【安価でゆゆゆ】久遠天乃は勇者である2nd【十九輪目】 (1000)

このスレは安価で

乃木若葉の章
鷲尾須美の章
結城友奈の章
  楠芽吹の章
―勇者の章―

を遊ぶゲーム形式なスレです


目的

東郷家、犬吠埼家への挨拶と伊集院家の説得
進路決定
結婚式
全員生存

安価

・コンマと選択肢を組み合わせた選択肢制
・選択肢に関しては、単発・連取(選択肢安価を2連続)は禁止
・投下開始から30分ほどは単発云々は気にせず進行
・判定に関しては、常に単発云々は気にしない
・イベント判定の場合は、当たったキャラからの交流
・交流キャラを選択した場合は、自分からの交流となります

日数
一ヶ月=2週間で進めていきます
【平日5日、休日2日の週7日】×2
基本的には9月14日目が最終
勇者の章に関しては、2月14日目が最終

戦闘の計算
格闘ダメージ:格闘技量+技威力+コンマ-相手の防御力
射撃ダメージ:射撃技量+技威力+コンマ-相手の防御力
回避率:自分の回避-相手の命中。相手の命中率を回避が超えていれば回避率75%
命中率:自分の命中-相手の回避。相手の回避率を命中が超えていれば命中率100%
※ストーリーによってはHP0で死にます


wiki→【http://www46.atwiki.jp/anka_yuyuyu/】  不定期更新 ※前周はこちらに

前スレ
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√ 2月6日目 昼 (病院) ※火曜日


天乃「っふ……げほっ……けほっ」

咳に引き摺り出されたように戻ってきた意識

身体の奥底の痛みと、息苦しさ

味覚に染みる血の味を感じて、天乃は顔をしかめる

意識を失ったのだ

それも、園子の時とは比べものにならない、負担によって

天乃「風、東郷……」

園子を除けば、友奈と風と東郷の3人

それで、園子以上の負荷がかかった

あと1人

そんな我儘は許されるだろうかと、握り拳を作るだけで震える手を見つめる

天乃「ぅ……」

ベッドに手をつき、何とか状態だけでも起こそうと、試みる

キシキシと軋むベッド、ビキビキと痛む腕

自分を支える力すら、今は奪われているのだと

天乃は起きるのを諦めて、目を瞑る

その瞬間、額に冷たい何かが触れた


千景「無理して起きるのは良くないわ」

天乃「千景……」

若葉「私もいるぞ」

天乃「わか……げほっ……かふっ……ふーっ」

若葉「無理して話さないでくれ」

声をかけてすまない。と、

若葉は申し訳なさそうに言って、天乃の口元を拭う

瞬く間に赤く染まっていくタオルを折って、拭って、また折る

喉の奥を切ってしまったのだろう

呼吸だけでも痛みに顔をしかめる天乃を、千景は優しくなでて汗を拭う

千景「目を覚ますのは早くてよかったわ」

天乃「………」

千景「まだ、お昼よ」

気を失った時間から考えれば、

数時間経過してはいるものの

半日や、一日

長く昏睡状態には陥っていない

ただ、吐血したりしたこともあって、油断は出来ない


若葉「明日は、休んだ方がいいと思うぞ」

少なくとも、今日このあともう一人。なんていうことは絶対にない

それに加えて、明日も力を渡す行為はしないべきだと、若葉は言う

どうして力を渡す必要があるのかは重々承知しているつもりだし、

天乃の多少に無茶にも目を瞑るつもりではあった

しかし、血を吐くような状態になってなおの無茶は、させられない

その分、勇者部の誰かが無理をすることになってしまう

それは分かっている

天乃「ぅ」

若葉「そう、不満そうな顔をしないでくれ」

天乃「ゎか……」

千景「無理をしないで」

だが、

守ることが出来るかもしれない勇者部の無理と、

守ることなどできない天乃の無理

どちらを止めるべきかは迷わない


千景「久遠さんが言いたいことは、良く分かっているつもりよ」

その思いを、その願いを

挫きたいわけじゃない

けれど、止めなければならない

これ以上の無理は、天乃を殺すことになる

守るのが精霊の役目であり、みんなの願いだ

千景「分かっていたはずよ。無茶を重ねればこうなるって」

若葉「千景、それでもやらなければならなかったことだ」

千景「ええ、そう。だから、分かっていたはずなのよ」

天乃「ぇぇ……そうね」

分かっていた

無茶をすれば、体を壊す

身体を壊してなお無理をすれば、命を落とす

だが、このままでは夏凜と樹が非常に辛くなる


1、あと一度だけ、見逃して
2、あと、二人なの……二人だけ頑張れば、終わるのよ
3、今ここで頑張らないで、いつ頑張るのよ


↓2


天乃「今ここで頑張らないで、いつ頑張るのよ」

千景「十分頑張ったはずよ」

天乃「過去じゃなくて、これからの話」

今まで頑張ったから、もう頑張らなくていい

そんなわけがない

大事なのは、今だ

千景「いいえ、今までも含めた話よ」

天乃「………」

千景「そんなに見ても、変えないわ」

頑張ったから、頑張ってきたから

だから、これからの無茶を許すわけにはいかない

千景「頑張りすぎて、死んで。それで何が残るの?」

天乃「死なないわ」

千景「その可能性がある」

天乃「可能性に……っ……くっ」

千景「……可能性にしか過ぎない? わけがない」

血を吐きそうな天乃を一瞥して、言う


千景「自分の痛みにも気づけないような、鈍感なの?」

若葉「それは分かっていることだろう。だが、そうしなければならない理由があるんだ」

千景「……乃木さんなら、そう言うと思ったわ」

かつて裏切り、刃を向けた愚か者

そんな人間を守り、傷つくことを選んだ乃木若葉

彼女であれば、すべき無茶であると判断すると

千景「でも、それで死んだら無意味よ」

若葉「分かっている。だが……それで守るべき者を失ったら、生きている意味がない」

千景「それで死なれたら……いえ、それはないわね」

それで死なれたら生きている意味がない

そう言いかけた口を閉じて、首を振る

生きている意味はある

それの良し悪しは別だが。

千景「乃木さん、貴女は久遠さんを死なせる可能性を選ぶのね」

若葉「妥協案だ」

千景「妥協案?」

若葉「ああ……あと一人、あと一回。その無茶だけは許してやろう」


若葉「二人は無理だが、日数的に考えればあと一人くらいは出来るかもしれない」

千景「確かに、明日休むのは当然として明後日休んでもあと一人くらいの時間はある」

二日間の猶予と言うものを考えなくていいのならば

もう少し休む時間を用意できる

そうすれば、より万全にあと一人を救うことは出来る

一人を救うのを諦めるからこそ、より確実に救える

嫌な話だ、皮肉な話だ

だが、それが今だ

若葉「天乃、一人だけ。と言うのならば、私は味方になる」

天乃「…………」

若葉「二人を求めるのなら、千景と同じ答えだ」

申し訳ないが。

そう続けた若葉は天乃を見る

優しく、申し訳なく

若葉「少なくとも今日は休むだろう? 良く考えてくれ」

若葉はそういった


√ 2月6日目 夕 (病院) ※火曜日


01~10
11~20 園子
21~30
31~40
41~50 夏凜
51~60
61~70
71~80 樹
81~90
91~00 東郷


↓1のコンマ


√ 2月6日目 夕 (病院) ※火曜日


樹「久遠先輩、お体の方はどうですか?」

天乃「樹……」

ゆっくりと横を向く

うすぼんやりとした視界に映る樹は、

天乃の小さな声に耳を傾け、微笑む

まだ弱弱しい

だけれど、ちゃんと生きている

だから、笑みを見せた

樹「しばらく休めば、問題なさそうですね」

天乃「ううん、少しで大丈夫よ」

樹「また、そういうこと言うんですから」

少しで大丈夫なわけがない

それでも気丈に……無理をする

そんな天乃を困ったように見つめて、

樹は「ダメですよ」と、言い放つ


樹「久遠先輩、もう無理です」

天乃「無理じゃないわ」

樹「無理ですよ。もう」

天乃の頬に、触れる

本人は気付いていないのかもしれないが、

平均的な体温よりもずっと熱い

穢れの力が不足して、補給され、

その間の力の乱れが体を蝕んで、補われている分の熱量が体を焼き尽くそうとしている

今回は、大丈夫

しばらく休めば落ち着いて、治る

だが、次は? その次は?

きっと、無事では済まないだろう

樹「私と夏凜さんの二人に力を渡すのは無理ですよ。久遠先輩」

天乃「どうして、そんなことを言うの?」

樹「私達が断らないと、久遠先輩は聞いてくれないと思ったからです」


他の誰がなんて言おうと、

天乃は二人を救うために頑張ろうとする

だから、夏凜や樹が断る必要がある

当人から拒絶されれば、

流石に、強行はしなくなってくれる……はずだ

樹「久遠先輩、死んだら駄目なんです」

天乃「その可能性があるのは、二人なのよ?」

樹「私達は、まだ、皆さんがいてくれます」

樹たちが行う戦いは、

勇者部や、若葉達精霊の努力次第で何とかなる

しかし、天乃の戦いはそうではない

努力をしても無意味

それでどうにかなるようなものではない

若葉と似たようなことを言う樹を、

天乃はじっと見つめて……枕に顔を埋める

天乃「みんながいても、どうにもならないことはならないわ」


樹「……久遠先輩の体よりは、どうにかなります」

天乃「だからって、無茶をするの?」

樹「だからって、無理をするんですか?」

天乃「………」

樹「どちらかしか、ないんです」

天乃が無理をするか、夏凜達が無理をするのか

夏凜か、樹

そのどちらが無理をするのか

樹「ここに来たのは、お願いのためです。久遠先輩」

天乃の体を押して、自分に目を向けさせて

樹はずきりと痛む胸に手を宛がって、笑みを浮かべる

ここで痛みを見せたら

苦しみを感じさせたら、

天乃が選べるのは一つだけになる

樹「久遠先輩、私のことを……諦めてください」

だから、言う

苦しさと痛みをかみ砕いて、願う

樹「それが、みんなが生き残る最善策です」


天乃「ふざっ……げっけっ……っ」

血が溢れ出る

怒鳴ろうと無理をした喉は

閉じかけた傷口を開いてしまったのだ

天乃「けぁ……ぇ……」

涎と交わって薄まった赤色が枕を濡らす

飲み込もうとしても、痛みがそれを許さない

樹「久遠先輩っ」

天乃「ぅ」

心配する樹に手を向けて制し、

垂れるだけだった唾液を何とか飲み込む

天乃「……それは、みんなの?」

樹「みんなの考えです」

傷を心配しながら答える樹を横目に、

口元を拭って、恐る恐る息を吐く


1、二人を、助けたい
2、……樹は、それで平気なの?
3、夏凜は何も言わなかったの?
4、分かった。でも、貴女を諦めるつもりはないわ


↓2


では、少し早いですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


若葉「一人だけなら」

樹「一人だけなら」

風「一人だけなら」

夏凜「一人だけなら」

天乃「……二人を、助けたい」


沙織「死ぬよ。久遠さん」

天乃「それでも、助けたいの」


では少しだけ


天乃「私は――」

樹「駄目です」

天乃「っ……」

聞くまでもなく分かるのだろう

樹は、申し訳なさそうな顔はせずにはっきりと言う

ここは退けない

退くわけにはいかない

その力強い意志を感じる瞳を、天乃はぼやけた瞳で見返す

天乃「二人を、助けたい」

樹「駄目です、久遠先輩」

天乃「樹っ」

樹「久遠先輩……駄目なものは、駄目なんです」

天乃に負荷がかかる

それはみんな分かっていたことだ

それを承知の上で、力を分け与えることを承諾した

けれど、やっていいのはあくまで無茶だけだ

無理までさせるわけにはいかない


樹「私か夏凜さんのどっちかだけなら、時間もあるので大丈夫だと思います」

でも、二人はダメだと樹は思う

力を与える時間はあっても、与えた力を回復する時間がない

それでは、神婚に差し支えるし

それよりも前に命を落としてしまう危険だってある

天乃が戦いに行く樹たちの負担を少しでも減らしたい

みんなが生きて帰れるように万全にしたい

そう思っていることは分かっているし、気持ちは痛いほど理解できているつもりだ

だが、それでも

樹「私たち二人にどうしても力を返したいって言うなら、病院から出ていきます」

天乃「それはダメ……」

樹「駄目と言われても、出ていきます」

天乃「やめてっ」

樹「止めません。荷物はもう、まとめてあります」

天乃「樹っ――っくふぇっ……ぁっあっ……かっ」

強く言おうとして、血を吐く

喉の痛み、舌の熱

こみあげてくる吐き気と不快感

天乃「けほっげほっ……っふ……ふーっ……はっはぁっ……ごぷっ」

強く咳き込めば、悪化して

顎を伝って首回りが赤く染まり、シーツに滴って滲んでいく


樹「……それでも」

天乃に聞こえるか聞こえないか

そのくらいの小さな声で呟いた樹は、

苦しさからうつむき気味の天乃をまっすぐ見る

口元のガリッっという音

じわじわと広がる熱と痛み

耐え忍ぶように拳を握って、握って、爪を立てる

病院を出ていく。

それを言えば天乃がどう思うのか、どれだけ必死になるのか

今のボロボロの体にだって鞭を打つことになるだろう

だが、それも覚悟のうえでだ

樹「譲歩は、しません……どれだけ苦しんでいても、私を見捨ててくれないのなら、出ていきます」

天乃「っ!」

樹「泣いても駄目です。嫌がってもダメです……」

首を振る天乃に触れようとした手を、引っ込める

ここで触れたら抱きしめてしまう

自分の包み込んだ心をさらしてしまう

駄目なのだ

二人を救うには、あまりにも時間がなさすぎる

何を代価に求められたとしても、その願いを叶えるわけには行かない

それは、たとえ嫌われることになってもだ

樹「あれだけ我儘になってくださいって言ったのに最低ですよね……? 嫌いに、なりませんか?」


笑う、嘲笑する

天乃が少しでも憤りを覚えてくれるように

勝手にして。と、吐き捨てられるように

知らない。と、無関心になってくれるように

大嫌いだと、救う理由を失ってくれるように

樹「っ」

目を瞑る。

息を飲む。

飛び出しそうな感情を、ねじ伏せる

樹「明日の夜までに決めてください」

天乃「ぅ……」

樹「見捨てるか、失うか」

天乃「いっ」

離れていく手に手を伸ばしても、届かない

空を切った手の落ちたベッドの音に、一瞬立ち止まりかけけれど

樹はそのまま振り返らずに、歩く

呻く声が聞こえても、まるで聞こえなかったかのように、出ていく


天乃「なんぇ……なんで」

上手くろれつの回らないままに、喘ぐ

握り新た赤いシーツは不快な生温さで

下手に薄められた鉄臭さが鼻を衝く

天乃「なんで……止ぇないのッ!」

そこにいるのは分かる

若葉も、千景も、球子も、九尾も、歌野も、水都も

なのに、誰も出てこなかった

天乃「げほっかふっ……ぅ……ごほっ」

耐え切れなくて、唾を吐くように血を吐き出す

消耗して、憔悴して

起こしていられなくなった頭が枕に落ちて、

意識は勝手に離れていく

ナースコールを押さないといけないのに

それさえも出来そうもないほど朦朧とした中、

ふと現れた黒い影が、ベッドのわきに置かれたナースコールを押す

天乃「いぁ……なの……」

気を失う直前、

助けを求めて伸ばした手を、その影は掴まなかった


√ 2月6日目 夜 (病院) ※火曜日


01~10
11~20 夏凜
21~30
31~40
41~50 東郷
51~60 九尾
61~70
71~80 沙織
81~90
91~00 歌野


↓1のコンマ


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


樹「……ごめんなさい」

千景「喉に負担がかかっただけよ。心配はいらないわ」

樹「でも、千景さん……私っ久遠先輩にっ」

千景「酷いことをしてしまったと思うのなら、成し遂げなさい」ギュッ

千景「生きていれば何度だって、謝ることは出来るのだから」


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
再開は明日、出来れば通常時間から


では少しだけ


「話すのも駄目」

天乃「…………」

「喉を傷つけるようなことしちゃうからよ」

検査を行った女性医師は、

困ったように言って、電子パッドを持つ天乃を見る

本来なら、大きな声を出さずにいれば落ち着くはずだった

しかし樹達のこともあって無理に話し、

大きな声を出そうとして喉は傷ついてしまって

ただ大きな声を出さない。と言うだけではだめになってしまったのだ

これ以上無理をするなら手術が必要になってくるし

最悪の場合、完全に話せなくなってしまう可能性があると言う

もちろん、勇者の回復力を持つ天乃なら

それでも、時間さえあれば治るだろうけれど

「その電子パッド、壊さないようにね? 簡単に折れちゃうから」

使ったまま寝落ちして

ベッドの上から落ちたり、

身体の下敷きにしたまま寝返りを打ったりしたら、

壊れてしまう可能性がある。と、女性は言って

「辛いだろうけどしばらく我慢。ね?」

天乃『分かりました』


天乃『来週?』

「身体の努力次第ね」

天乃『治りは早い方です』

「傷つくのも早いでしょ。貴女は」

せかすように書こうとする天乃の手を制して、

女性医師は少し厳しい声色で言う

大きな声さえ出さなければという話をしていたのに

事情があったにせよ、傷つくようなことをしてしまったのだ

二度目は軽く言うだけでは済まない

「早く治りたかったらとにかく安静にして絶対に喋らないこと。約束できる?」

天乃『分かりました』

「不満そうな顔しちゃって」

笑い交じりに言って、

もう戻っていいわよ。と声をかけると

すぐそばに控えていた大人しそうな少女―千景―が車椅子を引き、連れて行く

二人を見送った女性医師は、

勇者部の子達にも話をしておかないと。と、困ったように眉を顰めた


天乃「…………」

千景「…………」

天乃が話せないこともあるけれど

樹を止めなかったことが尾を引いているのだろう

病室へと戻る間の道は沈黙に包まれていて

車椅子の車輪の音だけが、廊下に響く

天乃「………」

いつもなら、

みんなのところに寄る? とでも声をかけるが

話すことは出来ないし

樹のこともあって、それは少し気まずい

殴りこむ勢いでみんなのところに行って

話し合ってもいいのだが……

みんなで決めたことである以上

樹たちの意思は変わらないだろう


1、病室に戻る
2、精霊組
3、みんなのところへ
4、イベント判定

↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



東郷「久遠先輩、ちょっとお願いが」

天乃「……」カキカキ

天乃『なに?』

東郷「コソコソ」

天乃「……」

天乃『えっち!』


東郷「文字のやり取りもいいですね!」グッ

夏凜「あんたってやっぱり凄いわ」


では少しだけ


天乃『みんなのところに連れて行って』

千景「……本気で言ってるの?」

天乃「………」

明らかに渋った表情を見せる千景を見つめた天乃は、

電子パッドのボタンを押して首を振ると、

書こうとしていた手を止めて、頷く

千景「あの子達はみんなで決めたこと……話しても無駄よ」

天乃『分かってる』

千景「……悪いけれど、今度ばかりは味方にはなれないわ」

天乃『分かってる』

同じものをそのまま見せて、

胸に抱えるようにパッドを抱えながら、次の言葉を書いていく

書き出す手の動きは早く、悩みがない

天乃『樹を止めてくれなかった』

千景「樹に同意件だったからよ」

天乃『連れて行きたくないなら置いて行って良い』


千景が答えるよりも早く次の言葉を書き出している天乃は、

樹を止めてくれなかったことが不服なのだろう

睨むような鋭い目を向けて、パッドを見せる

天乃『私は見捨てたくない』

千景「その気持ちは分かるわ。でも――」

天乃『聞きたくない』

聞き終える前に見せて、背を向ける

これ以上の会話をする気はないと言う天乃の姿勢

背中を見る千景は

開いていた口を閉じて、目を瞑る

覚悟の上……だ

千景「連れて行くわ」

天乃「……」

千景「でも、これだけは言っておく」

踵を返し、天乃の病室からみんなの病室への道を進む

千景「この件で、貴女の味方はいないと思ったほうが良い」

期待しているかどうかはともかく

しているのならば。と、出ていそうな杭を打つ

千景「みんな、久遠さんを大事に思ってるから」


天乃『そうね』

千景「……なんだか、それでのやり取りだと変な感じね」

普段の天乃と違って、

感情豊かではない―怒っているからかもしれないが―せいか

電子パッドに書かれる文字だけでは

天乃の感情を読み切れなくて

無機質で、無感情で

ちょっとだけ、怖く感じてしまう

でも、良くなると良いわね。などとは口が裂けても言えない

声が聞けるといい。とも、言えない

樹を止めていれば天乃が無理して声を出すことなんてなくて

それがなければ、小さいながらも話すことは出来たはずだから。

互いを思うがゆえの、傷

その気まずさを飲み込んで、千景は足早にみんなのいる病室へと向かった


天乃を連れた千景が病室を訪ねると、

起こされた様子もなく、みんなが起きていた

一応、消灯時間まで一時間程度ではあるのだが、

誰一人として寝ようともしていなかったのは他の精霊が伝えたか

それとも、天乃のことで寝るに寝れなかったか。

天乃が電子パッドを手に持っているのを見た夏凜はわずかに顔を顰めた

夏凜「それ、なに持ってるのよ」

天乃「…………」

友奈「久遠先輩?」

すぐに答えるのではなく、文字を書く

いつもとは全く違う姿に不安そうな友奈の声がぶつかる

天乃『暫く話せなくなった』

樹「っ」

天乃『喉、傷めた』

隠すようなことはせず、

かといって、樹に見せつけるわけでもなく理由を見せると

すぐに決して、新しく書き込んでいく

天乃『治るまで、これを使う』

夏凜「……そう」


そんなった理由は、喉を傷めたことだが

その原因は、樹が自分を見捨てるように言ったことであると

夏凜達はみんな、分かっている

だから、千景のように言葉にはできなくて

身を案じる言葉をかみ砕く

刺々しい言葉の一つ一つに、樹たちはチクチクと痛みを覚えた

東郷「それなら、早くお休みになられた方が良かったのでは?」

天乃『会いたくなかった?』

東郷「そんなことは……」

友奈「あの……その……」

言い淀む東郷への助け舟

そのつもりだった言葉は出てくる直前で乱されて、消えてしまう

辛そうな天乃に懸けられる言葉は案じる言葉

でも天乃はそれを望んでいないし受け取らない

それをひしひしと感じる目を、向けられているからだ


1、樹から話は聞いてる?
2、私は諦めないわよ
3、夏凜、力を渡すわ
4、東郷、調子は?


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


天乃『東郷、調子は?』

東郷「!」

東郷(これは……試されてるの?)

東郷(良いと答えれば、私は悪いけど。と返ってくる?)

東郷(口に出した言葉じゃないのが、悟りにくいわ……!)


夏凜「エロいことを口にしないから調子悪そうね」

東郷「ちょっと待って夏凜ちゃん、それどういう意味?」


では少しだけ


天乃『東郷、調子はどう?』

東郷「……多少、感覚の違いは感じますが問題はありません」

天乃『寝た?』

東郷「いえ、特に眠くもなかったので」

東郷としては自分よりも天乃の体調なのだろう

自分のことを聞かれて答えに躊躇う様子を見せつつも、

質問にだけ答えて、余計なことを付け足しそうな考えを飲み込む

天乃『友奈達は寝たから寝たほうが良い』

東郷「ですが……」

渋る東郷に顔を顰めながら電子パッドに書き込んで、

若干、不機嫌そうに見せつける

天乃『感覚の違いは寝てないから。馴染まない』

電子パッドを指で叩き、

その指で東郷を指さしてもう一度パッドを指さす

貴女に言ってるのよ。

そう示す動きに、東郷は「分かっていますが」と、歯切れ悪く答える

東郷「寝て、いられなかったんです」


東郷「休息が必要なのは良く分かっています」

でも。と、続ける

東郷「寝て待つなんてことは出来ませんでした」

むしろ、したくなかったというのが正しいと、東郷は思う

目の前で天乃が傷つくのを見てしまった

沈んでいくのを見てしまった

それなのに、どうして眠れるだろうか

目を瞑れば、あの姿が浮かぶ

楽し気な姿ではなく、苦しむ姿

力なく沈んでいく姿

恐ろしくて、寝ることなんて出来ない

たとえ、夏凜達が大丈夫と言ってくれていても

風「天乃が意識を失うのを見ちゃったのよ。簡単に寝れるはずないでしょ?」

夏凜「私も経験あるけど、寝ようと思って寝れるものではないわ」

自分より心は強く感じたから、大丈夫かもしれないけど。と

すこし歩み寄るそぶりを見せて、夏凜は天乃を見る

天乃『体調を崩されたら困る』

取り付く島もないとみんなが思い、

それは自分たちもだと、言葉を飲んだ


夏凜「体調崩されたら困るのはこっちもなんだけど」

天乃『話すことはないって?』

友奈「夏凜ちゃんはそんなこと――」

夏凜「言ってるようなものだし」

庇おうとする友奈を制して、

夏凜はあくまで堂々とした態度で視線を受ける

後ろめたいことではないとは、少し言いにくいけれど

だからと言って身を引けることでもない

樹「久遠先輩、さっき話した通りです」

血を吐かせるほどに、

話を出来なくなってしまうほどに追い詰めてしまったこと

それを再度話すのはと思いながらも、意を決して口にする

樹「みんなで話し合って決めたことなので」

話したいことはある

叶うならばいっしょに居たい

でも、互いの想いがぶつかり合う今、それは叶わないことだ

樹「その話なら、頷いてくれる以外は無駄だと思います」


天乃『知ってる』

さっきまでと違って、

やや殴り書きに近い字で答えた天乃は、

視界の端、樹のベッドのそばにある荷物を見て顔を顰める

天乃『みんな敵』

風「敵って言い方はちょっと違うんじゃない?」

天乃『違わない』

異議を述べて、首を振る

もの申したいという風の視線を受けつつ樹を見て

電子パッドのボタンを押す

天乃『樹が死んで平気?』

風「平気なわけ、ないじゃない」

そんなわけがない

そんなわけがないが、天乃だって死んで平気なわけがない

天乃が夏凜と樹の両方を救いたいように

風達だって、天乃と樹達の両方を救いたい

だが、どちらかを選ばなければならない

その中で、樹は自ら自分を切り捨てるように進言したのだ

その考えと、覚悟

姉として止めたい気持ちもあるが、止められない

風「樹は覚悟を決めてる。なら、あたしは、あたし達は姉として仲間として、樹を絶対に守るだけよ」


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


では少しだけ


天乃『今度は死ぬ』

戦いを甘く見ていないことくらいは分かっているけれど

あえて明示する

以前のように、死から守ってくれるわけではない

致命的なダメージを防いでくれるのも回数制限があって、

満開を使えば、それは一瞬にして消費されてしまう

そうなれば、勇者の力を持つだけの生身の人間だ

加護がない以上、当然ながら叩き飛ばされれば死ぬ

爆発をまともに食らえば死ぬ

そんな戦場に、祟りを持って臨まなければならない

そんなハンデのある人を守りながら、今までにない最大級の敵と戦わなければならない

天乃『覚悟ではどうにもならない』

東郷「それは、久遠先輩も同じでは?」


風「分かってるでしょ? 天乃も樹も状況はほぼ同じ」

天乃『違う』

風「違わない」

どちらも命懸けだ

一瞬たりとも気の抜けない危険な戦いに身を投じることになる樹も

己の限界を超えて力を分け与えようとする天乃

二人ともが命がけで、死のリスクが非常に高い

それは一緒だと風は繰り返す

風「それでも樹にリスクを背負わせるのは抵抗できるから」

夏凜「あんたが考えてるように、守って貰えるのには限度があるわ。でも、満開を使わなければ一気に消費しない」

そうすれば、傷つくことはあっても死ぬ可能性は大きく減少する

そしてその樹をみんなで守り、みんなで支え合う

友奈「私達は、私達で抵抗することが出来るんです」

天乃「………」

樹「そこが久遠先輩との違いで、とても大事なポイントです」


天乃『認めない』

夏凜「認めるとか認めないとかそういう話じゃないでしょ」

頑なに認めないと言うのなら、樹は出ていく

天乃に話したことは、みんなにも話していて決定事項だ

明日の時間になっても二人を救うと言うのなら

樹に無理させるくらいなら自分は死んでもかまわないと言うのなら

そう考えて、

夏凜は天乃の批判的な視線を見つめ返す

夏凜「いい加減にしないと、私も出てくわよ」

樹「え?」

風「夏凜、それは――」

夏凜「あんただけ完全に助けたいとかフェアじゃないし、二人を助けなきゃ万全になれるでしょ?」

驚く二人をよそに

夏凜は一人、堂々とした態度で言った



1、いい加減にして
2、どうしてそういうこと言うの?
3、最低
4、意地っ張り
5、馬鹿
6、大嫌い


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日は出来ればお昼頃から


天乃『最低、馬鹿、意地っ張り、大っ嫌い』トントン

東郷(考えられる限りの暴言、注視を促す画面を叩く指の動き)

東郷(怒ってるけれど、それ以上にされたら困ると言う不安の見える表情)

東郷「あっ」

夏凜「あっ。って何? あんたまた良くないことを考えたわね!?」


友奈(分からないほうが良いけど、分かっちゃう自分はもう駄目なのかなーって)

樹(私も分かってるのでセーフです)

千景「アウトよ」


遅くなりましたが、少しだけ


天乃『どうしてそういうことを言うの』

夏凜「あんたが死のうとしてるから」

天乃『二人も』

夏凜「でも、私達には可能性がある」

そのリスクを背負っていたとしても、

無事で済む可能性がある

それは、樹達が言うようにみんなが一緒に頑張ることだからだ

けれど天乃は違う

他の誰かが一緒に頑張るなんてことは出来ない

天乃だけがリスクを背負い、その代償を支払わなければならない

夏凜「あんたのそれは努力でどうにかなるようなものじゃないでしょ」

天乃『でもあ』

夏凜「だからこそ」

天乃の電子パッドを手で押さえて、

まだ書いている途中だった言葉を消し去る

夏凜「リスクを背負うのは私達であるべきだって言ってるのよ」


夏凜「悪いけど、樹は本気だし私も本気」

天乃「っ」

夏凜「あくまで樹と私の両方を求めるなら、出ていく」

一緒には居られない

抗議しようとする天乃の電子パッドを押さえつけながら、言う

必死に持ち上げようとしてるのが伝わってくる

邪魔しないでと、睨んで来る瞳が見える

でも、いつか見たあの目よりはずっと優しかった

怒っているからではなく、心配だからこそ、不安だからこそ

相手を想うからこその怒りはとても優しくて

夏凜は目を逸らすことはないが、首を振る

夏凜「あんたが考えを変えないのなら、これ以上話すことはないわ」

夏凜の手が離れ、

天乃はすぐに、電子パッドへと文字を書き込んでいく

天乃『考え直して』

樹「それは久遠先輩にお願いしてることなんです」

すみません。そう続けかけた口を閉じると、

樹は病室の隅に目を向けた


樹「千景さん、お願いします」

千景「……そうね」

天乃『待って』

千景「待たないわ」

天乃『ちかげ』

漢字を書くよりも早く、ひらがなで書かれた名

それを一瞥しつつも千景はそれは出来ないと首を振る

これ以上ここにいても何も決まらない

夏凜達が退くことはないし

今の天乃の様子では、考えを改めるつもりもないだろう

千景「時間よ。連れ帰るわ」

天乃『だめ』

千景「睡眠時間を削るつもり?」

少しきつく言い放って、

千景は強制的に車いすを動かして、天乃を連れ戻す

考える時間は少ないかもしれないが、

だからと言って眠る時間……体を休める時間を削っては本末転倒

何も救えなくなってしまうからだ

1日のまとめ

・   乃木園子:交流無()
・   犬吠埼風:交流有(二人を救いたい、話し合い)
・   犬吠埼樹:交流有(二人を救いたい、話し合い)
・   結城友奈:交流有(二人を救いたい、話し合い)
・   東郷美森:交流有(力の譲渡、二人を救いたい、話し合い)
・   三好夏凜:交流有(二人を救いたい、話し合い)
・   乃木若葉:交流有(一人だけなら)
・   土居球子:交流無()
・   白鳥歌野:交流無()
・   藤森水都:交流無()
・     郡千景:交流有(一人だけなら、二人を救いたい)
・ 伊集院沙織:交流有(二人を救いたい、話し合い)

・      九尾:交流無()
・      神樹:交流無()


2月6日目 終了時点

乃木園子との絆  106(かなり高い)
犬吠埼風との絆  130(かなり高い)
犬吠埼樹との絆  112(かなり高い)

結城友奈との絆  144(かなり高い)
東郷美森との絆  143(かなり高い)
三好夏凜との絆  170(最高値)
乃木若葉との絆  112(かなり高い)

土居球子との絆  59(中々良い)
白鳥歌野との絆  57(中々良い)
藤森水都との絆  49(中々良い)

  郡千景との絆  59(中々良い)
   沙織との絆  146(かなり高い)
   九尾との絆  80(高い)

    神樹との絆   ??(低い)


√ 2月7日目 朝 (病院) ※水曜日


01~10
11~20 沙織
21~30
31~40
41~50 九尾
51~60
61~70
71~80 歌野
81~90
91~00 園子


↓1のコンマ


√ 2月7日目 朝 (病院) ※水曜日


樹たちの提示した、約束の日

神婚の儀を行うまではまだ時間はある

でも、当初考えていた休息期間

みんなに力を分け与えること

それを考えれば、この考える時間の少なさも致し方ないかもしれない

沙織「……」

沙織は少し考えて、精霊のいる空間から、

現実の世界へと出ていく

沙織「久遠さん、大丈夫?」

天乃『平気』

沙織「喉の違和感は?」

天乃「………」

喉を軽く擦って、首を振る

まだまだ違和感はある

こみあげる吐き気のような、不快感

火を間近にあてられているような熱さ

軽く咳き込みたくなるけれど、そんなことをしたら吐血することになるだろう


沙織「なら、まだ平気じゃないよ」

天乃「………」

沙織「体調で嘘はダメ」

沙織は困ったように言うと

小さく笑みを浮かべて、天乃の電子パッドに触れる

沙織「もう少し寝てた方がいい」

天乃『 | ' . ゛ 』

沙織「昨日も遅かったのに」

沙織が抑えるせいで、言葉にならない文字が刻まれていく

それでも天乃の言いたいことを察した沙織の言葉に、目を向ける

時間がない

今日の夜までに決めなければ、話をつけなければ

二人ともいなくなってしまう

寝ている暇なんてない

沙織の手に触れて、話すように促す

天乃『いっそ苦しめばいい』

沙織「そんなこと言わないで……」


夏凜達が苦しめばいいということではなく、

天乃自身が苦しめばいいという考え

夏凜達は自分が苦しむことになっても、考えは変わらないだろう

だが、天乃が苦しむのであれば変わるかもしれない

けれど、それは解決策としては悪手だ

沙織「久遠さんが苦しむのはみんな嫌だけど、でもそれで解決はしないと思うよ」

みんな覚悟している

天乃に嫌な思いをさせること

辛い思いをさせること

笑顔にさせたいと言っていた夏凜でさえ、泣かせるようなことに手を出している

その苦渋の決断は、天乃を死なせないためのもの

自分たちが嫌われることよりも、天乃を生かすことを選んでいるのだ

沙織「樹ちゃんだけ、諦めることは出来ない?」


1、出来るわけないでしょ
2、貴女までそんなこと言うのね
3、嫌よ
4、樹が死ぬのよ?


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


夏凜「だからこそ、私達がリスクを背負うのよ」

天乃「………」

天乃「……」グスッ

球子「あー! 夏凜が泣かせたー!」

風「ちょっとー女子ー!」


夏凜「手のひら返すなっ!」


では少しだけ


天乃『樹が死ぬのよ』

沙織「……死なないよ」

天乃『祟りがある』

沙織「そうだね」

でも。と、沙織は微笑む

祟りがある。そう書かれた電子パッドを抑えて、

天乃の目をまっすぐ見つめる

あたしを見て。と

沙織「祟りに負けない力がある」

天乃『神樹様の力は駄目』

万全ならばともかく、

衰えた神樹様の力では対抗しきれない

だからこそ、唯一抵抗できるであろう天乃の力が必要なのだ

天乃『私の力、必要』

それを示す天乃を、沙織は優しく見る

睨むのも、怒るのも

勇者部のみんながしてくれているから

沙織「うん、それが最善策……【だった】んだよ」

沙織は努めて優しく、諭すように言う


沙織「みんなもそれは分かってるんだよ。でもね、それじゃダメなんだ」

天乃『でも』

沙織「久遠さん。みんなが、望んでることなんだよ」

天乃「…………」

沙織の言う【みんな】は勇者部だけではない

天乃の精霊たち含めただけでもない

今まさに、その望みを挫く行いをすべきとしている天乃自身も含んだ願い

いや、

その天乃自身が、一番初めに願ったことなのだ

無理をさせると、無茶をさせると

でも、自分を戦いから退かせたいのであれば、

それを成し遂げて欲しいと我儘を言ったのは、他でもない天乃だ

沙織「久遠さんの力があれば二人は万全な状態で戦うことが出来る。でも、久遠さんは無事では済まないんだよ?」

天乃『今回の戦いは危険』

沙織「樹ちゃん達が、危険を承知じゃないとでも?」


沙織「散々言ってたのに」

天乃『分かってる』

沙織「分かってないよ。樹ちゃんにも言われて、三好さんにまであんなこと言われちゃって」

流石に予定にもなかったということもあって沙織は困ったように零す

勇者部のみんなと一緒にいることも多く

樹が出ていくつもりであることは知っていたが、

流石に、夏凜まで出ていくつもりだったのは初耳だった

何の準備もしていなかったし、そぶりを見せてすらいなかったのに

ただ勢いで言ったわけではないのは、天乃はもちろん、みんなも感じたことだろう

沙織「三好さんは本気だよ? それでも、二人を助けたいって言うの?」

天乃『死なせたくない』

沙織「その我儘は、本末転倒だよ」

天乃『これが最後』

自分たちにとっても、バーテックスにとっても

そうでなければ困るという希望もあるけれど、きっとそうなるはずで

出てくるバーテックスの親玉は、今までとは比較にならないほどに凶悪なはず

であれば、戦いに赴く勇者たちは万全であるべきなのだ


天乃『みんな分からず屋』

沙織「久遠さんだよ」

天乃『私は干気』

沙織「平気なわけないよ」

点が足りないよ。と、

指先で二回ほど突いて、天乃の書いていた言葉を正す

夏凜達に止められることもあってか、

出来る限り早く書こうとしている字は乱れてしまっている

どれだけ考える余裕がないのか、明白だった

沙織「東郷さんまでで話せなくなるほどの症状が出たんだよ? 二人分の力を短期間で失ったら死んじゃう」

天乃『樹が危ない』

沙織「だから……」

それよりも。と、沙織は息を吐く

これだけ言っても、天乃は頑なで

本末転倒なのに、それを貫こうとしている

沙織「久遠さん、良く考えよう?」

これ以上はと、口を閉ざす

話すよりも、時間を与えるべきだと沙織は身を引く

でも、あと一つだけ

そう思って、沙織は天乃を見る

沙織「忘れないで。みんなが願ってるのは、久遠さんも含めた未来だよ」

それだけを言い残して、沙織は姿を消す

しっかりと考えてもらうために


√ 2月7日目 昼 (病院) ※水曜日


01~10
11~20 九尾
21~30
31~40
41~50 園子
51~60
61~70
71~80 球子
81~90
91~00 歌野


↓1のコンマ


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


千景「土居さん、今は――」

球子「今行かないで、いつ行くんだ。良いから、タマに任せタマえ!」

千景「あっ……もう、勝手な人ね」

友奈「でも、それがタマちゃんの良い所だよ」

千景「っ、高嶋さん……?」


友奈「え?」

千景「……いえ、なんでもないわ。そうね。その通りかもしれない」


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は出来れば通常時間から


では少しだけ


√ 2月7日目 昼 (病院) ※水曜日


天乃「……………」

約束の時間まで数時間

考える時間はだんだんと無くなってく

比例して余裕も失せていき

病室に一人、ベッドに横になっている天乃の表情には焦りが見える

出ていくと樹に言われ、夏凜に言われ

みんなに二人を助けるのは諦めろと言われ

沙織にも、そう説得を受けた

でも……でも。と、天乃は首を振る

何度も言っているように、

今回戦う相手は生半可な状態で勝てるような存在ではない

樹達の状況を鑑みて、手加減してくれる相手でもない

確実に狙われる。徹底的につぶしに来る

そうなれば殺されてしまう

堪えられないほどの痛みと苦しみを与えられ、絶望の淵から突き落とされるかもしれない

生きたまま、食い殺されるかもしれない

そんな残酷な死を与えるために、戦いを任せたわけじゃない


球子「寝てなくて平気なのか?」

天乃「っ」

球子「わっ待て待て!」

そんな睨まないでくれ。と

慌てたように手を振った球子は、手を合わせて「ごめん」と言う

球子は別に天乃を煽りたかったわけではないらしく

心配そうに眉を顰めると、来客用の椅子を起こして座り込む

球子「東郷に言ってただろ? 馴染まないのは寝てないからだって」

天乃『それが?』

球子「それがって……いや、回復するのも同じなんじゃないかって思っただけだけど」

怒るなよ。

居心地悪そうに身を捩りながらつぶやくと、

ちらっと天乃を見る

時間が迫っている焦りもあるのだろう

天乃の表情が緩むことはなくて

球子「……天乃はどうしても、みんなの意見を受け入れたくないのか?」

珍しく、球子は真剣に問いかけた


天乃『死ねと言いたくない』

球子「死ぬとは限らないだろー?」

天乃『無理』

球子「可能性があるってだけだ」

天乃『無理』

電子パッドの言葉を一切変えずに見せつけて、天乃は首を振る

可能性があるだけではなく、確実なのだと

球子は少しむっとした、難しそうな顔をして

悩ましそうに目を逸らす

長考するような素振りではあったけれど、

そんな柄ではないと思ったのか

煩わしそうに「あーっ」と、声を上げた

球子「夏凜達があれだけ言ってきかないのにタマに上手いこと言えるかーっ!」

天乃「っ」

ガシガシと頭をかいた球子はいきり立って

球子「タマが言いたいのは一つだけだ!」

びしっと、天乃を指さす

球子「みんなを信じられないのかっ!?」

絶叫するかのような、大きな声だった


球子は難しく考えるのは、得意じゃない

長々と悩むことも苦手だし、好きじゃない

だから、単刀直入に疑問を問う

確かに危険な戦いだと思うし、

死の危険が伴う非常にリスクの高いものであると球子も思う

だが、みんなはそれを承知の上で

それでも頑張ろうとしているのだ

沙織が言ったように、天乃を含めた全員の願いの為に。

その決意と覚悟をなぜ信じることは出来ないのか

球子「普段の天乃でも渋るかもしれないけど、そこまで言うならって言ってたはずだぞっ」

千景は答えを得ているようだった

九尾も答えを知っているかもしれない

本当なら自分が出ていく必要だってなかったかもしれない

そんな無意味なことを考えようとする頭を振る

球子「こういうときは信じてやるもんじゃないのかっ?」

天乃「…………」


1、祟りの重さを見ていたから、怖いのよ
2、信じる以上に不安なの
3、今までのように甘くはないの
4、今までは無理をすれば助けに行けた。でも、もう行けないの


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


沙織「いい方法があるよ」

天乃『いい方法?』

沙織「そう。みんなの士気を高めて確実に帰ってきてもらう方法」

沙織「その名も……おあずけ!」

東郷「帰ってきたら食べ放題ですね」


風「ツッコミ」チラッ

夏凜「無理」


では少しだけ


天乃は、球子の真っ直ぐな疑問から電子パッドへと視線を落とす

軽く握るペンは折れそうもない

天乃『信じられる以上に、不安』

みんなを信じられないわけじゃないし

ましてや、信じたくないわけでもない

けれど怖いのだ

だから、信じる以上に不安になってしまう

みんなの決意を聞いても、目の当たりにしても受け入れがたくて

もしかしたらという恐れが、先に出てくる

球子「みんながあんなに言ってるのにか?」

天乃『覚悟してるのも、怖い』

球子「なんでだ? 覚悟してるってことはそれだけ強く考えてて、頑張るぞってなってるものじゃないのか?」

天乃『その結果の為に、何でもできる』

球子「でも――」

天乃『実際に出ていくつもり』


夏凜と樹は本気だ

球子もそれは分かっているからか、

天乃の言葉を否定することは出来ず「確かになぁ」と呟く

認めたくはないが、認めるしかない

絶対に避けて通りそうなみんなが、それをしようとしている

その覚悟を心強く思っていた球子だったが、

考えを変えてみれば、途端に危うさが増していく

それでも、球子の表情は曇る

球子「でも。でもだぞ……それは悪く考えた場合の話じゃないのか?」

天乃『無視は出来ない』

ポジティブに考えるのは大切だし、

ネガティブになりすぎるのは良いことではない

だが、ポジティブ一辺倒も良くはなく、

ネガティブな考えを一切無視してしまうことも良くないことだ

天乃『まだ大丈夫。それが命取り』


球子「それは、むぅ……」

分からなくもない反論

いや、むしろ納得できてしまう

みんなは本気だ

本気で、天乃を悲しませてしまう策を行使しようとしている

その覚悟の重さは簡単には口にできないほどで

きっと、何が何でも成し遂げようとするだろうと球子は思う

そもそも、成し遂げることが出来なかったら望みが潰えるのだから

無理をしない理由はない

球子「言われてみれば確かに」

天乃『だから止める』

球子「そ――いやいやいや!」

そうだな。と

頷きかけた頭を振りに振って、考えを改める

言いくるめられてどうするのか

すぐそばで見ている千景の睨むような視線を感じた気がして、振り向く


球子「そうなったら、二人とも出て行っちゃうんだぞ」

天乃「………」

力を失わせ過ぎて死なせてしまうくらいなら、

これ以上は与えて貰うことをやめて、

現状の持ちうる力で何とかしようとしている

止めることなんて無理だし、

それを手伝ってくれる人なんて、存在していない

ある意味では、みんなが天乃の敵のような状態なのだ

球子「怖いのは分かる。不安なのも……見てれば良く分かる」

でも。と、球子は言う

球子「みんなにとっては、それよりも天乃が血塗れになっちゃう可能性が不安で」

きっと。と、続ける

球子「二度と目を覚まさないかもしれないってことが、怖いんだ」

園子の時がそうだったんじゃないか?

そう問いかけた球子は、悲し気に首を振る

球子「それとな。やっぱり、タマはちゃんと見送って貰いたいって思う」

天乃『見送る?』

球子「仲違いしてる最終決戦なんて、それこそ嫌だからな」

祟り以上に祟りらしい悩みを抱えての戦い

それこそ不安になると球子は言って、

黙り込む天乃に、「だから割り切ってくれないか」と、求めた


√ 2月7日目 夕 (病院) ※水曜日


01~10
11~20 園子
21~30
31~40
41~50 九尾
51~60
61~70
71~80 友奈
81~90
91~00 歌野


↓1のコンマ


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


夜は固定で勇者部のみんなとの交流


では少しだけ


√ 2月7日目 夕 (病院) ※水曜日


天乃「もう、こんな時間なの?」

余りにも時間がない

あと数時間後には、決断しなければならない

沙織も、球子も

当然と言えば当然だけれど、天乃とは正反対の考えだった

樹を見捨てるべきだと言う考えだった

もちろん、見捨ててしまえばいいなんて考えではなく

それが最良な案であると考えてのもの

樹を失いたいわけではないし、

苦しむことを良しとしているわけでもない

でも、結果として

それに似たことになってしまっているのは、否めない


天乃『………』

考えを、電子パッドに並べていく

書いて、書いて、

独り言のように書き並べて、消して……ため息をつく

天乃『どうしたらいい?』

見ている者はどこにもいない

呟きを消して、また書く

天乃『二人がいなくなる』

誰かに言うのか

自分に言うのか

文字を浮かべる電子パッドを、強く握る

以前の力ならミシミシと音を立ててしまうほどに強く握っているつもりなのに、

手が痛むばかりで、音は鳴らない

自分の無力さを、痛感させられてしまう


天乃「っ」

樹を諦めるか、二人を失うか

いまの天乃にあたえられた選択肢はその二つ

今日の夜、天乃の答え次第では

樹と夏凜は病院から出て行ってしまう

あれは脅しだが、嘘ではない

本気で出て行こうとしている

その場合、樹だけでなく夏凜までもが祟りを背負った状態で戦うことになる

天乃「………」

それはダメだ

でも、樹を見捨てると言うのも……

軽く、喉を擦る

声が出せたら、もっとうまく説得できたのだろうか

もう少し余裕があれば、いい考えが浮かんだのだろうか

球子の言った普段の天乃なら。と言う言葉が少し、心に残る



1、精霊組
2、みんなのところへ
3、それでも私は、みんなを救いたい
4、どうして、こうなっちゃったのかしら
5、イベント判定


↓2


どうしてこうなってしまったのか。

どちらが傷つくことしか解決しない問題

そんなものを抱えてしまったのか

祟りを背負うことになったのは、奉火祭を止めたからだが

それを止めるよう求めたのは天乃で、

巫女が奉火祭の犠牲になる理由の一つに、天乃がいる

考えれば考えるほど、自分の責任が重くなっていきそうな感じがする

自分の我儘が絡んでいそうな気がする

もしもし、奉火祭の時

自分のことは良いからとこの身を差し出していれば

こんなことにはならなかったのだろうか

みんなで生きていきたいなんて我儘を口にしなければ

天乃『……私』

どれもこれも、天乃が関わっている

それはそうだろう

天乃は常に、重要なことに関わらされてしまっているのだから

だが、それを解決しきれていないのは……

天乃『無力だから』


みんなは違うと言うだろう

そんなことはないと、否定するだろう

今抱えている悩みは考えられていなかったことで、

普通なら解決することなんて出来なかったことで

まだ子供である天乃には、手の余るようなことだった

そもそも、それを抱えさせられていること自体が……問題だ

天乃「……」

確かに考えが足りなかった部分もある

だが、こんなにも追い込まれる状況に陥ってしまった理由は、あまりにも理不尽だ

奉火祭だって、勇者たちの抵抗もあるが

大赦発案による、天の神への抵抗も大きく影響している

その責任を負わされかけたのが天乃や東郷で、数名の巫女

それを救った結果が、祟り

天乃『理不尽』

命を救うのだから、命を差し出せ

等価交換として考えれば確かに当然の結果だが……認めがたい


もっと力があれば。そう悔やまれる

神をも討つことのできる力

それだけでは、足りなかった

天乃『死ぬ』

その物足りない、天乃にとっては無力とさえ思える力ですら

下手をすれば死ぬほどの反動がある

であれば、無力ではない力は……確実に死ぬ力だろう

天乃「………」

それはきっと、陽乃が持っていた力だ

久遠家が代々背負い続け、それでも早死にしていくことを止められなかったほどの呪い

その源を握っていた、久遠陽乃と言う少女の力

それは完璧だっただろう

確実に敵を討つことが出来ただろう

守りたいものを、守ることが――

九尾「出来なかったぞ」

天乃「!」

九尾「あやつはその力を持っていても、それは出来なかった」

どこからともなく姿を見せた九尾は、

天乃の考えを読んでいるように答えて、天乃を見る

九尾「だからこそ、あやつは力を二つに分けた」

それは、大きな一つでは無力であると分かったから

それでは何も守ることは出来ないと悟ったから

だから、一つの大きな力を二つの力にした

九尾「理由は、主様ならば分かることであろう?」


では、途中ですがここまでとさせていただきます
明日は出来れば昼頃から


陽乃「止めてよ、私のことを引き合いに出さないで」

九尾「じゃが、事実じゃろう?」

陽乃「そんなわけないでしょ。私はただ、子供に渡しきれないから捨てただけ」

九尾「……子孫の再会。それを夢見たはずじゃが?」

陽乃「うるさいわよ。バカ」


では少しずつ


天乃『どうして』

九尾「妾がここに来た理由? それとも、陽乃がそれをした理由かや?」

怪しく、妖狐らしい笑みを浮かべる女性は、

瞬く間もなくその姿を九尾の狐へと変え

稲穂のような匂いが病室を満たしていく

九尾「前者ならば、愚かなる我が主様の心に答えるため」

後者ならば。と、九尾は紅い瞳を揺らす

九尾「陽乃は己が出来なくなったことこそが、分水嶺であると考えたからじゃ」

天乃『出来なくなったこと?』

九尾「人を信じること」

細い瞳が、さらに細くなる

その過去を恨むように、憎んでいるかのように

鋭く怒りの焔を灯しているかのような赤色はうっすらと光を映して――閉じる

九尾「血縁に裏切られ、友に裏切られ……あやつが信じたのは、いや、それすらも信じておらなかったやも知れぬ」

しかし、それが

その結果が、信じることは出来なくても愛することを止められなかった相手の喪失

守れるだけの力はあったはずで、奪い返せるだけの想いもあったはずなのに

九尾「主様は陽乃の後を追うな。妾はそのような結末を見届けるために、ここにいるわけではないのだから」


天乃『信じていないわけじゃない。ただ、みんなを失いたくないだけ』

九尾「そのために、主様は愚かな神々との話をつけに行くのではないのかや?」

天乃『でも』

九尾「主様、神婚の儀は主様を贄として行うモノであることを弁えよ」

みんながどうして、それを承諾したのか

なぜ、そんな命懸けの交渉をさせるための時間を稼ぐことを決めたのか

九尾は軽く鼻を鳴らして、瞳を開く

赤い瞳からは怒りが薄れ、優しさが感じられた

九尾「あやつらが主様を信じておるからであろう? それでも大丈夫じゃと、必ず戻ってくると」

そういった天乃の言葉を信じたからだ

だから、夏凜達は頷いた

最後の戦いに挑むことを決めた

それですべてを終わらせるのだと、覚悟を決めた

九尾「主様も信じてやれ。それでも恐れがあるのならば――早々に、愚かな神々との話をつければよい」

天乃「………」

九尾「ここに命を懸けるのが、主様のすべきことではない。ことを迅速に終わらせることが、主様のやるべきことじゃ」

履き違えるでないぞ。

そういった九尾は、細い前足で、天乃の頭を小突いた


天乃『みんなは、それを信じてる?』

九尾「妾が知るわけなかろう。直接聞けばよい」

しかし。と

九尾は含みを持たせるように呟いて、ちらりと天乃に目を向ける

よやく、ただの反論以外の言葉が出てきたと、

その瞳はわずかに見据える

九尾「救いたいと言うのならば、それ以外に道はない」

天乃「………」

九尾「穢れの乱れで平静さを失ったな」

くふふ……と、九尾は馬鹿にする笑みを零す

九尾からしてみれば、滑稽だったかもしれない

喜劇よりも喜劇らしい、みっともないことだったのかもしれない

だが、それ以外に道はないと言うのは事実で

ただただ強情でいても失うだけで

きっと、「なら私も頑張るから」と、

神樹様との駆け引きに努めると意気込むべきだったのだ


天乃『私にできると思う?』

九尾「知らぬ。じゃが、主様はやる女じゃろう?」

やれるかやれないかではなく、

やると決めたらやる人間だと、九尾は思う

それは、今見せていたような強情さではなく、

成し遂げようとする心が見せてくれるもの

九尾「望むのならば、成し遂げてみるが良い。妾はそれの観測者として、共にあろう」

天乃『傍観は、許さない』

九尾「くふふっ、妾がこのような祭り事を前にして指をくわえているだけの女狐だとでも?」

手を貸してやるさ

足を貸してやるさ

力を貸してやるさ

主様がそう望むのであれば、いくらでも

惜しむことはない、拒むことはない

それでこれからも先へと進むことが出来ると言うのであれば、いくらでも

九尾「……妾は主様の力じゃ。望め。されば与えよう」

それが、愛してしまった者の務めであると。

九尾は笑みを浮かべて、喉をならした


√ 2月7日目 夜 (病院) ※水曜日


01~10
11~20 園子
21~30
31~40
41~50
51~60 園子
61~70
71~80
81~90 園子
91~00


↓1のコンマ


√ 2月7日目 夜 (病院) ※水曜日


天乃「っ……」

まだ痛みの残る喉を擦って、息を吐く

完治にはまだ時間が掛かるだろう

だが、神婚の儀までにはきっと……間に合うはず

天乃『誰か、手伝って』

精霊を呼ぶにも声を出せず、

電子パッドにSOSをかいて、誰もいない空間に向ける

千景「仕方がないわね。私が連れて行くわ」

天乃『若葉達は、嫌?』

千景「……気づいたら、私の当番のようになっていたの」

困ったように笑った千景は、

車椅子を広げて、天乃を引く

何度かやっているおかげか、手慣れていて

危なげなく、車椅子へと移された

千景「敵対しているから、顔を合わせ辛いのよ」

そんなこと気にしなくていいのに。と、

千景は笑いながら言って、天乃へと目を向ける

千景「答えは決まったのね……それでいい?」

天乃「……ええ」


千景に連れられて、みんなのいる病室へと向かう

樹を諦めるか

二人を失うか

それとも、強情に突き通すか

天乃「………」

樹と話して、

みんなと話して、沙織と話して、球子と話して

九尾にまで説得されることになって

天乃「ん」

ちゃんと、考えた

その決定を、みんながダメと言うのならダメなのかもしれない

みんなもまた、解決を求めて考えているのだから

天乃『九尾との話、聞いてた?』

千景「……えぇ」

天乃『陽乃さんは、後悔してた?』

千景「さぁ? 私はあの人のことを貴女よりも知らないから」

でも。と、千景は笑う

千景「あの人も優しい人ではあったわ」

今思えばだけどとちょっぴり後悔したように言った


夏凜「来たわね」

天乃『来なかったら、いなくなっちゃう』

昨日はなかった、夏凜の分の出ていくセット

樹のと並べておいてある荷物に目を向けた天乃は、

電子パッドを夏凜に向けて、首を振る

それは何もしなかったのと同じだ

決断から逃げたのと一緒だ

天乃『ちゃんと、決めた』

風「そっか」

友奈「久遠先輩、あのっ」

覚悟を決めていても、心に嘘をつけない友奈の心配そうな表情

天乃は優しく笑みを浮かべながら、書き記した言葉を向ける

天乃『大丈夫』


1、樹、本当にやれるのね?
2、悪いけれど、夏凜。貴女が祟りを背負って頂戴
3、貴女達に、どんな策があるの?


↓2


天乃「……」

名前を呼べないもどかしさを感じながら

樹へと目を向けて、手招きする

天乃『樹、本当にやれるのね?』

樹「やれます」

考えなかった

迷わなかった

すでに済んでいる覚悟

ゆえに活力のある声で、はっきりと答えた

樹「絶対に、やられたりなんてしません」

天乃『祟りは危険』

樹「それでもです」

覚悟の強さを示すように笑みを浮かべて見せる樹

風も夏凜も、東郷も

誰も口を挟まずに、見守る

それが、みんなの信頼を表しているようで

天乃は笑いそうになった喉を抑えて、口元を綻ばせる

天乃『なら、私も信じてあげる』


友奈「久遠先輩っ」

天乃『確かに、これが最善』

夏凜を万全の状態の持っていき、

勝率を少しっでも高くする

そうすることで、より確実に防衛できるようにしたうえで

天乃が神樹様との神婚の儀を介した対話を行う

天乃『でも、先に負けたら世界を滅ぼす』

神樹様による人類の救済などではなく

天の神による侵攻でもなく

天乃の持ち得る力のすべてを使い果たして、

穢れの中にこの世界を閉じ込める

そうなれば、世界は神々の力に干渉されることなく飲まれ……消えていくことだろう

天乃『約束。死なない』

夏凜「死んだら元も子もないっての」

東郷「初めから、死なないための策ですよ。久遠先輩」

友奈「大丈夫です久遠先輩、私達の想いは何にも負けたりなんてしません」


樹「久遠先輩、神樹様の説得をお願いします」

天乃『うん』

神婚の儀を成立させてしまえば、

人類は神の眷族となって、救済される

だが、それは人間としての形は保てなくなり、

人としての幸せは訪れない

それでもいいと、思う人はいるかもしれない

苦しいこと、辛いこと、悲しいこと

それを味わわされることはなくなって

得体のしれない化け物に食い殺されることも無くなって

もしかしたら、その方が幸せなのかもしれない

それが嫌だと言うのは、まだ年端もいかない少女たちの我儘でしかないのかもしれない

天乃『何とかして見せるわ』

だが、それでも天乃たちは生きていきたいのだ

困難なことがあっても一緒に乗り越えて

大変なことも一緒に考えて

みんなで生きていきたいのだ


天乃『夏凜、明日ね』

夏凜「……分かった」

今日一日を消費してしまうのは大きいけれど

樹にやらない分、時間的な余裕はある

話せるようになっているかは怪しいけれど

きっと、夏凜に力を与えるくらいの余裕はあるはずだ

それさえできれば、残りは休んでいればいい

天乃『友奈、心配させてごめんね』

友奈「大丈夫です……信じてましたからっ」

ちょっぴり泣きそうな笑顔

不安にさせたし、怖い思いをさせた

風と違って、性的なこともしてあげられていない

天乃『全部終わったらね』

友奈「……?」

天乃『ね』

友奈「……っ」

口にはしなかったことを悟ったのか

友奈ははっとした驚きを見せて、顔を赤くする

天乃「………」

頑張らないと。

そう、心に強く思う


1日のまとめ

・   乃木園子:交流無()
・   犬吠埼風:交流有(信じる)
・   犬吠埼樹:交流有(信じる)
・   結城友奈:交流有(信じる)
・   東郷美森:交流有(信じる)
・   三好夏凜:交流有(信じる)
・   乃木若葉:交流無()
・   土居球子:交流無()
・   白鳥歌野:交流有(信じるってこと)
・   藤森水都:交流無()
・     郡千景:交流無()
・ 伊集院沙織:交流有(みんなの願い)

・      九尾:交流有(久遠陽のが託した力)
・      神樹:交流無()


2月7日目 終了時点

乃木園子との絆  106(かなり高い)
犬吠埼風との絆  131(かなり高い)
犬吠埼樹との絆  113(かなり高い)

結城友奈との絆  145(かなり高い)
東郷美森との絆  144(かなり高い)
三好夏凜との絆  170(最高値)
乃木若葉との絆  112(かなり高い)

土居球子との絆  59(中々良い)
白鳥歌野との絆  57(中々良い)
藤森水都との絆  49(中々良い)

  郡千景との絆  59(中々良い)
   沙織との絆  146(かなり高い)
   九尾との絆  80(高い)

    神樹との絆   ??(低い)


√ 2月8日目 朝 (病院) ※水曜日


01~10 園子
11~20
21~30 園子
31~40
41~50 若葉
51~60
61~70
71~80 園子
81~90
91~00 クラスメイト


↓1のコンマ


では少し早いですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から

暫く平日が厳しくなりますが、土日は出来る限り早い時間から進めていく予定です


千景「ねぇ貴女、隠していることがあるでしょう」

九尾「何のことか分からぬな」

九尾「妾は妖狐じゃ。騙りも人の数だけしてきたぞ」

千景「……そうやって誤魔化して、それでいいの?」

九尾「くふふっ、さて。どうかや?」


では少しだけ


√ 2月8日目 朝 (病院) ※水曜日


神婚の儀を行うまで、あと4日

今日夏凜に力を渡すのであれば、3日間休むことが出来る

それだけあれば、体調も回復することだろう

問題は、園子がまだ目を覚ましていないことだ

天乃「………」

園子が一番時間がかかることは分かっていたことだけれど

それでも、時間がかかりすぎているのではと不安になる

園子ならば大丈夫。そう信じてはいるけれど、

園子が世界を守るために繰り返した満開の数は勇者部のそれを超えており

限りなく神に近づいているため、天乃の力ははっきり言って天敵だと言っていい

死ぬことはないはずだが……長引くことは免れない

天乃『まだ時間がかかる』

最悪の場合、園子は間に合わないかもしれない

そうなれば、戦力の低下は著しい

だが、みんなもそれは覚悟しているだろう

最悪の場合は園子が参加できなくなる

それも覚悟のうえで、樹の祟りをそのままに戦うことを決意しているはずだ

天乃『だからこそ、間に合って欲しい』


園子のいない最悪のパターンを想定しているみんなにとって、

園子を戦力として数えられることはこの上ない幸運

それだけでも、戦闘中の安心感は段違いだ

園子をむしばんでいるのは神樹様の力と祟りと天乃の力

天乃の力だけであれば天乃にもできることがあるのだが

ここで何か手を加えても、園子には悪影響しかない

それが分かっていて、何もできなくて

そのもどかしさに、息を飲む

天乃『・・・/|』

トン、トン、トンと電子パットを叩く

文字ですらないものが増えていく中、

天乃は喉を確かめるべく息を吐いてみる

今度は息を吸って、喉を通る空気の違和感に顔を顰めた

まだ、無理らしい



1、精霊組
2、みんなのところへ
3、イベント判定


↓2



01~10 夏凜
11~20 友奈
21~30 風
31~40 若葉
41~50 千景
51~60 東郷
61~70 歌野
71~80 園子
81~90 樹
91~00 クラスメイト


↓1のコンマ


電子パッドを叩く音ではなく、扉をたたく音が部屋に響き、

返事をしたくても出来なくて、電子パッドに「入れて」と書き記す

それからすぐにドアを開く音が聞こえて

樹が、病室の中に入ってきた

樹「久遠先輩……まだ、声は厳しそうですね」

天乃『なにしてるの』

何しに来たのかではなく、何しているのか。

そう問う天乃は顔を顰めて、文字パッドのボタンを押して、書き直す

天乃『出てきたら危険』

樹「すみません、久遠先輩に会いたくて」

天乃『昨日も会った』

樹「それでもです」

自分でも困ったものだと言わんばかりに、

樹は苦笑いを浮かべながら天乃へと近づいて、椅子に腰かける

樹「怖いとか、不安とかではないんですけど……最終決戦だと思うと、少しでもって、思って」

違うかもしれません。

樹は言葉半ばで、自ら取り消す

樹「夏凜さん達は特別なことをして貰えるから、ちょっとだけ欲張りたいんです」

断ったのは自分なのに。と、樹は困ったように笑う


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日は恐らくお休みになるかと思いますが

出来れば、通常時間から
出来なければ、明後日、通常時間を予定しています


では少しだけ


天乃『出ていくなんて言ってたくせに』

樹「あはは……」

天乃『お断りします』

樹「そっそう……です、よね」

全面的に自分が悪いと考えているのだろう

樹は反論したりなんだりすることはなく、

申し訳なさそうな表情で呟くと、少しだけ身を引く

樹「あんなことして、何言ってるんだって話ですよね」

天乃『そう。怒ってる』

樹「っ」

天乃が話せないから、目を離せない

電子パッドと一緒に見える目は、感情があった

天乃『出て行ってたら、その欲求はどうなるの?』

樹「我慢、するしかなかったと思います」

天乃『それで祟りを背負う?』

樹「はい」

天乃「………」

樹が頷くと、

天乃は少し過剰に電子pっ度のボタンを押して、別の言葉を書く

勢い付いた筆圧は少し、大きい音がして

天乃『バカ』

言葉は、単純だった


天乃『そういうの嫌い』

樹「ごめんなさい」

悪いことだと言う自覚はあって、

自分にとっても良くないことであるという痛みはあって

でも、それでもと言う覚悟で行った

樹「でも、必要だと思ったんです」

そうしなければ天乃が無理をしてしまうから

今のように怒られることすらなくなって、

二度と話すことも出来なくなってしまうと思ったから

悪いことをしたという罪悪感がある

けれど、後悔はしていない

樹「……でも、久遠先輩が受け入れてくれて」

安心しちゃったのかもしれません。と樹は呟く

手持ち無沙汰な指先は左右で絡んで、

意味もなく爪先を撫でては指の腹を摘まむ


樹「………」

天乃の電子パッドの文字が変わらないのをじっと見つめていた樹は

おもむろに首を振ると、天乃をまっすぐ見つめる

罪悪感滲む樹の表情は、相変わらずだ

樹「それと、このままじゃ嫌だなって思ったんです」

天乃『このまま?』

樹「その……喧嘩したまま、みたいな感じだったから」

それも覚悟の上ではあったけれど

でも、それが必要なくなったのなら

そんなもやもやも晴らしておくほうが良いと思ったのだ

樹「喉も……私のせいですよね」

天乃「…………」

樹「っ」

ここまでになるなんて思わなかった

でも、それでは許されないと、樹は唇をかむ

樹「ごめんなさい」



1、別に私は謝って欲しいわけじゃないわ
2、謝らなくていい。ただ、その責任を取りなさい
3、罪悪感を感じるくらいなら、やらないで
4、許さない。そう言っておけばいい?


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


夏凜「結局、怒るのは心配してるからなのよね」

風「そこが天乃らしいと言うかなんというか」

東郷「久遠先輩も、穢れのことがなければ……」

友奈「でも、久遠先輩はずっとその問題が残るんですよね」


東郷「つまり、えっちなことし放題なのでは?」

沙織「時々、東郷さんは結城さん以上に前向きなんじゃないかって思うことがあるよ」


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は出来れば通常時間から

明日も難しければ、明後日の再開になります


遅くなりましたが少しだけ


天乃「ぁ……」

これは自分の言葉で言うべきだ

その意思はあっても傷ついた喉にはその力はなく

天乃は漏れ出た吐息のような声ですら痛みを感じる喉を擦って、ペンを握る

天乃『謝らなくていい。ただ、その責任を取りなさい』

樹「久遠先輩……」

天乃『絶対に』

樹「っ」

嫌がることをした

嫌われても仕方がないことをした

許して貰えないようなことをしようとしていた

それを、天乃は謝らなくて良いと言う

樹「はいっ、この気持ちに誓って」

樹は自分の胸元に手を宛がって、言葉を紡ぐ

憧れの先輩で、最愛の先輩

その人を傷つけることさえ厭わなかった想いの強さを、改めて

樹「必ず、久遠先輩のところに帰ってきます」


天乃『帰らなかったら世界を滅ぼす』

樹「滅ぼさせるんじゃなくて、滅ぼすんですね……」

天乃『ええ、私の手で』

大切な子供もいるけれど

二人と同じように、樹たちのことも大切だから

それが欠けるのは、認められない

それは我儘だ

無関係な人たちにとっては悪魔のような所業と言ってもいい

だから、自らの手でやるのだ

天乃『よろしく』

樹「軽く言わないでくださいっ」

天乃『帰ればいい』

樹「それはそうですけどっ」

だからと言って、

世界を滅ぼす否かの命運を

軽く口にされては困ると樹は困ったように言った


樹「久遠先輩はほんとに、無茶ばっかり言いますね」

今回は自分たちも無茶を言ったからだろう

あまり強くは言えないけれど、

でも、その言葉を言うことが出来ることを尊く思う

まだ、無茶だから

無茶をする程度なら、取り返しがつかなくなることはないから

樹「でも、それだけ本気だってことですよね」

天乃『ええ』

樹「……久遠先輩、神樹様をよろしくお願いします」

天乃『神樹様?』

樹「神樹様は私達にとっては、敵のようなものかもしれません」

でも、だけど。と

樹は考えに考えて、口にする

樹「神樹様が守ってきてくれたんです。ずっと、ずっと……枯れそうになる今まで」

天乃「………」

樹「だから、救ってあげてください」


神樹様に対する天乃の感情を知らないわけではない

でも、これで最後なのだ

すれ違いもあった

救いきれないものもあった

けれど、300年間人類の傍に居て守り続けてくれた恩がある

最後には労いがあってしかるべきだ

樹「我儘だとは思います……お姉ちゃん達はそう思っていないかもしれません」

天乃『貴女だって』

樹「それでもです」

天乃『良いの?』

樹「憎んでばかりじゃ、前を向くことは出来ませんから」

父と母を失った

その悲しさをにじませながらも、

樹は力強く笑みを浮かべて見せる

樹「私達はこれから、神樹様のいない世界に生きるんです。前を向かないとっ」

天乃『そうね。言う通りかもしれない』


では、途中ですがここまでとさせていただきます
明日は出来ればお昼ごろから

今後は可能なら土曜日も早めの再開を予定しています


では少しずつ


樹「お願いします。久遠先輩」

天乃『正直、自信はない』

銀のことがあってから、

天乃はあまり、神樹様のことをよく思っていなかった

だから、神様をも救痛いだなんて気持ちになったことは無かったし、

労おうだなんて考えを持とうとすらしていなかった

そんな自分が神樹様の救済を求められたところで

救えるだなんて自信を持てるはずがない

天乃『でも。頑張るわ』

樹「はいっ」

頑張らない理由はない

樹の言う通り色々ありはしたけれど

それでも300年間守ってきてくれた神様だ

天乃『最悪嫁なってあげてでも』

樹「それはダメですッ!」

天乃『じ』

樹『 だ め で す ! 』

電子パッドを奪い取った樹は、

画面いっぱいに大きく書いて、拒絶する

神樹様の嫁になどなったら、本末転倒だ

天乃『じょうだん』

樹「冗談でも駄目です」


天乃『分かってる』

樹「久遠先輩のことですから、神様も手懐けてきそうな感じはしますけど……」

天乃『それは出来ない』

樹「出来るかもしれませんってだけです」

九尾や、悪五郎だって手懐けた……と言うべきかは分からないが

仲良くしていたし、

樹が一番世話になっている歌野が元にしているのは稲荷神

その名の通りに、神様だ

もしかしたら、神樹様の持つ本当の力を携えて戻ってくるかもしれない

そんなことをも思って、樹は微笑む

天乃なら、やりかねない

樹「お互いに頑張りましょう」

天乃『ええ、頑張る』

天乃たちみんなの為に

この世界に住むすべての人々の為に

そして、守り続けてくれた神樹様の為に


√ 2月8日目 昼 (病院) ※水曜日


01~10 夏凜
11~20
21~30
31~40 園子
41~50
51~60
61~70 若葉
71~80
81~90 園子
91~00 


↓1のコンマ

√ 2月8日目 昼 (病院) ※水曜日


天乃「ん……んんっ」

まだ、声は出せそうにはないけれど、

夏凜に力を渡す程度の余裕はあるだろう

今からでもいいし、夕方でも夜でもいい

えっちなことをするのならば夜の方がいいかもしれないが

今の天乃にそれは出来ないからいつの時間でも問題はない

声の回復を待つと言うのなら

あと一日くらいなら休む余裕はあるが。

天乃「………」

どうするべきかと、天乃は思う

樹も言っていたように、

神樹様を救うか否かには賛否両論があることだろう

それについて、天乃は救おうと考えているが

そのことを一応みんなにお話しておく必要もあるのではないかと、考えていた


説得から、救済へ目的は変わることになった

その時間を稼いでくれるのはみんなだ

そのことを話しておいた方が

あと腐れなく神樹様を救うことが出来る

もちろん、それは説得がうまく言った上で

神樹様を救済できることが前提の話になる

場合によっては説得だけで終わり

神樹様を救うことなどできないかもしれない

そもそも、何が神々の救いになるのか。それすらも分かっていないのに。

天乃『1、2、3、4、5、6』

候補を書こうとして、

何も書くことが出来ずに時間だけが過ぎていく

それだけは、時間の無駄だ

何もしないのなら、眠っていたほうが良い


1、精霊組
2、夏凜に力を渡す
3、神樹様の救済について、みんなのところへ
4、イベント判定
5、休息


↓2


天乃「……」

そうね。と、自分の考えに頷く

力を分け与えることも、

自分たちが何を守ろうとしているのかを伝えることも

どちらも大切なことだ

それなら、まずは力を与える前に

その力を振るう理由を話すべきだろう

それを納得してもらって、受け入れて貰って

それからだ

天乃の穢れの力は

取り込んでしまえば影響も最小限に落ち着くが

与えられたばかりの時は、非常に強力だ

その状態で不安の種を与えるのは……いけない

天乃『何度もごめんなさい、手伝って』

千景「車椅子でいいの?」

天乃『意地悪言わないで』

千景「……そうね」

今は、見栄を張るよりも回復を優先する

そのために、天乃は車椅子へと体を移した


千景「樹も変わったわね」

天乃『でしょう』

千景「犬吠埼さんよりも、いい大人になるわ」

まるで、樹が自分の妹であるかのように優しい笑顔を見せる

初めは弱弱しかった

非力で、軟弱で、姉の後ろに隠れているような少女だった

それが、たった一つの大きな想いを抱いて強くなり、

誰かの後ろではなく、前に行くことを選ぶようになった

憧れていた姉と先輩達

勇者部の中で唯一の1年生である樹は、

多くの背中を見てきたからこそ、その誰よりも立派になれるはずだと、千景は言う

千景「腑抜けていられないわ。私も、貴女も」

天乃『もう、あの子は私の前を行ける子よ』

千景「神樹様のことなら、そうね。貴女よりも立派だった」

天乃『私は憎さを捨てられなかった』

千景「それでも救うことを決めたのなら、それでいいと思うわ」


千景「あの子が言っていたのは正しい」

憎んでばかりでは、前を向くことは出来ない

まさにその通りだった

憎んでばかりだったから、

本当にみるべきものも見ることは出来なかったし

大事な場面でその力を振るうことは出来ないどころか

力の使い道を誤って、仲間を傷つけてしまうことにさえなった

千景「憎むなとは言わない。けれど、憎むだけでは救うべきものも救えなくなってしまう」

天乃『そうね』

千景「だから、貴女の英断には……感謝するわ」

先日、二人を救うか否か

その意見で分かたれていたころとは正反対

背中を押される形で病室へと向かう

千景「応援しているわ、久遠さん」

天乃「ん」

千景「私達は貴女の、味方よ」

千景の明るい笑みに、天乃は「ありがとう」と、電子パッドを向けた


風「神樹様の救済!?」

天乃『色々あったけど、守ってくれていたから』

樹「私が提案したんです」

東郷「神樹様の救済なんて、そんなっ」

いくら守ってくれていたとはいえ。と不満げな声を漏らす

色々あった

その一言に込められたものは

東郷にとって多く、重い

それは天乃と同等なほどに

だから認められないと言いたいのだろう

そんな東郷の隣で、友奈は口を開く

友奈「分からないこといっぱいあるのに、頑張ってくれたんですよね」

間違いはあった

すれ違いがあった

失敗があった

でもそれは人間にとってのものであり

神々にとっては、それが考えられる最善だったのかもしれない

友奈「私は賛成です。それでこそ――久遠先輩だと思うから」


では少し中断します
再開は20時ころから


ではもう少しだけ


夏凜「正直、神様の救済なんて人の手に余ることだと思う」

強者に対し、弱者が「私が護る」等と言うようなもの

受け取る相手によっては

見下しているのかと激高したくなることですらあるはずだ

説得すべきこの状況下で

そんな気を煽るようなことをしてもいいのだろうか

そんな、悩みはある

夏凜「でも、天乃はそれをするんでしょ? あえて、難しいことをしようっていうのね?」

天乃『そうなる』

夏凜は「そう……」と

夏凜は息を吐くように呟いて、東郷へと目を向けた

夏凜「東郷、あんたは神樹様の救済を認めたくないの?」

東郷「神樹様は私達から大切なものを奪おうとしたわ……そこに、理由があったことは理解しているつもりだけど」

でもそう簡単に、

理由があったのだから気にする必要はない、気にせず救おう

そう割り切ることなんて出来ない

いや、きっとそれだけではない

東郷「私は一度、神樹様を傷つけてしまえばいいと言う考えを持ったわ」

樹「東郷先輩……」

東郷「ええ、あの時のことよ」


東郷「私はそうしないと決めたけれど、その考えを捨てられたわけじゃない」

風「でも、それを言ったらあたし達だってそうなんじゃない?」

沙織「少なからず、あたし達は神樹様を恨んでる。消えてしまえばいいと思ったことだってあった」

一部を除いてはね。

その言葉を言う代わりに、友奈たちを見つめて沙織は苦笑する

悪いことではあるのだが、

今となっては、いい思い出のようなものだ

沙織「でも、そんなあたし達だからこそ、神樹様の救済を求める意味があるんじゃないかな?」

東郷「意味、ですか?」

天乃「ぁ……ぁぅ」

夏凜「あんたは無理に話そうとしなくていいから」

言葉を選んで、記していては時間がかかる

だからと話そうとする天乃を宥めて夏凜が口を開く

夏凜「確かに間違いばっかりだったし、悪いことも考えたでも、その失敗や過ちから学べるのが……人間ってやつじゃないの?」

友奈「私達はずっと、ずっとそうやって進んできたんだよ。東郷さんっ」

樹「神様だって、間違ってでもそのたびに、頑張って変わろうとしてくれていたじゃないですか」

天乃『似た者同士』

東郷「久遠先輩……」


本当に良いんですか?

そう紡ごうとした口は、動くだけ動いて息を吐くだけに留まった

それはきっと愚問なのだろう

みんなだって、神樹様を恨んだ瞬間があって

心のどこかに後ろめたさを抱えている

勇者部の中では最も神樹様を憎く思ったであろう天乃でさえ、

それが必要なことだと考えている

絶対に死なない加護

人間としての尊厳を傷つけるものではあったが、

それだって、銀を失った天乃たちを憐れんだからこその力

満開による代償

それで散華していたのは勇者だけでなく神樹様もだった

常に、考えてくれていた。常に傷ついていた

まったく別種の、異質な存在のことを理解しようとしてくれていた

東郷「……信じようとしない相手を、信じることなんて出来ませんか」

東郷は困ったように笑うと、天乃を見つめて頷く

東郷「そうですね。神樹様の救済……すべきだと思います」


東郷「300年間、神樹様は私達を守ってくれていました」

みんなが言っていたように、

過ちを犯したこともあるだろう

間違いをしたことってあるだろう

だが、それは人間も同じだったはずだ

実態がある分、

醜い争いもあっただろうし、護る価値を疑わしく思わせるようなことだってあったはずだ

それでも、守り続けてくれたのだ

感謝すべきだろう

救えるのならば、救うべきだろう

東郷「ただし、久遠先輩これだけは約束してください」

天乃『なに?』

東郷「感謝すると言って、体を差し出すようなことは絶対にしないでください」

天乃『生贄になるつもりはないわよ』

東郷「そうではなく……」

天乃「?」


1、大丈夫よ。できれば救済するだけだから
2、みんなは出来ると思う?
3、なるべく諦めない。私も、みんなもね
4、もしかしたら、神樹様の力も継承しちゃうかもね

↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


天乃『似た者同士』

東郷「つまり、神樹様も久遠先輩の体を堪能したいと思ってる……?」

東郷「きっと神婚とか言いながら神の遣いと言われている白蛇で緊縛するみたいな性的行為に勤しむつもりだわ!」

夏凜「いやいやいや、さすがにそれはないでしょ」

東郷「良く考えて? 久遠先輩と結婚したいなんて言い出す神様よ?」

友奈「た、確かに……」


夏凜「落ち着け」


遅くなりましたが少しだけ


天乃『なるべく諦めない。みんなも私も』

天乃の見せる電子パッドに書かれた心意気

勇者部が掲げる五箇条にも記されている一文を引用したその言葉に

夏凜達は軽くうなずいて「そうね」と返す

なるべく諦めない……では、もしかしたら望み通りの結末にはならないかもしれない

だからといって、無理をしてしまったら

それこそ、望み通りの結果を得ることは出来ないと思うから

沙織「勇者部五箇条一つ、挨拶はきちんと」

おもむろに、五箇条を口にする

求めたわけじゃなく、呟いただけ

けれど、続く

東郷「なるべく諦めない」

風「よく寝て、よく食べる!」

夏凜「悩んだら相談」

友奈「なせば大抵なんとかなるっ」

今ある五箇条、そのすべてを並べて

沙織が口にしてしまったからか、言えなかった樹は笑みを浮かべた

樹「無理せず、みんなが幸せになれること」


風「え?」

樹「必要だと思う」

東郷「確かにみんな無理しすぎたわ。無理を、しようとし過ぎたわ」

天乃はもちろん、

みんなにも思い当たる節があるのだろう

少しだけ黙り込んで、それぞれが頷く

みんなの為にと、それを考えた

けれどそのみんなの中には自分がいなくて

結局、みんなのためになっていなくて。

夏凜「みんなって言うか、自分のことも考えろって話よね」

友奈「……それなら、無理せず自分も幸せであること。かな?」

樹「そうですねっ」

みんなから目を向けられた天乃は

電子パッドに隠れるようにして、言葉を見せる

天乃『みんなで見ないで』

風「別に責めてるわけじゃないわよ。副部長」

夏凜「世界が新しくなっていくなら、ここらで改めるのも悪くないんじゃない?」


沙織「久遠さんが一番言われたことじゃないかな」

東郷「言ったのは私達ですが……私達も、久遠先輩のことは言えませんよね」

思えば。と

東郷は後から付け足すように呟いて、笑みを見せた

あれだけ言っておきながら、無理をしたし

樹や夏凜に至ってはつい最近も無理をしようとした

天乃はみんなのため

みんなは天乃のため

だからと無理をしようとすることが多かったのだと、振り返る

東郷「これから、神樹様の加護は得られなくなります。神秘的な恩恵のない世界はきっと、とても厳しいと思います」

だからこそだ

東郷はそう考えて、続ける

東郷「だから無理は止めて、なるべく諦めないで頑張っていきましょう」

風「無理する前に、相談も大事よね」

夏凜「諦める前にもね」

樹「どんな些細なことだって、困ったら相談が良いと思います」


西暦を生きた勇者達

神世紀を生きる勇者達

そして、長きにわたり久遠家に寄り添ってきた精霊達

多くの味方がいるのだから

きっと、誰かが答えをを持っている

誰かの考えが道しるべとなってくれる

夏凜「あんたの願いでもあるわけだし」

みんなで生きていく

それは、みんなが幸せであってこそのもの

伺うように見つめる夏凜の目を見つめ返して

天乃は小さく息を飲む

天乃『そうかもしれないわね』

反対する理由はなかった

自分が無理をし過ぎた自覚はある

みんなが無理をしようとしていたことへの不満もある

だから、その過ちに似た経験を戒めると言った意味でも

それはあっていいのかもしれないと、天乃は思った


√ 2月8日目 夕 (病院) ※水曜日


01~10 若葉
11~20
21~30
31~40 夏凜
41~50
51~60 園子
61~70
71~80 園子
81~90
91~00 風


↓1のコンマ


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


沙織「久遠さんが一番言われたことじゃないかな」

東郷「一番言われたのはえっちなことをしたい。では?」

風「いや、それは思われた数では一番だろうけど、そこまで言ってなくない?」

東郷「言われずともイ――」


友奈「一番言ったのは【好き】かな」

夏凜「色々言いすぎたし覚えてない」

樹「無視しつつかき消しましたね」


遅くなりましたが少しだけ

√ 2月8日目 夕 (病院) ※水曜日


若葉「まだ、話すのは難しそうだな」

天乃「ぁ」

若葉「無理して話そうとしないでくれ」

天乃『あおった』

若葉「心配なだけだ」

そんなつもりはなかった。と若葉は苦笑する

天乃が無理に話すつもりはなく

茶化すつもりで電子パッドを見せてきたのが分かっているからこそ、軽い気持ちで笑みを見せる

園子はまだ目を覚ましていない

けれど、天乃のように容体の急変といった不安はなく

だんだんと落ち着いてきている

それでも決戦に間に合うかどうかは運次第なところはあるが。

若葉「樹にゆだねてくれたこと、感謝する」

天乃『されるようなことじゃない』

若葉「いや、したいんだ」

本当は天乃が選びたくないことを選んでくれたのだ

その点に関して感謝を述べるべきだろう……と思うのだが

それをうまく言葉にはできなくて、誤魔化すように目を逸らす


若葉「今だからこそだが……もし出て行っていたら陰から見守る予定だったんだ」

だからと考えを変えられても困るけどな。と、微笑む

それでどこまで防げるのか

そこにはかなりの不安が残るが、見守らない理由はなかった

しかし、出て行かないに越したことはなかったし

夏凜だけに集中すると言う選択が最適解だったと今も若葉は思っている

若葉「……天乃にばかり負担をかけてすまないな」

天乃『もう少し労って』

若葉「ふふっ、分かってる」

さっと書き出された言葉は乱れも少なく

ようやく、少しだけ落ち着くことが出来たのだと感じる

労いの言葉はいくらでもかけてあげたいし

労わりたい気持ちも十二分に滾っているのだが

まだまだ、予断を許さない状況なのがそれを認めてはくれない


若葉「私も、この戦いを終えたら労って貰えるだろうか」

天乃『貰えるわよ』

若葉「貰える。か」

天乃『不満?』

若葉「…………」

電子パッドの後ろに隠れるようにして見えている天乃の顔

特に何の打算もない表情を見つめた若葉は

電子パッドの頭を押さえて下げさせると、距離を詰めていく

若葉「そう、だな」

少し前、千景に言われた言葉を思い返す

自分にはそんな手際の良さはないし

それを意識するばかりおかしなことになると避けてはいたのだが。

ここまで来たのだ

これで終わるのだ

だから、少しだけ……と、意を決する

耳元にまで顔を近づけ、首筋から手を回して天乃の頭を支えると

そのまま、願う

若葉「私は天乃に労わって欲しいのだが」

天乃「っ」

若葉「……良いだろう?」

天乃「ん……」


抑えられた電子パッドに書き出す代わりに、頷く

して欲しいから、してあげる

別に嫌じゃないから、する

そうではなく、してあげたいと思う

自分だって、強く求める気はないにしても

若葉に求めたように

ちょっとくらい労わってくれたっていいのでは? と言う気持ちがあるからだ

天乃「………」

それを言葉に出来ないもどかしさを飲み込み、

すぐそばに感じる若葉の存在を受け止める

全てが終われば、若葉達はかつての世界を見るために出ていく

いつか戻ってくるだろうけど、いつ戻ってくるのかは分からない


1、切り札を使うのは良い。でも、無理をし過ぎないでね
2、ねぇ、旅に行くのは子供が安定してからじゃダメ?
3、良いわよ。いくらでも労う……だから、ちゃんと戻るのよ
4、キスくらいなら、今しても平気よ?


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日は恐らくお休みになりますが、明後日は出来る限り早めの再開を予定しています


では少しだけ


天乃『いくらでも労う……だからちゃんと戻ってきて』

若葉「それはこの戦いでの話か? それとも、そのあとの話か?」

天乃『両方』

若葉「……分かってる」

正直に書き返してくれる天乃の根っこの優しさに笑みを見せる

不安は多い

心配も多い

きっと、若葉が経験したかの戦いよりも厳しいものになることだろう

それでも、今度も負けられない

若葉「ちゃんと帰ってくるさ」

天乃『絶対よ』

若葉達は本来、還っていくはずだった

だから、この戦いで燃え尽きてしまっても構わない

むしろ、燃え尽きる覚悟で挑むのではないか

そんな予感がした天乃の、立ちふさがるような電子パッドを、若葉は見つめる

若葉「……絶対だ」

絶対に帰るさ。と、若葉は繰り返した


力を使い果たして消滅しても、還ることは可能だ

しかし、戻れるのは天乃達のもとではない

それは天乃達の望むことではないし

今の若葉達にとっても、望むことではない

若葉「ひなたにはちゃんとした私が一緒にいるはずだ」

天乃『会いたいと思わない?』

若葉「思わないと言えば嘘になる。が、会ってどうにかなるものじゃないし、会えないだろうさ」

天乃の力で、過去の人間の魂を呼び戻せるとして

そこでひなたを呼び戻したとしても、若葉の望むようなことにはならない

会いたいのはかつてのひなただ

まだ、みんながいるころの

なにも、失っていないときのひなた

いや……違う。と、若葉は首を振る

若葉「ただ戻りたいだけだ。あの頃に」

天乃『今の貴女達ならみんなを救える?』

若葉「救えるだろうな……今の千景も一緒なら」


あの頃とは何もかもが違う

何より過去―未来―を知っている

戦いの厳しさは変わらないけれど

分かっていれば手の打ちようもある

もしもそうなれば、この未来の戦いにみんなの子孫がいたかもしれない

そんなことを考えて、若葉は笑う

いくら天乃にも過去へと送り届けることは不可能だ

ただの妄想、ただの妄言

出来ないことだからこそ好き勝手に語ることが出来る

だが、求めてはいけない

若葉「だが、私はこれで良いと思っている。あの時は、天乃が望むのなら……なんて投げやりな言い方をしてしまったが」

過去には帰れない

なら、未来に進んでいくだけだ

そう決めたからこそ、戦いを終えた先で、自分たちの生きていた世界を見に行くのだから

若葉「奴らとは違う意味で、私はこの世界に……天乃達に報いたいと思っている」

天乃『だからって無理はしないでね』

若葉「ああ、もちろん」


若葉「天乃を悲しませるのは、望むところではないからな」

天乃『みんなそう言うの』

若葉「夏凜が良く言っているからだな」

私は関係ないがな。と補足を差し込んだ若葉は、

なんで? と疑問符を浮かべる天乃に微笑む

若葉「夏凜だけが特別だかららしいぞ」

天乃『特別視してるかしら?』

若葉「そうではなく、夏凜だけがほぼ無欲だからだ」

性的な行為を求めて来る子は沢山いるが

ほぼ常にそんなことを求めることなく接しているのは夏凜くらいだ

だから、何かあったとき、あるとき

求められるのは夏凜である可能性が高い

その時に頼られる候補にあがろうとしている……という話を聞いた。と、若葉は話す

天乃『誰に?』

若葉「園子に」

天乃『貴女、西暦時代の詐欺に引っかかったりしなかった?』

若葉「え?」

なぜだと困惑する若葉に、天乃はただ笑みを浮かべた


√ 2月8日目 夜 (病院) ※水曜日


01~10 夏凜
11~20
21~30
31~40 園子
41~50 九尾
51~60
61~70 夏凜
71~80
81~90 園子
91~00


↓1のコンマ


では、ここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼頃から


園子「……ハッ!? 呼ばれた気がした!」

園子「でも怒られる予感がするから寝たふりしておこうかな~」

千景「私が怒るわよ」

園子「ちーちゃん怖い」

千景「誰がちーちゃんよ。誰が」


千景「まったく……貴女、まるで乃木さんをからかう上里さんのようだわ」

園子「そしたら千景さんは、ひなたさんにとってのご先祖様ポジションだって思ってるんだね~?」


では少しずつ


√ 2月8日目 夜 (病院) ※水曜日


あと1、2時間で消灯にもなろうかと言う時間にその一報は来た

扉をあけ放つような慌ただしさもなく唐突に姿を見せた精霊、水都は

ただ静かに、落ち着いてくださいね。と前置きしてから告げる

水都「園子さんが目を覚ましました」

天乃『大丈夫なの?』

水都「まだ意識が戻った……と言う程度ですが、問題はなさそうです」

目が覚めたばかりと言うこともあって

まだ多少おぼろげな感じは否めないが

記憶を失っていたり、

身体機能が著しく低下しているような感じはなかった

水都「もう数日安静にしていれば大丈夫ですね」

天乃『力も安定してるってこと?』

水都「神樹様の力が大分弱まっていますが、久遠さんの力が暴走するような気配はありません」


天乃『私の力が消えてない?』

水都「そうですね……消えてません」

天乃の穢れの力と、神樹様の力

そして、祟りの天の神の力

祟りと天乃の力がぶつかり合って削れていく算段だったが、

天乃の力の方がまだ若干上回っていたのか

それとも、神樹様の力が天乃の力に協力したのか

天乃の力が残留しており

それがまた馴染むまでの時間を要させたのだろう

水都「ただ、残留していると言うだけで特別な何かが起こることはないかと」

天乃『絶対に?』

水都「何か悪影響があるなら神樹様の力が排除すると思います」

天乃『騙すのは得意よ』

水都「いえ、そんな裏はないと思います。次第に溶けて消えてしまう程度の弱弱しいものなので」


天乃『ならいいけど』

水都「園子さんに会いに行かないんですか?」

天乃『もう夜だから』

会いに行きたい気持ちはあるのだが

目を覚ましたからと言って焦って飛びつくのは……と

天乃は意外に冷静な頭で思う

樹を救う分を休息に当てたのだ

感情を優先して下手を討ちたくないと言う抑圧があるのかもしれない

天乃『誰かいる?』

水都「若葉さんがいますよ」

天乃『流石ご先祖様ね』

園子が目を覚ました瞬間に、

真っ先に園子のもとへと向かったのだろう


1、私は休むわ
2、一応……会いに行こうかしら
3、若葉に任せて大丈夫。それより、私は?


↓2


天乃『園子は若葉に任せて大丈夫』

誰もいないなら心配だが、

若葉がいるのなら大丈夫だろうと判断して、自分の体に触れる

天乃『それより、私は?』

水都「はい?」

天乃『私の体はどう?』

水都「……綺麗だと思いますが」

天乃『違う!』

電子パッドをはみ出すほどに大きく、全力で

書きなぐった言葉を水都へと押し付けると

天乃はちょっと残念そうに息を吐いて、電子パッドの文字を書き換える

天乃『私の体にある力はどうなのか聞きたいの』

水都「あっ……えっと、久遠さんの中にある力は、落ち着いてます」

その話だったんですね。と

水都は心の中で失態を飲み込んで、天乃のことを見る

天乃の力である穢れの力は強くはないが弱くもない

暴走するほどの危うさはないし、安定していると言ってもいいだろう

それよりも気になることがあるとすれば……

水都「ただ、久遠先輩の中に神樹様の種がまだ残っていますね」


水都「根付いているとか、そういったことはないですけど……」

天乃『何かありそう?』

水都「発する力は弱いですが、園子さんの中の穢れのように消える様子もないんです」

天乃の体を治すために取り込んだ神樹様の種

体を治す分と、天乃の穢れの力との消耗

それによって消滅したはずの力もまた、残っている

種と言う塊であり、源

それが原因なのかもしれない

水都「久遠さんの体に影響は出ていないので大丈夫だとは思います」

でも、何があるかは分からない。と

水都はあえて口にする

水都「神樹様の力なので悪影響はないと信じたいですが、久遠さんの体との相性は良くないかもしれません」

天乃『でも、どうにかできる?』

水都「無理ですね」

無情だが、こればかりはどうにもできない


神樹様の種は天乃の体に取り込まれており、

体を治すのに用いられた力だ

それを引きはがした場合、

体にどんな影響が出るかなど分かったものではない

それに、体を治すために使った力なら

残っていても悪影響は出ないかもしれない

水都「体の中に種が残っていると言うだけで、勇者として戦っていたころと大きな差は無いと思います」

種と言う形には不安が残るが

現状で悪さをしていないこと

なにより、今の安定している天乃をわざわざ危険に晒す必要はないと水都は考えて

水都「もしかしたら、それが役に立つかもしれません」

天乃『だと良いけど』

水都「救うんですよね?」

天乃『そのつもりよ』

出来たらね。と

天乃はわざと付け加えて、笑みを見せる

そこには憎悪も悪戯心も感じられなくて

水都は「救えると良いですね」と、返した


水都「夏凜さんには、明日やるんですよね?」

天乃『そうね』

水都「残念ながら、久遠さんの完全復活は難しいと思います」

明日の朝になっても話せるほどの回復は望めない

それほどに、苦しい状況に立たされている

子供に与える母乳のことを考えなければ

もう少し回復もできるのかもしれないけれど

それを断つのは子供たちにとって大きな痛手となってしまう

水都「くれぐれも、性的な行為はしないようにしてくださいね?」

天乃『分かってる』

相手は夏凜だ

天乃が求めたとしても、向こうが抑えてくれる

だから大丈夫

天乃はその信頼を胸に頷く

天乃『夏凜はいつだって、私を一番案じてくれるわ』

水都「うたのんと似てますね」

天乃『だからこそ』

水都「心配になりますよね。任せてください。戦いは、私がしっかりと見届けますから」

水都は強く、答える

戦いに参加できない、退いた勇者のため

その場を観測する役目を、巫女である自分が担うと。


1日のまとめ

・   乃木園子:交流無()
・   犬吠埼風:交流有(勇者部六箇条)
・   犬吠埼樹:交流有(神樹様の救済、勇者部六箇条)
・   結城友奈:交流有(勇者部六箇条)
・   東郷美森:交流有(勇者部六箇条)
・   三好夏凜:交流有(勇者部六箇条)
・   乃木若葉:交流有(労わって欲しい)
・   土居球子:交流無()
・   白鳥歌野:交流無()
・   藤森水都:交流有(天乃の体)
・     郡千景:交流有(神樹様の救済について)
・ 伊集院沙織:交流無()

・      九尾:交流無()
・      神樹:交流無()


2月8日目 終了時点

乃木園子との絆  106(かなり高い)
犬吠埼風との絆  132(かなり高い)
犬吠埼樹との絆  115(かなり高い)

結城友奈との絆  146(かなり高い)
東郷美森との絆  145(かなり高い)
三好夏凜との絆  170(最高値)
乃木若葉との絆  113(かなり高い)

土居球子との絆  59(中々良い)
白鳥歌野との絆  57(中々良い)
藤森水都との絆  50(中々良い)

  郡千景との絆  59(中々良い)
   沙織との絆  146(かなり高い)
   九尾との絆  80(高い)

    神樹との絆   ??(低い)


√ 2月9日目 朝 (病院) ※木曜日


01~10 夏凜
11~20
21~30 園子
31~40 友奈
41~50
51~60 東郷
61~70
71~80 園子
81~90
91~00


↓1のコンマ


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば早めの時間から


再開時にもう一つ判定


では少しだけ


√ 2月9日目 朝 (病院) ※木曜日


神婚の儀を行うまで残り三日

夏凜を今日助けても、予定通り二日余る

そんな中で、昨夜園子が目を覚ました

完全回復にはもう少し時間が必要と言う話はあったが

今日と当日を含めれば三日ある

それなら何とかなるだろう

天乃「………」

樹の件を除けば順調

だが、水都の言っていた体内に残っている神樹様の種のこともある

ここで油断は出来ないと、首を振る

夏凜「何か考えごと?」

天乃「!」

夏凜「あー……ノックはしたわよ?」

コンコンっと扉をたたくそぶりを見せた夏凜は、

来客用の椅子を引っ張り出して腰かけると、天乃を見る


夏凜「園子が目を覚ましたらしいじゃない。会いに行かなくていいの?」

天乃『若葉がいたから任せた』

夏凜「あんたなら飛びつくと思ってたけど、意外ね」

天乃『療養優先』

夏凜「そっか……そうよね」

樹の分を使っての時間なのだ

自分の感情を優先させるわけにはいかない

そう考えたのだろうと夏凜は判断する

夏凜「で、どうする? 私に力は返せそうなの?」

天乃『そのことなんだけど』

夏凜「?」

天乃は軽く喉を擦ると、軽く咳き込む

起きたばかりで、まだ本調子かどうかも確かめていない

声が出せるかどうかでやるやらないを変えるつもりはないけれど

十分不十分かの判断くらいは出来る

天乃『血を吐いても怒らないでね?』

夏凜「いや、その可能性があるならやめなさいよ」


01~10
11~20 だいじょうぶ
21~30 大丈夫
31~40
41~50
51~60 大丈夫
61~70
71~80
81~90 だいじょうぶ
91~00


↓1のコンマ


天乃「かり……こふっ」

夏凜「あぁもう言わんこっちゃないっ!」

天乃『残念』

夏凜「冷静に電子パッド扱うな」

ティッシュが赤く染まるのを忌々しく見つめ、悪態をつく

喉を痛めてから数日経過しているが一向に治る気配がない

神樹様の力ではない以上

同等の回復力を期待すると言うのもおかしな話ではあるが、

それでも、勇者としての力があれば多少なりとも治っていくはずなのだ

それが、見られない

それはつまり、回復力はすでに人波にまで落ちている可能性がある。ということ

夏凜「あんた、回復力落ちてる?」

天乃『そうかもしれない』

夏凜「そんな状態で本当に神婚の儀を耐えられるの?」

天乃『別に戦うわけじゃないから』

ただ話すだけ

お見合いみたいなものだからと天乃は書いて、微笑む

喉が震えると少しピリッとした痛みが走るのは

まだ傷口が閉じ切っていないからだろう


夏凜「そんな状態で……」

天乃「っ」

夏凜「……分かってる」

裾を掴まれ、夏凜は困った表情を見せる

こんな状態で力を分けるのは無茶だ

しかし、樹を犠牲にするような形で選んだ夏凜への集中

だからこそ、やらないと言う選択肢などあるはずもない

夏凜「あんたの頑張りを無碍にはしないわ」

天乃『死にはしないから』

夏凜「でも、早死にしそうよね。あんたは」

神樹様の種を使い、力の調整を行ったことで

穢れの力による死を免れることは出来た

しかし、怪我の治りが遅かったり

やや病弱な体質となってしまっていて、

ただの風邪でも死に至る病と同等とさえなっているかもしれない

天乃『だったら、幸せにして』

夏凜「…………」

天乃『死ぬまで、毎日』

夏凜「なにその呪いみたいな願い」

それでも聞くのが私達だけど。と

夏凜は冗談めかした笑みを浮かべて、唇を重ねる

夏凜「貰うわよ。あんたの力」

天乃『YES』

性的行為の有無に答える枕のような文言を抱いて、

天乃は、夏凜の体を受け入れていく


影響判定

0~9

0最低9最大

↓1 天乃 ↓2夏凜


※天乃+2
※夏凜-3

ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から

ぞろ目は考えてませんでした
七夕と久遠さんの誕生日、出会えなくなるのも一つの物語


東郷「久遠先輩の中に種……?」

水都「神樹様の力の分が残っているみたいで……」

東郷「神樹様まで久遠先輩の子供になる願望があるなんて!」

東郷「なんて俗物的な……許せないわ」

風「はい、お部屋に帰りましょうね」


では少しだけ


√ 2月9日目 昼 (病院) ※木曜日


風「天乃は?」

沙織「かなり厳しいね……東郷さんの時点で予想は出来てたけど」

友奈「やっぱり、やらないべきだったのかな?」

東郷「ううん、やらなければ夏凜ちゃんが戦力として欠けることになっていたわ」

樹が祟りの影響を残したままと言うのも厳しい部分があるのに

夏凜まで祟りの影響を残していたら勝ち目が薄くなると言うのは全員の意見だ

だからこそ、無理やりな方法ででも夏凜か樹かを選んでもらったのだから

樹「夏凜さんはすぐに復帰できるんですよね?」

沙織「出来ると思うよ。適応力もあるし、そこまで重くなかったから」

問題はやはり、天乃の方だ

力を渡した直後の反動は東郷の時のそれを軽く上回っていた

喉のこともそうだが、

完治する前にやってしまったのが原因だろう。と、

精霊間では答えが出ている

だからといって、夏凜を諦める以外の道はなかったし

その道は絶たれていたのだから仕方がないと言うほかない

一縷の望みに賭けたが、駄目だった


沙織「久遠さんは……どうだろう。間に合うかもわからない」

友奈「目を覚ますことは出来るんですよね?」

沙織「久遠さんの意思次第……なら、確実にそうなんだけど」

でもね。と零した沙織は

それきり何も言わずに飲み込んでしまう

穢れの力が激減しているのは、力を分けたのだから当然だろう

しかし、そこから緩やかに回復していく感じがしない

本来なら子供に継承され消滅していてもおかしくないという話だったし

出涸らしのような状態である天乃の力が回復しないのは当然と言えば当然かもしれない

東郷「力を消費しすぎたんですね」

沙織「うん、そうだね」

樹「使い過ぎて回復が追い付いてないのかな」

風「だったらいいんだけど……」

東郷「十中八九それはないわ」

残念だけど。

そういった東郷は、逡巡して眉を顰める

東郷「もしそうなら、もう少し喉の回復が出来ていてもおかしくなかった」

風「夢も希望もないわね、東郷」

東郷「流石に、希望に縋るには時間が足りないかと」


本当はあまり言いたくないのだろう

顔を顰めながら友奈へと目を向ける

普段は単純に紡ぐ友奈でさえ、考えがまとまっていない様子で

何かを言おうとはしていても、何も言えそうにない

風「神樹様の種は? 天乃を生かすために使った力なら何とかならないわけ?」

沙織「機能してない」

沈黙したままだ

ただそこに抜け殻があるだけで中身は空っぽなのかもしれない

気にするほどのものではなく、穢れの力にも無視されるような器

いずれ壊れて消えるかもしれないと、沙織は思う

沙織「久遠さんは本当にギリギリなんだ」

どれだけ苦しめばいいのか

これを神の裁きと言うのは簡単だし

産まれ持っての宿命と言うのも簡単だ

だから……どうだと。

樹「出来ることは、ありますか?」

沙織「………」

樹「久遠先輩が重態なのは分かりました、それなら、私達に出来ることはありますか?」

友奈「樹ちゃん……?」

樹「久遠先輩を傷つける覚悟、私はしたんです」

だから。と、樹は自分の胸に手を当てる

不思議と落ち着いている心は、痛い

樹「このくらいで、絶望なんてしていられません」


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


では少しだけ


風「樹、いくら覚悟を決めてたって」

希望を持つのも難しいほど追い込まれた天乃を見て

心配にならないはずがない

本当に大丈夫なのかと不安にならないわけがない

なのに、樹は前を向く

友奈「樹ちゃんは、久遠先輩のこと信じてるんだよね」

東郷「久遠先輩なら大丈夫。そう思いたい気持ちはあるけど」

状況が状況なだけに希望は持てない

容易く裏切られるのが、今の天乃だ

東郷は、心に秘めた不安を吐かないようにと息を飲んで

樹を見る

険しい表情

信じているのはそうだが、

傷つけようとした責任もあるからだろう

友奈「信じよう」

風「友奈……」

友奈「信じましょう、久遠先輩を」


意思でどうにかなるようなものではないのは分かっている

しかしそれでも、みんなで生きていきたいと願ったのだ

これで終わってしまうはずがないと、

天乃ならば大丈夫なはずだと

かつて追いかけたはるか遠い背中を想う

友奈「今、久遠先輩は戦ってる。信じて待つのが私達に出来ることなんじゃないかな」

東郷「少しは久遠先輩の気持ちが分かるかもしれないね」

風「分かるっていうか、思い出すっていう方が正しいんじゃない?」

天乃が戦っていた頃

絶対的な力を持っていたけれど、その分の負荷を抱えていて

戦いのたびに壊れていく、崩れていく

だからと戦いから退いてもらって……

風「今にして思えば、ちょっと血を吐いたくらいでって感じになるわよね」

東郷「血を吐くのも普通ではありませんが」

友奈「久遠先輩の中では、軽かったかもしれない」

今はもう、血を吐くなんて言うレベルには収まっていない

本当に酷いときは凄惨で、ある意味地獄のような光景が瞬く間に広がる

それこそ、病室が使用不可になるほどに


沙織「そうだね。出来ることと言えば、信じて療養」

あと数日

天乃に時間がないと言うことは、

みんなにも時間は残されていないのだ

その間、天乃を不安に思って精神的に疲弊してしまっては

天乃がこうなるほどに頑張った意味がなくなってしまう

樹「戦いに備えるのが、今の私達に出来ること。ですか」

沙織「だからと言って、鍛錬に出たりしないように」

樹「しません」

準備運動くらいしか。

隠すように付け足されたその言葉は、

残念ながら風の耳に届いていて、樹の手がぎゅっと握りしめられた

風「無理は厳禁って言われたでしょ」

東郷「樹ちゃんは特に、祟りの影響が出ちゃうから部屋から出たらダメなのよ?」

樹「分かってます」

畳みかけられるように言われて、困ったように笑う

そんな樹を沙織はじっと見ると薄く微笑む

傷つける覚悟をしたのは生半可な気持ちではないと言うのが、良く分かる

樹はあえて、厳しい言い方をしようとした

友奈が好意的な話をつなげてくれたけれど

そうでなければ、もう少し厳しい言い方になっていたかもしれないと沙織は思う


沙織「三好さんは明日……早ければ夜には戻ってくる」

風「園子はさすがにまだ無理よねぇ」

友奈「夏凜ちゃん、園ちゃん、久遠先輩かな?」

希望的にはその順番で戻ってくる予定だが、

夏凜は確定としても

園子は少し厳しいし、天乃はかなり難しい

沙織「順調ならそうなると思うよ。久遠さんに関しては、当日まで無理かもしれない」

目を覚ますことはあるだろうし

話すのは無理にしても、つい最近のように電子パッドでの会話くらいなら出来るだろう

ただ、病室を移動なんてことは無理だ

東郷「でも、こんな状態で本当に神婚の儀を?」

風「代役を立てる可能性は?」

沙織「神託がある以上代役は立てられないよ」

樹「久遠先輩を無理やりにでも連れ出すのかな?」

友奈「嫌な言い方だけど、穢れが薄れてる久遠先輩なら一番状態が良いのかもしれない」

天乃自体の体調は悪いが

穢れの面で考えれば調子は悪くないと言える……かもしれない

沙織「結城さんのそれ、間違ってはないかもしれないね」

だからと言って、神樹様に食べさせるものではないけれど。

樹「とにかく、もう時間がないんです。備えましょう」

樹の言葉に、頷く

それが現実で、問題

それしかないと思いながらも、渦巻く不安を完全に振り払うことは出来なかった


√ 2月9日目 夕 (病院) ※木曜日


01~10
11~20 夏凜
21~30
31~40 若葉
41~50 園子
51~60
61~70
71~80 夏凜
81~90
91~00 千景

↓1

※ぞろ目なら天乃


ではここまでとさせていただきます
明日は出来れば少し早い時間から


遅くなりましたが
少しだけ


√ 2月9日目 夕 (病院) ※木曜日


園子「はふぅ」

大きく息を吐く

目が覚めたばかりの昨夜

深呼吸の体の膨らみでさえやや痛みを感じたが

半日以上の休息もあってか、今はもうない

とはいえ、自由に動けるようになるにはもう少し時間がかかるだろうと

天井を眺めていた園子はすぐ横のベッドに頭を動かす

昼頃までは、若葉がいた場所

けれど、今いるのは夏凜だ

天乃の力を受けてから、今日まで

眠ってしまっていた約五日間に起きたことは

若葉から聞いて知っているが、夏凜達を責めようとは思わない

天乃に対して酷いことを言ったとは思うが

本人たちにもその自覚はあるし、責を担う覚悟がある

何より、最も嫌うことを何にそそのかされたわけでもなく選んだのだ

その想いは責められるものではない

むしろ、良くできたとさえ思ってしまう


園子「天さんは……」

園子、友奈、風、東郷

そうやって力を与えてきて、

だんだんと反動も重くなって……東郷の時に潰れた

だからと樹を諦めて夏凜に集中することにした。という話だが

二つあった反動を一つにしただけで

一つ一つの重さが変わるわけではない

東郷の時に受けた反動を癒すために休養を取ったはずだけれど

それでも、積み重ねは反動を大きくする

東郷の時以上にかかった負荷は相当なもののはずだ

園子「私で五日……だとしたら」

目を覚ますのはいつになるのか。

園子と違い、神樹様の力を大きく受けているわけではないため、

影響の度合いは比例しないが、

それでも、想像以上に被害は大きいことだろう

園子「にぼっしーは、まだ軽そうでよかった」

苦しく呻く様子はないし、寝相も安定している

この分なら明日にでも十分な回復が見込めるだろうと

一先ず、安堵する


園子「ご先祖様、天さんはどうだったの?」

若葉「それを聞くか」

園子「見てきたんだよね?」

若葉「あぁ、見てはきたが……」

語りかける声に導かれるように姿を見せた若葉は、

園子の瞳から目を逸らす

気安く口にできるようなものではなかった

あの日、友人を目の前で食い殺される惨劇を見てきた若葉にとっても

天乃の姿は見ていられるものではなかったのだ

瞬く間に奪われたのではなく、

じっくりと時間をかけて蝕まれていくのに、ただ見ていることしかできない中、

内側から八つ裂きにされていくかのように血が流れていく

医師達が駆け付けるまでの数分間ずっとだ

ずっと、苦しんでいるのを見ていただけ

かける声は無意味、触れる手は真っ赤に濡れる

若葉「凄惨だった……その一言に尽きる」

園子「ご先祖様がそういうのなら、天さんは相当だったんだね」

若葉「ああ、はっきり言って無茶と言うには無理があった」

園子「でも、やる必要があった」

若葉「そうだな。みんな、分かっていたことだ」


この後に控える戦いのためには必要な犠牲

……だとは、誰も思っていないだろう

それでも必要なことだった

みんなが生き残るためには

みんなが生きる未来を勝ち取るためには

この天乃の戦いは必要不可欠だった

若葉「友奈たちは、天乃の戦いだと言っていたよ」

園子「引退してからも戦うなんて、天さんはほんと……」

若葉「だからこそ、すべてが終わったら静かに暮らして貰いたいな」

もし世界が解放されたら、大騒ぎになることだろう

神樹様の寿命だって限界だ

加護が残るとも思えない

そんな状況で静かな暮らしを。と言うのはやや高望みかもしれないけれど

人里離れた場所で生きろとは言わない

けれど、喧騒に塗れていない穏やかな暮らしをして欲しいとは思う

不安にならず、何かに怯えるようなこともなく

ただ静かに、幸せでいて貰いたい

若葉「その代わり、私達は外の世界を見て来よう」

園子「偶には帰ってきてくれると、嬉しいな」

若葉「帰るさ。もちろん」

連絡だって出来る限りするつもりだ。と

若葉は優しい声で、続けた


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日は出来ればお昼ごろから


遅くなりましたが、少しだけ


園子「天さん、神樹様のところから戻ってこられると思う?」

若葉「それはどういう意味だ?」

園子「今の天さんには付け入るスキが多いと思うんだよねぇ」

恋愛的な関係性の隙ではなく、

精神面や、力の状態的な意味での話だと補足する

園子「神樹様だけじゃなくて、天の神的にも、かなりねらい目の器だと思う」

若葉「器……か」

園子「何か聞いてる?」

若葉「最近はまだ聞いていないが、奇しくも久遠の家には縁ある言葉だな」

久遠陽乃と言う西暦の久遠家でも聞いた言葉だ

そして天乃もまた、変らぬ器だと九尾は考えていたし、口にもしていた

元々巫女の家系である久遠家は神々の器としても優良だったが、

穢れのある勇者としての力を含み、代々受け継がれてきたことで

和魂のみならず荒魂にも強く適応力を持ってしまったのだろう

それでも退け続ける理由であり、力となっていた強い破滅の穢れは薄れ

今や、専用の入れ物だと言われてもおかしくはないほどに適している

神樹様にとっても、天の神にとっても捨て置けない捧げものだ


若葉「だが、神樹様は天乃を解放すると思うが?」

園子「天さんの中に入る可能性もあるよね」

若葉「そんなことしたら穢れに囲まれて消滅する……いや、そうか」

園子「そう。穢れの力が弱まってる今の天さんなら、力を逆転させて奪うことが出来る」

若葉「穢れの力を逆に払いのけて、完全な神格化を図ると?」

園子「体の中には神樹様の種がまだ残ってるって話だったよね?」

だとしたらそれを媒介にし、

人体そのものを神樹様の代替として新たな神々の宿木とする可能性はある

園子「天さんの体から穢れを消し去れちゃうかも」

若葉「しかし……それは」

園子「うん。今いる天さんの力を受けているご先祖さまたちの存在が維持できなくなる」

若葉「……対策はないのか?」

園子「天さんの回復力次第かな」

衰弱しきった体をさらに酷使するような話だけれど

穢れの力をどれだけ回復させられるのか

そして、そもそもの体力を取り戻せるのか

園子「今の弱弱しい天さんじゃ拒否する意味もなく入り込まれると思う」

若葉「だからスキが多いと」

園子「私はまだこんな状態だから、出来ればにぼっしーに何とかして貰いたいんだけど」

若葉「せめて明日。だな」


力を与えられたばかりで、

完全になじんでいない夏凜がまだ眠っているのは仕方がないし

責めるようなことでもない

それは園子も分かっていることで

園子「そうだねぇ……そもそも、今は天さんも目を覚ましてないから」

若葉「それでも傍に誰かがいるのといないのとでは変わってくるだろうからな」

園子の言いたいことも今なら分かるよ。と

若葉は少し恥じらいを感じる笑みを浮かべて、想いを馳せた瞳が揺らぐ

園子「ご先祖様も女の子だ」

若葉「当たり前だろう男であってたまるか」

園子「でも男の子だったら、天さんに子供産んで貰えたかもしれないよ?」

若葉「男だったら、ここには居られないじゃないか」

事態は逼迫している

だからと言って全くの余裕もないのは問題だと思っているからだろう

冗談―だと思う―を言う園子は楽しそうに笑う

若葉「まったく、園子はそこはかとなくひなたに似ているな」

園子「ん~?」

若葉「だからどうと言うことはないが……ふふっ、まぁなんだ。園子のような胆力は大事だ」

今の心持を忘れないようにな。と

若葉は愛おしそうに、園子に触れた


√ 2月9日目 夜 (病院) ※木曜日


01~10 夏凜
11~20
21~30 千景
31~40
41~50 九尾
51~60 友奈
61~70
71~80 樹
81~90
91~00 夏凜

↓1


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から



若葉「もしも平和な時代に生まれていたらそれも悪くはなかったと思う」

若葉「今のような戦いではなく、人生での苦難と向き合いながら」

若葉「普通に恋をして、普通に大人になって、普通に子供をもうけて、それで共に歩み続ける」

若葉「まぁ、なんだ……変わらないな」

若葉「普通ではなかったし決して幸せの多くない人生だったが、共に歩めたことは今でも幸せだったと思うよ。ひなた」

ひなた「私も、そう思います。若葉ちゃん」


若葉「!」

園子「?」

若葉「……ふふっ、そうか」


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日、出来れば通常時間から


では少しだけ


√ 2月9日目 夜 (病院) ※木曜日


千景「なんだか、いつも眠っている気がするわ」

そんなことはないはずなのにね。と

千景は微笑交じりに呟いて、いくつもの機械に酸素マスクといった

一目で非常に厳しい状態であると分かる天乃を見守る

天乃自身も夏凜への力の譲渡は決して軽くならないことは承知の上だっただろう

だが、それでも予想を上回ってしまっただろうことは想像に難くない

じわりじわりとなぶり殺しにされているかのような凄惨な姿を

出来ることもなくただ見ているしかなかった苛立ちは今も胸にある

千景「久遠さん、大丈夫だとは思うけれど……このまま息を引き取ったりしないで」

声をかけるが返答はない

時折苦しそうに歪む顔からは、返答代わりに口から血を噴き出すのではないかとさえ思えてしまう

それほど、天乃の体は限界に来ていた

それは肉体に留まらず精神的にも及んでいるだろうと千景は首を振る

夏凜達の一件があり、声を奪われ、直前での大きすぎる反動

直近でも厳しいと言わざるを得ないが、それ以前から苦しみ続けてきた天乃の心身の負荷は想像できるほどのものではない

かつて精霊の力を用いることで自身の闇の部分を大きくさせることに至った経験のある千景でさえ

ここまでではなかったはずだと考える

少なくとも、現状のような信頼のおける友人たちの関係が構築できていればあの事態は防げた

だが、天乃の状態はそんな信頼関係など焼け石に水のようなものでしかない


眠る主に何かできることはないかと千景は考えるが

目を覚ました時に最低限の明かりの中で独りぼっちになっていることがないようにと

寄り添うことくらいしかできないとすぐに至る

普段なら別段気にするようなことでもない些細な欠片だとしても

膨れ上がった風船に触れようものなら無視することは出来ない

徹夜をする必要はないが、精霊という体の状態が不眠を可能としているため、

しても損はないし、目を覚ました時にすぐに反応してあげられるのならそれが良いと千景は思うが

その反面、精霊とはいえ人間扱いする天乃が面倒をかけたと気に病むのではないかと思いもする

精霊だからと言えば頷いてはくれるとしても納得はしないだろうし、貸し一つにでもするのが天乃と言う少女だ

千景「貴女と陽乃さんはやっぱり違うわね」

久遠陽のと言う天乃の先祖のすべてを知っているわけではないが

知りえている一部の情報から考えても違う

根本的な部分の甘さ……と言えばいいのかは分からないが

言動こそきつい陽乃にも他者を思いやる気持ちがあるのはかつて共にいたひなた達からも聞こえてはいた

しかし、親類や友人らの多くに裏切られた過去を持つ陽乃は捨てきれない優しさを踏み躙るほどの憎悪を持ってもいた

仕方ないことだと思いつつ、それこそが天乃と陽乃の決定的な違いだと言えるのかもしれないと千景は感じる

天乃が人を恨んだり憎んだりすることはそう多くない

昨今に至っては、どれだけ裏切られようと天乃は自分自身の責任を考えるのではないかと言う危うささえ見えるほど

少しは他人の責任にしても罰は当たらないだろうにと考えるが

それが出来るような人間ではなかったからこそ、いい意味でも悪い意味でも

ここまで来ることが出来たのだと思えば仕方がないとも思う


千景「でもこれからは少しは人のせいにすることも考えたほうが良いわ」

こんな状況に陥る要因でもある穢れの減少を喜んでいいのかは疑問ではあるが

そのおかげで、人間らしく多少の負の感情を持ったとしても大した問題にはならないはずだ

天乃は責める気が全くないし

樹は樹でそのことを気に病んでいるので

責め立てろなどと言う気は毛頭ないが、喉を傷めたのだって元を辿ればやはり樹が悪い

あんなことを言い出さなければ、

あれほどまでに感情的になることも、無理に声を出そうとすることもなかったはず

もっとも、穢れの減少が回復力の低下につながっているのであれば

運悪く樹が起因となっただけでしかないのかもしれないが。

千景「……寝耳に説教なんて、私も乃木さんに近づいたわね」

呆れ混じりに呟いて、苦笑する

どこからか若葉の反論が聞こえた気はするが、病室は静かだ

千景「…………」

じっと天乃を見ていた千景は

死神であったころの記憶と知識も一応は引き継いでいるためか、

このまま目を覚まさなければ、九尾は何らかの手段を講じるかもしれない。と

心に沸く不安を感じながら顔を上げると、脱力とともに息を吐く

少なくとも、九尾が講じる最終手段がまともなはずがなかった


九尾は天乃を一番に考えている

それも驚くほど極端に

九尾は天乃の害になるような要素を徹底的に排除しようとするが

その行動が天乃の外になるかならないかは考慮の外だ

もちろん、その行動が余計に大きな害になるのなら避けるが

そうでなければ実行するのが九尾である

夏凜達が代わりに色々とやっているから今までは問題なかったけれど

神婚の儀に関しては夏凜達の干渉が難しい領域のものになる

それゆえに、九尾の手が加えられるのではないかと千景は危惧していた

天乃が死ぬようなことにはならないとして、

それ以外の人類が滅びる可能性もあるのが、恐ろしい

千景「誰か、神婚を代われれば……なんていうのは無駄ね」

神婚自体やらないのが最良ではあるが、

それをしない場合には世界が滅ぶと言われれば避ける手はないのが現実だった

千景「直前に目を覚ますなんて危険なことにはならないで欲しいけど」

どうなるのかは、分からない


01~10 樹
11~20 若葉
21~30
31~40
41~50 友奈
51~60
61~70
71~80 沙織
81~90
91~00 九尾

↓1


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


では少しだけ


天乃の眠る病室で静かに寄り添い続ける千景に「少し良いか?」と声がかかる

振り返った千景の目に映る西暦時代の今は友人だと胸を張れる若葉は

少しばかり神妙な雰囲気を纏っていた

千景「久遠さんを一人にするつもり?」

若葉「そこはみんなが補ってくれるさ」

千景「……わかったわ」

みんながみんな天乃の力あってこその存在と言うこともあって、

プライバシーなどお構いなしに感じ取れる千景は

精霊としての感覚に触れてくる複数の存在を認める

つまるところ、千景を除いた歌野達が結託しての呼び出しというこ都にはいささか不安もある千景だったけれど

断る理由はすでにないと、承諾する

千景「見てるのは乃木さんじゃないなら……忠告はいらないわね」

若葉「それはどういう意味だ」

千景「寝込みを襲う可能性があると意味よ」

若葉「す、素直……だな」

困ったように言う若葉の横を抜け、

病室の扉に手をかけた千景は「行くんでしょう?」とせかすように出ていく

後を追うことになった若葉は後ろ髪を引かれる形で天乃を一瞥して歩を進めた


千景「久遠さんには聞かせたくない話? それとも、あまり騒がしくしたくないだけ?」

今でこそ容態は安定している―と言える方なだけ―天乃が眠る病室では

囁き声でもあまり響かせたくはないと言う配慮の可能性もあると、千景はあえて後付けする

若葉があまり良くない顔をしていると言う時点で

良い話ではないことはもう確定しているようなものなのだが。

若葉「騒がしくすべきではないと思ったのも大きいな」

千景「残りは?」

若葉「心配しなくても、そう重い話をするつもりはないよ……今後の話だ」

千景「進路相談は学生で一番重い話だって噂を聞いたことがあるわ」

若葉「どことなく、天乃に似てきたな」

千景「そう?」

ああ言えばこう言うと言うとやや悪く聞こえてしまうけれど

論点をずらすような茶化し方が天乃のからかい方に似ていると感じたのだろう

しかしそれゆえに、

若葉は楽し気というよりは寂しげな笑い声を零す

天乃が元気ならばいざ知らず、そうではないことの多い最近ではあまり聞かなかったからだ


若葉「千景、このままこっちに残るつもりはないか?」

千景「それは……」

若葉「あぁ、もちろん戦いを終えた後の話だ」

千景「生き残る前提なのね。乃木さん」

若葉「そうできなかったら、みんな仲良く死ぬだけだからな」

どのような死に方をするのかは分からないが、

天乃か勇者部か

どちらかが欠けても誰かの手によって世界が終わることだろう

であれば、敗北した後のことを考える必要は全くない

割り切りの良い若葉にやや不気味なものを見る表情を見せた千景だったが

理解は出来ると、目を逸らす

若葉「歌野達が同行するのは、あくまで目的があるからだ」

千景「私にも――」

若葉「ないとは言えないが、どちらかと言えば天乃達の傍に居る方が楽しいんじゃないか?」

千景「乃木さんもそうでしょう?」

若葉「否定は出来ないが目的がある。取り戻した世界をこの目で確かめたいんだ」

だが、千景は違うだろうと若葉は問うように言う

若葉「友人として、何があるか分からない世界に出ていく私達を気遣ってくれるのは嬉しいが千景は千景の姿態ようにして欲しい」


ごく普通の友人関係からは少し踏み入ったものであることはそうなのだが

千景が天乃に抱いている好意と言うものは、別に恋愛をしたいと言ったものでは全くないし

心のよりどころとしてはこれ以上にないほど最良であることは明白だった

元々は記憶を失っていたせいで

粗雑さのない丁寧な少女だった名残が残ってしまっていることも無関係とはいえないけれど

天乃の傍に居る千景は非常に思いやりがあって優しい少女だ

西暦時代の千景も、今の千景も

結局は千景であることには変わりがないし

どちらに良し悪しを言う気は毛頭ない若葉だが

それでもやはり、ほかの精霊が出ていくからと自分もという流れは避けて欲しいと求める

若葉「天乃の傍に居る時、千景はとても満ちているように私には見えた」

千景「………」

若葉「状況が状況だ。戦いを終えてすぐに出ていくわけでもないから時間はあるからすぐに答えを出せとはいわない」

しかし、今こうして、与えられている猶予があるのならば

自分の今後を考えるのも悪くはないのではないかと若葉は思っていた

もっとも、

天乃が伏せっている今、寝る間も惜しんで寄り添おうとしている自分の心を見つめなおそうと言うのなら

戦いを終えた後の道を分かつのは目に見える事実なのだけども。

若葉「せっかくだ。好きに生きようじゃないか」

千景「精霊って、生きているって言えるの?」

若葉「少なくとも、私達の主は……いや、友人はそう考えているだろう?」


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


遅くなりましたが少しだけ


千景「友人ね……そう、友人ね」

馬鹿にしたつもりはなくとも笑みが零れる

それは嬉しいという感情から生まれるもので

堪えようと思えば堪えることも出来るのだろうけれど

する意味はなくて。

昔は抱くこともなかった言葉を噛みしめる

千景「乃木さんはもう少し、疎い人だと思っていたわ」

若葉「馬鹿にしてるな?」

千景「馬鹿にはしてないわ。からかっているだけ」

若葉「そういうところだぞ」

千景「友人があれだから」

その受け売りみたいなものよ。と、千景は笑う

薄れた時代には叶うことのなかった笑みを目にした若葉もまた

嬉しそうに笑みを浮かべて見せた

あの時代には見ることのなかった少女としての笑み

今なお戦いの中におかれている身ではあれど

それが見られると言うことは十分に心のゆとりがあると言うことだ


千景「そうね……貴女の言う通りかもしれない」

自販機の低い冷却音に包まれる休憩スペース

背もたれのない椅子に手を沈ませる千景はおもむろにそんなことを言って下を向く

だが鬱屈とした気持ちで俯いたわけではないと分かっている若葉は

長い髪に隠れる千景の表情を見えないながらに思う

千景「私は満ち足りてるわ」

西暦時代によりどころにしていた高嶋の方の友奈がいない寂しさはあるが

それを補うことが出来ないわけではない

それほどに、満たしてくれている

自分を友人だと言ってくれる人たちに囲まれている暮らしは

死ぬ前の自分がどうあがいても得られないと諦めてしまっていたものだからだ

それの代わりとして半ば依存する対象であった友奈に今の気持ちを話したらどうなるだろうか

それを考えて、千景は「あぁ」と漏らす

怒ることはないだろう

私もあってみたかったなぁ。とか、良かったね。とか

友奈はきっと嬉しそうに笑ってくれるだろうと思う

千景「手放すのは、惜しいわね」

若葉「そうか」


千景のそれは殆ど独り言ちたようなものだったが、

若葉はそれを答えとして受け取ったのか、反応する

千景もそれが誤解ではないためか反論する素振りもなく笑顔を見せた

いくばくかの申し訳なさが滲んでいるのはかつての友としての責を感じているからかもしれない

若葉「好きに生きようと言ったのは私だぞ」

千景「それでも、外の世界を任せることになるわ」

若葉「歌野達もいる」

それに。と付け加えた若葉は過去の無茶っぷりを思い出してか

気恥ずかしそうな苦笑をこぼす

若葉「今は無茶も無理をしようなんて考えは持たないさ。無理なら逃げ帰るし、助けも求めるよ」

何かがあっても深追いをすることはないことを誓うと言う若葉をまじまじと見つめると

おもむろに緊張の糸を解すため息をつき、千景は口を開く

千景「初めからそういう貴女だったら、私も苦労しなかったのに」

若葉「それは私も思うよ。だが、余裕がなかったんだ……分かるだろ?」

千景「今の私なら分かってあげられるわ」

若葉「どっちもどっちじゃないか」

最終決戦の近い夜

緊張感の薄れた二人の少女の楽し気な声が木霊する

過去の後悔

悔やむことは多いし、反省すべきことも数多くあるが

それに沈められていては今ここにいる意味はないと、二人は心を同じくしていた


√ 2月10日目 朝 (病院) ※金曜日


01~10 天乃
11~20
21~30 園子
31~40 九尾
41~50
51~60
61~70 夏凜
71~80
81~90 風
91~00

↓1


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


千景「もしかしたら」

若葉「ん?」

千景「高嶋さんじゃなくて、乃木さんに依存していた可能性もあるのよね」

若葉「止めてくれ、面倒なことになる」

千景「大丈夫、上里さんとは結託するくらいだから」

若葉「それが面倒だと言ったんだが!?」


遅くなりましたが少しだけ


√ 2月10日目 朝 (病院) ※金曜日


天乃「ぶ……げほっ」

千景「久遠さん……?」

何の前触れもなく、咳き込んだかと思えば吐血する

酸素マスクが血に塗れてしまったせいか、何らかのエラーによってけたたましい警告音が鳴り響く

痛ましく痙攣する天乃の手を握った千景は、声をかけながらナースコールを押すと

出来る限りゆっくりと酸素マスクを外し、吐き出された鮮血が布団を汚していくのを横目に、

タオルで口元を拭い、血が鼻をふさぐことがないようにと確保する

天乃「ぅ……」

千景「しっかりして! 閉じないで!」

僅かに開いた瞼から見える焦点の合わない瞳

また眠りに付こうと言うかのような目の動きに千景は思わず声を上げてしまう

このまま眠ってしまったら二度と目を覚ますことがないような気させする

早く、早く。

看護師たちが来ることを心の中で急かし、手に力が込みすぎていることにすら気付かずに、

千景は天乃をじっと見続ける

顔を見せていれば、瞼が閉じることなく自分を見ようとしてくれるのではないかと、思って


暫くして駆け付けた看護師たちに半ば押し出されるような形で病室の外へと追いやられた千景は、

フラフラと後退りすると、背中を壁にぶつけてそのまま崩れるように座り込む

何かあると思ってはいたが、いきなりするとは思っていなかった吐血、痙攣する体

あまりにも異常な状況を目の当たりにして、さすがに耐えられなかったのだろう

若葉「千景、大丈夫か?」

千景「だい、丈夫よ……」

球子「真っ青じゃないか」

千景「このくらい、少し休めば平気よ」

ため息をついた千景は天を仰ぐように顔を上げ、

額に当てた手が視線までも覆っていることすら気にせずに、じっと目を凝らして……閉じる

酸素マスクを外した時に付着したのだろう

天乃の血に汚れた手が、頬を汚す

千景「まさか、あそこまでなんて」

若葉「流石に予想外だったな」

球子「天乃ならありえないことじゃなかったけど、突然だったからなぁ」

あまりにも唐突で、不意を突いた衝撃的な出来事

それに慌ててしまったことを申し訳なく思う千景に対し、球子たちは励ますような言葉を向ける

実際、自分たちがいたところで瞬時に冷静な行動は出来なかっただろう。と

病室の中から聞こえる慌ただしい声に耳を傾ける


看護師たちの必死に呼びかける声が絶え間なく、

医師の指示が力強く飛ぶ

ただ、電気ショックなどと言った心肺停止に用いられる言葉が聞こえてこない事から察するに、

最悪の状態には陥っていないのだろうかと若葉は感じる

しかし油断は出来ないだろう

若葉「友奈たちに伝えるか?」

球子「もう沙織が伝えてるみたいだ」

若葉「そうか……」

沙織が伝えているのなら、飛び出してくるようなことにはならないだろうと安堵し、

息を吐くように呟いた若葉は、座り込む千景へと目を戻す

大丈夫だと言ってはいるものの、間近で見てしまったあの光景は心に傷をつけてはいないだろうかと心配にはなる

千景はそんな若葉の心情を察してか、無理に笑うようなことはしなかったものの

大丈夫だから心配しないで。と口にする

千景「久遠さんなら、きっと大丈夫」

球子「なんだかんだ、次入れたときにはもうけろっとしてたりするかもな」

千景「だと良いけれど、それは難しいと思うわ」

あの光景を見てしまった身としては、万全な姿を見せて貰えるとまでは、楽観できない

それでも、ベッドの上で困った顔くらいは見せてくれるだろうと思う

口を利くことが出来なくてもいいから、起きていて欲しいと願う


入っても大丈夫ですよと言う声に誘われて

天乃の病室の中がまだ騒がしかった頃に合流した友奈と風を含んだ5人で入っていく

本当は沙織も来たがっていたが、

精霊間での連絡のやり取りを樹たちに伝えるために残る必要があり

向こうに残ったままなのだ

運び込まれたときは清潔だった様々な器具が真っ赤に汚れた状態で棚の上に置かれているのを見て、

千景は一瞬、不安になるがそれにカバーが欠けられるのとほぼ同時に、医師から声がかけられた

「命に別状はありませんので、安心してください」

ベッドに横になっている天乃はしっかり整えられた状態で、

体こそ起こしてはいなかったが、目は開いているのが見えた

友奈「久遠先輩……」

天乃「っ」

声こそないが、何とか笑みを浮かべようとしたのだろう

笑顔と言うよりも苦悶の表情に見える天乃は諦めて、医者の方に目を向けた

「ただし、しばらく動くことは難しいかと思います。安静にしていれば数日で戻るでしょう」

はっきりと答えた医師ではあったが、その発言には自信がないのだろう

千景の目には、顔を顰めているのが見えた


風「数日ってどのくらいですか?」

「私もはっきりとさせたいとは思いますが、そこまで詳しくは分かりません」

数日で戻るとは言ったものの、それはあくまで順調に回復した場合の話であり

何かがあれば数日の回復なんて出来なくなってしまうし、

もしかしたら、そのなにかしらによって数日も経たずに回復するかもしれない

霊的医療班に属する医師ではあるが、それでも天乃の容態については把握しきれないことが多かったのだ

千景「とにかく、安静にしていればいいのでしょう?」

若葉「そうは言うが……」

千景「何とかなるように願うしかないわ」

祈るのも願うのも似たようなもののような気はしたが、

祈ると言うのは何か違う気がして故意に避けた千景は、

天乃の複雑そうな表情を一瞥すると、医師に目を向ける

千景「手術とかはするの?」

「いえ、その点は心配いりません」

答えのようで答えではないが、答えだった

本来なら手術が必要になりそうな状態であるのも事実だが、

天乃の場合、手術に体が耐えきれない可能性もあるほか、超常的な力による回復力もあるため

下手に手術を行ってしまえば逆に取り返しのつかないことになってしまう可能性もあるからだ

とにかく安静にしておくことが必要です。と言った医師は、看護師に呼ばれて、部屋を出ていく

残された千景たちは、天乃を囲むようにして集まり、そっと手に触れる


千景「一先ず目を覚ましたことは良かったわ。あとはゆっくり休んで」

神婚の儀まで時間はそんなに残されていない

間に合うかどうかは非常に分の悪い状況ではあるが

だからと焦っても何も変わらないし

今更何かできることもなく、ただ、休んでいてもらうほかにない

球子「ゆっくりしてるんだぞ」

友奈「園ちゃん達も大丈夫ですから、心配しないでくださいね」

風「天乃は自分のことだけ考えときなさい」

少しでも安心できるように

心に負担をかけることがないように

夏凜達が無事に回復していることを伝えた風達は、

天乃が笑うことさえ難しいのを感じて、唇をかむ

ここまで弱ったのは初めてかもしれない

だが、天乃が頑張っているのだからこちらが折れるわけにはいかないと言う意地か

気丈な笑みを見せた風達は、「みんなにも話してくる」と病室を出ていく

そのあとを見送った若葉と千景は、傍に居るからと優しさを見せて

天乃の前髪をさっと払う

千景「寝てなさい」

若葉「そんな風に言わなくてもいいと思うが……そうだな。そばにいるから安心して休むと良い」

天乃は何かを言おうとしたような表情を作るが、声も出ないしうまく動かせない

それでも、ごめんね。と、言いたいのだろうと察した千景は「そういうの良いから」と、断った




1、精霊組
2、勇者組
3、イベント判定


↓2

※精霊組の場合、若葉達精霊組の会話
※勇者組の場合、友奈達勇者組の会話


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から

勇者組なので、勇者側
天乃の回復はもう少し


では少しだけ


天乃が目を覚まし、良いとは言えない状態ではあるが峠は乗り越えたという話はすぐに勇者部のみんなへと伝わった

油断は出来ないが、一先ずは安心してもいいのではと東郷が胸を撫で下ろす

園子ももう少し安静にしておくべきと言う話ではあったが、目を覚ました

夏凜の回復は想定通りに順調

目を覚まさないとさえ思われた天乃も、一応は意識を取り戻している

最悪の状態からは脱したのではないかと考え、東郷は戻ってきたばかりの風へと声をかけた

東郷「久遠先輩は神婚の儀を行えそうな状態でしたか?」

風「いや、どう考えてもやらせないべきな状況に決まってるでしょ。まぁ、そうとも言ってられないからやって貰うことにはなっちゃうんだけど」

友奈「笑うのも難しいって感じだったから、本当にただ起きられただけなんだと思う」

東郷「出来るなら、私がやりたいくらいですが……」

残念ながらそれは出来ない

無理だと分かっていることを呟くむなしさを感じる東郷は、

悔しそうに歯噛みすると、少しだけ軋む音が病室に聞こえる

樹「明後日、でしたよね?」

友奈「うん。夏凜ちゃんと園ちゃんは間に合うと思うけど、久遠先輩はやっぱり難しいと思う。無理やり連れだされることになりそうだけどそこは沙織さん達が何とかしてくれる……かな?」

風「無理にでもするって話してたけどね、沙織は」

友奈「私達の誰かがついていけたらいいんですけど」

樹「普通なら立ち入れない場所……神樹様の世界、だったっけ?」

風「そっ。樹海ともまた違う本当に神の世界って話だし、どうやって介入したもんかねぇ」


樹「介入するの?」

風「その必要があるならだけどね。正直に聞きたいんだけど、戦力を割く余裕があると思う?」

天乃の前では大丈夫だなんだと口をそろえることもするみんなだが、

天乃がいない場では、自信たっぷりに平気であるとは言えなかった

最初に比べれば十分な力が身についているし、ある程度やりあうことも難しくはないだろう

しかし、樹はハンデを背負ったままで、次の戦いに出てくるのはバーテックスではなくその親玉であるとされている超常の存在

かつて苦戦したレオ・スタークラスターでさえ、その力と比べれば齢と考えるべきだとさえ、友奈達は思う

西暦時代の勇者である若葉達も対峙したことのない最恐の敵

これでもかと幾重にも準備をしたところで、微量な差にしかならないのではと言う不安がある

一日一日経過して刻限が迫ってくるたびに、胸が痛くなる。と、東郷は苦しそうに笑う

友奈「こんなことは言いたくないですけど、難しいと思います」

前向きでいられることが取り柄だった友奈も、

そればかりではいられないことを学び、逃げるように前を向くのではなく

それに躓くことがあったとしても進むことが大事なのだと、学んだ

だからこそ、難しいことは難しいと認め口を開く

友奈「でも風先輩、大事なのは諦めるか諦めないかなんです。私達が諦めない限り、勇者の心が挫けない限り、希望はある」

そっと、自分の胸に手を当て、風を、東郷を、樹を

今ここには居ない夏凜や園子、若葉達を見る

友奈「今までだって、無理だと思うことは沢山あったじゃないですか。でも、諦めなかったからこそここまでこれたんだと思います
    色々違うこととか、難しいことはあるかもしれないですけど、でもそれだけは変わらないんじゃないかなって」


東郷「そうね……友奈ちゃん」

諦めるつもりなんてなかった。ただ少し、弱音を吐いてしまいたかった

そんな笑みを浮かべた東郷は、友奈の言葉に同意すると息を吐く

渦巻いていた不安が完全に拭われることはないけれど

でも、その慎重さもまた必要なことなのだろうと東郷の瞳が光を携える

風「まぁ、あたし達ってこれまで打ちのめされること色々あったしね」

樹「そのほとんどを、久遠先輩が肩代わりしてくれてたけど」

東郷「だからこそ苦しんだような気もするわ」

友奈「久遠先輩が何が何でも頑張ろうとするのは、自分たちが頼りないからなんじゃないかとか……色々」

東郷「勇者部を解散しようかって悩んだこともあったような気がする」

樹「ほんと、気付いたら一年と言いますか、まだ一年っていうくらいにいろんなことがありすぎたような気がします」

風「おかげで留年しそう」

東郷「そこは風先輩の怠慢と言うことで」

風「祟りやらなんやらあったんだから仕方がないじゃないっ!」

あーもうっと声を上げた風は「神だか何だか知らないけど叩ききってやる」と、

唸り声に似た声で言い切って、枕を引き裂く勢いで掴む

風「天乃の代わりに専業主婦になるのもありっちゃありじゃない?」

東郷「全然できそうなので、風先輩次第なのでは? 久遠先輩に罪悪感を抱かせる覚悟があればの話ですが」


風「あーあたしも子供産みたい」

樹「夏凜さんがいないからって言いたいこと言い過ぎじゃないかな」

呆れて言う樹を見ていた友奈は夏凜ちゃんがここに居たら悪態付きそう。などと思い、

綺麗に整えられたままのベッドに目を向ける

天乃と夏凜と園子

三人も抜けた病室は十分に埋まっているはずなのに、広く感じてしまう

東郷「それで、どうしますか?」

風「どうするもこうするも、満開は惜しみなく使っていくしかないわ」

東郷「万が一に備えて、誰か一人満開を残しておくべきでは?」

天乃に何かがあった場合に対応するため

少なくとも一人は満開を使わずに残しておいた方がいいのでは? と言う東郷の提案

東郷自身と、園子に関してはシステム変更後に満開を使ってしまっているため、

もう、守ってくれる精霊の力はないし、満開を行うことも出来ない

そのうえで、もう一人の力も温存するのはいかがなものかと、風は悩む


1、園子も含めてから考える方がいい
2、温存する方向で考える
3、天乃を信じ、温存せず全力で挑む


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


神婚の儀は12日目
夏凜は早ければ昼、園子は夕か夜に復帰
何もなければ11日目には二人とも復帰


では少しだけ


風「やっぱり園子も含めて考えましょ」

暫く考えた風は、そう答えた。

風達が考えて出した答えでも園子が反対するようなことはないだろうし

それが悪い方向に向かっているのでない限り、

それで行こうとついてきてくれることだろう

けれど、やはり園子も交えたほうがより良い答えを出せるのではと思う

それは風だけでなく、友奈たちも思うことのようで

同意だと言わんばかりに頷く

友奈「園ちゃんが戻ってくるときは夏凜ちゃんもいるし、その方がいいよね」

樹「時間は確かにありませんが、急ぎ過ぎても良くないと思います」

東郷「久遠先輩の状況を鑑みれば、急いだ方がいいような気もするけれど……」

風「東郷の言い分も間違ってないわよね。というか、無視できない部分が確かにある」

天乃の今の状況は、

いい方向に向かっているものの、それは結局悪い中でのいい方向と言うだけで

危機的状況を脱せたわけではないのだ

東郷が初めに危惧していたように、

最悪の場合、天乃はボロボロのまま神婚の儀を行わなければならない

もし、それが巫女を救いに行ったときのような状況で行われることであるならば

肉体はともかく、精神に多大な負荷がかかることだろう

そうなった場合、今の天乃が耐えられるのか。など、不安要素は大きい


風「でも、それにばかり囚われてたら本質を損なうことになりそうで……なんかね」

自分でも臆病な感じがしてもやもやするんだけどと漏らした風は、

苦笑いしながら頬を掻くと、ふと息を吐く

ほんの少しヘラついていた気分を吐き出したのか、

張りつめた表情で風は続ける

風「あたしたちの目的はみんなで生き残ることなのよ。神婚の成立はもちろん、誰かが死ぬなんてもってのほか」

友奈「……死んじゃうかもしれないん、ですよね」

言葉の重さを感じるように一拍挟んだ友奈の声に

樹と東郷は息を飲んで、目を細める

そうだ。死ぬ可能性がある

園子は自信たっぷりに傷つくことなど慣れていると言ってはいたが、

死ぬことになれているわけではないし、その恐怖は払しょくできるはずがない

精霊による加護をなくしている東郷達は敵の攻撃次第ではその時点で即死だし、

他のみんなだって攻撃を受け続けたり、満開を使えば死の危険がぐっと近づく

風「怖いもんは怖い。自分たちが死ぬことも、天乃を失うことも」

樹「だからこそ、出来る限り完璧な作戦を考えるべき……だよね? お姉ちゃん」


言葉を繋いだ樹の問いかけに、

風は驚くような様子もなくうなずいて、笑みを見せる

東郷「急いては事を仕損じる……ですか」

風「東郷が天乃のことを考えてくれてるって言うのは分かる。あえて、反対する立場でいてくれるのもすっごく助かってる」

それでいい、それが良い。

同意してもらえれば自分の考えに自信が持てるし、

話もスムーズにまとまってくれるので行動に移しやすい

しかし、欲しいのは自信でも事のスムーズさでもない

より堅実な手段だ

そういう時に、反対意見を述べて欠点を考えるようにしてくれるのはありがたいと風は思う

だけど、一人一人では限界がある

しかも、超常を相手にするのだ

万全に万全を喫したとしても不十分であると考えるべきだ

であれば、突拍子の無いことを言ったりふざけることがあっても

やるときはやってくれるであろう園子の意見も取り入れておきたいし、夏凜の冷静な一言も欲しい

東郷「別に、ふてくされてるわけでも不満があるわけでもないですよ。このくらいで、反旗を翻すつもりも毛頭ありません」

励まされているように感じたのだろう、

そんなことは不要だと遠回しに言う東郷は困ったように笑う

東郷「そのっち達の意見を求めるのは賛成です」

時間はないが時間はある。

その考えに頷いて、各々考えつつもう少し待つことにした


√ 2月10日目 昼 (病院) ※金曜日


01~10
11~20 夏凜
21~30
31~40
41~50 九尾
51~60 園子
61~70
71~80 歌野
81~90
91~00 沙織

↓1


1、精霊組
2、勇者組
3、イベント判定


↓2

※精霊組の場合、若葉達精霊組の会話
※勇者組の場合、友奈達勇者組の会話


√ 2月10日目 昼 (病院) ※金曜日


若葉「天乃が目を覚ましたのは僥倖だったが、まだまだ気は抜けないな」

球子「あのまま死んでもおかしくなかったし目を覚ましただけましなんだろうな」

東郷達も心配していたが、若葉達もまた天乃のことが心配で

目を覚ます覚まさないに関わらず、神婚を行わなければならなかった可能性を危惧していた

もちろん、当人の意識がなければ成立しない可能性もあったが、

神樹様とのつながりは肉体ではなく精神体が担うのであれば

肉体的なダメージは無視されてしまうこともあり得た

精神での直接的な対話なら、口が利けるか利けないかも関係ない

若葉「千景は天乃が目を覚ましたのは偶然だと思うか?」

千景「どういう意味? 何らかの意思が働いたとでも言いたいの?」

球子「それはないだろ。出来るとしたら九尾だけど、タマ達がずっといたんだぞ?」

歌野「九尾さんなら気付かないうちにハンドを加えるなんてブレックファースト前、なんじゃない?」

千景「だとしても、思わせぶりな何かをするはずよ」

あの人なら。と

死神の記憶も併せて九尾のことを思い描いた千景は、

悪だくみする九尾の顔に少し顔をしかめた

千景「乃木さんは何か感じたの?」

若葉「いや……だが、あまり楽観したくはなくてな。馬鹿みたいだが、裏がありそうで少し怖くもあるんだよ」

心配性なだけかもしれないけどな。と、若葉は自分自身に呆れたように答える


では、途中ですがここまでとさせて頂きます
明日もできれば通常時間から


では少しだけ


千景「乃木さんの言いたいことも理解は出来るわね」

球子「千景も疑うのか?」

千景「疑うかどうか以前の話よ」

九尾ならば、何かしていてもおかしくはない

ある種の信頼めいたものがある千景は

では何をしたのかと考えて、首を振る

天乃が目を覚ましたのなら、目を覚ます何らかの手助けか

それとも、神樹様や天の神に対しての抵抗か。

九尾なら、どれでもやりそうだし

いっそ全部やってしまっていてもおかしくない

元からある不穏さに加えて、九尾自身の万能さが難しくさせる

千景「あの人のことだから、私達がどうしようもなくなるまでは手を出さないと言う可能性もあるわ」

歌野「それ見たことか。なんて言いそう」

若葉「神樹様の力を借り受けること自体、九尾は反対していたことだからな……だが、
    それならむしろ、何も言わずに手を加えるなんてことはないだろう?」

千景「そう。九尾の場合、私達に見せつけるくらいのことはすると思うわ」

若葉「……だから、九尾は何もしてないと?」

千景「あくまでその可能性がある。と言う程度だけど」


本当のところは九尾でなければ分からないことだが、

人間性というべきか、獣性というべきか

どちらもあり得るような存在だ

なら九尾に聞けばいいとは思うけれど

聞いたら聞いたら答えてくれるとは限らないし

それこそ、思わせぶりなことを言うだけ言って悩ませた挙句「それ見たことか」とでも笑うに違いない

球子「結論、言っていいか?」

呆れた表情ですっと手を上げた球子を千景たちが見つめる

答えを促す視線はどれも似ていて

どうせ分かってるんだろうにと漏れ出かけた言葉を飲む

球子「九尾に関しては考えるだけ無駄だろ」

歌野「う~ん……コンセントね」

若葉「そっちにあるぞ」

歌野「それじゃない」

指さされた二つの穴に目を向けることなく否定し、頷く

精霊であっても理解できない九尾のことなんて、考えるだけ無駄

不安はあるにはあるが、そればかりに目を向けていてもどうにもできない

歌野「私達はフューチャーでハピネスを掴むためにすべきことを考えるべきだわ」


水都「でもうたのん。全く考えないのもダメだと思うよ」

歌野「それはそうだけど」

球子「って言っても、九尾だってめちゃくちゃにしようとか考えてるわけじゃないだろ?」

若葉「九尾はそんなこと考えるような精霊じゃない」

純粋に、天乃のことだけを考えて行動する

ただそれだけのこと。

それで天乃以外に被害が出るのだとしても、

九尾にとっては天乃が無事ならそれでいいがゆえに、関係のないことだ

だからこそ厄介で、捨て置けないのだが。

千景「久遠さんのためという根本的な部分は揺るがない」

若葉「それ基準なら、少なくとも天乃の害になるような手は加えてない……か」

水都「後々体調に影響が出るようなことはまず避けるかと」

邪魔になるような存在を消すようなその場しのぎは行うだろうが

天乃に副作用があるような治し方をするはずがない

もちろん、天乃が望めば別かもしれないが……それこそ神樹様の種を使うことだったわけで。

若葉「不安はあるが、それを信じて先を考えるしかないか」

千景「犬吠埼さん達が考えていたことでも引き継ぐつもり?」


1、そうだな。天乃の傍には精霊がいたほうが良い
2、いや、九尾の話だ
3、それは風達に任せよう。私達は力の使い方だ


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


若葉「九尾のことなんだが……千景」

千景「なにかしら」

若葉「あれは、本当は千景の精霊だろう? 違うか?」

千景「違うわ」

若葉「なん……だと?」


球子「それの前振りだったのか!?」

歌野「若葉、疲れてるのよ貴女」

すみませんが
本日はお休みとさせていただきます

明日できれば通常時間から


では少しだけ


若葉「嫌、九尾の話だ」

球子「九尾のことは疑わないってことにしたんじゃないのか?」

それなのにと呟く球子が困惑を表すように首をかしげると

若葉は少し考える素振りを見せて、苦笑する

若葉「私は偶然か否かと言っただけで、九尾を持ち出したのは千景だぞ」

疑いがあるのかないかで言えば、首を振るのにも躊躇するところではあるが

天乃の件に関して九尾がどうだこうだというのは、

若葉が本来目的としていた九尾の話とはずれてしまっている

千景「なら、乃木さんはあの人に何があると?」

歌野「なんでもありそうだけど、そういうことじゃないんでしょ?」

若葉「そうだな……九尾を限定して言うようなことでもないのではないか。とは思うが」

それは若葉や千景たちのように、

西暦時代の勇者の姿を模していない精霊を対象としての言葉だと補足する

若葉自身、それがあり得るのかどうかは推測の域を出ない

記憶の中にある彼女はもうボロボロで、出来ることなど少なかったように思えるからだ

若葉「結論から言うと、九尾には陽乃の魂の欠片が入っているんじゃないかと思うんだ」

水都「陽乃さん……ですか?」

千景「話には聞いてるだろうけど、久遠さんのご先祖よ。そして、私達の同期」


陽乃と接点のなかった水都に答えた千景は

若葉を横目に組んだ腕を解く

千景「そう思う根拠はあるの?」

若葉「無い……が、私達のような存在があって、陽乃本人がいない理由もない」

陽乃は身勝手さの目立つ人ではあったが、

それでいて優しさをしっかりと持っていた

全てを他人に押し付けて一人楽な道を逝くようなことは出来ない人だったと、若葉は記憶している

それゆえに、

若葉たちの魂を残しながら、陽乃自身の魂は解放しているなんて言うことは

聊か考えられなかった

もし、それがあり得るとするなら

他人は出来ても自分は出来ないか

陽乃の魂は別の何かに奪われてしまったかだ

前者ならば救いはあるが、後者であれば救いがない

それなら、バーテックスの後は陽乃の魂を解放する方法を探したいと若葉は思う

歌野「九尾じゃなくて、火明命って可能性もあるわよね?」

若葉「ああ、十分にある」

千景「確かに、彼女自身がいない理由はないけど……」

若葉「いる理由もないと?」

千景「いるなら真っ先に矢面に立つと思うわ。あの人、ヘイトを集めるのがまるで義務のようなことばっかりだったでしょう?」


勇者部が崩壊するかもしれなかった満開の真実の時や

犬吠埼の両親の件など

頼んでもいないのに出てきて

自分の力があるからだなどと言い出してもなんら不思議ではないと

過去の記憶を頼りに考えた千景は顔を顰める

いるならいるで出てこない理由が気になるし、居ないならいないでなぜいないのか

若葉とは別の意味でそこに疑問を持って、若葉へと目を向けた

千景「直接聞いて答えて貰えると思う?」

若葉「天乃が聞けばな」

歌野「今は無理ってことになるわね。話だけしておいて、後は任せちゃう?」

水都「今の久遠さんの負担になるようなことは控えたほうが良いんじゃないかな」

千景「そこは乃木さんがそこを気にしている理由によるわね」

なにか外すことのできない理由があるのならば、

それを暴かなければならないし

そうではなく、好奇心だとか片手間の疑問であるなら

無理して暴くようなことでもない

みんなの目が自分へと向いたのを感じた若葉は、逡巡すると口を開く

若葉「陽乃なら、今の天乃をどうにかできるんじゃないかと思ってな」

そういった若葉は、「それに」と、続けて

若葉「可能なら見せてやりたいと思たんだ。今の世界はきっと、陽乃が望んでいたものに近いからな」

最期に見た陽乃の顔を思い浮かべながら、

きっと喜んでくれるだろうことを想い、笑みを見せた


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


では少しだけ


千景「乃木さんの気持ちは分かるけれど、陽乃さんを取り戻すのは難しいんじゃないかしら」

若葉「陽乃の魂について知ってるのか?」

千景「死神の頃の記憶が正確なら。だけど」

千景は自分の持っている死神の記憶から陽乃の魂の行方についてを引き出す

度重なるバーテックスとの闘いと、それに用いた力によって

陽乃の魂は死に際にはもうすでにないにも等しいほどに欠けていた

その傷が災いしてか、魂は砕け散って消えてしまったのだ

その一部は確かに九尾が握っている

だが、それで復活が果たせるかと言われれば答えは否だろう

千景「どこまで消えてしまったのかは分からないけれど、私達のように半分もの魂は存在してない」

以前ほり起こしていた過去の遺物……というかタイムカプセル

あそこに保存されていたものが健在ならば話も少しは変わったかもしれないが

陽乃の髪はその効力を瞬くに使い果たして消滅してしまっている

球子「なるほどなぁ……つまり、魂は魂でも半分くらいは必要ってことか」

歌野「で、九尾がその一部を持ってるって言うのは確かなの?」


千景「持ってるわ」

勇者の力を使うにあたって、代償として差し出し分の魂

ゆえに同じ理由で千景も一部の預かりがある

だからこそ千景は九尾の力を扱える

しかし、陽乃の力の一部を与えられた少女の家系である夏凜にも魂は継承されているかと思えば、そうでもない

であれば、通常の魂が辿るように召されてしまったか

力による代償での寿命の短さのため、消滅してしまったか

それとも……

神樹様の力を感じる方角をじっと睨んだ千景は、

若葉へと向き直る

その可能性は言っても仕方がない

千景「ともかく、あの人の持っているものだけではどうにもならないわ」

若葉「そうか……それは残念だ」

千景「………」

九尾が持っている分、千景が持っている分

それを合わせた上で、天乃を依り代とすれば何とかなるかもしれないが


天乃は陽乃にかなり近しい存在だ

姿もそうだが魂さえもそうであると、死神の記憶と力を併せ持つ千景は視ることが出来るし

魂を狩る死神の力のおかげか

似ている魂であれば、代用することも可能だとも分かってしまう

だが、それが可能であると分かったとしても

天乃が犠牲になるのなら、若葉はそれを行おうとはしないだろう

千景「あの人のことで話したいのはそれだけ?」

若葉「もう一つあったが、それはもう話し終えたからな」

千景が言い出したことだと言っていたが

それも話の一つだったらしい若葉は苦笑気味に鼻で笑う

球子「陽乃がいれば、天乃の力を何とかすることも出来るかもしれないんだけどなぁ」

水都「幸い、九尾さんは久遠さんのことにおいては味方ですしその点については九尾さんに助力頂きましょう」

歌野「それしかないわね」

頼まなくとも全力を尽くしてくれるとは思うが

陽乃が取り戻せない以上、最も知恵があるのは九尾だ

今後も天乃に関してh九尾に頼っていくということで

若葉達は方針を決めた


√ 2月10日目 夕 (病院) ※金曜日


01~10
11~20 友奈
21~30
31~40 千景
41~50 九尾
51~60
61~70
71~80 天乃
81~90
91~00 夏凜

↓1


ではここまでとさせていただきます
明日は出来ればお昼ごろから


久遠さん視点に戻ります


遅くなりましたが、少しだけ


√ 2月10日目 夕 (病院) ※金曜日


今朝、目を覚ましたばかりの天乃はまだおぼつかない体の感覚に不安を覚えながら

失せてしまった眠気を掘り出そうと意識の中を弄るが、

体を動かすほどの感覚は取り戻せないくせに、

覚醒した意識は痛みと不快感をはっきりと伝えてくるだけで

天乃を眠らせようとしてくれない

天乃「………」

精霊の誰かを呼ぼうにも

声は出ないし頼みの綱の電子パッドも触れることさえできない

意識した言葉をそのまま伝えることが出来ればと思いつつ

あったらあったで便利であり不便なんだろうなと空想する

九尾や夏凜、沙織なら視線で察してくれるかもしれないが

呼べないから、どうにもならない

明後日には神婚の儀もあるというのに

こんな状況でどうにかなるのだろうか

自分の姿を客観的に見ることのできない天乃は最悪の場合を想像して、目を瞑る

無意識のまま連れ出される可能性もあったし

そうならないだけマシなのかもしれないが

指一つ動かせず、呼吸の痛みを恐れてしまう状態では

一歩先か後ろかの違いしかないのではないかと、思う


神婚儀では、神樹様の世界へと赴くことになる

精神的な交わりとなるであろう神婚は、肉体の状況に左右されることなく対話が可能だろう

そこで神樹様が耳を貸すかどうかは確定ではないけれど

聞く耳を持ってもらえなければ世界が終わることになる

いや、そこは大丈夫だろうと天乃は思う

神樹様の叶えてくれたことは極端だったり、曲解だったり

望んだことではあるが、望んでいなかったことであるとはいえ

銀を失った天乃達の悲しみに応えてくれようとしたり、

代償のない状態へと戻しつつ満開の力を扱える力を貸し与えてくれたり

神樹様は良心的な神々だろう

親の心子知らず……と、

血を分けた家族ですら理解も察することも難しいことがあるのだから

神様が人間を、人間が神様を

完全に理解して応えてくれるとは限らないし、高望みはすべきではない

天乃「………」

もし、神樹様もまた、

人間に対してそのような考えを抱いていたらどうなるだろうか

大赦の嘘ではないという前提にはなるけれど

神婚の儀において天乃が神託で選ばれたということは、

神樹様の合意もなく天乃を差し出すわけではない……はずだが

望みもなく天乃を選んだとしたら、樹の願った神々をも救うということは無理かもしれない

逆に、低いハードルであれば予想以上に良い印象を与えられれば何とかなる可能性もある

……が、それは望みすぎというものだろう


樹の望みは叶えてあげたいし

出来るのならばそうしたいと思ってはいる

けれど、口にするほど簡単なものではないにも関わらず

考えを歪ませかねないような状況にいる

前向きに考えたいと思う一方で

後ろ向きになってしまいそうな苦痛を感じる天乃は

ため息さえつけない不快感がその背中を後押ししているようで、飲み込む

それでも喉が痛むのだから、どうにもならない

天乃「………」

でも、どうにもならな過ぎて

絶望するほどのものでもないと感じるのだから

中途半端に苦しめられるよりはましなのではないかとさえ、思えてくる

本当なら、神婚の儀までに目を覚ますことさえできなかったはず

でも、目を覚ますことが出来た

ここからどれだけの回復が望めるのかは分からないが

少しでも回復するよう、何もしない方がいいのだろうかと、考える



1、イベント判定
2、眠れるように少し頑張ってみる


↓2


では短いですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


若葉「西暦時代は羊を数えていたらしい」

九尾「ふむ……それは違うぞ」

九尾「西暦時代、特に襲撃以降に行われていたのは」

九尾「羊ではなく星屑が空から降ってくる数を数える遊び」

九尾「よく眠れた。という話じゃぞ」

千景「それはただの失神よ」


では少しだけ


なんとか眠ることは出来ないかと、目を瞑る

意識を取り戻したおかげか外してもらうことのできた酸素マスクだが、

視覚を閉ざして鋭くなった感覚には、まだ装着しているような違和感を覚えてしまう

けれど、それを不快に思わないのは、体が慣れているからだろう

天乃「………」

病室の匂い、自動で動かせるベッドの微妙な硬さ、

酸素マスクや注射、すぐそばのナースコール

普通なら慣れないようなもの、一生縁のないようなものまで馴染みを感じる天乃は

鼻で空気を取り込む

鼻での呼吸なら、痛みはそんなに感じない

口の中に溜まる唾液を飲み込むのは苦行だが、吐くよりは楽だ

天乃「……ん」

眠ろうという意識は、

まるでそれを阻むかのように余計なことを考えようとする

もしかしたら考えることで頭を疲れさせて休もうとしているのかもしれないが

しぶといのだろう、中々に疲れる様子も起きるような感じもなく

すぐそばの医療機器の脈拍に耳を傾けていく


一定のリズムを刻む馴染み深い電子音

本来なら一緒に下げられているべき機械は、天乃の横で見張るように佇んでいる

天乃がいつ意識を失って、危険な状態になるのか

もしかしたらならないかもしれないが、

万が一の為にと置かれたまま、繋がれたままなのだ

機械が警告するよりも千景たちに気付いてもらう方が早いような気はするが

それは、だとしても。というところだろう

天乃が自由に動けるのならばともかく、まったく動けないのだから。

天乃「………」

右足が動かせるようになったのは最近で

左足はまだ動かせないし、体の自由が利かないというのもまだまだ馴染みある感覚だ

それでも、眠れる気がしない

暗いのが怖いわけじゃない

でも、このまま飲み込まれてしまいそうな精神的不安がある

それはきっと、

何度も意識を失って呑まれた経験があるからだ

一人が怖いのも、寂しさに弱いのも

多分、そうだ

声を出せない、意思も示せない

その無力感が、嫌になってしまう


このまま目を瞑っていれば眠れるだろうか

怖いことも、嫌なことも、悲しいことも、忘れて

明日の朝になったら目を覚まして、まだ完全ではない声で誰かの名前を呼んで

くだらないことに付き合って貰うのだ

明後日には神婚の儀を行わなければならない

猶予がないのだからふざけていられないと言われるかもしれない

いや、みんななら付き合ってくれるだろうか

目を瞑る

強く、目を瞑る

起きたときに誰もいなくなってしまっていたらどうなるだろうか

そんな、不安を覚える

でも、誰にでもあるはずのそれを吐露する力が、今の天乃には欠けている

声も、手も、足も

これは祟りの力ではなく、天乃自身の力が及ぼした影響だ

だからこそ。

天乃「………」

目を瞑る

眠れるようにと願って


01~10 九尾
11~20
21~30 千景
31~40
41~50
51~60 夏凜
61~70
71~80
81~90 若葉
91~00

↓1


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


では少しだけ


千景「……心配はいらないわ」

音もなく、姿を現した千景は

無理やりにでも眠ろうとしている天乃に柔らかく声をかけて、目元に手を当てる

僅かに湿る指先

もう少し早く出てくるべきだったかと、悔やまされる

寝ようとしていたからという理由はあるが、言い訳だ

千景「三好さんの代わりにはなれないだろうけれど、傍に居る」

天乃「っ……」

千景「だから、安心して眠りなさい」

焦点のあっていなさそうな目を向けてくる天乃の瞳に影を被せる

明るいも暗いも関係ないとは思うが

目を閉じた暗さと、誰かの空気を感じる暗さ

今の天乃には後者の方がいいだろう

天乃「ぁ……」

千景「無理しないで」


声が出ないのに、声を出そうとする

少しだけ開いた口から零れてくる死にそうな音

言葉よりも先に血を吐きそうな闇の見える口に手を当てた千景は、

自分の唇に左手の人差し指を当てて、「しーっ」と笑う

千景からしてみればあからさまというべきか、あざといというべきか

わざとらしすぎて恥ずかしくなってしまうが

その分かりやすさが天乃には良かったようで

無理にきこうとしていた口を天乃は閉じる

ほんの少し、かすかに動いた口元

笑おうとしたことだけは分かる一方で

それくらいしかわかることは出来ないと、

夏凜には及ばないことを自覚する

もちろん、恋愛感情があるわけではないし

別段、嫉妬しているというわけでもない

けれど、自分のできる限界が天乃の求めることに届かない可能性があるというのは

聊か、もどかしさを覚えてしまう

それっていいことだろうか? 悪いことだろうか?


少し考えた千景は、ただの向上心だと割り切る

無駄な悩み……か、どうかはともかく

深く悩むことではないと思ったからだ

千景「…………」

気付けば、起きているときの不安定な呼吸ではなく

眠っているときの整った呼吸が聞こえてくる

千景「……まぁ、良いけれど」

これで話をしていたらどれだけつまらない話をしてしまったのかと不安になるが

これだけ近くにいて、声をかけて

それでも眠って貰えたのなら、安心感を与えられたということだろう

千景「でも」

問題はまだまだ山積みだ

体だけでなく、精神的にも疲弊しきっている今の天乃が

神婚に耐えられるのか

いよいよ怪しくなってきてしまったと思いながら、

眠りを妨げそうな天乃の紙を指で払う

閉じた瞼、少しだけ開きそうな唇

やはり痛みか苦しさがあるのか、時折辛そうに顔を顰める

傍に居るだけではどうにもならない状況を前にして、

千景は少し不服そうに、眉を顰めていた


√ 2月10日目 夜 (病院) ※金曜日


01~10
11~20 千景
21~30
31~40 沙織
41~50 九尾
51~60
61~70
71~80 夏凜
81~90
91~00 友奈

↓1


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


満を持しての夏凜


遅くなりましたが少しだけ


√ 2月10日目 夜 (病院) ※金曜日


すっかり暗くなった病院の外

廊下から見える暗い世界を見ていた夏凜は、

おもむろに身をひるがえすと、窓とは正反対にあった扉の取っ手に手をかけて、開く

引き戸特有のカラカラという音を出来る限り殺し、忍び込む

後ろめたいことをしているわけではないが

寝ているのなら、起こしてしまうのも申し訳ないと思ったからだ

それならそもそも明日にしたらいいとは夏凜自身も思うけれど

千景から、ぜひ来てあげて欲しいと頼まれれば断れるわけもない

夏凜「…………」

自分では力不足

そう言っていた千景の少し残念そうな顔が、暗い部屋のせいか見えるような気がする

忍んでいるせいか思っている以上に時間のかかった天乃の隣

気を利かせて姿の見えない精霊たちの気配を感じながら、

用意されていた来客用の椅子に座る

夏凜「……まぁ、寝てるわよね」

静かな寝息を立てる天乃を一瞥し、

話せないことよりも、ちゃんと眠っていることに安堵する


本来ならまだ目を覚ますはずのなかった天乃が目を覚ました

若葉達は、精霊という立場だからか天乃が目を覚ましたことについて不安を感じ

風達はそれよりも神婚の儀や、その場での戦いについてを心配していたらしい

若葉達の悩みも、風達の悩みも分からなくはないと夏凜は思う

九尾が何かやりそうというのは夏凜も思うし、

今の天乃の状態で神婚の儀は厳しいだろうし、戦いに関しても予断を許さないのは分かっていることだ

だけど。

だけど、だ

夏凜はそうっと、天乃の額にかかる前髪を払う

それはもう、ここまで来たらなるようにしかならない

そして、為せば成るし為さねば成らない

九尾に関しては為せることなどないし

若葉達が考えたように少なくとも天乃の害になるようなことはしないことは確実なのだし、

今回に関しては、大赦の人間がどうこうという問題でもないので、

人に危害を加えたなんて言うこともないはずだ

夏凜「重要なのは、あんたのこと。なのよね」


みんながないがしろにしてしまっているというわけではない

当然のように大事にしているし、常に考えているだろう

けれど、山積みになった問題のせいでもっとも単純かつ重要なことに目を向けられていないのか

それとも、精霊がいるから大丈夫だと考えていたのか

もしかしたら前者だろうかと、

天乃の目元に見える微かな痕を指先でなぞろうとした瞬間、

その気配に気づいたのか、閉じていた瞼が開いていく

天乃「…………」

寝起きというよりは、病気に近い不穏さで揺れる瞳

ほのかに光が失われているように見えるのは、ただ暗いだけだと思考が望む

何か言おうとしているのか、痙攣しているかのように震える唇が痛々しさを増す

唇を硬く結んだ夏凜はぐっと息を飲みこんで、

困ったように笑みを浮かべる

悲しさ混じるの笑顔だとは、気付かれないようにと願って。

夏凜「ごめん、起こしたかも」

天乃「………」

夏凜「私は平気よ。元々、そんなに症状は重くなかったから」

天乃「っ」

夏凜「気にしなくても、気に病んだりなんてしてないわよ。運が悪かった……とも、思うつもりはないけど」

天乃の表情や唇

普段の十分の一も示すことのできない天乃の微細な動きからではなく

普段の天乃ならこの時にどんな反応をするのか、何を言いたいのかを考えて、夏凜は答える

夏凜「積み重なった結果なわけだしね。天乃だってそう思ってるから、そんな心配してんでしょ?」

無駄だから心配なんて捨てときなさいよ。と、何気なく笑ってみせる


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


遅くなりましたが少しだけ


夏凜「……ま、それは無理な話よね」

天乃の心配性は今に始まったことではない

自分のことなど全く顧みてはくれず、他人のことを心配する

少しは自分のことを気遣うように。

そう散々言われてようやく自分のことを気にしてくれるようになっただけ

そんな天乃が体調に影響を及ぼす力を渡して気にしないわけがない

死地に向かうことが確定しているみんなのことを心配にならないわけがない

例え、自分がどれほど危険な状況になったとしてもだ

だから夏凜は強制しないし望みもしない

ただ言うだけに留める

今の天乃に対し、さらに追い立てるようなことはしたくない

天乃「………」

夏凜「………」

天乃「………」

じっと、見つめあう

一目ぼれしたとか、何か気になることがあったとか

そんな理由があったわけではなく

ただ、そこに目を向けていただけ

見つめられて恥ずかしいなんて思いはないが、夏凜はおもむろに笑う


夏凜「別に酸素マスクの跡がついてるわけじゃないわよ」

口の動きは相変わらずなものの

ほんの少し眉を顰めようとしたのを見て、先手を打つ

実際にそう言ったわけではないけれど、そう言いたそうだと、思って。

だから思う、約一年前の勇者部に合流する前の自分だったら

腑抜けているだの、甘いだの、馬鹿みたいだの

否定していたのではないだろうか。と

そもそも、なぜこんなことになったのだと

同僚的な立場……芽吹のように考える

夏凜「最初は、勇者部とかふざけてるのかとか、まぁ……今思えば理不尽に喧嘩吹っ掛けたのよね」

天乃「………」

夏凜「そうそう、天乃と友奈を勘違いしてやらかしたから、あんたにぼこぼこにされたんだっけ」

それで結構な自信を失った……わけではなく。

むしろ徹底的に対抗してやるとか考えて

予定よりも早く転校しようとしたりして……気づけば、勇者部にのめり込んでいて

夏凜「甘いくせに、適当なくせに、ヘラヘラしてるくせに、実力だけはある車椅子の女……だったのに」

天乃「………」

夏凜「入れ込んだのは勇者部じゃなくて、あんただった」

入れ込んだではなく、惚れ込んだ。かもしれない

その自覚があるからか、少しだけ気恥ずかしくなってくる


夏凜「圧倒的だった」

その背中の遠さも、大きさも。

だが、甘さはただの甘さではないと知った

笑顔は余裕があるからこそのものではないと知った

それでもなお、みんなの前に立とうとする無謀な勇者

夏凜「追うべきものとして、あんた以上はいないと思ってる」

見逃せない、見捨てられない

この目に見えなくなってしまえば、もう二度と映ることがなくなってしまいそうな気がして。

それは憧れか

それとも心配か

きっと、ただ憧れているだけなのだとしたら

今自分を見ているその顔が何を言いたいのか、分かることはなかっただろう

夏凜「してないわよ。私も、みんなも」

今の天乃を見て失望するような人はいない

すでに足が朽ち、それでもなお這いずる思いで己の前を譲らなかった天乃は

そのまま進んでいたら命までも代償として切り崩し、尽き果てていただろうから。

しかも、一線を退いてなお命を危険に晒しているのだ

天乃の歩みが停まろうと、自分たちがその背を追い越せたとは思っていない

夏凜「みんな信じてるのよ。あんたがいつかまた、あの頃のように戻ってくれるって」

天乃「…………」

その言葉に恥じらいはなく、自信がある

自分一人のものではない、みんなの総意だ

言葉を支えるものが、ちゃんとある

夏凜「そこにあるのは無謀じゃなく希望……だから私達は戦えるのよ」


途中ですがここまでとさせていただきます
明日は出来ればお昼ごろから


では少しずつ


天乃「………」

夏凜「心配するなとは言わないから、信じなさいよ」

悲しそうな顔を見せようとする天乃の頬にそっと触れる

感覚があるのなら手を握ってあげるのも良かったかもしれない

でも四肢は愚か、ほとんど全ての感覚が停止してしまっている今の天乃には

頬に触れても意味があるのかは分からないが、

笑おうとしたり悲しそうにしようとしたり。

他と比べればまだ感覚が残っている方だろう

夏凜「くすぐったい?」

天乃「………」

夏凜「あんたにしては、珍しく正直なんじゃない?」

天乃「………」

夏凜「あんた、寂しいのが苦手なんだったっけ」

別に馬鹿にしてるわけじゃないわよ。と、言っておく

誰にだって苦手なこと、弱いこと、嫌いなことくらいある

天乃は特にそれが顕著だが

失うということを知っている

ただの空白ではなく、喪失を知っている

だからこそのトラウマだ

夏凜「何のためにこの時間に来たと思ってんのよ」

天乃「………」

夏凜「察しなさいよ。出来るでしょ?」


天乃「…………」

天乃はゆっくりと、目を閉じる

夏凜がなぜ、この時間に会いに来たのか

体調の回復をしようとしていたから。なんて言ったら

夏凜は怒るかもしれないと、考えてみる

普段なら、苦笑していただろう

そして、夏凜が文句を言って……また笑う

それが今は出来ない

口を動かしているつもりでも、しびれているように動かない

それが少し悲しくなるのだが、

動かせなくても、目の前の人は察してくれる

察してくれてしまう

もしかしたらもう、隠し事は出来ないかもしれない

夏凜「なに?」

天乃「………」

夏凜「言いたくないなら、まぁ、聞かないけど」

目を開けてみると、

夏凜は本当に分かっているのか苦笑いを浮かべながら

仕方がないとでも言いたげに、見つめてくる


天乃「………」

手を動かせるのなら、触れたい

声を出せるのなら、願いたい

でも、手は上がらず声は出ない

だけど、触れてくれる。声をかけてくれる

思った言葉に答えてくれる

だから――

夏凜「あと二日だし、出来る限り付き合うわよ」

天乃「………」

夏凜「千景に任せっきりになっちゃってたしね」

天乃「………」

傍に居て欲しいと。

そう、声をかけなくても夏凜は答えてくれる

夏凜「……それに、ここで一人にしたら瞳に怒られるわよ」

なんで一人にしたのか

どうしてそこでこうしなかったのか

色々と。

夏凜「天乃は知らないかもしれないけど、瞳って結構面倒くさいのよ。ほんと、ちょっとしたことで」

天乃「………」

夏凜「だからまぁ、一緒にいてあげる……わけじゃない」

天乃「っ」

自分の意志で、ここに来た

かつては雪辱を果たすため

今は、立てた誓いを果たすために

夏凜「私がいたいから、ここにいる。それだけよ」


1日のまとめ

・   乃木園子:交流無()
・   犬吠埼風:交流無()
・   犬吠埼樹:交流無()
・   結城友奈:交流無()
・   東郷美森:交流無()
・   三好夏凜:交流有(自分の意志で)
・   乃木若葉:交流無()
・   土居球子:交流無()
・   白鳥歌野:交流無()
・   藤森水都:交流無()
・     郡千景:交流有(代わりに)
・ 伊集院沙織:交流無()

・      九尾:交流無()
・      神樹:交流無()


2月10日目 終了時点

乃木園子との絆  106(かなり高い)
犬吠埼風との絆  132(かなり高い)
犬吠埼樹との絆  115(かなり高い)

結城友奈との絆  146(かなり高い)
東郷美森との絆  145(かなり高い)
三好夏凜との絆  170(最高値)
乃木若葉との絆  113(かなり高い)

土居球子との絆  59(中々良い)
白鳥歌野との絆  57(中々良い)
藤森水都との絆  50(中々良い)

  郡千景との絆  62(中々良い)
   沙織との絆  146(かなり高い)
   九尾との絆  80(高い)

    神樹との絆   ??(低い)


√ 2月11日目 朝 (病院) ※土曜日


01~10
11~20 千景
21~30
31~40
41~50 九尾
51~60
61~70
71~80 夏凜
81~90
91~00 沙織

↓1

※ぞろ目


√ 2月11日目 朝 (病院) ※土曜日


神婚の儀、前日

夏凜はすぐ横で眠る天乃を見つめると、微笑む

声を出しても起きなさそうな雰囲気ではあるけれど

起こしてしまうのは可哀想だ

元々静かに寝る天乃だが、まだ声が感じられない

やはり、治りきることは難しいのかもしれない。と

天乃に見られていないことを好機とみて、不安を顔に出す

夏凜「でもまぁ……」

明日は無理でも、

明後日には治っているかもしれない

出来れば明日、出る前には声を聴きたいと思いはするが

無理をすることになるのなら望まない

夏凜「………」

垂れる髪を退けようと手を伸ばして、止める

触れる温もりと、

久しぶりに見る、穏やかな寝顔

どちらがいいかと問われれば、言うまでもなく後者だからだ


夏凜「ほんと、黙ってたら可愛いのよね」

もちろん、黙っていなくても。

東郷がいたら「エッチの時も」などと言い出しそうだなんて考えつつ

それを想像できてしまうことに自分の変化を感じる

勇者としてではなく、人として

一人の、女として。

異性が相手ではないことが少し異質なような気もするが

それは考えても仕方がないことだろう

自分を惚れさせてくれる男がいなかっただけなのだから。

そしてそれはきっと、これからも現れることはない

夏凜「あんた以上に、命懸けられるやつじゃないとね」

もっとも、ただ命をかけられるからといって

なびくようなこともないけれど。

夏凜「……感覚、ないんだっけ」

少し考えて、頬ではなく手に触れる

握ってみると、柔らかい

硬直しているわけではないが、筋力も低下している……ように感じる

鍛錬も何もできていないのだから、それも無理はない

夏凜「それでいいのよ。もう、あんたは」

戦えなくてもいい

帰りを待っててくれるだけでもいい

そう思い、もう一つの手を握る手に重ねる

夏凜「あんたは私達の、ヒロインなんだから」


天乃はそれで満足してくれないけれど、

力があろうとなかろうと、待ってくれているだけの存在でもいい

昨夜は戻ってくれると信じていると言ったが、

それは何も戦線にという話ではない

明日の戦いの結果次第では、戦う必要はなくなるかもしれないが

今まで通りとはいかなくなるだろう

大人はきっと、子供は何も心配しなくていいというかもしれない

だが、大赦が行っているような情報統制は不可能だろうし、

現実が目の前にある

そんな中で変らずにいてくれる存在は大切だ

出かけるときに、行ってらっしゃいと

帰ってきたときに、おかえりと

外での話を聞いてくれて、それに対する言葉をくれて

夏凜「ただの夫婦かっ」

押し殺した声で、叫ぶ

天乃がいるせいでじたばたすることも出来ず

悶絶するような体の熱をごまかすことも出来なかった


天乃「………」

夏凜「ぁっ」

天乃「………」

夏凜「……おはよ」

ゆっくり開いた瞳に声をかける

天乃は声を出そうとしたが、やはり、声は出ない

それでも困ったように眉は動き、表情に変化があった

少しずつ、本当に少しずつ回復していっているように見える

勇者としては治癒が遅すぎるかもしれないが

人としてならば、この回復速度も納得がいくような気がしなくもない

夏凜「笑える?」

天乃「っ」

夏凜「ぎこちないわね、その顔」

天乃「………」

夏凜「怒った?」

そんな顔してる。なんて、からかう夏凜に

ムッとして見せたつもりだが、まだぎこちないようで

それでも伝わっているはずなのだが……笑顔は絶えない


1、怒る
2、無視する
3、イベント判定

↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば少し早い時間から


遅くなりましたが少しだけ


ムッとする。

ただ、そうしただろうという感覚だけで

実際にそういう表情が出来ているという自信はなかった

というのも、しびれの残る不安を感じるのみで

ちゃんとした感覚を得られているわけではないせいだ

夏凜「やっぱり、怒った」

ぼやけたように感じる視界に映る夏凜は、笑顔だった

怒ったことは分かっているのに

楽しそうに笑いながら、頬に触れてくる

不安のあるしびれは消えないけれど

でも、確かな温もりは感じられる

柔らかいとか、硬いとか

ざらざらしてるとか、つるつるしてるとか、すべすべだとか

細かい感覚の一切が分からないのに

それが夏凜の手だと分かるのは、目が見えているからというだけではないだろう

だから。

夏凜「……あぁ、もう」

天乃「っ」

夏凜「私がからかわれるんだから、止めてよ」

夏凜の指が、頬を撫でる

何度も何度も

だから余計に、押し寄せてくるものがある


嫌なことばかり続いている中で、

体が一切動かせない不安

一人になってしまう怖さ

それらを体感させられていただろう天乃にとっては、

自分のではない温もりを感じられるのが、気を許させる

それが分かっているから夏凜も強くは言わない

いや、分かっていなくても、強く言うようなことはしない

夏凜「怒ってたんじゃないの?」

天乃「………」

夏凜「いや、まぁ……そりゃ、効果的だけど」

泣けば夏凜が絶対悪になる

そんなことを言いたいと察した夏凜は困ったように呟く

自分のプライドを捨てているように思えるが、

天乃の場合、からかっているように思われるため被害は別にない

けれど、今の天乃は本当に泣いているから

東郷ではなく、風に見られてもなんやかんや言われてしまうだろう

友奈や樹は、言わずとも察してくれるだろうけど

東郷なんかは分かっていても天乃の味方をしてくるから質が悪い


夏凜「……まぁ、東郷がいてくれた方がいいかもね」

天乃「………」

夏凜「私の代わりじゃなくて、プラスでって意味よ」

東郷がいれば、くだらない会話の相手になってくれる

書庫のような頭の中を、無駄使いしてくれる

そうすれば天乃の心も穏やかになるだろうし、

この場の空気も良くなることだろう

しっかり笑うことは出来ないけれど、笑ってくれるはずだから

天乃「………」

夏凜「ん? あー……どうかしら」

東郷とは仲が良いのか悪いのか

悪ければ仲間として一緒にやれているわけがなく

恋人の一人としての確執やらなんやらで面倒くさいことになっているかもしれない

夏凜「普通に仲が良い。というか、うまく言えないわね」

ただの友人ではしないような会話も多い

戦友という意味ではないそれは、親友と言っていいのかもしれない

互いに一つのことに命を懸けた戦友であり、

互いに愛する人を持つ身としては。

夏凜「多少言い合いすることはあるけど、あれはあれで助かるのよね」


夏凜は嬉しそうに笑う

自分で自分の笑顔が分かっているのだろうか

その心に、気付いているのだろうか

天乃はそれを見ながら、何も言わない

言えないのではなく、言う必要がない

夏凜が東郷が一緒に居たらと言うのも頷ける

きっと、賑やかになってくれることだろう

だからこそ、みんながいる病室に戻れることを望む

もっと言えば、みんなと過ごすことのできるあの家に帰りたい

そのためには。

天乃「………」

夏凜「そうね」

天乃「………」

乗り越えなければならないことがある

だからこそ、

こんな場所で挫けているわけにはいかないのだ


√ 2月11日目 昼 (病院) ※土曜日


01~10 友奈
11~20 
21~30
31~40 九尾
41~50
51~60 沙織
61~70
71~80
81~90 東郷
91~00

↓1

※ぞろ目


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷「確かに、同じ身体を貪った身友ね」

夏凜「貪ったとか止めなさいよ」

東郷「じゃぁ、味わったにしておく?」

夏凜「生々しさが増すんですけど」

東郷「分かった。分かったわ。性ゆ――」

夏凜「何も分かってないんだけどっ!?」


では少しずつ


√ 2月11日目 昼 (病院) ※土曜日


昼になっても夏凜は天乃の傍にいる

明日は全力の戦いになるというのもそうだが、

また天乃を一人にしてしまうのが心配だったからだ

精霊たちが頼りにならないわけではないけれど

千景達は夏凜を頼りにしている

何か用事がないのなら一緒にいてあげて欲しいと、引き留められるだろう

多少、自意識過剰な気もするが

実際にそう言われてここに来たのだから仕方がない

天乃「………」

夏凜「……暇じゃないかって?」

どちらかと言われれば暇だが、入院生活といえば暇なものだ

天乃ほど重度ではないけど入院生活の長い夏凜は

漠然とそんな思いを抱いて、天乃を見る

寝返りのために体を動かす以外ではずっと自分へと向いたままの瞳

以前のようなオッドアイではない橙色の瞳は

とても澄んでいるように見えた


夏凜「つい最近まで色々大変だったし、明日は全力だし……」

今までの自分ならだからどうした。と

明日のための鍛錬に勤しんでいたことだろう

だけど、鍛錬ばかりが重要ではないと知った

それだけでは決して辿り着くことのできない頂を見た

そんな方便を頭に並べつつ

自分がここに居たいだけだという思いを言葉にはしない

しても天乃が悪くいったりなんだりしないのは分かっているけれど

少し、変な空気になりそうな気がしたからだ

夏凜「良いんじゃないの? ゆっくりしてても」

天乃「………」

夏凜「衰えるほど軟な鍛え方してないわよ」

天乃「っ」

夏凜「大丈夫」

心配そうな顔をしている……ように見える天乃に笑みを見せ、

軽く頭を撫でる

明日の戦いが厳しい分、余裕はないのではないかと天乃は不安に思うだろうが、

たった一日、されど一日

けれどもやはり、心の保養は大切だ


1、みんなのところに行きたい
2、戦いの後は
3、イベント判定


↓2


みんなのところに行きたい

今の自分の状態では、我儘だということは百も承知だけれど

明日が大事な日であるなら、多少の無茶は承知で会いに行きたいと思う

その欲求は夏凜にも伝わったようで、

困った笑みが答えだった

夏凜「会いに行くのは無理でしょ」

天乃「………」

夏凜「気持ちは分かるけど」

天乃の気持ちも、

東郷達みんなの気持ちも夏凜は分かっている

けれど、天乃がみんなのところに行くのは無茶だ

今は繋がっている医療機器は外しても問題はないが

いつまた体調を崩すか分からない現状では、

むやみに出かけさせるわけにはいかない

夏凜「友奈たちを呼べばいいんじゃない?」

祟りの影響がある樹は少し怖いが

みんながいれば、問題はないだろう


夏凜「そう言えば話したっけ? 園子、もう病室戻ったのよ」

まだ多少不安要素はあるが

病室は戻っても問題はないだろうし

みんなと一緒にいる方が精神的にも落ちお付けるだろうから。と

判断されたためだ

それなら天乃もといいたいところだが、程度が違うため許可はおりていない

夏凜「目を覚ましたことは聞いてたのね」

天乃「………」

夏凜「園子はずっと眠ったままだったし、療養期間も天乃より長かったから」

その分、苦しんだけれど

ちゃんと回復出来たし、力を馴染ませることも出来ただろうから、一概に悪いことだとは言えない

夏凜「あんたは間隔が短すぎたのよ」

一日一人

無理があることも承知ではあったが、それでも十分譲歩した条件だと最初は考えていた

けれど、結果は御覧のありさまだ

夏凜「それでもこれで済んでるんだから……良かったわよ」

天乃「……」

夏凜「別に責めてるわけじゃないから、謝らなくていい」


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から

すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日、出来れば通常時間から


では少しだけ


少しばかり空気が悪くなったように感じた夏凜は、

仕方がないと言いたげな表情で、天乃の頬に触れる

顔色も、表情も

変わりは微妙だが、少しは落ち着いただろうか

緩んだように感じるのは気のせいではないはずだ

夏凜「みんなに会いたいなら、呼んでくるけど?」

話を戻そうと切り出したつもりだったが、ムッとされたように感じて、苦笑する

意地悪なことを言わないで。と、言ったつもりなのだろう

口が動いていなくても、音を発していなくても

分かってしまう

夏凜「若葉達をこき使うのは止めてあげたら? いずれ反抗されるわよ」

天乃「………」

夏凜「まぁ、しないでしょうね」

天乃「………」

夏凜「若葉達なら言わなくてもやるし、言われれば喜んでやってくれるでしょ。心配しなくても」


一度気にしてしまうと、

本当にそんなことは無いだろうかと考えてしまう天乃の心配性

悪く言えば、ネガティブさ

体が弱くなってから増し増しになってきていたそれも

ここまで来ると、本当に? と、沈まない

少しは落ち着いたものになってきている

まだ一年……いや、まだまだ短い関係ではあるが

長さに勝る濃密な機関だったことを考えれば、

培った信頼はその不安を取り除くのには十分なのだ

夏凜「………」

天乃「?」

夏凜「……いや、なんでも」

別に不安ではないし、怒っていないし、特別なんやかんやの思いもない

だけど

だけどもし、【自分の言うことだから】だったとしたらと一瞬でも考えてしまったのが

少しだけ恥ずかしかった


夏凜「で、呼んでもらう?」

天乃「………」

夏凜「っていう話らしいから、お願い」

誰もいない空間へと声をかける

これで本当に誰もいなかったなら

夏凜は少し恥ずかしい子になってしまうが、

その空間が少し揺らいだかと思えば、精霊の一人である千景が姿を見せた

千景「分かったわ。少し待っていて」

夏凜「宜しく」

夏凜の軽い言葉に笑みを見せた千景は、

自分に背を向ける形になっている天乃を一瞥する

夏凜がいるときといないときとでは、空気が違う

呼んできたのは間違いではなかったと、少し安堵して

千景は病室を出て行った


天乃「………」

夏凜「ん? 心配する必要あると思う?」

天乃「………」

夏凜「でしょ?」

みんなはこっちに来てくれるだろうか

そんなことを思っただろう天乃に否定の言葉を向ける

天乃がみんなに逢いたいと思うのと同じように

あるいは、それ以上に

みんなは天乃に会いたいと思っているはずだ

それでも天乃が療養に集中しなければならないという理由で会いに来ない中

会いに来て欲しいと願われれば、

我先にと、会いに来てくれることだろう

夏凜「だから心配しなくても大丈夫」

天乃「………」

夏凜「不安になるなら少し寝てなさいよ。みんなが来たら起こしてあげるから」

優しく告げて、少しだけ抱く

頭を抱え込むようにして……学んだ赤子の抱き方を真似るように撫でた


√ 2月11日目 夕 (病院) ※土曜日


01~10
11~20 九尾
21~30
31~40
41~50 大赦
51~60
61~70
71~80 九尾
81~90
91~00

↓1

※ぞろ目


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


勇者部との交流


では少しだけ


√ 2月11日目 夕 (病院) ※土曜日


すんなりと、勇者部の面々は病室にやってきた

まだ大事を取ってだろうか

東郷の雄車椅子に乗った園子は、

快活な笑みを見せつつも、

一つのベッドで横になっている天乃と夏凜を嬉しそうに見つめる

園子「お邪魔かな~?」

夏凜「邪魔じゃないから呼ばれたのよ」

園子「途中で考えが――」

夏凜「変わってない」

園子「でも本心は――」

風「はいはいそこまでそこまで」

からかっているというか

今まで我慢してきたことを解放しているというか

楽し気に言葉を並べ立てる園子は、

夏凜の少し強い反論にも笑顔のままだ

園子の性格を理解している夏凜も、怒った様子はなく

東郷達もまんざらではないような表情を見せた

友奈「久遠先輩はどう?」

夏凜「まだ話せるほどじゃないみたい」

樹「そうですか……」

夏凜「樹が気に病むようなことじゃないわよ。というか、天乃の前でそんな雰囲気出さない方がいいんじゃない?」


風「呼んだのは天乃だしね」

謝って欲しいから呼んだわけじゃないでしょ。と言う風に

天乃は答えようとして、諦める

口も顔も動かない

意思疎通もまともにできない

けれど、動かせる瞳で夏凜を捉えれば

ちょっとしたため息のあとに、言葉が続く

夏凜「明日が大事な日だし、園子も快調だから一度みんなで集まっておきたかったのよ」

東郷「なるほど……若葉さん達はお呼びしなくていいのですか?」

夏凜「若葉達もいるっちゃいるし」

風「それもそうね」

必要なら席を外してくれるだろう

少なくとも、病室の中で繋がりを感じられる精霊は唯一、千景だけだ

それも病室の扉の傍に感じる


天乃「………」

風「戦いが終わったら何がしたいとか話す?」

樹「フラグをたてようとするの止めようよお姉ちゃん」

風「フラグも立てすぎれば倒れるって噂だし」

夏凜「足りなかったら倒れないんだけど?」

ちょっとした笑いが、病室に満ちていく

天乃一人だった時とは違い、

とても明るく感じるのは勘違いではないはずだ

直接的ではなく、

間接的な参加になってしまっているのが惜しいが、

でも、暗い気持ちにならずに済むみんなとの空気感は、

今の天乃にとってはこれ以上ない程の救いだった

東郷「ですが、戦後の夢を語るのは生きる希望でもあります。生きたいという、力になります」

友奈「なら、私はとりあえず学校に行きたいです! もちろん、みんなで」

当然と言うべきか

真っ先に切り出したのは、友奈だった


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日は出来ればお昼ごろから


では少しずつ


友奈「時期的に卒業式……ですけど、でもみんなで学校に行きたいです」

今は二月それも半ばに差し掛かっている

約一か月後には、三年生である天乃や風は卒業するのが通常の流れだ

楽しみたかった行事のほとんどを堪能できなかった天乃にとっては

卒業式なんて、思い入れを感じるようなものではないかもしれないが

それでも、中学生として行う最後の行事

残る者達が送り、行く者達が贈る行事

友奈は、それに参加して欲しいと言う

樹「私は……どうだろう。戦いが終わったら、とりあえずお勉強……します」

風「樹が勉強……っ!?」

樹「私だって勉強するもんっ」

ムッとした表情で言い返した樹は、少しだけ考えて「でもね」と笑う

樹「まずは、ちゃんとお片付けしようかな」

風「かっ、片づけぇっ!?」

樹「お姉ちゃんっ!」


東郷「夏凜ちゃんは?」

夏凜「あんたじゃなく、私に聞くのね」

東郷「ちょっと、気になって」

東郷の笑みは見る人が見れば綺麗だと感じるだけだが

見る人が見れば企みがあると分かる

夏凜は後者だ

いぶかし気な表情で東郷を見返し、ため息をつく

言うだけ無駄だと思ったのだろう

東郷は夏凜が戦闘のあとに何を言うのか気になっていると言った

であれば、言ってくれるだろうと言う何かしらの期待が込められた言葉があると言うことになる

それは何なのか

東郷の頭を覗けば簡単だが、覗くこと自体が難しい

夏凜「何を期待してるのか知らないけど、私は別に欲なんて大してないわよ」

東郷「良いからいいから」

夏凜「なんで東郷が急かしてるのよ」


夏凜の目を覗く

戦いの後にしたいこと

それを言うことを渋っているように感じたからだ

けれど、夏凜は困ったように笑みを見せると

頭を軽く掻いて、「馬鹿にしたりしないでよ?」と前置きをする

夏凜「前から話してたことだけど……やっぱり、結婚式じゃない?」

東郷「!」

天乃「………」

夏凜「戦いが終わってすぐってわけじゃないけど、色々な望みを込めてのものって言うと結婚式になる」

みんなが無事でなければ果たされない

みんなが幸せでなければ果たされない

だからこそ、それを望む

夏凜「東郷もどうせ、それを考えてたんでしょ?」

東郷「流石、夏凜ちゃん」

友奈「結婚式はもっと先の話だって考えてた」

樹「私も……だから」

夏凜「別に言わなかったのが悪いとかじゃないんだから、反省会みたいな雰囲気止めない?」


樹「そっ、そういうわけじゃないですよっ」

ただ、自分が言わなかったと言うのが、残念だった

言うことが出来たのに言わなかったことを、少しだけ後悔する

友奈「言っておけばよかったかなぁって」

風「まぁその気持ちは分かる」

東郷「まさか、夏凜ちゃんがそんな欲深いことを言うなんて……」

夏凜「東郷は私をどんな奴だと考えてるんだか」

東郷「欲のない人」

夏凜「はっきり言ってくれるわね」

困ったように言いつつも、理解はしているのだろう

呆れた笑み以上のことはしなかった

やはり、東郷と夏凜は仲が良いのだ

夏凜「で、風はどう考えてる?」

風「え? 煮干し?」

夏凜「私のことじゃなくて」


風「あたしかぁ……あたしは……う~ん」

戦いを終えた後に待つ行事が卒業式なのは、

友奈たち三年生以下の生徒達と一部の三年生だけだ

風には、まだ残されている行事がある

避けて通ることも出来るが

出来る限り避けてはいけない行事――高校受験

自己推薦はすでに終わってしまっており、

そもそも、風はそれでの応募をする余裕がなかったため、

一般枠での受験になる

完全な一発勝負、大して勉強も出来ていない中での集大成

風「勉強……かなぁ」

園子「世知辛いねぇ」

風「受験生には戦後の戦争が待っているんですよ」

夏凜「私達も来年受験だし、いい先生がいてよかったわね」

友奈「いい先生……?」

風「反面教師か? 反面教師って言いたいのかぁっ!」


賑やかだ。とても

落ち込んだり、怒ったり、困ったり

色々と感情が入り乱れてしまっているけれど

だからこその賑やかさ

園子「私は天さんとデート! これ以外ないよ~っ」

びしっとピースサインを天乃へと突きつける

出かけられなかった

ほとんど何もできなかった

だけど、これからは出来るようになる

だから、一番したいと思うこと言う

園子「お洋服選んで天さんに着て貰ったり~適当に選んだようで実は念入りに調べたお店の美味しいデザートを食べさせあったり~」

えへへ~と

園子は一人浸って嬉しそうな笑みを浮かべる

きっと、とても楽しい夢だ

園子が待ち望んだ、幸せな未来の話だ


東郷「みんな、色々ね」

夏凜「天乃のこととか、自分のこととか」

疎かにしてしまったことは沢山ある

だからこそ、やりたいことは沢山あって、

叶えたい夢がたくさんあって

でもきっと、そのすべてをやり切ることは出来なくて

どれにしようか、何をしようか

自分の中での優先順位をつけていく

東郷はみんなの話を聞いて、答えを決める

少し狡いとは思うけれど

真っ先に答えを出せるほど、東郷は無欲ではない

もちろん、みんなもだが。

東郷「私は打ち上げかしら」

戦いのあとでなくてもいい

何かをやり遂げた後

みんなで小さな宴会のような打ち上げを催すのは、よくあることだ

よくあることだからこそすぐには出にくいこと。

でも、夏凜が言った結婚式のように、

様々な幸福の条件がそろっていない限りしないことだから。

東郷「みんなで、かめやに行きたいです」


天乃を見て、東郷は言う

言葉はしっかりと、天乃に向けたものになっている

真実を知った今、

東郷美森の記憶の中にある天乃は、

味覚を含めて食事を楽しんでいたことは一度もない

その顔に笑顔はあっても、その一部は偽りだ

だから、

楽しめるようになったこれからは

一つ一つを、楽しんでもらいたい

樹「ぼた餅じゃないんですか?」

東郷「ぼた餅は、かめやのあとのデザートかしら?」

友奈「東郷さんのぼた餅っ」

久しく口にしていない、東郷の作るぼた餅

天乃「………」

夏凜「天乃も楽しみだって」

東郷「次こそは、久遠先輩が幸せになれるものを提供させていただきます」


それぞれが、それぞれの思うことを口にする

思い思いのことだけれど

みんなが通して、みんなが無事だからこその望みだった

風や樹の勉強や片付けもまた

みんなが無事でなければやらないことだ

無事でなければ、そんなことをする精神的な余裕はないし

そもそも、世界が滅ぶからだ

夏凜「天乃は?」

天乃「…………」

東郷「そうですよ久遠先輩、久遠先輩も。です」

天乃「……」

友奈「声が聞こえなくても、表情が動かなくても久遠先輩が言いそうなことはみんな分かると思います」

ネガティブなことも、ポジティブなことも

何となくという不確かなものではあるけれど、

こう言いたいのだろうと友奈たちは分かる気がした

樹「久遠先輩は、したいことありますか?」



1、卒業式
2、ちゃんとした挨拶
3、みんなとのデート
4、結婚式
5、お話


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


では少しだけ


したいこと

戦いの後でしたいことというのなら、

やはり、卒業式だろうかと天乃は思う

色んな行事がある中で、天乃が参加できたのは一握り

だからこその卒業式

天乃「………」

夏凜「そっか」

園子「おぉ~そのアイコンタクトで察するか~」

夏凜「園子達だって分かってるでしょ?」

風「何となくは分かっても、はっきりとは分からない。もちろん、学校のことだろうとは思うけどね」

夏凜「それが分かってるって言ってんのよ」

友奈「夏凜ちゃんみたいに話すのは難しいかなぁ」


夏凜「今は私じゃなくて天乃の話でしょ」

天乃と自分のことについて

深く突き詰められてしまいそうな気がして、夏凜は手をひらひらと振って促す

天乃は卒業式に出たい

学校に関することだと察しがついた風達も、

天乃がそう望んでいることを分かっている

園子「私も卒業式に出たいな~」

東郷「そのっちはもちろん、私も卒業式は微妙なところだったから」

ちゃんと参加したい。

しんみりと、感慨深く

はっきりと口にした東郷と園子

樹は少し考えて、【戦いの後】という条件を振り払う

まともに卒業式が行われるのか

多少の不安はあるが、言葉にする意味はないからだ


樹「正直に言うと、私は卒業式が嫌です」

風「樹?」

樹「だって、やりたいこと……全然できなかったじゃないですか」

樹は今年中学生になったばかり

いや、今ならば去年だろうか

いずれにしても、一年生である樹にとっては出来ないことが多かったことだろう

けれどもその中でも、さらに多くの出来ないことがあった

出来なくなってしまったことが多かった

だから、切り取られてしまったかのように不足する

だから、卒業式を求められるのは、少しさびしさがある

東郷「樹ちゃんの気持ちは分かるけど、でも、久遠先輩が卒業しなかったら、留年よ?」

樹「そうなんです。我儘でしかないんです」

東郷「でも、私も久遠先輩が留年してくれたら。と、我儘を思うわ」

友奈「久遠先輩が留年したら、一緒に卒業できるから。だよね?」

東郷「……もうっ、友奈ちゃんったら」

言いたかったことを奪われたのに、東郷は嬉しそうに言う

悪いことではあるけれど、ただただ口にするだけの我儘だからこそ、

想いが同じであればこその望みだから、嬉しさが勝る

風「あんたたちなんていうこと言ってるのよ……」

園子「でも、天さんは少し、嬉しそうだよ」


では、途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


では少しだけ


友奈「でも、久遠先輩が留年しちゃうのは、なんかちょっと、違う気がする」

留年してくれれば……というのは語弊が生じるだろうか

友奈からしてみれば悪意はないし、天乃もそれを悪く取ることはない

けれども、少しばかり悪く聞こえそうな言葉は飲み込みながら、友奈は口を開く

友奈「もう一年学校に通うことが出来れば、出来なかった沢山のことが出来ると思います。でも、それは、違うんですよね?」

天乃「………」

風「あたしがいな――」

夏凜「風がいるかいないかはともかく、色々違うことはあるんじゃない?」

風がいないのはもちろん、沙織だっていない

クラスメイトだってみんながいない

そもそもの話として、天乃には子供がいる

勇者としての戦いもあった、久遠家としての責務があった

要求すれば、もしかしたら叶えて貰える程度のことかもしれない

しかしながら、それを考えられるはずの天乃がそれを口にはしなかった

そういうことなのだろうと、友奈の代わりに東郷が頷く


東郷「久遠先輩が同級生なのは魅力にあふれるお話だけれど……夢は夢であるからこそ。ね」

それを叶える事は簡単だろう

しかし、叶えたあとどうなるかもまた、想像は容易い

それを考えれば、留年しましょうなどと言えるはずもなく、

なにより軽口で言うからこそ、良いのだ

先輩は先輩だ

同級生になったからと言ってどうということはないけれど

やっぱり、東郷達からしてみても、それは少し違うような気がするのだ

言葉ではうまく言えないのは、感覚的なものだからだろう

樹「卒業式までには、全部ちゃんと終わらせたいですね」

風「そうねぇ」

戦いも、体の問題も

一年生の頃は問題なかった天乃の体

学校を卒業する時もまた、そのころと同じようであったなら

簡単ではないけれど、そう願う


風「うちの中学の伝統知ってる?」

友奈「伝統ですか……?」

風「そう。伝統」

ニヤリと、風が笑う

明らかに企んでいると分かる表情から、

樹と夏凜はまたくだらないことを考えついたんだろうなぁ。と

半ば呆れを感じていたが、

以外にも―東郷を信じるならばだが―ただの冗談ではなかったらしい

東郷「制服のリボンのことですよね?」

風「知ってるんだ?」

東郷「狙っては……いましたので」

風よりも悪っぽく、

しかしながら妖艶な笑みを浮かべて見せる東郷の瞳は天乃の姿を捉える

東郷「よくある話……と言っても、これは限られた話なのだけど」

そう切り出した東郷は、

制服にボタンがあるならば、第二ボタンを意中の相手に渡す、あるいは受け取ると言う迷信めいたものがあると言う

ボタンではない讃州中学においては、それがリボンらしいと東郷は微笑む

東郷「リボンは……私達が使うものは特殊ではあるけれど、結ぶものということもあって、似通ったものがあるらしいですよ」

友奈「なるほど~」

夏凜「いやいやいや、ボタン云々は男子の話じゃ――」

東郷「あら。夏凜ちゃんもその手の噂は知ってるのね」

夏凜「ジャンル次第では数冊に一回くらい、そういう場面も出てくることはあるわよ」


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


すみませんが、本日はお休みとさせていただきます
明日は出来れば通常時間から


遅くなりましたが、少しだけ


夏凜「私のは噂というか、風習というか……そういう手法」

風「つまり伝統。と」

夏凜「そんな決め台詞みたいに言われてもね」

伝統という言葉に重きを置いた発音

茶化しているような風の自慢気な顔を一瞥しながら、

夏凜は言い返しながらも、否定はしない

噂か伝統かで言えば、伝統が近いだろう

少なくとも、桜の木の下での告白は成功するみたいな迷信とは違う

実際に行われている……という話は聞いたし

クラスメイトの中にも、卒業が近づくにつれてそのようなことを口にする子がいなくもない

中には、天乃の名前もあがったり上がらなかったり。

久しく姿を見せていないことで、余計に話題になりやすかったと言うのも、影響しているだろう

夏凜達が通うことが出来ていた数ヶ月前でそうなのだから、

今はどうなっているのか

友奈「でも、なんか……うん。素敵だよね」


自分と誰か―言うまでもないが―を相手に想像したのか

それとも、自分とは関係のない人たちで考えたのか

囁くような、独り言のような呟き

感慨深さを感じるような羨望を抱いた友奈の瞳は光を見せる

疚しい気持ちの一端がなかったとも言えない東郷は

僅かばかり気まずさを滲ませた笑みを浮かべた

東郷「そうね、友奈ちゃん。取り合いなんてもってのほかだわ」

樹「そんなことは誰も言ってないんじゃ……」

東郷「それはそうだけど、久遠先輩があげるなんて口にした日には大騒ぎになるわ」

なるでしょう?

そう、威圧的な声色で述べた東郷だが、

樹は否定も肯定もせずに困った表情を見せると

考える素振りを見せて「そうかもしれませんね」と譲歩する

確かに、永遠の結びともいえるようなお呪いは魅力的だが

天乃本人と一緒に居られるだけで十二分に幸せだと思える樹からしてみれば、

それ以上望むようなことでもないと言うのが、本当のところだった


風「何はともあれ……明日を生き残らなくちゃ何にもならない」

ふと、前触れを感じさせることなく切り出した風は比較的明るい声ではあったものの

緊張感を忘れるべきではないと言いたげな表情は、唇が引き締められている

樹「そうだね」

東郷「どれだけ厳しい戦いであるのだとしても、今の私達なら、きっと」

東郷のしっかりとした声からは、

慢心と呼ぶにはまだ薄く、けれども確かな自信が垣間見える

佳境にはいつだって、想像を絶する何かがあった

だから、自信を持つなとは言わないが、持ちすぎるのも危険だと東郷は良く分かっているし

みんなもそれは分かっているのだろう

不安こそ見せないが、明日の厳しさを忘れたわけではない緊張感を噛みしめる

樹「………」

何の気なしに持ってきていたタロットカードを軽くシャッフルする

束になった山をぐるりと回転さえ、正と逆を入れ替え、これからを思いながら一番上をめくる

威厳を感じさせる風貌の女性、希望を与えてくれるような輝かしさを見せる後光

下の方には【THE EMPRESS】と書かれているカード

それが意味するのは正しく、求めているものだった


ではここまでとさせていただきます
明日は出来れば通常時間から

THE EMPRESS・・・女帝(努力の結実、成功、結婚、愛に満ちた生活)


遅くなりましたが、少しだけ


√ 2月11日目 夜 (病院) ※土曜日


01~10
11~20 夏凜
21~30
31~40
41~50 若葉
51~60 九尾
61~70
71~80
81~90
91~00 千景

↓1

※ぞろ目


√ 2月11日目 夜 (病院) ※土曜日


夜になってみんな解散するかと思えば、夏凜だけが病室に残っている

もう一人追加するくらいの余裕はあるし、

明日のこともあって天乃を置いて行くのは少し不安があった風達から

どうせなら。と、指名を受けたのだ

天乃の精神的な問題は、みんなを呼べたこともあってそこまででもないが

大赦がいつこの部屋を訪れ、連れ出そうとするのか

それが定かではないため、警戒する必要があった

夏凜「ここまで来て、大赦が強引な手段を取るとも思えないけどね」

天乃「………」

夏凜「そうする理由もないし」

どうして? と

問いかけるような目を向けてきた天乃に、素直に答える

瞳が送迎の任を受けていると聞いていないけれど

恐らくは、その担当は瞳に回ってくることになるだろう

天乃は神婚に対して消極的な姿勢ではあったが、

強い反発はしていないし、絶対にやらない。なんていう絶交染みた返答をしたわけでもない

そんな相手に強硬策を取るほど、落ちぶれていないはずだ


天乃「……ん」

夏凜「寒い?」

天乃「っ」

夏凜「あぁ……無理しないで寝たら?」

僅かに身を捩った天乃の口から洩れた小さな呻き

一瞬、まだ肌寒い気温のせいかと思ったが、

何とか話そうとしているのだと察して、夏凜は困ったように言う

今無理をしても、明日に響く

居ないと寂しいが、いると無理をしてしまう

そんな天乃には困ったものだと思いながら、

夏凜は向かい合う少女の瞳を見据える

綺麗な琥珀色に見えるが

もちろん、実際は少し違う橙色だ

かすかな光が当たっているおかげか輝いて見えて

いつもよりも深みがないように感じるのだろう

語弊があるかもしれないが、この方が綺麗だと……ちょっとだけ思ってしまう


天乃「?」

じっと見つめられる天乃は

困った表情を作ろうとするだけに止めて、見つめ返す

なんで見てくるのか

そう思えば、夏凜は察して気まずそうな笑みを見せる

後ろめたいことがあるのではなく、気恥ずかしい

そんな表情の夏凜はゆっくりと口を開く

夏凜「良い目、してる」

天乃「………」

夏凜「どういうことって、聞かれてもね」

そう簡単には答えられないと言うような含みのある言い方だが、

ただ、恥ずかしいだけなのは顔を見れば良く分かる

普段なら突くその部分を、

今は見ていることだけしかできないのが、

少しばかり、もどかしさを感じた


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日は出来ればお昼ごろから


では少しずつ


天乃「ぁ……」

夏凜「………」

天乃「……っ」

声が出ない

少しだけ頑張ろうとした天乃を夏凜は咎めることなく見守るけれど、

やはり、出せるほどの回復はしていない

それどころか、痛みが増してしまう

それが顔に出た……わけではないはずだが、

夏凜は手で天乃の口元に制止を促すと、

優しく笑って、わずかに首を振って見せる

枕と頭の擦れる音

ほのかなシャンプーの匂いが流れてくる

夏凜「ちょっと頑張るくらいは良いけど、無理はしない」

天乃「………」

夏凜「……口を開きたくなるようなことを言った私にも責任はあるけど」


夏凜「明日、もしかしたら早いかもしれないんだし寝ておいた方がいいわよ」

天乃「………」

夏凜「明日、終わればまたいつでも話せるでしょ」

明日がダメだと思うのなら

明日に不安があると言うのなら

多少なりとも夜更かしをして、会話をすることもあるだろう

だが、明日を乗り越える自信があるのなら

その先も続いていけると信じているのなら

ここで、無理に話を続ける必要はない

何より、嫌な予感というものを作りたくはないと、夏凜は思う

以前呼んだことのある物語にはそういうものがあって。

現実と区別するべき架空の事象ではあるが

感覚に頼ることもある夏凜としては……切り捨てられない要素だ


1、なら、抱いて
2、もう少しだけ
3、なら、全部が終わったらまた……二人になりたい


↓2


天乃「………」

なら、抱いて

言葉で言うか、行動で示すか

いつもならどちらかでするはずのことを、今は思うだけ

けれども夏凜なら分かってくれる

いや、友奈たちでも分かってくれる

だから……夏凜はしかたがないなんて笑い方ではなく、

壊れてしまいそうな体をどう扱うべきかと悩ましそうな表情で、

優しく触れる

これなら痛くない? 辛くない?

そんな気遣いをしながら、

天乃を抱き寄せるのではなく、自分から近づいていく

息遣いが耳元にまで差し掛かると

夏凜の右手がそうっと……天乃の頭に触れた


夏凜「寝るときじゃないなら、肩に抱き寄せることもするんだけど」

天乃「………」

夏凜「起きなくていいわよ」

体を起こしていたほうがいろいろできるが

抱いているのは眠りやすくするためだ

それでは本末転倒だろう

抱きしめると、より密着する肌の感触が妙に生々しさが増す

密着しているおかげでこれ以上に触れたいと思うことこそないが、

もう少し強く。と思わないでもない

天乃に比べるとシャープな体つきの夏凜だが

その天乃の膨らみもあって、距離は残念にも開いてしまう

それを縮めるためにはもう少し力強く……なのだが。

それをすると、天乃の華奢な体が傷ついてしまいかねない

そこまでするのは、と、夏凜はためらってしまう

だからこそ、頭に触れるだけに止めた


夏凜「……全部終わったらね」

天乃「………」

良いことも、悪いことも

楽しいことも、つまらないことも

好きなだけ話そう

頭も、髪も、頬にも

肩にも……体のどこにだって、触れよう

終わればそれができる

戦いさえ終わってしまえば、後は体を癒すだけ

世界の危うさは大人が何とかしてくれる

そう、丸投げしてしまうのはいかがなものかと思いもするが

神樹様の力が尽きることでただの少女になってしまう夏凜達にはどうしようもない

何より、

今まで勇者として頑張ってきたのだから

終わった後に子供の我儘を使うことくらい許してほしいものだ


夏凜「天乃、やりたいことを聞かれたとき、私は結婚式って言ったでしょ?」

天乃「………」

夏凜「でも、個人的なことを言うなら天乃を思いっきり抱いてやりたいって思ってる」

今は弱弱しすぎて、力を入れるのが怖い

そのせいであんまり実感できない

柔らかさと、温もりと

ちゃんと生きていることは感じているけど

でも、それだけでは少し物足りない

だから、力強く

かつての強い人ならば、少し苦しいという程度の力で

夏凜「だから早く良くなってよね」

天乃「………」

夏凜「天乃なら、体さえ治れば日々の鍛錬の相手くらいなら務まるでしょ?」

天乃「………」

夏凜「必要かって? 鍛錬はこれからも続けるわよ。決まってるでしょ」


勇者の力が無くなってしまったとしても、

これからも、夏凜は強い自分を保持し続けていく

そのために、鍛錬を続ける

それは、勇者にすべてを捧げてきたからではない

その力で、これからも守るべきものを守っていきたいからだ

これから、世界は広がっていくだろう

何もない

もしかしたら、何かがある大きな世界に、戻っていくことだろう

そうなれば、今まで通りというのは難しくて

大赦がどうなるかは分からないが

神樹様を失うとなれば、治安に影響があるかもしれない

そうなったときに、女だから、子供だから

そんな理由だけで失ってしまうものがあるのは、我慢ならない

例え、世界の勇者ではなくなるのだとしても。

夏凜「私は、天乃の勇者であり続けたい」

天乃がそうだから。とは、口にしなかった

それはもう少しばかり、勇気が必要なのだ

1日のまとめ

・   乃木園子:交流有(戦いの後、卒業式)
・   犬吠埼風:交流有(戦いの後、卒業式)
・   犬吠埼樹:交流有(戦いの後、卒業式)
・   結城友奈:交流有(戦いの後、卒業式)
・   東郷美森:交流有(戦いの後、卒業式)
・   三好夏凜:交流有(表情、みんなのところに、卒業式、抱いて)
・   乃木若葉:交流無()
・   土居球子:交流無()
・   白鳥歌野:交流無()
・   藤森水都:交流無()
・     郡千景:交流無()
・ 伊集院沙織:交流無()

・      九尾:交流無()
・      神樹:交流無()


2月12日目 終了時点

乃木園子との絆  108(かなり高い)
犬吠埼風との絆  134(かなり高い)
犬吠埼樹との絆  117(かなり高い)

結城友奈との絆  148(かなり高い)
東郷美森との絆  145(かなり高い)
三好夏凜との絆  170(最高値)
乃木若葉との絆  113(かなり高い)

土居球子との絆  59(中々良い)
白鳥歌野との絆  57(中々良い)
藤森水都との絆  50(中々良い)

  郡千景との絆  62(中々良い)
   沙織との絆  146(かなり高い)
   九尾との絆  80(高い)

    神樹との絆   ??(低い)


√ 2月12日目 朝 (病院) ※日曜日


01~10 若葉
11~20
21~30
31~40 芽吹
41~50
51~60
61~70 大赦
71~80
81~90 九尾
91~00

↓1

※ぞろ目


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


東郷「そういえば、諸説あるのですが」

東郷「生命の危機に陥ると、子孫を残したいと言う欲求が高まるとかなんとか」

天乃「っ」

夏凜「下腹部を撫でるな、下腹部を」


では少しだけ


√ 2月12日目 朝 (病院) ※日曜日


運命の日曜日は、日差しの良い天気だった

太陽を遮るようなものは薄雲一つなく、

横切る鳥すら、火を恐れているかのように一羽も飛ばない

天乃「………」

神婚に出る事までは伝わっていないだろうが

何か重要な任につくことは伝わっているのだろう

外出許可を得て屋上に上がっていた天乃は、

目を奪うような陽の光を遮るように、右手で影を作る

夏凜「戻る?」

天乃「ん……」

軽く、首を振る

やはり、声を出すのはまだ難しいが

ゆっくりとなら、体を動かせる

あと数日もあれば、無事の声も回復するだろう


夏凜「いよいよね」

天乃「ん」

夏凜「あと、何時間か」

大赦にいる夏凜の兄、春信

そして、天乃の送迎係を務めていた瞳から通達があったのだ

昼頃に新婚の儀へと出発する

夕方になる前に準備は完了し、

そしてそのまま……神婚の儀が行われることになっている

バーテックスそして、その親玉である天の神は、

これを阻止するために、姿を見せるだろう

結界の外の詳細な情報は入ってきてはいないが

酷い状況である。ということだけは歌野達から伝わってきている

精霊である歌野達ですら、様子見ででも外に出られない状況

ただ事ではないことだけは確実だ


夏凜「怖くない?」

天乃「………」

夏凜「流石に、嫌な質問よね」

悪かったわ。と夏凜は困ったように言うと、髪を梳く

撫でるような弱い風が二人の間を通りすぎて、

梳いた髪は瞬く間に荒れて、乱れてしまう

それでも、夏凜の力強さ

天乃の吹き飛ばされてしまいそうな体はその場に残る

夏凜「本当は、一緒に行ってやりたい」

天乃「………」

夏凜「でも、外で戦わなきゃ守れない」

一人にするのは不安だ

天乃がだめかもしれないとかではなく、

何をされるのかが分からないからだ

神様だ。記憶を書き換えることも出来るだろう

夏凜「怖いのは私なのよ」

負けることが。ではない

天乃が待っているだけではないことが。


天乃は少し頑張りすぎてしまうきらいがある

今回ばかりは、無理する余地もないとは思うが、

神樹様を救うという話だ

多少、無茶は必要になってくる可能性はないとは言い切れない

それこそ……体の一部を明け渡す。など

天乃の声は治りつつあるが、

左足だけは、神樹様の種を用いてなお治しきれなかった部分だ

悪く言えば……好都合ではないか

夏凜はそんな気がして、嫌だった

夏凜「自分を大事にして」

天乃「………」

夏凜「分かってる。だから、天乃も」


1、神樹様、何とかしてみるわ
2、天火明命。貴女が連れて行って
3、ここで好きと言ったら、フラグっていうものが立つかしら?
4、夏凜、抱っこ
5、子供の名前。まだ考えていないの。分かるでしょ?


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
可能であれば明日、通常時間から


では少しだけ


天乃はしばらく夏凜を見つめると、

車椅子に備え付けていた電子パッドを取り出し、文字を書く

ペンを握る力も、以前よりは少し強くなっている

久しぶりに込める力のせいか、

乱れた文字は読みにくいが、書き直しても無駄だろうと

そのまま夏凜に向ける

天乃『神樹様、なんとかしてみるわ』

夏凜「天乃……」

天乃『無理をするわけじゃない。わかるでしょう?』

電子パッドを下げて、夏凜の目を直接見る

ふざけていないと、本気なんだと

それは決して、不可能ではないと

天乃『神樹様よりも意地の悪い精霊、いるのよ?』


天乃は、出来る限りの笑顔を見せる

まだおぼつかない、口元に震えも残る

けれど、確かな笑顔

夏凜は下唇を噛み、無意識に逸らしてしまいそうな目を天乃へと留める

言っても聞かない

本気なのは分かる

それが不可能とは言い切れないことも分かる

けれど、それに何か代償があるのではないか

それが、気がかりだった

しかしそれさえも、天乃は分かってのことなのだろう

口元は笑みのまま、眉だけが困ったように歪む

天乃『ありがとう』

夏凜「っ」

天乃『夏凜は、やさしいわ』


どれだけ自信を持っていても

心配してくれているのは、

それだけ、思ってくれているからこそだ。と、

天乃は前向きにとらえて、微笑む

天乃『ここでありがとうって言うと、嫌な感じになる?』

夏凜「別れっぽい」

天乃『なら、言わないでおく』

そう言って笑おうとした天乃は、

震える喉の痛みを覚えて飲み込み、【言えないけどね】、と文字を書く

明日は、話せるだろうか

明日はダメでも、明後日はどうだろうか

天乃「………」

くっくっと夏凜の袖をつまんで引く

気を引こうとする子供のようで恥ずかしくもあるのか、

天乃はほんのりと頬を赤らめる

天乃『声、好き?』

夏凜「はぁっ!?」


夏凜「な、何言ってるのよ」

天乃『ちょっと気になって』

天乃にとってはただの興味で

特に探るような他意はないのだろう

精神的な先立ちに似合わず純粋な視線から逃れるように

物理的に距離を置いた夏凜だったが、

天乃の手が寂しそうに空を切ったのが見えて、二歩目は躊躇う

天乃『嫌い?』

夏凜「そんなことは、ないけど」

夏凜として、こういうことは考えた上で言いたい

もちろん、深く考えていない率直な言葉も大事だとは思うが、

自分のそれが、想いを伝えるにはあまりにも不器用であることは自覚している

だから、出来ればふいうちは避けて欲しいと思いつつ、

頭だけはフル稼働で思案する

夏凜「……急に聞かれると、困るわ」

天乃『急でも答えてくれるのが夏凜ちゃんでしょ?』

夏凜「無茶ぶりされてもね」

呆れつつも、夏凜は笑顔で呟いた


では、途中ですがここまでとさせていただきます
明日は出来れば通常時間から


では少しだけ


夏凜「なんで急に気になったのよ」

天乃『声、出せないから』

夏凜「だからって――」

なぜ、唐突に好きか嫌いかの話になるのか

夏凜の口にしかけたその言葉を分かっているかのように眉を顰める素振りを見せた天乃は

手元の電子パッドを操作する

天乃『治るか分からない』

夏凜「足とは違うでしょ」

天乃の視線がふと左足に落ちる

満開による代償となった左足

それも治ってはおらず、動かせないまま

だが、それとは違うと否定する夏凜だが、

天乃とて、同じだと考えているわけではない

天乃『代償じゃないからこそ』

むしろ、超常的な事象による機能不全ではない分

人間の回復力を超えてしまっていた場合、取り戻せない可能性は極めて高いと天乃は思っていた


天乃『病は気から』

夏凜「そう思うんなら、治るって思っておきなさいよ」

天乃『バカって書けばいい?』

夏凜「書いてるんだけど……」

電子パッドの画面、8割近くを占有する大きさで書かれたカタカナ2文字

なぜそうなるのか、言われなければならないのか

察しが悪いからなのだろうと、原因を分かっていても

その理由までは分からずに、夏凜は天乃を観察する

甘い香りが感じられそうな桜色の髪

光の宿る橙色の瞳

赤らんだ頬は、ちょっぴりふっくらとしていて

僅かとはいえ、不満を抱かせてしまっていることは、察する

天乃『治りたい。でも、不安はある』

夏凜「だから――」

天乃『だから』

殴り書きしてまで上回った勢いに遮られ、言葉を詰まらせた夏凜を天乃は一瞥すると

電子パッドをひっくり返して内容を消し、改めて書く

天乃『夏凜が好きだって言ってくれるなら、もう少し強く思える』


夏凜「ごめん……ほんっと、ごめん」

ここまで言われてしまえば―実際には書かれたのだが―嫌でも分かってしまう

見せつけるように電子パッドを突き出している一方で

さっきまで見せていたはずの顔を隠していれば、なおさらだ

治ると思うべきと夏凜は言ったが、そんなことは当たり前で

けれども、それに匹敵しかねない不安が常に渦巻いている

だから、夏凜がどう思っているのかを聞きたかったのだ

好きだと言ってくれれば、当然嬉しい

治りたいと思うし、治るべきだと思うし

病が気からというのであれば、根性のみで治癒能力を高めることも出来るかもしれないほどに

そうでもないと言うのなら、諦めもつく

幸いとは言うべきではないが、

電子パッドがあれば意思疎通は可能だし、表情を作ることくらいは出来るため、

必ずしも発声でのコミュニケーションが必要というわけではない

天乃『謝って欲しいわけじゃない』

夏凜「それはそう、なんだけど……まぁ、その……あれよ」

仮にも恋人であるなら、察して答えるのが普通だった

いや、考えるまでもなく伝えるべきだった

夏凜「もはや言っても遅いかもしれないけど、名前を呼ぶ嬉しそうな声がもう一度聞きたい」

天乃「っ」

夏凜「なんて、思ってたり……して、る。けど」

片言、あわせない視線

嘘ついているとも捉えられかねないみっともなさではあるものの

夏凜にとっては、不意を突かれればそれが最大限なのだろう

天乃『ばーか』

ひらがな一言

電子パッドの裏で、きゅっと瞼と唇を閉じる少女の顔色は、影に覆われていても色づいているのが分かるものだった


では途中ですが、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


では少しだけ


夏凜「馬鹿なのは、否定できないわ」

察しは良いが、察しが悪すぎた

その弁明はする理由もないだろうと、夏凜は嘲笑じみた笑みを浮かべる

とはいえ、今この時間から鬱屈とした空気に浸る意味もなく。

なにより、天乃が空気を悪くするつもりがないのは分かり切っているため

自虐しても仕方がない

夏凜「でも、無茶ぶりはダメって、分かったでしょ?」

天乃『いばられても』

夏凜「事実だから」

戦闘ならばともかく、

こと恋愛において、夏凜は自分が勝っているとは思っていない

素直ではない発言を好意的に受け取ってくれる相手が必要だし

その言葉を素直に叩き直す余裕が必要だ

夏凜「正直、苦手なのよ」


でも、それを心から喜んでくれる人がいる

たまに、からかう対象として弄ばれることもないではないが

それも、嫌味な感じではない

ほんのりと温かみを感じる柔らかい笑顔を携えている

なら、口下手なことも決して短所とも言えないのではないか

そんなことを考えて、夏凜は天乃を見る

電子パッドの裏に隠れていた顔はいつの間にか出てきていて

赤く染まっているような様子もない

天乃『素直になりたい夏凜ちゃんも好き』

夏凜「……そういうこと平気で言えるあんたが、少しだけうらやましい。なんてね」

天乃『思ってることを言うだけ。いつも思ってることは、意外と簡単に言えるものよ』

夏凜「そういうものなのね」

天乃『そう』

そういうものよ。と、

天乃は音もなく口を動かして、笑みを見せた


夏凜「それにしても、ずいぶん余裕が出てきたんじゃない?」

天乃『そんなにないわ』

夏凜「戦いの方じゃなくて、そっち」

天乃『多少はね』

夏凜の向けてきた指が電子パッドに向かっているのを辿った天乃は

苦笑しながら、頷く

手に力が戻ってきていることもあって、

不慣れさは感じられるものの、書きやすい

意思疎通もやりやすいし、リハビリにもなる

長く書いたり、漢字を使おうとするのはそれが理由だ

余裕があるかないかで言えば、多少疲れも感じるため、そんなにあるわけではない

天乃『もうすぐだから、言い忘れがないようにしないと』

夏凜「今生の別れじゃないんだから、終わった後に言い忘れたとでも笑えばいいじゃない」

天乃『金曜日にお弁当箱を学校に置き忘れたとして、笑い話で済む?』

夏凜「取りに帰るわね。間違いなく」

例えが悪いのよ。例えが

夏凜は笑って、天乃も小さく笑う

そんな、日常的な時間は退屈などではなく……瞬く間に過ぎて行ってしまうのだった


√ 2月12日目 昼 (病院) ※日曜日


01~10 若葉
11~20
21~30
31~40 芽吹
41~50
51~60
61~70 九尾
71~80
81~90
91~00 沙織

↓1


※空白は神婚


ではここまでとさせていただきます
明日はできれば少し早い時間から


若葉と交流後、神婚の儀


遅くなりましたが、少しだけ


√ 2月12日目 昼 (病院) ※日曜日



大赦からの命令を受けて迎えに来た瞳に連れられて、

久しく乗ることのできなかった車椅子を積むことのできる車に乗り込む

車椅子を積んではいるが、

神婚の儀に連れて行かれる天乃は

自分の足でそこに向かうわけではないだろう

それと一緒に、若葉が車に乗り込む

千景たちは、勇者部のみんなと一緒で、

水都達は一足先に、天乃が向かう先の巫女に紛れ込んでいる

若葉「夏凜達も、来れたらよかったんだが」

天乃『良いのよ。別れじゃないもの』

これは見送りではない

戦いに行くことにはなるが、別れではない

だから、名残惜しむような見送りは必要などないと、

天乃は精一杯の笑みを浮かべて見せる


若葉「……不安はないか?」

天乃『少しだけ』

若葉「このまま逸れると言う道もある」

天乃『運転してるのは貴女じゃないでしょ?』

若葉「そうだが……」

若葉は静かに呟くと、

手元にあった柄を握り、わずかに刃を露出させる

それがミラー越しに見えたのだろう

瞳が目を見開いた

瞳「ちょ、ちょっと待って! 事故る、事故るから!」

若葉「案ずるな、人を斬るつもりはない」

瞳「なら抜刀する必要ないですよね!?」

若葉「指示に従ってくれれば、不要だ」

瞳「ちょっとぉーっ!」

天乃『冗談はそこまでにしなさい』


これから向かう場所の厳粛な存在感をぶち壊すかのような賑やかさに満ちていく車内に、

電子パッドを叩く音が響く

ただ書き記すだけでは意味がない

だからこその殴打だが

存外に痛みがあったようで、

天乃は痛みを噛みしめるような表情を見せる

それが効いたのか、若葉は【すまない】と囁き、天乃の手を握る

若葉「大丈夫か?」

天乃「ん」

若葉「……そうは、見えないが」

天乃は大丈夫と頷くけれど

電子パッドに書かない辺り、

手の痛みは見えている以上に刺激が強かったのだろうと若葉は目を細める

ほんの冗談みたいなものだったとはいえ、

やりすぎたと悔いるが、天乃は笑みを見せて首を振る


天乃『好きよ』

若葉「なっ」

天乃『こういう、空気』

若葉「……だろうと思った」

電子パッドの上でふらつくペンを握る手は、震えている

ただでさえ弱い手が、電子パッドを叩いて傷ついた

そのせいで震える手は、とても儚げに見える

若葉「最後まで一緒にいるわけにはいかないが……心配はいらない」

天乃「?」

若葉「話しただろう? みんなと」

捨てきれない不安はあるが、しかし、未来に希望を持っている勇者部のみんなと

なら、天乃は怯えているわけではないだろう

若葉「きっと、迎えに行くよ」

天乃「………」


1、じゃぁ、私が行くはめになったら、責任とってね?
2、ええ、待ってるわ
3、大丈夫よ。私はそこまで弱くはないわ
4、神樹様を、信じてあげて

↓2


ではここまでとさせていただきます
明日は出来ればお昼ごろから


では少しずつ


天乃『じゃぁ、私がいくはめになったら、責任とってね』

若葉「何言ってるんだ。責任は元より取るつもりだぞ」

意味がうまく伝わっていないのだろう

若葉は別の意味での責任を引っ張り出して、困った顔をする

責任を取らないと思っていたのだろうか

そもそも、子供を作っていないのに、責任云々の話になるのだろうか

そんなことを考えて、天乃を見る

天乃『その責任じゃない』

若葉「ん……ん゛ん゛っ!」

咳払い

あからさまな誤魔化しの余韻が消える前に、

若葉は羞恥心に彩られた目を伏せる

若葉「そうか。まぁ、そうだな……すまない」

天乃『でも、合わせて責任とってくれてもいいのよ』


天乃『精霊になった若葉なら、子供を作る器官も作れたりするんじゃない?』

若葉「何を言ってるんだ……まったく」

そんなことは無理だ

出来るはずがない

若葉はそう考え、自分の下腹部に目を向ける

若葉は女だ

過去も、今も

それはゆるぎない真実のはずだが、

精霊となった今ならば、生物の枠にとらわれることなく

それを歪めることが出来るのではないか。と

若葉「でも、その可能性も無きにしも非ず。か」

天乃『うん』

若葉「なら、どうだろう? 全てが終わったら試してみる。というのは」

天乃「………」

若葉「出来れば良いのか悪いのか。それは分からないが……なに、天乃は私の子供を産みたいのだろう?」

天乃『そんなこと言ってない』

若葉「言ってるようなものじゃないか」


今から穢れを祓うための禊を行おうとしている英雄を

性的な意味で汚そうとしている過去の英霊

それが映る鏡を横目に見る瞳は

車の中で性的な行為を行うようなものあったような気がする。と

夏凜の勉強の一部を覗いた時のことを想起して、苦笑する

夏凜もやろうと思えば、出来るだろう

というより、誘えば乗ってくるかもしれない

だが。

瞳「そういうのは自分の車でやろう? ねっ、誤解される、私が誤解されるからっ!」

若葉「これから戦いに行くんだ。下手に疲れるつもりはない。冗談ですよ」

天乃『えっち』

若葉「するとしても終わってからだ」

天乃『そういうことじゃない』

若葉「子供を作る。というのも冗談だから安心してくれ」

それが無理とは思っていないが、

双子を妊娠している際の天乃の苦しみを知っていては

子供を産ませるなんて、出来ない


若葉「天乃、神樹様を救うのは、有難い」

天乃「?」

若葉「だが、くれぐれも無理はしないで欲しい」

神樹様が無理難題を押し付けてくるとは思っていない

しかし、人間の基準と、

神様の基準には、どうしようもない差があることだろう

だから、無理だと思ったら諦めて欲しい

若葉は悪いと思いつつも、

天乃が天乃自身のことを優先してくれるようにと、願う

夏凜には、自信を感じる表情を見せていた

だとしても。

若葉「世界はあまりにも、天乃に厳しすぎる」

天乃「………」

若葉「それは神様も例外ではない。それを、忘れないで欲しい」


天乃『大丈夫、みんながいるもの』

若葉「……そうか」

そうだな。と、若葉は微笑む

杞憂であることを願う

だがきっと、この戦いは一筋縄ではいかないことだろう

大赦は天乃が神婚の儀を受け入れ

何事もなく終わると考えているだろうか?

考えていようが、いまいが

きっと、成立するという想定で動くはず

若葉「頑張ってくれ。なんて言葉は相応しくないな」

天乃『愛してる。とでも言って抱いてくれてもいいのよ?』

若葉「別れみたいで、好きじゃないな」

ロマンがあるかないかで言えばあるかもしれないけれど

命を懸けるべき戦いの前で、それは少し不謹慎だからと、

若葉は天乃の手を握るのみに、控えた


√ 2月12日目 昼 () ※日曜日


運転手である瞳、精霊である若葉

二人の手を離れた天乃は、身を清め、整える手伝いをする巫女と

連れ立って歩く神官たちの担ぐ神輿に納められ、

禊を行うための場所へと向かう

車椅子は俗世の物

それでは不敬であるとされたのだろうが、

乗りなれない神輿の揺れは不安定で、

天乃は乗り物酔いでもしそうだと、顔を顰める

電子パッドも取り上げられてしまった

水都と沙織が紛れているが、

それ以外の巫女や神官には、

天乃の表情だけでは意思を伝えるなど不可能だろう

天乃「…………」

若葉の触れてくれていた手の温もりがだんだんと薄れていく

でも、不安に満ちてしまうことは、ない


天乃「っ」

禊を行うために衣服を脱がされ、

流れ落ちる滝によってため込まれた冷たい水の中へと、落とされる

身を清めるための神聖な水

だが、汚れに満ちているはずの天乃の体は拒絶するような反応もなく

ただ、水の冷たい刺激が神経を震わせる

天乃「………」

水都「……体を清めます。従ってください」

沙織「あたしたちがやるから、安心してね」

他の人たちには絶対に触らせまいとしたのだろう

何があったのかは分からないが、

力が不足していて満足に身を清められない天乃と連れたって入ってきた巫女の二人は

天乃の精霊である、水都と沙織だった

真面目に緊張感のある声を出す水都の一方で

沙織は殆どいつもと変わらない調子だ

天乃「…………」

沙織「……やばい、ちょっとエッチな気分になりそう」

水都「自重してください。今はふざけてる場合じゃないんですから」

沙織「だって、こんな大自然で全裸なんだよ? ほら、この珠の――」

水都「一応、神聖な場所なんですから、煩悩を静めてください」


こそこそとした話し声は水の流れる音にかき消されているのか、

は織物の準備に移っているほかの巫女たちの耳には届いているような様子はなく

煩悩が横にあると知ってしまった水都だけが

心労を感じるため息をつく

緊張感を持つべき場面だ

ここで粗相があれば、神樹様が神婚自体を受け入れない可能性がある

沙織からしてみれば

天乃の神婚が無くなると言うことで、

歓喜もするようなことなのだろうが。

それでは、神樹様を救うと言うことは夢物語に終わってしまう

それは、望む結末ではない

水都「久遠さんの体が魅力いっぱいなのは理解してますが、ここは、ね?」

沙織「……分かってる」

天乃「ん……」

分かっていると言いながら、

手つきがいやらしいのは指摘すべきかしないべきか

天乃は沙織のいつもらしさに、甘んじることにした


√ 2月12日目 昼 () ※日曜日


01~10
11~20
21~30 九尾
31~40
41~50
51~60
61~70 
71~80 千景
81~90
91~00

↓1


では、少し中断します
21時頃に再開する予定です


ではもう少しだけ


「では、久遠様」

ここから先は、一人で向かわなければならないと、送り出される

左足が動かせなくても、松葉杖はない

もちろん、車椅子もない

神婚の儀に向かうための装束に着替えさせられた天乃は、

右足に体重をかける形で、無理やりに地に立つ

水都「久遠さん……」

沙織「大丈夫」

禊の時とは打って変わって

不安そうな声を絞り出す水都を、沙織は抱き寄せる

歌野を見送った記憶が、想起されているのかもしれない

だけど、その時とは違う

一人じゃない

みんながいる。希望がある

だから

天乃「………」

天乃は何とか振り返ると、

二人に向かって微笑み、手を振る

大丈夫。そう、想いを届けるために


天乃が神婚の儀に向かう一方で、

夏凜達はかつて、天乃達が護ろうとした大橋へと向かう

九尾や歌野達の観測から敵が現れるであろう方角を推測し、

その最も適した場所が、大橋であると考えたのだ

夏凜「今頃、天乃は禊を終えてる頃よね」

東郷「沙織さん達が、少しうらやましいわね」

友奈「じゃぁ、全部終わったら、みんなで温泉に行こうよ」

風「あぁ……いいわね。自腹になるかもだけど」

体を自由に動かすほどの力がない天乃は、

禊でさえも、人の手を借りなければ行うことは出来ない

それに手を貸すのは、きっと、あの二人

だから、東郷達は全部終わった後の温泉で、

天乃の体に触れようと画策する

そんなことしなくても、天乃ならば求めれば受け入れてくれるだろうが、

やはり、驚く顔も愛らしいと思う東郷としてはそういうこともやめられない

樹「久遠先輩の体って、東郷先輩と同じくらい白いですよね」

東郷「でも、久遠先輩の方が綺麗よ。何というか、こう……」

夏凜「東郷はバラ、天乃は百合だしね」

東郷「それは、貶されているの?」

今日滅ぶか否かの瀬戸際の世界で、

それを知りながら、バカげたことを考えている勇者を咎める声はない


樹「百合の花言葉って、久遠先輩にぴったりな気がします」

どんな色であっても

百合は純粋と、無垢、白百合は純潔と、威厳

黄色の百合は、陽気、オレンジ色は、華麗

そして、天乃の髪色でもあるピンク色の百合は……虚栄

いい意味でも、悪い意味でも

天乃はそんな人だった

風「なによ夏凜、あんた花言葉の勉強してるの?」

夏凜「勉強なんてしてないわよ。見たことあるだけ」

東郷「夏凜ちゃんは勤勉だものね」

夏凜「なによ。その顔」

ちょっとばかり悪い笑顔を見せる東郷に、

夏凜はにらみを利かせた視線を送るが、

間にいた園子の笑顔が、遮る

園子「女の子同士の【ユリ】を調べてたんだよね~?」

夏凜「んなっ」

樹「あっ図星だ」

風「ずぼっしーだ」

夏凜「活きの良い喧嘩じゃない、よし表出ろぉっ!」


天乃が神婚の儀に向かっている不安をかき消そうとしているかのような、賑やかさ

笑顔はあるが、恐れもある

しかし、そればかりではいられない

なにより、多少の余裕がある方が、勇者部は最も力を発揮できる

園子「天さんには聞かせられないねぇ~」

夏凜「天乃は天乃で、ああ見えてボケに回ると言うか……全力で楽しみに来るから」

困ったものだと、夏凜が悪態をついた瞬間に……それは訪れた

夏凜「なに!?」

地を割くような、轟き

天をも穿つような、轟音

夏凜達の乗っていたバスは突然の揺れにハンドルを抑えきれず、

ブレーキがかかる前にガードレールに突っ込んでいく

友奈「きゃぁぁぁぁっ」

風「ちょっ、友奈っ!」

園子「だめっ!」

衝突は衝突を生み

バスの中には悲鳴と荷物が飛び交い

小さな体の子供さえ、座席から浮き上がる

樹「間に合ってッ!」

樹が慌てて勇者の力を展開し、

車外に吹き飛びそうな子供や、友奈の体を捉える

だが、それでバスが停まるわけではない

勢いを殺しきれず電柱へと衝突し、横転へと傾く

けれど、バスは倒れることなく斜めのままに停まる

恐る恐ると顔を上げた人々の視界の先で、

大きな狐がバスを支え、赤い瞳が車内を覗く

天乃の精霊である、九尾だ

九尾「呆けるな小娘共! 奴が来ておる。さっさと出てこんか!」

九尾が本来の姿で姿を見せたということは――つまり、戦いが始まることを示していた


では、途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
明日は出来れば、通常時間から


では少しだけ


焼け爛れていく肌のような不気味な空模様

傷口から溢れ出てくる血にも似た悍ましさを感じさせる何かが、ゆっくり、ゆっくりと

世界の縁、神樹様の根が作る壁の向こう側から、入り込んでくる

空を覆うその姿は、まさしく……天の神のようで

息を飲む人々の傍ら、勇者部の面々の傍に姿を見せた若葉達は各々の手にする武器を強く握る

かつて、絶望が空を覆いつくした

人々の心に大きな爪痕を残したその出来事は、天空恐怖症候群と呼ばれた

しかし、それは子供のお遊びでしかなかったのかと、若葉は歯を食いしばる

吹く風は結界外の炎を巻き込んだのか、熱く

肌に纏わりつくようにして抜けていく

総毛立つ空気感、目を覆いたくなるような超常的な現象

事態を飲み込めない人々の、しかし、本能的に畏れを抱く心の小さな呟きが聞こえてくる

若葉「ぐ……」

勝てるのか?

無事で済むのか?

生半可な未来像など、抱いている余裕なんてなかったんじゃないか?

強く持とうとしていた心に、皹が入る

だが――

歌野「ノープロブレム!」

若葉「!」

その絶望的状況の中、たった一人の勇者として人々を守り続けた勇者、白鳥歌野の声が轟く

歌野「みんながいる。そうでしょ? 若葉!」


力強い言葉を裏付けるように、千景が、球子が、

そして、今を生きている勇者部の面々が頷く

夏凜「私達が目指してることが簡単なことじゃないってことくらい、初めから分かってたことじゃない」

球子「それでも、タマ達はやるって決めた。そうだろ?」

若葉「………ああ」

柄を強く握りしめていた手を解き、胸に押し当てて……握りこむ

恐れに膨れ上がっていた心臓の音が鎮まっていくのが伝わってくる

確かに、天を覆う恐怖は絶大だ

だが、天はこちらにある

そして、ここで負ければその天までもが天の神によって奪われてしまう

人間は弱い

勇者とて、力をあるだけの人間であり

弱者である事には変わりがないだろう

しかし、だけど、だとしても

隣に友がいるのならば

心に想う人がいるのならば

若葉「そうだ。そうだな……何を、恐れる必要がある」

園子「怖い思いはもう、こりごりだねぇ~」

若葉「全てはこの日の為にあったんだ――行くぞッ!」

立ち向かえない道理など、あるはずもなかった


天の神の力は絶大で、

天の神の姿を現した世界は追い込まれるように樹海化していき、

やがて、世界は完全に、いつもの戦いの場へと変化した

千景「………」

神樹様の樹海化は間に合わず、その姿は人々の目に映り

その存在は明るみに出た

樹海化するまでほんの数分間だったし、

戦いが無事に終われば、人々にとっては瞬く間に終わった出来事でしかないかもしれない

これが架空の世界であれば

人々の祈りが、願いが、勇者の力になることだろう

しかし、この戦いは人類の存亡をかけたものではあるが

勇者達にあるのは、自分たちの我儘だけだ

千景「……最終決戦が、ヒーローの我儘の戦いなんてクレームものよね」

樹「そうでしょうか」

ヒーローだから

勇者だから

我儘なんて言うなと、心に蓋をさせるのなら

もし、人々がそんな物語を望んでいるのだとしたら

それは、神々に滅ぼされても仕方がないのではないかと、樹は思う

友奈「ヒーローだって人なんだ。生きてるんだ……だから、おかしくなんてないよ」


隣に立つ友奈の優しく、力のある声に樹は目を向ける

最終決戦と呼ぶべき過去最大の敵を前にしての笑顔は、

勇者となっているときの桃色の髪も相極まって、追い続けている先輩のようで

樹は、思わず笑みを浮かべる

樹「そうですね。きっと、久遠先輩も同じようなこと言うと思います」

千景「久遠さんなら、どう言うかしら」

無欲がヒーローの条件だと言うのなら、私は悪役で良い

もしかしたら、あっけらかんとそんなことを言いながら、満面の笑みを浮かべてくるかもしれない

そしてきっと、「私は大赦に嫌われてるし」なんて、皮肉をぼやくのだ

風「ありえる」

球子「なんだなんだ何の話してるんだ?」

夏凜「不真面目な話でしょ。どうせ」

気を引き締めてかかるべきこの場面で、この気軽さ

けれど、各々に責任を感じていて、重みを感じていて

だからこそ、隣り合う勇者達との、勇者部らしい他愛のなさを欲しているのだろう

それを思い、本来ならば自分の前に、あるいは傍らにいたはずの愛すべき勇者をその目に見て

夏凜はいないと分かっていながら、微笑みを向ける

夏凜「ま、なんとかなるでしょ」

軽口一つ、両手にそれぞれ刀を握り

心の内から燃え上がっていきそうな活力を胸に秘めて

夏凜「古今無双、久遠天乃が伴侶――三好夏凜、参る!」

周囲から「ここぞとばかりに」というような笑い交じりの呟きが聞こえたが

夏凜は天の神が最も忌まわしく思っているであろう存在であり、

自分が心に抱く想い人の名を力強く告げ、切っ先を天を覆う存在へと差し向けた


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば、通常時間から


遅くなりましたが、少しだけ


若葉「天乃は神樹様にたどり着いては……ないな」

千景「まだ、神樹様と距離はあるわね」

球子「防人か?」

風「天乃に何かあった?」

歌野「神樹様に近づくスピードが変わらないのよ」

結界の中というのもあって、

神樹様の力は全体に満ち満ちているが、

それでも、神樹様の源がある場所は目に見えているし、

一際強い力も感じる

そこに近づく主たる天乃の力はそこまで強くはないが

ゆっくりと、しかし一定の速度で移動を続けている

何らかのサポートがあるのは確実だが

それが何なのか、掴めない

夏凜「防人なら集団でしょ? 点々と力を感じないなら、神樹様本人……本木? じゃないの?」

友奈「意外に、木の根っこが移動してたり」

園子「そんな感じはするね~」


目の前の難敵よりも、天乃の心配

遅れはしたものの、

樹海化したことで、生身の一般人が直接傷を負うことこそなくなったが

今は微弱な力となっている天乃が狙われやすく、危うさが増したのは、不安になってしまう

だからと言って、そればかりに気を取られているわけにもいかない

夏凜「東郷達は後ろから援護、満開を使った組は出来る限り後ろにいる事。いい?」

風「出し惜しみしてられないでしょ」

樹「でも、満開を使っちゃってると、精霊に守って貰えないよ」

東郷「そうね……でも、私や球子さんはともかく、そのっちや風先輩……特に夏凜ちゃんや友奈ちゃんは無理だわ」

遠距離や中距離組ならば

まだ、何とか戦うすべを持っているが、

近距離である夏凜達や、拳というほぼ0距離で戦わなければならない友奈なんかは、

満開をしたからと言って後ろに下がっていては、戦いようがない

それに、近づかなければどうとでもなる。なんて、安易な相手ではないだろう


風「みんな、準備は良い?」

ここから先は、チームとしての連携も必要な場面はあるが

個々の能力でしのがなければならない場面が多くあることだろう

だが、みんなの表情は力強い

必ず勝つと、生き残ると

若葉「西暦に散った身なれど、魂はここにある。ならば、果たすべき誓いもまた、ここにある」

球子「今度は、絶対に守って見せる」

千景「……そうね。負ける気はないわ」

歌野「ワンフォーオール、オールフォーワン。何とかなるわ」

西暦に生きた、勇者達

各々の思いを抱く先代の頼もしさを背に、

現代を生きる友奈たちは前を向く

友奈「久遠先輩が帰ってくるまでが戦いです」

風「別に、アレを倒して終わらせてもいいんでしょ?」

夏凜「出来るならね。まぁ……一筋縄にはいかないでしょうけど」

樹「それでも、やれることをやりつくすまで、戦うだけです」

園子「ボロボロになってもいい。でも、死んだりするのは……駄目だよ」

東郷「そのっちの言う通り」

あの日、銀を失った悲しみを、嘆きを

もう二度と、味わうことがないように

この世界が滅び、もう二度と、楽しむことが出来なくなってしまわないように

風「勇者部……ッ!」

ファイト!!! と、全員が口をそろえて、声を上げた



1、移動
2、作戦
3、一時待機(敵が先攻)
4、戦闘おまかせ(久遠さん側に移ります)


↓2

※3、4以外は再度安価
※MAP:https://i.imgur.com/V35FniC.png


1、ガンガン攻める
2、散開し、包囲する
3、慎重に行動する(移動マスを少なく、敵の動きに合わせて変動)
4、命を大事に(移動を控え、敵の動きに合わせる)


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


すみませんが本日はお休みとなります
明日、出来れば少し早い時間から


遅くなりましたが、少しだけ


言わずもがな、作戦は命を大事に

敵の動き、攻撃

些細なことにも油断せずに、確実に生き残るための行動に徹する

単独での行動は控えるべきだが、

まとまっていると、それだけ攻撃も集中することになる

程よく散開し、カバーしあえる程度の距離を保って戦うべきだろう

夏凜「……とはいえ、初見。なのよね」

戦い慣れた……というほどではないけれど、

見覚えのあるバーテックスであれば

多少、適切な戦い方というのも分かっているし、考えることも出来る

しかし、大ボスたる天の神の化身が相手では

こんな攻撃をしてくる。こう動けばいい

ここが弱点だ。という話もない

そんな状況で、精霊に守って貰えなくなることもあるのだから

満開もここぞという状況まで温存すべきか

風「夏凜、どう?」

夏凜「どうも何も、下手に攻撃すべきじゃないでしょうね」


勇者は普通、空を飛ぶことは出来ない

各々が満開を使うことで、

ある程度空中戦に対応することも不可能ではないが、

基本は跳躍での戦闘になってしまう

それでは、天を戴く神の力に抗うことは出来ない

友奈「どんどん進んでくる……このままじゃ、久遠先輩のところに行かれちゃうよ」

東郷「まだ、私の最大出力よりも遠いわ」

威嚇射撃――神様に威嚇というのもおかしな話だが、

牽制する攻撃も不可能だ

高く、遠すぎる

では、どうするか

夏凜「さっき話した通り、回避優先。し過ぎずやらなすぎずの散開でr程度の距離を保つ。できる?」

東郷「努力する」

一番、移動力のない東郷は、目を向けてきた夏凜に頷いて答える

広範囲の集中砲火を浴びせられた場合、高確率で回避が難しい

もっとも、足が動かせるようになったことで

以前と比べればだいぶマシではあるが、治ってからさほどリハビリできていない現状

全力での行動は避けたいのが心情だ

もちろん、必要であれば、壊れてしまうほどの全力も辞さないが。


若葉「行くか、待つか」

球子「好機は寝て待てっていうけどな」

千景「果報は寝て待て。よ。土居さん」

樹「運に任せていたら、神様には勝てないと思います」

とても自然に、樹はそう口にした

最近はおどおどすることもなく、

中学生というより、もうちょっと大人びた雰囲気を感じさせる樹は

神を見上げ、力のある瞳でそれをしっかりと見つめる

樹「待つのは、久遠先輩でこりごりです」

風「……立派なこと言うと思ったら、それが本音?」

樹「えへへ」

歌野「じゃぁ、どうする? 行く?」

夏凜「慎重にって、話したばっかりなんだけど」



1、移動
2、敵の行動を待つ
3、精神:加速(移動力+2)


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日は出来れば昼頃から


戦闘開始


では少しずつ


夏凜「とにかく、集中」

体の中に廻る力に意識を集中していく

神樹様の力と、天乃から分け与えられた力

目に見える場所にいなくとも

すぐそばで支えてくれる、とても強い力

夏凜「天乃、私は、私のできることを」

足へと力を集中し、自分の出せる限界を超えさせる

逃げ切れない、届かない

そんな後悔するわけにはいかない

なれば、力の限りを尽くそう

踏みしめる樹海の根が、ミシリと音を立てる

そこまで強く踏んだつもりはない

けれど、込めた力が想像を超えていく

夏凜「……成せば、なる」



1、移動
2、敵の行動を待つ


↓2


https://i.imgur.com/bF7UmMj.png


1、最前線(J7:最大距離)
2、その他(マップより指定)


↓2

→MAP:https://i.imgur.com/bF7UmMj.png


夏凜「私が先攻する! 友奈たちは様子を見ながら散開!」

風「ちょっ、夏凜!」

風達の声を置き去りに、駆け抜けていく

みんなに慎重にと言っておきながら

一人先行して抜けていくのは裏切り行為だろうか

いや、愚かな行為だろうか

だが、一人駆け抜けていけば、敵の目はそこに向く

嫌でもだ

例え神であり、人間など虫けらのようなものだと認識しているとしても

僅かでも神の力を借り受けた勇者を無視は出来ないだろう

満開を使うのが一番だが、それはここぞと言うときに取っておきたい

園子「にぼっしーっ!」

夏凜「………」

園子の声は、良く聞こえる

悲痛さのある叫びは、三ノ輪銀を重ねてのことだろう

だが、止まるわけにはいかない


近づくにつれて、天の神の化身の姿がより大きくなっていくように感じる

空を覆う姿はまさしく神だ

だとして、だからと言って、止まる足はない

天乃と約束をしたのだ

必ず生き残ると

夏凜「はっ……」

若葉達だけでなく、

友奈たちがどこに向かっていくのかを、感じる

満ち満ちた神樹様の力ではなく、譲り受けた天乃の力のおかげだろう

若葉達精霊が天乃の力で互いの位置を把握していたのと同じ効果が、

今は、夏凜達に与えられているのだ

夏凜「……助かる」

歌野と樹が右翼、園子は中寄りの右翼

友奈、若葉、千景が左翼

風は中央突破で夏凜の後ろに続き、

東郷は後衛に少し下がって、最終的な防衛ラインを築く

球子はその東郷を守るように立つ


園子「にぼっしー……」

独断専行、天乃に告げ口すれば叱って貰えるだろうか

そんなことを考えながら、急いで夏凜の後を追う園子は、

先に見える紅き勇者に、かつての友を幻視する

まだ、精霊による加護も無い頃の戦い

当たれば大怪我では済まない中、

武器の効果を前回にまで引き出し

降り注ぐ死の雨を傘のように広げた槍で防ぎ続けていたのだから

無力だったとは言えないだろう

けれど、園子は自分が有力だったとは思えない

力があれば、守れたのだ

力がなかったから、失ったのだ

けれど、それを気負って死に向かうことなどする気はない

背負って一人、駆け抜けていった友がいた

その背を負うように、罪を背負って迷わず歩いていく先輩がいた

園子「だからね、その背中は晒しちゃいけない」

背中を任せる人が必要なのだ

戦場だろうと、日常だろうと

どこでだって、その手に余ることがあるのだから

一緒に抱えてくれる仲間が、必要なのだ


全力で追いかける

追いかけ、辿り着いても敵の攻撃が一度は挟まってしまうかもしれない

夏凜の早さなら、回避できないこともないだろうが

敵の攻撃が全く予想もつかない以上

絶対はないと思っていたほうが良いだろう

だが、ある程度の推測ができる

バーテックスの集合体たるレオ・スタークラスターは

吸収したバーテックスの技を使用することが出来る

であれば、親玉であるあの円盤はすべての攻撃を可能とし、

その威力も、範囲も、何も

全てを超越していることだろう

園子「……ゆーゆたちは反対側、うたのんいっつんの師弟ペアが私達を追いかけてきてる。か」

どこを狙ってくるか

煩わしさで言えば、真っ先に向かってきている夏凜かもしれないが

合理的に考えれば、まとまって潰せるところを狙ってくるだろう

園子「にぼっしー、無理はしないで」


それぞれが、配置につき始める

回避を捨てる覚悟で刀を手に突貫すれば、攻撃の一つも放てるだろう

だが、届くだろうか

天を戴く神々の化身に

夏凜「…………」

単独で先行しておきながら。とは思うが、

怖気づいているわけじゃない

無茶はしても無理はしない

そうしなければ、守り抜くことは出来ないが、生き残ることも出来ないのだ

満開を使っていなければ、精霊の加護が与えられる

だが、それも完全ではなく、万全でもない

もはやひび割れた盾だ

夏凜「どうする」

動くか、留まるか

先手必勝とは言うが、後手必敗とは限らない


1、攻撃(突撃:威力300)
2、待機(回避+5)


↓2


????→夏凜 命中判定↓1  01~49 命中  ぞろ目切り払い


血生臭く染まった空

台風の目のような中心部が、光を放つ

夏凜「!」

何かが来る

直観的に判断した夏凜が下がった瞬間、目の前を一筋の光が貫く

それは、精錬されたスコーピオンの槍のように凶悪な輝きを放ち、

撃ち貫いた樹海の根の命を削り取る

夏凜「来い……こっちにこいッ!」

その声が届いたのか、届いていないのか

定かなのは、敵の目は夏凜に向いていると言うことだ

一筋だった光は、流星群のように降り注ぐ

ごくりと息を飲み、肺の時間を止める

日本刀を握る左右の手に呑み神経を集中させる

回避をすべく足を止めたが、回避は無理だ

であれば、すべきことはただ一つ

杭を打ったように足を止め、枯れた木の根がぐりゅりと抉れるのを足に感じる

夏凜に203ダメージ


夏凜「ふっ……ッ!」

右手の一振りで、数本の槍を薙ぎ払う

次の数本を、左手で薙ぎ払う

少しずつ、少しずつ

切り払う速度を上げていく

夏凜「このぉぉぉぉッ!」

切り払う速度を上回って降り注ぐ残酷な光の雨が、

だんだんと疲弊した夏凜の刀を――砕く

夏凜「くっ」

頬を掠り、手首を貫き、足を穿つ

精霊の加護はあるが、それを容赦なく貫いてくるのだ

夏凜「まだっ、まだっ、まだだぁぁぁぁぁッ!」

追加で呼び出した刀の鍔元が穿たれ、吹き飛ぶ

武器一つとなった夏凜は、防ぎきれない一撃を受け、膝をつく

滴るのは汗ではなく、夏凜の血

まだ赤く、汗で少しばかり薄れた血

夏凜「かふっ……ふっ……わ、たしは……ッ!」

穢れ切った樹海の根を踏み、力を込めて、ふらつく体を起こしていく

まだ、終われない。始まったばかりなのだ

たった一撃に屈していたら、勝つことなど、出来ない


夏凜「……っ」

左手が、震える

手首を貫かれたせいだろう

力を入れようとすると痛みが鋭く迸り

木を強く持っていないと、刀を取りこぼしてしまいそうな不安が残る

足も痛い

呼吸するのも、辛い

夏凜「だと……してもっ……ごぷっ」

これが、本当の戦い

体は実際に傷つくし

簡単に血が流れてしまう

そして、同じくらいに容易く、命を落としてしまうのだろう

夏凜「わたしは……私は」

刀を突きさし、体を支える

たった一度の攻撃で、酷く、弱ってしまった

だが、だとしても

夏凜「……まだ、死ねないッ!」


友奈「夏凜ちゃん……」

夏凜の中に感じる力が、大きく削がれたのを感じた

きっと、血が流れたのだ

みんなもそうだが、夏凜の中に宿る力は二種類ある

一つは元々借り受けている神樹様の力

そしてもう一つが、久遠家という【血族】の力

友奈「久遠先輩の力、怪我すると弱るんだ」

流れる血液は、ある意味では生命力ともいえるだろう

天乃の力は、その生命力を消費しての行使に近いため

怪我をすればするほど、その力は弱まっていく

天乃のように、自ら作り出すわけではない夏凜達だからこその、欠点だ

若葉「友奈! 無理に先行するな! 相手の出方を待て!」

友奈「無理に攻撃はしません」

若葉「天乃はきっと戻ってくる。戻るまで耐えれば、私達の勝ちだ」

友奈「倒せませんか?」

若葉「口だけでなら」

友奈「……そうですか」

これが夏凜ならあるいは、天乃なら

油断はしたくないからとかいうだろうし、にこやかな笑みを浮かべているかもしれない

だが、若葉は真剣な表情を崩さない

だから、それは偽りなく本心だと友奈は感じた


若葉「………」

友奈には、嘘をついてよかったのかもしれないと、

その背中を見ながら、若葉は口惜しむ

だが、その小さな嘘で何が護れるのか

たった一瞬、士気を維持できたからと言って

戦局を覆されることなく、

天乃が戻ってくるまでの時間稼ぎを完遂できるだろうか

答えは、否だ

若葉「……不甲斐ない先輩で済まない」

だが、不甲斐ないなりに先輩だ

そして、天乃の力を色濃く借り受けている勇者

この場で最も、力を発揮できるのだ

それは、後ろからついてきている千景が一番ではあるのだろうが、

それでも、負けるつもりはない

若葉「欲するは命、ならば、懸けるべくもこの命だろうッ!」

勇者たちの満開

それと匹敵するほどの力を得られる切り札

それを胸に、若葉は駆け抜けていく


1、剣撃(威力1200・CRT+15)
2、精神コマンド
3、待機


→MAP:https://i.imgur.com/jQP1nn9.png

↓2


夏凜→???? 命中判定↓1 01~95命中 ぞろ目・01~15CRT  85~95撃ち落とし


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


????に1232ダメージ


では少しだけ


夏凜「よく、来たじゃないの……」

ほんのわずかではあるが、距離が縮まった

跳躍することが必須にはなるが

この距離ならば、刃が届く

夏凜「ぶった切ってやるッ!」

園子「待ってにぼっしーっ!」

滾る紅蓮の思いを胸に、

すぐ隣にまで来ていた園子の手を振り切って、跳ぶ

跳躍中は非常に無防備になってしまう

接近してくる勇者の気配を察知しての対地迎撃として生み出された無数の火の玉が、

夏凜めがけて降り注ぐ

夏凜「くっ」

二手三手切り払おうと、

襲い来る火炎は勢いをそがれることなく、むしろ増えていく

空中で久留里と身をひるがえした夏凜は、

一度、樹海の根へと降りたち――前転

園子「っわぁ!?」

背後の爆発を助走として一気に体を起こして駆ける


夏凜「っは……」

園子の悲鳴が聞こえた

痛みによる叫びというよりは、驚きによる声

特に問題はないだろうと、

前を見、天を仰いで討つべき相手を見定める

夏凜「天の神ぃッ!」

迫りくる火球をそのままに、

樹海の根を駆け巡り、

上り坂の代用品を駆け上がって、力強く蹴り上がる

夏凜「とどけぇぇぇぇッ!」

火の玉を切り払い、

その力を奪い取ったかのような断罪の焔を、その刀は身に纏う

左手に握る刀を消滅させ、右手の刀にすべてを委ねる

夏凜「せぇぁッ!」

力を集中させたことで、

包む炎はその勢いを増して、天の神の赤さと相対してなお輝きを損なうことなく――引き裂く


神の力と神の力が衝突し、爆発を巻き起こす

吹き飛ばされた夏凜は、

勢いよく回転しながら頃合いを見計らって

刀を樹海の根に突き立て、手首を痛める前に手放して転がる

夏凜「かはっ……はっ……はぁっ」

敵の直接的な攻撃を受けたわけではないとはいえ、

間近での爆風は衝撃が強く

根への衝突も相まって、骨の髄まで痛みが響く

夏凜「げほっ」

血の味が広がる

血を吐いたのは、見なくとも分かる

これが天乃の痛みなのか

いや、違う。この程度ではない

夏凜「まだ……まだ戦える」

天乃はもっと苦しんだ

天乃はもっと痛かった

それでも、戦いに身を投じて生き残り

退いてなお、尋常ではない苦しみにもがいていた

夏凜「私はまだ、戦える」

満開だって、残しているのだから


園子「にぼっしーっ!」

夏凜「っ」

園子「慎重に戦うんじゃなかったの? 生き残るんじゃなかったの?」

夏凜「けふっ……痛い」

園子「みんな無事ならそれで良い。は、天さんの悪い癖だよ!」

駄目だったころとは言えないが、良かったとも言えない

自分の命を切り崩して、一心不乱に守り抜いて

確かに救われた

けれど、それ以上に苦しまされた

自分はそこにいない時間が多かった

目の前で見ていられなかった

傍で寄り添ってあげる事すらできなかった

だから、傍で見てきた夏凜達のすべてを分かるとは言えないのかもしれない

だけど大橋を破壊される結果に終わってしまったあの戦いと変わらなかったのなら

また、新たに巻き込むことになってしまったことを背負っていたのなら

それはどんなに、頑固な強さだったか

園子「頑張るのは良いよ。でも、だからってそんなに無理してたら死んじゃう」

そっと、夏凜を抱く

本当は天乃の役目だが、いないからこそこうなっているのだから仕方がない

園子「お願いにぼっしー……天さんが好きなら分かって」


夏凜「っ……」

別に、気負っているわけではない

口でそういうことは出来るけれど

実際にそうであるのかなんて、こんな非常時に抱きしめられている現状を鑑みれば

残念ながら否であることは、確かだ

夏凜「無理、してた?」

園子「してた」

夏凜「いなくなりそうだった?」

園子「……うん」

夏凜「そっか……ごめん」

戦える間はまだ大丈夫

だけど、大丈夫なのは自分だけ

一心不乱な戦いは、死に一直線に見えたことだろう

園子「あとで、天さんに告げ口する」

夏凜「示談で済まない?」

園子「済ませない」

夏凜「分かってた、はずなんだけど」

無理をし過ぎれば、三ノ輪銀を彷彿とさせ、園子と東郷

そして、天乃を苦しませることになると

夏凜「はぁ……」

園子「神婚の八つ当たりもいいけど、天さんの笑顔、見たくないの?」

夏凜「見たい……というか、そのためだったのよ」

本末転倒とはこのことかと、夏凜は呆れたように天を仰ぐ

少しばかり、気圧されてしまっていたようだ


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


では、少しだけ


歌野「三好さんは……ストップしたかしら」

燃え盛る炎の衝突

それによって生み出された爆発

吹き抜けていった肌を焼く風の名残を払うように頭を振った歌野は

静まった中心付近を一瞥し、呟く

向こうには園子がいる

普段は物腰柔らかな子だが

その実、芯のしっかりした子だと歌野は思っており、

園子が一緒にいるなら大丈夫だろうと迷いを拭い、振りかえる

歌野「樹、満開はトランプ。出来る限り使わないで」

樹「分かってます……けど、出し惜しみもしてられないと思います」

命を捨てる覚悟で戦うのは間違っていると思いつつも

それくらいの覚悟を持って戦わなければ、天の神を討ち果たすことなどできはしないだろう

むしろ、それだけの覚悟をもってしても

圧倒的な力量の差を前に、敗北の可能性さえあるのではないかと、

樹は心の片隅に不安を残す

負ける気はないが、絶対に勝てるとは言わせない

それほどの強大さが、目の前にはある


樹「出来ることのすべてを、尽くすべきなんじゃないかって、思うんです」

歌野「それで死んだら、元も子もないわ」

樹「それはそうですけど、でも、命懸けで立ち向かわなきゃ本気なんだって伝わらないこともあるのかなって」

天乃は常に、命懸けだった

その背中は偉大で、憧れで

けれど、その道を進むことはしてはいけない

それは険しいのではなく、死の道だ

天乃が使役し、今は千景となっている伊邪那美

彼女がいたとされる黄泉の国

そこへと至る黄泉比良坂

まさしく、天乃が歩んできた道そのものだ

しかし、そこに踏み入る覚悟なくば、神をも下す人間の強さは証明することは叶わないのではないか

樹は、神様の理不尽さゆえに、示すべきものの遠さを思う

樹「満開は、そのあとによっては死ぬ可能性もあると思います。でも、そこで怖気づいていたら、本気だって、言えるんでしょうか?」

歌野「……それを分からないとは思わない。ミーもシンキングしたわ」

樹「大事なのは、それをどう扱うかですよね?」

同意を求める樹の瞳を見つめ、

歌野はふっと息を吐いて、藤蔓を握る手に力を籠める


あの日の自分は、どうだったろうか

絶望し、諦め、屈したか

いいや、そんなことはない

確かに敗北した

守るべきものを守り切れず、奪われ、自らも損なった

けれど、その胸に希望はあった

託したものがあった

死を覚悟しながらも、生への希望を抱いていた

歌野「………」

満開も、同等の力を発揮する切り札も

すべからく危険な代物であることは確かだ

だが、だからと言ってそれを封じ、限界ぎりぎりまで行使しない

そんな生半可な戦い方でしのぎ切れる相手だろうか

歌野「そうね。正しいジャッジメント……大事なのは、スピリッツ」

命を懸けるとは、魂を懸けると言うことだ

それの宿っていない力で、神を屈せるだろうか



1、為せば成るかもしれない
2、出し尽くしてこそ、誠意だ

↓2


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば、通常時間から


死ぬ気で戦うか、生きる気で戦うか


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
今週は所用で厳しいので、場合によっては再開は土曜日となってしまう場合がありますが
出来れば明日、通常時間から


遅くなりましたが、少しだけ


歌野「……為せば成る」

それを絶対的な言葉として扱うつもりは毛頭ないし、

勇者部のみんなの説得をショートカット出来る便利な合言葉とするつもりもない

けれど、この時はそれが適切だと歌野は思った

樹に対してではなく、

自分の中にある不安要素に対して、

それをねじ伏せるのではなく、

それでもなんとなるかもしれないだろう。という、宥めるための言葉

ある意味では自信

ある意味では信頼

自分なら、自分達ならどうにかできるのではないかと。

歌野「別に、スピリッツが宿っていないわけじゃないから」

命を懸けるとは、魂を懸けると言うことで

しかしながら、魂が宿っている力というのは

命を懸けている力というわけではない

歌野「例え、満開を使わなくても、私は、本気だって言えると思うわ」


樹「どうして、ですか?」

歌野「生きていたいからこそ、だから」

生きていたいからこそ、満開を使わない

それを甘く見てると言われればそれまでだけれど

天の神という最大級の敵を前にしても

勝利ではなく、生き残ることを最優先に考えているのだから

それはそれで、本気だと言うことになる

圧倒的な相手、簡単にはいかない

樹の言うように決死の覚悟というものが必要な中で

それを選ばないという、数ある手段の中で最も叶え難い選択をするのだ

命を賭さない

ただそれだけで、本気ではないと言われる程度の覚悟しかないだろうか?

いや、むしろ逆だろう

だからこそ、本気だと言えるのだ

歌野「私は、帰りを待つ人のエン……不安と安心を知ってるわ」

そして、それをことごとく失ってしまったことの後悔も

だから、安心させるために本気で

だから、失わないためにも本気で

それは、ただただ命を懸ける事よりも本気でなければ出来ないことだ


歌野「だからこそ、為せば成ると、ミーはビリーブ」

樹「みんなが、本気だから」

歌野「イエス」

樹「……歌野さんの、言う通りですね」

覚悟を疑ったわけではない

命を捨てる覚悟のない戦いが厳しいことであることは、

今までさんざん、語ったことだと樹は思っている

しかし、命を懸けるほどの思いがなければならないのではないかと思ってしまった

それは多分、天の神が畏怖すべきものであると本能的に退いてしまっているからだ

樹「無理をしないことは難しいです。でも、だからこそみんなが本気で、みんなが信じられる」

みんなが生きたいと思っているのなら、それだけ強い意志と覚悟があると言うことで

それは、【為せば成る】なんて、曖昧な願掛けにも力を与えてくれることだろう

樹「でも、出来る限り……が精いっぱいでしょうか」

歌野「そうね……」

樹の命懸けを否定したものの、

それなしに勝ち得ることが出来る状況であると思っているわけでもなく

考えまでもなく、頷く

歌野「なるべく、諦めない」

それもまた、勇者部五箇条の一つ

便利なものとして扱いたくはないが

便利なものと言わざるを得ないのではないかと、歌野はちょっぴり困った笑みを浮かべると

すぐにまた、引き締めた表情で、空を見上げた


歌野「私達にも満開に似たパワーがあるわ。出来れば、満開はそのあとで」

樹「……それを使って、消えちゃうなんてことはないですよね?」

歌野「使い切れば。あるいは」

持ちうる力のすべてを放出してしまえば

当然ながら、維持する力も使うこととなり、消滅は避けられないだろう

しかしその力を残しておけば、消滅は避けられるかもしれない

天乃から供給される力は微弱になりつつあるが

天乃の回復次第では、

その問題だって解決できるかもしれない

何はともあれ、生き残れなければ考えも無駄になる

歌野「ミーは稲荷神。仮にも神の力……豊穣を司り、それは命を活性化させることでもある」

稲荷神からの戦闘力という点においては、

大天狗の力を所持し、刀を用いれば魂の譲渡先となっていた素戔嗚の力を使うことのできる若葉や、

死神の力で神々を討つことのできる千景などには勝ち目がない

しかしながら、

みんなを支援する立場としてならば、歌野以上に加護の力を持っているのは精霊

そして、天乃の力くらいだろう

歌野「郡さん曰く、私はバッファーというらしいわ。支援は任せて」

樹「お願いします。歌野さん」


すみません、寝落ちしていました

予定としてはこの辺りまでだったので
一先ずここまでとさせていただきます
再開は出来れば早い時間から


では少しだけ


風「なーにやってんのかしらねぇ、夏凜は」

目と鼻の先というほど近くはないが、

眼前で戦いを繰り広げる夏凜を目で追いながら、風は悪態をつく

園子が一直線に向かっていったこともあって、

これ以上のことにはならないだろうと安堵してはいるものの、

いつ、だれが焦って無理をするに至ってしまうのかという不安がある

天乃の望みを知っていれば、無理をすることもないとは思う一方で

だからこそ、天乃のいない今、頑張らなければ補うに等しい働きは出来ないと思ってしまわないだろうか

風「…………」

勇者部の部長として、風はあえて、前衛であるみんなの背後に回って全体を見る

最初こそ、怠惰半分で部長という役割を押し付けられたに過ぎないが、

それでも、勇者部の部長としてみんなをまとめなければならないと思っている

いくつもの願いであり、たった一つの収束した願いたる未来のため、

頼りない先見の明を頼り、結果の為に全力を尽くしかねないある意味では愚かな友人であり、仲間であり

いずれは家族と言えるであろうみんなを繋ぎ合わせなければならない

風「夏凜には園子がいる。樹には歌野がいる。それと、若葉には友奈と千景」

適当にばらけた感じがあるが、

意外にうまく、それぞれが適した動きをしてくれている

風「あたしの大立ち回りは、そこまで必要ないのかもね」


取りまとめる部長という役割があるとはいえ、

風も結局は、一回の女子中学生に過ぎない

名高い軍師のような働きができるとは思っていないし

大立ち回り。などと言ってはみたが

それほどの働きが可能とも、風は思っていない

風「……どうする」

敵はあまりにも強大だ

時間とともに浮かんでは沈んでいく太陽のように

ゆっくりとした動きで、少しずつ入り込んでくる

そのために、樹海が侵されていく

一思いに侵攻してくるのなら全力の相手も出来るが、

相手が余力を残している状況で

自分たちだけが全力での抵抗というのは、分が悪い

風「いつ、切り札を切るか……切らないで済むならそれでいい」

でもきっと、そういうわけにはいかないことだろう

夏凜はそこに焦って無理をしそうになったし、

樹はもしかしたら、満開が必要なのではないか。と、考えているかもしれない


風はそこまで考えて、若葉達が向かった方角に向けた目を細める

若葉達は、どうだろうか

友奈は前向きだ

しかし、以前のようにネガティブな考えの一切排除するような雰囲気はなく、

それらを両立させたうえで【それでも】という考えを選ぼうとする

満開も必要ならするだろう

風「それよりも先行しそうなのは、若葉ね」

ここぞ。と思ったが早いか、満開と銅との力を振るうことを躊躇わないはずだ

そのストッパーには千景がなれるだろうか?

風「考えるまでもないか」

千景は絶対に止める

最初こそ良く分からない雰囲気だった千景も

天乃の影響を受けてか、とてもお人好しな感じだ

天乃を優先して、止める

友奈だって、止める

風「東郷は?」

友奈のことも大事にしているが、この戦いにおいては天乃を最優先にしている

無理に満開を使うことはしないだろう

天乃に怒られてもいいと考えるが、悲しませるようなことは極力避けたい

そのあたりに関しては、信頼しているのだ


みんなの戦い方は専守防衛

夏凜だけが、中央での攻撃を行う程度

回避を優先し、神婚の成立……というのは語弊が生じるだろうか

天乃が話を終えるまでの時間稼ぎを行う

風「あたしも前に行くべき?」

満開が使えれば、一石を投じると言える一撃を見舞えるが

残念ながら、それは無理だ

なら、もはや精霊の加護がない自分は後衛に徹するべきだと判断する

何もしなければきっと、

その目が向けられることはないだろう

風「………」

園子がいるが、夏凜は手負い

天の神の目を、別のところに向けさせる必要は……あるだろうか?


1、若葉達に連絡
2、歌野達に連絡
3、まだ任せておく


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日は出来れば、少し早い時間から



東郷さんの満開って巫女救出の回で使ってなかった?


遅くなりましたが、少しだけ

>>828
失礼しました、その通りです


風「いや、まだ任せておいていい」

夏凜のことは、園子が落ち着けてくれたはず

なら、無茶をすことはない

そして、その状態なら、あの二人が力を合わせればある程度のことは打破できる

だったら、余計な手を入れる必要は、まだないだろう

風「………」

夏凜は負傷したが、まだそれだけ

順調というべきではないが、

敵のことを考えれば、この程度なら順調と言ってもいいだろうか

風は不安とともにため息をついて、

天乃が向かったであろう神樹様の方角を見つめる

天乃は順調だろうか

神樹様にとりこまれてしまっていないだろうか

風「大丈夫……」

言い聞かせるように呟いて、首を振る

夏凜達のことは何とか見渡せるから対応出来るが、

天乃にはできない

その分の不安が、ぬぐえなかった


友奈「攻撃、しなくていいのかな」

出方を待つという話にはなったが、

現状、狙われているのは夏凜だ

夏凜が一点突破で攻め込んでいるから

そのわずらわしさから、友奈たちに矛先が向けられないだけのこと

攻撃を仕掛ければ、

その存在は天の神の目に入るだろう

しかし、夏凜ばかりに任せていて良いのか

傷ついていく仲間を、そのまま見ているだけで良いのか

友奈「園ちゃんは、もう満開を使っちゃったから、精霊の加護がない」

若葉「ああ、そうだな」

友奈「若葉さん、本当に仕掛けなくていいのかな?」

若葉「………」

友奈「夏凜ちゃんは怪我してて、園ちゃんは精霊に守って貰えない。このまま狙われていたら、大変なことになりそうな気がする」


若葉「………」

友奈の心配にも、一理ある

園子が、守られることの戦いを経験し、

その当時の恐怖を身をもって知っているとしても

天の神の力を持っているであろう天を覆う驚異の猛攻を耐えきれるとは限らない

火の玉の一粒でさえ

生身で食らえば焼け落ちる覚悟もしなければならない

槍で防ぐ、刀で防ぐ

それが出来たとしても、身を焦がす灼熱は遮ることが出来ない

若葉「くっ」

切り札を切るか?

いや、まだ早いだろう

しかし、天を穿つほどの力は、切り札を切らなければ得られない

若葉「友奈の言う通りかもしれないな……だが、友奈は難しいだろう?」


友奈「!」

若葉「責めるつもりはない。頼りにもしている」

しかし、拳なのだ

西暦に生きた友奈である、高嶋友奈

彼女と同等の力を持っているならば、

神にも届く拳であることだろう

しかしながら、この状況では相討ちにも至れない

若葉「だが、ただでは撃ち落とされてしまう」

友奈「……はい」

若葉「だからと言って、満開を使うのは了承できん」

今はまだその時ではない

だからこそ、園子は夏凜を止めたし、

歌野は樹を制している

若葉「………」

かといって、夏凜と園子にすべてを委ねているのは

死にに行かせるようなものだ



1、友奈は下がってくれ。私が行く
2、攻めるぞ。友奈
3、千景の合流を待とう。それからだ


↓2


では、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から

ダメージ判定は再開時


では少しだけ


若葉「………」

考える。

考えて、刀の柄を力強く握りしめる

たった一つの判断ミスが、死に直結するのが戦場だ

だからこそ慎重であるべきで、臆病であるべきで

しかしながら、吉報を待つばかりでは得られないものもあるのだ

ここでの勝利は、その得ることが出来ないものなのではないかと、若葉は思う

天乃が戻ってくるまでの時間稼ぎ

戻ってきてくれさえすれば、この戦いを終わらせて貰えるかもしれない

しかし……

それで良いのか? いや、良くないだろう

いくら天乃とはいえ、天の神を討つには相当の力を必要とするはずで

そうなれば、消耗は計り知れない

倒しきることは出来なかったとしても

可能な限りのダメージを与えなければ、精霊としてこの場に立っている意味がない

はっきり言って、役立たずだ

若葉「攻めるぞ、友奈」


若葉「友奈の拳が届くように援護するから、迷わず突っ切ってくれ」

友奈「千景さんを待たなくて大丈夫なのかな?」

若葉「可能なら待ちたいが、そんな猶予がないかもしれない」

迷って失敗するくらいなら

攻勢に出て失敗したほうがまだマシだろう

ここで手を出さなければ、夏凜達が狙われる可能性が高い

そして、夏凜達に再度攻撃が降り注げば

次は、もう無事では済まないかもしれないのだ

たとえ傷つけられるほどの力がなかったとしても

少しでも気を引ければ、それで十分だ

若葉「……もし、不安なら下がっていてくれていい」

友奈「そんなことっ」

若葉「これはあくまで牽制なんだ。友奈が無理をする必要はない」

友奈「ううん、行く!」


あとで合流する千景には何か言われてしまうかもしれないけれど、

攻めなくていいのかと切り出したのは自分だ

若葉は頼りになるけれど、

だからこそ、一人で無理させてしまうわけにはいかない

精霊だから、多少のダメージならば生身である友奈たちよりは被害が少ないだろう

しかし、力を喪えば失うほど若葉達精霊の存在は危ういものとなっていき

消滅も覚悟しなければならなくなる

決して、ノーリスクというわけではないのだ

友奈「若葉さんは援護をお願いします」

若葉「……行けるのか?」

友奈「大丈夫、です」

怖くないと言えば嘘だけれど

でも、もっと怖いものがある

もっと恐ろしかったことがある

友奈「はぁ……ふぅ……」

右手を、左手を

交互に拳を作っては解き、

だんだんと込める力を強くして、おもむろに力を抜き……深々と息を吐く

右半身をそのままに、左足を前へと出す

力を乗せるのではなく、体重をかけて蹴りだすための勢いをつける

友奈「行きます!」

そして――信頼を胸に、突っ込む


若葉→???? 命中判定↓1 01~95 撃ち落とし 85~95 ぞろ目CRT

友奈→???? 命中判定↓2 06~00 撃ち落とし 75~85 ぞろ目、11~20 CRT 


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から

1215ダメージ、750ダメージ
合計1965ダメージ


では少しだけ


真っ先に飛び出していく友奈を追うように、若葉も駆け出す

友奈を援護するなら前にいたほうが良いが、

友奈とて、ただ守られるだけのか弱い少女ではない

直撃するようなものであれば身を挺して庇う心持ではあるが

そうでなければ任せておいた方が安全だろうと、その背を見て思う

若葉「来るぞ!」

友奈「!」

空が、禍々しく染まっていく

夕暮れのようにも見える赤色

しかし、曇天の中のひび割れた血の色は

どことなく不気味な雰囲気を帯びて――無数の火の玉を産み落とす

友奈「っ!」

若葉「っは――はぁッ!」

友奈の前に進み出て、一閃

降りかかる火の粉を切り開いた隙間から、友奈が飛び出していく

友奈「まだ……まだ、もう少し!」


火の玉を潜り抜け、樹海に着地

背後の爆風を受けて、わずかに足元が揺らぐ

侵略を受け、枯れていく樹海の痛々しさが目に映る

友奈「………」

時間をかければかけるほど

樹海は飲み込まれ、街への被害は大きなものとなっていく

友奈「っ」

歯噛みする

踏み切った足が、樹海を抉る

傷ついているとはいえ、さらに傷つけて行ってしまうことに、友奈は躊躇いを持たない

自分たちの我儘か、世界の命運か

その考えるまでもない天秤を弾き飛ばして、我儘を貫き通すと決めたのだ

友奈「ここじゃない……もっと、もっとっ!」

樹海の形状、天の神動き、降り注ぐ火の玉の流れ

一つとして見逃すことがないように、

ただ、足だけは止まらないようにと動き続ける

左と同時に右を見て、下を見ずに前を向き上を睨む

若葉と友奈を狙う火の玉が、若葉へと傾いていく

樹海に潜る友奈の一方、若葉がその上を駆け抜けていくからだろう

どちらを狙うべきかは明白で

だからこそ、当たり前に風向きは変わる

友奈「ここだっ!」

その僅かな流れを、友奈は掴むと決めた


若葉へと集まっていた火の玉が爆発した直後、

樹海に潜っていた友奈が、飛び出していく

若葉さんなら大丈夫

そう信じ、横に置き去りにしていく戦友の姿に振り向くことなく突き進む

友奈「ぐっ」

拳を固く、固く作りこむ

想いを抱くと言うならば、この手に握るのは何だろうか

勝利は違う

これはそう、ただの願いだ

道を切り開いてくれた若葉、共に戦う勇者部のみんな

そして、戦いを委ねてくれた、天乃の願い

我儘な拳には、かつての英霊たちの力は宿っていないかもしれない

今を生きる人々の心の中にある希望は、力を与えてはくれないかもしれない

それでも。

そのすべてを背負う覚悟を決めた拳は

たった一人の少女の力というには大きすぎるものが、秘められている

友奈「てぇぇぇぇあぁぁぁぁぁぁぁっ!」

一度、二度

火の玉が体をかすめていくが、友奈はものともせずに突き進んでいく

友奈「勇者ぁっ……パーンチッ!」

そして――穿つ

決死の一撃は天の神を貫き、抑え込むべき力を解放する

若葉「よくやった! 追撃は任せろッ!」


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


若葉の攻撃、天の神の範囲攻撃、3ターン目


すみませんが本日はお休みとさせていただきます
出来れば明日、通常時間から


遅くなりましたが、少しだけ

若葉の戦闘部分
安価を出すところは明日になるかと思います


友奈の一撃は、しっかりと天を貫いた

赤黒く変色した空、中心部の瞳のような蠢く何か

そこに変化は見られないが

友奈の拳は確かに届き、一瞬とはいえ雲を割いたのだ

若葉「……動揺は、してないだろうな」

人間の思わぬ抵抗に業を煮やすことこそあるだろうけれど、

友奈の思いに驚くなんてことは、きっと。

若葉「決めるには、遠いな」

若葉が最も得意とする居合は、

敵が空にいては、やすやすと放つことは出来ない

一閃、切り込むことが出来たとしても、

非常に弱い力でしかないだろう

若葉「だが、それでも出来ることはある」

何より、友奈に続かなければいけない

友奈の一度きりの攻撃で終わらせてはいけない

若葉「神に届く刃であると、自負はないが」

届かせる。何が何でも


友奈の攻撃を受けてか、

寄せ付けまいとする猛火は勢いを増していく

背後での爆発、吹きつける熱風は

精霊としての力、身に纏う装束

それすらも関係なく熱し、肌を焼く

ひりひりと、痛む

刀を握る手が震えるのを感じ、鞘へと納めて樹海の陰に潜んで、深呼吸

若葉「………」

獅子座などが行ってきていた、追尾性能を兼ね備えた攻撃だろう

樹海の根が阻んでくれてはいるが、

天の神の化身が降らせる火の雨は、的確に若葉は友奈たちを狙っている

隠れていては、じり貧だ

それどころか、被害は増す一方だ

この戦いに勝利して、結果、半数以上の死人が出たなどと言われては幸せなど、得られるものではない


夏凜に及ばなくとも抜き身刀での戦闘の心得もある

むしろ、今でこそ星屑と呼ばれる有象無象との戦いにおいて、

常に居合で切り伏せていたことなど数えるほどにもない

それでも、空の敵、居合の届かぬ専門外

向こうから向かってきていた星屑と違い、

天の神の化身は、その場から降りることなく大地を喰らい、木々を焼く

自らが神であることの証明のように

それが、あたかも神罰であると説くように

若葉「大天狗の力を使えば、容易ではあるが……」

それはまだ早計だろうと、若葉は目を閉じる

耳をすませば、炸裂する爆発音

友奈の駆けまわる足音、乱れる呼吸音

吹き飛ばされる音はしていないから、まだ無事だ

ゆっくり、柄に手のひらを置く

存外に籠る力の重みが、鞘に添えられた左手にのしかかる

若葉「……そうじゃないだろう? 乃木若葉」


確かに、背負うものは大きい

今この手に乗っている重みなんて軽いと思えるほど、多くの命を委ねられている

しかし、だからこそ。

この手は軽くなければならない

命がかかっている、未来を担っている

しかし、それが枷であってはならない

捉えるべきなのは己の足ではなく、今まさに遠ざからんとする未来

あるいは、消え去ってしまった過去

三百年もの間囚われている、人々が生きていた世界

握るのは刀ではない

切り開くのは敵ではない

若葉「全ては、儚くも貴き未来だ」

神に届く刃であるなど、傲慢だ

そんなものでなくともいい

天を穿ち、覆いかぶさる雲を晴らす一刀でなくたっていい

ただその瞬きが、戦場を駆ける友の導となればいい


若葉「……ふぅ」

体の力が、抜けていく

右足が滑るように前へと流れ、

引き摺られていく重心によって、前かがみに近い形へとスタイルは変移する

研ぎ澄まされた耳に、外界の音は聞こえない

跳ねるように大きな鼓動は子守唄のように安らかに

乱れ気味だった呼吸は、深々と広く

閉じた瞼の裏に、敵が見える

若葉「………」

すでに散り、誇れる英雄譚などないが

未来に悔いを遺す愚かな先祖ではあるが

今一度、この手が握ることのできるものがあるならば。

若葉「逃す道理はない……そうだろう?」

若葉は微笑む

たった一度、たった一瞬

されど、それこそが、神にも阻めぬ人の希望だ

若葉「ひなたッ!」

かつて、己を支え続けてくれた勇者足りえる親友の笑みを胸に

若葉は精霊の力を用いて天の神の化身のもとへとその身を現し――晴れることのない空を、割いた


ではここまでとさせていただきます

明日は出来れば少し早い時間から


遅くなりましたが、少しだけ


千景「乃木さん……貴女という人は」

天を穿つ勇者の輝きは蒼く

しかし、純然たる想いゆえに、それは澄んだ青色よりも美しい

みんなの目に、あれは映っただろうか

きっと映ったはずだと、千景は断ずる

あまりにも強大で、凶悪で、抗うことに畏怖を覚える存在

しかしながら、それに届くだけの力がここにはあるのだと、若葉は見せてくれたのだ

千景「やっぱり、貴女は私達のリーダーよ」

西暦時代の勇者

そのみんなを引っ張り上げてくれていた

自分が憧れ、嫉妬し、過ちを犯してしまった相手

千景「ほんと、本当に……貴女と陽乃さんを信じるべきだった」

あの頃、もしも信じられていれば

頼ることが出来ていれば

きっと、もっと違うことが出来た

もっと良い過去があり、良い未来があったはずだ

千景「けれど、だからこそ本当の勇者たちに会えたのなら……悪くはなかったのかもしれないわ」


千景「私は……」

入り組んだ樹海

上に出れば、敵の集中砲火

選ぶべきは前者だが、そのせいで急いでも、数分はかかる

単独行動となっているのは自分と風だ

大剣を持っている風は、

遠距離攻撃専門の東郷と、

中遠距離であり、盾としても活躍できる球子の手前の防衛ラインとして孤立している

あの大きな剣がどれだけの攻撃を阻めるのかは分からないが、

侵攻も阻めるとは思えない

当初は、若葉と友奈に合流する予定だったけれど

風と合流して、一緒に攻撃に回る方がいいかもしれない

ただ、自分たちの攻撃がどれだけ通じているのか分からないと言うのが、問題だ


真正面から切り込んだ夏凜

左翼から殴りこんだ友奈と、若葉

それぞれの一撃一撃は、バーテックスを屠るだけの力がある

にもかかわらず、打ち抜かれた雲も

切り開かれた空も、元通りになっている

目に見えるダメージが一瞬というのは中々に、疲弊する

まるで終わりが見えないからだ

だからこそ、風と一緒に切り込むべきではと思うわけで。

千景「私……ううん、久遠さんの力がどれだけ通用するか」

神々をも殺せる穢れの力

果たして、それがあの神にも通用するのかどうか

自らの手に収まる大鎌を握りしめながら、考える

そもそも、本当にあそこに本体はあるのだろうか?

千景が使うことのできる七人ミサキのように

分身がそこにいるだけで、攻撃は全く通っていないのかもしれない

千景「乃木さんの力を無駄だとは言いたくないけれど……」

合流は止めて、真正面から切り込んで様子を見るべきだろうか?



1、若葉達に合流
2、風を呼んで合流する
3、真正面から切り込む


↓2


千景「犬吠埼さんを呼んだほうがよさそうね」

後方で下がっている分には問題ないが、

前に出ると言うなら話は別だ

団体行動も過ぎればいい的になってしまうが

単独行動は厳しいだろう

風『千景?』

電話をかけると、

戦闘中とは思えないほどに早く、風が出た

レスポンスが早いのは悪くないけど、と

少し思いつつ、言葉を選ぶ

千景「犬吠埼さん。貴女の力を借りたいわ」

風『あたし? どうしたらいい?』

千景「リーダーなのに、悩まないの?」

風『ここにいてもできることは少ない。なら、必要なところに力を貸すわ』

千景「……私も前に出たい。犬吠埼さん、一緒に来て」

風『りょーかい。一人で行くかと思った』

千景「乃木さんは大丈夫。貴女も、あれを見て思ったでしょ?」

風『そうねぇ。少し待ってて、すぐに行く』

千景「待ってるわ」


千景「これで――っ!」

千景は風を待つが、天の神が合流を待つわけではない

濁り切った空が割れ、禍々しい赤色がより濃くなっていく

降り注いでいた赤い光に、白さが混じる

千景「あれは……」

丸みを帯びた白い体

大きく開いた口のように、仰々しく並ぶ歯が見える

それは紛れもなく、星屑だった

千景「乃木さん! 結城さんッ!」

二人は気付いているだろうか

二人は間に合うだろうか

爆裂する火の玉ではなく、質量のある赤白い悪夢に

天乃の力ゆえの精霊の繋がりを持って、若葉に警告を告げる

千景「お願い……喰われないで」

精霊による障壁が薄い

それはつまり――四肢も頭も喰われる可能性があると言うことだ


????→友奈 命中判定↓1 01~85  ぞろ目CRT(精霊ゲージ消費大)
????→若葉 命中判定↓2 01~70  切り払い 01~10  ぞろ目CRT


ではここまでとさせていただきます
明日は出来れば早い時間から

ダメージ計算は再開時


遅くなりましたが、少しだけ


友奈に241ダメージ
若葉に252ダメージ


千景から緊急の警告を受けてすぐに空を見上げた若葉は

即座に、声を張り上げた

若葉「友奈、頭上だ!」

友奈「!」

降り注ぐ紅い光には、

さっきまでとは段違いに不気味な力が込められている

まだ天高く、熱量もあって歪んで見えるそこには

確かに、かつての敵がいるように感じた

白い体、大きな口

建物を容易く破壊し、生きたまま人を喰らう異形

かつてバーテックスと呼ばれ、若葉達が散々苦しめられた悪夢

西暦時代とさほど変わらない状態な今、

友奈たちの体が食いちぎら羅れてしまう可能性がある。と

千景と同じ危惧していた若葉は

最悪、自分の身を犠牲にしてでもと、考える

精霊である若葉は、力を著しく消費するという欠点こそあれ

欠損した体の部位を治すことが出来る

だが、友奈たちはそれが出来ない

若葉「樹海に潜れ! 殿は私が務める!」


友奈「若葉さんも一緒に来てください!」

若葉「な゛――」

友奈「ここで若葉さんを失うわけにはいかないんです!」

横を抜けていく友奈に腕を掴まれ、そのまま樹海へと引っ張り込まれた若葉は

二度三度躓きながらなんとか立て直す

友奈に引っ張られながらだと、足並み揃えるのが難しいが

それでも十分な速度はあったのだろう

入り口とした樹海の根に、次から次へと衝突して神の肉片がいくつも飛び散っていく

若葉「友奈、手を放せ!」

友奈「でもっ」

若葉「消えるつもりはないが、このままでは共倒れだ」

友奈「………」

その蹂躙がこじ開けた隙間から、十数匹の化け物が入り込む

遮る根に躊躇なく衝突し、道を喰らいつくして、

後続が追いかけてくる

過去に学んだ大和魂とでもほざくつもりかと、

若葉は歯を食いしばって、友奈に目を向けた

若葉「友奈、生き残るんだろう?」

友奈「……分かりました。二手に分かれます!」


手を放され、つんのめった勢いをそのまま借りてさらに下へと転がり落ちる

友奈はそのまま直進し、さらに入り組んだ場所へと入り込んでいく

それを追うのに十数匹、若葉の側にも十数匹

どちらも逃がす気はないと言う貪欲な殺意を感じて、

若葉は思わず、笑みを浮かべる

若葉「それだけ私達が目に余るか、天の神!」

牙を剥き、剣を立て、あまつさえ傷をつけた愚か者ども

目に余ると言う言葉では足らないほどの、罪人

若葉「逃げ切る術は――っ!」

上での爆発に続き、友奈が逃げて行った方でも爆発が起こった瞬間、

枯れ始めていた樹海の根が砕け、バラバラと降り注ぐ

砕けてこまごまとしていても、重量のある根に潰されればただでは済まない

若葉「くっ!」

背後に迫る灼熱に包まれた星屑、頭上から降り注いでくる樹海の根

走り、滑り、身を翻し、転がり込んで回避していく

だが――

友奈「きゃぁぁぁぁぁっ!」

ひと際大きな爆発と、友奈の悲鳴

そのゆれに躓き、浮いた体

残った右足に樹海の根が叩き込まれ、

伸びた滞空時間を狙ったかのように星屑が突っ込み――大爆発を起こした


では、途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


では少しだけ


友奈「げほっけほっ……っあぁっ!」

木片に埋もれた左足を引きずり出して、

庇いきれなかった肌の引き裂かれるような痛みに呻く

星屑の爆発こそ防ぐことが出来たが、

吹きつけた爆風、根への衝突と砕けた木片の雪崩までは防ぎきることが出来なかった

勇者としての立派な装束の一部は破けてどこかへと消滅し、

薄桃色に、生々しい赤が染み込む

友奈「ぅ……あぁ……あっ」

たった一度の爆発だった

それでも、

樹海の根への衝突、揺さぶられた内臓、潰れかけた左足

どこかの骨が折れたかもしれない

友奈「痛い、苦しい……かふっぁっ……はっ……はっ」

息苦しい、足も痛い

体育座りに引っ張り込むだけでも、猛烈な痛みと熱を感じる


口元から、血が流れる

ぶつかったときに口の中を傷つけたわけではないのだと、喉奥の痛みが訴える

肺か、胃か、心臓か

内臓のどこかが傷つき、咳き込んだ時に逆流してきてしまったのだろう

上を向くと、胸やけのような不快感が、喉を下っていく

友奈「これが、生身で戦うってことなんだ」

覚悟をしていた

けれど、していたつもりだったのだ

今までも生身と言えば生身だったが

絶対に死ぬことはない、確実な精霊の加護が常にあった

それが無くなって、ようやく、本当の戦いに身を投じたのだ

ただの爆発、されど爆発

直撃ではなくとも、それに吹き飛ばされたと言うだけで

気を失ってしまいそうな痛みに襲われている

友奈「けほっ……けほっ」

血の味しかしない、口の中

動こうとする意志とは裏腹に、動きそうにない体

ぶつかった根を支えにしながら、何とか立ち上がる


友奈「……足は」

すり足気味に前に出すと

ズキズキとした痛みを感じ、思わず顔を顰める

根性で走ることは出来るだろうけれど

少し気を抜けば途端に崩れ落ちてしまいそうなほどに、余裕がない

友奈「捻挫、じゃ……ないよね」

崩れた樹海の根に巻き込まれた左足

足首の部分が赤く腫れあがっていて、普通じゃないのは一目瞭然だった

友奈「勇者の回復力でも、すぐには無理かな……」

ここにいることは、天の神には筒抜けだろう

だからと言って、逃げ切れるほどの力があるとは思えない

友奈「若葉さんは、逃げ切れたかな?」

別れた方向でも爆発を感じた

若葉の悲鳴は聞こえなかったが、

聞き取るだけの余裕がなかったと思っていたほうが良いだろう。と、友奈は目を閉じる


友奈「痛いけど、苦しいけど。でも、ここで折れるわけにはいかない」

まだまだ戦いは続く

一人減ればその分の負担がみんなに向かう

そして、その負担に耐えかねた誰かが脱落して、

より大きな負担がみんなに襲い掛かることになるだろう

友奈「少しだけ、少しだけ」

本来縋るべき神様は、もはや敵だ

ゆえに神様ではなく

最も憧れ、最も信じ、最も頼れる背中に祈る

友奈「少しだけ、力を貸して下さい」

袖を唇に当て、血を拭う

その反動だけで体はふらついて、立ち塞がる根に、背中を預ける

友奈「無理はしないから。させたくないから……だから、少しだけ」

体に流れる天乃の力

そこに、その存在をはっきりと感じて。

友奈「もう――少しだけっ!」

傷ついた左足でしっかりと、踏みしめる

痛みはある。けれど、歩みを止めるほどではない


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から

明日は3ターン目、夏凜


遅くなりましたが、少しだけ

時間も時間なので
安価を出すところは明日にするかと思います


東郷「友奈ちゃんのところ……」

空を埋め尽くす光

それによる爆発音は、後方に控えている東郷たちのところにまで轟いていた

しかし、

その分を消耗したかのように

二人から感じる天乃の力が極端に減少したのだ

若葉の力による輝き

その少し前に、友奈の力と思われる―東郷は確信しているが―光が一瞬見えた

つまり、タイミング的に力を用いての攻撃を行ったわけではないだろう。と

東郷は推測し、顔を顰める

攻撃のタイミングではないということは、攻撃をされたタイミングだからだ

もちろん、

東郷の目にも見えた猛攻からして、それを否定できるとは思えなかったが

その場合の力の減少を、東郷はあまり考えたくはなかった


攻撃での力の消費ならば、

それを力として正しく使ったからということになるが、

受け身での消費ならば、怪我をしたことになる

消耗が激しければ激しいほど、大怪我だ

夏凜も若葉も友奈も

致命傷と言えるほどのダメージではなかったはずだ

それでも、生身での戦いである以上

相応の怪我を負うことになっただろうし

その分のペナルティを抱えることになってしまったかもしれない

東郷「……少し、頑張れば」

東郷は満開こそ使えないが

園子と同じように、生身での戦いの経験がある

そして、友奈たちと違って

遠距離での攻撃を主としている

少しだけなら接近しても、友奈たち程の危険はないかもしれない


しかし、天の神の化身が

曲がりなりにも天の名を冠し、神の力を持っているのであれば

対象がどこにいようと関係なく

無差別に攻撃できるかもしれない

東郷「我が身可愛さ……なんて、ことはないけれど」

天乃の願いもあって、

身を切り捨てるなんてことをするつもりは毛頭ない

だが、かといって

ここで何もしない、ただ見ているだけというのはもどかしい

しかし、最終的な防衛ラインに穴をあけるようなことをして良いのだろうかとも思う

なにより、進んで危険な前衛を担ってくれているみんなを信じずに

後衛であるはずの自分が出るべきなのだろうか

東郷「夏凜ちゃん、若葉さん、友奈ちゃん……」

みんな、傷を負った

そのことを一番気にしているのは、同じく前衛として出ている樹達ではないだろうか

仲間たちが傷ついていく中、自分たちが無傷なのだから

東郷「焦らないで、樹ちゃん」

そうつぶやき、東郷は思わず笑みを浮かべた


天乃が酷く傷つけられ続けてしまうこの世界

天乃が失われる可能性があった

そんな未来しか残されていないのかもしれないと悩み

もしもそれしかないのならば、

そんな世界など終わらせてしまおうと考えさえもした

東郷「だけど」

だけど、樹はそれは諦めただけだと言った

もっとできることがあるはずだと

友奈も、風も、夏凜も

誰も諦めることがないのだと、はっきり言って見せた

そんな、犬吠埼樹が先走ってしまうことなどあるのだろうか

東郷「ない……わね。ないわ。樹ちゃんだもの」

あの子がそんな弱い心であるはずがない

東郷はそう信じ、自らの武器をしっかりと構える

東郷「樹先輩……そっちは任せるわ」

自分のやるべきこと

やれることを最大限に、確実に

そうしなければならないのが、この戦いなのだ


ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


遅くなりましたが、少しだけ


夏凜「友奈も若葉も生きてる」

東郷と同じように、力の減少を感じとった夏凜は

それが完全に消滅していないことに安堵する

天乃の力が完全に消失してしまったとしても、

それが死んでしまったということにはならないが、

その確率は非常に高まってくる

園子「本当は天の神の力に対抗するための力だったんだけどね」

夏凜「良い副産物だったわね」

しかし、

勇者部の中では、樹だけがその恩恵を受けられていない

天の神の呪いもそうだが、

どれだけのダメージを受けているのかというのを、感じ取ることができないのは

聊か、不安を覚えてしまう

それを感じてか、園子は眉をひそめたが、

夏凜は軽く手を振る

夏凜「分かってる。向こうには歌野がいるんでしょ?」

なら大丈夫だと、頷く

不安はあるが、心配は要らないだろう

なにせ、西暦の勇者である白鳥歌野が、いるのだから


夏凜「園子、天乃が戻るまでどのくらいか推測できない?」

園子「すぐに戻ってくることが出来るような状態じゃないことだけは……確かだよ」

天乃が神婚を請け負うという話になった時とはまるで違うコンディション

あの状態では、神樹様にたどり着くだけで相当な消耗をすることになるし、

対話もすんなりとは、行えないだろう

最悪、数時間は天の神の化身と戦い続けなければならない

園子「………」

夏凜「その顔……簡単じゃなさそうだけど」

園子「数時間は覚悟した方がいいかもしれない」

夏凜「……まぁ、そうだろうとは思ったわ」

あんな化け物と数時間戦う必要があるというのも大げさではなく、

攻撃をしてもダメージが蓄積されている様子の全くないアレは、倒す方法などないのかもしれないとさえ、思えてしまうからだ

もしもそうなら、この戦いは耐久戦になる

そうなれば、数時間でも数十時間でも

自分たち以外の何かによる介入がなければ、終わることはない

夏凜「やれること、やるべき。か」

園子「にぼっしーそれは、まだ早いよ」

夏凜「一瞬でしかない輝き。だとしても、それが無意味とは限らないわよ」


園子「無意味なんて言わないけど、それはまだ早いと思う」

夏凜「………」

園子「ゆーゆも、ご先祖さまも頑張ってる」

樹も、歌野も

千景も、そこに近づいている風も

その後ろに控えてくれている東郷と球子も

東郷なんかは、隣人として、親友として、

友奈にも相当入れ込んでいる

その東郷が、怒り任せに突っ込んでこない事からしても、ただ、戦いに対して頑張っているだけではないというのは、明白だろう

園子「にぼっしーは、天さんのいない私達にとっては切り札も同然。よく考えて」

夏凜「それでも、満開を使うべきだって言ったら?」

園子「その時は……仕方がない。かも」

園子としては早いと思うが

それが最善というのなら、最善かもしれない

夏凜が言ったように、

若葉が見せてくれたように

例え一瞬の輝きであろうと、それが無意味なことなどはないのだから

正直なところ、

ちまちまとした攻撃だけではどうにもならない可能性が高い

であれば、今もまだ力を残している皆もそれを使う必要があるかもしれない

園子「カモカモカモ。カルガモ大行進だねぇ」

嫌な意味で、可能性は無限大だ




1、満開
2、攻撃(威力700)
3、精神(必中・熱血・根性)
4、出方を待つ


↓2


ではここまでとさせていただきます
明日は出来れば、お昼ごろから


遅くなりましたが、少しずつ


夏凜「園子、相手の動きを待ちましょ」

園子「天の神が迎撃してくるだけだから?」

夏凜「それもあるけど、むやみに攻撃して余計に被害の出る攻撃でもされたらたまらないからよ」

今のところ、

被害が出ているのは攻撃したメンバーだけだ

最初は夏凜、次は友奈と若葉

園子も言った通り、天の神は今のところ攻撃してきた相手に対し、

その一帯を巻き込む攻撃をするのみに徹している

もちろん、神様である天の神の力がその程度なわけがない

あえて使っていないだけだろう

夏凜はそう考え、ぐっとこらえて息を吐く

夏凜「友奈達が攻撃した後、私達を巻き込んでもおかしくなかったのに、しなかった」

園子「ただ手加減してくれてるだけだって思う?」

夏凜「思えない」

園子「それに、出方を見るだけだったらゆーゆ達がもう一度狙われる可能性もあるよ」

夏凜「だからって、下手に手出しは出来ないわ」

夏凜にはまだ加護があるが、園子にはない

その状態での戦闘経験があると言っても、安易に巻き込むことは避けたい


夏凜「満開でも使って、一気に攻めたいって気持ちはある。友奈達が危ないから何とかしたいって思いもする」

けれど、圧倒的に手が足りないのだ

満開で天の神の気を引くことに成功しても

それを凌ぎきるだけの力がなければ、友奈を助けた意味がなくなる

友奈を助けられても、自分が犠牲になればそれで終わりだ

散々、天乃に言ってきた周りが助かれば自分がどうなってもいいの典型的なパターン

夏凜「………」

園子「私に何かできることある?」

目を向ければ、園子は力強く見返してくる

勇者らしいたたずまいで、そばにいてくれている

きっと、満開を使って気を引くことになっても

園子が守ってくれるだろう

だけど、だからこそ駄目なのだ

慣れているからという理由で真っ先に満開を使った園子は、

夏凜からしてみれば、天乃に近い危うい人間だと言わざるを得ない

あの場では仕方がないことだったけれど

でも、そう考えざるを得ないのは

自分が勇者でいられるのは、三ノ輪銀という先駆者がいたからこそだと分かっているからだ


夏凜「真っ先に、私のところに来たわよね。園子」

園子「……うん」

夏凜「三ノ輪銀と被るから?」

園子「違うよ」

即答しながらも、園子は言葉を続けずに夏凜を見て、

天の神が動かないことを確認してから

夏凜へと向き直る

園子「でも、絶対に違うとは言えない」

友奈と若葉が一緒に向かった

歌野は樹を追いかけて、東郷と球子は残り、風は中間地点で待機

千景も中央に着てはいるが、今は立ち止まっている

なるべくしてなったと言えばそうだし

もしそうなっていなくても、自分はここにきていたかもしれない

だけど、それが銀と被るからではない

どちらかと言えば、

今の夏凜が似ているのは天乃だ

血を分けたこともあって、雰囲気まで似てしまっている

その危うさもあれば、真っ先に向かうのも道理だ

園子「ミノさんも、とても熱かった。にぼっしーと同じくらい」

夏凜「だから、こっちに来た?」

園子「もう二度と、天さんにあんな思いはさせたくないから」


園子「夏凜ちゃんも。だよね?」

夏凜「そうね」

園子「だったら、無理は出来なよね?」

夏凜「しなくていい状況を作ってくれればね」

夏凜の視線を受けて、園子が小さく笑みを浮かべると

夏凜も軽く笑みを零して、刀を振るう

今は戦いの真っただ中

何を下らないことをとは思うが、

天乃はきっと、その程度の余裕を求める事だろう

夏凜「天乃がいれば、呑気な会話の一つや二つしながら、そんな場合じゃないのよ。って、困った顔するわ」

園子「誰かが危険な時は、そんなことできないのが天さんだよ」

そして、

そんな時こそ、元気を出してと笑うのが、三ノ輪銀という友人だった

園子「天さんは遅くなってごめんねって言うから、遅いって。怒ってあげよう」

夏凜「賛成」

そんなことないと慰めるよりも

遅いと軽口をたたく方が、天乃には効果がある

夏凜「樹と歌野が動きそうね。風も千景と合流する。ここからが、本番よ」

園子「私はにぼっしーについていくよ」

夏凜「別にいいけど、追い越さないで」

園子「うんっ」


樹「お姉ちゃんから連絡です。千景さんと合流してから向かうって」

歌野「乃木さんも問題ないって、結城さんも確認できたらしいわ」

精霊としての連絡網と

樹たちが使っている携帯電話

それぞれで回ってくる情報を受け取り、

樹たちはひとまず、友奈達の無事に安堵する

樹には夏凜を狙った時よりも強力な攻撃に見えたが、

歌野には、それほど強い力ではなかったように感じたらしく

上には上がある

体についた虫を払う仕草程度。と、不安がっていたのだ

次はどこが狙われるのか

誰を狙うのか

夏凜は攻撃したから狙われた

友奈達も攻撃したから狙われた

自分たちが無事なのは何もしていないからだろう

では、このまま誰も攻撃せずに待ち続けたら?

歌野「神樹様に、むくんじゃないかしら」

樹「その場合、標的になるのはお姉ちゃんたち……です」


標的になるというよりも、

間に割って入るというのが正しいかもしれない

近くにいる夏凜達が狙われず、

中間地点にいる風達を優先して狙う理由がないからだ

樹「何もしなければ、直接神樹様を狙うかもしれません。でも」

歌野「また、結城さんたちが狙われる可能性もあるわ」

もしかしたら、夏凜達かもしれない

そうなった場合の危険性を考えれば、

ここで動いて、確実に自分たちが狙われておくべきだ

だが、だんだんと威力を上げてきていることを考えれば、

狙われるには非常に高いリスクを伴っている

歌野「その刻印、なんともない?」

樹「……そうですね。特には」

痛みはないが、

天の神の攻撃を受けた際に、何らかの効果があるかもしれない

神樹様に守られた世界で、間接的に天の神の力を受けただけであんなことになるのだから

直接、その力を受けたら大変なことになる可能性は高い

歌野「何ともないなら、動くべきかもしれないけど」


1、出方を待つ
2、樹は下がる
3、攻撃を仕掛ける


↓2


歌野「樹は後ろに下がるべきね」

樹「これのせい、ですか?」

樹が自分の胸元に手を宛がうと、

歌野は少し顔を顰めて、頷く

いつもの英語交じりではない時点で、

歌野がただ本気なだけではないというのは、樹も考えていた

そんな時に、大丈夫なのかと聞かれれば、

樹だけが残すことになってしまった天の神のタタリを懸念して退くことを指示されるのは、

流石に、分かってしまう

樹「タタリにタタリが合わされば、神樹様……精霊の加護なんて意味がないかもしれない」

歌野「そう。フィフティフィフティなんて話じゃない。100パーセント」

それは、樹だって身をもって体験したことだ

神樹様に守られた世界で

精霊の加護がある状態で

それでもなお、あんなことになってしまった経験が。


樹「歌野さんは?」

歌野「私は残るわ」

樹「一人に、するんですか?」

歌野「意地悪な事言うわね」

手を引かない、訴えるような目もしていない

けれど、求めるような声に、

歌野は困り果てた末のような笑みを浮かべながら、樹を見る

一人にしないで。なんてことを言いたいのではなく

一人にならないで欲しいと、言いたいのだろう

自分が力になれるかどうかではなく、

ただ、その瞬間、必要な場面で求めることも求められることもできないというのが、

樹は嫌なのだろう

歌野「よくシンキング。樹はリスクが高すぎる。犬吠埼さんと郡さんがもうすぐ来る。それ以上、何か理由が必要?」

樹のそれは、

満開を使うよりも危険があると、歌野は考えているのだ

嫌がらせでは言っていない

樹「それ以前に、久遠先輩が悲しみます」

歌野の思いがあってこその言葉だから、

樹はあえて、笑顔で呟いた


では、途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


では少しだけ


本当なら、力になるべく前線に留まりたいが

その力になれる部分よりも、足手まといになる部分の方が多いかもしれないと、

樹は少し悔やみつつ、半歩下がる

天乃が予定通りだったなら

何も問題が起こらないままだったなら

考えるべきことではないが、

万全だった場合のことが脳裏をよぎった樹は

頭を振って嫌な気持ちを払う

樹「久遠先輩は無理をしようとしてくれた……それを、断ったのはほかでもない私だから」

歌野「ハッピーエンドの為に、無理はノー。それは結局、バッドエンドを迎えることになるわ」

樹「歌野さんは無理をしませんか?」

歌野「消えるほどの無理をする気はないわ。それだけの力を使いたくないとは、思ってる」

樹「いくら歌野さんでも、一人でしのぎ切るのは無理があるんじゃないですか?」

歌野「隠れておくから、大丈夫」

樹「見つかっちゃうかも、しれませんよ?」

歌野「その時は、師匠としてのパワーを見せてあげるわ」


決して余裕があるわけではないけれど、

余裕がありそうな表情を見せてくれる歌野に、

樹は少し困った表情を見せて、身を翻す

樹「分かりました。信じます」

歌野「ごめんね」

樹「いえ、気にしないでください」

仲間と一緒にいる事

背中を守り合うことのできる相手がすぐそばにいる事

それを一番心強く思っていたのも、

一番喜んでいたのも、歌野だ

その歌野が、少しの時間とはいえ、独りになることを選び

それに対して、ごめんねと言う

辛いのは、歌野も同じなのだろうと、樹は思う

樹「歌野さん、約束ですよ」

歌野「イエス、プロミス」

樹「………」

天乃のようにではないけれど、

安心させるためならと、無理をしてしまいそうな気がして、樹は念を押す

対する明るい声に、安どすることは少し、難しかった


01~10 若葉・友奈
11~20 風・千景
21~30 夏凜・園子
31~40 樹
41~50 歌野
51~60 夏凜・風
61~70 歌野・樹
71~80 東郷・球子
81~90 樹
91~00 若葉・友奈

↓1

※対象判定


????→友奈 命中判定↓1 01~90  01~10・ぞろ目CRT(精霊ゲージ消費大)
????→若葉 命中判定↓2 01~75  切り払い 01~05  ぞろ目CRT


※命中後判定のため、若干の回避減少


では短いですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


可能であれば、3ターン目終了。


では少しだけ


友奈に268ダメージ
若葉に279ダメージ


友奈「っ……」

空を覆う暗雲の中、大きく見開かれた瞳のような模様を見上げた友奈は

それに見返されたような気がして、奥歯を噛む

狙われていると、培ってきた戦闘の経験が感じ取る

いままで、精霊によって匿われてきた死の空気が肌に纏わりつき、

地獄か、天国か

死へと引きずり込もうとしているように錯覚する

足が震えているのは、ダメージのせいだけではない

怖いのだ、純粋に

友奈「久遠先輩……」

大丈夫。と、口にしても

皆がいるから。と、信じても

安心できるような状況に、友奈はいない

一つ、また一つ

無数の火の玉が生み出されていく

それはそう見えているのか、事実そうなのか

非情に、ゆったりと、焦らしているように友奈には見えた


友奈「……避け、られる。かな」

恐怖に震える声は頼りなく、

歯のぶつかり合う警笛が、必死に動こうとするものの、

傷を負った足はまともに動かず、

無事な右足ですら、笑ってしまっている

友奈「………」

友繰後ろに重心をずらしていくと、

少しいびつな形をした根に支えられてしまう

友奈「いっそ……」

幸い、樹海の最深部に至っていない友奈は

下を覗けば、まだまだ入り組んだ樹海の隔たりが見える

転がり落ちれば、天の神の猛攻を防ぎきれるかもしれない

だが、まともに庇うことのできないこの生身で転げ落ちていったらどうなるか

考えるまでもない

言ってしまえば、絶体絶命だった

友奈「だめ」

だとしても、諦めたくない

友奈「いやだ」

諦めるわけにはいかない

友奈「いやだッ!」

こんなところで、こんな場所で

終わってしまうわけには、いかない


擦るように動かした左足で半歩、動く

まだ震えている右足でさらに一歩、動く

崩れかねない体の支えを樹海から自分の足と、抱く腕に変え

静かに、ゆっくり、動き始め、

無数の光の照り付ける熱さに息が詰まる

焦りと恐怖に勇者の装束が張り付いてくる

生身ゆえの弊害、身体の重さがより鮮明になっていく

友奈「んっ」

息を呑み、踏みしめれば痛みの走る左足で、

もう一度、強く地面に叩きつけるかの如く、踏み込む

友奈「生きるんだッ!」

踏み込んだ痛みに躓くように前のめりになった友奈は、

その勢いのままに、駆け出す

痛みを誤魔化すための力強さが樹海の表面を削り取る

それを皮きりに、漂うだけだった無数の火の玉が友奈達のいる場所目掛けて降り始めた


追尾性能を与えられた火の玉は確実に友奈を狙う

樹海の中に潜ろうと、

走る速度が落ちようと、早まろうと

友奈が向かう先に的確に落ちるべく突撃しては、樹海の根を吹き飛ばす

背中を殴る爆風がだんだんと勢いを増していくのを感じ、

逸る心が足元をおろそかにさせ、速度を殺してしまう

爆風で吹き飛ばされても、躓いてもだめだ

友奈「っはっ……はぁっ……」

直撃の隙を与えれば、その時点で終わる

死なないかもしれない

だけど、絶対に無事では済まない

喉が渇きを訴え、吐き出す空気に痛みを感じ、

飲み込んだ唾液に血が混じる

友奈「それでも」

立ち止まれない

挫けるわけにはいかない――

若葉「右だぁぁぁッ!」

若葉の叫びに押されるように目を向けた先で

あざ笑うように開いた口のような模様が、とても大きく見えた

友奈「先輩……っ」

――無理だとしても、無駄だとしても、それが現実になるまでは。


では途中ですがここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


明日、再開時友奈側判定
結城友奈 HP391/900(残り約4割)
乃木若葉 HP699/1230(残り約6割)


では少しだけ


友奈の傷度

1最低 0最大(+2)


判定↓1


若葉「友奈っ!」

真横の爆発が生んだ赤い瞬きに包まれた友奈は

その数瞬後にはすぐそばにあった樹海の根に衝突し、

転がるように、深くへと落ちていく

若葉「くっ」

爆発は直撃、

衝突音は鈍く、木々の枝が折れる音が生々しく聞こえ、

転がり落ちる友奈は身体的な抵抗感など全くない糸の切れた人形のようだった

若葉「くそっ!」

後を追おうにも、若葉とて狙われている

助けに行って、攻撃が集中して

それがまた、友奈に傷を負わせる結果になるのではないかと、

身を翻した若葉は、あえて上へと向かう

少しでも目立ち、

少しでも自分に矛先が向かうように

勢いよく飛び出した若葉は、あえて直撃しかねない距離を保って駆けていく


若葉「………」

あれはまずい。と、若葉は駆け抜けながら友奈の落ちて行った方向へと目を向ける

最初の攻撃で負傷したであろう左足に不安を抱えていたせいもあって、

横からの攻撃に無防備だった

転がり落ちていくのを横目に見たとき、

四肢の欠損をしているようには見られなかったのが、唯一の救いだろう

まだ精霊の加護があるから、ギリギリの部分で救われている

大きなけがを負うことになっても、一線を越えることはないのかもしれない

だが、それはあくまで希望的観測だ

友奈が落ちて行った先で

体の一部を失うしかないほどの傷を負っている可能性がある

若葉「友奈……」

自分がいながら何という体たらくか

口惜しくつぶやいた若葉は、

不意に一歩後ろに飛んで、無理やりに右に曲がる

その瞬間、

本来向かっているはずだった場所で爆発が起き、樹海の根がはじけ飛ぶ


若葉「本気か……ッ」

若葉達が最初に 受けた攻撃よりも

精度は確かで、威力は上がっている

怪我をしてしまった友奈が回避しきれなかったのも当然だろう

若葉「っ」

精霊である若葉には、

スタミナ切れなんていうものは存在しないが、

精神的な疲弊はある

そして、心の疲れが体を不安定にさせてしまう

若葉「しまっ」

天の神の攻撃によって、

ただでさえ弱っている樹海がさらに傷を負い、変わった地形

蹴り上げた根の枝は浮かず、蹴った右足が宙を踏む

タイミングをずらされた左足の踏み込みは嫌なほどに強く

次の一歩は前のめり気味にバランスが悪く、

無理やりな調整は時間を無駄にかけさせ、たった一撃

されど……一撃の猶予を与えてしまう


短いですが、ここまでとさせていただきます
出来れば明日、少し早い時間から


遅くなりましたが、少しだけ


友奈「ぅ……」

薄れていく意識が、爆発音で引き戻される

目を向けたいのに瞼が重い

体中の痛みに脳が動くことを拒絶してしまう

血が出てしまっているのか

所々の嫌な熱がじわじわと痛みを帯び始める

友奈「ぅ゛」

声は出ないのに、血が流れる

若葉さんはどうなってしまったのか

みんなはどうなっているのか

久遠先輩は?

色んな考えが浮かんでは消えて

だんだんと、頭の中が空っぽになっていく

友奈「じ……ぅ゛」

体の下敷きになっているせいか、感覚のない右手

体を起こすのを諦めて左手に集中すると、

ずずっ……と、左手が擦り動く


友奈「………」

勇者としての力があって、精霊の加護が残っていて

それでも、二度目の攻撃を受けきるには、力不足だったのだろう

爆発に巻き込まれ、爆風に飛ばされ、

転げ落ちて、ボロボロになってしまった

右手は感覚がなく、左手は動くが、上がらない

両足もまったく動く気配がない

このまま死んでもおかしくない

そう思いながら、

半分だけ見えるようになった視界に映る左手を見つめる

手甲の武具は砕けてひび割れ、

手を包んでいた白く薄い装束は破れて素肌が見え、

土と血で汚れてしまっている

震えているそれは握るほどの力はなく、開くことも出来ない


友奈「………」

みんなが頑張っているのに、

自分だけが、倒れ伏してしまっている

力があるはずなのに、何もできないもどかしさ

弱い自分への不満と怒り

あの頃の天乃が抱いていた気持ちはこういうものなのかと

溢れ出てきそうな涙を堪えるように、瞼を閉じる

友奈「ごほっ」

勇者の回復力をもってしても

動けるようになるのかどうか怪しい

地面に付いた左手は滑って、体が傾く

もう一度左手を動かしても、

また、体を起こそうとする力に負けて、滑ってしまう

支えることすら、出来ないのだ


友奈「………」

この状態で追撃を受ければ、

回避はもちろん、直撃は免れない

そうなれば、体が動くか動かない以前に

考えるまでもなく……死ぬ

友奈「ぁ……」

出来る限りの力を振り絞り、

力強く左手を地面に叩きつけて、体を仰向けにする

目に入った世界は枯れた樹海の根に阻まれて

天の神の覆う空は見えない

友奈「はっ……はっ……っ」

下敷きになってしまっていた右手は

強いしびれを感じるものの、

完全に失われたわけではないのだと、痛みが伝わってくる

今の状態では、

動けるようになるにはかなりの時間を要することになる

若葉がいれば、一緒に逃げて貰うことも出来るが

いないなら……このまま囮になるか

満開でも使って、無理やりに動けるようになるしかないだろう


では、途中ですがここまでとさせていただきます
明日は出来ればお昼ごろから


遅くなりましたが、少しだけ


友奈「げほっかひゅ……はーっはっはぁ……ごふっ」

呼吸を整えようとすると、

内臓の痛みがより鮮明に感じるような気がして、

収まりそうになるたびに、早まってしまう

早鐘を打つ心臓が容量を超えるのも時間の問題だと

激しい痛みが訴えてくる

友奈「はぁっはっはっはっはぁ……んっげほげほっ」

このまま放置されても、死ぬのではないか

囮にすらなれず

周りが苦しめられ、傷つけられ

奪われていくのを見せられながら息絶えることになるのではないかと

嫌な考えばかりが、浮かんでくる

友奈「いやだ……やだ……やだよぉ……」

そんな死に方は嫌だ

そんなみっともない、最低で最悪の終わりは絶対に嫌だ

その絶望感に押し流されていく涙が、頬を伝う

前向きになれるのが、友奈の強みだった

だが、それだけではだめだと教えられた

ネガティブになることを悪とせず、受け入れ

それでも。と、言える勇気と強さを持つことの大切さを知った

だからこそ、この戦いの場にいるはずなのに

強いと思っていたのはただの自惚れだったのではないかと、自信が霞む


友奈「死にたくな゛い……終わりたくない……っ」

強い言葉が、出てこない

助けを求める言葉よりも、藻掻く弱さが這い出てくる

泣くなと止めた涙が溢れてきて

潤って薄まった血の唾液が喉を下っては

咳き込む勢いに吐き出される

回復が見込めない

このままでは死ぬ

可能性だと思っていたことが、【確信】になっていく

友奈「久遠先輩……せんぱい……ごほっ」

助けて。と、叫びたい

神婚なんて、神樹様なんて

放っておいていいから、今すぐにここに来て欲しい

そんな考えにまで至りそうになる弱さに、友奈は目を開く

友奈「わ……たし……は……」


1、まだ、頑張れる
2、もう無理だ
3、満開を使おう
4、しばらく、動くのを止める


↓2


友奈「まだ……おわれ……ないっ」

ゆっくりと左手を掲げた友奈は、

胸元に下ろしたままの右手の方へと持っていくと、

まだ動かせない右手の指を、

小指から親指まで、一つずつ、しっかりと曲げて握り拳を作っていく

強く、固く、はっきりと握り拳を形作り、

左手を動かすための力を、右手へと移す

友奈「はーっはーっはぁっはぁっ……っ」

力の流れが、変わる

閉じた瞼の奥で

体の中に流れる力を感じ取り、制御する

友奈「ふぅ……」

体が痛むのを承知で、無理やりに息を整える

いざというときの為に、残しておいた力

使えばもう、後戻りの利かない力

友奈「――満開ッ!」

その叫びに呼応したかのように、

力が、どこからともなくあふれ出した


友奈「はぁ……はっ……こほっ」

満開で力がみなぎっていると言っても、

満身創痍な体が完治するわけではないのか

その反動による回復力をもってしても、

治しきれる傷ではなかったのか

反動で血を吐いた友奈は、立派に治った手甲を一瞥し、

人差し指で口元を拭う

綺麗になったばかりの純白が、赤黒く汚れていく

友奈「足は、動く……手も」

踏みしめる力も、握りしめる力もある

これなら戦えると、安堵はしない

満開を使ってようやく動ける体など

攻撃を喰らえばひとたまりもないだろう

戦うための力だ

だけど、逃げるために使うのが最も得策なのではないかと

友奈は考えられるだけ考えた頭で、答えを出す

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