【ラブライブ!サンシャイン!!】善子「傷だらけの雷神様と私」【アベンジャーズ】 (21)


※注意※
アベンジャーズ エンドゲームのネタバレを含みます!


・ラブライブ !サンシャイン!!(善子)とアベンジャーズ(ソー)との謎クロスオーバーSS

・上にも書きましたがエンドゲームのネタバレを含みます。鑑賞前の方はブラウザバックを推奨します!

・キャラ死にっぽいネタを含みます。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1556712745

善子(皆はアベンジャーズというチームを知っているだろうか?)

善子(数年前、ニューヨークの危機に対して唐突に現れたヒーローチーム)

善子(メンバーは以下の通り)

善子(鋼鉄のスーツを身に着けた大企業の社長に、第二次世界大戦の時代から復活を遂げた超人兵士)

善子(怒りに任せて暴れまわる緑の怪物と、雷のハンマーを操る神様)

善子(ロシアの凄腕スパイに、百発百中の弓の達人)

善子(……知っての通り、私は中二病的なところがある)

善子(元々堕天使や黒魔術だのが好きだった私は、見事に彼等にもハマってしまったのだ)

善子(漫画の中から飛び出したような超人達に、漫画の中から飛び出したような悪役達……私の中二病心をくすぐるには充分すぎた)

善子(ネットや雑誌で彼等のことを読み漁り、その人となりを知っていった)

善子(趣味の為ならというのが恐ろしい所で、彼等の事を調べるためなら、英語を勉強する事だって苦にならなかった)




善子(そして、彼等を知って何年かが経って、)

善子(何時の間にか私はスクールアイドルなんてものをやっていて、)

善子(大切な友達が、大切な仲間ができて、)

善子(廃校を阻止する事はできなかったけど……ラブライブに優勝すらできて)

善子(新たな学校生活に気持ちを向けていた―――そんな時の、事だった)

善子(……いつも通りの日々)

善子(新しい校舎でいつも通りの退屈な授業を受けて、いつも通りにスクールアイドルの練習をして、)

善子(いつも通りに、ずら丸とルビィと下校をしていた)

善子(その時、確か……私は空き缶を踏んで、転んでしまったんだった)

善子(どこからともなくコロコロと転がって来た空き缶を見事に踏んで、まるでお笑い芸人のそれのように盛大にすっころんだ)

善子(……私はこう見えて、とても運が悪い)

善子(だから、こんな事も日常的といえば日常的だし、今更凹んだりするような事じゃない)

善子(私は自分の不運っぷりに憤りながら、顔を上げる)

善子(そこには、苦笑するずら丸とルビィの姿がある―――筈だった)

善子(……なぜか、そこには誰もいなかった)

善子(まるで初めから二人なんて存在しなかったように、誰もいなくなっていたのだ)

善子(歩き去った様子も、何かの事故に巻き込まれた様子もない)

善子(音もなく、二人は―――消えてしまっていた)

善子(……最初は、二人のいたずらだと思った)

善子(だけど、呼べども探せども、二人はいなくて……)

善子(……質の悪いイタズラだと怒り始めても、二人は出てこなくて……)

善子(……携帯を鳴らしても繋がらなくて……暗くなるまで探しても、見つからなくて……)

善子(不安になった私はメンバーの皆に連絡をかけた)

善子(でも、誰も繋がらない)

善子(ずら丸達と同じ様に、コールだけが虚しく鳴り響くだけ)

善子(……まるで世界に私一人が取り残されたみたいだった)

善子(そして、それから少しして、私は知る)

善子(その想像が―――真実だったという事を)



善子(……家に帰った私は、帰るや否やママに抱き締められた)

善子(ママは言った)

善子(消えてなくてよかった、と)

善子(貴方だけは消えていなくてよかった、と)

善子(涙を零しながら、何度も何度も)

善子(ママは痛いほどに私を抱きしめながら、繰り返した)

善子(……異変は、私の周囲だけで起きた訳ではなかった)

善子(ママの職場でも、内浦全域でも、沼津全域でも……世界中で、同様のことが起きていた)

善子(曰く、突然塵になって消えてしまったのだという)

善子(直前まで隣にいた友人が、手を繋いでいた恋人が、共に食卓を囲んでいた家族が、)

善子(―――消えた)

善子(……ずら丸も、ルビィだって、そうだ)

善子(千歌も、曜も、リリーも、果南も、鞠莉も、ダイヤも……!)

善子(皆、皆、皆! 皆―――消えてしまった!)

善子(生き残ったのは……私だけ)

善子(……この日以上に、自分の不幸体質を憎く思うことはなかった)

善子(何で私だけが生き残ったのか……何で私だけが生き延びたのか……)

善子(どうせなら……皆のいない世界に取り残されるくらいなら……)

善子(―――私だって、消えてしまいたかった)



善子(……この考えが、どれほど醜いものなのかは分かっている)

善子(消えてしまった人達は、こんな悩みを思い浮かべる暇すらなかったのだ)

善子(選択の余地すらなく、不条理に、理不尽に、命を奪われた)

善子(そんな皆と比べれば、生き延びただけで幸運だという事は分かっている)

善子(分かっていても……それでも)

善子(皆のいない世界で生きるという事が、私には想像もできなかった)

善子(……だから、私は扉を閉ざした)

善子(いつぞやと同じ様に、自分の部屋という狭い狭い世界に閉じこもり、)

善子(世界に扉で蓋を閉ざして、自分だけの世界に没頭する)

善子(言うなれば、引きこもりだ)

善子(変化した世界に向かい合おうともせず、私は自分の世界に閉じこもった)

善子(……ママは、何も言わなかった)

善子(最初は外に出そうと、励ましたり、声を掛けたりしてくれたけど、)

善子(最終的には……私の気持ちを尊重してくれた)

善子(……壊れてしまった世界に、折れてしまった私をそれでも見捨てずに、支えてくれた)

善子(引きこもる私に時々優しく声を掛けてくれて、ご飯だって毎日用意をしてくれて、自分の仕事だってこなして……)

善子(……ごめんなさい、と心の中で繰り返す)

善子(こんな娘で、こんなにも弱い娘で、ごめんなさいと)

善子(温かなご飯を食べながら、何度も涙を零す)

善子(……消えてしまった皆に対しても、そうだ)

善子(私だけが生き残ったのに、その筈なのに何もしようともせず、)

善子(引き籠り、自分を慰めるだけの日々を送る)

善子(彼女達がそんなことを望まない事は分かっていても、それでも)

善子(……それでも、無理だった)

善子(変わってしまった世界と向き合う事だけは―――どうしても無理だった)




善子(……そして、更に数年の時が経つ)

善子(私はというと、何にも変わってはいなかった)

善子(引き籠り続け、ゲームとネットの日々を送るだけだった)

善子(この日もそう)

善子(最近流行りの対戦ゲームを楽しみながら、無駄な時間を過ごす)


ズガガガ、ドキューンドキューン


善子「何よこの敵、よっわw」

善子「名前からして海外勢かしら。ボイチャでちょっと煽ってあげましょw」

善子『ハロー、ハロー』

善子『あんたクソ弱いわね。このゲームの才能ないから辞めた方が良いわよ』

善子『ヨハネ様が忠告してあげる』

善子『早く中古ショップでゲーム機ごと売ってきた方が良いわ、時間の無駄よw』



善子(ヒーロー達を知るために勉強した英語で、相手を煽る)

善子(すると、返答が来た)



???『―――Yohane06と言ったな』



善子(の太く、力強い声)

善子(声色だけでも相手を威圧するだけの力があった)

???『あまり調子に乗っていると貴様が引き籠っている所に乗り込んで、お前の両手を斬り落としてやるぞ!』

善子「ヒッ……!」

善子(や、やばい人にチャット送っちゃった……)

善子『あ、あの、ごめんなさ……』

???『今更謝ったところで許されるか!』

善子(私の謝罪を遮り、ヘッドホンから声が響く)



『貴様は喧嘩を売ったのだ―――』


『―――雷神ソーの仲間に!!!』



善子(そして―――声の主は、そう言った)

善子(……その名前を聞いた瞬間、時間が停止したように感じた)

善子(ソー)

善子(その名前は、知っている)

善子(かのアベンジャーズの中でも最強とされる人物で、雷を操る大男)

善子(世界がこうなる前は私もファンで、良く彼の姿が映るYouTubeを観たものだ)

善子(その名乗りが冗談なのか、ただの煽りに対する返しなのかは分からない)

善子(だけども……私は感情を抑えきれなかった)

善子(……あの世界の人口の半分が消え去る事件があってから少しして、ある噂がネットに流れた)

善子(この世界の危機に対して、実は裏でアベンジャーズが動いていたとの噂だ)

善子(人々の半分を消し去ろうとする強大な敵に、アベンジャーズは戦いを挑み―――だが、敗北を喫した)

善子(結果として敵の狙いは阻止できず、その目論見通りに、世界の半分の人々は塵となって消えてしまった……)

善子(……飽くまで噂だけど、それは何とも有り得そうな内容に思えた)

善子(これまでも世界の危機に対して何度も暗躍し、戦ってきたアベンジャーズ)

善子(彼等なら今回の出来事だって把握していて、阻止すべく動いていてもおかしくない)

善子(だけど……なら……)

善子(……どうして今回は阻止してくれなかったのだろう)

善子(何度も世界を救ってきたのに、何で今回は負けてしまったのか)

善子(そのせいで、世界はこんなにも変わってしまったのに)

善子(そのせいで、花丸やルビィは消えてしまったのに)

善子(そのせいで、皆いなくなってしまったのに―――)






善子『なによ、それ……』

ソー『どうした、怖くて声も出ないか? 反省したなら大人しく―――』

善子『―――なによ、それーーーーーーー!!!』

ソー『なっ……!?』

善子『ふざけないで、ふざけないでよ!』

善子『あんた達が、あんたが負けたせいで、こんな世界になっちゃたのに!』

善子『あんたはのんびりとネットゲームなんてしてるって訳!?』

ソー『な、何を……』

善子『何であんた達は負けちゃったのよ!』

善子『世界の危機に立ち向かうのがアベンジャーズなんでしょう!? ヒーローなんでしょう!?』

善子『なのに! 世界の半分が消えちゃったのに! 何もしないでゲームなんてしてて!!』

善子『肝心な時に何もできない癖に、何が雷神よ! 何がヒーローよ!』

善子『ふざけないで! 皆を返して―――返してよ!』

ソー『………』


善子(……私の酷い物言いに、ソーは何も返さなかった)

善子(沈黙だけが続き、少しして雑音が響き渡る)

善子(……多分、マイクがぶん投げられたのだろう)

???『あー、聞こえる? Yohane06』

善子(次に聞こえた声は、ソーのものではなかった)

善子(どこか気の抜けた、のんびりした声色だった)

善子『……何よ』

コーグ『俺っちはコーグ。ソーの友達で、今このゲームをプレイしてるんだ』

善子『ああ、アンタがこの弱っちい……で? 何の用よ?』

コーグ『君の気持ちもわかるけどさ。あんまソーの事を責めないでやってよ』

善子『何よそれ! あんた世界がどうなっちゃたか知ってるでしょ―――』

コーグ『勿論、知ってるよ。けどさ、俺っちはソーの事情だって知ってるから』

コーグ『アイツもさ、頑張ったんだよ』

コーグ『サノスと戦う前からずっとずっと大変な目に合い続けて、それでも戦い続けたんだから―――』



善子(……そうして、コーグと名乗った男はボソボソと語り始める)

善子(……ソーの身に降りかかった悲劇……)

善子(父の死……姉との邂逅と殺し合い……)

善子(……故郷の地の滅亡……そして、サノスとの出会い……)

善子(親友を殺され……弟を殺され……それでもサノスに復讐を遂げる為に宇宙を飛び回り……)

善子(最強の武器を手に入れ、地球に舞い降り……遂にはサノスの身体に刃を届かせ……)

善子(……だけど、その目的を阻止する事は出来なくて……)

コーグ『……一番悔やんでるのは、ソー自身なんだよ』

コーグ『あの時、胴体じゃなくて頭を狙っていれば、サノスを倒せていた』

コーグ『世界もこんな風にはなっていなかった筈だって』

コーグ『誰よりもソーが悔しいんだ。だって、そうだろ? 止められたのに、止められなかったんだ』

コーグ『その後だって、もう一度サノスに戦いを挑みに行ったらしいよ。地球の仲間と一緒に』

コーグ『だけど、世界を元に戻す最後の手段も、もう消されちゃっててさ』

コーグ『ソーは、折れちまった。ぽっきりとね』

コーグ『……でも、あいつは頑張ったんだ。ずっとずっと』

コーグ『だからさ、ここでくらいは、今くらいはゆっくりさせてやりたいんだよ』

善子「………」


善子(コーグの話は、正直……壮絶すぎて現実感がなかった)

善子(ソーのヒーローとしての側面は知っていても、具体的にどんな事をしていたのかは知らない)

善子(……今のが、ヒーローの現実なのだろう)

善子(沢山の争いを宿命づけられて、戦い続けて、)

善子(傷付き、敗北し、それでも立ち上がって、)

善子(だけど、どうしようもない敗北を突き付けられて……)

善子(……私は、馬鹿だ)

善子(何も知らないのに、自分の感情ばかりをぶつけてしまった)

善子(……さっきの行動が八つ当たりなのは、誰よりも自分自身が知っている)

善子(自分は何もしないで引き籠っているのに……それを棚に上げて、恨みつらみだけを吐き捨てた)

善子(……最低だ……)

善子『……ねえ、ソーに変わってちょうだい』

コーグ『良いけどさ。もう酷い事は言わないって約束してくれよ』

善子『分かってるわ』

コーグ『じゃあ、変わるよ。おーい、ソー!』


ソー『……何だ。まだ言いたい事があるのか、Yohane06』

善子『……えっと、その』

ソー『いいんだ。お前が言った事は何も間違えてはいない』

ソー『あの時、サノスを止められなかったのは事実だ』

ソー『なぜ頭を狙わなかったのか、後悔しない日はない』

ソー『加えて今やボロ小屋で引き籠って、ビールを飲んではゲームに興じる日々だ』

ソー『……父上にも、母上にも、ロキにも、顔向けできない』

ソー『俺は……俺は……!』

善子(……ああ、と思った)

善子(この人は、私に似ている)

善子(絶望的な世界に傷付き、向き合う事を恐れて、自分の殻に閉じこもる日々)

善子(……同じだ。何も変わりやしない)

善子『……ごめんなさい』

ソー『何を謝る? 言っただろう、お前は事実を告げたまでだと』

善子『違うの……違うのよ、ソー』

善子『私だって、そうなの』

善子『仲間を失った世界が怖くて、向き合う事ができなくて、引き籠って……』

善子『そうして、気付けば五年も経っていた』

善子『人の事なんて言えないの。戦わず、逃げて、逃げて……』

善子『私は……弱いから』

ソー『……そうか、お前も……』



善子『……さっきはごめんなさい。カッとなっちゃって』

ソー『気にするな。それよりもどうだ? 時々こうして連絡をしても良いだろうか』

善子『いいわよ。引き籠り同士、傷でも舐めあいましょう』

ソー『そうか。それは良かった! 祝杯をあげたいが……声しか届かないな』

善子『引き籠りだしね(笑)』

ソー『それもそうだな(笑)』

ソー『お前の名前は何というんだ? Yohane06』

善子『ヨハネ……ううん、津島善子よ』

ソー『ヨシコか。良い名前じゃないか』

善子『そう? ダサい名前だと思うけど』

ソー『そんな事はない。自分の名前に誇りを持て』

善子『ま、神様にそう言われるなら悪い気はしないわね』

ソー『では、また連絡する』

善子『ええ、何時でも待ってるわ』

ソー『引き籠りだしな(笑)』

善子『そうね(笑)』




善子(……そうして、私はソーやコーグ達とボイチャ友達となった)

善子(話してみると、ソーは豪快な中に間の抜けたところがあって、)

善子(中々に面白い奴だった)

善子(ゲームをして、同じスポーツ番組をみて、そんな怠惰な日々を更に積み重ねていって……)

善子(そんな中だった)

善子(真夜中に、ソーからの着信があった)

善子(もはや生活リズムもぐちゃぐちゃなので、何てことはなかったが、少し気にかかった)

善子(これまでこんな時間に連絡がきた事はない)

善子「……何かあったのかしら?」

善子(一人、そう呟き着信にでると―――)




ソー『ヨシコ、俺はどうしたらいい?』





善子(―――今にも泣きだしそうなソーの声が、聞こえてきた)


善子『どうしたのよ、一体?』

ソー『昔の顔馴染みが現れたんだ』

ソー『力を貸してくれと頼まれた。君の力が必要だと』

善子『………』

ソー『―――無理だ! 自信がない!』

ソー『今の俺に何ができる? 身体もダルダルだし、かつての力なんて出せない』

ソー『そもそもかつての俺だって何も出来なかった! 今更……今更何が出来るんだというんだ!』

善子『ソー……』


善子(……それは、悲痛な叫びだった)

善子(自信を無くしてしまった者が、それでも立ち向かえと現実に直面させられている)

善子(その恐怖は、知っている)

善子(ソーのそれとは比べ物にはならないだろうけど、それでも)

善子(現実と向き合う怖さは、私も知っている)

善子(だから、何と言えば良いのか分からなかった)

善子(優しい言葉を掛ければ良いのか、励ませば良いのか……分からない)

善子(彼の昔馴染みという事は、アベンジャーズのメンバーだろうか)

善子(話によると初期のアベンジャーズの面々は、殆どが生き延びているとのことだ)

善子(そのアベンジャーズが誘うという事は、再び地球に危機が訪れているのか)

善子(それとも、他の何か……例えば―――消えてしまった人達を元に戻す方法が発見された、とか)



善子(……もし、そうならば私が掛ける言葉は決まっている)

善子(戦って、と)

善子(逆襲をやり遂げ、皆を元に戻して、と)

善子(貴方なら出来る、と)

善子(アスガルドの王なら、オーディンの息子なら、)

善子(雷神・ソーなら、それが出来る筈だ―――と)

善子(その背中を、押さなければならない)

善子(皆を救う為に、この傷だらけの雷神様を戦場へと向かわせなければならない)

善子(そう、皆を救う為には、そうしなくちゃいけない筈だ)

善子(なのに、その筈なのに―――)




善子『―――馬鹿ね、そんな無理なんてする必要なんてないのに』





善子(―――気付けば、私はそう告げていた)



善子『昔のアンタならいざ知らず、今のアンタは引き籠りの……傷だらけの雷神様よ』

善子『アンタだけが、全てを背負う必要なんてないの』

善子『今までずっとずっと頑張ってきたんでしょう? なら、良いじゃない』

善子『もっと休んでたって、もっと引き籠っていたって』

善子『それでも良いと、私は思うわ』

ソー『ヨシコ……』

善子(ソーは、それきり何も言わなかった)

善子(ただ静かな息遣いだけが、ヘッドホンを通して聞こえてくる)

善子(……結局、私は彼を励ます事はできなかった)

善子(彼の悲しい道のりを知り、引きこもりとして共に過ごして……)

善子(彼の事を知ってしまった私に……戦えなんて、言える訳がない……)

ソー『……良いのか……?』

善子『何がよ?』

ソー『俺が戦えば、お前の仲間も元に戻るかもしれないんだ……それでも―――』

善子『それでも、言える訳ないでしょ』

善子『アンタがこれ以上傷付け所なんて、見たくない』

善子『アンタは―――私の友達、なんだから』

ソー『……友……』

善子『そうよ、ゲームが下手で、怒りっぽくて、引きこもりで……でもね、そんなアンタが、私は気に入ってるわ』

善子『昔の雷のハンマーを振るうヒーローじゃない』

善子『引きこもりで、傷だらけで、そんなが貴方が……私の友達なの』




ソー『……そうか。ああ、そうだったな』

善子『ソー?』

ソー『ヨシコ、ありがとう……思い出せた気がするよ』

ソー『俺が戦う理由……復讐や逆襲のためだけじゃない』

ソー『何のために―――俺は戦っていたのか』

ソー『それを、ヨシコは思い出させてくれたよ』

善子『ソー……』

ソー『そう、君は友だ』

ソー『ならば、友の助けをするためなら―――俺は戦える』

善子『戦えるって、アンタまさか……』

善子『また傷付くかもしれないのよ? もっと酷い目にあるかもしれない。なのに……』

ソー『それでも、行くさ』

ソー『こんな俺を友と呼んでくれた者のために、こんな俺と友になってくれた者のために、』

ソー『俺は、戦う』

ソー『どこまで役に立てるかは分からないが、大丈夫さ』

ソー『俺は―――マイティ・ソーだからな』




善子(……それは、決意に満ちた声だった)

善子(恐怖に震え、息を荒げていても、)

善子(それでも、言葉に迷いはない)

善子『無理、しないでね』

ソー『心配するな。全てを取り返してみせるさ』

善子『……辛くなったら、いつでも戻ってきなさい』

善子『私は……いつでも待っているから』

ソー『……ああ』

ソー『君が待っていてくれるというのなら―――安心できる』

善子(―――その会話を最後に、通信は切れた)

善子(その後ソーに連絡が付く事はなく、こちらが掛けてみてもコーグが出るだけだった)

善子(そうして数日が経過する)

善子(私はというと、何も変わりはしない)

善子(ゲームをして、ネットをして、漫画を読んで、眠る)

善子(そんな日々を送っていた、ある日)

善子(ここ数年、鳴る事のなかったスマフォが鳴り響いた)

善子(その宛名は―――)



善子「……お疲れさま、ソー」



善子(鳴り続けるスマフォを見ながら、数年ぶりの彼女達の名前を見ながら、私は呟く)

善子(この着信は、彼が成し遂げた事を示す何よりの証拠だった)

善子(あの傷だらけの雷神様が、それでもと戦った果ての結果……)

善子(……熱い何かが頬を伝うのを感じながら、私は着信に出る)

善子(聞き慣れた、それでいてとてもとても懐かしい声が、聞こえてくる)

善子(……これは、私だけが知る物語)

善子(傷だらけの雷神様と私の、)

善子(友達同士で慰めあっただけの、そんな何処にでもあるような―――)

善子(―――ありふれた、物語)

以上で終了となります。
エンドゲームが最高過ぎて思い付いたSSです。
エンドゲーム、本当に最高でした!

HTML化依頼だしてきます。

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