邪神ちゃん「神社生まれのY~パチ屋の幽霊編~」 (7)

「邪神ちゃんドロップキック」短編

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(あれ、こんなところにパチ屋なんてありましたの?)

ある日、街中をぶらついていた私はふと入り込んだ裏道で、見知らぬパチンコ店に遭遇した。
ひどく寂れた外観で、どことなく不気味な雰囲気が漂い、いつもならスルーしているような店だ。
ただそのときは、行きつけの店で最近負けが込んでいたこともあって、たまには別の店で打ってみるか……と軽い気持ちで足を踏み入れた。
店内をぐるりと一通り回ってから、目についた台に座り、万札を投入する。

(お、これは中々の良台の予感……)

適当に選んだ台だったが、実によく回る台だった。
50回転ほど回したところで初当たりを引く。幸先のいいスタートに脳汁がほとばしる。
勝てる日だと、直観がささやいた。

(よしよし……今日は勝利の女神が私に微笑んでますの)


打ち始めてから数時間。
久しく経験していなかった大勝ちっぷりに、私は頬が緩みっぱなしだった。
手持ちの玉数から現状の勝ち金額をざっと見積もる。
今月の負け分──ATM(メデューサ)からの借金を差し引いてもなお、まとまった額が残りそうだった。

(あ……そろそろ帰って夕飯の支度しないと)

ふと店の外を見ると、日が落ちかけ薄暗くなっていた。
続いていた当たりもちょうど終わってキリもいい。そろそろ止め時だとカード返却ボタンを押す。
そのときだった。

ザー……ザザザザ……ザ……

パチンコ台の画面が突然ちらつき始めた。
機械の不調か?と思い、軽く画面を小突く。
その瞬間、

ピーーーーー

台から甲高い電子音が鳴り響く。
同時に、画面の表示が一転、毒々しい赤色に変わった。
パチンコを打っていて台の不具合に出くわすことはたまにあるが、こんな症状は初めてだった。

「なんですのこれ……」

不気味に思いながらも、店員に報告しようと台の「呼び出しボタン」に手を伸ばした、そのとき。

ふっ

と、店内の照明が一斉に消えた。
そして次の瞬間、

ピーーーーーーーーー    ピーーーーーーーーー 
    ピーーーーーーーーー        ピーーーーーーーーー 
 ピーーーーーーーーー 

店中から、私の台の発しているものと同じ電子音が鳴り響く。
驚いて辺りを見回すと、他の台もすべて画面が真っ赤に染まっていた。

異様な光景に息をのむ。
妙なことに、他の客は一切動じた様子もなく、ぼんやりと画面を見つめたままだった。

「お、おい! 一体どうなってますの!」

震える手で、私は隣に座っていた若い男の肩を揺らした。
その男が、ぐるりと首をこちらに向ける。

「ひっ!」

瞳孔の開いた眼と、不気味な微笑みを浮かべた口からダラダラと血が流れていた。

「だ、大丈夫ですの……?」

「です?」

男が何やらつぶやき、にたりと笑う。血の塊がごぽりとこぼれおちた。
恐怖に思わず目を反らし……そして気づく。
周囲の客が皆こちらを向いていた。
全員が、にたにた笑いながら目や口から血を垂れ流しているのだった。

「です?」「です?」「です?」「です?」

客たちはぶつぶつとつぶやきながら、じりじりとこちらに近づいてくる。

「や、やめろ……来るなですの」

私は慌てて逃げようとしたが、すでに周囲を取り囲まれており、恐怖にすくんだ身体ではとても突破できそうになかった。

「デす?」「で」「デス?」「でででででです?」
「です?」「ででで」「デデデデす?」

血を流した客たちに、腕を、身体をつかまれる。
身動きのできない私の首に、手がかかる。
息ができず、恐怖と息苦しさで涙がこぼれる。
そしてそのまま意識が遠のいていき──

「そこまでよ」

聞き覚えのある声。
神社生まれで霊感の強い同居人、Yだ。

Yは気だるげに片腕を掲げて叫ぶ。

「破ぁーーーー」

Yの手から光弾が次々と打ち出され、私に群がる化け物たちをあっという間に蒸発させた。
気付けば、私のいたはずのパチンコ店は台も内装もボロボロの、荒れた廃墟と化していたのだった。

「ゆりね、どうしてここに?」

「あんたの帰りが遅いからでしょ……帰って早くご飯にするわよ」

帰り道で聞いた話によると、何年も前にあの店は閉店したまま放置されており、その廃墟が生前パチンコ廃人だった霊のたまり場となっていたらしい。
私はその霊たちの作り出した幻影に騙されていたのだ。

「あんなに血を見せられるとナポリタンが食べたくなってくるわね」

きゅるる、と小さな音を立てたお腹をさすった後、少し照れたようにYが呟いた。
神社生まれってやっぱりすごい、私はそう思った。


おわり

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