――加蓮の部屋・夜――
……。
…………。
北条加蓮「……ん……っ?」
加蓮「……?」
加蓮「布団はかかってるのに、私、床の上……」キョロキョロ
高森藍子「す~……。むにゃ……。……あれ、加蓮ちゃん……?」
加蓮「……ごろごろしたまま寝ちゃってたみたいだね」
藍子「私……確か、加蓮ちゃんが寝ちゃっていたから、こっそり隣に……。ふふ。私まで、寝ちゃってたみたいです……」
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レンアイカフェテラスシリーズ特別編です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「日常的なカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「汗の跡が残る場所で」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「1時間だけのカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「ただいまと言えるカフェで」
加蓮の部屋よりお送りします。
藍子「よかった。まだ……11時30分を、少し過ぎたところですよ」
加蓮「日付が変わる瞬間を、夢の中で迎えることにならなくて済んだね」
藍子「それも、少しだけロマンティックかも……」
加蓮「そう?」
藍子「夢の世界で、おめでとう、って言うのもいいかなぁ……」
加蓮「私は……やっぱり現実で言われたいかなぁ」
藍子「それだったら、私も現実で言いたいです」
加蓮「なんなのよー」
藍子「えへへ」
藍子「加蓮ちゃん、まだ目が少し閉じてる……。顔、洗ってきますか? ついていきますよ」
加蓮「ふわ……。藍子は……おめめぱっちり?」
藍子「おめめぱっちり……」
加蓮「……何」
藍子「言い方、可愛いですね♪」
加蓮「寝起きだからノーカン」
藍子「そういうことにしておきますっ」
加蓮「藍子も寝起きなんだから。5分くらいは記憶を飛ばしておきなさい」
藍子「5分だけじゃなくても、加蓮ちゃんが秘密にしておきたいことなら、言いませんよ。私」
加蓮「……」
藍子「?」
加蓮「……それを素直に信じられる自分が、今更ながら少し不思議だなぁ」
藍子「……」
加蓮「なんてねっ」
藍子「……不思議ですね?」
加蓮「藍子に言われるとムカつくー」ガシガシ
藍子「きゃ~っ」
加蓮「いいよ、このままで。なんか……半分くらい頭が眠ってるのを、ちょっとずつ起こしていくのが面白いの。ゆっくりゆっくり、コーヒーを飲む時みたいで……」
藍子「ばたばたしちゃう朝も楽しいですけれど、ゆっくりできる時があっても、いいですよね」
加蓮「……口とか臭かったら言ってね?」
藍子「は~い」
加蓮「ねむー……」
藍子「はい、加蓮ちゃん。かけ布団」
加蓮「ん……」モゾモゾ
藍子「夜は、ちょっぴり冷えますから。風邪を引いたら、今日――明日のLIVEに来てくれるファンのみなさんも、がっかりしちゃいますよ」
加蓮「んー……」
藍子「私も、入っちゃおっと。……うんっ。ほかほかしてて、柔らかくて気持ちいいっ」
加蓮「……藍子」
藍子「?」
加蓮「さすがに近い」
藍子「……。じ~」
加蓮「なんで余計近づいて来んのっ」
藍子「えへへ」
藍子「いつもは、向かいどうしですから。こんなに近くで加蓮ちゃんの顔を見ると……なんだか、秘密って感じ」
加蓮「しかもお布団の中だもんね。……少しだけ、やっちゃダメなことをしてる気分かも♪」
藍子「うん。私も」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……あ」
藍子「時計の音……。加蓮ちゃん。お誕生日、おめでとうございます」
加蓮「ありがとうございます、藍子ちゃん」
藍子「……?」
加蓮「ありがとうございます」
藍子「……おめでとうございます?」
加蓮「ありがとうございます」
藍子「なんなんですか、それ~」
加蓮「さあ?」
藍子「また1つ大人になっても、やっぱり加蓮ちゃんは子どものままなんですね」
加蓮「えー。藍子と同い年だよ?」
藍子「私の方が誕生日が先ですもん。そうだ、カフェにいる時の加蓮ちゃんは、お姉ちゃん役。それ以外は私が、ってことでどうですか?」
加蓮「同い年なんですけどー」
藍子「残念。カフェにいる時は、加蓮ちゃん、すごく大人っぽくて、魅力的なのに」
加蓮「急にどしたの。それが誕生日プレゼント?」
藍子「……お布団の中だからわからないけれど、加蓮ちゃん、顔が赤くなってる?」
加蓮「なってないっ」
藍子「くすっ♪」
藍子「じっ……」
加蓮「……今度は何?」
藍子「ううん。さっき、カフェにいる時の加蓮ちゃんはお姉ちゃんだって言いましたよね」
加蓮「言ったね」
藍子「近ごろは、ずっとそうなんです。きっと……加蓮ちゃんが、私のことを見守ってくれるから……」
加蓮「……それはお姉ちゃんっていうより先輩じゃない?」
藍子「じゃあ、加蓮ちゃん先輩?」
加蓮「もうちょっと呼び方的に先輩としての威厳がほしいなー」
藍子「加蓮さん先輩」
加蓮「距離感じるからヤダ」
藍子「……加蓮先輩」
加蓮「布団引っ剥がすわよっ」
藍子「やだ~っ。ほかほかしてて、柔らかいんですから!」
加蓮「うん。私の布団だもん、それ」
藍子「ずっと、加蓮ちゃんが優しくて、厳しくて、私のことを見ていてくれて……すごく、嬉しいんですよ」
加蓮「そう?」
藍子「でも、こうしていると少し、寂しいような……。それに、どこか懐かしいような気もします……。同じ目線に立つことが、なくなっちゃったな……なんて、思っちゃいますね」
加蓮「……そうなのかな」
藍子「ちょっぴりだけですけれどねっ」
加蓮「そっか」
藍子「でも、こうしてパジャマのまま、お布団の中で、一緒にごろごろしてたら……。昔の加蓮ちゃんが、そこにいてくれるみたい」
加蓮「……へぇー? 私に向かって昔の加蓮ちゃんとか言うか。いい度胸してるねー?」
藍子「昔の加蓮ちゃんは、昔の加蓮ちゃんですから」
加蓮「それ、禁句なんですけどー?」ワシャワシャ
藍子「きゃ~っ」
加蓮「パジャマだし、夜遅くだし、何より布団の中だもんね」
藍子「お布団の中ですからっ」
加蓮「……藍子」
藍子「?」
加蓮「だからね? 近い」グイ
藍子「わ……」
加蓮「慣れない」
藍子「……ずっと、向かい側に座っているから?」
加蓮「っていうのもあるけどさ……。なんていうか……」
藍子「……?」
加蓮「今日さ。私、誕生日じゃん」
藍子「はい。誕生日ですね」
加蓮「あと15時間もしたらバースデーLIVEじゃん」
藍子「バースデーLIVEがあります」
加蓮「アイドルなんだよね」
藍子「アイドルですね」
加蓮「けど今は……12時を過ぎて、誕生日を迎えた今だけは……。ほら、ステージ衣装も着てない。靴も履いてない。今だけは、魔法が解けてるの」
藍子「……」
加蓮「また陽が昇ったら、たくさんの王子様が私を探しに来ちゃうんだけどね♪」
藍子「……ファンのみなさん?」
加蓮「うんっ。そして私はシンデレラとして祝福される」
藍子「でも、今は――」
加蓮「アイドルじゃない時間」
藍子「……、」
加蓮「……ここでもう少しだけ、そっちに近づいたり……ぴったりくっついたり……きっと、そういうこともあるんだろうね」
加蓮「私、藍子のことが好きなんだし。藍子も……ふふっ、それはいいや」
藍子「……私には、言わせてくれないんですね」
加蓮「最後まで言いたいから。そういうこともあると思うんだけど……ダメだなぁ。私。全然そういう気分になれないや」
藍子「……」
加蓮「ずっと、アイドルが抜けきれないんだ。カフェでいる時もそうだったの。今でさえ……ほんの僅かに残っていて、髪の後ろのところをね。ぐいぐいって引っ張っちゃうんだよね」
藍子「……」
加蓮「度を越えた幸せは呪い――なんて、迷信だと思ってたけど……こうして考えてみると、意外とすぐに溢れちゃうみたい」
加蓮「アイドルは、みんなを幸せにしてあげる存在。誰か1人の為のものじゃない」
加蓮「……なんで今、こうして布団の中で、すぐ側に藍子がいる時に思い出しちゃうかなぁ。ホント、アイドルバカだ」
藍子「……」
加蓮「……たははっ」
藍子「……私が」
加蓮「ん?」
藍子「それなら、私が……」
藍子「……、」
藍子「……ふふっ。ごめんなさい、加蓮ちゃん。私も……加蓮ちゃんと、同じみたい」
加蓮「……」
藍子「アイドルなんですよね。私たち。衣装を着ていなくても、裸足のままでも。体の中に、アイドルがずっと、くすぶり続けているんですよね……」
加蓮「……よかった」
藍子「え?」
加蓮「藍子が、ちゃんとアイドルをしてくれてて」
藍子「……あはっ。私だって、アイドルですよ」
加蓮「ふふっ。そうだったねー」
藍子「これでも頑張ってるつもりなのに。加蓮ちゃん、ひどいです!」
加蓮「あはははっ。だってさー、藍子が何回言ってもぴったりくっついてくるもん。なんかこう……ね?」
藍子「それは加蓮ちゃんが近くにいるからですよ~」
加蓮「あとほら、藍子だし?」
藍子「どういう意味ですかっ」
加蓮「褒めてるつもりだよー」
藍子「ぜんぜんそうは聞こえません! も~っ」
加蓮「後さ――」
藍子「あと?」
加蓮「……なんだかんだ、ちょっとホッとするよね」
藍子「……あ~……」
加蓮「だってカフェではいつも向かい同士なんだもん。それがいきなり……って……」
加蓮「まあ……いつかのひまわり畑で最初に切り出したのは私なんだけど、さ……」
藍子「…………」
加蓮「やめて。そんな近い距離でジト目はやめて。なんかすごい悪い気持ちになる」
藍子「……もう」
加蓮「寝る? それとも、もう少し起きちゃう?」
藍子「寝ちゃいましょう。あんまり遅くまで起きていたら、大切なバースデーLIVEも、うまくいかなくなっちゃうかもしれませんよ」
加蓮「ちょっとくらい平気なんだけどなぁ……。でも実際眠いや……」
藍子「私も……ふわぁ……」
加蓮「じゃ、もっかい寝よっか。目が覚めたら……またいっぱいお祝いしてね。アイドル仲間さんっ」
藍子「ふふっ。バースデーLIVEでも、お祝いの言葉、送っちゃいますから。楽しみにしててください!」
加蓮「おやすみなさい、藍子」
藍子「おやすみなさい、加蓮ちゃん。……お誕生日、おめでとう」
加蓮「よくばりー……」
……。
…………。
【おしまい】
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