探偵「今、ある事件の調査をしてましてね」
男「調査というと?」
探偵「殺しですよ。殺されたのはこいつです」
写真を見せる。
男「……」
探偵「失礼ですが、事件当日は何をされてましたか?」
男「アリバイ確認というわけですか?」
探偵「形式的なものです。何をなさってました?」
男「被害者をブン殴ってました」
探偵「ほう……」
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探偵「つまり、自分が犯人だと?」
男「そうなりますね」
探偵「ちなみに……ブン殴るというのは?」
男「棍棒で一発。ぐったりしてましたよ」
探偵「それはおかしいですねえ……」
男「え」
探偵「検死の結果、死因は……刺殺だったんですよ」
男「な、なんだって!?」
男「間違いないんですか!?」
探偵「ええ、心臓を一突きでした」
探偵「つまり、あなたは犯人ではありえない……」
男「バカな! そんなはずない! 俺はたしかに……!」
探偵「私はこれから現場に行きますが、一緒に行きますか?」
男「はいっ!」
男(信じないぞ! 絶対に俺が奴を殺ったはずなんだ……!)
探偵「ここが現場です」
探偵「ご覧下さい、大きな血痕が残ってるでしょう。撲殺でこれは……まぁ、まずありえない光景です」
男「くっ……!」
探偵「おっと今解剖の結果が届きました」
探偵「ええと、死因はやはり刺殺。刃渡り数十センチの刃物で刺されたようです」
男「あの……頭に……頭に殴られた跡は!?」
探偵「それは確認されていないようです」
男「そ、そんな……」
男(俺はたしかに殴った……のに!)
探偵「さっそく犯人がどんな人間か調べないと……」
探偵「お、それらしき足跡があった。これによると……靴のサイズは26.5ですね。やはり男性かな」
男「一目で分かるんですか!」
探偵「ええ、ですがこれは大した手掛かりにはなりません」
探偵「しかし、この踏み込み方によると……犯人は左利きのようだ」
男(左利き……)
探偵「これは大きな手掛かりになりそうだ。左利きの人間はそう多くないですからね」
探偵「さっそく犯人探しに行くとするか」
男「あ、あの……俺も手伝っていいですか?」
探偵「なぜです?」
男「いや、その……協力したいんです! 犯人を見つけたいんです!」
探偵「かまいませんよ。ぜひお願いしたい。これは非常に重要な事件ですから」
男「ありがとうございます!」
探偵「では被害者の写真をお渡ししておきますよ」
男(なんとしてもこいつよりも先に犯人を見つけないと……!)
男(犯人がいそうなのは、現場からも近いこの町……)
男「あのー、すみません」
町民「なんですか?」
男「ある事件の犯人を捜してまして……」
町民「特徴は?」
男「おそらく男で、左利きの刃物の達人なんですけど……」
町民「さぁ……」
男(しかし、こんな特徴の奴はそうはいない)
男(聞き込みに聞き込みを重ねれば――)
主婦「左利きで、刃物の扱いが上手?」
男「ええ、ご存じありませんか?」
主婦「ああ……あの家に住んでるお兄ちゃんがそうよ」
男「ホントですか!?」
主婦「ええ、一人暮らししてるの。今の時間は家にいるはずよ」
男「ありがとうございます!」
男(よし……見つけたぞ! 間違いなく一番乗りだ!)
男「……失礼」
青年「あなたは?」
男「ある事件の調査をしてまして」
青年「はぁ……うかがいましょうか」
男「先日、この男が殺されましてね。なにかご存じないですか?」
写真を見せる。
青年「ああ、僕が殺しましたけども」
男「……見つけた」ニヤッ
男は棍棒を取り出す。
男「死ねええっ!」
ブオンッ!
青年「わっ!」
男「ちっ!」
青年「何するんだ! いきなり!」
男「うるせえ! お前は死ななきゃならないんだ!」
男「うおおおおおおっ!」
ブオンッ! ブンッ!
青年「くっ……」
男「そこだっ!」
ドガッ!
青年「ぐあっ……!」ドサッ
男(よし、手応えあり!)
青年「……」ダッ
男(剣を取る気か! 取られたら形勢不利になる!)
男「させるかぁっ!」ダッ
男「せいっ!」
ドゴッ!
男(しまった! 殴ったらふっ飛ばしちまった!)
青年「……」チャキッ
剣を構える。
青年「事情はさっぱり分からないけど……そっちがその気なら容赦しない!」
男「ちっ……!」
両者、睨み合う。
シーン…
男「うおおおおおっ!」ダッ
青年「てやあああああっ!」バッ
同時に飛び出す。
ザンッ!
ボトッ…
男「ぐっ……!」
棍棒は切断され、半分の長さになっていた。
青年「あんたに勝ち目はない。これ以上は――」
男「う、うるせえ! これぐらいで諦められるか!」
男「うおおおおおおっ!!!」
探偵「そこまでです」ザッ
男「! ……お前!」
青年「あなたは……?」
探偵「私は探偵をしております」
青年「探偵……?」
探偵「今は国王陛下直々の命令で、ある事件の調査をしておりましてね」
青年「事件というのはひょっとして……」
探偵「ええ、王国に害をもたらしていた魔王が殺害された事件です」
探偵「ふむふむ……左利きで剣の達人。足のサイズも間違いない」
探偵「魔王を殺害した犯人は……あなたですね」
青年「はい、そうですけど。それが何か?」
男「くっ……!」
探偵「実は陛下は『魔王を倒した人間には“勇者”という称号を与え、厚遇する』と」
探偵「≪お触れ≫を出したばかりだったのですよ」
青年「え、そうなんですか! 知らなかった……」
男「……」
青年「じゃあ、この人はなんで僕を襲ってきたんですか? 魔王の部下だったとか?」
探偵「いえ、そうではありません」
探偵「おそらく、この男は≪お触れ≫を見て、“勇者”の称号を獲得せんと」
探偵「魔王の城に忍び込み、あの棍棒で実際に魔王をブン殴ったんでしょう」
男『くたばれ!』ゴンッ!
魔王『ぐはぁっ!』ドサッ
男『やったぞ! あとは国が誰が犯人か探してる時に名乗り出れば……俺が勇者だ!』
探偵「しかし……魔王は死んでいなかった」
探偵「息を吹き返した魔王は、魔法で自分の体を全回復させた」
探偵「しかし、今度は青年さん、あなたが来てしまう」
青年『覚悟しろ、魔王!』チャキッ
魔王『な……!』
ドシュッ……!
探偵「あなたは鋭い踏み込みからの一撃で、魔王を殺害――」
探偵「みごと王国に平和をもたらしたというわけです」
探偵「ようするに、この男は魔王殺害に失敗し」
探偵「しかも、“勇者”称号欲しさに、魔王を殺したあなたを狙った……ということになります」
男「何もかもバレちまったか……」
男「俺だ! 俺が“勇者”のはずなんだ! こんな若造じゃねえ!」
男「こうなったら、この青年も、探偵(おまえ)も、口封じでブッ殺してやる!」
男「その後、王様に直談判すればきっと……」
探偵「残念ながらそうはいきません」
男「なにい……?」
探偵「すでに全て報告し、念のため兵士も連れてきていますからね」
ズラッ…
男「あっ!」
兵士A「さぁ、来い」ガシッ
兵士B「連行する」ガシッ
男「は、はなせ! はなしやがれぇ!」
探偵「陛下はおっしゃってましたよ」
探偵「たとえ、魔王を倒せなくとも、挑んだ者にはそれなりの恩賞を与えるつもりだった、と」
男「え……!」
探偵「しかし、こんな愚かなことをしでかしては……もう無理でしょうね」
男「ぐぅぅぅぅ……」ガクッ
探偵「“勇者”を目指した男が、その欲望のために“愚者”になってしまう。悲しい事件でした」
青年「そうですね……」
探偵「おっとしめっぽい話はやめましょう。これからあなたを待っているのは栄光なのですから」
探偵「さ、お城へ参りましょう。魔王殺害事件の犯人……いえ、勇者様」
終わり
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