【ゲゲゲの鬼太郎 6期】「恐怖の異星獣 スペースビースト」【ウルトラマンネクサス】 (197)

本作はタイトル通りの作品となります。

以下は、読む前に把握して欲しい事です。


1.本作は、『ゲゲゲの鬼太郎第6期』と『ウルトラマンネクサス』のクロスオーバー作品になります。
内容的には、鬼太郎の世界にみんなの(聖夜の)トラウマとして有名な『あのビースト』が出張しに来る感じです。
よって、残念ながらウルトラヒーローは登場いたしません。
また『ネクサス』以外の作品のキャラクターも少しだけ登場します。

2.時系列は6期本編第84話と第85話の間。つまり第84.5話のようなものです。

3.ストーリーの都合で、双方の原作に登場していないオリキャラや独自設定が出て来ます。
苦手な方はご注意して下さい。


ちなみに、どのような作品を書くかは
当方で考えて決める方針なので、次の作品のリクエストの類は受け付けていないことをご了承下さい。

以上を把握の上でご覧下さい。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1586326189

~アバン~


鬼太郎「ゲゲゲの鬼太郎」



『グオォォォ――――!!!!』

『異(い)なる星の獣と書いて『異星獣』。それがあの怪物の正体です』

『好きな娘できたら。絶対にその娘を、守ってやってね』



鬼太郎「見えてる世界が全てじゃない」

「見えないものもいるんだよ」

「ほら…君の後ろの暗闇に」

~アバン~


鬼太郎「ゲゲゲの鬼太郎」



『グオォォォ――――!!!!』

『異(い)なる星の獣と書いて『異星獣』。それがあの怪物の正体です』

『好きな娘できたら。絶対にその娘を、守ってやってね』



鬼太郎「見えてる世界が全てじゃない」

「見えないものもいるんだよ」

「ほら…君の後ろの暗闇に」

のっけからミスしてしまいました……

>>3はないものとしてお願いします……


~ゲゲゲの鬼太郎第6期 オープニング(2年目バージョン)~

―12月某日:東京都 調布市―

冬休みも間近に迫りつつあるとある日の深夜。

懐中電灯を持った二人組の青年と一人の女性が、郊外にある廃ビルに足を踏み入れた。

廃墟マニアが、肝試し感覚でこの建物に侵入したのである。


女性「ねぇ…やっぱ怖いよ~」

青年A「だったら、もう帰ってもいいんだぞ?」

女性「それもヤだ~」

青年A「まったく…最初に『暇だから肝試ししましょ☆』って、言い出したのは何処のどいつだよ」

女性「だって、夜の廃ビルってこんなに怖いなんて知らなかったんだも~ん……」

青年A「相変わらず面倒な奴……」

青年B「シッ!二人とも、静かにして」

青年A「何だよ!急に」

青年B「何か、音聞こえない?」

青年A「音ぉ?」


青年Bの言う通り、通路の奥からバリバリと言った感じの音が鳴っていた。

まるで、何者かが何かをかじっているような、そんな音が……

青年A「な、何だよこの音…?」

女性「ね~、やっぱ帰ろうよ~!」

青年B「でも、気になるじゃないか。行ってみよう」


得体の知れない何かがいるかもしれない以上、
女性の言う通り、本来なら引き返すべきだ。

しかし、若さゆえの好奇心か、音の正体を知りたいという欲求が勝り、
結局、青年二人は不安そうな女性を連れて、音のする奥へ奥へと足を進める。


そして、三人はついに音のする部屋へと足を踏み入れた。


青年A「お、おい…何だあれ!?」


辿り着いた部屋の中を見て、三人は驚愕した。

まず、懐中電灯で床を照らしてみると、そこには血らしき赤い跡。

その跡を辿って部屋の奥を照らすと
人間らしきものを貪り食っている、ネズミに似た怪物の姿が……

女性「キャアァ―――!!!!」


人を食う怪物の姿を見て、女性が悲鳴を上げる。


怪物『グオ――!』


言うまでもなく怪物は、その声に反応して三人の存在に気付き、彼らの方に顔を向ける。

さすがに危険だと察し、逃げようとした三人であったが時すでに遅し。

怪物は咆哮を上げながら、あっという間に三人の元に走り寄り、そして……


『ギャアァァァァ――――!!!!』


『嫌アァァァ――――!!!!!』


次の瞬間、廃ビルから二人の男と一人の女の悲鳴が響き渡ったのだった。


―サブタイトル―

第八十四点五話

恐怖の異星獣 ―スペースビースト―

―翌日の夕方―


下校中の『犬山まな』は、友人の『桃山 雅』からある話を聞かされていた。

無論、昨晩の出来事の話しである。


雅「もう知ってるかもだけど、昨日の晩また人が殺されたらしいよ」

まな「またなの?」

「この間も、デュナミスト・バンドの孤門さんの恋人とその家族さんも、殺されたり行方不明になったばっかなのに……」

雅「しかも、事件現場の近くで大きな怪物が目撃されたから、そいつに食べられたんじゃないかとか言われてるみたいよ」

「実際、死体として見付かってる人は、みんな獣に食べられたみたいに下半身から上がないらしいし……」

まな「…………」

まな(もしかして、妖怪の仕業かな?)


そう考えたまなは、雅と別れた後、足早にゲゲゲの森のゲゲゲハウスへと向かった。


まな「……………」

「いない」


だが、家には誰もおらずもぬけの殻であった。


まな(色々とニュースになってるの知って、調べに出掛けたのかな?)


だとしたら、わざわざ相談に来る必要もなかったか?

いずれにせよ、誰もいないのではここにいてもどうしようもない。

仕方なくまなは、家路につく事にした。

まな「あーあ、無駄足だったなぁ」


そう呟きながら、いつもの道を歩くまな。

日が落ちるのが早い冬の時期と言う事もあり
ゲゲゲの森から出て、いつもの公園辺りに来た頃には
もう既に日が完全に落ち込んで暗くなっていた。

夜空になった空を見上げて、まなは何かが起きる前に家に帰ろうと思い始めた。


ねずみ男「あひぇ――!誰か助けてえぇぇぇ―――!!」


しかしその時であった。

公園の向こうから、人間と妖怪のハーフであり、
鬼太郎の悪友でもある『ねずみ男』が叫びながらこちらに走ってきたのだ。


まな「ねずみ男さん?」

ねずみ男「そこにいるのは、まなちゃんか?」

まな「どうしたの?そんなに慌てて」

ねずみ男「そうだった!」

「まなちゃん、こんなとこにいねぇで早く逃げろ!じゃねぇと、まなちゃんも『アイツ』に目ぇつけられ………」


怪物『グオォォォ――――!!!!』

「『アイツ』に目ぇつけられるぞ!」と言おうとするねずみ男の言葉を遮るように、
彼の後ろから口から三本の鋭い前歯を生やし、両手に五本の鋭い爪が生えた指を持った、
皮を剥いだネズミのような姿をしたおよそ5メートルくらいのサイズの二足歩行型の怪物が、咆哮を上げながら姿を現した。


ねずみ男「うわあ、もう追い付いてきやがった!」

まな「キャア――!!!!」


ねずみ男が驚く一方、まなは唐突に現れた醜悪な姿の怪物に驚き、悲鳴を上げてその場で腰を抜かしてしまう。

すると怪物は、その悲鳴に反応してまなの方を向くと、
まるでターゲットを変えたかのように、彼女の方へゆっくりと足を進める。

まな「ひぃ!」


こちらに迫ってくる怪物に怯えるまなだったが、
すぐにねこ娘を呼ぶべきだと判断してスマホを取り出す……のだが、恐怖と焦りで手が震えてスマホが上手く操作できない。

そうしている間に、怪物はまなのすぐ目の前にまで迫る。


ねずみ男「まなちゃん!」


さすがのねずみ男も、彼女を助けに行こうとした。

怪物『!?』


しかしその時、風を切る音共に二つの下駄が
まなとノスフェルの間に割って入るかのように横切り、怪物は足を止める。
その隙を突くかのように、黄色と黒のちゃんちゃんこを
片腕に巻いた茶髪の少年が、その腕で横から怪物を殴り飛ばした。


『ゲゲゲの鬼太郎』の登場だ。

まな「鬼太郎!」


親友の一人でもある妖怪の登場に、まなは一気に安心感を抱いた。

一方の鬼太郎も、戻ってきたリモコン下駄を両足に履き戻すと
「大丈夫か?まな」とまなに歩み寄った。


まな「私は平気。ちょっと危なかったけど……」

ねずみ男「鬼太郎~!来てくれると信じてたぜ~」

鬼太郎「ねずみ男」

ねこ娘「…てことは、やっぱりアンタが一枚かんでたって訳?」


そして同行していたらしい、鬼太郎の仲間にして幼馴染の『ねこ娘』が、
両腕を組みながら、怖い顔でねずみ男を睨んだ。


ねずみ男「ご、誤解だ!俺も被害者なんだよ!」

まな「ねこ姉さん」

「二人とも、やっぱり例の連続殺人事件の事調べてたんだね」

鬼太郎「あぁ。ねこ娘と一緒に、事件の犯人の手掛かりを捜していたんだ」

ねこ娘「そしたら、なんかこっちの方が騒がしかったから、すぐに駆け付けたのよ」

怪物『グルルルル…!』


ねこ娘がこの場に来た経緯を説明する中、
怪物が唸り声を上げながら立ち上がり、鬼太郎とねこ娘を睨む。


ねずみ男「お、おい…アイツ怒ってるぞ!」

鬼太郎「父さん、あの怪物は?」

目玉おやじ「わしにも分からん。少なくともアレは妖怪ではないぞ」


鬼太郎の髪の中から現れた彼の父親である『目玉おやじ』はそう言った。

その言葉にまなは驚く。


まな「え!?アレ妖怪じゃないの?」

鬼太郎「そうみたいだ。今まで一度も、妖怪アンテナで妖気を拾う事ができなかった」

ねこ娘「かといって、人里に迷い込んだ野生動物でもなさそうよ」

怪物『ギャオォォ―――!!!!』


咆哮を上げながら、怪物は鬼太郎とねこ娘に向かってきた。


鬼太郎「来るぞ!」

ねこ娘「ねずみ男、まなを頼むわよ」

「ただし、何かしたら八つ裂きだからね!」

ねずみ男「へいへい、分かりましたよっと」


ねずみ男にまなを預けると、鬼太郎とねこ娘のコンビも怪物に向かって走る。

すると怪物も、自分も臨戦態勢である事をアピールするかの如く、
ジャキンと両手の指を広げて、爪を強調して見せた。

ねこ娘「ネズミの化け物の癖して、爪で勝負ってわけ?」

「受けて立つわよ!」


ねこ娘は化け猫顔になって、
両手の爪を伸ばすと、鬼太郎を追い抜いて真っ先に怪物を引っかきに掛かる。

当の怪物も爪で応戦。

猫妖怪とネズミのような怪物の鋭い爪対決が展開される。

やはりというか、怪物の方が爪の一撃はかなり重く、ねこ娘は若干押され気味であった。


ねこ娘「ネズミの割にはやるじゃない。けど……」

鬼太郎「髪の毛針!」


ねこ娘と怪物が戦っている隙に、鬼太郎は遠くから針と化した髪の毛を発射する。

だが、怪物はすかさず飛び上がって回避。

そのまま空中で体を丸めると、縦回転しながら鬼太郎目掛けて急降下し、
その勢いに任せて尻尾を叩きつけようとする。

鬼太郎もすぐさま反応して空中にジャンプしてかわしたが、
その代わりに尻尾を叩きつけられた地面が砕けてしまった。


目玉おやじ「気を付けろ。こやつ、結構な力があるようじゃぞ」

鬼太郎「そのようですね。…うわ!?」


目玉おやじに忠告されたその直後、
鬼太郎は何かに足を引っ張られて地面に叩き付けられ
その拍子に頭に乗った目玉おやじが落とされる。

見れば、怪物が口から黒い舌を伸ばし、鬼太郎の右足を捕らえていた。


鬼太郎「こんな事も出来るのか…!」


驚きつつ、ちゃんちゃんこに手を伸ばそうとする鬼太郎。
だが、鬼太郎に足に巻き付いた、怪物の舌の先が
なんと細かく分かれて、触手のように絡みつき、鬼太郎の左足以外の全身を覆ってしまう。

鬼太郎「く…!体内電気…!」


鬼太郎は、すぐさま体内電気で反撃。

しばし耐える怪物だったが、次第に耐えられなくなって鬼太郎を開放する。

そして、舌を出したまま、鬼太郎を睨みつけたが、
その隙にと言わんばかりに「ニャァ―――!!」という鳴き声と共に
走ってきたねこ娘の爪で、舌を切り落とされた。


怪物『グギャアァ――!』


舌を切断され、悲鳴を上げる怪物。

すかさず鬼太郎は、ちゃんちゃんこで包んだ腕を構えながら怪物に向かう。

それに気付いた怪物は、すぐに左手の爪を広げて引っ掻こうとしたが……


鬼太郎「霊毛……」


「ちゃんちゃんこぉッ!!」

鬼太郎のちゃんちゃんこパンチで爪を打ち砕かれ、逆に怯まされる。

そして、間髪入れんと言わんばかりに
鬼太郎は、即座にちゃんちゃんこを着直すと右手を銃のように構え
人差し指の先に妖気を集中させる。


鬼太郎「指鉄砲!」


そして鬼太郎は、指先に集中させた妖気を一気に解き放つ。
放たれた妖気は、光線のように一直線に飛ぶと、怪物の胸を貫いた。


怪物『ギャギイ―――!!!』


指鉄砲の直撃を胸に受けた怪物は、後ろに向かって吹っ飛んだのち、爆発して木っ端微塵になった。

まな「やったー!」


怪物が倒されるのを見て喜ぶまな。

一緒にいたねずみ男も
「いや~!さすがは俺様の大親友!絶対やってくれるって信じてたぜ~!」
と言いながら、馴れ馴れしく鬼太郎に近寄ったが、ねこ娘にヒゲを引っ張られてしまう。


ねずみ男「イテテテテテ!な、何すんだよ!」

ねこ娘「すっとぼけるんじゃないわよ!」

「アンタ、あの怪物とどういう関係?」

ねずみ男「な、何だよ!ネズミみてぇな姿してたからって疑ってんのか?」

「さっきも言ったけど、俺も被害者なんだよぉ!」

鬼太郎「じゃあ、何であの怪物に追われていたんだ?」

ねずみ男「それがよ……」


ヒゲを解放してもらいつつ、ねずみ男は怪物に追われていた経緯を語り出した。

彼は、いつもの如く三人の借金取りに追われていたのだが
丁度その真っ最中に、先程の怪物が何処からともなく出現。

真ん中の一人を爪で引っ掻いて負傷させ、恐怖に震える彼を頭から食べてしまったのだという。
無論、その光景を目にして恐怖で腰を抜かしたもう二人も、漏れなく捕食されたのだが、
最後の一人は味が気に食わなかったのかは知らないが、頭から胸まで食べて止めてしまったのだという。


ねずみ男「で、俺も腰を抜かしてたらアイツに目ぇ付けられて……」

「逃げてる内に、まなちゃんとばったり出くわしちゃったって訳」

「これで分かっただろ?俺は関係ないって」

まな「借金取りが、頭から食べられたって……」

ねこ娘「確か、死体が残っている人達って、みんな下半身から上がない事が多かったわね」

目玉おやじ「今の話から察するに、これまでの連続殺人事件の犯人は、今鬼太郎が倒した怪物で決まりじゃな」

まな「じゃあ、これで事件は解決したんだね?」

ねこ娘「そうね」

鬼太郎「妖怪じゃないからどうなる事かと思ったけど、問題なく倒せてよかった」

目玉おやじ「……………」



事件は解決したものと認識し、安堵する一同。

しかし、目玉おやじは浮かない表情で、粉々になった怪物の残骸に目(目玉しかないが)を向けていた。


―深夜―

鬼太郎達も帰り、誰もいなくなった公園で、異変が起きていた。

鬼太郎に粉砕された爪の破片や、怪物の細かな肉片が、
ドロドロのスライム状に変化して一ヶ所に集まり出したのだ。


そして、その様子を不気味な老人が静かに見つめていたのであった。

―翌日―


この日は土曜日で学校も休みだった為、まなは何の当てもなく外を歩いていた。


まな「暇だから家を出てきたのはいいけど、雅達は用事があって出れないって言うし……」

「今日もゲゲゲの森に遊びに行こっかな?」

「………あ」


その時、まなは市の図書館が目に入った。


まな「そう言えば最近、あんまり本読んでなかったな」

「それに、案外昨日の怪物の事とか載ってる本があったりして……」

「よーし、行ってみよう!」


という事で、まなは図書館で昨夜の怪物の正体を調べる事にするのであった。

そして早速、動物の図鑑などを読み漁る。

???「…あれ?犬山さん?」


そこへ中性的な出で立ちをした、まなと同い年くらいの黒髪の少年がやって来た。

彼の名は『斎田 薫(さいだ かおる)』

まなと同じクラスの男子生徒の一人だ。


まな「斎田君!君も、本読みに来てたの?」

薫「うん。犬山さんも?」

まな「まあね」

薫「横、座っていいかな?」

まな「いいよ」


彼女の了承を得て、横の椅子に腰かける薫。

座るや否や、持ってきていた本を開く。

見たところ、動物の本であるようだ。

まな「また動物の本?斎田君って本当に動物好きだよね」

薫「動物は、奥が深いからね。調べれば調べる程、ついついのめり込んじゃうんだ」

まな「あ、それ分かる!去年も、ハナムグリみたいな虫が、花粉を運んでくれてるおかげで…」

「植物が種を残すのを手助けしてるんだって、友達に教えてもらったし」

薫「ハナムグリだけじゃないよ」

「ハチやアブみたいな怒らせると危険な虫も、花粉を遠くに運んでいるんだ」

「でも、最近田舎の環境とかが変わって、そういった虫や生き物が減ってる悲しい現状もあるんだ……」

「メダカやタガメ、ゲンゴロウみたいな水棲生物も、昔は沢山いたのに、今じゃ絶滅危惧種だし……」

「イノシシも、山に食べ物が少なくなって、人里に降りてくる事も多くなったし……」

「生き物って、少しでも生息地の環境が変わっちゃうと…」

「いなくなったり人前に現れて事件を起こしちゃうから、共存するにしても距離感が大事なんだよね」

まな「距離感か…」

「やっぱり、妖怪と付き合うのもそう言うの大事なのかしら?」

薫「…そう言えば、妖怪の友達いるんだって?」

まな「あれ、知ってるの?」

薫「桃山さんとかが話してるの聞いちゃって……」

まな「雅かぁ~…なるほど」

薫「…………」

薫「ねぇ、犬山さんは、その……妖怪の友達の事、どう思ってる?」

まな「? 好きだけど」

薫「好きって…友達として?」

まな「ちょっと、変なこと聞かないでよ」

「さっき自分で、妖怪の友達って言ってたじゃん」

薫「あ…う、うん……そうだね。ごめん………」

そう言って薫ははぐらかした。

何故彼は、こんな事を聞いたのか?

答えは簡単。

この斎田 薫と言う少年、目の前の犬山まなに恋をしているのだ。

きっかけは、三ヶ月ほど前の事である。

薫は、とあるグッズを買おうとしていたが、
目当てのグッズを前にして、どうにも踏ん切りがつかなかった。

そのグッズと言うのは『ガンバレクイナちゃん』というキャラクターのキーホルダーであった。

ガンバレクイナちゃんと言うのは、動物を取り扱ったとあるウーチューバーが
絶滅危惧種の保護を応援する為に作った、マスコットキャラクターであり
ヤンバルクイナをチアガールの格好をした美少女に擬人化したものである。

何故ヤンバルクイナなのかと言うと、
このキャラクターを作ったウーチューバーが沖縄出身で、
ヤンバルクイナが大好きだかららしい。

薫はこのマスコットキャラが大好きで、キーホルダーの商品化も望んでいた。
そして、今目の前に望みの物があるわけなのだが
如何せん萌えキャラにしか見えないデザインであった為に、
いざ目の前にすると『欲しいが男性の自分が買っていいのか?』
というジレンマに陥ってしまい、中々購入に踏み切れなかった。

そんな彼の元に、彼女が……犬山まなが現れた。

まな「あ!斎田君」

薫「犬山さん?どうしたの、こんな所で?買い物?」

まな「そうだよ。そういう斎田君も、お買い物?」

薫「え…?いや……」


答え辛い様子の薫であったが
まなは、彼の見ていた先に目を向けると、
先の、ガンバレクイナちゃんのキーホルダーが目に入る。


まな「あ!コレ、ガンバレクイナちゃんのキーホルダーじゃん!可愛いね!」

薫「う、うん……」

まな「斎田君、こう言うの好きだよね?」

薫「え…?」


突拍子もない問いに、薫は驚くもまなはお構いなしに
「だって斎田君、動物好きじゃん」と返した。


薫「そうだけど……」

まな「じゃあ、コレ買いに来たんだね?」

薫「え?あ、ま…まぁ、そんなところ……」

まな「丁度よかった~。私も買おうと思って来たの。ね、一緒に買おう?」

薫「え?う、うん……」


どうやら、彼女も目的は同じだったようで、
薫は場の流れに流されるがまま、まなと一緒に
ようやくガンバレクイナちゃんのキーホルダーを購入した。

結果的に、彼女のおかげで目当ての品を買う事が出来たのである。

薫(か、買っちゃった……)

(いや、むしろ喜ぶべき……だよね?)


薫が心の中で呟いている一方でまなは、
早速キーホルダーを出して、「可愛い~」と言いながら眺めている。

それを見て彼は、まなが当たり前のように、
自分と一緒にガンバレクイナちゃんのキーホルダーを買おうと言い出した事に疑問を抱いた。


薫「…ねえ、犬山さん」

まな「ん?なに」

薫「どうして、僕なんかと一緒に、このキーホルダー買おうって言ったの?」

まな「え?」

薫「いや、だって…このガンバレクイナちゃん、どっちかと言うと女の子が好きそうなデザインのキャラじゃない」

「男の僕が買おうとするの、何か変だとか思ったりしなかったの?」


素直に疑問をぶつける薫。

その疑問に対するまなの答えは、彼にとって実に意外なものであった。

まな「思わなかったけど」

薫「え…?」

まな「何かが好きなのに、男も女も関係ないじゃない」

「実際蒼馬だって、ああ見えて、このガンバルクイナちゃんに凄いデレデレなのよ?知ってる」

薫「アイツが?マジかそれ!」

まな「マジよマジ!弟の大翔だって同じなんだから」

薫「何それ……ちょっとおもろいんだけど!」

まな「でしょ?けど、言っちゃダメよ。一応クラスのみんなには、内緒って事にしてるから」

薫「一応?それって、知ってる人結構いる奴じゃん!」

まな「そうよ。少なくとも、私含める女子は全員知ってるよ」

薫「はは!やっぱりか……」

「ちょっと、アイツの見る目変わっちゃったなぁ」



まな「……」


「………へぇー」

薫「…え?なに?」

まな「いやぁ~『斎田君も、そういう喋り方できるんだな~』って思ってね」

薫「あ……」


蒼馬の話題に乗っかっている内に、無意識に地が出ていた事に薫は初めて気づいた。


薫「ごめん……イメージ崩しちゃった?」

まな「ううん!全然そんな事ない。むしろ、安心しちゃった」

薫「安心した?」

まな「だって君ってさ、動物の話題が出るとき以外、大人し過ぎて他の男子と違うのかなって思ってたから」

薫「僕って、そんな風に思われてたんだ…」

「ごめんね、心配かけちゃって……」

まな「謝らなくてもいいよ。深刻に考えてたわけじゃないし」

「それに、他の男子と違うとか言っといてこんなこと言うの変かもしれないけど…」

「斎田君は他の男子と違って悪ふざけしないし、真面目に勉強やってるし」

「動物とか大好きで、すっごく優しいじゃない」

「私、君のそういうとこ、好きだったりするんだよ?」

薫「え!?」


初めてだった。

同じクラスの女子生徒と、話しをした事はない訳ではない。

でも、それは他愛のない会話ばかりで
自分に対する話題も、評価も、出した事も出された事も一度もなかった。

自分の方も、あまり大して目立とうとしなかったから当然だ

しかし、他人に……それも同級生の女子から、
ここまで素直に評価されるとは思ってもみなかった。


そしてこの瞬間、薫は胸が高鳴ると同時に、心臓を矢で射られるような衝撃も感じた。

それが、彼女に……まなに、惚れてしまったと気付くのに、そう時間は掛からなかった。

だが後日、まなは誰でも分け隔てなく接する人物であり、
そのせいで自分に対する恋心には、凄まじく鈍感な人物であった事を思い知らされた。
おまけに、薫自身がシャイな事もあって、中々進展しない。

さすがに辛抱溜まらず、勇気を出して比較的仲のいい男子に相談してみたが……

『鈍ちんで態度がデカイ彼女は止めた方がいい』


と、皆口々にまなを恋するのに反対した。

特に必要以上に反対してきたのは蒼馬であり、
薫はどうしてそこまで反対するのかと尋ねても
彼は適当にはぐらかすばかりで、答えなかった。

そしてしまいには、『まなを恋する変人男子』と言われ、いじられまくる始末だ。

ちなみに、女子にはこっそりバラされるのを恐れ、誰にも話していない。

そして、現在―――

薫は、男子たちにどう言われても、まなの事を諦めずに好意を向け続けていたのだ。

相変わらず、まなは自分に対する好意に気付かず、シャイな自分もまた一歩踏み出せず進展なしだが……

薫は、横で図鑑に目を通すまなの横顔を見る。


薫(…こんなに優しくて可愛い人を諦めるなんて、やっぱり出来ない)


反対する男子たちの姿を思い出しながら
ガンバレクイナちゃんのキーホルダーを取り出し、それを眺めていた。

まなを恋するきっかけを作ったこのグッズを、彼は御守りの様に肌身離さず持っていたのだ。


まな「あれ?それ、この前いっしょに買った、ガンバレクイナちゃんのキーホルダーじゃない」


ぼうっとキーホルダーを見つめている事に気付いたのだろう、まなが声を掛けてくる。

薫「そ、そうだけど」

まな「大事に持ってたんだね?」

薫「うん。あれからずっとね……」

まな「よかった。大事にしてて……」


「とか言って、私はいつも家においてたりするんだけどね」
と、舌をペロッと出した表情と共に、罰の悪そうに付け加えた。

その際のまなの表情に、薫は改めて胸がときめいた。


薫(やっぱり、諦められないなぁ……)


改めて、自分はまなの魅力から逃れられなくなっている事を
実感する薫だが、当のまなはそんな事など全く気が付いていない。





そして、そんな二人を、窓の外から見詰める不気味な視線があった。


老人「……………」


そして、同じ場所には昨晩の不気味な老人の姿もある。

老人は何かを確認すると、その場を歩き去ったのだが
不思議な事に日陰に差し掛かると溶け込むように、忽然と姿を消してしまうのだった。

―ゲゲゲの森 ゲゲゲハウス前―

鬼太郎は、自宅に続く桟橋前にある妖怪ポストをチェックしていた。

肝心のポストの中は、空っぽであった。


鬼太郎「依頼の手紙はなしか……」

「今日はゆっくり休めそうですね、父さん」

目玉おやじ「…………」

鬼太郎「どうしました?」

目玉おやじ「ん?あ、いや……ちょっと考え事をな………」

鬼太郎「…………」


どうも浮かない様子の父親が気になった鬼太郎は
「とりあえず、お風呂にでも入りますか?」と聞くと、
目玉おやじは、「あぁ、ひとっ風呂浴びて、ゆっくり考えるとするわい」と返した。

こうして普段通りに家に戻った鬼太郎だったのだが……

鬼太郎「!!!!」

目玉おやじ「どうした鬼太郎?」

「…………んな!?」


家に入った途端、息子の様子がおかしくなったので、
一旦髪の毛の中に引っ込んでいた目玉おやじは
再びひょっこり顔を出して、ひと部屋しかない自宅の中に目を向けると
そこには、明らかにこの家の者でもなければ、この森の住民でもない不気味な老人が
さも当然のように、ちゃぶ台の前で正座をして座っていたのだ。

その老人は、つい先程まなと薫がいる図書館の前で
何かを見ていた老人であり、鬼太郎親子がよく知る人物……否、妖怪であった。

それは…………



鬼太郎「ぬらりひょん…!」

妖怪の復権を狙う、日本妖怪の大物……
総大将とも呼べる男であり、気配を消して行動する天才。

妖怪でありながら、日本の政治家にも顔が利き、
彼らを利用しては数多くの妖怪を懐柔し、『同志』にしている策士だ。

その策士でもあり総大将でもある老人妖怪は、鬼太郎親子の方を振り返りながら
「これはこれは……またしてもお邪魔していますよ、鬼太郎君に目玉の親父さん」と
これまた、さも当然のように挨拶をした。


目玉おやじ「おまえ、また何の用じゃ!」

ぬらりひょん「おやおや……お客さんに向かって、随分と失礼な物言いですな」

目玉おやじ「人の家に勝手に上がり込んでおいて、失礼もへったくれもあるか!」

鬼太郎「父さんの言う通りだ。早く出て……」

ぬらりひょん「いいのですか?ここで私を追い出したら、昨日のネズミの怪物の正体が分からなくなりますよ?」

鬼太郎「!?」


昨晩の怪物の話題を振ってきたぬらりひょんに、鬼太郎は驚いた。

目玉おやじも同様だ。

目玉おやじ「どうしてお前が、あの怪物の事を知っとるんじゃ!?」

鬼太郎「まさか、アレは貴様が……!」

ぬらりひょん「滅相もない。私の目的は、この間も申した通り妖怪の復権…」

「あんな『ケダモノ』を使っての殺戮ではありませんよ」


怪物との繋がりをきっぱり否定すると
正座をしていたぬらりひょんは、ゆっくり立ち上がって鬼太郎の方を向き直る。


ぬらりひょん「『いせいじゅう』」


鬼太郎「え…?」

ぬらりひょん「異(い)なる星の獣と書いて『異星獣』。それがあの怪物の正体です」

「尤も『スペースビースト』と呼ぶのが一般的らしいですがね」

鬼太郎「異星獣…?スペース……ビースト………?」

目玉おやじ「異なる星と言う事は、あの怪物は宇宙から来たとでもいうのか!?」

ぬらりひょん「そんなところですよ。といっても、単に宇宙から来たのではありません」

「我々が住む、この世界……もといこの宇宙とは、別の次元の宇宙からやって来た存在なのです」


そう言ってぬらりひょんは、次のような事を語りだした。

ぬらりひょん「話は、あのケダモノが元居た次元で始まりました」

「スペースビーストは、突如としてその次元に姿を現した。そして、その次元に住む知性ある者達…」

「即ち…人間をはじめとした、知的生命体に牙を向いたのです」

「自分達の餌である『恐怖』を食べる為に」

鬼太郎「恐怖を食べる?」

ぬらりひょん「人々が抱く感情エネルギー。その一種である『恐怖』……それが、ビーストのエネルギー源なのです」

「それ故ビーストは、醜い姿で人前に現れ、自身の姿と脅威を目の当たりし、恐怖した人々を感情エネルギーごと捕食する」

「今回現れた『ノスフェル』というビーストも、その為に人間どもを喰い殺して回っていたんですよ」

鬼太郎「ノスフェル。それが、昨日の怪物の名前か」

目玉おやじ「しかしそのスペースビーストのノスフェルとやらが、どうしてわしらの世界に?」


ぬらりひょん「…ざっくり言うと……」




「美味い餌が少なくなったからですかな?」

目玉おやじ「餌が少なくなった?」

ぬらりひょん「以前ビーストが標的にしていた、とある星の人間どもが、ある巨大な戦士に感銘を受けて恐怖を越えた希望を抱き…」

「それらに対抗する勢力と組して、対ビースト抗体を開発したのです」

「結果、恐怖の感情エネルギーの質が落ち、抗体のせいで勢力も著しく衰えてしまった」

「だからいい餌を求め、他の星や宇宙に旅立つビーストも幾つか現れだしたのです」

「まるで、土地開発で餌が減少し、人里に降りてくるようになった動物の様に……」

「相変わらず人間という生き物は、余計なことばかりしてくれますなぁ」

鬼太郎「昨日のノスフェルは、その内の一匹だと言うのか?」

ぬらりひょん「まあそんなところです」

「この世界では、人々の憎悪と言った負の要素が蔓延する事が度々ありますよねえ」

「恐らく、それらに引っ張られて来てしまったのでしょう」

鬼太郎「…………」


これで、怪物の正体やこの世界に現れた経緯自体ははっきりとした。

だが、それでもまだ分からない事がある。

鬼太郎「どうして今更、そんな事を教える?」

「お前も、知ってるだろう?ノスフェルは、僕が倒した。もう奴は……」

ぬらりひょん「『現れない』。そんなに簡単に、断言してしまっていいのですか?」

「相手は、我々妖怪とも全く違う存在。あれしきの事でくたばる保証はありません」

「第一君は、奴の事を注意深く観察しましたか?『弱点』らしき部分を見付けたりしましたか?」

鬼太郎「そ、それは……」


返す言葉がなく、動揺する鬼太郎。

その反応を見て、ぬらりひょんはフッと笑みを浮かべた。


ぬらりひょん「話しは、ここまでです」

「後は『奴と会った事のある人』から、情報を引き出せばいいでしょう」

「では、これで……」


そう言い残して、ぬらりひょんは家を出ようと歩き出した。

目玉おやじ「待て!お前さん、どうしてビーストとやらついて、そんなに詳しいんじゃ?」

「わしでも知らない情報を、一体何処から……」


そのさ中、目玉おやじはビーストの情報源を尋ねたが
ぬらりひょんは無視して、家を出ていった。


ねこ娘「鬼太郎、いる~?みんなで遊びに来たんだけど……」


するとそれと入れ替わるように
ねこ娘が砂かけばばあ、子泣きじじい、一反もめんとぬりかべを連れてやって来た。


鬼太郎親子「「………」」

ねこ娘「あ、あれ?」

一反もめん「どしたとよ?二人して怖い顔して」


二人の並々ならぬ様子に、状況を呑み込めないファミリー一同。

それから、鬼太郎の家に上げてもらった
(と言ってもぬりかべは大きすぎて入れない為、窓からお邪魔だが)
四人は、先程のやり取りを彼らに話した。

ねこ娘「まさか、ぬらりひょんがまた来ていたなんて……」

砂かけばばあ「しかも、昨日倒した怪物とやらの正体まで知っておるとは」

子泣きじじい「あまりにも詳しすぎて、逆に怪しいぞい!」

ぬりかべ「口から出まかせかもしれない」

目玉おやじ「確かに、何故あそこまで詳しいのかという疑問はある」

「だが、無意味な出まかせを言いに来たとも思えん」

「それに……悔しいが、わしもぬらりひょんの言う事には、一理あるんじゃ」

「あのノスフェルは、わしですら知らなかった怪物……」

「正体も分からんのに、完全に倒した事にしてしまっていいものかと、ずっと疑問だったんじゃ」

鬼太郎「だから、ずっと浮かない様子だったんですね」

一反もめん「だったら、もう一度そのノスフェルっちゅー奴倒した公園ば、行ってみた方がいいんじゃなかとね」

鬼太郎「言われないでもそうするつもりさ」


こうして、鬼太郎はねこ娘達を連れて昨日の公園に行ってみた。

すると………

鬼太郎「これは……」

目玉おやじ「やはり、無くなっておる」


その公園には、昨日の夜まであったはずの、ノスフェルの残骸が跡形もなくなくなっていた。


子泣きじじい「人間の業者が、片付けてしまったんじゃないか?」

目玉おやじ「そうだといいが、ぬらりひょんがわざわざ教えに来るような相手じゃ。そうはいかないじゃろう」

砂かけばばあ「もしも奴が、やられた振りをしとったのだとしたら、一体何処へ行ったというんじゃ?」


ねずみ男「よう!オメェらどうした?そんな大勢で、こんなちっこい公園に集まってよぉ」


困惑しているファミリーの元に、ねずみ男がやって来た。

鬼太郎「ねずみ男」

ねこ娘「アンタこそ何やってんのよ!」

ねずみ男「別に何もしてねえよ。んまあ、強いて言うなら、金になるような話を探してたってことくらいだな」

砂かけばばあ「お前さんは、相変わらずじゃのう…」

子泣きじじい「こんな奴に付き合う時間なんかない。さっさと、ノスフェルとかいうのを探しに……」



鬼太郎「ねずみ男、丁度いいところに来てくれた。お前に聞きたい事がある」



無視してノスフェルを探そうと
子泣きじじいが言おうとするのを遮るかのように、鬼太郎がねずみ男に問いかける。

子泣きじじいをはじめとした一同は、少々驚いたが
問いかけられたねずみ男は気にせず「なんだ?」と返した。

鬼太郎「まながあの怪物に襲われたのは、お前があの怪物と遭遇して、ここまで逃げたからだったな?」

ねずみ男「何だよ…まなちゃんを危険に晒したの、まだ根に持ってんのかよ」

鬼太郎「そうじゃない。あの怪物に遭遇した時、何か変わった事はなかったか?」

ねずみ男「変わった事?う~ん…そうねぇ…………」


顎に手を当てて、自分の記憶を探るねずみ男。

少しすると、「あ!そう言えば…」と声を上げる。


鬼太郎「やっぱり、何かあったんだな?」

ねずみ男「あぁ!」



「ネズミだよ!ネズミ!」

鬼太郎「ネズミ?」

ねこ娘「それってアンタでしょ」

ねずみ男「ちげーよ!あの借金取り皆殺しにしたバケモンが出てくる前に、ピンク色したネズミを見たんだよ」

ねこ娘「ピンクのネズミ?そんなの聞いた事ないわ」

鬼太郎「ピンク色のネズミ……」



鬼太郎は、昨日のノスフェルの姿を思い出した。

あのノスフェルというスペースビースト
皮をはいだネズミのような姿をしていて、それ故ピンク色の体色をしていた。

単なる偶然とは思えない。

ぬらりひょんの言うように、ビーストという存在は妖怪とも全く違う。

関連性は疑うべきだ。


少し悔しいが
「『奴と会った事のある人』から、情報を引き出せばいい」
というぬらりひょんの一言が役に立つとは、思わなかった。


しかし、ピンク色のネズミの話しは、これで終わりではなかった。

ねずみ男「そう言や、さっきもそれっぽいネズミ見たな」

鬼太郎「それは本当か!?何処で見た?」

ねずみ男「向こうにある市の図書館だよ」

ねこ娘「あっちにある図書館ね?」

鬼太郎「行くぞ!」

「…ねずみ男も来い!」

ねずみ男「え?何で…って、うわあー!」


こうして鬼太郎ファミリーは、ねずみ男を無理矢理連れて市の図書館に向かった。

一方、まなと薫は市の図書館を出て、街中を歩いていた。


まな「あーあ、結局なんにも分からなかったなぁ……」

薫「そう言えば犬山さん、何を調べてたの?動物の本、集中的に読んでたけど」

まな「最近騒ぎになってた、例の連続殺人事件の犯人の怪物の正体。昨日、鬼太郎が倒してくれたんだけど……」

薫「え?あの事件の犯人って、妖怪だったの?」

まな「ううん…違うらしいの。だから、ちょっとだけ気になってね」

薫「へぇ……」

まな「……とにかく、今日はここでお別れだね」

薫「あ、うん……そうだね」

まな「じゃ、また明後日学校でね!」

薫「うん…学校で、ね……」


薫は寂しそうにしながら答えた。

実はこのまま、デートに持ち込もうと考えていたのだが
彼女のペースに流されてしまい、誘いを持ち出す事ができなかったのだ。

そんな彼の本心など露知らず、まなは家路につき、薫はその背中を見送った。

薫「……………はぁ」


どうして自分は、肝心な時に強気に自分のペースに引き込むことが出来ないんだろう?

溜め息を吐きながら、薫は心の中で嘆いた。


薫「……………」

「……行こうか」


トボトボと、その場を歩き去る薫。

謎の視線がその一部始終を見ていたと知らずに……

鬼太郎「ここだな」

ねずみ男「たく、もお……何で俺まで連れてこられんだよ!」


まな達が去った後に、市の図書館に辿り着いた
鬼太郎ファミリーであったが到着して早々、ねずみ男が愚痴る。

そんな彼に対し鬼太郎は
「お前がいないと、どんな感じのネズミなのか分からないだろう」と返した。


ねずみ男「確かに、そのネズミ見たのは俺しかいないけどよぉ……」

鬼太郎「そのネズミは、どの辺りにいるんだ?」

ねずみ男「そこの木の上だけど……」

「あれ?いねぇなあ……さっきまでいたのに」


彼の言う通り、そのピンク色のネズミがいたとされる木の上には、何もいなかった。

砂かけばばあ「お前さん、本当に見たのか?」

ねずみ男「本当だって!俺様の言う事が信用できないのか?」

砂かけばばあ「ああ!」

ねずみ男「……………」


予想以上に迷いなく答える砂かけばばあに、ねずみ男は絶句した。

一方、ねこ娘はピンク色のネズミがいたとされる
木の周りをじっくり観察すると、その木は丁度、図書館の窓の向かい側にあった事に気付く。


ねこ娘(本当にそのピンクのネズミがいたのだとしたら、あの窓の中を覗いていた事になる……)

(となると、誰かを見ていた事になるわよね)

(一体、誰を……?)


ねこ娘は、昨日の出来事を思い返した。

昨日の戦いでノスフェルと会ったのは、自分と鬼太郎親子とここにいるねずみ男。

そして…………

ねこ娘「!」

鬼太郎「ねこ娘?」


何かに気付いたねこ娘は「みんな、ここで待ってて」と言って図書館に入っていく。

そして、少しするとすぐに戻ってきた。


ねずみ男「おいおいおい、一体どうしたんだよ?いきなり図書館に入ったりして」

ねこ娘「『彼女』が来てなかったか、聞いてきたの」


そう言ってねこ娘は、自分のスマホに保存していたまなの写真を一同に見せた。


鬼太郎「まな?」

ねこ娘「えぇ…」

「それで、聞いてみたら、やっぱり来てたって」

ねずみ男「でも、それがどうしたって………」

目玉おやじ「なるほど!そういう事か!」

鬼太郎「父さん?」

目玉おやじ「もしもねずみ男が見た、ピンク色のネズミがノスフェルが化けた姿と仮定して…」

「それが、まなちゃんが来ていたこの図書館にいたのだとすれば、目的はひとつしかないのではないか?」

鬼太郎「…そうか!」

「ノスフェルからして見れば、まなは取り逃がした獲物!」

「小さくなって、彼女を食べる機会を窺っている……そうですね?父さん」

目玉おやじ「その通りじゃ!」

子泣きじじい「だ、だったらこうしちゃおられん!」

砂かけばばあ「あぁ!ねこ娘」

ねこ娘「そう言うと思って、今レインで何処にいるか聞いてみたわ。もうすぐ返事が来るはず……」


まな「…あれ?ねこ姉さんからレイン来てる」


まなはスマホの画面に映る、ねこ娘のメッセージに目を通す。

それは、「まな、今どこにいるの?」とだけ書かれたシンプルなものであった。

唐突なメッセージの送信を不思議に思いつつも、まなは即座に返事を送った。

ねこ娘「来たわ」

目玉おやじ「一体何処にいると?」

ねこ娘「今、家に帰ってるところで、もうじき着くって」

鬼太郎「とりあえず、無事みたいだな」

子泣きじじい「まずは一安心じゃ」

目玉おやじ「だが、油断はできん。今からみんなで、まなちゃん家で張り込みじゃ!」


ねずみ男「何か良く分かんねぇけど、頑張りな」


まなの周辺を見張る事で話が纏まる中
ねずみ男はそう言ってその場から離れようとしたが
鬼太郎は「待て、ねずみ男!」と言って引き止めた。

鬼太郎「お前も一緒に張り込むんだ」

ねずみ男「何でだよ!もう十分協力してやったじゃねぇか!」

鬼太郎「お前もあの怪物と接触しているし、ピンク色のネズミまで見ているんだ。お前も狙われない可能性はない」

「それに、お前ならそのネズミが普通のネズミかどうか、区別できるだろう。だから一緒に来るんだ」

目玉おやじ「鬼太郎の言う通りじゃ」

「どうせお前さんは碌な事しかせんのじゃ。今回は黙って、わしらの言う通りにしてもらうぞ?」

ねずみ男「チッ!こんな時に限って、調子のいい奴らだぜ…」


愚痴りながら、ねずみ男も渋々同行する事になったのであった。

こうして、犬山家を見張るようになったのだが、
この判断が大きな誤りであったとは、この時まだ誰も知らなかった……

薫「ただいま」


あれから数時間経った夕方……

薫は、予定通り昼食を済ませ、動物園の動物を見て回った末に帰宅した。

家に帰れば、父親の『斎田 博(さいだ ひろし)』と
母親の『斎田 涼子(さいだ りょうこ)』が待っていた。

犬山家同様、彼らも夫婦共働きしているが、
彼らの職場は、珍しい事に土日は決まって休みである。


博「お帰り薫」

涼子「薫ちゃん、もうご飯できてるわよ」

薫「分かったよ。でも、その前にお姉ちゃんに挨拶してくるね」


そう言って薫は、手洗いうがいを済ますと
高校生くらいの少女の遺影が置かれ、その前に一万円と
招き猫のポーズで胡坐をかいたネズミの格好をした3期ねずみ男に酷似した貯金箱が供えられた
仏壇のある和室に向かい、その仏壇の前に正座して、おりんを鳴らして手を合わせる。


この遺影の少女の名は『斎田 理子(さいだ りこ)』。

斎田家の長女で、薫の姉だ。

薫同様、動物が大好きで動物の絵を描くのが趣味だったのだが
1年前の修学旅行の際、とある県にある
眞也山(しんやさん)山中の溝呂木トンネルの崩落事故に巻き込まれ
若くしてこの世を去ってしまった。

姉が大好きだった彼は、家に帰ると必ず仏壇にお参りするのが日課となっていた。

そして、今日の出来事を報告するのも……

薫「お姉ちゃん、今日犬山さんに会ったんだ」

「だから、ついでにデートに誘おうと思ったんだけど…」

「向こうから、先に帰るって言い出されて結局できなかった」

「お昼を食べた後、改めて動物園一緒に行こうって誘えたはずなのにね」

「ほんと駄目だよね僕……」

「彼女を好きになってもう三ヶ月なのに、振り向いてもらう努力すらしてないんだよ?」

「なんかこう……いざ目の前にすると、どうにも踏ん切り突かなくってねぇ…………」



黙々と仏壇の姉に話しかける薫。

だが、姉からの返事が返ってくるはずはない。


薫「…………」

薫(死んだお姉ちゃんに話したところで、答えなんか出る訳ない)

(……ご飯、食べよ)


こうして、日課を済ませてリビングに向かう薫。

その姿を窓の外から見つめている、不気味な視線が合った。

その視線の正体は、ねずみ男が見たという……





ピンク色のネズミのものであった。





アイキャッチ:フィンディッシュタイプビースト ノスフェル

今パートはここまでです。

当初は、前回投稿した4期の続きのようなものを投稿する予定でしたが
去年のクリスマスが近付いているさなかに、パッと思いついた後、年越し後に執筆を開始。
そして、色々とあった末に、6期本編が終わったこのタイミングになってしまいました。

何はともあれ、以下は補足や裏設定などとなります。

デュナミスト・バンド・・・6期鬼太郎の世界に存在するバンド。
名前の元ネタは言うまでもなく『ウルトラマンネクサス』に登場する
ウルトラマンに選ばれた人間を指す単語、適応者(デュナミスト)。
メンバーの一人である孤門さんの元ネタも、言うまでもなく同作の主人公。
こちらの世界でも、ノスフェルによって恋人を奪われる運命から逃れられなかったようです。

裏設定として、メンバーは孤門さんを含め
真木さん、姫矢さん、千樹さん、そして紅一点の西条さんの五人という設定。
代表曲は「英雄」。
他のメンバーの名前の元ネタも、『ネクサス』でデュナミストになった人達。
代表曲はまんま同作のオープニングテーマ。


異星獣=スペースビースト・・・『ULTRAMAN』及び『ウルトラマンネクサス』に登場した敵怪獣の一群。
M80さそり座球状星団からやって来た、知的生命体の恐怖の感情をエネルギーにする謎の宇宙生命体で、その誕生の経緯は不明。
唯一分かっているのは、知的生命体にとって害悪であるということ。
来訪者の故郷を滅ぼしたり、ダークザギの手引きでザ・ワンとして
地球に飛来してウルトラマン・ザ・ネクストに倒されて、その破片が地球の生物やエレメントやらを取り込んで現在の姿になった。

ぬらりひょんの語る、ビーストの身に起きた出来事は『ネクサス』の最終回のその後であり
強化されたTLTの尽力により、孤門の住む世界ではビーストの出現は続いているものの
ウルトラマンネクサス(ノア)がいた時ほどの脅威ではなくなっており、満足に恐怖の感情の摂取効率が悪くなり
増殖力も悪くなった為、地球に在留していた個体のいくつかは宇宙へ旅立った。
その旅立った個体のいくつかが、ギャラクシークライシスやウルトラ・フレアの時空の歪みに巻き込まれて現れたのが
『大怪獣バトルシリーズ』や『ウルトラマンX』などに登場したビースト達だった……

というのが、当方の解釈です。

しかし、本作のノスフェルがこちらに来た理由は、ちょっと特殊だったりします。

なお、ぬらりひょんが孤門が住む世界の人間がビーストにした事を
ちょっと悪く言っていますが、妖怪の復権を狙う彼はあくまで人間を否定する立場いるので
どんなに孤門の世界の人々に大義名分があろうと、それを認める訳にはいかない。
それでいて、向こうの世界の事情を知らない鬼太郎に
少しでも人間達に対する悪印象を植え付けてやろうという事で、孤門達の世界の人々を悪く言ったわけです。

こんな時でも人間を悪者扱いする事を欠かさなかった……っと、解釈していただければ結構であります。

実際、TLTや孤門らが対処しなければ、人類にとって害悪でしかないのは明らかですからね。

以上となります。

次回パートの投稿は未定なので、気長にお待ちください。

時間ができたので、続きを開始します。


CM開けアイキャッチ:ねずみ男

あれから、一週間と二日が経った月曜日。

鬼太郎ファミリーは、張り込みはもちろん
化けガラスに監視させたり、学校内での様子はぬりかべや花子さんに見張らせたり
ねずみ男にまなの周辺のネズミに聞いて回らせたりと
あの手この手で、ノスフェルらしきピンク色のネズミを見付けようとしたが
依然として姿を見せる気配はなかった。


そして、夕方のゲゲゲハウス……

鬼太郎「みんな、どうだった?」

ねこ娘「カラス達の方も全然だって」

ぬりかべ「オレも、花子達と見張ったけど、全然変わりなかった」

鬼太郎「…あれ?ねずみ男は?」

ねこ娘「金になりそうな話でも見付けたのか、いつの間にかいなくなっちゃったわ」

「まったく、まなも自分も危ないかもしれないっていうのに……」

鬼太郎「じゃあ、後でカラス達に探させておくよ」

目玉おやじ「…しかし、ノスフェルは何故、姿を現さんのじゃろうか?」

一反もめん「やっぱり、やられた振りしとったっちゅーのは、考え過ぎたったんじゃあなかとね」

鬼太郎「……………」


そう言われたところで、鬼太郎は納得しない。

一体、自分達は何か見落としているのか?

そう考えていると、ぬりかべが話しかけてくる。

ぬりかべ「鬼太郎。オレ、明日の見張り休みたい……」

鬼太郎「どうしてだ?」

ぬりかべ「まなちゃんの見張りもそうだけど、先週からずっと、優美のコーチの仕事もやってたから、クタクタなんだ……」

鬼太郎「優美って確か、まなの学校でテニスやってた……」

ねこ娘「彼女との関係、まだ続いてたんだ」

鬼太郎「父さん、どうします?」

目玉おやじ「疲れたままの状態では、何かあった時心許ない」

「それに、まなちゃんの周りで何も起きないという事は、目の付け所を間違えた可能性も考えねばならん」

「もう一度これまでの奴の行動を整理して、考え直そう」

鬼太郎「分かりました、父さん」

ぬりかべ「よかった…休める……」


安堵しながら帰っていくぬりかべ。

それから鬼太郎ファミリーは、残ったメンバーでノスフェルの捜索方針を考え直す事に決めたのだった。

―斎田家―

博も涼子も、今日は早めに仕事が終わったらしく自宅におり
涼子はいつものように、中学校から帰ってくる息子の為、夕飯の準備をしていた。


涼子「…………」

「…あら?」


その時だった。

彼女が、コンロの方へ向かおうとそちらを向いてみれば
そこにはピンク色のネズミが、涼子の方をジッと見ていた。

涼子「ね、ネズミ!?」

「で、でも、何か色がへ…………!?」


色が変だと思ったその時、ピンク色のネズミは目を怪しく光らせると、
みるみるうちに大きくなっていき、そして………


涼子「きゃあ――!!」

博「涼子?どうし……!!」


リビングでくつろいでいた博は
妻の悲鳴を聞いて、キッチンの方を振り返ると、途端に体が固まってしまう。

何故なら、キッチンには、得体の知れない大きな影が立ち尽くしていたのだから。


『グルルルル……』


大きな影は、すぐさまリビングにいる博に視線を向ける。

その視線は、彼らの息子に向けられていたものと同じであった。


博「ひ…ひぃ!」


怯える博。

そんな彼に対し、不気味な視線は容赦なく迫っていき、そして……

一方、自宅でそんな事が起きているなど知らない薫は
普段通り、学校での授業を終えて、帰宅の路についた。


薫「あ……」


その時、目の前に同様に帰宅中のまなの姿を目撃する。

だが、一人だけではない。

蒼馬や雅といった、珍しいメンツが一緒だったのだ。


薫「……………」


薫は、声をかけようと思ったが、出来なかった。

友達と一緒にいるので、声を掛けづらいというのもあったが
何しろ、自分の恋路をやたらと全面反対している蒼馬がいた為
近付きたくても近付けなかったのだ。

なので彼は、悔しさを胸にその場を離れるしかなかった。


薫(駄目だな、僕……)

(アイツ(蒼馬)のこと怖がって、大好きな人に近寄れないなんて、馬鹿らしい……)

(でも、いざ目の前にすると、勇気が出ないんだよなぁ………)


心の中で呟きながら、薫は胸ポケットから
ガンバレクイナちゃんのキーホルダーを取り出して
それをジッと見ながら、まなの事を思い出した。

そして、「はぁ…」と溜め息を吐いて
キーホルダーを胸ポケットに戻すと、足早に自宅に帰ったのだが…………

薫「ただいま……」


「…………………」


「…………………あれ?」


いつも通りに帰宅したのだが、すぐさま彼は異変に気付いた。

普段は返ってくるはずの両親の「お帰り」の声が聞こえてこず
家の中は、電気もついていなくて真っ暗。

そして何よりもおかしかったのは、床や壁といった木で出来た部分が
不自然に削り取られた跡がある事であった。

彼のいる側からは見えないが、それは和室や姉の仏壇も同様だ。

それはまるで、巨大なネズミがかじったかのような跡であった。


薫「お父さん?お母さん?」


靴を脱いで家に上がり、恐る恐る父と母を呼んでみる。

すると、リビングの方から、カリカリと何かが削れる音が鳴っている事に気付く。

なので、床や壁同様にボロボロになったドアをゆっくりと開けて、中を覗いてみると……

薫「!!!!」


次の瞬間、中の光景に薫は絶句した。

そこには、父と母がいたのだが、二人とも体の一部……
特に腕の色がおかしくなっており
ネズミのように、壁やテーブルの足をガリガリとかじるという異常行動を行っていたからだ。


薫(まさか、家がこんなにボロボロなのは……!)

(で……でも、何でお父さんとお母さんが?)









『ぢぅ……』

薫「え…?」


両親の異変に困惑していると
異様に低い鳴き声が後ろから聞こえ、薫は振り返る。

その先には、ピンク色のネズミが自分の方を見ていた。


薫「ね、ネズミ?でも、こんな色したネズミなんて……」


いるはずがない。


動物好きな彼は、すぐにそのネズミが異常なものである事を察するが
直後、そのネズミはみるみるうちに大きくなっていき……

『グオオォォ―――!!!』


その姿は、大きな怪物へと変化した。

それは、鬼太郎に倒されたはずの、あの怪物……


テロップ:ノスフェル

薫「わあ!!」


真の姿を現したピンク色のネズミを前に、薫は驚きながら後ずさった。

その次の瞬間、いつの間にか背後に現れた両親に、腕を掴まれて身動きを取れなくされてしまう。


薫「お、お父さん?お母さん?」

「な、何するんだよ!放してよ!!」


もがく薫であったが、異様な力で掴まれているせいで離れる事は叶わなかった。

そうしている間に、ノスフェルはジャキンと自身の爪を強調するかの如く
片手を大きく開きながら、ゆっくりと薫の目の前に迫る。

そして……

薫「うわあぁぁ―――………!!」







次の瞬間、斎田家から薫の悲鳴が響き渡り
和室にあった理子の遺影が、ボロボロになった床に転げ落ちたのだった。

―次の日の朝―


蒼馬は、いつものように中学校の下駄箱にまでやって来た時であった。

彼は、見慣れた少年の姿を目撃する。

昨日ノスフェルに襲われたはずの、斎田薫だ。


蒼馬「よお、斎田!まなとの恋はどうなんだ?」

薫「………」

蒼馬「て…聞くまでもないか。どうせまだ、進んでないんだろ?」

薫「…………」

蒼馬「何度も言うけどよ、アイツの事は止めとけって」

「気に入らない事があると、すぐ手ぇ上げるし態度もデカイ!」

「そんでもって、超鈍い!」

「シャイなお前とは、相性最悪だって」


全面反対してみせる蒼馬であったが、何故か薫はジッとしたまま黙っている。

蒼馬「お、おい……どうしたんだよ?」


あまりにも無反応すぎる薫の様子に、さすがの蒼馬も心配になって、彼の肩を掴んだ。

すると彼は無言でこちらを振り返るのだが
その顔は、不気味な程に青ざめており、瞳に光が宿っていなかった。


蒼馬「ひ…!?」


同級生の異様な表情に、蒼馬は怯えて後ずさった。

そんな彼を少しの間見た後、薫は無言でその場を立ち去った。

―お昼休み―


昼食の弁当も食べ終えて、まなは雅、綾、姫香の三人と教室で楽しく談笑していた。


蒼馬「おい、まな!」

まな「ん?」


その時、教室の外から蒼馬がこっちに来るよう、手招きしている事に気付き
彼女は「ゴメン、ちょっと離れるね」と言って中断し、彼の元へと向かった。


まな「もう!何よ蒼馬」

蒼馬「なあ、まな。お前、斎田の奴と何かあったか?」

まな「え?何、急に?」

蒼馬「いいから答えろって」


唐突な友人の質問に、まなは怪訝に思いつつも素直に「特に何もなかったわよ」と答えた。


蒼馬「本当か?何か話したりとかは?」

まな「うーん。先々週の土曜日ぐらいに、図書館で会った時に話はしたけど……」

「その時は、いつもと変わりなかったわよ」

蒼馬「そうか……」

まな「…ねぇ?斎田君がどうかしたの?」

蒼馬「いや、今朝アイツに話し掛けたんだけど、なんか様子がおかしかったんだよ」

「顔色も、悪かったし……」

まな「言われてみれば今日の斎田君、いつも以上に大人しくて静かね」

蒼馬「それに、ずっとアイツの様子観察してたんだけどよ…」

「授業はただ聞いてるだけだし、おまけに弁当も持ってきてないみたいなんだよ」

まな「確かに斎田君、お昼食べてる様子全然なかったね」

蒼馬「だから、お前となんかあったんじゃないかと思って……」

まな「え?なんで私なの?」

「確かに私、斎田君とは仲いいけど……」

蒼馬「え?あ……そ、それは……その……」

「あれだよ!あれ!」


薫がまなの事が好きだから、まなとの間に何かあったと考えたのだと
素直に言えず尚且つまながこのような疑問をぶつけてくる事まで
考えていなかった蒼馬は、上手く誤魔化せずに、適当にはぐらかそうとする。

そんな蒼馬の真意が分からず、まなは不思議そうに首を傾げることしか出来ない。

????「何々?斎田君がどうかしたの?」


そこへ、異様に大人びた体付きをした少女が、二人の会話に割って入る。

昨日ぬりかべが言っていた、まなの同級生でテニス部所属の『岡倉 優美(おかくら ゆみ)』だ。


まな「優美。……蒼馬が、斎田君の様子がおかしいって言うの」

優美「おかしい?」

蒼馬「そうなんだよ。朝っぱらから顔色悪いし、何も喋らないしで気味が悪いんだ」

まな「それに、お昼も食べてないみたいなの」

優美「お昼も食べてない……」

「……そういえば」

蒼馬「何か、他にあったのか?」

優美「多分、見間違いだと思うけど…」

「さっき、校庭の方で斎田君っぽい子見掛けてね」

「その……」


見てはいけないものを見てきたような表情を浮かべ、言葉に詰まる優美。

そんな彼女に対し、蒼馬は「どうしたんだよ?」
まなは「ねえ、何があったの?」と聞いた。

すると彼女は、答えにくそうにしながらこう言った。


優美「さっき校庭で、その斎田君っぽい子が……」








「校庭に落ちてた、太い木の枝かじっていたのよ」

蒼馬「木の枝を……」

まな「かじってた?!」

優美「そうなのよ」

「まあでも、本当に見間違いかもしれないけどね」

蒼馬とまな「「………」」


優美の話しに、二人はただ呆然とするしかなかった。


優美「…………」

「…そ、そうだ!まな、ぬりかべコーチ見なかった?」

まな「ぬりかべさん?ううん、見てないけど」

優美「おっかしいなぁ。先週から昨日まで、ずっと来てくれてたのに………」

「今日はお休みなのかしら?」


そんな疑問を口にする優美であったが、今の二人にとって
ぬりかべが学校に来ていない事など、どうでもいい話しであった……

―夕方―


学校を終えて、下校するまなと蒼馬は
昼間、優美から聞いた話の事を話し合う。


まな「ねぇ、蒼馬…昼間の優美の話し、どう思う?」

蒼馬「どうもこうも、信じられねぇよ」

まな「だよね……」

蒼馬「まぁ…仮に本当だとしたら、妖怪に取り憑かれてるとか」

まな「妖怪……確かに、その可能性あるわね!」

「じゃあ、今すぐ鬼太郎とねこ姉さんに……」

蒼馬「…い!?」


と、スマホを出そうとしたまなであったが
突然蒼馬が、彼女の後ろを見たかと思えば、何かに驚く。

まな「どうしたの、蒼馬?」

蒼馬「わ、悪いまな……俺、早く帰って宿題済ませなくちゃならないんだ」

「つー訳で、さいなら~!!」


そう言いながら、蒼馬は逃げるように走り去ってしまった。


まな「はあ?宿題って…」

「早く帰っても、真面目にやらない癖に……」








まな「……………ん?」







ふと、まなが後ろから気配を感じて振り返ると、そこには件の薫が、ジッと立ち尽くしていた。

まな「わぁ!さ、斎田君いたの!」

薫「…………」

と、驚いたまなであったが、薫は無言で立ち尽くしている。

それどころか、表情一つも変わっていない。

よく見れば、その顔は蒼馬の言う通り真っ青で
無表情な顔と相まって、非常に不気味だった。


まな「さ、斎田君?」

「そ、そうだ。優美がね、昼間君が校庭に落ちてた枝を……そ、その………」

「か、かじってるところ見たって言うんだけど、違うよね?」

薫「…………」


とりあえず、昼間の優美の話の真偽を聞いてみたが
薫は相変わらず無表情で立っているだけ。

それどころか…………

まな「え…!ちょっ!?」


薫は突然、まなの手を取って無理矢理何処かへ引っ張り始めたのだ。


まな「ど、何処行くの?」


問い掛けるまなだったが、やはり返事は返ってこない。

そして少しして、まなは異様な力で手を掴まれている事に気付く。

薫の雰囲気も相まって、何か良くない気配を感じ取るまなであったが
先の通り異様な力で手を掴まれているせいで、ただ黙って引っ張られるしかなかった。

それからまなは、そのまま薫の自宅に連れて来られた。

外観だけは、何の変哲もない一軒家だったが
中に入るとその印象は大きく変わった。

斎田宅の中は、木の部分が昨日以上に
不自然に削られておりボロボロの様相を曝しており
相変わらず電気もついていなくて真っ暗。

まなは、靴も脱がされる事を許されないまま、二階にある薫の自室にまで連れて来られる。

薫の部屋も、同様にボロボロであり
ベッドや、机の一部がかじられたかのように削られた跡がついていた。

この異様な自室に辿り着くと
薫はまなの手を離しまなに背を向けたまま、立ち止まってしまう。

まな「ど、どうしたの?斎田君?」

「こ、ここ……君の家だよね?」

「な、何かボロボロだけど…………」

薫「…………」


家の様子について尋ねるが、薫は答えない。


まな「さ、斎田君?」

薫「…………」

薫「……う………」


「ウグ…………!」


まな「!?」


それは、突然だった。

薫は、不気味な唸り声らしきものを発する。

そして………






薫「ウ…………」







『ガアアァァァァ――――!!!!!』





次の瞬間、肉や骨がメキメキと変形するような音と共に
薫の両手がノスフェルに似たような爪が生えた異形の腕に変貌
更に野太い雄叫びと共に振り返った彼の顔も
ノスフェルに似たような白目を剥いた顔に変化していた。


まな「きゃぁー!!」


怪人のようになった薫を前にして
まなは悲鳴を上げながら部屋を飛び出して、階段を一気に駆け降りる。

そして降りた先には、その先には薫の両親が立っていた。


まな「あ!斎田君の父さんに母さん!」

「た、大変なんです!斎田君が………」




博「グオォ―――!!」


涼子「キシャァ―――!!」



息子に起きた異変を話そうとしたまなであったが
博の右腕と涼子の左腕が、薫と同様にグロテスクな音共に
ノスフェルに似た爪が生えた、異形の腕に変貌。

ピンク色に変色し、白目を剥いた異様な表情と共に咆哮を上げた。


まな「ひぃ…!」


怪人のようになった薫の両親を前に、後ずさるまな。
その時、二階から薫が『ガァー!』と、いう叫び声を上げながらおりてくる。
それを見たまなは、即座に裏口から外へ出ると、庭にあった物置の中に逃げ込んだ。


まな「は…早く、鬼太郎とねこ姉さんに知らせないと……!!」


急いでスマホを取り出すと、焦りで震える手で
何とかメッセージを打ち、ねこ娘のスマホに送信した。

―ゲゲゲハウス―


鬼太郎「みんな、今日も集まったな」

一反もめん「つっても、ぬりかべは完全ダウンしとって、すぐには来れんばい」

ねこ娘「本当にクタクタなのね……ん?」


ノスフェルの事で話し合おうと
ねずみ男とぬりかべ以外のファミリー全員が集まった、丁度その時であった。

スマホに、レインからのメッセージ音が聞こえてきたため
ねこ娘は手早くスマホの画面に目を向ける。

そこには、言うまでもなく、まなからのSOSのメッセージが入っていた。


ねこ娘「何ですって!?」

目玉おやじ「どうした?」

ねこ娘「それが…斎田って言う友達が、父親と母親と一緒に化け物になって襲ってきて…」

「それで、その子の家の物置に隠れてるって!」

目玉おやじ「なんじゃと!?」

鬼太郎「こっちはそれどころじゃ…!」






「……まさか!」

砂かけばばあ「どうした鬼太郎!?」

鬼太郎「ねこ娘!その友達の家の場所は?」

ねこ娘「一応、地図も一緒に送られてるけど……」

鬼太郎「じゃあ、案内してくれ!」

「一反もめん、みんな行くぞ!」

一反もめん「え?あ、あ……コットン承知ですばい!」



急かすように言ってくる鬼太郎に
ファミリーは少々困惑したが、友人の危機である以上そのような事は気にしていられない。

全員、一反もめんの背中に乗り、人間界へと飛び出した。


鬼太郎「こっちで合ってるか?」


鬼太郎に聞かれ、ねこ娘はスマホに表示されている
地図を見ながら「うん。間違いない」と答えた。


鬼太郎「一反もめん、スピードを上げてくれ」

一反もめん「これでも精一杯出しとるばい」

「というか、なしてそんな急いどるとよ?」

鬼太郎「…………」






「奴が……」




「ノスフェルが動き出した!」




ねこ娘「え?」

子泣きじじい「なんじゃと?」


鬼太郎の答えに驚くファミリー達であったが

「ふむ。やはりお前も、同じ事を考えておったか」

と言いながら、目玉おやじが鬼太郎の髪の中から出てきた。


ねこ娘「同じ事って?」

目玉おやじ「わしらは、とんだ思い違いをしておったという事じゃ」

「わしらは最初、奴が獲物にしやすいまなちゃんを、すぐにまた狙うと考えておった。だから昨日まで、彼女を見張っていた」

「だが…恐らく奴は、わしらが自分の死を疑う事も想定しておったんじゃ」

「それで雲隠れしつつ、まなちゃんと親しい人間に狙いを付けたのじゃろう」

「彼女を確実に捕らえ、餌にする為に!」

ねこ娘「それで、無関係な彼女の友達と家族にまで手を出したって言うの!?」

「許せない…!」

鬼太郎「だからこそ、急がなくちゃならないんだ。手遅れになる前に…!」

一反もめん「確かにそりゃ大変ばーい!」

子泣きじじい「しかし、これから戦うとして、どうやって倒すんじゃ?」

「一度倒したのに、復活するような相手なんじゃろう?」

鬼太郎「だから今度は、戦いながら奴の弱点を探すんだ」

子泣きじじい「弱点を探す?そんなものあるのか?」

鬼太郎「恐らく、弱点を突かないと倒せない相手なんだと思う」

「実際ぬらりひょんも、奴の弱点を探さなかったのかと言っていた。これは裏を返せば、奴には弱点があるという事だ」

「だから、それを探してもらうために、みんなにも一緒に来てもらったんだ」

砂かけばばあ「しかしぬりかべは、まだダウンしておるみたいじゃぞ」

「一応、場所は伝えておいたが……」

鬼太郎「ぬりかべは、さすがに仕方がないよ。僕達だけで、何とかするしかない」


そうして、斎田家へ急ぐ鬼太郎ファミリー。

一方、まなはメッセージを送ってから
しばらくジッと息を潜めていたのだが、妙に静かである事が気に掛かる。

なので、そっと物置のドアを少しだけ開き、隙間から外の様子を覗き見た。

外には、怪物になった斎田一家が
うろついている様子が全く無く、広い庭だけが広がっていた。

家の外に出た事に、まだ気付いていないのだろうか?

そう考えるまなであったが、背後に置かれた道具の隙間から
ピンク色のネズミの姿をしたノスフェルが
目を光らせながら自分を見ている事に、気付いていない。


そして……






バリバリバリッ―――!




まな「え…?」


突如頭上から、何かが引き裂かれる音が響き
真っ暗な物置に、外の光が差し込んでくる。

まなが、その光が差し込む方を見上げると、
そこには両手の爪で屋根に穴を開け、こちらを見下ろす薫の姿があった。


薫『ガァ――!』


まな「きゃあー!」


まなは、驚いて物置から飛び出した。

だが、庭では薫の両親がいつの間にか待ち伏せしており、まなを捕まえてしまう。

そして、丁度そのタイミングで、一反もめんに乗った鬼太郎ファミリーがやって来た。

ねこ娘「まな!」

鬼太郎「遅かったか!」


捕まっているまなの姿を確認する鬼太郎ファミリー。

そこへ、薫が立ちはだかるように、まな達の前に立つ。


まな「さ、斎田君…」

砂かけばばあ「なんじゃ、あの人達の姿は?!」

鬼太郎「あの顔と爪、ノスフェルそっくりだ」

目玉おやじ「奴に操られているのは、間違いないな」

「………む!?」





『ぢう!』




その時、ピンク色のネズミの姿をしたノスフェルが、まな達の前に現れる。


まな「え?」

ねこ娘「アレは…」

鬼太郎「ピンク色のネズミ!」

『ぢう!』


現れたネズミの姿をしたノスフェルは
その場から大きく飛び上がり、そのまま本来のビーストとしての姿に戻る。
そしてそのまま、両手の爪を広げて鬼太郎ファミリーに迫った。


目玉おやじ「いかん!みんな、降りろ!」


攻撃してくる事に気付いた鬼太郎達は
一斉に一反もめんから飛び降り、庭に降り立った。

一反もめん「え!?ちょっ…」



「おわああぁぁぁぁ!?」



だが、一反もめんはすぐに避けられるはずがなく
ノスフェルの爪の連撃により、細切れになってしまった。


まな「一反もめんさん!」


一反もめんの惨状にまなが叫ぶ中、ノスフェルはドスンと庭に着地。
『グオォォォ―――!』と雄叫びを上げて、鬼太郎ファミリーを睨んだ。


まな「ど…どうして!?」


死んだと思っていたノスフェルが目の前にいる事に、まなは驚きを隠せなかった。

そして、鬼太郎達もキッとした表情で、ノスフェルを見る。

鬼太郎「ノスフェル…!」

目玉おやじ「やはり、生きておったか」

砂かけばばあ「こやつが、スペースビーストとやらか?なんと醜い!」

子泣きじじい「コイツは確かに、この世界の生き物ではないぞ!」


砂かけばばあと子泣きじじいは初めて見るスペースビーストの姿に、そのような感想を残す。

そうして、両者は睨み合う。

その睨み合いの中で、鬼太郎はノスフェルの身体を注意深く見回す。


鬼太郎(あれで生きていた以上、何処かに復活の秘密があるはずだ)

(けど見た感じ、鋭い爪以外に目立った点は見当たらない)


ノスフェル『グオ――!!』


鬼太郎が弱点探しをしている中
ノスフェルは声を上げながら、爪で引っかこうと走り寄ってくる。

鬼太郎ファミリーは、この攻撃をすぐさま回避。
避けられたノスフェルは、次に鬼太郎の方を向いた。

鬼太郎「リモコン下駄!」


鬼太郎は、すぐにさま両足の下駄を飛ばして攻撃しようとしたが
ノスフェルは、両手であっさり払い飛ばしてしまう。

当たり損なった下駄は、鬼太郎の足に戻ると
すかさず鬼太郎は「髪の毛針!」と叫んで毛針で攻撃。
これをノスフェルは、両腕をクロスさせて防御する。

その隙に、子泣きじじいがノスフェルの体の上に登り
赤ん坊の泣き声を上げて石化。

石化してどんどん重くなっていく
子泣きじじいの重量に、さしものノスフェルも動きが鈍っていく。


ねこ娘「ニャアァ―――!!!」


そこへ、人差し指と中指の爪を伸ばし
二本を束ねたねこ娘が、ノスフェルの腹部を切り付ける。

束ねられた二本の爪は、鎌のような鋭さで
ノスフェルの腹に食い込んでその肉を切り裂き、大きな切り傷を刻み付けた。


砂かけばばあ「それ!痺れ砂じゃ!!」


追い打ちに、砂かけばばあが痺れ砂を傷口に投げ付ける。

麻痺効果がある薬を多分に含んだ砂を
かけられた事で傷口が沁み、ノスフェルは大いに苦しんだ。

砂かけばばあ「む?」


だが、その直後に信じられない事が起きた。

ノスフェルの傷が、少しずつ塞がり始めたのである。


ねこ娘「傷が治っていってる…?」

目玉おやじ「やはりそうか!こやつ、再生能力を持っておる!」

鬼太郎「再生能力?」

ねこ娘「それじゃあ、鬼太郎に倒されたのに生きてたのって……」

目玉おやじ「この再生能力によるものじゃろう」

砂かけばばあ「もしそうなら、奴の身体の何処かに、再生能力を発動させる仕掛けがあるのではないか?」

鬼太郎「それが奴の弱点!」


復活のトリックを見破り、いよいよ弱点を探そうという話しになろうとした。


だが………





まな「きゃあ!」




まなの悲鳴が聞こえた為、ファミリーが悲鳴がした方を見ると
怪物化した薫が、彼女の首筋に爪を突きつけていた。

相手は相変わらず言葉を発する事はなかったが

『下手な事をすればまなの命はない!』

という意思表示である事を、一目見ただけで理解できた。


鬼太郎「まな!」

目玉おやじ「そうか!」

「まなちゃんを捕まえたのは餌の確保だけでなく、わしらに対する人質も兼ねておったのか!」

子泣きじじい「な、なんということじゃ!」

ノスフェル『!』


まなが人質に取られた事実を知り、子泣きじじいは泣くのを止めて石化を解いてしまう。

その隙にと言わんばかりに、ノスフェルは舌を伸ばして子泣きじじいを締め上げた。


子泣きじじい「し、しまった……!」

砂かけばばあ「子泣き!…ぎゃあ!!」


続けてノスフェルは、舌の横なぎで子泣きじじいを砂かけばばあに力強く投げ付ける。
子泣きじじいを投げつけられた砂かけばばあは、彼もろとも斎田宅に激突。
壁を突き破って和室に放り込まれ、奥の方にある壁にも激突し、その衝撃で崩れた壁の残骸に埋もれてしまう。


鬼太郎「子泣きじじい!砂かけばばあ!」


鬼太郎とねこ娘が彼らの身を案じようとするが
その隙は与えないと言わんばかりに、ノスフェルが両手の爪を振り回しながら迫る。

まなを人質に取られ迂闊に攻撃出来ない鬼太郎とねこ娘は、避ける事しか出来ない。


鬼太郎「父さん、一体どうしたら…!」

目玉おやじ「どうにかして隙を見付けて、まなちゃんを助けるしかない」

「上手く奴らの気を逸らす事が出来ればいいのじゃが……」


目玉おやじに言われ、爪をかわしながら
まなの救出のタイミングを伺う鬼太郎とねこ娘。

ねこ娘「きゃっ!?」


そして、ねこ娘が後ろ飛びで爪を回避しつつ、相手から距離を取ったその時であった。
ノスフェルは、擦るように地面を蹴って、彼女の顔に土を振り掛けたのだ。

急な搦め手にねこ娘は反応しきれず、土をもろに浴びて怯んでしまう。
その隙にノスフェルは鋭い爪で、彼女を切り裂こうとした。


鬼太郎「ねこ娘!」


それを見た鬼太郎は、ねこ娘を突き飛ばす。

そしてそのまま、ノスフェルの爪による一撃を胸に受けてしまった。


鬼太郎「あ…がっ……!」


胸に大きな傷を負ってしまった鬼太郎は
妖気と血が流れ出る胸を押さえながら、地面に膝をつく。

傷付いた鬼太郎の姿に、ノスフェルはニヤリと一瞬だけ笑みを見せると
追い打ちと言わんばかりに、今度はアッパーカットのような動作で、鬼太郎の腹に爪を突き刺した。


ねこ娘「鬼太郎!!」

まな「!!!!」


ねこ娘が叫び、まなが言葉を失う中
ノスフェルは腕を大きく振るって、鬼太郎を投げ飛ばす。

投げられた鬼太郎は、力なく地面に叩き付けられ
頭の上にいた目玉おやじはその際の衝撃で「うわぁ!」という悲鳴と共に地面に投げ出された。

目玉おやじ「き、鬼太郎!大丈夫か!?」

鬼太郎「う…!うぐ………!」


息子に駆け寄る目玉おやじ。

当の鬼太郎は、胸と先程付けられた腹の傷から
大量の血と妖気が漏れだしており、彼の周りに赤い海が広がり出す。

幸い意識はあるものの、ダメージが大きいらしく
その場にうずくまったまま、すぐには起きられない様子だ。


ねこ娘「き、鬼太郎!…はっ!」

ノスフェル『グオォ――!!』


鬼太郎を心配したのも束の間。

ノスフェルはお前で最後だと言わんばかりに、ねこ娘を爪の餌食にしようと襲い掛かる。

ねこ娘は、持ち前の身のこなしで回避するが
相変わらずまなが人質に取られているせいで、反撃に転じる事は叶わない。


ねこ娘「くっ…!!」


だが、それも長く続くはずがなく、左腕に爪が当たって傷を負ってしまう。

切られた傷口から、鬼太郎同様に妖気と血が漏れ出し、ねこ娘は右手で傷口を押さえるのだが……

まな「! ねこ姉さん後ろッ!」

ねこ娘「え……ッ!?」







ザク―――ッ!





まなの声を聞き、後ろを振り返ったねこ娘だったが
その次の瞬間、何かが突き刺さる音と共に腹部に衝撃が走った。

一瞬の事で何が起きたのか分からなかったねこ娘だったが、少しして何が起きたのか理解した。

自分の目の前には怪物と化した斎田薫がおり
その薫が、ノスフェルそっくりに変化した右手の爪を
ねこ娘の腹に深々と突き刺しており、刺された箇所からは血と妖気が流れ出ている。

そう、ねこ娘がノスフェルに気を取られている間に
まなを人質に取っていたはずの彼が、背後から近付いてきていたのだ。

恐らく、相手がねこ娘一人だけになった為
今度はあえてねこ娘を回避に集中させた末に、薫を不意打ちに回した……

という事なのだろう。


ねこ娘「あ…!く……!」


気付いた途端に、ねこ娘は痛みに苦しみだす。

その直後、薫はそのままねこ娘を押し倒すと
腹部に突き刺した爪を更に刺し込んで、更なるダメージを与えた。


ねこ娘「ぎゃあぁぁぁ――――!!」

まな「ねこ姉さん!」

鬼太郎「ねこ……むす、め……!」


ねこ娘の悲鳴を聞き、鬼太郎は立ち上がろうとするが
どうにも幽霊族の再生力でも、動けるまで回復するのに
まだ時間が掛かるほど傷が深いらしく、相変わらず動けないままだ。

霊毛ちゃんちゃんこが、回復を促進させる様子を見せているにも関わらずである。

まなも、怪物化した薫の両親に捕まったままで、何もできない。

そして最悪な事に、残るぬりかべはまだダウンしているのか、来てくれる気配が全くない。

目玉おやじ「鬼太郎!ねこ娘!」

「ノスフェルめ、まさかここまで頭が回るとは……!」


この絶望的な状況を覆すにはどうすればいい?

目玉おやじは必死に考えた。

指鉄砲を使おうにも、目玉だけのこの身では一発が限界だし
ノスフェルの弱点が判明していない今の段階で撃っても、一時しのぎにしかならない。

そうしている間に、薫は左手の爪をねこ娘に突き刺そうとしたが
ねこ娘は痛みを堪えながら、右手で受け止める。
そして、もう片方の左手で右手の爪を引き抜こうと抵抗するが
片手だけで尚且つ傷を負っている今の状態では、虫の抵抗も同然だ。

そんなねこ娘を薫に任せるかの如く
ノスフェルは、鬼太郎にとどめを刺そうと迫る。


目玉おやじ「ノスフェル!息子を倒したければ、まずわしを……」

「ぎゃあ!」


目玉おやじは、ノスフェルの前に立ち塞がったものの、案の定踏み潰されてぺしゃんこになってしまう。

まなが「親父さん!」と叫ぶ中、ノスフェルは鬼太郎の前まで来ると、爪を振り下ろしたのだが……

ノスフェル『!?』


その瞬間、霊毛ちゃんちゃんこが勝手に鬼太郎から離れると
大きくなってノスフェルの引っ掻きから鬼太郎を守ったのだ。


目玉おやじ「ちゃ……ちゃんちゃんこに宿る、幽霊族の先祖の霊が、鬼太郎を守りに出たか……」


ペラペラの姿で起き上がりながら、先祖の加護の発動を確信する目玉おやじ。

しかしそれでも、ノスフェルはちゃんちゃんこを破ろうと引っ掻きを続ける。

単純な切れ味の鋭さだけで、鬼太郎をダウンさせた爪だけあって
さすがのちゃんちゃんこも、少しずつだがボロボロになっていく。

おまけに、鬼太郎から離れた事で、鬼太郎の傷の再生も大幅に遅れだしている。


まな「どうしよう……どうしたらいいの………?」


自分が捕まってしまったばっかりに……

人質に取られ、何もできない自分に苛立ちを覚える。

このまま、何もできないまま、ただただ友人達がやられていく様を見るしかないのか?






ヒラリ―――





その時であった。

砂かけばばあと子泣きじじいが吹き飛んだ時に
遺影が壊れたのだろうか、斎田理子の写真が壁が壊れた家の中から飛んでくる。

その動きは、風に吹かれて飛んでいるように見えたが
今は写真が飛ぶほどの風は吹いていないはずだ。

そんな不思議な動きを見せる理子の写真は、まなの目の前に飛んでくる。


まな「アレは、斎田君のお姉さんの……」

「!?」


理子の写真を目にした次の瞬間、まなの頭の中にあるビジョンが浮かび上がってきた。

それは、薫が今も着ている制服の胸ポケットがアップになったかと思えば
その中のガンバレクイナちゃんのキーホルダーが、大写しになると言うものであった。

まな「ねこ姉さん!薫君の胸のポケットを切って!」

ねこ娘「胸、ポケット…!」


ねこ娘は痛みを堪えながら、薫の制服の胸周りを見る。

確かに、左側にポケットがある。

それを確認すると、右手を掴んだ左手を離すと
薫を傷付けないよう、左手人差し指と中指の爪を短めに伸ばし、ポケットを軽く切り裂く。

すると、中からガンバレクイナちゃんのキーホルダーが、ねこ娘の上に落ちて来た。


ねこ娘「キーホルダー?」

薫『!?』


すると、薫に変化があった。

彼は、ガンバレクイナちゃんのキーホルダーが
目に入った途端、ハッとした様子を見せいたのだ。

その反応は、まなの方でも確認できた。

そこで、まなは呼び掛けた。

まな「斎田君。それが何か覚えてる?」

「あなたが大好きな、ガンバレクイナちゃんのキーホルダーだよ」

「私が、あなたに買ってあげたものだよ」

薫『…………』 

まな「お願い、思い出して!」

「斎田君、あなたは動物が大好きで、それでいて優しい子なんだよ」

「だからねこ姉さんを、これ以上傷付けないで!そして、みんなを助けてあげて!」

「だからお願い!斎田君、元のあなたに戻ってッ!!」


まなの精一杯の声と共に、また理子の写真がヒラリと宙を舞うと
まるで、ねこ娘と薫の間に割って入るかのように、薫の目の前に飛んできた。


薫『!!!!』


その瞬間、薫は驚きの表情と共に、頭の中にある記憶が呼び覚まされた。

それは、1年前……まだ存命中だった姉の理子と、ある会話を交わしていた記憶だ。

薫「お姉ちゃん、彼氏いるんだって…?」

理子「あれ?薫ちゃん何で知ってんの?」

薫「彼氏さんが、僕に自慢してきた」

理子「もう、アイツったら、どうしてまだバラしちゃ駄目って言ったのに、あっさりバラしちゃうのかしらね~」


口調とは裏腹に、笑みを浮かべながら理子は
ネズミの格好をした3期ねずみ男に酷似した貯金箱に、次々と小銭を入れ続けている。

そして、続けるように「そんなこと聞いてくるなんて、どうしたの?」と聞いた。


薫「いや……ちょっと羨ましくて………」

理子「ふぅん…薫ちゃんも、彼女欲しいとか考えてたんだ」

薫「…おかしい?」

理子「全然。むしろ、私も薫ちゃんにも恋人できて欲しいなって思ってる」

「私だけ恋人いるなんて、不公平じゃない?」

「…んで?気になる娘、いたりするの?」

薫「まだいないよ」

理子「じゃあその内、見付かるといいわね。薫ちゃんのタイプの娘」


そう言っている内に、理子は小銭を全部入れ終えて
「よし!今月の貯金完了っと」と言って、貯金箱を自分の机の上に置くと薫の方へ向き直る。

理子「ねぇ…もしも、好きな娘できたら言ってね?お姉ちゃんも応援してあげるから」

薫「そんないいよ……」

理子「遠慮しないの!アンタ、人前だと自分の事あんまり表に出さないじゃない?」

「だから、ちょっと心配なのよね……」

薫「何それ?僕が頼りないって言いたいの?」

理子「うん」

薫「大丈夫だよ!僕、彼女できたら、絶対にその娘を幸せにするから!」

理子「お?まだ出来てもないのに、いきなり踏み込むね~」

薫「あ……ごめん。気ぃ、早すぎだよね……」

理子「ううん、そんな事ないよ」

「タイプの人がいつ現れるか分からない以上は、最初からそういう心意気持ってなきゃ…」

「せっかくできた好きな娘を悲しませちゃうし、何しろ守る事だってできはしないわ」

「私の彼氏もそういう人だから、安心して付き合っているのよ」

薫「そうだったんだ……」



理子「だからね、薫。今言った事、絶対に忘れないでね」


「そして…………」







「好きな娘できたら」








「絶対にその娘を、守ってやってね」




理子のこの言葉が蘇り、現代の薫はねこ娘に突き刺した爪を引き抜くと
姉の写真と、ガンバレクイナちゃんのキーホルダーを手に乗せ、ジッと見た。

ねこ娘がその隙に脱出する中、怪物化した薫の頭の中にまたある記憶が蘇る。

それは、ガンバレクイナちゃんのキーホルダーを買ってもらった時から始まった、まなと三ヶ月間。

恋焦がれるも、中々前に進めずもどかしい思いばかりを抱いていた三ヶ月間。

でも、それだけではない。

自分を評価してくれた、まっすぐで優しい娘……

探し求めていた、自分のタイプの人………


そして……









守るべき愛する人









薫(ソウ…ダ……)

(ボ…ク……ガ……シナクチャ……イケナイコト………)

(ソレハ……コ…ンナ……)

(こン…な………)






こんな事じゃない!



薫『ウ……ウ………!』





『ウアァ――――――!!』




薫は、頭を抱えて苦しんだかと思えば、叫び声を上げると
急に怪物化した両親と、彼らに捕まったまなの方へと走り出す。

ねこ娘は「まな!」と叫んで止めに行こうとしたが、傷のせいで体が言う事を聞かない。


まなも、迫る薫を目の当たりにして目を瞑った。





ザンッ―――!!




次の瞬間、何かが切り裂かれる音がした。

しかし、まなは痛みを感じない。

それどころか、左右から『ギャア――!!!!』と、いう悲鳴と共に何かが倒れる音が聞こえる。

同時に、捕まって動けないという感覚からも解放される。

そこで、まながゆっくりと目を開けると
目の前には爪を振りきったポーズで立ち尽くす薫がおり、両側には彼の両親が倒れていた。

薫は相変わらず怪物化したままであったが
先程まで真っ白だった目には、強い意志を持った瞳が宿っていた。

それを見てまなは、すぐに彼が両親を倒し、自分を助けたのだと悟った。


まな「斎田君…!」


安堵の表情を浮かべるまなの顔を見て、薫も安心したような表情と共に頷くと
まなに姉の写真とガンバレクイナちゃんのキーホルダーを差し出す。

すぐに「持っていてくれ」と、言っているのだと理解してまなは静かに受け取った。

ノスフェル『!?』


一方、ノスフェルもその事に気付いて、薫とまなの方を振り返ると
『グオォ―――!』と咆哮を上げ、そちらに向かっていく。

それを見た薫は、まなを守ろうと爪を振り回してノスフェルに立ち向かう。
その間に、まなは深手を負ったねこ娘に駆け寄った。


まな「ねこ姉さん!それに、鬼太郎も!」

「ごめんなさい、私のせいで、こんなになって……」

ねこ娘「アンタのせいじゃないわよ……」


ねこ娘の一言に続き、いつの間にかペラペラ状態から元に戻っている目玉おやじも
「そうじゃ。君が人質にされてしまったのは、わしらが奴の行動を読み違えたせいじゃ」
と言ってフォローを入れた。


鬼太郎「それにしても、父さん。あの子……」

目玉おやじ「今のまなちゃんの呼びかけで、正気に戻ったのじゃろう」


傷を癒す為に自分の元に戻った
ちゃんちゃんこを着なおした息子に対し、目玉おやじが説明するが
それに対しまなは、「私だけの力じゃないよ」と言った。

まな「この写真。去年死んじゃった、斎田君のお姉さんなんだけど…」

「この人の写真が飛んで来た時、斎田君のポケットにこのキーホルダー(ガンバレクイナちゃん)が入ってる事を教えてくれたの」

ねこ娘「それでさっき、あんなことを……」

目玉おやじ「それは恐らく、この写真の人の霊が現れたのじゃろう」

「斎田君やみんなを助けたい君の強い気持ちが彼女の霊をこの世に呼び寄せ、手助けさてくれたんじゃ」

「さすがは拝み屋の血筋なだけあるわい」


目玉おやじがまなの血筋を称賛する中、薫はノスフェルと戦っていた。

薫はノスフェルを引っ掻こうとするが、それに対しノスフェルも爪で弾く。
ならばと薫は、飛び上がって背後に回り込むが
ノスフェルが振り返りついでと言わんばかりに
長い尻尾で薙ぎ払おうとしてきた為に、薫は後ろ飛びでかわす。

するとすかさず、ノスフェルは両目を怪しく光らせた。


薫『う…がぁ……!』


恐らく再び操ろうと、力を送っているのだろう。

薫は頭を押さえて苦しみだす。


薫(ダメ…だ……!)


(犬山さんを守る……!)


(彼女の友達も、助ける……!)


(こんなのに、負けるものか……!!)



だが、薫は強い意志でその力を振り払うと
『ウオォォォ―――!』と叫びながら、ノスフェルに向かっていく。

自分の力が通じないことに、ノスフェルは若干の動揺を見せたが……



薫『グア―――……!!』


薫が爪を振りかぶって目の前に来た瞬間
返り討ちと言わんばかりに、自身の爪を彼の腹に深々と突き刺した。


まな「…!」


その光景に、まなを含めたその場にいた全員が絶句する。

一方、薫は顔をしかめながらも、まな……

そして鬼太郎の方を見ると、刺された部分から来る激痛に耐えながら
お返しと言わんばかりに、ノスフェルの腹に爪を突き刺した。


ノスフェル『ウグ!?……グ!?ググ!??』


そして、ノスフェルに異変が起きた。

突然、ぎこちない動作で鬼太郎の方へ
顔を向けたかと思うと、これまたぎこちない動作で大きく口を開いたのだ。

一体どうしたのかと思い、鬼太郎が薫の方に目を向けると
薫が、先程のノスフェルのように、目を光らせていた。

鬼太郎「操り返してる……?」

目玉おやじ「む?鬼太郎、アレを見ろ!」


何かに気付き指差す目玉おやじ。

彼が指し示したのは、大きく開かれたノスフェルの口の中の奥まったところ……

暗がりになっていて見えづらいそこを
気をつけて見てみれば、黒い臓器のような物体があるのが確認できた。

鬼太郎がそれを確認した直後、薫が鬼太郎の方に顔を向けると、その物体に目配せる。

この瞬間、彼が伝えようとしている事を、鬼太郎たちは理解した。


ねこ娘「アレが、アイツの弱点……!」

まな「鬼太郎!」

鬼太郎「あぁ…!」


鬼太郎は、傷で痛む体に鞭打ちながら、立ち上がる。

薫がノスフェルと戦ってくれたおかげで、痛みを我慢して立ち上がるくらいに回復する事ができたのだ。

だが、さすがにこの状態で指鉄砲までは撃てない。

そこで鬼太郎は、ちゃんちゃんこを丸めて槍にすると、体内電気をそれに宿らせた。



鬼太郎「霊毛……」





「ちゃんちゃんこぉッ!!」




今持てる力を振り絞り、槍状のちゃんちゃんこを、ノスフェルの口内に向かって投げ付ける。

槍状に細くなったちゃんちゃんこは
大きく開いたノスフェルの口にすんなりと入り込み、奥にある再生器官を貫いた。




ノスフェル『グギャアァァ―――!!!!』


弱点を攻撃され、口にちゃんちゃんこが刺さったまま苦しみだすノスフェル。

その拍子に、薫に突き刺していた爪が抜け
薫がノスフェルに腹部に突き刺していた、爪も抜ける。

ノスフェルの爪から解放された薫が、その場にうずくまる中
ちゃんちゃんこに宿っていた体内電気が一気に放たれて、ノスフェルを口内から……体内から、感電させる。

いかなる生物も、内側から攻撃されれば、ただでは済まない……

スペースビーストのノスフェルも例外ではなく
体内からのちゃんちゃんこの放電に苦しみ、みるみるうちに全身が真っ黒に炭化していく。

そして、放電が終わり、ちゃんちゃんこが鬼太郎の手元に戻った後
炭化して動かなくなったノスフェルは、ちゃんちゃんこが刺さっていたところから
サーっと、まるで分子分解されていくかのように風化し、跡形もなくなっていった。

すると、うずくまっていた薫や倒された両親が、人間の姿に戻っていく。

その様子に、鬼太郎たちは確信した。


鬼太郎「今度こそ……倒せましたね…………」

目玉おやじ「あぁ…これでもう二度と、ノスフェルは復活できんじゃろう」

ねこ娘「やっと、終わったのね……」

まな「…」

ぬりかべがやって来たのは、ノスフェルが倒されて少ししてからであった。
彼は、遅れて申し訳ないと謝罪したのち、ガレキに埋もれた
子泣きじじいと砂かけばばあを助け出したのだが、なんと彼らは無傷だった。

実は吹き飛ばされて、ガレキが降ってきた瞬間
子泣きじじいは咄嗟に砂かけばばあに覆い被さり、彼女ごと石化してガレキを防いでいたのだ。
しかし、下手に解くと下敷きになってしまう状態にもなってしまった為に、身動きが取れなかったのだという。

そして、細切れにされた一反もめんも、かき集められて
庭にあった水やり用ホースで放水された事で、再生することができた。

一反もめん「ふー……いきなり細切れにされるなんて思わんかったばい」

砂かけばばあ「いやはや、助かったぞ…」

「危うく、この爺に抱き着かれたまま、一生瓦礫の下で暮らす事になるかと思ったわい」

子泣きじじい「せっかく守ってやったのに、何じゃあその態度は!?」


相変わらずな砂かけばばあと子泣きじじいの様子に、ぬりかべはホッとする。

一方、ある程度回復した鬼太郎とねこ娘は、まなの横に並んでいた。
そして、まなはと言うと、うずくまったまま、元の姿に戻った薫の身体を抱き起した。

こうして間近で見てみると、腹につけられた傷がとても痛々しかった。


まな「斎田君!しっかりして、斎田君!」


まなは、抱き起した薫に呼び掛けると
薫は「う…ん……」と声を出しながらゆっくりと目を開けた。

まな「斎田君!しっかりして、斎田君!」


まなは、抱き起した薫に呼び掛けると
薫は「う…ん……」と声を出しながらゆっくりと目を開けた。


薫「犬山…さん……?」

まな「斎田君!よかった……」


薫の意識が戻って安心するまな。

傍にいた鬼太郎親子とねこ娘も安心すると、ねこ娘は救急車を呼ぼうと提案するが……


薫「その必要は、ないよ……」

ねこ娘「え…?」

まな「どうして?!早く病院に行かないと……」

薫「ごめんね……実は、僕……」






「もう死んでるんだ…………」




まな「え…?」


衝撃的な一言に、まなは言葉を失った。

彼女だけではない、鬼太郎たちもだ。


まな「ちょ、ちょっと…何言ってるの?」

薫「そのままの意味だよ……」

「僕だけじゃない……お父さんとお母さんも、もう死んでるんだ………」

まな「……」

「ちょ、ちょっと、こんな時に変な冗談止めてよ」

砂かけばばあ「いや…その子の言っている事、本当かもしれんぞ」


そこへ、いつの間にか子泣きじじいとの漫才を終えた砂かけばばあが
その子泣きじじいとぬりかべと一反もめんを連れて、やって来た。

まな「砂かけばばあさん」

砂かけばばあ「今、この子の両親の様子を確かめたんじゃが、もう既に息がなかった」

「状態を見るに、死んで丸一日は経っておった」

まな「じゃ…じゃあ……斎田君、本当に………?」

薫「…………」


愕然とした様子のまな。

そんな彼女の表情を見ながら、薫はこれまで自分の身に起きた事を語り出した。

薫「僕は、昨日学校から帰った後、アイツに殺されたんだ……」

「お父さんとお母さんも、既に殺されていた……」

「そして、アイツは……僕達に自分の細胞を植え付けて、自分の操り人形にしたんだ………」

「そうさ……今の僕は、アイツに無理矢理動かされているだけの、ただの死体なんだよ………」

まな「で、でも……だったら、どうして今、こうやって話ができるの?」

薫「…………」

薫「僕にも、分からないんだ………」

「この体に、僕の意思はないはずだったんだ……けど…………」

「お姉ちゃんの写真と、ガンバレクイナちゃんのキーホルダー………」

「そして、犬山さんの声を聞いた時……急に、これまでのことが頭の中に蘇って………」

「それで気付いたら……僕は、生き返っていたんだ…………」

まな「それで、私を助けてくれたの?」

薫「うん……

「うっ!!」


と言った瞬間、薫は苦しみだした。


まな「斎田君!」

薫「もう、駄目みたいだ……」

「アイツの細胞を逆利用していたおかげで、何とか動けてたけど……」

「アイツが死んだ今、もうじき僕は、元の死体に戻る……」

まな「そんな…嫌だよ!斎田君!」

薫「いいんだよ、犬山さん………」

「不思議な事に……一度死んでみると、静かに死んでいたいって気持ちが強くなるんだ……」

「同じように操られていた、お父さん達も…きっと同じ気持ちだと思う……」

まな「………」


薫「それに……もう、未練はないよ…………」

「だって……最後に一度だけ、大好きな人を………」

「君を………助けることができたんだから………」

まな「大好きな人って…」

「斎田君!もしかして、私のこと……」

薫「………」


薫「やっと……自分の気持ち、伝えられた………」


「たった三ヶ月の間だったけど……こんなにも温かい気持ちをくれて……」


「ありがとう………」


「そして…さようなら…………」








「犬山…ま……な…………」





初めて、まなの名前をフルで呼ぶと
薫はゆっくりと目を閉じ、全身の糸が切れた人形のように力を失い、そして冷たくなっていった。

まな「!」


「斎田君!斎田君!」












「斎田く―――ん!!!!」






続けて、夕日が沈みゆく空に、まなの悲痛な叫びがこだましたのであった。


それからすっかり夜が更けた頃の、高級料亭 古代岩の一室……

灯りが一切なく、不気味なほど綺麗な満月と周囲のビルの光しか入って来ない暗い室内で
主のぬらりひょんはガラケーから誰かからの報告を聞いていた。


ぬらりひょん「そうですか……鬼太郎君は無事、ノスフェルを殲滅出来ましたか」

「報告、ご苦労様です旧鼠さん……」

「……お礼ですか?」

「ご心配なさらずとも報酬は明日、朱の盆に高級チーズと共に持っていかせますので……」

「……えぇ。また何かありましたら、お互い助け合いましょう」

「では、これで……」


話し終えると、ぬらりひょんは電話を切り、ガラケーを折り畳むと懐にしまい込む。

それと同時に、大きくて赤い顔をした鬼のような妖怪が入ってくる。

彼こそ先程名前が出ていた『朱の盆』。

ぬらりひょんの忠実な秘書兼ボディガードのような存在だ。

朱の盆「ぬらりひょん様。芳忠さんがお目見えです」

ぬらりひょん「いいタイミング来ましたねぇ……」

「今すぐ通しなさい」


ぬらりひょんの指示を受け、朱の盆は「はい」と言って一旦部屋を後にする。

そして、少しすると黒いスーツ姿の男性が入ってきた。

この男こそ『芳忠』という人物。

見たところ、人間のように見えるが……?

ぬらりひょん「お待ちしていましたよ。丁度、あなたとお会いして、話しをしたかったところだったんですよ……」

芳忠「それは私の方も同じだっ!!」


怒気に満ちた口調でドカドカとした足取りで、ぬらりひょんの前に歩み寄る芳忠。

すると、その頭部と両手が、ギチギチとグロテスクな音を鳴らしながら変形し
前者は頭頂部に噴出口のようなものが付いた一本の触覚を生やし
白っぽい溝と一つ目しかない、縦長で不気味な黒い顔に、後者は尖った爪が生えたゴツゴツした手と化した。

そう、彼は人間ではない。

かと言って、妖怪でもない。

彼は、別の宇宙からやって来た変身怪人 ゼットン星人の……



テロップ:ホーチュ

ぬらりひょん「おや…奇遇ですね。何かありましたか?」

ホーチュ「すっとぼけるな!お前、ノスフェルの捕獲に協力してくれると言ったよな?」

ぬらりひょん「えぇ、もちろんですよ」

ホーチュ「だが、全然報告がなかったではないか!」

「それどころか夕方、変な子供に倒されている現場を見た」

「それで調べてみれば、ゲゲゲの鬼太郎とか言う妖怪退治の専門家のような妖怪で、かなりの強者だというじゃないか」

「どうしてそんな奴の存在を黙っていた!?」

ぬらりひょん「ノスフェルは妖怪ではなく、スペースビースト…」

「鬼太郎君が退治するとは、思ってもみなかったんですよ」

「それに、奴は妖怪ではありませんからねぇ。いくらわたくしめでも、行動を読み切ることができなかったんですよ」

ホーチュ「だが、ノスフェルの行動は、この辺で大きな噂になっていた」

「その気になれば、見付けることは出来ただろう!アンタ、同志の妖怪沢山いるんじゃないのか?!」

ぬらりひょん「だから、さっきも言ったじゃありませんか。妖怪でない故、行動を読み切れなかったと……」

「わたくしでも行動を読めないビーストの行動を、同志たちも読めるわけがないじゃありませんか」

ホーチュ「本当か?本当は、知ってて何もしていなかったんじゃないのか?」

ぬらりひょん「邪推が過ぎますねぇ……」

「大体そちらこそ、奴の情報に目を光らせていたのでしたら、鬼太郎君の存在を把握することぐらいできたのでは?」

ホーチュ「……くそっ!」


ぬらりひょんの言い分に、ホーチュは反論も抗議もできなくなった。

それを見て、二ィッと口角を吊り上げたのち、ぬらりひょんはある疑問をぶつけてみる。


ぬらりひょん「しかし、どうにも解せませんなぁ…」

「何故あんな、危険な生物にこだわるのです?」

ホーチュ「そりゃあ、捕まえて手懐ければ、それだけで大きなアドバンテージになるからだ!」

「スペースビーストってのはな、ウルティノイドやレイオニクス…」

「スパークドールズといった特殊な力を持つ奴ら、特殊な物とかを使って制御できた事例が多数あるが…」

「そう言った力を使わずに、捕獲して飼い慣らした例は未だ確認されていない」

「つまり…奴をとっ捕まえ、特殊能力なしで制御可能な怪獣兵器に育成させることができれば…」

「たったそれだけで、注目の的!多額の金も舞い込んでくるって事よ!」

「しかもあのノスフェルは、上級ビーストと呼ばれる極めて価値の高い個体だ」

「見付けるのも、あそこまで弱らせるのにも相当苦労した」

「それなのに、あと一歩と言うところで取り逃して、挙句この世界にまで流れ着いて…」

「しかも、ウルトラマンでも人間でもない子供に殲滅されるなんて!」

「こんな踏んだり蹴ったりなこと、あってたまるか!!」

「あのノスフェルを飼い慣らす事ができたら、ヴィラン・ギルドに売り込もうと思ってたというのに……!」

ぬらりひょん「…………」

「……あなたにとって、あのビーストの捕獲がどれだけ大事なことなのか、理解できました」

「ならば、こちらも精一杯のお詫びをしなければなりません」

「朱の盆!」


ぬらりひょんが部下の名前を呼ぶと、朱の盆が「はい~」と言いながら部屋に入ってくると
一つのアタッシュケースを持って来て、その蓋を開けて中身を見せる。

それは大量の札束だった。

ホーチュ「これは?」

ぬらりひょん「見て分かりませんか?お詫びのお金ですよ」

「あなたがあのビーストを売り込んで得るはずだった金額には程遠いかもしれませんが、食べていくには十分でしょう」

「それを持って、早く元の宇宙に帰るが宜しいかと思いますよ」

ホーチュ「お詫びとか言って、厄介払いかよ……」

ぬらりひょん「お言葉ですが、一番最初に厄介者がこちらの世界に流れてくるような失態を犯したのは、そちらではありませんか」

「おかげで、わたくしどもにも不都合が生じる可能性があったんですよ?」

「そもそも全部終わったら、二度とこの世界には来ないという約束でしたよね?」


ホーチュ「…………」


悔しいが、この老人妖怪の言う通りだ。

今のホーチュは

「分かったよ!アンタの言う通り、もう二度とこの世界には来ないからな!」

との捨て台詞と共に金を受け取って出ていくしかなかった。

そして、彼が出ていって少しすると、料亭の上空に透明状態の黄色い円盤……

『ゼットン星人円盤』が現れて、上空彼方へと飛び去って行ったのだった。


それからホーチュがいなくなったのを見計らい、朱の盆はぬらりひょんに話しかける。

朱の盆「帰りましたね」

ぬらりひょん「えぇ…帰りました」

朱の盆「でも、よかったんですか?あのビーストとやらを鬼太郎に殺らせちゃって…」

ぬらりひょん「それはどういう意味ですか?」

朱の盆「案外、利用価値あったんじゃないかな…と思いまして」

ぬらりひょん「朱の盆……馬鹿を言ってはいけませんよ」

「あの外来種は、高い知能を持ちながら…」

「それを、本能と欲を満たすことにしか使おうとしない、いわば『頭がいいだけのケダモノ』です」

「あんなものがのさばれば、我々にも危害が及ぶのは火を見るよりも明らか」

「あのようなケダモノに、私の計画の邪魔をされては困りますし、それを持ち込んでくる部外者も許してはなりません」

「だからこそ、鬼太郎君にノスフェルを殲滅させ、ホーチュさんには早々に『消えて』もらう事にしたんですよ」

「そう………」

同じころ、ホーチュの乗るゼットン星人円盤は、地球からある程度離れた所にまで差し掛かっていた。

その時、ホーチュはケースに入った金のことがふと気になった。


ホーチュ「そう言やぁ、どれくらい入ってるんだコレ?札がビッシリ入っているように見えたが……」


そう言って、ケースを開けて中に入った金の金額を数えようと
札束を手に取ったのだが、彼はその金の見た目に違和感を覚えた。


ホーチュ「…ん?こ、これは!」


ケースの中に入っていたお札の表面には、よく見る一億円札の絵柄が印刷されていた。

しかし、問題は裏面。

そちらは真っ白で、何も描かれていなかったのだ。

そう、実はこれ、真っ白な紙の表面にだけ一億円の絵柄が印刷された、偽札だったのだ。

更に、ケースの奥から怪しげな赤い光が漏れているのが見える。

ホーチュは、偽札を乱暴にケースから出して、奥に隠された『それ』を露わにする。

それは、不気味な赤い水晶玉のような球体であり
ビカビカと明滅していたのだが、その明滅のスピードが徐々に速くなっている。

初めて見るものではあったが、ホーチュはそれが
ぬらりひょんが作った爆弾であることを直感で理解した。


ホーチュ「…!」


これを見てホーチュは絶句した。

そして、すぐに悟った。





スペースビーストをこの世界に追い込んだ自分を、ぬらりひょんは生かして帰す気なんてなかったのだと……



そして、ホーチュがその事を悟ったのとほぼ同時に、ぬらりひょんは先程の言葉の続きを呟いた。













ぬらりひょん「この世から永遠に……」


ぬらりひょんのこの一言の後、ゼットン星人円盤は爆弾の爆発により、ホーチュ諸共宇宙の藻屑となった。

その時の爆発は、日本各地の天文観測所でも確認されたことにより、後日メディアで報道されて騒ぎになる事となった。

報道を見てぬらりひょんは計画が成功したことを実感し、ほくそ笑んだのは言うまでもない……

数日後……

薫を始めとした斎田一家は、調布市内の墓地に葬られた。

鬼太郎ファミリーとまなは、彼らの墓を訪れる。

まなは花と共に、新しい遺影に入った斎田理子の写真を……

そして、自分と薫が友達になるきっかけになった
ガンバレクイナちゃんのキーホルダーを手向け、鬼太郎達と一緒に墓前に手を合わせた。

拝み終えると、目玉おやじが話しかけてくる。


目玉おやじ「まなちゃん。何故あの時、斎田君が生き返ったのか、少し考えたのじゃが…」

「あれは、君を愛する気持ちが起こしたものだったのかもしれん」

まな「私を愛する気持ちが……?」

目玉おやじ「実は…今回の件と似たようなことが、2ヶ月前にあったんじゃ」

そう言って目玉おやじは、今年の10月後半に起きた、魍魎の事件の時に起きたことを話した。

それは、写真家『久能 恭平』と、彼を狙う女の亡霊の事件……

その女の亡霊は『水葉』という久能の恋人で
あるきっかけで、久能に見殺しにされてしまい、死体と化した。
その彼女の死体に、50年前に鬼太郎が封じた魍魎が憑依して復活し
そのまま水葉の恋人の久能を、執拗に狙っていたという事件であった。

当初、魍魎にとり憑かれた水葉は
自身を見殺しにした久能に対する恨みや憎しみを抱いて動いていると思われていた。

だが、紆余曲折合って彼女の死体と分離させられた魍魎が
鬼太郎とねこ娘を追い詰め、久能を殺して新たな肉体にしようとしたその時
死体に戻ったはずの水葉がカメラのフラッシュを炊いて魍魎を怯ませて久能を助け、鬼太郎を勝利に導いたのだ。

実は、彼女は見殺しにされた後も、久能を愛していた。
水葉の死体にとり憑いた魍魎が、執拗に久能を狙ったのは
その愛が魍魎によって歪められていたせいだったというのが、事の真相だったのだ。

まな「その写真家の人、恋人を殺した事を告白して自首したのは、ニュースを見て知ってたけど…」

「そんな事があったんだ……」

目玉おやじ「そして、この話で重要なのは、水葉さんがカメラのフラッシュを押して、久能たちを助けたことじゃ」

「あの時彼女は、魍魎が抜け出て物言わぬ死体に戻っていたはずだったんじゃ」

「なのに、カメラのスイッチを押すことができた……実に不思議なことじゃ」

「じゃが、魍魎の言うように、彼女が死後も久能に対する『強い想い』を抱いておったことを考えれば…」

「久能を愛する気持ちが、死体だった水葉さんを一瞬だけ生き返らせ、カメラのフラッシュを押させたと解釈できる」

「今回もそれと同じ事が、斎田君の身にも起きたのかもしれん」

ねこ娘「愛の力が奇跡を起こした……って奴ね」

まな「そうだったんだ…」


まなは、納得しながら墓石の前まで歩み寄る。

まな「斎田君。君が、私に恋していたなんて、ビックリしちゃった」

「だって私、恋愛に興味はあるけど、男の子からそういう目で見られたことって、今までなかったから……」


そう言って少しだけ間を置くと、まなはまた薫の墓に話しかけ始める。


まな「だから…今も君のこと、どう見たらいいのか、ちょっと分からないの……」

「告られたタイミングもタイミングだったし……」

「けど、気持ちはとても嬉しいよ。誰かに愛されることほど、幸せなことってないもの」

「だから……助けてくれて、ありがとう」

「向こうでも、家族のみんなと仲良くしてね?」

「…あ、それと、お姉さんに、あの時ヒントをくれたことを私が感謝してること、しっかり伝えてね?」


まな「……………」

「それじゃあ、さようなら……」






「斎田……薫君………」




薫の墓に手を添えながら、彼の名前をフルで呼ぶまな。

優しく閉じられた目からは、一筋の涙が零れている。

その様子を鬼太郎ファミリーは、優しく見守っている。


そして……



この時、墓の上から薫がまなを優しく見下ろした後、両親とともに天に昇っていく姿が、見えたような気がした。


~エンディング:あるわけないのその奥に~

~補足・裏設定など その1~


斎田薫・・・本作オリジナルキャラクターその1。
まなに恋をした珍しい人間男子。
ノスフェルに殺されてビーストヒューマンにされて利用されてしまうも
彼女に対する愛と姉のヘルプもあり、ノスフェルの呪縛を断ち切り
植え付けられた細胞を逆利用して、まなたちを救った。
ノスフェルの再生器官の場所が分かったのは、その逆利用をした際に情報を取り出す事ができたからです。

基本は内気で、あまり誰とも話したがらない性格だが
フランクかつシニカルな面もある。
そして、動物好き。
これは死んだ姉に影響されている。

裏設定として、まなを好きになる以前は
石橋 綾に気があるのではないかと言う、謎の誤解が広まっていた時期があったというものがあります。


苗字は『ウルトラマンネクサス』の主人公「孤門一輝」の恋人「斎田リコ」の斎田から
下の名前は、同作に登場する、家族がノスフェルの被害に遭った少年「山邑薫」の「薫」から拝借。
どちらも、ノスフェルの事件と関係しているキャラクターという繋がりがあります。

両親の下の名前も、薫の父親「山邑博」の「博」と、母親「山邑涼子」の「涼子」から拝借。

まなちゃんに恋しているという設定も、リコが孤門の恋人だった設定から着想を得ました。

ただ、殺されても問題ないオリキャラだからといって適当にしたくないと思うあまり
設定を作り込み過ぎちゃった感は否めません……

なお、蒼馬が彼がまなを好きになる事をやたらと反対していたのは
彼も何だかんだでまなに気があるからという解釈で描いたからです。
しかし本人はバカなので全然自覚ありません。

また、彼がまなちゃんと一緒に買って、逆転のきっかけを作ってくれたものの
一つである「ガンバレクイナちゃん」の元ネタは言うまでもなく『ネクサス』のガンバレクイナくん。
あちらでは、主人公の孤門を正気に戻すのに活躍してくたように、こちらも薫君を正気に戻すのに活躍しました。
見た目は、ヤンバルクイナが『ウルトラ怪獣擬人化計画』か『けもフレ』っぽい見た目になったのを想像してくれたら幸いです。


斎田理子・・・本作オリジナルキャラクターその2。
薫の姉だが、一年前に修学旅行先で起きた事故で既に他界している。
ちなみに、恋人も一緒に死んでしまった模様……

しかし、ノスフェルに苦しめられる鬼太郎たちを助けたい
まなの心(と無意識に発動した、彼女の中のよりましの力)に反応して、魂が一時的に現世に戻ってきて
薫を正気に戻すヒントをまなにあげることで、鬼太郎たちの窮地を救った。

動物好きの優しい性格であり、絵を描くのが好き。
一方で、金にがめついという困った一面も持っている。
仏壇にねずみ男のような貯金箱と一万円が供えられていたり
回想で貯金箱に小銭を次々入れていたのは、そのため。


名前は『ウルトラマンネクサス』の「斎田リコ」と「山邑理子」の複合。
貯金箱のデザインは元ネタがあり、猫仙人の回などで登場したネズミの格好をした三期ねずみ男の姿を使っています。

彼女が事故に遭った眞也山と溝呂木トンネルは
『ウルトラマンネクサス』に登場した「溝呂木眞也」に由来。
トンネル事故に遭ったという経緯は、リコがトンネルの前で殺されたシチュエーションを意識しました。

また、元ネタの方の山邑理子は、薫の元ネタである山邑薫の妹。
なので彼女の設定は、元ネタと逆になる形となっています……

と思っていたのですが、斎田リコの方に弟さんがいましたね………

~補足・裏設定など その2~


ノスフェル・・・言わずと知れた、視聴者をトラウマのどん底に叩き落したフィンディッシュ(悪魔的な)タイプビーストであり、今回の敵。
ザ・ワンがかつて取り込んだネズミのような姿をしており、それ故にザ・ワンの要素を色濃く残した上級ビーストの一種ともされている。

鋭い爪を武器に使う他、殺害した人間に自身の細胞を植え付けることで
「ビーストヒューマン」と呼ばれる操り人形に変える能力を持ち、今作でも斎田一家に対して使用。
また、口内の再生器官を破壊されない限り、何度でも復活する。

このような設定を持つものの、意外にも原作では誰かに使役されていることが多いのだが
今作の個体は誰にも使役されていない、珍しい野生個体。
また、ビーストを自力で手懐けて怪獣兵器にすることに執着する
ゼットン星人ホーチュに追われており、この個体はその際のダメージで弱体化しています。
このような設定になったのは、鬼太郎でも倒せるようにする為のバランス調整です。
もしも、巨大化可能な万全状態だったら、さすがの鬼太郎でも勝ち目がないかもしれませんからね。

ネズミに擬態する能力は、原作にない本作オリジナル。
ノスフェルに対する新たな解釈を自分なりに入れてみた結果です。
取り込んだ動物に変身できる能力があるのも、それもそれで面白いと思いません?
舌の先を枝分かれさせて敵を包む攻撃も、オリジナルです。

そして、誰にも使役されていないので、ノスフェル自身も
恐ろしく邪悪かつ狡猾な危険な存在であることを追及して
描いてみたつもりなのですが、ちょっと自信がないです……
ちなみに、原作と違って半身しか食っていないパターンがあるのは
恐怖のエネルギーは美味しかったけど、肉の方は美味しくなかったからです。
この個体は、見かけによらず肉の味にもこだわってるグルメさんなんです。

なお、本作の敵としてこいつをチョイスしたのは、今年がネズミ年なのはもちろん
ビーストの設定が色々と尖った作風の『6期鬼太郎』と相性が良さそうだと思ったこと
ノスフェルは人間大サイズがある事から、鬼太郎と戦わせやすいと判断したからです。
後は、『6期鬼太郎』も『ネクサス』も脚本家の長谷川圭一さんが
関わっている作品という共通点もあるので、その辺も意識しています。

また、灰になって崩れ落ちる描写や
ノスフェルを倒した事を「殲滅」と表現したのは、少しでも『ネクサス』感を出そうと思ったからです。
後は、ビーストヒューマン・薫VSコイツとの戦闘は、メフィストVSメフィスト・ツヴァイ戦を少し意識しています。
なので当初は薫に無理矢理口を開けさせた「撃て!」てやらせる予定だったのですが
体格的に無理そうだったので、細胞を逆利用した薫に操り返される展開となりました。
また、薫がこいつの弱点が分かったのは、自身に植え付けられた細胞から情報を取り出した為です。

そしてこのノスフェルは、もう復活できません。
元の世界で受けた対ビースト抗体や、ホーチュに弱体化させられた影響と
鬼太郎の体内電気で全身の細胞が灰になってしまったので、完全に死滅しました。



ゼットン星人ホーチュ・・・『ウルトラシリーズ』に登場する変身怪人。
初登場は『ウルトラマン』の最終話で、本来は「宇宙恐竜 ゼットン」を操る侵略者。
『ウルトラマンマックス』に再登場して以降、様々な個体がシリーズに登場している。
なお同じくちょいちょい再登場している『ウルトラQ』初出の「誘拐怪人 ケムール人」とそっくりだが、一応種族的な深い繋がりはない模様。

このホーチュと言う個人名を持つ個体は、本作オリジナルキャラクターになります。

スペースビーストに強い関心を持っているという変わり者のゼットン星人であり
ある時、ビーストを自力で手懐けて怪獣兵器にすることで、富と名声を得ようと画策。
ノスフェルを発見して等身大サイズまで弱らせるも、後ちょっとのところで逃げられた上に
時空の歪みに逃げ込まれ、自身もそれを追って
6期鬼太郎の世界にやって来てしまった、今作の事件の諸悪の根源です。

鬼太郎達の世界に来た後は、たまたま正体を知って接触してきた
ぬらりひょんに、二度と6期鬼太郎の世界に来ないことを条件に持ち出された上で
ノスフェルの捕獲の協力を依頼していましたが、結果はご覧の通り。

一応、M78ワールド(光の国がある世界)にあるゼットン星出身。

彼が語っている、ビーストを操った者達の事例は、実際に原作で起きた出来事です。
本編では触れていませんが、他にも『ウルトラゼロファイト』の第一部で
バット星人グラシエに魂を握られて操られていたガルベロスと言う事例もあります。
当方としては、これまでのビーストは特殊な力で使われているだけで
本当の意味での共生の道は示されていないという解釈です。
(同じようにレイオニクスの力を持つ、レイなどと言った一部のレイオニクスの手持ち怪獣などは、特例という事で)

また、彼が怪獣兵器にしたビーストを売り出し先にしようとしていた
「ヴィラン・ギルド」と言うのは、『ウルトラマンタイガ』に登場する宇宙犯罪組織。
真っ先にこの組織に売ろうとしたのは、実はそこの元締めの同族のゾリンと少なからず縁があるという裏設定があるからです。


個人名および人間態の名前の由来は、ウルバト及びそれ関連のCMでゼットン星人の声を演じた声優の大塚「芳忠」さんから。
6期のぬらりひょんの中の人が、同じ大塚の苗字を持つ人なので、ゼットン星人と言うチョイスになりました。
(扱いは悲惨な事になってしまいましたけど……)

~補足・裏設定など その3~


ぬらりひょん・・・日本妖怪の総大将である老人妖怪。
実は最初から事件のすべてを知っていた爺様。

鬼太郎に話したビーストとノスフェルの情報も、全部ホーチュから聞かされたものであり、流れをざっとまとめると。


ここ最近、謎の怪物(ノスフェル)が人を殺しまわっている事に疑問を持つ。
      ↓
その矢先にホーチュと遭遇。怪物の正体とスペースビーストの事と、それがこの世界に現れた経緯を知る。
      ↓
ぬらりひょん(スペースビーストのノスフェルかぁ…絶対計画の邪魔になる奴やん)
      ↓
ぬらりひょん(けど、手ぇ出したら絶対こっちも被害受けるやろうなぁ……)
      ↓
ぬらりひょん(今後の計画に必要な同志(と言う名の手駒)も無駄にしとうないし)

ぬらりひょん(おまけに、そのビーストちゅうのみすみす逃がしたこのよそもんも、ちょっと信用出来んし……)
      ↓
ぬらりひょん(せや!コイツに協力する振りして、鬼太郎に情報流して代わりにノスフェル退治させちゃろ!)
      ↓
ぬらりひょん(そしたら、こっちはよそモン片付けるだけで楽に済む!)
      ↓
ぬらりひょん(万歳!)


といった具合。

これが鬼太郎にノスフェルやビーストの情報を流した真意となります。
つまり、今回鬼太郎たちはぬらりひょんの邪魔者退治を、知らずして押し付けられていたわけです。
で、まんまと一人勝ちした訳ですね。

その癖ノスフェルがネズミに擬態して
薫君を狙っていたのを知らせなかったのは、敵対者に全面的に親切にしたくなかったからです。
こんな状況でも、鬼太郎とは敵対関係である事を崩さない爺様だったという訳です。


なお、ノスフェルの様子を見張らせた同志妖怪が旧鼠だったのは
5期では彼の配下だったことと、今年がねずみ年であることを絡めた小ネタ。
報酬の高級チーズとお金は、宣言通り後日朱の盆に配達させた模様。


上のもの以外では、子泣きじじいの触れた相手と一緒に石化する能力は
本作オリジナルではなく、4期の陰摩羅鬼の回でねこ娘に対して使った能力が元ネタです。

また、薫が一時的に生き返った理由の考察のために目玉おやじが出した魍魎の話しは、6期本編第78話の出来事。
そういえば、この話しの脚本も長谷川さんでしたね。

そして、岡倉優美は第55話のゲストキャラですね。
この作品では未だにぬりかべに師事している事にしていますが
実際のところどうなったんでしょうかね……

書きたい事を書いていたら、補足と裏設定の部分が肥大化し過ぎてしまいましたが本作はこれで終了となります。

色々と粗が目立っている(ねずみ男や木綿やぬりかべの扱いが特に……)かと思いますが、それでも楽しめたというならば幸いです……

もし次に書くとしたら、4期か相棒を書くかもしれませんし、そうじゃないかもしれません。

ここまでお付き合いありがとうございました……

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