【ラブライブss】善子「海の香り」 (36)

私、津島善子には苦手な先輩が1人いる。

松浦果南

同じスクールアイドルのメンバーなのだが、この先輩だけは苦手だ。

私は1年だからグループの殆どが先輩にあたる。

でも、2年生の人たちは向こうから話しかけてくれるし、他の3年生の2人はなんとなく話しかけやすい。

そんな中、松浦果南だけはなんとなく距離感が掴みにくくて話しかけづらい。

それに向こうから話しかけて来てくれる時も、なぜか怒ってる様な感じがして少し怖い。

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果南「ねえ、善子。なんかぼーっとしてるけど、どうしたの?」

善子「えっ、あの、…私はヨハ……いや、なんでもない…です。」

果南「ああ、そうなの。もう練習はじまるから一緒に屋上行くよ。」

善子「あ、はい。すぐ準備します!」

やっぱりなんか、怒ってる?そんな気がしてこの先輩にだけはどうしても敬語が抜けない。

そのせいか、練習に行く準備をするのも焦ってしまう。

善子「すみません。待たせてしまって。」

果南「いいって。…あれ?善子それ、Tシャツ前後ろ逆だよ。」

善子「うわっ、ホントだ!すぐ直します!」

少しテンパってしまう私を、果南さんはじっと見てくる。そういえば、さっき着替えてる時もそうだった。

やっぱり早くしろって、怒ってるのかな。嫌われてるんじゃないかって、どうしても不安になってしまう。

花丸「あ!善子ちゃんやっと来た。遅いずら。」

善子「善子じゃない!ヨハネよ!……でも、遅くなったのはごめん。」

ルビィ「善子ちゃんが遅刻なんて珍しいよね。」

善子「だからヨハネ!」

同級生の2人とそんな話をしながらも、ふと果南さんの方を見る。

果南さんは他の3年生の2人と話している。

よくよく考えたら私を呼びに来たの、なんで果南さんだったんだろ。

こんなことを思ったらダメなんだろうけど、正直他の人に来て欲しかったなー、なんて。

千歌「みんなそろったし、練習始めるよー!」

全員「はーい!」

数時間後…

千歌「今日の練習終わりー!」

全員「はーい!」

私は練習が終わると帰りのバスが同じの曜さんと一緒に帰っている。

善子「曜さーん、帰りましょ。」

曜「あっ、善子ちゃん。ちょっと待ってねー、すぐ準備するから!」

果南「ねぇ、善子。この後さ、予定ある?」

曜さんの着替えが終わるのを待っていると、果南さんが話しかけて来た。

今まで、練習後に果南さんが話しかけてくることなんてなかった。

それに、この後の予定を聞かれるなんて、ますます何の用事か分からない。

善子「えっと、この後は曜さんと一緒に帰るだけですけど。…何かありましたっけ?」

練習後の予定って何かあっただろうか?もしかしたら、私が忘れてる事があったかもしれない。

だって果南さんが、わざわざ私に話しかけてきたんだから。

果南「何かっていうか、予定空いてるならさ、……こ、これからクレープ食べに行かない?沼津の方に新しい店ができたらしくて。」

善子「………へ?」

 え?なに?クレープ?私と果南さんが?予想外の誘いに頭の中ははてなマークでいっぱいになってしまう。

 ……しかし、果南さんの後ろ少し離れた所で他の3年生の2人が此方を見ている。

みんなで行こうってことなんだろうか。

それに、沼津なら曜さんも一緒に行けるだろうし。

果南「善子?…やっぱり予定あったとか?」

善子「いやいや!クレープ食べに行きたいです!…ちなみに、理事長と生徒会長も一緒ですか?」

そういうと、果南さんは後ろを振り返って理事長の鞠莉さんと生徒会長のダイヤさんの方を見た。

果南「あー、いや、あの2人は行けないって。まだ学校の仕事が残ってるらしくて。」

善子「あ、そうなんですか。じゃあ、曜さんも誘うとか?」

果南「えっ?曜?…曜は、どうだろ?」

曜「私?私は、……あ、あー!そういえば私これから水泳部の方に顔出すんだった!ってことで私は行けないからさ、果南ちゃんと2人で行ってきなよ!」

いやいや、2人でなんて果南さんの方が嫌だと思うんだけど。

それに、今の曜さんなんかわざとらしくなかった?後ろの3年生2人の方を一瞬見たような気もするし。

果南「わ、私と2人じゃ嫌、かな?」

善子「えっ!?…いやいや!嫌なんてことないです!」

とは、言ったものの。き、気まず過ぎる!

沼津行きのバスには乗ったが、それから一言の会話もない。

何か話した方がいいのは分かるけど、話題が思いつかない。

改めて私と果南さんの違いを痛感させられる。

果南さんの趣味はダイビング、明らかな体育会系。

それに対して私は、休みの日に外に出ることなんてまずない。

不登校の経験もあるような、圧倒的なインドア派。

話題なんて見当もつかない。

横に座っている果南さんを見ると、窓の外を見ている。

普段の果南さんってこんな感じだっけ?もっと明るくて、おおらかなイメージなんだけど。

やっぱ私と2人じゃ、つまんないんじゃ…。

結局、2人して黙ったまま目的地のクレープ屋さんまで来てしまった。

果南「あっ、ここだよ。入ろ。」

善子「…はい、入りましょう。」

果南「善子は何にする?……あっ、ストロベリーチョコレートっていうのあるよ?善子、これ好きそうじゃない?」

善子「えっ、ホントだ。私それにします!」

以外だった。果南さんが、私の好きなものを知っていたなんて。

そんなことを思っていると、果南さんが注文を始めていたので急いで財布を取り出した。

果南「今日は私が誘ったんだし、お金は私が出すよ。だから、善子は席取って来て。」

善子「いや、それはさすがに……」

果南「いいから、私の方が先輩だしね。」

善子「……じゃあ、ごちそうになります。」

空いている席に座って果南さんを待っている間にも、奢ってもらったことを申し訳なく思ってしまう。

それは果南さんのことをあまり知らない、苦手に思っている為に、遠慮しているからだろう。

果南「お待たせ。はい、こっち善子のね。」

善子「あ、ありがとうございます。」

果南「さ、食べよ食べよ。いただきまーす。」

善子「…いただきます。」

あ、おいしい。

このクレープすごくおいしいわ!チョコの甘さとイチゴの酸味が最高ね!

予想以上の美味しさに、思わずテンションが上がってしまう。

そのせいで少しの間、クレープに夢中になってしまった。

ふと、果南さんを見るとなぜか、じっとこちらを見ている。

自分のクレープにはほとんど、口をつけていない。

そもそも、果南さんの持っているクレープはクリームだけの1番普通のやつだ。

わざわざ、私を誘ってまで来たのにそれが食べたかったのだろうか。

少し不思議だ。

善子「……あの、私の顔に何か付いてます?」

果南「えっ!?、……えーと、そういうわけじゃないよ。ただ、…美味しそうに食べるなぁと思って。」

果南さんにそんな風に言われて、自分でも顔が赤くなるのが分かるくらいに恥ずかしい。

それに、なぜか果南さんも少し顔が赤くなってるような気がする。

 その後は、特に会話もないまま2人ともクレープを食べ終わった。

果南「いやー、美味しかったね。」

善子「はい、美味しかったです!」

果南「じゃあ、もう遅くなっちゃうし帰ろっか。」

そうして、店を出たのだが外は雨が降っていた。

天気予報では雨なんて言ってなかったのに。

堕天使ヨハネであるこの私の不幸は侮れない。

果南「あー、雨降ってきちゃったか。傘なんて持ってきてないよー。」

普通なら、天気予報で雨と言われない限り傘なんて持たないだろう。

しかし、常に不幸な私は違う。

いつ不幸な雨に降られてもいいように、折りたたみの傘を常に持ち歩いているのだ。

善子「あ、ならこの傘使って下さい。私は走って帰れる距離なので大丈夫です。」

私は、折りたたみ傘を半ば無理やり渡し、果南さんの静止も聞かずに雨の中に飛び出した。

それは、何かから逃げるようにも見えただろうか。

善子「今日はありがとうございました。……では、また明日学校で。」

それからは、雨の中をひたすら走った。

走って帰れる距離とはいったが、正直言って店から家まではそんなに近くない。

家に着いた頃には、すっかり濡れ鼠になってしまった。

善子「……ただいま。」

善子母「善子、おかえり。ってずぶ濡れじゃない!傘、いつも持ち歩いてたやつどうしたの!お風呂入れてあるからすぐ入っちゃいなさい!」

善子「…うん、そうする。」

お風呂に入りながら、今日のことを思い返す。

果南さんに誘われたこと、せっかく誘ってくれたのにほとんど話せなかったこと、そして雨の中、逃げるように帰ってきてしまったこと。

 今になって、いろんなことを後悔し始める。

私の悪い癖だ。

こんな性格だから、不登校にもなるのだろう。

現に、明日学校に行くのが憂鬱になってきている。

正確には果南さんに会うのが、だろう。

善子「……はあ、明日学校休んじゃおうかしら。」

次の日、結局学校を休んでしまった。

親には体調が悪いと言っておいた。

実際にはそんなことないのだが。

やる事もないので、昨日のことを思い返す。

こうして冷静になって考えてみると、果南さんは私と仲良くなろうとしてくれたんじゃないかと思う。

果南さんに対して他のメンバーにはない距離を感じていたのは事実で、私がそう感じていたということは果南さんだってそう感じていて不思議はない。

そう思った途端、昨日のことがますます申し訳なくなってくる。

せっかく仲良くなろうとして、誘ってくれた人に対して昨日の態度。

どう考えても、最悪だ。

そんなことを1人で考えていると目が潤んでくる。

 そんな時、突然インターホンが鳴った。

今の時間は16時ちょっと過ぎ、誰だろう。

取り敢えず、親はいないので私が出なくてはならない。

善子「お待たせしま…した。」

ドアを開けるとそこには、生徒会長のダイヤさんがいた。

…ヤバい。仮病がバレた?とにかく絶対に良い話ではない。

ダイヤ「こんにちは。善子さん。……少しお邪魔してもよろしいですか?」

善子「えっと、……はい、どうぞ。」

ダイヤ「では、お邪魔しますわ。」

ダイヤさんは非常に丁寧な仕草で、靴を揃えて上がってきた。

今のところ、ダイヤさんが来た理由が特に思い当たらない。

不登校経験のある私が、今日1日休んだぐらいでわざわざ来ないだろうし。

そんなことを考えながらも、生徒会長を自分の部屋へ案内した。

善子「えっと、適当に座ってて下さい。お茶入れてきます。」

ダイヤ「いえ、お構いなく。善子さんも座って下さい。さっそくですが、今日は少しお話があって来ました。」

善子「……今日休んだ事について、とか?」

ダイヤ「ええ、その通りですわ。まず、今日休んだ理由を聞かせてもらっても?どうにも、体調が悪いようには見えませんが。」

 …ば、ばれてる。どうしよう。

正直に話す?でも、果南さんと会うのが気まづいからなんて言えない。

適当に誤魔化すしか……

ダイヤ「……まあ、大体の見当は付いてますわ。果南さんとのことでしょう?」

善子「えっ、……そ、その通りよ。」

ダイヤ「はぁ、やはりそうでしたか。……まったく、何があったかは知りませんが、善子さんが気に病むようなことはないのですよ?大抵は、果南さんが不器用なだけなんですから。」

善子「…え?果南さんが、不器用ってどういうこと?意味が分からないんだけど。」

ダイヤ「はぁ、…ため息しか出ませんわ。あなたもなかなかの鈍感さんですわね。それに、1人でいろいろ考え込んで泣いているなんて。」

善子「なっ、泣いてなんかないわよ!それに鈍感って、本当に意味わかんないんだけど!?」

ダイヤ「それだけ元気なら、明日はちゃんと学校に来て下さいね。……あぁ、それと明日はAqoursの練習は休みですが、放課後に生徒会室に来るように。では、私はこれで失礼させて頂きますわ。」

それだけ言うと、ダイヤさんは本当に帰ってしまった。

このくらいの用事なら電話かメールでも良かったと思うんだけど。

 明日、果南さんに会ったらまず昨日のことを謝らないといけない。

果南さんを避ける、みたいな態度を取ってしまったことを。

そして、次の日。

この日も雨が降っていた。

私は登校中も授業中も放課後も、生徒会室に着くまでずっと、果南さんにどう謝ろうか考えていた。

おそらくこの生徒会室には果南さんがいるのだろう。

 ……よし!ちゃんと謝ろう。意を決して生徒会室の扉をノックした。

ダイヤ「あぁ、善子さんですね?入ってください。」

善子「失礼します。」

そこに、果南さんはいなかった。

いるのは、生徒会長と理事長の鞠莉さんだけ。

少し拍子抜けしてしまう。

ダイヤ「さっそくですが、善子さん。あなた、果南さんのことはどう思ってますの?」

鞠莉「正直にanswerしてねっ。」

善子「善子じゃなくて、ヨハネ!」

ダイヤ「今そういうのは、遠慮して頂けます?真面目な話ですので。」

善子「あっ、はい。その、果南さんのことは、………最初はちょっと怖い人だなって思ってました。なんか、私にだけ接し方とか違う気がするし。それに、他のみんなにはしてるハグもしてくれないし。……ずっと、嫌われてるんだと思ってた。」

ダイヤ「なるほど、やはり果南さんの不器用さが原因でしたか。」

鞠莉「Ah~、なるほどね。でも、思ってた、ってことは今は違うのね?」

善子「…うん、一昨日のことがあったから。今では、果南さんは私と仲良くなろうとしてくれてるんだって思う。…でも私、果南さんに失礼な態度とっちゃった。だから、果南さんには嫌われちゃったかもしれないけど、謝らないといけないの。」

ダイヤ「はぁ、やはり果南さんの不器用さだけでなく、善子さんの鈍感さも原因の一つですわね。」

鞠香「この2人だけじゃ、いつまで経ってもhappy endにはならないねー。」

善子「それ、どういう意味よ。」

ダイヤ「果南さん、そろそろ入ってきていいですよ。」

善子「………え?」

生徒会長が私の後ろ、ドアの向こうへ声をかける。

 ゆっくりとドアが開き、少し控えめに入ってきたのは果南さんだった。

その目は少し潤んでいるように見える。

私の中に、今までとは違う緊張感が生まれた。

果南さんに謝ると、覚悟してきたはずなのに……。

善子「か、果南さん、……お、一昨日はその、…私、」

果南「待って、善子。…私に、先に話させて。」

果南さんを前にしておどおどと吃る私を遮って、話し始めた。

その声は少し震えている。

しかし、何かを決心したような力強さを感じさせる声だった。

果南「まず、今の善子の話は全部聞いてた。盗み聞きして、ゴメン。……それと、今まで善子に辛い思いさせてたことも、ゴメン。」

善子「いやっ、謝るのは私の方でっ!」

ダイヤ「善子さん、今は果南さんの話を聞いてあげて下さい。」

善子「っ、……はい。」

果南「ありがとう。まず、結論から言わせてもらうと、私は…………善子のことが、好き。恋愛とか、恋人になりたいとか、そういう意味で。」

善子「……………………ん!?」

突然の告白に、考えていたことが全て吹き飛んでしまった。

果南さんが話していることが全然頭に入ってこない。

果南「多分、最初会った時から意識してたんだと思う。…それで私、善子と話すときなんか緊張しちゃって、いつも通りに話せなかった。ハグしなかったのも同じ理由。善子とハグなんて……か、考えただけで、…緊張してくる。…でも、そんな私の態度が善子を苦しめてた。本当にゴメン。それで……」

善子「ちょ、ちょっと待って!一旦待って!全然状況が理解できないんだけど!?私今果南さんからこ、こ、こく、告白されてるの!?」

ヤバイわ、混乱が収まらない。

え?なに?怒ってるような話し方はただ緊張して固くなってただけ?ハグしてこなかったのもそういうことなの?そんな中学生男子みたいなことある?ましてや年下の私に対して。

今までの果南さんのイメージが見る影もなく崩壊していく。

明るくて、おおらかで、みんなの頼れるお姉さんって感じのイメージだったのに!

ダイヤ「その通りですよ、善子さん。少し落ち着いて下さい。」

鞠莉「そうだよ、善子。relaxが大事よ。それでちゃんと、果南の初恋の告白を聞いてあげて。」

果南「初恋って、そんなこと今はどうでもいいじゃん!………まあ、気を取り直して。善子、さっきの続きいいかな?」

善子「えっ?あ、はい。」

果南「ふぅ、…その、いきなり付き合ってなんて言わない。まずは、そのー、友達として仲良くなって欲しいなー、なんて。」

善子「まあ、それはもちろん。これからもよろしく?…お願いします。」

果南「っ…よ、よかったー!じゃ、じゃあさ!よろしくのハグ、しよ?」

そう言いながら、顔を真っ赤にした果南さんが腕を広げる。

その口元は緩んでいて、嬉しそうに少しニヤケている。

そんな顔を見せられたらこっちまで嬉しくなってしまう。

そして、思いっきり果南さんの腕の中へ飛び込んだ。

善子「これから、改めてよろしく!」

 果南さんの腕の中は、ふんわりとやさしい海の香りがした。

終わりです。

pixivには上げてますが、こちらは初めてなので読みづらかったらすみません。

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