高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「南風のカフェテラスで」 (38)

――おしゃれなカフェテラス――

北条加蓮「わっ……!」

高森藍子「きゃ。強い風が……。加蓮ちゃん、大丈夫? あっ、髪飾りが外れて……」

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レンアイカフェテラスシリーズ第120話です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「アイドルのいるカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「言葉を探すカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「今日も、私とあなたとの時間を」
・高森藍子「加蓮ちゃんの」北条加蓮「膝の上に 3回目」

加蓮「もう。髪がぐちゃぐちゃになっちゃった。これでもちゃんとセットしてたのにっ」

藍子「…………」

加蓮「今の風、強かったねー。雨でも降っちゃうのかな――……? どうかした? 藍子」

藍子「あ、いえ……」

加蓮「……髪を降ろしてる加蓮ちゃんがそんなに珍しい? 藍子にはたまに見せたことがある筈だけど」

藍子「そうですね。でも、なんだか今日は、すごく真新しく見えるんです」

加蓮「そう……?」

藍子「ふふ、ごめんなさい。もしよければ、もうちょっとだけ、加蓮ちゃんのことを見続けさせてくださいっ」

加蓮「どうしよっかなぁ」

藍子「そこをどうかっ」

加蓮「何が違うのかピンと来ないんだけど……藍子が見たいなら、どーぞ」

藍子「では、お言葉に甘えて。じ~」

加蓮「私も藍子のことじっくり見ちゃお。じー」

藍子「じ~」

加蓮「……。あんまりじっくり見られると照れちゃうな?」

藍子「まだ10秒も経っていませんっ」

加蓮「最近藍子が私のことを熱血だの情熱的だの、ピントのズレたこと言うから、我慢するのが苦手になっちゃった」

藍子「じゃあ……。私たちのグループに、スカウトしちゃおうかな?」

加蓮「藍子のグループってポジパとかのことじゃなくてパッショングループそのもののことだよね?」

藍子「そのつもりですよ~」

加蓮「……………………」

藍子「……思い浮かべるだけでげんなりって顔になるのなら、無理にとは言いません……」

藍子「そうだ。今度、一緒にレッスンをしてみるくらいならどうですか?」

加蓮「体験? 私はいいんだけどさー。そしたらクールグループのみんなに、行かないでー、って言われちゃうかもしれないからなー」

藍子「移籍ではなく体験ですよ、って伝えておけば、きっと大丈夫ですっ」

加蓮「……今の一応、ツッコミ待ちのつもりだったんだけど?」

藍子「へ?」

加蓮「なんでもない……」

藍子「……??」

加蓮「じゃあ、今度見学くらいはさせてもらおっかな――」ピュウ

加蓮「きゃ。またっ! さっきからもうっ……」

藍子「……。……ね、加蓮ちゃん。次にまた風が吹いたら、加蓮ちゃんの写真、撮ってもいいですか? 絶対に誰にも見せませんからっ」

加蓮「…………」

藍子「……ほ、本当ですよ……?」

加蓮「じゃあ……いいけど、その代わり、髪がボサボサになってる瞬間だったらその写真は消すからね」

藍子「はい。それでもいいです」

加蓮「珍しい。ぐずらないんだ」

藍子「私も、うまく撮れるか自信がなくて……さっき、髪飾りが外れて髪が巻き上がった時の、本当に綺麗だなって思った加蓮ちゃんのこと――」

藍子「私と加蓮ちゃんとの間でだけでも、残しておきたいなって」

加蓮「……真顔でそういうこと言われると、もう。茶化せないじゃん」

加蓮「じゃあ、その時は私も藍子を1枚撮らせなさい。それでいい?」

藍子「もちろんです♪」

加蓮「私の写真、どーせアルバムに入れるんでしょ。隣に並べて、開く度に恥ずかしいってなるような写真を撮ってやるっ」

藍子「ど、どういう写真を撮るつもりですか?」

加蓮「それは……。ね?」

藍子「……加蓮ちゃんの言いたいことを分かりたくないって思ったの、なんだかすごく久しぶりです」

加蓮「スマフォの連写機能とか使えば、1枚くらい気に入るのが撮れるかもね。試してみたら?」

藍子「あっ、確かに。その手がありましたっ」

加蓮「こういうのって、普段使わないと忘れちゃうよねー」

藍子「それにいつもは、確実に撮るより偶然撮れた1枚の方が、なんだかいいなって思いませんか?」

加蓮「ちょっと分かるかもー」

藍子「でも、今は確実に撮る方が優先です。早速、スマートフォンを取り出して、連写にセットして……」ガサゴソ

藍子「これで、準備できました! あとは、風が吹くのを待つだけです」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……あの、一応聞いてみるんだけど……もしかして、さっきみたいな強い風が吹くのを待ってる?」

藍子「そうですよ?」

加蓮「スマフォを両手で持って、私に向けて構えて、そのままずっと待ってるつもり?」

藍子「はい♪」

加蓮「カフェテラスで?」

藍子「カフェの中だと、風は吹きませんよ?」

加蓮「いやそういうことじゃ……。藍子がそれでいいならいいんだけどさ……」

加蓮「風なんていつ吹くか分からないんだよ? さっきの2回だって、急に吹いてきたからびっくりしちゃったし。そんなのずっと待ってたら疲れちゃわない?」

藍子「待つの、けっこう好きですから♪ しかも今回は、加蓮ちゃんの写真のため。何時間だって……!」

加蓮「はぁー。気合が入ってて何より……。髪、くくるのはいい?」

藍子「はい、どうぞ。……でも、また風が吹いたら――」

加蓮「それならまたくくり直すだけだよ」

藍子「ふふ、そうですか」

加蓮「今日はなんだか完全オフモードじゃ落ち着かなくて。さてどうしよっかなー。同じ感じにしてみてもいいけど……」

加蓮「あ、そうだ。藍子、やってみる?」

藍子「へ?」

加蓮「髪」

藍子「……いいんですか?」

加蓮「いいっていいって。じゃ、あとはお任せー♪」

藍子「は~い。では、今だけはカメラを置い……」

藍子「……どうしよう?」

藍子「ううん、いいやっ。失礼しますね」

加蓮「どうぞ。……ひゃ」

藍子「わっ」

加蓮「……びっくりした。意外とくすぐったいんだね」

藍子「私は、加蓮ちゃんがびっくりしたことにびっくりしちゃいましたっ」

加蓮「次は落としちゃダメだよ?」

藍子「ふふ。緊張しちゃいます。ゆっくり、ゆっくり……」

加蓮「……やっぱりくすぐったいっ」

藍子「加蓮ちゃんの髪って、やっぱりさらさらで綺麗ですよね。触りごこちも――」

加蓮「こら、撫でるな!」ブン

藍子「きゃっ。こら、加蓮ちゃん。頭を思いっきり振ったら、目が回ってしまいますよ?」

加蓮「そうさせたのは藍子でしょ」

藍子「もう1回……。……~~~♪ ~~~~♪」

加蓮「……髪、ベタベタしてない? 大丈夫?」

藍子「ううん、ぜんぜん」

加蓮「ならよかった。今日ちょっと湿気てるし、べたついてないかなって思って」

藍子「空は綺麗に晴れてるのに、なんだか雨の前みたいな感じがします」

加蓮「こういう時くらい帽子をかぶった方がいいのかなぁ」

藍子「たまにはいいかも? ……あ、でも、そうしたら加蓮ちゃん、お気に入りの髪型をおひろめできなくなってしまいますね」

加蓮「私の言いたいことを先に言うなー」

藍子「ごめんなさいっ」

藍子「あ……。加蓮ちゃん、ちょっとだけいいですか? 髪、ちょっとこう持っててください」

加蓮「私が持つの? いいけど」

藍子「首のところに少しだけ汗をかいてるみたいだから。拭いてあげますね」

加蓮「サービス精神豊富ー♪ ……ひゃうっ? こらっ。拭く前にもう一声かけなさいよ。やっぱり気遣いが足りてなーい」

藍子「……えいっ」フキ

加蓮「んぃっ!? こら! わざとやってるでしょ、アンタ!」

藍子「~♪」

加蓮「そういうことするんだったら、髪、もう触らせないよ?」

藍子「ええっ。せっかく――あっ」

加蓮「……何に閃いたの」

藍子「加蓮ちゃん、加蓮ちゃん。もし、私が加蓮ちゃんの髪を触っちゃ駄目だってなったら――」

藍子「膝枕をしてあげている時に、加蓮ちゃんの頭を撫でてあげられなくなっちゃいますよ?」

藍子「ふっふっふ~。それでもいいんですか?」

加蓮「いや、別にいいけど」

藍子「あれっ!?」

加蓮「あのね。今だって私がやってもらってるんじゃなくて、藍子にやらせてあげてるの。分かる?」

加蓮「膝枕だって、藍子がやりたいって言うから私が頭を乗っけてあげてるだけ。むしろ、今まで頭を撫でさせてあげてる分を、藍子は感謝すべきなの」

藍子「えぇ……」

加蓮「だってさ、最近の私と藍子の立場を考えてみなさいよ」

藍子「立場?」

加蓮「私は頑張ってる藍子をいっぱい助けてあげた。困った時には助け舟を出してあげて、疲れた時には注文を取りに行ってあげた」

加蓮「これはもう、完璧に私の方が面倒を見ているっていう関係だからこそだよね?」

藍子「それが言いたかったんですね」

加蓮「いいチャンスだし、こういう時にはっきりさせておかなきゃ」

加蓮「そんな訳で。撫でてあげるっていうことを交渉材料にするなんて無駄なの。いい?」

藍子「加蓮ちゃん」

加蓮「ん?」

藍子「とりあえず、前を向いててください。そのままだと髪がまとめられません」

加蓮「ノリわるーい」

藍子「ふふ。~~~♪ ~~~~♪」

加蓮「変な髪形にはしないでよー?」

藍子「しませんよ~」

藍子「~~~♪ ね、加蓮ちゃん」

加蓮「んー?」

藍子「いつもありがとうっ」

加蓮「それもう聞き飽きたよー」

藍子「じゃあ……。大好きです、加蓮ちゃん♪」

加蓮「んぐっ」

藍子「これも、聞き飽きてしまっていますか?」

加蓮「……ま、まあ? 聞き飽きてる聞き飽きてる。もう1万回は聞いたから、他のネタを用意したら?」

藍子「前を向いたままでも、加蓮ちゃんが嘘をついているって分かりますよ~」

加蓮「アンタが後ろを向くなって言ったんでしょうが」

藍子「それとこれとは別ですっ」

藍子「……はい、できました。簡単にひとくくりにしただけですけれど、これでよかったですか?」

加蓮「どれどれー?」

藍子「あ、ちょっと待って。……うんっ。加蓮ちゃん、こっちを向いて?」

加蓮「?」クルッ

藍子「ぱしゃり♪」

加蓮「……成程?」

藍子「はい。こんな感じにまとめてみました。どうでしょう?」

加蓮「ホントに1つにくくっただけなんだ」

藍子「加蓮ちゃんみたいに、すごくオシャレにやれる自信はなくて。私らしくやってみたくって♪」

藍子「加蓮ちゃん。今の写真は、みなさんに見せても大丈夫ですか?」

加蓮「んー……。ポテト」

藍子「今度、ご用意しますね」

加蓮「2袋分」

藍子「一緒に食べましょうね」

加蓮「髪をシンプルにくくっただけの振り向き姿って、そんなにネタになる?」

藍子「……」

加蓮「……? いや、なんか撮った瞬間すごく嬉しそうにしてたし……。あれ、私に写真で見せたかったからだけじゃないでしょ」

藍子「……その……私が、加蓮ちゃんの髪をくくってあげたんだよ~って、これならみなさんに教えてあげられそうで、それをちょっぴり……自慢が、したかったり……」

加蓮「えええぇ……」

藍子「や、やっぱりやめておきます。うぅ、なんだか恥ずかしい」

加蓮「藍子がそういう風に言いふらしたら、それはもう大変なことになるからね。懸命だよ」

藍子「大変なことって?」

加蓮「どうせ他のみんなが自分も自分もってなるでしょ。未央を先頭に。あ、こういう話になると奈緒の方が乗っかってくるかな。私、1日中髪を弄くられてるのなんて嫌だよ?」

藍子「…………、」

加蓮「もみくちゃにされてる加蓮ちゃんを見てみたいかも、なんて思ってない?」

藍子「ぎくっ」

加蓮「はいスマフォ没収ー。写真削除ー」

藍子「あああああっ!」

>>16 真ん中付近、上から7行目の加蓮のセリフを修正させてください。申し訳ございません。
誤:加蓮「藍子がそういう風に言いふらしたら、それはもう大変なことになるからね。懸命だよ」
正:加蓮「藍子がそういう風に言いふらしたら、それはもう大変なことになるからね。賢明だよ」


加蓮「……なんて。消してはないよ。はい」カエス

藍子「え? ……あ、ホントだ。ありがとうございま、す……?」

加蓮「藍子の気が変わって言いふらしたら、事務所で第2回追いかけっこ大会が開かれたりするのかな」

加蓮「そしたらまた隠れて、そうだなー。前回は千枝が勝ったから、千枝は私の味方ってことにしてもいいかも」

加蓮「賞品……うーん。私が考えてもいいんだけど、こういうのって私自身より、私を見てくれる藍子が考えた方が、みんな何が欲しがるか分かりやすいかな?」

加蓮「あははっ。そうと決まればモバP(以下「P」)さんにも伝えとこ。前やった時は後で怒られちゃったもんねっ」

藍子「加蓮ちゃん――」

加蓮「んー?」

藍子「ううんっ。もしも、私がみなさんにお見せしなかったり、みなさんが加蓮ちゃんの思う通りの行動をしなかったら、どうするんですか?」

加蓮「その時はその時でボツでしょ」

藍子「せっかく考えたのに……」

加蓮「ダメだとしても何か新しいことに使えるでしょ? 量を考えるのが大事だって、Pさんもいつも言ってるし」

加蓮「藍子だって、やる前からダメかもとか使えないかもなんて思ったりしないじゃん」

藍子「……それもそうですねっ」

加蓮「ね。ちなみに藍子がみんなに見せて回った時用のおしおきは、藍子がやってもやらなくても実行するから」

藍子「しないでください!」


□ ■ □ ■ □


藍子「あ……」

加蓮「どうかした?」

藍子「どうせなら、髪型、お揃いにしてみたかったな……。うん、そうすればよかったかもっ」

加蓮「さすがにそれはちょっと照れくさいし、帰りは帽子だね」

藍子「どうしてですか~。加蓮ちゃん、もう1度あっちを向いてください。やり直しします!」

加蓮「やだ」

藍子「そんなぁ」

加蓮「ま、これはこれで気に入ったから。ありがとね、藍子」

藍子「しゅん……」

藍子「加蓮ちゃんが髪に触らせてくれないなら、私が加蓮ちゃんと同じ髪型にすればいいんだっ」

藍子「帰る直前に、加蓮ちゃんが店員さんとお話しているところを見計らって――」

加蓮「あのさ。そういうのって、私に聞かれないように計画立て無いと意味なくない?」

藍子「あ」

加蓮「藍子が髪型を同じにしてきたら、私はまた別の髪型にすればいいじゃん。さっきは藍子にしてもらったけど、当然自分でもできる訳なんだし」

藍子「う……」

加蓮「しかも絶対私の方が先に整えられるし」

藍子「…………」プクー

加蓮「ぷくくっ。藍子のばーかっ」

藍子「……ふふ。つい、ぜんぶ喋ってしまいましたね。サプライズの計画も楽しいですけれど、一緒にお話しながら立てて行く計画の方が好きなんです♪」

加蓮「甘っちょろいんだー……っと」

藍子「また風が……! あっ! カメラカメっ……う~。間に合いませんでした」

加蓮「残念。次のチャンスが来るまでお待ち下さい、ってね」

藍子「やっぱり、スマートフォンをずっと持っていなきゃ……!」

加蓮「そうまでして私の写真を撮りたいの? 意地っ張りー。ま、お好きにどうぞ」

藍子「次は絶対に撮りますっ」

加蓮「頑張れー。……けどさ。私、ちょっとお腹空いちゃったし何か注文するよ?」

藍子「えっ? はい、どうぞ?」

加蓮「両手でスマフォを持ってたら藍子は食べれなくなるけど……。片手で持ちながら片手で食べる、なんて行儀の悪いことするの嫌いでしょ、藍子」

藍子「それは、まぁ……。でも私はいいですよ。お腹はまだへっちゃらですから」

加蓮「ふぅーん……。藍子の目の前でものすっごく美味しそうに食べてあげるけど、いい?」

加蓮「きっとお腹がめちゃくちゃ空くけどホントにへっちゃら? 大丈夫?」

藍子「……………………」

加蓮「ね? ……あははっ。睨んでも怖くなーい」

藍子「……、」

加蓮「ほら、分かったら諦めてスマフォは置きなさい。食べ終わってからならいくらでもチャンスはあるでしょ?」

藍子「……加蓮ちゃん」

加蓮「ん?」

藍子「……ええと……」

加蓮「あー……言い辛いことかー。そっか」

加蓮「別に……うん。聞いてあげるから、話してみて?」

藍子「……それなら」

藍子「加蓮ちゃんが私に、食べさせてくれたら解決かなぁ~……って思うんですけれど、どうでしょう」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「…………」バチーン

藍子「痛いっ!」

……。

…………。

藍子「もしも途中で風が吹いて、綺麗な加蓮ちゃんのことを撮れなかったら……加蓮ちゃんのこと、うらみますからね……! 絶対、ずっとうらみます……!」

加蓮「藍子に恨まれるなんて世界中探しても私だけだね。珍しい体験しちゃった」

藍子「もう!」

加蓮「さてと。前に来た時と同じ「梅雨の準備大福」を注文してみた訳だけど……」

加蓮「……梅雨の準備っていつまで続けるつもりなんだろ」

藍子「……梅雨が来るまで?」

加蓮「確かに」

藍子「見てみて加蓮ちゃんっ。傘のような葉っぱが、前に注文した時よりも少しだけ大きくなっていますっ」

加蓮「言われてみたらそうかも。ミニチュアの小学生サイズが、ミニチュアの大人サイズになったくらい?」

藍子「どっちにしても、ミニチュアのサイズなんですね」

加蓮「さすがにこのサイズじゃ私達にはさせないからねー」

藍子「それに、色が前に注文した時から変わっています。今回は、私の分も加蓮ちゃんの分も、薄い橙色になっていますね」

加蓮「ひまわりの色……じゃないよね。ちょっと黄色が弱いし。燃えるパッションカラー?」

藍子「ほら! 店員さんも、加蓮ちゃんならできる! って、思っているんですよ」

加蓮「無理だってば。もうっ」

加蓮「いただきまーす」

藍子「いただきますっ」

加蓮「もぐ……」

藍子「~~~♪」

加蓮「ふふっ。美味し」

藍子「この前とはまた違った味……。テラス席で食べているからかな?」

加蓮「それか……ほら、この前の藍子ってさっさと食べちゃったじゃん。ゆるふわは封印だ、それよりも早く加蓮ちゃんの膝の上に乗りたい! って」

藍子「あ、改めて言われると気恥ずかしいですね……。膝の上に乗るって……」

加蓮「実は乗せたのは頭なんだけど。って、実はってほどイメージ変わらないっか」

藍子「このミニチュアサイズの傘みたいに、私も小さくなれたら……加蓮ちゃんの膝の上に、乗ることができるのかな?」

加蓮「それか昔の、小さい頃の藍子ちゃんにタイムスリップして来てもらったら?」

藍子「……加蓮ちゃん。それは、冗談ですか? 本気ですか? 真顔なので分かりにくいっ」

加蓮「ふふふー。うちの事務所ならありえるから怖いよね」

藍子「時間を遡るのは、……なんだかできちゃいそうなのでいいとしても、昔の私にはどうやって来てもらうんですか?」

加蓮「……こう、こっちに美味しいお菓子があるよって言って」

藍子「やめましょう……」

加蓮「でも、藍子って小さい頃からしっかりしてるし、この手は効かなさそうだね」

藍子「そうですね、って言いたいんですけれど……」

加蓮「……自信ない感じ?」

藍子「あはははは……」

加蓮「今だって、大福1つで簡単に釣られちゃうもんね」

藍子「そ、そこまでではありませんっ。……ハズです」

加蓮「どーだか。意外と食いしん坊な藍子ちゃん?」

加蓮「逆にさ」

藍子「逆に」

加蓮「昔の加蓮ちゃんに来てもらう方法とかって思いつく?」

藍子「…………えええぇ……?」

加蓮「あははっ。ま、そんな顔しないで。ちょっとした冗談だと思って」

藍子「加蓮ちゃんの昔のことを冗談にするのなんて、私には難易度が高いです」

藍子「でも……そうですね。まず、来てもらうためには、何か興味を惹くものを用意した方がいいですよね?」

加蓮「おっ。乗り気だ。誘拐対象が加蓮ちゃんだから?」

藍子「もう知りませんっ」

加蓮「えー。ごめんごめん。さすがにからかいすぎちゃった。続きが聞きたいなぁ」

藍子「……………………」プクー

藍子「…………」モグモグ

藍子「……」コトン

藍子「……ちいさい頃の加蓮ちゃんが興味を持ちそうなことって――アイドル以外に、何かあるのでしょうか」

加蓮「どうだろ。自分で分析するのもアレだけど……うーん……。珍しい物とか、見たことがない物とか?」

藍子「なるほど~。そうだ。一緒に遊んであげるのはどうでしょう?」

加蓮「ほうほう?」

藍子「加蓮ちゃんのお話を聞いていると、きっと、ちいさい頃の加蓮ちゃんがいちばん欲しかったものって、自分と一緒にいてくれる人なんだって思います」

藍子「だから一緒にいてあげて、そして加蓮ちゃんの知らないもので一緒に遊んだら、2倍の効果になりますっ」

藍子「これならきっと、加蓮ちゃんをさらっ――」ハッ

藍子「か、加蓮ちゃんもきっと、私についてきてくれますよね。……どうでしょう?」

加蓮「それは当時の私に聞いてみないと。でも、藍子の雰囲気ならできるのかもね」

藍子「やった♪」

加蓮「ま……当然、今から想像しても、何の意味もないことだけどさ」

藍子「……」モグモグ

加蓮「……」モグモグ

加蓮「……やっぱり、今でも時々思うことはあるよ」

加蓮「もっと昔や、もっと違う時に藍子に出会ってたら、って」

加蓮「でも――」

加蓮「なんだろう。その想像だか妄想に出てくる藍子って、多分藍子じゃないんだよね」

藍子「私じゃない……? 凛ちゃんや、奈緒ちゃんってことですか?」

加蓮「ふふっ。違う違う。っていうか何? 私ってそんな浮気性みたいに思われてるの?」

藍子「そういうつもりじゃないですよ~。……あっ、でも、加蓮ちゃん、最近はそれっぽいところもあるのかも……?」ウーン

加蓮「やめて、ガチトーンでそういうこと言うのやめて」

加蓮「藍子以外の誰かってことじゃなくて、そもそもこの世界にはいない存在。ただ、顔は藍子と同じような形で、性格も藍子みたいな子。つまり、私が勝手に作り出してる想像の藍子……って感じかな」

加蓮「そいつは私の中で、私に都合のいいことばっかり言うの。私が言ってほしいこととか、やってほしいこととか」

藍子「…………、」

加蓮「理想なんて求めてないよ。理想であってほしいとは思わない」

加蓮「私は、理想がほしくて藍子と一緒にいるんじゃない」

加蓮「なのに……"違う時に藍子と出会ったら"っていう想像は、自然と理想の追求になるよね」

加蓮「その中に登場する藍子は、私の理想になってしまう。いくら、自分は自分勝手じゃないって言い張ってても、結局はそういうことになる」

加蓮「……なんなんだろうね、こういうのって」

藍子「う~ん……。何、って。加蓮ちゃん。それって誰でも普通に考える、普通のことではないでしょうか?」

加蓮「えっ?」

藍子「どんなに現実が素晴らしくて、大好きなものでも、ときどき、もっといいものを求めてしまうことって、誰にでもあると思います」

藍子「加蓮ちゃんは、たまたまそれが私との出会い方で、たまたま私――ううん、私のような人? が登場しているだけのことではないでしょうか?」

加蓮「あぁ、そう言っちゃうんだ」

藍子「ふふ。そう言っちゃいます」

加蓮「口では綺麗事を言ってるのに、心の隅では反対のことを考えていても?」

藍子「それは、あなたが理想を求めない相手とどこが違うんですか?」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「……言うねぇ?」

藍子「言っちゃいます」

加蓮「へー。じゃあ……藍子ちゃんには表に出さない意地汚いことがあるってことなんだ。へー、いいこと聞いちゃった」

藍子「なっ……なんでそうなるんですか! もうっ、真面目にお話してるのに!」

加蓮「違うの?」

藍子「違います!!」

加蓮「違うって本当に言い張れる? 何か別の想いがないって本当に言える?」

藍子「うぐっ……」

加蓮「ふふっ。でも、それでいいんでしょ?」

藍子「う~……。私が、加蓮ちゃんに言っているハズだったのに……」

加蓮「残念♪ 藍子に言われっぱなしなのは癪だし」

加蓮「じゃあ私が勝ったってことで、何か1つ明かしてみよっか。心に秘めてること」

藍子「本当にありませんよ……。あっても、きっとうまく言えませんから、嫌です」

加蓮「そっか」

藍子「加蓮ちゃん」

加蓮「んー?」

藍子「加蓮ちゃんが、理想の私、高森藍子ではなくて、いつもの私でいいんだって、いつも言ってくれること。それは、すっごく嬉しいことです」

藍子「でも、ときどきでいいので、加蓮ちゃんの理想も教えてくださいね」

藍子「もしかしたらそれが、新しい何かにつながるかもしれませんっ」

藍子「もっともっと、みなさんに笑顔になってもらえる何かにも!」

藍子「ほら。考える前から意味のない、駄目なものなんてないんですよね?」

加蓮「……言うねぇ??」

藍子「言っちゃいますっ」

加蓮「じゃあ、それこそ具体的に口にするのは苦手だからパス」

藍子「え~」

加蓮「あ、1個思いついた。理想の藍子」

藍子「ぜひ教えてくださ――」

加蓮「私に大福を分けてくれる藍子ちゃん」

藍子「嫌です!」

加蓮「言えって言ったのアンタじゃん!」

藍子「それとこれとは別ですもん!」

加蓮「はーっ? 頭にきた。絶対理想なんて教えてやるもんか!」

藍子「いいですよ。それなら私が加蓮ちゃんの思い描く理想を見つけてみせますから!」

……。

…………。

「「ごちそうさまでした。」」

加蓮「っと、また風――あっ」

藍子「ふっふっふ~」

加蓮「うわー、悪い顔してる。じゃあ、撮れたんだ?」

藍子「はいっ♪ さっそく、一緒に見てみましょっ」

加蓮「どれどれー……って、うわっ」

藍子「髪がぼさぼさに荒れている加蓮ちゃんですね……」

加蓮「最初に約束した通り、これは削除だよ」

藍子「私も、撮りたいのはこれではありません。……でも、時間が遅くなって、風ももう冷たくなってしまいましたから。今日は、諦めます」

加蓮「そっか。もうこんな……。げ! 7時!?」

藍子「えっ!?」

加蓮「遅い時間でも明るくなってきたから……油断した! これが環境一致型のゆるふわ空間……!」

藍子「環境……え、なに?」

加蓮「環境一致型ゆるふわ空間。前に菜々さんと奈緒がなんか技名みたいに言ってたけど……心当たりは?」

藍子「…………」アハハ

加蓮「うん。……いや、今はそうじゃなくて! お母さん……あれ、連絡来てない」

藍子「私のお母さんは、連絡は来ていますけれどあまり怒ってはいないみたいです。よかった」

加蓮「そういえばお母さん、今日はお仕事が遅くなるって言ってたから……。いいや。藍子、ついでに晩ご飯も食べていこ?」

藍子「そうしちゃいましょうかっ。あ……それなら、シャッターチャンス、もうちょっとだけ」

加蓮「諦めたんじゃなかったの?」

藍子「加蓮ちゃんが寒いって言うなら、やめておきます。でも、そうでないなら……もうちょっとだけでいいですから!」

加蓮「しょうがないなー。じゃ、藍子ちゃんの情熱に免じて……10分だよ? それ過ぎたら中に入って、ご飯注文しよ?」

藍子「分かりましたっ」


「……あっ、風――」
「やった、撮れたっ。加蓮ちゃん、見てください。ほら、こんなに綺麗な――」


【おしまい】


【あとがき】

第9代シンデレラガールおめでとう、加蓮。
担当プロデューサーの皆様方も、おめでとうございます。

総選挙については新カードが出た時に触れるかもしれませんし、難しそうなら控えるかもしれません。

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