杉元佐一「少し席を外すぞ」アシ?パ「オソマか?」 (13)

俺の名は杉元佐一。
帝国陸軍第一師団に所属していた元兵士だ。
露スケとの激戦を潜り抜けてついた渾名は『不死身の杉元』。

気に食わない上官をぶん殴って除隊されたあと、俺はどうしても金が必要で北海道で砂金を川底で浚っていたが、まったく取れない。

俺にはどうしても金が必要だった。
兵士になる前に惚れていた梅ちゃんこと梅子の目を治すためにはアメリカで手術をするしかない。戦死した梅子の旦那に頼まれたその使命を果たすために俺は一攫千金を夢見て毎日川底の砂を浚っていたが、そう甘くない。

北海道の砂金はもう枯渇していてほとんど残ってなどいなかった。しかし、噂を聞いた。
どこかに莫大な金塊が貯蔵されていると。
そしてその手がかりとなる地図は網走刑務所から脱獄した囚人達に刺青として彫られていて、それぞれの囚人に掘られたその地図をパズルのように組み合わせて金塊の隠し場所を探す必要があった。

「杉元」

だが、俺は広大な北海道の大地を隈なく探せるほど土地勘があるわけではなく、そんな矢先、ひとりのアイヌ民族の少女と出会った。

「またオソマを入れるつもりか?」

端正に整った顔立ちの大人びた少女の口からオソマ、つまり大きいほうの排泄物という意味合いのアイヌ語が発せられるたびに、俺はなんとも言えない残念な気分になる。

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やっぱり文字化けしてましたね
アシ?パの『?』には小さい『リ』が入ります
アシ『リ』パなので、ご了承ください

「アシリパさん」
「なんだ、杉元」

夕飯時。ぐつぐつ鍋から湯気が立ち昇る。

「何度も言うけどこれはオソマではなく、味噌という立派な調味料で……」
「立派なオソマだな」

アシリパさんは頑なに味噌を認めない。
その味わい深さを理解した上でなお、オソマと呼んで忌避感を覚えているようだ。
いや、忌避感というよりは、むしろ。

「俺の勘違いだったら申し訳ないけど……」
「なんだ?」

俺が蓋を開けて見せた味噌が詰まった飯盒をじっと凝視するアシリパさんに訊いてみた。

「アシリパさんはオソマが好きなのか?」
「杉元! な、ななな、なんてことを!?」

慌てふためくアシリパさん。流石に失礼か。

「ごめん。俺の勘違いだったみたいで……」
「はん! 本当に杉元は困った男だなぁ! 私がオソマを好き? オソマ好きは杉元だろう!」

下手に出るとやられる。弱肉強食なのだ。

「たしかに俺は味噌を好きだが、アシリパさんにとってはあくまでオソマだろ?」
「うっ……」

ずいっと、見れば見るほど排泄物にしか見えない発酵調味料をアシリパさんに近づける。

「それなのに、このオソマを汁物に入れた途端、アシリパさんの食欲は倍増するわけだ」
「うう……杉元の意地悪」

意地悪だろうか。しかし、俺は元軍人だ。
戦場は綺麗事だけでは生き抜けないのだ。
俺は不死身の杉元だ。だから、負けない。

「これは俺にとってはあくまで味噌で、アシリパさんにとってはオソマ。にも関わらず、飯のたびにオソマオソマって催促するのはおかしいと、そうは思わないかい?」
「私は……ただ」

アシリパさんが顔を真っ赤にして、呟いた。

「それが……杉元のオソマだから」
「はい。もうやめようか」

これ以上はいけない。俺は話を打ち切った。

「杉元は悪い男だ」
「そんな顔するなよ……」

アシリパさんの悔しそうな顔。
まるで自分が大罪人になった気分だ。
まあ、もともと戦場で散々暴れ回っている。
今更、善人ぶるのはおかしいかも知れない。

だけど、それでも。

「ほら、これでいいか?」

ぽちゃんと、汁物に味噌を入れてやった。

「うん……ありがとう、杉元」

味噌が溶けて、汁物の色が変色していく。
その様は口が裂けても美しいとは言えないかも知れないけれど、間違いなく美味そうだ。

「杉元のオソマは本当に美味そうだ」

ガクッとずっこける。全く伝わっていない。

「アシリパさん。それは良くない」
「なんでだ?」
「だって、年頃の女の子が……」

俺か言い淀むと、何やら誤解したらしく。

「ははあん。杉元は私にオソマを食べられるのが恥ずかしいんだな?」

俺はもうどうしたらいいかわからなかった。

「ごちそうさまでした」
「ヒンナ」

何はともあれ、ひとまず食べ終えた。
ヒンナというのは食材への感謝という意味が含まれていて、アシリパさんと俺は飯を食べながらヒンナヒンナとしきりに口にする。
さて、腹もくちくなったところで席を立つ。

「少し席を外すぞ」
「オソマか?」

聞き間違いかと思って振り返ると、アシリパさんはテキパキと鍋を片付けていた。
やはり聞き間違い。いや、もう一度試そう。

「少し席を……」
「オソマだな?」

彼女の形の良い唇から現行犯でオソマが発せられるのを見て、俺は目眩がした。

「アシリパさん」
「なんだ、杉元」
「それはよくない」

首を振りながら窘めると、おねだりされた。

「杉元、オソマの補充を見せて欲しい」
「はい?」
「だから、オソマを補充するところを……」
「待った待った」

不死身の杉元にも考える時間が欲しかった。

「補充なんてしないから」
「でもオソマしに行くんだろう?」

否定しても首を傾げられる。おかしいな。

「アシリパさん。あれはオソマじゃない」
「あれは杉元のオソマだ」
「あれは味噌! オソマじゃないの!」

とうとう俺は叫んだ。すると悲しそうに。

「どうして、そんな嘘をつくの……?」

嘘だろって思う。俺は期待されていたのだ。

「ごめん……アシリパさん。でも、俺は」
「うん……杉元もやっぱり恥ずかしいよね」
「ん?」
「そういうことなら、私も一緒に……」
「アシリパ!?」

俺は愕然とした。完全に一線を越えていた。

「どうした? そんな大きな声を出して」
「そりゃあ、取り乱しもするだろ!?」

俺は不死身の杉元。しかしこの耐性はない。

「杉元のオソマを見せて貰うお返しに、私もオソマを見せてあげようと思っただけだ」
「見ちゃだめ! 見せちゃだめ!」

必死に抵抗するもアシリパは大人びていて。

「あはは。生娘じゃあるまいし」
「生娘がなに言ってんだ!?」

混乱する俺を導くように手を取って囁いた。

「杉元、大丈夫。私に任せろ」
「アシ?パさん……」

構図が逆でもわりと良いムードだと思った。

「ふむ。尻にはあまり傷がないんだな」
「アシリパさん、つつくのはやめて」

真っ暗な山林で、尻をつつかれる俺。
外気に晒すと尻が冷えてしまう。
背後でアシリパさんがしゃがむ気配。

「やっぱり……まじまじとは見れない」
「わかってくれて嬉しいよ」

ひとまずオソマ鑑賞会のような展開にならずに済んでほっと胸を撫で下ろしていると、ふいに手を握られてドキッと心臓が跳ねた。

「杉元から先にして」
「いや、アシリパさんから……」
「じゃあ、一緒に……」

アシリパさんの手が震えている。
物心つく前に母親を喪い、そして慕っていた父親も奪われた女の子。寂しいのだろう。
心細いのだろう。ならば、俺は男として。

「アシリパ」
「杉本……」
「大丈夫。俺がついてる」

返事はなかった。ただ手を握りしめる力が増しただけ。それでいい。それだけで、俺は。

「俺はァッ!! 不死身の杉元だあっ!!」

ぶりゅっ!

アシリパさんの排泄音を俺はかき消した。

「フハッ!」

ぶりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅぅ~っ!

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

信じられないかも知れないが、この哄笑はアシリパさんのもので、彼女が俺の脱糞に興奮して愉悦を抱いたことに、奮えて、漲る。

「ヒンナ!」
「ヒンナ! ヒンナ!」

食ったら出る。当たり前のことだ。
だからこそ、俺たちは生きている。
出るのは食ったから。だから感謝。

そんな当たり前のことをもしもおかしいと抜かす奴がいるのなら、俺が相手になろう。

「杉元」
「なんだい、アシリパさん」
「暗くてよく見えなかったけど……」

事後、俺たちは背中で互いを温め合いながら満天の星空を眺めて言葉を交わす。

「杉元の尻穴は私のおじいちゃんより尻穴よりも立派だった」
「それって、たしか……」
「うん。エカシオトンプイ」

アイヌ民族の赤ん坊には病魔が寄り憑かぬように汚い意味合いの名前がつけられる。
エカシオトンプイは祖父の尻穴という意味。

「だから私たちが産んだこのシ・タクタクにはフウラテッキと名付けようと思う」
「フハッ!」

シ・タクタクは糞の塊。
フウラテッキは臭く育つ。
つまり、糞の塊を臭く育てるらしい。

「くっく。やっぱりオソマ大好きなんだな」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

堪らず哄笑した俺には反論など出来ない。
そんな、金塊などよりよほど価値あるこのゴールデン・オソマをふたりで雪に埋める際には雪解けが待ち遠しいと、そう思った。


【ゴールデン・オソマ】


FIN

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