですか?」

陽乃「別に呼ばない理由はないし、むしろ呼ぶ理由の方があるくらいだもの」

ひなた「そうですね……」

ひなたは同意したが、腑に落ちないといった様子だ。

一昨日の一件があって普通に接するつもりなのが気になっているのだろう。

記憶の改竄を行ったことで水都は覚えていないため、

陽乃とひなたさえ気にしなければ、

それこそ本当に何もなかったことになるとはいえ、

やや感情的にも見えたあのことを一切気にせずにいることはひなたには難しいようだった。

空気が悪くなりそうにも思えた室内に、もう一人の声が割り込む

歌野「上里さんはみーちゃんが苦手なの?」


歌野「みーちゃんはあんまり、積極的じゃないけど……あ、でも、最近は結構積極的になって来てて……」

歌野はそう言いながら、陽乃を見る。

水都は歌野から見ても、人付き合いが得意ではない性格で、

陽乃程解くはないものの、どちらかと言えば弱気

けれど、いざというときにはぐっと踏ん張れるような強さも兼ね備えていて。

歌野「付き合っていけば、きっと良さが分かるわ」

ひなた「ええ、藤森さんは素敵な方だと思います」

ひなたは笑みを浮かべると、陽乃を一瞥して頷く。

ひなただけが覚えている水都はとても積極的な性格だった。

陽乃に対して、強く出て、

とても危険なことのはずなのに躊躇なく申し出たりと、

勇者にも劣らない勇気を持っていたように思う。

勇気というよりも信頼だろうか。

陽乃の力だから、何があっても大丈夫だと。

ひなた「私が気になったのは……」

記憶を消していること。とはいえなかったのだろう

ひなたは一瞬ためらって、巫女のことです。と話を切り替える。

ひなた「白鳥さんの巫女である藤森さんを呼ぶと言うことは、つまり、力になって頂くんですよね?」

ひなたは、陽乃に尋ねる。

歌野の今の状態から回復の助力になれると言う話は出ていないものの、

今後、力を必要とした場合には影響を軽減できる想定の巫女の役割。

若葉達については、

戦闘中を除けば力の行使は必要ないため、心配は要らないが、

歌野に関しては、常に力を使っているのが現状だ。

その為、

すぐにでも水都に影響が出るのではないか。と、ひなたは危惧しているようだ。

水都自身はすでに覚悟も決まっているから、

他人であるひなたには断固として止めることは出来ないけれど、

身を案じることくらいは、しても許されるだろう。

ひなた「それに、白鳥さんは――」

歌野「みーちゃんとは、一心同体みたいなものだから」

ひなた「一心同体?」

陽乃に使う一蓮托生とは、別物なのかと、ひなたは訝し気に陽乃を見るが、

陽乃は目を細める。

歌野の心の内には、大丈夫だから。という言葉が透けて見える。

けれど何が大丈夫なのか、陽乃は聞いていない。


1、何をしたの?
2、3年間も死線を潜り抜けてきたから?
3、貴方達が良いならいいわよ。別に
4、私とは違うのね

↓1

では遅くなりましたが本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

遅くなってしまったので本日はお休みとさせていただきます
明日は可能であれば少し早い時間から

では少しだけ


陽乃「何をしたの?」

諏訪にいる頃であれば、

歌野が失われれば諏訪の守護者が失われることになり、

結果的に水都を含めた諏訪の住民みんなが失われてしまうため、

運命共同体だった。というなら陽乃も分かる

けれど、一心同体というのは妙だ。

陽乃との繋がりがあるからといって、扱いの違う水都はそれに値しない。

陽乃が目を細めると歌野は眉を潜めて、

少し困ったように、そんな怒らないでと言う。

歌野「もちろん、九尾さんにも」

陽乃「やっぱりまた――」

歌野「違うわ。九尾さんじゃなくて……宇迦之御魂大神様よ」


以前のような九尾の入れ知恵ではなく、

陽乃の味方である神のひと柱であり、その陽乃に味方したい歌野に力を貸し与えている存在。

九尾や伊邪那美様と違って、

その姿を見せたり、話をしたりといったことのない宇迦之御魂大神様だが、

歌野とは、それなりに交流があるようだった。

陽乃「神様の声がするって、言っていたけど……」

歌野「頭がおかしくなったって? ふふっ、普通ならそうだけど違うわ。でも久遠さんだって九尾さん達とお話が出来るでしょ?」

陽乃「それはそうだけど、九尾は姿を見せているし」

歌野「見せていなくたって、出来る。それに、私の目に見えなかった上里さんとだって会話が出来るんでしょ?」

ひなた「確かに、ただの独り言ではなくまるで誰かと会話しているかのようなものは恐ろしさがありますね」

歌野に同意して、ひなたは頷く。

ひなたはとてもオブラート包んでいってくれたが、実際は怖いと言うよりも気味が悪く感じるだろう。

そこに向けられる視線というものは、気が狂った人を見るそれだ。

歌野「……それで、本題だけど」

場が静まり始めたのを感じてか、歌野は静かに切り出す。

陽乃も歌野も居住まいを正すことは出来ず、ひなただけがわずかに体を揺らした。

歌野「久遠さんはよく知ってるわよね? 神様と、それに仕える御使いについて。特に、私が力をお借りしている宇迦之御魂大神様については……有名でもあるし」


宇迦之御魂大神

穀物や、生命を司る神様

あるいは、稲荷神とも評されるその神には、神使がいるとされている。

そこにあげられるのは、狐だ。

だから、九尾はその特徴からあんまり好ましくない―むしろ不快―なようだった。

だが、狐が関係しているわけではないだろう。

陽乃は眉を潜める。

陽乃「もちろん知っているけど、それが? まさか、貴女を神様として藤森さんをその神使としているわけではないでしょうね」

歌野「……さすがね。そう。その通り。久遠さんが諏訪の神様の代理とされたように、私は宇迦之御魂大神様から作神としての役割を受け、みーちゃんをその使いとして認めて貰ったの」

神様の代理、神使

人の領域から外れてしまったかのような言葉。

ひなたは何か言いたげだったが、

自分が口を挟めることではないと感じてか、息を飲む。

陽乃「私と貴女では程度が……ううん、だからこそ、藤森さんを巻き込んだの?」

歌野「みーちゃんが、力になれる方法があるって」

そうしたら、宇迦之御魂大神様が助言してくれたのだと歌野は答える。

かの神は九尾と違って悪戯に方法を教えるような存在ではない。

歌野達がそれを必要とし、そしてそれを知っていたから知恵を与えたのだろう。

けれどそれは、人間であることを捨ててしまうに等しい。


1、今からでも取り下げるべきだわ
2、どうしてそんなことをしたのよ
3、愚かだわ……本当に、愚かだわ
4、貴方達はそれでよかったの?

↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から

遅くなりましたが、少しだけ


陽乃「今からでも取り下げるべきだわ」

歌野「神様との契約をそう簡単に――」

陽乃「そう簡単に取り付けるべきことではないのよ。それをしてしまったのは貴方達だから、どれだけの代償を支払うことになったとしても知ったことではないけれど、幸いにも、宇迦之御魂大神様は私に目をかけてくださっているようだから」

本来なら、神々との契りを断ち切るのは易々と出来ることではない。

代償行為として求められたことを行別ければ一方的な破棄になるため、

それ自体は簡単ではあるけれど、出来る限り被害なく穏便に解消することが出来ないのだ。

しかし、幸いにも……というべきか、

宇迦之御魂大神は久遠家が祀っていた神であり、その生き残りである陽乃には特別目をかけていて、

歌野に対して力を貸しているのもそれが理由なため、陽乃が拒めば穏便に済むかもしれない。

歌野「宇迦之御魂大神様がより安全に久遠さんの力になれるようにと与えてくれた知恵なのに」

陽乃「私は貴女にそこまで望んでいないし期待もしていないわ」

残念そうに言う歌野に対して、陽乃はバッサリと断ち切るように吐き捨てる。

歌野の唯一見えている方の瞳が見開かれ、ひなたが「言い過ぎでは」と呟く。


陽乃「貴女がそこまで私にする理由があるのは知ってる。貴女にとって私は命の恩人で、失われていたはずの命だから、懸けたところで悔いはないし、むしろそのためにあるのだとさえ思っているんでしょう?」

歌野「そうよ。久遠さんは私達を救ってくれた。ただ滅びるのを待つだけだった諏訪に踏み込み、引っ張り出してくれたわ。その恩を返したい。何より、そこまでしてくれた人が、周囲に受け入れられることなく1人傷つき続けているだけなのを黙って見ていることなんて出来るわけがないわ」

陽乃「だけど、そんなこと私はこれっぽっちも望んでいないのよ」

本来なら失われていたから、

何かに命を懸けることを厭うことはなく、

それが恩人の為ならばなおさら。という考え方は、陽乃も決して理解できないわけではない。

実践するかは別にしても、それは起こり得る一つの思考だ。

しかし、それをされる側が望んでいるかは別の話である。

もしかしたら「ありがとう。共に戦おう」だなんて手を取り合う美談に昇華しようとすることがあるかもしれないし、

あるいは、「いいや、命までは要らない」と、冗談めかした返しをしながら背中を預けることもあるだろう。

陽乃はどちらにもならない。

陽乃「使えるものは使うと言ったし、貴女は使えると判断したから取りに行った道具のようなものではあるけれどそれは勇者の戦力としてであって、無意味やたらと命を懸けて貰う為ではないのよ」

何より。と、陽乃は息を吐く。

陽乃「簡単に命を捨てられたら私が面倒な荷物を背負ってまで連れてきた意味がなくなるじゃない。ただ寿命を縮めただけの無駄足にしたいくらい私を恨んでいるのなら、そう言って頂戴」

歌野「そんなわけないわ。恨んでない……恨む理由なんてあるわけがない」

投げかけられる言葉がどれほど酷いものであっても、

その内側を感じられてしまう歌野は「どうしてそんなに酷いことが言えるのか」などと激高する理由もない。


陽乃はいつも命懸けで戦っている。

いつ死んでもおかしくないほど、

そのまま目を覚まさなくなってもおかしくないほど、

いつもボロボロになって、なのに、体に鞭を打って戦いに赴いている。

その癖に、他人には命を懸けるななどとどうして言うのか。

せっかく救った命を無駄遣いされて無駄骨になることに苛立っている?

見返りを求めていない?

期待も望みも何もしていない?

歌野は、くっと歯を食いしばる。

歌野「私は、この命を簡単に捨てるつもりなんてないわ。もちろん、みーちゃんだって」

自らを神とすることは人の身に余ることであり、

人間であっては本来叶わないことの為、半神となるのも前提としなければならない。

それゆえ、神々との契約は命を懸けている。

失われるかもしれないのではなく、捧げものとして召し上げられるのが確定するからだ。

それももちろん、歌野と水都は覚悟の上だ。

歌野「私達は死にたいから神様の力をお借りしているわけではないし、久遠さんの努力を水の泡にしたくてこんなことをしているわけでもなくて……ただ、久遠さんが辛い思いをしないようにしたいから出来る限りのことをしたいって思ってるの」


陽乃は多くのものを失った。

それは見知った知人であり、仲の良かった友人であり、その家族であれば、

全く知りもしなかった友人でもある。

そして、人々の狂騒によって母親以外の親類縁者を失った。

その経験から、陽乃は、他人の命というものに酷く執着している。

目の前で奪われていく、失われていく感覚を忘れることが出来ていないからだ。

その力から化け物と呼ばれ、

人々を襲った襲来の原因だと負の感情を押し付けられていても、

それでもなお、他人を捨て去れない原因の一つだろう。

だから、歌野は死なない道を選ぼうと考えた。

もちろん、いつかは死ぬことになるが、

少なくとも、戦いでは命を落とすことはないようにと。

その力を得ることのできない人々

そして、命を尽くすことを厭わない陽乃を可能な限り救うことが出来るようにと。

歌野「久遠さんが私達に命を懸けて欲しくない気持ちは痛いほど良く分かっているつもりよ。こんな体になった私を見た時の、その心がどれほどのものかだって、とても……だけど、久遠さんに並ぶためには人ではいられない。その体を支えるためには人ではいられない。だって、久遠さん自身がその身をすでに人ならざる者へと変えてしまっているんだもの」

歌野は、そう言って目を閉じる。

目を閉じても、陽乃の居場所が良く分かる。

陽乃の力である九尾とのつながりもあるからか、ひなたの居場所も、鮮明に瞼の裏に感じられる。

ゆっくりと瞼を開き、歌野は強く意志を込めて陽乃へと目を向けた。

歌野「私達を止めたいなら、まずは久遠さん自身が立ち止まって頂戴。それが出来ないなら、私達は踏み込むことも厭わないわ」



1、私がそうしたら世界が終わるわ
2、私は貴女と違って止まれるものではないわ
3、それは貴女の意志ではなく、宇迦之御魂大神様のせいよ
4、人として死ぬことが出来ないのよ

↓2


では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から

次スレは明日立てます。

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【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【7頁目】
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このSSまとめへのコメント

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