【安価】高額奴隷の行く末 (12)

……奴隷市場には三種類の奴隷と買い手がいる。

労働力、愛玩、その両方の奴隷……そしてそれぞれを求める買い手。

もっとも目玉となるのはどちらかに特化した奴隷だろう、大きな市場でも両立した上での高額奴隷は珍しい。

その中でも珍しい種族になれば耐久性も買われ値段は倍以上に跳ね上がる。

市場の最奥、顔を隠した買い手たちは目玉奴隷に注目する。

ヴェールを除かれ現れた奴隷に、皆声を漏らす。

銀色の美髪は腰まで伸び、赤い宝石のような瞳は切れ長で、白く繊細な肌は冷たさを印象付ける。

本日の目玉奴隷の一人……吸血鬼シンシアが椅子に腰掛けていた。

黒いドレスどころか、質素な椅子も、彼女を捕らう鳥籠のような檻も無骨な手枷も全てがシンシアを飾り立てていた。

シンシア「…………」

薄く笑みを浮かべると、買い手たちは興奮しそれを察した売り手は早速オークションを始める。



どんな人物が買ったか、↓

今日一番の盛り上がりを終え、一人の貴族がシンシアを買った。

名をゴットフリート、清潔な金色の短髪に屈強な身体……服装と肉体から貴族騎士だと分かるだろう。

シンシア「…………」

裏へ運ばれた彼はまず競り落とした金額を払う……慎ましやかに過ごせば平凡な家族なら2年は過ごせる金額だ。

「お客様、この奴隷は吸血鬼であり非常に強い存在であります……追加料金で、専属の魔法使いによる処理を行いましょうか」

……阿漕な商売だ、だがゴットフリートは尋ねる。

ゴットフリート「何ができる」

「へぇ、例えば子袋の機能の与奪、意思を消し人形にする、常に発情させる……あとは、この胸をもっと盛るとかでしょうかね」

スレンダーな彼女に売り手はゲスな笑みを浮かべる。



かけた魔法、↓

「へへっ、確かに面倒ですからねぇ」

食欲を抑制する魔法は安い奴隷にも多く使われ、自身の内蔵魔力を消費して飢えをしのぐ。

本来は魔法使いが研鑽に使う物であり、貧弱なものは魔力が尽きいずれ死ぬ。

だが彼女程の吸血鬼ならば、少なくとも飽きるまでは余裕で保つだろう。

シンシア「…………」

ゴットフリート「では馬車に載せろ」

彼は首と手枷を繋ぐ鎖を掴み、改めて戦利品を眺める。

シンシア「…………」

彼女は、微笑を崩さない。

……シンシアは吸血鬼であり、冒険者も徒党を組まねば勝負にならない。

元は人喰いの魔物と同じだ、館に入ってきたものを殺し、食う。

男も女も、老いも若きも。

……だが猛威を振るっていた吸血鬼も、組織だった人攫い集団の二週間の攻防に敗れた。

聖別された血を飲む気になれず、殺せど殺せど湧いてくる。

……死屍累々の中、棺に入り身体を休め……そこで捕まった。

シンシア(……窓のない地下で助かった)

薬が切れたのか、彼女は現状を理解する。

シンシア(まずはここ、次に奴隷市場……全て壊す)

高いプライドを取り戻し、反抗の火を灯す。

ゴットフリート「……さて」

彼女は表情を消し虚ろな笑みに変える……まずはここを脱する手段を考える。

ゴットフリート「まず1日目だ」



起きたこと、↓

ゴットフリート「……この部屋なら日光も届かない、君の部屋だ」

シンシア「…………」

彼の後にも、家具をもった使用人たちが地下室に入ってくる。

華美というほどではないが、貧相なものでは決してない。

ゴットフリート「300年は生きている君に合わせ、相応の物を用意した」

見る見るうちに部屋は豪華な一室に変わる。

シンシア(……どういうことかしら……)

真意を測れず、吸血鬼はあいまいな表情しかできない。

結局地下室は彼女に合わせた暗めの、だが華のある部屋が完成した。

ゴットフリート「日の出ている間はここにいるといい、使用人に欲しいものを伝えれば迅速に用意する」

シンシア「……そう……ですか」

対応に窮した彼女は、思わず丁寧語になる。

シンシア(いや……もてなされるならば、いっそ私から動けばいいのか……)

そう判断した彼女は、意を決する。



彼女の行動、↓

……結局、吸血鬼という種はどうしても捕食者であり支配種だ。

ゆっくりと時間をかけ己に課された魔法を解き、解除したその夜に人間は殺され尽くされた。

ゴットフリート「…………」

シンシア「ふふ、美味し」

血を啜る鬼は唯一その男だけは生かした。

情ではない、貴族社会に彼女が潜り込むためだ。

シンシア(……あの市場はとっておきましょう、新鮮な血も摂れるし……ふふ)

血の虜とかしたゴットフリートの頭に足を置きつつ、美しい捕食者はグラスに注がれた血をゆっくりと口に含む。

終わり

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