まほ「エイプリルフールだし嘘でもつくか」 (18)

まほ「今日はエイプリールフール。嘘を付いても良い日だと聞いている」

まほ「普段私は西住流を継ぐものとして隊員のみんなに厳しい態度を取ってきた」

まほ「おかげでみんなすっかり萎縮してしまい今の私には友達と呼べる者はいない」

まほ「ここはこのエイプリルフールを利用しウイットに富んだ嘘で隊員たちと打ち解けようじゃないか」

エリカ「隊長……緊急の用と聞いて小梅を連れてやって来ました」

小梅「私たち二人に話したいことがあるって言ってましたけど、どうかしたんですか?」

まほ(ふふっ……エイプリルフールで嘘を付こうとしてもそもそも私には気軽に話す相手がいないからな)

まほ(こうして隊長権限で二人を緊急召集したわけだ)

まほ(では早速小粋な嘘で場を和ませるとするか)

まほ「お前たちに隠していたことがあってな」

小梅「隠していたこと……ですか?」

まほ「……私は病気なんだ。医者からもう長くはないと言われている」

エリカ・小梅「え!?」


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まほ(ククク……二人とも動揺しているな)

まほ(もう少し騙した後にネタばらしでもするか)

まほ(きっとこの嘘で三人の絆はより深まるに違いない)フンズ

エリカ「う、嘘ですよね……隊長が…………そんな」

小梅「治る見込みはないんですかっ!」

まほ「……医者にはもう治療の見込みはないと言われている」

小梅「そ、そんな……」

まほ「本当は最後まで隠し通すつもりだったんだが」

まほ「余命幾ばくとなった以上……最後にこうして二人と話をしたいと思ったんだ」

小梅「その……余命ってどれぐらい」

エリカ「そんなの聞いてどうすんのよ! 聞いたところで……隊長は」

まほ「……え? 余命? あ、ああ……大体一週間ぐらいだと言っていた」

小梅「い、一週間だなんて……そんな…………なんでもっと速く言ってくれなかったんですか!」

小梅「わ、私隊長ともっと一緒にいたかったのに」ポロポロ

まほ(こ、小梅が泣いている……)

まほ(ちょっとした冗談のつもりだったのに……こんなことになるとは)

まほ(ど、どうすれば)オロオロ

エリカ「小梅……」

エリカ「隊長は私たちのことを思って隠していたのよ」

エリカ「だから責めないであげて」

小梅「わ、分かってます。分かってますけど……」

小梅「突然そんなことを言われても心の整理なんて出来ません!」

エリカ「……小梅」

エリカ「隊長……すみません。小梅と一緒に外の空気を吸ってきます」バタッ

まほ「あ、ああ」

まほ「ど、どうしよう」

まほ「とんでもないことになってしまった」アワアワ

小梅「ううっ……ひっく……エリカさん」

エリカ「よしよし……少しは落ち着いた?」

小梅「はい。すみません……エリカさんだって辛いはずなのに」

エリカ「……別に小梅が気にすることじゃないわよ」

エリカ「それに貴方が取り乱したおかげで私は冷静でいられたの」

エリカ「ここで私まで取り乱したら隊長を心配させちゃうってね」

小梅「エリカさん……」

エリカ「私たちに出来ることは隊長の側にいて病気の回復を祈ることだけよ」

小梅「でもお医者さんが治らないって」

エリカ「そんなの……分からないじゃない」

エリカ「あの黒森峰隊長……西住まほなのよ」

エリカ「不治の病だって治して見せるわ!」

小梅「……そうだよね。私……なに弱気になってるんだろ」

小梅「今大事なのは悲しむことじゃない……隊長を支えることなんだ」

エリカ「ふふっ……良く言ったわよ小梅」

小梅「あ……でも」

エリカ「何か気になることでもあったの?」

小梅「この事……みほさんも知ってるんでしょうか」

エリカ「あの隊長のことだもの……もしかしたら副隊長……みほのことを心配させまいと連絡していないかも知れないわ」

小梅「隊長の気持ちも分かりますけど……」

小梅「みほさんにも病気の事伝えるべきだと思います」

小梅「もし隊長がみほさんに隠したまま亡くなったら」

小梅「きっとみほさん凄い後悔すると思うんです」

エリカ「……そうね。副隊長と会うのは気が進まないけど今はそんなこと言っている場合じゃないわ」

エリカ「小梅……副隊長と連絡取ってくれるかしら」

小梅「はい!」

大洗女子学園

麻子「西住さん……新しい元号は冷泉で決まったそうだぞ」

みほ「え? 冷泉って麻子さんの名字だよね」

麻子「ああ……私も驚いている。まさか自分の名字が元号になるなんてな」

みほ「でもそんな偶然もあるんだね。凄いなぁ」

麻子「まあ嘘だがな」

みほ「ええっ!?」

麻子「本当は冷泉じゃなくて令和だ」

みほ「そ、そうなんだ……でも麻子さんがそんな嘘を付くなんて珍しい」

華「今日はエイプリルフールですからね。嘘を付いても良い日なんです」

みほ「あ、そういえば今日は四月一日だったね」

麻子「沙織も彼氏が出来たと言い放題なわけだ」

沙織「……ひどーい。本当に出来るかも知れないじゃん」

麻子「出来るといいな」

みほ「あはは……」

オイラボコダゼー

みほ「あ、電話が来てる……」

オイラボコダゼー

みほ「あ、電話が来てる……」

華「毎回思うのですがさすがにその着ボイスはどうかと……」

麻子「まだマシな方だ。一ヶ月前なんかボコの叫び声だったからな」

沙織「あの時の麻子凄い怖がってたもんね」

麻子「最初聞いた時は本当に幽霊の声かと思ったんだぞ」

優花里「それで電話は誰からなんですか?」

みほ「赤星さんからだって……珍しい」

みほ「もしもし?」

小梅『あ……みほさん』

みほ「あの……こんな時間にどうかしたんですか?」

小梅『その……隊長のことについてなんですけど…………聞いてますか?』

みほ「お姉ちゃんのこと? お姉ちゃんに何かあったんですか?」

小梅『うぅ……実は……隊長は…………不治の病で……もう助からないんです』

みほ「……え」

麻子「お、おい……西住さん……どうかしたのか?」

小梅『隊長は余命一週間って言ってました』

小梅『だから……速くこちらに来てください!』

小梅『隊長はみほさんに心配させないようにって隠そうとしてたみたいだけど』

小梅『隊長も……きっとみほさんに会いたいはずです』

みほ「赤星さん……」

みほ「分かりました。お姉ちゃんは今も黒森峰に?」

みほ「そうですか……すぐ向かいます」

麻子「大丈夫か? 赤星さんからの電話みたいだったが」

みほ「ど、どうしよう……私」ポロポロ

沙織「え!? みぽりん!?」アタフタ

麻子「落ち着いて……ゆっくりで良い。何があったんだ?」

みほ「……お姉ちゃんが病気だって」

みほ「もう助からないって赤星さんが」

麻子「西住さん……」

みほ「う……うぅ」

麻子「西住さん……きっと大丈夫だ。あの西住のお姉さんがそう簡単に病気でくたばるもんか」

優花里「そ、そうですよ! あの西住まほ殿なんです」

優花里「きっと治療を受ければ治るはずです」

麻子「どちらにせよお見舞いに行くべきだ。きっとお姉さんも喜ぶ」

みほ「みんな……」

みほ「私……黒森峰に行ってくる。でも一人じゃ途中で泣いちゃうかも知れない」

みほ「だから……」

沙織「勿論! 私たちがみぽりんを一人にさせるわけないでしょ」

麻子「安心しろ……どこまでだって行ってやる」

華「私たちもお姉さんが心配ですしみんなでお見舞いに行きましょう!」

杏「それでヘリを借りたい……ね」

麻子「ヘリの操縦はエリカさんが操縦しているのを見て覚えた」

麻子「学園艦を移動させるのが無理なことぐらい分かっている」

麻子「だからせめてヘリだけでも」

杏「いやヘリを操縦出来ても免許無かったらダメでしょ」

沙織「で、でもみぽりんのお姉さんが重病なんだよ?」

沙織「一刻も早く会わせてあげないと」

杏「落ち着きなって」

杏「そりゃ焦る気持ちも心配する気持ちも分かるけどさ」

杏「それで警察のお世話になっちゃ意味がないでしょ」

麻子「う……それは杏さんの言う通りだ。取り乱してしまってすまない」

みほ「…………」

杏「大丈夫。ヘリ以外の別の手段でお姉ちゃんに会わせてあげるからさ」

みほ「え……そんなことって」

杏「にひひ……それがあるんだよねぇ。ほら前にさサンダースがスーパーギャラクシーに乗ってたでしょ?」

杏「事情を話せば借りられると思うんだよねぇ」

麻子「そうだな。ケイさんなら気前良く貸してくれるかも知れない」

杏「てなわけで早速連絡するよー」

サンダース

ケイ「あらアンジーじゃない? どうかしたの」

ケイ「え……まほが病気!?」

ケイ「分かったわ! すぐにスーパーギャラクシーで迎えに行くわね!」

ケイ「ナオミ! アリサ! 今からスーパーギャラクシーで大洗女子学園まで行くわよ!」

アリサ「大洗女子学園!? どうしてまたあそこに」

ケイ「事情は後よ。ほらさっさと準備して」

ナオミ&アリサ「イエスマム!」

ケイ(あのまほが病気だなんて)

ケイ(他の学園の人たちはまだ知っているのかしら)

ケイ(一応みんなにも伝えておいた方がいいわね!) 

プラウダ

カチューシャ「あのマホーシャが病気!?」 

聖グロ

ダージリン「西住まほさんが病気……」

アンツィオ

アンチョビ「まほが病気だって!?」

継続

ミカ「」ポロローン

こうして……次々と話が広まり気がつけばあらゆる学園の生徒たちが西住まほの元へと集まっていた。

まほ(……どうしてこうなった)


エリカ「みんな隊長のことが大事なんです」

エリカ「勝手に口外したことは謝ります。ですがみんなに隠すことなんて私たちは出来ませんでした」

まほ「……違う。そうじゃないんだ」

エリカ「はい?」

エリカ「どうかしたんですか?」

小梅「ま、まさか病気が悪化したんじゃ……」オロオロ

まほ「……聞いてくれ二人とも」

まほ「今日は何の日だ?」

エリカ「今日は新元号が決ま……」

まほ「違う! エイプリルフールだ!」

エリカ・小梅「!?」

まほ「私は病気なんて掛かっていない」

エリカ「はいぃ!?」

エリカ「つまり余命わずかっていうのも」

まほ「嘘だ。というかそれなら普通に病院に行っている」

小梅「びょ、病気じゃないのは良かったですけど」

小梅「なんでそんな嘘を……」

まほ「みんなと仲良くなりたかったから」

エリカ「えぇ……」

まほ「小粋な嘘でみんなと打ち解けたかったんだ」

小梅「全然小粋じゃないです! こんな嘘傷つくだけじゃないですかっ!」

小梅「そんな下らない嘘で……私……なんで心配してたんだろう」

まほ「あ……その……」アタフタ

小梅「もう隊長なんて知りません!」タタタッ

まほ「小梅……」

エリカ「小梅が怒るのも無理はないと思います」

エリカ「正直……私も怒ってます」

まほ「すまない。私は普段から友達もいなくて……人とあまり話したことがないんだ」

まほ「だから小梅やエリカのことも考えずこんな下らない嘘をついてしまった」

エリカ「隊長……」

エリカ「とにかく小梅に謝りましょう」

エリカ「隊長が誠意を込めて謝ればきっと小梅だって許してくれるはずです」

まほ「分かった。早速小梅に会いに」ガチャ

みほ「お姉ちゃん! 大丈夫? 病気だって聞いたけど」

麻子「立っていて大丈夫なのか? ここは安静にしておいた方が……」

みほ「そうだね。お姉ちゃん……ほらベッドに戻ろう」

まほ「みほ……聞いてくれ。今日はエーー」

ケイ「まほ……貴方病気って聞いてたけど元気そうね」

ケイ「お見舞いの品沢山持ってきたの。ほら貴方ってカレーが好きでしょ」

ケイ「アメリカの高級カレーを持ってきたわ!」

まほ「あ、ありがとう。だが今日は」

ダージリン「こぉんな格言を知ってる?  誰もが自分自身の視野の限界を、世界の限界だと思い込んでいる」

オレンジペコ「ショーペンハウアーですね」

ダージリン「諦めてはダメよ。不治の病だろうと再び立ち上がりなさい」

ダージリン「私はそれまで待って……いるわ」ポロポロ

まほ「ダージリン。泣かなくていいんだ今日はーー」

アンチョビ「まほ! 大丈夫なのか? 病気って聞いたぞ? 治るのか?」

アンチョビ「大丈夫だからな。このドゥーチェが付いている。だからきっと病気だって治るはずだ。いや治る!」

アンチョビ「だから死なないでくれ! うわーん!」ポロポロ

まほ「安斎……落ち着いてくれ」

まほ「みんな……今日はエイプリルフールで……」

ワーワーギャーギャー

まほ「ダメだ。みんな話を聞いてくれない」

エリカ「隊長! ここはひとまず皆さんは置いて先に小梅と合流しましょ」

まほ「そうだな。今は小梅を追うのが先だ」

みほ「あ、お姉ちゃん……そんな重病なのにどこに行くの?」

ケイ「まほってばそんな無理をしちゃダメよ!」

ケイ「何とかして捕まえないと!」

みほ「皆さん! お姉ちゃんは重病人です!」

みほ「無理に身体を動かせば治る病気も治らなくなってしまいます」

みほ「ですのでここはお姉ちゃんを捕縛しベッドの上に拘束しましょう」

みほ「それではお姉ちゃんを安静にするためにパンツァーフォー!」

まほ「な、なんだ……どうしてみんな追いかけてくるんだ」バタバタ

エリカ「きっとみんな隊長のことが心配なんですよ」

エリカ「とにかく私が何とか時間を稼ぎます」

まほ「エリカ……」

エリカ「隊長の為じゃありません。小梅の為です」

エリカ「だから絶対に小梅と仲直りしてください!」

まほ「いつもすまないな。お前にばかり苦労を掛けてしまって」

エリカ「別に……良いですよ。世話が焼けるのは姉妹どっちも同じってだけですから」

エリカ「さ……速く言ってください!」

マホーシャヲツカマエルワヨー マホドウシテニゲルンダ-

まほ「エリカ……死ぬなよ」タタタッ

エリカ「隊長……どうかご無事で」

みほ「エリカさん……どうして邪魔をするんですか」

エリカ「貴方が勘違いしてるからよ」

みほ「勘違い?」

戦車倉庫

小梅「うぅ……つい感情的になっちゃった」

小梅「でも隊長が悪いんだよ。あんな酷い嘘を付くから」

まほ「小梅!」

小梅「え? 隊長!?」

まほ「こんな所にいたんだな」

小梅「……」ツーン

まほ「まだ……怒ってるのか」

小梅「別に怒ってませんけど」ツーン

まほ「小梅……すまない。私はお前やエリカの気持ちを考えてやることが出来なかった」

まほ「昔からそうなんだ。西住流の後継者として育てられた私は戦車道を学ぶことが優先で友達の作り方なんて気にしなかった」

まほ「だからだろうな部下は沢山出来ても友達は一人として出来たことがない」

小梅「……隊長」

まほ「今回の嘘もみんなと親しい関係になりたいと思って付いたものだったんだ」

まほ「もっとも親しくなるどころか傷つけてしまったが」

まほ「部下を悲しませるなんて私も隊長失格だな」

まほ「今までこんな頼りない隊長ですまなかった」

小梅「そんな……謝らないで下さい」

小梅「確かにあんな嘘を付いたのは人としてどうかと思いますけど」

小梅「でも隊長が素敵な人なのは事実です」

まほ「小梅……」

小梅「サンダースにプラウダ。他校から大勢の人が集まったのはみんな隊長のことを心配してのことです」

まほ「……」

小梅「隊長はさっき自分には友達がいないって言ってましたけど」

小梅「もうとっくに出来ていたんです」

まほ「そうなのか。ははは……そう考えると何だか嬉しいな」

まほ「小梅……その……小梅も私のこと心配してくれたんだな」

小梅「はい。だからこそ怒ったんです」

まほ「そうだったな」

まほ「それなら……その私たちはと、とも……友達になるのか?」

小梅「ふふっ、私はそう思っていますよ」

まほ「そうか」キラキラ

まほ「ふふっ……今の私は幸せ者だ。これからエイプリルフールという日も悪くは……」

みほ「みぃーつけた」

まほ「ひっ!」

みほ「エリカさんから聞いたよ。病気の話全部嘘なんだってね」

まほ「あ、ああ……そのエリカは?」

みほ「エリカさんならボコになったよ」

まほ「え?」

みほ「お姉ちゃんもボコにしてあげるね?」

まほ「う、うわぁぁあぁああぁあッ!?」

数日後

まほ「うぅ……酷いことになった」

小梅「隊長が悪いんですからね」

エリカ「オイラボコダゼー」ダミ声

小梅「貴方はエリカさんですよ」

エリカ「はっ……そうだったわ」

小梅「とにかくこれに懲りたら二度と変な嘘を付かないで下さいね」

まほ「さすがにもう嘘を付く勇気はないな」

まほ「それはそうと六月に映画が公開されるんだ。二人とも良かったら一緒に見に行かないか」

まほ「その一度憧れていたんだ。お友達同士で映画を観るというのを」

エリカ「勿論です。私も隊長のお友達として映画館同行させて頂きます」

小梅「私もこれ見たい映画だったから嬉しいです!」

小梅「一緒に見に行きましょう!」

小梅(エイプリルフールは隊長のせいで散々な目にあったけど)

小梅(エイプリルフールのおかげで隊長の本心が聞くことが出来ました)

小梅(もしエイプリルフールで隊長が嘘を付かなければ私たちの関係が今のようにならなかったと考えるとちょっと複雑な気分です)

小梅(今では隊長と部下ではなく一緒の友人として過ごしています)

小梅(それはありきたりな日常のヒトコマかもしれないけど)

小梅(私はこの時間を何よりも大切にしていきたいと考えています)

今日エイプリルフールであることを思い出して慌てて書き始めました。
ここまで読んで下さりありがとうございます。

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