高森藍子「加蓮ちゃんが」北条加蓮「アイドルではない時間に」 (16)

――加蓮の部屋・夜――


……。

…………。


北条加蓮「……ん……っ?」

加蓮「……?」

加蓮「布団はかかってるのに、私、床の上……」キョロキョロ


高森藍子「す~……。むにゃ……。……あれ、加蓮ちゃん……?」


加蓮「……ごろごろしたまま寝ちゃってたみたいだね」

藍子「私……確か、加蓮ちゃんが寝ちゃっていたから、こっそり隣に……。ふふ。私まで、寝ちゃってたみたいです……」

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レンアイカフェテラスシリーズ特別編です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「日常的なカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「汗の跡が残る場所で」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「1時間だけのカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「ただいまと言えるカフェで」

加蓮の部屋よりお送りします。

藍子「よかった。まだ……11時30分を、少し過ぎたところですよ」

加蓮「日付が変わる瞬間を、夢の中で迎えることにならなくて済んだね」

藍子「それも、少しだけロマンティックかも……」

加蓮「そう?」

藍子「夢の世界で、おめでとう、って言うのもいいかなぁ……」

加蓮「私は……やっぱり現実で言われたいかなぁ」

藍子「それだったら、私も現実で言いたいです」

加蓮「なんなのよー」

藍子「えへへ」

藍子「加蓮ちゃん、まだ目が少し閉じてる……。顔、洗ってきますか? ついていきますよ」

加蓮「ふわ……。藍子は……おめめぱっちり?」

藍子「おめめぱっちり……」

加蓮「……何」

藍子「言い方、可愛いですね♪」

加蓮「寝起きだからノーカン」

藍子「そういうことにしておきますっ」

加蓮「藍子も寝起きなんだから。5分くらいは記憶を飛ばしておきなさい」

藍子「5分だけじゃなくても、加蓮ちゃんが秘密にしておきたいことなら、言いませんよ。私」

加蓮「……」

藍子「?」

加蓮「……それを素直に信じられる自分が、今更ながら少し不思議だなぁ」

藍子「……」

加蓮「なんてねっ」

藍子「……不思議ですね?」

加蓮「藍子に言われるとムカつくー」ガシガシ

藍子「きゃ~っ」

加蓮「いいよ、このままで。なんか……半分くらい頭が眠ってるのを、ちょっとずつ起こしていくのが面白いの。ゆっくりゆっくり、コーヒーを飲む時みたいで……」

藍子「ばたばたしちゃう朝も楽しいですけれど、ゆっくりできる時があっても、いいですよね」

加蓮「……口とか臭かったら言ってね?」

藍子「は~い」

加蓮「ねむー……」

藍子「はい、加蓮ちゃん。かけ布団」

加蓮「ん……」モゾモゾ

藍子「夜は、ちょっぴり冷えますから。風邪を引いたら、今日――明日のLIVEに来てくれるファンのみなさんも、がっかりしちゃいますよ」

加蓮「んー……」

藍子「私も、入っちゃおっと。……うんっ。ほかほかしてて、柔らかくて気持ちいいっ」

加蓮「……藍子」

藍子「?」

加蓮「さすがに近い」

藍子「……。じ~」

加蓮「なんで余計近づいて来んのっ」

藍子「えへへ」

藍子「いつもは、向かいどうしですから。こんなに近くで加蓮ちゃんの顔を見ると……なんだか、秘密って感じ」

加蓮「しかもお布団の中だもんね。……少しだけ、やっちゃダメなことをしてる気分かも♪」

藍子「うん。私も」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……あ」

藍子「時計の音……。加蓮ちゃん。お誕生日、おめでとうございます」

加蓮「ありがとうございます、藍子ちゃん」

藍子「……?」

加蓮「ありがとうございます」

藍子「……おめでとうございます?」

加蓮「ありがとうございます」

藍子「なんなんですか、それ~」

加蓮「さあ?」

藍子「また1つ大人になっても、やっぱり加蓮ちゃんは子どものままなんですね」

加蓮「えー。藍子と同い年だよ?」

藍子「私の方が誕生日が先ですもん。そうだ、カフェにいる時の加蓮ちゃんは、お姉ちゃん役。それ以外は私が、ってことでどうですか?」

加蓮「同い年なんですけどー」

藍子「残念。カフェにいる時は、加蓮ちゃん、すごく大人っぽくて、魅力的なのに」

加蓮「急にどしたの。それが誕生日プレゼント?」

藍子「……お布団の中だからわからないけれど、加蓮ちゃん、顔が赤くなってる?」

加蓮「なってないっ」

藍子「くすっ♪」

藍子「じっ……」

加蓮「……今度は何?」

藍子「ううん。さっき、カフェにいる時の加蓮ちゃんはお姉ちゃんだって言いましたよね」

加蓮「言ったね」

藍子「近ごろは、ずっとそうなんです。きっと……加蓮ちゃんが、私のことを見守ってくれるから……」

加蓮「……それはお姉ちゃんっていうより先輩じゃない?」

藍子「じゃあ、加蓮ちゃん先輩?」

加蓮「もうちょっと呼び方的に先輩としての威厳がほしいなー」

藍子「加蓮さん先輩」

加蓮「距離感じるからヤダ」

藍子「……加蓮先輩」

加蓮「布団引っ剥がすわよっ」

藍子「やだ~っ。ほかほかしてて、柔らかいんですから!」

加蓮「うん。私の布団だもん、それ」

藍子「ずっと、加蓮ちゃんが優しくて、厳しくて、私のことを見ていてくれて……すごく、嬉しいんですよ」

加蓮「そう?」

藍子「でも、こうしていると少し、寂しいような……。それに、どこか懐かしいような気もします……。同じ目線に立つことが、なくなっちゃったな……なんて、思っちゃいますね」

加蓮「……そうなのかな」

藍子「ちょっぴりだけですけれどねっ」

加蓮「そっか」

藍子「でも、こうしてパジャマのまま、お布団の中で、一緒にごろごろしてたら……。昔の加蓮ちゃんが、そこにいてくれるみたい」

加蓮「……へぇー? 私に向かって昔の加蓮ちゃんとか言うか。いい度胸してるねー?」

藍子「昔の加蓮ちゃんは、昔の加蓮ちゃんですから」

加蓮「それ、禁句なんですけどー?」ワシャワシャ

藍子「きゃ~っ」

加蓮「パジャマだし、夜遅くだし、何より布団の中だもんね」

藍子「お布団の中ですからっ」

加蓮「……藍子」

藍子「?」

加蓮「だからね? 近い」グイ

藍子「わ……」

加蓮「慣れない」

藍子「……ずっと、向かい側に座っているから?」

加蓮「っていうのもあるけどさ……。なんていうか……」

藍子「……?」

加蓮「今日さ。私、誕生日じゃん」

藍子「はい。誕生日ですね」

加蓮「あと15時間もしたらバースデーLIVEじゃん」

藍子「バースデーLIVEがあります」

加蓮「アイドルなんだよね」

藍子「アイドルですね」

加蓮「けど今は……12時を過ぎて、誕生日を迎えた今だけは……。ほら、ステージ衣装も着てない。靴も履いてない。今だけは、魔法が解けてるの」

藍子「……」

加蓮「また陽が昇ったら、たくさんの王子様が私を探しに来ちゃうんだけどね♪」

藍子「……ファンのみなさん?」

加蓮「うんっ。そして私はシンデレラとして祝福される」

藍子「でも、今は――」

加蓮「アイドルじゃない時間」

藍子「……、」

加蓮「……ここでもう少しだけ、そっちに近づいたり……ぴったりくっついたり……きっと、そういうこともあるんだろうね」

加蓮「私、藍子のことが好きなんだし。藍子も……ふふっ、それはいいや」

藍子「……私には、言わせてくれないんですね」

加蓮「最後まで言いたいから。そういうこともあると思うんだけど……ダメだなぁ。私。全然そういう気分になれないや」

藍子「……」

加蓮「ずっと、アイドルが抜けきれないんだ。カフェでいる時もそうだったの。今でさえ……ほんの僅かに残っていて、髪の後ろのところをね。ぐいぐいって引っ張っちゃうんだよね」

藍子「……」

加蓮「度を越えた幸せは呪い――なんて、迷信だと思ってたけど……こうして考えてみると、意外とすぐに溢れちゃうみたい」

加蓮「アイドルは、みんなを幸せにしてあげる存在。誰か1人の為のものじゃない」

加蓮「……なんで今、こうして布団の中で、すぐ側に藍子がいる時に思い出しちゃうかなぁ。ホント、アイドルバカだ」

藍子「……」

加蓮「……たははっ」

藍子「……私が」

加蓮「ん?」

藍子「それなら、私が……」

藍子「……、」

藍子「……ふふっ。ごめんなさい、加蓮ちゃん。私も……加蓮ちゃんと、同じみたい」

加蓮「……」

藍子「アイドルなんですよね。私たち。衣装を着ていなくても、裸足のままでも。体の中に、アイドルがずっと、くすぶり続けているんですよね……」

加蓮「……よかった」

藍子「え?」

加蓮「藍子が、ちゃんとアイドルをしてくれてて」

藍子「……あはっ。私だって、アイドルですよ」

加蓮「ふふっ。そうだったねー」

藍子「これでも頑張ってるつもりなのに。加蓮ちゃん、ひどいです!」

加蓮「あはははっ。だってさー、藍子が何回言ってもぴったりくっついてくるもん。なんかこう……ね?」

藍子「それは加蓮ちゃんが近くにいるからですよ~」

加蓮「あとほら、藍子だし?」

藍子「どういう意味ですかっ」

加蓮「褒めてるつもりだよー」

藍子「ぜんぜんそうは聞こえません! も~っ」

加蓮「後さ――」

藍子「あと?」

加蓮「……なんだかんだ、ちょっとホッとするよね」

藍子「……あ~……」

加蓮「だってカフェではいつも向かい同士なんだもん。それがいきなり……って……」

加蓮「まあ……いつかのひまわり畑で最初に切り出したのは私なんだけど、さ……」

藍子「…………」

加蓮「やめて。そんな近い距離でジト目はやめて。なんかすごい悪い気持ちになる」

藍子「……もう」

加蓮「寝る? それとも、もう少し起きちゃう?」

藍子「寝ちゃいましょう。あんまり遅くまで起きていたら、大切なバースデーLIVEも、うまくいかなくなっちゃうかもしれませんよ」

加蓮「ちょっとくらい平気なんだけどなぁ……。でも実際眠いや……」

藍子「私も……ふわぁ……」

加蓮「じゃ、もっかい寝よっか。目が覚めたら……またいっぱいお祝いしてね。アイドル仲間さんっ」

藍子「ふふっ。バースデーLIVEでも、お祝いの言葉、送っちゃいますから。楽しみにしててください!」

加蓮「おやすみなさい、藍子」

藍子「おやすみなさい、加蓮ちゃん。……お誕生日、おめでとう」

加蓮「よくばりー……」


……。

…………。


【おしまい】

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