【幽白】戸愚呂弟「ここは冥獄界なのかねェ」さとり「いいえ、幻想郷です」【東方】 (70)

戸愚呂弟「やれやれ」

戸愚呂弟「幻海に別れを告げてからずいぶん歩いたものだが、道のりは遠いねェ」

戸愚呂弟「しかし、この暗くじめついて光の見えない地下空間の風情。いかにも救いのない地獄を思わせる」

戸愚呂弟「あらゆる苦痛を一万年かけて受け続け、それを一万回繰り返す。その先にあるのは完全な――『無』」

戸愚呂弟「……急ぐこともない。オレの時間はこれからいくらでもある」

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戸愚呂弟「おや。こんなところに古井戸があるねェ」

戸愚呂弟「喉が渇いたな。中に水が溜まっているなら、少し頂戴するかね。もっとも桶なりバケツなりがなければ仕方がないが」

戸愚呂弟「ふ、死んでものどが渇くものだとは知らなかったねェ」

戸愚呂弟「…………」

戸愚呂弟(まるで生きていたときと同じように体に力が漲っている。再び『転生』でもしたかのようで不思議な感覚だ)

戸愚呂弟(もし、すでに冥獄界入りを果たしていたとするのなら。この古井戸もオレに何らかの苦痛を与える『装置』なのかもしれないなァ)

戸愚呂弟「中から何か飛び出してくるかね?」

ギュゥゥゥゥン‼

戸愚呂弟「何かが落ちてくる――上か」

キスメ「きししししっ」くわっ

戸愚呂弟「鎌ッ!」

ガキーン‼

戸愚呂弟「いきなり上から首を刈りに来るとは恐れ入ったねェ」ミシ…

キスメ「……ッ!?」

戸愚呂弟「筋肉操作で咄嗟に首の筋肉を固めていなかったら。頭がとっくに胴体から切り離されて、古井戸の中に落ちていただろう」ムキッムキッ

パリーン

キスメ「ひゃっ!?」

戸愚呂弟「強化した首の筋肉の圧で、鎌がへし折れたみたいだねェ」

戸愚呂弟「井戸、鎌、そして桶に入った白装束のその体。お前さん、差し詰め妖怪『釣瓶落とし』といったたぐいかね」

キスメ「う」ゾク

戸愚呂弟「どうだ。今度は卑怯な手など使わずに、オレと正々堂々勝負してみないか?」

戸愚呂弟「とりあえずは様子見で、40%の力で相手をしてやろう」メキメキメキメキッ

キスメ「ひ、ひぃ……っ」

戸愚呂弟「怖気づいたかね。尻尾を巻いて逃げるか?」ゴキッゴキッ

キスメ「…………」


キスメ「……ひ」ニヤリ

ドシュッ!!

戸愚呂弟「ぬぅ!?」

戸愚呂弟(何だ? 背後からの突然の攻撃……新手か)ジュゥ

戸愚呂弟(背中に軽いやけどの跡……炎による攻撃。こいつの他に妖気は感じていなかったが、一体)

ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!

戸愚呂弟「なに!」

戸愚呂弟(複数の青い炎弾がオレの周囲に次々と、これは)

キスメ「ひひ……ふひひひ」

戸愚呂弟「お前が作り出しているのか。『鬼火』のようだね」


キスメ「 死 ね 」くわっ

ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!

戸愚呂弟「うぉぉおおッ!!」

戸愚呂弟(複数の炎弾による連続攻撃……一つひとつのタマの威力は小さいが、徐々にダメージが蓄積されていく)

ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!

キスメ「ひひひ」

戸愚呂弟(そして、次々に新たな炎弾が生成されてゆく。浦飯の霊丸のように1度に1つ、1日に数弾という制限がないのか)

ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!

戸愚呂弟「ふん!」バシィン!

戸愚呂弟(ひとつひとつの炎弾に構っていてはキリがない。奴を倒すには間合いを詰めて本体を叩くのが手っ取り早いが)

戸愚呂弟(生成と放出・着弾を繰り返す炎弾の集まりが、揺れる幕のように壁になって進めない。こいつは思いのほか手こずるねェ)

戸愚呂弟(このままではこちらが体力を消耗してジリ貧。まるで鴉と戦ったときのようなやりづらさがある。だが)

キスメ「ひひひひっ」


戸愚呂弟「お前さん、あまり筋肉の力をなめない方がいい」ニヤリ


キスメ「……?」

戸愚呂弟「 喝 ! ! 」

ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!

キスメ「!!?」

戸愚呂弟「いくら炎弾の壁が作られているとはいえ、ひとつひとつは所詮威力の弱い棒玉に過ぎん!」

戸愚呂弟「俺が全身に気合を込めれば、この程度の数は一度にはじき返せるぞ!」

キスメ「わ、わ……」ボシュッ

キスメ「! あち、あちちっ」パフパフ

キスメ「ふう……」シュー

戸愚呂弟「お前を守る壁がなくなってしまったねェ」ユラリ

キスメ「ひ、ひぃ……っ」

戸愚呂弟「あとは俺がこの右手を渾身の力で振り下ろすだけで、お前は肉塊と化すだろう」

キスメ「っ……!」ブンブン


戸愚呂弟「 死 ね 」グォォン


キスメ「きゃっ!」

ピタァ……

キスメ「…………。……へ?」パチ

戸愚呂弟「――と言いたいところだがね。正直、お前さんとの戦い、まずまず面白かった。それに免じて今回は命までは取らないことにしよう」

キスメ「う……ひっく……」

戸愚呂弟「『また』頼むぞ」

キスメ「……?」

戸愚呂弟「行け!」

キスメ「ひゃァ!!」ズザザザ

戸愚呂弟「……古井戸の中に逃げたか。ここがこいつの巣なのかもしれないな」

戸愚呂弟「見た目は幼い娘だが、怯まず向かってくる姿勢は嫌いじゃない。人も妖怪も見た目に寄らずということか」

戸愚呂弟(冥獄界の連中はこういう形でオレを殺しに来るということかね。とっくに死んでいるのに殺されるとは変な話だが、これは退屈しない)

戸愚呂弟(その戦いを1万年×1万回繰り返す。同じ相手とも無限に対戦することになるだろう。もちろん今の小娘とも)

戸愚呂弟(地獄には鬼がいるものと思っていたが、妖怪の獄卒もいるということかね。いずれにせよ、次にどんな敵が現れるのか楽しみじゃないか)

戸愚呂弟(楽しみ……? そんなつもりでここに来たわけじゃないのだがね。オレは……)


戸愚呂弟「幻海にあれだけ言われたというのに……結局のところ、オレは死んでも戦闘狂のようだ。愚かだねェ」

ヤマメ「サングラスのお兄さーん。こんなところで何してるんだい」スルスル


戸愚呂弟「新手か。また上から来るとは、ここの連中は空中遊戯がお好きかね?」

ヤマメ「これこれ、質問にはちゃんと答えてから話さないといけないよ。お兄さん、この辺りでは見ない顔だね」

戸愚呂弟「ふん、獄卒にしてはずいぶんと丁寧なご対応だねェ。さっきの桶の娘より断然話ができる」

ヤマメ「桶の……ああ、キスメか。あの子はああ見えて凶暴だからねぇ。ところで、獄卒ってどういうことだい。私はしがない土蜘蛛ですが、何か?」

戸愚呂弟「別にしらばっくれなくてもいいのだがね。土蜘蛛か。あんたが宙に浮けるのは、その強靭な糸のおかげかい」

ヤマメ「まあそういうこと。お兄さん、話が通じないから胡散臭いね。これは一勝負するしかないか」

戸愚呂弟「無論、こちらもそのつもりだ。40%ォオオ!!」メキメキメキメキ

ヤマメ「!」

戸愚呂弟「あんたの力量もすぐには判断しかねる。まずは40%の体で勝負といこうか」

ヤマメ「なるほど。お前さんの能力、言うなれば『筋肉を操作する程度の能力』といったところだね」

戸愚呂弟「何だね、その『程度の能力』という言いようは」

ヤマメ「みんなそういう『程度』の能力を持っているんだよ。お前さん、幻想郷(ここ)は初めてかい?」

戸愚呂弟「勿論、冥獄界(ここ)に来るのは初めてだ」

ヤマメ「なら少し力抜きなよ。あいにく私は、腕ずくの勝負は好みじゃないのよねぇ」

戸愚呂弟「そうはいかない。筋肉こそがオレの全てだ。筋肉こそが、オレの力(パワー)だッ!!」ダッ

ヤマメ「来るかい。なら仕方ないねぇ」

ギュルォォォオオオオオオオォ‼

戸愚呂弟「ぬぅっ」ギチギチ

ヤマメ「どうだい、私の出す糸に締め詰められる気持ちは。お前さんは力自慢らしいが、土蜘蛛も案外力持ちなんだよ」

ヤマメ「この閉ざされた地下空間全体が私の巣のようなものさ。闇に紛れてどこからでも糸を放てるよ」

戸愚呂弟「ぐっ」ギチィ!!

ヤマメ「ほらほら、絞め殺される前にもっとパワーアップしたらどうだい。お前さん、今の力で40%ってことは、まだまだ上があるんだろう」

ヤマメ「その秘められた力、私はもっと見てみたいね」

戸愚呂弟「はァ……どうやら少々あんたのことを見くびっていたらしい。いいだろう! 60%ォォオ!!!」メリメリメリメリ!!

ブチィィ!!

ヤマメ「おおっ」

戸愚呂弟「ふん。60%の筋肉量の前では、あんたの自慢の糸も脆いもんだね。さあ、次はどうくるかい」

ヤマメ「どうくるかい、だって? もう次の一手は打っているよ。お前さんの指先をよおく見てみな」

戸愚呂弟「むっ……右腕の先から……腕が黒ずんでいく。これはッ」

ヤマメ「お前さんが筋肉操作なら、私は『病気を操る程度の能力』の持ち主さ。さっき右腕を縛った糸の中に病原菌を潜ませておいた」

戸愚呂弟「ぐっ」ジワァ

ヤマメ「普通の病原菌じゃないよ。爆発的に増殖して組織を犯す。ほっとけばすぐに全身に回って即死さ。ただし、お前さんが負けを認めるなら私が特効薬を」

戸愚呂弟「あいにく負けるつもりは……ないんでねェ!!」ブチィ!!

ヤマメ「!? 自ら腕を引き千切ったってのかい!」

戸愚呂弟「右腕一本程度なら筋肉を修復して再生できる」グニュニュニュ

ヤマメ「っ! なら次は!」

戸愚呂弟「させん!!」

ピタァ

ヤマメ「う……」

戸愚呂弟「こちらの間合いに入った。あんたがちょっとでも変な動きをしようものなら、オレの手刀があんたの脳天を貫く」

ヤマメ「あらら、お兄さん怖いこと言うねぇ……」

戸愚呂弟「さて、どうする。降参するかい? それとも」

ヤマメ「……降参だよ。白旗さ。いくら蜘蛛は多産といえども、自分の命は粗末にしたくないからね」

戸愚呂弟「ふん、そうかい。だったらオレも、あんたの命まで取るつもりはないさ」クルッ

ヤマメ「この先に行くのかい」

戸愚呂弟「無論だ。止めるか?」

ヤマメ「止めやしないさ。お前さんの勝ちなんだから好きにしたらいい。しかし、お兄さんただの筋肉バカかと思ったけど、頭もいいし動きも早いねぇ」

戸愚呂弟「アンタはよく喋るが奥の手は決してひけらかさないしたたかさがある。『なら次は』という一言も出まかせではないと思った」

戸愚呂弟「だから速攻で詰めて次の一手を封じた。これは頭の良さではない。過去の戦闘経験から来るカンみたいなものだね」

ヤマメ「なるほどねぇ。じゃあ、先に進むお兄さんへのはなむけに、私の次の一手を教えてあげる」

ヤマメ「蜘蛛がはく糸は実は1種類じゃないんだよ。例えばぶら下がるのに使うのは牽引糸といってとても強靭だ」

ヤマメ「巣の骨格を形成する縦糸には粘り気がないが、粘着質の球体を備えた横糸は獲物を捕らえるのに使われる」

ヤマメ「土蜘蛛が作る巣は普通のクモの巣とは違うんだけどね。私は都合7種類の糸を用途に応じて使い分けられるのさ」

戸愚呂弟「それは知らなかった。つまり、オレを最初に捉えた糸は粘り気のない強靭な糸だったが、今度は」

ヤマメ「ネバネバした糸で捕まえるつもりだった。いくら筋肉の力で弾き飛ばそうとも、強力な粘糸をすべて取り除くことはできないよ」

戸愚呂弟「後は蜘蛛の巣にかかった羽虫の如く……時間をかけてなぶり殺しか。やるねェ」

ヤマメ「そうさせないのがお兄さんの強さだよ」

戸愚呂弟「冥獄界(ここ)にはあんた達のようなクセ者が大勢いるのかね?」

ヤマメ「まあ、そうさね。面白そうだろう?」

戸愚呂弟「……否定はしない。オレは先に進むとしよう」ジャリ

ヤマメ「何なら後で差し入れでもしてやろうかい? お兄さんお酒は?」

戸愚呂弟「酒は苦手なんでね。差し入れならオレンジジュースで」

ヤマメ「あらら、お兄さん見かけによらず可愛いね」

戸愚呂弟「悪いかね。あんたとの手合わせもなかなか面白かった。また機会があれば頼む」

ヤマメ「そう言われると光栄だよ、サングラスの筋肉お兄さん♪」

戸愚呂弟「おおおッ!!」

ドシュン!ドシュン!ドシュン!

パルスィ「ちィっ」

パルスィ(この筋肉妖怪、最初は乱れ飛ぶ弾幕に翻弄されていたっていうのに……!)

パルスィ(どんどん弾幕の扱いに慣れていく。戦いの中で……成長しているわ。妬ましいくらいに……!)

パルスィ「覇ッ!」ズキュン!!

戸愚呂弟「効かないねェ!」バシーン!!

パルスィ「なっ……」

戸愚呂弟「限りなく鍛え上げられた力(パワー)は、小手先の技を凌駕する」

戸愚呂弟「あんた、もしかしてまだこのオレを止められると思っているんじゃないかね?」

戸愚呂弟「オレは遊びのために冥獄界(ここ)にきたわけじゃないのだよ」

戸愚呂弟「あんたには危機感が足りない。妖怪が平和ボケとは、噴飯ものだねェ」

パルシィ「……っ」

パルスィ「知っているかい」

パルシィ「古来より嫉妬をあらわす色は緑色と決まっているのさ。シェイクスピアの戯曲は特に有名だねぇ」

戸愚呂弟「…………」

パルスィ「人間の妬み嫉み僻み恨み嫉妬羨望悋気ジェラシー……そんな下劣な感情を喰って私は力にできる」コォォォォォォォォ

戸愚呂弟(!! でかいのが来るね)

パルスィ「嫉妬が作り出した悪夢のような怪物に飲み込まれてしまうがいい!」

パルスィ「『緑色の目をした見えない怪物(グリーンアイドモンスター)』――!!」



怪物「グオオオオオオオオオオッ!!」

戸愚呂弟「おおおおおおおッ!!」


ガガガガガガガガガガッ

戸愚呂弟(嫉妬の感情自の塊に自身の妖気をまとわせて作り出した怪物!)

戸愚呂弟(この感情の増幅こそが、こいつの強さのパラメーターってことだね)

戸愚呂弟(ならば――オレの強さの源はどこにある?)

戸愚呂弟(捨てることで得られた強さか? それとも守ることで得られる強さか?)

戸愚呂弟「オレの今の強さは――どこから来るのかねェ!!」


グチャァァァァァァァァッ!!


怪物「ァァァァァ――」ブチブチブチッ!!

パルスィ「馬鹿な! 私の渾身の怪物が!」

戸愚呂弟「――」ニッコリ

パルスィ「!?」


ドシュゥゥゥゥン!!


パルスィ「かはッ……」

パルスィ(これは……指弾? あの距離からの……たった一発が何という強さなの)

パルスィ「やら……れた……」

戸愚呂弟「今日は女妖怪の厄日だね」

パルスィ「くっ、殺しなさい」

戸愚呂弟「生憎だが殺す気はない。が、それはあんたが殺すに値しない相手だからじゃない」

戸愚呂弟「あんたの実力を認めるからこそ、先を見据えればここで殺すのは惜しいのだ。分かるかね?」

パルスィ「……ええ。分からなくはないわね」

パルスィ「いずれにせよ貴方の勝ちよ。この橋姫が守る旧地獄(むこう)へとつながる一本の橋。負けたからには……貴方に道を譲るしかないわね」

戸愚呂弟「当然。オレは最初から、望んで冥獄界(むこう)に行くためにここまで進んできたのでね」

戸愚呂弟(どうやら、ここまでの道のりは冥獄界に繋がる中途だったらしい。ここまでの3匹はいわば前座の敵。ここからが本番ということか)ニヤリ

パルスィ「こんなどこの馬の骨とも分からない筋肉男に屈服させられるなんて……妬ましい」

戸愚呂弟「いいや、何度も言うがあんただって十分強かったさ。嫉妬心を操る妖怪なんて、オレが人間だったころに出合っていたら苦戦しただろう」

戸愚呂弟「もっとも、それは遠い昔の話だがね」

パルスィ「貴方……いったいどんな過去が」

戸愚呂弟「話すほどのことじゃないな」プイ

パルスィ「行っちゃった。くそう……あのカッコよさが余計に妬ましい!」

パルスィ「でも、姐さんなら……! あれくらいの妖怪、一ひねりに違いない!」




                       ~後半に続く~



戸愚呂弟「奥に進めば進むほど、瘴気が濃くなっていく」

怨霊「ギャッ」ボシュッ

戸愚呂弟「怨霊やら動物霊やら、魑魅魍魎がそこらじゅうにいる。栄養補給には好都合」

戸愚呂弟(オレもここでこいつらと同じように半永久的に這いずり回るわけだ)

戸愚呂弟「さて、次は鬼が出るか蛇が出るか。動物は嫌いじゃないから楽しみだねェ」

ニャアー

戸愚呂弟「! 猫の鳴き声」


お燐「あらあらお兄さん、ずいぶん楽しそうだねぇ」ズズズズ

戸愚呂弟「化け猫かね」

お燐「正確には『火車』さ。楽しい楽しい死体の運び屋さん♪」

戸愚呂弟「ほう、妖怪の葬儀屋と言ったところか」

お燐「まあ、そんなところかな。で、いったい何してるんだい。こんなところでお散歩なんて死体運びの趣味でもない限りつまらないだろうにねぇ」

戸愚呂弟「オレは自ら選んでここへ来た。あいにく死体運びの趣味はないがね」

お燐「お兄さんの死体は筋骨隆々、運び甲斐がありそうだ」ジュルリ

戸愚呂弟「ほう、やるかね?」ムキムキッ

お燐「あたいはやらないさ。お兄さん強そうだから怖いもの」

お燐「怨霊たちの管理の仕事もあるしねぇ。お兄さんも気をつけなさいな。妖怪だったら下手に怨霊に取りつかれると自分の身を滅ぼしちまうよ」

戸愚呂弟「…………」チラ


怨霊「○~~」


お燐「怨霊を一発でも被弾すれば、いくらムキムキのお兄さんだってイチコロでお陀仏さ」ス


○~~ ○~~ ○~~ ○~~ ○~~ ○~~ ○~~ ○~~ ○~~ ○~~

戸愚呂弟「…………」

~~○ ~~○ ~~○ ~~○ ~~○ ~~○ ~~○ ~~○ ~~○ ~~○


お燐「あたいがその気になれば、の話だけれどね」ニッ

戸愚呂弟「……一匹も逃さずに一度に喰い尽くすのは難しそうだ。これは、厄介だねェ」

お燐「ふふふ、あたいに一目置いてもらえるとは嬉しいねぇ」

戸愚呂弟「……。こいつらはお前が全て管理しているのか」

お燐「みんなってわけじゃないけど、まあ大部分はね。だからお兄さん、あんまりうちの子たちを餌にしないでもらえるかい?」

戸愚呂弟「それは悪かった」

お燐「この先に進むなら、あたいの主が棲んでいる地霊殿という館があるよ。暇があるなら寄っていきなさいな。まあ、主はあんまり歓待しないだろうけどね」

戸愚呂弟「暇は潰しても潰しきれないほどあるんでね」

お燐「ふふ。お兄さんの屈強な死体が運べるのを楽しみにしてるよぅ」ニャァ

戸愚呂弟(巨大な建物だ。あれが地霊殿だろう)

戸愚呂弟(あの化け猫のいう主。この冥獄界を統べる強者ということかね?)

戸愚呂弟(だとすれば、それ相応の力量で相手をしないといけない)

戸愚呂弟「80パーセントの力でねェ!!」ムキムキムキムキムキムキッ


>ピンポーン


さとり(来客? こんなところにわざわざ……こいしかしら? ペットのふたりは仕事に出ていたわね)

>ドンドンドン


さとり「はーい」

さとり「どちら様?」ガラッ


戸愚呂弟「…………」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


さとり「…………」

さとり「…………」ピシャッ

戸愚呂弟「なぜ閉めるのかね?」ガッッギギギギ

さとり「普通こんなのが来たら閉めますよ。新聞の勧誘なら間に合ってます。それともN○Kですか? とにかく扉から手を放してください」ギギギ

戸愚呂弟「断る。新聞の勧誘? 何をとぼけたことを言っているのかね」

さとり「じゃあ何の用です。……は?? 暗黒武術会? 浦飯幽助? 兄者生きてるかー? 幻海可愛いよ幻海? 何の話ですか」

戸愚呂弟「! あんた、……読んでいるのか? オレの思考を」

さとり「私はサトリ妖怪。貴方の心中はすべてお見通しよ。へぇ、もともと人間だったのね。それも『外の世界』の」

戸愚呂弟「外の世界だと?」

さとり「充実した修行時代、転機となった50年前の悪夢のような出来事、修羅と化して復讐を遂げ妖怪に転生し、そして――」

戸愚呂弟「もうやめないか」ギロリ

さとり「…………」ビク

戸愚呂弟「オレはもう、妖怪をあえて殺したいとは思わない」

戸愚呂弟「だが、あんたがこれ以上オレの気持ちを詮索し弄ぶというのなら、オレはあんたの命を保証することができない」

さとり「……悪かったわ」

さとり「相手のトラウマも何も、嫌でも読めてしまうのよ。だから、私は誰からも嫌われるし、そういう能力を持ってしまった自分自身に嫌気が差すこともある」

戸愚呂弟「…………」

さとり「この暗く閉ざされた地霊殿でいつもひとり籠っているのは、他者との不必要な接触を避けて、なるべく傷つかないようにするため。相手も、私もね」

戸愚呂弟「そうかい。……ジャマしたね。オレは他へ行くとしよう」

さとり「待って。貴方は大きな勘違いをしている」

戸愚呂弟「勘違い?」

さとり「ええ。その誤解は今のうちに解いたほうがいいと思う。だから貴方と話がしたいわ。入って頂戴」

戸愚呂弟「構わないかね?」

さとり「ええ。貴方に教えてあげるわ、ここが何処なのか」

~~~~~~

戸愚呂弟「旧……地獄?」

さとり「というよりも、もっと根本的なところからかしら。私たちが今存在するこの世界は『幻想郷(げんそうきょう)』と呼ばれている」

さとり「ここは幻想郷でも最深、地底部に属する、かつての地獄が存在した場所。だから旧地獄。まともな人間はまず寄りつかないような場所よ」

さとり「少なくともこの一帯に、貴方のいう『冥獄界』なる場所は存在しない」

戸愚呂弟「なんだって」

さとり「私は少女の姿に見えるけれど、貴方より遥かに長く生きているわ。この地霊殿に籠りだして長いとはいえ、ある程度地上の情報も伝え聞いている」

戸愚呂弟「…………」

さとり「そう。貴方が今まで遭ってきた妖怪は皆少女の姿をしていたわね。あえて人間を模しているといっても間違いではないかもしれない」

さとり「年を取らないうら若き乙女の姿をしていることで、妖怪本来のおどろおどろしい性質を裏に隠しているの」

さとり「そのほうが、この世界は平和に保たれる。表向きはね」

戸愚呂弟「……内面の醜い本性を押し殺して、外面で見かけ上の安寧を保つ。そういうことかね?」

さとり「それに近いかしらね。それにしても、貴方は『若い姿』に対するこだわりが強いのね」

戸愚呂弟「……話を戻してもらおうか」

さとり「……ごめんなさい」

戸愚呂弟「オレは何故、冥獄界に向かったはずなのに幻想郷とやらの中に入ってしまったのか。問題はそこだ」

さとり「おそらく、貴方は『霊界』なる場所から『冥獄界』に向かう途中、どこかの時点でこの幻想郷という異界に繋がる道に迷い込んでしまったのでしょうね」

さとり「そういう道、異界に繋がる扉は想像以上に至るところに開かれている。これが生身の人間だったらいわゆる『神隠し』の話になるわ」

戸愚呂弟「参ったね。オレは冥獄界に行く必要がある。寄り道をしている暇はない」

さとり「そうかしら。事情は分かるけれど、貴方には時間がある」

さとり「少しだけでも、幻想郷でゆっくりしてみても悪くはないんじゃない?」

さとり「幻想郷は来るものを拒まず去る者も追わず。訳ありの移住者も大勢いるわ」

さとり「もしかすると、ここにいるほうが貴方にとって最善の選択になるかもしれない」

戸愚呂弟「あんた、この幻想郷を抜け出す方法について、何か知っているんじゃないかね」

さとり「鋭いわね。でも、ただでは教えないわ。一つ、勝負をしましょう」

戸愚呂弟「勝負?」

さとり「勝負といっても、貴方が今までやってきた血なまぐさい殺し合いではないわ」

さとり「幻想郷における妖怪や人間たちの戦いはある種の遊びみたいなものなの」

戸愚呂弟「遊びだと?」

さとり「そう。スポーツと言ってもいいかもしれない。ちゃんと戦い方をルール化して、勝敗をつける」

さとり「どんなに強い輩も、どんなに弱い輩も、弾幕に被弾するか否かの勝負になってくるから互角に戦える」

戸愚呂弟「弾幕っていうのは、あの桶娘や橋守の女が使っていたものだね」

さとり「血の気に飢えた妖怪も『異変』を起こして暴れたらすっきりできるし、怪異としての存在感をアピールできる」

さとり「かたや人間たちはルールにのっとって異変解決の『妖怪退治』ができるという仕組みよ」

戸愚呂弟「生易しい世界だねェ」

さとり「あらそう? でも、悪くないなと思っているくせに」

戸愚呂弟「今となっては、ねェ」


こいし「お姉ちゃん、あそぼー!」


さとり「……こいし、いつの間に」

戸愚呂弟(……全く妖気を感じなかった。といっても単に弱い妖怪というわけでもなさそうだね)

こいし「ねぇねぇ、お姉ちゃんもたまには外に出て遊ぼうよ」

さとり「嫌よ。私は外には出ない」

戸愚呂弟「妹さんかい?」

さとり「ええ。他者の心が読めるからこそ苦しんで、その苦しみから逃れるために心の目を閉ざした」

さとり「だから私は、他の誰でもない、この子の本当の気持ちだけは読むことができない」

さとり「姉妹という一番近しいで存在でありながら、実のところ一番遠い存在になってしまった。ふふ、とんだ皮肉よね」

戸愚呂弟「…………」

さとり「こいしは心を閉ざすことで自分自身の運命から逃げてしまった。心の空っぽな……可哀想な妹よ」

こいし「可哀想なのはお姉ちゃんのほうだよー! いつもひとりぼっちで寂しいくせに」

さとり「寂しくなんて……ないわよ」

戸愚呂弟「…………」

戸愚呂弟「妹さん。一つ、提案してもいいかなァ」

こいし「何? というか貴方、誰?」

戸愚呂弟「あんたの姉さんをオレがこの屋敷の外に出してやるから、代わりにオレの知りたいことを教えるよう姉さんに頼んでくれないか」

こいし「お姉ちゃんを外に出してくれるの? いいよー」

さとり「ちょっと、勝手に決めないで」

戸愚呂弟「もう約束しちゃったからねェ。オレはあんたを力ずくでもこの屋敷から引きずり出す」

さとり「そうやすやすとはいかないわよ。私は貴方の動きがすべて読める」

さとり「それにこの建物自体が私の領域(テリトリー)と言っても過言ではないわ。分はこちらにある」

さとり「それとも、私との心理戦で勝算があるとでも?」


戸愚呂弟「あいにく頭は悪いんでね。100%のゴリ押しで行きますよ」ドッドッドッドッドッドッ!!


さとり「一体どうやっ、……て、あ、貴方! ちょっと!? 何てこと考えて!!?」ガタッ

こいし「アハハハハ、お姉ちゃん変な顔してるー」

お空「筋肉の権化のバケモノ? 面白そうねぇ。ぜひお手合わせ願いたいわ」

お燐「せっかくだからあたいたちの仕事が終わるまで引き留めようと思ってね。まあ、さとり様次第だけれど」


ガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!


お空「何か建物が崩れるような音が! 地霊殿の方角からよ」

お燐「……何やら胸騒ぎが」

さとり「あ、あ、ああ・・・・」ガクガク

戸愚呂弟「ふぅぅぅ~! さすがに広い屋敷だね」ガガガガガガッ

戸愚呂弟「100%でも平らにするまであと3分はかかりそうだ。その前にオレを止められるかね」ガガガガガガッ

さとり「や、やめて・・私の家が・・・・」

こいし「あはははっ、お姉ちゃん顔が死にそうな死相で面白ーい」

戸愚呂弟「あんたを直接外に出さずとも、地霊殿を丸ごと畳んでしまえば外に出したも同じではないかね?」ガガガガガガッ

さとり「ええ、同じよぉぉ・・! 同じだからもうやめてぇぇ・・・・!」


お空「あらら、こういうのってだいたいいつもは紅魔館がやられるパターンじゃない?」

お燐「あはは、確かにねぇ……」

(解体作業終了後)

戸愚呂弟「ふぅ、ひと仕事終えた爽快感があるねェ」コキコキッ

ヤマメ「ほら、筋肉お兄さん、頼まれてたオレンジジュースを地上で取り寄せてきたよ」

戸愚呂弟「! これは果汁100%中の100%ォォ!!」

こいし「トグロちゃん何かテンションおかしいよー」アハハハハッ


さとり「」~~(魂)


お燐「さとり様、大丈夫ですか~。ちょっと魂抜け出てますよ」

お空「こんだけ早いスピードで解体できるのなら、同じように直すこともきっとできますよ。私も手伝いますし」

ヤマメ「私も手伝っても構わないよ。建築は土蜘蛛の得意分野だからねぇ」

パルスィ「姐さん、あいつよ!」

勇儀「ほう、こいつがねぇ」ジャリ


戸愚呂弟「あんたは?」

勇儀「『鬼』――と言ったら一番分かりやすいかね。なるほどいいガタイしてるじゃないか。おい、酒樽!」

キスメ「は、はいっ」

勇儀「ゴキュゴキュゴキュ……っっぷはァー!!」


ドンッ!!


戸愚呂弟「…………」ゴクリ

勇儀「どうだい? 私と小細工ナシの純粋な力勝負をしてみないか? この旧地獄の怪力乱神・星熊勇儀とね」ニヤリ

戸愚呂弟「いいですよ。ようやく地獄で鬼に会えて光栄です。貴女の胸を借りるつもりで、勝負させてください」

勇儀「はははッ! 決まりだ! 私が勝ったら、お前には酒樽一杯分の酒を呑んでもらおうか!」

勇儀「覚悟しなよ」ギラリ

戸愚呂弟「だから、酒はダメなんでね」

戸愚呂弟「――負けませんよ」ニヤリ

キスメ「ひぃ……」ブルブル

お空「じゃあその次は私と勝負よ!」

こいし「じゃあ次の次は私だよー」


萃香「たまたま勇儀のとこに呑みに来たら、いい余興が見られそうじゃないかい」グビグビ

天子「ふははははっ、いいぞ! 殺し合え殺し合えー♪ 生き残った奴は私と勝負してやってもいい!」トポトポ

ヤマメ「いやいや、何で不良天人様までこんなところにいるんだい?」

天子「地上の妖怪どもは骨がなさ過ぎて相手をしても手ごたえがないのよ」

天子「だから地底のロクでもないならず者たちと遊んであげようと思ってね」

パルスィ「あらあらロクでもなくて悪かったねぇ。いいご身分で好き勝手やっても疎まれ封じられない奔放者……ああ妬ましい」

さとり「はぁ」

お燐「さとり様、正気に戻られましたか」

さとり「さすがにね」

お燐「まあ、屋敷のことはともかく。さとり様が皆と酒席を共にされるのはいつぶりでしょう」

さとり「さあね。でも本当に久しぶり」

お燐「ご気分はいかがですか」

さとり「そうね。ペットの貴方達は別にしても。今そこでぶつかってぎゃーぎゃー騒いでいる連中は、単純で変に詮索しないで済むからいい」

お燐「あらら、なかなか辛辣な言いようですね」

さとり「そんなことはないわ。むしろちょっと羨ましいのよ」

お燐「というと?」

さとり「私もいっそバカになれたらな……ってね」

勇儀「先手は取らせてやるよ。さあ、どこからでもかかってきな、ボウヤ」コォォォォ

戸愚呂弟(見たことのない量の妖気だねェ……。浦飯も最終的には目を見張るほどの成長を見せた)

戸愚呂弟(だが、そんな浦飯の120%の力や、オレの死力を振り絞った100%中の100%の力)

戸愚呂弟(それを遥かに超えてゆく……計り知れない力を持った猛者達が、この幻想郷や『魔界』には大勢いるに違いない)

戸愚呂弟(オレは井の中の蛙だったということか……。『人間界』で強くなり過ぎたなどと豪語していた己の浅はかさには恥じ入るばかりだねェ)

戸愚呂弟(オレこそが最高のピエロだったのだ。ならば。俺が、この先いるべき居場所とは――)

勇儀「どうしたい。戦う前から怖気づいか。そのナリで案外と小心者かい?」


戸愚呂弟「おおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」ゴォォォォォ!!

勇儀「!」

戸愚呂弟「いくぞォォォォオオオオオオオオッッ!!!」ギュオオオオオ!!

勇儀「ふふ、ハハハハッ!! 来ぉぉいッ!!!」ブォォォォオオ!!




メギィィィッッ!!!





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【中有の道】

カァー カァー

妖夢「心の働きや感情を有するもの――つまり生きとし生ける衆生のことを有情(うじょう)といいます」

妖夢「有情が迷いの世界で輪廻転生するとき、その1サイクルのなかでどのように存在するか。その存在の状態を四つに分けたものを四有といい」

妖夢「生存しているときは本有(ほんぬ)、臨終のときは死有(しう)、転生して新たな生を受ける瞬間は生有(せいう)」

妖夢「そして、死んでから新たな生を受けるまで、つまり死有と生有のちょうど中間のことを」

戸愚呂弟「中有(ちゅうう)というわけだねェ。この中有の道は、仏教でいうところの四十九日に至る道のりみたいなものかい?」

妖夢「ええ、そういう感じですね。幻想郷ではこの道の先に三途の河があり、河の向こうが彼岸です」

戸愚呂弟「そこに『新地獄』があり、あんたが住んでいる『冥界』もあるということか」

妖夢「はい。もっとも、三途の河を渡るまでには幻想郷と外部を隔てる『博麗大結界』を超える必要がある。さらに――」


〽ラシドシラ ラシドシラシー


戸愚呂弟「チャルメラ?」


地獄に落とされた罪人A「いらっしゃい。ヒヒヒ、兄ちゃん。見ないツラだねェ」

地獄に落とされた罪人B「嬢ちゃんは白玉楼のおちびちゃんじゃないか、また遊んでやろうかね。グヘヘ」

戸愚呂弟「ほぉう。縁日かね」

妖夢「地獄に落とされた者達がテキ屋をやっています。まあ一応模範囚なのですが、元が極悪人ですからね」スチャ

戸愚呂弟「血の気が多いってことだねェ」ニヤリ


罪人A「お覚悟を。」ダッ

罪人B「だてに地獄は見てないぜッ!」ダッ


戸愚呂弟「腕がなるねェ」ムキムキムキッ

妖夢「この魂魄妖夢――斬れぬものなど、あんまり無いッ!」ギィィン!!


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【彼岸・新地獄】

映姫「なるほど、冥獄界に送られるほどの『重罪人』が幻想郷に闖入した可能性があると」

コエンマ「うむ。消息を絶ってはや1か月になる」

映姫「責任の所在は?」

コエンマ「霊界は道中での偶発的な『事故』として秘密裏に処理する方針をとっておる。みだりに勢力圏外の幻想郷に手出しはできないのでな」

小町「本来は重罪じゃないといっても、数えきれない妖怪を殺してきたんだろう? そんな輩を幻想郷に野放しにするっていうのかい?」

ぼたん「罪状だけ聞いたら大丈夫なのかと心配するかもしれないけどさ」

ぼたん「戸愚呂と幽助達の戦いをずっと見てきたあたしたちには、戸愚呂が今後みだりに妖怪や人間をあやめたりするとは思えないんだよね」

小町「そうなの? ま、本人の人となりを知らないあたい達には何とも言えないねぇ」

コエンマ「勿論、本人を見つけ出すことができれば、改めて冥獄界に護送することになるが、それはなかなか容易ではないのだろう?」

映姫「我々とて幻想郷そのものは管轄外になるので、迂闊に干渉することはできません。できても聞き込み等に死神(ひと)を遣わす程度ですね」

小町「へぇー。誰に行かせるんです、映姫様?」

映姫「貴女が行くんですよ、小町」

小町「えぇ~!? あたいは三途の河の水先案内の仕事が……」

映姫「貴女が昨日も仕事をサボって河のほとりで酒を呑んでいるのを獄卒が目撃しています」


小町「行ってきます!」

ぼたん「あたしも手伝うよ!」







戸愚呂弟「その必要はない」ジャリ

妖夢「…………」ザッ







ぼたん「と、戸愚呂だ! あれは本物だよ!」

小町「ほう、あれが例の。って半人前のどっちつかずですっかり自機になってもネタキャラと化した自称メジャー級の二刀流剣士さんも一緒かい」

妖夢「ちょっと貴女私のことバカにしてるわね!? そんな自称もしてないわよ!」


コエンマ「自分からここまで来たというのか?」

戸愚呂弟「そういうことだ」

映姫「よく彼岸まで辿り着けましたね。すんなり来られるような場所ではありませんが」

戸愚呂弟「天界とやらに繋がりがある変な女に遭ってね」

戸愚呂弟「あれは本当に面倒だったが、そのツテで、まあ見ての通り、こちらの冥界の剣士さんを紹介されてね」

妖夢「白玉楼の従順なる庭師・魂魄妖夢がここまで案内したというわけよ」

妖夢「何としても自分の居るべき場所に向かいたいという、本人たっての希望でね」

戸愚呂弟「随分道草食ってしまったが、オレが冥獄界に行くという意志に変わりはない。それがオレにとっての『贖罪』なんでね」

コエンマ「戸愚呂……お前というやつは」

戸愚呂弟「今度はちゃんと先導役をつけて道案内をしてもらえるかね」

コエンマ「分かっておる。ぼたん」

ぼたん「勿論だよ」

小町「ふむ、何ならあたいもその道案内に同行しようじゃないか」

映姫「小町は自分の仕事をしなさい」



「いやいや余所の管轄の地獄を見学して見分を広めたいだけで!」
「つまらぬ嘘をつくのはやめなさい。まったく、働き者のぼたんさんの爪の垢を煎じて飲ませたいぐらいですよ」
「えっ、いえいえ。あたし全然そんな凄いもんじゃないですよー」
「まったくいい迷惑だったわ。私は幽々子様が力添えしろというからわざわざここまで案内しただけで」
「ほぅ、そう言っている割にはお前さんも結構楽しそうじゃないかい」
「そ、そんなつもりは!」


戸愚呂弟「…………」

コエンマ「戸愚呂、今何を思っている」

戸愚呂弟「あんたに言うほどのことではない」

コエンマ「そうかい」

戸愚呂弟「…………」

戸愚呂弟「幻海たちに対してのそれと比べたら、取るに足らないことだと前置きはしておく」

コエンマ「ふむ」

戸愚呂弟「それでも短い間だが、オレも幻想郷(こっち)の妖怪達には世話になった。それだけだ」

コエンマ「……そうか」







戸愚呂弟は今度こそ無事に冥獄界に送られた。

数年後、魔界植物と一体化した戸愚呂兄が幻想入りし、風見幽香のお気に入りの観葉植物の1つになったのはまた別のお話。






(おしまい)

めっちゃ痛々しい後書きを、立つ鳥跡を濁すがごとく書いてみる


5年前の2014年7~10月に『ぬ~べ~』×『東方』のクロスSSを書いた者です。

その後もSSなり小説なりエッセイなりラジオドラマ脚本なりエロゲシナリオなり書評なりを書き続けています。

そんな中でも、既存の魅力あるキャラクターを自由に動かして、地の文なしでサラッと書ける二次創作SSはいい気分転換になります。
8年間で300本以上書き、200本以上適当なサイトで投下しました。

またどこかでお目にかかる機会があれば。
それでは失礼します。

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