【オリジナル・異世界転生】少年「力の無い僕が異世界で本当に強くなるまで」 (24)

『プロローグ』

17歳の僕はずっと冴えない人生を送っていた。

勉強も運動もできない、アルバイトでもミスばかり。
友達は少ないし彼女もいない。女の子と話すのは苦手。
人が怖かった。自分より優れている人間が怖かった。弱い自分を認めたくなかった。

ネットと2次元だけが僕の安心できる世界だった。

僕の人生が上手くいかないのは「世の中が腐っているから」「誰も僕の本当の凄さを知らないから」だと。
「力さえあれば優れて認められる人間になれる」…と、

……ずっと、そう思っていたんだ。




そしてある日、僕は不注意の事故で意識を失った。

その不注意の事故ってのが情けない事に、ボーッと外歩いていたら石造りの階段から踏み外して…
っていう、ほんとにしょうもない理由なんだ。
全く何やってんだろうな。


そして僕はそのまま魂だけが異世界へ飛ばされたしまったんだ。


僕が転生した異世界…
そこは魔王に世界の7割を支配されてしまった、魔法が魔物といったものが存在する世界。
1年前に勇者が魔王に挑むも敗れてしまったらしい。
そんなところに僕は飛ばされてきた。


そこでは「魔石」と呼ばれる魔翌力を持つ石が存在し、魔翌力を持たない者でもその石を使えば擬似的な魔法が使用できる。

そして、その中には「別世界からの転生者のみが使える強力で特別な魔石」が存在する。



僕は転生してある村に突然現れたようだ。
そしてその村で「神から選ばれし英雄」と讃えられ村で管理されていた特別な魔石を貰ったんだ。

…そこから僕は貰った強大な力を存分に振るった。
村に入ってくるモンスターも一撃で倒せた。簡単だった。

そして村の人間達からは称賛され、食べ物も寝る場所もただで貰えた。別の村での依頼をこなすうちお金もたくさんもらった。
女達からも英雄として憧れの視線を向けられモテモテになった。

気分が良かった。
もう自分には敵は居ない、もう何も怖くない。
自分が最強だ
僕はやっぱり凄い存在なんだ、と…
ただただ強大な力を振り回していた。
手に入ったスゴい玩具ではしゃぐ子供のように…




世の中は意外と上手く回っている。

そんな独り善がりな幸福が長く続く訳もない。
その日は突然やってくる。

「その日」から僕の運命が…
本当の「強くなる」物語が始まるのだ。


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『1章 出会いと旅立ち』


ここは僕が飛ばされてきた村だーーーーー

今日も今日とて僕は群がる女達と一緒に飯屋まで食事に来ていた。

女A「英雄様、これもどうぞ☆はい、あ~んっ」

少年「あ~んっ///」モグッ

少年「ふふふ、君にあーんしてもらうと美味しいなぁ♪」

女A「もう、恥ずかしいですよ英雄様ぁ☆」

女C「Aだけズルーい、私も英雄様に喜んでもらうの!」

女B「英雄く~ん、食べ終わったら私と二人だけで遊ぼ?」

少年「ふふ…どうしようかなぁ…ふふふ…」


少年(幸せだ、力を手に入れてからの僕はもう最高だよ)

少年(きっと元の世界が間違っていたんだ、こっちの僕こそが本当の僕なんだ!)


女C「ねえ、英雄様。そういえば面白いもの見付けたんだけど」

少年「ん?なんだい?」

女C「ジャ~ン、私の家の蔵にあった割りとレアなアイテムだよ。手をかざすと、その人の強さとかがくわしくわかるんだって」

女B「へー、英雄くんやってみたら?」

女A「英雄様の強さ見てみたーい!☆」

少年「ふふ…まったく、仕方ないなぁ…」スッ

少年(僕は特別な魔石で強大な力を手に入れたんだ。きっとものすごいものが出てくるんだろうな)

少年(ふふふ…更にモテモテになっちゃう…!)ニヤニヤ


ピピピッ

レベル 35

体力 5
魔翌力 528
防御力 0
素早さ 1
賢さ 2

特技・魔法
魔石の力
逃げる
諦める
必死の自己弁護
妄想
ネット弁慶
キーボード早打ち

特性【卑怯者】
自分より弱い者が相手の場合、調子に乗って防御力以外の全能力1上昇。自分より強い者が相手の場合、恐怖で行動できなくなる。

弱点
努力、自分より優れてる者、現実



少年「!?!?」ブッ

少年「ちょっ、まっ…お、え…っ!?」

女B「英雄くん?どうしたん?」

女C「私にも見せてよ!」チラッ

少年「まっ、待って!待って!見ないで!」バッ

ピピピッ

少年(ふう~、良かった、消えた…)

女A「英雄様ぁ、なんか挙動不審だよーっ!☆」キャハハ

少年「い、いや…その、あー…」

少年「あれだよ、僕の力のあまりのヤバさを見て君たちが興奮のあまり倒れてしまわないように…ねっ?」キランッ

女A「キャーッ!☆英雄様ぁーっ!☆」ギュウッ

少年「さて、食べ終わったらどこに行こうか?」

女C「みんなで私んちで魔法スゴロクしようよー!」

女A「きゃーっ!やりたいやりたーい!☆」

少年「あっはっは、はしゃぐなよ~」ニヤニヤ

女B「英雄くん、遊びに行くなら私と二人で」

キャーキャー!
アハハハハハハ!


「…」

カチャカチャ…
モグモグ


剣士「…転生者の英雄が現れたと聞いてこの村に来たが、まったく…うるさいハーレムだな」バクッ

魔法使い「喋るのはいいですけど、もう少し静かに喋って欲しいですね…」

武闘家娘「…だめ、もう我慢できない」ガタッ

魔法使い「私も行きます」

武闘家娘「いえ、魔法使いちゃんはここに来るまでのモンスターとの連戦で疲れているでしょ?もう一回戦はさすがに厳しいわ」

魔法使い「そんなモンスターを相手にするみたいな…」ハハ…

中年村人「おい姉ちゃん、あの兄ちゃんは英雄様だぜ……英雄の兄ちゃんは大丈夫だろうけど、取り巻き連中から石を投げられるかもしれねぇぞ…」ボソボソ

武闘家娘「人間として当たり前のマナーを注意するだけですから。英雄だろうが一人の人間です」ザッ

中年村人「むう…」

剣士「それもそうだ、好きにしなさい」

ザッザッ

女A「ねぇねぇ、誰か来たよー☆」

少年「!」

武闘家娘「…」

少年(胸が意外と大きい…そして綺麗な黒髪…可愛いな。あの娘も僕のハーレムに入りたいんだな)フフフ

武闘家娘「ねえ、あんた達…さっきからうるさいんですけど?」

少年「………え?」

武闘家娘「ここはご飯食べる場所なの、静かに食事を取りたい人だって居るわけ。はしゃぐのはいいんだけどさ、もう少しわきまえてはしゃいでくれないかな?声大きいよ本当に」

武闘家娘「『英雄様』ならその周りにいる騒がしい人達にちゃんと注意するべきじゃないの?デレデレしてばっかじゃなくてさ」

女A「え~、なにこの女。マジウザいんですけどーっ☆」

女C「私達に嫉妬してんの~?」プププッ

武闘家娘「はあ~っ…」

女B「いや、でも確かに私らうるさかったかも…」

女A「いい子ちゃんもう1人発見ーっ☆」キャハハ

少年(な、なんだよ…せっかくいい気分で居たのに水差して…空気読んでよ。いいじゃんか、僕は『英雄』なんだから…何で僕が注意なんか……)

武闘家娘「…」ジロッ

少年(…!い、いけない…何を考えてるんだ僕は!くそ…落ち着け、確かにそうだ…あの子の言う通りうるさくし過ぎた……僕だってギャーギャーうるさい客が居たら不愉快だ)

少年「…う…」

少年「うるさくして…すみません…」

武闘家娘「…うん、素直でよろしい」ニコッ


女C「ちょっと何で謝るの、英雄様~」

女A「あんなブス無視すればいいのにーっ☆」

少年「ちょっ、本当に迷惑だったから…君達ももうやめて…静かにしよう」

少年「外に行こう、遊びに行こう!」

武闘家娘「え、いや、別に出ていけとは言ってないよ…静かにしてくれたら」

少年「いえ、その…出ていきますんで…」

少年「…本当…すみませんでした…」

武闘家娘「…ん」

武闘家娘「ま、もっとしっかりしなよ」

少年「…」

女C「ほら英雄様、こんなとこ早く出よー!」

女B「…」ペコッ


カランカラン…



武闘家娘「…はあ~…何なのあの女達は…あんなのに群がられてさぁ……一人まだマトモそうな子も居たけど」ガクッ

剣士「お疲れ様」

魔法使い「…武闘家娘さん、初対面の英雄様にため口でしたね…」

武闘家娘「う~ん、何て言うかなぁ…なんかあの男の子全っ然英雄って雰囲気が無かったからなぁ…」

剣士「うん、君の言う通りあの男の子は英雄なんて器じゃないよ…ここの村人達も何を考えているのかね」

武闘家娘「え?」

魔法使い「ちょっ、そういうのをここで言うのは…聞かれますよ…」

剣士「彼は…たまたま手に入った強大な力で本当の弱い自分を隠しているだけに見えるね…」

少年「…はぁ…」

女B「英雄くん、溜息なんかついて大丈夫?」

少年「え、いや…」

少年(久しぶりに人から怒られた…なんか、自分の情けない部分が見えて…辛いな)

少年(ここに来てからは弱い部分見せなくてかっこよくなったと思ったのに…)



ドオオォンッ!!!

「キャーッ!」


少年「!?」ビクッ

女C「ちょっ、なになにー!?」

女A「今の音マジやばくなーい?☆」

ダッダッダッダッダッ

子供「えいゆうさまー!たすけてー!」

少年「ど、どうしたの!?」


ズウゥゥンッ!ズウゥゥンッ!


モンスター「グオオオオオッ!!!」ズウゥゥンッ

少年「…でか…っ!」

ズウゥゥンッ!!!


そこに現れたのは大型のモンスターだった。
それは、体から何本もの触手を生やし、恐ろしい目付きに巨大な口、腹に巨大なクリスタルのようなものが付いていた。


少年(…でかいけど、僕が手に入れた力なら行ける!)グッ

少年(一撃で倒す!僕は誰からも認められる僕で居なきゃいけないんだ!)


ズウゥゥンッ!!!


ザッザッザッ!

魔法使い「モンスターが居ました!」

武闘家娘「怪我した人はまだ居なさそうね…良かった」

剣士「む、あれは」


少年「…」ザッ


剣士「…英雄の坊やか…」


少年「僕が一人でやるから、あなた達は来なくていいです!」


武闘家娘「え!?」

魔法使い「そんな大きなモンスターをあなた一人では…」

老人「小娘よ…英雄様をあなどるな。お主らが戦いに入ったところで足手纏いになるだけなのじゃ。おとなしく見ておれ」

武闘家娘「いやいやいやいや…」

剣士「…いいさ、とりあえずご老人に従おう。いざとなればちゃんと助けに入るさ。とりあえずあの男の子の戦いを見せてもらうとしようか」

武闘家娘「…了解」

魔法使い「本当に大丈夫でしょうか…」


少年(僕が一人で倒さないと…僕の力で!僕が!)


モンスター「グオオオオオッ!!!」

大型のモンスターは大量の触手を伸ばし攻撃してきた。

少年「触手ごと焼き払う!」ボウッ

少年「ファイナル・ボルケーノ!!(名前は自分で考えた)」

ゴオオオオオオッ!!!


魔石の力によって生み出された超巨大な炎で触手ごとモンスター本体も同時に攻撃する。
向かってくる触手は焼き払えた…そしていつものようにモンスターも『力』で簡単に焼き払える。

…そう思っていた。


「おおお!さすが英雄様!」

老人「勝負ありじゃの…英雄様の勝利じゃ」

剣士「いや、違う」

老人「んなにおぉぉ!?」


少年「…え…」


ギュウゥゥゥゥゥンッ…


魔法使い「あの巨大な魔翌力の炎が…!」


モンスター「ハアアァァァ………」シュウウゥ


少年「ぼ、僕の魔法が…吸収された…?」ガクガク



武闘家娘「…」ジャリッ

剣士「まだ加勢はいいよ」

武闘家娘「は、はい…」

剣士「さて、少年…どうする?」

触手「…」ブリュブシュウゥッ!
ビロビロ

少年「な、触手が再生した!?」ビクッ

ビュンッ!!

再び触手が迫ってくる。
しかし僕は無敵と信じきっていた力が通用しない敵と今までにない状況にパニックを起こしていた。

少年「わ、わああぁぁぁ!アトミック・フレイムカノン!!」

ゴオオオオオオッ!!!


武闘家娘「何やってるの、落ち着きなさい!」

魔法使い「どう見てもさっきと同じ魔法では…!?」

剣士「少年!さっきと同じことをするな!」

(本人は違う魔法を使ったつもりである)

もちろん同じ様な事をやったって通用する訳はなかった。
焼き払った触手はまた再生し、モンスターは大きな口を広げ牙を見せながら迫ってきた。

モンスター「ウガアアアアアッ!!!」
ズシンッズシンッズシンッ!!

少年「ひ、うわああぁぁぁ!!来るなあぁぁ!!!」

ゴオオオオオオッ!!!


魔法使い「もういいですから逃げてください!」

剣士「パニックになるな!!」

武闘家娘「…!」ザッ!


「英雄様ぁ!頑張って!」
「そんなモンスターやっつけちゃえー!☆」

老人「ほっほっほ、あのモンスターが弱すぎて英雄様は手加減して遊んでおられるのですな」

少年(くそ…くそ!何で倒せないんだよ、力があるのに!!僕は、弱くなんか…!!)

ピシッ ピキッ

その時だった…僕の持つ魔石に亀裂が入った。

少年(もう一回、もう一回撃てば!!)バッ

パキイィィンッ!

少年「………あ……?」


その瞬間僕は凍りついた。ずっと無敵の力だと思っていた特別な魔石が砕けたのだ。

カラン…カラン

少年「あ………あ……」

思考が止まり、ただただ呆然と立ち尽くし、何も出来なくなってしまった。
そしてモンスターは口を大きく開き僕を飲み込もうとしていた。


「何やってんの!!」
ドウウッ!!

モンスター「!!!」ズザザザザザッ

少年「え!?」

武闘家娘「危なっかしくてもう見てられない!!」ジャリッ

寸前のところで武闘家娘が助けに入った。
彼女の一撃を受けたモンスターは少しだけ後ろに飛ばされた…が、

モンスター「フウウゥゥゥ………」

武闘家娘(全力で殴ったんだけどな…対して効いて無さそう。打撃も効かないのか)

少年「す、すみませ…」

武闘家娘「力は適当に振り回していればいいってもんじゃ無いの!通用しなくて怖くても思考を止めず冷静になりなさい!」

少年「!!」

武闘家娘「強力な力で何でも一人で解決しようとするのがカッコいいと思ってんのか知らないけどね、人間ってのは完璧にはなれないの!どんな人にも出来ないことや弱さだってあるんだよ!」

武闘家娘「一人でダメだったなら人に…私達にも頼りなさい!自分に出来ないことを人に助けてもらうのは恥ずかしい事じゃ無いんだからね!」

少年「…」

その時、モンスターは再び触手で攻撃する。

少年「あ、また!」

ズバババババッ!!

少年「!!」

剣士「彼女の言う通りだ少年…助けてもらうこともまた力なのだ」ザッ!

剣士「攻撃がさっきから効かないのと再生能力は厄介だが…行動パターンは単調だな。弱点さえ分かれば大したことは無さそうな相手だが」

少年「あ、あの…」

武闘家娘「あなたは下がってて」

少年「!」

武闘家娘「…ちょっと情けなかったし色々言っちゃったけどさ。でも逃げずによく頑張ったよ。休んでて」

少年「は、はい」

ズシンッズシンッズシンッ!!!

武闘家娘「来ました!」ジャリッ

剣士「また噛み付き攻撃か…まったく」シャッ

剣士「ふんっ!」
ブオンッ!!

剣士の青年はモンスターへ剣を振るう。しかしその攻撃も通らない。

グニュウウゥッ…

剣士「…斬撃も効果なし、か」

剣士「“気゛で体内から衝撃を与えてみろ」

武闘家娘「はいっ!」ダンッ

モンスター「ウガアアアアアッ!!!」

ビュンッ!ビュンッ!


武闘家娘「当たらないよ!」シュザッ


武闘家娘「せあぁっ!」


ドウンッ!!!

モンスター「!!!??」

ギエエエェェェッ!!!


気のこもった一撃を打ち込まれ、内側から強い衝撃が起こる。


武闘家娘「効いた!」

剣士「無敵なのは外側だけだったか、よし!」

武闘家娘(でも…倒すにはまだ足りない!)

剣士「魔法使い、炎の蛇だ!」

魔法使い「はいっ!」ザッ

ブォォォンッ

魔法使い「炎の蛇!行ってください!」カッ

ドウッドウッ!

【炎の蛇:3つの蛇の形をした炎を相手にぶつける中級魔法。
使用者の魔翌力が高いほど威力が上がり炎を細かくコントロールすることができる。】


少女が放った3つの炎は触手を避けつつ、巨大な口から体内へと侵入しモンスターを内部から攻撃する。

モンスター「グオオオオオッ!!!??」


少女の高い魔翌力によって激しく燃え上がる炎にモンスターは多大なダメージを受け、力尽きるように倒れていった…


ズウゥゥンッ………


魔法使い「…っ!」ズキッ


少年「…すごい…」

剣士「すまないな、よくやってくれた」

魔法使い「は、はい…」

魔法使い(いくら凶暴なモンスターだったとは言え…命を奪ってしまった……いつもみたいに、追い払うだけで解決できなかったのかな……)ズキンッ

武闘家娘「魔法使いちゃん、大丈夫?」

魔法使い「だ、大丈夫です…覚悟して、自分の意志で…ついてきたんですから…」ギュッ

武闘家娘「…うん」ポン

剣士「…暴れるだけのモンスターは何かしらの理由が無い限り強力な魔法で凶暴な性格に仕向けられたものだ。あれも魔王が村を襲うためにそうしたのだろう。俺達では…もうトドメを刺してやるしかなかった」

剣士「魔法で村の外に出しておけ、後で墓を作ってやろう」

魔法使い「はい」


少年(ぼ…僕は…何も出来なかった、情けない姿を晒しただけで…)

「おい、英雄様の持っていた魔石が壊れたぞ」

「さっきは何も出来ず結局よくわかんない旅人が倒しちゃったじゃん」

「もしかして本当は英雄じゃなかったのか?」

ボソボソ…

少年「!!」


老人「どうしてくれるんじゃ!あんなモンスター相手に何も出来ず挙げ句の果てには魔石を壊すとは!!」

女C「力なかったらただの地味野郎じゃん、えー…」

女A「言い過ぎー☆でもマジそうだよねー☆」キャハハ


少年「そ、そんな…待って…」


「英雄なら勝てよ!何で負けるんだよ!」

「情けない!」

「どうすんだよ、俺が今までやった米返せ!」

ワーッ!ワーッ!


少年「ひっ…ひい…」

ジャリッ!

武闘家娘「やめなさいよ!!」

魔法使い「いい加減にしてください!」

少年「!!」

武闘家娘「何なのあんた達、今まで散々この子の持っていた力に甘えておいていざこうなったら簡単に掌返してさ!」

魔法使い「さっきだって逃げずに戦ってたじゃないですか、負けたり力を無くしたりしたら能無しだなんて酷いですよ!」

老人「当たり前じゃ、敵に負けて力まで無くすようなもんなぞ英雄ではないわ。ワシらの期待を裏切りおってからに…」

剣士「期待通りに行かなかったら簡単に見捨てるなんてな………今まで一緒に居た仲なら力の無くなった彼を邪険に扱うのではなくフォローしてあげるべきではないか?」

女A「はあ?なにその台詞、くっさー☆」

女C「だってあいつ力ある以外はキモかったしー」

女C「あんたの方がいい男でイケメンね♪」

剣士「…お断りするよ」

見てるぜ
なろう作家かい?

「おい、あいつの顔よく見たら勇者じゃないか?俺さ、前に見たことあるんだけど似てる気がする…髪型とかは違うけど」

剣士「…」

「おいおい、勇者は死んだんだろ?魔王に負けて」
「敗北者の弱い勇者に助けてもらったのならあの英雄様は本当に情けないな」
「だからあの弱い勇者は死んだんだって」アハハ

武闘家娘「…!」ギリッ

魔法使い「いけません、落ち着いて…」ギュッ

剣士「…ふふ、おかしな噂をする人達だなぁ。俺はただの旅人で剣士だよ」

剣士「…使う者もそれにすがり甘えるだけの者達も、巨大な力に溺れ無責任に扱えばいずれ災いを呼ぶ…ここで魔石が無くなったのは正解だったようだね。この様子じゃこの村はそのうち滅んでいた」

老人「なんじゃと!?」

剣士「この村やその付近はずっと平和的だったのに、最近になって急に狂暴なモンスターが現れ始めたみたいじゃないか……彼等は特別な魔石に寄ってきていたんだよ」

剣士「でも大丈夫、もう特別な魔石はこの村から無くなったからこれ以上凶悪なモンスターが襲ってくることは無いよ。安心したまえ」ザッ

剣士「さあ、行こう、二人とも」

魔法使い「はい…えっと…」
武闘家娘「あの子は?」

剣士「わかってるさ」

ザッ ザッ…

剣士「君もついてこい、少年」

少年「…え?」

剣士「さあ、行くぞ」クルッ

武闘家娘「あの村にはもう居づらいでしょ」

少年「で、でも…」

武闘家娘「いいから、ほら行くよ」ギュッ

少年「あっ…」グイッ

剣士「…君は俺の小さい頃に似ている気がする…だから何となく放っておけなくてね。俺も昔は弱くて何も出来なくて…よくいじめられたよ」

少年「え…」

剣士「人と比べて何もかもがダメだった、自分の弱さや他人からの評価が怖かった…自分以外の者は全て幸福な人間に見えて劣等感にまみれていた」

剣士「君もそうじゃないかい?」

少年「…はい…」

剣士「…いちから強くなりたいのなら、魔石が無くなったのはむしろ良かったよ」

少年「え…何でですか?僕は、力が無くなったらただの凡人で…」

剣士「凡人でいいじゃないか。力とはね、自分を誇示する為のものでも弱い自分を誤魔化す為のものでもないんだ」

少年「!」

剣士「君は村を守るために頑張った…が、その力は本心では何のために使っていた?村を守るのが目的だったかい?自分がちやほやされたいのが目的でそのために村を守っていなかったか?」

少年「え…」

剣士「まあ、力を持った人間をただ持ち上げ他人の力にすり寄り甘えてるだけだった村人にも責任はあるがね」

武闘家娘「ちょっ…さすがに厳しくないですか…」

剣士「いや、大事なことさ」

少年「…」

剣士「強くなりたいのならまずは本当の自分と向き合え。正直な自分の心を話してみるんだ」

少年「村を守りたい気持ちは勿論ありました…けど」

少年「力を振り回して…チヤホヤされるのが気持ちよくて、その為に使っていた部分もありました」

少年「人と比べて、弱い自分が怖かったから…自分を強い人間として見られたくて、それと…今までの劣等感まみれだった人生の鬱憤晴らしもあったと思います…」グッ


剣士「…そうか…よく正直に話してくれた」

剣士「力で誤魔化そうとすることこそ弱い者の考え方だね」

少年「うっ…」

剣士「でも…今、君は自分自身と向き合えた」ポンッ

剣士「人間とは自分が他より優れた存在だと思いたがるものだ。本当の自分を…自分の駄目な部分を受け入れ自覚し向き合う………それはなかなか出来ない事なんだよ」

少年「!」

剣士「本当の強さとは、弱さを隠すことではない。自身の弱さを受け入れ向き合った先にあるんだ」

剣士「まだ君は前に進める……地道に、強くなって行こうじゃないか」

少年「はい!」

「あの、英雄様!お待ちください!」

少年「!」

「旅の方々も先程はありがとうございました!」

剣士「…」

魔法使い「村の人達…」

武闘家娘「見送りに来てくれたの?」


子供「本当に行っちゃうの!?」

少年「う、うん…ごめんね…」

中年村人「さっきは他の者達がすまねぇ…あの村じゃ多数派が正しいって考えが強くて何も言えなかったんだ…」

女B「本当にごめんなさい……今まで村を守ってくれていたのに、あんな………」

女B「私達があの時、あなた達を庇ってあげるべきだったのに…」


少年「…」

少年「…いいんです、こうして見送りに来てくれただけでも、僕は嬉しい」

少年「今までありがとうございました」


中年村人「こっちこそ今までありがとうな!」

子供「またあそびにきてー!」

女B「…元気でね」

少年「それでは」ペコッ

剣士「こちらこそお騒がせしてすまなかった。では失礼する」


ザッザッザッ…

武闘家娘「…いい人達もやっぱりちゃんと居るんだね」

少年「…うん」

少年(元の世界に居た頃…僕は自分以外の周りに居る人間の多くを勝手に敵だと思っていた。ちゃんと僕を見てくれない悪者だと)

少年(弱い僕の事をみんなバカにしていると、僕をいじめる奴はもちろん、見て見ぬふりする奴も普通に接してくる人間も何かしてくるわけでもない人間も外に居る全ての人間が………みんな内心では僕を気持ち悪がって見下していると思っていた)

少年(さっき村で皆から罵倒された時も、人間なんてこんなもんだと思った………でも)

少年(ちゃんと人を見ていないのは僕もだったのかな…)

少年(本当は僕が自分の頭の中で勝手に思っていたよりも、世の中は実は優しい人間もたくさん居るのかもしれない。元に居た世界でも…)

少年(僕が今まで気が付かなかった…いや、気付こうとしていなかっただけで)


ーーーーーーーーーー


女B(…最初はあの英雄だなんて呼ばれている男の子が嫌いだった。何かあればすぐオドオドして、そのくせ力だけでチヤホヤされて調子に乗ってる…ただの馬鹿にしか見えなかったから)

女B(でも…実はうちのいた孤児員に居る子供達と、どっかオドオドしながらも遊んでくれてた)

女B(根っ子の部分は優しい人だった)

女B(臆病で情けなくてしょうもない男…でも優しくて、意外にも子供をほうっておけない奴…)

女B(…いつの間にか私は、本当にあなたの事を…)


女B「…でもきっと、もう二度と会えない…」

女B「………」クルッ

ザッザッザッ…


…強い男になってね

少年「あの…村にはもう本当に狂暴なモンスターは来ないんですか?」

剣士「ああ。この村に来た時に聞いたが、以前はモンスターは滅多に来ないし来ても村人でどうにか出来る程度だったそうだ」

剣士「だが、さっきも言ったように君が現れ特別な魔石を持ち力を使いだしてから凶悪なモンスターが襲って来始めたんだ」

少年「…僕が、むやみやたらに力を使っていたせいで…」

剣士「気に病むことは無いよ。村のお偉いさん方はわかってて君の力を利用していたのだろう…英雄様が誕生した村として他の民から讃えられたくてね」

少年「えっ…」

剣士「で、話を戻すが…もう魔石は無いから村が魔王に襲われることはもう無い。魔王の村に攻撃していた目的はあくまで『3つの特別な魔石』の内の1つを手に入れる事だったんだ」

少年「そうなんですか…」

魔法使い「その特別な魔石は砕け、力は使えなくなりましたが…まだ魔翌力は残っているみたいです」

武闘家娘「魔王は強い魔翌力を感知できるの…その魔石から発せられるものもね。魔王はそれを追うはずだから」

少年「だとしたら、今度はどんどん僕達を襲いに来るんですか!?」

魔法使い「それは問題ありません、これに包んでください。『遮断の布』です」

魔法使い「この布には、魔翌力を隠す効果があるんですよ」

少年「そんな便利なものが…」

剣士「外に居るときはたまに布を外してまた隠してをしながら進もう。隠しっぱなしだと無差別な攻撃に出る可能性があるし、少しでも魔王の目を惑わす方が都合がいい」

少年「…あの、あなたが持ってる二本の剣の内の一本に巻いてあるのも…同じ布じゃないですか?」

剣士「ああ、そうだよ。気付いたかい?」

剣士「この剣は…まだ使うわけにはいかないんだ」

少年「…?」

剣士「まあ、そのうち分かるさ」

魔法使い「勇者様、次はどうしますか?」

剣士「ああ、そうだな…次は…」

少年「…」

少年「え!?あなた勇者なんですか!?」

剣士「そうだよ」

武闘家娘「そういえば言ってなかったね、今は勇者さんは死んだことになってるから…村に居た時は内緒にしてたの」

少年「な、何で死んだことにしてるんですか!?生きてるなら伝えた方が…」

剣士「…そういう訳にはいかないんだよ。ま、これが俺の戦い方なのさ」

剣士「魔王を今度こそ…倒すためのね」

少年「…」

少年(勇者さんの表情が、平静を装いながらも心の底に強い怒りを抑え込んでいるように見えた…)

魔法使い「…私は魔法学園に通っていたのですが、特別な魔石は強力な魔翌力で纏われているためまず普通なら砕けることは無いんですよ」

少年「え?」

魔法使い「砕けたのに魔翌力は残っているのも不自然なんです。今までにも例が無いようで…」

少年「…」

魔法使い「…もし、魂だけは転生し現実にある自分の肉体は意識の無い状態で生きていた場合、その条件で魔石を使用した時どうなるのかはまだ解明されていないみたいなんです」

少年「へー…」

魔法使い「えーと、つまり…これはただの私の仮説ですが、もしかしたら元の世界ではあなたの体は意識の無い状態で生きているのかも知れません」

少年「!」

魔法使い「だとしたら、私達と一緒に旅をしていれば元の世界に帰る方法が見つかるかも知れませんよ!」

少年「…う、うん…」


少年(…ダメだ、本当に僕は情けない奴だ…)

少年(元の世界には帰りたくないと思ってしまった)

ザッザッザッ…

夕方、テントを張りそこで一晩休むことに…

剣士「まったく、君はテントを張ったこともなかったのか。元居た世界では知らんが、こっちの世界ならばちゃんと知っておくべきだぞ」

少年「すみません…」

剣士「まあ、わからないものは仕方ない…教えてあげるからしっかりやり方を見ておけ。ちゃんと覚えておけ」

少年「は、はい!」

少年(はっ…まさか、女の子二人も同じテントで…!?)

剣士「もちろん、男女は別々だぞ?」

少年「わ、わ、わかってますよ!」

武闘家娘「今日の食料取ってきましたー!」

魔法使い「リーゴの実がいっぱいありましたよ!」

剣士「ああ、ありがとう」

武闘家娘「…ん~…」ジー

少年「!」

武闘家娘「ここが、ちょっとダメかな…貸して」

少年「あ、はい!」

武闘家娘「よく見といてね?」

少年「ど、どうも…」

少年(うわぁ、ち、近い…)ドキドキ

剣士「村ではハーレム築いてた癖に何をドキドキしてるんだい」

少年「な、何を…!?」ビクッ

武闘家娘「?」

剣士「…さて、今後の旅の話だが」

剣士「僕達は、『エルフの森』『魔女の村』『王国騎士団本拠地』へ行く」

少年「…」

武闘家娘「…」

魔法使い「…」

剣士「そこに俺達の協力を頼みに行く」

剣士「エルフは基本的に人間には友好的で俺の知り合いも多い。エルフの森は何とかなるだろう…問題は残り二つだ」

武闘家娘「魔女の村にいる人々はみんな高い魔翌力を有してはいるけど、戦いに使うのを嫌ってるんですよね」

魔法使い「…その村の人達の気持ちは私にも分かりますが…」

剣士「もう人類側にはマトモに魔王と戦える戦力が無いからな。本当ならやりたくはないが………せめて数人だけでも協力してくれないかを交渉する。駄目だったらその時は仕方ない」

少年「…」

剣士「そして、王国騎士団……高い戦闘力を持つ戦士達がいて、1年前にも俺に協力してもらっていた。だが…今はもう魔王撃退を諦めてしまっている」

剣士「それは……俺が、協力してもらっていた特に高い実力を持つ戦士100人を全滅させてしまったからだ…俺が顔を見せても追い返されるかもしれない」

少年「え…」

剣士「俺の責任だ。自分だけは生き延びて…一緒に連れていった仲間や協力者達は全員…」

剣士「俺は村で言われた通りの、ただの敗北者なんだよ」

魔法使い「そんなことないですよ!」

武闘家娘「あなたと一緒に旅をしていた私の師匠だって、勇者さんを敗北者だなんて思っていないはずです!そういうこと言わないください!」

剣士「…」

少年「そ、そうですよ!あなたは逃げずにまた挑み戦おうとしている…立派ですよ!」

剣士「お!?」

少年「その……心が折れていないなら…戦う意志があれば…、その…負けてはいないと、思います……」

武闘家娘「お、いいこと言うじゃん」

剣士「…ふっ、少年…まさか君がそんな台詞を言うとはね」

少年「…」

少年(自分の台詞がちょっと恥ずかしかった)

剣士「すまない、ありがとう」

剣士「大丈夫だみんな、たまには弱音も吐きたかっただけだ…俺は魔王を倒すまで、止まるつもりはない」グッ



そして、みんなで夕飯を食べ、それぞれのテントに入る。



勇者さんの話によれば、今一緒に旅をしている二人はこの1年以内でついてきた人達らしい。

彼は過去の事を淡々と話していたが、やはりどこか辛そうだった。

そして話し終わり就寝する。


ーーー色々あって疲れた僕はすぐ眠りについた。



ー翌日ー

チュンチュン…チチチ…


剣士「おはよう少年」ボリボリ

少年「おはようございます」ゴシゴシ

剣士「寝癖が凄いぞ」フアァ

少年「は、はあ…」

そういう勇者さんの寝癖も凄かった。こういう姿を見るとただの普通の20代の兄ちゃんみたいだった。



魔法使い「あ、二人ともおはようございます!」

魔法使い「あの、武闘家娘さんが用があるみたいですよ」

少年「え?」

ザッザッザッ

武闘家娘「よっ、おはよ~」

僕は朝から体力作りを兼ねて武闘家娘さんと二人で川まで水汲みをする事になった。


バチャッ バチャッ

ジャリッ…ジャリッ…



少年「はあ…はあ……っ、水って……こんなに重たいんですね……」バチャッ

武闘家娘「ほら、頑張って~。あと1周あるからね」ジャリッジャリッ

少年(意外とある距離をあと1周…辛い…でも、頑張らなきゃ)


武闘家娘「あとさ、ため口でいいからね。私の方が年上って言ったって1つしか違わないんだしさ」

少年「はい……うん」

武闘家娘「小柄で力の弱い魔法使いちゃんも前はすぐ腕が疲れて動けなくなってたけど、しばらくやってたらある程度は出来るようになったからさ」

武闘家娘「君も続けていれば慣れてきて、ちゃんとやれるようになるよ」

少年「…ありがとう」

武闘家娘「君さ、昨日の話聞いた感じだとたぶん自分と他人を比べて勝手に色々落ち込んだりしちゃうタイプでしょ」

少年「え!?」ビクッ

少年「う…うん…」

少年「昔からだよ…自分と周りを比べて、自分のダメさに絶望して、頑張ったって周りより優秀にはなれないって…ますます何も出来なくなって」

武闘家娘「あはは、まあ気持ちは分からなくもないけどね。でもさ…」

武闘家娘「人と比べてしか自分を評価できないのって何だか寂しいよ」

少年「え?」

武闘家娘「いいんだよ、人と比べなくたって」ピタッ

武闘家娘「いいんだよ、他の人より出来ないことがあったって」

少年「…」

武闘家娘「ああ、もちろん誰かを『目標』にするのはいい事だよ。頑張るためには大事だからね、私にも師匠より強くなりたいって目標はあるし」

武闘家娘「でも、自分より優れた人と比べて落ち込んで諦めたり、逆に弱い人と比べて優越感に浸るとかは、良くないと思うんだ」

武闘家娘「大事なのは人より優れているかどうかじゃなくて、過去の自分と比べてどれだけ強くなれたか…じゃ、ないのかな」

少年「…過去の自分…」

武闘家娘「大丈夫だよ、強くなれるよ」

少年「…そうかな…」

武闘家娘「一緒に頑張ろう」ニコッ

武闘家娘「さ、もう1回バケツ持って!行くよ!」

少年「うん!」



彼女は僕を励ますように元気に優しく微笑んだ。

そうだ、人と比べたって仕方ない…
何もしなければ弱い僕のままなのだ。

でも、頑張って行けば…
諦めずに進めば

過去の情けない自分よりは
強くなれるのかもしれない…


『1章 おしまい』

>>12

違いますよ。

前にもここで何度か書きましたが、久しぶりに来ました。

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