【鯖鱒wiki】ふたたび坂松市で聖杯戦争が行われるようです【AA不使用】2スレ目 (106) 【現行スレ】



【坂松市の第二次聖杯戦争、三つのあらすじ】



【御三家であるルゥナは、ランサーと共に家に聖杯を持ち帰る為に聖杯戦争に身を投じる】

【様々な行動を経て親友となった少々森が、敵であるロベルトにさらわれてしまった】

【彼女を取り戻す為にアーチャー、キャスターとの同盟を組んだルゥナは、襲い来るライダーを辛くも撃破したのだった】


【前回のスレ】
【鯖鱒wiki】ふたたび坂松市で聖杯戦争が行われるようです【AA不使用】 - SSまとめ速報
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【こちらは鯖鱒wiki】
https://w.atwiki.jp/ssfate/sp/






【本日はスレ建てして終了】

【しばらくは忙しくなりそうなので……また土日にやれたらと思います。すみません】


【忘れてました。ご指摘ありがとうございます】

【雑談所】





「ほーん。負けたのか、ライダー」

明るい部屋の中、骨のサーヴァントは間の抜けた声で返答する
意外なのか。と問われると、カタカタと身体を振るわせてニッカリ笑う


「意外っちゃ意外だな。あれは今回で別格だ」
「一人だけレベルが段違いに高いからな。複数が相手でも無理だろうと踏んでたんだが」

「わからんもんだな。ま、だからこそ面白いってもんか」

一頻り話を終えると、ベッドに眠る少女の顔を覗き見る
安らかな寝顔だが、対称的に骨のサーヴァントは苦々しげに顔を歪めた


「……まあ、それはそれとして。どうしたもんかね。こいつは」
「ん?拐ってきたのはお前だって?細かい事を気にするなよ。カルシウム不足してないか?」
「オレはカルシウム100%のストロングボディだからな。常に優雅たれ。ってな」


「……ん、んぅ」
「おっと……起きそうだな。後はお前さんに任すとするか」
「オレか?オレはまあ……サボりだ」

部屋を出ていく骨は、外に吹く風に流れる様に消えていく
まだ二騎しか落ちていない……まだ、動くべきではないと信じながら



「おはようございます!久しぶりっすね姫!」
「……って、少々森はいないんですね?ったく、サボり過ぎだろ!不良か!」
「それだとルゥナも不良になるだろ……」

ライダーは倒した。だが、それが少々森へと手がかりにはならない
曰く、向こうはアサシンの指示によって此方を倒しに来たらしいが……

「……はぁ」
「どうかしましたか!?何か悩み事でも!?」
「あるけど、あんた達じゃどうにもならないし言わないわよ?」

「ふーん……まっ、デリケートな問題そうだしな。行こうぜ縦島」
「嫌じゃーーー!俺は欠乏した姫成分を補給したいんだよーーー!」
「この変態野郎!セクハラだぞそれ!?」


ぎゃあぎゃあと騒がしい二人が退場して、少し思考に余裕が生まれる
少々森を拐ったのはロベルトだ。更に市長は彼との繋がりが存在している

つまり、どうにかして市長をなんとかすれば、自ずとロベルトも出てくる訳で……


「……まあ、それが思いつけば苦労しないわ」
「大変そうだね~。頑張れ!」「あんたも少しは考えなさい」

ランサーからの軽い声に返答しつつ、どうにかならないかと思案する
黙々とした長考は、肩を叩かれた事で一時中断するのだった



「何よ。あたしに何か……え?呼ばれてるですって?誰によ」

「あら?随分と酷い事を言うのね。私と貴女の仲じゃない」

入ってきた人物は、馴れ馴れしく肩に手を回す
しかめっ面で顔を確認したルゥナは、その意外な相手に驚きを隠せずにいた



「……ティファ!?なんであんたが!?」



「ライダーが敗北した?」

時は少し遡り……深夜、禍門邸にて状況を俯瞰するアサシンと市長
彼らはライダーをけしかけて、アーチャー陣営を殲滅せんと目論んでいたのだが……

その表情はあまりにも無情。無関心な声色は、彼の進退は最初からどうでも良かったのだろう

「奴が負ける理由は思いつかないが……大方、令呪を総動員したのだろう」
「ならば、寧ろ好都合か。連中はもう虫の息に近いだろうからね」
「冷静ですね!ライダーは我々の理念に共感を示した同士ではありませんか!」


「いいや。あれは誰かの言葉で動く様な存在ではない……私の宝具も、どこまで効いたものか」
「そこまで悲観する事はありません!次の手は既に打ってありますので!」

「ええ、既にね……!」

不敵に笑う市長の目は笑っている。勝利を確信した表情で、チェスの駒を弾く

その掌の中で蠢く陰謀に思想を馳せながら、身につけたスーツの襟を正すのだった






「……それで?どういう風の吹き回しよ」
「あたし達を殺そうとしたのはあんたでしょうが。ライダーが負けて心が折れたのかしら?」

「そういう貴女こそ。幾つ令呪を使ったの?もしかして、もう無くなったかしら?」
「誰のせいだと思ってんのよ!!」「どうどうルゥナ……」

人目につかない場所に移った二人。ルゥナは目の前のティファを強く詰問する
その剣幕をのらりくらりと交わしつつ、怒りを滲ませるルゥナに言葉を掛けた


「まず、訂正して貰うわ。……ライダーの襲撃は私の指示では無いの」
「アサシンでしょ?けど、あんたとアサシン陣営は手を組んだんなら話は別よ」
「その話は複雑なのだけど……一つ、私から提案するわ」

「ルゥナ。貴女はガイスロギヴァテスの為に聖杯を持ち帰ろうとしているのよね?」
「そうよ。それがどうしたのかしら?」



「聖杯のデータを私に提供するなら……」
「この聖杯戦争の間。ロシュフォール家当主の私が補佐してあげてもいいわ」




ルゥナとティファと時は同じくして……
ライダーによって損壊したガイスロギヴァテス前線基地は、復興作業の真っ只中であった


「おーえすおーえす。こっちに持って来たまえ吉田君」
「だから何で俺ばっかりが肉体労働なんだ!?俺はキャスターだって言ってるだろ!?」
「僕だって働いているさ。アーチャーだけでは限度があるからね」


ユーニスの指示で動いているのは、人形をした土の塊。……ゴーレム
えっちらおっちらと土木を運び、基地の修繕に一役買っていたのだった


 ◆地精(グノーム)
  土のエレメンタル。ゴーレムとも呼ばれる疑似生命を助手として使役する。
  基本的に身の回りのことを任せるだけで戦闘には向かないが、頑丈であり盾としては優秀。


「こっちはまあいいわね……マスター。向こうに資材を運んで頂戴」
「貴様も来い。人手は多い方が良いからな」
「はひぃいい……何でベルまでえ……」

そして、アーチャー陣営に混じり資材を運んでいるベル。その額には玉のような汗がびっしりと
涙を浮かべながら泣き言を呟く。しかし、それはすぐに終わるのだった

「ん……?誰か来たな。地精は下げておくか」
「私が対応するわ。貴方達は……」




「警察だ!全員そこを動くな!」
「銃刀法違反、及びテロ準備罪の容疑で貴様らを拘束する!」



【本日はここまで。また来週に……】


【それではちょっと再開】




「むむむ……」
「悩んでるね?ルゥナ」
「当たり前じゃない。簡単にいいですよなんて言える訳無いわよ」

ティファからの支援は一時保留。相手の思惑が判断できない以上、安請け合いは出来ない
聖杯のデータを提供する事は向こうの出方次第では答えてもいいのだが……

「あいつ、何か法外な要求してこないわよね」
「どうだろうね?でも、あんまり悩んでいるとチャンスを逃すよ」
「スパッと決断できる様にならないと。時間は待ってくれないからさ」

「ああもう!うるっさいわね。あんたは!」
「仕方ないよ。オレってそういう聖人だから」

けろりと答えるランサー。その真名をルゥナは思い返す
宝具を開帳する際に堂々と名乗っていたのだ。間違えるはずもない


「……エクスペダイト、だったかしら。コリーがやけにあんたを頼るのも納得だわ」
「そうそう。ルゥナはオレの事知ってた?」
「知らないわよ。っていうか、インターネットの聖人はイシドルスじゃなかったの?」


「ん~~~……ほら、オレって非公式だから?」
「ホントに何であんたが英霊になれたの!?」

きゃんきゃんと騒ぐルゥナを慣れた様にいなす
そうこうしている二人を見つめる二人の影。片割れが頷いた事を確認すると、男が話しかけてきた



「警察の者ですが……ルゥナ・ガイスロギヴァテスさんですね?」
「少し、署の方でお話を伺いたいのですが……」





「……はぁ?誰よ、あんた達」
「坂松警察署から来た。君の家族について話を聞きたい」
「大人しく着いてくれば手荒な真似はしない。早くこっちに」

男女の二人組がルゥナの肩を掴み、有無を言わせぬ迫力で詰め寄る
……人相の悪い連中だ。ルゥナが感じた、直感的な印象はこうだ
男の方は目付きが悪く、まるでヤクザか殺し屋か何か。女に至っては目が完全に死んでいる

警察にしては乱暴な態度だ。それとも実際はこんなものなのか
悲しいかな。人生経験の浅いルゥナには、その真贋の判断がつかなかったのだ


「ん?ルゥナじゃん何してんの?」
「施経!?あんたこそ何してんのよ!」

「いや、俺って電車で通ってるし……こっち、駅の方向だろ?」
「そんな事よりも……その二人、まさかルゥナの知り合いだったりするのか?」

割り込んできた施経は、二人の顔を怪訝そうに眺めている
その様子に不快感を覚えたのか……男はルゥナを強引に掴みかかり……


「とにかく来い!貴様の仲間は全員捕まっているんだからな……!」

「はぁ!?何よそれ!ていうかあたしを引っ張らないで!痛いってば!」

「知りたいなら……早く私達と一緒に……」

「待ってくれよ!警察がそんな乱暴な事してもいいんですか?」

「黙れ!もういい、ここで一息に……」

女は冷静に話しているが、男は苛立ちを隠せていない
懐から何かを取り出す。それにルゥナは見覚えがあった。確かアーチャーの……





「……ルゥナ!伏せて!」






「!?」
「きゃっ!?」「うおっ!?」


ランサーが男の腕を蹴り上げる。手から落ちたのは黒光りする拳銃だった
突如姿を表した、時計を模した男に施経は混乱し、ぱくぱくと口を動かしている

「な、ななんだよこいつ!?」
「それは後で説明する!……何するの!?」

ルゥナの鋭い怒気も何のその。ランサーは二人を注意深く観察し続けて

「くそっ、“サーヴァント”を出すとは……!」
「“ランサー”の敏捷は規格外に近いと聞いた。ここで争うのは得策じゃない」
「やっぱり……君達、ただの警官じゃないね?」


ランサーの指摘に男は顔を歪める。その隣の女は冷静に、施経に向けて弩を突きつける
未だに状況が飲み込めていない彼を掴み、まるで盾にするかの様に前へと突き出した

「うわぁ、人質って事?止めてよそういうの」
「なら私達の話を聞け。言うことを聞かなければ手荒な真似をしたい」
「したい。……ってやる気満々じゃない!」




「ん~~~……しょうがないなあ。付いていくからその子を離してくれない?」
「ふん」「おおっ!?」

ドン。と強く突き飛ばされ、思わず地面にへたり込む
約束は守れと言わんばかりに後ろのパトカーを示す。あれに乗れと言いたいのだろう


「……な、なあ?ルゥナ、何が起きてるんだ?」
「それはまた今度に話すわ。今はさっさと逃げなさい」

「そうもいかない。その小僧にも着いてきて貰わないとなあ?」
「マジかよ……」

断ったら殺される有無を言わさぬ迫力に思わず頷く施経
こうなってしまえばルゥナもどうこう言える筈もなく。黙ってパトカーに乗り込むのだった




「ううむ、これはこれに……」
「アーディー君!街の被害状況はどうなっているかな?」

「建物とかの被害は甚大だけど……人的被害はほとんど無いみたい」
「避難指示が的確だった事や、避難場所を充分に確保出来ていた事が理由なんだけど……」
「……怪しいよね。まるで最初から何が起こるか知っていたみたい」


教会の中、ライダーの起こした嵐の事後処理に奔走していた
そうしている内に気づくのは、まるで周到に用意されていたかの様に配置された避難経路

全てはあの市長の掌の上……その事実が、明確な形となってのしかかる様な気がした


「……失礼するわ。監督役はいるかしら」
「む?私が監督役だが……君は、確か」
「そう!私のマスター。フェリシアよ。アンタ達に用があるんですって」

「えっと……用って、何?」
「……ライダーは、恐らくアサシン陣営の思惑に乗せられて動いていたはずよ」
「それはルール違反ではないから問題は無い。けど、私が離れたからライダーに頼った」

「考え過ぎでは無いか?だとしても、君には」
「そ、なーんも罪はない。けどね、どうしても何かやりたいんだってさ」
「止めなさい、セイバー!」


頬を染めて振り払う。しかし、セイバーはニヤニヤとした笑いを止める事はなく

「だからさ、何かやらしてあげて。そうすれば少しは気が紛れると思うから!」
「私は……!ただ話を……!」

「そうか!ではこの資材のチェックを頼もう!」
「積もる話は幾らでもある!作業の合間にでも話してあげようではないか!」

なし崩しに作業を手伝う羽目になってしまったフェリシアを、微笑みながら見守るセイバー
その顔に浮かんでいるのは戦士としての顔ではない。紛れもない母性が見えていた



【本日はここまで。また次回に……】


【ぼちぼちと再開していきます】



閑静なアパートの部屋の中で、二人の男女が向かい合っていた
とはいっても、この二人の関係は……誘拐された者と、誘拐犯の知り合いなのだが

「……なんか、君もごめんな。あいつに付き合わせちゃって」
「あ、これ麦茶だけど……いる?」

「む。ん、むう。……いい」「そ、そっか」

誘拐された少々森は、特に拘束などされずに部屋のベッドにごろんと寝転ぶ
そのくつろいだ態度からは、拐われたという緊張感は一切無い

緩みきった言動に、誘拐犯の知り合いの青年も苦笑いを浮かべるしかなかった


「……な、なんか拍子抜けするな」
「アイツも帰ってこないし……というか、なんで君を拐ってきたんだ?」
「あ、君って高校生なんだよね?実は俺も……」


『すみませーん!宅配便でーす!』



「……っと。宅配便か。メリッサかな?」

チャイムが会話に割って入る。青年は一度会話を止めて、ドアを開いた




「こんにちはー!早速ですが、頭に手を組んで私に付いてきてくださーい!」

「な!?」「ん。ん……?」


開けた先にいたのは、荷物ではなく拳銃を構えた少女だった
今この場にいるのは二人だけ……青年と少々森は従う他には無かったのだった



「な、なあ。こいつらって」
「うるさい!黙っていろ」

「……ランサー。これって誘拐よね?」
「そうだね~。まあオレもいるから大丈夫だと思うけれど」
「大丈夫とかそういう問題じゃないっての!」


男の運転するパトカーの中。施経とルゥナは隣にランサーを挟んで言葉を交わす
サーヴァントを従えている以上、ただの魔術師であろう二人に遅れを取るとは思えないが……

「こいつがネックなのよね。置いてけぼりにする訳にもいかないし」
「る、ルゥナ?何だコレ?ドッキリか?」

魔術師ではない、一般人の施経の前で襲われ、サーヴァントを出してしまった
これは神秘の秘匿に抵触する可能性の高い行為であり、何とかして黙らせなければならない

「ええとね。まあ簡単に言うとオレみたいなのが残り四騎いて、それを倒さないとなんだ」
「ちょっとランサー。勝手に話さないで!こいつは魔術師ですらないのよ!?」
「……魔術師?ルゥナ、それって」



「うるさいって言ってるだろ!黙らねえとここで殺してやる!」
「……あ、渋滞に嵌まった」「なっ!?」 

ピタリと動きを止めたパトカー。いつのまにか前後に長蛇の列が出来る
こうなってしまっては彼らも身動きがとれなくなるのは一般人と変わらない様だ



「……なあ、もしかして」
「それって二年前にも合ったりしたのか?」

「………………」
「おい!何を勝手な事を」「あ、渋滞が動きそうだな」
「くそっ!」





「実はさ……俺の先輩、二年前に行方不明になっててさ」
「けど本当は違う。先輩は何か……変な化け物に食われてた」
「それって多分……その、魔術師って奴らの仕業なんだろ?」

おずおずと話を切り出して、反応を伺う。ある種の確信を秘めながら

「……“心臓喰らい”。人を食う死徒と聞いた」
「勝手に話すな!っくそ。市長に何と言い訳をすれば……」
「市長?……おい!まさか、これって市長の差し金なのか!?」


突如、激昂する施経。その気迫にはルゥナすらも驚き目を丸くする
返答する者は誰もいない。ここにいる誰もが、その答えを知っていたから

「……あんた、市長の事嫌いなの?」
「当たり前だろ!あんな奴……」

「……渋滞が解消したな」「ちっ、余計な手間をかけさせやがって」
「もう騒ぐなよ!次に騒いだら本当に殺す!」

再び進み始めるパトカーの中で、微妙な沈黙が重くのしかかる
賑やかな街中から、どんどんと閑静な住宅街に移っていく

そうして、一つのやや古めのアパートの前で車を停止させた

「……ここか。ここで降りろ」
「わかったわよ。……ていうか、ここどこ?」




銃を突き付けられ、無理矢理に前へ進まされる
ランサーもいるとはいえ、施経がいる為に一人で逃げる事は出来ない

相手もそれを知ってか知らずか。サーヴァントが側にいるにも関わらず、二人組は冷静に行動していた


「ていうか……ここはどこなのよ」
「黙って歩け!……向こうの首尾はどうだ」
「成功した様だ。そら、出てきた」
「おーい!こっちこっち」

「む、む、うう」「くそっ……!メリッサ、悪い……!」

「な、少々森……!?何であいつが!?」
「それにはちょっと複雑な事情があって……ていうか、あいつは誰よ?」


ルゥナ達の前には、同じ様に銃を突き付けられた少々森と知らない青年
二人はこちらと違い、相手の仲間であろう少女に両手を縛られている……

「それで?まだ来ていないのか?」
「まだ来ていませーん!」「……お、お出まし」





「やあやあお集まりの皆さん!遅れてしまい、すみませんね!」
「何分、職務が多忙でして!今しがた秘書に引き続きをしてきた所なのですよ!」




「……!」


「ふ……ようやく、我が悲願の成就する時」
「下処理は済ませてある様だね。私が手を下す必要がなくて何よりだよ」

いかにも高級そうなリムジンから、悠々と市長が降り立った
その後ろにはアサシンとロベルト……もはや癒着を隠す気も無いようだ

「っ!?お前、ロベルト!」
「貴様は……いや、既にどうでもいい事」
「いい訳無いだろ!お前のせいで、どれだけの命が奪われたと思っている!?」


「何よ。あいつ……知りあいかしら」
「さあね?それよりも、気になるのは市長の方だよ」
「おや!ガイスロギヴァテスのお嬢さん、元気そうで良かったですよ!」
「嘘つくんじゃないわよこの狸ジジイ!」


にやにやと厭らしい笑みを隠そうとせず、囚われたルゥナをまじまじと眺める
今すぐにでも殴りかかってやりたいが、施経の事を考えると迂闊には動け……

「……おい、どういう事だよ」
「まさか、あんたが関わっていたのか?ルゥナや少々森もそうなのか!?」
「ちょっと、急にどうしたのよ?いきなり早口になるんじゃないわよ」

目の前の市長に、憎しみを込めた視線をぶつける施経
その顔を興味なさげに一瞥すると、ため息をつきながら肩を竦める


「やれやれ。まさか貴方がここにいるとは」
「始末するつもりは無かったのですがね。どうしましょうか?」




「俺の質問に答えろよッ!“糞親父”ッ!」




「……はあ!?」

いきなりのカミングアウトに、言葉を失う
周囲も面食らった様な顔を浮かべて二人を見つめる。当事者の間の空気は対称的だ

「ちょっと待ちなさいよ、あんたの名字は……」
「花村は母親の名字。俺の本当の名前は、“禍門施経”なんだ」
「憂午さんや千呼さん、アキラちゃんとは滅多に会わないけど……!」

「ええ!施経、貴方とこうして会うのも久しぶりですね」
「お前……よくも俺と母さんを!政略結婚の為に捨てやがって!」
「ははは!過去の悔恨は水に流しましょう。親子の再開なのですからね!」

施経の絶叫にも聞く耳を持たず、貼り付けた様な笑みの市長に寒気すら覚える


……本来、魔術師は冷酷な存在である
実の子ですら道具とする。家族は平気で切り捨てる。全ては目指す目的の為に
しかし、少なくとも禍門の家は姉妹を尊重し、寧ろアットホームな雰囲気すら感じられた

それなのに。市長は魔術師ではないというのに
どうして、その魔術師よりも冷酷な判断を平気で下せるのだろうか……?

「くそっ!離せ!」「あ、くそ……!」

掴んでいた男の手を振り切り、囚われの少々森へと駆け寄っていく

「もうお前の好きにさせるか!ルゥナと少々森を離してくれ!」
「花村……あんた」「う、う……」

「何をしてる!撃て!」
「殺っちゃっていいんですか?」
「いいんじゃないか?」
「ああ!止めてください。私に後ろ暗い評判が悪くなりますからね!」





「お前!少々森を離せ!」
「止めろ!こいつらは君がどうこう出来る様な相手じゃない!」

青年が止めてもなお、施経は食らいつく。今は市長の指示がある為に手出しをしてこないが……

「市長!もう撃っていいですよね~!」
「まあまあ、好きにさせてあげなさい!親心というやつですよ!」
「………………」

相手の限界や、ロベルトの介入等もあり得る。今すぐにでも施経を離さなければ……

「……あれ?アサシンの奴がいない?」
「ッ!施経!今すぐ少々森から離れるんだ!」

ぱん。と乾いた音が静かに響く
ランサーの叫びとその音はほぼ同時期。そして施経の胸から流れる血
そして倒れ伏す音は、それより一拍遅れていた


「は、あ……!」
「やれやれ。聞き分けの無い子供はこれだから嫌いなんだ」
「正義の味方になったつもりかい?正しい行いをすれば、必ず報われると信じていたかい?」

「……く、……そ……!」
「ありえないだろう。そんな事は」

拳銃を握るアサシンは、冷ややかに施経を見下していた
施経はぴくりとも動かない。続け様に、冷酷な言葉を突き刺していく


「素直に認めれば良かったんだ。自分の無力と無様さを」
「情けないだろう、下らないだろう?君は一時の正義感で、命を無駄に費やしたんだ」
「いつの時代も馬鹿はいる。本当に頭痛がしてくるよ」





「あん、た……!」
「ふざけんじゃ……ないわよーーーっ!!」

思考が怒りで潰される。叫びで喉がびりびりと焼ける
それすらもアサシンは無視をする。そして、目の前の少々森に問いかける

「せ、きょう……?」
「さて……彼は死んだ。誰のせいかな?」
「だ、誰の……せい?」
「撃ったのは私だ。連れてきたのは市長だ。では、何故彼は連れてこられ、撃たれたのか」

冷たい視線が少女を射抜く。瞳に映るその顔には、感情すらも放棄して


「君のせいだよ。『少々森若子』」
「…………私、の……?」
「詭弁は止めなよ、アサシン。実行した君が一番悪いに決まってる」

「そうだね。けど、彼女に罪は無いとでも?」
「当たり前じゃない……!少々森も、施経にも、罪なんてある訳ないでしょうが!」





「─────莫須有(あったかもしれない)」




アサシンの放った一言は、ただの詭弁だ

何をどう考えたって、施経も少々森も被害者だ

だから、そんな事はありえないんだ。少々森は何も悪くない──

少なくとも、ルゥナだけはそう思っていた
当の本人の認識は、全く真逆だったというのに


「私、が……殺し、た……」
「私が、私が、私……私、私が」

「そうとも。君はかつて『何万人』と殺した。今更になって被害者だと言うのは遅いんだ」



「皆と仲良くぬるま湯みたいな日常を過ごして暖かい心が芽生えたかい?」


「大切な家族同然の人を失い悲しみという感情を刻み込んだかい?」


「親友と呼べる人間が出来て、まるで本当に人間になったと思っただろう?」


「まだ理解が出来ないかい?教えてあげるよ」




「君は絶対に許されない。この世界にいてはいけない」

「君がどれだけ上手く紛れようと、意味なんて最初から無かったんだ」



かさ、と何かの音がする
最初は気のせいだと思っていた。それくらいに小さな音だった
けれど一回り、二回り。音は重なり響き渡る。これは虫の羽ばたく音

心がゾクゾクと震えていく。この身の毛もよだつ『不穏な羽音』は少々森から聞こえていた

「あ……駄目、駄目。剥がれ、ちゃう……!」
「助、けて……ルゥナ……あ……!」

「あ、ああ!ああぁぁぁ────!!」


「おお……おお!遂に、遂に目覚めるかッ!?」
「ああ、君達!全員此方に来てください。危険なものですからね!」
「何よ……何よ、これ……!」

訳がわからない。この音は?少々森は大丈夫なのか?ルゥナの思考はグチャグチャだ
市長とその手駒の魔術師。ロベルトもアサシンも距離を取る。ただ一人残った青年は、距離を取りつつも少々森から目を離さずに

「少々森……少々森!聞こえないの!?あたしよ、ルゥナ!」
「ルゥナは早く離れて!なんか……ヤバい事が起きそうな気がする!」


「何で……この音は……!」
「確かに倒したはずだろ!?俺と、あいつで間違いなく!」
「なのに……どうしてここに、『姿を変えて』いるんだ!?」


青年の言葉を皮切りに、少々森の姿が変化した

いや……これは『羽化』だ。仮初めの肉体を突き破り、少々森若子の身体を食い尽くす
今までの姿を脱ぎ捨てた、少々森若子という少女の、本当の姿を……
親友と思っていた、ルゥナ・ガイスロギヴァテスの前に曝け出した





「……何よ、それ」

「冗談なら今すぐ止めて。夢ならさっさと覚めなさいよ」

「ふざけないでよ。あんたはぽけっとしてて、どんくさい少々森でしょうが」

「それとも……こう、呼んで、やった方が、いいって事?」


                    /
、                 , /,       /
ム                 /: :/      ./,
/ ム _ <: : : : : : : : : : >。_//: :/ /,    .:./
// ム : : : : : : : : : : : : : : : :..∨: :∧../   /: /

///.ム: : : : : : : : : : : : : : : :∨: :∧../,   /: : ,
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////////ヽ///, : : : :.∥: : : / : : : : : : |: : : :|: : : : : : : : : : : ∧: : : : : : : :

「……“アバドン”───!!」


【キリのいい所で本日はここまで】

【施経がガチ死したかは後日の判定に回します】

【それではまた、次回に……】


【本日の更新はちょっとなので、このレスで判定します】

【結局、施経はどうなったの?】
12:ガチ
34567:今すぐ病院に
890:割りと軽傷



【コンマ確認。それでは再開します】




──それは、蠢く絶望そのものだった
無機質な複眼は何処を、誰を映しているのかも判別出来ず
外骨格はギチギチと鳴り、不快感と不安を同時に叩きつけてくる


そして、無数に木霊する羽音。心を刻み、頭を蝕む。耳ではなく、心臓が震える根元的恐怖
身体を鳴らし、ルゥナに向き直る。肉体に響く恐れから、思わずぎゅっと目をつぶった
じりじりと近づいてくる、かつて共に過ごした少女。奇怪な音を発てながら、ゆっくりと手を伸ばして……

「ルゥナ!」
「っ!ランサーっ!」

手が届く寸前、ランサーが間に割り込んで来た
いつかは親しげに少々森と呼ばれた存在は、既に呼んだ相手にとっての恐怖の象徴でしかなく

ルゥナの心の奥底が伝わったのかは不明だ、だが……相手は羽を広げ、空へと飛び上がっていく

彼女はそれを、ただぼんやりと。呆然と眺める事しか出来なかった




「……アバドン?」
「そう。それがこの街を襲った災厄の正体」
「ロベルト・エーデルワイスが二年前、呼び込んだ悪魔の名前だよ」

現場へと向かう軽自動車の中で、アーディーの話を聞き取るフェリシア
鎧を着込みつつ器用に運転するグレイトは、話を補足するかの様に言葉をかけた

「かつて残存していたマスターよサーヴァントが討伐したと聞いたが……!」
「まさか!人間に姿を擬態し、二年もの間生き延びていたとは!」
「ちょっと待ちなさい。そのバッタ怪人がどうして人間になったのかの説明は?」


「……確かに、アバドンが人間の姿になる瞬間は誰も見てないね」
「そもそも確かにあの時全員がアバドんの消滅を確認したはずだし……」
「あ~!こんな事になるなら、私のセイバーを旅行に出さなきゃよかった~!」


何がなんだかわからない現状に、アーディーは頭を抱えるしか出来ない
その隣で思考を巡らせるフェリシアは、一つの疑問を問いただした

「……ねえ。そのアバドンを倒したサーヴァントは何と言う英霊だったのかしら」

「えっとね。マスターは“東生広夢”っていう私のセンパイでね……」

「サーヴァントは、スウェーデンの女王。クリスティーナだよ」





「……恐らくは、そのクリスティーナの持つ剣。美徳の剣が関係しているのかもな」

「アンタの話を聞くに、美徳の剣は七元徳という人間の善性の概念を秘めた武装だ」

「人間の悪意で堕とされた天使が、またヒトの心を取り戻しても不思議じゃないって事だな」

それは、突如現れた。捕らわれていた青年の隣にふらりと浮かぶ異様な骸骨
サーヴァントだ。そう確信する程の霊基だが、そのクラスまでは判別できない

ペラペラと説明をする骨は、まるで何でも知っているかの様な態度
……だが、その素性がわからない。この聖杯戦争で召喚されたサーヴァントは全て把握しているのにも関わらず

「おっと、何でもは知らないな。知っている事だけだ」
「例えばありがたい説法。いい感じのちょうどいい石の見つけ方。スーパーの特売日……」
「ま、ふざけてる場合じゃないな。これは」

「あんた、何をさっきから……!」
「ん?オレに突っかかる暇があるのか?随分と余裕なんだな」
「今こうして言い合ってる時も、あのアサシン共は確保しようと血眼になってるぜ」


「く、痛つ……なんだか、よくわかんねえけど」
「……ルゥナ。行ってくれ!」





「施経……あんた大丈夫なの!?」
「運良く急所を外れてるみたいだな……」
「だけど無理に喋ったらダメだ!傷が悪化するかもしれない!」

青年が施経の肩を担ぐ。いくら軽傷と言えど、放置できる訳もない
それでも施経はルゥナに叫ぶ。痛みすら忘れた様に、思いの丈を叩きつける


「あいつに……言ってやってくれよ!お前は何も悪くないって!」
「だから!……ゲホッ、ゴホッ!」「これ以上はダメだ!……その、後は頼む!」


「……だ、そうだ。声援に答えてやれよ。可愛いヒーロー……いや、ヒロインか?」
「どっちだっていいか。じゃ、よろしくな」 

施経を連れて、青年と骨のサーヴァントは部屋に戻る
取り残されたルゥナを案ずるようにランサーは言葉を紡いでいった


「ルゥナ、どうしようか?このまま、少々森を放っておく?」
「オレ達が手を下さなくても、他の陣営が彼女を倒す。そうすればこの街は救われる」
「けど、それでも……君が望むなら、オレが少しだけ力を貸すよ」

「……その言葉、信じるわよ」

「勿論。オレは君のサーヴァントで、最新鋭の聖人だからね」

「行くわよ。一つだけ心当たりがあるわ」

その言葉を最後にして、背後を振り向かずに歩き始める
後ろからではルゥナの顔は見えない。しかし、ランサーは背から一歩下がって歩いていく

……決断の時は近い。その確信だけを背負い込んで





『謎のサーヴァントのステータスを開示します』

┏━━━━━━━━━━━━━━━┓
  ≪クラス≫:???
┣━━━━━━━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┓
  【真名】:???             【属性】:秩序・中庸
┣━━━━━━━┳━━━━━━━╋━━━━━━━┳━┻━━━━━┳━━━━━━━┳━━━━━━━┓
  【筋力】:C     【耐久】:EX      【敏捷】:B      【魔力】:A      【幸運】:A+      【宝具】:EX
┣━━━━━━━┻━━━━━━━┻━━━━━━━┻━━━━━━━┻━━━━━━━┻━━━━━━━┫



【という訳で、本日はここまで】

【また次回によろしくお願いします……】


【ゆっくり更新します……】



「こっち。付いてきて、ランサー」
「わかった。けど、オレも知ってるよ?」
「……一応、よ」

人通りの減った静かな街を歩いていく。辺りも既に暗くなってきた
目的地は決まっている。あそこに、きっと少々森はいると確信を持って進んでいく


「……ちょっと待って」「え、そこにいた?」
「違うっての!……ちょっとだけ、買い物をさせてちょうだい」
「大丈夫だよ。それが欲しいんでしょ?」

「なら、躊躇ったらダメだ。自分の手で選んで進まないと、後悔する事になるからさ」
「またいつものね……わかってる。わかってるっての!」


自分に言い聞かせる様に、キツく言い返す。懐からなけなしの小銭を手に取ると、近くの自販機へと足を向ける
ガコン。と缶の落ちる音がやけに響く。その音は耳に残ったあの時の……不穏な羽音をかき消してくれた。

二人は黙ったまま進んでいく。細い路地を通り抜け、薄暗い道を掻き分けながら
その先にあるのは、かつての家。……さきちゃんと共に過ごしていた、あの家だった




「……………………」

どうして、ここに戻ってきたのだろう
自分は許されない。怪物である事はもう皆に、ルゥナにも知られてしまったというのに

人間として……いいや、人間の物真似をしていた頃に、また戻れると思っていたのかもしれない
……もう、どれだけ頑張って擬態を施しても、人間の皮膚を突き破ってしまうのに


「……う、うう」
「うぅあぁあああ……!」

悲痛な現実を認識して、食い縛った口の中から嗚咽が漏れる
その声はもう不吉な羽音ではなく、純真な少女のか細い声色なのに
その事を気づく存在は、もう誰もいなくなってしまったのだと



「やっぱり、ここにいたわね」
「あんたの行き先なんてお見通しよ。伊達にそれなりの時間を一緒にいた訳じゃないし」
「……お帰り。あんたの家なんて、ここしか考えられないもの」

それなのに、どうして
彼女は、ここに来たのだろう?





「…………」
「ルゥナ。今の少々森は危険だよ」
「擬態も中途半端だし、まだ力を充分には扱えてないみたいだ」

ランサーの指摘はよくわかる。少々森の身体はかつての少女としての肉体に変化していた
だが、一部は強引な負荷に耐えきれなかったのか、中に潜む殻が、所々の皮膚を突き破る痛ましい姿

震えているのは消耗か不安か。それを確かめるべく、ルゥナは一歩、少々森に


「っ……!止め、てっ……!」
「殺し、ちゃう……止められ、ないの……!」
「やだぁ……!もう、誰かを傷つけたく……!」

ガクガクと身体を揺らす。その感情からは悪意をまるで感じない
それだけを確認すると、ルゥナはポケットから何かを取り出す

それは先程、自販機で購入した……少々森の大好きなジュースだった


「あーもう、落ち着きなさいってば!……もう!ハイ!」
「いい?これ飲んでゆっくり話しなさい。これは命令なんだから!」





「……ルゥ、ナ?」
「それ、あんたの好きなやつでしょ?」
「気分じゃない。とか、そういう事はどうでもいいから。早く飲みなさい」

「どう、して。私は、ずっと」
「ルゥナはね~ずっと少々森の事を「ランサーはあっち行って!」

路地裏に喝が響き渡る。後は頑張ってね~と手を振りながら、その姿を霧散させた
……本当にいなくなったかは定かではない。が、これで少々森との一対一の対面が出来る


「……正直、あんたの正体はあたしでもわかる」
「“アバドン”。かつての聖杯戦争で召喚されたイレギュラーで、この街を食い荒らした災害」
「それが、何らかの事情で受肉したのが……」

ここは、敢えて最後までは言わない。ちらりと目をやると、正解と証明する様に頭が垂れる


「元々、少々森若子という人は存在していた」
「だけど、私……アバドンが、砕かれた時、既にその命は亡くなっていた」
「……私が、彼女を、殺した、から」

「私は、完全には消えなかった。偶然か、奇跡かわからないけど」
「彼女の姿と、記憶を受け継いで……この世に、受肉、したの」

ぽつぽつと。途切れ途切れに話していく
その不可思議な話し方は、彼女のボンヤリした性格によるものだと思っていたが……

「……で、あんたはその少々森若子って奴になり済ましていたって訳ね」

「人間の真似をして、人間の生活に溶け込んで……二年間、こうして生きてきた」





ルゥナからの指摘に、重く、こくんと頷く
本当なら生きていいはずがない。罪悪感から、その顔はホロホロと仮面が剥がれ落ちる

昆虫の様な無機質な素顔。人間の様に泣き出しそうな仮面。ルゥナの知らない顔は、よく知る声で懇願した


「……もう、いい。これ以上は、もう」
「ルゥナ。私を殺して。ルゥナの魔術なら、それが出来る、から」
「だから……お願い。ルゥナ」


目から涙を流しながら、笑顔で少々森だった蟲は語る
もう生きたくない。だから殺せ。事実上の自殺をルゥナに託したのだ

それを聞き入れるのか、それとも。……何を悩む必要があるの?


「……ふざけんじゃないわよ!」

「あたしがどれだけ!あんたを心配してやったと思ってるのよ!」

「もう死にたい?殺してくれ?知らないわよ、そんなの!」

「あたしは!あんたの事を……!」




「みーつけた!」「こんな所に……」「くそっ、スーツが汚れるだろうが……!」






「っ!?」
「あんた達……市長の!」

(……ランサー!)(わかってるよ!)

ぞろぞろと路地裏に雪崩れ込んでくる、不審な魔術師の群れ
施経とルゥナを拐った魔術師に、少々森に銃を突きつけていた魔術師

明らかに市長の差し金だ。急いでランサーに念話を飛ばす。あっと言う間に割り込み、長針を模した槍を構えて


「ルゥナ、少々森!下がっていて!」
「不審な動きの車があったから、監視していたんだ。こいつらの狙いは少々森だと思う!」

「あ、ちょっと待った。話をしようよ」
「私達は生身の魔術師がたった三人。そっちはサーヴァントに街を滅ぼしかけた怪物」
「……ズルくない?」

「んな事知らないっての!ランサー!まとめてぶっ飛ばし……きゃっ!?」
「ルゥナ!?……うわっ!?」

指示を下すその直前、背後から何か重いモノがのしかかる
見ると、それは土で出来たゴーレムで。少々森も身体を掴まれている
ランサーも突如飛来した光弾に思いっきり吹き飛ばされる。確か、これは……!

「目標は沈黙した。貴様らは直ちにアバドンを回収しろ」
「悪く思わないでくれ。僕も街を滅ぼされてはたまらないからね」





「ストレングス!ユーニス……!」

「裏切った。なんて言わないわよね?」
「俺達からすればお前らの方が裏切り者だ!」
「あ痛たた……君たち、捕まってたんじゃなかったの?」

「力を貸す事を条件に解放されたんだよ!」
「私は街なんてどうでもいいけど……こんな兵器を隠し持っていたなら話は別よ」

かつてはライダーを退ける為、一時的に共闘したアーチャー陣営とキャスター陣営
だが、今はこちらに牙を向ける。完全に敵対の意思を見せていた

「回収しまーす!」
「暴れられると面倒だから、手錠でも使うか」
「ルゥナ!ルゥナ───っ!」

ゴーレムに足止めされている内に、少々森は車に乗せられて拐われる
アーチャーにキャスター、ユーニスも続く。唯一人。ストレングスは二人を注視していた


「……オレは、この街を護る為にあのアバドンを倒す」

「だが、お前達も同じ意思があるのなら。もしくは……いや、何でもない」

「何にせよ、自分の意思を示したければ“禍門邸”に来るがいい」

「そこに、全ての陣営が揃うはずだ……」


それだけを言い残すと、踵を翻し去っていく
ルゥナの手元には、結局少々森が飲まなかったジュースの缶が転がってきた

……自分の意思を示したければ。それなら、もう覚悟は出来ている

「……ランサー。戦えるわね?」
「勿論。オレは君の答えを聞くまで止まらないよ」
「じゃあ行くわよ。あんたはあいつに連絡を入れておいて」

「もう一回、これをあいつに渡してやるんだから!」




【本日はここまで……】


【ちょっと明日から力業で更新します】

【安価の予定はないので、眺めていてくだされば】


【という訳で、今から力尽きるまでひたすら更新したいと思います】

【目安は九時まで。安価は無し。これくらいしないと今月中にエピローグまでいけない…!】





「かつて、ガイスロギヴァテスがこの街にいた頃……」
「聖杯戦争で必勝を期す為に、機械人形の兵隊を製作していた」
「だが、幾つかの人形に自我が芽生える不具合が発生して……」
「そのほとんどは廃棄処理されたとドミトリイ様は語っていたな」

つらつらとコリーが語るのは、かつて御三家の一角だったガイスロギヴァテス家の歴史
横で聞くアダムスとベルは、不思議そうに顔を見合わせる


「つー事は、何か?そのロボット兵士がこの街に存在してたってか?」
「ああ。だが幾つかの自意識を得た人形は廃棄の中で生き延びたとの記録がある」
「そ、そのメモリ……ランサーに探してほしいって言っていたのですよねえ?」

「……そして、その中でただの一機。完全に破壊を免れた幸運な機体があったという」
「彼は明確な自我の中で、我等の悲願……聖杯を求める為に戦っているのだ」

締めくくる様に、ある一人のマスターに視線を映す。それはかつて、基地を強襲した男


「そうだろう。ストレングス……」




「……どういう事だ?聖杯を諦めろ?」
「へえ。本家の当主様からの直々の命です」
「『聖杯を放棄し、即刻帰還せよ』。……どうもアバドンが酷いトラウマらしいそうで」

「それは貴方達の家の問題でしょう?私達には関係ないじゃない!」
「いや、ううん……まあ、そうかもしれねえですけれどね」


アーチャー陣営はディールから伝えられた、ドミトリイからの指示に疑問をぶつける
そもそも、捨てたのは其方ではないのか?それなのに指示に従えというのは納得できない

「そのドミトリイ?……とかいうのは、本当に私達の敗退を望んでいるのかしら?」
「一応はそうですねえ。ガイスロギヴァテスはあのアバドンに関わりたくないそうで」

「けど、まあルゥナさんだけは絶対に帰ってこいという話でしたので。こっちでなんとかしておきますよ」
「……何故、ルゥナだけは?」


「あの子はガイスロギヴァテスでも有力な家の娘さんでしてね。万一があると困るんです」
「ふうん……意外ね。あの子、箱入りなの」

アーチャーが感心する隣。ストレングスは虚空に視線を浮かべている
意思を示したいならばここに来い。そう言ったのは何故だったか

「……不思議だな。奴のどこに感化されたと言うんだ。オレは」

目を閉じ、暫しの休眠状態に移行する
その近くでは、今回の……全ての元凶。ロベルトがグレイト。フェリシアと話を進めていた




「───つまり、あれは不幸な事故なのです」
「アバドンを召喚したのは、神の証明の為。街に被害を出すつもりはありません」
「この度は彼女……受肉したアバドンに再調整を施し、この街を守護する為に利用するのです」

朗々と語るロベルトに、かつての所業から懐疑的な視線を向けるグレイト
それを知ってか知らずか、市長の舌先もいつも以上によく回る

「ええ、ええ!当然、協会にも今回の事は提出しておりますとも」
「そして、私への投資も検討してくださるそうです。両得ですな!ははは……!」
「ううむ……む?ところでアーディー君は」


「ああ。彼女は少しお疲れのようでね」
「少し別室で、『お休み』いただいているよ」

ゆらり。黒の衣服をはためかせたアサシンが、誤魔化す様にグレイトに近づく
見下ろす姿からはえも言われぬ威圧を感じ、やむ無くグレイトは引き下がる

「……それで、首尾の方はどうかな?」
「上々だそうです!数日はかかるやもしれませんが、未来の栄華の前では些末でしょう!」




「ええ、この街が多少荒れていても!すぐに元に戻りますからね!」




「……ちょっと、カラス男!」
「アンタ達の計画なんかどうでもいいけど、私達が集められているのは何でよ?」
「ほとんどの陣営を一ヶ所に集めて、ここで雌雄を決するつもりかしら?」

不服そうにセイバーは問い質す。何故、自分達はここにいるのか?
その問いに若干の呆れを見せるものの、直ぐ様普段の怜悧な笑みを浮かべて返す

その視線の先には、セイバーではなく……両の腕をくくりつけられて、磔にされた少々森がいた

「ああ。これはあくまでも保険だよ」
「今は封じられていても、アバドンの力は未だに未知数だからね」
「いつ暴発しても対処出来るよう、こうして戦力をかき集めているという訳だよ」


「……私には、あの子がそんな大層な存在には見えないのだけど」
「君の尺度で物事を考えるべきじゃない。それと、少しの不安分子として……」

アサシンの話を遮るかの様に、突如、禍門邸のドアが吹き飛ぶ
その先に立っていたのは、この場にいない唯一の陣営……ルゥナとランサーだった

「……邪魔するわ。あたしはルゥナ・ガイスロギヴァテス」
「あんた達に用があって来たわ。単刀直入に言わせて貰う」

「その子を、あたしに渡しなさい!」




「ルゥナ……!」
「ルゥナさぁん!?」

姿を表したこちらのマスターに、驚きを隠せていないコリーとベル
しかし、既にガイスロギヴァテスは聖杯戦争を諦めた。もはや、こちらがサーヴァントを従える意味はない

「おーい、嬢ちゃん。俺達はもう帰れってよ」
「早くランサーを自害させてくだせえ。そうすれば皆が帰れるんです」

「らしいけど……どうする?」
「決まってるって言ってるでしょ……来なさい」

アダムスとディールに対する返答は、背後から現れた人物に託す
彼女は一つ瞬きをすると、にこやかな微笑みで宣言する


「ごきげんよう。今次の聖杯戦争の皆様」
「私の名ははティファ。ティファニー・フォン・ロシュフォール」
「此度はライダーのマスターとして。……そしてランサー陣営の『同盟相手』として召集されましたの」


「……はぁ?同盟だあ?」
「はい。私はルゥナの戦力として。ルゥナは私に『聖杯のデータを譲渡する』事を条件として契約を結んでおりますの」
「せせせ聖杯のデータぁ!?そそそそんな事を本家の人が知ったら……!」

「怒られる。で済むといいわね」
「済む訳ないだろう!こんなの、本家……いや、私達に対する裏切りだ!」
「ええそうよ!あたしは……ルゥナ・ガイスロギヴァテスは家の為に戦う事を放棄する!」


「今、ここから!あたしは自分の為に聖杯を手にする!これで文句無いわよね!?」




あまりにも堂々とした、裏切りの宣言
その潔さに全員が呆気に取られている。こうも目の前で『今から自分の為に戦います』と答えたのだから

「ルゥナ、お前」
「ど……どうしてですかぁ!何で、何でぇ!」
「そんな事はどうでもいいわ!問題は……」

「アバドンを渡せ!?お前、酒の飲み過ぎで気でも狂ったのか!?」
「僕もにわかに信じられないな。君は世界を征服でもするつもりなのかい?」

信じられない。猜疑の目がルゥナを貫いていく
正直、自分でもどうかしてると思う。だって、たかが一瞬の為に全てを投げ捨てるなんてありえない


「……少々森。あんたはどうなの?」
「ここで兵器として扱われるか、今まで通りの生活に戻るのか!」
「答えなさい!答えなさいよ!あたしは答えたんだから!あんたも答えて!」

「……少々森?誰よそれ」
「確か……アバドンが擬態してる。人間の名前と聞いたわ」

喉がジンジンと痛くなる。ありったけの感情を乗せて叫ぶと、こうも辛くて苦しいのか
周囲の目が移り変わる。乱入してきたルゥナから、縛り付けられたアバドン……いいや、少々森若子へと

「………………………………私、は………………」




あまりにも堂々とした、裏切りの宣言
その潔さに全員が呆気に取られている。こうも目の前で『今から自分の為に戦います』と答えたのだから

「ルゥナ、お前」
「ど……どうしてですかぁ!何で、何でぇ!」
「そんな事はどうでもいいわ!問題は……」

「アバドンを渡せ!?お前、酒の飲み過ぎで気でも狂ったのか!?」
「僕もにわかに信じられないな。君は世界を征服でもするつもりなのかい?」

信じられない。猜疑の目がルゥナを貫いていく
正直、自分でもどうかしてると思う。だって、たかが一瞬の為に全てを投げ捨てるなんてありえない


「……少々森。あんたはどうなの?」
「ここで兵器として扱われるか、今まで通りの生活に戻るのか!」
「答えなさい!答えなさいよ!あたしは答えたんだから!あんたも答えて!」

「……少々森?誰よそれ」
「確か……アバドンが擬態してる。人間の名前と聞いたわ」

喉がジンジンと痛くなる。ありったけの感情を乗せて叫ぶと、こうも辛くて苦しいのか
周囲の目が移り変わる。乱入してきたルゥナから、縛り付けられたアバドン……いいや、少々森若子へと

「………………………………私、は………………」





「生きていたら、駄目、だから」


「ここで、消えたい……もう、死にたい」


「……そう、思って、いた、のに」


ぽつり、ぽつり。一言一言を噛む様に。小さな音が響いていく
何かを口出しする者はいない。正確には、口を開くと槍の穂先が此方に向くから黙っていた


「けど、ルゥナが。ルゥナが来て、私」

「嬉しい。って、思って、そうしたら、色んな事が、わっと頭の中で、ぐるぐるって……!」

「さき、ちゃんに……!言われた、事が……!頭の中でずっと聞こえる……!」



『さようなら。わたしの、たいせつなおねーちゃんたち……』



「やだ……やだ!もう、別れたく、ない!私は、もう大切な人と、離れたくない!」

少々森は泣いていた。普段、感情をあまり表にしない彼女が、今だけは大粒の涙を目から流していた
無数の災厄から、一人の人間へ。移り変わった少女は叫ぶ。心の底から、芽生えた願いを



「私、は……っ!生き、たい……っ!」

「人として……ルゥナと、一緒にいたい……!」





「……何を、馬鹿な事を」
「幾ら人間を真似しても、虫は虫」
「人として。という前提は、最初からあり得ない。砂上の楼閣だよ」

冷たく、アサシンは言い放つ。そんな事はあり得ないと冷笑を浮かべながら
周囲の人間も程度の差はあれその願いを怪訝に目を細めて

「その通りよアサシン。あんたの言う事は全て正しいわ」
「けど、少々森が人間になれたら?ヒトとしての生を歩めるようになったら?」
「それでもあんたは、今と同じ内容を言えるのかしらね?」

「君は阿呆か?虫が人間になる訳がない」
「そんなもの、『万能の願望器』にでもすがらない限りは……」
「……まさか」

アサシンの顔が、微かに歪む。この現代に召喚されてから、初めて彼に驚愕の感情が浮かぶ
そう。不可能すら可能にする。万能の願望器に願えば叶うのなら───



「あたしは、聖杯を使う。聖杯であたしの願望を叶えさせる」
「『少々森若子を人間にする』。その為にあたしはあんた達を全員倒す!」

「これがあたしの選択……あたしの決断よ!文句のある奴からかかってきなさい!」




「ふざけるなァアアアッ!天使を人間に堕とすだとッ!?」
「それは正しく……神への冒涜に他ならない!許される行為では断じて無い!」
「貴様等ァアァアッ!疾くランサー陣営を処刑せよ!神の降臨を妨げてなるものかアーッ!」

ロベルトが発狂した様にランサー陣営を怒鳴り付ける。神への冒涜だと断言し、息の根を止めろと喚き叫ぶ
……だが、そもそもの話。少々森はそんな事を望んでいない。例えロベルトが召喚した存在だと言えども

全てがロベルトの意のままになるとは限らないという事を、完全に失念していたのだ


「……アーチャー。戦闘の準備を」
「わかっているわ、聖杯を狙うというのなら、いずれは私達と戦うもの」

「おいおいおい!そんなトチ狂った考えの為にそんな化け物を庇うのかよ!?」
「本当に叶う保証も無いからね。僕としては反対の姿勢を取らせて貰おう」

「やっぱりやる気ね……準備はいい?」
「ふふふ……ヒロインを取り返す為に迫りくる敵をなぎ倒す……いいわね」
「割りと余裕そう!?その余裕でやられないでよね!」


「それじゃあ、オレも!“今───”」
「……待って!」




「……………………」
「っとと!どうしたの?」
「あんたは……セイバーのマスターじゃない」

空気を割る様に制止をかけたのは、セイバーのマスターであるフェリシアだった
凛とした声を挙げて、ルゥナに近づいていく。その様子からは敵意をまるで感じなかった

「……フェリシア、いいのね?」
「ええ。……お父様も、きっと許してくれるわ」

「ルゥナ。と言ったわね?先程の言葉に偽りは無いかしら」
「当たり前じゃない。ヤワな考えで家を裏切る程、あたしは適当じゃないわ」
「そう。……なら、私も貴女に賭けてみるわ」

大人びた顔つきが少し和らぐ。柔らかな微笑みを浮かべたフェリシアは、一瞬だけ目をつむり
そして、毅然とした決意を胸に。朗々と言葉を紡いでいった



「……今、この時より!フェリシア・グロスキュリア。及びセイバーはランサー陣営に同盟を申し込みます!」
「期限はこの戦闘が終わるまで!対価は不要とします!ランサー陣営よ、返答を!」

「え!?いいの!?」
「ルゥナ、決断は早めにね」
「当然、受けるわ!お願いセイバー!」

「まっ私はフェリシアがいいって言うなら従うわよ?カラス男よりもこっちがいいし!」
「という訳で!かかってきなさい雑兵共。このクソ剣でぶったぎってやるわ!」


「おやおや……セイバー陣営があちらに付きましたか」
「では、私も増援を呼びましょう!皆さん、こちらに来てください!」



市長が手を叩くと、どこからか武器を担いだ人物がぞろぞろと沸き出る
彼ら、彼女らには見覚えがあった。それは市長の命令で動いていた魔術師達……


「彼等は私の直属の魔術師です!言ってしまえば私兵ですな!」
「この時の為に、各地から集めていたのです!さあ、やってしまいなさい!」


 ◆コネクション  
  幅広い交友関係。確度の高い情報の源泉。

  各勢力の利害関係を把握し、調整するのは政治家に課せられた責務。  
  国会議員や海外の権力者、果てには街に起きる魔術がらみの事件に対応する為、聖堂教会や時計塔とも太いパイプを持つ。  
  名分があれば彼らの助力を得る事も可能だろう。



「初作戦。ちょっとは活躍しねえとな」
「皆で勝負でもしましょうか?最初にマスターの首を取ったヒトは臨時ボーナスとか」
「じゃあテメエは勝っても意味ねえな。ボーナス貰っても無駄遣いするだけだぜ」
「ん~。皆ホントに張り切っているなあ」

「当たり前だろ?こんな大仕事、何度もあるもんじゃない」
「ガキの首取った所でなんの自慢にもならないと思うけどなあ、ね!先輩!」
「皆不埒だ……街は私が守るから……」


「ええいややこしいわ!ぽっと出の連中なんかにあたし達が負けるかっての!」
「ネームドの格を教えてあげるわ。この魔眼の前では等しく無力だという事を……」
「ふざけないで!来るわ、集中しなさい!」

「あらら。案外いい組み合わせじゃない?あんたのマスターとフェリシア」
「奇遇だね!オレもそう思ってた!」


一番槍が突き進む。それに応じるかの様に、全員が武器を構えて戦闘態勢に移行した

これは、子供の意地の叩きつけ。市長の支配を突き破る為の、戦闘だ





……戦禍は、混沌を極めていた
飛び交う銃弾に剣戟の悲鳴。物や壁が破壊されて、絶叫が空間に木霊する
あまりに物騒なオーケストラ。禍門の住民は影で静観する事しか出来ずにいた

「パパ……」「お父さん……」
「大丈夫、大丈夫だ。俺がついているからな」

娘を慰める事しか出来ない自分に腹が立つ。兄の暴虐を止められなかった事が情けない
不意に、背後から誰かの気配が。振り返ると、頭を抑えたアーディーがフラフラとやって来た


「う~ん……あの、ロベルトは……」
「君はエーデルワイスの!」
「あっ!?何これ!?どういう事ですか!?」

「アーディーちゃん。さっきまでぐっすり寝てなかった?」
「多分アサシンだ……あいつ、よくも!」


「アハハッ。何だか楽しそうだね!」
「ボクも見学していいかな?こんな面白そうな事、滅多には無いからさ」

怒りに燃えるアーディーの隣に、いつの間にか白髪の青年が現れた
目の前の惨状を面白そう。と感じる精神も奇怪だが、それよりも奇妙なのはその雰囲気

まるで、この世の存在では無いかの様な。希薄な存在感が逆に不気味で……


「てめえ、誰も来ていいなんざ言ってねえぞ。イエス」
「あれ?君は……ああ!禍門のオバケか!」

「懐かしいなあ。こうして会うのは何十年ぶりだろうね?久しぶり」
「……………………」

「当主よ。この男は」
「聞くんじゃねえよ。……おい、何もするな。一歩でも動いたら容赦しねえ」
「もちろん。ボクとしても、この場は静観しておきたいからね」

招福の言葉に頷くイエス。すると、まるで影に沈むかの様にその姿が消えていくではないか
その光景に驚愕する一同だが、直ぐに目の前の戦闘に意識を移す

未だに鳴り止まぬ戦いの音は、更に激しさを加速していた



「そこ!来てるわよティファ!」
「わかっているわ。“──私は、その歩みを否定する”」

無数の魔術師に殺到されながらも、炎と氷の猛攻がそれらを捌く
炎の剣が周囲を切り裂く。それを縫う様に降り注ぐのは、絶対零度の氷の風
凍結した身体を灼熱が襲う。フェリシアの『氷結霊媒』はルゥナの魔術を阻害せず、相乗し合い敵を払う


 ◆氷結領域(ニヴルヘイム)   
  魔術刻印に記された大魔術。  
  場をムスペルヘイムと対為す氷結領域へと書き換える。  
  彼女の魔術回路ではその一端しか扱えない。  
└◇氷結霊媒(ニヴルセイズ)   
  「氷結領域(ニヴルヘイム)」のスケールダウン版。   
   詠唱によるトランス状態から女神ヘルを降ろし、ニヴルヘイムの氷風を呼び起こす。   
  ムスペルヘイムと対を為すニヴルヘイムの氷は炎と中和される。



此方に剣を、槍を、鞭を向ける魔術師達。彼等を足止めするのはティファだ
数の上では倍に近い戦力差。それを埋めるのは彼女達の持つ至上の才能

「クソ、こいつら、まさか最初から組んでいたのか!?」
「互いの連携に隙がない。息も完全に一致している……」

「まさか!ここが初めての共闘だっての!」
「油断しないで!まだ勝った訳じゃないわ!」


「……そうだ。まだオレがいる」
「オレの使命はこの街の守護……」
「お前達を打倒する。それこそがオレのやるべき事だ」

魔力の弾丸が放たれて、ルゥナとフェリシアは咄嗟に防御する
吹き上がる土煙の先にいたのはストレングス。彼もこちらを倒さんと、魔力を集約させて次弾を放つ準備をしていて

「……そういえば、あたしはあんたに負けてるのよね」
「リベンジをさせて貰うわ!今度は負けないって教えてあげる!」

一際派手な炎が吹き上がる。まだ、終わりではないのだと宣言するかの様に



背後で爆音が響いている。果たして、ルゥナは無事だろうか
そんな野暮な感想は、元気そうに叫ぶ声で完全に霧散した

「それにしても……近づけないね、コレ」
「うざったいっての!パチパチパチパチ豆鉄砲のクセに!」

「別に、貴方達とまともに戦う理由は無いわ」
「先にマスターが倒されれば、自ずと魔力の供給に限界がくる。そうなったら単独行動を持つ私が有利なんだから!」
「それ、解説していいの?オレ達はそうならない様に戦うんだけど」

「いいわよ、別に。解説した所で貴方達が有利になる訳じゃないもの」
「この貴方達を狙う無数の銃口から!逃れられる訳がないのだから!」


ぐるりと辺りを見渡すと、前後左右にみっちりと詰められた銃が此方を睨んでいる
まるでドームの様になった銃の束。セイバーとランサーは互いを背にして得物を構え

「これ、耐えきれたら凄くない?」
「耐えられたらね!」

軽口を叩くのと、銃口が火を吹くのはほぼ同時に。二人を撃ち殺さんと襲い来る
剣と槍が銃弾を迎え撃つ。例えその身を削られようとも


【本日はここまで】

【明日も似た方式でやります】


【はい。それではやっていきます】

【途中退席を挟んでやれるまで。リミットは23時と少しまでとします】





互いの全力をぶつけ合うルゥナとストレングス
炎が吹けば、光が消し飛ばす。光が飛べば、炎が撃ち落とす
その力量はほぼ互角。一瞬、視線が交錯した

「────ッ!火力が増している……!」
「当たり前よストレングス!今のあたしは燃えに燃えてるんだから!」
「……何故だ。何故お前は!そこまで、あの女を救おうとする!」

「決まってんでしょ!少々森はあたしにとって大事なの!」
「あんたみたいな奴にはわかんないかもね!」

「……大事な。オレにとって、それはこの街」
「いや違う……大事なのは、使命……!」

胸に灯るは強い感情。色は違えど力は同じく
だとするならば、この勝負。勝敗を分かつのは己の心に他ならない……


「……出力を限界まで上げる。耐えきれるか?」
「やってみなさいよ!こっちも全力。本気で火力を上げてやるわ!」

激突は更に増していく。周囲すらも巻き込んだその戦闘は、より過激に火花を咲かせていた



……その隣で、有象に無象を迎え撃つのはフェリシアとティファ
凍える風が吹き荒ぶ。しかし、兵隊達は止まる気配を一向に見せず

「キャスターの援護かしら?多少は強化されているのかも」
「言い寄られるのは好きだけど、不細工ばかりじゃ面白くないわ」
「ティファ!ふざけてる場合!?」

軽口を言いつつも、的確にその動きは鈍り始めている
流石に相手も無尽という訳ではないのだろう。疲弊の色に色濃く染まる

「このままなら勝てるわ!余計な横槍が入らなければだけど!」
「それはフラグというのよフェリシア。……噂をすれば、お出ましかしら?」


「そう構えないでくれるかな。私は戦闘狂でもなければ殺人鬼でもない」
「軍師の真似事はした事が無い訳じゃない。役に立たない魔術師の変わりに私が指揮しよう」
「悪かったな!どうせ俺はキャスター失格だよアサシン!」

矢面に立つアサシンに、氷の槍を向けるフェリシア
それでも微塵も怯まない。驚異ではないと言いたげな顔に、氷結の槍が降り注いだ




「……フェリシア!?っの、カラス男!」
「落ち着いてよセイバー。オレ達はアーチャーを突破しないと」
「わかってるわよランサー。……ああもう!ウザいったらありゃしない!」

「それが既製品の強みというものよ。伝説の剣なんて一本で、この数は突破できないわ!」
「オマケにここは屋敷の中。私の戦場としては最高の条件が整っているんだもの!」

銃撃の雨を突破して、アーチャーの首を斬り落とさんと迫るセイバー
だがアーチャーは身軽にも回避していく。周囲の壁や床を砕き割る一撃は、全て彼女に当たらない


「ふ~ん。でもさ、アーチャー!君は一つ忘れているよ」
「この世で最も産み出されているモノ。誰にも手出しできない特注品!」
「それは『時間』であり、『未来』であり、要するに───」

「“────今だ!(エクスペダイト)!”」


ランサーの槍が光る。その先端はアーチャーの胸を的確に狙う正確な一刻
貫く寸前、銃の束が槍を阻む。ガリガリと不快な音を響かせながら、へし折り、削っていく

「貴方の槍は最速最短かもしれない……けど、目的地がわかるなら、そこに壁を置けば突破は不可能よ」
「まだまだ!ここでオレが諦めたら、ルゥナの選択も台無しになるからね!」

「……貴方、本来はマスターに忠実な方じゃないでしょう?」
「うん。ていうか最初はどうしようって思ってたよ?何の願いもないんだもん」



鍔迫り合いの最中で、淡々と吐露する心情
最新鋭の聖人は、自身のマスターをどの様に見ていたのかを語り出す


「自力で夢を叶えるだけの能力はある。才能も申し分無いと思う

「けど、それだけじゃオレにとってはダメなんだ。オレは『問題を解決する聖人』だから」

「言うなれば、ルゥナは『空っぽ』だった。ただ目の前の事だけを見て、先にも後にも興味を示さなかった」


ランサーの語るルゥナ像は、ルゥナ自身も自覚していない部分が多く映る
ただ優秀なだけ。あまりにも率直で、残酷な評価を下していたのだ

「けどさ。ルゥナは多感な時期だし色々な人と会えて変わるかもしれない。それだけがオレの望みだった」

「それで、今は明確な目的を持って必死に願いを叶えようとしてる!それでオレは確信したんだよ」

「オレがルゥナに召喚されたのは、ルゥナの夢を守る為!ルゥナが守ると決めた相手を、オレが摘ませない!」



「だからこそ、オレはここでお前を倒すよ。アーチャー!」
「……っ!やってみなさい!私だって、私だって願いが───」




───願いが、ある
そうだ、願いがあるから私は銃を持っている

けれどそれは何の、いや、どんな願いだった?頭の中で思考が淀む

そうだ。願いは『私の家のせいで悪霊になった者達の救済』。それだけを願って今の今まで


「……? 私は、いつから」

「そう、願っていたんだっけ……?」


考えてはいけない。思い出してはならない。ふとした疑問は無意識に封じた記憶を覚ます

そうだ。私は私の家が行った罪を贖わねばならない。それだけが、私の人生

私の───


『……お母さん!』『サラ!』

「貴方、達は」

『もうやめて。もうやめてよ』『誰も君に責任を負って欲しいなんて考えていないんだ』


頭の中で思い出す。それは死ぬ間際、悪霊に身を引き裂かれる前の走馬灯。
そう言ってくれたのは誰だったか。アーチャーの記憶の中を、洗いざらいに探していく

……そうだ。二人は、二人は私の!

「あなた……!アニー!」




ランサーの背後。哀しげに見つめる二人の影
そこにいるのだろうか?それとも、私の願いが見せた幻覚なのか?

どうして今まで忘れてたんだろう。私の大切な夫と娘……
そうだ!私は!ずっと二人の為に戦ってきたと言うのにも関わらず!
二人の死の原因を許せなくて。銃で殺された霊を銃で祓う矛盾にも身を投じて

屋敷を建て続け、増やし続け……その果てに、私は果てたのだったんだ


「……ランサー。私は、貴方が嫌いよ」
「貴方がもっと早くに存在していれば……私は、こんなに悩まなかったのに!」

幾筋の涙が頬を伝う。ずっと忘れていた二人に懺悔する
悪霊を狩り続けるなんて、二人の死を直視出来なかったから行っただけの代償行為なのかもしれない
だからこそ、『困難に手を差し伸べる聖人』であるランサーは自分も……

「……そうだね。君も悩んでたんだと思う」
「だけど……オレも、じゃなかった……オレ達も前に進まないといけないからさ!」
「だからゴメン。ここでお別れしよう、サラ・ウィンチェスター」


槍が銃を弾き飛ばす。アーチャーの手には何も持たない素手の状態
だが、そんな事は関係無い。空に銃を呼び出し眼前のランサーにのみ銃口を……ランサーのみ?

「……ッ!?」

嫌な気配が背筋に走る。いつの間にか、司会の中からセイバーが消えていた事に気づく
振り向く隙が無い事はわかっていた。鍔迫り合いの最中に、彼女は死角にいたのだと


「獲ったぁーーーーっっっ!!!」

斬。肉が斬られる音が鈍く響く
セイバーの魔剣は、アーチャーの背中を袈裟斬りに裂き……その霊核を粉微塵に砕いていた




「───ゲホッ!くっ!」
「卑怯。なんて言わないわよね?残念だけど、私は蛮族だからそういうの知らないわ」

「自慢気に言う事かな?それ。……サラ、少しだけいいかな?」
「確か君には気配を感知するスキルがあるはずだよね?気づかれると思ってたんだけど」

血を口から吐き出すアーチャー。この様子では蘇生も意味を為さないだろう
その前に、ランサーは疑問を口に出す。それを聞いた彼女は自重げに笑みを溢す


「……ふ、ふふふ。どうして、だと思う?」
「私も……よく、わからないわね。どうして、気づかなかったのかしら?」
「でも、理由を考えるとすれば……意図的に、無視したのかもしれないわね」

身体が解れる。粒子が消えていく。もう猶予は残されていない
思えば馬鹿げた人生だった。もっと早くに気づけていれば、少しは違った道を進めただろうか

ふと、顔を上げると見覚えのある少女と男性が手を差し出しているのに気がついた


「ああ……待っていてちょうだい。二人共」

「私も今から……そっちに、行くわ……」


手を伸ばす。既に身体が消えかけていたとしてもなお、二人の手を取ろうと必死に伸ばす
つん。と指先が触れ合った気がした。アーチャーは安堵の笑みを浮かべると……消滅した

その行き先は、光の中で待つ家族の元へ───


【ちょっと離席する時間が長そうなのと、いいタイミングなので本日はここまで】

【すまない……有言実行出来なくてすまない……】


【さて、速報も復帰した事ですし少しだけ進めます】



「どうしたのかしらね?アーチャー」
「さあね。でも、きっと満足のいく結果だったとオレは思う」

消滅を確認すると、大剣を振り回して空を切り鳴らす
ヒュンヒュンと風切り音が響き渡る。それはコソコソと逃げ出そうとした二名にも

「ふーん、まあいいわ。……キャスター?」
「ヒッ」
「リベンジマッチ、やってみる?」
「「……………………」」

背を向けたユーニスとキャスターに刃を向け、にっこりと笑顔を浮かべるセイバー
顔を向けて黙り合うキャスター陣営は、両手を上げてこちらに向き直った

「降参だ。僕達は君達の味方になろう」
「そうだな!そもそも俺はあくまでマスターに従っただけでお前達を信じてたからな!」
「吉田君……見損なったぞ」

「……そうそう。ロベルトは?」
「いつの間にか消えているな。市長や少々森なるアバドンも姿を消している様だが」
「ならオレが探してくる。皆はここでルゥナ達を援護して!」

それだけ言い残すと、ランサーは走る。二人は共にマスター達の元へ駆け出した


(市長とロベルトを放置してた。多分、それも織り込み済みだったのかも)
(なんだか、マズイ気がする……!)



「……!アーチャー!?」
「どうやら勝負アリね。こっちの勝ちよ!」

驚愕するストレングス。ルゥナに気を取られて戦況の把握を行えなかった。
いや、令呪を使用する隙すら与えなかった彼女の勝ちだろう。ルゥナの勝ちを認めるしかない
だが……サーヴァントが巻けても、マスターでの戦闘はまだ決着がついていない

「……いいや。確かにランサーの勝ちは認める」
「だが俺達の戦闘は終わっていないだろう?」
「そうね。いいわ!トコトンまでぶっ飛ばしてやるんだから……って危なっ!?」

話の途中で飛んでくる矢に身を竦める。見ると何人かの兵隊が此方に向かって来ていた

「ああもう!二人もいるのにいったい何してんのよ……!」
「邪魔が入ったか。だが、これも勝負だ」

次々に殺到する凶器を捌きつつ、ルゥナの視線はフェリシアとティファに向く
二人も苦戦しているのか、その顔に先程までの余裕は浮かんでいなかった




……ほんの少し、時を遡る
そこには不敵な笑みを浮かべながら、苦悶の表情を浮かべる少女をいたぶっていた

「……戦に必要なのは一騎当千の英雄じゃない」
「こうして雑兵を効率的に運用してこそ。それが理解出来ない馬鹿が多すぎる」

「……統率が取れてきてる。厄介ね、実力を数で覆い隠している!」
「私の魔眼も万能じゃないわ。精々数名しか足止めは無理ね」
「ルゥナがアーチャーのマスターと戦っているから、せめて彼女が来てくれれば……!」

フェリシアとティファは、歯噛みをしつつ状況を把握していく
雇われた魔術師達は此方より格下。しかしアサシンの指揮下に置かれた現状では実力は何の差にもならない
じりじりと追い込まれていく二人は、蜘蛛の巣にかかった様な錯覚に陥っていた


 ◆蜘蛛糸の果て:A++
  邪悪を画策する能力。
  秩序を破壊し、善を穢し、しかして自分に対して因縁や罰を向かわせない。
  蜘蛛が作った網のように相手を取り込み、貶める。


「だったらこっちも追加すればいいんでしょ!そら、散った散った!」
「セイバーか。君の脳ミソは理解できないが、それについては概ね同意しよう」

「そして私の役目はここまで──」「ちょっ、逃げるつもり!?」

踵を返し、去ろうとする背に一撃を入れんと剣が唸る。が……その姿は瞬く間に霧散した
霊体化にしてはあまりにも早すぎる。令呪による撤退の指示と見るのが妥当だろう


「って、あいつら!何人かランサーのマスターの方に行ってるじゃない!」
「ああもう。私はそういうの苦手だっての!自分の身は自分で守ってちょうだい!」




そして、今この瞬間。ルゥナは殺到する凶器を避けつつストレングスに肉薄する
このまま距離をとっていても撃ち抜かれるだけなら、踏み込んで勝負を決めるしかない……!

「って言ってもこいつら邪魔!ぺちぺち豆鉄砲撃ってんじゃないっての!」
「ああもう!せめて、ランサーがいてくれたら何とかなるのに!」

とは思っても多勢に無勢。いくらルゥナが天才とはいえど、一人の火力はたかが知れている
この場を焼き払う程の燃料。それはただの少女一人では賄いきれない熱い想い

だからこそ、せめて。『あと一人』は心の火を燃やしてくれれば


「……るるるるるゥナさぁああん!」
「ベル?」「何だ急に」「少し落ち着けよ」
「何!?今忙しいの見てわかんない!?」

そんなあと涙を浮かべているのは声の主。ベル
せっかく声を張り上げたのにどうしてそんな事を。という顔をありありと浮かべて叫び続ける

「私はあ!ルゥナさんに助けて貰ったから!今こうしてここにいるんですぅ!」
「そうなの!それは良かったわね!」

「だから!私もお!ルゥナさんのお役に立ちたい!私も貴女の隣にいたいんです!」
「好きにしなさい!あんたがいたいなら隣にいさせてやるわよ!」
「ひゃいっ!」

その声を律儀に返答していくルゥナ。その額には汗が伝おうと無下にはしない事に疑問を抱くストレングス
つい。それを聞きたくなってしまった。それが必要ないとは頭の中では理解していても

「……余所見をしている場合か?」
「しょうがないでしょ、ベルに話しかけられてるんだから!」



混戦の最中においても、ルゥナとベルは言葉を交わす
命のやり取りよりも重要だと。大切な存在だと証明に他ならない

ベルは知っている。ルゥナという少女の本質を
普段はつんけんしているけれど、本当は誰よりも自分を心配してくれているんだ
……だから。ベルはずっとこの人についていくと決めたんだ


「大好きです!大好きです、から!ベルは……」
「ルゥナさんに!ベルの全部をあげますから!だから!」

「ずっと……!ベルを隣にいさせてくださああああああああああい!!!」

涙ながらの慟哭は、不思議と悲壮さを感じない
ベルの普段の性格もあるだろうが、一番はその叫びの中にある真意だろう

ベラドンナ・ガイスロギヴァテス。彼女の異名は『燭台の魔女』
炎を放つ火種に寄り添い、その火を強く。より輝かせる生粋の介添人


 ◆燭台の魔女(ベーラ・ドンナ)  
  蝋燭の魔術師。  
  味方の火属性魔術行使効率を何十倍にも高める魔術の適性と刻印を継承する一族。  
  この一族の者は自らを燃やしてしまう為に基本火属性魔術を扱わないが、代々ガイスロギヴァテス家の補佐官として重要なポジションを占めてきた。  
  その性質から危険な戦場にお供として駆り出される事も多く、彼女の両親も戦いの中で亡くなっている。  
  臆病者と蔑まれる彼女だが、その気になれば一人で味方の戦力を数倍化させる可能性を秘めている。



「……何回も、しつこく言わせんじゃないわよ」
「あんたも、あたしにとっては……大切な人なんだってのーーーっ!!!」


炎が願いに呼応する。一人と一人の力は、この場にいる敵を焼き滅ぼさんと吹き上がる
魔力を足し合わせたのではなく、二人の願いの掛け合わせ。その限界は存在する訳がない
ストレングスは驚愕する。もはやルゥナに余力は無いと確信していたが故に、出力の調整すら間に合わず

何倍も膨れ上がった炎は、ルゥナの剣を伝ってストレングスや周りの敵を呑み込み焼却する

炎が晴れる。倒れ伏した尖兵達が、ルゥナに敗北した事を如実に示していた




【本日はここまで】

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