【百合モバマス】南条光・小関麗奈「罪色カタルシス」【ヒーローヴァーサス】 (24)

※南条光と小関麗奈の百合SSです。登場人物は全員八年分育っています。
※光(22)は巨乳になっています。麗奈(21)のお山は横這いです。






「……」

レッスン後、シャワーを浴びながらアタシは自身のカラダを眺めた。

最初は気にならなかったけど、ここ六年でアタシの体は随分と女のカラダに仕上がってしまった。

腕で隠しきれない盛り上がった胸が恨めしい。

   #  #  #


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「ヒロイン役……?」

二十二歳になった時、プロデューサーから言い渡された役はヒロイン役だった。

努力の甲斐あってデビュー後二年目で手に入れたヒーロー役……

「特撮と言えば南条光」が合言葉みたいに流行って、アタシもそれを誇りに思っていた。

正直まだまだメインヒーロー役を続ける気でいたし、降りる時期でもないと思った。

「言っておくが、別にこのオファーはヒーロー役としてのお前を否定している訳じゃないからな」

プロデューサーは資料を手渡し、ついでに説明を続けた。

「その証拠に光のアクションについての評価は全く落ちていない。
 だが光、お前のヒロイン役を切望する声は日増しに増えてきている。
 無視するのは得策ではない。需要があればそれに応え、演技の幅を広げていく。
 これはそうした仕事の一環だ」

分かってるつもりだ、プロデューサーはアタシの夢をしっかり汲んで

早くから特撮の営業をしてくれていた。

スタント顔負けのアクションをこなす特撮アイドルという評価を得たアタシは

四作目で初めて女性でレッド役に抜擢された。

「……」

「光、お前も年頃だし女性として十二分に魅力的なアイドルに育っている。
 マンネリ感を拭う意味でも、このヒロイン役はマイナスにはならない」

結局アタシはその仕事を受けた。

……だけどどこか吹っ切れていない自分がいた。

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熱いシャワーが肌を撫でていくうちに、高校の休み時間を思い出した。

教室の後ろの方で、アタシの出ている雑誌を片手に語っていた男子の猥談が今も耳に残っている。

『光ちゃんの体ってホンット最高だよなぁ……』

『ああ、新シリーズになる度におっぱいおっきくなってる気がするわ』

『いや、なってるだろ。この間の回のアクションシーンなんてスゴかったぞ
 オッパイがたぷたぷ揺れてた』

『この前プールに怪人が来た回も神回だったよな。
 光ちゃんの水着姿だけでも貴重なのに、きゅっと締まったヒップに
 水着が食い込んでたハイキックシーンがマジ最高だった……』

廊下ですれ違う度に異性の好奇な視線が突き出た胸や尻に吸い付くのを感じていた。

その熱の籠った目を向けられている、体が焼けてしまいそうで怖かった。

体がどんどん女の子になっていって、男の子と違っていくのが怖かった。

組んだ腕の上にデンとふてぶてしく乗っかる乳房。

……こんなのより、背が高くなって欲しかった。

未だにアタシは一五五センチを越えていない。

なのに胸だけ九十二センチもあって何の役に立つだろう。

可愛いとかエッチだなんて言われても、全然嬉しくなかった。

胸なんか大きくなっても重いし、走る時上下に揺れて千切れそうに痛いし

男の子にはヘンな目で見られるし、良い所なんて全くないのに……。

   #  #  #

「……アンタ、アタシにケンカ売ってるの?」

事務所の食堂でアタシは麗奈に相談していた。

彼女はアタシとか対照的な成長を遂げている。

すらりとしたカラダには無駄が一切なくて

軽やかなステップに靡くストレートヘアには癖毛一つ見当たらない。

キュートとクールが調和を保って同居している、青々しく反り立つ若竹のような美女。

彼女は今やトップモデル兼歌手になっている。

デビューして数年の内にファッションリーダーとして

男性ファン以上に女性ファンから熱く支持されるようになった。

「いや、そんなつもりは……ちょっ……! ちょっと、麗奈ぁ!?」

麗奈は身を乗り出してアタシの乳房に悪戯を始めた。

「一体何を食べたらこんなに差が出るのよ」

「あっ……そこ、触っちゃ……! んぅ……!」

乳房の下部を麗奈は手の甲でトントンと叩いてくる。

人形のように綺麗な彼女の手は、アタシの下品な大きさの胸にすっかり隠れてしまっていた。

「ホント何よ……この嫌味ったらしい重みは!
 半分くらい分けなさいよね、全く……」

「うう……分けられたら、分けてるよ……」

アタシはジンとする胸を抱えて縮こまった。

何で麗奈に相談したのかというと、今度の特撮で彼女とアタシは共演するからだ。

以前に魔法少女の麗奈と映画でコラボしていて、今回はその延長線とも言える縁だった。

監督は彼女を戦隊もののリーダーに抜擢した。

それはアタシがここ数年守ってきたポジションだった。

「――とはいえ! モデル兼アイドルだからって
 特撮にも手なんか抜かないわよ。
 もしかしたらこのまま光の出番喰っちゃうかもね!」

「……うん」

「……? 何よ、そのシケヅラは? 悔しくないの?」 

「だってアタシ、闘わないヒロイン役なんて初めてだし……上手く演じられる自信ないよ」

「……あのね、誰にだって初めてはあるでしょ?」

顔をあげると彼女はいつになく真剣な表情で話しかけてきた。

トントン拍子で特撮の仕事を手に入れたアタシと比べて麗奈はなかなか芽が出なかった。

カッコいい悪役を欲しがってた彼女は三年間営業して

やっと手に入ったのは魔法少女の仕事を一クール。

「でもアタシはやったわ。初めてだしガラじゃないし恥ずかしかったけど
 からかわれても練習しまくって……だってそうでしょ?
 やっと手に入れた仕事すら半端にしか出来ないようじゃ
 レイナサマの世界征服なんて、夢のまた夢だからね」

「麗奈……」

「とにかくっ、ヒロイン役だって大事な仕事なのは変わらないでしょ。
 アンタは今まで何を守ってきたの? か弱いお姫様みたいなヒロインたちじゃないの?
 じゃあ一番近くで見てきたんだから一番良く知ってるはずでしょ。
 守る対象見ないで戦ってきた訳じゃないじゃん。思い出しなさいよ、絶対出来るから」

いつの間にか食べ終えている麗奈は食器を片付けに立ち上がろうとしていた。

「……あ、ありがとう……」

「カンチガイしないでよ、助けた訳じゃないからね。
 腑抜けた演技した光に勝っても全ッ然嬉しくないし、何より倒し甲斐がないでしょ」

「倒すって、アタシを?」

「当然! デュオ組んだ時から、光はずっとこのレイナサマのライバルなの!
 最初は差が出来ていたけど、最近やっと勝負できるレベルになったわ。
 それまでずっとアンタは越えるべき壁だった」

麗奈はアタシの額を人差し指で小突いた。

「今度は光がアタシを越えなさいよ、そしたらアタシが更にそれを越えてやるんだからね!」

麗奈は言うだけ言うとさっさとトレーを返却して食堂を後にした。

アタシだって気づかなかった訳じゃない。

麗奈はなかなかアイドル活動や夢が軌道に乗らない時も手を抜かなかった。

負けず嫌いなのに、アタシの活躍を見て内心ずっと焦っていたに違いないのに。

そんな麗奈にライバルとして認められている事が嬉しかった。

麗奈のためにこの仕事、是が非でも頑張ってこなしてみせる。 

   #  #  #

撮影は順調に進んでいった。

シーンは戦隊メンバー四人を圧倒した怪人にヒロインが戦うシーンに入る。

アクションを控えめにしてあくまでも一般人の立ち回りに努めた。

ヒロインは奮戦空しく激怒した怪人に捕まり、絶体絶命のピンチ。

「――待たせたな!」

颯爽とバイクで怪人とアタシの間に突っ込んできた麗奈は

タイヤ跡をアスファルトに刻みながら強引にバイクを捩じ伏せる。

脱いだヘルメットから流れるように出てきたロングヘアーがいつも以上に美しく映えた。

「遅いぞリーダー! 俺たちまで危なかったんだからな!」

「よく言うよ! そんなヤワな奴はウチの隊にはいらないからね! 
 ……さぁ、お姫さんを拐ったこのデカブツを退治しようか! みんな!」

仲間たちを奮起させたシーンを撮って変身後のアクタースーツに身を包む。

華麗にアクションをこなす麗奈にアタシは目を奪われている。

カッコいいヒーローにピンチを助けられた時の安堵感。

手強い怪人をヒーローが爽快に倒していく時の魂の高揚。

向こうで背にして闘っている彼女は間違いなく、命を睹して平和を守るヒーローそのものだった。

アタシは久々にヒーローをを熱く応援した。

テレビの前で一緒になって拳を突き出し、怪人たちから人々を守ろうとした日を思い出しながら。

「へへ、もう安心しなよ。悪い奴はこのワタシが黙らせたからな」

見事怪人を倒した麗奈はそう言って、アタシの腰を掴んだ。

凛々しい女リーダーに抱かれたアタシはいつになくときめいた。

自分でも驚くくらい自然と女の子を演じられている。

……いや、アタシは既にこのヒロインになっている。

助けてくれた相手への尊敬の念が憧れとなり、そのまま恋へと目まぐるしく昇華されていく。

「ありがとう……」

自然と重なり合う唇。魂の内側から込み上げてくる、尊い愛の衝動。

(麗奈……ありがとう。アタシ、麗奈に助けられて嬉しかった……) 

いつも見るだけだったあの麗しい唇はどこまでも甘く優しい感触で、うんと甘えていたくなる。

麗奈……アタシもっと頑張るよ、頑張ってまた

ううん、ずっとアタシのライバルでいて……。

   #  #  #

「――何やってんのよッッ!」

金切り声に頭を揺さぶられたアタシは目を瞬かせた。

二の腕を握られたアタシの前には、麗奈がいた。

さっきまでの凛とした表情は消え、耳まで真っ赤にしながら

怒りたいのか泣きたいのか分からないといった様子で、アタシを睨んでいる。

「……何……って……?」

「台本と違うでしょうがッ!?
 『ここでキスする』なんて、どこにも書いてなかったでしょッ!」

アタシはここでようやく役から醒めた。

途端にどこからともなく羞恥心がブクブクと膨れ上がり、アタシの脳裡を暴れ狂った。

ああ、何て事をしてしまったんだろう!

よりによって、周りにスタッフさんや俳優さんたちの居る中で、アタシは……麗奈の唇を……!

「ご、ごめんっ……! そ、その……したくなっちゃって……」

「『したくなった』って何!? アンタ野獣か何か!? 信じられないっ!」

アタシはすっかり思考をショートしてしまい、その場に膝を折ってへたれ込んだ。

そして麗奈のように赤くなった顔を両手で覆ってうつむいた。

「うぅ……ッ! アタシのファーストキスをどうしてくれんのよ……このバカ!」

麗奈は頭からアタシに罵倒を投げている。

アタシだって恥ずかしいから気持ちは分かる。

けど、そんなにきつく嫌わなくても、とアタシは悔しくなって思考の定まらないまま言い返した。

「……! だって! 本当にキスしたかったんだ!
 麗奈はいつもよりずっと綺麗で、かっこよかったし……!
 そう考えていると、女の子の役とアタシの境目がなくなって……っ!
 麗奈に対する気持ちが……我慢できなくなって……!」

「なっ……! なっ……! なっ……!」

もう自分でも何を言っているのか分からない。

麗奈だけじゃない、アタシだってファーストキスだったんだ。

麗奈が好きって気持ちに嘘はない。

衝動的とはいえ、いい加減な気持ちでキスなんて出来る事じゃない!

「それでも本番にやるなんてどうかしてるわよ!?
 アンタにアタシの気持ち分かるの!?
 他の奴らに見られる中で……『好きな相手』にキスされたこの気持ちが!」

竦み上がっていたアタシは、一瞬、彼女の言葉に耳を疑った。

「好きな相手……って……」

「全っ然気づいてなかったでしょ! 鈍いにもほどがない!?
 ……ずっと馬鹿みたいに真っ直ぐで
 馬鹿みたいに格好良かったアンタを見て
 アタシがどう思っていたかなんて……っ!」

顔を上げると、麗奈は目頭を熱くしたまま手で口を抑えていた。

「アンタは知らないけど、アタシなんか八年間よ!
 構って欲しくて、ずっとアンタと張り合ってきたのに……!」

「麗奈……」

いつも素直じゃない麗奈の、真っ直ぐな想いを向けられ

アタシは嬉しい反面どう返答していいのか困り、間を開けてしまった。

「あー、チョイ、チョイ」

そんなアタシたちの間に割って入ったのは、禿げ頭で小太りの中年男性。

なりこそ小汚ないが彼は名の通った特撮監督で、デビュー辺りから

アタシと麗奈に懇意にしてくれている共通の恩師でもある。

「盛り上がっている所悪いが、仕事中だぞお嬢ちゃんたち」

アタシと麗奈はすぐ切り替え、頭を深々と下げて詫びた。

「まあいい、さっきの二人ともスゴく良かったぜ。お陰でエモい絵が撮れた、撮れた」

「か……監督!? まさかさっきのシーンを使う気じゃ……!?」

「別に良いじゃないか、尊みがあってよぉ。
 脚本見た時なんか足りねぇなぁって思ってたんだが、そうだ、キスだ。
 こんだけ格好良く助けられたら男も女も関係ねぇ。
 キュンときた心を抑えきれる方が不自然ってもんだ」

「ダメダメダメダメダメッッ!」

アタシと麗奈は千切れんばかりに首を左右に振った。 

「こんなキス元々台本にないし!」

「固い事言うなよ、アドリブって事で良いぜ俺は」

「とにかくダメったらダメっ! カットして!」

「あーはいはい、分かった、分かった。
 大胆に告白かました恋人のために、このシーンはカットして本編では使わないよ。
 あーあ、もったいないねぇ……」

ようやく監督が折れたので、麗奈はまた気持ちを入れ替えて撮影に挑む。

しかし、まさか麗奈もアタシを好きだなんて思ってもみなかった。

アタシの出番はあれで終わりなので、監督の隣に座ってずっと麗奈を見ていた。

彼女の視線とかどうしても意識して一人でに熱い汗が滲み出てくる。

   #  #  #

「皆、差し入れ買ってきたわよー」

お弁当惣菜の詰まった袋を抱えて麗奈が帰ってきた。

年少組のアイドルたちが礼を言ってそれぞれ好きなものをチョイスしていく。

「フフ、全部今日が賞味期限だからせいぜい焦って食べなさい」

「麗奈ちゃん、遠いスーパーまで足運んで半額品買ってくれるよね。やりくり上手」

半額おにぎりを食べつつ、千佳が口を出す。

そう、デビューした時からコンビニおにぎりとか賞味期限ギリギリの食べ物ばかりを

差し入れしてたため、みんないつの間にか買い出しを麗奈に任せるようになったのだ。

「ちっ、違うわよ! いいからさっさと食べなさい千佳!」

その時、麗奈と目が合った。

何か言おうと思うが、意識してしまうと簡単な言葉が出ない。

麗奈は視線を逸らした後、アタシに差し入れを突き出した。

「……えっと、その……ほら、光にもあるから……」

「うん……ありがとう……」

やっとそれだけ言うと、麗奈の隣で食べ始める。

チラチラと彼女の横顔を盗み見る。

端正な、それでいて愛らしさの残る顔立ちが

艶のあるストレートヘアと調和していて、魅力的だ。

「何かさー、光ちゃんたちも素直になりなよ」

アタシたちの頭の間から、千佳が顔を出す。

「……何がよ千佳」

「告白済みなんでしょ? 堂々と付き合っちゃえば?」

「こ、告白って……! そんなんじゃ……」

「そうよ、千佳! 変な事言ってたら差し入れ返し……」

「ふーん、これでも?」

するといきなり千佳は後ろから腕を回して抱きついてきた。

女の子特有の甘く柔らかな香りと共に、千佳の可愛い顔が間近になってドキッとした。

十七歳なので魔法少女アイドルとしての旬は過ぎたものの

菜々さんと一緒に魔法少女アニメの声優として活躍していたり

女子アニメグッズのCMタレントとしていたりと引っ張りだこだ。

今でもデビュー衣装でステージに上がればファンは感涙するとか。

「……ッ! 何してるのよ!」

「ほーら、ヤキモチ焼いてるー。光ちゃん知らないでしょ?
 あたしと光ちゃんが屋上で遊んでた時、麗奈ちゃん陰でずっと怖い顔して見てたんだから。
 ずっと遊びたそうにしててさ」

「本当? 麗奈、が……?」

「……っ! 嘘よ嘘っ! そんな訳ないでしょっ!
 千佳、いい加減ホラばかり吹いていると……っ!」

「じゃあ二人は付き合ってないの?
 ……それならあたしが光ちゃん貰っちゃおうかなぁー」

さっきから千佳の甘い女の子の匂いを意識してしまってアタシは全く落着けなかった。

「光ちゃんてば格好いいし、可愛いし、憧れてる女の子結構多いんだよ?
 告白しただけでカノジョ気取りしてたら、恋愛慣れしてない光ちゃんだから
 あたしが手を出さなくても誰かにフラフラ靡くかも……」

「そ、そんな事……やぁっ!? ち、ちょっと、千佳ぁ!?」

千佳はセーターの上からアタシの胸をほぐすように揉み始めた。

それも麗奈に見せびらかすように。

麗奈の顔からみるみる余裕がなくなっていく。

こういうと怒られるかもしれないが

彼女の嫉妬している顔を見ていると、何か無性に嬉しくなった。

「ダメに決まってるでしょ、そんなの!」

麗奈はたまらないって感じでアタシの腕を掴んで抱き寄せた。

思ってた以上に力強くてドキドキする。

千佳の言う通り、アタシは本当にこういうのに耐性がないのかもしれない。

頭を上げると麗奈の朱に染まった顔が見える。

目が合うと、アタシたちはますます頬を火照らせた。

唇にあの時のキスの感触まで蘇ってくる。

「あっ、見てみて! これ光ちゃんたちの特撮じゃない?」

千佳の後ろから舞がテレビを指差して言った。

とにかく話題を逸らそうとアタシは渡りに舟とそれに食いつく。

すると、近くにいたアイドルたちが番組を見ようと寄ってきた。

舞は千佳の隣でジュースを飲みながらあまり縁の無い特撮シーンを興味津々に見ていた。

「麗奈ちゃんってバイク乗れたんだー」

「スタント頼りのアクションは趣味じゃないからね。
 どお、アタシにかかればちょっと練習しただけでこのクオリティよ?」

「麗奈ちゃんは、拓海さんと夏樹さんの猛特訓で
 半べそになりながらバイク頑張ってたんですよ~」

「ちょっと、七海! ばらすんじゃないわよ!
 内緒にしろって言ったでしょ!? 光、コイツ悪よ!」

「ハハハ、麗奈は努力家だか、ら……」

「んっ、どうし……って!? ェエエエエエエ!?」

アタシたちはガラスが震える程の悲鳴を上げた。

   #  #  #

「プロデューサー! どうなってんのよッッ!」

その後で麗奈はトイレから帰って来たプロデューサーを早速問い詰めた。

「何だよ」

「アレの件についてよッ!」

麗奈はテレビを指差した。

そう、お蔵入りにしたはずのあの告白が今、液晶に大きく映っていた。

オーディエンスの響声が止まない中で番組のゲストたちは

それをネタに面白おかしく盛り上げていく。

アタシは爪先から頭の先まで赤くなったまま固まっている。

シャベルがあればその場に穴を掘ってでも埋まりたかった。

「キスシーンよ、キスシーン!
 あれはカットされたってアンタ言ってたわよね!?
 なのに何でっ! この特番で流れてるのよッ!?」

「何でって……NGシーンやお宝映像系の特番なんだから当然だろ?」

「話が違うって言ってんのよ!」

麗奈が捲し立てている間にもそのシーンは流れている。

「嘘は言ってないぞ、『本編には』使ってなかったろ?
 いやぁしかし思ったよりガッツリいってたんだな……ちゃんと舌入れたか、光?」

アタシはうつむいて両手で隠したまま顔を横に振るので精一杯だった。

「トンチ小僧してるんじゃないわよ! 早く苦情を……」

「まあまあ……見てみろよこれを。
 80%だぞ?こんな視聴率見たことない。
 Twitterでトレンド入りも時間の問題だな」

呑気にプロデューサーは笑っているが、あのシーンが流れてから

事務所の電話が一斉に鳴り出している。

ちひろさんはかかってくる電話を他の事務員さんたち同様に片っ端から対応していた。

「プロデューサーさん、トレンドの前に
 光ちゃんたちのキスに関する問い合わせの電話が……!」

「落ち着きなってちひろさん。無闇に電話で何でも応えちゃいけない。
 しばらく相手を飢えさせておいて情報の単価を釣り上げるんだ。
 とりあえず主だった営業先には今のうちにヒーローヴァーサスをセットで売り込んでおこうか。
 ただそうなるとライブを含めた今後のスケジュール調整を見直す必要が……」

「すっ……! 好き勝手な事を……ッ!」

アタシに続いて気丈な麗奈まで声が泣きそうになっている。

「麗奈ちゃん、早速Youtubeに例のキスシーン流れてるけどどうする?」

「決まってるわよ千佳! そんな違法動画、著作権侵害で削除してやるわッッ!」

「おいおい消すなよ。折角さっき投下した公式宣材を」

「プロデューサー! アンタどっちの味方なのよッッ!」

   #  #  #

それからレイナは逃げるように事務所を出ていった。

プライドの高い彼女の事だから皆にからかわれるのは堪えられなかったんだろう。

アタシも居心地が悪くなり、レイナを探しに屋上に行った。

彼女は膝を抱えて座っていた。

「……何よ、光」

追ってきたのはいいもののどう言葉をかけたら良いのか分からない。

アタシはただ彼女の傍に腰を下ろした。

春が来たとはいえ、外の空気はまだまだ寒い。

「そもそもアンタのせいだからね……」

「うん……ごめん」

「ごめんで済む訳ないでしょ。……どんな顔して歩けばいいのよ、これから」

「……麗奈」

アタシは彼女の手に自分の手をそっと重ね合わせた。

顔を合わせるのは流石に恥ずかしかった。

「アタシ、男の人とすら付き合った事ないけど……その……麗奈が良ければ」

この気持ちを言うのは二度目なのに、どうも歯切れが悪い。

あの時は半分勢いがあったけど、告白する女の子って

本当は皆、こんな気持ちになるんだろうか……。

「これからも、ずっと仲良くしていきたいんだ……麗奈が、好きだから……」

「……。響かないわよ、そんな言葉」

えっ、とアタシは顔を上げた。

すると麗奈は両手をアタシの頬に添えて無理やり自分に見つめ合わせた。

互いの熱い視線が交差し、顔と顔の間でぶつかり合う。

ため息つくほど綺麗な麗奈の顔は、凄く凛々しかった。

「そう言うのはね、ちゃんと目を見て言いなさいよ。
 昔、アンタがいつもイイ子ちゃんなセリフぶってた時みたいに!」

「あ、うん……」

逸らしていた眼をもう一度麗奈に向ける。

勇気を奮ったアタシを、彼女は真剣に見つめ返していた。

「麗奈が好きだ、つ、付き合ってほしい!」

「……言えたじゃない」

途端に麗奈は、さっきとは打って変わって愛らしい笑顔になった。

「……んっ……!?」

口端が釣られて上がるよりも早く、麗奈の顔がぐっと寄ってきた。

アタシは冷たい床に背中を預けたまま押し倒され、唇同士が重なり合うのを感じていた。

「……やられっぱなしは性に合わないからね!
 遅くなったけど、あの時のキス、倍にして返してやるんだから……!」

レイナはそう言い捨てると再び唇を押し付ける。

焼けるくらい甘くて切なくなる彼女のキス。

無意識に指と指が次々と交差し合い、互いに握り握られを繰り返していく。

麗奈の長く真っ直ぐな髪が垂れ、アタシたちのキスをカーテンのように隠した。

ああレイナ、アタシ、我慢出来ないよ……。

どんどんレイナが欲しくて堪らなくなる。

やっぱり、レイナは特別なんだ。こんなに恋しくなるんだから。

ファンの皆、ごめん……今だけはアタシ、ちょっと悪い子になるね……。

うおっしゃああああああああああああああああああ!!!
レイナサマに声ついたああああああああああああ!!!
かわえええええええええええ!!!



以上です

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