吹雪「司令官ってアナル弱そうですよね?」 (38)
聞き間違えかと思った。
すっかり秋めいた十月中旬、ある朝の執務室で――。
私は秘書官と仕事をしていた。本部に送る資料をまとめていたのだ。
その合間、お茶でも飲もうかと提案した時のことだった。
吹雪は茶菓子を用意しながら、何気ない様子で振り返ると、
「司令官ってアナル弱そうですよね?」
私に向かってそう言ったのだ。
提督「な……」
提督「何を……」
提督「どういう、意味だ……?」
吹雪「えー? 言葉通りの意味ですよー」
吹雪「司令官ってアナル弱そうだなあって思って」
吹雪「よくそう言われません?」
言われるも何も、アナルという単語を聞くこと自体初めてだった。
まさかそれを口に出して言う者がいるとは――。
そしてそれが他ならぬ秘書官であることに、私は大いに狼狽していた。
吹雪「睦月ちゃんたちとよく話をするんですけど」
吹雪「みんな同じように言ってますよ?」
吹雪「司令官はアナルが弱そうだ。司令官はお尻が弱そうだって」
吹雪「自分ではそう思わないんですか?」
提督「思うわけがないだろう!」
提督「なんだ、その下劣な話題は!」
提督「いつからそのような言葉を口にするようになった!」
提督「仮にも執務時間中、上官に向かって下ネタを振るだと!?」
提督「艦娘ともあろう者が……恥を知れ!」
私は叫んだ。叫ばずにはいられなかった。
突如として現れた非日常、その侵食を恐れたのだろうか。
柄にもなく激昂し、激しい言葉を吹雪に叩きつけたのだが――。
吹雪「…………」
吹雪「えー、でもぉー……」
吹雪「司令官って絶対にアナルが弱い」
吹雪「私、そう思うんですよね……?」
提督「~~~~~~~~っ!」
背筋におぞ気が走った。
ひょっとすると彼女なりの冗談だったのかもしれない。
場を和ませようと、そういった話題を振っただけなのかもしれない。
しかし、あの目だ。妖艶にも感じられるあの目。
笑いながら私を見る、確信と優越感に満ちた吹雪の目。
そこに妖しげな光を感じ、私はたまらず執務室から飛び出していった。
吹雪「…………」
吹雪は最後まで微笑んでいた。
それが私には、なぜか無性に恐ろしかった。
あの一件から数日が経過した。
吹雪を秘書官から外し、直接的な話題が続くことはなかったが――。
注意深く気にしてみると、鎮守府の雰囲気がおかしいことに気がついた。
睦月「……絶対……そうだよ……」
夕立「……弱い……っぽい……」
第一に、ささやき声が気になるようになった。
以前は気にも留めなかったのだが、それがなぜか気にかかる。
こちらをうかがいながら、くすくすと楽しそうに笑いながら――。
駆逐艦たちは、一体、何を話しているのだろうか?
知るのが怖く、私はあえて気がつかないふりをしていた。
また、駆逐艦たちによる接触も気になるようになった。
島風「どーん!」
提督「うおっ!?」
雪風「隙ありです!」
提督「こ、こらっ! 待ちなさい!」
後ろからぶつかり、たまにカンチョーなどをしかけるいたずらっ子たち。
彼女らの天真爛漫さには、微笑ましいものがあると思っていたが――。
吹雪「ねえ、どうだった……?」
島風「うん、えっとねー……」
雪風「あれは絶対……」
吹雪「だよね……?」
島風「うん……」
クスクス……
提督「…………!」
島風たちが消えた方、曲がり角の向こうで――。
やはり笑いとささやき声が聞こえていた。
それは私の何かに関する話題のようで、
提督「くっ……!」
たまらず私はその場から逃げ出していた。
それからも事態が好転することはなかった。
非日常は非日常のまま、駆逐艦たちは私に好奇の視線を浴びせ続けた。
巡洋艦たちは落ち着いたものだったが、その平静さが逆に恐ろしかった。
提督(異常を異常と認識できていない……!)
精神汚染の線も十分に考えられた。
不安のまま漠然と過ぎていく日々。
しかし、私は策もなしにただ待っていただけではない。
帰ってくるのだ! 主力艦隊がもうすぐここに帰ってくる。
そうなれば形勢は逆転だ。力づくでも駆逐艦を止め、メンテナンスに回すことができる。
何があったのかは分からないが、それでこの問題は解決だ。
そう信じてひたすら待ち、私はついにその時を迎え――。
長門「帰還したぞ、提督」
提督「おお!」
提督「よく帰ってきてくれた!」
長門「なんだ、どうした」
大和「ふふっ。そんなに私たちに会いたかったのですか?」
金剛「提督からのラブを感じまーす!」
提督「うん、うん、待ち遠しかったぞ……!」
赤城「あれ?」
加賀「何か様子がおかしいですね」
赤城「何かあったのですか?」
提督「いや、実はだな」
提督「口に出すのもはばかられるが」
提督「駆逐艦たちがおかしなことを言い出して……」
~説明中~
提督「ということがあったのだよ」
赤城「はあ、それは何というか……」
長門「実に馬鹿げているな」
提督「そう思うだろう? みんなもそう思うよな!?」
加賀「ええ、まあ」
大和「そ、そうですね」
提督「良かったぁ~……!」
おかしかったのは吹雪たちの方だった。
自分は何もおかしくない。自分は何も間違ってはいない。
それを確認した私は、心の底から安堵の息を吐き出して――。
大和「だって、分かり切ったことですものね?」
提督「…………え?」
長門「提督のアナルが弱いだなどと、噴飯ものだな」
大和「そうですよねえ。弱いわけがありません」
金剛「提督のアナルはベリーストロングに決まっていマース!」
加賀「私たちの指揮官なのですから」
赤城「ちょっと考えれば分かることですよね?」
提督「え、え……?」
長門「この程度、常識だと思っていたのだがな」
加賀「上官の能力を疑うなど、艦娘としてどうかと思うわ」
赤城「でも、仕方ないんじゃありませんか?」
長門「どういうことだ?」
赤城「だってあの子たちは幼いじゃないですか」
赤城「私たちの当たり前も、彼女らにとって同じとは限りません」
長門「むう……」
長門「ならばどうする? 一から教えろと言うのか?」
赤城「いえ、それには及びませんよ」
赤城「証明すればいいのです」
赤城「提督のアナルが強いと分かれば、彼女らも落ち着きますよ」
長門「なるほど!」
大和「一目瞭然というものですね」フフッ
金剛「ナイスアイディアデース!」
加賀「では、私がみんなを集めましょう」
赤城「あっ、加賀さん! 私も手伝いますよ!」
長門「提督は執務室でゆっくりしていてくれ」
長門「準備が整い次第、声をかけるからな?」
提督「あ……あ……あ……!?」
狂っている!
原因は分からないが、艦娘たちは全員狂ってしまっている。
もうここに私の味方はいない。どこか別の場所に助けを呼ぶしかない。
そう決めた私は慌てて執務室に駆けこんだが――。
提督「通信機が壊されている……!?」
何もかもが、もう手遅れだったのだ。
ワァァァァァァァ……!
長門「さあ、待たせてしまったな!」
長門「いよいよ実証の開始だ」
長門「分かり切ったことではあるが……」
長門「提督のアナルについて、これから強弱を図ろうと思う!」
長門「これから提督の尻穴に一式徹甲弾をねじ込んで」
長門「その様子を以って強いアナルの証明としたい」
ワァァァァァァァ……!
長門「さあ、提督。準備はいいか?」
長門「すぐにも徹甲弾をねじ込んでやるぞ」
提督「待て! 長門、止めてくれ!」
提督「徹甲弾はそう使うものではないんだ!」
提督「尻穴も物を入れるようにはできていない!」
提督「今すぐこんなことは止めるんだ!」
長門「ふむ……」
長門「何を言い出すかと思えば」
長門「そのような態度が駆逐艦たちを不安にさせていたのだな?」
提督「なっ!?」
長門「合点がいった。これは益々証明の必要性が高まった」
提督「待て! 違う! 違う!! それは!」
長門「ぐずつくな、提督」
長門「あまりそのようなことを言っては」
長門「ケツの穴が小さいと言われてしまうぞ?」ハハ
提督「あっ、あっ、ああああ~~~~~!?!?!?」
めり込んでくる。一式徹甲弾がめり込んでくる。
割れんばかりの歓声の中、私は金属の冷たさだけを感じていた。
講堂の床が見える。四つん這いになった自分の手足が見える。
そして周りを取り囲む艦娘たちの脚。
それは密集する木々にも見えて、逃げ道はどこにもないように感じられた。
ヌッ……。
提督「うああっ!?」
来る! いよいよ突き入れられる!
戦艦の装甲すら貫く徹甲弾、その先端が尻穴の中に入り込んでくる!
しかし、しかし、私はただの人間なのだ――!
私の尻穴は鋼鉄製ではない。柔らかな肉であり、それはわずかな刺激でも容易く出血してしまうのだ。
ましてや相手は徹甲弾、私の尻穴は悲鳴を上げて、あえなくその身を引きちぎられ――。
ヌッ……。
ヌヌッ……。
グッ……。
グググッ……!
ブツッ……。
長門「なっ……!?」
大和「えっ……!?」
赤城「そんなっ……!?」
聞こえたのは戸惑いの声。
それも一声、二声で終わってしまい、あとには沈黙だけが残された。
艦娘たちは私の尻穴を見ている。限界まで拡張され、すぐにも出血に至った「弱いアナル」を――。
大和「提督……どういうことですか?」
大和「なんでこの程度で音を上げるのですか?」
提督「や、大和……」
大和「提督は私たちを騙していたのですか!?」
大和「こんな弱いアナルで! 強いアナルだと偽っていた!!」グイイッ!
提督「あああっ!?」
大和「許しませんよ、提督……」
大和「この裏切りを許すことはできません……」
大和「かくなる上はアナルを鍛え……」
大和「私たちに相応しいアナルにしてあげます!」グイイイイッ!
提督「ひいいいっ!!」
中途半端に潜り込んだ徹甲弾、それを揺すられ悲鳴を上げる。
しかし、そんな私を見る艦娘たちの視線は冷たい。
軽蔑、侮蔑、冷ややかな感情が彼女らの顔には浮かんでいる――。
いや、違う。それだけではない。
中には嬉しそうに、楽しそうに私を見つめる者もいた。
吹雪「ふ、ふふふ」
吹雪「うふふふふふ……!」
吹雪「あはっ、あはぁー♪」
吹雪「ほら、司令官。私の言った通りじゃないですか!」
吹雪「司令官はアナルが弱そうだって……」
吹雪「うふ、うふふ」
吹雪「私が見抜いた通りでしたね?」
吹雪「証明する必要なんてなかったんです」
吹雪「だって司令官はアナルが弱いんですから」
吹雪「ふふっ、ふふふっ」
吹雪「でも安心してください。私たちは軽蔑したりしませんよ」
吹雪「むしろ、守ってあげたい、尽くしてあげたいって気持ちが高まりました」
吹雪「だから、もしも強いアナルになれなくっても……」
吹雪「私たちは最後まで貴方を守りますよ」
吹雪「ね?」
吹雪「クソ雑魚アナル提督さん♪」
戦艦たちの怒りの声。空母たちの嘆きの声。
そして吹雪の笑い声を聞きながら、私はゆっくりと気を失っていった。
これから私はどうなるのだろう。艦娘たちに一体何があったのだろう。
それさえ分からないまま、ただ尻穴に徹甲弾を突き立てたまま――。
私はまどろみの底へと沈んでいった。
~完~
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