高須竜児「はあ……上手くいかねーな」櫛枝実乃梨「いかねーなぁ」 (16)

「高須、くん……」
「居るよ。傍に居る」

次から次へと涙が溢れてくる。かっこ悪い。

「俺は、お前が居ないと寂しい」

男の子の前で泣くなんて卑怯なことだとずっと思っていた私は強がっていたに違いない。

「待ってるから」
「待たないで。行けない、からさ……」
「でも待ってるから!」

高須竜司。いい奴だ。とっても、とっても。

「高須くんはさ……幽霊って信じる?」
「幽霊?」

幽霊。オバケ。怪異。怪談。心霊現象。怪奇現象。なんなら超常現象でもいい。そうした目に見えない存在や現象を私は信じている。いや、信じたいのだ。言葉や態度に表さなくとも心の底から分かり合えるような何かがこの世界にあって欲しいと私は乞い願っている。

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「いるんじゃねーの」
「え?」

夏の星空の下で、彼は私の願望を肯定した。

「居てもおかしくない。居ないとおかしい」
「高須、くん……?」

本当に本心からそう言っているのだろうか。
夢みがちな私に合わせてくれているだけではないのか。そんな風に疑う自分が大嫌いだ。

「幽霊は居るし、宇宙人も居る。未来人や異世界人だって居るだろうよ。間違いないね」
「ど、どうして断言出来るの……?」

いくらなんでも調子が良すぎる彼の物言いに思わず疑問を口にすると、彼はこう諭した。

「だって存在を否定出来ないだろ。完全に居ないって証明することは出来ない。だからほんの少しだけ可能性は残る。それで充分だ」

たとえ1%未満の可能性でも彼は蔑ろにしないのだ。それが高須竜児という男で、だからこそ私は彼のことを好きになった。大好きだ。

「高須くんはいい奴だね」
「お、おう……ありがと」

素直に彼の人柄を褒めると、俯いて前髪を弄り始めた。照れているというよりもコンプレックスである目つきの悪さを隠したいのだ。

「目で見える短所なんて気にしなさんな」
「櫛枝……?」

目に見えない部分に短所を抱えているほうが余程辛い。たぶんそうやって上部を取り繕って隠している人が大半だろう。私みたいに。

「高須くんと並び立てる人は限られてる」
「は?」
「資格が必要なんだよ」

資格。免許。証明書。パスポート。ビザ。なんだっていい。とにかく周りと自分が納得出来るだけの証が必要だ。私はそれが欲しい。

「よくわかんないけど……」

高嶺の竜の高須くんは複雑そうに頬を掻き。

「俺はそんな偉そうな人間じゃねーよ」
「高須くんは偉いよ」

彼は努力した。その努力で目つきの悪さはどうにもならなかったが、周囲の彼を見る目は変わった。彼の中の目に見えない良さに周りが気づいて、だから今、彼は独りではない。

「誰も褒めてくれないなら、私が褒めよう」
「お、おう……」
「よぉーしよし! 偉い! 偉いぞ高須くん!」
「うわっ!?」

鬱陶しい前髪をかき上げてあげるとギラつく三白眼と目が合う。ちょっとだけ怖いのは目つきが悪いからじゃなく見つめ合うことで気持ちが揺れるから。吊り橋効果ってやつさ。

「だから、自信を持ちな」
「櫛枝……」
「そんで、私に自信を分けておくれ」

にっこり微笑むと気まずくなることなく目を逸らすことが出来る。そんな狡い自分が大嫌いだ。高須くんはいい奴だから気づかない。

「櫛枝はいいよな……」
「え?」
「自信の分け方、知ってるもんな」

知らない。そんなの知らない。教えてくれ。

「櫛枝に褒められると、勇気が湧いてくる」
「あはは。そりゃ良かった」

私ごときが勇気を与えるなんて許されない。

「高須くん……少し聞いて欲しい」
「おう……聞くよ」

満天の星空を仰ぎながら、落ち込んだ自分の顔を見せないようにして、卑怯な私は、高須竜児に独白する。まるで、他人事を装って。

「そいつはさ、性格最悪で、そんな自分の素を見せたら好きな人に嫌われると思ってて、だから調子の良いことばっか言って、少しでもその人によく思われたいって、好きになって貰いたいって思ってるんだよね。私はそいつのことが大嫌いで、でもどうにかしてやりたくて、ずっとずっとずっと、もがいてる」

すっげー恥ずかしい。さすがに気づくかな。

「高須くん……?」
「おう。聞いてるよ」
「ええっと……何かご感想は?」
「え? 今ので終わりか?」

キョトンとすると、彼は真顔で訊ねてきた。

「具体的に、そいつはどんな行動をした?」
「へ?」
「自分の嫌なところをどう直そうとした?」

まさか幽霊の話をしたとも言えず沈黙する。

「と、特に何も……」
「それなら何も変わるわけがない」
「うぐっ……」

直球ド正論をぶつけられて打ちひしがれる。

「でもまあ、櫛枝に相談はしたんだろ?」
「へ? あ、うん」
「それはベストな選択だ。自分の悩みを打ち明けることから全ては始まる。俺もそうだった。大河に相談されて、相談して、少しずつマシな自分になれた。だから、大丈夫だよ」

大丈夫って何が? そこんとこもっと詳しく。

「そいつの悩みを櫛枝が聞いて、それを俺も聞いた。そいつがどこの誰かは知らないけど、俺は少しだけ理解することが出来た。そうやって少しずつ変えていくしかないんだ」
「高須くん……」

何故だろう。涙が出てくる。てか気づけよ。

「面倒くさくて手間がかかるけど、何もかもを一気に変えようとすると、必ず失敗する」

まるで、駆け落ちしようとして失敗した若人のようなことを。まさか大河と? まさかね。

「人に好きになって貰うって難しいよな」
「そうだね……」

もうわっかんねー。この男。狙ってんのか。

「俺の知り合いにもやたら目つきが悪いけど実は心優しい不憫な奴が居てさ」
「ぶほっ!?」
「く、櫛枝?」
「いやいや! 続けて、続けて!」

まるで今の自分を見ているようで色々辛い。

「そいつは好きな人が居るんだけど、イマイチ上手くいかなくて、どうしたもんかって」
「何か行動したの?」
「と、特に何も……」
「ダメじゃん、それじゃ。すぐ行動しろ」

高須くんの真似をして急かすと彼は狼狽え。

「そ、そいつの自作のポエムがあって……」
「そういうの要らない」
「お、おう……自信作だったんだけどな」

思わず素が出て、真顔で拒否してしまった。

「はあ……上手くいかねーな」
「いかねーなぁ」
「真似すんなよ」
「あはは。ごめんごめん」

何笑ってんだろ、私。こういうところだぞ。

「高須くん」
「なんだ?」
「流れ星」
「マジか。どこ?」
「もう見えない」

私にだけ見えて、彼に見えないものがある。
彼にだけ見えて、私に見えないものがある。
それは不条理で、尚且つ、ロマンチックだ。

「隣、おいでよ」
「いや……やめとく」
「なんで?」
「櫛枝と並び立てる奴は、限られてる」

そんな寂しい。寂しい言葉を、言ったのか。

「ごめんよ」
「別に。気にしてねーよ」

少しは気にして欲しいなんて言う資格ない。

「櫛枝」
「んー?」
「星を見上げてるお前は、その……」

おやおや。恥ずかしい台詞の予感がするぞ。

「まるで親鳥に餌を貰う雛のようで……」
「ぶふっ!?」
「わ、笑うなよ!?」

笑うよ。これは笑う。いきなりポエマーになるのはご勘弁。だって私は性格最悪だから。

「あひゃっひゃっひゃっ」
「そ、そんなにおかしいかよ……」
「だ、だって、雛って、あたしゃヒヨコか」

いい加減気づけ。私の性格の悪さに。気づいて、幻滅して、その上で好きになってくれ。

「でも、ドン引きされるよりはマシか……」

だよね。いい奴だからな。高須竜児。でも。
どうしても手を伸ばしたくて。触れられない距離を埋めたくて。だから手段は選ばない。

「だひゃっひゃっひゃっ……お?」
「お?」
「たはーごめん! 笑いすぎて尿漏れした」
「フハッ!」

私は行動した。高須くんを悪党にしてやる。

「漏るぜぇ~! 尿、超漏るぜぇ~!」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

ジョバジョバ漏る。生のピッチャーを満タンにする。ピッチャーびびってらんないから。

「ふぅ……出た出た」
「おう。結構なお点前で」

出しきってスッキリ。賢者タイムの櫛枝だ。

「それにしても高須くんめっちゃ嗤ったね」
「あ、あんなの誰だっで嗤うだろ……」
「いいや、違うね。高須くんは異常だよ」
「い、異常……?」
「異常な高須くんを満たせるのはこの櫛枝実乃梨だけさ。というわけで、隣失礼します」
「お、おう……近いな」
「あはは。ばっちくてごめん」

ちゃっかり高須くんの隣に並び立つ狡い自分のことはやっぱり好きになれそうもないけど、濡れた股間は確かな証となって自信をくれた。狡くても卑怯でも汚くたって、勝つ。

「……手段なんて選んでられないっての」
「え?」
「んーん。なんでもない」
「気のせいか。今の悪い顔、良かったのに」
「……気のせいじゃないっての」

高須竜児。今の台詞、ポエムに追加しとけ。


【フハッドラ!】


FIN

のだめカンタービレのEDを使った櫛枝MADと長門MADがお気に入りです。良い曲です。
のだめのEDの入り方、毎回神がかってます。

というわけで、最後までお読みくださりありがとうございました!

最近聞いてもない自分語りで締める手口が流行ってるの?

おつおつ

>>14
初見さんかな?
貴重な人材だかこめかこめ

このSSまとめへのコメント

1 :  MilitaryGirl   2022年04月21日 (木) 08:24:06   ID: S:nCiRbM

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