なろう主人公「まて!」
奴隷商人ぼく「はい、なんですか?」
なろう主人公「俺の名はなろう主人公! おい、その子を解放しろ!」
奴隷商人ぼく「は?」
奴隷エルフ「……」プルプル
なろう主人公「見ろ、怖がってあんなに怯えているじゃないか! お前にまだ人の心があるのなら、その子を檻から出してやってくれ!」
奴隷商人ぼく「これから汚いおっさんに体を好き勝手されるんだからそりゃ怯えるでしょ」
奴隷商人ぼく「あと、解放してくれだっけ? この子はこれからドレイタウンに運んで競売に掛けられるんだ、解放なんてできないよ」
奴隷商人ぼく「もしも独断で解放なんてしたら……僕の首が飛んでしまう」
なろう主人公「お前に人の心は無いのか!?」
奴隷商人ぼく「いや、あるよ……僕だって人間だもの」
なろう主人公「だったら!」
奴隷商人ぼく「けどこれが僕の仕事なんだ、仕事に私情を挟むのは二流のすることだよ」
奴隷エルフ「………」
奴隷商人ぼく「まあ、可哀想だとは思うけどさ……」
なろう主人公「言いたいことは分かった……」
奴隷商人ぼく「分かってくれたか」
なろう主人公「なら、もう言葉は不要! お前をぶっ飛ばしてその子を助ける!!」ドンッ
奴隷商人ぼく「ちょっ!? 何でそうな……」
なろう主人公「ユニークスキル! ギガソードブレイク!!」ゴゴゴゴゴゴ
奴隷商人ぼく「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ドガァァァァァァァン!!!
奴隷商人ぼく「」ピクッピクッ
なろう主人公「こんな檻……ふんっ!」ズバッ
奴隷エルフ「……あ、ありがとうございます」
なろう主人公「これで今日からキミは自由の身だ、故郷に帰るも良し、街に行くも良し、何処へだって行けるんだよ!」
奴隷エルフ「何処へだって……?」
なろう主人公「うん! なんなら近くの街まで案内……」
奴隷エルフ「でしたら……私を貴方の奴隷にしていただけませんか?」ピトッ
なろう主人公「えっ……?」
奴隷エルフ「私にはもう故郷が無く……行くところがありません」
奴隷エルフ「ですから……もしも叶うのであれば、私を檻から助けてくださった英雄のお傍に、私を置いてください……」ギュッ
なろう主人公(む、胸が当たって……!)
なろう主人公「わ、分かったよ……ただし、僕はキミを奴隷じゃなくて、一人の仲間として扱うよ! それで良いよね?」
奴隷エルフ「英雄様がそう仰るなら……」
なろう主人公「それじゃあ……今日からキミは僕の仲間だ! これからよろしくね!」
奴隷エルフ「はい、よろしくお願いいたします……英雄様」ニコッ
奴隷商人ぼく「ぐ……」ムクリッ
奴隷商人ぼく「ここは……? 一体何がどうなって……」
『ギガソードブレイク!!』
奴隷商人ぼく「!!」
奴隷商人ぼく「そ、そうだ! 奴隷は!!」バッ
檻「マモレナカッタ……」グシャー
奴隷商人ぼく「いない……輸送用に使ってた馬も……」
奴隷商人ぼく「あぁ……檻もこんなにグチャグチャになっちゃって……」
奴隷商人ぼく「アイツの仕業か……」
なろう主人公『お前に人の心は無いのか!?』
奴隷商人ぼく「こっちの台詞だよ、馬鹿野郎……」
奴隷商人ぼく「これからどうしたらいいんだ……」
奴隷商人ぼく「一旦ボスのところに戻るか……?」
奴隷商人ぼく「でも……」
『アァ!? エルフの奴隷を逃がしただとオイ!?』
『あれだけ気をつけろと言って聞かせたのに……どうなるか分かってんだろうなぁ、オイ!!』
『オイ、あれ持ってこい! 首切り包丁! 今からこいつの首を玄関に飾るからなぁ、オイ!』
『オラァ!! 責任取って死に晒せオラァ!!』
奴隷商人ぼく「無理だ……絶対に殺される……」
奴隷商人ぼく「あのエルフは最低でも金貨100枚の価値がついた……」
奴隷商人ぼく「それをおめおめと逃がした僕を……あのボスが許すはずがない……」
奴隷商人ぼく「だったら……もう逃げよう……ボスの手が届かない……何処か遠くへ……」
ぼく「奴隷商人は……今この時を持って廃業としよう……」
ぼく「………………」
無職ぼく「今日から無職かぁ……」
___
__
_
無職ぼく「自分の荷物は纏めたし、逃亡の準備は完了だ」
無職ぼく「ボスのところへはもう戻らないとして、ここから一番近い街は……」ペラッ
無職ぼく「……おせんべいタウンか」
無職ぼく「前に奴隷を輸送したことがあるから道筋は分かってる……」
無職ぼく「今回は馬が無いから全部徒歩になるけど……まあ何とかなるだろう……」
無職ぼく「…………」
無職ぼく「……無職かぁ」
無職ぼく「………」
無職ぼく「……行こう」トボトボ
___
__
_
デスわんこ「グギュガハァグハァァァァ……!」コーホーコーホー
無職ぼく「はぁ……はぁ……」ガタガタ
無職ぼく(最悪だ……まさかデスわんこに遭遇するなんて……)
無職ぼく(僕の剣は素人レベルだし……魔法だって最低の一しか使えないんだ……)ガタガタ
無職ぼく(早く……早く向こうに行ってくれ……)ガタガタ
デスわんこ「コロロロロロロ……ギャボハォォォ……」コーホーコーホー
無職ぼく(頼むぅぅぅぅ……!)ガタガタガタガタ
デスわんこ「…………」
デスわんこ「………フゴ」スタスタ
無職ぼく「……………………………」
無職ぼく「………………………………」
無職ぼく「……………ハァァァァァァァ」ズルッ
無職ぼく「タスカッタァ………」
___
__
_
無職ぼく「はぁ……はぁ……」ゼーハー
無職ぼく「こんなに……体力が……無くなってたなんて……」ゼーハー
無職ぼく「知ら……なかった……」ゼーハー
無職ぼく「一生を……奴隷商人で終えると思ってたから……剣の稽古も……まともにやらなかったし……」ゼーハー
無職ぼく「毎日馬車に乗って……街を往復するだけの……生活だったから……」ゼーハー
無職ぼく「筋力が……落ちてたか……」ゼーハー
無職ぼく「普段と違って……馬車じゃなくて徒歩だから……近道できる山道を選んだけど……」ゼーハー
無職ぼく「舗装されてない山道は……やっぱり辛いなぁ……!」ゼーハー
無職ぼく「やめときゃよかった……」ゼーハー
___
__
_
無職ぼく「はぁ……はぁ……辺りが暗くなってきた……」
無職ぼく「いくら山を突っきる近道でも……やっぱり徒歩だと一日でおせんべいタウンには着かないか……」
無職ぼく「仕方ない……今夜はここで夜営かな……」
無職ぼく「…………」
無職ぼく「こんな森の中で夜営……かぁ……」
無職ぼく(もしも寝ている時に……デスわんこが来たら……)
__
_
デスわんこ『グバァァゴォォァォ!!』ガブー
無職『ギャァァァァッ! 僕の腕がァァァァァッ!』ブシャー
_
__
無職ぼく「………」ゾワッ
無職ぼく「………ちくしょう、何でこんな目に」ガタガタ
___
__
_
無職ぼく「木の枝や枯れ草を……大きめの石で囲って……」ゴロゴロ
無職ぼく「準備完了……せーのっ、ファイアⅠ!」ポッ
メラメラ……メラメラ……
無職ぼく「はぁ……何とか火はついた……これで魔物が来ても弱めな奴なら何とかなるだろう……」
無職ぼく「あとは食事……鞄の中に入れたよな……」ゴソゴソ
無職ぼく「えっと……あった、干し肉一切れとパンが一つ……」
無職ぼく「………」
無職ぼく「………足りないなぁ」
無職ぼく「まあ……元々はドレイタウンに行ってエルフの奴隷を届けたら……」
無職ぼく「そこで持ってきた軽食を済ませて……その日のうちにボスのところへ戻る予定だったもんな……」
無職ぼく「こんなことになるなら……もっと食料を持ってくるんだった……あむっ……」パクッ
無職ぼく「モグモグ……モグモグ……ゴクッ」
無職ぼく「……はぁ、相変わらず硬いパンだなぁ」
無職ぼく「顎が疲れちゃうよ……あむっ……」
無職ぼく「モグモグ……」
メラメラ……
無職ぼく(そういえば……僕がたった一人で夜営をするのは……これが初めてか……)
無職ぼく(輸送時、遠出で夜営が必要な時は、いつもボスが用心棒を付けてくれたから、一人で夜営することは無かったなぁ……)
無職ぼく(そうそう、食事の配分量も……見張りの交代時間も……一番強い用心棒がいつも独断で決めてたっけ……)
無職ぼく(で、最終的に何処へ行っても必ず、僕が一番食事の量が少なくて、見張りも長くやることになるんだよね)
無職(実際問題、一番弱いのは僕になるから仕方ないんだけどさ……)
無職ぼく「……でも! 今日はご飯も見張りも僕が独り占め! 干し肉も気にせずかぶりつけるぞ!」
無職ぼく(ふふっ、何だか偉く開放的な気分だ! こんな状況だけど、ちょっぴり楽しくなってきたか……も……)
無職ぼく「……ん? 見張りも独り占め?」
無職ぼく「…………」
無職ぼく「まずい、今日の見張り……どうしよう……」
___
__
_
ゴゲゴッゴー!!
無職ぼく「リベンジャーニワトリが鳴いてる……」
無職ぼく「……んんっ」ノビー
無職ぼく「はぁ……もう朝か」
無職ぼく(結局、怖くて一睡もできなかったなぁ)
無職ぼく(もう二度と一人で冒険なんかしないぞ……)
無職ぼく「ふわぁぁぁ……ね、眠い……」
無職ぼく「こりゃ今日中におせんべいタウンに辿り着かないと、体が持たないな……」
無職ぼく「ボスから配給された食料も昨日食べちゃったし……さっさと出発の準備をしよう……」ゴソゴソ
___
__
_
無職ぼく「ハァ……ハァ……」
無職ぼく「つ、着いた……! おせんべいタウン……!」ボロッ
無職ぼく(思い返せば……ここまで辛い……辛い道のりだった……)
無職ぼく(ミニデスわんこに遊び半分で追いかけられ……)
無職ぼく(森で遊んでいた盗賊達に金目の物をよこせと追いかけられ……)
無職ぼく(何度も……何度も死を覚悟した……己の運動不足を……心の底から呪った……!)
無職ぼく(生き延びられたのは……運が良かったとしか言えないけど……)
無職ぼく(それでも僕は、それらの障害を乗り越えて……おせんべいタウンに辿り着くことができた……!)
無職ぼく(ボスから追われてるかもしれないし、職も無いし、金も無いし、これと言ったスキルも無いけど……!)
無職ぼく(ここへ五体満足で辿り着けたことは……今後の人生を生きていく上で、大きな自信となるだろう!)
無職ぼく(ここから……この街から……僕の第二の人生を始めてみせるぞ!!)
おせんべい門番「通行料をくださいな」
無職ぼく「……は?」
おせんべい門番「いえ、ですから通行料をくださいな」
無職ぼく「通行料……ですか……」
無職ぼく「それって、どうしても! どうしても払わないと駄目ですか?」
おせんべい門番「そりゃもう、通行料を払うのは規則なのですから、払って貰わないとですな」
無職ぼく「…………」
__
_
盗賊A『はい捕まえたぁ、足おっせぇなぁお前ぇ』
無職ぼく『お、お願いします!! 命だけは!! 命だけは許してください!!』
盗賊B『じゃあ……何くれるぅ?』
無職ぼく『えーっと……ぎ、銀貨1枚とか……』
盗賊A『あぁ? そこは有り金が定石だろうぉ? 違うかぁ? んん?』チャキッ
無職ぼく『は、払います!! 有り金全部! 払わさせて頂きます!!』
_
__
無職ぼく(あの時……有り金全部……バカ正直に盗賊に渡しちゃったんだった……)
無職ぼく(通行料がかかることを覚えていれば……その分をポケットにでも忍ばせたのに……)
無職ぼく(どうしよう……せっかく辿り着けたのに……街に入れないぞ……)
___
__
_
無職ぼく「」
おせんべい門番「……」
無職ぼく「」
おせんべい門番「……はぁぁ」
おせんべい門番「キミィ、何時までそこで項垂れてるつもりですかな?」
無職ぼく「」
おせんべい門番「そこに何時までもいられても、こっちとしても困るんですな!」
おせんべい門番「通行料が無いのなら、諦めて立ち去って欲しいですな!」
無職ぼく「」
おせんべい門番「……あー、もうっ! 仕方ないなぁ!」スタスタ
おせんべい門番「はいっ、コレ」スッ
無職ぼく「えっ? これ……お金……」
おせんべい門番「……内緒だよ、私のポケットマネーとはいえ、見つかったら怒られるんだから」
無職ぼく「な、何で……?」
おせんべい門番「そのボロボロな格好から察するに……ここには命からがら、何とか辿り着いたんでしょ?」
おせんべい門番「そんな人を盗賊や魔物が蔓延るところに送り返すなんて、流石に目覚めが悪いしね」
おせんべい門番「だから今回だけ特別……私のポケットマネーだから、気にせず受け取って?」
無職ぼく「で、でも……見ず知らずの僕にこんな……」
おせんべい門番「良いから良いから、はいっ」ポイッ
無職ぼく「わととっ」パシッ
おせんべい門番「そーいうのは素直に受け取っておけばいーの! 分かった?」
無職ぼく「……ありがとうございます」
おせんべい門番「うん、分かればよろしい」ニコッ
おせんべい門番「さーてとっ……おほんっ!」
おせんべい門番「それで通行料を払うことができるようになりましたなっ!」
無職ぼく「……」スッ
おせんべい門番「はいはい、通行料の銅貨1枚……確かに受け取りましたな!」
おせんべい門番「おせんべいタウンへようこそ! どうぞお通りくださいですな!」
無職ぼく「……」
『けどこれが僕の仕事なんだ、仕事に私情を挟むのは二流のすることだよ』
無職ぼく「……」
無職ぼく「……間違ってたな」ボソッ
ワイワイ……ガヤガヤ……
無職ぼく「親切な門番さんのお陰で……何とかおせんべいタウンに入れたぞ……」
無職ぼく「この町で一から働いて……お金がある程度稼げたら……」
無職ぼく「門番さんに何か差し入れでもしよう……」
無職ぼく「……」
無職ぼく「……よし! あの人に恩を返すために! そして僕時針のために! 早速新しい働き口を見つけよう!」
無職ぼく「無職なのは……今日限りだ!」
無職ぼく「……えっ?」
道具屋「だから……前職は?」
無職ぼく「えーっと……奴隷商人です……」
無職ぼく「あっ、奴隷商人と言っても……実際に奴隷を売っていたのは別の人で……」
無職ぼく「僕はただ……奴隷を輸送していただけなので……奴隷商人ではないのかもしれないですけど……」
道具屋「でも、奴隷商人に奴隷を引き渡していた、所謂関係者であることに変わりはないんだろ?」
無職ぼく「まあ……そうですね……」
道具屋「……わりいな、こちとら信用で物を売り買いしてもらってるんだ」
道具屋「奴隷は確かに合法ではあるが、何分イメージが悪い」
道具屋「店員の前職が奴隷商人だなんて、何処からか漏れでもしたら、ウチの評判が下がっちまう」
道具屋「すまねえが他をあたってくれ」
無職ぼく「……」
武器屋「帰れ帰れ、奴隷商人なんかお呼びじゃねえよ」
無職ぼく「で、でも!」
武器屋「商売の邪魔だ! しっしっ! まっ、客として来るなら歓迎してやるよ! ハハハハハ!」
無職ぼく「……」
__
_
神官「うーん……流石に奴隷商人の方は……」
無職ぼく「だ、だめですか……」
神官「まあ、駄目ではないのですが……大衆からのイメージが悪い奴隷商人の方が、神殿で働くというのはちょっと……」
神官「一応、我々は神聖なイメージがもっとうですので……難しいですね……」
無職ぼく「そうですか……」
無職ぼく「…………」
無職ぼく「……はぁぁぁ」ズゥゥン
無職ぼく「誰も……雇ってくれない……」
無職ぼく「ちょっと苦戦するとは思ってたけど……まさかこんなに働き口を探すのが難しいだなんて……」
無職ぼく「…………」
無職ぼく「……はぁぁぁぁぁぁぁ」ズゥゥン
無職ぼく「奴隷商人をやってたこと……隠しておこうかな……」
無職ぼく「ぶっちゃけ、僕は奴隷商人じゃないし、正確には奴隷輸送人だし……」
無職ぼく「…………」
無職ぼく「駄目だ……嘘をついて入れても……絶対居心地が悪くなる……」
無職ぼく「もしかしたら一生をそこで過ごすかもしれないんだ……」
無職ぼく「本当の僕を受け入れてくれるところじゃないと……働くに働けないよ」
無職ぼく「……どうしたら」
無職ぼく「はぁ……」ズゥゥン
女「……あれ?」
女「貴方……昼頃に来た通行料を払えなかった人?」
無職ぼく「……え?」
女「またこんなところで項垂れて、どうしたの?」
無職ぼく「あの……すいません……どちら様ですか?」
女「あー、そっか……オホン! 私ですな私! おせんべいタウンの門番ですな!」
女「今は今日の業務が終わったので、現在帰路についているところでありますな!」
無職ぼく「えっ……? 門番……さん……?」
女「そうそうっ、さっきは鎧姿だったから分からないのも無理ないか」
無職ぼく(薄い黄色の長髪……細身で……すらりとした体……)
無職ぼく(あの時は鎧姿で分からなかったけど……女性の方だったんだ……)
女「それで? 今度はどう言った理由で項垂れてるの?」
女「そっか、働き口がなかなか見つからないんだ」
無職ぼく「はい……気づいたらこんな夜更けになっちゃって……」
女「まあ……奴隷商人はねぇ……」
無職ぼく「ハハハ……やっぱり良い印象は持てませんよね……」
女「だね、合法ではあるけど……女の私からすると、あんまり良い印象は持てないかな」
無職ぼく「そうですよね……」
女「でも、働けないと生きていけないよね……」
女「とはいえ、私も最近門番になったばかりだからそういうコネも無いし……」
女「うーん……前職のイメージが悪くても働けるところ……働けるところ……」
無職ぼく「……」
女「あー! あるよ! 前職のイメージが悪くても働けるところ!」
無職ぼく「えっ!?」
無職ぼく「あ、あるんですか? 奴隷商人の僕でも雇ってくれるような働き口が……」
女「冒険者!」
無職ぼく「……」
無職ぼく「えっ」
女「だから! 冒険者になれば良いんだよ! アレなら前職のイメージなんて関係なし! 自分が冒険者として積んだ実績が全てだからね!」
無職ぼく「ぼ、冒険者ですか……」
女「そうそう! 面接も試験もなし! ギルドに行って受付嬢に申請すればその場でなれる!」
女「ねっ! キミにおあつらえ向きの仕事でしょ!」
女「今日はもう閉まってるから……明日さっそく行ってみなよ!」
無職ぼく「……」
無職ぼく(冒険者……僕が……?)
ー 次の日 ー
無職ぼく「……ここがギルドかぁ」
無職ぼく『いやいやいや! 無理! 無理ですって! 僕が冒険者だなんて!』
無職ぼく『剣は素人レベルですし! ましてや魔法なんて一番下の一しか……!』
女『けど、なんやかんやでここまで生き残って来れたんでしょ?』
女『それだけしぶとく生き残れるのなら、きっと冒険者になっても大丈夫だって! ねっ!』
無職ぼく『いや……でも……』
女『ほらっ、今夜の宿代と登録料! どうせ無一文でしょ! あー、出世払いで良いからね!』チャリン
無職ぼく『ちょっ……まっ……』
女『それじゃ!私は眠いのでこれにて失礼! ご武運を!』スタスタ
無職ぼく『そ、そんな……』
無職ぼく「……」
無職ぼく「行くだけ行ってみるか……」スタスタ
カランカラン……
ワイワイガヤガヤ……
無職ぼく(うわー……凶器を持ったゴツイ人ばっかりだよ……)
無職ぼく(あんまり絡まれたくないし、手早く済ませちゃおう……受付は……)
無職ぼく(あそこか……)スタスタ
無職ぼく「あ、あのー……」
受付嬢「はい、冒険者ギルドへようこそ! ご用件は?」
無職ぼく「えーっと……冒険者になりたいんですけど……」
受付嬢「はいはーい、ではこちらの書類に必要事項を記入して……」ペラッ
___
__
_
受付嬢「ひーふーみー……はいっ、登録料もいただきましたので、これにて登録完了です!」
受付嬢「では最後に……先程刻印した冒険者の証を出してみてください!」
無職ぼく「えーっと……手に魔力を込めれば良いんですよね?」
受付嬢「はい、そうすれば掌に証が浮かび上がりますので!」
無職ぼく「分かりました……フンッ」グッ
米粒「」スー
無職ぼく「おー……絵が浮かび上がった……」
受付嬢「はいっ、大丈夫そうですね!」
受付嬢「最初は誰もが最低ランクの米粒からのスタートです!」
受付嬢「依頼をたくさんこなして、ランクアップ目指して頑張ってくださいね!」ニコッ
無職ぼく「は、はいっ! 頑張ります!」
冒険者ぼく「……」スタスタ
冒険者ぼく「今日から僕も冒険者か……」
冒険者ぼく「……」ウズウズ
冒険者ぼく(何だろう……何かウズウズしてきた)
冒険者ぼく(こんな晴れやかな気持ちになったのはいつ以来だろ……)
冒険者ぼく(少なくとも、奴隷を輸送していた頃じゃ、絶対に味わえなかった感覚だろうな……)
冒険者ぼく「よーし……さっそく依頼をこなしてみよう」
冒険者ぼく「掲示板……掲示板……♪」スタスタ
無職ぼく「たくさん貼られてるな……どれを受けようか……」
カス虫討伐依頼!
無職ぼく(おっ、カス虫か! カス虫くらいなら僕でも倒せるぞ! この依頼を受けてみよう!)スッ
無職ぼく「…………ん?」ジィ
必要ランク おにぎり
無職ぼく「……おにぎり? おにぎりは確か米粒の上のランクだったはずだ」
無職ぼく「ってことは、受けれる資格が無いってことか……じゃあこれは……」ペラッ
必要ランク 食パン
無職ぼく「くっ……! じゃあこっちは……」
必要ランク フレンチトースト
無職ぼく「……」
無職ぼく(ら、ランクが足りなくて受けれる依頼が無い……!)
間違えて無職になってた……
___
__
_
冒険者ぼく(何とか米粒でも受けれる依頼があったけど……)
おばさん「それじゃっ、頼んだよ」バタンッ
冒険者ぼく「まさか、庭の草むしりとは……」
冒険者ぼく「何か想像してた冒険者のイメージとは違うなぁ……」
冒険者ぼく「けど、昨日門番さんから貰ったお金も、宿代と冒険者の登録料でピッタリ底を尽いた……」
冒険者ぼく「だから、そもそも外へ出たって武器が買えないから魔物と戦えないし」
冒険者ぼく「そもそも、無一文じゃおせんべいタウンの通行料だって払えないぞ……」
冒険者ぼく「そうだ、これは 無一文の僕にピッタリな仕事なんだ……何を恥じることがある!」
冒険者ぼく「ここから、ここから頑張っていけばいいじゃないか、僕!」
冒険者ぼく「よーーーし!ヤル気出た! 仕事は仕事だ! キッチリやるぞ!」
冒険者ぼく「はぁ……はぁ……」ズボツ
冒険者ぼく「はぁぁぁ……あっつ……」
冒険者ぼく「腰痛い……」ポンポンッ
冒険者ぼく(ようやく半分ってところか……)
冒険者ぼく(まだまだ雑草だらけだなぁ……)
おばさん「おー、やっとるね」ガチャッ
冒険者ぼく「あっ、どうも……」
おばさん「もう半分ってところか、冷たい飲み物を持ってきてやったから少し休みな」
冒険者ぼく「あ、ありがとうございます」
冒険者ぼく「ゴクッ……」
冒険者ぼく「おぉ……これ美味しいですね!」
おばさん「あたしお手製のきのみジュースだよ、容器を氷水に入れてたから……なかなかに冷えてるだろ?」
冒険者ぼく「はい! 生き返ります!」
おばさん「そうかい、ならそれを飲んで、あと半分も頑張っておくれ」
冒険者ぼく「ゴクッ……ゴクッ……ッハァ!」
冒険者ぼく「はいっ! 頑張ります!」
おばさん「……おかわりは?」
冒険者ぼく「お願いします!!」
おばさん「クク……あいよ」
___
__
_
おばさん「ご苦労さん、この年だから草むしりするのは色々と辛くてね、おかげで助かったよ」
冒険者ぼく「いえ……僕も必要ランクが足りず、こなせる依頼が無くて困ってたので……」
冒険者ぼく「これくらいの依頼なら、また僕が受けますよ!」
おばさん「そうかい、なら縁があったらまた頼むよ」
冒険者ぼく「はいっ! 任せてください!」
おばさん「じゃ、報酬の銅貨5枚だよ」チャリン
冒険者ぼく「ありがとうございます!」
冒険者ぼく「それじゃあ、僕はこれで」スタスタ
おばさん「……ああ」フリフリ
おばさん「……」
おばさん「死ぬんじゃないよ……」
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