侑「キスの味」 (99)

やが君SS② ちょっと長め

最初はただ侑がどんどん奪っちゃう話にするつもりがなんか真面目な話に…
6巻読んでキエエエエってなったぶんハッピーエンドに仕立てあげてやった

多分に自己解釈という名の妄想があります
アニメ勢には若干ネタバレ含むかもです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1541945923



キーンコーン


沙弥香「もうこんな時間。今日はここまでにしましょうか」

燈子「そうだね」


卓「じゃ、お先でーす!」

聖司「お先に失礼します」


侑「……」ボー

燈子「侑、帰ろ」

侑「へ…? あ、はいっ」

燈子「どうかした?」

侑「いえ別に」

燈子「……そう?」




燈子「今日は少し忙しかったね」

侑「そうですね」


侑(七海先輩と一緒に帰るのは今や当たり前になっている)

侑(先輩は変わらずわたしのことが好きで、それに対してわたしもまあ悪い気はしていない)

燈子「侑、いい?」

侑「……仕方ないなぁ」

燈子「やった」ギュ

侑(時々、手をつないだりもする)

侑(知り合いに見られない?って思うけど、そのくらいは七海先輩ならどうとでもしてしまうのだろう)

燈子「~~♪」

侑(ただ最近…)


侑「あの、七海先輩」

燈子「ん?」

侑「あー、えっと」





侑「やっぱりなんでもないです」

燈子「え、なに侑? どうしたの?」

侑「なんでもないってば」

燈子「なんでもないことはないでしょ。ほらほら、お姉さんに話してごらん」

侑「姉は1人で足りてます! しつこいと手ほどきますよ」

燈子「そ、それはダメ!」

侑「なら黙っててください」

燈子「えー?」

侑「……」

燈子「侑、本当になんでもない?」

侑「本当に、なんでもないです」

燈子「ならいいけど…」





ガララ


侑「ただいまー」

侑母「おかえり。結構遅かったのね」

侑「今日ちょっと忙しくて」

侑母「もうお夕飯できるから、着替えたらいらっしゃい」

侑「はーい」



侑「ふー…」ポス

侑(なんでもない、ことはないんだけど)

侑「……」

侑「……」



侑「七海先輩、最近キスしてこないな…」ボソ



侑「……」

侑(ってぇ! 何考えてるんだわたし)




侑(いやいや別に、してほしいとかそういうことじゃないし?)

侑(単に事実として最近してないって思っただけ)

侑(だから、先輩がキスしてくれないからどうってわけじゃ…)

侑「……」

侑(やめよ。言い訳するとまるでわたしがキスしたいみたいじゃん)



侑母「侑ー? 早く来なさい」


侑「はーい今いくー」



侑「……」


侑(したくない……わけでもないけど)




翌日


侑「ふあ…」

侑(なんかもんもんとしてしまった…)

こよみ「おはよう侑。 おっきなあくびだね」

侑「げ、見られたか」

こよみ「寝不足? まさか早めのテスト勉強?」

侑「まさかすぎだよ。やらないやらない」

こよみ「うん知ってる」

侑「おいこら」

こよみ「本当は? ……なんか悩み事とか?」

侑「あ、ううんべつに! ちょっと寝つけなかっただけ」

こよみ「そう?」

侑(心配かけちゃったかな)

こよみ「なーんだ、ネタになりそうな話があるかと思ったのに」

侑「わーー小説かーー。このガチ勢めーー」





侑(まーでもこんなことで悩んでも仕方ない。もう考えないようにしよ)



日本史教師「この『口吸い』というのはすなわち現代でいうキスのようなもので、それもかなりーー」

侑「……」



英語教師「It is surprising that You should have kissed on her~の文では、"should"は感情の強調としてーー」

侑「………」



地理講師「逗子で獲れるシロギスはうまいんだ。この前も地元の友人と釣りに行ってキスを大量にーー」

侑「~~っ……!」




昼休み


侑「あ~~~!! 今日なんなのもう!」ダンッ

こよみ「!?」ポロッ




朱里「おー珍しく侑が荒れてる。どうしたどうした」

侑「あ、いや別に」

こよみ(お箸落ちた…)ズーン

朱里「なに、生理?」

侑「ちがう」

朱里「はずれかー」

こよみ「わかった、女の子の日だね」

侑「それもちが……って同じじゃん!」

こよみ「突っ込むだけの冷静さはある、と」

侑「分析された!」

朱里「嫌なことでもあった?」

侑「嫌なことっていうか…」

侑(まずい、ここでキスのことを話したら深く追求される)

侑「や、ほんとに大したことないし気にしないで」

朱里「え! そう言われると余計気になる!」

侑(しまった! 朱里はこうだった!)




侑「あー、っと」

朱里「侑~? 洗いざらい話してもらおーか」ガシ

侑「ちょっ、力つよ…!」

朱里「私のディフェンスから逃れられると思うなよ?」

侑「ファール! バスケ的にそれファール!」

侑(やば……どうにかごまかさなきゃ)

こよみ「……」


こよみ「あ。 あれって朱里の好きな先輩じゃない?」

朱里「へっ!? ど、どこ!?」ガタッ

侑(こよみナイス!)

こよみ「あそこの木の陰。たぶん」

朱里「木? ……木ってどの木? ってか誰もいなくない?」

こよみ「気になる木~」

朱里「どういうこと!?」

こよみ「おっと、そういえば私箸落としちゃったから洗ってこなきゃ」

朱里「あっちょっ、こよみ騙したなぁ!?」

こよみ「侑も一緒にきて」

侑「えっ? あ、うん」





こよみ「……」ジャブジャブ

侑「こよみ? あの」

こよみ「侑のせいでお箸落としたんだからね」

侑「え」

こよみ「だからついてきてもらった。それだけ」

侑(……やっぱり、わたしのために)

侑「…ありがと」

こよみ「ごめんね、でしょ」

侑「うん」

こよみ「……」

こよみ「話しにくいことなら無理にとは言わないよ」

こよみ「でも、たまには誰かの力を借りてもいいと思う」

侑「えっ」

こよみ「その……侑は私の大事な友達……だから」

侑「…!!」


侑(こよみになら…)


侑「あのねこよみ、実は……」





こよみ「……ほほう、つまり」



こよみ「キスはしたい、けど自分から言うのは小恥ずかしいと」

侑「したいとは言ってない!」

こよみ「言ってなくても私にはそう聞こえた」

侑「うっ…」

こよみ「ふふ、よもや侑からこの類の相談を受ける日がくるとは」

侑「朱里には絶対言わないでよ? もしバレたら即日クラス中に広まるし」

こよみ「いいよ。侑がいいと言うまでは守秘義務ってことにする」

侑「こよみなら大丈夫って信じてるから話したんだからね」

こよみ「どうせなら相手も教えてくれればいいのに」

侑「それは絶対にムリ!」

こよみ「ちぇ、つまんないの」





こよみ「結局、侑が今日一日気にしてたのはそのことだったんだね」

侑「まあ、うん」

こよみ「素直にしたいって言えば?」

侑「それができれば苦労は…」

侑「ってだからちがーう!」

侑「したいわけじゃなくて、してこないのが違和感っていうか、もやもやっていうか」

こよみ(そういうのをしたいって言うんじゃないのかな)

こよみ「なら、侑のほうからしてみるのは?」

侑「えっ? わ、わたしから?」

こよみ「うん。 相手だって本当はしたいんじゃない?」

こよみ「もし侑が『仕方なく』してる感じなら、それを察して遠慮してるのかも」

侑「……一理ある」





侑「でもこっちから……こっちからかぁー…」

こよみ「悩みどころ?」

侑「うーん」

侑(わたしから先輩にするのは、やっぱりなんか違うというか、超えてはいけないラインというか)

こよみ「恥ずかしい?」

侑「どっちかというと、悔しい?」

こよみ「なんだそれは…」

侑「かと言ってこのままだと落ち着かないような……けどわたしからしたりお願いするのも……」

こよみ「どうにも煮え切らないね」

侑「うー、助けてこよみえもーん」

こよみ「…なら、このポケットにいい秘密道具が」スッ

侑「あるの!?」

こよみ「ないよそんなもの」

侑「ないんかい!」

こよみ「けどひとつアイディアはある」

侑「えっ、なになに?」




こよみ「それは……」

こよみ「テッテレー、作戦名『ふいんき(なぜか変換できない)のせい』~」

侑「……」

侑「なに、かっこなぜかって」

こよみ「そこは気にしない」

こよみ「つまりだね」オホン

こよみ「こちらから言わずとも相手がそうしやすい雰囲気を作ればいいってこと」

侑「雰囲気」

こよみ「例えば、侑が彼氏になにか甘いものをねだりたい、けど直接口にはしたくないとします」

侑(あ、彼氏………ってそりゃそうか)

こよみ「そこで帰り道、クレープ屋さんの屋台の前をわざと通りこの一言」


こよみ「『わぁ☆ なんかいい匂いする~♪』」


こよみ「見つめ合うふたり」

侑「……」


こよみ「するとどうでしょう、彼は財布を取り出して問うはず」

こよみ「『……食べる?』と」





こよみ「食べたいなんて一言も言ってないのに、自然とクレープを買ってもらう流れに。なぜなら『そういう雰囲気』になったから」

こよみ「とまあこんな具合に相手の行動を…」

こよみ「って、侑? どうかした?」

侑「ごめん、わぁ☆ のとこのこよみキャラ違いすぎて……っ!」

こよみ「そこだけ拾わないで! ちゃんと聴いてた!?」

侑「や、大丈夫、こりゃ買ってあげようって思うのはわかっ……ぶふっ!」

こよみ「~~~っ!!」



こよみ「もう侑なんて知らない」

侑「いやいや、可愛かったよ?」

こよみ「朱里に言いつけてやる」スタスタ

侑「わあああごめん! こよみ、ごめんーー!!」ズルズル





侑「で」


侑「その、雰囲気を作るっていうのはわかったけど」

こよみ「それを具体的にどうやるか」

侑「さすがご明察」

こよみ「それについては正直私は未経験なのでいかようにも」

侑(なるほど、こよみは新品)

こよみ「ただ」

侑「うん」

こよみ「………」

侑「ただ?」

こよみ「その…」


こよみ「練習になら付き合える」

侑「……おん?」




侑「……」

こよみ「と、いうことでやってまいりました~誰もいない屋上」

侑「なぜ入れた」



侑「じゃなくて!」

侑「えっ練習って、こよみ本気?」

こよみ「侮るな、私はいつだって本気だ」

侑「かっこいいけどマジメに!」

こよみ「真面目なつもり。侑のためならできる限りのことはしたいし」

侑「こ、こよみえもん…!」ジーン

こよみ「まじめに聞いて」

侑「はい」

こよみ「まあ本音を言うと、自分のためでもあるというか」

侑「こよみのため? なんで?」

こよみ「……怒らないでほしいんだけど」





こよみ「小生、今書いてる小説があるのですが、ストーリーの展開上どうしてもそういうシーンを入れたくて」

侑(小生ってこよみ)

侑「けれど、経験がないからどうにもリアリティに欠けてしまう?」

こよみ「話が早くて助かります」

侑「お互いにね」

こよみ「侑を利用するようで申し訳ないんだけど、協力してくれないかな」

侑「協力っていうならむしろこっちがしてもらってるし、構わないけど」

侑「こよみは、えっと……わたしでいいの? その、相手が」

こよみ「……」

こよみ「こんなこと…侑じゃなきゃ頼めない」モジ

侑「…!?」

こよみ「侑は? 嫌じゃない?」

侑「う、うん。全然」

こよみ「……よかった」ニコ

侑(あれー、こよみってこんな可愛かったっけ)

こよみ「まあ、あくまで『フリ』までだけどね」

侑「そりゃね」




こよみ「とりあえずちょっとやってみようか。今なら人いないし」

侑「なるほど、そのために屋上」

こよみ「とは言ってももうあんまり時間ないから1回だけね」

侑「わかった。小説っていうなら設定とかあるの?」

こよみ「ある」

こよみ「私は侑の職場の1つ年上の先輩」

こよみ「有能でみんなから慕われてるけど、本当はプレッシャーに弱く押し潰されそうになっている」

こよみ「そんな私と秘密裏に交際していて、唯一の支えとなっているのが後輩として入ってきた侑」

侑「」

こよみ「……っていう関係を踏まえてくれれば、あとは侑が雰囲気を作る練習にしてくれていいから」

侑「りょ、了解」


侑(……偶然だよね? たまたま似てるだけだよね?)




こよみ「では同棲していることにして、私イコール先輩が帰宅するところから」

侑「あ、うん」



こよみ「……ガチャ。 ただいま」

侑「おかえり、えっと……アナタ?」

こよみ「ストップ」

こよみ「それじゃ結婚してるみたい。こよみくんでいいよ」ヒソ

侑「わ、わかった」ヒソ


侑「えーと、こよみくん、ごはん先食べる? それかお風呂沸かそうか?」

こよみ「侑がいいな」

侑「えっ」

こよみ「……今日は侑がほしい」

侑「えっ」


こよみ「こら、リアルに引くな」ヒソ

侑「ちがっ、もうそういう展開でいいのかなって!」ヒソ

こよみ「時間ないからいいの!」ヒソ

侑「おおおっけー!」ヒソ




侑「こほん。 あー…」

侑「こよみくん、今日は甘えたさんダネ」

こよみ「甘えたくもなる。だってあのハゲ自分の仕事なのに外向けの資料もプレゼンも全部ボクに投げてくるんだ」

侑(ハゲひどい)

侑「それは……でも、それだけ信頼されてるってことじゃない?」

こよみ「本当はこんな役回りはしたくない。けど、僕の前の優秀な先輩が突然辞めてしまったから」

侑「こよみくんが代わりに引き継いだというのね」

こよみ「弱い僕を知っていて、羽を休ませてくれるのは侑だけ…」ギュ

侑「こよみくん…」ギュ

こよみ「侑…」

侑(え、えーと? もういいのかな)

侑「こよみくん。 こっち見て」

こよみ「…?」


侑「その……たまには、わたしのこと、好きにしても……いいよ?」

こよみ「……」


こよみ「……へっ!?」

侑「えっ!?」




こよみ「あっ、ごめっ」

侑「や、やっぱ違った? よね?」

こよみ「ううん! そういうわけじゃ」

こよみ「というか、……ふ、不覚にもドキッとしてしまった」

侑「えっ」

こよみ「おお落ち着け私、相手は侑……所詮は侑……」

侑「ちょっ! 所詮言うな」


こよみ「……」スーー ハーー


こよみ「つ、続けて」

侑「続けるのこれ」

こよみ「……嫌ならいいよ」

侑「い、嫌なんて言ってないじゃん」

こよみ「ん……じゃあ続き」

侑「……うん」




侑「っと待って……どっから続き?」ヒソ

こよみ「え、そりゃ、最後のとこ?」ヒソ

侑「またあれ言うの!? やだよ恥ずかしい!」

こよみ「ゆ、侑が言ったセリフじゃん!」

侑「そうだけど、こよみがドキッとしたーとか言うから!」

こよみ「そ、それはっ」

侑「……」


侑「と、とりあえずもっかい」ギュ

こよみ「へ、あ、はい」ギュ

侑(……こよみ、ちっちゃくてやわらかいな)

こよみ「……」


こよみ「……本当にいいの?」ヒソ

侑「えっ」

こよみ「好きに、していい?」ヒソ

侑「あ、うん…いいよ。 こよみくんなら」

こよみ「…………わかった」ヒソ

侑「……」



侑(え? あれ今の、役のセリフじゃーーー



こよみ「ん……」

侑「む……!?」






こよみ「ん……」

侑「……っ!? !?」



こよみ「……ぷは」

侑「……はっ…はっ…」


こよみ「………」

侑「………」




侑「え、と……こよみ」

こよみ「……え」

侑「え」





こよみ「えええええーーーーー!!?」

侑「ええーーーーー!?」








こよみ「なっなななななな、なんで……!?」

侑「なんで!?」

侑「ってこっちのセリフだよ! なんでこよみのほうが驚いてんの!」

こよみ「はっ! たっ確かに」

侑「確かにじゃないし…」

こよみ「ゆ、侑! ちがくて、これはその…」

侑「ちがくもないし」

こよみ「ごめん! 本当にごめん!」

こよみ「本当に……本当は……本当に」

侑「……するつもりじゃなかった?」

こよみ「ごめん、なさい……ごめんなさい……!」

侑「……」

こよみ「本当、なんで私…」

侑「いいよもー……しちゃったんだし」

こよみ「……アリエナイ……サイテイダ…ワタシハサイテイ…」

侑(聞いてない)





こよみ「…………」ズーン


侑「こよみ、そろそろ復活して。 昼休み終わるよ」

こよみ「いいんだ……私は人生が終わった」

侑(スケールの差!)

侑「だからもう気にしてないってば」

こよみ「……本当に?」

侑「ほんとほんと。 ファーストキスでもないし」

こよみ「……」


こよみ「私は………初めてだった……」ズーーン

侑「ああーもう! ごめんね! 初めてがわたしで!」

こよみ「あっ、そ、そういう意味じゃ…!」


こよみ「侑がいいならいいんだ。 それに例のアレを適用する」

侑「アレ?」

こよみ「ずばり、女子同士はノーカン条例」

侑「あー、まあ、ですよねー」

こよみ「と、いうことにしてお許しを得られはしないだろうか」

侑「わたしも、こよみがいいならいいよ」

こよみ「……ありがとう。恩に着る」


キーンコーン


侑「あ」

こよみ「しまった予鈴だ」




こよみ「とりあえず、このことはくれぐれも内密に…?」

侑「あたりまえじゃん……」

こよみ「だ、だね」

侑「……」


侑(まあ、でも)

侑(きもちよかった……な。 こよみとするの)

侑(七海先輩とはまたちがうような、ちっちゃくて、ほわっとした感じ)


こよみ「侑? 遅刻しちゃうよ」

侑(だからその…)


侑「また、練習……しよっか。そのうち」

こよみ「……」


こよみ「……え、あ、え…?」カァァ


侑「嫌、かな」

こよみ「嫌………じゃ、ない……よ?」

侑「………」

こよみ「………」


侑「い、行こっ!」

こよみ「う、うんっ」




放課後



朱里「侑は今日も生徒会?」

侑「今日も今日とて生徒会。最近やること多くてさー」

朱里「大変だなー。んじゃまた明日~」

侑「ん。また明日」

こよみ「……」

侑「こよみ、またね」

こよみ「へっ? あ、うん、また…」

朱里「……なんかあった?」

侑「あーいや別に? 朱里は部活?」

朱里「もち! 週末練習試合だから気合い入れてかなきゃ」

侑「そっちも大変だね。じゃ」


キリよいのでいったん
明日は金髪編

明日になった




侑「……」スタスタ


侑(やっぱり……とてつもないことをしてしまった気がする)

侑(けどちょっと面白いことも知れたような)



ガララ


侑「こんにちはー」

沙弥香「こんにちは、小糸さん」

卓「ちーっす」

侑「おや、珍しい」

卓「あ、やっぱそう思う?」

侑「思う思う」

沙弥香「……なんの話?」

侑「いや、佐伯先輩と堂島くんってあんまり見ない組み合わせだなと」

沙弥香「そうかしら?」





卓「ってかそもそも佐伯先輩と誰かが二人きりってなかなかないよな」

侑「常に七海先輩がそばにいるもんね」

卓「いや、どっちかというと七海先輩のそばにいるんじゃね?」

侑「それ何が違うの」

沙弥香「どっちでもいいけど、別に燈子と私はセット品ってわけじゃないからね」

卓「あ! なら俺、佐伯先輩単品オーダーしま」ズガンッ



沙弥香「それにしても燈子、少し遅れると言っていたけど遅いわね」

卓「痛ェ」

侑「今のは堂島くんが悪い」




ガララ


聖司「おはようございます」

沙弥香「槙くん、おはよう」

聖司「遅れてすみません。 日直の仕事で手間取ってしまって」

沙弥香「いいわよ全然。 燈子もまだだし」

聖司「あれ、そうなんですね」

侑「……」ジー

聖司「……なに? 小糸さん」

侑「いや。 槙くんっていつも最初おはようございますって言うなぁって、ふと」

聖司「え、変かな?」

侑「変っていうか、もう夕方近いのに」

沙弥香「その日初めて会った時にそう言うのは日本の社会だとわりと普通よ」

侑「えっ!? そうなんですか?」





卓「小糸さん中学運動部なのに知らなかったん?」

侑「初耳だー……運動部だとそうなの?」

沙弥香「必ずしもそうではないし、うちも特に決まりはないから言いやすい挨拶でいいわよ」

聖司「僕は父親の仕事の関係の人がよく家に来てたから」

侑「うーむ覚えとこう」


ヴーッ


沙弥香(メッセージ? 燈子から?)


沙弥香「……」


沙弥香「さて、じゃあ打ち合わせを始めましょうか」

侑「え」

沙弥香「今日はひとつ新たな案件があるから私のほうで最初に分担を決めます」

侑「あの、七海先輩は待たないんですか?」

沙弥香「燈子は急用で欠席すると連絡があったわ。みんなにごめんって」




侑(急用で休みって、どうしたんだろ)

卓「それ大丈夫なんすか?」

沙弥香「燈子のことは心配しなくていいから。 気にせず始めるわよ」

侑「佐伯先輩には詳しい連絡来たんです? 七海先輩はなんて?」

沙弥香「 気 に せ ず 始めるわよ?」ニコ

侑「はっはい!」ビク

卓(おっかねぇ~)

聖司(やっぱりこの三角は面白いな)

沙弥香「じゃあ、まず今日持ち込まれた案件の中でーーー」






沙弥香「今日はこのくらいね」


沙弥香「みんな時間ギリギリまでありがとう。戸締りは私がするから気をつけて帰って」

卓「あざーすお疲れ様でーす」

聖司「お疲れ様でした」

侑「失礼しまーす」


侑(今回もやること多かった。 七海先輩いないし)

侑(せっかくこよみからヒントを得たけど今日はダメかぁ)

侑(先輩大丈夫なのかな? 連絡してみようか)スッ


侑「……」


侑(やめとこ)

侑(ま、大事なことならあっちから言ってくるよね)


侑「いっ!」

侑(ったぁ~……唇切れた…?)




侑(今日そんな乾燥してたっけ。リップは…)ゴソ

侑「あれ、化粧ポーチが」

侑(……そういえば生徒会室にいるとき出したような出してないような)

侑(今なら間に合うかも)タッ



侑(鍵借り直すの面倒だからな~佐伯先輩まだいるといいけど)

侑(あ、電気消えてる……)

侑(けどドアちょっと開いてる! よかったセーフ)


沙弥香「ーーー、ーーー……」


侑(っと電話中)


沙弥香「……わかったわ。 こっちは大丈夫だから、燈子もあまり無理しないでね」


侑(……七海先輩と?)


沙弥香「ええ。 それじゃ」

沙弥香「……ふぅ」スッ

侑「……」


沙弥香「さて、」

侑「あのー」ガララ

沙弥香「ひゃああっ!?」





沙弥香「なんだ小糸さん……驚かさないでよ」

侑「あはは、忘れ物しちゃって」

沙弥香「ああ、やっぱりこのポーチそうだったの」

侑「あっはい、わたしのです」

沙弥香「次から気をつけなさい」スッ

侑「すいません」

沙弥香「それにしてもよく途中で気がついたわね」

侑「唇切れちゃって。 リップ探して無いなぁーと」

沙弥香「ふうん?」

侑(あれ? ここにも無い?)ゴソ

侑(そういや、前シーズン以来買ってなかったっけ…)

沙弥香「どうしたの?」

侑「あ、いえ。 結局なかったです」

沙弥香「あら。 まあ、この時期あまり使わないものね」

侑(しゃーない帰りに買っていこう)

沙弥香「どれ? 見せてみなさい」

侑「え」




侑「えと、この辺が」

沙弥香「……暗くて見にくいわね。窓側に来て」


沙弥香「あーこれは痛そう。一応塞がってはいるけど」

侑「今はもう平気です」

沙弥香「でも途中でまた開くわよ。ちょっと待ってね」ゴソ


沙弥香「……」キュポ

侑「え、あの」

沙弥香「喋らない」

侑(リップ……佐伯先輩の)

沙弥香「それとも、小糸さんは女同士でもこういうの気にする?」

侑「い、いえ別に」

沙弥香「そ。一応拭いてはあるから我慢なさい」クイ

侑「っ……」





侑「……」ツー

沙弥香「……」

侑(顔、近いな…)


沙弥香「はい終わり。 これで少しはマシでしょ」

侑「…ありがとうございます」

沙弥香「さ、もう鍵締めないと」

侑「……」

侑「佐伯先輩って」

沙弥香「なに?」

侑「やっぱり美人ですよね」

沙弥香「…………なに? 本当に」

侑「間近で見ると余計まつげ長いし? 肌キレイだし髪サラサラだし」

沙弥香「……」

沙弥香「小糸さんに言われるとなんか怖いんだけど…」

侑「ちょっどういう意味ですか!」





沙弥香(どうにも裏がありそうなのよね)

沙弥香「ま、褒め言葉として受け取っておくわ」サラッ

侑「褒めがいがない」

沙弥香「私がそれくらいで照れるとでも思った?」

侑「お嬢様キャラはちょろいのが定石なのになぁ」

沙弥香「バカにしてる…?」

侑「そうじゃありませんけど」

沙弥香「あっそ」

侑(うーん、なんか、うーん……)

沙弥香「もういいかしら?」

侑「ま、待ってください」

沙弥香「今度はなに…」

侑「その……」

侑(わたしだけ恥ずかしい思いしたみたいで悔しい、とは言えない)





侑「先輩、もう一回リップ借りていいですか」

沙弥香「えっ?」

沙弥香「いいけど……塗り足りなかった?」ゴソ

侑「いえそうではなく」

沙弥香「…? じゃあどうして」スッ

侑「先輩、目つぶってください」

沙弥香「……なにする気」

侑「わたしも先輩に塗ります」

沙弥香「はあ!? な、なんでよ」

侑「このままじゃいろいろ不公平なんで」

沙弥香「いや、私は別に塗らなくていいんだけど…」

侑「佐伯先輩がよくてもわたしがよくないです」

沙弥香「どういうことよ!」





侑「あー……」

侑「ほら、『せんぱいのきれーなくちびるがきれたりしたらやだなぁ』っていう後輩心?」

沙弥香「心にもないのがバレバレなんだけど…?」

侑「はぁーーもーいいから塗らせてください!時間ないんで!」

沙弥香「だったらやらなくていいじゃない!」

侑(ぐぬぬ手強い)

侑「……」

侑「へー、あー、ふーん?」

沙弥香「……なによその顔」

侑「いや? 佐伯先輩って意外と恥ずかしがり屋なんだなーと」

沙弥香「…は?」ピク

侑「押すのはいいけど、押されるのは弱いんだなぁーとわかっただけです」

沙弥香「…小糸さん? 何を言ってるのかしら?」

侑「いいんじゃないですか? 勝気な先輩が実は~~みたいなのって需要あると思いますし? 本屋的に」

沙弥香「………」イラッ




沙弥香「う、うふふ? 小糸さん?」

侑「はい?」

沙弥香「そんな見え透いた挑発に私が乗ると思う? 舐められたものね」

侑「あれ~そう聞こえました? 変だなぁーわたしはただ思ったこと言っただけなのになぁー」

沙弥香「っ……」ピキ

侑「まあ、そんな可愛い一面もあっていいんじゃないですか?」

沙弥香「あ……あのねぇ…」ピキピキ

侑「てか佐伯先輩、さっきわたしが来たとき『ひゃああっ!?』とか言ってたような」

沙弥香「……っ~~!!」


沙弥香「あああーーーもうーー!!!」


沙弥香「わかったわよ! そんなにしたいならすればいいでしょ、すれば!」

侑(やったぜ)



続きます



沙弥香「はい! 煮るなり焼くなりお好きにどうぞ!」ドン

侑「いや、さすがにそこまでしませんよ…」

沙弥香「全く最近の1年生ときたら…」

侑「まさかのおばあちゃんキャラ」

沙弥香「……」ギロ

侑「なんでもありません!」

沙弥香「はぁ……本当に下校時刻迫ってるんだから早くしてよ?」

侑「はっはい」

沙弥香「ん。じゃあよろしく」スッ

侑(あ、ちゃんと目はつぶってくれるんだ)

侑「……」

侑(佐伯先輩の唇…細くて整ってる)




侑(ほんと、綺麗だ)

侑(すごくツヤがあって確かにリップ塗る必要なんかなさそう)

侑「……」


侑「……」ザワ…



侑(これ……キスしたらどんな感じなんだろ)



侑「……」


侑(……えっ)

沙弥香「……?」

沙弥香「ちょっと小糸さん?」

侑「へっ、はっはい!」

侑(待って? わたし今何考えた……!?)

沙弥香「何ボーッとしてるのよ……するの? しないの?」

侑「あっ、し、しますします!」

沙弥香「しっかりしてよ」




侑(落ち着け、落ち着けわたし)

侑(たぶん、今日こよみと…あんなことがあったから)

沙弥香「ははーん」

沙弥香「さては小糸さん、やっぱり怖気づいたんでしょ」

侑「っ、違います! これくらい!」

沙弥香「なんだか顔が紅潮して見えるけど?」

侑「そっそれは……あれです夕日です!」

沙弥香「果たしてそうかしら」フフン

侑(くぅ、また佐伯先輩のペースに……これじゃ結局わたしが恥ずかしいだけになっちゃうじゃん)

沙弥香「ふふ。いいと思うわよそういうとこ? か わ い く て ?」

侑「~~っ!」カァァ

沙弥香(なんだ、この子もちゃんと人の子っていうか)

侑「……」




侑(こう、なったら)

沙弥香「もういいかしら? 別に、こんなの無理にするほどのことじゃ」

侑「佐伯先輩」キッ

沙弥香「な、なに?」

侑「先輩は、こういうの……女子同士なら気にしない、んですよね」

沙弥香「え? まあそうだけど」

沙弥香(もっとも、男子とのほうが気にしない、かもしれないけど)

侑「本当に、何とも思わないんですね?」

沙弥香「どうしたの急に……そう言ってるでしょ」

侑「わかりました」

沙弥香「なに? やっぱりするの?」

侑「……します」





沙弥香「はぁ……わかったわよ。ほんと頑固なんだから」

侑「じゃあ、目、つぶってください」

沙弥香「はいはい」スッ

侑「……」

侑(これは、あくまで確認。ただの興味)

沙弥香「……」

侑(だからちがう。そういう感情は……ない)


侑「……」ツー

侑「じゃあ、いきます」

沙弥香「どーぞ」

沙弥香(ほらやっぱり無理してるんじゃない。声が震えてる)

侑「……」クイ

沙弥香(…え?)



沙弥香「……!」



沙弥香(な、なに? 柔らかい…?)


沙弥香(でもこの感触、なんだか前にも……)パチ

侑「ん……」

沙弥香「…………」




沙弥香「…………っーーーーーー!!!!?」








沙弥香(えっ、えっ!?)

沙弥香(ちょっ嘘、この子なにやって)


侑「む……!」

侑(佐伯先輩の……ちょっと硬め…?)

沙弥香「ん……ふ……!」

侑(でも、なんというか上品で、心地いい……ような)

沙弥香「………っ~~~!!」グイ


沙弥香「ぷはっ!」

侑(あ……)


沙弥香「ちょ、ちょっと小糸さん!? これは一体」

侑「……先輩…」トロ

沙弥香「っ…!」

侑「へへ、びっくりしました…?」

沙弥香「びっくりどころの騒ぎじゃないわよ! っていうか、え? 本当に……」

侑「……」

侑「ばっちり塗れました」

侑(間接的に)

沙弥香「あ、あのねぇ………」




侑「別にいいですよね佐伯先輩? 女子同士ならこーいうのなんともないんですし?」

沙弥香「だからってキスするなんて聞いてないわよ!」

侑「煮るなり焼くなり好きにって言ったのは先輩です」

沙弥香「そっそれは……そうだけど、そうだけど…!」

侑「あれ~? 顔真っ赤ですけど、もしかして照れちゃいました?」

沙弥香「っ、て、照れてないっ! 夕日よ!」

侑「ほんとかなぁ」

沙弥香(なんでこの子は平然としていられるわけ!? まさか常習犯……ってことはやっぱり燈子と……!?)

侑「じゃ、帰りましょっか。ほら下校時刻過ぎてますよ」

沙弥香「っ~~~誰のせいよ誰のっ!!」

侑「あはははっ」


侑(……きもちよかった)





スタスタ


侑「あーやっぱ外乾燥してるっぽいですね」

沙弥香「……そうね」

沙弥香(で、そのまま普通に並んで歩けるメンタルはなに? 心が壊れているのかしら?)

侑「どこのリップがいいかなぁ。 先輩おすすめあったりします?」

沙弥香「さぁ。好みは人それぞれじゃないの」

侑「冷たい」

沙弥香(それとも、本当に小糸さんは燈子と…?)

侑「……」


沙弥香「じゃ、私こっちだから」

侑「あ…」

沙弥香(だとしたら、私は……)


侑「あっあの、佐伯先輩」




沙弥香「なに? 早く帰りたいんだけど」

侑「あー、っと……」

侑「やっぱ怒ってます?」

沙弥香「は?」ギロ

侑「ひいっ!」

沙弥香「あんなことされて怒ってないとでも思った?」

侑「………ですよねー」

沙弥香「前代未聞よ、許可なく先輩の唇を奪う後輩なんて」

侑(逆はあったんです! …とは言えない)

侑「その、ほんとちょっとした出来心というか………すいませんでした」

沙弥香「……謝るくらいなら最初からしないでほしいところね」

侑「はい…」

沙弥香「……」




沙弥香「もういいわ。 そこまで気にしてないから」

侑「……ほんとに?」

沙弥香「女同士はセーフ、ノーカン。 そういうもんでしょ」

侑「あ、先輩もノーカンなんて言葉使うんですね」

沙弥香「だからあなたは私にどんなお嬢様イメージ抱いてるの…」

侑「うーん、なんていうか、高翌嶺の花?」

沙弥香「はぁ…?」

侑「と思ってましたけど」


侑「案外、届くものかもしれないですね」

沙弥香「…? どういう意味よ?」

侑「や、だから、その」


侑「……またしたいなぁ……なんて」ボソ

沙弥香「……」



沙弥香(……えっ?)


沙弥香(それってつまり、私のこと)

侑「それじゃ先輩、また明日」タッ

沙弥香「あ、ちょっ」



沙弥香「え? ええ~~~っ……?」


続きます

翌ってどっから入った…
> >56訂正します



沙弥香「もういいわ。 そこまで気にしてないから」

侑「……ほんとに?」

沙弥香「女同士はセーフ、ノーカン。 そういうもんでしょ」

侑「あ、先輩もノーカンなんて言葉使うんですね」

沙弥香「だからあなたは私にどんなお嬢様イメージ抱いてるの…」

侑「うーん、なんていうか、高翌嶺の花?」

沙弥香「はぁ…?」

侑「と思ってましたけど」


侑「案外、届くものかもしれないですね」

沙弥香「…? どういう意味よ?」

侑「や、だから、その」


侑「……またしたいなぁ……なんて」ボソ

沙弥香「……」



沙弥香(……えっ?)


沙弥香(それってつまり、私のこと)

侑「それじゃ先輩、また明日」タッ

沙弥香「あ、ちょっ」



沙弥香「え? ええ~~~っ……?」





侑(はー、なんだろ、ふわふわした気分)


侑(勢いでしちゃったけどやっぱマズかったかな……佐伯先輩ほんとはめちゃくちゃ嫌だったらどうしよう)

侑(まあ今さらどうしようもない。 過去は過去)


ガララ


侑「ただいまー」

侑「わ」

侑(いい匂い。怜ちゃんとヒロくんがお菓子作ってるのかな)

怜「おーおかえり」

侑「……あれ、ヒロくんいないの?」

怜「ヒロ? 今日はいないけど」

侑「ふーん?」

怜「なに、あんたヒロのこと狙ってるわけ?」

侑「狙ってないよ。 じゃなくてお菓子作ってるから」

怜「これは試作用。もうすぐヒロとの記念日だから、とびきりうまいの作って驚かせてやろうってね」パカッ

侑「あー、そういやそんな時期」




侑(記念日、かー)


侑(怜ちゃんとヒロくんは付き合ってるんだから、やっぱそういうこともしてるんだよね)ジー

怜(…なんか見られてんな)ジャー

侑(手つないだり、キスとか、もしかするとその先も)ジー

怜「そんな監視しなくてもちゃんと侑のぶん取っといたげるよ」

侑「まじ? 絶対?」

怜「絶対絶対。 だからほれ、あっち行った」

侑「んー」

怜「……」ストン

怜(いや行けよ)



侑「怜ちゃんってさ」

怜「んー?」トン トン

侑「ヒロくんと初めてキスしたのいつ?」

怜「ぶっ!!?」ズダンッ





怜「あ、あんたね……包丁持ってるときになんてこと聞いてくんの。危ないでしょ」

侑「やっぱ高校のとき? きっかけとかある?」

怜「無視かよ」

怜「まあ、そうねー。高校は高校だけど、いつだったかな」

侑「告白したの怜ちゃんからだよね。ってことはキスしたのも?」

怜「あー……最初は、うん、そうだったような」

怜(付き合ってからは、だけど)

侑「そっか」

怜「もういい?……ってかなに侑? なんかあったわけ」

侑「えっ!? や、別になにも?」

怜「……ははーん?」ニヤ

侑「なんもないってば!」

怜「さては例の彼女」

侑「ちがう。 てか、彼女じゃない」

怜「あれ、違うのか」

侑「絶対お菓子取っといてよ!」タッ

怜「あっこら逃げんな!」

怜(おかしーな? 何かあったのは確実なんだけど……あの子じゃない…?)





侑「よっと」ポス



侑(……こよみのは小さくて、ほわっとしてて)

侑「……」

侑(佐伯先輩は、細くて硬め……だけど品があって心地よくて)

侑「……」


侑(七海先輩のってどんなのだっけ)

侑(他に知らなかったから、比べようとも思ってなかった)

侑「……」



侑(こういうの、キスの味………って言うんだろうか)



侑「……」モゾ

侑「スイッチどこだっけ」

侑「……」


カチ


侑「……」


侑(先輩今なにしてるかな)



侑「……連絡、ないな」



侑「……」スゥ







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーー





燈子「侑」

侑「ん…」


燈子「侑、起きて」

侑「へ……」


侑「あれ先輩? なんでここに」

燈子「なんでってひどいなぁ。侑が呼んだから来てあげたのに」

侑「呼んだ? わたしが、先輩を?」

燈子「そうだよ。 侑が呼んだの」

侑「またまた~そんなわけないじゃないですか」

燈子「本当だよ!」

燈子「私嬉しかったんだよ? やっと侑が私のこと…って」

侑「……はぁー?」

燈子「…ずっと、変わらないでほしいと思ってた」





燈子「私のこと好きにならないでって」

燈子「そんな侑だから、私は好きなんだろうって思ってた」

侑「ちがうんですか」

燈子「違わなかった。 でも今は……」

侑「……」


燈子「侑に触れたい」

侑「…それは前からじゃないですか」

燈子「うん。 侑に触れられたい」

侑「それも、前からです」

燈子「そうだね」


燈子「それから……侑に求められたい」

侑「…え」




侑「それは、どういう」

燈子「……」


燈子「君を好きでいられるのが嬉しかった。 君の、特別に思わない優しさが心地よかった」

燈子「君にはずっと変わらないでいてほしかった」

燈子「だけど…」

侑「……」


燈子「侑は、私を変えてくれたね」

侑「……そうでしたっけ」

燈子「そうだよ。 私を私にしてくれた」

侑「……」




侑「それは先輩が自分の力でなったんです。わたしじゃないです」

燈子「ううん。侑がいなかったらきっとなれなかった」

燈子「きっと私じゃない別の誰かになって、そのことに気がつかないまま一生過ごしてた」

燈子「だから、侑のおかげ」

侑「……そんなこと」

燈子「でも、このままじゃいけないことにやっと気がついたんだ」

侑「え?」

燈子「……ごめん」

侑「はい?」

燈子「ごめんね、侑」

侑「な、なんですか? なんで謝るんですか」




燈子「私は、侑をずっと縛り付けてたよね」

侑「…意味がわかりません」

燈子「変わる自分を見出すために、変わらない自分を護るために、私は侑に甘えてた」

燈子「私の好きは受け止めさせるくせに、侑には全部閉じ込めさせてた」

侑「あ、あの? 七海先輩?」

燈子「侑」

侑「はっはい」

燈子「君が好き」

侑「……はい」

燈子「でも私が好きな君は……君だけど、君じゃない」

侑「……」

侑「…はい?」




侑「なんですかその、辛そうで辛くない少し辛いラー油…みたいな」

燈子「もう! 真面目に話してるのに!」

侑「だってほんとにわかんないんだもん!」

燈子「……そっか」

燈子「ならやっぱり、ごめん」

侑「ええー、もっとわかんない」

燈子「気づかないように、あるいは気づかせないようにしちゃってたんだね」

侑「うーん…?」


燈子「私が私じゃない誰かになっていたように」

燈子「君も、君じゃない誰かになっているということ」

侑「…え?」




燈子「もう一度言うね」

燈子「私は、君が好き」

燈子「だけどその君は、私の望む君をしてくれているだけ。 そこに本当の意味での『君』はいない」

侑「わたしが…いない…」

燈子「だからこのままじゃダメなんだよ」


燈子「私は、侑のおかげで変われて、私を取り戻した」

燈子「今のままの侑は私にとって本当に優しくて、大好きだけど……やっぱり侑にもちゃんと自分を見つけてほしい」

燈子「結果として変わっても変わらなくても、自分の意思で、本当の『君』になってほしい」

侑(本当の、わたし)

燈子「侑が私にしてくれたように私にも同じことができるかはわからない」

燈子「それでもできるだけ侑の力になりたい。できることなら何でもする!」

侑「先輩…」

燈子「そして、いつかね」


燈子「やがて、君になった君が……それでも私のことを求めてくれたら、嬉しいな」

侑「……!」





燈子「な、なんちゃってー…」

侑「……」

燈子「あはは、欲張りすぎかな?」

侑(そっか……先輩は悩んでたんだ)

侑(このままがいいけど、このままじゃいけない。 そんな葛藤を人知れずに)

侑(わたしにも言えずに)


侑「……」



侑(わたしは変われるかな)


侑(変わっても……いいのかな)


侑(わたしが、わたしになって)



侑(七海先輩に……)




燈子「侑」

侑「あっはい」


燈子「侑~」

侑「え? あの、先輩?」



燈子「…………」スーー




燈子「ゆーーーうーーーーー!!!」

侑「わあああぁぁうるさっっ!?」





ーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








侑「…………」キーン



怜「あーもー侑、やっと起きた」

侑「怜ちゃん…」

侑「あれ? 先輩は…?」

怜「なに寝ぼけてんの。お菓子できたっつってんのに降りてこないから」

侑「……」

侑(あっ、ゆ、夢かー、今の……)ガーン

怜「いらないなら私があんたのぶん食べてあげるけど?」

侑「いらなくない!」ガバッ

怜「ちっ、なーんだ」

侑(夢……)


侑(だけど、わたしは……)




怜「パイだから冷やしてもおいしいけど、あったかいほうが吉だよ」スク

侑「……」

怜「んじゃ、早いとこ食べにきな~」


侑「怜ちゃん」

怜「ん?」

侑「いま身長何センチ」

怜「え、なに急に」

侑「163?」

怜「いやそんなないよ…忘れたけど160いってないくらい?」

侑(ってことは、ちょっと足りない)




怜「それが? 言っとくけど、あんたにゃまだまだ越せないよ」ニタァ

侑「……」スタスタ

怜「……なに」

侑「軽く背伸び」

怜「は?」

侑「して。 背伸び。 いま」

怜「は、はぁー? なんでそんなこと」

侑「いーから!」

怜「なんなのよ………はい」スッ

侑(このくらいか)


怜「で? こっからどーしろと」

侑「ん」チュー

怜「ぶ…っ!!?」





侑(よし、ちゃんと届く!)

怜「うえーっ! ぺっぺっ!」

怜「~~~っなななにすんのバカ侑!? バカ? バカなの!?」

侑「別に、ただのテスト」

怜「意味わかんないんですけど…!?」

侑「じゃあパイの恩返しでいいよ。 わたしちょっと出てくる!」ダッ

怜「たあこらっ仇返しだろ! ってかどこ行くのあんた!」

侑「冷蔵庫入れといてー!」

怜「聞けよ!」



怜「いや、まじで意味わからん……え?」

怜(私妹にキスされた? なんで?)

怜「……」

怜「ったく、あったかいうちっつってんのにもー…」






タタタ…


侑(先輩…)

侑(七海先輩……!)



侑「はぁっ、はぁっ…」ピッ


ピンポーン


侑(げ、Suica残額12円て)


侑「チャージチャージ」

侑「……」

侑「……」


侑(財布持ってきてないーー……)ズーン





侑(どうする、家まで取りに戻る?)

侑(でも怜ちゃんすごい怒ってたしな……そんな嫌だったのかな)

侑「……」

侑「………」



侑(いや、戻るしかない。 さすがに2駅走るのは)


「…大丈夫? お金貸そうか?」


侑「へっ」


侑「あっいえ大丈夫です!」

燈子「そう?」

侑「はい、ここから家近いので取りに…」

燈子「……」

侑「……」


燈子「ん?」

侑「って七海先輩ーーー!!?」




燈子「どうしたの侑?」

侑「ど、どうしたのって」

燈子「こんな時間から遠出?」

侑「や、遠出ってほどでも…」

燈子「危ないなぁ。ようしここはお姉さんが付き添ってあげよう」

侑「だから姉は1人で足りてますってば!」

侑「それより、先輩こそどうして」

燈子「んー? 私は、帰り道?」

侑「生徒会サボってどこほっつき歩いてたんですか。しかも制服のまま」

燈子「あはは、ごめんね。忙しかったよね」

侑「いえそれはいいんですけど」


侑(って………え?)


燈子「……じゃあ、私帰るね?」

侑「ちょっ、と、待ってください」




侑「それ、頭の」

燈子「あー、これ?」

侑「……包帯ですよね?」

燈子「これは、えーっと」


燈子「……最近流行りの怪我人系ファッション?」

侑「ごまかす気ない嘘つくのやめてください」

燈子「あちゃ、ばれた」

侑「…どうしたんですか」

燈子「全然大したことないよ。 学校でちょっと事故というか、上から蛍光灯が落ちてきて」

侑「けっ蛍光灯!? それで頭切ったんですか!?」

燈子「あはは、ほんのちょっとね」

侑「でもその包帯…」

燈子「大げさに巻いてるからひどく見えるだけだよ。実際はこのごく一部だから」

侑「うー…」




燈子「そんなに心配しないで? ね?」

侑「しますよ。頭切るなんてことそうそうないし」

燈子「だから、念のため近くの病院で検査してきたの。 結局なんともなかったよ」

侑「…ならよかったですけど」

燈子「ふふ。侑が心配してくれるなら怪我した甲斐あったかな」

侑「先輩バカなんですか?」

燈子「うそうそ」

侑「全くもう…」

燈子「ごめんごめん」ナデナデ

侑「……頭撫でないでください」

燈子「っていうわりに嫌がってなくない?」

侑「ぐっ…」

燈子「…?」

燈子「侑、何かあった?」

侑「……」





侑「………連絡」

燈子「え?」

侑「怪我で早退するならそう言ってくれればいいのに」

侑「佐伯先輩にはちゃんと教えたくせに、わたしには何も知らせてくれなかった」

燈子「それは…」

侑「そのせいで今日、先輩大丈夫かなーとか、いろいろ考えちゃいましたし」

燈子「ご、ごめんね?」

燈子「でも頭の怪我で病院で検査なんて言ったら、侑に余計心配かけると思って」

侑「……」


侑「いけませんか」

燈子「えっ」

侑「わたしが、先輩のこと心配するのは…いけませんか」





燈子「…侑?」

侑「七海先輩が」

侑「わたしに先輩の心配をさせたくないのは、わたしが学校の後輩だからですか?」

侑「先輩が生徒会長でわたしが役員だからですか?」

侑「それとも……わたしが、先輩にとっての特別だからですか?」

燈子「……」

燈子「そうだよ。侑は私にとって特別」

燈子「特別だから、大切だから」

燈子「だから心配なんてかけたくない……それっていけないこと?」

侑「……」

侑「なら、わたしの気持ちはどうなるんですか」

燈子「ゆ、侑の気持ち?」

侑「そんな風に自分を大事にしてくれてる人を、わたしは心配しちゃいけないんですか?」


侑「特別に思いたくても思わせてもらえない……そんな人のことを、考えることすら許されないんですか?」

燈子「……え?」






燈子「侑、いまなんて」

侑「……」


侑「……先輩の好きなわたしは、どんなわたしですか」

燈子「どんなって…」

侑「どんなわたしですか?」

燈子「侑は侑だよ」

侑「そのわたしは? 誰かになろうとしているわたしですか?」

燈子「……!」

侑「先輩が、周囲の理想に合わせてお姉さんの代わりになったみたいに!」

侑「先輩が好きでいてくれるのは、先輩の理想を貫いてるわたしだけなんですか!?」

燈子「侑……」

燈子(君は……)

侑「わたしは……っ…」

燈子「……」


侑「わたしは……変わりたいっ……!」





侑「わたしは……わたし、は……っ……!」

燈子「…侑っ!!」

燈子(そんな……それじゃあ侑はずっと……!)


侑「ごめんなさい、先輩……ごめん、なさいっ…」

燈子「ううん違う! 違うよ!」

燈子「侑……ごめん! ごめんねっ!」ギュ

侑「っ、せん……ぱいっ」ギュッ

燈子「ごめんね…辛かったよね……!」

侑「ひっ……う……」

侑「つらかったぁ……寂しかったぁぁ…!」

燈子(バカだ、バカ……私、自分のことしか……っ)


燈子「大丈夫だから…! もう、侑はひとりじゃないから…!」

侑「……な…なみっ、先輩……っ」

燈子「侑……っ、本当にごめん……」

侑「う、ぁ……」


侑「うあああああああああんっ!!」





ーーーーーーーーーー
ーーーー




ーーーーーーー
ーー






スタスタ


燈子「もうすぐ着いちゃうね」

侑「すいません、怪我してるのに送ってもらって」

燈子「あんなに泣いてる侑のこと放っておくなんてできない」

侑「うぐ……忘れてください」

燈子「それは難しいなぁ」

燈子「それに私も同じ。こんな腫れた顔、侑の家族には見せられないよ」

侑「じゃあせっかくなんでうち寄っていきます?」

燈子「完全に嫌がらせでしょ…」

侑「今なら怜ちゃ…姉の新作スイーツがありますけど?」

燈子「な、なにそれ! いいなーずるい! 私も食べたい!」

侑「あはは。もうすぐヒロくんとの交際記念?みたいなんで、その時に来ればたぶん食べられますよ」

燈子「あ、へー、そうなんだ」




燈子「交際記念日かぁ」

侑「律儀ですよね毎年。 何年目だっけ」

燈子「……」


燈子「今日ってさ、……なるのかな?」

侑「はい?」

燈子「その…」

燈子「…………私と侑の、こ、交際記念日…?」カァァ

侑「……」

燈子「……っ、なんか反応してよ!」

侑「先輩ってほんと……」ハァ

燈子「い、言いたいことあるならはっきり言って!」





侑「じゃあ年上のくせにもっとシャキッとできないんですか?」

燈子「ほんとに言いたいこと言った!」

侑「先が思いやられるなぁ」

燈子「ううう…」


侑「ってかいつの間にわたしたち付き合うことになったんですか」

燈子「そこから!? ……え? 違うの?」

侑「だってわたし告白されて返事したわけじゃないし」

燈子「そ、それはもうお互いわかってるってことでよくない?」

侑「生徒会長がそんなザルな手続きで通しちゃうんですか?」

燈子「えぇー、今それ持ち出すのは卑怯じゃあ…」





侑「ってことで七海先輩」

侑「わたしと付き合いたければ、それなりの誠意ってやつを見せてください」

燈子「う、上から目線~~!」

燈子(でも、背に腹は代えられない)


燈子「……」コホン


燈子「ゆ、侑? 好きだよ?」

侑「本当に?」

燈子「好き。 大好き」

侑「……はい」


燈子「だから、その……私と……」



ガラッ



怜「あーー侑!! あんたどこ行ってたの!」



侑「!?」ビク

燈子「っ!!?」ビクッ





怜「おかーさーーん! 侑帰ってきたー!」


侑「れ、怜ちゃん!?」

燈子(お義姉さん! タイミング! タイミングーー!!)ズーン



怜「ったくもー……」

怜「あれ? そこにいるのひょっとして七海ちゃん?」

燈子「あっ、こっこんばんは!」

怜「やほー。どうしたのこんな遅く」

燈子「いえ、その……」

怜「!」


怜「あ……ひょっとしてお邪魔だった? ごめんね~?」ニタ

侑(ほんとにだよ!)

燈子「あ、あはは…」





侑「まったく怜ちゃんはー…」

燈子「心配してくれてるんだよ」

侑「まあそうですけど」


侑「……先輩も、これからはちゃんと心配させてもらいますからね」

燈子「うん。 よろしく」

侑「じゃあ早速帰りお気をつけて。何かあったらすぐ連絡くださいね」

燈子「何かないと連絡しちゃダメ?」

侑「……」

侑「何もなくても…いいですよ、別に」

燈子「やった。1分おきにスタンプ送る」

侑「それは怖すぎなんでやめてください」




燈子「冗談だって。それと、侑?」

侑「はい?」

燈子「えっと、できたら……帰る前に……」モジ

侑「……」

侑「ああ、トイレなら奥入って右手の」

燈子「そうじゃない!!」

侑「じゃあなんですか…」

燈子「だから、最後にその」


燈子「お別れの……ね?」

侑「えー………」

燈子「ダメ?」

侑「どうしよっかなぁ」




燈子「お願い! 1回だけでいいからさせてっ!」

侑「うーん」

侑「……まあ、先輩この頃ガマンしてたし」

燈子「えっ、侑、気づいてたの?」

侑「気づきますよ。この頃ぱったり無かったですもん」

燈子「あんまり多いと嫌がってさせてくれなくなるかと…」

侑「懸命な判断でしたね」

燈子「……」


燈子「それじゃあ、久しぶりに」ワクワク

侑「だが断る」

燈子「えー!?」





燈子「そんなぁ侑……なんで……?」

侑「ダメなもんはダメです」

燈子「うぅ、上げて落とすなんてひどい」ガク

侑「……」

侑「……先輩にさせるのが、ですけど」

燈子「……」


燈子(え?)



燈子「侑、それどういう」

侑「ん!」

燈子「っむ…!?」



侑「……ぷは」

燈子「………っ」



侑「これ…お返事ってことでいいですよね?」

燈子「……!!!」




侑(先輩のは……あったかい味だ)








侑(なんて)

燈子「ゆ、侑……」


侑「七海先輩」

燈子「はっはい!」





侑「わたしも、先輩が大好きです」










おわり






以上です。
読んでくれたかたありがとござます。


個人的に侑怜の絡みが見たいです…。
とても…見たいです…。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom