えっ、あ ～…　凶、だったんだっ。
そっかぁ、それはざ、ううん、えーっと。

あのね、おみくじ引きたいって言ったのは私のわがままなんだし、そんなに落ちこまなくっていいよっ。


こうやって一緒にお参りに来てるだけでも楽しいんだし♪

例年なら、家族そろって初詣して、おみくじを引いてから厄除けのお祓いをしてもらって…　っていうのがうちの元日の過ごし方なんだー。


今年はほら、年越しライブもあったし年明けから生放送に呼んで貰ってたりするから地元に帰るのはおそくなっちゃうけどね。

正月から仕事って、バイトしてた頃はやだな～って思ってたけど、
こうやってアイドルやり始めてからはそう悪くもないかな？って思ったり…


お父さんも番組楽しみにしてるよーってさっき電話くれてさ。

んっと、そういえばなんだけど。


プロデューサーって私の両親に会ったことあるんだよね？
ほら、この間のライブツアーの時に楽屋テントのそばでばったり会って名刺もらったんだ～ってお母さんが言ってて。

私のお父さん、何歳ぐらいに見えた？
もうじき還暦なんだよっ。

お母さんのほうがちょっと若いんだけど、結婚したのはどっちも三十歳過ぎてからでね。


だから色々難しいこともあったし、二人で生きるって選択も考えたみたいなんだけど、
それでもやっぱり子供が欲しいって思ってたんだって。


なんだかんだ試してみたんだけど、なかなか恵まれなかったみたい。

和歌山の西側の、淡路島寄りの所に子宝祈願でちょっと有名な神社があるんだけどね。
結婚五年目ぐらいのお正月に、そこにお参りに行ったんだって。

参拝と奉納をして、お祓いを予約して待ってる間におみくじを…　ってお母さんが引いたのがね、凶だったの。


そうそう、さっきのプロデューサーみたいにすっごく落ち込んじゃったんだって。

その様子を神主さんが見かねたのか、
心を落ち着けてからでないとお祓いも上手くいきませんから…ってことで、
お祓いの前に、少しだけお話をしてくださったんだって。

『神様の前でこう言った俗な話は憚られるのですが、まあ一つお聞き下さい。


　この”凶”という字なのですが、よくよく見ますと片仮名の”メ”が箱の中から少し出ている。
　つまりメ、出たい。めでたい、と受け取れるのではないかと。
　昔からこのように言われているのですよ。
　少し強引な解釈に思われるかもしれませんが、
良いように受け止めるという心持ちひとつで気持ちを落ち着けて向き合うこともできましょう』

『それから、わたくしは神職ですので、きちんと神様の前でお話出来ることを一つ。
　その凶のおみくじはどうか、神様の宿りますこの境内の木に結んで帰ってくださいね。
　
　それもただ結ぶのではなく、例えば利き腕と反対の腕を使ったり、お二人で片手ずつ協力したりと、
　少し苦労をかけて結んでいただきたいのです。
　そうすることによって、困難を達成した、つまり修行をなして神様と縁を”結ぶ”ことができまして。
　凶を吉と転ずる助けになる、ということです』

その言葉で少し、気が軽くなったみたい。
そうして、しっかりとお祓いをしてもらって。




二人の願いが神様に届いたのかどうかはわかんないんだけど、
それから少しして、なんとお母さんのお腹に子供が宿ったの。

そうそう。私のことだよっ。

それ以来、出産までの間にお父さんが何度もその神社に通って、無事産まれますようにーって熱心にお参りしたんだとか。


妊娠中も産中産後も母子ともに健康で、大きな厄なくぽーんって私が産まれたのがその年の秋。

お父さんもお母さんも、それから孫を楽しみにしてたおじいちゃんおばあちゃんたちも大喜びだったみたい。
本当に芽が出てきたみたいだ、めでたいめでたい……


それで、「芽、いづる、子」で”めいこ”。
漢字を整えて芽衣子、って名付けたんだって。

ここまでぜーんぶ、ちっちゃいころから何回もお母さんに聞かされてたからもう覚えちゃった。


…ってなんの話してたんだっけ？
そうそう、だからね、んーと…

そんなに落ち込まないでってこと！
たしかに凶を引いちゃって運がないなーってなっちゃうけどね、年明けから沈んじゃったら楽しくないし。

こじつけでもなんでもいいから、明るくとらえていい運気を呼び込もっ♪

ねっ、もしかしたら今年は、ううん今年も、何かが芽吹くいい年になりますよーってことかも？


そうだったらいいよね！
そうなるように今年も二人でがんばろーねっ♪

−−−


えっ、私のおみくじ？


それはね、……じゃーん♪
ほら、おそろいだよっ！
ねぇプロデューサー、はやく一緒に結びにいこ？




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