~事務所:廊下~
脇山珠美「ふぁぁ……」トコトコ
珠美(眠い……)
珠美(うう……昨日、夜更かししてしまったからでしょうか……)
珠美(いつの間にか寝てしまっていましたが、かなり遅くまで起きていた気がします……)
珠美(……いえ! 眠気などを言い訳にしてはいけませんね! 今日も頑張らなくては……!)
中野有香「あ、こんにちは、珠美ちゃん」
珠美「これは有香殿、おはようございます」ペコリ
有香「あれ……お疲れ気味、でしょうか?」
珠美「なんと、有香殿から見ても瞭然でしたか……お恥ずかしい」
有香「いえいえ。夜更かしはほどほどに、ですよ?」
珠美「そこまで見抜かれているとは……」
有香「ふふっ……あれ? 珠美ちゃん、髪にゴミが……」
珠美「え? ど、どこでしょうか? えいっ、えいっ」ワシャワシャ
有香「あ、そこじゃなくて……もう少し右の……あ、右ってあたしから見て……」
珠美「と、取れましたか!?」ブルブルブルブル
有香「小型犬みたい……」
珠美「有香殿?」
有香「はっ! じ、じゃなくて!」
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有香「まだついてるので……あたしが取っちゃいますね!」
珠美「かたじけない……」
有香「少しだけ屈んでもらえますか?」
珠美「お願いします……」
有香「失礼します!」スッ
珠美「!!!」ガシッ!!!!!
有香「えっ!? ど、どうしてあたしの腕を」
珠美「!!!」グッ!!!!!
有香「た、珠美ちゃ」
珠美「!!!」ブオンッ!!!!!
有香「ひゃぁぁぁぁぁ!!!」ヒューン
珠美「……どうですか有香殿? ゴミは取れま……有香殿!? どうしてそんなところで倒れているのですか!?」
有香「ど、どうしてって、珠美ちゃんがいきなり投げたんですよ……!? よいしょ……」
珠美「た、珠美が……?」
有香「とても綺麗な投げだったので受け身が取れましたが……ああいうのは事前に言ってくれないと危ないですよ!」
珠美「い、いえいえ、有香殿? 珠美をからかっているのですか?」
有香「それは私のセリフですよ!?」
珠美「確かにお芝居で投げ技は披露しましたが、このような実戦で披露できるものではありませんし……いつかの騒動も、歌鈴殿が偶然転んだだけでしたし……」
有香「え……もしかして、投げたのを覚えていないんですか……?」
珠美「ですから、珠美にそんな技能は……」
有香「じゃあ気のせいだったのかな……って、実際に投げられたのに気のせいもなにもないですよね……?」
珠美「よ、よくわかりませんが、本当に珠美が……?」
有香「はい……珠美ちゃんの髪に触れた瞬間に、いきなりあたしの腕を取って……」
珠美「ううむ……」
有香「……珠美ちゃん」
珠美「はい?」
有香「もう一度、触ってみてもいいですか?」
珠美「へ? 珠美は構いませんが……」
有香「次はあたしも、最大限の警戒をします! 柔道の心得は無くとも、あたしだって武の道を歩むものですから……!」
珠美「な、なんだか有香殿のスイッチが入っているような」
有香「さあ!」
珠美「で、では……珠美の手をどうぞ!」スッ
有香「……」(精神統一)
有香「……」
有香「……」
有香「……チェスト!!!」パシッ
珠美「!!!」ガシッ!!!!!
有香「!!! 引きはがして……っ!?」
珠美「!!!」グッ!!!!!
有香(つ、強い!!!)
珠美「!!!」ブオンッ!!!!!
有香「ひゃぁぁぁぁぁ!!!」ヒューン
珠美「有香殿、そろそろ触っていただいても……って有香殿ー!?」
有香「完敗です……」
珠美「ええと……珠美は何も……」
有香「中野有香、この悔しさを忘れず、武の道を邁進してまいります……!」
珠美「あの……珠美になにが……」
有香「修行し直しですね……!」
珠美「有香殿……?」
有香「さらばです!!!」タッタッタッタッ
珠美「あっ! ゆ、有香殿!?」
珠美「い、行ってしまいました……!」ポツーン
珠美「ええと……有香殿の仰っていたことがウソでないなら、珠美に触れようとした際に、放り投げられてしまう……?」
珠美「いつの間にか有香殿が離れた位置で倒れていましたし、恐らく本当なのでしょう……」
珠美「そして投げたのは……いえ、珠美しかいませんよね……」
珠美(何かのドッキリでしょうか……? それにしても一瞬であの距離を移動するのは……)
珠美「うーん……」トコトコ
市原仁奈「あ! 珠美おねーさんでごぜーます!」
珠美「ああ、仁奈ちゃ……そ、その恰好は……?」
仁奈「りんごろうさんの着ぐるみでごぜーます! あかりおねーさんから古くなったのをもらって、鈴帆おねーさんに顔を出せるようにしてもらったですよ!」
珠美「な、なるほど……(りんごろうさんのお腹から仁奈ちゃんの顔が……)」
珠美「ま、まあ、顔が出るなら安心ですね!」
仁奈「どうでごぜーますか!」
珠美「ええ、(仁奈ちゃんは)とっても可愛いですぞ!」
仁奈「わーい! この着ぐるみ、とーってもふかふかでごぜーます! 珠美おねーさんも触りやがりますか!?」
珠美「それでは、お言葉に甘えて……」
仁奈「わー!」トコトコ
珠美「……って、あ! に、仁奈ちゃん! やっぱりストップ……っ!」
仁奈「仁奈はきゅうにとまれねーですよ! えーいっ」ピョーン
珠美「!!!」ガシッ!!!!!
仁奈「ふえ?」
珠美「!!!」グッ!!!!!
仁奈「おおー!?」
珠美「!!!」ブオンッ!!!!!
仁奈「うおーーー!!!」ピョーン
珠美「今、珠美に触れると危な……ってあれ?」キョロキョロ
仁奈「……」コロコロ……
珠美「仁奈ちゃーん!!!!!」
珠美「だ、大丈夫ですか!? 仁奈ちゃん! ケガはしていませんか!?」
仁奈「す……」
珠美「す?」
仁奈「すげーですよ珠美おねーさん!!!」キラキラ
珠美「へ?」
仁奈「仁奈のこと、着ぐるみごとぶおーんって投げやがりました! すげーです! かっこいいでごぜーます!!!」
珠美「そ、それほどでも……」テレテレ
仁奈「みんなにも言ってあげなきゃですね! 珠美おねーさん、さよーなら!」タッタッタッタッ
珠美「かっこいいなんて……えへ……って、あれ? に、仁奈ちゃん……!? 仁奈ちゃーん!?」キョロキョロ
~事務所:休憩室~
珠美「は、話を聞く前に仁奈ちゃんがいなくなってしまいました……」
珠美「でも、どうやら有香殿と仁奈ちゃんの話をまとめると……」
珠美「珠美は、触れた者全てを投げ飛ばす無慈悲な柔道家になってしまっているようです……!」
珠美「……」
珠美「無慈悲な柔道家……」
珠美「……」
珠美「……ちょっとかっこいいかも」テレ
珠美「い、いえ! そのようなことを言っている場合ではありません! 珠美には剣の道が……!」
珠美「それに、出会ったのが偶然、武術の心得を持つ有香殿とクッション代わりの着ぐるみを着た仁奈ちゃんだったから良いものの……! 他の方だったらと思うと……!」
珠美「今日は予定をキャンセルして、帰るべきでしょうか……」
ガチャ
浜口あやめ「おや、珠美殿! ここにいましたか!」
珠美「あ、あやめ殿……!」
あやめ「どうかしましたか?」
珠美「い、いえ、何でも……」
あやめ「?」
珠美「も、もうレッスンの時間でしょうか?」
あやめ「いいえ! まだ時間はありますが、歓談でもどうかと思いまして!」
珠美「そ、そうですか」
あやめ「お隣、座っても?」
珠美「え゛……!」
あやめ「?」
珠美「え、ええと……」
あやめ「珠美殿? 様子がおかしいような……」トコトコ
珠美「す、ストップ! ストップですあやめ殿!」
あやめ「え?」
珠美「あ、ええと、その……そうです! 珠美は少し、体調が悪くてですね! 今日のレッスンもお休みしようかと考えていまして! もし風邪などをあやめ殿にうつしてしまっては忍びなく!!!」
あやめ「なんと、それは大変な……! ですが珠美殿、水臭いではないですか!」
珠美「へ?」
あやめ「『へ?』ではありませんよ! 仁義を通すが忍びの道! 何かあれば助け合うのがユニットの絆! 何を遠慮することがありましょう!」
珠美「えっと……! そういうことでは……!」
あやめ「問題ありません! 忍びとは薬理にも通じているものです! ささ、まずは熱を測りましょう! おでこを!」トコトコ
珠美「だ、ダメです! 止まってくださいあやめ殿!」
あやめ「おや? まさかおでこを触られるのが恥ずかしいと……? 何をいまさら! 観念を!」トコトコ
珠美「ほ、本当に今は……!」ジリジリ
あやめ「なぜ遠ざかるのですか珠美殿!」ジリジリ
珠美「やめてくだされ……!」ジリジリ
あやめ「さあ!」ジリジリ
珠美「ああ……た、珠美に……」ジリジリ
あやめ「さあ!!!」ジリジリ
珠美「珠美に近づかないでください!!!!!」
あやめ「え……」
珠美「あ……」
あやめ「珠美殿……?」
珠美「あ、え、ええと、そ、その……」
あやめ「……そうでしたか」
珠美「あ、あやめ殿……?」
あやめ「珠美殿は……叫ぶほどにわたくしのことを……」
珠美「い、いえ! そうではなく! むしろあやめ殿のことを想って」
あやめ「言い訳無用! いえ、不快な思いをさせたのはわたくしの方でしたか……」
珠美「で、ですから」
あやめ「ふふ……そうとは知らず、仲良くなれたなど思い上がりを……」ユラァ
珠美「あやめ殿……?」
あやめ「失礼します……っ」ダダダダダ
珠美「あ、あやめ殿ー!!!! って速っ!!!!!」
~数分前・事務所:廊下~
道明寺歌鈴「~♪」
歌鈴(午前のレッスン、トレーナーさんに褒められちゃいました!)
歌鈴(最近、調子いいなあって!)
歌鈴(思えば、珠美ちゃんとあやめちゃんと、可惜夜月を組んでから褒められる回数が増えている気がします……!)
歌鈴(一応年上なんだし、ちょっとはかっこいいところを見せたいなあ……なんて)
歌鈴(でもふたりともしっかりしてて、教わることの方が多いんだけど……)
歌鈴(ううん! 頑張るのよ歌鈴! お荷物にならないようにとかじゃなくて、自分が引っ張るんだってくらいの気持ちで!)
歌鈴(午後のユニットレッスンも頑張るぞ! おー!)
歌鈴(この時間なら、もうふたりとも事務所にいるかな……? 休憩室でも覗いてみましょうか)
歌鈴(ユニットでの活動、楽しいなあ……。ふたりとも優しくて、話も合うし……)
歌鈴(ケンカなんてしてるの、見たことないもん! このままずっと、一緒に活動できたらいいなあ……)
ガチャ
歌鈴「おはようございま
「珠美に近づかないでください!!!!!」
歌鈴(ええーーーーっ!?!?!?)
歌鈴(あ、あれ、もしかしなくても珠美ちゃんとあやめちゃん……!?)
歌鈴(『近づかないでください』って……け、ケンカ!?)
歌鈴(ふ、フラグ回収が早すぎますよぅ……! ふぇぇ……)
歌鈴(というか、こういう時こそ最年長として、場を鎮めなきゃなのに……お、思わずドアの外に隠れちゃいました……)
「失礼します……」ダダダダダ
「あ、あやめ殿ー!!!! って速っ!!!!!」
歌鈴「ひゃっ!?」
歌鈴(い、今、もの凄い速さであやめちゃんが……!?)
歌鈴「あ、あやめちゃーん!」
珠美「あやめ殿!!!」バッ!!
歌鈴「た、珠美ちゃん……!?」
珠美「歌鈴殿……! そ、その……あやめ殿はどちらに」
歌鈴「え、えっと、あっちの、衣装室の方に!」
珠美「かたじけない!」
歌鈴「あ、あの! 珠美ちゃん、さっきの言葉は……」
珠美「へ? あ……聞かれていましたか……」
歌鈴「盗み聞きするつもりはなかったんですけど……」
珠美「い、いえいえ! ですが、それはあやめ殿もいる場所で説明したく……!」
歌鈴「わ、わかりましたっ」
珠美「では、衣装室に急ぎましょう!」
歌鈴「はいっ!」
珠美「あ、歌鈴殿は、念のため珠美の2メートルほど後ろを着いてきていただけると」
歌鈴「???」
珠美「いや……歌鈴殿はいきなり転んでタックルを仕掛けてくるやもしれませんね……やはり3メートルほど……」
歌鈴「?????」
~事務所:衣装室~
ガチャ
珠美「あやめ殿!!!」
歌鈴「あやめちゃん!!!」
あやめ「……」
珠美「よかった……やはりここにいましたか……」
あやめ「……わざわざ近づいてほしくない相手を探しに来るなど、剣士とやらの性根はずいぶんと天邪鬼にみえますね」ズーン
珠美「うっ……か、歌鈴殿、あやめ殿のそばに……」
歌鈴「は、はいっ!」タタタ
あやめ「それで、何用でしょうか……午後のレッスンならわたくしも体調が芳しくなく……」ズーン
珠美「で、ですから先ほどの言葉は誤解で……」
あやめ「ですが、珠美殿がわたくしを拒絶したのは事実……」
珠美「で、では……本当のことを言いますので、聞いてくださいね……?」
あやめ「……」
歌鈴「……」ゴクリ
珠美「珠美、実は……」
歌鈴「実は……?」
珠美「実は、触れた者全てを投げ飛ばす無慈悲な柔道家になってしまったのです……!」キリッ
あやめ「……」
歌鈴「……」
珠美「……」
あやめ「……」
歌鈴「……」
珠美「……」
あやめ「うぅ……珠美殿……とうとう頭がおかしく……」グスッ
歌鈴「珠美ちゃん……」グスッ
珠美「泣かれてしまいました!?!?!?」
珠美「ち、ちょっとお待ちください! 珠美は真剣にですね!」
あやめ「いえ、みなまで言わずともわかります……その小さなお体で、よくぞここまで頑張ってくださいました……」
珠美「たっ、珠美の方が年上ですぞ!?」
歌鈴「ごめんなさい歌鈴ちゃん……もっと私がよく見ていれば……」
珠美「歌鈴殿まで!?」
あやめ「もはや珠美殿がわたくしを拒絶したことなど些事……」
珠美「その些事でここまで猛ダッシュしたのは誰でしたか!?」
あやめ「珠美殿がもとの珠美殿に戻るためにはどうすればよいのでしょうか……」
珠美「”もとの珠美に戻りたい”という意味ではあっているのですが、肝心の部分が受け入れてもらえない……!」
歌鈴「とりあえず、清良さんを呼びましょうか……?」
珠美「完全に扱いが病人に……!」
歌鈴「ひとまず、休憩室に戻って……」トコトコ
あやめ「そうですね……」
歌鈴「って、わひゃあ!?」ツルッ
珠美「! 歌鈴殿!!!」バッ
歌鈴「あ、ありがとうございま
珠美「!!!」ガシッ!!!!!
歌鈴「ふぇ?」
珠美「!!!」グッ!!!!!
歌鈴「あ、あの!? 珠美ちゃ」
珠美「!!!」ブオンッ!!!!!
歌鈴「ひょええええええ!!!!!」ポーン
あやめ「歌鈴殿ー!!!!!」
珠美「歌鈴殿、お怪我は……って、いない!?」キョロキョロ
歌鈴「うぅ……」プシュー
珠美(はっ! これは恐らく……!!!)
珠美「み、見たでしょう! これが今の珠美なのです! あやめ殿を遠ざけてしまったのもこのために」
あやめ「歌鈴殿、ダイナミックに転びましたね……」
歌鈴「は、はいっ……! なんだか空を飛んだような!」
あやめ「気を付けなくてはいけませんよ?」
歌鈴「ありがとうございます……」
珠美「ってなんで聞いてないんですか!!!!!」
珠美「ほら! 見ましたよね今!」
あやめ「へ? 歌鈴殿が転んだのは見ましたが」
珠美「違いますって! 珠美が投げてしまったんです! 転んだ歌鈴殿を支えようとして!!!」
あやめ「やはり頭が……」
珠美「もー!!!」
歌鈴「ええと……」
珠美「そうだ! 歌鈴殿は! 実際に投げられた歌鈴殿はわかるでしょう!?」
歌鈴「えっと……気がついたら横になってるのはいつものことなので……」
珠美「もー!!!」
珠美「いくら歌鈴殿でも、転んだ位置と倒れてた位置がこーんなに離れることはないでしょう!?」
歌鈴「それは……確かにそうですけど……」
あやめ「ううむ……」
珠美「珠美だって信じられませんが、どうして信じてくれないんですか……!」
歌鈴「その言葉がすでにちょっと矛盾してるような……」
あやめ「……わかりました」
珠美「おお! ようやくわかってくださいましたか……!」
あやめ「いえ、もし珠美殿が真に柔道の道を極めているのなら……」
珠美「極めたつもりはありませんが……」
あやめ「普段の珠美殿では投げられないような相手も投げられるということに相違ないでしょう」
珠美「ええと……恐らく……?」
あやめ「それでは、投げていただこうではありませんか!」
珠美「だ、誰を……!?」
あやめ「先ほどからずっとこの部屋で見守っていてくださった、きらり殿です!」
諸星きらり「うにゅ!?」
双葉杏「やっぱりこっちきたかー」
珠美「なんとぉ!?!?!?」
珠美「お、お二方、いつからこの部屋に!?」
きらり「えっとぉ、最初から?」
杏「うんうん。いつからもなにも、杏たちが打ち合わせしてたらいきなり忍者が飛び込んできて、事情を聞くか迷ってたらふたりも来たんじゃんか」
珠美「そうだったのですね……気が付かず……」
杏「ってかあやめちゃんは気が付いてたんだね」
あやめ「その……勢いよく飛び込んだ手前、先客がいたとて戻る踏ん切りはつかず……」
杏「それは……まあ、そうだろうけど……」
きらり「なかよくハピハピしないと悲しいにぃ……?」
杏「ケンカはほどほどにねー」
珠美「け、ケンカではないのですが……」
あやめ「きらり殿! 折り入ってご相談がありまして!」
きらり「どしたのどしたの?」
あやめ「珠美殿に投げ飛ばされていただきたく……!」
歌鈴(改めて聞くとすごいお願いです……)
きらり「いいよぉ☆」
歌鈴(いいんだ……!)
珠美「で、ですがきらり殿にケガなどさせてしまっては……」
きらり「へーきだにぃ! きらりはハピハピでぱわふるどっかーんなアイドルだもん♪」
杏「投げられないかもって心配はしないの?」
珠美「うっ……ですが、なりふり構っていられないことも事実……!」
杏「あ、きらりさ、けっこう前になんか着ぐるみ着てたことなかったっけ?」
歌鈴「着ぐるみ?」
杏「あの、ゴジラみたいなやつ」
きらり「にょわ~! 覚えてるにぃ! たしかあっちのクローゼットに……」ガサゴソ
珠美「そんなに都合よく……」
きらり「あったぁ☆」
珠美「なんと!?」
きらり「よいしょ、よいしょ……じゃじゃーん!」
あやめ「おおー!」
杏「これならまあ、平気じゃない?」
あやめ「かたじけない! 杏殿!」
杏「いーよいーよ(きらりが投げられるの、杏もちょっと興味あるし)」
あやめ「では! 珠美殿、どうぞ! 無慈悲な柔道家(笑)の実力をお見せください!」
珠美「なんで今ちょっと笑いました!?」
きらり「うっきゃー☆」ドドドドド
珠美「うわあ!? は、迫力が……!」
珠美(着ぐるみの頭部などがある分、ただでさえ大きなきらり殿が一回りも二回りも大きく……!)
珠美(……しかし、珠美は証明しなくてはいけません……!)
珠美「さあ! 珠美の胸に飛び込んでください! きらり殿!」
きらり「えーいっ!!!」ピョーン
あやめ「珠美殿!」
珠美「!!!」ガシッ!!!!!
きらり「うぴょ?」
杏(手を掴んだ!)
珠美「!!!」グッ!!!!!
きらり「わわわわわ!」
あやめ(そ、そのまま引っ張って背負いの姿勢に……!?)
珠美「!!!」ブオンッ!!!!!
きらり「にょわーーーーー!!!!!」ポーン
杏「きらりー!!!!!」
珠美「……はっ! き、きらり殿は!!!」キョロキョロ
きらり「……」ボー
杏「きらり、大丈夫……?」
珠美「お、お怪我はありませんか!?」
きらり「……うきゅっ、にゅふふふふふ……♪」
杏「お、おーい? 頭でも打った……?」
きらり「違うよぉ! きらりね、こーんなことされちゃうの初めて! たのすぃなって☆」
杏「ああ……まあ、きらりを投げ飛ばせる女性なんていないだろうしね……男がやったらセクハラだし」
きらり「あんずちゃんも頑張ればできるにぃ?」
杏「できるか!!!」
~杏・きらり退散~
珠美「あのお二方にはご迷惑をかけてしまいましたね……」
歌鈴「で、でも、きらりちゃんは喜んでたみたいですし……」
珠美「ですが! これで珠美がどのような状況に置かれているのか、わかっていただけたでしょう?」
あやめ「まあ……きらり殿をも投げ飛ばすその力……一朝一夕で身に付くものとは思えず、それはつまり不思議な事情があると、納得しなくてはいけませんね……」
珠美「そうでしょうそうでしょう! 珠美殿は、あやめ殿のことを想って、先ほどの言葉を発してしまったんです」
あやめ「そ、それならそうと先に言っておいてくだされば!」
珠美「言っても信じていただけなかったからきらり殿を投げ飛ばす羽目になったのではないですか!?」
歌鈴「ま、まあまあ……」
あやめ「しかし、困りましたね……」
歌鈴「はい……」
珠美「かたじけない……」
あやめ「何か、回避する手段はないのでしょうか……」
歌鈴「でも、触っただけで投げ飛ばされちゃうんですよね……」
珠美「……」
あやめ「そもそもどうしてこのようなことに……?」
歌鈴「昨日までは普通でしたよね?」
珠美「……」
あやめ「珠美殿、何か心当たりは……」
珠美「……」
歌鈴「……珠美ちゃん?」
珠美「……」
珠美「……」
珠美「……zzz」
あやめ「珠美殿!!!」
珠美「はっ! 寝てません! 寝てませんぞ!!!」
歌鈴「それは寝てた人が言うセリフです……」
あやめ「珠美殿のことなんですからね!」
珠美「も、申し訳ない……ふぁ……」
あやめ「今度は欠伸と……」
珠美「はっ!」
歌鈴「珠美ちゃん、お疲れですか?」
珠美「あ……実は昨日、少し夜更かしをしてしまいまして……」
あやめ「まったく、たるんでいますよ!」
歌鈴「ま、まあまあ」
あやめ「ちなみに、何をしていたのですか?」
珠美「ええと……何をしていたんでしたっけ……」
歌鈴「覚えていないんですか……?」
珠美「い、いえ、いつの間にか眠ってしまっていて……確か、何かを見ていましたね……」
あやめ「何かとは?」
珠美「テレビで……えっと……そうです、動画資料を見ていました、プロデューサー殿からお借りした……!」
歌鈴「資料?」
珠美「そうですそうです! 思い出しました! 以前、お芝居で投げ技を披露しましたよね? その参考資料としてお借りした、とある高名な柔道家の投げ技を集めた資料です!」
歌鈴「柔道……」
珠美「お芝居が終わってから見返すと新たな発見があり! たまらず時間を忘れて見続けてしまったんでした!」
歌鈴「そ、そうだったんですね」
あやめ「……」
珠美「いやあ、すっきりしましたね! では、本題に戻りましょうか!」
あやめ「……」
珠美「あやめ殿? いかがしましたか?」
あやめ「それです!!!!!!!」
珠美「わぁ!?」
珠美「い、いきなり大きな声を出してどうしたんですか!?」
あやめ「ですから原因! それですよ!」
珠美「へ?」
歌鈴「原因?」
あやめ「おふたりは『睡眠学習』という言葉をご存じでしょうか?」
珠美「睡眠学習……?」
歌鈴「聞いたことあるような……?」
あやめ「一説によれば、人間は起きている時よりも寝ている時の方が記憶効率が優れているのだとか!」
歌鈴「ほぇ……」
あやめ「その資料、恐らくは珠美殿が寝ている間も流れ続けていたのではないですか?」
珠美「お、恐らく……! 量があるものでしたので」
あやめ「きっと珠美殿の脳は、寝ている間にもその柔道家の技を吸収し続けていたのです!」
珠美「なんと!?」
歌鈴「そんなことが……」
あやめ「珠美殿はたんじゅ……素直なお方なので、効果が顕著に出てしまったのでしょう……!」
珠美「ちょっと馬鹿にしませんでしたか?」
あやめ「ともあれ、昨日の夜までは平気で、今朝からこうなってしまったのなら、それ以外にはありえません!」
珠美「にわかには信じがたいですが……」
歌鈴「で、でも、どうすればいいんでしょうか……?」
あやめ「簡単なことです! 珠美殿に宿りし技は、反復なきものであればまだ定着とは至らず!」
珠美「?」
あやめ「つまり、もう一度眠ってしまえばいいのです! 勉強だって、復習をしなければ忘れてしまいますからね! ひと眠りの付け焼刃なればひと眠りで消えるもまた道理! です! ニンッ♪」
歌鈴「おおー!」パチパチ
珠美「おおー!」パチパチ
あやめ「そうと決まれば早速、仮眠室へ行きましょう!」
歌鈴「おー♪」
珠美「し、しかし、そんなにうまく……」
あやめ「ほらほら! 案ずるより産むが易しと言うでしょう!」グイグイ
歌鈴「そうですよ! やってみましょう!」グイグイ
珠美「!!!」ガシッ!!!!!
あやめ「あ」
歌鈴「あ」
珠美「!!!」グッ!!!!!
あやめ「り、両手で……!?」
歌鈴「二人同時に……!?」
珠美「!!!」ブオンッ!!!!!
あやめ「あ~~~れ~~~~!!!」ポーン
歌鈴「ひょええええええ!!!!!」ポーン
珠美「そ、そんなに引っ張っては危ないですよ! ……って、あやめ殿? 歌鈴殿?」キョロキョロ
あやめ「うぅ……」プシュー
歌鈴「うぅ……」プシュー
珠美「ふたりともー!!!!!」
~仮眠室~
あやめ「ねんねんころりよ~♪」
珠美「あのう……」
歌鈴「どうしました?」
珠美「ええと……ベッドに入ったのはよいのですが……眠ることを期待されるとですね、むしろ眠れないといいますか……」
あやめ「おころりよ~♪」
珠美「話を聞いてください」
歌鈴「でも、”眠らなきゃ!”って思うと眠気がどこかに行っちゃいますよね……」
あやめ「わかりました。それでは……」ガサゴソ
珠美「あやめ殿? ご自身の鞄を探って、何を……」
あやめ「まあまあ、珠美殿は聞いていてください!」
歌鈴(教科書……?)
あやめ「では……『徒然草:つれづれなるままに、日暮らし、硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを』」
珠美「あやめ殿……?」
あやめ「『そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ』」
珠美「あの……」
あやめ「『枕草子:春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山際、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる』」
珠美「……」
あやめ「『夏は夜。月のころはさらなり、闇もなほ、蛍の多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光て行くもをかし。雨など降るもをかし』」
珠美「……」
あやめ「秋は夕暮れ……おっと」
珠美「……zzz」
あやめ「おやすみなさい、珠美殿」
歌鈴(お見事! です!)
あやめ(正直、教科書の音読で眠る高校生もどうかとは思いますが……)
歌鈴(授業中って、どうしてもうとうとしちゃいますよね……)
歌鈴「じゃあ、私たちはあっちの部屋で……」
あやめ「……」
歌鈴「あれ? あやめちゃん?」
あやめ「歌鈴殿……少し……少しだけ、”いたずら”なるものの共犯になるつもりはありませんか……?」
歌鈴「ええっ!? しょんな、麗奈ちゃんじゃないんですから……!」
あやめ「ですが! わたくしは酷い言葉をかけられたうえに1度投げられ、歌鈴殿は2度も投げられているのですよ? ……ほんの少し、ちょっかいをかけても、バチはあたりますまい……!」
歌鈴「そ、それは……」
あやめ「心配いりません! なにか危害を加えるつもりは毛頭なく! ええと……」ガサゴソ
歌鈴「?」
あやめ「あ、歌鈴殿は、仮眠室に備え付けのCDプレーヤーの準備をしていただけると!」
歌鈴「???」
歌鈴「準備できましたけど……」
あやめ「こちらもありました!」
歌鈴「ええと……何のCDでしょうか?」
あやめ「『やさしい通信教育:フレデリカ語初級』です!」
歌鈴「なんですかそれ!?」
あやめ「これを寝ている珠美殿の近くで流し続ければ……」
歌鈴「な、なんと……!」
カチッ
あやめ「よし! 退散いたしましょう!」
歌鈴「は、はいっ!」
『れっすんわーん! はいはいはろーちょうしはどーお? みなさんご存じ、地球生まれ地球育ち、きっすいの地球っ子、宮本フレフレフレデリカだよー☆ え? みんなも地球っ子? わお! トレビアン! 偶然だね! 運命感じちゃうかも! しんくのすうぃーとはーと! かんーじーるーでーしょー! うんめーいーのあいだからフ・レ・デ・リ・カ! 今日はフレちゃんと一緒に、せかいじょーせーについて勉強していくよ! れっすんわーん! あ、さっきも言ったね! じゃあれっすんせぶん☆ いきなりせぶん! 飛び級~!!! ”いきなり”って言うとなんだかステーキが食べたくなるよね! フレちゃん、ステーキ食べるならやっぱり地元フランスの松阪牛! まつさかだよ! ダクテンがついたら平成のカイブツになっちゃうから気をつけてね! レイワのカイブツになりたいフレちゃんからのアテンションプリーズでした! あ、この前飛行機に乗ったと思ったらヤマノテセンだったんだ! ちなみにその時――』
歌鈴「これ大丈夫ですか!?!?!?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~~別室~~
あやめ「そろそろ目が覚める時間でしょうか……?」
歌鈴「はい……」
ガチャ
あやめ「!」
珠美「……」
あやめ「珠美殿! 調子はどうですか?」
あやめ「お手を失礼……!」ギュッ
あやめ「おお……! 投げが発生しない!」
歌鈴「成功ですね……!」
あやめ「いやあ、よかったよかった」
あやめ「これにて一件落着……」
珠美「ぼんじゅーるあやめちゃん殿……たまちゃんはいつもどーり元気いっぱい。今日も楽しくトゥルトー・フロマージュですぞ☆」ゴゴゴゴゴ
あやめ「」ブフォ
歌鈴「」ブフォ
あやめ「た、珠美殿……っ」プルプル
珠美「何を楽しそうに笑っているのですか……☆ さながら珠美の心はフランス革命☆ですぞ……」ゴゴゴゴゴ
あやめ「例えがっ……くぅ……」プルプル
歌鈴「……っ」プルプル ←撃沈
珠美「いったいなんですかこれは!!! たまちゃんが口を開くごとに摩訶不思議ワードがトレビアン!!! ☆も♪もバーゲンセールですよ!? アンドゥトロワ!!!」
あやめ「最後の……何……」プルプル
珠美「……わかりました☆ 祖国フランスの全てがわかりました。いや祖国フランスちゃうし! 日本生まれですし!」
あやめ「自分でツッコミを……」プルプル
珠美「その性根……叩きなおしてあげましょう……! このエクスカリバーで☆ いやエクスカリバーはフランスではなくイギリスでは!? この竹刀は竹男ですけど!?」
あやめ「ふふふ……って、竹刀!?」
珠美「痛くはしません……そのセーヌ川のように曲がった性根を叩きなおしてあげましょう! ご覚悟☆」ブオンッ
あやめ「ひぃ!? さ、三十六計逃げるに如かず!!! さらば!!!」ダダダダダ
珠美「待てーい!☆!☆!」ダダダダダ
歌鈴「……ふぅ、落ち着きました……ごめんなさい珠美ちゃ……あれ?」
歌鈴「……」ポツーン
歌鈴「……」ポツーン
歌鈴「あれぇ……?」
歌鈴「ま、まあ、待っていれば帰ってきますよね……!」
歌鈴「ともあれ、珠美ちゃんが元に(?)戻ってなによりです」
歌鈴「きらりちゃんを投げ飛ばした姿、かっこよかったなあ」
歌鈴「帰ってくるまで、ゆっくりしてよう……今日は予定も……」
歌鈴「予定も……」
歌鈴「あれ……?」
『午後のユニットレッスンも頑張るぞ! おー!』
歌鈴「……」
歌鈴「……」
歌鈴「……」
歌鈴「あっ!!! ユニットレッスン!!!!!」
歌鈴「ふ、ふたりとみょ!!!」タッタッタッタッ
ズルッ
歌鈴「きゃあっ!?」ゴツン!!!
歌鈴「きゅ~……」バタリ
――可惜夜月、レッスン大遅刻、確定。
おわり
ありがとうございました。
直近の過去作
鷹富士茄子「どうしてほたるちゃんは私のイベントを走ってくれないんですか!?」
佐久間まゆ「まゆはどんなプロデューサーさんでも大好きです……!」P「本当に?」
久川颯「えっと……”常識キャリブレーションミーティング招待状”……?」(pixivのみ)
などもよろしくお願いします
14レス目
>歌鈴「ごめんなさい歌鈴ちゃん……もっと私がよく見ていれば……」
↓
歌鈴「ごめんなさい珠美ちゃん……もっと私がよく見ていれば……」
のミスです。
失礼いたしました。
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