黒雪姫「ハルというのは君の名か?」ハルヒロ「え?」 (14)

プロローグ

「どこだ、ここ……?」

ハルヒロたちは気づくと見知らぬ空間?
いや、世界に居た。ここは、異世界だ。
どうしてそう断言出来るのかはハルヒロにもよくわからない。ただ五感全てがここは違うと脳に伝えてくれている。だから、わかる。

「メリイ……」

傍にメリイが居て、周囲を見渡している何やら呟いているようだが、何故か聞こえない。

「クザク、ランタ、ユメ、セトラ……」

他の仲間たちも近くに固まっていて、それなのに声が伝わらない。ただお互いに共通の認識として異世界に迷い込んだと理解していて、それぞれ武器を構えて警戒していた。

「姿は見えてるよな……?」

拙いジェスチャーで自分の目と仲間たちの目を指さすと各々頷きを返してきた。どうやら声だけは届いていない。なんなんだここは。

「っ……!」

ランタが何かを見つけたようで反りの強い黒剣をその方角へ向けると、そいつらは居た。
地面から生えた7つの建造物の上でこちらを見下ろす視線の数は8つ。どうして7つ建造物から8つの視線を感じるかと言うと、正面の建物の上に2人立っているからだ。人間だろうか。それにしてはフォルムがおかしい。

「なんだ、あいつら……?」

そいつらは全身に鎧づくめというか、鎧を身に付けているにしてはスマートすぎる者も多く、まるでそのまま生まれたみたいだった。

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「それに、このバー……何かのゲージか?」

ずっと気になっていた視界上端のバー。
目盛はないがゲージのようにも見える。
たぶんゲージだ。体力? それとも魔力?

「っと、なに、あれ、……嘘っ!?」

迂闊にも余所見していたハルヒロであったが視界の上で良かった。正面の大きな建物を見上げる形となっていたので、気づけた。

屋上から落ちた。いや、違う。滑空……?

「と、飛んでる、のか……?」

沈みかけた夕陽を背景にシルエットしか見えなかったそいつはまるでヘルメットでも被っているかのように丸い頭のシュッとした奴で、背中に板みたいなものが生えていた。

「あれで飛べるの? 実際飛んでるし……」

どう考えても人ひとりの体重を支えられる揚力は発生しそうもないその翼は不思議な光を放っておりどうやらその不思議な光のおかげで空を飛んでいるようだ。なんて分析している場合ではない。ハルヒロは慌てて命じた。

ヘルメット頭がぐんぐん距離を詰めている。

「さ、散開! ユメ、弓で牽制を……!」

言葉は通じなくとも、そこは同じパーティで長いことやってきた間柄だ。それぞれ散開して建物の陰に隠れつつ、ユメが弓を射る。

「うわ、避けた!?」

ユメの弓矢は真っ直ぐヘルメットを目指して進んだが、なんなく躱されてしまった。
どうやらあの翼はかなり機動力がある。

「クザク……ランタ……!」

建物の陰からクザクとランタが出てくる。
どうやら降りたところを待ち受けるつもりのようだ。危険だとは思う。ハラハラする。

「無茶だけはするなよ……!」

ハルヒロには何も出来ない。ただ息を潜めて物陰から見守るしかない。短剣を握り締め。
メリイと目が合う。頷き合う。クザクとランタが負傷したらハルヒロが囮になってその間にメリイが治療する。ユメに援護は任せる。

ゴンッ! 衝撃音と共に視界に文字が現れる。

『F i g h t !』

意味を知らないような、知っているような。
ともかく、クザクが構えた盾にヘルメット野郎の飛び蹴りがぶつかり合って火花が散る。
戦いが始まった。たぶんそう言う意味だ。

「今だ、ランタァ……!」

ハルヒロが命じるまでもなかった。
ランタがヘルメット野郎に飛びかかる。
大口を開けているからどうせ「我流!!」とか恥ずかしいことを叫んでいるに違いない。暗黒騎士の反り返った刃が敵に届く寸前。

「ガードした!?」

ヘルメット野郎はガッツポーズのように腕をあげてランタの剣を受け止めた。硬い。
斬れない。ランタは飛び退き、ステップ。
残像を生み出してヘルメット野郎を囲む。

四方八方から斬りかかろうとするも、突然バランスを崩して転倒した。無様なランタ。
しかし笑えない。黄色い奴が出現した。

「新手か!?」

悪趣味なバトンをクルクル回す。遺物か。
あれでランタは平衡感覚を狂わせられた。
メリイの治療は効くのか。状態異常なら。
しかし、メリイのところに紫の奴が居る。

「メリイ……!」

紫の奴がバチバチ紫電を纏う鞭を振るう。
メリイが手に持ったメイスを取り落とす。
どうやら痺れたらしい。ユメ、援護を。

「狙撃されてるのか!?」

メリイを助けようと物陰から出ようとしたユメの足元に赤い光の筋が、光の筋とした表現出来ない何かが照射されて地面が焦げた。

「まずいまずいまずい……!」

ハルヒロは混乱していた。なんだこの状況。
いきなり別の世界に来たと思ったら声が伝わらないし、先住民らしき存在に囲まれてパーティが壊滅寸前。打開するには各個撃破しかない。まずはランタだ。早く立てよ。クザクの盾がヘルメット野郎の攻撃でボコボコだ。

落ち着け。ハルヒロだけは見つかってない。

「ステルス……」

すっと、影に沈む感覚。気配を消して接近。

「まずはひとり……」

ダガーを黄色い奴に突き刺して、仕留めた。

「え、よっわ……」

あまりの手応えの無さに嘘だろと思う。
しかも死体は残らず、なんか変なマークだけがその場に残った。もしや時間が経つと復活するのだろうか。とにかく、仕事はしたぞ。

「ランタ、頼む……!」

よもやランタに何かを頼む日が来ようとは。
しかし、ホバリングしながらアクロバットな挙動でクザクをボコっているヘルメット野郎を止められるのは同じくアクロバティックな暗黒騎士のランタしか居ない。だから頼む。

「クザク、一旦引け!」

これがアクセルなんちゃらではなく別の世界観ならスイッチ! とかカッコよく叫んでクザクを下がらせることが出来たかも知れないが、どちらにせよハルヒロはそんな異世界を観たことも聞いたこともないのでクザクの肩を掴んで強引に後ろに下がらせた。メリイ。

「よかった……まだ無事だ」

メリイはセトラが守ってくれていたらしく、無事だった。セトラも武器を置いている。
武器を手放した2人は女性的なフォルムをした鞭使いに何やら尋問されているようだが、言葉が通じないので答えようがない。そこにクザクが何を勘違いしたのか突撃していく。

「いや、ちょっと乱暴すぎない……?」

盾を構えて体当たり。紫の人は吹っ飛んだ。

「メリイ、セトラ、大丈夫?」

セトラはクザクに冷たい視線を向けている。
メイスを拾って手渡すと、痺れは収まったらしく、メリイは魔法でクザクを治療した。
ようやくひと息ついた彼に口パクで伝える。

「クザク、あっちから謎光線が飛んできてユメが動けない。盾でカバー出来るか?」

相変わらず声は伝わっていないが、丁度、謎の赤い光がユメの隠れている建物に着弾。
建物が揺れた。さっきより強い。恐ろしい。

「だ、大丈夫……? アレ、相当やばいけど」

念を押すもどのみち自分が行くしかないとクザクはボロ盾を構えてユメのところへと向かう。ほんとごめんな。ハルヒロはリーダーとして仲間を死地に向かわせることに胸が痛んだ。でもクザクは頑丈だからきっと大丈夫。あ、爆発した。赤い光以外にも爆発物まで投擲するなんて。でもクザクは頑丈だから。見かねたセトラが駆けていく。意外と優しい。

「じゃあ、俺はランタのカバーを……」

ランタとヘルメット野郎はなかなか良い勝負をしているようで飛んだり跳ねたり忙しい。
高速戦闘は結局集中力の戦いだ。どちらも目の前の相手しか見えてないだろう。それならば容易く背後を取れる。無論、ランタの背後ではなくヘルメット野郎の背後だ。ランタのことは嫌いだけど、ハルヒロはランタを頼った。だから行かないと。だけど、メリイが。

「メリイ、どうしたの……?」

メリイがいつの間にかハルヒロの腕を掴んでいて、離してくれない。なんだろうと訝しんで意図を訊ねても言葉が届かない。メリイは行かないでと言っている。でも、行かなければならない。今はヘルメット野郎と良い勝負しているランタだが、いつ均衡が崩れるかわからない。早いうちに敵の頭数を減らしておかないと取り返しがつかなくなる。そうだ。

「メリイ、行かないと……」

ハルヒロは怖かった。仲間を喪うことが。
マナトとモグゾー。2人も居なくなった。
曲がりなりにも、ハルヒロはリーダーだ。
仲間の生死に責任がある。そうじゃない。

「不安にさせて、ごめん……」

ハルヒロも感じている。胸騒ぎがする。
ざわめく心の声。もう帰って来れない。
漠然とした予感があった。同じ気持ち。
波打つ心の声が、ハルヒロに伝わった。

「でも、行かないと……何もせずに見ていることなんて出来ない……したくないんだ!」

メリイが手を離す。ハルヒロは駆け出した。

「ステルス……」

高速戦闘を続けていたランタは疲れていた。
保ってあと数分だっただろう。危なかった。
ハルヒロは再び影に沈む。誰も気づかない。

「どこに刺せばいい……?」

気配を消して、斜め上から俯瞰する感覚。
ヘルメット野郎は西陽を反射してわかりづらいが銀色らしくピカピカ光沢を放っている。
やはり鎧を身につけているわけではないらしく継ぎ目が見当たらない。先程ランタの剣を腕で弾いたことから考えてもとてもハルヒロのダガーが刺さるとは考え難い。硬い敵だ。

「目までしっかり隠してるし……」

硬い相手を仕留めるには柔らかい部分を探すのが基本だ。目は柔らかく、奥まで突き刺せば脳まで届くのでそこを狙いたいところだけど、出来そうもない。観察すると手足の可動部に隙間があるのでそこにダガーを突き立てれば刺さりそうだが、致命傷足り得ない。
そもそも高速で飛び跳ねる相手の関節の隙間に刃を突き刺すなんて不可能に近い芸当だ。

「だったら……」

ハルヒロは、静かにダガーを横に振った。

ギャンッ! と金属同士がぶつかる音がして、ダガーが吹っ飛んだ。武器を失ってしまったがヘルメット野郎の翼の光が消えてホバリングしていた足が地についた。速度が落ちる。

「いけ、ランタァ!!」

ランタが上段に構えて大口を開く。また「我流!!」と叫んでいるのだろう。反り返った刃がヘルメットへと迫り来る。その、瞬間。

ギンッ!

「えっ……!」

いきなり黒くて尖った新手が出現して、剣のような腕でランタの斬撃を受け止めていた。
なんだ、こいつ。無意識にハルヒロは呟く。

「黒の、王……?」

西陽を一切反射しない漆黒。その存在感はハルヒロを畏怖させた。王。まさしく、王だ。
純度が高い黒剣が突きつけられ、放たれる。

「あ……?」

全然、見えなかった。黒の王は、速かった。

「あれ……? 立てない……痛っ」

気づくとハルヒロは黒の王の前に跪いていて両手両足には穴が空き、刺し貫かれていた。

「ははっ……」

思わず乾いた笑みが溢れた。絶望すら感じる間もない速度。こいつが何者かは知らないけれどこの域に到達するためには相当な修練と膨大な歳月を要したに違いない。敬服する。

「よせ、ランタ……」

助太刀しようと黒の王に斬りかかったランタは緑色の大きな盾を持った新手に阻まれた。
視線は8つ。まだ居たのか。勝ち目はない。

「お願い、します……どうか、仲間だけは」

ハルヒロは地面に額を擦りつけて懇願した。
自分でも惨めだと思う。でも仕方ないだろ。
俺はリーダーだから。仲間が大切だからさ。

「なんでもします、だから、お願いします」

しかし、ハルヒロの言葉は伝わらなかった。
黒の王が再び黒剣を突きつける。終わりだ。
あとは祈るしかない。仲間の無事を。祈る。

「ハル!」
「メリイ……?」

全てを諦めたその時、ずっと聞こえなかった、聞きたかった仲間の声がハルヒロの耳に届いた。ハルヒロをハルと呼ぶのは仲間の中でもひとりしか居ない。メリイだけである。

「ハル……ハル!」

メリイは両手に光を輝かせてハルヒロを治療してくれた。両手と両足に空いた穴が塞がってようやく立てるようになった。立て。立たないとメリイを守れない。すると黒の王が。

「ハルというのは君の名か?」
「え?」

ハルヒロはギョッとした。喋れたんだ。
しかも、女の声だった。信じられない。
ていうか意味がわかる。異世界なのに。
とにかく、頷いて自分の名前を伝えた。

「ハルヒロ、です……」
「ふむ。そこに居る私の子はハルユキという。君が翼を引き裂いたからカッとなって手を出したが、そういうことなら手を引こう」

そう言って剣を下ろす。自己紹介しただけなのに。どうやらあのヘルメット野郎はこの人の子供らしく子供の翼を引き裂かれて頭に血が上り手が出てしまったと。なんだそれは。

「親バカ、なんですね……」
「はは。よく言われる」

つい出てしまった恨み言を褒め言葉と捉えたらしく、黒の王は笑った。そして、不意に。

「見たところ君達はこの世界の住人ではないようだが、帰る方法が知りたいか?」
「え? そりゃあ、もちろん……」
「わかった。では四つん這いになって貰おう」
「はい?」
「いいから、早く」

いきなり四つん這いになれと言われて戸惑うハルヒロだったが背に腹は変えられない。
メリイの前でこんな格好恥ずかしいけど、ハルヒロはリーダーだから、仕方なく従った。

「ハルに何をするつもりですか……?」
「心意システムと言っても君らにはわからないだろうから省略する。この加速世界にはたまに君達のような異世界人が迷い込むことがある。その時は決まって、こうして元の世界へと送り還すのだ。大丈夫。痛みは一瞬だ」

説明しながらハルヒロの背後に回った黒の王の切先から何やら眩い光が輝き、そしてそれを四つん這いになったハルヒロの尻に放つ。

「ヴォーパルストライクッ!!」

ズガッ!

「お?」
「きゃあっ!?」

一瞬、チクリとした。それだけだった。
振り返ると、メリイが顔を覆っている。
耳が赤い。どうしてだろう。照れてる。

ボトリッ。

「ん? なんだ、これ……?」

何かが尻から落ちた。尻尾だろうか。違う。
ハルヒロには尻尾は生えていない。何かな。
うんこだった。それは1本の糞だったのだ。

貫かれた肛門が役目を失い垂れ流したのだ。

「この世ならざるもの。それをこの加速世界が検知した瞬間、君達は強制送還される」
「フハッ!」

先に言ってくださいよ。ハルヒロは嗤うしかなかった。だって、メリイに見られたから。
どうせならハルヒロはメリイのが見たかったなんて言ったら嫌われるだろうか。嫌だな。

「ハル……私、何も見てないから」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

嘘つけと思う。だってメリイの顔は真っ赤でチラチラとハルヒロの開きっぱなしになった尻穴を見ている。気恥ずかしさを誤魔化すためにハルヒロは哄笑して、そして消えゆく。

西陽が落ちる間際、黒の王の声が耳に届く。

「良い戦いだった……またいつでも来い」

どこの世界もくそったれで、大嫌いだった。

エピローグ

「メリイ……その、さっきのこと」
「うん……」

元の世界に帰ってきたハルヒロは真っ先にズボンに空いた穴を塞がなければならなかった。しかしハルヒロに手芸のスキルはない。
だからメリイが繕ってくれた。取り繕った。

「なんか、嫌な思いさせたって言うか……」
「そんなことない」

申し訳ない気持ちを伝えると、メリイはきっぱりそう言った。意外と強い口調で、まるで怒っているようだった。怒って、ないよね?

「あのさ、メリイ」
「何?」
「俺、頼りないけど、一応リーダーだし、仲間が大切だからいざって時にはなんでもするって言うか……だから、わかって欲しくて」

大便について弁明すると余計にみっともなくて死にたくなった。メリイは何も言わずに黙々と裁縫して、ズボンの穴は完全に塞がった。

「はい、出来上がり」
「ありがとう……大事に穿くよ」

お礼を言って受け取るも、離してくれない。

「メリイ……?」
「仲間のためになんでもするってほんと?」
「ほんとだけど……それがどうかした?」

何故そんな当たり前のことを訊くのだろう。

「じゃあ、あの黒い剣の人に自分の子になれって言われたら、そうするつもりだった?」
「それは……まあ、それしかないなら」

素直に答えると、メリイはハルヒロを睨み。

「ゆらゆらするハルは嫌い」
「な、なんだよ、それ」
「もうなんでもするは禁止」

やっぱりメリイは怒っていた。だからつい。

「な、なんでもするから許して」
「もう、言ったそばから」
「ご、ごめん」

お約束のやり取りをして、メリイは微笑み。

「じゃあ、また見せてね」
「え?」

何をとは言わなかった。でも顔が赤かった。
あんな物をまた見たいなんて変わっている。
でもたぶん、ハルヒロが目撃した立場ならまた見たいと思うだろう。だから理解出来る。

「ハル……帰ってきてくれて、ありがとう」
「こちらこそ」

メリイと、仲間たちが誰一人欠けることなく帰還出来たのがハルヒロの名前と一本糞のおかげならば、リーダーとして冥利に尽きた。
肌寒い風。風景の色彩。五感から伝わった。

糞みたいな世界でも、帰ってこれて嬉しい。


【灰と幻想のアクセル・ワールド】


FIN

フリー素材のBGMに『横顔』という曲がありまして、それを聴きながら書き上げました。
とても良い曲なので是非聴いてみて下さい。

灰と幻想のグリムガルとアクセル・ワールドは以前から一度書いてみたい作品でしたが、両作品共に設定がてんこ盛りでキャラクターの口調も難しく、これが自分の限界でした。

グリムガル18巻、素晴らしかったですね。
悟りを開いたランタの価値観には素直に感服してしまいました。全ての価値は虚飾です。

それと『ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います』という作品を見つけまして、これも面白かったので興味ある方は是非読んでみてくださいね。

というわけで、最後までお読みくださりありがとうございました!

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