巌窟王「これは、嘘で世界を変える物語だ」 アンジー「あなたの名前は――」 (631)

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最原「復讐鬼の学級日誌」 巌窟王「俺たちのコロシアイ修了式」
最原「復讐鬼の学級日誌」 巌窟王「俺たちのコロシアイ修了式」 - SSまとめ速報
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に続く五作目!
このスレで! 終わるといいな!

ズズウウウンッ!


バリンッ


春川「……なにこの揺れ……それと衝撃波?」

春川「果ての壁を壊してる……んだよね?」

百田「……様子を見に行った方がよくねーか?」

春川「お勧めはしないよ。アイツは『事が終わるまで誰も動かないことを前提に行動する』って言ってた」

春川「……音が止むまでじっとしてよう」

百田「巌窟王……!」

白銀「……?」

白銀(なに? こんな予定、聞いてない)

白銀(この学園に何が起こってるの?)

天海「ぐー」スヤァ

百田「呑気だ……」

天海「お前もアマデウスしてやるっす……」ムニャムニャ

春川「どんな寝言?」

校舎の外

巌窟王「ふうっ……ふうっ……頑丈だな。そうでなければ遣り甲斐もないが」

キーボ「……」

巌窟王(ほぼ万全に近いバックアップを受けながらも……キーボの攻撃力は無視できない)

巌窟王(だが何度か激突してみてわかった。アイツは生徒を巻き添えにするような攻撃は極力行わない)

巌窟王(このまま行けば引き分け程度には持ち込めるが……!)

アンジー「どうするー? 別にこのまま続けてもいい気がするけどー」

巌窟王「……」

巌窟王「アンジー。念話だ」

アンジー「?」

アンジー「……!」

アンジー「了解! ここで区切りにしよう!」

アンジー「ちょっとこれ以上は……ビジュアル的にも続けられないからねー!」ブワッ

巌窟王「一瞬だ。それでカタが付く!」ボオオウッ








赤松「……巌窟王さんの炎が大きく……!」

東条「なにかを仕掛ける気ね」

入間「ち、ちくしょう! 相変わらず早すぎてほぼ見えねーぞ……! 残像が線に見えるだけだ!」

星「……あいつ、まさか……!」

獄原「あッ! あれは、まずい!」

赤松「え?」

獄原「みんな、伏せ――!」



ドカァァァァァァァンッ!

病室の中

百田「……ん。光ったと思ったら……」

春川「音が止んだ……ね」

春川「……ここで誰かがやってくるまで待ってよう。全部終わったら来るようにって言ってある」

春川「万が一、一時間たっても誰も来ないようなら……」

百田「ああ。外に出てみようぜ。あれはちょっと尋常じゃねぇ」

白銀「……私も外に出るよ」

百田「お? 白銀もか?」

白銀「ダメ?」

百田「いいぜ!」グッ

春川「アンタはまたそんな軽々しく……」ハァ

百田「断る理由もなかったしなぁ」

百田「……終わった……んだよな?」

春川「多分。でもなんかイヤな予感が消えないし」

春川「……釈然としない。静かすぎる」

百田「くそ。誰か来いよ……!」ソワソワ

白銀「……」






白銀(祈りは虚しく、どこにも届かなかった。一時間待っても誰も病室には訪れず)

白銀(……私たちは、病院の外に出た)

白銀(出てしまった)

春川「……」

百田「……」

白銀「……」





周囲「」ゴッチャァァァァァ

残り火「」メラッ メラッ

壊れた校舎「」ボロッ





百田「世紀末か!?」ガビーンッ

春川「帰る。帰って寝る」スタスタ

百田「ハルマキィ! 気持ちはわかるが引き返すな!」

白銀「……」ヘタッ

白銀「あ。なんか、腰が抜けたみたい……なにこれ」ガタガタ

白銀「何があったの!?」

続きは明日から!

百田「……穴はどうした!? 外に繋がる穴は!?」キョロキョロ

春川「見た感じそんなものはないけど……」

百田「うおおお! 寄宿舎もなんか……微妙にこう~……ばっちくなってんぞ!」




寄宿舎「」ズーン




春川「そうか。なんか変だと思った。全体的に、私たちが行ったことのある場所がほぼ焼けてるんだ」

春川「それなのに何故か『病院』と『寄宿舎』だけ損傷が少ない」

春川「特に病院」

百田「お? おお……そういえば」

春川「巌窟王は『私たちの位置が動かないことを前提に破壊を行う』って話だった」

春川「この状況、その宣告通りだよ。だって私たちのいた病院は無事だったんだからさ」

百田「やっぱりこの破壊は巌窟王がやったことだったのか……一体なんでこんなことを」

百田「えほっ! 微妙にけむっぽい! 戦地かここは!」

春川「何が起こるかわからない。天海を病院に放置するのは少し不安だけど……」

春川「白銀。起きて私たちに同行できるのなら、もう少しつきあってもらうよ」

白銀「ん。うん」

春川「……みんなを探そう。巌窟王の意思が働いてるのなら、みんなも私たちみたく無事だよ」

百田「そうだな! おーいみんなー! いるなら出てこいよー!」

東条「了解したわ」ズボボボンヌッ

百田「アッ……!? ……ッ!? ……!?!?」ガビビーンッ

東条「どうかしたの?」

春川「アンタが急に地面から出て来るから声にならないくらいビックリしてるんだよ!」ガーンッ

春川「なんで地面から……!?」

白銀「そういえば地面から竹の筒みたいなものが見えてたけど……どこかから吹っ飛んできた瓦礫の一部かと」

春川「竹筒で呼吸を賄いながら地面に埋まってたの……!?」

百田「すげぇ! 忍者かよ!」

東条「様子を見るために、ひとまず退避した方がいいと考えたのよ。巌窟王さんの攻撃が止んでからすぐに瓦礫を集めて潜ったわ」

東条「他のみんなは無事よ。散り散りになったからその後はわからないけど」

春川「……え。わからないんじゃ無事かどうかも判別できないんじゃない?」

東条「いいえ。巌窟王さんと『彼』の攻撃行為の一切が終わってから散り散りになったから、どこかで転んで頭をぶつけたりしてない限りは無事よ」

百田(入間とか心配だな……)

春川(入間とかそうなってそうだな)

白銀(入間さん死んでるかも……)

百田「というか、彼? 誰だ?」

東条「後のことは彼女が出てきてから話をするわ」

東条「ここにもう一人、希望したから同じように瓦礫と土を被せて隠した人がいるの」

百田「お? 本当だ。竹筒がもう一つ……」




竹筒「……カヒュッ……カヒュッ……」ゼーゼー




春川「……ちょっと東条。竹筒を見せてくれない? アンタの持ってるヤツ」

東条「これのことかしら?」

竹筒「」ニョキィィィィンッ

百田「なんか長くねぇ?」

春川「そんな長かったら余程の肺活量がないと呼吸できなくなるんだけど……」

東条「大丈夫よ。その場合は瓦礫をどかして脱出すればいいのだもの」

春川「それができる筋力の持ち主なの?」

東条「……」

東条「……」ツイーッ

百田「目を逸らすんじゃねぇーーーッ!」ガビーンッ

春川「すぐ掘り返そう」ザッザッ

数分後

入間「空気isデリシャス!」スハーーーーッ!

東条「土埃塗れだから後で着替えと、最悪でも濡れタオルで体を拭く必要があるわね」

入間「東条コラァ! その前に俺様になんか言うべきことあんだろクラァ!」プンスカ

東条「……」

東条「いい気味」フッ

入間「」

東条「……というのは冗談よ。ごめんなさい、ちょっとやり過ぎたわね」

入間「その冗談も俺様の心を深く抉ったぞ。今日の夜は夢見が最悪だなオイ」シクシク

百田「で。事情を説明してくれるよな?」

東条「キーボくんが学園を破壊しようとした巌窟王さんを武力行使で食い止めたのよ」

春川「!」

白銀「えっ」

入間「キーボは見たこともない武装を使って巌窟王と互角に戦ってた」

入間「相当な威力だったぜ、ありゃ。スピードも段違い。巌窟王と完璧に互角だった」

入間「……で。その内、巌窟王はキーボを制圧して学園を破壊することを諦めたんだろうな」

東条「生徒たちに被害が及ばない範囲で、巌窟王さんはほぼ無差別に地上を破壊」

東条「舞い上がった煙幕に隠れてどこかに行ってしまったわ」

百田「テメェらを置いてか?」

入間「そもそもキーボは俺様たちに『何か』をやらせようとしてた。ちょうどモノクマみてーにな」

入間「あの素早さなら巌窟王をすり抜けて俺様たちを攻撃する程度なら余裕でできたのに、それをしなかったってことは……」

東条「キーボくんは私たちを傷つけることはない。少なくとも現状では。直接相対していた巌窟王さんならすぐ気づいたでしょうね」

東条「だから心置きなく戦いを中断して逃げることができた」

入間「キーボは巌窟王を深追いすることはなかった。まあしばらく煙に乗じて不意打ちされる可能性にビビって動けなくなってたけどな」

入間「……と、そんなときアンジーが言ったんだ。『仕切りなおす』って」

東条「私たちはアンジーさんを通じて巌窟王さんの逃走を知った。そして、念のため私たちも隠れて様子を伺うことにしたのよ」

入間「幸い、煙はまだ上がってたころだったしな。逃げ出すのは簡単だったぜ」

入間「俺様は東条と同行……いや東条が俺様に同行して、で現在に至るってわけだ」

春川「なんで入間と一緒に?」

東条「放っておいたらコケて死にそうね、と思ったらつい……」

百田「ナイス判断だ」グッ

入間「テメェら色々と容赦なさすぎだろ。俺様が何した?」

春川「自分の胸に手を当てて考えてみなよ」

入間「んんっ……はあっ……んああっ!」ビクンビクンッ

春川「誰が乳首を弄れって言った?」ゲシイッ

入間「ぎゃふんっ」

東条「瓦礫の隙間から様子は見ていたわ。キーボくんはどこかに飛んで消えたようね」

東条「少なくとも私たちに知覚できるどこかにはもういない」

百田「……おし。他の連中も探して、キーボの目撃証言を追ってみようぜ。別の視点ならわかることもあるかもしんねー!」

入間「おお!」

入間「……ん。別の視点って言えば……なあ東条」

東条「?」

入間「散り散りに逃げるとき、なんか人数が一人多かった気がしなかったか?」

東条「……?」

入間「……気のせいか。忘れろ」

図書室の隠し部屋周辺

ズルッ ズルッ……




?????「まったく。なんという運の悪さだ。飛んできた瓦礫に頭をぶつけて気絶するとは」

?????「我がいなければ散開する生徒に置いてきぼりにされて、あの場に一人取り残されておったぞ」

?????「まあ命の危機に瀕して、召喚を暴発させたのはよいことか……お陰で外に出れたからな」テキパキ

赤松「」チーン

?????「よし。治療は完了。しかし時間が空いてしまったな……」

?????「こやつの顔に落書きでもして遊ぶか」キュポンッ

?????「基本は丸~。丸描いて丸~」ルンルン

赤松「ぽ、ぽよ……」ウーンウーン

?????「ふはははははは! 傑作だ! 見ろ! ふっくらおだやかな顔のカー……」

?????「虚しい。マザーモノクマに帰って寝よう」スタスタ







五分後



赤松「うーん……」

王馬「……か、顔に落書きされた状態の赤松ちゃんがいる……惨い……」

王馬「俺も落書き追加しようっと。六月六日にUFOがー」ルンルン

校舎の外


百田「……意外に見つからないもんだな」

東条「仕方ないわ。キーボくんは空中を移動するためのエンジンが光ってて、粉塵の中でも位置を見失わなかったけれど」

入間「ああ。地上にいた生徒同士はあの騒動の上、その粉塵のせいですぐ隣にいるヤツくらいしか見えなかったしよ」

入間「もしかしたら一人くらい取り残されたヤツいるかなー、と思って元の位置まで戻ってみたけど……」

入間「まあそんなマヌケいるわきゃねーか」

白銀「……おっと」フラッ

ガシッ

春川「視界が悪いんだから、アンタは足元に本当に気を付けてね。無理やり引っ張り回してる私が言えた台詞じゃないけど」

白銀「あ、ご、ごめん」

入間「……なあ東条」

東条「あなたが何を言うつもりか知らないけど……今は黙ってた方がいいわ」

入間「……確かに百田たちの前で事をかまえるのは、ちょっとなぁ?」

春川「何か言った?」

入間「んでもねーよ。チッ」

百田「あー?」

白銀「……」

俺は待っていた……このときを待っていたぜ……!

召喚する! 必ず! 俺はっ……俺は!

二百連して……術ギルが宝具5になり……オルトリンデとパールヴァティーが来て……


星5がすり抜けすら来ない。我がカルデアと財布は焦土と化した

今日の更新はやめだぁ! やめやめ!

宝具2になったヘラクレスを抱き枕にして寝るもん!

勝ったぞ綺礼。


勝ったぞ……!

ズズウン



百田「……お? どこかで何かが落ちる音がしたような……?」

春川「百田! あそこ!」

百田「ん?」

獄原「……守れなかった……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

入間「ゴン太? ゴン太……だよなぁ? あのデカ物」

東条「なにか妙な雰囲気を纏っているけど獄原くんで間違いないわ」

百田「んにしても何してんだ、あんなところで……?」

百田「お」

春川「ああ……自分の研究教室から出てきたんだね」

百田「か、壁が壊れてやがる……風通しよさそうだなー」

春川「……巌窟王の攻撃が直撃したんだ。あれじゃ中の虫は……」

百田「全滅か?」

春川「ならまだマシだけど、下手すると」

入間「言わなくていい! つーか言うな! もしも全滅してなかったらどうすんだよ! それ逃げたってことだろ?」

入間「全滅だ全滅! それしかありえねーって!」


ブオンッ

百田&東条&春川「あ」

入間「あ?」

入間「……もしかして背後にいる?」ダラダラダラ

獄原「……今、なんて言ったの?」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

入間「」




このあと滅茶苦茶なごまされた

入間「むししゃんだいしゅきー」チュパチュパ

春川「入間が壊れた……」

東条「なんとか直しておくわね」

百田「ゴン太! 他のみんながどこにいるかわかんねーか?」

獄原「ええとね、校舎の中に他に何人かいるよ」

春川「……この半壊した校舎に? 危ないよね?」

百田「まあ、あの近場で頑丈そうな建物っつったらここしかねーだろうけどよ」

獄原「いや。どうせキーボくんはゴン太たちに攻撃してこないし、頑丈な屋根の下に隠れる意味はほぼないんだ」

獄原「どころか、巌窟王さんとキーボくんの攻防のせいで半壊した校舎の中で怪我する可能性の方が高い」

百田「あ? じゃあなんで……」

獄原「星くんが気付いたんだけど、あの煙幕の中で学園の中に逃げ込んでいく影を見たんだって」

獄原「その人が怪我する前に合流して、はやく外に連れ出してあげないとって話になったんだ」

獄原「ゴン太たちは『テンパって錯乱した入間さんが逃げ込んだんじゃないか』って思ったんだけど……」

獄原「入間さんここにいるね?」

春川「ずっと東条と一緒だったらしいよ」

獄原「あれ。じゃあ中に入ったのは誰だったんだろう」

獄原「ゴン太と一緒に校舎の中を探索しているのは夢野さん、星くん、真宮寺くん、王馬くんだよ」

百田「お。結構な人数の所在が判明したな。あとわかってねーのは……」

春川「赤松、夜長、茶柱、最原、かな?」

獄原「場所を移動してなければ、最原くんと茶柱さんは寄宿舎にいるはずだけど……」

東条「夜長さんは……おそらく巌窟王さんと一緒でしょうね。念話で合流しているはずよ」

百田「実質どこいるかわかんねーな。でも巌窟王がアンジーを危険な場所に誘導するはずはねーか」

春川「消去法で行くなら、この中で真っ先に校舎の中に入って行った影の正体は……赤松?」

白銀「赤松さん、結構肝がすわってる部分があるし、錯乱してしまって……っていうのは考えづらいな」

獄原「……」ジーッ

春川「……なに? 白銀と同行してることに文句でもあるの?」

獄原「あ、い、いや。ないよ。ごめん」

春川「そういえばだけどさ。茶柱と最原はなんで寄宿舎にいるの? 探し物?」

獄原「寝てるんじゃないかな?」

春川「……考えてみれば当然か」

東条「寄宿舎の方も注意してみたのだけど、誰かが出てきた気配はなかったわ」

春川「じゃあ二人揃って騒動に気付かずまだグッスリ眠ってると……結構な音だったけどな」

白銀「どうする? 起こしに行こうか?」

百田「あの爆音に気付かずに寝ているようならノック程度じゃビクともしねーだろ」

百田「終一がいりゃあ知恵貸してくれると思ったんだけどな。探偵なら人探し程度余裕だろうしよ」

春川「寝かせておこう。ちょっと頑張りすぎたしね、最原」

春川「……」

春川「私たちも頑張ってたんだけど」イラッ

百田「自分で自分の発言にイラつくなよ……知ってるって」

百田「で、どうする? 俺たちも中に入るか?」

獄原「探索は一定時間で切り上げて、終わったら全員元の場所に戻る手筈になってるんだ」

獄原「……あれ。そういえば、なんでゴン太がこんな話してるんだろ」

百田「あん?」

獄原「王馬くんと会わなかった? 夢野さんに『百田と春川に状況を説明して連れて来るんじゃ』とか言われて『わかった』って凄いいい笑顔で答えてたけど」

春川「凄いいい笑顔で答えてたのなら嘘でしょ」

百田「や、野郎!」

東条「……面倒臭かったからほっぽり出したのね」

入間「アイツのことだ。半壊した学園の中をさっさと探索したくてたまらなかったんじゃねーの?」

春川(あ。立ち直った)

入間「時間切れなら、ひとまずランデブーだな」

東条「そうね。そうしましょう」

東条「……」チラッ

入間「まだダメか?」

東条「……念には念を」

入間「ケケケ……」

百田「?」

春川「……」

春川(ちょっとマズい雰囲気だな。コレ)






待ち合わせ場所

夢野「えー。というわけで、なんじゃが……合流できたんじゃが……じゃが!」

王馬「赤松ちゃんをおぶってくるのめっちゃ大変だったよー」ヒィヒィ

赤松「」チーン

春川(頭には包帯。顔には落書き。意識を失った赤松が王馬におぶられていた)

百田「赤松ーーーッ!?」

春川「なにがあったの?」

王馬「俺が見たときには既にこの状態だったよ。顔には落書き、頭には包帯。どうも何かにしこたま頭をぶつけたらしいね」

真宮寺「包帯にもインクがついてるから、治療した後に落書きがされたみたいだネ」

春川「……東条。顔面をなんとかしてやって。無様すぎる」

東条「了解よ」

夢野「んでまあ、結局校舎の中を調べてみても赤松しか見つからなかったんじゃが」

夢野「結局、煙幕の中で星が見た人影ってコイツじゃったんかのう」

星「さてな。俺が見たのは『たなびく長い髪のようなもの』だ。赤松もそこそこ髪が長いから該当はするが……」

百田「それがなんで校舎の中で頭を打って気絶することになるんだ?」

王馬「さあ? 俺が見たときは図書室の隠し部屋周辺に転がってたんだけど……」

王馬「頭をぶつけて気絶した赤松ちゃんを治療するのなら、赤松ちゃん以外の何物かがあの場所にいないと不自然だよねぇ」

春川「いなかったの?」

王馬「見当たらなかったね。元から本腰入れて捜索したわけじゃなかったけどさ」

百田「本格的にわけわかんねーぞ。校舎の中で赤松に一体何があったってんだよ……」

春川「起きた後で本人に聞こう」

東条「そうね」

東条「……」チラッ

春川「……で。なんのつもり?」

入間「!」ギクリ

星「……なんのことだ?」







春川「私たちのこと、それとなく取り囲んでるよね」

百田「ん?」

春川「正確には『白銀のことを』かな?」

百田「……ん!?」ガビーンッ

白銀「……ああ。本当だ。取り囲まれてるね?」

百田「なんのつもりだ、テメェら。なんかすげーイヤな感覚だぜ。誕生日のサプライズか?」

夢野「……みんな?」キョロキョロ

真宮寺「いやあ。理由なんか今更訊くまでもないんじゃないかなァ?」

星「白銀は首謀者だ。そして、モノクマは今となってはもういない」

星「……学園に起こったこの異変。キーボの豹変。その他もろもろについて完璧に説明できる人材は今となっては貴重だ」

春川「コイツが今更逃げるとでも?」

東条「意思は今更関係ないわ。どちらにしても尋問はさせてもらう」

夢野「な、なるほどのう。みんなの意見はよくわかったが……」

夢野「『拷問』じゃ……ないんじゃよな?」ビクビク

王馬「にしし。夢野ちゃんもわかってるくせにー。みんなの恨みの感情は尋常じゃないよ?」

王馬「拷問をするなんて表立って言うわけがないけど、拷問じみた何かをすることは確定じゃないかな?」

百田「んなっ……!?」

春川「私が立ち会うよ。そんなことは絶対にさせない」



ガシッ


春川「!」

獄原「ごめん」グイッ

ドズンッ!

百田「ハルマキ!?」

春川(ま、ず……! 完全に極められた! この私が……!?)ジタバタ

真宮寺「ククク。流石にこの体格差はひっくり返せないよ。地面に押さえつけられれば、いくらキミでもネ」

春川「獄原……アンタまで!?」

獄原「……」

春川「待ってよ。いくらなんでも立ち会いすら許さないんじゃ道理が通らない!」

春川「隣に味方が誰もいないんじゃ『拷問でもしない限り証言が聞き出せない』っていう最悪の本末転倒な状況ができるだけだよ!」

王馬「うん。そうだね。そうだねぇ……」

王馬「……隠すつもりすらないんだね。もう『拷問以外の手段を取る気がない』って言っちゃってるようなもんだ」ニヤニヤ

百田「おい。冗談じゃねぇんだぞ。こんなときに!」

入間「俺様たちだってそんなゴア丸出しな拷問する気なんざさらさらねーよ」

入間「そういうの巌窟王が実際にやったのだけで充分だ。ぶっちゃけトラウマだぜ? 血を見るだけで吐きそうだ」

王馬「ん?」

入間「新世界プログラムの中で色々あったんだよ。とにかくやり過ぎたりはしねーって」

真宮寺(血が出ない拷問もかなりの数あったりして)

百田「くそ……ハルマキを離せよゴン太! いくらテメェでも許さねぇぞ!」

獄原「……許さないと、どうなるの?」

百田「耳元で凄い騒いでやる!」

夢野「地味ィ!」ガビーンッ

東条「……仮に獄原くんをどうにかしようとした場合は、私が相手になるわよ。私でダメなら他の人が」

百田「ぬ、ぐ……!」

星「諦めろ。詰んでいるのはお前らの方だ」

百田「くそ……こんなの……こんなやり方認められるかよ! 俺はっ!」ダッ

春川「百田! やめて!」

百田「うおらあああああああああああ!」

東条「バカね……!」





バキィッ

百田「……? ……? ……?」ズキズキ

百田「ん? 今、俺のこと誰が殴った?」

東条「え? 私じゃないわ」

百田「??????」

ジャガーマン「天知る地知る赤ペンシル……迷える生徒を導くため、地獄からやってきた正義の使者……なのかもしれない」

夢野「は?」

ジャガーマン「あ。ちゃんと持っててね」

夢野「お?」



ポタリッ



夢野「え。なんじゃこれ。棒の先に肉球がくっついた……鈍器? 血がついておるな?」ポタリッ

百田「……」

全員「……」

百田「ま、まさか夢野に殴られるとは思わなかったぜ」

夢野「んあ!?」ガビーンッ!

夢野「いや違う違う違う! 今、なんか茶髪でジャガーのパジャマを着た不審人物が……いない!? どこ行きおった!?」キョロキョロ

王馬「ジャガーのぬいぐるみしかないけど? いつの間に持ってきたのそれ」

百田「頭を冷やせってことか……ここで事を荒立てても状況が悪化するだけ……そう言いたいんだな?」

夢野「いや別に」

百田「でもよ。この場でただ黙ってたら白銀が……!」

ジャガーマン「ジャガーパンチは指導力!」バキイイイイッ

百田「ぎゃあああああああああああああああああああ!?」ドサァァァァッ

百田「……!? ……!?!?」キョロキョロ

ジャガーマン「はいあげる」スッ

夢野「え。なんじゃこれ。メリケンサック?」ポタッポタッ

夢野「……血がついとる」

百田「効いたぜ……! 目の前がチカチカすらぁ。まさか夢野がこんないい拳を持ってたなんてよ」ペッ

夢野「ウチ!? いや違くて! だからさっきから茶髪でジャガーのパジャマを着た変なヤツがいるんじゃって!」アタフタ

王馬「ジャガーのぬいぐるみしかないけど」

ジャガぐるみ「」フジムラァァァァァ

春川「夢野。ありがとう。百田の無茶を通してたら余計に話がこじれるところだったよ」

夢野「ウチ関係ないんじゃがーーー!?」ガビビーンッ

百田「くそ……でも実力行使以外でどうしろってんだ!」

ジャガーマン「白銀ちゃんの意思を確認するのが先じゃないッスか旦那?」ボソッ

百田「そうか! なんか今日は冴えてるな夢野!」

夢野「不審者ァァァァァァ! 不審者がおるぞぉぉぉぉぉぉ!」

王馬「なんかそのジャガーのぬいぐるみ、目が光ってない? 凝った仕掛けだね」

ジャガぐるみ「」ナンデサァァァァァァ

春川「要は最終的に白銀が全部喋ればいいんでしょ……夢野の言う通り!」

百田「ああ。全部駄々流しなら拷問どころか尋問もする必要がねぇよなぁ! 夢野の言う通り!」

ジャガーマン「秘密子ちゃんの言う通りにしときゃ大体ぜんぶなんとかなるにゃー!」

王馬「そうだにゃーん!」

夢野「そいつじゃーーー! 今王馬の横にいるヤツ……ていうか少なくとも王馬は気付いておるじゃろ!」

王馬「さっきから夢野ちゃんは何を言ってるの? 変なの」

ジャガーマン「不審者なんてどこにもいないぞぅ?」キョロキョロ

ジャガーマン&王馬「ねー?」キャピキャピ

夢野「呪うぞッ!」ウガァ

百田「ともかくだ! 白銀! どうだ? 全部喋るだろ? 俺たちに協力してくれるよな……?」

白銀「……それは……」

春川「……なんで渋ってんの? 状況わかってる? いや、ごめん。助けたいのは山々なんだけどさ……!」

春川「これじゃ私も脅しに加担してるも同然だな」

星「ともかく夢野の言う通り、最初から全部話してくれるのならそれに越したことはねぇ」

夢野「もうあの不審者の言は全部ウチの意見ってことで押し通すんじゃな? そうなんじゃな?」

入間「で? どうなんだ? 地味メガネ」

白銀「……」








白銀「話せない」

百田「はい?」

白銀「何も知らない。だから話せることが何もない」

百田「……マジで?」

東条「どうやら最後の譲歩すら蹴られたみたいね」

百田「おいおい待て待て待て待て! 白銀! なんでもいいんだ! 心当たりがあればなんでも言ってくれって!」

白銀「心当たりって言われても、もう何が何やら……」

真宮寺「……時間がない。こんな茶番に付き合ってる暇もないネ。始めようか」

百田「ま、待てって……テメェらさっきから変だぞ! なんでこんな強硬手段を取る必要がある!?」

真宮寺「だから時間がないんだってば」

春川「時間?」

入間「キーボの野郎は間違いなく言ってたんだ」




キーボ『ボクはあなたたちに『最後の学級裁判』の開催を要求します』

キーボ『そこで決断を。これが成されない場合……カウントダウンに則り、あなたたち全員を破壊します』




入間「つまるところカウントダウンはオブジェクトが崩れた今となっても生きてる」

入間「時間切れになったらおそらく予定通りに……」

春川「キーボが私たちを破壊するってことね」

百田「んなっ……!」

百田「……いや待て! 今のは初耳だぞ! 最後の学級裁判ってなんのことだ?」

真宮寺「知らないネ。ま、人数はいるんだ。白銀さんへの尋問と同時進行でそっちも調べてみるヨ」

百田「ばっか野郎……! そんなことしてないで、白銀含めた全員で調査するべきだろ!」

東条「こんなところまで来て、死ねる?」

百田「!」

東条「……私たちはたくさん間違って、絶望して、這いつくばって、足掻いて足掻いて足掻いて……!」

東条「やっとのことここまで辿り着けたのよ。あともう少しなのよ?」

東条「ここまで来れたすべてを、誰にも、何にも引き継がずに死ねる?」

百田「それは……」

百田「俺だって死にたくはねぇよ……万が一にだって死にたくない」

百田「でも、こんなところで……こんなやり方は違うだろ!」

百田「もっと綺麗な生き残り方があるはずなんだって!」

春川「白銀が本当に何も知らなかったら、そっちに割いた労力は完全に無駄だよね?」

春川「『白銀がこの期に及んでまだ何か隠してる可能性に賭けて拷問する』か『白銀が本当のことを言っていることを信じて一緒に捜索』か」

春川「……記憶が欠けてる私たちには、確かに正しい判別はできない。できないよ! でもどっちにしても――!」

王馬「そのやり方が恐ろしくつまらない……という点に関しては賛同するよ」

夢野「王馬……!」

王馬「拷問って相手によるけど、時間がかかるよー? もうちょっと裏技的な手段を探したいところだね」

王馬「まあ探しだしたところで、俺がその手段に乗るかどうかは別だけど!」ニシシ

夢野「白銀よ……お主もなんか言ってくれ」

白銀「私? 何を?」

夢野「なんかあるじゃろ! 『拷問なんか冗談じゃない』とか! 『やめてくれ』とか!」

白銀「……」

白銀「わからないよ……もう。何を言えばいいのか……」

白銀「もう何一つとして」

夢野「白銀……!」

真宮寺「じゃ、尋問に関しては僕に任せてほしいな」

真宮寺「……ククク。情報を喋っても喋らなくても、僕にとっては適職だね。楽しい時間になりそうだなァ」ニヤァ

百田「真宮寺ィィィ……!」

東条「行きましょう。場所は……鍵が閉められるから、アンジーさんの研究教室とか……ダメね。校舎の中に入れない」

東条「仕方がないから私の部屋を貸すわ」

入間「逃げねーよな? 逃げたら余計に酷いことになるぜ」

入間「……あんまり手間はかけさせんなよ。復讐に関しちゃ巌窟王が『向こう』でやったことで充分なんだ」

白銀「……」

百田「くそ……くそ……何か。他にねーのかよぉ……! 誰か……!」




「はっはっは……はーっはっはっはっはっは……」



百田「ん?」

夢野「こ、この笑い声は……!」

アマデウス斎藤「はーーーっはっはっはっはっはっはっは!」ズドドドドドドドドッ

百田「向こうから全力疾走でこっちにやってくるあの影は天海っ……いや!」

夢野「アマデウス斎藤ーーーッ! 来てくれたんじゃなーーー!」

王馬「このタイミング! 狙っていたとしか思えない完璧なヒーローだ!」

春川「天海……いや、今だけはきちんと呼ぶよ。アマデウス斎藤ーーー!」

アマデウス斎藤「みんなーーー!」












アマデウス斎藤「よかったーーー! みんな無事でーーー! そんなところで何してんすかーーー!」ニコニコニコニコ

全員(状況全然わかってねぇーーーッ!)ガビーンッ!

白銀「寝起きだから当然だよね」

百田「……あ。おいアマデウス斎藤! 後ろ!」

真宮寺「?」

東条「?」

百田&ジャガーマン「隙ありィィィィィィ!」バキィィィィィッ

真宮寺「ぐあふあああああああああああああ!?」

東条「無念……」ドサァッ

夢野「ええっ!? 何しとるんじゃ百田(となんか知らないヤツ)!」

百田「チャンスは今しかねぇ! アマデウス斎藤ーーー!」

アマデウス斎藤「……?」キョロキョロ

百田「いや今のはハッタリだっつの! 後ろ見ても何もいねーから!」

百田「白銀連れてどっかに逃げろーーーッ!」

星「ッ!」

アマデウス斎藤「事情はよくわからないんすけど……了解! どっかしらに逃避行っすよ!」

星「ちっ! させるわけが……」

ガンッ

星「がふっ」ドサァッ

ジャガーマン「アマデウス斎藤ォ! 逃げルルォ!」

真宮寺「くっ……百田くん……!」

百田「俺が相手だーーー!」ブンッ

白銀「え。え? 待ってみんな! そんなことしなくっても……!」ガシッ

白銀「ん?」

アマデウス斎藤「逃げましょう! あの夕日に向かってー!」ピューッ

白銀「まだ全然そんな時間じゃないけどーーーっ!?」ガビーンッ

東条「……簡単には許さないわよ。念入りにおしおきするわ」ユラァッ

百田「ちっ!」

東条「安心して。キチンと今のダメージは……過不足なく完璧に夢野さんに返すから」ギンッ

夢野「……」

夢野「え!? ウチ!? なんでぇ!?」ガビーンッ

王馬「上等だよオラァ! 夢野ちゃんを怒らせて骨も残ると思うなよクラァ!」オラオラ

ジャガーマン「宇宙一バカなマジシャンだコノヤローーー!」オラオラ

夢野「なんでお主ら二人ともウチを中心にしてオラついておるんじゃ!?」ガーンッ!

入間「ひえええ……殴らないでぇ……怖いよぅ……こんな展開予想してなかったよう」ビクビク

夢野「ウチにしがみ付くなァ! ツッコミが追い付かないんじゃあ!」




ウオオオオオオオ! ボコスカボコスカ



白銀「あ、ああ……大変なことに。生徒同士で殴り合いとかどこの不良マンガ?」

アマデウス斎藤「まー、殺意はないみたいっすし、大丈夫っすよ。殴り合って分かり合う的な?」

アマデウス斎藤「……」

アマデウス斎藤「よし決めた! 校舎の中に入るっす! なんかボロになってるっすけど!」

白銀「危ないよ?」

アマデウス斎藤「そんときはそんときで。この学園で危なくない場所なんてあったっすか?」

アマデウス斎藤「教室デートっすよ、教室デート!」ワクワク

白銀「……まったく、もう……」

数十分後

赤松「ん……んんん……?」

赤松「あれ。私、いつの間に寝てたんだろ。ていうか頭が痛っ!」

赤松「包帯……? 一体なにが……うわあ! なにこれ! 学園が滅茶苦茶!」ガビーンッ!

赤松「そ、そうだ。確か私たち、キーボくんに襲撃されて……それで……みんなは!?」




全員「」チーン




赤松「きゃああああああああああああああ!?」ガビーンッ




死因一覧

王馬:ジャガーマンの攻撃に巻き込まれる

獄原:春川を救出しようとした百田に執拗に攻撃される内に気絶(したが春川の拘束は解かなかった)

真宮寺:百田を拘束しようと縄を持ちだしたら逆に絡まりストレスで気絶

星:王馬に後ろから殴られる

百田:東条の最後の力を振り絞った攻撃により倒れる

入間:夢野の八つ当たりの標的になった

東条:全員が戦闘不能になったことを確認してから過労で倒れる

春川:騒動に乗じて獄原の拘束から逃げようとしたが無理だったので飽きて寝た

夢野:入間と喧嘩してたらいい感じのパンチが鼻に入り、号泣。泣き疲れて寝た

寄宿舎

赤松「最原くーーーん! 最原くん! 助けて! 起きてー!」ドンドンドンッ!

赤松「最原くん! 今外が凄いことに……!」

ガチャリンコ

茶柱「うーん……なんですか。騒々しい」

赤松「あ! 茶柱さん! 大変なんだよ! 今、外で……」

赤松「ん? 茶柱さん? あれ?」←ドアの標識を確認する

茶柱「……?」

茶柱「あ」←寝ぼけて迂闊に出てきたことに気付いた

赤松「あー……王馬くんが言ってた送り狼ってそういう……」

茶柱「送り狼!?」ガビーンッ

茶柱「……い、いえ? 間違って最原さんの部屋の鍵を持ってただけですし。実際最原さんこの中にいないですし……?」シドロモドロ

赤松「本当に?」

茶柱「……」グニャァ~

赤松「凄い顔になってるよ。嘘吐けないね茶柱さん」

茶柱「じ、実際に赤松さんは中を見てないので、シュレディンガーの最原さん的な……」ダラダラダラ



「ううーん……ね、寝技はやめて……」



赤松「最原くんの寝言が聞こえたけど」

茶柱「殺してーーー! 転子を殺して今すぐにーーー!」ウワァァァァン

茶柱「いえ! まだです! まだ赤松さんがこのことを黙ってさえいてくれれば!」

茶柱「あの男死せっかく転子が同衾してあげてるというのにまったく目を覚ましませんでしたので!」

茶柱「あなたが黙ってさえくれれば転子は生き恥を晒すこともないので!」

赤松「別に黙っててもいいけど、髪の毛とかでバレないかな。ベッドの中に入り込んでたんでしょ?」

赤松「超高校級の探偵相手にバレずに済めばいいなとか、かなり都合がよすぎて……」

茶柱「後で再度忍び込んで掃除します! コロコロと!」

赤松(また潜り込むだろうなぁ)

赤松「おっと。そうだ! 茶柱さん! 起きないのなら最原くんはしばらく寝かせておくよ! 怪我してるし!」

赤松「一緒に外に出て!」

茶柱「?」





寄宿舎の外

茶柱「……世紀末?」

赤松「お願い! あっちにみんながいるの! 助けて!」

茶柱「え、ええと! 了解です!」

数十分後

茶柱「ええと……つまりなんですか? あなたたち全員、揃いも揃って、東条さんや真宮寺さんすらいたにも関わらず……」

赤松「仲間割れでボコボコになってたの……?」

全員「……」

春川「私はあらゆる暴力行為に加担してないよ。だから私『だけ』は悪くない」ドーンッ

百田「ああっ!? ズリィぞハルマキ! テメェだけそんな!」ガビーンッ

夢野「入間が! 入間がウチにしがみ付いてくるのが悪いんじゃあ!」

入間「テメェーーー! 俺様はとにかく怖くて怖くて仕方なかったんだぞーーー! 絶滅危惧種を見るような慈愛に満ちた対応しろコラァーーー!」

東条「決定的に止めを刺した回数は少ないけど、一番大暴れしていたのは夢野さんよ」

夢野「だからそれジャガーのパジャマ着た不審人物が……!」

王馬「ジャガーのぬいぐるみしかないってば」

獄原「ごめん……ゴン太がバカだったから……もっといい方法を考えられればよかったんだけど」

ジャガーマン「気にすんなって。キミはよくやったぜよ」ポンッ

獄原「ありがとう! ん? 今ゴン太に話しかけたの誰?」キョロキョロ

赤松「……このピンチのときに内ゲバ……らしいっちゃらしいけどさ……」

春川「赤松。私は。悪くない」

赤松「噛んで含めるように言わなくていいから……」

茶柱「で。白銀さんと天海さんが行方不明……天海さんが一緒ならそんなマズイことにはならないでしょうけど」

赤松「……ともかく騒動の種である白銀さんが、理由はどうあれ一時的にこの場から消えたわけだしさ」

赤松「一時休戦。一緒にこれからどうするか考えよう?」

全員「……」ズモモモモモモモ

茶柱「空気が悪すぎて窒息死しそうです」

赤松「あー……巌窟王さんあたりがいればなぁ。白銀さんがいないのなら音頭くらいとってくれそうだけど」

赤松「……謎を調べるついでに巌窟王さんも探さないと、か。アンジーさんも」

百田「ところでよ赤松。テメェ結局、なんで図書室になんかいたんだ?」

赤松「わからない。というかそもそも図書室になんて行った記憶がない」

百田「ああー?」

王馬「……ま、そこらへんも後で聞いておこうか。じゃ、本格的に調査開始ってことで!」

百田「遠回りしちまったが……やっとだな! おしっ!」

裏庭の地下

アンジー「ねえ……」

アンジー「ねえ……聞いてる?」

アンジー「……大分まいってるみたいだねー」

アンジー「それはアンジーだって……ううん。他のみんなも同じはずだよー」

巌窟王「……」

アンジー「濡れタオルどうぞー」フキフキ

巌窟王「ん……」

巌窟王「……あれはまずいな。単純に手が付けられない。マスターはともかく、サーヴァントである俺の条件が悪い」

巌窟王「この体は既に大部分がハリボテだからな」

アンジー「じゃあどうするの?」

巌窟王「しばらく休んでから考える。まだ時間はあるだろう」

巌窟王「アンジーは……好きにするといい。俺はここから動かないが」

アンジー「じゃあアンジーもここにいるー!」ニコニコニコ

巌窟王「……つまらないぞ。寝るだけだからな」

アンジー「それで全然構わないよー。膝枕する?」

巌窟王「……」スヤァ

アンジー「あらら。もう寝ちゃってる。じゃあ一方的にやるねー」イソイソ

アンジー「おやすみなさい」

アンジー「……ねえ。アンジーはどうしたらいいと思う?」

アンジー「神様はもういないからなー……好きにしろって言われても……わかんないよ」

校舎前

春川「やっぱり中に入らないとダメかな……ダメだろうな……」

百田「終一は起きてこねぇし。しばらくは俺たちだけでやるしかねーだろうな」

百田「起きたらビックリするだろうなー」

赤松(実は茶柱さんが起こしに行ってたりして)

百田「そうだ。赤松。結局なんで図書室に……行った覚えがないってさっき言ってたか」

百田「じゃあなんで頭に傷なんて負ったんだ?」

赤松「多分、巌窟王さんが地上に無差別に攻撃したとき、運悪く瓦礫が私に着弾したんだと思う」

赤松「そこからの記憶はなくって、起きたときは周りのみんなが内ゲバでボロボロになってて……」

赤松「……私の視点からすると、巌窟王さんの攻撃に巻き込まれてみんな傷ついた、だからね? 本当にビックリしたよ?」

百田「つくづくわりぃ」

春川「そうなると……みんなの話を総合するに赤松は『怪我をした状態で図書室に連れ込まれ治療されて放置された』ってことになるね」

百田「あのとき警戒して散開しようって話になってたんだろ? なら一人気絶してた赤松のことに気付いた誰かが……」

百田「ひとまず校舎に引っ込んで、図書室に連れ込んだってことだよな。そこで治療」

春川「なんでわざわざ図書室に……?」

百田「第一発見者が王馬じゃなぁ。信用できる要素がねぇなあ」

百田「顔に落書きされてたし」

赤松「!?」ガビーンッ

春川「ああいうくだらないことはアイツの手口だよね……」

春川「ねえ。寝てる間になんか取られたりしてなかった?」

赤松「特に……」

春川「それにしてもこれ、基本は押さえてるけど包帯の巻き方そのものは無茶苦茶だな……急いでたのか大雑把な性格なのか……」

百田「寝てる間に何も盗られてないってことは、本当に単純に赤松のことが心配で治療したんじゃねぇのか?」

春川「場所が図書室なんて変なところじゃなきゃそれで納得したけどね……」

春川「校舎はあちこち半壊してる、という事情を抜きにしても、いくらなんでも怪我人を図書室に運ぶ?」

赤松「医療の本とか探してた、とか?」

春川「……どっちにしろ図書室を調べてみればわかる話か」

春川「でも現状だと優先順位は低めかな」

百田「ハルマキはどこから手を付けりゃいいと思う?」

春川「キーボがどこに消えたのかを知りたい。巌窟王と夜長の所在も。最後の学級裁判が具体的に何なのかも調査も並行」

春川「パッと思いつく限りではこんなものかな……」

百田「おっし! それじゃあキーボについては他の全員に問い合わせを……問い……あわせ……」

百田「……気まずい」

春川「私も謝ってあげるから」

百田「悪い……ってなんで無関係ヅラしてんだハルマキ……」

赤松「最後の学級裁判、か……心当たりがあるから、後で時間が開いたら私に体を貸してくれる?」

春川「いいよ。じゃあ最初は……すぐに片付きそうだから巌窟王から探そうか」

百田「おし! 探すぜ!」

もうっ……ダメだ……! 詫び石と勝算が……ない!
巌窟王貯金もスッカラカン……! BBを……召喚できない……! 既に配布の方はいるから問題はないんだけど……!


あ、ツイッターで報告しましたが、巌窟王の方はスキルマしましたぜー、いえーい!

図書室の隠し部屋周辺

カンッ カンッ カンッ


?????「ふうー! まったく。この部屋は我が活動するには狭すぎる。我は女帝ぞ。もっと相応しい玉座があるというもの」

?????「そう思うだろう? モノクマ」

モノクマ「いや……だからと言ってツルハシで壁を掘り続けるのは乱暴すぎるんだけど……」

モノクマ「あとそのバレバレの偽装もやめようよ。多分気付いてない人いないから」

セミラミス「そうか」

セミラミス「……む? おいモノクマ。あと向こう三十センチは配管の類はないと言っていたであろう?」

モノクマ「言ったよ?」

セミラミス「それにしてはここが硬いような……」コツンコツン

モノクマ「ええー? ちょっとどいて、調べるから。ここからは手掘りで……」ザッザッ




ドザザザザーーーーッ



モノクマ「ぎゃあああああああああああ……」ヒューッ

セミラミス「モノクマが落ちた……」ガーンッ



プロに相談しよう



モノクマ「ああああああああああああああああ!」ヒューッ


リフォームするなら


モノクマ「リフォームステーションんんんんんああああああああ!」ヒューッ

セミラミス「ふむ。参ったな。これは本当に参ったぞ。さっき白銀が復活させたばかりだというに」

セミラミス「このままだと最後の学級裁判とやらを開催するのに支障が出るのではないか」

赤松「……」

セミラミス「まあよい。ともかく計画に予想外の穴ができてしまった。この玉座をこの方向に拡張するのはやめるか」

百田「……」

春川「……」

セミラミス「……おっと。そうだ。そろそろマザーモノクマに戻らなくては」

セミラミス「監視権限はあそこでしか使えないからな。リフォームに気を取られてる内に発見されるとか笑い話にもなりはしま」クルリッ

セミラミス「い」パッチリ

赤松「……」パチクリ

セミラミス「……」

赤松「……せ、セミラミスさ――」

セミラミス「人違いだ小娘ッ!」バァァァァァンッ!

赤松「食い気味に言ってる時点でもう色々駄々流しだよ!」

セミラミス「それもそうか。ならば素直に再会を喜ぶべきか。そちらの方が格好も付くであろう」

セミラミス「久しぶりだなカエ」

百田「取り押さえろハルマキーーー!」

春川「ふんっ」ゲシィッ

セミラミス「おのれ」バタンッ

赤松「ええーーーっ!?」ガビーンッ

春川「巌窟王と夜長が赤松を治療した可能性もなくはなかったから、あえて図書室に来たのは正解だったみたいだね」

春川「まあ当初の予測とはまったく違うけど!」

セミラミス「水月に入ったぞ。蹴りが。とても痛くて立てん」

百田「モノクマと親し気に話してやがったぞコイツ……! まさかコイツが本当の黒幕なんじゃ……!」

春川「油断はしない。真宮寺から貸してもらったこの縄で完全拘束してやる!」

セミラミス「やめろ。その縄、あからさまに荒いぞ。肌になにか出たらどうしてくれる」プンスカ

百田「さっきから状況わかってんのかテメェ! 自分の都合ばっか並べ立てやがって!」

赤松「それただのその人の性格! 素で人を見下してるだけで悪い人じゃないんだよ!」アタフタ

セミラミス「それは果たしてフォローしているのか……」

赤松「人望が喋れば喋るほどに無くなっていくんだから黙っててよ! もう!」ウガァ!

セミラミス「!?」ガーンッ

赤松「ともかく二人とも落ち着いて……この人は……ええと……」

春川「なに?」

赤松「……ただのサーヴァントだよ」







春川&百田「は?」

かくかくしかじかばびろにあ

赤松「というわけで……セミラミスさんは悪口とか言ったり暴力振るったりしない限りは無害ないい人なんだよ」

春川「サーヴァント……プログラム世界にサーヴァント?」

セミラミス「別にそう珍しい話ではないぞ。電脳空間上で行われる聖杯戦争もどこかにあるらしいからな」ジーッ

百田(……帝王学の本読んでやがる……)

セミラミス「ふむ。なるほど。適度に褒めるとカリスマアップか。よし」パタンッ

セミラミス「カエデ。汝はその……うん。なんだ……ええと……」

セミラミス「褒めてやろう! 褒めるべき場所が見つからないが、あえて!」ドヤァァァァ

赤松「なにか喋る度に喧嘩を売ってるように聞こえるけど自覚はないんだ。本当に」

春川「よく我慢できるね」

赤松「聞き流せばいいだけだから……」

赤松「そうだ。セミラミスさん。なんでここに? ここ現実空間だよね?」

セミラミス「汝が召喚したのだぞ。触媒で」

赤松「はい?」

セミラミス「持っていたであろう? 聖晶石……あの虹色でトゲトゲしたアレ」

赤松「……あ。ん? あれ。ない。どこ行っちゃったんだろ」ゴソゴソ

セミラミス「使えば消える。ともかく我はあの石に呼ばれ現実へと顕現することができたのだ」

セミラミス「驚いたぞ。歯を磨いている途中で呼び出されてみれば、周りは砂埃が舞っておるし。カエデは足元で気を失っておるし」

赤松「歯を磨いてる途中で……」

セミラミス「冷静に周りを見渡してみれば他にも何人か見知った顔はいたが……喋れなかった」

赤松「歯を磨いてる途中だったのならそうだろうね……」

セミラミス「気が付いたらみなであの場を離れて隠れるという流れになっていたので、カエデを運んで図書室へと引っ込んだのだ」

セミラミス「まあ流れとは言え、我の召喚には誰も気付いていなかったからな。このまま我はギリギリまで姿を隠していようと思ったのだが……」

セミラミス「……見つかってしまったな?」

百田「本当に無害そうだな……」

セミラミス「図書室へと引っ込んだ我は頭を怪我したカエデを治療」

セミラミス「その後は……急に呼び出されたので準備もできてなかったからな。隠れる意味もかねてマザーモノクマへと帰還した」

セミラミス「一度出た以上、もう一度出ることは可能であろう?」

セミラミス「カエデがもう一度窮地に陥ったあたりで派手に登場し、驚かせてやろうと……」

赤松「なんで?」

セミラミス「急に召喚されて驚いたのだぞ。我は。仕返しだ」

赤松「ええーっ……」

春川「なるほど。拠点が隠し部屋の中にあったからわざわざ図書室へと連れてきた……いや」

春川「連れ帰ってきたわけか」

百田「んだよ。いいヤツじゃねーか」

セミラミス「……ふむ。無害だと思われるのは心外だな。我は人類最古の毒殺者故に」

セミラミス「それとカリスマが皆無だと思われるのも、なあ?」

赤松「余計なことしない方がいいと思うけど……」

セミラミス「ふん。見ているがいい。我の得意分野をな。子供は趣味ではないが、相手をしてやろう。光栄に思え」

春川「?」

セミラミス「ふふ」ニコリ

百田「!?」ドキーンッ

百田「ハッ……笑いかけられただけなのに……!?」ドキドキ

春川「!?」

セミラミス「ふはははは! 見よ! 我が本気を出せば玩具にならない男などいはしない――」

春川「死ね」バキイッ

セミラミス「痛くて生きるのがつらい」バターンッ

赤松「セミラミスさーーーんっ!」

春川「アンタを殺して私も死ぬ」ギリギリギリ

百田「気の迷いだ! 気の迷いだったんだハルマキィ!」ジタバタ

赤松「大惨事だーーーッ!」ガビーンッ

セミラミス「我はこやつが嫌いになった。毒殺していいか?」プンプン

赤松「ダメだから……」

セミラミス「聞いてみただけだ。本当に殺意があったら訊かない」

セミラミス「このような些事に裂くような魔力もないのでな」

赤松「……そういえば、魔力源はどこなの? 巌窟王さんはアンジーさんが死んだら消えちゃうって話だけど」

赤松「じゃあセミラミスさんは?」

セミラミス「この空間で令呪を持っていたマスターは夜長アンジーただ一人。故に我もあやつをマスターとして召喚された。だが……」

セミラミス「巌窟王から後でネチネチ言われるのが目に見えておる故、すぐに契約を切った」

赤松「そんなことが……」

セミラミス「物凄く難しい上に、サーヴァントにとっては自殺行為だから誰もやらないというだけで、我ならできる」

セミラミス「まあBBから貰った魔力がまだ残っておるから、しばらくは現界は可能だ。時間制限付きだが」

赤松「……」

百田「……ともかく味方なんだな? セミラミスは」

赤松「まあ、ね。私たちのことを玩具だと思ってるけど、味方」

春川「私はコイツが嫌い」

セミラミス「魅力の足りない貴様が悪いのではないか?」ニヤァァァァ

春川「赤松。流石にこれは明確に自覚があるよね。完璧に喧嘩売ってるよね。殺していいのかな。エルフ耳って殺しても罪にならないよね?」イライラ

赤松「ダメだよ!?」

セミラミス「……」←NO MORE! エルフ耳差別と書かれた粘土板を持っている

セミラミス「カエデ。我はピアノが聞きたい」

赤松「え? ああ、そういえば約束してたね……でも後回しにしてくれるかな。今ちょっと大変なことになってて……」

セミラミス「よかろう。協力してやる。ただこの労力に報いるような演奏でなかった場合は汝の耳を引きちぎるぞ」

赤松「耳を!?」ガビーンッ

セミラミス「そしてエルフ耳を移植する」

赤松「エルフ耳を!?」ガビビーンッ

セミラミス「さて。何を所望する? 今となってはマザーモノクマは我のもの」ポイッ

春川(あ、粘土板捨てた)


ドザァッ


モノクマ「ふう……やっと戻ってこれた――」


ガンッ


モノクマ「ぐあああああああああ……」ヒューッ

春川(投げた粘土板に当たって再度落ちた!)ガビーンッ

赤松「……ええと、監視権限ッて使えるかな? モノクマから貰ってたよね?」

セミラミス「いいだろう。マザーモノクマに戻るぞ。カエデはそこから指示を飛ばすがいい」スタスタ


ヒュンッ


百田「ん。消えた……マザーモノクマの中に入ったのか?」

赤松「白銀さんの居場所と、巌窟王さんの居場所がこれでわかるね」

赤松「……うん。前進してる! 今回もなんとかなりそうだよ!」

マザーモノクマ『がおー。がおー。食べちゃうぞー』ビカッビカッ

春川「物凄い目が光ってるけど」

赤松「セミラミスさん! 遊ぶのはいいから仕事しよう!」

マザーモノクマ『ちっ。シャレの通じぬヤツめ。ピアノの約束も結局はぐらかされたし』

赤松「だからそれは悪いと思ってるよ……」

赤松「ええと、手始めに何か目につくものはない?」

マザーモノクマ『そうだな……過去の映像の中から適当にさらった中では……』

マザーモノクマ『王馬がカエデの顔に落書きする様が見えるな』シラー

百田「やっぱアイツだったんじゃねぇか!」

赤松「……他には?」

マザーモノクマ『なに?』

赤松「いや。王馬くんが私に落書きしたのは、らしいけどさ。セミラミスさんは? 何もしてないの?」

マザーモノクマ『……』

赤松「セミラミスさ」



ブオンッ ベシャアッ


赤松「ぶっ」

百田「マザーモノクマからパイが飛んできたーーー!」ガビーンッ

マザーモノクマ『次の指示を出せ』

赤松「投げパイしろとは言ってないんだけど!?」ゴシゴシ

赤松「ええと、そうだな。テストは今ので終了でいいでしょ」

赤松「巌窟王さんの居場所はわかる?」

マザーモノクマ『うむ。わかる……というか何人か既に見つけておるな。こっちは放置でよいのではないか?』

マザーモノクマ『病院に搬送すると言っているから、気になれば後で見舞いに行けばよかろう』

赤松「うん。わかった」

百田「……病院に搬送?」

春川「まあ、無事じゃないだろうね。あそこまで暴れた形跡があればさ」

赤松「じゃあ次、白銀さんの居場所」

マザーモノクマ『天海と同行中。現在は天海の研究教室だが……捜索する生徒に見つからないように隠れて移動しておる』

マザーモノクマ『今から行ったところで会えるかどうかは微妙だな』

春川「そっか。ならそっちも放置でいいんじゃない? 無事なら私はそれでいい」

百田「すげぇな。本当に学園のどこでも見れるのか?」

マザーモノクマ『当然だ! 我にわからぬことなどない!』

百田「じゃあよ! キーボの居場所も当然わかるんだよな!?」ワクワク

マザーモノクマ『あっち』

百田「どこだ!?」ガビーンッ

赤松「……わからないって」

春川「こ、こいつ……虚栄心の塊だね……?」

百田「……待てよ。セミラミスに居場所がわからないってことは逆説的に」

マザーモノクマ『キーボがいるのはカメラでは捉えられない死角だとしか考えられない、ということになるな』

春川「今更そんな場所がある?」

マザーモノクマ『ないことはない。ほぼすべてのカメラは建物に取り付けられた隠しカメラだ』

マザーモノクマ『自然、高いところから低いところを見下ろす俯瞰の状態が望ましい』

マザーモノクマ『ならば死角なぞいくらでもできよう。見下ろす者より更に頭上だ』

赤松「あ……! そうか。ありえるよ! 流れ星みたいなものを何度か見たことある!」

マザーモノクマ『モノクマか白銀のどちらかが許可を出せば、その死角すら完璧に潰すことのできる奥の手が使えるのだが……』

マザーモノクマ『残念だったな。そこまでやる必要はないと突っ撥ねられてしまった』

赤松「え。なにそれ」

春川「私たちのことを心配してたのかも。キーボの居場所がわかったらすぐ説得に行きそうな無鉄砲バカがここにいるし」

百田「誰がバカだ!」

赤松「……」

マザーモノクマ『それで? 貴様らはこれからどうする?』

百田「ん? ああ、俺たちは……巌窟王の見舞いにでも行くか。白銀は天海がどうにかしてるから心配してねーし」

百田「話は改めて聞きたいけどな」

春川「賛成。話なら天海が聞くだろうし、緊急性が高そうなのは巌窟王の方だよ」

春川「病院に戻ろう」

赤松「先に行ってて。私はちょっと……セミラミスさんに用があるから」

百田「そうか? なら俺たちも残るけど」

赤松「あはは。ごめん、二人きりにして」

春川「ん? ……うん。わかった。百田」

百田「おお……まあいいか。後で来いよ」スタスタ

赤松「……」






赤松「ありがと。私のこと黙っててくれて」

ブウンッ

セミラミス「くくく。いや、なに。あそこまで人を信じられる愚直さを眺めていたくなっただけのこと」クスクス

セミラミス「見ていたぞカエデ。汝が白銀になにをしたか……」

赤松「……」

セミラミス「好きにするといい。我はその様を見て笑うからな」

赤松「意地悪」

セミラミス「くっはははははは……」ケラケラ

セミラミス「それで、ピアノは?」

?????

最原(夢を見ていた。とても酷い夢を)

最原(この学園に来て、悪いことばかりだったわけじゃない。優しい記憶も当然ある)

最原(ただ……それ以上に酷いことばかりだったのも確かだ)

最原(――地獄を見た)



赤松『ははっ。あーあ……なんかもう、完全に負けたって気分だな……』



最原(――地獄を見た)



東条『誰か……助けて……』

東条『死にたくないッ!』



最原(――地獄を見た)



真宮寺『ぐえ……ぷげっ……!』

真宮寺『ぐ……ひ、や、やめ……!』



最原(――いや。違うか。僕の立っていた場所は最初から最後までずっと地獄だった)



白銀『ん? あはは! ごめんごめん! これが私の切り札だと思っちゃった?』ケラケラ

巌窟王『なに?』

白銀『そんなわけないじゃん! ただの物量で巌窟王さんに勝てるわけないんだからさぁ!』



最原(忘れられるはずがない。僕は……地獄から産まれた)

最原(地獄の構成の一つだった)

最原(楽しいことは当然あった。どんな場所にも、人が集まってる限り喜びや楽しみは当然ある)

最原(でも、それで悲しいことが帳消しになるわけじゃない。過去は過去だ)

最原(この世界に何一つとして無意味なものなどない。何故なら、全部が作り物だからだ)

最原(僕の意味はきっと『無限に襲い掛かってくる悲劇に嘆き、悲しみ、それでも前進をやめられない誰か』というところだろう)

最原(これは性分だ。だからこれからも悲しみは僕の中に蓄積され続ける)





巌窟王「……おい。立ち上がらないのか?」

最原「……」

巌窟王「力は分け与えたはずだぞ。その力は『何からも目を逸らさないための力』だ」

巌窟王「自らの逃げ場を失くすための力だ」

巌窟王「ならば立ち上がるしかあるまい?」

最原「ごめん。僕にはそういうふうには考えられないんだ」

最原「この力のことを、そういうふうに考えるんだね。強いなぁ」

最原「羨ましいほど……強い」

巌窟王「貴様の場合は違うのか?」

最原「きっと考え方が違うんだ。僕の場合は……」



ザザッ


最原「僕の……場合は……っ!」


ザザッ ザザザッ


ザザーーーーッ

??「巌窟王のこと、最後まで頼むよ」

最原「……え?」

??「そいつ割と無茶するし、言葉の苛烈さの割には優しすぎるからさ」

最原「誰、キミ」

??「カルデアのマスター……巌窟王の本当のマスターだな」

最原「……」

最原「新世界プログラムのときの、黒髪の少年……!」

??「聞かせてくれ。その忘れない力を、キミはどんなふうに使うんだ?」

最原「……」

最原「背負うための力だ」

最原「みんなが取りこぼした分まで背負って、みんなと一緒に進むための力だ」

最原「僕の持っているものを、何一つとして奪われないための力だ」

??「そうか。それは随分と……酷い力もあったものだな」

??「どっちにしても、先に進む以外の選択肢を潰す力であることは変わらない」

??「もしも記憶を背負いきれずに、重荷に潰されて一歩も動けなくなったそのときは……」

??「力が逆にキミのことを殺す」

最原「歩き続ければ問題はないんだろ?」

??「……そのためには前向きさが必要だ。巌窟王と同じものをキミは持っているのか」

最原「……」

最原(ああ。そうか。僕は前を向くことができない)

最原(僕はそれを……持ってない)

??「答えはいいよ。今は。でも」

??「いつか巌窟王に言ってやってほしいな」

??「……出口はあっちだ。誰かが呼んでる声がするだろ?」

最原「!」

??「……次に眠るまでが勝負だ。答えを見つけて来るといい」

「最原さん……最原さん……!」

最原(……仲間のためなら頑張れる、かな?)

最原(いや。それは迷惑かな。もしも戦う理由をそれにして、途中で死んだらみんなが責任に感じる)

最原(自分で自分のことが何もできない臆病者の理屈だ)

最原(生きる理由を他人に任せるのは、死んだ理由を他人になすりつけるのと同じこと)

「最原さんっ……!」

最原(前を向ける動機が欲しい。もっと健全な動機が)

最原(……復讐したいっていうのは、仲間のためっていうより多少はマシかな)

最原(僕には認められないけど)

最原「……うん。ごめん。今起きるよ」

最原(恋……とかはどうだろう)

最原(……滅茶苦茶不純だな。自分で自分が笑えてくる)

最原「……戦う理由、ないな。どれも誰かしらに依存してる」


スタスタスタ


巌窟王「……やれやれ、だ」フウ

最原「ん? 巌窟王さん。見送りに来てくれたの?」

巌窟王「全部でいいだろう」

最原「え」








巌窟王「全部背負っているのだから、戦う理由は『今思いついた些細なものすべて』でまったく問題が無いはずだ」

最原「……え。それはちょっと僕には重すぎ――」


ゲシイッ


最原(お尻蹴られた!)ガビーンッ

巌窟王「重すぎる? ならいい。そのときはすべてを投げ出すといい」

巌窟王「できるなら仲間の目の前で、無様にな」

最原「!」

巌窟王「……いい物が見られるぞ?」ニヤァ

最原「考えておくよ」

「最原さん!」

最原「……」

最原「今行く!」

最原の自室

最原「んん……!?」パチリッ

最原「……ここは……僕の部屋か」

最原「あれ。おかしいな。病院のロビーで寝てたような気がするんだけど……」

茶柱「最原さん! よかった! 起きてくれたんですね!」

最原「茶柱さん?」

茶柱「物凄くうなされてたんですよ。起こそうとしても全然起きませんし……」

最原「うなされてた……ああ、うん。なんか凄い汗かいてる」

最原「……前半は凄い悪夢だったからな」

茶柱「悪夢?」

最原「この学園で起こった悪いところ詰め合わせフラッシュバック」

茶柱「……うわ……」ヒキッ

最原「ははっ。うん。そういう顔になるよね」

茶柱「……でも、悪いことばかりじゃないでしょう。この学園に来て」

最原「まあ、ね。そうだけど」

茶柱「……」

最原「……なにかあった?」

茶柱「ええ。最後にして最大級のトラブルです。どうも最原さんの力がまだ必要なようですよ」

最原「そっか。すぐ準備する!」

最原「……」

最原「いや違う。そうじゃなくて。なんで茶柱さんがここにいるの?」

茶柱「!」ビクッ

最原「そもそもなんで僕は自分の部屋で寝てたんだろ。あれ、ベッドに何かあるな。なんでこんな長い髪が……」

茶柱「嘘っ! 掃除したはずなのに!」

最原「……」ヒラヒラ

茶柱「あれ……髪の毛なんてないじゃないですか……ハッ」

最原「……もっと早い段階で起きればよかった」カァァ

茶柱「」

ガシイッ

茶柱「永遠に眠ります?」ギリギリギリ

最原「がっ……カハッ! ネオ合気道って……締め技ありなんだ……!?」

茶柱「最原さん以外にはやりませんけどね! あまりにも男死と接触する時間が長いので……!」

茶柱「これに懲りたらもう二度とカマかけなんて古風なマネしないでくださいね! 気分はどうですか!」

最原「超幸せ!!!!!!!!!!!!!!!!!」ズバァァァァァアンッ

茶柱「本気で絞殺しますよ!?」ガビーンッ

最原(それはそれで本望だ! 答えを得たかもしれない!)

最原(もう少しで真理……真理的ななにかが見えそうだ……! 体温とか胸とか腕とか柔らかい感触とかなんだとかーーー!)ウオオオオオオ!




真理の果て

巌窟王「……!?」ガビーンッ

巌窟王「戻ってくるのが速過ぎだ。帰れ」ゲシイッ





最原「……ハッ! 正気に戻った! ごめん、茶柱さん! ギブギブ!」タップタップ

茶柱「今度変なこと言ったら恥ずかしさのあまり何をしてしまうかわからないので! そのつもりでっ!」パッ

最原(僕の生きる意味がもう少しで物凄く卑近的なものになるところだった)ゼェゼェ

最原「……準備するから茶柱さんは外に出ててほしいんだけど……」

茶柱「一人で大丈夫です?」

最原「大丈夫。悪い夢は見たけど、でも調子はすこぶるいいんだ」

最原「……全部か。やれるだけやってみるよ。巌窟王さん」

病院

獄原「よし。ひとまずこれで大丈夫……だよね?」

東条「ええ。後は私に任せて。出来る限り治療するわ。常識的な範囲で」

真宮寺「キミが本気出すとなにがしか酷い代償が来るらしいからネ。それも時間差で」

王馬「それにしても凄かったよねー。裏庭の地下から連れ出すのにゴン太の力を頼ったのはいつも通りだけど」

王馬「まさかゴン太の体に巌窟王ちゃんを力づくで括りつけたのが夢野ちゃんだとは思わなかったよ!」

夢野「ち……違う……ウチじゃない……ウチじゃ……」ガタガタ

ジャガーマン「……チラッ。チラーッ」

夢野「うわあああああああん! 段々描写がホラーになっていくんじゃああああああああ!」ダッ

東条「……病院では静かにしてほしいのだけど」

真宮寺「それで東条さん。巌窟王さんの容体は」

東条「相手はサーヴァントよ。大怪我をしても夜長さんさえ無事なら時間経過でなんとかなるわ」

東条「なるはずなのだけど……」

王馬「そういえばアンジーちゃんはどこ?」

真宮寺「入間さん、星くんと一緒に学園の探索だヨ。キーボくんか白銀さんを見つける気のようだネ」

真宮寺「結果にはあまり期待してないけど」

王馬「ふうーん。あ、ところでそこにかけてあるマントって巌窟王ちゃんのだよね?」

王馬「なにか面白いものはないかなーっと」ゴソゴソ

東条「人の持ち物を勝手に探ったらダメよ」

王馬「いいじゃん盗むわけじゃないし」


ガブウッ



王馬「ぐあああああああああああああ!?」ブシュウウウウウッ

ワニのオモチャ「」ガブガブガブガブガブガブ

東条「だから言ったのに」

真宮寺「な、なんかこの展開を予測してたような光景だネ。気のせいかな……気のせいじゃないかも……」

真宮寺(探らないでよかった)ホッ

夢野「はあっ……はあっ……!」

夢野(い、いい加減にわかった。わかってしまった。ウチにつきまとっているこのジャガーのパジャマ女)

夢野(声にものすごーく聞き覚えがある)

夢野「……ジャガーマン……!」

ジャガーマン「呼んだ?」

夢野「なんでここにいるんじゃ。ついでに、なんでジャガーマンがやったことがことごとくウチがやったことと認識されるんじゃ」

ジャガーマン「ん? 実際に秘密子ちゃんがやってるから」

夢野「はい?」

ジャガーマン「あと前にここに転送した物資の中に依代として使えそうなものがあったから、それ使って顕現してるんだー」

夢野「なんでここにいるかの説明の方を後回しにするな! いやそれも大事じゃけど!」

夢野「ウチはやっておらんぞ! だからずっとジャガーマンがウチの目の前で……!」

ジャガーマン「ああ、うん。じゃあ言い換えるよ。『私が秘密子ちゃんにやらせた』」

夢野「んあ?」

ジャガーマン「背中を見て」

夢野「背中?」クルリッ

ジャガーのぬいぐるみ「」ヤッホー

夢野「ひいいいいいいいっ! ジャガーーーー!」ガビーンッ

ジャガーマン「それ使って秘密子ちゃんの体を一時的に乗っ取ってるんだー。だから本当に百田くんを殴ったのも、白銀さん争奪戦のときに大暴れしたのも」

ジャガーマン「私じゃなくって秘密子ちゃんなのだ!」

ジャガーマン「まあ秘密子ちゃん本人は私がやったと認識するんだけど」

夢野「ぎゃあああああああ! 二重人格設定の主人公による叙述トリックのホラーテイストじゃああああああ!」ガビビーンッ

ジャガーマン「よかったね秘密子ちゃん! 念願の憑依合体だよ!」ポンッ

夢野「ウチがなりたかったのはシャーマンじゃなくって魔法使いじゃあ! ふざけるなッ!」ウガァ

ジャガーマン「でも割と役に立つよ」

夢野「それは……」

夢野「……はあ。確かにジャガーの手も借りたい局面ではある、か」

夢野「いいじゃろう。ただし全部終わったら後腐れなく帰るんじゃぞ」

ジャガーマン「かしこまっ」キャピンッ

ジャガーマン「あ。あと二人ほど、依代を使ってこっちに来てるはずなんだけど」

夢野「誰じゃ?」

ジャガーマン「イシュタルちゃんとー、ナーサリーちゃん」

夢野「……誰かに迷惑かけてないじゃろな?」

ジャガーマン「かけてると思うよ。確実に」

ジャガーマン「……でも目立った被害がないんだよな。おかしいな。こっちで落ち合うはずだったのに」

ジャガーマン「合流する前に、なにか想定外のことでもあったのかな」ハテ

夢野「寄り道でもしておるんじゃろ」

ジャガーマン「その可能性も高いけど……はて?」






学園のどこか

イシュタル「しまったー! 油断したー! お札に誘われて罠にハマるなんてー!」ガーンッ

ナーサリー「クッキーの匂いにつられて罠にハマるなんてー!」ガーンッ

キーボ「……確保、完了。これよりカメラの死角を通りながら所定の場所へ幽閉します」

キーボ「ええ。準備は順調です……外の世界に恥じない、最後の学級裁判へと」

ポンッポンポンッ

赤松「ふふっ。おしまい。ああ、やっぱりピアノに触るのはとっても楽しいなぁ」ニコニコ

セミラミス「……」

赤松「……セミラミスさん。機嫌直してよ。大体セミラミスさんのせいでしょ」

セミラミス「違う。我は悪くない。あの鉄クズだ。鉄クズのせいであろう」

赤松「いや、まあ……なんていうかさ……」










赤松「まさかセミラミスさんがドアをバーンと開けた衝撃で私の研究教室が全損するとは……」

セミラミス「目の前で落ちて行ったな。カエデの相棒のグランドピアノが」

赤松「グランドピアノの亡骸見たくないから、下は覗き込めないなぁ」シクシクシク

赤松「でもこの玩具のピアノは、ちゃんと音も出るしさ……」

セミラミス「それは玩具のピアノなのか? もはやこのサイズ差では『玩具のピアノ』と言う名の別の楽器であろう」

セミラミス「コントラバスとヴァイオリンを同じ楽器ととらえるか? いや、そうではないはずだ」

赤松「ええー……そんなこと言われても」

セミラミス「せめてこの寂しさを埋めるために唄え。唄いながら演奏してみせろ」

赤松「それは勘弁してよ。ピアノの先生から『クセがつくからそういう道に進むわけじゃないのならやめなさい』って言われてるし」

セミラミス「さっくり死ぬ毒と、面白い死に方をする毒、どちらがいい?」

赤松「ああ、わかったよ! 唄えばいいんでしょ!」

赤松「ええと……」



ポンッポポンッポンポンポンポンッ



セミラミス「……!?」ゾクウッ

セミラミス(こ、この背中に粟が立つような旋律は……!?)








赤松「マイ、フェア、レディ……」

セミラミス「散滅せよ!」ガシャアアンッ

赤松「私のピアノーーーッ!」ガビーンッ

セミラミス「その曲は嫌いだ! やめよ!」

赤松「なんで!?」

セミラミス(呼び出される前に暇だったから遊んだゲームでのトラウマだ……とは言えぬな)

回想の黒い羊(ヤア……マタ会エタネ……)


チカッ


セミラミス「……ん……?」

セミラミス(空に何か……流星か? こんな白昼に?)

セミラミス「……まあよいか」

赤松「よくないよ!」エグエグ

最原「……なんでセミラミスさんがここに……?」

赤松「あ」

セミラミス「む? おお。最原か。久しいな。何日ぶりか?」

最原「多分一日ぶりだけど……」

セミラミス「……ム。そうか。こちらではそうだったな……」

茶柱「転子もいますよー……あの、そちらの目が覚めるような美人はどちらさまで?」

セミラミス「気にするな」ビシッ

茶柱「その一言で片づけるのは無理がありすぎるんですが……」

赤松「あー……ごめん。最原くん。怪我してるから最原くん抜きでやろうと思ったんだけど……」

最原「うん。外に出たらこんな有様でビックリしたよ」

最原「……白銀さんに会いたい。心当たりはある?」

セミラミス「あるぞ。天海の研究教室に行け。さっさとな」

セミラミス「あとは貴様の聖杯でなんとでも……ム?」

セミラミス「聖杯はどうした?」

最原「さあ茶柱さん! 天海くんの研究教室に行こうか!」ズンズンズンッ

茶柱「ええっ!? 不自然に早くないです!?」

赤松「行っちゃった。起きて早々、もうこんな具合かー」

赤松「……バレちゃう、かな」

セミラミス「さて。汝の頑張り次第だ。まあそういうごまかしの先にあるのは総じて、とっておきの爆弾だがな」

セミラミス「くっくくくくく」クスクス

赤松「……ところで聖杯はどうしたんだろ」

セミラミス「まあ破壊したわけでないのならどうでもよい。気が向いたら監視カメラの映像を検めるか」

セミラミス「もし壊れてたらあやつを人体改造してヘラクレスのようなムキムキボディにしてやろう。顔そのままに」

赤松(壊してませんように!)ガタガタ

赤松「……」





赤松「……私は……間違ってない……よ」

茶柱「……最原さん。どうするつもりです?」

最原「手っ取り早く白銀さんに話を聞くよ。最初からそれ以外の選択肢はない、かな」

最原「最後の学級裁判……止まってないカウントダウン……武装したキーボくん……何から何までイレギュラーだ」

最原「その中で白銀さんだけが浮いてる。この局面において『何も備えてないで生徒に拷問されそうになった』とか異常事態だ」

最原「少なくとも今までの白銀さんと比べると、ね」

茶柱「……まあ全部、内ゲバ起こした百田さんたちの伝聞なんですけど……」

最原(それにしても、あの状況で拷問へのストップをかけなかった真宮寺くんは大分キレてるな)

最原(……白銀さんから情報を得るんじゃなくって、パソコンから情報をさらう方が効率的だと彼なら気付いたはずだ)

最原(『最後の学級裁判』ってワードを聞いたことがあるのは、あの時点では彼だけだったんだから)

最原(一体彼は何を期待してたんだ? 拷問に持ち込んでなにを……)

最原(……)

最原(できるだけ秘密裏に、個人的に確かめたいことがあった、とか?)

最原(……いくらでも考えられるな。彼はあのパソコンに『何か』を見たはずだ。それの内容が判然としない今、可能性はいくらでもある)

最原「……ははっ」

茶柱「どうしました? 急に笑って」

最原「ああ、いや。なんで今まで気付かなかったんだろうってバカらしくなってさ」

最原(別にパソコンそのものを見る必要はない。白銀さん本人に聞けばいいんだから!)

最原(こんな状況だ。茶柱さんに対して恥じない範囲でなら、どんなことだってやってやる!)

ザンキゼロの『黒い羊』がトラウマ。具体的に言うと『V3やってからねこふんじゃったを聞く度にゲロ吐きそうになる』と同じ文脈。
『ザンキゼロをやるとロンドン橋を聞く度に震えが止まらない』


今日のところはここまで!

最原「つっ……」ズキン

茶柱「最原さん? ちょっと張り切りすぎでは……」

最原「みたいだね。ちょっと突っ張った感じがする」

最原「でも無理はしないよ。途中で倒れたりしたらもうやり直しが効かないんだ」

最原「最後の最後まで戦い抜いてやる……!」

茶柱「そうですか。それならまあギリギリ及第点なので何も……」

最原「待って」

茶柱「?」

最原「……何か変だな……校舎の様子が前と違う」

茶柱「は? ああ、破壊され尽くしてるわけですし、それは当然では……」

最原「それ以前にエグイサルに壊されたりしてたんだけど……」チラッ

最原「変だな。瓦礫の位置が昨夜と違ったり、違ってなかったりする箇所がある。ただ崩れただけじゃこうはならないはず……」

最原「……!」

最原「嘘でしょ。早すぎる。いや、事前に備えはあったのかもしれないけど、それにしたって……!」

茶柱「なんの話で?」

最原「赤外線センサーがそこら中にいっぱい」

茶柱「え」

最原「……これは……巌窟王さん並みの記憶力がなきゃわからないな。確かに!」

最原「思ったより白銀さんは追い詰められてるのかもしれない」

校舎内 別動隊 星、入間、アンジーチーム

入間「ケケケ。まあ、共同制作っつーのも悪かねーか。俺様が相手を利用しているもんだと考えりゃ腹も立たねぇ」

アンジー「アンジーの手を使えばどんな小物でも背景に溶け込ませられるー!」キラキラキラ

入間「俺様の赤外線センサーが優れてるってことは、テメェもよく知ってるよな」

入間「いや。テメェだからこそ知ってるはずだ。第三の事件のときは強奪されたりしたんだろ?」

星「まさか今更そんなもんに頼ることになるとはな……」

アンジー「美兎とアンジーの共同制作ー! 隠しカメラならぬ隠しセンサーだよー!」

入間「ま、設置は星にやらせたから、なんならテメェの名前もスタッフロールに加えてやってもいいぜ?」

星「遠慮しておこう」

入間「さあ。二人揃って目立たない場所を目立たないように……」

入間「つまり、進行と潜伏を繰り返す『二つの反応』があったらそれが白銀と天海だ」

入間「センサーには順番に番号を振ってある。ブザーごとにわけてるわけだから、あとはセンサーの番号と地図を照会させればいいだけだ」

アンジー「ちなみにー、その番号付きの地図もアンジーが描いたんだよー!」

星「……妙に彩色がサイケデリックなのが気になるが……」

入間「目が痛ぇ」

星「で。捕まえてどうする?」

入間「ちゃんと話を聞くに決まってんだろ。アイツが何も話さなかったら俺様たちはお終いだ」

入間「……引き渡し先はダサイ原か、ナメクジ緊縛マスクのどちらか、だな」

アンジー「へえ。最後の最後は人任せなんだねー」

入間「うっせーぞ。じゃあテメェはどうすればいいってんだ?」

アンジー「んんー……」

入間「それ見ろ。テメェだって最終的には人任せ――」








アンジー「殺す。情報を吐かせてから殺す。吐かなくっても殺す」

アンジー「少なくともアンジーより先に死んでもらう」

入間「……」

星(聞かなきゃよかったぜ)

アンジー「でも、アンジー以外の誰かが先につむぎを見つけたんだとしたら、さ」

アンジー「そのときはすっぱり諦めるよー」

星「そうか。そりゃあ……」

星(そうなってもらうことを祈るばかりだぜ。別に殺したいわけじゃないからな)

星(どうしようもない淀んだ感情があるだけだ。俺たちは誰かに止めてほしい)

星(……止めてほしいから『復讐』をしている)

最原、茶柱チーム

ゴリッ

茶柱「……本当だ。中からセンサーみたいなものが……なんて精巧なイミテーション」

茶柱「よくわかりましたね?」

最原「巌窟王さんでもわかったと思う。だからあんまり凄くないよ」

茶柱「そういう『他の誰にもできないこと』にこだわるのって大分危険なんですけどね」

茶柱「それに巌窟王さんにできたとして、それでも学園中でこれを発見できるのは最原さんと巌窟王さんの二人だけ。充分凄いんですよ」

最原「……そうかな。なんか茶柱さんに言われるとそんな気もする」

最原「さてと。こんなものがある以上、僕たちが正直に白銀さんに会いに行くのは危険かもしれないな」

最原「そもそも学園の中に入ってる人間が(セミラミスさんのようなアホとそれに付き合わされる可哀想な赤松さんという例外を除くと)少ない」

最原「二人組でどこかに移動しようとしている反応を見つけたら多分、確認のために入間さんかアンジーさん……」

最原「ないし、それとチームを組んでいる誰かが確認に来るかもしれない」

最原「それだけならまだいい。最悪なのは、僕たちの狙いに気付いて先回りされることだ」

最原「どんなに最低限でも僕たちが白銀さんのところに一番に近づかないと……」

茶柱「センサーを一個ずつ潰していくのはどうです?」

最原「同じことじゃないかな。結局潰したセンサーを確認しに誰かが来る」

最原「『なんで潰したの』って訊かれて一瞬でも不自然な動きを見せたら、その時点で感付かれちゃうよ」

最原「その後は白銀さんを巡って衝突。第二次内ゲバ戦争の勃発だ」

茶柱「そういうものですかね」

最原「せめて十分でいい。白銀さんと話をすることさえできれば……」

最原「……本人が気付いていないだけで、有用な情報を持っている可能性は充分考えられる」

最原「これから学級裁判をやるという手前に『証人』を傷つけるわけにはいかないだろ?」

茶柱「白銀さんが本当に何の情報も持ってない場合は? 尋問の時間が不十分だった場合も、どうなります?」

最原「僕がなんとかするよ」

茶柱「具体的には?」

最原「でっち上げる」

茶柱「……白銀さんが有用な証人であるという『証言』を?」ヒキッ

最原「『何の情報も持ってない場合』が本当にあったとして、この状況じゃあもう私怨で殺させるわけにはいかない」

最原「白銀さんが生きていて、ほぼ真実が明らかになってもなお学級裁判が行われるという『この現状そのもの』が既に重大な証拠なんだ」

最原「僕だって白銀さんには本当に頭に来ている。でも、もうそんなことは言ってられない。証拠に傷を付けられるわけにはいかないんだから」

茶柱「……それを素直にアンジーさんや入間さんに伝えればいいのでは?」

最原「何の備えもない状況で言って、退いてくれるかは五分だ」

最原「『白銀さんに誰よりも先に話を聞いた』という説得力が欲しい。それでやっと対等な交渉ができるよ」

茶柱「最悪の場合はでっち上げも検討って時点で、あなたやってること詐欺師と一緒じゃないですか……」

茶柱「それに今更、白銀さんを殺す人なんていませんよ。あの人たちがやりたがっているのは拷問でしょう? 復讐をかねた」

最原「そのラインを越えたら白銀さんの生存率は著しく下がると思う」

最原「コロシアイのゲームに逆戻りだ。『何かしなければ死んでしまう』という緊迫したこの状況は……」

最原「今までモノクマが用意した動機を凌駕するとびきりの動機だよ」

最原「……第一の事件も、動機は同じくカウントダウンだったしね」

最原「……なにか方法がないかな。赤外線センサーを無効化する方法とか……」

最原(夢野さんを誘うか? 彼女なら赤外線センサーも、巌窟王さんのホームからの支援で無効化できるだろうし)

最原(……ちょっと時間がかかるかな。彼女を探すの。その間にセンサーに白銀さんたちがハマったらアウト……)

最原(何もしないよりはマシか)

茶柱「きゃあっ!?」

最原「ん? どうしたの茶柱さ――」

モノクマ「……やっほー」

最原「……お、まえ……モノクマ……!」

最原「なんでこんなところにいる! 壊れたはずだろ!」

モノクマ「壊れたけど、復活させられたんだよ。セミラミスさんと白銀さんにね」

最原「あ……!」





モノクマ『かつてマザーモノクマに搭載されていた『学園の監視機能の使用権原』と『モノクマの複製権限』だよ!』

モノクマ『今は凍結されてるけど、図書室に行ってボクが許可すれば使えるようになる!』




最原(そうか。今のセミラミスさんにはモノクマの複製権限があったんだった)

茶柱「せみらみす……? ええと」

最原「さっき赤松さんと一緒にいた冷たい感じの美人だよ」

茶柱「ああ、あの人が……結局なんでこの学園にいまさらながら部外者が」

茶柱「巌窟王さんのときのような『見覚えがないのに見覚えがある感覚』も完璧にないですし」

最原(僕が聞きたい……いややっぱり聞きたくない。あの人と話してると脳細胞が死滅しそうだ)

モノクマ「それにしても彼女、一体何があったんだろう。渡したのは凍結した権限だったから白銀さんが解除するまでは何もできないはずなのに」

最原「やっぱりそんなところだろうと思ったよ」

モノクマ「BBさんにはキチンとした権限を与えるつもりだったけど、彼女にその義理はないからね!」

最原「それで。モノクマ。お前、何の用だ」

モノクマ「助けてあげようと思って。条件次第だけど」

茶柱「!」

最原「……言ってみてくれ」

茶柱「最原さん!」

モノクマ「ボクに危害を加えるの禁止。巌窟王さんとかもボクに近づけないでね」

茶柱「……あれ。なんか感覚がマヒしてて一瞬『大したことないな』って思う程度には緩い条件ですね」

茶柱「あなたのことは校則が守って……」

モノクマ「もう空文化しちゃってるじゃん。だからわざわざこんな緩い条件を提示してるんだよ」

モノクマ「あともう一度言うけど、巌窟王さん『とか』だからね」

最原「僕にお前を守れって言うのか。どの口で……」

モノクマ「取引としては妥当じゃない?」

茶柱「……ところであなた、なんか土臭くないです? いや泥臭いです。なんですかこれ」

モノクマ「訊かないで……あと耐え切れないならファブリーズ持ってきて……」ズーン

最原(……私情で断るのは違うよな。ここでは)

最原「わかっ……」

茶柱「仕方がないですね。後で倉庫から持ってきますから」

モノクマ「わーい! モノクマ、茶柱さんのこと、すきー!」ガシイッ

茶柱「うざったいから足に纏わりつかないでください……」

モノクマ「もうオマエラのせいで立場もクソもなくなっちゃったからねー! こうなったら可愛いマスコットに堕してでも生き残ってやる!」スリスリ

最原「……足……」

最原「……」ブチッ

最原「こっちからも条件がある」イライラ

茶柱「最原さん?」

モノクマ「んー? なーに? 契約するときのすり合わせって本当に大事だよね」

最原「……」ムカムカ

モノクマ「……ん? なにその顔。なんか眉間に皺寄ってるけど。最原くんだから凄んでも威力はないけどさ」

最原(……ああ、くそ。上手く論理化できない! どうやっても建前を用意するのに失敗する!)

最原(いや。どんなことを言ったところでコイツなら確実に茶化すか。なら建前を用意するだけ無駄、か?)

最原「……茶柱さんにくっつくな」

茶柱「……」

茶柱「……ッ!」カァァ

モノクマ「ほう! ほうほうほう! ほうほうほうほうほーーーう!」ニヤニヤ

モノクマ「嫉妬ですか? ジェラシーですかー! 元気ですかー!」ギンッ

最原「早く離れろ。じゃないとどんなに条件がよかろうと、この話はなしだ」

モノクマ「でもよりによってボクに嫉妬する? 将来、二人で犬とか飼ったらそいつにも嫉妬するつもりなのかなぁ?」

茶柱「はあ!? 将来!? 二人で!? 犬!?」ガビーンッ

最原「そうか……そのときになったらペットとか飼うのやめておこうかな……」

茶柱「あなたもなんで真面目に考えてるんですかッ!」

モノクマ「顔赤いよ?」

茶柱「誰のせいだと……!」

最原「こちらに提示された条件は飲む。そっちは?」

モノクマ「飲む。茶柱さんには極力近づかないよ。これでいいんでしょ」

モノクマ「……それにしても建前もなくストレートに言いすぎじゃない?」

最原(どうせ何言ったって茶化すから無駄だろ)

茶柱「……むむむむ……!」

最原「……?」

最原「まったく。一方的に足に絡んだりするから茶柱さんも顔が真っ赤じゃないか」

茶柱「そっちじゃないんですけどッ!?」ガーンッ

モノクマ「それじゃあ、早速赤外線センサーを無効化するねー! いっくじょー!」

最原「その前に一つ聞きたい」

モノクマ「なに?」

最原「お前が復活した詳しい経緯だ。さっきお前はこう言ったよな?」




モノクマ『壊れたけど、復活させられたんだよ。セミラミスさんと白銀さんにね』



最原「その直後にはこう言ってる」



モノクマ『それにしても彼女、一体何があったんだろう。渡したのは凍結した権限だったから白銀さんが解除するまでは何もできないはずなのに』



最原「矛盾してないか? セミラミスさんと白銀さんに復活させられたのに、白銀さんは何もしてないって?」

最原「いやまあ、これは本題じゃないな。正直に訊こうか。白銀さんは図書室に行ったのか?」

モノクマ「うん。行ったよ。すべてはボクを復活させるために。でもそこで予想外のことが起こってた」

モノクマ「白銀さんは凍結した権限を解凍するつもりだったんだけど、行ったときにはもう溶けてたんだよね」

最原「……今、セミラミスさんがこの学園に来ていることと何か関係があるのかな」

モノクマ「というかそれそのものが答えと言ってもいいかも。マザーモノクマの中に軟禁してたセミラミスさんを赤松さんが召喚したんだって」

茶柱「……サーヴァント!? あの人が!?」

モノクマ「そのときのデータ的な熱量が権限の凍結を解除したらしいね。叩き壊したとも言えるけど」

最原(ということはあのセミラミスさんは、僕たちがジャバウォック島で見たアルターエゴ……)

モノクマ「マザーモノクマの中まで入ったら中の時間流は自由自在だから、もしかしたら数日間、数週間の軟禁ライフを楽しんでたかもね」

モノクマ「そこから突然呼び出されたわけだから、ちょっとくらいは不機嫌になってそうなものだけど。割と上機嫌だなぁ、彼女」

最原「お前が復活させられたとき、隣に誰かいた?」

モノクマ「天海くんがいたよ。あの変な仮面被ってた」

最原(じゃあ内ゲバの直後か……)

モノクマ「それと、白銀さんは確かに権限の凍結に関してはノータッチだったけど」

モノクマ「何もしなかったっていうのは正しくないな」

最原「どういうことだ?」

モノクマ「モノクマの複製権限が単体であったとしても、白銀さんがボクを完全には信用してなかった」

モノクマ「あのマザーモノクマ、実はちょっとした魔改造がされてるんだよね」

最原「具体的には?」

モノクマ「物理的な材料だけじゃ足りないんだよ。つまり『白銀さんの声帯認証』が『材料』としてプログラムされてるんだ」

モノクマ「彼女が『産め』とマザーモノクマに言わない限り、モノクマは生産されない」

モノクマ「マザーモノクマに搭載されている頭脳……今はセミラミスさんだね。彼女が一人でモノクマの複製権限を作ろうとしたところで……」

モノクマ「出来上がるのは『モノクマに似た何か』だけだ。校則やモノクマルールには当然ながら『モノクマ』として認識されない」

最原「ちょっと待て。なんで白銀さんとモノクマの間に、そんな相互関係が産まれてるんだ?」

最原「『信用してない』だって? 仲間じゃなくって利害関係の一致のみで動いてる共同体の言い分だ、それは」

モノクマ「……」

最原「……」

最原(まずい、な。これは。見えて来る真実の輪郭が段々と、僕の精神を締め上げる)

最原(先入観のせいで真実が歪んで見えていた。その先入観という硝子が段々とヒビ割れていくような……!)

最原「……薄々気付いてたことじゃないか……! 何をふらついてるんだ、僕は」

茶柱「……手。握っててあげましょうか?」

最原「……」



巌窟王『全部背負っているのだから、戦う理由は『今思いついた些細なものすべて』でまったく問題が無いはずだ』




茶柱「な、なんて。冗談ですよ。流石にそこまで甘えられるのは困りますし……」

ギュッ

茶柱「!」ビクンッ

最原「……」

最原(ちょっとくらい甘えたっていいよな。この重みに温かさを感じても……いいんだよね。巌窟王さん)

モノクマ「あっあー! じゃあ質問もないようなので……」

モノクマ「起爆スイッチ、起動!」ポチリッ

最原「……は? 起爆……なんだって?」

「にゃあああああああああああああああ!」

バガァァァァァァァァンッ!


茶柱「」

最原「」

モノクマ「この校舎はキーボくんの攻撃のせいで半壊している。だから赤外線センサーの無効化は簡単だ」

モノクマ「更にちょっとショックを与えて、学園全体を『揺らす』。それで赤外線センサーのほとんどはあらぬ方向を向くことになる」

モノクマ「瓦礫の中にイミテーションをほどこして設置したヤツは特にね」

モノクマ「無事なヤツもあるかもしれないけど、それももう壊れたヤツとの区別ができない」

茶柱「誰かの悲鳴が聞こえませんでした?」

モノクマ「猫じゃない?」

最原「いや、モノクマお前っ……! 今の爆発、どうやって起こしたんだ!?」

モノクマ「それを言う時間ある?」

最原「……ないかも。茶柱さん! 行こう!」

茶柱「二人のところへ、ですね!」



タッタッタッタッ


最原(……あれ。今、空に流星が見えたような……気のせいかな)


ズズウンッ……


茶柱「モノクマ、まだ爆発させてるんでしょうか。もう充分なのに」

最原「……?」

セミラミス&赤松チーム

赤松「……なんで……キーボくんが、ここに……?」ガタガタ

セミラミス「……!?」

キーボ「……あなたはやり過ぎました」ドドドドドドドド

赤松「!」

セミラミス「我に向かって言っているのか? やり過ぎたも何も大したことはしておらぬ」

キーボ「学園への破壊行為が、ボクの中の基準に触れました。先ほどの巌窟王さんと同罪と認識します」

セミラミス「なんだと? どういう……」

セミラミス「あ」

赤松「セミラミスさん?」

セミラミス「そうか……先ほどの爆発はそういうことか……モノクマめ! あの『出来損ない』を使ったな!」ダンッ

セミラミス「聞け! 我は先の爆発には関与しておらぬ! 確かにアレを作ったのは我だが関係はまったくない!」

キーボ「……ターゲットロックオン」キィィィィンッ

セミラミス「聞く耳持たぬ、か。まったく、目的の半分も達成しておらぬというに」ジャララッ

セミラミス(カエデのことは庇わなくていい。どうせあやつはカエデのことは眼中にない)

セミラミス(理屈はわからぬが学園を破壊する者を狙うようだからな)

セミラミス(深追いもせぬようだし、さっさとマザーモノクマの中に帰還して……?)

セミラミス「……」






セミラミス「貴様、何故魔力を持っておる?」

赤松「え?」

セミラミス「……ッ!」

セミラミス「そう、か。そういうことか……わかったぞ、この空間の正体が!」

セミラミス「でなければこんなふざけた物体が存在できるわけがない!」

キーボ「状況、開始」

セミラミス(巌窟王は深追いされなかったのではない。わざと見逃されたのだ! 我に対して同じ対応を取る保証がない!)

セミラミス(逃げきれない! ならば!)

セミラミス「カエデ! よく聞け! あの鉄屑は……!」



ズドンッ!

茶柱&最原チーム

最原「……あ。待って。見つけたかも」

茶柱「はい? いや、天海さんの研究教室は確かもうちょっと向こうで……」

バリンッ

最原「……散らばってる硝子片と瓦礫の位置がちょっと変だ。規則的すぎる」

茶柱「え。なんですかそれ。全然わかりません」

最原「ともかく僕の研究教室の中に入ってみよう。いなかったらいないで別にいい……」

最原「……」

最原「違う。なんで僕が行かなくちゃダメなんだ。天海くんが一緒ならその必要はない」

最原「天海くん! 迎えに来たよ! 白銀さんに話を聞きに来た!」

茶柱「……」

茶柱「出てきませんよ。空振りだったか、警戒されてるか、ですよね」

最原「わかった。じゃあ次の手だ。いるのなら、これで行ける」

最原「あー、あー、あー……よし!」







最原「お兄様! 迎えに来ましたわよ!(迫真の林原めぐみVOICE)」

茶柱「」


ドタバターーーンッ!


アマデウス斎藤「俺を! 呼んだな!」バァァァァァンッ!

茶柱「」

白銀「」

茶柱「」

バキィィィィッ

茶柱「いや……なんかもう……なんなんですかあなたたち……なんなんですか……」ドンビキ

茶柱「どっちが悪いのかわからなかったのでどっちも殴りましたけど……文句ありますか……」

最原「ごめん。手段を選ばなさ過ぎた」ズキズキ

天海「アマデウスの仮面が……そろそろ限界だから衝撃はちょっと困るんすけど……」ズキズキ

白銀「あー……見つかっちゃった」

茶柱「……見つけちゃいました。話、聞かせてもらっても?」

白銀「あまり有用な情報は本当に持ってないよ」

最原「それならそれで構わない。最悪でも十分程度、僕たちと一緒にいるだけでいい」

白銀「……何を考えてるの?」

最原「むしろ僕が聞きたい。キミは一体、何を考えてたの」

天海「……」

茶柱「?」

最原「最後の学級裁判についての情報を持ってるよね? なんでそれを素直に出さなかったの?」

白銀「……」




ズズウンッ……




茶柱「……揺れ、酷いですね。本当にここで事情聴取を?」

最原「したくないけど、仕方ないよ。他よりは無事だし、とりあえず中に入ろう」

最原「天海くん。蹴倒したドアは位置だけでも元に戻しておいてね」

天海「りょ、了解っす」

白銀「……ふふっ」

茶柱「……なんか、白銀さんちょっと元気になってません?」

白銀「う!」ビクッ

天海「友情パワーっす!」グッ

最原「……そこらへんも聞かせてもらいたいな」

残りをできる限り節約したいので気が向いたときでいい……感想を言うときはツイッターで共有ボタンを押して感想を添付してもらうと嬉しいです。

日常的にツイッターで検索しますので

最原の探偵教室の中

最原「……薬品類、奇跡的に無事だね」

天海「そうでなかったら中に入らないっすよ」

白銀「ここの薬品庫、ちょっとやそっとの地震だと絶対に壊れないようになってるんだよね。本当にシャレにならないものもあるから」

白銀「空気より重くて水に溶けやすい吸ったらほぼ確実に昇天するようなのとか」

茶柱「怖っ!」

最原「でもそのおかげでここが無事だったのか……」

天海「最初は俺の研究教室にいたんすけど……さっきの爆発が気になって、窓を見るついでに移動しようって」

天海「いつまでも同じ場所に潜伏するのも芸がないっすからね」

最原「そっか」

天海「……白銀さん」

白銀「……大した情報は持っていないっていうのは嘘じゃないよ。今更言ったところで手遅れなことが多すぎるし」

白銀「現状について知らないことはいくらでもある」

最原「それでも最後の学級裁判のことは忘れてなかった。だからモノクマを再生したんだろ?」

白銀「……」

最原「聞かせてよ。その手遅れな何かを」

最原「……元から僕の才能は悲劇を事前に壊すことには向いてない」

最原「起こった悲劇を解き明かすことしかできないんだ」

白銀「……後悔しないでよ」

天海「……彼女の正体について知ったのは結構最近っすよ。俺も」

天海「まあ知りはしても、納得したのはもっと後っすけど」

最原「天海くん?」

天海「動機ビデオのこと、覚えてるっすか」

最原「東条さんの事件のときの……だよね? 自分の大切な人が映ってるっていう」

天海「白銀さんの動機ビデオは『天海蘭太郎の動機ビデオと登場人物が同一』だったんすよね」

天海「王馬くんのピッキングで知ったんすけど」

最原「は?」

天海「茶柱さん、覚えてないっすか? 昨日の朝、王馬くんが全裸でフルチンで……」

茶柱「仮に覚えてたとしても二度と思い出したくないですし、忘れてたのならそのまま忘れさせてください」イラッ

茶柱「あのときですね。王馬さんに何か吹き込まれたんですか?」




王馬『内容が似てたんだよ。映ってる人物の詳細まで』

天海『……えっ』

王馬『まあ流石に冒頭部分の名前と超高校級の肩書部分に関しては違ったけど』

王馬『あとメッセージの内容もね』

天海『……それ、どういうことっすか? なんで……』

王馬『さて。天海ちゃんにわからないことなら俺にはわからないよ』






天海「勘のいい最原くんなら一瞬でわかるんじゃないっすか」

天海「ただでさえ、今までの白銀さんの行動には不自然な点が多すぎたんすから」

最原「……まさか……彼女は……」

天海「そうっす」

茶柱「え? え?」




白銀「前回のコロシアイを生き抜いた『超高校級の生存者』……その二人目、だよ」

白銀の回想

白銀(記憶は摩耗している。前のコロシアイについて覚えていることはほとんどない)

白銀(覚えているのは……主に大雑把な色彩イメージだけ)

白銀(赤かった。紅かった。朱かった)

白銀(とてもアカくて……私の記憶から赤以外の色が消えるくらい、地獄だった)

白銀(隣の人はみんな敵。そして、心強い味方だった。でも――)


バシャッ


白銀(みんな赤色に沈んでいった。色とりどりの表情を見せていた仲間たちは段々と減っていって……)

白銀(残ったのは……残った、のは……)






ザザッ

学園跡地

白銀「……行っちゃったね。二人とも」

天海「……うん」

白銀(私たちだけだった。あとの残った二人は、私たちがコロシアイというルールから叩き出した)

白銀(……これは必要な犠牲だった。そのときの校則には『生き残れるのは二人か一人まで』って明記してあったから)

白銀(私たちはその抽選からわざと漏れた)

白銀(このときの私たちは……楽観してた)

白銀(自己犠牲に酔ってたんだ)

白銀「もうこの学園には、私たち二人だけ」

白銀「随分減っちゃったなぁ……地味にビックリだよね。これだけの人が死んで、私たちはまだ生きてる」

天海「……そうっすね」

白銀(そこから起こるすべての悲劇も知らず、二人とも笑顔だった)

白銀(……あのときの空、曇ってたけど、明るかったな。赤以外でまともに見る、地味だけど優しい色彩)

白銀「……ねえ。天海くん。約束だよ?」

天海「?」

白銀「次の学園生活……絶対に私を――」






白銀「忘れないで。忘れても、きっと思い出してね」

天海「……うん。約束っすよ。次にどんなことがあっても俺たちはもう友達っすから!」ニカッ

天海「だから……安心して……安、心して……!」

天海「……ごめん。キミを、助けられなくって……死んでいったみんなのためにも、今を生きてる俺たちだけでも生きなきゃダメだったのに」

天海「俺は……俺、は」ポロッ

白銀「……」

白銀「うん。安心した」

天海「……?」

白銀「私たちは仲間のために泣けるんだよ。だからさぁ……嘘、だよね。どちらかがこの学園の首謀者になっちゃうとかさ」

白銀「絶対に嘘だよ……嘘に決まってる」

天海「……」

白銀「ごめん。天海くんが泣いてるのならさ、私はせめて笑ってないとダメなのにさ……!」

白銀「二人とも泣いてたら、二人とも役立たずじゃない? どっちかは真っ直ぐ立ってないと……」

白銀「……ううっ」ボロッ

天海「もう……いいんじゃないっすかね。二人して泣いても」

天海「強いから生き残れたわけじゃない。ただ運が良かっただけなんすから……!」

天海「……■■さん」ザザッ







白銀(……私には名前がない)

白銀(覚えているのは前の学園での才能。『超高校級の模倣犯』)

白銀(全体的な容姿すら、前の学校のときとは大分変わっているはずだ)

白銀(だけど、もはやそんなものに意味がない。私はもう、誰でもない)

白銀(……思い出されるべき名前すら失ってしまった)

現在

最原「……前回と容姿と名前が違うってことはありえると思う」

最原「じゃないと、外の視聴者から見て『誰が黒幕か』が一目瞭然だからね」

最原「……天海くん。どの程度違うの?」

天海「さて。それは俺の口からはとても」

最原「……」ジトーッ

天海「……」

天海「マジで覚えてないんすよ。ただ眼鏡だけはしてた、ような……?」

天海「ただ思い出すのに時間がかかったってことは本当に『全体的な印象がガラッと変わってる』んだと思うんっす」

茶柱「何……冷静に話してるんですか……?」ガタガタ

茶柱「容姿ですよ? そんなの人体改造されたようなものじゃないですか」

茶柱「……まずい。気分がかなり悪くなってきました」

最原(実のところ僕もだ。胸糞悪い)

最原「まだ大事なところを聞いてない。なんで白銀さんは黒幕に……違うな」

最原「なんでキミは『白銀つむぎ』になったの?」

白銀「天海くんは少し記憶を弄られた程度ですぐにコロシアイに参加したんだけどさ」

白銀「私だけは前回のコロシアイと今回のコロシアイの間に色々とあったんだよ。茶柱さん曰く人体改造的な?」

茶柱「……失言でした」

白銀「いいよ。事実だし」

白銀「……一番いじくられたのは脳かなー。模倣犯の更に上に『コスプレイヤー』の才能までガン積みだよ?」

白銀「痛みに錯乱して殺してくれー、とか言っちゃったよ。あっはっは」ケラケラ

最原(笑えない。何一つとして)

白銀「本来であればこの世界が『フィクションである』ということは絶対に漏らさないって縛りがあったからね」

茶柱「はい? 今なんと?」

最原「ごめん茶柱さん。後で説明する」

白銀「だから事前に思い出しライトを浴びまくったり、脳を改造されまくったりする必要があったんだ」

白銀「いざみんなに追い詰められたときにスラスラと、そのときに応じた『最適な答え』を提示できるように」

白銀「気付かなかった? 思い出しライトで『植えつけられる記憶』の内容って、学園に来てからの私が決めてたんだよ?」

白銀「ストーリーはほとんど即興ってわけ」

茶柱「……え。あの。あの……なんかさっきから言ってることがまったくわからないんですが……わからないなりに凄く恐ろしいことを言ってるような?」

天海「薄々感づいてたんじゃないっすか? わからないフリをしてるだけっすよ、それ」

茶柱「……!」ガタガタ

最原「あのさ。二人してあまり茶柱さんをいじめないでくれるかな?」イラッ

天海「……悪かったっすよ。ただ茶化さずにはいられなくって」

天海「あまりにキツいじゃないっすか。こんなの」

白銀「どのくらいの時間だったのか、もうまったくわからないよ」

白銀「だって『人生何回分もの記憶』を一気に頭に叩き込まれたんだからさ。記憶が摩耗しても仕方ないよね?」

最原「……違う。そこも重要なところだけど、僕が聞きたかったことじゃない」

白銀「え?」

最原「元はコロシアイのゲームに巻き込まれただけの……僕たちと一緒の、被害者だったはずだ」

最原「それがなんで黒幕になって僕たちを苦しめようって気になったのか。それを僕は知りたいんだ」

白銀「……」

白銀「天海くんは二回目だからわかるかな。最原くんは悲観的だから、理解できなくもないかも」

最原「なんだって?」

白銀「ねえ。こう思ったことはない? 『こんなに辛いのに、なんでまだ死ねないんだろう』って」

最原「!」

茶柱「?」

白銀「死を救いだと見紛ったことは? いや直接的に死ぬことを救いと認識しなくってもさ」

白銀「『全部忘れてしまいたい』って思ったことは?」

白銀「『もう二度と起きたくない』とか『寝てるとき目を瞑ったまま時間が止まればいい』とか」

天海「……」

最原「天海くん……さっきから驚いたりしてないってことは、既にこんな質問をされた後ってこと?」

天海「流石に勘が鋭いっすね」

最原「なんて答えた?」

天海「……『何も知らないまま死んでいった仲間のことを言ってるのか。ふざけるな』ってところっすね」

茶柱「……!」

白銀「あれ。そこまで強い言葉ではなかったけど」

茶柱「あなた……まさか、こう言いたいんですか?」ワナワナ







茶柱「転子たちを追い詰めたのは、単なる『親切心』だったと?」

白銀「巌窟王さんのせいで、今回は物凄くわかりにくくなっちゃったけどさ」

白銀「『この世界の仕組み』は残酷にできてるんだよ」

白銀「……外に希望を持って積極的に動くと死ぬ。これが私の知る中で『一番楽なヤツのパターン』だ」

白銀「運よく生き残ってもズルズルとコロシアイと言う名の地獄を延々と眺めるだけ。『二番目に最悪なヤツのパターン』」

白銀「最後の『一番最悪なヤツのパターン』は……」

最原「最後の学級裁判まで生き残って『真実を知ってしまったヤツ』……」

白銀「うん。そういうこと。そういうふうにできてるんだ。巌窟王さん抜きの、この世界は」

茶柱「だからって、死ぬことが幸せだとか、ふざけてるんですか! そんなの……!」

白銀「ここから出たところで何があるの?」

茶柱「は? いや、コロシアイから逃げられる……んですよね?」

白銀「そんなわけないよ。だとしたら天海くんの動機ビデオに『コロシアイから脱出した人間』が映るわけがない」

茶柱「……ッ!」

白銀「私はさ。頭に色々と改造を受ける最中で知ってしまったんだよね。この世界が何なのか」

白銀「この世界は私たちのことを何回でも追い詰める」

白銀「運よく生き残ったとしても、次回作でまた苦しめられる」

白銀「更にそこで生き残ったとしてもまだダメ。その次もダメ」

白銀「何回も地獄を見せられるんだ。『生きている限り』は何度でも。何一つとして終わらない」

白銀「何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も……」

茶柱「……天海さんの存在のお陰で、前回のコロシアイがあったことは知ってます」

茶柱「お、教えてください……このコロシアイは何回目のコロシアイなんですか……?」

白銀「五十三回目」

茶柱「――」







白銀「聞こえなかった? 五十三回目だよ」

最原「……なるほど。死ななければ終わらないんだね」

白銀「生きてる限り、大切な人を失う。生きてる限りは痛くて辛い目に遭う。生きてる限り……生きてる限りは……!」

白銀「永遠に戦い続けなければならない。負けたらその時点で死ぬんだよ」

茶柱「そんな……バカな話が……!」

白銀「唯一終わらせる方法はたった一つ。そうだよ。最初から私たちはその手段を持ってた」

最原「死ねばいい。死ねばその時点で地獄は終わる」

茶柱「……最原さん?」

最原「……なるほど。確かに間違いはないね」

茶柱「正気ですか! こんな……こんな終末思想、感化されたらその時点で心が壊れますよ!?」

白銀「心を壊すくらいなら死んだ方がマシだなって思わない?」

茶柱「この……!」ギリギリ

最原「思ったかもしれない」

茶柱「!」

最原「……仲間を失うっていうのは、とても辛いことだから。でも」

最原「今回はそうじゃなかった」

最原「……始まりはそうだったとしても、僕たちのコロシアイの中には異分子がいた」

最原「だからキミの行動原理のどこかに狂いが生じたんだ」

白銀「……」

最原「詳しく聞かせてよ。まだ終わらせるわけにはいかない」

最原「このコロシアイを真の意味で終わらせるためには、まだ足りない」

回想ワンモア

モノクマ「まったくもう! 巌窟王さんのせいで無茶苦茶だよ! 赤松さんのおしおきは邪魔されちゃうしさ!」

白銀「そこも、うん。ビックリっちゃビックリなんだけど」

白銀「まさかあんなガバい作戦が上手く行くなんて思わなかったなぁ。砲丸が完全に無駄になっちゃった」

白銀(そう。まさかあんな命中率の低い凶器が当たるだなんて思わなかった)

白銀(当たらなかったそのときは私が直々に手を汚す手筈だったのに)

白銀「ま、いいか。これはこれで面白いし」

白銀「最後の最後に全部ひっくり返す準備は既に整ってるしね」

モノクマ「……うぷぷ……うぷぷぷぷぷ……」

白銀「……ふふっ。じゃ、路線変更の準備しないとな」

モノクマ「え? 路線変更?」

白銀「あはは! モノクマ、私は彼に会うまでダンガンロンパを……いや」

白銀「フィクション全般を舐めてたみたい。でも彼のお陰で認識が変わったんだ!」ニコニコ

白銀「ただの伝説、創作でしかなかった巌窟王さんが、絶対に助けられない女の子を助けたんだよ?」

白銀「……力のある"嘘"は現実を歪める。炎が陽炎を生むように」







白銀「"嘘"は世界を変えるんだよ?」

天海「路線変更。これがこのコロシアイの違和感の正体っすよ」

天海「要は『誰も死なないまま進むコロシアイ』を白銀さんは許容したんす」

天海「……茶柱さんにはピンと来ないかもしれないんすけど、ほら。あれっすよ」

天海「『クリア可能という点においてフェアなゲーム』だったんすよ。これまでのすべてが」

最原「……その割には一人だけ危ない橋を渡ってた人がいるな」

最原「白銀さん」

白銀「……」

最原「巌窟王さんのことを煽り過ぎだよ。実際に殺されかけたよね?」

最原「どころか、僕たちのことも何回も追い詰めた。そのせいでもうみんな白銀さんに対する感情はボロボロだ」

最原「『死ななきゃ救われない』も『死ななくても大丈夫かも』にしても、さ」

最原「行動原理は変わっても行動そのものに大した違いは出なかったみたいだね」

茶柱「……ゲーム自体に乗らないって選択肢はなかったんですか?」

白銀「無理だよ。友達に迷惑かけられないし」

茶柱「……」

茶柱「動機ビデオの内容……のことですか。ここまで来たらそれしか考えられないですよね」

白銀「ここはまだマシなんだよ。死ぬことが幸せだなんて思わないけどさ」

白銀「……生きてる限り『死ぬより辛いこと』が続く」

白銀「もしも私が黒幕を降りたら、私たちが外に出した彼らが『死ぬより酷い目』に遭うかもしれない」

白銀「それなら天海くんをこの場で殺した方が勘定的には合理的だよね」

最原「でもその決意は無駄になった。巌窟王さんがコロシアイに巻き込まれたから」

白銀「……格好いいよね。彼。本当に格好いい」

白銀「なんで私たちの仲間は助けてくれなかったんだろうって思うくらい」

天海「!」ビクッ

白銀「……なんで、このコロシアイだったんだろう。なんで前回のコロシアイのときに来てくれなかったの?」

白銀「なんで……」

白銀「……ごめん。話逸れちゃったね。他に訊きたいことはある?」

最原「……確かにこれまで何回も酷い目には遭ってきた」

最原「巌窟王さん抜きだったなら、なんて考えるだけで震えが止まらないのも事実だよ」

最原「もしかしたら茶柱さんが死んでたかも。天海くんが、僕が、他の誰かが……」

最原「今頃残酷に死んでいたかもしれない」

最原「……でも理解できただけで共感はしないよ。死んだ方がマシだなんて絶対に思わない」

白銀「そう」

最原「ここまでは僕の感想。ここから先は質問」

最原「昨晩のことだ。キミ、巌窟王さん以外の誰かからも殺されかけたんじゃない?」

白銀「!」

最原「犯人の目星は付いてるから、誰にやられたのか、は言わなくていいよ」

白銀「元から言えないよ。すぐに眼鏡を叩き落されて、ほぼ何も見えなかったし」

最原「それはちょっと残念だな……でも今はいい。証拠は後で僕の方で揃えるから」

最原「その犯人は多分、なにかを見たんだ。裁判場に放置してあったモノクマカラーのパソコンから、何かを」

白銀「……あれを? ああ、そうか。出た直後に夢野さんに追い回されて施錠まで気が回らなかったな……」

最原「ねえ。今の話が嘘じゃないというのなら教えてほしい」

最原「多分犯人はそれを見て『キミに対する殺意』を確固たるものにしたはずだ」

白銀「……『みんなのオーディション映像』とかじゃない?」

茶柱「オーディション?」

最原「なくはないけど……多分違う。それなら僕も見たから」

白銀「……じゃあ、アレしかないかな。アレしかないだろうなぁ……」

白銀「黙秘していい?」

最原「……」ジーッ

白銀「はあー……わかったよ。でも怒らないでよ?」

最原「?」

白銀「卒業アルバム」

最原「……なんだって?」

白銀「何か面白いことあるかなってアンジーさんの部屋から、巌窟王さんの書いた学級日誌とノーパソのデータを盗んだんだよね」

白銀「暇だったから手慰みに、それを元にして卒業アルバムを作ってた」

最原「……はあ?」

天海「ちょっと待って、それ俺も初耳なんすけど」

白銀「誰にも言う気がなかったんだよ。だって私、悪役のまま死ぬつもりだったし」

白銀「……あのデータは暇潰しに作ったものだよ。その内に消そう消そうとは思ってたんだけど……中々ね」

天海「……ちょっと待ってほしいんすけど……」

白銀「なに?」

天海「新世界プログラム内、セミラミスさんの空中庭園の中に『白銀さんの研究教室とまったく同じ内装の部屋』があったっす」

天海「それと巌窟王さんが書いたっていう学級日誌の破損データ」

天海「あそこで何をやってたのかずっと疑問だったんすけど、まさか……!」

白銀「……言わせる気?」

最原「――」

最原(ぶちり、と頭の中で何かが弾けた音がした)

最原(この人は何を言っている?)




茶柱「……ああ。なんだ。よかった!」ホッ

白銀「なにが?」

茶柱「だって、そんなもの作ってたってことは、やっぱり」

茶柱「白銀さんは転子たちの仲間だったってことじゃないですか!」ニコッ

最原「――」

茶柱「おかしいと思ったんですよ。だって! 死んだ方がマシだとか本気で言う人がいるだなんて」

茶柱「……白銀さん。あなたは転子たちと生きたかったんじゃないですか?」

白銀「……」

茶柱「卒業アルバムが良い証拠ですよ! それなら転子たちは白銀さんを――」ニコニコ

最原「ふざけないでよ」

茶柱「え?」

最原「なんでそんなものを作ったんだ。なんで……なんでなんでなんでなんで……!」ガタガタ

天海「最原くん……」

グイッ

茶柱「最原さん!?」

最原(気付いたら白銀さんの胸倉を掴み上げていた。彼女は抵抗することなく気だるげな目線を僕に向けている)

最原「許すつもりはない。なかったのに! 生きてたところで関与しないのならどうでもいい、そう思って自分を納得させてたところだったんだよ!」

最原「白銀さん! ふざけないでよ! そんなものを作るくらい僕たちに未練があるのなら、なんで……!」

白銀「……友達が人質に取られてるも同然。さっきもそう言ったよね」

最原「言った! でもそれならそれでキミは僕たちに相談すべきだったんだ!」

最原「第四の学級裁判のとき、白銀さんは僕たちのことを嘲るかのように『仲間』だと連呼してたよね!」

最原「煽りだと思ってた。本心はそんなこと思っちゃいない。どの口で言ってるんだって思ってたんだぞ!」グイッ

白銀「……痛っ……!」

茶柱「最原さん! これ以上はやめてください!」

天海「……あのときの白銀さんはすり替わったアルターエゴだったはずっすよ。一応忘れずに」

最原「白銀さん。僕はキミに死んでほしくなかった。でもそれは白銀さん本人を心配してのことじゃない」

最原「白銀さんを殺すことで、僕の仲間たちに手を汚してほしくなかったからだ! キミ本人の命なんかどうだっていいと思ってたんだよッ!」

最原「なのに白銀さんはなんだよ。僕たちと生きたかった? 卒業アルバムを作ってた?」

最原「消そう消そうと思って、消せなかっただって……!?」

最原「これじゃあキミのことを憎んでた僕たちがバカみたいじゃないか……」

最原「これなら、記憶を失ってキミを無邪気に庇っている百田くんたちの方が余程……!」



パァンッ



最原「……っ!」

茶柱「……ダメですよ。これ以上は」

最原「……」パッ

白銀「……ボタン、外れちゃった……強く掴みすぎだよ」

今年の夏イベ……最高だった……! 水着イバラギンは引けなかったが……!
巌窟王を手に入れるため散って行った、数多くの諭吉に感謝を!

その副産物として宝具5になってしまった術ギルマンに敬意を!

イベ礼装ガン積みのお陰で交換素材は当然、ポイントも三百万を突破した!
楽しかった……俺が見たかった世界を高クオリティで出されたようなシナリオだった……!

燃料を大量投下された今、私を阻む者は何もない!


ありがとう……それしか言う言葉が見つからない……

最原(卒業アルバム……赤松さんがあんな態度を取ったのも頷ける!)

最原(彼女にしてみれば火に油を注ぐような行為だ!)

最原(……思えば僕たちは『単純な悪に対して団結する仲間たち』という構造に甘えていた。そうやって辛うじて立っていたんだ)

最原(外の世界に希望はないかもしれない。そう思っていたから猶更……!)

最原(……『悪役の白銀さん』が今までの印象を翻すようなマネをしたら……)

最原「こんなのもう復讐じゃない。何の正当性もない。ただの八つ当たりだ……!」

最原(僕たちの存在そのものが虚構なら、憎むべき対象すら虚構)

最原(……酷い喪失感だ。死んだ方がマシ? さっきは否定したけど、ここまでくると本当にそうかもしれない)

最原(どうしたらいい。どうしたら……!)

最原「……白銀さん。次の質問だ」

最原(それでも進むしかない……僕にはもう時間がないんだ)

最原「最後の学級裁判についてだよ。そこで一体何を議論すればいいんだ?」

白銀「ん。それは……当然の質問だよね」

茶柱「まあ、出題傾向がわからないと対策の立てようがないですし……」

白銀「まあ、大体の場合は最後の学級裁判で議論するのは『この学園の真実について』だよ」

白銀「最後に『この学園にどう決着を付けるか』の議論かな」

最原「どういうこと?」

白銀「過去作からの出題傾向から言って『この学園から出るか留まるか』を訊かれると思う」

茶柱「はあ? 出るに決まってるじゃないですか……」

茶柱「あ、いや。外の世界が滅んでたら確かに転子たちは野垂れ死ぬだけですけど……でも実際はそうじゃないですよね?」

最原(はっきり言って滅んでた方がよかったかもしれない)

天海「ここも案外悪いもんじゃないんじゃないっすかね」

最原「え?」

茶柱「ちょ、ちょっと。冗談ですよね?」

天海「巌窟王さんもいる。仲間もいる。白銀さんは俺の友達だった」

天海「外に出ても地獄なら、ここに留まって終わった方が幾分かは幸せかも……」

天海「……と、多少は思わなくもないっす。これが俺の本心っすよ」

茶柱「それは……」

茶柱「……ごめんなさい。それでも転子は外に出たいです! 約束が!」

天海「約束?」

最原「……」

最原「手に入った情報を一度すべて整理する。白銀さん、手伝ってくれる?」

白銀「私?」

最原「……そういう名目があれば生存率は上がるだろうし」

白銀「はは。優しいね」

最原「正直もう頭の中はぐちゃぐちゃだ。でもさ……」

最原「白銀さんを死なせるわけにはいかない」

白銀「損ばっかりするね。最原くん」

最原「自覚はあるよ」

茶柱「転子も手伝うんですよね? あと天海さん」

天海「ナチュラルに巻き込まれた……吝かではないっすけど」

最原「うん。それじゃあお願いしようかな……っと!」


ズズウンッ


最原「さっきから何なんだろう、この揺れ」

最原「……爆発じゃないな。確かめに行こうか」

校庭

ジャララッ ガシャンッ

セミラミス「三度目の拘束……成功! 今度こそ完全に自由を奪ってやる!」

キーボ「拘束。破壊します」ガシャンッ

セミラミス「やはり無理か」チッ

セミラミス「貴様……難易度設定を間違えているのではないか! ネロ祭にはまだ早いのだぞ!」プンプン

赤松「何を言ってるのかわからないけどセミラミスさん、真面目にやるの飽きた!?」ガーンッ

セミラミス「それとボックスガチャはどうした! 素材無限回収装置は!?」キョロキョロ

赤松「お願いだから真面目にやってよ! このままじゃ……!」


ボタボタッ


赤松「セミラミスさん、死んじゃう……!」

セミラミス「……まだ掠り傷だ。まだな。しかしそうだな……我はいつでも大真面目だが……」

セミラミス「そろそろ次の手段に移るべきかもしれん」

キーボ「!」

セミラミス「貴様も……我とこれ以上、ことを構えるつもりであるならば、それなりの覚悟をするがよい!」

セミラミス「デュエルディスクを準備してな!」ウィーンガシャンガシャンガシャンッ ピピッ

赤松「言ってる傍からこの人はーーーッ!」ガビーンッ

赤松「悪ふざけしてる場合じゃないって! キーボくんから攻撃が……!」

キーボ「……」ウィーンガシャンガシャンガシャンッ ピピッ

赤松「ええっ!? やる気だ!?」ガーンッ







セミラミス&キーボ「デュエル!」

キーボ「あ。初手でエクゾディア揃いました」

セミラミス「イワーーーーーーーーーク!」LP 4000→LP 0

赤松「一瞬で負けたーーーッ!」ガビーンッ

セミラミス「……」シュウウウウウ

赤松「だ、大丈夫?」オロオロ

セミラミス「デッキ枚数40枚のデッキのエクゾディアが初手で揃う確率は」タプタプタプ

セミラミス「658008分の1とカルデアのデータベースに書いてあるぞ貴様ァ! イカサマしたであろう! これを見よ!」バッ

※ムニエル編集。ロマン監修

赤松(スマフォ……)

セミラミス「我の幸運でも初手で四枚揃えるのが限界だったのだぞ!」バァーーーンッ

赤松(セミラミスさんも【エクゾディア】……)ズーン

セミラミス「まあよい。ならばリアルファイトで貴様を倒すのみだ!」

赤松「リアルファイトでダメだったからデュエルに持ち込んだんじゃなかったっけ?」

セミラミス「くくく。カエデよ。細かいことを気にしすぎると知恵熱で死ぬぞ?」

赤松「セミラミスさんは私のことバカだと思ってるけど、セミラミスさんの方が百ッッッ倍バカだからね!」

セミラミス「段々我に対しての敬意が蒸発してきてるなカエデ」イライラ

セミラミス「まあよい。どうせ勝つ気も逃げる気も最初からないのだ。我の言ったことを決して忘れるなよ」

赤松「……諦めないでよ! その内に誰か……そう! 巌窟王さんが来るかも……!」

セミラミス「早速忘れておるではないか! だからあやつは今、ここで失うわけにはいかぬのだ!」

セミラミス「この空間を決定的に壊せるのはあやつしかおらぬのだからな……!」ジャララッ

セミラミス「引き続き時間稼ぎしつつ情報を少しでも引き出す。できるだけ覚えておけよ……!」

キーボ「――いいえ。遊びはここまでです」ギュンッ

セミラミス「ん? 消え……」

セミラミス(ム? 違うな。懐に入り込まれ――!)



ズブウッ

校舎内

最原「一体何が起こってるんだろう。さっきから爆発とは違う衝撃が何度も……」

茶柱「誰かが戦っている……まさか巌窟王さんが?」

天海「彼くらいしか心当たりがないっすしね。その場合、相手はキーボくんしか該当者がいないっす」

白銀「一度撤退した相手にもう再戦してるの? なにか違和感があるんだけど……」




赤松「いやああああああああああああああああっ!」




最原「!」

茶柱「今の……赤松さん!?」

天海「急ぎましょう! 声はあっちからっすよ!」

白銀「赤松さん……!」ダッ

最原「あ、待って! 迂闊に行動するのは……」

最原(というか、こういうとき真っ先に走るのが白銀さんなのか……)

最原(とことん僕たちの独り相撲だったんだな)

茶柱「最原さんは傷を労わって全力疾走しないように!」

最原「……」





赤松&セミラミスチーム

赤松「あ……ああ、あ……!」ガタガタ

セミラミス「……ご、ほっ……! がああああああああああっ!」

グチャリ

セミラミス「貴様……人の腹に手を突っ込むとはどういう了見だ……!」

キーボ「……」グチャリ

セミラミス「があっ、か、かき回すな愚か者……!」



ドタドタドタッ



天海「赤松さん! 何が……せ、セミラミスさん!」

白銀「これは……相当まずい展開になってるみたいだね」

セミラミス「この常識外れのスピード……! 今まで出力を抑えていたな……」

セミラミス「は、ははっ。バケモノ……め……巌窟王のときですら本気でなかった……か」

赤松「もうやめてよキーボくん! 正気に戻って!」

セミラミス「よせ……! 新世界プログラムを破壊した今となっては、そんな叫びに何の意味もない」

赤松「え?」

天海(なんで新世界プログラムの話に……)

白銀「……!」

セミラミス「くそ。離せ! 我は……我はまだ……!」ググッ

キーボ「ここまでです」



グシャリッ



セミラミス「……あ」ゴホォッ


ビシャッ


セミラミス(……ここまで……か……)ガクリッ

赤松「あ、あ……ああ……! やめて……お願い、やめて……!」ガタガタ

天海「セミラミスさん……!」

キーボ「……急所は外しています。まだ利用価値がありますので」

キーボ「状況終了。離脱します」

白銀「キーボくんっ!」



ドシュン!



天海「……逃げたっすね」

天海「違う。俺たちのことを脅威ともなんとも捉えていない……と考えるべきか!」

赤松「セミラミスさん……そんな! こんな別れ方ないよ……! こんなの!」

白銀「……赤松さん」

赤松「……」

赤松「……なんで白銀さんがここにいるの?」ユラァッ

白銀「ッ!」

赤松「……」



スタスタスタ



最原「……ごめん。遅かったみたい、だね」

赤松「!」

最原「状況を教えてくれる?」

数分後

最原「セミラミスさんが連れ去られた、か」

赤松「急所は外したって言ってたから、殺すつもりはないんだと思う」

赤松「でも……」

天海「イヤな予感しかしないっすね。サーヴァントを連れ去るとか、その後で何を考えていたとしても不思議じゃないっす」

茶柱「ええと……サーヴァントの利用価値とかに関して一番詳しいのって……」

最原「巌窟王さん本人が一番かな……」

茶柱「じゃあ次は彼に事情聴取ですか?」

最原「いや……その必要はないかもしれない」

赤松「どういうこと?」

最原「これだけ大騒ぎしたんだ。キーボくんもいなくなった」

最原「遠巻きに見ていた人たちも全員こっちに向かってくるんじゃないかな」



スタスタスタッ



百田「おーい……」

最原「あ! ほら! 言ってる傍から百田くんがこっちに……!」


ズザザッ


百田「悪ィ! デッキの構築に時間かかっちまった! もういつでも闘れるぜ!」ドン☆

最原「何を!?」

天海「なんでデュエルディスクを付けてんすか!?」ガビーンッ

百田「出てこいよキーボ! 次は俺の【E・HERO】で相手してやるぜ!」ドン☆

バキィッ

茶柱「……この状況でふざけてるんですか? バカだバカだとは思っていましたが救い難いバカですね」ゴゴゴゴゴ

百田「ええっ!? いや違うんだって! キーボはさっきまでデュエルしてたんだって! だから……」

茶柱「赤松さんと、せ、せみらみす? さんが大変なときに何を言ってるんですかあなたは! 少しは真面目になってくださいよ!」プンプン

赤松「……なんだろう。自分のことみたいに恥ずかしい……」カァァ

最原(ああ……なんか、なんとなくわかっちゃった……)ズーン

数分後

最原(そうこうしている内に、生徒たちは全員集まった)

最原(百田くんは春川さんに『勝手に飛び出すな』と怒られたりしたけど……)

最原(あとそれに便乗した茶柱さんに怒られたりしていたけど)

最原(その光景を見ていた赤松さんが終止申し訳なさそうな顔をしていた)

最原(そして説教は終了。全員の意識は白銀さんの方に向くことになる)

アンジー「……結局、終一に先を越されちゃったかー」

黒焦げの王馬「で? どうするの? 内ゲバ第二弾に突入しちゃう? げほげほっ」

夢野「それは遠慮したいのう……ちょっと待て王馬。なんで黒焦げになってるんじゃ」

黒焦げの王馬「なんか猫っぽいマスコットのような影を追ってたら急に爆発して……」

夢野「は?」

入間「そうだ! それだよ! 爆発! そのせいで俺様たちが仕掛けた赤外線センサーが全部パァだぞ!」

星「正確に言うと衝撃で方向が変わっただけだから設置しなおせばいいだけだが……」

星「ここに白銀がいる以上、結局無用の長物であることに変わりはない」

白銀「……」

最原「……あのさ、みんな。白銀さんへの尋問は僕がやったから」

東条「え?」

最原「結局のところ、彼女は有用な情報を持っていた。それを自覚していなかっただけなんだ」

最原「この状況において、彼女ほど強力な証人は存在しないと断言するよ。だから」

最原「……彼女に手を出すことは僕が許さない!」

獄原「え。それって……!」

百田「終一?」

真宮寺「へえ。度胸があるネ。それとも自分が言っていることの意味がわからないのかな」

真宮寺「キミは今、さっきまで白銀さんへの尋問を強行しようとしていた僕たちに喧嘩を売ったも同然なわけだけど」

百田「!」

最原「……」

最原(落ち着け……さっきとは状況が違うんだ。彼らの説得はもう、難しいことじゃない!)

最原「勘違いしないでほしいんだけど、僕は別に拷問そのものに反対はしてないよ」

百田「……はっ!?」ガーンッ

春川「最原?」

最原「拷問で引き出した情報だろうと、尋問で引き出した情報だろうと、それ単体では決定的な証拠にならないのは共通している」

最原「ましてや、この法から隔絶された状況で『拷問はダメ』って言ったところで空々しいのも事実だしね」

入間「テメェ! 一体どっちの味方なんだよ!」

最原「ただし、どちらの場合においても重要なものがある。拷問でも尋問でもさ」

最原「……証言者の身の安全が保障されない限り意味がないよね?」

獄原「ん……?」

東条「それは……そうでしょう。証言と他の証拠を照らし合わせるとき、どちらか片方が無くなっている状況なら意味がないもの」

最原「キミたちの中に巌窟王さんと結託して、白銀さんを殺そうとした人がいる。昨晩のことだ」

全員「!」ザワッ

百田「お、おい終一……それってマジで言ってんのか?」

赤松「……」

最原「本気だよ。僕は」

最原「……だから拷問なんてさせるわけにはいかない。『勢い余って』とか『何らかの事故で』とか、そういうふうに見せかけられる状況を作るのは反対だ」

最原「まだ白銀さんへの殺意をくすぶらせている人がいる限りは! 絶対に!」

星「仮にそれが本当だったとして、だ。それなら白銀への尋問は許可してくれるんだろうな?」

星「当然、暴力行為は一切無し。立ち合いも好きなヤツを入れればいい」

星「事前に知らせてくれなければ最後の学級裁判に挑むこともできやしねぇ」

星「ただでさえ、最後の学級裁判そのものが謎だらけなんだ。その程度は許してくれるんだろうな?」

最原「条件付きで許可するよ」

星「……なに?」ピクッ

最原「今すぐに昨日、白銀さんを殺そうとした犯人が『自白』してくれること。これが僕の条件だ」

赤松「ッ!」

最原「それが成されない場合は……最後の学級裁判のときになるまで白銀さんの証言は全部僕が管理する」

最原「誰と共有するかも、僕の独断でね」

百田「んなっ……!」

春川「ちょっと待って。最原、いくらなんでもそれはないよ。逆効果だ!」

最原「それでも!」

最原「……犠牲やリスクなしで先には進めない。僕の知りたい真実は、まだここよりずっと先にあるんだ!」

獄原「……具体的に……その最原くんの独断で切り離される人って、誰?」

最原「新世界プログラムから出て来た人ほぼ全員。天海くんは例外」

最原「安心してよ。証拠として扱う以上、最後の学級裁判のときには絶対にみんなに知らせるから」

入間「じょっ……冗談じゃねぇ! それまでどんな真実が眠っているか、俺様たちにビクビク縮こまって過ごしてろって!?」

最原「もう一回言うよ。白銀さんを殺そうとした、巌窟王さん以外の犯人が自白さえしてくれれば、僕は何も隠さない」

入間「んなヤツいるかどうかわかんねぇだろうが!」

最原「いる! 絶対にいる! だからダメなんだよ!」

最原「その人が名乗り上げるまでは、僕は協力する人を選ぶよ。白銀さんは大事な証人なんだ! 絶対に誰にも触らせない!」

入間「……!」

東条「……本気のようね。ここに来て仲間を突き放す言動をするなんて……」

東条「最原くん。何があなたをそこまで追い詰めたの?」

最原「……」

最原「僕は……みんな揃って外に出たい」

百田「終一……」

最原「そのためならどんなことだってやってやるって思ったんだ」

最原「白銀さんも、キーボくんも含めて、みんな外の世界に連れて行く!」

最原「この命にかけて……この牢獄から脱出するんだ!」

春川「……でも、それでこれから先どうする気なの?」

春川「最後の学級裁判について私たちは何も知らない。どこで開催されるかすらもね」

春川「最後のってくらいだから、いつもの裁判場じゃない可能性だってあるよね?」

最原「モノクマに訊けばわかるよ。今は復活して学園のどこかにいるはずだから」

最原「……捜査は僕が主導する」

真宮寺「認めるとでも?」

最原「認めなくても構わないよ。でも……」

最原「白銀さん憎しで団結してたみんなが、今も同じように団結できる?」

最原「……自分の身可愛さに条件を飲んでない人がいるのに?」

赤松「ッ!」

最原「……話は一旦ここで終わりだ」

赤松「最原くん……!」

最原「……」






最原「悪いとは思ってるよ」

マジだ。マジで復活してる

やっべぇよ。暇潰しに書いてた番外編まだ終わってないのに。スプラトゥーン買ってめっちゃ遅れてるよ。

こっちすぐ終わらせるから待っててね!

セミラミス「物凄い退屈なのでカルデアを練り歩く」 - SSまとめ速報
(https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1536142341/)

と言ってもほぼサボってるに等しい状況だったから本復活には時間かかりますけどね。番外編もその気になれば明日には終わる分量とは言え。


あっちの番外


セミラミス「物凄い退屈なのでカルデアを練り歩く」


は、ぐだが女性という相違点はあるものの、ほぼ『虚構殺人遊戯:才囚学園が始まる前に大体こんなことがあったはず』という前提で書きました。
チョコパスタとか漬け置きサングリアとか空中庭園に潜む意味不明なキャストだとかなんだとか。
あとはオチを付けるだけなのでこっちの復活は本当ちょっとだけ待って……

俺自身久しぶりで作品の内容は忘れちゃったんで、長期ジャンプアニメにありがちな総編集入れます。すぐ終わる!

カルデア ダヴィンチ工房

ダヴィンチ「……」カタカタ

ダヴィンチ「……ふぅん。これがモンテ・クリストが定期的にBBに送っていた『学級日誌』か」

ダヴィンチ「なるほどなるほど。これは確かに……女神たちが手を貸すのも納得の、興味深い物語だね」ニヤァ





総編集 巌窟王の学級日誌





ダヴィンチ(始まりはカルデアの時間軸では、ほんの少し前。きっかけは今となっては物凄くくだらないことだった)

ダヴィンチ(BBが違法改造したコフィンを使い、巌窟王をレイシフトさせた際に起きた事故が原因で、彼は未知の世界に飛ばされることとなる)

ダヴィンチ(閉鎖空間『才囚学園』。そこは『超高校級』の肩書を持つ特殊な才能を持った生徒たちが殺し合う、まさしく地獄の園だった)

ダヴィンチ(紛れ込んでしまった巌窟王自身、脱出が不可能の身となり、紆余曲折を経て……)

ダヴィンチ(……とは書いてあるけど、なんやかんやあっさり快諾したんだろうなぁ)

ダヴィンチ(巌窟王は生徒……夜長アンジーをマスターとして、才囚学園からの脱出という利害の一致を基にした同盟関係を結んだ)

ダヴィンチ(脱出のため。そして、巌窟王自身の矜持のために)

ダヴィンチ(それが生徒全員の……いや。巌窟王の中の歯車さえも軋ませる災厄の始まりだとは、このときは誰も想像していなかった)

第一章
私と僕(と俺!)の学級裁判

ダヴィンチ(隣の生徒を生徒が励まし合い、なんとか協調を保とうとしていた最初の数日)

ダヴィンチ(だけど、その日々はモノクマの設けた『タイムリミット』によって揺らぎ始める)

ダヴィンチ(そして……最初の犠牲者、巌窟王の発見によってコロシアイはついに幕を開けた)

ダヴィンチ(開けたはず、なんだけど。いやこれ開けたのか?)






回想

ピンポンパンポーン


アナウンス『死体が発見されました! 一定の自由時間の後、学級裁判を始めます!』

最原「そ、そんな……!?」

巌窟王「始まるのか……学級裁判が!」ギンッ

茶柱「そんな! 巌窟王さんを殺した犯人を、命懸けで見つけろと!? そんなの……」

茶柱「……」

茶柱「……ん? なんか今、変じゃありませんでした?」

夢野「何がじゃ?」

茶柱「いや……まあいいんですけど……?」

真宮寺(死んでなくない?)

白銀(死んでなくない?)

東条(死んでないわね?)

星(死んでねーじゃねーか)

獄原(あー、無事でよかったー!)キラキラキラ

モノクマ(なんかいまいち絶望感が足りないな……? まあいいや)

ダヴィンチ「まあ……うん。なんだ」

ダヴィンチ「最初の時点でデスゲームとしては破綻してるよね? なにせ死んでないんだから!」ケラケラ

信長「敦盛ィ!」ギュイイイイイインッ

ダヴィンチ「あ。編集したCDならそっちのテーブルの上に置いといたから勝手に持ってってー。お代は既に頂いてるからね」

アルテミス「……」

アルテミス「え? ダヴィンチ工房、閉めてないの? この調子で独白形式で進めて行くものかと思ったのだけど」

ダヴィンチ「ん? 別に記録を読むのくらい片手間でできるしね」

アルテミス「いやあなたがそれでいいのなら、いいのだけど」

ダヴィンチ「最初の殺人事件(?)の犯人は赤松楓で巌窟王はタイムリミットとかの事情も省みて全部許して大体全部ぶち壊して解決しました!」

ダヴィンチ「はい終わり!」

信長「敦盛ィ!」ギュイイイイイイインッ

アルテミス「雑ねっ!?」ガビーンッ






回想

赤松「もう一度信じてみる」

最原「えっ?」

赤松「最原くんを……巌窟王さんを……みんなを……!」

赤松「今度こそ地に足の付いた、私にできるやり方で」

最原「赤松さん……」

巌窟王「それでいい。反省会など外に出た後でやればいいのだ」

巌窟王「モノクマ! 貴様は言った! 全員揃っての脱出の目などありえないと!」

巌窟王「ならば俺のやることは一つだけだ! その傲慢さを必ず圧し折り、叩き潰し、地に引きずり降ろして泥を付け……!」

巌窟王「絶望の淵に叩き込んでやる!」

百田「わかるように言え! 巌窟王!」

巌窟王「つまりこういうことだ! 全員揃って脱出する! それが! この場における俺の理念だ!」

最原「……!」

第二章
その限りなく地獄に近い天国に光は差すか

ダヴィンチ(結局、決定的な悪意は存在しなかった前回の事件とは違う。この事件は明確な悪意を持って行われた)

ダヴィンチ(最初の事件が完璧なハッピーエンドだったという油断を利用して、狡猾な犯人が牙を剥いた形になるのかな)

ダヴィンチ(本当のコロシアイはここからが本番だった)

ダヴィンチ(夜長アンジーの魔術師としてのスペックの向上)

ダヴィンチ(謎の高校生、アマデウス斎藤の襲来)

ダヴィンチ(その他、最原終一が巌窟王から『とあるスキル』を借り受けたりしたのだけど……学級日誌にはこれ以降記述がほぼない)

ダヴィンチ(まあサーヴァントのスキルを一部分とはいえ、まともな人間が使ったら結構危険だから別にいいんだけど)






回想

最原「え、い、いや。あれどう見ても天っ……」

天海?「そう! 俺こそがこの学園に閉じ込められた十七人目の高校生!」

天海?「キミたちを導くために現れたミステリアスボーイ!」

最原「いやだからキミ、天っ……」

天海?「才能不明! 本名不明! 素顔不明! すべてのミステリアスの生みの親ァァァァァァッッッ!!」

最原「だからキミって絶対に天海っ……!」

アマデウス斎藤「超高校級のミステリアス! アマデウス斎藤! ここに推参!」ドジャァァァンッ!

アマデウス斎藤「イエエエエエエエエエエエエエエエエイッッッ!!」ドカァァァァァンッ!

最原「……」

最原(救いようがないほどダサイーーーッ!)ガビーンッ!

ダヴィンチ(平和だった時間を嘲笑うかのように事件は起こる)

ダヴィンチ(今度の被害者は……またしても巌窟王だった。凄いなこの人。何回死ぬんだ)

ダヴィンチ(まあただ、結局蘇ったんだけど。あの空間、形而学上のものすら外に出さないらしいな。故に死んでも復活に必要な『何か』は残る)

ダヴィンチ(……ちょっとした結界だな、これ。だとするとあの世界の正体って……)

ダヴィンチ(おっと。思考が脱線しかけた。話を戻そうか)

ダヴィンチ(この事件は巌窟王が、犯人のある秘密を隠そうとちょっとだけ暗躍したんだけど)

ダヴィンチ(結局、最原終一に阻まれた。犯人は東条斬美であり、その行為にはありったけの悪意が注がれていたことは明るみに)

ダヴィンチ(この事件を境に、生徒同士に絆が産まれたことは事実だ。でも……こんな状況だったことが災いする)

ダヴィンチ(この空間で、ある種健全な関係など産まれない。知らない内、段々と歪みと亀裂が彼らの絆に混ざっていく)

ネロ「……」キョロキョロ

ネロ「神祖ロムルスがどこに行ったか知らぬか?」

ダヴィンチ「ローマの噂してれば出るんじゃない?」

ネロ「そうか。ローマ!」ビシイッ

カエサル「ローマ!」ビシイッ

カリギュラ「ロオオオオオオマアアアアアアアアアアア!」ビシイイイイッ

ダヴィンチ(うるさいなー。早く続きを読ませローマ!)ビシイッ




回想

東条「……え、と。巌窟王、さん」

巌窟王「もう何も言わなくていい。早く仲間たちのところへ戻るぞ」

東条「私は……」

巌窟王「裏切り者だから、か? ならばもう一度やり直せばいい」

東条「!」

巌窟王「……そうだろう? 最原」

巌窟王「ン? 最原?」

最原「」チーン

東条「……多分だけど、吹き飛んだモノスケの頭がモロに後頭部に当たったようね」

巌窟王「だから離れていろと言ったのだ」

最原「う、うう……大丈夫。気絶はしてないから」フラフラ

巌窟王「戻るぞ」

最原「うん」

一か月ぶりだから段々思い出せてきたぞ……!
あ、続きは明日。『やりたいシーン』だけは覚えてるんですけど『やったシーン』に関しては記憶が朧気なのでもうちょっとつきあってください

第三章
Unlimited 在校生 Works

ダヴィンチ(これを第三の事件と称するのには語弊がある。でも、このゴタゴタは事件と称する他ない)

ダヴィンチ(混乱。混沌。恐慌。あらゆる手段を尽くして行われた生徒全員への撹乱行為)

ダヴィンチ(巌窟王すら手玉に取るとは、やるじゃないか。彼)

ダヴィンチ(しかし事件発生までのモラトリアムの間に色々あったみたいだなぁ。何コレ。シリアスなヤツからコメディなものまで彩緑だし)

ダヴィンチ(……巌窟王、生徒たちのことを相当見てるな。正しく認識してるかはともかくとして)

ダヴィンチ(春川魔姫の真の才能、暗殺者の発覚と記憶喪失)

ダヴィンチ(汚れ役を引き受けた最原終一と、それに反発する茶柱転子の軋轢)

ダヴィンチ(そして……)

ダヴィンチ「ぶふっ……ここの記述だけ動揺しすぎだって……」プルプル

ダヴィンチ(仮のマスター、夜長アンジーの恋情! それも相手が、巌窟王を舌戦で一度打ち負かした実績のある最原終一!)




回想

巌窟王「……」

巌窟王「……そうか……」

巌窟王「よし。燃やすぞ?」

最原「」

赤松「やめてーーー! お願い、巌窟王さん落ち着いてーーー!」ガビーンッ!

百田「アンジー! 冗談だよな!? 冗談なんだろ!?」

アンジー「冗談じゃないよー! 本当に終一と結婚したいんだってー!」キラキラキラ

キーボ「わあ。素敵な笑顔」

入間「ダサイ原にとっては悪魔の笑顔だけどな……」

春川「えーと、なに? 状況がよくわからないけど……」

春川「おめでとう?」パチパチパチ

王馬「おめでとー!」パチパチパチ

アマデウス斎藤「静まりたまえー! 静まりたまえー!」

獄原「その仮面まだ持ってたの!?」

ダヴィンチ(結局のところ事件そのものの構造は簡単だ。今回から巌窟王は直接的な被害者になることはなくなった)

ダヴィンチ(まあ間接的な被害者になったんだけどね!)

ダヴィンチ(今度の被害者は才囚学園での仮マスター、夜長アンジー。その他巨大な木造建築やら、前回犯人だったメイドさんやらが傷つけられたけど)

ダヴィンチ(それらはすべて夜長アンジーの事件のカモフラージュに過ぎなかった)

ダヴィンチ(犯人は真宮寺是清。偏屈な彼にしては珍しいことに、最原終一と協力しての大立ち回り)

ダヴィンチ(まあ、結局最後には対立しちゃうんだけど)




回想

真宮寺「……」

真宮寺「……く、ククク。これで僕を助けたつもり……?」

最原「……」

真宮寺「甘いヨ。あのまま巌窟王さんに任せておけば……全部丸く収まったはずなのに」

百田「真宮寺」

真宮寺「僕は自分が間違ったことをしたなんて思ってないんだヨ。だって愛は……」

百田「真宮寺」

真宮寺「……愛は永遠なんだ。キミたちには理解できないかもしれないけど、僕は――」

バッキィッ

真宮寺「がはぶっ」バタンッ

百田「ちょっとでいい。寝てろ」

百田「あと頭冷やせ」

キーボ「スッキリしたとか言ってたのに!」ガビーンッ

百田「いやなんかうるせぇしよ」

最原「……」

第四章
虚構殺人遊戯:才囚学園、改め、架●●理●園ダンガンロンパ

ダヴィンチ(ここが山場。巌窟王が最後の一線を越えてしまった転換点)

ダヴィンチ(いやポイントオブノーリターン? どっちでもいいか。ひとまずこれで巌窟王が元に戻る可能性は限りなく小さくなった)

ダヴィンチ(実のところ、ここから巌窟王の学級日誌は資料としての価値がなくなる。巌窟王がこれ以降、まともに筆を握れなくなるからだ)

ダヴィンチ(だから仕方ない。私が付け加えるとしよう。どっちにしろ報告書にまとめる必要があるからなー)

ダヴィンチ(ええと……ケツァルコアトルとか……が夜長アンジーや学園そのものに対して干渉を開始……)

ダヴィンチ(内容は……夢による強化、学園の一区画の迷宮化、その他女神の加護の押し売り……目も当てられないなぁ!)

ケツァルコアトル「あの子たちに高さをプラスデース!」グッ



回想

エウリュアレ『病院なら無意味に迷宮化させたので簡単には出れないわよ』

最原「え? あ? あ、本当だ。なんか間取りが全体的にありえないことになってる!」ガビーンッ

百田「し、しかも引き返せなくなってんぞオイ! さっきの扉はどこだ!?」キョロキョロ

ドスンッ ドスンッ ドスンッ

最原「……なに、この音。何かがこっちに近づいてきてるような……」

ミニチュア太陽神殿「デース!」ドスンッ

ミニチュア太陽神殿「デース!」ドスンッ

ミニチュア太陽神殿「千里の道も一歩からデース!」ドスンッ

最原(あのなんだかよくわからないオブジェが飛び跳ねながらこっちに向かってきてるーーーッ!)ガビーンッ

百田「……」

百田「あぶあぶあぶあぶ」ブクブク

最原「百田くん! 気をしっかり持って! このままだと多分押しつぶされる! 走って!」ユサユサ

ミニチュア太陽神殿「飛び跳ねて移動するの飽きたのでスライドで移動しマース!」スイーッ

最原「うわあああああああ! 動きがひたすら気持ち悪いーーーッ! しかも早ッ!」

百田「ああああああああああああ! ぎゃああああああああああああ!」ドタターッ

最原「ああ、待っ……先に行かないで百田くん! 百田くーーーんッ!」

ダヴィンチ(物語は変転する。黒幕の現出によってあっさりと)

ダヴィンチ(前提は覆される。黒幕の都合で跡形もなく)

ダヴィンチ(そして……サーヴァント目線では途中から映像がブラックアウトする)

ダヴィンチ(この後の展開はすべて生徒からの伝聞……を伝え聞いたサーヴァントたちの更に伝聞だ)

ダヴィンチ(事件は『起こらなかった』。でも裁判は行われた)

ダヴィンチ(実際に起こっていない架空の事件を議論した末に、現れたのは首謀者。『白銀つむぎ』)

ダヴィンチ(悪辣な罠によって二手に分断されてしまった生徒および巌窟王はどうなってしまうのか……!)

ネロ「神祖ロムルスはどこに行ってしまったのかーーーッ!」ボエエエエエッ

カリギュラ「ウオオオオオオオ! ロストオオオオオオオオオ!」ボエエエエエエッ

ダヴィンチ(超うるせぇ。あんな大男普通どっかに消えたりしないって……)

ダヴィンチ(……してないよね? いやまさかこんなくだらないことが伏線だったり――)




回想

巌窟王「……」

巌窟王「アンジー」

アンジー「……」ビクッ

巌窟王「俺を、捨てるのだな?」

アンジー「あ……あ……いや……」ポロッ

最原(……アンジーさんは、何度も首を横に振る。でも、巌窟王さんは振り向いてないから、わかってない)

最原(そして……アンジーさんは巌窟王さんの顔を見ていないから、巌窟王さんの表情に気付いてない)

巌窟王「……そうか」

最原(その顔は、この最悪な状況にしては似つかわしくないほどに……)

最原(安心しきっていた)





巌窟王(よくやったな。アンジー)

ああ九十パーセントほど思い出せてきたかも!
あと誰に何を言われようと一レスで終わるような出オチは絶対にやめないだろう。性分なので

ダヴィンチ(さて。ミスの話をしよう。首謀者の彼女は一つだけ致命的な誤りを犯した)

ダヴィンチ(推理小説のノックスの十戒は、なにも『探偵役側』を縛り付けるだけの不自由なルールではない)

ダヴィンチ(なんなら、それは本質ではないと断言できる)

ダヴィンチ(あのルールは『犯人役側』を縛り付けるルールでもあった)

ダヴィンチ(つまり『相互の力関係を常に一定に保つために必要なルール』。それがノックスの十戒の正体だ)

ダヴィンチ(真の意味でのワンサイドゲームなど、誰が楽しむ? どこかに光はあるはずだと信じる心が勝算を産むのは確かだが)

ダヴィンチ(光なんてどこにもないという現実を作り出し、あまつさえそれを相手側に見せびらかすのは絶望でもなんでもない。相手の息の根を止めている)

ダヴィンチ(探偵と犯人の力関係はある一定のラインで公平でなければならない。ならば……)

ダヴィンチ(フェアさを捨てた時点で、相手がアンフェアに頼るのは当然の帰結だ)

ダヴィンチ(具体的に言うと、サーヴァントが本気で手を貸すような状況を作り出したのは、紛れもない首謀者のミスだろう)

ダヴィンチ(……それ言ったら最初の時点で巌窟王を呼び出したことそのものが、探偵側のズルだって? そこはほら、棚に上げよう)







ダヴィンチ(すべては必然。サーヴァントたちが手を貸そうという気になったのは、そういう気に『させられたから』だ)

ダヴィンチ(きっと彼らは、誇っていい)

イベントのことを失念し、予定が狂ったので本編開始は金曜からとなりました。総編集は明日で終わりなのだ!

第五章
Cosmos in the lostmemories

ダヴィンチ(ここから先は、特に言うことは何もない)

ダヴィンチ(失われた記憶を取り戻す物語)

ダヴィンチ(取り上げられた仲間の元へ帰る物語)

ダヴィンチ(取りこぼした物の未練を断ち切る物語)

ダヴィンチ(そして――すべてのピースが揃う物語だ)




回想

最原「百田くんっ! 春川さん!」

真宮寺「ダメだヨ最原くん! エグイサルが関節を完全に極めてるとは言っても、よろめいて倒れたりしたら潰される!」

赤松「……あの音。機体が軋んでるみたい。エンジンとかモーターとかを規定の限界以上まで駆動させてるんだ」

赤松「あの状態が続けばモノタロウが乗ってる方のエグイサルは三十秒も持たない、けど……!」

真宮寺「その代わり、通常のエグイサル以上の馬力を出せるってことだネ」

真宮寺「……ところで気のせいかさっきよりエグイサルが密着してない?」

赤松「気のせいじゃない。コクピットからの音がもうほとんど聞こえない! エグイサルの機体が塞いでるんだよ!」

赤松「あの状態で自爆なんかされたら……!」

最原「そんな……そんな!」

最原(ここまで誰も死なずにやってこれたんだぞ……このエグイサルを潰せば、やっと僕たちの勝ちなんだぞ!)

最原「諦めたくない……諦めたくないよ……!」

最原「こんなところでお別れなんてイヤだ!」

赤松「最原くん……」

最原「くそっ! くそっ! くそおおおおおおおおおおおおおおっ!」ダンッ

巌窟王「……」スタスタ









最原「……」

最原「ん?」

巌窟王「最原。どちらのエグイサルが味方だ?」

最原「ええっと、その比較的損傷が少ない、抱き着かれてる方……」

巌窟王「そうか。わかった」ボォウッ





ドガシャアアアアアアアアアアアアンッ




巌窟王「よく頑張った。後は俺がやる」ゴキンッ

ダヴィンチ(さて。報告書にはここまで書けばいいだろう。ここから先に何が起こったところでカルデア側にはもう関係ない)

ダヴィンチ(深入りさえしなければカルデアに損害は一切ないのだから)

ダヴィンチ(ないよね?)

ネロ「やはりロムルスが見つからぬ! ので! ちょっと大声で歌うぞ! 余の美声にきっと釣られてやってくるに違いない!」スチャッ

ダヴィンチ「!?」ガビーンッ

エリザ「助太刀するわ!」スチャッ

ダヴィンチ「!?!?」ガビビーンッ

ネロ&エリザ「ぼえー!」キィィィィンッ

ダヴィンチ(避……否。死)バターンッ





キィィィィンッ

才囚学園

王馬「……?」

夢野「どうしたんじゃ。王馬」

王馬「今なんかすっげーイヤな音が聞こえたような……」ニガニガ

獄原「ぐはっ」バターンッ

赤松「きゅー」バターンッ

入間「ゴン太とバカ松の二人が倒れたぞ!」ガビーンッ

白銀「新手のスタンド攻撃かな?」

王馬「まあ本筋には掠りもしないから多分すぐに起きると思うけどね」

夢野「え。何言っておるんじゃ?」

王馬「饗宴の再開だぁ……あるいは狂宴の……」ニヤァ

夢野「え!? 何言っておるんじゃ!?」ガビーンッ

天海「最原くん!」

最原「えっ? えっ、何?」

天海「再開っすよ!」ババァーンッ

最原「何が!?」ガビーンッ







?????「始まるよ」

王馬「本題に戻るけど、要は最原ちゃんは『自分一人の力で真実に辿り着いて見せる。他は足手まといなので余計なことをするな』と言いたいわけだよね」

夢野「言い方が物凄く悪いのう」

王馬「いいよ。別に。最原ちゃんは最原ちゃんの好きなようにすれば」

王馬「でもまあ、その上で言わせてもらうけど。俺たちの協力をこれから先取り付けられると思わないでよね。都合が良すぎるでしょ?」

最原「わかってる」

春川「……」

春川「最原。あんた、本当に悲しいよ」

最原「……?」

春川「真実なんて本当は二の次でしょ。アンタはただ『仲間を守りたいから』ってだけだ」

春川「……誰も死なずに自由になりたいってだけだ。それなのに仲間を突き放すような選択肢しか取れないアンタが悲しい」

最原「……話はお終いだ。ここから先は別行動でいいよね」

入間「おーおー勝手にしやがれ! 清々すらァ! せいぜい夜道には気を付けろよ! ケツ掘られないようにな!」

真宮寺「夜はお腹冷やさないようにね」

東条「夜食は控えること」

茶柱「後半からお母さんになってますよ! 心配の仕方が!」

茶柱「……あ。転子は最原さんに付いていきますので。あと天海さんと白銀さんもですよね?」

白銀「ん……うん」

夢野「そうか。転子よ」

茶柱「……なんです?」

夢野「最原のこと、頼んだぞ」

茶柱「……ええ。任されました」

数分後

獄原「……ハッ! 起きた! おはよう!」ガバリッ

王馬「おはよう!」

獄原「なんて清々しい朝なんだ!」キラキラキラ

東条「昼よ」

真宮寺「何故だろうネ。起きて早々ド下手な強がりと痩せ我慢の連発なんだけど」

獄原「……最原くんがゴン太たちを突き放すような言動をしたのと……」

獄原「この世すべての悪と呪いを一手に引き受けたような酷い音が聞こえた……ような……?」呪い付与

アンジー「にゃははー! 実際に呪われてるよー!」

百田「赤松はまだ起きねーか?」

春川「よくわからないけどこっちの方がダメージ深刻だね」

赤松「うーん……姫路城……ピラミッド……西洋の城……? ゆっ、遊園地……」ガタガタ

アンジー「かなりサイケデリックな夢見てるみたいだねー!」ケラケラ

夢野「よーし! こんなときこそウチがパーっと魔法を使って気分を一気に変えるんじゃ! 後のことを考えるのはそれから――」

?????「ニャー!」ガシッ

夢野「へぶんぬっ」ズルリッ

王馬「おお。夢野ちゃんが一瞬で消えた。流石マジシャン、凄い手品だね!」キラキラキラ

入間「ここから焦らして焦らして満を持して瞬間移動ってか? マジシャン界隈ではよくある手垢の付いた手口だな」ハンッ

春川「……」

春川(いや、崩壊した床から誰かが夢野を引きずり込んだ……ような……?)

星「それで。これからどうする?」

全員「……」

ウワアアアアアアアア! ナンジャコイツハァァァァァ!

ニャアアアアアアアア!

クルナァァァァァァァァ!

春川(校庭の方で謎のナマモノと夢野が追いかけっこしてる)ジーッ

星「ハシゴを外された気分だぜ。ただでさえ最後の学級裁判の詳細がわかってねーっていうのによ」

百田「別にいいんじゃねーの?」ケロリ

東条「……よくはないと思うけど。随分と余裕ね」

百田「よく考えろテメェら。今となっては俺たちに『この学園で探索してない場所』ってのはないだろ」

入間「ん……」

百田「見ての通り校舎は半壊。色々な意味で風通し抜群。仮に学級裁判でどんな問いを投げかけられたとして、だ」

真宮寺「……対応できないってことはないか。確かにネ」

百田「それよか俺には不安なことがあるぜ。一つだけ、今すぐ解決しなきゃいけないことだ」

アンジー「それって?」

百田「……ちょっと色々ありすぎて疲れただろ。服とかもボロボロなままなヤツいるしよ。余裕なさすぎだぜ」

獄原「あっ。本当だ。尻の部分が破けちゃってる」

入間「ヒャハッ! あんだよ、どこのコメディアン気取りだ? ゴーン太ァ~?」

獄原「いや入間さんの尻なんだけど」

入間「おぎゃああああああああああああああっ!?」ガビビーンッ

王馬「やめてよゴン太……気付かなくていいことに気付いちゃったじゃん。入間ちゃんのウンパンとか誰得だよ」

入間「待てゴラァ! 流石にウンパンじゃねーぞ! あれ!? じゃないよね!? 誰か俺様の尻を確認してくれ! ほらほら」フリフリ

スパァンッ!

アンジー「……あ。ごめん。ちょっと強く蹴りすぎちゃったよー」ニコニコ

入間「」シュウウウウウウ

王馬「ナイスナイス」

百田「休もうぜ。元から時間がないってわけじゃない。白銀の無事が確認できたのなら俺は満足だ」

百田「……というか終一たちだって多分休むぞ。これからぶっ通しで捜査するようなマネは絶対にしねーだろ」

百田「調べられるような事実は残ってないってことはアイツらが一番よくわかってるはずだ」

東条「あのとき言ったことの半分は、私たちから白銀さんを守るための……」

東条「……おっと。口が滑りかけたわね」

王馬「俺たちから白銀ちゃんを保護して庇うための方便だよねー!」ニコニコ

百田「言うなよ! わかってたことをよ! 方便もクソもなくなるだろ!」ガビーンッ

春川(……あっ。夢野が追い付かれた。応戦し始めた。頑張れ頑張れ)フレーフレー

百田(なんかさっきからハルマキが静かだな……?)

アンジー「……休むっていうのは賛成かなー。アンジーは……まだやることあるし」

真宮寺「ン。巌窟王さんの看病?」

アンジー「……」

アンジー「終一がつむぎから話を聞くっていうのなら、もう捕まえる必要ないからさ」

アンジー「今のアンジーには『彼』が一番大切」ニコリ

獄原「そっか! アンジーさんは巌窟王さんが大好きなんだね!」キラキラキラ

アンジー「というか終一が大体奪っていったからね。アンジーの大切なもの」

アンジー「終一自身。復讐の機会。後に残った大事なものが『彼』しかないってだけだよー」

百田「お、重ってぇ!」ガーンッ

アンジー「今となっては仕方ないけどさ……後悔ばかりだったし」

アンジー「でもまあ、別にいいんだ。寄り道はもうおしまい。後の学園生活は『彼』の傍にいるよ」

アンジー「……いなきゃいけないんだー」

百田「……そうか」

ち、ちくしょう! 特攻が足りてないからかなぁ! 鬼王の一番強いヤツが削り切れない!
本腰入れてイベントするから今日はなし!

今更ながらダンガンロンパのサントラ買ったよ。最高だね!

春川「……っと。勝負付いたかな。殺意はないけど早めに助けた方がいいかも」サッ

百田「んじゃ、ここで解散ってことにしようぜ。どっちにしろ半壊した校舎にあまり長居したくねーしな」

百田「行こうぜハルマキ!」

百田「……?」キョロキョロ

王馬「春川ちゃんなら直前に床の大穴から外に出たけど」

入間「……ふがっ! あ、ああ! 痛い痛い! お尻痛い切れ痔になるーーー!」ビクンビクンッ

入間「お? んだァ? 校庭の方に何かいるような……?」

星「あ?」

獄原「あれは……ん? いやあれ……んっ? あれれ? あれあれ?」

王馬「おーいゴン太ー。お得意の超視力設定はどこ行ったー?」

獄原「あ、うん。いやアレは……見えてもちょっとよくわからないっていうか……」

獄原「強いて言うなら春川さんは夢野さんを助けようとしてるってことくらいしかわからないっていうか」

百田「ハルマキが? 夢野を?」

獄原「なんか夢野さん、噛まれてる。何かに」

東条「……本当ね? 『何か』としか言いようのないナマモノに噛まれて悲鳴を上げてるわ」

東条「私たちもちょっと行ってみましょうか」




校舎の外

夢野「おぎゃああああああ! 痛い痛い痛い! 割れる! 頭割れるぅーーー!」ジタバタ

ジャガーマン『ぎゃあああああああ! 食われる! なんか顕現するのに最低限必要な何かが根こそぎ食われていくーーー!』

?????「ふはははははは! 猫キャラ被りだ! 最優先で潰すに限る! 大人しくあちしの胃袋にINするがいい!」ガブガブ

ジャガーマン『ぐ、ぐぬう。おのれおのれおのれおのれおのれ……こうなったら我が第なんちゃら番宝具、乖離剣エアを……!』

?????「!?」ガビーンッ

ジャガーマン『ごめんハッタリっす』

?????「だよねー」


ガブウッ


夢野「……あ、あれ。ジャガーマン? ジャガーマ……」

夢野「うわあ! 明らかに何かが消えたような拭いようのない喪失感! 嘘じゃろ! こんなところで消えおったーーー!?」ガビビーンッ

?????「ふいー。よし後はこの看板を立てかけて終了っと」

※これ以降ジャガーマンの出番はありません。ジャガ村先生の次回作にご期待ください

夢野「出番が回る余地すら完全に潰しおった!」ガビーンッ

?????「魔力回収。滞りない進捗ゥ。猫キャラ被りも回避できたので安心して語尾に『にゃ』と付けることができるにゃー!」

夢野「お、お主……許さぬ。許さぬぞ! 目の上のタンコブだったがジャガーマンはウチの仲間じゃった!」

?????「ほほう。ならばどうするのかにゃ?」

夢野「出でよ猫耳カチューシャ」ポンッ

?????「にゃ?」

夢野「で、これを装着し……」スチャッ

夢野「ウチも語尾に『にゃ』を付けるにゃ!」シャキーンッ

?????「にゃあ!?」ガビーンッ

夢野「更に妹キャラも追加じゃあ! 属性過多により他の猫キャラを霞ませるにゃ!」

夢野「お兄ちゃん。ウチのこと……ナデナデしてほしいんじゃ。じゃなくてにゃんっ」キャルンッ

?????「」



校舎内 図書室周辺

天海「これが猫耳妹の力……大したもんじゃないっすか」ボッ ドガァァァァッ

最原「天海くんが急に本棚に吹っ飛んだーーー!」ガーンッ

白銀「なんてこと……妹力が二千……三千……まだ上がる!」ピロピロピロピロ

茶柱「なんですかそのスカウターっぽい機械」

白銀「妹力測定装置」

校舎の外あたり

?????「無限に許せねぇーーーッ! 猫キャラの座を今すぐ返却しろにゃーーー!」バッ

夢野「んあああああああああ!? も、もう噛まれるのはイヤじゃ! 誰か助けっ……!」

「夢野ー」

?????「にゃ?」

春川「大丈夫ー? 夢野ー」タッタッタッ

夢野「おお。春川! いいところに! ヘルプミーじゃ!」

?????「ふっ。何人来たところであちしの敵じゃにゃ……」


ギュオンッ


?????(えっ。急加速? 早っ……懐に一瞬で……待っ……!? 手にナイフが……!)

ブンッ ガァンッ

春川「……あれ。十六分割くらいになったと思ったんだけど……」

?????「あっぶにゃーーー! 死ぬ! 死ぬ! よしんば死ななかったとしてもフラグが立つ!」ワタワタ

春川「で。アンタ、何?」

?????「それ殺そうとした後で訊くの!? ま、まあいいにゃ。答えてあげよう。あちしの名は……そう!」

?????「あちしの名は!」

春川「長くなりそうならナイフに切られながらでいい?」ブンッ

?????「ネコアル、ぎにゃあああああああ!? や、やり直し、ねこあるっ……ふぎゃあああああああ!?」ガァンッ ガァンッ

夢野(本当に律儀に切られながら自己紹介しとる。いやできておらぬが)

春川「ん……ああ。なるほど。この感触、モノクマとかモノクマーズと同類か……」

春川「でも変だな? 巌窟王とかセミラミスと似たような気配も感じる」

春川「『この世界の法則』と『巌窟王の世界の法則』……なんでそれが一緒のところに……」ヒュパッ

春川「ん。もういいや。自己紹介しなくても。服のタグに名前書くとか、どこの小学生?」

ネコアルク「にゃあっ!? い、いつの間に切り取――がふっ」ドガァァァッ

春川「……頑丈だな。モノタロウは巌窟王の蹴りで大破してたんだけど」

夢野(いやどんだけの距離蹴り飛ばしておるんじゃ! サッカーボール!?)ガーンッ

春川「……よし。夢野。逃げよう」

夢野「ほ?」

ネコアルク「超痛いー」エグエグ

夢野「……の、ノーダメージ!? かなりズタズタに切り刻まれた上に、あんだけ蹴り飛ばされたのに!?」ガビーンッ

春川「あまりこういうことは考えたくないんだけど……あれ『私たちの世界の法則』だけじゃ説明できないよ」

春川「巌窟王とかと同類なら手に負えない。だから逃げよう」

夢野「りょ、了解じゃあ!」ダッ

ネコアルク「待ってー」ダッ

夢野「ゲエーーーッ! 追ってきおった!」

春川「殺意はないけど、追いつかれたら面倒そうだなぁ……ん?」

ネコアルク2「待ってー」ニャー

ネコアルク3「待ってー」ニャー

ネコアルク4「待ってー」ニャー

夢野「なんか倍々ゲーム状に増えておらぬか!?」ガビーンッ

春川「……頭痛くなってきたけど……もしかしたら……」

春川「赤松のところに全部連れてこう。アイツ、多分なんか知ってるかもしれない」

夢野「知らなかったら?」

春川「全部処分させよう。巌窟王に」

夢野「容赦なっ! あの連中に対してではなく巌窟王に対しての容赦がない!」

校舎出てすぐのところ

百田「……!?」

東条「何あの……にゃーにゃー言っているナマモノは」

真宮寺「わからない。わからないけどまた面倒ごとが自然発生したみたいだネ」

春川「みんな。いいところに」

百田「ハルマキ! 早く来い! 校舎の中に入って締め切るぞ!」

春川「ボロボロの校舎じゃどこかから侵入されるって。それより赤松は?」

獄原「ゴン太が背負ってるけど……?」

春川「今すぐ叩き起こして」

王馬「よーし入間ちゃん! 赤松ちゃんの性感帯を突くんだ!」

入間「わかった! 行くぜー!」ズブウンッ

赤松「!?!?」ビクビクーーーンッ

王馬「え……なんで本当にやってんの。怖……」ヒキッ

入間「ええっ!?」ガビーンッ

赤松「えっ……はっ……ええっ!? な、何今の……!?」キョロキョロ

春川「赤松。あれに見覚えは?」

赤松「あれ?」





ネコアルク軍団「にゃー!」ドドドドドドドッ

赤松「」

赤松「……!?!?」

百田「目を疑ってんな」

真宮寺「いや現実かどうかすら疑ってるみたいだけどネ」

春川「当てが外れたかな。セミラミスと仲良さげだったアンタならって思ったんだけど」

王馬「……あ。いやでも俺、あれさっき見たよ。さっき学園を揺らした爆発を起こした猫っぽい何かだ」

赤松「え、あの。ねえ! あれこっち来てない!? あの大軍こっちに来てない!? なんで悠長に話してるの!?」アタフタ

東条「どっちにしろまともな逃げ道が無さそうなのよ」

アンジー「遺書の用意するー? 筆と紙の用意はいつでもやってるよー?」キラキラキラ

赤松「大して残せるような財産ないよッ!」

ネコアルク軍団「にゃー!」ドドドドドドドドドッ

赤松「いやあああああああああああ! 来ないでーーーッ!」ガタガタ








ネコアルク軍団「はい」ピタッ

赤松「はい?」

星「……」

星「おい。止まったぞ? 赤松の指示で」

ネコアルク軍団「……」ジーッ

アンジー「あれれー? なんだろ。みんな楓の方見てないー?」

赤松「えっ……えっ?」

春川「……まあこういうこともありえるかな」

百田「ハルマキ。どういうことだ?」

春川「限りなく賭けに近い……ていうか『こうであってほしい』って願望だったんだけどさ」

春川「あれ、セミラミスが用意したんじゃないかな」

赤松「え。セミラミスさんが?」

春川「マザーモノクマはモノクマの生産ができる(はず)。今のマザーモノクマはアイツの物なんでしょ」

王馬「え? なに? モノクマは今関係なくない?」

春川「そうでもないよ。アイツ、中身は『モノクマ』だったから。ガワとパーツの組み方が若干変わってるだけでさ。切って確認した」

春川「だからセミラミスの関係者にアイツのこと訊こうと思ったんだけど」

赤松「……いや知らない知らない全然知らないんだけど!?」

赤松「ん……待って。心当たりはあるかも……だけど……」




セミラミス『そうか……先ほどの爆発はそういうことか……モノクマめ! あの『出来損ない』を使ったな!』ダンッ

セミラミス『聞け! 我は先の爆発には関与しておらぬ! 確かにアレを作ったのは我だが関係はまったくない!』





赤松「そうだ。セミラミスさんは確かにこう言ってた。『出来損ない』だの『作ったのは我』だの」

星「後のことは本人(?)たちに訊けばいいんじゃねーのか。目の前で待機してんだからよ」

ネコアルク軍団「……」ジーッ

赤松「視線が怖い!」ガビーンッ

赤松「……あ、あの。あなたたちは……何?」

ネコアルク「トンチキな返答と、ガチな返答、どっちがいい?」

赤松「ガチな返答でお願いします……」

ネコアルク「首謀者補佐ロボット『モノクマ』改造体、個体名ネコアルク。セミラミスのオーダー『生徒たちの脱出』を最優先命題とし」ガガーピー

ネコアルク2「セミラミスが行動不能になった際はオーダーリストの優先順位を一部変更するように設定されております」ガガーピー

ネコアルク3「セミラミス消失直後より、我らがマスターを『赤松楓』へと再設定」

ネコアルク4「なんなりとご命令を。マスター。コーヒーとか作るの大得意です」

赤松「待って待って待って」

ネコアルク軍団「……」ジーッ

赤松「凄い頭痛くなってきた。あのさ。一つ言っていい? 本人この場にいないけど絶対言うよ」

赤松「あの人本っっっ当に余計なことしかしないッッッ!」グアアアアアア!

百田「ガチな返答の方はガチの返答の方でマジでわけがわからん……が……」

百田「……要は味方だよな? これ。『生徒たちの脱出』を最優先命題って言ってるし」

アンジー「いやいや。それアンジーたちが今まで散々やってきたことだよねー」

アンジー「数揃えたところで今更どうなるとはとても思えないんだけどー」

星「具体的な方法を聞いてみたらどうだ?」

赤松「ええ……これ以上もう喋りたくないんだけど。今すぐ全部に自爆してって命令しても誰も責めないよね……?」

ネコアルク「ファイブ! フォー! スリー! トゥー!」カチッカチッカチッカチッ

赤松「ごめん自爆中止! 今のなし!」アタフタ

春川「アイツのこと私はよく知らないんだけどさ。本当に置き土産に無意味なものを無意味に配置するようなヤツなの?」

赤松「大真面目にアホなことをしてなんとかなる人だったから、見た目アホでも何か考えはあったんだと思う」

赤松「具体的な方法……か……」

入間「しかしモノクマ改造体か。アイツどんな頭脳してやがったんだ? 普通考え付いても実行に移そうと考えねぇぞ」

入間「なにせどこまで行っても『中身がモノクマ』なんだからよ。内側からいつモノクマが食い破って元の状態に戻るかわかりゃしねぇ」

獄原「そんな気配は特にないよね?」

入間「ああ。どうも本当にコイツらは『正真正銘生徒たちの味方のモノクマ』だと考えるしかなさそうだ。相当神経質に改造したんだろうな」

入間「……信じたくねぇが……いや見た目が悪すぎるが……セミラミスがやったことが本当に成功したんだとしたら」

入間「これ以上の味方はいねぇぞ」

東条「本気で言ってる……?」

入間「言いたくて言ってると思うか?」

王馬「質問、再開しようよ」

赤松「……具体的にどうやって私たちを脱出させようって考えてたの?」

ネコアルク「はい計画書」ピラッ

赤松「あ。ありがと」




計画書『①カルデアの神格たちが時間をかけて学園中に仕掛けた神秘の全てを再配置。

    ②後は我が頑張る。

    ③最終的に巌窟王が頑張る。

    ④ビクトリー!』




赤松「肝心の内容がまったく書かれてない!」ガビーンッ

赤松「計画書はもういいよ! 口頭で説明して!」

ネコアルク「え? いやそれが全てっすけど?」

赤松「」

ネコアルク2「あちしたちがやっているのは『神秘の全ての再配置』の部分だけなんすよねー」

ネコアルク3「その後なにをするつもりだったのかはセミラミス嬢自身が『秘密だ』って教えてくれにゃかったんすよねー」

ネコアルク4「あ。その一環で夢野さんをちょっと齧っちゃいましたけど。後でごめんねって言っておいてくれないっすかねー」

春川「流石モノクマ改造体。モノクマとスペックが大差ないよ。特に憎らしさとか」

ネコアルク5「愛しさとー!」

ネコアルク6「切なさとー!」

ネコカオス「心もとなさと」フウッ

王馬「本当だクッソうぜぇ」イラッ

アンジー「そう? 可愛いと思うけどー」ナデナデ

ネコアルク「にゃー」ゴロゴロ

真宮寺「……そういえば件の夢野さんはどこに?」

春川「は? 私と一緒に逃げてたはずだけど?」

春川「……あれ?」キョロキョロ

獄原「……あっちの方で足跡だらけで転がってるボロ雑巾のような何かがあるけど……」






夢野「」チーン

ネコアルク軍団「あ」

赤松「」

春川「……生きてるかな」

百田「生きてるに決まってんだろ!」ガビーンッ

赤松「……まあいいや。頭を切り替えよう。セミラミスさんは『すべての真実』を知ってた」

赤松「私たちと一緒にジャバウォック島にいて、私たちの置かれた状況をせせら笑ってた」

赤松「その上で私たちのことを脱出させることを考えてた」

赤松「……それだけわかれば充分かな」

ネコアルク「あ。赤松嬢。一つ報告が。セミラミス嬢はまだご存命のようですにゃ」

赤松「ん……それはキーボくんの言動とか見てればわかるけど」

ネコアルク2「彼女が生きてる以上、計画はまだ生きてる。その点は忘れずに」

ネコアルク3「第一の選択肢も、第二の選択肢も、第三、第四の選択肢が絶望に塗りつぶされたとしても――」





セミラミス『我の選択肢は残っておる』

セミラミス『……あと我のことは信じずとも良いが、最後の最後まで巌窟王を信じよ』




ネコアルク4「――ってセミラミス嬢が言ってたにゃりん」

アンジー「……」

ネコアルク5「BBの分身(ウソ)が貴様らを導いた」

ネコアルク6「ならば同じ分身(ウソ)たる我も貴様らに道を示してやろう」

ネコアルク7「とっておきの虚栄(ウソ)を手向けてやる」

ネコカオス「と、彼女はそう言っていた。真意は我々にはわからないが」フウッ

ネコカオス「そうだ。計画書の裏面には神秘の再配置位置が書かれている。もしかしたら巌窟王には、なにかわかるかもしれないな?」

アンジー「そっか。楓」

赤松「うん。病院に向かおうか」

赤松「……ところでコレもネコアルク?」

ネコカオス「……ふっ」ニヤリ

春川(声渋い)

病院

巌窟王「ム……」パチリッ

巌窟王(……体が重い。さっきよりも)

巌窟王(もうまともな回復は望めそうにないか)

巌窟王(……次にあのスペックのキーボとまともに正面衝突したら確実に負けるな)

巌窟王「何か策を考えるべきか……あるいは戦わずに外に脱出できればそれでいいのだが」

巌窟王「……」

巌窟王(ダメだな。それでは)

巌窟王(……キーボが救われない)





ガララッ ドタバタバタッ




赤松「巌窟王さん! 起きた!?」

百田「起きてんな! おしっ!」

巌窟王「起き抜けに騒がしいぞ」

春川「悪いんだけど、時間はそこまで多くないんだ」

春川「……見て欲しいものがあるんだよ」

巌窟王「?」

数分後

巌窟王「……」

赤松(巌窟王さんが計画書の地図を確認する。指でなぞって、吟味する)

赤松(……この反応は、心当たりがあるって感じだ)

巌窟王「……なるほどな。そういうことか。確かにこれなら『全部』を解決することができる」

赤松「!」

巌窟王「いや全部と言うと語弊があるな。キーボに関する問題だけは据え置きだ。ここに関しては本当に光明が見えない」

百田「おい! 勿体ぶってんなって! 何かわかったんなら話せよ!」

巌窟王「九十九パーセント間違いない。だが確証がない。セミラミスはどこだ?」

赤松「わからない。キーボくんにどこかに連れて行かれちゃって……」

巌窟王「……そうか。そういう構図になるか?」

星「巌窟王」

巌窟王「ふん。隠しているわけではない。ただこれを話して無駄に希望を持たせるのはどうか、と考えているだけだ」

巌窟王「第一、単純に俺の好みから外れているのでな」







巌窟王「この計画書は『キーボを破壊すること前提で学園に大穴を開ける計画』のものだ」

赤松「!」

百田「なっ……!」

巌窟王「俺の概算になるが……かなりの犠牲を払って、残りの生徒十五人を外へと脱出させることは可能だろう」

真宮寺「具体的にどうやって?」

巌窟王「……言っても信じられないと思うぞ? 実際に目にしなければな」

巌窟王「おそらくだが、この計画が始動すればキーボの戦闘能力を大幅に削ることができる」

巌窟王「後は計画書の通り俺が『頑張れば』ハッピーエンドだ。ただし、キーボ以外はの話だが」

百田「おいおいおい。ざっけんな! その計画はなしだろ! 大雑把な概要だけで充分だ! 論外すぎる!」

王馬「……」ニヤァーーー

春川「一言でも喋ったら殺す」ギンッ

王馬「!?」ガビーンッ

獄原「完璧に読まれてるね……キャラが……」

巌窟王「……」

アンジー「あと一手足りないね」

巌窟王「!」

アンジー「……十五人の脱出の目途が立ったんでしょー?」

アンジー「ならさー、あと一人や二人や三人が増えたところで労力はそんな変わらないよねー!」キラキラキラ

アンジー「……あと一手で、全員揃って脱出できる」

巌窟王「……」

アンジー「この計画で十五人しか脱出できないっていうのなら」

アンジー「アンジーたちでこの計画を改造すればいい」

百田「……そうだ。アンジーの言う通りだぜ! あと一手なんだろ! なら……!」

巌窟王「俺には思いつかないな」

春川「え」

巌窟王「……だから貴様らが考えるがいい」

巌窟王「もしも考え付かないのであれば……そして、この計画書を使うしか選択肢がないのであれば……」

巌窟王「俺はこの計画に乗るだけだ」

赤松「……」

赤松(また私たちを試すようなこと言ってる)

巌窟王「……最後の学級裁判、か」

入間「んだよ。何か引っかかることがあんのか?」

巌窟王「コインの裏が出るか表が出るか、程度の賭けにちょうどいいかもな」

巌窟王「……賭けてもいい。最後の学級裁判、おそらくセミラミスがなんらかの形で関わってくるはずだ。ちょっとした副賞のような扱いで」

赤松「え」

巌窟王「寝る。アンジー。時が来たら起こせ」

アンジー「わかったー。おやすみー!」

巌窟王「……すー……」スヤァ

赤松「な、なんか気になることを言い残すだけ言い残して寝ちゃったよ!」ガビーンッ

春川「夜長。コイツそのまま寝かせておく気? 最後まで?」

アンジー「……もうやることはないよー」

春川「そ」ハァ

赤松「……」

赤松(……やることはない、か。最原くんならどうするかな……)

赤松(というか今、何してるんだろ)





図書室

最原「……ここだな」スッ

モノクマでもわかる家庭料理レシピ百選「」ストンッ

最原「……開いた隙間に入った」

最原「間違いなく。スッキリと、過不足なく」

最原「……他の本棚と余裕は大体同じか……ギチギチってことはない」

天海「何かわかったんすか?」

最原「白銀さんが何を考えてたのか、かな……」

天海「?」

白銀「……」

最原(最後の学級裁判に向けてできそうな対策は……これで全部終了かな)

最原(……後は、最後の最後に、僕たちの前にいくつの、どんな選択肢が現れるかだ)

最原(これだけは、そのときにならないとわからない)

最原「……怖いなぁ」

天海「最原くん?」

最原「どれだけ巌窟王さんが絶大な力持ってようと、巌窟王さんのホームからいくら支援が来ようと」

最原「最終的に学級裁判で物を言うのは多数決。つまり『僕たちの決断』だ」

最原「巌窟王さんもなんだかんだ言って『生徒の決断』に手を付けることは、今まで一回も無かったでしょ」

最原「だからさ……もしも僕たちが間違った選択をしたら、もうそこに『どんな不条理な力』を行使してもやり直しが効かない」

最原「……こればかりは死ぬのと同じくらい怖いな。下手したら『死ぬより酷い痛みを抱えたまま生きる』ような目に遭いかねないわけだし」

白銀「ふふっ。私の気持ち、少しはわかってきた?」

最原「……」

最原(選択した結果として『死ぬより酷いものを見て来た人』。同情より何より先に……)

最原(『絶対にこうなりたくない』って思う自分がイヤになる)

最原(すべてを終わらせて外に出たい。でも僕たちに、それが果たしてできるものかどうか)

茶柱「当たって砕けろ、です!」

最原「!」

茶柱「……転子はあなたの盾になって砕けるのは御免です」

茶柱「あなたを転子の盾にして砕けさせるのも同じくらいイヤです」

茶柱「なので! 『あなたが砕けるときは転子も一緒に砕ける』! それが転子にできる最善の献身です!」ニカッ

最原「……茶柱さん」

茶柱「行先が地獄でも天国でも、ずっと一緒ですから。だからドーンと胸を張ってください」

茶柱「……仮に離れても、どっちともなくまた一緒になれますって。賭けてもいいです」

最原「……」

最原「気休めにはなるかな」

茶柱「『もう怖くない』くらい言ってくれません!? 励まし甲斐の無い!」ガビーンッ

最原「あはははははは!」

最原(……いや。充分だ。気休めでもなんでもいい。僕はこれで充分、立てる)

最原「……すべての真実をつまびらかに」

最原「コロシアイに終止符を」

最原「全員揃って、外に出る」

最原「タスクは山積みだな。サーヴァントの力を使ってもやれるかどうかわからない」

天海「手を貸すっすよ。これまで一緒にやってきたように」

天海「……俺をここまで連れてきてありがとう。大事なものを思い出させてくれて、ありがとう」

天海「命を賭けて、最原くんのサポートを」

白銀「……」

天海「白銀さんと一緒に!」

白銀「いや巻き込まないでよ! 首謀者だよ!?」ガビーンッ

天海「白銀さんと一緒に!」ドーンッ

白銀「主張変える気一切なし!?」

最原「……さあ」





病室

巌窟王「……」

アンジー「ここまで長かったね。とっても痛かったね。苦しかったね」

アンジー「……そのすべてを和らげることはできない。でもせめて、最後の最後までずっと見ててあげるから」

アンジー「……だからどうか……せめて救いのある結末を」

巌窟王(……病室にアンジーの声だけが響く)

巌窟王(その祈りは、まるで子守歌のように)

巌窟王(……お前たちの決断に従おう。サーヴァントとして)

巌窟王(お前たちの答えを共に見よう)

巌窟王(それを証明するために、あらゆる苦難を粉砕しよう)

巌窟王(……故に)







最原&巌窟王「最後の学級裁判を始めよう」

今日のところはここまでで!
あーSAOの新しいオープニングテーマ最高

イベント礼装すら凸ってないので今日はなし!
エレナ嬢さえ……エレナ嬢さえいればァーーー!

数時間後

キーンコーンカーンコーン

モノクマ『いやあー! この放送も久しぶりな気がするね!』

モノクマ『あ、いや新世界プログラムの校則違反を犯したときには使ってたかな? でもこういう使い方は間違いなく久しぶりだよ』

モノクマ『……あれ? そうでもないな。日数的にはそこまで久しぶりじゃないや。今カウントしてみたら』

モノクマ『……』

モノクマ『まあいいや! 午後八時に中庭に集合!』








モノクマ『学級裁判を始めます!』

最原「……思ったよりも早かったな? 午後八時……?」

白銀「あれ。カウントが終わる午前零時にやるものだと……」

白銀「……思ってたけど、それはないか。『午前零時がタイムリミット』なんだもんね」

天海「今何時っすか?」

茶柱「……七時ですね。モノパッドによれば」

天海「割と時間があるな……これは今までの学級裁判にはないパターンっすよ」

最原「今までなら若干モノクマの気分みたいなところがあったからね」

最原「事前に時間をキッチリ通告するのは珍しいかな」

最原「……でもまあ、この一回きりだ。例外も、通常も」

最原「外に出よう。校舎でやれることはほぼない」

茶柱「やってやりますよ! 思い切り!」

天海「おー!」

天海「……」チラッ

白銀「……なんでこっち見てるの」

天海「えいえいおー!」シュバッ

白銀「絶対にやらないからね!」





校舎の外

現代アート風味の超巨大ネコアルクオブジェ「」ドーーーーンッ

最原「」

茶柱「」

天海「」

白銀「」

アンジー「あ。終一だ。やっはー」

最原「」

アンジー「……何見てるのー?」

最原「むしろアンジーさんはなんで平然としてるの!?」ガビーンッ

白銀「な、なにあれぇ……見てるだけで脳味噌に謎の斑点ができて高熱でぶっ倒れそうになるんだけど……」ガタガタ

アンジー「ネコアルクだよー!」

最原「ねこ……え? なに?」

アンジー「掻い摘んで言うと、セミラミスの置き土産だねー。モノクマを改造して作った生徒たちのお助けマスコット」

最原「へえ。そんなもの用意してたんだ」

最原「……それが僕たちが校舎の中を探索してるうちに、あんなものを作ったの?」

アンジー「モノクマが校舎を改造して病院をぶっ建てたのと同じ理屈でできるんだってー」

最原(なんというか……モノクマが理不尽な力を振りかざす度に胃袋がキリキリしてたけど)

最原(味方が同じことをしたところで同じだなぁ。胃の痛さは)

最原「……?」

最原(あのオブジェのある位置……)

天海「あれ。あそこって……」

茶柱「なんです?」

天海「巌窟王さんと白銀さんが、昨日揉み合ってたあたりっすよね。あそこら辺、丸っと全部」

最原「……一応訊ねたいんだけど……あのオブジェのできた経緯、詳しく聞けないかな?」

アンジー「ちょっと長くなるよー? えっとねー、ネコアルクの今のマスターって楓なんだけどさー」

アンジー「マスター権を得たところで、楓はネコアルクのことを疎ましく思ってたみたいなんだけどー」




回想

ネコアルク『あ! サービスでピアノ修繕しといたんにゃけど、どう?』

グランドピアノ『』デーンッ

赤松『好き! 大好き! 愛してるー! 順番に撫でてあげるからみんなおいでー!』ポワワ

ネコアルク軍団『にゃー!』




アンジー「……ってことがあったんだよ」

最原「……」

天海「こんなこと言うのは何なんすけど、彼女ってピアノのことに関してのみ現金な上に娑婆っ気強すぎっすよね」

白銀「首謀者やってたときからずっと思ってたけど激チョロだなぁ、相変わらず」

茶柱「弁護が……できません……」

アンジー「で。セミラミスの計画書に影響が出ない範囲、かつ生徒に迷惑をかけないようにという条件付きで、あそこら辺一帯がネコアルクの遊び場に」

最原「それ、場所の指定をしたのって」

アンジー「当然、楓だけどー?」

最原「……」

最原(何か落とし物でもしたのかな。ちょっと本気入れて脅しすぎたかもしれない)

最原(証拠隠滅にかかってるな、あれ)

最原(……別に追及するつもりはないんだけど。今更の話だし、白銀さんもそれだけのことをしたんだから)

天海「何か気になることでも?」

最原「あ、いや……」

茶柱「気付いたことがあるのなら行ってみましょうよ。どうせ時間もあるんですし」

白銀「あそこまでデカいと、私も興味あるかな……」

最原「……寄り道しようか」

最原(ネコアルクっていうのも気になるし)

アンジー「じゃあ行こー!」ニコニコ

最原(あれ。そういえばなんでアンジーさんがここに。巌窟王さんは?)キョロキョロ






ネコアルクオブジェ直下

巌窟王「これでやっと八匹目……と九匹目か。割と見つからないものだな」ヒョイヒョイ

ネコアルク8「ぐー」スヤァ

ネコアルク9「くにゃー」スヤァ

最原「……何してるの彼」

アンジー「ネコアルクの調達。自爆機能があるから体のいい投擲武器にしようって言ってたよー」

最原(何もこんなところで魔力の節約手段を見出さなくても!)

巌窟王「ム。茶柱。天海。そして……最原……と白銀か……」

最原「……」

茶柱「あの。なんだか知らないんですけど最原さんの名前を呼ぶあたりで露骨にテンション下げるのやめてくれません? こっちも微妙に傷ついてますので」

巌窟王「クハハ! そんなタマか、その男が!」

天海「で。巌窟王さんが調達してるのが件のネコアルクっすか」

天海「……なんで揃ってぐったりしてるんすか?」

巌窟王「遊び疲れて……あるいはシンプルに仕事疲れで燃料切れのようだな。このまま休めば魔力は自然回復するようだが」

巌窟王「動いているネコアルクに用事か? ならば下を見ろ」

天海「下?」

ネコアルク「……」ジーッ

天海「凄い見られてる! 俺が!」ガビーンッ

ネコアルク「幸運Eか……ゴミめ」ペッ

天海「凄い見下されてる! この位置取りで!」ガビビーンッ

ネコアルク「で。あちしに何かご用事で?」

最原「ん。いや、凄いもの作ったなって思っただけなんだけど」

ネコアルク「この巨大オブジェ、なんと中はメロンパン工場となっておりまーす」カパッ

メロンパン精製工場「」ウィーンガシャンッ ウィーンガシャンッ

最原「なんで!?」ガビーンッ

白銀「も、物凄く美味しそうな匂いがする!」

アンジー「こんなところで焼き立てメロンパンの匂いを嗅ぐとは思わなかったなー」

ネコアルク「もしかして率直に『邪魔』って言ってるのかにゃん? 安心を。赤松嬢からは『生徒に迷惑をかけるな』と仰せつかっておりますにゃん」

最原「え? どういうこと?」

ネコアルク「時間さえくれれば、このオブジェを解体して一日で全部元通りにすることは可能ってこと」

ネコアルク「その辺の雑草。基礎を作るためにどかした大量の残土。鳥のフンが付いた邪魔な大岩」

ネコアルク「何から何まで四次元ポシェットとかに保存済みにゃ!」ビシッ

最原「へ、へー……四次元ポシェット……」

白銀「ギリギリだね……ひたすらギリギリで生きてるね、このネコ……」

ネコアルク「別の言い方で虚数なんちゃら」

天海「言えてない言えてない」

茶柱「なんちゃらとか言ってる時点で自分でも原理あやふやですよ絶対……」

最原「……計算が合わないな。一日経たずにこんなものを作ったのに、一日かかって元通り?」

ネコアルク「燃料切れの連中が『必要なモノ』を全部持ってるんで。いやあちしでもその気になれば取り出せるんだけどにゃ。他人のものを漁るのは……」

最原「……」

最原(……なるほどね)

アンジー「ねー! こっちにも一匹いたよー!」

巌窟王「クッハハハハハハハ! でかしたぞアンジー!」ビュンッ

最原(でもまあ、関係ない話か。ちょっと脇道に逸れちゃったな)

最原(うん。そうだ。関係ない。もしもこれが役に立つような展開になったら、それは相当にマズイ展開だ)

最原(……ありえない展開だ)

茶柱「何か思いついたんですか?」

最原「別に?」

最原(ま、大丈夫だろう。指摘さえしなければ赤松さんも逃げ切れる)

最原(僕が口を噤めば……)

白銀「……?」

天海「俺たちも手伝います? ネコアルク探し」モグモグ

最原「流石にそこまでやる義理は……何メロンパン食べてるの!?」ガビーンッ

天海「いやこれ本当美味っ……店出せるレベル……ふふっ」ニコニコ

最原「滅茶苦茶幸せそうだね!?」

茶柱「……はむっ……はぐはぐ」パクパクパクパク

最原「……」

茶柱「まったく。緊張感のない」キリッ

最原「早食いしても隠しきれてないからね。口の周りに付いてるし」

茶柱「くっ! そんなに言うならあなたも食べればいいでしょう! ほらほら!」グイグイ

最原「押し付けないでよ! 自分で食べるよ!」

春川「……」ジーッ

最原「……ん? 春川さん? いたんだ」

春川「あ。ごめん。邪魔しちゃって。続けてていいよ」

最原「いや別に続けたいようなことはしてないんだけど……」

春川「あーん……か……恋人同士ならやってもいいかな……」ボソッ

最原「やめよう! メロンパンはちょっとかさばり過ぎだから! そういう甘い展開に持ってくには大きすぎて重すぎるよ!」

春川「……おっと。そうだ。最原。百田からの使いで来たんだよ、私」

最原「え? なんだって?」

春川「百田もアンタたちのこと探してたんだけどね。今は別の場所行ってるのかな」

春川「情報。こっちが掴んだ分、流してあげるよ。大した量はないけどね」

最原「……!」

白銀「……いいの? それで」

春川「アイツは別にアンタたちと仲違いした気も、別の道を行った気もしないんだろうね」

春川「……協力できるんなら、するよ。私もそれで別にいいと思う」

最原「えっと……なんて言ったらいいか……」

春川「時間がない。質問を先にして。何が聞きたい?」

最原「……じゃあ遠慮なく。さっき聞いた『セミラミスさんの計画』って――」

数分後

春川「……これでおよそ私たちの持ってる情報すべてだと思うけど?」

最原「ありがとう。でも結局『キーボくんがセミラミスさんを浚って何をする気なのか』は聞いてないな」

春川「私たちもそれなりに、巌窟王から聞き出そうとはしたんだ。したんだよ。でもさ」

巌窟王「その必要はないぞ。学級裁判になれば自ずとわかることだ」

最原「あれ。巌窟王さん。調達はもういいの?」

巌窟王「一応探してはみたが、もう活動休止のネコアルクはいないようだ。どうやらオブジェ制作に関わったネコアルク以外は燃料切れにはなっていない」

巌窟王「それはさておいてセミラミスのことだろう? 詳細は俺にもわからないというのが正直なところだが……」

巌窟王「具体的にアイツがどうなるのかは『学級裁判が始まればわかる』という確信がある」

最原「え? それってどういう……」

最原「……」

最原「そうか。考えてみれば当たり前のことだったかも……」

天海「え? 何がわかったんすか?」

最原「僕たちにはもう失うようなものが残ってないってこと」

最原「極論、外に出ないっていう選択肢もあることにはあるんだ。真実が判明した今となっては」

最原(……最悪の場合の選択肢だけど)

最原「最後の学級裁判の開催を宣言したキーボくんが連れて行ったってことは、サーヴァントどうこうが目的なんじゃなくって……」



グニャアッ



最原「……っ!」グラッ

巌窟王「!」

最原(まずい。眠気がそろそろ限界だ……!)

天海「最原くん?」

最原「……中庭に行こうか。ちょっと歩きたい」

最原(歩いてどうにかなる眠気……じゃないな、これ。くそっ)

中庭

最原「ん……あれは……」

モノクマ「えっほ! えっほ! えっほ!」ガンッガンッガンッ

最原「……え。何やってるの?」

赤松「あ。最原くん。それに他のみんなも。来たんだ」

最原「赤松さん。モノクマはあれ……学級裁判行きのエレベーターに何してるの?」

赤松「工事だってさ。エグイサルの影響で若干ガタが来たって」

最原(あれに乗るのか。凄く不安だな)ズーン

白銀「モノクマー。手伝おうかー?」

モノクマ「いいよっ! 適当に待ってて!」ガンッガンッガンッ

巌窟王「白銀。もはや隠す気も毛頭ないな」

白銀「暴かれたことを一々、未練がましく補修するのもね」

白銀「むしろこの点だけは感謝しようかな。割とモノクマとの付き合い、ボロを出さないようにするの大変だったんだよ」

巌窟王「減らず口を」

白銀「こんなもの減らず口の内に入らないって。眼のことに関して文句言ってないでしょう?」

巌窟王「……」

アンジー「つむぎー。それ以上言うと無警告で燃やすってさー」

白銀「……ははっ」

天海「く、空気が痛い……!」ビクビク

最原(同感だ……!)

最原「ん……いや。この状況はちょっとマズイかもな」

天海「どうして?」

春川「……」

春川「あ。私、ちょっと用事できたかも。百田のことも呼ばなきゃ。用事も済んだわけだし」サッ

最原「茶柱さん。春川さんを逃がさないで」

ガシイッ

茶柱「命令しないでください。で、反射的に捕まえちゃいましたけど、何に気付いたんです?」

春川「……」ムスーッ

最原「いやさ。わざわざモノクマがエレベーターのメンテをしてるってことは、下には誰もいないってことだよね?」

最原「代わりになるような、裁判への出入り手段もないんだよね?」

赤松「うん。それがどうかしたの?」

アンジー「……あっ」

赤松「?」

アンジー「全員揃うー?」

最原「だろうね……この場で逃げたところで結局顔を合わせることになるだろうね」

赤松「え。今更顔を合わせることにそこまで躊躇するような生徒なんて……ッ!」



ゴオオオオオオオオッ


赤松「……!」ガタガタ

天海「あれは!」

最原(空から聞こえる轟音。業炎。ブーストの熱と光。そして風)

最原(それがちょうど僕の背後に降り立った)

最原(……背中に汗が噴き出す。まさか彼に対してこんな気配を感じることになるとは思いもしなかった)

巌窟王「……」

巌窟王「来たか。キーボ」





キーボ「……」ゴオオオオオオッ

ササッ

巌窟王「……何をしているお前ら」

アンジー「隠れてるー! お前の後ろにー!」ニコニコ

赤松「反射的につい!」

最原「ごめん……」

天海「巌窟王さん! 大丈夫っすか! 大丈夫っすよね!?」

春川「常人じゃアイツの相手にならなそうだし」

茶柱「男死の有効活用です!」

白銀「……まあ今のところ大丈夫そうだけど念のため」

巌窟王「他はまあ許そう。ただし白銀」

白銀「次にお前は『貴様はダメだ』と言う!」

巌窟王「貴様はダメだ……ハッ」

キーボ「……」ゴオオオオオオオオッ

キーボ「……現地に到着」スタッ

巌窟王「……敵意がないな?」

赤松「あー! よかったー! ネコアルクにご褒美として遊び場を提供したことを罰せられるのかと思った!」

最原(それで震えてたのか)

赤松「……セミラミスさんをどこやったんだろう」

最原「すぐわかるよ」

赤松「……?」

キーボ「……」ジーッ

最原(こっちをガン見してる……)

最原「……どうも本当に『招集をかけられたからここに来ただけ』みたいだ。敵意がすっぽり抜けてる」

最原「この分なら大丈夫そうかな。別に巌窟王さんの後ろに隠れなくても――」

百田「キーボーーー! やっと降りてきやがったなこのーーーう!」ガバァッ

キーボ「」

春川「!?」ガビーンッ

最原(百田くんがキーボくんに飛びついたーーーッ! てか抱き着いたー!)ガビビーンッ

百田「ははっ! この分だと八時には全員揃うな! 才囚学園生徒一同、ここに集結ってか!」バシッバシッ

春川「……! ……ッ!」オロオロ

最原「凄い背中叩いてる!」

天海「百田くんマジイッちゃってるっす」

アンジー「解斗未来に生きてるなー」

春川「あのっ……百田、やめっ……」オロオロ

最原「気持ちはわかるよ! でも落ち着いて言おう! じゃないと百田くん止められないから!」

春川「……すー……はー……」

春川「百田。やめて。そいつもう以前のキーボじゃ――」

キーボ「ウザい」ゲシイッ

百田「ぐああああああああああああ!」ヒューッ

最原(遅かったーーー!)ガーンッ

白銀(人体ってあんな綺麗な放物線描いて飛ぶものなんだなぁー)

春川「落ち着いてもダメだったじゃん」ゴゴゴゴゴゴゴ

最原「え!? 僕のせい!? 違うよね! 全体的に百田くんが悪いよね!?」アタフタ

数分後

最原(今のやり取りを遠巻きに見ていた、残りの生徒もやってきた)

最原(『自分たちを今すぐに害する気はなさそうだ』という最低限のラインで納得できたらしい)

真宮寺「……武装は解除してくれないんだネ」

キーボ「……」

王馬「さっきの百田ちゃんへの蹴り見たよ。凄いや。若干身体能力の高い老人並みの筋力しかなかったはずなのにさ!」

東条「なるほど。超高校級のロボットですものね。性能が物足りないのなら拡張してしまえばいい」

東条「……問題があるとするなら」

入間「機能の拡張だけなら、金かけりゃただのロボットでもできることだぜ。その辺の『人格のない鉄屑』でもな」

赤松「元のキーボくんには戻らないの?」

白銀「……邪魔な人格消しちゃったからなぁ。一応救済措置は用意してたんだけど……」

赤松「え!? あるの?」

白銀「……」

白銀「そこら辺は学級裁判で言うよ。どうせそれ含めて議論させるつもりだよ、モノクマは」

星「ふん。もったいつけやがる……」

百田「焦らされんな。テメェらしくねぇぞ星」

星「ふん……」

最原「……」

獄原「これで最後……になるんだよね」

白銀「多分ね。最初に言っておくけど……死ぬか、そうじゃないか。それだけだよ、裁判が終わった後に何が起こるかなんて」

百田「いいや! 絶対に生き残ってやるよ!」

百田「例えこの先に何が待ってたとしたって、俺たちの敵じゃねぇ! 俺たちは誰も死んでねぇんだからな!」

最原(気合入ってるなぁ。なんとなく空気もピリリと引き締まった気もする。流石百田くんだ)シミジミ

百田「終一! 期待してるぜ!」

最原「……あ。僕?」

百田「何ちょっと他人事っぽい顔してんだよ。俺たちから捜査権を強制的に奪ったくせによ」

最原「ひ、人聞きの悪い。白銀さんを庇っただけだよ。捜査権そのものはノータッチだったって」

夢野「あえてウチが言っておくが……最原。お主に対する好感度、あそこでガクンと下がったぞ?」

最原「……」

全員「……」ジーッ

最原「……あの……ええと……」タジッ

真宮寺「謝ったらちょっとは溜飲が下がるけど?」

最原「一つも悪いことしてないのに?」

王馬「流れるような畜生発言ーーーッ!」ヒャッハー

入間「学級裁判のときから思ってたぜ。テメェも方向性は違うけどクッソ憎らしいよな! 敵に回すと本当によッ!」

茶柱「ねーーー! こういうところ本当クソですよねー! この人!」

最原「ごめんそのあたりにしておいて。泣いちゃう。特に茶柱さんに言われると本当に泣いちゃうから」

最原「さっきも言ったけど罪悪感はあるんだってば! 悪いとは思ってるよ!」

王馬「悪いことをしたとは思ってないのに?」

最原「うん!」

王馬「みんなーーー! コイツ嘘吐きだよーーー!」キラキラキラ

最原「あっ、いやっ、違っ……!」アタフタ




巌窟王「……ん……モノクマ。メンテは終わったのか?」

全員「!」

モノクマ「うん! あとは時間を待つだけ! ええと……八時までは……あと五分だね!」

巌窟王「……面倒だ。全員揃っていることだし、別に時間を前倒しにしても構うまい?」

モノクマ「んー……まあ八時って時間に特に理由はないんだけどね」

モノクマ「強いて言うなら『十二時を全体的なタイムリミットにするつもり』だから、そこから逆算して裁判の開始時間を決めただけだし」

白銀「ああ。つまり『四時間で決着が付くか付かないか』ってレベルなんだ。今回の議論」

百田「あ!? 逆算ってそういう意味かよ!」

モノクマ「まあそういうわけだから……エレベーターのドア自体は開けておくから、入りたければ入っててもいいよ」

モノクマ「八時になるまでは動かす気はないけどね」

モノクマ「じゃ、ボクは先に行ってるね。バーイ!」ドロンッ

夢野「消えおった……」

百田「んじゃ、俺は先にエレベーターに乗ってるぜ。今更特に言うべきこともねぇ」

百田「ぜってぇに生き残ってやる……!」メラァッ

夢野「んあ? 百田。背中から何か出ておるぞ? なんじゃろ。なんか神々しい感じの……」

巌窟王「……!?」ガビーンッ

春川「あ。また出て来た」

ケツァルコアトル『オーラ! あ、これは挨拶の方ね。強キャラから出るアレじゃない方ね』

春川(相変わらず微妙に何を言ってるのか聞こえない。フィルターがかかってるっていうか……存在のレイヤーが違うのかな)

春川(まあこれが出ている間は百田は無敵状態みたいだし、悪いものじゃないなら前みたく放置で――)

ネコアルク「神秘発見! 確保ォーーーッ!」

ネコアルク軍団「にゃー!」ガブガブガブガブ

百田「ほぎゃぎゃーーーっ!」

春川「百田ーーーッ!」ガビーンッ

夢野「んあーーー!? ウチがジャガーマンを食われたときと同じアレじゃーーー! ていうか数多ッ!」

ネコアルク「ム! こっちからも匂いが……」クンクン

獄原「あ。これかな。前に巌窟王さんから貰ったモンテ・クリストの秘法なんだけど……」

最原(そういえばそんなもの貰ってたね! 東条さんの裁判のときに!)

ネコアルク「ああ。これならいいっす。神性ないんで。材料に組み込む規格じゃないんで」

ネコアルク「あ。同じ理由であなたもなしにゃ」

最原「ん……ありがと」

百田「あ……あ……腕が……!」ガタガタ

春川「百田!?」

百田「あるっ!」ニョキッ

バキィッ

春川「余計な心配をかけるな」ゴゴゴゴゴゴゴ

百田「めんご」イテェ

春川「……巌窟王の『全部を解決することができる』って言葉の意味が今更ながらわかった気がする」

春川「百田から他の女の匂いが消えた」クンクン

王馬「浮気を疑う団地妻みたいなこと言うのやめようよ……怖すぎてチビっちゃいそうだよ……」

最原「どういうこと? 巌窟王さん」

巌窟王「セミラミスの計画が始動した場合、副産物として『この学園全体から不可視の力がほぼ消える』のだ。魔術に類する力などがな」

巌窟王「この学園は度重なるカルデアからの介入によってよくないものが溜まり過ぎた」

巌窟王「もしも学園に穴を開けたら少なからず外の世界に悪影響が出るだろうな、という懸念事項があったのだが……」

最原「初耳なんだけど?」

巌窟王「問題があるか? 少なくとも『貴様らにとって直接的に不利益になる』ようなことは、どちらにせよ絶対にないぞ」

最原(……僕たちのことはともかく、僕たちに犠牲や痛みを強いた外の世界のことなんて知ったことじゃないってところか)

最原(それはそれでどうなんだろう)

春川「?」

百田「?」

最原(記憶を失ってる組は微妙に実感がないみたいだな……)

赤松「最初はひたすら胡乱な気配しかなかったけど……割と役に立つね。ネコアルク」

ネコアルク「割とは余計だにゃ!」プンスカ

赤松「あははっ、ごめん! 言葉のあやだよ、許して!」ケラケラ

最原(本当に凄く仲良くなってる……)ズーン

最原「……一つ聞きたいんだけどさ。『魔術関連の力が消える』っていうのは本当に副産物なんだよね?」

巌窟王「質問の意図はわかりかねるが……そうだな。メインの目的は別にあるはずだ」

巌窟王「セミラミスには陣地作成のスキルがあった。アルターエゴのアイツにどれだけの力が再現されているかは不明だが」

巌窟王「とても単純に、この学園内に『自分たちにとって有利な効果しか働かない要塞』のようなものを作ることは充分可能なはずだ」

巌窟王「……三日の詠唱が必要なはずだが……マザーモノクマ内の時間を加速させて詠唱を短縮でもさせたのだろう」

最原(ちょっとよくわからない単語はあるけど、つまり必要なものはセミラミスさんが自力で用意できる範囲で事足りるってことらしいな)

最原「ありがとう。ちょっとは納得したよ。キーボくんの強化に魔術関連の要素がかかわってたら最悪だなって一瞬思っただけだったんだ」

最原「魔術関連の力が消えるのが『ただの副産物』なら、そんなことは別にないんだよね?」

巌窟王「……副産物のつもりだったろうな。アイツもそこまでは気付いてなかったはずだ」

最原「え」

キーボ「……」

巌窟王「エレベーターに向かうぞ。アンジー、来い」

アンジー「うん! 後で行くー!」

巌窟王「……」シュン

赤松「ついてきてほしかったみたいだけど……」

東条「目に見えて萎れたわよ」

巌窟王「……」トボトボ

天海「ど、どことなく哀愁漂う背中っす」

星「東条。励ましてやれ」

東条「その依頼、承ったわ」スタスタ

百田「ハルマキ。肩貸してくれ。ダメージはそんなでもねぇが腰が抜けちまった」

春川「はいはい」グイッ

茶柱「最原さん」

最原「うん。行こう……」チラッ

アンジー「……」ジーッ

最原「……と思ったけど、ちょっと先に行っておいて」

茶柱「……まあいいですけど」

最原「けど?」

茶柱「転子、あなたのことあまり信用してないので。疑わしきは黒ですよ」

最原「なんの話……?」

茶柱「ふん!」スタスタ


スタスタスタ







最原「……二人きり……あ、いやキーボくんもここにいるから三人きりだね。アンジーさん。何か話があるの?」

アンジー「うん。最後にちょっとねー」

アンジー「キーボもここにいるのはちょっと計算外だったなー。耳貸して、耳ー」チョイチョイ

最原「ん?」

アンジー「えっとねー。終一、なにか『彼』にあった? いつの間にか『彼』に変なのひっついてるんだけど」

最原(……なんでか知らないけど、アンジーさんは巌窟王さんのことを『神様』と呼ばなくなった)

最原(アンジーさんが『彼』と呼ぶ場合、どうやらほとんどの確率で巌窟王さんのことを指しているみたいだ)

最原「ひっついてる? 特に変わりは無さそうに見えるけど……?」

アンジー「なんかさー、ステータスに小さい……ほんの小さい『刻印』? 『紋章』? みたいなものがあるんだよねー」

最原「あのさ。サーヴァントのステータスとか状態とかってマスターのアンジーさんにしか見方わからないよね。僕に言われても……」

アンジー「……」

最原「……いつ気付いたの?」ハァ

アンジー「ついさっき。小さすぎてわからなかった。ジャバウォック島にいたときは、あんなものなかったと思うんだけど……」

アンジー「わかるのは刻印の名前だけだねー」

最原「名前?」

アンジー「『卒業アルバム』だってー」

最原「!」

最原(……そうか。繋がってきたぞ。辛うじて見えてきたかもしれない)

最原(この刻印、もしかして『彼女』の置き土産か? だとしたら……!)

最原(『全員生還』の目が見えてきたかもしれない!)

アンジー「……今すぐ答えなくってもいいよ。考えてさえくれればねー」チラッ

最原「ん?」

最原(アンジーさん、今どこか見て……)



ギュッ



最原「え?」

アンジー「ぎゅー」

最原(……抱きしめられた)

アンジー「おかえし仕返しー」ニコニコ

最原「!?」ゾッ

最原(なんだろう。滅茶苦茶イヤな予感がする!)ガタガタ

最原(少なくともこの行動が凄まじい悪意のもと行われているということだけはわかる! 何故なら!)

最原(さっきの茶柱さんの言ってることの意味が今更ながら理解できてしまったから!)

最原(疑わしきは黒って『浮気をしたら殺す』って意味だ! そして!)ガビーンッ

茶柱「……」ジーッ

最原(明らかに見られているーーーッ! 後ろから視線みたいなものがブスブス突き刺さってるのを感じるーーー!)

アンジー「……すりすり」

最原「あ、あの、アンジーさん、そろそろ……!」ガタガタ

アンジー「……うん。もう未練はないんだよねー。これで全部清算するつもりだからさー」

アンジー「でも」

最原「でも?」

アンジー「それはそれとしてすげぇムカつく」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

最原「」

アンジー「地獄ってどこにあると思う? アンジーたちの足元? この世界の外側? 火山の火口が入口ってこともあるかもねー」

アンジー「でもひとまず終一の地獄は、十秒後だよ」

最原「」

最原「」

茶柱「……」ジーッ

最原(最原終一ファイナルシーズン、このあとすぐ。感動のラストを見逃すな……)ガタガタ

アンジー「にゃははー!」

アンジー「あースッキリした。それじゃあばいばーい!」

アンジー「……」

アンジー「……さよなら」

最原「最後にガチのトーンで別れを念押しするのやめてくれない!?」

アンジー「にゃははー」タッタッタッ

最原「ま、まずい。どうしよう。僕の寿命があと十秒に――!」

茶柱「五秒です」ギュンッ

最原「え。後ろに回り込まれ――」

ゴキンッ






赤い扉の中

巌窟王「……終わったか? アンジー」

アンジー「うん! これで完璧に大丈夫ー!」

巌窟王「そうか」

巌窟王「……クハハハハハ! そうか!」タカイタカーイ

アンジー「きゃー! いきなりやめてよー!」ケラケラ

赤松「ふふっ。なんかもう、すっかり仲直りって感じ。アンジーさんと巌窟王さん」

百田「その代償に茶柱と終一が……」

東条「尊い犠牲よ」

百田「……そ、そうか」

百田(俺はそのときの東条の目が『どこにも向いていない』ことに気付いたが、それ以上の追及をする勇気はとてもじゃないが捻り出せなかった)

五分後

ガコンッ ゴウン……ゴウンッ……

最原「……」

最原「……ハッ! 痛みのあまりあらゆる外的刺激に対して無反応になってた! フリーズしてた!」ガバッ

春川「あ、起きた」

最原「それ以前に気絶してないよ! ギリギリ意識保ってたよ! ただ痛すぎて意識が固まってただけだって!」

最原(いつの間にか降下中のエレベーターに乗ってる……)キョロキョロ

茶柱「……」

最原「あの……茶柱さーん」

茶柱「ばか」

最原「」

茶柱「……」ツーンッ

最原「……」アセッ

ネコアルク「いやぁー。甘酸っぱいにゃー」

ネコカオス「ふうーっ……ま、今時は『浮気は男の甲斐性』とSNSで投稿するだけで大炎上する時代だ」

ネコカオス「火遊びもほどほどにしたまえ。少年」

最原「火の方が僕の方に飛び込んでくるんだってば……」

最原「……なんで連いてきてるの!?」ガビーンッ

ネコアルク「暇」

最原「暇!?」ガビビーンッ

赤松「残りは多分、まだ作業中だけどね。この二匹はついてきたいって」

最原「ええーっ……」

真宮寺「ククク……愛されてるネ。赤松さん。ネコアルクもそうだけど、これをキミに遺したセミラミスさんにもネ」

赤松「あはは。なんでだろうね」

入間「『余計なことを善意でやって迷惑かける天才』って点でウマが合うからだろ」

入間「睡眠中の同棲相手をたまさか発見したとき『あ、爪荒れてるな』って理由で勝手にネイルケアして悦に浸ってるタイプっつーかよ……」

赤松「どんなタイプ!?」

星「……」サッ

東条「……」サッ

アンジー「……」サッ

赤松「え。待って。なんで何人かこっちから目を逸らしてるの!? 違うよね!? 私『は』違うよね!?」アタフタ

巌窟王「……いいカウンセラーを紹介しよう」ポンッ

赤松「」

裁判場

モノクマ「……」マダカナ マダカナ

モノクマ「……」ワクワクドキドキ



チーンッ ガラララッ


モノクマ「おっ! いらっしゃーーーい! 最後の裁判にようこそーーー……う?」

赤松「違うもん……私は違うもん……」エグエグ

百田「泣くほどイヤか!?」

春川「いやわかるよ。アイツは最低だよね」

百田「俺が言うのもなんだけどハルマキ私情丸出しだな!」

真宮寺「私情……? なんか楽しそうな話だネ。詳しく聞かせてもらっても」ワクワク

獄原「巌窟王さん……紳士がレディを泣かせちゃダメだよ」

巌窟王「……!? ……!?」ブンブンッ

東条「必死に首を横に振ってるわね」

アンジー「『俺のせいじゃないだろう!』って言ってるよー。態度で」

天海「不屈の精神で罪に抗っている……これも復讐者だからできる業の技ってところっすか」

白銀「そんな格好よく言うもんでもないよ?」

王馬「ていうか入間ちゃんだし。最初に言ったの」

入間「おっ……俺様は悪くねーぞ……別に泣かせるつもりじゃ……」シドロモドロ

入間「おっ。バカ松、髪飾り変えたか? いつもより一ピコグラムほど可愛さが増してるぜ!」ニカッ

巌窟王「誤魔化すな!」ギンッ

入間「テメェに言われたかねぇッ!」ウガァ!





モノクマ「なんか既につるし上げが始まってる!」ガビーンッ

入間「……うぉおおおおい! 来てやったぜモノクマぁーーー!」オラオラ

最原(あ。誤魔化し方が変わった。モノクマに対してオラ付きはじめた)

巌窟王「クハハハハハハ! 棺桶も墓穴もいらんぞ。貴様は今日、灰も残さず消滅させてやるッ!」ギンッ

最原(巌窟王さんも乗った!)ガーンッ

アンジー「一応アンジーの怪我も治療したし、魔力供給に関しては万全だよー!」

アンジー「裁判が終わった後が楽しみだね?」

モノクマ「ほにゃにゃ? もうボクに勝つつもりなの?」

天海「強がりっすね。新世界プログラム内で一回巌窟王さんと俺たちに徹底的にボコられたくせに」

東条「あのときのあなたが私たちを生かす理由は特にない。モノクマは手加減なしだったはずよ」

東条「フルスペックのモノクマを倒したという実績がある今、勝つこと自体は不可能でもなんでもないわ」

モノクマ「そもそもボクは荒事は苦手なんだってば」

モノクマ「第一、そんな戦い方をもう一度ボクが繰り返すと思う? 負けてるのに?」

真宮寺「……なるほど。道理だネ」

星「簡単に納得するな。ブラフの可能性だって充分あんだろ」

モノクマ「とにかく魔術とモノクマが交差して物語がビギニングする流れはもうなし!」

モノクマ「ここから先は裁判で決着をつけるよ!」ギンッ

キーボ「……」

最原「いくつか聞きたいことがあるんだけど……」

モノクマ「なに? なんでも答えるよ?」

最原「あれなに?」







モノクマロケット「」ドーンッ

モノクマ「ロケットだけど」

赤松「席の輪のど真ん中に鎮座してる!」ガビーンッ

赤松「え、ええーっ……なんで裁判所のド真ん中にロケットが――」

モノクマロケット「……!」ガタガタゴトンゴトンッ!

赤松「きゃああああああああああああっ!?」ガビーンッ

王馬「なにあれ。急に動き出したけど」

モノクマ「ああ。中にいる人が定期的にドアを蹴り上げるせいで、その衝撃でちょっと動いちゃうんだよね」

獄原「ひ、人!? 中に人が入ってるの!?」

モノクマ「ま、そこら辺はおいおいね。これも裁判で使う重要な小道具だから」

百田「なあこれ宇宙まで飛べんのか!? 飛べるよな!? 飛べるだろ! 外観は滅茶苦茶だがロケットエンジン自体はモノホンだぜーーーッ!」ワクワク

最原「い、いつの間にか百田くんがロケットの傍に!」

春川「百田! そいつから離れて! 定期的に動くらしいから危ないって!」

モノクマロケット「……!」ガタガタッ

春川「百――!」

百田「勝手に動いてんじゃねーーーッ!」ガイイインッ

春川「」

最原(容赦なく蹴り上げたーーーッ! あ、あれ中身大丈夫かな! ロケット自体は頑丈そうだけど中身に結構衝撃と音が行ってそう……)

巌窟王「……」

巌窟王「中に人、か。この場には全員揃っているというのにな?」

最原「!」

赤松「……いや。全員じゃないよ。まさか、あの中身って……!」

モノクマ「はいはい! 時間無駄にしていいの? タイムリミットまであとどのくらいだと思う?」

モノクマ「そうね大体ねー」ピッ

ウィーンッ ガシャンッ

茶柱「あ。モニターが下がってきましたね」



アト 3ジカン 50フン 2ビョウ



夢野「んあ!? わ、割と時間が進んでおらぬか!?」

最原「もう十分くらいか……席につこう」

巌窟王「モノクマ。俺の席は?」

モノクマ「やっとこさ増設したよ。最原くんの隣ね」

最原「!?」ガビーンッ

巌窟王「……」ゴゴゴゴゴゴゴ

最原「……」ガタガタ

百田「おいおいコラコラ。無駄に威圧すんなって。仲良くしろよ」

巌窟王「フン」

春川「まったくもう……最原もそうビクビクしないで堂々としてたら?」

最原「あはは……」

アンジー「そうだよー! アンジーのことをメロメロにした男の子なんだからさー!」

最原「!?」ビクーンッ!

巌窟王「クハハ。終わったことだ。もはや何も言うまい。言うまいが……」

巌窟王「終わったのだ。我がマスターに色目を使うなよ、最原」ギロリ

最原(言ってるじゃん……)ガタガタ

最原(……)

最原「最後の裁判、か」

モノクマ「オマエラも流石にそこまでバカじゃないからさ。エグイサルが動かないからって、もう抑止力がまったくない、とは考えてないよね」

モノクマ「そう。新しい抑止力……オマエラを押さえつける最後の関門。それは御覧の通り、キーボくんなのです」

キーボ「……」

モノクマ「裁判らしく、ここから先は秤にかけてみようか」

モノクマ「この学園の真実と、オマエラの『エゴ』。どちらが秤を傾けるかな?」

モノクマ「この裁判を最後まで見事に生き残ったら、キーボくんの攻略法が見つかるかも……ね!」ニヤァ

巌窟王「なるほど。それが最後の学級裁判で賭けるもの、か」

百田「勝ち取ってやるよ。すべてをな」

百田「キーボも、俺たちの命も、ここで得た思い出のすべても……全部全部全部……!」

百田「この学園の外に、持ちだしてやるぜ!」ズギャアアアアアアンッ









最原(そして始まる)

最原(記憶、記録、真実、虚構、現実、魔術)

最原(そして『カルデア』と『才囚学園』……)

巌窟王「……やるぞ。覚悟はできているか!」ギンッ

最原(僕たちと、僕たちを取り巻くすべてを賭けた……『最後の学級裁判』!)

学級裁判 開廷

モノクマ「まずは、最後の学級裁判のルールを説明しましょう!」

モノクマ「オマエラにはこれから、ちょっとした設問に一つずつ答えてもらいます」

モノクマ「ボクが用意した設問は全部で三問! 全部答え終わったころには、この学園の真実はすっかり解き明かされていることでしょう!」

モノクマ「キーボくんを元に戻す方法もね……!」ニヤァ

巌窟王「やはりあるのだな。キーボを元に戻す方法が」

モノクマ「さて。再確認しておきましょう。今のキーボくんは、第四の事件のときまでに得た記憶と、それ以前に初期設定された人格設定を丸ごと初期化」

モノクマ「何もかもがクリーンな状態になっております! これでは、そこら辺のチープなロボットの方がまだマシかもね!」

最原「お前がやったことだろ……」

赤松「設問をクリアするころにはキーボくんを元に戻す方法もわかってるって……」

赤松「つまり、そのまま『キーボくんを元に戻す方法とはなんでしょう』って内容の設問があるってこと?」

モノクマ「うーん。そこまでストレートな設問は用意してはいないけど。でも方向性は合ってるかもね」

東条「キーボくんは今、私たちの脱出を阻む最大の抑止力よ」

東条「彼をどうにかすることさえできれば、私たちは巌窟王さんの力を借りて外の世界に脱出できる……」

星「間接的に『この学園からの脱出を賭けた裁判』ってことだな。実のところそこまで難しい話じゃねぇ」

星「……今のところはな」

百田「あ? 引っかかる物言いだな。今のところってどういうことだよ?」

星「忘れたか? 俺たちは散々、モノクマから渡された情報に引っ掻き回されていたはずだぜ」

星「俺たち自身の記憶に纏わる思い出しライト。動機ビデオ。最終的には『外の世界の真実』……」

星「設問という形にはしているが、おそらくこの学級裁判でモノクマが行おうとしていることも大本は変わらねぇ」

真宮寺「僕たちに遠回しな方法で『情報』を渡そうとしているだけ。それも何か『絶望的な情報』を……」

真宮寺「ククク。充分考えられる話だヨ。ただ、だからと言ってどうということもないんだけどさ」

巌窟王「この場に立った時点で、もう罠であろうと立ち向かうしか道は残されていない」

巌窟王「すべての絶望を真正面から叩き伏せろ。死にたくなければな」

モノクマ「あっあー。勝つ、あるいは勝てる前提で話をしているところ悪いけどさー」

モノクマ「そろそろオマエラのゲームオーバー条件を説明していいかな? その結果、何が起こるかも」

入間「何が起こるって……決まってんだろ? 武装したキーボが俺様たちを巌窟王ごとぶっ殺してジ・エンド。それ以外に何があるって?」

王馬「よりによってキー坊に殺されちゃうのかー。ま、マジかー……マジかー……マジかぁーーー……」ズズーーーンッ

天海「無限に落ち込みすぎっすよ……」

王馬「最悪の場合でも白銀ちゃんに殺される辺りだと思ってたからさ。それを下回ると知ったら普通にショックだって」

白銀「だから私は仲間を殺したりなんかしないってば。何回か言ったと思うけどなー」

東条「……口には気を付けなさい。こうやって同じ空間にいることすら本当は許してないのよ」

茶柱「いくら何でもトゲトゲしすぎじゃないですか!?」

赤松「……」

獄原「……ごめん。白銀さんのことに関しては出来る限りノータッチで行けないかな。正直、ゴン太たちもどう接すればいいかわからないんだ」

茶柱「こんな局面になってまで……!」

モノクマ「うーん。オマエラさー、何か勘違いしてるみたいだね」

モノクマ「確かに暴力では負けたよ? でも、この才囚学園において、すべてを支配しているのはまだボクなんだよね」

モノクマ「才囚学園生徒一同十六人と、巌窟王さんが死んで終了……そんなわけないでしょ。『それだけ』で終わるわけないでしょー?」

最原「……」

巌窟王「やはりな。そういう構図で来るものだとは思っていたが」

赤松「え?」

モノクマ「それではみなさんっ! 上部モニターをご覧くださーい!」シャキィィィンッ

赤松「……ッ! モノクマ、あなたやっぱりセミラミスさんを人質に――!」

ブオンッ

『ねー! いい加減にしてほしいのだわー!』

赤松「するつもり……んっ?」

最原「あれっ?」

巌窟王「……????????」

巌窟王「……!!!!!!!!」ガビーンッ

最原(え、と。誰だろう。『まったく見覚えのない人』が、広くて薄暗い空間を当てもなく歩いている)

最原(フリフリのついたロリータ服に身を包んだ……女の子? 歳は十歳行くか行かないか程度、だろうか)

赤松「あ、あれ。おかしいな。私の予想だと『ロケットの中に監禁されたセミラミスさんの映像』が出て来るはずだったんだけど……」

百田「あ。確かにそう考えりゃ、殺さず連れ帰ったのも納得できんな。できるけどよ……」

春川「……」








巌窟王以外全員(誰?????????)

赤松(……でもなんだろう。この声『どこかで聞いたことがある』?)

巌窟王「ば、かな。何故ヤツがここにいる……!?」

アンジー「あれー? 知り合いー?」

巌窟王「知り合いも何も、あの童女は――!」

モノクマ「ポチっとな」ピコンッ


GAME OVER

ナーサリーライムさんがクロに決まりました。
おしおきを開始します。



巌窟王「!!」

最原「……ん、なっ! モノクマ、そのスイッチは!」

モノクマ「うん。『生徒をおしおきするときにいつも使ってたアレ』だね」

夢野「ちょ、ちょっと待て。ちょっと待つんじゃ……今、そのスイッチに表示された名前! 聞き覚えがある! 聞き覚えがある『なんてもんじゃない』ぞ!」

赤松「……思い出した! あの声ッ! どこかで聞いたと思ったら間違いない!」

百田「……?」

王馬「ねーねー。一体何の話してるのさー。まったく『覚えがない』んだけど」

最原(王馬くんと百田くんには心当たりが無い)

最原(なら『確定』だ! 彼女は! 今画面の向こうにいる女の子は!)

『きゃー!』

最原「!」

百田「お、おいおいおい! なんだありゃ! ふざけんなッ!」

最原(画面から聞こえる悲鳴。再び彼女に目をやると、信じられない光景が広がっていた)

最原(いつの間にか、彼女は檻に閉じ込められている。同じような檻を縦に長く積み上げた妙な檻だ)

最原(足元には水が流し込まれ、このままだと天井にまで達して呼吸ができなくなってしまうだろう)

最原(……ああ。そうか。あの檻のコンセプトは――!)

モノクマ「超高校級のマジシャン、夢野秘密子おしおき。『ミラクル大脱出ショー!』だよ」

夢野「んあっ!?」

モノクマ「あの外から完璧に丸見えな檻の中で、溺死したくないがために上の檻上の檻へと昇って行く夢野さんを眺めるっていうコンセプトの処刑方なんだ」

モノクマ「……けど、まあ使わなくなっちゃったからね。ここで一気に流用して放出しちゃおうってことで」

真宮寺「なるほど。檻と檻を仕切るドアの間には錠前……か。これをクリアして上に昇っていかなければあっという間に溺死だネ」

天海「ちょ、ちょっと待って! この際、なんでここにナーサリーさんが、とかは置いておくっす!」

天海「まさか俺たちの敗北条件ってのは!」

モノクマ「『時間内にこちらが出すタスクをクリアしない場合、一人ずつ死人が出る』……わかってくれたかな! 生徒諸君!」ギンッ

モノクマ「あ。ちなみにね。あのおしおきのクライマックスは『一番上の階層に辿り着いたところで排水、その後すべての檻を分解して自由落下』だよ」

モノクマ「落下した後は檻を構成する部品の一つ一つが夢野さんに突き刺さる想定だったんだけど……」

夢野「あぶあぶあぶ」ブクブク

アンジー「わー! 大変だー! 秘密子が気絶しちゃったよー!」

入間「こ、この人でなし!」

赤松「巌窟王さん! 彼女に手品の心得とかは!?」

最原「!」

巌窟王「……そんなものは……ない……!」ギリイッ

最原(待てよ。それじゃあモノクマが想定したクライマックスより先に、彼女は……!)

百田「出題しろモノクマッ! いいから問題を出せぇーーーッ!」

モノクマ「はいはーい! それじゃあ始めましょう学級裁判! 記念すべき第一問はーーー!」

ジャジャンッ

モノクマ「『この学園の正体とはなんでしょう』、です! それじゃあナーサリーライムさんが死ぬ前にきっちり議論してねー!」

モノクマ「……って、言うほどのことでもないか。わざとそんな問題にしたんだし。すぐに答えられるよね、これ」

百田「この学園の正体……って……アホか! それが今までわかってなかったから俺たち今までこんな目に遭ってたんだろうが!」

百田「今更こんな問題出されたところで一時間二時間じゃどうにも――」

最原「できるよ!」

百田「……終一?」

最原「モノクマ……お前がそういうつもりなら僕は一切容赦しない」

最原「白銀さんと一緒にお前も助ける必要があるかも、と一瞬思ったのがバカみたいだ」

最原「僕にはもう二度目はない!」ギンッ

百田「……?」

巌窟王「……最原。一度目が既にあったような物言いだな。BBのことを気にしているのか?」

赤松「ッ! でもあれは……どうしようもなかった、よね……」

最原(どうしようもなかった……だって?)

最原(違う。僕はそんな言葉で片付けられない。理屈でわかっても心が拒む)

最原(仮にあれがどうしようもなかったとしても、だ! 目の前のアレはまだ『どうにかなること』だ!)

最原「檻なら壊す。そういうものはもう沢山だッ!」

百田「終一! もうわかってるんだな! この問題の答えが!」

天海「え……あれ? 百田くんはわかってないんすか?」

百田「あん?」

天海「……いや俺自身、未だに納得できてないんで『わかってない』のは別にいいとして、この調子だと『知らない』んすね?」

天海「なんで……」

入間「……」

獄原「……」

天海「……あー……誰も喋らなかったんすね。喋りたがらなかったから」

百田「んだよ。また『何かを思い出した組』だけの話かよ」

夢野「んあ? いや……ウチも心当たりはないぞ?」

アンジー「秘密子、起きるの早いなー」

巌窟王「訊ねられれば誰もが喋っていただろうさ。まさかあんな場所で世界の真相を知ることになるとは思うまい」

王馬「んー? あんな場所ってどんな場所?」

最原「新世界プログラムだよ。あの中で僕たちはこの世界の真実を知ったんだ」

春川「待って。急に飛躍しすぎだよ。問われてるのはこの学園の正体でしょ。それが何だって『この世界の真実』に繋がるの?」

巌窟王「世界の真実が、そのままこの学園の正体に直結するからだ」

百田「なんだって?」

最原「いつまでも助けが来ない閉鎖空間。見世物のような悲劇。非現実的なガジェット……」

最原「それらすべてが誰かに用意されたとして、それを実行したのは一体誰か」

最原「……外の世界だよ」

春川「……?」

百田「外の世界の、頭のイカれた秘密結社、とかか?」

最原「違う。『外の世界の誰か』じゃなくって『外の世界そのもの』なんだ」

百田「……は?」

最原「……この学園で目覚めた僕たちは」

最原「これまで思い出した記憶や、築いてきた記憶のすべては!」








最原「この学園の正体は――外の世界の、誰かの為の物語なんだよ!」

百田「………………………………………………」

百田「ハルマキ?」

春川「私に振らないで。こっちだって意味不明だよ」

王馬「ふーん……へえー」

王馬「なるほど。超納得した!」バァーーーンッ

茶柱「超!?」ガビーンッ

夢野「いや……確かにそう考えると腑に落ちるものがいくつかあるぞ」

夢野「あの隠し部屋からの監禁を破った後、BBと一緒にキーボオブジェやら何やらを調べたときに色々聞いたんじゃ」

夢野「この学園は明らかにキーボの目を通して誰かに見られていたとBBも言っていた」

夢野「誰かに『エンターテイメント』として楽しまれている。その可能性はウチも当然考えておったぞ」

夢野「なるほど! 確かに超納得じゃな!」ババーーーーンッ









夢野「とか言うわけないじゃろッ!」ウガァ!

アンジー「ノリツッコミ出たー!」

夢野「いくらなんでも世界規模で楽しまれているわけが……」

ピンポンピンポーン!

モノクマ「コングラッチュレイショーーーンッ! 大正解でーす!」

夢野「」

夢野「……嘘じゃろ……えええええええええ!? 嘘じゃろおおおおおおお!?」ガビーンッ

夢野「あ、いや実際嘘なんじゃろ! モノクマの言うことを今更信じられるわけが……」

王馬「いやこういうときのコイツは一度として嘘吐いたことないじゃん。モノクマだからこそ信じられるよ」

夢野「……」

春川「……本当なんだね。私たちのすべてが世界規模で、エンターテイメントとして消費されていたっての」

百田「待っ――」

百田「……つ必要はねぇか! その前にやることがある! 話はその後だ!」

最原「そうだ! モノクマ! 早くおしおきを止めろ!」

モノクマ「は? 止められないけど?」

最原「……は?」

巌窟王「……?」

巌窟王「聞き間違いか? または言い間違いか?」

モノクマ「どちらでもないなぁ! いや、よく考えてみてよ! 流用なんだよ?」

モノクマ「一度動き出したおしおきガジェットは、処刑が終了するか『処刑する前に処刑対象が消失する』以外の終了方法がないんだって!」

モノクマ「今まで散々目の前で見て来たはずだけどなぁ?」ニヤァ

巌窟王「……そうか。わかった。アンジー!」

アンジー「ほえ?」

アンジー「……ああ! なるほどー! 了解了解ー!」キラキラキラ



ボオウッ


獄原「巌窟王さん、何を……!?」

巌窟王「今までと同じだ。この地獄へと引きずり、連れ込む。そうでなければ彼女の命はないだろう」

巌窟王「……この空間は、前々から思っていたが『歪』だからな」

真宮寺「そうか……助けに行くんだネ。そしてモノクマは『正答さえ得られれば特にそれを制限しない』……」

真宮寺「でもあれ、どこだかわかってるの?」

巌窟王「クハハハハハハハハハハハハ!」

巌窟王「……わからん」

赤松「ダメじゃんっ!」ガビーンッ

巌窟王「それ以前の話だ。かなり話は巻き戻ってしまうが……ここはどこだ?」

東条「裁判場でしょう?」

東条「……」

東条「いや。そうね。本当にそう。ここは具体的にどこなのかしら」

入間「なに二人して痴呆老人みてーなこと言ってんだ! どこも何も裁判場……」

入間「……」

入間「あっ。そうだ。俺様たちここが『どれだけ深い場所にあるか』を知らねぇ! 正確に測ったことなんてねぇもん!」ガビーンッ

巌窟王「この場所の位置情報と、合わせてナーサリーライムの位置情報が必要だ」

最原「モノクマ!」

モノクマ「ボクは教えないよ? ここは一応学級裁判。基本的には生徒同士の情報交換と柔軟な思考で突破してほしいなぁ?」

モノクマ「……とは言え、裁判場の位置情報まで欲しがるとは思わなかったから、それに関してだけは公開してあげようかな。モノパッドを後で確認してね」

春川「……肝心の情報を教える気はないみたいだね」

最原「いや。今の一言は大きなヒントだよ。モノクマは基本的に『答えられない問題』は出さないから」

最原「多分、生徒同士の情報交換でほぼなんとかなる範囲ではあるんだ」

獄原「でもなんでナーサリーライムさんがここに……モノクマが連れて来たのかな」

最原「……違う! でも考え方はいいかもしれない!」

獄原「え?」

最原「つまり、彼女をあそこまで連れ込める人物に直接的に訊けばいいんだよ! あの場所がどこなのかって!」

最原(彼女をおしおきガジェットのある場所まで連れていって、あまつさえ監禁できる人)

最原(尚且つ、モノクマからの情報提供に依らずに今すぐに確認することができる位置にいる人)

最原「この裁判場に、その答えを知っている人はたった一人しかいない!」

最原「キーボくん! 答えてくれる?」

キーボ「……」

百田「キーボ……? あ、そっか! セミラミスの件もあったしな! あれと同じように、あの女の子もさらったってわけか!」

春川「根拠がセミラミスだけ……? それじゃあちょっと確証とするには薄すぎるんだけど」

巌窟王「俺は最原の意見に賛成だ。ナーサリーライムをあそこまで連れ込める者がいたとしたらキーボ以外に考えられない」

巌窟王「アイツは俺と同じ、サーヴァントだからな。はっきり言って、モノクマにも白銀にも、アイツをかどわかすことは不可能だぞ」

王馬「えーと。つまり強すぎて普通の人間だと監禁は無理ってこと?」

巌窟王「戦闘に特化したサーヴァントではない……が、常人が工夫でどうにかできる範疇を遥かに凌駕している。間違いない」

星「……もう推理の地盤固めに徹する時間はないみたいだぜ。見ろ」

夢野「んあ……? あれ。ナーサリーが消えておるぞ。どこに行ったんじゃ、アイツ」

天海「……あっ」

赤松「……!」

最原(全員が言葉を失った。もう時間が無い……というよりはほぼタイムアップに等しかった)

最原「最初の檻が沈んだんだ! 消えたんじゃない! 水面下に潜ったんだよ!」

茶柱「ほ、本当に時間がありませんよ……! どうするんですか! どうしたら……!」








キーボ「病院の真下です」

巌窟王「!」

赤松「えっ」

キーボ「病院の真下、五十mの位置にいます」

巌窟王「アンジーッ!」

アンジー「まるっと持ってけドロボー!」


ボオオオオオッ

項羽は来た……なのになぜぐっさんが来ない……!?
今日中にぐっさんが来ないと酸欠で死んじゃいそう

ビュンッ バガァァァァァンッ

赤松「す……凄い勢いで行っちゃった」

アンジー「前みたいに真っ直ぐ上にって感じじゃなく、最短距離でキーボの言ってた座標に向かってるねー!」

赤松「ていうかキーボくん喋れたんだ!?」

最原「まあ……喋れなくなったと誰かに聞いたわけじゃないし、多分質疑応答に問題はないだろうなとは思ってたけど……」

最原「本当に素直に答えてくれたなぁ」

百田「たりめーだろ。キーボは仲間なんだからよ」

茶柱「妄信しすぎですよ。それはそれで」

茶柱「で?」

最原「え?」

茶柱「転子たちのコロシアイがエンターテイメントとして外の世界で楽しまれていた、というのはわかりました」

茶柱「おそらくそれがキーボさんの目を通じて発信されていたんだろう、ということもまあ納得は出来ます」

茶柱「でも最原さんたちの言を信じるのならキーボさんはちょっと前からずっと、あのオブジェの中に監禁されてたんですよ?」

茶柱「だとすると……転子たちの生活はそこから一切外に発信されることはなかった。そういうことでいいんですか?」

王馬「あれ。それはちょっと不自然だね。『外の世界の娯楽として楽しまれてた』ってトンデモ説を撤回してもいい程度には」

王馬「だってキーボオブジェが現れたのって数日前だよ? そんなに長い間放送休止にしてたっての?」

最原「それは違うよ。キーボくんの目が無くなった後すぐに、別の物を介して僕たちのことを見ていたはずだ」

天海「……」

天海「隠しカメラ……っすね。キーボくんが消えた直後から作動し始めた装置なんて、あれしか考えられないっす」

夢野「あのカメラはキーボの代わりだったというのか?」

夢野「……もうちょっといい角度で映っておくべきじゃったのう」ポッ

百田「なにちょっと照れてんだテメェ!」

春川「……やっぱり納得できない。エンターテイメントってどこからどこまでが?」

春川「外の世界は滅んだんじゃなかったの? 私たちは地球の唯一の生き残りのはずでしょ」

春川「私が覚えてる限り、あの状況下から人類が一気に復興するような要因は一切なかったはずだけど」

夢野「え? なに? 春川も春川で何言っておるんじゃ?」

獄原「あ。そっか。夢野さんは新世界プログラムに入ってないから思い出しライトを浴びてないんだね」

夢野「ああ。なるほど。思い出しライトの話かー……思い出しライトの話か!?」ガビーンッ

最原「そもそも、その思い出した記憶そのものが嘘だったとしたら?」

春川「……?」

最原「言ったはずだよ。思い出して来た記憶のすべては『誰かの為の物語』だ」

最原「全部が全部、作られたフィクションだよ」

春川「……!?」

茶柱「証拠は!? そんなこと急に言われたって、すぐ『はいそうですか』と納得できるわけないでしょう!」

最原(証拠か……なにせ記憶の話だからな。証明することは難しいだろう)

最原(僕は『今まで思い出した記憶のすべてが作り物』だってことを感覚で知ってるけど……)

最原「……ん」

茶柱「どうしたんですか? 証拠を出してくださいって言ってるんですよ?」イライラ

最原「ごめん。ちょっと待って」

最原(なにか引っかかったな……ここであったことを全部覚えてる以上、忘れてるってことはありえないんだけど)

最原(僕は今、何かを見落としてる……?)

最原「……あっ」

茶柱「?」

最原(そうか。推理が思わぬところで繋がったかもしれない)

最原「順序だてて答えていこう。今のところ、この学園の謎は新世界プログラムの中で手に入れた情報でほとんど答えられると思う」

最原(そして……最後の課題。キーボくんの修繕方法も)

最原「証拠……証拠か。これで納得してもらえるかどうかはわからないんだけど……」

茶柱「なにをもったいつけてるんですか。もっと自信持ってくださいよ、多分正解なんですから」

最原「仲間だからと言って妄信するなって百田くんに言った傍から凄い信頼だね……」テレッ

茶柱「変なところで照れないでくれませんっ!?」ガーンッ

最原「証拠を出す必要はないよ。周りを見てくれればわかると思う」

最原「ずっとゴタゴタしてたからね。精査してる暇もなかったかな」

星「……そうか。あまりにも明らかすぎて抜け落ちていたぜ」

星「俺たちは『死んでいたこと』になっていたんだったな? 『こちらに残った生徒たちの中』では」

茶柱「あっ!」

最原「そう。この点においては間違いなく『僕たちは記憶を改竄されていた』という状況証拠だ」

最原「……少なくとも『辻褄の合わない記憶を持っていた』とは断言できるよね?」

百田「……」

春川「それは……!」

最原「まあ所詮は状況証拠。これだけだと根拠としては弱いんだけど……」

最原「『ありえなくはない』って感じてくれるだけで今は充分だよ。記憶に関する証明って本当に難しいんだ」

真宮寺「そもそも、法と秩序に満ち溢れた外の世界においても、実は『決定的な証拠』ってヤツは中々レアなんだよネ」

真宮寺「裁判において重要なのは小さな根拠の積み重ねさ……まさに今やってるようにネ」

最原(本当はモノクマカラーのノートパソコンの中に入ってたオーディション映像とかもあるんだけど……)

最原(そこまでやる必要はまだないかな)

百田「ていうかよ。テメェら基本的なこと忘れてるんじゃねぇか?」

百田「キーボが現れてからの学園でのイベントは本当に心当たりがないみたいだけどよ」

百田「それ以前のことなら全部知ってるヤツがこの場にいるし、学級裁判の場なら話も聞けんだろ?」

百田「もう終一も過剰に守ったりしねーよな?」

最原「ん……そうだね。それじゃあそろそろ彼女に話を聞いてみようか」

茶柱「白銀さん」

白銀「……それは別にいいんだけどさ。最初から最後の学級裁判において真実を小出しにすることが首謀者の役割なんだし」

白銀「でもそんなことしてる暇ある?」

最原「え」

白銀「巌窟王さん遅くない?」

星「……おしおき、まだ続いてるな……?」

赤松「あれ? 変だな。もう巌窟王さん到着したの一瞬見えた……っていうか、水面の下に見える黒いのって巌窟王さんの炎だよね?」

アンジー「えっとねー……」

アンジー「『牢が頑丈すぎて壊せない』だって」

百田「あ!? 壊せないってことはねーだろ! だってアイツ、エグイサルだって破壊できてたよな!?」

アンジー「理論値の上では壊せないことはないんだけど、それやるともう本当に危ないんだよねー。消滅しちゃう」

東条「キーボくんと戦ったときの傷……!」

獄原「まだ響いてたの!? いや……それはそうだよ! 響いてないはずがないんだ!」

最原「どうしたら……!」

夢野「落ち着け。壊せないのなら分解すればいいんじゃ」

最原「!」

入間「アホか! どっちにしても似たようなもんだろ!」

最原「入間さん黙って!」

入間「」

最原「夢野さん! 何か心当たりがあるんだね!?」

夢野「ウチは赤松のようなアホはせんぞ。自分の分はキチンと弁えとる」

夢野「この超高校級の魔法使いに任せるがよい!」シャキィィィンッ

おしおき装置内

巌窟王「……」ゴボゴボ

巌窟王(物凄く苦しい! 仮にも霊体だというに、ただ水の中にいるだけで凄まじい不快感だ!)

巌窟王(久しいな。これが酸欠の感覚か)

巌窟王(……さて。しかしどうしたものか。俺より先に沈んでいたナーサリーは俺の比ではないはずだ。一刻の猶予もない)

アンジー『秘密子から伝言ー!』

巌窟王「!」

巌窟王(念話か……)

アンジー『水を運ぶ機構がどこかにあるからそれをぶっ壊して、だってー!』

巌窟王(バカな。そんなことをしたところで水が消えるわけではないぞ。魔力の無駄だ)

アンジー『あ、いや違くて。水をもっと多くしてほしいんだってー!』

巌窟王(何?)

アンジー『多分そうすればおしおきのシークエンスを時間的に短縮できるんだってさー。水が一定まで溜まったらすぐ排水!』

アンジー『……って仕掛けになってるからさー!』

巌窟王「……」

巌窟王(その場合、水圧の急激な増減でナーサリーに負荷がかかるだろうが……やらないよりはマシか!)




裁判場

最原「そうか。水が一定以上に溜まったら排水する手順になっているのなら……!」

夢野「もっと入れてやればいいんじゃ。そして速やかに排水。楽勝じゃろ」

百田「お、おお……すげぇ! 夢野すげぇな! よく気づいたもんだ!」

東条「それなら直接的に排水機構を破壊すればいいんじゃないかしら」

夢野「お勧めはできんのう……檻の関係で」

獄原「檻がどうかしたの?」

夢野「アンジー。続けて伝言じゃ。ちゃんと伝えるんじゃぞ」

おしおき装置内

巌窟王「排水と檻の分解が同時に起こる?」

アンジー『だってー』

巌窟王「どういうことだ?」

アンジー『んっとねー! おしおきのシークエンスに、排水した後で檻を分解して終わりってのがあったでしょー?』

アンジー『その檻の仕掛けを見た秘密子が気付いたんだけどねー。その檻ってカラクリ細工なんだってさー』

アンジー『排水のときの水流で、隙間に入った水が檻の金具を弄るんだー』

巌窟王「なるほど。同時に排水によって檻を支えていた水の浮力が消え、結果檻は倒壊。中にいる者はそれに巻き込まれて命を落とす……」

アンジー『……あれ?』




裁判場

アンジー「言ってて気づいたけど、これ中の人、全然大丈夫じゃないよねー?」

夢野「そうじゃな。じゃがこの場合、ナーサリーがいるのが一番下の檻だというのが不幸中の幸いじゃ」

夢野「少なくとも墜落死をすることはない」

最原「……墜落死以外の危険性は?」

夢野「さっきモノクマが言ったような『檻のパーツが体に突き刺さって』ってヤツなら、あれじゃ」

夢野「賭けに出るしかないのう。モノクマのおしおきじゃからな。排水してから倒壊するまでの間には『もったいつけるようなモラトリアム』がある……」

夢野「と、思う」

最原「思う!?」ガビーンッ

夢野「倒壊する直前に檻の柵を一本取り外し、ナーサリーを救出し、外に出て安全圏に行けるはず!」

夢野「……じゃといいな」ガタガタ

最原「分の悪いギャンブルっていうか、夢野さんの願望だよね!?」

夢野「うっさいわアホウ! 流石に超高校級の魔法使いにも限度はあるんじゃあ!」

百田「でもよ! 今のところそれしか可能性はないだろ! 時間も明らかに足りてねえ!」

王馬「言うだけなら簡単だよね。実際に命を賭けるのは巌窟王ちゃんだけにさ」

アンジー「……」

巌窟王『かまわない。指示を出せ、マスター』

アンジー「!」

巌窟王『……それでいい』ニヤァ

最原「……賭けに乗るんだね。巌窟王さん」

アンジー「うん。そのつもりみたい」

アンジー「……お願い!」

巌窟王『クハハハハハハハハ!』



ザパァァァンッ



春川「あっ」

百田「なんだ!? 水を運ぶポンプに攻撃したのか!?」

王馬「いや。あれは出水口の内の一つに何かを突っ込んだように見えたけど」

王馬「なんだろ。猫のぬいぐるみみたいな……」

最原「!?」ガビーンッ

天海「!?」ガビーンッ

白銀「!?!?」ガビビーンッ

巌窟王『……よし。あれは既に回収したな』

巌窟王『赤松! さっさと起爆指示を出せーーーッ!』

赤松「え? なに? 画面越しに何言ってるの?」

ネコアルク「お嬢。お嬢」クイクイ

赤松「ん。どうしたのネコアルク」

ネコカオス「起爆指示待ちだ。いつでも言ってくれ」

赤松「……」

赤松「……!?」バッ

最原(赤松さんも気付いたようだ。出水口にギチギチに詰め込んだそれは、水のせいで歪んでいるけど間違いなく)






赤松「ネコアルクじゃんッ!」ガビーンッ

爆死のダメージが抜けきれてないので今日はなし……

赤松「き、起爆スイッチ……え!? なに!? 私に指示を出せって!?」

ネコアルク「決断を。閣下」

赤松「誰が閣下!?」ガビーンッ

ネコカオス「ただそのボタンを押す前に言っておく」

ネコカオス「ネコアルクは全員同型機だが、別々に行動する以上、どうしても経験と蓄積データに差異が生じる」

ネコカオス「その結果、稀だが突然変異のような個体が出ることもある。たまごっ●のようにな」

赤松「……えっと、それで?」

ネコカオス「その上で、だ」

ネコカオス「その別個の個性を産んだ後でも変わらないものもある。マスター、我々はあなたのことが大好きだった」

ネコアルク「それを知ってくれるだけで……それを知ってくれるだけで散っていくあの子も……ぐすっ! うかばれるっ!」ダバァァァァ!

赤松「重いよぉーーー!」ガーーーンッ

王馬「こいつら……わざとやってるのかな……」ヒキッ

春川「王馬が引くなら相当だよ」

ネコアルク「まあ冗談は置いといて指示をどうぞ」

赤松「……あの……うーんと……」アタフタ

最原「赤松さんっ!」

赤松「……わかったよ! わかってるって! ネコアルク! 起爆して!」

ネコアルク「泣いて赦しを乞うがいい……!」キラーーンッ







おしおき装置内

ネコアルク「滅びの定めにすら見放された、我が永遠の慟哭……空よ! 雲よ!」

巌窟王「?」

ネコアルク「哀れみの涙で……命を呪え!」

巌窟王「なんだその詠唱は」

ネコアルク「知り合いの自爆宝具のマネっこー」カッ



ドカァァァァァンッ!

ザバァァァァァ!

巌窟王(よし。水の勢いが増した。これならあと二十秒もあれば……)

巌窟王「……二十秒すら惜しいぞ! 間に合え!」ソワソワ

ガチョンッ ザバァァァァァ!

巌窟王「……排水が!」

アンジー『始まった! しかも思ったより排水のペースが速い!』

巌窟王「アンジー! 搾り取るぞ!」ボオオオオッ!

ギュンッ ドボンッ




裁判場

最原「また潜った!」

夢野「水流で金具が弄られた直後、水の浮力が消える直前を狙っておるんじゃな。それでいい! それがベスト!」

王馬「でもここまでしても、結構な時間かかっちゃったからなー。あの女の子の命が風前の灯火状態なことに変わりはないよね」

王馬「仮に助けられたとしてもさ、何らかの後遺症が残っちゃうかもよ?」

百田「おい王馬。言いたいことがあるならもっとハッキリ言え」

王馬「適当なところで諦めて戻ってくるように指示するのも勇気なんじゃないの? どっちも死んだら元も子もないんだしさ」

最原「……それは」

アンジー「大丈夫。アンジーは信じてるから」

最原「!」

アンジー「絶対に上手く行く……アンジーがそうだと信じてるから、絶対にそうなんだ!」

おしおき装置内

ガタガタッ ゴトンッ

巌窟王「……」

巌窟王(水の中だと音の速さは空気中の三倍だったか……檻からやたらと音が聞こえる)

巌窟王(しかし凄まじい水流だ! ナーサリーは……檻があるから排水機構に詰まるということはないだろうが)

巌窟王(関節が変な方向に折れ曲がる程度は覚悟しておいた方がいいな)

巌窟王(その場合はアンジーにまた魔力を貰うとして……)

巌窟王「……」

ガチンッ

巌窟王(……水流で稼働するタイプの金具はすべて緩み切ったようだな)グッ

カキンッ

巌窟王(よし。柵が外れる! これならば……!)


ザバァァァァ!


巌窟王「ぶはっ……」

巌窟王「はっ?」




裁判場内

夢野「……はっ?」

最原「なんか……早いよね? 排水が終わるの」

百田「お、おい。一番下の檻、柵が一本しか外れてねーぞ?」

夢野「……あー……あれじゃな。あれのせいじゃ」

夢野「ちょっと出水口の破壊の仕方が乱暴すぎたのう。部屋自体に亀裂ができておるな? そこから水が漏れたんじゃ」

夢野「ま、まあ? でも? ということはじゃぞ? 水流の動きがおしおきの想定外のものになったということであってな?」ガタガタ

夢野「案外このまま檻が倒壊しないという可能性もなきにしもあらずというかじゃな?」ガタガタ



ドガラガラガシャァァァァァンッ!



夢野「きゅー」バターンッ

王馬「また夢野ちゃんが気絶したよ!」

百田「お、檻が……!」

春川「巌窟王はどうなったの……? 救出は!?」

真宮寺「檻の柵は一本しか外れてなかった。一瞬しか見えなかったけど、それだけは確かだヨ。あれじゃあ片腕一本分しか通り抜けられない」

真宮寺「巌窟王さんのスピードなら檻の倒壊から逃げきれた……かも。でも救出の方は絶望的だネ」

赤松「そ……そんな……!」

最原「アンジーさん! 巌窟王さんとの連絡は!?」

最原「……」

最原「あれ。アンジーさんはどこ?」

王馬「あっちの方でモノクマと話し込んでるよ」

最原「?」

最原(なんだろ。モノクマが命乞いに類する交渉に首を縦に振るとは思えないけど……)

アンジー「ドライヤー貸してー」

モノクマ「いいよ!」

最原「……なんで?」

アンジー「え? 逆になんでー?」

最原「え?」

巌窟王「……」ボタッボタッ

最原「……」

最原「あっ! 巌窟王さんをかわかすの!?」ガビーンッ

東条「……無事のようね。巌窟王さんは」

入間「で、でも……あのメスガキの姿が見えねーぞ?」

獄原「間に合わなかったんだね……巌窟王さんも夢野さんも、頑張ったよ……誰も責めたりしないよ……」エグエグ

巌窟王「いや救出は成功したぞ」ヒョイッ

最原「え。うわっ……ととっ……」キャッチ!






最原「……絵本?」

巌窟王「よし。アンジー。ドライヤーの準備はできているな?」

アンジー「できたよー!」

モノクマ「あ。バッテリーも稼働中だから存分にかわかしてねー」

白銀「……?」

天海「えっと、その絵本、実は何らかの魔法的なアイテムだったりするんすか?」

天海「四次元ポケット的な?」

巌窟王「かわけばわかる」ブオオオオオオ

最原(……僕に持たせたままかわかし始めたよ。確かになんかビッショリしてるけど……)



一分後


ブオオオオオ

赤松「……もうかわいた?」

最原「ん。もう充分じゃないかな」

最原「……というかなんか変だな。かわけば飛んだ水分の量だけ軽くなるはずなんだけど、この本どんどん重くなってるような……?」


ボンッ


ナーサリーライム「んん……」

最原「」

百田「本が女の子になったーーー!?」ガビーンッ

巌窟王「よし。これでいよいよ救出完了だな」

最原「おっっっも!」ガタガタ

茶柱「貧弱もやしっ子ですね」

茶柱「……」

茶柱「転子の体重は五十二kgです」

最原「怪我が治った後で前向きに検討するよ!」ガタガタ

ナーサリー「……ん……ここは……?」

巌窟王「起きたか」

ナーサリー「あ。伯爵」

巌窟王「しかし驚いたぞ。あの状況下でよく霊基段階を下げることを思いついたものだ」

巌窟王「柵を外した直後では人型だったろう?」

ナーサリー「本当にギリギリのところで意識だけは手放さなかったの。絶対に誰か助けに来てくれるって信じてたから」

巌窟王「?」

ナーサリー「あなたよ。とってもとっても素敵な伯爵」

巌窟王「クハハハハ! 礼を言う相手が少ないぞ? 夢野にもかけてやるがいい。その夢枕の絵物語のような言葉をな」

巌窟王「……」

巌窟王「気絶している……」

ナーサリー「え? なんで? ちょっと。ジャガーマンはどこ? 確か彼女のところに行くっていの一番に……」キョロキョロ

最原「もうおろしていいですか!?」ガタガタ

百田「律儀すぎんだよテメェ! もういいよ! おろせよ!」

ナーサリー「あら……お恥ずかしい。失礼、重くなかったかしら」

最原「重――」

茶柱「なんでも正直に言えばいいってものじゃないですよ」ギロリ

最原「……くなかったよ……」シュン

ナーサリー「さあ。それじゃあ自己紹介ね。顔を突き合わすのは初めてだから」

ナーサリー「サーヴァントとしての識別名はナーサリーライム。詳しく説明すると死ぬほどややこしいから今回はなしよ」

夢野「はあっ……はあっ……心臓に悪いわい!」ムクリ

ナーサリー「あ。夢野。ジャガーマンはどこ?」

夢野「死んだんじゃ」

ジャガーマンの遺影「」チーンッ

ナーサリー「……ええーっ」

最原「……夢野さん? なにか知ってるの?」

夢野「なんじゃ? 言ってなかったかの。ついさっきまでジャガーマンがいたんじゃぞ、ウチらの中に」

夢野「まあ、さっきネコアルクに食い殺されてしまったがのう」

ネコアルク「この遺影はあちしたちが作りました。イエーイ! 遺影だけに!」ピースピース

赤松「……次にその不謹慎ギャグぶっぱなして空気凍らせたら、片っ端から自爆させるよ?」

ネコアルク「!?」ガビーンッ

入間「め……珍しく超怒ってやがる……」

夢野「それでの。ジャガーマンの言うことには、あとイシュタルが残ってるはずなんじゃ」

夢野「姿が見えずに不審がっておったんじゃが……まさかこんなことになっておるとはのう」

真宮寺「設問は三つ。セミラミスさんも同じく行方不明。そうなると、段々見えて来たネ。この最後の学級裁判の全体的な構図が」

獄原「……この裁判場の中心にある意味深なロケットも……もしかして」

モノクマ「うん! おしおき装置だよ! 当然、中には『誰か』が入ってます!」

モノクマロケット「……!」ゴトゴトガタンガタンッ

赤松「セミラミスさん……!」

ナーサリー「?」

ナーサリー(妙ね。神性ならではの、ちょっと背筋が寒くなるような鋭利な気配がないのだけれど……密封性が高いからかしら?)

巌窟王「それで。貴様は何故あんな場所に」

ナーサリー「さっき夢野がちょっと言ったのだけれど、才囚学園のみんなのことが気になって気になってしょうがなかったの」

ナーサリー「だから適当な人形を作ってこっそり学園に紛れ込ませて、それを依代にこちらに干渉してたのだけど」

ナーサリー「気が付いたらキーボに捕まっちゃって……ついでに、依代を基に霊核をこの場まで引きずり出されてしまったの」

アンジー「……そんなことあるー?」

巌窟王「誰かが人為的に、ということであれば『ないことはない』だろうな。少なくとも事故の可能性は低い」

巌窟王「だが……」

最原「……そんなこと僕たちには不可能だよね。魔術の知識がそこまでないから」

最原「だとすると、それをやったのは……」

モノクマ「あ。ボクじゃないよ」

最原「最初から疑ってない。余計なところで口を挟むな」

百田「そもそも機械類って、魔術? とかそんなオカルトチックなもん使えんのか?」

白銀「不可能かなぁ。機械類に魔術とか通常の法則以外のものを使わせるのなら、アーキテクチャの地点からかなーり精査しなきゃなわけだし」

白銀「もしもモノクマに魔術を使わせたいのなら、改造するのにも大雑把に一万人の魔術師が必要だろうね」

白銀「魔術に関しては完璧に素人考えだから、一万人ってのは概算だけど。いたとしても時間かかると思うよ?」

星「……待てよ。根本的に不可能だとは言わねーのか?」

白銀「できなくはないんじゃない? 魔術を使う魔力だって所詮はエネルギーの一種でしょ?」

白銀「エネルギーである限りは機械で制御できると思うけど。精製できるかどうかは別として」

王馬「さっすが超高校級のコスプレイヤー。こういうファンタジー妄想にはめっぽう強いね」

夢野「目の前にある以上、妄想ではないがな!」ビシッ

ナーサリー「半分機械でできてるような英霊も結構いるし、機械が魔術を使うことに前例がないわけではないわ」

ナーサリー「でもモノクマが……っていうのはちょっと考えられないかしら。魔術の気配はあるけど魔術回路がある感じがしないもの」

入間「だーーーっ! 聞いてるだけで頭おかしくなりそうだぜ! 魔術の気配があるってことは魔術使ったってことじゃねーのかよ!」

巌窟王「わめくな。要は『魔術を使われたかもしれないが、モノクマに魔術は使えない』という一点のみ理解しろ」

ナーサリー「……というか魔術の気配自体は、この場の全員にあるの。この場に召喚されて、やっと気付いたことなのだけど」

天海「ずっと巌窟王さんと一緒にいたわけっすし、そういうこともあるんじゃないっすか?」

ナーサリー「……」

ナーサリー「現在進行形……?」

最原「なんだって?」

巌窟王「……そういえば、先ほどと比べると微妙に居心地が悪いな。この空間は」

巌窟王「不快だ。不快極まるぞ。誰かに嘲弄されているかのような……」

巌窟王「……視線?」

最原「あのさ。あくまで仮説でしかないんだけど、いいかな」

赤松「何かに気付いたの?」

最原「全部、キーボくんじゃない? 視線も、魔術関連の何がしかも」

獄原「キーボくん……? あ、そっか! ナーサリーさんをあそこまで連れ込んだのもキーボくんだもんね! 充分考え――」

入間「られるわけねぇだろ。白銀も言ってたじゃねーか。原理的に不可能とまでは言えないが、現実的に不可能なんだよ」

入間「この言い方が気に食わないのならこうだ。現状! キーボには! 不可能だ!」

最原「……この際、最初から考えてみよう。僕たちを取り巻く現実に無関係ってわけでもなさそうだから」

最原「まず、この世界には『魔術が実在してる』。ここまではいいよね。だから巌窟王さんがいるんだから」

巌窟王「……そうだな。魔力が完全に枯渇した異聞の世界という気配もない。そこは間違いがないだろう」

最原「じゃあ次。魔術が実在しているとして、僕たちにそれを行使できたのは何故か」

赤松「ええと、確か……」





アンジー『ねえねえー! アンジーにいい考えがあるよー!』

最原『えっ』

アンジー『さっき図書室からこんなもの持ってきたんだー!』キラキラキラ

真宮寺『……えーと、何々?』

夢野『英霊……召喚……?』





赤松「この学園に閉じ込められてすぐのころ、デスロードの難易度にどん詰まり状態になってたところを……」

赤松「アンジーさんが英霊召喚の書物を持ってきたんだったよね」

真宮寺「その後、僕が魔法陣を監修。再現。呪文はアンジーさんが唱えた……そう記憶しているヨ」

最原「それだよ。皮肉なことだけど、あの書物だけは紛れもない『本物』だった」

最原「嘘だらけのこの学園において、あの本の内容に嘘はない」

獄原「そうじゃないと、巌窟王さんを呼べるはずがないもんね」

最原「あの本、誰が置いたんだろう」

赤松「!」

最原「……ついでに言うなら、誰が『書いた』んだろうね?」

春川「いまいち話についていけないけど……単純に言えば本職じゃないの?」

春川「私たちと違って、魔術が身近なヤツ……つまるところ魔術師ってヤツ?」

最原「それで間違いないよ。でも僕たち十六人の中に魔術師なんて素質を持ってる人は一人もいないよね?」

最原「あったとしたらもっとコロシアイの謎が難しくなってたはずだしさ」

入間「さっきから何言いてぇんだよ! さっさと本題に入れよ!」

東条「……」

東条「……外の世界に魔術師がいる。少なくとも、この学園の作成に関わっている」

星「!」

最原「……」

最原「僕は新世界プログラムの中で少しだけ思い出した。『最原終一になる前のパーソナリティ』を、本当に少しだけ」

最原「この学園は常識外だよ。そして『これは常識外だ』と認識するときに使った尺度は、外にいたときのそれとまったく同じだった」

最原「僕は外の世界にいたときも『魔術師』なんて存在を認識してなかったし、実在なんて考えたこともない」

巌窟王「上手く隠れていたのだろうな。当然だ。魔術師は表沙汰になることを酷く嫌う。神秘は秘匿されるからこその神秘だからだ」

巌窟王「だが、この学園を作成した者はきっと大人数だろう。その中に一人程度、魔術師に連なる血族がいてもおかしくはない」

ナーサリー「過去の聖杯戦争では『魔術の本を本物と知らずに適当に詠唱してみたらサーヴァントをうっかり召喚してしまった』みたいな」

ナーサリー「そういう今回と似たような参加者もいたわ。奇跡的な偶然だけどありえないって程ではないのよ?」

ナーサリー「あるコミュニティにうっかり本物の魔本が紛れ込み、それをうっかり一般人が入手し、うっかり本当にやってのけることは前例があるの」

最原「巌窟王さんの召喚。そこまでは偶然だよ。それ以上に説明のしようがない」

最原「でも他に関してはそうじゃない。巌窟王さんの召喚を大本の原因として起こった、最大最悪の悲劇だ」

百田「最大最悪の悲劇……?」

天海「あっ」

白銀「?」

天海「……放送している相手が全世界……ってことは……」

最原「当然見ているだろうね。僕たちが元いた世界にいた魔術師たちも」

白銀「えっ?」

最原「……一万人の魔術師がいれば、魔術を使える機械も制作可能、か」

最原「人数がその二倍なら? 三倍なら? 十倍なら? 百倍ならどうだろう」

白銀「……ッ!?」

赤松「……何を……言ってるの、最原くん?」

最原「外の世界すべてが敵……とまでは言えないよ。でも」

最原「外の世界の魔術師すべてが敵……その可能性はいくらでも考えられる」

巌窟王「――」






最原「僕たちは僕たちが自分たちで思っているよりずっと……絶望的な相手と戦っていたのかもしれない!」

赤松「ま、待って。飛躍しすぎじゃない!? いくらなんでもそんなバカなこと……!」

最原「ナーサリーさんと巌窟王さんの二人に今すぐ確認したいことがある。キーボくんに何か変わったところはない?」

巌窟王「魔術回路ができている。しかも量も質もアンジーよりも遥かに上だ」

赤松「は?」

王馬「変わったところ、ねえ。キー坊は確か、ずっとあのオブジェの中にいたよね?」

王馬「改造なんてできるはずがないでしょ? どこでどうやってキー坊を改造したっていうのさ」

王馬「それとも、俺たちが忘れてるだけでキー坊にはそのタイミングがあったっていうのかな?」

最原「相手は魔術師なんだからなんでもあり……と言うのも味気ないな。なら少しだけ現実的に考えてみようか」

最原「確かにキーボくんを改造する暇なんてない。新世界プログラムで、生徒が真っ二つに分断された直後からあのオブジェはあったんだ」

白銀「厳密に言うなら確かに改造はしてないけど、機能の拡張だけはしたよ?」

白銀「当然だよね。何度も言ってるけど、キーボくんは『時間切れ次第、すぐに生徒全員を処刑する』っていう予定があったんだから」

東条「……キーボくんの元のスペックじゃ到底無理ね。拡張して当然、か」

白銀「ただし、それは『この学園で当初から想定していたレベル』の拡張であって、魔術に関しての想定なんか一切してないけどね」

最原「でも僕たちの手の届かないどこかにキーボくんが消えた時間が間違いなくあったはずだ」

最原「その間にキーボくんは対魔術用の改造を受けたんじゃないかな」

天海「そのタイミングって、いつっすか?」

最原「昨日の夜。炎の嵐から天海くんを助けた直後」

最原「思い出してよ。王馬くんが適当に運転したエグイサルが、あのオブジェに激突して――」




百田『……』

春川『……なにこれ』

入間『おい。キーボはこの中にいたはずだよな?』

百田『……』

百田『いねぇぞ。からっぽだ』





百田「中にいるって話だったキーボは消えてた……!」

春川「その後、果ての壁を破壊しようとしたところでキーボが現れたんだったね。そして巌窟王と互角に戦えるようになっていた」

春川「気持ち悪いくらい辻褄が合うよ……!」

赤松「で、でもそれって、キーボくんが一度は学園の外に出たってこと!?」

白銀「あるいは魔術師が直接的に学園の中に侵入してきたか……」

巌窟王「どちらでもない、ということもあり得るぞ。キーボと魔術師の距離がある程度近ければ問題はなさそうだ」

巌窟王「ヤツらは壁越しでもキーボを改造してみせるだろう。必要なものは時間だ」

ナーサリー「数十万人、数百万人単位の魔術師がもしも結託してたら……一晩程度で充分な改造が可能じゃないかしら」

赤松「待ってってばっ! だから、なんで外の魔術師が徒党組んでキーボくんを改造したりするの!? 理由は!?」

赤松「その発想はどこから出て来たの!?」

最原「巌窟王さんの言ったことだよ。ついさっきのことなんだけど」




巌窟王『セミラミスの計画が始動した場合、副産物として『この学園全体から不可視の力がほぼ消える』のだ。魔術に類する力などがな』

巌窟王『この学園は度重なるカルデアからの介入によってよくないものが溜まり過ぎた』

巌窟王『もしも学園に穴を開けたら少なからず外の世界に悪影響が出るだろうな、という懸念事項があったのだが……』

最原『初耳なんだけど?』

巌窟王『問題があるか? 少なくとも『貴様らにとって直接的に不利益になる』ようなことは、どちらにせよ絶対にないぞ』




赤松「あっ」

最原「赤松さんも聞いてたよね。つまり『学園に穴が開いたら不都合に思う人間がいる』ってことは確定情報なんだ」

最原「僕たちにはわからないよ。魔術に関する知識が本当に不足してるから。でも」

百田「……魔術ってヤツを知ってるヤツからすればそうじゃない。俺たちが知らなくても外のヤツらは知ってる」

百田「外に『学園に穴を開けられたくない勢力がいる』ってのも確定情報ってことか!」

巌窟王(その他、単純に神秘の秘匿の観点から言って『魔術関連のものを外に持ち越されたくない』という意図もあっただろうな)

最原「この点、とにかく巌窟王さんが迂闊だったよね。妨害があってもゴリ押しできると考えてたのかな」

最原「……キーボくんを使って妨害行為をしてくるなんて僕でも思わないけど」

巌窟王「ふん。外の勢力に媚びて、平和的な脱出手段を探せばよかった、とでも言うつもりか?」

巌窟王「御免だな。なにより、俺が学園の果ての壁を破壊する以上に最善の策はないぞ」

最原「あの時点では……の話だけどね」

春川「今ではセミラミスがこの学園にいる。アイツの計画があれば魔術関連のモノはこの学園からすべて消えるんでしょ」

春川「そう言ってたもんね」

巌窟王「……はっきり言っておこう。今更この学園から魔術関連のものをすべて排除できたとしても、お前たちが狙われることに変わりはないぞ」

最原「え?」

巌窟王「問題なのは『魔術が実在する』という知識を持ってしまったことだ。そしてそれを外の誰かに伝えてしまうことだ」

王馬「もう伝わってるでしょ。世界規模の番組らしいし?」

白銀「いや? 伝わってても現状はまだマシなんだと思うよ?」

星「……説明しろ、白銀。詳しくな」

星「今の俺は冷静さを欠こうとしている」

白銀「みんなの記憶はすべてフィクション。この学園で起こったこともすべてフィクション」

白銀「外の世界の現実とは一切関係ない、どこにも実在しない話」

白銀「でも『この場でかけられた命だけは本物』。それがこのリアルフィクション、ダンガンロンパの主軸なんだよ」

白銀「で。設定に関してはなにもかもフィクションの私たちが、外の世界に向けて『魔術は実在してるーーー!』と叫んだとして」

白銀「それを信じる人、いると思う? フィクションの登場人物の言葉を?」

ナーサリー「……いないわね。フィクションなんだから」

白銀「私たちは知ってるよ? 目の前で起こったことだから。ついでに、彼らを外に出すことができれば『魔術がリアルである』ことは証明可能だよ」

白銀「逆に言えば『この学園ですべてを完結させることができれば、この場で何があろうとフィクションで片付けられる』んだけどね」

東条「なるほど。いわばこの学園は、真実を知った外の勢力からすれば『早期発見されたガン細胞』に等しい」

東条「今すぐにでも切除したいんでしょうね。できるだけ自然な形で」

入間「自然な形……?」

最原「そうか。わざわざこの最後の学級裁判って形を取って、僕たちのことを直接的に『切除』しないのは、慎重を期しているからってことか」

最原「僕たちを魔術で殺すわけにはいかない。そんなことをしても別のガン細胞が残るだけ。でも『学園の中の設定』で殺せば……!」








白銀「私たちは何も残せずにただ消える」

白銀「『終結』だね……まさに」

獄原「ね……ねえ。なんか話がどんどん変な方向に行ってない?」

獄原「情報が増えれば増えるほどにゴン太たちがとにかく不利ってことしかわからないんだけど……」

星「実際にそうとしか言ってないからな。なんでもいいから希望的な情報が欲しくなってくるぜ」

星「俺たちを殺す方法にわざわざ遠回しな方法を取っているのも『それが一番綺麗に終わるから』ってだけだ」

星「その気になればおそらく……」

最原「……僕たちを無理やりにでも殺せる、とか? 流石にそこまでじゃないよね。そうじゃないと言ってくれると嬉しいな……」

巌窟王「呪い殺せるだろうな。今すぐにでも。そんな貧乏くじを引きたがる魔術師など滅多にいないというだけで」

巌窟王「お前たちを設定で殺せる可能性が残っている限り、逆説的に『誰もお前たちを殺しはしない』だろう」

ナーサリー「安心ね!」ニコニコ

入間「な、何が安心だ……ざけんなよっ! それ今の状況が最悪ってだけじゃ片付かねーぞ!?」

入間「この状況を脱したら、今キーボを操ってる連中が今度は『直で殺しに来る』ってだけの話じゃねーか!?」

赤松「……」

ナーサリー「……そう、ね。それだけの話よ」

巌窟王「気にするな。何も問題はないぞ?」

天海「いやどう聞いても問題しかないんすけど……妙案でもあるんすか?」

巌窟王「殺しに来た傍から全員返り討ちにしろ。つまるところ皆殺しにすればいい!」ギンッ

天海「!?」ガビーンッ

白銀「……え。なに? 復讐鬼ジョーク?」

巌窟王「至極真っ当な提案だぞ。今度は仲間内で殺し合えと言っているのではない」

巌窟王「お前たちを殺そうとする! 明確な敵を! 殺し返せと言っている! 正当防衛だ、何が悪い!?」ギンッ

最原「……!」

最原(……本気で言ってる。強要こそしてない。でも『進路の一つとしてまともに考えろ』って言ってる)

アンジー「……」ジーッ

巌窟王「……」

巌窟王「殺すのは悪いことだな!」

最原(補足説明するあたりとか余計に本気だ!)ガーンッ

巌窟王「さて。モノクマ。次の設問はまだか?」

モノクマ「うーん。別にいますぐやってもいいよ? でもまだ話が終わってないのならちょっと伸ばします」

モノクマ「どうせ全体的なタイムリミットは変わってないしね」

巌窟王「いい。少し伸ばせ。俺から一つ提案がある」

巌窟王「セミラミスとは別の方法で、お前たちを外へ連れ出してやろう!」ギンッ

最原「……方向性はもうわかってるようなものだけど。聞くよ」

巌窟王「魔術関連のものを消す必要はない。すべて外の世界へ持って行け!」

巌窟王「思う存分食らわせてやればいい! 傲慢極まりない外の世界の住人にな!」

アンジー「?」

百田「?」

ナーサリー「はーい! それじゃあわかってない人がいるみたいなので『伯爵の示した進路』をわかりやすく纏めるのだわー!」キラキラキラ

キーボ「巌窟王さんの示す進路を取った場合、あなたたちは外の魔術師を正当防衛の名のもとに皆殺しにすることになります」

ナーサリー「」

最原「キーボくん!?」ガビーンッ

キーボ「ちなみに、その場合、巌窟王さんはセミラミスさんの用意した計画を使いません」

キーボ「相打ち覚悟でボクと戦うことになるでしょう。『外の魔術師総出で改造された対魔術特化のスーパーキーボ』とです」

キーボ「もしも巌窟王さんが負けた場合、その時点で才囚学園の生徒総勢十六人はこの学園で死亡することになりますが……」

キーボ「勝てばその時点で、この学園に持たらされた『カルデア由来の魔術物品をすべて持ち越した上で脱出』することになります」

キーボ「……ボクの見立てでは大したものは一切ありませんが」

巌窟王「甘いな。さっきも言っただろう。というか『本命がそれではない』ことは充分わかっているはずだ」ニヤァァァァ

キーボ「……」

最原「……まさか」

最原「穴を開けることそのものが最大の攻撃になる……?」

巌窟王「穴を開けられたら困る、というのなら開けてやればいい」

巌窟王「そして中身を思う存分ぶちまけろ。おそらく……」ピタッ

巌窟王「……」シイイイイイイインッ

最原「……?」

アンジー「……」

アンジー「アンジーがドン引きするような何かが起こるってさー」

赤松「あ、ああ……だから急に黙ったんだ……」

百田「アンジーがドン引きするような何か……?」

アンジー「多分何千万人か死ぬんじゃないかなー? そうでなければアンジー、彼のやることに今更引いたりしないしー」

巌窟王「アンジー……」ジーンッ

赤松「ふふっ。巌窟王さんってば、嬉しそうにしちゃって」ニコニコ

赤松「……」

赤松「なんぜんまんにん……?」サーッ

夢野「おお。それそれ。ウチがついさっきまで味わった気分。血の気が引くって感じの」

白銀「何人……死ぬって……!?」

巌窟王「魔術師以外の人間も含めた一億人程度が燃えて死ぬ」

春川「億っ……!?」

茶柱「億ゥーーーッ!?」ガガーーーンッ

アンジー「……」ヒキッ

巌窟王「……!?」アッ ヤベッ

最原「そんな今更『あっ、やべっ』て顔しても遅いよ!」

モノクマ「ま、実現可能かどうかは置いといて、別にいいんじゃない? 選択としては」

モノクマ「だって外に出てもオマエラの居場所なんてないし」

モノクマ「それに、億単位の死人が出たのなら魔術の実在に関して疑う人はもういないでしょ!」

モノクマ「オマエラだけを魔術師が付け狙う必要がなくなるわけだから、もう誰もオマエラに手を出さないよね!」

モノクマ「億単位の人間が死んだような世界で、まともな法や秩序が残ってるか微妙だしねぇ」

白銀「い、いいわけないよ! 流石にそれは! 無関係の人を巻き込むのは……!」

赤松「……」

赤松「別にいいよ。それでも、私は!」

白銀「はい?」

最原「あ、赤松さん……? ちょっと待って! 急にどうしたの?」

赤松「私たちの存在は全部嘘だった。外の世界の人たちはそれを見て楽しんでた!」

赤松「外の世界の人たちが望んで始めたコロシアイ……こんなものを望むような世界なら気遣う価値なんて全然ない」

赤松「いや。むしろ積極的に焼き払うべきだよ!」バァァァァァンッ

百田「待て待て待て待て落ち着けテメェ! プッツンしすぎだ! 深呼吸しろ!」

赤松「……私の論理は最初から今まで全然変わってないよ」

赤松「コロシアイを始めた人は殺す。誰だろうと絶対に許さない……! 私は……!」

巌窟王「クハハハハハハ! よし! やるか!」ギンッ

巌窟王「アンジー! 魔力を――」

アンジー「回すわけないでしょー?」

巌窟王「」

最原「アンジーさんが冷静で助かった……!」

天海「……忘れてた。こういう方向性の話では妙に過激派なんすよね、赤松さん」

百田「いや! いやいやいや! 過激なんてもんじゃねぇだろ! いくらなんでも一億人を殺すのはナシだろ! ナシナシ!」

春川「第一、仮に私たちの存在が全部嘘だったとして、そんな大惨事を起こした後で平気な顔して生きていくの、私たちには無理だよ」

春川「というか理屈が納得できない。なんで穴を開けた程度で外に大惨事が巻き起こるの?」

巌窟王「気圧差のようなものだな。この学園の『形而学上の存在すら逃さない完全な密室性』の賜物だ」

巌窟王「思い出せ。俺は二回程度この学園で死亡したが、アンジーの令呪で蘇生した」

巌窟王「普通ならああはいかない。あれが実現可能となったのは、ああなったとしても俺の魂がどこにも行かなかったからだ」

ナーサリー「この学園に送り込まれた魔術。呪い。女神たちの願い。祈り。セミラミスの作った聖杯。エトセトラエトセトラ」

ナーサリー「それらすべてがごちゃ混ぜになり、今にも破裂しそうになっているのがこの学園の現状なの」

最原「……気圧差……気圧差、か」

東条「外の世界の住人が一億人死ぬほどのエネルギー変動よ。渦中にいるのは他でもない、才囚学園にいる私たちだわ」

入間「あっ! そ、そうだよ! 一億人の中で真っ先に死ぬの、どう考えても俺様たちじゃねーか!」

巌窟王「俺がそうはさせない。死に体とは言え、サーヴァントだぞ。マスターとその縁者程度、守る程度ワケがない」

巌窟王「この進路で確実に死なない人間がいたとしたら……クハハハハ! まさに渦中のお前たち『だけ』ということだ!」

巌窟王「いや? 断ってもいいぞ。今はな。だが一考の価値はあると断言できる」

巌窟王「一人たりとも賛同者がいなければ、そこまでの案だと思っていたのだが……!」ニヤァァァ

赤松「……」

最原「赤松さん……」

赤松「……三時間以内に代案がなかったらこれでいいと思う」

最原「セミラミスさんの意思を曲げることになったとしても?」

赤松「まあ……後でこれ知られたら突っつかれるかもね。人差し指で何回も」

春川(想像するだけでウザい……)

赤松「そのときは謝るよ。ピアノの演奏もプレゼントしちゃう」

赤松「……約束果たせてないし。私は何が何でも死ぬわけにはいかないんだよ」

最原「……」

最原(巌窟王さんはノリノリで、赤松さんが後押ししてる。でもアンジーさんは今のところ穏健派だ)

最原(最悪……本当に最悪の場合、巌窟王さんにアンジーさんが賛同しただけで大惨事だったけど)

王馬「でもアンジーちゃんが反対してるってことは、仮に赤松ちゃん以外に賛同者がいくらいても無駄じゃない?」

アンジー「え? アンジー別に反対してないよー」ケロリ

最原「」

百田「」

春川「」

アンジー「にゃははー! 凄い反応ー! 終一とー、魔姫とー、解斗はガチの穏健派みたいだねー」

春川「……ハッ。ブラフか……趣味の悪いことするね、夜長も」ホッ

アンジー「ん。別に嘘は吐いてないけど」

春川「!?」ガビーンッ

百田「生きてりゃいいことあるって!」バァーーンッ

最原「キミは一人なんかじゃない!」バァーーンッ

春川「……あっ、あっ……辛いことがあったら相談乗るよ」アタフタ

王馬「クソの役にも立たない自殺防止ポスターのキャッチコピーみたいなこと言ってるよ、揃いも揃って」

夢野「テンパりすぎじゃ! あと春川は別にそこなバカどもに付き合う必要ないぞ!」

アンジー「アンジーはねー。ひとまず最後の最後まで議論を進めてみたいだけなんだよねー」

アンジー「優先順位最大の目的は『揃って外に生きたまま出ること』だけど。それさえ達成できれば犠牲はいくらいても別に構わないよー」

百田「もっといい手段が見つかれば、そっちに乗り換えることも検討するってことだよな?」

百田「……ま、いいぜ。今はそれで」

最原「百田くん!」

百田「強硬されねぇだけマシだろ」

最原「……!」

赤松「……アンジーさんを見てると、なんか思い出すな。最初のころの巌窟王さんを見てるみたい」

赤松「最初のころ、妙に私たちを試すようなことばかりやってたよね。命懸けの状況下なのに、楽しんでるみたいでさ」

夢野「妙にデジャヴると思ったらそれか……親の身の振り方を見て育つ子供のようじゃの」

赤松「……完っ璧に悪影響だけどね。こういう部分は」

巌窟王「クハハ。赤松、人のことを言えるのか?」

赤松「……いっそのこと、仮に私がおしおきで死んだのだとしても、巌窟王さんはあの場で死ぬべきだったのかもね」

赤松「好感度を抜きに、善し悪しで考えるとどうしてもそう思うよ。今のアンジーさんを見てると」

獄原「……!? な、なんだろう。森の中でも一年に一回感じるか感じないかレベルの……怖気が!」ガタガタ

王馬「怖すぎて漏らしちゃいそうだよ……オムツ買って来ればよかったな……」

最原(なんだ……さっきから赤松さんの言動が変だ。まるで、これは……)

春川「ねえ赤松。さっきからアンタ、なんで八つ当たりしてんの?」

赤松「……八つ当たり?」

春川「そうでしょ。巌窟王の提案に諸手を上げて賛成してる割に、巌窟王と夜長に噛みついてさ。行動も言動もやけっぱちじゃん」

春川「……いや、というか私の気のせいかもしれないんだけど今日の大半、ずっとイラついてなかった?」

春川「具体的にいつからって……わからないんだけどさ……」

赤松「……」チラッ

最原(……こっちを意識してるな。赤松さん。やっぱり白銀さんを守るために脅しかけたのが本当に効いたみたいだ)

最原(別にイジメたいわけじゃないし、助け船を出そうか)

最原「赤松さんのことは放っておこうよ。時間の無駄は省くべきだし」

茶柱「なんでちょっと刺々しいんですか!?」

最原「え? あ、ご、ごめん! そんなつもりじゃなかったんだけど!」

赤松「……」スッ

最原「え。なにそのハンドサイン。電話?」

赤松「『イラつきのままに人差し指と小指であなたの目玉を潰したい』のサイン」

最原(怖ァーーー!)ガタガタガタ

赤松「当然自分の指には気遣って、ソフトタッチに留めるけど」

最原(僕を気遣ってくれよ!)ガビーンッ

あと数十秒で今年が明ける!
イベントちょっと触って明けましておめでとう福袋ガチャやってから執筆します!

モノクマ「はいはーい! それじゃあ議論も一段落したみたいなので、次の設問に行っちゃいまーす!」

白銀「……モノクマ。今の与太、本気で看過するつもり?」

モノクマ「ん? まあいいんじゃない? 結局こっち側でキーボくんがオマエラを全員殺せば済む話だしさ」

白銀「相手はあの巌窟王さんだよ? 本気出したキーボくんでも勝率は五分……いや。勝率がいくら低かろうが押し通すからこその英霊」

白銀「そんな悠長なことを言ってる場合じゃないって! 実際、何回煮え湯を飲まされたと思ってるの!?」

星「俺もアンジーと同意見だ。もっといい選択肢があるかもしれない。その可能性がある以上、事を急く必要はない」

星「……所詮は保険だ。何をそんなに焦ってる?」

白銀「うぐ……!」

王馬「当然っちゃ当然じゃない? 俺たちの存在がすべて嘘だったとしても、白銀ちゃんだけは『違う』んだからさ」

王馬「あ。いやだけってことはないか……同類もいたね」

茶柱「なんのことです? まるで意味がわかりませんよ?」

王馬「まあまあ。それはその内わかるって。俺の予測が正しければ、次のモノクマの設問は――」

最原「『白銀さんの正体とはなんでしょう』……ってところかな」

白銀「……え?」

王馬「……」ニヤァァァァァ

巌窟王「……モノクマ」

モノクマ「……了解。あーあー。言い当てられちゃって、気分どっちらけだなぁ」ショボーンッ

モノクマ「はい! では今から第二の設問をスタートします! 内容は『白銀さんの正体とはなにか』です!」

モノクマ「みんなー! 頑張って推理してねー!」

白銀「……もッ! もの、くまっ……! モノクマァァァァァァァ!」

モノクマ「悪い、とは思わないよ。元からボクとオマエの関係はこんな感じだったでしょ」

モノクマ「お互いがお互いの、最高の駒。最強の道具。最良の共犯者……」

モノクマ「土壇場で、立場が逆でもオマエは絶対こうするよ!」

白銀「く、くそっ……! 殺すっ……殺してやる……! よくも、私にそんな口を! チームダンガンロンパの作った人形のくせに!」

最原(……? なんだこれ。怒ってる……ならまだ理解できるけど。今の白銀さん、なにか……)

最原(怖がってる? 今更、なにを?)

百田「……」

百田「なあ。なんか知らねーけど、白銀が超いやがってるぞ?」

白銀「!」ビクッ

百田「……これ、答えないわけには……いかねーか? 白銀がイヤなら、俺もすげぇイヤな気分だ」

モノクマ「まあ普通のテストなら、いまいちわからない問題からはさっさと手を引いて、先にわかる問題に手をつけるのがセオリーなんだろうけどさー」

モノクマ「百田くん、まさかもう忘れちゃったの? この設問には人質がいるんだよ」

百田「舐めんな。忘れちゃいねーよ……でもよ……」

春川「白銀は昨日から踏んだり蹴ったりだよ。『何をしたのかわからない』けど、これ以上に責め立て続けるのはさ……」

春川「……わかるでしょ。仲間を傷つける仲間も、仲間に傷つけられる仲間も、私は見たくない。気分最悪だよ」

最原「……」

真宮寺「ククク。そうか。キミたちの目にはそう映ってるんだネ。白銀さんが仲間だって」

茶柱「前々から思ってましたが、真宮寺さんのねちっこい視線と、妙に含みのありそうな笑いが、転子は本当に嫌いです」

茶柱「男死は全員嫌いですが、あなたは特に! です!」

真宮寺「話を逸らそうとしてるの? 勘はいいんだよネ、茶柱さんって」

茶柱「……」

真宮寺「僕らはさ。何も誤解で白銀さんを憎んでるわけじゃないんだヨ。誰かに聞いた上で言ってるのか、忘れてるから言えるのかはこの際どうでもいい」

真宮寺「キミたちだって白銀さんから明確に害は受けてるんだよ」

夢野「んあ? 何を言っておるんじゃ! ウチが隠し部屋で撃たれたのは麻酔弾じゃった! あんなもの害と呼べはせんじゃろ!」

真宮寺「夢野さんの主張に関しての正当性は受け入れるとして、百田くん、茶柱さん、春川さん、王馬くんの四人はどうしようもない害を受けてるヨ」

王馬「ふざけたこと言うなよ、このクソザコナメクジ野郎ッ!」ウガァ!

夢野「急にキレるな! ビックリするじゃろうが!」

王馬「……」シーンッ

夢野「うわあ! 急に静かになるな! それもそれでビビる!」ガビーンッ

春川「この情緒不安定野郎……」ボソッ

王馬「な、なんか春川ちゃんの口から酷い誹謗中傷が聞こえた気がするけど、続けるね」

王馬「俺たちが白銀ちゃんから何をされたって? 別に何もされた覚えがないけど」

王馬「うん! 何も! されて! ないね!」

王馬「全然覚えてない! ぜーんぜんね!」

王馬「いやー! うんうん! 覚えてないんだ! まったくもって!」

王馬「キレイサッパリ! そんな記憶! 俺の中にはありましぇーーーーんっ!」ビエエエエンッ

茶柱「……あ……あー……もうわかりました。充分です。ありがとうございます」

茶柱「そこまで言われれば真宮寺さんが何を言ってるのかわかります。王馬さんも実はハナから白銀さんの味方する気ないですよね」

王馬「え? 何言ってるんだよ茶柱ちゃん! 真宮寺ちゃんにこれ以上言わせてもいいの!?」

王馬「茶柱ちゃんだって白銀ちゃんに何かされた覚えないでしょ!」

王馬「覚えが!」ニヤニヤ

王馬「ないよねぇ?」ニヤニヤ

茶柱「それ以上口開いたら床のシミと仲良しになってもらいますからね!」

春川「記憶の改竄……か」

真宮寺「よーく考えてみようか。無許可で、無防備な人間の記憶を、無遠慮に書き換えることは悪か否か」

真宮寺「当然、悪だヨ。そんなの考えるだに悍ましい」

真宮寺「僕たちはネ、ある意味でキミたちのことが羨ましいヨ。でもだからと言って『こうなりたい』とは思わない」

真宮寺「羨ましいけど……憐れだヨ。僕たちの視線からするとネ」

百田「この野郎……勝手に見下しやがって!」

最原(でも割と適確だ。僕と天海くんは途中から記憶を取り戻したからグレーゾーンだけど……)

最原(……たった一点だけ羨ましい部分があるっていうのも本当だ)

最原「何が羨ましいのかは言わないんだね。真宮寺くん。そこが結構重要なのに」

真宮寺「……」ピクッ

最原(……ただ純粋に、まだ白銀さんを『仲間』だと認識できるみんなが羨ましい)

最原(それだけだ)

白銀「……」

最原(でも、自分の味方がいるっていうのに白銀さんの顔色が優れない)

最原(……っていうかどこを見てるんだ?)

茶柱「あの。白銀さーん。なんで転子たちから目を逸らしてるんですかー?」

白銀「……」

最原「……だ、だんまりだね……別にいいけど……」

モノクマ「ポチっとな」ポチッ


GAME OVER

イシュタルさんがクロに決まりました。
おしおきを開始します。




全員「あ」

モノクマ「……オマエラ、忘れてたでしょ」

おしおき装置内(その二)

ボヨヨーーーンッ

イシュタル「ぐへっ」ベシャッ

イシュタル「い、いたたたた……やっと出れた。もう、なんなのよ! 狭い箱の中に押し込めるなんて……って段ボール箱じゃないこれ!?」

イシュタル「私は蛇か! CQCが得意な方の!」

イシュタル「……この言い方だとまだ該当者が複数いるわね……」

イシュタル「それにしても、ここどこよ。廃墟……?」キョロキョロ



バサッ バササッ


イシュタル「ん……新聞紙?」

新聞紙『モノクマシティー、封鎖より一週間が経過! ●●●騒動未だ収まらず!』

イシュタル「……何騒動ですって? ちょっとこれ風化が酷くて読めな――」



「あ……ああお……」ベタッ



イシュタル「ん?」

ゾンビ「おおあ……ああ……」

イシュタル「」

ゾンビ2「うああ……」ベタッ

ゾンビ3「おおお……」ベタッ

ゾンビ4「おっぱいのぺらぺらそーす……」ベタッ

イシュタル「……」

イシュタル「ゾンビ騒動?」ダラダラダラダラ

イシュタル「ふ、ふふふふふ……大丈夫。大丈夫よ私。ゾンビなんてローマにもオルレアンにもいたじゃない」

イシュタル「私のスクーターで跳ね飛ばしてや――!」

イシュタル「……マアンナどこ?」

イシュタル「あれ!? それどころかデフォで私に付いてるはずの『浮遊能力』が消えてない!? あれ!? なんで地に足がついてるの!? あれぇ!?」アタフタ

ゴトンッ

イシュタル「……今、私の服から何か落ちた……? そういえば何かフードのあたりが重かったような……」

ショッキングピンクの銃「」ババーンッ

イシュタル「……」

イシュタル(これで戦えってか!?)ガーンッ

ゾンビ「うがあーーー!」グパァッ

イシュタル「なあああああああああああああああっ!?」


バンッ バンッ バンッ


裁判場

赤松「……この声は……イシュタルさんだね」

最原「流石に僕にもなんとなくわかるよ。妙にハキハキした喋り方だったから……」

入間「ん? あの銃、どっかで見たような……」

巌窟王「……」

巌窟王「あいつは放っておいても死なないだろう。儚さとは無縁だ」

百田「この薄情野郎ォ!」ガビーンッ

ナーサリー「そうね。薄情ね。今のは完璧に嘘よ。サーヴァントでもこの空間では普通に死ぬわ。相手がゾンビだったとしても」

星「議論を進めるぞ。アイツが肉塊に変わる前にな」

最原「でも問題の内容が大分ふわっとしてるんだよな……即答できるだけの用意は今回も当然あるんだけど」

百田「仲間だな!」ニカッ

春川「ひとまず底抜けの善意で答えるのやめて。多分趣旨が違う」

モノクマ「ひとまず思いつくものを片っ端から言ってみれば? 誤答ってことはないだろうし」

王馬「ところでさ、この設問っていつもの学級裁判みたく『誤答は死』みたいなシステムある?」

モノクマ「オマエラにはないよ」

東条「……私たちには?」

百田「白銀は! 俺たちの! 仲間だ!」

モノクマ「はい不十分ー」カチッ

百田「くそ。誤答って言われないだけマシだが、本当に趣旨が違ったか……! 考え直しだな!」

春川「それは元から何か考えてたヤツの言うことだよ」

百田「ひでぇ」

東条「待って。モノクマ、そのスイッチは何?」

モノクマ「ゾンビ追加スイッチ」

獄原「え。追加?」

最原「……!?」

イシュタル『ぎゃー! 犬型のゾンビ来たーーー! なんか急にスイッチが入ったみたいに! 急に!』ジタバタ

獄原「本当だ! 種類が増えてる!」ガビーンッ

最原「今回のおしおき、ナーサリーさんのときのような緊急性が(人選の問題もあって)低く見えるけど、確かにこの調子で追加されていったら……!」

ナーサリー「いつか対応に限界が来て、グリム童話もびっくりのスプラッターね」

アンジー「しかも今回も助けに入るのは彼なんだよねー。助けに行くころにゾンビが大量追加されてたら、救助が無理になりかねないよー」

入間「……んー?」

夢野「入間? どうしたんじゃ、さっきから口数が少ないぞ」

入間「いやなんか……なにか思い出せそうな気がするんだが……」

星「当然と言えば当然だ。あれは間違いなくお前の趣味だろう」

入間「は!? 何言ってやがんだ! ホラー映画なんざ夜トイレに行きたくなくなるから大嫌いだっつの!」

夢野「わからなくはないが情けないのう」

星「ある意味『だからこそ』なんだが。今は銃のことを言っている」

最原「……入間さん。もしかして、あの銃ってキミの発明品じゃない?」

入間「あー……そうかもしれないとは思ってんだが、でも不自然なんだ。俺様、あんなもんを作りかねないが、作った記憶がまったくねえ」

入間「完璧に俺様の趣味なんだけどよ。多分あれコピー品か、俺様の発明を無断改造したものかのどっちかだ」

最原「……もう確認するまでもないけど、あれって入間さんのおしおきの流用だよね」

入間「えヴぁっ!?」ガビーンッ

赤松「あ……あー……本当だ。セットがどことなく近未来チックだし」

赤松「SFモノとゾンビモノの親和性って今更議論するまでもないしね」

巌窟王「極めつけに入間の発明品と思わしき銃。これでもう決定的だろう」

ナーサリー「……これ、女神様には最悪ね。機械音痴だったし」

巌窟王「まったくだ」

入間「……学級裁判で失敗してたら、俺様もあんな目に……!?」

入間「やべぇ、吐き気がしてきた。誰か美少女のゲロを一万円で買いたいってヤツいねえか?」ガタガタ

王馬「買いたーい!」

入間「おっしゃー! じゃあ盛大にゲロるぜーーー!」イエエエエエエエエエイ!

百田「やらせた後で予約踏み倒す気に決まってんだろ、早まんな!」

茶柱「ともかく! 誤答率を低めに抑えつつ、なんとか核心に迫れるよう議論を進めましょうよ!」

茶柱「ひとまず彼女を現す形容詞を片っ端から列挙してみましょう! その後でモノクマに回答していけばいつかは……!」

最原「多分、そういう仕組みじゃないんだと思う。当てずっぽうでやるのと変わらないよ」

茶柱「え?」

最原「……モノクマは百田くんの回答を『不十分』だと言った。『誤答』じゃないんだ」

最原「はっきり言って解答が何かが問題なんじゃない。モノクマの裏の意図が問題なんだよ」

最原「僕たちに議論させたいんだろ? それ自体が目的なんだ」

モノクマ「……」

最原「さっきから白銀さんが妙に取り乱してたし、多分『僕たちにとって自明のなにか』を『今この場で改めて言われると白銀さんが困る』んだ」

春川「そんな状況ありえる……? 私たちにとってもう当たり前の、白銀に関する事実を確認するだけで?」

最原「困るっていうか……もっと個人的な……感情論に絡んだ……」

王馬「最原ちゃんにしては言いたいことが妙にもにゃもにゃしてるね。まあ、単純に白銀ちゃんにとって『イヤ』なんでしょ」

王馬「一人ファミレスに行ってカウンター席に通されたら、隣にいたオッサンが超絶クチャラーだった、みたいな純粋なイヤさだ」

天海「ひたすらイヤっすよそれ!」

百田「ちょっと話を巻き戻していいか? それがなんだってんだよ。結局答えることに変わりはねーだろ」

百田「確かに白銀にしてみればたまったものじゃねーだろうけど、流石に人の命かかってりゃあよ……」

最原「片っ端から正答を繰り返してもモノクマの裁量次第なんだよ、この設問」

最原「例えば僕がモノクマに『白銀さんの正体は首謀者だ』と答えたとして、モノクマはまた」

モノクマ「不十分でーす!」カチッ

最原「――とか言って、またゾンビを増やすだけあああああああああああああああ!?」ガビーンッ

茶柱「おバカーーー!」ガビビーーーンッ

イシュタル『ぎゃーーー! 緑の恐竜がーーー!』

緑の恐竜『食べちゃうぞー』

天海(ああ、またキャンペーンが終わったんすね……ずっとお空にいればいいのに……)

東条「ゾンビじゃないわね……」

夢野「まあ着ぐるみをテーマにしたホラー作品もたまーに見かけるしのう。あれはあれで趣旨は変わっておらんじゃろ」

赤松「……そうか! モノクマは最初から『たった一つの解答』なんて求めてないんだ!」

赤松「ただひたすら『満足が行くまで解答を聞き続ける』ってスタンス……そういうこと!?」

巌窟王「先ほどとは問題の種類が違うのか。確かにこれも学校のテストではありがちな出題形式だな」

真宮寺「次の選択肢から、該当するものをすべて選べってヤツだネ」

最原「この調子だとさ……多分、巌窟王さんが助けに入った時点でさ……相当なクリーチャーがあそこに用意されてる計算になるよね」

巌窟王「……助けないという選択肢もあるぞ。アイツに関しては」

巌窟王「助ける意味がない」

ナーサリー「どうしてそんな酷いこと言うの! 仲間でしょう!」プンスカ

巌窟王「……」ツーンッ

ナーサリー「もう! 黙っちゃダメよ! もう!」ポカポカ

巌窟王「腰の凝りがほぐれる」

百田「おじいちゃんかよ。ていうかアイツのこと嫌いなのか?」

巌窟王「女神というのは総じて『善意で余計なことをする』か『善意からドツボにハマって周囲に大騒動を引き起こす』かのどちらかだからな……」

赤松「……い、いいところあるし……それでも助けない理由にはならないし……」ガタガタ

春川「声が震えてるよ。しかも反論がつたない。セミラミスのこと思い出してるでしょ」

最原「セミラミスさん本当にやりたい放題だったからなぁ……」ズーン

入間「アイツが役に立ってるところを見たことがない」

星「それは言い過ぎだが、行動のすべてが焼け石に水だった」

天海「おっそろしいくらい自分の都合しか話さない人だったっす」

巌窟王「宝具なしマスターの補助なしだと微妙なサーヴァントだからな……」

赤松「やめてよぉ! イシュタルさんを窓口にしてセミラミスさんのこと悪く言うの! あの人を本気で助けようとしてる私がバカみたいだからさぁ!」ワッ

春川「ていうかなんでアイツに世話焼くの。弱みでも握られた?」

赤松「……凄く大きな恩があるんだよ。あの人からしてみたら全然自覚なさそうだけど……」

赤松「『人が自分に尽くすのは当然のことだ』とか恥ずかしい勘違いを素で患ってて、私の気持ち全然届いてなかったけどぉ!」ウワァッ

春川「泣くくらいなら縁を切りなよ!」ガビーンッ

巌窟王(強欲聖人抜きだと余裕とウザったさの塊だからな、あの女は)

最原「……二人とも助けよう? 巌窟王さん」

巌窟王「……気が進まないが……後悔するな」

百田「で。結局どうやったところで救出するころには難易度ナイトメア&ザ・ヘルになってるのはわかった」

百田「だけど茶柱が最初言った通り『議論して誤答率を下げてから回答』っていう大雑把な方向性でいいんじゃねーか?」

茶柱「事前情報なしで回答しまくってたらどんどん焦りと恐怖が募ってたでしょうから、その情報があるのとないのとでは大違いですけどね」

茶柱「今までの正答は『仲間』と『首謀者』ですか……」

真宮寺「首謀者は特にコメントすることはないけど、仲間っていうのは過去形じゃないかな? これでも正解になるの?」

天海「俺からしてみれば現在進行形で仲間っすよ。悲しい茶々入れないでくれっす」

茶柱「その他に白銀さんを現す言葉というと……」

茶柱「うがああああああ! 基本情報くらいしか出てこないです! 超高校級のコスプレイヤーとしか!」

カチッ

モノクマ「不十分でーす」

ワラワラワラ

イシュタル『ぎゃあああああああ! なんか造形がエロ方面にひたすら最悪な蟲がーーー! これ私じゃなくてパールヴァティ―とかの方が適任じゃない!?』

入間「チン……」

百田「言わせねぇよ!?」

最原「……話の流れから正答を拾うんだ……こっちのタイミングはお構いなしなんだね」

白銀「……」

夢野「まだだんまりしておる」

最原「……イシュタルさん、まだ余裕があるよね」

赤松「ん? そう、だね……入間さんを処刑するためのおしおきでしょ? あの人、明らかに入間さんよりバイタリティ高そうだし」

赤松「しばらくは大丈夫じゃない?」

最原「次の回答、ちょっと前置きが長くなるんだ。説明しないわけにもいかないし、かなり大事なことだしね」

巌窟王「構わない。アイツなら大丈夫だ」

最原「うん。あのさ、なんで白銀さんが首謀者なんだと思う?」

最原「そもそも、首謀者ってどうやって選ばれたのかなって話なんだ」

星「簡単に言えば……『能力』じゃねーか? こういうシチュエーションに適応できる人材。手近にいる中で最も適した者だろう?」

最原「それも多分ある。最終的にはそれだろうけど、実際に彼女を選んだ理由は『経歴』なんだよ」

星「経歴……だと?」

最原「天海くん」

天海「……うん。もういいんじゃないっすか。話しても」

最原「この中に、コロシアイを二回経験した人が二人いる」

百田「あ?」

最原「一人は天海くん。彼の才能、実は僕はかなり前の時点で名前だけは知ってたんだ」

最原「超高校級の生存者。それが彼の才能だよ」

春川「いや知ってるよ。天海本人が言ってたでしょ。生存者特典を使って赤松とか夜長とかを見つけたわけだし……」

春川「……ん? 二人?」

百田「二人……」

百田&春川「……!」バッ

白銀「……!」ビクウッ

最原「直接的に彼女のことを『そう』だと言うのはちょっと待ってね。イシュタルさんの余裕が消えるから」

最原「もっとわかりやすく言うと、もしかしたら能力の点の優劣で天海くんが選ばれる可能性があったってことだ」

星「!」

入間「?」

最原「これ以降、ちょっとした軽口が正答になっちゃうかもしれないからできる限り黙ってて。僕の話を聞いてほしい」

最原「もしかしたらショックかもしれないけど」

巌窟王「……」





最原「白銀さんは一方的な加害者じゃない。これが僕の答えだ」

最原「……僕たちにとって最悪の答えだけどね」

最原「白銀さんは天海くんと同じだ。証拠も色々ある。証人もいる」

最原「証拠は白銀さんの動機ビデオで、証人は天海くん」

巌窟王「……!?」

最原「天海くんの動機ビデオと、白銀さんの動機ビデオは内容が同一だったんだ。つまり天海くんが忘れてるだけで二人の『経歴』は同一なんだよ」

最原「あ。ごめん、ちょっと訂正。天海くんが忘れてただけ、だ。今はもう思い出してるよ」

最原「ええっとね……だからさ……」

最原「……」

最原「言ってて僕自身物凄く辛くなってきた……!」

百田「ん!? なんでだよ! 俺たちにとってすげぇ嬉しい情報だぞ、それ!」

茶柱「ええっとですね。要は白銀さん、転子たちとはくらべものにならないほどの改造を受けてたんですよ」

茶柱「記憶だけじゃなくって容姿まで変えられる始末だそうで」

百田「全然嬉しい情報じゃなかった……! 反吐が出るほど胸糞悪ィ」

春川「……」オロオロ

夢野「……今は非常時じゃし、無理に励ましの言葉を捻り出さなくともよいぞ。後回しにするんじゃ、後回し」

百田「でも大体はわかったぜ。そうか、白銀が『天海と同じ』か……大分ボカされてるけど、ああ。理解したぜ」

獄原「……」

星「……」

東条「……」

入間「……」

百田「……?」

百田「ん? お? あれ? おいおい終一。理解できてねぇヤツらがいるみてぇだぞ。やれやれって感じだな、ははっ!」ケラケラ

茶柱「い……いや。これ見たことあります。さっきの最原さんと同じ顔です」

茶柱「信じられない情報を急激に頭にぶち込まれて、なにもかも信じられなくなった人の顔です」

百田「……はあ?」

春川「……どうしたの? そこまでありえないって話でもないと思うよ? 確かに胸糞悪いけどさ」

東条「ありえないわ」ギンッ

春川「え。でも……」

東条「あ、り、え、な、い」ギロリ

春川「????????」

最原「やっぱり……そういう反応になるよね……」

春川「何が理解できないの? 確かにここまで信じられないものが連発して出されてきたけど……」

春川「この件だけを拒む理由はなに? 反証があるの?」

東条「……」

茶柱「……東条さーん? あ、あれ。どうしちゃったんでしょう。ここで黙るなんて彼女らしくないっていうか……」

茶柱「まさか本当に反証がないってことはないでしょうし」

最原「ないよ。事実だから」

最原「反証がないけど認められないんだよ」

最原「……当然だ。だって彼女は……!」

白銀「敵じゃなきゃダメだから」

最原「!」

最原(……ここで口を開くのか。キミが……!)ギリッ

百田「白銀?」

白銀「……困るんだよね? 私が敵じゃないとさ。その前提が崩れたら真っ直ぐ立っていられなくなるから」

星「やめろ。それ以上に口を開くな。テメェに聞くことなんてもう一つたりともない」

白銀「もう喋ることしかできないでしょ。私にはさ……!」

白銀「本当に、見事になにもかもぶち壊してくれたよね! 自分自身の復讐をする理由すら壊すなんて、どこまであなたたちは愚かなの?」

百田「……終一?」

最原「とても単純な構造だよ。『正義の味方には倒すべき悪が必要』なんだ」

最原「それも生半な作り物(フィクション)じゃない。産まれた時点で殺されなければならないことが決定されてるような、純粋培養の悪の華が」

最原「百田くんたちにはわからないよ……! 何もかもがフィクションで構成されてて、たった一つだけ僕たちを明確に苦しめてるリアルの象徴がさ……!」

最原「それすらも用意されたものだって聞いたとき、どれだけの喪失感があったか」

百田「……テメェら……!」

最原「結末はどうでもいい。殺すのもアリだ。許すのだって簡単だ。どこかに閉じ込めて二度と僕たちの目の前に現れないようにするのだって可能だよ」

最原「白銀さんが本当に敵なら、それだけで『何か』が変わったはずなんだ」

茶柱「……でも実際にはそうじゃない。そういうこと、ですか」

百田「……どう思う。終一。テメェはもう受け入れちゃいるんだろ。その事実を」

最原「白銀さんのやったことは絶対に許さない! でも理屈で考えれば、白銀さんが天海くんと一緒だとわかった以上は……!」

最原「恨むだけ体力と精神力の無駄……だよ」

最原「……だからと言って、じゃあ次に誰を恨めばいいんだって話になっちゃう。何を壊すために生きればいいのかもうわからないんだ……!」

巌窟王「いや? この際、もう白銀に対してはそれでいいだろう。奇しくも最原、貴様があれこれ手を回した影響で白銀は死ななかった」

巌窟王「白銀が天海と一緒だと言うのなら、そいつにはもう殺す価値すらない」

白銀「……」

最原「……」

巌窟王「わかるな? その憎悪を、次に誰に向ければいいか。貴様はわかるはずだ。諸悪の根源がなんなのか」ギンッ

百田「巌窟王。テメェ、やり口が段々悪魔そのものになってきやがったな」

百田「やらせると思うか?」

巌窟王「クハハ! 貴様の意見など知ったことではない!」

巌窟王「……と言うのは簡単だが、ここは学級裁判だ。そういうわけにもいくまい」

巌窟王「第一、この方向性で『俺の望む方』へと誘導するのは至難の業だ」

春川「……どういうこと?」

巌窟王「白銀への憎しみを理屈で断ち切る。最原なら可能な芸当だろうな。苦しんではいるが、そいつはそれができる人間だ」

巌窟王「今の最原なら、俺の力で充分『救える』。だが他はそうではない」

巌窟王「『白銀は悪くない』という理屈を、他の連中は絶対に受け入れない。理論での証拠がいくらあろうとだ!」ギンッ

春川「……!」キョロキョロ

入間「……」

東条「……」

星「……」

獄原「……」

春川「……そこまで憎い? そこまでイヤ?」

春川「そこまで疲れちゃったの? 誰かを恨まなきゃ、目の前を見ることもできないくらい?」

春川「……ねえ! なんか言ってよ! みんな!」

巌窟王「クハハハハハハ! ままならないな! 今の最原の状態なら充分篭絡できようが……!」

巌窟王「白銀への憎悪で身を焦がしていた連中は、そこから魂を動かせない! 白銀から世界への『憎悪の切り替え』が不可能だ!」

巌窟王「白銀を憎むことこそが、世界を憎むことだと信じていたのだろう?」

巌窟王「残念ながら、白銀すら『世界から犠牲にされた側』だ! とうに切り離されたトカゲの尻尾でしかない!」

巌窟王「……さあ。どうする最原? 貴様はこいつらを救えるか?」

最原「え?」

巌窟王「救えないのなら……無責任極まりなかったな。貴様はただ真実を振りかざして、仲間を傷つけただけだ」

巌窟王「……貴様は真実を追い求めるべきではなかった」

最原「――」





最原(……今のは……物凄く、カチンと来た)

巌窟王「さて。話はこれで終わりだろう? さっさと回答してしまえ。イシュタルに時間はあっても俺たちの時間はそう多くないのだから――」

最原「責任は取るよ」

巌窟王「……今、なんと言った?」

最原「確かに真実はみんなを傷つけるだけかもしれない。みんなから大事な何かを奪うだけかもしれない」

最原「……でも僕は、この学園で探偵役をやらされて思ったんだ。『それだけじゃない』って!」

最原「一度道を見失うことになったのだとしても、生きてさえいればきっと何かが見つかる」

最原「真実は、そのとき『もっと正しい選択』を掴む原動力になる!」

最原「前提が間違ってたのなら、もう一度やり直せばいい!」

巌窟王「……ほう」

最原「……一朝一夕で受け入れてもらえるとは思ってないよ。というか時間が解決してくれる問題なら僕だって情報の出し惜しみなんかしていない」

最原「でも僕は『真実を知るべきではなかった』なんて絶対に思わない! そんなものはただの臆病者の思考停止だ!」

最原「まだあるよ。『天海くんと同じ』以外に、彼女を現す言葉。それで多分モノクマも満足してくれると思う」

百田「終一。テメェ、なんか急に背筋が伸びたな。キレてんのか?」

アンジー「……」チラッ

アンジー(煽ったね?)ニコニコ

巌窟王(さて。なんのことやら)ニヤァ

巌窟王(ただ、この場に何人受け入れられない人間がいようと関係ない。学級裁判ではただ一人、最原だけが前に進めればいい)

巌窟王(自分の言葉のせいで誰かが傷つくのではないか。そんな無用な優しさのせいで議論が滞るのは本意ではないだろう?)

アンジー(……割り切りすぎだと思うけどなー。それはそれで)

巌窟王(なに。立ち止まった者を蔑ろにする気はないさ。アイツらもアイツらで、頭ではわかっているだろう)

巌窟王(前に進む以外に道はない、と。今の最原を見れば猶更なァ!)ギンッ

赤松「……念話で内緒話? ズルいなー、二人とも」

真宮寺「セミラミスさんと念話とかできないの?」

赤松「やめて。飽きるまでからかわれるのが目に見えてる。縁起でもない」ブルッ

最原「白銀さん。キミがなにに怯えてるのか、少しだけわかるかもしれない」

白銀「……」

最原「でも、ここまで来たら絶対に止まれない。悲鳴を上げても泣いても絶対に許さないよ」

白銀「だから何?」

最原「……だからさ」






最原「ごめんね」

白銀「……いいよ。私も……ちょっと逃げ疲れちゃったからさ」

最原「秤にかけてみよう。この場は曲がりなりにも学級裁判。証拠と証言がモノを言う!」

最原「白銀さんへの復讐をかねて、この場で彼女の正体を暴く!」

百田「おう! それで。何か手伝うことはあるか?」

百田「欲しい証言があればいくらでも証言してやるぜ!」

百田「終一のやることだ! 残酷なだけじゃ終わらねぇんだろ?」

夢野「……よいのか? 白銀はそれで」

白銀「バカだなぁ、夢野さん。今更私の心配してるの?」

夢野「んあ? しちゃダメなのか?」

白銀「……!」

最原(僕たちが先に進むために必要な証拠……)

最原「事件が起こったとき、罰の重さを計るのに必要な要素を僕たちは今まで議論してなかったかもしれない」

赤松「それは?」

最原「『そこに悪意があったかどうか』だよ。突発的な犯罪か、計画的な犯罪かだけでも罪の大きさは段違いでしょ?」

真宮寺「え? 情状酌量の余地を議論しようっていうの?」

巌窟王「導入からしてナンセンスだな……許せないと自分で言ったばかりだろう」

最原「それでも必要なことだと思うよ。この学園が始まった直後はどういう想定だったのかは知らないけどさ」

最原「『今』を見てよ。結果的に、生徒は誰も死んでないでしょ?」

天海「あれだけ色々あって、未だに誰も死んでいないっていうのは確かに奇跡的っすよね」

天海「……前のときは最初から最後までバカスカ人が死んでたっすよ」

最原「……正解をこの場で言うことはできる。でもそうなったら巌窟王さんはすぐにイシュタルさんを助けに行っちゃう」

最原「その後は最後の設問だ。時間があるかどうかわからない。できればこの場で聞いていてほしいんだ。それで納得してほしい」

最原「そうじゃないと戻ってこないからさ」

茶柱「戻る? 何が……あっ」

白銀「……?」

東条「……まさかあなた……白銀さんの視力を元に戻す気?」

白銀「!」

最原「ついでだからそこまで欲張ってもいいかなって。議論するのが白銀さんの正体で、情状酌量の余地なら、別に不自然じゃないでしょ」

巌窟王(……煽り過ぎたか)イラッ

最原「忘れてるわけじゃないよ。僕は間違いなく巌窟王さんからこう聞いた」



最原『これから暴く真相の中に、白銀さんが悪くないって内容の真実が含まれてたとしたら……』

巌窟王『それでも、ダメだな』

最原『どうして!』

巌窟王『ヤツがやったことを俺は忘れない』

巌窟王『……多かれ少なかれ、本人にどうしようもない事情というものはあろうさ。だが限度はある』




最原「『覚えている上で』言ってるんだよ」ギンッ

巌窟王「業突く張りが……余計な希望を持つだけ無駄だぞ」

アンジー(……違うなー。終一は嘘を言っている。『彼』はあれでお人好しだから全然気付いてないみたいだけど)

アンジー(それを建前にしてもっとデカい欲求を満たそうとしている)

アンジー(具体的にそれが何かはわからないけどねー)

最原「じゃあまず彼女の行動から見える理念を整理だ。まずは二択。『彼女は勝つ気があったのかどうか』」

赤松「それ以前に、彼女の勝利条件ってなに? 当然だけど皆殺しじゃないよね。そんなのエグイサルを使えば最序盤で簡単にできるわけだし」

最原「番組側の人間である、とかのノイズを置いておけば、この学園の勝利条件はたった一つだけだよ」

最原「『生き残ること』だ。それも『生徒同士』っていう対等な立場で。これを仮の前提として話を進めよう」

最原「モノクマと組めるっていう最大のアドバンテージはあったけど、彼女の立場はそれを差し引いてもとにかく不合理だ」

最原「最初からコロシアイから隔絶された領域で、モノクマに生徒同士を煽らせておけば、校則に則って勝つのだとしても……」

百田「二人になった時点でコロシアイは終了だもんな。共食い状態になっちまえばある程度安全に生き残れる」

最原「適当なクロが勝利しちゃったら、その時点でシロの生徒ともども処刑だろうけどさ。それでも『誰にも殺されない』っていうのは大きい」

最原「誰にも認識されない十六人目の高校生。その権利をわざわざ放棄してまで僕たちの中に混ざったのは一体何故か」

最原「……そこは次の議題にしよう。勝負に勝つ気があったのか否かに関しては『最善手を放棄した以上、なかったと考えるのが妥当』だ」

最原「じゃあ次。勝利を放棄するに等しいマネをしてまで僕たちの中に混じったのは何故か」

最原「……僕たちのことを虐め抜くためって感じじゃないよね」

アンジー「アンジー、新世界プログラムの中でつむぎに相当痛い目にあわされたんだけど」

最原「それ本当に白銀さん? 違うよね。新世界プログラムで僕たちをハメたのって正確には白銀さんのアルターエゴだった」

アンジー「……」

赤松「うん。あれはアルターエゴ。白銀さん本人じゃないよ。燃やしちゃったし」

最原「この学園で最善手を放棄することは、命を放棄することと同義だ。『命より大事なことがある』からそんなことをする」

最原「白銀さんが本当に、僕たちを命懸けで虐めたがるような筋金入りの下衆なら、それは間違いなく『自分の手で』やるよね?」

最原「だって既に命を投げ捨ててるんだ。そこでわざわざ引く理由がない」

最原「だから僕たちを責め立てるため、という答えもこれまた否」

最原「さて。勝つ気がなく、僕たちを虐めることにも興味が無い。じゃあ彼女があとやったこととは何か」

最原「……たった一つだけあるよね。というより、この二つの要素で誘引された物が明確にこの場には存在してる」

最原「白銀さんへの憎悪だよ」

王馬「………………………………………………」

王馬「え? マゾ銀ちゃん?」

白銀「恥も外聞もなく茶柱さんに泣きつきたいんだけど」

茶柱「オーライでーす。そしてその次の瞬間から王馬さんの死亡確定でーす」カモーン

王馬「許してっ」キャピンッ

白銀「いいよ!」キャピンッ

春川「寒気のする馴れ合いやめて……」

最原「白銀さんの行動のすべてが、白銀さんの憎悪を呼び起こしている。じゃあなんで。王馬くんの言う通り、白銀さんの性的嗜好?」

最原「……違うよ。それも。僕たちを裏切る前の白銀さんのことを、僕は覚えてる」

最原「白銀さんはそういう方向性の異常さは、欠片も見せたことがない。命を賭けるほどの欲求なら、完全に隠し通すことは不可能だ」

最原「加虐に対して興味がなく、被虐に対しても同様。憎悪を一身に受けて白銀さんに起こったのは……」

最原「……敗北。それしかない」

最原「別視点から見てみよう。裏切る直前から、今に至るまで白銀さんにあった異常性とはなにか」

王馬「『仲間想い』でしょ」

最原「!」

赤松「……仲間……想い……?」

王馬「『分断』された後の白銀ちゃんのことは俺がよく知ってる。だからそこから先は俺が証言するよ」

王馬「その前に聞きたいなぁ。俺の評価、ちゃんと合ってた? こればかりは何も忘れてない最原ちゃんに訊ねるしかないんだけど」

百田「分断される前の白銀が、仲間想いだったかどうか、か? どうだ終一。王馬にしては割といい線行ってると思うぜ」

百田「気持ち悪いくらいのストレートだ……なんか裏あんのか?」

王馬「いや? ただ今の白銀ちゃんが可愛いなと思ってさぁ」

王馬「ちょっとずつ首を締め上げられるようでしょ?」ニヤァ

白銀「……こんなときだけ嘘を吐かないのってどうなの」

王馬「本気にするなよ。キミのことなんてさらさら興味ない」

白銀「!」カチンッ

春川「よしなよ。そいつの言葉に耳を貸すの」

春川「……最原」

最原「王馬くんが正解。ちょっと過激に言うなら白銀さんは『仲間』という言葉に雁字搦めにされてた」



最原『どうしてキミは夢野さんを殺したりしたの?』

白銀『えっ? 私が? 夢野さんを?』

白銀『……最原くん! 私が仲間を殺したりするわけないじゃん! 悲しいこと言わないでほしいなぁ?』ニコニコ



最原「新世界プログラムの中で行われた学級裁判。この一言がずっと気にかかってたんだ」

最原「だって本当に『夢野さんを殺してない』! この点に関して彼女は嘘を吐いてなかったんだから! それだけじゃない!」



白銀『……やめてよぉ! そんな顔で私を見ないで!』

白銀『だって……だって、仲間なんだよ! 私が夢野さんを殺すわけないじゃんッ!』



最原「この時点で殺されたはずだった夢野さんの名前とセットで、仲間だってことを繰り返してる」

最原「あのときは怖かった。でも今は気持ち悪いよ。だって裏切ってるはずなのに仲間アピールしてるんだよ?」

白銀『ふふっ。楽しみにしててね。あなたには第二弾があるから。巌窟王さんも味わってないとっておきのおしおきが、さ!』ニコニコ

アンジー『……ろして……ころして……』

白銀『やだ。仲間だもん』



アンジー「……そだねー。今から考えるとあれって未練だったのかも」

アンジー「もっとも、あれはアルターエゴの台詞だったけどさー。まあ『ほぼ』本人だから誤差の範囲だよねー」

天海「あっ。俺も心当たりあるっすよ! 分断の後で白銀さんに拉致られて……」

最原「あ、それはいいや。天海くんの場合はちょっと方向性変わっちゃうから」

王馬「じゃ、俺の番だね! 白銀ちゃんはさー。俺に『裏切りの協定』を持ちかけたんだ」

王馬「条件は『次のコロシアイでの首謀者の地位』。お世辞抜きにいい条件だったから俺もそれを飲んだんだよね」

王馬「こんな武器まで貰っちゃったりして」ガチャリッ

赤松「えっ? じゅ、銃?」

夢野「そ、それ……ウチを撃ったあの麻酔銃じゃな?」

王馬「麻酔銃だったんだ。自分で撃ったことないから全然知らなかったや」

王馬「さて。俺の証言はこれで終わりだよ。これで充分でしょ」

百田「早っ!」

百田「……でも確かに、そうだな。ああ。間違いねぇ。テメェが何を言いたいのか完璧に理解したぜ」

天海「そう……っすね。わかりたくなかったっすけど」

春川「白銀。あんたさ……」

白銀「……」





百田&天海&春川「これだけはないだろっ(でしょ)(っす)!」

王馬「てへぺろっ」キャピンッ

春川「確かに『コイツ』なら私たちのことを裏切りかねない。しかもこっちに残った連中の中では唯一『飴だけで』懐柔が可能だよ」

春川「他の連中を裏切らせるのなら人質を取るとか、どうしてもキツイ鞭になっちゃうから」

春川「でもさ! よく考えればわかるでしょ! 『裏切りやすいヤツを味方に付けること』は、それだけで破滅の秒読み、無限のリスクだ!」

天海「なんてったって『裏切りやすい』んだから当然っすよね。再度裏切り返される可能性とずーっと付き合わないといけないっす」

天海「彼と信頼を前提として組むことは百パーセント不可能っすよ」

百田「百歩譲って、王馬と付き合うことに利益があるとすれば、だ」

百田「それは『裏切られることを前提としたチーム』を組みたいときだけだ! コイツを操縦することが不可能だとは言わねぇが……」

百田「その場合、犠牲にしなきゃいけねーもんが多すぎる。場合によっては『命を含むほぼすべて』を諦めなきゃならねぇ」

百田「コイツと組むようなヤツがいたとしたら、そいつは相当追い詰められてる!」

王馬「うわっ。ボロックソ言うね……みんなして俺のことそう思ってたんだ……」

王馬「ありがとう! 最っっっ高の誉め言葉だよ!」キラキラキラキラキラ

天海「王馬くん……そういうところっすよ……」ズーンッ

最原「もしも……もしも白銀さんの想定通りなら、すべてが終わった後じゃないとそうは思わなかったのかもしれないけど」

最原「この裏切り協定はあまりにも酷い。王馬くんを味方に付けたってことは『裏切りを持ちかけた自分を裏切るように仕向けた』ってことに他ならない」

最原「さあ。これだけ証拠を並べ立てたんだ。これだけでももう確定に近いよね」

最原「白銀さんが何を狙っていたのか」

百田「……」






百田「自爆……としか考えられねえ」

最原「白銀さんが敗北した場合、得をするのは誰?」

最原「考えるまでもない。この才囚学園に生き残った全員だよ」

最原「白銀さんから見え隠れしていた異常性。狙っていた結末。実際に巻き起こったこと……これが僕の提出する証拠だ」

最原「彼女の行動は『仲間のため』! これが僕の答えだ!」

赤松「それは違うよ!」

最原「!」

百田「……やっぱりな。今のテメェなら反論すると思ってたぜ」

百田「でもよ。これ状況証拠ってだけじゃねぇ。実際に白銀がやったことを並べ立ててんだ」

百田「人は言動でいくら嘘を吐けても、行動そのもので嘘を吐くことは困難だぞ」

赤松「そうかな? 結局のところ、行動から何を読みとるかは解釈の問題だよ?」

赤松「それに、彼女が明確に気にしていたことがあったよね。夢野さんの学級裁判のときに最原くんが言ってたはずだよ」

最原「『演出重視』のことを言ってるの?」

赤松「自分の生存を度外視してることは確かに。信じられないけど、私にもそうとしか思えないよ」

赤松「でもさ。彼女が命をかけてる対象は仲間じゃない。演出だよ」

赤松「彼女は私たちをとことんコケにすることに命がけだった。王馬くんの裏切りに関してもそう」

赤松「正攻法で王馬くんの裏切りの策が上手く行ったら……つまり万が一王馬くんが白銀さんを裏切らなかったら?」

赤松「私たちにとって大打撃だよね。例えば茶柱さんとかを人質に取ったりしたら、その時点で私たちの勝ちの目は薄くなる」

赤松「心理面でも私たちに与えられるダメージが大きい。無限のリスクに釣り合うとは言えないけど、ハイリターンではある」

赤松「……ね? 結局は解釈次第。それで証拠と言われても困るよ」

巌窟王「クハハ! やはり春川の言う通り、なにかに怒ってるな? 赤松!」

巌窟王「随分と言い切るな? お前の主張も結局は、自分の言った通り『解釈次第』だと言うに!」

最原「……」

赤松「うん。怒ってるのは、今更隠すつもりもないよ」

赤松「ただし、別に最原くんのせいだけってわけじゃない」

最原「?」

最原(……その一言は予想外だったな?)

赤松「結構思い込み激しいな、最原くんも」

赤松「……最原くんのせいだけで怒るほど、私も短気じゃないよ」ギロリ

百田「……ん? 終一。赤松になんかしたのか?」

最原(赤松さんが巌窟王さんと共犯で白銀さんを殺そうとした……という事実をネタにしてゆすったってことがわからなきゃ意味不明な一言だな)

最原「……ごめん。なんのこと言ってるのかさっぱりわからない」

赤松「わかったって言われても困るんだけどさ。最原くんだけわかってくれればいいよ」

最原「……なんにせよ、赤松さんは白銀さんの善意を認めるつもりはないってことでいいんだよね?」

赤松「だって、そんなものないでしょ。仮に善意だったとして、今までのことが許される?」

最原「許されないね」

最原「……少なくとも僕だって許せない。だから何?」

赤松「はあ……?」

最原「『考える機会』を奪うことはないだろ。『もしかしたら許せる部分もあるんじゃないか』ってさ」

百田「それに更生の余地を与えることは、俺たちにとっても利益があるぜ?」

百田「なんせこのコロシアイの首謀者だ! コイツの情報がありゃ、巌窟王の提案よりいい案を出せるかもしれねぇ!」

赤松「そんな時間……!」

最原「ないだろうね。もしも本当に『白銀さんが救いようのない下衆』だったらの話だけど」

最原「『最初から僕たちの仲間』の場合のみ活路が開ける! そして今回の場合、白銀さんはそうなんだよ!」

白銀「……」

最原「証拠が不十分かな? なら仕方ないか」

最原「この場で即座に用意できる証拠、まだあるよ」

最原「この場で用意できる証拠は、あと二つしかない」

最原「……それで納得してくれない場合、三つ目の証拠を出すしかないけど……これだけは使いたくないな。赤松さんをこれ以上怒らせたくないし」

赤松「……?」

赤松(『卒業アルバム』のことを言ってる……? バカだな、最原くん)

真宮寺(持ってきてはいるヨ。万が一のためにネ。でもこれは仲間全員に必要になったときのための保険だ)

真宮寺(『白銀さんの弁護のため』になんか絶対に使わせないヨ……!)ニヤァ

アンジー「……ねえ楓ー。早めに意見は翻した方がいいと思うよー?」

赤松「なんで?」

アンジー「なんでって……こういうときの終一って凄く怖いしさー」

アンジー「……ね?」

赤松「……」

アンジー「うーん。聞く耳持たないかー。ならいいけど」

巌窟王「さあ。出してみろ最原! 即座に用意できる二つの証拠とは一体なんだ?」

最原「本。そして写真だよ」

白銀「!」

ナーサリー「……本?」

夢野「その本! まさか……!」

最原「モノクマでもわかる家庭料理レシピ百選」

夢野「やっぱりか!」

百田「やっぱりかじゃねーよ! 満を持して出してそれか!? い、いや……それなんだ!?」

最原「古今東西の拷問法が書かれた雑学本」

茶柱「料理ってそっちの意味ィ!?」ガビーンッ

最原「イラスト満載で、子供でもよくわかる内容だよ。子供にわかっちゃダメな内容だけど」

百田「知らねーよ!」

最原「確かに本の内容なんかどうでもよかったね。僕も半分くらいしか読んでないし」

茶柱「半分読んだあなたが怖いんですけど……」

最原「……問題は内容じゃない。それ以外の部分だ。『タイトル』と『厚さ』だよ」

バシッ

最原「ん!?」

ナーサリー「貸して」

百田「……いや貸してと言う前に奪ってんじゃねーか!」

ナーサリー「タイトル『モノクマでもわかる家庭料理レシピ百選』。縦30CM。横21CM。厚さ約10mm。ページ数152」パラララララ

ナーサリー「国際標準図書番号、なし。デザイン監修、編集、監修、すべてモノクマ」

ナーサリー「発行年月『オマエの誕生日』。発行所は『才囚学園』。非売品」パタンッ

ブワッ

最原「うわっ! ドレスの柄がモノクマカラーに!?」

ナーサリー「ありがとう、貸してくれて。お礼に本の情報を並べ立ててみたけど、どうかしら?」ヒョイッ

最原「あ、ああ。うん。これ以上ないと思うよ」

巌窟王「ナーサリーライムは本の英霊……というより物語の英霊だ。万が一内容について話したくなったらコイツに頼るといい。別に外観でも構わないが」

巌窟王「なに。『英霊を証拠品扱いする』なぞ、貴様なら慣れたものだろう?」

ナーサリー「別に直接的に本に触る必要はないのだけれども、一応貸してもらったわ。とても不道徳な本ね」

真宮寺「で。その不道徳な本のタイトルが、何だって?」

最原「この本、図書室の首謀者の隠し部屋の近くにあった本棚にあったんだ」

夢野「正確には発見したのは首謀者の部屋の中じゃぞ。『本来しまわれていたはずの場所が隠し部屋の近くの本棚』というだけじゃ」

最原「あそこあたりの本棚の、並べ方の順番は『タイトル順』なんだよ」

最原「で。首謀者の部屋で見つかったこの本を、本棚に戻し入れてみたら……」

最原「過不足なくハマったよ。本同士が詰まることもなく、かと言って隙間が大きすぎない程度にね」

赤松「それがどうかしたの?」

最原「過不足がないのが不自然なんだ」

最原「……だって、あの本棚は『既に一冊の本が焼失した後』なんだから」

最原「モノクマでもわかる写真術。覚えてる?」

夢野「当然覚えておるぞ。ただ、この本の違和感に気付いて、本棚を検めた時点ではもう『どこにも存在しなかった』がな。当然じゃけど」

百田「ちょっと待て。なんだその、写真術? それがどうしたってんだよ」

最原「やっぱり百田くんは覚えてないか……被害者が巌窟王さんだったわけだから当然だけど」

最原「実は最初の事件の被害者は巌窟王さんだったんだ。色々あって巌窟王さんは復活して、犯人の赤松さんも無事だった」

最原「その途中、少しだけ話題に出たんだよ。巌窟王さんがたまたま欲しがってた本。モノクマでもわかる写真術……」

天海「事件が終わった後で図書室に行ってみたら、その本はすっかり焼失してたっす。燃えカスが残るのみだったっすよ」

天海「多分、後後の王馬くんの台詞と行動を考えるに、巌窟王さんのビックリした顔が見たいがために燃やされたんだと思うんすけど……」

王馬「ああ。そういえば理由はまったく覚えてないけど、そんな本を燃やしたような記憶がぼんやりあるような……」

アンジー「実際に燃やしたんだよー。後で『彼』が物凄く恨み節まき散らしてたから間違いないねー」

巌窟王「……」

巌窟王「図書室だな? 同一タイトルの本が一つや二つあってもおかしくはないが」

巌窟王「……あの本は王馬が燃やした一冊だけだ。モノクマが補充しない限りは、もう二度と図書室には並ぶまい」

モノクマ「図書室の本の補充? ボクはそんなことしてないよ。更に言えば図書室の掃除の方もあまり小まめにはやってないなぁ」

最原「本棚にも触ってないんだな?」

モノクマ「もちろんです」ムフー

最原「そうか。じゃあ決まりかな……」

最原「……そうだ。記憶を失ってないみんなには改めて、件の本棚の詳しい座標を改めて言っておかないと」

最原「隠し扉へ向けたカメラ。第一の事件で巌窟王さんが倒れていた場所だよ」

最原「そして、写真術の本に関してはもう永久に消えているのに、料理本を本棚に戻すと『すべて揃う』」

最原「加えて、この料理本と写真術の本はタイトルが酷似しているとなると……」

最原「……段々新しい証拠の輪郭が見えてこない?」

赤松「最初の学級裁判でちょっとだけ触れたよね」

赤松「『もしかして赤松楓が隠しカメラのセットと一緒に、巌窟王さんおびき寄せのために写真術の本を同時にセットしたんじゃないか』って」

赤松「あのときは最原くんが否定した。『カメラを仕掛けた人と本をあそこに置いた人が同一人物だとは思えない』って」

真宮寺「限りなく可能性の低い偶然が重なった結果起こった悲劇……情報が足りなかったあの時点ではそう結論付けるしかなかった」

真宮寺「ククク……でも違うんだネ! その口ぶりだとさぁ!」

最原「偶然の可能性は消える。すべては必然だった」

最原「本に続いて、この写真が証拠だよ」ピラッ

モノクマ「拡大して上のモニター……の何枚かに出しまーす!」

百田「白銀? ……場所は図書室、だよな。階段側じゃなくて奥側の扉のあたり、か?」

最原「場所はそれで間違いないよ。問題は、これが撮影された時間だ」

最原「第一の学級裁判が起こる前なんだよ、これ」

春川「根拠は?」

王馬「俺が本を燃やしたタイミングでしょ」

最原「うん。この白銀さん、本を持ってるでしょ? タイトルは微妙に隠れちゃってるけど辛うじて『写真術』って読める」

ナーサリー「……」ジーッ

最原「全文はわからない。でも、白銀さんの持ってるこれこそが件の『モノクマでもわかる写真術』だよ」

最原「一冊しか存在しなかったはずの本が、この写真に写ってる。これが第一の学級裁判が起こる前だと主張する根拠だ」

最原「……白銀さんは一冊しか存在しないはずの本を持って、何をしたのか」

最原「決まってる。『本の入れ替え』だよ」

最原「さっきから意図的に黙ってる出戻り組はもう気付いてるよね。つまり図書室には写真術の本なんて無かった! 少なくともあの本棚には!」

最原「後から白銀さんが、本来そこにあった料理百選の本と入れ替えたんだよ!」

夢野「まさかこんな写真が『ここに』出るとまでは予想しておらんかったがの」

夢野「最初の事件のトリックについて、重要なのはとにかく『巌窟王の位置』じゃ。『砲丸の位置』でもよいが」

夢野「巌窟王の頭上にドデカい鉄骨が落ちて来る! とかならそこまで気を遣う必要はない。でも現実にはそうではなかった」

夢野「重さ、高さは問題ないとしても『命中率』にはどうしても不安が残る!」

夢野「じゃから保険が必要じゃった。ダメ押しとも言えるし、願掛けとも、ともすれば単なる『おまじない』とも言えるような極微量の底上げが」

夢野「ついでに、あからさまに図書室に向かうつもりじゃった巌窟王が、万が一あそこに来た場合の備えがな!」

夢野「それが写真術の本じゃ。あの当時の巌窟王は、卒業アルバムのために写真について書かれた本を欲しておったからな!」

夢野「……そういえば最原。お主、カメラをセットした後、ずっと階段傍の教室で見張ってたわけではなかったのか?」

最原「カメラを設置した後すぐ、ってわけじゃなかったからね。首謀者が僕たちと一緒にいる場合はタイムリミットギリギリにならなきゃ来ないだろう」

最原「そう赤松さんが言ったからさ」

最原「あのトリック全体を見るに『首謀者がなにかと理由を付けて大人数で地下に降りるはず』って予測した上での発言だったんだと思う」

赤松「百田くんの予定を偶然知ったからね。首謀者なら絶対にその計画にあえて乗るだろうって思ったんだよ」

赤松「わざわざ私たちの中に紛れ込むような人だし。そうじゃなきゃ最初からあの部屋に引きこもってる」

赤松「あの大爆音のトリックは、カメラを仕掛ける前日にすべて実験は終わったけど」

赤松「AVルームの細工だけは出来る限り計画実行直前、せめて当日に行う必要があった。あのAVルームって結構使用頻度高かったから」

赤松「で。『緊張でガチガチになってるから食堂でなにか食べてきなよ』という口実で最原くんを追い出して」

赤松「すべての細工を終えた後で悠々と最原くんを拾って、階段傍の教室に戻ってきたってわけ」

赤松「……念のために言っておくけど、それでも十七時だよ。あの事件が起こる寸前、つまり二十二時寸前まで見張ってたわけだから……」

巌窟王「五時間はあの教室にいたのか。退屈だっただろうな、死ぬほど」

最原「僕たちがいない間に首謀者が中に入ってしまったかも、という心配は元からしてなかったよ」

最原「入間さんの作ってくれたブザーだけは携帯してたからね。倉庫の赤外線センサーとは違ってこれは射程が長いんだ」

最原「いや赤外線センサーの方も後から長くなったけど……これの応用で作ったのかな」

最原「タイトルが酷似している理由はこれでわかったよね。本来そこにあったものと取り換えるとき、本棚がタイトル順ならどうしても似てしまう」

最原「……というか似てるヤツを急ごしらえで作ったんだ。よくもまあ間に合ったものだよね」

白銀「モノクマが一晩でやってくれました」

最原「次。白銀さんは本を作った際、意図的に増加させたものがある」

最原「本の厚みだ」

百田「あ? 本が厚くなると……何が起こるんだ?」

春川「……」

春川「取り出しにくくなる……」

百田「い、いやいやハルマキ。取り出しにくくなるからってなんだって……」

最原「確かに聞くだけなら物凄くショボい細工だよ」

最原「でも現実に、巌窟王さんはそのせいで赤松さんに殺されたんだ」

最原「……と、まあここまでなら、あくまで赤松さんの殺人計画の後押しでしかないんだけど」

最原「問題はここまでやっても『殺人計画が上手く行くかどうかわからない』ってところだ」

最原「命中率はかなり上がったけど必中じゃない。多分一割くらいの確率で外れてしまう」

最原「ここから先は白銀さんの話を聞いて判断するしかないんだけどさ……」

最原「もし外れたら何をする気だったの、白銀さん」

白銀「……」

最原「巌窟王さんが触っていなかったにも関わらず、隠し扉の本棚は動いた」

最原「ということは、白銀さんはあのとき隠し部屋の中にいたんだよね」

最原「……本当に本棚を動かすためだけにあそこで待機してたのかな?」

白銀「どうしても私の口から言わないとダメ?」

最原「うん。そうじゃないとダメだ」

白銀「……はあー……」

白銀「本当にこれだけはぜーーーったいに取りたくない手段だったんだけど」

白銀「赤松さんの砲丸が外れた場合は、私がやるしかないなって思ってたよ」ニヤァ

百田「!」

夢野「……ゴミ箱の中の砲丸」

白銀「ああ。やっぱり気付くよね。そうだよ。結局用済みになっちゃったから適当に捨てたんだけど」

夢野「……」

赤松「……ねえ。情状酌量の余地を議論したら、余計にドツボに嵌まってない?」

最原「いや。これでいいんだ。今の一言ではっきりした」

最原「彼女が真に何をしたがってたのかがね」

夢野「白銀よ……よもやそこまで……!」ギリッ

白銀「……?」

白銀「……ッ!」キョロキョロ

最原「本当に怖がってたのはこの光景、だろ。僕はこれを見せたかった」

最原「……白銀さん。キミの行動はなにもかも矛盾だらけだよ。なんでそんなことになったと思う?」

最原「抜群の行動力、モノクマの強権、僕たちのキャラクターを理解した上で行われる圧倒的な先読み」

最原「それらすべてを駆使して、何をしたかったのか」

最原「……『なにもしたくない』。それが答えだ。自分が死ぬのもイヤ。仲間が死ぬのもイヤ。終わるのがイヤ。裏切るのも裏切られるのもたくさんだ」

最原「自分の罪が裁かれるのも、裁かれないのも耐えられない」

最原「それらの願望を叶える方法はたった一つ。自分自身が、何一つとして誰にも理解できない『謎』であればいい」

最原「ずっと謎でいるのは難しいから、せめて自分が生きている間だけという限定条件付きで!」

白銀「い……いや……!」ガタガタ

最原「その可能性は僕が今、摘み取る。そんな希望を許すわけにはいかない! なんだって利用してやる!」

最原「……百田くん!」

百田「ああ……利害関係は一致してるよなぁ……なら仕方ねぇよなぁ……終一。てめぇの口車に乗ってやる」

百田「白銀」

白銀「!」ビクッ





百田「テメェが何言おうが、俺はテメェの仲間を辞めるつもりはねーぞ。絶対に」

赤松「……なに? なんでみんな、そんな顔してるの?」

赤松「今の言葉、聞いてたよね……? ならなんで……」

赤松「なんで白銀さんのことを『憐れんでる』の!?」

天海「今の一言が完璧に嘘だったからっすよ」

赤松「へ」

天海「……子供でももっとマシな嘘を吐く。言葉自体に嘘はなくとも、彼女の態度に嘘がある」

天海「本当に赤松さんの砲丸がハズレたらマジでやるつもりだったでしょうね! でも……」

白銀「ま、待って。ははは! おっかしいなぁ! 最後まで話を聞いてよ!」

白銀「私はさ! 巌窟王さんを殺しても、クロにはならないんだよ! 赤松さんに罪を全部押し付けるつもりだったからさぁ!」

白銀「赤松さんが犯人ってことにして……! 代わりにおしおきを受けてもらって学園生活を続行する気で……!」

春川「……もういいよ白銀。もうたくさんだから」

春川「この記憶が偽りのものだったとしても、誰かを『それっぽい理由で殺す』ことの辛さは知ってるから」

春川「『どの方向性に転ぶのもイヤ』なら……もう何もしなくっていいんだ! アンタは!」

白銀「な、何を……言って……」ガタガタ

巌窟王「……」

巌窟王(なんだ。何が起こっている? この空気はなんだ!?)

巌窟王「何故……白銀を守る方向で団結をする……!?」

巌窟王「貴様らはただ、状況が呑み込めていなかっただけだろう? 『何も知らない』から白銀を庇っていたに過ぎなかった」

巌窟王「それが何故……すべてを知ってなお、許す方へ向かっている……!?」

アンジー「わからなくっていいよ。少なくとも、この場で、お前だけは」

アンジー「……それがわからないあなたが好きだからさー。アンジーは」

巌窟王「……バカな……最原……!」

最原「もっと早い段階で気付いておくべきだったね、白銀さん。たとえ気付けてたとしても、他にいい言い訳を思いついていたとは思えないけど」

最原「あまりにもグズグズすぎる」

白銀「……」

最原「この場にいる、記憶を消された人たちは全員気付いてるから今更言うまでもない」

最原「キミのことをずっと信じてた夢野さんに至っては、料理百選の本の真実にはとっくのとうに気付いてる!」

最原「砲丸も、本も、写真も……これらがなければ真相に至れなかった。ならなんで!」

天海「なんで『こんな証拠がある』んすか? 真っ先に処分すれば何も無かったはずなのに」

天海「特に、最悪なのが写真っすよ。これ明らかに、アングルが最原くんの隠しカメラっすよね」

天海「これに関しては、記憶を取り戻した俺だからこそわかるヤバさっすよ」

天海「……赤松さんに罪をなすりつけて代わりにおしおきを受けてもらうつもりだった、か」

天海「その案は結局、九割の命中率が上手い具合に働いたから実行には至らなかった『ルール違反未遂』でしかない」

天海「でもこれは違う。校則に真っ向から反している!」

天海「『モノクマはコロシアイには関与しない』の校則にね!」

夢野「あのとき、写真の現像をしたのはモノクマじゃ。モノクマーズではなく、モノクマだったんじゃ!」

夢野「したがって、この写真を握り潰せるのもモノクマだけということになる!」

夢野「重要な証拠じゃぞ! 握り潰したら大変なことになる!」

夢野「最悪、握り潰して誰にも発覚されなければそれで済むが、現実にはこうやって最原に見つかっておる! ありえないじゃろ!」

夢野「写真なんぞ処分しやすい証拠ベスト3に入る! なんで後生大事に持っておったんじゃ!」

白銀「裁判のフェアさを維持するため……」

最原「建前だろ。すっかり騙されたよ。キミにあるのは行動力だけだ。自分の意思がない」

最原「……誰かに何かしてほしかった。されたかったんだ。それがキミの望みだよ」

最原「裁かれるのも、殺されるのも、傷つけられるのも、許されるのも全部良かったんだ」

最原「どこまで……どこまで生きることに疲れたらこんなことになるんだ……! ふざけるのもいい加減にしてくれよ……!」

百田「なら俺たちがやることはたった一つだけだ」

白銀「……!」





百田「裁かない。俺は白銀の罪を知らないからな」

百田「殺さない。殺すわけねーだろアホか」

百田「傷つけない。仲間を傷つける? 論外だろ」

百田「許さない。そもそも最初から怒ってない」

百田「俺たちは、白銀に『何もしない』」

最原(……真宮寺くんをあの場でタコ殴りにしたときと同じ気分だ)

最原(胃がムカムカする。体が怠くなってくる。とにかく息がものすごく苦しい)

白銀「最原くん……お願い。これ以上はやめて……お願いだから……!」ガタガタ

最原「これは僕の復讐だ。やめる道理がどこにある?」

最原「……キミはこれまでやらかしたことの責任を一切取らなくていい。取っちゃダメだ」

白銀「はっ……ははははは! そんな! そんなバカなこと」

最原「バカじゃないよ。キミを現す言葉は『天海くんと一緒』ともう一つ」

最原「ここまで言えばもう誰でもわかる。特に百田くんたちには」

最原(『被害者』。つまり――)

茶柱「……『転子たちと同じ』……ということですね」

最原「同じ境遇、同じ地獄に落とされた仲間だ。一体なにをどうして、そんな人を裁かなきゃダメなんだろう」

最原「時間の無駄だ」

王馬「考えてみれば、第一の事件のモノクマのタイムリミット、第二の事件の動機ビデオ……」

王馬「このふたつの動機に関しては『首謀者であるはずの白銀ちゃんにも有効』だよね! 本当に『天海ちゃんと一緒』ならさ!」

白銀「王馬くん!」

最原「もう悪あがきはよそうよ、白銀さん」

最原「……キミがやってきたことは全部無駄だった」

白銀「ッ!」ビクッ

百田「おい。終一……!」

最原「血反吐を吐くような努力、ご苦労様。余計なお世話だった……だけなら可愛いものか」

最原「キミのやったことは全部無意味だった」

白銀「いや……いやあ……!」

最原「こんな茶番劇の裏方に、よくも徹しきれたものだよね。僕にはまったく理解できない」

最原「キミはキミ自身が考えている以上に無能だった」

白銀「ひっ……ひうっ……うああああああ!」ガタガタ

最原「でも安心してよ。百田くんたちは相も変わらず仲間を続けてくれるそうだから」

最原「……キミはこの学園で『なにもできなかった』から。いや……」

最原「キミにはこれからも『なにもできない』。『誰も殺せない』から『誰も救えない』!」






最原「『無力』だ」

白銀「いやあああああああああああああああああああああっ!」

ゴッ

最原「がっ……!?」

茶柱「……転子はあなたのことを信じてます。信じてますが……それはそれとして死ぬっっっほど不快です」

最原「え。ちょっと待って。今、何を投げ……」ヒョイッ

ネコアルク「にゃあ~~~星がくるくる回る~~~」ピヨピヨ

最原「爆発物を無造作に投げないでくれるっ!?」ガビーンッ

赤松「それ以前に自立意識のあるロボットを投げないでよ……キーボくんじゃないけどロボット差別はダメだからさ……」

茶柱「……ここまで追い詰める必要がありましたか? 今までの努力は無駄だったと突きつける以上に残酷なこと、そうそうありませんよ?」

最原「二度と同じことをされないように徹底的にしておきたくって……当然私怨も入ってるけど」ダラッ

最原「うわ。血が出てる……かなり強く投げたね……おでこから結構出血が……」

百田「ツバでもつけとけ! あるいは茶柱のツバでもつけとけ!」

茶柱「!?」ガビーンッ

百田「……敵は決まった。確かに議論自体は無駄じゃなかったかもな。この場に敵が一人もいないってんなら……」

百田「俺たちの敵は『外の世界すべて』だ! 白銀にこんなことさせたヤツも、俺たちにこんな目をあわせたヤツらも!」

百田「目に物を見せてやるぜーーーっ!」

白銀「だからっ! それがダメなんだって!」

白銀「それが一っ番ダメなんだってば!」

百田「お?」

白銀「私がっ……私がなんの理由もなくこんなこと考えたと思ってるの!?」

白銀「ちょっとでも勝算があったのなら、仮にそれがどんなに小さくたって、それに賭けてみるのが一番簡単だよ!」

白銀「でも実際には違う! 世界なんて相手にしてられない! たったの十六人……それも、この世に実在してない私たちに何ができるの!?」

白銀「……やってみなけりゃわかんない、とか言わないでよ! もうやったんだよ! 天海くんが知らないところでも何回も!」

白銀「天海くんと一緒のときも! 何回だって……何回だって……諦めずに、希望を捨てずに何回だって……!」

春川「……白銀……」

白銀「は、ははっ。知ってるんだよ、私はさぁ。春川さんみたいな目をした人、前にも見たよ!」

白銀「その人は私たちのことを信じて、無念さを隠して、満足そうに死んでったよ!」

白銀「ふざっけないでよバカじゃないの!? そういう抜き身の優しさ、どうせ死ぬヤツにはないほうがいいに決まってるじゃん!」

白銀「残される私たちのが百倍辛くなるだけなんだよっ!」

白銀「嘘……嘘! 嘘! 嘘! この学園にあるものは全部フィクション! 現実に存在するものの模造品!」

白銀「優しさ、決意、希望、心、未来……! そういうポジティブなものはぜーんぶ実在しない! 少なくともこの学園では!」

白銀「消えちゃうんだよ……! 私が消すこともできるし、外の世界の連中ならもっと簡単に消すことができる!」

白銀「実際、私が何をしたか、百田くんたちはどれだけ覚えてる!? なにも覚えてない……! 辛うじて巌窟王さんの影響だけが残ってるのみだ!」

白銀「どうせふいに消えるものなら、せめて私の手で壊してしまいたかった。私の知らない場所で消えるのは凄く怖いんだよ! 毎回心臓が止まりそうなの!」

白銀「信じてたものに裏切られるのも怖い! なら私が裏切りの原因になってしまった方がいくぶんかマシだよ!」

白銀「どうせ残酷な形で消えるものなら……その最期を私が少しだけでも……!」

百田「消えねーよ」

白銀「その台詞も知ってる! 聞いたことあるよ……結局嘘だった!」

百田「嘘じゃねーよ。だってよ」






百田「ならなんでテメェは泣いてんだ?」

白銀「……は……」

百田「嘘と真実の定義なんぞいちいち議論できねぇけどよ。終一ほどその分野に明るいわけじゃねーし」

百田「……そうだな。テメェは知ってるんだ。『何一つとして嘘なんかない』ってことに」

百田「でもそれじゃ耐え切れねぇから『全部嘘だった』ってことにしてぇだけだ」

百田「悪い夢だったって思いたいだけなんだよ。行動を裏返せば結局、やればやるほど『嘘だと思ってない』って証明するようなもんなのによ」

白銀「……」

百田「……天海。わり。これ以上、俺が言うべきじゃねーだろ。テメェに任せた」

天海「……あははっ。うん。ありがと……後のことは俺に任せてくれっす」

天海「百田くん。超高校級の生存者として参加したこの学園で、キミに会えて本当によかった」

天海「キミを信じることができて、本当によかった……」

百田「いいってことよ!」

天海「……白銀さん。俺はどうやって、分断前の記憶を取り戻したんだと思います?」

白銀「……」

天海「薄々感づいてたんじゃないっすか。俺は最原くんみたいなスキルでもなんでもなく『偶然』で記憶を取り戻したんすよ」

天海「それ以外にマジで理由がないんす」

天海「……ははっ。何もかも偶然っすよ。赤松さんの砲丸がマジで巌窟王さんの頭上に落ちたのも」

天海「いや。巌窟王さんがそもそもここに呼ばれたのだって」

天海「……白銀さん。ただの偶然で、今回のこの学園での出来事は、前回の学園でのコロシアイみたいにならずに済んだ」

天海「ここまで来たらもう……偶然じゃなくって『運命』って言えるのかもしれないっすね」

白銀「だから……なに?」

天海「諦めてくれないっすか? 流石に相手が運命じゃ、白銀さんでも勝てないでしょ。世界より余程に分が悪い」

天海「友達からの一生のお願いっす」

白銀「……まだ私のことを友達だって言ってくれるの? 何もできなかったのに」

白銀「あなたを殺して終わらせることも。私が死んで終わることも」

白銀「……あなたたちが何も思い出さずに私を殺してくれたら、少なくとも『才囚学園での物語』はハッピーエンドだった」

白銀「一瞬だけだったとしても、達成感で幸せになれたはずだったのにさ……!」

天海「興味ないっすね! 余計なお世話クソ食らえっす!」ニカッ

天海「……今回の学園で発揮した行動力、今度は正真正銘、俺たちのために使ってくれないっすか?」

白銀「……なんていうか……」





ネコアルク「メンタルをボッコボコにした後で新しい目的意識を植え付けるとか、やり方が完璧に洗脳のそれじゃないかにゃー」

天海「!?」ガーンッ

最原「今は黙ってて」ガバッ

ネコアルク「もがぐぐ」

天海「ほ、本当だ。今の俺って最低の鬼畜野郎なんじゃ……」

茶柱「安心してください。最低なのは間違いありませんが、鬼畜野郎なのはこの場で最原さんだけです」

最原「ぶっ」ブシュウアアッ

バタンッ

最原「」チーン

王馬「最原ちゃんは……茶柱ちゃんの言葉のショックで古傷が全部開いて死んだ」

真宮寺「超善人だったのに、どうしてこんなことに……」グスン

茶柱「謝りませんよ! 謝りませんからね!」

白銀「……」

白銀「私は私のことが嫌い。最近までそうじゃなかったのに、最原くんのせいで嫌いになった」

白銀「……もっと私は色んなことができると思ってた。なんだって……世界に歯向かう以外なら、なんだって……!」

巌窟王「勘違いだな」

白銀「!」

巌窟王「……なんでもできるヤツなどいない。俺がこの学園でイヤというほどに思い知ったことだ」

巌窟王「何もできないということはない。だが、一人一人、個人個人がやれることは驚くほどに少ない」

巌窟王「才能のあるなしに関わらずだ」

巌窟王「貴様の失敗がどこから始まったか。考えてみれば、ありきたりだな。この年頃の娘なら珍しくもない」

巌窟王「無理に背伸びをしすぎだ」

天海「……驚いた。説教する余裕なんてまだあったんすね。てっきりまだ怒り狂ってるものだと」

巌窟王「当然、この復讐鬼たる身に忘却はない。怒りも当然保持している。だがその女があまりにも情けないものだからな」

巌窟王(……もう取り残された方の団結は止められそうにないな。これが狙いだったのか、最原)

最原「ちょっとでいい……ポジティブなことを言ってくれれば即復活するから……」ピクピク

茶柱「えー。面倒臭いですね……えーと……」

茶柱「……転子も癖がおかしくなっちゃいましたかね。真実を暴くあなたの姿、ちょっと格好よく見えましたよ」ポソッ

最原「ベホマ級の威力」ギュインギュインギュイン

王馬「本当に復活しちゃったよ」

プリヤ追い込み期間のため今日はなし! 復刻だからって舐め腐りすぎた……

天海「俺は諦めない。何度記憶を消されたって、絶対にキミも! キミの大事なものも助けに行く!」

天海「できるかどうかは関係ない! 絶対に全力でそうしてやるっす!」

天海「だから白銀さん。これから先は覚悟を決めておいてくれないっすか」

天海「……助けられる覚悟を」

白銀「……またみんな死んじゃうよ? 今度こそ」

百田「死んでたまるかッ! そのために頑張るんだよ!」

夢野「最初から何もかも諦めて生きることと、結果を確実に出せる生き方しかしないことはほぼ同列じゃぞ」

夢野「そういうのはとてもよくないことじゃ。大事なのは頑張ろうっていう気概じゃぞ」

春川「……私たちは誰も殺さない。気に入らないものだけを粉砕する」

春川「ここまで誰も死なずにやってこれたんだ! 最後の最後までワガママを通そうよ!」

赤松「ちょっと待ってよみんな! 本当にそれでいいの? それ以前に、最原くんの言うことを信じるの?」

赤松「写真はともかくとして、件の写真術の本に関しては確証が――!」

真宮寺「赤松さん、赤松さん」チョイチョイ

赤松「ん?」

真宮寺「あれあれ」

赤松「……んっ?」

王馬「ごーまーだーれー」チャーリーラーラー

モノクマでもわかる写真術「」キラキラキラ

赤松「……んんんんんんんんんん!? 燃やしたんじゃなかったのーーー!?」ガーンッ

最原「ナーサリーさんに協力してもらった」

モノクマでもわかる写真術「本を読んだ子がいれば辛うじて可能よ!」

真宮寺「あ、ホントだ。ナーサリーさんの声だネ……」

赤松(……ダメだ! 最原くんの手回しが異常に素早い! 新世界プログラムの中で巌窟王さんに追いかけ回されて泣きべそかいてた人だとは思えない!)

赤松(この局面で冷静すぎる!)

巌窟王「満足か? 白銀の希望を粉砕できて、満足なのか」

巌窟王「……最原。貴様に訊いているのだぞ」

最原「三分の一くらいは気が晴れたよ」

茶柱「半分以上残ってるじゃないですか……」

最原「白銀さんから一切謝られてないし、完全に善意からの行動だったのなら白銀さんはこれからも絶対に謝らないからね」

最原「仮に謝ったとしても絶対に形だけの謝罪だよ。僕は赦す努力はするけど、最後の最後では憎んでると思う」

最原「……それでいいんじゃないかな。白銀さんからすれば、なにも覚えてない百田くんたちや、これまた全部善意の天海くんに一生つきまとわれるんだよ?」

最原「罪悪感を一切清算できないままね。それって最高の罰でしょ?」

巌窟王「……俺には貴様が何かと理由を付けて、人を殺すことを避けているようにしか見えん」

最原「当たり前だよ。好き好んで人を殺す人間なんかこの場にいないんだから」

ナーサリー「『人間』はね……」ニコニコ

夢野「意図的に場の空気を濁らせるようなマネはやめい!」

最原「さあ。ここまでの議論でハッキリしたよね」

巌窟王「白銀が敵ではない、ということがか? フン、今更確認するまでもない内容だった――」

最原「違うよ。そっちじゃなくってさ」

巌窟王「なに?」ピクッ

最原「『一億人を殺して外の世界に出る選択肢』が完璧に論外だってことがハッキリしたんだ」

百田「!」

天海「えっ」

白銀「はい?」

巌窟王「……」

アンジー「ま……」





真宮寺「マジで?」

赤松「……さ、最原くん。ちょっと聞きたいんだけどさ」

最原「なに?」

赤松「白銀さんの視力を元に戻すための議論じゃなかったの?」

最原「言ったはずだ。『ついで』だって」

赤松「……」

赤松(言ってた! 確かにさりげなく『ついで』って言ってた!)ガビーンッ

巌窟王(まさか、コイツ……! 白銀の視力を元に戻す云々は建前で!)

アンジー(本当は早期の内に『最悪の選択肢』を潰しておきたかっただけかー。物凄い欲張り)

巌窟王「ま、待て。今までの議論のどこにそんな話が……!」アタフタ

最原「巌窟王さんの進路が論外の理由は主に二つ。一つ目はさっき百田くんが言った通り、単純に一億人を殺す選択肢を選べないという人倫の問題」

最原「もう一つの理由は今までの議論で裏打ちがされたと言うべきかな」

最原「……ずっと僕が言うのも、段々説得力がなくなっていきそうだから、この二つ目の理由は百田くんに任せようか」

百田「お? 俺か?」

最原「ずっと前のめりで、前向きだった百田くんが一番気付いてそうかなって思ったんだけど……」

百田「あー……つっても、テメェの言った人倫の問題以外に、この案を跳ね返す理由なんて……」

百田「……ないことはねぇけどよ? 怒るなよ?」

赤松「え。あるんだ」

百田「意外そうな顔してんじゃねーよ。あのな、一つ訊いていいか?」

百田「そもそもなんでそんな選択肢を検討しなきゃなんねーんだよ」

巌窟王「……ム? それは外の世界への報復に決まってるだろう?」

百田「いやだからそれだよ。あ、いや、感情論とか……絡んでねぇわけじゃねぇんだけど、若干ズレてんな。そうじゃなくって」

巌窟王「?」

百田「……それゲームで言うところの邪道だろ? なんで王道を行かねぇんだ?」

巌窟王「――」

赤松「え。なに? どういうこと?」

百田「いや、だからよ」







百田「『正攻法で勝てるゲーム』で『ゲームそのものをぶっ壊すような勝ち方』を求める意義はなんだって訊いてんだよ」

アンジー「えっとねー。んっとねー。色々言いたいことはあるんだけどねー」

アンジー「……正気?」

百田「あ!? そこまで言うか!? むしろ俺の方がテメェらにそう言いたいんだっつの!」

百田「巌窟王の進路は、魔術師からの暗殺の可能性を根こそぎ破壊できるってところのみが魅力だぞ! それ以外は狂気の沙汰だろうが!」

巌窟王「違う。アンジーは今更、そんなことを確認したりはしない。俺の進路が狂気の沙汰だと? わかったことを言うな」

巌窟王「アンジーが言いたいことの全文は『なんでまだそんな正気を保った発言できるの』だ」

百田「あー?」

天海「……ああ、なるほど。そういうことっすか」

白銀「……」

最原「天海くんと白銀さんはわかるよね。そう。この場には越えがたい『壁』がある」

最原「巌窟王さんたち新世界プログラムへ隔離された側は、白銀さんが誘導した通り『ゲームそのものへの憎悪』が桁違いだ」

最原「このゲームを用意した世界への憎悪も当然、ね」

最原「対して、百田くんたちはどうだろう。このゲームのことを振り返ってどう思う?」

百田「どう思うも何も……」

春川「別に」シラーッ

赤松「……え。ごめん春川さん。なんて言った?」

春川「ゲームに対してはどうも思ってないけど……」

春川「……むしろ何か思わないとダメなの? だってさ」

王馬「結果だけを見れば、誰も死んでないよねぇ?」ニヤァ

真宮寺「あっ」

赤松「……ちょ、ちょっと待って。結果だけを見ればそうかもしれないけど、過程の方が散々だったでしょ……!」

赤松「あっ」

最原「それが壁の正体だ。百田くんたちは結果だけしか見ない」







最原「……結果だけしか『見えない』んだよ!」

春川「確かに死ぬような目には遭ったけど正直、私の職業だとそういうのないことはないし……いつものことっていうか……」

百田「俺もだ。宇宙飛行士って『命懸けの状況を作らないように命懸けで訓練してる』ようなもんだけど、それでもやっぱり死と隣り合わせだしなぁ」

王馬「え? 俺? 楽しかったよ?」

茶柱「……結果だけ見れば確かに……百田さんの言う通りですね」

茶柱「相手の土俵で勝てる算段が付いてるのなら、それで勝つのが一番でしょう? それこそが完全勝利ってものです」

夢野「自分の有利な条件で一方的に喧嘩を吹っかけて来た相手を返り討ちって構図になるからのう。一切の言い訳が効かんな」

夢野「ぶっちゃけこれで負けたら自殺級に恥ずかしいじゃろ」

白銀「既にかなり精神削られてるよーう」ヘラヘラ

天海「白銀さん! 白銀さん気を確かに!」アタフタ

巌窟王「なるほど。確かにそれは美しい勝ち筋だな。だが正攻法で勝った後はどうする」

巌窟王「魔術のことを知り過ぎたお前たちを、外の魔術師が放っておくとは到底思えん。百田も俺の進路のこの長所だけは否定しなかったな?」

百田「まあな。そこだけはお手上げだぜ」

夢野「学園が崩壊したら巌窟王はウチらの傍から消えてしまうしのう。どうしたものか」

最原「問題が無い、とまでは言えないけどさ。一つだけいい案があるよ」

巌窟王「案だと?」

最原「巌窟王さん、一つ僕たちにあえて言ってないことがあったよね」

最原「セミラミスさんの計画が始動した場合、魔術関連の物品はすべて学園から消滅する」

最原「……この言に嘘はない。じゃあキーボくんの改造はどうなるの?」

巌窟王「特段隠していたつもりはない。そうだな、キーボの改造も『この学園で当初から想定されていたレベル』に戻るだろう」

最原「ああ。やっぱり。でもそっちのことじゃなくってさ」

最原「……巌窟王さんはどうなるの?」

巌窟王「!」

最原「文脈から察するに巌窟王さんも消えるだろうね。でもたった今言ったよ。キーボくんの改造は全部が無かったことになるわけじゃない」

最原「少なくとも、白銀さんの想定では魔術抜きでも『僕たち全員を皆殺しにできるレベル』の改造が、キーボくんに施されていたはずなんだ」

最原「もし魔術物品の消去が同時に行われたとしたら……」

赤松「あっ! 残ったキーボくんに対処できる人が誰もいない!」

最原「……それだけじゃないな。学園に穴を開ける方法も消える。巌窟王さんがいなくなったらね」

最原「答えてくれる? ただ黙っていただけなら、この場でさ」

巌窟王「……俺の順番は最後だ。セミラミスはどうもいらぬ気を回したらしいな。お節介焼きめ」

赤松「お節介?」

巌窟王「別れの言葉でも残しておけ、とでも考えていたのだろう。魔術物品の排除計画で、俺は一番最後だ。そういうことになっている」

赤松「……ほ、本当だ。いかにもあの人が考えそうな余計なお世話だ……」

最原「でも今回、それがいい方に働いたよね。キーボくんの魔術強化解除をした後、巌窟王さんにはちょっとだけ時間があるんだから」

巌窟王「……生徒の総意がそういうふうに傾いたのなら、俺とて全力でそれを成そう。今更揺らがせる気はない」

百田「終一。なんでこんなこと確認したんだ? 念のためか?」

最原「ここから先はネコアルクか、さもなくばセミラミスさん本人に問い合わせるしかないんだけどさ」

最原「順番を弄れるのなら、キーボくんの魔術強化をちょっとだけ残すこともできないのかな」

巌窟王「……?」

ネコアルク「えー。残してどうするにゃー? キーボくん制圧の可能性を自ら小さくするような自殺行為にしかならないけど」

最原「発想を元に戻すんだ。キーボくんは僕たちの『仲間』でしょ?」

最原「学園から脱出した後で巌窟王さんが消えてしまうのなら、他の対抗手段が必要だ」

最原「……今すぐ用意できる対抗手段は限られてるけど、真っ先に手が届きそうなのは……僕たちに一番近い魔術物品、それも戦闘に特化したものは……」

最原「たった一つしかない、でしょ?」

巌窟王「……!」

真宮寺「……ああ! ああ! なんてことを考えるんだ! 最高だヨ最原くん!」

真宮寺「キミはよりにもよって! この局面で! そんな常軌を逸した決断をするんだネ! 王道がどうとか言ってる割に! それはそれで外道だヨ!」

茶柱「え。何をするつもりなんですか、最原さん」

真宮寺「ククク。決まってるじゃないか。相手の戦力を削り、なおかつ自分たちの戦力を増強する」

真宮寺「この戦法のせいで近代以降の兵器は、最悪でも自爆はさせないといけないという縛りを設けるハメに陥った」

真宮寺「何故ならそうしないと自分自身の兵器に殺されることになるから! つまるところ! そう! 最原くんのやることを二字熟語で表すならば――」





巌窟王「鹵獲か!」

最原「どう? 答えられる? ネコアルク」

ネコアルク「……」チラッ チラーッ

赤松「……わかってるよ。ここで情報を出し惜しみする理由がないよね。喋っていいよ、ネコアルク。私も気になる」

ネコアルク「セミラミスのお嬢に聞かなければ詳細はわからない……とは言え、軽く演算してみたら『不可能ではなさそう』と出たにゃ」

ネコカオス「そもそも、キーボの魔術改造に使われた素材はカルデア由来ではなくあくまで『この世界に本来存在していた魔術』だ」

ネコカオス「内と外との気圧差という視点にのみ話を絞れば、消す理由が存在しない。可能ではあるが」

赤松「……うええ……」

ネコアルク「嘘でも『できましぇえええええええん』と言った方がよかったかにゃ?」

赤松「私のエゴのために重要な情報を偽るわけにはいかないでしょ」

最原「『一部分だけ残す』っていう方向の転換、間に合うかどうかが分岐点だ。だけど不可能じゃなさそうなら、話を続けることができる」

最原「……とは言っても、キーボくんに魔術改造を残したところで何ができるかもわからないんだけどね」

最原「交渉。反撃。逃走……どれを選ぶかに関しては『外に出てから考える』しかない」

最原「ここが僕の進路の限界」

最原「以上が『巌窟王さんの進路』と並べる『最原終一の進路』だよ」

巌窟王「……」

巌窟王(……コイツ……!)

百田「すげぇ……すげぇよ終一! 今ここにある素材だけを並べ立てて、誰も死なない選択肢を創りだしやがった!」

春川「外に出た後で何ができるかがわからないってところがネックだけど」

百田「それでいいと思うぜ。俺好みの提案だ! 少なくとも巌窟王の進路よりは百倍支持できるぜ!」

巌窟王「隙だらけだぞ。俺の進路と一長一短だ」

百田「……わかってるよ。テメェの進路自体も結局『俺が選ぶのがイヤだ』ってだけで、一定の理はあるしな」

百田「でも目の前に二つの進路があって、どちらにも一定のメリットがあるのなら、選ぶ理由なんてたった一つだろ」

百田&王馬「好みだ!」

王馬「……と言う!」ニヤァ

百田「ハッ……!」

巌窟王「好み……好みと来たか? クハハ! クハハハハハハ……!」

巌窟王「最原! 貴様は……貴様はこの期に及んで……いや! 記憶が戻っているのなら更に度し難い!」

巌窟王「何故この学園で起こった出来事を『ゲーム』と認識している!」

最原「……」

巌窟王「現実だ! 真実だぞ……! この学園で起こった悲劇! 喜劇……」

巌窟王「今はもう消え去ってしまった百田たちの記憶! 百田たちの想い!」

巌窟王「アンジーたちが味わった苦痛! それらは間違っても嘘ではない!」

巌窟王「……虚構なんかであってたまるものか! それを貴様は『ゲーム』として処理するのだな!?」

最原「流石に『想い』には嘘は吐けない。処理もできないね」

最原「でもこれまでの議論で、わかったじゃないか」

最原「最序盤はともかく、この学園で本当に命がけだったのは二人だけだよ」

最原「身を挺して僕たちを守ってくれていた巌窟王さんと……すべての謎を抱え落ちして死のうとしていた首謀者である白銀さんだけだ!」

白銀「!」

最原「流石に巌窟王さんみたいに、僕たちの想いまでは守ってはくれなかった」

最原「でも僕たちの命を最大限に尊重してたことは確かだ! 最初からコロシアイはデスゲームとして成立していない!」

最原「実際には命を懸けていなかったゲームだよ? なら勝ったからって相手の命を奪うようなマネは許されない!」

巌窟王「……現実だと言っているだろう……この学園で起こったすべては!」

巌窟王「この学園で感じた恐怖! 流した涙! それに背を向けるような行為を俺は間違っても容認しない!」

巌窟王「できるものか……目の前で見て来たのだぞ! 俺は!」

巌窟王「……お前たちは!」

最原「違うね。仮に僕たちが感じた想いに嘘が無かったのだとしても」

最原「この学園で起こったことは、現実なんかじゃない。悪趣味な『ゲーム』だ」

最原「……平行線だね。僕はゲームに勝ちたい。巌窟王さんはゲームを壊したい」

最原「決着を付ける手段はたった一つしか存在しない」

巌窟王「……議論、だな。そして多数決だ。それが学級裁判のルールだ」

巌窟王「最原。貴様にはこれまで何回も煙に巻かれてきた」

巌窟王「……今回ばかりはそうはいかんぞ」ギンッ

最原「……」

最原「時間稼ぎはもういいよね。イシュタルさんには悪いことしちゃったな」

百田「あっ。すっかり忘れてた」

春川「……」ジトーッ

百田「……俺のせいじゃねーだろ!?」ガビーンッ

真宮寺「時間稼ぎとは言うけども、実際のところ時間稼ぎを『させてた』からネ。僕たちの方が」

入間「……あっ。思い出した」

赤松「あ。口開いた」

巌窟王「関係が無い。もうアイツをこの場に連れて来ることは確定だ」

巌窟王「ナーサリーとは違って本当に意味がないと思うがな……」

入間「あっはっはっはっは……あのー、それじゃあいっそ助けないって方向で話纏めてくんねーかなー……」ダラダラダラ

最原「ん? どうしたの入間さん。凄い汗だけど」

入間「いや本当、俺様は悪くねーぞ!? 結局のところあんな仕掛けにイシュタルを乗っけたヤツが一番悪いんだからよ!」アタフタ

夢野「んあー? ひとまず落ち着け。一体なにを思い出したんじゃ、お主」

入間「イシュタルが持ってた銃、どっかで見たことがあるっていうか、俺様が作ったはずなのにまったく覚えが無かったんだけど」

入間「理由がわかった。あれ俺様の発明の改造品だ! 安全装置付きの拳銃、名前は『ガチ縛りロック&サドキング』!」

赤松「うわ相変わらず酷い名前! 安全装置って?」

入間「自分に向けて撃とうとすると、それ以降一発たりとも銃弾が発射されなくなる」

最原「自殺防止機構付きの拳銃……? 名前はともかくまともに大発明だよね? それが?」

入間「改造品っつったろ。どんな改造されてたのかって部分が問題なんだ!」

入間「……ある発明品と融合させられてんだよ、アレ! グリップの部分だ! 別のモノがくっついてんだよ!」

巌窟王「別のモノ……」ジーッ

入間「一種の向精神薬が沁み込ませてある……湿布? みたいなもんだ! 掴んでると血流に混じって段々精神がハイになってくる!」

入間「でもあの薬はすぐ捨てた……はず! はずなんだ! すげぇイヤな副作用があったから!」

最原「……な、なんか察しがついた。聞くのが凄く怖いんだけど……!」

入間「聞け! 耳クソかっぽじってよーく聞けよ! アイツのこと助けたいんならな!」




入間「最終的にはめっちゃ死にたくなるんだよ! ハイになってた反動で!」

最原「ということは、あのおしおきのクライマックスって……」

赤松「ゾンビに追い詰められたイシュタルさんが自殺しようとトリガーを引いて」

春川「安全装置が働いて死ねず、しかもそのせいで銃が使い物にならない最悪の八方塞がりに陥って」

百田「ゾンビに無抵抗に食われて……終わり!?」

夢野「んあーーー!? んぎゃああああああ! まるっきりホラー映画ーーーッ!」ガビーンッ

巌窟王「いや! いや! 問題はない! それでも問題はないぞ! イシュタルの状態を見る限り、まだ薬の効き目はアッパー状態だ!」

ナーサリー「……それはちょっと違うんじゃないかしら。そもそもダウナー状態に陥ることがないんじゃない?」

ナーサリー「人体にはそう作用するってだけよね?」

最原「あ、そっか。それじゃあもしかして、最初から問題が……」

ナーサリー「ううん。あるわよ? それならそれで別種の大問題が」

ナーサリー「本当に助けても無意味かもしれないわ」

最原「え?」

入間「……中和剤、用意してねぇぞ。捨てたはずの薬だからな。『捨てたはずだと俺様が記憶している薬』なんだから!」

入間「もしかしたら最初から中和剤なんて存在してないかもしれねぇ!」

最原「中和剤がないと……どうなるの?」

入間「ダウナーになってくれた方がある意味健全かもしれねぇな」

入間「……もっと単純だ! 中毒状態になって内臓からジワジワ死んでく! しかも短時間で!」

最原「なん……」

百田「だとォーーーッ!?」ガビーンッ

入間「やべぇ……やべぇやべぇやべぇよアレ! どうしよう!」

夢野「いや! 気付けただけ幸運じゃ! さっきのウチみたいになんとかできるじゃろ! お主なら!」

入間「無茶言うな! 流石に今すぐ中和剤なんか作れねぇよ!」

赤松「そ……そんな……!」

巌窟王「……いや。大丈夫だ。やはり問題はなかったな」

入間「え?」





巌窟王「安心しろ入間。お前の不安に思っているようなことは決して起こらない」

最原「……ええっと、何かに気付いたの?」

巌窟王「どうということはないのだが、そうだな。赤松」スタスタ

赤松「え?」

巌窟王「……を……に……集め……」ゴニョゴニョ

赤松「……別にいいけど、それで本当になんとかなるの?」

巌窟王「それが最善策だ。アンジーに誓おう」

赤松「そこまで言うんなら従うよ。巌窟王さんがアンジーさんを貶めるようなマネするわけないしね」チョイチョイ

ネコアルク「呼びましたかにゃー」トタトタ

最原「……?」

最原(妙だ。なにか……騙されてる気がする。『最善である』という部分以外は絶対に嘘だらけだ)

最原「巌窟王さ……」

最原(……やめよう。だからって何ができるわけじゃない。僕にできるのは)

巌窟王「最原。時間だ」

最原「白銀さんの正体……それは――!」

最原(ただ答えを並べ立てるだけ!)






モノクマ「すべてではありません……が! 充分です!」ピンポンピンポンピンポーーーンッ

おしおき装置内

イシュタル「なあああああああーーーッ!?」バンッバンッバンッ

ゾンビ1「ひでぶっ」ブシャアッ

ゾンビ2「たわらば!」ブシャアッ

ゾンビイカ「マンメンミ!」

イシュタル「な、なんか……なんかまた急にクリーチャーの数が大増加したんだけどーーー!」

イシュタル「だ、ダメ! これはちょっとキツい! さっきまでとはくらべものにならない!」

イシュタル「なんて最悪な状況! 私……私……!」ガタガタ




ドバババババババッ



イシュタル「たーのしー!」バンバンバンッ

巌窟王「……」

巌窟王(助けに来たのはいいが……思ったよりも遥かにトリガーハッピーが進行しているな)

巌窟王(もう本当に見捨ててしまおうか)

イシュタル「アーハハハハハハハ! すっごーい! 脳味噌をだらしなく垂れ流すのが得意なフレンズなのねーーー!」ゲラゲラゲラ

アンジー『どうしたのー? 問題発生?』

巌窟王『いや。大丈夫だ。赤松に準備を急がせろ。思ったよりもクリーチャーが多いから』ボオウッ

イシュタル「あら。今度の新手は空から?」

イシュタル「……って、あ!」

巌窟王「時間がかかりそうだ」

裁判場

赤松「ネコアルクは全員配置についた?」

ネコアルク「うーん。このペンデュラムの振れ幅だとまだっぽいですにゃー」ブンブン

赤松「ペンデュラムの使い方が違う! 振り回しちゃダメ!」

ネコアルク「知ってる。実は使えないんですにゃ、じゃれちゃうから」ポイッ

王馬「白目にぎゃあああああああああ!」ブスウッ

最原「あのさ。巌窟王さんになんて言われたの?」

赤松「目立つ場所にネコアルクを集めろって。わかりやすければどこでもいいから校舎の屋上がベストとかなんだとか……」

最原「なんでネコアルクを……」

入間「さあ。イシュタルの治療でもさせる気なんじゃねーか?」

最原「……あっ」

百田「どうした、終一」

最原「……イシュタルって確か女神の名前だよね」ダラダラダラ

夢野「……あっ」

ネコアルク「あ! 揃いましたにゃー」

アンジー「おっけおけー!」

最原「あ、うわ! ちょっと! 何もおっけーじゃな――!」




校庭

ドカァァァァァンッ

イシュタル「うひゃあああああああああっ! ちょ、ちょっと酔う! あまりにも激しい動きに酔っちゃうー!」ウプッ

巌窟王「薬の副作用だ。俺のせいではない。そして安心しろ」

巌窟王「すぐ楽にしてやる!」ニヤァ

最原「くそっ! もう脱出済みだ! 早すぎる!」

百田「どうしたんだよ終一」

最原「覚えてない? さっきネコアルクが言ったこと!」



ネコアルク『ム! こっちからも匂いが……』クンクン

獄原『あ。これかな。前に巌窟王さんから貰ったモンテ・クリストの秘法なんだけど……』

ネコアルク『ああ。これならいいっす。神性ないんで。材料に組み込む規格じゃないんで』



春川「……アイツらがセミラミスの計画のために食ってたのって、まさか」

最原「まず間違いなく神性、つまり神様由来の何かだよ! というか最初から巌窟王さんもあまり隠す気なかったなぁ!」

最原「何回も言ってたからね! 助けたところで無意味だって!」

王馬「あ。そっかー。じゃあ巌窟王ちゃんが『心配するようなことは起こらない』って言ったのも嘘じゃないよね。どっち道死ぬんだから!」

百田「あ、あの野郎暴走してやがる! それが本当ならすぐに止めねぇと! 赤松!」

赤松「わ、わかってる! ネコアルク、今すぐ中だ――」


ヒューッ


イシュタル「いやあああああああああ!」ドシーンッ

赤松「ンボアアアアアアアアアアアアアアア!?」メリイイッ

最原(天井の巌窟王さんが作った穴から落ちてきたーーーッ!?)ガビーンッ

ネコアルクs「にゃーにゃーにゃー!」ワラワラワラ

イシュタル「いやー! いやー! 来ないでー!」タッ

コケッ

ナーサリー「……もう諦めましょう、女神様。騙されたようで癪だけど。確かに伯爵の言う通りだわ」

イシュタル「ナーサリー! い、今あんた、私の足を引っかけ……!」

ナーサリー「すべてが終わったらカルデアで会いましょう」





ガブウッ

ネコアルク「あっ、おいし」ガブガブ

イシュタル「あっ」

最原(足を噛まれた)

ガブウッ ガブガブガブガブガブッ

イシュタル「がっ……あぎっ……ふぐうあああああああああああああっ!?」

最原(……直では見えない。モノクマほど露悪的ではないらしい。わざわざネコアルクたちは目隠しのための衝立も用意していた)

最原(音はとにかく最悪の一言だけど)


ガブガブッ…… ボリボリボリボリボリボリゴクゴクゴクピチャピチャ


イシュタル「ほ、骨っ……私の骨っ……食べてるぅ……あ、ああああ……!」

入間「うぶっ」

ナーサリー「ああ。気分が悪いなら耳を塞いでおくことをお勧めするわ。別に聞かなくてもあなたの物語に関係ないもの」

最原(ふと思い出していた。ミステリーものの海外ドラマで、ちょくちょく出て来る『ネコに食い荒らされた死体』のことを)

最原(実際に、あれは現実でも起こりえることのようで、もともとネコ科は腐肉でも美味しく食べられるらしい)

最原(……ネコアルクは食べやすいところから食べているだけだ。別に苦しめようとか楽にしようとか一切考慮していない)

最原(それでもイシュタルさんの叫び声が消えて、食事の音だけになるのはそう時間がかかることではなかった)

最原(気分が悪いなら耳を塞げ、か。赤松さんが気絶してくれてて助かった。こんなの一生のトラウマになる)

赤松「」チーン

春川「……東条。そろそろ復活して。赤松のこと助けてよ」

東条「……指名されたら、頷くしかないわね」



ボリイッ


最原(ひときわ大きい音が響き、それきり食事の音は消えた)

巌窟王「……よし」

百田「何一つとしてよくねぇよふざけんな」

最原「巌窟王さん。これしかなかったの?」

巌窟王「さて、な。もしかしたら貴様に相談すれば別の道もあったかもしれないが」

巌窟王「意味がないだろう? これでまったく問題が無いのだから」

夢野「んなわけあるかァッ! どう考えてもバッドエンドじゃろうがコレ! どうするんじゃこの空気!」

夢野「悲鳴から肉が裂ける音や骨が蝕まれる音やら何から何までトラウマモノなんじゃけど!」

巌窟王「最初から状況は詰んでいた。その中でもこれはかなりマシな方のノーマルエンドだ」

巌窟王「助け出したところでネコアルクが群がることは避けられない。赤松が止めればおそらく止まっただろうが……」

巌窟王「仮にそうしたところで入間の薬のせいで内臓からジワジワ死んでいくこともやはり避けられない」

東条「巌窟王さんには回復宝具があるでしょう?」

巌窟王「この後大仕事だ。そんなことに裂けるリソースはない」

百田「そ、そんなこと……だとォ……!?」

最原「百田くん落ち着いて。確かに心底ムカつくけど正論だ。ナーサリーさんを助けるだけでも相当無理してるんだよ」

巌窟王「いいか。この場合の真のバッドエンドとは、あのままモノクマにイシュタルが殺されていたことだ」

巌窟王「イシュタルほどの霊核、ネコアルクの管理外で消えたらセミラミスの計画がどうなっていたかわかったものではない」

巌窟王「……九割方大丈夫だったとは思うが」ボソッ

百田「聞こえてんだよこの野郎!」プンスカ

巌窟王「反面、ネコアルクが管理下に置けば都合のいいことだらけだ」

巌窟王「おそらくすべてが終わった後、イシュタルの霊基はカルデアへと無事に帰るだろう」

巌窟王「……BBのような念には念をの精神で来たわけではないから、俺たちには相当ピーキーな立ち回りが要求されるがな」

最原「巌窟王さんの進路にしろ、僕たちの進路にしろ、結局勝たなきゃすべて水の泡。全部犠牲になってパァだからね」

巌窟王「そういうことだ」

最原「……また余計なものを背負わされちゃったな……」

モノクマ「はい! それじゃあ一区切りついたところで、インターバルです! 次の設問は五分後としましょうか!」

モノクマ「赤松さん起きてこないし」

赤松「う、うーん……ネコアルク……いい子いい子……よく止まってくれたね……むにゃむにゃ……」スヤァ

春川「むごいほど幸せな夢見てる」

東条「起こすのが憚られるわね」

百田「……はあー……」ボリボリ

百田「赤松が起きる前に確認しておきたいことが二つあるな。一つはモノクマに」

モノクマ「はいはいなんでしょう!」

百田「次の設問、目の前にあるヤツだよな」

モノクマ「その通りです! 百田くんのおしおきの流用、New宇宙旅行であります!」

百田「これ、万が一俺たちの目の前で点火されたら……」

モノクマ「全員死ぬね。妬け死んじゃうね。ちなみに、設問を答える前に裁判場を出ることは例え相手が巌窟王さんでも許さないから、そのつもりで!」

モノクマ「次の設問は重要だよ。ウェルダンにならないようにみんな必死で頑張ってねー!」

王馬「にししっ! 悪趣味だね! だけどわかりやすくていいかも」

百田「おしおきが悪趣味だなんてもう言うまでもねえだろ。わかりやすくていいっていうのはその通りだけどよ」

百田「次。おい、てめぇらそろそろ口開いたらどうだ?」

星「……」

獄原「……」

百田「……この局面じゃなきゃ聞けないことがある」

百田「どう思ったよ。終一の進路」

星「悪くはないと思ったさ。これが正直な感想だ」

星「外に出た後の俺たちの身の安全が五分五分だという点がネックだけどな」

獄原「……誰も死なないのはいいことだよね。うん。ゴン太はどちらかと言うと、最原くんの案の方が好きかな」

獄原「凄いな、最原くんは。ゴン太はさ、ずっとみんなを何かから守らないとって……そればかり考えてた」

獄原「でもゴン太が敵だと思ってた何かは、どこまで目を凝らしても『何か』以上のそれにはならなかった」

獄原「……影や雲や幻を相手に戦ってる気分だったよ。どんどん疲れて……それで一歩も動けなくなった」

獄原「最原くんはさ、なんのために戦えたの?」

最原「!」

獄原「……どうして最後まで足を止めないことができたの?」

最原「怒り?」キョトン

獄原「怒ってたの!?」ガビーンッ

百田「ブチ切れまくってたよなぁ?」

最原「巌窟王さんの見え見えの挑発が物凄く頭に来ちゃって……」

巌窟王「……」ニガニガ

アンジー「結果だけ見ればやめておけばよかったよねー。終一の提案が無ければみんなお前の言うこと聞く選択肢しかなかったしさー」

巌窟王「……反省は必要か?」ツーンッ

アンジー「いらなーい」

ナーサリー「うふふ。可愛いわね。必死に顔を逸らしちゃって!」

アンジー&ナーサリー「ねー!」

巌窟王「……」ニガニガニガニガニガ

星「過去最高記録だな。巌窟王の渋面度が」

真宮寺「アンジーさんと他のサーヴァントが仲良くしてるのが気に入らないんでしョ」

獄原「……そっか。最原くんは巌窟王さんと戦ってたんだね」

獄原「ゴン太みたいな独り相撲とは大違いだよ」

最原「……そう、なのかな。言葉だけ聞くと仲間割れっぽいよね」

茶柱「学級裁判は議論の場ですよ。どこまで行っても」

茶柱「無秩序に殴り合ったり、人格を否定しあったりの醜い争いとは次元が違います」

茶柱「……武術の試合と同じですよ! あなたが相手にしてたのは巌窟王さんという高い壁であり、同時にそれに挑む自分自身です」

夢野「ネオ合気道って試合できるほどメジャーな武術じゃったかのう」

赤松「……ハッ!」バッ

赤松「……」キョロキョロ

赤松「……わ……」

赤松「私のせいじゃ……ないよぅ……」ガタガタ

茶柱「あーーーっ! 誰よりも責任感が強くて若干見てて危なっかしかった赤松さんがついに折れちゃいましたよ!」ガビーンッ

最原「わ、わかってるよ! 大丈夫だよ! 赤松さんが気絶したのはイシュタルさんのせいだし、黙ってた巌窟王さんも悪いし!」アタフタ

ネコアルク「げえーーーーっふ」マンゾクー

赤松「うあああああああああああネコアルクの口臭に未知の匂いが混じってるよーーー!」ビエエエエエエ!

春川「本当はこいつら赤松のこと嫌いなんじゃない……?」

入間「セミラミスの置き土産だしな……」

星「あいつは……酷いヤツだった……少なくとも赤松と入間に対しては酷かった……」

夢野「星がそこまで言うなんて、どういうヤツじゃったんじゃ。もうまったく想像つかんぞ」

最原「すぐわかるよ。あまりわかってほしくないけど……」

百田「設問は、残り一つだけだ!」

モノクマ「五分経過……! 次の設問に移ります!」

最原(最後の設問……! 一体どんな問題が――!)

モノクマ「上部モニターをご覧くださーい!」

デーデンッ

最原「……」

巌窟王「……」

全員「……」





全員「はあ?????????」

最原(モニターに映った問題は……誰の不安や恐怖にも応えなかった)

最原(あまりにも簡単すぎる)

最原(……いや、それ以前に……)

百田「か……」




モニター『イタリアの首都はどこ?』




百田「関係ねぇ……関係なくねぇ?」

春川「いやどう考えても関係ないよ。そこで自信失くさなくていいから」

赤松「え。なにこれ。こんなものが最後の問題なの?」

モノクマ「じゃ、答えてちゃってください! この超難問に!」

巌窟王「……」

ナーサリー「……こ、これ……答えない方がいい気がするのだわ。本当に。本当にやめておいた方がいいと思うのだわ」

ナーサリー「予感しかないのだけど、この予感おそらく的中してしまうし……!」

最原「え。どうしたの。なんで二人とも眉を八の字にしてるの?」

赤松「どんなトンチキな設問でも、セミラミスさんが待ってるんだよ! 答えないわけにはいかない!」

赤松「ローマだよ!」

モノクマ「……え? なんだって?」

赤松「無駄に引っ張らないでよ! だからローマだってば!」

モノクマ「聞こえないなー。なんて?」

赤松「ローマ! ローマ! ローマ!」

巌窟王「赤松! やめろ! モノクマの煽り方で核心に至った! これは罠だ!」

モノクマ「じゃ、最後に思い切り正解を叫んじゃってくださーい!」

赤松「ああもう! こんなやり取りに何の意味があるの! 思いっきり言ってあげるから耳をよーく澄ませて今度こそ聞いてよ!」

赤松「すうううう……!」

赤松「ロー」

ロムルス「マアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッ!!!!!!!!」バリバリドガラッシャアアアアアアアンッ

赤松「」

巌窟王「」

ナーサリー「」

最原「」

夢野「……」

夢野「え? あれがセミラミスなのか? え?」オロオロ

百田「」

春川「」

茶柱「」

東条「」

獄原「」

星「」

王馬「」

入間「」

天海「」

真宮寺「」

アンジー「」

白銀「」

赤松「……ハッ……だ、だ、だ……」ガタガタ






赤松「誰ぇええええええええええええええええええっっっ!?」ガビビーーーンッ!

最原「……えっ。あ、あれ。この人、今どこから出て来た?」

百田「ロケットの中からだな」

最原「どこから出てきたって!?」

百田「現実から目ェ逸らしてんじゃねえよ! どっからどう見ても『ロケットの中から扉ぶち明けて出て来た』ようにしか見えなかったろ!」

最原「じゃ、じゃあセミラミスさんは……!? いない! というか、あの巨体がどうやって入ってたのか疑問になるくらい狭い!」

入間「いやいやいやいやいやいやいや! もっと他に議論することがあるだろ!?」

東条「……どちら様……?」

ロムルス「誰何するか? このローマに。既に熱烈に呼んだな? このローマを」

赤松「はい? ローマ……え? あれ。セミラミスさんは……!?」ガタガタ

ロムルス「透き通るような良い声である! ローマ!」シュバッ

赤松「なああああああああああああああああああ!?」ガビーンッ

最原(赤松さんの方に飛んだーーーッ!?)

ロムルス「ローマ」ドタドタドタドターッ

赤松「きゃー! きゃー!?」ドタドタドターッ

真宮寺「……赤松さんのことを追い始めたけど?」

巌窟王「放っておけ。感極まって抱擁しようとしているだけだ。特に愛情表現以外の意図はない」

ナーサリー「狭い場所にずっと閉じ込められていたのだものね。流石の彼もノイローゼ気味なのかしら」

最原「巌窟王さん! あの人なに? サーヴァントなの!?」

巌窟王「ローマ建国神話の神祖ロムルスだ」

天海「あれがぁ!? いやそう言われてみると微妙にそう見えないこともないっすけど、それにしたってローマアピール露骨すぎっすよね!?」

ロムルス「ローマ!」ギュウウウウウ

赤松「あ……あ……あ……」グッタリ

夢野「おおーい。赤松が追い付かれて目から光が消えとるぞー」

赤松「あうあう……」ホワンホワン



ネロ『余の愛はワガママだ。何もかも与える代わりに何もかも奪わねば気が済まぬ。愛すべき者には全霊をもって応える』

ネロ『だがそれはただの炎だ。人々が抱く愛とはもっと柔らかいものだった』

ネロ『余はそこを分かっていなかった……』



赤松「なんかよくわからないけど第五代皇帝ネロ・クラウディウスの肖像が脳内に流れ込んでくるよぉぉぉぉぉ……なんでぇぇぇぇぇ……」エグエグ

巌窟王「モノクマ。言ったはずだな。設問は三問だけだと」

モノクマ「ん? んー……ちょっとそれは正確じゃないなぁ。ボクはキチンと言ったと思うけど」

巌窟王「なに……?」

巌窟王「……」

巌窟王「……!」

最原「まさかお前……ここに来て、そんな屁理屈を持ちだす気か……!?」




モノクマ『ボクが用意した設問は全部で三問! 全部答え終わったころには、この学園の真実はすっかり解き明かされていることでしょう!』




モノクマ「そう。ボクが用意した設問に関してはこれで終わり。でもそれだけで終わりだとは言ってないなぁ」

モノクマ「この学園の真実に関してはもうすっかり解き明かされていることは事実だよ? もう本当にネタ切れなの」

モノクマ「でも設問はあと二問残ってる。その内の最初の一問目の方でセミラミスさんの解放権をあげるよ」ニヤァ

ナーサリー「エクストラクエストね。ぬか喜びさせられたわ」

百田「ちょっと待て。モノクマが用意したわけじゃないのなら、その二問は誰が用意した設問なんだよ?」

最原「……」

モノクマ「そりゃあ決まってるよ! 当然決まってましてよ?」

巌窟王「視聴者……というヤツか。それしか考えられない」

赤松「!」

茶柱「バカな……! どこまで転子たちのことをいじめれば気が済むんですか!」

茶柱「いいえ! それだけじゃありませんよ! 今回の裁判に関しては巌窟王さんの仲間にまで手を出してる!」

茶柱「節操がないなんてものじゃない! こんなの無差別犯罪となにも変わらないでしょう!」

モノクマ「オマエラにとっては喜ばしいことかもよ?」

茶柱「はい?」

モノクマ「この学園はフィクション……そこは間違いのない事実のはずだった」

モノクマ「でも巌窟王さんの介入によって、この学園全体のリアリティがシャレにならないほどに上がった」

モノクマ「今ではもう『全人類に向けて爆弾を投げつけて出る』か『フィクションのまま終わるか』を議論してる」

モノクマ「オマエラだけじゃここまでは来れなかっただろうなぁ。仮に真実に辿り着いたとしても、フィクションのまま終わるしかなかったはずだよ?」

巌窟王「……そうだな。アンジーの召喚が、俺の存在が、この学園での出来事をゲームではなくしてしまった」

巌窟王「カルデアのサーヴァントとしては失格かもしれんな。まさか俺自身が才囚学園を特異点化してしまうとは」

ナーサリー(エリザベートとか割とやってた気がするんだけども)




カルデア

エリザベート「くちゅんっ」

ロムルス「ところで、そこな少年からローマの気配がする」ジーッ

最原(うわっ、僕のこと見てるよ!)ビクウッ

ナーサリー「具体的にどんな気配?」

ロムルス「ホームズに似た……そこで一つ訊ねたいのだが」

ロムルス「先ほどローマの入っていた牢獄に外側から攻撃を仕掛けたのは誰だ?」

入間「あー? なんのこと……」

入間「あっ」

最原「……」

最原(全員の視線がゆっくりと百田くんの方へと集まって行ってしまった)

百田「……」

百田「……!」ダラダラダラ

ロムルス「わからないというのであれば仕方がないが、その場合、この場で宝具を開陳しすべてを平等にローマするしかなくなるであろう」

百田以外全員「アイツ(あの人)がやりました!」ビシイッ

百田「おばっ……お前らぁーーーっ!?」ガビーンッ

ロムルス「ローマ!」ビシイッ

百田「でこぴんっ」ガフッ



カエサル『うむ。あのときの私は実に乗りに乗っていたな。だから愛する女王に厚顔にも言ってのけたのだ』

カエサル『私を阻む者はもういない。ローマのすべてを掌握したのだ。パルティア王国遠征が成功した暁には、必ずお前を正式に妻として迎え』

カエサル『カエサリオンを我が息子として広く世界へ告げてみせよう、と』

カエサル『……さて。それが成されなかったのは、適当な歴史書を見れば明らかだろう』



百田「ぐあああああああ! 何故か古代ローマの英雄ガイウス・ユリウス・カエサルの肖像が脳内に流れ込んでくるーーー!」ジタバタ

最原「さっきから何なの、この特殊能力! 怖っ!」

ナーサリー「……と、いうわけで、ロムルスよ。心強い味方になってくれるかどうかは微妙だけど」

最原「微妙なの!?」

ナーサリー「普段はとにかく強いのよ。とにかく。少なくとも私よりは間違いなく戦闘向けサーヴァントだし」

ナーサリー「でも……今は槍持ってないわよね?」

ロムルス「?」ガサゴソ

ロムルス「……!?」チクワーーーンッ

百田「ちくわしか持ってねぇ!」ガビーンッ

ロムルス「……!」スッ

赤松「いらないよ! おじさんに鷲掴みにされたちくわなんて流石に食べたくないよ!」

ロムルス「!?」ガビーンッ

巌窟王「明らかに権能のほとんどを没収されている。イシュタルのときと同じだな」

巌窟王(赤松にあんな口をきかれたら俺でも立ち直れないかもしれんな……)

最原「妙にサーヴァントにモテるよね赤松さん」

巌窟王「この中で本来のマスターと一番似ているのが赤松だからかもしれんな」

モノクマ「はいはーい! それでは次の設問行きますよー! 正解で、セミラミスさんの解放権をあげましょう!」

東条「ついに、ね」

星「今となってはアイツがこの学園の鍵だ。マザーモノクマの権利を譲渡されているわけだからな」

星「アイツの奪還だけは絶対に成し遂げなければならない。じゃなけりゃすべてがパァだぜ」

赤松「……今度こそ、絶対に助けないと!」

モノクマ「それでは、次の設問はこれでーーーす!」

モノクマ「……と、その前に、今回は順番を前後します」

赤松「え。前後?」

モノクマ「セミラミスさん、いらっしゃーーーい!」

赤松「!」

最原「え。な……まさか、呼ぶの? ここに!?」

最原(そのときだった。妙な音が裁判場に響いたのは)


ペリ……


最原「……ん?」

赤松「最原くん! モノクマの後ろだよ!」

巌窟王「……バカな! 今まで裁判場には二か所穴を開けた! ならば流石に気づくはずだ!」

巌窟王「あの壁は紙なんかではなかった!」

モノクマ「ボクはこの新世界の紙であり、学園長だよ? あ、誤字った。神だよ」


ペリペリペリペリっ……

パサッ


最原(シールのように壁が剥がれ、現れたのは暗い空間……と)

セミラミス「む……?」シャクシャクシャクシャク

最原「座布団の上に正座してウエハース的なものを食べてるセミラミスさんだーーーッ!?」ガビーンッ

セミラミス「……」シャクシャクシャクシャクシャクシャク

セミラミス「……」ゴクン

セミラミス「……そこで何をしている? 揃いも揃って」キョトン

赤松「こっちの台詞なんだけどッ!?」ガビーンッ

セミラミス「おお、カエデか。いいところに来たな。モノクマ! 予備のコントローラーを持て!」

セミラミス「我の力をとくと見せてやろうではないか……!」ギンッ

赤松「は?」

白銀「……あっ」

最原「あ?」

白銀「ぎゃあああああああああああああああああっ!? そ、それ! ウエハースのカスがぼろぼろこぼれてるそれ! それーーーっ!」

セミラミス「?」





セミラミス「我のゲーム機がどうかしたか?」

白銀「私のゲーム機だよっ!」

入間「相変わらず……引くほど図々しいな……」ズーン

赤松「で、でもよかった。なんとか無事みたいだね」

セミラミス「そうだな。今日一日くらいは生きることができるぞ。流石に腹を貫かれたときに霊核が砕けて、そう長くは生きられぬが」

セミラミス「見よ。モノクマがやったのだが、ガムテープで我の腹が無残にもグルグル巻きだ。外したら死ぬからどうしようもない」グチャァァァ

赤松「」

百田「全っ然! 無事じゃねぇーーー!」ガーーーンッ

天海「巌窟王さん!」

巌窟王「……」

ナーサリー「風聞だけど、カルナが似たようなことをやっていたのを知っているわ」

ナーサリー「彼女はもう『死んでいる』。少なくともサーヴァントとしては」

ナーサリー「ただ全力で死に対して抗ってるだけよ。精神力だけでね」

巌窟王「……俺の宝具の範囲が及ぶのは瀕死までだ。死亡している者はどうしようもない」

巌窟王「そうか。キーボがセミラミスを連れ去ったのは殺す気がなかったからではなく」

最原(……単純に殺しきれなかっただけ……!)

赤松「……ぐっ……! ぜ、ぜみらみずざ……!」ブワアッ

セミラミス「!?」ガビーンッ

赤松「ぶ、ぶじとかっ……ぐずっ……ぶじなんがじゃ、ないじゃんっ……うええええええ……!」グスグス

セミラミス「……!?」オロオロ

セミラミス「何故泣いておる? スギ花粉か? いや、この学園にスギはなかったな……心因性のなにかか?」アタフタ

春川「どうして……そんな状態になって生きてるのって、どんな気分? そこまでしてなんで生きてるの!?」ガタガタ

春川「素直に死んじゃったほうが遥かにマシじゃん! なんでッ!」

セミラミス「……確かに今すぐ舌を噛み千切って死にたいくらいの最悪の気分だが……む。いや今のは忘れよ。普通にしてるだけで死ぬのだったな」

セミラミス「まあ、安心せよ。我もこういうことは二度目だ。霊核が砕けた状態で夜明けまで生き延びたこともあるぞ?」

セミラミス「やらなければならないことが一つだけある。それをやりきるまでは死ぬに死に切れん」

巌窟王「……セミラミス……」

セミラミス「モノクマとキーボはもうこれ以上なにもしてこないようだし、重く考える必要は特にないぞ?」シャクシャクシャクシャク

セミラミス「ウエハースにはそろそろ飽きたがな」シャクシャクシャクシャクシャク

最原「……!」

春川「こ、こいつ……!」

最原(う、嘘だ……この人……こんなことがありえるのか!? BBさんですら、あの犠牲は最低限『本体は無事』だっていう保険ありきだったんだぞ?)

最原(この人の場合は違う。自分自身が今ここにしかいないことを知っている! そういう振る舞いを今まで徹底していた! なのに!)

百田「は、はは……なんだこいつ。俺たちは自分たちが死ぬかもしれないって躍起になってるってのに……」

百田「もう絶対確実に死ぬってときに、こいつってヤツは……なんで平然と菓子食ってんだよ……」

セミラミス「……ふむ? 貴様ら勘違いしておるな? 揃いも揃って、修羅場を潜り抜けてきたくせに」

セミラミス「別に命は重くもなんともないぞ? 質量に直して考えてみよ。どう計算してもゼログラムだ」

セミラミス「人が命を惜しむのは、命そのものが惜しいからではない。本当に恐れているのは……」

モノクマ「はい! そこまででーす! さっさと先に進めたいのでおしおき装置を出しちゃいましょうー!」

夢野「んあ!? 今からいいセリフ言いそうだったのにか!?」

セミラミス「しかたがないな。カエデ、電話番号を教えろ。ここから先の台詞はLINEで言ってやろう」スッ

赤松「ないよぉっ……スマフォないよぉっ!」ダバァァァァァ!

セミラミス「なん……だとっ……!?!?」ガビビーンッ



ズドドドドンッ ズゴゴゴゴゴゴンッ……!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!


巌窟王「……!?」

ロムルス「奥からなにかが出てくる。ナーサリーライム、ローマの後ろに隠れるがいい」

ナーサリー(……とてもイヤな気配……!)スッ

最原「あれは!」

茶柱「!?」





ショベル「」ポンポンポン ポンポンポン♪

最原「しょっ……ショベル!」ガーンッ

茶柱「ショベル!?」ガビーンッ

最原「ま、まずい! これはまずい! ダンガンロンパの記憶は中途半端にしか戻ってないけど、それでもショベルは特にまずい!」

白銀「え? ショベルとダンガンロンパってなにか関係……」

白銀「……あった!」アワワワワワワワワ

東条「説明してくれるかしら? 何が起ころうとしているの?」

最原「一番最初のコロシアイで、似たようなおしおきがあったんだ! そのおしおきは例外的で、クロが処刑されたものじゃなかった」

最原「とあるものを破壊するためのおしおきだったんだよ!」

白銀「おしおきの名前はショベルの達人。壊されたのは、そう……」

白銀「……アルターエゴだった!」

巌窟王「なんだと……!?」

ロムルス「ふっ。ならば問題はないな。安心するがいい、教え子たちよ」

ロムルス「セミラミスはAIの類ではない。あそこに座っているのがBBならともかく、セミラミスであるならば攻撃の効きは薄いだろう」

赤松「今はAIなんだよッ!」ガーンッ

ロムルス「よしんば仮にAIだったとして、クラスがアルターエゴでない限りは、やはり壊滅的な打撃は絶対に受けないと断言しよう」

赤松「アルターエゴなんだよぉっ!」ガガーーンッ

ロムルス「……?」キョトン

セミラミス「色々と事情があってだな……」フッ

ロムルス「そうか。それはローマか?」

セミラミス「多分そう。部分的にそうだな」

白銀「なんでアキネイターみたいな問答してるの?」

星「それ以前に質問の内容そのものが意味不明だな」

モノクマ「さて! 準備はOK! これがボクがセミラミスさん処刑のためだけに用意したおしおき!」

モノクマ「ニューショベルの達人、またの名を『ショベル72』!」

獄原「ななじゅうに?」

モノクマ「ノリで付けただけで特に意味はないよ」ショウサンガアルッ

モノクマ「今回に限り、おしおき装置は一定時間が経つまで動きません! 期間は大雑把にボクが飽きるまで!」

モノクマ「または、セミラミスさんの目の前にあるスイッチを、セミラミスさん自身が押すまでです!」

セミラミス「これか?」サッ サッ

赤松「セミラミスさぁん! 無駄に押すフリをしないでぇ!」

巌窟王「赤松。言いにくいことだが、ヤツがあんな挙動を取っているのはお前の反応を面白がってるからだぞ」

モノクマ「では! これが次の設問です! みんな頑張って議論してねー!」

デデンッ

モニター『昨夜、巌窟王と共謀して白銀を殺そうとした共犯者は誰? 証拠も併せてお答えください』

赤松「ッ!」

百田「……これって、昼の内にセミラミスが誘拐された直後で終一が言ってたヤツか?」

最原「多分そうだろうね。それ以外に該当しそうなものがない」

最原「……」

最原(とにかく気が進まない……本当に答えないとダメなのか!?)

セミラミス「くっ……ククククク! はははっ! モノクマめ! 妙に大仰なマネをすると思ったら、この程度か! 肩透かしにも程がある!」

セミラミス「今の我はマザーモノクマ。監視権限も当然持っておる。その気になれば過去の映像も思うがままに閲覧可能だ」

アンジー「おー! 凄いねー! じゃあ瞬殺だねー!」

セミラミス「その通り! この程度の問題、我自身が直々に答えて――」チラッ

セミラミス「あっ」

アンジー「あっ?」

セミラミス「……」ペリペリ

セミラミス「……」レロレロ

アンジー「……えっ。黙っちゃった……?」

百田「飴舐め始めたぞオイ」

最原(……い、今一瞬、赤松さんの方を見たな……!)チラッ

赤松「……」カタカタ

最原「……」

最原(庇っ……てる? 赤松さんのことを?)

夢野「んあ? どうしたんじゃ? 犯人のことを知っておるならさっさと答えんか。時間がもう残っておらんぞ?」

セミラミス「……」レロレロ

茶柱「……あの、これ……もしかして喋る気が失せているのでは?」

入間「は!? んなバカな! セミラミスだぞ! やりたいことのためなら命は惜しくない、ってのは行動原理として理解できなくはねぇが」

入間「流石に自分から命を捨てるようなマネをするヤツじゃない! コイツのスタンスはそれくらいブレねぇんだ!」

真宮寺「……一緒に過ごした時間は相当短かったけど、それでも本当わかりやすい人だったんだよネ……」

最原(それでも命をかけて守っているものはあった。やっぱりそうだ、彼女! セミラミスさん!)

最原(赤松さんを庇うために口を閉ざしている!)

王馬「……」

王馬「へえ。ちょっと楽しくなってきたかもね。いいよ、全力で俺も議論に参加してみようか」

王馬「証拠付きでってことは自白だけじゃどう考えても足りないしね。ここで必要なのは明確に誰かを追い詰める『悪意』だよ」ニヤァ

王馬「今更犯人が自白するかどうかは微妙だしねぇ」

巌窟王「犯人が仮に俺の進路を取りたがっている場合は、セミラミスが死ねば都合のいいことだらけだ。もうその方向性しかなくなるわけだからな」

巌窟王「なにより、セミラミスの口を永遠に封じることさえできれば、犯人は自分の手が汚れているということを永久に隠すことができる」

アンジー「後からつむぎを殺そうとした犯人を捜そうって展開になるとは考えにくいしねー。そんなことしても無駄なだけだし」

アンジー「今のこの状況はあくまでモノクマが設問を提示したからこそ成立してるんだからさー。ね、終一」

最原「……」

春川「待って。セミラミスを今ここで拷問して聞き出せばいいんじゃないの?」

春川「この場には三人サーヴァントがいるんだよ? アイツの嫌いなものとかなにかないの?」

セミラミス「……」サワッサワッ

星「おい。アイツ、スイッチを撫でまわしてるぞ」

巌窟王「『そんなマネをされるくらいならさっさと死ぬ』と言っているようだな」

春川「こ、この女っ……!」

夢野「なんか仲悪いのう、お主とあやつ。何かあったのか?」

春川「なんっでもっない!」ギンッ

巌窟王「赤のアサシン……だな。両方とも。いや、くだらないことを言った。忘れろ」

セミラミス「いや? 中々いい着眼点だ。そら、超高校級の暗殺者よ。我のことを先輩と呼ぶがいい」ニヤニヤ

セミラミス「後輩というものにちょうど興味があったのだ。なんなら盾も用意するぞ?」ワクワク

春川「……!」ビキビキ

百田「赤松! セミラミスを止めろ! ハルマキの口数が少なくなってるのが超マズイ!」アワアワ

赤松「私に言われても!」イヤイヤイヤイヤ

茶柱「いやー。流石にネコアルクの親玉ですね。腹立たしさのベクトルが微妙にそっくりです」

最原「……」

最原「はやく決着を付けよう。もう真相はわかってるから。証拠もこの場で用意できる」

赤松「!」

最原(くそ。セミラミスさんめ……ひょっとして巡り巡って僕のこともおちょくってるんじゃないか? 本当に最悪の気分だ)

セミラミス「……」ニヤニヤ

最原(おちょくってたよ!)ガビーンッ

最原「犯行の手口から洗ってみようか。共犯者は僕の予測では二人だよ」

最原「一人だと手が足りなくなっちゃうから」

百田「二人? そんなにいんのか?」

最原「うん。赤松さんと真宮寺くんだよ」

赤松「!」

真宮寺「ハ……?」

星「……いつもより数倍早いな? 結論を先に言うのは初じゃないか?」

最原「なんというか……動機がわかりやすかったから……」ジトーッ

赤松(気付かれてる……! パソコンの中に何が入ってるのか白銀さんから聞いたんだ!)

真宮寺(この場で白銀さんがそのことを暴露したところで、パソコンがここにある以上は誰もそれを信じないだろうけどネ)

真宮寺(この場では証拠こそがすべてだからさ)

獄原「ど、どうしてその二人なの? 他にも動機がありそうな人は……あまり言いたくないけど沢山いたよね?」

最原「動機に関しては後で説明するよ。証拠の準備は……そのころには多分できてるから」

最原「……まず、白銀さんを発見した赤松さんと真宮寺くんは、白銀さんからあるものを奪った」

最原「それは多分、エグイサルのコントローラーだ。入間さんが作った箱型のあれだよ」

王馬「ああ。俺が拾ったアレだよね。そっかー。あれって最初は白銀ちゃんが持ってたのかー」

最原「……持ってきたのは王馬くんじゃないかな? 茶柱さんから聞いたよ。王馬くん、白銀さんをみんなの目の前から一度逃がしたんだって?」

最原「あのときみんなはほぼほぼ二人以上の人数で固まってて、単独行動の人は少なかった。王馬くんくらいだよ、あのとき行方がわからないの」

王馬「あ。うん。エグイサルのコントローラーを白銀ちゃんに渡したの俺だよ」シラーッ

白銀「とても素直……」

東条「……確か、あのコントローラーが使われ始めたのは……」

巌窟王「俺がモノタロウの持っているエグイサルを破壊しきった後だな。白銀がコントローラーを使ったのはおそらくその直後からだろう」

最原「あのコントローラーには、ある重要な証拠が残っていた」

最原「……白銀さんの抵抗の痕跡だ」

最原「春川さん。協力してくれる?」

春川「……ああ。なるほど。あれを証言しろってこと」

春川「協力してもいいよ。セミラミスが頭を下げるのなら」

セミラミス「頼む。この通りだ」ジャララララッ

入間「いげぎゃぎゃぎゃっ……!」ギリギリギリギリ

春川「頭を下げろって言ったんだよ。誰が首を落とせって言ったの」イライラ

巌窟王「……鎖はまだ出せるのか」

セミラミス「少しだけだ。やり過ぎると消える」キラキラキラキラ

赤松「本当だぁ!? なんか透けてる!」ガビーンッ

最原「お願い春川さん! セミラミスさんがこの場で消えると本当に困るんだ! 僕が代わりにいくらでも頭下げるから!」ドゲザーッ

春川「仕方ないな……わかったよ」

セミラミス「ククク。人間素直が一番だぞ。わかればよい」ドヤァァァァァ

春川「生身の状態でサーヴァントを殺せたら、初めての自慢できる殺人になる気がする」ギロリ

夢野「よせい! というかセミラミスもなんでさっきからこうも煽リティが高いんじゃ!」

赤松「ごめんなさい本当になんの意図もないんです! あの人の素なんですぅーーー!」ドゲザーッ

巌窟王「もうアイツのことは放っておくがいい。いないものと考えろ。どうせ証言などする気がないのだ」

最原「……」

最原(さて。それはどうかな)

春川「私たちが発見したとき、白銀は爪に異常があったんだよ。明らかに割れたり剥がれかけたり酷い有様だった」

春川「でもあれは多分、半分くらいは白銀が自分自身で付けた傷だと思う」

最原「白銀さんは自分の意思で爪を割った。つまり、全力で何かを引っかいたんだ」

百田「引っかいた……?」

白銀「それは……」

最原「いいよ、白銀さんは喋らなくても。最低限度まで首を突っ込んでほしくない」

白銀「……」

最原(……やっぱり気分は最悪だ……白銀さんに責任を取らせないと決めたのは僕なのにな)

最原「コントローラーだよ。白銀さんは誰かにコントローラーを奪われそうになって、必死にコントローラーを引っかいたんだ」

最原「その証拠に……!」

王馬「俺が発見したときのコントローラーには血が混じった引っかき傷がしっかり残ってたよー」

王馬「そうだ! ついでに言っておこうか! 万が一の反論を許さないためにね!」

王馬「あのコントローラーには引っかき傷はあった! でもあるものがなかったんだよ!」

百田「あるものがなかった?」

入間「ど、どっちだよ……ふにゃちん野郎……あるのかないのか……」ゼェゼェ

ナーサリー「あ……拘束解けてる……」

セミラミス「……」ゼェゼェ

巌窟王(……本当に時間がないな。一撃でも貰えば間違いなく耐え切れない)

最原「焦げ跡」

獄原「こ……焦げ跡? ちょっと待ってよ。火の気なんて今までの話のどこにあったの?」

王馬「あったはずだよゴン太~。そのお粗末な脳味噌でよーく思い出してみよっかー」ニヤニヤ

獄原「……?」

獄原「……」

獄原「……??????」

百田「王馬。わかってて言ってんだろ。ゴン太はあれを直接見てねーんだ。伝聞だけじゃいまいちわかんねーだろ」

王馬「あんなにデカかったのになー。じゃ、時間切れってことで正解を、最原ちゃん!」

最原「巌窟王さんの暴走だよ。それが火の気だ」

巌窟王「!」

アンジー「あ。そっかー。つむぎはあのとき思い切り巻き込まれてたからー」

アンジー「あの周囲にコントローラーがあったら一緒に焦げ焦げになってなきゃおかしいんだねー!」

王馬「どう? 万が一の反論も許さないって俺の意思、わかってくれた?」

赤松(底意地の悪さはもうそれ以前からはっきりと……!)

赤松「待ってよ! コントローラーが誰かに奪われたってことはわかったとしても!」

赤松「だからってなんで私たちなの?」

赤松「いや! それ以前に共犯者が複数だなんて、なんでわかるの?」

最原「言ったでしょ? 手が足りないんだよ、明らかに」

最原「さて、白銀さんからコントローラーを奪った共犯者は、次になにをする?」

アンジー「んー? 相手の立場になって考えろってことー? えっとねー……」

アンジー「おー! そっかー! つむぎの抵抗を抑えないとねー! 気絶させるかどうにかして……」

最原「気絶はダメ。共犯者はこの後、白銀さんにやってもらいたいことがあったから」

百田「やってもらいたいこと……?」

最原「それはまた後で。すぐの話だから」

アンジー「んーとねー。それじゃあ……」

アンジー「……まずはエグイサルだよねー。『彼』が戦ってるエグイサルをどうにかして無力化しないとー」

アンジー「できることなら二度と使えないように、安全な場所で自爆させるとかがベストかなー」

アンジー「エグイサルが全部壊れちゃったら、コントローラーの意味なんてもうないもんねー」

獄原「安全な場所で自爆……」

入間「安全な場所で自爆……? 自爆……?」

獄原&入間「ああっ!」

茶柱「どうしたんですか? 過去に読んだ読み切り漫画の作者と今連載している人気漫画家が一緒だったことに気付いたような顔して」

入間「そんな嬉しいことじゃねーよ! 今思い出したんだ! エグイサルの操縦者、確かに途中から変わったとしか思えなかった!」

入間「巌窟王が急に何かに気付いて、どこかに飛んで行った直後あたりからだろ! エグイサルが俺様たちのことを追いかけ回し始めたの!」

東条「……ああ。そういえば、そうね。殺意はなかったけど、大迷惑には変わりなかったわ」

星「……そうか。エグイサルが巌窟王を追わずに、意図不明の挙動を取り始めたのは……!」

最原「操縦者の善意。そして空回りだよ。途中からはもう、下手に触らない方がマシだなってコントローラーそのものを手放したみたいだけど」

最原「それを再度王馬くんが拾って、キーボくんのオブジェにエグイサルが衝突。そして終了だよ」

最原「さあ。入間さんは今、興味深いことを言ったよね。巌窟王さんが何かに気付いた、とか」

入間「ん……」

最原「……一体巌窟王さんはなにに気付いたんだろう。あのときは夜で、視界はかなり狭まってたよね」

最原「視界によらない変化が起こってたとしたら?」

キングプロテアを相手どっていたらこんな時間。もうマジで時間ないのでプロテア倒せるまで更新はなし!
多分倒せると思うんだよなぁーあと少しで

ギリギリで勝ったーーー!
今日の夜から通常更新です

春川「また私の協力が必要かな」

最原「うん。お願い、春川さん」

春川「白銀の右手の爪はさっき言った通りボロボロだった。でもそれだけじゃなかったんだよね」

春川「指の骨もバキボキに砕かれてたんだよ。関節を外したとかじゃなくってピンポイントで骨がさ」

百田「ああ。そういえばあんときの白銀、巌窟王の炎以外の傷がやたらあったよな」

茶柱「……」ダラダラダラ

最原「……えっと。うん。その……」

茶柱「ほ、ほぼ私がやりましたァ!」

最原「言わなくてよかったのに!」ガビーンッ

王馬「まさかの真実! 共犯者は茶柱ちゃんだった!?」

ネコアルク「号外だにゃーーー! 意外な真実だにゃーーー!」バッサバッサァ!

赤松「下手な情報で新聞をバラまかないで!」

最原「ええと、うん。茶柱さんが白銀さんをボコボコにしたのは真実だけどさ」

最原「指の骨に関しては百パーセントそれ以降のものだよ」

最原「だよね。春川さん」

春川「指がまともに動かせない状態で、ものを引っかけると思う?」

東条「それは当然不可能だけど……それが……ああ、なるほど。順序の話ね」

春川「爪がボロボロなのも指の骨が折られていたのも右手」

春川「つまり、指の骨が折られたのは『誰かにコントローラーを奪われそうになったときに抵抗した後』ってこと」

最原「春川さんが気付いてくれなかったらと思うとぞっとするよ。本当にありがとうね」

春川「……最原の進路を取るかどうかはまだ迷うけど、百田の理念には賛同してる」

春川「全員揃って私は外に出たい。そのための協力は惜しまないよ」

百田「ハルマキ……!」ジーンッ

春川「……」プイッ

最原(照れてる)

ナーサリー「照れてるのね」ニコニコ

セミラミス「これがラブコメの波動か」

ロムルス「これこそがローマである!」ビシイッ

巌窟王「クハハハハハ! ご祝儀袋は外目からも札束だとわかるほどに包んでやろう!」ギンッ

春川「殺されたいの!? 揃いも揃って!」

最原「……サーヴァントってみんなこんな感じなのかな」

百田「でもよ。なんで白銀の指がそんなボロボロになってたんだ? それはどんな抵抗の痕なんだよ」

最原「抵抗なんかしていないよ。これは抵抗を抑えた状態で行われた拷問の痕だ」

夢野「そうかー。拷問の痕かー。かっかっかっ……」

夢野「……冗談じゃよな?」ガクガクガク

最原「真面目に言ってるよ」

夢野「いやいやいや! ちょっと待つんじゃ! 白銀を拷問したところで引き出せる情報なんぞあるか!?」

夢野「ないじゃろ! あの時点でかなーり学園の真実についてはわかっておった!」

獄原「そ、そうかな。この場でわかった事実も相当数あった気がするけど……」

東条「白銀さんの心理面の真実がね。そこに矛盾があるのよ」

東条「白銀さんに拷問をしかけるような人間が、白銀さんの心理面の真実に興味を持つと思う?」

獄原「ああ! そっか! 白銀さんのことが嫌いなら、そんなことを聞きたいとは最初から思わないんだ!」

獄原「あれ。それじゃあ……共犯者って白銀さんになにを聞き出そうとしたんだろう」

最原「聞こうと思ったことは特にないよ。いや、拷問することで白銀さんの口から捻り出そうとしたものは確かにあったんだけど」

百田「あー? なんだそりゃ。まるで拷問すること自体が目的だったみてーな……」

春川「白銀から聞こうと思ったことは特にないのに、白銀の口からなにかを捻り出そうとしていた……?」

春川「……」

アンジー「……悲鳴?」

春川「!」

百田「……あっ……!」

最原「それで正解だと思う。共犯者は白銀さんの悲鳴のみが目的だったんだ」

最原「指折ったら普通、出るよね。悲鳴」

最原「補足すると、白銀さんを地面に抑えつけながら右手を後ろに捻り上げ、指を一本ずつ折っていくとなると……」

最原「加害する側に必要な腕は二本だよね」

最原「更に、ほぼ同時進行でエグイサルをどうにか処分しようとコントローラーを弄っていたわけだから……」

ロムルス「腕がどう頑張っても一人分では足りない、ということか!」

ナーサリー「本当に? 物凄く高速移動すれば腕が増えたりしないかしら?」

ロムルス「増えたな」ブンブンブンブンブンブン

最原「サーヴァント式は禁止! 僕たちは人間だから!」ガーンッ

最原「赤松さんと真宮寺くんは多分、王馬くんが白銀さんを逃がした後で白銀さんを見つけたんだ。一番に」

最原「そこで彼女は魔が差した。白銀さんの位置を巌窟王さんに教えようとしたんだよ」

百田「拷問による悲鳴で、か……!」

東条「……巌窟王さんは炎のせいで闇の中でも位置が丸わかりよ。現在地から悲鳴が届くかどうかは一目瞭然だったはずだわ」

東条「その代わり、他の誰かも巻き添えで呼んでしまうかもしれないけど……」

星「……そうか。そこだな、最原が赤松のことを疑っている根拠は」

赤松「えっ?」

最原「真宮寺くんを疑っている根拠はたった一つ。赤松さんと同行していたから、というだけだ」

最原「でも赤松さんに関しては違う。彼女には手口の面でどうしても疑わざるを得ない」

巌窟王「……聴覚か」

赤松「ッ!」

夢野「そうか! 第一の事件のときも、第三の事件のときも、赤松の聴覚は頭抜けておった!」

夢野「白銀の悲鳴があがったら赤松も当然聞こえておるはずじゃぞ!」

赤松「……!」

最原「……下手なこと言えないけど、どうする? どんな証言をするの、赤松さん」

天海「必要ないっすよ。赤松さんはあの場にいなかった。巌窟王さんにボコにされてた」

天海「……俺があそこに辿り着いたのも結構運の要素が強かったっすね。本当によかった」

赤松「……」

赤松「聴こえなかったから、ね。白銀さんの悲鳴なんてさ」

最原「!」

百田「指折られてんだぞ……! 悲鳴を上げてないわけがねぇだろッ! 赤松!」

百田「誰よりも耳のいいテメェが……誰よりも優しかったテメェが、なんで白銀の声を聞けねぇんだよ!」

赤松「……」

赤松「なにも聞かない。証拠がない限り、私はなにも納得しない。それだけだよ!」

最原「ならつきつけよう! キミに! そうじゃないと僕たちは前に進めないから!」

最原「……歯を食いしばっててよ」

赤松「あるわけない。証拠なんて用意できているはずがない」

真宮寺「ククク。僕たちは共犯者なんかじゃないんだ。証拠があるはずがないよネ?」

最原「赤松さん。髪飾りはどうしたの?」

赤松「……」

春川「髪飾り? あの音符のヤツのこと?」

最原「最初に気付いたのは入間さんなんだけどさ」




入間『おっ……俺様は悪くねーぞ……別に泣かせるつもりじゃ……』シドロモドロ

入間『おっ。バカ松、髪飾り変えたか? いつもより一ピコグラムほど可愛さが増してるぜ!』ニカッ

巌窟王『誤魔化すな!』ギンッ

入間『テメェに言われたかねぇッ!』ウガァ!



最原「赤松さん、髪飾りはどうしたの?」

赤松「……付けてるけど?」

入間「ん? ああ、そうだな。付けてるな。ダサイ原、あんまし意味ねぇ追求してんじゃねぇよ。時間の無駄だろ?」

入間「確かにいつもと音符の並びが違ぇけどよ! それが一体なんだってんだ?」

赤松「ッ!」

夢野「音符の並び……?」

入間「おお! いつも処女松は左右のコメカミ部分に音符の髪飾り付けてただろ?」

入間「右側のコメカミには、髪のせいで上半分が隠れているからわかりづらいけど多分、繋がった二音の十六分音符の髪飾り」

入間「左側には四分音符三つに、間に八分音符の髪飾りが一つの計四つだ」

東条「よく覚えてたわね。そもそも音符の区別がついたこと自体意外なのだけれども」

入間「俺様は世紀の大天才だからなーーー!」ヒャッハー!

最原「僕も覚えてるよ。赤松さんの普段の髪飾りの並びはさ。今、入間さんが言った通りだ」

最原「……でも今は違うよね? 普段なら八分音符のあったところにあるのは……!」

春川「全部四分音符だね。八分音符の髪飾りは?」

赤松「……」

赤松「どこかで落としたみたいなんだ。八分音符の旗の部分をね」

獄原「え。壊れちゃったってこと?」

星「髪飾りだぞ? そうそう簡単に壊れるもんじゃないだろう」

赤松「割と脆かったからさ。そういうこともあるんじゃない?」

最原「コントローラーを無理やり奪ったとき、白銀さんは凄い抵抗をしたはずだよね。爪から血が出てるんだよ?」

最原「共犯者の側にもなんらかの被害が出ててもおかしくない」

赤松「白銀さんが私の髪飾りを壊したって? いくらなんでもそんなこと……」

最原「仮に、本当にタイミング良く髪飾りが壊れただけだったとしてもさ」

最原「……赤松さんが白銀さんの抵抗を受けて何かしらの痕跡を現場に残したのは確かだと思う」

最原「じゃなかったら、僕の揺さぶりに対してあんな無茶苦茶な隠蔽を図るはずがない」

百田「隠蔽だと?」

最原「現代アート風味の超巨大ネコアルクオブジェだよ!」

赤松「ぐうっ……!」

ネコアルク「え? 呼びましたかにゃ?」

赤松「呼んでない……座ってて」

最原「天海くん、あのオブジェができてた位置ってさ」

天海「ああ。白銀さんと巌窟王さんが揉み合いになってた場所が大体まるっと全部潰されてたっすね」

天海「……」

天海「ああっ!? 嘘っすよね!? まさか! それだけのために!?」

茶柱「え。なんです? あんなトンチキオブジェクトになんの意味があると?」

最原「昼の間に僕が白銀さんを庇うために言ったことはほぼブラフだった」

最原「巌窟王さんと共謀した人がいる。その人が名乗り出ない限りは白銀さんの身が危険。裁判が始まるまで引き渡すわけにはいかない」

最原「僕の要求はおおよそこんな感じだったけどさ」

最原「赤松さん。僕は本当に、そのことを追及しようなんて気はなかったんだ。こんな状況でなかったらキミを糾弾なんかしない」

最原「でもキミはそうは思えなかったんだよね」

赤松「ぐ……うあっ……!」ダラダラダラ

アンジー「あーそかそかー! 楓があんなバカバカしいオブジェクトをネコアルクに作らせたのって、落とした音符の旗部分を隠蔽するためかー!」

ネコアルク「そうそう、あのバカでかいオブジェクト……バカバカしいって言いましたかにゃ今?」

アンジー「……にゃは?」

最原(誤魔化した!)

夢野「じゃがのう。隠蔽されたというのなら、もうあそこにはなんの証拠も残っていないということではないか?」

最原「ここは科学捜査の基本に立ち返ってみよう。ロカールの交換原理だ」

赤松「ロカー……なに? 誰?」

東条「科学捜査の父、エドモンド・ロカールの言葉ね。ざっくり言うと『証拠を処分されても証拠を処分したという痕跡が残る』ということよ」

最原「ネコアルクは赤松さんに上手く乗せられただけだ。多分、真意は絶対に教えてもらってない」

最原「真意を教えようが教えまいが、ネコアルクたちの行動は変わらないんだから話す必要がない」

最原「ただし、キミはそれ故にミスを犯した。ネコアルクたちの能力をちょっとだけ過小評価してたんだ」

赤松「なんのことを……?」

最原「あのオブジェを作ったあたり、実は変化が可逆性なんだよ」

赤松「――」

赤松「か、ぎゃく……? 元に戻せるってこと?」

最原「そう。それも一部の隙もなく完璧に」

最原「これはキミの指示だよ赤松さん。ネコアルクはそれを律儀に実行したんだ」




ネコアルク『もしかして率直に『邪魔』って言ってるのかにゃん? 安心を。赤松嬢からは『生徒に迷惑をかけるな』と仰せつかっておりますにゃん』

最原『え? どういうこと?』

ネコアルク『時間さえくれれば、このオブジェを解体して一日で全部元通りにすることは可能ってこと』




最原「そう。あそこ一帯はすべて元通りにする準備ができてるんだよ」

最原「キミの何気ない指示のお陰でね」

赤松「……ね、ネコアルク?」

ネコアルク「生徒に迷惑をかけるな、と言われた以上、あらゆる物品を元の位置に戻す準備はきっちり用意してありますにゃー!」

ネコアルク「そこら辺に埋まってた岩! 生えていた草は根に至るまで! 土も粒子の位置レベルまできっちりと元に戻せますにゃ」ギランッ

赤松「なっ……あ!?」ガーンッ

真宮寺「赤松さん……正直な感想を述べていいかな……?」

真宮寺「このネコもどきども、やっぱり間違いなくメイドバイセミラミスさんだヨ。存在のなにもかもが大迷惑だもの」

赤松「知ってる!」

セミラミス「……」

セミラミス「む? 何故だ。何故どの方面からもフォローが飛んでこぬ? 我のせいではないであろう?」

ナーサリー「気遣いと労いと思いやりがまったくないとは言わないわ。言わないけども……」

巌窟王「自分自身が毒婦であることは貴様自身が理解しているはずだな?」

巌窟王「それと、実はこういう展開を貴様も内心少し期待していたのではないか? 赤松の追い詰められた表情を見たいがために」

巌窟王「別に『誰かを庇いたかったから黙った』というわけではないのだろう?」

赤松「……えっ」

セミラミス「……」

セミラミス「……」カチカチ

天海「あっ。ゲームやり始めた……」

茶柱「都合の悪い話になった途端!」ガーンッ

最原「決まりだ! 赤松さん! ネコアルクたちの持っている四次元ポシェットの中身を検める!」

最原「その中にもしも八分音符の旗があったら!」

最原「そして、その旗がもしも溶けたり焦げ跡がついていたとしたら!」

最原「キミが一度は白銀さんの元に辿り着いたというこの上ない証拠になるはずだ!」

最原「当然! 赤松さんと一緒にいた真宮寺くんも共犯者として確定だ!」ズギャアアアアアアンッ

赤松「ぐっ……ぐうううううううう……!」ガタガタ

百田「四次元ポシェット……?」

アンジー「あのねー。実はネコアルクの機能ってモノクマ並みに理不尽なんだよー」

アンジー「ネコアルクオブジェを作ったこともそうだけどー、今彼女たちが自己申告した通り、元通り戻すことも自由自在」

アンジー「でもさー、まず前提としてそれを成すには、加工した土地の、加工する前の状態の物資を丸っとどこかに保存する必要があるよねー?」

入間「どんな科学力だよ……いや思い出しライトやモノクマやモノクマーズの時点でそうは思ってたけどよ」

獄原「その保存した先が四次元ポシェットってこと? でもネコアルクは複数いたよね? どのネコアルクのポシェットに何が入ってるのかは……」

王馬「完全にランダムだろって? そうかな? どうなの最原ちゃん」

最原「ネコアルクの言を信じるなら、すべての四次元ポシェットは独立していたはずだよ」

最原「でも問題ない。だって問題となる四次元ポシェットは全部、この裁判場にあるはずだから!」

春川「……巌窟王のストックした爆弾用ネコアルク」

巌窟王「……」

最原「……隠さないよね。巌窟王さん」

巌窟王「赤松が見せるな、と言わない限りはな」

真宮寺「意地悪だネ。そんなことを言ったら認めたようなものじゃないか」

巌窟王「念のため、補足だ。ナーサリーライム救出のときに弾けさせたネコアルクの四次元ポシェットもきちんと回収している」

巌窟王「これでネコアルクオブジェ作成に関わった四次元ポシェットはこの場にすべて揃っていると言ってもいいだろう」

最原「土の粒子の一粒に至るまで元に戻せるっていうのなら、すべての物質にタグ付けに等しい情報処理が行われているはずだ」

最原「直接的にポシェットの中身をいじくるのはネコアルクにやらせよう。そうすればすぐに終わる」

最原「……嘘は吐かないよね?」

ネコアルク「赤松嬢が『嘘を吐け』と言わない限りは!」ビシイッ

赤松「……」

巌窟王「……クハハ! 皮肉だな。何も言わずとも勝手にお前を守った者は、この中ではセミラミスただ一人だけだ」

巌窟王「動機自体は邪まには違いないがな」

赤松「いいよ。セミラミスさんには感謝してる。動機なんてどうでもいい」

王馬「赤松ちゃんさー。もう言動からして隠す気がないよね?」

王馬「つまらないの。もうちょっと汗だらっだら流してわめいてほしかったのに」

赤松「別に私、あなたを楽しませるために産まれてきたわけじゃないから」

赤松「こっちはこっちなりに必死だったんだよ」

ネコアルク「……あ。これですかにゃ?」キランッ

茶柱「あ。見つかっ……た?」

最原「うん。溶けてはいるけど材質は同じだ。間違いないよ」

最原「八分音符の旗だ」

百田「じゃあ、やっぱり!」

最原「共犯者はキミだ! 赤松さん! そして並びに真宮寺くんも!」

赤松「……」

真宮寺「……」

星「フン。こんな事実が今更わかったところで、お前さんらをどうこう言う気は一切ねぇけどな」

星「それにしても随分と落ち着き払ってるもんだ」

赤松「……そうでもないよ。こんな問題を出した視聴者側への憎悪は更に募ってる」

赤松「ごめん。セミラミスさん。せっかく黙ってもらったのに」

セミラミス「……ふむ? 謝るのはまだ早いぞ? 我の予測ではな?」

赤松「へ?」

モノクマ「残念だけどさー、犯人だけがわかっても意味がないんだよ」

赤松「は?」

モノクマ「言ったじゃん? 証拠付きでって。旗だけじゃ視聴者は満足できないなぁ?」

赤松「……え。なに? どういう……?」

モノクマ「動機」ニヤァ

赤松「……っ!?」

最原「……言うだろうなと思ったよ。この問題が出た時点でさ」

最原「お前たちは徹底的に僕たちを慰み者にする気なんだな」

王馬「お? ん? あれ? もしかしてもしかしてもしかして!」キラキラキラ

王馬「第二ラウンド開催の巻的なーーー!?」ワクワクワクワクワク

最原「赤松さんと真宮寺くんの動機……ね」

最原「わかるよ。大丈夫。証拠も多分、この場に――」

赤松「……真宮寺くん。壊しちゃえ」

最原「は?」

真宮寺「了解」ニヤァ

スッ

最原「!!!!!!!!」

最原(そんな……嘘だろ!? 正気の沙汰じゃない!)

最原「やめ――!」

真宮寺「えいっ」


ドガシャアアアアアアアアンッ


最原(気の抜けた掛け声で、それはあっさりと壊された。動機を証明するはずだったモノクマカラーのパソコン……!)

最原(ゴミみたいに、床に叩きつけて踏みつけて!)

最原(あの中にあるデータが見れない以上、赤松さんの動機は!)

赤松「証明不可能、だよね」

最原「バカな……! キミはセミラミスさんを助けたがってたはずだ! これじゃあ一体どうやって!」

赤松「……ごめん。セミラミスさん。あなたを助けたかった。それは心の底からの本音だよ」

赤松「どうすれば償いになるかな……?」

セミラミス「……」ペラペラ

最原「漫画読んでるっ!」ガビーンッ

セミラミス「……む? すまぬな? 話を聞いてなかった。この漫画、とても面白いぞ」

セミラミス「ギャンブラーズパレード! 既刊二巻は絶賛発売中だ! 打ち切られたくなければ買うがいい!」ジャァァァァンッ

最原「それ今言わないとダメ!?」ガーンッ

赤松「わかった! それで償いになるのなら!」フンスッ

最原「ならないよッ!」ガビーンッ




蜘蛛手『くたばれ! ギャンブラー!』

百田「落ち着け終一! 見え見えの撹乱だ! コイツら明らかに組んでやがる!」

最原「!」

巌窟王「……ジャバウォック島のときから思ってはいたが……どちらだ? どちらが手懐けた?」

セミラミス「ククク。我の方がカエデを、に決まっておろうが。実際ちょっと楽しい」クックック

巌窟王「その結果、貴様が赤松の目の前で惨死することになってもか?」

セミラミス「癪ではある。だがそれが流れだ。わざわざ逆らおうとは思わんな」

セミラミス「それに……この『もうどうしようもない』という雰囲気がとても心地よい。最原の顔を見てみよ、傑作だぞ」クックックックック

最原「ぐっ……!」

茶柱「そういうトークは最原さんの耳が聞こえない範囲でやってくれませんか!?」

夢野「……そこまで悪いヤツには思えんのう。なんだかんだ、赤松の願いを聞き届けようとするよいサーヴァントではないか」

夢野「ウチらにとっては敵じゃがのう! わっかりやすい敵!」ビシイッ

百田「終一! あのパソコンの中には何が入ってたんだ!」

最原「赤松さんの動機だよ。真宮寺くんは……多分、赤松さんに協力してるだけだ。具体的に殺意を持っていたのは赤松さんの方だと思う」

天海「……もしかして、いやもしかしなくてもアレっすよね?」

最原「うん。アレ」

天海「うわぁーーー! な、なんてことしてくれたんすか! パソコンがボロッボロ!」

茶柱「どうにか直せないんですか! この場には入間さんもいますよね!?」

入間「一日くれれば元通りにできるぜ!」グッ

茶柱「はやーい! でもおそーい!」ガーンッ

最原(クソ……! あのパソコンがなければ、なにをどうやって証明すれば……!)

白銀「……」

白銀「バックアップ」

最原「えっ?」

白銀「……」

最原(今、白銀さん、なんて……)

最原「……」

最原(考えろ! もう白銀さんが嘘を吐いてるかどうかを検討する暇はない! バックアップがあるとしたら、どこに……!?)

最原「考えろ……考えろ……!」

最原(モノクマがタイムリミットだと言う前に! そうじゃないと……!)

モノクマ「おーっとそろそろ飽きてきちゃったぞー? タイムリミット設定しちゃおっかなー?」カチカチ

デンッ

05:00

モノクマ「あと五分でおしおき装置を起動させちゃうから、頑張って回答してね!」

春川「五分? 五分であのパソコンの中身を見る方法を探せって? 冗談でしょ?」

モノクマ「本気と書いて『むっちゃマジやねん』と読む!」

白銀「ルビが長い。やり直し」

モノクマ「マ」

白銀「いいよ。採用!」

百田「短ぇーよ!」

茶柱「どうでもいいですよ! そんなの! なんでもいいからヒントになりそうなもの片っ端から言ってください!」

百田「あのパソコン、どう見てもモノクマカラーだよな。ならモノクマがバックアップを持ってたりしねーか?」

最原「!」

王馬「ん……?」

モノクマ「持ってたとして、出すわけないじゃん。流石にボクの私物を理由もなしに裁判に提出するわけにはいかないなぁ」

茶柱「最初の事件の時点で証拠を握り潰してたくせに! 何を今更!」

最原「……」

最原(モノクマ……?)

王馬「あれ。最原ちゃん、なにかに気付いちゃった?」

最原「……」

王馬「俺は確信には至ってないけどさ。最原ちゃんがもしそうだと言うのなら、きっと『あの人』が持ってるんじゃない?」

王馬「バックアップ」ニヤァ

最原「……いや。ダメだ。だとしても、それを提出してくれるとは思えない。下手を打つとモノクマより手強いかも……!」

王馬「口説き落とせよ。相手が誰であれ。ここは議論の場だよ?」

王馬「嘘でも真実でもなんでもいい。そいつが望むものを的確に提示してやれば……」

王馬「案外、コロッと落ちるかもよ?」

最原「……」

百田「あんだ? 終一に何言ってんだよ、王馬」

王馬「すぐにわかるよ」ニヤァ

最原「……いるよ。バックアップを持っていそうな人。この裁判場に!」ズバァーーーンッ

赤松「……ハッタリで言ってるの? 流石に揺さぶられないよ。私たちはそんなもの用意してないからさ」

最原「赤松さん。先に謝っておくよ。本当にごめん」

赤松「……?」

最原(この裁判場で、モノクマカラーのパソコンのバックアップを持っていそうな人……!)

最原(もうこの可能性に賭けるしかない!)



人物指定

→セミラミス





最原(あなたしかいない……!)

最原「バックアップを持っているのは、セミラミスさんだよ!」

赤松「……はあ?」

セミラミス「そうか。我がバックアップを持っていたのか。これは意外な展開だ。想像だにしていなかった……」ケラケラ

セミラミス「……」







セミラミス「!?!?!?!?!?!?!?」ガビビビーンッ

赤松「って! セミラミスさんが一番驚いてるけど!?」

セミラミス「我が……バックアップを持っている……? ん? んん??????」

茶柱「……なんか凄くハズレ臭いですよ! 少なくとも彼女に心当たりがなさそうです!」

最原(だとしても彼女が持っていなければ、もう誰にも可能性がない! このまま確認させるしかない!)

巌窟王「……興味深いな。最原と王馬のやり取りも、赤松をそこまでの狂気に駆り立てた動機の方も」

巌窟王「いいだろう。続けろ最原」

赤松「巌窟王さん?」

巌窟王「クハハ! 確かに俺たちの側が不利になりかねないな。だが仕方あるまい? 好奇心ネコをも殺すと言うだろう?」

巌窟王「俺は今、あえて好奇心だけで現状を見守ろう」

最原「巌窟王さんだけは僕を応援しないで! 後で後悔するのが目に見えてるから!」

巌窟王「何ィ!?」ガーンッ

アンジー「んー? 珍しいねー。終一がこんなに明確に彼を拒絶したのって初じゃない?」

東条「今までのはあくまでやむにやまれぬ事情があってこそだったものね」

最原「……ええと、どこから話せばいいか……じゃあ第四の事件のときまで時間を遡ろうか」

最原「プログラム世界に分断された側の人、覚えてる? あのときもモノクマカラーのパソコンが議論の中心になってたよね?」

獄原「ん……? ああ。あの夢野さんにハエさんがいっぱいたかってたあの事件だね!」

夢野「んあ!?」ガビーンッ

百田「夢野そんなことになってたのかよ……やべぇな、プログラム世界」

最原「あのときは軽く流しちゃったけど、モノクマカラーのパソコンに僕たちは触れている」

最原「現実のパソコンと、プログラム世界のパソコンが同一のものだったとしたら……」

赤松「……壊れちゃってるよね? プログラム世界」

最原「わかってる。だからあそこに戻ってパソコンを取り戻すなんてことはもうできない。する気もない」

最原「僕の予想通りなら、あそこに行く必要がないんだ。あの世界で見せたパソコンには、今となっては無視できない機能があったから!」

真宮寺「今となっては無視できない機能……?」

最原(頼む! 当たっていてくれ! 内心では、そう願わずにはいられない!)

最原(でもそれじゃダメだ。出来る限り、それが当然のことのように振る舞わないと!)

最原「あのパソコンにあった今は無視できない機能! それは『マザーモノクマとの同期機能』だ!」ズギャァァァンッ

赤松「同期……機能?」

入間「……ん……」




春川『入間。どう?』

入間『んー……まあ俺様か巌窟王ならパソコンの時計を無理やり弄ることは可能だろうが』

入間『逆に言うと普通の手段では操作できねーな』

獄原『パソコンに内蔵されてる時計だよね? そんな難しい操作が必要だとは思えないんだけど』

入間『知らねーよ。なんか知らねーけど操作できねーんだ』

モノクマ『ああ。首謀者権限のロックのせいだね、それ』

モノクマ『あ、ちなみにロックをする前に時計を弄ったとしても……』

モノクマ『ロックをかけた瞬間にマザーモノクマとデバイスが同期して時計の時間のズレを直しちゃうんだ』




入間「ああ、そうだ。確かにあったな? 同期機能。時計のズレの話題になったときに話してたぜ」

赤松「同期機能があったからって、それが今更なに?」

最原「今のマザーモノクマ、中身は一体誰だったっけ?」

春川「……あっ」

百田「あ? ……あー……なるほどな」

赤松「……!」ダラダラダラダラ

セミラミス「一体、誰だと言うのだ……?」ハラハラ

巌窟王「……」

巌窟王「何を他人事みたいな顔をしている! 貴様だ貴様ァ!」ギンッ

セミラミス「チッ。もう少しで誤魔化せたものを」

赤松「全然! 全っっっ然! 誤魔化せてなかったよぉ!」

赤松「……ぐ……考えろ。考えろ私……! 最原くんのプランはすべてが完璧ってわけじゃない……!」

赤松「……二つ。穴があるよね。仮にセミラミスさんがバックアップを持っていたとしても!」

赤松「一つ目の穴は、セミラミスさんに渡された権限のこと! 監視権限と、モノクマの複製権限が今ある彼女のすべてのはずだよ」

赤松「それ以外に彼女が持っている権限はないはずだ!」

最原「問題はない。だって!」

最原「……」

最原(……これでいいのか? 確かに赤松さんの言っている議論の穴を、これで塞ぐことはできる!)

最原(でもあまりにも都合が良すぎる! 僕は一体、なんのために……!)

白銀「私が首謀者の権限をセミラミスさんに共有すればいい」

最原「!」

赤松「なっ……!?」

白銀「モノクマにできたことだよ。私にだって当然できるよ」

白銀「……首謀者の権限で、ロックを解除! セミラミスさんに情報を開示する!」

ピコンッ

セミラミス「……ム……!」

白銀「モノクマが彼女に譲渡した権限。そして、首謀者である私がセミラミスさんにたった今共有した権限」

白銀「たった今をもって、彼女は名実共に『マザーモノクマそのもの』となった!」ズギャアアアアンッ

最原「……」

白銀「礼は言わないでよ。これは私が勝手にやったこと。私を許さないって決めたんでしょう?」

最原「……そうだ。その通りだよ」

最原(こうでないと先に進めないから!)

赤松「二つ目の穴があるよ。これは私の口からはあまり言いたくないんだけど」

セミラミス「そうだな。まあカエデも思春期だ。ならば我が代わりに言おう」

セミラミス「理由はどうあれ、我は命を賭けている。つまりカエデのために動く我が、何故貴様のために動かなければならない?」

獄原「えっ! い、言わないの!? 死んじゃうんだよ!?」

セミラミス「そこまで興味がないのでな。別にここで生き残ったところで遠からず消滅する未来は避けられない」

セミラミス「逆に、カエデが『やっぱり助けて』と正直に言えば我とて貴様らに協力はしようさ」

セミラミス「だがカエデの性格は貴様らもよく知っておろう! 決めたことは内心はどうあれ最後まで貫き通すバカがそいつよ!」

セミラミス「情の湧いた隣人を、自分のエゴですり潰す苦痛の表情は見物だ。この報酬でもって我は消滅を迎えようか」ニヤニヤ

赤松「……」

茶柱「……相っ当歪んでますね。聞いてるだけでこっちの頭がおかしくなってきそうです」

星「だが強固な絆だ。これを切り崩して協力してもらおうってんなら、相当の労力が必要だぜ」

王馬「本当にそうかなー? 俺にはそうは思えないなー?」

獄原「えっ。王馬くん、それどういうこと?」

王馬「ん? いやいや。最原ちゃんなら別なんじゃないかなって。彼なら案外、口説き落とせるかもよ?」

最原「……」

最原(やるしかないな)

最原「セミラミスさん」

セミラミス「……」ポチポチ

ナーサリー「スマフォいじってるわね……本当にこっちに興味がないみたい」

最原「……所詮そんなものだったのかな。アッシリアの女帝の知略って」

セミラミス「……!」ピクッ

赤松(……今度は安い挑発?)

最原「まだわからないかな?」







最原「今、赤松さんを絶望の底に叩き落せるのはあなたしかいないんだよ?」

セミラミス「……ム……?」

赤松「は?」

セミラミス「……」ジーッ

最原(食いついた)

最原「サーヴァントとして誰かに尽くす。誰かを守る。誰かを導く。大いに結構! 僕はその意思にとやかく言う気はない」

最原「やり方を間違えていることを指摘するだけだ」

赤松「……さ、最原くん? なに言ってるの?」

最原「赤松さんを貶めたくないんだよね。あくまで善意によって赤松さんを苦しめたいんだよね」

最原「なら話は簡単だ! セミラミスさん! あなたが今持っているはずのバックアップ、おそらくそれを公開することの方が!」

セミラミス「カエデの助けになる、か?」ニヤァ

赤松「……なっ……はっ……ばっ……!?」ガタガタ

最原「……今更どうとも思わない、だって? 星くんの言ったことは欺瞞だよ」

最原「そんなはずないじゃないか! その殺意を有耶無耶にしていいはずがない!」

最原「僕たちは赤松さんの凶行に『止むに止まれぬ事情があったんだ』と信じたいよ!」

天海「……これは……!」

王馬「うん。最原ちゃんなりのラブコールだよね。赤松ちゃんを裏切ってこっちにつけっていう内容の、さ」

巌窟王「……そうか。なるほど。セミラミスは裏切りの女帝だ。そして先ほど議論で言っていたな」

巌窟王「確かこうだ。『裏切りやすいヤツを味方に付けること』は――」







王馬「破滅の秒読み。無限のリスク」ニヤァ

王馬「赤松ちゃんはその泥沼に嵌まりかけている」

天海「……もう仮定の話なんかしなくったっていいっすよ最原くん」

天海「セミラミスさんは間違いなくバックアップを持っているから!」

赤松「!?」

天海「白銀さんはどこに引きこもってアレを編集していたのか。俺は知っているんすよ」

天海「……セミラミスさんの宝具、虚栄の空中庭園の中だ!」

白銀「あっ……そういえば……そうだったね。あれの管理人、セミラミスさんだもんね」

セミラミス「白銀、今の今まで忘れてたな。間借りさせていた恩を……」

白銀「だってあのときのセミラミスさん、まったくなんの権限もなかったじゃん。むしろ新世界プログラムに間借りさせてたの私の方だよ?」

セミラミス「ふん。屁理屈を」

白銀「……みんなー。この場合、屁理屈を言ってるのってどっちかなー」

星「セミラミス」

真宮寺「セミラミスさんだネ」

獄原「セミラミスさんだと思う……」

セミラミス「白銀だと思うぞ」

セミラミス「白銀の方だと思え!」ウガァ!

夢野「勢いだけで押し通そうとしておる!」ガーンッ!

白銀「でもあそこからはデータを全部引っ越しさせちゃったから、もう何も残ってないっていうか……」

白銀「そもそもそれも新世界プログラムの崩壊と一緒に粉々になってるよね? 残骸相手にしても時間の無駄じゃない?」

王馬「なんだー。がっかり。セミラミスちゃんって割と見掛け倒しなんだなぁ。ま、これに関しては最初から期待してなかったし、いいか別に」

セミラミス「……」イラッ

赤松(あ、やばい)

セミラミス「く、ククククク! バカめ! あの庭園の中で起こったことならすべて我の手に取るようにわかっていたに決まっておろうが!」

白銀「はっ?」

赤松「……」

セミラミス「……!」ハッ







セミラミス「いや白銀のプライベート空間を覗き見するようなマネはやっぱりしていなかったような気がするな?」ガタガタ

白銀「今更嘘を吐かれても!?」ガビーンッ

ケムリクサとかカーマ育成とかイベントとか重なりまくったので今日はなし!

セミラミス「……ふっ。まあいい。どうせ最初から最原にはわかっていたようだからな」

セミラミス「バラしたのが我か最原かの違いに過ぎぬだろう。問題はまったくない。ないな?」

最原「……あ、えと……」アセッ

赤松「……セミラミスさん。私は最原くんとの付き合いがちょっとだけ長いからわかるんだけどさ」

赤松「最原くんの言ってたこと、多分ほとんどハッタリだったよ……!」

セミラミス「」

最原「現時点でバックアップを持っていそうな人がセミラミスさんくらいしか思いつかない」

最原「だから結構前の時点でこっちの底を見せないように立ち回ってたんだけど……」

最原「助かったよ王馬くん」

王馬「こっちは命懸けだからね。最初から命のことをどうでもいいと思って隙だらけ緩々になった女の人なんて相手にならないよ!」アッハッハッハ

セミラミス「……」ジッ

赤松「え……なんでこっち見てるの?」

セミラミス「あやつ殺していいか?」

赤松「気持ちは本当よくわかるけどダメ!」

王馬「……よくわかっちゃうの?」

春川「よくわかっちゃうね」

王馬「ガーン!」

セミラミス「まあ白銀から権限を渡された時点で詰んでいた気もするがな」

セミラミス「この方向性からバックアップを取り寄せる方が情報が新しく正確だ」

赤松「その補足いる!? 余計に追い詰められるだけなんだけど!」

セミラミス「……」シラーッ

赤松「……!」

最原(あと一押しで抱き込めそうだ!)

最原(なにか……他に交渉に使えそうなファクターはないか!)キョロキョロ

ネコアルク「にゃー……コタツで寝たい……」ゴロゴロ

最原「あった」

最原「セミラミスさん、ネコアルク――!」

巌窟王「ネコアルクを置き去りにして死ぬ気か?」

最原「んっ?」

赤松「うわっ……!」

アンジー(凄くイヤそうな顔になったねー)

セミラミス「別にその猫に愛着はないが……?」

巌窟王「だが自身の立てた計画に愛着はあるはずだ。そうだろう?」ニヤァ

セミラミス「……」

巌窟王「片鱗すら見せずに、計画を計画のままにして死ぬ気か?」

セミラミス「……ククク。子供か貴様は! いやまったくもって滑稽だぞ!」

セミラミス「最原の論に看過されて『自分もやってみたい』と思っただけだろう、それは!」

巌窟王「!」

最原「?」

セミラミス「かめはめ波とか卍解とか螺旋丸とかスタンドとかと同じだ。サーヴァントのくせして随分とまあ子供っぽい」

巌窟王「……」ワタワタ

セミラミス「そもそも宝具なんてものを持っておるのだから無い物ねだりも程々にしろ。既に人類史の英雄と認められているのだからな」

巌窟王「セミラミス!」







巌窟王「それは違うぞ!」ズギャァァァンッ

ナーサリー「その一言でもうボロがボロッボロよ」

ネコアルク「喋れば喋るだけ嘘がバレるタイプですにゃー」

ロムルス「うむ! なにかに憧れるその姿勢もローマである!」ビシイッ

茶柱「……あー……察しました。全部……」

最原「????????」

茶柱「またこの人はこういうことになるとアホになるんですよね……」ハァー

最原(呆れられてる!?)ガビーンッ

セミラミス「ふむ。まあ、頃合いか。これでいいだろう。貴様らの説得は及第点だ」

赤松「せ、セミラミス……さん?」

セミラミス「ム? ああ。安心しろカエデ。我は汝を裏切らない」

セミラミス「ただ我は我の意思で汝を助けようというだけだ」ニヤァー

赤松「う……うあっ……!?」ガタガタ

王馬「助けるって人の顔じゃないよ。息の根を止めてやるとか、楽にしてやろうとか言ってる殺し屋スマイルだよあれ」

赤松「だ、ダメ! やめてよセミラミスさん! せっかくここまで来たのに、それを公開しちゃったら!」

セミラミス「ム? ダメか? いやダメなどとは言うまい! 我はカエデを助けたいだけだからな!」

セミラミス「カエデを!」ニヤニヤニヤニヤ

セミラミス「助けたい!」キラキラキラキラ

セミラミス「だけなのだ!」ヘラヘラヘラヘラヘラ

赤松「う……うあ……」

赤松「うあああああああああああああああああああっ!?」

巌窟王「……憐れだな。よりによってそんなヤツに目を付けられたばかりに。心底から同情するぞ」

巌窟王「だが貴様には相応しい最期だと思うぞ? 善意で状況を悪化させる天才の貴様が、悪意で誰かを支えるサーヴァントに止めを刺される」

巌窟王「クハハハハハハッ! いやまったくこの世の歯車は上手く嵌まっているものだ!」ギンッ

赤松「やめて! お願い! セミラミスさん! そんなことをするくらいなら……っ!」

赤松「……」

最原「言えないよね。赤松さんには悪意がないから」

最原「『自分の隠し事を抱えたまま死んでくれ』なんて酷いことを、優しいキミが言えるはずがない」

最原「……これで詰みだ赤松さん」

セミラミス「残念だったな。汝にもし『自分のために死んでくれ』と言えるようなエゴがあったら、そのときは素直に死んでもいいと思っていたぞ?」

セミラミス「……ククク。いや言うまい。ともすれば弱さともとれるようなその優しさが、我にとっては何よりの娯楽だ」

赤松「あ……あ……あああああああああ……!」

セミラミス「……ふむ。この拘束にも飽いたな? よし」

セミラミス「出でよ! グングニルの魔槍!」

シャガンッ シャガガガンッ

モノクマ「え」

最原(僕たちの目の前でそれは起こった)

最原(……ショベルがあっさりと、突如召喚された杭に滅多刺しにされた)

セミラミス「もう我にない権限はない。故に、既にこの学園の神は既にモノクマではない。この我だ!」ビシイッ

セミラミス「とうっ」

最原(見えない戒めを解き放ち、セミラミスさんは跳んで――!)

セミラミス「……がふっ」ベシャッ

最原(墜落した!)ガビーンッ

セミラミス「ぐ……足が痺れ……動けな……!」ブルブル

東条「ずっと正座させられてたのだもの。当然ね」

巌窟王「ロムルス!」

ロムルス「承知!」

ナーサリー「私も参加するわ!」

最原「?」

ロムルス「はい、ローマ!」パシャッ

巌窟王&ナーサリー「……!」

最原「記念撮影してる! 倒れてるセミラミスさんバックに!」ガビーンッ

百田「なんてイヤな野郎どもだ!」

白銀「あれ見たことある! ゲーム会場で半ケツの人をバックに写真撮る人だ! 半ケツのヤツ!」

王馬「ニッチすぎてわからないよ」

セミラミス「お……の……れ……!」ビクンビクンッ

赤松「せ……セミラミスさ……!」オロオロ

セミラミス「……」

セミラミス「あ。忘れていた。上部モニターに動機を出すぞ」ブオンッ

赤松「ずっと忘れてればよかったのに!」

ブオンッ

一同「…………………………」

一同「えっ?」

巌窟王「……?」

巌窟王「……がっっっ!?」ガビーンッ

最原「これが白銀さんの持っていた、モノクマカラーのパソコンの中身。赤松さんが白銀さんを殺してでも隠蔽したかった情報」

最原「……卒業アルバムだ」

夢野「んあ? いや、ちょっと待つんじゃ。アンジー、おそらく巌窟王に直で訊ねてもはぐらかされるだけじゃろうからお主に聞くが」

夢野「巌窟王は卒業アルバムを作っていたはずじゃな?」

アンジー「うん! かなーり気合入れて作ってたねー!」

夢野「で。上部モニターの卒業アルバム……おそらく作りかけじゃが、あれどう思う?」

アンジー「んー……」

アンジー「……言っちゃなんだけど、彼の作っていたものよりも玄人っぽいねー。レイアウトやらフォントやら何もかも」

百田「そりゃ、白銀が作ってたものだろうからな。当然じゃねえか?」

百田「ていうか巌窟王、卒業アルバムなんてもん作ってたのか」

夢野「それ自体は巌窟王自身も隠しておらんかったぞ。写真も撮りまくっておったしな?」

天海「かなり堂々と公言してたっすよね。卒アル制作」

巌窟王「……白銀」

白銀「なに?」

巌窟王「……貴様が一から卒業アルバムを作っていた場合は目を瞑ろうかと思っていたが……!」


ボオウッ


巌窟王「どういうことだ! あれはどう見ても、俺のデータを流用して作られている!」

星「!」

最原(それだけじゃない。この卒業アルバム、例えばモノクマが作った場合は悪ふざけと嫌がらせ全開で制作されてただろうけど)

最原(……あれは違う。素人目で見ても明らかだ。あのアルバムを形作っているものは……)

アンジー「……善意と愛情……しか伝わってこないねー……」

百田「……なんでだよ……!」

赤松「……」

百田「赤松は誰よりも先にこれを見たんだな? なら、どうして! なんで!」

百田「こんなもん見たら逆に白銀のことを殺そうだなんて思わなくなるはずだ! なあ、そうだろ!」

百田「こんなの納得できるか!? 俺は全然納得できねぇ!」

獄原「……赤松さん、もしかして……」

王馬「お? ゴン太? 何に気付いた? 言ってみてよ?」ニヤニヤ

獄原「えっと、上手く言えないんだけど……」

獄原「あの時点では、まさかキーボくんがゴン太たちの脱出を妨害するだなんて思ってなかったよね」

獄原「だから全部の問題が片付いたらすぐに脱出できる……いや」

獄原「逆だ。ゴン太たちはすぐにでもここから出たかった。だから『脱出しないといけない』って思ってた」

獄原「……できたかな。仮にキーボくんの妨害がなかったとしてもさ」

夢野「んあ? キーボが邪魔しなければ……できるじゃろ。外の魔術師からの妨害なんて巌窟王なら意に介さないじゃろうし?」

夢野「キーボを強化する以外の方法でなら屁でもない、とウチなら思う」

獄原「えっと……あの……」

最原「……あの時点で想定されていなかった妨害工作は除外しよう。赤松さんにそれは知りようがなかったから」

最原「白銀さんが生きてて、白銀さんの心理面の真実を知ったなら、僕たちは外に出れたかな」

東条「……」

東条「まず間違いなく足踏みするわ」

春川「どうして? この学園に敵はいなかったんだよ? それなら……」

東条「それが致命的なのよ」

東条「……私たちは私たちの手の届かない者の手で一方的に踊らされていたってことになるのだもの」

春川「ん……」

星「そうだな。白銀の真実を知っちまった今、俺たちの中にあるのは圧倒的な虚無感だ」

星「絶対的な敵対者だったはずの人物がその実、それすらも用意されていたものだった。そんなのは……」

真宮寺「僕たちの戦い、この学園で過ごした日々が丸っと全部『無』だった。そういうことになるよネ」

真宮寺「いもしない敵にずっと戦いを挑んでいたんだからさ」

赤松「誰か一人は……一人くらいはいてほしかったよ」

赤松「この人さえいなくなれば……ううん! 別の方法でもいい! とにかくこの人さえ倒せれば!」

赤松「それで一旦区切りにはなるって胸を張れるような、そんな本物の悪役がさ!」

最原「でもそんな人はこの学園に一人もいなかった。それに一番最初に気付いたんだ。赤松さんは」

赤松「偽物が本物に勝てない道理なんてない! 白銀さんを制圧した後で、私はそう言ってやりたかった!」

赤松「そう証明しなきゃ、私たちは本物だらけの外の世界に出て、とても戦っていけない! 生きていけないよ!」

赤松「でもさぁ……!」ポロッ

天海「そのタフな台詞を吐くために必要な前提が最初から存在しなかった」

天海「……白銀さんすら被害者で、偽物だったから。俺たちが外の世界に勝てるかもって希望を得るためには、本物だけは絶対に必要なのに」

赤松「最原くん。あると思う?」

最原「……」

赤松「私たちが外に出た後で、煙のように吹き消されない。そんな可能性がどこかにある?」

赤松「また同じようにコロシアイに組み込まれるだけかもよ?」

赤松「ううん! それならまだいいかもね! もしかしたらサックリ一瞬で全滅ってことだってあり得る!」

赤松「私たちは外の世界のことを何も知らない! だって外の世界から来た物なんて、この学園に一個たりとも無かったんだから!」

赤松「この恐怖を……未知っていう恐怖を味わった人に! 外に出る気概があると思う!?」

赤松「いや! あったとしても! それで外に出れるとしても! 想像を絶する苦痛には違いないよね!?」

赤松「私たちは散々思い知ったはずだよ! 学級裁判で何回も! ただ選択をするだけでも、そこには耐え難い苦痛が伴うんだよ!」

赤松「それが自分の命を賭けた選択であれば当然! 隣の大事な誰かの命もかかったものなら猶更!」

巌窟王「……だから目を逸らし、他の連中の目も欺いたのだな」

巌窟王「選択に伴う苦痛を……せめて他人のものだけでも軽減するために」

アンジー「……楓……」

最原(僕の答えは決まっていた。多分、赤松さんのやったことに気付いた昨晩からずっとだ)

最原「僕は外に出たい」

赤松「……ッ!」

最原「……怖くても、苦しくても、辛くても、何があるのかまったくわからなくっても……!」







最原「それでも僕は、外に出たいんだ!」ズギャアアアアアアンッ

赤松「どうして……」

赤松「まったく理解できない! なんで! なんでなんでなんでっ……!」

赤松「どうして外の世界に期待できるの!? 私たちのことを傷つけたってことしかわからない外の世界に!」

赤松「自分好みの方法でぶっ壊してから外に出ることだってできるのに!」

赤松「わからないわからないわからない! 最原くんが何を考えてるのか、私には全っっっ然わかんないんだよお!」

最原「僕自身もそうだよ。前に進む理由がずっと見つからなかった」

最原「……でも赤松さんのお陰でやっと言語化できた気がするんだ!」

最原「そうだよ。僕はずっと、外に出たかったんだ! 戦う理由なんてそれだけだったんだよ!」

赤松「なんで……!」

最原「外の世界に何があるのかわからない。何故なら敵対者すら偽物だったから!」

最原「じゃあ味方はどうなの? 僕たちの仲間に外の世界から来た誰かはいなかった?」

赤松「!」

巌窟王「……最原。まさか……」

最原「そうだよ! 言うのは物凄く恥ずかしいけど、僕たちは巌窟王さんに会ったんだ!」

最原「デバイス越しにはイシュタルさんとかナーサリーさん、BBさんとも話した!」

最原「いっぱい……いっぱい、助けてもらったんだ! 返しきれないくらいに色々なものを送ってもらった!」

最原「外の有様を見た? 現代アート風味の巨大ネコアルクオブジェってなんだよ! ふざけてるのかって感じだ!」

最原「……ああいうのを見て……少しは思ったはずだよ」

最原「赤松さん! 僕たちは、この学園で傷付いただけだったの!?」

赤松「……うっ……!」

最原「違う……そうじゃなかったはずだ。僕たちは笑ってた!」

最原「巌窟王さんたちのせいで、悲しんだり、苦しんだりしてるのを中断しなきゃいけないタイミングがあった!」

最原「笑うのとか、巌窟王さんがアホなことをしてるのを見て呆然としたりとか、もう滅茶苦茶だよ! 手間ばっかりかけさせてくれる!」

最原(そうだ。戦う理由なんて明らかだった。巌窟王さんが全部でいいって言ってたのもあながち間違いじゃなかった!)

最原「『記憶』に嘘は吐けない。産まれの記憶が捏造だったとしても……!」

最原「この学園での思い出だけは、本当にあったことだ!」

最原「……『思い出』に嘘を吐きたくない! 背を向けたくない! 決意したことを忘れたフリすることはできない!」

最原(この忘却補正にかけて――)

最原「僕は……みんなと外に出ることを諦めない! 絶対に外の世界に行くんだ!」

巌窟王「……フン。好き放題言ってくれる」

東条「巌窟王さん。確かにあなたがいなければ私たちは今ここに立っていないわ。それは事実よ」

東条「でもあなたの悪行の煽りを真正面から受けたの大体、最原くんですもの。その点に関しての弁護は難しいわ」フッ

巌窟王「そこまで言うか!」

アンジー(あ、ちょっと傷付いた)

ナーサリー「でも言っていること自体は素敵よ。悲しいことがいっぱいだったこの学園の、楽しいことを大事にしたい」

ナーサリー「幸せな人の理屈だわ。マルタとかジャンヌとかの聖人好みの、幸せを大切にできる人の論理」

ローマ「つまるところがローマである!」

獄原「ローマなの?」

ローマ「ローマは――」

ローマ「まだガンには効かないがそのうち効くようになる」

獄原「ローマ凄い!」キラキラキラ

百田「騙されてんぞ!」ガーンッ

最原「……この辺りで区切りにしよう」

最原「赤松さん。真宮寺くん。昨晩に起こったことを纏めてキミたちを告発して……」

最原「僕は僕の進路を突き進む!」

クライマックス推理

最原「まずは昨晩からこの学級裁判に至るまでの共犯者の行動を整理しよう」

最原「彼女たちの隠滅工作はまさにこの場まで続くからね」

最原「モノクマの設問は、一連のすべてを『白銀さんが被害者の事件』だと考えられる」

最原「だから最初は、僕たちが新世界プログラムから脱出した後だ」

最原「茶柱さんから王馬くんが白銀さんを逃がした辺りから始めよう」

最原「まず王馬くんは白銀さんを茶柱さんから逃がした後で、あるものを彼女に手渡した」

最原「それは、入間さんが開発したエグイサルのコントローラーだ」

最原「このとき、王馬くんと白銀さんの間にどんな協定があったのか僕は具体的には知らないんだけど……」

最原「今は関係がない。後回しにするね」

最原「同時刻、百田くんと春川さんが巌窟王さんに救助されて、エグイサルから降りた」

最原「そのタイミングを見計らって、白銀さんはコントローラーを起動」

最原「巌窟王さんへの挑発を開始したんだ」

最原「白銀さんの計画に『自分自身の死亡』が条件として組み込まれていたからなんだよ」

最原「それを後ろから見ていた僕たちは、白銀さんを探すために二手に別れた」

最原「……今思えば、あのときこじつけでもいいから絶対に全員同行するべきだったよ……!」

最原「幸か不幸か、一番最初に白銀さんを見つけたのは彼女たちだった」

最原「そのときから彼女たちは明確な殺意を持って『共犯者』へと変じたんだ」

最原「まずエグイサルの操縦に夢中になっていた彼女を急襲。一人が彼女の右腕を捻り上げる形で地面に押さえつけ……」

最原「もう一人はエグイサルのコントローラーを奪い取り、操作権を奪った」

最原「この二つのことが同時にできたのは、共犯者が二人いたからだ」

最原「そのときの抵抗の痕跡は、コントローラーに爪痕として残り……」

最原「そして、その証拠がこの後白銀さんに襲い掛かる拷問の決定的な証拠となったんだ……!」

最原「白銀さんを押さえつけていた共犯者は、速やかに白銀さんの右手の指の骨を折り始めた」

最原「当然、白銀さんは大きな悲鳴を上げたはずだ。そしてその声が、巌窟王さんの耳に届いた」

最原「普通ならこの要素は単なる事実で終わるはずだけど、今回はこの手口そのものが共犯者の存在を限定する」

最原「聴こえないはずがないんだ! 彼女に、白銀さんの悲鳴が!」

最原「やがて巌窟王さんが白銀さんを見つけ、それと入れ替わるように共犯者たちはその場を立ち去った」

最原「もしかしたら巌窟王さんは、コメントをしていないだけで彼女たちの姿を見たかもしれない」

最原「絶対に言わないだろうから、彼からの証言は期待できないけどね」

最原「その後、エグイサルの操縦に失敗したり、天海くんが巌窟王さんから白銀さんを庇ったりとゴタゴタが続く」

最原「結果的に白銀さんは生き残ったけど、バレずに殺せるという利点が無くなった時点で共犯者たちは恐らく殺害は諦めたんだ」

最原「白銀さんの証言は誰も信じないだろうし、第一姿を見られていない。後戻りができるという点で彼女たちは余裕があった」

最原「白銀さんは気を失って、口を開けなくなったという点も大きいかもしれない」

最原「……そう。この最後の学級裁判という場が無ければ、彼女たちの暗躍はそこで終わっていたはずなんだ」

最原「翌日、白銀さんの意識は戻ったけど、大した情報を吐いてないことを確認した後は、油断してはいなかっただろうけど安心していたはずだ」

最原「もっと徹底的な殺意を持っていたのだとしたらきっとわかりやすい無茶をしていただろうからね」

最原「状況が一変したのはキーボくんが学園からの脱出を妨害し、最後の学級裁判の開催を発表してから」

最原「更に、僕が『巌窟王さんの共犯者』の件で脅しかけたから、心中穏やかでなんていられなかったはずだ」

最原「……これは信じて欲しいけど、あの時点での僕の言動は本当にただの脅しだったんだ」

最原「こんなことになるなんて思いもしなかった……」

最原「脅しをかけられた犯人は焦ったはずだ。僕の言ったことが事実かどうかはもう関係ないくらいに」

最原「でもそこで、天からの助けに等しい出来事が彼女に起こった」

最原「セミラミスさんが残したネコアルクのマスターが、共犯者に移ったんだ」

最原「共犯者は理由をこじつけてネコアルクにある指令を下した」

最原「……事件現場をネコアルクに提供し、現代アート風味の巨大ネコアルクオブジェを建設することによって現場ごと証拠隠滅したんだ!」

最原「でも犯人は知らなかった。ネコアルクにどれだけ理不尽な機能があったのかを」

最原「そこの考慮を怠り、指令がこじつけ故に大雑把になったせいで、犯行の決定的な痕跡をそこに残すことになってしまった……」

最原「最後の学級裁判の議論が進み、設問が共犯者の正体の特定を要求したときに、その痕跡は共犯者の存在を決定的なものにしてしまう」

最原「そうなんだ。ネコアルクたちは、現場にあったものを丸ごと保存していたんだよ」

最原「後で指示があったときに丸ごと元に戻せるように、完全な形で」

最原「そしてそれに含まれていた、髪飾りの破片がキミに止めを刺したんだ」

最原「最後に、彼女たちはどうしても隠滅したかった情報を、この裁判場で粉々にした」

最原「あらかじめ持ちだしていたモノクマカラーのパソコンをね」

最原「仮に自分の殺意がバレたのだとしても、最低限これだけは隠し通さないと、今までの行動がそれこそ全部無駄になる」

最原「追い詰められた共犯者たちは、仮にセミラミスさんを殺すことになったのだとしても隠滅したい証拠があったんだ」

最原「……巌窟王さんの卒業アルバムのデータを引用した、白銀さんの卒業アルバムのデータをね」

最原「でもパソコンを粉々にしてもバックアップに手は出せない」

最原「……動機の証明は、セミラミスさんと白銀さんの協力によって可能となる!」

最原「証拠を隠滅しようとして手を出した悉くが、裏返ってキミを追い詰める!」

最原「"超高校級の民俗学者"、真宮寺是清」

最原「そして"超高校級のピアニスト"、赤松楓」

最原「……キミたち二人を『巌窟王さんの共犯者』として告発する!」




バリバリバリッ ガシャアアアアアアアアアアンッ!




COMPLETE!

最原「証拠と動機。モノクマが要求したものはすべて揃った」

百田「本人の自白も取れてるし、決まりだな。つっても、もうセミラミスは自力で脱出してるけどよ」

セミラミス「」チーン

ナーサリー「……足の痺れのせいで言語を失ってるわ」

巌窟王「玩具(意味深)を投与してみろ。延命できるはずだ」

赤松「……まさか、だなぁ……まさかここまで裏目裏目になるなんてなぁ……」

赤松「なんでかなぁ……私、なんか運が悪いなぁ……!」

春川「アンタの運の悪さがどこから始まってるか教えてあげるよ」

春川「最原だけなら問題なかったかもしれない。巌窟王だけでもまあなんとかなるよ」

春川「最原と巌窟王が同時にこの場にいたのが悪かった。この二人、食い合わせが悪すぎるよ」

星「記憶の大半を失ってるお前さんが言うのならもう真性だな……」

真宮寺「僕は二度目だからわかるんだけどネ。この二人がたまに仲良く手を組むと犯人側からすると地獄なんだよネ」

真宮寺「……さて。モノクマ。結果発表とかしなくていいのかな」

モノクマ「うぷ……うぷぷぷぷぷ……」

最原「……?」

モノクマ「あーあ。ついに解いてしまったね。最後……の一歩手前の設問を」

モノクマ「お仲間も随分と増えちゃって。心強さの極みってところかなぁ?」

最原「半分くらいはお前のせいだろ……」

巌窟王「もしくは外の世界の魔術師のせいだろうがな」

巌窟王「……ム? 半分?」

最原「それの詳細は後で。大したことじゃないし」

最原「……インターバルでちょっと済ませたいことがある。設問がクリアできたことを確認できたら今はそれでいい」

巌窟王「そうだな。こちらもセミラミスの介抱がある。余裕があるのなら活用させてもらおう」

モノクマ「アーッハッハッハッハッハ! 残念ですが、今回は――!」

セミラミス「インターバルはないんだよーん! とか抜かしたら貴様を殺す」ハァハァ

モノクマ「」

最原(這いつくばったまま脅してる!)

セミラミス「勘違いするなよモノクマ……もう既にこの学園の支配構造の頂点は我だ。貴様には最後の学級裁判の進行を任せてるに過ぎん」ゼェゼェ

セミラミス「モノチッチの映像もすべて見れる。既に無意味だがな。貴様に対して自爆命令も下せるし」

セミラミス「なんならモノクマーズを復活させてやろうか。もう貴様を父親だなどとは絶対に言うまい」

モノクマ「」

白銀「……流石に全権渡したのはやり過ぎだったなぁ……ごめんモノクマ」

白銀「完全に私の……ぶふっ……私のミスだよ……くくくくっ……あ、ダメ笑いすぎて腹筋割れちゃうぅ……」プルプル

モノクマ「何他人事みたいな顔してんの!? ボクと組んでるオマエも結構ヤバいんだけど!?」ガビーンッ

白銀「私が絶対に嫌がるような設問出したんだよ! この恨みは絶対に晴らしてやると思ってたんだよ! もう晴れた! いい気味!」

モノクマ「うわあああああああああああああっ!」orz

赤松「……醜い……すごく醜い争い……」ジャララッ

赤松「ん? ジャララ? あれ? なんで私の首に鎖が――」

セミラミス「こっちに来いカエデ」ジャララララッ

赤松「うぶえっ!?」ガクンッ

最原「赤松さーーーんっ!?」

ガチンッ

赤松「があああああああっ!? な、何故か正座の状態で床に固定されたーーーッ!」ジタバタ

セミラミス「我は疲れた! 裁判が終わるまで寝る! 膝枕を貸せ!」プンプン

赤松「なんで私!?」ガビーンッ

セミラミス「口答えは許さん。猿ぐつわもしておくか」ジャララッ

赤松「ぐむがまぼっ!?」ガキンッ

セミラミス「ぐー」スヤァー

赤松「むぐがごごごーーーっ!?」ジタバタジタバタ



赤松楓:発言力全損 学級裁判脱落



百田「勝手に裁判から脱落しやがった!」ガビーンッ

最原「ええええええええええええっ!?!?」ガビビーンッ

アンジー「通常の学級裁判のおしおきの代わりかなー。共犯者ってだけだし死なないだけ有情だよねー」

茶柱「いやいや……いくら殺人未遂だからってアレはちょっとやり過ぎですよ……第一、実行犯の巌窟王さんがこうして普通にしてますし」

巌窟王「クハハハハハハ! バカめ! 生徒と俺とを同列に考えるな!」

巌窟王「だがまあ、確かに。赤松の受けている扱いが不当であるということは認めるところだ。どれ、鎖を引きちぎって――」


パァンッ


巌窟王「……?」

アンジー「……」



アンジーから唐突にもらった"平手打ち"



アンジー「……!」ブワッ

巌窟王「!?」ガビーンッ


ガツンッ


予想外の"肘"


特に理由のない暴力が巌窟王を襲う――!




巌窟王「何故だ……」チーン

アンジー「おしおき代行。アンジーでないとできないから」

最原(続いて巌窟王さんも逝ったーーー!)ガーーーンッ

アンジー「次は是清だねー」

真宮寺「……え」

真宮寺「え? 僕も? 僕もこんな理不尽極まりないおしおき受けるの? 嘘でしョ?」オロオロ

真宮寺「嘘……」ハッ

最原(そのとき真宮寺くんは気付いたのだろう。自分の受ける罰が決定的なものとなったのを)

最原(そう。場の空気が真宮寺くんを裁くことを決めた。何故なら)

夢野「赤松を止めることが充分できたはずじゃぞ、お主の立ち位置なら」

真宮寺「……!」アワワワワワワワ

夢野「おしおき確定じゃぞ?」

真宮寺「逃――!」

夢野「がさん。当然じゃろ」サラサラサラ

最原(ん? 三角帽になんか注いでる……粉?)

夢野「食らえ! これが巌窟王との因縁の末に手に入れたウチの対真宮寺宝具!」

白銀「範囲しょぼっ」

夢野「ソルトスプラーーーーッシュ!」

真宮寺「おぶっ」ザバァァァァァァァッ

最原「真宮寺くんの帽子から大量の白い粉が出てきたーーーッ!?」ガビーンッ

夢野「ウチの帽子に入れた塩を真宮寺の帽子に転送するウチの必殺技じゃぞ」キラーンッ

巌窟王「夢野!」

夢野「なんじゃ?」

巌窟王「……よく頑張った。後で希望の菓子をやろう」

夢野「そんなこと言われてもちょっとしか上機嫌にならんぞ? とらやの羊羹よこせ」テレテレ

最原「物凄く上機嫌になってない……?」

真宮寺「ぎゃあああああああああああ! あ、あ、あ、甘ァァァァァァ!」ジタバタジタバタゴロゴロ

東条「……砂糖よ? これ」ペロッ

夢野「!?」ガビーンッ

夢野「……」

入間「あ? どうしたドチビ。急に黙って……」

夢野「食らえ! これが巌窟王との因縁の末に手に入れたウチの対真宮寺宝具!」サラサラ

王馬「あ。やり直そうとしてる」

真宮寺「あばっ!?」ガビーンッ

夢野「ソルトスプラーーーッシュ!」



ドバァァァァァ!



真宮寺「ぎゃふああああああああああああああああっ!?!?」overkill

最原「別に砂糖の時点で充分だったのに!」

リザルト

赤松:セミラミスに拘束され強制膝枕化。発言力全損

巌窟王:特に理由のないアンジーからの暴力を受け軽くトラウマ

真宮寺:甘じょっぱい空のお星さまとなった





真宮寺「ああああああああああマスクの中が甘じょっぱいヨォォォォォォォォォォ……!」ガタガタ

赤松「ぐむ……」←鎖の破壊が不可能なので諦めた

巌窟王「ふん……これで赤松は俺の援護ができなくなったな」

巌窟王「これも貴様の読み通りか? 最原」

最原「そんなわけないでしょ。セミラミスさんがこっちの想定を超えて奔放すぎたせいだよ」イヤイヤイヤイヤ

最原「なんなの。巌窟王さんの周りには厄介な女の人しかいないの?」

巌窟王「心外だ! 俺ではなく俺の元のマスターに依り付くのだ、そういうのが!」ギンッ

ナーサリー(あら? さらっと言われたけどもしかして私のことも厄介扱いかしら?)イラッ

夢野「消えたとは言っても別に発言権が没収されただけで、投票権自体はなくなってはおらんじゃろ」

夢野「じゃが赤松、真宮寺の暗躍のせいで巌窟王の進路への心証は割と最悪になったのは確かじゃ」

百田「テメェらはよってたかって白銀をいじめすぎた。しかも話を聞けば聞くほどに、白銀を責めたところで無意味だったし」

百田「一番アウトだったのは、赤松自身も『白銀を責めることの無意味さ』を知ってた上で犯行を進めたところだ!」

百田「というか巌窟王がモロに、大々的に白銀を殺そうとしたのに対して、赤松たちの立ち回りが暗躍ってのも最初からおかしかっただろ!」

王馬「本当に自分に正義があると思ってたのなら、巌窟王ちゃんと一緒に堂々と白銀ちゃんを殺しに向かってただろうからね」

王馬「あくまで共犯だから直接的に自分の手が汚れるわけじゃないし?」

赤松(言い訳できない……結構地獄だな。この状況)

東条「……誰も彼もが正しい判断をできるわけじゃないわ」

赤松「ん?」

東条「赤松さんを責めるようなことを、それ以上言わないでちょうだい。単純に胸が痛いから」

赤松「……」

春川「わかった。その辺り、気を付ける。百田」

百田「んん……」

茶柱「……そうですね。もう無条件で終わりにしたいですよ。お互いに罪を誹り合うようなマネは」

茶柱「みんなボロボロじゃないですか。辛くて辛くて胸が張り裂けてしまいそうです」

茶柱「何が学級裁判? 何がおしおきですか。何でこんなことをみなさんがしないといけないんですか」

巌窟王「……茶柱……」

赤松(……そんなこと言われても仕方ないのに。私たちはこれしか生き残る方法を知らない)

赤松(そういうふうに外の世界の人たちが作ったんだから)

赤松(……でも、そんな正論をぶつけられる空気じゃないな。茶柱さん相当疲れてるし。口も塞がってるし)

最原「今更そんなこと言われても困るよ」ケロリ

巌窟王「!?」ガーンッ

赤松(言っちゃうんだよなぁーーー! 言っちゃうんだよなぁ、この人は! 頭いいから! 頭いいのに!)ウワアアアアアアア!

茶柱「……」ズモモモモモモ

獄原「ん? 微かにアドレナリンの臭いがする……」クンクン

最原「どうしたの茶柱さん。何で怒ってるの?」キョトン

茶柱「」ブチイッ

獄原「アドレナリンの臭いが超増えた!」ガーンッ

百田(うわぁーーー! コイツうわぁーーー! 自殺志願者か!?)ガタガタ

春川(怒ってる女に怒らせた本人が『何で怒ってるの?』と訊くのって遠回しに『殺していいよ!』って意味だもんね)

茶柱(この人ここで殺した方が普通にこのまま生きていくよりずっと楽なのでは? 有体に言って死ねばいいのでは?)ゴゴゴゴゴゴ

茶柱(なんかもう……死んだ方がマシって状況に慣れすぎてここから先幸せになれそうもない気がしてきました。やっぱり殺しましょうか)ゴゴゴゴゴ

最原「あとちょっとで外に出れるんだ」

茶柱「?」

最原「……もう正直に言っちゃおうか。僕は巌窟王さんの進路でも別にいいと思う」

茶柱「!」

百田「おいおい。テメェが示した進路はどうすんだよ」

最原「もちろんそっちの方がいいと思うんだけどさ。みんなで一緒に外に出れるのなら、それがきっと一番いい」

最原「……どんなに苦しくても、考えて考えて議論して議論して、そうやって掴み取った進路にこそ価値があるんだ」

最原「選択は確かに、それだけで想像を絶する苦痛かもしれないけど絶対に無意味じゃない」

最原「……僕たちの呪いをぶちまけられて壊滅寸前の世界でも、僕たちに何一つとして優しくないディストピアでも」

最原「大切な人と一緒ならきっとそこは地獄じゃないから。少なくとも、僕にとっては」

茶柱「……」

最原「……」チラッ

茶柱「?」

最原「僕の場合は茶柱さんがいればギリギリ二本足で立ってられるよ!」ズギャアアアアアアアンッ

茶柱「ぴっ!?」ガビーンッ

赤松(言ったーーーッ!?)ヒエエエエエエ!

春川「最原。違う違う。茶柱が黙ってたの別に『わかりづらかったから』じゃなくって『わかりきってたから』だから」

春川「なんで一々わかりきった正論を口に出すのアンタは」

星「……話すだけでどんどん罪深い生物になっていくな、最原」

アンジー「最終的には転子か転子以外の女の子のどちらかに背中刺されて死ぬと思うよー」ニコニコニコニコ

赤松「んーんー」コクコクコクコク

巌窟王「赤松。頷くのも一苦労だろう。無理はするなよ」

最原「……僕なんかしたっけ……?」ズーン

最原「今はいいや。ええと、巌窟王さん」

巌窟王「?」

最原「……どっちの選択でも善悪はない。正義もない。それでも僕が巌窟王さんに楯突く理由は色々ある」

最原「その中でも一番大きいのは負けたくないからだ」

最原「……あなたのすべてを論破して、僕は仲間を連れて外に出る」

最原「それが今、僕が前を向ける理由だ」

巌窟王「……本気なのだな?」

最原「うん」

ナーサリー(……ふふっ。ここまで想われて、伯爵もさぞ嬉しいでしょうね)

ナーサリー(あんなに真っ直ぐ見据えられて。余程憧れている……いえ、憧れていたんでしょうね)

ロムルス(うむ。師の教え、師の生きざまを超えようとする貪欲さもまたローマである)ウンウン

巌窟王「……」







巌窟王(そこまで嫌われていたか……)ズーン

アンジー(全然気付いてないなー。まったく気づいてないなー)

夢野「さて。そろそろじゃな。インターバルを終えなければ……全体的なタイムリミットまでもう時間がないぞ」

天海「次は一体どんな問題が……って考えるまでもないっすよね。今まで放置されてた謎とギミックなんて一つしかないっす」

王馬「え? そんなのあったっけ?」

白銀「わざとだよね。わざと忘れたフリしてるんだよね。キーボくんだよ」

キーボ「……」

王馬「ああ! ずっと置物化してたからすっかり忘れちゃってたや! ごめんごめん!」

王馬「ところでアレ、なんだっけ? 鉄屑の力身に着けた鉄屑マン?」

キーボ「……」

王馬「……ごめん。この状態のキー坊をいじっても一ミリたりとも面白くないからもうやめるね」ショボーン

百田「別に頼んじゃいねーよ! 誰も!」

入間「どっちの進路に進むとしてもキーボは邪魔だし、どっちの進路を取るとしてもキーボ抜きじゃ完全勝利と程遠い」

入間「何度かメンテしてるからどういう仕組みかはある程度頭にゃ入ってるけどよ……」

入間「完全破壊はナシだぞ! 俺様でも流石に、キーボの人格と記憶の復旧は不可能だ! そこら辺は正真正銘のブラックボックスだかんな!」

東条「真面目な話なのだけれども……巌窟王さんを撤退させ、セミラミスさんの霊核を破壊した今のキーボくんに勝てる当てはあるの?」

巌窟王「クハ……クハハハハハハハハハ!」

巌窟王「クハハハハハ! 当てはあるか、だと? クハハハハハハハ!」キョロキョロ

巌窟王「クハハハハハハハハ……」アタフタ

夢野「ん。なんか挙動不審になっておるぞ」

ナーサリー「ないのよ。勝機が。だから笑って誤魔化している間に『何か勝機ないかなー』って探してるのよ」

巌窟王「勝機ならある! 素の状態でも一パーセント程度はな!」

巌窟王「セミラミスも抱き込めたのだから、これで勝率は五分五分まで上がったと言ってもいい!」

巌窟王「……決め手に欠けるだけだ。キーボの人格をどうにかしなければ俺たちの完全勝利はありえないのだから」

最原「もしもそんなものがあるのなら、だけど。僕が絶対に見つけるよ」

最原「誰かの知られたくない秘密を暴くよりは遥かに楽な作業だし、アクビが出そうだ」

巌窟王「クハハ! いつの間にそんなタフな台詞が吐けるようになった?」

巌窟王「……」

巌窟王「……成長したな」

最原「……」テレテレ

入間「イチャついたり対立したり忙しいヤツらだなぁ」

モノクマ「それじゃあ、そろそろ準備できたかな? できたよね?」ワクワク

巌窟王「次は一体、どのサーヴァントを人質にした? パールヴァティとかなら頭を抱えるぞ」

東条「インド神話の女神もいるの? 一体どんなサーヴァントなのか一度会ってみたいわね」

ナーサリー「写真はあるわよ。結構頻繁に遊んでくれるいい人だから」タプタプ

最原(スマフォ……)

ナーサリー「この人よ」

パールヴァティの写真『』シャクティー

最原「BBさんじゃんっ!!」ガビーンッ

百田「え!? コイツがBBなのか!?」

最原「……ん? いやなんだろう。僕たちが見たときよりもちょっと大人びてるような……気のせいかな」

モノクマ「ご期待にそえなくて残念だけど、今回は特にそういうことはないんだよね」

モノクマ「人質を用意する必要がないからさ」

夢野「それもそうじゃのう。最後の設問じゃから区切りはもうない」

夢野「タイムリミットはキーボが切る最後の『おしおき』。つまり今回、秤にかけられている命はウチらのもので事足りるじゃろうし」

ロムルス「ついでに私たちの命もカウントされているだろう。もうこうなれば否が応にも一蓮托生である」

百田「おう。悪ィな。巻き込む形になっちまって」

最原(軽いよ……)

ロムルス「許す」

最原(こっちも軽かった……)

モノクマ「それじゃあ! これが正真正銘、最後の設問!」

モノクマ「カモーーーン!」

最原「……カモン?」



ズ……



最原「……は?」


ズ……ズズズズズ!


ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!


赤松「んむぐう!?」

赤松(な、なにこの揺れ……? いや、揺れよりなにより、なんか空気が変!)

赤松(息をする度に寿命が二倍速で減っていくようなプレッシャーがある。いや……)

赤松(やってくる!?)

ナーサリー「な、なにあれ!? 初めて見るわ! 大きいわ! とても!」

ロムルス「……」

最原(裁判場に浸食してくる『何か』。壁や天井に一切の破壊を与えず、ゆっくりと広がっていく。僕たちを覆うように)

ロムルス「……?」





ロムルス「根、か? これは」

最原「……何これ!? 明らかに物理世界の法則に従ってない……裁判場全体の雰囲気を飲むこの禍々しい気配!」

最原「明らかに魔術……いや! それ以上の何かだ!」

巌窟王「モノクマ。なんだこれは。どこでこんなものを手に入れた?」

モノクマ「視聴者からのプレゼントの一つなんだ! 名前は確か……く、く……『ウンコ樹』……?」

入間「ウンコ!?」ガビーンッ

モノクマ「あ、いやもうちょっと下品な言い方だったかな。く、くーそー……『クソ樹』?」

入間「クソ!?」ガガビーンッ

モノクマ「とにかくその『クソ樹』の苗らしいよ。成長するといいことがあるんだって」

モノクマ「『ンンンンンンこれがこの世界に正しく植えられた暁にはあなたの仇敵は一匹残らず屍となっておりましょう!』とかなんだとか」

モノクマ「『誰かに見せる世界であったが故に、異なる星の神も異なる目で視聴していた。なんともはや』とも言ってたなぁ」

巌窟王「どこの誰かは知ったことではないが、余計なマネをしてくれる」

ロムルス「どこの誰かはわからぬが!」

ナーサリー「どこの誰だかまったく心当たりがないわ! 多分時系列的な問題で!」

ネコアルク「ンンンンンンンン拙僧の! 拙僧の肉球が! 赤松嬢! 拙僧の肉球が回転を! 赤松嬢!」ギュリイイイイイインッ!

赤松(何故急に口調を変えて……)

巌窟王「……具体的にわかることは少ない。だがたった一つだけわかることがある」

巌窟王「これは危険だ。キーボとは別件で、選択肢を間違えれば大事になる。世界が滅ぶ滅ばない以前にすべてが台無しになるような……!」

最原「……これの切除の方法も後で考えないと。でも現時点で、これに関しては単なる演出だと考えて問題ないと思う」

春川「多分健康に害はないしね。とは言っても、このプレッシャー……本物だよ。絶対にこれは放置しちゃダメ」

春川「早く終わらせよう! 私たちの世界がこれ以上おかしくなる前に!」

最原「それよりも早く! 正しく!」






最原「この世界(ダンガンロンパ)を! 僕たちの手で終わらせる!」

モノクマ「はいはーい! それではこれが正真正銘、最後の設問でーす!」


デデンッ


モニター『キーボの人格と記憶を元に戻す方法の有無を答えよ。ある場合は証拠もご一緒に』

東条「……妙な出題形式ね?」

獄原「これって……ない場合は答える必要がないってこと?」

モノクマ「その通りです。ギブアップはいつでも受け入れます!」

モノクマ「更に、ギブアップした場合においても裁判そのものの進行になんら影響はありません!」

巌窟王「よく言う。事はもう裁判どころではないだろう」

星「巌窟王。お前さんの意見が聞きたい。ギブアップは安全だと思うか?」

巌窟王「毛ほども思わないな。この正体不明の白い根を見ろ。モノクマ好みの答えを安直に答えれば、おそらくなにかが起こるぞ」

巌窟王「そうだな。ナーサリーライムは虚構の世界と結界のプロフェッショナルだ。こっちに引き継ごう」

ナーサリー「別にそこまで詳しいつもりはないわ。人だってたんぱく質でできてるけど、別に全員化学が得意なわけじゃないでしょう?」

ナーサリー「……それを差し引いても断言できることはあるけども」

王馬「つまり?」

ナーサリー「諦めたら一生後悔しても足りないようなことが絶対に起こるわ!」

ナーサリー「知ってるのよ! 私もこういう趣向やったことあるから! というか攻撃方法が大体こんな感じだから!」

百田「つまり有ろうが無かろうが関係なく、キーボが元に戻る方法を何が何でも見つけるか……」

王馬「最悪の場合、捏造するかしないとダメってことね。『ない』と答えることは許されない」

王馬「ナイトメアモードすぎないかなぁ?」ニシシ

巌窟王「わざわざギブアップ推奨のルールと、ギブアップしたら何が起こるかわからないシチュエーションを用意したくらいだ」

巌窟王「暗に『キーボを元に戻す方法がある』と答えたも同然だな」

茶柱「でも少し考えた程度でパッと出てくるような場所にはないでしょうね。あったら全員気付いてるでしょうし」

最原「目の前にあった。だから気付かなかったってこともあるよ」

王馬「心理の盲点ってヤツかな? それなら猶更、きっかけがないとわからないよね」

赤松「……!」

赤松(待てよ。確か、あのときセミラミスさんは……)

赤松「ん! んんん!」ジタバタ

天海「ん。どうしたんすか赤松さん……って、その状態じゃ喋れないじゃないっすか」

赤松「ん! ん!」チラッチラッ

天海「え? セミラミスさんに目配せしてるっすけど、どうしたんすか?」

天海「……あっ」




セミラミス『この常識外れのスピード……! 今まで出力を抑えていたな……』

セミラミス『は、ははっ。バケモノ……め……巌窟王のときですら本気でなかった……か』

赤松『もうやめてよキーボくん! 正気に戻って!』

セミラミス『よせ……! 新世界プログラムを破壊した今となっては、そんな叫びに何の意味もない』

赤松『え?』





天海「そうだ。ずっと気になってたことがあったんす。大した発言じゃなかったんすけど」

天海「何故か、あのときのセミラミスさんの言葉がずっと頭の端に引っかかって……!」

夢野「セミラミスがそんなことを? こやつなら知っておるのか。キーボを元に戻す方法を!」

入間「よし! 今すぐコイツを起こせ! 赤松! 超音速振動で貧乏ゆすりしろ!」

赤松「んんーん!」ムリムリ

入間「よ、よせよ……今そんなこと言われても、俺様はそんな安い女じゃねぇぜ……」テレテレ

赤松「むぐう!?」ガビーンッ

白銀「……違うよ。多分大幅な解釈違いだよ?」

百田「起こしていいもんか?」

巌窟王「やめておけ。コイツにはこの後大仕事が残っている。新世界プログラムの中に鍵がありそうだと証言してくれただけ丸儲けだ」

巌窟王「心当たりはあるか? 場所が限定できたのだから、特定はしやすくなったはずだぞ」

アンジー「……!」ピコーンッ

アンジー「……」

巌窟王「?」

巌窟王『アンジー。どうした?』

アンジー『……終一なら絶対に知ってるよ。揺さぶってみて』

巌窟王『ム? そうか。わかった』

巌窟王「最原。貴様は既にわかっているはずだな? 答えは得ているはずだ」

最原「ん……」

最原「言っていいの?」

アンジー「いいよー。責任は取らないとねー」

巌窟王「……何?」

最原「アンジーさんが真っ先に壊した」

巌窟王「は? 何を……またハッタリじみた言いがかりか? バカも休み休み」

巌窟王「……アンジーが壊したものが、キーボを元に戻す手段?」

巌窟王「……!?」ガビーンッ





巌窟王「ぐうううううううああああああああああああああああああっ!?!?」

回想


赤松『アンジーさん!』

赤松(巌窟王さんから降りてかけよる。ゴン太くんと星くんが、やっとのこと私たちに気付いたようだった)

星『赤松……』

獄原『……ご、ごめん。赤松さん……間に合わなかった、みたい?』

赤松『二人とも。何を見て……!』

赤松『……それ……誰……?』


回想ここまで




巌窟王「そうか……そうか! そういうこと……か!」ガタガタ

百田「んだよ! 急に大声出しやがって! ビックリするじゃねぇか、なあ!」

ナーサリー「……あら? なんか急に静かになったわね。お通夜のよう」

真宮寺「当然だヨ。だって希望が既に打ち砕かれていたことを僕たちは今まさに認識したからネ」

天海「最原くんの……アルターエゴ……」

春川「……なに? それ」

天海「新世界プログラムの中で俺たちが見つけたプログラムっすよ」

最原「あれのお陰で僕はダンガンロンパの記憶を一部分だけ元に戻すことができたんだ」

最原「つまり、あのアルターエゴは記憶の復元ができるんだよ」

夢野「……いやー。待つんじゃ。ちょっと待つんじゃ。白銀は確かこう言っていたはずじゃな」




白銀『でもあそこからはデータを全部引っ越しさせちゃったから、もう何も残ってないっていうか……』

白銀『そもそもそれも新世界プログラムの崩壊と一緒に粉々になってるよね? 残骸相手にしても時間の無駄じゃない?』




夢野「新世界プログラムは崩壊したはずじゃろ? ウチはてっきり『キーボを元に戻すカギを誰かが持ち帰ってきている』と思っていたんじゃが?」

夢野「持ち帰ってきておるんじゃよな!? 誰か! セミラミスは!? 巌窟王は!? 生徒の誰かは!?」キョロキョロ

巌窟王「……俺たちは最原のアルターエゴにまったく触れていない!」

夢野「ひっ……!?」

巌窟王「唯一接触したのはアンジーだが……!」

アンジー「徹底的に壊しちゃったんだよねー。私情でさ」

余裕ぶっこきすぎた。まだ帝都ミッション90にも満たないので今日はなし!

最原「これは予測でしかないから、あくまでも可能性。実際のところは『彼』をこの場に連れてくるなりしないとわからない」

最原「でももうそれは不可能だからさ。モノクマ。答えてくれる?」

モノクマ「……」

最原「今のところはそれっぽい傍証しかないんだ。そこまでカッチリする必要ないだろ?」

最原「どうせ最後なんだしさ」

モノクマ「うぷぷ。『違うよ! それは全然まったく関係ないよ!』って言葉を期待してたのかな?」

モノクマ「ボクがそう言えば予測できるからね! ああ、あれが違うのなら他の場所に他の方法があるんだってさ」

百田「御託はいい! どうなんだ! モノクマ!」

モノクマ「関係あるに決まってるじゃん! もちろんです! あの最原くんのアルターエゴこそが、ボクと白銀さんの用意した最後のギミックだよ!」

百田「……ぐっ……!?」

モノクマ「ボクと白銀さんの用意した、最後のギミックだよーーーんっ!」ギンッ

春川「二度言わないで。うざったい」

東条「……まずいわね。これは。新世界プログラムが崩壊する以前に、あのアルターエゴは完膚なきまでに叩き壊されている」

東条「既に叩き壊されたものがキーボくんを元に戻す手段だとモノクマが証言した以上は……」

真宮寺「他の方法は望み薄。キーボくんを元に戻す方法は完全消滅した……そう考えていいヨ」

夢野「ま、待て! 待つんじゃ! さっきの白銀の卒業アルバムの件を忘れたのか!」

夢野「この場にはマザーモノクマの権限をすべて手に入れたセミラミスがおるんじゃぞ! アルターエゴ一体の復元程度……!」

巌窟王「時間が足りない。魔力も足りない。セミラミスの霊基が持たない。しかもセミラミスの専門外」

巌窟王「アルターエゴはいわば仮想生命だ。生命である以上、そう簡単に修繕はできない。一度壊れたらそれまでと考えた方が自然だ」

巌窟王「そして最後だ。これが一番重要な点だが」

夢野「な、なんじゃ……? 他にもっと絶望的な情報があるというのか!?」ガタガタ

巌窟王「白銀の卒業アルバムではない! 俺の卒業アルバムだ!」ギンッ

夢野「……」

総勢「……」

夢野「……ご……」







夢野「ごめんなさい……」ショボーン

最原「謝らなくていいよ! 巌窟王さんが極端に空気読んでないだけだから!」ガビーンッ

獄原「みんな! もうちょっと考えてみようよ! 少しくらい心当たりはない!?」

獄原「ゴン太、頭が良くないからよくわからないけど、それでもこの話の流れだけは絶対にまずいよ!」

獄原「だってキーボくんを助けることができなくなっちゃうんだよ!?」

白銀「ごめん。少なくとも私が関知してる限りでは、これ以外にキーボくんの人格と記憶を復活させる方法に心当たりが無い……」

天海「あ、いや。最悪、直さなくてもいいんじゃないっすか?」

獄原「天海くんっ!」

天海「誤解しないでほしいっす! 今は直す方法がなくてもいいって言ってるだけ!」

天海「外の世界に行ってから存分に調べればいい! そうしたらあるはずっすよ! 事実、白銀さんとモノクマなら作れてるっすよね!」

巌窟王「確かにこの場で作れるものであるならば、外の世界に出ればあるだろうな?」

巌窟王「だがキーボを破壊せずに制圧する方法が、果たしてあると思うか?」

天海「えっ?」

巌窟王「よく考えろ。外の世界に出たころに、コイツが無事でいるはずがないだろう」

巌窟王「流石に『最後の最後まで敵意と殺意を捨てない武装キーボ』を相手に、この場にいる俺たちが完勝できる余地は皆無だ」

巌窟王「どこかの時点では確実にキーボには戦意を喪失して貰わなければならない。さもなければ俺が死ぬか……」

キーボ「ボクが完全に破壊されるか」

最原「!」

王馬「重要な局面では喋るんだなー」

王馬「……あ、違うか。喋らされてるんだね、これ」

キーボ「断言します。ボクの人格と記憶を復元することはもう不可能です」

キーボ「ボクはタイムアップと共に、あなたたちを破壊します」

キーボ「名目、お題目はいくらでも。あなたたちを破壊する理由は揃いすぎています」

東条「度重なる校則違反。セミラミスさんの権限乗っ取り。外の魔術師の自己防衛。確かに私たちを殺す理由はより取り見取りでしょうね」

百田「どうする! 正規手段がないと断言されちまったぞ! 他にイレギュラーな方法はねぇのか!」

百田「このままじゃどんな最高の結末を迎えようとキーボだけはその場にいなくなっちまう!」

巌窟王「……カルデアからのバックアップはどうだ?」

ナーサリー「もう無理よ。ダ・ヴィンチが抑えてるわ。BBも未だに昏倒中」

ナーサリー「むしろ伯爵。あなたの宝具は使えないのかしら?」

巌窟王「相手がロボだからな……それに人格や記憶は専門外だ」

ナーサリー「……ロムルス」

ロムルス「回復宝具はない。あったとしても没収されていただろう」

ロムルス「事実、槍は回収されてしまったしな。『槍ではない方』に関してはその限りではないが」

ナーサリー「そんなもの持ってたの?」

ロムルス「……」ゴニョゴーニョゴーニョゴーニョ

ナーサリー「そんな便利なものがあったのね。後で必要になりそうだから温存しててもらえる?」

ロムルス「ローマ!(了承の意)」ビシイッ

巌窟王「そういえば貴様も結界宝具持ちだったな……」

最原「?」

巌窟王「……ちっ。面倒なことになった。流石にこの期に及んでキーボを破壊するなど御免だぞ。完全勝利をしたいのはこちらも同じだ」

天海「なにか……! なにかないんすか! 逆転の一手は!」

最原「あるよ」

天海「……そっすよね。そう簡単に見つかったら苦労はしな――」

天海「え?」

巌窟王「最原……今、なんと言った?」

最原「大丈夫。僕たちは勝つ。ピースはこの場にすべて揃ってる」

最原「キーボくんは正統派の手段で復元可能だ!」







モノクマ「……はあっ!?」

モノクマ「いやいや……いやいやいや! 最原くん! ハッタリもそこまでにしなよ!」

モノクマ「ていうか本当に今回は何の裏もなく、あの最原くんのアルターエゴは壊されちゃってるの!」

モノクマ「ボクを動揺させたところでもう新事実は出てこないよ!」

ロムルス「ふむ。確かにモノクマの先の反応は素だった。どうやらモノクマは本気で『キーボを助ける方法はない』と思っているらしい」

モノクマ「でしょ~~~?」ニコニコ

白銀「なんでロムルスさんが真偽判断してるの。というかできるの……?」

ロムルス「皇帝特権で直感を拝領した」

白銀「????????」

巌窟王「ひとまずロムルスがこう言っているのなら、少なくともモノクマの知っている範囲でキーボの復元手段がないというのは本当だ」

最原「モノクマの知らない範囲にあるんだよ」

最原「……順繰りに考えてみよう。本当に、あのアルターエゴのデータを獲得できた人は、アンジーさん以外にいなかったのかな」

最原「あのアルターエゴをアンジーさんが損壊した後、僕たちは彼の処遇をどうした?」

天海「どうもこうも、修繕するしかなかったから、修繕してもらったっすよね」

最原「誰に?」

天海「そりゃあ、BBさんに……」

天海「……?」

東条「まさかとは思うけども、BBさんがアルターエゴのデータを手に入れていたはず、と論理を発展させるつもりかしら?」

最原「僕はそう考えてる」

真宮寺「ダメだヨ、最原くん。その方向ではデータは手に入らない。BBさんは僕たちの目の前で力尽きて消えてしまったんだヨ?」

真宮寺「交霊術でも行わない限り、彼女と僕たちが逢うことはもう不可能なのさ……」

最原「BBさんにデータを託された人が、この中にいるとしたら……?」

巌窟王「バカな。そんなヤツがいたとしたら、今頃とっくに証言しているはずだろう」

巌窟王「それとも発言権を失った赤松が持っているとでも?」

赤松「むうー!」ナイナイ

巌窟王「……ないと言っている」

最原「BBさんがなにを考えていたのかは、彼女がこの場にいない以上、もう確かめようがない」

最原「でも彼女は最高の仕事をしてくれた」

最原「今! この局面で! モノクマや視聴者たちの不意を突くようなタイミングでわかるように!」

最原「……託された本人すらわからない形で託したんだ!」

巌窟王「そこまで言うからには、誰がBBの遺産を受け取っていたのか見当が付いているのだろうな?」

獄原「だ、誰? 誰が受け取っているの!?」キョロキョロ

最原(BBさんの遺産を受け取った人……それは!)




人物指定


→巌窟王



最原(これが僕の答えだ!)

最原「巌窟王さん。さっきから実は気付いてるんだよね?」

最原「気付いてる上で、その可能性から目を逸らしてるんだよね?」

巌窟王「……なんのことだ?」

ナーサリー「……!」

最原「巌窟王さん。BBさんの遺産を受け取ったのは、あなただ」

巌窟王「……」

赤松「むぐ!?」

巌窟王「……そうか。何を根拠に言っている?」

最原「消える間際のBBさんの言葉だ。裁判の直前に至るまで意味がずっとわからなかった」

BB『そろそろ……限界ですね』

最原『BBさん……!』

BB『……楽しかったですよ。あなたたちをサポートしていた時間は。とっても』

BB『巌窟王さん。ハリボテ以外にも一つプレゼントがありますので。期待しててくださいね』

BB『……バトンタッチです。後は任せました』ニコリ





最原「もう一つのプレゼントって何? 今まで巌窟王さん、その話だけはしてなかったよね?」

巌窟王「……」

巌窟王「ふん。らしくないことをするべきではなかったか」

巌窟王「一つ、間違いを正そう。俺はこの事実を悪意で隠していたわけではない。ただ……」

最原「ただ?」

巌窟王「これの正体が俺にもわからないからな。どういう使い方をすれば正解なのか俺にもわからない」

巌窟王「箱詰めにされている上に『揮発性だからいざというときまで温存で』と走り書きされているようなアイテムだ。そう簡単に期待させられるか」

天海「さっきから具体性が大分欠けてるんすけど……巌窟王さん、BBさんから何渡されたんすか?」

天海「今すぐちょっと見せてくれないっすかね?」

巌窟王「無理だな。俺がBBから渡された……と思われるものはただの『刻印』だからな。しかも目に見える場所に刻まれてない」

天海「刻印?」

アンジー「ああー。これBBがやったんだ? 途中から気絶してたから全然わかんなかったよー」

アンジー「……BBを犠牲にした事実を受け止めるのが怖かったの?」

巌窟王「……」

アンジー「甘えんぼさん。だから自分で言わずに終一に指摘させたんだねー」

巌窟王「アンジー」

アンジー「……ごめんなさい」

ナーサリーライム「……星マークはない?」

アンジー「ん? 刻印の説明文に? あるよー。というかそれしかないねー」

ナーサリーライム「なら確定よ。BBは正体不明だとか測定不能のステータスを★のマークで表すの」

ナーサリーライム「一度見たことがあるから間違いないわ」

入間「なら刻印がBBからのプレゼントってことはまず確定ってわけか。どうにか精査する方法はねーのかよ」

ナーサリーライム「あるわ! 使ってみればいいのよ! まあ使ったらどうなるかわからないけども! 消滅とかしたら最悪ね!」

入間「最悪ね、じゃねーんだよサイコロリ! こっち命かかってんだぞ!」

巌窟王「どう考えてもアイツにも時間がなかった。仮にこれが人格の復元プログラムだったとしても不具合の一つや二つあるだろうな」

巌窟王「一度使ったら消滅してしまう、だとかの不合理な回数制限があっても不思議ではない」

ロムルス「技術と時間さえあればデータの複製そのものはできるかもしれぬ」

ロムルス「その刻印を使った瞬間のデータを記録。その後、どうしたらそれを再現できるか逆算すればいいという理屈だ」

百田「技術の方はなんとかなるとして、時間の方は無理っぽそうだな」

百田「つまり『状況証拠から人格の復元プログラムだという可能性が高い必殺技』を使えるのは結局、一回限りってことだ」

春川「しかも可能性が高いってだけだからまったく別のプログラムである場合もある」

春川「……私たちはそのBBのことをほとんど知らない。五分五分よりずっと低い可能性に見えるよ」

入間「ん? 待て待て。技術の問題をどうやってクリアするって?」

百田「なんとかしろ入間!」

入間「俺様頼みかよッ!?」ガビーンッ

百田「なんだ、できねぇのか?」

入間「できらぁ! ……いややっぱりムズすぎるっつの! 俺様はハードはともかくとしてソフトの方はそこまでだぞ!」

王馬「なんだぁ。技術の方もクリアできてないね? がっかりだなぁ。入間ちゃんはやっぱり見た目通りのクソブス肉便器ちゃんのままだったね」

入間「泣いていいか!? 無様にのたうち回り大声上げて小便漏らしながら泣いていいか!」

巌窟王「ロムルス!」

ロムルス「ローマ!」ギュウウウウウ!

入間「ぎゃあああああああああああああああ!? 大いなるローマに抱擁されて心が安らぐぅーーー!?」

夢野「……纏めるとこうじゃな? 『その刻印を使ったところでキーボが元に戻るかは疑問が残り、しかも使うチャンスも一度限り』と」

夢野「リスキーすぎるのう」

最原「……巌窟王さん。この中でBBさんを一番知ってるのは、多分あなただ」

最原「彼女は一体、何を考えてそれをあなたに託したんだと思う?」

最原「それを判断できるのはこの中ではたった一人。巌窟王さんだけだよ」

巌窟王「……そうだな。俺にとってアイツは……」



BB『こんにちはー。アヴェンジャーキラーのムーンキャンサーでーす! 敵対したらお注射しますのでそのつもりでー!』



巌窟王「アイツは……」



BB『あっれー! 巌窟王さんあっれー!? ギリギリNP溜まってないように見えますけど、あっれーーー??????』ニヤニヤニヤニヤ



巌窟王「……」



BB『え? お注射が嫌い? あはは! おバカさんですねぇ! 別に敵対しなければ刺しはしないとは言ってませんけどぉ?』ケタケタケタケタケタ



巌窟王「死ぬほど忌々しかったな……」ズーン

ナーサリーライム「敵にも味方にもとにかく悪ふざけ全開だったわね……」

ロムルス「……」フッ

赤松(あの優しさ全開のロムルスさんが遠い目に!)

巌窟王「だがヤツは異常な凝り性だった」

巌窟王「……無意味なことはしない。少なくとも自分自身で無意味だろうと思っていることは絶対に」

巌窟王(俺が長くないこともヤツは知っていたはずだ。この学園生活で完結するような効能の刻印でないわけがない)

巌窟王「断言はできない。だがヤツを信じてみる価値はある。俺はそう思う」

バルバトス滅の刃してくるので今日はなし! 狩るぞ!

貴様ァァァ! 逃げるなァァ! 鯖落ちで逃げるなァァァ!

最原「話は纏まったね。ナーサリーライムさんから興味深い証言も貰ったし」

ナーサリー「あら? そうだったかしら?」

最原「その刻印の効果を検証するにはまず使ってみなければならない、だっけ?」

ナーサリー「ああ、言ったわね。ちなみに使い方は簡単よ。それって多分、コマンドコードだと思うもの」

入間「こま……なに? コマシコード?」

ナーサリー「指令紋章、コマンドコード。つい最近カルデアで試験運用されているシステムよ。BBったらちゃっかりデータを拝借してたのね」

ナーサリー「攻撃を当てる、あるいは攻撃をすることによって効果を発動する簡易魔術で、能力は様々」

ナーサリー「自分自身の回復。相手への状態異常付与。その他、単純に攻撃力を上げたり特攻を付与したり……」

ナーサリー「あのBBがわざわざプレゼントしたものなら、多少効果が無茶苦茶でも不思議じゃないわ」

百田「聞けば聞くほど、それを作ったヤツは凄かったんだな」

百田「……いなくなって惜しいって思うぜ。俺も」

最原「さて。設問の内容は、なんだったっけな?」

モノクマ「……」ダラダラダラダラ

最原「僕が代わりに言おうか。キーボくんの人格と記憶を元に戻す方法の有無を答えよ。ある場合は証拠もご一緒に」

最原「でもさ、今言った通り、この証拠が本当に答えなのかは使ってみないとわからないからさ」

最原「……今ここで使わせてくれるよね?」ギンッ

モノクマ「ざなどぅ!」ビクウッ

茶柱「拒否ることは許しませんよ。設問として出したのはあなたです」

茶柱「今更、引っ込めるとなったら転子たちが納得しない……どころか、外にいる視聴者だって納得するかどうか」

アンジー「なんてったって、いくら魔術師がこの放送を見ていようが、この裁判は番組という軛からは逃れられない」

アンジー「逃れられているのならとっくのむかしにアンジーたちは死んでるだろうしねー?」

モノクマ「ふぁざなどぅ!」ビクビクンッ!

最原「さあ! モノクマ!」

巌窟王「すぐ使わせろ! 今使わせろ! 言い訳の余地はもうとっくにないぞ!」

巌窟王「貴様自身の設問ならば歪めることは容易だったろうが、これは視聴者からの設問なのだからなァ!」ギンッ

モノクマ「……ぐ……ぐ、ぐ……!」ガタガタ

百田「おいおい。コイツは一体どういうこったよ」

王馬「この設問は最初から出来レースだったんだよ。モノクマは新世界プログラムごとキー坊が元に戻る可能性が霧散したことを知っていた」

王馬「だからこそこんな設問を堂々と出すことができた。俺たちに最後の最後で仲間を切り捨てさせるために」

最原「反撃の機会をくれたのはBBさんだ。あの世界でのモノクマは監視権限が使えなかった。BBさんがあらかじめセミラミスさんから没収してたから」

最原「それに、まさかあの短時間でアルターエゴのプログラムをコピーしただなんて思わなかったはずだ」

巌窟王「BBなら可能だぞ。そこそこ機転も利くヤツだからな」

最原「この刻印の効果が物凄く下らないものだった場合、逆に追い詰められるのは僕たちだよ」

最原「でももし! キーボくんの人格復元プログラムなら!」

夢野「後に残るのは選択肢だけ。人類をぶっ壊して出るか、可能性を信じて出るかの二択じゃ」

茶柱「活殺自在ってヤツですね。笑えますよ。この賭けに勝つだけで、転子たちは外の世界を逆にどうこうできる立場になる」

王馬「あっはっはっはっは! 笑える結末だよね! 散々俺たちを虐めてきた連中が、今度は逆に俺たちにビクつくんだ!」

王馬「結末はどうあれ、それ自体がこれ以上にない復讐劇だよねぇ!」

キーボ「……」

東条「乗ってみる価値のあるギャンブルね」

星「ふっ。思えば随分と遠くまで来たもんだ」

巌窟王「終わりだ、モノクマ!」スタスタ

モノクマ「あっ! 待っ……!」

巌窟王「待たない。外の世界と、才囚学園との決戦の舞台。勝者は俺たち――」

巌窟王「――才囚学園の復讐者だ!」ブンッ








キーボ「まだですね」ガシイッ

巌窟王「……!?」

巌窟王(攻撃を……受け止められた!)

キーボ「処理が巻き戻しになります」

巌窟王「……巻き戻しだと? 何を言っている?」ギギギッ

巌窟王(腕がまったく動かん)

キーボ「早まり過ぎです。上部のモニターを見てください」

巌窟王「モニター?」

モノクマ「え? モニター?」



モニター『大正解! コングラッチュレーション!』テッテレー




巌窟王「……」

最原「……」

全員「……」

全員「何だってーーーッ!?」ガビビーンッ

百田「お、おい! どういうこったよ! まだ証拠を提示してねーよな!? それを逆利用してキーボを元に戻そうって話だったよな!?」

春川「モノクマ! どういうつもり!?」

モノクマ「え!? 何!? どういうこと!? 教えてえらえら偉い人!」キュッキュッキュー

モノクマ「ヒアウィ、ヒアウィ、ヒアウィ、ヒアウィゴー」チュキチュチュキチュチュキチュ

夢野「ダメじゃ! モノクマも動揺のあまりDJ化しておるぞ!」

白銀「動揺のあまりDJ化!?」ガビーンッ

最原「モノクマに視聴者の設問を無理やりどうこうする権限なんか無かったはずだ! あったら今ごろセミラミスさんを殺してる!」

最原「視聴者の設問を途中で切り上げることができる誰かがいたとしたら、それは……!」

巌窟王「外の世界の視聴者としか考えられない、か……」

巌窟王「……くは」

巌窟王「クハハハハハハハハ! ああ、愉快だ! そこまで追い詰めていたか、俺たちは!」ゲラゲラ

アンジー「笑ってる場合じゃないと思うけどなー」

巌窟王「クハハハハハハハハハハハハ……!」

アンジー「……?」

ナーサリー「認めちゃったわね? このプログラムが逆転の一手だって」ギンッ

最原「……!」

最原(……裁判場の雰囲気が変わった。違う!)

最原(裁判場に殺気が満ちている! どこから? いや、誰から!?)

最原(決まってる! こんな気配を人間が出せるわけがない!)

百田「……おい。息が詰まるぜ。ちょっと気配を緩めろよ」

ロムルス「……」ニコニコ

最原(だ、誰一人として改善しない! 何がそんなに嬉しいんだ?)

ナーサリー「認めちゃったのなら仕方がないわよね」

ナーサリー「……BBの残したプログラムが、本当にくだらないものだった可能性を自分で潰したわけだけども、どんな気分かしら?」

キーボ「……」

春川「……どういうこと?」

巌窟王「聖杯戦争を一度体感してみればわかる。魔術とはほとんど理屈のこじつけで万能の効力を発揮する異能だ」

巌窟王「先ほどセミラミスは学園の全権を掌握した自分のことを神だと自称していたが、とんでもない!」

巌窟王「この学園に神がいるとしたら、この学園を作り、試聴し、楽しんでいる者に他ならないだろう!」

ナーサリー「この場をやり過ごすためだとは言え、随分と軽はずみなマネをしちゃったわね」ニヤニヤ

ナーサリー「一度認めちゃったのだから、もう訂正できないわよ?」

ロムルス「……境界を跨いだな」

最原「巌窟王さん? みんな? 一体、何を言ってるの?」

巌窟王「クハハ! 今はわからなくてもいい」

巌窟王「……BBの遺産については心配するな。必ず活用する」

最原(……ここまで言い切るなんて。彼らには一体、何が見えたんだ?)

百田「そっか。んじゃ任せるな」ケロリ

最原「さっきからちょいちょい軽いよ百田くん!」ウワァ!

百田「終一。ちょっとはアイツらの立場になって考えてみようぜ」

百田「俺は多分、大事な仲間が一人でも欠けたら夜に枕に泣き散らかすぞ」

最原「……うん。僕もそうだと思うけど……?」

百田「キレてるぜ。コイツら。たった今気付いたことだけどよ、ハナからブチっとな」

最原「!」

サーヴァント一同「……」

最原(当然だ……なんで気付かなかったんだ、僕は!)

最原(BBさんがいなくなったら一番怒るのは、どう考えても僕たちより先にこの人たちだろう!)

巌窟王「フン。そんなことはいい。俺たちは自分の身を心配していればいいのだからな」

巌窟王「……ともかく、これでだ」

巌窟王「問題の答えはすべて揃ったな?」ニヤァ

アンジー「モノクマが急に裁判のルールを変更、追加しなければだけどねー」

茶柱「よしてくださいよ。この局面で更にとなったら転子、流石に暴れますよ?」

獄原「モノクマ……!」

モノクマ「……ふうー」

ごっさ鼻血が出て怖くなったので今日は更新なし!

ビキイッ……

最原「!」

最原(周りを覆ってる白い植物が……動いた? いや、成長してる?)

最原(なんだろうこれ。今まで嗅いだことのない匂いがする。放射線とか出てないだろうな……?)

モノクマ「そこそこいい感じに根を張ってきたかなぁ。あと少しかも」

巌窟王「……」

モノクマ「そう睨まないでよ。ちゃんとオマエラの功績は評価してるからさ!」

モノクマ「うぷぷ。ここまでよく頑張りました。学園長、嬉しい!」オヨヨ

巌窟王「もう貴様は学園長でもなんでもない。こっちの赤松の膝枕でダウンしている真っ黒ボロ雑巾が学園長だ」

赤松(言い草酷ッ!)ガビーンッ

セミラミス「ぐー」スヤァ

モノクマ「さてと。それじゃあ、後のプランはたった一つ。この学園を出るか否か……に関してはとっくに結論が出ているからパス」

モノクマ「この学園を如何にして出るか。後に残ってる議論はそれだけだよ」

モノクマ「制限時間は……」





アト 0ジカン 40フン 56ビョウ




百田「意外と残ってるじゃねーか」

東条「そうは言っても、この残り時間が現してるのは私たちの寿命そのものよ」

入間「ああ。いい気はしねーよな」

モノクマ「さて! それじゃあ、すべての議論を終え、残すところは進路選択だけとなったオマエラにボクからプレゼントがあります!」

巌窟王「プレゼントだと?」

モノクマ「しゃきーんっ!」バッ

最原(ん? 鍵だ)

モノクマ「はいぶすーっ!」ガチャリッ

最原(あ、手元の鍵穴に刺した)



ズゴゴゴゴゴゴゴゴ!


最原「!?」

獄原「裁判場が……!」

王馬「揺れて揺れ揺れあばばばぶぶぶぶぶぶ」ブルブルブルブル

百田「いやいくら揺れてもそうはならねーだろ! プリンか!?」ガビーンッ

白銀「なっとる! やろがい!」

巌窟王「何をした……!?」

モノクマ「本来なら、オマエラのことを見ている視聴者の顔をリアルタイムで映すためのギミックだったんだけどさー」

モノクマ「そろそろいいかなって」

巌窟王「……!?」

モノクマ「この密封性は偶然。本来、ここに魔術由来の何かを呼び出す気なんて無かったんだから」

モノクマ「でも実際には閉じ込めることができた。閉じ込めることができてしまった」

モノクマ「……さあ、概念の存在を汲み上げる器の完成だ。サーヴァントの強大な魔力を延々と注ぎ続けたらどうなる?」

モノクマ「それは膨大な魔力リソース。無計画に開放すれば外の世界を壊滅させかねない程の」

ナーサリー「……まさか」

モノクマ「人の抱えたあらゆる願いを叶える密室」

モノクマ「形而上のものを組み上げ、物質に変換する奇跡の産物。それをオマエラは一体、なんて呼んでる?」

モノクマ「巌窟王さんなら答えられるよね?」

巌窟王「……」


1.聖杯
2.聖杯
3.聖杯

巌窟王「なるほどな。魔力を溜めておける器に、相当量の魔力を注ぎ込めば一つや二つ程度、できるか」

ナーサリー「……肩入れした女神サイドにも問題があったわね。ごめんなさい、きっかけは私よ」

最原「え?」

巌窟王「この才囚学園は聖杯だ! 正確に言うなら、聖杯の内側となっている!」

最原「!?」

春川「正気で言ってる……? いや、聖杯の定義が魔術の世界ではどうなのかは知らないけどさ」

春川「もし本当にあんなものが存在するのなら、もうこの場の誰にも手が付けられないんじゃない?」

百田「伝承の上での聖杯と同じなら、不老不死だの願いを叶えるだの、スケールが大きすぎてピンと来ねぇよな」

百田「つーかそんなもんがあるんなら俺たちのことを無事に出してくれって願うだけに決まってんだろ」

巌窟王「おそらくだが、それは無理だな」

百田「あ? なんでだよ」

巌窟王「お前も聖杯の一部だぞ」

百田「は?」

巌窟王「モノクマも、白銀も、モノクマーズも才囚学園の校舎もこの裁判場に至るまですべてが聖杯だ」

モノクマ「そう! ニューダンガンロンパV3は変性する!」

モノクマ「現実を嘘で塗り替え、物語は歴史となる!」

モノクマ「偽物は本物となり、外の世界は丸ごとすべてオマエラの礎に変わる!」

天海「……バカげてる! いや、さっきまで人類をぶっ壊せるかもって議論してた俺たちに言えた義理じゃないのかもだけど!」

天海「モノクマ! お前は今! まさかそれを望んでるって言うんすか!?」

白銀「まさか……モノクマ、あなたは」

白銀「視聴者の味方ですら……なかった……!?」

モノクマ「うぷぷぷぷぷぷ……!」

最原(……裁判場の揺れが強くなっている! まさか、足場が壊れたりしないよな?)



ビキビキビキイッ!



赤松「むぐう!?」

最原「案の定壊れてるよーーーッ!」ガビーンッ

ドガラガラガシャアアアアアアアアアアアアンッ


入間「ぎゃあああああああああああ!? こ、これ落ちっ……落ちてっ、落ちてるだろおおおおお!?」

獄原「入間さん! みんな! ゴン太に捕まって!」

星「……なんだこれは! 裁判場の地下にこんな巨大な空間があったら……!」

東条「建築学の何もかもが成立しないはずよね」

茶柱「いや冷静に分析してる場合じゃっ……これどこまで落ちるんですかーーー!?」

王馬「死ぬーーーっ! ヒャッホーーーウ!」

春川「……!」

百田「ハルマキ! ハルマキ! 『今ならどさくさに紛れて殺せる』とか思ってねぇよな!?」

春川「……ちっ」

百田「思ってたんだな!?」ガビーンッ

真宮寺「これは……いくらなんでも穴が深すぎないかい?」

夢野「……」シーン

天海(気絶してる!)ガビーンッ

セミラミス「ぐー」スヤァ

赤松「んむぐぐがおおおおおおーーーッ!(特別意訳:この人まだ寝てるよーーーッ!)」

白銀「まさか底がない……?」

巌窟王「アンジー!」

アンジー「……!」

最原(気の遠くなるような時間だったけど、実際はそこまで経っていないはずだ。タイムリミットがあるんだから)

最原(でもそうやって落ちて落ちて落ちて落ちて、落ちた先で、気が付くと……)

モノクマ「はい到着です!」

最原「……ここは……」

最原(壊されたはずの校舎がすべて元通りになった、才囚学園……?)

最原「……違う。これは……この景色は才囚学園じゃありえない……」ガタガタ

最原(だって、そう。今、僕たちの周りには……!)





白銀「果ての壁が……ない……」

モノクマ「正確には、壁はあることにはあるんだよ。ずっと遠くに。霧状の壁的なものが」

百田「……おいおいおい。なんだよこれ。いくらなんでも広すぎんだろ……」

最原(時刻は深夜だけど、空にはあつらえたような満月があるのでちっとも暗くない)

最原(果ての壁があったその場所から、ずっと向こうまで草原が広がっていた。ところどころに花畑がある以外は本当に何もない)

モノクマ「現実ではありえない光景でしょ? その内に、オマエラのものになるかもしれない世界だよ」

巌窟王「なんだと?」

モノクマ「あの樹の仕組みは相変わらずよくわかんないんだけどさー、用意が十全なら世界を変えてしまえるんだって」

モノクマ「今見えている光景は幻。あるはずのない幻像。でもあの根さえ下りてしまえば話は完全に別になる」

白銀「教えてモノクマ。あなたは一体、何をするつもりなの?」

モノクマ「知りたい? 知りたい? なら教えてあげましょう! 一から一万まで!」

春川「一から十まででいいよ……」

モノクマ「人類史ダンガンロンパ化計画! それがボクが! 誰の意思でもなくボク自身が実行している計画の名前だよ!」ギンッ

最原「人類史……ダンガンロンパ化計画……?」

モノクマ「あの根を下ろして人類史を改変してフィクションに過ぎないダンガンロンパの世界で人類史を上書きしたいと思いますハイお終い!」

天海「説明が早すぎる!」ガビーンッ

巌窟王「バカな。この学園の嘘の記録を、外の世界の正史にするだと……? そんなことできるはずが……」

モノクマ「できないと思うんならそれでもいいよ。でも、あの根があれば本当にできそうだっていうのがボクの見解」

モノクマ「……ま、必要なものは色々あったんだけどね。サーヴァントをこの場に呼び寄せたりとか?」

ナーサリー「私とイシュタルとジャガーマンは自分の意思でこの学園に来たのよ? 呼び寄せられた気はないわ」

モノクマ「ロムルスさんは?」

ナーサリー「……あっ」

夢野「……そうじゃな? よく考えたら、なんでロムルスがこの場にいるんじゃ? ジャガーマンからもこやつの話は聞いたことがないぞ?」

ロムルス「ローマ故に」

夢野「全然わからん」

最原「いや。ローマが関係あるかどうかはわからないけど、方法自体はわかるよ」

最原「これに見覚えはない?」バサッ



ビクウッ


春川(ん。なんだろう。誰か今、ビクついたような……?)

百田「んん……? なんだそれ」

最原「研究論文。ざっくり言うと『学園からの脱出の可能性』について書かれてる」

最原「かなり個人的な研究だったみたいでさ。こっそり秘密裏に行われて、こっそり秘密裏に葬られたみたいだ」

夢野「葬られた……ってことは、要は失敗したってことじゃろ? 成功してたらとっくに全員で脱出していたか」

東条「さもなくば一人で脱出してそのまま帰ってこないか、ですものね。でも今の私たちは誰一人として欠けていない」

最原「でも部分的に成功したことはあった。だよね?」

??「……」ビクビク

最原「……とぼけなくていいよ。入間さん」

入間「おぎゃぱあっ!?」ガビーンッ

真宮寺「また入間さんか……相変わらず余計なことをしてくれるよネ」

入間「赤松よりはマシだろうがボケッ!」

真宮寺「まあそうだけどさ」

赤松「むが!?」ガビビーンッ

茶柱「みなさーん。流れ弾で赤松さんを殺さないでくださいねー」

最原(ていうか落ちた後もまだ拘束されてるのか……)

最原「部分的には成功した、と言ったのはさ。要は穴を開けることには成功したんだ。向こう側に通れなかっただけで」

最原「で。その穴の向こうの世界って、どこだったと思う?」

百田「は……? いや、どこも何も、穴の向こうは穴の向こうだろ。俺たちが視聴者って呼んでる連中が住んでる……」

最原「半分正解。ナーサリーさんやBBさんとかも間違いなく視聴者には違いなかったしね」

ナーサリー「……まさか、とは思うのだけれども……」

ナーサリー「ねえ。まさか。まさかよ? その穴の向こうの世界って……!」

最原「巌窟王さんのホーム。巌窟王さんがカルデアと呼んでいる場所だよ」

巌窟王「!?」バッ

入間「ひ、ひい!? こっち見んな!」

最原「内容はこうだ。最初に巌窟王さんを召喚した魔法陣の応用。これを使って巌窟王さんが元いた場所に逃げられないかと入間さんは考えた」

最原「でもこの計画は様々な理由で頓挫した。まず穴を開けたはいいものの、入間さんはその向こうに行けなかった」

最原「穴の大きさの問題じゃない。なんらかの強制力が働いて、こちら側の人間は向こう側に行けないんだよ」

最原「ある程度のところまでは進めるらしいんだけどね」

巌窟王「それは……第一の学級裁判のときの!」




天海『さて。入間さんのアリバイは?』

入間『え、えーと俺様は……地下にいたぜ……?』

百田『あ? 何言ってんだ。作戦会議に来なかっただろ、テメェ』

入間『そっちじゃねぇ! 別の地下だ!』

最原『まさか……裏庭のマンホールの中のこと言ってるの? デスロードに通じてる』

入間『そう! それだ! 巌窟王が外からやってきた魔法陣はそっくりそのまま残ってたからよ!』

入間『それを開けて、俺様たちが向こう側に行けないかどうかの実験をしてたんだ!』




天海「……半分成功してたんすね!? ていうか今の今まで忘れてたっすよ!」ガビーンッ

天海「じゃあ、つまりロムルスさんもその穴を通って……!?」

東条「待って。話がおかしいわよ。それって入間さんが秘密裏に行っていた研究を、モノクマか白銀さんが奪わないと成立しない話よね?」

王馬「学園全体を監視してたんだから奪うことくらい余裕っぽいけどなぁ」

最原「実際そうだったんだろうね。この論文にははっきりと『白銀さんに目撃された。妙な質問もいくつかされた』ってハッキリ書かれてる」

最原「そして……この論文を奪った白銀さんは、あるものをカルデアから持ち去った」

真宮寺「それは……?」

最原「セミラミスさん。正確に言うと、セミラミスさんが入っていたゲームだよ」

巌窟王「そうか……コイツの侵入経路もずっと謎だったが、入間の作った穴から入ってきていたのか」

ナーサリー「あくまで魔術の素人考えだけれども、その穴は『サーヴァントを呼ぶ道』と『巌窟王の転送経路』が混線した結果産まれたものね」

ナーサリー「いわば偶発的に誕生したちょっとしたポータル。でもあくまでサーヴァントを呼ぶための道である以上は……」

ロムルス「一方通行、ないしサーヴァントしか通れない特殊な道となっているはずである」

白銀「あのゲームを持ち去ったのは、ちょっとした偶然だよ」

白銀「……面白そうだなって思ったから、ちょっと貸してもらったんだ。全部終わったら巌窟王さんに返すつもりだったし」

白銀「ていうか勝手に持ち去るだろうし」

巌窟王「……」

アンジー「『いやあ流石にあれはちょっと……』って思ってる顔だよー」

セミラミス「今、ナルシスはカタルシスに……むにゃむにゃ」スヤァ

赤松(なんか変な夢見てる)

白銀「面白半分に新世界プログラムに組み込んでみたら、中には謎のアルターエゴはいるし、聖杯もあるし、手に負えないってわかったんだけどね」

巌窟王「何故デリートしなかった?」

白銀「居座られたから……しかもちょっと怖い勢いで権限を無理やり奪い取られたし……あのナチュラル横暴ムーブには従わざるを得ないって……」

巌窟王「……」

アンジー「『流石にちょっと同情する』って顔だねー」

邪ンヌピックアップで爆死したので今日はなし……ライネス嬢は大勝利だったはずなのに……

百田「どうだロムルス。テメェは一体どうやってここに来たんだ?」

ロムルス「テルマエ用の入浴剤を探していた折、ふと目の前が真っ暗になった。おそらく背後から麻袋かなにかを被せられたのであろう」

ロムルス「襲撃犯が自分より遥かに小さい体躯であることだけはわかったので、暴れるのも気が引けた」

ロムルス「故に、流れに身を任せ、気が付くと……」

巌窟王「あのロケットの中に鮨詰め状態になっていたということか……」

最原「でもなんでロムルスさんを……?」

モノクマ「あの樹の説明書に書いてあったんだよね。根を下ろした後は、あの樹を育てる王のようなものが必要だって」

モノクマ「強力な権能を持っていればひとまず王として成立するらしいから、それっぽいのをあっち側の世界で物色することにした」

モノクマ「それで! たまたま見つけたのが、入浴剤を探していて隙だらけだったロムルスさんだったってわけ!」

ナーサリー「……まあ、どんな空間であれそれを支配する王さまはいた方がいいわよね」

モノクマ「今となっては、別にセミラミスさんでも構わないよ。権能自体は持ってるし、権力に関してもボクから奪い取った」

モノクマ「むしろ動機がある分、彼女を説得した方がいいかなとも思うよ。まさかここまで生き残るなんて思わなかったから予定外だけど」

巌窟王「貴様の考えるダンガンロンパ化した異界の王にか?」

モノクマ「あの樹の力を使えば、延命くらいは充分可能だよ。いや? なんならサーヴァントとして復活することもできるかもね?」

赤松(……確かにそれを聞いたら、セミラミスさんにも動機がありそう)

モノクマ「で。ロムルスさんはどう?」

ロムルス「今日から才囚学園の理事長となったローマである」キラキラキラキラキラ

夢野「もうやる気になっておる! タスキかけておる!」ガビーンッ

東条(『今日から理事長』……?)

ロムルス「というのは当然冗談である」ポイッ

最原「あ。捨てた」

ロムルス「……ただし。この場にいる生徒たちを守れるというのであれば、選択肢の一つとして考えてもいいだろう」

茶柱「さ、流石にこんなトンチキ計画を成立させるわけにはいきませんよ! 気遣いはありがたいですけど!」

モノクマ「ボクの言う通りにすれば、キーボくんを簡単に止められるけど?」

キーボ「!」

最原「……なんだって?」

モノクマ「だってさー。今は確かに『視聴者の意思』でロムルスさんやナーサリーさんのサーヴァントの力を大部分没収してるけど」

モノクマ「あの樹を使えば少なくとも、ロムルスさんかセミラミスさんがサーヴァントとして復活するんだよ?」

モノクマ「これでサーヴァント級の力を持ったキーボくんを制圧できる駒が巌窟王さんと合わせて二人」

モノクマ「見る限り、キーボくんの戦力は『サーヴァント一騎程度なら余裕を持って倒せる程度』だから……」

白銀「もう一体のサーヴァントがいれば、制圧力が逆転……!」

獄原「楽にキーボくんを助けられるってこと!?」

巌窟王&最原「!?!?」ガビーンッ

モノクマ「以上が、ボクがオマエラに捧げるプレゼント」

モノクマ「『最原終一の進路』と『巌窟王の進路』に並ぶ第三の選択肢! 『モノクマの進路』だよーーーんっ!」ギンッ

百田「ざけんなっ! 一体これまでどれだけテメェに苦しめられてきたと思ってる!」

百田「今更テメェの用意した進路なんざ選ぶわけねーだろ!」

モノクマ「感情論でボクの進路をけっぽるのは自由だけどさー……現実問題、あと二つの進路って博打じゃん?」

モノクマ「どっちにしろキーボくんを最終的に制圧することが前提になってるけど、それをしくじれば……」

星「……俺たちは一巻の終わり。死んで終了。ジエンドだ」

星「なるほど。確かに聞いた限りではモノクマの進路にもメリットはあるか……?」

百田「星。本気で言ってるわけじゃねーよな?」

星「……フン。俺は思い知っただけさ。この学園の中で戦うことの虚しさをな」

星「何もかもが嘘でフィクション。俺も、お前さんらも、モノクマも」

星「……同じなんだ。俺たちも、モノクマも。この学園にいる時点でな。白銀を庇っているお前さんならわかると思うが?」

百田「……」ギリッ

真宮寺「……嘘を本当にできる、か。それが本当なら僕もこの進路を推したいところだネ」

春川「真宮寺……!」

モノクマ「うぷぷ。そうだよねー。真宮寺くんの場合、嘘になったら困るものがたっくさんあるもんねー」

モノクマ「いいんじゃない? ならボクはキミの意思を尊重して――」






真宮寺「だが断る」

モノクマ「なっ!?」ガーンッ

真宮寺「ククク……美味しい話には裏がある。そんな言葉に僕が引っかかるとでも?」

モノクマ「……」

春川「……どうしたの真宮寺。『本当なら僕もこの進路を』ってくだりに関しては完全に本気っぽく聞こえたけど」

真宮寺「そこに関しては間違いなく本気だヨ。でもさ、よく考えて」

真宮寺「最原くんも巌窟王さんも、自分の進路のデメリットを懇切丁寧に説明してくれたよネ?」

真宮寺「じゃあモノクマは?」

百田「……んん。言ってない……か?」

百田「いや。絶対に言ってねぇぞ!」

モノクマ「……うぷぷ」

獄原「そっか! 真宮寺くんはそのデメリットに気付いたんだね! だからあっさりその進路を突っ撥ねたんだ!」

獄原「それで! そのデメリットって?」ワクワク

真宮寺「いやさっぱりわからないんだけど」

獄原「さっぱり!?」ガビーンッ

真宮寺「でもネ。すべての設問が終わってタイムリミットが迫るこのタイミングで、二つの進路よりも優れているように聞こえる進路が出るってさ」

真宮寺「どう考えてもおかしいヨ……何かあるって考えるのは至極当然でしョ?」

最原「人間には急なタイミングで都合のいい選択肢をチラつかされると『その選択肢を選ぶデメリット』の方を優先的に排除しにかかる心理がある」

王馬「詐欺の常套手段だよね。幸運のツボを売りましょうって言って相手が買うかどうか迷ったタイミングであえて引くと……」

王馬「『買うことのデメリット』の方を優先的に排除して、かなりの人数が引っかかるんだよ。『やっぱり買う。買わせてくれ』ってね!」

王馬「いや俺はそんな詐欺やったことないけど!」ケタケタ

夢野「あえて言わんでいい。余計に疑わしくなる」

東条「私たちが焦って冷静な判断能力を失うタイミングでの有利な条件」

東条「……なるほど。この疑念こそがある意味で『モノクマの進路のデメリット』ね」

ナーサリー「物語を歴史に改変するような危険物よ? 下手を打つと、私たちカルデアが後であなたたちを排除しにかかる未来もあるかもしれないわ」

最原「時間的に、もう『モノクマの進路のデメリット』は『謎』のままにしておくしかない」

最原「……僕の進路の方も出た後の可能性に賭けるって点ではモノクマと似たり寄ったりだけど、モノクマの進路は度を越してるよ」

モノクマ「……あれ?」

モノクマ「あれ? あれ? あれれれれれ? 本当にボクの進路を蹴っちゃうのー?」

天海「くどいっすよモノクマ! 選択肢としてぶっちぎりでアンフェアなんだから、モノクマの進路だけは圧倒的に論外っす!」

モノクマ「んー。じゃあこんなメリットを更に提示しようか。この進路だと巌窟王さんとお別れしないで済むよ?」

巌窟王「何?」

アンジー「……」

最原「……えっ」

モノクマ「あの樹が成長した暁には王に選んだサーヴァントだけでなく、一人程度のサーヴァントを完全治癒させるには充分なリソースが得られる」

モノクマ「更に、この空間だとサーヴァントが王なんだよ? なら今の才囚学園と同様に、新しい世界もサーヴァントがいて当たり前の空間になる」

モノクマ「ねえ? このメリットなら揺らがないかな?」

最原「……」

最原(正直ちょっと揺らがないでもないけど……)

最原「ありえない! だって巌窟王さんには帰るべき場所がある!」

最原「僕たちに帰る場所が無くっても、彼にだけはそれが存在する! だから論外だよ!」

アンジー「ないけど?」

最原「ん? アンジーさん、今なんか言った?」

アンジー「彼、もうどこにも行けないけど?」

巌窟王「……!? アンジー! よせ!」

最原「……?」






アンジー「彼はもう終わり。この学園生活が終わったら、どこにも行けない」

最原「……は?」

巌窟王「……」

巌窟王「……」カチカチ

天海「ゲームやり始めた!」ガーンッ

白銀「ていうかそれもやっぱり私のゲーム機だよねぇ!? 勝手に触らないで!?」

最原「なんでサーヴァントのみんなは誤魔化すのがとにかく下手なんだろう……いや今はそんなことは後回しでよくって」

最原「アンジーさん! どういうこと!?」

アンジー「BBから聞いた。彼はもう、帰る場所がないんだって」

最原「なんで!?」

ナーサリー「……ああ。なるほど。そういうこと……伯爵、あなた『変容』しちゃったのね」

巌窟王「……」

ナーサリー「もう既にあなたは巌窟王ではない別の何かに変わりつつある。だから無理なのね」

アンジー「……」




BB『巌窟王さん。あなたはもう今の私と同じなんです』

BB『カルデアのアヴェンジャーと才囚学園のアヴェンジャーは明確な別個体になりつつある』

BB『カルデアには霊基が登録されているから再召喚は容易ですが……』

BB『ここにいるあなたはもうどこへも行けない可能性があるんですよ』

巌窟王『……』

アンジー『……え』




最原「よくわからない……よくわからないけども!」

最原「巌窟王さん! どうして!? それを僕たちに、もっと早い時点で相談してくれれば別の可能性だってあったはずなのに!」

巌窟王「キーボの復旧方法を見つけたようにか?」

巌窟王「ないぞ。今回ばかりはどうしようもない。これはまず間違いなく貴様の専門外だからな」

最原「……!」

最原(考えろ! 考えろ! なにか……なにか裏技は……!)

入間「……お、俺様の論文を使うのはどうだ!?」

最原「!」

夢野「おお! そうじゃ! それがあったのう! 消える前にカルデアに戻ればよい! 後はどうとでもなるじゃろう!」

巌窟王「無理だな」

夢野「んあ? なんて?」

巌窟王「……才囚学園のものは、強制力が働いて向こう側に行けないのだろう?」

入間「え? あ、ああ……それは間違いないけどよ……」

巌窟王「問題の根が同じなのだ。俺は才囚学園のアヴェンジャーとなってしまった。だからその方法でも俺は帰れない」

夢野「……い、入間……? 別の理論は……ないのか?」

入間「……」

入間「ヒャーーーッハッハッハ! ねぇよ! そんな都合のいいもん、都合よく持ってるわけねーだろうが!」

夢野「んあ!?」

入間「で、でもよ……これまでなんとかしてくれただろ?」

入間「こ、今回もなんとかしてくれるよな!? ダサイ原!」

最原「……」

入間「……最原ぁ……!」

巌窟王「もうやめろ入間。なんて声を出している」

入間「……」

巌窟王「……人知れず葬った、か。なるほど。『俺をカルデアに帰したくないがため』に論文を隠滅したのだな?」

巌窟王「そうでなければ、俺が帰れないという話になった途端にすぐ論文を使う発想に至れない」

巌窟王「……それをよく、この場で! クハハ! 随分と成長したものだな!」

真宮寺「……巌窟王さん……」

巌窟王「真宮寺! 貴様もだ! モノクマの進路をよく真っ先に突っ撥ねた! 強い誘惑であっただろうに!」

真宮寺「……!」

最原「……」

最原(ああ。そうか……この二人に共通することがある。アンジーさんを殺そうとしたことだ)

最原(この局面で、それを忘れたかのような発言……強い激励の言葉……)

夢野「よせ巌窟王……そんなっ……しょんなこと……!」ズビッ

入間「は、はは……なに言ってんだ。おい、ブスロリ。なんで泣いてんだよ……天才の俺様にとってはなんてことねぇ言葉だろ」

入間「『遺言』受け取ったみてぇな反応してんじゃねぇよッ! やめろ、泣くな! お、俺様も……我慢できなく……ぶうっ」ボロッ

真宮寺「……ありがとう。巌窟王さん。今の言葉だけで僕は前に進める覚悟ができた気がするヨ」

巌窟王「そうか! そんなつもりはなかったがな!」ギンッ

百田「……死ぬってことか? この学園がぶっ壊れたら、巌窟王は」

巌窟王「概ねその理解で問題ないな」

百田「ざ……ざけんなっ! それならモノクマの進路だって、その一点だけで充分検討可能だろうが!」

巌窟王「絶対にNOだ! 何をバカなことを言っている!」ギンッ

百田「ッ!」

巌窟王「アイツの言う通りになることだけは俺が許さない……! どう考えてもあの樹は異質だ!」

巌窟王「万が一カルデアを敵に回せば貴様らはどっち道お終いだぞ! 俺のホームを甘く見るな!」

ロムルス「……無論、それでもいい。足掻けるだけ足掻きたいというのであればローマが力を貸すが」

巌窟王「囀るな、神祖。この進路だけは取らせるべきではない」

ロムルス「確かにカルデアには実績がある。もしもこの空間がカルデアに睨まれれば、速やかに切除にかかってくるだろう」

ロムルス「だが――忘れたか? 人類最後のマスターは、彼らと同じ程度には『柔い』」

巌窟王「……!」

ロムルス「条件は同じなのだ。ぶつかればどちらが勝つかは、やってみなければわからない」

茶柱「……やってみなければわからない、ですか。いいですね。それ。転子好みの言葉です」

巌窟王「茶柱!」

茶柱「……でも」

茶柱「転子は最原さんの選んだ道に従います」

最原「!」

茶柱「どれも同じくらい正しく聞こえます。いえ、きっと全部正しいんです」

茶柱「この世に本当の正しさが存在するとすれば、それはきっと自分の心の中だけ」

茶柱「……嘘じゃない、本当の真実があるとするなら、自分の感情だけです。それなら……転子は……!」

茶柱「最後の最後まで、信じたい人を信じたい!」

最原「……」

最原(ああ、そうか……真実から目を逸らさないことを選んだ僕は……)

最原(もう絶対に立ち止まれないんだな)

巌窟王「さて。最原。俺を失望させるなよ……と言っても、こういうときは必ず決めるからこその貴様だったな」

巌窟王「俺を救う方法はあるか?」

巌窟王「モノクマの進路以外の方法で、俺が生き延びる術はあるか?」

最原(……そんなものは……)

最原「ないよ」

最原「……そんな都合のいいもの……あるわけないだろ……!」

百田「終一……!」

夢野「最原! お主、これまで頑張ってきたじゃろ!? キーボを救う方法だって見つけた! 白銀だって庇ってみせた!」

夢野「お願いじゃ! お願いじゃから、そんなことを言わんでくれ!」

夢野「……助けられるじゃろ……お主に無理なら、もう……誰にも……」グスグス

赤松「……」

入間「……上っ等じゃねぇか……もうテメェみてぇな役立たずに頼んのはやめだ」

夢野「入間……?」

入間「俺様はモノクマの進路を選ぶぜェ! 誰が何と言おうがもう知るかボケェ!」

王馬「……ふーん。それが入間ちゃんの答え? 対して巌窟王ちゃんはなんて言う?」

巌窟王「絶対にやめろ。やめた方がいい。死にたいのか?」

入間「死ぬような目には何回も遭ってきただろうが……今更すぎんぞクソが!」

星「この進路の場合、そこのロムルスが手伝ってくれるんだろう? それならいくらでもやりようがある」

赤松(……セミラミスさんは……どう反応するだろうな。多分、味方にはなってくれるだろうけど)

赤松「……」

モノクマ「さて! それじゃあ! 残り時間が少なくなってきたところで、最後の投票のルールを説明しましょう!」

最原「投票……?」

春川「最後……って?」

モノクマ「ルールは今までの投票と同じ! ただし、今回はクロではなく今まで出てきた三つの進路の中から一つを選んでもらいます!」

モノクマ「そして、今回の投票の特別ルール! これが一番大事だから絶対に聞いてね!」

最原「特別ルール……?」

モノクマ「白銀さん含め、巌窟王さんを除いた生徒十六人全員の選んだ進路が同じ場合にのみ投票が有効!」

モノクマ「それ以外の場合、強制的にモノクマの進路に従ってもらいまーす!」ギンッ

獄原「んなぁっ……!?」ガーンッ

春川「……最悪。そんなのアンタだけが圧倒的に有利じゃん」

モノクマ「ああ、安心して。タイムリミットになるまで投票は何回でも受け付けるから」

モノクマ「それ以外の場合っていうのは平たく言って『タイムリミットまでに進路が決まらなかった場合』のことだよ」

巌窟王「バカめ! 貴様のルールなぞ今更知ったことか! 勝手にアレをぶっ壊してしまえばいい!」

巌窟王「ぶっ壊して……?」キョロキョロ

巌窟王「……??????」

アンジー「あー。そういえばさっきから、あの白い根が見えないねー」

百田「あ? んなバカな! あんな目立つもんがそうそう簡単に消えるわけが……」キョロキョロ

百田「……本当にねーぞ!? どうなってんだ!」ガビーンッ

モノクマ「最原終一の進路か、巌窟王の進路を選んだ場合にのみ出してあげる。今はボクが隠してるから見えないだけだよ」

白銀「……最後の最後まで忌々しいマスコットだったよ。あなたは」

モノクマ「うぷぷ」

最原「……」

最原「もうこれ以上は時間の無駄だね」

巌窟王「そうだな。俺も同感だ」

最原「……十六人全員の意思を統一することが勝利の条件なら」

巌窟王「復讐を遂げるための前提なら!」






最原&巌窟王「そのルールのまま突っ切るまでだッ!」ギンッ

最原「みんな! 一回目の投票だ!」

東条「……もうやるの? 意思統一も何もできていないと思うのだけど」

最原「それでいい! みんなの主張が、今どこにあるのかを調べるためだけの投票だから!」

巌窟王「その後で、別の主張を持つ連中を押し込めて押し込めて押し切ってやる! 『スクラムのように』な!」

百田「おっしゃーーー! 気合入れていくぜ! まず最初の投票だ! モノクマ!」

モノクマ「了解しましたー! それではみなさん、お手元のスイッチで投票してください!」

モノクマ「……あ。赤松さんにはこの特別性モノパッドを渡すから、そこで投票してね。スイッチに手が届かないし」

赤松「むぐ……」ジャラッ

モノクマ「投票の結果、選ばれる進路はどれなのか!」

モノクマ「さあ! 張り切って行ってみよー!」バァーーーンッ



ガシャコンッ



最原(あ。モノクマの後ろから巨大液晶が出てきた……)

最原(時間が惜しい! 投票はできるだけバラけないでくれ!)


最原終一の進路
・最原
・春川
・百田
・茶柱
・白銀
・天海

巌窟王の進路
・赤松
・アンジー
・東条
・真宮寺
・王馬


モノクマの進路
・入間
・星
・夢野
・獄原

無効票(投票放棄)
・キーボ


最原「……!」

最原(もっ……物凄いバラけてる! これを統一しなきゃなのか!?)ガビーンッ

巌窟王「投票の内訳が出るのか。薄々勘付いていたことだが、こうなると普段の投票とは別物だな。何が『今までの投票と同じ』だ」

百田「この意見をどれか一つに統一しなけりゃ、モノクマの進路直行か」

百田「……ん? 投票放棄……? キーボ?」

キーボ「……」

王馬「おおっと。これはかなーり厄介かな……キー坊が投票を放棄したってことは、視聴者が投票を放棄したってことと考えていいんだよね?」

最原「構わないよ。最後の最後にキーボくんを僕たち全員で相手すればいい」

巌窟王「Wave1でモノクマの進路を始末。Wave2で最原の進路を始末。Wave3でキーボを始末……余裕だな」

天海「い、いやいや……この中で視聴者にとって一番マシなのは最原くんの進路っすよ?」

天海「反対に、巌窟王さんの進路を選んだら外の世界は滅茶苦茶になる。それが一番マズイことじゃないんすか?」

巌窟王「そうでもないのだろう。最原の進路の場合、脱出した生徒の中には魔術的武装を解除されていないキーボも含まれている」

巌窟王「それで才囚学園の生徒全員が外の連中に交渉を仕掛けようというのだ。魔術師にとっては死んだ方がマシなくらいの屈辱だろう」

東条「それは魔術師の都合でしょう? 他の多くの視聴者はすべて魔術とは無関係の一般人のはず。それがどうして……」

巌窟王「今のキーボを動かしているのは外の世界の総意」

巌窟王「そして、総意とは良くも悪くも力の強い物が動かしやすい」

王馬「要は力任せのインチキってことか……魔術関係なしのノーマルの意見も無視してはいないだろうけど」

王馬「でも魔術師の総意に勝つほどじゃないってこと、だよね?」

ナーサリー「随分と強引な手ね。そんなことをしたら『魔術を知らない勢力を操作する別の力が存在する』ってことを大々的に知らせることになる」

ナーサリー「つまり『魔術師が実在する』ってことを自分から話すも同然なのに」

ロムルス「それだけ外の世界が追い詰められているという証左であろう」

ロムルス「……この戦果は誇れるものだぞ?」ニコニコ

最原「……ただ僕たちは議論を重ねてきただけなのに、外の世界は魔術の秘匿もあったものじゃないくらいグズグズか……」

最原「そう思うと、ちょっと面白いね。面白いけど!」








モノクマ「キミたちの未来を愛してるぅー!」待った!

巌窟王「ああ、そうだ! もっと面白くしてやろう!」

最原「時間が無い……? だからって何も変わらない! 僕たちが!」

巌窟王「俺たちが!」




――絶対に勝つ!

モノクマ「それでは! 最後の最後でバージョンアップした変形裁判場の出番となりまーす!」

モノクマ「上手く使って、意見を統一してね!」

百田「どうする。終一!」

最原「決まってる! 一番容認できないモノクマの進路から分解する!」

最原「最初の標的は『彼女』だ!」

春川「私が最原と一緒に行くよ。他は手分けして別の連中説得してて」

百田「……全員で行った方が早くねぇか?」

茶柱「アホですね! 転子たちは追い詰めたいわけじゃないんです! 全員で行ったら威圧的極まりない!」

天海「ま、そういうことっすね。白銀さんは俺と一緒で」

白銀「……本気?」

天海「本気」ニコニコ

白銀「……勝手にすればいいんじゃない?」プイ

赤松「……むぐ……」

赤松(この鎖さえ解ければ……!)

セミラミス「……ふう。あー、よく寝た」ジャラリ

赤松「えっ……? あ! 鎖が解けた!」

セミラミス「最低限は回復した。後は好きにしろ」

赤松「……!」

セミラミス「どのような結果になろうと、我はそれを必ず見るぞ。無様は晒すな」

赤松「うん。うんっ! 当然だよ! 行ってくるね!」




意見対立

意見"対"立

意見"■"立




意見乱立

議論サバイバル



どの進路に向かうべきか?

Wave1/3


最原終一の進路!
・最原
・春川



モノクマの進路!
・夢野






サバイバル開始!

夢野「『犠牲』の上に成り立つ大勝利なんぞウチは御免じゃぞ……!」

最原(僕が!)

最原「巌窟王さんは自分のことを『犠牲』だなんて思ってない! 僕も絶対そうだとは思わない!」

夢野「勝ったときは『巌窟王』も一緒じゃ! じゃなきゃ何のために戦ってきたのかわからんぞ!」

最原「春川さん!」

春川「モノクマの進路を取ったとき、『巌窟王』がどんな顔してるのか想像できない?」

夢野「イヤじゃ! ウチは魔法使いなんじゃ! 誰も彼もが『笑顔』になって欲しい! 誰も欠けてほしくないッ!」

最原(それでも……僕は!)

最原「その進路じゃ誰も『笑顔』にならない! ならないんだよ、夢野さん!」







最原&春川「それは違うぞ(よ)ッ!」

全論破!

夢野「うぎゃああああああああああああああっ……!」




ガシャガシャガシャンッ パリィィィィンッ


COMPLETE!

夢野「……」

夢野「ああ、わかっておる。わかっておるんじゃ、そんなこと! こんなことをしても巌窟王は喜ばないってことくらい!」

夢野「でもお……!」

最原「……夢野さんは最初から今までずっと『みんな』の味方だったよね」

最原「凄いよ。僕だって白銀さんの私怨を優先させてた期間があったのにさ。夢野さんはずっと、みんなのことが大好きだった」

春川「それでもずっと一緒ってわけにはいかないでしょ」

春川「……誰だって最後は一人だよ。自分が死ぬか、自分以外が全員死ぬかの違いでしかない」

春川「最後の最後にはみんな死ぬ。みんな別れる。だから今を精一杯生きるんでしょ」

春川「……アイツの場合、別れの時期がすぐそこってわかってるだけ幸運だよ。だからさ!」

最原「せめて引き留めることはしないであげよう。巌窟王さんがいなくなっても僕たちは真っ直ぐ立っていられる」

最原「そう証明してあげるのが、僕たちが巌窟王さんにできるすべてなんじゃないかな」

夢野「……証明……証明、か。くくく……!」

夢野「そうじゃなあ。ウチもアイツに唯一、むかっ腹が立ってたことがあったのを思い出したわい」

夢野「ウチは魔法使いじゃ。誰が何と言おうが絶対にそうなんじゃ。守られっぱなしの立場ももう飽いた!」

夢野「別れが避けられないというのなら……せめて!」

夢野「巌窟王に勝ってみたい! ウチらのことを舐め腐ったあの『クハハ笑い』を曇らせてやりたい!」

最原「夢野さん……!」

夢野「待たせたのう最原よ……! ウチの恩讐の炎はまだ朽ちとらんぞ!」ズギャアアアアアアン!

風邪こじらせたんで今日はなし

モノクマ「そこまで! 一回議論をストップして! 二回目の投票に行きますよー!」

モノクマ「さあ! 今度こそ票は統一できたかなー!?」

百田「終一! 夢野の説得はできたか!?」

最原「大丈夫! キチンと仲間になってくれたよ! そっちは?」

百田「……ダメだな。割とかたくなだ。寝返ったヤツは出なかったが、引き抜けたヤツもいないぜ」

最原(ということは……次の投票の結果は……!)





最原終一の進路
・最原
・春川
・百田
・茶柱
・白銀
・天海
・夢野

巌窟王の進路
・赤松
・アンジー
・東条
・真宮寺
・王馬
・獄原
・入間
・星


モノクマの進路
・なし


無効票(投票放棄)
・キーボ



百田「んなあっ……!?」

最原(二巡目の投票でモノクマの進路完全崩壊……!?)

茶柱「……巌窟王さんの方の手がこっちより早いですよ! どうなって……!」

巌窟王「クハハハハハハハハ!」ビュンビュン

アンジー「にゃはははははははははははー!」ビュンビュン

茶柱「アンジーさんの席に巌窟王さんが同席してるーーーッ!」ガビーンッ

最原「狭そう……っていうか実際狭いだろうな、あれ」

天海「説得する口が一つ増えれば、議論においての手数が増える……っていうのは単純な構図すぎっすけど」

白銀「巌窟王さんの進路の責任を巌窟王さん自身が取るって安心感が説得の大きな力になったみたい」

夢野「ウチらの進路でも巌窟王の命に関してはどうしようもないのは同様じゃが……確かにそこだけは最原の進路にはない強みじゃな」

白銀「あとあれ。あまり関係ないけど赤松さんの方にも同席者がいてさ」

春川「まさかあのウザ女帝が来てたりしてないよね……!?」

ネコアルク「にゃー!」

ネコアルク2「にゃー!」

ネコアルク3「にゃー!」

ネコカオス「にゃー!」

赤松「もぐがごげごごごげがっ……!」モミクチャモミクチャ

最原「ネコアルクにもみくちゃにされてるーーーッ!」ガビーンッ

天海「セミラミスさんに『ないよりはマシだろう。連れていけ』って言われたらしいっすよ。これまた善意百%の笑顔で」

春川「ない方がマシでしょ。何考えてんのあのアホ女帝」

白銀「ね? 関係ないでしょ?」

茶柱「どうでもいいの間違いですね!」

夢野「相変わらず赤松発言力全損状態に変わりないのー」

最原「……ともあれ、これで次の敵は決まったかな」

百田「ああ。次の敵は巌窟王の進路を推進する側だ。総力戦ってことでいいんだよな?」

最原「……」

巌窟王「……」






最原&巌窟王(引導を渡してやる――!)

議論サバイバル



どの進路に向かうべきか?

Wave2/3


最原終一の進路!
・最原
・春川
・百田
・茶柱
・白銀
・天海
・夢野


巌窟王の進路!
・赤松
・アンジー
・東条
・真宮寺
・王馬
・獄原
・入間
・星





サバイバル開始!

星「これは『清算』だ。やられたことに対価を払うのは当然の発想だろう?」

最原「百田くん!」

百田「何が『清算』だ! 命の帳尻が合ってねぇって話はさっきしたろ!」

入間「俺様たちは先に進むんだよ! 誰にだって『邪魔』させねぇ!」

最原「白銀さん!」

白銀「絶対に許さないよ。何度だって『邪魔』してあげるから」

王馬「俺はどっちでもいいんだよねー。『楽しい』方に投票してるだけでさ」

最原「天海くん!」

天海「こっち側も結実さえすれば『楽しい』ことがいっぱいあるかもっすよ」

真宮寺「とても正気だとは思えないネ。外の世界のどこに『期待』できるの?」

最原「夢野さん!」

夢野「外の世界にしておるのではない。ウチらの未来に『期待』しておるのじゃ!」

東条「私は巌窟王さんの『意思』を尊重してあげたい。彼の依頼なら、どんな理不尽でも!」

最原「茶柱さん!」

茶柱「自分の『意思』に耳を傾けてください! 最後の最後なんですから!」

獄原「怖いよ……『自分』の意見で自分の未来を変えるのが、凄く怖いんだ……!」

最原「春川さん!」

春川「甘えないで。どんな局面でも最後に頼れるのは『自分』だけなんだから」

赤松「……ぶっ……もが『希望』むぐ……」ニャーニャーニャーニャー!

最原(僕が?)

最原「ご、ごめん。『希望』って部分しかまったく聞き取れなかったよ……」

アンジー「楓はねー。これが学園のみんなの『希望』が通る進路だって言ったみたいだねー」

最原(……僕が!)

最原「多くの誰かを犠牲にしてでも勝ち取る『希望』なんてないよ!」








最原終一の進路チーム「これが僕(俺)(ウチ)(転子)(私)たちの答えだ(っす)(です)(じゃ)!」

巌窟王「違う、違う違う!!」反論!



バリッ バリバリバリガシャアアアアアアアアアアアンッ

巌窟王「クハハハハハハ! やはりな! 理屈の上で貴様に勝つことは不可能か!」

巌窟王「いや、そんなことはこの学園生活でイヤになるほどよぉぉぉぉぉぉくわかっているとも!」ギンッ

最原「やっぱり出てきたね。巌窟王さん」

巌窟王「当然だ。そして時間もないので宣言させてもらおう」

最原「……?」

巌窟王「『俺たちは投票先をもう絶対に変えない』とな」

最原「!!!!!!!」

巌窟王「理屈! 弁舌! 論破! この土俵で戦うから俺たちは負ける!」

巌窟王「ならもうやめだ! 俺たちは対話を放棄する!」

百田「んなっ……ことしたらモノクマの進路確定に……!」

巌窟王「ならないのだよ……! 何故なら、巌窟王の進路が相手にしているのは『最原終一の進路』なのだからなァ!」ギンッ

百田「あ……?」

春川「……そうか。最原の性格上、巌窟王の進路の票がもう動かないと確定したら」

最原「まあ、諦めるしかない、かな。モノクマの進路に向かうのだけは僕にとっても最悪の結末だ」

最原「だから多分、折を見てみんなに『巌窟王さんの進路に投票しよう』って提案するだろうね」

百田「!」

白銀「それは……私たちの足元を崩すようなマネだね。ここまで連れてきた最原くんが、今度は巌窟王さんの進路のためにみんなを説得するんだもん」

天海「多分俺たちは簡単に説得されるっすよね……もうそれしかないと最原くんが言ったのなら。時間もないっすし」

夢野「最原……!」

最原「……」








最原「何の切り札もないと思った?」ニヤァ

巌窟王「……何ッ!?」

巌窟王「……!」

巌窟王(いや。慌てるな! そもそも話さなければいい話……これ以降は口を開かないのが得策!)

最原「アンジーさんには巌窟王さん。赤松さんにはネコアルク。生徒についた同席者……」

最原「僕たちの陣営にいないとでも思ったの?」

巌窟王「……!?」

百田「……いるのか!? 俺たちの方にも協力者が!」

ネコアルク「どこにゃ?」キョロキョロ

ネコカオス「どこだ?」キョロキョロ

百田「どこにいるんだーーー!?」キョロキョロ




バッサァ!



ナーサリー「ここにいたのよーーーッ!」バァーーーンッ

百田「ア゛ーーーーーーーーッ!(汚い低音)」ガビビーンッ

天海「百田くんのジャケットの下から出てきたーーーッ!?」ガビーンッ

春川「!?!?」

ナーサリー「うふふふ……裁判が変形する直前に百田の服の中に本形態になって潜り込んでいたのだわ」ニコニコ

百田「全然気付かなかった……とてもビックリしたぜ……」ドキドキ

巌窟王(バカな! ナーサリーライムだと!? この局面でヤツに何ができるというのだ!?)

ナーサリー「この局面で私に何ができるのかしら?」キョトン

巌窟王(本人もわかっていないようだが!?)ガビーンッ

最原「僕の『記憶力』を貸すよ。だから一冊の本に化けてくれないかな」

ナーサリー「?」

最原「……それで証明してみせる!」

赤松(本……? そんな衝撃的な効果のある本なんてあったっけ?)

ナーサリー「ん……? ああ! この本ね! 装丁は違うけどカルデアにもあったわ!」

最原「お願い!」

ナーサリー「了解よ!」




ポンッ




赤松「……むぐうっ!?」

赤松(あれは!)




最原『実はさ。巌窟王さんと会ってから、なんとなく気分が明るいんだ』

最原『なんとかなるんじゃないかって思えてきたんだよ』

赤松『え?』

最原『……実は図書室から、モンテ・クリスト伯を借りて来たんだ』

最原『結構面白くってさ。現実に起こったことなんだ、と思うとちょっと残酷なんだけど』

最原『この人と同一人物なんだ、って思うと、なんとなく心強く思えてきちゃって』

赤松『……』





赤松(そうか……思い出した! そうだ! そうだよ! 最原くん、あの本を読んでた!)

ナーサリーライム「ナーサリーライム・モンテ・クリスト伯エディションよー!」テッテレー!

巌窟王「!?」

最原「みんな。少し耳を貸してほしい。とある復讐鬼の話をしよう」

最原「僕たちを助けてくれた優しい復讐鬼の結末を!」

――時は十九世紀半ば。とある船乗りの青年に過ぎなかった彼は無実の罪を着せられた。

彼はすべてを失った。将来を誓い合った婚約者。平穏な日々。ヒトの善性すらも。

やがて同じく無実の罪を着せられたファリア神父と出会い、導かれ、脱獄を果たした彼はモンテ・クリスト島の財宝を手に入れた。

以降、男はモンテ・クリスト伯として自らを貶めた者たちへの復讐を開始する。





入間「……いや、古典作品はそんなに知ってるわけじゃねーけどよ……それ本人が散々言ってたことじゃねーか」

入間「今更聞いて『まあビックリ』ってなる要素なんかどこにも……」

最原「ないよね。そうだよ。ここまでは本人が嬉々として語る部分」

最原「でも彼は僕たちに言って聞かせてない部分がある。調べればわかることだからっていうのもあるけど……」

最原「この局面では少し不都合だからね」

星「不都合?」

真宮寺「……あっ」

巌窟王「……」ダラダラダラダラ

最原「裁判で重視されるのは議論だけじゃない。『判例』だってそうだ。判例っていうか僕が示そうとしてるのは前例だけど」




――血塗られた復讐劇の果てに、男は、自らを構成していた悪を脱ぎ捨てた。



生徒全員「!!」



――彼は再び得たのだ。失われてしまったはずの尊きものを。


――想いを。愛を――ヒトの善性を。




最原「そう。巌窟王だからって復讐劇を最後まで成し遂げる必要なんかない」




男の名は……モンテ・クリストであることを捨てた、彼の名は。



最原「……そうだろう! 僕たちを導いた凄絶の復讐鬼――!」

最原「"エドモン・ダンテス"!」

巌窟王「……!」

最原「反論を放棄したのは失敗だったって、後悔しても遅いよ?」

最原「ここで言いたいのは巌窟王さんの前歴。『復讐劇を途中でやめた』という過去だよ」

巌窟王(コイツ……コイツ、コイツ、コイツコイツ!)ギリイッ

最原「言いたいことはわかるよ。伊達に一緒にいたわけじゃない。確かに巌窟王さんは召喚した直後の尋問で、僕にこう言っていた」





最原『本名、エドモン・ダンテス。復讐の最後の最後において愛と人間性を取り戻した男……』

最原『ここまでで何か間違っていることは?』

巌窟王『俺はエドモンではない!』

最原『え。モンテ・クリスト伯爵なのに?』

巌窟王『モンテ・クリストだからこそだ! 最後の最後に愛を得た男ではなく、この身は永遠の復讐者』

巌窟王『なればこそ、俺は間違ってもエドモン・ダンテスなどではない!』





最原「つまり復讐者として召喚された以上、エドモン・ダンテスとして救われたという結末が今のあなたには、ない」

ナーサリー「サーヴァントですもの。全盛期で召喚されるという法則上、充分ありえる話ね」

最原「あなたが巌窟王として存在している限りは、あなたはエドモン・ダンテスではありえない……」

最原「……でも、さっきこう言ってたよね。巌窟王は『別の何かに変わりつつある』って。『だから帰れない』ってさ」

巌窟王「!!」ビクウッ

最原「……具体的にどんなふうに変性してきてるのか詳しく教えて欲しいな?」

巌窟王「……」ダラダラダラダラ

最原「……予想はつくけど。巌窟王さんは自分のことをエドモン・ダンテスではないと言った」

最原「逆に言えば『エドモン・ダンテスに変わること』は『巌窟王ではなくなること』だし」

最原「更に言えば『巌窟王はエドモン・ダンテスに戻ったという前例』がある以上……」

最原「『巌窟王が何か別の物に変わる』という事実はそっくりそのまま『前例通りになっている可能性』を示すはずだ」

最原「……さて。巌窟王さんがだんまりだから、巌窟王さんの進路を取ったみんなに質問したいな」

赤松「……」

最原「そこにいる彼はかつて復讐をやめることができたんだよ」

最原「だから『復讐鬼の彼のための行動』がそっくりそのまま『復讐劇の続行』だとは限らないんだ」

最原「それを念頭に置いて、再度自分の進路を見直してほしい!」






最原「本当にその進路でいいの!? 巌窟王さんですら復讐をやめたのに!」

巌窟王「黙れ黙れ黙れ黙れ……黙れェ!」ギンッ

巌窟王「貴様……そこまでして勝ちたいか!?」

巌窟王「今ここにいる俺の存在を! 否定してでも勝ちにきたいか!?」

巌窟王「外の世界はそこまで価値のあるものか!?」

最原「逆だよ。今ここにいる巌窟王さんを正当に評価するための推理なんだ。それとも、何か間違ってた?」

巌窟王「……」

最原「限りなくそれっぽい理論を並べ立てたんだけども……」

ナーサリー「彼自身、否定する材料がないはずよ。今の自分が誰かなんて絶対にわかりっこないわ」

ナーサリー「だってマスターから一度も『名前』を呼ばれてないサーヴァントですもの!」

巌窟王「……アンジー……!」

アンジー「……はー……」

アンジー「喋っちゃったね?」

巌窟王「ぬ?」

アンジー「……対話したら負けるから口を閉ざすんじゃなかったっけー?」

巌窟王「!!」

アンジー「……」

巌窟王「……クハハ! アンジー、俺は」

アンジー「もういいや」ドカッ

巌窟王「バカなァァァァァァァ……」ヒュウウウウウウ

百田「ええーーーッ!?」ガビーンッ

最原(突き飛ばして落としたーーー!?)ガビビーンッ






セミラミス「さて! それでは思う存分遊んでくれよう! ニンテンドーラボ、如何程のものか――」

巌窟王「あああああああああああ!」グシャアッ

セミラミス「我のToy-Conがーーーッ!」ガビーンッ

ロムルス「お前のではない」

アンジー「……あーあ……台無しだなー、もー」

入間「おいおいおい! 巌窟王を落としちまってどうすんだよ!」

星「一応無事みたいだが」

赤松(セミラミスさんに蹴り転がされてる……)

白銀(気のせいかな。あの段ボールの残骸、見覚えがあるような……)

アンジー「負けでいい」

東条「……え?」

アンジー「アンジーが言うよ。絶対に彼は言わないだろうからさー」

アンジー「彼はもう負け。この進路はここでお終い。少なくともアンジーの票は終一の進路に入れるよ」

入間「!!」

東条「……いいの? それで、本当に」

アンジー「もうこれ以上は無理だよ。彼が口を開いちゃった時点で負け確定に近いしさー」

アンジー「……みんなも終一の票に鞍替えしてくれると嬉しいんだけどなー」

真宮寺「ここまで引っ張ってきた巌窟王さんの負けをマスターの夜長さんが認めた」

真宮寺「……それなら僕も、意地を張る必要はないかもネ」

入間「……ダサイ原。一つ聞かせてくれよ」

最原「なに?」

入間「なんであっさり巌窟王を助ける方法はないって言ったんだ?」

入間「……人間は消極的事実の証明はできない。『ないこと』を完全には証明できない」

入間「キーボの修繕方法や、赤松と真宮寺が破壊したパソコンの中身を探してたときはもっと必死だったよなァ……?」

獄原「……そっか。それなのになんで巌窟王さんの救出方法に関してはあっさり諦めたんだろう」

最原「理由は簡単かな。『どっちにしろ同じ』だから」

最原「……巌窟王さんが助かろうが助かるまいが、僕たちの目の前から消えるって結果は一緒でしょ。帰れるか帰れないかの違いだけだ」

獄原「は? い、いや! 確かにそれは一緒かもだけども……!」

最原「あともう一つ。これが一番大きな理由だ。彼は『助けてほしい』って思ってない。言えないとかじゃなくて本気で思ってない」

最原「……気がする」

赤松(気が!?)ガビーンッ

最原「経験則と現状を鑑みて、だけどさ。本気で助かりたいと思ってたのならもっと前の段階で気付いてたよ」

最原「だってこのままじゃどこにも行けないって事実を隠す理由はどこにもないよね?」

夢野「それは……そうじゃの。アンジーにでも助けを求めて助かる方法を大々的に探しておったはずじゃな」

夢野「それをしていないということは最初から助かる気がまったくないとしか考えられぬか」

茶柱「……どこにも行けないって辛そうな響きに聞こえますけど。それなのに彼は何故、その点に関してはノーコメントなんでしょう」

アンジー「悪くないって思ってるみたい」

茶柱「?」

アンジー「……今のイシュタルや、消滅したBBと状況は同じなんだって」

アンジー「今ここにいる『彼』がいなくなるだけで、彼のホームで再度『アンジーたちを知らない彼』を呼ぶ手筈は整ってる」

アンジー「消えるのは『今ここでアンジーたちと一緒の時間を過ごした彼』だけなんだってさー」

百田「つまり……数字の上で見れば差し引きはゼロ。損も益もない状態に戻るだけってことか?」

百田「でもよ! だからって消えてもいいって考える理由には弱いだろ!」

春川「サーヴァントといつまでも一緒にいるわけにはいかないでしょ」

春川「少なくとも私たちと一緒にずっと……ってのはナシ」

百田「ハルマキ!」

春川「心情で考えるのはよして! ダメでしょ、どう考えても! 今は利害が一致してるから一緒にいるだけ! それが大前提!」

春川「現状ですら魔術師関連で散々ヒイヒイ喘いでるんだよ! 核弾頭級の負債を無暗に抱えるわけにはいかない!」

王馬「あーらら。春川ちゃんってば本当に現実主義だね。ここまで来ると悲観主義だけど」

春川「……」

夢野「……すまぬ。お主にばっかり辛い指摘させて……」

春川「やめて。殺されたいの?」

ナーサリー「カルデアに帰すのも、何度も言うけど本当に無理よ」

ナーサリー「仮にあの状態の巌窟王をカルデアに引き込める可能性があったのだとしても」

ナーサリー「私たちの傍にいるのはカルデアの復讐者であるべきだわ。そうでなければ戦えない。マスターと一緒に歩めない」

最原「……もし、万が一巌窟王さんを延命できたとして、この有様じゃ彼の居場所はどこにもない」

真宮寺「どん詰まり……ってことだネ」

アンジー「だから、悪くないって思ってるんだってば。そんな悪いことばかり考えてないんだってさー」

真宮寺「?」

アンジー「終一と一部分だけは考え方が一緒だよ。この学園で起こった出来事のすべてが悪いことだったなんて思ってない」

アンジー「自分自身の存在が歪むような出会いと経験なら、それはきっと悪いだけのものであるはずがない」

アンジー「この学園での思い出を他ならぬ自分だけで独占できるのなら、それはきっといいことだ」

アンジー「……悪いことなんかであってたまるかって思ってるんだと思うよー」

最原「……」

赤松「……むぐぐっ……」ベリベリ

ネコアルク「にゃー……」ヒューッ

ネコカオス「あー……」ヒューッ

赤松「ぶはっ! やっと話せるようになった!」

百田「お。赤松。議論ならもう終盤だぜ」

赤松「わかってるよ。もう私たちの負け。最原終一の進路の勝ちでいい」

赤松「でも最後に最原くんに推理してほしいことがあってさ」

最原「え? なに?」

赤松「セミラミスさんはさっきなんて言いかけたのかなって。ほら」




セミラミス『別に命は重くもなんともないぞ? 質量に直して考えてみよ。どう計算してもゼログラムだ』

セミラミス『人が命を惜しむのは、命そのものが惜しいからではない。本当に恐れているのは……』




星「そんなことも言ってたな……途中で言うのをやめたんだったか」

最原「……流石にセミラミスさん本人に聞かないとわからないけどさ。多分こう続ける気だったんじゃないかな」

最原「本当に恐れているのは『命の上に乗っているものが無くなることだ』って」

春川「……」

最原「思い出とか、絆とか、快楽とか。そういう命あってのものが無くなるのが怖いんだ」

最原「だからそれが命が無くなっても消えないことが証明できたのなら……例え全部じゃなくって、一部だけだったとしても」

最原「もうそこまで恐れることは特にないって言いたかったんじゃないかな」

赤松「……言いそうだなぁ。後で確認してみる」

赤松「あの下の方で巌窟王さんと大人気なく言い争ってる、ちょっと怖い女帝サマに、さ」






巌窟王&セミラミス「こっちの台詞だァ!」

ロムルス(またハーモニーである)

ユガ・クシェートラ……空想切除完了……クッソよかった……

燃え尽きたんで今日ちょっと無理……ラクシュミーの育成もあるし……寝かせてくれ……

巌窟王「ふん! まあいい。こんな言い争いにかまけている余裕はないからな!」

セミラミス「多少は大人になったか。謝罪は?」

巌窟王「すまなかった!」バァーーーンッ

セミラミス「誠意が足りんがまあよかろう!」ドォーーーンッ!

巌窟王「……まさかアンジーが俺を突き落とすとはな……腹立たしい。おそらくこれで俺の進路は完全敗北だろう」

巌窟王「見上げてみれば……遠いな。だが小さいという気はなんとなくしない」

ロムルス「……」ニコニコ

巌窟王「その微笑ましいものを見るような笑顔をこちらに向けるな」

セミラミス「くくく……感慨深いか? 癪に障るが、気持ちはわかるぞ」

巌窟王「……俺はアイツらを導けたのだろうか」

セミラミス「さてな。だがあれもこれもと介入し続けるのはサーヴァントとしてもマナー違反だ。このくらいでちょうどいいと思うぞ」

セミラミス「……さて。あの聖女のことは我もそこそこ好きではないが、一つだけ意見が合うことがあったな。ふと思い出しただけだが」

巌窟王「?」

セミラミス「死者(サーヴァント)が生者を導くなどおこがましい」

巌窟王「!」

セミラミス「……いや? 流石に貴様のことを全否定する気はない。あくまでふと思い出しただけだ。この言葉も我の本意ではない」

セミラミス「ただ『それは言い過ぎだが、スタンスとしては我に近しい』と思っただけなのだ」

セミラミス「我らはサーヴァント。今を生きている者、どこかに向かおうとしている者の背中を押すだけでちょうどよい」

セミラミス「その結果、連中が心底絶望して落涙するのを見るのもよいし……」

セミラミス「勢い余って世界を救ったりしたら傑作だろう?」クスクスクス

セミラミス「我は背中を押すだけ。押した結果、あやつらがどうなるかを我は楽しむ。期待する」

セミラミス「……こういう楽しみは貴様にはできぬか? 言ってはなんだが大分一般的な趣味嗜好であろう?」

巌窟王「……戯言を。世界を救うだと……? そんな大したこと、アイツらは微塵も考えていないだろう」

巌窟王「そら。最後の戦いだ。俺はあれを見届ける。今はそれでいい」

最原終一の進路
・最原
・春川
・百田
・茶柱
・白銀
・天海
・夢野
・赤松
・アンジー
・東条
・真宮寺
・王馬
・獄原
・入間
・星

巌窟王の進路
・なし

モノクマの進路
・なし


無効票(投票放棄)
・キーボ




最原「仕上げをしよう」

最原「……外の世界の総意を、こちら側に傾ける!」

キーボ「……」

最原「考えようによってはこれはチャンスだよ」

最原「直接、視聴者に僕たちの声を届ける最後にして最大のチャンス」

百田「ああ。絶対にモノにしてやろうぜ」

茶柱「最大級の援護をします! だから」

最原「うん。僕たちの手で、僕たちの未来を切り拓く!」ズギャアアアアアンッ

ナーサリー「ただいまー」ヒラヒラ

セミラミス「戻ったか。大儀であった」

ナーサリー「え。別にあなたのために頑張ったわけじゃないのだけれども。なんで当然のように自分が指示した風に労っているの? 恥を知らないの?」

セミラミス「何故急に毒を吐いた!?」ガビーンッ

ロムルス「専売特許を奪われたか」

セミラミス「我は確かに毒を使うが毒舌ではない!」

ロムルス「それよりナーサリーライムよ。もう援護はしなくて大丈夫なのか?」

ナーサリー「その辺りは、そこの伯爵に聞いてみればわかるわ。どう思う?」

巌窟王「……いや。必要はないな」

セミラミス「ほう。その心は?」

巌窟王「ヤツらは必死に戦ってきた。ヤツらだけがこの地獄の学園における真の当事者だった」

巌窟王「ただの傍観者たる外の人間がいくら束になったところで――」






キーボ「……!」

最原「これでッ……!」

全員「終わりだーーーッ!」



ガシャアアアアアアアアアアアンッ



COMPLETE!




巌窟王「最原たちに……アンジーたちに勝てるはずがないだろう」

百田「あっ……か……勝った?」

王馬「おおー。やったやった。派手に吹っ飛んでったねーキー坊」

最原「……時間! 残り時間!」

赤松「もう確認する手間も惜しいでしょ! 早く投票しよう!」

茶柱「泣いても笑ってもこれが正真正銘、最後の投票です!」

アンジー「押し間違いがないよう注意しよー! それじゃあ行っくよー!」

百田「いっせーのーせでいくぞ!」

真宮寺「え? 今更合わせる必要……ああ、もういいヨそれで」




「いっ!」


「せーっ!」


「のーっ!」


「せっ!」ガチンッ




モノクマ「……」

夢野「あわばばばばば……頼むぞー。今度こそ全会一致であってくれー」ガタガタ

最原(どうだ! どうなった!? 何故こんなに間を取る!? 僕たちは間に合わなかったか!?)

最原(ああ、違う。長いと感じるのは錯覚かもしれない。時間が短いのかも判別できないけど。心臓の音だけが強く聞こえる)

モノクマ「……結果発表ーーーッ!」ガシャコンッ

最原「あ……!」

最原終一の進路
・最原
・春川
・百田
・茶柱
・白銀
・天海
・夢野
・赤松
・アンジー
・東条
・真宮寺
・王馬
・獄原
・入間
・星
・キーボ

巌窟王の進路
・なし

モノクマの進路
・なし





百田「……やっ――!」

最原「やっ……たーーーっ!」

天海「全会一致……最後の最後で……!」

白銀「……みんな! 空見て! 樹! 樹!」



ズッ ズズズッ……


ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



星「ああ。間違いないな。あの樹だ」

真宮寺「あとはアレを裁断して、キーボくんを復旧し、壁に穴を開ければすべてが終わりだネ」

獄原(……あれ? 目の錯覚かな。あの樹、宇宙から生えてきてるような気がするんだけど……?)

春川「……で。モノクマ。結局タイムリミットはどうなったの? かなり余裕がないことだけはわかってたけどさ」

モノクマ「んとねー。十秒くらい」

百田「ああ。マジで危ないところだったな! んじゃああと十秒で俺たちは避難して、あとは巌窟王たちのサポートを……」

モノクマ「十一、十二、十三、十四、十五……」

赤松「……あれ?」

獄原「変だな。なんでカウントダウンじゃなくてカウントアップしてるんだろ」

最原「……もう手遅れだからかもしれない……! この分なら投票そのものは有効だけど!」

アンジー「……ッ!」

最原「あと十秒くらいって意味じゃない! タイムアップしてから十秒くらいって意味だ!」




ズガァァァァァァァンッ!

「……けよ……!」

最原「……」

「……目を……開け……」

最原「……ぶっ……がっ……ごほっ!?」

最原(何が……起こった? 耳が痛い。真っ直ぐ立っていられない……)

最原(……いや。どうやらもう立っていないみたいだ……平衡感覚が狂いまくって、目の前の光景すら真っ白にしか見えない)

最原(自分の呼吸がまともなリズムで行われていないことに気付いたのはちょっと時間が経ってからだった)

最原(苦しい。苦しすぎて涙が止まらない……!)

ドンッ

最原「がはあっ! はあっ……はあ!?」ゴホッゴホッ

最原(肺を誰かに思い切り叩かれた。その勢いでやっとまともな呼吸を取り戻す)

最原(目の前がやっと開けてきた……!)

ロムルス「お前たちに再度告げよう!」

ロムルス「目を開けよ! まだ終わってはおらぬ!」

最原「……地、面……僕たち、席から落ちたのか!?」

最原(ん? なんだろう。自分で言ってて凄く違和感がある。あの激音が響いた瞬間、何か見えたような……)




アンジー『……!』

巌窟王『クハ……ハハハハハ……!』




最原「……もしかして巌窟王さんに」

春川「そうだね。アイツに攻撃される寸前に全員地面に引き落とされたみたい。凄いスピードだったから全員まだ酔ってるよ」

最原「道理で気分が最悪なわけだよ! あ、僕の肺を叩いたのって春川さん?」

春川「茶柱」

茶柱「……よ、よかった……どうにか無事みたいですね……」ホッ

最原「ありがとう。助かったよ」

最原「……本当に物凄く強くなっちゃったなぁ。キーボくん」





キーボ「……」ドドドドドドドドドド

最原「……巌窟王さんは……あそこか」

最原(少し離れた場所で、月を背にホバリングしているキーボくんを眺めていた。傍らにはセミラミスさんもいる)

巌窟王「セミラミス。仕込みはどうなっている?」

セミラミス「厳しいな。まずはあの樹を裁断しないことには始まらぬ。我が仕込んだのは書き換えられて新品になった才囚学園ではないのだからな」

セミラミス「あの樹さえ裁断すれば才囚学園は元のボロ状態に戻るはずだ。すべての話はそこからだな」

巌窟王「そうか。それはよかった。安心しろ、すぐに戻る」

セミラミス「……貴様が裁断するのだろう?」

巌窟王「いや。キーボにとってもあの樹は邪魔なはずだ。そうでなければ投票しない。故にアイツは俺たちよりも真っ先に」






ザァァァァァァァンッ




キーボ「……切除、完了」ジャキンッ

巌窟王「あの樹を叩き折る」

セミラミス「ふむ。壮観だな」

最原「巌窟王さん!」

巌窟王「……」

最原「後は任せて……いいんだよね?」

巌窟王「愚問だ。俺にしかできないだろう。アレは」

アンジー「『たち』だよー?」

巌窟王「……!」

巌窟王「……クハハハハ! 愚かなのは俺も同じか!」ケラケラケラ

巌窟王「ロムルス! アンジーは連れて行くが、それ以外の生徒はすべて守れ!」

巌窟王「お誂え向きの結界宝具があるだろう!」

ロムルス「……私(ローマ)を誰だと思っている。私(ローマ)である! すべて! すべてを守ってみせよう! 我が愛し子たちを!」

ロムルス「すべては我が愛に通ずる(モレス・ネチェサーリエ)!」キンッ


ズゴゴゴゴゴゴゴゴッ


天海「これは……まさか! ローマ建国神話の……弟レムスを誅したときの国境騒動! その再現宝具っすか!?」

ロムルス「うおおおおおおおおおお!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ボコッ

最原「あ。柵が出てきた」

ロムルス「ふうっ。終了である」フー

天海「えっ」

ショボい柵「」チマーンッ

天海「……」

天海「えっ?」ヌボーンッ

夢野「ん、んあーーー! これはやばい! 物凄くやばいぞ!」アタフタ

天海「ろ、ロムルスさぁーーーんっ!? あのっ、これっ、なんかの悪ふざけじゃ」

ロムルス「普段はもう少し派手な見た目である。が、今は大した魔力がないのでこれが限界だ。許せ」

白銀「……」

白銀「あ。私たち、死んだねこれ」

天海「諦めが早すぎるーーーッ!」ガーンッ

キーボ「ターゲット、ロック。エネルギーチャージ」シュインシュインシュイン

天海「あばばーーーっ!? なんか明らかにこっちに向けて大技放つ感じーーー!」ガビーンッ

天海「に、逃げ……!」クルッ

天海「……」ピタッ

最原「……まだみんな立って歩くのも間々ならないよ。酔ってるからさ」

天海「あ、死んだ」

キーボ「シュート!」ズガアアアアアアアアアアアアアアンッ

天海「うわあああああああああああああああああっ!?!?」

ロムルス「……なにを恐れることがある」



ドォォォォォォォンッ



天海「……?」

ロムルス「グレードが下がっているのは『見た目』だけである」

ナーサリー「結界としての防御性能は疑う余地もないのよ!」ニコニコ

天海「……今……見えない壁に阻まれて……あんな強力な攻撃が!」

ロムルス「ローマ!」ビシイッ

天海「ロ、ローマァーーーッ!」ビシイッ

夢野「いやウチは最初から結界の防御性能の話なんぞしておらん! そこに不安はない! そこじゃなくて!」アタフタ

最原「……?」

春川「ロムルス! 今すぐ結界を解除して! 物凄くマズイことになってる!」

真宮寺「……どうしたの?」

王馬「さっき鎖のジャラジャラ音がしたの気付かなかった?」

最原「鎖……鎖?」

最原「……!」キョロキョロ

百田「……あ、ぐ、あーーーッ! やっと復活だ! 本調子には程遠いけどよ!」ガバリッ

百田「あー、くそ耳が痛ェ! どんなスピードで移動したらこんなことに」ピタッ

百田「……あれ? 赤松どこ行った?」





全員「……」

全員「……!!!!!!!!!!!!」





赤松「入れてーーー! 中に入れてーーー! 死んじゃう! このままだと私死んじゃうからーーー!」ドンッドンッ

全員「ハブられてるーーーッ!」ガビビーーーンッ

最原「鎖のジャラジャラ音……ってことは、犯人は考えるまでもなく!」

セミラミス「……」ニヤニヤ

春川「……アイツやっぱり殺した方がよかったね」

王馬「今からでも遅くないんじゃない? 目だけで人を殺したりできるでしょ、春川ちゃんなら」

最原「でもよかった。下手したらさっきのキーボくんの砲撃で火傷しててもおかしくなかったし」

赤松「火傷はギリギリしてないけど物っ凄く熱かったよ! 見てこれ! 毛先がクルンってなってる! ストーブに近づきすぎた猫のヒゲみたい!」クルン

茶柱「思ったより遥かに危ないですね! 運が悪ければ焼死してましたよ!」

春川「何してるのロムルス! 早く!」

ロムルス「……」

獄原「……え。悲しそうな顔して黙っちゃったよ?」

ナーサリー「えっとね? 一度解除して、赤松を中に引き込んでから再度宝具を発動というプランはかなり難しいわ」

ナーサリー「だって二回目の宝具を発動するだけの魔力が残ってないのだもの」

獄原「じゃ、じゃあ危険度が高いことは間違いないけど、巌窟王さんに守ってもらおうよ!」

東条「……残念なのだけれども……それも難しそうだわ」



ガキンッ ドカッ バキイイイインッ ドシュウウウウウッ



巌窟王「クハハ……クハハハハハハハハ!」ボオオオオッ

キーボ「……!」ドドドドドドドド

獄原「……攻撃で精一杯。最低限の防御の機会は全部アンジーさんのために使ってるね……」

東条「赤松さんにまで回す余裕がないわ。あの様子だと」

セミラミス「くっ……考えれば考えるほどに愚かしい! 何故カエデは結界の外に出たのだ!? いや本当に愚かしい!」プンスカ

春川「ッ!」ブチイイイイッ



ブンッ  ガンッ



セミラミス「……ククク。結界さえ無ければ今の投石で我は死んでいたかもしれぬな! 結界さえ無ければ! くっははは!」ケラケラ

春川「……!」ビキビキビキッ

百田「ハルマキ! 落ち着け! すんごい表情になってきてんぞ!」

ナーサリー「……最近は気に入った人間には一途って面しか見ていなかったから忘れていたのだわ。この人、そういえば本質は毒婦だったわね」

ロムルス「気が済んだら仕事に戻るであろう」

白銀「……ん!?」

最原(傷一つなかった才囚学園の校舎が……元のボロボロの状態に戻っていく! 巨大ネコアルクオブジェも!)

アンジー「セミラミスー! 『彼』が仕込みのスイッチを入れるのはまだかって急かしてるよー」

セミラミス「少し待つように伝えろ! 一番大事なことをまだやっておらんからな!」ワクワク

赤松「一番大事なところ……? 何でワクワクしてるの? とても怖いんだけど!」

セミラミス「時間がない。すぐ済ませよう。貴様が死ぬ前にな」パチンッ

赤松「縁起の悪いことを言わないでっ……て、なにそれ?」

ロムルス&ナーサリー「……なあっ!?」ガビーンッ

聖杯「」キラキラキラキラキラ

セミラミス「見ての通りの聖杯だが?」

赤松「いや黄金のなんかコップっぽいものってことくらいしか私にはわからな……聖杯ィ!?」ガビーンッ

生徒一同「はああああああああああああっ!?!?」ガビビーンッ

ナーサリー「待って! セミラミス、あなたそんなものをどこから! まさかカルデアから盗んで……!」

セミラミス「バカな! 流石に我にも礼儀くらいはある! これは『さっき作ったもの』だ!」プンスカ

ナーサリー「礼儀は弁えてても常識をドブに捨てたような発言だわーーーっ!?」

赤松「作っ……は!? え!? なにそれ! 聖杯って材料なしで作れるほど気安いものだっけ!?」

セミラミス「いや。材料ならついさっきキーボが粉々にしたアレだぞ」

ロムルス「……そういうことか」

百田「どういうことだ!? 説明しろロムルス!」

ロムルス「世界を改変するようなオブジェクトの中心核には当然、凄まじい魔力があるだろう。それ単体で聖杯として成立しかねないほどの」

ロムルス「基本的に魔力を受け入れる器と、膨大な魔力があれば聖杯は作成可能だ」

セミラミス「魔力の方はあの白い樹から徴収した。さて、器の方は……あったであろう? 都合よくサーヴァントすら閉じ込めることのできる器が」

赤松「え?」

赤松「……あっ! マザーモノクマ!」

セミラミス「正解だ。巌窟王ではなくキーボが樹を破壊すると聞いたときは魔力を直前で掠め取れるかどうか肝を冷やしたものだが……!」

セミラミス「……我は女帝、セミラミス! 魔術も当然使える! クリアしてみせたぞ、この難行!」

諸事情により種火が物凄く必要になったので今日はなし!

獄原「そっか! セミラミスさんはあの聖杯で巌窟王さんを助けるつもりなんだね!」

セミラミス「貴様論外」

獄原「論外!?」ガビーンッ

ロムルス「であろうな。セミラミスの仕込みとやらが発動した場合、聖杯も消えるはずである」

ナーサリー「魔術由来の物品であることには変わりないもの。最後にサーヴァントが壁に穴を開けるという都合上サーヴァントは後回しだけど……」

ナーサリー「聖杯は後回しの対象外のはずよ。仕込みが発動したらすぐに消えるか、仮に消えなくとも大した願いは叶えられなくなると思うわ」

セミラミス「長生きしたいなー程度の願いならば消えかけた状態でも余裕だな。長生きする価値のある世界が前提の願いだが」

春川「……待って。つまり聖杯をフルスペックで使えるのはまさに今だけってこと?」

春川「しかもそれを巌窟王を助けるために使わないつもりって」

セミラミス「つもりだ」ウン

春川「……最原」

最原「凄くマズイことになってるのはわかるけど、僕たちにはどうしようもないよ」

百田「ん? ん? ん?」

セミラミス「さてカエデ。ここから先、言動には細心の注意を払えよ」

赤松「へ?」

セミラミス「外の人間に復讐したいと強く願ってみろと言っている」ニィィィィ

赤松「!?」

茶柱「なっ……!?」

入間「何だとォォォォォォォォォ!?」ガビーンッ

星「……やられたな。これは。俺たちはロムルスの結界の内側で、あいつらは外側だ。手出しができない」

東条「セミラミスさんはこの好機を狙っていたというの? 偶然ではなく?」

真宮寺「忘れてた……! 僕たちの前ではアホな言動丸出しの緊張感ゼロで空気読めないダメ女だったから完全に油断してたヨ!」

真宮寺「彼女は人類史初の毒殺成功者! つまり、その当時最高峰の頭脳の持ち主だ! 頭が悪いはずがない! 機を窺う精神力も段違いだ!」

セミラミス「誰がダメ女か!」プンスカ

赤松(アホな言動丸出しの緊張感ゼロで空気読めないってくだりに関してはガンスルーしてる!)ガビーンッ

セミラミス「……論外で圏外な残骸どものことはもう放っておくことにしよう。大事なのはここからなのだからな」

王馬「うわー。ボロクソ言われてるね俺たち」

春川「……」スッ

百田「うおーーーい! ロムルス、もう絶対に結界を解除すんなよ! ハルマキがクラウチングスタートの姿勢になってっから!」

最原「結界が解除された途端に全力疾走して一瞬で殺す気だ!」ガビーンッ

セミラミス「カエデ。汝はまだ子供であろう?」

赤松「……だったら何?」

スッ

赤松「!?」ビクッ

セミラミス「……たまには大人に甘えてみろ。その年頃ならまだ自然だろうさ」ギュッ

赤松(……あまりにも自然な動作で、避ける暇が無かった。私は今、ふわりとした力加減で抱き寄せられている)

アンジー「……」

アンジー(まずいなー、これ。セミラミス、明確に本気になってる。アンジーたちの前に現れてから初めてかも)

最原「容赦無しで落としにかかってる……!」

茶柱「こ、これ。万が一赤松さんがセミラミスさんの提案に『YES』って言ったらどうなるんですか?」

王馬「さっきの議論での勝敗が逆転するだろうね。赤松ちゃんの希望が、これまで積み上げてきたすべてを台無しにしてでも優先される」

王馬「ただしあくまで聖杯が聞き届けるのは赤松ちゃんの願望みたいだから、俺たちに直で不利益になるような展開はないはずだよ」

入間「オイオイオイオイ……オイオイオイオイオイオイオイ……! 多数決じゃなく赤松たった一人の意見でか!?」

最原「騒ぐのはもうちょっと後でいいよ」

百田「……そうだな。終一と俺も同意見だ」

天海「どうしてっすか?」

百田「まだ赤松の答えを聞いてねぇ」

最原「確かに僕たちは結界の内側にいるから、もうセミラミスさんに手出しは不可能だけどさ」

最原「……いや、仮に外に出れたとしてセミラミスさんを無傷でどうにかできる保証が無いから手出しできないし、させるわけにもいかない」

最原(同じ理由でアンジーさんにも無茶はさせられない。彼女がいないと巌窟王さんが凄く困るし)

最原「この場で彼女をどうにかできる人間がいたとしたら、たった一人……」

天海「……赤松さん、だけ……!」

赤松「私が願えば……叶う。外の世界の人間に復讐できる……?」

セミラミス「そうだ」

赤松「……さっきまでの議論で出した結論は……」

セミラミス「無意味、とは言うまいよ。ただ最後に物を言うのは力を持った誰かの意見だ」

セミラミス「今の貴様にはそれがある……不服な結果を塗り替えて何が悪い?」

赤松「……」

赤松(不服?)ピクッ

セミラミス「さあ。願え。そして貴様の望む未来を創ってみせよ。我の用意した機会だ、まさか断りはすまい?」

赤松「断るよ」

セミラミス「クハハ! そうだろう! 断るだろう――って」

セミラミス「は!?」ガビーンッ

アンジー「!」

セミラミス「……聞き間違いか? いや、言い間違いか? 今、断ると言ったように聞こえたが……」パチクリ

バッ

赤松(私を抱きしめていたセミラミスさんから少しだけ距離を取る。それでも至近距離のままだけど)

赤松(でもこれでいい! 心底困惑しているセミラミスさんの表情がよく見える、この位置が凄くいい!)

赤松「ここで私がそんなズルをしたとして! そこから先どうするの?」

赤松「セミラミスさんはずっと私を甘やかしてくれるの!? そんなわけないよね!」

赤松「その場一回限りの勝利を掴んだところで、その先の私にはロクでもない結末しか待ってないよ!」

セミラミス「なっ……にい……!?」

赤松「ごめん。正直、凄く嬉しい。動機はどうあれ、私のためにこんな凄いものを用意してくれたって事実が、とにかく嬉しい!」

赤松「多分セミラミスさんの想像よりずっと私は感謝してる! でもさ! そんな甘いだけの言葉に飛びつけるほど、私は子供じゃない!」

セミラミス「……!」

赤松「……その聖杯は受け取れない。だから、終わりにしよう」

赤松「悪だくみなんてやめてさ、予定通り……みんなで一緒に決めた通りに」

赤松「この学園を終わりにしようよ……!」

セミラミス「……」

ロムルス「……決まりである。セミラミスは人の輝きを(かなり屈折した視点で)見守る者だ」

ロムルス「故に転落するにしろ上へのし上るにしろ、本人の自業自得でなければ面白くない」

最原「赤松さんが自分の意思で『断る』って言ったら、もうセミラミスさんには特に動機がないよね」

東条「……みんなで決めたことを守ってくれるのね、彼女は。赤松さん、そういうところはずっと変わらなかったわね」

セミラミス「……チッ。つまらん」ポイッ

ガツーンッ

赤松「ぶへっ」ドサァッ

最原(セミラミスさんがポイ捨てした聖杯が赤松さんの眉間にクリーンヒットした!)ガーンッ

セミラミス「人の厚意をドブに捨ておって……このノーパン娘が!」

赤松「ご、ごめんセミラミスさ……ノーパンじゃないよ!?」ガビーンッ

セミラミス「まあよい。こんなものは所詮戯れよ。我の心は夜の湖のように凪いでおる」

セミラミス「……全然! まったく! 気にしてないからな! 余裕のあまりネイルケアもできる!」ガタガタガタガタ

赤松「震えすぎ震えすぎ! 爪割れるから!」

百田「気にしてんじゃねーか。言葉と裏腹に」

セミラミス「……はあーーー……いや、本当に気にはしていないのだ。ただ本心から残念に思っているだけよ」

セミラミス「聖杯で一回願いを叶えさせた後はカエデのことを体のいい傀儡にして外の世界に我君臨! という計画がパァだ……」

赤松「ろ、ロクでもない……! 本当にロクでもないよ……!」

セミラミス「……予定通りが注文だったな。よかろう。やってやる」

セミラミス「玉座を!」パチンッ

ネコアルク「はいですにゃー」トタトタ

ネコアルク2「猫の宅配便ですにゃー」トタトタ

百田「お……モノクマがついさっきまで座ってた椅子じゃねーか。あれ玉座にすんのかよ……?」

百田「あれ? モノクマはどこに消えてんだ?」

白銀「結界の内側。あっちで遊戯王してるよ」

モノクマ「シャアアアアアアイニングドロオオオオオオッ!」ピカアアアアアアッ

ネコアルク「どういう……ことにゃ……!?」カン☆コーン!

天海「いつの間に!?」ガビーンッ






セミラミス「……結局ピアノは聴けなかったな」

赤松「……え?」

セミラミス「始めるぞ……! ここから先は、我の独壇場だ!」

セミラミス「人の女帝は人の国を統べようとする。ならばゲームの女帝は何を統べるべきだ!?」


ズズウウウウンッ……


赤松「……!?」

セミラミス「然り! 然り! 然り!」

セミラミス「『ゲームの国』しかありえぬではないか!」

ズガアアアアアアンッ

巌窟王「……」ブラーンッ

巌窟王(まずいな。時間稼ぎも限界か? 吹っ飛んだ衝撃で、才囚学園の鉄筋に足がひっかかってしまった。吊られた男か俺は)ブラブラ

巌窟王(このままだと本当に死ぬぞ)

キーボ「どうやら間に合わなかったようですね」

巌窟王「……?」

フワッ

巌窟王「……それはどうかな?」ニヤリ

キーボ「?」


ズズズズ……!


キーボ「……なんですか。この鳴動は……!」

巌窟王「やっと重い腰を上げたか、あの性悪女め」

キーボ「……セミラミス! 彼女か!」バッ





アンジー「気付かれたみたいだよー」

セミラミス「構わん! もうどんなロングレンジの攻撃方法があろうが!」

セミラミス「どんなスピードで接近してこようが!」

セミラミス「仕込みは発動した! もう(我にも)止められん!」

赤松「待って! 今こっそり小声でなんか言った!? 『我にも』とか言わなかった!?」

セミラミス「お気の毒ですが冒険の書は消えてしまいました!」バァーーーンッ

赤松「露骨な忘れたアピで誤魔化せると思わないで!」

セミラミス「さあ! お楽しみはここからだぞ!」ギュインッ

赤松(……セミラミスさんの周りに無数の魔法陣が……!)

セミラミス「神秘よ! 我が糧となれ! これ以上ないほど有効活用してやろう!」

フワッ フワフワッ……

赤松「……これは……!」

アンジー「おおーーー! 綺麗だねー! たくさんの蛍が飛んでるみたいだよー!」キャッキャッ

セミラミス「ネコアルクに再配置させた神性、神核のなれの果てだ。まあつまりざっくり言うと死骸だ」

アンジー「きったね」ウエッ

赤松「ざっくり言い過ぎじゃない!? せっかく感動してたのに!」

キーボ「させません。もう巌窟王さんの妨害もない。ここからでも充分にキャノンは届く!」

巌窟王「絶対に無理だ。諦めろ」

キーボ「エネルギーチャージ……シュート!」バチイッ

キーボ「……!?」






赤松「まずい! キーボくん、あの距離からこっちを狙って……撃っ――!」

セミラミス「……ったところで無理だな?」ニヤニヤ

ビュンッ

赤松「……え? ハズレ? っていうか……」

アンジー「見当違いの方向にビームが吹っ飛んでったねー」

セミラミス「当たり前だ。キーボは絶対に我を撃てない。少なくともすべての工程が終了するまでは絶対に。何故なら!」






巌窟王「貴様が外の世界の意思を代表して『最原終一の進路』に投票したのだ」

巌窟王「少なくとも学園全体の無毒化の処理が済むまでは、貴様を支配する意思がセミラミスを攻撃することを絶対に許しはしない」

キーボ「……! ……!」グググッ

巌窟王「アイツの仕込みが終われば、貴様の魔術的強化もすべて打ち消される」

巌窟王「弱体化した後のキーボなど俺の相手として不足にも程がある。すぐに復旧してやるぞ……!」ボオウッ

キーボ「……ゼロ距離なら……!」ドシュウッ

巌窟王(……ム。予想外だな。妙にセミラミスのことを警戒している)

巌窟王(魔術の無効化に関してはクリアできるが、これではそれが終わった直後に……)

巌窟王「ちっ。しばらく休むつもりだったのだが……! こうなったら足に引っかかった鉄筋を切断……いやそれでは真っ逆さまだな」ボキッ

巌窟王「ボキ?」



バキィィィンッ



巌窟王「何だとォォォォォォォ……」ヒューーーーッ

セミラミス「ふはははははは! 見よ! 巌窟王のヤツ地面に向かって真っ逆さまだ!」ゲラゲラゲラ


ビュンッ


キーボ「この距離なら」キイイイイインッ

赤松「――ッ!?」

赤松(早……! セミラミスさんの目の前に! 一瞬で! この距離はまずい!)

ジャララッ

セミラミス「邪魔だ」クンッ

キーボ「!?」ブンッ

キーボ(鎖を使っての投げ飛ばし……ワンパターンですね。これはもう一度食らいました! この状態からでも、この距離なら外さない!)ガチンッ

赤松「ダメ……! やっぱり無理だよ! 攻撃される!」

セミラミス「見よ! 巌窟王のヤツ、上から降ってきた更なる瓦礫に生き埋めにされたぞ! 犬神家のようだ!」ゲラゲラゲラ

赤松「!?」ガビーンッ

アンジー「うわー。この期に及んでまだ笑ってるよー。キーボの方は見もしてないねー」

セミラミス「当然だ。距離の問題ではないのだから」

キーボ「シュー……!?」グアンッ

キーボ(銃口が移動させられた……! 鎖? 違う、勝手にボクの手が動いたんだ! この角度はマズ……!)


ドシュウウウウッ

ドカァァァァァンッ


赤松「……!? 空が割れ……違う! 空を映していた天井が壊れた!?」

セミラミス「いや? まだ威力が足りんな。ちょっと亀裂が入った程度だ」

セミラミス「待っていろ。首級が欲しくばな。もうすぐ終わる……!」


ズドドドドドドドドド


赤松「……ずっと聞いていなかった。セミラミスさんは具体的に何をするつもりなの?」

赤松「仕込みって一体何?」

セミラミス「とてつもなくくだらなくて、物凄く馴染むことだ。端的に表すなら……」






セミラミス「学園よ! 浮上せよ!」

世界滅ばないかな

今日のところはとても悲劇的なことが起こったのとイベントが楽しすぎるのでナシ

ズズガガガガガガガガガンッ

最原「……鳴動……じゃない! いや、この空間全体が震えてること自体は間違いないけど!」

最原「密室だから全然気付かなかった! 窓でもあれば一発でわかることでも、ここじゃわからない!」

百田「憧れの感覚だ! 『浮上』の感覚! 宇宙に向かってるような高揚感!」ワクワク

王馬「……え? 嘘でしょ。マジで?」

茶柱「学園が……いえ! この私たちを閉じ込めている密室そのものが! 浮上しているんですか!?」

セミラミス「少しだ。少し浮けばいい。五センチでも構わない! それでこの空間は我の宝具として成立する!」

キーボ「仮にそうなったとして、一体何をする気ですか。死にぞこないのあなたが、いくら強力な宝具を振りかざしたところでボクには!」

セミラミス「敵わないだろう! 別にいい! 美味しいところをすべて持っていくのは巌窟王で構わない!」

セミラミス「我は楽しければそれでよいのだ!」

アンジー「……なにかが萎んでいく感覚がある……学園にあったはずの大事な要素が消えていくような……」

ナーサリー「これは……そう。そういうことね! どんなエネルギーでも使えば消える! あるいは散る! 質が落ちる!」

ナーサリー「つまり熱力学の第二法則に則った超原始的な宝具!」

ロムルス「通常であれば宝具を使うには魔力が必要。これはその発想を逆転させた『魔力を使うためだけの宝具』」

ロムルス「いや。それだけではない。扱いを間違えれば死人が出る、呪力のような危険なエネルギーすら一緒くたにして消費している」

入間「ちょっと待て! それ魔術をちょっと齧っただけの俺様でもおかしいことだってわかるぞ!」

入間「軽油とレギュラーガソリンとハイオクガソリン、ロケットエンジン用の燃料ちゃんぽんにしてモンスターマシンを動かすみたいな話だろ!?」

入間「んなことしたら俺様たちは問答無用で吹っ飛ぶぞ! こんなコンドーム並みの薄々バリアなんざ木っ端微塵だ!」

ロムルス「そのためにヤツは神性を求めていたのだろう。どんな燃料を使っても絶対に壊れないエンジンと骨格を作るために」

セミラミス「……嗚呼! 嗚呼! 最高だ! たまらない! この仕組みを作るために我がどれだけ……どれだけの手間を……!」

セミラミス「マザーモノクマの中で時間を加速させ、三日三晩かかる呪文詠唱を先んじて終わらせたのも、すべてこのため!」

セミラミス「驚嘆せよ! 祝福せよ! 刮目せよ! 瞬き一つももう許さん! これが、ここにいる我だけの宝具!」

セミラミス「対魔力宝具、『遊興の空中庭園(ゲーミングガーデンズオブバビロン)』である!」

巌窟王「……!」

巌窟王(段々と瓦礫が振動で移動して……あと少しで出られそうだが……!)ジタバタジタバタ

巌窟王「ダメだな。出られん。念話しかないか」

巌窟王『アンジー!』

アンジー『学園に満ちてる魔力なら、あと少しで除去できそうだよー』

巌窟王『そうか! それは朗報だ! だが今すぐセミラミスから離れろ! いや、ヤツのことだから安全策くらいは取っているだろうが……』

アンジー『……何を焦ってるの?』

巌窟王『今、キーボはセミラミスを攻撃できない! だが全部終わったら話は別だ!』

アンジー『……セミラミスはキーボに勝てるかなー』

巌窟王『貴様はどう思う? 率直な意見を言え。それが答えだ』

アンジー『百パー無理』

巌窟王『続いて俺が質問するが、すべての工程が終わればセミラミスはどうなると思う?』

アンジー『……』







アンジー「……楓ー。ちょっと離れよっかー」ニコニコ

赤松「イヤだ」

アンジー「!」

赤松「……大したことじゃないけどさ。私、最後まで全部見たいんだ」

赤松「どんな結末を迎えたとしても。アンジーさんなら、わかってくれるよね」

アンジー「……」

セミラミス「あと少し……だ! あと少しで……完成する!」

セミラミス「くっくくくはははははは! 財産というものはすぐに無くなるものだが、無くそうと思って使うと気が遠くなるものよ!」

セミラミス「ネコアルク! 進捗は!?」

ネコアルク「あと十数秒で完了ですにゃー」

ネコカオス「やれやれ。まさか我々も、ここまで付き合うことになるとはな」

ネコリンボ「ンンンンンンンン拙僧は! 拙僧は昂ってまいりましたぞ!」

セミラミス「そう言うな。段々と我も貴様らのことが気に入って……ム? 知らんヤツがいるな? こんなヤツまで作ったか? はて?」

セミラミス「まあよい。後のことは任せたぞ、ネコアルク」

ネコアルク「……あなたは最高の雇い主だったにゃ」



ズズンッ



セミラミス「終了だ。もうよいぞ」



ズガアアアアアアアアアアアアアアンッ



最原「……な……え……?」

最原(それはとあるサーヴァントの最期だった)

最原(……あまりにも唐突に、それは訪れた。彼女の胸を、上空からキーボくんの砲撃が貫いて。でも!)

キーボ「……せ、みら、ミスぅぅぅぅぅぅぅ!」ジャラララッ

セミラミス「……ごぼっ……は、ははははは……!」

セミラミス「くははははははははははははははっ! あーあー! 馬鹿め! ここまで計算通りに行って、いいものか! はははははは!」ゲラゲラ

セミラミス「ごぼっ……う、げほっげほっ……!」ビシャッ

天海「攻撃された瞬間を狙って……!」

百田「野郎、カウンターで鎖をキーボの胴体に叩き込みやがった!」

セミラミス「我は毒殺の女帝、セミラミス! 故に! ああ、そしてゲームの女帝でもあるからこそ!」

セミラミス「本物ですら難しいことも我ならできる! たっぷり味わえ、電子ウイルスをなァ! あっははははははははは!」

キーボ「うおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああっ!」ガシャンッ

赤松「セミラミスさんっ!」

セミラミス「……カエデ。多くはもう語らん」

セミラミス「凄く。とても。ありえないくらい……」





セミラミス「楽しかったぞ!」ニコリ

赤松「……!」




ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ

ロムルス「……見事!」

最原「……セミラミスさん……!」

春川「地面に大穴が空いてる……砲撃の勢いで地下に玉座ごと押し込まれたみたいだね」

王馬「この分じゃあ、春川ちゃんが殺すまでもなくプレッシャーで身体はズタズタだろうね」

王馬「というか、崩落してるってことは地下まで落下してるのかな……」

春川「……殺したかっただけで死んでほしかったわけじゃない……こんな結果って……!」

東条「最初からセミラミスさんはこのつもりで……!?」

ナーサリー「でしょうね。全部が終わったらキーボに射殺されることくらいはわかっていたはずよ」

最原「ならロムルスさんの結界の中で全部の工程をやれば、自分の身の安全だけは確保できたはずじゃ……!」

最原「……いや、そうか。動機があったから、か」チラッ

赤松「……私のことを本気で篭絡するつもりだった。だからロムルスさんの結界の中に入るわけにはいかなかった……」

アンジー「本人の望んだ通りだねー。『自業自得』で堕ちる必要のない場所まで堕ちた」

赤松「BBさんに続いて、これで二人目」

赤松「……ネコアルク!」

ネコアルク「コーヒーガム食べます?」サッ

赤松「び、微妙なフレーバーのガムだね。それは後! ねえ、私の言うこと、聞いてくれるんだよね!」

ネコアルク「そりゃもちろん」

赤松「私と一緒に地獄の底まで付いてきて!」

真宮寺「赤松さん? 何を……!?」

赤松「私はッ!」

赤松「……私はせめて……この学園での犠牲者を出すことを止められないのなら!」

赤松「それが人間であろうとなかろうと! せめてノーカン扱いにはしたくない! 約束も果たしてない!」キィィィンッ

入間「赤松。まさか、その聖杯を使う気か!?」

赤松「『長生きさせる程度なら余裕』なんでしょ。まだ死なせない……!」

赤松「ごめん! 時間かかるようなら、先に脱出しておいていいよ! これは私の『エゴ』だから!」バッ

ネコアルク「赤松嬢に続くにゃーーー!」バッ

ネコカオス「男は赤に染まれ」バッ

ネコリンボ「異星の神の加護あれかしィィィィィ!」バッ

星「……本当に行っちまった。穴の中に」

天海「なんかネコアルクの中に一体変なの混じってなかったっすか?」

白銀「全部変だと思うけど」

百田「セミラミスの方は赤松に任せるとして、キーボの方はどうなった!? ドテッ腹に鎖ぶち込まれてたぞ!」

真宮寺「一瞬のことだったから自信はないけど、あまり深々とは刺さってなかったヨ。もっとも電子ウイルスを仕込んだらしいから深刻度はわからない」

キーボ「……!」ググッ

アンジー「……ずっと飛んでたのに、着地して苦しんでるみたい」

獄原「でもよかった。死ぬほどの傷じゃなさそうだよ」

キーボ「……まさか、こんな……こんなくだらないマネを……!」ピコピコピコピコ

最原「ん?」

入間「……」

入間「は?」

星「どうした入間」

入間「あ、い、いや……気のせいか? 今サウンドエフェクトがおかしかったような……?」

白銀「は? 何言ってるの?」

キーボ「すぐにウイルスの除去を……ぐっ」ポッ


テテッテテテッテテ


夢野「んあ!? 本当じゃ! なんかキーボがコケたときに聞き覚えのあるサウンドエフェクトが……!」

白銀「●リオだ! スーパーマリ●ブラザーズの被弾の効果音だ! 8bit音の!」

キーボ「まさか……まさかこんな!」キュワンキュワンキュワン(キノコで巨大化のサウンド)







キーボ「ボクの行動のすべてが懐ゲー風のサウンドエフェクトに変わってしまう電子ウイルスだなんてーーーッ!」テッテッテーテレレテーレレーレー

全員「本当にくだらねぇーーーッ!?」ガビーーーンッ

白銀(そして今のはマリ●のゲームオーバーのBGMだーーーッ!)

キーボ「除去……すぐにクリーニングを」ピッピッ ブブーッ

デケデケデケデケデケデンッデデンッ

白銀「あ。冒険の書が全部消えた」

キーボ「うおおおおおおおおおおおあああああああああああ!」ズピョーンッ

百田「……嘘だろ。除去できねーのか? アイツ一応最新技術の塊だったよな?」

ロムルス「もはやあれは毒というより呪いなのだ。だから生半な方法では除去できない」

ナーサリー「その凄まじい技術力で作った電子ウイルスの内容が物凄くくだらないのは……ご愛敬といったところね」

茶柱「愛嬌で済まされますかッ! これが!」

白銀「普通、こういう命と引き換えの置き土産ってもうちょっと有用じゃない……? いくらなんでもこれはちょっと」

キーボ「……ぐう! 仕方……ありません! 行動そのものに支障はないので作業を続行します!」ガチョーンッ

アンジー「わあ。機械の駆動音も物凄くチープだねー」

最原「言ってる場合じゃない! アンジーさん!」

アンジー「ん?」

夢野「アンジー! 周りをよく見るんじゃ! 赤松とセミラミスが消えて、ネコアルクもそれに追随したということは……!」

アンジー「あっ」

キーボ「あとのターゲット候補はあなただけです」ピュインピュインピュインピュイン

キーボ「あなたさえ消えれば巌窟王さんは消える!」

アンジー「……」

アンジー「ううん、それは順序が……逆だよ!」

キーボ「!」





「クハハハハハハハハハハハハ!」

ザッ

「ああ、そうだとも! この俺の目が黒い内は! マスターに指一本触れること能わぬと思え!」

「俺が! そう、この俺が……!」

最原「巌窟王さ……ん!?」ガーンッ

ザッ

ボロボロ王「夜長アンジーのサーヴァントだ!」プルプルプルプル

最原「既に重傷だーーーッ!?」ガビーーーンッ

ナーサリー「……ちょっと時間稼ぎさせすぎたわね、セミラミスが。ダメージが八割足に来てるわ」

天海「勝てるんすか!? あれで! 勝てるんすかね!? 流石の巌窟王さんでも!」

ボロボロ王「安心しろ。あと一撃を食らえば確かに気を失いそうだが、逆に言えばあと一発も貰わずに攻略すれば済む話」


クルッポー!


ガンッ バタリッ


かつて巌窟王だったもの「」チーンッ

最原「倒れたーーーッ!」ガビーンッ

獄原「なに!? 何が起きたの!? 何が激突してきたの!?」オロオロ

夢野「あ……あ、あ、あやつは……!」

ハトムギ「くるっぽー」

夢野「ハトムギじゃーーーッ! 研究教室のケージが壊れて脱走してきたんじゃーーー!」

最原「第三の学級裁判のときの鳩ォ!? なんで今!?」

ハトムギ「くるっぽー!」

夢野「うんうん……おお。セミラミスに献花しにきたのか。偉いぞ」

真宮寺「偉いけど今はやめてほしかったヨ」

巌窟王「くっ……あ、危なかった……」ムクリ

ナーサリー「あ。ギリギリのところで大丈夫だったみたい。幸運ね」

最原「心臓が止まるかと思った……!」

巌窟王「さてと……余興も終わったところで、終幕にするか。すべて」ボオオウッ

キーボ「同じことの繰り返しです。すべて無駄ですよ」

巌窟王「いや。もうさっきまでとは状況が違う。背景も、何もかもな」

キーボ「……!?」

巌窟王「勝算があるのはどちらか……答えは! 貴様の身を持って知るがいい!」ギュンッ



ボンッ



最原「……また二人とも、空に飛んだ!」

百田「くそ! 早すぎて目で終えねぇぞ! また!」

茶柱「……ん?」

東条「あら……これは……どうして」

夢野「どうしたんじゃ。転子。東条」

茶柱「いえ、気のせいか……ああ、すみません。気のせいじゃありませんでした」

夢野「?」








茶柱「キーボさんが遅くなって、巌窟王さんが速くなってます」

キーボ(……身体が……重い、のとはちょっと違う! 頭でわかっている挙動と実際の動きに……ラグがある!)

巌窟王「貴様の身体の中に植え付けられたのは拡張機能ではなく電子ウイルスだ」

キーボ「!」

巌窟王「つまり『現状ある機能を割いて無理やり懐ゲーサウンドエフェクトを出させている』のだから、挙動が重くなって当たり前だろう?」

キーボ「……」

キーボ(ボクの動きが遅いことはそれで説明が済むとして、彼の動きが先ほどよりも鋭敏になっているのは何故だ)

キーボ(さっきと今とで何が違う!? 何が……!)

巌窟王「クハハ! それでもまだ疑問が残る、という顔だな!」

巌窟王「なに、簡単なことだ。今までの俺は『校則の影響下』にいたからこそ生徒によって何度も殺された」

巌窟王「だが、当然だが校則というのは所詮ローカルルール。場が学園でなければ効力を発揮しない」

キーボ「学園で無ければ……?」

キーボ「あっ」ピコーンッ








最原「……モノクマーズパッドがバグってる」

百田「んだ、こりゃ。校則のページが文字化けしまくってんぞ。ピクトグラムもバラバラだ」

ナーサリー「今この空間は才囚学園ではなくガーデンズオブバビロン。少なくとも浮遊している限りはね」

ナーサリー「着地するまでの僅かな間、この場は学園じゃない。だから校則の影響もない!」

ロムルス「枷のすべてを外した巌窟王は無敵である。最原終一の進路を選んだ時点で、キーボの勝ちの目は無くなっていた」

最原「……勝てる。どんなにキーボくんが武装していようと、これならもう絶対に! 巌窟王さんは負けない!」

キーボ「まだです! 『最原終一の進路』では、魔術的武装を部分的に残したボクを鹵獲する算段になっていた!」

キーボ「つまり、いかに校則の縛りから解き放たれようが、魔術武装を手にしたボクが巌窟王さんを下す可能性はまだゼロじゃない!」ボーンッ

巌窟王「……まさか、冗談だと思ってはいないだろうな?」

キーボ「え」



ヒュンッ



キーボ「……あ?」

キーボ(懐に入って――この位置は……!)



ドシュウウウウウウウッ



キーボ(回避ッ! 回避ッ! 間に合った! まだ追いつける……! まだ食らい付け――!?)

ビュンッ

巌窟王「もう一度言おうか」ガシイッ

キーボ「背後……に……!?」ギギッ

巌窟王「一発も貰わずに攻略すれば済む話だ」ボオオッ




バガァァァァァァァンッ!



キーボ「ぐああああああああああああああああっ!?」

ヒューーーーーッ ポカッ

キーボ「があっ!」ポテッ ポテッ

キーボ(こ、この電子ウイルス……うざったい。かなりの衝撃で地面に叩きつけられたのに、その効果音すらポップにされた!)

キーボ(必要な機能を必要なだけ追加拡張できる超高校級のロボットの才能を完全に逆手に取られている!)

キーボ(アンジーさんは巌窟王さんが守っている。その他の生徒は全員ロムルスさんが結界で囲っている)

キーボ(赤松さんを追ったところでネコアルクに邪魔されるだろう。巌窟王さん本体は……何か勝算がないと、このままでは……!)

巌窟王「貴様は運がいい。実に運がいい」

キーボ「ッ!」


ボカーーーンッ


キーボ「……キャノンの砲身が……蹴りで潰された。蹴りで!?」

巌窟王「この学園で犠牲になったのは二人。BBとセミラミスだけだ。結局のところ才囚学園の生徒は一人たりとも死んでいない。それがとてもいい」

巌窟王「もしもあと一人死んでいたら……しかもそれが才囚学園の生徒だったりしたら、俺は貴様を殺すしかなくなっていたかもしれないな」

キーボ「……?」

巌窟王「わからないか? 貴様は危険な綱渡りを渡り切った先にいる。今!」

巌窟王「数多くの偶然が貴様を生かしている。才囚学園の生徒が全員死ななかった偶然。カルデアのサーヴァントがこの場にやってきた偶然」

巌窟王「結果何が起こったか! 語るまでもない。俺は貴様に手心を加える余裕がある!」

巌窟王「殺さずに貴様を止める方法も!」

巌窟王「そして止めた後、貴様が帰るべき場所も! すべてが誂えたかのように!」

キーボ「!!!!!!!!」

巌窟王「帰るがいい、キーボ! 最原たちが貴様の帰りを待っているぞ!」

キーボ「……」

キーボ「声が止まない……まだ止まるわけには行かない……!」

巌窟王「貴様にも事情はあるか。ならば虎の子だ。指令紋章を使わせてもらおう!」ボオオオッ

キーボ「その紋章が当てにしたような効果かどうかはまだ――!」

巌窟王「わかるのだよ! 良くも悪くも、この空間は視聴者がすべてだ!」

巌窟王「さっきのことを思い出してみろ。この紋章は間違いなく人格の復元プログラムだと『視聴者が』認めたはずだぞ」

キーボ「……がっ!?」

巌窟王「迂闊すぎたな。境界を跨いだ貴様の! 負けだ!」

キーボ「……!」カチッ

巌窟王「!?」

巌窟王(……今、なんのスイッチを押した? いや、気を取られるな! 早くキーボにこの紋章を叩き込……!)ポンッ





ヤシの実「」アロハー





巌窟王「」

キーボ「」

巌窟王「……」

キーボ「ヤシの実ですね」

巌窟王「いや?」ブンッ



バガァァァァァァンッ!



キーボ「がああああああああああああっ!?」

巌窟王「知っての通りヤシの実は固い。振り回せば鈍器くらいにはなる。そして――」

キーボ「」ブツンッ

巌窟王「……皮肉だな。あそこで俺に指令紋章を使わせていれば」

巌窟王「……いや。今となってはわからないが、見た目だけは間違いなくくだらない切り札だったぞ」

キーボ「が……が、が、が……」ピーガガガーッ


バチバチバチバチッ


キーボ「ぐああああああああああああああああっ!」

巌窟王「……反応は劇的だが……これは本当に復旧できているのだろうな……?」

キーボ「あ……あ、あ、あああああああうううううう……!」

キーボ「巌窟王、さ……ん……!」グッ




ボキイッ




巌窟王「!?」

巌窟王(頭のアンテナを引きちぎった!?)

キーボ「ボクは! 正気に! 戻った!」シャキーンッ

巌窟王「おかえりと言っておこう」

キーボ「ただいまです」

キーボ「……涙を流せたら泣いていましたよ。ああ、長い時間会えてなかったような気がします」

巌窟王「今までのことは覚えているのか?」

キーボ「セミラミスさんに致命傷を与えたことを含め、暴走していたときの記憶もキチンとボクの中に残ってます」

キーボ「……巌窟王さん。最後にあなたに伝えなければならないことがあります。時間がありませんので手短に」

巌窟王「……」

最原「……静かになったね」

百田「やったか!?」

白銀「百田くん、それフラグになっちゃうから黙って」

アンジー「……あっ! 念話が入ったよー!」

最原「アンジーさん! どうなったって!?」

アンジー「キーボの復旧に成功したって!」

全員「……ッ!」

百田「シャアアアアアアアアアアアアアアッ! やりやがったな、あの野郎ォ! 後でシャンパンタワーだ!」グッ

春川「シャンパンシャワーでしょ。タワーじゃホストクラブのヤツだから」

巌窟王『……だが一つ問題が残っている』

アンジー「え?」

巌窟王『キーボを連れてそちらに帰る。話は直接、顔を突き合せて行おう。幸いにして猶予はまだあるようだ』

アンジー「……」








巌窟王「では移動するぞキーボ」ズリズリズリ

キーボ「引きずらないで貰えます!? 土が隙間に入り込みます! 土が!」ガーンッ

巌窟王「自力で移動できるのならそうしよう」ズリズリズリズリ

キーボ「うおおおおおおおおお超不満ですーーーッ! 最後なのに! 最後なのに!」

巌窟王「戻ったぞ」ズリズリズリズリ

最原(引きずってる!)ガビーンッ

百田「キーボ! 俺のこと思い出せるか!」

キーボ「当然じゃないですか。忘れられないですよ、泣く子も憧れる超高校級の宇宙飛行士さん」

茶柱「……はあ……緊張の糸が切れちゃいましたよ。これでやっと……やっと……!」ヘタッ

最原「……」

キーボ「……あれ? 引きずられてること気にしてるの、もしかしてボクだけですか!?」ガビビーンッ

最原「大丈夫だよ! 僕も気にしてたから! なんで引きずってるの!?」

巌窟王「体力の温存のためだ。許せ」

キーボ「わかりました!」カッ

真宮寺「わあ寛大」

最原「いや巌窟王さん側の都合もそうだけど、なんでそこまでキーボくんが消耗してるのかを訊いたんだよ」

巌窟王「それについての回答は少し時間を割かねばならないな。ロムルス。結界の解除はまだだぞ」

ロムルス「……?(怪訝そうな顔で結界の一画を指さす)」

王馬&天海&百田「……」ビターーーーーッ

巌窟王「まだ待たせておけ」

白銀「結界に張り付きすぎだよ! いや待ち遠しいのはわかるけどさ!」

最原「……時間を割く?」

茶柱「?」

最原「待ってよ。それ、時間が無い人の言葉じゃないか。これから、これ以上何も起こるはずが……」

巌窟王「そうは行かなかった。それだけの話だ」ヒョイ

最原「……なにその……デジタル時計?」

白銀「!!!!!!!!!!!!!」ガーンッ







巌窟王「キーボに搭載されていた自爆機構だ」

最原「……」

全員「は?」

ナーサリー「……なんで持って帰ってきてるの? そんなものどこへなりとも捨ててくればよかったでしょう? 選択肢はトラッシュオンリーよ」

巌窟王「厄介なことだが……学園のどこへ捨てても無駄だ。キーボの言うことにはな」

キーボ「この学園を丸ごと吹っ飛ばす程度の威力があります。なにせ学園のドームの内側だと衝撃の逃げ場がありません」

キーボ「これを起爆させたが最後、なんの防衛機構も持っていない人間は粉々でしょう。DNAの一片も残るか怪しい」

獄原「安心してキーボくん! ロムルスさんの結界は頑丈だから!」

王馬「相変わらずバカだなーゴン太は。全員中にいるわけじゃないでしょ?」

獄原「……あっ!」ガビーンッ

巌窟王「アンジーと赤松、それと他でもないキーボ自身はそうは行かない」

巌窟王「このままだと、この三人は確実に死ぬ」

最原「……入間さん! あれ解体できる!?」

入間「時間次第だ! 巌窟王! ちょっとそれよく見せろ! タイマー部分を重点的にだ!」




アト 4 フン 50 秒




星「……どうだ。入間」

入間「……回路の複雑さに対して短すぎる……!」

キーボ「これでも初期設定のままだから最長ですよ。これを起動させたときのボクは慌てていたので、時間設定ができなかったんです」

巌窟王「一度起動したが最後時間設定はいじくれない。だがキーボから取り外すことは辛うじてできた」

巌窟王「その後遺症でキーボは歩くこともできないがな。入間。後があるのなら直してやれ」

アンジー「!」

最原「……考えがあるの?」

巌窟王「当然だ」

巌窟王「二つほど考えがある。まず一つ目は、業腹だがセミラミスに再度頼る案だ」

巌窟王「セミラミスが聖杯を赤松に渡したのは見えていた。あれを使えば瞬間移動くらい容易いだろう。ロムルスの結界の内側にも入り込めるはずだ」

巌窟王「魔術的要素が薄くなった今のこの空間内でも三人程度なら問題無い」

アンジー「楓ならさっきセミラミスを追ってそこの穴に入っちゃったんだよねー」

巌窟王「そうか。ならばすぐに連れ戻して――」





キングプロテアの頭「」ミヂッ……




全員「」

ロムルス「……穴が塞がれてるな」

最原「ていうかアレ何ーーー!?」ガビーーーンッ

ナーサリー「キングプロテアの頭……かしら。巨大化して穴をみっちり塞いでるのだわ」

獄原「え? キングプロテア? え? 花? あんな大きくなかったよね?」

巌窟王「……」ゲシゲシ

キングプロテア「……!」イタタタタタ

巌窟王「……」

巌窟王「プランBだ!」ズバァァァァンッ!

春川「あ。諦めた」

白銀「ていうか下で何してんの赤松さん!」

入間「バカ松はよおおおおおおおお! 本当によおおおおおおお! 状況を悪化させてばかりでよおおおおおお!」orz

星「喚くな入間。あのとき赤松を止めなかった俺たちの連帯責任だと思え」

キングプロテア「……プロテア……プロテアですから……」ミヂミヂッ

巌窟王(一体どんなシチュエーションならこんな台詞が出る……? 頭皮より下は全部地下だからよく聞こえん)

アンジー「もう一つの案ってー?」

巌窟王「俺の宝具を使って学園に穴を開ける。そして爆弾を外に投棄。そうすればすべて解決だ」

ナーサリー「なるほど。単純ね。でも完璧だわ」

巌窟王「聖杯が使えない以上、仕方あるまい! ああ、安心しろ。外に誰がいたとしても生徒が選んだのは『最原終一の進路』だ」

巌窟王「投棄した爆弾で攻撃するような意地汚いマネはしないさ」

最原「……それって」

アンジー「お前はどうなるの?」

巌窟王「消えるに決まっているだろう。最初からそう言っていたはずだ」

アンジー「……」

巌窟王「……ム? アンジー、貴様。まさかとは思うが、今更後悔などしていないだろうな?」

巌窟王「貴様は最初からモノクマの進路に投票などしていなかった。俺との別れは覚悟の上だろう?」

アンジー「後悔はしてないよ」

巌窟王「クハハ! だろうさ! この俺のマスターなのだから――」



ガシイッ



巌窟王「!?」

アンジー「……別れを惜しんでるんだよ! そのくらい言わなくてもわかってよぉ!」

巌窟王「待て。マントをそんな乱暴に掴むな。皺になる……」アタフタ

最原(動揺のあまりしょうもないことを言っている……!)

巌窟王「……」

巌窟王「アンジー。俺は貴様への第一印象が最悪だった」

アンジー「……」

巌窟王「嫌いな知り合いに似ていてな……いや、あのころの貴様はそれより酷かった。何もかもが『神様の言う通り』なのだからな」

巌窟王「自分の意思がどこにもない」

アンジー「今は?」

巌窟王「もう何回も言ったはずだぞ。今の貴様は俺のマスターとして相応しい」

巌窟王「お前はお前の意思で怒れる。泣ける。憎悪できる。直近だと主にその対象は最原だったが」

最原「……お腹痛い」ズーン

茶柱「黙ってください」シーッ

巌窟王「アンジー。どこまで行ってもサーヴァントは『使い魔』だ。マスターに意思が無ければ始まらない」

巌窟王「ましてや、本来なら聖杯戦争を戦い抜くのが主な仕事だぞ。『願い』も持たない人形には務まらない」

巌窟王「……ああ、違う。そうじゃない。今の言い方は遠回しすぎた」

アンジー「……?」

巌窟王「意思を持て。願いを持て。貴様には才能があるのだから、それだけで世界は美しく色付く」

巌窟王「俺が俺の進路で復讐を推したのは……貴様が心の底ではそれを望んでいると思ったからだ」

アンジー「……ちが……うよ……!」

巌窟王「なに?」

アンジー「アンジーは……アンジーはね……お前の意思を汲みたかった……!」

巌窟王「……」

アンジー「お前が何者だとかはもう本当にどうでもよくって! アンジーは! アンジーの意思で! お前と一緒に!」

アンジー「別れがすぐそこだったから、同じ道を歩んでいたかったんだよ!」

アンジー「だって今まで楽しかったんだもん! だから、これからだって楽しくしたいんだよ!」

アンジー「一緒が……楽しいってアンジーが……」ズビッ

アンジー「それがアンジーの『願い』だったから!」

巌窟王「……」

巌窟王(俺が見たかったもの。俺が作りたかったもの。今、それが目の前にある)

巌窟王(俺は夜長アンジーが心底何かを願う姿を見たかった)

巌窟王「……そろそろだな。充分だろう」ゴオッ

アンジー「ッ!」









巌窟王「お別れだ。アンジー」

百田「待てよ! 俺たちもテメェに言いたいことがあんだよ!」

巌窟王「……」ゴオオオオオオオッ

百田「待てって! 火力上げてんじゃねぇ! 発進準備にはまだ早ぇってーの!」

夢野「……いや。もうよい。これ以上は無理じゃろ。それに無意味じゃし」

百田「んだとォ……!?」

夢野「あやつは知っておるわ。ウチらがどれだけ巌窟王との別れを惜しんでいるか」

夢野「……よーく知っておるじゃろ。お主は忘れてても、巌窟王は忘れない。ここで過ごした日々のお陰でな」

王馬「だろうねー。特にこの十六人の生徒の中で最もわかりやすいのは百田ちゃんだろうしさ」

百田「テメェが言うと褒められてる気がしねぇな。絶無だな」

茶柱「最原さん。あなたはどうです?」

最原「僕?」

最原「……」

最原(言いたいことは沢山あるに決まってる。沢山ありすぎて短く絞り込むことが不可能だ。だから何も言えない)

最原「……僕は……」

巌窟王「最原。最後に貴様に言いたいことがある」

最原「!」

巌窟王「最後の最後。ささやかな復讐だ。貴様、結局最後まで嘘だと明かさなかったな」

最原「……何のこと?」

巌窟王「『白銀のやったことを絶対に許せない』、という下り。あれは嘘だろう」

白銀「え」

巌窟王「……どれだけ怒ったフリをしたところで無駄だ。貴様はいつか白銀を許してしまう」

巌窟王「おそらく貴様が思っているよりも遥かにくだらない理由ときっかけで」

最原「……だったら何?」

巌窟王「何でもないさ! ただ貴様の嘘を暴いてやりたかった! それだけのことだ!」クハハハハハハ

最原「ええっ!?」

真宮寺「本当にささやかだネ……最原くんに言論で叩きのめされまくったことを余程根に持ってたんだ……」

巌窟王「黙れ!」

おっすオラ爆死太郎!
今日はBBに挑んだけど石が滅んだのでなしだぞ! 泣いてる

最原「……はあーーーっ……巌窟王さん」

巌窟王「なんだ!」

最原「憧れてる。巌窟王さんのことをかなり前から格好いいと思ってるんだ」

巌窟王「……は?」

アンジー(あ。言った)

最原「別に僕は巌窟王さんのこと嫌ってないよ。一度としてそんなこと言った? 言ってないよね。言動にはそれなりに気を付けてたんだからさ」

巌窟王「……やたらと俺に噛みついてきたのは?」

最原「憧れてる人に勝てたら最高に気持ちいいでしょ。そういうこと」

王馬「うわあお。最高に負けず嫌いなヤツの理屈だね、それ」

巌窟王「……そうだな。憧れているヤツに勝てれば、それは喜悦の極みだろう」

巌窟王「俺は一度として貴様に負けたことはないがな!」ズギャアアアアアアンッ

ナーサリー「嘘は良くないわ」

ロムルス「往生際の悪さ選手権重量級の世界チャンピオンである」

巌窟王「フン! もう喋ることはない!」ゴオオオッ

ビュンッ

ナーサリー「あ! 逃げたのだわ!」

最原「……嘘じゃないなあ。残念だけど、さっきの彼の言葉は。一度だって僕は巌窟王さんに勝ててない」

ロムルス「?」

最原「相手の得意分野で上回らなきゃ、そんなの勝利じゃないよ」

最原「僕が欲しかった強さはああいうのだ。縦横無尽に飛び回って、僕たちの手の届かない場所にある希望を掴む」

最原「ああいう、理不尽な強さだよ」

アンジー「……彼も……」

アンジー(彼も終一に憧れてたんだよ。終一にしか持てない強さにさ)

アンジー(……なんて、分かり切ったことだからもう言わないけどねー)

巌窟王「……」

巌窟王(思えば……随分と長居したものだ)

巌窟王(狙う場所は頭上。先ほどキーボが誤射したドームのヒビ部分!)

巌窟王(道を示す。道を作る。障害は軒並み排除する!)

巌窟王(これが最後の宝具となる!)

巌窟王「叩き壊してやる……まとめてさよなら絶望学園だ!」ゴオオオオッ

巌窟王「虎よ、煌々と燃え盛れ!」






真宮寺「始まった……分身し始めたヨ!」

ギュンッ ギュギュギュギュギュンッ

入間「……多くね!? 今まででぶっちぎりの多さだぞ!」

星「最後だからな。張り切っているってのが一つ。もう一つにして最大の要因は……」

キーボ「もう邪魔は無いとは言え、今まで僕たちを閉じ込めていた堅牢にして鉄壁の壁」

キーボ「時間があるのならともかくとして、短時間でブチ破るのならあれでも足りるかどうか……!」

アンジー「……」

アンジー(思えば……随分と一緒に過ごしたよね)

アンジー(行かないで。一緒にいて。まだアンジーと遊んで欲しい)

アンジー(包み隠さないアンジーの本音は、そう叫んでいる)

アンジー(……でもその本音の中に、アンジーの本当の本当の本当の本音がある。弱さからくる叫びじゃない)

アンジー(彼の背中をずっと見てきたから得た、強さがそこにある)

アンジー(アンジーの強さは……アンジーの望みは……!)

アンジー「……すうううううううっ……!」






巌窟王「……!」

巌窟王(足りない! まだ、これでも間に合わない! このままでは……!)

「負けないでッ!」

巌窟王「!」






アンジー「お前はアンジーのサーヴァントなんでしょ! ならアンジーの望みを叶えてよ!」

アンジー「勝って! ぶち壊して! 隔てるものが何もない綺麗な青空をアンジーに見せて!」

アンジー「恩讐の果てに何があるのか、このアンジーに見せてよ!」

アンジー「エドモン・ダンテス――!」

巌窟王「……!」




――ガチリ。

頭の中で、小気味良くそんな音が聞こえた。
すべてのピースが揃ったパズルか、百年越しに動いた古時計の歯車のような。




????「身体が軽い……」

????(初めて名前で呼ばれた)

????「……」



そう。彼女こそは超高校級の美術部にして、とある復讐のサーヴァントのマスター。夜長アンジー。
彼女が自らのサーヴァントの名前を間違えるなどありえない。ならば、そこにいるのはきっと復讐の完遂を目論む鬼ではなく。



エドモン「……クハハ」



幸せな結末へ直走る、復讐劇の果てに『人』へ戻った男。エドモン・ダンテスでしかありえない。



エドモン「クハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

バガァァァァァァンッ!

最原「……!」

最原(もう目を開けているのが辛い。太陽を直視しているような本能的な拒否反応がある!)

最原(……というかもう、あれは『モロ』だ……!)

百田「黒い……太陽……!」

王馬「へえ。やるねぇ。虚構の空を、真っ黒な嘘の太陽でぶち抜こうって気なんだ」

白銀「……眩しい」

東条「でも見て。アンジーさんもキーボくんも涼しい顔よ。私たちに害はないみたいね」

獄原「見た目ドス黒くて、実はゴン太たちを思いやってる太陽。うん! まるっきり巌窟王さんみたいだね!」


ズズズンッ……!


獄原「……頑張れ! 巌窟王さん! 頑張って!」

夢野「見せてみるんじゃ巌窟王! お主の最後の根性! 最後の魔法を! 二度と忘れないよう鮮烈に!」

春川「思い出せないなら思い出せないなりに……アンタのことを信じてる。だから!」

春川「ん……? 思い出せない? 待って。前にもこんな台詞を吐いたような……古傷が疼くような……」

夢野「良い思い出じゃないから忘れておいた方が、よいぞ?」

天海「最後まで信じて! 俺たちが巌窟王さんのことを信じてるってことを!」

星「行け……行け! お前さんの大事な物を守るために!」

茶柱「みんな応援してます! これでダメだったら承知しませんからね!」

入間「ぶち抜いて犯れーーーーーーッ!」

キーボ(今酷い誤植があったような!)ガーンッ

百田「終一。お前もなんか言ってやれ! 最後だぞ!」

最原「巌窟王さん……」

最原「……みんな終わらせてくれ! すべてを!」






全員「頑張れええええええええええええっ!」ズギャアアアアアアアアンッ

エドモン(まだだ。体に力が漲ってくる! 一体どうしたことか、俺の身体は!)

エドモン(BBに曰く、俺のことを正しく認識すれば本来の力を取り戻せるらしい)

エドモン(だがそれだけではない! 俺の背中を押すこの力は! 胸に広がるこの熱は!)

ビキビキビキッ

エドモン「姿を晒せ! 俺たちの前に! 今日! この場で!」

バキンッ ビシビシビシッ

エドモン「安全圏からアイツらを嬲る時間はもう終わりだ! 貴様らには同じ土俵に立ってもらう!」

エドモン「出会い頭に命は取らない……だが! 一切の隔たりの無い空だけは一方的に奪ってやる!」

エドモン「我が名はエドモン・ダンテス! 希望と共にある彼らを導く者!」

エドモン「そして――!」ゴオオオオオオオオッ



ガシャガシャガシャッ!




エドモン「才囚学園のアヴェンジャーであるッ!」




バリイイイイイイイイインッ

FGOイベントラストスパートなので今日はなし!

エドモン(壁が壊れた! もう時間はない! 後はこれを思い切り外に放り投げておしまいだ!)

エドモン「間に合え!」ブンッ

エドモン(タイマーを見る余裕もなかったが……! 終わりだ! これで全員無事に!)

エドモン「……」

エドモン「まだやりたいことがあったな」



カッ



ロムルス「これは……マズイな」パチンッ

最原(ロムルスさんが手を鳴らしたと思ったら、結界が急に真っ黒になった)

天海「ロムルスさん?」

ロムルス「音と光に警戒したのだ。流石は爆弾。モロに食らうとしばらくスタンする威力である」

春川「そんなことまでわかるの?」

ロムルス「皇帝特権は直感も拝借できる」

最原「アンジーさんは……」

ナーサリー「伯爵のこと、きっと念話で注意を促してるはずね。耳と目を塞いでいれば大丈夫よ」

入間「一歩も動けねぇキーボは今頃悲惨なことになってるだろうけどな」ハンッ

最原「……」

最原(……最期を、僕たちは見ることができなかった)

最原(僕たちの目の届かないところで、彼は……)

ロムルス「……」

ナーサリー「……」

ロムルス(このときばかりは、二人きりにさせるべきであろう)

ナーサリー(マスターとサーヴァントの絆はワンオフだもの。邪魔は……しない方がいいわ)

最原「……?」








結界の外


「……アンジー。起きろ。アンジー」

アンジー「ん……?」

アンジー(あれ。アンジーは……なんで倒れてるんだっけ)

アンジー(……そうだ。確か、爆弾の音と光が目と耳を塞いでても予想外に大きすぎて……ていうか身体が吹っ飛んで真後ろの結界に叩きつけられて)

アンジー(身体が痛い。でも起きれないほどじゃない)

ムクリ

アンジー「……わぁ」

アンジー(周囲は一変していた。アンジーたちを閉じ込めていた檻は完全に叩き壊されて……)

エドモン「見覚えのある星空だ。やっと知っている星座を拝めたな」

アンジー「……」

アンジー(こちらに背を向けるエドモンの姿は透けていた。変な光った粒子も見える)

アンジー「……どうしてこっちを見ないの?」

エドモン「なに。大した理由などないさ。爆発の影響で顔が傷だらけになったとでも思っておけ」

アンジー「さっきお別れだとか言ってたのに」

エドモン「俺は前からこうしていたぞ。分身に余力のあるときは、アンジー。少しだけでもお前にリソースを割く」

エドモン「今もそうしているだけだ。それに……」

アンジー「それに……なに?」

エドモン「ありがとう」

エドモン「……と、まあ。礼を言い忘れていたと思ってな。それだけだ」

アンジー「……本当に……お前はさー……」

アンジー「……アンジーは、お別れは言わないよー」

アンジー「たった今決めた。胸に銘じた。アンジーは生涯をかけてやりたいことができた」

エドモン「言ってみろ」

アンジー「もう一回エドモンの顔を見る!」

エドモン「なに?」

アンジー「どこにも行けないのが本当なら、それはきっと消滅って意味じゃない。どっかに何かは必ず残る!」

アンジー「アンジーは生涯をかけて絶対にそれを掴む! その途中の旅路でいっぱい楽しいもの、美しいもの、心に残るものをありったけ見て!」

アンジー「辿り着いたら、それをエドモン! あなたにもちゃんと、わかるように見せてあげる!」

アンジー「アンジーだからできること! アンジーにしかできないことを! 誰に何と言われようと絶対に成し遂げてやるッ!」

エドモン「道半ばで倒れたらどうする?」

アンジー「それでもきっと後悔は残らない。やらないよりはずっとマシ!」

アンジー「……だと思うんだよねー」

エドモン「……やれやれ。随分と厄介な女をマスターにしてしまったものだ。この俺を恐れさせるとは、まったく大した女傑だな。アンジー」

エドモン「だが……それがお前の進路だと言うのなら、俺がどうこう言うのは筋違い、か」

エドモン「もう学園もないのだから」スタスタ

アンジー「……エドモン……振り返らないのはさ……」


ボロッ


ポタポタッ



アンジー「アンジーの泣き顔を見ないため……?」グスグス

エドモン「……さてな。何か言ったか。アンジー」

エドモン「俺のマスターが、俺の門出を涙で汚すわけがない。そうだろう」

エドモン「当然、俺は笑っている。俺が笑っているのだから、お前も笑っているはずだ」

エドモン「胸を張れ。お前が掴んだのはこれ以上のないハッピーエンドだ。そうでなければ、これまでの苦しみが報われないだろう!」

アンジー「……うん。視界がぼやけるから涙はもう二度と流さない」グシグシ

アンジー「ありがとう。もうアンジーは真っ直ぐ前を向ける。あなたの名前だってもう二度と忘れない」

アンジー「あなたの名前は――!」

キーボ「……はっ! 起きた! 凄い音と光で一瞬フリーズしてた!」ピョイーンッ

キーボ「あれ!? セミラミスさんの8bit化ウイルスがまだ消えてない!? マリ●のジャンプ音が!」ガガーーーンッ

キーボ「しかも爆風のせいでちょっと転がったみたいだし!」

エドモン「……」スタスタスタ

キーボ「あ。巌窟王さん! ボクの身体のウイルスって除去できるんですか……って」

キーボ「……」

キーボ「泣いて……る?」

エドモン「幻覚作用だろう。セミラミスのウイルスが進行してきたようだな」

キーボ「え゛」

エドモン「速やかに入間に除去してもらえ。このままだとどの道死ぬからな」

キーボ「い、いやだーーーっ! ここまで来てボクだけ死ぬのはヤだーーー!」ジタバタ

エドモン「……」スタスタ

キーボ「うわぁぁぁぁぁ……って、どこへ?」

エドモン「どこでもいい。俺はエドモン・ダンテスだぞ。この場限りの存在であるならば――」

エドモン「巌窟王とは違う。どこへ向かうのも悪くはないさ」

キーボ「……オルボワール。エドモン・ダンテス。あなたの進路にも幸多からんことを」

エドモン「俺は――」

キーボ「終わりませんよ。ここで消滅したとしても」

キーボ「ボクたちの進路に影響を与えた時点で、何一つとして終わりません」

キーボ「ボクたちの進路にはいつもあなたがいます。何と言おうが勝手にボクらが連れて行きますからね」

エドモン「……」

キーボ「あ、それと……泣いてたことは一生黙ってますから! ご安心を!」

エドモン「先に地獄で待ってるぞ」スタスタ

キーボ「ボクはそんなとこに行く予定ありませんけど!?」ガビーンッ

キーボ「まったく! 巌窟王さんはまったくもう!」プンスカ

キーボ「……あれ。巌窟王さん? 巌窟王さーん?」

キーボ「……」







キーボ「いつも通りだったなあ。消えるそのときまで」

キーボ「……うん。泣きもしてなかったかも……な……いつも通りだったから」

巌窟王「……ハ。俺はこの期に及んで……何故こんな場所に」

巌窟王(マンホールの中。出口と書かれた罠の在処。俺はそこを死に場所と決めたらしい)

巌窟王(我ながら随分と女々しい)

巌窟王(だが……)

巌窟王「……すべてを昨日のことのように思い出せる。ここでアイツらと出会ってすべてが始まり……」

巌窟王「そして終わる」

巌窟王「……卒業アルバムの完成くらいは目にしておきたかった。今となってはそれが唯一の心残りだな」

巌窟王「それだけしか心残りがないくらい、好き勝手したということだが」

巌窟王「……」





アンジー『……』

アンジー『神様、ですか?』





巌窟王「違うな。俺は――」

巌窟王「ただの、人だ。星空に心を打たれ、別れに涙するような」

巌窟王「そういうただの人間になってしまった、この場限りの影法師だ」ウトウト

巌窟王「……アンジー……俺も……楽しかっ……」コックリ コックリ

巌窟王「…………」


パキンッ サラサラサラサラサラ……




静寂の中で男は目を閉じた。
すべては闇の中に消え、痕跡は跡形もなく。

だが、それが彼にとっての救いだった。
何も残らないからこそ、彼は呵責無く学園の法則すら捻じ曲げてみせたのだから。

復讐鬼からヒトへ戻った男は、結果的に物語と同じ末路を辿る。

どこへなりとも消え去った。

伴がいないことだけが、物語と今との相違点だった。

最原「……アンジーさん」

最原(ロムルスさんが結界を解除したのは、光と音を遮断してそう時間が経たない内だった)

最原(でも爆発という瞬間的なものを警戒したにしては、少し長すぎる時間だった)

最原(別のものを隠したかったんだ。そう確信するには充分なくらい)

最原(僕たちの前には、ただ前を真っ直ぐ見るアンジーさんがいる)

最原(そして偽りの空を映し出していたドームに開いた穴からは、胸が痛くなるくらいの綺麗な星空が見えて……)

最原「巌窟王さんは行ったの?」

アンジー「うん」

最原「……そう。そ……っか」

アンジー「でもアンジーはもう泣かない」

アンジー「信じられる物から目を逸らさないって決めたから」

アンジー「……一周回って元に戻っただけだねー。にゃははー!」

ビュオウッ

百田「お……風だ」

夢野「気持ちいい風じゃのー」

春川「……炎の熱気はもうないね。さっきまでの業炎が嘘みたい」

最原(その風は僕たちに告げていた。すべては終わったのだと)

最原(……苦しいことだけじゃない。その中にあった楽しいことや、綺麗な思い出も全部過去のものへと変わって――)






ナーサリー「……退去が始まったようね」キラキラキラキラ

ロムルス「ローマは彼らに残す言葉はない。あったとして、それはすべて巌窟王の残したものに埋もれてしまうだろう」キラキラキラキラ

ロムルス「無言の内に消えるとしよう。それでいい。それがいい」

ナーサリー「……?」

ロムルス「どうかしたか?」

ナーサリー「キングプロテアの退去が始まってない……?」

ナーサリー「地下と地上とでセミラミスの宝具の効果が違うのかしら」

ナーサリー「……大した問題じゃないわね。どちらにせよ、彼女も戻るでしょう」

ナーサリー「すべてはハッピー。世はこともなく、すべては流れに流れいく。なるようになってお終いよ」

ロムルス「……さらばだ。才囚学園よ」


シュイーン


キングプロテア「……」モゾモゾ

最原「……アンジーさん」

最原(ロムルスさんが結界を解除したのは、光と音を遮断してそう時間が経たない内だった)

最原(でも爆発という瞬間的なものを警戒したにしては、少し長すぎる時間だった)

最原(別のものを隠したかったんだ。そう確信するには充分なくらい)

最原(僕たちの前には、ただ前を真っ直ぐ見るアンジーさんがいる)

最原(そして偽りの空を映し出していたドームに開いた穴からは、胸が痛くなるくらいの綺麗な星空が見えて……)

最原「巌窟王さんは行ったの?」

アンジー「うん」

最原「……そう。そ……っか」

アンジー「でもアンジーはもう泣かない」

アンジー「信じられる物から目を逸らさないって決めたから」

アンジー「……一周回って元に戻っただけだねー。にゃははー!」

ビュオウッ

百田「お……風だ」

夢野「気持ちいい風じゃのー」

春川「……炎の熱気はもうないね。さっきまでの業炎が嘘みたい」

最原(その風は僕たちに告げていた。すべては終わったのだと)

最原(……苦しいことだけじゃない。その中にあった楽しいことや、綺麗な思い出も全部過去のものへと変わって――)






ナーサリー「……退去が始まったようね」キラキラキラキラ

ロムルス「ローマは彼らに残す言葉はない。あったとして、それはすべて巌窟王の残したものに埋もれてしまうだろう」キラキラキラキラ

ロムルス「無言の内に消えるとしよう。それでいい。それがいい」

ナーサリー「……?」

ロムルス「どうかしたか?」

ナーサリー「キングプロテアの退去が始まってない……?」

ナーサリー「地下と地上とでセミラミスの宝具の効果が違うのかしら」

ナーサリー「……大した問題じゃないわね。どちらにせよ、彼女も戻るでしょう」

ナーサリー「すべてはハッピー。世はこともなく、すべては流れに流れいく。なるようになってお終いよ」

ロムルス「……さらばだ。才囚学園よ」


シュイーン


キングプロテア「……」モゾモゾ

第六章

超高校級の生徒たちが超高校級の召喚を目撃し超高校級の協力で超高校級の絶望に立ち向かい超高校級の結末を掴むお話


END……?



ブロロロロロロロロ



百田「ん? なんだこの音――?」

イシュタル「あああああああ私を置いてくんじゃないわよーーーッ!」ブロロロロロロ


ドカァァァァァァンッ


春川「あべしっ」

百田「ハルマキが超速度で宙を走るスクーターに轢かれて吹っ飛んだーーーッ!?」ガビーンッ

百田「……ってなんかこんな光景前にも見た気がするぞオイ!」

春川「ごはっ」ベシャッ

百田「ハルマキ! しっかりしろ! ハルマキー! ってこんな台詞もなんか一字一句そのまま吐いた気がする! 覚えてねぇけど!」

茶柱「いい雰囲気が台無しなんですけど!」ガーンッ




END

マアンナのミラーを手に入れました!

???????


エドモン「……ここは……どこだ」

エドモン「何故俺はこんな場所にいる?」

エドモン「……まあいい。どこへ行くのも悪くないと言ったのは俺自身だ」

エドモン「見渡す限り本当に何もないが……歩くことくらいはできそうだ」

エドモン「……」スタスタ

エドモン(俺は何も忘れない。気の遠くなるような時間歩いていても、何も忘れないし摩耗しないだろう)

エドモン(多分これ以上、何も起こらない。俺は怒らない)

エドモン(すべて終わったのだから、それでいいのだ)









黒い竜(ジャンヌが来るのはいつ頃くらいだろうか……)ボーッ

エドモン「!?」ガビーンッ



歩いていると巨大な黒い竜の後ろ姿を見つけたが、特に用はないのでエドモンはスルーして歩き続けた








エピローグ

僕らの為の物語

超高校級の発明家の研究教室

入間「……」

キーボ「……」

入間「んん……んんんんんんんんんんんんんんんんんん」グギギギギギギギギ

入間「無理ィーーーッ」ポーイッ

キーボ「匙を投げないでください! あなたに見捨てられたら……見捨てられてしまったら!」ヒョコヒョコ

入間「やめろこっちに来るんじゃねぇ。間抜けな音に思わず吹いちまいそうだブっフォフォウ」

キーボ「もう既に思い切り吹いてますねぇ!? お願いです! 除去してください! ボクの身体の中のセミラミスウイルスをおおおおおお!」ピコピコ

入間「だから無理だって。俺様何度も言うけどソフト関係に関してはその筋の才能持ってるヤツよか劣るんだっつの」

入間「セミラミス自身には解毒できるかもしれねーが、アイツ死んじまったしなぁ」

キーボ「死んだところをボクら見てませんよね!?」

入間「撃った本人が言っていい台詞じゃねぇ。それに……」

入間「まともに寝てねぇんだ。全部終わったのも昨晩のことだぞ……ふあーあ……」

入間「他に可能性があるとすれば、最原がまた抜け道を見つけることだけどよ……」







キーボ「……真っ先にぶっ倒れて眠ってしまいましたからね……」

キーボ(時間はまだ朝……起きていない人の方が多かった)

キーボ(ボクらは脱出をまだ保留している)

入間「いいじゃねーか。結局巌窟王の『除去しなきゃ死ぬ』って言葉が嘘だってわかったし、修理のお陰でほぼ後遺症も残らなかっただろ?」

キーボ「唯一残った後遺症が一番イヤなんですよボクは!」ピニョーーーンッ

入間(なんかナムコのシューティングゲーみたいな効果音になってきやがったな……)

入間「後回しだ後回し。この場にある機材と人材じゃどうしようもねぇ」

入間「それに、俺様は他にやることもあるしな。これ」ポンポンッ

キーボ「……スクーター? どこかで見たデザインですけど」

入間「ド貧乳川をふっ飛ばしたあのスクーターのコピー品だ」

キーボ「ああ! 本当だ! デザインが一緒!」ピコーンッ

キーボ「……と、いうことは」

入間「飛べるぜ。これで。あの大穴から誰か一人が先に脱出して、その後で一連の全員脱出の段取りを付けるって寸法だ」

キーボ「ボク以外の魔術の痕跡は全部消えたはずなのに、よく作れましたね?」

入間「それがよくわかんねーんだよなー。ネコアルクに捕食されたはずのイシュタルが普通に復活してたのも意味不明だったしよー」

入間「ひとまず人身事故の衝撃で外れたミラーを基にして、どうにか人一人分くらいは余裕で乗せられる程度のクソ劣化品は作れたけどな」

キーボ「まさかセミラミスさんの仕込みが上手く行ってなかったんじゃ……」

入間「そりゃねーな。実際に、ナーサリーライムもロムルスも消えてんだろ?」

キーボ「……巌窟王さんも、ですよね……」

入間「……ハッ。散々振り回されたんだ。せいせいすらァ」

キーボ「いや入間さんが勝手に自分からぶんぶん振り回されに行ってたように見えましたが」

入間「るせーーー! この万年レトロゲーロボがッ! 64以上のスペックになってから出直せコラ!」

キーボ「罵倒文句のチョイスがロボに対するものとして酷すぎる!」ガビーンッ

病院:病室

春川「……ハッ! 痛ッ!」ズキッ

春川「ここは……病院? 良かった。今度はちゃんと記憶がある」

百田「ぐー」スヤァー

春川(椅子に座った百田が、頭を私の寝ていたベッドに預けて寝ている)

春川「……もう朝か……百田、こんな体勢で寝てたら身体痛めるって」ユサユサ

百田「ぐー」スヤァー

春川「全然起きない」

春川「……まあ二度目だし、撥ねられるの。また記憶を失ったらと思ったら私の立場でも心配する……?」

春川「あれ。撥ねられて記憶を失うなんてこと、前にもあったっけ?」

春川「……あった。そういえば巌窟王に思い切り轢かれて……」

春川「あっ!」

春川(思いだしちゃったよ……今更……! 叩かれて思い出すなんて、我ながらなんて単純な脳味噌……)ズモモモモモモモモ

春川「……」

春川「でもまあ、いいか」

春川(特に何も変わりない。記憶を取り戻そうが、取り戻すまいが、私は私)

春川(……似たようなこと、コイツなら言いそうかな)ナデナデ

百田「ハルマキ……」

春川「!?」ビクウッ

百田「……アルカリ性の風呂で王馬をドロドロに溶かすのはやめてくれ……」グギギギギギ

春川「どんな夢見てるの……」

中庭

真宮寺「……」

王馬「あ。真宮寺ちゃんじゃん。おはよー!」

獄原「真宮寺くん。こんなところで何してるの?」

真宮寺「アレまだあるんだなーって思ってネ」

獄原「アレ?」

キングプロテア「……」ミヂッ

王馬「まだあったんだ!?」ガーンッ

獄原「……人間の頭皮と毛髪だね、これ。サイズはおかしいけど」ペンペン

キングプロテア(くすぐったい)モゾモゾ

王馬「考えるまでも無く百パーサーヴァントじゃん。なんでまだいるの」

真宮寺「あくまで可能性だけど、地下と地上とじゃ流れている法則が違うのかもネ」

真宮寺「話を聞ければ手っ取り早いけど、現状地上で見えているのが頭のてっぺん程度だから男女の区別すら付かないヨ」

王馬「ま、この辺は下にいる赤松ちゃんがなんとかしてくれるでしょ。状況を悪化させる天才だけど、だからって無能じゃないよ。彼女は」

獄原「うん。そうだね! 赤松さんはいつだって明るいから!」

真宮寺「……」

真宮寺(……何の根拠もないけど、確かになんとかなる気しかしないんだよネ)

獄原「ところでこの髪の色、どこかで見た気がするんだけど……気のせいかな……」

真宮寺「で。質問をそっくりそのまま返すけど、こんな早朝にそっちこそ何を?」

王馬「早朝だからかなぁ。アレを見たくって」

真宮寺「……ああ。空に開いた大穴ね」

王馬「正確には天井に開いた大穴だけど、実際俺たちにとって最近まであれが空だったからねぇ。気持ちはわかるよ」

獄原「うん! ちゃんとした日差しと、ちゃんとした青空だよ。綺麗だね」

王馬「ゴン太と会ったのは偶然だよ。たまたま行先が一緒だったからさぁ」

獄原「……で。あそこからどうやって脱出すればいいんだろう」

王馬「穴さえ開けば後はどうとでもなるよ。入間ちゃんなりキー坊なりが頑張れば」

王馬「問題はあれが穴ってところだね」

真宮寺「どういうこと?」

王馬「……調子を取り戻した入間ちゃんが穴に関する下ネタを言う確率、八十五パーセント」ズーン

真宮寺「百パーでしョ……」

獄原「い、いやなんだね……元の調子に戻られるの」

王馬「できれば彼女に頼らず脱出したいよ……下ネタが耐えがたいんだよね」

王馬「時間停止モノを謳ったAV以上に存在自体が耐えがたいんだよね」

真宮寺「それ自体が既に下ネタだヨ」

王馬「エロ描写がワンパな上に竿役の口調が必要以上に悪いエロ小説以上に耐えがたいんだよね」

真宮寺「わざとだネ。わざとだよネ?」

獄原「????????」

超高校級のマジシャンの研究教室

夢野「……いない! ハトムギがどこにもおらんぞ!」キョロキョロ

夢野「まさか単独でセミラミスのところに……!? 寝取りか!? 寝取られたのか!?」ガタガタ

東条「よくわからない単語を連呼するのはよくないことよ」

夢野「んああっ!? と、東条!? 驚かすな!」

東条「朝ご飯の時間よ。冷める前に食べることをお勧めするわ」

夢野「……」

夢野「傷」

東条「今度こそ、もう大丈夫よ。痛むのは事実だけれども……そろそろ、塞がってきたから」

夢野「……思ったよりみんなボロボロになったのう。最原とかを始めとして」

東条「私は自業自得だけれどもね」フッ

夢野「……」

夢野「さて。今日のご飯は何かのう」

夢野「下手したらここで食べる最後の朝ご飯じゃ! モリモリ食うぞ!」

東条「ふふっ。今日のご飯は腕によりをかけたの。楽しみにしておいて」

夢野「腹がはちきれるまで食べるんじゃー!」






食堂


天海「」チーン

白銀「天海くーーーん! だから言ったじゃん、食べ過ぎだってさぁーーー!」ウワァァァァ

夢野「本当にそこまで食うヤツがあるか!?」ガビーンッ

マーリンに財布を殺されたオタクになったので今日はなし。

さっ財布ーーーっ!

白銀「……『東条さんのご飯を食べられる機会なんてもうないかもしれないっすから』。それが彼の最期の言葉だったよ」ホロホロ

夢野「死んでおる!?」ガビーンッ

東条「いいえ。死にかけてるだけね。生きてるわ」

夢野「それでも重症なんじゃな!?」

天海「う、うう……仮面が……アマデウスの仮面が……ない」ガクッ

夢野「え? 失くしたのか?」

白銀「帰ったっていうのが正確かもね。ほら、イシュタルさんたちみたいにさ」

夢野「……全部、形跡すら残らないんじゃな。この学園に、巌窟王のものは。なにも」

夢野「終わってみれば夢みたいな話じゃったなぁ。魔術だの英霊召喚だのサーヴァントだのと」

東条「……それじゃあ、ご飯にしましょうか。しんみりするのは後でいいわ」カタッ

夢野「いよっしゃあーーー! お待ちかねの東条の」

麻婆豆腐「」ユエツ!

夢野「麻婆豆腐!? 朝から!? しかも色が真っ赤で臭いが目に痛い!」ガビビーンッ

東条「あら。ごめんなさい。うっかりしていたわ。これはみんなに出すつもりが無かったのだけれども」

東条「……」

天海「それ。東条さんが怪我する前に、巌窟王さんがよく食べてたヤツっすよね」

白銀「!」

東条「……弱い女と笑ってちょうだい。誰に出すわけでもないのに、作ってしまったのよ」

東条「王馬くんの悪ふざけのせいだけれども……彼に食べてもらったほぼ唯一の料理だったから」

夢野「……」

夢野「はくっ」モシャァ

東条「あっ。それ辛さは見た目以上なのに」

夢野「ぎゃああああああああああ辛ッ! かっっっらァ! なんじゃこれは! 地獄原産のホアジャオでも使っておるのか!?」ガタガタ

夢野「でも美味いのう」ハクハク

東条「……」

夢野「ぐっ……う、うううん。美味い美味い。多分、巌窟王も同じことを思ったじゃろうなぁ」

夢野「……幸せだったじゃろうなぁ。あやつ」

東条「夢野さん……」

夢野「……ほら。ウチも巌窟王のことを思い出すぞ。別に弱くもなんともないわい、この程度」

夢野「ウチはまだやりたいことがいっぱいあるんじゃ……!」

夢野「実現のためにこの学園での思い出は絶対に切り捨てることができない! できるわけないじゃろう!」

夢野「思い出は! 強さじゃ!」

天海「……ははっ! 夢野さん……強くなったっすね。なんか」

夢野「それはそれとして、この麻婆豆腐辛いんじゃあーーー! 涙と汗が止まらないんじゃがー!?」ダバダバダバダバ

天海「唇が腫れてなかったら本当格好良かったんすけどね……」

白銀「……えっと、夢野さん。一緒に食べようか。二人なら早く終わるでしょ」

夢野「頼むぞ!」

白銀(即答……いいのかなぁ。こんなの。天海くんだけでも充分なのに、私のことを仲間だと思ってくれる人がまだいるなんて)

白銀「……ちょっと幸せすぎるかも」

夢野「辛党か」

白銀「全然違う」

東条「そう。よかったわ。実はフライパン一枚分ほど作ったからまだまだ余ってたのよ」ドンッ

白銀&夢野「」

東条「食べると言ったからには食べてもらうわよ。全部。量そのものは二人がかりなら余裕だから安心して?」

白銀&夢野「」

天海「……俺も食べるっすよ」ハハハ





この日、天海、白銀、夢野の三人の間で『麻婆豆腐』が禁句になった

モノクマ「……負けちゃったなー。完璧に。外の世界はどうなっちゃうんだろうなー。キーボくん取られちゃったし」

ネコアルク「気にすんなって。明日は明日の風が吹くさ」キランッ

モノクマ「それもそうだね! あっはっはっはっは」

ネコアルク「にゃっはっはっはっはっはっは!」





「「あーーーっはっはっはっはっはっはっは!」」





茶柱「うるっっっさいんですけど二匹揃ってェ! なんで転子の部屋にいるんですか! そして仲良くなってるんですか!」ウガァ!

モノクマ「マザーモノクマのいるあの部屋、セミラミスさんの改築工事が途中で終わったせいでズタボロなんだよね……」

ネコアルク「ロムルスさんの結界の内側にいたせいで赤松嬢に置いてかれてしまったので行き場もなくー人肌も恋しくー」

モノクマ「ついでに寄宿舎の中でかなりダメージが少ない部屋が今となっては茶柱さんの部屋オンリーと言っていい状況だし」

ネコアルク「病院のベッドの方も埃や砂塵に塗れてないヤツは春川さんが使ってるからにゃー。あの子に関わると命がいくつあっても足りなさそう」

茶柱「……仲良くなっている理由は?」

モノクマ&ネコアルク「仲良しごっこと馴れ合いは十八番!」ビシイッ

茶柱「それを素面で言い合えるのならもう友達と言っていいのでは!?」

モノクマ「……」

モノクマ「で。なんで最原くんを自分の部屋に連れ込んでるの?」キョトン

最原「……」スヤァ

茶柱「……巌窟王さんとキーボさんとの戦いのせいで病院のベッドすらすぐに使えそうなのはないんですよ。さっき言ってたでしょう」

モノクマ「ふっうーん?」

ネコアルク「ほっへぇー?」

茶柱「もう校則も何もないので力尽くで排除してもよいのですが?」ゴキンッ

モノクマ&ネコアルク「……」ガタガタ

茶柱「……最原さんが」

ネコアルク「?」

茶柱「最原さんが起きたときに転子がいないと、危なっかしいでしょう」

茶柱「脊髄反射で無茶をしますし」

モノクマ「巌窟王さんの影響で自分から飛び込んで行ってたよね。火に」

ネコアルク「人間がサーヴァント相手に張り合うとかエアーズロック相手にメンチ切る以上の無意味なんだけどにゃー」

茶柱「確かにこの学園で一番の無意味バカでしたが……転子以外の人間に彼の悪口言われると物凄くムカつきますね」

モノクマ「茶柱さんの沸点はヘリウム並みなの?」


ガチャリンコ


星「茶柱。最原は起きたか?」

茶柱「まだですね。夕方までぐっすり寝てても不思議じゃない眠りっぷりです」

星「そうか。コイツは少し頑張り過ぎていたからな。休めるのなら休んでいた方がいいだろう」

星「これは東条の作った朝飯と、スポドリと包帯だ」

茶柱「あ。ありがとうございます」

茶柱「……えーっと、最原さんの包帯の取り換えは星さんがやってくださいね。転子そのために星さんに声をかけたんですから。身を切る思いで」

星「やれやれ。じゃあ先に手を洗わせてもらうぞ。そういうことをするのならな」

モノクマ「……」

モノクマ「あれ? 水道、まだ生きてるの?」

茶柱「え」

星「……ム……? 確かに妙だ。何故施設としての能力がまだ生きているんだ? 全部終わったはずだろう」

ネコアルク「……あー……施設の長がまだ生きてるからじゃないですかにゃー……」

茶柱「……仮にそうだったとしても転子たちには関係ありませんね。あの傷じゃあ長く生きられないはずですし」

星「赤松に全部任せるべきだろうな。むしろアイツを手伝おうとするのは野暮だぜ」

茶柱「……」

茶柱「……出会いの象徴みたいな人たちでしたね。巌窟王さんたち、サーヴァントって」

茶柱「悪影響を与えたり、最原さんや赤松さんを魅了したり」

星「あそこまで理不尽なヤツらは外の世界でもそうそういないと思うがな」

茶柱「でも、呪いを撒き散らすことを選ばなかった転子たちにはきっと彼ら以上の出会いがあるかもですよね」

星「……否定はできねーな」

星「ふっ。俺も絆されたか。少し前は生きる希望なんて何もないと思っていたが……」

星「今はちょっとだけ……一番星みたいな小さな明かりが見える気がするぜ」

モノクマ「うんうん。成長してくれて先生嬉しい! 感動のせいで涙が止まらない!」ネチョオオオオオオ

茶柱「汚ッ! 粘度が高くて気持ち悪ッ!」ガビーンッ

ネコアルク「あちしもサーヴァント由来のアレにゃんですけどにゃー。どう? 出会ってよかった? よかった?」チラッチラッ

茶柱「ノーコメントでお願いします」

星「口を開けば悪口しか出ない、という意味ではなく本当にコメントが不可能だからな」

ネコアルク「そんにゃー」

茶柱「……ところで、ネコアルク同士って通信できたりしないんですか? 赤松さんの安否がわかったりしません?」

ネコアルク「できなくはにゃいんですけど、地下と地上とでノイズが入りまくりで、あまり鮮明な情報は入ってきませんにゃー」

茶柱「それで構わないですから。無事ですか?」

ネコアルク「……あー……」

ネコアルク「宝具レベル上げしているところだからもうちょっと待ってって言ってますにゃ」

茶柱「え? 何ですそれ。意味がわからないから別件じゃないですか?」

ネコアルク「だからノイズが入ってるって言ったのに」

星「もうちょっと待って、の部分だけ抜き出していいのなら、俺たちは赤松が帰ってくるまで学園で待つべきだろうな」

茶柱「幸いライフラインも生きてますしね。好きにさせてあげましょうか」

裏庭 地下

アンジー「……」ガリガリガリ

アンジー「よーしかんせーい!」キラーンッ




『エドモン・ダンテス

生徒を導いた偉大な復讐鬼、ここに眠ってない』




アンジー「完璧なレリーフだよー! これでこの学園に思い残すことはないねー」

アンジー「……」

アンジー「やっぱりどっかで学園のスケッチでも描こうかなー」

アンジー「アンジーにとって満足度百二十パーセントの道行じゃないと、会ったときに彼も残念がるだろうしねー」

アンジー(……考えたこともなかった。アンジーが嬉しいのなら、エドモンも喜んでくれる)

アンジー(エドモンが嬉しいのならアンジーも嬉しい)

アンジー(……似たようなことが他の誰かにも言える。終一、楓、解斗、魔姫、美兎、ゴン太、他の生徒も全員)

アンジー(誰かと感情を交換できるようになるのが絆)

アンジー(そういうささやかな思い出を忘れないように必死に生きていく)

アンジー(仮にまた思い出しライトで忘れられても、それまで必死に生きてきた記録は絶対になくなりはしない)

アンジー(……特に)






アンジー「美術品みたいな形に残るものは、いいよねー」

うおおおおおやったーーー! 水着獅子王宝具2だーーー!
育てるので今日はなし

アンジー「後の懸念材料は終一だけだけど……」

アンジー「……大丈夫だよね。ちゃんと起きられるよね。終一」

アンジー「一応ネコアルクに確認しておこうかな。モノクマとデュエルしてた個体が一体だけ残ってたと思うんだよねー」

アンジー「……今どこにいるんだろー? 食堂かなー?」スタスタ






食堂

デデドドドンッドドンッドドンッ エェェェェェェェェェェェェ(死体発見時BGM)

夢野「」チーン

天海「」チーン

白銀「」チーン

アンジー「!?」ガビーンッ

東条「……」

東条「私が来たときには既にこうなっていたわ」シレッ




面倒ごとがイヤだったので東条は嘘を吐いた

某所

最原「……」

物凄く大きい黒い竜「……」

最原(なんだこの竜)

物凄く大きい黒い竜(誰だこの人)

最原「……いやいや。僕は確か巌窟王さんが開けた天井の大穴を見て……見た後、物凄く眠くなって……寝たのかな。じゃあ夢かな」

物凄く大きい黒い竜「俺にとっては現実だが」

最原「うわあ!? 喋った! 発声器官どうなってるのドラゴンって!」

物凄く大きい黒い竜「え。あれ。そういえばどうなってるんだろう。考えたこともなかったな……まあいいか」

物凄く大きい黒い竜「何かの縁を辿って夢で繋がったのか……要は魂の迷子だな。良ければ俺の力で元の場所に送り返すが」

最原「……」

最原「帰ったところで、僕にやれることなんてあるのかな」

物凄く大きい黒い竜「無いことは無いのではないか。俺もやることもなくずっとこうしているだけだが……」

物凄く大きい黒い竜「だから待つことはできる」

最原「待つ?」

物凄く大きい黒い竜「ルーラーを……大事な人を待っているんだ」

物凄く大きい黒い竜「世界は絶えず動いている。その場から動くことがないのなら、それはそれで何かに引っかかることもあるだろう」

物凄く大きい黒い竜「川の底の石のようにな」

最原「……僕は……ヒーローになりたかったんだ」

最原「結構ガムシャラに頑張ったつもりだったんだけど、無理だった。目標の人の背中にまったく手が届かなくってさ」

最原「多分一生、手が届かない」

物凄く大きい黒い竜「ヒーローになれなければキミの存在に意味はないのか?」

最原「……」

最原「いや。そんなことはなかった、かな。こんな僕のことを好きだって言ってくれる人もいた」

物凄く大きい黒い竜「ならばやっぱり、やれることはあるのだろう。人間とはそういうものだ」

最原「竜なのに随分と人間臭いことを言うなぁ……」

最原(……あれ?)





最原「何かの縁……? こんな非現実的な場所に僕を呼び寄せるような? まさか……!」

バサッ

最原「!」

最原(……もう二度と会えないと思っていた。死んだ人間と過ごした日々の方がおかしかったんだから当然だ)

最原(でも僕は……! もう一度会えるのなら、それは奇跡で……!)

最原(あのマントは……見間違えようもない! 二度と手が届かないと思っていた彼の!)

最原「……巌窟王さ――!」ダッ







巌窟王コスのBB「BBちゃんでしたーーーッ!」キャピーーーンッ

最原「んんがおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!?」ズザザザザリザリザーーーッ

物凄く大きい黒い竜「十メートルくらいズッこけたな」

最原「……び、BBさん……どうしてここに……」ピクピク

BB「甘いですね! 私は死んでも死なないこと、二周目と三週目の狭間に出てくることに関しては定評があるんですよ!」

BB「壊れても世界の裏側に向かう程度は造作もないことです! ていうか裏側って言葉自体に親和性があるので!」キラーーーンッ

最原「じゃあ僕をここに呼んだ縁って!?」

BB「巌窟王さんだと思いましたか? 残念、BBちゃんでしたー!」キャルーンッ

最原「男としては最低最悪だけどもッ! 今すんごくBBさんを殴りたいッ! 何の用!?」ダンッ

BB「脱出おめでとうメールをあげたくて……」スッ

最原「ああ、ありがとう……」カサッ

BB「ジメチルスルホキシドって知ってます?」

最原「確か皮膚に触れると中に混ぜた毒物ごと体内に浸透させる薬品……」ヌショッ

最原「うわあああああああああああ油断したーーーッ!」ポイッ

BB「まあそれただの食塩水ですけどね」プスススーッ

最原「」

物凄く大きい黒い竜(仲がいいのはいいことだ)

BB「安心してその手紙を読んでください。お願いっ」マイメロォォォォ

最原「……うん。僕たちを祝ってくれているのなら……」ペラッ



『TYPE-MOON studio BB設立おめでとうございます!
あと才囚学園生徒一同脱出おめおめー

by BB』



最原「何のことだかわからないけど別件が混じってる! むしろ僕たちの脱出の祝福のがオマケじゃない!?」ガビーンッ

BB「……ユーモアはこのあたりにしておいて、本題は手短に済ませましょうか」

BB「まずは脱出おめでとうございます。お陰で私もこっちに来ることができました」

最原「……え?」

BB「ああ、勘違いさせたのなら申し訳ありませんが、私がこちらに来れたのは巌窟王さんが学園の壁を破壊した直後ですよ」

BB「それまでは本当、バラバラの状態のまま完璧に壊れてどうしようもありませんでした」

BB「理屈上は巌窟王さんと一緒にこっちに来たって感じですね」

最原「いるの!? やっぱり、巌窟王さんも!」

BB「もうはぐれちゃいましたけどね。ここ本当に広いので探しても見つからないと思いますよ。ありえない時間を彷徨わない限り」

最原「……紋章を刻印したときに何かしたの?」

BB「このタイミングで理解した!? とんでもない頭の速さですね! 人間にしてはですけど」

BB「有体に言っちゃうとあの紋章こそが私だったんですよね。圧縮した私のデータ」

BB「アルターエゴと記憶復元のプログラムの記録ではなく、それを完全に覚えている誰かが適確な対応をその場で作り上げれば無敵でしょう?」

BB「全部が終わった後、巌窟王さんが学園から去るときに行き場所を世界の裏側に誘導すれば……」

BB「少なくとも『行方不明』ってほどじゃなくなるので」

最原「……物凄く広いんじゃなかったの?」

BB「他にも『終わったヤツが行く場所』の候補は色々あるんですよ。そのどれもが『ありえないくらい広い』んです」

BB「多少なりとも場所を限定してあげたんだから額を地面にこすりつけて感謝してください」

最原「……」エー

BB「……凄くイヤそうですね」

最原「……すぐに会えるっていうのなら考えたけど、労力がかかるっていうのなら僕はいいよ。アンジーさんやみんなには伝えておくけどさ」

最原「ありがとう。BBさん」

BB「いえいえー。このくらい当然ですよー。えへへ」テレテレ

BB「……ところで」

最原「なに?」

BB「ぶぶづけいかがですか?」サッ

最原「呼んでおいてその対応はないでしょ!?」ガビーンッ

物凄く大きい黒い竜「美味しそうだが、食べていかないのか?」

BB「彼は皮肉をまったく理解できていませんが、あなたは理解できていますよね?」

最原「……帰り道はどこ?」

物凄く大きい黒い竜「なんだ。もう帰るのか。それならば道を用意しよう」ズズッ

最原「あ。地面に穴ができた……」

BB「持病ーーーッ!」ドンッ

最原「えっ? あっ、あああああああああああ……」ヒューッ

物凄く大きい黒い竜「……何故突き飛ばした?」

BB「癖です」

最原「待って! まだ僕は……!」ヒュウウウウッ

最原(うおおおおおっ! 加速が付いてきた……確か人間の体格だと落ちている途中でスピンがかかって遠心力で意識を保てなくなるはずだ!)

最原(相当長い時間落ちないとそうはならないけど、この穴の場合は深すぎる!)

最原「BBさん! 僕は……僕はまだッ……!」

最原「キミにも感謝したかったのに――!」

最原(どうしてサーヴァントは全員、自分の都合しか考えないんだ……!)

最原「……!」

最原(意識が……!)








物凄く大きい黒い竜「あなたも行くのか」

BB「もう用時が完全になくなっちゃったので。次はどこに行きますかねー。自我が崩壊するまで歩いてみましょうか」




「……ありがとう……!」




BB「!」

物凄く大きい黒い竜「……穴から声が聞こえたか?」

BB「気のせいじゃないですか? 私はそうは思いませんけどね」

BB「……」

BB「今更ですがあなた誰です?」

物凄く大きい黒い竜「それを俺も聞きたかったところだ」

最原「……はあっ!?」ガバアッ

最原「はあっ……はあっ……ゆ、夢……?」ガサッ

最原「じゃないな……手紙が残ってる……」

茶柱「最原さん?」

最原「え?」

最原「……茶柱さん? なんでここに……いやその前に、ここは……?」キョロキョロ

茶柱「あ、後で説明してあげますから、それは。とりあえず……おはようございます」

茶柱「夜はもうとっくに明けてますよ。もう昼です」

最原「……」

最原(忘却補正が……消えたのか……)

最原「あれだけは残せるんじゃないかって根拠なしに期待してたんだけどな……」

茶柱「……ところで、その紙は一体なんですか?」

最原「貰いものなんだ。みんなのことを祝うメッセージが書かれて……」ペラッ

最原(……紙から柑橘類の臭いがする。これまたベタな……!)

最原「寝起き一番でこんな質問をするのは変かもだけど」




星「」チーン




最原「なんで星くんが死んでるの?」

茶柱「激辛麻婆に殺されて」

最原「なんだって?」

茶柱「……昼ご飯、何にします? パン類とご飯類の両方ありますよ。危険物は星さんがその身をかけて処理してくれましたので安心です!」

最原「危険物があったの!?」ガビーンッ

最原「……ま、まあいいや。パン類がいいな。それで、ご飯の後はみんなと集まって話したいんだけど……」

茶柱「転子もそれを考えてました。多分他の生徒も全員。おそらく百田さんあたりが起きたら走り回って、みんなを集めるでしょうから……」



ドタドタドタッ


ガチャリンコッ



百田「茶柱! 終一! 星! 後で食堂に集合な!」


バタンッ ドタドタドタッ……



茶柱「それまではゆっくりしていようって、なんとなく思っていたのですが……」ハァ

最原(まるで僕が起きたのを見計らったみたいなタイミング……)

最原(ゴン太くん並みの野性の勘だなぁ)

最原「時間について話してなかった。すぐに来いって意味だよね」

茶柱「あ、お昼ご飯……」

最原「行きながら食べるよ」

茶柱「ひぃーーーっ! 行儀悪ッ!」

十分後 食堂

百田「……おーっし! 全員集まったな!」

春川「王馬と赤松以外はね」

百田「何事もなく一夜明けたみてぇだな! 全員不安事も解消されたみたいですっきりした顔してるぜ!」

春川「王馬と赤松はいないけどね」

春川「……それに」

天海「」ボヘー

夢野「」ボヘー

白銀「」ボヘー

星「」ボヘー

春川「……何人か魂が抜けてない? 何かあったの?」

最原「これでも話しかければ喋る程度には回復してるらしいから、追及は後にしよう」

最原「それで百田くん。みんなを集めた趣旨は?」

百田「……あ? 必要か、それ?」

最原「必要だよッ! せっかく集まったんだからさ!」

真宮寺「ならこの集まりの冒頭は、僕が仕切らせてもらおうかな。いくつか処理したいことがあるからネ」

アンジー「処理したいことー?」

真宮寺「まだ学園にはいくつか謎が残っている……その種明かしなしには夜もまともに眠れなさそうなんだヨ。気になってさ」

入間「パッと思いつく謎だと……やっぱアレだよな。急に復活したイシュタル」

入間「アイツの復活のお陰で脱出の算段は想定したよりも早くついたけどよ……真っ先に目につくのはアイツの不自然さだ」

獄原「ゴン太たちの目の前でネコアルクに貪られてたはずだからね……」

最原「……食べられたはずのものが出てきたのなら、シンプルに考えて吐き戻したとしか考えられないよね」

入間「クソとして出た! とも考えられるぜ!」

茶柱「……久しぶりな気がしますね。入間さんの下ネタ」

最原「前にアンジーさんの令呪の力で、骨から巌窟王さんが復活してきたこともあったし……」

最原「はっきり言って魔術世界はなんでもありだ。真相を知りたいのなら彼女に訊くしかない」

ネコアルク「……まごまごまご……」ムシャムシャ

アンジー「そこでサバ缶食ってるナマモノのことだよねー」

東条「……今となっては貴重な食糧だから、食べる必要がない者には食べてほしくないのだけれども」

ネコアルク「酷くね? マジ酷くね?」

ネコアルク「……で、えーと。イシュタルを吐いたかどうかが争点なんですにゃ? ええ、吐きましたよ。ゲロッと」

真宮寺「何故?」

ネコアルク「漠然とした質問ですにゃー。『何故吐いたのか』という答えに関しては『用済みだったから』で」

ネコアルク「何故吐いたイシュタルが生きていたのかに関しては『計算外』と言う他ありませんにゃー」

最原「……計算外?」

百田「そっちは後回しだ。先の証言から片付けようぜ。魔術的痕跡は全部消すとか言ってなかったか?」

ネコアルク「神性は骨組み。燃料じゃないから全部終わったら解体して処分するシークエンスでしたにゃー」

ネコアルク「退去するサーヴァントたちに混じって元の世界に帰れるはずなので」

春川「……実際に帰ったんだろうね。姿形が見えないし」

最原「計算外っていうのは?」

ネコアルク「まさかゲロったイシュタルがあんな見事に再生するとは思わなかったんですにゃー」

ネコアルク「あの人がチート級のポテンシャルの持ち主だってこと物の見事に忘れてたっていうか」

最原「……他に『吐いてみたらそのまま出てきた』って人、いないよね? いたら少しビックリするんだけど」

ネコアルク「ハハハ! 流石に……いやゲロったときちょっと苦しすぎて涙目だったから周囲の確認はまともにやってないけど」

ネコアルク「流石ににゃいにゃい!」

ガタガタンッ

春川「……ん……窓から何か物音が……?」チラッ

ジャガーマン「あっ!」

ジャガーマン「やべっ」サッ

春川「」

百田「ん? どうかしたかハルマキ。そんなサバンナで猛獣にでも遭遇したような顔してよ」

春川「今窓に……」

春川「……」

春川「気のせいだよ。うん」

百田「?」

最原「魔術的痕跡はキーボくんの中にあるものを除いて、ほぼこの学園から消え去る」

最原「……ちょっとだけ不具合があったんだね。イシュタルさんが出てくるなんてさ」

東条「でも今はいなくなっている。それがすべてよ」

入間「どっこい、そうでもねえんだな。これが。魔術的痕跡がすべて消え去るのが本当なら、あのスクーターのミラーすら消えてるはずだ」

キーボ「……あ! そうか! 不具合が無ければ、あのスクーターはまず作れませんね!」

百田「ないならないでキーボに空まで吹っ飛んでもらって、そこから段取りをする予定ではあったけどな。俺の中では!」

最原(意外とよく考えてたんだな……)

百田「意外って思ってんな終一……」

真宮寺「今となってはイシュタルさんも消えていることだし……この問題は解決したと考えてよさそうだネ」

真宮寺「じゃあ次。王馬くんは除外して、この場にいない人について話そう。誰か連絡が付いた人はいる?」

獄原「赤松さんのことだよね。ちゃんと帰ってこれるかな……ゴン太、迎えに行ってこようか?」

キーボ「赤松さんが侵入したという地下への穴は謎の巨人の頭皮によって塞がれてしまっています」

キーボ「学園崩壊の影響がエレベーターに出ている可能性もある以上、アレも使えたものではありませんし……」

茶柱「大丈夫だと思います。ネコアルク経由で赤松さんらしき人と連絡は取れました」

茶柱「……もうちょっと待って、だそうです」

キーボ「……帰っているようですね。よかった、安心しました。どうにか彼女のピアノをまた聞きたいと思っていたところだったんです」

百田「それは同感だけどよ……学園がここまで崩壊しててピアノが無事ってことは……」

キーボ「それなんですが……不自然なことに、巌窟王さんはアンジーさんの次にピアノのことも庇って戦闘していたんですよ」

最原「え? ピアノを?」

キーボ「間違いありません。まあ、あれだけの衝撃だったので直で破壊されずとも調律は乱れまくってるでしょうけど」

最原「……」

最原「……モノクマでもネコアルクでもいいんだけどさ」

ネコアルク「はいは――」

モノクマ「はいはいなんでございましょ!」バァーーーンッ

ネコアルク「むぎゃあっ!?」

モノクマ「バカめ! 残酷マスコット路線で出番を貰えないのであれば、貴様のウザかわ系味方マスコット路線を奪い取るまでよ!」ギンッ

モノクマ「で? なんか用ですか最原サマ? 靴でも舐めましょうかゲヘゲヘゲヘヘ」

最原「路線変更に口出しはしないからせめてキャラは守ってよ……」

モノクマ「自分のキャラには秒で飽きちゃうんだよね。なんなら容姿も変えようかな」ゴソゴソ

ジバックマ「ジバックマだクマー!」

アンジー「ウザいよー」ブチブチブチ

モノクマ「ぎゃああああああああああ毛皮があああああああああああ!」

春川「夜長! 素手で毟ったりしたら変な菌付くよ! やめて!」

東条「後で念入りに手は洗わせるわね」

最原(う、うわぁーーー……そういう問題じゃないと思うんだけどツッコミが追い付かないなぁー……)

最原「……ピアノの調律、やっておいてくれる?」

モノクマ「も、もちろん……暇だからね……その程度やっておくよ……」ピクピク

百田「地肌見えてんぞ……毟り過ぎだアンジー」

アンジー「てへ?」

真宮寺「僕からはこんなところ、かな」

最原「じゃあ次は僕から、でいいかな?」

春川「……なにか気になることでもあった?」

最原「BBさんに会って手紙を渡されたんだけど……」カサッ

東条「……それ、いつの話かしら?」

最原「信じられないかもしれないけど、ついさっきだよ」

獄原「え?」

最原「かなり前に天海くんに頭をぶん殴られて、巌窟王さんの精神と夢で繋がったことがあったんだけど、それと同じ原理だと思う」

最原「死んでも縁や絆は簡単に切れないみたいだね。流石にこんなことが二度三度続くとは思えないけど」

百田「……その手紙、中身はなんて書いてあんだ?」

最原「これ」ペラッ

真宮寺「……簡潔だし明らかに別件も混じってるネ……」

最原「今から考えるとこれが不自然なんだ。紙の大きさに対して内容が少なすぎる」

最原「加えて、紙から微かに臭う柑橘類の臭い……BBさんは食塩水って言ってたけど、多分実際に食塩水なのは淵に付着してた部分だけだ」

東条「……炙り出し?」

アンジー「うわー。すごくしゃらくさいよー」

最原「誰かライターかアルコールランプとか持ってない? すぐに確認したいから焙ってる間固定できるものがいいんだけど」


シュボッ


夢野「あ……あ……」ガタガタ

キーボ「夢野さんがジッポライター所持していたようですね。マジック……いや魔法用でしょうか」

春川「まともな受け答えすら覚束ないじゃん、アレ」

最原「え、えっと。借りるよ?」

ジジジ……

最原「……やっぱり! 文字が浮かんできた! えーと……」




『三日程度待っていてください。すぐに用意しますので』




最原「……??????」

入間「あんだこりゃ? 三日程度待て……? 何をだ?」

春川「炙り出しは果汁を使って文字を書くのが主流だからどうしても字が滲んで大きく書かないとダメなんだよね」

春川「……紙の大きさが足りなかったのかな。最原。なにかわかる?」

最原「脱出おめでとうって書かれている手紙に『三日待て』って書かれてるんだから、穴が開いた学園から脱出するのはしばらく待てって意味……」

最原「……だと思うんだけど、あまり賛成できないな」

百田「ん? どうしてだ?」

最原「かなりぐっすり眠っちゃった僕が言うのは凄く間抜けなんだけど、外の世界の人間が僕たちに何もしてこない可能性を信じられないんだ」

最原「今ごろ、どんな算段を付けているか……」

百田「忘れたのかよ終一! そのためにキーボの魔術的処理を残したんだろうが! 全部テメェの発案だぜ!」

キーボ「生半可な報復行動ならボクがどうにかしますけど……生半可以上となると少し不安です」

白銀「……ご、ごほっごほっ! げはっ! あ、あの、一ついい?」

アンジー「あ。復活した」

白銀「多分、外の世界からの攻撃は無視して考えていいと思うよ」

白銀「考えても見てよ。私たちの抹殺に失敗した魔術師が、次に誰を標的にすると思う?」

百田「?」

最原「……あ。もしかして!」

白銀「この学園を作って運営して放映していたチームダンガンロンパが次のターゲットになってると思う」

白銀「余計なことを知っているかもしれないしね。もちろん、チームダンガンロンパの方も生半な組織じゃないけどさ」

白銀「だからこそ事態は膠着して泥沼化してると思うよ」

白銀「……何事もなくニューダンガンロンパV3をフィクションとして放映し終えてから纏めて抹殺したかったんだろうけど」

入間「あ! じゃあよ! ずっとこの学園で生きていくってのはどうだ! まさに発想の逆転、天才の俺様大勝利だな!」ヒャッハー!

東条「そんなわけにはいかないでしょう。無視ができると言っても長くて数ヶ月程度の話でしかないわ」

真宮寺「早くて数週間……小競り合いが終わったときどちらの勢力が生きているかは問題じゃない」

真宮寺「どちらにしても僕たちに相当の恨みがあるだろうからネ」

百田「それに仮に残ったらだ。これまで何のために命懸けで戦ったのかわからなくなっちまうだろ」

入間「う……」

最原「……三日程度なら待っても問題はない、かな。うん、少しは勝算のあるギャンブルかもしれない」

アンジー「にゃははー! こりゃ残留で決まりだねー! それじゃあ、病院のベッドを今の内にもっと使えるように修繕しておかないと――」

最原「アンジーさん」

アンジー「……?」

最原「次に心配なのはキミに関してだよ」

アンジー「へ?」

最原「……みんなあまり深くは突っ込んでなかったけどさ、巌窟王さんがいなくなったんだよ?」

最原「その……大丈夫かなってさ……」

アンジー「……」








アンジー「……う……!」ジワッ

最原「!?」ガビーンッ

茶柱「おバカっ! もうちょっと段階とか聞き方ってものがあるでしょう!」バシーンッ

最原「ごめぶっ!?」イタイ!

アンジー「だ、大丈夫……泣かない、泣かないよー」ゴシゴシ

アンジー「悲しいよ! 寂しいよ! でも……だからってアンジーに何ができるの?」

アンジー「前に進むしかないよね……泣いたって、慰められたって、現実は何も変わらないんだよー?」

アンジー「何も……!」

「……にしッ」

最原「ん?」

「にししししし……にししし……」

「あーーーっはっはっはっはっは! 違うなぁ! 全然違うよアンジーちゃん!」

「俺たちはさんざっぱら目にしてきたはずだ……現実は変わる」

「嘘で! 『現実』は! 変えられるんだよ!」

百田「この声……まさか!」

百田「……って形式上言ってみるが一人しか該当者いねーよな」

王馬「ええっ!? 心当たりがあるの百田ちゃん! 一体誰!?」

百田「あばっふあ!?」ガビーンッ

最原(いつの間にか食堂の中に侵入してる!)ガビーンッ

アンジー「小吉?」

王馬「外に出てみようよアンジーちゃん。面白いものがあるかもよ?」ニヤァ

アンジー「……?」

王馬「まあまあいいからいいから!」グイグイ

アンジー「あ? あー……」ペタペタペタ

最原(……王馬くんに引っ張られて外に連れ出されてしまった)

春川「……アイツ、何する気?」

最原「彼なりにアンジーさんを励まそうとしてるのかな」

入間「……なんかイヤーな予感がしねぇか……?」ダラダラダラ

真宮寺「様子、見てみないわけにはいかないよネ」



王馬「葬式っていうのは徹頭徹尾生きている人間のための儀式だ」

王馬「悲しんだフリ。立ち直ったフリ。誰かを思いやってるフリ。その場に則しているのならどんな嘘でも吐き放題」

王馬「俺が埋もれちゃうから冠婚葬祭どの行事も基本嫌いだけど、今日だけはアンジーちゃん他余り物くんたちのために一肌脱いであげたよ!」

百田「誰が余りモンだ」

春川「……なんだ。外に出てみたはいいけど、何もないじゃん。安心した」

王馬「……」ポチッ



ヒューーーーッ ボンッッ



最原「!」

夢野「……あ、あ、あれはっ……!?」

王馬「ま、略式だけどさ。行事に花火は付き物でしょ」

最原(あれは……!)

入間「お、おい。あの色はまさか……!」

王馬「入間ちゃーん、いつの間にこんなもの作ってたのさー。巌窟王ちゃんと同じ色の炎を出す燃焼促進剤なんて」

最原(空に打ちあがっていたのは、黒い花火だった。いつか入間さんが作った燃焼促進剤の作る)

最原(彼と同じ色の偽りの炎)

アンジー「……」

最原(……でも。偽物だったとしても)

最原(あの炎の色が僕たちの心を痛めるくらい懐かしい)

王馬「あと少しボンボン弾けさせるよー!」ポチリッ

入間「俺様の発明品ーーーッ!」ガビーンッ

ヒューーーーッ……ボボボボンッ

百田「おおーーー……やべぇな! なんかテンション上がってくんな、アレ!」ワクワク

入間「勝手に上げんな! 弾けさせすぎだクソドチビ! 一体どのくらいアレに突っ込んだ!?」

王馬「全部っ部」サラリ

入間「全部っ部!?」ガビビーンッ

真宮寺「また後で作ればいいと思うヨ」ポンッ

入間「い、いや……いやいやいや! あの炎は仕上げに巌窟王が出していた炎を穴が開くほど見つめながら色を細かく微調整しなきゃ作れない……」

入間「つまるところモデルがいない今! もう二度と完全に同じ色にはならなくって!」



ヒューーーッ ボボボーボッ ボーボボンッ



入間「話を聞けぇーーーッ! せめて一滴残してサンプリングさせてくれーーー!」ガビーンッ

王馬「人生って花火みたいなものだと思わない? 儚さとか」

春川「聞く耳持ってないねコイツ。最悪」

入間「……」

入間「はなびきれー」ボアーッ

夢野「あ、諦めおった……!」

天海「……ご愁傷様っす」

星「後で肩でも揉んでやろうか?」

最原(さっきからちょくちょく復活してきてるな……)

キーボ「……待ってください。つまり王馬クンは入間さんの研究教室に忍び込んだわけですね?」

王馬「……ん。耳にノイズが入っちゃったな」

キーボ「ボクの声をノイズ扱いしないでください! 入間さん! 沈んでないで周囲を見てください! この程度で終わるはずがありません! だって」




ギュンッ




全員「!!!!!!!!!!!」

最原「がっ……!」

アンジー「……え」

最原(正直な話、それが見えたのは一瞬のことだったと思う)

最原(でも、僕たちはそれをそうだと認識した。例え一瞬だったのだとしても、その衝撃は忘れないだろう)

アンジー「エドモン……!」

最原(その影は僕たちには一切振り向くことなく、天井に開いた穴に真っ直ぐ向かって飛んでいき)

最原(……そのまま見えなくなった)

春川「……嘘……だって、アイツは……!」

最原(その背中を、僕たちは呆然と見つめていた)

キーボ「……ああ、もう……こんなことのために……」

入間「……こんなこと……?」

入間「あっ」

最原「え?」

入間「あ、あ、あああああああああ……!」

入間「やりやがったなこのドチビィィィィィィィ!」

最原「どういうこと?」

獄原「……巌窟王さんじゃなかった」

最原「え」

獄原「ごめん。ゴン太、目だけはいいんだ。凝視すれば流石にわかるよ」

獄原「マントの下に隠れていたのは、木の骨格を付けたスクーターだった……気がする」

アンジー「……木の骨格……?」

王馬「なーんだ、一番騙されやすそうなゴン太が引っかからないのなら、この嘘は出来損ないだなぁ。食えたモンじゃないや」

百田「お、お前……!」

入間「そうだよ! あの空飛ぶ巌窟王の正体は……!」

入間「俺様たちが脱出の段取りに使うはずだった飛行スクーターだ! 一台しか作れなかった超~~~~~貴重品の!」

白銀「な」

天海「な」

夢野「なんじゃとォ~~~ッ!?」ガビーンッ

王馬「時間になったらアクセルを踏んで無人で飛ぶようにセットしておいたんだよね」

王馬「まあ大丈夫でしょ。キー坊を飛ばせば段取りそのものは問題ないし」

入間「いやっ、おまっ……ふざけんなよ? ふざけんなよ!? 俺様が魔術に触れられる最後の機会をテメェはよォ~~~!」

春川「……ねえ。今はそれどころじゃなくない?」

入間「あァ? 何がだ!?」ゼェゼェ

春川「あれだよあれ」

入間「あれ……?」







アンジー「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

入間「あふ」ガクーンッ

天海「腰抜かした!」ガビーンッ

星「……地雷だったか……?」

「……ぷっ……」




アンジー「あっはっはっはっは! 一瞬……ほんの一瞬だったけど騙されちゃったよー!」ケラケラ

最原(よ、よかった。存外機嫌良さそうだぞ!)

アンジー「お礼に死をプレゼントしてあげる」ギンッ

王馬「」

最原(激怒してたーーー!)ガビーンッ

アンジー「……」

アンジー「この嘘でチャラにしてあげるよー」

王馬「え」

アンジー「……やり方はどうあれ、さ。アンジーを励まそうとしてくれたんだよね?」

アンジー「この場に彼がいればまず間違いなく哄笑しながら小吉を八つ裂きにしてただろうけど」

春川「目に浮かぶね」

アンジー「……現実にはそうじゃないからさ」

王馬「そうでもないよ。嘘で変えられる現実は間違いなくある」

王馬「……未来っていう現実がさ」

アンジー「……」

王馬「ま、今回は半ば失敗したけど、本当はアンジーちゃんはもっと元気になるはずだったんだ」

王馬「それに、一瞬完全に騙されたとき、どんな気分だった?」

アンジー「ちょっと嬉しかったよー。ぬか喜びだったわけだけどさー」

王馬「そっか。それならまあ、俺は別にそれでいいんだ。何よりの報酬はキミの笑顔だから……!」キランッ

百田「しゃあしゃあとコイツは……」

王馬「さて、それじゃあ本題! 俺たちはいつ脱出すればいい?」

最原「……」

百田「三日後の朝だ。赤松も帰ってきてねぇしな……」

最原(結局百田くんが半ば適当に言った決定がそのまま生徒全員の決定となった)

最原(スクーターは王馬くんのイタズラで消失。キーボくんがいなければ外への脱出の段取りはできない)

最原(脱出がたった一人の能力頼みになっている時点で否応なしに僕たちは共同体になってしまう)

最原(今更それに異議を唱える人はいないけど)

最原「……」

最原「三日後、いや……あの言い方だと違うだろうな」

最原「三日以内に何が起こる?」

最原(その後、しばらくはおだやかな時間が続いた)

最原(……赤松さん抜きで)







待機二日目 夜

キングプロテア「……」モゾモゾ

ズポッ

赤松「……かっ……!」

赤松「帰って……これた……!」ズタボロッ

ネコアルク「お疲れ様でしたにゃー。いやマジでお疲れ様でした」

赤松「……あ、ありがとうキングプロテアさん。BBさんによろしく伝えておいて」

キングプロテア「ばいばいです」ヒラヒラ

赤松「本当に凄い冒険をした……ローマ皇帝の歌声聞かされたりドラゴンの女の子の歌声聞かされたりネコリンボが裏切ったり……!」

ネコアルク「イベントショップの店員したりなんだりと大忙しでしたにゃー。いやー。みんなが見てないのが惜しかった」

赤松「……でもまあ、その甲斐はあったけど」

赤松「急ごう! ネコアルク!」

ネコアルク「らじゃー!」

セミラミス「……」ボソッ

赤松「え? なんか言ったセミラミスさん! 酔うから走るのやめろって提案はなしだよ! 勝手におんぶしてる私が言うのもなんだけど!」

セミラミス「死ぬまでに一度でいいからスマブラに出演したかった」ボソッ

赤松「どうしてロクでもない願いがそうポンポンと出てくるの!?」ガビーンッ

ネコアルク「しかも願いの規模が無謀そのものですにゃ」

赤松「しばらく黙ってて! もういいから! 私は私の約束のために、最後まで全力出すだけだから!」

セミラミス「……」







病院

最原「……明日になったら脱出開始か……赤松さん、まだ帰ってこなかったな」

最原「間に合うといいんだけど……」


……ポーンッ


最原「?」


ポーンッ ポンポンポーンッ……


最原(ピアノの音? こんな夜中に……)

最原「……まさか」

超高校級のピアニストの研究教室 外 廊下

最原「……ドビュッシーの……月の光だっけ」

最原(一度だけ赤松さんの研究教室からCDを借りて聞いたことがある。あのときと違うのは、彼女が直接的に弾いているところだろう)

最原(部屋の外には、アンジーさんが中をこっそり覗き込むように立っていた。僕に気付くと小さく手招きする)

アンジー「……帰ってきたみたいだねー。望み通りに、さ」

最原(中にはネコアルク。椅子に座ったセミラミスさん。ピアノを弾いている赤松さん)

最原(……セミラミスさんは、今にも消えてしまいそうに身体を明滅させている)

最原(でもこの部屋に満ちている空気は穏やかなものだ)

最原「……本当に怖いな、彼女。赤松さんのことだけは絶対に怒らせられないよ」

アンジー「迂闊に約束なんてできないよねー。地獄で血の池風呂浴びてても無理やり引っ張り出されそうだもん」

アンジー「でもアンジーは楓が楽しそうにしているの、見てるの好き」

アンジー「楓の若干空元気入った明るい声も嫌いじゃない」

アンジー「多分みんなそうだと思うなー」ニコニコ

最原「……うん。僕も好きだよ」

アンジー「転子にチクってやろー」ニヤァ

最原(ハメられた!)ガビーンッ

セミラミス「……」ボソッ

最原「あ」

最原(……ほぼ一瞬のことだった。セミラミスさんが演奏途中の赤松さんに何か声をかけて……)

赤松「!」

最原(ハッとなった赤松さんが顔を上げて、彼女のことを見て)

バキンッ

最原(……セミラミスさんは、跡形もなく消えてなくなった)

赤松「……」

赤松「……」グシッ

最原(……この部屋の電力はモノクマの修理の甲斐もなく、まだ復旧しきっていない。だから暗闇の中、赤松さんの影が辛うじて見える程度だ)

最原(だから顔を何度もこすっている、ということしかわからなかった)

赤松「……はー……」

赤松(やりたいことは全部やった。かなり周りに迷惑かけまくっちゃったけど)

赤松(みんなはもう脱出してるのかな。多分してないだろうな。ネコアルク経由で伝言はしたし)

赤松(……ちゃんと話さないと。全部)

赤松「ネコアルク。眠れる場所探して」

ネコアルク「合点承知の助ー!」

ネコカオス「数多くの気配が病院の中に集まっていた。おそらくほとんどの生徒はあそこで寝泊まりをしているはずだ」

ジャガーマン「……よく頑張ったね。えらいえらい」ナデナデ

赤松「や、やめてよネコアルク……」

ネコアルク「え? 何を?」

赤松「へ? 今私の頭を撫でたでしょ?」

ネコアルク「ん?」

赤松「え?」

ネコカオス「お取込み中のところ申し訳ないが」ガチャリンコ







最原「あ」

アンジー「あちゃー」

ネコカオス「ドアの裏に隠れていた彼らは、キミの友達ではないかね?」

赤松「!」

赤松「ええっと……見てた?」

アンジー「聞いてもいたよー! 流石にセミラミスの最期の言葉は聞こえなかったけどねー」

アンジー「……なんて言ってたの?」

最原(好奇心のままに口に出すな、この人は……僕も興味あるけどさ)

赤松「秘密。一生言わない。詮索もされたくない」

アンジー「だよねー」

赤松「ふふふ」

最原(……わからない空気だ。サーヴァントと順当に絆を深めた二人にしかわからないものがあるのだろう)

赤松「で。最原くん、実は伝えなきゃいけないことがあるんだけど……」

赤松「……」

赤松「明日でいいや。今日は眠い……今何時?」

最原「ええっと……待って。モノクマーズパットを見れば正確な時間が――!」

最原「……」

最原(ああ)

アンジー「……モノクマーズパット、壊れちゃったのー? 画面が……」

最原(そうか。この学園の新しい主が消えたから……)

赤松「……う……ぐ……っ!」ジワッ

最原(……少しずつ壊れていく)

最原(少しずつ終わっていく)

最原(僕たちの学園生活が)



百田「あァァァかァァァまァァァつゥゥゥ!」ピョイーーーンッ

赤松「凄い跳んだーーーッ!?」ガビーンッ

ダダダダダダダッ ダンッ

春川「……」ビュンッ

百田「え?」








グインパクト




バガァァァァンッ


百田「ぎゃあああああああああああああ!?」

赤松「と思ったら春川さんも跳んでライダーキックおみまいしたーーー!?」ガーーーンッ

白銀「ライダーキックはキン肉バスターと同じで、リアルでも一応再現可能なんだよね。プロレスラーが証明してる」

天海「普通のキックよりは危険らしいっすけどね」

最原「はしゃぎすぎだよ! みんなして!」

春川「私は止める側だよ。勘違いしないで」

王馬「ノリノリで最新式ライダーキックをかます女の子の台詞じゃないよ……」

春川「……おかえり。赤松」

百田「あ! ズリィ! 俺が最初に言おうとしてたのによ!」ガバリッ

星「お前はいい加減落ち着きを持った方がいい」

赤松「うん……みんな! ただいま!」

ブヂイッ

赤松「いいっだぁぁぁ!?」

入間「……毛根付き毛髪ゲット。後でDNA鑑定かけてみねーとな。偽物かもしんねー」

赤松「本物だけど!?」ガビーンッ

キーボ「すみません赤松さん。彼女は王馬クンに酷い狼藉を働かれ、今ちょっと人間不信気味なんです」

赤松「私がいない間に何があったの!?」

東条「赤松さん。帰還おめでとう。腕によりをかけてケーキを作ったわ」バチバチバチシュボオオオオオオッ

赤松「何それ!? あ、ケーキ!? ケーキ部分より花火部分が多くて一瞬『何それ!?』って思っちゃったよ!」ガビーンッ

最原「……みんな嬉しいんだよ。赤松さんが帰ってきてさ。これで一緒に外の世界に出れる」

茶柱「ええ! これにて一件落着ですね! 今度こそ……!」

赤松「……」

赤松「あのさ。みんな」

真宮寺「何? 僕の祝福の証、モーショボー人形を作りながらで良ければ聞くけど」グッグッ

赤松「モーショボー人形!? それもプレゼントなの!?」ガーンッ

アンジー「アンジーも色々作ったんだよー! 楓の似顔絵とかさー! ほら、あそこで布被ってる塊」

最原「その布、絶対に取らないでね! せめて外に出るまでは!」

赤松「い、いや……その……」シドロモドロ

最原「……どうかしたの? 赤松さん」








赤松「私、外の世界には出たくない……んだけど」ダラダラダラ

全員「……」

全員「はああああああああああああああああっ!?!?」ガビビーンッ

最原「なっ、なななっ……ななななな、なんで!? どうして!? 悪い夢でも見たの!?」

ガシャーーーンッ

獄原「……ハッ! しまった! ショックのあまり標本を落としちゃった!」

白銀「モノクマ! モノクマーーー! カウンセリングの用意!」

モノクマ「モノクマーズが全滅しちゃったからもう無理でーーーす!」

夢野「ど、どうしたんじゃ赤松! ノーパンだったころのお主はもっと輝いておったぞ!?」

赤松「だからアレはセミラミスさんが勝手に言ってただけで私ノーパンじゃないってば!」

王馬「思い出せ! 黄金のノーパン時代を! ノーパン! ノーパン! ノーパン! ノーパン!」

入間&夢野「ノーパン! ノーパン! ノーパン! ノーパン!」

赤松「イジメだよねイジメなんだよねコレ!」ガビーンッ

赤松「違うって! コレ見てよコレ! 別に逃げるわけじゃないってば!」ペラッ

最原「紙?」

赤松「契約書。なんか炎ボーボー出す自称ジャンヌ・ダルクさんに書けって言われたんだけど……」

茶柱「はあ……?」

アンジー「……これ……は……!」

最原「ばっ……バカな! そんな!?」







赤松「私、実は巌窟王さんのホーム……カルデアに呼ばれてる、みたいな……?」

ネコアルク「既に内定してて、この学園から去った後にすぐ行くことになっておりますにゃー」

赤松「ネコアルクとコンビで期間限定サーヴァント? みたいなのやってたらさ。なんかいつの間にか正式加入することになって……」

最原「え。え。え」

赤松「あの……ごめん。今の今まで姿消してたからアレなんだけど」ダラダラダラ

ネコアルク「就職先! 決まりましたにゃー!」

ネコアルクs「祝えー! イエエエエエエエエエエエエエイ!」ドンドンパフパフ!

入間「……ぬ……ぬ、ぬ、ぬ、ぬ……!」ガタガタガタ

王馬「抜け駆けだぁぁぁぁぁ!?」ガビビーン!

春川「赤松……ホントアンタさぁ……ホントにさぁ……そういうところが最悪にさぁ……」ハァーーーーー

獄原「おめでとう赤松さん! あれ? 祝うんだよね? おめでたいことなんだよね?」

入間「おおおおおおおおうおうおうおうおう……なんで赤松が! なんで赤松なんかが!」ダバダバダバ

最原(滂沱の涙を流してる……)

アンジー「……」

アンジー「本当に行っちゃうの?」

赤松「うん。運で結ばれた縁でしかないけど……」

赤松「私! 例え別人だったのだとしても、巌窟王さんやBBさんに会いたい!」

赤松「……セミラミスさんとも!」

アンジー「そっか。頑張ってね」サラリ

茶柱「不気味なほどあっさりですね。思うところはないんですか?」

アンジー「あるよー。あるけどさー……」

アンジー「アンジーはアンジーの道で、エドモンと再会したいから」

茶柱「……なんか背、伸びました?」

アンジー「にゃははー! ちょっとはそうかもねー! まだまだ成長したりないよー!」キラキラキラ

赤松「というわけだからさ。私は地下で待ってるカルデアの人と一緒に、魔法陣を潜って向こうに行っちゃうから」

赤松「……みんなを見送らせて欲しいな」ニコ

入間「……いいなぁ。いいなぁ。赤松ばっかズリィなぁぁぁぁぁ……」

獄原「みんな。入間さんがいじけちゃってるけど」

百田「ほっとけ、と言いたいところだが、最後だしな。励ましてやるか」

王馬「よっ! 天才発明家!」

百田「脳殺巨乳!」

王馬「そこそこの美女!」

百田「天下一の脳細胞!」

王馬「ゲロ豚シャブ●●●! ●●●!」

入間「大分早い段階から悪口になってんだろうが! やめろバーカバーカ!」

入間「もういいぜ! こうなったら俺様もやることは一つだ!」

百田「おっ! 立ち直ったな! よかったよかった!」

入間「スイッチオン」ポチッ

百田「ん?」



ガシャガシャガシャガシャコンッ




エグイサルs「」フシューーーーッ……

全員「」

入間「……」

入間「俺様がラスボスだーーーッ!」ヒャッハー!

最原(変な立ち直り方してるーーーッ!)ガビーンッ

赤松(エグイサル修理してるーーーッ!)ガビビーンッ

夢野「落ち着けェーーー! 落ち着くんじゃ入間ァ! こんなことをしても現実はなにも変わらん!」

入間「夢野ォ……手を組もうぜェ……!」フシュルルルルル

夢野「は?」

入間「アレを見ろォ!」

夢野「アレ?」チラッ

ハトムギ「くるっぽー」

赤松「……ん? あ、ハトムギ。なんで私の頭の上に乗ってるの?」

夢野「…………………………」

夢野「は????????????」

最原「……赤松さん。彼女に懐かれるようなマネした?」

赤松「いや、特に……むしろ私、セミラミスさんを地下世界から連れ戻すのに彼女に随分と助けられてさ……よしよし」ナデナデ

ハトムギ「くるっぽー」

夢野「えっ。セミラミス? えっ? えっ?」

入間「寝取りだ寝取り」

赤松「ねとり?」キョトン

ハトムギ「くるっぽー」

夢野「……ふっ……」







夢野「うおおおおおおおおおおおおおおお! 許さんぞおおおおおお!」ゴオオオオオオッ

赤松「!?」ガビーンッ

夢野「よくも……よくもウチの商売仲間を寝取ってくれたなぁぁぁぁぁぁ……」フシュルルルルル

赤松「えええええええっ!? いや、これは違っ……ていうか仮に彼女を誘惑した人がいたとしてもそれセミラミスさんで! 私関係無い……」

夢野「殺すッ!」ジャキイイイインッ

赤松「殺す!?」ガビーンッ

最原(どこからともなく丸ノコが出てきたーーーッ!)

入間「ヒャーーーハハハハ! いいぞ! やっちまおうぜ! 俺様たち二人で!」

ギュイイイイイイイイイインッ ドグシャアアアアアッ

入間「……ゑ?」

最原(今の一瞬、何が起こったのか僕たちは全員理解できなかっただろう)

最原(だって、今夢野さんが粉々にしたのは……入間さんが持っていたエグイサルのコントローラーだったから)

夢野「……」ギュインギュインギュインギュイイイイイイイイインッ








夢野「貴様ら全員を! 殺すッ!」ジャキジャキジャキジャキイイイイイインッ

百田「丸ノコ増えたーーーッ!」ガビーンッ

天海「ていうかドリルも追加されてるーーーッ!?」ガビビーンッ

入間「え? なに? え? 俺様、ラスボスになるはずじゃ……え? え?」オタオタ

東条「入間さん! 今すぐそこから離れて! そのままじゃ一番最初にミンチになるのはあなたよ!」

夢野「ウチの魔法の供物になれェェェェェェ!」ギュイイイイイイイインッ

入間「ぴゃーーーーーーーッ!?」ダッシュッ!

赤松「入間さん! こっち! こっちーーー!」

茶柱「いやダメです呼ばないで! じゃないと暴走した夢野さんまで」

夢野「サバトじゃああああああああああああ!」ギュイイイイイイイイインッ

茶柱「こっちに来ちゃいますからヴェエエアアアアアアアアアアア!?」



ドカァァァァァン! ドリドリドリドリ バツーーーンッ ギャーーー!



白銀「……夢野さんが……裏ボスになった……」ガーンッ

最原「……だ……誰か」

最原「誰か……助けて……」

最原「誰か僕たちを助けてくれーーーッ!」






カルデア

??「はい。それでは、最後の支援です!」ポチッ

??「……これで正真正銘、完全にお終いです。私たちの我儘に乗ってくれてありがとうございました」

???「別に構いはしないさ。貴様には随分と世話になったらしいからな。俺はまったく覚えがないが」

??「……あの。人生を台無しにするレベルで人が好すぎません? ちょっと心配になってくるんですけど」







巌窟王「クハハハ! なにを言う! まったく見覚えのない人間に嘘を吐いたのだからな!」

巌窟王「その俺がお人好しなどと、まったく笑えるジョークだ」

BB「別に構いやしないんですよ、嘘で」

BB「真実と嘘に違いなんてありはしません。特に人間にはね」

BB「その違いを認識できるとしたら人間より上の知生体だけ」

BB「だから全然構わないんです。見抜かれてない嘘は真実そのものなのですから」

巌窟王「……気に入らない論理だ」クルッ

BB「おや。どちらへ?」

巌窟王「マスターに呼ばれている。またくだらないクエストだろう。だが行かないわけにはいくまい?」

巌窟王「俺は徹頭徹尾、あの男のサーヴァントだからな!」ギンッ

BB(……さてと。これでこの世界への興味を、私は完全に失いました)

BB(さようならです。才囚学園のみなさん)

才囚学園

血塗れの入間「」チーンッ

赤松「入間さんが死んだ!」ガビーンッ

白銀「このひとでなし!」

茶柱(いやー。実際はケチャップを頭から被って死んだフリしているだけですけど。バレないものですねー)

ケチャップ入間「……」

赤松「春川さん! 助けて! 犠牲者出てる! 犠牲者出ちゃってるから!」

春川「めんどい」ンアー

赤松「なんで超初期の夢野さんみたいなこと言ってるの!?」

春川「夢野の怒りと体力が尽きるまで頑張って。そう時間はかからないから」

春川「二十四分くらい……?」

赤松「疑問調だし結構長いし!」

百田「頑張れ赤松頑張れ! お前は今まで良く頑張ってきた! これからも頑張れる!」

赤松「いやそろそろ助けがないと心が折れ――」

夢野「止めじゃアアアアア!」ギュイイイイイインッ

赤松「なああああああああ!?」ガビーンッ



キラーンッ



キーボ「あれ。なんか空から降ってきませんか?」

獄原「え? なんか……ってなに?」チラッ

姫路城「書籍超特急ドーーーーンッ!」グシャアアアアアアッ

夢野「んあああああああああああああっ!?」

最原「空から姫路城降ってきたーーー!? なんで!?」ガビーンッ

赤松「こ……これは……刑部姫さんの姫路城! の人間大ミニチュア!」

茶柱「見覚えあるんですか!?」

最原(なんか知らない女の人の声が聞こえたような気がしたけど……)

百田(うっ。何故か頭の中に太陽神殿の映像が……何故だ……?)ガタガタ

最原(トラウマを刺激されている……)

最原「いやそんなことより夢野さんの身体が丸っと姫路城に押しつぶされてるよね、アレ!」

獄原「た、大変だ! 早くどかさないと!」

夢野「……」ズルッ

白銀「あれ。自力で抜け出してきたよ」

東条「……無傷のようね。どうやら」

夢野「……うっ……」ポロポロ

獄原「う、うわぁ! 泣いてるの、夢野さん! 痛かった!? どこか見えない場所にたんこぶとか……」

夢野「ううううううううううう……!」

白銀「……ん。夢野さん? あのさ」











白銀「その片手に持ってる厚手の本、なに?」

夢野「……卒業アルバム……」グスグス

全員「!?!?」

夢野「全員分……! あ、あ、あの姫路城、ペーパークラフトで……底の部分が……!」

最原「百田くん! 確認しよう!」

百田「お? おう。おうッ!」バッ


ガサゴソ


東条「……どう?」

最原「底の部分から分解できる。これ箱だ! 意図はまったくわからないけど姫路城型のプレゼントボックスだ!」

赤松「刑部姫さん、折り紙とかペーパークラフトの類は大得意だったなぁ……じゃなくて! まさか、それの中身って!」


ドサドサドサッ


全員「!!!!!!!!!」

卒業アルバム群「」ズラーッ

白銀「……」

アンジー「彼の遺品……彼の未練。卒業アルバム……間違いない、ね……」

獄原「中身! 中身を確認しないと! ねえ!」ワクワク

キーボ「……全員分、名前を振ってあるみたいですね。本当、巌窟王さんって人は……」

赤松「でもなんで。巌窟王さんはもういなくなってるのに、誰がこんなものを作ったの?」

最原「……」

最原(待てよ。それだ。僕はそれに心当たりがある気がする……)

百田「終一。何か閃きそうなんだな?」

最原「もうちょっとで……何か思いつきそうなんだ」

春川「いくら何でもそれは無理があるよ。だって卒業アルバムがいきなり降ってくるなんて誰が予想できるの?」

春川「誰かが『予告』してたのならともかくさ」

最原「!」




最原『……こんな……こんなことって! 待ってよ! 才囚学園の生徒全員はみんな死んでないんだ!』

最原『最後の最後まで誰も欠けずに行けると思ったのに! こんなの!』

BB『『BBという存在』が消えたりはしませんよ。かと言って、おそらくもう二度と会えないでしょうが』

BB『私を作った代償に、オリジナルのBBは三日間一切の行動が取れないので』




最原「あっ……」




『三日程度待っていてください。すぐに用意しますので』



最原「……あ、ああああああああああっ!」

最原(そうか……そのための三日間!)

最原(そのためのモラトリアムだったんだ!)

最原「BBさんだよ! 彼女が卒業アルバムの作成を引き継いだんだ!」

入間「んなっ……BBだと!?」

東条「ありえるわね。私たちの前で砕け散ったBBさんは分身。本体はまだピンピンしているはずだもの」

獄原「でも引き継いだって……巌窟王さんの卒業アルバムのデータを一体どうやって引き継いだの?」

アンジー「元からBBと彼は組んでたからねー。卒業アルバムのデータくらいどうとでもなるよー」

白銀「そういえば……あのパソコン、中身を定期的にどこかへ送ってる形跡あったね」

白銀「そっか。BBさんに送ってたんだね」

春川「……アイツの不器用さが、完成に一役勝ったってことか」

百田「ん? なんだよハルマキ。懐かしそうな顔してんぞ?」

春川「!!!!!!!!」ハッ

春川「え、そ、そう……かな……? 気のせいだよ。こっち見ないで殺されたいの?」ガタガタ

百田「なんで動揺してんだよ」

王馬「どうしたの春川ちゃん! 具合でも悪いの!? 頭!? 頭でも痛いの!?」ニヤニヤ

王馬「俺のこと覚えてる? なにか忘れたことない? 試しに思い出せることを片っ端から言ってみてほしいなぁ」ニヤニヤニヤ

春川「……」ガシイッ

王馬「おげぁっ」

茶柱「ね、ネックハンギングツリー……」

真宮寺「……」ペラペラ

真宮寺「……はあ。仕方ないネ」

最原「え? 仕方ない?」

真宮寺「しばらく姉さんの友達作りは中止かなって話」

最原「!」

百田「……どういうこったよ、そりゃあ」

真宮寺「この卒業アルバムを見ればイヤでもわかるヨ。巌窟王さんたちがどれだけ僕たちのことを信じていたか」

真宮寺「希望……いや、期待、と言い換えた方がいいかな……」

真宮寺「僕は間違ったことをしていたとは思わない。思わないけど、これ見て考えをちょっと変えたんだ」

真宮寺「……まだ僕には足りないことがある。それを見つけるまでは、友達作りをしても虚しいヨ」

王馬「……!」ペラペラ

王馬「ふーん……そっか。だから名前をそれぞれに振ってたんだ」

最原「!」

春川「まさか、遺言でも書いてあったっての?」

アンジー「そういうのとは無縁な人だよー」

王馬「ささやかなものだよ。本当にちょっとしたものだ」

王馬「……見てみれば? 中。白銀ちゃんの分含めて全員分あるんだしさ」

最原「……」

最原(ちょっと怖い、と思うのは何故だろう)

最原(……巌窟王さんといよいよ本当に別れてしまう気がしているのか?)

最原(だとしたら僕は、やっぱり僕は弱いままなのかもな)

最原(でも)

最原「……」ペラペラ

最原(それ以上に中身が気になる)

最原(……割と普通の卒業アルバム、だな。巌窟王さんが撮った写真がいっぱいだ)

最原(巌窟王さん自身が入っている写真もあるけど、これは……キーボくんの視点っぽいな)

最原(一体どうやってこんな操作したのか……)

最原(……懐かしい。なにもかも遠いむかしのことのようだ)

最原(……あとは)

最原「!」

最原(あ……!)

『卒業証書
最原終一
上はエドモン・ダンテス所定の全過程を終了したことを証する。

才囚学園 エドモン・ダンテス』



最原「……は、ははははははっ……!」

百田「そ、卒業証書……くくっ! アイツ、マジかよ。本当にささやかだな」

百田「どこの世界に空から卒業証書落とすヤツがあんだよ……!」

アンジー「……エドモンの字だ。これ、エドモンの字だよー」

春川「嘘……でもどうやってこれを書いたの? どの時点で?」

赤松「……」

赤松(カルデアには『巌窟王さん』がいる。こっちの世界のエドモン・ダンテスが消えたことで、完全にカルデアの巌窟王が復活したはず)

赤松(彼に書かせれば、それは間違いなくこっちのエドモン・ダンテスと同じ筆跡になる……か)

赤松(……トリックは想像付くけど、わざわざ言うこともないよね)

アンジー「……ッ!」

赤松(……嘘は暴かれない限り真実だから)

王馬「……にししっ」ニヤニヤ

赤松(なんでか知らないけど王馬くんは見当付いてるみたいだけど、黙っててよね本当)ハラハラ

アンジー「……」

アンジー「楓も進路決めたみたいだし、アンジーもここで言っておこうかなー」

アンジー「アンジーもアンジーで、エドモンを探してみる」

百田「あ? おい、アイツはもう……」

アンジー「そもそもの話さ、英霊召喚のシステムってかなり広い意味での死者蘇生だよねー」

アンジー「……不可能ではないと思うな」

百田「……」

百田「どんな不可能もやり遂げちまえば可能に変わる!」

アンジー「!」

王馬「えー? いいの? 止めなくて」

百田「いい! 自由にしろ! アンジーの人生はアンジーのモンだ!」

百田「当然だが、つまりいつ止めてもいいってこった! 後悔さえ残らなきゃなにしたっていいんだよ!」

アンジー「その結果、アンジーが誰かを生贄にするような道を取っても?」

百田「やりたいと思うのは自由だぜ? まあそんときは俺か、終一か、ハルマキが止めるけどな! 自由なんだからよ!」

最原「え!? 僕も!?」

百田「止めねーのか?」

最原「いやまあ視界に入ったら多分止めるけどさ……」

最原「……」

最原「あれ? 春川さんは抗議しないの?」

春川「いいよ。私だって止めてあげるよ」

春川「……文句はそのとき百田と夜長に言えばいいし」

百田「おし! じゃあ俺も進路言うぞー! 宇宙行く! 以上!」

最原「早い! しかも変わってない!」ガーンッ

入間「俺様は! 俺様は諦めねぇぞ! 魔術と科学の両面の道を完全に極めてやる!」

入間「こっから出たらアトラス院に就職してやるぜ! あったらだけどな!」

最原「アトラス……え? なに?」

獄原「ゴン太は外に出てから考えるよ! 虫さんたちといっぱい相談してみる! 山とかで!」

星「さて。俺はせっかくのシャバだ。当てはないがひとまず外の空気を楽しむさ」

星「……ふん。俺が楽しむ、か……やれやれ」

真宮寺「僕は旅にでも出ることにするヨ。もちろん魔術師とかに暗殺されないように気を付けながらネ」

真宮寺「……というか永続的にみんなを魔術師から守る方法をどうにか探さないとネ」

茶柱「どの人ももうそうそう暗殺されそうにない猛者ばかりですけどね」

茶柱「転子は……うーん、ゴン太さんのマネじゃあありませんが、山籠もりでもしましょうか」

最原「え?」

茶柱「修行です修行! 一から身も心も叩き直すんです!」

茶柱「……どこの山かは非公開で!」

最原「非公開なの!?」ガビーンッ

茶柱「誰かが迎えに来るまでは十年でも二十年でも引き籠る予定ですので! そのつもりで!」

最原「僕への責任が重すぎる!」

百田(もう素直に茶柱のことを自分の責任として処理してんなー)

春川(あっつい。顔があっつい)

赤松「ふふっ……」

最原(そこかしこから生暖かい視線を感じる……!)

夢野「……ぐすっ……ウチは……ウチの進路は……っ!」

夢野「ん?」

最原「どうかした?」

夢野「……王馬はどこじゃ?」

最原「どこもなにも、ここに……?」




全員(……あれ?)




百田「アイツいなくねぇ?」

春川「これからキーボ飛ばして外に出る段取り付けようって段だよ? 今更どこに行かれても……」

獄原「あれ。そこの岩になんか書かれてるよ?」

春川「……なんか?」




『このせかいはおうまこきちのもの』




最原「……」

最原(まったくもって荒唐無稽な書置きだったが、なんとなく意図するところは見えた気がした)

百田「なんか……この学園出るまでもうアイツと再会することはない気がすんな……」

最原「不思議だけど僕もそんな気がする……」

春川「アイツなら別口で脱出ルートを見出しててもおかしくなさそうだね」

獄原「最後の最後まで王馬くんは王馬くんだったね!」ニコニコ

夢野「ウチの進路は……そうじゃのう。ひとまず表の世界で有名になることかのう」

夢野「魔法使いとして!」

東条「……大丈夫? かなり危険だと思うのだけれども」

夢野「それでも誰かがやらないといけないじゃろう。いざ生徒たちが集まりたいとなったときに目印が何もないとなったら困るじゃろ?」

夢野「その役目はウチがやる。ウチが一番の適任じゃ!」

夢野「……腕が鳴るわい!」ギュイイイイイイイイ

最原「さっきから聞きたかったんだけど、その丸鋸とドリル何!?」

夢野「人体切断マジカルショーのアレと、箱を使った瞬間移動のときに箱へブッ刺すアレじゃな!」

茶柱「あ! やっぱり一応意味はあったんですね!?」ガーンッ

キーボ「ボクは……今決まりましたね。夢野さんの護衛をやりながら、このふざけた機能を解除する方法を探します!」ガチューンッ

赤松「気のせいじゃなかった。やっぱりキーボくんの周りの音、おかしいよね……? なんで?」

キーボ「セミラミスさんのせいですけど!?」ウガァッ

赤松「私に向かって噛み付かないでよ! 知らないよ!」ガビーンッ



ギャー ギャー


白銀「……みんな凄いなぁ。もう外に出た後のこと考えてるよ」

白銀「私なんて、これから生きてていいのかすら曖昧なのにさ」

天海「いや生きるべきっすよ。ていうか俺と一緒に来てもらうっすよ」

白銀「は?」

天海「ほら、俺が命懸けで前回の学級裁判から解放した二人……動機ビデオに映ってたあの二人に会いに行かないと。ね?」

白銀「いや、私はどの面下げてって感じだし」

ザッ

東条「やはりそうなるわね。いつ出発するの? 私も同行するわ」

白銀「花京院」

東条「東条よ」

白銀「……」

白銀「……え!? なんで!?」ガビーンッ

東条「私がこの学園に来てから一番うれしかったことはなんだか、わかる?」

東条「巌窟王さんに赦されたときよ」

白銀「!」

東条「……最初はあなたのことを許せないと思ったわ。だけど、ね。事情を聞いて、その後許すか許さないかを決めるのなら、そこからは感情論よ」

東条「私は白銀さんを許したいと思う。巌窟王さんにやられて嬉しかったことを、誰かにやるの」

東条「……彼がいたことの最高の証明になると思わない?」

白銀「東条さん、巌窟王さんのこと大好きだよね。惚れてたの?」

東条「今の茶々は許さないわ」ガシイッ

白銀「アイアンクローはやめて。ごめんなさいごめんなさいマジでごめんなさあああああああ!」ギリギリギリ

東条「……」メシメシミミシミシミシ ピシリッ

東条「ここまでにしておきましょう」フッ

天海(今ピシリッて言った……! ヒビが入るような音した……!)ガタガタ

白銀「私だけ死ぬかと思った……」ゼェゼェ

東条「あとそうね、これも大事なのだけど」

白銀「まだ理由あるの?」

東条「……この学園の中で、あなただけがまだ救われてない」

東条「それってとても気持ちの悪いことよ。シンクについた水垢みたい」

東条「……私の前で、心の底から笑ってほしいのよ」

白銀「……」

白銀「まあ、いつかは」

東条「ええ。いつか、ね」フフッ

天海「決まりっすね! 俺たちは三人一緒に旅に出るっすよ! 燃えてきた!」メラメラメラ

最原「よし! それじゃあ、やろう! キーボくん!」

キーボ「了解です!」チュドドドドドドド

入間「……本当にしまらねぇエンジン音だな」

百田「飛行にも支障出そうだが、なんで飛べてるのかわかんねぇ」

キーボ「音だけ! かっこ悪くなってるの音だけですからーーーっ……!」ズボボボボボボーッ

最原「……」

最原(穴から見える空は明るい。でも、それだけだ。なにも見えない。空だけが広がっている)

最原(この先に進んだ僕たちには一体なにが待っているのだろう)

最原(……サーヴァントのみんなと別れた後の僕たちに、なにができるんだろう)

最原(いや。不安に思うのは後でいい! 壁にぶつかったときでいいんだ!)

最原(この学園で巌窟王さんに貰ったものを、僕は生きている限り忘れない)

最原(それでほんのちょっと強くなれる……そんな気がするから!)






学園某所

ジャガーマン「よーっし! ぐるぐるパンチよーーーいっ!」グルグルグルグル

王馬「……で。キミは外に出たらどうすんの?」

ジャガーマン「絶対魔獣戦線バビロニア、アニメ絶賛放送中! 次は! 次クールのオープニングこそは出てやるぜ!」ビシイッ

王馬「うーん、ダメだ! 俺をもってしても何を言ってるのやらさっぱりわからない!」ヘラヘラ

ジャガーマン「で? キミはどうするの?」

王馬「この学園にしばらく残るよ」

王馬「ま……痕跡の後始末的な? そう何か月もいる気ないけどね!」ヘラヘラ

ジャガーマン「いいんでない? 学園っていうのは何かを貰って先に進む場でもあると同時に」

ジャガーマン「あなたたちが、なにかを『残す場』でもあるんだから。それを消すかどうかも生徒次第ってことで!」

王馬「……なんか消したくなくなってきたなー」

ジャガーマン「バーニングジャガーーーーーッ……」ゴゴゴゴゴゴ

ジャガーマン「ナッコォーーーッ!」シュンッ



ドカァァァァァンッ

物語はやがて終わる。

それを見た者の心になにかを残したのだとしても、やがてすべては記憶の影に薄れていく。





赤松「……みんな行っちゃったな。よしと。それじゃあ、いよいよカルデアに出発かな」

ブワッ

赤松「うわっ……凄い風。外と繋がる穴ができたって実感できるなー」

赤松「……」

ネコアルク「赤松嬢ー! 才囚学園の強制力が無くなってるから行き来は自由とは言え、いつ消えてもおかしくない出入口だからお早目ににゃー!」

赤松「わかってるってば!」

赤松「……行ってきます! 巌窟王さん! BBさん! セミラミスさん!」





――それでも僕たちが生きて歩いた道筋は、必ずどこかに残るし、今の自分たちに続いてくる。

他の誰が知らない道行でも、自分自身が忘れても、それでも絶対自分のルーツに繋がる物語。

僕たちの生きた証拠。僕たちの背中を押した、彼らが存在したという証拠が残る。

最原「……」



ザザーンッ ザザーンッ……



最原「……?」キョロキョロ

ミャア……ミャア……

最原「……」

最原「いつの間にか見覚えのない島にいるーーーッ! ウミネコがみゃーみゃー鳴いてるーーーッ!」ガビーンッ

最原「あれ!? どういうこと!? ここどこ!? ていうかみんなどこ!? あれ!? 学園のドームすら見当たらないぞ!?」アタフタ

魔猪「ぶもももももももーーーッ!」ドドドドドド

最原「うわあああああああああああデカいイノシシがこっちにーーー!?」

最原(避 否 死――)

武蔵「しゃああああああ今日の晩飯ゲットーーーッ!」ザァァァンッ

魔猪「ぶもげばっ!?」ブシャアアアアアッ

最原「ええーーーッ!?」ガビーーーンッ

武蔵「はー、大量大量。さてと、それじゃあさっさと血抜きとかして……」

最原「……」

武蔵「……あなた誰?」

最原「ここはどこですか?」



僕たちの冒険は終わらない。
僕たちだけの物語は……


武蔵「……あっ。また飛ばされる感じだコレ。ちぇ」キラキラキラキラ

最原「え? あれ!? 僕も!?」キラキラキラキラ

武蔵「おー、計らずも旅の道ずれゲット! しかもちょっと可愛い! LINEやってる?」キラキラキラ

最原「それどころじゃな――」キラキラキラキラ



シュイイイイインッ


これからも続く。

茶柱「!? !? !?!?」ガタガタ

百田「おーっし! それじゃあ、外に出れたことだし、それぞれの進路に向かって……一旦、サヨナラだな!」

春川「また会える……ううん。絶対に会うよね」

天海「最後の最後まで力になれたかは怪しいっすけど、それでもみんなとあの学園で同じ時間を過ごせたのは俺にとって――」

茶柱「待って! ちょっと待ってェーーー! 最原さんが! 最原さんがなんかキラキラキラキラシュイーーーンッて消えたんですけど!」

白銀「え? な、なに? なんのこと?」

茶柱「だから光の粒子に包まれたと思ったら身体が透けて消え失せたんですってば!」

百田「終一のヤツ、みんなと別れるの辛そうだと思ってたが……内心、舐めてたんだろうな。まさか真っ先に自分の道を見つけるとはよ」

茶柱「そういう感じじゃないと思うんですけど! むしろ消える瞬間『えっ?』みたいな顔してたんですけど!」

東条「今まで英霊召喚だのサーヴァントだのを散々見てきたのだから、人が消えるくらい今更と思わないでもないわね」

夢野「最原までウチのライバルになったのか? やれやれ、めんどいなんてますます言ってられなくなったのう」フウ

茶柱「そ、そういう感じ!? え!? みんな心配しないんですか!?」

獄原「最原くんなら多分大丈夫じゃないかな……」

星「まあ、なんだかんだ巌窟王に最後まで付いていったのは夜長を除けばアイツくらいだ」

真宮寺「その内、ひょっこり自力で戻ってくるヨ。第一僕たちに何ができるの?」

茶柱「それはっ、まあ……なにかしら……」アタフタ

アンジー「その通りだけどねー! まあ、今は各々やれることをやるしかないんだよー!」

キーボ「急がば回れ、ですよ! 証拠もないことですし!」

茶柱「え、ええーーーっ……!?」

入間「どうしても会えないなーってなったらそんとき考えろよ。ま、俺様に相談すりゃ手を貸してやらなくもなくもなくもないような気がするぜ!」

茶柱「どっち!?」ガビーンッ

茶柱「……ああー……!」





茶柱「もう! 思ったよりも大変そうですねぇ。約束果たすの……」

百田「んじゃあな! 縁がありゃまた会おうぜ。それまで風邪とか引くなよ!」

アンジー「にゃははー! こっちの台詞だよー! もう吐血とかしないでねー!」

百田「!?」ビクウッ

百田(……いつ気付かれてた!?)

春川(吐血?)

百田「……」

百田(ハルマキの空気が変わった気がする! 逃げる一択だな!)ダダッ

春川「待って」シュバッ

百田「クソッ! ハルマキはえぇーーーッ!」シュバババババッ

春川「待って」ヒュンッ

百田「瞬間移動まで使って来やがった! ま、待てハルマ――あ゛あ゛ああああああああっ!」ガビーンッ

春川「待たない」






天海「……こ、怖……もう見えなくなっちゃったっすけど、怖かったっす……」アワワワワワ

天海「まあ、ここから先は二人の問題なんでもう手出しはできないっすけど。白銀さん! 俺たちも出発っすよ!」

白銀「ん? うん。いいけど。少し遅かったね」

天海「え? なにが?」

白銀「もうみんないなくなっちゃった」



ガラーンッ



天海「……去るの早ッ!」ガビーンッ

白銀「結局みんなワンマンプレイ大好きなんだよね……」

天海「み、みんなーーーッ! 俺っ……俺これから白銀さんと頑張るっ……頑張るって……」

天海「それっぽいこと言って別れたかったのにィーーーッ!」ガクーンッ

白銀「……」

白銀「私が聞いてれば充分でしょ」ボソッ

天海「え? なんか言ったっすか?」

白銀「早く行こう。目的地は……ひとまず前で」

天海「了解っす!」

東条「当然私も行くわ」

天海「あ! 東条さん!」

東条「白銀さんの眼も治さないといけないから」

白銀「覚えてたんだ」

東条「ちなみに解決策はもう見つかったわ」

天海「はっっっや!」ガビーンッ

東条「実はこの辺りフリーWi-Fiが飛んでいるらしいの。学園から持ってきたノーパソで繋げることができたわ」

東条「アマゾネス・ドットコムという通販サイトに『とてもよく効く目薬』があったから早速注文したの。後は指定場所まで行って待つだけよ」

天海「ん!? ちょっと待って! それ代金は!?」

東条「ないわよ。着払い設定にしたけど」

天海「え!? じゃあどうやって荷物受け取るんすか!?」

東条「強奪」

天海「」

白銀「……アウトローまっしぐらだね」

東条「世界に楯突くのはもう慣れっこでしょ」

天海(猛烈にイヤな予感がするなー……まあ、いつものことか)

天海(……巌窟王さん。あなたがいなくなっても、俺たちはなんとか生きていけそうっすよ)

天海(どっかで見守ってくれると嬉しいんすけど)

天海(……ま、伝えたいことはアンジーさん伝でいいか!)

天海(彼女ならきっと――!)





地面がある。空がある。星のような光がある。でもそれ以外は特になにもないような場所だった。

道はないし、方角もいつの間にか狂うし、目印を付けたとしてもそこまで戻ることができない。

一体、どのくらい歩いたのか。さっぱり思い出せない。ていうかそろそろ心が砕けそうだ。疲れた。

なんとか足を動かせるのは、胸の中にあるキラキラした思い出たちのお陰だろう。

無限に歩き続けていれば、理論上は確実に会えるはずとか言える場所じゃない。

無限に広い場所かもしれないんだから、無限に歩いても永遠に見つからないかも。




「……?」




なんか、凄く大きな黒い竜を見つけた。スケッチとか、これをモデルに彫刻とかしてみようかなーと一瞬思ったが、やめた。

ここを歩いていればたまにある奇妙なオブジェクトの一つだ。生きてはいるんだろうけど、どうでもいい。



「会いたいなー」



この言葉も何百回言ったか。何千回かな。何万回か。




どれくらい歩いたのか、やっぱりもうわからない。

心はもうボロボロで砂のように粉々だ。

やっぱりただの人間にはキツすぎるみたい。倒れたり膝を付いたりしたらそこで終わりだ。億劫すぎて二度と立ち上がれないだろう。



「……ていうかー」



本当にここにいるのかな。実は全然見当違いの方向を探してたりしてなかったかな。

後悔の二文字が頭に浮かぶ。まあどっちにしろ、ここに来る前に全力で身体をいじくったから、二度とまともな世界に戻れないんだけど。



「……」



涙はもう枯れた。だからもう泣かないという決意も必要ない。自分がどんどんコンパクトなものに変わっていく感覚がある。

彼に会ったとき、言いたいことの半分も言えるかどうか――



「……う」


ヤバい。


「……ううううううう……」


ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。


「もう無理ー」


いよいよ限界が近い。

いや、多分この『もう無理-』という台詞も何億回言ったのか覚えてないけど、今回ばかりは本当に無理だよ。

だってもうなにも覚えてないもん。

記憶や精神がここまで簡単に風化するなんて思わなかった。

ダメで元々だと思ってここに来たけど、まさか本当にダメだとは微塵も考えてなかった。

多分、そう、とても大事な人に会いにここまで来たということはわかるけど。その人とどんな関係だったのか覚えてない。

家族? 恋人? 先生? 弟子? 信仰を向けられる誰かしら?



「……」



わからない。わからないけど――


『何故自分から迎えに行かなければならない? 来るならむしろ向こうからでは?』


思考がちょっとありえない方向に、奇跡的に吹っ飛んだ。

「……もう!」


なにもかも失って、それでも最後に残ったものが一つだけあった。

それは怒り。そうだ。これは元々、自分の中に無かったものだ。

誰かに教えられて獲得したもの……違う。

誰かに『お前の中に確かにあるのだ』と教えられて気付いたものだ。




凄く腹が立ってきたぞ。もうどうでもいい。疲れた。辛い。イヤになった。

もう二度と会えなくなっても知らない。

ここまでやってあげた自分と会える権利を、みすみす手放した彼が悪いのだ。

もう倒れよう。そして呪おう。超眠いし。



お前は永遠に独りぼっちだ、ばーかーめー! にゃははははははは!



そうしてやっと、自分の両足から力を抜いて――



「……?」



誰かに受け止められた。


「……!」


アンジーを受け止めた、誰かがいる。





巌窟王「……まったく。とんでもないナリだな、アンジー」

アンジー「あ……」

巌窟王「……まあいい。後のことは俺に任せろ。前からずっと、そういう役割だったろう? 俺は」ニヤァ

アンジー「……」

巌窟王「なにか言っておきたいことはあるか?」

アンジー「……」

アンジー(とても眠い。でも、とにかく彼に伝えたかったことがある)

アンジー(これだけは……最低限だ)

アンジー「あ……」

アンジー「アンジーを一緒に連れてって。エドモン」

アンジー「どこにだってついていくから」

巌窟王「……!」




エドモン「そうだったな。俺はエドモン・ダンテス」

エドモン「お前と共にある者だ」

アンジー「……」

アンジー(願いは叶った。ああ、でも凄く眠いなー)

アンジー(積もる話はあるんだけど、今はちょっと思い出せないし……)

アンジー(……寝よ)

アンジー「……」

エドモン「行くぞアンジー! 俺とお前の旅路は、まだ始まったばかりだ!」

エドモン「クハハハハハハハハハハハ!」

アンジー(うん。ずっと一緒)






アンジー(大好き。エドモン)







BB「……さてと」

BB「安心しました? 元同級生が願いを叶えて」

??「……」

BB「ねーえー! せっかくまた再会できたんだからなんかしら言ってくださいよー! ねー! ねー!」

最原「ちょっと黙っててよ! そういう雰囲気じゃないから今! ていうか、ここどこ!?」キョロキョロ

BB「BB道場ですけど」

最原「BB道場!?」ガビーンッ

BB「いや、建設途中なんですけど。バッドエンドを迎えたなにかをここに無理やり引っ張ってアドバイスして、ちょっと時間を巻き戻してリトライさせる」

BB「そんな素敵な憩いの場になる予定です」ドヤァ

最原「多分拷問に近い何かになる気がする……!」

最原「というかBBさん! それなら僕にアドバイスしてほしいんだけど!」

BB「なんです?」






最原「なんか、かれこれ何年かずっと漂流(ドリフト)が止まらないんだよ! 気が付いたら別の場所に転移してるってことずーっと!」

BB「……」

BB「えっ。最原さんも自力でここまで辿り着いたクチじゃなかったんですか!?」ガーンッ

最原「全然違うよ! たまに過去や未来に飛ばされてたりして、目的の場所に全然行けないんだよ!」

BB「ええ……? ちょっと待ってくださいよ。一体なにをどうすればそんな素敵体質に……なんか変なものと契約したりしませんでした?」

最原「契約? そんなものするわけが」

最原「あ、いや。したかも……最初の内は時間軸まではズレてなかったんだよな……確か過去や未来に跳ぶようになったのは……えーと」

回想 ~武蔵との漂流中~


真っ黒な穴『』ズズズズズズズ

最原『え。契約すれば目的地に行ける確率が上がるんですか……?』

武蔵『まー、このままずっと漂流し続けるよりは、腰を落ち着けて契約するのも一つの手なんじゃないかなー。せっかく目の前にいるんだしさー』

最原『ていうか、この真っ黒な大穴はなんですか? ブラックホールみたいな』

武蔵『な、なんか……よくしりょく? とか言ってたっけな。よく覚えてないけど』

真っ黒な穴『』ズズズズズズズズズ

武蔵『あ! なんか消えちゃいそう! 穴がどんどん小さくなってってる!』

最原『えっ!? ちょっと待って、まだ考える時間が欲し……あーーー!』

最原『契約! 契約しますから! それでみんなに会えるんなら文句ないですからちょっと待ってあああああああああ!』



回想終了




最原「ってことがあったんだよね」

BB「」

最原「そのまま穴は消えちゃったから契約はできてないと思うんだけど」

BB(『正義の味方』にされてるーーーッ!)ガビーンッ

BB「ああ、えーっと……職場紹介しましょうか? カルデアってところなんですけど」

最原「それ赤松さんが行ったところじゃ……」

BB「いいから!」ウガァ!

数時間後

BB「ってことで、これで晴れてサーヴァントとしてカルデアに召喚される準備が整ったということで!」

BB「霊基は星5相当ですよー! クラスはひとまずアヴェンジャー!」

最原「……なんか釈然としないけど、これで今度こそみんなと会える確率は上がるんだよね」

BB「多少は」

BB(しかし漂流体質かぁ……元の世界でとびっきり変な偶然に巻き込まれない限りこんなことになるヤツは稀も稀のはずだけど)

BB(……巻き込まれまくってたか。考えるまでもありませんでしたね)

BB「さあ! それでは、このままカルデアに行ってらっしゃーい!」

最原「と言われても、どうすればいいやら……ん!」キラキラキラ

BB「お。早速呼ばれちゃってるみたいですね! ヒューヒュー! こーの人気者ー! 羨ましいぞー!」

最原「確かに今までとは違う感覚……! うん、ありがとう! また会えてよかったよ、BBさん!」キラキラキラキラ

最原「向こうのBBさんと会えたら、また仲良くするからねー……!」シュイイイイインッ







BB「……あっ」

BB「待てよ。『同じカルデア』に行けるかどうかは五分以下じゃないですか?」

BB「……やっちゃったZE☆」

??「ええっと……ここにこの石を投げ込めばいいんだよね。わかってるわかってる。もう『二度目』だし」

???「どんな人が来るのか、楽しみですね! 先輩! ライダーがまだ二基しかいないので、そこを補える誰かだといいのですが……」



バシュウウウウウウッ



最原「……着いた! はあ、やっと腰の落ち着けるところに来れたって感じだ」

「!?!?!?」

??「……えっと、どこの英霊かな。今度は……」

???「さあ。見た目からは先輩とそう変わらない年齢の男性にしか見えませんが……」

最原「あ。えーと、カルデアのマスターさん、だよね。前に夢で一度だけ会ったけど覚えて……?????」

最原(……? あれ。カルデアのマスター……って女性だったっけ。前に会ったときは確か男性だった気がするんだけど……)

立香「?」

マシュ「?」

最原「……巌窟王って名前に聞き覚えはある?」

立香「ないけど」

最原「……は、ははは……ははははははははは……!」






最原「間違えてるよッ!」ガビーンッ

立香「何をッ!?」ガビビーンッ

とある寂れた倉庫内

モノクマ「……うぷ……うぷぷぷぷぷ……」

モノクマ「そう、まだ終わってないんだよ……最原くんの旅も、ボクの大活躍も……」

モノクマ「ボクはモノクマ。才囚学園、および希望ヵ峰学園の学園長。そして……」







モノクマ「このカルデアの新たなる、支配者なのだッ!」ギャリィィィィンッ







ガシャガシャガシャガシャッ パリィィィィンッ




THE END

というわけで終了!
長くない……長くないヨ……全然長くなかったヨ……!

確か初期のころはFate映画にエキサーイエキサーイしてたから二年くらい前? からやってたのかな。うん長くない全然。三部作より全然短い。

HTML化依頼出さなきゃ!

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