曜「最高のお母さんだよ!」 (30)

死後の世界

善子「ずら丸、お疲れ様」

花丸「あっ、善子ちゃんと新人のルビィちゃん! ちょっとは慣れた?」

善子「ヨハネよっ!」

ルビィ「うん、一応」ペコッ

花丸「そっかぁ、良かったずら」

善子「ずら丸は休憩してたの?」

花丸「うん。それにしても、今日もお客様が多いなぁ……って思っていたの」

善子「そりゃそうよ。ここは現世で亡くなった人達全員が必ず訪れる場所なんだから」

花丸「ねぇ、ルビィちゃん」

ルビィ「どうしたの?」

花丸「不思議だよね。こうしてたくさんの人が亡くなっている中、現世のどこかでは新しい命が誕生しているんだから」

ルビィ「命は授かり、消えてゆくものなんだよね」

善子「表裏一体よね」

花丸「そうずらね。授かった命をどう全うするのか、本当に人それぞれずら」

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現世、産婦人科

鞠莉「チャオ~☆ お名前を言っていただける?」

梨子「渡辺梨子です」

鞠莉「オッケー、渡辺梨子さんね」

梨子「……って、ここ来るたびにこのやり取り必要あります? 私と鞠莉さんの仲なのに」

鞠莉「いやー、一応ルールだからねー」

梨子「まあ、そうですよね」


施術室

鞠莉「それじゃ、IPS細胞の移植を行うわよ」

梨子「お願いします!」

鞠莉「入れるわよー。1・2・3」

梨子(んっ?)

鞠莉「はい、おしまい☆」

梨子「ありがとうございました」

鞠莉「今度こそ、無事着床するよう祈ってるわ」グッ

梨子「そう……ですね」

待ち合い室

曜「梨子ちゃん、どうだった?」

梨子「ん~、今回の卵はすっごく元気な気がする……」

曜「えっ!? 凄いね、そういうのわかるんだ」

梨子「ふふっ、そんな訳ないでしょ」

曜「あっ、そうなんだ……」

梨子「スーパー寄ってから帰ろっか♡」

曜「うん。夕飯は何にする?」

梨子「トンカツ!」

曜「あとみかんも買っていい?」

梨子「いいよ~。曜ちゃんってば、ほんとみかんが好きよね~」

バス内

梨子「トンカツ~♡」

曜「あとみかんも~♡」

女性「……」フゥ

梨子(あっ、あのマークは……)

梨子「よかったらどうぞ」スタッ

女性「ありがとうございます、助かります」ニコッ

梨子「マタニティマークってね、決して『席を譲れ』ってマークじゃないんだよ。緊急の時にすぐ妊婦さんだってわかる為のものなの」

曜「へぇ、そうなんだね」

梨子「2人分の命だもんね~」

曜「ねぇ、梨子ちゃんは……」

梨子「んっ?」

曜「ああいうマーク見て辛くない?」

梨子「……ふふっ、平気だよ」ニコッ

梨子「むしろ私もすぐに付けてやるんだー、ってやる気になっちゃうから」

曜「そういうものなの?」

梨子「うん。それに何かご利益もありそうじゃない? 妊婦さん見たら私も妊娠できる! みたいな」フンスッ

梨子「だから大丈夫! 心配してくれてありがと♡」

曜「私、梨子ちゃんの前向きなところが大好きだよ♡」

梨子「え~、聞こえないよ~。もう1回言って~♡」

バイト先

梨子「休憩入りますねー」

梨子(……うんっ、大丈夫! 次がある!)

梨子(LINE)『曜ちゃんごめんね、生理きちゃった メイ*; _ ;リ』

梨子「っと」

梨子(って果林さん、それは……)

梨子「こらっ、駄目でしょ。妊婦が煙草なんて吸っちゃ!」

果林(妊娠中)「あら~、バレちゃったわね~」

梨子「バレるバレないの問題じゃないでしょ!」

果林「自宅だとエマちゃんがうるさくて吸えないのよー。ストレス溜まっちゃうったらありゃしないわ」

梨子「お医者さんに言われてるでしょ? 早産や流産の可能性が高まるし、赤ちゃんの発達にも影響が出るって。赤ちゃんの為にもちゃんと止めないと」

果林「……そんなこと、わかってるわよ」

梨子「わかってるなら止めましょう。せっかく授かった命なんだよ。もっと大事に──」

果林「わかってるから! 他人にどうこう言われるのが一番嫌なのよ!」クワッ

梨子「いや、でも……」

果林「渡辺さんには関係ないことでしょう? いちいち口出ししてこないでくれないかしら?」

梨子「もし流産なんてしたら絶対後悔しますよ……」

果林「だからそういうのが余計なお世話だって言ってるのよ! 私の気持ちがわかる? わからないわよね?」

梨子「いや──」

果林「絶対わからないわよね! 何せ渡辺さん、妊娠したことないじゃないの!!」

梨子「……」

果林「妊婦がどれだけキツくて辛いかも知らないクセに、知ったかぶって説教して」

果林「立場の違う人に言われても全然説得力がないのよっ! 言われたくないのよっ!」

梨子「ごめん、なさい……」

果林「……いえ、私の方こそごめんなさい。先に休憩上がるわ」

梨子(妊娠したことないじゃない?)

梨子(妊婦の辛さも知らないクセに?)

梨子(経験者じゃなくちゃ言っちゃ駄目?)

梨子(気持ちがわからないんだから?)

梨子(言っちゃ駄目?)

渡辺家、居間

曜「うわー、結構張り切ったね! 7品もっ!!」

梨子「えへへ~、次また頑張らなくちゃいけないから、しっかり栄養摂ることにしたの!」

曜「……」

梨子「さあ、食べよっ♡ 曜ちゃん麦茶持ってきて~」


母親(TV)『うちの子が今4歳なんですけど、時々発言が大人びてるんですよ。「ママの幸せは僕の幸せ」とか言ったり』

司会(TV)『可愛いですね~』

梨子「……今日ね、私の職場の妊婦さんがね、煙草吸ってたの」

曜「……」

梨子「そんなの見たら注意しちゃうでしょ! 私つい注意しちゃって。そしたら『妊娠もしたことないクセに!』ってキレられちゃった」

曜「……そっか」

梨子「普段もね『親が年とってると子どもが可哀想』とか言う人で……どうして子どもの気持ちも聞かずにそんなこと言えるのかな? すっごく仲がいい親子を見ても、そんなこと言えるのかな?」

曜「……」

梨子「大体さ、『経験者じゃなきゃ意見しちゃ駄目』って了見狭すぎじゃない?」

梨子「同じ境遇の人とだけ話したいならマタニティ教室にでも籠ってたらいいでしょ。外に出てこないでよっ!」

梨子「あの人だって……ふっ、不妊治療中の人の……きっ、気持ちなんて……わからないクセにっ……うっ、ううっ」グスッ

曜「梨子ちゃん……それで、梨子ちゃんはその人に何て言ったの?」

梨子「ごっ、ごめんなさいって、謝った……」グスッ

曜「そっか。偉かったね」

梨子「そ、そりゃ相手は妊娠してるし。へっ、変にイライラさせたら……悪いし。その人じゃないよ。あっ、赤ちゃんに悪いから……」グスッ

梨子「なっ、何でかな? 私、悔しいよ。こんなに頑張ってる私のところには赤ちゃん来ないのに……あんな人のところには……」グスンッ

曜「梨子ちゃん、辛かったら治療止めてもいいよ」

梨子「曜、ちゃん?」

曜「私ね、梨子ちゃんが頑張ってること知ってるよ。本当は悲しいのに無理して笑って、時々1人でこっそり泣いて。だから──」

梨子「ふざけないでよっ!」ガタッ

曜「梨子ちゃんっ!?」ビクッ

梨子「なんでそんな簡単に言うのよっ! 私は曜ちゃんとの子どもが欲しくて頑張ってるのにっ! 今止めたらこの8年が水の泡でしょ!」クワッ

曜「梨子ちゃん……」

梨子「曜ちゃんはいいよね! 問題あるのは私の方なんだから! わかってるのよ」クワッ

曜「梨子ちゃん……私は──」

梨子「どうせそんなこと言ってても、急に『子どもが欲しくなった』なんて言って、若い娘と浮気とかするんでしょ!」クワッ

曜「私は……梨子ちゃんと夫婦2人でのんびり暮らすのもいいなぁって……そう言いたかっただけなんだけど……」

梨子「……ごめんなさい」シュン

曜「お風呂……入れてくるね」

梨子(私と2人、子どもがいなくても……)

回想、曜の実家

曜ママ「それで梨子さん、子どもは?」

梨子「すみません。まだ……」

曜ママ「はぁ~、あたしは結婚してすぐに曜を産んだっていうのに。あー情けない」

梨子「そういうのは人によるので──」

曜ママ「出来損ないは口答えしないで!」クワッ

梨子「お義母さんっ!?」

曜ママ「不妊治療? そんなもの止めて早いとこ曜を自由にしてあげてちょうだい!」クワッ


バンッ!

曜「お見合い……こんなこと勝手に準備しても、私が梨子ちゃんと別れる訳ないでしょ!」

曜ママ「お母さんは曜の為を思って──」

曜「私の幸せをママが勝手に決めないでよっ!」

回想終わり

梨子(あの時だって、曜ちゃんは私を一番に想ってくれてたっていうのに……)ウルッ


風呂場

ガチャッ

梨子「曜ちゃんっ!」ダキッ

曜「うわっ!?」

梨子「曜ちゃんごめんっ! 辛いのは曜ちゃんも一緒なのに! 実家と縁切ってまで私と居てくれて!」

曜「それは梨子ちゃんが好きだから──」

梨子「不妊治療だってお金かかるし、大変だし……病院で卵細胞取らされるし!」

曜「いや、まあ、それは必要なことだから」アセアセ

梨子「2人でずっと頑張ってきたのにっ……ひどいこと言ってごめんなさい~~~っ」ビエーン

曜「私ね、梨子ちゃんの前向きなところが大好きだけど……悲しい時は、思いっきり悲しんでもいいんだよ」

梨子「うん……うん……曜ちゃんっ!」

曜「んっ?」

梨子「私、悲しい! あーーーっ、悲しいっ!!」ダキッ

梨子「また着床しなかったーーっ! 35万がパァだよーーっ!」

梨子「妊婦が煙草吸うなバーーーーカっ! 羨ましいよマタニティマーーーークっ!!」

梨子「また挑戦してもいいよねーーっ!?」

曜「いいともー☆」グッ

梨子「……」

梨子「よーちゃあぁぁぁんっ」ギュッ

曜「よしよし」ギュッ

2ヶ月後、産婦人科

鞠莉「おめでたよ、梨子。妊娠してるわ♡」ニコッ

梨子「ほほほ本当ですかっ!?」

鞠莉「イエース☆ ごく初期の段階で流産しやすいからまだ油断はできないけど……しっかり育ててゆきましょっ!」グッ

ようまり「「おめでとう、梨子(ちゃん)!!」」


病院の外

梨子「本当にするんだね。妊娠……」

曜「『するんだね』ってさぁ、そういう治療してきたんでしょ?」

梨子「いや、だって……えっと、ね?」アセアセ

曜「うん、わかるよ梨子ちゃん。よかったね! やったね! よかったね!」ニコッ

梨子「うんっ♡」ニコッ

8か月後、渡辺家台所

梨子(妊娠9か月)「泣きそうな目の~君が好きよ~♪」つ玉子焼き用フライパン

梨子「無防備に~生きる不器用さもね~♪」

曜「梨子ちゃん、梨子ちゃんっ!」

梨子「どうしたの曜ちゃん? 洗濯物は干し終わった?」

曜「終わった終わった!」

梨子「ふふっ、そのテンションはなぁに?」ニコッ

曜「私、今いい名前思いついちゃった~」

梨子「なになに?」

曜「じゃーん!」つ手帳

【千歌】

曜「どうかな?」

梨子「……せんうたちゃん?」キョトン

曜「ちかちゃん!」クワッ

梨子(10年以上一緒にいても、曜ちゃんのセンスが今一つわからない……)

曜「梨子ちゃんの髪色に因んで【ルビィ】って案も浮かんだけど、私みたいなアッシュグレーだったら困るから~」エヘヘ~

梨子「んっ……お腹がちょっと痛いような……」

曜「えっ、もしかして陣痛!? 病院行く?」アセッ

梨子「いや、予定日までまだでしょ。便秘のせいかも」

曜「そっ、そうかな?」

梨子「あるいは、曜ちゃんの命名に怒ってるのかも」ジー

曜「えっ!? 千歌って会心の出来じゃ──」

梨子「考えとく。まあ、いざとなったら呼ぶから。はいっ、お弁当」つ弁当箱

曜「う、うん」

梨子「ほらっ、お仕事頑張って」

曜「うん……本当に気を付けてね」

梨子「大丈夫大丈夫! お母さんは強いんだから!」ピース

梨子「みかん風味の優しさで~今日もいい日だよっといで~♪」つ掃除機

梨子「にしても」つヒラヒラフリル付きの子ども服

梨子(曜ちゃんって本当にコスプレオタクなのね~。こんな服、今流行りのスクールアイドルくらいしか着ないでしょ)ハァ

梨子(でも千歌ってそんなに悪い名前じゃないかもね。ふふっ、将来は音楽が好きな娘になるかも♡)

梨子(お腹……まだちょっと痛いな……早めにお買い物に行っておこっか)フゥ


近所のスーパー

ズキッ

梨子(参ったなぁ、さっきより痛みが強くなってきた気がする)

梨子(ちょっと休もう……)

梨子「ごめんね、千歌ちゃん。お買い物したらすぐ帰るからね」お腹サスサス

幼女「お姉ちゃん、赤ちゃん大丈夫?」

梨子「え? うん、大丈夫だよ」ニコッ

お母さん「歩夢ー行くよー」

歩夢「はぁい」スタタッ

梨子(……何だろう?)

梨子「痛み、ちょっとマシになったかも」フゥ

レジのおばちゃん「252円が1点、874円が1点」

梨子(うっ……また痛みが強くなって……)

おばちゃん「429円が1点……ってお客さん、どうしました?」

梨子「ぐっ……ううっ」ハァハァ

おばちゃん「あら、妊婦さん?」

お客さん「どうしたの? 貧血?」

梨子「おっ、お腹がっ……」ハァハァ

おばちゃん「貧血かしら?」

お客さん「こんな急にはこないと思うけど……間隔はどう? ずっと痛いの?」

梨子「はい……」ハァハァ

お客さん「救急車呼ぶ?」

梨子「……お願い、します」ハァハァ

梨子(大丈夫だよね、千歌ちゃん……昨日だって元気に動いてたもんね……)

ドクッ、ドクッ

梨子「う"っ……ぐうっ……」ハァハァ

おばちゃん「あら、血っ!? タオルタオル!」

梨子(大丈夫……千歌ちゃんは……お母さんと曜ちゃんに似て、強いもんね……)ガクッ

ピーポーピーポー

病院

看護師「血圧80の60、出血多いので処置します」

鞠莉「……胎児徐脈ね」

梨子(心音がする……生きてる……)

梨子「鞠莉……さん……」ハァハァ

鞠莉「どうしたの?」

梨子「私はいいから……この娘を、助けて……」ハァハァ

鞠莉「梨子……」


ダダダダッ

曜「鞠莉ちゃんっ!」ハァハァ

鞠莉「曜っ!」

曜「あのっ、梨子ちゃんは……」

鞠莉「常位胎盤早期剥離のせいで、出血がひどくて危険な状態よ」

曜「あ……赤ちゃんは……」

鞠莉「徐脈だけど心音は確認したわ。これからすぐ帝王切開で取り出すつもりよ。同意書は書いてあるわね?」

曜「うん、もともと帝王切開の予定だったから」

鞠莉「了解。それと曜」

曜「何かな?」

鞠莉「緊急の場合は、母体を優先させるけどいいわね?」

曜「……ぐっ」

回想

梨子(TEL)『もしもし~♡』

梨子『うん、順調に育ってるって。楽しみだね~早く会いたいね♡』ニコッ


曜「赤ちゃん、ママのお腹はどうですか?」お腹サスサス

梨子「ええーっ、私、ママなんて柄じゃないよ。"お母さん"がいいなぁ♡」ニコッ


梨子「……」キョロキョロ

曜「何やってるの梨子ちゃん?」

梨子「赤ちゃんを護る練習!」

曜「いやいや、大袈裟な」

梨子「大袈裟じゃないもん♡ 私が死んでも全力で護るから! その時は曜ちゃん、よろしくねっ!」ニコッ

回想終わり

曜(そう梨子ちゃんは言ってたけど……やっぱり私、梨子ちゃんがいなくなるなんて耐えられないよぅ……)

曜(だから……)

曜「はい、梨子ちゃんを助けてくださいっ!」

鞠莉「もちろんよ! 医者としてやれるだけのことはやってやるわ!」


集中治療室

梨子(千歌ちゃん……頑張って……)

死後の世界

花丸「……次の方が来たずらね」

職員「国木田さん、この子を『死産課』までお願いします」つ毛布にくるまれた何か

花丸「……う"っ」

花丸(「死産課」……ずっと避けてきたのに)ハァ


死産課

ルビィ「助かったよぅ~花丸ちゃん。申請書の作成まで手伝ってもらっちゃって」ニコッ

善子「気にすることないわよ、ルビィ。ずら丸の研修の一環なんだし」

ルビィ「そうなのっ? そんなこと言ってルビィへ会いに来てくれたんじゃないの~♪」

善子「うんにゃ、研修の一環よ」カキカキ

ルビィ「善子ちゃんって字がしっかりしてるねぇ~」ニコッ

善子「ヨハネよっ! ……まあ、ありがとね」

ルビィ「花丸ちゃんもありがとねっ♪ 赤ちゃん連れてきてくれて」

花丸「ま、まあ研修だから。ところで」

ルビィ「なぁに?」

花丸「そこのベッドの……みんな赤ちゃんなの?」

ルビィ「そうだよ、胎児とか未熟児とか」

花丸(……この子達、みんな産まれる前に亡くなっちゃったんだね)

ルビィ「この子達は自分で申請書が書けないからね、ルビィ達が代わりに書いてあげないといけないんだよ」

花丸(生きていた頃の経歴を記載して、天国行きか地獄行きか判定する基準となる申請書……まだ何も成していない赤ちゃんまで出す必要があるのかな?)

花丸「マルが連れてきた子の分しか書かないからね」

善子「ええ、それで十分よ」

【生前履歴書】
閻魔大王 殿
下記の通り申請します。

母の名前:渡辺 梨子
父の名前:渡辺 曜(※同性結婚)
胎名:千歌(※未定)

ルビィ「花丸ちゃんも達筆だねぇ~」

花丸「どういたしまして」カキカキ

花丸「ふぅ……こんな小さいのに死んじゃったなんて……この子達も辛いだろうなぁ」

ルビィ「どうだろうねぇ、この子らにまだ意思ってあるのかなぁ?」

花丸「意思……ないのかな? 胎児って」

善子「さあ、どうだかねぇ」

ルビィ「脳だって育ってないからねぇ、まだ本能ぐらいしか持ってないんじゃないかなぁ?」

花丸「でも、記憶はあるよね?」

善子「胎内記憶ってヤツね」

ルビィ「胎内記憶? 何それ?」

善子「母親のお腹の中にいた頃の記憶のことよ」

花丸「そう考えると、意思がないとは一概に言えないずらね。……マルにもあったのかな?」

善子「胎内記憶が?」

花丸「マルのお母さんは、マルのことおばあちゃんへ任せっきりだったけど……お腹の中にいた事実は変わらないから」

善子「そりゃそうね、人間だもの」

花丸「お母さんのこと恨んでいたし、憎んでいたけれど……お腹の中でだけは愛していたのかな?」

よしルビ「「……」」

花丸「胎児っていうのは、絶対的にお母さんのことを愛しているものなのかな?」

善子「うーん、母親が[ピーーー]ば自分だって死んじゃう訳だしね。『生命維持』って観点からしたら絶対なのかもね」

ルビィ「でもそれを愛って呼べるものなのかなぁ?」

善子「確かに怪しいわね。とはいえ、理屈じゃないからね。愛ってものは」

花丸(愛は理屈じゃない、か)

花丸「やっぱり善子ちゃん、うまいこと言うずらね」

善子「ありがとね、ずら丸。それとヨハネね」

花丸(意思があって、愛もある。だったら尚更辛かったよね……君だってちゃんと産まれたかったよね……)

花丸(辛いん……だよね?)

現世、近所のスーパー

曜「先日は妻が大変お世話になりました」ペコッ

レジのおばちゃん「いえいえ。それで奥さんと赤ちゃんは?」

曜「妻は無事だったんですが、子どもは残念ながら……」シュン

おばちゃん「そうですか……」シュン

曜「ですので挨拶は私だけで……すみません」ペコッ

おばちゃん「いえいえ、奥さんも辛いでしょうから」

スーパーの外

梨子(元の体型)(早剥は原因不明なことも多いから自分を責めないで、か。腹痛に気付いた時にすぐ病院に行ってたら、千歌ちゃんはもしかしたら……)

梨子(1人で死なせるくらいなら、一緒に死んじゃいたかった……)

歩夢「お姉ちゃん、こんにちはっ」

梨子「こんにちは……」

梨子(この子、あの時の……)

歩夢「お姉ちゃん、赤ちゃんどうしたの?」

梨子「……いなくなっちゃったの。お姉ちゃんが悪いの、赤ちゃんに辛い思いさせちゃった……」

歩夢「まだいるよ」

梨子「えっ?」

歩夢「『ありがとう』って言ってるよ。『楽しかった』って」

梨子(この子、私のことを慰めてくれて……)

歩夢「『お姉ちゃんのところへ来られてよかった』って言ってるよ」ニコッ

梨子「……」ハッ!

お母さん「歩夢、行くよー」

歩夢「はーい、ママー」

お母さん「何してたの?」

歩夢「赤ちゃんとお話してた」

曜「梨子ちゃん、帰ろっか」

梨子「……」

曜「梨子ちゃ──」

梨子「曜ちゃんっ」ウルッ

曜「梨子ちゃんっ!? まだお腹痛むの?」

梨子「ううんっ、ち、千歌ちゃんが」

曜「千歌ちゃんが? でもあの子はもう……」

梨子「今ね、私のところへ来て『ありがとう』って……わ、私、産んであげられなかったのに……」グスッ

曜(死産した千歌ちゃんの魂が実在するのか、梨子ちゃんの言ってることが本当なのかはわからない。だけど……)

曜「それでも、千歌ちゃんにとって梨子ちゃんは、最高のお母さんだよ!」

梨子「曜ちゃんっ……うっ、ううっ……」グスンッ

千歌(魂)『おかあさん……すこしのあいだだったけど、いっしょにいられてしあわせだったよ』

千歌(魂)『だいすきだよ、おかあさん』


終わりです
今回はとある漫画の1エピソードを参考にしました

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