少年「アヤカシノート」 (409)

SS6作目です。

今回はとあるシリーズものの歌を参考にしています。
これまでの作品よりも長丁場になる予定ですが、よろしければお付き合い下さい。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1570180071

■第一幕 トモダチ■



ーーー学校 教室ーーー



ガララ



同級生A「今日の体育しんどかったわー」

同級生B「ほんとな。マラソン大会の為の外周とか、喜ぶの陸上部くらいだろ……俺昼食い過ぎてめっちゃ脇腹痛くなってた」

同級生A「ゲボッたらお前のあだ名ゲロリアンにすっから」

同級生B「お前にかけたるわ」

ギャハハ!



少年「……」テクテク

少年(…うるさいな。下らないこと喋り続けるなよ)

少年(まぁいいや。次の授業までに早く着替えちゃわないと)ガサゴソ

少年「……!」

同級生A「」ニヤニヤ

同級生B「」ニタニタ

少年(っ……)



『6月10日  曇りのち、雨

鞄の中に絵の具を散らされた。
町中を自分色に染めたがる"イロヌリ瘴女"なる妖怪に目を付けられたみたいだ。ついてない。』




ーーー学校ーーー

少年「……はぁ」テクテク

少年(今日もあいつらの居る教室に行かなくちゃいけないのか……早く夏休みにならないかなぁ)



テクテク ガララ...



「あ、来たよ」

「うわ…確かにあれはやってそうな顔してる」

「こっち見てない?きもっ」

ヒソヒソ...



少年「…?」

少年(なんだ?クラスの奴が見てくる…)

少年(……席着こう)

ストッ



...トットットッ



同級生A「なぁ聞いたぜ?」

同級生B「少年さ、お前本当面白いよな」ニヤニヤ

少年「…何だよ」

同級生A「お前昔好きな女子のリコーダー舐めて泣かせたんだって?やっべぇな!今時そんなことするとか勇者かよ!」ゲラゲラ

同級生B「いやー流石だわ!俺たちにゃ出来ないことやってきてるよなぁ!」ギャハハ

少年「はっ!?なんだそれ!そんなことしてるわけないだろ!」

同級生A「今更隠さなくてもいいって!今朝からみんなその話で持ちきりなんだしよ」ニヤニヤ



ヒソヒソ ジロジロ



少年「……っ」



『6月20日  嫌になるほど、晴れ

根も葉もない噂を流された。
雨の様に噂を垂れ流すのが好きな妖怪"イイフラシ"の奴らの仕業だろう。』




少女「……」

「少女、どうしたの?」

少女「ん?いや…なんでも」

「それよりさ、今日はどこ行く?」

少女「校庭かなー」

「またー?どうせ今日もノックでしょ」

少女「うん。付き合ってくれる?」

「えー…私はもうパスさせてもらおうかな。行きたいお店あるし」

少女「あはは…そうだよね」

「少女もいい加減その趣味はどうなの?女の子が野球っていうのも変な話」

少女「ほっといて。気が紛れるからやってるだけ」

「ふーん」




ーーーーーーー

教師「期末テストの結果、返してくぞ。順番に名前呼ぶから取りに来い。まずは少女」

少女「はい」

教師「ぼちぼち…ってとこだな」

教師「猫又娘」

猫又娘「はーい!」

教師「返事だけなら満点なんだがなぁ…もうちょっと真面目に勉強も取り組むように」

猫又娘「…はーい」

教師「二つ編み」

二つ編み「はい」

教師「…うん。言うことなしだ。この調子で頑張れ」

二つ編み「ありがとうございます」

教師「次は──」

少年(……ほんと、うんざりだ)

少年(バカみたいなことしてくるあいつらにも、それに便乗するクラスの奴らも)

少年(…けどもっと嫌んなるのは、みっともない逃避に縋る自分)

少年("アヤカシノート")

少年(いつからだっけな。こんな風にノートに嫌な出来事を書き付けるようになったのは)

少年(あいつらに言い返すこともしないで、自分で考えた妖怪のせいなんかにして……)

教師「派手娘」

派手娘「ん」

教師「…席ぐらい立ちなさい」

派手娘「はぁ?目の前なんだからそのまま渡して下さいよ」

教師「派手娘」

派手娘「…分かったわよ。面倒くさっ」

少年(……いや、どうせ奴ら様の仕業だ。この世の嫌なこと全部全部、悪い妖怪が起こしてるんだ)

少年(だからしょうがないんだよ。僕が何も出来ないのは。相手は恐ろしい妖怪なんだから)

教師「──少年、居ないのか?」

少年「!は、はい」

教師「聞こえてるなら早く来なさい。後回しにするぞ」

クスクスクス

少年「……」スクッ

少年(……はぁ)



少女「………」



.........





教師「お前たち、期末テストが終わったからって気を抜くんじゃないぞ。うちは夏休み前の基礎学力テストがあるんだからな」

教師「内申点に大きく関わってくるから、推薦組もそうだが一般受験組にとっても大事な試験だ」

教師「それが終われば……いよいよ本格的な受験勉強の始まりだ」

少年(受験か…面倒だなぁ嫌だなぁ)

少年(入試なんて、いっそ妖怪が食べてしまってくれたらいいのに)

少年(……ここの奴らと離れられるのだけは清々するけど)







ーーー数日後ーーー

「起立、気を付けー、礼」

全員「さようなら」

ガタッ、ガタッ

「今日から俺塾なんだよね」

「そうなの?あれ、部活は?」

「県予選で負けて引退。いいとこまでいったんだけどさー」

ガヤガヤ

少年(塾…僕もそのうち行けって言われるのかな)

少年(今の成績じゃあんまりいいとこ行けないのは分かってるけど……めんどい)

少年「……ん?あれ…?」

ゴソゴソ

少年(おかしいな、財布、ここに入れといたはずなんだけど)

ガサゴソ

少年「……」

少年(……まさか、あいつら……)



『7月1日  晴れ、のちのち憂鬱

買ったばかりの財布が無くなった。
あームカつく。本当嫌んなる。奴らはきっと知らんぷりだろうし。
……そう、どうせ"カネクイ蟲"にでも喰われたんだ。とんだ災難だ。』




ーーー翌日ーーー

少年「……」テクテク

少年「……」テクテク

少年(……くそ……)

少年(今日は靴を隠された。これから帰ろうって時にうざったい。そんなことしてる暇があるならお前らこそとっとと帰れよ)

少年「……」テクテク

少年(…靴の事はまあいい。どうせ教室のゴミ箱辺りから出てくる)

少年(それより、もっとまずいのは…)





少年(──ノートをどこかに落としたみたいだ)





少年(見つかるのが教師ならまだいいけど、あんなのがクラスの誰かに見られたら……)

少年(見つけ出さないと。早く、早く…)

少年「……」スタスタ

少年(やっと戻ってきたか、教室)



ガラッ!



少年「!」

少女「あ…」フリムキ

少年(…誰だっけ。確か同じクラスの……)

少年(…気にしない気にしない。とりあえず靴を見つけてしまおう)チラッ

少年「──!?」

少女「……」

少年(おい……嘘だ……)

少年(この人が手に持ってるの……僕のノート……?)


少年「………」

少女「……これ、あなたのだよね?」

少年「……」

少年「……見たのか?」

少女「…まぁ、ちょっとだけ」

少年「………」

少年(……あぁ……最悪だ……)

少年(最悪の失態)

少年(あんな奴らにいいようにやられてるってだけでも情けないのに、居もしない妖怪なんかのせいだと書き殴って…)

少年(こんな惨めな方法で、自分で自分を甘やかしてんだ)

少年(なのに…)



少女「……」



少年(なんでそんな目で見てくるんだよ)

少年(バカにするならバカにしろよ!哀れむなら哀れめよ!)

少年(何もかも見透かしたようなその目をやめろよ…!)

少年「……」グッ...

少年(さっきからなんなんだ…)

少年(こんなしょうもない僕に何か用かよ……)

少年(情けない……情けない……勝手に涙まで出てきそうだ)

少年(??面白いものが見られて良かったろ?満足したならもう消えてくれ)

少年(……そんなこと言えるはずもない)

少年「は……はは……」

少年「どうしようもないだろ。そんな日記」

少女「………」

少年「さぁ、笑ってくれよ」

少年「こんなバカな僕を」

少女「……」

少女「………」

少女「……ううん」フルフル

少年「…?」

少女「ふふっ、違うよ。バカにしたいとかじゃなくて」

少女「…ねぇ、少年君」

スッ(手を差し出す)





少女「友達になってくれませんか?」





少年「………は?」

少女「……」ニコッ

少年「え……え?」

少女「もう、いいからっ」ギュッ



グイッ(腕を引く)



少年「わっ」

少女「ちょっと付き合って。最近みんなさ、ぼくの暇つぶしについて来てくれなくなっちゃったんだ」

少年「暇つぶし?な、なにが…」

少女「これだよこれ」

少年「……野球ボールと、バット……?」







ーーー第二校庭ーーー

少女「それじゃ、いくよー」

少年「お、おう」

少女「」スッ



カキン!



ゴロッゴロッ

少年「おっと…!」キャッチ

少女「大丈夫ー?今のでも軽く打ったつもりなんだけどー!」

少年「軽くって言ったって…僕こういうことほとんどしたことないから!」

少女「そうかい?なら良い運動になるよー!」

少年「これからも続ける前提なのか…?」

少女「それよりボールボール!こっち投げて!」

少年「……」

ブンッ

少女「」パシッ

少女「二球目いくよー」

少年「……うーい」



カキン!



.........





少年「はぁ……はぁ……疲れた…」

少女「少年君、最初の一球以外ほとんど捕れなかったね」フフッ

少年「だから……慣れてないんだって…!」

少年「…きみはいつもこんなことを?」

少女「きみ…?…あ、もしかして少年君、ぼくの名前知らない?」

少年「う……だって喋ったこともなかったし…」

少女「少女だよ。同じクラスの帰宅部の」

少年(同じクラスなのは知ってたけど、帰宅部…)

少年「…部活、引退したとかじゃなくて?」

少女「いや?元から何も入ってないの。…参考までに訊くけど、ぼくって何部の印象?」

少年「えっと……」チラリ



(手に握られたバット)



少年「……野球部?」

少女「……んふ、ははっ」

少女「ねー、今このバットとボールだけ見て言ったでしょ」

少年「そりゃそうだよ。っていうかもうその印象しかないんだけど」

少女「別にぼく、野球が好きってわけじゃないんだ。ただ、こうやって何も考えないで打ったり捕ったりするのが落ち着くんだよね」

少年「……」

少女「ほら、うちの学校って校庭が二つあるじゃない?放課後、部活でこっちの校庭使われること滅多にないからさ、よくこうやって身体動かしてたんだ」

少年「ふーん、通りで。僕も帰宅部だけど、帰りに少女さんのこと見かけた記憶がないわけだ」

少女「そもそも二年生まではクラス違ったけどね。……ま、最近はもう友達もみんなぼくに付き合ってくれなくなっちゃって。そろそろこの趣味も限界かなって思ってたの」

少年「……それで僕を?」

少女「それもある」ニッ

少年「……」

少年(……)

少年「…あの、さ」

少女「ん?」

少年「見たんだよね……その……ノート」

少年「何も…思わなかったの…?」

少女「思ったよ」

少年「……」




少女「──諦めないで、ちゃんと精一杯抵抗してるんだなって」



少年「え」

少年「抵抗…?あのノートの意味、分かってる…?」

少女「もちろん。やられたこと、妖怪の仕業にして日記みたいにつけてたんでしょ?」

少年「分かってるなら──」

少女「だからだよ」

少年「…?」

少女「例え妖怪のせいにしてるんだとしても、嫌なものは嫌だってはっきりと書いてるじゃん」

少女「きみの気持ちはまだ泣き寝入りしてない」

少年「?!」

少年(僕の…気持ち…)

少女「それにさ、ぼく、前から気に入らなかったんだよね。ああいうの」

少年「同級生A達のこと?」

少女「そ。自分さえ面白ければいいと思ってる。いつまでもちっさい子供のままの精神年齢」

少女「ね、何でちょっかい出されるようになったの?」

少年「……なんか、自分のこと僕って言うのが変だってところから絡まれ始めた…」

少女「……」

少女「あっきれた。そんなしょうもないことでずっといじり続けてるんだ?」

少女「ほんと、どこにでもいるんだよね。少しでも周りと違うところがあると鬼の首取ったみたいに騒ぎ立てる人」

少年「…なんか、少女さんてさ」

少女「なに?」

少年「大人っぽい考え方してるね」

少女「…別に。そういう理に適ってないバカバカしいことが嫌いなだけ」

少女「でも、ぼくとおんなじだね」

少年「え、少女さんもあいつらに…?」

少女「違う違う。"ぼく"、だよ」

少年「……!あ」

少女「ふふ」

少年(…さっきも思ったけど、綺麗な笑い方する人だな…)


少女「というか!」

少女「なに他人事みたいに話聞いてるの!当事者はきみなんだからね?」

少年「んなこと言ったって……僕から何かしてもますます面倒なことになるだけだよ」

少女「だから、何のためにぼくがいると思ってるの」

少年「…はい?」

少女「あっちは二人、こっちは一人じゃ不公平だもの。ぼくを入れて二人。これで対等」

少年「えー…つまり?」

少女「明日から、ぼくと一緒に過ごせばいいってこと」

少年「……少女さんと?」

少女「」ウンウン

少年「…僕が?」

少女「やっぱり一人の方がいいって?」

少年「い、いやいやそんなこと言ってないけど…!」

少年「……いいの?僕なんかと一緒に居るなんて……」

少女「いいって言ってるでしょう」

少女「あ、その代わり、この二人野球には付き合ってもらうから」ニッ

少年「…次は僕にも打つ方やらせてくれよ?」

少女「!…ふふ、いいよ」

少女「でも、とりあえずそれは少し先になりそう」

少年「え。しばらく僕は捕球の練習してろってこと!?」

少女「違いますー。基礎学力テストが近いでしょ?その勉強しとかないと」

少年「……捕球の方がまだマシだ」

少女「勉強も付き合ってあげるから」

少女「何はともあれ──」





少女「これからよろしくね」ニコッ





少年「……こちらこそ」




ーーー神社ーーー

(………)

(………)

(……!)



(裂けた1枚の紙札)



(これは……)

(……良くないことになったようで……)

(………)

(油断していた……)

(まさか……歪み出すか……)



(この世界が──)




ーーー翌日 学校ーーー

少女「おはよ、少年君」

少年「あ、おはよう」

少女「思ったんだけど、ぼくたちって席前後同士だったんだね」

少年「そうだね…」

少年(全然気付いてなかった…)

少女「…なんか少年君、かたくない?具合でも悪い?」

少年「いや、その…」

少年(だってクラスの…それも女子と話すことなんて今までなかったし…)

少女「いっつもこの時間てさ、本読んでなかったっけ」

少年「え、うん」

少女「どんなの読んでるの?よかったら少し教えて欲しいかも」

少年「…今読んでるのはこれで」ゴトッ

少年「舞台はファンタジーチックな世界なんだけど、魔法とか剣とかほとんど出てこなくて、むしろ主人公の女の子が最初記憶喪失でさ──」

少女「うん、うん、それで──」



ガララッ



同級生A「へぇ。それマジなの?」

同級生B「最近やたら噂になってんの、聞いたことない?」

同級生A「いや初めて聞いたわ。その、なんだっけ」

少年(…あいつら…)

同級生B「"トドノツマリ様"な」

同級生A「そうそう。願いを聞いてくれるって、試した奴いんの?」

同級生B「そこまでは知らん。なんか代償として血を抜かれるとか人格を取られるとかいう話だしな」

同級生A「ほーん……お、丁度いい奴がいんじゃん」ニヤ

同級生B「俺も、多分お前とおんなじこと考えてる」ニヤ


同級生A「おーい、少年よ」

少年「……」

同級生B「無視すんなって(笑)」

少年「…もうすぐ先生来るぞ、座ってろよ」

同級生A「まだ5分以上あるわ。んなことよりさ、お前トドノツマリ様って知ってるか?」

少年「知らない」

同級生B「ま、少年は自分の噂話にも疎いもんな」ククッ

少年「っ」

同級生A「でよ、何でもその人(?)に願いを言うと叶えてくれるんだってよ。お前ちょっとやってみてくんない?」

少年(…全部聞こえてたけどな。代償の話も。どこまで人をバカにすれば気が済むんだ)

同級生A「噂だと場所は神社だって話だぜ。石段の無駄に長いあそこ」

少年「…南町神社だろ?」

同級生A「おう。なぁお前さ、今日か明日かどうせ暇だろうし願い事の一つでも──」

少女「ねぇ、その話長い?」

同級生A「え…」

少女「今ぼくが話してたんだけど、それ長くなるならまた今度でもいいかな?」

同級生A「あ…?いやお前──」



猫又娘「はいはーい、どいてどいてー!」トットットッ



同級生A「おぅ…!?」ドカサレ

同級生B「なんだよ…」サッ

猫又娘「あれ?キミたち、もう先生こっちに歩いて来てるよ?席戻った方がいいんじゃない?」

同級生A・B「「……」」

テクテク

猫又娘「♪」テッテッテッ

少年「……」

少女「……クスッ」ピース

少年「……くふっ」




ーーー昼休みーーー

同級生A「──なぁどこ行こうとしてたんだよぉ」

少年「どこだっていいだろ…!離せよ…!」

同級生B「昼飯の時間になって速攻で出てこうとしてたじゃん。…もしかして便所飯とかか?」

同級生A「ぎゃっはは!してそー!便所飯始めましたってか?」

少年「してねーよ。時間なくなるから離せって!」



少女「何してんの?」



同級生A「お?」

同級生B「ん?」

少女「…ぼくと少年君、ご飯食べに行くんだけど、何か用?」ツカツカ

同級生A「用っつーか…こいつがどこ行くか聞いてただけで」

少女「ならもう済んだじゃない」

少女「さ、行こ。少年君」スッ

少年「あぁ…」



スタスタスタ...



同級生B「………」

同級生A「……チッ」







ーーー第二校庭 端のベンチーーー

少年「外で昼食べるのって初めてだ」

少女「そうだねー。普通は教室で食べるからね。でもうち中学なのに購買あるし、その辺結構自由なんだと思ってる」パカッ

少年「まぁね…僕は行ったことないけど」カパッ

少女「…お弁当、それお母さんに作ってもらってるの?」

少年「うん」

少女「いいなぁ。ぼくの家親が忙しくてさ、お金渡すか自分で作るかのどっちかだって言われちゃって」

少年「ん…?じゃあそれは自分で?」

少女「そ。どう?最近は少しずつ慣れてきたと思ってるんだけど」

少年「どう、って……」

少年(すごい綺麗に盛り付けられてるし、美味しそう…)

少女「…ふふ、ありがと」

少年「え!?何も言ってないよ!?」

少女「目、見れば分かるから」クスッ

少年「そ、そんな分かりやすい顔してたかな…」


少年(………)

少年「…あの、ありがとう」

少女「んー?」ハムハム

少年「あいつら、追い払ってくれたから。僕に突っかかってきてた時に」

少女「呼んでもないのに邪魔してくるからどいてもらっただけだよ」

少年「……僕より男らしい……」ボソッ

少女「聞こえてますよー。本当はきみがあの人達に強く言えば済むことかもしれないんだよ?」

少年「そう…かな…」

少年「そうは思えなくて…調子に乗ってもっとやられる気がする…」

少女「昨日も同じようなこと聞いた」

少年「……」

少女「そう考えちゃうのは仕方ないと思うけどさ……どこかで変えなくちゃ」

少女「他人を変えたいならまず自分が変わること。そうしないと、ずーっとそのままだよ」

少年「……もうすぐ卒業だし、別に僕が変わらなくても、周りが変わっていくよ……」

少女「……」

少女「それも、一つの考え方かもね」

少年「……」...パク

少女「……」ハム..ハム..

少年「………」

少年「…やっぱりさ、怖いよ」

少女「何が?」

少年「こうやって、僕と一緒に居て、あいつらの邪魔してたらさ…少女さんまで変なちょっかい出されそうで…」

少年「僕のせいで少女さんが目付けられるのは……」

少女「………」

少女「……これ、もらうね」ヒョイッ、パク

少年「…?あ!僕の唐揚げ!」

少女「油断大敵です♪」

少女「あのね、きみはそもそもぼくの心配をする資格はありません!」

少年「へ…?」

少女「自分のこともいっぱいいっぱいの人が他人の心配なんか出来なくていいの」

少女「それに、ぼくがそんなこと気にする人だったら、元より少年君と関わろうとなんか思わないよ」

少女「きみは大人しくぼくの"暇つぶし"に付き合ってくれてればいいんです」

少年「………」

少年(……なんだろう……上手く言い表せられないけど)

少年(…心がくすぐったい)


少女「はい」スッ

少年「!」

少女「唐揚げの代わり。要る?」

少年「卵焼き…?」

少女「なーに?唐揚げとじゃ釣り合わないって?」

少年「そうじゃないけど」

少年(これ、少女さんの箸…)

少年「……食べていいの?」

少女「どうぞどうぞ」

少年「……」



パクリ



少女「!?」

少年「」ムグムグ

少女「ぁ…と…」

少年「」ゴクン

少年「うん、美味しいよ。…ってどうしたの?」

少女「いや、てっきりフタか何かに乗せて食べるもんだと思ってたから…」

少年「……あ」

少年(今、そのまま箸ごと口に入れて……!)

少年「ご、ごめん!だよね、普通そうだよね!?箸洗ってくるよ!貸して貸して!ほんとごめんこんな気持ち悪いこと…!」

少女「……ぷっ、あはは!」

少女「いくらなんでも慌て過ぎ!早口言葉じゃないんだから…んふふ…」カタフルワセ

少年「」ポカン

少女「気持ち悪いなんて思ってないよ。ちょっとびっくりしただけ。箸もこのまま使えるから、ぼくは気にしないよ」

少年(き、気にしないって)

少女「」ハムハム

少年(僕が気にするんですけど……)ドキドキ


少女「そうそう、後は今日の放課後ね」

少年「あ、もしかして」

少女「うむ」



少女「勉強!」
少年「野球!」



少女「……少年君」

少年「う……」

少女「ぼく言ったよね?基礎学力テストに向けて対策だって」

少年「本当にするのぉ…?」

少女「知ってるんだよ?少年君そんなに成績良くないよね」

少年「」グサリ

少女「基礎なんだから、時間かけてちゃんとやれば確実に点が取れるテストなんです!ここで少しでも内申上げとけば後々本番で効いてくるからさ」

少年「分かってるけどさ」ウーン

少女「…1時間くらい。短く効率的にやろ。ダラダラつまんなく勉強するのも嫌でしょ?」

少年「……」

少年「よろしくお願いします、先生」ペコ

少女「よろしい」ニッコリ




ーーー夕方 町中ーーー



テク..テク..



黒服男「……」テク..テク..

黒服男「……」テク..テク..



「わははは!おまえの宝はいただいていくぞー!」タタタッ

「待てー!怪盗エックス!この聖剣で成敗してくれる!」タタタッ

「誰が捕まるものかー!わっはっは」タタタッ

ドンッ

「いたっ」

黒服男「………」

「あ……ごめんなさい」

「なにぶつかってんだよっ」

「だって曲がったらいきなり居たんだもん…」

「…あっちの公園で続きやろう!」タッタッ

「待ってよ!」タッタッ

タッタッタッ...

黒服男「……」

黒服男(随分と)

黒服男(ここの景観も変わったものだ)

黒服男(俺の知る頃とはまるで違う。最早別の世界へ足を踏み入れたようだ)

黒服男(……む?)



同級生A「なぁ、お前、俺たちのこと少女になんか言ったのか?」

少年「言ってないけど…」

同級生B「嘘つけ。あいつ明らかに俺らを敵視してたろ」

同級生A「何チクったんだよ。正直に言え」

少年「だからなんも言ってないって」

少年(自分からはな)


少年(……)

少年「…お前らこそさ、少女さんが居ないところでしか僕にでかい顔出来ないの?」

同級生A「…あ?」

少年「こんな時間まで僕のこと待ち伏せて…女子一人にビビってるとか?」

同級生A「あんま調子に乗ってんじゃねーぞっ」ドンッ

少年「っ!」ドサッ

同級生B「抑えろって。こんなザコにムキになるなよ」

同級生A「……はー」

同級生A「俺たちにビビって女子に助けてもらってんのはお前だろ?よかったでちゅね、僕ちゃん。守ってくれるママが出来て」

同級生B「ぶはっ!ほんと、だっせーよなぁ」ケラケラ

同級生A「じゃあな弱虫くん。せいぜいおままごとでも続けてな」ハハハ

テクテクテク...

少年「……く…っそぅ……」

少年(やっぱ、俺が言うだけじゃ……)

少年「……」スクッ

少年「帰ったら…ノートに……」ブツブツ

スタスタ...



黒服男「……」

黒服男「……やはり」

黒服男(景色、時代は変われど)

黒服男(──人間は何一つ変わっていない)

黒服男(愚かで傲慢)

黒服男(醜悪な独善)

黒服男「………」

黒服男(…あの男。何を思い、過ごすのだろうか)

黒服男「……」



ススッ...




ーーー数日後 学校ーーー

少女「もー…普通昼休みに機材運搬とか頼むかな。いくら日直だからって」テクテク

少女「うちの担任人使い荒い気がする」テクテク

少女「……戻ったら少年君に今日の勉強の話でもしてやろっかな。どんな顔するだろ」フッ

...トットットッ

同級生A「……」

同級生B「……」

少女「……何?」



黒服男「ほう、これは……」

黒服男(面白いな)







ーーー教室ーーー

ワイワイ ガヤガヤ

少年「……」

少年「………」

少年(少女さん、荷物運んでくるだけって言ってたけど遅いな…)

少年(ちょっと見てこよう)

少年「」ガタッ



トットットッ...




ーーーーーーー

少女「どいてくれない?そこ邪魔なんだけど」

同級生A「…お前さ、どういうつもりだよ」

少女「は?何が?」

同級生A「何がじゃないっつの。なんであいつの肩持ってんだって訊いてんの」



黒服男(あの娘、かの男を常に見守る者…)

黒服男(否。無償の善意など人の世に存在しない)

黒服男(その心積もり、ついに聞くる時が来たか)



少女「肩を持つ?そうかもね。最近勉強教えてあげてるし」

同級生B「そうじゃない。少年の近くでさ、目障りだから消えてくれって言ってんだよ」

少女「何の目障りになってるの?」

同級生B「そりゃ……」

同級生A「……」

少女「……」

同級生A「…つーかお前、少年のこと好きなん?」

同級生B「おー、なるほど。通りで」

同級生A「マジかぁ。申し訳ないけど、男の趣味見直した方がいいぜ?」

ギャハハ

少女「…答えに詰まったら話を逸らして人格攻撃?ほんと、小物感すごいねあなたたち」

同級生A「は?」

少女「別に少年君のことどう思ってるとか、あなたたちに教える必要ないよね」

同級生B「否定しないってことは好きなんだろ?陰キャラ同士お似合いじゃん」

同級生A「うーわ、おもしれーな。大スキャンダルです!あの少年氏に熱愛が発覚!僕僕コンビの結成と相成りました!」

同級生B「僕僕コンビて(笑)」

少女「……フッ。また噂でも流す?」

少女「この前少年君にしたみたいに」ニヤリ

同級生A・B「「……」」



黒服男「………」

黒服男(……違う)




ーーーーーーー

テクテク

少年「」キョロキョロ

少年「…どこだろう」

少年(確か視聴覚室とか言ってたけど……もうすれ違ったとかかな)

少年「……」テクテク

少年(あの日から毎日、学校では少女さんと一緒に行動している)

少年(彼女は竹を割ったような性格で、何かとおどおどしてしまう僕とは対照に、常に落ち着いている)

少年(でも急かされてるとか見下されてるとかそういうのはなくて……何だか居心地が良い)

少年(僕に突っかかってくるあいつらも少女さんと居る時は手を出してこなくなった)

少年(……彼女は、何だろう)

少年(僕の都合の良い夢とかじゃあないよな…?)

少年(……いや、絶対夢なんかじゃない。彼女と出会ってからこんなに楽しい時間が、夢でたまるか)

少年(勉強に関しては若干圧を感じなくもないけども……)

少年「…ここだ」



札『視聴覚室』



少年(着いたけど)

少年(…居る気配はしないな。やっぱりもう戻ってるんだろうな)

少年「……?」



黒服男「……」(窓の外を眺めている)



少年(……誰だ…?制服みたいな格好だけど……ここの卒業生?)

黒服男「……」

少年「……」

少年(……気にしてもしょうがない。戻らないと、少女さんに探され──)



黒服男「面白いものが見えるよ」



少年「……え」

黒服男「……」

少年「…僕、ですか?」

黒服男「ほら、見てみな」

少年(?面白いもの…確かにこの人さっきから何を)チラリ

少年「──!」




同級生A「……──、─!」

少女「──、──?」

同級生B「───。──、──」



少年(少女さん……?)

少年(なんで、あいつらと……)







ーーーーーーー

同級生A「だーかーらー!どこに俺たちが流したっつー根拠があるんだよ!」

少女「根拠、証拠って、推理アニメの犯人の台詞そのもの」

少女「そんなのさ、誰だって分かってるよ。あなたたちが少年君にしてることみんな知ってるし」

少女「…それも知っててあんな茶番やってるんだよね?虚しくならないの?」クスッ

同級生B「あー…お前面倒くさいなぁ」

少女「あなたたちよりはマシだと思うけど」

同級生A「……はっ、正義の味方気取りか」

少女「常識の味方です」フフッ







ーーーーーーー



少女「──」クスッ



少年「……」

少年(何か楽しそう…?いやそんな…)

黒服男「随分仲が良さそうだよね」

少年「……いえ、あの子はあいつら二人が嫌いなのでそんなことは」

黒服男「本当に?俺が見てる時からあんな雰囲気だったけど」

少年「え…」

黒服男「それ、きみの思い込みじゃなくて?よくいるだろう、仲悪いフリしてる人が実は裏では親密な付き合いを続けているなんて」

黒服男「あるいはその逆も」

少年「……」

黒服男「あの女の子も、彼らと楽しく陰口ででも盛り上がっているんじゃないかな?」



黒服男「─一同じクラスの誰かさんの、とか」



少年「……そんなこと……」

黒服男「そう言い切れるか?」

黒服男「きみはあの娘のことをどれだけ知ってる?」

黒服男「あの娘の本質を」

少年「………」

少年(………)

少年(……ないだろ、少女さんに限って)

けどもしも、その通りなら?

少年(………)

本当はあいつらと裏で繋がっていて、僕をからかうための芝居を打ってるだけだとしたら…?

少年(……そんなの……)

少年「……」グッ...

黒服男「………」

黒服男(……そうだ。これだ)

黒服男(感じる、この男の"黒き心")

黒服男(紛うことなき人間の本質)

少年「……少女……」

黒服男(人の心など、信ずるに値しない愚物)

黒服男(裏切り、憎しみ、排他)

黒服男(あらゆる汚物で組成されたもの)

黒服男「……」ニィ

黒服男(…若き男よ。俺がその感情の手助けをしてやろう)スッ...



ドクン



少年「………」

少年(…そう、か。よくよく考えればおかしいことだらけだ)

少年(僕のノートを見ても引かないどころか友達になりたがったり、こんな数日であそこまで仲良くしてくれたり)

少年(初めから全部、あいつらの差し金だったんだ)

少年(僕は結局一人アホみたいに舞い上がって……)

少年「……」

少年(あぁ……嫌だ)

少年(僕をバカにする奴も、陰で嘲笑う奴も、みんなみんな…)





──憎い




ーーーーーーー

同級生A「だー!もうわっかんねーかなぁ!俺たちの前にしゃしゃり出てくるなっつってんの!」

少女「どこで何してようがぼくの勝手じゃない」

同級生B「……あのさ、ムカつくんだよお前。その喋り方とか、余計に」

同級生B「マジで俺らの邪魔しないでくんね?痛い目見ても知らねぇよ?」

少女「……それ脅してるの?」

少女「クスッ、言葉じゃ勝てないから?」

同級生A「………」

同級生B「チッ……」

同級生A「……ぶっ飛ばす」

少女「……その気なら、相手になるけど」

ゴソ...

同級生A「…!?」

同級生B「バット…?」

同級生A「ど…どっから出したんだよ…」

少女「……」ザッ

少女「なに?やるんじゃないの?」スッ...

同級生B「……っ」

同級生B「こいつ、やべぇ…」

同級生A「頭おかしいわ…」



タッタッタッ...



少女「………」

少女「口ほどにもない奴ら」

少女「…なんて、一回口に出して言ってみたかったんだよね」フフ

少女「無駄な時間使った。早く戻ろ」




ーーー教室ーーー

少女「ごめん、遅くなっちゃった」

少年「………」

少女「もうお昼の時間半分くらいしかないけど……ってあれ、お弁当先食べててよかったのに」

少女「わざわざ待っててくれたの?そういうとこ、律儀だよね。嫌いじゃない」ニコッ

少年「……」

少女「…少年君?」

少年「ね…あいつらの言ってたさ、あの噂」

少女「噂?」

少年「トドノツマリ様」

少女「それどうせ眉唾ものだよ」

少年「僕、少し気になるかも」

少女「えー……」

少年「今週の土曜日さ、一緒に確かめに行ってみない?」

少女「土曜日……空いてるといえば空いてるけど…」

少年「だめ?」

少女「……じゃあその後、勉強まで付き合ってくれるって言うならいいかなー」

少年「決まりだね、行こう」

少女「即決っ」

少女(…なんか反応が薄い…?)

少女「…テストまで後1週間ちょっと。そろそろスパートかけてくけどついてこれるかな?」

少女「あそこで黙々と勉強してる二つ編みさんみたいに」



二つ編み「……」カキカキ



少女「それとも、ちょっと休憩するとき打ってみようか?今度は少年君がね」

少年「……いや、いいよ。ノックはテストの後でも」

少女「……そう?」

少女(……?)




ーーー夜 少女家ーーー

少女「……」スマホイジイジ

少女「……」スッ、スッ

少女「……んー……」

少女「トドノツマリ様、とどのつまりさま…?」

少女「ダメだなー、どう検索しても引っかからない」

少女(LINEで訊いてみよ。えーと、同じクラスの……)

少女「」スッスッ



少女『トドノツマリ様って知ってる?』



少女「……」



ーーーーー

少年「──いや、いいよ。ノックはテストの後でも」

ーーーーー



少女(……お昼の時から、口数が減った気がする)

少女(気のせいかな)

ピロリン



『知ってるよー。なんか噂になってるやつだよね?神社に居る神様?みたいな』

少女『そうそう。願いを叶えてくれるけど、その代わり何かを取られるって。そんな話聞いたことない?』

『いくつかパターンがあるみたいよ』

『でも意外。少女ってそういうオカルトとか興味ないと思ってた』

少女『んー、まあ誘われたから付いてくだけだよ』

『それで下調べ?結構気合い入ってるじゃん!』

少女『余計な勘繰りしないでよろしい』


少女『で、パターンがあるって?』

『大抵は願いを叶える対価としてこっちの私物とか身体の一部とか要求されるって話じゃない?』

『けど一つ、私が聞いた中で異色だなって思ったのが』





『願いを聞いてもらうと世界が捻じ曲がるほどの災いが起こる』





少女「はぁ…?」



『んだってー。私的にはそっちの方が後からついてきた創作だと思うんだけどね』



少女「世界って…」

少女(ただの七不思議程度の知名度の割に、大袈裟な話)

少女(余計嘘臭さが助長されてる)

少女(……)

少女「……まぁいっかな」

少女「少年君が満足するまで付き合ってあげますか」ノビー

少女(せっかく向こうから誘ってくれたんだしね)

少女(…そう考えると……ふふっ。ちょっとわくわくしてきたかも)




ーーー土曜日ーーー

少女「……」テクテク

少女「…あ」

タッタッタッ

少年「……」

少女「早いね。もしかして結構待たせちゃった?」

少年「……あんまり」

少女「ほんとに?実は楽しみ過ぎて1時間くらい前から着いてたとか…」

少年「楽しみではあったよ」

少年「というか少女さん、その服…」

少女「ん?あー……最近もう暑くなってきたしさ、今日神社まで行くんだよね?だから動きやすい格好をってね」

少年「それにしたってTシャツとハーフパンツ……男の子みたい」

少女「失礼な。そういう少年君こそ、なんで制服のワイシャツ?学校に立ち寄る用でもあるの?」

少年「…別に、手近なもの着てきただけだよ」

少女「わざわざ着替えて?そのまま私服で来れば良かったのに。…ふふっ、なんか変だね」

少年「」ピクッ

少年「……行くよ」...テクテク

少女「あ、待ってよ」テッテッ



.........







ーーー神社 石段前ーーー

少女「………」

少年「………」

少女「……これ、登るんだよね?」

少年「……うん」

少女「頂上が見えないんだけど」

少年「……」

少女「…そういえば、夏休みに入った後だけど、ここ大きなお祭りがやってるよね」

少女「石段沿いに屋台がずらりと」

少女「…あれに比べたら手ぶらのぼく達の方が身軽で楽なのかな」

少年「……」...トットッ

少女「……」

少女(………)




ーーー神社 境内ーーー

少女「はぁ……はぁ……」

少女「さすがに……疲れた……」

少年「」ハァ..ハァ..

少女(少年君なんか肩で息してる)

少女(そんなに無理してでも来たかったのかな。でも……)

少女(それを抜きにしても、石段登ってくる最中一切会話もないなんて…)

少女(4日前くらいからだ。少年君の様子がおかしくなったのは)

少女(どこか後ろ暗いというか、ぼくが話しかける前の少年君に戻っているというか…)

少女(…まさか、見えないところであの二人に嫌がらせされてるんじゃ…)

少年「──少女さん」

少女「!なに?」

少年「なに、じゃなくてさ」

少年「ここだよ。トドノツマリ様が居るって場所」

少年「でも何をすればいいのかな。呼び出す手順なんて聞いたことない…」

少女「そんなの……お願いすればいいんじゃない?」

少年「……」



(数歩前に出る)



少年「……トドノツマリ様!居るならどうか聞いてください!」

少年「僕は平穏な学校生活を送りたいです。誰にも関わらず、誰にも干渉されない、そんな日々を下さい」

少年「……」チラリ

少女「……」

少年「……トモダチなんか、要りません……」ボソッ

少女(……誰にも干渉されない……)

少女(少年君、きみはまだ……)

少年「…叶ったかな」

少女「いくらなんでもせっかち過ぎるよ……学校はまた明後日から!」

少年「………」


少女「……ふぅ」

少女「ねぇ、任せてよ。それくらいのお願いなら、ぼくが叶えてあげるからさ」

少年「……」

少女「これで一応気は済んだ?結局少年君、すぐに叶うかどうか分からないお願いにしちゃったね」

少女「次はぼくが分かりやすいものを試してみようか?超能力に目覚めさせて下さい!……なんてどう?」フフッ

少年「……」ジロッ

少女「…!」

少女(冷たい、目)

少女(……その目はまさか)



少女(──ぼくに向けられてる?)



少女「………」

少年「どうせ後で……するくせにさ……」ポツリ

少女「え?なに?」

少年「……トドノツマリ様、ここじゃないのかもしれない」

少年「噂では神社ってなってたよね?でも神社のどこかまでは具体的に言及されてないし」

少女「だったらどこだっていう話だけど……まさか、石段の1段1段なんて言わないよね!?」

少年「……こっち」スタスタ

少女「どこ行くの!そっち林道…」



スタスタスタ...



少女「……」

少女(絶対、何かあった)

少女(…少年君…後でちゃんと聞いてあげるからね)

少女「」タッタッタッ





(……あの少年、もしや……)




ーーー林道ーーー

少年「……」ザッザッ

少女「……」ザッザッ

少年(………)



ーーーーー

少女「──それくらいのお願いなら、ぼくが叶えてあげるからさ」

ーーーーー



少年(よくもまぁわざとらしいことをペラペラと)

少年(僕が何も知らないと思って…)



ーーーーー

同級生A「──!───」

少女「──」クスッ

ーーーーー



少年(………)ギリ...

少年("友達"なんて都合の良い言葉、振りかざす連中は嫌いだ)



──ドクン



少年「……」ザッザッ

少年(……憎い)

少年(バカ正直に人を信じようとした自分が)

少女「……」ザッザッ

少年(僕を嘲笑う、こいつが)



ザッザッ...



少年「………」

少女「へー……」



(大きな池)



少女「こんなところに池なんかあったんだ。ここ、普段来ることなんてなさそうなのによく知ってたね?」

少年「……」

サッサッサッ(数歩前に出る少女)

少女(でも)

少女「……」ジッ

少女(この池、底が暗くて見えない。そんなに深いのかな)

少女(……ちょっと不気味)


少女「……ここでお願いすれば、池から出てきてくれるのかな」

少女「泉の女神様みたいに。金の斧と銀の斧じゃなくて二つの願い事を提示してくれたり?」

少年「……」



──ここでこいつを突き落とせばいい



少年(………)

少年(……この人を……突き落とす……)

少年(あぁそうだ……そうすればこいつもあいつらも少しは懲りるかもな……)

少年(他人を変えたいならまず自分が変わること)

少年(きみもそう言っていたしな)

少年(望み通り、変えてやろうじゃないか…)

少年「……」

少女「さて、早いとこ実証して引き返そうよ。ぼく、ここあんまり長居したくないかも」

少年「」スッ



ソー...(手を伸ばす)





ーーーーー

少女「──ぼくとおんなじだね」

ーーーーー



少年「………!」

少年(……僕は、何をしようとしてるんだ)

少年(正気の沙汰じゃない…少女さんを池に落とそうとするなんて…!)

ドクンッ!

少年(うっ……頭が、痛い……)



──どうして留まる。それが良心というものか?



少年(ぐ……!)ズキッ



──下らぬ……俺が手を貸してやろう



少年「え……?」スッ

少女「少年君?」フリカエリ





ドンッ





バシャン!

少年「…!?」

少年「少女さんっ!?」

少年(僕が突き落とした!?いや違くて今手が勝手に…!)




ーーーーーーー

少女(!…!?)

ゴボゴボ

少女(なに…!?池に落ちたの…?)



ーーーーー

少年「」ドンッ

ーーーーー



少女(なんで……少年君……)

少女(…とにかく上に)



グンッ..グンッ



少女(…!上がれない…!どうして…)

少女(それどころかどんどん下に引っ張られてる…!?)

少女「」ゴパッ

少女(息が……)

少女「……っ」グンッ...



(水面に映る少年の姿)



少女(……少年、君……)

少女「………!」





黒服男「」ニタァ





少女(少年君の、後ろに…)

少女(……あれは……だれ……)

少女「………」



ゴポゴポ...




ーーーーーーー

少年「少女さん……」ヒヤリ

少年(上がってこない…!)

少年(助けないと!このままじゃ少女さんが…!)

少年(僕もこの池に飛び込んで──)





グネ..グネ..





少年「ひっ…!?」アトズサリ

少年「な、何だよ今の…!?」

少年(手…みたいだった…池の底から伸びてくるような無数の何か……)

少年「……あ……」

少年「うわぁあああ!!」ダッ!



タッタッタッ...



.........





...ザッ

黒服男「………」

黒服男「当然の帰結」

黒服男「それがお前達人間の、醜い業だ」

黒服男「………フッ」



黒服男「さぁ、始めようか」




ーーー神社ーーー

(……!)

(やはり……そうか)

(滲み出してしまった)

(この星の歪み……遠い昔の怨恨……)

(………)





少年「──どうか、どうか!お願い致します…!」





(!この者……)



少年「トドノツマリ様!いらっしゃるのなら僕の願いを聞き届けて下さい!」ポロ..ポロ..



(我、驚愕せり)

(外聞もなく泪を零す、矮小な人であるもしかし)

(──未だ嘗て無い程の、強き心)



少年「どうか、元に戻して下さい…!」

少年「溺れてしまったあの子……」ポロポロ

少年「──僕が殺してしまった少女さんを!」ポロポロ



(………)



少年「お願いです……どうか……」



(叶えようか。其の望みを)



少年「ああぁ……僕は……なんで彼女を……」ウツムキ

少年(違うんだ……あんなの僕のしたかったことじゃ……)



...ガタ、ガタガタ



少年「!…この音……神社から…?」




(組み替えよう、生命のベースを)



ガタン!



少年「……?」



──ヒュオオォ



(歪んだ憎悪に蝕まれた哀れな少年よ)

(其の意思、確かに伝わった)



ゴオオオォ!



少年「ん……!」

少年(なんだこの風…!)



(─其の代わり)

(我は欲する)

(そなたの最たる大切物)



ブワァッ!



少年「わっ…!」ズテッ





シーン...





少年「……」

少年「……」

少年「………」




ーーー夜 自室ーーー

少年「………」

少年「………」

少年(あれから、どう帰ったのかもよく覚えていない)

少年(気が付いたらもう日は沈んでいて、僕は自分の部屋でこうやってただ座っていた)

少年「……」

少年(…日中の出来事は全部夢だったんじゃないか)

少年(不意に、そう思うこともあった)

少年(……けど)



ーーーーー

──バシャン!

ーーーーー



少年(彼女を突き飛ばしたあの感触は、今もはっきりとこの手に残ってる)

少年(……)

少年(僕はどうして少女さんをあんなに憎んだんだ…?)


少年(あいつらと仲良さそうに話をしていたから?……僕を嘲笑うだなんて、彼女がそんなことをしそうにないのは分かっていたはず…)

少年(そう信じさせてくれたはずなのに……)

少年「………」

少年「……寝よう」

少年(寝て起きれば、何か変わってるかもしれない)

少年(──今日の事は全て嘘だった、とか)

少年「……」



ゴロン...




ーーー神社ーーー

(………)

(……月が、サカサマに見ゆる)

(其の意味を我は知らない)

(されど、濃密な禍々しさ)

(………)

(顕現の時か)



...スッ



サッ..サッ..



幼女「……」

幼女(かつての悲劇、憎しみ)

幼女(二度と起こらぬよう、世界への干渉を避けてきた)

幼女(しかし)

幼女(蓋をし、重石を載せただけでは消えたことにはならぬ)



ーーーーー

少年「──どうか、元に戻して下さい…!」

少年「──僕が殺してしまった少女さんを!」ポロポロ

ーーーーー



幼女(……)

幼女(嗚呼……誰が気付くだろう)

幼女(この星の怪異。歪曲にも似た魅えざる"張り裂け"を──)

幼女「………」

幼女「……」サッ、サッ、サッ



(床に落ちた1冊のノート)



幼女「…これがかの少年の…」

スッ(拾い上げる)

幼女「……」ジッ...

幼女(………)

幼女(…この書物…は一体…?)




ーーー翌日 日曜日 朝ーーー

少年「………」ボー

少年「……」

少年「……」

少年(………)

少年「………」ボー





ーーー昼ーーー

少年「………」ボー

少年「……」ゴロッ...

少年「………」

オヒルハヤクタベチャッテー!

少年「……」



ノソッ...





ーーー夜ーーー

少年「………」

少年「………」

少年(……あ…授業の用意しとかないと)

少年「……」



ガサ..ゴソ..



少年「……あれ」

少年(ノートがない…)

少年(僕の、"アヤカシノート")

少年「……いいや、別に」

少年「………」

少年(明日は学校)



ーーーーー

少女「──きみは大人しくぼくの"暇つぶし"に付き合ってくれてればいいんです」

ーーーーー



少年「……少女さん……」

少年「……」ツー

少年(僕は……僕は………)

少年「うぅ……」ポロ..ポロ..




ーーー翌日 学校ーーー

「おはよー」

「おはよ。ねぇ先週の数学のプリントやった?今日小テストだよね、確か…」

「えっ。そうだっけ!?」



ガヤガヤ



少年「……」

少年(……)



(空いた少女の席)



少年(………)



「あのぉ二つ編みさん」

二つ編み「…?なに?」

「数学のプリント、写させてくれないっ?」

二つ編み「…いいよ、はい」スッ

「やった!ありがとう!やっぱり二つ編みさんだね~、いざというときのセーフティネット!頼りにしてるよ」

二つ編み「どうも…」



猫又娘「数学の小テストぉ?」

猫又娘「みんな慌てなくていいのに。そんなの変えちゃえばいいんよ、こんな風に!」

ポンッ

「おぉ…」

「また猫又娘の手品か?」

猫又娘「にっしし。これで解決!」

派手娘「そのプリント」

猫又娘「」ギクッ

派手娘「提出用なんだけど、元に戻せんの?」

猫又娘「…あはは、平気平気」

派手娘「ふーん」

派手娘「あと、やるなら先生の目の前でやってくれば?追加のプリントいっぱいもらえるわよ」

猫又娘「いやぁ…プリントだけじゃ済まなさそうだから遠慮しときますよー…」ハハハ...




キーンコーンカーンコーン



教師「ホームルーム始めるぞ。席着けー」ガララ



バタバタ



教師「…ん?なんだ、少女はまだ来てないのか?」

少年「っ…」

教師「珍しいな…誰か連絡のあった人はいないか?学校には特にないんだが」

「えー知らない」

「私も。先週トドノツマリ様のことでLINEしたくらい」

「最近少年君とよく一緒に居たよね」

少年「あ…えっと……」



ガラッ

「すいません、遅くなりました」



少年「!」

少年(この声…!)バッ

少年「……!?」

派手娘「は…?」

二つ編み「……」

猫又娘「うそ…」





包帯少女「……」





ザワッ

教師「どうしたんだ…それ。なにでそんな怪我を…」

包帯少女「いえ、怪我というわけでは……」

包帯少女「…あまり気にしないでください」



少年(なんで……あんな)

少年(右膝、左腕、そして右目。包帯が巻かれている)

少年(生きて、いた…?それともトドノツマリ様が…?)

少年(でも、その包帯姿は……)



包帯少女「………」




一旦ここまでです。

これで全体の15%くらいです。

■第二幕 チグハグ■



ーーー教室ーーー

教師「──はい、そこまで」

教師「それじゃあ回収するから、名前書いてあるか確認して後ろから前に送れー」

「やっべぇ…1問しか出来なかった…」

「先生!プリントの問題より全然難しいんですけど!」

教師「そんなの、基礎が出来てればその組み合わせで応用も解けるだろ?いつも言ってるように」

教師「この小テスト、一応基礎学力テストの対策も兼ねてるからな。…間違えた問題は宿題で解き直しだ」



ブーブー



少年「……」スッ(後ろから受け取る)

少年(正直、こんな問題解けないと思ってたけど……この2問目、この間少女さんと勉強したところだ)

少年(………)



包帯少女「少年君」



少年「!…なに?」

包帯少女「なに、じゃないよ」

包帯少女「プリント、早く」

少年「あ、うん」スッ

包帯少女「」クルッ...

少年(──その包帯は何だい?)

少年(そう訊きたいけど、口にしようとする度言葉が喉につっかえる)

少年(見る限り、いつも通りに身体を動かしてる気がする)

少年(そこまで酷い怪我じゃないのかな…?)


教師「……」パラパラ

教師「よし、ちゃんと人数分あるな。これは採点して帰りに返すから──」ピタッ

教師「………猫又娘」

猫又娘「はい?」

教師「これは、何だ」



(テストの裏に猫の落書き)



猫又娘「あ、それ可愛く描けたんですよ!」

「ほんと、絵上手!」

「でもテスト用紙に書くなんて、猫又娘さん……」

教師「……お前は、自分の成績が分かってるのか?」

猫又娘「はい!」ニコッ

教師「だったらせめてこういう時くらい真面目にやりなさい」

猫又娘「真面目に考えてよく分からなかったので、少しでも加点してもらおうと思ったんです!」

教師「加点?」

猫又娘「芸術点、とか♪」



ワハハハ!



派手娘「先生ー。猫又娘さん、さっき提出用のプリントでも遊んでましたー」

猫又娘「いっ!?派手娘さんなんで!」

教師「…猫又娘、次の休み時間廊下に立ってなさい」

猫又娘「」ガーン

派手娘「ふんっ。バカやってるからよ」

派手娘(あの貼り付けたような笑顔)

派手娘(…相変わらず見ててイライラするのよね)

教師「取り敢えず、授業始めるからな。教科書開け。前やったところの続きから、ページは──」




ーーー昼休みーーー



ヒソヒソ



「ねーあの包帯って……」

「さぁ……何も話してくれないし、人に言えないことでも……」



ヒソヒソ...



包帯少女「……」

少年(みんな、少女さんのことを見てる)

少年(朝からほとんど喋らない少女さんの様子は明らかに変だけど、そんな檻の動物を見るような目…)

少年(……嫌だな……)

少年「……」

少年(…あの日の事)

少年(分かってる、少女さんと話さないといけないこと)

少年(怖いけど…ここで逃げたら僕は今後ずっと、少女さんと話せなくなるような、そんな気がして……)

少年「……」スクッ

少年「少女さん」

包帯少女「…?」

少年「…お昼、食べに行かない?」




ーーー第二校庭 端のベンチーーー

少年「……」パクパク

包帯少女「……」ハムハム

少年(む、無言だ…!)

少年(どうしよう、誘ったはいいけどどう切り出せばいいか全然分からない……!)

少年「……」ソワソワ

包帯少女「……」ハム...

少年「……」チラッ

包帯少女「………」

少年「っ……」ガクリ

包帯少女「……ふぅ。なーに?」

少年「」ハッ

包帯少女「何か言いたいことがあるんじゃないの?さっきからずっとこっち見て落ち着きないしさ」

少年「あ、えと…」

少年「…そのお弁当、美味しそうだなって」

包帯少女「……食べたいの?ぼくの箸ごと?」

少年「えぇ!?いやいやもうあんなことは!例え分けてもらうとしても今度はちゃんと──」

包帯少女「冗談」クスッ

包帯少女「少年君、すぐバレる嘘つくからちょっとからかっただけ」

包帯少女「で、本当は何て言いたかったのかな?」

少年「……」

包帯少女「……」

少年「その……」



少年・包帯少女「「包帯のこと」」



少年「っ」

包帯少女「そうだろうね。ぼくだっていきなりこんな人が登校してきたら気になるよ」

少年「…大きな怪我とか…じゃないって言ってたよね?」

包帯少女「うん」

少年「……本当?」

包帯少女「まあこんな見た目じゃ説得力ないよね。なんなら今、包帯外して見せてあげてもいいよ。怪我は何もないから」


包帯少女「…でも、夜になると痛み出すんだ」

包帯少女「この目と、腕と、足」

包帯少女「だからこれはおまじないみたいなもの。ちょっと大袈裟かもだけど」

少年「痛むって……病院には行ったの?」

包帯少女「ううん。だって痛み始めたのちょうど昨日からだから」

包帯少女(そう。昨日の夜の、"あの時"から…)

少年「昨日から……」

少年(それって、タイミング的にも、どう見ても異常なこの様子からしても)

少年(……あの出来事が関係してる)

少年(僕が、少女さんを池に落とした、あの……)

少年「……」グッ...

少年「少女、さん」

包帯少女「どうしたの、そんなに怖い顔して」

包帯少女「もしかして相当心配してくれてる?大丈夫だよ、見た目ほど重症じゃないし、少年君が気にするようなことはないって」

包帯少女「それよりきみは基礎学力テストの心配をした方がいいよー?今週の金曜日でしょ?あと4日しかない!」

少年「…土曜日の、ことなんだけど…」

包帯少女「……」

少年「……」

包帯少女「…一昨日?」

少年「そう」

少年「その……あの日、さ……」

包帯少女「……あー……」





包帯少女「ごめんね、急な予定で行けなくなっちゃって」





少年「……え?」

包帯少女「でさ、どうだったの?トドノツマリ様の検証。ぼくも興味が無かったと言えば嘘になるから、結果だけは聞いておきたいと思ってたんだ」

少年(覚えてない…?)


少年「……」

包帯少女「少年君?」

少年「…全くのでたらめだったよ」

少年「テストに向けて僕の頭を良くしてくださいって頼んだんだけど、なんにも変わらず。今日の小テストも少女さんが前に教えてくれたところくらいしか解けなかったしさ」

包帯少女「お、ぼくの特別授業ちゃんと役に立ってるんだ」

少年「おかげさまで」

少年「だから…」

少年「…また、お願いしてもいいかな。テスト勉強」

包帯少女「勿論」ニコッ

少年「!」

少年(笑ってくれた……!)

少年「テスト終わったらさ」

少年「またここでやろうよ。二人野球」

包帯少女「ふふっ、いいね。酷い点数取って補習にでもならなければね」

少年「そこは信頼できる少女先生が付いてるから大丈夫」

包帯少女「慢心は敗北のもとですよー?」







少年(その日から、また僕たちは一緒に過ごせるのだと思えた)




ーーー登校中ーーー

少年・包帯少女「「あ」」バッタリ

少年「おはよう。今日はいつもより遅いんだね」

包帯少女「…少しね、最近寝不足気味で」

少年「そんなに遅くまで勉強してるの?」

包帯少女「そんなところかな。出来の悪い生徒に教えられるように、ね」

少年「それって僕のことでしょうか…」



テクテク







少年(僕は卑怯だろうか)

少年(少女さんがあの土曜日の事を覚えてないと知った時、思わずホッとしてしまった自分がいた)

少年(彼女が包帯を巻いているその原因すら曖昧にしたままで)




ーーー休み時間ーーー

同級生A「なんだよ、いいじゃねーかそのくらい」

派手娘「よくないわよ。あんたが拾いなさい」

同級生A「お前の足元にあんだし、お前の筆箱なんだから自分で拾えって」

派手娘「はっ?あんたがぶつかって落としたんでしょうが。早く拾いなさいよ」

同級生A「だからそんくらいお前が──」

派手娘「 ひ ろ え 」

同級生A「……わ、分かったよ」



少年「こわ……」

少年(派手娘さんて、いつも何かに文句付けてたけど、近頃は一段とイラついてるなぁ…)

少年「あのさ、少女さん……─!」

包帯少女「」スー..スー..

少年(寝てる…)

少年「……」

包帯少女「」スー..スー..

少年(……)







少年(だからだろう)

少年(包帯を巻いたその痛々しい姿が、段々と僕に対する当て付けに見えてきてしまうのは)




ーーー放課後ーーー

包帯少女「……」カキカキ

少年「……」カキカキ

少年(……)

少年「……少女さん」

包帯少女「ん?質問?今やってるとこそんなに難しくないはずだけど…」

少年「いや、今日はちょっと、早く帰らないといけなくて。ごめんね、また明日」







少年(しょうもない嘘をついて、彼女の"無言の責め"から逃れる)

少年(当然少女さんにはそんな気はないのだろうけど、僕はどうしても彼女を直視出来なくなっていた)







ーーー昼休みーーー

包帯少女「──少年君、行かないの?」

少年「えーと……何というかその…」

包帯少女「……」

包帯少女「今日は教室で食べようか。お互い自席で」







少年(それは少女さんにも伝わってしまっているようで)

少年(今日の昼食に会話は無かった)

少年(二人前後の席なのに、彼女は終始背中を向けたままだった)

少年(………)




ーーー朝 学校ーーー



シトシト



少年「はぁ……雨…」

少年(じめじめして気持ち悪い。靴下も濡れた)



包帯少女「」テクテクテク



少年(少女さん、遅刻ギリギリだ…)

テクテク

包帯少女「……」ストッ

少年「……」

少年(もう…挨拶を交わすことも……)

少年(僕は何がしたいのだろう)

少年(少女さんのことをどう思いたいのだろう…)

少年(こんな自分に手を差し伸べてくれた彼女に対して、僕がしたことと言えば…)



ーーーーー

──ここでこいつを突き落とせばいい

ーーーーー



少年(……あの声……僕の意志だったのか?)

少年(今思えば聞き覚えのある声だった……でもどこで……)

教師「──はいはい、静かにな」

教師「ホームルームの前に、お知らせだ」

教師「今日からうちのクラスに転校生が入る」

ザワザワ

「この時期に転校?」

「何やらかしたんだろうな」

「ヤンキーとか勘弁…」

教師「静かにしなさい!訳ありじゃなくて、明日の基礎学力テストを受けるために今日転入という形で来ただけだ」

教師「入っていいぞ!」




ガラッ...



「……」トットットッ



「女子…!」

「すごい可愛い…」



「……」

教師「軽く自己紹介してくれるか?」

「………」

「…夢見娘です」

夢見娘「東中学校から来ました」

少年(すごく眠たそうな目をしてる)

少年(…不思議な子だな。見てるとこっちまで眠くなりそう)

夢見娘「………」

教師「………」

「……え、それで終わり?」

教師「…コホン。夢見娘、席はあそこだ。後ろの方で悪いが、何か不都合があったら言ってくれ」

夢見娘「……」



トットットッ



夢見娘「」チラッ

少年「…?」

夢見娘「……」トットッ

少年(今、こっちを見た…)

少年(僕と少女さんの方を)

少年(…気のせい…?)




ーーー放課後ーーー

少年「……」カキカキ

少年(最初は偶然かとも思ったけど……夢見娘さん、事あるごとに僕らの方を見ていた)

少年(あの眠そうな目で)

少年(僕には全く心当たりがないんだけど…)

少年「少女さん、今日来た転校生なんだけどさ」カキカキ

少年「もしかして少女さんの知り合いだったりする?」

包帯少女「……」ウト..ウト..

少年「……」

少年(まただ。ここ数日ずっとそう。いつも疲れた顔をしてる)

少年(目の下の隈も日に日に濃くなってきてるような気がする)

少年「……少女さん」トントン

包帯少女「んっ」ピクッ

包帯少女「…あ、ごめん」

少年「ううん、いいよ。それより体調良くないなら無理せず休んだ方がいいんじゃない?」

少年「…僕に付き合ってるよりもさ」

少年(また僕はそんな、突き離すようなことを…)

包帯少女「………」

包帯少女「そう、だね」

少年「っ!」

包帯少女「うん。明日はテストの日だし、お言葉に甘えてぼくは帰らせてもらうよ」

包帯少女「少年君も、もう赤点レベルの科目はないだろうしね」

ガサゴソ(帰り支度)

包帯少女「」スクッ

包帯少女「…それじゃ」

少年「…うん」

テクテク


少年(……)

包帯少女「──テスト勉強」

少年「?」カオアゲル

包帯少女「お疲れ様。教えたこと忘れないように、明日頑張ってね」

包帯少女「こうやって二人で勉強するのも今日が最後だから」

包帯少女「……だから……」

少年「……」

包帯少女「…この時間、嫌いじゃなかった…」ボソッ

少年(─!)

包帯少女「……」...テクテク



テクテクテク...



少年「………」

少年(………)

少年(……僕は……)

少年(……………)



そうだ、きっとこれは、妖怪のせい。友人の仲を引き裂こうとする醜いアヤカシ"ナカタガイ"がやったこと。



少年(……そういえば)



僕のノートはどこ行った?




ーーー夜 少女の自室ーーー



(ベッドに仰向けになる少女)



包帯少女「………」

包帯少女「……少年君……」



ーーーーー

少年「──土曜日の、ことなんだけど…」

ーーーーー



包帯少女「……」

包帯少女(あんな…怯えた顔されたら)

包帯少女(ぼくはきみに殺された記憶があります……なんて言えるわけないじゃない)

包帯少女(あの日)



ーーーーー

少女「」ゴポゴポ...

ーーーーー



包帯少女(ぼくは確かに溺れたはずだった)

包帯少女(ぼくの口から漏れるソーダ水のような泡沫。暗い湖底に沈んでいくぼくの意識)

包帯少女(でも次に目を覚ました時、ぼくはこのベッドで横になっていたんだ)




===昨週 日曜日===

少女「……うぅ……」

少女(苦しい……)

少女(たす…けて……)



ーーーーー

「──消え去れ化け物!この穢らわしい存在めが!」

ーーーーー



少女「…!はぁっ!」ガバッ

少女「はぁ……はぁ……」

少女「……ここは……ぼくの部屋…?」

少女「……」スッ

ポチポチ スッ



スマホ『7月7日 日曜日 07:30』



少女「日曜日……」

少女「昨日は土曜日…」

少女「!!」

ペタペタ サワサワ

少女「…ぼくの身体…」

少女「ぼく、生きてる…?」

少女(昨日のあれは夢だった?)

少女(いやでも…あの水の冷たさ、どうにも出来ない息苦しさ……鮮烈に思い出せる)

少女(それに)



ーーーーー

黒服男「」ニタァ

ーーーーー



少女(あの男…はっきりと顔は見えなかったけど)

少女(笑っていた。一瞬見えた少年君の悲痛な表情とは対照的に)

少女「……」

少女(昨日、何があったのか……ぼくに何が起こったのか…)

少女(訊いてみれば分かるかな)

少女「……」スッスッ



スマホ『連絡先 少年:080-XXXX-XXX』



少女「………」

少女「………」

少女(………)




少女(あれ)



少女(あと1cm指を動かすだけ。それだけでコールが出来るのに)

少女(今少年君と話すのがとても……気後れする)

少女「……」

少女「…もうちょっと、心の準備が出来てから」



.........







ーーー夜ーーー

少女「……あー……」ゴロン...

少女(結局、彼に電話をかけることは出来なかった)

少女(ぼくの中の怖れが消えることはなく、ついぞ事実は確かめられないまま…)

少女「ぼくってこんなに臆病だったっけ……」

少女(ま、明日になれば嫌でも顔を合わせることになるし、明日訊けばいいか)

少女(さすがに面と向かって言えないことはないよね)

少女(……そう決めたら、眠くなってきた)

少女(今日はほとんど何もしてないはずなのにな……)

少女「……」ウトウト

少女(また…明日から……彼との日常に、戻れ……る……)



コツッ、コツッ



少女(……?)



コツッ、キィ...



少女「……!?」バッ

少女「な、なにこれ…!?」



「……」ユラ..ユラ..



少女(ぼくの目がおかしくなった…?目の前に、巨大な鳥類の足骨のような物体が立っている…)

少女(骨盤から下までしかない。最も奇妙なのは…膝の関節らしき部分に挟まってる目玉)

少女(ゆらゆら揺れながら、まるで意思を持っているようにぼくの方に…)


「……」コツ..コツ..

少女「ひっ…!こ、来ないで…!」アトズサリ

「……」コツ..コツ..

少女「あ……や……」

カラン

少女「!」

少女(ぼくのバット…)

少女「……こ、の…!」ブォン



ガシャン!



パッ...

少女「消えた……?」

少女「なんだったの、今の…」

少女「…!お父さん、お母さん、みんな大丈夫かな…!」

ガチャッ トットットッ







ーーーーーーー

少女「……」トットッ

少女(みんな寝てた。何事もないようにぐっすり)

少女(…けど、普段この時間でも起きてるお父さんまで寝てるのは、偶々そうなだけ…?)

少女「……ぁ」



「……」フワフワ



少女(今度は……何?)

少女(風鈴ともクラゲとも似つかない生物(?)が玄関前を漂ってる)

少女「……」...タッタッ



バキン!



少女「……もしかしてこいつら、外から来てる?」

少女(…確かめないと)

カチッ



ガチャッ



少女「……」テク..テク..

少女「……え」

少女「嘘だ……」






(無数の目玉の怪物)

(足の異様に長いハリネズミのような生物)

(空飛ぶあばら骨)





少女「これは…夢……」

少女「起きたら忘れられる悪夢…」



目玉怪物「」ギョロ



少女「やっ…!」

バタン! カチッ

少女「………ぷはっ!」

少女「ふぅ……ふぅ……」

少女「家中の窓、閉めてこないと…!」

ドタドタ



.........




ーーー少女の自室ーーー

ガチャ...

少女「……」フラフラ

少女(……なんとか、外から入れそうな所は全部塞いできたけど……)

少女「覚めない……覚めないよ」

少女(こういうの、明晰夢って言うんだっけ。夢の中で夢を自覚出来る夢)

少女「…また横になれば、次は朝になってるよね」

少女(忘れよう。あんな異様な光景。それこそ、夢に出てきそうな非現実)



チクッ



少女「痛っ」

「……」

少女(針玉みたいな物体が足元に…!)

少女「」ブンッ

グシャ!

少女「……いつの間にここに居たんだろ…」



ゾクッ



少女「!」

少女「え…あ……」

グッ(顔と足を押さえる)

少女「い……たい…!」

少女(なに…!?痛い、痛いよ…!)

少女(右目が焼けるように痛い!)

少女(左腕が、右足が千切れそうなほど痛い!)

少女「ぐぅぅ…!」トサッ

ゴロ、ゴロン



バタバタ ググ...





ーーー翌朝ーーー

少女「………」

少女「………ハッ」

少女「……朝?」

少女「腕……足……付いてる」

少女「右目も、ちゃんとある」

少女「………」

少女(………)



=======




包帯少女(その日からぼくの身体にあの痛みが染み付いて…こんな大仰な包帯までする始末)

包帯少女(少し遅れて学校に登校した時、周りは当然びっくりしていたけど、ぼくはもっと驚いた)

包帯少女(だって……彼に──少年君に話しかける勇気がまるで湧かなかったから)

包帯少女(以前の自分なら躊躇いなく出来ていたはずのこと。どうして話しかけることすら出来ないのか……思い通りに動けない自分に嫌気が差してきた時、彼の方から声を掛けてくれた)



ーーーーー

少年「──またここでやろうよ。二人野球」

ーーーーー



包帯少女(怯えた顔の少年君についた、ぼく自身の怯えた嘘)

包帯少女(でもそのおかげで、彼に少しばかり元気が戻った気がした)

包帯少女(結局土曜日の事は無かったことにしてしまったけど、それで少年君との日々が戻ってくるなら……そう思っちゃったんだ)

包帯少女「……」

包帯少女(けど、違った)

包帯少女(どんなに嫌だと思っても、無かったことに出来ないこともあった)

包帯少女(それは……あの奇怪な生き物たち)

包帯少女(ぼくはあれらを"オニ"と呼ぶことにした)

包帯少女(あれから毎夜、オニ退治を続けている。…おかげで寝不足の日も続いてる)

包帯少女(触らぬ神に祟りなし。放っておけばいいものをと言う人もいるかもしれない)

包帯少女(でもぼくは見てしまったんだ)

包帯少女(一昨日の晩。外のオニを減らそうとしていた時、1匹のオニが通りがかった通行人に触れた)





包帯少女(その通行人は間も無く、オニになった)





包帯少女(あの人がどこの誰だったのかは知らない。けれどあの光景が嘘じゃないなら……)

包帯少女(……ぼくが、やらなくちゃ)

包帯少女(この町で何かが起きている。それに気付いているのは多分、今のぼくくらい)



ーーーーー

少年「──今日はちょっと、早く帰らないといけなくて。ごめんね、また明日」

ーーーーー



包帯少女(……少年君……)

包帯少女(何となく察していたのかな。今のチグハグなぼくを)

包帯少女(まるで腫れ物を扱うかのような態度……)



ーーーーー

少年「──僕に付き合ってるよりもさ」

ーーーーー



包帯少女(………)

包帯少女(…少し、寂しい…)

包帯少女「……」ゴロン...

包帯少女(……大丈夫、安心して。きみはぼくが守る)

包帯少女(きみをオニにはしないから)

包帯少女「さてと…」

包帯少女(今日も行こう)

包帯少女(ここ数日でいくつか分かったことがある)

包帯少女(まず、オニは夜にしか姿を見せない。次に、普通の人にはオニの姿は見えないみたい。そして──)

包帯少女(どうやらオニは皆、南町神社の方角からやって来ているようなんだよね)

包帯少女「……」

ゴトッ(バットを手に取る)




ーーー石段前ーーー

ヒョコヒョコ

ユラリ...

包帯少女「……いるいる」

包帯少女(見たこともないような奴らがウヨウヨ…)

包帯少女(こいつらは何だろう……足から胴まで全部背骨のような身体のくせに、頭の部分には大きな花…?が乗っかってる)

包帯少女「………」

「……」コト..コト..

包帯少女(オニはこちらを視認したからといってひたすらに飛び掛かってくるわけじゃない)

包帯少女(ただ……気が付くと──)

包帯少女「!」バッ

ブォン ガシャン!

包帯少女(…すぐ近くまで寄っていたりする)

包帯少女「…っ」

包帯少女(奴らに触れられてもないのに、もう痛み始めてきた)

包帯少女(……この包帯部位の痛みも、ひしめくオニたちを消すことが出来れば、一緒に消えてくれるのかな)

包帯少女「……」

タッタッタッ



ブォン!



.........





ガシャァン!

包帯少女「一体何匹いるの…」ハァ..ハァ..

包帯少女(斃しても斃してもキリがない…!)

包帯少女(…やっぱり、元を断たないとダメなんでしょうね)

包帯少女「……」ミアゲル

包帯少女(考えられるのは、この石段の上…)

包帯少女(……ともすれば……あの池の付近、だったり……)






少年「──この上に、落としてきたのかな…」





包帯少女「!?」

包帯少女「少年君…!?なんでここに…!」

少年「こんな時間に行くのはちょっと怖いけど…あのノートが無いと僕は…」

包帯少女(ノート?…アヤカシノートのこと?)



「……」ジリジリ...



包帯少女「!少年君、危ない!」

少年「………」

包帯少女「…くっ」ダッ

タタタッ!

包帯少女「彼に手を出さないで!」ブンッ

ガシャン!

──バシッ

包帯少女「やっ…!」

包帯少女(蹴られた!?近付き過ぎた…!)

包帯少女(腕が痺れて……それより!)

包帯少女「少年君、無事!?」

少年「…やっぱり、怖いな。もうあそこには行きたくない…」

包帯少女「……少年君?」

少年「新しいノートにでも書くかな。でもそれだと──」ブツブツ



トボトボ...



包帯少女「………」

包帯少女「聞こえて、ないの…?」

包帯少女(……見えてもいないみたいだった……)

包帯少女「まさか、無視されたとかじゃ…」

包帯少女(それはないと思いたい、けど)


フラ...

包帯少女「おっと…」

包帯少女(体のバランスが……っ!?)

包帯少女「腕が…!」

包帯少女(取れてる…!ぼくの左腕!)

包帯少女(けどなんで、取れた左腕の部分だけ、痛みが無くなってる)

包帯少女「あんなところに落ちてるっ…」

タッタッ(駆け寄る)

包帯少女(きっとさっき蹴られた時だ)

包帯少女(…嫌な感覚。ぼくの身体がぼくじゃなくなるみたい…)

包帯少女「……」ヒロイアゲ

包帯少女「………」

包帯少女(………ぇ………)



(拾った左腕の手のひらに、目玉)



包帯少女「……」

...トクン

包帯少女「………」

トクン、トクン

包帯少女「………」

ドクン、ドクン

包帯少女(…………)



──ドクンッ











ーーーーー

「──私と生涯を共にして頂けませんか?」

ーーーーー







ーーーーーーー



ピピピピッ! ピピピピッ!



包帯少女「!!」ガバッ

包帯少女「……朝……」

包帯少女「……」スマホカクニン

包帯少女「金曜日……テストの日……」

包帯少女(腕は付いてる…ちゃんと)

包帯少女「……」ニギニギ

包帯少女(…普通の、腕…)

包帯少女「………」

包帯少女「………」

包帯少女(分かんない。何もかも)

包帯少女(この町のオニたちも、あの黒服の男も、一度溺れたはずのぼく自身も)

包帯少女(……どうしよう……)

包帯少女(今、すごく……)





──怖い




ーーー神社ーーー

幼女「……」

幼女「……」

幼女「………」

幼女「……やはりそうか」

幼女「人にも妖禍子(アヤカシ)にも非ず。その者の意図、人の世を亡くす所業」

幼女「…なれば、我は其れを阻もう」

幼女(何故ならば、我が止めねばならぬ因果が、そこに在る故)

幼女「だがあれ程の狂気、如何にして諫めるべきか…」

幼女「……」

(アヤカシノートを手に取る)

幼女「………」パラ..パラ..

幼女「……」

幼女「………」パラ..パラ..

幼女「………」



(最初のページが白紙)


幼女「………感じる」

幼女「……」スッ



...ヒュオオォ



パラ、パラパラ



パラパラパラパラ!





──ポンポン、ポンッ





イロヌリ瘴女「……!」

イロヌリ瘴女「♪」ヌリヌリ

ピョン

イロヌリ瘴女「~♪」ヌリヌリ



イイフラシ「なー聞いてくれよ。この前麓に住んでる偏屈爺さんがさ──」ペチャクチャ



カネクイ蟲「……」モゾ..モゾ..

カネクイ蟲「……ヴァ」



幼女「……成る程」

幼女(見つけたり、この書物の力。創造主たるかの少年の思想の具現化である)

幼女(……然し、未だ全ての実体を捉えることは敵わず)

幼女「………」

幼女「差し当たりて」

幼女「行使の余地は有、か」




第二幕はここまでです。

次回からようやく、これまで少ししか出てこなかった人達に焦点が当たっていきます。

第三幕は猫又娘が主体です。

■第三幕 ギタイするもの■



ーーーーーーー



お困りですか?みなさん!



世の中って暗くなっちゃうことばっかりですよね。

毎日毎日辛そうに残業しているそこのあなた!

学校のテストで親に叱られてるそこのあなた!

友達と喧嘩して泣いているそこのあなた!

思い通りにならないなって、こんな世界嫌だなって、思っていませんか?

でもご安心を!

そんな不安や憂鬱、私が全部変えてご覧にいれましょう。



愛と勇気に満ち足りたトラブルシューターこと私、猫又娘をどうぞよろしく!




ーーー校門前ーーー

猫又娘「ふんふ~ん♪」テクテク

猫又娘(今日も良い天気~♪)

猫又娘(雲一つ無い快晴!)

猫又娘(…きまつテストなんてものも無かったら、完璧なんだけどなー)

猫又娘「おや?」



女生徒「……」ソワソワ



猫又娘「?」

猫又娘(この子が手に持ってるのは、手紙かな?)



男子生徒「」テクテクテク



女生徒「ぁ……!」

女生徒「うー…」イジイジ

猫又娘「…ほほう、これは」

猫又娘(さてはあれはラブレターというものでは!)

猫又娘(……)

猫又娘(手紙を奪う→走って男子生徒にぶつかる→手紙を落とす→女生徒「あ、それ私のです」男子生徒「きみの?」女生徒「あの…あなたが好きです!」)

猫又娘「これだ!」

猫又娘(ではでは早速)

ドロンッ

仔猫(やっちゃいますよー!)

スタッスタッ!


女生徒「どうしよ…」

女生徒「渡したい、けど…」オロオロ



スタッスタッスタッ



仔猫「」ヒョイッ

女生徒「あっ」

仔猫「」スタタタ

女生徒「ま、待って!」

仔猫(よしよーし。後はこのまま──)

女生徒「──危ないよ!」

仔猫「フニャ?」



「うわっ!?」キィー!



ゴチン! スポッ

ドシャッ

「わー痛そ…」

「自転車漕いでた奴大丈夫か?」

「猫ちゃんの顔面ヒットからの綺麗に籠に……見事なホールインワンだ」

「いつつ……何だ…?猫?」



仔猫in籠「ミャ……」ピク..ピク..





あれ、おかしいなー。




ーーー休み時間ーーー

猫又娘「さてさて、みんな集まってくれたかな?」

猫又娘「本日お見せするのは飛び出すマジックだよー!」

「わぁ…!」

「また新しいネタ仕入れてきたんだ」ハハ

「今日こそトリックを暴いてやるわ…」

猫又娘「ここに取り出したるはみんな大嫌い数学の教科書」

猫又娘「これをこーして、こーすると……」

ビヨーン

「おぉ、伸びた?」

「バネみたい…!」

猫又娘「とまあ、楽しい遊具に早変わりってわけですよ!」

パチパチパチ

猫又娘「えへへ」ビヨンビヨン

「……あ。でも猫又娘さん、その教科書……」

猫又娘「んー?」チラッ



名前欄『派手娘』



猫又娘「……!?」

猫又娘「…す、すり替えマジックも同時上映!…なんちて」

派手娘「へぇー。なら次はあんたの頭の中身ごと入れ替えてもらいたいわねぇー」

猫又娘「!!??」バッ

派手娘「どうしたの?やらないの??」

猫又娘「え、えとえと…」

猫又娘「大丈夫大丈夫!こんなのぐるぐるっと巻き戻せばすぐ元通りに──」ビリッ

猫又娘「あ」

派手娘「………」

猫又娘「………」

派手娘「………」



派手娘「」ニコッ



ニャアアアアアァァ!





うーん。失敗ばっかり、なかなかうまくはいかないもんです。




ーーー郊外ーーー

番犬「グルルル…」

「……こ、こわいよ……」プルプル

(この先行きたいのに、どうしよう…)



猫又娘「──きみ、どうしたの?」



「!あ、えっと…」

猫又娘「…向こうに行きたいんだ?」

猫又娘「けどそこのワンちゃんのせいで怖くて通れない…違う?」

「……」ションボリ

猫又娘「ふふん、お姉ちゃんに任せて」

「え…?」

猫又娘「」タッタッタッ

「あ!近付いたら…!」

番犬「ウー…ワンッ!ワンワンッ!」

猫又娘「あなた、きちんとお留守番できるお利口さんなんだね!…そんなあなたにプレゼント!」クルクルヒョイッ

ポンッ

「え……えぇ…!」



(ブサカワ衣装&メイクの番犬)



番犬「…!?」

猫又娘「どう?これなら怖くないんじゃない?」

「……あははは!」

「なんかサーカスのお犬さんみたい!」

「お姉ちゃん、ありがとう」

猫又娘「どーいたしまして♪」





どうですか?私やるときはやるんです!




ーーー月曜日 教室ーーー

猫又娘「おはよー!」

「あ、猫又娘ちゃんおはよう」

「いつ見ても元気よねー。逆に安心するわ」

猫又娘「それだけが取り柄ですから♪」

アハハッ ソンナコトナイヨー

猫又娘(そうそう。何はともあれ笑顔!)

猫又娘(世の中難しいことだらけだけど、一人でも多く笑ってくれれば、世界も少しは明るくなるから)

猫又娘(……きっと"キミ"も)

猫又娘「ん?」ガサッ



(机の中にバツだらけの答案用紙)



猫又娘「……」

猫又娘(…ほーんと、人間社会って難しいなー)

「ねね、猫又娘ちゃん!数学の課題プリントってやった?」

猫又娘「プリント?」ハテ?

「よかったぁ~、実は私もやってなくてさ。今日小テストあるとかすっかり忘れてて…猫又娘ちゃんのことだからやってないと思ってましたよ~仲間だね仲間♪」

猫又娘「数学の小テストぉ?」

猫又娘(それでこんなに騒がしいんだ)

猫又娘「みんな慌てなくていいのに。そんなの変えちゃえばいいんよ、こんな風に!」

ポンッ

「おぉ…」

「また猫又娘の手品か?」

猫又娘「にっしし。これで解決!」

派手娘「そのプリント」

猫又娘「」ギクッ

猫又娘(派手娘さん…何かと私に突っかかってくる子。ちょーっと苦手な子)

派手娘「提出用なんだけど、元に戻せんの?」

猫又娘「…あはは、平気平気」

派手娘「ふーん」

派手娘「あと、やるなら先生の目の前でやってくれば?追加のプリントいっぱいもらえるわよ」

猫又娘「いやぁ…プリントだけじゃ済まなさそうだから遠慮しときますよー…」ハハハ...

猫又娘(うぅ、睨まれてる…。前に教科書破っちゃったのそんなに恨まれておりますか…)




キーンコーンカーンコーン



教師「ホームルーム始めるぞ。席着けー」ガララ



バタバタ



猫又娘(でも私は挫けないよ!)フンス

猫又娘(いつか派手娘さんの仏頂面だって笑顔に変えて見せるんさ!)

猫又娘(どんな困難にもめげずに立ち向かう。それができなくしてトラブルシューターは名乗れませんからな)



でもさー、大きな困難って意外と思いもしないタイミングに訪れたりするんだよねー。



ガラッ

「すいません、遅くなりました」



猫又娘「うそ…」



自分の身近なところにさ。





包帯少女「……」





ザワッ

教師「どうしたんだ…それ。なにでそんな怪我を…」

包帯少女「いえ、怪我というわけでは……」

包帯少女「…あまり気にしないでください」





そう。例えばこれなんかはきっと、私の出番なわけです。




ーーー昼休みーーー



ヒソヒソ



「ねーあの包帯って……」

「さぁ……何も話してくれないし、人に言えないことでも……」



ヒソヒソ...



包帯少女「……」

猫又娘「……」チラッ

猫又娘(少女さん、だったかな)

猫又娘(クラスの中でもあんまり目立たない子だけど、すごく責任感が強いんだよね。引き受けたこととか掃除とか、絶対にサボったりしないし)

猫又娘(最近、少年君とよく一緒にいる。あの二人少しずつ笑うようになってきたからお互いに相性の良い間柄だったんだと思うけど)

猫又娘(…今日はあの子たち、全然喋ってない)

少年「……」スクッ

少年「少女さん」

包帯少女「…?」

少年「…お昼、食べに行かない?」

猫又娘(さすが、男の子!)

猫又娘(これなら私の出る幕は無いかも?)

猫又娘(……でも、気になるなぁ)

猫又娘(少女さんを見た時に感じた、あの包帯の下の……)



猫又娘("私と同じ"感覚)



猫又娘「……」

猫又娘(…もうちょっと、彼らの行く末見守りますか)




ーーー金曜日 テスト当日ーーー



カキカキカキ サッサッ



猫又娘「……」カキ...

猫又娘(うーむ…)

猫又娘「………」

猫又娘「」カキカキ

猫又娘「……」ジッ

猫又娘(……にゃー!もう分かりませーん!)

猫又娘(ついこの前きまつテストなるものが終わったばかりなのにまたこんなテストなんて……多過ぎ!)

猫又娘(みんなさー、もっと楽しいことしよーよ)

猫又娘「……」チラリ

少年「……」カキカキ

包帯少女「」グッタリ

猫又娘(…月曜日、あの子たちは何を話したんだろ)

猫又娘(最初は、またこれまで通り二人仲良く過ごしてるように見えた。……けどその認識は間違ってたみたい)

猫又娘(二人の間の拭えない隔たり。そんなものが見え隠れするみたいに、彼らの距離が少しずつ開いているような気がして)

猫又娘(今日それは確信に変わった)

猫又娘(あの二人、目も合わせてない)

二つ編み「……」ソワソワ

二つ編み「」カミグシャァ

猫又娘(いつも誰より集中して問題を解いてる二つ編みさんも、どこかおかしいし)

夢見娘「……」カキ..カキ..

猫又娘(突然やって来た転校生ちゃん。あの子なんて間違いなく"私と同じ"……)

派手娘「……」ホオヅエ

派手娘「…?」チラッ

猫又娘「っ」メソラシ

猫又娘(最近ますますトゲトゲオーラが増してきた派手娘さん…そのうち吊るされそうでちょっと怖いです…)


猫又娘「………」

猫又娘(…分からないことだらけだなー)

猫又娘(けど一つだけ、間違いなく言えるのは)

猫又娘(──この世界に悪いことが起きようとしてる)

猫又娘(そう言えるのはなにも、みんなの様子がおかしいからってだけじゃなくて、私がこの目で直接見たから)



猫又娘(夜の町を闊歩する有象無象のお化けたち)



猫又娘(あれらがどんな生き物だったところで、とてもじゃないけど友好的には見えなかったもん)

猫又娘(………)



Q. 私に何ができますか?

A. この世界を守る!

Q. どうやって?

A. そりゃもう"変える"しかないわけです。唯一私の得意なこと!



猫又娘(決まり)

猫又娘「……」フゥー

猫又娘(もう少し、待っててね)

猫又娘(ギクシャクした間柄も、収まらないイライラも、のさばるお化けたちも)

猫又娘(私がみーんな変えてあげるから!)

猫又娘「」クスッ




ーーー翌週月曜日 学校ーーー

教師「全員お待ちかね、基礎学力テストの採点が終わってるから、順番に返却していくぞー」

「誰も待ってないです!」

「ずっと返さなくていいのに…」

教師「これくらいでブーたれるなよ?入試はこういう基礎に加えて標準問題、応用問題もあるんだからな」

「うぇー……」



.........







ーーーーーーー

「ねー二つ編みさん職員室に呼ばれてるって本当?」

「なんかテストの点めちゃくちゃ低かったみたいよ?」

エー ウソー



少年「……」ペラ..ペラ..

少年(うん。我ながら悪くない出来かも)

少年(特にこの科目、もっと悪いと思ってたのに)

少年(……少女さんとの特訓のおかげなんだろうな)



ーーーーー

包帯少女「──この時間、嫌いじゃなかった…」ボソッ

ーーーーー



少年(………)

少年(少女さんはどうだったんだろう。テスト中も相当、机に突っ伏してたけど…)

包帯少女「」スー..スー..

少年「……」

少年(……こんなに近くに居るのに、なんでだろう)

少年(すごく遠く感じる…)

少年「………」

少年(ノートも無い)

少年(少女さんもいない)

少年(今の僕には、何も無い)

少年(……)

少年(いや、元に戻っただけ…か)

少年(少女さんと知り合う前、ノートに逃避する前の自分に)


同級生A「よぉ、少年」

同級生B「」ニヤニヤ

少年「っ!…なんだよ」

同級生A「テストどうだったん?見してよ」

少年「なんでだよ」

同級生A「いいから見せろって」グイッ

少年「あ、おい!」

同級生B「うわ、マジか。俺こいつに負けたわ」

同級生A「だっさ(笑)。でも俺もどっこいどっこいって感じ」

同級生A「僕ちゃん成績上がって偉いねぇ~」

同級生A「…やっぱあれか?放課後イチャイチャ勉強してたからかぁ?こいつと」ニヤ

包帯少女「」スースー

少年「別に普通に勉強してただけだけど」

同級生B「またまたー」

同級生A「お前、こいつに何かやらかしたんだろ?」

少年(…!)ドキッ

同級生A「こいつが変な包帯巻き出してからお前ら明らかに険悪になってったもんな」

同級生A「どうせあれだろ?初めて出来た彼女だからとか浮かれて襲いでもしたんだろ。んで、拒否られた腹いせにボコったんじゃねーの?」

同級生B「包帯着けさせる怪我とかやばすぎ」ケラケラ

少年「は!?するわけないだろそんなこと!」

少年「第一付き合ってもいないからな!」

同級生A「そうやって必死になるとこますます怪しー!」クハハ

同級生B「ワンチャン階段から突き落としたとかじゃないか?」

少年(──っ)

同級生A「もうそれ犯罪だろ」

ゲラゲラゲラ

少年「………」

同級生A「でもよぉ、良かったな!これで女子に甘えなきゃ生きてけない変態男子の汚名は免れるじゃん」

同級生B「今思うと、こいつが少女の弱み握ってた説あるよな。こいつにいきなり女子との接点とか出来るわけないし」

同級生A「そしたら殴ってまで言うこと聞かせようとしねーんじゃね?」テクテク...

同級生B「殴ったことは決定なのかよ(笑)」テクテク...



(離れてく二人)



少年「……」

少年「……」

少年「……違う……僕は………」

少年「あんなこと………」

包帯少女「……」




ーーー放課後ーーー

「猫又娘ちゃんってさ、トドノツマリ様って信じる?」

猫又娘「えー?」

「みんな結構噂してるでしょ、最近。南町神社にいるっていう願いを叶えてくれる神様」

猫又娘「……居たら面白いとは思うかなー。神様ではなさそうだけど」

「そうなの?」

猫又娘「その噂だと、対価としてなにかとんでもないもの奪われるって話だよね?」

猫又娘「…それはむしろ悪魔との契約に近いのでは?」ヒュードロドロ

「こわっ。その効果音どこから鳴ってるの?」

「でもそうだよね。世の中そんなにうまい話はないよねー」

猫又娘「うむうむ」

猫又娘(……けど私は知ってる)

猫又娘(あの神社には人じゃない"何か"がいる気配がある)

猫又娘(この頃見かけるお化けたちとはまた少し違う気配……もしやあの生き物の親玉!?)

猫又娘(って思ったりもしたけど…そういう気配じゃないんよね。よもや本当に願いを叶える神様なんているわけないし)

「それはそうとさ!猫又娘ちゃん今日は新しい手品はしないの?」

猫又娘「へ?」

「実は密かに楽しみにしてたり」エヘ

猫又娘「うーん…今日はねー」チラッ

包帯少女「……」グデ...

猫又娘「すこーし忙しいかもだから──」



夢見娘「私も……見てみたい……」



猫又娘(!夢見娘さん…?)

夢見娘「……」

「ほ、ほらほら!夢見娘ちゃんもこう言ってるよ!」

猫又娘(この子、普段誰とも関わらないのになんで…?)

夢見娘「……」ウズウズ

猫又娘「……分かりました!じゃあ一回だけ」

「やった!」


猫又娘「じゃ始めるよ?」

猫又娘「…こちらはなんでしょう?」スッ

「それ、今日返されたテスト?」

猫又娘「ご名答!もちろん全部私のです」パララ

「…猫又娘ちゃん、これ夏の補習に引っかかっちゃってるんじゃ…」

猫又娘「と思うでしょ?でもこーすれば…」

サササ スッ

猫又娘「じゃん!全教科満点に早変わり!」

「…?けど点数変わってないよ?」

猫又娘「よーく見て」

「……」ジッ

夢見娘「……」ジー

「……あ、百点満点じゃなくなってる」

猫又娘「その通り!ちなみにこっちの模範解答もみんな私の点数が満点になっております」

「あはは!なにそれ地味だけどすごい!」

夢見娘「……」パチパチ

「ねーいっつもさ、それってどうやってるの?一つくらい仕組み知りたい!」

猫又娘「それは秘密です♪」

猫又娘(だってタネも仕掛けもありませんから)



包帯少女「」テクテク

ガラッ



猫又娘「!」

猫又娘「今日はここまで!私もう行かなくちゃ」

猫又娘「じゃね!」ササッ

「今度私にだけでも教えてよー!」

夢見娘「……」テフリフリ

夢見娘(……)

夢見娘「……まぶしい……」ポツリ

「?」




ーーー校門前ーーー

タッタッ

猫又娘「あっれー?見失った?」



包帯少女「」スタスタ



猫又娘(あ、居たっ)

猫又娘「」タッタッタッ

猫又娘(少女さんと一緒に帰って、彼女の話を聞き出す。それが今日の私のミッション)

猫又娘(なんとなくだけど、ちょっと前から現れお化けたちと、あの子が包帯をして様子がおかしくなり始めたこととは、繋がってる気がするんよね。あくまで私の勘)

猫又娘(そしてきっと、あの子は苦しんでる)

猫又娘(誰にも言わず…言えず、重たいものを抱え込んでる)

猫又娘(そういう雰囲気がひしひし漂ってるんだ)

猫又娘「むむ?」...ピタッ



同級生A「な、試しに泣きついてみてくれねー?僕とよりを戻してくださいお願いしますぅってよ」

同級生B「足蹴にされんのがオチだろうな」ハハ

少年「…だから付き合ってないって」



猫又娘「あれは……」

猫又娘(少年君、またあの人たちに絡まれてる)

猫又娘(…少女さんは気付いてないのかな。少し前まで少年君の手助けをしてたはずだよね…)



包帯少女「」スタスタ



猫又娘「……」



同級生A「」ペチャクチャ

同級生B「」ケラケラ

少年「……」



猫又娘(どうすべきか)

猫又娘「ぐぬぬ…」

猫又娘(……ここは!)


猫又娘「」クルリッ

ドロン



同級生A「──なーそれくらい言えや。あいつお前に何がしたかったんだよ。別れた後なんだからどうでもいいだろ教えろって」

ガチガチ

少年「っ…知らない。僕が知りたい」

同級生B「嘘つけ。あんな調子乗っておいて知りませーん、じゃないわ」

ガチガチガチ

同級生A「だーもうなんだよ!さっきからうるせ──」



がしゃどくろ「……」ガチガチ



同級生A「………へ?」

がしゃどくろ「」カタカタカタ!

同級生A・B「「ぎゃあああ!」」ダッ

タッタッタッ!

がしゃどくろ「」カタ...

がしゃどくろ「……」

ドロン

猫又娘「ふぅー。案外怖がりさんなんだねぇ。かーわいー」クスッ

猫又娘「さて」

猫又娘「──お困りですか?おにいさん!」

少年「」キゼツ

猫又娘「……ありゃ」

猫又娘「もしかして、やり過ぎた?」タハハ...



「今すごい声聞こえなかった?」

「したした!向こうに走ってった男子だよ!」

「あそこに居るのって1組の猫又娘さんじゃない?」

「そばに男の子倒れてるけど…また悪戯?」



ザワザワ



猫又娘「あ……やばっ」

少年「」

猫又娘「…ちょっと失礼」カツギアゲ

オォ..モチアゲタ

猫又娘「それではみなさんごきげんよう!にゃははー!」ピューン



スタタタ...




ーーー小山の麓ーーー

少年「………」

少年「……ハッ!」

少年「ガイコツ!喰われる!?」ガバッ

少年「…?……?」



猫又娘「いやー、さっきはごめんね?まさか気失うとは思わなくって」



少年「猫又娘さん…?」

少年「え?ってことはあのガイコツは」

猫又娘「思ってる通り、それは私でした」ニシシ

猫又娘「きみがつまらなそーにあの二人に絡まれてたからさ、ちょっと脅かしたつもりだったんだけど…怖過ぎたみたい?」

少年「うっ」

少年(気絶しちゃうとか、恥ずい…)

少年「…あれは、出来良過ぎだよ。いっそお化け屋敷にでも住んでみれば?」

猫又娘「そんなに褒められると照れるなぁ」

少年「……もうそれでいいよ」

猫又娘「もっかい見る?」

少年「やめて」

少年「……そういや、ここどこ?」

猫又娘「ここ?人目に付きにくいところ!…っといったらこの辺しか思いつかなくてさ。神社のあるお山の裾だよ」

猫又娘「さすがに学校の目の前にきみを寝かせとくわけにもいかないので、連れてきたんよ」

少年「運んだの?…僕を!?」

猫又娘「うむ!」

少年(意外に力持ちなんだ…?)

少年「……その、一応、ありがとう」

猫又娘「んん?」

少年「あいつら追い払ってくれたんだよね。僕は倒れちゃったけど…」

少年「……」

少年「猫又娘さんは、なんでいつもそんなに明るいの?」

少年「普通さ、どこかしらで落ち込んだり滅入ったりするときがあるじゃん」

少年「でも猫又娘さん、いつ見ても笑ってるか叱られてもケロっとしてるか…」

猫又娘「あはは…」

少年「……正直、羨ましいよ。どうしたらそうなれるのかな。下らない悩みとかさ、全部吹き飛ばすんだ」

少年「そしたら……」

猫又娘「……」


猫又娘「悩みたまえ、男の子よ」

猫又娘「そうやって苦悩のときがあるからこそ、報われた瞬間の尊さを強く感じることができるんだよ」

猫又娘「…なーんて!どう?今のそれっぽくなかった?」

少年「えぇ…」

猫又娘「そんな顔しないでよぉ。私、人の気持ちとか学校のテストとか難しいことよく分かんなくってさ」

猫又娘「だから単刀直入に訊くね?」

猫又娘「──きみ、少女さんと何があったの?」

少年「っ……」

少年「…別に、何もないよ」

猫又娘「強がんなくていいよ。ここんとこのきみたちを見てれば何かしらあったなんて明白じゃん」

少年「……」

猫又娘「あんね、私はきみを責めようだとかからかってやろうだとか思って訊いてるんじゃないんよ」

猫又娘「だって苦しそうにしてるから。きみも、少女さんも」

少年「………」

猫又娘「あの包帯を巻いてから、だよね。きみたちの関係がねじれ始めたのは」

少年「……包帯のことについては、本当によく分かってないんだ。ただ、怪我はしてないって。少女さんは夜になると痛み出すから着けてるだけって言ってた…」

猫又娘(痛むだけ……そんなことある?包帯で痛みが収まるわけでもないのに巻いてるってそれは)

猫又娘「…尋常じゃない痛み、とか」

少年「!そ、そうなのかな…!?」

少年「確かに最近はよく学校で寝てて、もしそれが痛みのせいで夜に眠れてないからだとしたら…」

少年「……病院、行ってるんだよな……?」

猫又娘「病院で解決できるものならいいんだけどね…」

少年「?それってどういう…」

猫又娘「それより!今包帯のことについて"は"って言ったよね。少女さんに何があったかやっぱ知ってるんだ?」

少年「う、ん……」

少年「知ってるといえば知ってるけど、知らないといえば知らない……みたいな」

猫又娘「??」

少年「………」

猫又娘「…話すのが、辛い?」

少年「……」

少年「………僕……少女さんに酷いことをしたんだ」

少年「そんなつもりはなかったのに、少女さんを……少女さんをっ……」

少年「──池に、突き落とした」

猫又娘(……)


少年「……少女さん、そのまま上がってこなくて……僕も飛び込もうとしたけど、池の中に変な手が蠢いてるのが見えたら、すごく怖くなっちゃって…」

猫又娘「手?」

少年「うん。それに、声が聞こえたんだ。少女さんを、ここで突き落とせって」

少年「初めは僕の中の声かと思った…けどあれは、なんか違うような……」

猫又娘「……その話本当?だったらあの子は今頃──」

少年「少女さんは身に覚えがないみたいなんだ。彼女の中ではその日、僕と一緒に居なかったことになってる」

少年「……だから僕も、あれは夢だったのかなって、考えてる……」

少年「たまに妙にリアルな悪夢を見ることあるでしょ?それと同じさ」ハハ...

猫又娘「夢、ね」

猫又娘「少年君は、たかが夢一つ見ただけで人を突き離しちゃう人間さんだったのかな?」

少年「つ、突き離すなんて……」

少年(………)

少年「……分からないんだよ……」

少年「僕だってまた少女さんと一緒に居たかった…他愛ないこと喋って、笑って」

少年(そんな当たり前を楽しいと教えてくれた彼女と)

少年「けどダメだった。先週からずっと、少女さんとどんな顔で接すればいいか分からなくなって……それまでどんな風に会話してたのかも思い出せない」

少年「なにより、あの事が夢かどうかも分かってないのに元通りに過ごすなんて、出来っこない…!」

少年「もし夢なんだとしても、心の底で少女さんを邪魔者と思ってるのかもしれないし、夢じゃないんだとしたら……」

少年「──僕は少女さんを殺した張本人だ」

少年「そんな人間が……彼女の隣にのうのうと居座る権利なんてあるわけないだろ……」

猫又娘「……」

猫又娘(………)






猫又娘「本当かウソかなんてどうでもいいんさ」





少年「……?」

猫又娘「きみを苦しめてるその出来事が!」

猫又娘「だって現に少年君も少女さんもちゃんと生きてるじゃない。きみの深層心理がどうこうなんて関係ないさ。大切なのは今のきみが少女さんをどうしたいのか、じゃないの?違う?」

少年「…簡単に言うなよ…」

猫又娘「簡単だよ!さっき自分で言ってたでしょ?"また少女さんと一緒に居たかった"って」

猫又娘「もう答えは出てるのに、なんで諦めようとしてるんだろーね?」

少年「………」

少年(………)

猫又娘「ていっ」ビシッ

少年「あいたっ」

猫又娘「泣きそうな顔しない。私がここにいる意味、忘れてもらっちゃ困りますよ」

猫又娘「私にお任せあれ!きみは大船に乗った気分でいればいい!」ニコッ

少年「な、なにが?」

猫又娘「明日、少女さんに贈るプレゼントを持ってくること」

少年「プレゼントって」

猫又娘「なんでもいいんよ。話せるきっかけにでもなるものなら」

少年「………」

猫又娘「例えばこーんな風に」



ポンッ



少年「…え?それ、僕のノート…!」

猫又娘「ふふふ…きみがいつも大切に持ち歩いてたよね?」

猫又娘「私からの餞別です!はいどーぞ♪」

少年「」スッ

パラパラパラ...

少年(あれ、白紙だ…)

猫又娘「それはあくまで私の作った模倣品だからね~。何も書いてない新品だよ!今のノートが埋まったらご利用くださいな」

少年「…早速使わせてもらうよ。前持ってたの丁度無くしちゃったから」

猫又娘「あれま」


少年「……」ジッ

少年(僕の持っていたやつにそっくりだ)

少年(…思えば、このノートがきっかけで少女さんと話すようになったんだよな…)

少年「……」

猫又娘「……」

猫又娘(少しはマシな顔付きになったね)クスリ

猫又娘「大丈夫。きっと現実じゃない。少女さんが生きてるのが何よりの証拠さ。あの子に酷いことをした少年君は存在しないんよ」

少年「……そう、だよな……」

少年「はは…それか本当に、トドノツマリ様のおかげだったり…」

猫又娘「……え?」

少年「ちょっとあやふやだけどあの後、彼女を生き返らせてくれって願った記憶があるんだ」

猫又娘(……)

少年「けど普通そんなのに頼らないで警察とか救急車とか呼ぶよな。おかしな行動取るっていうのは夢じゃありがちなことだし…」

猫又娘「……そうそう!考えれば考えるほど変なことだらけなら、悩むだけ無駄ってことよ!」

少年「ありがとう。……元気付けてくれて」

猫又娘「お礼を言うのはまだ早いですな」ニヒ

猫又娘「ではでは、私はもう行くね!くれぐれも明日のこと忘れないよーに!」



スタタタッ



少年「あっ、待っ…」

少年「は、速い」

少年(………)

少年「……少女さん」





少年(やっぱり僕は、きみと友達でいたい……)




ーーー夕暮れ 公園ーーー

猫又娘「………」

(ジャングルジムの頂上に腰掛ける猫又娘)

猫又娘「…包帯」

猫又娘「池」

猫又娘「水の中の手」

猫又娘「聞こえた声」

猫又娘「あとは…トドノツマリ様」

猫又娘(……少年君から聞いた話と、少女さんのあの状態)

猫又娘(十中八九関係があるんだろうと私は思ってる)

猫又娘(この世界はみんなが思ってる以上の不思議で溢れてるから。嘘みたいな現実が起きることだってある)

猫又娘(でもそうなると引っかかるのは……あの神社と、包帯から感じる違和)

猫又娘(結局、あの子のことについては謎のまま…)

猫又娘「……そういえば」

猫又娘(この近くの池って言ったら、神社横のあそこくらいだったよね)

猫又娘(……………)

猫又娘「……う~……」

猫又娘(つながりそうで……つながらない……)モヤモヤ

猫又娘(頭発熱しそう…)

猫又娘「……」

猫又娘(……こんなとき、"キミ"ならどうするのかな)




ーーーーー

「──お困りですか?お嬢さん」

ーーーーー



猫又娘(複雑に絡まった糸。私の頭じゃ解けないよ)

猫又娘(夢の中でもいい。キミがまた私を、助けてくれるなら…)

猫又娘「………」

猫又娘「」ブンブン



パシンッ(自分の頬を叩く)



猫又娘「私が弱気になってどーする!」

猫又娘(そうだよ、私に難しい考え事なんて土台無理なわけで)

猫又娘(だったら目の前にある単純な問題を片付けていくしかないわけで!)

猫又娘(まずは)

猫又娘「……そろそろお出ましかな?」



...ニョロニョロ

カツ..コツ..



(姿を現す異形たち)



猫又娘「…こんばんは」

猫又娘「今日はね」





猫又娘「きみたちがどこから湧いてるのか、リサーチしようと思います♪」




ーーー夜ーーー



ガシャンッ ドスッ



包帯少女「……」

ウネウネ

包帯少女「」ブンッ

グシャ!

包帯少女「………」

包帯少女(……いつまで、こんなことが続くんだろう)

包帯少女(こうしてどれだけ夜の町に繰り出したところで、オニたちの勢いが弱まる事はない)

包帯少女(それどころか、どんどん増えてきてる気さえする。ぼくがしていることなんて所詮、焼け石に水…?)

包帯少女(………)



ーーーーー

同級生A「──、─!」

同級生B「」ケラケラ

少年「……」

ーーーーー



包帯少女(……あの時、ぼくは最後まで寝たフリをしてしまった)

包帯少女(どうして?)



ーーーーー

少女「──友達になってくれませんか?」

ーーーーー



包帯少女(…あの日きみの手を取ったぼくは一体どこへ行ってしまったのかな)

包帯少女「……っ」ギリッ

包帯少女「いい加減にして……」

包帯少女「返してよ…!ぼくの日常…」

包帯少女(崩れていく。ぼくも、ぼくの周りも何もかも……)




──ゴォン



包帯少女「!」

包帯少女(……!?)



(遠くにそびえる巨大なオニ)



包帯少女(あんなに大きなの、見たことない)

包帯少女(生き物には見えない…まるで建物みたいに動いてないけど)

ゴォン...

包帯少女「う……痛い……」

包帯少女(この音……アレから聞こえてくる……)

包帯少女(……あの方向は神社の……)

包帯少女(腕の取れたあの夜以来、怖くて神社には近付かないようにしてた)

包帯少女(でも、分かる。アレは絶対に放置しちゃいけない。そのままにしてしまったらきっと、この町は……)

包帯少女「……行かなくちゃ」



タッタッタッ...




ーーー神社ーーー

ポンッ!

「ガウガウ!」

幼女「……」スッ

「クーン……」

幼女「………」チラリ



(自由に動き回る数多の妖怪たち)



幼女「…これ程まで創り上げたが……尚この書物の力、知るに至らずか」

ペタペタ

幼女「む」

イロヌリ瘴女「キシシッ♪」ヌリヌリ

幼女「……」

幼女「」ジィ...

イロヌリ瘴女「……?」

パタッ

イロヌリ瘴女「」スゥスゥ

幼女「些か騒々しくなり過ぎたな」



──ゴォン



幼女「…!」

幼女「…最早悠長に構えては居れぬ」




ーーー石段前ーーー

包帯少女「こんなのどうしろって言うの…」



巨大オニ「……」



包帯少女(見ているだけで押し潰されそう)

包帯少女「……」

包帯少女「ねぇ、きみたちは、なんなんだい?」

包帯少女「目的は?名前は?」

包帯少女「ぼくたちをどうするつもりなの?」

包帯少女「この町を、この世界を蹂躙して」

包帯少女「何を得ようとしているの?」

巨大オニ「………」

包帯少女「……答えてよ!」ブンッ!



ガィン!



包帯少女「…!」ヨロ...

包帯少女(…鉄を叩いてるみたい…)

包帯少女「………」

... ブォン!

包帯少女「なんで!」ガンッ

包帯少女「どうして!」ガンッ

包帯少女「ぼくなの!?」ゴンッ

包帯少女「消えて…!」ガンッ

包帯少女「全部消えて!!」ガキィッ!



巨大オニ「……ゴォオオン」



包帯少女「ぐっ……」

ボトッ

包帯少女「っ──」

包帯少女(また、腕が……!)


巨大オニ「ゴォオオン」

包帯少女「あ゙ぁ゙……や゙…」ドサッ

包帯少女(…どうしちゃったのぼくの身体…)

包帯少女(思う通りに動かない)

包帯少女(いたミも痒みも何も感じナイ)

包帯少女「………」

包帯少女(……でも、いいのカモしれナいなぁ)

包帯少女(どうせぼくは一度シんでるんだし、またキエタところデ大差なイヨネ)

包帯少女「……フフッ……」

包帯少女(……ア?)チラッ



(ミラーに映った自分の姿)



包帯少女「──」



ーーーーー

包帯少女(──ぇ………)

(拾った左腕の手のひらに、目玉)

ーーーーー



包帯少女(……ソッカ)

包帯少女(ボクハ……モウ………)





猫又娘「みーんな、変わっちゃえー!」





ポン、ポン

包帯少女(……?)

猫又娘「それ、それ!」ポポン!

猫又娘「そこのでっかいきみも……えいやっ!」

ドロンッ

ネズミ「…チューチュー」

猫又娘「そっちの方が可愛いよ♪」

包帯少女(コノ子……同じクラスの…)

猫又娘「……ふぃー。なんとかうまくいったみたいだねー」

猫又娘「……」クルリ

包帯少女「……猫又娘、さん」

猫又娘「うん」ニコッ

猫又娘「間に合ってよかったよ、少女さん」



.........




猫又娘「──むむむ……っと、これでくっついたかな?」

... ポロッ

猫又娘「あら」

包帯少女「…いいよ。多分明日の朝には治ってるから」

猫又娘「わお。すごいね、取り外し可能ロケットアームみたいな」

包帯少女「……」

猫又娘「ごめんなさい冗談のつもりでした」

包帯少女「怒ってはないけど、猫又娘さんのその格好…」

猫又娘「?」ネコミミ&シッポ

猫又娘「あ、これ?」

猫又娘「この姿じゃないとあんまり力出せなくってさ」

猫又娘「…作り物とかじゃないんよ?ちゃんと自前で生えてるものですので!」

包帯少女「え…」

猫又娘「ほいっ」ドロン

仔猫「…ミャー」

包帯少女「!」

包帯少女「……」ソー...

ドロン

包帯少女「わっ…!」

猫又娘「というわけなのです」

猫又娘「猫又っていうんだって。私も詳しいことは知らないんだけど、そう教えてくれた」

猫又娘「…要するに私、普通のヒトじゃないんだ」

包帯少女「……あなたも、この町を壊しに…?」

猫又娘「とんでもない!むしろ私はみんなが笑って過ごせるように日々努力してるんです!少女さんも知ってるでしょー?」

包帯少女「いつもの赤点テストも努力の賜物?」

猫又娘「ゔ…それは、置いといていただけると…」タハハ...

包帯少女「なんか、実感湧かないな…クラスメイトに妖怪?が紛れてたなんて言われても」

包帯少女「…って、以前のぼくなら思ってたところだけど、こんな状況で言われたらさすがに、ね」

猫又娘「………気持ち悪い、かな…?」

包帯少女「………」

猫又娘「……」ウツムキ

包帯少女「……」




ギュッ



猫又娘「に゙ゃ!?」

包帯少女「うん、予想通り触り心地の良い尻尾だね」ニギニギ

猫又娘「くすぐったいぃ…あんまり乱暴にしないで…」ウルウル

包帯少女「ふふ、弱点みーつけ」

包帯少女「気持ち悪くなんかないよ。ぼく、猫好きだし。それにそんなこと言ったらぼくの方が──」

包帯少女(…あれ?そういえばぼく、普通の姿だ)

包帯少女(さっき映ってたあの自分は……)

包帯少女「……」ギュー

猫又娘「~~!ギブギブ!少女さんギブー!」

包帯少女「あ、ごめん」パッ

猫又娘「い、意外にSっ気あるんだね…」ハァハァ

包帯少女「ちょっと考え事してた」

猫又娘「人の尻尾掴みながら考え事しないでください…」

包帯少女(……)

包帯少女「猫又娘さんは、ぼくを助けに来てくれたの?」

猫又娘「いやぁ、私はこのお化けたちの出所を突き止めて、"変えられる"ものなら変えてやるつもりだったんだけど」

猫又娘「そしたらなんかやばそうなのが出てきたじゃん?急いで駆け付けたらさ、これまたやばそうなクラスメイトが居たもんで、こうやって介抱してあげたわけです」

包帯少女「!じゃあ、猫又娘さんもオニ退治をしてるんだ?」

猫又娘「オニ?」

包帯少女「こいつらのこと。ぼくがそう呼んでるだけ」

猫又娘「退治かー……そうだね」

猫又娘「少女さんも気付いてるんだろうけどさ、この町で今何かが起ころうとしてる。いや、もう起こってるんだと思う」

猫又娘「そしてそれは多分…」

包帯少女「…良くないこと」

猫又娘「」コクリ

猫又娘「…私的には少女さんがバット一本で戦ってることの方が驚いたけどね…」

包帯少女「……」

猫又娘「……」


猫又娘「…ともかく!積もる話はまた明日しよ!私もうくたくただよー」

包帯少女「積もる話って…?」

猫又娘「これまで分かったこととか、作戦会議とか。現状この事態に気付いてるの私たちくらいなんだし、協力して解決していこ!」

包帯少女「………」

猫又娘「…無理強いはしないよ。もう嫌だって言うなら、私一人でも──」

包帯少女「ううん、大歓迎。一人旅じゃ辛いなーって思ってたところだから」

猫又娘「……へへっ」

猫又娘「まっかせて!途中加入のチートキャラとは私のことよ♪」

包帯少女「期待してます」クスッ

猫又娘「あ、そうそう。前準備として少女さんにやっておいて欲しいことがあったんだ」

包帯少女「なにを?」



猫又娘「少年君と仲直り」



包帯少女「──……」

包帯少女「…な、なんで少年君が…」

猫又娘「なんでじゃないでしょー?あんなにギクシャクしといてさ。しっかり仲直りして蟠りは無くしておくべし!」

包帯少女「……言っとくけど、彼を巻き込むのは反対だからね?」

猫又娘「そんなこと言ってませんー」

猫又娘「…少年君のこと嫌い?」

包帯少女「嫌い…なわけない。でも、こんなおかしくなったぼくが少年君と一緒にいるなんて……」

猫又娘(なーんだ、少年君とおんなじだ。二人とも変なところで鈍いんだ)

猫又娘「そんなこと言ったら、そもそもヒトじゃない私がみんなといること自体おかしな話ですよ」

猫又娘「明日の朝!少年君と話をすること!いい?」

包帯少女「……けど……」


猫又娘「もぉー!」

グイッ

包帯少女「え、ちょっと…!」

パサッ(おぶられる少女)

猫又娘「これ以上言いたいことがあるなら、明日聞きますよー」

猫又娘「今日はもう帰ろ?家まで送っていってあげる」

テクテク

包帯少女「……」

猫又娘「……」テクテク

包帯少女「……ありがと……」

猫又娘(……お礼はまだ早いって)フフッ

猫又娘「♪」

猫又娘「……あ、背負った時気付いたんだけどさ」

包帯少女「ん?」

猫又娘「少女さんて、意外に胸大きいんだね」

包帯少女「………」

ギューッ!

猫又娘「に゙ゃー!!転ぶ!転んじゃうからぁ!尻尾はやめてぇ!」



フラフラテクテク...




ーーーーーーー

幼女「」ヌッ

幼女「……不可思議である」

幼女「人にして妖禍子(アヤカシ)にもある者……人の世に擬態し、人に寄り添う事が何故出来ようか」

幼女「人と妖禍子が共に在ることなど、何れ綻ぶ定めとあろうに…」

幼女(…然し、既に"怪"へ立ち向かう者が居るとは…)

幼女(そしてその者等……猫の怪、人の怪)

幼女(因果の転ぶ先は分からぬものだ)



ーーーーー

包帯少女「──どうして!」ガンッ

包帯少女「──ぼくなの!?」ゴンッ

ーーーーー



幼女(……黄泉から還した女)

幼女(其の期限の来たる前に、戻す必要がある)



幼女(この世界を)



幼女「……」

幼女「皆、我の声を聞け」

妖怪たち「「「……」」」

幼女「そなた達の為す事は一つ。この町に散らばる"怪"を萃めること」

幼女「我はこの山を離れることが適わぬ故、"怪"を封じる事に傾注せむ」

幼女「……ゆけ!」



バサバサ

スタッスタッ

ゴツゴツゴツ



.........




ーーー翌朝 教室ーーー

オハヨー

キノウノテストオヤニオコラレター

ワタシハノーコメントダッタヨ



ガヤガヤ



少年「……」ソワソワ

少年「……」イジイジ



...トットットッ



包帯少女「」トットッ

少年(あ…!)

包帯少女「……」トットッ...

少年「……その、おはよう」

包帯少女「……うん、おはよ」

スッ(席に座る少女)

少年「……」

包帯少女「……」

少年「…あの、さ」

包帯少女「…なに?」

少年「……暑いよね、最近」

包帯少女「……そうだね」

少年「……」

包帯少女「……」




猫又娘「………」

猫又娘(なーにやってんのかなぁ、あの二人は!)

猫又娘「」ガタッ



スタスタスタ



──ポン(二人の肩に手を置く)

少年・包帯少女「「」」ビクッ

猫又娘「…ほら、少年君」

少年「……少女さん、これ」

スッ

包帯少女「…本?」

少年「うん。この前話してたやつ。僕のおすすめ。…少女さんにあげるよ」

少年「だからその……また、色んなお喋りとかしてくれると嬉しい…な、って…」

包帯少女「………確か、主人公が記憶喪失で始まるって物語だっけ」

少年「!覚えててくれたの?」

包帯少女「まあね」フフッ

包帯少女「だってあの時の少年君あんまりにも熱心に喋ってたから」

少年「そ、そうだったかな…?」

包帯少女「……うん、ぼくも、またきみとお喋りしたい」

少年「─!」

包帯少女「お昼、一緒にあの校庭まで行こっか」ニッ

少年「…是非行こう!」

包帯少女「ふふっ、なにその意気込み」

猫又娘「」ウンウン

猫又娘「よかったよかった。美しきかな友情……だよ!」





やっぱり笑顔が一番……だよね!




第三幕ここまでです。

次回第四幕は夢見娘のお話です。

■第四幕 ユメを食むもの■



ーーーーーーー



ガブリ



一番最初に食べたのは、きみのユメ。

まだ目覚めて間もない時。自分が何者かも分かってなかった時。

目の前に美味しそうな色したユメがあったから、つい齧り付いちゃったんだ。

夢見娘(あの味は今も忘れてない)

きみを初めて知った味だから。







ーーーーーーー



ガブリ



私の親はきみ。

それも、きみが最初に描いたマヤカシ。

…嬉しかった。きみに頼りにされてることが。

夢見娘(苦い悪夢は、私が食べてあげる)

代わりにどんな現実が欲しいかな?







ーーーーーーー



ガブリ



きみが好き。

そう言うことが出来るのは、ユメの中だから。

…今日もきみの顔は見れないなぁ。

夢見娘(だって、こんなにも照れてしまう)

本当に顔を合わせたら、火を噴いてしまいそう。




ーーーーーーー



ガブリ



色んなユメに目を向けてみた。

……………。

こうして見ると、楽しそうなユメは思ったより少ない。



ーーーーー

派手娘「うるさいイヤホンを電車でするな!」

派手娘「不味いと分かってる料理を客に出すな!!」

派手娘「その気も無いのに友達面するな!!!」

ーーーーー



不満を声高に叫んでいたり。



ーーーーー

二つ編み母「いい?あなたにはその頭しか取り柄がないんだから、これからもお勉強に手を抜くことがないようにするのよ?」

二つ編み「はい。分かってます」

二つ編み父「父さん達の顔に泥を塗らないでくれよなー。はははっ」

二つ編み「……」

ーーーーー



食いしん坊なオトナたちの餌にされていたり。



ーーーーー

同級生A「お前自分のこと僕とか言ってんだ?」

同級生B「おもしれー。お坊っちゃまじゃん。髪も坊ちゃん刈りとかにしないの?(笑)」

ーーーーー



…弱者に縋るワルモノたちが居たり。

みんな私が食べてしまえたら、きみの周りもちょっとは楽しくなるのかな。

夢見娘(明日はどんなユメを見るんだろう)

今日より優しいユメを見れてますように。




ーーーーーーー



とっても怖いユメに出会った。



今じゃない時。ずっと昔の時代。

感じたのは、駆ける大きな身体と、大勢の怒号、取り囲む炎……それと、強い怒りの気持ち。

そのユメは食べなかった。食べてしまったら、私まで呑まれてしまう気がして。

……………うん。

やっぱりきみのユメにお邪魔します。

きみの楽しいユメは、私も楽しいし。

きみの嬉しいユメは、私も嬉しい。

きみの辛いユメは――私が食べちゃうんだ。

それだけでこんなに胸が高鳴るのは、なんでだろうね?

夢見娘(きみの隣に居たい)

けれどそれは叶わない。

きみと私は、コインの表と裏の住人。

相容れないって分かってる。







ーーーーーーー



ガブリ



きみのユメを食べちゃった。

とってもとっても悲しい結末だったんだ。

ねぇ。

泣かないで?

溺れてしまったクラスメイト。きみにとっての大切な人?

泣かないで…ってば。

あぁ……。

今日はユメは覗きません。きみの涙が止まるまで、悲しいユメを食べ続けるのです。

夢見娘(大丈夫だよ)

せめてユメの中だけでも、笑っていてくれるなら。



.........







ガブリ



消えない、消えない…なくならない。

食べても食べてもきみの悪夢がなくせないんだ。

それに、もう一個嫌なこと。



──世界は、壊れ始めてきてる



元々小さな孔は空いていた。それを"あのヒト"が無理矢理こじ開けた。

ユメの中の私にまで響いてくる、負の感情。……きみがあてられるのも仕様がないよ。



ガブリ



もうお腹はいっぱいだけど、きみを苦しみから遠ざけられるなら、私の食欲はまだまだ尽きません。



ガブ...



……………。

本当は、知ってるんだ。

こんな風にユメを食い散らかすだけじゃ、きみを救ったことにはならないって。

でもね?まるでゲームみたいだったんだ。夜が来るたび、私という理不尽なリセットボタンできみを全部変えられるような気がしていた。

そんなわけないのに。

偉そうにきみを助けているつもりで、していたことはユメを壊すことだけ。

……それでも、私に出来るのはそれだけ。

夢見娘(それが私。ユメを食べるヒト)

…溢れる、溢れてくる。

きみの悪いユメも、世界のねじれも。

間に合わないよ…。

まだ食べ残しがたくさんあるのに…!

やってきちゃうんだ。ユメの世界の終わり──





──午前7時の魔法




ーーー朝ーーー



ピピピピッ ピピピピッ



夢見娘「」パチッ

夢見娘「………」

夢見娘「……」ムクリ

時計『AM 7:00』

夢見娘「………」

夢見娘「……私も……」

夢見娘「行くから……待ってて……」





夢に篭ってるだけじゃきみを助けられないなら、いっそきみの近くで見守っていればいい。

それくらい…いいよね?







ーーー教室ーーー

夢見娘「──夢見娘です」

夢見娘「東中学校から来ました」

生徒たち「………」

夢見娘(ここが学校…普段きみが過ごしている場所…)

少年「……」

夢見娘(!)

夢見娘「………」ドキドキ

教師「………」

「……え、それで終わり?」

教師「…コホン。夢見娘、席はあそこだ。後ろの方で悪いが、何か不都合があったら言ってくれ」

夢見娘「……」



トットットッ



夢見娘「」チラッ

少年「…?」

夢見娘「……」トットッ

夢見娘(……こうしてきみと直接会うのは初めてだね)

夢見娘(きみと同じ所に居るだけでうるさいくらい心臓が跳ね回るけど……)





きみの"厄"を払いにやってきました。




ーーー昼休みーーー

夢見娘「……」ボー



同級生C「な、なぁ。俺あの転校生ちゃんと昼食べようかなって思うんだけど…!」

「転校生ちゃんて…お前もしかしてああいうのが?」

同級生C「どストライク」

「やめといた方がいいんじゃ?あの子誰かと喋るどころかほとんど動こうともしないだろ。謎過ぎる」

同級生C「そこがいいんだよ!謎に満ちた大人しい子……だからこそ時折見せる表情の変化が愛おしいんじゃないか…!」

「お、おう」

同級生C「よーし、行ってくる」

「せいぜい頑張れ…」



夢見娘「……」ボー



少年「……」パク...

包帯少女「……」ハム..ハム..



夢見娘(………)

夢見娘(……背中合わせの二人……)

同級生C「夢見娘、さん…!」

夢見娘「……?」

同級生C「その……お昼ってもう食べちゃった?」

夢見娘「……食べてない……」

同級生C「!じゃ、じゃあ一緒に食べない?夢見娘さんのこと、色々知りたいし!」

夢見娘「お腹、空いてない……」

同級生C「え、そうなの…?」

夢見娘(みんなのユメが無尽蔵に転がってるから)


夢見娘「………」

同級生C「……えーと……そだ!」

ゴソゴソ

同級生C「はいっ」

夢見娘「?」

同級生C「飴だよ。ちょっとしたお菓子ならどうかなーって」

夢見娘「………」

夢見娘「……」ソッ

夢見娘(……アメ……ユメ……)

夢見娘(似ては、いない…)

カサカサ

夢見娘「」アム

同級生C「!」

夢見娘「……」モム..モム..

同級生C(口だけ少し動いてる……かわいい…!)

夢見娘「……」モム..モム..

夢見娘(……甘い……)

夢見娘(きみのユメとどっちが甘いのかな)

夢見娘(……多分、今食べてるアメの方)

夢見娘(今のきみのユメは、少しだけ……苦い気がする)

夢見娘「……」モム..モム..

同級生C「……」ホッコリ



「なにしにいったんだ、同級生Cのやつ…」




ーーー放課後 教室の外ーーー

夢見娘「……」



「──少女さん」

「んっ……あ、ごめん」

「ううん、いいよ。それより体調良くないなら無理せず休んだ方がいいんじゃない?…僕に付き合ってるよりもさ」



夢見娘(……放課後の教室。二人だけのお勉強会)

夢見娘(きみと居られるってだけで、とっても素敵なシチュエーション)

夢見娘(……なのに……)



「そう、だね……うん。明日はテストの日だし、お言葉に甘えてぼくは帰らせてもらうよ。少年君も、もう赤点レベルの科目はないだろうしね」

ガサゴソ

「…それじゃ」

「…うん」

テクテク



夢見娘(ままならない……のかなぁ)

夢見娘(二人とも、本心にないことしかしてないよ)



「──テスト勉強、お疲れ様。教えたこと忘れないように、明日頑張ってね」

「こうやって二人で勉強するのも今日が最後だから………だから………」

「…この時間、嫌いじゃなかった…」ボソッ

...テクテクテク



夢見娘(あ、来る)

夢見娘「」スス...

包帯少女「……」テクテクテク...


夢見娘(……)

夢見娘「……」チラリ



少年「……」ウツムキ



夢見娘「………」

夢見娘(また、視えない涙を流してる)

夢見娘(歪に生き返ったその子)

夢見娘("あのヒト"の焼け付くような怒りに巻き込まれて、きみとその子の関係はねじれ出しちゃった)

夢見娘(ユメと現実の狭間で、きみの心は押し潰されそうになってるんだ…)

夢見娘(………)

夢見娘(…一緒に支えてあげたいな)

夢見娘(きみに触れることは叶わなくても、そう、一言……ううん、二言くらい交わすだけなら)

夢見娘「……」ドキ.. ドキ..

夢見娘(……その前に)



きみを取り巻くその厄介なユメたちを、食べちゃおうか。



ガブリ




ーーー金曜日 テスト当日ーーー

夢見娘「……、…」

少年「……」ノートパラパラ

夢見娘(……きみに話しかける……ことがこんなに難しいなんて……)

夢見娘(……分かってた、けど)

夢見娘(──少年くん)

夢見娘(~~……名前、呼ぶのは出来ないかも…)

同級生C「や。もしかしてテスト、緊張してる?」

夢見娘「……アメの人……」

同級生C「覚え方…」ハハ...

同級生C「俺、同級生Cって言うんだ。よろしくね」

夢見娘「……」

同級生C「それと!今日は飴の人じゃないんだなぁこれが」ガサゴソ

同級生C「はいあげる」

夢見娘「……チョコレート」

同級生C「頭への糖分補給。気休めだけどさ」

夢見娘「……」

同級生C「甘いもの好きかなって思ったんだけど…違った?」

夢見娘「……食べる……」

スッ パク

夢見娘「……」モグ..モグ..

同級生C(はー…!ほんと、小動物みたいだ)

夢見娘(……同級生Cくん……同級生Cくん……)

夢見娘(………少年、くん………)

夢見娘(やっぱり、きみの名前は特別)



教師「うーし。ほら、テスト始めるぞ!ノートはしまえ。カバンは教室の後ろな」



同級生C「もう時間かぁ。夢見娘さん、テスト頑張ろうね」

夢見娘「……」コク

夢見娘「…あなたも」

同級生C「!…あぁ!」

同級生C「♪」テクテク

夢見娘(……頑張る……)



きみのために。




ーーーーーーー

生徒たち「「「さようなら」」」

ハヤクカエロー!

テストドウダッター?



ガヤガヤ



夢見娘「スゥ……ハー……」

少年「……」イソイソ

夢見娘(……うん)

夢見娘「」スクッ

トットットッ

少年「……」テクテク

夢見娘「……」トットッ

夢見娘「……あ、の──」

同級生C「夢見娘さーん!もう帰る?もしよかったら途中まで一緒に帰らない?」

夢見娘「……っ、……私は……」



少年「」テクテクテク...



夢見娘(あ……)

同級生C「あ、ごめん。用事とかあったかな?」

夢見娘「……」

同級生C「それなら昇降口のとこまでとか!…夢見娘さんと話がしたいなーって思ったり…」チラッ

夢見娘「……」ジッ

同級生C「……夢見娘さん?」

夢見娘「………」ジー

同級生C「え…俺の顔、なんか変?」

夢見娘「………」ジーーッ

同級生C(えー!?なに!?なんでこんなに見つめて……はっ!もしかしてついに夢見娘さんの心を開くことに──)

夢見娘「…あなたのユメ、食べてあげない…」ボソッ

同級生C「へ?」

スタスタスタ

同級生C「ちょ、あれ?夢見娘さん?なんて言ったの!ねえっ!?」

「あーあ、振られてやんの」

同級生C「はあ!?ちげぇし!まだちょっとシャイなだけだから!」

同級生C「……だよな?俺、嫌われたんじゃないよな…?」

「いや知らんがな。顔色一つ変わんなかったかんな、あの子」

同級生C「うぅ…頼むぅ……」

同級生C(けどなんとなく……怒ってた……?)




ーーーーーーー



ガブリ



ご機嫌いかがですか?私はちょっと斜めです。

きみと話すこともまだ出来てないんだもん。

ユメの中ならたくさん会ったのになぁ…。

世界はちょっとずつ壊れてる。

苦いユメも少しずつ増えている。

きみと私は交わっちゃいけないもの……人と妖禍子(アヤカシ)。

……けど本当は、そんなことよりも、

夢見娘(きみに触れたい)

私を創ってくれたきみが、どうしようもなく好きだから。

コインの表と裏だって、たまには重なったっていいでしょう?




ーーー翌週月曜日 学校ーーー

少年「……」テクテク

夢見娘(……落ち着いて、私……)

夢見娘(息、整えて……目、逸らさないで……胸、静かにさせて……)

少年「……」テクテク

夢見娘「………ぁ………」

テクテク...

夢見娘(……行っちゃった)シュン





ーーー休み時間ーーー

「ねー二つ編みさん職員室に呼ばれてるって本当?」

「なんかテストの点めちゃくちゃ低かったみたいよ?」

エー ウソー



少年「……」ペラ..ペラ..



夢見娘「……」

夢見娘(今、なら……)

同級生C「──やっほ、夢見娘さん!元気にしてた?」

同級生C「…あのさ、先週、俺なんか嫌なことしちゃったかな…?もしそうだったら謝ろうと思って…」

同級生C「これ!お詫びのしるし……」スッ

同級生C「俺の好きなチューイングキャンディ。名前だけ聞くとちょいおしゃれだよね」

夢見娘「………」

夢見娘「」ヒョイ、パク

夢見娘「……」モムモムモム

同級生C「……おいしい?」

夢見娘「」コクリ

同級生C(かわい過ぎる)キュン

夢見娘「……でも、今日は話しかけないで…」

同級生C「」ガーン





ーーー休み時間2ーーー

夢見娘(今度、こそ……)

夢見娘「……」ギュッ(目を閉じる)

夢見娘(……はじめまして、少年くん……はじめまして、少年くん……)

夢見娘(シミュレーションは、大丈夫……)

夢見娘「……あの、はじめ…まし──」フリカエリ

(少年離席中)

夢見娘「……………」




ーーー放課後ーーー

ワイワイ ガヤガヤ

夢見娘「……」

夢見娘(…結局、今日もダメだった…)

夢見娘(きみはもう教室から出て行った)

夢見娘「……はじめまして……」ポツリ

夢見娘(ではない…んだけれど)



「猫又娘ちゃんってさ、トドノツマリ様って信じる?」

猫又娘「えー?」

「みんな結構噂してるでしょ、──。───」



夢見娘(あの子……)

夢見娘(私と同じ、妖禍子(アヤカシ)の子)

夢見娘(人の住む世界に紛れて、人と一緒に笑い合って……どうしてそんなことが出来るのだろう)

夢見娘(……少し、気になる……彼女のユメも……)



「──それはそうとさ!猫又娘ちゃん今日は新しい手品はしないの?」

猫又娘「へ?」

「実は密かに楽しみにしてたり」エヘ

猫又娘「うーん…今日はねー、すこーし忙しいかもだから――」

夢見娘「私も……見てみたい……」

猫又娘「!?」ギョッ

夢見娘「……」

「ほ、ほらほら!夢見娘ちゃんもこう言ってるよ!」

夢見娘(近くで見たことはみたかったな…)

夢見娘「……」ウズウズ

猫又娘「……分かりました!じゃあ一回だけ」

「やった!」


猫又娘「じゃ始めるよ?」

猫又娘「…こちらはなんでしょう?」スッ

「それ、今日返されたテスト?」

猫又娘「ご名答!もちろん全部私のです」パララ

「…猫又娘ちゃん、これ夏の補習に引っかかっちゃってるんじゃ…」

猫又娘「と思うでしょ?でもこーすれば…」

サササ スッ

夢見娘(!)

猫又娘「じゃん!全教科満点に早変わり!」

「…?けど点数変わってないよ?」

猫又娘「よーく見て」

「……」ジッ

夢見娘「……」ジー

「……あ、百点満点じゃなくなってる」

猫又娘「その通り!ちなみにこっちの模範解答もみんな私の点数が満点になっております」

「あはは!なにそれ地味だけどすごい!」

夢見娘「……」パチパチ

夢見娘("変える"力……でもなんだろう、この子によく似た影が、ほんの少し見え隠れしてる…?)

「ねーいっつもさ、それってどうやってるの?一つくらい仕組み知りたい!」

猫又娘「それは秘密です♪」

猫又娘「!…今日はここまで!私もう行かなくちゃ」

猫又娘「じゃね!」ササッ

「今度私にだけでも教えてよー!」

夢見娘「……」テフリフリ

夢見娘(……)

夢見娘「……まぶしい……」ポツリ

「?」



まるで自分の影さえ照らすようなその様は……少し羨ましいと思った。




ーーーーーーー

あなたのユメを覗いちゃった。

……………。

…分かってしまった。あなたがそこに居る意味、絶え間なく笑う意味、──この世界を守ろうとする意味。

そっか。あなたの本質はあの眩しさにはないんだ。

あなたなりに、その"影"を演じようとしているんだね。

私にも、そんな強さがあればきみを救うことが出来るのかな?

きみに話しかけることも出来ない私なんて……



...ガブリ



夢見娘(!)

…今日のきみのユメは少し、苦くなくなっていた。




undefined

ーーー翌朝 教室ーーー

夢見娘「……」テクテク

夢見娘(……)



少年「……その、おはよう」

包帯少女「……うん、おはよ」



夢見娘「……」ストッ



少年「…あの、さ」

包帯少女「…なに?」

少年「……暑いよね、最近」

包帯少女「……そうだね」



夢見娘「………」



猫又娘「」ガタッ

スタスタスタ ポン

猫又娘「…ほら、少年君」



夢見娘(……あなたが動いてくれたんだ)

夢見娘(昨日のユメが苦くなかったのはきっと…そのおかげ)

同級生C「…あの…おはよーございます…」ソローリ

夢見娘「……」

同級生C「…き、今日は夢見娘さんに話しかけても、いい日…?」

夢見娘「……」

同級生C「ごめん。しつこくて嫌だってことだったら、もう話しかけたりしないよ。……だめ、かな」

夢見娘(……この人みたいに、喋ることが出来たらな……)

夢見娘「………別に、いい……」

同級生C「ほんと!ありがとう!」




包帯少女「──お昼、一緒にあの校庭まで行こっか」ニッ

少年「…是非行こう!」

包帯少女「ふふっ、なにその意気込み」



夢見娘(………)

夢見娘(よかった)フッ

同級生C「!?」

同級生C「今、笑った…?」

夢見娘「!」ハッ

夢見娘「……わ、笑ってない」

同級生C「え、嘘だよ!今絶対笑ってたよねっ。口元がニヤッて…!」

夢見娘「……っ…」プイッ

同級生C(やっばいな本当かわいいこの子)

同級生C「そうだもう一回だけ今の笑顔お願い!今度はちゃんと残しておけるように絶好のシャッターチャンスを──」スマホカマエ

夢見娘「……」ジトー

同級生C「──待っていよう、か……なんて」

夢見娘「……」

同級生C「……」

夢見娘「………」

同級生C「…すみませんでした」

夢見娘「……お菓子……」

同級生C「んえ?」

夢見娘「くれたら、許す……」

同級生C「…!あげるあげる!いくらでも食べて!」ガサゴソ

夢見娘(……)チラリ



少年「─、──。」

包帯少女「──?」

猫又娘「──♪───!」



夢見娘(…うん)




君の、笑った顔。

それを守れれば幸せだなって。

きみの近くにはもうきみを助けようとしてくれるヒトたちがついてるから……

私は私にしか出来ないことを続けてみようと思いました。




第四幕ここまでです。

次回第五幕は二つ編みにスポットが当たります。
そしてようやく物語が動き出します。

■第五幕 ミえていないことにするもの■



ーーー第二校庭ーーー

カキーン

ゴロゴロゴロ...

包帯少女「おっとぉ…!」ズサァ

包帯少女「ふぅ、なんとか捕れた。…少年君!こっち側は道路の方だよー!」

少年「ご、ごめーん!コントロールが難しくて…!」

少年「打つ方も楽じゃないんだな…」

包帯少女「教えなくちゃいけないのは勉強だけじゃないみたいだね?」

少年「えー?なんて言ったの!」

タッタッタッ

少年「あれ、少女さんこっちに来たってことは…打つの交代?」

包帯少女「ううん。また先生になりに来たの」

少年「はい?」

包帯少女「打ち方、教えてあげる。ほらバット構えて」

少年「そんなに酷かったかな」

包帯少女「ボールこれ一個しかないからさ、ちゃんとぼくのいる方に打ってくれないと、なくしちゃうかもしれないじゃない?」

少年「あはは…」

ギュッ

包帯少女「いい?まず握り方はこう。でもって振り初めは──」

少年(…この時間がすっごく楽しい)

少年(またこうして少女さんと過ごせるようになるなんて、思ってなかった)

少年(……大切にしたい。この人との関係)

ムニュ

少年「!!」

包帯少女「──ここまで振り抜いちゃっていい……これが一通りの動き。どう?出来そう?」

少年「え、えと…」

包帯少女「?分かんなかった?…ふふ、今朝の意気込みはどこいったの?」

包帯少女「もう一回補助するから、動きをなぞってみること」グイッ

ムニュリ

少年「いやその…!」

少年(当たってます…分かり過ぎるほど当たっちゃってます…!)

少年「」モンモン

包帯少女「?」


少年「…そ、そういえば!」

少年「猫又娘さん、結構遅いね」

包帯少女「あー、あの子の頭じゃね…今頃補習授業のプリント山積みにしてるんじゃないかな」

少年「えぇ…補習ってプリント解いて提出しないと帰れないんじゃなかったっけ…」

包帯少女「多分あの子のことだから、適当なところで先生誤魔化して抜け出しくる…なんてことしてそう」

少年「さすがに一枚くらいは真面目に提出するんだと思うけど」



猫又娘「おーい!お二人さーん!」テッテッテッ



少年「噂をすれば」

猫又娘「ふぃ~…お待たせ」

包帯少女「補習、お疲れ様」

猫又娘「もーほんとだよー!どうして補習なんてものがこの世にあるのかな!一回授業でやったこともっかいやり直すだけの作業なんてさー!」

少年「一回の授業で覚えられてないからだろうね…」

包帯少女「でも補習終わったってことはある程度頭に入れられたんだよね?」

猫又娘「……えへへ」

少年「…まさか」

猫又娘「いやいやいや!ちゃんとプリントは提出してきましたよ!……ちょーっとお茶目な答えが多いけど」

少年・包帯少女((これは真面目にやってないな))


猫又娘「そんなことよりさ!帰ろ帰ろ!早いとこ作戦会議と洒落込もうじゃあないか」

少年「作戦会議?」

猫又娘「あ…こっちの話」ニシシ

包帯少女「ちょっと待って。その前に」



タッタッタッ



包帯少女「少年くーん!ラスト一回、さっき教えた通りに打ってみてー!」

少年「!…少女さん…」

猫又娘「やきゅう?だっけ。玉当て…私もできるかなぁ」

少年(教えた通りに…)



ーーーーー

包帯少女「──動きをなぞってみること」ムニュリ

ーーーーー



少年(……!)

少年「」ブンブン

猫又娘「?」

少年「…よし」

少年「いくよ!少女さん!」

包帯少女「いつでもどうぞー!」

少年「……」スッ

少年(……ここ!)ブン

カキン!



猫又娘「にゃ?」



──ゴチン!




ーーーーーーー

少年「…ごめんよ、猫又娘さん」テクテク

猫又娘「いいっていいって!こんなのすぐ治るから!」テクテク

包帯少女「綺麗なタンコブになっちゃったね…」テクテク

少年「う……ちゃんと真っ直ぐ打てるように練習します……」

猫又娘「気にしなくていいって言ってるのにー」

猫又娘(この前派手娘さんにシメられた時の方が痛かったくらいなので…)

少年「……けど知らなかったな」

少年「猫又娘さん、僕だけじゃなくて少女さんとも話をしたことがあったんだね」

猫又娘「…まぁね~」

少年「僕たちの仲直りの為に奔走してくれてたんだなって思ってさ……猫又娘さんが居なかったら僕たちは今頃…」

包帯少女「……」

猫又娘「悩みあるところに私あり、ですから!」

猫又娘(それでも、まだ何も解決してないからなー)

包帯少女「…ん」テク...

包帯少女「この道、ぼくと猫又娘さんは右なんだ」

少年「猫又娘さんも?僕は真っ直ぐだから──」

猫又娘「ここで、お別れなんですね…」ヨヨヨ

包帯少女「変なお芝居してないで、行くよ?」

猫又娘「はーい」

少年(面白い人だよなー…)

包帯少女「それじゃ少年君、また明日」テフリフリ

少年「!…あ、あぁ!」フリフリ

少年(また、明日…)

少年(……♪)



タッタッタッ...



.........







猫又娘「さーてと」

包帯少女「……」

猫又娘「…やっと、二人きりになれたね、少女ちゃん…//」

包帯少女「また尻尾掴まれたい?」

猫又娘「真面目にやりますはい」

包帯少女「…第1回作戦会議…って感じでいいの?」

猫又娘「イエス!今日はまず、情報の整理から始めたいかな」

包帯少女「というと?」

猫又娘「私のことはある程度話したよね?だからお次は、少女さんがなんであの化け物と戦ってるのかを知りたいな」

包帯少女「……戦ってる……そう、だね…」

包帯少女「ぼくが初めてオニを見たのは2週間前の…日曜日。夜眠ろうとしてたら部屋に歩く骨みたいなのが入ってきてさ。その時は相当驚いたけど、思わずバットで殴り壊してたよ」

猫又娘「わぁお…」

包帯少女「でもその後…外のあの光景を見た。悪夢か何かだと思ったよ。けどね…」

包帯少女「…次の日の夜も変わらなかったの。身体の痛みもなくならない」

猫又娘「……」

包帯少女「ねぇ、あのオニたちが何をしているのか見たことある?」

猫又娘「なにって…我が物顔で町を飛び回って、侵略…とか?」

包帯少女「ある意味そうなのかもね」

包帯少女「……オニに触られた人が、同じようにオニになるのを見たんだ」

猫又娘「…!」

包帯少女「だからぼくは、あいつらを少しでもこの町から減らそうとしてたんだけど、ちっぽけな一人の力じゃなかなか厳しかったみたいでさ…後はあなたも知っての通りだね」

猫又娘(触られたら、同じ化け物にされる…?)

猫又娘「…あのさ、それならさ、そのオニにされちゃったって人、捜索願いとか出されてるんじゃ…」

猫又娘「ううん、仮にそれが一人だけじゃないんだとすると、もう何人も行方不明になってますってニュースの一つや二つ流れてもいい気がする」

包帯少女「確かに聞かないね。ここの近くで起こってないってだけとか」

猫又娘「うむむ…」

包帯少女「……」


猫又娘(……)

猫又娘「…少女さんがその包帯着けてるのって、さっき言ってた身体が痛むから、なんだよね?」

包帯少女「うん」

猫又娘「んで、痛みが出てきたのも2週前の日曜日」

包帯少女「…うん」

猫又娘「……その前に、何かあった?」

包帯少女「……」

猫又娘「例えば、土曜日に奇妙なことが起こった…とか」

猫又娘(少年君の言ってた、池に突き落とした出来事はまさにその土曜日だったはず)

包帯少女「………」

猫又娘「……」

包帯少女「…何も、ないよ」

猫又娘(!)

包帯少女「どうしてそんなこと訊くの?」

猫又娘「…だってさ、その包帯巻き始めたのも、化け物共が湧き始めたのも同じ日曜日のタイミングだったんでしょ?」

包帯少女「そうだけど…」

猫又娘「……本当に、何もなかった?」

包帯少女「………」

包帯少女「……溺れる、夢を見た」

包帯少女「南町神社あるよね?あの神社の横道を少し行ったところに変な池があってね、そこに溺れて沈んでいく……そんな夢を見たくらい」

猫又娘(……それは多分、夢じゃないんだろうね。そう分かってるから、そんな思い詰めた顔をする)

猫又娘(少年君の名前を出さないのは、彼を庇うため?それとも認めたくないから…?)

包帯少女「──猫又娘さんは?」

猫又娘「ほへ?」

包帯少女「ある程度話したとか言ってたけど、あなたがそもそもどうやって生きてきたのかとか、全然知らないよ?」

猫又娘「私!?……は、物心ついた時にはこうだったんよね。気付いたら猫又としてここに居ました、みたいな」

包帯少女「…やっぱり、あなたオニだよね?」

猫又娘「んー、確かにあの化け物たちと同じような感覚はあるけど…」

包帯少女「……撃退しなきゃ」ユラァ

猫又娘「にゃ!?ストップストップ!オニはオニでも悪いオニじゃないから!」

包帯少女「冗談だよ」クスッ

猫又娘(バット構えるのは冗談でも怖い)


猫又娘「というか!その点で言ったら少女さんも他人事じゃないんよ!」

猫又娘「その包帯の下、私たちとおんなじ気配がしてるんだからね?」

包帯少女「──!」

包帯少女(……そっか……)

包帯少女「…じゃあぼくも猫又娘さんみたいに魔法使えるようになるかな?」

猫又娘「魔法って言うとすごくファンタジックに聞こえるね……少女さんの場合、そのバットに魔力が宿ってるのでは?」プププ

包帯少女「へぇー、そう」グリグリ

猫又娘「痛い痛いバット押し当てるのやめてー!」

包帯少女「…それで、自称良いオニの猫又娘さんはなんで他のオニたちを斃してまわってたの?」

猫又娘「そりゃあねぇ。私たちの住むこの町が好き勝手にされるなんて見過ごせないじゃん?」

包帯少女「…正義のヒーロー?」

猫又娘「そんな大層なもんじゃないよ。私はただ」

猫又娘「──世界を少し、明るくできたらいいなって」

猫又娘「…それだけ」ニコッ

包帯少女「……初めて頼もしく見えたかも」

猫又娘「なにをー!昨日絶体絶命のピンチを助けてあげたじゃんか!」

包帯少女「それはそれ。これはこれ」

猫又娘「意味分かんないから!」

包帯少女「そういうからかい甲斐があるところのせいかなー」ククク

猫又娘「む……」


猫又娘「……とにかく!」

猫又娘「あとは今後の方針を決めていきましょ!」

猫又娘「私思ったんだけど、これまでみたいに闇雲にあいつらを倒してくだけじゃダメなんだよきっと」

包帯少女「それには同意。結局のところあの怪物が何処から現れたのか、そもそもなんなのかが分からないと前に進まない気がする。…でも昨日みたいなのが出てきたら危ないとも思う…」

猫又娘「あー、あのでっかいやつね。野放しにしてたら間違いなく何か起きてたよねぇ…」

包帯少女「うん。だから今まで通りオニ退治は──」

猫又娘「そこだよ!」

包帯少女「え?」

猫又娘「あの化け物退治!それは私一人でやります!具体的には、見張り兼退治ってところですけど」

包帯少女「そんな──」

猫又娘「やられそうになってた誰かさんは大人しく家で寝ててくださいな。そのかわり情報収集の要は任せたから!」

包帯少女「………そういうことなら」

猫又娘「物分かりがよくて助かりますな~」

包帯少女「でもどこから探してけばいいのかな」

猫又娘「…それを考えるのもお任せします」

包帯少女「……」ジトッ

包帯少女「…猫又娘さん、同じ猫又の知り合いとかいないの?」

猫又娘「いないいない。居たらその子にもじゃんじゃん協力してもらってるよー」

猫又娘「……あ」

猫又娘「そうだ言ってなかった。猫又じゃないけどさ、居たよ、うちのクラスに」

包帯少女「そうなの…!?」

猫又娘「うん。ほら先週転校してきたあの子」

包帯少女「あの子って」



包帯少女「…夢見娘さん…?」




ーーーーーーー

少年「……」テクテク

少年(…少女さん…)

少年(柔らかかったな……)

少年「…って、ダメだダメだ。なに考えてるんだ」

少年「ん?」



夢見娘「!」

夢見娘「」タッタッタッ...



少年「……あの人……」




ーーー二つ編み宅ーーー



ガチャリ



二つ編み「…ただいま帰りました」

ドタドタドタ

二つ編み母「ちょっと!帰りが遅いんじゃないの!?」

二つ編み「すみません。補習課題があったもので…」

二つ編み母「そんなのあなたの自業自得でしょう!家のお勉強もあるんだからさっさと帰ってきなさい!」

二つ編み「……はい」

二つ編み母「分かったら部屋に行ってお勉強の続き!今日の分が終わらなかったら承知しませんからね」

二つ編み母「まったく補習だなんて恥ずかしいったらないわ…」トットットッ...

二つ編み「……」





ーーー自室ーーー

二つ編み「……」カキカキ

二つ編み「……」カキ...

二つ編み「………」

二つ編み(……まただ)



──いやぁああ!

──やめてくれ…!

──くる…しい……



二つ編み「………」

グシャッ

二つ編み「やめて欲しいのはこっちの方よ…!」

二つ編み(頭に響く気味の悪い悲鳴)

二つ編み(それは2週間前の日曜日から始まった。最初に聞こえたのは訳の分からない呻き声。でも周りにはわたし以外の人物は見当たらない)

二つ編み(それからずっと、この変な声と…)

二つ編み「……っ」

二つ編み(…何かに見られてるような気配が、わたしの思考を掻き乱す)

二つ編み(本当煩わしい。ただでさえ面倒臭い世界だっていうのに、これ以上わたしの邪魔をしないでよ…!)

二つ編み「……」...カキカキ

二つ編み(……おかげで基礎学力テストの成績は最悪。いつもなら難なく解ける問題も、あの日は全く頭に入ってこなかった)



──もうやだよ……たすけて……



二つ編み(……消えて、くれないかしら……)

二つ編み(この悲鳴も、口うるさい親も、わたし自身も……全部!)




ーーー翌朝 教室ーーー

二つ編み「……」カキカキ

二つ編み(結局昨日終わらなかった…。今の内に片付けておかないと、また怒鳴られる)



「聞いた?二つ編みさんが補習に引っかかってるって…」

「知ってるー、前のテスト悲惨だったんだってさ」

「ぷっ、あのガリ勉から勉強取ったらなにが残るのよ」

クスクス...



二つ編み(……うるさいわね)

二つ編み(どうせ他人を利用することしか能がないくせして、群れたら他人を貶めようとする)

二つ編み(一人じゃ何も出来ないんでしょ?)

二つ編み「……」カキカキ

二つ編み(…一人じゃ何も出来ないのは、わたしも同じか…)



──ここから出してよ…



二つ編み(……すすり泣くような声)

二つ編み(わたし、呪われたのかしら。それとももうすぐ死ぬ?)

二つ編み(それならそれでいいけれど……)

二つ編み(このままこの苦痛しかない日々を続けさせられるのは、ごめんだわ)

二つ編み「……」ググッ...

ポキッ

二つ編み「!」

二つ編み「……」カチカチ

...ジロッ

二つ編み(っ!)

二つ編み「」バッ



(談笑するクラスメイトたち)



二つ編み「……っっ」

二つ編み(誰……誰なの!?)

二つ編み(お願いだから、もうわたしを見ないで…!)







包帯少女「──夢見娘さんが?」

少年「そう。僕の家の近くに居たんだよ」

猫又娘「見間違いじゃなくてー?」

少年「はっきり顔を見たからそれはないはず。僕に見つかったら逃げていったし…」

少年「それでさ、この前聞きそびれちゃったんだけど、あの人少女さんの知り合いだったりする?」

少年「学校でもよくこっちを見てるんだよね」

包帯少女「え」チラリ



夢見娘「…!」フイッ



包帯少女(…本当だ)

包帯少女「あの子も、人じゃないんだよね?」ヒソヒソ

猫又娘「うむぅ…でも変な悪さするような子には見えないけどなぁ」ヒソヒソ

包帯少女「けど万が一ってことも…」ヒソヒソ

少年「え、なに?二人とも心当たりあったりする?」

包帯少女「知らない子だけど…」

猫又娘「ふむ…」

少年「?」

猫又娘「……だったら直接本人に訊くしかないっしょ」

包帯少女「なっ」

少年「それしかないかなぁ。ずっと見てくるの、気になるしなぁ」

包帯少女「なに考えてるの…!そんな危ないこと…」ヒソヒソ

猫又娘「大丈夫大丈夫、いざとなれば私もいるんだし。それに…あっちの派手娘さんに話しかけるよりはハードル低いと思うから」ヒソヒソ



派手娘「なんであんたらはいつもいつも──!」ガミガミ

同級生A・B「「……」」チヂコマリ



包帯少女「…あれは、また別次元の話でしょ」


猫又娘「ともかくだ、少年君!気にかかることはそのままにしといちゃいかん!」

猫又娘「もしかしたら、あの子きみのことが好きなのかもしれないし?」

少年「!?」

包帯少女「」ムッ

猫又娘「そうと決まれば善は急げ♪行った行った!」



同級生C「──夢見娘さん、おはよう!」

夢見娘「……」コクリ

同級生C「今日は我ながら素晴らしい報告が──」



猫又娘「…あちゃー」

包帯少女「同級生Cくん、だっけ」

猫又娘「ま、しょうがない。あの子が捕まるタイミングで行くしかないね」

包帯少女「……彼、絶対夢見娘さんのこと好きだよね」

猫又娘「ん~…!いいじゃんいいじゃん!恋って素敵だよー!」

猫又娘「私的にはあれくらいアタックしてくれる方が燃えるな~!」

猫又娘「ね?少年君?」

少年「え!?なんで僕!?」

包帯少女「……そうなの?」

少年「いや……えぇ…?僕は…」

包帯少女「……」

少年(えも言われぬ圧力を感じる…)

少年「…好きとか好きじゃないとか、よく分かんない、かな」

猫又娘「えー?つまんなーい。もっとキュンキュンするような話をさー、聞かせておくれよー」

包帯少女「そこ、いい加減黙る」ビシッ

猫又娘「あたっ」

少年「ははは…」

少年(……好きな人、か……)

包帯少女「あなたほんとその元気はどこから湧いてくるの…」

猫又娘「いつでもみんなの太陽ですから!」エッヘン

少年「……」

包帯少女「…ん、どうかした?」

少年「な、なんでもない」




ーーー放課後 学校ーーー

二つ編み「……」テク..テク..

二つ編み「はぁ……」

二つ編み(足が重い…)

二つ編み(家、帰りたくない…)

二つ編み「……」テク..テク..

二つ編み(わたしって何が楽しくて生きてるんだろう)

二つ編み(学校にはただただ文字を書き殴りに来て、家に戻れば両親の言いなり人形)

二つ編み(人並みの遊びなんか知らない…)

二つ編み(挙句……意味分からない呪いまで貰ってきちゃって)

二つ編み(……わたしはなんなの?)

二つ編み「……ぅ……」

二つ編み(気分悪く……)

二つ編み(お手洗い…)

フラフラ



包帯少女「──、─」

猫又娘「──?───」



二つ編み「……」フラ..フラ..

二つ編み(…あの二人…クラスの……)



猫又娘「──見に行ったら、目に見えて少なくなってたんよ」

包帯少女「あの大きなオニがオニを作り出してたってこと?でも──」



二つ編み「……?」フラ...

二つ編み(何の話をしてるのかしら…)

二つ編み(……とりあえず、早く行──)



猫又娘「んにゃー、私はどうしても先々週の日曜日がキーポイントだと思うんだよねぇ。今のところ全部、そこが起点になってるじゃん?」



二つ編み(!!)

二つ編み(2週前の、日曜日…!)

スタスタスタ!

二つ編み「ねぇ!!」

包帯少女「?」

猫又娘「!?」



二つ編み「その話、詳しく聞かせてくれない…?」




ーーーーーーー

少年「一人で帰ってると、やっぱ物足りない気がするなぁ」テクテク

少年(それだけ最近、誰かと一緒にいることが多いんだろうな)

少年(少女さん、今日は猫又娘さんの勉強を見るって言って学校に残ってった……僕は戦力外通告ってことか。まぁ自覚はあるけどさ)

少年(件の夢見娘さんには同級生C君(だっけ?)がベッタリくっついてて話す隙さえなかったし)

少年「なんだろうなー……」テクテク

少年(この引っかかる感じ)

少年(噛み合わない歯車を見てるような、日々…)

少年「……」

少年(やっぱり、あの包帯が……)

少年(……いつ取れるんだろ)

テクテク...





夢見娘「……」ソッ...




ーーー学校ーーー

二つ編み「つまり、その日以来あなたたち二人でその怪物を減らそうとしてたってこと?」

猫又娘「実際協力しようってなったのは一昨日からだけどね~。それまで少女さんが戦ってることも知らなかったもんで」

二つ編み「戦う……あなた陰陽師か何か?」

包帯少女「ぼくは普通の人間だよ」

猫又娘「…趣味はバットによる殴打です」ボソリ

包帯少女「」ギロッ

猫又娘「ひっ!じ、事実じゃん…!?」

包帯少女「偶々手近にあった武器なだけだから」

二つ編み「なんか、思ってたより勇ましい人なのね…」

包帯少女「…というか、信じるの?こんな話」

二つ編み「えぇ。信じる…いえ、信じるしかないの」

二つ編み「だってわたしも、ここ最近ずっとおかしなことが続いてるから」

二つ編み(この地獄から抜け出せるなら、藁にだって縋る)

猫又娘「何があったの?」

二つ編み「頭の中で悲鳴や泣き声が聞こえてきたり、なにかに見られてるような気がしたり…」

...ギョロ

二つ編み「っ!い、今も…」

猫又娘「…誰もいない、はずだけど」

二つ編み「きっとあなたたちの言う怪物の仕業なのよ…!」

二つ編み「だから……わたしも手伝うわ。このバカみたいな事態と一刻も早くおさらばしましょう」

猫又娘「そんな強引に」

包帯少女「…その申し出は正直ありがたいけど、二つ編みさんは平気なの?」

二つ編み「なにがかしら?」

包帯少女「自分から関わっていくとなると、もっと酷いことが起きるかもしれない……そんな可能性が付き纏うんだよ」

二つ編み「…今以上に酷くなることなんてないわよ」

包帯少女「……そう」

二つ編み「………」

猫又娘(…?)


二つ編み「……今分かってることは?」

包帯少女「え?」

二つ編み「手伝うって言った手前情けないけど、わたしそいつらが見えたことないから戦うとかは出来ないと思う。調べ物の方に手を貸すわ。…本当はこの手で叩き潰してやりたいのに…」

猫又娘「例え見えたとしても戦うのは危ないからね!?」

猫又娘(女の子って好戦的な子ばっかりなんだなぁ…)

包帯少女「その話もしようと思ってたところ」

包帯少女「昨日、色々調べてみたんだけど…ごめん、今のところ収穫はゼロ。妖怪とか魔物とかそれらしいワードで検索かけてみたんだけどね…ぼくが見たようなオニの画像はまったく引っかかんなかった」

二つ編み「よく聞くような妖怪じゃないってことね」

包帯少女「うん。確かにどれ一つとして見たことない……それこそ得体の知れない姿形だったからね」

包帯少女「例外もあるけど…」チラッ

猫又娘「にゃはは…」

二つ編み「事実は小説より奇なりとは言うけれど……」

二つ編み(妖怪……そういえば)

二つ編み「…案外、かなりマイナーな怪異とかだったりするのかもしれないわね」

猫又娘「あんなに大暴れしてるのに?」

二つ編み「規模は関係ないのよきっと。あなたたちも聞いたことあるでしょう?」



二つ編み「トドノツマリ様」



包帯少女・猫又娘「「!」」

二つ編み「あの噂だって全く有名ではないけどここ南町ではそれなりに昔から伝えられてきた話だって聞いたわ」

二つ編み「それと同じように、あなたの見た怪物も地域の限られた伝承なんじゃないかしら」

包帯少女「なるほど…」

猫又娘「おー」

包帯少女「…あなたも少しは考えて」

猫又娘「これでも考えてるよ!?」


包帯少女「でも、そんなのどう探していけばいいのかな」

包帯少女「トドノツマリ様みたいな噂になってるとして、一人ずつ聞き込みをしていく…くらい?」

猫又娘「それなら私に任せて!人を集めるのは得意なのですよ!」

二つ編み「いいえ。それは最終手段くらいでいいと思う」

二つ編み「わたしのおばあ……祖母が経営してる古書店があるのよ。多分そこならローカルな言い伝えとかある程度は調べられるはず」

猫又娘(!…私のことも載ってるんかな)

二つ編み「あ。…ごめんなさい、それは明日でもいいかしら」

包帯少女「ぼくは構わないよ」

猫又娘「そういえば二つ編みさんいっつも早々と帰ってるよね。習い事か何か?」

二つ編み「いえ…うち、親が少し厳しいから…」

包帯少女(……)

猫又娘「……その顔!」

二つ編み「え…?」

猫又娘「さては普段からずっとそういう暗い顔してるでしょ」

猫又娘「二つ編みさんがオニたちの影響を受けてるの、案外そういう気の持ちようのせいだったりするんじゃない?」

猫又娘「笑顔は万病の薬だよ!無理矢理でも笑えば、楽しくなってくるよ!」

猫又娘「こうやって!」ニーッ

二つ編み「何の話…」

猫又娘「ほらほら」

二つ編み「……」

包帯少女「……そこまで。二つ編みさん困ってるから」

包帯少女「引き留めてごめん。急いでるんだよね?また明日よろしく」

二つ編み「…そう、ね」

二つ編み(…!もうこんな時間…!)

二つ編み「先に帰るわね、さよなら…!」



スタスタスタ...



猫又娘「……あーあ、結局笑った顔見れなかったなー」

包帯少女「見境ないよね、あなた」

猫又娘「んー?そうは言うけど、あの子は特別だよ。だって」



猫又娘「──二つ編みさんの笑顔、今まで一回も見たことないんだもん」



包帯少女「…!」

包帯少女「……そういうとこ、尊敬するよ」

猫又娘「ほんと?やったっ」




ーーーーーーー

二つ編み「……」スタスタ

二つ編み(……怪物……)

二つ編み(胸糞悪いわ。本当にそいつらのせいなのだとしたら、どうしようもないじゃないの)

二つ編み(そんなの…あまりに理不尽過ぎる)

二つ編み「……」スタスタ



ーーーーー

猫又娘「――無理矢理でも笑えば、楽しくなってくるよ!」

ーーーーー



二つ編み(……)

二つ編み(……笑顔なんて、関係あるのかしら……)

スタスタ...





黒服男「………」





黒服男「…思惑に沿わぬ現況」

黒服男「その要因を探りに来たが……よもや人の子らだったとはな」

黒服男「一つは純粋な人」

黒服男「一つは人と妖禍子(アヤカシ)の混じった猫」

黒服男「一つは…」

黒服男(…水底に沈んだはずのあの娘…)

黒服男「……」

黒服男(だが、それだけではあるまい)

黒服男(あの妖禍子の減りよう……)

黒服男「……娘を現世に戻した存在か」

黒服男(同じ気配を感じる)

黒服男「…道を塞ぐものは除くのみ」




ーーー翌日放課後 校門前ーーー

包帯少女「……」スッ..スッ(スマホいじってる)

タッタッタッ

二つ編み「お待たせ。行きましょうか」

包帯少女「…本当に来れたんだね。補習は平気だったの?」テクテク

二つ編み「ちょっと先生に頼み込んで、プリント繰り上げて終わらせたのよ」テクテク

包帯少女「そんなこと出来たんだ」

二つ編み「…えぇ」

二つ編み(元々成績"だけ"は良かったから…特別処遇ね。こういう時だけは助かる)

包帯少女「でも今日補習の日だったなんてね……猫又娘さん、律儀に出席しちゃうから…」

二つ編み「あの子ただでさえ教師に目付けられてるものね。…さっき補習室出る時すごい目で見てきたけど」

包帯少女「今日分かったことは後でちゃんと教えるって言っといたのに」

二つ編み「…なんか好奇心旺盛な子供を見てるみたい」

包帯少女「言えてる」クスッ

二つ編み「……」

包帯少女「……」

二つ編み(………)

二つ編み「……ねぇ、その包帯」

二つ編み「それも例の怪物にやられたの?」

包帯少女「……これはちょっと違うと思ってる」

包帯少女「あいつらに触れたりするとすごい痛み出すの。それが尾を引いちゃって……着けてないと不安になるようになっちゃった」

二つ編み「…始まりはやっぱり2週間前の日曜日なのよね?」

包帯少女「そう」

二つ編み「……全部その日が……いえ、でもそこに固執するのも……もしかして見えているものが全てとは……」ブツブツ

二つ編み「──その前の日、土曜日あたりに何か変わったことはなかった?」

包帯少女「っ…!」

包帯少女(……)

二つ編み「……聞こえてる?」

包帯少女「…うん」

包帯少女「なかったよ、特に」

二つ編み「………」

包帯少女「………」


二つ編み「嘘ね」

包帯少女「!どうして…」

二つ編み「分かるわよ、それくらい」

二つ編み「でもいい。無理に聞こうとはしないから」

二つ編み「人に知られたくないことの一つや二つ、あるものね」

包帯少女「……」

二つ編み「けど覚えておいて。それがこの怪奇現象の打開の鍵を握ることがあれば、いずれ向き合うことになる」

包帯少女「………知ってるよ」

包帯少女(言われなくても、自分が一番分かってる…)

包帯少女「…二つ編みさんにも、あるの?知られたくないこと」

二つ編み「……あるわ」

二つ編み(……誰にも晒したくないもの……)



ーーーーー

二つ編み母「──あなたの頭なら、この高校くらい行けるでしょ?受験しなさい。いいわね?」

二つ編み「はい」

ーーーーー



二つ編み(………)



二つ編み(それはわたしの──弱さ)




ーーー古書店ーーー

二つ編み「──おばあちゃん、居る?」



...ガララ



老婆「おや…二つ編みちゃん、いらっしゃい」

二つ編み「あのね、今ちょっとした調べ物してて。ここの本、少し読ませてもらってもいいかな?」

包帯少女(口調が柔らかい……意外におばあちゃん子?)

老婆「ええよええよ遠慮せんで。…そちらはお友達かい?」

包帯少女「あ…はい、そうです。不躾なお願いなのに、ありがとうございます」

老婆「しっかりしとるのぉ。気にしなくてええけんの」

老婆「気の済むまで見てっておくれ」ニッコリ



.........





ガサゴソ

二つ編み「……」パラパラ

ガサッ

包帯少女「……んー……」ペラ...

二つ編み「……」パララ

二つ編み「……これは違う?」スッ

包帯少女「ん?…違うね」

二つ編み「はー……これだけ探しても見つからないなんて」

包帯少女「知らなくてよかったような言い伝えなら嫌になるほどあったのにね…」

二つ編み「どれも昔教えて貰ったのばっかりよ」

包帯少女「昔?」



老婆「調べ物は順調かねぇ?」



二つ編み「おばあちゃん……あんまり進んでないの…」

老婆「そうかい……」

老婆「あれま。懐かしいねぇ」

老婆「物の怪、妖怪の本。…二つ編みちゃんの小さかった頃、たくさんお話聞かせたっけねぇ」

二つ編み「うん……覚えてる」

老婆「あんまり怖がらせると夜外に出たがらなくなるもんだから、おうちに帰るのも一苦労だったわね」

二つ編み「そ、そういうのはいいから!」

包帯少女(…なんだか、楽しそう)


老婆「ほほほ。まぁ、根詰めるのも程々にの。茶菓子でも食べて、休憩しなされ」コトッ

二つ編み「…ありがと」

老婆「お友達もどうぞ」

包帯少女「ありがとう、ございます」

包帯少女(すごく優しいおばあちゃんだな…家が厳しいって言ってたけど、このおばあちゃん見てると全然そんな気はしないのに)

包帯少女「……」スッ

包帯少女「あ…!」

包帯少女「これ…これだよ!」

老婆「はて?」

二つ編み「どうしたのよ…?」

包帯少女「このお盆に描いてある絵!」

(1体の異形の絵)

包帯少女「ぼくが見たオニにそっくり!」

二つ編み「そうなの!これが…!」

老婆「ほぉ……」

老婆「あんたたち、妖禍子(アヤカシ)について調べてたのかい?」

包帯少女「あやかし…?」



.........







老婆「ほれ、この本だったはずだよ」スッ

二つ編み「……表紙、何も書いてないよ?」

老婆「古い伝記みたいなものだからねぇ。売り物としても置けないさね」ホホ

二つ編み「……」パラ...

包帯少女「……」ノゾキコミ



『妖禍子。それは古来よりこの南町に語り継がれる異形の存在。その由来や行動目的など、彼らについて判明していることは非常に少ない。しかし唯一はっきりしているのは、彼らの存在は我々人間の世を脅かしかねないということ。見つけ次第封印を施さねばならない。

彼らを知らずに、見逃してしまうことのないようこの書には知りうる限りの見聞を記す。』



包帯少女(……)

二つ編み「……」パラ..パラ..

包帯少女「…!」

包帯少女「これ、見たことある。こっちのも」

二つ編み「どうやら、間違いなさそうね」

二つ編み「妖禍子……これがわたしたちが消し去るべき…」

二つ編み「敵」

包帯少女「………」

二つ編み「………」

ペラ

老婆「こりゃ驚いた……まさか妖禍子に会ったっちゅうんかね?」

二つ編み「わたしは見てないけど、この子がね」

二つ編み「ねぇおばあちゃん、この端書きにある封印って、具体的に何をするの?この本肝心な方法が書いてないよ」

老婆「封印ねぇ……」

包帯少女(…!これ…)



『猫又』



包帯少女(小さな猫に尻尾が二本……猫又娘さんと同じだ)

老婆「具体的にこう封印しますよ…って話は聞いたことないけどねぇ」

老婆「ばあちゃんが知っとるんは、昔々…大勢の妖禍子達がうちらの神社に封じ込められたなんちゅう逸話くらいさね」

包帯少女「!」

二つ編み「それって、南町神社?」

老婆「そうそう」


二つ編み「……」

包帯少女「……」

二つ編み「段々、繋がってきたわね」

包帯少女「うん」

二つ編み(けれど、あと一歩……足りない。封印の件は置いといたとして、まだはっきりとしない部分があるのよね…)

二つ編み「おばあちゃん、妖禍子について他に知ってることってないの?何でもいいの。どんな小さいことでも…!」

老婆「なんだろねぇ……ふーむ……」

老婆「……そのヒトら、今でこそ妖禍子なんて呼ばれて忌み嫌われてるだろう?けんども、ばあちゃんにはねぇ」

老婆「なんとなくだけど、悪さするようなもんにゃ思えないんだよねぇ」

二つ編み「それは感想じゃないの…」

老婆「ほっほっ。何でもええ言うたのは二つ編みちゃんさね」

二つ編み「そうだけどぉ…」

包帯少女「…二つ編みさんさ」

二つ編み「なに?」

包帯少女「おばあちゃんのこと大好きなんだね?」

二つ編み「はっ!?いきなり何言い出すのよ…!?」

包帯少女「だっていつもより楽しそうにお話してるじゃない」

二つ編み「そんなこと…!」

老婆「ばあちゃんと居るのは楽しくないかえ?それは悲しいのぉ」ヨヨヨ

二つ編み「そ、そうじゃないけど……おばあちゃんまで乗っからないでっ」

老婆「ほほほ」

包帯少女「へぇー…なんか、かわいいね」フフッ

二つ編み「!?///」

二つ編み「……わたし、散らかした本片付けてくるから!」

包帯少女「それならぼくも──」

二つ編み「少女さんは待ってて。どの本がどこにあったかなんて覚えてないでしょう?」



スタスタ...



包帯少女「行っちゃった…」

老婆「まあ……本の並び順なんてうちは気にしてないのにねぇ」

包帯少女「あ、そうなんですね」

包帯少女(じゃあ…照れ隠し?)

包帯少女(なんだ、ちゃんと人間臭いところあるんじゃない)

包帯少女(猫又娘さんが居たら、ちょっと面白かったかもね)


老婆「…お友達さんや、名前は何て言うんだい?」

包帯少女「少女です。二つ編みさんとは同じクラスなんです」

老婆「少女さんね……うんうん、覚えたよ」

老婆「のぅ少女さん。あの子、学校での様子はどんなものかね?」

包帯少女「学校で、ですか。普段は…勉強を頑張ってますね。とても真面目ですよ。生徒の中で一番大人びてると思います」

老婆「……そうかい……」

包帯少女「……どうかしたんですか?」

老婆「うんにゃ……ちぃとくらいは気を緩められるようになって欲しゅうてねぇ」

包帯少女「気を……」

包帯少女「……あの、二つ編みさんの親御さんが厳しい、と…本人から聞きました」

老婆「………」

包帯少女「………」

老婆「……あの子と今暮らしてるのは、本当の両親じゃあないのさ」

包帯少女「え…」

老婆「あの子の親はね、あの子が中学に上がる前に交通事故で亡くなってしまってねぇ」

老婆「轢き逃げだって。他にも何人か犠牲になった人がおったっちゅう…」

包帯少女「その事件、覚えてます。この近くで起きたやつですよね」

老婆「うむ……」

老婆「結局、親戚中をたらい回しにされた後、今の……義理の両親さね、養子として迎え入れたのよ」

老婆「子供欲しがっとる言う遠縁の夫婦さね。だども……今のあの子を見てると、とてもじゃないけど良くしてもらっとるようにゃ見えんでねぇ」

老婆「このばばあが引き取りたいっちゅう思いもあるんじゃが…老い先短い身じゃ。あの子の巣立つまで保たん…」

包帯少女「……」



二つ編み「」テキパキ



包帯少女(……そんなの、全然知らなかった)


老婆「あの子、笑わんじゃろ?」

包帯少女「!」

老婆「それどころか、どんな辛いことがあろうと表情に出そうとせん」

老婆「小さい頃からそうじゃった。自分の弱いところを決して見せようとしないのさ」

包帯少女(……直接オニが見えるぼくでもあんなに恐怖を感じるのに……相手の見えない二つ編みさんは)

包帯少女(どれだけの苦痛と闘っているんだろう…)

老婆「そんなだから今の家で不自由を感じていたところで、それを打ち明けることもないんだろうねぇ…」

包帯少女「………」

老婆「……じゃから、少女さんには感謝しておるのよ」

老婆「あの子が友達を連れて来よるなんて初めてでねぇ。ばあちゃんも少し、安心したよ」

包帯少女「ぼくは、そんな大層なものでは…」

包帯少女(うぅ…まともに話したのが昨日からだなんて言えない……まして妖禍子繋がりで…)

老婆「これからも、二つ編みちゃんの友達で居てくれるかい…?」

包帯少女「……」

包帯少女「勿論です」

老婆「……」ニッコリ

二つ編み「──終わったわ…おばあちゃん、あれでいいんだよね?」

老婆「おぉおぉ、上出来だとも」

二つ編み「良かった」

二つ編み「…で、二人とも何の話で盛り上がってたの?妖禍子の言い伝え?」

包帯少女「……二つ編みさんのかわいいエピソードを少々」

二つ編み「え」

二つ編み「なに?なに話したの、おばあちゃん…!」

老婆「さてさて、何だったかねぇ」

包帯少女「ふふっ」

二つ編み「………」

二つ編み「わたしばっかり……少女さん、あなたこそ彼氏放っておいていいのかしら?」

包帯少女「は、え?」

二つ編み「少年君。近頃ずっとベッタリでしょ?寂しがってるんじゃない?」

包帯少女「いや…彼はそういうのじゃ…!」

二つ編み「それにしてはやけに焦るわね」シテヤッタリ

包帯少女(少年君が彼氏…)




ーーーーー

少年「──好きとか好きじゃないとか、よく分かんない、かな」

ーーーーー



包帯少女(ぼくが彼に声を掛けたのはなんとなく放って置けなかったからであって…)

包帯少女(友達、だと思ってた)

包帯少女(……けど……)

二つ編み「ま、いいわ。そういう話題は猫又娘さんの方が好きそうだし」

二つ編み「この本、借りてくねおばあちゃん」パラパラ

老婆「ええよ。失くさんようにの」

二つ編み「妖禍子について書いてある本、これだけかな?」

老婆「それ一冊だけだったと思っちょるよ……探して、見つかったら連絡でもしようかね?」

二つ編み「ありがと。じゃあわたしの携帯に掛けて。番号、今書くから」

ストッ ススッ

包帯少女「……」

(妖禍子の本を手に取る)

パラ..パラパラ..

包帯少女(……!)



『トドノツマリ様』



二つ編み「はい。これわたしの番号ね」

老婆「はいよ」

包帯少女「……おばあさん、訊いてもいいですか?」

老婆「ん?」

包帯少女「この…"トドノツマリ様"について」

包帯少女「この絵、小さい女の子に見えるんですけど、これも妖禍子なんですか?」

老婆「そうさね。そこに載っとるんは全部、そう呼ばれるものじゃから」

包帯少女「……トドノツマリ様が、人の願いを叶えてくれるというのは、本当ですか?」

老婆「あぁ…そんな噂が立っとるみたいねぇ。大抵そういうんは都合良く作られた迷信だったりするがね」

老婆「…どうやらトドノツマリ様に至っては、あながち嘘でもないんじゃ」

二つ編み「そうなの…?」


老婆「ばあちゃんの周りにも居ったよ?やれ辛抱強く願ったら叶えてくれたって叫んでたっけね」

老婆「その人は身長が欲しいと言ってて…事実、20過ぎにも関わらずそれから不自然なくらい背丈が伸びてってねぇ」

老婆「ま、異性に注目されたいなんちゅうしょうもない動機やったらしいけども」

包帯少女「…不思議、ではありますね」

包帯少女(……)

包帯少女「あともう一個。…願いを聞いてもらうと世界に災いがもたらされる…なんて話も聞きました」

老婆「災い?そんなはずないさ」

老婆「トドノツマリ様は、うちらの守り神なんじゃからの」

二つ編み「守り神…」

老婆「遠い昔からずー…っと、あの神社のお社でこの町を見守って下さっとるんじゃ」

老婆「ばあちゃんはそう言い聞かせられて、育ったものよ」

包帯少女「……」

二つ編み「……」

包帯少女「……妖禍子が封じられたのも神社、トドノツマリ様が町を見守ってる場所も神社……」

包帯少女「何か、関係があるのかな…」

老婆「悪い妖禍子が出てこないように見張ってくれとる……というのが有力さね」

老婆「妖禍子に悪いも何も無いと思うんじゃけどねぇ…」

包帯少女(……トドノツマリ様に、神社に、妖禍子に……そして、生き返ったぼく)

包帯少女(あの時、少年君は……もしかして……)

老婆「けんども、少女さん、妖禍子を見たんじゃもんなぁ」

包帯少女「そう、ですね。夜になると、たくさん徘徊してるんです」

老婆「…もし真実なら、あるいは…」





老婆「神社に、良くないことが起きとるのかもねぇ……」




ーーー神社ーーー

幼女「………」

幼女「……何用か?」



黒服男「用など、言わなくても分かっているだろう?」



幼女「……立ち去るがよい。そなたの望む物は此処には無い」

黒服男「俺が何を為すつもりか、把握しているような口振りだな」

黒服男「なら、少し違う。俺が今望むのは…」

黒服男「障害の排除」

幼女「……」

黒服男「お前のような妖禍子(アヤカシ)が存在するとはな」

黒服男「見てくれは人だが……その異能。他の妖禍子を遣い、俺の妨害をしていたか」

黒服男「……何故人間に加担する?」

幼女「………」

幼女「加担には非ず。我の所業は単純」

幼女「人と妖禍子の混ざらぬ事」

黒服男「人間が俺達を受容することは無いからな。その思考は同意する」

黒服男「だからこそ、愚かな人間共を除き去る必要がある」



幼女「……紅(あか)と碧(あお)の獣」



黒服男「…!」

幼女「あの凄惨が繰り返されてはならぬ。我等と人、其の均衡は保たれて然るもの」

黒服男「……」


黒服男「それを知っていて尚、俺を止めようとするか…」

幼女「…憎しみが最後に残すは、虚な無でしかない」

黒服男「その憎しみを生むのも、増長するのも人間だ」

幼女「我等とて完全な存在ではあるまい。相互不干渉、其れが最適解となるのだ」

黒服男「…どうやら言葉を交わすだけ無駄なようだな。お前と俺とでは決定的に価値観が異なる」

...ザッザッ

幼女「………我を消すか?」

黒服男「いや」ザッザッ

黒服男「言っただろう。障害を排除することが目的だと」ザッ...



バシュンッ!



幼女「っ」バッ

幼女「…………?」

黒服男「ほう、こんなノートで妖禍子を生み出せるのだな」ペラ..

幼女「!」

黒服男「む…これは……」

黒服男(奇妙な繋がりだ。あの男の持っていたものか)

幼女「…返還せよ」

黒服男「返すと思うか?」

幼女「……」

黒服男「……」

黒服男「……愚人のように飛びかかるかと思ったが、聡明だな」

黒服男「お前では俺を止められない」

幼女「………」

黒服男「………」

ザッザッザッ...

黒服男「……安心しろ。消えるのは人間だけだ」ザッザッ



スッ...(闇に紛れる黒服男)



幼女「……………」




ーーーーーーー

二つ編み「……」テクテク

二つ編み(……何かしらね。今日は少し…)

二つ編み(楽しかった気がする)

二つ編み(おばあちゃんと話してるだけの時とはまた違う…)



ーーーーー

包帯少女「──へぇー…なんか、かわいいね」フフッ

ーーーーー



二つ編み(少女さんが居たから…?)

二つ編み「……」テクテク

二つ編み(ふぅ…楽観視出来る状況じゃないのにね)

二つ編み(………ふふ)

二つ編み「…そういえば変な悲鳴が聞こえてくることも無かった」

二つ編み(本当にあの子の言ってた"笑顔"なんてものが……影響するのかしら…)

二つ編み「……」テク..

(二つ編み宅)

二つ編み「………」



ガチャ



二つ編み「…!」

二つ編み母「………」

二つ編み「……遅くなりました」

二つ編み母「……」

二つ編み母「どこに行ってたの?」

二つ編み「それは、連絡した通り補習で──」

二つ編み母「嘘をつくんじゃない!」

二つ編み「っ…」

二つ編み母「あなたがあんまり遅いものだから、学校に電話してみたのよ。そしたら補習なんてとっくに終わってるって言うじゃないの!」

二つ編み母「言いなさい、どこに行ってたの?」


二つ編み「……祖母の書店で、調べ物を……」

二つ編み母「あのおばあさん…!またあなたに余計な時間を使わせたのね!?」

二つ編み母「あぁ嫌だわ…!もっと遠くに越せば良かった!そうすればあなたが無駄な寄り道をすることもないのに!」

二つ編み「!…嘘ついたことはすみません。でも必要な調べ物だったんです」

二つ編み母「あなたに今必要なのは成績でしょう!他は二の次!」

二つ編み母「もう高校合格するまで、おばあさんに近付いちゃ駄目ですからね!」

二つ編み「なっ…成績はちゃんと取り返します!祖母は関係ありません!」

二つ編み母「口答えする気……?」

二つ編み「その調べ物だって勉強に集中するために必要なものなんです」

二つ編み「何でもかんでも無駄だゴミだって、決め付けないで下さい」

二つ編み(…あ)

二つ編み母「」ブチッ

二つ編み母「あなたねぇ…!」

二つ編み母「誰のおかげで生活出来てると思ってるの!?路頭に迷いかけてたあなたを引き取った恩を──」

二つ編み(やってしまった)

二つ編み(つい、口から零れてた)

二つ編み(だって今日の全てを否定されたような気がしたんだもの…)

二つ編み母「──あなたが救われた恩はあなたの人生をかけて返すべきでしょう!親が誇れる子供になる。私は無理なことは一言も言ってないはず──」

二つ編み(耳障り…)

二つ編み母「──それなのに最近──だったその成績──、─!──つもり───!?」

二つ編み(あれ…?)

二つ編み母「───!──、────」





二つ編み(この人の顔、のっぺらぼうだったっけ?)





二つ編み(声も、喋ってるのは分かるのに聞こえない……)

二つ編み「あの…すみません」

二つ編み「さっきから何を言ってるのか全然分からないんですけど…」

二つ編み母「~~っ!」

二つ編み母「」ギャーギャー

ガミガミ

二つ編み「……?」




ーーー深夜 自室ーーー

二つ編み「……」ボー

二つ編み「……」



──いやだ…

──しにたい



二つ編み(……そうね……)

二つ編み「………」



──だれかぁ…



二つ編み「………」

二つ編み「……あや……かし……」

二つ編み(……そう)

二つ編み(何もかも)





そいつらのせいなのよ。




ーーー翌日 学校ーーー

猫又娘「妖禍子(アヤカシ)…って言うんだ…」

包帯少女「うん。で、これが今話してた本」トリダシ

猫又娘「ほほぉ」ペラペラ

猫又娘「……お、私が載ってる」

包帯少女「そ。ついでに猫又娘さんが何者かもはっきりしたね」

猫又娘「ついで扱いなのぉ?」

包帯少女「……でも、これでやっと色々見えてきた」

猫又娘「…そだね」

猫又娘「しっかし、トドノツマリ様は守り神だったんね。あの神社に何かが住んでるのは感じてたけど、土地神様だとは……」

包帯少女「まだそうと決まったわけじゃないよ。あくまでも伝聞でしかないから、だから…」

包帯少女「南町神社に行って、確かめてこよう」

包帯少女(なんだかんだで避けてきてしまっていたあの場所…)

猫又娘「……怖い顔してるよ」

猫又娘「少女さんが無理して向かうくらいなら、私だけで見てこよっか?」

包帯少女「ううん。ぼくも行く。あそこに何があるのか、ちゃんと自分で見てこないと」



二つ編み「……」トットットッ



猫又娘「あ、戻ってきた!」

二つ編み「もう昨日の話は共有出来た?」

猫又娘「バッチリです!」

包帯少女「ありがとね。二つ編みさんのおかげで大分筋道が立てられるようになった」

二つ編み「わたしも早く元の日常に戻りたいだけよ」

包帯少女(…元に戻っても、友達のままでいられるよね)

包帯少女「それで、昨日あの後連絡はあったの?」

二つ編み「?何のこと?」

包帯少女「妖禍子について書かれた本が見つかったら追って伝えるって、約束してたでしょ?」

二つ編み「……?…誰と?」

包帯少女「誰って…おばあさんだよ。古書店の、二つ編みさんのおばあちゃん」

二つ編み「おばあちゃん……祖母?」

包帯少女「そう」





二つ編み「わたし、会ったこともないわよ?」





包帯少女「………え」

包帯少女「何言って…昨日古書店で会ったよね…!?」

二つ編み「古書店には行ったけど、その本買って読んでただけよね」

包帯少女(なに?どういうこと…?)

包帯少女(おばあさんのこと知らないなんて、そんな嘘をつくとは思えないけど……)

包帯少女「…じゃあ、トドノツマリ様の昔話をしてくれたのは?」

二つ編み「それはわたしが知ってたから聞かせてあげたんじゃない」

包帯少女「………」

二つ編み「……どうしたの?いきなり祖母の話なんか持ち出して…」

包帯少女「………いや、何でもない。ぼくの勘違いだったみたい」

二つ編み「そう…?」

二つ編み「あと、先に謝っておくわね。わたししばらく放課後は付き合えない。昨日、帰りが遅過ぎるって言われちゃって」

包帯少女「っ…ごめん、ぼくたちのせいで…」

二つ編み「気にしないで」

二つ編み「あなたたち神社に行くのよね?わたしはわたしで妖禍子の封印について探ってみるつもり」

二つ編み「収穫があれば報告するわ。そっちもよろしくね」クルッ



トットットッ(自席に戻る)



包帯少女「………」

猫又娘「……少女さん、さっきの」

包帯少女「うん、おかしかった」

包帯少女「古書店のおばあさん、間違いなく二つ編みさんのおばあちゃんだったはず…」

猫又娘「んぅ……私も昨日行けてれば…!」


少年「──二人とも、今平気?」

包帯少女「…少年君」

猫又娘「おやおやどうしたよお兄さん。思い詰めた顔しちゃって」

少年「……」

少年「…相談があるんだけど…」

猫又娘「割と深刻なやつだったり…?」

少年「まぁ、その……」

少年「夢見娘さんのことで」

包帯少女「──!」

包帯少女(色々あって忘れてた……あの子もつまり…)

包帯少女(妖禍子なんだよね…?)

猫又娘「おー、そういえば少年君に気がある──」

包帯少女「大丈夫なの!?なにかおかしなことされた!?」ズイッ

少年(近っ…!)

少年「…おかしなことというか」



少年「尾けられてるみたいなんだ」ボソリ



包帯少女「……ん?」

少年「下校の時、僕の後ろを付いてくるんだよ…!」ヒソヒソ

少年「気付いたのは一昨日からだけど、多分もっと前からされてたんだと思ってる」ヒソヒソ

少年「一度僕の家まで来てたことがあったし…」ヒソヒソ


猫又娘「わお…」

猫又娘「……ストーカーの妖禍子?」

少年「あや……なに?」

猫又娘「んーん、なんでもない」

少年「だからさ、今日途中まででいいから一緒に帰ってくれないかな」

少年「──猫又娘さん」

猫又娘さん「私?」

包帯少女「……」チラリ

猫又娘「…少女さんは?」

少年「し、少女さんは…」チラッ

少年「っ」メソラシ

猫又娘(?)

少年「明日、とか」

包帯少女「……明日からはまた一緒に帰ろうか。二人で」

猫又娘「え゙」

猫又娘「私は仲間外れ!?」

包帯少女「ははは本気じゃないよー」

猫又娘(目が笑ってないんですが)

包帯少女「……ま、ぼくも今日は行かなくちゃいけないとこがあるしね」

包帯少女(おかしくなったのはぼくか、二つ編みさんか……)

包帯少女「神社には明日、少年君を送ってから向かおう。夢見娘さんのことは任せたから」ヒソ

猫又娘「りょーかい」ヒソ




ーーー放課後 学校ーーー

二つ編み「……」テクテク

二つ編み「……」テクテク



「ねー、お願い!明日までの宿題、終わったら手伝って!」

「ちょっとは自分でやればー?ってか、あんたいつも二つ編みに見せてもらってなかった?」

「だって今のあの人使えなさそうなんだもん。たまに変な独り言言ってて不気味だしぃ」

「友達じゃなかったの?」

「まっさかー(笑)」



二つ編み(………)

二つ編み「……」テクテク

テクテク...







ーーー昇降口ーーー

二つ編み「……」テクテク

二つ編み「……」テクテク



同級生A「頼むよー。こんくらいでいいからよ、今月も足りなくなさそうなんだわ」

下級生「でも、俺ももうお金は…」

同級生B「いいだろ?俺たち友達じゃん。そのうちちゃんと返すからさ」

下級生「…そのうちって、い、いつになるんですか…」

同級生A「近いうちにはぜってーだよ。俺らが信用出来ねぇの?」



二つ編み「………」

二つ編み「……」テクテク

テクテク...




ーーーーーーー

二つ編み「……」テクテク

二つ編み「……」テクテク



──ヒック...グスッ...



二つ編み(……)

二つ編み「……」テクテク



ギョロリ



二つ編み(……っ)

二つ編み「」...スタスタ



スタスタスタ...




ーーー古書店ーーー

包帯少女「ここ…だよね」

包帯少女「………」

包帯少女(うん。並んでる本も昨日見てたものと同じ。ここから見えるところにおばあさんはいないけど…)

包帯少女「……すみませーん」



シーン



包帯少女「すみません!誰かいませんかー!」

...ガタッ

包帯少女(!)

トットットッ ガラッ

中年「あい、いらっしゃい」

包帯少女(え…)

中年「なんかね?お会計かい?」

包帯少女「…あの、このお店におばあさんていませんか?」

中年「ばあさん?さぁ知らんなぁ。ばあさんの客はたまに来るけども。それかほれ、おっさんならここにおるでな、ぶはは!」

包帯少女「……この書店、あなたが持ってるものなんですか?」

中年「いんや、ここは兄が趣味でやってるような店だ。今日は俺が店番してるっつーだけよ」

包帯少女「お兄さん…」

中年「あぁ。別に店番でばあさん雇ったいう話も聞いてねぇからな……君、来る店間違えたかい?」

中年「いやまぁ!俺としちゃ君みたいな子が来てくれるだけで良い清涼剤になっけどなー!ははは!」

包帯少女「……」

包帯少女「…妖禍子って知ってます?」

中年「あやかしぃ?なんでぇ、妖怪のことけ?そこらに置いてある本にしこたま書いてあんじゃねぇか?」

包帯少女「………」

包帯少女「すいません、お騒がせしました」ペコリ

中年「おう、帰るんか。気を付けてな」



テクテクテク...



中年「…学生かぁ。戻りてぇよなぁ、俺もなぁ」

中年(にしても今の子、すげぇ包帯してたけど、怪我は平気なんかね)




ーーーーーーー

少年「──どう、見える?」テクテク

猫又娘「…うーん、まだどこにも見えないかなー」テクテク

少年「おかしいな…昨日はもうこの辺りで後ろにいたんだけど」

猫又娘「誰かといるときはストーキングしないとか?」

少年「どうかな…」

猫又娘「…けど、後をつける以外何もされてないんだよね」

少年「うん、まあ」

猫又娘「その時に訊いちゃえばよかったのに。なんで付け回すのって」

少年「……実際されてごらんよ。結構怖いんだ」

猫又娘「えー?私ならズバッと尋ねちゃうよ?」

少年「みんなが猫又娘さんみたいなわけじゃないから」

少年(……)

少年「……少女さんのこと、なんだけどさ」

少年「最近よく猫又娘さんといるだろ?…その、僕のこと、何か話してなかった?」

猫又娘「少年君の?」

猫又娘(あの子といる時は異変の話しかしないからなぁ)

猫又娘「特にしてないよ」

少年「そっか…」

猫又娘「どしたの?もしや少女さんのこと気になってたりー?」

少年「………」

猫又娘「え……ほんとに?」

猫又娘「つ、ついにお二人さんが──!」

少年「そう決まったわけじゃ…!前にも言ったけど、自分でもまだよく分かってないんだよ」

少年「少女さんが気になるのはその通りでさ。でもそれが友達として気にかかるだけなのか…好きとしての気になるなのかは、全然」

少年「あの包帯だって、いつまで着けてるのか気がかりだし…」

猫又娘(包帯…)

猫又娘(……あの子の包帯からはずっと、私たちと同じ妖禍子(アヤカシ)の気配がしてる)

猫又娘(……それってもしかして……)


猫又娘「……ん?」チラッ



夢見娘「……」ソロリ



猫又娘「あ…!」

猫又娘「いたよ少年君!かなり後ろの方に!」ヒソヒソ

少年「!いつの間に…」

猫又娘「よーし、任せて。私が問い詰めてくるから!」ヒソヒソ

猫又娘「」クルッ

ダッ!



夢見娘「!」

夢見娘「」タッタッタッ



猫又娘「逃げた!?待ちなさいー!」スタタタ

少年「待ってよ僕も──」



スタタ...



少年「……はや……」

少年「………」

少年「………」



ーーーーー

少女「」ニコッ

ーーーーー



少年(あの笑顔がまた見たいって思うのは……)

少年(好き、だからなのかな……)

少年「……………」

ピロリン

少年「!」



[LINE]
猫又娘『ごめーん、見失っちゃった(T_T)』



少年「えぇ……」




ーーー夜ーーー



ザッザッ



黒服男「……」ザッザッ

黒服男(……満月の夜)



ーーーーー

女「~~♪」

ーーーーー



黒服男(未だに貴女を思い出す)

黒服男「……」ザッザッ...

黒服男「………」

黒服男(……もう少しで、あの無念を晴らすことが出来る)

黒服男「……」スッ



...キイィ

ゴオオオォォ...!

シュン、シュン、シュン!



「キシャア!」

「キュー、キュー」ヒラッ

「……」ガシャガシャ

「グオォ…」ゴゴゴ



黒服男「………」



(夥しい数の妖禍子達)



黒服男「……あわれあわれや」...ザッザッ

黒服男「だれぞおにか」ザッザッ

黒服男「てのなるところ」ザッザッ



ゾロゾロワラワラ



黒服男「さいてさいてや」ザッザッ

黒服男「あかいはな」ザッザッ

黒服男「ははなるところ…」ザッザッ...



.........




ーーー少女の自室ーーー

包帯少女「……どうして……」

包帯少女(あの古書店、二つ編みさんのおばあちゃんの居る感じが全くなかった。代わりに雑なおじさんが出てきて…)

包帯少女(まるで最初から居なかったかのように……)

包帯少女「夢でも見てた…?」

包帯少女(店員が知り合いのおばあちゃんになる夢…?)

包帯少女「……」



ーーーーー

老婆「──二つ編みちゃんの友達で居てくれるかい…?」

ーーーーー



包帯少女(そんなはずない!あれが嘘だったなんて、そんな残酷なこと…!)

包帯少女「…訊いてみよう、かな」

ポチッ スッスッ

包帯少女(昨日交換しておいたLINE)



[二つ編みとのトーク]
『唐突だけどさ、二つ編みさんのおばあちゃんって、どんな人だったか覚えてる?』



包帯少女「………」

包帯少女(これで送信すれば)



...ズキッ



包帯少女「痛っ…!」

包帯少女(な、に……急に身体が…!)



ザワザワ...ガサガサ...



包帯少女(変な音……外から…?)

包帯少女「……」ソッ..



「「「……」」」ゾロゾロゾロ



包帯少女「…!?」

シャッ(カーテンを閉める)


包帯少女(なに今の……!)

包帯少女(あれ全部……妖禍子……?)

ズキズキ

包帯少女「あ゙ぃ……!」

包帯少女(痛い…!)

包帯少女(なんで…?奴らに近付いてもない、家中の鍵も締めて入れないようにしてるのに…!)

包帯少女「はぁ…!ぅぐ……」



ーーーーー

「──おい!向こうへ逃げたぞ!」

「──追えー!化け物を逃がすなー!」

「──妖禍子は根絶やしにするのじゃ!」

ーーーーー



包帯少女(…これは…?)



ーーーーー

メラメラ..

ボオォ..



女「」

「……俺は……」

「──生まれて来て善かったのか…?」

ーーーーー



包帯少女(……誰かの、記憶……?)




ーーー二つ編みの自室ーーー

二つ編み「……」スッ、スッ



スマホ『"妖禍子 封印" の検索結果』



二つ編み「………」

二つ編み「…見つかれば苦労しないわよね…」

二つ編み(またあの古書店に行くしかないのかしら)



ーーーーー

包帯少女「──古書店の、二つ編みさんのおばあちゃん」

ーーーーー



二つ編み「……」

二つ編み(…無性に気になる)

二つ編み(あそこにはわたしの知ってる人なんていないけれど……)

二つ編み(わたしの祖母…どんな人なのかしら…?)

二つ編み(……)

二つ編み「…気になるわ」

二つ編み「……」スッ、スッ



[少女とのトーク]
『あなた、わたしの祖母について何か知ってるの?』



二つ編み「……」

二つ編み(そもそもなんで少女さんが祖母の話を出したのか、今思うと疑問ね)

二つ編み(あるいは、あの子にしか見えてなかったものでも…?)

二つ編み「……いいわ。こんな時間にLINEで訊いてももどかしくなりそうだし」

二つ編み(どうせ明日は土曜午前授業。少しくらいお昼過ぎたところでうちの人は気付かないでしょう)




──あああああぁぁ!

──憎い…!



二つ編み「っ……」

二つ編み(また……)

二つ編み「………」

二つ編み「…………」

二つ編み「……………」

二つ編み「……………っっ!」

ダンッ!

二つ編み「もういい加減にして!!」

二つ編み「さっきから何度も何度も何度も何度も!」

二つ編み「わたしの中で叫ばないで!消えなさいよ!」

二つ編み「はぁ……はぁ……」

二つ編み(…!)

二つ編み(わたしのバカ!あんな大声出したら、あの人に聞かれてまた余計なことに…!)

二つ編み「……」

二つ編み「………」

二つ編み(………来ない……?)



ザワザワ...ガサガサ...



二つ編み「………?」

二つ編み(何かしら……足音とは違う、妙な音が)

二つ編み(……外から?)

二つ編み「……」



トットットッ




ーーー玄関ーーー

二つ編み「……」トットッ...

二つ編み「………」



ガシャ、ガシャ

ズズズズ...バサッ



二つ編み(何の音なの?誰かのイタズラ…?)

二つ編み(だとしたら迷惑極まりないわ。ただでさえしつこい悲鳴にうんざりだっていうのに)

二つ編み(…静かにしてちょうだいよ)

...ガチャ



二つ編み「………は………?」



ゾロゾロゾロ(大量の妖禍子の行軍)



二つ編み「な………え………」

二つ編み(……っ!)

二つ編み(まさか……これ、が……)



目玉怪物「……」ギョロッ



二つ編み「──!!」ゾクッ

二つ編み(今の視線……)

二つ編み「……………」

二つ編み「……………」

二つ編み「……は、はは……」

二つ編み(──なんだ、そうだったんだ)

二つ編み(わたし、ずっと勘違いをしてた)

二つ編み(妖禍子が見えなかったわけじゃない……ただ)

二つ編み(わたしが見ようとしていなかっただけなんだ)




バサッ、バサッ

ゴゴゴゴ



二つ編み(あの人ののっぺらぼうな顔も)

二つ編み(周囲にひしめく悪意も)

二つ編み(見えていないことにして…)

二つ編み(……それに、なぜ気付かなかったのかしら)

二つ編み(あの悲鳴…そこに混じるすすり泣く声も……あれは全部──)





二つ編み(──わたしの声じゃないの)





二つ編み「…あはは…!」

二つ編み(笑えちゃうわね!!)

二つ編み(自分の弱さを必死に隠しておきながら、その実それをぼやかしていたのはわたし自身だなんて!!)

二つ編み(元々壊れテたのは、クルってたノハ、ワタシの方ダッタ!!)

二つ編み「ソンナの、どんなニ足掻イタところデ、ドウにもならナい──無イミにキマッてるのに!」

二つ編み「ソウデショウ?アヤカシサン」



目玉怪物「ゴオォ……」ズッ...



二つ編み「アハ、ハハハハハ!」





アハハハハハハハハハハハ──!




ーーー翌朝 学校ーーー

猫又娘「──少女さん!大変だよ!」テテテッ

猫又娘「昨日の夜外で見張りしてたらさ、見ちゃったんだ!」

包帯少女「…妖禍子(アヤカシ)の群れ?」

猫又娘「!……もしかして少女さんも?」

包帯少女「……」コクッ

包帯少女(包帯の下の痛みと、知らない情景も一緒に…ね)

包帯少女「……ぼく思うんだよ。もうあんまり悠長にしていられる時間はないんじゃないかって」

猫又娘「うん……」

猫又娘(…正直ちょっと気楽に構えてた)

猫又娘(最近は妖禍子の数も少なくなってきてたから、そっちよりもみんなの仲を取り持つことにばかり気がいってた)

猫又娘(そんなんじゃ、根本的な解決にはならないよね)

包帯少女「ねぇ」

包帯少女「今日、早退しよう」

猫又娘「へ?」

包帯少女「神社に行くの。もうなりふり構ってられない」

包帯少女「二つ編みさんも連れて、二限らへんであがろ」

猫又娘「三人いっぺんに?さすがに許してもらえないんじゃ…」

包帯少女「言い訳はぼくが考えておくから。それでもダメそうだったら猫又娘さんの魔法で…」

猫又娘「私変えることくらいしか出来ないよ?」

包帯少女「…先生を変えちゃう」

猫又娘「そこまでの凶行はしないからね!?」

包帯少女「それはそうと夢見娘さんの方はどうだったの?」

猫又娘「え……あー、それが……」

猫又娘「……あと尾けてるところは見つけたんですが、逃げられてしまいまして…」ニャハハ...

包帯少女「………」

猫又娘「……いっそあの子も神社に連れてっちゃう?」

包帯少女「……」

包帯少女「…ありかもね」

包帯少女「今は少しでも、解決の糸口が欲しいから」

猫又娘「きっとあの子、良い妖禍子だから協力してくれるよ!」

包帯少女「…今日に限ってまだ夢見娘さんも二つ編みさんも来てないなんて…」

猫又娘「ぐぬぬ…二人とも遅刻したことなんかないはずなのに」




ガラッ



教師「よーし、夏休み前最後の土曜授業。出席取ってくぞー」

夢見娘「……」トコトコトコ



包帯少女(時間ぴったりに入ってきた)



夢見娘「……」トコトコ

ストッ

同級生C「夢見娘さん、ぎりぎりセーフだよ…」

夢見娘「………」



包帯少女(……なんだろ、少し慌ててるような……)

包帯少女(遅刻しそうだったから…?)

教師「──少女」

包帯少女「!はい」

教師「OKと」

教師「とりあえず全員居るみたいだな」

包帯少女(…?いやいや)

包帯少女「あの、先生。二つ編みさんがまだ来てません」

教師「んー?二つ編み?」

包帯少女「はい。…体調不良の連絡とか来てたんですか?」





教師「よその学年の子か?」





包帯少女「──!」

教師「俺の知る限り三年には居ないよな」

猫又娘「え…」

派手娘「っ」

少年「な…!?」

教師「悪いが他学年の出欠までは分からん。俺じゃなくて、その子の担任に訊いてくれ」

包帯少女「………」



包帯少女(……………)




第五幕はここまでです。

次回第六幕はいよいよ少年が町の異変を知ることになります。そして夢見娘がついに少年と接触します…。

■第六幕 マブタのストーカー■



ーーー休み時間ーーー

少年「少女さん…!」

少年「二つ編みさんって…!僕の勘違いじゃないんだよね、このクラスに居たよね!?」

包帯少女「……」

少年「みんなおかしくないか…?二つ編みさんなんて初めから居ないみたいに振る舞って…」

少年「少女さんもあの人のこと覚えてる……んだよね…?」

猫又娘「…ね、こうなったらもう」

包帯少女「………」

包帯少女「少年君、二つ編みさんがどんな人だったかって言える?」

少年「え、と……いつも勉強してる人。少女さんが僕にテスト勉強つけてくれてた時もひたすらやってたっけ」

少年「こんな髪型で、あんまり他の人と話してる印象がないけど…成績は毎回トップだったはず…」

包帯少女「……そうだね」

包帯少女「合ってるよ、ぼくの知る二つ編みさんと」

包帯少女(……)

包帯少女「…今この町に起きてること、きみにも話しておくよ」



.........





少年「──じゃあ…二つ編みさんはそのアヤカシってやつに消されたってこと?」

包帯少女「多分。あの子のおばあちゃんも同じ居なくなり方しててね…その人に関する記憶ごとなくなってるっていう」

少年「………」

少年「……で、そっちの猫又娘さんは……」

猫又娘「どーも、良い子な方の妖禍子、猫又娘ちゃんです♪」

包帯少女「ぼくも初めはちょっとびっくりしたけどね。いたずら好きの猫って思えば違和感ないんじゃない?」

少年「あ、確かに」

猫又娘「あれはみんなを楽しませる手品だからっ」


少年「…ちなみに、すごい力持ちだったりする?」

猫又娘「力?そうだなー、少年君なら片手で持ち上げられるくらい?」

少年(通りでこの前僕を運べたわけだ)

包帯少女「……それで、ぼくと猫又娘さんはこれから例の神社に向かうつもり」

少年(─!)

包帯少女「…きみは、どうする?」

少年「僕は……」

猫又娘(……少年君……)

少年「………」

包帯少女「………」

包帯少女「…分かった」

包帯少女「少年君はここに居て。他に知り合いが消えてたなんてことがあったら報告してくれる?」

少年「…!」

包帯少女「神社はぼくたちで行ってくるから。きみはきみでしっかり周りを見てて欲しい」

包帯少女「出来るよね」

少年「……まぁ」

包帯少女「頼んだよ」ニッ

少年(っ…)ドキッ


包帯少女「さてもう行こう。そろそろ予鈴がなっちゃう」

猫又娘「私はいつでもオッケーだよ!」カバンセオイ

包帯少女「行動の早さは見習いたいね…」

包帯少女「…ん、夢見娘さんは?」

猫又娘「あら。ほんとだ、席いないね」

少年「?夢見娘さん?」

猫又娘「そそ。重要参考人としてあの子も連れて行きたいんよ」

猫又娘「彼女も妖禍子だからね。きっと良い子の!」

少年「え」

猫又娘「と言っても私らも全然喋ったことないけどさー」

猫又娘「あ。おーいCくん!」

同級生C「……ん…?」トボトボ

猫又娘「夢見娘さんどこ行ったか知らないかな。きみよく一緒にいるじゃん?」

同級生C「あぁ…それがさ、具合が悪くなったって言って帰っちゃったんだ…」

同級生C「夢見娘さん……はぁ、大丈夫かなぁ」

包帯少女「……神社かもしれない」

猫又娘「私もおんなじこと思った」

包帯少女「急ごう…!」

ガタッ スタスタ

猫又娘「そうそうC君!私と少女さんも体調良くないので早退しますって伝えといて!よろしくー!」ガラッ



タッタッタッ



同級生C「え、なんで俺が…」

「お前転校生さんだけじゃなくて猫又娘とも仲良くなったの?物好きだなぁ」

同級生C「今のが仲良くに見えるかよ。俺は夢見娘ちゃん一筋だっ」キリッ

「いっそ清々しいな…」



少年(………)




ーーー廊下ーーー

包帯少女「気が利くね、さっきの」タッタッ

猫又娘「でしょでしょー?どうせ先生に言いにいっても揉めるだろうし、逃げるが勝ちってね」タッタッ

包帯少女「…頼りにしてるよ、相棒」タッタッ

包帯少女「なんて」フフッ

猫又娘「…!」タッタッ

猫又娘「任せんしゃい!」ニカッ







ーーーーーーー

夢見娘「………」

夢見娘「………」

夢見娘(………)

夢見娘「……」



「キューキュー」カツカツ



夢見娘「………」

夢見娘(……どうか壊れないで……)

夢見娘(きみのセカイ)

夢見娘「……」スッ

「…?」カツ...



...パタ




ーーー神社 境内ーーー

包帯少女「」ゼェ..ゼェ..

包帯少女「やっと、着いた…」

仔猫「」ピョン、ピョンッ

仔猫「……」スススッ

ドロン

猫又娘「ここの階段こんな長かったんね」

猫又娘「だいじょぶ?」

包帯少女「ハァ…ハ…ずるくない…?それ」

猫又娘「いやぁ猫の方が身軽なもので」

猫又娘「さてさて、ここが神社…来るのは初めてだけど…」



(物静かな社)



猫又娘「…なるほどやっぱり、ちょっと空気が違うよ」

包帯少女「夢見娘さんは…」

猫又娘「いないみたい…」

包帯少女「………」



ザッザッ



包帯少女(前来た時はそこまでじっくり見なかったけど)

包帯少女「……」

猫又娘「…お札、だね」

包帯少女「…普通、こんなにびっしり貼るかな」

猫又娘「どうだろ……」

猫又娘「少なくとも何か封じてますよって主張してくれてはいるんね」

猫又娘「これが妖禍子の封印…?」

包帯少女「この中に何があるか分かる?」

猫又娘「分かんないなぁ…お札のせいかもしれないけど、何の変哲もないお社にしか見えない」

包帯少女「そっか…」


包帯少女(……あれ……?)

包帯少女「……」ソーッ

猫又娘「!開けない方が──」

包帯少女「違う、これ」



(裂けた1枚の紙札)



包帯少女「これだけ破れてる」

猫又娘「……ほんとだ」

包帯少女(乱暴に千切られたような跡。破けてるのはこの一枚だけ…)

包帯少女(誰かが破った?それとも──内側から破かれた?)

猫又娘「いつこうなったんだろ。もし最近なんだとしたら…」

包帯少女「………」

包帯少女「……トドノツマリ様」

包帯少女「トドノツマリ様が本当に居るなら、ここで起きたことも町に起きてる異常も何なのか知ってるはず」

包帯少女「神社に誰かの気配を感じるって言ってたよね。それは今もあるの?」

猫又娘「うん、でも…」

猫又娘「何処からするのか分からない」

猫又娘「この山に居るのは間違いないのに、気配自体はそこら中に四散してるんよ」

包帯少女「……山の中探すしかないってこと?」

猫又娘「そうなる……かも」

猫又娘「いっそ願い事すれば出て来てくれないかなぁ」

包帯少女「それで会えたら苦労はしないけど…」

猫又娘「よーし!」

ポンッ

猫又娘「……」ネコミミ&シッポ

猫又娘「──みんなが楽しく笑える世の中に!」

猫又娘「…してくれませんか?」



ーーーーー

少年「──誰にも関わらず、誰にも干渉されない、そんな日々を下さい」

ーーーーー



包帯少女(……)

猫又娘「………」


猫又娘「…なーんて。それは私の役目ですから、叶えてくれる必要はありません」

猫又娘「ただ、この町に蔓延るお化けたちはみんなから笑顔を奪っていくんです」チラッ

包帯少女(…ぼく?)

猫又娘「だから!ちょっとでいいんです、力を貸してもらえませんか!」

包帯少女「………」

猫又娘「………」

包帯少女「…まあ、ね」

猫又娘「恥ずかしがり屋さんなんだねきっと」

包帯少女「なんで耳と尻尾出したの?」

猫又娘「こうした方が声届くかなーって。トドノツマリ様も同じ妖禍子だからさ」

包帯少女「てっきり魔法でも使うのかと思ったよ」

猫又娘「お社にイタズラでもしたら出て来てくれるかもね」ニシシ

猫又娘「ま、切り替えていきましょー!押してダメならもっと押すだけ」

猫又娘「山の隅から隅まで徹底的に探し回ってやろうじゃないの!」

包帯少女「…それしかないね」

包帯少女(結局ぼくたちが出来ることと言ったらそのくらいしかない…)

...ズキッ

包帯少女(っ……もうあんまり時間がないのに)

猫又娘「──少女さん、後ろ!」

包帯少女「!」クルッ



目玉蛇「シュー…」ニョロニョロ



包帯少女(蛇……?ううん、体中に目が付いてる蛇なんて…)

包帯少女「………妖禍子」

猫又娘「まだ昼間なのに…!?」

猫又娘「とりあえずっ」タッタッ



ポンッ

蛙「ゲコッ」




猫又娘「……どういうことだろ」

猫又娘「明るい時間にも活動出来るようになった?」

包帯少女「…それかここが特別な場所だから……とか?」

猫又娘「」キョロ..キョロ..

猫又娘「他には見当たらないけど…」

包帯少女「………」

包帯少女(…昨日の妖禍子の群れ)

包帯少女(二つ編みさんが消えた事件)

包帯少女(そして、それに気付いてた少年君……)

包帯少女「……ねぇ。ぼく嫌な予感がする」

猫又娘「……うん、私も」





包帯少女・猫又娘「「少年君が危ない」」




ーーー正午前ーーー

少年「……戻って来なかったな、少女さんたち」テクテク

少年「早退扱いで出てったんだから学校には戻らないか」テクテク

少年(それでも帰る時間くらいにはまた来てくれないかなんて思ってた……今一人で居るのはどことなく怖い)

少年(付いていくって言わなかったのは僕だ。でもあの神社に少女さんと一緒に向かうのは……)

少年「………」

少年「……アヤカシ……」

少年(僕たちが神社に行ったあの土曜日以降に現れ始めたって言ってた)

少年(そう、神社に)

少年(僕が少女さんを突き落とした、あの──)

少年「……」

少年(……やっぱり、あれは夢なんかじゃないんだろう)

少年(彼女の包帯も、彼女自身もずっとその違和感を主張していたのに、見て見ぬフリをしようとしてたんだ)

少年(僕があの出来事を幻と思い込ませている間に、彼女たちはずっと立ち向かっていた)

少年(猫又娘さんと少女さんの二人の気持ちに甘えて、何も知ろうとせず、しようとせず…)

少年(……なんだよ、まるで変わってないじゃないか)

少年(少女さんと出会う前──ノートを使って現実逃避していたあの時から)

少年「……くそ……」

少年(…そういえばアヤカシノートが無くなったのも日曜日だったっけ)

少年("アヤカシ"……関係あるのかな)

少年(猫又娘さんに貰ったもう一つのノートは結局何も書いてないや)



ーーーーー

包帯少女「──頼んだよ」ニッ

ーーーーー



少年「……少女さん」

少年(………)

少年(二つ編みさん以外に消えた人はいなかった)

少年(人の痕跡ごと消す妖怪……?)

少年「……」テク...



(本屋)



少年「………」

少年(…このままじゃダメだ)

少年(僕に何が出来るかなんて関係ない)

少年(これは僕自身の問題でもあるんだ)




ーーー本屋ーーー

少年(……うーん)

少年「……」スッ

ペラ..ペラ..

少年(とは言っても少女さんたちの真似事以外に思い付くことはない)

少年(何か手掛かりになること…)

少年「……」ペラ...

少年(人を食べる妖怪、化かす妖怪、連れ去る妖怪)

少年(有名なものからまったく聞かないようなものまで……色々載ってるけど、人を消す妖怪はないな…)

少年「……はぁ……」

少年(…少女さんの言ってた、古書店みたいなところじゃないとアヤカシを書いた本はないのかな)

少年(とりあえず一冊だけでも…)



表紙『怖いほどよく分かる妖怪大辞典』



少年(…あれにするか)

少年「」スッ



──スッ



派手娘「あ」

少年「え」

少年(派手娘さん…!?)

少年(なんでこんな所に…)

少年(というか派手娘さんもこの本を?)


派手娘「あんた、これ読むの?」

少年「あ…うん」

派手娘「ふーん」

ストッ(本を手に取る)

派手娘「じゃ、これあたしが買ってくから」

少年「うん……え!?」

少年「ちょっと待ってよ!僕もそれ読みたいんだって…!」

派手娘「はぁ?その辺に似たようなのいっぱいあんでしょ?」

少年「ここにあるのは大体見ちゃったから…」

派手娘「どーせ立ち読みじゃない」

派手娘「あたしが買った方が絶対読むし、有効活用になんのよ」

少年「そんな横暴な」

派手娘「みみっちいわね。そんなに欲しいなら……」

ヒュッ

少年「!?」

ボスッ!

少年「ぐぇ…!」

少年(お、お腹に…)

派手娘「それ使ってあの包帯ちゃんとボール遊びでもしてなさい」

派手娘「プレゼントにもなって最適でしょ?あたしってやさしー」

派手娘「じゃね」テクテク

少年「う……ぅ……」ウズクマリ

少年(鳩尾に思いっきり入った……)

少年(しかもこのボール、硬式…)

店員「!」ギョッ

店員「君、大丈夫かい…?」




ーーーーーーー

少年「……酷い目に遭った」テクテク

少年(店員に言い訳するの大変だったし、あの本の在庫は無いって言うし)

少年(なんだってこう、上手くいかないんだよ…)

少年「…やっぱ、少女さんに付いていくべきだったか…?」

少年(……まだ神社に居るのかな)

少年(………)

少年「………」

少年「今日は、帰ろう…」



テクテクテク...



「……」コソッ



.........





少年「……」テクテク

少年「……」テクテク

少年(……?)

少年(何だろう)

少年「………」

少年(…誰かに見られてるような気がする)



...ギョロ



少年「っ!」バッ

少年(……誰もいない)

少年「………」

少年(いや、そもそもここの通り)

少年(こんなに静かだったか…?)

少年「……っ」

少年(なんか、気味悪いな)

少年(さっさと帰──)





「ダメ…触らないで…!」





──ゾクッ

少年(──!?)

少年「ぁ……?」

少年(なんだ、これ……)

少年(意識が……)

少年(立って……られな……)



グラリ...




ーーーーーーー

夢見娘「……」テクテク

夢見娘「……」テクテク



少年「……」テクテク



夢見娘「……」ミアゲ



(空を舞う妖禍子たち)



夢見娘(今すぐここから離れて)

夢見娘(……って言えたらいいのにな……)



少年「」テクテク



夢見娘(前を歩くきみにとって、理不尽をばら撒くあの子達と)

夢見娘(同じ妖禍子である私はきっと)

夢見娘(…忌むべき存在)

夢見娘「……」

夢見娘(……それでも構わないよ)

夢見娘(きみが悲しまないでいられる世界)

夢見娘(それを守れるなら、私はどんな盾にでもなってあげる)

夢見娘(………)

夢見娘(……それが……)





きみの隣だったら……なぁ。







少年「」ピタッ...



夢見娘「…!」

夢見娘(止まった…どうしたの…?)



少年「っ!」バッ



夢見娘「」サッ

夢見娘(…気付かれちゃった…?)

夢見娘(……今度は、きみが追いかけてきてくれるのかな……)ドキドキ

夢見娘(──え)



目玉怪物「……」ズズ...



夢見娘(あの子……少年くんの方に……)

夢見娘(………!)

夢見娘「ダメ…触らないで…!」ダッ



目玉怪物「」ベシャッ

少年「」ゾクッ

少年「ぁ……?」グラリ...



夢見娘「…少年くん…!」タッタッ

ギュッ

少年「……ぅ……」

夢見娘(良かった……まだ心は食べられてない……)

目玉怪物「ゴォ…」

夢見娘「…あっち、行って」

目玉怪物「……」



ズズズ...




少年「うぅ……いや…だ……」

夢見娘「……ごめんなさい」

夢見娘(きみをこんな目に晒してしまうなんて)

夢見娘(……きみを守るなんて、そんな力)

夢見娘(私なんかじゃ、足りないんだろうな)

夢見娘「……」

少年「……ゆるして……」

少年「少女…さ……」

夢見娘(でも)





きみの悪夢を齧ることが出来るのは、私だけ──





ガブリ




ーーーーーーー



タッタッタッ



猫又娘「……居た!あそこ!」



少年「」

夢見娘「……」



包帯少女「夢見娘、さん…?」

猫又娘「…!」

スタタッ

夢見娘「………」

猫又娘「…何してるの?」

夢見娘「……」

猫又娘「少年君に、何をしたの?」

夢見娘「……守ってた」

夢見娘「あなたたちが、居なかったから」

包帯少女「守るって、少年君を…?」

夢見娘「……」コクッ

夢見娘「……あの子に……」



(遠目に見える目玉の怪物)



猫又娘「あんなのまで…」

包帯少女「っ」

夢見娘「…もう少しで、妖禍子にされるところだった」

少年「」スー..スー..

包帯少女(よく見たら眠ってるだけだ)

猫又娘「私たちを助けてくれたんだ?やっぱりこの子、良い妖禍子ちゃんなんだよ」ヒソヒソ

包帯少女「……」


包帯少女「…夢見娘さん」

包帯少女「この際だから訊いておきたい」

夢見娘「……」

包帯少女「あなたは一体、何者なの?」

夢見娘「………」

夢見娘「……私は……」

夢見娘「……」チラリ

少年「」スー..スー..

夢見娘「……彼に望まれて、生まれた…もののヒトリ」

猫又娘「…?」

夢見娘「……」

ガサゴソ

夢見娘「これ…」

猫又娘「あっ!それって」

包帯少女「…"アヤカシノート"」

夢見娘「……少年くんの逃げ場所だった」

猫又娘「逃げ場所?どゆこと?」

包帯少女「…少年君はさ、クラスのバカ連中にしょっちゅうからかわれてたでしょ?」

包帯少女「嫌なことをされる度、妖怪のせいにして日記みたいに書き付けてたの。それがそのノート」

猫又娘(そんな後ろ向きなノートだったんだ…)

夢見娘「……色んな妖禍子を描いてた。その中で一番最初に描いてもらったのが」

夢見娘「私」

包帯少女「え…」

夢見娘「私は彼の嫌なユメを食べるために生まれた妖禍子。少年くんが苦しまないように、ただ静かに見守ってる……」

夢見娘(…だけのはずだった)

猫又娘「…少年君がノートに書いた妖禍子が実体化した…ってこと!?」

猫又娘「なにそれ初めて聞いたよ!なんで私たちに秘密にしてたのかな?」

包帯少女「ううん、多分少年君も知らなかったんだと思う」

包帯少女「知ってたら…それ使って同級生Aたちに仕返しでもしてるんじゃない?」

猫又娘「なるほど」


包帯少女「夢見娘さん、それ貸してもらってもいい?」

夢見娘「……」スッ

パラパラパラ

包帯少女「…何も書いてない」

猫又娘「あー、そっちは私があげた方だからね。前のは失くしちゃったんだって」

包帯少女(失くした…あんなに大切そうにしてたのに…?)

猫又娘「しっかしほんとに全然使ってないんね。暗いこと書くよりかマシだけど、これはこれで少し寂しいかも」

包帯少女「…夢を食べる妖禍子ってことは…」

夢見娘「……」

包帯少女「………"獏"?」

夢見娘「……そう、呼ばれることもある…」

包帯少女「……」

包帯少女「あなたが少年君を助けてるんだってことは分かった」

包帯少女「じゃあなんで、今になってぼくたちのクラスに転入して来たの?」

包帯少女「少年君の後を付け回したりして…」ボソッ

夢見娘「………それは」

夢見娘「あなたも、よく分かっているはず……」

夢見娘「──この世界の、壊れる音がするから」

夢見娘「笑顔を振り撒くよりも早く」

猫又娘「─!」

夢見娘「歪んだ身体を引き摺るよりも歪に」

包帯少女「……」

夢見娘「闇が……"あのヒト"の嘆きが、すべてを覆い尽くそうとしてる……」

夢見娘「……だからここに来ただけ」

夢見娘「彼の…そばに……」

猫又娘「…もしかして夢見娘さん、この町に何が起きてるのか知ってる…?」

夢見娘「………」

猫又娘「だったら教えてくれないっ?今私たちが相手にしてる妖禍子が何なのか、どうしたらアレらが居なくなるのか」

猫又娘「……"あのヒト"って何?」


夢見娘「……」

夢見娘「…昔」

夢見娘「人から追われる妖禍子が居た」

夢見娘「大きな身体で、大切に抱えた何かを庇いながら…逃げて、逃げて……」

夢見娘「……でも、最後には息絶えてしまうの」

夢見娘「無慈悲な炎と、たくさんの人に囲まれながら……」

包帯少女(その光景って……)

夢見娘「……私が見た"あのヒト"のユメは、それだけ」

夢見娘「…少女、さん」

包帯少女「!」

夢見娘「あなたはもう、何度か見ている…」

夢見娘「……よね?」

包帯少女「………」

夢見娘「…今この町を飛び交う妖禍子は、みんな"あのヒト"の怒りにあてられた子」

夢見娘「あの子たちを使って、人を妖禍子に変え…"居なかった"ことにしようとしている…」

夢見娘「でも、最初の犠牲者は」

夢見娘「他ならない、あなた」

包帯少女「──」

夢見娘「だから時々、"あのヒト"のユメを見る……見てしまう……」

夢見娘「……違う?」ジッ...



ーーーーー

黒服男「」ニタァ

ーーーーー



包帯少女(一瞬だけ見えた顔)

包帯少女(まさかたまに見るあの夢は、全部あの男の……)


猫又娘「ちょ、ちょ、ちょっと待って」

猫又娘「さっきから全く付いていけてないんですけど……つまり、どういうこと?」

包帯少女「…この現象には黒幕が居るってことだよ」

猫又娘「それが"あのヒト"?」

包帯少女「そう。私たちを襲ってくる妖禍子はそいつに操られてるんだって」

猫又娘「怒りにあてられるってそういうこと…」

猫又娘「じゃあさ……ここまでのことをする何かが、そのヒトの過去にあったってことだよね?」

夢見娘「……あれ以来、そのユメは見てない……」

包帯少女「ぼくも断片的にしか…」

猫又娘「………」

猫又娘「…結局のところ奴らをどうこうする方法もないままってことか…」

猫又娘「……ま」

猫又娘「ひとまずさ」ポン

夢見娘「…?」

猫又娘「私たちもあなたに協力させてよ」ニコッ

夢見娘「……」

猫又娘「夢見娘さんの力を貸してもらえればこの異常事態の解明もすぐ出来ると思うんよね」

猫又娘「少年君のこと守りたいんでしょ?今までみたいにこそこそしてないで、堂々と隣に居られるよ!」

夢見娘「……」フルフル

夢見娘「……それは無理……」

猫又娘「え」

夢見娘「本来、妖禍子は人の中に居てはいけない存在…」

猫又娘「…そんなこと」

夢見娘(何より……恥ずかしくて、きみの顔、見れないから……)

夢見娘「……」スクッ

夢見娘「…はい」

包帯少女「わ、ちょっと…!」

少年「」ノシッ...

包帯少女(お、重い)

夢見娘「……あなたたちの手伝いはする」

夢見娘「でも隣には居れない」


夢見娘「……」チラッ...

夢見娘「…少年くんを、お願いします…」

包帯少女「……」

夢見娘「……」...テクテク



テクテク



夢見娘「……」ピタリ

夢見娘「……派手娘さん、なら」

猫又娘「」ピクッ

夢見娘「力になってくれる……かも」

夢見娘「あの子もたくさんの妖禍子と戦ってる…」



テクテクテク...



包帯少女「……派手娘って、あの派手娘さん?」

猫又娘「うちの学校の派手娘さんて言ったら一人しかいないね…」

包帯少女「…派手娘さんまで妖禍子だって言うんじゃ…」

猫又娘「それはないよ。あの人はれっきとした人間…だから多分…」ヒキツリ

包帯少女「?なにその顔」

猫又娘「いやぁ、あの人ちょっと苦手で…」

包帯少女「猫又娘さんにも苦手なものあるんだ」

少年「」ズルッ...

包帯少女「…!…ごめん、少年君支えるの変わってもらいたい…」

猫又娘「ん」ヒョイ

猫又娘(……)

猫又娘「…けどさ、夢見娘さんは正体が分かっても不思議ちゃんだったね」

包帯少女「まぁあの喋り方とか雰囲気とかは独特……あれが獏の性格なのかな」

猫又娘「ノーノーそこじゃあなくって」



猫又娘「…妖禍子は人と居られないなんて言う割に、ずーっと少年君に膝枕してたじゃん」




ーーーーーーー

「……や………ノート…」

「さっきと…………になる……」



少年(……ん……)



猫又娘「そこは何でも試して──あ」

猫又娘「起きたよ!」

少年(あ…れ……?)



包帯少女「おはよ、少年君」



少年「…!?」

少年(少女さん…!?)

少年(え、っていうか僕見下ろされてる…?ここどこ?何があったんだっけ??)

猫又娘「おーい、寝ぼけてるー?」

包帯少女「無理ないよ、いきなり知らない部屋で目覚めたらね」

包帯少女「ここはぼくの部屋。もう夕方だけど、日付は変わってないよ。土曜日のまま」

包帯少女「…少年君きみはね、妖禍子に襲われたんだよ」



.........





少年「……アヤカシノートの、妖怪…?」

少年「夢見娘さんが?」

包帯少女「そう言ってたね」

少年「……」

猫又娘「心当たりある?」

少年「うん、かなり前に…そんな妖怪をノートに書いた覚えがある」

少年「確か、最初のページだったような…」

包帯少女・猫又娘「「!」」

猫又娘「…合ってる、ね」

包帯少女「……」

猫又娘「ねね、試して欲しいことがあるんだ」

猫又娘「ほい」スッ



(アヤカシノートとペン)



少年「…書いてみろ、って?」

猫又娘「うむ」

猫又娘「これは知っての通り本物じゃないし、さっき私たちが書いても何も起きなかったんだけど」

猫又娘「少年君が書けばもしかしたらもしかしたり…?」

少年「……」

少年「………」

少年「…何書けばいいのか…」

猫又娘「何でも──怖くない妖禍子ならどんな子でもオッケー」

少年「そう言われると…んー…」

猫又娘「何なら私とおんなじ猫又ちゃん書いてよ!上手くいけば友達が増えるっ」ニシシッ

少年「………」

少年「」サラサラサラ



『7月20日  一日中曇り

イタズラ好きの猫又が二人に増えていた。ただでさえ賑やかなクラスがもっと活気付いたんじゃないだろうか。』




三人「「「……」」」

猫又娘「…すぐには変化なしか」

猫又娘「あーあ、これはもう本物のノートで検証しないとダメなんだろーなー。気になるなぁ」

少年(…ノートのことは勿論僕も気になる……けど、もっと気になるのは)

包帯少女「安全な妖禍子が出てくるとは限らないんだから、今思えば実体化しないで良かったかもね」

猫又娘「それ知ってるよー。酸っぱいぶどうって言うんだ」

少年(…どうしてさっき僕は少女さんに膝枕をされていたんだろう)

少年(少女さんはどういうつもりで僕を……気になる……すごく……)

包帯少女「──何かの手掛かりにはなりそうだよね」

包帯少女「ねぇ少年君、あのノートってどこで買ったの?」

少年「!え、と…」

少年「あんまりよく覚えてないんだ…買った記憶はないけどいつの間にか持ってた、みたいな」

猫又娘「そういえばなんで失くしちゃったのかも訊いてなかったね」

少年「っ……」

少年「それは…」

少年(……)

少年「それも、分からない。知らないうちになくなってたから」

少年「……気付いたのは2週間前の日曜日だけど」

包帯少女「…!」

猫又娘「偶然…にしちゃあ出来過ぎてるなぁ。さすがにここまで重なったらさ」

猫又娘「ね、二人とも」

少年「……」

包帯少女「……」

猫又娘(……?)

猫又娘(!…そっかこの二人、まだあの池の話に触れてないのか)


猫又娘「………」

バシッ

少年「おぅ!?」

猫又娘「まぁまぁ、そう気落ちしなさんな!」

猫又娘「活路はあるよ絶対に」

猫又娘「私たちは今、真相まであと一歩のとこにいる。ここまで酷くなった世界だけど、最後はきっと私たちが──勝つ!」

猫又娘("キミ"が好きだったこの世界……あんなヒトたちに渡してたまるかってね)

包帯少女「……ふふ、確かに勝ち負けの方が分かりやすいね」

猫又娘「フフン」

猫又娘「…きみも」

少年「な、なに?」イテテ...

猫又娘「聞いたよ?あのノート、暗いことばっかり書き殴ってたって」

猫又娘「私のあげたそれ、まだ使ってないんなら今度は楽しいことでも書いてみなよ」ニッ

少年「…普通の日記みたいに?」

猫又娘「そ♪」

猫又娘「嫌いなものばっかり書いてあるなんて寂しいじゃん」

少年「……」チラリ



(窓からのぞく曇り空)



少年(…次晴れた時にでも、書いてみようか?)



──クネクネクネ



少年「…えっ!」

少年(なんだあれ!?)

包帯少女「少年君…?」



(羽をうねらせ飛ぶ妖禍子)



包帯少女「……もしかして、妖禍子が見えてる?」

少年「あ、あれが妖禍子…!?」

猫又娘「なんと」

猫又娘「…妖禍子にされそうになったから、見えちゃうようになったのかね」

猫又娘「良いことなのか悪いことなのか…」

少年(二人とも全然動じてない……あんなのを今まで相手にしてたんだ…)


包帯少女「……思うにさ、少年君が狙われた以上、一人でいるのはもう危ないんじゃないかな」

猫又娘「そうだね…奴らが見えるって言っても抵抗するすべなんかないわけだし」

猫又娘「また気絶しちゃうかもしんないもんね」チラッ

少年「う…」

包帯少女「うーん」

包帯少女「……じゃあ」



包帯少女「ぼくの家、泊まる?」



少年「………!?」

猫又娘(おー…)

包帯少女「…?何?事情知らない人の所に居ても意味ないでしょ?もうすぐ夏休みだし、数日くらいなら平気だと思うから」

少年「…ちなみに、僕はどこで寝れば…?」

包帯少女「別々に居るのも怖いから、ぼくと一緒に…………!?」

包帯少女「あっ…違うよ!別におかしな意味とかはなくて…!」

猫又娘「いや~実に大胆ですなぁ、少女さん」

包帯少女「そういう意味で言ったんじゃないの!」

猫又娘「そういう意味とはー?」ニヤニヤ

包帯少女「この……!」

シッポダシナサイ!

ニャー!ボウリョクハンターイ!


少年(少女さんの家で過ごす……)

少年(……)ドキドキ

猫又娘「どうどう…!分かった分かったよ!」

猫又娘「少年君には私が付いてるから、それで手打ちにしよ…!」

包帯少女「…あなたが?」

猫又娘「だいじょーぶ!少年君の家に居る時は見つかんないように」

ドロン

仔猫「ニャーオ」

ドロン

猫又娘「こうやって猫になっとくから」

包帯少女「……ちゃんと少年君の壁になってよ」

猫又娘「ご安心を」

猫又娘「………ん?壁?」

包帯少女「そういうわけだから少年君も、妖禍子に近付いちゃわないよう気を付けること」

少年「う、うん」

包帯少女「…ぼくの家は…普通に遊びに来る分にはいつでも、来てよ」ボソ...

少年「!…」

少年「」コクリ

少年(この騒動が解決したら…お邪魔させてもらおう)

猫又娘「さーて!」

猫又娘「それではおさらいでもしましょっか!」

猫又娘「私たちがこれからやるべきこと、知るべき事実!」

猫又娘「まずはトドノツマリ様と本物のノート探し」

猫又娘「トドノツマリ様は妖禍子の封印方法を知ってるかもしれないし、夢見娘さんが生まれたみたいに本物のノートが大きな鍵になる可能性もあるからね」

少年(……ノートに……トドノツマリ様……)

猫又娘「あとは元凶君の過去」

猫又娘「少女さんが時折見るっていう夢。それが紐解ければ、一連の出来事の根っこを掴める」

包帯少女(……あの夢は強い怒りだけじゃない)

包帯少女(微かに悲しみの念も混ざってる)

猫又娘「そして……あー、これが前途多難なのですが……」





猫又娘「──派手娘さん説得作戦」




ーーーーーーー



...ガブリ



ここは優しいユメの世界。



少年『……』



だって私の好きなきみがいるから。



夢見娘『……』

少年『……』トットットッ...

ギュッ



ユメのきみは何も喋らないけど、私を優しく抱き締めてくれる。



夢見娘『……』...ギュー



……ねぇ、怖いよ。

きみが居なくなってしまうことが、何よりも怖いの。

この町のひしゃげた不具合が、不条理が全部襲ってきて、きみを飲みこもうとする。

私、きみを守れてるかな?

………。

……うん、分かってる。

所詮はただの自己満足なんだ。

私はマブタの案内人(ストーカー)。

こうしてユメの隙間をかき分けて、きみの温もりを求めているだけ。




少年『……』ギュッ

夢見娘『………』ギューッ...



……本当はね。

本当は──



──きみに護ってほしい。



きまにいっぱい甘えたい。

………でもそれはユメ。

甘くて届かない、ユメ。



夢見娘『……っ……』



私が触れてるこの"きみ"は、私を慰めてくれる私のユメ…。

……ここは悲しい、ユメの世界。

夢見娘(少年くん)

お願い。

どうか来ないで。

残酷な結末も、





午前7時の魔法も──









ピピピピッ ピピピピッ



ピピピピッ...





第六幕はここまでです。

次回第七幕は派手夢に焦点が置かれます。
この物語自体第九幕までを想定してるので、あと3分の1と行ったところです。

■第七幕 異論を強く唱えるもの■



ーーー翌月曜日 学校ーーー

猫又娘「さてさて、お元気ですかなお二人さん?」

包帯少女「……」

少年「……」

猫又娘「なーんでそうどんよりしてるんかなぁ」

少年「なんでって…また何人か消えて…」

猫又娘「…それを止めるための、私たちでしょうに」

猫又娘「少しでも早く現状を打開する!今はそれだけを考える!」

少年「……それもそうかな」

猫又娘「消えちゃった人だって、きっと元に戻ってくるさ」

包帯少女「そうは言っても、昨日は何の成果も無かったし……外で少年君連れ回すのは辞めた方がいいかもね。危険だよ」

猫又娘「寄ってきた妖禍子(アヤカシ)は私らで撃退したじゃん?」

包帯少女「そうだけど……少年君、身体平気?何ともない?」

少年「今のところは」

猫又娘「私が付いてるんだからノープロブレムです!」

包帯少女「………」

猫又娘「…その目はなんですか。さては信用してないな?」

包帯少女「ううん。ただ、あなた抜けてるところがありそうでハラハラするから」

包帯少女「夜、ちゃんと見張れてる?」

猫又娘「もちろん」

猫又娘「だって一緒に寝てるもん」


包帯少女「……………は?」

少年「あ…!ち、違うから少女さん!猫の姿で丸まってるだけだから!」

猫又娘「ふふ~ん♪あったかいでしょー?」

少年「今の季節だとちょっと暑苦しいかな…」

猫又娘「うぬぬ」

猫又娘「昨日あれだけじゃれてきたくせに」

少年「尻尾を少し触っただけだろ!?」

少年「あんなにパタパタ動かされちゃ気になるよ」

猫又娘「えー?その後毛並みがどうこうとか言って撫でてきたじゃなーい?」

少年「ゔ……猫又の毛並みなんて誰だって気に──」ハッ

包帯少女「………」

包帯少女「…楽しそうだね??」

少年「あ、遊んでたわけじゃなくて…!」

包帯少女「へぇー…」ジロ

猫又娘「」ビクッ

猫又娘「警護は真面目にやってるから、ね?」

包帯少女「……」

包帯少女「いいけどさ」ボソッ

猫又娘(…素直なんだか素直じゃないんだか)

猫又娘「さって、それよりも!」

猫又娘「今日の本題に入るとしますか」

少年「本当にやるの…?」

猫又娘「えぇえぇ。気持ちはよーく分かります…でも私らの中に引き込めれば絶っっ対心強い味方になる、それは間違いないよ!」

包帯少女「引き込めれば、ね」

三人「………」



派手娘「」ホオヅエ



少年(なんでもあの人もアヤカシと戦ってる人間……らしい)

少年(…アヤカシをちぎっては投げている姿を想像してもあんまり違和感がない)


猫又娘「派手娘さん攻略作戦」

猫又娘「いよいよ発動する時だよ」

包帯少女「説得作戦とか言ってなかった?」

猫又娘「同じ同じ」

猫又娘「作戦はこう」

猫又娘「まず一人ずつ派手娘さんと話をして説得する」

猫又娘「その時点で納得してくれればよし。それでもダメなら三人で行く」

包帯少女「初めから全員で行けばいいんじゃない?」

猫又娘「……ほら、そこで断られたら一発アウトでしょ?」

包帯少女「何回も話しかけるのも大概だと思うけど…」

猫又娘「と、とにかく!一対一で行った方が礼儀とかなんとかで上手くいくんよ!」

猫又娘「あとは誰から行くかだけど…」

少年・包帯少女「「……」」

猫又娘(うむむ…言い出しっぺの法則で私になりそう…)

少年「…僕が行く」

猫又娘「!」

少年「僕だけ何も出来てないんだ。せめてこういう時くらい力になりたい」

猫又娘「少年君…!」

包帯少女(…なんだか少し、頼もしくなったね)

猫又娘「そう言ってくれると私は信じてたよ」ウンウン

猫又娘「ではトップバッターの少年君、よろしくお願いします」

少年「うん」

猫又娘「」ホッ...

包帯少女(こっちはこっちで、苦手な相手だから後にして欲しいって言えばいいのに)

少年「じゃあ行ってくる」



キーンコーンカーンコーン



少年「……次の授業の後に」




ーーー休み時間1ーーー



ガヤガヤ



少年「……」

少年(…派手娘さんか…)

少年(この前のことがあるから少し怖いけど……逆にそれが話すきっかけくらいにはなってくれるはず)

少年「──あの」

派手娘「?」

派手娘「あんたか。何?あの本なら貸さないわよ。こう見えてちゃんと読んでるんだから」

派手娘「それとも、この前の仕返しでもしに来た?」ニヤ

少年「そういうのじゃなくて、その…」

少年「……アヤカシのことで……」

派手娘「え?声小さくてよく聞こえないけど」ズイッ

少年「…いや、派手娘さんもアヤカシが見えるんだって聞いて…」

ガヤガヤガヤ

派手娘「だから聞こえないっての」ズズイッ

少年「…!」

少年「…え、えっと…出来るなら派手娘さんにも協力して…」ゴニョゴニョ

派手娘「………」

派手娘「きーこーえーまーせーん!!」

少年「──!?!?」グワァン

少年(み、耳元で……)

ナニナニ?

ハデムスメサンガマタオコッテル

派手娘「言いたいことがあんならはっきり言いなさいよ。ったく」テクテク...

少年「」フラフラ



.........





派手娘(朝から無駄に腹立たしいわね)

派手娘(なんでもっと"まっすぐに"こないのよ)

派手娘(弱々しい自己主張。そんなだからバカどもに目付けられるんじゃないの?)

派手娘(この前の騒音野郎とはまったくの逆ね)





===6月某日===



ガタンゴトン ガタンゴトン



派手娘「ふぁーあ…」

派手娘(ねっむい)

派手娘(電車通学失敗だったわ。朝起きるの早いし、この時間座れないし)



プシュー

ゴジョウシャアリガトウゴザイマス



ゾロゾロ

音漏れ男「」~~♪

派手娘「……」

~~♪

派手娘(……はぁ?)

乗客たち「………」

音漏れ男「」~~♪

派手娘「……チッ」



バッ(イヤホンをぶんどる)



音漏れ男「!おい、なにすん──」

派手娘「うっさいのよ!!その雑音!!」

派手娘「自分で分かんないわけ?頭沸いてんじゃない??」

音漏れ男「っ……な、なんだ偉そうに…」

派手娘「あ?」ギロッ

音漏れ男「」ウッ

音漏れ男「…はいはい、俺が悪かったよ。…めんどいやつに絡まれた…」テクテク...

乗客たち「」ポカン

派手娘(ふん、ダサい捨て台詞)

「ねぇあの子の制服って…」

「思った…私たちと同じ学校の…」

=======





派手娘(気に入らないのよね、ああいうのも)

派手娘(あたしは、納得いかないものに見て見ぬフリをすることが出来ない)

派手娘(ガツンと言ってやらないと気が済まないのよ)



カサッ...(床を這う妖禍子)



派手娘(例えばそう、こいつみたいな捻じくれた奴らとか──)

派手娘(ね!!)



グシャッ




ーーーーーーー

少年「ごめん、役に立てなかった…」

猫又娘「まさかああも足蹴にされるとはねぇ」

猫又娘「やはり強敵だよ……むぅ…」

包帯少女「まぁ…意気込みやよし、だったよ」

猫又娘「そもそも気になってたんだけどさ」

猫又娘「派手娘さんて昔からあんなに怒りっぽい性格だったの?」

包帯少女「どうかな。ぼくは3年になって初めて同じクラスになったから」

少年「同じく。この前まで話したこともなかった」

猫又娘「この前?派手娘さんと話してみたんだ?」

少年「……ちょっとね」

包帯少女「でもあの人が笑ってるところなら時々見かけるね」

猫又娘「…それ、主に私をいじめてる時でしょ」

包帯少女「……」

猫又娘「……」

包帯少女「…みんなを笑顔にさせたいんでしょ?」

猫又娘「それはなんか違うよね!?」

包帯少女「ま、次はぼくがやってみる」

猫又娘「ん…その、勝算の程は?」

包帯少女「全く分かんない。ぼくは喋ったこともないから」

包帯少女「けど、後に控えてる人が不安そうな目してるし、ぼくが派手娘さんを連れてくるよ」

猫又娘「少女さん…」ウルウル




ーーー休み時間2ーーー

包帯少女「派手娘さん」

派手娘「あん?」

包帯少女「話があるんだけど、いいかな」

派手娘「嫌」

包帯少女「……」

派手娘「……」

包帯少女「………」

派手娘「………」



.........





包帯少女「ダメだった」

猫又娘「いやいやいやいや」

猫又娘「え?何もしてないよね?門前払いでおしまいだよね??」

猫又娘「せめてもう少し食らいついてさぁ!」

猫又娘「……うぅ…さっきの感動を返しておくれ…」

包帯少女「…なんというか、取りつく島もないって感じで」

少年「うん、そう。すごい分かる。人を寄せ付けないオーラが出てるんだよね」

包帯少女「これ以上邪魔するなって暗に言われてるみたいだった」

猫又娘「?そう?」

猫又娘(確かに普段から怒ってるのはよく見るけど)

猫又娘(何でもかんでも否定してるわけじゃないと思うんだよなぁ)

猫又娘「……ふぅ。分かったよ、私に託されたってことね」

少年「結局また猫又娘さんに任せることになっちゃうな…」

猫又娘「気にしない気にしない」

猫又娘「どうせいつかは派手娘さんと話をつけないとって思ってたから」

猫又娘「私を誰だと思ってるん?愛と勇気のトラブルシューター猫又娘ちゃんだよ」

猫又娘「本気を出せば派手娘さんの一人や二人、なんのその!」

包帯少女「本当は?」

猫又娘「………」

猫又娘「ちょっとだけ、おっかないです」アハハ...




ーーーーーーー

女生徒「ねー、夏休みどこ行こっか?」

男子生徒「俺はどこだっていいぜ。行きたいとこ言ってくれれば」

女生徒「無気力人間か!一緒に考えようよー」

ワイワイ



派手娘(夏休み)

派手娘「……」

派手娘(今年の夏はどうしてこう気に食わないのが多いのよ)



ーーーーー

同級生A「」クスクス

同級生B「」ケラケラ

少年「……」

ーーーーー



派手娘(目障りな連中が居たり)



ーーーーー

包帯少女「……」

ーーーーー



派手娘(…どっか拗らせたようなやつが湧いたり)

派手娘(あの子が包帯を着けるようになった日と、"奴ら"が見え隠れするようになったのは同じ日だった)

派手娘「…!」



女生徒「それでねー、──」

男子生徒「そのチョイスはなかなか──」

妖禍子「」カサカサ



派手娘「……」

ガタッ テクテク




男子生徒「南町神社の祭りもたまにはいいかも──ん?」

女生徒「…派手娘さん?」

派手娘「どいて、邪魔」

女生徒「ごめんなさ……いえ、なんでわざわざどかなくちゃ──」

派手娘「なに?」ジロッ

男子生徒「…素直にどいとこう」

女生徒「あ、ちょっと…!もう…」

派手娘「……はー」

妖禍子「ギ…」カササ

派手娘「」スッ



グシャッ(踏み潰す)



派手娘(いきなり現れて、無断であたしらの世界を掻き乱してさ)

派手娘(誰も気付かないからってもっと調子付いてきてるわよね)



サラサラ...(消えていく妖禍子)



派手娘「…1匹ならただの雑魚ね」フンッ

派手娘(群れたところで負けるつもりはないけど)

派手娘(…いいわ)

派手娘(やってやろうじゃない)

派手娘(ただでさえ捻くれたこの世界を、あんたらがもっとひん曲げるって言うんなら)

派手娘(あたしはあたしの目の前に現れたあんたらをぶっ飛ばす)

派手娘(先に仕掛けてきたのはそっちなんだからこれは立派な正当防衛よね?)

派手娘(こそこそちまちまと動いてる人たちも居るみたいだけど、あんなんじゃ話にならない)

派手娘(要は納得しないのよ、あたしが!それだけ!)

派手娘(気に入らないものは片っ端から消し飛ばしてやるわ!)


ポンポン

派手娘「あん?」フリムキ



イケメン「これ、落としたよ。君のでしょ?」



「あれは、クラスで一番モテる爽やか好青年のイケメン君…!」

「派手娘さんにも分け隔てなく接するなんて…仏か…!」



派手娘「ぁ……」

イケメン「ん?」ニコッ

派手娘「……やす……き……」モジッ

イケメン「ははっ、何だい?もっと落ち着いて喋ってごらん」

派手娘「っ……」グッ

派手娘「き、気安く触んな!!」バシーン!



「おおーっとイケメン君吹っ飛ばされたー!?」

「あぁやっぱり鬼の派手娘さんには近付かない方が吉なんだね…」



イケメン「」ピクッ、ピクッ

派手娘「あ……その……」

派手娘(っ…)

派手娘「」タッタッタッ




ーーー昼休みーーー

「イケメン君大丈夫なの?」

イケメン「平気平気。怪我とかしたわけじゃないから」

「ほんと、怖いよね…派手娘さん。人の親切を暴力で返すなんて」

イケメン「そう言わないであげてよ。彼女には彼女なりの理由があるんだよきっと」



派手娘「……」モヤモヤ

派手娘(理由なんかないっつーの!)

派手娘(んもー…調子狂う…)

派手娘(んな絵に描いたような善人…)

派手娘(いるわけないじゃん)

派手娘(どうせこの世はみんな天邪鬼。心の中で何考えてるかなんてそいつにしか分かりゃしないのよ)

派手娘「……もう一人いたわね」

派手娘(このクラスのお調子者)

派手娘(張りぼてみたいな笑みをひっさげてるあのバカが──)



猫又娘「派ー手ー娘さん♪」



派手娘「うわ」

猫又娘「うわって何…!そんなに私のこと嫌いなの!」

派手娘「…あんた、あたしの神経逆撫するのだけは上手よね」

猫又娘「理不尽だ…まだ何もしてないのに!今日という今日は私に対するその扱い、断固抗議するよ!」プンプン

派手娘(う、鬱陶しい…)

派手娘「はいはいしょうもない抗議なら一人でやってな。何の用?」

猫又娘「……スー…ハー…」

猫又娘「派手娘さん、折り入ってお願いが──」

派手娘「嫌よ帰ってさようなら」

猫又娘「ありま、す…」

猫又娘「……」

派手娘「……」

猫又娘「派手娘さん、折り入ってお願いがあります」

派手娘「なかったことにするんじゃないわよ」

猫又娘「そんなこと言わずにぃ~!話くらい聞いてちょうだいよー!」バッ

派手娘「ちょっ、なんでまとわり付いてくんの!暑苦しいっての…!」

猫又娘「へへっ!派手娘さんが大人しく言うことを聞いてくれるまで離れませんよぉ!」ギュー

派手娘「ウッザ!この上なくウザい!離れないと逆さ吊りにするわよ!」

猫又娘「やれるものならどーぞ♪本気出した私を捕まえられるかな?」

猫又娘(これぞ私の考え出した戦略!)

猫又娘(名付けて……勢いのままなんとかいっちゃおう作戦!)

猫又娘(押せ押せ私!このままじゃじゃ馬さんを丸め込むんだ!)


派手娘「──あ゙ー!分かったわよ、聞いてやるから離しなさい!」

猫又娘「!ほんと!」

派手娘「本当本当」

パッ

派手娘「髪が崩れるわ、まったく…」

猫又娘(…よし、最初にして最大の関門は突破)

猫又娘(後は事情の共有だけ)

猫又娘「…それじゃ、単刀直入に言うね」

猫又娘「あなたの力を貸して欲しい」

派手娘「……」

猫又娘「この町に起きてる異変…派手娘さんも気が付いてるよね?」

猫又娘「化け物たち──妖禍子が闊歩したり、同じクラスの子が消えたり…」

猫又娘「今、私と少年君と少女さんの三人でこの事件を解決する手立てを探してる。そしてあと一歩のところまで来たんよ」

猫又娘「あとは時間との勝負…」

猫又娘「…派手娘さん、妖禍子に触れてもなんともないんね。さっき踏み潰してたの、見えたから」

猫又娘「その力を見込んでお願い!手を貸して!あなたがいれば比喩抜きで百人力なの!」

猫又娘「派手娘さんだってこんなおかしな世のままにしておきたくないでしょ?」

派手娘「………」

猫又娘「ね?」

派手娘(……)

派手娘「はい、聞いてあげた」

派手娘「用は済んだ?じゃ、回れ右してさよなら」

猫又娘「……へ?」

派手娘「無駄に疲れさせることしないで欲しいわ…ったく」

猫又娘「………」

猫又娘(~~!)

猫又娘「な、なな…!」

猫又娘「なんなんそれ!?」

猫又娘「ひとがせっかく真面目に話してるのになんなのその態度!」ガシッ

派手娘「だからひっついてくんなって──」

猫又娘「ははーん、さては怖いんだね?お化けとかそういうの。」

猫又娘「プクク、見かけに寄らずかわいいとこあるんね」

派手娘「フンッ、やっすい挑発。いつの時代の漫画よ」

派手娘「さっきから精一杯強がっちゃって、かわいいのはどっちかしらね?」クスッ

猫又娘「ぬぬぬ…!」


猫又娘「…いいさ、そっちがそのつもりなら本当に怖いものなしなのか試してあげる…!」フッフッフッ



少年「!猫又娘さん、まさかここでアレに化けるつもりなんじゃ…」

包帯少女「アレ?」

少年「大きな骸骨みたいな妖怪」



猫又娘「腰抜かしても知らないかんね!」

猫又娘「そいや──」

派手娘「いいからとにかく離せっ」パシッ

猫又娘「──!?」グラッ

ドロン



「うお!なんだ何の騒ぎだ!?」

「あそこ。猫又娘さんと派手娘さんが何かしてたみたいだけど」



猫又娘「いつつ…」アタマサスリ

猫又娘「あれ?変わってない…」

猫又娘「ん?」



派手娘「……」テカー



「ハゲ頭…?」

猫又娘(あ)

派手娘「……」

猫又娘「……」

猫又娘「…んくっ」プルプル



「おい見ろよあれ…」クスス

「やめとけって。後で因縁付けられても……ぶふっ」



猫又娘「くく……くふっ…!」

猫又娘「なっはは!ごめ、ごめん!派手娘さん…!グフッ、ちょっと失敗しちゃったみたいで…!」

猫又娘「今、戻すから!…クク」

ドロン

派手娘「……」(元の髪型)


猫又娘「ひーっ!ダメだ、ツボに入った…!はは、あははは!」

猫又娘(なんでスキンヘッド?がしゃどくろ→骸骨→髪はないってことぉ?スキンはあるのに)

猫又娘(なんにしても)

猫又娘「絶望的に、似合わな過ぎる…!」ゲラゲラ

派手娘「………」



「あ…」

「…ちょっとベランダに避難すっか」



猫又娘「はー、ひー…笑った…」

猫又娘「いやぁ、悪い悪い。あんなことするつもりはなくってさ……プフッ」

猫又娘「ちょっとしたハプニングってことで許しておくれよ」

猫又娘「でもさっきの、ちょっとおいしいなとか思ったでしょ?あはは」チラッ



派手娘「………」ゴゴゴゴ



猫又娘「……はは……」




ーーーーーーー



...ドドドド



教師「……?」



猫又娘「」ドドド!



教師「おい!廊下を全速力で走る奴があるか」

猫又娘「あ!先生!」

猫又娘「お願いです匿って下さい職員室とかでいいんです!これから勉強も頑張りますからどうか頼みます…!」

教師「は…?ん?どういうことだ?」



シュバババ!



派手娘「せーんせ♪」

教師「おう?今度は派手娘か」

派手娘「ちょっとそこの、後ろに隠れてる子渡してくれません?」

派手娘「"オハナシ"がしたいので」ニッコリ

猫又娘「ひっ…!」

教師「なんだお前たち、喧嘩か?中三になってマジもんの喧嘩とはなぁ…てっきり仲良いと思ってたが――」

派手娘「先生」 ← 虎をも殺せそうな目

教師「……」

教師「…そうだ、午後の授業準備しとかんとな、うん」スタスタスタ

猫又娘「えっ。ちょ、ちょっ!」

派手娘「……」ニコッ

猫又娘「」ダッ

派手娘「」ダッ



ダダダッ



派手娘「ねーなんで逃げんのー?まだ話の途中だったのよねー?止まってくれないと続き話せないわよー?」

猫又娘「だったらその手に持ってる物騒な縄はなに!?何の"ハナシ"をする気なんでしょうか!?」

派手娘「すこーし実験に使うだけよ?」

派手娘「ねー止まってくんない??今なら…」

派手娘「…半殺しで済ませてあげるから」

猫又娘「やだぁ!」

猫又娘(殺される…!)

猫又娘「ほんとに悪気は無かったんだよぉ!許して…!」



ダダダダッ...




ーーー教室ーーー

少年「……行っちゃったね」

包帯少女「…そうだね」

少年・包帯少女「「……」」

包帯少女「うん、まぁあれは自業自得としか」

少年「あの二人仲良いんだか悪いんだか分かんないね」

少年「これで全敗。あとは…僕たち全員での説得だっけ」

包帯少女「あの子が無事に帰ってこれればね」

少年「1抜けたとか言い出さなきゃいいけど」

包帯少女「そしたら門前払い組二人ででも行ってみる?案外上手くいったりして」

少年「猫又娘さんを差し出すのと引き換えに…とか」

包帯少女「んー?少年君いつからそんな黒い発想をするようになったのかな?」

少年「本気じゃないって」ハハッ

包帯少女「分かってる」フフッ

包帯少女「ひとまずあの子が戻ってくるまで待ってようか」

少年「うん」

少年(……けどそもそも)

少年(本当にそこまでして協力してもらう必要があるのだろうか)

少年(いやもちろん、こんな異常時に助けは一人でも居た方がいいっていうのは理解してるけど)

少年(…派手娘さんのこと教えてくれたのは確か、夢見娘さん…)チラリ



夢見娘「……」スー..スー..



少年「……」

少年(あの人が、僕の作り出した妖禍子だなんて)

少年(気になる。話をしてみたいけど、僕たちの近くには居れないって言ってたらしい…)




ーーーーーーー



………。



苦しい。



………。



悲しい。



………。



──憎い。



……違うの。

その感情は。

煮えたぎる怒りの奔流は、私じゃなくて──。







ーーーーーーー

「……さん………見娘さん!」

夢見娘「…ん」

同級生C「大丈夫?うなされてたよ」

同級生C「辛い夢でも見てた…?」

夢見娘「………」

夢見娘「……平気……」

同級生C「…嘘だよ」

同級生C「だって涙、出てる」

夢見娘(…!)

夢見娘「」コスコス

夢見娘「……ただのあくび、だから……」

同級生C「………」

夢見娘「………」


同級生C「……お菓子、いる?」

夢見娘「……」コク

スッ...

夢見娘「………」ジー...

夢見娘(そういえば少し…お腹が空いてる…)

夢見娘(……今、何時?時計、時計……)

同級生C「――1時10分。もうすぐ昼休みも終わるとこ」

夢見娘「!」

同級生C「…で、よかった?」

夢見娘「……なんで……」

同級生C「分かったのかって?」

同級生C「ちょびっとだけだけど、夢見娘さんが何考えてるのか分かるようになってきたんだぜぃ」

同級生C「へへっ、これで夢見娘さん検定二級くらいは合格かな」

夢見娘「……」

同級生C「…そのさ、何かあったら気負わず吐き出してよ」

同級生C「愚痴でも弱音でも溜め込んでる方がよっぽど辛いっしょ」

同級生C「俺に出来ることなら……あー、夢見娘さんの助けになりたいから、さ」ポリポリ

夢見娘「………」

同級生C「………」

同級生C(これは…驚いてる顔だろうな)

同級生C(今更ながらあんなクサイ台詞、恥ずかしくなってきた…)

同級生C(けどま、暗い雰囲気は消えたしこれでよかったんだ。うん)

同級生C「さて、次はなんの授業だったかねー」



…クイッ(袖を掴む)



同級生C「…!」

夢見娘「………チャイム、なるまで」

夢見娘「そばに居て…」

同級生C(………!?)

同級生C(夢見娘さん…?)

夢見娘「………」ジッ

同級生C(…この上目遣いは反則だ)

同級生C「喜んで」ニッ




ーーー放課後ーーー



ガヤガヤ



派手娘「……ふぅ」

派手娘(どこかのアホのせいでいやに疲れる日になったわね)

派手娘(逃げ足だけは速いくせして)

派手娘「…行くか」スクッ



「今日さー部活に顔出してみようと思うんだよね」

「OBとして?いいんじゃない楽しそう」

「夏の大会も近いし、置いてきた後輩たちの成長を見てやろうってね~」

テクテク



...ポトッ



派手娘「?」ヒロイアゲ

派手娘「ねぇ、ちょっと」

派手娘「財布落としたわよ」

「!…あ、派手娘さん…」

「ご、ごめんなさい。変な手をかけさせちゃって…」

「…お願いです、普通に返してあげてください」

派手娘「そりゃ構わないけど」スッ

「」パッ

「行こ」

「う、うん…」



スタスタスタ...



「なに、また派手娘さんが…?」

「こわ…目付けられないようにしないと…」

ヒソヒソ



派手娘「………」




ーーーーーーー

猫又娘「」ソローリ

猫又娘「…あれ?派手娘さんは…」

少年「あ、いつの間に戻ってきてたんだ」

包帯少女「もう居なかったよ。帰っちゃったのかも」

猫又娘「ほ、ほんと…?」キョロキョロ

包帯少女「ぼくたちもちょうど二人で説得しようかって考えてたとこなんだけどね」

猫又娘(………)

猫又娘「探そ」

猫又娘「探し出して、なんとしても協力してもらおう」

猫又娘「作戦最終フェーズ、全員でこっち側に引きずり込む!」

少年「その言い方じゃあまるで悪者みたいだな…」

包帯少女「平気?あなた捕まったら今度こそ何されるか分からないんじゃ」

猫又娘「うぐ……そのときは」

猫又娘「お二人が頼みの綱です」メソラシ

少年「え、本当に猫又娘さんと引き換えにしていいの?」

猫又娘「!?そこは助けて欲しいとこだから!」

包帯少女「少年君…」ハハ...

猫又娘「そりゃあ私も悪かったけどさぁ、あそこまで怒んなくてもいいじゃん…?」

猫又娘「…でも、もっと不満なのは私の話をはぐらかしたこと」

猫又娘「妖禍子のこと絶対気付いているはずなのにあの態度だよ。せめて協力したくないならそうとはっきり言えって感じ!」

猫又娘「だからちゃんと返事もらうまで私は引き下がらないよ!」




ーーー石段麓ーーー

派手娘「……」(体育座り)

派手娘「……」

派手娘(……)



ーーーーー

「──行こ」

「──う、うん…」

ーーーーー



派手娘「……なによ」

派手娘「んな警戒しなくたって何もしないっての」

派手娘「………」

派手娘(…分かってるわよ)

派手娘(腫れ物扱いが自業自得なんてこと)

派手娘(だって仕方ないじゃん。納得いかないものはいかないの!)

派手娘(電車の音漏れ野郎も)

派手娘(不味い料理を平然と出してくる店も)

派手娘("友達"なんて、都合良く利用する奴らも)



ーーーーー

「──ねー、お願い!明日までの宿題、終わったら手伝って!」

「ちょっとは自分でやればー?ってか、あんたいつも二つ編みに見せてもらってなかった?」

「だって今のあの人使えなさそうなんだもん。たまに変な独り言言ってて不気味だしぃ」

「友達じゃなかったの?」

「まっさかー(笑)」



二つ編み「……」テクテク

テクテク...



「あーあ、聞こえてたんじゃない?どっか行っちゃったよ?」

「根暗さんに悪いことしちゃったわぁ。ごめんなさーい」

「全っ然謝る気ないでしょ」

クスクス


派手娘「…あのさ、さっきからうるさいんだけど」

「は?なにいきなり」

派手娘「耳障りなのよ消えてくんない?」

「あ、もしかしてぇ…二つ編みちゃんのお友達なんですかぁー?」

「いがーい!性格とか真逆そうなのに」

「友達料貰ってたりしてます?(笑)」

派手娘「…….」

...ガシッ

「!?」

グググッ メリ...

「い、痛い痛いやめて!」

派手娘「」グリッ

「んぎっ!?いだぁ!!やめて爪剥がれる…!!」

「ちょっと、何して──」

パッ

「ん゙ぅ…!」フラッ

「っと」トサッ

派手娘「…何回も言わせんな。とっとと失せろ」

派手娘「次は剥ぐ」

「ひぃ…!」

スササッ...

ーーーーー



派手娘(共に生きてく気もないくせに薄っぺらい言葉をいいように振りかざす)

派手娘(あたしが嫌いなタイプ)



ーーーーー

少年「──、───」

猫又娘「──♪」

包帯少女「…──?──」

ーーーーー



派手娘「………」

派手娘(………)

派手娘「……ふん……」

派手娘「……」

派手娘「別に、友達とか…」

派手娘(羨ましくなんか、ないし)




ーーーーーーー

猫又娘「…!居た、あそこ!」



派手娘「……」



少年「まさか本当にここにいるなんて…」

猫又娘「妖禍子を倒し続けてるならたくさん集まる神社に居るかも…って、少女さんの洞察力には感服ですな」

包帯少女「大袈裟だって。…現に妖禍子を相手にしてるわけじゃなさそうだしね」

少年(妖禍子自体はそこらに湧いてるのに……異常な光景だ)

猫又娘「うーむ、むしろあれは」

猫又娘「…落ち込んでる?」



派手娘「……別に、友達とか…」



三人「!」

少年「今の…」

包帯少女「…うん」

猫又娘「ばっちり聞こえた」

少年(やっぱり、派手娘さんでもひとりは寂しいんだ)

包帯少女(あの子も人の子ってことだね)

猫又娘(強がってるのはそっちじゃん。本当は人恋しいくせにさ)

猫又娘「…二人とも!」





派手娘「……」

トットットッ

猫又娘「や、さっきぶり」

少年・包帯少女「「……」」

派手娘「…あんたら…」

派手娘「…よくノコノコあたしの前に出てこれたわね」

猫又娘「……」

猫又娘「いいよ、別に」

猫又娘「私を締め上げるっていうんでしょ?ちょっと理不尽だけど、それくらいであなたの鬱憤が晴れるなら付き合ってあげる」

猫又娘「私は心が広いからねっ」

猫又娘「そん代わし」



スッ(手を差し出す)



猫又娘「あなたのこと、もっと教えてよ」


派手娘「…?」

猫又娘「いや、何というか、頼み事をするならお互いのことも知っといた方がいいしさ……えー……はい……」

猫又娘「──もとい、派手娘さんと仲良くなりたいの!それだけ!」

猫又娘「その後でさ、さっきの返事も聞かせてよ」ニヒッ

派手娘「……」

派手娘「……バカ、じゃないの…」

派手娘「ほんと…」

猫又娘「バカで結構」

猫又娘「それできみの笑顔が見れるなら安いものよ」

猫又娘「ってね」

派手娘「……」チラリ

少年「……」コクリ

派手娘「……」チラッ

包帯少女「」フフッ

派手娘(……)



(差し伸べられた手)



派手娘「……」ソッ...

ギュッ

猫又娘「…!」パァア





幼女「」スッ...





派手娘(──っ!)

...ムンズッ

猫又娘「んぇ?」

派手娘「本に書いてあったの」

派手娘「あいつら物の怪は、大きい音が弱点らしいわよ?」スッ

猫又娘「…その手に持ってるものは…?」

派手娘「……」ニヤ

派手娘「こいつはね、あたし手製の…」





派手娘「──爆竹よ!」



ヒョイ

パァン!

三人「!?」

派手娘「…らぁああああ!」ヒョイヒョイヒョイ

パァン!

猫又娘「に゙ゃぃ!?」

派手娘「いっつもコソコソコソコソ鬱陶しい!イラつかせるんじゃないわよ!!」

パン!パァン!

少年「こ、鼓膜が…!」

派手娘「こんなこじれた世界なんてねぇ!!」

パァン!バチバチッパァンッ!

包帯少女「…、…」(耳を塞ぐ)

派手娘「いっそ全部吹っ飛んじまえっ!!」



パァン!パァン!パン、バチッ!パァン!!



.........





タッタッタッ

ザッ...

派手娘「やっと見つけた…!」

幼女「……」フリカエリ

派手娘「……」

派手娘「…あんたなんでしょ?こいつら使ってバカげたことしようとしてんの」



(そこら中で気絶している妖禍子たち)



派手娘「お仲間はこの様。消さないだけ有情と思って欲しいわ」

幼女「………」

派手娘「あたし、あんたらの存在が気に食わない」

派手娘「見えないところで静かに暮らしてるだけなら構いやしないのよ」

派手娘「急に出張ってきてあたしらの日常に介入してんのが気に入らないって言ってんの」

派手娘「誰の許可を得てやってるって?少なくともあたしは許すつもりはないから」

派手娘「化け物は化け物の世界に帰りなさい」

幼女「……」

派手娘「……はん、あたしに見つかったのが運の尽きね」

派手娘「あんたにゃここで」

派手娘「──退場してもらうわ!」ダッ

ブンッ

派手娘(こいつさえいなくなれば──!)



スカッ



派手娘「!?」

ズテーン!

派手娘「いっ…たぁ……」

派手娘(今、すり抜けた…?)

派手娘「……」

ヒュッ(小石を投げる)

幼女「……」スルッ...

派手娘「…あんた、霊か何か?」

幼女「………」

派手娘(触れない物の怪とか…)

派手娘(聞いてないわよそんなの。どうしろってのよ)


幼女「………」



スッ



派手娘「………あ?」

派手娘「…なに、その手」

幼女「……」



ーーーーー

猫又娘「」スッ(手を差し伸べる)

ーーーーー



派手娘(……)

派手娘「まさか、あのバカの真似事なんて言わないわよね?」

派手娘「…あたしをおちょくってる?」

幼女「………」

派手娘「ふざけんな」

派手娘「もー…!」グシャグシャ

派手娘「わっかんない、納得できない!」

派手娘「何がしたいの、あんたら!?」

幼女「……」

派手娘「……」

幼女「………」ジッ...

派手娘「……っ」

派手娘(どうせその手、触れないじゃない…)

派手娘「……今日はこれで引き下がってやるわ」

派手娘「けど覚えときなさい!次会うときは絶対あんたを…!」

派手娘「…あんたを…」

幼女「……?」

派手娘「……ただで済むと思わないことね!!」ピューッ



タッタッタッ...





幼女「………」

幼女「………」

幼女(…そうだ)

幼女(あれが"人"らしい人間なのだろう)

幼女(異物を廃し、己が領域の秩序を守らんとする)

幼女(ある意味で最も生物としての本能に従順)

幼女「……」



三人「」バタンキュー



幼女「……」チラリ



イロヌリ瘴女「」ピク..ピク..

イイフラシ「」シロメ

カネクイ蟲「……」モゾ...



幼女("創造主"──其の手で自らの世界を描こうとしていた少年よ)

幼女(世界の綻びに立ち会うか)

幼女(そなたらに責はない。遥か昔の軋轢を理不尽に被ったに過ぎぬ)

幼女(然し尚、全てを奪い去らんとする激昂を止めようと言うか)

幼女(妖禍子を有す者とさえ、共闘し…誰が為にこの世界を守る?)

幼女(……誠、摩訶不可思議である)

幼女「………」

幼女(……)

幼女(…我に何が出来よう)

幼女(かの者の憤りに屈し、其の書物一つ奪わせることを許した我が)

幼女(魅えざる"張り裂け"の深潭)

幼女(終焉を告げる夜、其のネジレを直す力など初めから在りもしなかった)

幼女(…だが)

幼女「……そなたの道を敷くことなら可能やもしれぬ」

スッ...




ーーーーーーー

三人「」

少年「……う、あぁ…」ノソ...

包帯少女「……ん…ケホッ」

少年「…大丈夫?」

包帯少女「なんとかね…。まだ耳がガンガン言ってる気がするけど」

猫又娘「」ピョンッ

猫又娘「あー!死ぬかと思った…!」

猫又娘「なんなのなんなのあいつ!?ああまでするほど私が嫌いか!?」

少年「手製の爆竹とか言ってた。思った以上にとんでもない人だね…」

猫又娘「対妖禍子用のものなんだろうけど、そんなことは関係ない!」

猫又娘「話は聞かない、文句しか言わない、果てにゃこの仕打ちって…いくらなんでも私らをバカにし過ぎだ!」

包帯少女「…うん。全くもって同意」

包帯少女「これはさすがにやり過ぎてるよねぇ…」ゴゴゴ

猫又娘「いつまでも下手に出てると思ったら大間違いだよ…」ゴゴゴ

少年(おぉ…)

少年(今の二人、絶対敵に回したくないな…)







ーーーーーーー

派手娘「……」テクテク

派手娘「……」テクテク

派手娘「…むしゃくしゃする」

派手娘「ん゙ー!」

派手娘「嫌い…嫌いだわ」

派手娘(人を小馬鹿にしたようなこんな世界も)

派手娘(…それに惑わされるあたし自身も)



ーーーーー

スッ(手を差し伸べる)

ーーーーー



派手娘(…なんだったのよあいつ)

派手娘(あんなのにあたしの何が分かるっていうのよ)

派手娘「……」



──ホントはみんなと仲良くしたい?



派手娘「………」

派手娘「……なわけ」





ズイッ



派手娘「!」ピタッ

派手娘「っぶな」

派手娘「ちょっと、どこ見て歩いてんの──って」

猫又娘「……」

包帯少女「……」

少年「……」

派手娘「…あぁ?」

派手娘(……)

派手娘「……なに?わざわざあたしを追いかけたきたの?相当暇人なのねあんたら」

派手娘「生憎だけど今日はもう話すことなんかないわ。そこ通してくれないかし……ら…?」

猫又娘「………」ポン..ポン..

派手娘(杓子…?)

派手娘(にしてもでか過ぎる…)

包帯少女「……」カツッ...

派手娘(こっちはバット)

派手娘「…野球でもするの?」

少年「」アセアセ

派手娘(こいつはなによ)

少年「…そ、その、早く謝ってくれた方が…」

派手娘「はぁ?なんであたしが──」



ガキンッ!



派手娘・少年「「」」ビクッ

猫又娘「……そうだねぇ……派手娘さんには同じ目を味わってもらった方が理解出来るんじゃないかなぁ」

猫又娘「話も聞かずにぶっ飛ばされる気持ちがさぁ…」ユラァ...

包帯少女「野球、興味ある?いいね…丁度"ボール"が足りなかったとこだから」ジリ...

少年「派手娘さん…!」

派手娘「ぅ……」

派手娘(……っ……)

派手娘「……す」

派手娘「すいませんでしたぁ!」

派手娘「いくらなんでもやり過ぎました!あの化け物共にストレスが溜まってたんです!」

派手娘「…これでいいっ!?」


派手娘「…これでいいっ!?」

猫又娘・包帯少女「「……」」

派手娘「な、なに…」

猫又娘「…ほんとに」

猫又娘「ほんっとーに!素直じゃないよねきみ!」

猫又娘「あんね、さっき派手娘さんが呟いてた独り言、私ら聞こえてたんよ」

派手娘「独り言……あ」



ーーーーー

派手娘「──別に、友達とか……」

ーーーーー



猫又娘「私さ、派手娘さんがどういう性格なのかってある程度分かってるつもり。…不本意ながらね」

猫又娘「自分が許せないと思ったものには口を出さずにいられない。違う?」

派手娘「……」

猫又娘「…きっとそんなだから、おいそれと近付いてきてくれる人なんて居なかった」

少年(そっか。自分が理不尽だと思うようなことに、強く反論してただけなんだ)

少年(……僕にその気概の一部でもあれば、あいつらにちょっかい出されることもなかったのかな)

派手娘「………」

派手娘「…見てて苛つくのよ」

派手娘「隠したり、誤魔化したり、理不尽を強要する奴、ましてそれを受け入れてる奴なんかも」

派手娘「この化け物共なんて一番嫌い」

派手娘「…爆竹も、元はあんたらに使う気なんかなかったわ」

派手娘「ただ、化け物のボスみたいのが見えたから…全部吹き飛ばしたくなっただけ」

猫又娘「えっ!?」

少年「ボス…!」

包帯少女「ってことは…会ったんだね!?あの男に!」

派手娘「男?なに言ってんの、こんくらいのちっさい女の子よ」

派手娘「不気味なくらい何も喋んない…おまけに立体映像よろしく身体がすり抜けるわけのわかんない生き物」

派手娘「…あんたの言うあの男って?」

猫又娘「この事件の元凶なんだって。顔も知らないんですけどね…」

包帯少女「……派手娘さんの言うそれってもしかしてさ」

少年「──トドノツマリ様」

猫又娘・包帯少女「「!」」

少年「…あ、いやそうじゃないかなって…」

猫又娘「ふむ…確かに少女さんが借りてきた本にそんな容姿で描かれてたね」

包帯少女(古書店で借りたあの本……二つ編みさん……)


猫又娘「やっぱりこの山に居たんだ!というか今さっき私らのすぐ近くまで来てたなんて…くぅ…」

猫又娘「派手娘さんっ!」

派手娘「っ…あによ」

猫又娘「ありがとっ!あなたのおかげで一つ懸念点がなくなった!」

猫又娘「間違いなくここらを探せば見つかるってことよね」

派手娘「……つくづく謎だわ、あんた。さっきまで怒ってた相手にお礼?」

猫又娘「それとこれとは別」

猫又娘「もう派手娘さんの返事は聞かないからね。あなたは私たちに協力する!」

猫又娘「…それと、私と友達になること」ニシッ

派手娘「……」

派手娘(………)

派手娘「……悪いけど──」



──シュルルッ



少年(妖禍子…!?)

少年「危ない!」

派手娘「─?」

少年(間に合わない…!まさかこのまま目の前で派手娘さんが消される…?)

少年「──そんなのダメだっ!!」





ピカッ!





少年(眩しっ…!)

包帯少女「ん…!」

猫又娘「にゃっ!?」



ヒュオオオォ!

妖禍子「グウウウゥゥ…!」

ヒュオオォ...



...ストッ





全員「………」

猫又娘「……これ、アヤカシノート…?」

少年「!」ガサゴソ

少年「僕のカバンに入ってたやつだ」

包帯少女「今、吸い込まれていった…ね」

三人「……」

猫又娘「…す、すごい!」

猫又娘「これ私があげたやつだよね!こんな力があったの!?」

包帯少女「ってことは本物は」

猫又娘「うん。もっと強い力を持ってるに違いないよ」

猫又娘「ねぇねぇ少年君!もっかいやってみせて!」

少年「…今の、僕が狙って起こしたんじゃないんだ」

猫又娘「?じゃあなんでいきなり…」

少年「……」

スッ パラパラ

少年「……あ」

包帯少女「今の妖禍子だね」

猫又娘「どれどれ…」ノゾキコミ

猫又娘「…絵?になっちゃったんだ」

猫又娘「本物のノートは書いた妖禍子が出てくるけど、こっちのノートは妖禍子を吸い込む、と?」

猫又娘(我ながら凄まじいものを作ってしまったのでは)

少年「逆にこれを何冊も使えば奴らを封印出来たりしないかな」

猫又娘「!なるほど!量産なら簡単に出来るから──」

猫又娘「…けど、用意したところで使いこなせるかも分かんないしなぁ。この辺の妖禍子全部となるといくつ必要になるんだろ」

包帯少女「結局のところ、ますます本物を見つけ出さなきゃいけなくなったってことだね」

猫又娘「うむ、そうなるね」

猫又娘「この奇妙な生活もいよいよもって終わりが見えてきたわけだ!」

ワイワイ


派手娘「……」

派手娘「」クルッ

猫又娘「──ちょっと、どこ行くんよ!」

派手娘「帰るのよ」

猫又娘「もちっと待って。今、明日からの行動予定を決めちゃおうと思うから」

猫又娘「派手娘さんは私と一緒にお山探索してもらおっかなぁ。私らなら大胆に動けそうだし!」

派手娘「…あのね、誰があんたたちに付き合うって言った?」

猫又娘「むっ、この後に及んでまだそんなこと──」

派手娘「あたしに付いてきて欲しいなら、まずその嘘くさい空元気をやめなさいよ」

猫又娘「…え?」

派手娘「作り物みたいに不自然な笑いとか、見苦しくてしょうがない」

派手娘「そういうの嫌いだって言ったばっかでしょうが」

派手娘「」ジロリ

少年・包帯少女「「……」」

派手娘「…人を騙してまで仲良しごっこするの、楽しい?」

猫又娘「──……」

派手娘「……ふん」



スタスタスタ...



猫又娘「………」

猫又娘(……っ……)




ーーー夜 神社ーーー

幼女「……」



(びっしりと札の張られた社)



幼女「……毒を制すのは、これもまた毒」

幼女「かの者に奪われた者よりも濃密で暗澹たる意思共」

幼女(かつて人に迫害され、封じられた妖禍子を人の世の為に用いる所業など……なんと皮肉なものか)

幼女(妖禍子が人の世に混じればそこには必ず理不尽が生まれ出ずる)

幼女(其の理不尽を防遏していた…はずであった)

幼女(……)

幼女(我の力だけでこの者共を御しきれるか、読めぬところである)

幼女(…そうであろうと、我は見届けたいと思ったのだ)

幼女(彼らの行く末)

幼女(吹きすさぶ激情の終着点──)



幼女(──あの時かの者の命を繋いだ我の選択は、正しかったか否かを)



幼女「……」ソッ...



...カタ、ガタガタガタ



幼女「……」



ビリ、ビリッ、ビリリッ



幼女「……く……」



ベリベリベリッ!





ドタァン!




ーーー翌朝 学校ーーー



ガラッ



派手娘「……」テクテク



猫又娘「──やることは変わらないさ。これからは二手に分かれて動いてくよ」

少年「僕と猫又娘さん?」

猫又娘「んにゃ、私が一人で。きみらはペアでね」

猫又娘「少女さんの方が、もっと積極的に少年君のこと守ってくれそうよね」ニヒッ

派手娘「」テクテク

猫又娘「あ…」

派手娘「……」テクテク

猫又娘「……」

派手娘「」スッ(席に着く)

猫又娘「………」

猫又娘「…んで、明日から夏休みに入っちゃうし、集まる場所とか細かい予定も──」

少年(……猫又娘さん……)

少年(昨日派手娘さんが去ってから、猫又娘さんはいつものように勝気な声で言っていた)



ーーーーー

猫又娘「──私がきみらを騙すだのなんだの、そんなことあるわけないからねっ!」

猫又娘「失礼しちゃうよまったく、あの人は!もう知らない!」

ーーーーー



少年(…確かに僕は、猫又娘さんが僕らを裏切ってどうこうするだとか、そんな考えが浮かんだことはなかった)

少年(派手娘さん……この人には何が見えているんだろう)





ガララ



教師「悪い悪い、遅れそうになったな」

教師「とりあえず出席だけとってくぞ。この後すぐ体育館に移動だからな」

少年(体育館…終業式の場所もうちょっとマシなところにならないかな。暑いんだよなあそこ)

少年「……?」

少年(あれ…?)

少年「先生!…今日休みの人多くないですか?」

少年(クラスの半分くらいが来てないなんて)

教師「なんだ、寝ぼけてるのか?」





教師「全員居るじゃないか」





少年「──っ」

教師「まぁ、少し無駄な席が多い気もするが…」

派手娘「……チッ」

教師「そうこう言ってる間にもう移動の時間だ。準備しろ準備!」



ガタ、ガタッ



夢見娘「……」



(空席の同級生C)



夢見娘「………」




七幕はここまでとなります。
次回八幕は過去が明らかになっていきます。

更新間隔が空いてしまっていますが、必ず完結はさせます。
見てくれてる方がいるかは分かりませんが…。

八幕が長くなってしまいそうなので、前後半に分けて投下します。
以下、前半です。

■第八幕 ヒトとアヤカシ■



ーーー神社 境内ーーー



カー、カー...



包帯少女「……」

少年「……」

包帯少女「少年君」

少年「ん?」

包帯少女「今何時かな」

少年「今?えっと…」

包帯少女「当てっこしようよ。ぼく17時ね」

少年「んー、じゃあ…16時半?」

包帯少女「正解は…」スマホトリダシ

包帯少女「16時45──あ、46分になった」

包帯少女「…ぼくの勝ち」

少年「えぇ?そんな図ったようなタイミング…」

包帯少女「ふふっ」

包帯少女「すると今日はざっと6時間くらい、山の周りを駆けずり回ってたんだ」

少年「…そうなるね」

包帯少女「……」

少年「……」

少年「……猫又娘さん、遅いね」

包帯少女「うん」





仔猫「」スタタタッ



ドロン

猫又娘「ごめんごめん、怪しそうなところがあったからちょびっと寄り道してた」

少年「怪しそうな?」

猫又娘「ま、何もなかったんですけどね」

猫又娘「そっちはどう?」

包帯少女「ぼくたちも同じ。怪しい影どころか…通行人もほとんど居なかったような」

猫又娘「そうかぁ」

猫又娘「うーん、夏休みに入ってそろそろ一週間でしょ?ここまで足取りが掴めないのも変だよね」

猫又娘「…あと一歩、もう少しなのに…」

少年「……」

少年(猫又娘さんの言う通り、終業式の日からもう6日も経ってる。…のに、まったく進展がない)

少年(トドノツマリ様に、ノートに、黒幕の男の、過去)

少年(連日こうやって猫又娘さんが山を、僕と少女さんでこの町を探索してるんだけど、それももう限界なのかもしれない)

猫又娘「むー……」アタマオサエ

少年(猫又娘さんは派手娘さんとの一件以来、こうして悩むことが多くなった気がする)

包帯少女「………」

少年(少女さんも時折、辛そうな顔を見せることがある…)

包帯少女「…ぼくたち、意図的に避けられてる?」

猫又娘「どうしてさ。避ける理由が見当たらないじゃんか」

包帯少女「でも派手娘さんとは顔を合わせたんだよね?ぼくたちがこれだけ探しても見つけられないのはもうさ…」

猫又娘「……だったらどうすればいいんよ」

包帯少女「う、ん……もしそうだとしたら、あっちからの接触は絶望的だから」

包帯少女「アプローチの仕方を変えるしかないかもね」

猫又娘「アプローチねー」

猫又娘「気配はすれども姿は見せない。そんなシャイな子を引っ張り出す方法…」

猫又娘「…あ、そうだ」

猫又娘「例えば神社のお社にイタズラすれば出て来てくれるんかな」

少年「落書きでもする?」

猫又娘「いーや、もっと…」

猫又娘「叩き壊すとか?」

少年「え」

猫又娘「……冗談に決まってるでしょー?そんな罰当たりなことするわけないじゃん」


猫又娘「とはいえもしかしたらこの中で隠れんぼしてたり…………っ!!」

包帯少女「どうしたの?」

猫又娘「……あれ……」ユビサシ



(散り散りになった無数の紙札)



少年「ひどい、なんだこれ…」

包帯少女「…先週の土曜だっけ、来た時破けてるのは一枚だけだったけど」

少年「まさか…」チラッ

猫又娘「んーんー!私じゃないよ!?私だって今気付いたんだから!」

少年「…だよね。こんな乱暴に千切るような真似、よっぽど恨みのある人がやったのかな」

包帯少女(…確信に近いものがある。これをやったのはきっと"人"じゃない)

猫又娘「……」

包帯少女(ここまで派手な痕跡なんだから何かしら感じ取れてるよね)

包帯少女「」チョンチョン

猫又娘「!」

包帯少女「……」ジッ...チラリ

猫又娘「……」フルフル

包帯少女(……そっか)

少年「どうしたの?」

包帯少女「ちょっとね…この社、元々何かを封印してる雰囲気があったから」

少年「…中の妖禍子が出てきたってこと…?」

猫又娘「どうかねぇ。今となってはもう分からんね」

猫又娘「…にしては妙なんだよね」

猫又娘「私が山ん中見てた限り、むしろ最近は妖禍子減ってきてると思ってたんだけど」

包帯少女「…今もほとんど居ないね」

猫又娘「でしょ?」

三人「………」

少年「…この神社って随分昔からあるんだ」

包帯少女「ん。伝承に出てくるくらいには古いみたい…どうかした?」

少年「社がさ、相当ボロボロだから…」

猫又娘「中も無残だねこれ」

少年「…あれだ」

少年「いつかの轢き逃げ事件を思い出すよ」

猫又娘(──!)


包帯少女「少年君、見てたの?」

少年「偶々下校途中だったんだ。そのトラックがどっかの家に突っ込んで凄まじい状況になってたのはよく覚えてるよ」

包帯少女「……友達は平気だった?」

少年「僕の周りはね。近くの学校の子が轢かれたらしいって話は聞いたけど」

包帯少女「そう…」

包帯少女「良かった…って手放しに言っちゃいけないんだろうね」

包帯少女「その事件の被害者が運良くぼくたちじゃなかっただけで、どこかの誰かにとってはきっと大切な人だったはずだから」



ーーーーー

老婆「──あの子の親はね、あの子が中学に上がる前に交通事故で亡くなってしまってねぇ」

ーーーーー



包帯少女(……)

少年「!…うん」

包帯少女「あ、ごめん。話逸らしちゃって………猫又娘さん?」

猫又娘「………!」

猫又娘「な、なになに?」

包帯少女「?平気?」

猫又娘「なにが?」

包帯少女「今、少し──」

猫又娘「なんでもなーいっ。明日からどう探していこうか、考えてただけ!」

猫又娘「探す場所を変えるか、探す方法、つまりさっきのアプローチを変えるか……何をどうしたらいいかなぁ。正直私一人だとこれだ!ってものが思い付かなくて」

包帯少女「本当に社壊すわけにもいかないもんね」

包帯少女「既に半壊してるとはいえ」

少年「……あの」

猫又娘「うむ?」

少年「もしも…もしもだよ」

少年「トドノツマリ様も、例の男ももうこの町に居ないんだとしたら…?」

包帯少女「別の町に?」

少年「だってこんなしらみ潰しにして見つからないのもそうだし、なのに妖禍子は減ってるって言うならそれってさ…」

猫又娘「…この山も離れて、違う場所へ侵略しに行ったと?」

少年「そういう可能性もあるんじゃないかなって」

猫又娘「………」

包帯少女「だからってここを離れるのも危ない気はする」

包帯少女「今ぼくたちが居なくなったらこの町は…みんなはどうなっちゃう?」


少年「それは……考えたくないけど」

少年「……最悪、見放すことになるのか──」



猫又娘「絶対嫌だっ!!」



少年「!」ビクッ

猫又娘「信じられない、何言ってんのっ!?」

猫又娘「きみに大切な人は居ないの!?親は?親戚は?友達は?」

猫又娘「きみを大切にしてくれた人を、きみはみんな見捨てるってことだよね?例えば明日みんな死んじゃうかもしれないことが分かってるのに放置するんだ!?」

猫又娘「奴らが違うとこに行っちゃったんなら、探す範囲を広げればいいだけじゃん!」

猫又娘「そんな、この町を切り捨てる真似…私は許さないよ!!」

包帯少女「………」

少年「ご、ごめん……」

猫又娘「…!」

猫又娘「あ……いや……」

猫又娘(何してるの、私)ギリ...

猫又娘「……今日は、帰ろ」

猫又娘「少し頭冷やしたい」クルッ

ドロン

仔猫「……」



サッサッサッ...





包帯少女「……」

少年「猫又娘、さん…」

少年「僕、こんなつもりじゃ…」

包帯少女「分かってる。分かってるよ」

包帯少女「きっとあの子も」

少年「……」グッ...

包帯少女「……」



ギュッ(手を包み込む)



少年「え…」

包帯少女「…大丈夫、焦らないで」

包帯少女「はやる気持ちはぼくにもある。けど、いたずらに急いでちゃ見えるものも見えなくなっちゃうよ」

包帯少女「ぼくはちゃんと、きみの味方だから」

少年(──)

包帯少女「…って感じのこと、あの子にも言っておいてよ」フッ

少年「……はは、伝えとく」

少年「ありがとう。元気付けてくれて」

包帯少女「ぼくたちがへこたれてたら町を救う救わないどころじゃないからね」

少年「あぁ、ほんと」

包帯少女「猫又娘さんが一番、分かってると思うよ」



──ズクンッ



包帯少女「っ……」

少年「?少女さん…?」

包帯少女「ううん、何でもない」



包帯少女(………)




ーーー夜 少年の自室ーーー

少年「………」

仔猫「………」

少年(猫又娘さん、猫の姿でいるのはいつも通りだけど、こっちに背中を向けてる)

少年(帰ってきてからずっとこの調子だ)

少年「……」

少年「……ねぇ」

仔猫「……」

少年「…夕方のさ、ごめんよ。猫又娘さんの気持ちも考えずに…」

少年「僕も本気でこの町を見捨てようなんて思ってるんじゃなくて……」

少年「…いや、見捨てたくなんかない。ここにあるのは家族とか大切な人もそうだけど、かけがえのない思い出もたくさんあるから」



ーーーーー

少女「──友達になってくれませんか?」

ーーーーー



仔猫「……」

仔猫「………」

ドロン

猫又娘「………」

猫又娘「…私の方こそ、過剰に反応しちゃった」

猫又娘「あんな風に言うつもりは、なかったんよ」

少年「うん」

少年(……)

少年「…僕、猫又娘さんのこと好きだよ」

猫又娘「………え!?」

猫又娘「それはっ…んん!?」

少年「"人"として尊敬してるってことだよ」クスッ

猫又娘「……からかったなー?」

少年「からかい半分、真面目半分かなぁ」

少年「尊敬してるのは本当だからさ」

少年「どんな時でも明るくて眩しくて…みんなを元気付けようとしてくれて」

少年「それってすごく格好いいよ。僕みたいな人間には真似出来ないから……憧れるんだ」

猫又娘「ど、どしたの。そんなに褒めても何も……」

少年「つまりだ」

少年「僕はきみを信じる」

猫又娘「……」

少年「猫又娘さんには何度も勇気をもらってる。だからもう弱音は吐かないよ」

少年「僕たちの手で、絶対この町を取り戻そう」


猫又娘「……」

猫又娘「…はぁまったく…何言い出すかと思えば」

猫又娘「私も、きみらを信じてるから一緒に居るんだよ」

猫又娘「…そもそも私"人"じゃあないし、本当は憧れてもらうようなとこなんか、ないんよ…」



少年「──本当かウソかなんてどうでもいいんさ」



猫又娘「!」

少年「前、言ってた言葉」

少年「その通り、猫又娘さんが人かそうじゃないかなんて関係ない。僕が見てきたのは"猫又娘"っていうやんちゃなお人好しだからね」

猫又娘「………」

少年「………」

猫又娘「…言うようになったねぇ、きみ」ニッ

少年「だって猫又娘さんが居ないと、僕どうしていいか分からないから…」

猫又娘「えぇ?なにそれ締まんないなー」

少年「それと、少女さんからも。もちろんきみの味方でいる…って、言ってた」

猫又娘「…ありがと」

猫又娘(……)

猫又娘「あー!よもや私が少年君に励まされるなんてね~」

猫又娘「少年君、きみ変わったね」ニコッ

少年「そ、そうかな」

猫又娘「そうだよ!もっと自信持ちなって!」グシャグシャ

少年「ちょ、髪…子供扱いしてる!?」

猫又娘「へへへっ」

少年「親戚のおじさんじゃないんだから…!」

少年(おてんばなところは相変わらずだけど、やっぱり猫又娘さんはこうでなくちゃ)

猫又娘「……この町はさ」

猫又娘「私にとって、私よりも大事なものなんだ」

猫又娘「だからね、この身を賭してもここを守るんだ。…全部全部、変えてみせる」

少年「……」


猫又娘「よっし!うじうじタイム終わり!」

猫又娘「頭も十分冷やしてもらったし遅ればせながら今後の作戦を考えてこー!」

少年「それなんだけど、一ついい?」

猫又娘「お?」

少年「あの人──夢見娘さんなら何か知らないかな」

猫又娘「ほほぉ…そういえば夏休み入ってから一回も見かけてないね」

少年「手伝いはしてくれるって言ってたんだったよね?この前みたいにまた陰から見ていてくれたりしてさ」

猫又娘「あり得る」

猫又娘「あの子少年君のストーカーさんだし…」ボソッ

少年「問題はいつどこに居るのか謎なことだけど」

猫又娘「きみが呼べば来るんじゃないかなぁ」

少年「僕が…?」

猫又娘(あの不思議ちゃんか…考え付かなかったな)

猫又娘(思えば一緒に居られないなんて言ってた子がどうやって手伝うつもりだったんだろ)

猫又娘(今の私らの現状も見てるんかな)



ーーーーー

派手娘「──いっそ全部吹っ飛んじまえっ!!」

ーーーーー



猫又娘(……あの事も)

猫又娘「」ブンブン

少年「?」

猫又娘「少女さんにも訊いてみようよ。夢見娘さんから何かアクションがあったかどうか」

少年「うん。…今?」

猫又娘「もち」

少年「……」スッ

猫又娘「その機械便利よねー。スマホ?だっけ。実は買おうか迷ってたんよ」

少年「自分で作っちゃえばいいんじゃないか?」スッ、スッ

猫又娘「私が作れるのは精々模型だよ。複雑なものは真似れないからさ」

猫又娘「私の力がそんなに万能だったら、きみにあげたノートで今頃解決出来てたかもね~」ノゾキコミ

少年「少女さんにLINEするけど、何て送る?」

猫又娘(……7/28……)

猫又娘(あ!)

猫又娘「そういえば少年君。あの神社って明日は──」




ーーー少女の自室ーーー

包帯少女「……」



シュルシュル



包帯少女「……っ」

包帯少女(…いつかこうなってしまうだろうとは思ってた)

包帯少女(包帯の下、一見何も変わってないように見える……けど)

ズクンッ

包帯少女「ぁ……はぁ…!」

ジク..ジク..

包帯少女「ゥグ…!」

包帯少女(お願イ、もう少しダけ保って…!)

包帯少女「……っ……ぃ……」



ピロリン



包帯少女「はぁ、はぁ……?」チラリ



少年『てすてす。猫又娘です』

少年『こんな感じで送れてるの?』



包帯少女(少年君のLINE…)



少年『大丈夫みたい。じゃ、改めて』

少年『さっき勝手に帰っちゃってごめん。でもきみたちに励ましてもらったからもう大丈夫』

少年『でさ!今少年君と話してて出てきた案があるんです!』

少年『まず夢見娘さん』

少年『ここしばらくあの子を見てないんだけど、少女さんは??彼女、何か知ってれば情報提供してもらおうよ』





包帯少女「……」



少女『ぼくも知らない。明日は夢見娘さんを探しに行くの?』

少年『そうそうそのことについて!』

少年『明日ってさ例の神社で夏祭りやる日なんよね』

少年『それに便乗して最後に神社周りを探してこうよ』

少女『便乗?あのお祭りってトドノツマリ様にまつわるものだっけ?』

少年『夏祭りとか楽しいことが目の前でやってたらポッと出てきてくれないかなーって』

少年『少なくとも私なら目一杯楽しむ』

少年『(ドヤ顔スタンプ)』



包帯少女「思いつきなのね…」



少女『いいんじゃない?夢見娘さんはその後ってことだよね』

少年『まーね。逆に夢見娘さんが見つかっても私ら的にはOKだけどね』



ーーーーー

夢見娘「──少年くんを、お願いします…」

ーーーーー



包帯少女「……ぼくは……何をすればいいんだろう」

包帯少女(……)

包帯少女(一度死に…帰ってきたあの日から、何もかもが思い通りにいかない)

包帯少女(誰かを守ることも怪異を終わらせることも出来ないこんなぼくに…)

包帯少女「っ……いや、ぼくがこんなことを考えてちゃダメ……」

包帯少女(でも)

包帯少女(ぼくがここに居る意味はなに…?)

包帯少女「……少年君……」




ーーー翌日 夏祭りーーー



ワイワイ ガヤガヤ



少年「おぉ…」

包帯少女「……」

少年「すごい人だね。こんな人混みを見るの久々だ」

少年「ほとんどみんな消えちゃったかと思ってた…」

包帯少女「ここのお祭り、市外からも結構集まってくるからね」

少年(来てる人も気合入ってるなぁ)

少年(女の人どころか男でも浴衣着てる人がちらほら)

少年「……」チラリ

包帯少女「なに?」

少年「な、なんでもない」

少年(少女さんの浴衣姿、ちょっと想像してたなんて言える空気じゃないよな)

包帯少女「じゃあ行こうか」

少年「この人だかりの中に入ってくんだね…」

包帯少女「人のいない場所は猫又娘さんが探してくれてるし、ぼくたちはここにトドノツマリ様が紛れてないかを確認していくのが仕事」

少年「分かってるけどさ。…小さい女の子って言っても家族連れまでいるから、こう人が多いと見分けられるか不安だよ」

少年「妖禍子は全然居ないのが救いかな」

包帯少女「……猫又娘さんに付いていった方がよかった?」

少年「え?そうは言ってないけど」

包帯少女「……」テクテク

少年「……」...テクテク




ーーー石段前ーーー



「次あっちの屋台行ってみない?」

「すいませーん!通してください!」

「あっ……りんご飴落としちゃった…」グスン



少年「ここなんてもう満員電車みたいだ…」

包帯少女「……」

少年「足元気を付けながら進まないと転びそう……少女さん?」

包帯少女「あ、うん」

少年「大丈夫?気分悪かったり…?」

包帯少女「平気…うん、気にしないで」



テク..テク..



少年(うわ…人多過ぎて全然進めないな。人波に飲まれないようにしないと)

包帯少女「……」スルリ

少年「……」グッ..テクテク

少年(…少女さん、今日は妙に口数が少ない)

少年(周りは騒がしいのに、僕たちだけ違う空気の中に居るみたいだ)

少年(……前にも、こんなことがあったな。あれは、まだ少女さんが包帯を着けるようになる前、僕が少女さんをあの池に突き落と……)

少年(………)

少年「…その、包帯さ」

包帯少女「ん?」

少年「巻いてるとこ、夜になると痛み出すって言ってたけど今はもう治ったの?」

包帯少女「……」

少年「…!ごめん、バカな質問した。まだ痛むから包帯してるんだよね…」

包帯少女「…まだ治ってはないよ」

包帯少女「もうすぐ解放されるかなとは思ってるけどね」

少年「本当っ?」

少年「そしたらさ、また二人で野球出来るよね。少女さんが万全な状況でさ」

包帯少女「そのためには…先にこっちの問題を終わらせないとだよ」

少年「そう…だね」

包帯少女「……」

少年「……」

少年(……)





グンッ!



少年「!?」

少年(ちょっ…押され…!)

ゴンッ

少年「おぶっ…!」ナガサレー

少年(ま、まずい)

少年「少女さん!少女さーん!」

少年「すいませんそっちに行きたいんです、道空けてください!」

ガヤガヤガヤ...

少年(全然動かない。一つの人波になっちゃってるんだ)

少年(なら)

少年「んっ…!」ググッ

「おい!変に押すなよ!痛いだろ!」

少年「あ、ごめんなさ──」

ドンッ

少年「痛っ」ズテッ

少年(やば、転けちゃった)

少年(どうしよう…ぎゅうぎゅうで立ち上がれない…)

ザワザワ

少年(踏まれる…!?)



「こっちよ、付いてきて」グイッ



少年「え!わ…!」



.........





「ここなら人もあんまり居ないね」

少年「はぁ、はぁ…あの、ありがとうございます。助けてくれて」

「あの人口密度はもう一種の凶器だよね。怪我はない?」

少年「はい。お姉さんの方も平気ですか?」

「まぁね。浴衣で走るの慣れてるから」フフッ

少年「でも、お祭り楽しんでるの邪魔しちゃいましたよね…」

「いいのいいの。元々人の少ない所で射的やりに行った友達を待つつもりだったしね」

「そういうきみは…もしかして迷子?」

少年「迷子、なんですかね…人混みに揉まれちゃいまして」

「あー…私も、正直ここまで混んでるって知ってたら来なかったかも」

「でも今は便利な時代、私たちにはこれがあるもの」スッ

少年「スマホ…」

「そう。きみも、お友達にここに居るってこと教えておかないと」

少年「……」ゴソゴソ

スッスッ、スッ



少年『ごめん、人に流された。今石段の横のはずれた場所に居るよ。焼きそばと金魚すくいの屋台の間』



少年(……)

少年(……そうすぐには既読にならないか)

「ふぅ。早く戻ってこないかな」

少年「…お姉さんて、この町の人ですか?」

「私?ううん、北市の人だよ」

少年「お姉さん、この町って人少ないなって思いませんでした…?」

「別に思わなかったけど……というかその、お姉さんって言われるのこそばゆいな…」

少年「えっと、それじゃ先輩?」

眼鏡娘「眼鏡娘、でいいよ。私の名前」

少年「眼鏡娘さん…?」

眼鏡娘「はい」ニコッ

少年(綺麗な笑顔……まるで……)



ーーーーー

少女「」フフッ

ーーーーー



少年「………」

少年「…あの、ちょっとだけ相談してもいいですか…?」

眼鏡娘「?うん。私で良ければ」

少年「……」フリムキ

少年(……あの池は、向こうの方だったっけな……)

少年「例えば…」

少年「例えばの話ですけど」

少年「もし願いを叶えてくれる人が居たら……眼鏡娘さんだったら、お願いをしますか?」

眼鏡娘「…願い事?」

少年「はい」

眼鏡娘「神妙な顔で喋り出すから何かと思ったら…随分メルヘンチックな相談ね」クスッ

少年「理不尽に死んでしまった友達が居たとして」

眼鏡娘「…!」

少年「…その人を生き返して欲しいと願うのは、いけないことなんでしょうか…」

眼鏡娘「……」

少年「……」

眼鏡娘「……なくなった命はね、戻らないよ」

眼鏡娘「願いを叶えてくれるだなんて、そんな都合の良いものはこの世にないの。よしんばあったとしても、必ず犠牲が付いてくる」

眼鏡娘「おいしい話には裏がある、ただ程高いものはない…なんて言うでしょ?」

眼鏡娘「だから私ならそんなものには頼らないかな」

少年「そう、ですか」

眼鏡娘「…意外だった?」

少年「まぁ…少し…」

眼鏡娘「ふふっ。そうね、普通目の前にそんなチャンスが降って湧いたら、誰だって飛びつきたくなるよね」

眼鏡娘「少し前の私なら、迷わずお願いするって答えてたろうなぁ」

少年「…?」

眼鏡娘「ね、ちょっと可笑しな話」

眼鏡娘「私ついこの間までね、重力が嫌いだったの」

少年「え、重力…?」

眼鏡娘「そう。きみにも私にも産まれた時からずーっと降りかかってる重力」

眼鏡娘「重力のせいで転ぶし、重力のせいで気分が沈む……重力がまとわり付いてくるから息苦しいんだーって、うんざりしてた」

眼鏡娘「…けど違った」

眼鏡娘「重力が嫌いだったわけじゃなかった。いつも流されるだけで行動しようとしない自分が、嫌だったの」

眼鏡娘「それを重力のせいにしてたんだよね」


少年「……」

眼鏡娘「あんまり面白くなかった?」

少年「…どうやって克服したんですか?」

眼鏡娘「克服、というか……気付かせてくれたんだ」

眼鏡娘「私の大事な人たちが…」

少年「……それって、今日一緒に来てる友達さん?」

眼鏡娘「!…すごい、どうして分かったの?」

少年「眼鏡娘さんの顔見てたら、なんとなくそうかなって」

眼鏡娘「へぇ……んふ、なんか少し嬉しいかも」

眼鏡娘「あ、でも」

眼鏡娘「この相談って…もしかしてきみのお友達は……」

少年(………)

少年「いえ、生きてます。さっきのは例えばの話ですから」

眼鏡娘「…そっか」



元気娘「あ!居たー!」テッテッテッ



眼鏡娘「!来た来た」

少年(あの人が眼鏡娘さんの大事な人…?)

元気娘「ねー見て見て!男くんこんなに撃ち落としたの!隠れた才能がーとか言って──む?」

少年・眼鏡娘「「?」」

元気娘「……眼鏡娘ちゃんが」

元気娘「男の子を口説いてる!?」

眼鏡娘「違いますー。人混みで潰されそうになってたからここまで連れてきただけ」

元気娘「なーんだ」

元気娘「こーゆうとこではねぇ、スルスルッて、人の間をうまくすり抜けるのだよお兄さん」ニシシッ

少年「は、はい」

元気娘「眼鏡娘ちゃん行こっ!男くん向こうで待ってるから!」

眼鏡娘「うん」

眼鏡娘「それじゃあね。今度は倒されないように気を付けるんだよ?」

少年「…お話、ありがとうございました」

眼鏡娘「余計なお世話になってたらごめんなさい」

少年「そんなことないです」

眼鏡娘「……」

眼鏡娘「じゃ、余計ついでに最後に一つだけ」

眼鏡娘「──きみときみの愛する人を大切にね」

元気娘「眼鏡娘ちゃん早くー!」

眼鏡娘「はいはい!」



タッタッタッ...



少年「………」

少年「愛する人…って」

少年(友達は大事にしなさいってこと?)

少年「友達……ともだち……」

少年「……少女さん……」

少年(……………)

少年(懐かしいな、初めて少女さんと話したのがもうずっと前の気がする)

少年(あの時は終わったと思った。僕の情けないノートを見られて、またクラスの笑い者にでもされるんじゃないかなんて)

少年(けど彼女はバカにすることもなく勇気付けてくれた。こんな僕と友達になろうなんて言ってくれてさ…)

少年(…僕があの時差し伸べられた手を握っていたら、未来は少しでも違うものになっていたのかな)

少年「……」

少年(……そう。僕がノートを落としてなければ、あの男に会ってなかったら……あんなノートに頼らないくらい強かったら)

少年(少女さんがあんな目に遭うことはなかったのかもしれない)

少年「……っ」

少年(時間が経つに連れて少女さんは、笑うことが減っていった。もう逃げないって、目を逸らさないって誓ったはずの僕は……それを見ていることしか出来なかった)

少年(流されるままで行動しようとしない……いや、行動はしてるつもりなんだけど…)

少年(…眼鏡娘さんが言ってたのはそういうことじゃないよな)

少年(……あぁ、分かってるよ)

少年(今の僕に足りないのは、向き合うこと)

少年(がむしゃらに怪異を追いかけていればいずれ何もかも丸く収まる?そんなわけないだろ)

少年(一番見過ごしちゃいけない問題から逃げようとしてたんだ)

少年(………)

少年(………)



包帯少女「少年君!」



少年「!」

包帯少女「やっと見つけた」タッタッタッ...


包帯少女「ここまで酷い混み具合はさすがに予想外…」

包帯少女「悪かったよ、きみが居なくなってるの気付けなくてさ」

少年「……なんで少女さんが謝るんだよ」

少年「ぼくが、勝手に押し流されただけだよ」

包帯少女「…どうかしたの?」

少年「………」

包帯少女「少年君…?」

少年「…謝らなきゃいけないのは僕だ」ソッ

包帯少女「っ」ピクッ

少年「……こんな……包帯なんて……」

少年「ごめん、僕のせいで」

少年「少女さんを苦しめていたくせに、僕はそこから逃げてた…」

包帯少女「………」

少年「……」

少年「…僕がこの神社を訪ねた土曜日、覚えてる?トドノツマリ様の噂を確かめるだとか言って」

包帯少女「……うん」

少年「あの日、さ」

少年「実は僕だけじゃなくて少女さんも一緒にここに来てたんだよ。境内でトドノツマリ様が現れるか確かめて、でも何も出てこなかったから場所を変えてさ」

少年「…近くの池まで行ったんだ。そこで……そこで…………」

少年(……)

少年「変な声に唆されて……いやこれは言い訳だ」

少年「──僕は、きみを池に落とした」

少年「あまつさえそのまま逃げて見捨てようとした…!」

少年「僕はきみを殺したんだ!」

少年「きみが今生きてるのはきっと………僕がトドノツマリ様にお願いをしたから」

少年(そうだよ、社の前で泣き喚いてたあの時、思い返してみれば不可解な現象が起きていたじゃないか)

少年「少女さんを生き返して欲しいって願いを、トドノツマリ様は本当に叶えてくれたんだ…!」

少年「だけどきみは苦痛に苛まれた状態で戻ってきた。それは…願いの代償なのかもしれない…」

包帯少女「……」

少年「僕はさ、きみがあの日のことを覚えてないって言った時、好都合だと思っちゃったんだ」

少年「このままあの事が無かったことになれば……なんて考えてたんだろうね」

少年「何もかも少女さんに押し付けて自分は逃げようとして」

少年「それでも少女さんは僕のことを助けてくれた」

少年「また笑って、一緒に話をしてくれた…」

少年(……っ)


少年「ごめん、少女さん!僕は卑劣な嘘をついてた!きみとの関係が壊れるのが怖くて…!」

少年「でも結局僕が全部ぶち壊しにした!」

少年「きみから平穏な日常を奪っておきながら、平気な顔して居座り続けた人間が!!」

少年「……僕という奴なんだ……」

少年(弱い人間だ…僕は…)

少年(傷付くのを恐れ、傷付けるのを恐れ……最後には逃げ出す)

少年(その結果どうだ。結局こうして大切な人を傷付けている)

少年「ごめん……ごめんよ……!」

少年「僕は、きみに出会うべきじゃなかったんだ……」

包帯少女「……」

少年「……」

包帯少女「………」



包帯少女「知ってたよ」



少年「……え?」

包帯少女「今話してくれたこと。あの土曜日の出来事」

包帯少女「少年君に突き落とされて溺れたことも、全部ね」

包帯少女「嘘つきはきみだけじゃないの。ぼくも、覚えてないなんて嘘をついた」

少年「な…なんで…」

包帯少女「きみと同じだよ。ぼくだって少年君との関係を壊したくなかったから」

包帯少女「どうして生き返ったのかは、今初めて知ったけどね」クスッ

包帯少女「……少年君。色々言いたいことはあるけど、とりあえず」

包帯少女「きみを恨んではいないよ」

少年「…!」

包帯少女「確かに身体が痛んだり、怖い夢を見ることもあった。普通の女の子じゃなくなったような気がしたよ」

包帯少女「でもね、それ以上にきみと過ごすのが楽しかった。勉強は教え甲斐があったし、仲直りしてくれた時はすごく嬉しかったもん」

包帯少女「だからきみに日常をめちゃくちゃにされたなんて思ってない」

包帯少女「むしろあのまま死んでいたら、それこそ恨むよ。化けて枕元に出てたかもしれないなぁ」

少年「……………」

包帯少女「…ぼくはね、きみと出会えて良かった」

少年「──」

少年(……どうして……きみは、こんな)

包帯少女「こんな弱い自分が恥ずかしい」

少年「っ!」

包帯少女「とか思ってるんでしょ」

少年「…実際その通りだし…」

包帯少女「全然違うよ。だってこうやって、ぼくに洗いざらい打ち明けてくれたじゃない」

包帯少女「ぼくの知る以前の少年君だったら、その罪悪感を最後まで胸にしまったままだったと思う」

包帯少女「今、ちゃんと向き合ってくれた。きみは十分強くなってるよ」


包帯少女(…ん、そっか。ぼくがここに居る意味なんて至極単純。というより頭のどこかでは分かってた)

包帯少女(この人がこんなだから、ぼくは放って置けなかったんだ)

包帯少女(見守って、側で過ごして、手を貸して……こんな風に成長してくれるのを見届けたかったんだろうな)

包帯少女「……ふふっ」

少年「………」

少年「…怒って、くれよ」

少年「自分を殺した殺人犯が、目の前に居るんだぞ!普通怒り狂うくらい──」



ピトッ(人差し指を唇に押し当てる)



少年「!」

包帯少女「そういうとこかな、ぼくが怒るのは」

包帯少女「全部自分が悪いと思い込むところ」

包帯少女「…少年君さ、ぼくを殺したいと思ったことがあったの?」

少年「あるわけない!そんなこと絶対思うもんか!…あの時はなんか、自分が自分でないような感覚で…」

包帯少女「そう。じゃ、許す」

少年「へ?」

包帯少女「それが聞ければ満足だよ」

包帯少女(水底に沈む間際見えたあの男)

包帯少女(今なら分かる。ぼくを突き落としたのは多分、あいつだ)

少年「少女、さん……」

包帯少女「あれ…泣いちゃう?」

少年「!…泣かない」

少年「強い奴は、泣き顔なんて見せないだろ?」

包帯少女「そうそう、その息だ」

少年(間違いない)

包帯少女(それにしてもこんな時に気付かされるなんて)

少年(やっぱり僕は──)

包帯少女(きっとぼくは──)





少年・包帯少女(この人のことが好きなんだ)





少年(鬱屈とした日々から救ってくれただけじゃない、こんなにも僕を認めてくれる)

少年(こんなの好きになるなって方が無理だ)

少年「……ありがとう、少女さん」

包帯少女「どういたしまして」

少年(…この人だけは絶対、何がなんでも守り抜いてやる)

包帯少女「さて、捜索再開しよっか。あんまり遅いと猫又娘さんにどやされちゃう。花火の上がる時間までには済ませられるといいね」

少年「花火?もっと混んでくるから?」

包帯少女「ううん。せっかくお祭りに来たんだもん、花火くらい見ていきたくない?」フフッ

少年「…いいね」ハハッ



...ギュ



少年「…!」

少年(手を……)

包帯少女「またはぐれたら、大変だから」

少年「そう……だね」

少年(…♪)

包帯少女「それから、さっきの話もう少し詳しく教えて。きみの身に何が起こってたのか、ぼくが溺れた後何があったのか知っておきたい」

少年「わ、分かった…!」

包帯少女(ありがとう、はこっちの台詞だよ少年君。おかげで踏ん切りがついた)

包帯少女(ぼくはもう迷わない)




同級生A「あ?少年じゃん」

同級生B「ミイラ女も一緒かよ」ケッ



少年(こいつら…来てたのか)

同級生A「おぅおぅなんだその手。お前ら結局出来てたんかよ(笑)」

同級生B「付き合ってないとか言ってた癖にな?」

同級生A「しっかしまぁ、よくやべぇ奴同士でくっつこうと思ったもんだわ」

同級生A「傷の舐め合いってやつか、え?そこんとこどうよ少年ちゃんよ?」ニタニタ

包帯少女「…あなたたち、よく飽きもせず──」

少年「いいよ少女さん」

包帯少女「…?」

少年「……」

少年「傷の舐め合いじゃない、一緒に居るのが楽しいだけだ」

少年「お前らだって二人でこの祭りに来てるじゃん。わざわざ僕をからかうために来たんじゃあるまいし、僕たちと同じだろ?」

同級生B「はぁ…?」

同級生A「てめぇらと一緒とか…冗談言うな」

少年「じゃあ何しに来たんだよ」

同級生A・B「「………」」

同級生B「…!なぁおい、もう時間が」

同級生A「あ!やっべ、姉貴にボコられる!」



タッタッタッ...



包帯少女「……」

少年「……」

包帯少女「……やるじゃん」

少年「……へへっ」




ーーーーーーー

猫又娘「……」ザッザッ

猫又娘「……」ザッ...

猫又娘「………」



(大きな池)



猫又娘(ここにもいないか)

猫又娘(今日こそはもしかしたらって思ったんだけどなぁ)

猫又娘「……」

猫又娘(…いつ見ても気味悪い所だよ)

猫又娘(ここからそう遠くないとこでお祭りやってるはずなんに、喧騒なんか聞こえやしない)

猫又娘「……ここ、なんよね。きっと」

猫又娘(少年君が少女さんを突き落としたっていう例の池)

猫又娘(池の底からたくさんの手が伸びてくるのを見たって言ってたけど、私が来た限りではそんなの一回もなかった)



ーーーーー

少年「──それに、声が聞こえたんだ。少女さんを、ここで突き落とせって」

ーーーーー



猫又娘(…そんなことも言ってたっけ)

猫又娘「……」

猫又娘「………」

猫又娘「……………」

猫又娘「」グッ...

猫又娘「もー!あとちょっとなのになぁ!」

猫又娘(もうちょっとで何か分かりそうなのに!ここまで出かかってるんよここまで!)

猫又娘(喉につっかえた小骨が取れないときよりもやもやする~!!)


猫又娘「…………はー」

猫又娘(結局、あの子たちの問題も解決し切れてないんだよね)

猫又娘(少年君も少女さんも、ここで起きたことについて触れないようにしてさ)

猫又娘(…かく言う私も、あれ以上首を突っ込めなかった)

猫又娘(……中途半端な関係に戻すくらいだったら、初めから関わるべきじゃなかったんかなぁ……)



ーーーーー

派手娘「──人を騙してまで仲良しごっこするの、楽しい?」

ーーーーー



猫又娘「………」

猫又娘「……騙してるつもりなんて、ないのに」

猫又娘(でも)

猫又娘(ここに居る私は、いつも失敗ばっか)

猫又娘(…それって…)

猫又娘(………)

猫又娘(私のしてることって、間違ってるのかな…)

猫又娘「……」

猫又娘(…キミの居ない世界は、やっぱり難しいよ…)

猫又娘(私はただ……)



猫又娘「もっとキミと笑いたいだけなんだよ…」









例えば、子供が大人のフリをして大人になっていくように。
キミのフリをずっと続けていれば私は、キミのようになれると思ったんです。




===5年前===



……………。



ワイワイ



……………。



キャハハハ!



猫又娘(………!)

猫又娘「…?……?」

猫又娘(ここ、どこ…?)キョロ、キョロ



坊主「」テテテッ

おてんば「もうちょっとー!」テテテッ

ヒョロ「いいぞ!そのまま捕まえちゃえ!」

気弱「」ハラハラ

坊主「くっそー!なんで俺ばっか追いかけんだよ!いろんなやつ狙うのが鬼ごっこだろぉ!?」

おてんば「坊主が一番追いかけやすいのよー!」

坊主「なんじゃそりゃ!?」

ワーワー!



猫又娘(……なんか、楽しそう……)



おてんば「それ捕まえた!」タッチ

坊主「はぁ、はぁ……足はえーよお前…」

坊主「ちくしょー…追いかけやすいやつってんなら、気弱を狙ってやるか」

気弱「え」ピクッ

おてんば「ちょっと!気弱ちゃんいじめたら許さないからね!」

坊主「ふざけんなよおい!?」

ヒョロ「やっば逃げなきゃ」ダッ

坊主「うおおぉ!」タッタッタッ

気弱「……」テテテッ

気弱「…ん?」チラッ

気弱「ねぇみんな、あの子」

坊主「お?」

おてんば「あら?」

猫又娘「!」

ヒョロ「初めて見る子だ!」

猫又娘(あ……ど、どうしよう…)


気弱「」トコトコ

猫又娘「……」アセアセ

気弱「……あなたも、一緒に遊ぶ?」

猫又娘「え…?」

坊主「いいなそれ!これで鬼じごくから解放されるぜぃ」

おてんば「どーせ次の鬼も坊主になると思うわよー」ニヤニヤ

坊主「なにぃ!?」

ヒョロ男「今日は全員で坊主狙う日だな!」

ワーワーギャーギャー

気弱「ごめんね、ちょっと騒がしいけどみんな面白い人だから。あなたさえ良ければだけど…どうかな?」

猫又娘「……いいの…?」

坊主「あたぼうよ!」

ヒョロ「ウェルカムウェルカム」

気弱「……」ニコッ

猫又娘「………じゃ、じゃあ」

おてんば「決まりね!わたしおてんばって言うの!あなたは?」

猫又娘「私…えっと……」

猫又娘「猫又娘、です」

おてんば「よろしく、猫又娘ちゃん」

坊主「よーし!鬼決め直そうぜー!」

おてんば「それはなしよ。坊主からでしょ?」

ヒョロ「異議なーし」

坊主「くっそおまえら…」

マチヤガレオラー!

ボウズガキレタ!

猫又娘「……」ポカン

気弱「…行こ?」

猫又娘「!うん」




ーーー夕方ーーー

坊主「──そら!」ビュン!

ヒョロ「ぐはっ」バシン

猫又娘「」ボールキャッチ

坊主「うっし、これで全員外野だな」

ヒョロ「いてて…坊主&猫又娘チーム強過ぎない!?」

おてんば「坊主がドッチボール強いのは知ってるけど、猫又娘ちゃん運動神経いいのね」

気弱「」コクコク

猫又娘「そうかな?…えへへ」

ヒョロ「全然当てらんないんだもんなー。猫みたいにかわしちゃってさー」

おてんば「じゃ、次は猫又娘ちゃんと坊主が分かれて──」



カーン、カーン



坊主「あ、もうそんな時間か。…やべぇ俺帰って宿題やんないと」

ヒョロ「…おれも」

おてんば「宿題くらい遊ぶ前に終わらせとけばいいのに」

おてんば「ま、わたしももうかーえろ。そもそもここ親に来ちゃダメって言われてるし」

ヒョロ「へー。なぜに?」

おてんば「……怖いお化けが出る、とか言ってくるの。知らないとこに連れてかれちゃうんだって」

坊主「あれ、お前お化け苦手じゃなかったか?」

おてんば「べ、別に怖くなんかないですけど何か!?」

坊主「めっちゃ怖がってるよなそれ!そんなんでよくここで遊んでたなぁ」

おてんば「…だってここ丁度いいんだもん。誰もいない手頃な空き地」

気弱「秘密基地…って感じだよね…?」

おてんば「そうそう!さすが気弱ちゃん分かってるー!」

ヒョロ「誰も来ない空き地ならこの山のてっぺんにもあるよね。あそこ、ほら、えーと…お寺のとこ」

おてんば「あそこは、なんか……変なのが出そうじゃないっ」

坊主「お祭り以外じゃ行きたくねーよなー」


坊主「はー、帰るとすっかー」

ヒョロ「猫又娘っちは家どこなん?」

猫又娘「え!?…とぉー…」

猫又娘(家なんて無い…)

猫又娘「…あっちの方」

気弱「私とおんなじ方向だね」

おてんば「いいないいな。わたしも猫又娘ちゃんとお話しながら帰りたいー」

坊主「また明日も遊ぼうぜ、この五人でよ」

ヒョロ「異議なーし」

猫又娘「!遊びたい!今日すっごく楽しかったから!」

猫又娘「あ……えと、あのね」

猫又娘「ありがと」ニコッ

坊主「俺らも楽しかったぜー」

おてんば「」ウンウン

気弱「……♪」ニコニコ

坊主「んじゃ、まったなー!」

ヒョロ「じゃね~」

おてんば「猫又娘ちゃん、バイバイ!」

猫又娘「うん!バイバイ!」

猫又娘(一緒に遊ぶことは、楽しい)

猫又娘(絶対覚えておこう)




ーーー帰り道ーーー

気弱「……」トコトコ

猫又娘「……」テクテク

気弱「…猫又娘、ちゃん」

猫又娘「?」

気弱「今日、その…楽しかった、んだよね…?」

猫又娘「もちろんだよ。みんなと遊ぶの一生飽きないかも」

気弱「…良かった。さっき、私が無理に誘っちゃったんじゃないかなって、ちょっと不安だったんだ」

猫又娘「ううん、声かけてくれて嬉しかった!」

気弱「まだまだ元気そうだね」フフッ

気弱「……実を言うとね、私も幽霊みたいな怖いの、全然ダメなの」

猫又娘「そうなの?それじゃあ…」

気弱「うん。あの空き地も怖い」

気弱「…けど、みんなと居れば楽しくて怖さなんて忘れちゃうんだ」

気弱「私もおてんばちゃんに誘われてみんなと遊び始めたからね、一緒だよ猫又娘ちゃんと」

猫又娘「気弱ちゃん…」ジーン

気弱「だ、だからね、その……」

猫又娘「?どしたの?」

気弱「…わ、私と、友達になってくれる…?」

猫又娘「!……なる。ならせて!」

気弱「…!」パアァ

気弱「やた…!どうしよ…とっても嬉しい」

猫又娘「私もだよ。初めてのお友達だもん!」

気弱「初めて…?」

猫又娘「ぁ……私ここにお引越ししてきたばっかりなの」

気弱「そうだったんだ……そういえば、学校はどこにいってるの?」

猫又娘「………あっちの方の……」

気弱「向こうは……中央小学校かな」

猫又娘「そ、そこそこ」

気弱「そっか、残念…。私たち、南小だから学校終わってからじゃないと遊べないね…」

猫又娘「……」

猫又娘「私、放課後時間いっぱいあるからさ、毎日でも遊ぼ!」

気弱「…ふふっ、そうだね。ヘトヘトになるくらい遊ぼうね」

猫又娘「うん!!」




ーーー数日後ーーー

猫又娘「……」サササッ

猫又娘「」チラリ

猫又娘「……」ササッ

猫又娘「……!」

猫又娘「坊主くん見ーつけた!」

坊主「!?マジかよ!」ダッ

猫又娘「」ダッ



タタタタッ



猫又娘「…むふー」トン

坊主「いや無理!猫又娘の方がはえーのに缶蹴れるわけねーって!」

おてんば「わたしがかけっこで負けちゃうのよ?見つかったら最後、追い付けない!」

ヒョロ「一瞬で捕まりましたはい…」トホホ

気弱「すごいね…どこに隠れても見つかっちゃう」

猫又娘「えへ、みんなの気配で分かっちゃうんだ」

おてんば「気配!なんか忍者みたい!」

坊主「でもヒョロは真っ先に見つかって良かったんじゃね?お前猫又娘のことかわいいなーっつってたもんな」

ヒョロ「なっ!なんでばらすんだよ!?」

おてんば「あら?ヒョロ、まさか猫又娘ちゃんのこと」

ヒョロ「ちがっ…ないから!んなこと!」

猫又娘「……かわいい…私が…?」

気弱「うん…とっても」

おてんば「そうねー、わたしの次くらいにはね!」

坊主「うーわ始まった、おてんばのかわいい自慢」

おてんば「あぁ?」

ギャーギャー

ヒョロ「あーあ、そしていつもの二人の口喧嘩だー」

猫又娘「あはは」

気弱「……」

気弱「…ねぇ、猫又娘ちゃん?」

猫又娘「なーに?」

気弱「……こ、今度、私んちに遊びに来ない?」

猫又娘「気弱ちゃんのおうち…!」

気弱「うん。…私がね、家で猫又娘ちゃんの話してたら、お母さんが今度その子遊びに連れてきなさいって」

気弱「でもでも!嫌ならいいよ!どうせ私の家で遊んでも、面白いものないし…」

猫又娘「行く行く!」

気弱「!」

猫又娘「気弱ちゃんが居るだけで楽しいもん!行くよ!」

気弱「……お母さんに言っとくね」ニコッ


猫又娘(私が誰なのか、この世界が何なのか、よく分かんないけど)

猫又娘(そんなのどうでもいいや。こうして気弱ちゃんたちと遊べれば、なんもいらないもん)

ヒョロ「おーい、そろそろ別の遊びしようよ」

おてんば「ん?そうね…」

坊主「鬼ヶ島鬼ごっこやろうぜ!」

おてんば「なにそれ」

坊主「今俺が考えた!猫又娘以外全員鬼で、猫又娘を捕まえる鬼ごっこだ!鬼ばっかいるから鬼ヶ島風、みたいな」

猫又娘「え」

気弱「そんなの、すぐ捕まっちゃうよ…」

ヒョロ「4対1はそりゃあねぇ」

おてんば「わっかんないわよ?猫又娘ちゃんすばしっこいから案外苦労するかも」

坊主「そういうことだ。俺らまだ猫又娘に勝てたことないしな!」

ヒョロ「負けず嫌いなだけやんか」

坊主「……そうだよ悪いか!?」

猫又娘「…いいよー?」

坊主「まじ!」

おてんば「ふぅん、自信ありげな顔してるわね!」

気弱「え、え…私、でも猫又娘ちゃんだけ狙うなんて……」

坊主「こんな時にまで遠慮する必要ないんだぜ?」

気弱「そうじゃなくて…」

おてんば「ならこうしない?負けた方は罰ゲーム!」

おてんば「わたしたちが捕まえられなかったらこっちの負け、捕まえられたら猫又娘ちゃんの負け」

おてんば「で!負けた方は言うことを一つ聞かなくちゃいけない!」

ヒョロ「いやーそんなの気弱っちはもっとやりたくなくなるだけじゃ?」

気弱「………」チラリ

猫又娘「…?」

気弱「……そ、それなら」

ヒョロ「なぬっ」

おてんば「なんて命令する気なのかな~?」ニヒッ

気弱「ないしょ…!でも」

気弱「つ、捕まえちゃうから、猫又娘ちゃん」

猫又娘「」ニヤリ

猫又娘「私が勝ったらみんなそれぞれに命令出来るんだよね?」

おてんば「そうよ」

坊主「おいおいまじで逃げ切る気なのか!?」

ヒョロ「絶対捕まえてやろう!」

坊主「おうよ!」

おてんば「覚悟はいい?猫又娘ちゃん??」

気弱「……」ドキドキ


猫又娘「にっへへー。みんなまだ私の本気を知らないでしょー」

猫又娘「私が本気出したらぜーったい捕まらないもんね!」

おてんば「なぁに?坊主みたいなこと言っちゃって」

ヒョロ「知ってる、それ負けフラグってやつだ!」

猫又娘「ふふふ……では!」

ピョコン!

四人「!?」



猫又娘「さーて!始めよっか!」ネコミミ&シッポ



気弱「…ね、猫の耳…?」

坊主「すげぇ…手品かよ」

猫又娘「手品?違うよー、これが私の真なる姿なのです!」

おてんば「」ソーッ

猫又娘「!」ピクッ

おてんば「う、動いた…」

猫又娘「ちょっとびっくりしちゃって」

坊主「俺も触っていいか…?」

ヒョロ「」チョンチョン

猫又娘「ん……や…ムズムズするぅ…」

坊主「めっちゃふさふさ……っつか生えてんのか、これ…?」

猫又娘「?うん。そうだよ」

猫又娘(みんな、そんなに珍しいのかな?)

坊主「は!?えぇ…!?なんじゃそりゃ!どうやって動かしてんだ!?」

猫又娘「そんなの普通に──」



ギュー!



猫又娘「いだぁい!!」

猫又娘(え、なに?なに…!?)

おてんば「……」

猫又娘「…おてんばちゃん…?今、耳引っ張ったの…?」

おてんば「……すごいのね。その耳どう付けたのか知らないけど頑丈なのね。ねぇどうしたらそれはずせるの?」

猫又娘「これ、私の耳だよ?」

おてんば「うん分かってる分かってる。だからどういう風にくっついてるのか知りたいの」

猫又娘「えっと…だから、これは私の耳で──」

おてんば「そんなわけないでしょ!猫の耳生やした人なんていないもん!!」

おてんば「じゃあなに!?猫又娘ちゃんは人間じゃないって言いたいの!?」

猫又娘「う、うーん……」

猫又娘「……みんなと一緒じゃ、ないかなぁ…」

四人「………」


猫又娘「………」

おてんば「……人間じゃない……」

おてんば「バケモノ……」

猫又娘「え…」

おてんば「……いやぁ…!」ダッ!

タッタッタッ

坊主「おい!おてんば!」

ヒョロ「な、なぁ坊主。おれらも逃げようよ…なんか怖くなってきた…!」

猫又娘「なんで…?みんな、遊ぶんじゃ…」

坊主「そうな…」

坊主「取り憑くなら俺らじゃないやつにしてくれよ、頼むから!」

タッタッタッ

猫又娘「坊主くん!ヒョロくん!」

気弱「……」

猫又娘「気弱ちゃんどうしよ…おてんばちゃんたち、どっか行っちゃったよ…!」

気弱「ひっ……こ、こないで…!」

猫又娘「気弱、ちゃん…?」



気弱「気持ち悪い…」



猫又娘「──」

気弱「」タッタッタッ

猫又娘「…!」

猫又娘「……待ってよ……行かないで……」



気弱「」タッタッタッ...




ーーー夕方ーーー

猫又娘「……」トボトボ

猫又娘「……」トボトボ

猫又娘「………」



(誰もいない小さな公園)



猫又娘「………」

トボトボトボ...

猫又娘「……」

猫又娘(これが公園…)

猫又娘(遊べそうなものが、たくさんある)

猫又娘(あの空き地よりも…)

猫又娘「……」ウズクマリ

猫又娘(……)



ーーーーー

おてんば「──バケモノ……」

ーーーーー



猫又娘「……なんでかな……」

猫又娘「私、みんなと遊んじゃダメなのかな……」

猫又娘「……」

フサフサ ギュ...

猫又娘「…こんな耳が付いてるから…?」

猫又娘「みんなと違うから遊べないの…?」



ーーーーー

気弱「──私と、友達になってくれる…?」

ーーーーー



猫又娘「……みんなと同じじゃないと、本当の友達になれないの…?」

猫又娘「ウソの友達にしか…」

猫又娘「………」

猫又娘「……友達って……なんだろう……」

猫又娘「………」

猫又娘(……私って、なんなの……)

猫又娘「……」グッ...

猫又娘(今ここから消えちゃえば、みんなと同じに生まれてこれるかな)


...ザッザッザッ

猫又娘「…!」カオアゲル

帽子少年(以下、帽子)「……」

猫又娘「……なんですか?」

帽子「……」スッ(手を差し伸べる)



帽子「お困りですか?お嬢さん」ニッ



猫又娘「へ…?」

帽子「こんなとこで落ち込んでたら、ずっと気分はくもりだよ?ほら!元気出して笑って笑って!」

猫又娘「…ほっといて」

帽子「いーや、きみが笑ってくれるまで離れない!」

猫又娘(…っ)

猫又娘「やめてよ!こんなバケモノに構わないで!」

帽子「化け物?…その猫耳とシッポ?」

猫又娘「……」

帽子「かわいいじゃん!天然物の仮装だね、100点だよ!」

猫又娘「─!」

帽子「あんね、きみが誰なのかなんて関係ないんよ。みんなみーんなが笑ってくれれば、みんな楽しくなるじゃん?」

帽子「つまり……そいっ」グイッ

猫又娘「わわっ」

帽子「よし、立ち上がれたね!ほいじゃ次は笑顔を作ろう!こーやって…」ニー

帽子「こう!」ニカッ

帽子「笑って嫌なことも面倒なことも全部吹き飛ばしちゃえ!」

猫又娘「………」

猫又娘「……ぅ……」ジワ...

猫又娘「うええぇぇん…!」ギュッ

帽子「おっとと」ダキトメ

猫又娘「うぅ…ヒック…ああぁ…!」ポロポロ

帽子「…よしよし」

帽子「いっぱい泣いたら、いっぱい笑おうか」ナデナデ



.........





帽子「──それで、その友達は逃げていっちゃったんだ?」

猫又娘「……」コク

帽子「気持ち悪くなんかないけどなぁ。何を怖がったんかな。きみ、悪さでもするん?」

猫又娘「しない……と思う」

帽子「?」

猫又娘「だって分かんないの…ついこの間気が付いた時にはここにいたんだもん」

猫又娘「…もしかしたらひどいこと、するかも…」

帽子「へーきだって。きみ悪い子には見えないしさ」

帽子「……友達が欲しいん?」

猫又娘「っ…」

帽子「友達がいれば、きみは笑ってくれるんかな?」

猫又娘「……でも、どうせみんな私から離れてく…」

帽子「だから僕が友達になるよ」

猫又娘「ふぇ…?」

帽子「僕はきみから離れない。そう言われない限りは。むしろきみに興味があるんです」ヘヘッ

猫又娘「ほんと…?離れて、かない?」

帽子「うむ!」

猫又娘「……じ、じゃあ──」



ーーーーー

気弱「──気持ち悪い…」

ーーーーー



猫又娘「……でも、ダメだよ」

猫又娘「本当の友達にはなれないよ…」

帽子「んー?」

猫又娘「私、みんなと違うから……みんなと同じじゃないからウソの友達にしかなれない…」

帽子「……」

猫又娘「……」ウツムキ




帽子「本当かウソかなんてどうでもいいんさ」



帽子「きみがここにいて、きみの笑顔が見たいと思ってる僕がここにいてさ、それだけでいいじゃない」

帽子「難しく考え過ぎだって。友達に本当もウソもない!仲良しなら友達でオッケー!」

猫又娘「……」

帽子「…やっぱ、怖いん?」

猫又娘「……怖い、けど……」

猫又娘「ねぇ…ほんとに離れてかない…?」

帽子「もちろん」

猫又娘「私、気持ち悪くないの…?」

帽子「全然」

猫又娘「……」

帽子「……」

猫又娘「…絶対だよ!私を一人にしたら、呪っちゃうから…!」

帽子「おーこわいこわい」ニシシッ

帽子「その調子で明日はもっと元気なきみを見せておくれよ」

帽子「じゃ、帰りますかね~。もう暗くなってきたし」

帽子「きみを家まで送ってしんぜよう」

猫又娘「……家、ない……」

帽子「んぇ?…あー、そか」

猫又娘(……)

帽子「僕の家来る?」

猫又娘「!…いいの?」

帽子「僕んち無駄に広いからきみ一人隠せる部屋くらいいくらでもあるんさ」




ーーーーーーー

帽子「これが僕んち」

猫又娘「大きい…」

帽子「でも住んでんの僕とじいちゃんだけなんだよね。縁側とかも多いから掃除が大変でさー」

帽子「ちょっと隠れててね」

猫又娘「」ササッ

帽子「じいちゃんただいまー!」ガラッ

祖父「……うむ」

祖父「…今日は、少し遅かったな」

帽子「すごーく落ち込んでる子がいてさ、泣き止むまで慰めてた」

祖父「……そうか」

祖父「夕食、出来てるぞ。早く食べなさい」トットットッ...

帽子「はーい!」

帽子「……よし、行こう行こう」

猫又娘「……」

帽子「どしたん?今なら見つからんよ」

ドロン

仔猫「…ニャ」

帽子「おぉ…!すごい、それなら安全に潜入できるな!」

帽子「あ、なんだっけ、確か…」

仔猫「?」

帽子「そうだ!猫又!」

帽子「人に化けられる猫のこと、そう言うんだって!あれ?猫に化けられる人か?…ま、どっちでもいっか!」



祖父「冷めてしまうぞ、早く食べなさい」



帽子「今行くー!」




ーーーーーーー

帽子「さーて、と」

仔猫「」オスワリ

帽子「ご飯、あれだけで足りたん?」

仔猫「……」コクリ

帽子「僕なら絶対お腹空きまくる量だわな」

帽子「んで、部屋決めなー」

帽子「今いるのは大部屋。ここはよくじいちゃんがお客さんとか連れてくるからなしとして」

帽子「向こうの和室3つ、あっちは物置になってる部屋、そこの右行ったとこにもおんなじような部屋があって」

帽子「一応そっちの廊下の奥が僕の部屋」

帽子「うーむ…まぁ物置部屋なんかが布団もいっぱいあるし、悪くないかもな~」

仔猫「……」

ドロン

猫又娘「…キミの部屋」

帽子「おぅ?」

猫又娘「キミの部屋がいい」

帽子「へ。僕はいいけど、あんま広くないよ?」

猫又娘「……一人は、やだ」

帽子「……」

帽子「よぉーし、では一名様ご案内!」





それからの日々はすごく目まぐるしかった覚えがある。




ーーーーーーー

帽子「お困りですか、おばあさん?」

老婆「荷物が重くて、階段が上がれなくてねぇ…」

帽子「それくらい僕が持ちますよ!上まで一緒に行きましょう!」

老婆「ありがとうねぇ」

帽子「きみはおばあさんがバランス崩さないように支えてあげて!」

猫又娘「うん」





キミは誰彼構わず助けの手を差し出していた。




ーーーーーーー

高学年「ここの公園は俺らが使うんだから他所に行けよ」

帽子「まぁそんなかたいこと言わずにさー、みんなで仲良く、ね?」

低学年の子たち「「「………」」」

高学年「やだよ、狭くなんじゃん」

帽子「あ!ならさ、こういうのはどう?そのボール使ってドッチボール勝負!勝った方が今日この公園を使える!」

高学年「えー?チビ達とやんの?どうせ弱い者いじめしたとか言って先生にチクる気だろ」

帽子「ノンノン。あの子たちの代わりに僕と、この人の二人で相手しますぜ」

猫又娘「わ、私も?」

高学年「……ぎゃはは!たった二人かよ!俺たち六人いるけど、速攻で負けても文句言うなよなー、はははっ!」

高学年「しかも一人は女子かぁ。ま、痛くないように当てっから安心しな」プクク

猫又娘「」ムッ





ーー5分後ーー

高学年「ま、参りました……」

猫又娘「……ふぅ」

帽子「わお…」

高学年「…ちぇ、分かったよ。約束だかんな、今日は俺らが別んとこ行くよ」

テクテク

帽子「また遊ぼうねー!」

高学年「うっせ!バーカ!」

帽子「……にしても、きみすごい機敏──」

テテテッ

低学年女子「お姉ちゃんありがとー!」

低学年男子「すっげー!どうしたらあんな風に動けんの!」

ワーワー!

猫又娘「え、え…!私は、えっと…」

帽子「……はは」

帽子「みんな?公園を取り返してくれたお姉ちゃんにお礼だ!」

低学年の子たち「「「お姉ちゃんありがとうございました!」」」

猫又娘「……どう、いたしまして」テレテレ





キミといるようになってから、この世界に溢れてる愛が、少しずつ見え始めてきた。




ーーーーーーー

帽子「あっちぃ……夏バテかいな…」ナデナデ

帽子「あのーもしもし?そろそろ足が痺れてきたよ?」ナデナデ

仔猫「……」チョコン

帽子「……分かりましたよお姫様」ナデナデ

仔猫「♪」

帽子「家臣はこんな時のために取ってきておいたアイスでも食べますかね」ガサガサ

帽子「んー!やっぱこれが一番だな!」

仔猫「……」

ドロン

猫又娘「」パクッ

帽子「ちょっ」

猫又娘「冷たくて甘い」

帽子「あー!僕のアイス…」

帽子「なんてむごいことを!」

猫又娘(だって、キミの好きなものは全部知っておきたいから)

猫又娘「…ごちそうさまでした」ニコッ

帽子「!」

帽子「…いいね、その顔」

帽子「いや~、最近よく笑うようになってきて僕は嬉しいよ。初めて笑顔見るまで苦労の日々だったもんなぁ」


帽子「…しかし、これはこれ、それはそれ。おイタした罰は受けてもらうよ?」ガシッ

猫又娘「な、何する気…」

帽子「ふっふっふ……くらえ!くすぐり攻──!」

猫又娘「…!」

帽子「──げきぃ……」グデ

猫又娘「…?」

帽子「ダメだぁ…気力が暑さに吸い取られる…」

帽子「アイスのことはもういいや…僕はちょっとだけ寝る…」

猫又娘「……」

猫又娘「手伝う」

帽子「ほえー…?」

猫又娘「……ねむれねむれや、ゆらりゆられ」~♪

猫又娘「たなびくくものごとし」~♪

帽子(あー…子守唄かなぁ…)

猫又娘「おやまもさともよるのなか」~♪

猫又娘「はかなきゆめみんとす」~♪

帽子(どことなく…懐かしい唄だなぁ……)

帽子「」スヤスヤ

猫又娘「はやい…」

猫又娘(……かわいい寝顔)

猫又娘「……」クスッ

猫又娘「あわれあわれやだれぞおにか」~♪

猫又娘「てのなるところにおちて」~♪



~~♪





キミといるとなぜか私の心の中は、暖かい光で満たされるようになっていった。




ーーーーーーー

猫又娘「ねーねー」

帽子「なーにー」

猫又娘「真似っこ禁止!」

猫又娘「キミはなんでいつも誰かを助けようとするの?」

帽子「みんなを笑顔にしたいから」

帽子「そんなん夢物語だって分かってんだけどさ、この町の人全員笑顔に出来たらいいなってね」

猫又娘「…なんで?」

帽子「笑ってるとたのしーじゃん?」

猫又娘「……」

帽子「……」

帽子「」ヘンガオ

猫又娘「あはは!もう不意打ちも禁止!」





一度キミの学校までこっそりついて行ったことがあったよ。





ーーーーーーー

帽子「──!──、───♪」

「──?」

帽子「───!!」

ワハハハ



仔猫「……」





キミの周りはいつも笑顔の人でいっぱいだ。

私も……キミと一緒に笑っている時が一番楽しかった。

ずっとこんな日が続けばいいなって、思ってた。




ーーー夕方 帰り道ーーー

猫又娘「♪」テクテク

帽子「今日めっちゃご機嫌だね、何かあった?」テクテク

猫又娘「なにもー♪」

帽子「いやいや絶対何かあったっしょ!?」

猫又娘(さっき助けたおじいさん、私とキミを見て、かわいい彼女さんだって…)

猫又娘(♪)

猫又娘「ねね!今日のご飯なにかな?」

帽子「なんだろなー。昨日は肉だったから、今日は魚?」

猫又娘「やった」

帽子「魚好きなところはさすが猫だよねぇ」

猫又娘「にゃーん♪」

帽子「それは仔猫姿の方がかわいいな」

猫又娘「……ひっかく」

帽子「そんな!?」

猫又娘(今日も楽しかった。この人といるだけでなんでも楽しく感じられる)



ーーーーー

気弱「──気持ち悪い…」

ーーーーー



猫又娘(…この世界には、辛いこともある。けどきっと、それ以上に楽しくて暖かいことがあるんだ)

猫又娘「明日はどこに行こっか?」

帽子「そうなー、久々にあの公園にでも行ってみるか!きみと出会った公園!」

猫又娘「!…いいかも!」

帽子「あそこでまた泣きそうな子がいたら、今度はきみが励ましてみるかい?」

猫又娘「ぬぬ…それはあんまり自信ないよ…」

帽子「ははっ、まだまだ精進が足りとらんようだな?」



──ブオオォ



帽子「ん?」フリムキ





トラック「」ゴオオオォ!





帽子「──!」

帽子「危ない!!」ドンッ

猫又娘「え…!?」



ゴスッ!



ゴロン、ゴロンゴロン

ドサッ



ブオオォ...



猫又娘「いたた…」

猫又娘(なに?何が起きて…)



帽子「」



猫又娘「え…………」

猫又娘(……?この腕の千切れたお人形さんは……え?……キミ……?)

猫又娘「……ね、ねぇ、起きて」

帽子「」

猫又娘「嘘だよね…?いつもみたいにまた、笑って起き上がる気なんでしょ?」

帽子「」

猫又娘「ねぇ」

帽子「」

猫又娘「ねぇってば!」

帽子「」

猫又娘「……」

帽子「」

猫又娘「………」

猫又娘「……約束したじゃん……」

猫又娘「離れないって……」

帽子「」

猫又娘「………」

猫又娘「………」



猫又娘(………)




ーーー帽子少年の家ーーー

テレビ『──次のニュースです。今日夕方、一台の大型トラックが暴走。次々と人を轢いて200メートル程走り続け、最後は民家の塀にぶつかって止まりました。この事故で死傷者が数名出ており、トラックのドライバーは──』



仔猫「……」





運命は残酷だ。







ーーーーーーー



ザー



「やべ、めっちゃ降ってんな…傘入れてくんない?」

「おう」



仔猫「……」トテトテ

仔猫「……」トテトテ



「ママ!」

「どうしたの?」

「あそこの猫ちゃん、びしょびしょ」

「あら…こんな雨なのに…」



仔猫「……」トテトテ

仔猫「……」トテトテ



.........




ーーーーーーー

猫又娘「……」テクテク

猫又娘「……」テクテク

猫又娘(……なんで、キミはこんな私を庇ったの…?)

猫又娘(何も出来ない私なんかより、笑顔を振りまけるキミの方が、生きてなきゃいけないのに)



ーーーーー

帽子「──友達に本当もウソもない!仲良しなら友達でオッケー!」

ーーーーー



猫又娘(………)

猫又娘(……私は、またひとりぼっち……)

猫又娘(………)

猫又娘(……キミと笑うことが出来ないのなら、もういっそ……)

低学年女子「あ!ドッチボールのお姉ちゃん!」

猫又娘(…確か、あの公園の…)

低学年女子「こんにちは!」

猫又娘「…こんにちは」

低学年女子「あのねあのね、お姉ちゃんのおかげでね、あそこの公園いっぱいの人たちと遊べるようになったの!」

猫又娘「…?」

低学年女子「前のこわいおにいさんたちも一緒に遊んでくれるの」エヘヘ

低学年女子「お姉ちゃんが仲良しこよしの魔法をかけてくれたんだよね!ありがとー!」

テッテッテッ...

猫又娘「あ…」

猫又娘(行っちゃった…)

猫又娘「…魔法…」

猫又娘(……そんなことが出来たら、私は今頃キミを……)


猫又娘「………」

猫又娘「……………」

猫又娘(………ううん、そうじゃない)

ピョコン

猫又娘「……」ネコミミ&シッポ

ドロン

仔猫「……」

ドロン

猫又娘「……」

猫又娘(私にはこれがある)

猫又娘(私自身も"変える"力)

猫又娘「………」

猫又娘(……そうだね)

猫又娘(キミが置き忘れたまっすぐな正義は、私が拾い上げればいい)



ーーーーー

帽子「──みんなを笑顔にしたいから」

帽子「──笑ってるとたのしーじゃん?」

ーーーーー



猫又娘「………」

猫又娘「…本当か嘘かなんてどうでもいいんさ」

猫又娘(だから、私がキミの正義を振りまいてもいいんだよね?)

猫又娘(私がキミのフリをすることで、世界を照らす光になれるなら、キミはきっとまた笑ってくれる──)

猫又娘「……」

猫又娘「……」

猫又娘「…にゅふふ」





強がる世界にバイバイ。それはみんな、笑顔に変えちゃおう。

キミが望んでいた世界を作れますよう、私は今日も笑う。

笑ってキミのフリをする。





猫又娘「──お困りですか?みなさん!」





=======







例えば、子供が大人のフリをして大人と笑い合うように。
キミのフリをずっと続けていれば私は、キミとずっと笑えると思ったんです。




ーーーーーーー

猫又娘「………」



(池に映る自分の姿)



猫又娘「……くふっ」

猫又娘「危ない危ない、危うく見失うところだった」

猫又娘(私がどうしてこの世界を、この町を……彼らを守ろうとしたのか)



ーーーーー

少年「――どんな時でも明るくて眩しくて…みんなを元気付けようとしてくれて」

ーーーーー



猫又娘(私はね少年君、そんなにたいそうなものじゃないんさ。派手娘さんの言う通りある意味きみたちを騙してるのかもしんない)

猫又娘(元々の私は、とっても弱いんだもん)

猫又娘(でもね)

猫又娘(私が持ってるこの気持ちだけはウソじゃないからさ)

猫又娘(私は今日も前を向けるんだ!)

猫又娘「……負けないよ、私」

猫又娘「絶対、ぜーったい負けないから!だから!」

猫又娘(もう少しだけ、キミの勇気を貸してね)






「何者に勝たんとする?」





猫又娘「!」バッ

黒服男「人と妖禍子の混じるその身体で、何を為そうと言うのか」

猫又娘(…なに、この男)

猫又娘(人間じゃない。それどころか、酷く濃い、禍々しい気配…)

黒服男「お前のその行動理由が、俺はずっと気になっていた」

猫又娘「…私が?」

黒服男「そうだ」

猫又娘「……その前に教えて、あなたは誰?」

黒服男「俺は…そうだな、お前たちが元凶と呼ぶ存在だ」

猫又娘「ー!」

猫又娘(こいつが……この怪異の根源…!)

黒服男「俺の疑問に答えてもらおうか」

猫又娘「私の方が、あなたに聞きたいことは山ほどある!この町を襲った理由、あなたが求めるものも──」

黒服男「──答えろ」

猫又娘「っ……」

猫又娘「……私は、笑顔が見たいだけ。この町のみんなが、笑って過ごしてるのを見れればいい」

黒服男「…笑みとは本来、敵をけん制するための威嚇行動に過ぎぬ」

猫又娘「そんなの知らない!人はね、楽しければ笑う生き物なんよ!」

黒服男「他者を痛めつけて嗤う生き物だな」

猫又娘「違う!」

黒服男「違わぬ。お前にも心当たりがあるだろう」

黒服男「お前が行動を共にするあの男は、如何な仕打ちを受けていた?」

猫又娘「……」

黒服男「人間の本質など、斯様に醜い。お前一人が身を粉にしたところで何を変えられる?」


猫又娘「…一人じゃないよ。私の側にはいつも、大切な人がついていてくれてるから」

黒服男「……それも人間か?下らぬな」

猫又娘「あなたに言われたくない。あなたのその考えの方がよっぽど下らないよ。この世界から犯罪が無くなることはないから取り締まるだけ無駄だって言ってるようなものじゃない。その先にあるのは…もっとめちゃくちゃになった世界だけ」

黒服男「世界を壊して回っているのは人間だ。俺は世界のゴミを除いてやろうと言うのだぞ」

猫又娘「人はゴミなんかじゃない!この世界に必要な人だってたくさんいる!」

黒服男「ではゴミは俺達の方か?そうだな、奴らにとっては俺達こそ居てはならないゴミであるらしいからな」

猫又娘「なんでそうなんのさ!そもそも何が必要で何が不要かなんて、そんな話じゃないでしょ!みんな、誰かにとっては大切な存在なんだよ」

黒服男「ならば何故、人間は俺達を封じ込めた?何故執拗に排斥しようとする?」

黒服男「俺達は奴らに対し、何もしていない」

黒服男「お前はこの問いの合理的な答えを持っているのか?」

猫又娘「それ、は……」



ーーーーー

おてんば「──バケモノ……」

ーーーーー



猫又娘「………」

黒服男「……所詮お前も人間混じりか」

黒服男「出来もしない妄言を宣い、本質を見ようとしない」

黒服男「…実に下らぬ」

黒服男「お前も、この町諸共消えるがいい」ザッ...

猫又娘「……!!」

猫又娘(今ちょっとだけ見えた、こいつが手に持ってるの……まさか)

猫又娘(アヤカシノート…!)


猫又娘「……」

ドロン

仔猫「」ダッ



スタッ、スタッ、スタッ!



黒服男「」ギロッ

仔猫「っ」ピタッ...

黒服男「………」



ヒュオオォ...



仔猫「……………」

...ドロン

猫又娘「……」

猫又娘(……今の……)

猫又娘(なんで、あいつは……)



猫又娘(あんなに悲しい目をしていたんだろう)




八幕前半はここまでです。
後半は前半ほどのボリュームはないので一週間ちょっとで投下できると思います。

すみません、少し立て込んでいて、次の投稿までもう少しかかりそうです。

ーーー境内 はずれーーー

猫又娘「……」ソワソワ

猫又娘「」キョロキョロ

猫又娘「……」

猫又娘(まだかな…)

猫又娘「……」ウロウロ

猫又娘「……!」



少年・包帯少女「「……」」テクテク



猫又娘(その瞬間、全部分かっちゃった。二人の間に何があったのか、どんな話をしたのか、とか)

猫又娘(……仲良さそうに手繋いじゃってさー。それでそんな、憑物が落ちた顔してるんだ)

少年「ごめん、待たせた?」

猫又娘「えぇえぇ。それはもう待ちに待ちましたよぉ?きみたちが二人でいちゃいちゃしてる間にも?」

少年「う…あー、これは…」

猫又娘「いいんさいいんさ。言われなくても伝わってくるから」

猫又娘「……ようやく、だね」フフッ

少年「……うん」

少年「お祭り客の中、探してみたけどそれらしい人は見当たらなかった。この人混みだからしらみつぶしに出来たかどうかは微妙なところだけど…少なくとも登ってきた石段には居なさそうだよ」

猫又娘「そうなん…まーそう上手くはいかないよね」

少年「?」

猫又娘「うん、私の方はね」

猫又娘「例の元凶君に会ったんよ」

少年「え!?」

猫又娘「音も無く近づいて来たからびっくりしたんだけど…ねぇ聞いて!」

猫又娘「あの人、アヤカシノートを持ってた!」

少年「!それは…本物の?」

猫又娘「だって私が作った方はきみが持ってるでしょ?」

少年「確かに…」

少年(いつの間に盗られたんだろう…いやそもそも何のためにノートを…?)

少年(…ん…?)

包帯少女「……」

少年「少女さん?」

包帯少女「…!な、なにかな」

少年「大丈夫?顔色悪い気が…」

包帯少女「平気、ありがと」...ニッ

包帯少女「考え事してただけだから」

少年「そう…?」

猫又娘「……?」


少年「…けどまずいことになったな。そいつがノートを持ってるなら簡単には返ってこないもんな…」

猫又娘「そーこーは!逆転の発想よ!」

猫又娘「ラスボスが聖剣を持っててくれてるようなものでしょ?ならここでの定石は……一瞬の隙をついて奪う→即カウンターのコンボしかないわけ!」

少年「そんなゲーム感覚で言ってくれちゃって…その役目は誰がやればいいんだ…」

少年「…ん、いや違うか。僕らで、やるんだ」

少年「力を貸してくれる?猫又娘さん、少女さん」

猫又娘「当然!」ニシッ

包帯少女「……」...コクン







ーーーーーーー

黒服男「………」

黒服男「………」



ヒュオオオオォォ...



黒服男「………」

黒服男(……何度問うただろう)



それでも、愛していたのか…?



黒服男(………)

黒服男「………」グッ...!







ーーーーーーー



──ドクン



包帯少女(…っ!)

猫又娘「──とは言ってもトドノツマリ様には会っておきたいんよね。今のままじゃまだまだ危険過ぎる」

少年「そうだね。ノートでどうこうできる確信もないし…」

少年「…そういえば猫又娘さん、その男とどんな話をしたの?」

猫又娘「ん……まぁ、なんで私が人の味方してるんだーとか、人間は居なくなるべきだ、とか」

少年「なんだそれ」

少年(何がそんなに、そいつを駆り立ててるんだ)




包帯少女「……ゔっ……あ゙ぁ゙……!」



少年・猫又娘「「!?」」

少年「少女さん!」

包帯少女「だい……じょうぶだ、から……!」

猫又娘「どこが!ねぇどうしたんさ!どこが痛むん!?」

包帯少女「っ……」ガクッ

ドサッ

少年「は…?は!?おい嘘だろ…!」

包帯少女「……ぅ……」

猫又娘「落ち着いて!息はある」

少年「少女さん…!少女さん!聞こえる!?聞こえてたら反応してくれ!」

猫又娘(…恨むよ、神様。こんな次から次へと試練ばっかり。そんなに私らが諦めるのを心待ちにしてるんかね…!)

猫又娘「少年君、あんま派手に動かさないで。取り敢えず私に診させて…………!!」

猫又娘(……少女さんの、この気配……)

猫又娘(間違いない。以前なんかより比べ物にならないくらい……)





「……その子は、そのままじゃ目覚めないよ……」テクテク





少年「…夢見娘さん…」

夢見娘「……」

猫又娘「どういうこと?このままじゃ起きないって…」

猫又娘「ね、あなた何を知ってるの?」

夢見娘「………」

夢見娘「……この子は今、"あのヒト"のユメに囚われてる……」

猫又娘「あの男の、夢…それって少女さんがたまに見てたっていう?」

夢見娘「……」コクリ

少年「夢を見てるってこと?…大騒ぎすれば起きてくれたりしないかな…!?」

夢見娘「……ユメに呑み込まれたら、二度とこっちに帰ってくることは、ないの……」

少年「そんな……」

包帯少女「は……はぁ……っ…」

少年「…頼む。どんな方法でもいい、少女さんを助けることは出来ないか…?」

少年(例え自身と引き換えだとしても…僕は構わない)


夢見娘「………ある」

少年「!それは!」ズイッ

夢見娘「!?」

夢見娘「……//」ススス

少年「?」

夢見娘「……この子の見てるユメを分け合うの」

夢見娘「そうすればこの子への負担は減る……呑まれる前にユメが終わればちゃんと目は覚める……」

猫又娘「どうやって夢を分け合うん?んにゃ、第一夢を分けるってどういうこと…」

夢見娘「……そのために、私が居る……」

夢見娘「私たちで、この子が見てるユメを一緒に見てあげればいい……」

少年「やる」

夢見娘「……でもね、分けたユメと言っても、それを見る者もまた、呑まれる可能性はある……」

少年「それでもやるよ」

夢見娘「……うん」

夢見娘「……」チラリ

猫又娘「私も!」

夢見娘「………」

少年(黒幕だの犯人だの、そいつの夢がなんだ。僕は決めたんだ、二度と少女さんを失わないって……それは僕の義務だ)

猫又娘(あの悲しい目……あいつがどんな道を辿ってきたのか、これで分かる…?……キミが居たらなんて言うのかな)

夢見娘(……きみが大切にしているものは、私も大切。…そこに私が居なくても)

夢見娘(私はきみのマヤカシだから)

夢見娘「……いくよ」



スー...



.........




===???年前===





『睦月も終わりの頃。それを見過ごす事は私には出来ませんでした。』





スタッ、スタッ、スタッ



ケモノ「」スタッ、スタッ



「くそ、逃げ足の速い化け物だ…!」タッタッ

「右だ!右の方から音がしたぞ!」タッタッ



タッタッタッ



スタッ、スタッ...



「…あ゙ぁ!見失ったか」

「仕方ねぇ…だが奴を手負いにはした、次に見っけた時が最後だ」

ザッザッザッ...



ケモノ「………」ジッ...

ケモノ「………」

ケモノ「……行ったか」

ケモノ「俺としたことが、油断した…」

ケモノ「よもやこんな森の中にまで人を置いているとは」

ズキッ

ケモノ「グッ…」

(腕に刺さった矢)

ケモノ「…毒矢の類ではなさそうだが…鉛を身体に入れたくはないな…」

...グイ

ケモノ「っ……」

ググッ

ズルリ

ケモノ「……ハァ……ハァ……」

ケモノ(血を垂らさぬようにせねば…)

ケモノ(この山も、もう無理か。人間の活動範囲がまた拡大している)

ケモノ(…どこか、我々が静かに暮らせる場所はないものだろうか)




ガサッ



ケモノ「!」フリムキ





女「……あ……」





ケモノ(人間の…女?)

ケモノ(……一処に留まってはおけない、か)

ケモノ「……」スッ

女「…!」

女「待って!」

ケモノ「」ザッ

女「あなた、怪我してるのですか…?」

ケモノ「………?」

女「やっぱり!とても痛そう…」

女「待ってて下さい。今手当て致しますから」

ケモノ「!…よせ、俺に近づくな」

女「」スタスタ

ケモノ「…俺はお前を喰い殺すことだって──」

女「怪我人はお静かに、ですよ」

ケモノ「……」

ケモノ(なんだ、この奇特な人間は…)

ポンポンポン

クルクル、ギュ

女「…これでよいでしょう。ひとまず消毒と止血だけですが、しないよりは楽なはずです」

ケモノ「……お前は、俺が怖くないのか」

女「はい」

ケモノ「俺が憎くはないのか」

女「なぜです?」

ケモノ「…人間は皆、俺を殺そうとするからだ」

女「…そうですか」


女「それは、あなたが殺めた人の仇討ちでしょうか?」

ケモノ「いや、そんなことはしていない」

女「では、川を氾濫させ、家屋を荒らし人様の生活を脅かしたから?」

ケモノ「するものか。人の世に触れず生きてきたのだ」

女「ほら。あなたを忌避する必要など、ないのです」

ケモノ「…何を言っているんだ?」

女「邪気など微塵も感じませんから」フフッ

ケモノ(──……)

ケモノ「…すまない、世話になった」

ケモノ「ではな」

女「何処へ行くのです?」

ケモノ「ここではない、遠くだ」

女「そんな怪我をしているのに…それにこの時期益々寒さは厳しくなります」

女「…私の家を宿と思ってお使い下さい」

ケモノ「宿、だと…?」

女「その通りです」

ケモノ「……貴様、俺を謀(たばか)るつもりだな?」

女「疑うお気持ちは分かります。ただ、私の家はここよりすぐ近く。そして周りに他の家屋はありません。…居るのは私一人だけ」

女「それでも信じて頂けないようでしたら…この身を差し出しましょう」

ケモノ「……」

ケモノ(燃えるような紅い目…不思議だ、このような目をした人間は初めてだ)

ケモノ「……この傷が癒えるまで、頼む」

女「はい」ニコッ




ーーー女の家ーーー

ケモノ(万が一を考えてはいたが…)

ケモノ「本当にお前一人なのだな」

女「えぇ。先程申し上げた通りです」

ケモノ「何故このような場所で暮らしている?」

女「…私の村は、ここを下った小さな集落なのですが、残念なことに村民との反りが合わず半ば飛び出すようにここへ来ていました」

ケモノ「…咎人か?」

女「いえ、そうではありません」

女「彼らは些か、粗暴過ぎるのです。あなたのその怪我もきっと……」

女「…申し訳ありません。同じ村の者でありながら、私にはどうすることも出来ず…」

ケモノ「……お前が頭を下げる必要はなかろう」

女「……」

女「ここには、滅多なことで人が訪ねてくることはありません。私がそう言い含めておりますから」

女「罪滅ぼし…とは虫がいいかもしれませんが、どうか気持ちを休めて頂けないでしょうか?」

ケモノ「………」

ケモノ「…その手」

ケモノ「先の、血が付いている。…洗い落としてくるといい」

女「お優しいのですね」

ケモノ「その言葉、そのまま返してやろう」

女「……」

ケモノ「……」

女「…ふふ」

ケモノ「フッ…」





『憐みが無かったと言ったら嘘になるでしょう。ですが、そう……この方の鮮やかな碧い瞳が、私を突き動かしたのです。』




ーーーーーーー

巫女「御神様、どうぞお聞き下さい」

巫女「また、一つの妖禍子が見かけられたそうでございます」

巫女「彼の者はまだ存命でいるのでしょうか?」



──是である。



巫女「…そうですか。それは良き事」

巫女「では、彼の者の保護に努めましょう。所在の程はどちらにございましょう?」



……………。



巫女「………」

巫女「………」




ーーー春ーーー

女「お加減はいかがです?」

ケモノ「大分良くなった。最早外からでは見えぬ程には塞がったな」

女「化膿などもしていないようで、安心しました」

ケモノ「あぁ」

女「……」

ケモノ「……」

女「暖かい時分になりましたね」

ケモノ「そうだな」

女「……これから、川へ向かうのです」

女「越冬の為に取り置いていた水が底を尽きてしまったので。また、暑くなってくれば戸の付け替えもしなければならないでしょう」

女「女手一つでは何かと苦労の絶えない日が続きます」

ケモノ「……」

女「…何処かに、助力をして頂ける方がいらっしゃればいいのですが…」

ケモノ「………」

ケモノ「……俺は、この身が癒えるまではここに居ると、そう言ったな」

女「……」

ケモノ「だが、この身が癒えてからここを去るとは言っていない」

女「!」

ケモノ「貴女と共に居たいと、考えている」

ケモノ「人ではない俺のような者が、貴女の傍に居てもよいだろうか…?」

女「はいっ、勿論です」ニコッ

ケモノ「…感謝する」

女「それでは早速参りましょう!この山に積もった雪は汚れがなく、その雪解けが流れ込むお水は本当に美味しいのですよ!」テテテッ

ケモノ「あぁ理解した。だから雪上を走るのは控えるんだ。危険だぞ…」





『弥生 六

いつの間にかあの人の居る生活が当然となっていました。今日はあの人の口から、共に在りたいと聞く事が出来ました。…これ程心が躍るのは何時振りでしょうか。』




ーーー夏ーーー

ザクッ、ザクッ

女「」ザクッ

女「……」

女「…これは、食しても良いものですね」

女「ふぅ…これだけ集めれば十分でしょうか」

女「そちらはどうです?」

ケモノ「こんなものだが、よいか?」ドッサリ

女「まぁ…!」

女「きちんと食せるものですね。これほど多く採ってこれるなんて」

ケモノ「俺は鼻がきくからな」

女「私にもその嗅覚があればこの収穫ももっと楽になるのでしょうね…」

ケモノ「…いや、貴女はそのままでいい。人間である貴女が、きっと最も美しいと俺は思う」

女「……」

女「ふふっ。ではこれからもたくさん、あなたを頼りにさせてもらいます」

ケモノ「任せてくれ」





『葉月 十二

普段の口数は決して多いとは言えませんが、実直に、想いを伝えてくれるあの人が愛しい。言葉を交わし、想いを交わし…そこに姿形の違いなど介在しないのです。』




ーーー秋ーーー

女「見て下さいこの葉!赤、橙、黄、緑……ここまで多色が混在しているのは風情がありますね」

ケモノ「そうだな。だが」

スッ

ケモノ「これも、色数は少ないが映えていると思わないか?」

女「あら本当…!」

女「葉が色付いていく様は、いつ見ても良いものです」

ケモノ「毎年必ず訪れるものだが…見ていて飽くことはないのか?」

女「何をおっしゃいます。一日一日少しずつ姿を変えていく山を見るのはとても胸が躍るものです。一年で決まった期間しか見られないのです、飽くことはありませんよ」

女「…それに、誰かと見るこの景色は、また特別なものですから」

ケモノ「!…」

ケモノ「……そう、か」





『神無月 二十五

山があまりに美しく色付いていたものですから、ついその欠片を何枚か採ってきてしまいました。あの人も綺麗だと言って笑ってくれたけれど……あなたのその瞳に敵う葉は、一枚もありませんでしたよ。』




ーーー冬ーーー

ケモノ「………」

ケモノ「………」

ケモノ「…ふむ」

ケモノ「なかなかどうして、一人ならばこの家屋も広いと感じられるじゃないか」

ケモノ「……」



ーーーーー

女「──村へ、下りて行こうと思いますね」

女「──顔に出ていますよ。通例のことですから、心配いりません。時々顔を見せてやらないと父が煩いのです」

女「──では、行って参ります」

ーーーーー



ケモノ「………」

ケモノ「少し、寒い」







ーーー村ーーー

コンコンコン

村長「ん?誰じゃ?」

「お父様、私です」

村長「おぉその声、女か。さぁさ、入りなさい」

ガチャリ

女「お久しぶりです、お父様」

村長「実に一年ぶりかの。あまり待たせるものだから、使いの者を出そうか迷っておったところじゃ」

女「ふふっ、それはごめんなさい。忘れていたのではないのです」

村長「お前のことじゃからな。そろそろかとは思っておったよ」

村長「…して、無病息災、平穏に過ごせているのだろうな?」

女「はい。それはもう」

女「この通り、五体満足です」

村長「うむ……」

村長「……」ジッ...

女「……」

村長「……安心したわい」

村長「近頃、よく奴らの目撃報告を耳にするものでな。女の身に何か起こっておらぬか気が気でなくての」


村長「のう…やはり警護の者を付ける訳にはいかぬか」

女「お父様」

村長「分かっておる。それが村を出て行かぬ条件であったよな。…じゃがのぅ…」

女「こうして何事も無く生きてゆけてるのです。まだ気がかりだと言うのですか?」

村長「むぅ……いつ何時奴らに襲われるやもしれぬ……そうでなくても女子の独り暮らしなど危険を伴うと言うに……」

女「………」

スッ

村長「…む?なんじゃこれは」

女「秋の頃、葉の標本というものを作ってみたのです」

女「如何でしょう?美しく仕立てられたと思っているのですが」

村長「ふむ、確かにの。艶やかな色遣いじゃ」

女「まるで私のよう……ではありませんか?」

村長「いや、お前の方が綺麗じゃよ」

女「娘を口説いてどうするのですか」フフッ

女「それはお父様に差し上げます。私の代わりとでも思って、持っていて下さいな」

村長「……」

村長「…まったく…お前には敵わんよ。その強かな様、誰に似たんじゃろうな」



ガチャッ



巫女「村長、今戻ったわ」

村長「うむ。丁度よい時に来たの」

女「姉様…!」

巫女「あら、来ていたのね」

女「はい!お元気そうで何よりです」

巫女「お互いにね。昔は私から離れなかった女が、今じゃ独り立ちまでしちゃって」

女「私だって成長しているんです」

村長「わしは独り立ちをさせているつもりはないぞ」

巫女「心配性なところは死んでも変わらなさそうね」

女「…姉様はまだ破邪の巫女を?」

巫女「…不満そうな顔ね?」

女「だって姉様があんな役回りをする必要なんて……」

巫女「仕方がないのよ。奴らを根絶するには大勢の人の力がいるの。それを支える象徴もね」

女「……私、その思想は苦手です。彼らが私達に何をしたというのでしょう。彼ら──妖禍子はそこに居ることさえ許されないのですか…?」

村長「女…ここでそのような発言は」

巫女「大丈夫、外には誰も居ないから。聞かれてないわよ」

巫女「…女、あなたは優し過ぎるのよね。その優しさはあなたの魅力でもある」

巫女「でもね覚えておいて。全てを受容することは出来ないの。生物にとって、自分を脅かす可能性のあるものは遍く除去するべきなのよ」

巫女「私達がこうして平和に生きていくためにもね」

女「……そんなの、私達の都合ではないですか……」

巫女「……」


...ギュッ

女「あ…」

巫女「いいのよ、あなたは考えなくて」ナデナデ

巫女「残酷なことは全部私達に任せておいて。あなたは静かに暮らしてくれればいい」

巫女「…安心なさい。彼らを根絶やしにはしないから」ボソッ

女「!」

女「そ、それは…!」

巫女「……」ニコッ

巫女「さ、今日はもう帰りなさい。暗くなる前に戻れなくなるわ」

村長「そうじゃの。本当なら今しばらく寛いでいって欲しいものじゃが…」

村長「次の来訪を半年以内にすると言うのならば、止めはしまい」

女「お父様ったら…えぇ、約束します」

女「それではお父様、姉様、どうかお元気で」

巫女「女、あなたもね」



ガチャ…パタン



村長「……変わらぬな、あの子は。いつまでも心優しい女のままじゃ」

巫女「そうね。全てを愛することが出来るというのも、一つの才能だと思う」

村長「して、巫女よ。あれはどうなっておる?」

巫女「残念だけど、進展は無しよ。返事だけは返ってくるんだけどね」

村長「気難しいお方なのかのぅ…トドノツマリ様というのは」

巫女「それでも辛抱強く続けるしかないわ。あれをどうにかしない限り、私達に先はないのだから」

巫女「それに、胸騒ぎがするのよ」

村長「なんじゃと?」

巫女「覚えてる?一年前仕留め損ねた、例の獣」

村長「あぁ、そのような報告を受けたの。すぐに続報が来ると思っておったが…」

巫女「…逆よ。不気味な程音沙汰がない。捜索範囲も拡げてるはずなのにね」

村長「目立った被害も無いようじゃからの、気に留めておらなんだが…」

巫女「そういう問題じゃないのよ」

巫女「……汚らわしい……」




ーーーーーーー



ザッ、ザッ、ザッ



ケモノ「!」

女「」ザッ、ザッ

ズボッ

女「きゃっ…!」

ケモノ「女!」ダッ

...ポスッ

女「…!ありがとう、ございます」

ケモノ「雪道は歩き慣れているのではなかったのか?」

女「…少し、上の空でした」

ケモノ「何かあったのか」

女「いえ、おかしなことは何も……」

女(………)

女「……思い出しませんか?」

ケモノ「…?」

女「あの日も、ここは同じような雪化粧を纏っていました」

女「丁度帰路に着いていた私と、手負いのあなたと……運命の神様が引き合わせてくれたのかもしれません」

ケモノ「……」

女「あれから一年が経ちましたね」

ケモノ「そうだな」

ケモノ「…前から訊きたいと思っていた」

ケモノ「貴女は何故、俺と共に居てくれるんだ」

ケモノ「貴女の村は恐らく、俺のような異形の存在を許してはいないのだろう。いや、人は俺達妖禍子を受け入れる事はない……そう思って生きてきた」

ケモノ「しかし貴女は違った」

女「……大層な理由ではありませんよ?」

女「あなたのその、澄んだ碧い瞳が私を惑わしたのです。まるで灯りに引き寄せられる羽虫のように…私は魅せられていました」

ケモノ「………」

ケモノ「驚いた」

ケモノ「俺も同じ事を考えていた」

ケモノ「貴女のその目……その紅い瞳に見惚れなかった日はない」

女「まぁ…!そんなことを考えながら…?」

女「なんだか……ふふっ、恥ずかしい」

女「私達、とても似た者同士なのですね」

ケモノ「──!」


ケモノ「…似た者…?俺と、貴女が、か?」

女「はい。世界中の誰より、きっと」

ケモノ「……ハハ。皮肉なものだ。一体誰が、俺と貴女を見て似た者と表するのだろうな」

ケモノ「片や一輪の花、片や異形の化け物」

女「化け物だなんて──」

ケモノ「──あぁ、だが、貴女は認めてくれた。俺を、一つの個として」

...ギュッ

ケモノ「…俺は貴女を…」



──愛している。



女「………」

ケモノ「………」

女「……でしたら」

女「私のお願いを言ってもよいですよね」

ケモノ「持てる力を以て、叶えてやろう」

女「…あなたにしか出来ないことですよ」ポツリ

女「………」





女「私と生涯を共にして頂けませんか?」





『その時のあなたの顔を、私は忘れる事はないでしょう。今までに見た事のない呆けたような表情……一世一代の場面なのに思わずたくさん笑ってしまいました。あなたも連られて笑っていましたね。私とあなたは、そういう生き物なのでしょうね。』




ーーー2年後ーーー



『長月 十七

今日は少しだけ喋ってくれました。いつも静かにしてる事が多い子ですから、偶にこうして話しかけてくれた時の喜びは一入ですね。』



女「……んー……」



『何かを伝えようとしてくれてるのですが……まだまだ精進が足りないもので、解してあげられな』



赤子「か…!か!」

女「!」

女「なぁに?」

赤子「……」ジーッ

女「どうしたの?お母さんに何か、言いたかったんでしょ?」ダキアゲ

赤子「…かぁ」

女「もしかして、烏さんの鳴き声かなー?」



ケモノ「貴女を呼んでいるのではないか?」



女「あら…あなた、帰ってたのですね」

ケモノ「たった今な」

女「いつもごめんなさい。あなたにばかり家の仕事を任せてしまって…」

ケモノ「貴女の身に何か起きてしまってはいけない。当然の事だ」

女「それで、私を呼んでいる…ですか?」

ケモノ「あぁ。俺には、お"かあ"さん、の"かぁ"、に聞こえるのだがな」

女「まぁ…!」

女「ふふ、そうなの?」

赤子「……」ジーッ

女「ねぇ、それじゃあ次はお父さんを呼んでみよっか」

赤子「……」

女「向こうのおっきな人がお父さん」

赤子「………」

ケモノ「………」

赤子「」フイッ

ケモノ「…俺は嫌われているらしい」

女「そんなことありません。ほら、抱いてみて下さいな」スッ

ケモノ「うむ…」

赤子「……」ジー...

ケモノ「……」


女「あなたが抱えても、泣き声一つ零しませんよ?」

ケモノ「それはそうだが…」

女「…クスッ。あなた、この子のことになると奥手になりますよね。なんだか可愛いです」

女「忘れないうちに書いておきましょうか」

ケモノ「おい…!また日記というものか?俺の痴態など記録せずによいと言うに…」

赤子「……ぅー……」

ケモノ「む…何事だ?」

赤子「……」ウトウト...

女「もう眠いのですね。そろそろお昼寝の時間ですから」

ケモノ「そうか」

女「あなた、そのまま持っていて下さい」

女「……ねむれねむれや ゆらりゆられ」~♪

女「たなびくくものごとし」~♪

女「おやまもさともよるのなか」~♪

女「はかなきゆめみんとす」~♪



.........





赤子「」スー..スー..

ケモノ「…子守唄か。初めて聴くが、良い唄だ」

女「まだ私が幼い頃に母が教えてくれたのです」

ケモノ「さぞ優しい母親なのだろうな」

女「はい、それはもう……ですから、天が母を必要としたみたいで」

女「流行り病だったのですが、私が十くらいの時に逝ってしまったのです」

ケモノ「……」

ケモノ「こうして貴方を産み落としてくれた。それだけで俺は抱えきれない程の謝意を抱いている」

赤子「……」スゥ..スゥ..

ケモノ「この子と共に生きよう。それが我々に出来る恩返しだ」

女「……はい」

女「私が貰った愛を、次はこの子に…」





「……なんだあれは……何かの冗談か……?」




ーーー翌日 村ーーー

村民「村長!村長!いらっしゃいますか!?」

村長「なんじゃ騒々しいの。せめてノックの一つくらいしたらどうじゃ」

村民「す、すみません……いえ!それどころではないのです!」

村民「昨日、村の男が一人、女様の家を見かけたそうなのですが──」

村長「なに?勝手に女の家に近付いたと申すか!」

村民「はい。ですがその責を咎めるより早く、我らに信じられないことを!」

村長「言うてみよ」

村民「男が言うには、その、女様の家に…」

村民「獣のような異形が居た、と。それに産まれたばかりの赤子も」

村長「……ホラを吹かれたのだろう」

村民「男はただならぬ様相でした。瞳孔は開き、額には脂汗が浮き、とても嘘をついているようには…」

村長「………」

村長(…あの子に限って、そのようなことなど…)

村民「村長、如何致しましょう…」

村長「むぅ……」

村長(………)



村長「わしが見てこよう」







ーーーーーーー

女「いい?これが緑色。これが青色」

赤子「……」ジッ

女「こっちが黄色で…赤色」

赤子「かぁ」

女「ん?赤が好き?」

赤子「…かぁ」カオペタペタ

女「なによ、ふふ」

女「どう?綺麗なものよね。色というのはね、今教えたものだけじゃないの。他にもたくさん、混ざって組み合わさって私達の世界を飾り付けてくれてる」

女「紅葉の季節が来たら、お父さんと一緒に見に行こうね」

赤子「……」

女「…お父さん、今日は少し遅いね」ナデナデ

女「お天気が曇ってるせいで元気が出てないのかもね?」ナデナデ

赤子「……」

女「あの人に限ってそんなことあり得ないでしょうけど」フフッ

...ザッザッザッ

女「…!噂をすれば」

コンコン

女(?扉を叩いてる…?)




「女よ、居ないのかね」



女「!?」

女「その声……お父様?」

村長「良かった、そこに居るのじゃな」

村長「すまないの。お前との約束があるというに、訪ねてきてしまって」

女「何故お父様が…」

村長「なに、ちと気になることがあっての。中に入らせてもらうが、よいな?」

女「だ、駄目です!今は──」



ガラッ...



女「あ……」

村長「……なんと……」

赤子「?」

村長「…女よ」

村長「その赤子は何じゃ?」

女「………」

村長「お前の、子か?」

女「…………はい」

村長「…よもや、真であったとは…」

女「……」ギュ

赤子「…かぁ?」

村長「相手は誰じゃ」

女「お父様、この事は後ほど必ずお話し致します。ですから──」

村長「誰なのかと訊いておる!」

女「っ……」

村長「…おかしな話を聞いての。なんでも、この家に化け物が住み着いておるとか」

村長「まさかとは思うが、女」

村長「その化け物と子を成したなどと言うまいな?」

女「……」

村長「……」

女「……………」

村長「おぉ……なんということじゃ……」

村長「女、その子を貸しなさい」

女「…何をなさるおつもりですか」

村長「……」スタスタ

女「い、嫌です!来ないで下さい!」


村長「…!」

赤子「……」

村長「こやつ、目の色が左右で異なるのか。……紅(あか)と碧(あお)の瞳」

村長「やはり化け物の子か…!」

村長「村へ帰るぞ、女よ」

女「話を聞いて下さい!この子もあの人も、決してお父様方が考えているような悪ではありません!」

村長「これはお前の身を案じて言っておるのじゃぞ!今ならまだお前は妖禍子に誑かされた人間として保護出来る!」

女「この子はどうなるのです…?」

村長「生かすことは許されぬ。いくらお前が愛したと言うても、化け物の間に出来た存在など間違いなく深い禍根を残してゆくからの」

女「…何故いつもいつもお父様方はそうなのですか」

女「この世界に生きているのは私達人間だけではないのに…!気に入らないという理由だけで他者を害せる程、人は偉いのですか!?」

村長「ええい、聞き分けのない子じゃ!」

村長「もうよい!腕尽くでも連れて行くぞ!」ガシッ

女「いや!やめてっ…!」

赤子「……」キィィン

バシュッ

村長「ぐぉっ…!?」

ドシャン!

女「え…?」

女(お父様…吹き飛ばされた…?)

女「…な、何が…」

赤子「かぁ、めっ」

女「貴方がやったの…?」

村長「……ぐっ……」

村長「なんと……危険じゃ……あまりに……邪悪……」ノソッ...

女「あ……あぁ……」

女「」ダッ!

村長「これ!待たんかぁ!!」



タッタッタッ...




ーーーーーーー

巫女「御神様、どうぞお聞き下さい」

巫女「我ら村の者一同、妖禍子の保護に努めておりますが、ご存知の通りこの山の妖禍子も数が減ってきておられます」

巫女「再三の請いとなってしまいますが、どうかそのお力貸して頂けないでしょうか」



……………。



巫女「………」

巫女(……今日も駄目ね)

巫女「…また参ります」

巫女「彼らにあなた様の加護があらんことを」



...スッ



巫女「…!」

幼女「……」

巫女「…あなた様が…」

巫女「──トドノツマリ様……」




ーーーーーーー

ケモノ「少し遅くなったな」ザッザッ

ケモノ「だが仕方あるまい」ザッザッ

ソッ(一輪の紅い花)

ケモノ「貴女に似合う花を見かけてしまったから、と言えば許してもらえるだろうか?」

ケモノ「……フッ」



...タッタッタッ



女「あなたっ…!」タッタッ

ケモノ「!」

女「はぁ……は……」

ケモノ「どうしたんだ」

ケモノ「…すまない、そこまで遅くなっている自覚はなかった」

女「いえ…違うのです…!」

女「どうしましょう……この子が殺されてしまう…!」

ケモノ「……何があった?」

女「お父様が突然、訪ねてこられたのです……あなたの事、知っているかのような口振りで…!この子も見つかってしまいました…」

ケモノ「貴女の父を、説得する事は出来ないか?」

女「無理です…!お父様は私の村の長なのです…」

女「先程だってこの子を生かしてはおけないと……人ならざる者との子はそれだけで深い禍根を残すからと…!」

女「どうして……この子に罪は無いのに……」ツー...

女「私は、あなた達を愛しているだけなのに……」ポロポロ

赤子「…かぁ」

ケモノ「……」

ギュ...

女「うぅ…」ポロポロ

ケモノ「案ずるな。貴女は何一つ間違った事をしていない」

ケモノ「貴方が俺を愛してくれたのと同じように、俺は貴女を愛する事が出来て良かったと思っている」

ケモノ「この子が居ることが、その証だろう?」

女「あなた……」ポロポロ...

ケモノ「周囲がなんと言おうと、三人で過ごしてゆけばいい」

赤子「……とぉ」

ケモノ「!…あぁ、俺もお前の事を愛しているさ」


女「でも…もう私達は戻れません……あの家も、既に荒らされているでしょう…」

女「それに執念深い彼らのことです……こうしている今も、私達を殺す為に探し回っているかもしれない……」

ケモノ「………」

ケモノ「逃げよう」

ケモノ「最早それしか道は無い」

ケモノ「誰の干渉も受けず、静かに暮らせる所へ逃げるんだ」

ケモノ「……ともすれば一生人と関わる事が出来なくなってしまうが…それでも付いてきてくれるか?」

女「………はいっ!」




ーーーーーーー

巫女「……お初にお目にかかります。あなた様が妖禍子を束ねておられる、トドノツマリ様でございますね?」

幼女「……」

幼女「妖禍子を統べる者は居ない」

幼女「我は只、自由を与え、此処に彼等の居場所を拵えんとするのみである」

幼女「だが、そなたの言葉通り、此の程彼等の減少が著しい」

幼女「数年祈りを捧げたそなたの信心に応え、我も手を差し出そう」

巫女「感謝致します」

巫女「…もう一つ、あなた様は私共、人の願いを聞き届けて下さる事もあるとお聞きしました」

幼女「人の心というものはまったく興味深い。其の心の震えを覗かせてもらう事は、確かにある」

巫女「そうでしたか。……では、私の願いもここで申し上げさせて頂きましょう」

幼女「妖禍子の保全であれば既に承諾したつもりであるが」

巫女「……」スッ(手を上げる)



ゾロゾロ



凶器を持った男たち「………」

幼女「……この者等は?」

巫女「御神様」

巫女「──どうか、死んで下さいますか」ニタッ

幼女「……貴様……」

巫女「ご安心下さい。お一人ではありません。たった今、今日までしぶとく生きながらえていた獣を追い立てているところです」

巫女「化け物同士仲良く、あの世に送って差し上げましょう」

幼女(……浅はかであったか。人間を安易に信じるなど、してはならなかったと言うのか)

巫女「やりなさい」

「うおぉぉ!」ダッ!

「死ね、化け物!」ブォン!



幼女「」スッ...



「ぬぉ…!」

「消えやがった…!?」

巫女「チッ…。動じるでない!こちらには封魔の札がある!」

サッ(札を掲げる)

巫女「……そちらへ逃げたようね」

「よし、追うぞ!」

巫女「皆の者!これは化け物を消し去る絶好の機会!必ず奴を仕留めるのです!」




ーーーーーーー



タッタッタッ!



ケモノ「」スタッ、スタッ

女「はぁ…はぁ…」タッタッタッ



「おい!向こうへ逃げたぞ!」

「追えー!化け物を逃すなー!」



ケモノ「む…正面に待ち伏せしているな」

ケモノ「やむを得まい。開けた場所になるが、西へ向かおう」

女「は、はい…」ハァ..ハァ..

ケモノ「…俺の背に乗るか?」

女「平気です…まだ走れます」

ケモノ「分かった。だが無理はするな」



ボォォ…



ケモノ「…!」

女「そんな、山に火が…!」

ケモノ「奴ら、ここまでするか…」

ケモノ「急ごう」



タッタッタッ







ーーー空き地ーーー

ケモノ(ここを過ぎれば、木々の生い茂る森へ入って行ける)

ケモノ(そうすれば奴らを撒くことも出来るだろう)

女「はぁ……はぁ……」

赤子「……」

ケモノ(…もう体力も限界に近いだろうに)

ケモノ「ここが最後の正念場だ。行けるか?」

女「はぁ…はぁ…」コクリ

ケモノ(…追い風に助けられたな。おかげで背後から来る者の臭いが察知出来る)


ケモノ「……よし、今だ」スタッ

女「」タッタッ



タッタッタッ



ケモノ「……?」スタッ、スタッ

ケモノ(なんだ…この臭い……油か……?)

ケモノ(…………っ!!)

ケモノ(しまった!そういう事か!)





「──着火!」





カチッ

ブワァ!





女「きゃあっ!」

ケモノ「女!」

ガシッ...ギュ

ケモノ「無事か!?」

女「はい…なんとか…」



村長「ようやく追い詰めたぞ、化け物め」



女「お父、様……」

ケモノ「………」

村長「弓兵隊!構えろ!」

ギチッ...

女「もうやめて下さい!」

女「ねぇお願いです!私達は絶対にあなた方の邪魔は致しません!遠い所で、誰にも迷惑をかけずに生きていきます!」

女「だからもう放っておいて下さい…!」


村長「……」

村長「放て!」

シュッ、シュシュッ!

女「嘘っ…」

ケモノ「捕まれ!」グイッ

サッ

ヒラ、ヒラリ

グサッ

ケモノ「ぬぅ…!」

女「あなた!」

村長「仕留め損なったか。……油矢じゃ!火の手を回せ!」

シュッ

ボオォ!

村長「…これで躱せまい」

赤子「……ふぇ」

オギャー!

女「!大丈夫、泣かないで。怖くないよ、お母さんがついてるからね」

ケモノ「……っ」

ケモノ「人間よ!問いたい事がある!」

ケモノ「何故我々を排そうとする!」

ケモノ「姿が異なるからか!或いは我々がお前達に害為す存在だからか!?」

ケモノ「後者であるというのなら、今一度考え直して欲しい!」

村長「…弓兵隊」

ケモノ「──俺と彼女のように、人と妖禍子は手を取り合い生活する事が出来るのだと!」

村長「放てぇい!!」



シュッ、バシュッ!



女(嗚呼…)

ケモノ(駄目か…)

赤子「オギャー!ンギャー!」

女(…だったらせめて)

ケモノ(…だが)

女・ケモノ(貴方だけは──)





──ザクッ、グサッ...




ーーーーーーー



メラメラ..ボオォ..



ケモノ「」

女「」

赤子「オギャー…!フギャー!」



村長「…赤子を庇ったか」

「村長…あの、良かったのですか?」

村長「何がじゃ」

「……女様の事……」

村長「……」

村長「わしの娘は一人だけじゃ」

村長「それより、赤子がまだ生きておる。息の根を止めてきなさい」

村長「奴らは何人も生かしてはならん。妖禍子は根絶やしにするのじゃ!」

「はっ!」

赤子「オギャー!」

ケモノ「……」

ケモノ(……すまない……俺が、同じ人間であったなら……)

ケモノ(…いや…)

ケモノ(そうではないな……種の壁を越えたからこそ、俺達は深く愛し合えた……)

ケモノ(お前を愛した二つの命があったこと……忘れ得ぬよう、お前に託そう……)

キィィ...

赤子「…ヒック…」

ケモノ(……生きて……くれ……)

...ザッザッ

「おぞましい怪物の子でなければ、お前も生きていけたろうな」

「じゃあな」スッ



ビュオッ!



「な、なんだ…!」

村長「む!?」



幼女「………」



「あのお姿は…!」

「まさか……トドノツマリ様!」



幼女「……遅かったか」

赤子「…グスッ…」

オギャー…!



タッタッタッ



巫女「何を呆けているの!あれが妖禍子の頭領とも言うべき存在よ!早く殺しなさい!」

「そうか!奴を殺せば…!」

「人の住みやすい世界になるんだ!」

ドドドドッ!



幼女「……」

シュンッ



「また消えた!?」

「赤子も居ないぞ!」

巫女「往生際の悪い…!」サッ

巫女「……!?」

巫女(札が反応しない…!)

「巫女様、奴はどちらへ!?」

巫女「……追えないわ」

「え?」

巫女「方向が掴めないの」

「…そんな、それでは…」

巫女「……」ギリッ

巫女「口惜しいけど、何処へ行ったか分からない以上、この人数で探すのは現実的じゃない」

「そうですか…」

巫女「……あともう少しで始末出来たものを……!」



ケモノ「」

女「」



巫女「…そこの汚い死体を、早く焼いてしまいなさい」




ーーーーーーー

幼女「……」

赤子「」スー..スー..

幼女「……謝罪しよう」

幼女「我がより賢明であれば、失わずに済んだ命であった」

幼女「……」

幼女「そして誓おう」

幼女「御前の身に危険が及ぶ事は赦さぬと」

幼女「──御前を封印する」

幼女「痛く苦しい封印ではない。平穏と静寂を伴う封印である」

幼女「…いずれ、封印なぞせずとも良い時代が訪れる、その時まで」



.........



=======









それでも俺は──。

生まれて来て善かったのか…?

母よ……父よ……。




ーーーーーーー



ヒュルルルルル...

ドーン!



少年「!」ハッ

少年「ふぅ……ふぅ……」

少年(頭が焦げ付くような怒りと悲しみ……こんなの初めてだ)

少年(……最後に聞こえたあの声)



ーーーーー

──ここでこいつを突き落とせばいい

ーーーーー



少年(あの時の声だ)

少年(そして、繋がった。前に学校で見かけた変な服装の男……これはあいつ声)



ヒュルル...

ドドーン!



猫又娘「うー…花火の音が頭に響くぅ…」

少年(猫又娘さん…)

少年(…!そうだ、そういえば!)

夢見娘「……」ノゾキコミ

少年「うぉ!?」ギョッ

夢見娘「……」チラッ

包帯少女「」スー..スー..

少年「少女さん!」

少年(起きてない…?)

少年「夢見娘さん、少女さんは…!」

夢見娘「……大丈夫。ユメに呑み込まれるのは、回避できた……」

夢見娘「ちゃんと目は覚めるよ……」

少年「良かった…」

少年(………)

少年「…それにしても、今見てたのがあの男の過去ってことなんだよね」

夢見娘「……」コク

少年「あいつが人を消そうとしてる理由は、僕たち人間の身勝手な行い…」

猫又娘「人と妖禍子の間に出来た子供か」


猫又娘(周りと違うことがあるだけで迫害される。それはいつの時代も変わらないんだ)

猫又娘(さっき私に近づいてきたのも)



ーーーーー

黒服男「──ならば何故、人間は俺達を封じ込めた?何故執拗に排斥しようとする?」

黒服男「──お前はこの問いの合理的な答えを持っているのか?」

ーーーーー



猫又娘(…あの問いかけの意味も)

猫又娘(あいつはきっと、出口のない理不尽な幻影に囚われ続けてる)

少年「僕さ…あいつの気持ちちょっとだけ分かっちゃう気がするんだ」

少年「自分の呼び方が変わってるからって、面白半分で僕に嫌がらせをしてきた同級生Aの奴ら…消えちゃえって思ったことが何回もあった」

少年「あいつの過去に比べたら、ちっぽけなことかもだけどさ」

猫又娘「少年君…」

猫又娘(……)

猫又娘「……ちょっち気になることがあるんだけどさ」

猫又娘「あの女の人が歌ってた子守唄。あれって何の子守唄なんかな?」

少年「え、子守唄……知らないな。僕、あれは初めて聞いた」

猫又娘「ふーん…」

猫又娘(なんだろう)

猫又娘(物心ついた時から、私が唯一知ってた唄)

猫又娘(……キミが気に入ってくれてた唄)


包帯少女「ん……んぅ…」ゴロ...

猫又娘・少年「「!」」

猫又娘「…ま、とにかく今は少女さんをちゃんとしたとこで寝かせてあげよっか」

少年「うん、そうだね。…て、ちゃんとしたところって?」

猫又娘「少年君の部屋でいいじゃない」

少年「!?な、なんで僕の部屋…!」

猫又娘「つべこべ言わない。好きな女の子を地べたに置いとく気?」

少年「う……分かった」

猫又娘「よろしい」

猫又娘「少女さん運んだら、私はまたここで捜索を続けるから」

少年「トドノツマリ様を?…それとも、あいつ?」

猫又娘「………」

猫又娘「…へへ」

少年「………」

少年(猫又娘さん、そんな顔で笑うこともあるんだ…)

少年「…ありがとうね、夢見娘さん。おかげで少女さんを──」

少年「……居ない」

猫又娘「相変わらず幽霊みたいな子だよ…」



ドーン!ドドーン!



猫又娘「花火、綺麗だね」

少年「……うん」




ーーーーーーー

黒服男「………」

黒服男「……母よ」

黒服男「貴女は何故、異形の者に愛を見出した?決して祝福される事はないと、知っていたはず」

黒服男「………」

黒服男「父よ」

黒服男「貴方は何故、俺に記憶を残したのだ。自らが殺される、そのような仕打ちを受ける中で俺に何を期待した?」

黒服男「…それでも人を愛していたと、言いたかったのか」

黒服男「……」

黒服男「……」





黒服男「否」





黒服男(そうではなかろう)

黒服男(俺が為すべき事、貴女方が成しえなかった事)

黒服男「………」

黒服男「人の世が、ただ一つの純然な愛をすら奪う存在と為るのならば…!」

黒服男「俺は人の世の下らぬ業を奪う修羅と為ろう!」

黒服男「貴様ら人間の価値がどれ程矮小なものか、身を以て知るがいい!」



...ゴオォォ



黒服男「あわれあわれや」

黒服男「だれぞおにか」

黒服男「てのなるところ」



ゴゴゴゴゴ...!



黒服男「さいてさいてや」

黒服男「ふたつのかげ」

黒服男「だれなくところ…」




ーーー少年の自室ーーー

プルルルル プルルルル

少年「……」

プルルルル...プツッ

『ただいま電話に出ることが出来ません。ピーっという音の後に、用件をお話しください』

少年「…出ない」

少年(少女さんの家、今誰も居ないのかな。少女さんからいざという時のために教えてもらってた家の番号、間違ってることはないはずだけど…)

少年(……誰も居ないといえば、ここに帰ってくる途中、誰ともすれ違わなかったな)

少年(お祭りにはあれだけの人が居たのに、帰り道は不気味なくらい静かだった)

包帯少女「……」スー..スー..

少年「……」

少年(猫又娘さんは今頃あの山に戻ってる頃か…)

少年(僕だけまた何も出来ない…)

少年(──なんてな)

少年(そんな考えはもうしない。僕はきみが目を覚ますまで見守っているよ)

少年「…ん?」

(カバンからはみ出たアヤカシノート)

少年「……」



ーーーーー

猫又娘「──今度は楽しいことでも書いてみなよ」ニッ

ーーーーー



少年「……」スッ



カチカチ

サラサラサラ...



『7月29日  お祭り日和

少女さんとようやく本当の意味で仲直りが出来た。やっぱり僕は少女さんのことが好きなんだ。
お祭りは結局、花火どころじゃなくなっちゃったけど、次は二人で見られたらいいな。』



少年「……よし」パタン

少年「ふぁーあ…」

少年「さすがに、何日も歩き回ってたら疲れるな…」

少年「……」

少年「ちょっとだけ……ほんの仮眠程度だから…」



ゴロン...




ーーーーーーー

包帯少女「……んん……」

包帯少女(……!)パチッ

包帯少女「…ここは…?」

仔猫「……」グッスリ

少年「」グー..グー..

包帯少女「………」

包帯少女(少年君の部屋…かな)

包帯少女(昨日、どうしたんだっけ)

包帯少女(確か少年君と境内の方まで行って、それから…)

包帯少女(……)

包帯少女(そっか、多分あのまま倒れちゃったんだ)

包帯少女(…とっても理不尽な物語だった)

包帯少女「……」

包帯少女「…暗いな。今何時だろう」

ゴソゴソ スッ



スマホ『09:00』



包帯少女「…?」

包帯少女(9時?…夜の?)

シャッ(カーテンを開ける)

包帯少女「──っ」

包帯少女「……え……」





ゴゴゴゴ...(一面黒紫色の空)

ウヨウヨ...(跳梁跋扈する妖禍子たち)





包帯少女「……………」

包帯少女(………!)グッ...




八幕は以上となります。

次回、第九幕でこの騒動は終わりを迎えます。
次の投稿で完結となります。

■第九幕 約束■



ーーー少年の自室ーーー

包帯少女「起きて、少年君、猫又娘さん」ユサユサ

少年「う…んー……!」

少年「少女さん…!目、覚めたんだね」

少年(しまったな、そんなに寝ちゃってたか…)

仔猫「……zzZ」

包帯少女「……」

ムンズ

仔猫「!?」ビクゥッ

ドロン

猫又娘「なになにっ!?何が起きたん!?」

猫又娘「……」

猫又娘「気持ち悪い…何なん、この嫌な気配…」



(黒紫色の空、蔓延る妖禍子)



猫又娘「う…わ、通りで…」

包帯少女「ぼくが起きた時にはもうこうなってた」

少年「え、午前9時って…嘘だろ、こんなに暗いのに…」

猫又娘「仕方ないよ。これもう普通の空じゃない」

包帯少女「…!少年君!」

包帯少女「きみの両親は!?」

少年「両親?」

包帯少女「今居るの!?この家に!」

少年「…見てくる!」



.........





少年「……居ない、どこにも」

少年「携帯も置きっぱなしだった」

包帯少女「……」

少年「…あの、実はさ、昨日の夜少女さんの家に電話した時も誰も出なかったんだ」

包帯少女「…そう、やっぱり…」

猫又娘「もしかして私たち以外全員……」

猫又娘「…ごめん…私が昨日の夜、何も見つけられなかったから」

少年「なんで猫又娘さんのせいなんだよ。昨日は緊急事態のようなものだったんだし、そんな中で捜し出せって方が難しいって」

猫又娘「うん、それでもね……時間は無限に待ってくれるわけじゃないなんて分かってたはずなのに…」

包帯少女「……そんなの――」



パシン!(自分の両頬を叩く)



二人「!?」ギョッ

猫又娘「…ニッシシ」

猫又娘「落ち込んでると思った?はっずれー♪」

猫又娘「こんな土壇場で弱音吐いててもどーしよーもないもん!もうここまできたらやることはひとつ!」

猫又娘「鬼も蛇もいっぱい出るだろうけど、期せずして私らにこの町の命運がかかってしまったんだから……」

猫又娘「――運命共同体!出発せにゃなるまいな!」ビシッ

少年「……」

包帯少女「……」

猫又娘「…あれ」

包帯少女「…ちょっとむかっとした。耳摘んでいい?」

猫又娘「なぜ!?」

少年「…本当、どんな時でもブレないよなぁ」

少年(僕なんてこんな悪夢みたいな世界が怖くてたまらないのに…)

少年(…今だって、足の震えを抑えるのがやっと――)

...ソッ

少年「…!」

包帯少女「大丈夫。きみは強い」

少年「……少女さん……」

包帯少女「…ふふっ」

猫又娘「二人の世界に入ってるとこ悪いけど、早いとこ出よう」

猫又娘「…これは私の勘なんだけどさ。なんとなーく、あの人は私らを待ってる気がするんよね」

包帯少女「敵の期待を裏切っちゃ、悪いね」

猫又娘「そゆことよ」

少年「その感じ、僕にも分かる」

少年「…多分あいつが待ってるのってさ…」



三人「――南町神社だ」




ーーーーーーー

「キシャア!」

派手娘「ふん!」ドゴッ

「キュー…」ベシャ...



――スルスルスル グイッ



派手娘「!」

「…グォォ…」シメツケ

派手娘「あたしに、触るんじゃないわよ!」ブン!

ビターン!

派手娘「一生這いつくばってなさい」



カツカツ...

ズズズ...



派手娘「…あぁもう!キリがないわね!」

派手娘「あんたらどんだけ暇なのよ!外に出てすることが鬼ごっこ?」

ヒュッ

派手娘「あたしにぶっ飛ばされに来たのは感心するけどね」サッ

派手娘「来るならそこに一列に並びなさいっての!」バッ

ドシーン!

派手娘「全員畳んでやるわ。そうすればこの安っぽい三流映画みたいな演出も終わんでしょ?」







トリップミスしていたため、トリップを変更しました。

ーーーーーーー

猫又娘「ほっ!えい!」ポン、ポン

(ネズミ、ウサギに変えられた妖禍子)

包帯少女「」タッタッタッ

少年「わっ…とと」タッタッ

包帯少女「少年君!」

少年「平気…転びそうになっただけだから」

猫又娘「にしてもこれはやり過ぎだよねぇ…!うじゃうじゃと、こんなにどこに隠れてたんよ」

少年「昨日のお祭りの人が全部妖禍子に化けたみたいだ…」

包帯少女「本当に…ね!」ブォン!

ドシャッ

包帯少女「…っ」ズキッ...

猫又娘(…少女さん、やっぱり…)

少年「あっち!妖禍子が少ない道がある!」

猫又娘「うわ、あからさまに怪しい…」



ゾロゾロゾロ



猫又娘「…ま、他に選択肢もないみたいだね」

猫又娘「行くよ!私から離れないで!」



タッタッタッ...



三人「」タッタッタッ

包帯少女「……っ」タッタッ

猫又娘「……」タッタッ

猫又娘「…少女さん」ボソッ

包帯少女「?」

猫又娘「その包帯の下……今、どうなってるん?」

包帯少女「……」

猫又娘「ここんところずっと感じてたんだ。少女さんが包帯を巻いたとこから、妖禍子の気配がするの」

猫又娘「……少女さん、あなたもしかして――」

包帯少女「しー…」

包帯少女「」フルフル

包帯少女「…ぼくはね、これで満足してる」

包帯少女「彼を最後まで支えることができればそれでいい…そうやって思わせてくれた。今のぼくはそれが全てだから」

猫又娘「……」

包帯少女「…ありがとね」ニッ

猫又娘(………)


少年「は…は……」タッタッ

猫又娘(少年君はきっとこのことを知らない……この子が少年君の支えになってるのは間違いないだろうけど)

猫又娘(じゃあそれが失くなってしまったら…?)

少年「――見て!」

猫又娘「!」

少年「向こう、神社の方向だよな!?」



(小山ほどの巨大な黒塊)



猫又娘「ひゃあ…」

少年「なんだよあれ…まさか神社ごと消されたのか…?」

包帯少女「ううん、よく見て。あれの後ろに神社の山がある」

少年「ってことはあそこを通らないといけないってことか…」

少年「迂回して裏からまわった方がいいかもな」

猫又娘「!…そうも言ってられないみたい」



バサバサ シュルルル

カツカツカツ ズズ..ズ..



包帯少女「…囲まれた」

猫又娘「案の定奴らの罠だったわけだね…分かってたとは言え、この量は骨が折れるなぁ」ウヘェ...

包帯少女「けど、進むしかない」

猫又娘「当然!」

「フシュルルル...」

少年「っ…」ゴクリ

少年「ぼ、僕は何をすればいい?僕も出来るならこいつらと戦いたい…!」

猫又娘「それはちとリスキー過ぎんね」

包帯少女「少年君は、ぼくたちの無事を願っててくれないかな」

少年「それって…僕はまた何も出来ずに…」

包帯少女「そうじゃないよ。きみの力が必要になる場面は絶対にやってくる。それまできみが無事でいてくれることが何より大事なの」

包帯少女「きみはぼくが守る。だからぼくたちが無事でいることを、願っていてほしい」

少年「……分かった」

猫又娘「少女さん、くるよ!」

包帯少女「……」グッ(バットを構える)



サッ!



ポン、ポン

グシャッ



.........



少年「――猫又娘さん後ろ!」

猫又娘「!」パッ

ポン

「…チュー」

猫又娘「いつの間に後ろに…!」

ガッ

包帯少女「いっ…!」

包帯少女「…この!」ブン!

バキッ

少年「大丈夫!?」

包帯少女「うん、ちょっとかすっただけだから」

猫又娘「いやーしっかしまずいね…これまともに相手してたら永遠に終わんないんじゃないの…!?」

猫又娘「なーんかさっきより包囲網も狭まってるしさ…!」

包帯少女「あっちこっち動き回らなくて済むじゃない?」

猫又娘「少女さん、余裕ありますな…」

猫又娘「私もまだまだ負けてらんないねっ!」





――ドゴォ!





猫又娘・少年「「!?」」バッ

包帯少女「……」チラッ

派手娘「邪魔なのよ、あたしの前を塞ぐなっ!」ズシャッ

夢見娘「……」テクテク

猫又娘「えぇ…素手であんなに…」

少年「夢見娘さん!」

夢見娘「……//」ソッ(派手娘の陰に隠れる)

派手娘「?」

猫又娘「…何しに来たんさ?」

派手娘「決まってんじゃない。あんたらの情けない姿を見に来たのよ」

派手娘「なに?友達が消されたからってこんな化け物共と遊んでるわけ?ほんと見てて飽きないわ、あんたら」

猫又娘「なんでそういう言い方しか出来ないん!?事ここに至ってまでさ!」

猫又娘「私のこと嫌いでもいいよ!けどこういうときくらい邪魔しにこないで!」


派手娘「………」

派手娘「どうせ、あの神社に行くとか言うんでしょ?」

「ギャギャギャ!」

派手娘「」ドスッ

「グ…ギャ…」パタ

派手娘「…ふん」ザッ



ジジジジ...



少年(あれは…爆竹!?)

派手娘「耳、塞いでなさい」

派手娘「」ポイポイ、ポイ



パン!パン!パァン!



猫又娘「へ……にゃ……」クラクラ

少年(う…相変わらずすごい音だ)

包帯少女「……!」



(妖禍子の群れの一角に穴が空く)



派手娘「ほら、行くならさっさと行けば?」

猫又娘「……」アゼン

猫又娘「…少年君!少女さん!」

猫又娘「二人とも先に行って!」

少年「猫又娘さんは…!?」

猫又娘「私らはこの子たちの相手をしてから向かう!こんなのに追われてたら元凶君どころじゃないっしょ?」

猫又娘「分かったらとっとと走る!」

少年(……)グッ

包帯少女「ぅ…」ズクン...

少年「少女さん、立てる?」

包帯少女「う、ん……」

少年(やっぱりさっきので怪我を…?)

少年「……」

...ギュ(手を握る)

包帯少女「…!」

少年「…僕についてきて」

包帯少女「ん、エスコートよろしく」ニコッ



タッタッタッ...



猫又娘「ふぅ、ひとまず共倒れは避けられたかね」

猫又娘「で?どういう風の吹き回し?」

派手娘「別に。あんたたち、コレを終わらせる当てがあるのよね?だったら早く終わらせて欲しい、それだけよ」

派手娘「というかあんたも行きなさいよ」

猫又娘「……やーっぱ素直じゃないんねぇ」ポツリ

猫又娘「どーせ、ここの連中は自分だけで十分だとか言うつもりでしょ」

派手娘「分かってんならわざわざ訊くな」

猫又娘「確かに派手娘さんなら吹き飛ぼうが刺されようが死ななそうだけどさ」

「ミィ!」ヒュッ

猫又娘「」ダッ

ポンッ

猫又娘「…と」シュタ

猫又娘「猫の手くらいあっても損はしないよ?」ニシシ

派手娘「……勝手にすれば」




ーーー神社ーーー

(……まだ、足りぬか)

(………)

(更なる怪共の使役を要するというか)

(………)

(…躊躇いなど、一切不要)



...ズォオオオ



巨頭「……」ズシン...

(大小様々な妖禍子達)




ーーーーーーー



タッタッタッ



少年「思った通り、この辺に奴らはほとんどいない」タッタッ

包帯少女「ほとんどはさっきの所に集まってたみたいだね」タッタッ

少年「そりゃ多いはずだ…」

包帯少女「でもぼくたちも油断は――」

包帯少女「――少年君、止まって!」

少年「っ!」ピタッ...



巨頭「……」ズシ..ズシ..



少年「くそ…こんなときに…!」



巨頭「………」

巨頭「……」ズシ..ズシ..



少年「…?」

少年「襲ってこないのか…?」

包帯少女「こっちに気付いてはいるはずだけど…」



「グォ…」ズルズル

「」バサッ、バサッ

「キュ、キュ」カサカサカサ



包帯少女「それどころか、こっちを避けてる」

少年「さっきの場所に向かってるのかな…もしあそこに集まるように仕組まれてるんだとしたら…」

少年「…猫又娘さん…」

包帯少女「……」

包帯少女「行こう。ぼくたちは後ろを振り返っちゃダメだ」

少年「!…そうだね」



タッタッタッ



.........





少年「なんなんだろう、こいつ」

包帯少女「……」ミアゲ



(鎮座する黒塊)



少年(ドス黒い…って表現が似合う。よく聞く、吸い込まれそうな黒とかじゃなくて、もっと濁った黒)

少年(見てるだけで不安になってくる…)

包帯少女「この道、少年君と神社に来た時にも通ったよね。こんなに広い更地じゃなかったはずだけど」

包帯少女「…ここにあった家も住んでた人も、消されたんだ」

少年「……」

少年(こんな、滅茶苦茶にされた僕らの町が……本当に元に戻るのだろうか…)



ブルッ



二人「!」

包帯少女「…今、これ少し大きくなった?」

少年「僕にも見えた。こいつがここまで大きくなったのって、ちょっとずつ成長してるから…?」

二人「……」





黒服男「その通りだ、人間」





少年「……お前……」

包帯少女「……」




ーーーーーーー

ガンッ! ズシャッ!

派手娘「」ズガッ

猫又娘(おぉ…鬼神の如き、とはまさしくああいうのを言うのでは)

夢見娘「……」ポワッ

「ゥ゙……」パタン

猫又娘(あれは、眠らせてるんかな?)

夢見娘「……」チラ

夢見娘「……夢を見せてあげてるの。それだけ……」

猫又娘「そ、そなんだ」

猫又娘(気付かれてた…)

派手娘「無駄話してる暇あんなら手動かしなさい!」

猫又娘「なにさ!サボってんじゃないかんね!」ポンッ

派手娘「勝手にここに居残ったんだからもっと役に立ちなさいよ」

猫又娘「派手娘さんのために残ったわけじゃないですしー。自意識過剰なのん??」

派手娘「…あんたも一緒にぶちのめしてもいいのよ」

猫又娘「おーこわ」



ササッ

シュッ ドカッ

ヒョイッ

ポン、ポンッ



猫又娘「……派手娘さんはさ、なんでこいつらと戦ってたの?」

派手娘「あ?」

猫又娘「人助けをしようなんて考えてたんじゃ…ないよねっ」テイッ

派手娘「……」

派手娘「気に入らないのよ」バシ

派手娘「あたしらの前にいきなり現れて、荒らしてく」

派手娘「別に好き勝手生きる分には構わないわ。けどこそこそとあたしにちょっかいかけるってんなら容赦しない」

派手娘「あたしはあたしが気に入らないものをぶっ飛ばしてるだけよ!」ドスッ

派手娘「誰かさんみたく世界を助けるだの高尚な志なんか持ってないわ、残念だったわね!」ズガン

猫又娘「……へんっ」

猫又娘「私とおんなじじゃん」

派手娘「は?バカ言ってんじゃ――」

猫又娘「私だって、私が笑っていられるように」

猫又娘(キミともっと笑っていられるように)

猫又娘「私の世界を守ってるんだ。人のためじゃない、私のために私は動いてる」

猫又娘「だから、おんなじだ」サッ

ポンッ


夢見娘「………」

派手娘「…そういう顔で笑えるんじゃない」

猫又娘「よっ、それっ」ヒョイ、ポスッ

派手娘「だったらここには自己中が二人居るだけってことね」スッ..ドゴッ

猫又娘「え~?三人の間違いじゃなくて?」

夢見娘「……否定はしない……」

派手娘「とんだ烏合の集まりだわ」

猫又娘「とか言いつつ、息はぴったりだと思わない?私ら」

夢見娘「……」テッテッ

派手娘「このアホ共がのろまなだけよ」ガスッ

猫又娘「またまた、照れちゃって~」

派手娘「」ビュンッ

猫又娘「あぶなっ!?」ササッ

派手娘「わるいわるいてがすべったわー」

猫又娘「なんたる棒読み…」

猫又娘「…とは言え」



ゾロゾロ ワラワラ



猫又娘「捌いても捌いてもまるで減りませんな」

猫又娘「いい加減一休みくらいさせてほしいんだけど…」




..ズシン..ズシン



巨頭「……」

猫又娘「…まじ?」

派手娘「チッ、なによあのデカブツ」

猫又娘「ここに来て増援て…ちょっとばかしキツイんじゃないかなぁ…」

夢見娘「……あれは、大丈夫」

猫又娘「どこが!」



巨頭「…ガァア!」ブオッ!

ズシャン!

「キシャア!」



猫又娘「え……妖禍子同士で争ってる…?」

派手娘「ついにイカれたわけ?」

夢見娘「……」



ズシン バキィッ!



猫又娘「…なんだか分かんないけど、私らも便乗させてもらうよ!」

夢見娘「……」コクッ

派手娘「めんど…私の前に立つなら全員潰すわ」



ダッ――




ーーーーーーー

黒服男「その物体がなんだか、お前には分かるか?」

少年「……少女さん、僕の後ろに」

包帯少女「ありがとう。でも二人で、ね」

黒服男「…ほう。興味深いな」

黒服男「殺し殺された者の築く関係として、実に奇異ではあるまいか?」

少年「……」グッ...

黒服男「これはな、人間」

黒服男「人の憎悪の凝集体だ」

少年「憎悪…?」

黒服男「そうだ。如何なる人間の中にも存在する、人の本質。お前の中にも眠っていたろう。その女を憎く思う感情が」

少年「ふ、ふざけんな!あれはお前がそう仕向けたんじゃないか!」

黒服男「俺は助長をしたまでだ。もし本当に彼女を信頼していれば、あの悲劇は起こらなかっただろう」

少年「信頼って……僕は……」

少年(…僕が少女さんを信じていなかったから…?元を辿れば、結局僕の卑屈さが原因だってことかよ……)

包帯少女「それは違う」

包帯少女「他人を端から信じられる人なんていないんだよ」

包帯少女「みんな誰だって少しずつ相手を知っていって、時間をかけて信用出来る関係になっていく」

包帯少女「あなたがしたのは、その過程を踏みにじって無理矢理憎しみを向けただけ。そんなの、人の本質でも何でもないってあなたも理解していたんでしょう?」

黒服男「…知ったような口を利いてくれるな」

包帯少女「分かるよ。だってあなたのお母さんとお父さんがそうだったはず」

黒服男「っ!」

包帯少女「…ぼくたちは、あなたの過去を見たから」

黒服男「……そうか」

黒服男「ならば、今すぐ自害しろ」

包帯少女「……」

黒服男「俺の心情が分かるのだろう?俺が望むは唯一つ。世界の癌たる人間の根絶」

黒服男「残るはお前達を含めた三人だけ」

黒服男「いや、より正しくは二人と言うべきか」

包帯少女「………」


少年「…なぁ、お前」

少年「――泣いてるのか?」

黒服男「…?」

少年「泣いてはないか。けど…」

少年「さっきからずっと、悲しげな顔をしてる…」

黒服男「………」

黒服男「泣く、だと?」

黒服男「……そうだな。お前のような人間に馬鹿にされる事など、この上なく屈辱でしかない」

黒服男「人間よ、俺が今すぐお前を消せば何が起こるか分かるか?」

黒服男「お前の持つ憎悪が、この醜い塊に飲み込まれるんだ。そして僅かに肥大する……ごく僅かに」

黒服男「これはこの町の人間共が抱え持っていた憎しみの集体だ。どうだ?貴様の抱いた憎悪ですらこれを前には霞む」

黒服男「貴様らのような汚れた存在が俺を哀れむとは、何たる傲慢だ?」

包帯少女「…気付いてる?あなたは今、あなたの嫌う人みたいな考え方しか出来てない」

包帯少女「光があれば陰があるように」

包帯少女「勝者がいれば敗者がいるように」

包帯少女「暖かい感情があれば、目を背けたくなるような感情もある。それが人間なの」

包帯少女「そういう二面性ってね、必死な人ほど片方しか見えてないものなんだよね」

包帯少女「あなたも同じ。視野の狭い、可哀そうな"ヒト"」

黒服男「………小娘」

黒服男「生き損ないのお前が俺を焚き付けることに何の意味がある?」

黒服男「惨たらしい死を所望か?」

黒服男「否、横の男が苦しみのたうつ方がお前には堪えるか」

包帯少女「……」

黒服男「終焉に立ち向かう人間が如何程のものか、見極めるつもりであったが…蛇足だったな」

黒服男「どの道貴様らには消えてもらうが、最後に余興を見せてくれ」

黒服男「――娘、男を殺せ」

少年「っ…」

黒服男「……」ニィ...

黒服男「お前は一度、この男に殺されている。その報復をこやつに受けさせてやるべきだろう」

黒服男「或いはそれが出来ないとあれば…先に同じ、自害を選べ」

黒服男「さて、二つに一つだ」

包帯少女「……」

少年「……」

少年(………)

包帯少女「………いいよ」



包帯少女「――死んであげる」



包帯少女「それであなたの気が済むのなら」

少年「な、何言ってるんだよ!そんなの……!」

少年「少女さんが死ぬくらいなら俺が殺された方がマシだ!もう、きみが死ぬのは…!」

包帯少女「心配しないで」ニコッ

少年「……………」

包帯少女「さぁ、選んだよ。これでぼくが死ねばいいんだね?」

包帯少女「でもその前に聞かせて」

包帯少女「あなたは何のためにこの世界を終わらせるつもり?」

黒服男「…どこまでも、俺を嘲るつもりか?」

包帯少女「人を消すことだ、なんて、ぼくはそんなことが聞きたいんじゃない」

包帯少女「あなたは"誰のため"にそれをしているの?」

黒服男「……」

包帯少女「…お母さんと、お父さんのためだよね?」

包帯少女「ねぇ、もう一回考えてほしいんだ」

包帯少女「あなたがぼくたちを憎む理由にしている両親は、あなたに何をしてあげたのか」

包帯少女「お母さんがあなたを産んだ意味。お父さんがあなたに記憶を残した意味…」

包帯少女「…それでももう、止まれないって言うなら」

包帯少女「その悲しみも嘆きも全部、ぼくが受け止めてあげる」

黒服男(………気に喰わぬ)

黒服男(なんだその泰然とした様は。死が目の前に迫っているのだぞ。一度経験したであろう、苦しい死が)

包帯少女「……」

黒服男「……」ギリ...

黒服男「……気が変わった」

包帯少女「え?」



シュン!



黒服男「」ガシッ(首を掴んで持ち上げる)

包帯少女「あ゙…がっ……」

少年「少女さん!」ダッ

黒服男「っ」キィィン

バシュッ

少年「ぐぁ…!」ドサッ


黒服男「…ふ…はは」

黒服男「苦しいか、娘…!」

包帯少女「ぅ……ケホッ」

黒服男「このまま少しずつ縊り殺してくれようか!」

少年「や…めろ…」グッ...

黒服男「だが一つだけ助かる道をやろう」

黒服男「この男を身代わりにすると言え!そうすればその苦痛から解放してやる…!」

包帯少女「…ぃ…やだ……」

少年「少女さん…!頼む、もういいからっ…!」

黒服男「…っっ!!」

黒服男「何なんだ貴様は!!」ギュゥ!

包帯少女「――……」

黒服男「首を縦に振るだけでよいのだぞ!お前を苦しみの淵に追いやった輩なぞ、同じ目に遭わせてやればいい!」

黒服男(反吐が出る。上辺だけの好感情など今のお前の命を救ってはくれぬ。さぁ醜悪な本性を曝け出すがいい…!)

包帯少女「――」

黒服男(なのに何だ……全てを見透かしたような目……そんな目で)

黒服男「…俺を見るな!」

黒服男「さあ言え!断ればお前を殺し、この書物の妖禍子として朽ちるまで使い潰してやろう!」

少年(アヤカシノートを…!あいつ…!)

包帯少女「……、…」フル..フル..

黒服男「……………そうか」

少年(やめろ……やめてくれ……)

黒服男「なら望み通り…」

黒服男「――死ね」






少年「やめろぉおおおおおおお!!!」





――ピカッ!!





黒服男「!!」

少年(!?ノートが…これって…!)



...ゴォオオオオ!



「キシャアア!」

「」バサ、バサ...

「グゥゥウ…!」



少年(妖禍子が…)



ヒュオオオオオ!



「ギギギ…」

「ジッ!ジィッ!」



少年(吸い込まれていく…!)



.........





少年(………)

少年「………?」



(妖禍子の居ない南町)



少年(……さっきの、本当に全部ノートに…?)

包帯少女「……けほっ…」

少年「!少女さん!」タッタッ

包帯少女「…少年、くん…?」

少年「平気!?死なないよね!?」

包帯少女「…ふふっ、大袈裟だよ」

少年「――!良かった…!」ギュッ

包帯少女「……」...ギュ



黒服男「……」ウナダレ



少年「……あいつ……」

包帯少女「………」

少年「……」

トットットッ

少年「………」

黒服男「……」

少年「」スッ

ガサッ(ノートを手に取る)

少年「……」パラパラ...

少年(…どのページもびっしり、妖禍子で埋まってる)


少年「………」

少年「……お前――」

ポン

少年「!」

包帯少女「少年君」フルフル

少年「…けど」

包帯少女「きっと、もう何もしないよ」

黒服男「……」

少年(……全く動かない。そもそもこいつ、生きてるのか?)

少年(とにかく)

少年「…これで終わったんだよな…?妖禍子の奴らも消えて、いつも通りの日が戻ってくるんだよな?」

包帯少女「……」ミアゲ



(黒紫色の空)



包帯少女「まだ、みたい」

少年「え……」

少年「そんな…これ以上何をしろって…」

包帯少女「……」

包帯少女「…神社へ行かないと」

包帯少女「全てが始まったあの場所で、まだしなくちゃいけないことが残ってるんだ」

包帯少女「もうひと頑張りだね」

少年「……よし」



テクテク...




ーーーーーーー

猫又娘「おー…」

猫又娘「いやはや、あれだけの妖禍子がぜーんぶ吸い寄せられてくのは圧巻でしたなー」

派手娘「……手、きったな」

夢見娘「………」

猫又娘(上手くやってくれたんだね、少年君、少女さん)

猫又娘「……」フゥ...

夢見娘「」スクッ

...テクテク

猫又娘「あれ?夢見娘さん?」

夢見娘「……まだ、終わってない」

夢見娘「私たちも、行かないと……」

猫又娘「…ま、そうだよね」

猫又娘「ちょっとくらい休憩したかったなぁ…はぁーあ」

猫又娘「派手娘さんはどうする?多分ここに居ても家に帰っても、すぐ町は元通りになると思うけど」

派手娘「あたしも行くわ」

猫又娘「…ん」




ーーー石段麓ーーー

少年「…ここ登るの、何回目だっけ」

包帯少女「さぁ…でももう一生分は登った気がする」

少年「まったくだ」ハハッ

少年「……」キョロ、キョロ

少年「まだ屋台とか残ってるんだ」

包帯少女「お祭りやってたの昨日の今日だよ?人が居なくなって片付けられてないだけじゃないかな」

少年「そうかもね」

少年「…そういえば少女さん、結局昨日の花火見れなかったんだよな」

包帯少女「きみに助けてもらってたからね」

少年「……来年は」

少年「二人で来よう。ぐるっと屋台回って、花火見てさ。普通に楽しもうよ」

包帯少女「…今度は流されないようにね」クスッ

少年「!だ、大丈夫!今年ので学んだから!」

包帯少女「だといいけど、ふふっ」

少年「ぅ…登ろ」

包帯少女「うん」



トットットッ



少年「……」トットッ

包帯少女「……」トットッ



――トクン



包帯少女(…!)

包帯少女「……」トッ...

パッ(繋いでいた手を離す)

少年「…?少女さん?」

包帯少女「………」

包帯少女「…ごめん少年君」

包帯少女「どうやらぼくはここまでみたいだ」

少年「??…何が?」

少年「あ、もしかして手痛かった?悪い、配慮出来てなくて…」

包帯少女「自信を失くさないでね。後はきみ一人でも出来るはず」

少年「…?さっきからなんの話を――」

少年(―!)

少年「…その目は…?」

包帯少女「あぁ通りで。視界がさ、濁ってきたと思ったよ」

少年(包帯に巻かれてない左目が、奴ら…妖禍子の目にそっくりだ…)


...グリュ ビリビリ!

少年「!?」

少年「し、少女さん…腕が…!トゲみたいなのが…!?」

包帯少女「……きみには、あまり見られたくなかったんだけどな」

包帯少女「黙っててごめんね。見ての通り、ぼくはそろそろ行かなきゃいけない時間なんだ」

少年「行かなきゃ…って、どこにだよ!?」

包帯少女「本来居るべき場所に」

包帯少女「一度は死んだ命。きみに蘇してもらって、きみの成長を見守ることが出来て、ぼくは嬉しかったよ」

少年「……そんなこと、言わないでくれよ……」

少年「嘘だよな…?きみは居なくならないよな…?」

包帯少女「……」ニコッ

メリッ!

包帯少女「グゥ…!」

少年「!…やだ……少女さん…!」ポロ..ポロ..

包帯少女「…もう…強い人は、泣かないんじゃナかったの?」

少年「きみと居られないんじゃ強くても意味なんてない!」ポロポロ

少年「なぁ早く上へ行こう!?あの神社でトドノツマリ様が待ってるんだろ!?だったらまた頼めばいい!きみを元に戻してくれって!」ポロポロ

包帯少女「ううん、これは変えられないから」

少年「そんなこと言うなよ…!きみが諦めたら本当に間に合わなくなるだろ…!」

包帯少女「……大丈夫」

包帯少女「きっとまた会エルから」


包帯少女「そうだ、これ」スッ

少年「…バット」

包帯少女「うん。そんなオンボロでもさ、結構昔かラ使い続ケテきた相棒なんだ」

包帯少女「…きみニ預かってイテほしい」

少年「……………」



ベリベリ! バキッ!



包帯少女「ゥ゙ア゙!」

少年「少女さんっ!!」

包帯少女「…さ、ハヤク行っテ…!ぼクをミナイで!」

少年「で、も……」

包帯少女「早クッ!!」

少年「――……、っ……」

少年(……!)ギリッ

少年「」ダッ



タッタッタッ...



包帯少女「……ソレデ、いイノ……」

包帯少女(………)

包帯少女(…神様、聞こえていたら、どうかお願いします)

包帯少女(彼は十分にその責を果たしました。ぼくを守ろうとしてくれました)

包帯少女(ですからどうか…すくわれた結末を下さい)

包帯少女「………」ジッ

包帯少女(――例え繋いだこの手が離れても……大丈夫)

包帯少女(約束だよ)





また会える。





ベキベキッ!

バサッ――




ーーーーーーー



タッタッタッ



猫又娘「…!」タッタッ

猫又娘(…ちょっとだけ感じるこの気配…妖禍子?)

猫又娘(……)

猫又娘「……!?」ギョッ



黒服男「……」



猫又娘「………」

派手娘「…何してんの、置いてくわよ?」

猫又娘「あー、えと…」

夢見娘「……」ジッ...

猫又娘「先、行ってて。私もすぐ追いつくから」

派手娘「…そ」



タッタッタッ...



猫又娘「……」スタ、スタ

黒服男「……」

猫又娘「………」

ソー...

ポスッ(頭に手を乗せる)

黒服男「………失せろ」

猫又娘「!…びっくりした。てっきりもう植物状態になってるんかと思ってた」

黒服男「……」

猫又娘「あなたの髪、結構柔らかいんね。意外」ナデ..ナデ..

黒服男「何をしに来た。……嗤うなら嗤え、殺すなら殺せ」

猫又娘「んーじゃあ、なんで道の真ん中でへたり込んでたの?」

黒服男「…最早我が身を起こす事すら叶わぬ…骸も同然だ」

黒服男「……お前に情けがあるのなら、俺に構うな」

猫又娘「……」ナデナデ

黒服男「……」


猫又娘「…昨日のあなたの質問、私なりに考えてみたんだ」

猫又娘「人がなんで一方的にあなたたちを排除しようとするのか、だったよね」

猫又娘「……」



猫又娘「怖いから」



猫又娘「…じゃないかなぁ」

黒服男「………」

猫又娘「お化け的な怖さとかじゃないよ?多分それは知らないものに対する怖さなんよ」

猫又娘「何も人に限った話でもなくてさ、例えば臆病なワンちゃんは知らない人が来たら吠えて威嚇するよね?そーいうのと一緒」

猫又娘「得体の知れない存在に周りをうろちょろされるより、消してしまえーってなっちゃったんだよ」

猫又娘「…つまりそれってさ、裏を返せば、お互いちゃんと知ることが出来たら人と妖禍子が一緒に暮らすことも出来るってことなのでは?」

猫又娘「なんて考えてみたり」

黒服男「……また妄言か」

猫又娘「んーん、妄想なんかじゃないよ」

黒服男「人間の持つ俺達への感情は、容易には変えられぬ」

猫又娘「そーだね。だからゆっくりでもさ、歩み寄っていければいいんさ」

猫又娘「私みたいに」ニヒッ

黒服男「………おめでたい奴だ、お前は」

猫又娘「あなたがそれを言う?」

猫又娘「あなたのご両親が、そう出来たのに」

黒服男(――)

猫又娘「……」

黒服男「……」




ナデ..ナデ..



猫又娘「……ね。子守唄、覚えてる?」ナデ..ナデ..

黒服男「………」

猫又娘「………」ナデ..ナデ..

猫又娘(………)

猫又娘「…ねむれねむれやゆらりゆられ」~♪

猫又娘「たなびくくものごとし」~♪

黒服男「……」

猫又娘「おやまもさともよるのなか」~♪

猫又娘「はかなきゆめみんとす」~♪

黒服男(……お前は……)

猫又娘「あわれあわれやだれぞおにか」~♪

猫又娘「てのなるところにおちて」~♪

黒服男(……俺と、何が違う……?)

猫又娘「けものもとりもかごのなか」~♪

猫又娘「うたかたのゆめみんとす」~♪

黒服男(人でも、妖禍子でもない……歪な存在……)



広い背中を頼るしろい手

重なる刹那願いをかけた



黒服男(……)



年月も水屑も

流れ流れてめぐるあはれ





ーーーーー

――貴方への愛が途絶える事も無く

ケモノ「――この子と共に生きよう。それが我々に出来る恩返しだ」

――千代に流れ継いで行きますように

女「……はい。私が貰った愛を次はこの子に…」

――其の名を愛したふたつの花を

女「…そうです。この子の名前、今ようやく決まりました」

――どうか覚えてます様に

ケモノ「聞かせてもらおうではないか」

――もしも貴方の嘆きが闇を囲い

女「"ナガレ"。というのはどうです?」

――ヒトを愛せなくなったとしても

女「この子に注ぐ愛が、永遠に流れ継いで行くように…」

――貴方を変わらず愛する花を

女「貴方を愛する私達の事を」



――どうか覚えてます様に



ーーーーー



猫又娘「――どうか覚えてます様に」~♪

黒服男(…知らなかった)

黒服男(己が授かった名……)

黒服男(そこに込められた愛の意味……)

黒服男(……俺の中は、何で満たされていたのだろうか…)

猫又娘「ねむれねむれやゆらりゆられ」~♪

猫又娘「はかなきゆめもかごのなか」~♪

黒服男(………眠い、な………)



ねむれねむれやゆらりゆられ

はかなきゆめもかごのなか…





スー...





猫又娘「……」

猫又娘「……」

猫又娘(………)

猫又娘「おやすみなさい」


ーーーーーーー



タッタッタッ!



少年「」タッタッ!



タッタッタッ!



少年「……っ」タッタッ!

少年(くそ……ちくしょう…!)

少年(なんで少女さんが消えなきゃならないんだ!)

少年(あの包帯――結局僕がどう足掻いたところで、こうなることは決まってたのか…!?)

少年「……」タッタッ

少年(……このノートは全部知ってたのかな)

少年(これがあったから少女さんと知り合って…猫又娘さん、派手娘さん、夢見娘さん……普通なら関わることもない人たちと過ごすようになっていって)

少年(…妖禍子を収束させたのもこいつだった)



(物言わぬノート)



少年(お前は一体なんだ。なんで僕の持ち物なんだよ)

少年(僕はどうすれば少女さんを助けることが出来たんだ…)

少年「……はぁ……はぁ」タッタッ


少年(……思えば)

少年(彼女はいつも僕のことを見ていてくれた)



ーーーーー

少女「――諦めないで、ちゃんと精一杯抵抗してるんだなって」

ーーーーー



少年(どんな時でも弱音を吐かずに)



ーーーーー

包帯少女「――ぼくも、またきみとお喋りしたい」

ーーーーー



少年(ふと気付くと、僕の前に立ってて…それが僕の道しるべになっていた)



ーーーーー

包帯少女「――ぼくはね、きみと出会えて良かった」

ーーーーー



少年(僕だって、少女さんに勉強を教わるのは分かりやすかったし、二人野球も暇つぶしなんかじゃないくらい楽しかったよ)

少年「はぁ…はぁ…」タッタッ

少年「はぁ……はぁ…」タッタッ

少年「!っと…」ヨロッ...

少年「……はぁ……は…」...タッタッ

少年(………)





――大丈夫。きっとまた会えるから。





少年(……)グッ...!

少年「……約束だよ……はぁ…」タッタッ

少年「はぁ……は…」タッタッ

少年「――絶対、忘れないから!」



タッタッタッタッ...



少年「はぁ……え゙ふっ」

少年「…っはぁ……はぁ……」

少年(着いた…)

少年(…階段、こんな短かったっけ?けど足がものすごく怠い…)


少年「……ふぅ……」

少年「…!」



幼女「……」



少年(……小さな女の子……)

少年(顔を見なくても分かる。きっとあの子が)

少年(トドノツマリ様)

少年「……」...ザッ

幼女「……」

少年「……」ザッ、ザッ

幼女「………」(そっと振り返る)

少年(!…この子もだ)

少年(あいつと同じ、どこか悲しげな顔をしてる)

少年「……」ザッ、ザッ

幼女「……」

少年(――そうか)

少年(あの時、きみから見た僕もきっと)



その時何を考えたかは正直あまり覚えてない。



少年「……」スッ(手を差し出す)



ただ、どんな疑問よりも先に口を衝いて出ていたんだ。





少年「友達に、なってくれませんか?」





幼女「………」

少年「………」

幼女「……これは、異な事を」

幼女「然し」



...キュ



幼女「感謝する、創造主よ」

少年「……うん」

少年(暖かくも冷たくもない、不思議な手だ…)

幼女「ふむ…」

幼女「付喪神の仕業でもあるまいが、何れも正しく所有者の元へ還る、か」

少年「…?」

幼女「其の書物も然り」

少年「アヤカシノート?」

幼女「些か、実直過ぎる名を付けたものよ」



...タッタッタッ



派手娘「やっぱり、あんたか」

夢見娘「……」

少年「二人とも無事だったんだ。よかった」

少年「…猫又娘さんは…」

派手娘「一緒。後から来るってよ」

少年(……)

少年「あのさ…ここに来る途中、少女さ――」

少年「……人の形をした妖禍子を見なかった?」

派手娘「……」チラリ

夢見娘「………」モジッ...

少年「あ、いや夢見娘さんじゃなくて…」



猫又娘「おい!おーい!」スタッ、スタッ



猫又娘「」バッ

クルクルクルッ シュタ!

猫又娘「…っと」

猫又娘「主役は最後に登場!」

猫又娘「…間に合った?遅刻?」


少年「猫又娘さん!」

少年「間に合ってるよ。僕もついさっき来たばかりだから」

猫又娘「丁度いい時に来れたかなー」

猫又娘「世界を救った英雄さんの話も聞けそうだしね」

少年「……え、僕のこと?」

猫又娘「もち」

猫又娘(……)

猫又娘(少女さんがいない)

猫又娘(さっきのはやっぱり…)

少年「……」

幼女「案ずるでない。役者は揃った」

幼女「嘆きに満ちたこの夜に、終止符を打とうぞ」

四人「……」

猫又娘「で、何をするのでしょうか」

夢見娘「……妖禍子の封印……」

幼女「是」

少年「妖禍子ならここに…」

夢見娘「……」フルフル

夢見娘「その子たちは、単純な存在だったからそこに納まったの……」

夢見娘「……私みたいに、少年くんに創ってもらったり、"違うもの"と混ざってたりすると、話は別……」

猫又娘「……」

幼女「今この世を停滞せしめている歪みは、放たれた妖禍子の消失により除かれる」

幼女「書物も合わせ、封じねばならぬ」

幼女「そして残すは二つ」

夢見娘「……」

猫又娘「……ふー」

猫又娘「なーんとなく、そんな予感はしてたけどねぇ」

猫又娘「封印される前に知っておきたいことがあるんだけど、いい?」

幼女「…言ってみよ」

猫又娘「どうして今になってこんなことが起きたのかなって」


猫又娘「あの男が産まれたのって大分昔なんよね?…あいつの親が殺された時、まだ赤ん坊だったみたいだけど、何百年も後のこの時代で恨みを晴らす理由があったんかな?」

幼女「……」

幼女「……彼の者は元より封じられていた」

少年「あの村長さんたち、あいつだけ殺すんじゃなくて封印したんだ…?」

幼女「封じたのは我だ」

猫又娘「!」

幼女「彼の者をあのまま生かしたとて、人間の手が迫る事は明白」

幼女「ならば、何人も触れられぬ様封ずる事が彼等の安寧となる」

幼女「其の浅慮に囚われた我は、同様にして妖禍子共を封じていった」

幼女「…この社の中へ」

猫又娘「じゃああのお札は」

幼女「我が施したものだ」

幼女「彼等を護る揺籠と思い、長い時の中見続けていた」

幼女「……だが、其れでは何も終わらぬ。彼の者の憎悪は徐々に、然し確実に渦を巻き…」

幼女「いつしか世を歪ませる螺旋となりて、外界へ放出した」

猫又娘「……」

猫又娘「あなたも…よく無事だったね」

幼女「彼の者の記憶に、我は無かったようだ」

幼女「其の事実が吉と出たか凶と出たかは…最早確かめる術はないが」

少年「………結局………」

少年「事の発端は何もかも……人にあったんだな」

少年「妖禍子だ化け物だって騒いでおいて……本当の"アヤカシ"は僕らのこの――」

少年「胸の中にあるんだろうな…」

派手娘「……」

幼女「………」

幼女「妖禍子とは、そなた達が付けた呼称。我等は単調な運動しか出来ぬ者、高度な思索を行う者であろうが、そこに在る事が全て」

幼女「元々善悪なる概念は存在せぬ」

幼女「…この言葉に、納得出来ようか?」

少年「え…納得出来るか、って?」

少年「あぁ…まあ襲ってきた奴らだってあいつに操られてただけで悪意があるようには見えなかった」

少年「むしろ助けてくれる妖禍子さんがいるくらいだし…」

夢見娘「………」

猫又娘「えへへ…」

幼女「…であれば、よいのであろう」

幼女「創造主よ、そなたが其れを忘れずにいれば、人の世の心地は変わって行ける」

幼女「…そう信ずるに値する」

少年「………」


幼女「……我も、そなたに謝罪せねばなるまい」

少年「…?」

幼女「――現世に戻した女。其の命、再び消ゆる事」

幼女「対価を欲したにも関わらず、間に合わせられぬ事」

少年「………」

少年(…少女さん…)

幼女「女の魂魄は…湖沼の底へと戻った」

幼女「あの湖沼には浮かぶ事の無い数々の念が漂っていたが」

幼女「今や一つとして残っておらぬ。何にも邪魔されず、洗われてゆく事だろう」

猫又娘(驚きだ……この子に人を生き返らせる力まであったなんて)

猫又娘(……だったら……そう願えばキミともう一度会うことも……)

猫又娘(………)

猫又娘(…いや、そうじゃないよね)フゥ...

派手娘「……」

派手娘(…善悪がないって何よ。そんなの無機物と変わらないじゃない)

派手娘(んなこじ付けに納得しろなんて…)

幼女「人間」

派手娘「…あたし?」

幼女「約束しよう」

幼女「人の――そなたの領域への侵食が金輪際無い事を」

幼女「人間との衝突は負の結果を生む。我等の存在の固定化が何時終わるかは分からぬ。だが、其れまでは此処で揺蕩い続けようぞ」

派手娘「それで…この町の守り神ってわけ?」

幼女「……我は、斯様な在り様しか見えぬのだ」

派手娘「………」


幼女「閑話休題」

幼女「…猫又よ」

猫又娘「うん、もう十分。サンキューね」

幼女「では…封印は一度に一つずつ」

幼女「先ず其の書物を、此方へ」

少年「はい、どうぞ」

幼女「……」スッ



...フワァ

ヒュウウゥゥ

フッ...



少年(光が湧いたと思ったら…ノートが消えた)

猫又娘「おぉ…綺麗…」

幼女「苦痛は無い」

幼女「次は――」

猫又娘「はいはい!私が先!」

派手娘「バカなの?給食のデザートじゃないのよ」

猫又娘「あれ?なに?心配してくれてるん?あ!もしかして私が居なくなると寂しいとかー?」ニヤ

派手娘「チッ…うざい…」

少年「――僕は、寂しいよ」

猫又娘「……」

少年「猫又娘さんが居てくれてから、ここまで来れたんだし……少女さんと仲直りするのだって……」

猫又娘「少年君」

少年「!」

猫又娘「湿っぽいお別れはなし!そんな長々と喋んないで、一言にぎゅっとまとめておくれよ」

少年「一言…??」

少年「…さようなら?」

猫又娘「んーん」

少年「お元気で」

猫又娘「変わってないなぁ」

少年「えー……」

少年(……!)

少年「…ありがとう」

猫又娘「いぇい♪」ピース

猫又娘「じゃー、封じちゃってくださいな」

幼女「……」スッ




猫又娘(人間社会は難しい)

猫又娘(色んなものがない交ぜになってて、ぐちゃぐちゃで、最初はびっくりしたっけ)



...フワァ



猫又娘(でも、キミが楽しい処世術を教えてくれたから)

猫又娘(……テストの点数は悪かったけど、私の生き方は何点だったんかなぁ)



ヒュウウゥゥ



夢見娘「……」

ポワァ...



猫又娘(………)

『――なんで暗い顔してるん?笑って笑って!』

猫又娘(……え?)

帽子『へへへっ』

猫又娘(あ……なんで……?)

帽子『お疲れ様』

帽子『僕の代わりにみんなを笑わせてくれたんだって?よく頑張ったね』

猫又娘『……っ……』

タッタッタッ! ギュッ

猫又娘『うん…うん…!頑張った…!』ギュー

猫又娘『私頑張ったんだよ…!』

猫又娘『だって!キミとまた、一緒に笑いたかったから…!』ポロ..ポロ..

帽子『とか言いながら泣いてんじゃん?』

帽子『僕と笑うんでしょ?ほら、せーの!』

帽子『にひひ』ニコッ

猫又娘『……にひひっ』ニッ



フッ...



子猫「……」

子猫「」クシクシ

少年「猫に、変身したのか?」

幼女「其奴は既にただの猫だ」

子猫「……」

ダッ

スタッ、スタッ、スタッ...

少年(行っちゃった…)

派手娘「…あんた、今何したの?」

夢見娘「……夢を見せた……」

夢見娘「それだけ……」

夢見娘「……」...テクテク

少年「…夢見娘さん!」

夢見娘「………」

少年「ずっと僕たちを助けてくれてたんだって、聞いたよ」

少年「ごめん…勝手に僕が作り出しておいて、僕たちの都合で封印なんてさ…」

夢見娘「……私は、きみのものだから、いいの……」

少年「でも…」

夢見娘「……少年くんが私のことを考えてくれた。それだけで嬉しいから」

夢見娘「……」ニコッ

少年「…!」

夢見娘「……お願いします……」

幼女「…もうよいのか?」

夢見娘「……」コクリ

幼女「……」スッ



夢見娘(……いつか……)

夢見娘(きみと同じ、人として生まれ変われたら……)

夢見娘(その時は、きみと一緒に……)



...フワァ

ヒュウウゥゥ

フッ...



少年「………」

幼女「………」

派手娘「………」

少年(これで、今度こそ終わった…?)

幼女「…後ろを見よ」

少年「?」フリムキ

少年「あ…」



(地平線に僅かにのぞく太陽)



少年「朝が……来たんだ」

派手娘「………」

派手娘「……」ザッザッ



ザッザッザッ...



少年(!…派手娘さん…)

少年(ろくに話せなかったな)

幼女「そなたも帰るがよい。直、世の再生が始まる」

幼女「…我が為せるのは此処まで。最早この場所に留まる意味はない」

幼女「さらばだ」...スッ

少年「…あ、あの!」

幼女「……」チラ

少年「さっき、少女さんはあの池に戻ったって言ってましたよね」

少年「それは…少女さんも封印されちゃったってことですか?」

幼女「……」

少年「また会おうって、言ってくれたんです」

少年「少女さんは、また戻ってこれるんですよね…?」

幼女「………我の力のみでは、不可能だ」

少年「……そう、ですか」

幼女「だが」

幼女「嘗てそなたが見せた意思を超え、想い続けられるのならば、或いは」

少年「想い、続ける…」

少年「……それが出来たらどうなり――」

シーン...

少年(…いない…)


少年「……」

少年「……」

少年「………」

少年「………」ミアゲ



(昇りつつある朝日)



少年「……眩しいな」

少年(僕にとってのきみは、この太陽みたいなものだったのかもしれない)

少年「…いや、ちょっと違うか」

少年(太陽に手は届かないけど、きみの手を握ることは出来たんだ)



スッ(手をかざす)



少年「僕の声、聞こえる?」

少年「待ってて。今度は僕がきみの手を引っ張ってさ、連れ出してあげる。きみをひとりにはしないから」

少年「"大丈夫、約束でしょう?"」

少年「だから、また――」





あの綺麗な声で笑って欲しい。




■終幕 友達■


ーーー9月3日 学校ーーー



ガヤガヤ



「おはよ!」

「久しぶりー!なんか焼けたね?」

「夏休み中ずっと外で部活してたからさ~」



ワイワイ



少年「……」テクテク

「あ、先生おはようございます」

教師「おう、おはよう。結構遅刻ギリギリだぞ?始業式の日だからって甘く見てはもらえんからな」

「はーい」

少年「……」テクテク

少年(…皆、すっかり元通りだ)

少年(何事もなかったみたいに学校へやってきて、前と同じ日々を過ごしていく)

少年(事実、皆にとっては何もなかったんだろうけど…)

少年「……」テクテク

少年(夏休みの間、僕は少女さんを探し続けた)

少年(神社には勿論、あの池にも学校にも足を運んだ)

少年(結果は言わずもがな。手掛かりを見つけるどころか、日に日に薄れていく彼女の痕跡を忘れないようにするだけで精一杯だった)

少年(…いつの間にか、少女さんのLINEが消えていた。登録していたはずの電話番号も)

少年(少女さん家を訪ねてはないけど、行ったところできっと……)

少年「………」テクテク

少年(それでもきみは確かに存在していたんだ)

少年(きみから預かったこのバットが、それをはっきりと主張してくれる)

少年「……」テク...



(教室のドア)



少年(……)

ガラッ

「!…なんだ少年か。先生が来たのかと思ったぜ」

「なぁそれより続き話してもいいか!?夏祭りで見かけたそのめっちゃ可愛い子がさ──」

ザワザワ



(空いた少女の席)



少年「………」

少年(……だよな)


派手娘「ちょっと、邪魔」

少年「あ、ごめん」ススッ

派手娘「ボケッと突っ立ってないでとっとと席着けば」トットッ

少年「…うん…」

トットットッ

少年「……」

同級生A「そんでよー、──!」ペチャクチャ

同級生B「またあのアホから──」ケラケラ

少年(あいつらに絡まれなくなったこと以外は、進級したての頃と変わらないな)

少年「……」

少年(…前、何をして過ごしてたっけ)

教師「うーっす。HR始めるぞ」ガララ

教師「お前らちゃんと勉強してたかー?夏サボった奴は冬にかけてやらんと本当に行けるところなくなるからな?」

派手娘「……」フテブテー

教師「…派手娘」

派手娘「なんですか?」

教師「足、直しなさい」

派手娘「………」

ガタン

教師「連絡事項と配布物が大量にあるから、ちゃっちゃと片付けてく──おっと、まず出席か」

教師「あー、初っ端から来てない奴がいるな。あいつは夏期補習もサボってたなそういや…」

教師「まあいい」

教師「同級生A」

同級生A「うぃ」

教師「同級生B」

同級生B「はーい」

教師「二つ編み」

二つ編み「はい」


少年(…やっぱり、もう一回トドノツマリ様に掛け合ってみた方がいいのかな)

少年(あの人だけじゃ難しいって言ってたけど、もうそれくらいしか僕に思い付くのは──)

教師「猫──」





ダッダッダッ ガラッ!





猫又娘「ごめんなさーい!遅れましたー!」





少年「!!」

派手娘「……はぁ…?」

少女「もう…どうせ遅刻なんだから歩いてっても変わらないのに…!」ゼェ..ゼェ..

猫又娘「えー?出席終わるまでに着いたらセーフだよ!それくらいおまけしてくれるよね、先生!」

教師「ダメだ」

猫又娘「」ガーン

少女「ほら」

教師「ま、その心意気は褒めてやろう。早く席に行け」

猫又娘「うー…」トボトボ

教師「猫又娘、お前は後で職員室だ。夏の補習の件について話がある」

猫又娘「あんまりだっ!」

教師「自業自得だ」




ーーー始業式後ーーー

猫又娘「うぇー…少女さーん、信じらんないくらいの量の追加課題出されたー」

少女「気の毒にね。応援してるよ」

猫又娘「手伝ってー!」ウエーン

少女「無理だよ!ぼくも夏の課題全然やれてないのに」

少女「訊くならちゃんと夏休み満喫してた人にしなくちゃ」

少女「ね、少年君」

少年「……あ」

少年「え……少女、さん?」

少女「なに?」

少女「…お」

カラン

少女「バット、ちゃんと持っててくれたんだね」

少女「ありがと」フフッ

少年「ほ、本物?」

少女「……うん」



少女「約束。また会えた」



少年「──!」バッ

──ピタッ...

少年(…あっぶな)

少女「わ…よく自制してくれたね。教室の真ん中で抱き着かれるのはさすがにぼくでも恥ずかしいよ」クスッ

少年「ご、ごめん」

少年「でもなんで…いつから…?」

少女「気が付いたのはついさっき」

少女「起きたら今日だったんだ。戻ってこれたのが本当に今日なのか…そこはあんまりよく分からないけど、すくなくともあの日から今日までの記憶は無いし、宿題も真っさらだったから」

猫又娘「夏の補習もサボってることにされました…うぅ…」

猫又娘「だからせめて遅刻だけは避けたかったのにぃ…」

少女「夏休み過ごせてたところであなた、宿題なんてやらなかったでしょうに」

猫又娘「そそそ、そんなことないよ!生まれ変わった私の切れ味、甘くみてるなっ!?」

少年「切れ味ってそういう使い方するっけ…」

派手娘「ふーーん?是非見てみたいものね」

猫又娘「」ビクッ

猫又娘「やー…どーもどーも」アハハ...


派手娘「どうせあのインチキマジックでお茶を濁すだけでしょうが」

派手娘「しかも、なーにさも何でもありませんでしたって顔で居るのよ。封印されたんじゃなかったの?」

猫又娘「封印されたんはさ、妖禍子じゃん?」

猫又娘「だから私も少女さんも人間の部分だけがこうやって戻ってこれたと思ってるんだー」

猫又娘「…まあつまり、私のマジックパワーはもう使えないんよね…」トホホ

派手娘「へぇ、そういうこと」

ガシッ

猫又娘「…にゃ?」

派手娘「じゃあ小賢しい真似はもう出来ないのね。残念だわー、あんたの手品楽しみにしてたのに」ニコニコ

猫又娘「ははは…それはどうも」

猫又娘「あの、この手は…?」

派手娘「ん?安心しなさい。最低限の勉強くらい、あたしが直々に仕込んであげる」ニッコリ

猫又娘「遠慮しますっ!!?」

派手娘「あんたのためを思ってやってやんだから感謝して欲しいわねー」ズルズル

猫又娘「いーやーだー!そもそも仕込むってなにさ!?教える、じゃないん!!?」ヒキズラレー

タスケテー!

少女「あーあ、行っちゃった」

少女「ま、あれくらい荒療治しないとやるようにならないから丁度いいかもね」

少年「………少女さん」

少女「ん?」

少年「また、よろしく」

少女「……」

少女「…友達として?」

少年「え?それはどういう…」

少女「ふふっ。さぁ?」

少年「なんだそれ…!気になる、教えてくれよ!」

少女「知らなーい。きみから言ってくれないならぼくも教えないよ♪」

少年「なっ…」

少年「………僕は………ただ、きみが………」

少年「……………」


少女「…ね」

少女「今日、久々に二人野球しに行こうよ」

少年「!…いいけど」

少女「猫又娘さん、二つ編みさんと、派手娘さんも誘えば来てくれるかな?」

少年「それもう二人ではないよね…」

少女「始まりはきみとぼくの二人だったんだから"二人"でいいじゃない?」

少女「それより、さ!」



ギュッ(手を握られる)



少年(…あ)

少女「声かけに行かないと、二つ編みさん帰っちゃう」

少女「行こ?」

少年「…行くか」







『9月13日  眩しいくらい、夏晴れ

少女さんが案外、ずるい一面を持っていることを知った。包帯を着けていた頃の彼女は何となく大人しかったけど、今日は大分はしゃいでたのかな?でもそんなとこもひっくるめて、僕は……』





パタン

少年「………」

少年「………」

少年「………」

少年「……」フ...




ーーーーーーー

「C、帰ろうぜ……ってなんでそんなに菓子ばっか持ってきてんだ?」

同級生C「あれ…本当だいつの間に」

「どんだけ腹減ってたんだよ」

「ちょっと俺にもくれない?」

同級生C「おぉ、いいよ。あんま取り過ぎんなよ?」

「わーってるって。これとか懐いな~。俺こっちのやつ好きな──…?お前、泣いてんのか?」

同級生C「え…?」ツー...

同級生C「は?え?なんだこりゃ…」ポロポロ

「お、おいおい…悪かったよそんなにお気に入りの菓子だと思わなくて…」

「馬鹿か、そうじゃねぇだろ絶対。どうしたんだよ?」

同級生C「分っかんね。なんだろうな」ポロポロ

同級生C「…あ、これあれだ。何となくだけどさ」ポロポロ

同級生C「──すっごい好きなものを、失くした気分、だ…」ポロポロ

同級生C「なん、だろうな…ほんと……」ポロポロ...

「何があったか知らんけどさ、元気出せよ」ポンポン

「話くらいなら聞いてやるぜ」

同級生C「……サンキューな……」




ーーーーーーー

二つ編み「お二人に話があります」

二つ編み父「おー、どうした?」

二つ編み母「あんまり暇じゃないから手短にね」

二つ編み「わたし、祖母の家で暮らします」

二つ編み母「……は?」

二つ編み父「…本気か?」

二つ編み「諸々の手続きはこちらの方で進めておきました。後はお二人の承諾と印鑑だけです」スッ

二つ編み「金銭のことでも一切あなた方に迷惑をかけないので安心して下さい」



ーーーーー

少女「──それ、あなたが我慢する必要ないよ」

少女「──おばあちゃんにお話してみたら?」



老婆「──ばあちゃんの家でかい?」

老婆「──…長いこと面倒見てあげられないかもしれんけども、それでいいならうちに来なさい」ニコ

ーーーーー



二つ編み(…ありがとう)

二つ編み「今までお世話になりました」ペコリ




ーーー神社ーーー



……………。



スッ...



幼女「………」

幼女「……」ジッ



(長い石段)



幼女「………」

幼女(心とは誠、関心の尽きぬ代物よ)

幼女(どれ程小さき存在であろうと、その在り様で如何様にも魅せる事が出来る)

幼女(…そして其れは、人のみが持つ特権に非ず)

幼女(碧のケモノ)

幼女(彼の者も又、今際の際己が心を強く鳴らし、自らの生涯と番の影を遺していった)

幼女(前者は彼等の子へ)

幼女(後者は猫又へ。……そして彼の書物へも)

幼女(なればこそ、あの書物は創造主の強き心に惹かれ、共鳴したのであろう)

幼女「……世界は、共に在る事を選択したのかもしれぬ」

幼女(そなた達が其の可能性を魅せた様に)

幼女(…住む世界異なれど、心を通わせた二つの命が在った様に)



ーーーーー

少年「──友達に、なってくれませんか?」

ーーーーー



幼女「勇む心を持つ者よ」

幼女「人と妖禍子、共存の道を示した其の所業」

幼女「礼を言う」

幼女(…ふむ、そなた達の言葉を借りるならば)





幼女「──ありがとう」





ー終わりー

以上で完結となります。

元にさせていただいたのは、sasakure.UKさんが出しているアルバム「摩訶摩謌モノモノシー」と「不謌思戯モノユカシー」に収録された楽曲たちです。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。

長編を書くのは本当に難しいですね…。
五か月もかかるとは思いもしませんでした。
書ける人は尊敬します。

次回からはまた百数レスほどのSSに戻ります。
次回は以前書いた、

  少女「お兄、すき」男「そうか」

の続編を投稿していこうと思います。

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