高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「表情を見せるカフェテラスで」 (30)

――おしゃれなカフェテラス――

高森藍子「加蓮ちゃんっ」

北条加蓮「それでさー、店員さん――おっ。来た来た」

藍子「お待たせしました。……注文をしていたんですか?」

加蓮「ううん。少し話してただけ。せっかくだからって、お互い言いにくい話とか」

藍子「へぇ~……」

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レンアイカフェテラスシリーズ第151話です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・高森藍子「加蓮ちゃんたちと」北条加蓮「生まれたてのカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「熱量の残るカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「ほどほどに賑やかなカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「表情を見てくれるカフェで」

藍子「紅茶とコーヒー、ありがとうございますっ」

加蓮「いただきまーす」

藍子「……うんっ。ほわっとする味で、おいしい♪」

加蓮「随分とお子ちゃまな味じゃん。相当飲みやすくしてもらったでしょ」

藍子「分かるんですか?」

加蓮「香りでね。慣れちゃった」

藍子「今日は少し疲れちゃったから、飲みやすい味で……。初めて紅茶を飲む方向けのような味で、って注文しちゃいました」

加蓮「さっき言ってた謎の注文はそれだったんだ」

藍子「こう言った方が、伝わりやすいって思ったんです。そうそう。こういう言い回しを勉強する時には、昔の小説や、歴史の本も参考になるそうですよ」

加蓮「ふぅーん……。そういう見方をしたことはなかったなぁ」

藍子「モバP(以下「P」)さんが、オススメの本を紹介してくれたんです」

加蓮「やっぱりPさんの差し金だったか」

藍子「勉強したことを、今度加蓮ちゃんにも教えてあげますね」

加蓮「わざわざいいよ。それに、藍子から教えてもらうよりは――」

藍子「……教えてもらうよりは?」

加蓮「うまくやってるところを見て盗みたいっ」

藍子「くす。盗むなんて。素直に、教えてって言えばいいのに」

加蓮「……もしかして、私が意地張って素直に言えないからって思ってる?」

藍子「はい、思っています♪」

加蓮「アンタの紅茶を全部飲み尽くすわよ」

藍子「飲みたかったんですか? それなら、はい。どうぞ」

加蓮「違うってば……」

加蓮「こういうのって、教えてもらうのはちょっと癪っていうか、なんか悔しいじゃん」

藍子「やっぱり、素直に言えないんじゃないですか~」

加蓮「違うの。藍子だって、事務所のみんなだって、仲間だけどライバルなの。特にこの時期は――」

藍子「む……」

加蓮「ふふっ、でしょ? そんな相手に教えてって言うのはね……。と言っても、どうしても必要な時は別かもしれないけど」

藍子「では、どうしても必要な時って?」

加蓮「んー……。プライドより、別の気持ちが勝った時?」

藍子「あ~……」

加蓮「分かるんだ」

藍子「分かりますよ。加蓮ちゃんの優しさですよねっ」

加蓮「……間違ってはないんだけどさ、そうひとくくりにされるとムカつくんだけど」

藍子「紅茶、飲まないんですか? 飲まないなら私がいただきますね」

加蓮「どーぞ」

藍子「ふうっ♪ ……そういえば、言いにくい話って……」

加蓮「ん?」

藍子「さっき、加蓮ちゃんが店員さんとお話していたことです」

加蓮「言いにくいお話だね。ふふふ、気になるのー?」

藍子「…………」コクン

加蓮「へぇー?」

藍子「じ~」

加蓮「って焦らしてみちゃったけど、全然大したことじゃないよ。昨日撮ったCMのロケの時のと……それと一昨日にSNSでのファンミーティングがあったの」

藍子「加蓮ちゃん、いまも大忙しですよねっ」

加蓮「ほー? それはさっさとトップアイドルの座を譲れって意味かなぁ?」

藍子「違いますよ~。譲って、って言っても、譲ってはくれないでしょ?」

加蓮「当たり前じゃん」

藍子「加蓮ちゃんではありませんけれど、ほしい物はちゃんと、自分で歩いていって取りますから」

加蓮「くださいって言うんじゃなくて、自分から……ね」

藍子「はいっ」

加蓮「言いにくい話、っていうほどじゃないんだよね……。やっぱり、本人の前でできない話って誰相手にでもあるじゃん」

藍子「どうしても、ありますね」

加蓮「藍子のバカー、みたいな」

藍子「……あの、言い方はいろいろありますけれど、そういうことは何度も言われてきた気がします」

加蓮「そうだっけ? じゃあ、藍子のノロマー! とか」

藍子「それもです」

加蓮「……藍子は例外ってことにさせて」

藍子「あはは……。喜んでいいでしょうか」

加蓮「喜べることなら喜んだらいいんじゃないの?」

加蓮「人間関係的なところもあるけど、私はアイドルだもんね。時には言いたいことを抑えて、見せたい物、見たいと思う姿を魅せてあげなきゃ……」

藍子「わ……」

加蓮「なんて、カフェテラスで言うことじゃないっか」

藍子「そんなことないですよ~。カフェだからこそ言えることって、あると思うんです。周りに人が誰もいなくて……私とあなたしかいない場所だから――」

加蓮「おー……」

藍子「あっ。……つい、語ってしまいました。加蓮ちゃんにつられちゃったのかも?」

加蓮「お返しってことだね。藍子もやるねー」

藍子「だから、違いますよ~」

加蓮「それに、カフェだからこそ言えることならもっと別のにしなきゃ。今くらいの話なら事務所でもできるでしょ? もっとドロドロしてて、暗い暗い昔話で、誰にも決して喋れないような……ふふふ」

藍子「……カフェをなんだと思っているんですか」

加蓮「昔の私達を見ても同じことが言えるかな?」

藍子「…………」

加蓮「ちょっと意地悪を言い過ぎちゃったね」

藍子「……もう。そういうことなら今度、加蓮ちゃんにお話しちゃいますよ。昔の加蓮ちゃんがお話した、ドロドロしていて、暗くて、誰にもお話できないような昔話を、今の加蓮ちゃんに」

加蓮「…………やめよ?」

藍子「は~いっ♪」

加蓮「ぐぬぬ……。今日の藍子は強敵だなぁ……。って、それもいつもか」

加蓮「ま、心配しなくてもそんなドロドロしたものじゃないよ。でさ、カフェの店員さんも似たところってあるでしょ?」

藍子「あの店員さんが……?」

加蓮「あぁごめん、あの人がってことじゃなくてカフェの人がってこと」

藍子「そっちだったんですね」

加蓮「店員って、色んなお客さんと出会えて楽しそうだけど、やっぱりその分我慢しないといけないことも増えそう。ネイリストも大変だってよく言うし……」

藍子「お話できる相手がいるといいんですけれど――あっ。ひょっとして、それで加蓮ちゃんがお話を聞いてあげていたんですか?」

加蓮「え?」

藍子「……あれ?」

加蓮「まあ話してたのはほぼ私だったから……。何かあるなら聞くね、とは言ったけど」

藍子「聞いてあげようとしていたんですね」

加蓮「なんで嬉しそうなんだか」

藍子「加蓮ちゃんは、どんなお話を?」

加蓮「CMを撮ってた時に気が利くスタッフさんがいて、新人だから色んな意味で空気を読めてなかったってこととか」

加蓮「ファンミーティングが、気付いたら私そっちのけでファン達が盛り上がってたこととか」

加蓮「あと……。少しだけうちの事務所の子の話も。こっちはこう……企業秘密じゃないけど、あんまり話さない方がいいネタバレとか言いそうだったから、あくまで控えめにだけどね」

加蓮「それにあの店員さん、ちょっと藍子の名前を出すだけですごい食いついてくるんだから」

加蓮「テーブルを、ばんっ、って手でついて乗り出した時にはびっくりしちゃった」

藍子「あ、あははは……。びっくりさせるつもりはなかったと思いますから、怒らないであげてください」

加蓮「分かってるってば」

藍子「……あれ?」

加蓮「うん」

藍子「言いにくいお話なのに、どれもいい思い出……?」

加蓮「うん? ……んー……あれ、ホントだ。なんかもっとたくさん愚痴った気がするのに」

藍子「私も、暗いお話ではなくても、ひょっとしたら……加蓮ちゃん、ちょっと気が合わない方がいたのかな? ってくらいには、思っちゃいました」

加蓮「心配させちゃったかな。そういうガチ目の相談はPさんにしちゃうし……。ホントに解決しなきゃいけないことだって、やっぱりPさんに相談しちゃうよね」

藍子「Pさんも、困ったらなんでも相談してほしいって、よく言っていますから」

加蓮「Pさんにはあんまり話したくないタイプの、嫌なことがあった時は……」

藍子「時は?」

加蓮「家に帰ってお母さんに言い散らかすか、カフェかなぁ」

藍子「くすっ」

加蓮「そーいうところを見られるのは嫌だもんね」

藍子「そっか……。加蓮ちゃんにとって、嬉しいって意味で印象に残った方や、いいなって思ったことを店員さんにお話していたってことなんですね」

加蓮「そうなるんだね」

藍子「……」

加蓮「……?」

藍子「……む~」

加蓮「え、なんでそこでハムスターになるの……」

藍子「べつに、いいんです。加蓮ちゃんが楽しそうだったり、嬉しそうにしているんですから。……でも、私より先に店員さんにお話するのは……なんだか、ずるい」

加蓮「……あー」

藍子「ずるいです」

加蓮「あはは、ごめんごめんっ。藍子を待ってる間に、ついね。他にお客さんもいなかったし、店員さんも話したいって空気出し――」

藍子「ずるいですっ」

加蓮「……ごめんってば」

藍子「じゃあ、許します♪」

加蓮「ほっ」

藍子「そのかわり……。店員さんにしたお話を、私にも聞かせてください。加蓮ちゃんがお話したいなって思ったことを、ぜんぶ♪」

加蓮「……えーっと、結構ガチで怒ってる?」

藍子「怒ってなんていませんよ~。ほら、加蓮ちゃんっ」

加蓮「怒ってるっていうより拗ねてるじゃん……。いーけどさ。あ、言っとくけど店員さんから聞いたお話は言わないよ。いくら藍子でも、こういうのは他言無用って言うし」

藍子「分かっていますよ。私は、加蓮ちゃんのお話が聞きたいんです」

加蓮「はぁ、こういうのって2回も話すものじゃないのに……」


――1時間くらい経ってから――


藍子「~~~♪」

加蓮「……すっごい上機嫌……。はぁ……もう。なんなのよ」

藍子「えへっ」

加蓮「ま、なんだかんだ話してたら楽しくなっちゃったけどさ」

藍子「現場から帰る道を間違えたフリをして、加蓮ちゃんに連れて行きたいお店までたどり着いたPさんのお話が……くすっ。思い出したら、なんだか面白いかも……♪」

加蓮「……私から言ったってことは内緒にしててよ?」

藍子「は~い。加蓮ちゃんの「楽しい愚痴」は、私の中にそっとしまっておきます。店員さんと一緒に♪」

加蓮「ちぇっ。なんかまた隠し撮り写真が増えちゃった気分ー」

藍子「……も、もう撮っていませんよ?」

加蓮「どーだか」



□ ■ □ ■ □


加蓮「そういえば……」

藍子「?」

加蓮「この前Pさん、藍子に確認したいこととか……あと仕事の小道具? で、話したいことがあるって言ってたけど、その後話した?」

藍子「……あ~っ! Pさんに連絡しておくのを、忘れちゃっていましたっ」

加蓮「何やってんの。と言っても、私も藍子に伝えとくって返事して今まで忘れちゃってたんだけどね」

藍子「確かに……。加蓮ちゃんも、連絡してくれればいいのに」

加蓮「忘れてたんだってばっ。だいたいPさんも、自分から連絡しなさいよ!」

藍子「まあまあ。忙しくて、後に回しちゃったのかもしれませんから」

加蓮「アンタはそれでいいの……? 私に伝言を頼むっていうのも……たまたま一緒にいた時に思い出したからかもしれないけど」

加蓮「スケジュールの確認とか?」

藍子「その……。お仕事で使う、雑貨や小道具と、それからアクセサリを私が探してみるってお話だったんですけれど、雑貨屋やアクセサリ屋さんに行っていたら、つい、楽しくなっちゃって……」

加蓮「あぁ、それは仕方ないね……」

藍子「でもお仕事のことですから。忘れちゃったことは、謝らなきゃ」

加蓮「そだね。……決まってるんだったら連絡してあげたら?」

藍子「いまですか?」

加蓮「帰ったらまた一緒に忘れちゃうかもしれないし、それに藍子がPさんと電話してるところを眺めていたいし♪」

藍子「どういうことですか~」

加蓮「なんかちょっとレアじゃん」

藍子「事務所でお話するのとは、違うんですよね」

加蓮「そうそう、分かってるー」

藍子「そうですね……加蓮ちゃんが、そう言うのなら……いまから少しだけ、電話させてくださいね」

加蓮「どうぞどうぞ……って、ここテラス席だし電話くらいそのまましていいでしょ」

藍子「それもそうでした」

加蓮「私は何か食べながらのんびりしてるねー」

藍子「は~い」

加蓮「……」

藍子「……あの、あんまりじっと見られると、電話がかけにくいです」

加蓮「ちぇ」

……。

…………。

藍子「――はい、はい。そうです、あの雑貨屋さんにある……ふふっ。Pさんも、見たことがあるんですか?」

加蓮「もぐもぐ」

藍子「はい。そうなんです……あっ、ちょっと待っていてくださいね。ええと……次の撮影に合わせて、衣装を――」メモメモ

加蓮「うんっ。オムレツって、食べるところで味も食感も全然違うー。事務所で食べたのもいいけど、ここのもふわとろで美味しー♪」

藍子「はい、メモしていました。ごめんなさい、続きをお願いしますっ。……ふんふん……えっ、学校の制服ですか?」

加蓮「……何の話をしてんだろ。制服?」

藍子「制服風の、ということですね。……はい……はい、はい。は~いっ。ちょっと待ってもらっても、いいですか?」メモメモ

加蓮「あむ。……これ、マヨネーズも自家製っぽくて美味しいんだけど、何もつけないで食べる方が美味しいかも」

藍子「お待たせしましたっ。……なるほど~」メモメモ

藍子「はいっ。それで――……分かりましたっ」

加蓮「……ふふっ。1回ごとに話が止まってる。Pさん、電話の向こうで机をトントンって叩いてそー」

藍子「は~いっ」

加蓮「Pさんのことだから、藍子のことには慣れてるかな。慣れてるかもね。もしかしたら――」

藍子「ふうっ。お待たせしました、加蓮ちゃん」

加蓮「……ぷくくっ」

藍子「加蓮ちゃん?」

加蓮「あ、ごめんごめん。いま、ソファでだらっとしながら藍子と打ち合わせしてるPさんの姿を想像して、ちょっと笑っちゃってた」

藍子「は、はあ。確かに、ソファで座って電話しているような音はしましたけれど……寝転がってはいないと思いますよ?」

加蓮「ゆるふわな感じでも、真剣な打ち合わせだもんね……真剣な打ち合わせ……」

藍子「?」ホワ

加蓮「……うん。藍子には悪いけど、あんまりそんな感じはしないかも」

加蓮「それにしても、何回もメモ取ってたみたいだけど……。そんなに覚えることがたくさんある仕事なの?」

藍子「ううん、そんなことありませんよ。最近、いろいろなことをメモしてみるようになったんですっ」

加蓮「へぇ~。加奈ちゃんにでも影響を受けたとか」

藍子「加奈ちゃんと言えば、このあいだ、メモの取り方講座を受けましたっ。肇ちゃんも一緒だったんですよ」

加蓮「加奈ちゃんが先生役かー。先生役……ふふっ、スーツに着られてそう」

藍子「そうなんです。はりきって、ぴかぴかのスーツみたいな衣装を着ていたんですよ。いつもよりきりっとした顔で……でも、私も肇ちゃんも、あまり先生って感じはしないって話していました」

加蓮「だよねー」

藍子「メモを取るようになったのは、それより少し前からで――」

加蓮「おっ」

藍子「最近、もっともっといろんなことを、ファンのみなさんに教えてあげたいって思うようになったんです。私の知っていること……知らないことも。笑顔になれることを、いっぱい」

加蓮「いつも言ってるよね。教えてあげたいって」

藍子「だけど、時間は限られていて……。写真だけでは伝わらないことも、どうしてもありますから。それに、教えてあげたいことが多すぎて、どれから話せばいいか分からなくなっちゃうんです」

加蓮「藍子らしいね」

藍子「そんな時に、雑誌の取材で訪れたカフェでメモ帳を渡してもらったんですっ」

加蓮「ぴったりなプレゼントじゃん」

藍子「右下のところにロゴが書いてあるんですけれど、その上にちっちゃな猫さんが一緒にいるんですよ。目をまんまるにしていて、とっても可愛いんです♪」

加蓮「いいなぁ。見てみたーい」

藍子「残念ながらそのメモは、すべて使っちゃいました」

加蓮「あ、そうなんだ。残念……って、そんなにメモすることがあるんだね」

藍子「ちいさな気づきでも、メモを取るようになると、あっという間になくなっちゃって……。学校のノートに挟まってるのがおっこちて、クラスメイトに見られちゃうことも」

加蓮「……ふふっ。ホント、藍子らしい」

藍子「Pさんとの打ち合わせでも、メモを細かく取るようになると、ミスが減るんですよ」

加蓮「藍子、減らさないといけないほどミスばっかりしてた?」

藍子「う~ん……。言われてみれば……?」

加蓮「じゃあそれは歌鈴にでも教えてあげよっか」

藍子「そうしましょうかっ」

加蓮「いや、あの子ならドジでメモを破っちゃいそう……。それか落とすか濡らすか」

藍子「具体的にどう失敗するかを考えるのは、やめてあげてください……」

加蓮「たはは、ごめんごめん」

藍子「それに――」

加蓮「?」

藍子「……メモを見返すと、いろんなことを思い出して……同時に、やりたいことがまたいっぱい増えるんです」

藍子「前から、やりたいなって思うことはたくさんあるんです。アイドルとして。できるんだ、していいんだ、って気がついてから――」

加蓮「……ん」

藍子「なんてっ。そんなことを言ったら、加蓮ちゃんにまた、のろまだって言われちゃいそうですけれどね」

加蓮「言わないって」

藍子「でも、厳しく言ってくれるのは嬉しいんですよ。ちょっぴり落ち込んだりもしますけれど、背筋がしゃきっと伸びますから♪」

加蓮「それはいいけど、落ち込ませたくはないなぁ。藍子が時間を忘れてたら、今度からは背中を叩いてあげるようにしよっと」

藍子「痛くない程度にお願いしますっ」

藍子「やりたいことが多すぎて、一気にはできないかもしれません。だけど、何気ない日常で見つけたことは、いつか役に立つって――きっと、そう思いますから」

加蓮「そっか。そうやって、藍子の世界は完成していくのかな――」

藍子「……え?」

加蓮「あ、ううん。クリスマスの時、藍子の1日限定の……。あの時に思ったの。小さなことが積み重なって、教えてあげたいっていう藍子の気持ちがあって、そうして藍子の望む世界が完成していくんだな、って……」

藍子「私の望む世界……」

加蓮「ちょっと大げさだけどね」

藍子「世界……なんて言ったら、確かに……大げさかも?」

加蓮「ねー」

藍子「…………」

加蓮「あ、またメモしてる。何かヒントになることでもあった?」

藍子「…………」

加蓮「……たはは」

藍子「…………うんっ。今度、Pさんに――」

藍子「あ、ごめんなさい、加蓮ちゃん。お話の続きでしたよね」

加蓮「ゆるふわ空間が変な方向に進化していってるような……。なになに。"カフェの相談"?」

藍子「!」バッ

加蓮「え、別に見せてくれてもいいじゃん……」

藍子「……あ、あはは、は……えへへ」

加蓮「はいはい、内緒にしたいことね。誰にだって、誰相手にでもあるんだろーし。別にいーでーす」

藍子「あぁ、拗ねちゃった……。ちゃんと形になったら、また教えます」

加蓮「楽しみに待ってるね」

藍子「メモと言えば、1つ悩みもあって……」

加蓮「悩み?」

藍子「最近できた悩みなんですけれど……メモを見返す時間が、長くなりすぎちゃうんですっ」

加蓮「……はあ」

藍子「思い出を見返したくなると、今度はアルバムにまで手が伸びちゃって……。いつの間にか部屋がすごいことになって、お母さんに叱られることも……」

加蓮「だと思った」

加蓮「前だってアルバムを開いたら動かなくなって、その度に藍子のお母さんに首根っこ掴まれてばっかりだったのに、さらにメモまで増えたらそうなるでしょっ。ちゃんと夜に寝てるの?」

藍子「夜は、遅くならないくらいに寝ていますから――って、どうしてそれを加蓮ちゃんが知っているんですか!?」

加蓮「相談されたことあるし。アンタのお母さんに」

藍子「相談!?」

加蓮「それこそガチな奴じゃなくて、藍子がいるところでは話せない程度の愚痴にもならないヤツだけどね。あと、私もその現場は見たからねー。よく覚えてるよ」

藍子「……そ、そおでしたっけ~?」

加蓮「知ってるくせにとぼけんなっ」ベシ

藍子「きゃっ」

加蓮「せっかく私が遊びに行ったのに。ほったらかしにしてアルバムばっか見て、1人でうんうん頷いてるんだからっ」

藍子「……か、加蓮ちゃん、寂しかったのならそう言」

加蓮「おりゃ」ベシ

藍子「痛いっ。ま、まだ最後まで言ってもいないのに~」

加蓮「最後まで言ってたらもう1発」

藍子「きゃ~っ」

加蓮「はぁ、しょうがないなぁ。ここは私がちょっかいをかけてあげよう」

藍子「加蓮ちゃんが?」

加蓮「小さいことまで全部メモしたり、写真に収めたりするのは藍子らしくていいと思うけど、なんか思い出に浸ったまま終わっちゃいそうな気がするし?」

藍子「そ、そんなことないと思います……よ……?」

加蓮「あると思ってる人の反応なんだけど、それ。だからちょっかいかけてあげるって言ってんの。せっかく集めた物も、形にしなきゃ台無しでしょ?」

藍子「……それもそうですけれど」

加蓮「1回ごとにポテト1個ね」

藍子「は~いっ。その時には、一緒に食べに行きましょうね」

加蓮「お持ち帰りでいいよー」

……。

…………。

加蓮「……クシュンッ」

藍子「加蓮ちゃん、寒いですか?」

加蓮「ずず……。寒いってほどではないけど、少し冷えて来ちゃったかも……」

藍子「もう春ですけれど、まだ朝や夕方は寒いんですから。……だからそんな、夏みたいなかっこうでこんな時間まで歩いていたら、風邪ひいちゃいますよ」

加蓮「はーい。もうちょっとだけジャケットが必要そうだね」

藍子「ですね。でも、もうそんな時間……」

加蓮「うん」

藍子「帰らなくちゃいけないのは、分かっていますけれど……もうちょっと、お話足りない気分――」

加蓮「ふふっ、私も」

藍子「加蓮ちゃんもっ?」

加蓮「今の藍子とは、ちょっと違う意味で話したくなっちゃうんだよね。そうだ、ついでに事務所に寄っとく?」

藍子「事務所……」

加蓮「さっきのPさんとの打ち合わせも、電話越しじゃなくて直に話した方がいいこともあると思うし。あと藍子の言うメモも、アイドル活動に使うことでしょ? だったら事務所の方がやる気にもなるかもしれないし?」

藍子「…………」

加蓮「……えっ。なんでまたハムスターになってんの」

藍子「……む~」

加蓮「……ふふっ。そっか。今日の藍子はめんどくさい屋さんだねー、ふふっ」

藍子「めんどうくさいって言いながら、どうしてそんなに笑っているんですか」

加蓮「だって面白いもんっ。それが藍子の見せない顔だって思うと♪」

藍子「……………………」

加蓮「あははっ。ほっぺたを膨らませすぎて妖怪みたいになっちゃってる。なんだっけ、山にいる妖怪? そのうち破裂しちゃって、小梅ちゃんが好きそうなスプラッターになるんだったかな」

藍子「……そんなのいるんですね。でも、あまり見たくはないです」

加蓮「私も、現実ではやめときたいかな?」

加蓮「ねえ、藍子。ちょっと肘を手について、こっちに顔を突き出してみて?」

藍子「……こうですか?」

加蓮「そう。じゃあ、ほっぺたを……ぐいーっ」

藍子「みゅっ」

加蓮「よし。オッケー。どうしよっかな……。時間的にはまだ居座ってもいい頃ではあるし、中に入って話す?」

藍子「……加蓮ちゃんは、いいの? 明日も撮影の予定が……」

加蓮「話したいって言っておいてそれはなくない?」

藍子「あっ」

加蓮「ほら、面倒くさい……ふふっ」

藍子「もう。だから、どうしてめんどうくさいって言いながら、楽しそうに笑うんですか~」

加蓮「だって面白いもん。今日の藍子は面倒くさくて、面白いっ」

藍子「む~」

加蓮「そんな顔を見れるなら、やっぱりもうちょっとここにいないと。さーて、いつもの席は空いてるかなー?」

藍子「……もうっ。待ってくださいよ~、加蓮ちゃん。鞄、忘れちゃっていますよ~」


【おしまい】

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