千歌「えっ曜ちゃん水泳部辞めちゃうの?」 (41)
※微エロ男体化亀更新
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「なあなあ」
「この前中学の友達から聞いたんだけど」
「渡辺って凄かったんだな」
曜「どうしたの急に」
「そいついま高校で水泳やってるから、話に出てきてさ」
曜「ん?ああ、前そんな話したっけ」
曜「〇×でしょ、あいつバッタめちゃくちゃ速いんだ」
「渡辺にはどうやっても勝てなかったって言ってたぞ」
曜「ん~まあフリーと平泳ぎが入るとね」
「正直半信半疑だったんだけどなあ」
曜「あはは、もっと褒めていいよ」
千歌「……」
千歌「……」
千歌「……」
こんにちは!僕の名前は渡辺曜。
海の見えるきれいなド田舎、内浦にあるこの浦ノ星学院(統合済み)に通ってる高校2年生!
自分で言うのもなんだけど、ルックスがよくて身長もそこそこあって運動もできてそれでいてマイルドにちゃら~くオシャレしてみたり……
女の子にモテるんです、わはは
そしてなにより、同じ学校に通っているとても可愛い幼馴染みの女の子、高海千歌ちゃんとイイ感じの関係になっているのだー! わははのは
というか、もう実質恋人同然!周りからはすでにそう思われているね
おっと、このお昼休みに千歌ちゃんから呼び出しを受けているんだった!
もしかして……恋の告白かな?またせちゃあマズいね、それじゃあちょっとだけ行ってきます!
・・・
千歌「あのね、私恋人ができたんだ」
曜「えっ」
千歌「話はそれだけ」
千歌「曜ちゃんには話しておこうと思ったから」
曜「え」
曜「ちょ」
曜「ちょ、まって」
千歌「それじゃあ、私もう行くね」
千歌「わざわざ呼び出して、ごめんね」
曜「……」
曜「……」
曜「……」
曜「……え?」
「それでさー」
曜「……」ぽかーん
「明日転校生来るんだって!」
曜「……」ぽかーん
このときの僕は放心状態だったという。
転校生が来る、という情報にも関心を示さず絶えずなにやらわけのわからぬ言葉を呟くさまをさながら何とかのようだとその場で評されたが、その喩えが何であったかも覚えていない。
今日の以降の授業はすべて、千歌ちゃんの背中を眺めながら過ごした。
この日千歌ちゃんは授業中一度も振り返らなかった。
僕の顔を見ようとは、決してしなかった。
いつき「曜ちゃん……だいじょうぶ?」
サボらず授業に出ているのに、寝るでもなく教科書を開くでもなくただぼうっとしていた僕を見かねたのか珍しがったのか隣の席のいつきちゃんが声をかけた。
曜「……」
しかし僕は記憶にないが、ただ小さくうなずくだけだったらしい。
そのうえこの日生徒会室を出る頃には、その死んだ目とぽかんと開いた口とは絶望の体現をしたかのように感じられたそうだ。
さて、とうとう行き場をなくしてしまった僕は夕焼けに染まる砂浜へたどり着いていた。
どのようにしてここまで来たのかをまるで覚えていない
家には帰りたくない、締め切った自室にひとりこもることだけは気が滅入ってしまいそうで避けたかったのである。
曜「かといって」
曜「……」
広い。
ただそれだけの感想を呟いたが、波音にかき消された。
ざざん。ざざん。
全てを受け入れてくれるほどの包容力が海にはある。
けれどこれほど小さく弱々しい呟きなど、きっと聞いてはくれないのだろう。
曜「ぷはーーーっ」
千歌ちゃんに禁止されていた煙草を咥え、白い煙を吐き出す。
湿気って火の着きにくくなった旧三級品の濃い煙は、やがて二手に分かれそれぞれが空へと消えていく。
薄く、透明になってオレンジ色の空になじんでも、煙は交わることがなかった。
我ながらくだらない比喩だな、と自虐しながらも僕はじっと、それを眺めていた。
ざざん、ざざん。
さざめきに想いを馳せる。
15年近くこの音を聞いて育ってきた気がする。
いまでこそ実家は沼津市街のほうにあるのだが。
幼い頃もこの音の中であの娘と遊び、この音の中であの娘と語り合った。
この音の中で手を繋ぎ、僕たちはこの音の中で抱き合ってキスをした。
恋人か。
千歌ちゃんにそんなひとができるなんて。
そりゃそうだ、あんなに可愛いのだから、放っておく野郎がどこにいる。
……そんなの、僕ぐらいだろう。
曜「……」
声をかけていれば。
君は僕に着いてきてくれたのだろうか。
僕が君の恋人になれたのだろうか。
いやでも、実質恋人みたいなものだったじゃないか。
そりゃちゃんと言葉で交際を申し込んでないのだから、言う義理はないけどさ。
僕に確認を取ったりとか、せめて気になる人がいるとかくらいは教えてくれても良かったのに。
だいたい誰だよ。その恋人というやつは。
ぼくがさんざん千歌ちゃんといちゃついていた光景を見ていたはずだ。
誰かの入る隙なんてなかっただろう! いやあったんだけど。
曜「……」
先人たちの意見によると、失恋は早いところ忘れて次へ行った方がいいらしい。
そうだ! 忘れよう! うおおおおお。
ざざん、ざざん。
曜「……」
せき止めようとしても溢れ出るきみとの思い出を、回想している途中。
ひりひりするような胸の痛みを感じたとき、僕のいまいる場所が千歌ちゃんの家の前の砂浜だと初めて気がついた。
曜「げ」
千歌ちゃんの実家の旅館。
そして隣にあったボロアパートをぶち壊して建てられた新築のおうち。
道路を挟んで僕は向かい側に立っていたのだった。
そりゃそうだろう、こんなに想い出の溢れる砂浜なんて、ここしかない。
あの娘に出くわしたらどうしよう、いまはちょっと会いたくない……気がする。
煙草はまだ吸いきっていない。
まだ半分くらいしか吸いきっていない。
さっさと吸い切るため口だけでふかし、煙を吐き出す。
曜「ふうぅ~っ」
濃い煙が口から伸びていく。
そのとき不意に、風が吹いた。
曜「わっ」
煙は飛ばされてゆき、やや離れたところに佇んでいた女性へ直撃する。
曜「げ」
「ごほっごほっ」
副流煙に大げさに咳き込む彼女は、迷惑そうにこちらをちらっと見た。
見とれてしまった。
なびく長い髪、きりっとした大きな目に長いまつ毛、長く細い鼻に小さな口。
月並みな語彙ではこの表現が精一杯だが僕のすぐそこに、柔和で大人しそうな雰囲気の、美しい女性が立っていた。
歳は大学生くらいだろうか、あまり化粧っ毛がない。
素材で魅せるほどの、本当の美人なのだろう。
曜「あの」
曜「ごめんなさい」
つい、話しかけてしまった。
この辺りでこんな人、みかけたことがない。
不信感からだろうか、興味からだろうか、それとも下心からだろうか。
「いえ」
彼女は僕に声をかけられたことで驚いたように見えた。
怪訝に横目で僕の顔を見やり、目が合うやいなや、すぐに目をそらす。
曜「あの」
曜「この辺りの方ですか」
「ええ」
下手くそなナンパのような問いかけに対する彼女の返事はそっけなく、勿論手応えはない。
「……」
くそ、なんか悔しいな。
こうも邪険に扱われることなどなかったのに。
「……」
女性は、ちらちらとこちらの顔を見ている。
その反応に根拠はないが何かいけると思ったので、さらに踏み込んでみることにした。
「……」
曜「あの」
「……」
曜「お名前は」
「煙」
曜「え」
「煙、消してほしい」
曜「あ」
曜「ご、ごめんなさい」
ぺこりと一言謝罪し、携帯灰皿にねじ込んだ隙に女性は立ち去ろうとしていた。
曜「……」
その様子を今更引き止めることもなく、僕は黙って立っていた。
曜「……」
不思議な心持ちで、僕は彼女が視界から消えるのを見ていた。
曜「……」
曜「……ふーっ」
曜「……」
懸念も吹き飛ぶほど、失意も吹き飛ぶほど。
たった数分のこの時間、僕は現実を忘れて過ごしたような気がした。
煙草は、いつの間にか2本目を吸い切ろうとしていた。
https://imgur.com/jp0iMlq.jpg
本編とは特に関係のないイラストです。
一睡もせず朝になった。
眠れなかった。
目を瞑ると、きみのことを思い出す。
真っ暗な視界に溢れる、きらきらとした記憶。
きみの笑顔で満たされた、眩しい記憶。
ずっと僕の隣にいたはずのきみは、僕の知らないところで恋をして、大切な人ができたという。
だから目を開けて、机の上に残されたきみとの思い出を眺めていた。
曜「ふう……」
だめだ、せつなくなる。
報告を受けて、まだ半日とちょっと。
心にぽっかりと開いた気分は、そうやすやすと晴れるはずがないのだから。
曜「……」
母親が起きてくる音、キッチンの音が聞こえたので僕も自室から降りていった。
その姿を見るなり、母親は目を丸くしていた。
それもそうだ、こんな時間に起きてくる僕を見るのはさぞ珍しかろう。
おはよう、とどこか嬉しそうに母は言った。
曜「んー」
今日は早めに学校へ行ってもいいかもしれない。
鼻歌を歌いながら朝食の用意をする母親を横目に、リビングのソファに転がり、携帯を理由もなく弄る。
曜「……」
新着のメッセージの通知が並ぶ。
ダイヤさんから1件。花丸ちゃんから一件。
千歌ちゃんからのメッセージはない。当然か。
曜「ふう……」
07:00なんて時刻、久々に目にしたな。
機嫌よく話しかけてくる母の話に相槌を打ちながらパンを頬張る。
4月中旬ももう終わりかけ、桜の木もいよいよ緑一色となる。
学ランを脱いでシャツだけでもいいかもしれないね。
そんなことを考えながらミルクを飲めば、もう丁度良い時刻。
着替え、髪をちょっとだけセットして家を出る。
ひさびさに母より早く家を出た今日に、前日のいつもの寝坊をたしなめられた。悲しい。
曜「……」
のんびり歩きながら、バス停へ向かう。
母の話はいつも半分も聞いていないのだが今日の朝だけは違った。
いわく、先日久々に十千万を訪れたところ、千歌ちゃんが成長して綺麗になっていて感動したらしい。
(昔から可愛かったけど、べっぴんさんになったね、千歌ちゃん。)
僕の気持ちも知らずに、何度も千歌ちゃんがどうの~という。
くそ、いまはその名前だけでも胸が苦しいというのに。
落ち着きが出てきて、ゆっくりで優しい会話に言葉遣い。
恥じらいがあって、照れたように目をあまり合わせてくれない様子さえもはおしとやかで、上品に見えたそうだ。
ふうん、なるほどな。
誰かが変えたんだろう、千歌ちゃんを。
一体、恋人とははどんな人なのだろう。
僕が教室へ着く頃、ホームルームはまだ終わっていなかった。
予想外だな。
この日にそんなに長く話すことなどあったんだ。
教師の話し声が響く中、悪びれもせず堂々と後ろのドアから入っていく。
曜「おはよーそろ……」
いつき「おはよ…」
誰かに言ったわけでもなくぽつりと呟いたくだらぬ言葉遊びを隣の席のいつきちゃんが拾ってくれた。
曜「……」
いつき「どうしたの」
曜「僕の後ろに机があるね」
いつき「ああ、転校生らしいよ」
いつき「まだ来てないけど、曜ちゃんの後ろに座るんじゃないかな」
曜「一番後ろ、気に入ってたのにな」
担任の教師と目が合う。
先生は呆れた顔で出席簿に目を移しなにかを書き直した。
曜「やった、セーフ?」
なぜかクラスの視線が僕に集まったので、僕は軽く手を振る。
千歌ちゃんはこちらを見ようともしない。
曜「……」
曜「……」
あ~あ。なんだかな。
気分が一気に落ち込んだ。
曜「……」
腕を枕に、机に突っ伏す。
せめて、話だけでもしたいな。
彼氏さんはどんな人なのか。
僕のことを、どう思っていたのか。
僕はこれからとういうふうに、きみと接すればいいのか。
曜「……」
目をつぶってそんなことを考えていたら、なんだか眠くなってきたな。
そりゃ昨日寝ていないからか。
曜「……」
曜「……」
「それじゃ桜内さん、自己紹介を」
「はじめまして、桜内梨子です」
「今日からこの高校に……」
曜「zzz……」
「よーちゃん」
「よーちゃんっ」
曜「!」
千歌ちゃん……?
いつき「渡辺くん、起きて」
いつき「もう放課後だよ」
曜「……」
曜「……じゃなかった」
いつき「今日ずーっと寝てたね」
曜「ほんとだ」
時刻はすでに16時近くになろうとしていた。
7限ぶんとお昼休みをすっとばして7時間弱眠っていたことになる。
夕日の差し込んだ教室には、もう僕たちしか残っていなかった。
いつき「○○くんたち起こそうとしてたのに、全然起きなかったんだよ」
そんなに寝ていたのか、夢すら見ないくらい爆睡していたようだ。
精神も疲弊していたのかもしれない。
いつき「よだれ、すごいよ」
そういっていつきちゃんはハンカチを取り出して、僕の口周りと机に垂れた涎を拭いてくれた。
曜「きたないよ」
いつき「ううん、平気」
曜「そう、ありがとう」
いつきちゃんに今日の学校の話を聞いた。
授業のこと、さくらうちなんとかという転校生のこと。
ぼうっとしていて、あんまり聞いてなかったけど。
いつき「じゃあ、また明日ね」
そう言っていつきちゃんは教室から出て行った。
残っているのは、教室に僕ひとり。
曜「……」
寝起きでまだ動くのが面倒だ。
ぼーっとしながら教室をきょろきょろ見回した。
曜「……」
いきなり増えた僕の後ろの席。
結局どんな人が転校してきたのか見てないな。
確か、自己紹介してたあたりまではギリギリ起きていた気がするんだけど。
転校してきた先の学校の初めての一日で、前の席の人が1日中寝ていたらどう感じるんだろうな。
曜「……」
そんなことを考えていたら突然。
「あの……」
「渡辺……曜くん……?」
いつの間にか教室に入ってきていた女子に声を掛けられた。
曜「あ」
曜「きみは……」
お前は誰だ、と言いたいところだが知っていた。
曜「昨日の砂浜の」
名前を知らないけど。
昨日の海岸で見かけた綺麗な娘が浦ノ星の制服を着て僕の目の前に立っていた。
梨子「そうそう、最近東京から引っ越してきて」
曜「東京から」
曜「高校生だったんだ、大学生くらいに見えた」
梨子「私も、中学生かなって思ってた」
曜「ええ~?」
曜「僕が?」
梨子「うん」
梨子「なんか学ランで前空けて煙草吸ってて…」
梨子「パーマかけてピアスして、不良中学生かなって」
曜「はあ」
梨子「あ、いや……その、何でもないです」
なんだなんだ。
ほぼ初対面のくせにこの女は。
おどおどしながら話しかけてきたと思ったら今度はずけずけと言ってきて。
それでもちょっと睨んだらびくってなって。
梨子「それで……」
彼女は僕の後ろの席に座った。
はあなるほど、この娘が今朝の転校生とやらか。
名前はなんだったかな。
曜「ええと……」
梨子「梨子。桜内梨子って言います」
さくらうち。
曜「桜内さん。 それで、僕になにか用事が?」
梨子「えっと……」
梨子「曜くんって……」
梨子「千歌ちゃんの元カレ……ですよね?」
曜「……」
なんだ?
なんだ?こいつ。
どうしていきなり千歌ちゃんが。
なんで、そんなことを。
初対面なのに。この女。
曜「……」
梨子「いや……えっと、その」
曜「まあ……そんなところなのかな……」
動揺もそうだが、なにより困惑している。
この学校に知り合いでもいて、それで知っているのか?
梨子「ふう~ん、そっか、あなただったんだ」
曜「……」
梨子「へえ~そっかぁ……」
梨子「千歌ちゃんが言ってたように」
曜「あの」
梨子「背も高くて……千歌ちゃんも勿体ないなあ」
曜「なんで、そのことを」
梨子「あ、ごめんなさい……言い忘れてました」
梨子「私、千歌ちゃんとお付き合いしてるんです」
あまりにもさらりと言ってのけた桜内梨子の言葉が僕の耳を左から右へ。
曜「へ?」
話の展開に処理が追いつかない僕は素っ頓狂な声で聞き返す。
まさか、冗談だろ?
いままで全く知らなかったが、千歌ちゃんはそっちの気があったのか?
たしか、そういう嗜好の人ってクラスに一人はいるらしいし……
梨子「まあでも……恋人になったのはついこの間だけど……」
曜「……」
今度はだいぶ動揺している。
いや、おかしいぞ。だって。
こいつは東京から越してきたんだぞ、いつ知り合うんだ。
そんなことないか、いまどきはネットで知り合える……のか?
曜「それで、僕に何の用?」
梨子「……うふっ、曜くんが何の”よう”って……」
曜「……」
梨子「あっ……ご、ごめんなさい」
曜「……」
曜(なんだ?こいつ)
梨子「えっとね……あの、すごく唐突なんだけど……」
梨子「ちょっと提案があるの」
曜「提案」
提案。
今度はなんだ。
こいつと千歌ちゃんとの何かに協力すればいいのか?
千歌ちゃんの好きなものことでも教えればいいのか?
それとも、千歌ちゃんにこれ以上近寄るなとでも言うのか?
ええい、もうなんでも来い。
なにを言われてももう驚かない。
梨子「ねえ曜くん」
梨子「わたしと」
梨子「えっち、してみない?」
曜「……え?」
桜内梨子という転校生。
もとい千歌ちゃんの恋人と主張する少女は、ほんの少しの恥じらいを絡めた挑戦的な眼差しでそう言った。
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