櫛枝実乃梨「大河、綺麗だね」川嶋亜美「馬子にも衣装って感じ?」 (8)

あの日、星が砕けた日。忘れられない。
居た堪れない私の傍に彼は居てくれて。
砕けた星のかけらを拾い集めてくれて。

まるで自分に言い聞かせるように諭した。

「直るんだ。壊れたって、ちゃんと」
「っ……高須、くん……」
「おう」
「高須、くん……」
「居るよ。櫛枝の傍に居る」

モザイク調になっても、星は輝いていた。

「明日、パーティーに来てくれよ」
「だめだよ……私は行けない」
「でも、待ってるから!」

あの日の彼の言葉がまだ耳に残っている。

「待たないで……行けない、からさ」

そう言って立ち去る私の背中に彼は叫ぶ。

「待ってる……待ってるからな!!」

高須竜児。いい奴だ。そして好きだった。

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「なんつー顔してんのよ」

はっとして我に返ると、眼前に川嶋亜美。

「親友の披露宴でする顔じゃなくない?」

わかってる。というか、あーみんだって。

「昔っからさ、あーみんはそうだよね」
「なによ、改まって」
「自動販売機の間に挟まってた癖に」

誰かに見つけて欲しい。わかって欲しくて。

「そうやって、人の気を引こうとする」
「えー? なにそれ。亜美ちゃんわかんない」

今ならわかる。そうやって人を煽る意味も。

「私は、川嶋亜美の数少ない理解者だよ」
「うっざ。そういうとこ、昔から大嫌い」
「うん。私も私のこういうところ、嫌い」

そしてそれは目の前の女もイコールなのだ。

「はあ……飲も。やってらんねー」
「よーし、かんぱーい!」

チンッとグラスを合わせて、私たちは飲む。
清濁併せ呑むのが、青春だからさ。なんて。
そういうことを言うと、また怒られるかな。

「大河、綺麗だね」
「馬子にも衣装って感じ?」

赤のドレス、白無垢、ウェディングドレス。

「そして高須くんは……」
「完全に若頭ね」

相変わらずの、目つきの悪さ。尖った頬骨。

「お似合いだよね」
「つーか、美女と野獣? あのチビが美女ってのは癪に障るけど。亜美ちゃんのほうが美女だけど。あれならまだあんたのほうが……」
「私は……万年球拾い」

グローブは空っぽで拾う球なんてないけど。

「さっさと男作れば?」
「あーみんこそ」
「あたしはほら、事務所があるから」
「へー逃げるんだ?」
「ああん!? いまなんつった!?」

珍しく川嶋亜美が酔っている。楽しい式だ。

「マジでお前最悪な」
「うん……知ってる」

こんなだから私はお嫁さんになれなかった。

「あーみんが男だったら良かったのに」
「どういう反応すりゃいいのよ……」
「ちょっとは嬉しかったりする?」
「チッ……まだ女捨てたくないっての」

意表を突かれると意外と弱いあーみんと私。

「むしろあの若頭が女なら良かったのに」
「ぶほっ」

ワイン噴いた。橙のドレスで来てよかった。

「そしたら大河も合わせて4人、シェアハウスかなんかで仲良く暮らしてたかもね」
「いやぁああ……怖い怖い怖い。ぜってードロドロしてて散らかりまくるに決まってる」
「そこは高須ちゃんの女子力に期待しよう」
「いやぁああ……ああいう不器用なのが意外と良い男捕まえて足並み乱すに決まってる」

口では嫌がりながらもあーみんは楽しそう。

「そろそろご挨拶に行きますか」
「えー亜美ちゃんめんどくさい」
「ほら、大河も高須くんもお待ちかねだよ」

新郎新婦がこちらを眺めて微笑んでいる。
この席順は厚意なのやら、悪意なのやら。
ともあれ、見せ物じゃない我々は向かう。

「結婚おめでとう、大河」
「絶対あんたより良い男見つけてやるから」

私は素直に、あーみんは遠回しに祝福する。

「ありがと、みのりん。竜児より良い男なんているわけないじゃないの、ばかちー」
「ケッ。惚気てんじゃねーっての」
「目つきが良い男ならそこら中に居るけど」
「おい」

あはは。久しぶりだ。高須くんのツッコミ。

「わ、笑うなよ、櫛枝」
「ごめんごめん。ところでさ、高須くん」
「おう。どうした?」
「もう夫婦喧嘩した?」

一瞬ポカンとして彼は新婦と目を合わせて。

「毎日してるよ」
「だいたい竜児が悪いけどね」
「んなことねーよ」

喧嘩するほど仲の良い2人は、輝いている。

「大丈夫。高須くんなら何度でも直せるよ」
「櫛枝……?」
「どれだけ喧嘩しても、大河が怒って出て行ったとしても、高須くんなら仲直り出来る」
「おう……男に二言はない」

良かった。あの日のこと覚えていてくれた。

「はいはーい、亜美ちゃん質問でーす!」
「なによ、ばかちー」
「おふたりの子供はまだなのかなーって」

酔っ払いあーみんが下品に絡むと、大河が。

「子供はコウノトリが運んでくれるから」
「は?」
「だから、寝てる間にコウノトリが……」
「ケェエエエエエエエエエエッ!!!!」

怪鳥と化したあーみんを私は慌てて宥める。

「あーみん落ちつけって! 大河は昔っからピュアなんだから! あーみんとは違うんだ!」
「うっせぇ! いくつになったと思ってんのよ! いつまでも許されると思うなよ!!」

罵詈雑言を吐くあーみんに勝ち誇るように。

「ふん……憐れね」
「ああんっ!? 」
「今晩も2人でお布団に入ってコウノトリさんを待とうね、ねー竜児」
「お、おう……お布団の中でな」
「おまっ……全部わかってんだろーが!!」
「えー? なんのこと? 大河わかんなーい」
「だから! このヤクザの高須棒を……」
「か、川嶋、それはさすがに……」
「きゃー! 亜美ちゃんお下品ー!」
「あたしは独り身だっての! ざけんな!」

騒がしさが懐かしくて、ノスタルジーに浸っている私の耳に、高須くんの呟きが届いた。

「だいたい挿れられるのは俺のほうで……」
「へ?」
「あ、悪い。今のなし」

幻聴かな。幻聴だよね。一応、新婦に確認。

「た、大河、今のどういう意味かな……?」
「だって子供産むのって痛いんでしょ?」

驚愕に目を見開いたあーみんが震え声で。

「あ、あんた……まさか」
「だから毎晩、竜児の産道を広げて……」
「フハッ!」

好きだけど、嗤うよ。好きだから、嗤うよ。

「早く元気な赤ちゃんを産んでね、竜児」
「おう!」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

待ち合わせ場所に行ったら彼は居なかった。
待ってると言ってくれは彼は、もう居ない。
輝く高須くんと大河の光は明るく眩しくて。
私のオレンジのドレスが、夕焼けのようで。

黄昏に響き渡る哄笑は、オレンジ色の愉悦。

「悔しいけど……亜美ちゃん少し羨ましい」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

高須くんの光を浴びて、熟れて腐っていく。

「見て、竜児。みのりんあんなに愉しそう」
「冥利に尽きるな」

やっぱり好きだよ。クッサイけど好きだよ。

「ふぅ……結婚っていいね、あーみん」
「亜美ちゃん今マジで絶賛結婚相手募集中」
「同感」

慰め合う。ふたつの影が、手を繋ぐように。

「あんたは嗤い方をまずどうにかしたら?」
「えへへ……お恥ずかしい」
「反省しなさいよ」
「ごめん……でもこれが私だから」

あーみんならわかってくれる。だってほら。

「ま、いーんじゃないの?」
「かぁーっ! あーみんが男だったらなぁ!」
「だからまだ女を捨てたくないっての!!」

決めた。川島亜美みたいな男と結婚しよう。
ひび割れだらけの友情だけど。だからこそ。
私とあーみんの友情は、きっと輝いている。


【掘るドラ!】


FIN

最近ですね、『恋は双子で割り切れない』というライトノベルを読んでまして、それを読むと久しぶりにとらドラSSが書きたくなってしまいまして、結果的にこの有様でした。
末筆ですが、自動販売機に挟まるあーみんの気持ち、すごくよくわかります。

最後までお読みくださり、ありがとございました!

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