商人「夢に染まる林檎の果実」 (219)

商人「ちょっとちょっとそこのお兄さん方!」

「なんだ?」

「あ、コイツ最近村で変なガラクタ売りつけまわってるって奴じゃないか?」

商人「ハハ、言いおる」

「見慣れん服着てるし異国のモンか!」

「行こうぜ、変な物かわされちまうぞ」

商人「テメーらに売るもんなんてねーよ!!こんな村潰れろバーーーーーーカ!!」

「本性現したぞこの娘!?」



商人「まー物の価値も分からん連中にこれ以上突っ張っても仕方ないか……そろそろ場所を移しますかね」



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……

商人「……」


商人(国を出て早数年)

商人(最初はまぁ……目的も無く何の気無しに気ままに行商をしていたものの)

商人(最近ではそうもいかなくなってしまった訳で)


少女「お姉ちゃんまーた村の人達と喧嘩したの?」

商人「あんなもん喧嘩でもなんでもないですよ。まだ子供の貴女が気にすることじゃないです」

少女「童顔がよく言うよ」

商人「うるせぇよ」ビシッ

商人一人、子一人の……ちょっと不思議なこの旅路


少女「それよりも次はもっと大きい町へ!お姉ちゃんの売ってる物の良さが分かる人はきっといるから」

商人「励ましてくれるのは嬉しいですけど……ま、いいか」


彼女たちと出会い、全てが始まった


商人「さて、風の行くまま気が向くままに」

商人「明日は何処へと行くのだろうか」

そう



これは……そう、うん!そうだね!



これは、貴女が生まれる物語

――――――
―――



商人「うっし、場所の許可は貰ったし陳列もこんなもんでいいかな」

少女「……」ワッセワッセ

商人「何してんの」

少女「並べ替え」

商人「一体何が気にいらない!?」

少女「見栄え悪すぎでしょ。大体値札も付いてないし」

商人「そこは応相談ですよ。ここの売り場は値段掲示の義務無いですし、最低金額悟られない為に控えてますし。ほら、あっちでもやってますよ」

少女「時価だと流石にお客さん警戒するよ。大体私達はまだここでの経験は無いし信頼もされない、取り扱ったことの無い商品もある。市場調査したの?」

商人「最低限は」

少女「これいくら?」

商人「なんと39800(サンキュッパ)!!フフン、これでも随分とお値打ちなんですよ?実はこれここを捻ると……」

少女「誰が買うんのこんなガラクタ」ポイッ

商人「オイふざけんな!?そいつ手に入れるのにどれだけ苦労したと思ってんだ!?」バッ

商人「汚れついちゃったらどうするんですかもう……」フーフー

少女「お姉ちゃんが価値を決めるのは別にいいしそれは当然、でもコレ逆にお姉ちゃんなら買う?」

商人「買いますよ。それ、年代物で希少価値があります。ただ使い道は知る人しか知りませんが……それはちゃんと相手を選んで売るつもりです。コアな人はいますからね」

少女「さっきそこの店で3分の1で売ってたよ」

商人「ファッ!?ちょっとマテ!?なんだその安値の暴力は!?物の価値分かってねぇなぁ!?」

少女「分かってないのお姉ちゃんだよ。他で安値で売ってるものをこんな値段で買う訳ないじゃん、何か有効な売り文句がある訳でもないし。それにあっちで売れ残ってたんだし買い手なんてつかないよ」

商人「ぐぬぬ……昔だったらセールストーク得意だったのになぁ……というかおっかしいなぁ、そんなのも見逃してたのか私は。いやむしろ同じもん買い占めて独占販売……」ブツブツ

少女「売れてないって言ってんでしょうが。価値が分からないからこそ誰も手を出さない。そんなものを売っていたって商売にならないよ」

商人「価値を見出して値段を付けるのが商人ですよ。確かにそっちの言う通りですけど、私はちゃんと理解できる人の手に私の商品が渡ってほしいと思っています」

少女「……」

少女「あとコレ贋作(ニセモノ)」ポイッ

商人「ファッ!?」

……


商人「ウェーイラッシャイラッシャイ」パンパン

商人「ヤスイヨヤスイヨー」パンパン

少女「お姉ちゃんお姉ちゃん」

商人「はいはいなんでしょう」

少女「人通り多いねー」

商人「多いですねー」

少女「……」

商人「……」

商人「なんで誰も来ねぇんだよ!?誰かちょっとは足を止めてみるとかしねぇのか!?」


「ッ!?」ビクゥッ

「ヒェッ」

「何あの娘怖い……」


商人「ハッ!?いかん地が出てしまう……」

少女「一生客来ねぇよ……というか騒ぎ起こすとまた売り場から追い出されるよ。ただでさえ他の商人さんたちも露店開いてるのに」

商人「まったく……今日はもう店じまいにするかね」

少女「お客さん来なかったね」

商人「こういう日もありますよ」

少女「そういう日しか知りません」

商人「痛い所をついてくる……」

少女「大体お姉ちゃん商売人向いてないよ」

商人「そこハッキリ言っちゃう?」

少女「売る物ぐらい搾ったら?いくらなんでも雑多過ぎるしイロモノすぎるし……どの層狙ってんのさ」

商人「搾ったら旅商人やってる意味が無いですよ。色んな地方の色んな物を売ってこその旅商人ですから!!」

少女「今日はなにか売れましたか?(震え声)」

商人「HAHAHA☆」

少女「……」

商人「……」

「「ひもじい……」」

商人「やれやれ、最初は物珍しさに見に来る人も多かったですけど……流石にこのラインナップじゃ客足も遠のくか」

少女「意見聞き入れてくれる気になった?」

商人「ま、私も長年国で店構えてて、こうして旅して商売するのなんて超久々の事ですしー。リハビリ期間ってヤツですよ今は」

少女「国出て数年とか言ってたろオイ。というかよく店構えられたな」

商人「時代は移り変わるもんなんですかね。仕方ない、明日から少し方針変えてみるか……」

少女「でもさ、多分お客さん来ないの他に理由があるよ」

商人「あぁん?なんでぇ?」

少女「それは……」

商人「ん?」

商人「やれやれ、最初は物珍しさに見に来る人も多かったですけど……流石にこのラインナップじゃ客足も遠のくか」

少女「意見聞き入れてくれる気になった?」

商人「ま、私も長年国で店構えてて、こうして旅して商売するのなんて超久々の事ですしー。リハビリ期間ってヤツですよ今は」

少女「国出て数年とか言ってたろオイ。というかよく店構えられたな」

商人「時代は移り変わるもんなんですかね。仕方ない、明日から少し方針変えてみるか……」

少女「でもさ、多分お客さん来ないの他に理由があるよ」

商人「あぁん?なんでぇ?」

少女「それは……」

商人「ん?」

「お!お嬢ちゃん、いいかな」

商人「はい、どうぞ」

「へへへ、それじゃあこれ貰おうかな。あとさ、この後俺と……うげぁ!?」ガッ

商人「テメェ誰に向かって舐め回すような目で見てんだオイ」ギリギリギリ

商人「私が身体売ってるように見えるか!?あぁ!?○○潰すぞゴルァ!!」

「し、失礼しましたーーー!!」

商人「まてパリピ!!てめえ末代まで祟ってやろうか!?いやむしろ私の強靭な足でお家断絶させてやってもいいんだぞ!?」


少女「……」

商人「ゼーハーゼーハー」

少女「今日3人目」

商人「反省してまーす」

少女「してねぇなコレ」


少女「ただ引っ掛けようとしてきただけでこれだよ。お姉ちゃん可愛いんだからその見た目も武器にしなきゃ。適当に躱(かわ)しておけばいいだけなんだし」

商人「明らかにお近づきになろうとして来てるだけじゃないですか。ンなもん一々相手にしてたらこっちが疲れるだけですよ」

少女「まったくもう、男の人とまともに接した事が無いからって……」

商人「ンな事ぁないですよ。友達っぽいのはいましたし……あー片付けよっと」ガサガサ

少女「あ……お姉ちゃん、"これ"」

商人「おっとイケネ、落としたか」


「……」


商人「……」

少女「大事なものなんでしょ?私にはわらかないけど……もっと厳重に管理しとかないと」

商人「……そうですね、ちゃーんとここに仕舞っておきましょう」


「……」

……

商人「は?部屋取れなかった!?予約してたのに!?」

「も、申し訳ございません。その……大金を積まれたお客様が急に部屋を開けてほしいと……」

商人「ちょ……そんな無茶苦茶な!!ちょっとソイツ引っ張りだせ!!ぶん殴ってやる!!」

「お、お客様落ち着いてください!?」

商人「おうおうなんじゃ?なんなら嬢ちゃんの身体で分からせてやってもええんやでグヘヘ」ワキワキ

少女「おうおっさん、落ち着け」

商人「こっちはもう金払ってんですよ!!今更何を……」

「頂いたお金と御礼金でお返しします!!ど、どうか穏便に……」

商人「あ、はい、じゃあで失礼しますね」

少女「この変わり身よ」

ガチャ

商人「しっかしこの私から部屋を奪い取るたぁ生意気な奴が世の中に居たもんですね。お、結構金貰えたな、ラッキー」

少女「縁が無かったって事で潔く諦めるしかないよ。流石に私もお金だけ返されて追い出されたらキレて……フフフフフ」

商人「貴女が怒ると何やるか分からないから一番怖いわ……さてと」

少女「どうしたのそんな仁王立ちで待機して」

商人「大口の客って奴の顔でも拝んでいこうと思いましてね。腹は立つじゃないですか」

少女「……そうだね、ちょっと見てこうか。あわよくば一発」

商人(この娘はホントいらんところが私に似てるな)

商人「……」

少女「……」

商人「来ませんね」

少女「来ないね」

商人「まーいくら待っても来ないしとっとと宿探しますか」

少女「お姉ちゃんちょっとそこ……」


「邪魔です」ドカッ


商人「んげあ!?」

商人「蹴った!?ねぇ今蹴ったよね!?」ガバッ

「ウチは道歩いてただけです。邪魔したのはそっちじゃないですか」

商人「あぁん!?」

少女「お姉ちゃんやめとこう、私達普通に邪魔だったし」

「こっちの子は物分かりいいですね。それなのに姉の方と来たら……」

商人「ケッ、へいへい悪ぅございましたね。それより貴女……」

「ん、着物……もしかして遠ーーーい東の島国出身?」

商人「…………」

商人「えぇ、まぁ」

少女「?」

「おや珍しい!ウチと同郷ですね」

巫女「ウチは東の国で月の巫女というものをやってます"兎(うさぎ)"という者です。こんな遠く離れた地で同郷の人に会えるなんて思ってもみませんでした」

商人(ウサギ……か)

巫女「せっかくですし名前お伺いしてもいいですか?」

商人「私は……そうですね」

商人「林檎(りんご)です。まぁ別に覚えてもらわなくてもいいですけど」

巫女「見た目通り可愛い名前ですね。で、そっちの子は……」

商人「いーのいーの。さ、もう行きましょう。こっちは宿無しで急いでるので」

少女「えー」

巫女「おや、残念ですね。せっかく会えたのに」

少女「お姉ちゃん感じ悪いよー」

商人(こっちは同郷の人間とはあんまり会いたくないんですよ!!色々と訳アリで!!)

少女(……一体何やったの)

商人(何かやらかしたこと前提!?それにコイツ……)

巫女「あ、ここがウチの泊まる宿でしたか。面倒だったんでさっき貸し切りにしてしまったけどまぁこのくらいの出費はいいか」

商人「お前かああああああああーーーーーー!!テメェこの野郎金に物言わせやがってこちとら今しがた追い出されてだな!?」

少女「はいはい落ち着け金貰っただろうが」

商人「ムッキー!!覚えてろ!!後でどうなっても知らんぞ!!」

巫女「面白い人ですね貴女のお姉さん」

少女「退屈はしないよ、うん」

……


パチッ……パチッ……

少女「結局宿取れなかったね。

商人「時間が時間でしたからねー」

少女「宿は別に入ってもいいって兎ちゃん言ってたんだから素直に入れてもらえばよかったじゃん」

商人「なんか恩着せがましくて嫌です。大体あの生意気そうな顔よ」

少女「それで町から少し離れた所で野宿と……移動するの手間なのに」

商人「それに……」

商人(アイツ、私達が店開いてた時にこっち見てた奴だな)

少女「それで、どうすんの?しばらくあの町を拠点にするんでしょ?」

商人「ええ、私の探しているものがこの近くにあるハズなので」

少女「お宝?」

商人「そうですね……とても大切なものです」

少女「大切……」

商人「さて、子供はもう寝る時間ですよ」

少女「うん……そだね」

商人「……膝枕でもしましょうか?おいで」ポンポン

少女「うん、おやすみなさいお姉ちゃん」

商人「はい、おやすみなさい……」


少女「ん……すぅ」

商人「……」

商人(あんまり時間がありませんね)

商人(モタモタしていると……間に合わなくなる)

商人(手に入らなかった場合は最悪……)

少女「……」

商人「大丈夫」

商人「必ず……貴女を……」

――――――
―――


商人「ウェーイラッシャイラッシャイ」パンパン

商人「ヤスイヨヤスイヨー」パンパン

少女「二日目にしてとうとう手抜きか」

商人「うっさいな、私の客引きが不服か!?」

少女「べつにー。あ、こちらこういった商品です。いかがですか?」

少女「お代は……はい。ありがとうございまーす」

商人「……」

少女「どうしたの?早く客引きに戻ってよ」

商人(立場が逆転してしまった……)

少女「出来るヒトがやるべきでしょこういうのは。お姉ちゃんの見た目なら客引き問題ないだろうし」

商人「私を撒き餌にしやがって……よっぽど変なヤツは追い返してますけど」

少女「着物着てるだけで十分目は引くから、ナンパが目的の人はもう昨日の騒ぎで懲りてるでしょ」

商人「いやー、そういう訳でもなさそうですよ」

少女「?」


「ねぇねぇお嬢さん、この後……ゴフッ」

巫女「ウチが名家の者だと知って声を掛けたんですか貴方は。このまま内蔵抉りだして売り飛ばしましょうか?」ゴリゴリ


少女「ヒェッ」

商人「やるなぁアイツ」

巫女「おや林檎ちゃん、奇遇ですね」

商人「ケッ、こっち来やがったか」

少女「こんにちは兎ちゃん」

巫女「こんにちは。お姉さんは相変わらず態度悪いですね」

商人「そりゃどうも。で、お前ここに何しに来た」

巫女「別に。市場を見て回っていただけですけど」

少女「何か買っていきますか?」

巫女「そうですね……色々と見せてください」

少女「どうぞー、今出してる商品はこちらです」

巫女「ふむ……」

商人「ヘッヘッヘ、おめーじゃこの品々の良さは分からんだろう」

巫女「さぁ?ウチはお金持ちですからこういった品を見る目には自信ありますよ」

商人「あー何だったらいいですよ、今から買う一品だけ半額にしてあげますよ。勿論値段を見ずに」

巫女「このお皿」

商人「!!」バッ

少女(取り上げおった……)

巫女「……まぁいいです、じゃあこの髪飾り」

商人「!!!」バッ

少女「えぇ……」

巫女「何するんですか林檎ちゃん」

ゴゴゴゴゴゴゴ

商人「思ってたんだけど"ちゃん"付けで呼ばれるのって地味に腹立ちますね。特に貴女からそう呼ばれるのは」

ゴゴゴゴゴゴゴ

巫女「……」

商人「……」

商人「テメェなんでよりによって元取れなくなるような高いの選ぶんだよ!?超能力者か何かか!?私を破産させたいのか!?」

巫女「選べと言ったのはそちらでしょう。それに従っただけですが何か?」

商人「ダーッハッハッハ!!選べなんて一言も言ってねぇよバーカバーカ!!」

少女「程度が……程度が低い……ッ」

巫女「じゃあこれでいいです、これください」

商人「まーいどアリーーー!!そちら3桁の商品でございまーすアーーーーーハッハッハ!!超気分いい!!」


巫女(この人本当に面白いですね)

少女(遊んでくれてありがとうございます)

巫女「ところで、出ている商品はこれで全部ですか」

商人「!」

少女「まだ沢山あるけど日替わりで出していく予定だよ。今日は雑貨の日」

巫女「そうですか。ではまた明日も来ます」

少女「うん、それじゃあ……」

商人「明日は残念ながらお店はお休みですよ」

少女「え?」

巫女「……そうですか」

商人「おおっと!忘れもんだ、コイツもオマケしときますよ」

巫女「これは?」

商人「特製の飴ちゃんです。うちで買い物した人に渡してるんです」

巫女「ふむ、ではいただきます」

少女「あ、ありがとうございましたー!」

商人「毎度アリー」

少女「……お姉ちゃん、明日休みなんて聞いてないよ」

商人「今決めた事ですからね」

少女「そんな無茶苦茶な……」

商人「アイツ、市場を見て回っている割には他の店に顔も出さないし、最初からウチが目的だったんじゃないですかね」

少女「そうなの?」

商人「ええ。多分私達が"何か"を持っていると踏んだのでしょう」

少女「何かって何さ」

商人「なんでも、ですよ」

商人「昼前か……それより丁度良かったです。今日はもう早めに店を閉めましょう」

少女「えー、結構ノってたのに」

商人「よっと、今から冒険に出かけますよ。必要なものだけ持って荷物は貸倉庫に預けて……」

少女「いつも急だね……」

商人「行動は早い方がいいんです!」

少女「はいはい、いつもの事だもんね」

商人「いつもすみませんね」

商人(まだ憶測ですがアイツも私と同じ目的なら早い所探しておいた方がいいですね)

小休止
続きはまた明日

遅れます

再開

……

商人「大丈夫?疲れてませんか?」

少女「うん、平気だよ。お姉ちゃんこそちょっと疲れてない?」

商人「そう見えます?んー……体力落ちてんのかなぁ」

少女「頑張れおばあちゃん」

商人「こんな美少女に向かって年寄り扱いはやめろ」

少女「自分で言うのか……」

少女「随分と町から離れたけど、どこに向かうのさ」

商人「何処へでも。大まかにしか目的地が分からないんで」

少女「そんな無謀な……それに人が寄り付きそうにないこんな森で」

商人「寄り付かないのが都合がいいんですよ。正直誰かに見られたい物でもないですからね」

少女「お宝だから?」

商人「そそ」

商人「しっかし見つからんなぁ」

少女「というより本当にこんな所に何かあるの?」

商人「もうちょい行動範囲広げるか……」

少女「明後日までには戻るんでしょ?そんな調子でいいの?」

商人「まぁ無ければ無いでまた探しに来ますよ」

商人「とは言え早く見つけないと……」

少女「……」

商人「ん?どうしました?」

少女「お姉ちゃん、誰かいる」

商人「え?」

「……」


商人「ありゃホントだ。こんな所で何やってんだ」

少女「それは私達にも言えるよ……どうする?」

商人「どうするも何も積極的に関わらなくてもいいでしょう。どっち道私達もあんまり人に見られたくはないですし」

少女「うーん……」

商人「それにこんな所に居るようなヒトですし、逃げてきた極悪人とかだったらどうするんですか」

少女「そだね、このままこっそり行っちゃおうか」

商人「そうそうこのままこっそり……」カサッ


商人「あぁん?」

商人「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!?」


「ッ!」


少女「お姉ちゃーーーーーーーーーーん!!」

商人「おあああああああああああ!?罠だあああああああああああああ!?宙づりだああああああああああああ!?」

少女(うるさいなぁ……)

商人「いかんパンツ見える!!ちょっとこのロープ切って!!」

少女「心配するのそこ?ってかお姉ちゃん刀差してるでしょ」

商人「おっとそうだった、コイツで……」


タッタッタッタ!!

ジャキンッ!!


商人「え?は?」

ドグシャ

商人「ウボァ」

少女「落ちた……」


「だ、大丈夫ですか……?」


少女「あ、さっきの……」

商人「うご……あが……」

「あの……」

商人「大丈夫な訳ねぇだろ見て分かんねぇのかテメェ!?ってかコレテメェが仕掛けた罠か!?ああぁん!?」

「ヒッ!ご、ごめんなさい、まさかヒトがこんな所に来るなんて思ってなくて……」

商人「こんのやろう喧嘩売りやがってどうしてやろうか……」ジリジリ

少女「どうどう、落ち着け落ち着け、ワザとじゃないんだから」

「ごめんなさい!!ごめんなさい!!」

「……」

商人「それでだ」

「……」シュン

少女「そんなに落ち込まなくていいよ、お姉ちゃん頑丈だから」

商人「余計な事言わんでいいから!!貴女こんな所で何してたんですか。見たところただの冒険者……?みたいですけど」

「私、武者修行の旅をしている者です。獣用の罠を仕掛けて狩りをしようとしていたのですが……結果はお察しの通りです」

少女「武士っぽいけど」

武士「はい、その通りです。貴女方は着物を着ていらしていますけどやっぱり東洋の?」

商人「そーですねぇ、まぁそれはどうでもいいとして随分と大物が捕れたじゃないですか」

武士「も、申し訳ないです……」ショボン

少女「お姉ちゃんもう反省してるみたいだし……」

商人「ったく、足に痕が残ったらどうしてくれんだよ」フーフー

武士「貴女方はどうしてこんな場所に?」

商人「旅商人なんですがね、今はすぐそばにある町を拠点にして商売してるんですよ私達は」

商人「で、今日は仕入れでここまで来てるんです。ま、大したもんは無さそうですけどね」

少女(嘘は言わないが本当の事は言わないスタイル)

武士「……近くに町あるんですか?」

商人「そりゃそうでしょう。ここら辺まで足を延ばしてるって事は商売が盛んなあの町が目的でしょうし」

武士「よ、よかったぁ……」

商人「なんでそんな喜ぶ……」

武士「いえ、私かれこれ1週間ほどこの森を彷徨っていまして……」

商人「この規模の森で1週間って器用だなオイ!?」

武士「じ、実は旅に慣れていなくて……それで……」


ギュルルルル


少女「お姉ちゃんやめてよこんな時に」

商人「流れ的に私じゃねぇだろ」

武士「重ね重ねごめんなさい……何か食べるものを恵んでいただけないでしょうか……」

商人「ったく、あんな罠に引っかかるような動物も居ないでしょうし、大方食うに困っていたんでしょう」

少女「引っかかった人がなんか言っとる」

商人「しゃーないですね、はいコレ」

武士「わぁ!!おむすび!!こんな場所に来て祖国の食べ物を口にできるなんて思ってもみませんでした!!いただきます!!」ハムッ!!

武士「おいひい……おいひい……」モグモグ


少女「あれお姉ちゃんの今日の夕食でしょ?よかったの?」

商人「別にいいですよ、飢えて死なれるよりは」

少女「うーん、じゃあ……足りなかったら私の分も食べる?」

武士「ありがとうございます!!」モグモグ

商人「……よかったんですか?」

少女「私もお姉ちゃんと同じだよー」

武士「いやぁ助かりました!!昨晩ぶりのゴハンです!!」

商人「吐け!!今すぐ吐け!!吐き出して私達に詫びろ!!」ギリギリギリギリ

武士「あがががががが!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

少女「ハハッ、なんだこれ」

武士「ふぅ、重ね重ねありがとうございます!」

商人「結局全部喰いおった……」

少女「でもこのヒト本当に食料持って無かったみたいだよー」

武士「お恥ずかしながら昨日の時点で全て使い果たしてしまって……」

商人「もういいよ、私のゴハンは帰ってこないんだ……」クスン

武士「お詫びと言っては何ですが、こんな森の中です!お二人が町に戻るまで護衛を務めましょう」

商人「いえ、いいです」

武士「えーーーーー!!なんでですか!!これでも腕は確かですよ!!」

少女「いやいやお姉ちゃん強いから」

商人「試すか?お?」グイグイ

武士(この人可愛いのにヤのつく職業みたいでこわい……)

商人「しかも貴女町までの道が分からないからあわよくば私達について行って脱出しようと考えてるでしょ」

武士「ギクッ……ま、まぁそうとも言いますが」

少女「町までの道なら別に……ここ真っ直ぐ突っ切るだけでも森は抜けられるよ」

武士「そ、そうは言いましても一人じゃ心細くて……出来ればおともさせてください!!」

商人「イヤです」

武士「えーーーーーーー!!たすけあいましょうよおねがいしますぅ!!」ガクガクガク

商人「あ゛ーーー」ガタガタガタ

少女(面倒な人助けちゃったなぁ)

商人(あんまりアレ探してるの見られたくないんだよなぁ……チッ、しゃーないか)

商人「予定変更です、町へ一旦帰りましょう。ゴハンも無いですし」

少女「うーん、それがいいのかなぁ」

商人「ええ、まぁ本当は余裕ないですが後日改めて……」

武士「ありがとうございます!!町までしっかり護衛させていただきます!!」

商人「……」

商人(まぁ悪い娘じゃなさそうなんだけどなぁ)

商人「えっと、帰り道はっと……」ガサガサ

武士「そういえば知っています?」

商人「その手の導入から知ってるという事はまず無いからどうぞ」

武士「いえ、この森に伝わる秘宝と言うものがあるらしいんですよ」

少女「へー秘宝かぁ」

少女(多分お姉ちゃんが探してるやつだな)

武士「実は情けない話、私それを探しに来て迷子になってしまう事に……」

商人「あはは、そう広い場所でもないのにおっちょこちょいですねぇ」

武士「ええもう……慣れない事をしたもので」

商人「その秘宝、どんなものなんです?」

武士「あ、やっぱり気になりますよね!!」

武士「なんでも"黄金の果実"と呼ばれる"神器"らしく、それを手に入れれば人生の成功を約束されるとか!!」

商人「へぇ……」

少女「こういう伝承とかって誰が伝えんだろう」

武士「私の国にむかーし棲んでいた神様がお伝えになられたそうです。具体的な話は無いそうでしたけど」

少女「……」

少女「っていうか神器って何?」

商人「あぁそこからか……」

武士「神器っていうのは……そう!えっと、なんか凄いパワーを秘めたアイテムです!」

商人「簡潔に言ってしまえばそうなんですけど、少し違いますね」

武士「というと?」

商人「呪いと祝福の表裏一体のモノですよ、アレは」

武士「?」

商人「神が創りし禁忌の道具……愚か者に祝福を、聖なる者に災いを」

商人「人々が追い求める争いの火種、絶対的力の象徴」

商人「人間の手に余る代物……決してヒトの手に触れてはならないものです」

武士「て、哲学か何かでしょうか、私はちょっとわからないですけど……」

商人「まーつまり、そんなあるかどうかわからない眉唾な物を探すよりも現実を見ろって話です」

武士「厳しい……」

商人「色々と国々に伝説が残ってるんですよ。これはこういった神が創った素晴らしい道具だって話がね」

少女「ふーん伝説って?」

商人「ああ!ま、貴女はその神器を見つけて何がしたいかは知りませんけど、私が言えるのは"やめた方がいい"ってことくらいですね」

少女(スルーされた)

武士「むぅ……」

商人「納得できてないって顔ですね。貴女が神器を求めてる目的、言い当てましょうか?」

商人「ズバリ、名声」

武士「ふぐぅ!!」

少女「図星かぁ」

商人「冒険者にあるまじき行動からしてその線は無し。身なりがいい事と家紋入りの防具をつけてる辺りそこそこ名がある家……追いはぎとか出ない限りはね」

武士「そんな事は絶対にしません!!武士の名折れです!!」

商人「でしょうね。立ち振る舞いや言動からしても貴女武芸は修めてますがさっきのからして恵んでもらって当然、助け合うのが当たり前……と、どうもお嬢様っぽいですけど」

商人「もしかして止められてたのに家飛び出してきました?」

武士「ほぐぁ!?」

少女(分かりやすい人だなぁ)

武士「ま、まったくもってその通りです……」

商人「ケッ、どいつもこいつも金持ちが!!」

武士「私の家は……確かに名家と言えば名家です。分家ですけど」

武士「本家と違って功績が無いんです、だから……」

商人「神器を手に入れるのが手っ取り早いと」

武士「はい!そうしてかつて神様の言い伝えにあったこの地の神器を欲したという事です!!」

少女「いいじゃん、家族思いで」

商人「悪いことじゃないですけど貴女一人がやる事でもないでしょうに」

武士「いいえ、これは家を継ぐ私の役目。旅一つ出来ない娘に家長が務まるでしょうか!!」

商人「志が高いのは結構!嫌いじゃないですよ、そういうの」

武士「えへへぇ……」

商人「神器は見つかりましたか(小声)」

武士「……」プルプル

少女「虐めない虐めない」

商人「まぁ神器に係わると碌なことが無いので、功績が欲しいなら他所で頑張ってください」

武士「ぷぅ!!」プクー

少女「膨れちゃったよ」

商人「さてと……」

少女「そういえばお姉ちゃん、さっきから来た道と違う場所歩いてる気がするけど」

商人「あ、分かります?」






商人「迷っちゃった☆」

少女「っざけんなゴルあああああああああああああああああああ!!!!」

武士「ああああああああああああああ!!おかあさあああああああああああああああああん!!」

商人「慌てない慌てない、何の為に旅商人してると思ってるんですか」

少女「金儲け」

商人「HAHAHA。違いないが違う」カチャ

少女「これ……昨日何に使うか分からなかった道具だ」

武士「……何だろう、不思議な感じがします。これは……魔法?」

商人「おや、貴女もしかして魔法使えます?」

武士「えーっと、まぁ……」

商人「なら話は早いですね。これをこうして……」

パァァ

商人「ほら来た」

少女「おぉ……矢じりっぽいのが出てきた!!これどういう道具なの?」

商人「これは魔方位磁針と言うものです」

少女「駄洒落か」

商人「普通の方位磁針として使えるのは勿論、魔力を注入する事でマーカーを置いた地点を指示してくれる道具です。こういった森の中や岩場でも使えるんで便利ですよ」

武士「凄い、こんなものが……」

商人「私がこうして旅商人をしているのは、こういった人間が作った"カワリモノ"の道具を見て回りたいって理由もあるんです」

少女「カワリモノねぇ」

武士「珍しい道具と言う事ですか」

商人「そそ、それも人の手で創った物を!!」

商人「さて、出口が見えてきましたよ」

……

武士「何から何までありがとうございました!!」ペコッ

少女「いいよそんなの!」

商人「そうですね。ヒトとの出会いは一期一会……せっかく出来た縁ですもの。大事にしましょう」

武士「か、感動しました!!もし国に帰ることがあれば是非ウチに来てください!!」

商人「まぁどこの家か分からないからアレですけど……」

武士「はッ!!申し遅れました!!私、戦家(せんけの)イクサと申します!!」

商人(戦家(せんけ)!?こりゃまた厄介な……)

少女「どうしたのお姉ちゃん」

商人「あ、いえ、聞いた事のある名前だったので」

武士「それでは私はこれで!あー、宿宿~♪あったかいお風呂~♪」

少女「じゃあねイクサちゃん!!」

商人「あ、オイちょっとマテ」

武士「はい、なんでしょう?あ、お名前聞いてなかったですね!」

商人「あぁ私は林檎です。それはいいんですけど……」

武士「はい?」

商人「……」スッ

武士「?」

商人「……」ススッ

武士「あの……この手はなんでしょう?」

商人「まだ貰ってませんよ?」




商人「食事代」

武士「は?」

少女「は?」

武士「あ、あのー……さっきのおむすび……ですか?」

商人「イエス。まさか護衛にもなってない護衛でチャラだなんて思ってないですよね?」ニッコリ

少女「ガメツイ……」

武士「そ、そうですね!!何も出さないなんて失礼ですよね!!アハハ……これどうぞ!!」

商人「……何ですかコレ」

武士「いえ、あの。お金……」

商人「ンなもんケツ拭く紙にもなりゃしねぇよ!!」チャリーン!!

武士「あうっ!!」ビシッ

少女(どう見ても小銭だよ)

武士「あ、あ、あの……祖国のお金ではダメでしょうか……」ウルウル

商人「ダメに決まってんだろ!!この国の金出せ金!!」

武士「ひぃ!?か、換金とか……」

商人「やってねぇよ。つーかこの町でも換金してくれんぞそんな遠いどこかも分からんような国の金なんぞ」

武士「えぇ!?そ、それじゃあ宿も……」

商人「宿どころか飯にもありつけんぞ」

武士「」

商人「まぁまぁ、ここはいい話があるんですけどぉ」ポンポン

――――――
―――


翌日


商人「ウェーイラッシャイラッシャイ」

武士「ヤスイヨヤスイヨー」

商人「おうコラ!!もっと腹から声だせ声!!」

武士「ひぃっ!?」



少女「悪魔だ……」

巫女「増えてる……」

小休止

ちょっと再開

巫女「こんにちは林檎ちゃん。賑やかになってるけど」

商人「おう、また来やがったか。ええ、ちょっと奴れ……バイトが捕まったので早速頑張ってもらってます」

巫女「奴隷……」

巫女「まあそれはいいです。昨日はお休みするとウチは聞いていたんですが」

少女(いいのか……)

商人「色々と予定変更があったんですよ」

武士「あはは……森で私を助けたせいで予定狂わせてしまって申し訳ないです」

巫女「森……」

商人(説明口調で余計なこと言うな!!)

巫女「それで、今日は何を売っているんですか」

少女「今日はこれ!化粧品だよ!」

巫女「……参考までに聞きたいのですが、明日は何を売るんですか」

商人「えっと……明日は武器ですね」

巫女「明後日は……」

商人「食料品」

武士「明々後日は?」

少女「衣類」

巫女「統 一 性 !!」クワッ!!

商人「うわビックリした!?叫ぶこたぁ無いでしょうに」

巫女「そういうの見るとイライラするんですよウチ!!」

商人「私は旅商人ですからね、種類に拘りは無いので言ってもらえれば基本的に何でも取り扱ってますよ」

商人「ま、オメーみてーなブルジョワが欲しがるようなもんは無いかもしれないけどな、HAHAHA☆」

巫女「ホント口悪いですね」


武士(この二人なにかあったの?)

少女(お姉ちゃんが一方的に敵視してるだけかな……)


巫女「ところでそこの武士っぽい人」

武士「あ、はい、武士ですよー」

巫女「見たところ同郷みたいですね、林檎さんたちと同じく」

武士「あ、そうですね。私戦家イクサと申します」ペコ

巫女「ウチは兎です。しかし戦家ですか……」

武士「あ、知ってるんですか?」

巫女「戦争屋だって事はよく存じてます。貴女は見たことが無いので分家の方ですね?」

武士「はい!あ、でも戦争屋って呼び方はちょっと……」

巫女「ふむ、では控えます」

巫女「本家の方とはよく家柄の関係でお付き合いがあるので」

武士「え?そんな方が護衛も付けずに一人でこんなところに……?」

少女「こ ん な と こ ろ」

商人「失礼極まりねぇ言い方だなオイ」


巫女「探し物も兼ねて……仕事で来てるんですよ、ウチこう見えても商売人ですので」

商人「あぁん?貴女も商売人でしたか」

巫女「えぇ、ウチは元々名家ですけど商売を本格的に始めたのはウチからですよ。自分で始めた事でまだ従業員も居ないので人を付けずにやってます」

少女「実質一代目かぁ」

巫女「色々と伝手はありましたけどね」

商人「いいねぇスタートラインが私と違って」

巫女「……立派じゃないですか、旅商人」

商人「?」


巫女「ではこの化粧水いただけませんか」

少女「はい!では……これで!」

巫女「どうもです」

巫女「……」

商人「なに?」

巫女「今日は飴ちゃんくれないんですか」

商人「はいはい……ほらよ」

巫女「ん。それともう一つ……情報売ってくれませんか」ペロペロ

商人「情報?」

巫女「それとも取り扱いはしてません?」

商人「いんや、物によるね。言ってみ」

巫女「"黄金の果実"について」

武士「!」

商人「この町の近くに中規模の森があるでしょ。そこにあるんだとよ」

巫女「……それは」

商人「その程度の情報は持ってるんじゃないですか?情報源はそこのイクサですし」

武士「私が持ってる情報なら多分兎ちゃんの方が詳しいと思うけど……」

巫女「なるほど、イクサさんも黄金の果実狙いですか……まぁ、そうですね」

商人「この程度、お代はいらないんでとっとと帰んなさいな。こっちは忙しいですし」

武士(そこまで忙しくは……)

少女(前日と比べての模様)

巫女「……」

商人「なんです?まだ何か聞きたいんですか?」

巫女「単刀直入に聞きます」

巫女「林檎ちゃん、貴女黄金の果実……持ってるんじゃないですか?」

武士「え!?」

少女「うそ!?」

少女「ど、どうなのお姉ちゃん!?」

武士「林檎ちゃん!!言い値で買う!!言い値で買うからそれください!!」

商人「えぇい金持ちの本性を出すな!!この文無しが!!」

巫女「金額の話になったらウチが勝つに決まってるでしょ。不毛な争いは無しにしましょう」

武士「つらい」

商人「はーいはいストップ。何を勘違いしているのか知りませんけど私はそんなもの持ってませんし知りません」

巫女「初日にこの売り場で貴女が落とした物を見ました!!あんな光っている果実は……」

商人「コレの事?」ヒョイ

巫女「そう!それ!!」

商人「これただ色付けただけのリンゴですよ」シャクッ

巫女「あ……」

武士「食べたー!!」

商人「ほら普通のリンゴだ。その黄金の果実がどんなものかは私には分からないですけど、そんな大層なもん持ってたらとっとと売り飛ばして林檎ちゃん御殿でも作ってますよ」

巫女「……」

商人(むしろ探してるのは私の方だっての……)

巫女「また来ます」

商人「私が何か知ってると思ってるんだろうけど、何回来ても無駄ですよ」

巫女「……それとは関係無しに来ます」

商人「そうですかい」

武士「……」

少女(お姉ちゃん、どうしてそんなもの用意して……)

武士「……」

少女「……イクサちゃん?」

武士「よしんば、これが本物の黄金の果実だとしたら」

武士「いや逆にこの程度の偽装なら本家を欺けるか……?」

少女「お願い、よからぬことは考えないで。神器で人生一発逆転狙わないで」

商人「はー、なんか白けたなぁ」

商人「ちょっと私休憩がてら市場調査でもしてきます。イクサ、ちょっとこの娘と店番お願いします」

武士「あ、分かりました」

少女「お姉ちゃんどこ行くつもり?」

商人(このままバックレます)

少女「オイふざけんな」

商人(まーまー話を聞きなさい)

商人(わざわざイクサを抱え込んだのは理由があるんですよ)

少女(うんまぁ……同じもの探してるライバルなのに一緒に行動するのはおかしいと思ってたけど)

商人(ここで貴女と商売させてコイツを足止めします。その隙に私が森へ行って黄金の果実を探してきます。責任感強い子ですから仕事を途中で投げたりはしないでしょう)

少女(私を置いていく気?)

商人(私も本当は一緒に行動したいですけど我慢してください。効率のいいやり方でやろうとしてるだけで)

商人(私の足なら一日かからずにあそこまで行って帰ってくるのはワケないですし)

商人(それに……貴女を一人にはさせたくなかったから)

少女「……」

商人(何かあったらイクサか……あの兎ちゃんでも頼ってください。貴女なら邪険にされないでしょう)



商人(その隙に私が勝者になります)

少女「言い方ァ!!」

武士「どしたの二人とも?」

商人「いえいえこちらの話です」

少女「イクサちゃん、今日お姉ちゃん遅くなりそうだから二人で店番だって」

商人(そこは伝えなくていいのに)

少女(騙す形は悪いよ流石に)

武士「ええ、構いませんよ。それじゃあ二人で頑張ろー!!」

少女「おー!!」

商人「……」

商人(ごめんなさいイクサ、こんなにいい子なのに裏切るような事をして)

商人(でも……心を鬼にしろ!!"林檎"!!)パンパン

小休止

再開

――――――
―――


商人(黄金の果実は……必ずしも必要なものではない)

商人(アレは最終手段のつもりだった……だが、その最終手段に頼らざるを得なくなった)

商人(それは、"私自身"が決断した事だ。そう、例え"私"が望まなかった事だろうと)

商人(あそこで大人しく強行していれば、あんなものを探す必要も無かっただろう)

商人(だが……あの娘がそれを許さなかった)

商人(だからだ。最終手段が入れ替わってしまった)

商人「町からしてもそうでしたけど、この地も随分と様変わりして……」


商人(ちょっと前に来た時とは随分と地形が変わっている……気がする)

商人(まぁ私がその時さほど興味を示していなかったというのもあるんだろうけど)

商人(そのせいで黄金の果実の場所が分からんわけで)

商人「さーて、探すって言っても手掛かり無しはキツイな」

商人(無理矢理森を燃やして文字通り炙り出す……何てことしたら確実に果実も焼けるだろうしなぁ)

商人(なるようにしかならんか……しかし)

商人「ところで……だ」

商人「誰です?さっきから私をつけてきているのは。町を出た時からずっと私を見てますよね」


ガサッ



「よく分かったな」


商人「割と気配漏れていたもので……いや誰だよ兎だと思ってたぞ、ここに来て新キャラかよ」

「何を訳の分からん事を言っている」

商人「何の用ですか?私今忙しいんですけど」

「何も持たない人間を襲う程こちらも暇ではないんでな」チャキン

商人(族か……)

「町に金持ちの東洋人が居ると聞いてな。身ぐるみ剥ぎに来た」

商人「何?」

「金と……そうだな、あと金目の物だ。お前が差しているその武器も貰おう」

商人「あの……」

「なんだ」

商人「それ別人です」

「……」

商人「……」

ブンッ!!

商人「うぉあっぶねぇ!?何すんだゴルァ!?」

「剣は当てるつもりは無かったぞ、お前が当たりに来た。脅しただけだ」

商人「だろうね!!避けた方向に刃飛んできたからね!!」

「お前の動き、戦い慣れしてるな。何者だ」

商人「何物もなにもただの旅の商人ですよ。あ、私襲っても商品は町に置いてきてあるので意味ないですよ」

「この際もうどうでもいい。金目の物だけ貰っていくぞ」

商人「チッ、そうなるか」

「諦めろ、怪我をするぞ」

商人「お前が諦めろ、怪我じゃ済まなくなる前に」

(コイツ……強いな)

商人(斬り結ぶ前から力量を見ているな……さて、なるべく穏便に済ませたいんですが)

「……」ボソボソ

商人「ん?」

「凍てつけ」


「刃よ!!」ピキンッ


商人「これは!?」

ギィン

商人「氷の刃ッ!!」

「避けたな。今度は当てるつもりだったのだが」

商人(周囲が一気に氷漬けに……コイツ、使い慣れてるな)

商人「お前、魔法が使えるのか」

剣士「あぁ、剣士だがな。どうだ、驚いたか」

商人「ええまぁ……このご時世に堂々と魔法を使ってくる相手なんて滅多にいないですからね」

剣士「……驚いているのか?」

商人「ええ、ですから。魔法なんて差別の対象ですよ、これ使って犯罪でもしようものなら鬼の首とったように魔法の存在を認めない連中が……」

剣士「驚いたのなら金目の物置いてどっかいけ」

商人「えぇ……」

剣士「どうした、怖いだろう?」

商人「いや別に……」

剣士「?」

商人「?」

剣士「おかしいな、これを見せると大体どんな相手でも従うのだが」

商人「そりゃまぁ剣片手に持った奴が魔法まで使って来たら大半そうするでしょうけども……炎よ」ボワッ

剣士「……あれ?」

商人「おあいにく、驚きはするけど屈しはしませんよ」

剣士「なるほど、お前も魔法が使えるという訳か。まぁいい」

商人「よくねぇよ、見逃してやるからとっととどっかいけ」

剣士「見逃す?」

商人(しまった口が過ぎた)

剣士「予定変更だ、丁度お前も魔法が使えるようだしフェアな条件だろう」

剣士「どちらが見逃す方の立場か……決めるぞ」ジャキン

商人「狂戦士め……」キッ

ギィン!!

剣士「ク……」

剣士「クヒヒ……」

剣士「クハハハハハハハハ!!」

商人「チッ、思っていたより暴れる!!」

剣士「いいぞ!いいぞ!!戦いはいいぞ!!」

ザンッ

商人「木が……随分とまあいい切れ味だな!!」ガッ

剣士「フン、逃げ回るだけの腰抜けが」

商人(こっちは本気で戦えねぇんだよ馬鹿!!)

ブンッ

商人「ッ」

ブンッ

剣士(当たらん)

商人「しっかしまぁ、暇はないとか言っておきながら私に構うなんて随分と暇を持て余しているじゃないかっとと!!」

剣士「出した刃の収まりどころが分からなくなっただけだ」ブォン

商人「オイふざけんな!?そんな理由で戦ってんのか私達は!?」

剣士「十分だ。そら」

商人「おあ!?」バッ

剣士「お前は何故攻撃してこん。これでは弱い者いじめだ」

商人「族をやっておいて何をいまさら……そうやって弱い人間から物を奪ってきたんでしょう」

剣士「金持ちは強いと行く先々の老人たちからよく聞かされた。だから金持ちを襲っていたが……違うのか?」

商人「ちげぇよ純粋だな!?……いや違わないけど!!パワーイズマネー!!」

剣士「そういえば腕っぷしが強いのは用心棒だけでまともに戦っていた金持ちはいなかったな」

剣士「まぁどっちでもいい。私は今戦えればそれで満足だ」

商人「くっそ!!」

商人「ッ!?しまった、岩場か!!」

剣士「追い詰めたぞ。逃げ隠れ出来るような木はここには無い」

商人「石を盾にして隠れりゃ問題ないでしょう」

剣士「私の刃は鉄をも断つ。あきらめてその武器よこせ、命までは取るつもりはないが最悪の事態が起こっても知らんぞ」

商人(思った以上に甘ちゃんらしいが……ダメだな、これ以上魔法使わせたまま暴れられたら危険だ)」

商人(……しゃーない、やるか)

剣士「?」

商人「……」カタッ

剣士(武器に手を……?抜くのか)チャキン

商人「"炎剣・真撃(しんうち)"」

商人「抜いちまったらもう止められねぇぞ!!」ズァッ!!


剣士「何だ……これは……」

剣士「炎が……刃に」


バキッ


剣士「ん?」

商人「あぁん?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


商人「は?」

剣士「地面が!?」


ガララララララララ


商人「落ちたああああああああああああああああああああ!?」

剣士「……フン、どうやらお互い暴れすぎたようだ」

商人「暴れてたのお前だけだよ!?」

剣士「何を言っている、お前地面を物凄い蹴りながら移動していたじゃないか。私だけのせいにするな」

商人「半分私におっかぶせようとしてんじゃねぇよ!?オイ何澄ました顔してやがる!?」

剣士「私悪くないし」

商人「とうとうブン投げたぞコイツ!?」

剣士「そんな事はどうでもいい」

商人「よくねぇよ!?オイ責任取れゴルァ!?」

剣士「落ちているのに元気だなお前は」

商人「落ちているのに冷静だねお前はあああああああああああああああああああああああーーーーーーーーー!!」

……

少女「ありがとうございましたー」

武士「売り上げ好調だったね」

少女「お姉ちゃんいなくなった途端これだ」

武士(果たして林檎ちゃんは必要な存在なのだろうか)

少女「さて、今日はこの辺にしようか」

武士「林檎ちゃん帰ってこなかったね」

少女(もう日も暮れる……遅くなってるって事は何かあったな……お姉ちゃんの事だから死ぬようなことは無いだろうけど)

武士「えっと、どうしよっか。待つ?」

少女「ううん、市場のリサーチの他にちょっと大きい所からの仕事も溜めこんでたからそっち優先しちゃってるんだと思う。よくあるんだ」

武士「こんな小さな子に負担掛けるなんて困ったヒトですね」

少女「しょうがないよ、お姉ちゃんも立場があるから」

少女(あぁ、シレっと嘘を付けるレベルになってしまった……)

武士「それじゃあ宿に戻ろっか。昨日と同じところだよね」

少女「うん。片付けてから行こう」

武士「うーん!!しかし働くって何て素晴らしいんだろう!私も旅商人やってみようかな」

少女「イクサちゃん向いてないからやめた方がいいよ」

武士「ストレートォ!!」

少女「まぁ、こういうのは向いてる向いてないじゃなくて、楽しんだもの勝ちなのかな」

武士「林檎ちゃんの事?」

少女「うん、お姉ちゃん商売下手だけど私が見てきた限りだとずっと楽しそうにしてるから」

武士「お姉さんのこと好きなんだね」

少女「へへ、大好きだよ」

「あの、すみません。もう店じまいですか?」

少女「いらっしゃいませ、まだ大丈夫ですよ」

「そうですか……買い取りをお願いしたいのですが」

少女(買い取りか……私査定とかやったこと無いけど)

武士「はい!勿論大丈夫ですよ!!」

「それじゃあお願いします。ちょっと困っていたもので」パァァ

少女「なんで勝手にそういうこと言うの!?お客さん喜んじゃってるよ!?」

武士「え?出来ないの?」

少女「やったことねぇよ!?いきなり店の主に聞かないで二つ返事でOKするんじゃねぇよ!?だからお嬢様なんだよ!!」

武士(林檎ちゃんそっくりでこわい……)

「あの、やっぱり駄目でしたか?」

少女「あ、ゴメンなさい、その、私まだ駆け出しで経験が無く……」

「それでも構いません」

少女「え?」

「これは……大した価値の物ではないので」スッ

少女「指輪だ……」

「お値段はそちらで好きなように決めていただいて構いません」

「もう私には必要のないものなので」

少女「……」

「貸し露店のようですけど、出ていく予定はないですか?」

少女「はい……当分はまだこの町に留まる予定ですが」

「それでは後日お伺いいたします。その眼で、しっかりと貴女の目で値段を決めてください」

少女「え、あ。数日お預かりになるという事ですか!?」

「はい」

少女「私が持ち逃げしてしまうような人間だったら……」

「貴女はそんな事をするんですか?」

少女「いいえ、決してそのような事はしません」

「それならそうして頂いても……いいのですけどね」

少女「え……」

「ではお願いします」

武士「行っちゃった……」

少女「時間かけてでも値段を決めろってことか……」

武士「あの人にとってどうでもいい物なのかな」

少女「……」

少女(名前が書いてある……)

少女(これきっと……)

……

武士「いやぁ早速日給出るなんて思いもしなかった!!」

少女「一応働いてもらった分だしこっちも支払う義務は勿論発生するしね、当然」

武士「んふふ、人生初のお給料、これで何買おうかなぁ」

少女「でもそれお姉ちゃんの提示した食事代にほど遠いからまだウチに拘束されてるよ」

武士「かなしい、でもがんばる」

少女(強制力一切ないのにそこに疑問を持たない辺り本当にお嬢様なんだなぁ……いや、正直イクサちゃんいてくれないと私も人手足りなくて困るんから何も言わないけど)

巫女「何の話をしているんです」

武士「あ、兎ちゃんこんばんわ」

巫女「はいこんばんは。こんな時間にも持ち込みでお仕事ですか」

少女「うんまぁ……いや、兎ちゃんなんでこんな所に居るの。ここ違う宿だよ」

巫女「気が変わってウチもここに泊まることにしたんです。あっちは寝心地悪くて」

少女(こりゃ私達を追ってきたな)

巫女「林檎ちゃんいないんですか」

少女「お姉ちゃんはちょっと用事で数日離れるかもって」

武士「あれ、数日単位だったんだ……」

巫女「貴女は何を見てるんですか」

少女「指輪だよ。値段つけて買ってくれって言われちゃった」

巫女「高そうですね」

少女「うん、高いよ。多分7桁は余裕で超える」

武士「え……そんなものを言い値で売るって事ですか?」

巫女「正確な目利きですね……しかし変わった人も居るんですね」

少女「名前が入ってるから婚約指輪か婚約指輪かな」

巫女「!そんなもの……」

少女「ほら、ここ」

武士「THESTAR……ジス……いや、星?」

巫女「&XENO……まぁ読み方なんて色々ありますし気にするほどでもないでしょう」

少女「私は試されているのだろうか……」ガクガクガク

巫女「そこまで思いつめなくても当たり障りなくそれっぽい値段で吹っ掛けてやればいいじゃないですか」

武士「そ、それはダメ!!そんな相手に悪い……」

巫女「悪いのはそんなよく分からないような店で処分しようとしたそのヒトですよ」

武士「うーん……」

少女「でもこれもしも何らかの事件に巻き込まれた代物だったら……」

武士「事件?」

少女「……一応考えられる線は」

少女「1.呪いのアイテムの処遇に困り、特に関係の無い私達に黙って丸投げ」

武士「ヒェッ、辻褄があう……」

少女「でも禍々しいものは感じないからそれは無いかなー」

巫女「そうですね。そういうものは割と一発で分かったりします。手に持ったらそういう感覚しますし」

武士(触った事あるのか……)

少女「2.単純に盗品。足がつきそうだったためとっとと流した」

巫女「一番ありえそうですね。ウチも覚えがあります」

武士「えぇ……」

巫女「善意の第三者です。詳細は知らないフリです」

少女「それも無いかな……」

巫女「というと?」

少女「これを私に出してきたあの女の人……凄く辛そうな顔してた」

武士「手放したいのか手放したくないのかよく分からないね」

巫女「まだ未練があるとかそういう話ですか。ウチそのようなお付き合いしたこと無いのでそういう感情わかりません」

少女「……ふむ、まぁ悩んでも仕方ないし、時間も貰ってるからじっくり考えるよ。これは私が受け取った仕事だからね」

巫女「困ったら頼ってもいいんですよ」

武士「そう!!私だって働く仲間なんだから!!」

少女「イクサちゃんはいいかな」

武士「」

巫女「そういえば今更ですが」

少女「?」

巫女「お名前、聞いてなかったですね」

武士「あ、私もだ。ごめんなさい、失礼だったね」

少女「あぁ、いいのいいの、気にしないで」




少女「私、名前無いから」

巫女「え……」

武士「今……なんて?」

小休止

婚約指輪か婚約指輪ってなんやねん名無しちゃん結婚指輪か婚約指輪だよ……

再開

――――――
―――



武士「ウェーイラッシャイラッシャイ」

巫女「……」

武士「ヤスイヨヤスイヨー」

巫女「……」

武士「なんで一緒にやってくれないの」

巫女「なんでウチがやらなきゃならないんです」

武士「今日お店手伝ってくれるって言ったのにー」

巫女「あの娘一人で大丈夫か気になったから様子見てるだけです。客引き以外なら手伝いますけど」


少女「いらっしゃい、これはですね……」

武士「なんか」

巫女「はい」

武士「名前が無いって事に驚いちゃってそれ以上聞けなかったね」

巫女「そうですね。とりあえず林檎ちゃんが来るまでは様子を見るつもりです」

武士「一応私もいるし大丈夫だと思うけど」

巫女「大丈夫じゃなさそうだからウチここにいるんですけど」

武士「」

少女「兎ちゃん、そこの商品の梱包お願いできます?」

巫女「はい、終わってます」

少女「おぉ!やっぱり手際がいい!!あ、イクサちゃん呼び込み止まってるよ」

巫女「……」ドヤァ

武士「ハハハ、ハハハ(反復)」

少女「……二人とも、ひょっとして昨日の事気にしてる?」

巫女「えぇまぁ」

武士「あんな唐突なカミングアウトがあったら……ねぇ?」

少女「私は名前どころかお姉ちゃんに拾われる以前の記憶もないし」

少女「どうせ碌な事が無かったんだなって思う事にして今を生きるようにしてるよ。だからそんなに気にしないで」

巫女「それもあるんですが。林檎ちゃんから名前貰わなかったんですか?」

少女「"それは私がしていい事じゃない"ってよく分からないけどそう言われたんだ」

少女「名は言霊(ことだま)、その者の運命を決めてしまう物だとか」

武士「まーたよく分からない事を……」

少女「私はここ1年くらいお姉ちゃんと一緒だったけど、名前が無くても結構どうとでもなってたよ」

巫女「二人だけで生活をしていたら案外どうにかなるものなんですね」

武士「ん?でも私林檎ちゃんと貴女は本当の姉妹だと思ってたんだけど……」

巫女「それはウチも」

少女「え、どうして?」

武士「どうしても何も」

巫女「そっくりですよ、貴女たち」

少女「あー、それはよく言われるけど……お姉ちゃんと本当に血縁とかあるのかな」

巫女「故郷の話すると露骨に嫌そうな顔してましたし、親戚関係で何かあったのかもしれないですね」

武士「それで連れ出してきたと……」

少女「案外お母さんとかだったりして。自分の事たまに年寄りみたいに言う事あるし」

武士「いやー、それにしてはちょっと若すぎる気も……」

武士「ハッ」

武士(若くして子を孕む→相手の男が分からない→実家から追われる→そのさなか娘が記憶を失う→妹として受け入れ記憶を呼び戻さぬよう名を言わない悲しみの親子)

武士「……」

武士「よし」

少女「よしじゃねーよ」

巫女「なにを想像しているか図になって頭に浮かんでますよ」

少女「ま、そういう事だから私の過去についてはあんまり詮索しないでね。お姉ちゃんも怒るだろうし」

武士「でも名前が無いのも不便だね、こうして一緒にいる以上は」

巫女「お互いこの町にしばらく居るつもりですし暫定的にでも付けときます?」

少女「それも……いいかな、名前付けてもらうんだったらお姉ちゃんがいいから」

少女「あ、不便なら別にどう呼んでもらってもいいよ」

武士「おっぺけぺー」

巫女「おっぺけぺー」

少女「よぅしお前ら、そこに座れ」

少女「……」

少女(正直……私がお姉ちゃんに拾われた時の事はよく覚えていない)

少女(私が目覚めた時、お姉ちゃんがそこに居た)

少女(とても、辛そうにしてた。とても、悲しそうにしてた)

少女(でも、私に笑顔を向けてくれていた)

少女(涙を浮かべながら、私を祝福してくれていた……)


―――
――――――


あの時は……そう、雨が降ってたな、多分

思い出そうとしても靄がかかったように不鮮明だ
私を抱きかかえていた彼女の手はとても冷たかった

無我夢中で走り回って、転げ落ちて
ただただ、目の前の惨事から逃げるようにしてこうなってたんだっけか、覚えてないや

訳の分からん事態に振り回されて、仕舞いにこの状況だ。お笑いだよ、私ともあろうものが

やっぱり歳取ったかな……もうあの時から衰えを感じて……

必至こいて逃げ込んだ先でようやく一息つけた

そして、その手の中で目覚めた彼女を……私は強く抱きしめた


あれ?
これ、どっちだ……?

――――――
―――


商人「……」

商人「私の高級和菓子ッ!!……ハッ、夢か……」

剣士「なんちゅう夢を見ているんだお前は」

商人「……?」

商人「…………」

商人「……あぁ」

商人「テメェなんでここに!?」

剣士「ようやく目覚めたか、状況の整理は出来たか?」

商人「あたたた腰が……ったく、えっと?」

剣士「お互い丸一日程寝ていたようだ。随分と頑丈だな」

商人「一応鍛えてっからな……それはいいんだが」

商人「もしかして治療してくれたのか?」

剣士「お前の持ち物を使ったがな」

商人「いえ……助かります。しかしどういった心境の変化ですか、今の今まで戦ってたのに」

剣士「弱いものイジメはする気はないと言っただろう」

商人「やんのか?あ?」チャキ

剣士「……冗談だ。最後に私に"魅せた"一太刀でお前がただ者じゃないという事は分かった」

商人「それじゃあどうして……」

剣士「おまえの荷物を物色したが大していいものが無かった。それだけだ」

商人「あっ!?テメェこいつ私のカバンの中見たな!?あぁ!?おにぎり無くなってる!?」

剣士「アレはおにぎりと言うのか、美味かったぞ」

商人「また私は昼食を食べられなかったのか……」

剣士「どちらにせよ昨日の米だろう、傷んでるぞ」

商人「お前はそれを承知で食ったのかよ」

商人「……武器は盗らなかったんですか?まだ私の腰にありますけど」

剣士「それはいらん、私では鞘から抜けなかった」

商人「でしょうね。そういう風に作られてますから」

剣士「深くは追及せん……状況が状況だ、お互いに助け合わねば打破出来る状況ではなさそうだ。そういう面もある」

商人「あぁ……随分深く落ちたんですね」

剣士「灯りはお前の荷の中にあった物を使わせてもらったぞ」

商人「構いませんよ。他に何か使える道具入って無かったかな……」

剣士「よく分からん物ばかり入っていたな。襲った事自体が間違いだったぞ」

商人「やれやれ、そう言いますか……これでも役に立つ便利グッズの山なんですけどね」

商人「例えばこの魔方位磁針なんて魔力を注げば……あれ?」

剣士「何だそのガラクタは」

商人「おっかしーなー、落ちた衝撃で壊れた?いや、この位置に仕舞ってあったから大丈夫なハズ……壊れては……あ、贋物(察し)」

剣士「?」

商人「……いえ、何でもありません」

商人「とりあえずこの地下はまだ道が続いているようなので進んでみましょう、どこかには出るかもしれません」

剣士「そうか、なら悪いが手を貸せ」

商人「ん?どこか怪我をしました?」

剣士「足が折れている」

商人「私より重症じゃねぇか!?よくそんな余裕で喋っていられるな!?」

剣士「痛いものは痛い」

商人「もうちょっと痛がれよ!?」

小休止

ごめんなさい、おうちの引っ越し準備忙しくて明後日まで触れないかもです

再開

商人「ちょっと治療するので見せてください」

剣士「どうするつもりだ?」

商人「魔法を使います。まぁ治癒はあんまり得意じゃないんで道具使いますけど……チッ、治療魔法の道具置いてきてるな……しゃーない、応急処置だけでも」

剣士「……」

商人「どうしました、黙っちゃって。まさか魔法が珍しいとかいうんじゃないでしょうね。自分もアレだけ散々使っておいて……」

剣士「人間の身体を治癒させる魔法を見たのは初めてだがそうではない」

剣士「……お前、人間か?」

商人「突然何言いだすんだよどう見ても人間だろ。ちょっとグリーブ外しますよ」

剣士「そうか」

商人「突然何なんだよ……」

剣士「魔法は何処で?」

商人「ん?話す程じゃねーですよ。ま、ほとんどは独学ですけど……んー、見た感じはそこまで酷くないな……ちょっと動かしますよ」

剣士「ッ……」

商人「痛かったら素直に言えよー」

剣士「痛い」

商人「だろうな、我慢しろ」

剣士「言った意味」

剣士「魔法の事もそうなのだが」

商人「今度はなによ」

剣士「急に態度が柔らかくなったな」

商人「一応こっちも助けてもらいましたからね。ま、襲われたことと合わせてプラマイ0って事で。どっち道助け合わないと状況の打破も出来なさそうですし」

剣士「……」

商人「ハハ、お礼くらい言ってもいいですよ?」

剣士「なんで?」

商人「もう一本へし折るぞテメェ」

剣士「冗談だ、感謝する」

商人「へいへい……あとは固定だけして……」

剣士「凍てつけ」パキンッ

商人「ぅあっぶねぇ!?突然凍りを出すんじゃねぇよ!?」

剣士「これなら冷やすのと同時に固定もできるだろう。先を急ぐぞ」カツカツ

商人「んまー勝手だなぁもう」

商人「……」

商人「いや、その程度なら自分で最初から治療出来たろオイ。ちょっとまて!!折れてるのには変わりないからな!?そんな早く移動すんなオイ!!」

剣士「しかし長いな」

商人「私が前来た時はこんなの無かったんだけどな……気付かなかっただけか?」

剣士「ここらの地理には詳しいのか?」

商人「あ、いえ、ちょっと前に一度出向いただけです。それからはサッパリ」

剣士「こんな森の中に出向くとは、随分と変わっているな。族に狙われるぞ」

商人「まぁ現に貴女に狙われたんですが……あ、ちょっとストップ」

剣士「どうした」

商人「水だ。しかも流れてる」

剣士「地下水か……或は」

商人「外に繋がってるかもしれません。辿りましょう」

剣士「……」

商人「……そういえば」

剣士「なんだ」

商人「いえね?さっきから貴女ばっかり私に質問してたもんですから私からも何か聞こうと思って。間が持ちませんし」

剣士「やかましい奴だな」

商人「うるせぇ。まぁそう言わずに……」

商人「どうして略奪行為なんてしてるんですか?貴女くらいの腕があるのなら魔物退治や用心棒もできるでしょう」

剣士「奪う以外の生き方を知らんのだ。今までこうして生きてきた」

商人「そりゃまぁ厄介なこった」

剣士「それにだ」

剣士「私は闘争を求める。相手が強ければ強いほど……その相手を降(くだ)した時に得るものは大きい」

商人「戦ってる時も思ってましたけど随分とまぁ身勝手で酔狂な」

剣士「言ってろ。今更生き方を変えられん」

商人「家族は居ないんですか?」

剣士「居ない、死んだ。育ての親は居たが本当の親は知らん」

商人(捨てられたか売られたか……ま、碌な世の中じゃねぇな)

剣士「同情するか?」

商人「や、全然。同情して欲しかった?」

剣士「まさか」

剣士「お前は?家族は居ないのか?」

商人「いますよ。妹が一人」

剣士「妹か。連れてきているのか?」

商人「えぇ、今は街の方に置いてきてますけど」

剣士「……」

商人「……」

商人「え?それだけ?」

剣士「それ以上何があるんだ。聞き返しただけありがたいと思え」

商人「なんでそんな事でありがたがらなきゃならんのだ!?会話続かねぇのなんなの!?コミュ障なの!?」

剣士「見ろ、外の明かりだ」

商人「話ぶった切るなよ!?あぁもう噛み合わねぇな!!」

剣士「案外簡単に出られ……ん?」

商人「おっと、外じゃなかったな」

剣士「上から光が漏れているのか。といってもまだ薄暗いな」

商人「天井がそこそこ開いてますね。登るにゃちょっと高すぎるが……」

剣士「無理すれば行けそうだが」

商人「いやいややめとけって……外に繋がってるって分かっただけでも良しとしておきましょう」

商人「日の当たり方からして昼前か……」

商人(あの娘は私の強さを知ってるから心配はしないでしょうけど、あんまり遅すぎるとイクサちゃんと最悪兎ちゃんに声かけて探しに来るかもしれないですね)

商人(やれやれ、日帰りのつもりがとんだ災難だ。黄金の果実を探すどころじゃなくなっちまったな)

剣士「妙な場所だな」

商人「ん?どした?」

剣士「草が生い茂っている」

商人「あーホントだ。ここだけ外と似たような土になってますね。丁度光も差してるし水も流れてるし……植物が育つ環境として成り立ってるんじゃないですか?」

剣士「……」

商人「思わせぶりに黙るの多いなオイ。なんか言えよ」

剣士「あれは……なんだ?」

商人「あれ?」

商人「薄暗くてよく見えないですけど……」

剣士「丁度いい、日が差すぞ」

商人「え?」

剣士「"あれ"の真上が丁度大穴になっている。太陽が昇ってくる」

商人「あ……」

剣士「何だ木か……しかし一本だけ生えているのもおかしな感じだな」

商人「……」

剣士「おい、今度はお前が黙るのか。どうした」

商人「……」

商人「見つけた」

小休止
一応まだまだ先は長いよ……

再開

剣士「……なにを見つけたんだ?」

商人「いえいえ、こっちの話です。それにしても……」

商人(いくら地下に"木"があったとしてもくまなく探していれば見つからないなんて事は無いと思うんだけどな、これ)

商人(噂を聞きつけてくるような連中がこの短期間に二人も居たんだ、過去にも探索自体は何度もされているだろう、にもかかわらずだ)

商人(私だから見つけられた……?その線も無くはないだろうが何が何やら……まぁ、それはいい)

商人(黄金の果実、回収させてもらうか)

商人(これでようやく……)

剣士「まて、動くな」チャキン

商人「な、何ですか突然剣を握って……まさかお前この木を!!」

剣士「様子がおかしい、それ以上木に近づくな」

商人「え?」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


商人「洞窟が……ッ!?」

剣士「動いている……何だこれは」


商人「ッ!!木が!!」

剣士「動くなと言っているだろう!!」ガッ

商人「チクショウ離せ!!」

剣士「死ぬ気かお前は!!」

商人「死んでも必要なもんが目の前にあんだよ!!」

剣士「妹がいるんだろう!!」

商人「ッ!!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

剣士「……沈んでいったな。というより、移動したのか」

商人「……」

商人(躊躇(ためら)ってしまった)

商人(あの娘には、"私よりも"あの実が必要なのに……)

商人「……」

商人(それとも……私は命を秤にかけたのか……今更生きていたって……)

剣士「丁度いい、地面が動いた事で随分と地上に近づけたみたいだ。登るのに現実的な位置まで来たぞ」

商人「……助けてくれてありがとうございます。一応お礼だけは言っておきます」

剣士「助けたつもりはない。お前が飛びこまなかっただけだ」

商人「正直役に立つとは思ってませんでしたけど助けられたのは事実です」

剣士「一言多いな」

商人「よいしょっと……手を貸します。登ってきて……」

シュバッ

剣士「よし、街まで案内しろ。とりあえず足を治療したい」

商人「……貴女ホントに足折れてんのか?」

剣士「折れてるの確認しただろう、ほら行くぞ」

商人「はいはい……」

商人「……」

商人(しかし、なるほどな)

商人(木自体が黄金の果実を守っているという事か。神器なんだ、そのくらいは容易だろう)

商人(自身で場所を移動させていればそりゃ見つからないハズだ)

商人(だが確かにあった……希望は見えてきた)

剣士「動くな」

商人「またかよ、今度は何ですか」

剣士「……あれだけ強そうに見せておいてお前は何故気付かん」

商人「おっと失礼……5ってとこですかね」

剣士「確認出来る人数はな。多分まだ潜んでるぞ」

商人「面倒な……」

――――――
―――



少女「むぅ……」

武士「ラッシャイラッシャイ」

巫女「妹ちゃん、まだ悩んでるんですか」

武士「値段が値段だからねー。そりゃ妹ちゃんも悩むよ」

少女「まぁ……この指輪どうしようかってのは本当に困ってるけど……妹ちゃんで定着したんだ」

巫女「ええまぁ」

武士「勝手に名前付けるのもアレだし」

少女「やっぱお姉ちゃんに相談するべきだよね」

武士「それは思うかな。私でも初めての事は誰かに相談したいし」

巫女「当の本人はこの場に居ませんけどね」

武士「あ、そうだよー。結局2日も空けてるなんてちょっと無責任すぎるよ!」

少女「うーん」

少女(結局昨日も帰ってこなかったけど……確かに2日も私の前から姿を消すのはあの過保護気味なお姉ちゃんらしくもない)

少女(何かあったか……それともお姉ちゃんを信じるか)

武士「どこで何してるかは分からないの?」

少女「うん、大きい取引としか聞かされてないから」

巫女「……」

武士「どったの兎ちゃん」

巫女「もしかしてですけど、森の方に行ってるとかじゃないですよね?」

少女「」ギクッ

武士「ハッ!まさか黄金の果実の捜索を!?」

巫女「抜け駆けですか。許せないですね」

少女「」ダラダラダラ

巫女「ま、それは正直どうでもいいです。ですがちょっと不味いですね」

少女「ど、どうでもいいの!?よし」

巫女「どうしたんですか妹ちゃん」

少女「イエーナンデモナイデスヨ」

武士「それで何がマズいの」

巫女「いえ、ウチが仕入れた情報なんですが」

巫女「今あの森に凶悪な野盗の集団が入ったとの通報がありまして」

少女「ファッ!?」

……

剣士「ハァ……ハァ……」

商人「少し休んでろ。見張りは私がやります」

剣士「……チッ、腹の立つやり方だ」

商人「消耗戦仕掛けてくるとは……私たちの実力を確認してすぐに作戦切り替えて来やがった」

剣士「頭がいいのが紛れているんだろう。数で圧す事も出来ただろうに」

商人「初っ端5人斬り捨ててますからね。一気に攻めるのは無駄だと分かったんでしょう。しかし、こうチマチマと矢だのナイフだの投げてこっちの退路も無くさせるのは……」

剣士「物資も少ない。私が手負いなのもバレた。チッ本当に歯がゆい」

商人「……」

商人(手負いのこの娘を置いていけば私だけでも逃げられるか。助けはそのあと呼べばいい)

商人(どうせ出会ったばかりの、それも敵対していた相手だ……誰も咎めはしないだろう)

商人「……私が」

剣士「私が囮になる。お前は逃げて助けでも呼んで来い」

商人「え?」

剣士「助けを乞うのは癪だが今はそれが最善手だろう。どうせ出会ったばかりの仲だ、私が犯されようが殺されようがどうなってもお互いに後腐れも無かろう」

商人「……ああ、私もそれ今考えていた」

剣士「だろうな、そういう目をしていた」

商人「ハァ……死ぬなよ」バッ

剣士「無慈悲な慈悲だな。可能な限りそうさせてもらう」

「ヘヘッ」

「一人置いて逃げたか」

「これを待ってた……ここまで消耗させたんだ、分断さえすればこちらのもんだ!!」

「犯せ!!奪え!!まずはあの手負いの女からだ!!」


剣士「来たか……」

剣士(所詮は族か)


商人「っしゃオラああああああああああああああああああ!!」ズガァ


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

「なんか帰ってきた!?」

商人「こっちはそんなチマチマしたのが嫌いなんだよ!!テメェらが集団で姿見せる為の演技だっての!!」

「ぐあぁ!」ザシュ

剣士「よく言う。本気で考えていたくせに」

商人「……割りと、そういう考えを持ってしまった自分を恥じている所です」

ザシュッ

剣士「私はお前を囮にするつもりだったのだがな」

商人「まじかよ」

ザシュッ

剣士「マジだ。その為にずっと自分が逃げられるだけの体力を蓄えて……」

商人「さっきの息切れは演技かよチクショウ!?お前名女優になれるぞ!?」

剣士「それは罵倒か?」

ザシュッ

剣士「だが色々と御破算だな。また数人逃がした」

商人「あぁ畜生、結構いい線行ってると思ったんだけどなぁ。何人やった?」

剣士「5人か。だがまだ数は居そうだ」

商人「どうすんべ、そうは言っても貴女も割と疲れが見えてますけど」

剣士「散っている今のうちに場所を移動した方がいいだろう。本当ならば森を抜けたい所だが……」

商人「それなんですよねぇ。結局森からの脱出が出来ないんだよなぁ」

剣士「おい、お前の妹は助けに来られないのか」

商人「うーん……」

商人(嘘ついてテキトーに誤魔化せ言った手前なぁ)

商人「ハァ、こんな事ならこんな偽者の魔方位磁針じゃなく本物も買っておけばよかったなぁ」

剣士「前もそれを取り出していたが、それはなんだ」

商人「あ?これ?ただのガラクタだよ……」

商人「あーもう、まだマーカーも使い切ってなかったしホント無駄な買い物だったなぁ」

剣士「他に役に立つ物は持ってないのか?」

商人「治療道具さえ置いてきちゃってる私が他に有用なもの持ってると思うか?」

剣士「確かに」

商人「あ、そういえばー♪」ゴソゴソ

商人「あったあった!!」

剣士「それは何だ?」

商人「テッテレテッテッテーテーテー♪信号弾ー♪」濁声

商人「もし近くに冒険者が居てくれたらコレを見てなにかしらのアクションをしてくれるでしょう!!」

剣士「そうか」

商人「そーれ発射ー!!」

ピュルルルルルルルルルルルル

商人「……」

剣士「……」




商人「……あ」

剣士「……止めなかった私も悪かったが即行動に移したお前自身も悪いと思え」


「こんな所に居やがったか……」

「よくも仲間を殺しやがったな」


商人「デスヨネー」

剣士「余計な手間を……」

商人「まったくしょうがない……このまま体力が許すまで」

剣士「やり合うぞ。どちらにせよもう逃げられんだろうし限界だ」

商人「フゥ……だがまぁ、こっちはこっちでまだ死ねないんだ」

商人「周囲巻き込んででも生き残るッ!!」ボワッ

剣士(出るか……炎の刃)



「おねえちゃあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!」


商人「ッ!!」

剣士「なんだ?」

武士「こんの」

武士「変態がーーーーーーーーーーーーーー!!」ザシュッ

「ぐぁ!?」

商人「イクサ!?」

巫女「ウチも居ます」ザシュッ

商人「兎ちゃんまで!?」

少女「よかった、お姉ちゃん無事で!!」

剣士「誰だコイツら」

商人「最高だぜ!!チーム林檎ちゃんの復活だ!!」

巫女「勝手に満足なチームにしないでください」

商人「私の妹と」

少女「あ、どうも」ペコッ

商人「その他です」

巫女「……まぁいいです」

武士「……」

商人「すみませんイクサ、助かりました……イクサ?」

武士「……」カタカタカタカタ

武士「は……」

武士「はじめてひときっちゃいました」ガクガクガクガク

商人「クソ戦い慣れしてなさそうだと思ったらそういう事か……」

武士「だだだだだだだってきったらいたいから……」ブルブルブルブル

巫女「はいはい……で、林檎ちゃんこの状況は何ですか」

商人「見ての通り野盗に襲われてたんですよ」

巫女「そちらの女性は」

剣士「気にするな、敵ではない」

商人「味方でもないですけど……まぁ今は味方です」

巫女「訳わからないんで後で説明お願いします。でも今は……」

商人「現状の打開って事で……」

剣士「いいだろう」

武士「お、おっしゃー!!かかかかかかってこいやー!!」

……

少女「オエー、血なまぐさい……」

商人「ごめんなさい、こんなもん見せてしまって」

剣士「雑兵はこんなものか」

武士「ゼーハーゼーハー」プルプルプル

巫女「雑魚の集まりでしたね。こんなの相手によく数日もかかりましたね」

商人「上手いこと行動封じられていたんですよ。そっちの娘も怪我してましたし」

少女「あれ、ホントだ……ちょっとみせてもらってもいい?」

剣士「……?」

少女「あ、ホントだ。でも氷で固定してあるし、まだ……」

剣士「お前……」スッ

少女「?」

剣士「迷子か?」

少女「ファッ!?」

商人「ッ!!」

少女「いやいやいや、どうしたらそう見える!?お姉ちゃん探しに来たんだから逆にそっちが迷子だよ!?」

剣士「……そうか、そうだな」

商人「……」

巫女「何を言っているのですか。とりあえず……イクサちゃん、いつまで震えてるんですか」

武士「あうあうあうあわわわ……」

巫女「……ダメ見たいですね」

商人「……」

商人「一つ教えてください」

剣士「なんだ」

商人「なぜあの娘が迷子だと思ったんですか」

剣士「見たままだ。分からんのならわからんでいい」

商人「……」


「あ……ぐ……」


武士「ヒッ!?やらなきゃやらなきゃやらなきゃやらなきゃやらなきゃ」

巫女「待て殺すな」ビシッ

武士「あうっ」

巫女「コイツはウチがワザと生かしておいた奴です」

剣士「仲間を呼ばれるかもしれん、とっとと始末すべきだろう」

巫女「ハァー、これだから学の無い奴は困ります」

剣士「ふむ、お前の考えを教えろ」

巫女「おや、挑発に乗らないのは中々……ウチとしてはコイツの親玉の話を聞きたかったんで」

武士「えぇー、聞きだしてどうするの」

巫女「ウチにはウチのやり方があるんです。さてお兄さん、あなた方の情報を色々とお聞きしたいのですが……」

商人「……」

少女「お姉ちゃん……」

商人「ごめん、心配かけた」ナデナデ

少女「うん、凄く心配した」

商人「それより、どうしてここへ?」

少女「兎ちゃんが森に野盗が出たって情報が入ったからって」

商人「あーそれでか……」

少女「普段のお姉ちゃんなら大丈夫だと思ったんだけど、でも帰りも遅かったし」

商人「うん、助かった」

少女「もう私を置いてこんな危険な事しないで……」

商人「危険な事じゃなかったハズなんだけどなぁ」

少女「言い訳しない!!」

商人「はい……」

「へへ……お前らもう終わりだぜ……」

武士「な!なんですと!?」

「ウチのボスは狡猾で残忍だ……お前ら程度の小娘なんてすぐに……」

巫女「その小娘に負けておいてよく口が回りますね」

「俺から喋る事なんて一つも……おぐっ!?」

巫女「別に情報を引き出せる事は期待してないです」

「へ?」

巫女「可能なら聞きだす。それだけです」

巫女「イクサちゃん、ちょっとコイツそこの木に縛り付けてください」

武士「あ、うん……」ギュッ

「お、おい何を……」

巫女「大丈夫、殺しはしません、ただ」





巫女「もうまともな人生送れないと思ってください」

「アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」



剣士「……気の毒に」

武士「あうあうあうあわわわ……」

少女「」

商人「見ちゃダメ見ちゃダメ」

商人「しかしよく私のいる場所が分かりましたね」

武士「あ、うん。なんか空に光るものが見えたのが決定打だったよ」

剣士「アレは役に立ったみたいだな」

商人「結果的に……ですけど。すれ違いにならなかっただけヨシとするか」

少女「それは大丈夫だったかな」

商人「ん?」

少女「これ」ヒョイ

商人「なっ!?魔方位磁針!?何で貴女が!?」

少女「お姉ちゃんが他所のお店で見つけたやつだよ。買ってきたの」

商人「それで私の持ってるマーカーを辿ったのか……よくやった!!流石私の妹だ!!」

少女「えへへ……って言いたいんだけど」

商人「はい?」

武士「それ買おうとしたら不当に値段釣り上げられちゃって……」

少女「うん、私が急いでたから足元見られちゃったみたいで」

商人「あぁん!?そんな太てぇ野郎が商売してたのか!?ちょっと待ってろ、私がお礼参りに行ってやる!!」

少女「落ち着け、話を聞け」

巫女「ウチが値切り交渉してタダ同然の値段で手に入れたんですよ、褒めてください」

商人「あ!?お前が!?なんで!?」

巫女「もう二度と商売出来なくなるかそれを明け渡すかの二択を迫っただけです」ニマァ

武士「正直怖かった」

少女「敵に回しちゃいけない人がハッキリしたよ」

商人「お、おう、なんでかしらんが一応感謝はしとく……」

商人「あぁ、それはいいですけど。何か聞きだせましたか?」

巫女「はい、色々とゲロってくれました。まぁどっち道一斉検挙するつもりだったので有益な情報だろうと何だろうと構わなかったんですけど」

商人「……兎ちゃん、貴女何者ですか」

武士「市場の人に脅しをかけたり、なんか薙刀強かったり」

少女「あの指輪の値段もすぐに妥当だって判断したのも気になってたけど……ただの商人じゃないよね?」

巫女「御明察、ウチはただの兎ちゃんではありません」

巫女「ウチは冒険者ギルドの幹部の一人、月鏡(つきがみ)兎と申します。一応神様の血筋だったりします」

商人(やっぱりか……)

武士「ぼうけんしゃギルド?」

少女「かみさまのちすじ?」

剣士「随分と私を放置するんだな……まったく、話に混ぜろ」

巫女「混ざりたければどうぞ」

剣士「冒険者ギルドというのは最近立ち上がった民間の組織だ」

武士「一応話は聞いた事があるような無いような……」

剣士「ただの浮浪者共……もとい、冒険者に仕事を斡旋し成功すれば報酬を渡す……簡単に言えば職業紹介事業だろう?」

巫女「少し語弊がありますが概ねその通りです、博識ですね」

剣士「何度か冒険者に襲われた事がある。そこで調べた」

武士(このヒト襲われる側なのか……)

巫女「有望な冒険者に仕事を与え、経済を回します。連中は普通の人達じゃ受けないような仕事も受けてくれるので、こちらとしては大助かりしてます」

巫女「何よりそういう身元も碌な連中ではない者の集まりですし、潰しも効いて使い勝手がいいんですよ」

巫女「一応人と成りをみて与える仕事の判断はしていますけど」

剣士「通称死の商人共だ。戦乱があればそこにはコイツらが確実にいる」

巫女「そう呼ばれても仕方ないですね」

商人「しかしそんな偉そうなお方が何故地方にブラブラとしてるんですかねぇ、商人まで騙(かた)って」

巫女「偽っているつもりはありません。何も物を売り買いするだけが商売ではありませんので。あなたもそれくらい分かるでしょう」

巫女「この野盗を追っていたのもありますが……まぁ、貴女たちに話したように、ほとんど私用ですが」

商人「それが黄金の果実って訳だ」

巫女「ええ」

少女「神さまの血筋ってのは?」

巫女「単純です、ウチは神さまの血を引いているんですよ」フフン

少女「へー」

武士「すごいねー」

剣士「ふぅん」

商人「次行きましょう次」

巫女「全員興味なさそうなのでこの話はまたとっておきます」

巫女「森の外にウチが呼んだギルドの増援がいますので事後処理はこちらでやっておきます」

武士「……あのヒトどうするの?」


「」チーン


巫女「処刑まではするつもりはないので彼には第二の人生を強く生きてもらいましょう」

剣士「もしかしたら死んだ方がマシだったかもしれんな」

少女「……」

商人「見ちゃダメ見ちゃダメ」

巫女「ともかく……皆さんお疲れさまでした。ギルドの代表として感謝します」ペコッ

商人「ハッ、ったく体よく手伝いさせられたと思うと煮え切らんね。タダ働きだよこっちは」

武士「ははは……ちちうえははうえにいさま方ねえさま方……イクサはひとをころしてしまいました……あははは」

剣士「……ハァ」

巫女「そうそう、こいつらギルドで指名手配してた連中なので皆さんには報酬金が出ますよ」
商人「ハッハッハ!兎ちゃんこの後用事ある?一緒に飲みに行かない?」ガバッ

巫女「離れろ行間を開けろ近い暑苦しい」

武士「美味しいもの沢山食べにいこ兎ちゃん!!」パァァ

剣士「なんだか知らんが貰えるものは貰っておくぞ」



少女「なんて現金な人達なんだ」

巫女「お金絡むとヒトはこんなもんです。一つ大人になれましたね」

小休止

再開

……

巫女「という訳で、お金だけ渡すのも味気ないと思いましてウチの奢りで今日は豪勢に行きたいと思います」


商人「オイてめぇ誰の許しを得て喰ってんだ!?部外者だろ!?あ!?それ私の!!」

剣士「あのウサギとやらに誘われたんだ、断るのも忍びないだろう」モグモグ

武士「おいひい……おいひい……」モグモグ


巫女「聞いてないですね。まぁ楽しんでください」

少女「ほ、本当にいいの?こんなに……」

巫女「連中には手を焼いていたのでこれくらいは。まぁこれはギルドから出た調査費ですのでウチの財布は傷まないです」

少女「それって横領……」

武士「でも驚いたよー。兎ちゃんがまさかなんか変な組織の幹部だったなんて」モグモグ

巫女「変な組織言わない。真っ当なお仕事してます」

剣士「んぐ……真っ当というのなら何故ギルドの連中は私を襲った。そこのところ聞きたいのだが」

巫女「さっき言ってましたね。襲われたことがあるって」

巫女「調べたら貴女指名手配されてましたよ」

商人「オイ」

剣士「しらん」

巫女「本人が知らんとは何事だ」

剣士「なんだ?ここで捕まえるか?」チャキ

巫女「そんな野蛮な事はするつもりはありませ。それよりも取引しませんか?」

剣士「言ってみろ」モグモグ

巫女「簡潔で助かります。ギルドと契約して冒険者登録を行ってウチの専属になりませんか?」

商人「私兵か?そりゃまた大きく出たもんだ」モグモグ

武士「やっぱこういうのって腕の立つ人はスカウトされるもんなんだね」モグモグ

巫女「そう大袈裟なものじゃありません。ただギルドの依頼をウチ経由で優先的に回すってだけです」

巫女「見たところ食いっぱぐれるような事が無ければ貴女も変な行動は起こさないでしょう」

剣士「考えておこう。いつまでに返事をすればいい」モグモグ

巫女「一応ウチがこの街を出るまで……まだ期間は十分あるのでいい返事を待っています」

少女「逆に飲まなかったら指名手配犯のままだよこれ……」

剣士「その時はその時だ。私はそれでもかまわんが」モグモグ

商人「要するにこの狂犬放置してたら返り討ちにあう冒険者が多いからギルドで飼っておこうって事でしょ?」モグモグ

巫女「そう大っぴらに言わんでもいいでしょう」

商人「事実だろ。貴女としては他人に飼われるのはプライドが許さないんじゃないですか?」モグモグ

剣士「そんなものは捕え様だ。飼い犬と言えばそうだろうし、雇われと言い張ればそうなる。考え方は人によって変わる」モグモグ

剣士「どちらにせよ、食うに困らなくなるんだ。選ぶ選ばんは私の自由だが、余程の理由が無い限り断るヤツもおるまい」モグモグ

剣士「さて、その飼い犬は果たして忠犬か狂犬のままか……まぁ、試せば分かるだろう」モグモグ

商人(言動よりは馬鹿ではないんだなこの娘は)モグモグ


巫女「咀嚼(そしゃく)音が気になって段々イライラしてきました」

武士「兎ちゃんは食べないの?」

巫女「食べてます。あなたたちが食べ過ぎなんです」

巫女「大体意地汚いんですよ……貧乏人と無職と没落貴族が」ボソッ

商人「オイてめぇ聞こえてるぞ誰が貧乏人だゴルァ!!」

剣士「否定は出来ん」

武士「私の家没落してないからね!?」

少女「まぁまぁ……」

巫女「さて、これだけの料理で釘づけになっている所申し訳ありませんが林檎ちゃん」

商人「んあ?なに?」

巫女「貴女なんであの森に居たんですか」

商人「~♪」ピュー

巫女「ワザとらしく誤魔化すな。飯食った以上は喋ってもらいますよ」

商人「ギルドの金だろ……ったく」

武士「そうだよ林檎ちゃん!!もしかして私達に店番任せてる間に一人で黄金の果実探しに行ってたの!?抜け駆けだよ!!」

商人「チッ、バレちゃあ仕方ないですね。そうですよ、私がお宝を独り占めするためにちょいとね」

武士「酷い!!」

商人「だってそりゃこんな短期間で二人も眉唾なお宝狙ってたってなったら誰だって存在するかどうか気になりますよ」

商人「だが結果がこれだ……もう懲りたよ」

武士「むぅ」

巫女「そうは言っても冒険で見つけたものはその発見者が所有する権利があります。早い者勝ちは悪いことじゃないですよ。いい気はしないですけど」

武士「そりゃまぁ……」

商人「……騙す事になっちゃって申し訳ないです……ごめんなさい」ペコッ

巫女「素直に頭を下げるとは、余程反省しているんですね。仕方ない、今回だけですよ」

武士「しょうがないなぁ。でももし探すなら今度から私も誘ってよ!」

商人「二人とも……」



商人(ハッハー!!騙されてやんの!!反省してませーん!!)プークスクス

少女(息を吐くように嘘と嘘を重ねて喋ってるヒトが今私の目の前にいる……)

巫女「それで?何か森で見つけたものは無かったんですか?」

商人「特には……あーまぁ……」

剣士「おい、あれは何だったんだ?動く木だ」

商人(まぁそこに触れるわな……)

武士「ん?なにそれ?」

巫女「動くとは?」

剣士「私とコイツが戦っている最中に足場が崩れて地下洞窟まで落とされたんだ」

商人「それが二日前、私が街から出た日です」

巫女「で、そこから丸一日寝てたと」

商人「流石にあの高さから落ちればね……」

武士「何故林檎ちゃんは軽症でもう片方は足が折れてるの……」

剣士「そいつが頑丈なだけだろう」

商人「目が覚めた後私の弁当がヤツの腹に消えたあと、そのまま洞窟の中をさまよっていました」

巫女「不要な情報は喋らないでください」

剣士「その先で大きく開けた空間があった。その中央に動く木があったのだが……」

少女「なに?クネクネと動いてたの?」

商人「そんなポップな感じじゃないですよ」

武士「むしろ怖いよそれ……」

剣士「私達が近づくと逃げるように、地形ごとだ。地形ごとアレは場所を変えていった」

巫女「偶然足場が崩れた……などではなく?」

商人「そこまでは分かりません。んでも、私達にはアレが逃げたように見えたってだけです」

剣士「それよりも、お前はアレを"みつけた"と言って必至こいて追いかけていったが、何だったんだ?」

商人(迂闊に行動し過ぎたな。こいつがここまで口が軽いとは)

武士「まさか黄金の果実!?」

商人「ええ……あ、いえ。実の方は確認していないんで分かりませんが、私はあの木がもしかしたら……と思っただけで」

巫女「ぷっ……」

商人「ん?なーに笑ってんだ?」

武士「今の話に笑いどころあった?」

巫女「フフ……いえいえ、お二人とも少し勘違いを起こしているようで」

武士「へ?」

巫女「黄金の果実はそう呼ばれている神器の名称であって、本当に果実という訳ではないんですよ。まぁ形状自体は本当に果実らしいですけど」

武士「???」

商人「あぁ……」

少女「どういう事?」

商人「あくまで黄金の果実という神器であって、それは木の実という訳ではない。木に生っている訳ではなく漠然と存在している物……って言いたいんでしょ?」

巫女「その通りです」

武士「あー、神様が果実を作ったんだから木に生ってる訳がないのか」

剣士「そうなのか?」

商人「そういうもんなんですかね」

少女「実際どうなのお姉ちゃん?」

商人「言われてみりゃ確かにその通りだ。アレは神の創った果実であって木から自生した訳じゃない」

商人(だが侮るなよ、神器は人知を凌駕する)

巫女「それじゃあこの話は一旦終わりですね。ウチも引き続き森の探索はしますけど」

商人「ギルドからヒト出すのか?」

巫女「いえ、今時そんな古い伝承の神器を探してる物好きはそんなに居ません。私が冒険者の一人として個人的に探索するつもりです」

少女「イクサちゃんはどうするの?」

武士「私も探したいのはやまやまなんだけど……」

商人「オラ、借金返せよ」

武士「いつの間にか、食事代が借金扱いになってて……」

巫女「この世の悪の塊ですねこのヒト」

商人「HAHAHA☆」

巫女「なんならウチが立て替えましょうか?」

武士「ほんと!?」

商人「オイまて余計な事すんな、ウチの店番が居なくなるだろ」

少女「出たな本音」

武士「んー……やっぱりいいよ」

巫女「なぜ?この女に関わってるとケツの毛一本残らずむしり取られますよ」

武士「けッ……兎ちゃん結構下品だよね……」

武士「借金の方は大した額じゃないから今回の報酬でほとんど支払えたし」

武士「残りは林檎ちゃんのところでアルバイトして返そうかなって」

武士「私、今日までの事で色々と学ぶことが多くて……自分がいかに世間知らずだったかってのを思い知らされた気がして」

巫女「ですね」

武士「肯定は割と心に刺さるからやめて」

武士「妹ちゃんとも仲良くなれたし、私はしばらくこのままでいいかなって……」

少女「イクサちゃん……」

商人「いい話風に締めようとしてっけど早く返さねぇと利子で膨れ上がるぞ」

武士「悪魔!!!!!!!!!!!!」

商人「ハッハッハ、かつてないほど力強いセリフだ」

少女「私もイクサちゃんが居てくれると助かるな」

武士「というわけで、この林檎ちゃんたちが街から出るまでの間はお世話になるよ。あ、でも私も黄金の果実は探しに行くからね!!」

商人「分かってるよ。抜け駆けしちゃった身としてはそこは文句は言いません」

巫女「それで、貴女は?」

剣士「行くアテがないし足も折れてて何も出来ん」

少女「足折れてんのに一番暴れてた気がするのですがそれは」

商人「おっと忘れてた、ちょっと待ってな」ゴソゴソ

商人「またちょいと足見せて」

剣士「ん」

商人「失礼!」グサッ

剣士「ッ……それはなんだ?」

商人「治癒魔法を通すための器具です。さっき私が治すって約束したのほっぽりだしてましたからね」

巫女「ほう……随分と変わった物を持っているんですね」

商人「これも色んな地方を回ってる時に買ったものです。あぁ、動かない動かない、そのままそのまま」

武士「治癒魔法は使える人が限られているって聞くけど」

巫女「それも、魔法が使える人材を迫害するようなこのご時世で……全く、もうそんな時代は終わるというのに」

巫女「しかしよくそんなものを見つけられましたね」

商人「それはまぁ……人のつながりって奴ですよ。私には私の大冒険がありましたからね。聞きたいですか?」

巫女「長くなるならいいです」

商人「でしょうね。私も易々とは話す気はないかな……気分はどうです?」

剣士「目が回る、吐きそうだ」

商人「えぇ……」

武士「もしかして不良品?」

剣士「冗談だ」

商人「ビックリした!!」

少女「……」

少女「これ、いい道具だよ」

商人「ん?」

少女「これを揃えて作った人は、他の人が使いやすいように魔力を通す回路を丁寧に記している」

少女「お姉ちゃん、結構魔法の使い方が荒いから、治癒魔法がそんなに上手じゃないんだけど」

少女「でも、この道具はそれを補ってお姉ちゃんの魔力を通している」

少女「確かに、ちょっと高価な素材で出来てるけど、この道具を布教しようって思って精一杯コストダウン図ったんじゃないかな」

商人「……」

巫女「……」

武士「……」

剣士「……」

少女「ん?どしたのみんな」

巫女(指輪の価値を一発で見抜いた辺りから気になってましたけど)

武士(この娘、どうやってそういう所見抜いてるんだろう)

剣士(意味ありげに黙ってみたが話が見えん)


商人「……この道具は、とても優しい女の子から買い取った物です。それも格安で」

少女「え?」

商人「その娘は、流行病で家族を失い、そして自身は魔法を使えるという事で周りから謂れのない扱いを受けていました」

商人「そんな娘が、多くの命を救いたいといって残したものがこの道具です。私は喜んでこれを買い取りました、私自身も色んな人に広めるためにね」

巫女「それ、ギルドでも取り扱いしたいのですが、製作者はどこに?」

商人「さぁ、もうこの世にはいないんじゃないでしょうかね」

巫女「訳アリみたいですね」

商人「この道具を持っているのも私くらいですし、もう新しいものは望めないと思います」

少女「……その子は、幸せだったのかな」

商人「さぁ……私には分かりませんが」

商人「きっと幸せだったんじゃないでしょうか。ガラスの海で、愛する人を待つ彼女は……」

武士「あ、聞いた事ある。それって確か童話の話でしょ」

剣士「確か、優しい声は竜の……」

巫女「じゃあ林檎ちゃん、その道具を買い取らせてもらってもいいですか?」

商人「はい、勿論。まだ他にも備蓄は沢山ありますし、いいですよ」

巫女「ギルドで量産できるのならそうした方がよさそうですね。中々いいものです」

商人「……」スッ

巫女「……?」

商人「……」ススッ

巫女「何ですかこの手は?」

商人「ライセンス料」

巫女「は?」

商人「私しか持ってない道具」

巫女「……林檎ちゃん?」

商人「くれよ」バァ――z___ン


少女「ハハ、ウチの姉悪魔だったって事忘れてたわ」

剣士「まったく悪びれる様子も無くああいう事を言えるヤツは初めて見た」

武士「上の流れ全部ぶち壊しだよ」

小休止
この物語の主人公は基本的に悪魔

スマネェ…

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