上杉風太郎「お義姉ちゃん、欲しくないか?」上杉らいは「欲しい!」 (8)

「なあ、らいは」
「なぁに、お兄ちゃん」
「お義姉ちゃん、欲しくないか?」
「欲しい!」

上杉家の食卓を切り盛りしている料理上手で掃除洗濯が得意な妹のらいはは小学六年生であり、この話はまだ早すぎるかと思ったが、聡明ならいははきちんとその意味を汲んでくれたようで、元気に義理の姉をおねだりしてきた。

「お兄ちゃん、ついに覚悟を決めたの?」
「まだ先の話だけどな」
「明日にでも一緒に暮らしたい!」

妹のはしゃぎっぷりに少々面食らう。
家庭の事情で普段から我慢ばかりさせている反動なのだろうかと思うと、胸が痛んだ。

「兄ちゃん、早く高級取りになってこの家にお義姉ちゃんを呼べるように頑張るからな!」
「うんうん。五人もお姉ちゃんが出来るわけだから、お兄ちゃんは頑張らないとだね!」
「待て、らいは」

はて、聞き間違いだろうか。
さも俺が五人の嫁を迎えるような口ぶりだ。
聡明ならいはならば、この国では一夫多妻は認められていないと知っている筈なのだが。

「らいは、結婚は1人としか出来ないんだぞ」
「うん、知ってるー!」
「知ってたか。なら、なんでそんなことを?」
「お兄ちゃんのお嫁さんが五つ子なら、ほかの姉妹もらいはのお姉ちゃんになるでしょ?」

うちのらいはは天才かも知れないと思った。

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「なるほどな、たしかにその通りだ」

小学生の妹に認識を改めさせられるのは歳の離れた兄としてどうかと思うが素直に認めよう。

「あっさり納得したってことは、やっぱりあの五つ子さんがお嫁さん候補なんだね?」
「まあ、そうなったらいいなと思ってる」

そんな弱気を口にすると、らいはに叱られた。

「もぉー! そんな呑気なことを言ってると、他の誰かに取られちゃうよ、お兄ちゃん!」

言われて、想像してみる。悲しい未来予想図。
うだつの上がらない俺に愛想を尽かす五つ子。
もしそうなったら、俺は必ず後悔するだろう。

「らいはの言う通りだ。情けなくて、すまん」
「謝らなくていいよ。次からは気をつけてね」
「ああ。しかし、らいは。もしも将来、俺よりも甲斐性がある奴が現れて、俺よりもあの五つ子を幸せに出来るなら、やはり俺は……」
「あーもう! 言ってるそばからまたそんなこと言って! そんなことばっかり言ってると、本当に愛想を尽かされるんだからね!」
「す、すまん……お兄ちゃん、ダメダメだな」

小学生の妹に本気で叱られる高校生の兄。
それがこの俺、上杉風太郎であった。
なんかもう、将来に不安しかないんだけど。

「あのね、お兄ちゃん。よく聞いて」
「なんだ、らいは」
「好きって気持ちは自分だけのものなんだよ」

言われて、はっとする。たしかにその通りだ。

「五つ子さんたちもそれぞれ好きって気持ちを抱えてて、その思いとお兄ちゃんの思いが一致するなら、他のことは一切関係ないんだよ」
「そうなのだろうか」
「そうだよ、きっと。お兄ちゃんと結婚して、どんなに貧乏になったとしても、お兄ちゃんがその人のことが好きで、その人もお兄ちゃんのことが好きなら、それは幸せなんだと思うよ」

らいは。
ちょっと見ないうちに、立派になった。
お兄ちゃんはそんなお前のことが誇らしい。

「うわっ! ちょ、ちょっとお兄ちゃん!? なんで泣いてるの!? お腹痛いの!?」
「あれ? 俺、泣いてるのか……ぐすっ」

仰天したらいはに指摘されて自分の頬に触れるとたしかに濡れていて、それを自覚すると次から次へと涙が溢れて、止めることが出来ない。

「よしよし、大丈夫だよ。お兄ちゃん」

そっと、妹に頭を撫でられ、抱きしめられた。

「うう、らいは……」
「お兄ちゃんにはらいはがついてるからね」

妹が優しい。それがまた涙を誘い、号泣した。

「すまん……ありがとな、らいは」
「もう落ち着いた?」
「ああ、もう平気だ」

もう結婚なんてせずに妹と添い遂げようかと本気で考えたが、妹には妹の人生があり、そしてそれこそ俺が邪魔をするべきではない大切なものであることは自明なので、兄としてこれ以上甘えるわけにはいかなかった。

「俺は自分にらいはという妹が居て良かったと、つくづく思うよ。本当に感謝している」
「やだなあ。照れるじゃん。ていうか、五つ子さんと結婚すれば妹が増えるかも知れないよ」
「なんだそれは。どういう意味だ?」
「たとえば、長女の一花さんとお兄ちゃんが結婚したとすると、他の四人はみんなお兄ちゃんの妹になるのです。どう? すごくない?」

それはすごい。やはり俺の妹は天才だった。

「でも、お兄ちゃんとしてはお姉ちゃんも欲しいだろうから、三玖さんあたりと結婚すれば姉と妹の数的にバランスがいいかもね」
「なんだか夢が広がるな」

たしかに、姉も捨てがたい。お姉ちゃんか。
しかし、一花はともかく、二乃が姉なんて。
いや、意外とありかもしれない。ありありだ。

「俺にも義理の姉が出来る可能性があるなんて思ってもみなかった。そうか、義姉さんか」
「たっぷり甘えられるね!」
「はっ……今はまだ想像出来ないけどな」

それでも可能性があるだけで胸が満たされた。

「らいは」
「なぁに、お兄ちゃん」
「ありがとう」
「だからやめてってば。兄妹でお礼なんて」
「お前が居たから五つ子と知り合えたんだ」

俺が中野家の五つ子の家庭教師を引き受けたのはひとえに金の為であり、そしてそれは稼いだ金でらいはの為に何かしてやりたいと思ったたからだった。全ての始まりは、らいはなのだ。

「あいつらと知り合う前の兄ちゃんは、どうしようもない奴で、なんにもわかってなかった」
「お兄ちゃん……」
「恋愛なんて無価値だと決めつけ、その先にこんな幸せな未来が待っているかも知れないなんて、思ってもみなかった。ほんと馬鹿だよな」

俺はこれまで恋愛を過小評価していた。
人間関係ですら、切り捨てて生きてきた。
ひとえに必要とされる人間になるために。
目下、もっとも身近な存在である妹にとって、必要とされる兄となるべく、俺は中野家の家庭教師となり、そして五つ子たちと知り合った。

あいつらに勉強を教えて、もちろん苦労はしたし、やっぱり人間関係や恋愛感情なんて面倒臭い代物で、ろくなものではないと思いもした。
それでもその先に幸せな結末が待ってるなら。

「俺は変わることが出来て良かったと思うよ」

しみじみそんな結論を出すと妹が目を潤ませ。

「お兄ちゃん!」
「うわっ!? な、なんだよ、らいは!?」
「お兄ちゃん大好きー!」

飛びつかれて、大好きと言われた俺は、どうにかその想いに応えてやりたかったのだが、どうにも体幹を鍛えておらず、妹のタックルを受け止めきれずに転倒してしまい、そしてなんと。

ぶちゅっ!

「……えっ?」
「フハッ!」

転んだ拍子に脱糞した兄は嗤うしかなかった。

ぶりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅぅ~っ!

「きゃああああああああああああっ!?!!」
「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

絶叫する妹を固く抱きながら、糞を出し切る。
すると、何故か愉悦が溢れ出した。不思議だ。
嗤ってる場合ではないのに嗤いが止まらない。
兄としての尊厳を失い、ただの生き物として。
らいはの兄ではなく、いち上杉風太郎として。

「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

自由に高らかに哄笑を響かせて愉悦に浸った。

「ふぅ……おや?」
「ひっく……えっく」
「らいは……泣いているのか?」
「うわああん! お兄ちゃんの馬鹿ああっ!」

我に返ると妹が泣いていて怒られてしまった。

「ごめん……ごめんな、らいは」
「もうどこにもいかないでえええっ!!」
「ああ。約束する。もうどこにもいかないよ」

泣きじゃくるらいはをあやしながら思う。
やはり当分、妹離れは難しそうであると。
もっとも、泣かせたのは、俺なのだけど。

「ほんっとにもう、お兄ちゃんったら!」
「面目ない」
「ほら、さっさとパンツ脱いで! シミになっちゃうでしょ!? くずぐずしない!!」
「ああ、わかった」

ようやく落ち着いたらいはに急かされて、いそいそと下着を脱いで手渡すと、おもむろに。

「クンクン……フハッ!」
「やめなさい」

汚れた下着を嗅いだ妹が俺の真似をして嗤ったのですぐにその手から下着を取り返してキツく叱っておく。癖になっちまったら困るからな。

「ふふふっ。これじゃあ、お兄ちゃんのお嫁さんは洗濯上手じゃないと困っちゃうね!」
「洗濯くらい、俺でも出来る」
「ほんとかなぁ? 私がやったげよっか?」
「はっ……むしろ俺が妹の下着を洗ってやる」

などと、よくわからない供述をしたところ。

「えっ? ほんと? すごく助かるよ~」
「は?」
「実はさっきお兄ちゃんが高笑いしてる時に、なんかゾクゾクして漏らしちゃったんだ~! というわけで、はい! 洗濯、よろしくね~」
「フハッ!」

やれやれ、やはり当分は妹離れは難しそうだ。


【上杉らいフハッの初めての失禁】


FIN

余談ですが原作の途中かららいはは中学生となります
本作ではアニメしか知らない読者様の混乱を避けるためにあえて小学生六年生の設定としているので、ご理解ください

最後までお読み下さり、ありがとうございました!

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