キョン「好きだ」佐々木「えっ?」 (25)

「キョン……僕の話を聞いてるのかい?」
「んあ?」
「どうやら全く聞いてなかったようだね」

あれはまだ、俺が中坊だった頃。
同じクラスに佐々木という変わった奴が居て、同じ学習塾に通ったこともあり親しくなった。
変わっていると言っても、どこぞの団長様のように毎日髪型を変えたり校庭に地上絵を描いたりすることはないのだが、何故か男子相手に限定で、まるで男のように振る舞う奴だった。

「すまん、なんだって?」

季節は冬であり、まるで強いられているかの如く、狂ったように温風を吐き出す教室内に設置された暖房の熱気にやられて、授業の後、ぼうっとしていて聞きそびれた俺に、佐々木はやれやれと嘆息して、こんなことを尋ねてきた。

「だから、もしキミが貰うならマフラーと手袋だったらどちらが必要かと聞いているんだ」

なんだ、何かと思えばそんな話か。
マフラーと手袋。究極の選択である。
守るべきは手か首か。悩みどころだ。
急所という意味ではまず真っ先に首を守るべきだろうとは思うが果たしてそれが正解なのか。

すぐに返事が出来ない優柔不断な俺を見て、佐々木はまたしてもやれやれと首を振り、くつくつと喉の奥を鳴らして笑った。

「そんなに悩むことかい?」
「若いんだから、悩ませろよ」
「それは若者の台詞ではないと思うよ」

それもそうだなと思い、俺は結論を出した。

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「マフラーが欲しい」
「ふむ。それは何故?」

ほらな、やっぱり佐々木はこういう奴だ。
人に悩むなと言いつつも理由を求めてくる。
だから事前に悩みに悩んでその理由を考えた。

「そっちの方が編むのが簡単だろ?」
「ほう? なかなか面白いことを言うね」

すっと目を細めて硬い声で、まるで見当違いな発言を咎めるようなことを言っているが、佐々木の口元は皮肉げに片方が持ち上がっていた。

「勘違いだったら悪かったな」
「やれやれ、キミがそこまで自意識過剰だったとは知らなかったよ。だけど自信満々にそんなことを言われてしまっては友人として恥をかかせたくないと思わずにはいられない。だから仕方ないけど、面倒な編み物に挑戦してみるよ」

自分で言って自分でくつくつ笑う、佐々木。

「お前、かわいいな」
「っ……い、今頃気づいたのかい?」

中学時代の俺はそこまで捻くれてはおらず、見たままの感想を素直に述べると、佐々木はほんの僅かに頬を紅潮させて取り繕っていた。

「佐々木、繕うのは編み物だけでいいぞ」

そう言って笑うと、佐々木は奥歯を噛みしめ。

「……キミは僕をどうしたいんだい?」

別に、今のままで充分だと、俺はそう思った。

それから1週間ほどが経過して。

「見たまえ、キョン」
「どうした、佐々木」
「ついにマフラーが完成したんだ」

その日、佐々木は何やら一日中ソワソワしていて、俺はてっきり牡蠣にでも当たって腹を下したのだろうと思っていたのだが、その予想は残念ながら外れ、鞄からマフラーを取り出した。

「どうだい? 上手いものだろう?」

茶色の毛糸で編まれたそれをしげしげと見物する俺に、佐々木はさも得意げに発展途上の胸を反らして自らの編み物の腕前を誇っている。

「ああ、たいしたもんだ」
「やっているうちに楽しくなってね。ついつい長めに編んでしまったが、なに、大は小を兼ねるから問題はあるまい。二重にだって巻ける」

そう言って、佐々木はその正当性を証明するように自分の細い首に長いマフラーを巻きつけていく。たしかに、とても暖かそうに見えた。

「長いものには巻かれろとも言うしな」
「キョン、その使い方は間違っているよ」

マフラーの下からモゴモゴ突っ込む佐々木があまりにも可愛らしくて、つい笑ってしまった。

「キョン、何がそんなにおかしいんだい?」
「いや、やっぱり変わり者だと思ってな」
「そうとも。僕は変わり者で、その個性は唯一無二だ。今更文句があるとは言わせないよ?」

唯一無二の親友に文句なんてあるわけがない。

「佐々木」
「なんだい、キョン」

放課後、俺と佐々木は一緒に下校した。
シベリアから吹き荒れる風が冷たかった。
しかし、隣の佐々木は非常に暖かそうだ。

「いつまでマフラーしてんだ?」

それもその筈、佐々木は教室で巻いたマフラーをそのまま身につけており、返却しなかった。
故に恨み言を投げかけると、小首を傾げて。

「えっ? このマフラーは僕が編んだから当然、僕のものだよ。そんなの当たり前じゃないか」

こいつ。冗談にしてもタチが悪すぎる。

「ああ、そうかよ」
「うん。そうだよ」

くそっ。
期待していた自分が恥ずかしくて死にたい。
悔しさを溜息に滲ませると、追求してきた。

「おやおや? 何をがっかりしているんだい?」
「別に……なんでもねぇよ」
「やれやれ、素直じゃないね」

まさか自分の為に編んでくれたと思っていたとは言えず、なんでもないと言い張ると、佐々木はくつくつ笑い、マフラーを半分程ほどいて。

「仕方ないから半分こにしよう」
「は?」
「ほら、そっちの端を首に巻きたまえよ」

呆気に取られる俺の首に、佐々木がほどいたマフラーの片端を巻きつけていく。顔が近い。

「これでよし。ん? どうかした?」
「……お前は俺をどうしたいんだよ」

嬉しくて暖かくてまともに顔が見れなかった。

「キミをどうにかする権利をくれるのかい?」

視線を斜め左下の地面に固定した俺の頬に、佐々木はおもむろに手を伸ばして、ひんやりとした指先で優しく撫でてきた。ゾクゾクする。
佐々木は今、どんな顔をしているのだろう。

「キョン、こっちを見て」

俺とて、見たいのはやまやまだが、見れない。
恥ずかしいのはもちろんだけど、それよりも。
見たら何かが変わってしまいそうで怖かった。

「やれやれ、キミはお礼も言えないのかい?」
「……ありがとよ」

なんとかお礼を喉から絞り出すと、佐々木は正面からまた俺の隣にきてこちらの手を握った。

「手袋の代わりだよ」

佐々木の手は冷たくて、手袋の代わりにはなりそうもなかったが、お礼に俺が暖めてやった。

「キョン……何か話してよ」

その後、マフラーを共有し、手を繋いで黙々と歩いているとそんな注文が入った。参ったな。
しかし、俺も男だ。よし、あの話題にしよう。

「お前今日、ずっとソワソワしてただろ?」
「マフラーが完成して嬉しかったんだ」
「俺はてっきり昨日の晩にでも生牡蠣を食って、腹を下したんじゃないかって思ってた」

他愛のない嗤い話。その筈だったのだけど。

「な、なんで知って……っ」

ぎゅるるるるるるるるるるるるるるぅ~っ!

「お?」
「ち、ちがっ……今のは、その……」

何が違うというのか。
今のは間違いなく腹の音だ。
断じて戦闘機が低空を飛行したわけではない。
全てを悟った上で俺は優しく佐々木を諭した。

「繕うのは編み物だけでいいと言っただろ?」

やれやれ。やはり、こうなる運命らしかった。

「大丈夫だ。佐々木、俺に任せろ」

佐々木が珍しく女らしさを発揮して編み物をしてくれたのだ。俺も男らしさを見せなくては。
そんな使命感に駆られて俺は佐々木を導いた。

「キョン、ここは女子トイレだよ……?」
「心配するな。緊急時の使用は認められてる」

やって来たのは帰り道にあった公園のトイレ。
幸いにも人気はなく、絶好の脱糞スポットだ。
まあ、トイレなのだから当たり前ではあるが。

「さて、佐々木」
「な、なんだい?」

なるべくわかりやすく、俺は説明してやった。

「今、俺とお前はマフラーで繋がっている」
「ああ、すまない。今、ほどくから……」
「待て待て。どうしてそうなる。落ち着け」

マフラーをほどこうとした佐々木を止める。
何を考えているのだろう。びっくりしたぞ。
佐々木は腹痛で冷静さを失っているらしい。

「このまま用を足すに決まっているだろう」
「は?」
「仕方がないんだ。マフラーがあるからな」

マフラーのおかげで大義名分が成り立つのだ。

「キョン……僕ね、今すごくお腹が痛いんだ」
「ああ、わかっている」

佐々木の気持ちは痛いほどにわかる。
俺も過去に生牡蠣にやられた経験があった。
だからこそ、早く楽にしてやりたかった。

「さあ、佐々木。遠慮はいらん。出してくれ」
「遠慮というか、出るものも出ないというか」

やれやれ。ならば、こうするしかあるまい。

「よっこらせ」

俺が先陣を切って狭い個室内で尻を出すと。

「きゃあっ!?」
「な、なんだ!? どうした佐々木!?」

よもや涼宮ハルヒが時空を越えて来襲したのではないかと危惧した俺が半ケツのまま臨戦態勢で周囲を警戒してると、後頭部を叩かれた。

「痛ってぇな、この野郎!?」
「キョン! 出すなら出すって言ってよ!?」
「あ、すまん」

どうやら先程の佐々木の悲鳴はいきなり尻を露出した俺に向けられたものだったらしく、配慮に欠けた振る舞いを素直に詫びた。一件落着。

「出すぞ」
「もう出してるじゃないか!?」

言われてみれば確かに。ここは仕切り直そう。

「ひとまず仕舞ったほうがいいか?」
「えっ? べ、別に、そういうわけではなく」

じゃあどうすりゃいいんですかね、この子は。

「僕はその……キ、キミのお、おお、お尻が思った以上に綺麗で、なんだか自分のお尻に自信がなくなってしまったというか、と、とにかくそんなわけで尻込みしてると察したまえよ!」

それを察しろと言うのは無理があるだろう。
しかし尻が綺麗と言われて悪い気はしない。
ならば今度はこちらが佐々木の尻を褒めよう。

「佐々木、尻を見せてくれ」
「もう少しほかに言い方はないのかい?」
「お前のうんち穴を……」
「わかった! わかったよ! ボクが悪かった!」

降参した佐々木が渋々とうんち穴を露出した。

「これが、佐々木の尻……」
「うう、あんまり見ないでくれ」

佐々木の尻は小さかった。
けれど決して貧相なわけではなく。
むしろ乏しい胸よりもずっと魅力的だった。

「キョン、今、失礼なことを考えたね?」
「滅相もごさいません」

マジでキレる5秒前だと瞬時に察した俺は、すぐさま否定して、機嫌を回復させることにした。

「すごく綺麗だ」
「ちゃんとね、拭いてるから。汚くないよ?」
「ああ、わかってる」

不安げな佐々木を安心させる為に尻を舐めた。

「ひゃんっ!?」
「おっと、失敬」

悪い舌だ。しかし、褒めよう。尻は甘かった。

「キョン、キミは女の子の扱いがなってない」

そんなことを言われてもどうしようもない。
なにせこちとら女性経験に乏しいもんでね。
そう開き直っていると、佐々木は低い声で。

「キョン、お尻をこちらに向けたまえ」
「なんで?」
「いいから、早く!」

急かされて仕方なく回れ右をすると、不意に。

「ちゅっ」
「どあっ!?」

尻にキスをされて飛び上がると佐々木は嗤い。

「どうだい? 僕の気持ちがわかったかい?」

尻を丸出しで偉そうに腕を組んで皮肉気に広角を上げる佐々木がなんだかおかしくて笑った。

「ちっとも反省してないようだね」
「悪かった。海より深く反省してる」
「ん。それなら、許してあげよう」

親友だからねと、微笑む佐々木は可愛かった。

「さて、佐々木。準備はいいか?」
「あ、うん。ちょっと待って……いいよ」

便座に腰掛ける佐々木。俺もすかさず座る。

「はい、ちょっとごめんよ」
「きゃあっ!? な、何だよ、キョン!?」
「もう少しそっちに寄れ、佐々木」

まるで椅子取りゲームか何かのように、ただひとつの便座に半分ずつ腰掛ける、俺と佐々木。

「ほんとに、ほんとに、キミってやつは……」
「集中しろ、佐々木」
「あ、うん。わ、わかった。頑張る」

愚痴愚痴文句を言う佐々木を俺が嗜めると、佐々木は無駄口をやめて、その時に備えた。

「佐々木」
「ん? なんだい、キョン」
「ありがとな」

一言にお礼と言っても様々な意味を持つ。
それは編んでくれたマフラーの件ではなく。
これまでのことやこれからのことも含まれる。

「僕のほうこそ……ありがとね」

会話は裏を読み取ることが肝心だ。
佐々木は頭が良い友人だ。
だから言外の思いを汲んでくれる。
そのことに改めて感謝しつつ、ぶちまけた。

ぶりゅっ!

「フハッ!」

巻いたマフラーの下から、愉悦が響き渡った。

「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

ぶりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅぅ~!

別に俺まで脱糞する必要はないかも知れない。
なら、佐々木が用を足すのを見てればいいか。
それは間違っている。2人でするべきだろう。

だってその方が、独りきりよりも愉しいから。

「ふぅ……大丈夫か、佐々木?」
「はあ……はあ……うん。スッキリしたよ」

2人分の排泄音と共に高らかに哄笑を響かせて、正気に戻った俺が佐々木を労ると、やや疲れた様子ではあるが、彼女は非常にスッキリした面持ちで、健在だった。その健気さが、眩しい。

「無理しなくていいんだぜ?」
「僕は無理なんてしてないさ」

そう言って貰えると嬉しくなる。
わざわざ一緒に脱糞した甲斐がある。
よく出来た親友の尻を優しく拭いてやった。
するとお返しとばかりに佐々木に尻を拭かれ。
入った時と同じく手を繋ぎ、トイレから出た。

「ごめん……臭いがついてしまったね」

帰り道、謝る佐々木に憤りが募る。
マフラーに臭いをつけたことの謝罪。
臭いだなんて。まるで、臭いみたいに。
これは匂いであり、佐々木の良い匂いだ。

「好きだ」
「えっ?」
「……俺はお前の匂いが好きだ」
「……僕もキミの匂いが、好き」

マフラーの下でモゴモゴと俺たちはそう言い繕い、固く手を握り合う。マフラーが暑かった。


【佐々木とキョンの言い繕い】


FIN

丁寧な描写と地の文からフハッの人だと把握余裕
排泄シーンが出て安心した

>>15
ご明察です
匿名掲示板で文章だけを読んでわかって頂けるのは、作者としてはとても嬉しいことだと思っております
先日、一昔前の長門の名作お尻SSを読んだので、触発されて久しぶりに佐々木SSを書いてみました
全盛期の先輩方には敵いませんが、精進します!

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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