関裕美「アクセサリーを作りたい?」 (21)
――事務所
向井拓海「おい、ちょっといいか」
関裕美「え」
拓海「……」
裕美「……私?」
拓海「そうだよ、他にいないだろ」
裕美「ええと……」
裕美(向井、拓海さん、だったよね。話すの初めてどころか、ほとんど顔を合わせたこともないのに……)
裕美(失礼の無いように、しっかり目を見て話さないと)
裕美「あの」キッ
拓海「お? へぇ、アタシにメンチ切るとはいい度胸してンじゃねぇか」ギンッ
裕美(えぇ、困ったな……そういえば、ヤンキー?だっけ。よく分からないけど、乱暴そうなイメージちょっとあるよね……)
裕美(え、もしかして私、目付けられた……?)ギラッ
拓海「はっ、いいモンもってんなぁ」バチバチ
裕美「なんでしょうか……」ギリギリ
拓海「あ、いけねぇいけねぇ。つい昔のクセでやり返しちまった」
裕美「へ?」
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拓海「喧嘩ふっかけに来たわけじゃねえんだ」
裕美「はぁ……」
拓海「しっかし、一丁前のガン付けだったな。こりゃぁ期待できるぜ」
裕美「あのっ」
裕美「何の、用でしょうか」
拓海「あー、そうだったな」
裕美「……」
拓海「……」
裕美「……聞いてる?」
拓海「だーっ、っぱガラじゃねぇなぁーっ」
裕美「は、はい?」
拓海「ちょっと耳貸せ」
裕美「お金とか顔じゃなくて?」
拓海「んなもんいらねえって」
裕美「それじゃ……」ヒョイ
拓海「あのよ……」
拓海「……その」
裕美「?」
ゴニョゴニョ
裕美「えっ。アクセサリーを作りたい!?」
拓海「馬鹿っ、言うなよ!」
裕美「ご、ごめん……」
拓海「ちっ……まぁ、しゃぁねぇ」
裕美「で、でもどうして急に? その、拓海さん、そういうのとは……」
拓海「確かに無縁なんだけどよ……」
裕美「……理由は、聞かない方がいい?」
拓海「あー、まぁいいか…… アタシと組んだ相棒がいてな」
裕美「相棒って、ユニット?」
拓海「まだ曲ももらってねぇ、仕事も数こなしたわけじゃねえが……ダチだな」
拓海「前にソイツん家行った時に盛り上がってな。いつかステージに立つときに、あー、そのそれが」
裕美「アクセサリー?」
拓海「そういうのが欲しいって言ったんだ。ペアで」
裕美「あ、お揃いの付けようってこと?」
拓海「まぁ、そうだな……アタシはガラじゃねえけど、ソイツがあんまりにも言うからよ」
裕美「そっか。ステージ立つ時、衣装アレンジする人も結構いるもんね」
拓海「そういうのは知らねえけどよ……里奈のヤツがそういうんなら、付き合ってもいいっつぅか」
裕美「……ふふっ」
拓海「笑ったか?」
裕美「ご、ごめん。変な意味じゃないの」
裕美「それって、凄く素敵なことだと思うから」
拓海「……調子狂うなぁ……」
裕美「それで、手作り?」
拓海「まぁな。……そういうショップもよくわからねえし、似合うもんがあるとは限らねえ。なら、作っちまった方が早いかと思ってよ」
拓海「向こうが用意するって言ってんだけど、貰ってばかりってのは相棒じゃねえだろ」
裕美「対等、なんだね。……でも、なんで私なの? いままでほとんど会話したこともないのに」
拓海「前に乃々にちらっと聞いた気がしてな」
裕美「乃々ちゃん? あ、そっか、前に拓海さんと仕事した時に」
拓海「本当は乃々を通したかったんだが、なんかあいつ見つからなくて」
裕美「たぶん、Pさんの机の下かな……」
拓海「んなとこまで探さねえよ…… まぁ、やっぱ自分で行くのもスジってもんだしな、こうやって来たわけだ」
裕美「そっか……うんわかった、任されるよ」
拓海「恩に切るぜ」
裕美「そんなたいしたことじゃないよ。ふふっ」
拓海「……」
裕美「まず、どういうのが作りたい?」
拓海「何が作れんだ?」
裕美「ネックレスとかピアスとかブレスレットとか……難しいのに挑戦しなければ、材料次第でなんでも」
拓海「そうか……選択肢が多いとよくわかんねえな」
裕美「うーん、じゃあ、小物から作るのがいいかな。耳につけるのは二対つくる事になっちゃうから、これもちょっと作業多いね」
拓海「計四つには確かにな」
裕美「あれ? そういえば拓海さんってピアス穴開けてないんだね」
拓海「あ、ああ……別に怖いとかじゃねーぞ、悪いかよ」
裕美「ううん、意外といえば意外だけど……乃々ちゃんほどじゃないかな」
拓海「あっ、だよなぁ! あとなんだ、小梅とかも開けてるし」
裕美「高校生の人たちは結構いるよね。美嘉さんとか、奏さんとか」
拓海「でも中坊ははえーだろ」
裕美「ま、まぁ分からなくはないかな。とりあえずイヤリングもなしで」
裕美「ネックレスは鎖さえあればいいけど衣装次第じゃ隠れちゃうし。指輪とか?」
拓海「指輪ねぇ。まぁ、そこらへんが妥当なんかな」
裕美「宝石とかつけるわけじゃないけど、ステージで映えるような大きめのがいいかも」
拓海「大きいのか……あっ、いっそメリケンサックを飾り付けちまうってのはどうだ?」
裕美「えぇ……」
裕美「それは極端だけど、拓海さんがどういうの作りたいか、イメージがあった方がいいね」
拓海「イメージってもなぁ」
拓海「やっぱり、アタシらしくばーっと格好いいのがいいよな」
裕美「ばーっと」
拓海「バリバリにイケてるのもいいなぁ」
裕美「ばりばり」
拓海「……」
裕美「……」
拓海「無理言ってんのは分かってんだよ」
裕美「何も言ってないよ……。わかった、作れそうなのをピックアップしてくるね。それをアレンジしていこう」
拓海「アレンジか……そういうのなら、イメージしやすいかもな」
裕美「拓海さん、事務所から家近かったっけ」
拓海「近いって程でもねぇな。バイクでは来られる距離だけど」
裕美「へぇ…… じゃあ、今度私の部屋で作業しよう。道具も多少はあるし」
拓海「いいのか、悪ぃな」
裕美「大丈夫」
拓海「よし。頼むぜ裕美」
裕美「うん」
拓海「これがアタシの連絡先。用意できたら教えてくれ、じゃあな!」
裕美「わかったよ。じゃあ、ね」
裕美(……思ったほど、怖い感じじゃなかったな)
――裕美の部屋
裕美「……でね、これを元にして仕上げていったらどうかなって」
拓海「へぇ、なるほどな」
裕美「これね、最後に紫外線を当てて固めるの。余り厚みは持たせられないけど、模様つけたり、薄いものだったら中に閉じ込めることもできるし」
拓海「はーっ、よくできてんなぁ」
裕美「あとは拓海さんの希望があれば、できそうなことは考えてみるよ。指輪の土台に乗せられるものなら、だいたい入れられるんじゃないかな」
拓海「炎とか髑髏とかいいな」
裕美「ま、まぁそういうのもアクセサリーにはあるよね」
拓海「……あー、でもあれか」
裕美「?」
拓海「アタシだけがつけるんじゃないんだよな」
裕美「里奈さん、だっけ。どういうのが好きそう? 拓海さん寄り?」
拓海「あー……アタシとウマは合うんだけど、好みは全然違うな。結構ギャルだぜ」
裕美「へぇ……じゃあ定番だけど、ハートとか」
拓海「ハートなぁ……」
裕美「そうなると拓海さんが気に入らないかな」
拓海「まぁ、付けらんなくはねぇけど……」
裕美「あっ」
拓海「?」
裕美「こうやって、ハートを花びらに見立てて……こんな感じで並べて」サラサラ
裕美「で、背景に黒から赤にグラデーション付けて……」
裕美「どう? 炎に華」
拓海「……」
裕美「あ、あれ?」
拓海「……いいな」
裕美「え?」
拓海「これこれ、そーいうんだよ! いいじゃねえか!」
裕美「そ、そう?」
拓海「やっぱり頼んで正解だったなぁ」
裕美「ふふ、なんか嬉しいね。作るのはどうする? 作業自体もやっていいけど……」
拓海「おいおい、アタシをナメんなよ。案もほとんど裕美に出して貰って、材料だって準備させちまったんだろ。作るのくらいはやんねえとな」
裕美「わかった。じゃあ手順を追ってやっていこう」
拓海「おう、夜露士苦!」
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拓海「っだー、こまけえー!」
裕美「大きめって言っても、一円玉のサイズに細工していくようなものだもんね」
拓海「これよぉー、こんなに丁寧に空気抜く必要あんのか?」
裕美「レジンの空気部分もアクセントにはなるけど……無い方がきれいに仕上がるよ」
拓海「ってもなぁ……」
拓海「ちったぁ手ぇ抜いても良さそうなもんだけど」
裕美「ダメ。自分で付けるだけじゃなくて、相手に贈るものになるんだから」
裕美「それが手抜きだったら、贈った拓海さんが後悔する。拓海さんの精一杯でいいから、ちゃんとやり切らなきゃ」
拓海「お、おう……」
裕美「あ……」
拓海「?」
裕美「……やっちゃった」
拓海「なんだ?」
裕美「……私、こう言う時に言いすぎて、煙たがられるの」
裕美「事務所だと、分かってくれる人多いんだけど……」
拓海「そんなん……間違ったこと言ってるワケじゃねえんだから、文句言うやつの方が悪ィだろ」
裕美「……」
裕美「……私もね、手の抜きどころがあるのは分かるよ。でもそれで失敗した時に、後悔するのが嫌で……臆病かなって思うんだけど、やめられなくて」
拓海「別に悪いことじゃねぇよ」
裕美「そうかな……」
拓海「そいつは、臆病なんかじゃねえ」
拓海「裕美の誇りだろ」
裕美「誇り……? そんな風に考えたことなかった」
拓海「やる以上はガチでやらねぇとな。アタシだって、アイドルの仕事でも手ぇ抜いたことはないつもりだ」
拓海「よっしゃぁ!」
裕美「わっ」ビクッ
拓海「ハンパな覚悟でやっていちゃぁ、裕美にも里奈にも悪い!」
拓海「全開バリバリが信条だからな、気合い入れるぜ!」
裕美「うん……」
裕美「拓海さんって、すごく……まっすぐな人なんだね」
拓海「ん?」
裕美「最初声かけられたとき、何かされるのかと思っちゃった。ほら、あの、ツッパリ? とかヤンキー? みたいな、そんな印象しかなかったから」
拓海「あー。まぁ、別にそれ自体は間違ってもいないけどな。良い悪いで言ったら、不良に入るんだろうよ」
裕美「でも、こうして私の話も聞いてくれるし、里奈さんにも贈り物を……」
拓海「それは、アイツの思いつきだからなんだけどよぉ…… なんかムズ痒いなぁ」
拓海「やるからにはテッペンとるってのがいいだろ」
拓海「このアクセサリーもだけどよ、手ぇ抜いたらやっぱりアタシが気持ち悪い。裕美の言う通りさ」
拓海「よくわかんねぇ、よく知らねえ。だからってビビって逃げ出すのはアタシじゃねえ」
裕美「……強いんだ」
拓海「裕美もだよ」
裕美「え?」
拓海「アタシに声掛けられて、メンチ切ってきただろ。中々できることじゃねぇぞ」
裕美「あ、あれは……単にもとから目つきが悪いから……緊張すると、つい」
拓海「あー、そういうことか。でも結局、アタシの話を聞いたろ」
裕美「……」
拓海「よくわかんねぇ、よく知らねえっていうのは、怖いんだろうし、だから臆病にもなる」
拓海「それでいいんだよ。慎重に進むのか、失敗してもいいからってぶち破りながら進むのか、違いなんてそんなもんさ」
拓海「アタシはまどろっこしいのは苦手だから、こういうやり方になるけどな」
裕美「かっこいいね。私のやり方なんかじゃ……」
拓海「だーっ、言っただろ。それはお前の誇りだ」
拓海「アクセでもステージでも、マジで向き合っているから出てくるコトバなんだぜ、それは」
裕美「!」
拓海「だから、それでもいいんだよ」
拓海「お前のやり方もかっけぇんだって、証明してやればいい」
拓海「だからこの事務所にいて、お前もアイドルやってんだ」
裕美「……」
裕美「……そっか。良く知らないって、怖いって思いこんじゃうのかもしれないね」
拓海「何の話だよ」
裕美「えへへっ、何の話だろう」
拓海「うっせ」
裕美「ふふっ」
裕美「ありがとう」ニコッ
拓海「……」
拓海(目つきは確かに鋭いけど)
拓海「笑うとフツーに可愛いよなぁ……」ボソリ
裕美「へ?」
拓海「あ? なんでもねぇ」
裕美「嘘。言った」
拓海「なんでそういうとこ頑固なんだよッ」ガタッ
裕美「あっ、花びらズレた!」
拓海「うわっ、直るかこれ?」
裕美「大丈夫、ここをこうして……」
「――」
「――」
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――事務所
拓海「あ。おーい、裕美ぃ」
裕美「ああ、拓海さん。おはよう」
拓海「よぉ。この前のアレ、交換してきたんだけどよ」
裕美「どうだった?」
拓海「それがよぉ」
裕美「?」
拓海「里奈のヤツ、フツーに市販品だったんだぜ」
裕美「えっ、う、うん」
拓海「気合い入れて手作りしたこっちがバカみてえじゃねえか」
裕美「……どうだった?」
拓海「ん?」
裕美「里奈さん。拓海さんからもらって、どうだった?」
拓海「あー…… 最初に喜んでて……アタシが作ったって知って驚いてた」
裕美「それから?」
拓海「よく覚えてねえけど」
拓海「……大事そうに付けてたな」
裕美「うん」
裕美「それが答えだよ」
拓海「……そうか」
裕美「これで、夢がひとつできたね」
拓海「夢ぇ?」
裕美「だってそうでしょ? 里奈さんと拓海さん、二人でステージに上がった時のためのものなんだから」
拓海「あー、そうだったな…… 夢なんて大層なモンじゃねぇよ」
裕美「そんなことないよ。私、それが素敵だって思ったもん」
拓海「……へっ、くすぐってぇよ」
拓海「でも、ありがとよ。そう言ってくれるんなら、アタシも恥ずかしがらずに、堂々アクセ付けてステージに立てる」
裕美「堂々?」
拓海「付けて欲しいって思ってくれる裕美が居るから、応えられる」
裕美「……私が?」
拓海「応よ。……ま、しばらくアクセサリー作りなんてご免だけどな。楽しかったぜ」
裕美「うん、私も楽しかった」
拓海「そうか? なんか、変な説教しちまった感じでなぁ」
裕美「そんなことないよ。全然」
裕美「またちょっと、少し自信ついたし」
拓海「よくわかんねぇけど、まぁ良さそうならいいか」
裕美「えーと、さ、拓海さん」
拓海「あん?」
裕美「これ、あげるね」
チャラ
拓海「なんだ?」
裕美「大したものじゃないよ。単なるビーズのブレスレット」
裕美「もしいつか、私と拓海さんが同じステージに立つ……なんてことがあったら」
裕美「それ、私も付けるね」
拓海「……」
拓海「ははっ」
拓海「いいぜ。約束だ」
裕美「うん。約束」
拓海「作るのといい、コレといい、でかい借りになっちまったな。なんか頼みごとがあったら、聞くぜ」
裕美「えっ。……うーん、すぐには思いつかないよ」
拓海「そりゃそうか。気に入らない奴がいたらアタシに言えよ」ニカッ
裕美「で、できるだけ穏便な方法取るね」
拓海「後は、どこか急ぎのことがあったら声かけろよ。バイクで超特急で届けてやるからな」
裕美「そんな、タクシーの代わりみたいに……」
拓海「ま、2ケツってガラでもないか?」
裕美「……あ、でもちょっと乗ってみたいかも」
拓海「おっ、興味あんのか? それならな……」
「――」
「――」
(夢を)
(夢を見よう)
(夢を語ろう)
(夢を贈ろう)
(あの日抱いた遥かな夢を)
(空前絶後に最強の夢だから)
(いつかきっと叶えるから)
(咲かせるのさ)
(私たちは)
(アタシたちは)
((アイドルなんだから))
おわり
お読みいただきありがとうございました。
7th大阪で『Virgin Love』が出る前から、中の人がアクセサリーを交換していたという話を聞いて、つい担当の一人と絡ませてしまった。なんか妙に書きやすいふたりでした。
直近SS よろしければどうぞ。
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